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(株)東芝及び日本電気(株)に対する件

独禁法3条後段

平成10年(判)第28号

審判審決

東京都港区芝浦一丁目1番1号
被審人 株式会社東芝
同代表者 代表取締役 岡村 正
東京都港区芝五丁目7番1号
被審人 日本電気株式会社
同代表者 代表取締役 金杉 明信
上記被審人ら代理人
弁護士 西 迪雄
同 向井 千杉
同 富田 美栄子

 公正取引委員会は,上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反事件について,公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第82条の規定により審判長審判官金子順一,審判官石井彰慈及び同中出孝典から提出された事件記録並びに規則第84条の規定により被審人らから提出された異議の申立書及び規則第86条の規定により被審人らから聴取した陳述に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案(以下「審決案」という。)を調査し,次のとおり審決する。
主文
1 被審人株式会社東芝及び同日本電気株式会社は,遅くとも平成7年7月3日以降,郵政省が国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令(昭和55年政令第300号)の規定が適用される一般競争入札の方法により発注する郵便物自動選別取りそろえ押印機,選別台付自動取りそろえ押印機,郵便物あて名自動読取区分機,新型区分機,新型区分機用情報入力装置,バーコード区分機及び区分機用連結部について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為を取りやめていることを確認しなければならない。
2 被審人株式会社東芝及び同日本電気株式会社は,前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
理由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも審決案の理由第1ないし第5と同一であるから,これを引用する。
2 ところで,被審人株式会社東芝及び同日本電気株式会社(以下「被審人2社」という。)は,当委員会に対し,郵政省が発注する郵便番号自動読取区分機類(以下「区分機類」という。)は,一般競争入札の形式が採られていたとはいえ,同省が事前に受注者を特定する「内示」によって,入札実施前に受注者が特定されている実態にあったので,実質的に随意契約に準じ各社が受注することを余儀なくされていたのであるから,被審人2社間には競争関係は存在せず,また,競争関係が存在しなかった以上,被審人2社が入札談合に係る意思の連絡をする必要はなく,現に被審人2社間には受注調整と目されるような意思の連絡はなかったから,違反行為はなかった旨主張し,審決案は前記状況を看過した誤った判断をしているものであるとして,その旨の異議の申立てを行うとともに,同旨の陳述を行った。
3 そこで,審決案を調査するに,審決案が認定しているように,本件の一般競争入札に係る区分機類については,競争関係を認めることができ,被審人2社間においては,郵政省の調達事務担当官等(以下「担当官等」という。)から情報の提示のあった者のみが当該物件の入札に参加し受注できるようにする旨の意思の連絡,すなわち本件共通の認識が形成されており,被審人2社は,この共通の認識に基づいて受注予定者を決定し,区分機類を受注していたものと認められる。
そもそも,本件の郵政省発注に係る区分機類は,被審人2社の複占市場であったところ,平成6年度まで指名競争入札の方法により発注されていたが,被審人2社は,かねてから,入札執行前に,担当官等から同省の購入計画に係る各社に分けられた区分機類の機種別台数,配備先郵便局等に関する情報の提示をそれぞれ受けることによって,情報の提示を受けた者のみが入札に参加し,情報の提示を受けなかった者は入札を辞退し,これによって,同省の総発注額のおおむね半分ずつの区分機類を安定的に受注していた。そうしたところ,平成6年に担当官等から次年度すなわち平成7年度は区分機類を一般競争入札の方法により発注する見通しである旨の説明を受け,その後,被審人2社の担当者は,いずれも,担当官等に対し,一般競争入札の導入に反対し,一般競争入札による発注とはその趣旨において相容れない,情報提示,早期実質発注等を引き続き行うようそれぞれ要請した。そして,平成7年度から区分機類の発注については一般競争入札が導入されたが,担当官等は,前記経緯等から,被審人2社に対し,これまでと同様に,区分機類を複数物件に分けて発注し,入札執行前に情報の提示を行うこととした。こうして,被審人2社は,一般競争入札が実施された後も,担当官等から情報の提示を受けた者のみが入札に参加する方法によって,平成7年度ないし平成9年度において郵政省が一般競争入札の方法により発注した総発注額のおおむね半分ずつの区分機類を受注していたものである。
このような事実関係に照らせば,被審人2社が,担当官等からの情報の提示を前提に,共同して,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,同省が一般競争入札の方法により発注する区分機類の取引分野における競争を実質的に制限していたと認めることができる。
4 よって,被審人2社に対し,独占禁止法第54条第2項及び規則第87条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成15年6月27日

公正取引委員会
委員長 竹島 一彦
委員 本間 忠良
委員 小林 惇
委員 柴田 愛子
委員 三谷 紘

別紙
平成10年(判)第28号
審決案
東京都港区芝浦一丁目1番1号
被審人 株式会社東芝
同代表者 代表取締役 岡村 正
東京都港区芝五丁目7番1号
被審人 日本電気株式会社
同代表者 代表取締役 西垣 浩司
上記被審人ら代理人 弁護士 西 迪雄
向井千杉
富田美栄子
上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反事件について,公正取引委員会から独占禁止法第51条の2及び平成13年12月26日公正取引委員会規則第8号による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則第26条の規定に基づき担当審判官に指定され,同改正後の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)附則第2項により規則第31条第1項の規定に基づき担当審判官に指定されたものとみなされる本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第82条及び第83条の規定に基づいて本審決案を作成する。
主文
1 被審人株式会社東芝及び同日本電気株式会社は,遅くとも平成7年7月3日以降,郵政省が国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令(昭和55年政令第300号)の規定が適用される一般競争入札の方法により発注する郵便物自動選別取りそろえ押印機,選別台付自動取りそろえ押印機,郵便物あて名自動読取区分機,新型区分機,新型区分機用情報入力装置,バーコード区分機及び区分機用連結部について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為を取りやめていることを確認しなければならない。
2 被審人株式会社東芝及び同日本電気株式会社は,前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
理由
第1 本件審判事件の概要
本件は,郵便番号自動読取区分機類の製造販売業を営む被審人株式会社東芝(以下「被審人東芝」という。)及び同日本電気株式会社(以下「被審人日本電気」といい,被審人東芝と合わせて「被審人2社」という。)が,郵政省が平成7年4月1日から平成9年12月10日までの間に,一般競争入札の方法により発注する郵便番号自動読取区分機類について,指名競争入札の方法により発注されてきたときと同様におおむね半分ずつを安定的に受注する等のため,入札執行前に同省の調達事務担当官等から情報の提示を受けた者を当該郵便番号自動読取区分機類の物件を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)とし,受注予定者のみが当該物件の入札に参加し,受注予定者以外の者は当該物件の入札には参加しないことにより,受注予定者が受注できるようにする旨の共通の認識(以下「本件共通の認識」ともいう。)の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,郵政省が一般競争入札の方法により発注する郵便番号自動読取区分機類の取引分野における競争を実質的に制限していたことが独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するとする審判事件である。
被審人2社は,郵政省における郵便番号自動読取区分機類の発注については,一般競争入札の形式が採られているとはいえ,郵政省が事前に受注者を指定する指示(内示)に従って入札実施前に受注者が特定される実態にあり,被審人2社は内示によりその間の競争を行う余地がなかったのであるから,被審人2社間には独占禁止法の保護法益である競争関係は存在せず,また,競争関係が存在しない以上,被審人2社が入札談合に係る意思の連絡をする必要はなく,現に被審人2社間には受注調整行為と目されるような意思の連絡はないから,違反行為は成立しないと主張している。
第2 事実及び証拠
1 被審人2社の概要及び郵便番号自動読取区分機類等
(1) 被審人2社の概要
被審人2社は,それぞれ肩書地に本店を置き,郵便番号自動読取区分機類の製造販売業を営む者である。
被審人2社の郵便番号自動読取区分機類に関する営業及び製造担当部署については,平成9年6月現在,被審人東芝にあっては,営業が機器事業部特殊自動機器部,製造が柳町工場特殊機器第一部であり,被審人日本電気にあっては,営業が第一官庁営業部,製造が産業オートメーション事業部である。また,被審人日本電気には,営業と製造との連絡窓口等として制御システム本部がある。
被審人東芝の営業担当部署である機器事業部特殊自動機器部の者と製造担当部署である柳町工場特殊機器第一部の者は,相互に連絡を取り合うなどして郵便番号自動読取区分機類の営業等を行っており,また,被審人日本電気の営業担当部署である第一官庁営業部の者と製造担当部署である産業オートメーション事業部の者とそれらの連絡窓口等である制御システム本部の者は,相互に連絡を取り合うなどして郵便番号自動読取区分機類の営業等を行っている。(争いがない。)
(2) 郵便番号自動読取区分機類
ア 郵便番号自動読取区分機類は郵政省の競争参加資格者名簿の物品の種類に掲げられた機械類であり,このうち,被審人2社は,我が国において,郵便物自動選別取りそろえ押印機(以下「選別押印機」という。),選別台付自動取りそろえ押印機(以下「台付押印機」という。),郵便物あて名自動読取区分機(以下「あて名区分機」という。),新型区分機,新型区分機用情報入力装置(以下「情報入力装置」という。),バーコード区分機(A型及びB型)及び区分機用連結部(以下「連結部」という。以下,これらを合わせて「区分機類」という。)のほとんどすべてを製造販売している。(争いがない。)
イ 情報入力装置を除く区分機類については,郵便物処理上の郵便物の搬送方向が左から右に流れる右流れ型,右から左に流れる左流れ型があり,郵政省の発注に係る平成7年度ないし平成9年度における区分機類の入札についてみると,被審人東芝が右流れ型の,被審人日本電気が左流れ型のそれぞれ大部分を製造販売している(被審人東芝の右流れ型及び被審人日本電気の左流れ型をそれぞれ「正流れ型」,被審人東芝の左流れ型及び被審人日本電気の右流れ型をそれぞれ「逆流れ型」ともいう。)。あて名区分機,新型区分機及びバーコード区分機(以下これらを合わせて「区分機」という。)については,区分部の区分用区分箱数(以下「口数」という。)が異なるものが製造販売されている。また,あて名区分機については,郵便物を区分処理する能力が相対的に高速であるL1型,低速であるL2型が製造販売されている。(査第5号証,第12号証,第15号証)
ウ 被審人2社における区分機類の製造に要する期間は,郵政省の平成7年度ないし平成9年度の入札当時,部品の手配から製品の完成まで,通常約6か月とされている。ただし,これは製品の数量,種類及び在庫部品の状況等にもより,例えば,部品の調達が済んでいれば2か月ほどで生産をすることが可能であるとされているなど,その製造に要する期間は固定的なものではない。(査第80号証,第81号証,第109号証,第126号証,参考人植松征市,同堀江寿(第1回),同池田修)
エ 選別押印機及び台付押印機をあて名区分機及び新型区分機等と接続する場合に,ある社のものを他の社のものと接続することは,接続に関する技術情報が開示されていれば可能であるとされており,平成10年5月ころ,郵政省が株式会社日立製作所(以下「日立」という。)の求めに応じて接続に関する技術情報を開示し,その後は,他社製の選別押印機及び台付押印機と自社製のあて名区分機,新型区分機等との接続が行われている。(査第76号証,第82号証ないし第84号証,第90号証,第92号証,第94号証,第106号証)
(3) 郵政省の区分機類の調達方法等
ア 区分機類の担当部署
(ア) 郵政省における郵便業務の機械化計画及び実施等に関する事務については,昭和62年4月から同年7月ころまでは,郵務局施設課が,それ以降平成6年7月ころまでは郵務局施設課システム企画室(以下「施設課システム企画室」という。)が,それ以降は郵務局機械情報システム課(以下「機械情報システム課」という。)が担当している。また,区分機類の入札,売買契約等に関する事務については,昭和62年4月から平成2年6月7日までは大臣官房資材部購買課が,それ以降平成4年6月22日までは大臣官房資材部契約課が,それ以降平成8年6月26日までは大臣官房財務部契約課(以下「契約課」という。)が,それ以降は大臣官房財務部資材課契約室(以下「契約室」という。)が担当している。(郵務局施設課等の担当事務の内容については査第10号証,第17号証ないし第19号証,第29号証,第40号証により認められる。その余の事実は争いがない。)
(イ) 地方郵政局は,郵政省の地方支分部局であり,現業事務を行う郵便局を統括し,円滑な運営を確保するための機関である。地方郵政局は,管轄区域を定めて地方単位ごとに設置されている(北海道郵政局,東北郵政局,関東郵政局,東京郵政局,信越郵政局,東海郵政局,北陸郵政局,近畿郵政局,中国郵政局,四国郵政局及び九州郵政局)。また,沖縄県を管轄区域とする沖縄郵政管理事務所が設置されている。
区分機類の配備に当たっては,地方郵政局は,それぞれ管轄する郵便局の事情等にかんがみ,機械情報システム課に対し,配備候補郵便局等について上申していた。また,地方郵政局は,区分機類を郵便局に実際に配備するに当たっても,郵便局への配備を円滑に進めるべく,中心となってその実施に当っていた。(査第86号証,第89号証,第97号証,第98号証,審第82号証,第84号証の1,参考人片桐一豊)
イ 区分機類の発注方法等
(ア) 郵政省は,区分機類(平成5年度発注分までは郵便番号自動読取区分機(以下「番号区分機」という。)を含む。)を,昭和43年度から昭和61年度までは随意契約により,昭和62年度から平成6年度までは国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令(昭和55年政令第300号。以下「特例政令」という。)の規定が適用される指名競争入札(以下「指名競争入札」という。)の方法により,また,平成7年度以降は特例政令の規定が適用される一般競争入札(以下「一般競争入札」という。)の方法により発注している。
郵政省は,指名競争入札に当たっては,あらかじめ競争参加資格者として登録した者及び未登録者にあっては当該入札について競争参加資格の申請をした者の中から,当該入札の参加資格要件を満たす者を指名競争入札の参加者として指名しており,また,一般競争入札に当たっては,公告により入札参加希望者を募り,入札参加希望者であって当該登録をした者及び未登録者にあっては当該入札について競争参加資格の申請をした者の中から,当該入札の参加資格要件を満たす者を一般競争入札の参加者としている。(昭和43年度から昭和61年度まで随意契約により発注されていたことは査第88号証により認められる。その余の事実は争いがない。)
被審人2社は,それぞれ平成7年度以降,郵政省の一般競争入札に係る区分機類の競争参加資格者として登録されている。(査第3号証,第4号証,第7号証,第8号証)
(イ) 会計法(昭和22年法律第35号)第29条の3第1項によれば,国が売買等の契約を締結する場合においては,原則として,一般競争に付さなければならず,同第3項によれば,契約の性質又は目的により競争に加わるべき者が少数で一般競争に付する必要がない場合及び一般競争に付することが不利と認められる場合においては,指名競争に付するものとする旨規定し,同法第29条の5第1項によれば,同法第29条の3第1項及び第3項に規定する競争は,原則として,入札の方法をもってこれを行わなければならない旨規定しており,前記(ア)の郵政省による指名競争入札及び一般競争入札は,これらの規定に基づいて行われている。
また,特例政令は,外国事業者に入札参加の機会を広げ,調達の透明性を高める旨等を規定した政府調達に関する協定(平成7年条約第23号,最初の協定は昭和54年発効)を具体的に実施するため,予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)並びに予算決算及び会計令臨時特例(昭和21年勅令第558号)の特例として制定されたもので,前記(ア)の郵政省が発注する区分機類の入札は同政令の規定に基づいて行われている。(争いがない。)
(ウ) 郵政省は,平成7年度以降,区分機類を,前記の会計法及び特例政令の規定に基づき,一般競争入札の方法により発注しており,同省の契約ガイダンスにおいて, 入札の手続として,毎年12月ころに競争参加資格の官報公示,翌年4月ころに調達予定物品の官報公示,仕様書等作成のための資料等の提供招請(官報公示),仕様書案についての意見招請(官報公示),入札に付そうとするときは入札日の50日以上前に官報に公告する旨等を公表している。
郵政省は,一般競争入札の方法により発注する区分機類について,あて名区分機,新型区分機,バーコード区分機(A型),バーコード区分機(B型),選別押印機,台付押印機,連結部及び情報入力装置の機種別,右流れ型・左流れ型の流れ型別(情報入力装置を除く。)に分け,さらに,新型区分機,バーコード区分機(A型)及びバーコード区分機(B型)にあっては口数別,あて名区分機にあっては区分処理する速度別及び口数別を勘案して(速度別を勘案することについては平成7年度のみであり,口数別を勘案することについては平成8年度試行機を除く。)グループに分け,それぞれのグループを1物件として発注している。(争いがない。)
(エ) 郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類の調達事務手続は,おおむね次のとおりである。
機械情報システム課は,区分機類の配備年度の前年度に郵便物の取扱数等を勘案して配備候補郵便局を選定し,当該郵便局を管轄する地方郵政局に対して,当該郵便局への配備が相当であるかについて検討するように依頼する。当該地方郵政局は,検討後,その検討結果を機械情報システム課に上申する。この間,機械情報システム課は配備年度の区分機類に係る予算要求書を取りまとめ,郵務局総務課を経由して大臣官房財務部主計課に提出する。
そして,機械情報システム課は配備年度の区分機類に係る実行予算案を策定し,毎年10月末までに郵務局総務課を経由して大臣官房財務部主計課に提出し,翌年2月ころに同課から実行予算についての内示が示される。
その後,機械情報システム課は,区分機類の配備に係るいわゆる調達文書を作成し,郵務局長までの決裁を得るとともに,その後,別途,労働組合に対する提示内容について郵務局長の決裁を得て,同組合に対し説明する。
そして,機械情報システム課は,配備計画に係る区分機類の仕様書を作成して,大臣官房財務部計画課に提出し,同課において「物品調達要求書」を物件ごとに作成して,物品調達要求書を契約課(平成8年6月26日以降は契約室である。)備品契約係に提出し,同係は,物品調達要求書を基に一般競争入札実施に係る文書を作成し,所定の決裁手続を経た後,官報公告を行い,物件ごとに,入札に参加する意思がある事業者から提出された下見積書の査定をし,予定価格下調調書,価格予定書を順次作成する。財務部長は,価格予定書を基に予定価格調書を作成し,これをもって予定価格を決定し,官報公告した入・開札日に入札を実施する。(査第29号証,第86号証,第89号証,第125号証)
(4) 区分機類の開発・製造の経緯
ア 昭和30年代の高度経済成長を背景とした郵便物取扱量の飛躍的増大に対応して,郵政省において,郵便事務処理の効率化が必要とされ,昭和36年に郵政審議会は「郵便事業の改善策に関する答申」を提出し,それを受けて郵政省内で本格的な郵便物処理の機械化の検討が行われるようになり,昭和39年には,郵政大臣から郵政審議会に「郵便事業経営の近代化について」との諮問がされ,昭和43年には,郵便番号制度が施行された。このような郵政省での機械化の要請に対応して,郵政省からの委託により,まず日立が昭和36年に京都中央郵便局に鍵盤式書状区分機試作機を,被審人日本電気が昭和37年に東京中央郵便局に書状押印機等をそれぞれ納入した。次いで,昭和41年には,日立が大宮郵便局に鍵盤式書状区分機の改良試作機を,被審人日本電気が自動選別押印機の実験機等を納入した。しかし,郵便局内における作業全体のうち区分作業が65%から70%と高く,その作業効率の向上が求められたことから,郵政省は,昭和40年から昭和41年にかけて,上記2社に新規参入した被審人東芝を加えた3社に「郵便番号自動読取装置」の研究を委託した。その結果,被審人東芝が,昭和42年に,光学式文字読取装置(OCR)による手書郵便番号の読取に成功し,昭和43年7月の郵便番号制度の実施(3桁/5桁)に併せて東京中央郵便局に2台の番号区分機を納入した。そして,昭和44年には,被審人日本電気が手書郵便番号の読取に成功して新宿郵便局に実用機を納入した。しかし,日立はこの開発に成功せず,昭和44年,区分機類の市場から撤退した。
ところで,番号区分機の開発に当たり,被審人東芝は,機器をコンパクトにする短手一貫方式というコンセプトに立つと,郵便物の供給,搬送及び集積の一連の工程が左側から右側に流れていく右流れ型が最もシンプルであったことから,右流れ型を採用し,その後同社の区分機類は,基本的に右流れ型として開発されることになった。他方,被審人日本電気は,ドイツのSEL社からの技術導入という経緯から,上記工程が右側から左側に流れていく左流れ型の番号区分機を開発し,その後同社の区分機類は,基本的に左流れ型として開発されることになった。
イ その後の区分機の進歩は,次のとおりである。
i. 第一世代(番号区分機)(昭和43年から平成元年まで)3桁又は5桁の郵便番号の読取結果に基づいて,郵便物が区分される。
ii. 第二世代(あて名区分機)(平成元年から平成8年ころまで)住所の町名,丁目の読取結果に基づいて,配達区ごとに郵便物が区分される。
iii. 第三世代(新型区分機)(平成9年以降)7桁の郵便番号とともに,住所の町名,丁目,番,号,棟の読取結果に基づいて,配達順路に従って郵便物を並べ替える。
(ア) 第一世代の時代には,読取率の向上,選別押印機と番号区分機との連結などについて被審人2社の区分機類の技術に著しい進歩があった。この当時における郵政省の区分機類は随意契約により発注されていたが,被審人2社は,区分機類の読取率及び年賀郵便物処理の性能が比較評価されて,翌年度の発注台数が決定されるとの認識の下に技術競争を繰り広げた。この時代に,ほぼ全国の主要郵便局に区分機類が配備され,北海道,九州の各郵政局管内の郵便局は被審人東芝の,東北,四国の各郵政局管内の郵便局は被審人日本電気の区分機類が配備された。
(イ) 昭和60年から同62年にかけて,郵政省は,被審人2社に「漢字OCRによる配達区分の機械化に関する研究」を委託した。平成元年3月に,被審人2社はあて名読取機能を持つ区分機の開発に成功し,納入したが,その読取性能は低く,読取率は約30%程度であった。この当時の区分機類の発注方法は,随意契約から指名競争入札に変わっていたが,被審人2社は,区分機類の読取性能が比較されて,発注見込台数に差が付けられるという認識を引き続き持ち,技術開発競争が促進された。
(ウ) 平成4年8月に,郵政省は「配達分野の情報機械化調査研究会」を設置し,郵便物の配達道順組立処理までの機械化(新郵便処理システム)の検討に着手した。この研究会には,被審人2社,日立,ソニー株式会社,松下通信工業株式会社等合計8社が参加した。そして郵政省に技術提案書を提出した者のうち,被審人2社及び日立のものが採用され,当該3社は平成7年3月に郵政省から「新郵便処理システムに関する研究」を受託し,川越西郵便局に実験機を配備して,その開発研究を行った。その結果,被審人2社の実験機は相当なレベルに達したと認められ,平成8年3月には,被審人東芝は浦安郵便局に,被審人日本電気は深川郵便局に実用実験機を納入し,平成9年度以降,被審人2社は新型区分機を受注し,納入した。一方,日立は,平成6年にドイツのAEGと共同して技術開発に努めたが,読取率などの性能面で,被審人2社と同等の機能,性能レベルには到達できず,平成8年からは,新型区分機を自主開発することとし,平成9年11月ころ,実用レベルの読取率を有する新型区分機の製造に成功し,平成10年2月27日の入札に参加した。(前記ア及びイにつき,査第3号証,第4号証,第57号証,第80号証,第85号証,第86号証,第91号証,第99号証,審第4号証,第69号証,第70号証,第76号証,参考人植松征市)
ウ 被審人2社の製造する区分機類の性能・品質は,平成6年度ないし平成9年度当時には,流れ型の点を除いては大差はなかった。また,その開発の経緯から,平成6年度ないし平成9年度の郵政省の発注につき,被審人東芝は,主に右流れ型の区分機類を製造納入し,被審人日本電気は,主に左流れ型の区分機類を製造納入してきたが,平成8年度の一般競争入札においては,被審人東芝が左流れ型の区分機類2物件の入札に参加して落札・受注しており,平成9年度の一般競争入札においては,被審人日本電気が右流れ型の区分機類2物件の入札に参加して落札・受注し,被審人東芝が左流れ型の区分機類1物件の入札に参加して落札・受注した。(査第14号証,第15号証,第76号証,参考人片桐一豊)
(5) 被審人2社の区分機類の地域配置
郵政省における平成6年ころから平成9年ころまでの区分機類の配備状況をみると,北海道郵政局,信越郵政局,北陸郵政局,九州郵政局及び沖縄郵政管理事務所管内の郵便局には被審人東芝製のもののみが配備され,東北郵政局及び四国郵政局管内の郵便局には被審人日本電気製のもののみが配備されていた。そして,被審人2社は,自らの区分機類が配備されていない郵政局管内においては,原則として営業活動は行っていなかった。それ以外の関東郵政局,東京郵政局,東海郵政局,近畿郵政局及び中国郵政局管内の郵便局には被審人2社が製造したものが配備されていたが,この場合に,一度ある郵便局に一方の被審人の区分機類が納入されると,その後はその郵便局については原則として,当該被審人の区分機類が配備されてきていた。被審人2社は,それぞれ区分機類の保守業務を行う子会社(以下「保守子会社」という。)を持っているが,それらの保守拠点はそれぞれが納入している郵政局管内にのみ置かれ,例えば被審人日本電気の保守子会社は北海道には保守拠点を設置していなかった。(査第3号証,第4号証,第20号証,第84号証,第126号証,審第13号証,第89号証,参考人高橋諒一,同植松征市,同堀江寿(第1回))
2 平成6年度の区分機類の発注状況
(1) 情報の提示
ア 被審人2社は,指名競争入札当時,かねてから,入札執行前に,郵政省の調達事務担当官等から同省の購入計画に係る各社ごとに分けられた区分機類の機種別台数,配備先郵便局等に関する情報の提示をそれぞれ受けており,被審人2社は,それぞれ,情報の提示を受けた区分機類について,同省が自社に発注する意向を有していると認識していた。この情報の提示は,郵政省の調達事務担当官及び被審人2社の担当者の間では,一般に内示と呼ばれていた。(査第6号証,第20号証,第29号証,第40号証,第44号証,参考人高橋諒一)
イ 平成6年1月21日,郵政省において,打合せと称する会合が開催され,施設課システム企画室の余田博雄室長(以下「余田室長」という。),太田宗一課長補佐(以下「太田補佐」という。),高橋諒一係長(以下「高橋係長」という。)及び岡部浩一次席(以下「岡部次席」という。),被審人東芝機器事業部特殊自動機器部の須田好武部長(以下「須田部長」という。),衞藤正昭課長(以下「衞藤課長」という。)及び柳町工場特殊機器第一部の早崎之禧部長(以下「早崎部長」という。)並びに被審人日本電気第一官庁営業部の三浦利夫統括部長(以下「三浦部長」という。),重田直文主任及び産業オートメーション事業部認識応用システム技術部の植松征市部長(以下「植松部長」という。平成6年7月以降は制御システム(販売推進)本部の統括部長に就任した。)が出席した。その会合で,余田室長は,i.平成6年度の区分機類の購入価格を前年度よりも10%引き下げることとしたい,ii.情報の提示は2月15日ころまでに行う予定であるが,被審人2社が価格引下げに同意しなければ情報の提示は行わない,iii.10%の引下げについては一律でも,機種ごとに変わってもよいが,来週後半に回答してほしい旨を述べた。
その後,被審人2社の担当者間で,郵政省の要求の感触や対応方針等について意見交換を行った。
被審人2社は,後日,この申出に同意することとした。(査第21号証,第29号証,参考人植松征市,同衞藤正昭)
ウ 平成6年度の郵政省の区分機類の購入計画については,郵政省の調達事務担当官等は,被審人2社に対し,次のとおり情報の提示を行った。
施設課システム企画室の高橋係長は,平成6年2月ころまでに,被審人2社のそれぞれの配備予定台数等を示す平成6年度の区分機類の配備計画を策定し,余田室長の了解を得た後,郵務局総務課長,同局次長及び郵務局長の了解を得た。この配備計画には,配備先郵便局,被審人2社それぞれについて,あて名区分機(L1型,L2型),選別押印機,台付押印機及び連結部の機種別台数並びに総金額が記載されていた。
施設課システム企画室の余田室長及び高橋係長は,平成6年2月16日ころ,郵政省において,被審人日本電気の三浦部長及び植松部長に対し,同省の平成6年度の購入計画に係る区分機類のうち,あて名区分機(L1型)23台,新東京国際郵便局向けの国際郵便物自動読取区分機1台,あて名区分機(L2型)8台,選別押印機5台,台付押印機27台及び連結部19台の購入計画を口頭で説明するとともに,区分機類の機種別口数別台数,配備先郵便局等が記載された文書を配布することにより,情報の提示を行った。その際,余田室長らは,区分機類の価格の引下げ率は一律10%とすること,購入予定総額が被審人東芝よりも被審人日本電気の方が4億円多いこと,その理由は年賀差立区分の読取率が被審人日本電気の方が良かったためであること,平成7年度以降については配達区分の読取率も含め性能比較に関するデータを収集分析し,購入予定金額に差を付けること,国際郵便物自動読取区分機は被審人日本電気が得意そうであるので同社とし,書留郵便物自動読取区分機は被審人東芝とすること等を発言した。(査第21号証,第29号証,第32号証,参考人植松征市)
また,余田室長及び高橋係長は,同時期ころ,郵政省において,被審人東芝の須田部長及び衞藤課長に対し,同省の平成6年度の購入計画に係る区分機類の情報の提示を行った。(争いがない。)
(2) 納入日程等の調整
被審人2社は,この情報の提示を受けた後,被審人東芝にあっては機器事業部特殊自動機器部の堀江寿主任(以下「堀江主任」という。)が,被審人日本電気にあっては制御システム販売推進本部第一情報制御システム部の中野和己課長(以下「中野課長」という。)が,それぞれ,施設課システム企画室の調達事務担当官に対し,情報の提示を受けた区分機類の納入日,配備先郵便局等を記載した表(以下「納入日程表」という。)を何度も提出するなどして,情報の提示を受けた区分機類の納入日程等の調整を行った。(争いがない。)
(3) 発注の状況
郵政省は,平成6年度に指名競争入札の方法により発注した区分機類について,平成6年6月16日,同年7月4日,同月25日及び同年8月22日の計4回の入札を実施した。同入札では,あて名区分機,選別押印機,台付押印機及び連結部の機種別,また,あて名区分機にあっては流れ型別,区分処理する速度別及び口数別を勘案してグループに分け,それぞれのグループを1物件として発注し,いずれの物件についても,被審人2社のみを指名した。
例えば,平成6年7月25日に入札を,同年8月2日に開札を実施した区分機類について,郵政省は,あて名区分機,選別押印機又は連結部の機種別,あて名区分機にあっては流れ型別及び150口,200口又は250口の口数別により,同年6月3日に公示した官報及び官報において摘示された入札説明書に添付された仕様書(以下単に「仕様書」という。)に,i.日本電気(株)製NAS−36A−15又はこれと同等のもの(「NAS−36A」はあて名区分機を,「15」は150口を表す。)ii.(株)東芝製TR−18A−25又はこれと同等のもの(「TR−18A」はあて名区分機を,「25」は250口を表す。)iii.日本電気(株)製NAS−36A−20又はこれと同等のもの(「20」は200口を表す。)iv.日本電気(株)製NAS−36AS−15又はこれと同等のもの(「NAS−36AS」はあて名区分機を,「15」は150口を表す。)v.(株)東芝製TSC−17又はこれと同等のもの(「TSC−17」は選別押印機を表す。)vi.日本電気(株)製NSF−10DA又はこれと同等のもの(「NSF−10DA」は連結部を表す。)と記載し6グループに分け,それぞれのグループを1物件として発注し,全6物件について,同年7月25日ころまでに,被審人2社のみを指名した。(争いがない。)
(4) 入札の状況
被審人2社は,それぞれ,入札の官報公示及び仕様書と情報の提示を受けた区分機類とを照合した上で,自社が情報の提示を受けた区分機類の物件については入札に参加し,自社が情報の提示を受けていない区分機類の物件については入札を辞退した。(争いがない。)
なお,郵政省の指名競争入札の方法による区分機類の発注において,被審人2社のうち郵政省の調達事務担当官等から情報の提示を受けた者のみが入札に参加し,情報の提示を受けなかった者は入札を辞退するという行為は相当以前から行われていた。(査第20号証,第21号証)
(5) 受注の状況
ア 被審人2社は,それぞれ,情報の提示を受けた区分機類の物件のすべてについて,情報の提示を受けた者のみが入札に参加し,落札するまで入札を繰り返すことなどにより,郵政省が定める当該物件の予定価格にほぼ近い価格で受注していた。
例えば,郵政省が平成6年7月25日に入札を,同年8月2日に開札を実施した区分機類について,被審人2社は,契約番号2DC第15号のあて名区分機については,被審人東芝のみが入札に参加し,入札を6回繰り返し,3回目以降は18万円ずつ価格を引き下げることにより予定価格と同額の価格で落札・受注し,また,契約番号2DC第18号のあて名区分機については,被審人日本電気のみが入札に参加し,入札を12回繰り返し,3回目以降は1ないし2万円ずつ価格を引き下げることにより予定価格と同額の価格で落札・受注した。(予定価格と落札価格が同額であることは査第14号証により認められる。その余の事実は争いがない。)
イ 郵政省が平成6年度に発注した区分機類164台のうち,被審人東芝が82台,被審人日本電気が82台を受注し,受注金額でみると,総発注額159億5075万5000円のうち,被審人東芝が79億3618万5000円,被審人日本電気が80億1457万円となっており,被審人2社は,それぞれ同省の総発注額のおおむね半分ずつを受注した。(争いがない。)
なお,郵政省が指名競争入札の方法により発注する区分機類について,昭和62年度から平成5年度までについてみると,この期間を平均すれば,被審人2社は,それぞれ同省の総発注額のおおむね半分ずつを受注してきたこととなる(もっとも,平成2年度は,被審人東芝が66%,被審人日本電気が34%のシェアとなっているなど,年度ごとにばらつきはみられる。)。(査第27号証)
(6) 契約から納入までの期間
仕様書には区分機類の納入期限が記載されているが,前記納入日程の調整により実際に郵便局に納入されるのは通常それより以前であり,被審人2社が受注してから納入までの期間が著しく短いものもあった。
例えば,郵政省が平成6年7月25日に入札を,同年8月2日に開札を実施した区分機類についてみると,被審人東芝が受注した契約番号2DC第15号のあて名区分機のうち板橋北郵便局及び大分中央郵便局の納入期限は同年9月30日と仕様書に定められているが,納入日は板橋北郵便局については同年8月21日,大分中央郵便局については同月28日であった。また,被審人日本電気が受注した契約番号2DC第18号のあて名区分機の国分寺郵便局への納入期限は同年9月30日と仕様書に定められているが,納入日は同年9月18日であった。(査第14号証,第33号証,第34号証,第35号証の1ないし8,第36号証の1ないし10)
3 一般競争入札の導入について
(1) 郵政省の方針について
郵政省は,平成6年2月に政府が策定した「政府調達に関するアクションプログラム」の外国事業者に入札参加の機会を広げ,調達の透明性を高める等の趣旨を踏まえ,同年4月ころ,大臣官房財務部長名をもって各地方郵政局長等にあてた「一般競争契約の推進について(通知)」(平成6年4月15日付け財契第63号)において,物品等の調達分野における契約の透明性,公正(競争)性をより高めるとともに経済的な調達に資するため,その基本方針として,物品等の調達は,原則として一般競争入札の方法により発注する方針にあったところ,被審人2社は,平成6年春ころから,施設課システム企画室の調達事務担当官等から,外国事業者に入札参加の機会を広げる等のため,平成7年度以降,区分機類を一般競争入札の方法により発注する方針を示されてきた。(争いがない。)
(2) 平成6年4月15日の会合及びその社内周知
平成6年4月15日,郵政省において,勉強会と称する会合が開催され,施設課システム企画室の余田室長,高橋係長,岡部次席及び後藤雄三席,被審人東芝の柳町工場特殊機器第一部の早崎部長,太田直樹課長(以下「太田課長」という。),小澤敏参事及び黒川功二主査並びに被審人日本電気の産業オートメーション事業部認識応用システム技術部の植松部長,江上一成部長代理,池田修課長(以下「池田課長」という。平成8年7月からは専任部長となった。)及び捧勉課長(以下「捧課長」という。)が出席した。この会合の主たる目的は区分機類の性能テストの結果説明等であったが,同会合の終わりころに,高橋係長から,平成7年度は区分機類を一般競争入札の方法により発注する見通しであること,指名競争入札における仕様書の「XX型と同等」という記載は一般競争入札となった場合にはできないこと等の説明があった。これらについて,被審人2社の出席者から特段の発言はされなかった。
被審人日本電気は平成6年4月20日ころ,被審人東芝は同年5月17日ころ,社内の会合において,平成7年度から区分機類が一般競争入札の方法により発注されることになる旨の報告をそれぞれ行った。(査第40号証,第41号証,第43号証,第44号証,第113号証,第114号証,審第91号証,第93号証,参考人高橋諒一,同植松征市,同池田修)
(3) 平成6年4月15日の会合から同年9月2日の会合までの状況
ア 被審人2社は,平成6年4月15日の会合において施設課システム企画室の調達事務担当官から読取率の目標値案の提案及び新型区分機等の見込価格の提出を求められたことを受けて,同年4月26日に,打合せを行った。この会合には,被審人東芝から須田部長,早崎部長,衞藤課長,太田課長及び堀江主任,被審人日本電気からは,植松部長,三浦部長,中野課長,池田課長及び第一官庁営業部の河野淳一主任(以下「河野主任」という。)が出席し,読取率の目標値案について検討するとともに,新型区分機等の見積りについては,i.新型区分機の実験機については,被審人日本電気が3.76億円とし,被審人東芝が4.5億円から3.5億円に下げることを考えていること,ii.見積りは製品としての価格に響くこと,iii.被審人日本電気は平成8年度以降の新型区分機の価格を3.3億円とし,バーコード区分機は150口のものを0.6億円としていたのを見直すことなどが話し合われた。(査第43号証,第122号証,審第92号証,参考人衞藤正昭)
イ 被審人東芝の須田部長が作成した平成6年6月14日付け「LH−BU事業戦略 H6年度実行課題・戦略・施策」と題する電磁的記録には,i.平成6年度の区分機類の利益確保という課題について,区分機類の受注価格の低下を抑制する施策として被審人日本電気との共同提議・根回しを行うこと,ii.平成7年度の区分機類の売上高及び利益確保という課題について,区分機類の総発注額を確保するための施策として被審人日本電気との共同提議・根回しを行うこと及びシェアの拡大の施策として一般競争入札の回避の提案をすること,iii.平成8年度以降の区分機類の利益率及びシェア確保という課題について,売上額の確保のための施策として被審人日本電気及び日立との協調との記載がされていた。(査第102号証,審第88号証)
(4) 平成6年9月2日の会合及びその社内周知
ア 平成6年7月8日に機械情報システム課長に立石直(以下「立石課長」という。)が就任し,その直後に開催された郵政省の幹部級の会議において,将来の新型区分機の価格が一台3.5億円と記載された資料が配布され,同省の幹部らから,その価格が高いとの発言がされたので,加藤郵務局長は立石課長に価格の低廉化を図るように指示した。同課長は価格の低廉化を図る方法として一般競争入札の導入を検討することとし,また,高橋係長の提案により被審人2社との勉強会が開催されることとなった。同係長は,被審人2社に対し,区分機類の価格低廉化及び一般競争入札の導入を議題とした勉強会を開催するので,これらの議題についてそれぞれの考え方をまとめた資料を提出するように依頼した。(査第40号証,第45号証,第46号証,参考人立石直,同高橋諒一)
イ 平成6年9月2日,郵政省において,課長勉強会と称する会合が開催され,機械情報システム課の立石課長,太田補佐,高橋係長,小関康司次席(以下「小関次席」という。)及び伊藤隆康三席,被審人東芝の機器事業部の須原治通機器事業部長付,須田部長及び早崎部長並びに被審人日本電気の三浦部長,植松部長及び産業オートメーション事業部認識応用システム技術部の江上一成部長(以下「江上部長」という。)が出席した。
同会合に提出を依頼された資料については,被審人日本電気は,価格低廉化の方策について,前年までに毎年提出していた資料を若干手直しして,i.発注を予定する区分機類の台数の早期内示,ii.出荷時期の平準化,iii.台数の計画的提示,iv.区分機の発注総額の増額等を提案した資料を提出したが,一般競争入札の導入については特に資料の提出を行わなかった。被審人東芝は,価格低廉化の方策については,i.発注台数の大幅増加及び複数年度の一括発注,ii.早期実質発注及び納入平準化等を,一般競争入札の導入については,検討を要する点として,i.仕様書の在り方,ii.納入時期,iii.既設機との連結性,iv.保守面等をそれぞれ記載した資料を提出した。
同会合において,まず,立石課長から,次のような経緯の説明がなされた。
i. 郵政省内で区分機類の購入価格が高いとの批判があり,調達方法の問題に発展した。同省内で区分機類の低廉化を求める圧力が非常に高まっている。
ii. 被審人2社の独占体制であることが高価格の一因ではないかとの意見がある。外国企業を含めた第三者の参入を阻んでいるのではないかとの見方をされている。
iii. したがって,郵政省及び被審人2社の三者にとって良い方法,すなわち,区分機類が安くなり,被審人2社にとってもやりやすくなる方法がないか考えている。
次に,価格低廉化について,被審人2社の出席者から,それぞれ提出された資料の説明がなされた。郵政省側は納入時期の平準化には取り組む旨を述べ,双方から,価格低廉化の方策等についての質疑応答がされた。
一般競争入札については,郵政省側が,今の流れでは一般競争入札にせざるを得ないと説明したところ,被審人2社側の出席者から,区分機類のような特殊機器がパソコンと同様に標準機器として一般競争入札になじむのか非常に疑問があるとの発言がなされた。これに対して,郵政省側は,流れが一般競争入札になっており,指名競争入札では随意契約とみられるので,一般競争入札と指名競争入札とでは外部の受け止め方が全然違うと回答した。被審人2社側から,一般競争入札にすると,現在のように契約から納入までの期間が1か月から3か月と短期に定められている物件の納入に問題が生じ得るのではないかとの質問がなされたのに対し,郵政省側は一般競争入札の場合は,契約から納入までに最低6か月は必要であると考えると回答した。また,郵政省側の出席者である高橋係長が,当該年度に発注する区分機類をまとめて一本として発注する一括発注も考えられ,この場合,当該物件を受注した者が元請となって受注できなかった者に分配することとなると説明したのに対し,被審人2社側は,自分の会社の区分機類に他の会社の銘板を付けるのは嫌であると,これに反対する意見を述べた。(査第21号証,第40号証,第46号証,第84号証,参考人高橋諒一,同立石直,同植松征市,同衞藤正昭)
ウ 被審人日本電気では,平成6年9月20日に社内で開催されたあて名SE活動定例会議と称される会合において,植松部長が,平成7年度の区分機類の配備は,一般競争入札の導入及び値引き圧力という厳しい環境になるとの説明を行った。
また,被審人日本電気では,平成7年度の区分機類の発注に関し,平成6年9月5日ころに「入札が原則一般競争入札となり,東芝にAEG/日立を含めた3社競合が本格化する」との記載を含む文書が,同年9月30日ころに,「一般競争入札化による他社市場参入の阻止」との記載を含む文書が,それぞれ社内で作成され,産業オートメーション事業部の計画部門に提出された。(査第115ないし第117号証,審第93号証)
(5) 書留郵便物自動読取区分機の一般競争入札の方法による発注
平成6年11月1日,郵政省は,被審人東芝に発注の意向が示された書留郵便物自動読取区分機について,平成7年1月13日に一般競争入札を行う旨の官報公示を行った。これは,郵便番号自動読取区分機類について,初めて一般競争入札に付されたものであり,被審人東芝においては平成7年度の区分機類の入札が一般競争入札になるとの認識を高めた。(査第32号証,審第17号証,参考人衞藤正昭,同堀江寿(第1回))
(6) 一般競争入札の回避及び情報の提示の継続の要請
ア 平成6年11月ころ,被審人東芝の須田部長は,機械情報システム課の高橋係長に対し,一般競争入札の導入の中止を要請したが,高橋係長は,それはできないと断った。
イ 平成7年1月初旬ころ,被審人日本電気の植松部長は,高橋係長に対し,情報の提示を継続するように要請した。高橋係長は,立石課長の判断がいまだなされていないところから,この要請に対して回答しなかった。(前記ア及びイにつき,査第40号証,参考人高橋諒一)
(7) 一般競争入札のための仕様書の作成及び情報の提示の継続の伝達
ア 平成7年1月上旬ころ,機械情報システム課の高橋係長は,立石課長に対し,平成7年度の区分機類の購入に関し,被審人2社に情報の提示を行うこととするか否かを尋ねたところ,立石課長から配備計画どおりに平成7年度の区分機類が納入されないと困るので,生産確認という意味で情報の提示を行う旨の回答があり,情報の提示を継続することが決定された。(査第40号証,参考人高橋諒一)
イ 機械情報システム課の調達事務担当官は,平成7年度から区分機類の発注方法を一般競争入札に変更するに当たり,それまで被審人2社について別々に機器仕様,性能定義等が規定されていた仕様書を共通の機器仕様,性能定義等をもって規定する仕様書に変更する必要があると判断した。このため,同課の小関次席は,それまでの仕様書を切り貼りして共通仕様書の原案を作成し,同課の高橋係長の了承の下に,被審人日本電気には平成7年1月17日ころ,被審人東芝には同月19日ころにその原案を送付するとともに,それぞれ,次のように依頼した。
i. 同月26日に被審人2社及び郵政省合同で仕様書について打合せを行うので,それまでに問題点を洗い出すこと
ii. 仕様書原案について,被審人東芝は区分機及び連結部の部分をワープロ打ちし,被審人日本電気は選別押印機及び台付押印機の部分をワープロ打ちして,打合せの当日に,自社分は別にして7部のコピーを持参すること(査第6号証,第29号証,第42号証,第44号証,第121号証,審第6号証,参考人高橋諒一)
ウ 被審人日本電気の河野主任は,平成7年1月23日ころ,被審人東芝の堀江主任から,三者の打合せの前日である同月25日に被審人2社間で仕様書に関して打合せを行いたいとの提案を受け,同日,被審人2社の関係者が集まることとなった。この打合せに先立ち,被審人東芝の社内で対応策が検討され,同月24日に,柳町工場において,堀江主任,柳町工場特殊機器第一部の太田課長,植松正樹主務(以下「植松主務」という。),岡澤好高主任(以下「岡澤主任」という。),同工場ソフトウェア第三部の静野正明主査及び佐々木宏主務が出席して,郵政省の仕様書の原案につき,その変更,削除すべき点,被審人日本電気に確認すべき点等を検討した。次いで,同月25日午前にも,柳町工場特殊機器第一部の早崎部長が出席した打合せが行われた。
被審人2社間の打合せは,同日午後2時ころ開催され,被審人東芝の堀江主任,太田課長,岡澤主任,川崎一巳主務及び静野正明主査並びに被審人日本電気の河野主任,植松部長,池田課長,捧課長及び太田一浩主任が出席した。この会合においては,出席者が郵政省から送付された仕様書原案について技術的な側面から順次検討し,その中で主として被審人東芝からi.区分機類すべてが1物件として一括発注された場合,受注した者が元請となり,他方が下請となる,ii.区分機類の寸法は大きい方に合わせた仕様としたい,iii.連結は,被審人日本電気の区分機類と被審人東芝の区分機類との間ではできない,iv.「読取率は標準として差立区分については引き渡し後1か月後において80%,配達区分については引き渡し後3か月後に70%を確保すること。なお,この読取率が確保できない場合には,速やかに無償で修理を行い,読取率の確保を図るように改善すること」のなお書き部分については削除してもらいたいとの発言がされた。打合せの結果,i.翌日の郵政省との打合せでは結論を出さないこと,ii.郵政省から送付された原案に手書きで記入したものを郵政省に提出し,ワープロ打ちしたものも別途提出すること,iii.予備部品表,付属部品表及び図面は被審人2社のいずれかのものが添付されるようにすることとされた。(査第6号証,第42号証,第103号証,第119号証ないし第121号証,審第35号証,第95号証,参考人堀江寿(第1回),同太田直樹)
エ 平成7年1月26日,郵政省において,機械情報システム課の高橋係長及び小関次席,被審人東芝の堀江主任,太田課長,岡澤主任及び植松主務並びに被審人日本電気の河野主任,池田課長及び捧課長が出席して打合せ会が開催された。その会合の冒頭に,高橋係長及び小関次席から,区分機類の発注に関する方針について次のような説明がなされた。
i. 平成7年度は,区分機類の発注方法を一般競争入札とするので,これまで被審人東芝及び被審人日本電気とで別々の仕様書にしていたのを,共通の仕様書として一本化する。
ii. 仕様書はあて名区分機については,口数別,L1型・L2型別に分ける。正流れ型・逆流れ型については仕様書を分けない。
iii. 選別押印機,台付押印機及び連結部については,仕様書を分けず,共通化する。
iv. 仕様書における処理能力,寸法,消費電力等の数値については,被審人2社の最大公約数,すなわち,劣る方の数値に合わせる。
v. 上記のような仕様書の内容では,どの郵便局のどのタイプがいずれの被審人に発注する意向が示されたのか不明であるので,内示は事前に実施する。
この説明に対して,被審人2社側の出席者から特段の発言はされなかった。被審人東芝の出席者の中には内示を受けられると聞き安心した者もいた。
その後,仕様書について1項目ずつ検討し,被審人2社と郵政省側とで質疑応答が行われた。被審人2社から読取率の測定は実便ではなく模擬便で行ってほしいと要請したが,郵政省側はその場では回答せず,翌日である平成7年1月27日に,郵政省側は被審人2社側の要請を容れ,読取率は模擬便で判断することとした。
この打合せの状況に関しては,被審人東芝については,堀江主任から衞藤課長に,被審人日本電気については,池田課長から江上部長及び植松部長に報告された。(査第6号証,第29号証,第40号証ないし第42号証,第44号証,第47号証ないし第49号証,参考人高橋諒一,同植松征市,同衞藤正昭,同太田直樹,同池田修,同堀江寿(第1回))
オ 郵政省は,平成7年1月31日ころ,あて名区分機の仕様書の内容等について,一部方針を変更し,選別押印機及び台付押印機との連結を特に摘記し,また,あて名区分機の正流れ型,逆流れ型をそれぞれ別の仕様書とすることとした。(審第7号証,第8号証の1,2,参考人太田直樹)
4 平成7年度及び平成8年度の区分機類の情報の提示,納入日程の調整及び発注状況
(1) 平成7年度
ア 情報の提示
平成6年10月ころ,機械情報システム課の高橋係長は,地方郵政局から配備を希望する郵便局,機種について当該郵便局のレイアウトを添付した上申を受け,区分機類の平成7年度の配備計画を被審人2社別個に策定した。その策定作業は,地域区分局単位においてその下部に位置する一般局は原則として同一の製造業者とすることとし,レイアウト及び作業動線を考慮した作業効率並びに既設機との接続などの事情とともに被審人2社が前年に納入した機械の読取率の成績などを勘案して行われた。この策定された配備計画について,平成7年1月ころ,高橋係長は,立石課長とともに郵務局長に事前に口頭で説明した後,被審人各社ごとに,どの郵便局に何型を何台配備し,予算金額は幾らかなどを記載した決裁を郵務局長まで上げ了承を得た。
立石課長及び高橋係長は,平成7年2月ころ,被審人日本電気の三浦部長及び植松部長に対し,同省の平成7年度の購入計画に係る区分機類のうち,あて名区分機(L1型)300口1台,同250口3台,同200口14台,同150口2台,あて名区分機(L2型)200口3台,同150口8台,選別押印機8台,台付押印機10台及び連結部5台という購入計画を口頭で説明するとともに,区分機類の機種別台数,あて名区分機にあっては速度別口数別台数,当該区分機類の配備先郵便局等が記載された文書を持ち帰り用に机上に用意し,被審人日本電気の出席者はそれを持ち帰った。
また,立石課長及び高橋係長は,平成7年2月ころ,被審人東芝の須田部長及び衞藤課長に対し,同省の平成7年度の購入計画に係る区分機類のうち,あて名区分機(L1型)250口6台,同200口10台,同150口2台,あて名区分機(L2型)200口15台,同150口1台,選別押印機10台,台付押印機11台及び連結部12台という購入計画を口頭で説明するとともに,区分機類の機種別台数,あて名区分機にあっては速度別口数別台数,当該区分機類の配備先郵便局等が記載された文書を机上に持ち帰り用に用意し,被審人東芝の出席者はそれを持ち帰った。
これらの際,立石課長は,「製造確認をします。」と情報の提示の趣旨を述べた。(査第20号証,第21号証,第29号証,第40号証,第50号証,第84号証,審第33号証の1,2,参考人高橋諒一,同立石直,同植松征市,同衞藤正昭)
イ 納入日程等の調整
機械情報システム課の調達事務担当官等から前記アの情報の提示が行われると,被審人2社は,それぞれ,自社工場部門に情報の提示が行われた物件の製造を指示するとともに,同課の調達事務担当官とこれらの物件についてそれぞれ納入日程の調整を行った。
被審人日本電気においては,情報の提示があった日から約1週間で生産管理部が納入日程表の案を作成し,その後,鈴木煕制御システム本部制御第1部販推課長(平成9年7月,制御システム本部郵便マーケット専任部長に就任した。以下「鈴木課長」という。)及び河野主任が機械情報システム課の小関次席と納入日程について打合せを行い,同次席から修正を求められた物件については生産管理部と日程変更の可否を検討し,更に小関次席と数回すり合わせた上で,同年4月ころ納入日程表を完成させた。
被審人東芝においては,堀江主任及びその部下が,小関次席と納入日程について打合せを行い,それぞれの郵便局の納入時期についての要望を聞いた上で,納入日程表の案を作成し,数回すり合わせた後,同年5月ころ納入日程表を完成させた。
この納入日程の調整の過程で,被審人東芝に情報の提示が行われていたあて名区分機(L2型)200口の朝霞郵便局配備予定分については,被審人日本電気と納入日程の調整を行うこととされるとともに,被審人日本電気に情報の提示があったあて名区分機(L2型)200口の鳩ヶ谷郵便局配備予定分については納入日程の調整が行われないなど,一部の区分機類について変更が行われた。(査第15号証,第20号証,第30号証,第31号証,第51号証の1ないし3,審第33号証の1,2,参考人高橋諒一,同植松征市,同堀江寿(第1回),同鈴木煕)
ウ 官報公示及び情報の提示との対比
平成7年度の区分機類の調達に係る官報公示は,平成7年5月2日に行われた。
発注する区分機類はあて名区分機,選別押印機,台付押印機又は連結部の機種別,右流れ型又は左流れ型の流れ型別,あて名区分機にあっては150口,200口,250口又は300口の口数別,L1型又はL2型の速度別等により18物件にグループ分けされ,一般競争入札の方法により,平成7年7月3日に入札に付されることとされた。そこで定められた区分機類の納入期限は,それぞれの郵便局の必要性に応じて様々であるが,入札から納入期限までがかなり短期間であるものもあった(納入期限が平成7年8月31日と定められたものが4物件,同年9月29日と定められたものが6物件,同年10月31日と定められたものが4物件,同年11月30日と定められたものが4物件である。)。
被審人日本電気は,官報公示された物件と情報の提示が行われた物件(納入日程の調整の過程で一部変更された場合には,変更後の物件)とを対比して,同一であることを確認した。(査第15号証,第24号証,第60号証の12,第61号証の14,第71号証)
エ 仕様書の交付
郵政省における仕様書の被審人2社への交付方法自体は,指名競争入札の方法により発注していた当時と変わりはなく,仕様書は,官報公示の直後,被審人東芝の堀江主任,被審人日本電気の河野主任が,それぞれ契約課に取りに行った。堀江主任は,被審人東芝に情報の提示があった物件に係る仕様書のみを持ち帰ったが,河野主任はすべての仕様書を持ち帰った。仕様書には,原則として,右流れ型,左流れ型の別,右流れ型の場合は被審人東芝製の選別押印機又は台付押印機と,左流れ型の場合は被審人日本電気製の選別押印機又は台付押印機とそれぞれ連結できる機能を有するものであることなどが記載され,右流れ型には被審人東芝が作成した予備部品リストが,左流れ型には被審人日本電気が作成した予備部品リストが添付されていた。(査第60号証の12,第61号証の14,第125号証,審第8号証の2,第76号証,第94号証,参考人太田直樹,同堀江寿(第1,2回),同河野淳一,同小早川永登(第1,2回))
オ 価格に関する郵政省と被審人2社とのやり取り
被審人2社は,仕様書を受け取ってからそれほど遅くない時期に,それぞれ,情報の提示を受けた物件について,下見積書を仕様書ごとに契約課の小早川永登次席(以下「小早川次席」という。)に提出した。小早川次席は,この下見積書に基づいて,物件ごとに,前年の例を参考にしながら予定価格策定の基礎となる予定価格下調調書及び価格予定書を作成していた。その査定の結果の価格が,予算額を超えていれば,小早川次席は被審人2社の担当者を実際に納入可能な価格を聞き出すために契約課に招致して,物件ごとに価格の提示を求め,その提示された価格が依然として予算額よりも高い場合には「どんなもんですかね。」と尋ね返し,それが予算額よりも下になるまでやり取りを繰り返し,予算額を下回った段階で「そうですか。」と言って,話を打ち切っていた。(査第20号証,第125号証,審第91号証,第94号証,参考人小早川永登(第1回),同堀江寿(第1回))
カ 配備先郵便局との具体的な配備の打合せ
被審人2社は,それぞれ自社に情報の提示のあった物件について,機械情報システム課の高橋係長の了承を得て,地方郵政局を経て配備先郵便局と接触した。被審人2社は,それぞれ,4月ころに配備先郵便局で実便の画像収集の作業を行い,その後,地方郵政局から要請されて電気工事関係やレイアウトの確認などの搬入の打合せに出席して,具体的な配備の打合せを行った。この打合せは,情報の提示があった者のみが呼ばれ,打合せは,入札や契約の時期とは関連なくなされていた。(査第54号証,参考人高橋諒一,同衞藤正昭,同堀江寿(第1回),同鈴木煕)
キ 入札の状況
平成7年度の区分機類の入札は,平成7年7月3日に行われ,被審人2社は,基本的に,自社に情報の提示のあった物件のみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しなかった。落札金額を予定価格で除した落札率(以下「落札率」という。)は,すべての物件について99.9%を超えていた。(査第15号証,第20号証,第21号証,第42号証,第60号証の1ないし12,第61号証の1ないし14,参考人植松征市,同衞藤正昭)
ク 納入の状況
入札後,受注した物件の納入がなされたが,被審人東芝が受注した落合郵便局の物件については,契約上の納入期限は平成7年8月31日とされていたが,同郵便局の開局が同年7月31日と予定されていたことから,納入が同月10日,引渡しが同月14日と,入札後極めて短期間に行われた。(査第15号証,第24号証,第87号証,審第10号証,第11号証,参考人高橋諒一,同衞藤正昭)
(2) 平成8年度
ア 地方郵政局における被審人2社の情報収集
被審人2社は,平成7年9月ころから,地方郵政局と接触して,翌年度に配備される予定の区分機類の情報収集を行っていた。まず,同月ころ,被審人2社は機械情報システム課の上平充係長(以下「上平係長」という。)が作成した「新郵便処理システム対応機械の開発・配備について」と題する資料(審第1号証)を関東郵政局及び上平係長から入手した。同資料は,上平係長が,平成9年度の新郵便処理システムの導入の一環として,既配備あて名区分機を改造して新型区分機と同様の機能を持たせるための改造計画を立てるに当たり,平成8年度に配備されるあて名区分機を含めて考慮する必要があったので,これまでの配備機に加えて平成8年度配備候補郵便局の配備機についても検討したものである。そこでは,上平係長は,被審人2社のあて名区分機が22台ずつ配備されると仮定して,配備候補郵便局ごとに,既に配備されているあて名区分機の製造業者及び周辺の郵便局に配備されているあて名区分機の製造業者を勘案して,被審人日本電気のイニシャルであるN又は被審人東芝のイニシャルであるTを記載した。次いで,被審人2社は,同年10月ころ,関東郵政局郵務部施設課の菊池三雄係長(以下「菊池係長」という。)が作成した「新郵便処理システム導入に伴う区分機の配備計画概要(案)」と題する資料(審第2号証)を関東郵政局から入手した。同資料は,菊池係長が,上平係長から示された配備計画(審第1号証)に基づき,各郵便局への配備が可能かどうかをレイアウトを基に検討し,本省に上申するために作成したものである。菊池係長は,それぞれの郵便局について,被審人日本電気のイニシャルであるN又は被審人東芝のイニシャルであるTを記載した。さらに,平成8年1月ころ,被審人2社は,東京郵政局郵務部施設課が作成した「平成8年度区分機配備計画調書」と題する資料(審第3号証)を東京郵政局から入手した。ここでも,平成8年度に区分機類の配備が予定されるそれぞれの郵便局ごとに被審人日本電気のイニシャルであるN又は被審人東芝のイニシャルであるTが記載されていた。試行機については日立のイニシャルであるHも記載されていた。(査第85号証,第86号証,第87号証,審第1号証ないし第3号証,参考人衞藤正昭,同堀江寿(第1回),同池田修)
イ 情報の提示
高橋係長は,平成7年度調達分と同様な方法で,平成8年度の区分機類の配備計画を策定し,郵務局長まで了承を得た。
平成8年2月8日ころ,高橋係長は,被審人東芝の衞藤課長,太田課長及び堀江主任に,平成7年に行った誤区分調査,読取率調査のデータを提示し,被審人東芝の方が劣っているとして,同社の見解を質した。これに対し,衞藤課長らは後日回答することとしたが,調査した郵便物の質や区分指定面の違いを説明して,発注台数に差が出ないように努めることとした。
機械情報システム課の立石課長及び高橋係長は,平成8年2月28日ころ,被審人日本電気の三浦部長及び植松部長に対し,郵政省の平成8年度の購入計画に係る区分機類のうち,あて名区分機(L1型)350口5台,同300口8台,同250口3台,選別押印機3台,台付押印機4台及び連結部1台という購入計画を口頭で説明するとともに,あて名区分機については被審人日本電気が16台であるのに対し,被審人東芝は19台になると述べた。これに対し,三浦部長らは全体的な性能が被審人日本電気の方が優っているにもかかわらず情報の提示がなされた数量が少ないことに不満を述べたが,立石課長らは,「既設の選別押印機及び台付押印機との関係でそうなった。」「不満があれば上司のところに説明に出向く。」「天の声で決まった。事務レベルではどうにもできない。」などと補足説明した。なお,高橋係長は区分機類の機種別台数,あて名区分機にあっては口数別台数,当該区分機類の配備先郵便局等が記載された文書を持ち帰り用に机上に用意し,三浦部長らがそれを持ち帰った。
また,立石課長及び高橋係長は,同時期ころ,被審人東芝の須田部長らに対し,郵政省の平成8年度の購入計画に係る区分機類のうち,あて名区分機19台を含む購入計画を口頭で説明するとともに,区分機類の機種別台数,あて名区分機にあっては口数別台数,当該区分機類の配備先郵便局等が記載された文書を持ち帰り用に机上に用意し,須田部長らがそれを持ち帰った。
これらの会合の際,高橋係長は,「これは,内示ではありませんよ。」と付言した。(査第20号証,第21号証,第29号証,第52号証,第84号証,審第34号証の1,2,第89号証,参考人高橋諒一,同立石直,同植松征市,同衞藤正昭)
ウ 納入日程等の調整
被審人2社は,それぞれ,前年度調達分と同様な方法で,自社に情報の提示が行われた物件について,機械情報システム課と納入日程の調整を行った。(査第20号証,第30号証,第31号証,第53号証,第54号証,審第31号証,参考人高橋諒一,同植松征市,同堀江寿(第1回),同鈴木煕)
エ 官報公示及び情報の提示との対比
平成8年度の区分機類の調達に係る官報公示は,平成8年5月30日に行われた。発注する区分機類はあて名区分機,選別押印機,台付押印機又は連結部の機種別,右流れ型又は左流れ型の流れ型別,あて名区分機にあっては200口,250口,300口又は350口の口数別等により18物件にグループ分けされ,一般競争入札の方法により,同年8月7日に入札に付されることとされた。なお,同官報公示において被審人東芝に情報の提示があったと認められる物件のうち左流れ型のものは別個にグループ分けされていた。そこで定められた区分機類の納入期限は,それぞれの郵便局の必要性に応じて様々であるが,入札から納入期限までがかなり短期間であるものもあった(納入期限が平成8年9月27日と定められたものが1物件,同月30日と定められたものが8物件,同年10月31日と定められたものが1物件,同年11月29日と定められたものが1物件,平成9年3月19日と定められたものが2物件,同年6月30日と定められたものが5物件である。)。また,神田,荻窪,葛飾,赤羽及び杉並の各郵便局については,あて名区分機とその予備部品が別の入札に付され,納入期限も予備部品の方があて名区分機よりも先に定められた。
被審人日本電気の鈴木課長は,官報公示された物件と情報の提示がなされた物件とを対比して,連結部が一件(宇品郵便局)漏れていることを発見し,郵政省に通知したところ,郵政省の担当官も漏れていたことを認め,同物件については平成8年6月末ころに改めて官報公示するとの回答を得た。同物件の官報公示は,同年6月24日になされ,一般競争入札の方法により同年8月28日に入札に付されることとなった。(査第15号証,第62号証,第63号証の12,第64号証の11,第78号証,第87号証,参考人鈴木煕)
オ 仕様書の交付
仕様書は,平成7年度調達分と同様の方法で,被審人2社の担当者が,それぞれ契約課に取りに行った。あて名区分機の仕様書には,右流れ型,左流れ型の別,右流れ型の場合は被審人東芝製の選別押印機又は台付押印機と,左流れ型の場合は被審人日本電気製の選別押印機又は台付押印機とそれぞれ連結できる機能を有するものであることなどが記載され,右流れ型には被審人東芝が作成した予備部品リストが,左流れ型には被審人日本電気が作成した予備部品リストが添付されていた。
なお,渋谷郵便局用のあて名区分機は左流れ型であるが,その仕様書には被審人東芝製の選別押印機又は台付押印機と連結できる機能を有するものであることが記載され,被審人東芝が作成した予備部品リストが添付されていた。(査第63号証の12,第64号証の11,第76号証,第94号証,第125号証,審第5号証,参考人太田直樹,同堀江寿(第1,2回),同河野淳一,同小早川永登(第1,2回))
カ 価格に関する郵政省と被審人2社とのやり取り
被審人2社は,それぞれ,情報の提示を受けた物件について,下見積書を仕様書ごとに契約課の小早川次席に提出し,小早川次席は,前年度調達分と同様の方法で,予定価格下調調書及び価格予定書を作成し,被審人2社の担当者を実際に納入可能な価格を聞き出すために契約課に招致して,それが予算額よりも下になるまでやり取りを繰り返した。(査第20号証,第125号証,審第91号証,第94号証,参考人小早川永登(第1回),同堀江寿(第1回))
キ 配備先郵便局との具体的な配備の打合せ
被審人2社は,それぞれ自社に情報の提示のあった物件について,高橋係長の了承を得て,地方郵政局を経て配備先郵便局と接触した。被審人2社は,それぞれ,平成8年4月ころに配備先郵便局で実便の画像収集の作業を行い,その後,地方郵政局及び配備先郵便局との間で電気工事関係,レイアウトの確認,区分指定面の検討,搬入時及び搬入後のスケジュール調整などの搬入に関する具体的な打合せを行った。この打合せには,情報の提示があった者のみが地方郵政局から呼ばれている。打合せは,入札や契約の時期とは関連なくなされており,入札前に行われているものもあった。このような事例として,東京郵政局管内の品川郵便局の例があり,同年7月24日に,東京郵政局及び品川郵便局の担当官と被審人東芝の担当者との間で,品川郵便局において,区分機類の搬入据付についての打合せが行われており,そこでは,設置場所のレイアウトや電源工事の確認をはじめ,搬入作業のための車両構成,郵便局のエレベーターの容量の確認,また,搬入後の区分指定面の検討や操作員の教育日程が話し合われた。(査第54号証,審第37号証,第38号証,第39号証の1,2,第40号証の1,2,第41号証の1,2,第42号証ないし第64号証,第65号証の1ないし5,第66号証の1,2,参考人高橋諒一,同片桐一豊,同衞藤正昭,同堀江寿(第1回),同鈴木煕)
ク 入札の状況
平成8年度の区分機類の入札は,平成8年8月7日及び同月28日に行われ,被審人2社は,自社に情報の提示のあった物件のみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しなかった。落札率は,すべての物件について99.8%を超えていた。(査第15号証,第20号証,第21号証,第42号証,第63号証の1ないし13,第64号証の1ないし11,参考人植松征市,同衞藤正昭)
ケ 納入の状況
入札後,受注した物件の納入がなされたが,被審人日本電気が受注した橋本郵便局及び岐阜北郵便局の物件については,契約上の納入期限は平成8年10月31日とされていたが,前記の納入日程の調整により橋本郵便局の物件については納入が同年9月5日,岐阜北郵便局の物件については納入が同月9日と入札後極めて短期間に行われた。また,被審人東芝が受注した高津郵便局及び品川郵便局の物件については,契約上の期限が同月30日とされていたが,前記の納入日程の調整により高津郵便局の物件については納入が同年8月25日,品川郵便局については納入が同年9月1日と入札後極めて短期間に行われた。(査第15号証,第62号証,第53号証,審第31号証,第32号証,参考人高橋諒一)
(3) 平成8年度の試行機
ア 情報の提示
機械情報システム課の調達事務担当官は,平成8年7月ころ,被審人2社それぞれに対し,郵政省の平成8年度の購入計画に係る新型区分機及びバーコード区分機の試行機の8台について情報の提示を行った。(情報の提示がされたのが上記8台であることは査第55号証により認められる。その余の事実は争いがない。)
イ 納入日程等の調整
被審人2社は,この情報の提示を受けた後,それぞれ,機械情報システム課の調達事務担当官に対し,納入日程表の案を提出するなどして,平成8年12月ころまでに,情報の提示を受けた区分機類の納入日程等の調整を行った。
なお,平成8年12月12日ころ,機械情報システム課の平澤努次席(以下「平澤次席」という。)は,被審人日本電気の池田課長に「新型区分機等の機械番号について(再修正版)」をファクシミリ送信したが,その中で,平成8年度発注予定の試行機についての製造業者の欄に,被審人2社の個別の会社名(東芝,NEC)を記載していた。(査第96号証,審第18号証の1,2,第68号証,参考人池田修)
ウ 官報公示及び仕様書
平成8年度の試行機の調達に係る官報公示は,平成8年11月26日に行われた。発注する区分機類は新型区分機又はバーコード区分機の機種別,右流れ型又は左流れ型の流れ型別により4物件にグループ分けされ,一般競争入札の方法により,平成9年1月30日に入札に付されることとされた。これら4物件の納入期限はいずれも同年3月21日とされていた。
仕様書には,右流れ型(供給部が区分部の左側に設置されたもの),左流れ型(供給部が区分部の右側に設置されたもの)の別,右流れ型の場合は右流れ型の選別押印機又は台付押印機と,左流れ型の場合は左流れ型の選別押印機又は台付押印機とそれぞれ連結できる機能を有するものであることなどが記載され,右流れ型には被審人東芝が作成した予備部品リストが,左流れ型には被審人日本電気が作成した予備部品リストが添付されていた。(査第65号証,第66号証の7,8,第67号証の7,8)
エ 地方郵政局及び配備先郵便局との具体的な配備の打合せ
東京郵政局郵務部郵便システム課の片桐一豊係長(以下「片桐係長」という。)は,平成8年10月から11月にかけて機械情報システム課から配備候補郵便局の受入れ可能性について確認があったのを受けて,配備候補郵便局にこれを確認する業務を行った。片桐係長は,被審人東芝製の区分機類が既に配備されている郵便局には被審人東芝製の,被審人日本電気製の区分機類が配備されている郵便局には被審人日本電気製の区分機類が配備されるという前提で納入に向けての作業を行い,配備先郵便局の便宜のために機種番号(型式番号)を伝え,伝えられた郵便局もそれを前提に作業を進めた。
被審人2社は,それぞれ,平成8年12月ころから,配備先郵便局との間で入力のための訓練,電気工事関係,レイアウトの確認,搬入時及び搬入後のスケジュール調整などの搬入に関する具体的な打合せを行った。この打合せには,情報の提示があった者のみが呼ばれた。打合せは,入札や契約の時期とは関連なくなされており,入札前に行われているものもあった。(査第89号証,審第12号証,第77号証,参考人片桐一豊)
オ 入札の状況
平成8年度の試行機の入札は,平成9年1月30日に行われ,被審人2社は,自社に情報の提示のあった物件のみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しなかった。落札率は,すべての物件について99.9%を超えていた。(査第15号証,第30号証,第66号証の1ないし8,第67号証の1ないし8,参考人植松征市)
カ 納入の状況
入札後,受注した物件の納入がなされたが,被審人東芝が受注した東京中央郵便局の新型区分機及び玉川郵便局の新型区分機については,前記の納入日程の調整により納入が平成9年2月16日と,入札後極めて短期間に行われた。(審第12号証,第68号証,参考人片桐一豊)
5 平成9年度の情報の提示,納入日程の調整及び発注状況
(1) 郵政省が平成9年度に発注する区分機類は,平成10年2月に実施する郵便番号の7桁化に対応した新型区分機が中心で,発注台数が従来より多く,また,既設のあて名区分機を新型区分機並みの性能に改造して他の郵便局に移設する(以下「玉突き移設」という。)必要があった。(争いがない。)
(2) 情報の提示及びその後の状況
ア 情報の提示
機械情報システム課は,平成8年6月ころから平成9年度の区分機類の具体的な配備計画を検討し,同年8月ころには配備計画をほぼ詰め終わった。そして,同課の出口勤課長補佐(以下「出口補佐」という。)は,平成8年10月ころまでに,被審人2社それぞれに対し,配備先郵便局,配備予定機種などの情報を提示し,それに基づき納入日程表の案を作成して提出するように依頼した。(査第30号証,第57号証,審第87号証の2,参考人池田修)
イ 納入日程等の調整
被審人2社は,この依頼を受けた後,被審人東芝にあっては堀江主任が,被審人日本電気にあっては池田課長及び鈴木課長が,機械情報システム課の出口補佐に対し,納入日程表の案を提出し,出口補佐からの再検討の依頼を踏まえて修正を何回か繰り返した後,平成9年3月ないし4月ころ納入日程が確定した。平成9年度は発注される予定の区分機類の台数が非常に多く,また玉突き移設の問題もあったため,納入日程表の修正回数は,これまでよりもはるかに多かった。(査第30号証,第31号証,第58号証,第59号証,審第19号証ないし第21号証,参考人堀江寿(第1回),同鈴木煕,同池田修)
ウ 見積書の提出及び機械情報システム課との価格交渉
新型区分機は新しい機種であったので,機械情報システム課は大蔵省への概算要求を行う少し前の平成8年7月ころ,被審人東芝に,見積書の提出を求めた。被審人東芝は,同年7月4日ころ,新型区分機300口2億6500万円などと記載した概算見積を提出した。同年秋ころになり,同課からもっと安くするようにとの要請を受け,何回か価格についてやり取りがあった後,同年11月5日ころ,被審人東芝は,新型区分機300口2億4570万円などと記載した見積りを提出した。これについても,同課の担当官から,情報入力装置(VCS)の一部に関して「NECより高い。少し安くしろ。」との要請があり,再度見積書を提出するなどした。
機械情報システム課は,平成8年12月の大蔵省の内示を受け,平成9年度調達分の実行予算を組むに際し,被審人日本電気に新型区分機等の機種別,口数別の価格を記載して,提出するように求めた。被審人日本電気は,同課にその価格を記載した表を提出したが,すぐには受理されず,価格について何回かのやり取りの後,平成9年1月に提出した価格で受理された。(査第30号証,審第94号証)
エ 官報公示及び情報の提示との対比
平成9年度の区分機類の調達に係る官報公示は,平成9年3月19日に行われた。発注する区分機類は新型区分機,バーコード区分機(A型),バーコード区分機(B型),選別押印機,台付押印機,連結部又は情報入力装置の機種別,このうち新型区分機,バーコード区分機(A型),バーコード区分機(B型),選別押印機及び台付押印機にあっては右流れ型又は左流れ型の流れ型別,新型区分機,バーコード区分機(A型)及びバーコード区分機(B型)にあっては200口,250口,300口又は350口の口数別等に分類され,これにより31物件にグループ分けされ,一般競争入札の方法により,同年5月16日に入札に付されることとされた。同入札では,被審人東芝に情報の提示があったと認められる物件のうち左流れ型のもの及び被審人日本電気に情報の提示があったと認められる物件のうち右流れ型のものは別個にグループ分けされていた。同入札で定められた納入期限は,比較的短期間のものが多かった(納入期限を平成9年9月30日とするものが17物件,同年10月31日とするものが1物件,同年11月28日とするものが4物件,平成10年1月30日とするものが3物件,同年3月16日とするものが6物件である。)。
被審人日本電気の担当者は,官報公示された物件と情報の提示が行われた物件とを対比して,同一であることを確認した。(査第15号証,第68号証,第73号証)
オ 仕様書の交付
平成9年度は発注台数が多かったことから,仕様書は,官報公示を待たずに平成9年2月ころから,契約室の担当官である小早川次席から被審人2社の担当者に交付され,被審人2社は,それぞれ自社が情報の提示を受けた物件について準備のできたものから順次,下見積書を小早川次席に提出していった。
仕様書には,右流れ型,左流れ型の別が記載され,右流れ型には被審人東芝が作成した予備部品リストが,左流れ型には被審人日本電気が作成した予備部品リストが添付されていた。(査第69号証の7,第70号証の7,審第9号証,第91号証,第94号証)
カ 価格に関する郵政省と被審人2社とのやり取り
小早川次席は,被審人2社の提出に係る前記下見積書に基づき,前年度調達分と同様の方法で,予定価格下調調書及び価格予定書を作成し,被審人2社の担当者を契約室に招致して,実際に納入可能な金額を確認するための手続を行った。(審第91号証,参考人小早川永登(第1回),同堀江寿(第1回),同河野淳一)
キ 地方郵政局及び配備先郵便局との具体的な配備の打合せ
被審人2社の担当者は,それぞれ自社に情報の提示のあった物件について,高橋係長の了承を得て,前年度と同様の方法で,前年度調達分よりも幾分早い日程の下に,地方郵政局及び配備先郵便局との間で電気工事関係,レイアウトの確認,区分指定面の検討,搬入時及び搬入後のスケジュール調整などの搬入に関する具体的な打合せを行った。この打合せには,情報の提示があった者のみが地方郵政局から呼ばれていた。打合せの時期は,入札や契約の時期とは関連がなく,入札前に行われているものもあった。
その具体例として,東京郵政局の事例がある。東京郵政局郵務部郵便システム課の片桐係長は,平成9年2月ころ機械情報システム課から,平成9年度に配備する予定である区分機類の配備先郵便局,機種の別(新型区分機,バーコード区分機又はあて名区分機を改造して新型区分機の機能を持たせたもの),流れ型の別(右流れ型又は左流れ型),納入期限について連絡を受けた。流れ型については,東京郵政局から機械情報システム課に上申したものがほぼそのまま連絡されてきていた。同係長は,納入期日に間に合わせるために,同年3月末ころ,配備先郵便局に対して,機械情報システム課から連絡を受けた内容に加えて,納入される予定の区分機類の製造業者の型式番号を伝達した。その際,同係長は既に区分機類が納入されている郵便局については,当該郵便局に納入されたものと同一の製造業者のものが納入される可能性が強いと考えて当該製造業者の型式番号を,いまだ区分機類が配備されていない郵便局については,これまでの経験から,右流れ型の配備先郵便局については被審人東芝の型式番号を,左流れ型の配備先郵便局については被審人日本電気の型式番号を伝達した。
その後,関東郵政局及び東京郵政局は,平成9年4月上旬ころ,被審人2社それぞれと,配備先郵便局との搬入打合せに臨む前に,搬入打合せの進め方及び内容について事前の打合せを行った。
そして,片桐係長は,東京郵政局郵務部郵便システム課の日隈修係長と協議しながら,配備先郵便局との打合せを開始し,その場には,伝達した型式番号に係る製造業者及びその保守子会社の出席を求めた。この打合せは,平成9年4月9日ころから開始され,入札の行われる同年5月16日までに,被審人日本電気が出席したものとしては,荒川,杉並南,豊島,深川,神田,千歳,成城,本所,浅草,新宿,本郷,赤羽,葛西,葛飾の各郵便局とのもの,被審人東芝が出席したものとしては,葛飾新宿,荏原,品川の各郵便局とのものがあった。同打合せでは,区分機類の納入日程,区分指定面の準備作業,電源工事,レイアウトなどについて話し合われた。(査第97号証,第98号証,審第22号証,第23号証,第24号証の1,2,第25号証の1ないし13,第26号証,参考人片桐一豊,同堀江寿(第1回),同鈴木煕)
ク 新型区分機等の搬入予定日等調書の作成
平成9年4月22日ころ,機械情報システム課の出口補佐から,被審人2社に対し,それぞれ,郵政局管内,郵便局名,郵便番号,機械名,機械搬入予定日,稼働開始可能予定日,製造業者による訓練日程,製造業者の常駐期間を一覧にした「新型区分機等の搬入予定日等調書」を作成するように依頼があり,被審人東芝は同月26日に太田課長が,被審人日本電気は5月9日に鈴木課長が作成提出した。(審第82号証,第83号証の1,2,第84号証の1,2,参考人太田直樹,同鈴木煕)
ケ 地方郵政局による入札前の配備先郵便局への機種通達等
九州郵政局は平成9年5月8日ころ,博多郵便局に対し,配備される新型区分機は被審人東芝製のものと示し,信越郵政局は同年4月18日ころ,新潟中央郵便局に対し,配備される新型区分機は被審人東芝製のものと事実上示していた。
また,新東京郵便局は,平成8年12月12日ころ,「新型区分機搬入計画(案)」と題する文書を作成し,平成9年10月に被審人東芝製のバーコード区分機350口が,同年11月に被審人日本電気製のバーコード区分機350口が搬入されると記載していた。(審第9号証,第27号証,第30号証,第82号証,第84号証の1,2,参考人片桐一豊)
コ 入札の状況
平成9年度の区分機類の入札は,平成9年5月16日に行われ,被審人2社は,自社に情報の提示のあった物件のみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しなかった。落札率は,すべての物件について99.5%を超えていた。
なお,当該入札に係る個別物件の落札結果は,同年7月1日に官報公示された。(査第15号証,第21号証,第30号証,第69号証の1ないし7,第70号証の1ないし7,第123号証,審第81号証,参考人植松征市)
サ 納入の状況
入札後,受注した物件の納入がなされたが,被審人2社が受注した物件について,前記の納入日程の調整により納入が入札後短期間に行われたものが相当数あった。(審第84号証の1,参考人太田直樹,同池田修)
シ 入札後の価格連絡
平成9年7月30日ころ,被審人日本電気第一官庁営業部の中根稔主任は,被審人東芝の堀江主任に対し,平成9年度の新型区分機(250口,300口,逆流れ型の300口,350口),バーコード区分機(A型)(200口,250口,300口,350口),バーコード区分機(B型)(200口,250口,300口)のそれぞれの契約単価(税抜き)をファクシミリ送信した。(査第110号証)
6 平成7年度から平成9年度までの受注状況
被審人2社は,郵政省が平成7年4月1日から平成9年5月16日までの間に,一般競争入札の方法により発注した区分機類の物件71物件中の70件を受注し,それぞれが同省の総発注額のおおむね半分ずつを受注した。(争いがない。)
7 公正取引委員会の立入検査及び日立の参入後の状況
(1) 平成9年12月10日,公正取引委員会が被審人2社に立入検査を行い,その後は機械情報システム課の調達事務担当官等は情報の提示を行わなくなり,納入日程の調整は入札後に行われるようになり,契約室が価格のやり取りをすることもなくなり,官報公示において入札日から初回の納入期限までの期間を短期間に設定することもなくなった(平成9年12月24日官報公示に係る全22物件は,入開札日を平成10年2月27日とし,納入期限を同年8月31日として,入開札日から納入期限までに6か月の期間が設けられている。また,同年3月30日官報公示に係る全50物件は,入開札日を同年6月9日とし,納入期限は,同年9月30日とするもの22物件,同年10月30日とするもの10物件,同年11月30日とするもの9物件であり,その余はそれよりも長期の納入期限が定められている。)。被審人2社も郵政省との接触を控えるようになった。また,平成10年2月27日の区分機類の入札から日立が参入し,日立が参加した物件は少なくとも2社の競争となった。これらのことから,競争環境が相当変化した。
日立は当初右流れ型の区分機類に参入し,被審人東芝との競札となった。平成10年2月27日の入札では2物件が被審人東芝,日立の競札となったが,これらの物件の落札率は約96.5%,94.1%と,これまでよりも下がった。平成10年6月9日の入札からは被審人東芝が左流れ型の区分機類に本格的に参入し,被審人日本電気と競札するようになった。同日に,被審人東芝,日立が競札になった13物件の落札率は約77.1%から約99.5%までに,被審人2社が競札になった10物件の落札率は約75.2%から約95.5%までにと更に下がった。平成11年3月19日の入札からは日立が左流れ型の区分機類に参入し,被審人日本電気が右流れ型の区分機類に本格的に参入したことから,すべての物件について被審人2社及び日立の3社あるいは被審人2社の競札となった。同日に3社が競札となった11物件の落札率は約40.5%から約84.4%までに,被審人2社が競札となった8物件の落札率は,約65.5%から約98.5%までにと一層下落した。また,被審人日本電気の保守子会社は,平成11年度以降,保守拠点を北海道,北陸及び信越に新たに設け,納入した物件の保守に対応できるようにしており,被審人日本電気は,平成11年度の一般競争入札では,これまで配備実績のなかった北海道郵政局管内の郵便局の物件について入札に参加し,落札・受注した。(査第57号証,第74号証ないし第76号証,第80号証,第83号証,第94号証,第95号証,第126号証,審第91号証,参考人池田修)
(2) 日立が,平成10年4月9日付け文書で,郵政省に対し,被審人東芝製及び被審人日本電気製の選別押印機等との接続に関する技術情報の開示を求めたところ,機械情報システム課はこれに応じて,同年5月8日付け文書で技術情報を開示し,日立は,その開示を受けて技術的に接続が可能であることを確認して,同年6月9日の区分機類の一般競争入札に参加した。
また,郵政省が平成11年3月19日に一般競争入札の方法により発注した区分機類について,被審人日本電気は,被審人東芝製の選別押印機との接続を条件とする新型区分機の入札に参加し,落札・受注し,納入している。また,日立も,同入札において,被審人東芝製の選別押印機との接続を条件とする新型区分機の物件の入札に参加し,落札・受注した。(査第76号証,第82号証ないし第84号証,第90号証,第106号証の2)
第3 審査官及び被審人2社の主張
1 区分機類の取引に係る競争
(1) 審査官の主張
ア 独占禁止法の適用
独占禁止法は,経済活動の基本を定める法律であり,およそすべての事業者,すべての業種に適用されるものであって,その適用が排除されることは,通常あり得ない。もちろん,その適用を除外する規定がある場合には,一定の行為が適用除外となるが,それ以外の場合に明文の適用除外規定もないのに,その適用が除外される事態は,およそ,あるとしても極めて限定された場合であろうし,その基本法たる性格からしてそのように解釈されてしかるべきである。
そして,その極めて限定された例として,「政府強制」による場合があるが,本件で,被審人2社が,郵政省から,いかなる意味においても「強制」されたものでないことは明らかであり,むしろ被審人2社は,郵政省に区分機類の発注に関して,被審人2社の利益に直結する「内示」の実施を要請し,安定的かつ高収益を上げていたのであるから,およそ郵政省から強制されていたどころか,郵政省を利用していたとさえ言い得るのである。
イ 競争の存在
官公庁の商品又は役務の調達に係る一定の取引分野において,当該商品(又は役務)が,会計法令に基づく一般競争入札の手続に従って調達(発注)が行われている場合には,仕様書に適合する物品を製造する能力がある事業者であれば,誰でも入札に参加でき,また,入札参加者間で競争が行われ,入札価格の最も低い者から調達されるのであって,そこに競争が存在することは明らかである。しかしながら,一般競争入札を行っていても,何らかの事情があって,その意思に従って入札できないような場合,すなわち脅迫等の行為によって,入札参加者が拘束を受け,自由な意思によって,入札に参加できなかったような場合には,競争を期待することができず,競争がないということが可能な場合もあるが,そのように極めて特殊な場合を除けば,一般競争入札が行われている以上,実質的にみても競争はあるということができるのである。
このように,審査官としては,商品等の供給者側において競争の可能性あるいは余地があるか否か(競争の存否)が争われる場合に,入札手続を形式的にみるだけではなく,入札手続及びこれに関連する諸般の事情をみて,競争の存否を判断する必要があることまで否定するものではないが,競争入札制度は,正に供給者側の競争の存在を前提としていることからすれば,競争入札制度の下で,競争が存在しないと主張する者が「競争が存在しない」ことを基礎付ける事実として「特段の事情」について主張立証すべきである。すなわち,審査官は「特段の事情」が存在しないことを主張立証する必要はなく,被審人2社側において「特段の事情」があることを主張立証すべきである。
本件についてみれば,郵政省は,平成7年度以降,区分機類については,会計法令等に基づき,特例政令の規定が適用される一般競争入札(いわゆる国際入札)の方法により発注しており,この一般競争入札は,GATTに基づく条約上の義務に従って入札手続が行われなければならないのであり,郵政省の意思は,あくまでも官報公告の内容に,かつ官報公告の内容のみに現われているものであるから,外国事業者を含め仕様書に適合する区分機類を製造する能力がある製造業者であれば,誰でも入札に参加でき,また,入札参加者間で入札価格の競争が行われ,入札価格の最も低い者からそれを調達するものであり,そこに競争が存在することは明らかである。
ウ 情報の提示
機械情報システム課の調達事務担当官等は,入札実施前に,被審人2社に対し郵政省の購入計画(配備計画)に係る各社ごとに分けられた区分機類の機種別台数,配備先郵便局等について「情報の提示」を行っていた。しかし,この「情報の提示」は,あくまでも「生産確認」のためのものであり,その提示を受けた者に当該区分機類の物件の入札に参加し受注することを指示したり,当該区分機類の物件の発注を確約したりするものではないし,また,「情報の提示」を受けた者以外の者に当該区分機類の物件の入札に参加することを禁止するものではない。
被審人2社は,区分機類の調達は,形式的には一般競争入札の形を採るものの,実質的には,発注者である郵政省の事前内示に基づいて入札の実施前に特定の被審人が契約の相手方として確定されており,実質的に特命随意契約と同様の状況であったと主張するが,前記のように,「情報の提示」は,被審人2社のいう「内示」といったものではなく,「実質的特命随意契約」に当たるような状況はなく,本件区分機類に係る競争は存在しており,被審人2社の主張は理由がない。
エ 被審人2社の主張事実に対する主な反論
(ア) 被審人2社の主張する郵政省の「内示」について
a 被審人2社は,郵政省における区分機類の配備計画の策定に際し,郵政省内において作成された資料が各被審人に手交され,その情報が提示された旨を主張する。しかしながら,被審人2社の主張に係る資料(審第1号証ないし第3号証)は,いずれも新郵便処理システムの導入に係る検討段階あるいは地方郵政局が平成8年度の区分機類の配備計画について検討するために作成した検討段階の内部資料にすぎないものであるところ,被審人2社は,これらの資料を,事業者が発注者に対する営業活動中に行う情報収集活動として入手したものであって,そのようにして入手した情報は何ら確定的な意味のあるものではないのである。
b 被審人2社は,内示に際しては,機械情報システム課長から被審人2社に対し,配備計画の内容は確定的なものとして伝えられる旨を主張する。しかしながら,区分機類の配備計画の決定は機械情報システム課が行い,その際,機種,配備先郵便局及び配備台数が記載された配備計画が作成されるが,この配備計画については,郵務局長の了解は得ておらず,また,区分機類の配備計画について被審人2社に対し「情報の提示」を行っていることは,郵務局内においても機械情報システム課の限られた者しか知らず,このことは入札・契約事務を担当する契約課又は契約室には伝達されていないのである。また,機械情報システム課の調達事務担当官等が「情報の提示」を行うに当たり,被審人2社の担当者に対して配備先郵便局等を記載した文書を積極的に渡したことはない。被審人2社は,配備計画に係る「情報の提示」を受けていない区分機類の物件の入札に参加することを禁止されていないし,入札への参加を制約されているものでもないのである。
c 被審人2社は,機械情報システム課長による内示がされると,前記内示に従い,同課の調達事務担当官との間で詳細な納入日程調整が行われた旨を主張する。しかしながら,区分機類の納入日程調整は,機械情報システム課の調達事務担当官が被審人2社に一方的に行わせていたものではなく,被審人2社にとっては生産・納入が平準化できるというメリットがあり,自社の利益に資するところから行っていたものであり,他方,同課の調達事務担当官にとっては郵政省の区分機類の配備計画に沿った納入を確保することができるかどうかを確認し,少なくとも1社は納入できることを確実なものとするために行っていたのである。したがって,同調達事務担当官がこのような納入日程等の調整を行っていたからといって,郵政省の事前に受注者を指定する指示(被審人2社がいうところの「内示」)に従って受注者が確定されてその後納入日程等の調整が行われていたものではないし,ましてや,納入日程等の調整を行わない者の入札への参加を禁止したり,その者を入札から排除するものでもないのである。
d 被審人2社は,機械情報システム課の調達事務担当官は,被審人2社それぞれとの納入日程調整の結果を踏まえ入札案件をグループ分けして,入札手続終了後の生産着手によっては納入が不可能な納期を設定し,仕様書において,既設機との連結可能性を条件とし,左右の流れ型を特定し,更に予備部品において内示先被審人の仕様を特定して入札手続を実施したのであり,これらは,郵政省により入札前に受注予定者が特定されていた事実を明らかにする事情である旨を主張する。しかしながら,そもそも区分機類の製造に要する期間は,部品等を調達していれば2か月もあれば足りるのであり,また,見込み生産は可能であるから,たとえ官報公告日(あるいは入・開札日)からみて納入期限が短期の物件であったとしても,見込み生産をするなどして対応することは可能である。また,入札案件をグループ分けした点についても,納入予定日が近接している郵便局の区分機類を一括して一つの物件とすることは,それ自体何ら不自然ではない。さらに,仕様書に流れ型等の記載がされている点についても,これらは区分機類の仕様を明らかにするために必要不可欠の要素であり,仕様書に記載されなければならないものである。そして,仕様書における「流れ型」に係る記載は「右流れ型」又は「左流れ型」の郵便物を処理する物理的な流れの別を記載したものであって発注先を特定したものではなく,同じく「既設の選別押印機等との連結」に関する記載は既設の選別押印機等を特定して同機械と連結できる機能を有するものであるという条件を記載したものであって,あて名区分機等の発注先を特定するものではなく,同じく「予備部品」の記載については規格又は寸法を示したものであり,あて名区分機等の機能等を維持するために予備部品を調達することが必要であることを示したものであるから,これらの記載を併せてみても,区分機類の発注先を特定するものではないのである。
e 被審人2社は,区分機類の納入に当たっては,納入前に各配備先郵便局において,当該配備先郵便局担当官に加え,地方郵政局郵務部郵便システム課担当官及び納入業者が出席して,搬入の概要説明,電源LAN工事対応,区分指定面対応,搬入工事の段取り等の打合せが行われなければならないが,契約後早期の納入期限が設定されている配備先郵便局については,その打合せも早期に行わなければ納入期限の確保ができないことから,いずれも入札前に搬入事前打合せが実施された旨を主張する。しかしながら,被審人2社が地方郵政局の担当官との間で,あらかじめ各配備先郵便局との打合せ内容及び進行等についての打合せを行っていたとしても,それは,機械情報システム課の調達事務担当官等が被審人2社に対して行った「情報の提示」に基づいて行われたものではない。すなわち,地方郵政局の担当官は,発注者側とはいえ,区分機類の技術的あるいは使用方法等の知識が乏しく,配備先郵便局に説明するにおいても十分な説明ができないと考え,被審人2社の協力を得たものであり,そのための事前打合せをしたにすぎないのであって,この打合せは,各配備先郵便局への配備をスムーズに進めるため,各地方郵政局の判断から行った事前準備的な作業の一環である。地方郵政局の被審人2社への事前打合せの出席の依頼も,配備先郵便局に既に区分機類が配備されている場合にはその製造業者に,区分機類が配備されていない配備先郵便局については,右流れ型が配備される予定の郵便局の場合には被審人東芝に,左流れ型が他が配備される予定の郵便局の場合には被審人日本電気に出席を依頼し,それぞれの担当者が出席していたのであり,それは,配備先郵便局において区分機類が配備されるに当たっての作業を理解させ,それを配備先郵便局において滞りなく進めるためのものであって,「受注業者」の担当者が出席したものではない。また,地方郵政局の担当官は,自己又は地方郵政局に区分機類の発注権限がないことは十分認識しており,被審人2社に対して,受注を指示したり,約束するような言動は一切行っていないのである。
(イ) 区分機類に係る市場状況等について
被審人2社は,区分機類の開発の経緯,被審人各社の技術特性及び郵政省による区分機類発注に係る特殊事情,特に随意契約の実質により措置したことの不可避的,合理的事情がある旨を主張するが,そのような事実はない。平成9年11月ころに至って日立が製造する区分機類の性能が機械情報システム課の求める水準に達したとしても,そのことをもって,広く他社が本件区分機類の入札に参加し得なかったものではなく,機械情報システム課の調達事務担当官は,平成6年9月ころにも,外国事業者らの参入の可能性があることを認識していたのである。また,被審人2社は,被審人東芝製の区分機類と被審人日本電気製の区分機類の技術特性から両社の機械には互換性がなく,その特徴は被審人東芝は右流れ型,被審人日本電気は左流れ型であるところに顕著に現れている旨を主張するが,被審人東芝製の区分機類と被審人日本電気製の区分機類に互換性(代替性)があることは,ある特定の郵便局に配備される機械が一義的にどちらの社のものに定まるものではないこと,すなわちどちらの社の機械でも配備可能であることなどから明らかである。被審人2社は,いずれも右流れ型及び左流れ型の区分機類を製造し,郵政省に納入しているのであり,流れ型の違いが被審人2社の受注を困難あるいは不可能とする要因とはならない。要するに,区分機類を郵便局に配備する場合において,被審人2社のうちいずれか1社を特定しなければならない技術特性及び製造能力等の制約はなく,どちらの社の機械でも配備することは可能なのであり,被審人2社間に競争が存在したことは明らかである。
(2) 被審人2社の主張
ア 競争関係の不存在
郵政省による区分機類の発注に関しては,一般競争入札の形式が採られているとはいえ,被審人2社の区分機類の研究開発の独自性,技術的特性に左右されその互換性がないことに加え,当時における被審人2社の製造能力上の制約を前提とした郵政省内における配備確保の必要性により,郵政省が事前に受注者を指定する内示に従って,入札実施前に受注者が特定されている実態にあったのであって,被審人2社は,郵政省の内示によりその間の競争を行う余地はなく,実質的には随意契約に準じ郵政省の内示に沿って各社が受注することを余儀なくされていたのであるから,被審人2社間には独占禁止法の保護法益である自由競争関係は存在しなかったのである。
そもそも,被審人2社は,本件において独占禁止法違反の成否,すなわち競争の実質的制限の成否を検討するに当たっては,「内示」が法形式上排他的な契約の成立ないし「拘束性・規範性」の効果を生ずるか否かではなく,入札手続前に実態として受注者が特定されているか否かの観点からみて,合理的に受注者を予見せしめるものであれば足りるという理解に基づいて競争の実質的制限の不存在を主張しているのである。そして,本件における「内示」とは,後記イのとおり,受注者を合理的に想定し得る一連の事実をいい,その中心は,配備先郵便局を特定した各被審人に対する指定(狭義の内示)であり,更にそれを補充するものとして,その指定に至る情報の提示及びその指定を前提としたその後における納入日程調整,仕様書における特定,搬入手続等に関する打合せ実績等を含むものであって,それは,審査官が主張する「生産確認」と言い得る効果が包含されるとしても,それのみに限定されるものでなく,これら一連の事情により受注予定者が特定される結果をもたらすことは,経験則に基づく合理的な判断であって,独占禁止法違反の成否との関係においては,このように内示が受注者特定の効果を有することに特段の意味があるのである。
イ 内示の実態及びその効果
郵政省の本件区分機類の調達においては,i.区分機類の配備計画策定の段階における郵政省郵務局ないし地方郵政局の担当官による配備先郵便局及び予定発注先に係る情報の提示,ii.例年2月ころの時点において行われていた機械情報システム課長による発注予定被審人に対する内示(狭義の内示),iii.それに引き続く機械情報システム課調達事務担当官と発注予定被審人との間に行われた各配備先郵便局に係る納入日程調整,iv.入札手続において各案件が審査官の言う「情報の提示」に即して各内示先被審人ごとにグループ分けされ,しかも仕様書上,既設機械との接続が内示先被審人製の機械に制約され,予備部品の規格が内示先被審人製のものに特定されていたこと,v.短期間の納期が設定されていたのみならず,現実には当該納期とは別に予定された前記納入日程調整の結果に基づき納入が義務付けられていたこと,vi.入札手続前に各配備先郵便局において当該郵便局及び地方郵政局担当官と内示先被審人担当者によって行われた具体的配備準備打合せ,その他,郵政省により入札手続前においてあらかじめ発注先被審人が決定され,それに沿う省内通達及び当該被審人に対する連絡がなされていたこと等一連の事情を総合してみれば,入札実施前に,郵政省によって受注予定者特定の意思伝達である内示がされていたと言わざるを得ない。
(ア) 郵政省郵務局ないし地方郵政局担当官による入札実施前における配備先郵便局及び予定発注先の配備計画に係る情報の提示
区分機類の調達に関しては,まず,地方郵政局から機械情報システム課への配備に係る上申が基礎となり,これを受けた同課において諸事情を考慮して製造業者名を特定した配備計画を策定するのである。
配備計画策定に際しては,地域区分局単位においてその下部に位置する一般局は同一製造業者とすること,庁舎事情すなわちレイアウト及び作業動線による流れ型の決定,既設機械との接続等の事情を中心に,予算の範囲内において被審人2社の前年納入機械の性能を示す読取率の成績によりこれを配分して内示先製造業者を特定して決定されるのであり,郵政省内においては,その間,適宜検討資料が作成され,各被審人に手交され,その情報が提示されるのである。その一例を示せば,以下のとおりである。
郵政省においては,平成8年度から新型区分機の試行機導入を予定し,平成7年9月ころには,「新郵便処理システム対応機械の開発・配備について」(審第1号証)という基本的方針を取りまとめ,そのころ関東郵政局担当官から被審人2社に対し,関連資料が手交されたが,同資料においては,郵政省が,入札手続がとられる相当以前から,新規配備局,更改配備局,既設置機械を他局へ管理換して新機械を設置する局のいずれについても,対象局ごとに「T」(被審人東芝を意味する。)又は「N」(被審人日本電気を意味する。)と表示し,その発注先を被審人2社のうち1社に「割り振り」特定した上で,配備局選定作業を進めており,改造工事計画の予定スケジュールについても,入札手続と関係なく,両被審人の受注分担を計画,決定しており,また,平成8年度の新型区分機の試行機導入局についても「T」又は「N」の割り振りがなされていたのである。
次いで,平成7年10月ころには,関東郵政局郵務部施設課において「新郵便システム導入に伴う区分機の配備計画概要(案)(平成8年度区分機配備計画)」と題する文書(審第2号証)が作成され,関東郵政局担当官から被審人2社に交付されたが,既にこの時期に,関東郵政局と本省が平成8年度の配備計画の検討を進め,ほぼ確定した結果として,同書面に配備局ごとに設置製造業者を「N」又は「T」と特定して明示し,被審人2社に対しこれに従って納入に遺漏なく対応するよう求めた。
平成8年1月8日ころ東京郵政局郵務部施設課において作成された「平成8年度区分機配備計画調書」と題する文書(審第3号証)が,同日ころ,同課担当官から被審人2社関係者に交付された。これは,関東郵政局と本省とが交渉,検討した上で,確定した結果を「配備計画調書」として取りまとめ被審人2社に内示し,特定された製造業者による受注及び確実な納入を指示したものであり,渋谷郵便局については,被審人東芝に対し,局舎事情により必要となった逆流れ機をあえて製造させてまで,受注会社を特定して内示している。これによっても,入札前における郵政省による内示の明確性が容易に理解できる。なお,同資料「試行機」欄の世田谷郵便局の2機については「H」と表示され,日立が発注先として予定されていたが,その後,被審人日本電気に内示先が変更されたのであって,これによっても被審人2社の意思を離れて郵政省により入札前に受注予定者が特定,指示されていたことが明らかである。
(イ) 機械情報システム課長等による発注予定被審人に対する内示(狭義の内示)
郵政省内においては,各被審人の前年度性能実績等を考慮して各配備先郵便局ごとに製造業者名を特定した配備計画が確定した段階において,郵務局総務課長,同局次長及び郵務局長の「了解」を得て,例年2月ころには,機械情報システム課の課長及び係長から,被審人2社の部長らに対し,各別に,その配備先郵便局を内示し,受注予定者として特定,明示したのである。
しかして,内示に際しては,機械情報システム課長から,被審人2社に対し「割り振った」配備計画の内容は確定的なものとして伝えられるのであって,たとえば平成8年度の調達について被審人日本電気に対し,配備先郵便局,機種,口数等を明記したメモが交付され,それが,既設の選別押印機,台付押印機との関係によること,その連結可能性が発注先決定の主たる要因であることが明らかにされるなどして,その内示の確定性が明確に伝達された。
ところで,内示に先立ち,機械情報システム課は,被審人2社との間において次年度調達区分機類の単価交渉を行っていたが,本件当時においては常に値下げを要求し,被審人2社がこれに応じていた。ちなみに,本件当時においては,官報公告後入札直前,財務部契約担当官の要請に応じ,各被審人との間において当該内示に係る入札物件の機種ごとに具体的な価格交渉がされていたが,これによって各物件ごとの財務部の意向が明らかにされ,契約価格がほぼ決定されたことは,内示による受注予定被審人の特定が随意契約に準ずる実質を有するものであることを更に首肯せしめるものである。
(ウ) 各配備局に係る納入日程調整
前記の機械情報システム課長等による内示がなされると,被審人2社は,直ちに,前記内示に従い,機械情報システム課係長を中心とした担当官との間において,詳細な納入日程調整を行い,各配備先郵便局への具体的日程を確定し,その予定された日程を基礎として,翌月末をめどとして契約上の納入期限とすることとし,郵政省においては,前記内示にそごをきたすことのないよう,発注予定の各被審人あて入札物件ごとにグループ分けされた上で,入札に付することとされたのである。
特に,平成9年度においては,新型区分機の大量発注が見込まれたことから,郵政省(本省)においては,平成8年6月ころから具体的な配備計画が検討され,適宜被審人2社にその情報が提示されていた。そして,同年秋ごろには,被審人2社に対しほぼ確定した配備計画が具体的に内示され,詳細な納入日程の調整を繰り返し,その間,郵政省の要請に応じて検討,修正が加えられるなどして,平成9年2月ないし3月ころには,郵政省と特定受注予定被審人との間において,納入日程が確定された状況にあった。
しかして,平成9年度においては,前記納入日程調整の結果を踏まえ,本来機械情報システム課が作成すべき「新型区分機等の納入予定日等調書」を,入札手続以前の段階において被審人2社に書式を与えて作成させ,当該内示先被審人の納入を当然の前提として,機械搬入予定日はもとより稼働開始可能日,製造業者による訓練日程及び製造業者常駐期間を予定させたのである。かかる納入日程調整は,前記の内示に即して,内示先被審人との間においてのみ行われており,また,かかる日程を基礎として,実際の納入が実施されている実態からすれば,受注予定者が特定されていたことは明らかである。
(エ) 仕様書
入札手続の実態をみれば,機械情報システム課の調達事務担当官等は,郵務局長の了解を得た上で,被審人2社に対し,各別に発注予定区分機類につき機種別台数及び配備先郵便局を具体的に特定して当該被審人あての分についてそれぞれ内示し,各被審人との間において,前記内示区分機類につき,各配備先郵便局の事情等を勘案した納入日程を詳細に調整し,その結果を踏まえ入札案件をグループ分けして,入札手続終了後の生産着手によっては納入が不可能な納期を設定し,仕様書において,既設機との連結可能性を条件とし,左右の流れ型を特定し,さらに予備部品において内示先被審人の仕様を特定して入札手続を実施したが,その際,各被審人に対し,郵政省担当官から自社の内示対象区分機類に係る仕様書のみが交付されたのである。これらは,いずれも郵政省により入札前に受注予定者が特定されていた事実を明らかにする事情である。
平成8年度を例にとると,まず被審人東芝に対し,遅くとも平成8年2月ころまでに内示されたあて名区分機300口のものは,高津,品川,大崎,横浜港,緑及び宮前の6郵便局への配備を予定するものであったが,郵政省は,同被審人との間において,同年4月ころまでに納入日程を詳細に調整した後,同年5月30日に官報公示された入札に際し,これらを1グループに取りまとめて1物件の入札案件とし,その仕様書においては,構成につき「右流れ型」,「郵便物自動取りそろえ押印機との連結」につき「区分機用連結部により㈱東芝製郵便物自動取りそろえ押印機(右流れ型)又は選別台付き自動取りそろえ押印機(右流れ型)と連結できる機能を有するものとする」と特記され,さらに,予備部品の内訳として特定される搬送ベルトの規格は同被審人の仕様に合致させたもので,被審人日本電気にはないサイズのものが特定されていた。
また,被審人日本電気に対し遅くとも平成8年2月ころまでに内示されたあて名区分機350口のものは,新宿,茨木,千葉中央及び神戸中央の4郵便局に配備を予定するものであったが,郵政省は,同被審人との間において同年4月ころまでに納入日程を詳細に調整した後,前記入札に際し,これらを1グループに取りまとめて1物件の入札案件とし,その仕様書においては,構成につき「左流れ型」とし,「郵便物自動取りそろえ押印機との連結」,予備部品の搬送ベルトの規格のいずれについても,前記被審人東芝における場合と同様,実質的に被審人日本電気を受注予定者として特定した内容とされていたのである。
(オ) 仕様書上の納期と納入日程調整結果
仕様書における納期と内示及び納入日程調整との関係についてみれば,本件においては,入札前に郵政省の内示によって特定の被審人が受注予定者として確定していたのであって,契約上の納入期限は,入札前に行われた納入日程調整の結果を踏まえて決定されていたが,区分機類の製造のためには通常6か月が必要期間とされていたところから,被審人2社は,内示を受けると,それに従い入札に先行して製造に着手し,納入日程調整の結果を実質的納入期限と理解し,これを前提として納入日の前後に関わりなく,地方郵政局及び配備先郵便局との間における打合せを実施して,納入を了していたため,入札においてその実施後短期間の納期が設定されていてもこれを遵守し得たのである。言い換えれば,内示を受けていない被審人は,前記納入期限を遵守した納入ができないことから,現実に入札に参加することができなかったのである。要するに,納入日程調整及びその納期の遵守は,受注予定者が内示により特定されていることを前提としてなされ,各地方郵政局及び配備先郵便局においては,その納期を期待して実務が進められていることからすれば,更に内示の受注予定者特定の効果が裏付けられるといえるのである。
(カ) 入札手続前における地方郵政局,配備先郵便局と内示先被審人との具体的配備準備打合せ
区分機類の納入に当たっては,納入前に各配備先郵便局において,当該配備先郵便局担当官に加え,地方郵政局郵務部郵便システム課担当官及び納入業者が出席して,搬入の概要説明,電源LAN工事対応,区分指定面対応,搬入工事の段取り等の打合せが行われなければならないが,契約後早期の納入期限が設定されている配備先郵便局については,その打合せも早期に行わなければ納入期限の確保ができないことから,例えば被審人日本電気についてみれば,平成9年度の入札日である平成9年5月16日よりも1か月以上も早い同年4月8日,関東郵政局及び東京郵政局担当官との間において,あらかじめ各配備先郵便局の事前搬入につき,打ち合わせるべき内容及び進め方につき協議し,配備先郵便局ごとに具体的に事前打合せ日程を調整した上,同年7月から8月上旬に納入が予定された各配備先郵便局については,いずれも入札前に搬入事前打合せが実施されたのである。
他方,被審人東芝についても,平成9年度の新型区分機の納入に係る被審人日本電気と同様の内容の搬入事前打合せが行われており,平成8年度の東京郵政局管内の例として,京橋,日本橋,品川,東京中央及び新東京の各郵便局においても,入札日前に,配備先郵便局において,主として地方郵政局担当官が同席の上,内示先被審人である被審人東芝との間において,搬入,据付けに係る具体的準備が進められていたのである。その内容は,地方郵政局においては,本省(機械情報システム課)から連絡された納入日程における納入を確保するため,庁舎内におけるレイアウトを作成しなければならないところ,被審人2社の区分機類は主たる「流れ型」が左右異なる上,そのサイズも異なるものであることから,特定被審人製の区分機類を予定したレイアウトが必要であり,例えば品川郵便局のように狭あいな庁舎においては,あらかじめ庁舎内の改造(休憩室の取壊し等)を行うことや,L字型連結を想定した区分機用連結部の別手配はもとより,当該被審人製機械の規格に合致した電源工事が不可欠とされるのである。また,搬入日時,使用車両,エレベーター寸法等から,実便使用の調整期間,操作教育等に至るまでの詳細な打合せに加え,区分指定面の作成等納入のための準備が必要であり,これらは実務において欠くことのできないものであるから,入札日前に,当該内示先被審人との間において搬入のための準備が行われることとなるのであって,このこともまた,内示による受注予定者特定の効果を顕著に示す間接事実である。
郵政省においても,内示により,入札手続前に受注予定者が特定されているとの認識を有していたことは,平成8年12月12日,機械情報システム課が,被審人2社に対してファクシミリ送信文書にて配備区分機の機械番号を特定して通知したが,同文書において,平成9年1月30日に入札に付されることとされていた川崎中央,中原,東京中央,世田谷及び玉川の各郵便局の新型区分機及びバーコード区分機につき,入札前であるにもかかわらず,「配備済み」との認識の下に,製造業者名はもとより製造業者型式番号をも特定し,前記内示を既定のものとして措置していたことからも明らかである。
さらに,各地方郵政局が,入札手続前の段階で,管内の郵便局に対し,特定の被審人からの調達を前提とした通達を発し,それに即した準備を進めていたことは,郵政省の既定の意思である特定被審人の受注が実現されるように,当該被審人に対し入札執行前に内示が伝達されていたことを示すものである。
ウ 本件区分機に係る市場について
区分機類の開発の経緯,被審人各社の技術特性及び郵政省による区分機類発注に係る特殊事情,特に随意契約の実質により措置したことの不可避的,合理的事情からみても,被審人2社間においては,独占禁止法の保護法益である自由競争関係が存在しないことは明らかである。
(ア) 郵政省における区分機類の導入及び被審人2社における開発の経緯
郵便事務処理の効率化の必要性から,郵政審議会の昭和36年及び39年の提言に伴い,郵政省は,郵便番号制度を導入するとともに区分作業の機械化を推進することとし,昭和40年12月には,日立及び被審人2社が,郵政省から手書郵便番号読取区分機の基礎的研究の委託を受け,被審人東芝が昭和43年に,被審人日本電気が昭和44年に,それぞれ実用機を納入したが,日立は開発を断念した。
被審人2社は,自動手書き読取方式の読取率を向上させ,平成3年ころには96%の精度が確保されるに至った。それと並行して様々な機能を有する機械の開発が行われた。平成4年からは,郵政省内に「配達分野の情報機械化調査研究会」が設置され,郵便物の配達区分から配達道順組立処理までの機械化(新郵便処理システム)の検討が着手された。この研究会には,被審人2社,日立,ソニー株式会社,松下通信工業株式会社,日本IBM株式会社ら8社が参加し,平成6年には,このうち5社が郵政省に提案書を提出したが,郵政省による技術審査の結果,被審人2社及び日立が委託研究を受けることになった。被審人2社の機械は,いずれも実用化のめどがつき,平成8年には実用機の設置が開始された。一方,日立は,ダイムラーベンツグループのAEGと提携して技術開発に努めたが,必要な読取率が達成できず,平成8年にはAEGとの提携を解消し自主開発を継続し,平成9年11月に,ようやく必要な読取率を達成したのである。このように,自動手書き郵便区分機は,大量の郵便物の郵便番号を瞬時に読み取り,郵便物を番号別に区分,仕訳する機能を備えることが必須とされたため,被審人2社のみならず他社も開発に努めたが,結局,その開発に成功したのは被審人2社のみであり,その後も,被審人2社は,それぞれの技術特性を基礎とする研究開発によって,郵政省の頻繁な仕様変更の要請に応じ,読取率その他の性能向上のための技術競争を重ね,それぞれ異なる完成品を製造してきたものであり,更に平成4年以降の新郵便処理システムの開発に当たっても,他製造業者は追随し得なかったのである。郵政省は,被審人2社による技術競争の成果として毎年現れる年賀郵便の処理実績を参考にして,その優劣に応じて次年度における被審人2社に対する区分機類の発注量を決定し,それを内示して実質的には随意契約に準じた措置を講じつつ,形式上入札手続によって措置してきたのである。
(イ) 被審人2社の区分機類の各技術特性について
被審人2社の区分機類は,各被審人の独自の技術開発の集積により実用化されたものであり,その設計思想は開発当初から全く別異のもので,各社ごとにノウハウ,特許を有しており,両社の機械には互換性はなく,その特徴は,被審人東芝は右流れ型とし,被審人日本電気は左流れ型としている点に顕著に現れている。そこで,各被審人がその逆流れ型を製作することは技術的制約が大きく,機械の性能安定性に欠け,したがって,他機種に係る入札参加は,コスト面においても相当割高なものとなるために経済合理性に反し,その実現が困難な状況にあったのである。
ところで,区分機類の普及に伴い,同一郵便局において複数機械併設等の必要が生じたが,同一郵便局には同一製造業者の機械を設置することがその操作を担当する職員の要請であることはもとより,諸般の事情を考慮した郵政省の特段の意向であったため,原則として配備先郵便局ごとに設置機種がいずれかに特定されながら,例外的に,その設置場所の制約等により同一製造業者製の逆流れ型の区分機類の内示がなされる事例が生じたが,その結果は,被審人東芝は昭和62年から,被審人日本電気は昭和63年から,平成9年までの間に各社数台ずつ逆流れ型の機械を開発,納入したにすぎず,被審人2社としては,例外的に郵政省の特段の要請に応ずるために受注したにすぎなかったのである。
(ウ) 郵政省において内示が必要とされた特殊事情
郵政省においては,昭和43年に郵便番号制度が新規導入された当初から,その定着化が必須のものとされており,当該機械を使用する郵便局職員の教育等の体制,保守対応等を含め技術の定着,効率化の確保及び機械の確実な納入を重視した結果,随意契約方式が採用され,これが昭和62年からは官公庁発注の一般形式によらざるを得ない事情により指名競争入札方式,平成7年度からは一般競争入札方式に形式上変更されたとはいえ,実質的には郵政省の意向に変更はなく,そのため,一応会計法令の定めをクリアすべく入札手続を採用しつつ,現実には受注会社を特定して発注する「特命随意契約」と何ら異ならない実態の下に受注の履行が要求され,これが実行されてきたのである。その要点は,郵政省においては,全国に存在する多数の郵便局に対し,単年度予算制度の制約の下で納期予定に従って計画的かつ安定した導入を実現し,しかも,毎年要求される仕様変更に対応するためには技術開発・設計・製造リードタイムを勘案して相当早期に準備を始める必要があったところから,各配備先郵便局を明示して当該被審人にその旨を内示し,内示を受けた会社に入札以前に製造に着手させることが必須であったのである。このため,入札の官報公告がなされる半年前ころには,当該納入時期の遵守を可能にし円滑処理を図るため,被審人2社に対し,それぞれ次年度の配備計画として当該会社に発注する予定の配備先郵便局,機種等を提示し,各社にその配備計画に基づく納入計画案を提出させ,それに修正を加えるなどして,納入日程の調整を行い,本来自己が作成すべき納入計画を受注予定者に作成させた上で,これに従って例年5,6月ころ官報公告を行い,8,9月ころの入札を経て契約締結に至っていたのである。
このように,郵政省における本件区分機類の発注は,郵政省による内示によって受注予定者が特定される点において特殊性を有するものであり,かかる観点からみれば,内示先事業者以外はその受注を期待し得ない点において実質的には特命随意契約と同様のものであったと言い得るのである。これは,会計法上の当否は格別,発注者たる郵政省が,内示をもって発注相手方を特定して受注義務の履行を確保するために,自ら被審人2社間の実質的競争関係を期待することなく,その政策目的を達成すべく努めた結果であり,被審人2社がその意思により競争を制限した事情はなく,またその必要もなかったのであるから,被審人2社に独占禁止法上問題とされるべき責はない。
(エ) 本件以降の状況
本件以降の状況については,平成8年度から一部に配備が開始された新型区分機については,特に被審人東芝においては,新技術の開発に関連して逆流れ型の研究開発を並行して行い,両流れ型の部品の共通化等コスト削減も可能となった等の自社の努力に加え,平成10年度においては,既設の他社製選別押印機との接続等の技術的制約を受けない新設局の一部につき,仕様書において納期までの期間が従前より長く確保されたこと,平成10年度以降の新型区分機については,区分機の性能を変更するような重要な仕様変更がなされていないため,各社とも従前に比較して早期対応が容易になったこと,更に事前の納入日程調整が行われなくなり,仕様書上の納期さえ遵守すればよいこととなったなど重要な事情に変更が生じているのである。このため,技術開発状況を異にし,発注者側の内示その他の取扱い等に変化が生じた平成10年度以降の事情と対比して論ずることはできない。
2 被審人2社間の「意思の連絡」
(1) 審査官の主張
ア はじめに
被審人2社は,郵政省が平成7年4月1日以降一般競争入札の方法により発注する区分機類について,指名競争入札の方法により発注されてきたときと同様におおむね半分ずつを安定的に受注する等のため,入札執行前に同省の調達事務担当官等から情報の提示を受けた者を受注予定者とし,受注予定者のみが当該物件の入札に参加し,受注予定者以外の者は当該物件の入札には参加しないことにより,受注予定者が受注できるようにする旨の共通の認識(本件共通の認識)の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていたものであり,被審人2社間にその旨の「共通の認識」があったことは明らかである。
イ 指名競争入札の方法により発注されていたときの状況等
本件区分機類の市場構造は,被審人2社が,その開発初期から本件違反行為当時まで,両社のみで市場をほぼ二分しており,しかも,本件違反行為当時,直ちには新規参入が期待できない状況にあった。日立は,審査開始後の平成10年2月の区分機類の入札に参加しているが,平成6年当時,日立の参入はそう遠くはないものの,直ちに被審人2社の「2社体制」が揺るがされるというものではなかった。
そして,被審人2社のみが競争入札参加者として指名を受けていた昭和62年度から平成6年度までの間,被審人2社においては,施設課システム企画室の調達事務担当官等から「情報の提示」を受けた者のみが当該「情報の提示」を受けた区分機類の物件の入札に参加し,「情報の提示」を受けなかった者は当該区分機類の物件の入札を辞退することにより入札に参加しないという行動が確立されており,もって,被審人2社が競争を行うことなく,郵政省が発注する区分機類の全発注量のおおむね半分ずつを,しかも郵政省が定める当該物件の予定価格にほぼ近い価格で受注することができていた。
このような状況下における被審人2社の区分機類の入札に係る認識についてみるに,被審人2社は,当時,区分機類を製造していたのは被審人2社しか存在しないことを十分認識していた。その上で,被審人2社は,それぞれ,施設課システム企画室の調達事務担当官等から,毎年度,「情報の提示」を受けていたところ,被審人2社は,それぞれ他社も「情報の提示」を受けており,それらは重なり合っていないことを認識していた。そして,被審人2社は,自社が「情報の提示」を受けた区分機類については,他社は「情報の提示」を受けておらず,同省が自社に受注してよい旨の意向を有していると認識し,当該「情報の提示」を受けた区分機類の入札に参加していた。また,自社が「情報の提示」を受けなかった区分機類については,他社が「情報の提示」を受けており,自社に受注してよい旨の同省の意向が示されていないと認識し,当該区分機類の物件の入札に参加していなかった。このような行動は,長期的にみれば,最も利益をもたらすことは疑いのないところである。すなわち,当該市場における競争が一時的なものではなく長期的に続く場合には,一度だけ,競争に勝てばよいわけではなく,長期的に見て安定的に利益を上げることが必要であり,そうであれば,当該年度のすべて,あるいは多くの物件を落札・受注することにより短期的に自社に利益をもたらす行為であっても,そのような行為は,別の年度において,他社にも同じ行為を行わせる可能性があり,長期的には利益とならない可能性があることから,協調的(協力)行動を採る方が長期的には利益をもたらすからである。
また,被審人2社は,被審人2社しか指名競争入札に指名されない以上,自社が「情報の提示」を受けた区分機類については,他社は「情報の提示」を受けていないので,自社が「情報の提示」を受けた区分機類の物件について他社が入札に参加してくることはない,つまり競札すなわち競争になることはないとの認識をそれぞれ有していた。
さらに,被審人2社は,これまでの経験等に照らして,自社に「情報の提示」がなかった,つまり他社に「情報の提示」があった区分機類の物件の入札に参加して競争になれば,自社に「情報の提示」があった区分機類の物件の入札についても他社が参加してくることになり,ひっきょう,全物件において競争となることは避けられず,そうなれば,これまでのように,郵政省の区分機類の全発注量のおおむね半分ずつを安定的に受注し高収益を得ることができなくなるので,郵政省の区分機類の全発注量のおおむね半分ずつを安定的に受注し高収益を得ることができる状況を維持するためには,郵政省に「情報の提示」をしてもらい,競争を回避することが不可欠であるとの認識を持つようになっていたのである。
指名競争入札当時,被審人2社は,「既存分野は守る」旨の基本方針について「合意」したり,施設課システム企画室からの区分機類の見積価格の引下げ要請に共同して対応するなど協調的関係にあった中で,毎年,同様の行為を繰り返し行ってきた経験から「情報の提示」を受けた者が当該区分機類の物件の入札に参加し,「情報の提示」を受けなかった者は当該区分機類の物件については入札を辞退することにより入札に参加しないことが,それぞれ,自社にとって利益になり,このような状態を維持しようという意思が認められる。被審人2社の指名競争入札当時における協調的関係を示す事実としては,被審人2社は,平成5年9月ころ,平成8年から導入が予定されていた郵政省の新郵便処理システムへの対応を含め,今後の区分機類の営業への対応について情報交換を行いながら推進しており,被審人2社の間において,取組に当たっての基本方針について合意し,既存分野は守ることとし,日立との関係を含めて基本的考え方について合意し,今後とも情報交換を行いながら推進することとしていた。また,平成6年1月21日の施設課システム企画室の主催した会合で,これに出席した被審人2社の担当者は,同室の室長から区分機類の価格の引下げを求められた際,被審人2社間で相互に検討をすることとしたというものがある。
ウ 郵政省の一般競争入札の導入の方針表明及びその後の被審人2社の対応等
ところが,平成6年4月15日,被審人2社は,施設課システム企画室の調達事務担当官等から,平成7年度以降区分機類を一般競争入札の方法により発注する見通しである旨の郵政省の方針を示された。被審人2社にとって,区分機類が高収益を確保できる製品であり,しかもそれは安定していることからすると,その高収益を保持することは被審人2社にとって,重大な関心事であった。郵政省が発注する区分機類についても一般競争入札の導入が現実のものになると,被審人2社は,従来どおりの方法によっては受注を確保できなくなり,何らかの方法で相手方の行動を予測しなければ安定的に受注し高収益を確保することができなくなる。すなわち,被審人2社で複占する市場において,被審人2社が競札することになった場合,その行動をこれまで以上に調整する必要が出てくる。例えば,被審人2社で入札価格の連絡をしたり,物件ごとの受注意欲を確認したりする必要が出てくるし,区分機類すべてが一物件として一括発注されるようになれば,競争者にすべてを奪われる可能性も出てくるので,その対応を検討することが必要となる。被審人2社しか存在しない市場においては,他社のそれまでの実績,経済状況等を分析検討することにより得られる情報の確度は高いとはいえ,独占禁止法に違反するリスクのある情報交換をしないと,現実に相互の行動を調整することはできないこととなるのである。
このため,以後,被審人2社は,一般競争入札の導入を回避するべく様々な方策を講じるとともに,一般競争入札が導入された場合に備えて,考えられる対応策の検討を行うこととなった。また,これとは別に,一般競争入札の導入に合わせて,機械情報システム課が仕様書を作成することに協力することになったが,そのことを利用して,被審人2社は,それぞれ自社の利益を確保するため,被審人2社に有利なような内容の仕様書に仕向けるとともに,できるだけ第三の製造業者が参入しづらいような内容とするようにしたのである。
これらの被審人2社の行動のうち,前者つまり,一般競争入札の導入を回避するため,あるいは回避できないまでもその導入が図られたときに備えて行った行為には,例えば,以下のようなものがある。
まず,一般競争入札の導入の方針に反対したことである。すなわち,平成6年9月2日,機械情報システム課の調達事務担当官等と被審人2社の部長級の者による会合において,同調達事務担当官等から区分機類の価格低廉化を図るため,平成7年度以降の区分機類の発注方法を一般競争入札の方法にせざるを得ないとの説明を受けたところ,被審人2社から前記会合に出席していた者は,「区分機類が一般競争入札になじむのか疑問がある。」旨主張して一般競争入札の導入の方針に反対し,さらに,価格低廉化については,「台数の早期内示」を要請するなど「内示」が行われれば対応が可能であるとして一般競争入札の方法による発注とはその趣旨において相容れない,しかし,被審人2社にとっては不可欠の早期の「内示」を要請した。このとき,被審人2社は,それぞれ,少なくとも,相手も一般競争入札の導入の方針に反対し,早期の「内示」を実施することを要望していることを認識したのである。
その後も,被審人2社は一貫して一般競争入札の導入の方針に反対する行動を採っており,被審人東芝は,機械情報システム課の調達事務担当官に対して,「一般競争入札は止めてくれませんか」などと言って,一般競争入札の導入の撤回を要請するとともに,平成7年1月に入って,被審人日本電気が同課の調達事務担当官に「内示をしてほしい」などと言うことにより,一般競争入札の方法による発注とはその趣旨において相容れないが,被審人2社にとっては不可欠の行為を求めることで,暗に一般競争入札の導入の方針に対して反対の姿勢を示したのである。
また,平成7年1月24日及び25日,被審人東芝は,社内において「情報の提示」がなされないことを前提として,仕様書の記載方法を検討した際,郵政省が一般競争入札の方法により区分機類のすべてを一物件として発注した場合をも想定して,連結を条件とする区分機類については,既設の区分機類を製造納入した者が,納入することとなる区分機類の製造を担当できるようにすることを検討したりした。
他方,一般競争入札に使用される仕様書の作成に協力を求められたことを利用して,被審人2社に有利なように仕向ける,あるいは第三の製造業者には不利となるように仕向けるなどした行為には,例えば,以下のようなものがある。
機械情報システム課の調達事務担当官から依頼を受けた平成7年度以降の一般競争入札に係る仕様書の内容を検討する過程で,平成7年1月25日に被審人2社だけで会合を開催し,同会合において,被審人2社以外の者が一般競争入札に参加することをちゅうちょするような仕様書の記載方法を検討するとともに,一般競争入札の方法により発注された場合の対応について意見交換した。
しかしながら,このように,競争の回避のために様々な行為を行ってはいるものの,仕様書が1本となりすべての区分機類が一物件として発注されることになれば,仕様書の記載から実質的に物件を被審人2社で分けることは難しく,また,仮に仕様書が複数化されても,どの物件をどちらが受注するかを特定することは難しく,この会合において,被審人2社は,仕様書の内容を固めることができないまま,翌26日の機械情報システム課の調達事務担当官と被審人2社の会合に臨むことになった。
エ 平成7年1月26日の会合
しかるところ,機械情報システム課の調達事務担当官と被審人2社による平成7年1月26日の会合において,被審人2社は,同調達事務担当官から,一般競争入札の方法により区分機類を発注する場合においても,指名競争入札の方法により発注していたときと同様に被審人2社に対し入札実施前に「内示はする。」旨などの区分機類の発注に関する方針の説明を受け,これらの説明に対し,被審人2社から同会合に出席していた者は何ら意見を述べず,「内示」があれば,従来どおり競争入札に1社だけが参加するという方法により区分機類の受注を分け合うことができることから,安心することができた。
すなわち,機械情報システム課の調達事務担当官等から「情報の提示」を受けることは,被審人2社が,郵政省の全発注量のおおむね半分ずつを安定して受注し高収益を得るためには,最も安心かつ確実な方法であることは,被審人2社の指名競争入札当時の経験から明らかであったことは言うまでもないところ,被審人2社が,同じ会合の席上で,同課の調達事務担当官から,一般競争入札の方法により区分機類を発注する場合においても,機種ごとに仕様書を分けて発注物件とし,すなわち区分機類すべてを一物件とすることはせず,「内示はする。」旨の発言があったことに対して,安心し,これによって,従前と同様に,「情報の提示」に従い「情報の提示」を受けた1社のみが入札に参加するという方法により区分機類の受注を分け合うという体制が維持できるとの「共通の認識」を保持するに至ったのである。すなわち,被審人2社は,従来どおり,それぞれ,機械情報システム課の調達事務担当官等から「情報の提示」を受けた者が当該区分機類の物件の入札に参加することとし,「情報の提示」を受けなかった者は当該区分機類の物件については入札に参加しないこととすれば,相手方も,また,自社と同一の行動に出ることを認識・認容していたのであり,正に,相互に他の事業者の行動を認識して暗黙のうちにこれを認容したのである。
換言すれば,事業者が,何らの理由もなく,競争に参加する機会を放棄することは受注の機会が減少し収益を増加させないこととなり,自社にとって不利益となることからすれば,自社だけの判断でそのような行為を採ることは,極めて不自然であり,経済合理性に反するのであって,他社の行為を一切考慮せずにそのような行動を行うとは考えられない。すなわち,被審人2社が,平成7年度以降,機械情報システム課の調達事務担当官等から「情報の提示」を受けていない区分機類に係る物件について入札に参加しなかったのは,他社も同様の行動を採るということが保障されているからであって,正に「共通の認識」を有していたからである。
オ 一般競争入札の導入後(平成7年度以降)の被審人2社間の情報交換
平成7年度以降,一般競争入札の導入後も,被審人2社は,種々の情報交換を行いながら区分機類の受注に向けて行動していた。例えば,情報入力装置が新型区分機と別個に一般競争入札の方法により発注されることについて,被審人2社で検討した上,他社製の新型区分機と技術的に接続が可能であるにもかかわらず,不可能であるかのように述べて,機械情報システム課に対して一体として発注されるよう協調して対応し,さらに,落札者等の官報公示では明らかにならない区分機類の機種ごとの落札単価について,被審人2社で情報交換しているが,これらもまた,両社の共通の利益を確保するためのものであって,両社の協調的関係が端的に現われているのである。
カ 実施状況及び違反行為の取りやめ後の状況
そして,実際に,平成7年度以降,一般競争入札の方法により発注された区分機類について,被審人2社は,それぞれ,入札の官報公告及び仕様書に記載された機種,配備先郵便局等と入札実施前に機械情報システム課の調達事務担当官等からの「情報の提示」とを照合することにより,自社が「情報の提示」を受けた物件かそうでない物件かを確認し,自社が「情報の提示」を受けた区分機類の物件については入札に参加し,自社が「情報の提示」を受けなかった区分機類の物件については入札に参加しないことにより,郵政省が平成7年4月1日から平成9年5月16日までの間に一般競争入札の方法により発注した区分機類の物件71物件のうち70物件について,当該「情報の提示」を受けた1社のみが入札に参加し,落札するまで入札を繰り返すことにより,同省が定める当該物件の予定価格にほぼ近い価格で当該発注量のおおむね半分ずつを安定的に受注した。
ところが,公正取引委員会の審査を契機として違反行為を取りやめた後は,同一物件について,複数者が入札に参加しており,被審人2社は,保守拠点のない地区の物件,主たる流れ型以外の物件,あるいは他社製選別押印機との連結を条件とする物件の入札にも参加している。さらに,落札率は40%台ないし90%台まで,幅広く分布しており,また,落札価格は,本件違反行為当時の10分の1程度にまでなっている。
かかる状況は,被審人2社の本件行為にとって,「情報の提示」が行われることが必要不可欠であって,それが無くなれば,従来どおりの方法では,被審人2社の行動を調整できないことを示すものであり,このことからみても,被審人2社は,それぞれ入札実施前に機械情報システム課の調達事務担当官等から「情報の提示」を受けた者(受注予定者)が当該区分機類の物件の入札に参加し,受注予定者以外の者は当該物件の入札に参加しないことにより,受注予定者が受注できるようにする旨の「共通の認識」の下に行動していたことは疑いのないところである。
キ 意思の連絡の存在
以上のとおり,区分機類の市場は,被審人2社が市場をほぼ二分していた複占市場であり,このような状況の下,被審人2社は,区分機類が指名競争入札の方法により発注されていた当時に確立されていた被審人2社の入札に係る行動を基礎として,郵政省の区分機類の全発注量のおおむね半分ずつを安定的に受注し高収益を得ることができることを相互に認識していた。また,被審人2社は,被審人2社間で,一般競争入札の導入後においても競争を回避するための方策について情報の交換を繰り返していたのであり,このような事情があるからこそ,それぞれ,他の事業者の協調的行為を期待し合う関係にあること,すなわち,相互に他の事業者の同内容の行為を認識ないし予想し,これと歩調をそろえる意思があったいうことができ,「意思の連絡」があったと認められるのである。
ク 独占禁止法第2条第6項の要件該当性等について
独占禁止法第2条第6項にいう「共同して」に該当するというためには,複数の事業者相互の間に一定の行為をするに当たって「意思の連絡」があったと認められることが必要である。そして,事業者相互の間の「意思の連絡」とは,事業活動が同調的に行われていることだけでは足りず,協調的行為を期待し合う関係があること,すなわち,相互に他の事業者の同内容の行為を認識ないし予測し,これと歩調をそろえる意思があることを意味する(東京高等裁判所平成7年9月25日判決・公正取引委員会審決集42巻393頁(以下「東芝ケミカル事件判決」という。))。そして,「意思の連絡」があるというためには,事業者相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要なく,相互に他の事業者の行為を認識して,暗黙のうちに認容することで足りる(いわゆる黙示による意思の連絡)。審査官の主張する「共通の認識」は,この相互に他の事業者の同内容の行為を認識ないし予測し,これと歩調をそろえる意思のあることであり,単なる認識を意味するものではない。
ところで,「意思の連絡」を立証するに当たっては,「合意の成立」あるいは「合意の形成過程」そのものを立証することは必ずしも必要ではなく,違反行為がなされるに至った前後の諸事情を勘案して事業者の認識がどのようなものであったかを検討し,判断されるべきであるとされる(東芝ケミカル事件判決)が,本件のような受注調整行為にも,この判決の趣旨は妥当する。
そして,本件では,前記のとおり,被審人2社が郵政省が発注する区分機類の市場を複占しているという市場構造の中で,区分機類が指名競争入札の方法により発注されていた当時,被審人2社の入札対応について一定の行動が確立しており,それらを基礎として,被審人2社間の情報交換等の事情が立証されることから,被審人2社間の「意思の連絡」があったことが認められるのである(なお,市場構造及び慣行を基礎として「意思の連絡」を判断した事案として,東京高等裁判所昭和28年3月9日判決・高民集6巻9号435頁(新聞販路協定事件判決)がある。)。
(2) 被審人2社の主張
ア はじめに
本件においては,発注に際し,入札手続が採られているとはいえ,入札実施前に,郵政省の内示によりあらかじめ特定の被審人が受注予定者として特定されていたことにより,被審人2社間に自由競争市場が存しない。このように被審人2社が郵政省の計画に対応するため,その内示に従って応札,受注していたにすぎないことからすれば,被審人2社が入札談合に係る「意思の連絡」をする必要はなく,現に被審人2社間には「受注調整行為」と目されるような「意思の連絡」の存在が認められないのである。
イ 独占禁止法第2条第6項に該当する「意思の連絡」
独占禁止法第2条第6項の成立要件である「意思の連絡」の有無の観点からみても,被審人2社間における「意思の連絡」など認め得るものではない。独占禁止法第2条第6項の不当な取引制限は,複数事業者が共同して「相互に事業活動を拘束」すること又は「事業活動を遂行」することを基本的な行為態様とするから,複数事業者による共同行為としての性質上,その成立要件として,複数事業者間における「意思の連絡」の存在が必要とされることは当然である。そして,不当な取引制限に係る「意思の連絡」の存在を肯定し得るためには,少なくとも,複数事業者間において他の事業者の行為を認識,認容することが必要とされるのである。換言すれば,たとえ,複数事業者の行為が類似した態様のものとなった場合においても,各事業者が互いに他の事業者の行為の内容を単に認識していたにとどまる限りは,これらは相互に関連なく並存すると言い得るにすぎず,更に進んで,少なくとも,複数事業者間において,互いに他の事業者の行為を認容する関係が存在することになってはじめて相互拘束的な合意形成が合理的に推認されると言い得るのである。
不当な取引制限に係る合意が形成されたと言い得るためには,他の事業者の行動を予測し,これと歩調を合わせる意味で,また,他の者が自己の行動に追随して同一行動に出ると予測して一定の行動をする場合をも含み,他の事業者と共通の行為をしようという認識のみでは足りず,自己の事業活動について自主的な決定を行わず,事業者相互間で形成された意思に基づいて行動するという認識が必要とされるのであって,単に複数事業者が互いの行動について認識しているのみでは「意思の連絡」を形成し得るものでない。
このように,「行為の共同」に係る「意思の連絡」とは,単なる「相互認識」ないし「共通の認識」を意味するのではなく,より制限的な「共通の了解」の存在を不可欠な要素としていることに留意すべきであるが,本件においては,被審人2社間に競争制限に係る「共通の了解」など存しなかったことは明白である。
ウ 被審人2社間における「合意」ないし「意思の連絡」の不存在
(ア) 結論
本件に係る入札方式が従来から実質上特命随意契約に準じたものであったことからすれば,被審人2社が,それぞれ,自社の内示案件以外は他社が内示を受けており,それを受注するであろうことは認識していたとしても,それによって競争市場が作出されるものではないし,また,独占禁止法第2条第6項の成立要件である「意思の連絡」の有無の観点からみても,各被審人の行動は,郵政省の内示に応じ経済合理性を検討した各別の判断に依拠するもので,両者の意識的並行行為と評価されることはあるにしても,かかる「共通の認識」によって被審人2社間における「意思の連絡」など認め得るものでないことは,以下のとおりである。
(イ) 平成6年4月15日の会合
平成6年4月15日の会合については,機械情報システム課が,被審人2社の技術担当者を招集し,区分機類の性能テスト結果を踏まえその向上を図ることを目的として開催されたもので,その際,同課の調達事務担当官から,平成7年度以降は一般競争入札の方式に変更する見通しであることが伝えられたとしても,被審人2社関係者は,これを左右し得る立場にはないから,郵政省による一方的表明を聞き置く以上の所為をなし得るはずがなく,現に何もしていない。
(ウ) 平成6年9月2日の郵政省における会合
平成6年9月2日の郵政省における会合については,会合の主目的は価格低廉化の要請に対応するためで,被審人2社は,既にかねてから郵政省の要請に応じて努力してきたことであったことから,同会合においては,前年12月ころ提出した資料を再提出して機械情報システム課の調達事務担当官等に説明し,その際,被審人2社は生産の平準化が価格低廉化につながることをも指摘したのであるが,このことと一般競争入札方式が導入されることとは関係のない問題である。
区分機類の発注手続を決定するに当たっては,技術的問題が大きく,被審人2社のみがその技術を有するにすぎないこと及び平成6年度から開始された新型区分機の委託研究においても,前記会合当時被審人2社において実用化のめどが立っていたにすぎないことを踏まえ,実態に合わせて対処すべき意見を具申したにとどまり,このような技術的疑問を意見として提出し,質問することは何ら非難されるべきことではなく,それ以上に一般競争入札方式の採否について被審人2社が介入し得る立場になかったことは明らかである。
(エ) 郵政省の一般競争入札の導入の方針表明後に被審人2社が同方針を回避するよう要請等をした事実の不存在
平成6年9月2日の会合以降11月ころ,被審人東芝の須田部長が機械情報システム課の高橋係長に対して一般競争入札の採否を再考するよう要請したというような事実はなく,むしろ,当時既に書留郵便物自動読取区分機につき一般競争入札の採用は既決のこととして実施されていたのである(その官報公示は同年11月1日である。)から,被審人2社の関係者がかかる要請をするはずはないし,被審人日本電気関係者に係る審査官の主張は証拠に基づかない一方的なものにすぎない。
(オ) 平成7年1月26日の会合
平成7年1月26日の会合の席上,機械情報システム課の調達事務担当官から,被審人2社の関係者に対し,一般競争入札の方式が採用された後においても郵政省の内示は従来どおり行うことが告げられ,さらに,入札仕様書は一本化するものの,入札に付する物件のグループ分けも,その内示を踏まえて右流れ(東芝)型及び右流れ(東芝)の逆流れ型のもの,左流れ(日本電気)型及び左流れ(日本電気)の逆流れ型のものの4分類として,被審人2社の内示案件が錯綜することのないようにする旨が表明されたのである。もとより,かかる表明は,同調達事務担当官から被審人2社関係者に対して一方的になされたものであり,被審人2社が,発注者たる郵政省の意思と離れて相互に「意思の連絡」を図ったことなどはなく,これをもって「共通の認識の形成」とみる余地はない。
この点につき,審査官は,同日の会合における同調達事務担当官からの「内示は継続する」との表明を受けて,被審人2社のこの会合に出席していた者は,内心では競争を回避できることで安心し,従来どおり競争入札に1社のみが参加するという方法で受注を分け合うようにするという「共通の認識」を有するに至った旨主張する。しかしながら,同調達事務担当官の上記表明は,従前どおりの内示を継続する趣旨を一方的に明らかにしたものであったことは明白であり,しかも,その後の実務においては,それ以前と何ら変更なく内示を基礎として調達が行われていたことからすれば,受注予定者として内示された被審人2社が,従前どおりその内示に従って,内示対象物件のみを受注し,それ以外の物件の入札に参加しないこととしたことは,従来と同じく内示を前提とした合理的な経済原則に合致して行動した結果にすぎないのであって,これが被審人2社の合意に基づく所為であるとすべき余地はない。被審人2社が内示を得ていない物件の入札に参加しないことは,そもそも許容されるところであるし,特に本件においては技術的理由から他社が内示を受けた物件に対応することはできないのであるから,前記の行動が,すべて各自の経済合理性の判断によるものであったことは明らかである。前記の行動が,被審人2社において,競争に参加する機会を放棄するものであって自社にとって不利益となるなどという審査官の主張は,本件の実態を無視した空論にすぎず,失当である。
エ 結語
被審人2社は,郵政省の本件に係る区分機類の調達においては,郵政省が指名競争入札当時と同様に入札前の内示によって受注予定者を特定することを表明したことに対し,内示を受けるにすぎない被審人2社の立場においては,郵政省のかかる方針に対し反対又は異議を唱える余地はなく,その結果として入札前に行われる内示によって受注予定者が特定されるという郵政当局の意向を認識し,その結果を受け入れていたにすぎないことは明白である。それゆえ,被審人2社の間に,郵政省の内示を離れて,「意思の連絡」が認められる余地はない。
第4 審判官の判断
1 区分機類の取引に係る競争について
(1) 判断の枠組みについて
審査官は,官公庁の商品又は役務の調達に係る一定の取引分野において,当該商品が,会計法令に基づく一般競争入札の手続に従って調達されている場合には,仕様書に適合する物品を製造する能力がある事業者であれば,誰でも入札に参加でき,また,入札参加者間で競争が行われ,入札価格の最も低い者から調達されるのであって,そこに競争が存在することは明らかであるが,一般競争入札を行っていても,何らかの事情があって,その意思に従って入札できないような極めて特殊な事情があれば,競争の存否が問題となるところ,本件においてそのような特殊な事情はないと主張する。これに対し,被審人2社は,郵政省による区分機類の発注に関しては,一般競争入札の形式が採られているとはいえ,被審人2社の区分機類の研究開発の独自性,技術的特性に左右されその互換性がないことに加え,当時における被審人2社の製造能力上の制約を前提とした郵政省内における配備確保の必要性により,郵政省が事前に受注者を特定する内示に従って,入札実施前に受注者が特定されている実態にあったのであって,被審人2社は,郵政省の前記内示によりその間の競争を行う余地はなく,実質的には随意契約に準じ郵政省の内示に沿って各社が受注することを余儀なくされていたのであるから,被審人2社間には独占禁止法の保護法益である自由競争関係はなかったと主張する。
そこで,郵政省の一般競争入札に係る区分機類について,まず,「一定の取引分野」を構成する「競争関係」が認められるか否かを検討し,次に,「競争の実質的制限」の前提条件である「競争」が認められるか否かを検討することとする。
(2) 「一定の取引分野」を構成する競争関係が認められるか否かについて
ア 不当な取引制限における「一定の取引分野」(独占禁止法第2条第6項)は,競争の行われる場を意味し,一定の供給者群と需要者群とから構成され,その範囲は,取引の対象・地域・態様等に応じて,違反とされる行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し,その競争が実質的に制限される範囲をもって画定される(東京高等裁判所平成5年12月14日判決・高刑集46巻3号322頁(社会保険庁シール談合刑事事件判決))ところ,「競争」について,独占禁止法第2条第4項は,「この法律において競争とは,二以上の事業者がその通常の事業活動の範囲内において,かつ,当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく次の各号に掲げる行為をし,又はすることができる状態をいう。一 同一の需要者に同種又は類似の商品又は役務を供給すること 二 同一の供給者から同種又は類似の商品又は役務の供給を受けること」と規定する。この競争は,競争の行われる場(市場)としての「一定の取引分野」を構成し,その範囲を画定するための基本的な概念であり,これが成立しないのであれば,そもそも「一定の取引分野」が存在しないことになるのである。そして,一定の取引分野を構成する競争には,顕在的な競争のみならず,潜在的な競争を含む(東京高等裁判所昭和61年6月13日判決・行集37巻6号765頁(旭礦末資料事件判決))。
イ 郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類について,「一定の取引分野」を構成する競争関係が存するか否かを以下検討する。
(ア) 郵政省は,区分機類を昭和43年度から昭和61年度までは随意契約により,昭和62年度から平成6年度までは指名競争入札の方法により,平成7年度からは,一般競争入札の方法により発注している。
郵政省は,一般競争入札に当たっては,公告により入札参加希望者を募り,入札参加希望者であって競争参加資格者として登録した者及び未登録者にあっては当該入札の競争参加資格要件を満たす者を一般競争入札の参加者としている。被審人2社は,それぞれ平成7年度以降,郵政省の一般競争入札に係る区分機類の競争参加資格者として登録されている。(前記第2の1(3)イ(ア))
(イ) 郵政省は,一般競争入札の方法により発注する区分機類について,あて名区分機,新型区分機,バーコード区分機(A型),バーコード区分機(B型),選別押印機,台付押印機,連結部及び情報入力装置の機種別,流れ型別(右流れ型及び左流れ型。ただし,情報入力装置を除く。)に分け,さらに,新型区分機,バーコード区分機(A型)及びバーコード区分機(B型)にあっては口数別,あて名区分機にあっては区分処理する速度別及び口数別を勘案して(速度別を勘案したのは平成7年度のみである。また,平成8年度試行機は口数別を勘案していない。)グループに分け,それぞれのグループを1物件として発注している。(前記第2の1(3)イ(ウ))
(ウ) 区分機類は,昭和30年代の郵便物取扱量の飛躍的増大に対応して,郵政省での郵便物処理の機械化の要請に対応して,郵政省からの委託により被審人日本電気及び日立が研究開発を行った。続いて,昭和40年以降,郵政省からの「郵便番号自動読取装置」の委託研究を受けた被審人2社及び日立がそれぞれ独自の研究開発を行い,昭和44年ころ,被審人2社はそれぞれ実用に耐え得る区分機類を納入したが,そのころ,日立は,区分機類の市場から撤退した。
このような経過から,昭和44年以降は,被審人2社が,郵政省からの委託によりそれぞれ独自の研究開発に努め,郵政省に区分機類を納入することになった。被審人2社は,それぞれの区分機類の開発の技術的な経緯から,被審人東芝は,郵便物の供給,搬送及び集積の一連の工程が左から右に流れる右流れ型を,被審人日本電気は,これらの工程が右から左に流れる左流れ型を開発し,主に,被審人東芝は右流れ型の区分機類を,被審人日本電気は左流れ型の区分機類を納入してきたが,被審人2社の製造する区分機類の性能,品質は,平成6年度ないし平成9年度の入札当時においては,流れ型の点を除いては大差はなく,また,それぞれの逆流れ型を製造することは可能であり,平成8年度及び平成9年度に,若干ではあるが,それぞれその逆流れ型を製造して郵政省に納入した事例がある。
郵政省の調達事務担当官等は,被審人2社の担当者に対し,情報の提示に当たり,前年度の読取率の善し悪しを考慮して情報を提示する台数に差を設けるとして,被審人2社の技術開発を促し,被審人2社も,より多くの台数の情報の提示を得るために技術開発を競っていた。(前記第2の1(4))
(エ) 日立は,平成10年2月27日の区分機類の入札には右流れ型の物件に参加し,平成11年3月19日の区分機類の入札には左流れ型の物件にも参加した。被審人東芝は,平成10年6月9日の区分機類の入札からは左流れ型の物件に,被審人日本電気は,平成11年3月19日の区分機類の入札からは右流れ型の物件にそれぞれ本格的に参入した。(前記第2の7(1))
(オ) 平成7年度ないし平成9年度の入札においては,区分機類の納入期限は入札日から2か月から4か月程度に設定されたものが多かったところ,その当時,被審人2社の区分機類の製造に係る期間は,部品の手配から製品の完成までは6か月とされていたが,部品の調達が済んでいれば2か月程度での生産が可能であるとされ,その期間は固定的なものではなかった。(前記第2の1(2)ウ,4(1)ウ,(2)エ及び5(2)エ)
したがって,その当時,被審人2社において,入札日以降速やかに部品を調達することとすれば,ほとんどの物件について,同入札において設けられた納入期限内に納入することは可能であったものと認められる。
(カ) 被審人2社の区分機類の他社製の既設機との接続可能性及び被審人2社の製品の納入可能性についてみることとする。
a 他社製の既設機との接続を要する区分機類の納入
選別押印機及び台付押印機が既に配備されている郵便局にあて名区分機を配備する場合,平成7年度及び平成8年度の入札につき,官報公示後に交付される仕様書に,既設の選別押印機及び台付押印機と連結できる機能を有するものであることが記載されていた。平成7年度及び平成8年度の既設の選別押印機と台付押印機に接続するあて名区分機について,既設機の製造業者と異なる製造業者が一般競争入札に参加して落札した事例はない。仮に,他社製の既設機とあて名区分機とを接続しようとすれば,当該既設選別押印機等との接続に関する技術情報が開示される必要があるが,当時は,この技術情報は開示されていなかった。そこで,他社製の既設機との接続に関する技術情報が開示されていなかったこの当時の状況を前提とすれば,既設機の製造業者と異なる製造業者が,既設機と接続を要するあて名区分機を供給することはできなかったと認められる。しかしながら,他社製の選別押印機等と自社製のあて名区分機との接続は,接続に関する技術情報が開示されれば技術的に可能であり,また,郵政省に技術情報の開示を求めることは開示を求められた事業者への過分な負担を強いるものではないものであるところ,日立が,平成10年4月9日付け文書で,郵政省に対し,被審人東芝製及び被審人日本電気製の選別押印機等との接続に関する技術情報の開示を求めたところ,機械情報システム課はこれに応じて同年5月8日付け文書で技術情報を開示し,日立は,その開示を受けて技術的に接続が可能であることを確認して,平成10年6月9日の区分機類の一般競争入札に参加したこと(前記第2の7(2))からすれば,平成7年度及び平成8年度の区分機類の入札についても,被審人2社において,郵政省に情報の開示を求めることにより,互いに他社製の選別押印機等に自社製のあて名区分機とを接続することは可能であったものと推認することができ,被審人2社は,他社製の既設機との接続を要するあて名区分機についても潜在的な競争関係にあったものというべきである。
b 既設のあて名区分機の新型区分機への改良・移設に伴う納入
既設のあて名区分機の新型区分機対応への改良・移設に伴う既設郵便局への新型区分機の納入は,既設郵便局へ納入した当該製造業者しか行えないものではなく,被審人2社のいずれもが納入することが可能である(なお,既設のあて名区分機の新型区分機対応への改良行為は随意契約に付されている(査第57号証,第89号証))。
c 選別押印機等が配備されていない郵便局に対する区分機類の納入
選別押印機等が配備されていない郵便局においては,他社製の既設機との接続の問題はなく,被審人2社のいずれもが納入することが可能である。
(キ) 以上の事実によれば,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類について,被審人2社は,いずれも一般競争入札の競争参加資格を有しており,被審人2社の製造する区分機類の性能,品質は,流れ型の点を除いては大差はなく,流れ型による区分機類の相違についても,被審人2社は,平成8年度及び平成9年度の入札において若干ではあるがそれぞれの逆流れ型を納入しており,また,後れて区分機類の入札に参入した日立が短期間で両流れ型の入札に参加し,被審人2社においても,平成10年度及び平成11年度の区分機類の入札で,それぞれ逆流れ型の入札に本格的に参入していることからみても,被審人2社は,平成7年度ないし平成9年度の入札においても,それぞれの逆流れ型について郵政省の一般競争入札に参加することができたものというべきである。平成7年度ないし平成9年度の入札においては,多くの区分機類の納入期限が入札日から2か月ないし4か月程度に設定されていた点についても,この期限までに,被審人2社が区分機類を製造して納入することが可能であったと認められる。また,既設の選別押印機等へのあて名区分機の接続についても,被審人2社において,郵政省に情報の開示を求めることにより,互いに他社製の選別押印機等に自社製のあて名区分機を接続することは可能であったものと推認することができ,被審人2社は,他社製の既設機との接続を要するあて名区分機についても潜在的な競争関係にあったものというべきであることは前記のとおりである。そうすると,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類について,被審人2社はその通常の事業活動の範囲内において,かつ,当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく同種又は類似の区分機類を供給することができたものというべきであり,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類について,被審人2社を供給者とする一定の取引分野を認めることができるのである。
ところで,被審人2社は,特に被審人東芝においては,平成10年度以降,逆流れ型の研究開発を進めたり,両流れ型の部品を共通化するなどしてコストを削減するなどしてきたのであり,このことからすると,被審人2社の平成10年度以降の入札の状況をもって,平成7年度ないし平成9年度当時の事情を論ずることはできない旨を主張する。確かに,平成7年度ないし平成9年度の入札の当時,被審人2社は,それぞれ別の流れ型を主に開発製造しており,被審人2社が,それぞれの逆流れ型について入札に参加したのは特に郵政省からその旨の情報の提示を受けた若干のものにすぎず,被審人2社がそれぞれ逆流れ型を製造するためには,正流れ型を製造するのに比べ,コストや製造期間を要したであろうことはうかがわれる(査第82号証,審第85号証)が,前記(エ)の平成10年度以降の入札状況によれば,平成7年度ないし平成9年度においても,被審人2社の事業活動の施設等に重要な変更を加えることなく逆流れ型の区分機類の供給が可能であったものと認められる。したがって,被審人2社の主張は採用できない。
なお,平成6年ないし平成9年ころまで,北海道郵政局,信越郵政局,北陸郵政局,九州郵政局及び沖縄郵政管理事務所管内の郵便局には被審人東芝の区分機類のみが,東北郵政局及び四国郵政局管内の郵便局には被審人日本電気の区分機類のみがそれぞれ配備され,被審人2社の保守子会社の保守拠点もそれぞれが納入している郵政局管内にのみ置かれていたが,平成11年度の区分機類の入札では,被審人日本電気は,これまで配備実績のない北海道郵政局管内の郵便局の物件についても入札に参加しているのであり(前記第2の6(1)),このように平成9年ころまで被審人2社間で配備郵便局が偏った状態にあったことは前記認定判断を左右するに足りない。
(3) 「競争の実質的制限」の前提条件である競争が認められるか否か
ア 「競争の実質的制限」とは,競争自体が減少して,特定の事業者又は事業者集団が,その意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによって,市場を支配することができる状態をもたらすことをいうと解される(東京高等裁判所昭和26年9月19日判決・高民集4巻14号497頁(東宝・スバル事件判決))ところ,入札参加者が他者から拘束を受けるなどして自由な意思によって入札に参加できないなど,同一の取引分野に属する二以上の事業者が相互に他を排して取引の機会を得ようとする努力をするという競争を行うことが期待できない状態にある場合には,競争の実質的制限を観念することはできず,独占禁止法第2条第6項の要件を欠くものというべきである。
イ そこで,本件において,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類について被審人2社を供給者とする一定の取引分野(市場)が認められるとしても,入札参加者である被審人2社について,被審人2社の主張に係る郵政省の事前に受注者を指定する内示により,競争を行うことが期待できない状態にあったか否かを検討する。
(ア) 郵政省の平成7年度及び平成8年度における区分機類の一般競争入札の方法による発注の具体的な手順は前記第2の4(1)及び(2)で認定したとおりであり,その手順の概要は,被審人2社との関係では,以下のとおりである。なお,平成8年度の試行機の一般競争入札の方法による発注も,前記第2の4(3)で認定したとおりであり,その時期は異なるが,その基本的な手順は,これと同様である。
a 各発注年度の前年10月ころ,機械情報システム課は,地方郵政局から配備を希望する郵便局及び機種の上申を受け,同課の担当係長が,区分機類の当該年度の配備計画を策定し,当該年度の開始前である1月ころ,この配備計画に基づき被審人2社の各社ごとに配備先郵便局,機種,台数及び予算金額を記載した文書を作成し,郵務局長の了承を得る。
b 当該年度の開始前である2月ころ,機械情報システム課課長及び担当係長が,被審人2社の担当者に対し,それぞれの区分機類の機種及び台数の購入計画を口頭で説明し,区分機類の機種別台数,口数別台数,配備先郵便局等が記載された文書を用意して,被審人2社の担当者に持ち帰らせていた。これらの情報を提示するに際して,平成7年度では,課長が「製造確認をします。」と述べ,平成8年度は,担当係長が「これは内示ではありません。」と述べた。
c これに引き続き,被審人2社の担当者は,機械情報システム課の調達事務担当官との間で,情報の提示を受けた物件について,各配備先郵便局の納入日程調整を行った。この過程で,一部の物件については,情報の提示がされた物件の変更がされることもあった。この作業はおおむね5月ころには終了した。
d 被審人2社は,機械情報システム課担当係長の了承を得て,当該年度の4月ころから,地方郵政局を経由して情報の提示のされた配備先郵便局の担当官と打合せを行い,配備先郵便局で実便の画像収集を行い,地方郵政局及び配備先郵便局の担当官との打合せに出席し,電気工事関係やレイアウト確認など機器の搬入に必要な作業の打合せ等を行った。これらの打合せ等には,被審人2社のうち情報の提示のあった者のみが出席した。
e 当該年度の5月ころ,区分機類の調達に係る官報公示が行われた。郵政省は,官報公示で,前記(2)イ(イ)のとおり区分機類を流れ型別等にグループ分けし,各グループを1物件として入札に付した。納入期限としては,入札日から2か月ないし4か月程度とされたものが多かった。
官報公示後,被審人2社の担当者は,官報公示と情報の提示のあった物件との同一性を確認した上で,契約課から仕様書の交付を受けた。仕様書には,区分機類の流れ型の別,既設の選別押印機又は台付押印機と連結できる機能を有することなどが記載され,原則として,右流れ型には被審人東芝の予備部品リストが,左流れ型には被審人日本電気の予備部品リストが添付されていた。
被審人2社の担当者は,仕様書を受け取った後,情報の提示を受けた物件につき下見積書を作成して,契約課に提出した。契約課の担当官は,被審人2社の担当者に,物件ごとの価格の提示を求め,予算額とのすり合わせの作業を行った。
g 平成7年度の区分機類の入札は7月に,平成8年度のそれは8月に行われ,被審人2社は,自社に情報の提示のあった物件のみ入札に参加し,自社に情報の提示のなかった物件の入札には参加しなかった。
h 入札後,被審人2社は,それぞれ,受注した物件について,機械情報システム課との間で定められた前記cの納入日程に従って納入しており,このため,発注に係る官報公示に基づく契約上の納入期限よりも短期間で納入される物件もあった。
(イ) 郵政省の平成9年度における区分機類の一般競争入札の方法による発注は,前記第2の5で認定したとおりであり,その時期は異なるが,その基本的な手順は,前記(ア)と同様である。もっとも,平成9年度においては,平成10年2月に実施する郵便番号7桁化に対応した新型区分機が中心で,発注台数が従来よりも多く,また,既設のあて名区分機を新型区分機並みの性能に改造して他の郵便局に移設する玉突き移設の必要があった。このため,機械情報システム課の調達事務担当官は,平成8年10月ころまでには,被審人2社に対し,情報の提示を行い,それに基づく納入日程表の案の作成を依頼した。被審人2社の担当者は,同課の調達事務担当官との間で,納入日程の調整を行い,平成9年4月ころまでに,玉突き移設の調整も含め,納入日程が確定した。平成9年度の区分機類の調達に係る官報公示は,同年3月に行われたが,契約室の被審人2社に対する仕様書の交付は,これに先立つ同年2月ころから行われ,被審人2社の担当者は,順次下見積書を作成し,同室の担当官に提出した。平成9年度の区分機類の入札は,同年5月16日に行われた。一方,地方郵政局及び配備先郵便局と被審人2社それぞれとの搬入に関する具体的な打合せは,同年4月上旬ころから行われていた。この過程で,入札前に,地方郵政局から配備先郵便局に対し,文書等をもって,製造業者名,具体的な機種等を特定した区分機類の搬入計画案などの通知がされるなどした事例もみられた。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)の認定に係る事実等について,審査官及び被審人2社の主張を踏まえて補足的に述べる。
a 被審人2社は,郵政省郵務局ないし地方郵政局担当官により,入札実施前において配備先郵便局及び予定発注先の配備計画に係る情報の提示がされていたとして,平成8年度の区分機類の発注に係る事例について主張する。
この点については,前記第2の4(2)アに認定したとおりであり,確かに被審人2社の担当者は,平成8年度の区分機類の受注に関して,地方郵政局の担当官等から,平成7年9月ころから平成8年1月ころにかけて,郵政省の担当官が作成したと認められる「新郵便処理システム対応機械の開発・配備について」(審第1号証),「新郵便システム導入に伴う区分機の配備計画概要(案)(平成8年度区分機配備計画)」と題する文書(審第2号証)及び「平成8年度区分機配備計画調書」と題する文書(審第3号証)を入手したことは認められるが,これらの各文書は,いずれも郵政省又は地方郵政局の平成8年度の区分機類の配備計画の検討に関する内部的な文書であり,区分機類の製造業者に交付することを目的として作成されたものではなく,また,被審人2社の担当者は,これらの文書を営業に伴う情報収集活動により入手したものであって,地方郵政局の担当官らが,被審人2社の担当者に対し,あえて機械情報システム課の調達事務担当官等からの情報の提示の前に,その内容について検討等をさせるなどの目的で交付したものと認めることはできない。したがって,平成8年度の区分機類の発注に係る情報の提示の一環としてこれらの文書が交付されたものであるとの被審人2社の主張は採用できない。
b 被審人2社は,郵政省の情報の提示に関して,郵政省においても,内示により,入札手続前に受注予定者が特定されているとの認識を有していたことは,平成8年12月12日,機械情報システム課が,被審人2社に対してファクシミリ送信文書にて配備区分機の機械番号を特定して通知したが,同文書において,平成9年1月30日に入札に付されることとされていた川崎中央郵便局等の新型区分機につき,入札前であるにもかかわらず,「配備済み」との認識の下に,製造業者名はもとより製造業者型式番号をも特定していたことからも明らかであると主張する。
確かに,平成8年度試行機の納入日程の調整に際して,平成8年12月12日ころ,機械情報システム課の平澤次席が,被審人日本電気の池田課長に「新型区分機等の機械番号について(再修正版)」をファクシミリ送信したが,その中で,平成8年度発注予定の試行機についての製造業者の欄に,被審人2社の個別の会社名(東芝,NEC)を記載していたことは前記第2の4(3)イに認定したとおりである。しかしながら,このファクシミリ送信文書は,機械情報システム課で,その当時,主に新型区分機等の技術開発を担当していた平澤次席が,平成8年度試行機を一般競争入札の方法により発注するに当たり,新型区分機等に付ける機械番号をどのような体系にするか検討する目的で製造業者の意見を求めるために送信したものであり,既配備郵便局の流れ型が右流れ型のものには被審人東芝の名称を,左流れ型のものには被審人日本電気の略称であるNECをそれぞれ記載し,また,川越西郵便局で新型区分機の実験を行っていた日立・AEGについては,製造業者名として日立・AEGの名称を記載したものであり,平澤次席としては,平成8年度の試行機の入札に日立・AEGが参加できる状態ではないと判断していたこと(査第96号証)からすれば,これをもって,郵政省の平成8年度の区分機類の発注について,郵政省の担当官が入札前にこれらの区分機類が配備済みであるとの認識を有していたことを示すものであるということはできない。したがって,被審人2社の前記主張は採用できない。
c 審査官は,入札手続前において地方郵政局の担当官と被審人2社のうち情報の提示を受けた者との間で具体的な配備の準備の打合せが行われていた点について,これらの打合せは,機械情報システム課の調達事務担当官等が被審人2社に対して行った情報の提示に基づくものではないと主張する。
平成7年度ないし平成9年度の区分機類の発注において,配備先郵便局と被審人2社のうち情報の提示を受けた者との間で具体的な配備の打合せが行われてきたことは前記第2の4(1)カ,(2)キ,(3)エ及び5(2)キで認定したとおりであり,被審人2社の担当者は,前記各年度の区分機類の受注に際して,機械情報システム課の調達事務担当官等から情報の提示を受けた後に,これに引き続いて,同課の調達事務担当官との間で,情報の提示がされた区分機類の配備先郵便局への納入日程の調整を行い,さらに,同課の調達事務担当官の了解の下に,配備先郵便局で,地方郵政局及び配備先郵便局の担当官との具体的な区分機類の納入に伴うレイアウトや電気工事の確認をはじめ,搬入後の区分指定面の検討や操作員の教育日程等の打合せを行っていたものであるところ,これは,その打合せに至る経過やその内容からみて,機械情報システム課の調達事務担当官等の情報の提示及び納入日程調整による区分機類の納入日程どおりの納入を確保するために行われる一連の作業であったことは明らかである。したがって,審査官の前記主張はこの限度で採用できず,この打合せについても,郵政省の区分機類の発注に係る一連の事実として総合的に評価することとする。
(エ) 以上の平成7年度ないし平成9年度における郵政省の区分機類の発注に係るところの,i.機械情報システム課課長等による被審人2社への区分機類の機種別台数,口数別台数,配備先郵便局等を含む情報の提示がされていたこと,ii.同課の調達事務担当官との間で,情報の提示を受けた物件について,各配備先郵便局の納入日程調整を行っていたこと,iii.地方郵政局及び配備先郵便局の担当官が,入札前から情報の提示のあった被審人の担当者と機器の搬入に必要な作業の打合せ等を行うなどしていたこと,iv.区分機類の発注に係る官報公示では,区分機類の流れ型別等にグループ分けし,各グループを1物件として入札に付されており,被審人2社は,官報公示の内容から,どの物件が自社に情報の提示のあった物件かを確認することができたこと,v.仕様書には,区分機類の流れ型の別,既設の選別押印機又は台付押印機と連結できる機能を有することなどが記載されていたほか,特定の被審人の予備部品リストが添付されていたこと,vi.契約課又は契約室は,被審人2社のうち情報の提示のされた製造業者の担当者との間で,物件ごとの予算額とのすり合わせの作業を行っていたこと,vii.被審人2社の受注物件の納入は,官報公示による納入期限ではなく,機械情報システム課との間で定められた納入日程に従って行われており,また,官報公示による納入期限自体,入札日前の納入日程調整が行われていたこともあって,入札日から2か月ないし4か月程度と比較的短期間に設定されていたものが多かったことという一連の事実に加え,前記(2)イ(ウ)の区分機類は,郵政省での郵便物処理の機械化の要請から被審人2社らへの委託研究により開発改良されてきた製品であり,被審人2社は,郵政省の要請する品質を達成することがより多くの台数の情報の提示を得るとの認識の下に技術開発を競ってきたという事実をも勘案すれば,郵政省の行っていた情報の提示等の行為は,特定の者に対し,入札に先立ち,発注される特定の物件に係る詳細な情報を提供し,また,あらかじめ特定の者との間での予算額とのすり合わせを行うことにより,入札価格にかかわる情報を暗に知らせる結果となっていたのであり,被審人2社にとっては,情報の提示を受けていない物件の入札に参加するには,当該情報の提示を受けた者と比べ,相当なハンディキャップを負うことになり,しかも,そのような状況の下で,情報の提示を受けていない者が落札すれば,官報公示に係る納入期限ではなく,情報の提示を受けた者との間で取り決めた納入日程に従って納入されてきていた郵政省の区分機類の配備計画に支障を来す結果になることから,被審人2社はこれを懸念して情報の提示を受けていない物件への入札の参加を自制することも想定される。
しかしながら,機械情報システム課の調達事務担当官等が行っていた情報の提示,これに引き続く納入日程調整,配備先郵便局の担当官らとの打合せ等の一連の行為を総合してみても,これらの一連の行為をもって郵政省の区分機類の発注を特定の者に約束したりするものではないし,郵政省の調達事務担当官が情報の提示をするに当たり,情報の提示を受けない者には入札に参加しないようにとの指示をしたことはないのである(参考人高橋諒一)。また,これらの一連の手続は,郵政省にとって,被審人2社にそれぞれの区分機類の生産を確認し,配備先郵便局への納入時期をあらかじめ確定することにより,郵政省の区分機類の配備計画を円滑に実施するという利点がある反面,被審人2社にとっても,毎年一定量の区分機類の受注を確保し,また,早期に郵政省の購入計画を知ることにより生産の平準化に役立つという利点もあり(査第21号証),このことから,被審人2社は,郵政省の情報の提示等の一連の行為を主体的に受け入れてきたという面もあるのである。さらに,一般競争入札の入開札日から納入日までの期間が短かった点についても,郵政省の調達事務担当官等としては,情報の提示を受けない者が入札に参加することが不可能であるとは認識しておらず(参考人高橋諒一,同立石直),前記認定のとおり,納入期限が入開札日から6か月を超えるものも少なからずあり,また,部品の手配がなされていれば製造可能とされる2か月を超えるものは8割近くあったのである。したがって,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類について被審人2社には,競争が行われる余地はあったものというべきであり,同省の発注は,被審人2社が主張するようないわゆる特命随意契約に類するものということはできない。
なお,被審人2社は,納入日が入開札日と極めて近接して定められた落合郵便局等の例や,庁舎が狭あいなために納入前に特別な作業を要する品川郵便局等の例を挙げて,競争が困難なことを指摘するが,これらは納入する物件のうちのごく一部であり,これにより郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類の受注に係る競争の可能性が否定されることにはならない。
(4) 結論
以上のとおり,郵政省の一般競争入札に係る区分機類について,一定の取引分野を構成する「競争関係」及び競争の実質的制限の前提条件である「競争」は,いずれもこれを認めることができる。したがって,被審人2社間に競争関係がなかったとの被審人2社の主張は採用できない。
2 被審人2社間の「意思の連絡」について
(1) 意思の連絡についての判断基準
ア 不当な取引制限は,複数の事業者が共同して相互にその事業活動を拘束し又は遂行することにより成立し,事業者相互間に意思の連絡が存在することがその成立要件となるものである。そして,この意思の連絡は明示的に行われる必要はなく,黙示的なものでも足りることはこれまでの公正取引委員会の審決及び判決のとおりである。すなわち,公正取引委員会は,「共同行為の成立には,単に行為の結果が外形上一致した事実があるだけでは未だ十分ではなく,進んで行為者間に何らかの意思の連絡が存することを必要とするものと解するとともに,本件におけるがごとき事情の下に,或る者が他の者の行動を予測しこれと歩調をそろえる意思で同一行動に出でたような場合には,これ等の者の間に右にいう意思の連絡があるものと認めるに足るものと解する。」(公正取引委員会昭和24年8月30日審決・公正取引委員会審決集1巻62頁(合板入札価格協定事件審決))と判断する。また,東芝ケミカル事件判決においては,「ここにいう『意思の連絡』とは,複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調をそろえる意思があることを意味し,一方の対価引上げを他方が単に認識,認容するのみでは足りないが,事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく,相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して,暗黙のうちに認容することで足りると解するのが相当である(黙示による『意思の連絡』といわれるのがこれに当たる。)。」と判示されている。
ところで,審査官は「共通の認識」とは,東芝ケミカル事件判決が判示するところの,相互に他の事業者の同内容の行為を認識ないし予測し,これと歩調をそろえる意思のあることであって,単なる認識を意味するわけではない(審査官意見413頁)と主張し,被審人2社も「意思の連絡」の定義として,単なる「共通の認識」では足りないとして,東芝ケミカル事件判決が判示するものを援用して主張する(被審人2社の準備書面(6)65頁)。本審決案においても,東芝ケミカル事件判決が判示する「意思の連絡」の定義により判断することとする。
イ 意思の連絡を間接事実から認定するに当たり,どのような間接事実を重要なものとして評価すべきかは事案により異なるが,本件では,双方の主張立証内容に照らし,i.当事者が属する市場の構造,製品の特質,過去の当事者の市場行動等の市場環境,ii.当事者の事前の連絡交渉の有無やその連絡交渉の内容,iii.結果としての行為の一致,iv.事後の市場行動,市場成果の変化等の市場環境を総合勘案して,意思の連絡が推認できるか否かを判断する。
(2) 本件における判断の基礎となる主要な事実
本件における判断の基礎となる主要な事実を要約すると,次のとおりである。
ア 指名競争入札当時における市場構造等の市場環境
i. 郵政省発注に係る区分機類は,被審人2社の複占市場であり,製品開発には高度な技術と相当な期間の研究・実験を要するため参入障壁が高く,直ちに他の者が参入する見込みはなかった。他方,買手は郵政省のみであり,郵政省は,被審人2社の技術競争(読取率等の性能向上が主なものである。)を促していた。(前記第2の1(2)及び(4))
ii. 区分機類は耐久財であり,新型区分機等に関し技術革新が進行しているものであった。
そして,区分機類の販売に際しては,被審人2社は,配備先郵便局との間で,電気系統の配線工事,区分指定面の作成等について打合せをする必要があった。(前記第2の1(4),2,4及び5。後段の事実については,平成6年度当時も平成7年度ないし平成9年度当時と同様であったと認められる。)
iii. 郵政省の指名競争入札の方法による区分機類の発注において,被審人2社のうち郵政省の調達事務担当官等から情報の提示を受けた者のみが入札に参加し,情報の提示を受けなかった者は入札を辞退するという行為が長年行われていた(前記第2の2(4))。このことからすると,被審人2社がこのような行為を行うことは,被審人2社においてそれぞれ認識していたものと認められる。
iv. 被審人2社は,前記iii.の行為により,郵政省が指名競争入札の方法により発注する区分機類について,それぞれ同省の総発注額のおおむね半分ずつを安定的に受注してきた。(前記第2の2(5))
v. 被審人2社のうちの一方の区分機類のみが配備されていた郵政局管内があり,被審人2社は,自らの区分機類が配備されていない郵政局管内においては,原則として営業活動を行っていなかった。(前記第2の1(5))
vi. 被審人2社は,入札執行前に,郵政省の調達事務担当官等から同省の購入計画に係る各社ごとに分けられた区分機類の機種別台数,配備先郵便局等に関する情報の提示を受けており,被審人2社は,この情報の提示を受けた後,郵政省の調達事務担当官との間で納入日程の調整を行っていた。また,官報公示及び仕様書においては被審人2社のいずれかの製品又はこれと同等のものであること等が記載されており,被審人2社は,官報公示及び仕様書と情報の提示を受けた区分機類とを照合していた。(前記第2の2)
イ 一般競争入札導入までの被審人2社の行動
i. 平成6年4月15日,区分機類の性能テストの結果説明を主目的とする郵政省内の勉強会で,施設課システム企画室の高橋係長は,被審人2社の担当者に,平成7年度は区分機類を一般競争入札の方法により発注する見通しである旨を説明した。被審人2社は,それぞれ社内で,その旨を報告した。(前記第2の3(2))
ii. 被審人2社は,郵政省から読取率の目標値案の提出及び新型区分機等の見込価格の提出を求められたことを受けて,平成6年4月26日,打合せを行い,これらのことについて検討を行った。(前記第2の3(3)ア)
iii. 被審人東芝の須田部長は,平成6年6月14日付けで,平成7年度の区分機類の総発注額を確保するための施策として被審人日本電気との共同提議・根回しを行うこと,シェアの拡大の施策として一般競争入札の回避の提案をすることなどと記載した電磁的記録を作成していた。(前記第2の3(3)イ)
iv. 平成6年7月ころに開催された郵政省の幹部会で,区分機類の高価格が問題となり,機械情報システム課の高橋係長は,被審人2社に,価格低廉化と一般競争入札の導入について考え方をまとめた資料の提出を依頼した。同年9月2日の郵政省における課長勉強会で,被審人日本電気は,価格低廉化に関する資料のみを提出し,一般競争入札についての資料を提出しなかったが,被審人東芝は両方の資料を提出した。被審人2社側の出席者は区分機類のような特殊機器がパソコンと同様に標準機器として一般競争入札になじむのか疑問があるとして一般競争入札の導入に反対し,また,被審人日本電気の担当者は,価格低廉化の方策につき早期の情報の提示を,被審人東芝の担当者も同様に早期実質発注をそれぞれ求めた。高橋係長は,一般競争入札になれば,当該年度に発注する区分機類を一括発注することも考えられると発言した。被審人2社は,それぞれ社内で,その旨を報告した。(前記第2の3(4))
v. 平成6年11月1日,郵政省は書留郵便物自動読取区分機(本件で違反として問擬されている対象物件ではない)について,平成7年1月13日に一般競争入札を行う旨を官報公示した。(前記第2の3(5))
vi. 平成6年11月ころ,被審人東芝の須田部長が機械情報システム課の高橋係長に一般競争入札の導入を中止するよう要請した。(前記第2の3(6)ア)
vii. 平成7年1月初旬ころ,被審人日本電気の植松部長が高橋係長に情報の提示の継続を要請した。(前記第2の3(6)イ)
viii. 平成7年1月中旬ころ,機械情報システム課の小関次席は,被審人2社それぞれに共通仕様書の原案を送付してその検討を依頼した。(前記第2の3(7)イ)
ix. 被審人2社の担当者は,平成7年1月25日に,郵政省から送付された仕様書について,主に技術的な面からの意見交換を行った。(前記第2の3(7)ウ)
x. 平成7年1月26日,郵政省が共通仕様書の作成のために開催した被審人2社との打合せ会で,機械情報システム課の高橋係長及び小関次席は情報の提示(内示)を事前に実施する旨発言し,出席した被審人2社の担当者は何も発言しなかった。この打合せ会の結果については,被審人2社の社内で報告されている。(前記第2の3(7)エ)
ウ 一般競争入札当時における被審人2社の市場行動
平成7年度の区分機類の発注については,平成7年2月ころに機械情報システム課の調達事務担当官等から被審人2社にそれぞれ情報の提示がなされ,その後,機械情報システム課の調達事務担当官と被審人2社の担当者との間でそれぞれ納入日程の調整が行われた。また,官報公示及び仕様書において流れ型別等によりグループ分けされており,被審人2社は,官報公示及び仕様書と情報の提示を受けた区分機類とを照合し,同年7月3日の入札において,それぞれ自社に情報の提示のあった物件のみ入札に参加し,自社に情報の提示のなかった物件については入札に参加しなかった。平成8年度の区分機類の発注についても,ほぼ同様な手順で進み,平成8年度の試行機,平成9年度の区分機類の発注(平成10年2月27日発注のものを除く。以下同じ。)については,情報の提示の方法及び時期は異なったものの,それ以外の過程は平成7年度のものと同様であった。被審人2社は,平成7年度ないし平成9年度の各入札において,それぞれ自社に情報の提示のあった物件のみ入札に参加し,自社に情報の提示のなかった物件については入札に参加しなかった。被審人2社は,郵政省が平成7年度ないし平成9年度において一般競争入札の方法により発注した区分機類の総発注額のおおむね半分ずつを受注した。(前記第2の4ないし6)
エ 事後の市場環境等
平成9年12月10日,公正取引委員会が被審人2社に立入検査を行い,その後,郵政省は情報の提示を行わなくなり,納入日程の調整も入札後に行うこととするなど発注手順を変更した。また,平成10年2月27日の区分機類の入札から日立が新規参入し,その後は,被審人2社及び日立の3社のうち2社以上で競札される物件が増加した。落札率は,それ以前と比べて,大幅に下落した。(前記第2の7(1))
(3) 主要な事実の要件ごとにみた検討内容
前記各事実について,前記(1)イの判断基準に照らして検討する。
ア 当事者が属する市場の構造等の市場環境
(ア) 市場構造や当事者の過去の市場行動等といった市場環境により,意思の連絡の容易さの程度には違いがみられる。例えば,事業者の数が少なく高度に集中しており,参入障壁が高い市場では,多数の事業者を擁し,参入が容易な市場よりも競争事業者間で意思の連絡がされやすいものとみることができよう。また,過去に当事者がカルテルを行った経験や当事者の確立した行動や慣行があれば,当事者の将来の行動の予測が容易になり,これもまた意思の連絡を容易にするものといえよう。そして,意思の連絡が容易であるとみられるような市場環境にあることが認定されれば,意思の連絡をするための会合等の事前の連絡交渉が認定できなくとも,意思の連絡に資すると認められる事業者の事前・事後の市場行動等の事実を総合することにより,意思の連絡の存在が推認できることもあり得る。
(イ) 前記(ア)の観点から,本件における市場環境を検討すると,特に前記(2)アi.及びiii.の事実は,意思の連絡を容易にするものであり,また,同iv.及びv.の事実は,被審人2社がこれまで協調的であったことを示唆するものである。
(ウ) 他方,買手が一者のみである場合には,売手に対する拮抗力を有し,売手に譲歩を求め得るので,一般的には,買手が分散している場合と比べて,売手間で意思の連絡をすることが難しいと言われている。しかし,本件においては,前記(2)アi.のとおり区分機類の買手は郵政省(国)のみであるが,郵政省が前記(2)アvi.のとおり情報の提示,納入日程の調整等を行うなど被審人2社と相互に依存する関係にあるところ,これを勘案すると郵政省が買手独占として存在することは必ずしも売手間の意思の連絡を難しくすることとはならない。また,前記(2)アii.のとおり区分機類が耐久財であり,技術革新が進行しており,さらに売手による一定のサービスを要することも,一般的には,消費財で,技術的に成熟し,何らのサービスも要しない商品と比べて売手側の検討すべき内容が多くなり,意思の連絡の内容が複雑化するため意思の連絡を困難とすると言えるが,郵政省により被審人2社が長年にわたり技術競争を促され,両社の製品,サービスが均質化,同等化してきていることがうかがわれることからすれば,このような製品の特質は必ずしも意思の連絡を難しくするように作用するものではないものと認められる。
(エ) 次に,郵政省の指名競争入札の方法による区分機類の発注において,被審人2社のうち郵政省の調達事務担当官等から情報の提示を受けた者のみが入札に参加し,情報の提示を受けなかった者は入札を辞退するという行為が確立しており,被審人2社は一定の協調的関係にあったものと推認されるところ,指名競争入札当時の被審人2社の協調的関係の強さを示すものとされる事実について検討する。
a まず,審査官は平成5年9月ころの被審人東芝の資料及び平成6年1月21日ころの被審人2社間の情報交換から,被審人2社間にかねてから協調的関係があったものと主張するので,この点について検討する。
(a) 平成5年9月ころの被審人2社の関係
審査官の援用する査第107号証は,「21世紀LHシステム推進について」と題する電磁的記録を打ち出した文書であり,被審人東芝の須田部長が,平成5年9月ころに,新郵便番号対応システムの開発等のためのプロジェクトチームが発足するに当たり,社内への説明用に作成したものである(審第88号証)。査第107号証の記載内容を更に検討すると,「現状」の項目に「93/5郵務局発表に対して,新体制のもと,内容の実現の再吟味・実現化の矯めの検討活動が活発に行われている。」との記載があることから,この文書は平成4年8月に検討に着手され平成8年度から導入が予定されていた郵政省の新郵便処理システムへの対応を中心にまとめられたものであると考えられる。そして,そのうちの「当社対応状況」の「営業対応」の項目において,「N社とは情報交換を行いながら推進」「取組の基本については合意・・既存分野は守る」「シンクタンクの対応について 対H社との関係を含め基本的な考え方合意。(プリント,リード含めてIJPについてのみH社に参加させ,責任を持たせる。)」「配達総合情報システムの開発の応札については(SI開)取纏め,(情制本)(官公ジ)主体,(機ジ)支援で進めているがN社との関係調整では各々が対応,但し,2社の中で決まるようにする。」と記載されている。これらの記載を総合してみると,「当社対応状況」との記載から,新郵便処理システムへの対応について被審人東芝は,被審人日本電気との間で具体的な内容は不明ではあるが,ある程度の情報交換,関係調整を図っていることがうかがわれる。そこで,被審人2社は具体的な内容は不明であるが,ある程度の協調的関係にあったものと推認できる。
(b) 平成6年1月21日の被審人2社間の情報交換
平成6年1月21日の施設課システム企画室の主催した会合に係る事実は,前記第2の2(1)イに認定したとおりであり,当該箇所に援用した証拠に沿って更に検討すると,被審人2社の担当者は,同会合で,余田室長から区分機類の価格の10%引下げ要求への回答を求められ,同会合後,被審人2社の担当者間で,郵政省の要求の感触や対応方針等について,何らかの意見交換を行ったことが認められる(査第21号証とこれに添付された植松部長作成名義の平成6年1月21日付け文書)。同会合では,余田室長は「10%のダウンについては一律でも機種ごと変わっても良い 来週後半に回答してほしい」と述べており(査第21号証),両社に一律の対応を求めたわけではない。そこで,被審人2社が,郵政省の要求の感触や対応方針等について意見交換を行ったことをもって,被審人2社はある程度の協調的関係にあったものと推認できる。
b 次に,郵政省の指名競争入札の方法による区分機類の発注において,被審人2社のうち郵政省の調達事務担当官等から情報の提示を受けた者のみが入札に参加し,情報の提示を受けなかった者は入札を辞退するという行為が確立していた理由について,審査官は,当該市場における競争が一時的なものではなく長期的に続く場合には,一度だけ,競争に勝てばよいわけではなく,長期的に見て安定的に利益を上げることが必要であり,そうであれば,当該年度のすべて,あるいは多くの物件を落札・受注することにより短期的に自社に利益をもたらす行為であっても,そのような行為は,別の年度において,他社にも同じ行為を行わせる可能性があり,長期的には利益とならない可能性があることから,協調的(協力)行動を採る方が長期的には利益をもたらすからであると述べる。
この主張は,被審人2社が,過去にこのような協調的行動を採ってきた理由の一つとしては納得できるものであり,前記のとおり,そのような事情があれば意思の連絡は容易となる。そのような協調的行動を促したのが郵政省の情報の提示に始まる諸行為であり,それらが長年行われてきたのである。
(オ) 以上のとおり,本件における市場構造等の市場環境は,被審人2社の意思の連絡が比較的容易な状況であったということができる。以下では,このことを踏まえて,一般競争入札導入という新たな事態において被審人2社が郵政省及び他社との関係においてどのような対応を採り,従来の協調的関係を維持するため被審人2社がどのような行動をしたか,その結果として被審人2社がどのような行動を採ったかを検討することにより,被審人2社間の意思の連絡の有無について判断することとする。
イ 一般競争入札導入までの被審人2社の行動
(ア) 意思の連絡の過程では,通常は当事者間の意見の相違を調整して,意見を一致させるなどの作業が行われる。そのような調整がどの程度必要とされるかは,市場構造やこれまでの慣行,当事者の協調度,意思の連絡の内容等により様々であるが,本件は,調整の必要度が比較的低いものと考えられる。しかし,事前の連絡交渉等の行為が,どのように行われ,その内容がどのようなものであったかということを確定することが,意思の連絡を推認する上で重要であることは変わりはない。
本件において意思の連絡とされるものは,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類について,入札実施前に機械情報システム課の調達事務担当官等から情報の提示を受けた者を当該区分機類の物件を受注すべき者とし,情報の提示を受けた者のみが当該区分機類の物件の入札に参加し,他の者は当該区分機類の入札に参加しないことにより,情報の提示を受けた者が受注できるようにする旨のものであるので,一般競争入札導入までの被審人2社の行動について検討する。
(イ) 本件における被審人2社の行動
a 平成6年4月15日の会合
平成6年4月15日の会合は,郵政省が区分機類の性能テストの結果を説明することを主たる目的として,被審人2社の担当者の出席の上,開催したものである。郵政省の高橋係長が平成7年度は区分機類を一般競争入札の方法により発注する見通しであると述べ,このことは被審人2社の社内で報告されている。(前記(2)イi.)
この会合において,被審人2社は,郵政省が平成7年度以降,区分機類を一般競争入札の方法により発注する見通しであることを共に出席した会議の席上で説明を受けることにより明確に認識するに至ったものと認められる。
b 平成6年4月26日の被審人2社間の会合
被審人2社は,平成6年4月26日,郵政省の要請を受けて,読取率の目標値案について検討するとともに,新型区分機等の見込価格について意見交換を行った。(前記(2)イii.)
ここで話し合われた新型区分機の実験機は随意契約により発注されており(平成7年度の試行機も同様である。査第80号証,第85号証,第91号証),本件会合の対象である新型区分機の仕様が決まり本格発注されたのは平成9年度であり(前記第2の5(1)),本件会合の時期からみれば,相当程度将来の不確定事実について話し合われたものであり,また,被審人2社が読取率の目標値案について検討したことも,郵政省の求めに応じてされたものではある。しかしながら,被審人2社が,新型区分機等の価格設定について話し合ったことは,被審人2社が協調的な関係にあったことの一端を示すものと評価することができる。
c 平成6年6月14日付けの被審人東芝の須田部長作成の文書
被審人東芝の須田部長は,平成6年6月14日,区分機類の受注価格の低下を抑制する施策として被審人日本電気との共同提議・根回し,区分機類の総発注額を確保するための施策として被審人日本電気との共同提議・根回し,一般競争入札の回避提案等を記載した電磁的記録を作成した。(前記(2)イiii.)
d 平成6年9月2日の会合
平成6年9月2日の会合は,区分機類の価格低廉化と一般競争入札の導入を議題に開催されたものである。(前記(2)イiv.)
この会合において,被審人2社の担当者は,郵政省の調達事務担当官等に対し,郵政省の区分機類の発注について一般競争入札を導入することに反対し,被審人日本電気の担当者は,価格低廉化についてとはいえ,一般競争入札の方法による発注とはその趣旨において相容れない早期の情報の提示を,被審人東芝の担当者も同様に早期実質発注をそれぞれ要請しており,このことにより,被審人2社の担当者は,被審人2社のそれぞれが一般競争入札の導入に反対しており,その当時行われていた指名競争入札の下での情報の提示の継続を求めていることを相互に認識したものと認めることができる。
e 郵政省への働きかけ
平成6年11月ころ,被審人東芝の須田部長が機械情報システム課の高橋係長に一般競争入札の導入を中止するよう要請し,また,平成7年1月初旬ころ,被審人日本電気の植松部長が高橋係長に情報の提示の継続を要請した。(前記(2)イvi.及びvii.)
これらの事実からは,被審人2社が,郵政省に対し,一致して,一般競争入札の導入に反対したり,情報の提示の継続を働きかけたりしたものとは認めるに足りないが,被審人2社の意図は,結局のところ,指名競争入札当時と同様の発注手順の継続を求める点において一致していたものと評価することができよう。
f 平成7年1月25日の被審人2社の会合
平成7年1月中旬ころ,機械情報システム課の小関次席は,一般競争入札を導入するに当たり,被審人2社それぞれに共通仕様書の原案を送付してその検討を依頼し,被審人2社の担当者は,同月25日に,郵政省から送付された仕様書について,それぞれ社内で検討した結果を持ち寄り,主に技術的な面からの意見交換を行った。(前記(2)イviii.及びix.)
g 平成7年1月26日の会合
平成7年1月26日,機械情報システム課は,一般競争入札の導入に際し共通仕様書を作成するために会合を開催した。この席で,高橋係長又は小関次席は,一般競争入札の方法により発注する場合においても,被審人2社に対し入札実施前に情報の提示を行う旨の説明を行った。これに対し,被審人2社は何も意見を述べなかった。(前記(2)イx.)
この会合において,被審人2社の出席者は,被審人2社だけが一般競争入札に参加することが予測される下で,情報の提示が継続されることをそれぞれ認識したものと認められる。
ウ 結果としての行為の一致
(ア) 競争事業者間に不自然な行動の一致があり,その競争事業者の行動が事業者の独自の判断によるものとは認め難いときには,競争事業者の一致した行動という結果(結果としての行為の一致)を市場構造,慣行,事前の情報交換等と併せ考えて意思の連絡を推認することが可能である。
本件において意思の連絡とされるものは,従来と同様の行動を採るというものであるから,これは容易になされ得るものである。また,意思の連絡の内容とされるものは,情報の提示を受けた者が当該物件の入札に参加し,他の者は当該物件の入札に参加しないものであり,被審人2社の複占市場において,一方がそれに反する行動を採れば,他方が直ちに把握できるものであるから,意思の連絡の内容の遵守を担保する監視手段を設ける必要もなく,したがって,その意思の連絡の内容は単純なもので足りるのである。
(イ) 郵政省の平成7年度ないし平成9年度の区分機類の発注における郵政省の発注手順及び被審人2社の行動は,前記(2)ウのとおりであり,被審人2社は,指名競争入札当時と同様に,すべての入札物件について,自社に情報の提示があった物件についてのみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しないことにより,発注総額のおおむね半分ずつを受注するという,広く発注物件への入札の参加を促す一般競争入札の趣旨にもとる不自然に一致した行動を採っている。
この点,被審人2社は,このような行動は従来と同じく内示を前提にした合理的な経済原則に合致して行動した結果にすぎないと主張する。しかしながら,前述のとおり,競争することが可能な物件が相当数ある中で,すべてについて整然と前記行動を採ったことは不自然であり,また,このような行動は他の者が同様の行動を採ることを予期してこれと歩調を合わせることによってのみ達成が可能なものである。したがって,被審人2社の主張は採用できない。
エ 事後の市場環境
平成9年12月10日,公正取引委員会が被審人2社に立入検査を行い,その後,郵政省は情報の提示を行わなくなり,納入日程の調整も入札後に行うこととするなど発注手順を変更した。また,平成10年2月27日の区分機類の入札から日立が新規参入し,その後は,被審人2社あるいは被審人2社及び日立の3社で競札される物件が増加した。落札率は,それ以前と比べて大幅に下落した。(前記(2)エ)
この落札率が大幅に下落した理由について,被審人2社は,特に被審人東芝の努力による費用の削減や仕様書において納期までの期間が従前より長く確保されたことなどによるものであると主張する。しかしながら,被審人2社の主張する被審人東芝の努力及び事情変更が,被審人2社の費用引下げ要因になることは認められるとしても,それらだけで落札率に大幅なかい離が生じたり,価格が平成9年度の新型区分機一台当たり2億4000万円台から,平成12年度には5000万円台にまで落札価格が低下したものがある(査第110号証,参考人植松征市)ことを説明することはできず,基本的には競争の回復が市場成果の改善の主因であると認められる。したがって,被審人2社の主張は採用できない。
(4) 結論
郵政省発注に係る区分機類は,被審人2社の複占市場であり,参入障壁が高い状況にあり,また,郵政省の調達事務担当官等は,被審人2社に対し,指名競争入札の入札執行前に,同省の購入計画に係る各社ごとに分けられた区分機類の機種別台数,配備先郵便局等に関する情報の提示を行い,さらに,郵政省の調達事務担当官は,この情報の提示に基づく納入日程調整等を行っていたのであり,このような市場環境は,被審人2社の意思の連絡が比較的容易な状況であったということができる。この郵政省の調達事務担当官等による区分機類の発注に係る情報の提示により,被審人2社は,指名競争入札当時,被審人2社のうち郵政省の調達事務担当官等から情報の提示を受けた者のみが入札に参加し,情報の提示を受けなかった者は入札を辞退するという行為を長年行っており,この郵政省の調達事務担当官等及び被審人2社のこのような行為により,被審人2社は,郵政省が指名競争入札の方法により発注する区分機類について,それぞれ同省の総発注額のおおむね半分ずつを安定的に受注することができていたのである。ところが,被審人2社は,郵政省における平成6年4月15日の会合で,郵政省の担当官から,平成7年度以降,区分機類を一般競争入札の方法により発注する見通しであることの説明を受け,その旨を認識するに至り,このため,平成6年9月2日の郵政省の区分機類の価格低廉化と一般競争入札の導入を議題とする会合において,被審人2社の担当者は,一般競争入札の導入に反対し,早期の情報の提示を要請するなどし,また,同年11月ころ被審人東芝の担当者が,平成7年1月初旬ころ被審人日本電気の担当者が,それぞれ郵政省の調達事務担当官に対し,一般競争入札の導入の中止あるいは情報の提示の継続を要請してきたところ,郵政省における平成7年1月26日の会合の際に,郵政省の調達事務担当官が入札実施前に情報の提示を行う旨の発言をしたのであり,これにより,被審人2社の出席者は,被審人2社だけが一般競争入札に参加することが予測される下で,情報の提示が継続されることをそれぞれ認識したのである。そして,平成7年度の区分機類の発注については,同年2月ころに郵政省の調達事務担当官等から被審人2社にそれぞれ情報の提示がなされ,その後,機械情報システム課の調達事務担当官と被審人2社の担当者との間でそれぞれ納入日程の調整が行われるなどして,被審人2社は,同年7月3日の入札において,それぞれ自社に情報の提示のあった物件のみ入札に参加し,自社に情報の提示のなかった物件については入札に参加しなかったのである。被審人2社は,その後これまでと同様に,自社に情報の提示があった物件についてのみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しないという,広く発注物件への入札の参加を促す一般競争入札の趣旨にもとる不自然に一致した行動を採り,その結果,郵政省が平成7年度ないし平成9年度において一般競争入札の方法により発注した区分機類の総発注額のおおむね半分ずつを受注することができたのである。平成9年12月に公正取引委員会が立入検査を行い,その後,郵政省が情報の提示を行わなくなるなど発注手順を変更し,また,日立が新規参入するなどして,競争状態が回復し,市場成果が大幅に改善した。
以上の事実に加え,本件における意思の連絡は,従来と同様の行動を採るという容易になされ得るものであって,かつ,その内容は,被審人2社の複占市場において,情報の提示を受けた者が当該物件の入札に参加し,他の者は当該物件の入札に参加しないという単純なものであることをも考え併せれば,被審人2社間において,遅くとも郵政省の発注に係る平成7年度の区分機類の入札が行われた平成7年7月3日には,一般競争入札の方法により発注する区分機類について,郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者のみが当該物件の入札に参加し,情報の提示のなかった者は当該物件の入札に参加しないことにより,郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者が受注できるようにする旨の意思の連絡,すなわち本件共通の認識が形成されており,被審人2社は,本件共通の認識に基づいて,平成7年度ないし平成9年度の発注において,被審人2社は,これまでと同様に,自社に情報の提示があった物件についてのみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しないことにより,おおむね半分ずつを受注したものと推認することができる。
3 違反行為の終了
平成9年12月10日,本件について,公正取引委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始したところ,郵政省の調達事務担当官等が情報の提示を行わなくなったこと等により,被審人2社は,同日以降,本件共通の認識に基づき受注予定者を決定し受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている。(前記第2の7)
第5 法令の適用
以上の事実によれば,被審人2社は,共同して,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。
よって,被審人2社に対し,独占禁止法第54条第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。
平成15年3月19日
公正取引委員会事務総局
審判長審判官 金子 順一
審判官 石井 彰慈
審判官 中出 孝典

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