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(株)東芝ほか1名による審決取消請求事件

独禁法3条後段
東京高等裁判所

平成19年(行ケ)第12号

判決

東京都港区芝浦一丁目1番1号
原告 株式会社東芝
同代表者代表執行役 西田厚聰

東京都港区芝五丁目7番1号
原告 日本電気株式会社
同代表者代表取締役 矢野薫
上記両名訴訟代理人弁護士 西迪雄
同 柴田保幸
同 向井千杉
同 富田美恵子

東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 竹島一彦
同指定代理人 南雅晴
同 萩原浩太
同 高原慎一
同 菅野光
同 岩丸華子
同 大胡勝

平成19年(行ケ)第12号

主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。



事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告が,原告らに対する公正取引委員会平成10年(判)第28号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反事件について,平成15年6月27日付けでした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第2 事案の概要等
1 原告ら2社は,平成9年12月までの間,我が国において,郵便物自動選別取りそろえ押印機(以下「選別押印機」という。),選別台付自動取りそろえ押印機(以下「台付押印機」という。),郵便物あて名自動読取区分機(以下「あて名区分機」という。),新型区分機,新型区分機用情報入力装置(以下「情報入力装置」という。),バーコード区分機(A型及びB型)及び区分機用連結部(以下「連結部」という。以下,これらをまとめて「区分機類」という。)のほとんどすべてを製造販売していた(以下,あて名区分機,新型区分機及びバーコード区分機をまとめて「区分機」という。)。
2(1) 被告公正取引委員会は,「原告ら2社は,郵政省が平成7年4月1日から平成9年12月10日までの間に一般競争入札の方法によって相手方を選定する方法により発注した区分機類について,おおむね半分ずつを安定的に受注するため,「入札執行前に郵政省の調達事務担当官等から情報の提示を受けた者を当該情報の提示を受けた物件についての受注予定者とし,受注予定者のみが当該物件の入札に参加し受注予定者以外の者は当該物件の入札には参加しないことにより受注予定者が受注することができるようにする。」旨の意思の連絡の下に,受注予定者を決定し,受注予定者のみが入札に参加して受注することができるようにし,これによって,公共の利益に反して,区分機類の取引分野における競争を実質的に制限していた。」として,これが私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成17年法律第35号による改正前のもの。以下「独禁法」又は「法」という。)2条6項の「不当な取引制限」に該当し,同法3条に違反するとして(以下,この違反行為を「本件違反行為」という。),平成10年12月4日,審判開始決定をした(公正取引委員会平成10年(判)第28号)。
(2) 原告ら2社は,上記審判事件において,「郵政省が一般競争入札の方法により発注した区分機類については,一般競争入札の形式が採られていたとはいえ,郵政省が事前に受注者を決めて内示し,原告ら2社はその内示に従って受注していたにすぎず,原告ら2社の間には,競争関係は存在せず,受注調整と目されるような意思の連絡もなかったから,本件違反行為は成立しない。」と主張した。
(3) 公正取引委員会から指定された審判官(法51条の2)は,審理を行い,平成15年3月19日付けの審決案(以下「本件審決案」という。)を作成した(当時施行の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則82条,83条)。
本件審決案が認定した事実の要旨は,別紙〈略〉のとおりである。
(4) 本件審決案に対して原告ら2社が異議を述べたため,公正取引委員会は,口頭審理を行い,本件審決案を調査して,平成15年6月27日,次のとおり審決した(以下「本件審決」という。以下には,本件審決の主文をそのまま記載し,理由はほぼ全文を記載する。)。
【主文】
1 被審人株式会社東芝及び同日本電気株式会社は,遅くとも平成7年7月3日以降,郵政省が国の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令(昭和55年政令第300号)の規定が適用される一般競争入札の方法により発注する郵便物自動選別取りそろえ押印機,選別台付自動取りそろえ押印機,郵便物あて名自動読取区分機,新型区分機,新型区分機用情報入力装置,バーコード区分機及び区分機用連結部について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為を取りやめていることを確認しなければならない。
2 被審人株式会社東芝及び同日本電気株式会社は,前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
【理由】
1 公正取引委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,本件審決案の理由の第1ないし第5と同一であるから,これを引用する。
2 被審人2社は,「郵政省が発注した区分機類については,一般競争入札の形式が採られていたとはいえ,郵政省が事前に受注者を特定する「内示」によって,入札実施前に受注者が特定されている実態にあったので,実質的に随意契約に準じ各社が受注することを余儀なくされていたのであるから,被審人2社間には競争関係は存在せず,また,競争関係が存在しなかった以上,被審人2社が入札談合に係る意思の連絡をする必要はなく,現に被審人2社間には受注調整と目されるような意思の連絡はなかったから,本件違反行為はなかった。」旨を主張し,本件審決案は誤った判断をしているものであるとする。
3 そこで,本件審決案を調査するに,本件審決案が認定しているように,本件の一般競争入札に係る区分機類については,競争関係を認めることができ,被審人2社間においては,郵政省の調達事務担当官等(以下「担当官等」ともいう。)から情報の提示のあった者のみが当該物件の入札に参加し受注できるようにする旨の意思の連絡すなわち本件共通の認識が形成されており,被審人2社は,この共通の認識に基づいて受注予定者を決定し,区分機類を受注していたものと認められる。
そもそも,本件の郵政省発注に係る区分機類は,被審人2社の複占市場であったところ,平成6年度まで指名競争入札の方法により発注されていたが,被審人2社は,かねてから,入札執行前に,担当官等から同省の購入計画に係る各社に分けられた区分機類の機種別台数,配備先郵便局等に関する情報の提示をそれぞれ受けることによって,情報の提示を受けた者のみが入札に参加し,情報の提示を受けなかった者は入札を辞退し,これによって,同省の総発注額のおおむね半分ずつの区分機類を安定的に受注していた。そうしたところ,平成6年に担当官等から,次年度すなわち平成7年度は区分機類を一般競争入札の方法により発注する見通しである旨の説明を受け,その後,被審人2社の担当者は,いずれも,担当官等に対し,一般競争入札の導入に反対し,一般競争入札による発注とはその趣旨において相容れない,情報提示,早期実質発注等を引き続き行うようそれぞれ要請した。そして,平成7年度から区分機類の発注については一般競争入札が導入されたが,担当官等は,前記経緯等から,被審人2社に対し,これまでと同様に,区分機類を複数物件に分けて発注し,入札執行前に情報の提示を行うこととした。こうして,被審人2社は,一般競争入札が実施された後も,担当官等から情報の提示を受けた者のみが入札に参加する方法によって,平成7年度ないし平成9年度において郵政省が一般競争入札の方法により発注した総発注額のおおむね半分ずつの区分機類を受注していたものである。
このような事実関係に照らせば,被審人2社が,担当官等からの情報の提示を前提に,共同して,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,同省が一般競争入札の方法により発注する区分機類の取引分野における競争を実質的に制限していたと認めることができる。
4 よって,被審人2社に対し,独禁法54条2項及び規則87条1項の規定により,主文のとおり審決する。
3(1) 原告らは,平成15年7月,本件審決の取消しを求める訴えを東京高等裁判所に提起し(東京高等裁判所平成15年(行ケ)第335号),同裁判所は,平成16年4月23日,本件審決を取り消す旨の判決をした。原告らの主張の項目と判決理由の要旨は次のとおりである。
【主張の項目】
1 独禁法57条違反
2 独禁法54条2項違反
3 競争関係の存在に関する実質的証拠の欠けつ
4 意思の連絡の存在に関する実質的証拠の欠けつ
5 憲法14条1項違反
【判決理由の要旨】
本件審決書において独禁法54条2項所定の「特に必要があると認めるとき」の要件に関し同法57条1項の規定の要求する記載がされているかどうかについて検討するに,同法54条2項にいう「特に必要があると認めるとき」とは,審決の時点では既に違反行為がなくなっているが,当該違反行為が将来繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解されるところ,本件審決書は,法令の適用として排除措置の根拠規定である上記規定を記載するのみで,その適用の基礎となった事実,すなわち「特に必要があると認めるとき」の要件の認定判断については,何ら明示的に記載するところがない。
もっとも,審決書の記載全体から判断して独禁法54条2項の適用の基礎となった事実を当然に知り得るような場合には,同法57条1項の規定が要求する審決書の記載要件を具備しているものということができるのであるが,本件違反行為は,担当官等からの情報の提示を前提とするものであり,それがなければ成立し得ないものであるところ,本件審決書においては,担当官等は情報の提示を行わなくなったと認定されているのであるから,なお情報の提示が行われるおそれがあるというのであればともかく,そうでない以上,本件違反行為と同様の行為が将来繰り返されるおそれはないといわざるを得ない。そして,担当官等から本件違反行為におけるような情報の提示が今後も行われるおそれがあることについては,何ら認定されていない。また,本件審決書においては,平成10年2月27日の入札から日立製作所が新規参入し競争環境が相当変化したことなどが認定されているのであって,公正取引委員会の認定事実から本件違反行為の結果が残存し競争秩序の回復が十分でないという点が当然に認められるということはできない。
さらに,本件審決書において認定されている事実関係があるとしても,今後担当官等からの情報の提示が行われなくなった場合に,なお原告ら2社が区分機類の一般競争入札について受注調整を行うおそれが存在するものとは認め難いといわなければならない。
そうすると,本件審決書の記載から独禁法54条2項の適用の基礎となった事実を当然に知り得るものということはできないのみならず,公正取引委員会の認定事実から同項所定の「特に必要があると認めるとき」の要件を認めることもできないといわざるを得ないから,本件審決は,同法57条1項及び同法54条2項の規定に違反する。
(2) 公正取引委員会は,最高裁判所に上告し(最高裁判所平成16年(行ヒ)第208号),最高裁判所は,平成19年4月19日,原判決を破棄し,本件を東京高等裁判所に差し戻す旨の判決をした。その理由の要旨は次のとおりである。
【理由の要旨】
1 東京高等裁判所の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
独禁法57条1項は,審決書には,公正取引委員会の認定した事実及びこれに対する法令の適用を示さなければならない旨を定めている。本件審決は,同法3条の不当な取引制限の禁止の規定に違反する行為が既になくなっているものの,特に必要があると認めて,同法54条2項の規定によりされたものであるから,本件審決書には,同項所定の「特に必要があると認めるとき」の要件に該当する旨の判断の基礎となった公正取引委員会の認定事実を示さなければならないところ,それが明確に特定しては示されていない。
しかし,本件違反行為は,原告ら2社において,共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるようにしていた行為であって,担当官等からの情報の提示は受注予定者を決定するための手段にすぎない。担当官等からの情報の提示がなくとも,原告ら2社において,他の手段をもって,共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるようにすることにより,郵政省が一般競争入札の方法により発注する区分機類の取引分野における競争を実質的に制限することが可能であることは明らかである。そして,このような見地から本件審決書の記載を全体としてみれば,公正取引委員会は,①原告ら2社が,担当官等からの情報の提示を主体的に受け入れ,区分機類が指名競争入札の方法により発注されていた当時から本件違反行為と同様の行為を長年にわたり恒常的に行ってきたこと,②原告ら2社は,一般競争入札の導入に反対し,情報の提示の継続を要請したこと,③原告ら2社は平成9年12月10日以降本件違反行為を取りやめているが,これは原告ら2社の自発的な意思に基づくものではなく,公正取引委員会が本件について審査を開始し担当官等が情報の提示を行わなくなったという外部的な要因によるものにすぎないこと,④区分機類の市場は原告ら2社と日立製作所との3社による寡占状態にあり,一般的にみて違反行為を行いやすい状況にあること,⑤原告ら2社は,審判手続において,受注調整はなかったとして違反行為の成立を争っていること,という認定事実を基礎として「特に必要があると認めるとき」の要件に該当する旨を判断したものであることを知り得るのであって,本件審決書には,独禁法54条2項所定の「特に必要があると認めるとき」の要件に該当する旨の判断の基礎となった公正取引委員会の認定事実が示されているということができるのである。本件審決書には,担当官等が情報の提示を行わなくなったこと及び平成10年2月27日の入札から日立製作所が新規参入し競争環境が相当変化したことという公正取引委員会の認定事実が示されているが,これらの事実が示されているからといって,「特に必要があると認めるとき」の要件に該当する旨の判断の基礎となった公正取引委員会の認定事実が示されているということの妨げとなるものではない。
また,「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断については,我が国における独禁法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する公正取引委員会の専門的な裁量が認められるものというべきであるが,上記説示したところによれば,「特に必要があると認めるとき」の要件に該当する旨の公正取引委員会の判断について,合理性を欠くものであるということはできず,公正取引委員会の裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものということはできない。
そうすると,本件審決は,独禁法57条1項の規定に違反するものでないし,同法54条2項の規定に違反するものでもないというべきである。
2 以上によれば,本件審決は独禁法57条1項及び同法54条2項の規定に違反するものであるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,その余の点について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そして,本件違反行為等の本件審決の基礎となった事実を立証する実質的な証拠の有無の点について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
4 独禁法の規定
(1) 2条4項
この法律において「競争」とは,二以上の事業者がその通常の事業活動の範囲内において,かつ,当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく次に掲げる行為をし,又はすることができる状態をいう。
一 同一の需要者に同種又は類似の商品又は役務を供給すること
二 同一の供給者から同種又は類似の商品又は役務の供給を受けること
(2) 2条6項
この法律において「不当な取引制限」とは,事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
(3) 3条
事業者は,私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
5 原告らの主張(要旨)
(1) 独禁法2条6項・3条の解釈適用の誤り,事実認定の違法性
ア 本件審決案は,「郵政省が一般競争入札の方法により執行した平成7年度ないし平成9年度における区分機類の入札について,情報の提示すなわち郵政省内示を受けていなかった原告も,郵政省内示を受けていなかった入札対象物件について,入札条件として設定された期間内に当該区分機類を製造し得る可能性があり,また,他社製の選別押印機等と自社製のあて名区分機との接続も可能であり,したがって,競争することができる可能性があった。」旨の判断をした。
イ しかし,郵政省が一般競争入札の方法により執行した平成7年度ないし平成9年度における区分機類の各入札当時,郵政省から郵政省内示を受けていなかった原告は,入札対象物件のうち郵政省内示を受けていない物件については,入札日から納入期限までが極めて短期間と設定されていたこと,既設他社製選別押印機等との接続を義務づけられていたこと,等の入札条件のもとにおいては,当初から入札に参加して落札することができない状態すなわち当初から他方の原告との競争から排除されて他方の原告とは競争することができない状況(以下「競争不能状況」という。)にあった。
ウ 平成7年度ないし平成9年度の各入札において,郵政省内示を受けていなかった原告が入札対象物件のうち郵政省内示を受けていない物件について競争不能状況にあったことは,郵政省が郵便事業合理化のための郵便処理機械化を確実に実現するために採った戦略によって形成されたものであり,この事実は,以下の事情に照らして極めて明らかである。
(ア) 郵政省は,平成4年度から,増加する郵便物の処理の機械化の範囲を拡大するため,「新郵便処理システム」,すなわち,住所の細部までを7桁の数字・郵便番号で表し,その数字と合わせて郵便物に書かれた丁目番地等を機械で読み取り,バーコードに変換して印字することによって郵便物を配達道順に並べる作業までを機械化するというシステムの導入を計画し,原告ら2社を含む8社に参加を求めて調査研究を重ね,技術開発可能と認められた原告ら2社を含む3社に対し,平成6年度には実験装置の設計・製作の委託,平成7年度には,前年度の委託研究において成果を示した原告ら2社に対し実験機の開発を委託した。
そして,平成7年8月に,郵政審議会が平成10年2月2日まで新郵便処理システムを導入し,人員及び経費を大幅に削減することを要求したため,郵政省は,この要求を実現する必要に迫られ,平成8年度には新郵便システムに対応する機能を備えた新型区分機類を試行調達したが,さらに,平成9年度には,可能な限り多数の新型区分機類を調達し,かつ,旧型区分機類を新郵便処理システムに対応できるように改造することにより(新型区分機と改造の合計は336台の多数に及んだ。),平成10年2月2日の新郵便処理システムヘの移行を支障なく行うことが必要であったため,新型区分機類の開発に成功した原告ら2社から新型区分機類の生産能力及び旧型区分機類の改造能力等の事情を聴取するとともに,全国に点在する郵便局のどこにどのメーカーの新型区分機を配備するか,その時期をいつにするか,旧型の区分機の改造(改造は当該区分機のメーカーとの随意契約となる。)をいつ行い,それをどの郵便局に移設するかなどにつき,詳細かつ綿密な配備計画を立てて郵務局長の決裁まで経て,この配備計画を上記の時期までに確実に実施に移すことが必要不可欠であった。
(イ) 郵政省は,上記のような郵便処理機械化という大事業を計画的かつ確実に実行するために,平成7年度ないし平成9年度において調達する区分機類について,入札日よりはるか前の時点において,配備計画を立てていた。
郵政省の区分機類の担当者は,配備計画の作成において,配備先の特定の郵便局に設置する新型区分機の納入者を原告東芝とするか原告日本電気とするかを定めるに当たっては,性能のほか,当該郵便局における作業動線,従前からの使用機種・製造メーカー,設置場所,等をも考慮して行い,また,配備計画を決定するについても,郵政省が,原告ら2社から各別にその各工場の生産能力及び改造能力を確認するなどしたものである。
平成9年度における区分機の調達は,その数が336台と極めて多数であり,しかも新型区分機及び新型機能を付加する改造区分機であったことから,平成9年度の配備計画は,各原告関係ごとにそれぞれ取りまとめられた。
(ウ) 郵政省が平成7年度ないし平成9年度の区分機類の調達について郵便処理の機械化・新郵便処理システムの導入を確実に行うために採った戦略の第1は,区分機類について,原告ら2社を含む区分機類のメーカーのすべてが単に入札日に入札に参加しただけでは到底履行し得ない条件を設定し,事前に内示を受けている区分機類のメーカーでなければ入札参加・契約締結をすることが不可能なものとすることであった。換言すれば,郵政省の採った入札の方法・やり方は,区分機類のメーカーに入札に参加する表門を完全に閉ざし,区分機類製造業者間の競争を不可能な状態とするものであった。
すなわち,平成7年当時,区分機類の開発に成功したのは原告ら2社のみであったが,その当時においては,各社別異の技術開発の途上にあった。そして,原告ら2社のいずれにおいても区分機類は受注生産であり,もし入札日において落札し,契約締結後に初めて製造を開始するとすれば,その開始から納入完了(機械調整及び職員訓練までを含む。)までに約6か月間を要するものであった。このような現実の状況に対応し,配備計画を確実に実施するために,入札前に郵政省内示が行われたのである。
これに加え,原告ら2社はそれぞれ各別の設計思想の下に自動読取区分機類を開発したため,他社製の既設選別押印機等との接続は不可能であり,また,予備部品の添付についても,予備部品はそれぞれ独自に定めていたため互換性のないものであり,仕様書に記載されている他社製区分機類の予備部品は,相互にその内容を理解することすらできないものであったから,他社の機種を受注する場合には,契約の履行自体が不可能となるものであった。
郵政省は,このような事情,すなわち,内示を与えた原告以外の入札参加はあり得ないことを十分に知りながら,あえて,入札の方法・やり方を上記のように定めて入札を執行したため,原告ら2社はもとより原告ら2社よりも開発が遅れていた他社のいずれにおいても入札参加が制約される状況にあった。
しかも,仕様書において,既設選別押印機等との接続が条件とされていたため(例えば,査60号証の11の仕様書には,「区分機用連結部により㈱東芝製郵便物自動選別取りそろえ押印機又は選別台付取りそろえ押印機(右流れ型)と連結できる機能を有するものとする。」とされている。),既設のメーカー以外は入札に参加することが不可能であったのであり,添付すべき予備部品のリストも特定の原告のものに限定されていたので(例えば,査61号証の13の仕様書には予備部品が原告日本電気の社内購入仕様書番号によって特定されている。),「一般競争入札」といいながらも,全事業者が自由に入札に参加することは不可能であったのである。
上記のように,郵政省の平成7年度ないし平成9年度の区分機類についての一般競争入札による入札の方法・やり方は,区分機類のメーカーのいずれもが参加して落札・契約締結することを不可能とするもの,換言すれば,入札による競争不能状況を形成するものであった。
(エ) 郵政省の採った戦略の第2は,平成7年度ないし平成9年度において入札対象物件とされた区分機類について,特定の郵便局に配備すると計画した特定の区分機類のメーカーである原告東芝又は原告日本電気に対し,当該区分機類の製造,納入等に約6か月を要することを考慮して,官報公示より前であって当該年度の最初の搬入日の約6か月前に,特定の区分機類の実質的発注を書面をもって行い,この方法によって,郵政省内示を受けた原告に対しては,入札参加・契約締結を可能とする措置をとったことである。郵政省内示を受けない原告にとっては,入札参加・契約締結は全く不可能な状態とされていた。
(オ) 郵政省の採った上記のような戦略第1と戦略第2とは,制度的・法律的には関連がないものである。したがって,郵政省は,戦略第2の内示をしたとしても,当該内示をした区分機類につき,官報公示の入札日からその製造・納入までに要する約6か月の期間を置き,添付すべき予備部品はリストによって特定せず又は別発注の方法をとり,さらに,既設機との接続を条件としないなどして,区分機類のすべてのメーカーが入札に参加し契約を締結することができるようにすることも,入札制度の執行者として法律上可能であり,実際上も可能であったのである。現に,本件後においては,郵政省の入札の方法・やり方が正当なものに変わっている(このこと自体は,本件審決案の認めるところである。)。
戦略第1と戦略第2とを連結させたことは,ひとえに郵政省が入札の執行者としてその権限の下に行ったことであって,私人である原告ら2社はこれに何ら関与していない。郵政省が戦略第1と戦略第2とを連結させたのは,もっぱら郵政省がその配備計画を確実に実施する必要があったからである。
(カ) 以上のとおり,平成7年度ないし平成9年度の各入札においては,郵政省内示を受けなかった原告が入札対象物件のうち内示を受けなかった物件については落札・契約締結をすることを不可能とする状況すなわち競争不能状況が郵政省の戦略によって形成されていたのである。
エ しかるに,本件審決案は,「被審人2社における区分機類の製造に要する期間は,郵政省の平成7年度ないし平成9年度の入札当時,部品の手配から製品の完成まで,通常約6か月とされている。ただし,これは製品の数量,種類及び在庫部品の状況等にもより,例えば,部品の調達が済んでいれば2か月ほどで生産をすることが可能であるとされているなど,その製造に要する期間は固定的なものではない。」,「選別押印機及び台付押印機をあて名区分機及び新型区分機等と接続する場合に,ある社のものを他の社のものと接続することは,接続に関する技術情報が開示されていれば可能であるとされており,」としており(4頁),「部品の調達が済んでいれば」とか「接続に関する技術情報が開示されていれば」とかなどと仮定的事実を認定して,「2か月ほどで生産をすることが可能である」,「(接続が)可能である」としているのであるが,この仮定的事実の認定は証拠に基づかないものであって極めて不当であり,その仮定的事実を前提とした結論もまた極めて不当である。
オ 郵政省の区分機類の調達過程の実態に関する事実を具体的かつ綿密に証拠をもって認定するときは,郵政省の設定した入札条件の下においては,郵政省内示を受けなかった原告は,当該入札に係る物件のうち郵政省内示を受けなかった物件についてはまったく落札・契約締結をすることが不可能な状況にあったことは容易に認定し得るのに,本件審決案は,あえて,郵政省の区分機類の調達過程の実態に関する事実について具体的かつ綿密な認定をせず,極めて概括的な認定をするにとどめて,郵政省内示を受けなかった原告が当該入札に係る物件のうち郵政省内示を受けなかった物件についても落札・契約締結をすることが可能であり競争可能状況にあったとしているのである。例えば,本件審決案は,平成9年度においては新型区分機が中心で従来より発注台数が多かったとするが,その台数の具体的な数までは認定せず,また,玉突き移設の問題があったとするが,それがどのような問題であったか等についても認定せず,さらに,31物件のグループ分けの基本は各原告ごとに分別された郵政省内示にあり,各原告ごとの郵政省内示分がさらに機種別,流れ型別,口数別にグループ分けされていたものであるのに,一番重要な,各原告宛ての郵政省内示分別に分けて物件がまとめられていることをあえて認定していないのである。
(2) 「意思の連絡」の不存在
ア 本件審決案は,遅くとも平成7年度の入札日である平成7年7月3日までには「郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者のみが当該物件の入札に参加し,情報の提示のなかった者は当該物件の入札に参加しないことにより,郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者が受注できるようにする。」旨の意思の連絡すなわち本件共通の認識が形成されていたとし,原告ら2社は,本件共通の認識=意思の連絡の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにし,区分機類の競争を実質的に制限した,とした。
イ しかしながら,まず,本件審決案が意思の連絡についての判断基準とした東芝ケミカル事件の判決(東京高裁平成7年9月25日判決)については,同事件と本件とでは事案の内容が重要な点において異なっているから(本件は,買主が郵政省のみであり,しかも,その独占的買主である郵政省が購入,入札等の過程を支配していた事案であり,また,郵政省から情報の提示を受けなかったために情報の提示を受けなかった原告が他の原告との意思の連絡なくして当該物件の入札に参加しなかったという可能性があり得る事案である。),東芝ケミカル事件の判決を本件において判断基準とすることはできないものである。
さらに,本件審決案は,不当にも,郵政省内示の持つ意味を軽視し,郵政省内示と原告ら2社の意思の連絡とを不可分一体のものとして取り扱い,郵政省内示を受けなかった原告が当該物件の入札に参加しなかったという事態は郵政省内示を受けなかったという事実のみによって生じたにもかかわらず,原告ら2社の意思の連絡なしには生じない事態であったとして巧妙なすり替えを行っているのである。本件審決案は,独禁法2条6項・3条の解釈適用を誤っている。
ウ 本件審決案は,合法的な一方的行為ないし独立的行為と違法な相互的合意とを混同した違法がある。
事業者は,競争の自由が保障されているのみではなく,競争しない自由も保障されている。競争を義務としてそれを命じた法は存在しないのである。カルテルは,基本的に,カルテルがなかったら得られない経済的利得を相互に保障する合意であって,それゆえに違法とされるものであるが,本件においては,原告ら2社のうちのいずれか1社が特定の区分機類について郵政省内示を受けた場合には,郵政省内示を受けなかった他の原告は,入札に参加することが不可能であったことから,その原告は他の原告との意思の連絡なくして自律的な経営判断のもとに入札不参加を決定していたのである。意思の連絡などはなく,その必要も全くなかったのである。
(3) 実質的証拠の法理の観点からの違法性
ア 本件審決案は,原告ら2社の間に意思の連絡があったことを直接に立証する証拠がないことから,多数の間接事実を認定し,これによって意思の連絡があったものとしているが,認定された間接事実の中には前記のとおり仮定的事実や概括的認定事実が含まれていることのほかに,その間接事実の取出し自体が恣意的なものがあり,また,取り出した間接事実の持つ意味についても過大に評価している(意思の連絡があったことの認定の妨げとなる事実はことさらに無視ないしはその事実の持つ意味を著しく過小に評価している。)。
例えば,本件審決案は,郵政省が独占的買主であることを認めたが,この事実は原告ら2社の間における「意思の連絡を難しくすることとはならない」と評価したにとどまり,郵政省が独占的買主として市場支配力を行使し,平成7年度ないし平成9年度の区分機類の一般競争入札において採った入札の執行者としては到底許されない一連の行為については,その事実自体は認定しながらも,何ら合理的な説明を示していない。また,本件審決案は,平成9年1月30日に入札が行われた新型試行機については,入札前である平成8年12月12日ころに郵政省が既に内示どおり「配備済み」であるとして機械番号まで付して原告ら2社に通知していた事実があり,この事実からすれば,郵政省は内示により入札前に受注予定者が特定されているとの認識を有していたにもかかわらず,上記の通知に川越西局に配備する区分機類の製造業者として日立・AEGの名称が記載されていることをもって郵政省が上記の認識を持っていたということはできないとしたが,川越西局の日立・AEGの区分機は平成6年から随意契約にて継続していた実験機であるから,明白な事実誤認であり,理由不備の違法もある。さらに,本件審決案は,原告ら2社が「自社に情報の提示があった物件についてのみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しない」という行動(以下「原告らの併行行為」という。)を採ったとし,この原告らの併行行為につき,「競争することが可能な物件が相当数ある中で,すべてについて整然と前記行動を採ったことは不自然であり,また,このような行動は他の者が同様の行動を採ることを予期してこれと歩調を合わせることによってのみ達成が可能なものである」としているが,原告らの併行行為と見られる事態が生じたのは,郵政省内示によってでありかつこれのみによって生じた事態であるにもかかわらず,これについて全く考慮することなく,原告らの併行行為をもって意思の連絡を推認する間接事実としているのは,一方的・専断的な判断というべきである。
イ 平成7年度ないし平成9年度の区分機類の調達の実態については具体的事実を綿密かつ詳細に認定することが必要であるのに,本件審決案は極めて概括的な事実しか認定していない。具体的事実をみれば,平成8年度の原告東芝の日本橋郵便局の例,同年度の原告日本電気の橋本郵便局の例のように,いずれも入札日前から郵政省内示により製造が開始され,配備先郵便局との打合せ等を了して,入札,契約後短期間での納入,教育,等を完了していることが容易に認定できるのである。
ウ 本件審決案は,原告らが主張した「予備部品は,各社各様のもので互換性はないうえ,その予備部品リストによっては,詳細情報が不明であるから,他の原告はこれを製造できない。」との主張に対して判断を示していない。仕様書に予備部品リストが添付されていたことは,郵政省内示を受けなかった原告が入札対象物件のうち内示を受けなかった物件については落札・契約締結をすることが不可能であったことを推認させる重要な間接事実であり,この間接事実を全く無視した本件審決案は一方的・専断的なものというべきである。
エ さらに,本件審決案は,他社製の既設機とあて名区分機との接続について,「当該既設選別押印機等との接続に関する技術情報が開示される必要があるが,当時は,この技術情報は開示されていなかった」と認定しながら,前記のとおり「接続に関する技術情報が開示されれば技術的に可能であり」と仮定的事実を認定した上,「郵政省に技術情報の開示を求められた事業者への過分な負担を強いるものではない」とするが,この点についても詳細な証拠評価を誤っている。すなわち,原告ら2社の有する技術情報は重要な知的財産であって,企業秘密であり,その技術情報の開示は容易にはなされず,現に本件当時もなされていなかったのである。本件後,日立が参入した際には,日立が相当な経済的負担をすることを条件に開示されたのであるが,日立も結局は既設機との接続を行うことができず,既設機のメーカーである原告日本電気がこれに対処したのであった。
(4) 独禁法2条6項の「公共の利益に反して」の解釈適用の誤り
ア 独禁法2条6項は,「公共の利益に反して」一定の取引分野における競争を実質的に制限することを要求している。最高裁昭和59年2月24日第二小法廷判決(刑集38巻4号1287頁)は,「独禁法の立法の趣旨・目的及びその改正の経過などに照らすと,同法2条6項にいう「公共の利益に反して」とは,原則として同法の直接の保護法益である自由経済秩序に反することを指すが,現に行われた行為が形式的に右に該当する場合であっても,右法益と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して,「一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発展を促進する」という同法の究極の目的(同法1条参照)に実質的に反しないと認められる例外的な場合を右規定にいう「不当な取引制限」行為から除外する趣旨と解すべきであ」るとしているのである(最高裁平成12年9月25日第二小法廷決定(刑集54巻7号689頁)も同趣旨の判示をしている。)。
本件は,独占的買主(発注者)である郵政省が,その郵便処理機械化による効率性の向上,経費の削減等を目的とする郵便事業の大改革及びこれによる消費者利益の確保という国家的プロジェクトを確実に実現するために,郵便処理機械化のための区分機類の製造販売業者(売主・受注者)側の立場にある原告ら2社のそれぞれに協力を求めた事案であって,これまで独禁法上問題とされることのなかった特殊な類型の事案であるから,このような見地からしても,本件の実態は,直ちに違法と評価すべきものではなく,独禁法1条の究極の目的に実質的に反しないかどうかを考慮して判断すべきものである。
本件における郵政省の区分機類の原告ら2社からの調達は,次のような消費者利益を確保するための国家的プロジェクトを実現するために行われたものである。すなわち,①郵政省は,平成4年度から,それまでの3桁ないし5桁の郵便番号から7桁の郵便番号制度と道順組立の機械化(新郵便処理システム)の実現を図るべく,平成6年度に原告ら2社を含む3社に対し,機械(ハードウェア)及びソフトウェアの開発を委託した。原告ら2社は,それぞれこの委託に応じて多額の費用を投じて開発を重ね,平成7年3月には,原告ら2社はそれぞれ独自の設計思想に基づき,郵政省の求める読取率を達成した実験機を納入した。郵政審議会は,平成7年8月,「新郵便番号制を導入することについて」の答申をし,平成10年2月2日までに,町名等住所の漢字部分を7桁で表す新郵便番号制度及び道順組立を中心とする新郵便処理システムを導入・実施すべきことを求めた。郵政省は,上記答申に基づき,新郵便処理システムを平成10年2月2日までに実施するために,全国の主要な郵便局が新郵便処理システムに対応することができるよう,新型区分機類の配備及び旧型区分機類の改造を統合的・組織的に行い,かつ,郵便局職員の研修等をして,新郵便処理システムが同日までに有効に機能する体制を完了するための作業(新郵便処理システム配備作業)を遂行する必要があった。②郵政省は,平成10年2月2日までに新郵便処理システム配備作業を行うことによって,郵便事業に従事する従業員の多数を整理し,多額の経費節減を図り,増加する郵便物数に対処するとともに,郵便料金の据え置き(実質値下げ)を実現する等,郵便事業の「消費者の利益を確保する」ことに努め,この区分機類の導入によって,平成13年度末までの間に限っても,約5700人の人員削減を実現し,上記の目的を達成するに至ったのである。郵政省と原告ら2社との各取引は,いずれも独禁法の究極目的である「消費者の利益を確保する」(1条)ことに大きく寄与したものであった。③そして,郵政省と原告ら2社との区分機類についての各取引については,郵政省はもっぱら発注機器納入の効率化,迅速化を所期し,あえて会計法違反を承知して進めたものであり,原告ら2社はそれぞれ各自の自由な意思に基づいて郵政省内示を受け入れたものであり,他の原告の意思とは全く関わりなく独自に行ったのである。④したがって,郵政省と原告ら2社との間の区分機類についての各取引は,各社独立したものであり,いずれも独禁法違反に問われる筋合いではないところ,これらが併存したとしてもその性質が変わるものではない。
イ 本件審決案は,「公共の利益に反して」と独禁法2条6項の文言をそのまま記載するにとどまり,具体的事実に基づいてその根拠を明らかにしていない。しかしながら,独禁法2条6項は,「不当な取引制限」の積極要件として「公共の利益に反して」と規定しているのであるから,「公共の利益に反して」の要件に該当する事実を本件審決案に記載すべきものである。本件審決案は,理由不備の違法を有する。
なお,公正取引委員会は,民主的な統制に直接服していない独立行政委員会であり,その行政行為に対する統制は司法審査のみであるから,公正取引委員会の審決の事後審査をする裁判所は,厳格にこれを審査しなければならないものである。
(5) 憲法14条1項違反の主張
被告公正取引委員会は,国に対して排除確保措置を命ずることなく,また担当者等に対して刑事告発の措置をとることもなく,郵政省内示に従って入札した原告らに対してのみ排除確保措置を命じる審決をしたものであるから,本件審決は,私人である原告らと国又は国家公務員である郵政省職員とを社会的地位に基づいて不当に差別したものであり,本件審決は,憲法14条1項の定める法の下における平等の原則に反する。
第3 当裁判所の判断
1 「実質的な証拠」の有無について
被告公正取引委員会の認定した事実は,本件審決案の理由の第2に記載された事実と同一であり,その要旨は,別紙に記載のとおりであるが,この事実は,審判手続で取り調べられた証拠によって認定することができ,そのように認定したことについて合理性を欠くものとはいえないから,当裁判所は,被告公正取引委員会の認定した上記の事実に拘束されるものであるとともに(独禁法80条1項),本件審決の基礎となった事実を立証する実質的な証拠があるということもできるものである(同法82条1号)。
2 独禁法2条6項・3条の解釈適用の誤り,事実認定の違法性について
(1) 原告らは,次のとおり主張する。
本件審決案は,「郵政省が一般競争入札の方法により執行した平成7年度ないし平成9年度における区分機類の入札について,情報の提示すなわち郵政省内示を受けていなかった原告も,郵政省内示を受けていなかった入札対象物件について,入札条件として設定された期間内に当該区分機類を製造し得る可能性があり,また,他社製の選別押印機等と自社製のあて名区分機との接続も可能であり,したがって,競争することができる可能性があった。」旨の判断をしたが,この判断は誤っている。
郵政省が一般競争入札の方法により執行した平成7年度ないし平成9年度における区分機類の各入札当時,郵政省から郵政省内示を受けていなかった原告は,入札対象物件のうち郵政省内示を受けていなかった物件については,入札日から納入期限までが極めて短期間と設定されていたこと,既設他社製選別押印機等との接続を義務づけられていたこと,等の入札条件のもとにおいては,当初から入札に参加して落札することができない状態すなわち当初から他方の原告との競争から排除されて他方の原告とは競争することができない状況(競争不能状況)にあった。 (2) 入札日から納入期限まで期間について
ア この点について,原告らは,上記(1)に加えて,さらに,「納入期限までに受注者が履行すべき事項として,①区分機類ハードの製造のほか,②配備先郵便局の住所の読取等による郵便物の画像処理を可能とするソフトの作成,③区分機類の配備先郵便局への搬入・設置,④区分機類設置後の作動確認や配備先郵便局の職員に対する操作教育,等が含まれているのに,これらに要する期間を考慮しないで,入札条件として設定された期間内に当該区分機類を製造し得るとした本件審決案は不当である。」旨を主張する。
イ 確かに,平成7年度の区分機類については,入札(平成7年7月3日)から納入期限までがかなり短期間であるものもあり(納入期限が平成7年8月31日と定められたものが4物件,同年9月29日と定められたものが6物件,同年10月31日と定められたものが4物件,同年11月30日と定められたものが4物件。),平成8年度の区分機類についても,入札(平成8年8月7日)から納入期限までがかなり短期間であるものもあり(納入期限が平成8年9月27日と定められたものが1物件,同月30日と定められたものが8物件,同年10月31日と定められたものが1物件,同年11月29日と定められたものが1物件,平成9年3月19日と定められたものが2物件,同年6月30日と定められたものが5物件。),平成9年度の区分機類についても,入札(平成9年5月16日)から納入期限までが比較的短期間のものが多かったこと(納入期限を,平成9年9月30日とするものが17物件,同年10月31日とするものが1物件,同年11月28日とするものが4物件,平成10年1月30日とするものが3物件,同年3月16日とするものが6物件。),が認められる。また,受注者が履行すべきものとして,区分機類ハードの製造のほかに,配備先郵便局の住所の読取等による郵便物の画像処理を可能とするソフトの作成,区分機類の配備先郵便局への搬入・設置,区分機類設置後の作動確認,等が含まれていたことが認められる。
ウ しかしながら,原告ら2社の区分機類の製造に要する期間が,平成7年度ないし平成9年度の入札当時,部品の手配から製品の完成までに通常約6か月を要するとされていたとしても,これは製品の数量や種類,在庫部品の状況等にもよるものであり,例えば,部品の調達が済んでいれば2か月ほどで生産をすることが可能であるとされていたのであって,その製造に要する期間は必ずしも固定的なものではなかったのである。そうとすれば,たとえ実際には部品の調達が済んでいなかったとしても,多種多様な事業を経営している極めて大規模な会社である原告ら2社の資金力,設備・技術力及び組織力をもってすれば部品の調達を落札後短期間のうちに完了することは可能であったと認められ,そうであれば,入札条件として設定された期間内に郵政省内示を受けていなかった原告も郵政省内示を受けていなかった区分機類についてこれを製造し得る可能性はあったものといえるから(現に,郵政省の調達事務担当官も,情報の提示を受けていない原告が入札に参加することが不可能であったとまでは認識していない(審判手続における参考人高橋諒一及び同立石直の供述)。),郵政省内示を受けていなかった原告においても通常の事業活動の範囲内においてかつ事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく納入期限内に区分機類を納入することができたものというべきであり,したがって,「当初から入札に参加して落札することができない状態すなわち当初から他方の原告との競争から排除されて他方の原告とは競争することができない状況(競争不能状況)にあった。」とはいえないというべきである。原告ら2社は潜在的競争関係にあったものである。
エ 原告らは,競争不能状況が郵便処理機械化を確実に実現するために郵政省が採った戦略によって形成されていた旨を主張するが,そもそも競争不能状況にはなかったのであるから,原告らの上記主張はその前提を欠くものである。
オ 原告らは,「本件審決案が,「被審人2社における区分機類の製造に要する期間は,郵政省の平成7年度ないし平成9年度の入札当時,部品の手配から製品の完成まで,通常約6か月とされている。ただし,これは製品の数量,種類及び在庫部品の状況等にもより,例えば,部品の調達が済んでいれば2か月ほどで生産をすることが可能であるとされているなど,その製造に要する期間は固定的なものではない。」として,仮定的事実を認定し,それが現実に存在する具体的事実であるとして判断しているが,極めて不当である。」と批難する。
しかし,「部品の調達が済んでいれば2か月ほどで生産をすることが可能であるとされている。」と認定すること自体は,何ら差し支えないものであり,問題は,部品の調達が済んでいたこと又は部品の調達を済ますことができたことを認定しないで2か月ほどで生産をすることが可能であると認定することである。しかるところ,上記ウのとおり,本件においては,原告ら2社の資金力,設備・技術力及び組織力をもってすれば落札後短期間のうちに部品の調達を完了することが可能であったと認められるのであるから,可能性の問題として,原告ら2社が落札後短期間のうちに部品の調達を済ますことは可能であったといえるものである。
カ 原告らは,さらに,「平成7年度ないし平成9年度の区分機類の各入札において,郵政省内示を受けていなかった原告が落札して各入札条件の納入期限を遵守するためには,落札及び契約締結も行われていない時点において,落札及び契約締結の可能性が乏しいにもかかわらず,1台当たり億単位の価格の区分機類の極めて多数に及ぶ部品を内部調達及び外部調達(社外の部品メーカーからの調達)することを要する体制すなわちいわゆる見込生産体制をとることが必要であった。」,「落札できないときには,調達部品は不良在庫となり,投下した多大な資金は埋没費用となることがほぼ確実であって,見込生産体制をとることは,営利企業としては,到底実行不可能なものである。」,「見込生産体制をとるということは,受注生産体制からの変更であり,重要な事業活動の変更である。」旨を主張する。
しかし,上記のとおり,原告ら2社の資金力,設備・技術力及び組織力をもってすれば落札後短期間のうちに部品の調達を完了することは可能であったといえるのであるから,原告らの上記主張も採用することができない。
キ 原告らは,さらに,「本件審決案は,配備先郵便局の住所の読取等による郵便物の画像処理を可能とするソフトの作成,区分機類設置後の作動確認や配備先郵便局の職員に対する操作教育,等に要する期間を考慮していない不合理な判断をした違法がある。」旨を主張する。
しかし,本件審決案は,「配備先郵便局との具体的な配備の打合せ」として,例えば平成8年度については,「同年7月24日に,東京郵政局及び品川郵便局の担当官と被審人東芝の担当者との間で,品川郵便局において,区分機類の搬入据付についての打合せが行われており,そこでは,設置場所のレイアウトや電源工事の確認をはじめ,搬入作業のための車両構成,郵便局のエレベーターの容量の確認,また,搬入後の区分指定面の検討や操作員の教育日程が話し合われた。」と認定しており(30頁),本件審決案は,上記のソフトの作成はもとより,区分機類設置後の作動確認や配備先郵便局の職員に対する操作教育に要する期間等をも考慮した上で,入札条件として設定された期間内に当該区分機類を製造・納入し得ると判断したものと推知されるから,原告らの上記主張も採用することができない。
(3) 既設他社製選別押印機等との接続について
ア この点について,原告らは,前記(1)に加えて,さらに,「本件審決案は,原告ら2社が他社製の既設機との接続を要するあて名区分機についても潜在的な競争関係にあったと認定するに当たり,法2条4項柱書の要件が存在したことについて審理判断していない。」旨,「平成7年度及び平成8年度当時,法2条4項柱書の要件が存在したというためには,接続に関する技術情報を取得することができたか,取得するために取得費用を要したか,その額はどの程度か,取得できたとしても,当該技術情報に基づく接続可能な機器の設計製造等には新たな負担を要するものであるからその程度,等を具体的に審理判断することを要する。」旨,「むしろ,日立が平成10年6月以降の入札に参加し,接続に関する条件を十分考慮することなく落札した結果,既設機との接続を履行することができず,既設メーカーである原告らの支援を得ざるを得なかったことは,原告ら提出の証拠(審85等)上明白であり,原告ら2社においても,本件後3年もの年月を要してようやく連結ユニット(甲2の1・2)という別の新たな機械を開発することによって他社製選別押印機等との接続が実現し得たのであるから,本件当時においては,原告ら2社にとっても他社製の選別押印機等との接続を実現することは,技術的にも経済的にも容易なことではなかったのである。」旨を主張する。
イ 確かに,選別押印機及び台付押印機が既に配備されている郵便局にあて名区分機を配備する場合,平成7年度及び平成8年度の入札につき,官報公示後に交付される仕様書に既設の選別押印機及び台付押印機と連結することができる機能を有するものであることが記載されていたことが認められ(査60号証の11・12,63号証の12・13,64号証の10・11中の各仕様書),また,仮に他社製の既設選別押印機及び台付押印機とあて名区分機とを接続しようとすれば,当該既設選別押印機及び台付押印機との接続に関する技術情報が開示される必要があるが,当時はこの技術情報は開示されていなかったことが認められる。
しかしながら,他社製の選別押印機及び台付押印機と自社製のあて名区分機との接続は,接続に関する技術情報が開示されれば技術的に可能であるとされている(査82ないし84,92)。そして,日立は,平成10年4月9日付け文書で,郵政省に対し,原告東芝製及び原告日本電気製の選別押印機等との接続に関する技術情報の開示を求め,機械情報システム課は,これに応じて,同年5月8日付け文書で技術情報を開示し,日立は,その開示を受けて,技術的に接続が可能であることを確認し,同年6月9日の区分機類の一般競争入札に参加したのであり,また,郵政省が平成11年3月19日に一般競争入札の方法により発注した区分機類について,原告日本電気は,原告東芝製の選別押印機との接続を条件とする新型区分機の入札に参加し,落札・受注し,納入しており,日立も,また,同入札において,原告東芝製の選別押印機との接続を条件とする新型区分機の入札に参加し,落札・受注したのである。原告日本電気第一官庁営業部担当部長であったAも「ただ,例えば,株式会社東芝の郵便物自動選別取りそろえ押印機と,当社の区分機を連結できないかというと,技術的に不可能ではありません。株式会社東芝の連結部の内容が分かれば,時間はかかるでしょうが,これに対応することはできます。この連結することについて,相手の情報を郵政省を通じて開示を求めることについては,特許などの障害はないと考えています。」と述べている(査82)。これらの事実からすると,平成7年度及び平成8年度の入札についても,原告ら2社が郵政省に情報の開示を求めれば接続に関する技術情報が開示されたものと認められ,そうとすれば,通常の事業活動の範囲内においてかつ事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく他社製の既設選別押印機及び既設台付押印機に自社製のあて名区分機を接続することが絶対的に不可能であったとまではいえず,したがって,「当初から入札に参加して落札することができない状態すなわち当初から他方の原告との競争から排除されて他方の原告とは競争することができない状況(競争不能状況)にあった。」とはいえないというべきである。原告ら2社は潜在的競争関係にあったものというべきである。また,原告らは,前記のとおり,「むしろ,日立が平成10年6月以降の入札に参加し,接続に関する条件を十分考慮することなく落札した結果,既設機との接続を履行することができず,既設メーカーである原告らの支援を得ざるを得なかったことは,原告ら提出の証拠(審85等)上明白であり,原告ら2社においても,本件後3年もの年月を要してようやく連結ユニット(甲2の1・2)という別の新たな機械を開発することによって他社製選別押印機等との接続が実現し得たのであるから,本件当時においては,原告ら2社にとっても他社製の選別押印機等との接続を実現することは,技術的にも経済的にも容易なことではなかったのである。」旨を主張するが(なお,原告らが当審において提出した甲2号証の1・2は,被告公正取引委員会の認定した事実に関する証拠としては提出されていない。),日立が豊島郵便局及び静岡南郵便局における既設機(ビデオコーディング装置)との接続について既設メーカーである原告日本電気の支援を受けざるを得なかったとしても(査85,参考人池田修の供述),これをもって「他社製の既設選別押印機及び既設台付押印機に自社製のあて名区分機を接続することが絶対的に不可能であったとまではいえない」との上記の判断が左右されるものではないというべきである(査90)。
なお,既設のあて名区分機の新型区分機対応への改良・移設に伴う既設郵便局への新型区分機の納入は,既設郵便局へ納入した当該製造業者しか行い得ないものではなく,原告ら2社のいずれもが納入することが可能である(なお,既設のあて名区分機の新型区分機対応への改良は随意契約に付されている(査57)。)。
ウ 原告らは,「本件審決案が,「選別押印機及び台付押印機をあて名区分機及び新型区分機等と接続する場合に,ある社のものを他の社のものと接続することは,接続に関する技術情報が開示されていれば可能であるとされており,」として,仮定的事実を認定し,それが現実に存在する具体的事実であるとして判断しているが,極めて不当である。」と批難する。
しかし,「接続に関する技術情報が開示されていれば可能であるとされている。」と認定すること自体は,何ら差し支えないものであり,問題は,接続に関する技術情報が開示されていたこと又は開示され得たことを認定しないで接続が可能であるとすることである。しかるところ,上記イのとおり,本件においては,原告ら2社が郵政省に情報の開示を求めれば接続に関する技術情報が開示されたものと認められるから,原告らの上記主張も採用することができない。
(4) 予備部品の添付について
原告らは,さらに,「原告ら2社において,互いに設計思想の異なる他社の区分機類の構造等を知り得ることは不可能であったから,他社の区分機類の予備部品及びこれと代替性のある部品の製造は不可能であり,したがって,それらの供給能力がなく,ひいては予備部品と結び付けられて発注された区分機類についても供給が不可能であった。」旨,「原告東芝と原告日本電気の各区分機類は,設計思想が全く異なり,したがってまた構造も異なり,企業秘密であるこれらの情報については,原告ら2社は互いに他社の区分機類のそれを有しなかったため,他社の予備部品を製造することは技術的に不可能な状況にあった。」旨を主張する。
確かに,右流れ型のあて名区分機の仕様書には原告東芝が作成した予備部品リストが,左流れ型のあて名区分機の仕様書には原告日本電気が作成した予備部品リストがそれぞれ添付されていたことが認められる(査60の11・12,61の13・14,63の12,64の10・11,69の7,70の7)。
しかしながら,上記(3)のとおり原告ら2社が郵政省に情報の開示を求めれば接続に関する技術情報が開示されたものと認められることからすれば,例えば,原告日本電気が右流れ型のあて名区分機の仕様書に添付された原告東芝の作成した予備部品リストの内容について郵政省にその開示や説明を求めるなどすれば,郵政省による開示や説明がなされてそれを理解することが可能であったと認められるから,そうとすれば,通常の事業活動の範囲内においてかつ事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく予備部品を製造することは可能であり,したがって,予備部品と結び付けられて発注された区分機類についても供給が可能であったということができるものである。原告らの上記主張も採用することができない。
(5) まとめ
以上によれば,平成7年度ないし平成9年度における区分機類の入札について,郵政省内示を受けていなかった原告も,郵政省内示を受けていない入札対象物件について,入札条件として設定された期間内に当該区分機類を製造し得る可能性があり,また,他社製の選別押印機及び台付押印機と自社製のあて名区分機とを接続し得る可能性もあり,したがって,郵政省内示を受けていた原告と競争することができる可能性があったものというべきであるから,同旨の本件審決に法令違反はないというべきである。平成7年度ないし平成9年度における区分機類の入札について実際に原告ら2社の間に競争(競札)が起こらなかったのは,郵政省内示と原告ら2社の間の後記の意思の連絡とによるものであって,原告ら2社の間において当初から競争することができなかったからではない。
(6)ア なお,仮に,原告ら主張のとおり,「郵政省から郵政省内示を受けていなかった原告は,入札対象物件のうち郵政省内示を受けていない物件については,入札日から納入期限までが極めて短期間と設定されていたこと,既設他社製選別押印機等との接続を義務づけられていたこと,等の入札条件のもとにおいては,当初から入札に参加して落札することができない状態すなわち当初から他方の原告との競争から排除されて他方の原告とは競争することができない状況(競争不能状況)にあった。」としても,別紙に記載の事実,なかでも下記イの事実によれば,原告ら2社は,指名競争入札当時から行われていた郵政省内示が一般競争入札となった平成7年度以降も引き続いて行われることを希望し,平成7年度以降は一般競争入札の方法をとるために郵政省内示は行わないとする郵政省に対して引き続きこれを行うよう強く求めたものであって,原告ら2社においても,郵政省内示が行われた場合には,平成6年度までの指名競争入札当時の実際からして,当然に入札日から納入期限までが短期間に設定され,既設他社製選別押印機等との接続に関する技術情報も特には開示されず,予備部品の特定も原告ら2社のいずれかの予備部品表の添付によってなされるものであることを容易に認識しそして予めこれを了承していたものといえるから,いわば競争不能状況は原告ら2社がそれを認識認容して自ら招いた事態ということができ,そうとすれば,今になって郵政省内示及びそれを前提とする措置を批難して,郵政省内示があったために他社と競争することができない競争不能状況が出来したものであると主張することは,禁反言の法理からしても,許されるものではないというべきである。この点からも,原告らの上記主張は採用することができない。
イ(ア) 郵政省は,区分機類を,昭和43年度から昭和61年度までは随意契約により発注し,昭和62年度から平成6年度までは指名競争入札の方法により発注していたが,平成7年度以降は一般競争入札の方法により発注することとした。
(イ) 昭和30年代の高度経済成長を背景とした郵便物取扱量の飛躍的増大に対応して,昭和43年に郵便番号制度が施行された。このような郵政省での機械化の要請に対応して,郵政省からの委託により,まず日立が昭和36年に京都中央郵便局に鍵盤式書状区分機試作機を,原告日本電気が昭和37年に東京中央郵便局に書状押印機等をそれぞれ納入した。郵政省は,昭和40年から昭和41年にかけて,上記2社に新規参入した原告東芝を加えた3社に「郵便番号自動読取装置」の研究を委託した。その結果,原告東芝が昭和42年に,光学式文字読取装置(OCR)による手書郵便番号の読取に成功し,昭和43年7月の郵便番号制度の実施(3桁/5桁)に併せて東京中央郵便局に2台の番号区分機を納入した。そして,昭和44年には,原告日本電気が手書郵便番号の読取に成功して新宿郵便局に実用機を納入した。しかし,日立はこの開発に成功せず,昭和44年,区分機類の市場から撤退した。
番号区分機の開発に当たり,原告東芝は,右流れ型を採用し,その後同社の区分機類は,基本的に右流れ型として開発されることになった。他方,原告日本電気は,左流れ型の番号区分機を開発し,その後同社の区分機類は,基本的に左流れ型として開発されることになった。
(ウ) 原告ら2社は,指名競争入札当時,かねてから,入札執行前に,郵政省の調達事務担当官等から同省の購入計画に係る各社ごとに分けられた区分機類の機種別台数,配備先郵便局等に関する情報の提示をそれぞれ受けており,原告ら2社は,それぞれ,情報の提示を受けた区分機類について,同省が自社に発注する意向を有していると認識していた。
郵政省の指名競争入札の方法による区分機類の発注において,原告ら2社のうち郵政省の調達事務担当官等から情報の提示を受けた者のみが入札に参加し情報の提示を受けなかった者は入札を辞退するという行為は相当以前から行われていた。
(エ)a 平成6年度の郵政省の区分機類の購入計画については,郵政省の調達事務担当官等は,原告ら2社に対し,次のとおり情報の提供を行った。すなわち,
施設課システム企画室の余田室長及び高橋係長は,平成6年2月16日ころ,郵政省において,原告日本電気の三浦部長及び植松部長に対し,同省の平成6年度の購入計画に係る区分機類のうち,あて名区分機(L1型)23台,新東京国際郵便局向けの国際郵便物自動読取区分機1台,あて名区分機(L2型)8台,選別押印機5台,台付押印機27台及び連結部19台の購入計画を口頭で説明するとともに,区分機類の機種別口数別台数,配備先郵便局等が記載された文書を配布することにより,情報の提示を行った。
また,余田室長及び高橋係長は,同時期ころ,郵政省において,原告東芝の須田部長及び衛藤課長に対し,同省の平成6年度の購入計画に係る区分機類の情報の提示を行った。
b 原告ら2社は,この情報の提示を受けた後,それぞれ,施設課システム企画室の調達事務担当官に対し,情報の提示を受けた区分機類の納入日,配備先郵便局等を記載した表(納入日程表)を何度も提出するなどして,情報の提示を受けた区分機類の納入日程等の調整を行った。
c 郵政省は,平成6年6月16日,同年7月4日,同月25日及び同年8月22日の計4回の指名競争入札を実施し,原告ら2社のみを指名したが,原告ら2社は,それぞれ,自社が情報の提示を受けた区分機類の物件については入札に参加したが,自社が情報の提示を受けなかった区分機類の物件については入札を辞退した。
d 仕様書には区分機類の納入期限が記載されているが,前記納入日程の調整により実際に郵便局に納入されるのは通常それより前であり,原告ら2社が受注してから納入するまでの期間が著しく短いものもあった。
(オ)a 原告ら2社は,平成6年春ころから,施設課システム企画室の調達事務担当官等から,外国事業社に入札参加の機会を広げる等のため,平成7年度以降は区分機類を一般競争入札の方法により発注する方針であることを示されていた。
b 平成6年4月15日,郵政省において,勉強会と称する会合が開催され,施設課システム企画室の余田室長,高橋係長,岡部次席ら,原告東芝の早崎部長,太田課長ら,原告日本電気の植松部長,池田課長らが出席した。この会合の主たる目的は区分機類の性能テストの結果説明等であったが,同会合の終わりころに,高橋係長から,平成7年度は区分機類を一般競争入札の方法により発注する見通しであること,指名競争入札における仕様書の「XX型と同等」という記載は一般競争入札となった場合にはできないこと,等の説明があった。これらについて,原告ら2社の出席者から特段の発言はなかった。
c 原告ら2社は,上記の平成6年4月15日の会合において施設課システム企画室の調達事務担当官から読取率の目標値案の提案及び新型区分機等の見込価格の提出を求められたことを受けて,同年4月26日に打合せを行った。
原告東芝の須田部長が作成した平成6年6月14日付け「LH-BU事業戦略 H6年度実行課題・戦略・施策」と題する電磁的記録には,①平成6年度の区分機類の利益確保という課題について,区分機類の受注価格の低下を抑制する施策として原告日本電気との共同提議・根回しを行うこと,②平成7年度の区分機類の売上高及び利益確保という課題について,区分機類の総発注額を確保するための施策として原告日本電気との共同提議・根回しを行うこと及びシェアの拡大の施策として一般競争入札の回避の提案をすること,③平成8年度以降の区分機類の利益率及びシェア確保という課題について,売上高の確保のための施策として原告日本電気及び日立との協調,との記載がされていた。
d 平成6年7月8日に機械情報システム課長に立石課長が就任し,加藤郵務局長は立石課長に価格の低廉化を図るよう指示した。
e 平成6年9月2日,郵政省において,課長勉強会と称する会合が開催され,機械情報システム課の立石課長,高橋係長ら,原告東芝の須田部長,早崎部長ら,原告日本電気の三浦部長,植松部長,江上部長らが出席した。
同会合において,一般競争入札について,郵政省側が,今の流れでは一般競争入札にせざるを得ないと説明したところ,原告ら2社側の出席者から,区分機類のような特殊機器がパソコンと同様に標準機器として一般競争入札になじむのか非常に疑問があるとの発言がなされた。これに対して,郵政省側は,流れが一般競争入札になっており,指名競争入札では随意契約とみられるので,一般競争入札と指名競争入札とでは外部の受け止め方が全然違う,と回答した。原告ら2社側から,一般競争入札にすると現在のように契約から納入までの期間が1か月から3か月と短期に定められている物件の納入に問題が生じ得るのではないかとの質問がなされたのに対し,郵政省側は,一般競争入札の場合は契約から納入までに最低6か月は必要であると考えると回答した。
f 平成6年11月1日,郵政省は,原告東芝に発注の意向を示した書留郵便物自動読取区分機について,平成7年1月13日に一般競争入札を行う旨の官報公示を行った。これは,郵便番号自動読取区分機類について初めて一般競争入札に付されたものであり,原告東芝においては,平成7年度の区分機類の入札が一般競争入札になるとの認識を高めた。
g 平成6年11月ころ,原告東芝の須田部長は,機械情報システム課の高橋係長に対し,一般競争入札の導入の中止を要請したが,高橋係長は,それはできないと断った。
平成7年1月初旬ころ,原告日本電気の植松部長は,高橋係長に対し,情報の提示を継続するように要請した。高橋係長は,立石課長の判断が未だなされていないことから,この要請に対して回答しなかった。
h 平成7年1月上旬ころ,機械情報システム課の高橋係長は,立石課長に対し,平成7年度の区分機類の購入に関し,原告ら2社に情報の提示を行うこととするか否かを尋ねたところ,立石課長は,配備計画どおりに平成7年度の区分機類が納入されないと困るので生産確認という意味で情報の提示を行う旨を回答し,情報の提示が継続されることとされた。
原告日本電気の河野主任は,平成7年1月23日ころ,原告東芝の堀江主任から,三者の打合せの前日である同月25日に原告ら2社間で仕様書に関して打合せを行いたいとの提案を受け,同日,原告ら2社の関係者が集まることとなった。原告ら2社間の打合せは,同月25日午後2時ころから行われ,その結果,①翌日の郵政省との打合せでは結論を出さないこと,②郵政省から送付された原案に手書きで記入したものを郵政省に提出し,ワープロ打ちしたものも別途提出すること,③予備部品表,付属部品表及び図面は原告ら2社のいずれかのものが添付されるようにすること,とされた。
平成7年1月26日,郵政省において,機械情報システム課の高橋係長及び小関次席,原告東芝の堀江主任,太田課長,岡澤主任及び植松主務並びに原告日本電気の河野主任,池田課長及び捧課長が出席して打合せが開催された。その会合の冒頭に,高橋係長及び小関次席から,区分機類の発注に関する方針について次のような説明がなされた。
① 平成7年度は,区分機類の発注方法を一般競争入札とするので,これまで原告東芝及び原告日本電気とで別々の仕様書にしていたのを,共通の仕様書として一本化する。
② 仕様書はあて名区分機については,口数別,L1型・L2型別に分ける。正流れ型・逆流れ型については仕様書を分けない。
③ 選別押印機,台付押印機及び連結部については,仕様書を分けず,共通化する。
④ 仕様書における処理能力,寸法,消費電力等の数値については,原告ら2社の最大公約数,すなわち,劣る方の数値に合わせる。
⑤ 上記のような仕様書の内容では,どの郵便局のどのタイプがいずれの原告に発注する意向が示されたのか不明であるので,内示は事前に実施する。
この説明に対して,原告ら2社側の出席者から特段の発言はなされなかった。原告東芝の出席者の中には内示を受けられると聞き安心した者もいた。
郵政省は,平成7年1月31日ころ,あて名区分機の仕様書の内容等について,一部方針を変更し,選別押印機及び台付押印機との連結を特に摘記し,また,あて名区分機の正流れ型,逆流れ型をそれぞれ別の仕様書とすることとした。
(カ)a 機械情報システム課の立石課長及び高橋係長は,平成7年2月ころ,原告日本電気の三浦部長及び植松部長に対し,郵政省の平成7年度の購入計画に係る区分機類のうち,あて名区分機(L1型)300口1台,同250口3台,同200口14台,同150口2台,あて名区分機(L2型)200口3台,同150口8台,選別押印機8台,台付押印機10台及び連結部5台という購入計画を口頭で説明するとともに,区分機類の機種別台数,あて名区分機にあっては速度別口数別台数,当該区分機類の配備先郵便局等が記載された文書を持ち帰り用に用意し,原告日本電気の出席者はそれを持ち帰った。
また,立石課長及び高橋係長は,平成7年2月ころ,原告東芝の須田部長及び衛藤課長に対し,郵政省の平成7年度の購入計画に係る区分機類のうち,あて名区分機(L1型)250口6台,同200口10台,同150口2台,あて名区分機(L2型)200口15台,同150口1台,選別押印機10台,台付押印機11台及び連結部12台という購入計画を口頭で説明するとともに,区分機類の機種別台数,あて名区分機にあっては速度別口数別台数,当該区分機類の配備先郵便局等が記載された文書を机上に持ち帰り用に用意し,原告東芝の出席者はそれを持ち帰った。
b 原告ら2社は,それぞれ,自社の工場部門に情報の提示が行われた物件の製造を指示するとともに,機械情報システム課の調達事務担当官とこれらの物件についてそれぞれ納入日程の調整を行った。
原告日本電気においては,機械情報システム課の小関次席と納入日程について打合せを行い,同年4月ころ納入日程表を完成させた。
原告東芝においても,小関次席と納入日程について打合せを行い,同年5月ころ納入日程表を完成させた。
c 平成7年度の区分機類の調達に係る官報公示は,平成7年5月2日に行われた。
発注する区分機類は,あて名区分機,選別押印機,台付押印機又は連結部の機種別,右流れ型又は左流れ型の流れ型別,あて名区分機にあっては150口,200口,250口又は300口の口数別,L1型又はL2型の速度別等により18物件にグループ分けされ,一般競争入札の方法により,平成7年7月3日に入札に付されることとされた。
d 平成7年度の区分機類の入札は,平成7年7月3日に行われたが,原告ら2社は,基本的に,自社に情報の提示のあった物件のみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しなかった。
e 入札後,受注した物件の納入がなされたが,原告東芝が受注した落合郵便局の物件については,契約上の納入期限は平成7年8月31日とされていたが,同郵便局の開局が同年7月31日と予定されていたことから,納入が同月10日,引渡しが同月14日と,入札後極めて短期間に行われた。
(キ)a 機械情報システム課の立石課長及び高橋係長は,平成8年2月28日ころ,原告日本電気の三浦部長及び植松部長に対し,郵政省の平成8年度の購入計画に係る区分機類のうち,あて名区分機(L1型)350口5台,同300口8台,同250口3台,選別押印機3台,台付押印機4台及び連結部1台という購入計画を口頭で説明するとともに,あて名区分機については原告日本電気が16台であるのに対し,原告東芝は19台になっていると述べた。高橋係長は,区分機類の機種別台数,あて名区分機にあっては口数別台数,当該区分機類の配備先郵便局等が記載された文書を持ち帰り用に用意し,三浦部長らがそれを持ち帰った。
また,立石課長及び高橋係長は,そのころ,原告東芝の須田部長らに対し,郵政省の平成8年度の購入計画に係る区分機類のうち,あて名区分機19台を含む購入計画を口頭で説明するとともに,区分機類の機種別台数,あて名区分機にあっては口数別台数,当該区分機類の配備先郵便局等が記載された文書を持ち帰り用に用意し,須田部長らがそれを持ち帰った。
b 原告ら2社は,それぞれ,前年度と同様な方法で,自社に情報の提示が行われた物件について,機械情報システム課と納入日程の調整を行った。
c 平成8年度の区分機類の調達に係る官報公示は,平成8年5月30日に行われた。
発注する区分機類は,あて名区分機,選別押印機,台付押印機又は連結部の機種別,右流れ型又は左流れ型の流れ型別,あて名区分機にあっては200口,250口,300口又は350口の口数別等により18物件にグループ分けされ,一般競争入札の方法により,同年8月7日に入札に付されることとされた。
d 平成8年度の区分機類の入札は,平成8年8月7日及び同月28日に行われたが,原告ら2社は,自社に情報の提示のあった物件のみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しなかった。
e 入札後,受注した物件の納入がなされたが,原告日本電気が受注した橋本郵便局及び岐阜北郵便局の物件については,契約上の納入期限は平成8年10月31日とされていたが,前記の納入日程の調整により,橋本郵便局の物件については納入が同年9月5日,岐阜北郵便局の物件については納入が同月9日,と入札後極めて短期間に行われた。また,原告東芝が受注した高津郵便局及び品川郵便局の物件については,契約上の期限が同月30日とされていたが,前記の納入日程の調整により,高津郵便局の物件については納入が同年8月25日,品川郵便局の物件については納入が同年9月1日,と入札後極めて短期間に行われた。
(ク)a 機械情報システム課の出口課長補佐は,平成8年10月ころまでに,原告ら2社それぞれに対し,平成9年度の区分機類の配備先郵便局,配備予定機種などの情報を提示し,それに基づき納入日程表の案を作成して提出するよう依頼した。
b 原告ら2社は,この依頼を受け,原告東芝にあっては堀江主任が,原告日本電気にあっては池田課長及び鈴木課長が,機械情報システム課の出口課長補佐に対し,納入日程表の案を提出し,出口課長補佐からの再検討の依頼を踏まえて修正を何回か繰り返した後,平成9年3月ないし4月ころ納入日程が確定した。平成9年度は発注される予定の区分機類の台数が非常に多く,また,玉突き移設の問題もあったため,納入日程表の修正回数はこれまでよりもはるかに多かった。
c 平成9年度の区分機類の調達に係る官報公示は,平成9年3月19日に行われた。
発注する区分機類は,新型区分機,バーコード区分機(A型),バーコード区分機(B型),選別押印機,台付押印機,連結部又は情報入力装置の機種別,このうち新型区分機,バーコード区分機(A型),バーコード区分機(B型),選別押印機及び台付押印機にあっては右流れ型又は左流れ型の流れ型別,新型区分機,バーコード区分機(A型)及びバーコード区分機(B型)にあっては200口,250口,300口又は350口の口数別等により31物件にグループ分けされ,一般競争入札の方法により,同年5月16日に入札に付されることとされた。同入札では,原告東芝に情報の提示があったと認められる物件のうち左流れ型のもの及び原告日本電気に情報の提示があったと認められる物件のうち右流れ型のものは別個にグループ分けされていた。
d 平成9年度の区分機類の入札は,平成9年5月16日に行われたが,原告ら2社は,自社に情報の提示のあった物件のみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しなかった。
e 入札後,受注した物件の納入がなされたが,原告ら2社が受注した物件について,前記の納入日程の調整により納入が入札後短期間に行われたものが相当数あった。
ウ 上記イの事実を考慮すると,前記アのとおり,今になって郵政省内示及びそれを前提とする措置を批難して,郵政省内示があったために他社と競争することができない競争不能状況が出現したものと主張することは,許されないものというべきである。
3 「意思の連絡」の不存在について
(1) 原告らは,次のとおり主張する。
本件審決案は,遅くとも平成7年度の入札日である平成7年7月3日までには「郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者のみが当該物件の入札に参加し,情報の提示のなかった者は当該物件の入札に参加しないことにより,郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者が受注できるようにする。」旨の意思の連絡すなわち本件共通の認識が形成されていたとし,原告ら2社は,本件共通の認識=意思の連絡の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにし,区分機顛の競争を実質的に制限した,としたが,この判断は誤っている。
(2)ア しかしながら,別紙に記載の事実特に下記イの事実を考慮すると,原告ら2社の間には遅くとも平成7年度の入札日である平成7年7月3日までにそれまでの指名競争入札当時と同様に「郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者のみが当該物件の入札に参加し,情報の提示のなかった者は当該物件の入札に参加しないことにより,郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者が受注できるようにする。」旨の少なくとも黙示的な意思の連絡があったものと認めることができるから,同旨の本件審決に法令違反はないというべきである。
イ(ア) 郵政省の発注する区分機類は,原告ら2社の複占市場であり,製品の開発には高度な技術と相当な期間の研究・実験が必要であるため参入障壁が高く,直ちに他の者が参入する見込みはなかった。
(イ) 原告ら2社は,区分機の読取性能が比較されて区分機類の発注見込台数に差が付けられるという認識を持っており,技術開発競争を継続してきていた。
(ウ)a 原告ら2社は,指名競争入札当時,かねてから,入札執行前に,郵政省の調達事務担当官等から同省の購入計画に係る各社ごとに分けられた区分機類の機種別台数,配備先郵便局等に関する情報の提示をそれぞれ受けており,原告ら2社は,情報の提示を受けた区分機類については同省が自社に発注する意向を有しているものと認識していた。
b 郵政省の指名競争入札の方法による区分機類の入札において,原告ら2社のうち郵政省の調達事務担当官等から情報の提示を受けた者のみが入札に参加し情報の提示を受けなかった者は入札を辞退するという行為は相当以前から行われていた。
c 郵政省が指名競争入札の方法により発注した昭和62年度から平成6年度までの区分機類について,原告ら2社はそれぞれ同省の総発注額のおおむね半分ずつを受注していた。
d 郵政省における平成6年ころから平成9年ころまでの区分機類の配備状況をみると,北海道郵政局,信越郵政局,北陸郵政局,九州郵政局及び沖縄郵政管理事務所管内の郵便局には原告東芝のもののみが配備され,東北郵政局及び四国郵政局管内の郵便局には原告日本電気のもののみが配備されていたが,原告ら2社は,自らの区分機類が配備されていない郵政局管内においては,原則として営業活動を行っていなかった。
(エ)a 平成6年4月15日,郵政省において,勉強会と称する会合が開催され,原告東芝の早崎部長ら,原告日本電気の植松部長らが出席したが,この会合の終わりころに,郵政省の高橋係長から,平成7年度は区分機類を一般競争入札の方法により発注する見通しであること等の説明があった。
b 原告ら2社は,上記の平成6年4月15日の会合において施設課システム企画室の調達事務担当官から読取率の目標値案の提案及び新型区分機等の見込価格の提出を求められたことを受けて,同年4月26日に打合せを行った。
原告東芝の須田部長が作成した平成6年6月14日付け「LH-BU事業戦略 H6年度実行課題・戦略・施策」と題する電磁的記録には,①平成6年度の区分機類の利益確保という課題について,区分機類の受注価格の低下を抑制する施策として原告日本電気との共同提議・根回しを行うこと,②平成7年度の区分機類の売上高及び利益確保という課題について,区分機類の総発注額を確保するための施策として原告日本電気との共同提議・根回しを行うこと及びシェアの拡大の施策として一般競争入札の回避の提案をすること,③平成8年度以降の区分機類の利益率及びシェア確保という課題について,売上高の確保のための施策として原告日本電気及び日立との協調,との記載がされていた。
c 平成6年9月2日,郵政省において,課長勉強会と称する会合が開催され,原告東芝の須田部長ら,原告日本電気の三浦部長らが出席したが,同会合において,一般競争入札について,郵政省側が,今の流れでは一般競争入札にせざるを得ないと説明したところ,原告ら2社側の出席者から,区分機類のような特殊機器がパソコンと同様に標準機器として一般競争入札になじむのか非常に疑間があるとの発言がなされ,また,一般競争入札にすると現在のように契約から納入までの期間が1か月から3か月と短期に定められている物件の納入に問題が生じ得るのではないかとの質間がなされ,これに対して,郵政省側は,一般競争入札の場合は契約から納入までに最低6か月は必要であると考えると回答した。
d 平成6年11月ころ,原告東芝の須田部長は,機械情報システム課の高橋係長に対し,一般競争入札の導入の中止を要請し,平成7年1月初旬ころ,原告日本電気の植松部長は,高橋係長に対して,情報の提示を継続するよう要請した。
e 原告日本電気の河野主任は,平成7年1月23日ころ,原告東芝の堀江主任から,三者の打合せの前日である同月25日に原告ら2社間で仕様書に関して打合せを行いたいとの提案を受け,同日,原告ら2社の関係者が集まることとなった。原告ら2社間の打合せは,同月25日午後2時ころから行われ,その結果,①翌日の郵政省との打合せでは結論を出さないこと,②郵政省から送付された原案に手書きで記入したものを郵政省に提出し,ワープロ打ちしたものも別途提出すること,③予備部品表,付属部品表及び図面は原告ら2社のいずれかのものが添付されるようにすること,とされた。
f 平成7年1月26日,郵政省において,原告ら2社が出席した打合せが開催され,その冒頭に,郵政省の高橋係長及び小関次席から区分機類の発注に関する方針についての説明があり,平成7年度は,区分機類の発注方法を一般競争入札とするので,これまで原告東芝及び原告日本電気とで別々の仕様書にしていたのを共通の仕様書として一本化すること,仕様書は,あて名区分機については,口数別,L1型・L2型別に分け,正流れ型・逆流れ型については仕様書を分けないこと,上記のような仕様書の内容ではどの郵便局のどのタイプがいずれの原告に発注する意向が示されたのか不明であるので内示は事前に実施すること,等の説明がなされた。この説明に対して,原告ら2社側の出席者からは特段の発言がなされなかったが,原告東芝の出席者の中には内示を受けられると聞いて安心した者もいた。
(オ)a そして,平成7年度の区分機類の一般競争入札については,平成7年2月ころに原告ら2社に対してそれぞれ情報の提示がなされ,原告ら2社はそれぞれ自社に情報の提示があった物件についてのみ郵政省との間で納入日程調整を行い,そして,原告ら2社は,基本的に,自社に情報の提示のあった物件についてのみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しなかった。落札金額を予定価格で除した落札率はすべての物件について99.9%を超えていた。
b 平成8年度の区分機類の一般競争入札については,平成8年2月28日ころに原告ら2社に対してそれぞれ情報の提示がなされ,原告ら2社はそれぞれ自社に情報の提示があった物件についてのみ郵政省との間で納入日程調整を行い,そして,原告ら2社は,自社に情報の提示があった物件についてのみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しなかった。落札率はすべての物件について99.8%を超えていた。
c 平成9年度の区分機類(新型区分機が中心)の一般競争入札については,平成8年10月ころまでに原告ら2社に対してそれぞれ情報の提示がなされ,原告ら2社はそれぞれ自社に情報の提示があった物件についてのみ郵政省との間で納入日程調整を行い,そして,原告ら2社は,自社に情報の提示のあった物件についてのみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しなかった。落札率はすべての物件について99.5%を超えていた。
d 原告ら2社は,郵政省が平成7年4月1日から平成9年5月16日までの間に一般競争入札の方法により発注した区分機類の物件71物件中の70物件を受注し,それぞれが同省の総発注額のおおむね半分ずつを受注した。
(カ)a 平成9年12月10日,公正取引委員会が原告ら2社に立入検査を行ったところ,郵政省はその後情報の提示を行わなくなり,納入日程の調整も入札後に行われるようになって,入札日から初回の納入期限までの期間も短期間に設定されることがなくなった。
平成10年2月27日の区分機類の一般競争入札から日立が参入し,日立が参加した物件は少なくとも2社の競争となった。
b 日立は,当初右流れ型の区分機類に参入し,原告東芝との競札となった。平成10年2月27日の入札では2物件が原告東芝と日立との競札となったが,これらの物件の落札率は約96.5%と94.1%であり,それまでよりも下がった。平成10年6月9日の入札からは原告東芝が左流れ型の区分機類に本格的に参入し,原告日本電気と競札するようになった。同日に原告東芝と日立とが競札となった13物件の落札率は,約77.1%から約99.5%までであり,原告2社が競札になった10物件の落札率は約75.2%から約95.5%までであった。平成11年3月19日の入札からは日立が左流れ型の区分機類にも参入し,原告日本電気が右流れ型の区分機類に本格的に参入したことから,すべての物件について原告ら2社と日立の3社あるいは原告ら2社の競札となったが,同日に3社が競札となった11物件の落札率は約40.5%から約84.4%までに下がり,原告ら2社が競札となった8物件の落札率は約65.5%から約98.5%までであった。
ウ 上記イの事実(中でも(ウ)b,(エ)d,(オ)のa~cの事実),そして,原告ら2社はいずれも郵政省内示を積極的に受け入れておりもとよりこれに異議を唱えたことはなかったことを考慮すると,原告ら2社の間には遅くとも平成7年度の入札日である平成7年7月3日までに従前の指名競争入札当時と同様に「郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者のみが当該物件の入札に参加し,情報の提示のなかった者は当該物件の入札に参加しないことにより,郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者が受注できるようにする。」旨の少なくとも黙示的な意思の連絡があったことは優に認められるものというべきであり,原告らの上記主張は採用することができないものというべきである。なお,本件を当庁に差し戻した前記上告審判決も,「本件違反行為は,被上告人らにおいて,共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注することができるようにしていた行為であって,担当官等からの情報の提示は受注予定者を決定するための手段にすぎない。」と述べている。
本件において,買手が郵政省一者のみである事実も,郵政省自身が前記のように主導的に情報の提示や納入日程調整を行う反面において製造業者が原告ら2社のみであることから郵政省も価格の決定やアフターケアなどの点で原告ら2社に依存する関係にもあったことを考慮すると,郵政省が必ずしも原告ら2社に対して強い優越的地位に立っていたとまでは認められず,原告ら2社が郵政省に従属していて利益追求についてその自由な意思決定ができない状況にあったとは認め難いものというべきであるから,上記の判断を左右しないものというべきである。
なお,また,仮に郵政省がその内示を行うことによって原告ら2社の間に実際の競争が生じることがないようにするとの意図を有していたとしても,そのような意図があるからといってただちに原告ら2社の間に意思の連絡が不要となるとはいえず,むしろ,原告ら2社は,郵政省内示がなされることを前提として,部分的にはそれに不満なところがあるとしても原則としてそれに依拠しそれに従って「情報の提示のあった者のみが当該物件の入札に参加し,情報の提示のなかった者は当該物件の入札に参加しない。」旨の暗黙の合意をなしていたものと認められるのである。
(3) 原告らは,「東芝ケミカル事件と本件とでは事案の内容が重要な点において異なっているから,東芝ケミカル事件の判決を本件において判断基準とすることはできないものである。」旨を主張するが,東芝ケミカル事件の判決で示された判断基準を一般的な基準として本件に適用すること自体は何ら差支えないものであるから,原告らの上記主張は採用することができない。
(4) 原告らは,「本件審決案は,不当にも,郵政省内示の持つ意味を軽視し,郵政省内示と原告ら2社の意思の連絡とを不可分一体のものとして取り扱い,郵政省内示を受けなかった原告が当該物件の入札に参加しなかったという事態は郵政省内示を受けなかったという事実のみによって生じたにもかかわらず,原告ら2社の意思の連絡なしには生じない事態であったとして巧妙なすり替えを行っている。」旨,「本件審決案は,合法的な一方的行為ないし独立的行為と違法な相互的合意とを混同した違法がある。」旨,「事業者は,競争の自由が保障されているのみではなく,競争しない自由も保障されている。競争を義務としてそれを命じた法は存在しないのである。カルテルは,基本的に,カルテルがなかったら得られない経済的利得を相互に保障する合意であって,それゆえに違法とされるものであるが,本件においては,原告ら2社のうちのいずれか1社が特定の区分機類について郵政省内示を受けた場合には,郵政省内示を受けなかった他の原告は,入札に参加することが不可能であったことから,その原告は他の原告との意思の連絡なくして自律的な経営判断のもとに入札不参加を決定していたのである。意思の連絡などはなく,その必要も全くなかったのである。」旨,を主張する。
しかし,入札に付されたすべての物件について実際に競札が生じておらず,原告ら2社においては,情報の提示を受けた者のみが情報の提示を受けた物件の入札に参加し情報の提示を受けなかった者は情報の提示を受けなかった物件については入札に参加しないという不自然に一致した行動をとっていること,そもそも原告ら2社は区分機類を巡っては本来的に競争関係にあるはずのものであり,実際にも原告ら2社は区分機類の読取性能が比較されて発注見込台数に差が付けられるとの認識の下に技術開発競争を継続してきた経緯があること,等の上記(2)イの事実に徴すると,郵政省内示を受けなかった原告が当該物件の入札に参加しなかったという事実を郵政省内示を受けなかったという事実のみによって説明することすなわちその事実のみによって生じたものであると認めることは困難というべきであり,郵政省内示に加えて,この郵政省内示の有無によって入札に参加するか否かを決めるという原告ら2社間の暗黙の意思の連絡にもよるものと認めるのが相当であって,このような意思の連絡なくして原告ら2社がたまたま結果的に同じ行動をとったものとは考え難いものである。原告らの上記主張も採用することができない。
4 実質的証拠の法理の観点からの違法性について
(1) 原告らは,「本件審決案は,原告ら2社の間に意思の連絡があったことを直接に立証する証拠がないことから,多数の間接事実を認定し,これによって意思の連絡があったものとしているが,認定された間接事実の中には前記のとおり仮定的事実や概括的認定事実が含まれていることのほかに,その間接事実の取出し自体が恣意的なものがあり,また,取り出した間接事実の持つ意味についても過大に評価している(意思の連絡があったことの認定の妨げとなる事実はことさらに無視ないしはその事実の持つ意味を著しく過小に評価している。)。」旨を主張する。
しかし,上記3でみたとおり,本件審決案が認定した別紙に記載の事実によると,原告ら2社の間には遅くとも平成7年度の入札日である平成7年7月3日までにそれまでの指名競争入札当時と同様に「郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者のみが当該物件の入札に参加し,情報の提示のなかった者は当該物件の入札に参加しないことにより,郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者が受注できるようにする。」旨の少なくとも黙示的な意思の連絡があったことは優に認められるから,原告らの上記主張は採用することができない。
(2) 原告らは,「本件審決案は,郵政省が独占的買主であることを認めたが,この事実は原告ら2社の間における「意思の連絡を難しくすることとはならない」と評価したにとどまり,郵政省が独占的買主として市場支配力を行使し,平成7年度ないし平成9年度の区分機類の一般競争入札において採った入札の執行者としては到底許されない一連の行為については,その事実自体は認定しながらも,何ら合理的な説明を示していない。」旨を主張する。
しかし,本件審決案(87頁)は,「他方,買手が一者のみである場合には,売手に対し拮抗力を有し,売手に譲歩を求め得るので,一般的には,買手が分散している場合と比べて,売手間で意思の連絡をすることが難しいと言われている。しかし,本件においては,前記(2)ア①のとおり区分機類の買手は郵政省(国)のみであるが,郵政省が前記(2)ア⑥のとおり情報の提示,納入日程の調整等を行うなど被審人2社と相互に依存する関係にあるところ,これを勘案すると郵政省が買手独占として存在することは必ずしも売手間の意思の連絡を難しくすることとはならない。また,前記(2)ア②のとおり区分機類が耐久財であり,技術革新が進行しており,さらに売手による一定のサービスを要することも,一般的には,消費財で,技術的に成熟し,何らのサービスも要しない商品と比べて売手側の検討すべき内容が多くなり,意思の連絡の内容が複雑化するため意思の連絡を困難とすると言えるが,郵政省により被審人2社が長年にわたり技術競争を促され,両社の製品,サービスが均質化,同等化してきていることがうかがわれることからすれば,このような製品の特質は必ずしも意思の連絡を難しくするように作用するものではないものと認められる。」と述べており,これは郵政省が平成7年度ないし平成9年度の区分機類の一般競争入札において採った一連の措置(情報の提示から納入日程の調整を経て納入まで)との関係において述べているものと認められるから,原告らの上記主張は採用することができない。
原告らは,本件審決案の上記見解は独占的買手と寡占的売手との力関係についての無理解によるものであって不合理で誤っている旨を主張するが,しかし,たとえ,郵政省が区分機類の唯一の買主であって他に買主が生じる余地がなく,郵政省がそれに相応した市場支配力を有していて,原告ら2社に対してそれなりに優越的地位にあったとしても,他方で,区分機類の製造業者も原告ら2社のみであったのであって,郵政省も原告ら2社が区分機類市場(区分機類事業)から撤退すると区分機類の購入配備計画の遂行に支障をきたすこととなって困るのであり,郵政省としても原告ら2社を市場から撤退させない範囲内において価格を下げさせあるいはアフターケア等のサービスを行わせる必要があったのであり,必ずしも郵政省が原告ら2社に対して強い優越的地位にあったとは認められず,その限りでは郵政省も原告ら2社に依存する関係にあったということができるのである。そして,原告ら2社の間においては,平成6年度ないし平成9年度当時,その製造する区分機類の性能・品質には流れ型の点を除いて大差はなく,アフターケア等のサービスにおいても大差のない状態にあったのであって,原告ら2社は区分機類を巡っては本来的には競争関係にあったはずのものであり,原告ら2社にとって他社が郵政省とことさらに結びついて自社に内示される物件数が少なくなることは非常に困ることであり,これを警戒し阻止すべき状況にあったのである。そうとすれば,指名競争入札当時においておおむね平等に郵政省内示がなされてきたことを前提として,原告ら2社の間において「郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者のみが当該物件の入札に参加し,情報の提示のなかった者は当該物件の入札に参加しないことにより,郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者が受注できるようにする。」旨の意思の連絡がなされることは,むしろ自然のなりゆきであり,原告ら2社が互いにほぼ半分ずつを安定的,継続的かつ確実に受注するためには必要な措置であったのである。郵政省内示は,たとえその内容が原告ら2社にとって全く平等ではなかったとしても,原告ら2社において受け入れるべき行動の準則としての意味を持っていたのであり,原告ら2社の上記の意思の連絡は郵政省内示があることを不可欠の前提としてこれに依拠してなされたものである。郵政省が独占的買主であったことと原告ら2社の間で意思の連絡がなされることとは必ずしも矛盾するものではないのである。
(3) 原告らは,「本件審決案は,平成9年1月30日に入札が行われた新型試行機については,入札前である平成8年12月12日ころに郵政省が既に内示どおり「配備済み」であるとして機械番号まで付して原告ら2社に通知していた事実があり,この事実からすれば,郵政省は内示により入札前に受注予定者が特定されているとの認識を有していたにもかかわらず,上記の通知に川越西局に配備する区分機類の製造業者として日立・AEGの名称が記載されていることをもって郵政省が上記の認識を持っていたということはできないとしたが,川越西局の日立・AEGの区分機は平成6年から随意契約にて継続していた実験機であるから,明白な事実誤認であり,理由不備の違法もある。」旨を主張する。
確かに,平成8年12月12日付けの「新型区分機等の機械番号について(再修正版)」と題する書面(審18の2)が平澤次席によって原告日本電気にファクシミリ送信されていることが認められる。しかし,平澤努の審査官に対する供述を録取した調書(査96)によれば,平成9年1月30日に行われる予定の一般競争入札によって受注者が定まる平成8年度の購入計画に係る新型区分機及びバーコード区分機の試行機8台までもが「配備済み」であるとの認識のもとに上記の書面が作成されて送信されたものとは認め難く,平澤次席は新型区分機及びバーコード区分機に付ける機械番号をどのような体系にするかを検討する目的で製造業者の意見を聴くために作成して送信したものと認められるから,上記の平澤次席作成の書面(審18の2)をもって郵政省が一般競争入札前の内示により受注予定者が特定されていると認識していたものと認めることはできないものというべきである。原告らの上記主張も採用することができない。
(4) 原告らは,「本件審決案は,原告ら2社が「自社に情報の提示があった物件についてのみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しない」という行動(原告らの併行行為)を採ったとし,この原告らの併行行為につき,「競争することが可能な物件が相当数ある中で,すべてについて整然と前記行動を採ったことは不自然であり,また,このような行動は他の者が同様の行動を採ることを予期してこれと歩調を合わせることによってのみ達成が可能なものである」としているが,併行行為と見られる事態が生じたのは,郵政省内示によってでありかつこれのみによって生じた事態であるにもかかわらず,これについて全く考慮することなく,原告らの併行行為をもって意思の連絡を推認する間接事実としているのは,一方的・専断的な判断というべきである。」旨を主張する。
しかし,前記のとおり,原告ら2社が「自社に情報の提示があった物件についてのみ入札に参加し,自社に情報の提示がなかった物件については入札に参加しない」という行動をとったのは,郵政省内示を前提として遅くとも平成7年度の入札日である平成7年7月3日までに原告ら2社の間でなされた黙示的な意思の連絡によるものと認められるから,原告らの上記主張も採用することができない。
(5) 原告らは,「平成7年度ないし平成9年度の区分機類の調達の実態については具体的事実を綿密かつ詳細に認定することが必要であるのに,本件審決案は極めて概括的な事実しか認定していない。具体的事実をみれば,平成8年度の原告東芝の日本橋郵便局の例,同年度の原告日本電気の橋本郵便局の例のように,いずれも入札日前から郵政省内示により製造が開始され,配備先郵便局との打合せ等を了して,入札,契約後短期間での納入,教育,等を完了していることが容易に認定できるのである。」旨を主張するが,本件審決案は,別紙の記載からも知れるとおり,具体的事実を詳細に認定して判断しているから,原告らの一ヒ記主張も採用することができない。なお,上記の事実も,郵政省内示を受けていなかった原告も郵政省内示を受けていた原告と競争することができる可能性があったとの前記結論を覆すに足りない。
(6) 原告らは,「本件審決案は,原告らが主張した「予備部品は,各社各様のもので互換性はないうえ,その予備部品リストによっては,詳細情報が不明であるから,他の原告はこれを製造できない。」との主張に対して判断を示していない。仕様書に予備部品リストが添付されていたことは,郵政省内示を受けなかった原告が入札対象物件のうち内示を受けなかった物件については落札・契約締結をすることが不可能であったことを推認させる重要な間接事実であり,この間接事実を全く無視した本件審決案は一方的・専断的なものというべきである。」旨を主張する。
しかし,本件審決案(25頁,29頁,32頁,35頁)は,仕様書には右流れ型には原告東芝が作成した予備部品リストが左流れ型には原告日本電気が作成した予備部品リストが添付されていた旨を認定しているのであり,そして,入札日から納入期限までの期間の点及び既設他社製選別押印機等との接続の点について判断していることからすると,原告らの上記主張はこれを採用しないものと黙示的に判断しているものと推知されるから,原告らの上記主張も採用することができない。
なお,仕様書に予備部品リストが添付されていたとしても,予備部品リストの内容について郵政省にその開示や説明を求めるなどすれば,郵政省による開示や説明がなされてそれを理解することは可能であったと認められる(前記2(4))。
(7) 原告らは,「本件審決案は,他社製の既設機とあて名区分機との接続について,「当該既設選別押印機等との接続に関する技術情報が開示される必要があるが,当時は,この技術情報は開示されていなかった」と認定しながら,「接続に関する技術情報が開示されれば技術的に可能であり」と仮定的事実を認定した上,「郵政省に技術情報の開示を求められた事業者への過分な負担を強いるものではない」とするが,この点についても詳細な証拠評価を誤っている。すなわち,原告ら2社の有する技術情報は重要な知的財産であって,企業秘密であり,その技術情報の開示は容易にはなされず,現に本件当時もなされていなかったのである。本件後,日立が参入した際には,日立が相当な経済的負担をすることを条件に開示されたのであるが,日立も結局は既設機との接続を行うことができず,既設機のメーカーである原告日本電気がこれに対処したのであった。」旨を主張する。
しかし,原告ら2社の有する技術情報が重要な知的財産であったとしても,日立が平成10年4月9日付け文書で郵政省に対して原告東芝製及び原告日本電気製の選別押印機等との接続に関する技術情報の開示を求めたのに対し,機械情報システム課はこれに応じて同年5月8日付け文書で技術情報を開示したのであり,これによれば,原告ら2社が郵政省に情報の開示を求めれば接続に関する技術情報が開示されたものと認められ,そうとすれば,他社製の既設選別押印機及び既設台付押印機に自社製のあて名区分機を接続することが絶対的に不可能であったとまではいえず,そして,たとえ,日立が豊島郵便局及び静岡南郵便局における既設機(ビデオコーディング装置)との接続について既設メーカーである原告日本電気の支援を受けざるを得なかった事実があったとしても,これをもって「他社製の既設選別押印機及び既設台付押印機に自社製のあて名区分機を接続することが絶対的に不可能であったとまではいえない」との上記の判断が左右されるものでないことは,前記2(3)で判断したとおりである。原告らの上記主張も採用することができない。
5 独禁法2条6項の「公共の利益に反して」の解釈適用の誤りについて
(1)ア 原告らは,「本件は,独占的買主(発注者)である郵政省が,その郵便処理機械化による効率性の向上,経費の削減等を目的とする郵便事業の大改革及びこれによる消費者利益の確保という国家的プロジェクトを確実に実現するために,郵便処理機械化のための区分機類の製造販売業者(売主・受注者)側の立場にある原告ら2社のそれぞれに協力を求めた事案であって,これまで独禁法上問題とされることのなかった特殊な類型の事案であるから,このような見地からしても,本件の実態は,直ちに違法と評価すべきものではなく,独禁法1条の究極の目的に実質的に反しないかどうかを考慮して判断すべきものである。」旨を主張する。
しかし,原告らの指摘する最高裁昭和59年2月24日第二小法廷判決の基準に従い本件違反行為が独禁法2条6項にいう「公共の利益に反して」との要件を満たすか否かを判断するとしても,本件審決案が認定した別紙に記載の事実によれば,原告ら2社は郵政省の区分機類の発注のおおむね半分ずつを安定的,継続的かつ確実に受注する目的を持って本件違反行為を行っていたものと認められるから,原告ら2社の本件違反行為が「公共の利益に反して」いることは明らかであり,原告らの上記主張は採用することができない。現に,前記3(2)イのとおり,平成11年3月19日の入札からはすべての物件について原告ら2社と日立との3社あるいは原告ら2社の競札となったが,同日の落札率は約40.5%から約84.4%あるいは約65.5%から約98.5%までと大幅に下がっているのである。
イ 原告らは,「本件における郵政省の区分機類の原告ら2社からの調達は,次のような消費者利益を確保するための国家的プロジェクトを実現するために行われたものである。」として,①郵政省は,郵政審議会の答申に基づき,新郵便処理システムを平成10年2月2日までに実施するため,全国の主要な郵便局が新郵便処理システムに対応することができるよう,新型区分機類の配備及び旧型区分機類の改造を統合的・組織的に行い,かつ,郵便局職員の研修等をして,新郵便処理システムが同日までに有効に機能する体制を完了するための作業(新郵便処理システム配備作業)を遂行する必要があったこと,②郵政省は,平成10年2月2日までに新郵便処理システム配備作業を行うことによって,郵便事業に従事する従業員の多数を整理し,多額の経費節減を図り,増加する郵便物数に対処するとともに,郵便料金の据え置き(実質値下げ)を実現する等,郵便事業の「消費者の利益を確保する」ことに努め,この区分機類の導入によって,平成13年度末までの間に限っても,約5700人の人員削減を実現し,上記の目的を達成するに至ったこと,等を主張する。
しかし,上記の点を考慮しても,なお,本件違反行為が「公共の利益に反して」いないものということはできないものというべきであって,原告らの上記主張も採用することができない。
(2) 原告らは,「本件審決案は,「公共の利益に反して」と独禁法2条6項の文言をそのまま記載するにとどまり,具体的事実に基づいてその根拠を明らかにしていない。しかしながら,独禁法2条6項は,「不当な取引制限」の積極要件として「公共の利益に反して」と規定しているのであるから,「公共の利益に反して」の要件に該当する事実を本件審決案に記載すべきものである。本件審決案は,理由不備の違法を有する。」旨を主張する。
確かに,独禁法57条1項は,審決書には公正取引委員会の認定した事実及びこれに対する法令の適用を示さなければならない旨を定めているが,本件審決案には,「公共の利益に反して」の要件に該当する旨の判断の基礎となった認定事実が明示的には記載されていない。
しかしながら,本件は,原告ら2社が,「郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者のみが当該物件の入札に参加し,情報の提示のなかった者は当該物件の入札に参加しないことにより,郵政省の調達事務担当官等から情報の提示のあった者が受注できるようにする。」旨の意思の連絡のもとに,この意思の連絡に基づいて,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていたものであって,本件審決案はそのような行為を「公共の利益に反して」いるものと評価していることは明らかであるから,原告らの上記主張も採用することができない。
6 憲法14条1項違反について
原告らは,原告らに対してのみ排除確保措置を命じた被告公正取引委員会の本件審決は憲法14条1項に違反する旨を主張するが,別紙に記載の事実に徴すると,我が国における独禁法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する被告公正取引委員会がその専門的な判断によって原告らに対し排除確保措置を命じ(独禁法54条2項),郵政省に対しては再発防止措置を文書で要請するにとどめたことが,憲法14条1項に違反するものとはいえないから,原告らの上記主張も採用することができない。
7 まとめ
以上のとおりであり,原告らの主張はいずれも採用することができず,また,本件審決書には独禁法54条2項所定の「特に必要があるとき」の要件に該当する旨の判断の基礎となった公正取引委員会の認定事実が示されているということができることは,本件を当庁に差し戻した前記上告審判決が理由中で説示するところであるから,本件審決を取り消す事由は存しないものである。
なお,もとより,このことは,本件違反行為の発生について入札執行者である郵政省に全く責任がないことを意味するものではないが(ただし,本件は,入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律(平成14年7月31日法律第101号)の施行前の事件である。),しかし,逆にそれによって原告ら2社の責任が免除されるわけでもない。
第4 結論
よって,原告らの本件請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

(別紙略)



平成20年12月19日

東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官 原田 敏章
裁判官 気賀澤 耕一
裁判官 長久保 守夫
裁判官 石栗 正子
裁判官 小出 邦夫

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