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(株)平野組ほか79名に対する件

独禁法3条後段

平成17年(判)第14号

審判審決

審決書別紙1被審人目録記載の被審人ら

公正取引委員会は,上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づく平成17年(判)第14号独占禁止法違反審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第82条の規定により審判長審判官中出孝典及び審判官秋信彦から提出された事件記録並びに規則第84条の規定により被審人ら(別紙1被審人目録記載の被審人らのうち被審人株式会社堀切を除く。)から提出された異議の申立書及び規則第86条の規定により被審人ら(別紙1被審人目録記載の被審人らのうち被審人北水建設工業株式会社,同南建設株式会社,同株式会社土橋工務店及び同株式会社堀切を除く。)から聴取した陳述に基づいて,同審判官らから提出された別紙7審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
1 別紙1被審人目録記載の被審人らのうち被審人株式会社ビックランドを除く被審人79社(以下「被審人79社」という。)は,それぞれ,自社を除く被審人ら並びに別紙3,別紙4及び別紙5記載の事業者と共同して,遅くとも平成13年4月1日(別紙6記載の事業者にあっては,それぞれ,遅くとも「期日」欄記載の年月日ころ)以降行っていた,岩手県が条件付一般競争入札,受注希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法により,Aの等級に格付している者のうち岩手県内に本店を置く者(これらの者のみを構成員とする特定共同企業体を含む。)のみを入札参加者として発注する建築一式工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている旨を確認することを取締役会等の業務執行の決定機関において決議しなければならない。
2 被審人79社は,それぞれ,次の事項を,被審人79社のうち自社を除く78社及び岩手県に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
(1) 前項に基づいて採った措置
(2) 今後,共同して,岩手県が条件付一般競争入札,受注希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法により発注する前記工事について,受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨
3 被審人79社は,今後,それぞれ,相互の間において又は他の事業者と共同して,岩手県が競争入札の方法により発注する前記工事について,受注予定者を決定してはならない。
4 被審人79社は,前3項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
5 被審人株式会社ビックランドが,被審人79社並びに別紙3,別紙4及び別紙5記載の事業者と共同して,遅くとも平成13年4月1日以降行っていた,前記第1項記載の建築一式工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為は,独占禁止法第3条の規定に違反するものであり,かつ,当該行為は既に無くなっていると認める。
6 被審人株式会社ビックランドの前項の違反行為については,同被審人に対し,格別の措置を命じない。

理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,後記第2項のとおり加えるほかは,いずれも別紙7審決案の理由第1ないし第5と同一であるから,これらを引用する。
2 被審人株式会社ビックランドは,平成21年1月19日に解散の決議をし,同年3月25日,会社法(平成17年法律第86号)第514条の規定に基づき,東京地方裁判所の命令により,同被審人に対し特別清算が開始されたこと,また,同年12月16日,同法第573条の規定に基づき,同被審人に対し特別清算手続終結の決定が確定し,同月22日に同登記が了されていることから,事業を再開する見込みはないと認められる。したがって,同被審人に対しては,排除措置を命ずる必要があるとは認められない。
3 よって,被審人79社に対し,独占禁止法第54条第2項及び規則第87条第1項の規定により,被審人株式会社ビックランドに対し,独占禁止法第54条第3項及び規則第87条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成22年3月23日

公正取引委員会
委員長 竹島 一彦
委 員 後藤  晃
委 員 神垣 清水
委 員 濵田 道代
委 員 細川  清

別紙1 
被審人目録
事業者 本店の所在地 代表者
1 株式会社平野組  岩手県一関市竹山町6番4号 代表取締役  須田 光宏
2 株式会社高光建設  盛岡市上堂二丁目4番15号  代表取締役 高橋 精一
3 宮城建設株式会社  岩手県久慈市新中の橋第4地割35番地の3  代表取締役  宮城 政章
4 株式会社タカヤ  盛岡市下太田杉田52番地1  代表取締役  望月 郁夫
5 株式会社佐々木組  岩手県一関市山目字中野140番地5  代表取締役  佐々木一嘉
6 千田工業株式会社  岩手県北上市九年橋一丁目10番29号  代表取締役 千田 敏夫
7 大伸工業株式会社 盛岡市永井14地割5番地 代表取締役 猿舘 伸俊
8 株式会社匠建設  岩手県大船渡市盛町字内ノ目12番地13  代表取締役  中嶋  豊
9 高惣建設株式会社 岩手県奥州市水沢区花園町一丁目1番7号 代表取締役 髙橋 健二
10 佐藤建設工業株式会社  岩手県二戸市金田一字八ッ長88番13 代表取締役  米田 芳廣
11 株式会社小山組  岩手県久慈市新井田第4地割8番地6 代表取締役 小山  茂
12 中亀建設株式会社  盛岡市仙北一丁目16番5号 代表取締役 中村 康彦
13 株式会社伊藤組  岩手県花巻市南城241番地 代表取締役 伊藤 智仁
14 陸中建設株式会社  岩手県宮古市宮町一丁目3番5号 代表取締役 伊藤  敏
15 株式会社吉田組  岩手県八幡平市松尾寄木第12地割10番地 代表取締役 吉田 知義
16 藤正建設株式会社   岩手県花巻市桜木町二丁目164番地 代表取締役 照井キミエ
17 株式会社新田組  岩手県久慈市八日町一丁目20番地 代表取締役 新田 貞治
18 大森工業株式会社  岩手県一関市宮下町8番11号 代表取締役 大森 琢哉
19 タカヨ建設株式会社  岩手県紫波郡矢巾町大字下矢次第2地割23番地 代表取締役 髙橋 貞雄
20 株式会社橋本工務店  岩手県一関市千厩町千厩字岩間36番地1 代表取締役 橋本  健
21 下建設株式会社  盛岡市菜園一丁目6番3号 代表取締役 下  光
22 株式会社中舘建設  岩手県二戸市堀野字馬場50番地 代表取締役 中舘  眞
23 橘建設株式会社  岩手県紫波郡紫波町桜町字大坪35番地の1 代表取締役 橘  冨雄
24 株式会社佐賀組  岩手県大船渡市盛町字田中島27番地1 代表取締役 金野 辰雄
25 菱和建設株式会社  盛岡市みたけ一丁目6番30号 代表取締役 及川  力 
26 株式会社照甲組  岩手県花巻市桜町一丁目417番地 代表取締役 照井 泰平
27 松田建設株式会社  岩手県遠野市材木町1番2号 代表取締役 松田  孝
28 株式会社丹野組  岩手県二戸市福岡字中村20番地 代表取締役 丹野 明法
29 北水建設工業株式会社  盛岡市名須川町18番16号 代表取締役 伊藤 篤宏
30 株式会社長谷川建設  岩手県陸前高田市高田町字本宿97番地5 代表取締役 長谷川順一
31 蒲野建設株式会社  岩手県久慈市山形町川井第9地割32番地2 代表取締役 蒲野 秀雄
32 東野建設工業株式会社  盛岡市加賀野二丁目8番15号 代表取締役 東野 久晃
33 吉武建設株式会社  盛岡市茶畑二丁目7番19号 代表取締役 吉田 悦子
34 株式会社小原建設  岩手県北上市村崎野15地割312番地8 代表取締役 小原 志朗
35 佐々勇建設株式会社  岩手県宮古市黒田町2番15号 代表取締役 佐々木 保
36 株式会社山長建設  岩手県釜石市大只越町一丁目2番15号 代表取締役 山﨑 和雄
37 株式会社八幡建設  岩手県釜石市両石町第4地割26番地12 代表取締役 八幡 康正
38 丸谷興務店株式会社  岩手県奥州市水沢区佐倉河字東沖ノ目102番地 代表取締役 佐藤  毅
39 株式会社板宮建設  岩手県胆沢郡金ケ崎町西根矢来19番地 代表取締役 板宮 一善
40 株式会社恵工業  盛岡市上堂四丁目11番29号 代表取締役 菊地 國生
41 株式会社杉山組  岩手県大船渡市赤崎町字諏訪前36番地7 代表取締役 杉山 隆一
42 昭栄建設株式会社  盛岡市上堂四丁目11番8号 代表取締役 横澤 昭博
43 株式会社千葉匠建設   岩手県北上市和賀町藤根13地割244番地1 代表取締役 千葉 隆一
44 株式会社中央コーポレーション  岩手県花巻市東宮野目第11地割5番地 代表取締役 佐々木史昭
45 飯坂建設株式会社   岩手県奥州市前沢区古城字千刈田181番地 代表取締役 菅原 秀子
46 株式会社水本   岩手県紫波郡矢巾町大字南矢幅第6地割72番地 代表取締役 水本  慶
47 株式会社遠忠   岩手県八幡平市大更第24地割8番地の1の5 代表取締役 遠藤 忠志
48 浅与建設株式会社   岩手県花巻市東和町土沢8区6番地 代表取締役 浅沼 幸二
49 板谷建設株式会社   岩手県奥州市水沢区台町3番35号 代表取締役 板屋 欣治
50 株式会社一戸建設   岩手県二戸郡一戸町高善寺字大川鉢12番地の2 代表取締役 晝場 忠美
51 株式会社佐武建設   岩手県陸前高田市高田町字本宿97番地1 代表取締役 佐々木 司
52 大平建設株式会社   盛岡市上田二丁目20番7号 代表取締役 平井 強資
53 千葉建設株式会社   岩手県奥州市水沢区字内匠田39番地 代表取締役 千葉龍二郎
54 佐野建設株式会社    岩手県奥州市江刺区愛宕字前中野255番地 代表取締役 菅原 利美
55 株式会社千葉建設   岩手県一関市川崎町薄衣字大平330番地8 代表取締役 千葉 憲司
56 株式会社畑中組   岩手県下閉伊郡岩泉町門字中瀬52番地の19 代表取締役 畑中  昇
57 株式会社田中建設   岩手県二戸郡一戸町高善寺字大川鉢22番地1 代表取締役 田中 義浩
58 株式会社小原建設   岩手県花巻市高木第19地割48番地1 代表取締役 小原 久一
59 株式会社高建工業   岩手県八幡平市大更第23地割1番地28 代表取締役 高橋ミツエ
60 株式会社小松組   岩手県紫波郡紫波町日詰字下丸森17番地 代表取締役 佐々木幸四郎
61 株式会社ビックランド(旧商号大丸建設株式会社)  東京都千代田区神田淡路町二丁目13番地4 代表清算人 藤澤 信一
62 株式会社いわい   岩手県一関市旭町1番6号 代表取締役 赤間  仁
63 南建設株式会社   岩手県九戸郡軽米町大字晴山第27地割12番地2 代表取締役 南   勉
64 株式会社高橋建設(旧商号有限会社高橋建設)   岩手県岩手郡岩手町大字子抱第5地割61番地3 代表取締役 高橋 幸雄
65 株式会社中村建設   岩手県岩手郡雫石町下曽根田69番地 代表取締役 中村 敬二
66 丸協建設株式会社   岩手県奥州市前沢区字三日町新裏110番地 代表取締役 那須川伸治
67 株式会社藤村工務店   盛岡市鉈屋町16番14号 代表取締役 藤村政一郎
68 有限会社岩手架設工業   盛岡市厨川三丁目11番1号 代表取締役 宮前 輝男
69 株式会社土橋工務店 盛岡市下太田新田17番地7 代表取締役 土橋 幸男
70 株式会社佐々木工務店  岩手県花巻市湯口字山根80番地 代表取締役 佐々木貞一
71 株式会社佐賀建設  岩手県花巻市石鳥谷町南寺林第5地割297番地 代表取締役 佐賀 正義
72 株式会社佐々木建設   岩手県宮古市田の神一丁目2番37号 代表取締役 佐々木 寛
73 篠村建設株式会社   盛岡市稲荷町9番6号 代表取締役 篠村 光利
74 株式会社八戸建設   岩手県岩手郡岩手町大字沼宮内第9地割116番地2 代表取締役 八戸 保雄
75 株式会社熊谷工務店   盛岡市愛宕町9番10号 代表取締役 熊谷 則子
76 正三建設株式会社   岩手県大船渡市三陸町綾里字黒土田175番地 代表取締役 中村 節男
77 株式会社堀切   岩手県岩手郡雫石町谷地45番地の1 代表取締役 谷地 正三
78 株式会社菅七工務店   盛岡市中太田新田25番地115 代表取締役 菅原 正明
79 内沢建設有限会社   岩手県二戸市仁左平字横手49番地3 代表取締役 内沢 真申
80 株式会社石倉建設   岩手県九戸郡洋野町種市第23地割40番地 代表取締役 石倉 芳男

別紙2
代理人目録

 被審人株式会社タカヤ代理人弁護士           奥     毅
 同                          妹 尾 佳 明
 被審人大森工業株式会社代理人弁護士          高 橋 善 樹
 同                          岡 田 英 夫
 同                          鈴 木 伸 佳
 被審人南建設株式会社代理人弁護士           吉 田 杉 明
 同                          安 田 有 三
 同                          東   晃 一
 被審人大伸工業株式会社及び同北水建設工業株式会社代理人弁護士
                            野 村   弘
 被審人北水建設工業株式会社代理人弁護士        野 村 幸 代
 被審人藤正建設株式会社許可代理人           白 藤 教 雄
 被審人らのうち,被審人株式会社タカヤ,同大森工業株式会社,同南建設株式会社,同北水建設工業株式会社,同株式会社土橋工務店及び同株式会社堀切を除く74社代理人弁護士                  岩 下 圭 一
 同                          佐 藤 水 暁

別紙3
番号 事業者 本店の所在地
1 株式会社丸卓建設 岩手県一関市川崎町薄衣字町裏2番地
2 株式会社岩辰 岩手県一関市室根町折壁字大里61番地
3 くみあい鉄建工業株式会社 岩手県紫波郡矢巾町大字下矢次第1地割16番地
4 岩建工業株式会社 岩手県北上市藤沢17地割120番地1
5 有限会社岩舘建設 岩手県岩手郡岩手町大字五日市第12地割75番地の13

別紙4
番号 事業者 本店の所在地
1 株式会社長田工務店 岩手県花巻市石鳥谷町八幡第3地割76番地の5
2 株式会社大栄建設 盛岡市城西町9番22号
3 株式会社阿部正工務店 盛岡市西仙北二丁目20番30号
4 株式会社大高組 岩手県水沢市字北田187番地の2
5 株式会社菊善工務所 岩手県遠野市材木町2番22号
6 佐々木建設株式会社 岩手県水沢市字高屋敷53番地
7 三建工業株式会社 盛岡市津志田12地割30番地
8 東邦建設株式会社 盛岡市中太田深持206番地3
9 大蔵建設株式会社 盛岡市厨川一丁目21番28号
10 株式会社タクミ 岩手県北上市和賀町藤根13地割244番地1

別紙5
番号 事業者 本店の所在地
1 阿部建設株式会社 岩手県宮古市長町一丁目3番1号
2 株式会社阿部工務店 盛岡市仙北三丁目16番35号
3 株式会社菊池工務店 岩手県釜石市野田町一丁目16番25号
4 中村建設株式会社 岩手県宮古市上村一丁目9番35号
5 株式会社阿部建設 岩手県岩手郡葛巻町葛巻第20地割56番地3
6 株式会社下斗米組 岩手県久慈市長内町第24地割162番地
7 共栄建設株式会社 岩手県奥州市江刺区愛宕字滑100番地
8 株式会社石川工務所 盛岡市本町通一丁目11番25号
9 株式会社千田組 盛岡市加賀野三丁目12番21号
10 白根建設株式会社 岩手県宮古市板屋二丁目3番6号
11 小野義建設株式会社 岩手県奥州市胆沢区小山字道場250番地2

別紙6
番号 事業者 期 日
1 大森工業株式会社 平成15年10月16日
2 株式会社千葉匠建設 平成15年 9月24日
3 株式会社小原建設(花巻市) 平成15年10月16日
4 南建設株式会社 平成13年11月 8日
5 株式会社高橋建設 平成13年11月 8日
6 株式会社中村建設(雫石町) 平成15年10月16日
7 有限会社岩手架設工業 平成13年11月 8日
8 正三建設株式会社 平成13年11月 8日
9 中村建設株式会社(宮古市) 平成13年11月 8日

別紙7
平成17年(判)第14号

審   決   案

被審人 別紙1(被審人目録)のとおり
代理人 別紙2(代理人目録)のとおり

上記被審人らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第51条の2及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(以下「規則」という。)第31条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第82条及び第83条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
被審人らは,遅くとも平成13年4月1日(別紙6記載の事業者にあっては,それぞれ,遅くとも「期日」欄記載の年月日ころ)以降行っていた,岩手県が条件付一般競争入札,受注希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法により,Aの等級に格付している者のうち岩手県内に本店を置く者(これらの者のみを構成員とする特定共同企業体を含む。)のみを入札参加者として発注する建築一式工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする行為を取りやめている旨を確認することを取締役会等の業務執行の決定機関において決議しなければならない。
被審人らは,それぞれ,次の事項を,被審人らのうち自社を除く79社及び岩手県に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
前項に基づいて採った措置
今後,共同して,岩手県が条件付一般競争入札,受注希望型指名競争入札又は指名競争入札の方法により発注する前記工事について,受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨
被審人らは,今後,それぞれ,相互の間において又は他の事業者と共同して,岩手県が競争入札の方法により発注する前記工事について,受注予定者を決定してはならない。
被審人らは,前3項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。

理       由
第1 独占禁止法違反となる事実
被審人ら(80社),別紙3記載の5社,別紙4記載の10社及び別紙5記載の11社の計106社(以下「106社」という。)は,いずれも建設業を営み又は営んでいた者であるが,遅くとも平成13年4月1日(別紙6記載の事業者にあっては,遅くとも各「期日」欄記載の年月日ころ)以降,岩手県が,条件付一般競争入札,受注希望型指名競争入札又は指名競争入札(各入札方法の詳細については後記第2の2(2)ウ(オ)のとおり。)の方法により,同県が建築一式工事についてAの等級(以下「A級」という。)に格付した者(以下「A級建築業者」という。)(等級格付の詳細については後記第2の2(2)イのとおり。)のうち同県内に本店を置く業者(岩手県内に本店を置く業者を以下「県内業者」という。)(県内業者のみを構成員とする特定共同企業体(以下「JV」という。)を含む。)のみを入札参加者として発注する建築一式工事(以下「岩手県発注の特定建築工事」という。)について,受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るため
当該工事について受注を希望する者又は受注を希望するJV(以下まとめて「受注希望者」という。)は,106社が会員となっていた「トラスト・メンバーズ」又は「TST親交会」と称する会(後記第2の3以下参照。平成14年12月1日に前者から後者に名称が変更された。以下,それぞれ「トラスト・メンバーズ」,「TST親交会」といい,まとめて「TST親交会等」ともいう。)の会長又は地区役員(以下まとめて「TST等世話役」という。)に対して,その旨を表明し
受注希望者が1名のときは,その者を受注予定者とする
受注希望者が複数のときは,「継続性」(主として過去に自社が施工した建築物の工事であること。以下同じ。),「関連性」(主として過去に自社が施工した建築物と関連する建築物の工事であること。以下同じ。),「地域性」(主として工事場所が自社の事務所に近いこと。以下同じ。)等の事情を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する
受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力する
  旨の合意(以下「本件基本合意」という。)の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものである。(以下,本件基本合意の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為を「本件違反行為」といい,個別の物件において受注予定者を決定し受注予定者が受注できるようにする行為を「受注調整」という。)(本項の事実認定の理由等は後記第2以下のとおり。)
第2 具体的事実
後掲の各証拠等によれば,以下の事実が認められる。
106社の概要
被審人ら
被審人らは,それぞれ,別紙1の「本店の所在地」欄記載の地に本店を置き,建設業法の規定に基づき同別紙の「建設業の許可」欄記載のとおり国土交通大臣又は岩手県知事から建設業の許可を受け,岩手県の区域において建設業を営む者である。(査第1号証,第297号証)(以下,被審人らについては,それぞれ,別紙1の各「事業者」欄内の括弧書のとおり略称する。)
被審人千葉匠建設は,平成15年8月14日まで「株式会社千葉重機」との商号であったが,同日,株式会社タクミ(以下「タクミ」という。)を吸収合併するとともに,現商号に変更した。被審人中央コーポレーションは,同年5月15日まで「中央建設工業株式会社」との商号であったが,同日,株式会社中央製作所を吸収合併するとともに,現商号に変更した。被審人水本は,平成17年8月1日まで「水本建設株式会社」との商号であったが,同日,現商号に変更した。被審人タカヤは,平成20年9月12日まで「高弥建設株式会社」との商号であったが,同日,現商号に変更した(以下,商号変更前の被審人タカヤについても「被審人タカヤ」と表記する。)。(査第1号証,第308号証)
106社のうち被審人ら以外の者
別紙3記載の5社,別紙4記載の10社及び別紙5記載の11社は,各別紙の「本店の所在地」欄記載の地に本店を置き,それぞれ,建設業法の規定に基づき岩手県知事から建設業の許可を受け,岩手県の区域において建設業を営み又は営んでいた者である。(査第2号証)(以下,別紙3記載の5社,別紙4記載の10社及び別紙5記載の10社についても,それぞれ,各別紙中「事業者」欄内の括弧書のとおり略称する。)
別紙3記載の5社は,平成15年5月31日以降,岩手県から建築一式工事についてB又はCの等級(以下それぞれ「B級」,「C級」という。)に格付されたことにより,岩手県発注の特定建築工事の入札に参加していない。(査第23号証)
別紙4記載の10社は,同別紙の「期日」欄記載の年月日以降,「事由」欄記載の事由により,建設業を営んでいない。(査第2号証)
別紙5記載の11社は,同別紙の「期日」欄記載の年月日に,破産手続開始決定を受けた。(査第298号証ないし第301号証,第309号証ないし第311号証,公知の事実)
岩手県の建築一式工事の発注方法等
岩手県が発注する建築一式工事
岩手県は,建設業法に規定する建築一式工事を,工事内容に応じて新築,増築,改築,改修,改造等の分類を付すなどして発注していた。(査第5号証,第6号証,第168号証,第169号証)
建築一式工事の発注方法
所管部署等
岩手県は,地方自治法及び同法施行令の規定に基づくほか,同県が制定した「岩手県会計規則」等の規定に基づき,建築一式工事の発注を行っていた。(査第6号証,第9号証ないし第11号証)
岩手県は,同県が発注する建築一式工事のうち,本庁,教育委員会事務局及び警察本部が所管する工事並びに医療局が所管する工事の一部については本庁において,医療局が所管するその余の工事及び地方振興局等の出先機関が所管する工事についてはそれぞれの局又は出先機関において,それぞれ入札事務を行っており,また,それらの契約事務は工事を所管する各部署においてそれぞれ行っていた。(査第6号証,第12号証)
入札参加資格者の登録及び等級区分
岩手県は,「県営建設工事の請負契約に係る指名競争入札及び条件付一般競争入札参加者の資格及び指名等に関する規程」及び「県営建設工事の指名競争入札及び条件付一般競争入札に参加しようとする者の指名競争入札等参加資格基準及び県営建設工事請負資格審査申請書の提出期日」等に基づき,同県が発注する建築一式工事の指名競争入札,受注希望型指名競争入札及び条件付一般競争入札への参加を希望する者について客観的事項(経営規模,経営状況等),主観的事項(工事成績評点,技術等評点,県施策評点等)及び技術者の要件(工事現場ごとに主任技術者又は監理技術者を専任で配置すること等)の3項目の観点から指名競争入札等参加資格基準に係る審査を行い,適合すると認める者(以下「資格者」という。)について,客観的事項の審査結果(経営事項審査結果)による総合評点に主観的事項の審査結果による評点を合算した総合点数に基づき,総合点数の高い順に,A級,B級及びC級のいずれかに格付し,県営建設工事請負資格者名簿(以下「資格者名簿」という。)に登録していた。(査第13号証ないし第17号証)
資格者名簿の有効期間は2会計年度であり,2会計年度経過後翌2会計年度に係る資格者名簿が作成されるまでの4月1日から5月末日までは,前2会計年度の資格者名簿が使用されていた。(査第13号証,第14号証,第19号証,第20号証)
106社は,遅くとも平成13年4月1日以降(別紙7記載の事業者にあっては,それぞれ,「期間」欄記載の期間),岩手県が発注する建築一式工事について,A級に格付されていた。(査第21号証ないし第23号証)
発注方法の種類等
発注方法の種類
岩手県は,同県が発注する建築一式工事の大部分を,条件付一般競争入札,受注希望型指名競争入札又は指名競争入札のいずれかの方法で発注していた。その余は,一般競争入札又は随意契約の方法で発注していた。(査第24号証,第25号証)
各発注方法の適用基準
岩手県は,平成13年4月1日から平成16年10月25日までの期間(以下「本件期間」という。)中,設計額が1億円以上一般競争入札対象額未満の建築一式工事について,条件付一般競争入札を実施し,設計額が1億円未満の建築一式工事について,指名競争入札を実施した。ただし,同県は,平成16年1月5日から,設計額が5000万円以上1億円未満の建築一式工事について,受注希望型指名競争入札を導入した。(査第6号証,第24号証)
設計額による入札参加資格者の分類
岩手県は,本件期間において,建築一式工事の入札参加者を,設計額が7000万円以上の建築一式工事については原則としてA級建築業者のみ,設計額が3500万円以上7000万円未満の建築一式工事については原則としてB級に格付した資格者のみ,設計額が3500万円未満の建築一式工事については原則としてC級に格付した資格者のみとしていた。(査第26号証ないし第28号証)
なお,岩手県は,設計額が7000万円未満の建築一式工事であっても,工事の技術的な難度が高いもの,緊急に工事を行う必要のあるものなど,B級又はC級に格付した者では施工困難と認められる工事については,A級建築業者のみを指名競争入札及び受注希望型指名競争入札の参加者として指名していた。(査第28号証)
指名業者選定の基本方針
岩手県は,県内経済活性化の観点から,建築一式工事の指名競争入札及び受注希望型指名競争入札に当たり,県内業者が施工可能と認められる工事について,極力,県内業者の中から指名業者を選定することとしていた。(査第29号証,第30号証)
また,岩手県は,A級建築業者を対象とする建築一式工事の指名競争入札及び受注希望型指名競争入札に当たり,施工場所を管轄する地方振興局内及び隣接地方振興局内の資格者に配慮しつつ,全県的視野に立って,県内一円のA級建築業者の中から指名業者を選定することとしていた。(査第28号証)
具体的発注方法
指名競争入札
岩手県は,指名競争入札の方法により建築一式工事を発注する場合,「県営建設工事の請負契約に係る指名競争入札参加者の指名基準」に基づき,資格者の中から,施工成績,技術的適性,地理的条件,手持ち工事量等を総合的に勘案して,原則として10社を入札参加者として指名していた。(査第28号証,第30号証,第32号証,第35号証)
なお,予定価格及び指名業者名の入札前の公表は行われなかった。(査第28号証,第33号証)
受注希望型指名競争入札
岩手県は,受注希望型指名競争入札の方法により建築一式工事を発注する場合,「受注希望型指名競争入札実施要領」に基づき,個々の工事ごとに地域要件,施工実績要件といった入札参加資格要件を設定の上,工事の概要,入札参加資格要件を事前に公表して,入札参加希望者を募り,入札参加希望者のうち入札参加資格要件を充足する者の中から,地理的条件を優先しつつ,施工成績,技術的適性,手持ち工事量等を総合的に勘案して,20社を上限として入札参加者を指名していた。(査第28号証,第30号証,第31号証,第35号証)
なお,予定価格及び指名業者名の入札前の公表は行われなかった。(査第28号証,第33号証)
条件付一般競争入札
岩手県は,条件付一般競争入札の方法により建築一式工事を発注する場合,県内の施工実績者が少ない工事等を除いて,県内業者のみを入札に参加させることとし,「県営建設工事の請負契約に係る条件付一般競争入札の実施手続及び事務処理要領」に基づき,設計額が1億円以上5億円未満の建築一式工事については,単独の業者を対象に発注し,「特定県営建設工事の請負契約に係る競争入札参加者の資格等に関する規程」及び「特定県営建設工事の請負契約に係る競争入札参加者の資格等に関する取扱要領」に基づき,大規模かつ技術的難度の高い工事等でかつ設計額が5億円以上一般競争入札対象額未満の建築一式工事については,JVを対象に発注していた。(査第32号証,第35号証ないし第39号証)
条件付一般競争入札では,その発注金額から,単独物件,JV物件とも,A級建築業者のみが入札参加資格を有しており,岩手県は,さらに個々の工事ごとに県内に本店を有すること等の地域要件,施工実績要件,配置予定技術者資格要件といった入札参加資格要件を設定の上,対象工事の概要と併せて事前に公告し,入札参加希望者を募り,条件付一般競争入札参加資格確認申請書を提出した者の中から入札参加資格要件を充足する者すべてを入札参加者としていた。(査第32号証,第35号証,第36号証,第39号証)
そして,岩手県は,条件付一般競争入札参加資格確認申請書を提出した者には,条件付一般競争入札参加資格確認結果通知書により確認結果を郵送で通知していたが,入札参加者名の入札前の公表は行っていなかった。(査第32号証,第33号証,第36号証,第39号証)
なお,岩手県は,条件付一般競争入札に付する工事について,平成16年10月31日までは,公告において設計額を事前に公表していた。(査第39号証)
また,岩手県は,条件付一般競争入札の執行に当たって,入札参加者に対し,1回目の入札書に記載した入札金額に係る工事費内訳書を,入札と同時に提出させていた。(査第36号証,第39号証)
再度入札等
岩手県は,指名競争入札及び受注希望型指名競争入札のいずれにおいても,1回目の入札で予定価格に達しない場合は,原則,2回を限度として再度入札を実施し,3回目の入札で予定価格に達しない場合は,指名業者を選定し直して改めて入札を実施する,あるいは,予定価格と最低入札価格との差が少ない等のときには,一部の入札参加者から見積書を徴した上で,随意契約に移行することとしていた。(査第28号証,第41号証)
また,岩手県は,条件付一般競争入札について,1回目の入札で予定価格に達しない場合は,平成16年10月31日までは,再度入札を1回実施することとしていた。(査第39号証,第41号証)
低入札価格調査制度等
岩手県は,低価格による入札に対して次のとおり対処していた。
条件付一般競争入札については,すべて低入札価格調査制度を適用し,入札の結果,あらかじめ設定した調査基準価格を下回る額で入札した者がいる場合は落札者の決定を保留することとし,当該入札額によって契約の内容に適合した履行がなされるか否かを,最低額入札者から順次調査した上で,履行可能である者を落札者としていた。その際,履行可能な者がいないときは,調査基準価格以上で入札した者のうち入札額の一番低い者を落札者としていた。
また,指名競争入札及び受注希望型指名競争入札であらかじめ最低制限価格を設定した工事については,入札の結果,最低制限価格を下回る額で入札した者がいる場合は当該入札者を失格とし,最低制限価格以上で入札した者のうち入札額の一番低い者を落札者としていた。
(査第24号証,第39号証,第41号証,第42号証)
本件違反行為に至る経緯
盛岡支部A級会
社団法人岩手県建設業協会(以下「岩手県建設業協会」という。)の会員のうち岩手県が発注する建設工事についてA級に格付されている者によって,岩手県建設業協会A級会(以下「岩手県A級会」という。)が設けられていたところ,平成6年8月ころまで,その下部組織として,盛岡地方振興局管内に所在するA級建築業者によって,岩手県建設業協会盛岡支部建築A級会(以下「盛岡支部A級会」という。)が設けられていた。
盛岡支部A級会の会員は,岩手県が指名競争入札の方法により発注する建築一式工事について,入札前に指名業者が「研究会」と称する会合を開催して話し合うなどして,受注調整を行っていた。
しかし,盛岡支部A級会は,いわゆる埼玉土曜会事件の摘発を契機に,岩手県建設業協会につながる組織のままでは受注調整を続けられないとして,平成6年8月20日ころに解散した。
平成6年4月ころから解散までの間,盛岡支部A級会の会長は,当時の被審人タカヤの取締役であった稲垣孝一(以下「稲垣」という。)が務めていた。
(査第43号証ないし第50号証,第58号証,第61号証)
トラスト・メンバーズの発足及び役員
発足
盛岡支部A級会は解散したものの,稲垣らは,岩手県が指名競争入札の方法により発注する建築一式工事について,競争を回避し,受注価格の低落を防止するために,引き続き事前に受注調整をできるようにするため,盛岡支部A級会に代わるものとしてトラスト・メンバーズを発足させることとした。
その際に,盛岡地方振興局管内のみならず岩手県一円を対象に広く会員を募ることとし,岩手県内のA級建築業者77社がこれに応じた。
そして,平成6年11月1日付けでトラスト・メンバーズの会員名簿が作成され,同月2日,盛岡市所在の南部会館において,「第一回の集い」と称する発足会合が開催された。
(査第46号証,第51号証ないし第58号証,第61号証,第96号証,第115号証,第116号証,第127号証,第141号証,第144号証,第177号証)
役員
トラスト・メンバーズは,会員各社の営業責任者級の者で運営され,会長,副会長等の役員が選任されていたほか,平成11年ころ以降は,岩手県の各地方振興局の各管轄区域からそれぞれ地区役員が選出されていた。(査第46号証,第57号証,第59号証ないし第61号証,第97号証)
トラスト・メンバーズの会長には稲垣が就任し,以後,稲垣は,平成12年4月に被審人タカヤを退社して同年6月に他の会社に籍を置くようになった後も,引き続き,会長を務めた。(査第51号証,第60号証,第61号証,第63号証,第65号証ないし第69号証,第99号証,第112号証,第113号証)
トラスト・メンバーズにおける受注予定者の決定等
会員による受注予定者の決定
トラスト・メンバーズの会員は,岩手県が指名競争入札の方法により発注する建築一式工事について,盛岡支部A級会当時の方法を踏襲する形で,入札前に,指名業者が「研究会」と称する会合を開催して話し合うなどして,受注調整を行っていた。受注予定者の決定においては,「継続性」,「関連性」,「地域性」の有無等が考慮されていた。(査第46号証,第61号証,第62号証,第115号証,第127号証,第150号証,第177号証)
なお,平成10年ころ以前は,受注予定者の決定において,岩手県A級会の事務局が,受注希望の受付窓口になったり,研究会開催の連絡を行ったりしたこともあった。(査第46号証,第61号証)
総会の開催
トラスト・メンバーズは,毎年1回,ほとんどの会員の出席の下,総会を開催し,毎年度の業務報告,会計報告等を行っており,平成7年度及び平成8年度の業務報告においては,会員間で受注予定者を決定していた入札物件の件数が報告されていた。(査第63号証ないし第69号証,第99号証)
役員会の開催
トラスト・メンバーズでは,総会の前など必要に応じて,会長,副会長等の役員の出席のもとで役員会が開催されており,会員間における受注予定者の決定方法等について情報交換が行われていた。(査第70号証ないし第78号証)
会員への周知
トラスト・メンバーズの会員には,必要に応じて「トラスト・シグナル」と称する連絡文書等が会長名で送付されており,これらの文書は,受注予定者決定の重要性,そのためのトラスト・メンバーズの存在意義を訴えるとともに,受注希望の表明の連絡先及び期限を重ねて周知するものとなっていた。(査第79号証ないし第87号証,第89号証)
条件付一般競争入札への対応
岩手県が平成12年2月1日から条件付一般競争入札を導入するに先立ち,平成11年2月12日に岩手県建設会館で開催されたトラスト・メンバーズの臨時役員会において,条件付一般競争入札の方法により発注される場合における受注予定者の決定方法についての協議が行われた。その結果,条件付一般競争入札の方法により発注される建築一式工事に関しても受注調整を行うこととされ,受注を希望する者は入札の公告から3日以内にTST等世話役にその旨を表明する,複数の者が受注を希望した場合は受注を希望する者の間で受注予定者を決定するための話合いを行う,入札参加者が10社から15社程度となるよう役員が会員に依頼する,という方法で対応することが確認された。
そして,上記の条件付一般競争入札への対応方法は,平成11年11月11日に花巻市所在のホテル志戸平で開催された総会で説明されるなどして,トラスト・メンバーズの会員に周知された。
(査第68号証,第90号証ないし第99号証)
平成12年3月9日に盛岡市所在のホテル紫苑で開催された役員会において,条件付一般競争入札の方法により発注される建築一式工事について,受注希望の表明は公告日を含めて3日以内とすることなどについて改めて確認されたほか,「研究会」への出席者を各社2名までに留めること,受注予定者がより確実に受注できるようにするためトラスト・メンバーズに加入していない岩手県内のA級建築業者に対して加入の勧誘を行っていくことも確認された。(査第100号証ないし第106号証)
平成13年1月30日に開催された役員会においても,受注希望の表明期限について,公告日を含めて3日以内とすることが再確認された。このほか,条件付一般競争入札において提出を求められる,入札価格の積算根拠となる工事費内訳書については,入札参加者がそれぞれ準備することとされた。(査第106号証ないし第110号証)
トラスト・メンバーズへの加入状況
新規加入の方法
TST親交会等の会員となるためには,会則において会員2社の推薦が必要とされていたほか,岩手県が競争入札の方法により発注する建築一式工事を対象に会員間で事前に受注調整が行われていること及びその方法について推薦者から説明を受け,これに賛同した上で,総会の承認を得ることになっていた。
そして,新規に加入した者は,その年の総会で出席会員に紹介されるとともに,総会資料においても「新入会員紹介」等として記載され,既存会員に対して周知されていた。併せて,総会資料に添付される会員名簿によって新入会員も既存会員を知ることができるようになっていた。
(査第64号証ないし第69号証,第88号証,第97号証,第99号証,第111号証)
106社の加入等
106社のうち別紙6記載の9社を除く97社は,平成13年4月1日当時トラスト・メンバーズの会員であった。
別紙6記載の9社のうち,被審人千葉匠建設を除く8社は,それぞれ,あらかじめ推薦者からTST親交会等の活動内容について説明を受け,TST親交会等の目的に賛同した上,別紙6の各「期日」欄記載の期日に開催されたTST親交会等の総会において,出席会員に紹介され,加入が承認された。
被審人千葉匠建設は,平成15年8月14日にタクミを吸収合併し,同年9月24日に岩手県から建築一式工事についてA級に格付されて以降,タクミのTST親交会の会員としての地位を引き継いだ。
(査第69号証,第111号証,第112号証,第114号証,第118号証,第119号証)
106社による受注調整の実施方法
106社は,岩手県発注の特定建築工事について,以下のような方法で受注調整を行っていた。
TST等世話役への受注希望の表明方法
106社は,それぞれ自社が,岩手県発注の特定建築工事について指名競争入札若しくは受注希望型指名競争入札の指名を受けた場合又は条件付一般競争入札に参加する場合には,指名を受けた日又は入札の公告日から基本的に3日以内に指名を受けた旨又は入札に参加する旨を,また,受注を希望するときはその旨及び受注を希望する理由を,TST等世話役に対して連絡することとしていた。
入札に参加する者が受注希望を表明しないときは,当該工事について受注を希望せず,他の受注希望者が受注予定者となることを了承したものとして取り扱うこととしていた。
(査第46号証,第61号証,第62号証,第87号証,第115号証ないし第117号証,第120号証ないし第130号証,第139号証ないし第144号証,第147号証,第149号証ないし第151号証,第158号証,第177号証)
受注予定者の決定方法
TST等世話役は,受注希望を表明した会員に対して,他の受注希望者の有無を伝えることとしていた。106社は,以下のとおり受注予定者を決定することとしていた。
受注希望者が1社のときは,当該受注希望者を受注予定者(「本命」,「チャンピオン」等と称される。)とすることとしていた。
受注希望者が複数のときは,受注希望者が互いに連絡を取り合い,あるいは「研究会」と称する会合を開催するなどして,話合いにより受注予定者を決定することとしていた。
話合いでは,受注希望者が,「継続性」,「関連性」,「地域性」,直近の受注高の多寡など,受注を希望する理由を互いに主張し合って,受注予定者を決定することとしていた。この際,受注希望者が1社に絞られることを条件として自らの受注希望を取り下げる旨を表明する者もいた。
「研究会」と称する会合等には,受注希望者のほか,TST等世話役や他の入札参加者が参加することもあった。受注希望者間の話合いがまとまらない場合は,必要に応じてTST等世話役が助言を行っていた。
話合いのための会合場所としては,盛岡市所在の建設研修センター(平成16年3月までは「盛岡建設労働者研修福祉センター」。以下「福祉センター」という。)の会議室のほか,受注を希望する会社の会議室やホテルの会議室などを利用していた。
(査第61号証,第62号証,第115号証ないし第117号証,第127号証ないし第145号証,第147号証,第149号証ないし第151号証,第158号証,第177号証ないし第179号証,第182号証,第188号証,第191号証,第194号証,第196号証,第204号証,第206号証,第207号証,第214号証,第217号証,第232号証,第233号証,第240号証,第244号証ないし第247号証,第250号証)
入札価格の連絡方法等
受注予定者となった者は,TST等世話役を介するなどして他の入札参加者を確認し,入札の前までに,自社の入札価格が最低価格となるように,他のTST親交会等の会員である入札参加者(以下「会員入札参加者」という。)に対して,「1回目○○万円,2回目以下○○万円下げ」(2回目については「1回目の入札最低価格から○○万円以内の価格」とする場合もある。),「自社の入札価格である○○万円以上の価格」等という内容の入札価格に関する連絡を,電話又は金額を記載した「札」と呼ばれる紙片を手渡しすることにより行うこととしていた。
そして,他の会員入札参加者は,受注予定者から連絡された価格又はそれよりも高い価格で入札し,受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力することとしていた。
106社以外の者(以下「アウトサイダー」という。アウトサイダーには協同組合も含まれるが,以下,協同組合も社として数える。別紙6記載の9社も,本件違反行為に参加する前である場合にはアウトサイダーに含まれる。)が入札に参加する場合は,その者に対しても,受注予定者となった者が,自社が受注できるよう,適宜,協力を要請することとしていた。
(査第47号証,第61号証,第62号証,第115号証ないし第117号証,第120号証,第122号証,第127号証,第129号証,第130号証,第139号証ないし第144号証,第147号証ないし第153号証,第177号証,第213号証)
JVを対象に発注される工事について
106社は,岩手県発注の特定建築工事のうちJVを入札参加者として発注されるものについても,前記(1)ないし(3)の方法により受注調整を行っていた。(査第153号証,第154号証)
受注調整の継続の確認等
役員会における受注調整の継続のための情報交換等
TST親交会等においては,平成13年度以降も,役員会が開催され,受注予定者の決定方法等に関する情報交換が行われた。例えば,平成14年9月13日に福祉センターで開催された役員会において,平成14年度総会の議事進行等についての協議が行われた際,岩手県発注の特定建築工事について,引き続き,会員間で受注調整のための話合いを行っていくことが確認された。(査第159号証,第160号証)
岩手県からの事情聴取とその後の反応
トラスト・メンバーズが岩手県発注の特定建築工事について受注調整を行っている疑いがあるとの情報が岩手県に寄せられたため,平成14年10月29日,トラスト・メンバーズの会長(稲垣),副会長等が,岩手県による事情聴取を受けた。
これを受けて,同年11月13日に福祉センターで開催されたトラスト・メンバーズの役員会において,受注希望の表明方法,受注予定者の決定に関する各地区での対処方法及びアウトサイダーへの対処方法が再確認され,引き続き受注調整を継続することが確認されるとともに,同年10月16日に開催された平成14年度の総会で承認されていたTST親交会への名称変更が確認され,受注調整の発覚を防ぐために対外的には役員は存在しないこととされた。
平成14年11月25日付け文書により,トラスト・メンバーズの各会員に対し,同年12月1日から会の名称をTST親交会とすることが周知された。
(査第161号証ないし第167号証)
総会における受注調整の継続の確認等
TST親交会等においては,平成13年度以降も毎年,ほとんどの会員の出席の下,総会が開催されていたところ,平成15年10月16日に岩手県花巻市所在の新鉛温泉愛隣館で開催された総会及び平成16年10月20日に同市所在のホテル千秋閣で開催された総会では,従来の会則に代えて,「1.みんなできめたルールを尊重し,人としての礼節を守り,小異をすてて効率的に柔軟な人間関係の形成をめざして英知を結集する場としましょう。」という内容の新たに制定された指標が総会資料に記載され,総会資料に含まれていた会員名簿の記載も会社名から個人名に変更されるなどして,引き続き受注調整を継続することが確認された。総会資料は,欠席者に対しても配布された。(査第51号証,第112号証ないし第114号証,第155号証ないし第158号証,第269号証,第270号証)
個別物件の発注,受注及び受注調整等
本件期間における岩手県発注の特定建築工事は,別紙8記載の133物件であった(以下,個々の物件を別紙8の番号欄記載の番号に従って「物件1」等といい,まとめて「本件発注物件133物件」という。本件発注物件133物件の工事名,発注方法,公告日・通知日,入札日,予定価格,落札業者,落札価格,落札率及び入札参加者は,それぞれ別紙8の各該当欄記載のとおりであり,入札参加者欄記載の「▲」印を付された業者及び【】で括られた業者についての説明は,同欄冒頭記載のとおりである。)。
106社は,そのうち118物件(以下「本件受注物件118物件」という。)を受注した。
(査第168号証,第169号証)
本件発注物件133物件のうち,別紙9記載の58物件(以下「58物件」という。)及び別紙10記載の5物件の合計63物件(以下「63物件」という。)について,各別紙の各項記載のとおり受注調整が行われていた。(別紙9及び10の各項掲記の各証拠)
なお,別紙10記載の5物件については,各項記載のとおり,受注予定者を決定していたが,106社の受注には至らなかった。
また,別紙11記載の8物件についても,同別紙の各項記載のとおり,受注予定者を決定するための「研究会」が開催されていた。(別紙11の各項掲記の各証拠)
本件違反行為の取りやめ等
別紙3記載の5社は,前記1(2)イのとおり,平成15年5月31日以降,岩手県発注の特定建築工事の入札に参加しておらず,本件違反行為を行っていない。(査第23号証,第168号証,第169号証)
平成16年10月26日,本件について,公正取引委員会が独占禁止法の規定に基づき立入検査を実施して審査を開始したところ,被審人ら及び別紙5記載の11社の計91社(以下「91社」という。)は,同日以降,本件違反行為を取りやめている。
なお,TST親交会は,同月28日に解散した。
(査第279号証,第280号証)
第3 争点及びこれに関する双方の主張
本件の争点
106社が本件違反行為を行ったか否か。(争点①)
本件違反行為が「競争を実質的に制限」(独占禁止法第2条第6項)するものであったか否か。(争点②)
本件違反行為についての除斥期間(独占禁止法第7条第2項ただし書)が経過したか否か。(争点③)
被審人らに対して排除措置を命ずることにつき「特に必要があると認めるとき」(独占禁止法第54条第2項)に当たるか否か。(争点④)
争点①(106社が本件違反行為を行ったか否か)について
審査官の主張
本件違反行為の存在について
前記第2の経緯,特に以下の諸事情に照らせば,106社が,本件期間において,本件違反行為に及んでいたことは明らかである。
稲垣やその他の106社の多数の役員・従業員が,その供述調書において,岩手県発注の特定建築工事を対象として,前記第1の方法で受注調整を実行してきた旨を自認している。
106社は,少なくとも63物件について,受注調整を行っていた。
この63物件に現れた受注調整の方法は,前記第1の方法と合致している。その方法が入札参加者の組合せによって異なることはなく,特定の者が受注を希望した場合や,受注予定者となった場合に異なることもない。さらに,63物件の工事は,条件付一般競争入札,受注希望型指名競争入札,指名競争入札のいずれの発注方法も含み,新築工事のほか改築工事,改修工事,増築工事,解体工事等多岐の種別にわたっており,かつ,工事場所も特定の地域に偏ることなく県内全域にわたっている。
また,63物件の工事は,平成13年から平成16年にかけて発注されたものであり,本件期間の特定の時期に偏るものでない。
106社間では,かねてからTST親交会等の会長,副会長等の役員により,総会の前など必要に応じて役員会が開催され,受注調整を継続していくための情報交換,方法再確認,方策検討等が行われた。かかる検討が平成13年以降も継続されていた。
TST親交会等においては,かねてから,役員会で確認された事項が総会において周知されるなどしてきたところ,平成13年度以降も毎年,ほとんどの会員の出席の下,総会が開催され,前記第2の5(3)のとおり,引き続き受注調整を継続することが確認されていた。
106社間では,受注希望の表明方法,連絡先及び連絡期限について,TST親交会等の会員に対し,必要に応じて連絡文書等を送付することにより,周知が図られていた。
トラスト・メンバーズにおいて受注調整が行われているとの情報が岩手県に寄せられ,稲垣らが岩手県から事情聴取を受けたにもかかわらず,106社は,受注調整を取りやめることなく,隠ぺい工作を行った上で,その後も引き続き受注調整を継続していた。
特定の被審人の参加の有無について
被審人タカヤについて
平成12年4月に稲垣が被審人タカヤを退職した後も,平成14年8月まで同被審人の従業員であった細川勉(以下「細川」という。)がトラスト・メンバーズの副幹事長を務めていること,平成11年度から平成13年度までのトラスト・メンバーズの役員会に細川が出席していたこと,平成13年1月30日開催の役員会及び新年会に同被審人が出席し,他の役員と宿泊までしていることからすれば,被審人タカヤとトラスト・メンバーズとの間に接点がなかったはずがない。
被審人大森工業について
TST親交会等の目的は親睦だけでなく,受注調整を行うことが不可欠であるとの認識の下に,盛岡支部A級会に代わる受注調整のための新たな会として発足し,受注調整を望む者で組織運営されていた。
新たにTST親交会等に加入する者は,会の趣旨・目的に賛同し,受注調整の新たなメンバーとして既存会員の了解を得ていた。
TST親交会等の総会においては,会員間で受注予定者を決定していた入札物件の件数が報告され,役員会においては,受注予定者の決定方法等についての情報交換が行われた。
TST親交会等の会員に対しては,必要に応じて,「トラスト・シグナル」と称する連絡文書等により,受注予定者決定の重要性等が周知されていた。
被審人大森工業は平成15年10月16日のTST親交会総会で新入会員として紹介され,既存会員2社の推薦の下,加入を承認された。それゆえ,遅くとも上記総会の期日までに,会員間で岩手県発注の特定建築工事について受注調整を行っていること及びその方法について被審人大森工業が説明を受け,これに賛同したものと認められる。
さらに,被審人大森工業は,平成15年度及び平成16年度におけるTST親交会総会に参加し,これらの総会において本件違反行為を継続していくことが確認されており,同被審人が本件違反行為を認識していないことは到底あり得ない。
被審人大森工業は物件106の入札参加者であり,同物件に関する受注調整の経緯は別紙9の(48)のとおりであったところ,同物件の入札日は平成15年9月30日であり,同被審人がTST親交会への加入が承認された平成15年度の総会(同年10月16日)のわずか半月前であるから,既に会員になるべく所定の準備を進めていたことは容易にみて取れる。この点,新たにTST親交会等に加入する者に対しては,受注調整のルールを説明し,賛同を得た上で加入を認めていたことから明らかである。そして,その時点で会員の受注予定者から入札すべき価格の連絡を受けたのであるから,かねて聞いていたとおりとTST親交会の会員による受注調整に合点がいくことはあっても,よもや同会をただの親睦団体としてしか認識していなかったことなどあり得ない。
物件106の入札が被審人大森工業の入会前に行われたにもかかわらず,同被審人は,同物件の入札時において既に会員となる準備を進めていたから,当該入札に関して価格連絡,すなわち協力要請をしてきた者が本件受注調整でいう受注予定者であることを容易に理解し得たとみるのが自然である。さらに,アウトサイダーが入札に参加した場合であっても,同物件の3回の入札はいずれも受注予定者の被審人橋本工務店が最低価格入札者となり,見積り合わせに移行してもなお同被審人が最低価格により落札したから,TST親交会の会員による受注調整が実効性をもってなされ,これをアウトサイダーが妨げないことを認識していたことも優に推認できる。
被審人大森工業は物件112の入札参加者であるところ,同物件は,平成15年10月16日のTST親交会総会において新たに会員として承認された後に入札に参加したものである。同物件について受注調整が行われたことは,本件受注物件118物件から58物件を除いた残り60物件(以下「60物件」という。)に関する後記3(1)ウのとおりであり,被審人大森工業は会員入札参加者として同物件の受注調整に加わっていたと優に推認される。
被審人南建設について
前記(イ)aの事情がある。
被審人南建設は,平成13年11月8日のトラスト・メンバーズ総会で新入会員として紹介され,加入を承認されているから,同被審人が遅くとも同総会の期日までに,会員間で岩手県発注の特定建築工事について受注調整を行っていること及びその方法について説明を受け,これに賛同したからこそ新たな会員として同日の総会で承認されたと認められる。
被審人南建設は,トラスト・メンバーズの平成13年度の総会に出席しており,総会資料には推薦者が記載されているから,同被審人が推薦者を知らないはずがない。
なお,被審人南建設は,推薦者とされていた被審人佐藤建設工業との関係が険悪であった旨主張するが,被審人南建設は平成14年度の総会にも出席し,その際,被審人佐藤建設工業と相部屋で宿泊しているのであり,同被審人が被審人南建設の推薦を拒むような関係でなかったことは間違いない。
仮に被審人南建設が主張するような険悪な関係であったとすれば,同被審人と被審人佐藤建設工業は,嫌悪の情を封じて懇親を図っているのであるから,そこまでしてもなお余りある利益がトラスト・メンバーズを通じて得られるものと考えていたことの表れであり,トラスト・メンバーズが単なる懇親の場でなかったことは明らかである。
被審人南建設は物件100の入札参加者であるところ,同物件については,別紙9の(42)のとおり受注調整が行われており,同被審人が受注調整に参加していたことは明らかである。
被審人南建設は物件71の入札参加者であるところ,同物件については,後記3(1)ウ(ウ)b(b)のような事情があった。なお,58物件のうち再入札に至った9件についても,すべて1回目に最低価格で入札した者が2回目以降も引き続き最低価格で入札して落札している。本件受注物件118物件のうち再入札に至ったすべての物件で落札者が常に最低価格で入札している事実は,入札参加者が各々独自に積算した価格で入札した結果であるはずがない。
また,物件71の入札においては,ほぼ規則的な入札価格の配列が3回の入札にわたって連続して生じており,かかる結果が偶然とは考え難い。
以上によれば,被審人南建設も他の被審人らと同様に受注調整に協力していたとみるほかない。
被審人土橋工務店について
前記(イ)aの事情がある。
被審人土橋工務店は,TST親交会の平成15年度の総会に出席していた。
本件期間中の被審人土橋工務店の入札参加物件は5件あるところ,そのうち,物件2,物件19及び物件114については,別紙9の(2),(12)及び(50)記載のとおり,本件基本合意の下に受注調整が行われていたことが明らかであり,物件36及び物件108についても,後記3(1)ウのとおり,本件基本合意の下に受注調整が行われたことが優に推認できる。
被審人らのうち,被審人タカヤ,同大森工業,同南建設,同土橋工務店及び同堀切を除く75社(以下「被審人75社」という。)の主張
岩手県A級会との関係等について
そもそも盛岡支部A級会は,岩手県A級会の下部組織であった。稲垣の供述によれば,岩手県A級会において昭和50年代から受注調整が行われていたとのことであり,それを受けて同会の下部組織であった盛岡支部A級会でも受注調整が行われていたものであった。このような,いわば受注調整の母体ともいうべき岩手県A級会自体が,平成17年7月21日まで綿々と存続していたのである。
岩手県A級会の平成14年度末の会員数は238社であり,岩手県内のA級建築業者140社余りのうちの相当数が加盟していた。
仮に岩手県A級会が,下部組織である盛岡支部A級会を中心に設立される組織に,岩手県全域のA級建築業者の受注調整を委ねたのであれば,岩手県A級会として何らかの意思決定等が当然なされたであろうが,そのような証拠は皆無である。
また,上部組織として下部組織にそのような権限を委譲したのであれば,岩手県A級会所属のA級建築業者は全員TST親交会等に加入してしかるべきであるが,実際には,岩手県A級会には所属していてもTST親交会等には加入していなかった業者が多数存在した。稲垣の供述によれば,平成6年当時の岩手県A級会の会長は豊島建設株式会社(以下「豊島建設」という。)の社長であったが,平成7年6月1日当時,同社の所在地を管轄する大船渡地方振興局内の岩手県A級会所属のA級建築業者9社のうち,トラスト・メンバーズに加入した業者は当初3社にとどまっていたのであって(その後平成13年6月までに6社となった。),上部組織である岩手県A級会が上記のような権限委譲などしていないことは明らかである。
審査官の主張を前提にしても,岩手県A級会とTST親交会等との関係が証拠上明らかにされなければ,TST親交会等の会員だけで全県下の市場支配力を有することなど証明できないはずであるが,そのような証拠は皆無である。
なお,トラスト・メンバーズの発足等に関する稲垣の認識がどのようなものであったとしても,それがそのまま参加者の認識と一致するわけではない。すなわち,平成6年当時,被審人タカヤは年間売上高350億円を誇る東北地方随一の建設会社であり,その社長は,岩手県建設業協会の会長のみならず,東北6県の建設業協会連合会の会長,社団法人全国建設業協会の副会長でもあり,さらに社団法人全国建設産業団体連合会の会長にも就任するなど,権勢を誇っていた。その被審人タカヤが中心となって,同社の立場と影響力を維持するために立ち上げられた親睦会の発足趣意に,「寄らば大樹の陰」的に県内のA級建築業者の約半数が形の上で賛同を示したとしても,何ら不思議はない。
稲垣以外の者の供述調書にも,TST親交会等が中心となって会員間で受注調整が行われていた旨の記載があるが,仮に稲垣の供述するように,岩手県A級会のA級業者間で長年にわたって受注調整が継続されていたならば,自らもA級業者であり,実際に存在するトラスト・メンバーズやTST親交会に加入していた関係で,審査官の誘導によってTST親交会等の会員間で受注調整が行われていた旨の供述調書に署名押印させることなど極めて容易なことと推察される。
仮にトラスト・メンバーズの役員会なる会合で何らかの協議が行われたとしても,トラスト・メンバーズの役員会社は同時に岩手県A級会の有力な会員でもあったのであるから,上記会合における協議の存在から直ちに,違反行為の当事者がトラスト・メンバーズの全会員であるとの結論を導くことはできない。そのような結論を導くためには,トラスト・メンバーズの会員間の合意だけで競争を実質的に制限する市場支配力を有していたのか否か,市場支配力を有していたのはより多くの会員を擁する岩手県A級会の合意ではなかったのかが証拠上明確にされなければならない。
同様に,63物件についても,その当事者の大多数が岩手県A級会の会員を兼ねているのであるから,TST親交会等の会員が違反行為の主体であったことの根拠にはなり得ない。
会員と当事者の不一致について
以下のとおり,審査官の,違反行為の当事者がTST親交会等の全会員でありそれに限定されるとの主張は,客観的に説明不可能な多くの矛盾点を生み出している。
株式会社留場建設(以下「留場建設」という。),被審人小原建設(花巻市)及び同中村建設(雫石町)の3社は,平成15年10月ころまでにB級からA級に昇格し,同月TST親交会に入会したものであるが,そのうち留場建設だけが本件違反行為の当事者とされていない。
留場建設と上記被審人2社との間に相違を見つけるとすれば,被審人小原建設(花巻市)は物件126で,同中村建設(雫石町)は物件123で,それぞれ入札参加している点のみである。審査官の主張によれば,TST親交会等はいわば談合組織であり,新入会員は受注調整方法等に賛同して入会しているとのことであるから,A級建築業者として入札参加の可能性がある会員であれば直ちに本件違反行為の当事者と認定されるはずであり,1回入札に参加したか否かによって当事者性という重大な問題に関する区別をつけることは,理論的な説明が全く不可能である。
そもそも,違反行為期間の終期などというものは,公正取引委員会の立入検査時期という一方的な政策判断によって画されるのであり,その時期が少しずれれば留場建設も入札に参加していた可能性があるのである。そのような偶然の事情によって違反行為の当事者の範囲を特定すること自体,本件の背景事情に関する審査官の主張と矛盾するものである。
被審人八戸建設は,トラスト・メンバーズに入会しており,本件期間中5件の入札に参加しており,平成15年のTST親交会の会員名簿に記載されていた者であるが,その後,会費未納のため,平成16年の同会の会員名簿には記載されていない。そうである以上,同被審人はもはや同会の会員ではなかったはずであるのに,本件違反行為の当事者とされている。
本件期間中,岩手県内には同会の会員名簿に記載されていないA級建築業者が多数存在していたのであり,会費未納によって同会自らが会員名簿に記載しなかった被審人八戸建設と他の非会員業者とを区別することは理論的に不可能である。
なお,被審人八戸建設は平成14年5月28日実施の物件53の入札を最後に本件発注物件133物件の入札には一切参加しておらず,平成16年のTST親交会の会員名簿に記載されておらず,それ以前に非会員となっていたことが明白なのであるから,たとえ平成15年10月1日現在の会員名簿(査第114号証)に記載されていたとしても,少なくとも平成16年10月26日の本件立入検査以前で,かつ,平成17年6月21日の本件排除勧告の1年以上前に,実質的に非会員として本件違反行為から離脱していると合理的に推認される。
株式会社太子建設(以下「太子建設」という。)は,トラスト・メンバーズの会員であり,平成13年及び平成14年のトラスト・メンバーズの会員名簿にも記載されているが(平成15年以降のTST親交会の会員名簿には記載されておらず,本件違反行為の当事者とはされていない。),平成11年以降本件期間とされる平成16年度までずっとB級の格付だったのであり,TST親交会等がA級建築業者のための談合組織であった旨の審査官の主張と根本的に矛盾する。これは,TST親交会等自体は純粋な親睦団体であるとの被審人らの主張を強く推認させる事情でもある。
従前A級でありTST親交会等のメンバーでもあったがその後B級以下に降格した別紙3記載の5業者が,違反行為の当事者から除外されている。
また,大和建設株式会社(以下「大和建設」という。)は,平成11年度及び平成12年度にはB級であり,平成13年にA級に昇格し,その後トラスト・メンバーズの会員になり,平成15年度以降再びB級に降格した者であるが,同じく違反行為の当事者から除外されている。
A級,B級等の格付は決して絶対的なものではなく,大和建設のように,B級以下に降格しても再びA級に格付される可能性がある。
従前A級であったが公正取引委員会の審査開始時にたまたまB級以下の格付であったために違反行為の当事者から除外される業者がいる一方で,従前B級であったにもかかわらず審査開始時にたまたまA級の格付であったために違反行為の当事者とされる業者がいるという,何人の目にも不公平な結果が生じている。
各地方振興局管内の状況について
岩手県の面積は四国4県に匹敵する広大なものであり,同県内には12の地方振興局が存在する。以下のような各地方振興局の状況からすれば,審査官の単純な主張が誤りであることは明らかである。
釜石地方振興局管内には,12社ほどのA級建築業者が存在したが,そのうちTST親交会等に加入していた業者は3社のみであり,他の9社は,本件期間中,TST親交会等に一切加入していなかった。そして,同振興局では,指名競争入札の入札参加者10社としては,その管内に所在する業者が指名される場合が圧倒的に多かった。そのため,物件47,60,69及び85の入札参加者をみれば一目瞭然であるが,同振興局管内の指名競争入札においては,TST親交会等の会員3社と非会員7社とが,常に3:7の比率のまま入札参加していた。かかる状況を勘案すれば,106社の基本合意に基づいて受注調整をしたことなどあり得ないことは何人の目にも明らかである。
仮に上記の4物件についても受注調整が可能であったとすれば,それは,常時入札に参加する12社内の多数派に共通する要素である岩手県A級会(12社のうち,TST親交会等の会員3社を含む7社が岩手県A級会の会員であった。)を媒介とせざるを得ないと考えるのが常識的である。
大船渡地方振興局の管内は,前記ア(ア)のとおり,岩手県A級会の会長会社である豊島建設の所在地であるが,同管内に存在していた9社のA級建築業者のうち,本件期間以前にトラスト・メンバーズに入会していたのは3社にすぎず,その後,平成13年6月にようやく合計6社になったが,他の会社は一切入会していない。
遠野地方振興局の管内に存在していた4社のA級建築業者のうち,TST親交会等に入会していたのは2社のみであった。
北上地方振興局の管内に存在していた9社のA級建築業者のうち,その後B級に降格した業者もあるが,TST親交会等に入会していたのは当初は1社のみであり,その後も,平成11年に入会した2社を含めて3社にとどまっていた。
逆に,二戸地方振興局の管内では,岩手県A級会に所属する6社がすべてTST親交会等の会員であり,審査官の主張が真実であれば整然と受注調整が行われたはずである。しかしながら,実際には,例えば平成15年7月8日に実施された物件95,96及び97の各入札において,同管内の業者が入札参加者の大部分を占めていたが,物件95は,低入札価格調査実施の上でアウトサイダーにより落札率82.99%で落札され,物件96は,指名競争入札であるにもかかわらず落札率85.36%で落札され,物件97に至っては,会員業者4社が低入札価格調査で失格し,アウトサイダーにより落札率85.00%で落札されているのであり,激しい競争が繰り返されている。
以上のような各地方振興局管内の状況に注目すれば,盛岡地方振興局管内の業者による盛岡支部A級会の「取り決め事項」がトラスト・メンバーズによって岩手県全域に浸透したなどという審査官の主張が画餅であることが明白になるとともに,地元業者を中心に指名される指名競争入札には,盛岡地方振興局管内の業者を中心とする106社の基本合意が及ばないことも明らかになる。それらは,仮に受注調整が可能であったとすれば,本件違反行為とは別の基本合意(ルール)に拠るものといわざるを得ないのである。
受注の偏りについて
3年半にわたる本件期間において,91社のうち45社が,1件も受注していない。本件発注物件133物件については,106社のうちの50社で119件を,アウトサイダー9社で15件(JV物件のため1件重複あり)を受注している。
さらに,106社のうちの2社が各8件,1社が6件,2社が各5件,6社が各4件,以上の11社で合計56件を受注するなど,特定の業者に受注が集中していたのである。
かかる受注結果は,106社の間に,審査官主張の「受注機会の均等化を図る」などという意図や目的がなかったことを如実に物語っている。
TST親交会等の発足の経緯に関する審査官の主張を前提とすれば,TST親交会等の各会員は,受注調整により自社も受注できることを強く期待して入会したはずであり,経営基盤が決して盤石ではない中小企業が,将来の受注を期待して3年半以上協力し続けるなどという主張は,現実離れしたものである。
また,3年半の本件期間中の入札参加回数が1回の業者が3社,2回の業者が1社,3回の業者が5社,4回の業者が2社,5回の業者が7社もあり,「貸借の関係」を作るためにより積極的に入札に参加したというような事情もみられない。
結局,審査官が無理な言い訳をしなければならないのは,TST親交会等が談合組織であり会員が全員それに賛同して入会していると決め付けるからであって,トラスト・メンバーズ発足時の一部の者の思惑や認識はどうあれ,TST親交会等の会員の半数以上が純粋な親睦会だと認識していたのであれば,前記の入札結果や入札参加の状況は無理なく説明でき,何の不思議もない。
小括
以上のとおり,本件違反行為の当事者をTST親交会等のすべての会員であると決め付ける審査官の主張が誤りであることは明らかである。仮に別紙9及び10記載の各受注調整の事実があったとしても,それはTST親交会等の全会員すなわち106社の合意に基づくものではなく,別の違反行為(基本合意)に拠るものである。
被審人タカヤの主張
TST親交会等と被審人タカヤ
平成12年4月30日にトラスト・メンバーズの会長であった稲垣が被審人タカヤを退職した。以後,被審人タカヤと稲垣は対立し,接触をもったことはない。
平成14年4月22日,被審人タカヤは民事再生手続の申立てをした。同年12月2日に再生計画案が可決・認可されたが,しばらくの間,経済的な信用が回復しなかった。また,上記申立てにより,国や地方公共団体の発注に係る工事の入札参加資格が抹消され,同資格が復活したのは平成14年末であった。
被審人タカヤは,上記申立てをして以降,TST親交会等の会員ではなく,TST親交会等の総会にも出席しなかった。
被審人タカヤの入札物件,落札率,アウトサイダー等
被審人タカヤは,平成14年4月22日の民事再生手続の申立て以降,平成15年5月23日に物件88をJVで落札するまでの間に,物件を落札したことはない。
それ以降,被審人タカヤは,12物件(物件91,93,94,102,103,108,111,119,120,122,127及び128)の入札に参加したが,それらの落札率はほとんど80%台であり(番号順に85.00%,88.94%,97.92%,92.71%,88.13%,85.86%,93.99%,85.00%,82.28%,81.59%,85.23%及び94.66%),また,多数のアウトサイダーが入札に参加している。
これらの事実からも,被審人タカヤが,受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るために本件違反行為をし,受注調整を行ったとみることは到底できない。
平成13年4月1日から平成14年4月22日までに被審人タカヤが受注した工事について
不当な取引制限があったとされる平成13年4月1日から被審人タカヤが前記アの民事再生手続申立てをした平成14年4月22日までの間に,同被審人は,物件1,2,8,21及び34の計5物件を受注しているが,これらは,本件基本合意に基づくトラスト・メンバーズでの調整の結果として受注したものではなく,アウトサイダーを含む指名業者との間で具体的に受注調整が図られた事実はない。
前記アのとおり,被審人タカヤと稲垣とは平成12年4月30日以来対立関係にあり,TST等世話役に対して,受注を希望し,それが受け入れられる状況ではなかった。
上記5物件の落札率は番号順に98.37%,96.38%,90.91%,98.20%及び96.89%であったが,これらの落札率をとらえて,公正な競争が阻害されたとみることは到底できない。公正な競争が行われ,落札価格を下回る価格で入札した業者がいなかっただけである。
なお,被審人タカヤの元役員であった細川が,上記の民事再生手続申立て以前に同被審人が落札した物件について抽象的に種々供述しているが(査第150号証),同人は,実際には土木一式工事の担当者であって建築一式工事に関しては全く担当外であり,また,同申立ての4か月後に退職して競合他社に就職しているような者であって,その供述は全く信憑性に欠ける。
平成14年4月22日以降に被審人タカヤが受注した工事について
被審人タカヤは,平成14年4月22日以後には,以下の物件88,114及び125の3物件を落札・受注している。しかし,物件88は被審人平野組を代表者とするJV(以下「平野組JV」という。)の構成員としての立場で落札したものであり,物件114及び125はいずれも少額の物件である(落札価格は順に245万円及び760万円)。また,物件114の落札率は98.47%であるが,物件125の落札率は90.15%である。被審人タカヤが本件違反行為をし,受注調整を行ったことなど一切ない。
物件88について
物件88の当時,被審人タカヤは,民事再生手続の申立てにより経済的信用が低下していたこと及び多額の保証金を長期間寝かせておけるような財務状況でなかったことにより,JVの代表者として入札参加資格を得ることは無理な状況であった。被審人平野組からJV結成の誘いを受け,平野組JVを結成することになった。
被審人タカヤは,被審人平野組との間で入札金額についての打合せをしたことはなく,入札金額13億4000万円は同被審人が単独で決めたものである。被審人タカヤは,物件88を落札するまでの経緯は一切知らず,入札直前に入札会場で被審人平野組から示されるまでは入札金額を知らされていなかったし,他の指名業者と折衝したことはなく,どのような指名業者が存在したのかも知らなかった。
前記落札額13億4000万円に対し,当初の予定工事原価は13億3650万円であり,利益率は0.26%しかなかった。施工中の工程管理等についての相当の努力により,最終的な利益率は4.01%まで向上したが,それでも,平野組JVの「子」である被審人タカヤでは本社経費を賄えず,赤字であった。
なお,被審人タカヤの佐々木憲雄(以下「佐々木」という。)の供述調書(査第139号証)には,物件88の入札前に同被審人において平野組JVが受注予定者になったと認識していた旨の記載があるが,平野組JVが本件基本合意に基づいて受注予定者になったという証拠はなく,前記a及びbの事実によれば,同記載が客観的事実に反することは明らかであり,審査官の創作である。
また,審査官は,被審人タカヤは被審人平野組が平野組JVの代表者として物件88に関する受注調整を行うことを認識していた旨主張するが,被審人平野組が本件基本合意に基づいて受注調整を行ったという証拠は全くなく,審査官の同主張は客観的事実に基づくものではない。
物件114及び125について
佐々木の供述調書(査第139号証)に,物件114及び125の各入札前に被審人タカヤが受注予定者になったと認識している旨の記載があるが,被審人タカヤがTST親交会等から脱退していること,TST親交会等の会長等に対して受注希望など出したことはないこと,アウトサイダーを含む入札参加者との間で受注調整を行ったことなどないことは明らかであり(物件125については,落札率が90.15%であったことからも明らかである。),同記載は客観的事実に反する審査官の作文である。
被審人大森工業の主張
本件全体の審査官の主張について
TST親交会等の会員が本件違反行為をしていた旨の審査官の主張に対する反論としては,他の被審人,主として被審人75社の主張を援用する。
中途参加者に関する主張立証について
独占禁止法第3条後段所定の不当な取引制限の主要事実は,共同して事業活動を相互に拘束するような合意を行うことであり,入札談合でいえば,受注予定者を決定するような内容の合意を行うことが主要事実となるはずである。
そのような主要事実を基礎付ける間接事実としては,個別物件の受注調整もあるが,合意の形成過程がより重要であり,その点の主張立証が不可欠である。しかしながら,審査官は,その点の主張立証をしない。
審査官が合意の形成過程の主張をしない以上,最低限,個別物件(被審人大森工業に関しては物件112の1件のみ。)の受注調整の具体的状況から本件基本合意の内容が推認できるように主張立証することが不可欠となるはずである。しかしながら,審査官はそのような主張立証をしない。
以上のような審査官の主張立証状況により,被審人大森工業としては,防御の対象を全く提示されないこととなる。個別物件に係る入札について,それが他の事業者への協力行為でないことを証明することは容易でない。
審査官は,被審人大森工業を中途参加者として位置付けるかどうかに関して,物件112の重要性を熟知していたはずであるのに,同物件について十分な調査をせずに,同被審人を本件違反行為の当事者と決め付けた。
アウトサイダーの存在と基本合意の立証の不存在
岩手県発注の特定建築工事の入札参加者数は147社であり,そのうち41社はアウトサイダーである。本件受注物件118物件のうち,実に87.2%に相当する103物件についてアウトサイダーが参加しているが,アウトサイダーが入札に参加しているということは,そのアウトサイダーが1社でも任意に入札しさえすれば,106社で基本合意があったとしても受注予定者が落札することはできない。まして,アウトサイダーが複数参加していれば,基本合意を維持することは更に困難になるはずである。
106社は,アウトサイダーがどのように行動するかは予測できないのだから,上記のような基本合意に実効性があるはずがない。建設工事では,種々の要因により落札の意思なく入札するのはよくあることであり,結果論では判断できない。
アウトサイダーの動向を無視した基本合意の立証は不可能というべきである。この点についての主張立証の欠落は,審査官の主張にとって決定的かつ致命的な欠陥である。
審査官の論理及び立証の破綻
審査官は,おおむね以下のような論理で,被審人大森工業が入札談合の当事者であると主張する。すなわち,①被審人大森工業はTST親交会に入会した,②過去において,TST親交会等に入会する場合,談合のルール等の説明がされていたという他の事業者の供述等がある,③したがって,被審人大森工業の入札担当者は入会時に談合のルールの説明を受けていたはずであり,そうであれば,同被審人は,同ルールを承知の上で1件の入札に参加して協力したことになる。
しかしながら,後記(イ)の経緯からみて,被審人大森工業が上記③のような説明を受けるとすれば,それを受けるのは大森社長しかあり得ないが,同人は,入会の話をした際の状況を明確に述べているとおり,そのような説明を受けたことはない。
被審人大森工業がTST親交会等に入会した経緯や動機について,同被審人の大森社長は,以下のとおり述べている。
すなわち,平成14年10月ころ,大森社長がある会社の東北支店に挨拶に行った際,同社の常務取締役支店長であった人物から,トラスト・メンバーズという会があり,会長は被審人タカヤのOBの稲垣であり,岩手県内の有力企業の大部分が会員となっていていろいろな人と会えるという話があった。大森社長は,トラスト・メンバーズが親睦会である旨の説明を受けたので,被審人大森工業の主たる事業であるとび土工ないし解体の下請工事の受注につながるものと考え,その場で入会の意思を伝えた。その後しばらくして,大森社長は稲垣と面会したが,その際には,被審人タカヤから下請の仕事をいただきお世話になったという話と,TST親交会等への入会は総会承認事項であるため次回の総会後になるという話があっただけであった。平成15年10月16日の総会に,被審人大森工業の従業員が初めて参加し,TST親交会等に入会した。
前記(イ)の供述内容については,以下のような被審人大森工業の事業内容からすれば,十分な合理性・信用性があるといえる。
すなわち,同被審人は,資本金3500万円であり,その過去10年間における工種別の完成工事高の平均は,土木・舗装が約3億2800万円(全体の21.8%),建築・大工が約2億7500万円(全体の18.2%),とび土工・解体・その他が約9億500万円(全体の約60%)である。そのうち,本件の対象となった建築工事の区分は約7800万円で,全体の約5%に過ぎない。また,過去10年間における受注先別の平均受注高は,官公庁が約3億円(全体の約20%),民間元請が約2億8500万円(全体の18.9%),下請が約9億2100万円(全体の61.1%)である。被審人大森工業の主たる事業は,工種別ではとび土工・解体・その他工事であり,形態としては下請である。
なお,TST親交会等の総会に出席した被審人大森工業の従業員が,主としてゼネコン関係を担当していた阿部八郎ではなく,官工事を担当していた佐藤文宣であったことについては,当初は大森社長自身が下請営業のために出席する予定であったところ,都合が悪くなり,かつ上記阿部も都合により宿泊を伴う総会には出席できなかったため,もう1人の営業部長である上記佐藤に代理出席を依頼したものにすぎない。
また,仮に物件106について被審人大森工業の従業員が被審人橋本工務店から入札価格の連絡を受けたことがあったとしても,同物件の入札参加者には審査官がアウトサイダーと主張する事業者が7社含まれており,上記連絡を受けたことをもって,そもそもTST親交会等が受注調整の組織であるとの認識に至るとは考えにくい。団体への加入を前提とすることなく,個別物件で希望する会社が意思表明してくることはあり得る。物件106は,入札が成立せず,被審人橋本工務店とアウトサイダー2社との見積り合わせによって同被審人が受注しているのであり,この段階では被審人大森工業は当事者には入っていない。
審査官は,平成15年10月16日のTST親交会の総会で違反行為を継続することが確認されたとも主張するが,被審人大森工業としてはそのような認識はない。
被審人南建設の主張
本件違反行為の不存在
TST親交会等の会長であった稲垣の供述(査第46号証),同会の副会長であった被審人佐賀組の金野勇一の供述(査第128号証)及び被審人北水建設工業の三田村侑の供述(査第140号証)によれば,トラスト・メンバーズの結束は,その発足時はさておき,平成12年ころから低下しており,南建設がトラスト・メンバーズに入会した平成13年11月以降には,もはや本件基本合意及び受注調整が従来のルールどおりに維持されていなかったことがうかがわれる。まして,平成14年4月には被審人タカヤが負債総額約340億円の規模で民事再生手続に入っており,そのような状態で本件基本合意の維持が可能だったとは思われない。仮に審査官の主張するように受注調整を継続させるために様々な対策が講じられたことが事実だとしても,それはむしろTST親交会等が受注調整を維持するために苦慮しなければならなかったことの表れであり,他方,それらの対策が現実に功を奏したことを示す明確な証拠はどこにもない。そうだとすれば,被審人南建設が入札に参加した平成14年,同15年当時に至っては,なおさら本件基本合意及び受注調整が維持されていたとは考え難い。
58物件には,被審人南建設が入札に参加した物件100も含まれているが,同物件についても受注調整が行われた事実はない。
本件違反行為への南建設の不関与
仮に,本件違反行為が存在したとしても,以下のとおり,被審人南建設は,トラスト・メンバーズへの入会に際し,会の趣旨や入会条件・手続等を知らなかった。
被審人南建設の関連会社の代表取締役である南元舟(以下「南」という。)は,平成13年4月ころ,被審人タカヤからトラスト・メンバーズへの入会の誘いを受けたが,その際,単なる親睦団体であると説明されており,トラスト・メンバーズの趣旨や具体的な入会手続等については何も説明されなかった。
仮にトラスト・メンバーズの趣旨・目的や加入手続が審査官の主張するようなものであったとしても,それらを被審人南建設が認識していたかどうかは別問題であり,同被審人の加入手続がそのとおり厳格に行われたかどうかも別問題である。
被審人南建設は,平成11年6月に岩手県から建築についてもA級の格付を受けてはいたが,この当時からずっと土木業を中心とし,民間・下請工事を主な業務としており,建築工事の受注は下請を含めても業務全体の1割弱程度であり,そもそも県発注の大規模な建築工事を何件も受注できるだけの備えはなかった。そのため,同被審人は,トラスト・メンバーズへの入会の誘いを受けた際,建築業者の集まる会に入会してもさほどメリットはないと考えたものの,同被審人の社長がかつて世話になった被審人タカヤからの誘いであったこと,他の業者を知ることは重要であること,将来的に建築業の業務を拡大する可能性に備え,建築業者の集まっている会に入会していれば発注者からの信用が得られること,入会すればこれを通じて民間・下請工事の情報収集ができると考えたことから,トラスト・メンバーズに入会してもよいと考えた。
「建築業者の親睦団体に参加して顔を売っておけば下請業者として仕事をもらえるかもしれない」と考えることは,一般的に営業を行う上でごく普通の感覚であり,受注調整などというような違法な大それた手段に加担することにまでいちいち気が回るものではない。
前記aのとおり,南は,入会の手続等について全く知らされていなかったので,稲垣に直接会って入会の意思を伝えると,入会手続やトラスト・メンバーズの趣旨等の説明も一切ないまま「事務局で入会に関するすべての手続をしてくれる」との回答を受け,被審人南建設は,言われるままに入会金1万円を支払った。審査官が主張するように総会で承認を得て初めて入会となるなどということはなく,単に入会金を支払えばその場で入会という扱いになっていた。
仮にTST親交会等の加入手続が稲垣の供述するようなものであったとしても,それはトラスト・メンバーズ発足時における当初の厳格な手続を述べているにすぎないかもしれない。長い期間のうちには社会情勢も変化するのであるから,上記手続がTST親交会等の名称変更の前後とも変わらず行われたといっても,いつまで当該手続が遵守されていたものか,たとえ推薦者なるものがいたとしても推薦者からの説明内容が常に同じであったのか,あらゆる新入会員に対して会社の規模・実績等を問わず常に当該手続が厳格に適用されていたのかなどの末端の実情については,稲垣の供述だけでは何ら立証されたとはいえない。
また,被審人佐々勇建設に送付された書面(査第88号証)についても,これと同様の書面が被審人南建設にも届いた事実は確認できないし,仮に届いたとしても,トラスト・メンバーズを単なる親睦団体としか認識していない者にとっては何ら意味のない書面であるから,これをもって被審人南建設がトラスト・メンバーズの趣旨等を理解していたと断定することはできない。
被審人南建設は,トラスト・メンバーズへの入会に当たって推薦者が必要であったことも当然知らなかった。被審人佐藤建設工業及び同丹野組が推薦者になっていたことは,本件審判の開始後に第7回トラスト・メンバーズ総会資料を見て初めて知ったものであり,この2社からトラスト・メンバーズの趣旨等について連絡を受けたことなど一度もない。そもそも被審人南建設と同佐藤建設工業との仲は,訴訟の関係で平成13年当時には既に険悪になっていた。
なお,トラスト・メンバーズの平成13年度の総会資料に推薦者が記載されているとしても,被審人南建設はいちいちそれに目を通していなかった。また,同被審人は,平成14年度の総会の際に被審人佐藤建設工業と相部屋になったことはあるが,それを決めたのは被審人南建設自身ではないし,部屋割りに注文をつけられるような立場でもなかったし,そもそも部屋割りのごときにいちいち目くじらを立てたりしなかった。
被審人南建設は,トラスト・メンバーズへの入会後も,その趣旨等を知らず,受注調整の意図もなかった。
被審人南建設のTST親交会等の年会費は最低額の1万円であった。
同被審人は売上的には決して最低額にランクされるものではないから,上記会費額はまさに同被審人の「会の使用状況」(TST親交会等の各種活動への参加状況)と比例しているものと推察され,同被審人が稲垣の目から見て単に名前だけの存在でしかなかったことの証左である。
被審人南建設は,TST親交会等に入会したものの,同会について現実のメリットを感じなかったため,その活動にほとんど参加しておらず,その会員向け文書に目を通すこともなかった。
すなわち,被審人南建設は,TST親交会等の総会に参加したのは平成13年及び14年の2回だけであり,平成15年の総会には出席していないし,その他の旅行会等にも参加したことがない。同被審人としては,前記aのとおり名前だけの存在として扱われている以上,出席したところでただの飲み会と同様で,下請の仕事にはつながらないと思ったからである。
また,被審人南建設は,「トラスト・シグナル」,「お願い」,時候の挨拶状等の送付を受けてはいたものの,自社には関係ないものとして,ほとんど目を通していなかったし,仮に目を通したとしても,そもそもTST親交会等の趣旨を知らなかったのであるから,それらの文書の意味を理解できるはずもない。情報を発する側の意図とそれを受け取る側の認識のずれが往々にして発生することは,社会的に顕著な事実である。また,何ら参加の意義を感じていない親睦団体の会報について,多忙な業務の合間をぬってまで律儀に目を通さなかったのは至極当然のことである。
個別物件について
物件71,96及び100について
物件71,96及び100のいずれについても,被審人南建設が,審査官主張の受注調整のルールとして,指名を受けてからTST等世話役に連絡したことは一度もないし,TST等世話役から受注希望者の有無等について連絡を受けたこともないし,入札物件に関する会合の通知等を受けたことも一切ない。
トラスト・メンバーズの結束の推移等は前記アのとおりであり,平成14年ないし15年当時に審査官の主張するような受注調整のルールが徹底されていたとは考え難い。被審人南建設が入会後に誰かから当該ルールを教えられたことも全くない。
なお,58物件についての受注調整状況の立証は不十分であるから,それを前提として本件基本合意の実効性が損なわれていなかった等と決め付けることはできないし,仮にその実効性が損なわれていなかったとしても,それが被審人南建設に対しても全く同様に適用されていたかは別問題である。前記(イ)aのような同被審人の立場からすれば,上記ルールを教えられたことも上記通知等を受けたこともないという同被審人の上記主張は十分合理的である。
物件100について
物件100に関する審査官の主張の論拠とされている新田勝美(以下「新田」という。)の供述(査第143号証)の信用性については,以下のとおり疑義がある。
すなわち,新田の供述では,物件100に関する「入札説明会が行われ」た後,被審人蒲野建設らが久慈グランドホテルに集まったとされているが,そもそも岩手県発注の工事において入札説明会は一切実施されていない。
会合の開催期日がいつであるかは会合の存在を認定する上で重要な事実であり,供述内容の「詳細性・具体性」の要素である。そして,新田の上記供述では,「入札説明会が行われたこと」を基準点として時期の特定がされており,入札説明会の存在こそがその特定の上で不可欠の前提とされているのであるから,かかる前提自体が事実に反する以上,これに基づいて特定される会合の存在についても重大な疑義が生ずるものといわねばならない。
物件100の入札に関して,被審人南建設は,その入札日の前にも後にも,被審人小山組から留置された物件100に関する「入札・見積結果報告書」(査第228号証)記載の価格の連絡など受けておらず,前記(a)のように被審人蒲野建設その他の業者らが集まったか否か,どのような話合いがされたのか等についても知らなかった。
仮に被審人蒲野建設が被審人小山組やその他の業者に対して価格の連絡をしたとしても,そのことだけで,被審人南建設に対しても同様の連絡があったと推認するのは早計である。
被審人南建設は前記(a)の会合に参加していない。新田の供述では,会合には「稲垣会長と受注を希望する業者,そのほかに数社が集ま」ったとされており,受注希望を表明していない業者であっても会合に参加していたことがうかがわれるから,受注希望を表明していないことだけをもって不参加でも差支えないなどと断じることはできないはずである。
さらに,新田は,「久慈地区の工事は久慈地区の業者で行うことになっているから,二戸地区所在の南建設は会合に参加していない」旨を供述しており,たとえ久慈地区の業者間では受注調整が行われたとしても被審人南建設はその対象外であったことを示すものである。そして,被審人南建設が規模上も実績上もTST親交会等に属する他の建築業者とは全く異質な者であるので,「有力な事業者」としてはあえて同被審人に対して入札についての指示・拘束を行うまでもなかった,ということを正に推認させるものである。
被審人南建設が物件100について被審人蒲野建設の入札価格(8400万円)より高い価格で入札したのは,あくまで被審人南建設の積算によるものであって,決して他社の価格に合わせて操作したものではない。
すなわち,被審人南建設は,平成15年6月12日に岩手県から物件100に係る指名競争入札の通知書の送付を受け,十分に利益が出るなら受注したいと考えて積算を行い,その積算価格は7000万円程度であった。しかし,同月23日,上記入札がいったん中止された。翌24日,被審人南建設の担当者は,他の工事に係る入札会場で,被審人蒲野建設ほか数社の担当者との間で,単なる噂話として,物件100についての積算価格等に関する話をした。そこで,被審人南建設の積算に見落としがあったため8000万円台前半の他社の積算価格との間で1000万円近くの開きが生じたことが判明したが,入札が取りやめになったこともあって深くは考えずに話していた。しかし,同年7月17日,岩手県から物件100についての再度の入札公告があった。被審人南建設は,上記見落としも踏まえて再度積算を行い,その結果,8653万7561円との積算価格になり,8600万円であれば十分利益を見込めるだろうと判断して,入札価格を同額とした。上記噂話の経緯により,他社はもう少し低い価格で入札してくることも予想されたが,これ以上下げると利益を見込めないラインとして,8600万円がぎりぎりの価格であると判断した。
被審人南建設は,岩手県から物件100に係る積算資料の提出を要求され,同年8月7日にこれを提出しており,このことからも,同被審人が上記のとおり独自に積算して入札価格を決定したことは明らかである。
なお,物件100につき全業者が8000万円台の割と近い金額で入札していることについては,上記のとおり入札が一度流れたという特殊事情により,各業者ともおよその価格の見当がついていたからではないかと考えられる。
仮に,本件受注物件118物件の中に,積算内訳書の数値がその会社の積算によるものでなかった事例がわずかに2件あったとしても,それらの工事と同様の手法が物件100についてもとられたなどと断定することはできない。
物件71及び96について
審査官が物件71及び96を含む60物件について受注調整が行われたと推認する根拠として挙げているのは,①63物件については受注調整が行われたことが明らかであるところ,本件期間の特定の時期に偏っておらず,60物件もまた同時期に発注されたものであること,②63物件と60物件とで入札参加者が重複しており,106社間での取扱いが異ならないこと,③60物件の中に,受注調整の実行を自認する業者が入札に参加しているものがあること,④60物件の中に,研究会が開催されているものがあること及び⑤60物件のうち再入札に至った10件のすべてにおいて,1回目に最低価格で入札した者が引き続き最低価格で入札して落札していることである。
しかし,被審人南建設が入札に参加した物件71及び96に関しては,審査官が本件基本合意の下に受注調整を継続的に行ってきたことを自認していると主張する16社はいずれも参加していないし(前記(a)③),研究会等も開催されていない(前記(a)④)。
当時の入札では予定価格は公表されておらず,被審人南建設では,1回目の入札で予定価格に達せず再入札に至り,1回目の最低入札価格が発注者から伝達された時点で,それが同被審人設定の入札価格範囲内であれば,同範囲内の価格で2回目の価格を決定し入札することとしていた。被審人南建設では,入札担当者が入札価格決定者から委任されて入札に臨むものであるところ,入札価格決定者は,再入札になった場合の2回目以降の入札価格を,独自に最低利益を踏まえて想定し,入札に臨む前に,入札担当者に,「最低入札価格より○○円以内」という形で伝えていた。このように,被審人南建設では,あくまでも自社の独自の利益判断により入札価格を決めていた。物件71についても,被審人南建設は,再入札時において,1回目の入札における最低価格(700万円)以下では十分な利益は見込めないと判断したが,それでも諸々の状況を踏まえて赤字ぎりぎりと判断したラインで入札したものであって,独自の判断によるものである。被審人中舘建設が3回とも最低価格で入札したのは,たまたま当時の同社の諸事情を総合考慮した利益計算により,他社より低い価格でも赤字にはならないと判断したものであろうと考えるほかない(前記(a)の⑤)。
前記(a)の①及び②は単なる外面的事実にすぎず,同じ時期に同じ地域で行われた工事であれば,偶然であっても十分発生し得るものである。
以上のとおり,少なくとも物件71及び96に関しては,審査官の推認の根拠はあまりにも薄弱である。
審査官による推認の不当性
「推認」はあくまでも原則に対する例外的な手法として用いられるべきである。受注調整の認定の要素は,原則として①事前の連絡・交渉,②連絡・交渉の内容及び③結果としての行為の一致とされるはずであるが,上記②を具体的かつ詳細に立証することが通常困難であることを考慮して,「推認」という手法が例外的に許容されるにすぎない。そうだとすれば,「推認」の前提となる事実は限りなく上記②に近いものでなければならない。
物件71,96及び100については,前記aないしcのとおり,被審人南建設は受注調整に加わっていない。これら以外の物件については,被審人南建設はそもそも入札に参加していないのであるから,これらの個別物件における入札状況によって,60物件すべてについて同被審人の受注調整行為を推認することはできないはずである。
さらに,被審人南建設は,前記(ア)のとおりトラスト・メンバーズの趣旨等につき何らの説明もされていないから,本件基本合意に基づく受注調整などあり得るはずもなく,そもそも推認の基礎を欠く。ましてや,同被審人はTST親交会等の後発メンバーであるにすぎず,その加入時には前記アのような状況であったのに,これらの事情を無視し,同被審人についても他社と同様の根拠に基づいて本件違反行為を推認するのは,あまりに乱暴である。
被審人土橋工務店の主張
本件違反行為については知らない。
被審人土橋工務店は,被審人大森工業と同じ立場である。
被審人土橋工務店は,TST親交会等に入会する際に本件基本合意についての説明を受けたことはなく,入会後に総会等でのルールを聞かされたこともない。そもそも,同被審人の入会の動機は,得意工事である型枠部の工事の受注の一助になればというものであった。
本件期間中に被審人土橋工務店が入札した物件は4件あるが,いずれについても,他の業者から入札価格の指示等を受けたことはなく,独自の価格で入札したものである。
なお,被審人タカヤの細川が,平成11年6月29日入札の「県民会館屋上防水シート改修工事」(査第150号証の番号1)について,あたかも被審人土橋工務店の代表者が受注調整行為を行い入札各社の了解を得たかのような印象を与える供述をしているが,そのような事実はない。そもそも,上記「県民会館」の前回の改修工事を被審人タカヤが施工しており,被審人土橋工務店は,被審人タカヤから,A級会の理解を得たので何とかならないかとの打診を受けたが,それに与することはできないので,無視して独自の価格で落札したものである。仮に本件基本合意があったなら被審人タカヤが落札者になっていなければならない。
被審人堀切の主張
被審人堀切は,独占禁止法に違反するような行為をしたことはない。
1 争点②(本件違反行為が「競争を実質的に制限」するものであったか否か)について
審査官の主張
以下の諸事情に照らせば,106社が,本件期間において,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争を実質的に制限していたことは明らかである。
106社の入札参加実績及び受注実績
 本件発注物件133物件について,その入札参加者の総数は147社であり,106社は参加者数で72.1%を占めている。106社のうちいずれかの会社が本件発注物件133物件すべての入札に参加し,同133物件に係る全147社の延べ入札参加回数が1414回であるうち,78.9%は106社によるものである。さらに,106社は,本件期間において,本件基本合意を維持し,本件基本合意に基づく受注調整の結果,本件発注物件133物件のうち118物件(88.7%),発注総額約192億円のうち約168億円(87.5%)を受注していた。
なお,本件受注物件118物件のうち103物件についてアウトサイダーが入札に参加していたものの,106社は本件基本合意に基づく受注調整の結果,受注していた。
58物件についての受注調整
本件受注物件118物件のうち58物件について,本件基本合意に基づいて受注調整が行われていた。
60物件についての受注調整
60物件についても,58物件と同様,本件基本合意の下に受注調整が行われていたことは,以下のとおり優に推認できる。
106社による受注調整の実行
106社は,岩手県発注の特定建築工事について,本件基本合意の下に受注調整を実行していた。
本件基本合意の実効性
106社は,63物件について受注調整を行っていた。この63物件に現れた受注調整の方法は,前記第1のそれと合致していることから,本件基本合意が実効性を有していたこともまた明らかである。殊に,受注予定者を決定したが106社が受注できなかった別紙10記載の5物件が存在したにもかかわらず,引き続き106社が受注調整を行っていた事実は,本件基本合意の強い実効性を示すものである。
60物件に係る受注調整
前記(ア)及び(イ)に加えて以下のような事情を併せみれば,60物件についても,58物件と同様に受注調整が行われていたと推認できる。
63物件との差異がみられないこと
63物件は平成13年から平成16年にかけて発注されたものであり,本件期間の特定の時期に偏っていないことから,106社は間断なく継続的に受注調整を行っていたと認められる。そして,60物件も,106社が継続的に受注調整を行っていた本件期間内に発注されたものである。
63物件の入札に参加した者は106社のうち102社であり,そのうち60物件の入札に参加した者は95社であるところ,60物件のいずれにおいてもこれら95社のうち複数の者が入札に参加しており,かつ,95社で入札参加者の過半を占める物件が52物件(86.7%)に及んでいる。
         さらに,63物件の受注調整の状況からみて,106社のうち特定の者が入札に参加する場合又は特定の者が受注予定者となる場合で受注調整の要領が異なるところはない。106社であれば,どのような組合せで入札参加者が構成されても受注調整の際の扱いが異ならない前提は,60物件にも等しく及ぶものとみてとれる。
63物件の入札には,本件期間中,本件基本合意の下に受注調整を継続して行ってきたことを自認している16社(被審人タカヤ,同千田工業,同新田組,同タカヨ建設,同橋本工務店,同佐賀組,同北水建設工業,同東野建設工業,同吉武建設,同恵工業,同千葉建設(水沢市),同篠村建設,石川工務所,白根建設,丸卓建設及び大蔵建設)が参加している。
         そして,60物件の入札のうち,上記16社のいずれかが参加しているものは,46物件に及んでいる。
60物件における受注調整をうかがえる事情があること
60物件のうち,別紙11記載の8物件(物件14,28,43,51,56,91,107及び122)に関して,受注予定者を決定するための「研究会」が開催されている。
60物件の中には,1回目の入札で落札者が決まらず再入札に至ったものが10物件(物件18,30,40,49,66,71,76,81,90及び115)あるところ,そのすべてにおいて,1回目の入札の際に最低価格で入札した者がその後の再入札においても引き続き最低価格で入札して落札している。これは,あらかじめ受注予定者が決定されていたとみなければ不自然な状況である。
58物件の入札にはアウトサイダーが参加しており,物件67及び106ではアウトサイダーが入札参加者の半数以上を占めているものの,あらかじめ決定された受注予定者が予定どおり落札している。この状況からみて,60物件の入札にアウトサイダーの入札参加があることは,受注調整の妨げにならない。
アウトサイダーの対応等
前記アないしウによれば,アウトサイダーの対応(競争的か,協力的か,妨げなかったか)について考慮するまでもなく,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争が実質的に制限されていたことは明らかであるが,念のため,アウトサイダーの対応等について付言すれば,以下のとおりである。
受注予定者による協力要請
本件違反行為に係る受注調整においては,アウトサイダーが入札に参加する場合には,106社のうち受注予定者となった者が,自社が受注できるよう適宜協力を要請することとしていた。
アウトサイダーが入札に参加した物件のうち13物件(物件19,32,44,53,57,83,102,106,109,124,129,131及び132)において,実際に受注予定者が協力を要請していた。
これらの事実は,稲垣やその他の106社の関係者の供述調書並びに上記の13物件について別紙9及び10で摘示した各証拠から明らかである。
アウトサイダーの入札対応
本件受注物件118物件のうち103物件の入札に,アウトサイダー46社が参加し,延べ248回の入札をしているところ,岩手県の低入札価格調査制度の対象となる予定価格の85%を1つの目安とした場合,46社によるそれを下回る価格での入札回数は9回(3.6%)に過ぎない。さらに,予定価格の90%未満でみても,22回(8.9%)にとどまっている。
これを物件数でみると,アウトサイダーが予定価格の85%未満で入札している物件数は8件(7.8%),予定価格の90%未満でみても16件(15.5%)にとどまっている。
また,前記(ア)の13物件のうち物件102を除く12物件について,アウトサイダーが,受注予定者からの要請に応じて協力していた。
以上を踏まえれば,全般的にみて,アウトサイダーは,受注予定者からの協力要請に応じて106社の受注に協力的な対応を採っていたと推認され,又は少なくとも,106社の受注を妨げるような入札行動を採っていなかったものと認められる。
被審人75社の主張
仮に106社間に何らかの基本合意を想定したとしても,そのような基本合意は,岩手県発注の特定建築工事の取引分野において市場支配力を有するものではなく,当該市場の競争を実質的に制限するものではなかったことは,入札結果等の客観的事実に照らし明らかである。
すなわち,別紙8によれば,平成15年1月から12月までの間に発注された条件付一般競争入札物件15件のうち,12件の落札率が80%台であり,しかも,事前に設計価格が公表されているにもかかわらず,その落札率の多くが低入札価格調査の基準価格である85%に近く,そのうち3件は85%を割っている。また,平成16年1月から本件の立入検査があった同年10月26日までの間に発注された条件付一般競争入札物件10件のうち,実に9件の落札率が80%台であるのみならず,前年から続く低価格競争は更に拍車がかかり,物件122は81.59%,物件126は80.00%,物件133は79.50%というような低落札率になっている。
事前に設計金額が公表されていた条件付一般競争入札物件において,実効性ある受注調整が行われていたならば,上記のような落札率になることはあり得ない。
また,指名競争入札については,前記2(2)ウのとおり,各地方振興局ごとの別のルールが機能しているのである。
審査官は,落札率のみで受注調整の有無を判断することはできない旨主張するが,市場の競争状況を最も端的に反映する客観的事実としての落札率の高低を問わないなどという主張は異常であるし,審査官は他方では「アウトサイダーの入札対応」に関して落札率を重視しており,手前勝手な主張となっている。
受注希望を表明したものの他の入札参加者の一部の協力を事前に得られなかった者は,結局「受注予定者になれなかった者」であることは明らかであり,当該入札は,基本合意なるものに沿った受注調整が功を奏さず,基本合意の競争制限効果が及ばなかった入札になったのである。そして,そのような基本合意なるものの競争制限効果が及ばなかったと推認される入札が市場で実施された入札の多くを占める場合には,当該基本合意なるものは,そもそも当該市場についての市場支配力を有さず,競争を実質的に制限するものではなかったことになるのである。
なお,仮にトラスト・メンバーズ発足時の一部の会員の間に審査官主張の基本合意的な了解事項があったとしても,その後情勢の変化が生じている。
すなわち,平成14年5月23日に,トラスト・メンバーズの中心的存在であった被審人タカヤが民事再生手続の申立てを行い,同年12月2日に再生計画の認可を受けている。そして,平成15年初頭以降の条件付一般競争入札の大部分の落札率が80%台前半に突入している。岩手県建設業界の盟主として権勢を誇った被審人タカヤの没落と,同県の発注工事数の減少などの環境の悪化とが重なって,岩手県発注の特定建築工事の市場も一挙に変化したといえるのである。
よって,仮に審査官主張の基本合意なるものを想定したとしても,平成15年初頭以降は,上記市場における競争の実質的制限は認められない。
被審人タカヤの主張
本件に関して,アウトサイダーが,恒常的に106社の受注に協力的な対応をとり,106社が競争を実質的に制限していた事実はない。
少なくとも,前記2(3)イの12物件については,多数のアウトサイダーが存在し,TST親交会等の会員業者とアウトサイダーとの間でどのような受注調整が図られたものか,明らかになっていない。
被審人大森工業の主張
本件受注物件118物件のうち103物件においてアウトサイダーが入札に参加していたのであり,そのような本件基本合意が競争の実質的制限をもたらす危険性を有するとはいえない。
本件において審査官が主張する市場は多数のアウトサイダーが参加する市場である。加えて,58物件のうち物件17,53,75,98,130,133等については,アウトサイダーの協力を得られず,アウトサイダーの失格,くじ引き等の偶然の事情によって106社が受注したものである。また,60物件のうち物件4,14,28,91,97,107,109,119,120,122,127等についても,低価格入札調査,くじ引き等によって106社が受注したものである。
被審人南建設の主張
審査官は,本件受注物件118物件の入札に参加したアウトサイダーの入札回数や入札価格等を踏まえて,アウトサイダーは106社に協力的な対応をとっていたか,少なくとも106社の受注を妨げるような入札行動をとっていなかったなどと主張するが,それらの入札回数等の数字を単体として見ただけでは,それらが実際に106社の要請によって生じたものか,他の何らかの要因によって生じたものか,あるいはたまたま106社の受注を妨げるような入札結果が生じなかったにすぎないのか,いずれとも断定できないはずである。むしろ,被審人千田工業の濱野和夫が,アウトサイダーが入札に参加している場合には「うまく受注できるかは入札してみないとわからないことが多くなっています」と述べていること(査第148号証),同被審人の千田三義も同様のことを述べていること(査第177号証)などを併せれば,審査官の指摘する数字が実際に106社の影響を受けた結果であるとみることは困難である。
争点③(本件違反行為についての除斥期間が経過したか否か)に関する被審人75社の主張
前記3(2)ウのとおり,仮に本件違反行為を想定したところで,遅くとも平成15年初頭以降には岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争の実質的制限は認められないのであるから,本件違反行為は遅くとも平成14年末には既に終了していると認定すべきである。
したがって,「当該行為がなくなった日から当該行為につき勧告又は審判手続が開始されることなく1年を経過した」(独占禁止法第7条第2項ただし書)ものとして,既に排除措置を命ずることは許されない。
2 争点④(被審人らに対して排除措置を命ずる必要性があるか否か)について
審査官の主張
「特に必要があると認めるとき」の判断基準
独占禁止法第54条第2項は,既に違反行為がなくなっているが,違反行為が将来繰り返されるおそれがある場合や,違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などには,なお違反行為の排除を命ずる必要があることから,このような場合を「特に必要があると認めるとき」として排除措置を命ずべきものとした(公正取引委員会平成18年4月26日審決・公正取引委員会審決集53巻86頁)。
複数の事業者が,他の事業者と共同して,受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるように協力する行為は,独占禁止法の重要な保護法益である自由な競争を侵害するものである点で,公共入札制度が図ろうとする競争に直接的かつ甚大な影響を与える最も悪質な行為類型であり,社会的損失が大きいことから,その抑止の必要性が高い。また,受注調整は,受注価格の低落防止という違反行為当事者の相互の利益に合致するものであり,長期間にわたり継続的・恒常的に行われる性格の強い行為であって,仮に,違反行為当事者がこれを取りやめたとしても,当該違反行為の基礎となった違反行為当事者間の協調的関係が十分に解消されず,競争秩序の回復の障害となるとともに,協調的関係が再び醸成され,違反行為が復活する可能性が極めて高い。
このような性質にかんがみると,入札談合については,一般的にみて,違反行為が既になくなっていると認める場合であっても,排除措置を命ずることが必要であることはいうまでもない。
本件の「特に必要があると認めるとき」の該当性
以下の諸事情に照らせば,本件は,独占禁止法第54条第2項所定の「特に必要があると認めるとき」に該当し,被審人らに対して,審決をもって排除措置を命じることが必要である。
競争秩序の回復が不十分であること
入札参加実績,受注実績等
本件違反行為終了後の平成16年10月26日から平成20年1月31日までの間における岩手県発注の特定建築工事の発注件数は101件であり,この101物件(以下「本件違反行為終了後の101物件」という。)は,指名競争入札,受注希望型指名競争入札及び条件付一般競争入札のいずれかの方法により発注されているところ,その入札状況をみると,うち100物件について,91社中の84社のいずれか複数の者が入札に参加しており,残りの1物件には,当該84社中の1社が単独で入札に参加している。91社とアウトサイダーの入札参加回数の累計の割合に顕著な変化はみられず,アウトサイダーの入札参加回数が相対的に少ない状況に変わりはない。このような状況の下で,本件違反行為終了後の101物件(発注総額約142億8739万円)のうち87物件(総額約122億459万円)を91社が受注しており,本件期間と同様に91社が大部分の工事を受注している。なお,上記87物件の平均落札率は,89.0%である。
不自然な入札状況
本件違反行為終了後の101物件の入札結果をみると,次のように,本件期間において106社が受注した工事でみられたのと同様の不自然な状況がみられ,本件違反行為が取りやめられているにもかかわらず,本件違反行為の影響を受けた競争回避的な入札行動がみられる。これに加えて,前記ア(イ)の事情や後記(イ)dの本件違反行為取りやめの経緯を考慮すれば,本件違反行為によって醸成・確立・維持されてきた91社間の強固な協調的関係が十分に解消されていないことが優に認められる。
複数回入札における最低価格入札者の状況
本件違反行為終了後の101物件のうち91社が受注した87物件の入札では,1回目で落札者が決まらずに再入札に至ったものが5物件あるところ,そのすべてにおいて,1回目の入札で最低価格で入札した者がその後の入札においても引き続き最低価格で入札し,落札しているという不自然な入札結果が生じている。なお,上記5物件の平均落札率は,97.3%である。
過去に受注した工事との関連性等
本件違反行為終了後の101物件のうち91社が受注した87物件のうち,過去に同一又は関連建築物の工事が発注された際の受注・施工した者が明らかとなっている工事は52物件あるところ,このうち前回の工事を受注・施工した者が入札に参加していない19物件を除く33物件の入札結果をみると,22物件については,前回の工事を受注・施工した者と同じ者が再び受注している。
このことは,「継続性」や「関連性」などの事情を入札参加者が配慮する本件基本合意に相似した競争回避的な入札行動がとられていることを示している。なお,上記22物件の平均落札率は,91.3%である。
小括
これらの状況を併せかんがみれば,いまだ競争秩序の回復が不十分であることは明らかである。
本件違反行為と同様の行為が繰り返されるおそれがあること
本件違反行為が長期間継続していたこと
91社は,遅くとも平成13年4月1日以降,平成16年10月25日まで少なくとも3年7か月にわたって本件違反行為を継続しており,その間,岩手県発注の特定建築工事について受注調整を行っていたのであるから,長期間にわたって強固な協調的関係が維持されていたことは明らかである。さらに,91社は,長期間にわたって本件違反行為を継続する中で,受注調整に慣れ,これによって利益を得ることを志向することが既に常態化していたこともまた明らかである。
発注者の入札制度改革への対応策を講じてきたこと
岩手県は,平成12年2月1日以降,入札の透明性及び公平性確保の観点から,設計額が2億円以上一般競争入札対象額未満の工事を対象に条件付一般競争入札を導入し,平成13年1月1日にその下限を設計額1億円以上にまで拡大し,入札制度の改革を行ってきた。しかし,トラスト・メンバーズは,その対策として,前もって平成11年2月12日に臨時役員会を開催し,条件付一般競争入札の方法による発注の場合の受注予定者の決定方法について協議を行い,岩手県の入札制度改革の導入とともに,平成12年3月9日ころに開催した役員会において,条件付一般競争入札の方法により発注される建築一式工事については,受注希望の表明は公告日を含めて3日以内とすることなどについて改めて確認を行うなど,対応策を講じている。
さらに,平成13年1月30日に開催した役員会においても,受注希望の表明は公告日を含めて3日以内にすることなどを重ねて確認するとともに,条件付一般競争入札で提出が求められる入札価格の積算根拠となる工事費内訳書の取扱いについて,入札参加各社がそれぞれ準備することを確認するなど,条件付一般競争入札導入への対応策を講じている
このように,岩手県が入札制度改革を行っても,91社は新たに導入される入札制度への対応策を講じて受注調整を継続しており,受注調整への意欲と強固な協調的関係がみて取れる。
この点は,トラスト・メンバーズの設立経緯からも裏付けられ,91社は,独占禁止法を遵守する姿勢を欠いていたことが認められる。
発注者から疑われてもなお隠密裏に受注調整を継続していたこと
岩手県が,同県発注の建築工事についてトラスト・メンバーズが受注調整を行っているとの情報を受け,平成14年10月29日にトラスト・メンバーズ会長の稲垣らに対する事情聴取を行ったにもかかわらず,トラスト・メンバーズの会員は,受注調整をやめることなく,会の名称を変更し,本件違反行為の発覚を防ぐために対外的に役員が存在しないこととするなど対応策を講じた上で,その後も引き続き本件違反行為を継続している。よって,91社は,受注調整を継続しようとする強い意欲と強固な協調的関係を有し,受注調整を違法と認識しつつもこれに執着し,その依存から脱却することができなかったことが認められ,独占禁止法を遵守する姿勢を欠いていたことは明らかである。
本件違反行為取りやめの経緯からみて再発のおそれが高いこと
本件違反行為の取りやめは,公正取引委員会が立入検査を実施して本件審査を開始したという外部的要因によるものであり,自発的意思に基づくものではない。図らずも公正取引委員会に受注調整行為が露見したためやむ無くこれを中止せざるを得なかっただけであり,本件審査を受けなければ91社が本件違反行為を継続していたことは明白である。そして,TST親交会を解散した経緯も同様であるから,要は,受注調整が発覚さえしなければ引き続きTST親交会を存続させて,本件違反行為を継続していたことは疑いようがない。
このような本件違反行為の終了の経緯にかんがみると,91社の受注調整への強い執着・意欲と強固な協調的関係が消失していないことも明らかであり,再び受注調整を繰り返す蓋然性は高い。
この点は,前記(ア)の入札状況からも裏付けられる。
91社の市場における地位に変わりはないこと
前記(ア)aのとおり,91社は,本件違反行為終了後の101物件の入札に関して,本件期間と同様に入札参加者の多くを占め,参加実績でみても,91社の入札参加回数の累計は全入札参加者の累計の大部分を占めており,また,91社は実際にも当該101物件の大部分を受注していることから,依然として有力な地位にあることは明らかであり,再び受注調整を繰り返すことへの障害となるような要因は見受けられない。
入札制度の変更が再発の障害となっていないこと
本件違反行為終了後,岩手県は入札制度の変更を行っており,平成19年7月1日以降,入札参加資格を有する業者数を勘案して地域要件を設定した上,条件付一般競争入札を原則的な入札方法とするとともに,一部の工事について,いわゆる総合評価落札方式を試行している。しかし,①91社は,本件期間中,岩手県の入札制度改革への対応策を講じてきたこと,②現に入札参加者数の制限が設けられていない条件付一般競争入札の方法により発注される建築一式工事も受注調整の対象とし,実際に20社以上が入札に参加した工事(別紙9の物件2,55及び123)についても受注調整を行ったこと,③総合評価落札方式はいまだ試行途上にあり,当面の間,建築一式工事の適用対象はわずかに留まり,従来方式に代替するには遠く及ばないこと,この方式による場合でも,入札前に公表される総合評価点の算定方法,技術評価点の算定方法及び技術評価点の配点を基に,例えば技術提案の内容を低レベルに抑えて評価点を下げる,入札価格以外の評価点差を考慮して入札価格の差を大きく設定する等により特定の者が最高得点となるよう意図的に操作することが不可能ではないこと(すなわち受注調整は必ずしも不可能ではないこと),受注調整の有効な防止策となるかどうかは今後の検証を要するものであって,現状ではその効果が確実とはいい得ないこと,④91社の受注調整への執着とその依存は根深いものであったことが認められることからみて,今後も競争入札の仕組み自体が存続する限り,時々の発注形態に即応して適宜,受注調整のやり方を考案・変更するなどにより,受注調整を行う可能性があるとみざるを得ないことから,かかる岩手県の入札制度の改革によってもなお受注調整の再発への障害としては十分なものではなく,再発の可能性が払底されていないといわざるを得ない。
途中参加者を受け入れて本件違反行為を継続してきたこと
91社は,本件期間において,本件違反行為に参加していない者を随時TST親交会等に加入させ,受注調整の仲間を増やし,より安定的な受注調整の継続を目指していたのであるから,今後,新たなA級建築業者の入札参加者が多数出現したとしても,被審人らが,それらを取り込みないしは受け入れて,再び協調的関係を醸成する可能性は依然として高い。
小括
以上の事情にかんがみれば,本件について,今後,本件違反行為と同様の行為が繰り返される可能性が極めて高く,これを否定するような状況の変化も認められない。
何より,被審人のほとんどすべてが,いわば一枚岩となって本件違反行為の存否を争っていることそのものが,岩手県のA級建築業者間の協調的関係がいまだ損なわれていないことを顕著に表している。
なお,91社の中には,本件違反行為終了後に岩手県の等級格付がA級からB級又はC級に変更された者が17社存在するところ,これらの者も引き続き建設業を営んでおり,施工実績等の条件を満たすことにより再びA級の格付を受けることが可能であるだけでなく,B級又はC級のまま経常共同企業体を結成してA級の格付を受けることも可能であるから,本件違反行為と同様の行為が繰り返された場合に,これに参加するおそれがあることは容易みて取れる。
被審人タカヤの主張
前記2(3)アのとおり,被審人タカヤは平成14年4月22日に民事再生手続の申立てをして以降,トラスト・メンバーズを脱退しており,排除措置を命ぜられる立場になく,また,違反行為が将来繰り返されるおそれはなく,競争秩序の回復がなされており,同被審人に対して違反行為の排除を命ずる必要はない。
第4 審判官の判断
争点①(106社が本件違反行為を行ったか否か)について
本件違反行為の存否について
TST親交会等の会長の稲垣のほか多数の会員の関係者が,TST親交会等において,岩手県発注の特定建築工事について,前記第1の受注調整のルールが存在し,それに従って受注調整が行われていたことを認める内容の供述をしている(稲垣〔査第61号証,第153号証〕,被審人吉武建設の代表取締役〔査第62号証,第115号証,第142号証〕,被審人東野建設工業の専務取締役〔査第116号証,第147号証,第151号証〕,被審人千葉建設(水沢市)の営業部長〔査第117号証〕,被審人新田組の専務取締役〔新田〕〔査第127号証,第143号証〕,被審人佐賀組の代表取締役〔査第128号証〕,大蔵建設の取締役〔査第129号証〕,被審人タカヨ建設の代表取締役〔査第130号証〕,白根建設の代表取締役〔査第131号証〕,被審人タカヤの常務取締役〔佐々木〕〔査第139号証〕,被審人北水建設工業の専務取締役〔査第140号証〕,被審人篠村建設の代表取締役〔査第141号証〕,被審人恵工業の顧問〔査第144号証〕,丸卓建設の社長付〔査第149号証〕,被審人菱和建設の企画副本部長〔査第150号証〕,石川工務所の代表取締役会長〔査第158号証〕及び被審人千田工業の代表取締役〔千田三義〕〔査第177号証〕)。例えば,稲垣は別紙12の(1)のとおり供述しているし,同別紙の(2)ないし(8)の各人は,同別紙の(1)の稲垣の供述と基本的に同趣旨の供述をするとともに,各項記載の供述もしている。
上記各供述は,自己又は自社が公共工事についての受注調整に参加していたという,自己に不利益かつ重大な事実を,供述者によっては具体的な会社名,人名,場所名等も交えつつ,具体的に述べるものであって,その信用性について具体的に疑問を抱かせるような事情は見当たらない。
TST親交会等の関係者から,同会において前記第1の受注調整のルールが存在し,それに従って受注調整が行われていたと考えなければ説明が困難と考えられる文書が多数留置されている。例えば,以下のようなものである。
トラスト・メンバーズが平成7年2月1日付けで会員向けに発行した「トラスト,シグナル」と題する連絡文書(査第79号証)。「トラスト,メンバーズ発足の当初から岩手県A級会との関係を懸念する声がありましたが,昨年末に紀室会長と協議いたしまして建築関係については県A級会と相互に連絡をとりあって,従来通りトラスト,メンバーズで取扱いをすることを確認いたしました。二重,三重の危機管理の観点からも別組織のこの会の存在の重要性があると思いますので…諸問題解決の場として活用して頂きたいと思います。」等の記載がある。
トラスト・メンバーズの稲垣が平成8年8月20日付けで会員向けに発行した「お願い」と題する連絡文書(査第81号証)。「最近は一般競争,公募型の発注が多くなりましたので混乱をさけるために,参加希望者は広告日(ママ)を含めて,3日以内にトラスト・メンバーズ事務局か,A級会に申し込んで下さい。申し込みのない場合は参加希望なしとして取り扱いすることがありますので御了承下さい。使名競争入札(ママ)についても,従来通り希望者は指名受日より3日以内に上記関係に申し込んで下さい。尚,トラスト・メンバーズでお受けするのは建築工事のみとなりますので念のため申し添えます。」等の記載がある。
トラスト・メンバーズの稲垣が同会に入会しようとしていた被審人佐々勇建設に対して平成10年11月25日付けで交付した連絡文書(査第88号証)。「佐々勇建設(株)代表取締役佐々木百子」という宛名が手書きで,その余の部分はワープロ等で印字されたものであり,その下部には「協議事項及び 申込受付について(建築工事) 受付電話番号 030-127-7686(会長直接お受けします)」,「工事希望者は公告日をふくめて3日以内に申し込んで下さい。特に一般競争及び公募型については申込のない場合は参加希望なしとして取扱いすることがありますので御了承下さい。」との記載がある。
「10周年記念 平成16年度TST親交会総会資料」と題する書面(査第51号証)。会長である稲垣の「ご挨拶」として,「TST親交会(トラスト・メンバーズ)創立10周年の記念すべき年にあたり,一言ご挨拶を申し上げます。」,「平成5年に中央建設業界を震撼させた事件が発生し,これが私たち地方業界にも波及することが必至と予測されました。従いまして従来の組織では対応が困難となり,特に建築関係の混乱を未然に防止するために,…新組織『トラスト・メンバーズ』を立ち上げ,…」,「現況は競争面は官主導で否応なく完璧に実施されておりますが,協調面をいかに構築するかが緊急な課題であります。協調の原点は『会話』です。…会員各位の良識に期待し,より良い方向を見出して参りたいと思います。」等の記載がある。
前記第2の6(2)のとおり,TST親交会等の会員間において,本件期間中に,岩手県発注の特定建築工事に該当する本件発注物件133物件のうち63物件について,別紙9及び10記載の態様で,受注調整が行われていた。
別紙9及び10によれば,63物件についての受注調整は,いずれも,前記第1の方法で行われていたといえる。当該受注調整の方法が,入札参加者の構成,特定の事業者の参加の有無等によって有意に異なるというような事情は認められない。63物件は,条件付一般競争入札,受注希望型指名競争入札,指名競争入札のいずれの発注方法も含み,新築工事のみならず改築工事,改修工事,増築工事,解体工事等の多様な種別にわたり,その工事場所も特定の地域に偏ることなく県内全域にわたっている。63物件は,本件期間中の特定の時期にも偏っていない。
前記第2の3(3)ウ,同3(4)及び同5(1)のとおり,TST親交会等においては,必要に応じて役員会が開催され,そこで,条件付一般競争入札への対応など,受注調整を継続していくための方策が検討されており,かかる検討は,平成13年以降も継続されていた。
前記第2の3(3)イ,同(4)ア及び同5(3)のとおり,TST親交会等においては,かねてから,役員会で確認された事項を総会の場において周知するなどされていたところ,平成13年以降も毎年,ほとんどの会員の出席のもとで総会が開催され,引き続き受注調整を継続することを確認していた。
前記第2の3(3)エのとおり,TST親交会等においては,会員向けの連絡文書(その具体的内容の一部は前記イ(ア)及び(イ)のとおり)の送付により,受注希望の表明方法,連絡先及び連絡期限についての周知が図られていた。
前記第2の5(2)のとおり,トラスト・メンバーズが受注調整を行っているとの情報が岩手県に寄せられ,稲垣らが岩手県の事情聴取を受けたにもかかわらず,トラスト・メンバーズの関係者は,受注調整をやめることなく,会の名称変更等の発覚防止のための措置を講じつつ,その後も引き続き従前同様の受注調整を継続した。
以上の諸事情に照らせば,遅くとも平成13年4月1日までに,TST親交会等の会員間において本件基本合意が成立し,以後,同合意に基づく受注調整が行われてきたものと認めるのが相当である。
そして,トラスト・メンバーズが,前記第2の3(2)アのとおり,岩手県が競争入札の方法により発注する建築一式工事についての受注調整を行うことを主たる目的として設立されたものであること,新たにTST親交会等の会員となる者は,前記第2の3(5)アのとおり,同会において同建築一式工事についての受注調整が行われていること及びその方法に関する説明を受け,これに賛同した上で,総会の承認を得ることになっていたこと,その際に,前記イ(ウ)のような受注調整の手続に関する内容を含む連絡文書が新入会員に交付された事例があること(前記イ(ウ)の文書の体裁によれば,少なくとも同文書が作成された当時は,トラスト・メンバーズにおいて,同文書の宛名部分のみを空白とした定型文書を用意しておき,新入会員に対して,当該定型文書の宛名部分に宛名を記入したものを定型的に交付する,というような運用が行われていたものと推認される。),実際にTST親交会等において,本件期間を通じて恒常的に,TST等世話役も関与する形で受注調整が行われていたこと,前記第2の3(3)エ並びに前記イ(ア)及び(イ)のように,受注調整に関する連絡等が,各会員に対して恒常的に行われていたこと(したがって,受注調整に参加する意思のない者を入会させることは,部外者に対して自分達が組織的に受注調整をしている事実を暴露するに等しいこと)も踏まえれば,TST親交会等の会員となった事業者は,特段の事情のない限り,同会が主として受注調整を行うことを目的とする組織であること,実際に受注調整が行われていること,自社もそれに参加することとなることを,認識していたものと認めるのが相当である。
106社のいずれについても,本件全証拠によっても,これらのことを認識することなくTST親交会等に加入していたものとうかがわれる上記特段の事情があるとは認められない。
以上によれば,被審人らを含む106社は,前記第1のとおり,本件基本合意に加わり,本件違反行為に及んでいたものと認められる。
被審人75社の主張について
被審人75社は,前記第3の2(2)アのとおり,岩手県A級会の存在を根拠として,仮に審査官主張の受注調整があったとしてもその主体がTST親交会等の会員であったか否かは不明である旨主張する。しかしながら,トラスト・メンバーズが,岩手県が競争入札の方法により発注する建築一式工事についての受注調整を行うことを主たる目的として設立されたものであること,TST親交会等の多数の関係者が,受注調整が同会において行われたとの認識を有していることを示す供述をしていること,実際に,本件基本合意における受注調整の態様が,TST等世話役に対して受注希望を表明する等というものであったこと,平成7年2月1日付け「トラスト・シグナル」(査第79号証)で岩手県A級会との関係調整に関して前記(1)イ(ア)のように述べられていること等を踏まえれば,TST親交会等の会員間において本件基本合意が成立し受注調整が行われていたことは優に認められる。岩手県A級会とのすみ分けの詳細が明らかでないこと,同会の会員であるがTST親交会等に加入しなかった者が多数存在したことなどによって,上記認定判断が左右されるものとは解されない。
被審人75社は,前記第3の2(2)イ(ア)及び(エ)のとおり,留場建設及び大和建設が違反行為者とされていない点に関して,審査官の主張に矛盾が生じている旨主張するが,その点に関する審査官の説明内容(両社は入会後に本件対象工事の入札に参加しておらず,違反行為者であるとの立証ができなかった旨)が特段不合理であるとはいえない。
被審人75社は,前記第3の2(2)イ(イ)のとおり,被審人八戸建設が途中でTST親交会等の会員でなくなっているのに本件違反行為の当事者とされており,審査官の主張に矛盾が生じている旨,及び同被審人は平成16年には本件違反行為から離脱している旨主張する。しかしながら,同被審人は,前示のとおりTST親交会等の会員であり,本件基本合意に参加していた者と認められる(同被審人は,物件53の入札に参加しているところ,同物件について受注調整が行われたものと認められることは別紙9(26)記載のとおりである。)ところ,その後,岩手県発注の特定建築工事の入札に参加していないこと,あるいは会費の未納によりTST親交会等の会員名簿から削除されたことのみをもって,その時点で本件基本合意から離脱したと認めることはできない(自己の意思により再び入札に参加することが可能であり,この点で,B級に降格したことにより岩手県発注の特定建築工事の入札に参加すること自体がおよそ不可能となっていた事業者らとは事情が異なる。)。上記主張は採用できない。
被審人75社は,前記第3の2(2)イ(ウ)のとおり,B級建築業者であった太子建設がトラスト・メンバーズの会員であった点を踏まえて,同会がA級建築業者のための談合組織であったとの審査官の主張と矛盾する旨主張する。しかしながら,太子建設がトラスト・メンバーズの会員となっていた理由は明らかでない(B級建築業者がA級に昇格する可能性もある。)ものの,前記第2の3(2)ア掲記の各証拠を踏まえれば,そのことのゆえに,トラスト・メンバーズが,A級建築業者を入札参加者として発注される建築一式工事についての受注調整を主たる目的とする組織であったとの前記認定判断が左右されるものとは解されない。
被審人75社は,前記第3の2(2)ウ(ア)ないし(エ)及び(カ)のとおり,釜石,大船渡,遠野及び北上の各地方振興局管内のA級建築業者の中のTST親交会等の会員の割合の低さを根拠として,106社の間の基本合意に基づく受注調整はあり得ない旨主張する。しかしながら,前記第2の4(3)のとおり,本件違反行為において,アウトサイダーが入札に参加する場合には,106社の中で受注予定者とされた者が協力要請を適宜行うこととされており,実際に,少なくとも12件(物件19,32,44,53,57,102,106,109,124,129,131及び132)でアウトサイダーへの協力要請が行われていた(このことは別紙9及び10掲記の各証拠により明らかである。)。さらに,別紙8のとおり,本件発注物件133物件の大部分の入札にアウトサイダーが参加していたにもかかわらず,106社が118物件も落札しているように,アウトサイダーは常に低価格で入札して競争を挑んでくるとは限らない。したがって,アウトサイダーの多寡によって,TST親交会等において本件基本合意に基づく受注調整が行われたとの前記認定判断が左右されるものとは解されない。上記主張は採用できない。
被審人75社は,前記第3の2(2)ウ(オ)及び(カ)のとおり,二戸地方振興局管内の岩手県A級会所属の建築業者がすべてTST親交会等の会員であったのに落札率が低い等と主張する。しかしながら,本件基本合意が存在していても,多数の個別物件についてアウトサイダーの協力が常に得られるとは限らないこと,条件付一般競争入札に関しては,106社及び知れたるアウトサイダーの間で受注予定者が決定されたとしても,新たなアウトサイダーが現れる可能性を完全には否定できず,入札価格が低めに設定されることもあり得ること,指名競争入札及び受注希望型指名競争入札に関しては,本件期間の当時,岩手県発注の特定建築工事の入札に係る予定価格等は公表されておらず,予定価格に達しないことにより再入札や入札不調に至る事態(実際に多数生じている。)を避けるため,入札価格が低めに設定されることもあり得ること,その他様々な事情により予定価格等と入札価格との乖離が生じ得ることも考慮すれば,被審人75社が指摘するような落札率等の状況によって,TST親交会等において本件基本合意に基づく受注調整が行われたとの,前記(1)の多数の証拠に基づく認定判断が左右されるものとは解されない。
被審人75社は,前記第3の2(2)エのとおり,本件期間における106社の受注件数に偏りがあり,受注機会の均等化を図るなどという意図や目的はなかった旨主張する。しかしながら,106社間で受注調整が行われていたとしても,その参加者間で,当時の公共工事の施工経験・施工能力の程度,経営状態及び経営方針等の差異により,岩手県発注の特定建築工事の受注に対する積極性の程度が異なることは十分あり得るし,「継続性」・「関連性」・「地域性」により有利となる程度,他の参加者に対する発言力の程度,「叩き合い」になった場合における価格競争力の程度,その他諸般の条件の差異により,結果としての受注件数に差異を生ずることも十分あり得る。前記(1)において指摘した諸事情にかんがみれば,被審人75社が指摘するような受注件数の偏りによって,TST親交会等において本件基本合意に基づく受注調整が行われたとの前記認定判断が左右されるものとは解されない。
被審人タカヤの主張について
被審人タカヤは,前記第3の2(3)ア及びウのとおり,稲垣とは対立していた旨,及び民事再生手続の申立て前においても本件違反行為に参加しておらず細川の供述は信用できない旨主張する。しかしながら,稲垣が被審人タカヤを退職した平成12年4月以降,平成14年8月まで,被審人タカヤの従業員であった細川がトラスト・メンバーズの副幹事長を務めていたこと(査第69号証,第112号証),同人が平成11年度から平成13年度まで同会の役員会に出席していたこと(査第97号証)等も踏まえれば,被審人タカヤと稲垣との関係の詳細にかかわらず,被審人タカヤについて,前記(1)カの特段の事情があるとは認められない。
また,トラスト・メンバーズにおける細川の上記のような立場に照らせば,仮に同人が被審人タカヤにおいては建築工事担当でなく土木工事担当であったとしても,そのことをもって細川の供述調書の信用性を否定すべきものとは解されない。
被審人タカヤは,前記第3の2(3)アのとおり,平成14年4月の民事再生手続の申立て以降はTST親交会等の会員ではなかった旨主張する。しかしながら,TST親交会の「平成15年10月1日現在」の会員名簿及び「平成16年10月現在」の会員名簿に,いずれも「高弥建設株式会社」の「佐々木憲雄」の名が明確に記載されていること(査第114号証,第51号証),被審人タカヤの者が平成15年度及び平成16年度のTST親交会等の総会に出席していること(査第156号証,第157号証)からすれば,上記主張は採用できない。
なお,トラスト・メンバーズの「平成14年10月1日現在」の会員名簿には被審人タカヤの名が記載されておらず(査第113号証),同被審人の民事再生手続の申立てやそれに続く入札参加資格抹消等により,同被審人のTST親交会等における地位等に何らかの事情が生じていた可能性は否定できない。しかしながら,上記の各会員名簿の記載等に照らせば,被審人タカヤが遅くとも平成15年10月1日以降TST親交会の会員であったことは動かし難いところであり,また,後記エのとおり同被審人は民事再生手続の後に入札が行われた物件88,114及び125に関して受注調整に関与したことが認められるのであるから,仮に同被審人が主張するとおり,民事再生手続の申立てを契機として平成14年末ころまで一時的にTST親交会等の会員としての取扱いに変動があったとしても,そのことのゆえに,同被審人が本件基本合意からいったん離脱した等と認めることはできない。
被審人タカヤは,前記第3の2(3)イのとおり,同被審人が入札に参加した各物件における落札率の低さ及びアウトサイダーの存在を根拠として,同各物件に関して受注調整が行われたとみることはできない旨主張する。しかしながら,落札率に関しては前記(2)カのとおりである。アウトサイダーに関しても,前記(2)オのとおり,本件違反行為において,アウトサイダーが入札に参加する場合には,106社の中で受注予定者とされた者が協力要請を行うこととされており,実際に,少なくとも12物件でアウトサイダーへの協力要請が行われていた上,アウトサイダーが常に競争を挑んでくるとは限らない。これらの点を踏まえれば,上記の落札率の低さやアウトサイダーの存在を考慮しても,被審人タカヤについて,前記(1)カの特段の事情があるとは認められない。
被審人タカヤは,前記第3の2(3)エのとおり,平成14年4月以降,同被審人が受注した物件88,114及び125に関して受注調整をしたことはない旨主張する。しかしながら,上記各物件について被審人タカヤを含むTST親交会等の会員による受注調整が行われたことは,別紙9の(39),(50)及び(53)のとおり明らかである。佐々木の供述調書(査第139号証)の内容は,自社が入札談合に参加していたという自己に不利益かつ重大な事実を述べるものであって,その信用性について具体的に疑問を抱かせるような事情は見当たらない。物件88に関しては被審人タカヤがJVの「子」であったこと,物件114及び125が比較的少額の物件であったこと,物件125の落札率が90.15%であったことなどによって,上記認定が左右されるものとは解されない。
被審人大森工業の主張について
被審人大森工業は,前記第3の2(4)イのとおり,違反行為への中途参加者とされる事業者についての不当な取引制限の認定に関して,合意の形成過程や,当該事業者が実際に入札に参加した個別物件に係る受注調整の具体的状況の主張立証が不可欠である旨主張する。しかしながら,ある事業者が不当な取引制限を構成する基本合意に中途参加した事実の立証方法が,当該中途参加に係る合意の具体的形成過程や当該事業者が実際に入札に参加した個別物件に係る受注調整の具体的状況を立証するというようなものに限定されるとは解されないし,それら以外の方法で立証しようとしたからといって,被審人の防御対象が提示されないなどということにはならないから,上記主張は採用できない。
被審人大森工業は,前記第3の2(4)ウのとおり,アウトサイダーの存在を根拠として,本件基本合意には実効性がない旨主張する。しかしながら,前記(2)オのとおり,本件違反行為において,アウトサイダーが入札に参加する場合には,106社の中で受注予定者とされた者が協力要請を行うこととされており,実際に,少なくとも12件でアウトサイダーへの協力要請が行われていたことが認められ,また,アウトサイダーが常に競争を挑んでくるとは限らないのであり,アウトサイダーの存在によって前記(1)の認定判断が左右されるものとは解されない。
被審人大森工業は,平成15年10月16日に開催されたTST親交会の総会において入会を承認されて同会の会員となった者であるところ,前記第3の2(4)エ(ア)ないし(ウ)のとおり,TST親交会への入会時に入札談合に関する説明を受けたことがない旨主張し,同被審人の代表者もこれに沿う供述をする(審大森工業第1号証,大森琢哉代表者)。しかしながら,TST親交会等については前記(1)カのような事情が存在することに加えて,被審人大森工業が,TST親交会への加入を承認された日の約半月前である平成15年9月30日を入札日とする物件106の入札参加者であったところ,同物件については,別紙9の(48)のとおり,本件基本合意に基づく受注調整が行われ,受注予定者となった被審人橋本工務店から被審人大森工業(この時点ではアウトサイダーとの位置付けであった。)を含む他の入札参加者に対して価格連絡等が行われたこと(被審人橋本工務店の営業部課長は,同被審人が物件106の受注予定者となった後の他の入札参加者への価格連絡について,「私から他の入札参加業者に対し,それぞれ電話等で…入札金額を伝え,…当社が受注予定者となって無事受注できるよう協力を求めております。」「私が電話等をした他の入札参加業者の相手方は,たしか,株式会社近江建設は菊池さん,大森工業株式会社は時田さん,…であったと記憶しています」等と述べている〔査第213号証〕。),被審人橋本工務店が予定通り同物件を落札していること,被審人大森工業が入会後にも物件112の入札に参加しており,その入札状況(査第169号証)をみても受注調整の存在を否定すべき事情はうかがわれないこと等も踏まえれば,被審人大森工業について,前記(1)カの特段の事情があるとは認められない。
なお,被審人大森工業は,前記第3の2(4)エ(ウ)のとおり,同被審人の事業内容における建築工事や元請工事の比率の低さを主張し,同被審人の代表者もこれに沿う供述をするが(審大森工業第1号証,大森琢哉代表者),仮にそのような事情があったとしても,それをもって,同エ(イ)の同被審人の代表者の供述内容が裏付けられるということはできない。
被審人南建設の主張について
被審人南建設は,平成13年11月8日に開催されたトラスト・メンバーズの総会において入会を承認され,同会に入会した者であるところ,同被審人は,前記第3の2(5)アのとおり,そのころには本件基本合意及び受注調整が維持されていたとは考え難い旨主張する。しかしながら,前記(1)ウのとおり,58物件を含む63物件に係る受注調整が,本件期間の中の特定の時期に偏ることなく,被審人南建設がトラスト・メンバーズに入会した平成13年11月以降においても,また被審人タカヤが民事再生手続に入った平成14年4月以降においても引き続き恒常的に行われていたこと等に照らせば,本件基本合意は本件期間の全部を通じて実効性を失わなかったものと認められ,上記主張は採用できない。被審人南建設が前記第3の2(5)アにおいて指摘する稲垣,金野勇一及び三田村侑の各供述によれば,平成12年ころ以降,TST親交会等における受注調整の困難性が増大し,受注調整のルールからの逸脱もみられるようになってきたことはうかがわれるが,それによって上記認定判断が左右されるものとは解されない。
被審人南建設は,前記第3の2(5)イのとおり,トラスト・メンバーズへの入会時に受注調整に関する説明を受けず,そのことを知らなかった,個別物件についての受注調整にも参加していない旨主張し,南もこれに沿う供述をする(審南建設第5号証,南元舟参考人)。しかしながら,TST親交会等については前記(1)カのような事情が存在することに加えて,被審人南建設は,物件100の入札に参加していたところ,同物件については,別紙9の(42)のとおり,TST親交会等の会員間での受注調整が行われ,そこで受注予定者となった被審人蒲野建設が,被審人南建設を含む他の入札参加者に対して,入札価格の連絡を行い,被審人南建設を含む他の入札参加者が,入札において,当該受注予定者が受注できるように協力したこと(別紙9の(42)掲記の各証拠により認められる。),被審人南建設が物件71及び96の入札にも参加しており,その入札状況(査第169号証)をみても受注調整の存在を否定すべき事情はうかがわれないこと等も踏まえれば,被審人南建設について,前記(1)カの特段の事情があるとは認められない。
被審人南建設は,前記第3の2(5)イ(ウ)b(a)のとおり,新田の供述調書(査第143号証)の内容のうち物件100に係る受注調整のために会合が行われたと述べる部分について,当該会合の時期を,実際には行われていない「入札説明会」の日を基準として述べており,その信用性に重大な疑義がある旨主張する。しかしながら,上記会合に関する新田の供述は,自社が公共工事についての受注調整に参加していたという自己に不利益かつ重大な事実を,具体的かつ詳細に述べるものであり,新田において,会合が行われた等の事実がないにもかかわらずあえてそのような内容の虚偽の供述をする理由は全く見当たらない。また,上記会合の場所,経緯等に関する新田の供述内容の具体性等に照らせば,別の無関係の会合等と混同している等とも考えにくい。以上によれば,新田が会合の時期に関して上記のような誤った供述をしたことを踏まえても,会合の存在及び経緯に関する同人の供述にはなお信用性があるというべきであり,被審人南建設の上記主張は採用できない。
被審人南建設は,前記第3の2(5)イ(ウ)b(b)のとおり,物件100について入札価格の連絡を受けていない旨主張する。しかしながら,物件100の入札参加者であった被審人小山組から留置された「入札・見積結果報告書」(査第228号証)の,「工事名」欄に「県北家畜死体保冷保管施設新築(建築)工事」,「日時」欄に「平成15年8月5日午前10時」,「小山組 入札・見積金額」の「1」欄に「86,000,000以上」,同じく「小山組 入札・見積金額」の「2」欄に「40万以内下げ」と記載されていること,実際に物件100についての1回目の入札において,被審人小山組が8640万円で入札し,被審人蒲野建設が8400万円で入札して落札していること等に照らせば,物件100に関して受注調整が行われ,受注予定者となった被審人蒲野建設が,自社の受注を確実にするため,他の入札参加者である被審人小山組に対し,事前に,1回目は8600万円以上の価格で,2回目は最低入札価格から40万円以内で下げた価格で入札するよう連絡したものと認めるのが相当である。そして,受注調整により受注予定者となった者が自社の受注を確実にするために他の入札参加者に入札価格を連絡する際に,一部の入札参加者に対してその連絡をしないということは容易に想定し難いから,被審人蒲野建設は,被審人南建設に対しても物件100に係る入札価格の連絡を行ったものと推認するのが相当である。
被審人南建設は,前記第3の2(5)イ(ウ)b(c)及び(d)のとおり,物件100に係る受注調整のための会合(前記ウ参照)に出席しなかったこと,物件100に係る積算内訳書を提出したことなどを指摘するが,これらの事情により前記イの認定判断が左右されるものとは解されない。
被審人土橋工務店の主張について
被審人土橋工務店は,前記第3の2(6)ウ及びエのとおり,TST親交会等に入会した際にもその後にも受注調整に関する説明を受けたことはない,本件期間中に同被審人が入札に参加した物件について他の業者から入札価格の指示等を受けたことはない等と主張する。しかしながら,TST親交会等については前記(1)カのような事情が存在することに加えて,被審人土橋工務店は物件2,19及び114の入札に参加していたところ,そのうち物件2及び19については,別紙9の(2)及び(12)のとおり,TST親交会等の会員間での受注調整が行われ,そこで受注予定者となった事業者が,同被審人を含む他の会員入札参加者に対して,入札価格の連絡等を行い,同被審人を含む他の会員入札参加者が,入札等において,当該受注予定者が受注できるように協力したこと,物件114についても,別紙9の(50)のとおり,TST親交会等の会員間での受注調整が行われ,被審人タカヤが受注予定者となり,被審人土橋工務店を含む他の会員入札参加者が,入札等において,被審人タカヤが受注できるように協力したこと(いずれも,別紙9の(2),(12)及び(50)掲記の各証拠により認められる。)等も踏まえれば,被審人土橋工務店について,前記(1)カの特段の事情があるとは認められない。
被審人土橋工務店は,前記第3の2(6)オのとおり,平成11年6月29日に入札が行われ同被審人が落札した「県民会館屋上防水シート改修工事」について,仮に本件基本合意があったのであれば「県民会館」の前回の改修工事を行った被審人タカヤが落札者になったはずであり,細川の供述調書(査第150号証)の内容は事実ではない旨主張する。しかしながら,本件基本合意の内容を前提としても,「継続性」を有する事業者が常に受注予定者とされるわけではないのであるから,上記主張は採用できない。
争点②(本件違反行為が「競争を実質的に制限」するものであったか否か)について
前記第2及び前記1によれば,本件違反行為は,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争制限を目的として開始され,本件期間だけをみても3年半以上にわたって,実質的に継続されている(特に,別紙10記載の5物件において,本件基本合意に基づく受注調整において受注予定者とされた事業者が最終的に受注できないというような事態が生じたにもかかわらず,その後も本件基本合意に基づく受注調整が継続されていることは,本件違反行為が実質的に継続されていたことを端的に示すものといえる。)。
本件違反行為が,仮に上記取引分野における競争を制限するものでないのであれば,当該行為を手間と時間をかけて実行しても得るものはなく,かえって他の業者に受注機会を奪われる危険を増大させるだけであるから,通常の事業者が当該行為を実行することはないと考えられるし,たとえ一たび当該行為を開始したとしても,それが上記取引分野における競争を制限するものでないと判明した段階で取りやめるものと考えられる。したがって,本件違反行為が上記のように開始・継続された事実は,それ自体,本件違反行為が上記取引分野における競争を制限するものであると認識されていたことを強く推認させるものというべきである。
別紙8によれば,本件発注物件133物件における入札参加者の総数は147社であり,106社は参加者数で約72.1%を占めている。本件発注物件133物件すべての入札において,106社のいずれかが入札参加者となっている。そして,106社は,本件発注物件133物件のうち118物件(88.7%),発注総額(落札金額,税抜き。以下同様。)約192億円のうち約168億円(87.5%)を受注していた。
前記第2の6(2)のとおり,本件期間中の岩手県発注の特定建築工事のうち63物件について,実際に本件基本合意に基づく受注調整が実行されている。また,以下のアないしエの諸事情に照らせば,本件受注物件118物件のうち58物件に含まれない60物件の全部又は大部分においても,本件基本合意に基づく受注調整が行われたものと推認される。
60物件のうち,別紙11記載の8物件については,前記第2の6(3)のとおり,受注予定者を決定するための「研究会」が開催されている。
60物件のうち,1回目の入札で落札者が決まらず再入札に至ったものが10物件(物件18,30,40,49,66,71,76,81,90及び115)あるところ,そのすべてにおいて,1回目の入札の際に最低価格で入札した者がその後の再入札においても引き続き最低価格で入札して落札している。(査第169号証)
別紙8によれば,106社の中に,63物件の入札及び60物件の入札に共に参加したことがある者が95社存在する。60物件のいずれにおいても,上記95社のうち複数の者が入札に参加しており,かつ,60物件のうち52物件(86.7%)においては,上記95社で入札参加者の過半を占めている。
106社のうち被審人タカヤ,同千田工業,同新田組,同タカヨ建設,同橋本工務店,同佐賀組,同北水建設工業,同東野建設工業,同吉武建設,同恵工業,同千葉建設(水沢市),同篠村建設,石川工務所,白根建設,丸卓建設及び大蔵建設の計16社については,その担当者が,TST親交会等において岩手県発注の建築工事について受注調整を行ってきたことを認める趣旨の供述をしているところ(前記1(1)ア,査第190号証),別紙8によれば,60物件のうち46物件の入札においては,上記16社のいずれかが入札参加者となっている。
本件違反行為の参加者らが,同行為の対象物件たる岩手県発注の特定建築工事の入札にアウトサイダーが参加する可能性があることを,当初から認識していたことは明らかであるが,それにもかかわらず,前記(1)のとおり,本件違反行為が,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における競争制限を目的として開始され,約3年半以上にわたって実質的に継続されているのであるから,本件違反行為の参加者ら自身が,アウトサイダーの存在を競争制限の決定的な阻害要因ととらえていなかったことは明らかである。
受注調整の実態をみても,前記第2の4(3)のとおり,本件違反行為において,アウトサイダーが入札に参加する場合には,106社の中で受注予定者とされた者が協力要請を適宜行うこととされていた。前記1(2)オのとおり,実際に,本件発注物件133物件のうち少なくとも12物件(物件19,32,44,53,57,102,106,109,124,129,131及び132)についてアウトサイダーへの協力要請が行われ,そのうち11物件については,アウトサイダーが当該要請に応じて協力していた。
受注実績をみても,本件発注物件133物件のうち118物件の物件(注:本件受注物件118物件とは異なる。)の入札にアウトサイダーが参加していたところ,そのうち103件を106社で受注している。
以上によれば,アウトサイダーの存在をもって,本件違反行為による競争の実質的制限を否定することはできない。
以上によれば,本件違反行為は,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における「競争を実質的に制限する」ものであったと認めるのが相当である。
被審人75社等の主張について
被審人75社は,前記第3の3(2)ア及びイのとおり,本件期間のうち平成15年1月以降の条件付一般競争入札物件における落札率の低さを指摘する。しかしながら,不当な取引制限の成立要件としての競争の実質的制限は,特定の事業者集団が,その意思で,ある程度自由に価格等の条件を左右することによって市場を支配する形態が現れていれば足りるのである上,前記1(2)カ掲記の諸事情を考慮すれば,なお,個別物件における入札価格が予定価格等との対比において低めのものとなることは十分あり得るのであり,別紙9及び10において認定されている各受注調整の態様,結果等も踏まえれば,落札率の低い物件の存在によって前記(5)の認定判断が左右されるものとは解されない。
被審人75社は,前記第3の3(2)ウのとおり,被審人タカヤの民事再生手続申立て等により平成15年初頭以降においては岩手県発注の特定建築工事の市場における競争の実質的制限は認められない旨主張する。しかしながら,前記1(1)ウのとおり,本件基本合意に基づく受注調整が平成15年初頭以降においても引き続き恒常的に行われ,その中に,受注予定者を決定してその者に受注させることに成功した事例も多数あること(別紙9参照)等に照らせば,本件違反行為による競争の実質的制限は本件期間の全体を通じて維持されていたものと認めるのが相当であり,上記主張は採用できない。
その他の被審人タカヤ,同大森工業及び同南建設の主張も,既に判断したところから,前記(1)ないし(5)の判断を左右しない。
争点③(本件違反行為についての除斥期間が経過したか否か)について
前記第2の7(2)並びに前記1及び2のとおり,本件違反行為及びそれによる競争の実質的制限は本件期間の全体を通じて維持されており,最終的に「当該行為がなくなった日」(独占禁止法第7条第2項ただし書)は平成16年10月25日であると認めるのが相当であるから,争点③に関する被審人75社の主張は採用できない。
争点④(被審人らに対して排除措置を命ずることにつき「特に必要があると認めるとき」に当たるか否か)について
独占禁止法第54条第2項は,既に違反行為がなくなっているが,違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合,違反行為が将来繰り返されるおそれがある場合などには,なお違反行為の排除を命ずる必要があることから,このような場合を「特に必要があると認めるとき」として排除措置を命ずべきものとしたものと解される。
被審人らについて
前記第2及び前記1のとおり,被審人らを含むTST親交会等の会員らは,岩手県発注の特定建築工事について,受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図ることによって利益を得る目的で,本件違反行為を開始し又はこれに参加し,本件期間中,3年半以上の長期間にわたって本件違反行為を継続していた。その間,上記会員らは,実際に受注調整を行い,そのうち相当数の事例において,受注予定者を決定してその者に受注させることに成功した。
前記第2の3(4)のとおり,岩手県は,平成12年2月1日以降,入札の透明性及び公平性確保の観点から,条件付一般競争入札を導入するなどの入札制度改革を行ったが,トラスト・メンバーズの会員らは,その導入に先立って臨時役員会を開催し,条件付一般競争入札の方法による発注の場合の受注予定者の決定方法について協議するなど,上記制度改革への具体的な対応策を講じた上で,その後も,条件付一般競争入札に係る物件も含めて本件違反行為を継続した。
前記第2の5(2)のとおり,岩手県は,岩手県発注の特定建築工事についてトラスト・メンバーズが受注調整を行っているとの情報を受け,平成14年10月29日に,稲垣らに対する事情聴取を行った。しかしながら,トラスト・メンバーズの会員らは,本件違反行為をやめることなく,会の名称を変更し,本件違反行為の発覚を防ぐために対外的に役員が存在しないこととするなど対応策を講じた上で,その後も本件違反行為を継続した。
前記第2の7(2)のとおり,本件違反行為の取りやめは,公正取引委員会が本件違反行為に関する立入検査を実施して審査を開始したという外部的要因によるものであり,被審人らの自発的意思に基づくものではない。
本件違反行為終了後の101物件のすべてにおいて,91社のうちの84社のいずれかが入札に参加しており,そのうち100物件において,同84社のいずれか複数の者が入札に参加している。上記101物件において,入札に参加したアウトサイダーの総数は31社であり,本件期間における当該総数(46社)より減少している。そして,91社は,上記101物件のうち87物件(86.1%),発注総額約142億8739万円のうち約122億459万円(85.47%)を受注している。(査第277号証,第278号証,第284号証,第285号証,第304号証,第305号証)
以上によれば,現在に至るまで,岩手県発注の特定建築工事の取引分野における被審人らの地位等に大きな変化はない。
本件違反行為終了後,岩手県において入札制度の変更が行われており,具体的には,ほとんどの工事が条件付一般競争入札の方法により発注されるようになり,また,一部の工事について,いわゆる総合評価落札方式が試行されている。(査第283号証,第292号証ないし第296号証)
しかしながら,本件違反行為において,条件付一般競争入札の方法により発注される建築一式工事も恒常的に受注調整の対象とされており(前記第2の3(4),前記イ),総合評価落札方式はいまだ試行段階にあり,当面の間,建築一式工事の適用対象はわずかに留まる。(査第295号証,第296号証)
以上のような諸事情に照らせば,被審人らについては,本件違反行為と同様の行為を繰り返すおそれがあり,独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当すると認められる。
被審人タカヤの主張について
被審人タカヤは,前記第3の5(2)のとおり,平成14年4月22日に民事再生手続の申立てをして以降はトラスト・メンバーズを脱退しているので違反行為が繰り返されるおそれはない旨主張するが,前記1(3)イのとおり,いずれにせよ,被審人タカヤが民事再生手続の申立て以降に本件基本合意から離脱した等とは認められないのであるから,上記主張は採用できない。
第5 法令の適用
以上によれば,被審人らは前記第1の行為に及んでいたものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものである。
被審人らについては,独占禁止法第54条第2項に規定する「特に必要があると認めるとき」に該当すると認められるので,同項の規定により,主文のとおり審決するのが相当であると判断する。

   平成21年10月1日

        公正取引委員会事務総局

             審判長審判官   中 出 孝 典

                審判官   秋 吉 信 彦

審判官小林渉は転任のため署名押印できない。

             審判長審判官   中 出 孝 典


※ 別紙1ないし12省略。

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