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独禁法66条2項(独禁法3条後段,独禁法7条の2)
平成21年(判)第18号及び第22号
東京都港区芝公園二丁目11番1号
被審人 郵船ロジスティクス株式会社
同代表者 代表取締役 倉 本 博 光
同代理人 弁 護 士 阪 田 裕 一
同 池 山 明 義
同 伊 藤 弐
公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第73条の規定により審判長審判官大久保正道,審判官酒井紀子及び審判官三輪睦から提出された事件記録並びに規則第75条の規定により被審人から提出された異議の申立書及び規則第77条の規定により被審人から聴取した陳述に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。
主 文
被審人の各審判請求をいずれも棄却する。
理 由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,後記第2項のとおり訂正するほかは,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第8と同一であるから,これらを引用する。
2 別紙審決案を以下のとおり訂正する(ページ数は,同審決案のページ数を指す。)。
(1)7ページ31行目の「貨物利用運送事業法」を「貨物運送取扱事業法」に改める。
(2)12ページ7行目の「1キログラム当たりの率」を「1キログラム当たりの額」に改める。
(3)52ページ8行目の「14.11理事会の頃まで」を「14.11理事会まで」に改める。
(4)82ページ2行目から3行目にかけての「550493頁」を「493頁」に改める。
3 よって,被審人に対し,独占禁止法第66条第2項及び規則第78条第1項の規定により,主文のとおり審決する。
平成23年7月6日
公正取引委員会
委員長 竹島 一彦
委 員 後藤 晃
委 員 神垣 清水
委 員 濵田 道代
委 員 細川 清
平成21年(判)第18号及び第22号
審 決 案
東京都港区芝公園二丁目11番1号
被審人 郵船ロジスティクス株式会社
同代表者 代表取締役 矢 野 俊 一
同代理人 弁 護 士 阪 田 裕 一
同 池 山 明 義
同 深 草 剛 志
同 伊 藤 弐
上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。
主 文
被審人の各審判請求をいずれも棄却する。
理 由
審判請求の趣旨
平成21年(判)第18号審判事件
平成21年(措)第5号排除措置命令の全部の取消しを求める。
平成21年(判)第22号審判事件
平成21年(納)第7号課徴金納付命令の全部の取消しを求める。
事案の概要
以下の事実は,争いがない事実である。
公正取引委員会は,被審人が,他の事業者と共同して,他人の需要に応じ,有償で,航空運送事業を営む者の行う運送を利用して行う輸出に係る貨物の運送(これに先行及び後続する当該貨物の集配のためにする自動車による運送を併せて行う場合における当該運送を含む。)業務(以下「国際航空貨物利用運送業務」という。)の運賃及び料金について,荷主向け燃油サーチャージ,一定額以上のAMSチャージ,一定額以上のセキュリティーチャージ及び一定額以上の爆発物検査料(これら4料金を併せて,以下「4料金」という。)を荷主に対し新たに請求する旨を合意することにより(上記4料金についての合意を,以下「本件合意」という。),公共の利益に反して,我が国における国際航空貨物利用運送業務の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものであるとして,平成21年3月18日,被審人を含む12社に対し,平成21年(措)第5号排除措置命令書(以下「本件排除措置命令書」という。)により排除措置を命じた(以下「本件排除措置命令」という。)。本件排除措置命令書の謄本は,同月19日,被審人に送達された。
公正取引委員会は,「本件排除措置命令書に係る違反行為は独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する役務の対価に係るものである。」として,平成21年3月18日,被審人に対して,平成21年(納)第7号課徴金納付命令書(以下「本件課徴金納付命令書」という。)により17億2828万円の課徴金の納付を命じた(以下「本件課徴金納付命令」という。)。本件課徴金納付命令書の謄本は,同月19日,被審人に送達された。
本件課徴金納付命令は,違反行為に係る被審人の国際航空貨物利用運送業務について,小売業又は卸売業には該当しないとの判断の下に,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「平成17年改正法」という。)の施行日前である平成18年1月3日以前の売上額に対しては算定率6パーセント(平成17年改正法附則第5条第2項の規定によりなお従前の例によることとされる平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項)を,同月4日以降の売上額に対しては算定率10パーセント(独占禁止法第7条の2第1項)を,それぞれ適用して課徴金を算定している。
被審人は,4料金について不当な取引制限に該当する行為を行った事実はない,本件排除措置命令書に記載された「請求する旨の合意」が仮に存在していたとしても不当な取引制限には該当しない,被審人と他の事業者との間に何らかの合意があったとしても,合意に参加した事業者のシェアが低いことあるいは合意の対象となった各料金の額が少額であり,国際航空貨物利用運送業務の料金全体に占める割合が低いことなどによれば,競争を実質的に制限するものではない,などと主張し,本件排除措置命令の全部の取消しを求めて審判請求をした(平成21年(判)第18号)。
被審人は,不当な取引制限に該当する行為を行っていないことに加えて,仮に,不当な取引制限に該当する行為を行っていたとしても,当該行為は国際航空貨物利用運送業務の対価に係るものではない,国際航空貨物利用運送業務は小売業に該当するから課徴金を課す場合には,3パーセント(平成18年1月3日以前の行為については2パーセント)の算定率が適用されるべきである,などと主張し,本件課徴金納付命令の全部の取消しを求めて審判請求をした(平成21年(判)第22号)。
本件の基本的事実
争いがない事実に証拠(各項末尾に括弧書きで掲記)を総合すれば,以下のとおり認められる。
被審人及び他の事業者について
被審人(平成22年10月1日に,当時の郵船航空サービス株式会社が現商号に変更したもの。),日本通運株式会社(以下「日本通運」という。),株式会社近鉄エクスプレス(以下「近鉄」という。),西日本鉄道株式会社(以下「西鉄」という。),株式会社日新(以下「日新」という。),株式会社バンテック(平成17年2月1日に,当時の東急エアカーゴ株式会社がバンテックワールドトランスポート株式会社に商号を変更した後,平成21年4月1日に,当時のバンテック・グループ・ホールディングスがバンテックワールドトランスポート株式会社を吸収合併し,現商号に変更したもの。以下,上記一連の商号変更及び合併の前後を通じて,「バンテック」という。),ケイラインロジスティックス株式会社(平成18年7月1日に,当時の川崎航空サービス株式会社が現商号に変更したもの。以下,商号変更の前後を通じて,「ケイライン」という。),ヤマトグローバルロジスティクス株式会社(平成14年10月1日に,当時のヤマト・ユーピーエス・インターナショナル・エアカーゴ株式会社がヤマトグローバルフレイト株式会社に商号を変更し,平成16年10月1日に同社がヤマトロジスティクス株式会社に商号を変更し,平成20年8月1日に同社が現商号に変更したもの。以下,上記一連の商号変更の前後を通じて,「ヤマト」という。),商船三井ロジスティクス株式会社(以下「商船三井」という。),阪神エアカーゴ株式会社(以下「阪神エアカーゴ」という。)及びユナイテッド航空貨物株式会社(以下「ユナイテッド」という。)の11社(以下「11社」という。)並びにDHLグローバルフォワーディングジャパン株式会社(平成18年12月1日に,当時のダンザス丸全株式会社が,エクセルジャパン株式会社から事業譲渡を受けるとともに事業許可も承継し,同日,現商号に変更したもの。以下,上記事業承継及び商号変更の前後を通じて,「DHL」という。)は,貨物利用運送事業法(平成元年法律第82号)の規定に基づき国土交通大臣の行う登録又は国土交通大臣の許可を受けて,国際航空貨物利用運送業務(以下「本件業務」という。)を営む者である。
(査共第7号証ないし第10号証,第50号証,公知の事実)
株式会社阪急阪神交通社ホールディングス(平成20年4月1日に,当時の株式会社阪急交通社が現商号に商号変更したもの。以下「阪急交通社」という。)は,貨物利用運送事業法の規定に基づき国土交通大臣の許可を受けて,本件業務を営んでいたが,平成20年4月1日,同社が全額出資している株式会社阪急エクスプレスに対し,吸収分割により当該業務を承継させ,以後,当該業務を営んでいない。
エアボーンエクスプレス株式会社(以下「エアボーン」という。)は,貨物利用運送事業法の規定に基づき国土交通大臣の許可を受けて,本件業務を営んでいたが,平成15年12月31日,当該業務を廃止し,以後,当該業務を営んでいない。
(査共第7号証ないし第10号証,公知の事実)
国際航空貨物利用運送事業の概要等について
貨物利用運送事業とは,他人の需要に応じ,有償で,利用運送を行う事業であって,第一種貨物利用運送事業と第二種貨物利用運送事業とがある。第二種貨物利用運送事業は,船舶運航事業者,航空運送事業者又は鉄道運送事業者の行う運送(実運送に係るものに限る。)に係る利用運送と当該利用運送に先行及び後続する当該利用運送に係る貨物の集貨及び配達のためにする自動車(軽自動車等を除く。)による運送とを一貫して行う事業をいい,第一種貨物利用運送事業は,第二種貨物利用運送事業を除く利用運送事業をいう(貨物利用運送事業法第2条第6項ないし第8項,道路運送車両法第2条第2項)。ここにいう実運送とは,船舶運航事業者,航空運送事業者又は鉄道運送事業者の行う運送をいい,利用運送とは,運送事業者の行う実運送に係る運送を利用してする貨物の運送をいう(貨物利用運送事業法第2条第1項)。
貨物利用運送事業を営もうとする者は,貨物利用運送事業法の規定に基づき,第二種貨物利用運送事業にあっては国土交通大臣の許可(同法第20条)を,第一種貨物利用運送事業にあっては国土交通大臣の登録(同法第3条)を受けなければならない。
(査共第1号証)
国際航空貨物利用運送事業(以下「本件事業」という。)は,貨物利用運送事業のうち,国際航空運送事業を営む者(以下「航空会社」という。)が我が国と外国との間で運航する航空機による航空運送(実運送)を利用してする貨物利用運送事業であり,本件事業における業務が本件業務である。
前記1で認定したとおり,11社及びDHLは本件事業を営んでおり,阪急交通社及びエアボーンは本件事業を営んでいた。以上の14社(以下「14社」という。)のうち,ユナイテッドだけが第一種貨物利用運送事業を営んでおり,その余の13社は第二種貨物利用運送事業を営んでいた。
(査共第1号証,第2号証,公知の事実)
14社の本件業務における貨物量の合計は,我が国における本件業務における総貨物量の大部分を占めていた(平成13年から平成20年までの我が国における本件業務における総貨物量に対して,14社の貨物量の合計は,別紙1のとおり,最小で72.5パーセント,最大で75.0パーセントを占めていた。)。
さらに,被審人,日本通運及び近鉄の3社(以下「大手3社」という。)の本件業務における貨物量の合計は,14社の本件業務における貨物量の合計の大部分を占めていた(平成13年から平成20年までの我が国における本件業務における14社(平成16年以降は14社のうちエアボーンを除く13社〔以下「13社」という。〕)の貨物量の合計に対する大手3社の貨物量の合計は,最小で61.6パーセント,最大で64.9パーセントを占めていた。)。
(査共第35号証)
14社の事業内容,運賃及び料金等について
具体的な業務内容等
上記のとおり14社は本件事業を営む者(以下「本件事業者」という。)であるところ,14社が荷主(荷送人又は荷受人をいう。以下同じ。)に提供していた業務(本件業務)の内容は,不特定多数の荷主との間で,輸出に係る貨物(以下「貨物」という。)について,利用運送契約を締結し,同一の仕向地(貨物の到着地をいう。以下同じ。)の貨物をまとめて「混載貨物」として仕立て,運送機関として航空会社が運航する我が国発の航空機(我が国に所在する空港を出発地空港とする国際路線で運航される航空機をいう。以下同じ。)による航空運送を利用して仕向地の空港まで運送する(航空機による運送に先行する荷送人からの貨物の集貨及び航空機による運送に後続する荷受人までの貨物の配達のために行う自動車による運送を併せて行う場合における当該運送を含む。)というものである。(査共第2号証ないし第6号証)
14社は,おおむね,国内で荷送人からの貨物の集貨,計量・ラベル貼付等,輸出通関手続,混載貨物仕立て,航空会社への引渡し,航空機への搭載を行い,その後,航空機による運送を経て外国(仕向地)の空港に到着後,航空機からの取卸し,混載貨物仕分,輸入通関手続,荷受人までの貨物の配達を行っている。(査共第3号証ないし第6号証)
前記アの「混載貨物」とは,14社が,自己の利用運送約款に基づき,不特定多数の荷主から運送を引き受けた貨物を同一の仕向地ごとの貨物に一括して仕立てて,自らが「荷送人」となって,航空会社が行う航空機による運送を利用して運送する貨物である。(査共第4号証,第6号証)
混載貨物については,14社と個々の荷主との間では個々の貨物について利用運送契約が締結され,各貨物を仕向地ごとに仕立てた混載貨物について,14社と航空会社との間で実運送契約(14社は,航空会社に対しては自ら荷送人となる。)が締結される。
また,混載貨物については,荷主から指定される荷受人の荷受場所までの間,一貫して14社が運送責任を負っている。
(査共第2号証,第4号証,第6号証ないし第10号証)
ハウスエアウェイビル及びマスターエアウェイビル
「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約」(ワルソー条約)は,航空機により有償で行う貨物の国際運送について規定し,貨物の運送については航空運送状が交付されるとする(第4条)。そして,上記条約第7条第1項は,航空運送状は荷送人が原本3通を作成すると規定し,そのうち,第一の原本には「運送人用」と記載し荷送人が署名,第二の原本には「荷受人用」と記載し荷送人及び運送人が署名,第三の原本には運送人が署名し運送人が貨物を引き受けた後荷送人に手交するとされる(同第2項)。しかし,航空運送状は,荷送人の要請がある場合には,運送人が作成することもできるとされる(同第4項)。
荷主と本件事業者との間で利用運送契約が締結された場合,これを証するため,運送を引き受けた貨物1件ごとに作成される航空運送状はハウスエアウェイビルと呼ばれる(HAWBと略称される。以下「ハウスエアウェイビル」という。)。ハウスエアウェイビルは,原則として,荷送人が作成・発行することとされているが,実際の取引においては,運送人である本件事業者が荷送人に代わって作成・発行しており,14社は,いずれも,ハウスエアウェイビルを自社の名で作成・発行していた。(査共第4号証,第6号証,第11号証)
また,本件事業者と航空会社との間で実運送契約が締結された場合,これを証するため,航空機に搭載される混載貨物1件ごとに作成される航空運送状はマスターエアウェイビルと呼ばれる(MAWBと略称される。以下「マスターエアウェイビル」という。)。マスターエアウェイビルは,本件事業者が作成・発行しており,14社は,いずれも,マスターエアウェイビルを自社の名で作成・発行していた。(査共第4号証,第6号証,第11号証)
荷主に請求する運賃及び料金
法令による規制の概要
貨物利用運送事業法は,「貨物運送取扱事業法」が改正・名称変更されたものであり,平成15年4月1日から施行された。
貨物利用運送事業法第9条第1項では,本件事業者に対し,運賃及び料金を設定又は変更する場合には,あらかじめ,運輸大臣(現国土交通大臣)に届け出ることを義務付けていた(いわゆる「事前届出制」)。また,同法第64条第2号では,第9条第1項の規定による届出をしないで運賃又は料金を収受した者は罰金に処する旨を規定していた。
(査共第17号証)
貨物利用運送事業法には,運賃及び料金の届出に係る規定はなく,貨物利用運送事業報告規則(平成2年運輸省令第32号)の規定に基づき,14社は,原則として,本件業務の運賃及び料金を設定又は変更したときは,その設定又は変更を行った後,国土交通大臣に対し運賃及び料金設定(変更)届出書(以下「届出書」という。)を提出していた。(査共第6号証,第12号証,第13号証,第15号証,第16号証,第218号証)
運賃及び料金の内容
14社は,荷主に請求する本件業務の運賃及び料金を前記(1)イで述べた個々の作業に対応する形で定めており,運賃及び料金は,その名称は同一ではないものの,航空運賃(本体運賃,混載運賃とも称される。以下「本体運賃」という。)並びに後述する荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料等の料金で構成されていた。(査共第3号証ないし第6号証,第18号証ないし第21号証)
14社は,本体運賃について,航空会社が設定する航空運賃の区分及び計算方法に準じて設定していたが,混載貨物から生ずる混載差益を利用して,原則として,同一の重量区分でみた場合,航空会社の航空運賃より安い本体運賃を設定していた(別紙2の1枚目参照)。(査共第5号証,第6号証,第12号証,第13号証,第15号証,第218号証)
航空会社は,路線ごと,かつ,重量区分ごとにあらかじめ定めた賃率(貨物1キログラム当たりの航空運賃額をいう。以下同じ。)によって航空運賃を定めており(別紙2の1枚目参照),賃率に貨物の重量を乗じることにより当該貨物の航空運賃の額が算出されていた。
貨物に適用すべき賃率は,一般に,貨物の重量区分ごとに異なっており,貨物の重量が増加するのに比例して賃率が低くなる重量逓減制が採用されていた。ただし,賃率に重量を乗じて得た額が一定額に満たない場合は,重量に関係なく,「最低料金」として定められた航空運賃が適用されていた。
賃率を適用すべき貨物の重量は,一般に,「賃率適用重量(CW,チャージャブルウェイト)」と称されており,これには,①「実重量(GW,グロスウェイト)」及び②「容積重量(VW,ボリュームウェイト)」があった。実重量は貨物の実際の重量であり,容積重量は貨物の容積が6,000立方センチメートルを超える場合には,6,000立方センチメートルを1キログラムとして得た重量のことである。
航空運賃の計算に当たっては,実重量と容積重量のいずれか大きい方の重量に賃率を適用することとされていた。
(査共第4号証ないし第6号証)
混載差益
混載差益には,重量逓減制により生じるものと,実重量が適用される貨物と容積重量が適用される貨物とを組み合わせることにより生じるものがある。
14社は,不特定多数の荷主から運送を引き受けた比較的重量の小さい貨物を,①重量逓減制を利用し,又は②実重量が適用される貨物と容積重量が適用される貨物を組み合わせることにより,重量の大きい貨物として仕立て,混載差益を生じさせるようにしていた(重量逓減制を利用した混載差益の仕組みについては別紙2の2枚目参照)。
14社は,この仕組みを利用して,荷主からは高い賃率(重量の小さい貨物)が適用される本体運賃を請求・収受する一方,航空会社に対しては安い賃率(重量の大きい貨物)が適用される航空運賃を支払うことにより,この差額を利益としていた。
(査共第4号証ないし第6号証)
荷主に請求する運賃及び料金の計算方法
14社は,荷主から運送を引き受ける貨物について,荷主の求めに応じて,荷送人の荷渡場所から荷受人の荷受場所までの一貫した運送又はその一部の運送という業務を提供し,荷主に提供した個々の作業の価額を合算した金額を,当該業務の運賃及び料金として荷主に請求していた。
(査共第3号証ないし第6号証)
社団法人航空貨物運送協会の国際部会役員会の概要等について
社団法人航空貨物運送協会(JAFAとも称される。以下「協会」という。)は,東京都中央区に主たる事務所を置き,国土交通大臣の許可又は登録を受けて本件事業者等を正会員とする事業者団体であり,航空に係る利用運送事業者等の健全な発達を図るための調査研究,指導等を行い,これら事業の発展を通じて航空貨物輸送の円滑な提供を確保し,もって利用者の保護及びその利便の増進に寄与することを目的とする。
11社及びDHLは,協会の正会員であり,阪急交通社及びエアボーンは,本件業務を営んでいた当時,協会の正会員であった。
(査共第30号証ないし第33号証,公知の事実)
協会には,業務執行の意思決定機関として理事会が置かれ,理事会の下に,国際部会,国際宅配便部会,国内部会等が設置されていた。各部会には役員会と称する組織が置かれていたが,協会の定款その他の規程類には役員会に関する規定はなく,役員会は協会の公式の組織ではなかった。
国際部会は,主として国際航空貨物利用運送に関わることを取り扱う部門であり,国際部会の役員会(以下「国際部会役員会」という。)は,14社で構成されていた。ただし,前記1(2)のとおりエアボーンは本件業務を廃止したため,平成16年1月以降の国際部会役員会の構成員は13社となった。
(査共第30号証ないし第33号証,公知の事実)
国際部会役員会は,従前は,年に1,2回開催される程度であったが,後記のとおり燃油サーチャージの問題が発生した平成13年度以降は,2,3か月に1回くらいの割合で開催されるようになった。
国際部会役員会には,基本的に,各社の役員クラスの者の出席が予定されており,平成13年度以降においては,別紙3-1記載の者が出席予定者とされていた。これらの者は理事会のメンバーであることも多かったために,理事会が開催された当日に引き続いて国際部会役員会が開催されることが多かった。ただし,実際には,必ずしも上記出席予定者が出席するとは限らず,別紙3-2記載のとおり,上記出席予定者の指示を受けた代理の者が出席したり,一つの会社から複数の者が出席したりすることもあった。
(査共第26号証ないし第33号証)
国際部会の長である国際部会長は,遅くとも平成14年6月以降は,当時近鉄の代表取締役であった本博圭(以下「近鉄の本」という。)が務めており,平成18年6月以降は,当時近鉄の専務取締役であった田中洋一(以下「近鉄の田中」という。)が務めていた。(査共第31号証,第52号証)
国際部会役員会の会合は,協会の会議室において開催されており,平成18年5月以前は近鉄の本が,平成18年6月以降は近鉄の田中が,それぞれ議事進行を担っていた。
少なくとも,平成14年9月18日,平成16年11月22日及び平成18年2月20日には,国際部会役員会の会合が開催されており,いずれの会合においても,近鉄の本が議事進行役を務めた。
(査共第31号証,第52号証,第136号証,第187号証)
燃油サーチャージについて
燃油サーチャージとは,航空会社が,燃油価格(航空会社が航空機の燃料として使用する航空燃油の価格。以下同じ。)の高騰時に限り,同価格の変動の程度に合わせて設定し,航空運賃に付加して顧客に請求するものである。例えば,当時の日本航空株式会社(平成16年4月1日,株式会社日本航空インターナショナルに商号変更。以下,商号変更の前後を通じて,「日本航空」という。)が導入した燃油サーチャージ制度は,あらかじめ基準レベルを設定し,一定期間(20連続営業日)の間,燃油価格が基準レベルを超えた場合又は下回った場合に,国土交通大臣の認可を得て,設定,変更(増額又は減額)又は廃止するというものであった。(査共第25号証,第44号証,第48号証,第62号証)
平成8年頃から航空燃油が高騰したことから,航空会社は,顧客に対して,燃油サーチャージ方式の導入を求めるようになった。(査共第25号証,第44号証,第48号証,第62号証)
日本航空は,我が国発の航空機に搭載される貨物について,平成13年5月16日以降,1キログラム当たり12円の燃油サーチャージを設定し,14社が日本航空運航の航空機を利用した場合,14社に対し燃油サーチャージの請求を開始した。日本航空以外の航空会社も,それぞれ,燃油サーチャージを設定,変更又は廃止する基準を定めて,順次,国土交通大臣の認可を得て,燃油サーチャージを設定し,14社が当該航空会社運航の航空機を利用した場合,14社に対し燃油サーチャージの請求を開始した。(査共第25号証,第44号証,第46号証,第49号証,第62号証)
航空会社の燃油サーチャージが設定された場合には,航空会社が14社に請求する燃油サーチャージの額は,航空会社が運送を引き受けた貨物の重量(賃率適用重量)に基づき,その時点で適用する燃油サーチャージの料率(1キログラム当たりの率)を乗じて算出されていた。ただし,航空会社は,賃率によって計算される航空運賃が最低料金を満たさず,貨物の重量に関係なく航空運賃として「最低料金」が適用される場合には,燃油サーチャージを適用しない,つまり14社に燃油サーチャージを請求しないこととしている場合が多かった。(査共第4号証,第6号証,第12号証,第13号証,第15号証,第22号証ないし第24号証,第218号証)
14社は,前記(3)記載のとおり航空会社による14社に対する燃油サーチャージの請求開始に先立って,これが開始された場合には,航空会社から請求される燃油サーチャージ(その額は,上記のとおり航空会社が運送を引き受けた貨物の賃率適用重量に基づき,その時点で適用する燃油サーチャージ率を乗じて算出される。)に相当する金額を,荷主に対する燃油サーチャージ(以下「荷主向け燃油サーチャージ」という。)として荷主に請求することを検討し,貨物運送取扱事業法の規定に基づき,国土交通大臣に対して届出書を提出することによって届出を行っていた。
14社の上記届出に係る荷主向け燃油サーチャージの内容は,おおむね同様であり,「利用する航空運送事業者が燃油サーチャージを適用する場合には,賃率適用重量に利用する航空運送事業者が適用する料率を乗じた額を燃油サーチャージとする。なお,利用する航空運送事業者が燃油サーチャージを適用しない場合,あるいは廃止した場合には,適用しない。」という内容であった。
(査共第18号証ないし第21号証,第25号証,第44号証,第48号証,第62号証)
その後,燃油価格が下落し,燃油サーチャージを廃止する基準レベルを満たしたことから,遅くとも平成14年1月1日までに,航空会社のほとんど全ては,燃油サーチャージを一旦廃止し,14社に対する燃油サーチャージの請求を取りやめた。これを受けて,14社は,荷主向け燃油サーチャージに係る国土交通大臣に対する届出内容に基づいて,荷主に対し,荷主向け燃油サーチャージを請求することを取りやめた。その際,14社は,国土交通大臣に対する届出を取り下げる必要がなかったことから,届出を取り下げなかった。(査共第25号証,第44号証,第48号証ないし第54号証,第61号証,第62号証)
当初,14社の中には,航空会社から請求を受ける燃油サーチャージについて,本来,航空会社が荷主から支払を受けるべきものを,本件事業者が荷主に代わって航空会社に立替払し,その後荷主から回収するものであるから,航空会社に対しコミッション(燃油サーチャージを荷主から回収し航空会社に支払うことに対する手数料)を要求できるのではないか,と考える者もいた。(査共第50号証,第58号証,第59号証)
平成14年8月頃,燃油価格が上昇し始めたため,航空会社は,再び,顧客に対して,燃油サーチャージを設定して請求することとした。
同年9月中旬,大手3社は,航空会社から,燃油価格の上昇が続いているため,同年10月16日以降に我が国発の飛行機に搭載する貨物について燃油サーチャージを設定する予定である旨説明を受けた。
航空会社は,順次,国土交通大臣の認可を受けて,同年10月16日以降,本件事業者に対して,燃油サーチャージの請求を開始した。
(査共第25号証,第48号証ないし第52号証,第62号証)
平成17年9月,被審人らは,航空会社から請求を受ける燃油サーチャージについて,航空会社に対しコミッションを要求することを検討していた。これに対し,日本通運が,荷主向け燃油サーチャージについて,本件事業者の独自の料金として国土交通大臣に対して届出書を提出しており,航空会社に代わって荷主から回収しているものではなく,本件事業者が独自に荷主に請求し収受しているものである旨の意見を述べた。(査共第50号証,第217号証)
AMSチャージについて
アメリカ合衆国は,平成13年9月11日に発生したいわゆる同時多発テロ事件を契機として,国土安全保障省税関・国境警備局(国境保護局とも訳される。Customs And Border Protection。以下「アメリカ合衆国税関当局」という。)を設置した。
アメリカ合衆国税関当局は,航空運送に関する保安対策の一環として,同国外に所在する空港を離陸して同国内に所在する空港に着陸する航空機に搭載された貨物についての情報を,航空会社から,オートメイテッド・マニフェスト・システムと称する通関システム(以下「AMS」という。)を通じて電子的に送信する方法により,同局に対し事前に申告させる制度(以下「航空貨物情報事前申告制度」という。)を平成16年8月13日以降段階的に実施することとし,同年12月13日以降,同国内に所在する全ての空港に着陸する航空機に搭載された貨物を対象に,航空貨物情報事前申告制度を実施することとした。
(査共第112号証ないし第122号証)
航空会社は,航空貨物情報事前申告制度に対応するため,平成16年8月13日以降,本件事業者から運送を引き受けた貨物に係るハウスエアウェイビル情報(ハウスエアウェイビルに記載された情報をいう。以下同じ。)について,当該事業者から提供を受けて,これをAMSを通じて電子的に送信する方法により,アメリカ合衆国税関当局に申告することとした。(査共第112号証ないし第114号証,第116号証ないし第122号証)
また,航空会社は,平成16年8月13日以降,本件事業者に対し,あらかじめ定めた一定の額のハウスエアウェイビル情報送信手数料(ハウスエアウェイビル情報をAMSを通じて電子的に送信するための手数料をいう。以下同じ。)を請求することとし,同年7月中旬頃,近鉄に対し,その旨説明した。(査共第113号証ないし第117号証,第119号証ないし第122号証)
以上のとおり,航空貨物情報事前申告制度が実施されることに伴い,本件事業者には新たな費用が発生することとなったことから,協会では,国際部会運送委員会及び国際宅配便部会運送委員会の両部会が合同して,AMSワーキンググループを設置し,そこで対応策等について検討するとともに,各事業者においても,この費用を荷主に請求する方法について検討した(上記のとおり,航空貨物情報事前申告制度の実施によって本件事業者に生ずる費用を荷主に請求するものを,以下「AMSチャージ」という。)。
(査共第113号証の1及び2,第114号証,第116号証,第117号証,第119号証ないし第121号証)
セキュリティーチャージ及び爆発物検査料について
国土交通省は,航空運送に関する保安対策の一環として,平成16年12月27日付け「航空保安対策基準」(以下「新航空保安対策基準」という。)を発出し,本件事業者に対し,原則として,航空会社が運航する航空機に搭載される全ての貨物について,爆発物検査(貨物の安全を確認するために行う爆発物検査装置による検査又は開披検査をいう。以下同じ。)を行うことを義務付けるとともに,ノウンシッパー・レギュレーテッドエージェント制度(以下「RA制度」という。)を導入して,保安教育訓練,施設の管理,貨物の取扱い等について適切な保安措置を講じていると認められる本件事業者を特定航空貨物利用運送事業者(レギュレーテッドエージェント。以下「特定事業者」という。)として認定し,特定事業者と取引を行っている荷主が,貨物の安全を確保する体制を講じており,当該特定事業者がその安全性を確認した場合には,この荷主を特定荷主(ノウンシッパー)として取り扱い,特定荷主から運送を引き受けた貨物であって,特定荷主から出荷して航空会社へ引き渡すまでを当該特定事業者が一貫して取り扱うものについては,原則として,爆発物検査を免除することとした。これらの措置は,平成17年10月1日から試行的に実施され,平成18年4月1日から本格的に実施された。(査共第159号証ないし第165号証,第168号証)
被審人らは,平成18年3月31日までに特定事業者としての認定を受け,また,爆発物検査を行う必要がある貨物について,自ら又は他の事業者に委託して爆発物検査を行うこととして,そのための体制を整備したが,このような体制の維持及び爆発物検査の実施に伴って,新たな費用が生ずることとなった。(査共第159号証ないし第165号証,第168号証)
本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の発令等
公正取引委員会は,前記第2の1のとおり11社及び阪急交通社に対して,本件排除措置命令をした。このうち,日本通運,近鉄,日新,ヤマト,商船三井,阪神エアカーゴ,ユナイテッド及び阪急交通社の8社は,本件排除措置命令に対して審判請求をしなかったので,この8社については,本件排除措置命令が確定している。
公正取引委員会は,前記第2の2のとおり,「本件排除措置命令書に係る違反行為は独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する役務の対価に係るものである。」として11社及び阪急交通社に対し,それぞれ課徴金の納付を命じたところ,日本通運,近鉄,ヤマト,商船三井,阪神エアカーゴ,ユナイテッド及び阪急交通社の7社は,課徴金納付命令に対して審判請求をしなかったので,この7社については,それぞれ課徴金納付命令が確定している。
なお,日本通運は,本件排除措置命令書記載の違反行為に係る事実を公正取引委員会に報告したことにより,課徴金の減額の措置を受けている。
被審人の売上額
審査官が被審人の違反行為の実行期間であると主張する平成16年11月12日から平成19年11月11日までの間の本件業務に係る荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料に相当する金額を合計すると,平成18年1月3日以前については,54億6047万5472円であり,同月4日以降については,140億656万651円である。
処分の適法性を基礎付ける事実についての双方の主張
審査官の主張
本件排除措置命令について
被審人らによる不当な取引制限
14社の市場における地位について
14社の本件業務における貨物量の合計は,我が国における本件業務における総貨物量の大部分を占めており(平成13年から平成20年までにおいて最小で72.5パーセント,最大で75.0パーセント),大手3社の本件業務における貨物量の合計は,14社の本件業務における貨物量の合計の大部分を占めていた。
本件合意について
荷主向け燃油サーチャージについて
14社のうち,被審人,近鉄,西鉄,日新,バンテック,ケイライン,ヤマト,商船三井,阪神エアカーゴ,ユナイテッド,阪急交通社及びエアボーンの12社(以下「12社」という。)は,平成14年9月18日に開催された国際部会役員会の会合の場を利用して,本件業務の運賃及び料金について,ハウスエアウェイビルの発行日が同年10月16日以降である貨物を対象に,利用する航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなるときは,当該航空会社から請求を受ける燃油サーチャージに相当する額を,荷主向け燃油サーチャージとして荷主に新たに請求する旨を合意した(以下「本件荷主向け燃油サーチャージ合意」という。)。
日本通運及びDHLは,遅くとも平成14年11月8日までに,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に加わった。
AMSチャージについて
13社は,ハウスエアウェイビル情報送信手数料を含めた,航空貨物情報事前申告制度が実施されたことに伴い生ずる費用を賄うため,平成16年11月22日に開催された国際部会役員会の会合の場を利用して,本件業務の運賃及び料金について,①ハウスエアウェイビルの発行日が原則として平成16年12月13日(遅くとも平成17年1月1日)以降である貨物であって,②アメリカ合衆国を仕向地とするもの及び同国を経由して運送されるものであってヨーロッパ地域を除く第三国を仕向地とするものを対象に,③ハウスエアウェイビル1件当たり500円以上を,AMSチャージとして荷主に対し新たに請求する旨を合意した(以下「本件AMSチャージ合意」という。)。
セキュリティーチャージ及び爆発物検査料について
13社は,平成18年2月20日に開催された国際部会役員会の会合の場を利用して,本件業務の運賃及び料金について,ハウスエアウェイビルの発行日が同年4月1日以降である貨物を対象に,以下のとおりの合意をした(以下「本件セキュリティーチャージ等合意」という。)。
特定事業者として講じた適切な保安措置を維持するために必要な費用を賄うため,ハウスエアウェイビル1件当たり300円以上を,セキュリティーチャージ(本件事業者が後記新航空貨物保安措置の実施に伴って発生する費用を荷主に請求するものをいう。以下同じ。)として荷主に対し新たに請求する。
爆発物検査を行うために必要な費用を賄うため,爆発物検査を実施したときは,前記セキュリティーチャージに加えて,ハウスエアウェイビル1件当たり1,500円以上を,爆発物検査料(本件事業者が爆発物検査の実施に伴って発生する費用を荷主に請求するものをいう。以下同じ。)として荷主に対し新たに請求する。
14社(平成16年1月以降は13社)は,共同して,本件業務の運賃及び料金について,前記(イ)の合意(以下「本件合意」という。)をすることにより,公共の利益に反して,我が国における本件業務の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって(以下「本件違反行為」という。),これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものである。
排除措置命令の必要性について
大手3社は,平成19年11月12日,役員級の者らの会合において,今後,国際部会役員会の会合を開催しないことを申し合わせ,同日以降,同会合は開催されていないから,これにより,同日以降,本件違反行為は事実上消滅している。
しかしながら,本件違反行為が平成14年から平成19年までの長期間にわたって行われていたことなど本件における一切の事情を総合考慮すれば,被審人に対して,本件違反行為が既になくなっている旨の周知措置その他本件違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずる必要があると認められる。
まとめ
よって,本件排除措置命令は適法であり,被審人の審判請求は理由がない。
本件課徴金納付命令について
14社による不当な取引制限(本件違反行為)
前記1(1)アと同じ。
本件違反行為が役務の対価に係るものであること
本件合意は,4料金(荷主向け燃油サーチャージ,一定額以上のAMSチャージ,一定額以上のセキュリティーチャージ及び一定額以上の爆発物検査料)に関するものであるところ,これらは,全て本件業務の対価であるから,本件違反行為は役務の対価に係るものである。
本件違反行為の実行期間
被審人が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成16年11月11日以前であると認められる。また,前記1(1)イのとおり,本件違反行為は平成19年11月12日以降消滅しているため,同月11日には,被審人の本件違反行為の実行としての事業活動はなくなっている。
以上によれば,被審人の本件違反行為の実行期間は3年を超えるため,平成17年改正法附則第5条第2項及び第3項の規定により変更して適用される独占禁止法第7条の2第1項の規定により実行期間は,平成16年11月12日から平成19年11月11日までの3年間(以下「本件実行期間」という。)となる。
売上額
本件実行期間における被審人の4料金に相当する売上額の合計は,平成18年1月3日以前については,54億6047万5472円,同月4日以降については,140億656万651円であることは,前記のとおり争いがない。
課徴金の算定率及び算定額
被審人の業務は本件業務であり,卸売業又は小売業に当たらないから,平成18年1月3日以前の売上額には6パーセントの,同月4日以降の売上額には10パーセントの算定率が適用されるから,被審人の納付すべき課徴金額は,54億6047万5472円に100分の6を乗じて得た額及び140億656万651円に100分の10を乗じて得た額を合計した額から独占禁止法第7条の2第18項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された17億2828万円となる。
まとめ
よって,本件課徴金納付命令は適法であり,被審人の審判請求は理由がない。
被審人の主張
本件排除措置命令について
12社が本件荷主向け燃油サーチャージ合意をしたこと,この合意に日本通運及びDHLが加わったことは,いずれも否認する。
13社が本件AMSチャージ合意をしたこと,本件セキュリティーチャージ等合意をしたことは,いずれも否認する。
仮に,本件合意があったとしても,合意の内容からして,不当な取引制限は成立しない。
仮に,本件合意があったとしても,本件合意が本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであることは否認する。
本件課徴金納付命令について
本件合意の成立及び本件合意が本件業務の対価に係るものであることは否認する。
課徴金の算定率については争う。
本件の争点
本件合意の内容等(争点1)
本件合意の成否(争点2)
本件合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであるか否か(争点3)
本件合意の対価性及び役務の売上額(争点4)
本件業務は小売業に該当するか否か(争点5)
本件の争点に係る双方の主張
争点1(本件合意の内容等)について
審査官の主張
本件合意の内容について
本件合意の内容である「請求する」旨の「請求」とは,14社が荷主に提供する本件業務の代金である4料金について,金額を決め,その支払を求めることを意味するものである。すなわち,本件荷主向け燃油サーチャージ合意においては「航空会社から請求を受ける燃油サーチャージに相当する額」,本件AMSチャージ合意においては「一定額以上のAMSチャージ」,本件セキュリティーチャージ等合意においては「一定額以上のセキュリティーチャージ及び爆発物検査料」という金額を決定し,それぞれ荷主に対しその支払を求めることを内容としていることはいずれも本件排除措置命令書の文理上明らかである。
以上のとおり,本件合意は,本件業務の対価を決定するものであり,価格の決定カルテルとして不当な取引制限に当たる。
被審人は,本件合意について,金額の決定を含まない合意であると主張するほか,「請求する」の意味を独自に限定的に解釈し,権利者が権利を行使することを合意するものであり,何ら違法性がないといった趣旨の主張をするが,「請求する」には,「権利者が権利を行使する」という意味のほかに,「事実上支払を求める」という意味もあるから,被審人が主張するように,「請求する」を前者の意味だけに限定して解釈するのは不当である。
主張の変更について
本件合意における「請求する」の意味は,既に述べたように「金額を決定しその支払を求める」ことであるから,審査官において,本件合意についての主張を変更したことはなく,本件合意についての審査官の主張に変更があったとする被審人の主張は失当である。
被審人の主張
本件合意の内容について
本件排除措置命令に記載されている本件荷主向け燃油サーチャージ合意,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意は,いずれも,「航空会社から請求を受けた金額に相当する金額を荷主に対して請求する」という実施行為について合意したというものであって,「金額を決定する」ことは合意の内容に含まれていないから,本件合意によって請求する金額が決定されたわけではない。
価格カルテルは,対価を決定し,維持し若しくは引き上げるものであるところ,本件合意は「金額(対価)を決定する」ものではないから,価格カルテルには該当せず,したがって,不当な取引制限に当たらない。
本件合意の内容である「請求する」とは,14社に法律上の請求権が存在していることを前提とするものである。権利を有するものがこれを行使することは当然のことであるから,権利を行使することを合意したからといって,不当な取引制限に当たるものではない。
主張の変更について
審査官は,当初,本件合意の内容について,「荷主に対し,当該航空会社から請求を受ける燃油サーチャージ等に相当する金額の支払を求める合意である。」と主張していたが,その後,「燃油サーチャージ等の金額を合意し,荷主に対し,その支払を求める合意である。」という主張に変更した。
審査官の当初の主張は独占禁止法に反しない合意の主張であり,その後の主張は独占禁止法に違反する合意の主張である。不当な取引制限において,合意の内容は最重要の中核をなす要件であるから,合意の内容についての主張を変更することは,事件の同一性の範囲を超えた主張の変更に該当する。また,上記主張の変更により,新たな要証事実が生じ,手続を著しく遅延させることとなる。
以上によれば,審査官による本件合意についての主張の変更は許されない。
争点2(本件合意の成否)について
審査官の主張
本件荷主向け燃油サーチャージ合意について
合意の成否について
平成14年9月18日に開催された国際部会役員会の会合(以下「14.9役員会」という。)には,構成員である14社のうち12社が出席し,各社は,近鉄の本の議事進行の下,順番に,日本航空を含む航空会社が燃油サーチャージを設定することに対する自社の対応方針を発表した。12社のうちユナイテッドを除く11社の対応方針は,航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなる平成14年10月16日以降,荷主に対し航空会社から請求を受ける燃油サーチャージに相当する額の全額を荷主向け燃油サーチャージとして請求し収受することとして,そのための交渉を荷主と行うということで一致した。
ユナイテッドは,荷主が株主であるため,荷主向け燃油サーチャージの請求先が株主となることから,事前に説明して株主の理解を得る必要がある旨を述べたが,荷主向け燃油サーチャージを請求し,収受していく方針については反対しなかった。
14.9役員会において,12社は,荷主に対し,荷主向け燃油サーチャージを請求し,その全額を収受するために,航空会社,荷主の各別に対応策を検討した。
例えば,航空会社については,航空運賃から燃油サーチャージの額に相当する1キログラム当たり12円を値引きするよう交渉すること,荷主については,取引先として競合する荷主に対しても,14社が協力して,荷主向け燃油サーチャージを全額請求し収受できるよう,説得することを検討・確認した。また,荷主に対する対応としては,荷主に請求する荷主向け燃油サーチャージについては,その全額又は一部を請求しないという方法により,荷主と新たに取引を開始したり,既存の貨物取扱量を増やしたりするための営業の手段,つまり競争の手段として使用しないこととし,航空会社から請求を受ける燃油サーチャージに相当する額の全額を荷主に請求し収受していくことを確認した。
以上のような検討や確認の過程において,12社の出席者で反対意見を述べた者はいなかった。
以上によれば,14.9役員会において,12社の間で本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したといえる。
被審人は,ユナイテッドは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加していないと主張するが,ユナイテッドは,株主が荷主であるという事情から,事前に説明をして理解を得る必要があると述べたにすぎず,荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求するという方針に反対していたわけではないから,ユナイテッドを含めた12社間において本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したと認めるのが相当である。
日本通運及びDHLの合意への参加について
平成14年11月8日,協会の理事会の会合(以下「14.11理事会」という。)が開催された。14.11理事会には,14.9役員会を欠席した日本通運及びDHLの担当者も出席した。
近鉄の本は,14.11理事会において,国際部会の活動報告を行った。本は,その中で,14.9役員会を開催したこと,この役員会に参加した12社に対し,航空会社から請求を受ける燃油サーチャージへの対応について確認したところ,各社とも燃油サーチャージに相当する額の全額を荷主に請求し収受することで一致したことなどを報告したが,日本通運及びDHLの出席者は,この報告に対し,反対意見を述べなかった。
以上によれば,日本通運及びDHLは,遅くとも14.11理事会までに,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加したといえるのであり,これにより本件合意は,国際部会役員会の構成員14社全てが参加したものとなった。
荷主向け燃油サーチャージの請求等に係る事情について
14社は,別紙4の「荷主向け燃油サーチャージ」欄に記載のとおり,荷主に対し,荷主向け燃油サーチャージの請求を開始しているところ,その請求内容・請求開始時期はおおむねそろっているのであって,この事実は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の存在を裏付ける事情である。
14社は,上記のとおり荷主向け燃油サーチャージの請求を開始した日以降に開催された国際部会役員会において,自社の収受率や未収受額等を発表し,改めて,荷主向け燃油サーチャージを競争の手段として使用しないことを確認し,荷主向け燃油サーチャージの支払を拒否した荷主の具体的名称を発表し,支払交渉担当会社を決定するなどしていた。仮に,各社が個別の判断により対応するのであれば,国際部会役員会において,14社が荷主向け燃油サーチャージの収受率等を発表する必要はないはずであり,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が存在していたことを裏付ける事情である。
本件AMSチャージ合意について
合意の成否について
平成16年11月22日に開催された国際部会役員会の会合(以下「16.11役員会」という。)には,構成員である13社全てが出席した。被審人からは,当時代表取締役であった田中道生(以下「被審人の田中」という。)及び営業総括部に所属していた曽根広則(以下「被審人の曽根」という。)が出席した。16.11役員会では,近鉄の本が議事進行し,各社の出席者は,AMSチャージについて,荷主に対する請求額や請求開始時期に関する各社の考えを発表した。その後,請求額について多数決を採ったところ,ハウスエアウェイビル1件当たり1,000円とするものが多数を占めた。
これに対して,近鉄の本は,最低500円を請求することを提案し,また,請求開始時期については,平成16年12月13日からとすることを提案するなどした。さらに近鉄の本は,各社とも一致してAMSチャージを荷主に請求し収受すること,これを競争の手段としないことなどを提案した。上記一連の近鉄の本の提案に対して,出席者の中で反対意見を述べた者はいなかった。
以上によれば,16.11役員会において本件AMSチャージ合意が成立したといえる。
AMSチャージの請求等に係る事情について
13社は,別紙4の「AMSチャージ」欄に記載のとおり,荷主に対し,AMSチャージの請求を開始しているところ,その請求開始時期はそろっており,請求内容も最低額は500円以上であっておおむねそろっているのであって,この事実は,本件AMSチャージ合意の存在を裏付ける事情である。
13社は,上記のとおりAMSチャージの請求を開始した日以降に開催された国際部会役員会において,自社の請求額,収受率,支払を拒否した荷主の具体的名称を発表するなどしていたほか,改めて,AMSチャージを競争の手段として使用しないことを確認するなどしていた。仮に,各社が個別の判断により対応するのであれば国際部会役員会において,13社がAMSチャージの収受率等を発表する必要はないはずであり,本件AMSチャージ合意が存在していたことを裏付ける事情である。
本件セキュリティーチャージ等合意について
合意の成否について
平成18年2月20日に開催された国際部会役員会の会合(以下「18.2役員会」という。)には,構成員である13社全てが出席した。被審人からは,被審人の田中と当時営業総括部営業管理課長であった加藤和彦(以下「被審人の加藤」という。)が出席した。
13社の出席者は,近鉄の本の議事進行の下,それぞれ,新航空保安対策基準及びRA制度(以下「新航空貨物保安措置」という。)に対する自社の対応方針を発表したが,その内容は,金額の点はともかくとして,荷主に対して,保安措置維持に必要となる費用であるセキュリティーチャージ及び爆発物検査に必要となる費用である爆発物検査料を新たに請求するということにおいて,おおむね一致していた。
上記のとおり各社が対応方針を発表した後,近鉄の本の提案により,荷主に対して,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料を幾ら請求するかについて多数決を採った。近鉄の本は,その結果を踏まえて,13社として,セキュリティーチャージについては,全ての荷主に対しハウスエアウェイビル1件当たり最低300円を請求すること,爆発物検査料については,ハウスエアウェイビル1件当たり最低1,500円を請求すること,請求開始時期は平成18年4月1日とすることを提案した。この提案に対して,反対意見を述べた者はいなかった。
以上によれば,18.2役員会において本件セキュリティーチャージ等合意が成立したものといえる。
本件セキュリティーチャージ等の請求等に係る事情について
13社は,その後,別紙4の「セキュリティーチャージ」欄及び「爆発物検査料」欄に記載のとおり,荷主に対し,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料の請求を開始しているが,その請求開始時期はそろっており,請求内容もおおむねそろっているのであって,この事実は,本件セキュリティーチャージ等合意の存在を裏付ける事情である。
13社は,上記のとおりセキュリティーチャージ及び爆発物検査料の請求を開始した日以降に開催された国際部会役員会において,自社の請求状況や収受状況を発表するなどしたほか,近鉄の本がセキュリティーチャージの請求開始時期の変更を提案したこともあった。仮に,各社が個別の判断により対応するのであれば,国際部会役員会において,13社がセキュリティーチャージ及び爆発物検査料の請求状況や収受状況を発表する必要はないはずであるから,この事実は,本件セキュリティーチャージ等合意が存在していたことを裏付ける事情である。
会合出席者の価格決定権限について
一般に,法人たる事業者が独占禁止法違反の主体となるのは,当該事案における事実関係を総合すると,法人の事業に関してなされた従業員等の自然人の行為が当該法人の行為と評価されることによるからである。
東京高等裁判所平成21年9月25日判決(公正取引委員会ホームページ「審決等データベースシステム」・株式会社トクヤマほか3名による審決取消請求事件〔以下「ポリプロピレン価格カルテル審決取消請求事件判決」という。〕)が,「部長会のメンバーに値上げの実質的権限がないという点については,前記のような『意思の連絡』の趣旨からすれば,会合に出席した者が,値上げについて自ら決定する権限を有している者でなければならないとはいえず,そのような会合に出席して,値上げについての情報交換をして共通認識を形成し,その結果を持ち帰ることを任されているならば,その者を通じて『意思の連絡』は行われ得るということができる。」と判示することからも,明らかである。
本件合意に関しては,14社の代表取締役,本件業務に関わる取締役,同業務に関わる実務担当者等が国際部会役員会の会合に出席しており,これらの出席者は,いずれも各法人事業者の事業活動の一環として出席していたのであるから,各出席者の行為は法人の行為と評価できるのである。形式的な社内権限の有無は問題とならない。
被審人についていえば,代表取締役である被審人の田中や営業総括部所属の被審人の曽根が会合に出席しており,被審人の曽根は,国際部会役員会の会合に出席した後,同会合の内容を「JAFA国際部会役員会報告」と題する書面等に取りまとめ,社内の関係者である代表取締役,営業担当役員,営業総括部長,営業本部長,関係する支店長に宛てて配布する方法で報告していたのであるから,代表取締役である被審人の田中や上記のような役割を果たしていた被審人の曽根の行為が事業者である被審人の行為と評価できることは明らかである。
被審人の主張
本件荷主向け燃油サーチャージ合意について
合意の成否について
審査官が主張する14.9役員会における事実経過を立証する証拠はないし,仮に,そのような事実経過があったとしても,その程度では不当な取引制限に当たる合意は成立しない。そもそも,本件業務の取引分野において最大のシェアを有する日本通運が出席していない14.9役員会において,価格カルテルが成立するなどということは,経験則上あり得ない。
14.9役員会におけるユナイテッドの言動は,合意への参加を拒否したものと評価すべきものであるし,その後,ユナイテッドが合意に参加したことは立証されていない。
日本通運及びDHLの合意への参加について
審査官が主張するような14.11理事会の事実経過を立証する証拠はない。
荷主向け燃油サーチャージの請求等に係る事情について
審査官が主張する事情は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の存在を裏付けるものとはいえない。
14社のうちDHLを除く13社が荷主向け燃油サーチャージの請求を開始した日が平成14年10月16日とそろっているのは,航空会社が燃油サーチャージを適用した日が同日であるからであり,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が存在していたからではない。
被審人は,自らの判断で,荷主から荷主向け燃油サーチャージを回収すべく努力しただけであって,他社との合意に基づいて荷主向け燃油サーチャージの請求をしたわけではない。
14社が,国際部会役員会において,荷主向け燃油サーチャージの収受率等を発表したということがあったとしても,そのようなことが不当な取引制限の実効性確保の手段とはなり得ず,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が存在したことを裏付ける事情とはいえない。
本件AMSチャージ合意,本件セキュリティーチャージ等合意について
合意の成否について
審査官が主張する16.11役員会や18.2役員会における事実経過を立証する証拠はないし,仮に,そのような事実経過があったとしても,その程度では不当な取引制限に当たる合意は成立しない。
AMSチャージ及びセキュリティーチャージ等の請求等に係る事情について
審査官が主張する事情は,いずれも本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意の存在を裏付けるものとはいえない。
被審人は,自らの判断で,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料を荷主に請求し,収受していたのであって,他社との合意に基づいて行っていたわけではない。
会合出席者の価格決定権限について
不当な取引制限に当たる本件合意が成立するためには,4料金について価格決定権限を有する者又はその者から権限を付与された者が会合に出席する必要がある。
被審人を含む14社において4料金の価格決定権限を有する者は,国際部会役員会に出席していないから,本件合意が成立することはあり得ない。
争点3(本件合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであるか否か)について
審査官の主張
競争の実質的制限
一定の取引分野における競争を実質的に制限するとは,「競争自体が減少して,特定の事業者または事業者集団が,その意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の条件を左右することによつて,市場を支配することができる形態が現れているか,または少なくとも現れようとする程度に至つている状態をいう」(東京高等裁判所昭和28年12月7日判決・公正取引委員会ホームページ「審決等データベースシステム」〔東宝株式会社ほか1名による審決取消請求事件〕)ものである。
一般に,価格は費用や市場の情勢等の今後の需要見通しを含む様々な要因を総合的に考慮して定められるべきものであり,その価格の設定に当たっては,競争業者の動向が不明であるため,どのように設定するかにより各事業者は相当のリスクを負うのである(東京高等裁判所平成20年4月4日判決・公正取引委員会ホームページ「審決等データベースシステム」〔株式会社サカタのタネほか14名による審決取消請求事件〕参照。)。
ところが,本件においては,市場占有率約75パーセントを有する14社による4料金に係る合意(本件合意)が,4料金の金額を決定し請求することとされていたために,14社は,本件業務の対価の一部として4料金を荷主に請求しても競争上不利にならなかったのであって,価格等の取引条件を左右することによって市場を支配することができたのである。このような状態は,本件業務の取引分野において,公正かつ自由な競争が制限され,競争自体が減少していたものといえる。
被審人の主張に対する反論
被審人は,本件業務の運賃及び料金に占めるAMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料の割合が小さいことを理由に,本件合意による競争の実質的制限はないと主張する。
しかしながら,4料金は本件業務の運賃及び料金と別個に合意され支払われるものではなく,これらと併せて合意され支払われるものであるから,荷主が14社と本件業務の取引をするに当たっては,4料金の金額を含む運賃及び料金の額を基にして,取引先である本件事業者を選択し,選択した業者との間で,取引価格である運賃及び料金の額を決定することにならざるを得ない。そうすると,14社は,4料金部分での競争を停止することにより,本件業務の取引条件である価格の全体について,その意思で,ある程度自由に左右する状態をもたらしていたということができる。
被審人の主張
本件荷主向け燃油サーチャージ合意について
既に述べたように,ユナイテッド,日本通運及びDHLは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加していない。業界最大手である日本通運が参加していないため,14社から上記3社を除いた11社の本件業務における市場占有率は50パーセントに達していない。仮に,ユナイテッドが合意に参加していたとしても,市場占有率は50パーセントを僅かに超えるにすぎない。
以上によれば,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではない。
本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意について
AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料の本件業務の対価に占める割合は,AMSチャージが年平均0.0046パーセント,セキュリティーチャージが年平均0.296パーセント,爆発物検査料が年平均0.011パーセントであって,これらを合計しても0.5パーセントにも満たないものである。
したがって,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではない。
本体運賃等における価格競争について
本件業務の取引分野においては,本体運賃及び4料金以外の料金において,14社を含む事業者間で価格競争が行われており,熾烈な競争環境にあった。
したがって,本件合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではなかった。
需要者の圧力について
本件業務の需要者は,日本からの輸出を行う全事業の事業者であるから,需要者の価格競争力は強く,需要者において取引先を切り替えることも容易であったし,需要者側の競争も激しかった。
したがって,本件合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものではなかった。
争点4(本件合意の対価性及び役務の売上額)について
審査官の主張
争点1(本件合意の内容等について)で主張したとおり,本件合意は価格について決定し請求するものであり,本件違反行為は価格の決定カルテルであるから,本件違反行為が役務の対価に係るものであることは明らかである。本件違反行為の対象役務は,本件業務であって,本件業務は,航空機による運送のほか貨物の集荷,配送,混載貨物仕立て,通関手続等も含む個々の作業が全体として一つの業務を構成しているものであるところ,14社は,荷主の求めに応じて,本件業務の全部又は一部を提供し,その全体として一つに構成された業務の対価として4料金を含む運賃及び料金を荷主に請求し収受していたのであるから,本件違反行為が本件業務の対価に係るものであることは明らかである。
本件合意は,4料金のみを対象として決定し請求することにより相互に拘束していたものであり,4料金は,本体運賃及び4料金を除くその余の料金(以下「その余の料金」という。)と明確に区別することができるのであるから,当該役務の売上額は,4料金の売上額である。
被審人の主張
本件合意は,航空会社から請求を受けた金額に相当する金額を荷主に対し「請求する」という実施行為に相当する行為を内容とするものであって,価格について合意したことは本件合意の内容となっていない以上,本件合意は価格カルテルとはいえず,本件業務の対価を決定したものではないから,「対価に係るもの」には該当しない。また,対価とは提供した役務の対象として顧客より受領する,提供した役務と等価の報酬であり,提供した役務が可分な場合は可分なそれぞれに対して対価が存在しえても,不可分な役務には一つの対価しか存在しえず,対価の一構成要素にすぎないものは対価ではない。4料金は,不可分な本件業務という役務の対価たる運賃の一構成要素にすぎないから対価ではなく,本件合意は,役務の「対価に係るもの」とはいえない。
上記のとおり,4料金は役務の対価ではないから,そこに売上額は存在しない。また,4料金に,粗利,営業利益,経常利益といったものを観念することはできないから,そこに不当利得を観念することはできず,不当利得が存在しないのに課徴金を課すことは許されない。
争点5(本件業務は小売業に該当するか否か)について
審査官の主張
課徴金制度の導入当時,課徴金の算定率の設定に係る業種の分類については,日本標準産業分類(当時,行政管理庁告示。)に準拠することとされていた。そして,現行の日本標準産業分類では,本件業務に係る事業は「運輸業,郵便業」の「道路貨物運送業」又は「運輸に附帯するサービス業」に分類されており,「卸売業,小売業」と「運輸業,郵便業」とは別個独立の大分類とされている。また,課徴金制度が導入された昭和52年当時においても,本件業務に係る事業は「運輸・通信業」の「運輸に附帯するサービス業」に分類されており「卸売業,小売業」と「運輸・通信業」とは別個独立の大分類とされていた。
また,日本標準産業分類では,卸売業及び小売業について「この大分類には,原則として,有体的商品を購入して販売する事業所が分類される」とされており,そもそも「役務」自体を取引する事業者を卸売業又は小売業に分類することは予定されていない。
よって,被審人の業務である本件業務は「小売業」には該当せず,課徴金の算定率は,平成18年1月3日以前の違反行為に係るものについては6パーセント(平成17年改正法附則第5条第2項の規定によりなお従前の例によることとされる平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項),同月4日以降の違反行為に係るものについては10パーセント(独占禁止法第7条の2第1項)である。
被審人の主張
小売業は有体的商品を購入して販売する事業に限定されるわけではなく,役務についても成立する。
本件業務は,航空会社が創造した運送役務を購入して需要者に提供し,マージンを得ているのであって,その性質は小売業そのものである。本件業務には,航空運送に前後する陸上運送,混載仕立て,ラベル貼付などの業務も発生するが,いずれの業務も,航空運送に付随する従たる業務にすぎず,本件業務の性質を変更するものではない。
よって,被審人の業務である本件業務は小売業に該当し,課徴金の算定率は,平成18年1月3日以前の売上額については2パーセント(平成17年改正法附則第5条第2項の規定によりなお従前の例によることとされる平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項),同月4日以降の売上額については3パーセント(独占禁止法第7条の2第1項)が適用される。
審判官の判断
争点1(本件合意の内容等)について
本件合意の内容について
本件排除措置命令書によれば,本件合意のうち本件荷主向け燃油サーチャージ合意は,「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,・・・利用する航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなるときは,当該航空会社から請求を受ける燃油サーチャージの額に相当する額を,荷主に対する燃油サーチャージとして荷主に対し新たに請求する」というものである。
ここでいう「当該航空会社から請求を受ける燃油サーチャージの額に相当する額を荷主に対する燃油サーチャージとして荷主に対し新たに請求する」とは,航空会社から燃油サーチャージとして請求を受けることとなる金額に相当する金額を荷主向け燃油サーチャージの額として決定し,その金額を荷主に対して請求することであり,請求するに当たっては,請求する金額を決定することが当然の前提となる。そして,上記合意の趣旨は,要するに,航空会社が決めた燃油サーチャージの額と同額を荷主向け燃料サーチャージとして請求することにより,新たに発生した費用(燃油サーチャージ相当額)を自社で負担することなく実際の役務の利用者である荷主に転嫁することにあると解される。
本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意も,同様に解することができる。すなわち,本件AMSチャージ合意は,「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,・・・ハウスエアウェイビル1件当たり500円以上を,AMSサーチャージとして荷主に対し新たに請求する」というものであり,本件セキュリティーチャージ等合意は「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,・・・ハウスエアウェイビル1件当たり300円以上を,セキュリティーチャージとして荷主に対し新たに請求する」,「国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,・・・ハウスエアウェイビル1件当たり1,500円以上を,爆発物検査料として荷主に対し新たに請求する」というものであって,いずれも,新たに発生した費用について,当該費用の金額を決定し,荷主に対し請求することを合意したものであり,その合意の趣旨は,新たに発生した費用を自社で負担することなく実際の役務の利用者である荷主に転嫁するものであると解される。
したがって,本件違反行為に係る本件合意(本件荷主向け燃油サーチャージ合意,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意)は,4料金のそれぞれについて金額を決定した「価格の決定カルテル」であるというほかはなく,独占禁止法第2条第6項の「対価を決定する」ものに該当する。
被審人の主張に対する判断
被審人は,本件合意は,航空会社から請求を受けた金額に相当する金額を荷主に対し「請求する」という実施行為に相当する行為を内容とするものにすぎず,価格について合意したことを内容としていない以上,本件合意は価格カルテルとはいえず,「対価を決定する」(独占禁止法第2条第6項)ものには該当しないと主張する。
確かに,被審人の主張するように「請求する」という部分のみを取り上げれば,価格を決定するものではないようにも解されるが,そもそも,本件合意の一部分である「請求する」という部分のみを取り上げて,実施行為にすぎないとするのは相当ではない。前記アで検討したとおり,本件合意の内容は,いずれも「航空会社から請求を受けることとなる価格に相当する額を請求する」ことであり,これは,請求する金額を「航空会社から請求を受けることとなる価格に相当する額」と決めた上で,当該金額を請求することを意味するものと解される。被審人の主張は,独自の見解に基づくものであって採用することはできない。
主張の変更について
被審人は,「審査官は,当初,本件合意について,『請求する』ことのみがその内容であると主張していたのに,審判手続中に,本件合意には『金額の合意』も含まれると主張するようになった。これは被審人の利益を害する主張の変更として許されない(独占禁止法第58条第2項,規則第28条第1項及び第2項)。」と主張する。
確かに,被審人が主張するとおり,審査官は,平成21年8月6日の第1回審判期日において,本件合意の内容とされる「請求とは…当該航空会社から請求を受ける燃油サーチャージに相当する額の全額を荷主に請求するという事実行為」(答弁書68頁)であると主張し,その後,平成22年1月7日の第3回審判期日において,本件合意につき「本件荷主向け燃油サーチャージにあっては利用する航空会社から請求を受けることとなる燃油サーチャージに相当する額の全額…という金額を決め,それぞれ,荷主に対し,当該額を支払うよう求めるということである」(第1準備書面161頁)等と主張しているが(顕著な事実),既に前記(1)アで検討したとおり,本件合意は,4料金の金額を決定し,その金額を荷主に対し請求する旨の合意であって,価格の決定カルテルといえるものであり,請求するには金額を決定することが当然の前提となることに照らせば,審査官の上記主張はいずれも,上記のとおりの本件合意の内容(4料金の金額を決定し,その金額を荷主に対し請求する旨の合意)につき説明したもの(後者はより詳細に説明したもの)にすぎないものである。
よって,そもそも審査官が主張を変更したという事実は認められず,被審人の主張はその前提を欠くものであって,独占禁止法第58条第2項等の要件を検討するまでもなく理由がない。
なお,念のため述べると,仮に,審査官が主張を変更したものであるとしても,本件違反行為が本件業務の運賃及び料金について4料金の相当額を荷主に請求するという合意であり,違反行為者は14社であること,一定の取引分野は本件業務の取引分野であること等について変更されていない以上,事件の同一性の範囲(規則第28条第1項)を超えるものではない。また,上記のとおりの審査官の主張経過に照らせば,手続を著しく遅滞させる(同条第2項)ことにはならず,被審人の利益を害する(独占禁止法第58条第2項)ことにもならない。したがって,いずれにせよ,審査官の主張の変更が許されない場合には当たらないから,被審人の上記主張は理由がない。
争点2(本件合意の成否)について
本件荷主向け燃油サーチャージ合意について
前記第3で認定したところに証拠(各項末尾に括弧書きで掲記)を総合すると,燃油サーチャージ導入の経緯並びにその後の協会及び14社の対応等について,以下のとおり認めることができる。
平成13年の燃油サーチャージ導入の経緯及びこれに対する協会の対応等
平成8年以降,燃油価格が高騰したことから,航空業界では,燃油価格について航空運賃とは別建てで顧客に請求するサーチャージ方式(燃油価格が高騰している期間に限って利用者から特別の運賃を付加的に徴収し,燃油価格が元に戻った場合には徴収をやめるという仕組みであり,本体の航空運賃自体の変動を抑えつつ,燃油価格の変動にも機動的に対応することができるシステム)の導入を求める声が高まった。
これを受けて,国際航空運送協会は,平成9年8月,サーチャージ方式による燃油サーチャージ制度を決議したが,結果として,この決議は発効するには至らず,燃油サーチャージ制度の導入が実現するまでには至らなかった。
(査共第25号証,第44号証,第48号証,第62号証)
平成12年になると燃油価格が再び上昇を始めたため,航空会社は,航空運賃の値上げによってこれに対応した。14社を含む本件事業者は,この航空運賃の値上げに対処するため,荷主に対する本件業務の運賃及び料金を値上げしようと取り組んだが,ほとんど荷主に応じてもらえず,結果として,航空運賃の値上げによる損失をそのまま負担する状況となった。こうした状況を踏まえて,本件事業者業界は,航空会社に対して,燃油価格の高騰に対応する場合には,航空運賃本体を値上げするのではなく,航空運賃とは別に燃油サーチャージ方式による値上げにして欲しい旨を要望した。
(査共第44号証,第47号証,第48号証)
以上のような経緯を経て,我が国の航空会社(日本航空を含む5社)は,平成13年3月,国土交通省航空局に対し,我が国発の航空機に搭載される貨物について,航空運賃とは別に燃油サーチャージを設定することについての認可申請を行って同月中に認可を受け,同年5月16日から,本件事業者などの利用者に対して燃油サーチャージを請求することができることとなった。
上記燃油サーチャージの内容は,「基準価格を,1995年から1999年までのシンガポールのケロシン(航空燃油)の平均価格である1バレル当たり23.20アメリカドルとし,燃油価格が基準価格の130パーセント,つまり30.16アメリカドル以上を20営業日連続して超えた場合に,1キログラム当たり12円を設定する。燃油価格が基準価格を20営業日連続して下回った場合に燃油サーチャージを廃止する。」というものであった。
(査共第25号証,第44号証,第47号証,第48号証,第62号証)
上記のとおり航空会社による燃油サーチャージの導入が決まったことにより,航空会社の利用者である本件事業者は,航空会社から,航空運賃に付加して新たに燃油サーチャージの請求を受けてこれを支払うこととなった。その結果,本件事業者としては,荷主に対して,これまでの本件業務の代金に付加して上記燃油サーチャージに相当する金額を請求して収受することができず,上記燃油サーチャージに相当する金額を自社で負担することとなれば,その金額次第では経営上深刻な問題をもたらす可能性もあった。
このような事情もあって,燃油サーチャージ導入が決定したことを受けて,協会の国際部会役員会において,その対応策が話し合われるようになった。
例えば,平成13年3月16日及び同月27日に開催された国際部会役員会の会合では,燃油サーチャージを導入する航空会社に対しては航空運賃の値引きを交渉していくこと,荷主に対しては荷主が荷主向け燃油サーチャージの支払に応ずるよう交渉していくこと,以上の交渉については業界が足並みをそろえて一斉に行うこと,燃油サーチャージ対応については今後2週間に1回程度の連絡会議を開催することなどが話し合われたほか,燃油サーチャージが導入された場合に,本件事業者が荷主に対して荷主向け燃油サーチャージを請求し収受することができるようにしておくために,各社において,貨物運送取扱事業法に基づく国土交通大臣への運賃及び料金の変更の届出を行うことが確認された。
(査共第36号証ないし第38号証,第44号証ないし第46号証,第48号証)
その後,14社を含む協会の会員47社は,前記運賃及び料金の変更届を行った。
14社の上記届出の内容は,おおむね同様であり,「利用する航空運送事業者が燃油サーチャージを適用する場合には,賃率適用重量に利用する航空運送事業者が適用する料率を乗じた額を燃油サーチャージとする。なお,利用する航空運送事業者が燃油サーチャージを適用しない場合,あるいは廃止した場合には,適用しない。」というものであった。
(査共第18号証ないし第21号証,第62号証)
国際部会役員会の会合は,平成13年4月26日及び同年5月14日にも開催され(4月26日には,国際部会役員会の構成員14社全てが参加し,被審人からは被審人の曽根が出席している。),引き続き,燃油サーチャージの導入に対する対応策が議論された。
5月14日の会合では,出席者各自が燃油サーチャージ導入についての自社の対応を発表したところ,荷主に対して荷主向け燃油サーチャージを請求するという者が多かったが,請求することは難しいか又は請求し得ないとした者も数社あり,各社の対応が分かれた。議事進行役の近鉄の本は,会合の最後に,今回会員各社の足並みはそろわないが,荷主向け燃油サーチャージを請求する方向で足並みをそろえる努力をすることなどの方針を述べた。
(査共第39号証の1及び2ないし第43号証,第46号証)
平成13年5月17日,被審人,西鉄,バンテック,近鉄,日本通運及び阪急交通社の6社の担当者が集まり,荷主向け燃油サーチャージへの対応について話し合った。近鉄の担当者を中心に,被審人,バンテック及び阪急交通社の4社の担当者は,各社がまとまって荷主向け燃油サーチャージを請求する方向性を打ち出そうとしたが,西鉄及び日本通運の方針が必ずしも一致しなかったため,各社が足並みをそろえるという方向性を打ち出すことはできなかった。(査共第230号証)
日本航空を含む航空会社は,我が国発の航空機に搭載される貨物について,平成13年5月16日以降,1キログラム当たり12円の燃油サーチャージを設定し,14社に対し燃油サーチャージの請求を開始したため,14社は,航空会社に対して,航空運賃に加えて燃油サーチャージを支払うことを余儀なくされることとなった。
これに対して,14社の中には,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求した者もあったが,燃油サーチャージ相当額の全額ではなく一部のみを請求した者や,荷主向け燃油サーチャージを請求しない者もあった。その結果,荷主向け燃油サーチャージを負担してもらうことについての荷主の理解を得られず,結果として,請求した者も含めて,業界全体としては,荷主から燃油サーチャージに相当する金額を収受することはほとんどできなかった。
(査共第25号証,第49号証ないし第52号証)
その後,燃油価格が下落し,燃油サーチャージを廃止する基準レベルを満たしたことから,遅くとも平成14年1月1日までに,航空会社のほとんど全ては,燃油サーチャージを一旦廃止し,14社に対する燃油サーチャージの請求を取りやめた。これを受けて,14社は,荷主向け燃油サーチャージに係る国土交通大臣に対する届出内容に基づいて,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求することを取りやめた。(査共第25号証,第44号証,第48号証,第49号証,第51号証ないし第54号証,第61号証,第62号証)
平成14年の燃油サーチャージ再開の経緯及びこれに対する協会の対応等
平成14年8月頃,燃油価格が上昇し始め,燃油サーチャージを設定する基準レベルを満たすことが見込まれたことから,日本航空は,国土交通大臣の認可を受けて,我が国発の航空機に搭載される貨物について,1キログラム当たり12円の燃油サーチャージを設定し,平成14年10月16日以降,14社に対する燃油サーチャージの請求を開始した。
日本航空以外の航空会社も,順次,国土交通大臣の認可を受けて,我が国発の航空機に搭載される貨物について,燃油サーチャージを設定し,平成14年10月16日以降,14社に対する燃油サーチャージの請求を開始した。
(査共第25号証,第48号証ないし第52号証,第62号証)
日本航空の担当者は,航空会社による前記aの再度の燃油サーチャージの設定(以下「本件再設定」という。)に先立つ平成14年9月10日から13日頃にかけて,大手3社に対し,日本航空が国土交通大臣に対し申請を予定している燃油サーチャージの内容について説明した。(査共第44号証,第50号証,第51号証,第55号証,第62号証)
上記のとおり日本航空から本件再設定の説明を受けた近鉄の本は,平成13年に燃油サーチャージが設定された際に,荷主から荷主向け燃油サーチャージを収受することに業界全体として成功しなかったことについて,業界としての取組が各社まちまちであったことが大きく影響しているものと考えていたこともあり,14社を含む業界全体が一致団結して,荷主向け燃油サーチャージの請求及び収受に取り組む必要があると判断した。そこで,近鉄の本は,本件再設定の開始に先立って,業界全体で足並みをそろえて荷主と交渉することについて意思統一を図るべく,理事会や国際部会などの会合において各社に対し働き掛けをすることとした。(査共第51号証,第52号証)
平成14年9月10日付けで,協会事務局から,国際部会役員会の各社あてに,14.9役員会を開催するため出席されたい旨,同役員会では燃油サーチャージについて議題とする旨などが通知された。(査共第222号証)
平成14年9月18日,14.9役員会が開催され,12社が出席し,近鉄の本,近鉄の総務部秘書グループ担当課長であった佐伯和重(以下「近鉄の佐伯」という。),バンテックの輸出事業部次長であった益子和夫(以下,「バンテックの益子」という。),日新の東京航空部海外業務課長であった山本明彦(以下,「日新の山本」という。)などが出席していた。
近鉄の本の議事進行の下,12社の出席者は,それぞれ各社の本件再設定への対応方針を発表した。ユナイテッドを除く11社の対応方針は,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求し収受するために荷主と交渉を行うというものであった。ユナイテッドは,同社が同社の株主である運送業者らから貨物の利用運送を引き受けており,荷主向け燃油サーチャージの請求対象である荷主が株主であることから,その方針として,荷主向け燃油サーチャージを請求し収受する前に,これらの株主に説明し理解を得る必要があるというものであったが,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求し収受していくという方向性に反対するものではなかった。
以上の発表を受けて,近鉄の本は,12社の出席者に対して,各社足並みをそろえて荷主に対し荷主向け燃油サーチャージの全額を請求していくこと,荷主向け燃油サーチャージを請求しなかったり,一部しか請求しなかったりすることで,荷主との間の貨物の取扱量を増やしたり,新たな取引先を開拓したりすることはやめること(すなわち,荷主向け燃油サーチャージを全額荷主に請求し収受することで各社が協調することとし,荷主向け燃油サーチャージを競争の手段として用いないこと)を提案した。12社の出席者は,この提案に際して,誰も反対意見を述べなかった。
(査共第50号証ないし第52号証,第57号証ないし第62号証)
平成14年11月8日に静岡県において開催された14.11理事会には,14社のうちヤマトとエアボーンを除く各社が出席した。14.9役員会を欠席していた日本通運からは,当時代表取締役であった浅田元紀が,DHLからは,当時チーフオペレーションオフィサーであった池田敏がそれぞれ出席した。
近鉄の本は,国際部会の活動報告として,14.9役員会を開催し,12社が出席したこと,この役員会において,出席した12社の方針を確認したこと,その上で本件再設定が開始された場合には,国際部会役員会のメンバー各社が荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求し収受することとなったことなどを報告した。この報告に対して,上記浅田及び池田は,何ら反対意見を述べなかった。
(査共第63号証)
荷主向け燃油サーチャージについてのその後の14社の行動等
14社のうちDHLを除く各社は,いずれも,燃油サーチャージが設定された平成14年10月16日から,我が国の航空会社を利用する貨物に関して,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージの請求を開始しており,各社の請求開始時期は一致していた。上記各社が荷主に請求した荷主向け燃油サーチャージの内容は,「賃率適用重量に利用する航空会社が適用する利率を乗じた額」であって,請求内容も一致していた。
DHLは,平成14年12月16日から荷主向け燃油サーチャージの請求を開始したが,請求内容は,「賃率適用重量に利用する航空会社が適用する利率を乗じた額」であり,上記各社と一致していた。
(査共第64号証ないし第71号証)
平成14年11月15日,協会において,「国際部会・国際宅配便部会代表役員会」と称する会合(以下「14.11代表役員会」という。)が開催され,14社のうち日本通運,近鉄,被審人,西鉄,阪急交通社,バンテック,日新及びケイラインの8社が出席した。8社の出席者は,互いに荷主向け燃油サーチャージの収受率や荷主からの収受状況を発表し合った。収受状況としては,全般に良好ではなく,特に大手の荷主からは荷主向け燃油サーチャージが収受できていないというものであった。(査共第72号証)
平成15年3月17日に開催された国際部会役員会の会合(以下「15.3役員会」という。)には,14社が出席した。14社の出席者は,自社の平成15年1月及び同年2月の荷主向け燃油サーチャージの収受率を発表した。(査共第44号証,第73号証)
平成15年4月2日に開催された国際部会役員会の会合(以下「15.4役員会」という。)には,構成員会社である14社全てが出席しており,被審人の田中,被審人の曽根,西鉄の当時の取締役航空貨物事業本部長北古賀正司,バンテックの当時の取締役田村純一,ケイラインの当時の代表取締役濱田一壽(以下「ケイラインの濱田」という。)などが出席していた。
14社の出席者は,航空会社が燃油サーチャージを1キログラム当たり18円に値上げすることを受けての各社の対応方針等を発表した。出席者の中には,荷主向け燃油サーチャージの収受率を引き上げるためには,14社が協力し合う必要があるとか,14社が足並みをそろえて荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求する必要があるなどとする意見を述べた者もあった。
14社は,会合の最後に,利用する航空会社が燃油サーチャージを1キログラム当たり18円に値上げした場合,荷主に対し,荷主向け燃油サーチャージとして,その同額を請求し,全額を収受するよう交渉していくことを確認した。
(査共第74号証の1及び2)
平成16年3月5日に開催された国際部会役員会の会合(以下「16.3役員会」という。)には,13社のうちDHLを除く各社が出席しており,被審人の曽根,西鉄の当時の航空業務部営業企画課企画係副長古賀柳治(平成17年7月から航空業務部営業企画課付課長,平成18年5月から航空貨物事業本部営業企画部課長。以下「西鉄の古賀」という。),バンテックの当時の取締役二宮誠人,ケイラインの濱田などが出席していた。
出席者は,近鉄の本の議事進行の下,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率,荷主向け燃油サーチャージを全額支払わないか又は一部しか支払わない荷主(以下「支払拒否荷主」という。)の具体的な名称,支払拒否の理由,航空会社の担当者を同行して行った支払交渉の状況などを発表した。出席者の中には,本体運賃に荷主向け燃油サーチャージを含めている荷主に対しては,「外出し」,つまり本体運賃と荷主向け燃油サーチャージを個別に支払ってもらえるよう営業活動を行うことを徹底する必要があると提案する者もいた。
近鉄の本は,航空会社の担当者を同行して支払拒否荷主に全額支払ってもらうための交渉を行うこと並びにそのために交渉相手となる荷主(以下「対象荷主」という。)ごとに交渉を担当する会社(以下「交渉担当者」という。)及び同行する航空会社を決めておくことを提案し,具体的には,以下のとおりの案を提示したところ,反対意見を述べた者はいなかった。
※表を省略
さらに,近鉄の佐伯及び協会事務局の担当者は,協会の顧問弁護士に確認した結果として,航空会社が13社に請求する燃油サーチャージの額については減額の交渉が可能である旨を報告し,この点については,荷主には知られないようにする必要がある旨述べて,出席した各社に注意を喚起した。
(査共第75号証,第76号証)
平成16年4月6日に開催された国際部会役員会の会合(以下「16.4役員会」という。)には,13社のうち日本通運及びバンテックを除く各社が出席しており,被審人の当時の代表取締役大山愿太,被審人の曽根,西鉄の古賀,ケイラインの当時の常務取締役赤岡輝男(以下「ケイラインの赤岡」という。)などが出席していた。
出席者は,近鉄の本の議事進行の下,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率,支払拒否荷主の名称及び支払拒否の理由,航空会社の担当者を同行して行った荷主向け燃油サーチャージの支払交渉の状況などを発表した。この発表内容により,荷主向け燃油サーチャージの収受について13社が協調的に行動していることが確認できたことから,近鉄の本は,「足の引っ張り合いがなかったことは良いことである」旨を述べた。
(査共第77号証ないし第80号証)
平成16年6月3日に開催された国際部会役員会の会合(以下「16.6役員会」という。)には,13社が出席しており,被審人の田中,被審人の曽根,西鉄の古賀,バンテックの当時の専務取締役営業本部長木村弘(平成17年3月から取締役兼専務執行役員営業本部長,平成19年6月からは代表取締役社長。以下「バンテックの木村」という。),ケイラインの当時の取締役佐藤市郎(平成18年3月から常務取締役)などが出席していた。
各出席者は,近鉄の本の議事進行の下,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率を発表するとともに,航空会社が燃油サーチャージを1キログラム当たり24円に値上げすることに対する対応方針を発表した。最後に,近鉄の本は,各社ともに,荷主向け燃油サーチャージについて1キログラム当たり24円に値上げし,荷主に対し,その全額の支払を求めて交渉するという対応を取ること,交渉に際しては航空会社の担当者を同行し,その担当者をして,荷主が荷主向け燃油サーチャージを全額支払わない場合には,航空機に予定どおり貨物を搭載できないこともあり得ることを説明させることを検討すべきことなどを述べた。また,近鉄の本は,荷主向け燃油サーチャージを1キログラム当たり24円に値上げするに当たって,各社とも,これを競争の手段として使用しないこと,つまり荷主と新たに取引を開始したり,既存の貨物取引量を増やしたりするための手段として,荷主向け燃油サーチャージを値引きすることはせず,その全額を請求することなどを述べて,各社一致して協調行動をとることを要請した。上記一連の本の発言に対して,反対意見を述べた出席者はいなかった。
(査共第81号証ないし第86号証)
平成17年1月28日に開催された国際部会役員会の会合(以下「17.1役員会」という。)には13社が出席しており,被審人の田中,被審人の曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの当時の取締役荒巻長正(以下「ケイラインの荒巻」という。)などが出席していた。出席者は,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率を発表したが,これに加えて荷主から収受できるようになった具体的な金額を発表した者もいた。(査共第118号証,第134号証,第151号証ないし第154号証)
平成17年4月18日に開催された国際部会役員会の会合(以下「17.4役員会」という。)には13社が出席しており,被審人の当時の代表取締役副社長矢野俊一(平成17年6月から代表取締役社長。以下「被審人の矢野」という。),被審人の曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの当時の取締役松倉孝明(以下「ケイラインの松倉」という。)などが出席していた。
この役員会では,同年5月16日又は同年6月1日から,航空会社が燃油サーチャージを1キログラム当たり30円から同36円に値上げすることを受けて,荷主向け燃油サーチャージを1キログラム当たり36円に値上げして請求することが提案され,値上げの時期についても意見交換が行われたほか,各社の荷主向け燃油サーチャージの収受率が発表された。
(査共第122号証,第155号証ないし第158号証)
平成17年8月3日に開催された国際部会役員会の会合(以下「17.8役員会」という。)には,13社が出席しており,被審人の当時の執行役員大森正博(平成19年6月から常務執行役員),被審人の曽根,西鉄の当時の営業企画課長福間正憲,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席していた。
出席者は,近鉄の本の議事進行の下,航空会社の燃油サーチャージの値上げに伴い,13社が荷主向け燃油サーチャージを1キログラム当たり42円に値上げすることに対する荷主の反応状況,支払拒否荷主の具体的な名称や交渉状況等を発表した。出席者の中には,大手荷主から荷主向け燃油サーチャージを収受するに当たっては,中小の本件事業者の対応には限界があり,まず,13社のうち大手の本件事業者が大手荷主との間で交渉し荷主向け燃油サーチャージを全額収受できるようにしてもらいたい旨の発言をする者もあった。
そこで,近鉄の本は,支払拒否荷主のうち,各社に共通する荷主を10社程度選定し,原則として,当該荷主との間で貨物の取引量が最も多い者を交渉担当者とすること,それぞれの荷主に対する対応については当該荷主と取引のある業者間で協議することなどを提案し,以下の10社を対象荷主とすること,以下の各社を交渉担当者とすることが決定された。また,近鉄の本は,13社の間で荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求し収受するに当たって,「足の引っ張り合い」はないと発言した。
※表を省略
(査共第87号証ないし第93号証,第211号証)
近鉄の佐伯は,17.8役員会における検討を踏まえて,同年9月8日,対象荷主及び交渉担当者,交渉の実施方法等について,被審人の曽根,西鉄の古賀,日本通運の赤井,阪急交通社の和田彰に対し,改めて電子メールで連絡した。被審人の曽根は,これに対応するため社内の担当者に報告を求めるなどして,これに対応した。
(査共第94号証,第210号証ないし第213号証)
平成17年12月12日に開催された国際部会役員会の会合(以下「17.12役員会」という。)には,13社が出席しており,被審人の田中,被審人の曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席していた。
出席者は,自社の荷主向け燃油サーチャージの収受率及び未収受額,また,荷主向け燃油サーチャージの支払拒否荷主の名称を挙げて,当該荷主との間で荷主向け燃油サーチャージの支払に向けて行った交渉状況や交渉結果について発表した。
(査共第44号証,第163号証,第164号証,第168号証,第170号証,第172号証ないし第180号証)
平成18年9月19日に開催された国際部会役員会の会合(以下「18.9役員会」という。)には,13社が出席しており,被審人の矢野,被審人の曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの赤岡などが出席していた。
上記会合においては,平成18年6月に近鉄の本に代わって国際部会長に就任していた近鉄の田中が議事進行役を務めた。燃油サーチャージについて,全日本空輸株式会社は,平成18年9月16日から,日本貨物航空は,同年10月16日から,いずれも1キログラム当たり60円とする予定であり,日本航空は,同日から,目的地ごとに燃油サーチャージの金額を設定する「距離制」を採用することとなっていたところ,これらについて各社の意見交換が行われ,さらに,各社の荷主向け燃油サーチャージの収受率が発表された。
近鉄の田中は,日本航空が距離制の燃油サーチャージを設定することになると,同社の航空機を利用する場合,13社が荷主に請求する荷主向け燃油サーチャージの額も,目的地によって他の航空会社を利用する場合に比べて安くなるため,これを「営業のツール」,つまり競争の手段として使用しないことを提案した。この提案の趣旨は,例えば,荷主に対し,自社は日本航空の航空機を利用するので荷主向け燃油サーチャージの額を安くできるといった営業を行うことにより,荷主と新たに取引を開始したり,既存の貨物取扱量を増やしたりするという手段として使用しないというものであった。これに対し,反対意見を述べた者はいなかった。
(査共第95号証ないし第100号証)
平成19年7月17日に開催された国際部会役員会の会合(以下「19.7役員会」という。)には,13社のうち日本通運を除く各社が出席しており,被審人の矢野,被審人の曽根,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席していた。
各出席者は,近鉄の田中の議事進行の下,自社の荷主向け燃油サーチャージの平成19年5月及び同年6月の収受率及び未収受額を発表した。
出席者は,日本航空が平成19年8月1日から燃油サーチャージを値上げし,他の航空会社もこれに追随することが見込まれ,これによって,13社が航空会社に支払う燃油サーチャージの額も相当な額となるため,再度,荷主に対し,荷主向け燃油サーチャージの全額を請求することを確認した。
会合の席上,当時阪急交通社の専務取締役国際輸送事業本部長であった多田尊則が,荷主向け燃油サーチャージを全額収受できない理由の一つとして,13社のうち同一の荷主と取引している者が複数いることを指摘した。これを受けて,近鉄の田中は,次回に開催する国際部会役員会の会合の場において,支払拒否荷主の具体的な名称を挙げて,その対応策を検討することを提案したところ,これに対し,反対意見を述べた者はいなかった。
(査共第62号証,第101号証ないし第106号証)
平成19年9月18日に開催された国際部会役員会の会合(以下「19.9役員会」という。)には,13社のうちバンテック及びヤマトの2社を除く各社が出席しており,被審人の矢野,被審人の曽根,西鉄の古賀,ケイラインの荒巻などが出席していた。
11社の出席者は,近鉄の田中の議事進行の下,自社の荷主向け燃油サーチャージの平成19年7月及び同年8月の収受率及び未収受額を発表し,その後,荷主向け燃油サーチャージの全額を荷主から収受するための方策についての意見交換を行った。例えば,被審人の矢野は,荷主向け燃油サーチャージを全額収受できない場合には,経営に与える影響が大きいことから,各社とも経営者自らが荷主向け燃油サーチャージを全額収受することを指導する必要がある旨発言した。また,当時日本通運の取締役常務執行役員であった伊藤康生は,支払拒否荷主に対する対応として,近鉄の本が国際部会長を務めていた当時に実施した「対象荷主を選定し,交渉担当者を決めて交渉を行う」という方法により,一定の効果が上がったことから,再び同様の方法を実施してみてはどうかという趣旨の提案を行った。
そこで,近鉄の田中が,次回に開催する国際部会役員会の会合の場においては,各社が取引している荷主の荷主向け燃油サーチャージの収受状況を具体的な荷主名を挙げて発表することを提案したところ,これに対し,反対意見を述べた者はいなかった。
(査共第44号証,第106号証ないし第111号証)
前記第3及び前記アで認定した事実経過によれば,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の成立をうかがわせるものとして,特に以下の事実を指摘することができる。すなわち,平成8年以降の燃油価格の高騰により,航空業界では,航空運賃自体を変更することなく燃油価格の高騰に臨機応変に対応する手法として,サーチャージ方式の導入が提唱されていたこと,平成13年に至って我が国の航空会社においても燃油価格についてサーチャージ方式が導入され,航空会社は,同年5月16日から,利用者に対して航空運賃とは別に燃油サーチャージを請求することとなったこと,上記燃油サーチャージの設定に伴い,14社は,新たに航空会社に支払うこととなる燃油サーチャージ相当額を可能な限り荷主に転嫁するという共通の目的を有するに至り,上記燃油サーチャージの実施に先立って協会の国際部会役員会において,その対策が話し合われたが,結果としては,14社が一致して協調行動を取ることはできず,業界全体として,荷主向け燃油サーチャージを収受することに失敗したこと,平成14年10月16日以降燃油サーチャージが再設定がされるに際して,近鉄の本は,前年度の経験を踏まえて,業界が一致して協調行動を取らなければ,荷主向け燃油サーチャージを収受することは難しいと考え,14.9役員会において,荷主向け燃油サーチャージについての各社の対応を確認したところ,各社とも荷主に請求し収受するという基本的な対応方針には違いがなかったこと,そこで,同人が12社の出席者に対して,各社足並みをそろえて荷主に対して荷主向け燃油サーチャージの全額を請求し,荷主向け燃油サーチャージを競争の手段として用いないことを提案したところ,各社ともこの提案に反対しなかったこと,14社のうちDHLを除く各社は,我が国の航空会社を利用した貨物の契約について,いずれも平成14年10月16日から荷主に対して荷主向け燃油サーチャージの請求を開始しており,請求内容も同じであったこと,近鉄の本が,14.11理事会において,14.9役員会の協議内容を報告したのに対し,日本通運及びDHLの出席者は何ら反対意見を述べなかったこと,DHLは,平成14年12月16日から荷主に対して荷主向け燃油サーチャージの請求を開始しているが,その請求内容は上記各社と同じであったことを指摘することができる。さらに,平成13年に燃油サーチャージが設定されたときには,荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求するか否かについて各社の対応にばらつきがあったが,本件再設定に際しては,14.9役員会を経て,14社のうちDHLを除く13社が同時期に同内容の燃油サーチャージの請求を開始しており,DHLも,請求開始時期は13社より2か月遅れているものの,13社と同内容の請求をしているのであって,14社の行動は,平成13年時の行動と異なり明らかに協調的になっていること,日本通運及びDHLは,本件排除措置命令及び本件違反行為に関して同2社に発令された各課徴金納付命令に対して審判請求を行わず,各命令はいずれも確定していること(なお,日本通運は本件違反行為に係る事実を公正取引委員会に報告したことにより課徴金の減額の措置を受けていること)を指摘することができる。
以上の事実経過によれば,14.9役員会において,12社間に,「本件業務の運賃及び料金について,ハウスエアウェイビルの発行日が同年10月16日(本件再設定が実施される日)以降である貨物を対象に,利用する航空会社から燃油サーチャージの請求を受けることとなるときは,当該燃油サーチャージに相当する金額を荷主に対して新たに請求する」旨の合意(すなわち,本件荷主向け燃油サーチャージ合意)が成立し,日本通運及びDHLは,遅くとも14.11理事会の頃までに,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加したものと認めることができる。
さらに,前記ア(ウ)で認定したところによれば,本件荷主向け燃油サーチャージ合意の遂行に関して,特に以下の事実を指摘することができる。すなわち,14社は,平成14年11月から平成19年11月までの間に,度々協会の国際部会役員会の会合を開催し,その中で,その時々における各社の荷主からの燃油サーチャージの収受状況,交渉状況及び支払拒否荷主の具体名などを発表し合っていたこと(14.11代表役員会,15.3役員会,16.3役員会,16.4役員会,17.1役員会,17.4役員会,17.8役員会,17.12役員会,18.9役員会,19.7役員会及び19.9役員会),14社は,航空会社によって燃油サーチャージが値上げされるたびに,役員会において,その対応を話し合い,荷主に燃油サーチャージを請求し,収受する方向で各社が協調した行動を取ることを確認していたこと(15.4役員会,16.6役員会,17.8役員会及び18.9役員会),14社は,役員会において,荷主向け燃油サーチャージの収受率を高めるための方策として,荷主ごとに14社の中から交渉担当会社及び交渉に同行する航空会社を決めるなどしていたこと(16.3役員会及び17.8役員会),以上の役員会においては,議事進行役を務めた近鉄の本や近鉄の田中によって,荷主向け燃油サーチャージを荷主に請求し,収受するという方向で14社が一致して協調行動を取ること,荷主向け燃油サーチャージを競争の手段に用いないことが繰り返し述べられていたが,これに対して,出席者の中で,反対したり異議を述べたりした者はいなかったことを指摘することができる。以上のような役員会開催の経緯等によれば,14社は,役員会での方針に従い,荷主に対しては一貫して燃油サーチャージの支払を求めて交渉し,役員会で決定された交渉担当会社が実際に荷主との交渉に当たるなどしていたものと推認される。
このように14社は,長年にわたり,繰り返し国際部会役員会の会合を開催し,自社の取引先との交渉内容,交渉経過及び交渉結果等の情報を披れきし合い,取引先に対する競合他社の行動についての情報を入手してその動向を把握し,その上で各社とも取引先に対して同一の行動を採っていたところ,14社には互いに競争相手であるから,自社の取引先との交渉内容などは,本来であれば,競争相手に対して秘密にするはずであって,競合他社の行動情報を入手し,各社ともに同一行動を採るようなことは,本件事業者業界において自由な競争が行われていたとすれば,到底あり得ないものというほかない。これに加えて,本件全証拠を総合しても,平成14年11月から平成19年11月までの間に,14社のうちのいずれかの会社が,荷主向け燃油サーチャージを競争の手段にして荷主と交渉し,他社から顧客を奪おうとしたり,従前と比較して取引量を増やそうとしたりした具体的事例があったことをうかがうことすらできないのである(被審人も,上記のような具体的事例があったことを主張していない。)。
以上述べた事情は,14社間に本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立していたことを強く裏付けるものである。
被審人の主張について
被審人は,12社間で本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したこと,その後日本通運及びDHLが上記合意に参加したことを否認するが,その理由とするところは,既に認定したような本件の事実経過を一切顧みることなく,上記合意の成立を裏付ける内容の供述調書に一部誤りがあることを指摘して,直ちに供述調書全体の信用性を否定するといったものや,14社が長年にわたって協調行動を行っていたという事実経過を殊更無視して,自己に都合の良い事実のみを取り出して独自の経験則を展開するといったものであって,いずれも採用するに値しないものである。事案に鑑み,以下,若干付言する。
日本通運とDHLが本件荷主向け燃油サーチャージ合意に参加していたことは,前記認定の14.11理事会以後の両社の行動や両社が本件排除措置命令及びこれに関する課徴金納付命令を受け入れて審判請求をしていないこと,日本通運は本件違反行為に係る事実を公正取引委員会に報告したことにより課徴金の減額の措置を受けていることに照らしても明らかである。
被審人は,被審人が他社と同一時期に荷主向け燃油サーチャージの請求を開始し,その後も他社と同様に荷主向け燃油サーチャージの請求を継続したことについて,独自の経営判断に基づくものであるなどと主張する。
しかしながら,前記認定した事実経過によれば,平成13年に航空会社が燃油サーチャージを設定した際には,本件事業者の間では,荷主に対して荷主向け燃油サーチャージを請求するかどうかという点ですら対応が分かれていたのに,平成14年の本件再設定に際しては,13社は,上記の点すなわち荷主向け燃油サーチャージを荷主に対して請求するという方向で一致した対応をすることとしたのみならず,請求開始時期や請求内容までも一致していたというのは不自然であって,14社間に何らかの意思の連絡があったことが優に推認されるのである。
仮に,上記の一致した行動が各社の独自の経営判断によるというのであれば,航空会社の燃油サーチャージ導入後において再三一堂に会して,本来企業秘密であるはずの取引先との交渉内容や交渉結果を発表し合ったり,荷主向け燃油サーチャージを競争手段としないことを確認し合ったりする必要はないはずである。
にもかかわらず,14社は,協会の役員会等の会合において互いの行動方針を確認した上で,一斉に荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求するという協調行動に出たのみならず,その後も,度々会合を開催して,各時点における各社の荷主向け燃油サーチャージについての方針を表明するとともに,荷主との交渉状況,交渉結果等を報告し合っていたことが認められるのであって(これにより14社は,容易に,互いに,荷主向け燃油サーチャージに関する他社の過去の行動を把握し,将来の行動を予測した上で,自社の行動を決定することができていたものと推認される。),これら14社の一連の行動に照らせば,14社の同一行動は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意によるものというほかはなく,各社独自の経営判断によるものであるなどとは到底いえない。
確かに14社は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立する以前から,各社独自の判断としても,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求し収受したいと考えていたと認められるものの,結局,14社は,各社独自の経営判断により上記希望どおりの行動を行うことのリスク(独自の判断で荷主向け燃油サーチャージを請求することにより,荷主との交渉に支障を来したり,荷主向け燃油サーチャージを請求しない競争相手に顧客を奪われたりする可能性)を回避するために,他社と意思を通じ合って協調行動に出たものと推認されるのでり,本件合意を否定することにはならない。
被審人は,荷主との間で混載運賃等を決定するに際して,全てのサーチャージ等を含めた運賃の見積りによる場合(All in rate)や入札の場合には,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求することはできないとし,これを理由にして,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立することはあり得ない旨主張する。
しかし,このような場合には,一括した料金の中に荷主向け燃油サーチャージ相当分や検査料等も含めて算定しているわけであるから,結局,通常の場合と比較して,荷主向け燃油サーチャージを費目として計上できるかどうかという点で異なるにすぎず,実際には,荷主に対し荷主向け燃油サーチャージを請求しているといえるのである。
したがって,All in rateや入札による場合があるとしても,本件荷主向け燃油サーチャージ合意を否定する根拠とはなり得ない。
本件AMSチャージ合意について
前記第3で認定した事実及び証拠(各項末尾に括弧書きで掲記)によれば,以下のとおり認められる。
航空貨物情報事前申告制度の導入
前記第3の6(1)のとおり,アメリカ合衆国税関当局は,航空運送に関する保安対策の一環として,航空貨物情報事前申告制度の実施を決定し,同制度は平成16年8月13日以降段階的に実施され,同年12月13日以降,同国内に所在する全ての空港に着陸する航空機に搭載された貨物を対象に実施されることとなった。
航空貨物情報事前申告制度では,航空機に搭載される貨物のハウスエアウェイビル情報等について,AMSを通じて電子的に送信する方法でアメリカ合衆国税関当局に申告することが義務付けられていた。
(査共第112号証ないし第122号証)
協会のワーキンググループの設置及び検討
平成15年には,航空貨物情報事前申告制度が将来実施されることが判明していたことから,協会では,実務上の問題点や対応策を検討するため,同年9月18日に開催された理事会の会合において,国際部会運送委員会及び国際宅配便部会運送委員会の両部会が合同して,AMSチャージに関するワーキンググループ(以下「WG」という。)を設置した。
WGの委員会社になったのは,13社のうち近鉄,日本通運,被審人,西鉄,阪急交通社,バンテック及び日新の7社であり,近鉄が委員長会社となった。WGの会合(以下「WG会合」という。)には,同グループの委員会社の実務担当者及び情報処理システム関係者が出席し,航空貨物情報事前申告制度の内容の確認,同制度の実務上の問題点及び対応策等について検討を重ねた。
(査共第114号証,第116号証,第117号証,第119号証ないし第121号証)
航空会社の航空貨物情報事前申告制度への対応内容
航空会社は,航空貨物情報事前申告制度に対応するため,平成16年8月13日以降,本件事業者から運送を引き受けた場合,当該事業者から当該貨物に係るハウスエアウェイビル情報の提供を受け,AMSを通じてこれを電子的に送信する方法により,アメリカ合衆国税関当局に申告することとした。
平成16年7月12日,日本航空の総販売代理店である株式会社ジャルカーゴセールス(以下「ジャルカーゴ」という。)の田島らは,WGの委員長会社の担当者である近鉄の佐伯らに対し,ジャルカーゴは,本件事業者から運送を引き受けた貨物に係るハウスエアウェイビル情報を同社(日本航空を含む。)がAMSを通じて申告するに当たって,本件事業者に対し,その手数料として,ハウスエアウェイビル情報送信手数料を請求する旨を説明した。
(査共第113号証の1及び2,第114号証,第117号証ないし第119号証,第124号証)
航空貨物情報事前申告制度への対応に伴う費用の発生
13社には,航空貨物情報事前申告制度に対応するため,①アメリカ合衆国税関当局が要求するハウスエアウェイビル情報を提供できるよう,自社の既設の航空貨物情報処理システムを改良するための費用,②自社の航空貨物情報処理システムへのハウスエアウェイビル情報の入力作業に伴う費用,③航空会社に支払うハウスエアウェイビル情報送信手数料及び④航空会社にハウスエアウェイビル情報を送信するに当たり,カーゴ・コミュニティー・システム・ジャパン株式会社(略称はCCSJ)が運営するカーゴ・コミュニティー・システムを経由する場合には,その通信費用(ハウスエアウェイビル1件当たり30円)の全て又はいずれかが発生することとなった。
このため,13社は,かかる費用の全部又は一部を荷主に請求し,負担してもらうことを検討していた。
(査共第114号証,第116号証ないし第122号証)
国際部会役員会の会合及びWG会合における検討
平成16年9月21日に開催された国際部会役員会の会合(以下「16.9役員会」という。)には,13社のうちヤマトを除く各社が出席した。被審人の田中,被審人の曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの赤岡などが出席していた。
議事進行役を務めた近鉄の本は,各出席者に対し,航空貨物情報事前申告制度が実施されたことに伴い,AMSチャージとして荷主に幾ら請求するのか等についての検討状況を尋ねた。被審人の田中又は被審人の曽根は,ハウスエアウェイビル1件当たり2,000円を荷主に請求する予定であるが,その全額を収受することは困難であると見込まれることから,最低でも1,000円を荷主に請求すると述べた。西鉄の古賀及びバンテックの木村も検討状況を発表したが,荷主に請求する金額が定まっていない会社もあり,荷主に請求する金額も各社まちまちであったことから,引き続き,各社において検討を続け,国際部会役員会での検討も続けられることとなった。
(査共第114号証,第119号証,第125号証ないし第129号証)
近鉄の佐伯と被審人の曽根は,平成16年10月26日,電子メールを送受信する方法により,AMSチャージを荷主に請求し収受するための施策について意見を交換したり,WG会合や国際部会役員会の会合の段取り等について相談したりするなどしたが,そのやりとりは,以下のとおりであった。
まず,被審人の曽根は,近鉄の佐伯に対し,平成16年12月13日からは,全ての空港に到着する貨物に対して航空貨物情報事前申告制度が実施されることから,荷主に対しAMSチャージを請求し収受するためには,同年11月中旬にはその旨を通知する必要があること,13社の間で足並みをそろえて荷主に請求しなければ自らが負担することになりかねないことを述べ,早急にWG会合において検討してほしい旨のメールを送信した。
近鉄の佐伯は,被審人の曽根に対して,近鉄の本の指示により16.11役員会が開催されることになったこと,この役員会に先立ってWG会合を開催し,ある程度の方向性を出しておく必要があること,ポイントは,AMSチャージの請求対象貨物をアメリカ合衆国向けの貨物だけに限定するのか否か,AMSチャージの金額について幅を持たせるのか,全社で統一するのか,幅を持たせるとした場合に上限と下限の設定をどうするのかであること,役員会の前にWG会合を開催すべきことなどを記載したメールを送信した。
上記メールを受けた被審人の曽根は,近鉄の佐伯に対し,上記提案に賛同し,WG会合の開催にも同意すること,この会合で方向性を出しておいて役員会で決定するという段取りにすべきであること,各社の暗黙の理解として共同歩調を取ることの確認が重要であること,AMSチャージの対象貨物としては現時点ではアメリカ合衆国向けの貨物に限定すべきこと,AMSチャージの金額に幅を持たせる場合には,下限に落ち着くことが容易に想像できるため,下限だけは設定すべきことなどを記載したメールを返信した。
(査共第114号証,第119号証,第130号証)
平成16年11月12日,WG会合が開催され(以下「16.11WG会合」という。),WGの委員会社11社のうちティエヌティエクスプレス株式会社を除く各社が出席した。
16.11WG会合では,16.11役員会でAMSチャージについての13社の意見が一致をみるようにするための協議が行われ,①AMSチャージの請求対象貨物については,「アメリカ合衆国を仕向地とする貨物」とする意見と「アメリカ合衆国及び同国を経由し第三国を仕向地とする貨物」とする意見があり,②AMSチャージの請求額については,下限額を設定することでは一致したが,「ハウスエアウェイビル1件当たり500円」とする意見と「同1件当たり1,000円」とする意見があり,③AMSチャージの請求開始時期については,「平成16年12月13日」とする意見と「荷主に対する案内期間を考慮して平成17年1月1日」とする意見が出された。
協議の結果,16.11役員会においては,16.11WG会合の総括として,①については,「アメリカ合衆国及び同国を経由し第三国を仕向地とする貨物」とし,②については「ハウスエアウェイビル1件当たり1,000円」とすることが望ましいとし,③については,「平成17年1月1日」とすることを提案することとなった。
(査共第114号証,第117号証,第120号証,第121号証,第131号証ないし第134号証)
近鉄の佐伯は,16.11役員会に先立って,16.11WG会合の協議結果等をとりまとめて役員会用の説明資料を作成し,近鉄の本に提出した。
同資料には,16.11WG会合での各社の意見が表にまとめられているほか,請求対象貨物,請求金額,請求開始時期のそれぞれについてポイントとなる事項(請求金額については,「下限の設定が必要であること」及び「各社が値引きをサービスの対象としないこと」)が記載されており,また,問題点として「ここでの決まり事をどのように会員に伝えるか」「周知徹底をどのように図るか」との記載があった。このほかに,同資料の末尾には「公取への配慮からレターは出せない,電話による対応か」という記載もあった。
(査共第134号証,第135号証)
16.11役員会の開催
16.11役員会は13社が出席して開催された。被審人の田中,被審人の曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席していた。
冒頭,議事進行役を務める近鉄の本が,16.11WG会合において,WG会員会社である11社のうち国際部会に所属する7社が発表した意見を取りまとめた結果を報告した。
続いて,各社の出席者は,AMSチャージについて,荷主に対する①請求額及び②請求開始時期に関する各社の考えを述べた。被審人の田中又は被審人の曽根は,①はハウスエアウェイビル1件当たり1,000円,②は平成17年1月1日とすることで検討している旨を述べ,西鉄の古賀,バンテックの木村及びケイラインの荒巻も各社の考えを述べた。
その後,AMSチャージとして請求する額を幾らにするかについて挙手による採決が行われ,ハウスエアウェイビル1件当たり1,000円とする者が多数を占めたが,近鉄の本は,荷主向け燃油サーチャージを荷主から全額収受する必要もあり,その金額との調整も考慮して,AMSチャージについてはハウスエアウェイビル1件当たり最低500円を請求することを提案したところ,出席者の賛同を得た。
また,近鉄の本は,AMSチャージの請求対象貨物については,アメリカ合衆国を仕向地とする貨物及び同国を経由してヨーロッパ地域を除く第三国を仕向地とする貨物とすること,請求開始時期については,平成17年1月1日からとすることを提案した。
上記請求対象貨物については出席者の賛同を得たが,請求開始時期については,ケイラインの荒巻が,航空会社からハウスエアウェイビル情報送信手数料を平成16年12月13日から請求されることが判明しているにもかかわらず,あえて荷主への請求開始時期を遅らせる必要はない旨の意見を述べて,平成16年12月13日から請求することを提案したところ,最終的に,この提案が出席者の賛同を得た。
以上のとおり,16.11役員会の出席者の間では,AMSチャージの請求対象貨物は,アメリカ合衆国を仕向地とする貨物及び同国を経由してヨーロッパ地域を除く第三国を仕向地とする貨物とすること,請求金額は,ハウスエアウェイビル1件当たり最低500円とすること,請求開始時期は平成16年12月13日からとし,遅くとも平成17年1月1日から実施することとすることで意見の一致をみた。
最後に,近鉄の本が,AMSチャージを荷主に請求し収受することを絶対に守ることとし,これを競争の手段,つまり荷主に対しAMSチャージを請求しない,又は値引きするといった営業を行うことにより,荷主と新たに取引を開始したり,既存の貨物取扱量を増やしたりするための手段として使用しないことを提案したところ,出席者の中で反対意見を述べた者はいなかった。
(査共第114号証,第116号証,第118号証,第120号証,第122号証,第132号証,第134号証,第136号証ないし第146号証)
13社によるAMSチャージの請求の開始
13社は,別紙4の「AMSチャージ」欄に記載のとおり,荷主に対し,AMSチャージの請求を開始した。(査共第71号証,第116号証,第147号証ないし第150号証)
国際部会役員会の会合等における検討
前記のとおり17.1役員会には,13社が出席し,被審人の田中,被審人の曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席した。
出席者は,近鉄の本の議事進行の下,既に荷主に請求を開始していたAMSチャージについて,自社の荷主に対する請求額,収受率,AMSチャージを支払わない荷主の名称等を発表した。
最後に,近鉄の本は,荷主からAMSチャージを全額収受できるよう努力する必要があること,AMSチャージの収受率の計算方法について,件数により算出した数字,つまり荷主に対しAMSチャージを請求したハウスエアウェイビルの総件数に対する荷主からAMSチャージを収受したハウスエアウェイビルの総件数の割合とすることを確認した。
(査共第114号証,第118号証,第134号証,第151号証ないし第154号証)
前記のとおり17.4役員会には13社が出席し,被審人の矢野,被審人の曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの松倉などが出席した。
出席者は,近鉄の本の議事進行の下,AMSチャージの荷主に対する請求額及び収受率を発表した。
最後に,近鉄の本は,AMSチャージを競争の手段に使用しない,つまり荷主と新たに取引を開始したり,既存の貨物取扱量を増やしたりするための手段として,AMSチャージを請求しないこと,値引きすることはせず,その全額を請求することを確認した。これに対し,出席者の中に反対意見を述べた者はいなかった。
(査共第122号証,第155号証ないし第158号証)
前記第3及び前記アで認定した事実によれば,本件AMSチャージ合意の成立をうかがわせる事情として,特に,以下の事実を指摘することができる。すなわち,平成16年から航空貨物情報事前申告制度が導入されることにより,本件事業者は,航空会社からハウスエアウェイビル情報送信手数料の請求を受けることになったほか,上記制度に対応するために諸費用を負担することとなったこと,これらの費用(AMSチャージ)は,本件事業者にとって新制度の導入によって生ずる新たな費用であり,これを荷主に転嫁できなければ自らの負担となるため,本件事業者は,各社とも,AMSチャージを荷主に負担してもらうことを検討していたこと,協会では,上記制度の実施に先立って,平成15年にWGを設置し,国際部会役員会やWG会合において,航空貨物情報事前申告制度に対する対応策などを話し合うようになっていたが,この当時13社は,既に,荷主向け燃油サーチャージについて本件荷主向け燃油サーチャージ合意に基づく協調行動を取っていたこと,16.9役員会において,出席した各社のAMSチャージについての検討状況が発表されたが,この時点では各社の対応は一致していなかったこと,その後,WG委員会社の実務担当者であった近鉄の佐伯と被審人の曽根において,荷主にAMSチャージを請求する方向で13社の対応を一致させるべく意見交換を行った後,16.11役員会で各社の意見の一致をみるように段取りをすべく,実務担当者の会合として16.11WG会合を開催し,この会合で各社の対応を確認し,意見の集約に努めるなどしたこと,その後開催された16.11役員会においては,16.11WG会合の結果を踏まえて,13社の各社がAMSチャージについての意見を発表し,最終的に,請求対象貨物,請求金額及び請求開始時期について出席者の意見の一致をみたこと,会合の最後に近鉄の本が,AMSチャージを荷主に請求し収受することを守ることとし,AMSチャージを競争の手段としないことを提案したところ,出席者の中で反対意見を述べた者はいなかったこと,13社のうち西鉄,バンテック及びヤマトを除いた各社は,平成16年12月13日から荷主に対するAMSチャージの請求を開始し,西鉄,バンテック及びヤマトは,平成17年1月1日から荷主に対するAMSチャージの請求を開始したが,これらの開始時期は16.11役員会での集約意見と一致していたこと,請求対象貨物は「アメリカ合衆国を仕向地とする貨物及び同国を経由してカナダ及び中・南アメリカを仕向地とする貨物」とすることで13社全てが一致しており,16.11役員会での集約意見とほぼ一致していたこと及び請求金額はハウスエアウェイビル1件当たり500円以上となっており,これも16.11役員会における集約意見と一致していたことを指摘することができる。
以上認定した事実経過によれば,16.11役員会において,13社間に本件AMSチャージ合意が成立したと認めることができる。
そして,前記アで認定したところによれば,13社は,16.11役員会の後に開催された役員会(17.1役員会及び17.4役員会)において,互いにAMSチャージについての荷主との交渉状況や交渉結果を発表していたのである。このように13社は,16.11役員会の後も,役員会の会合を開催し,本来であれば,競争相手に対して秘密にするはずの,自社の取引先との交渉内容,交渉経過,交渉結果等の情報を披れきし合い,取引先に対する競合他社の行動についての情報を入手してその動向を把握していたのであって,このようなことは,本件事業の取引分野において自由な競争が行われていたとすれば,到底あり得ないものである。これに加えて,本件全証拠を総合しても,平成16年12月から平成19年11月までの間に,13社のうちのいずれかの会社が,AMSチャージを競争の手段にして荷主と交渉し,他社から顧客を奪おうとしたり,従前と比較して取引量を増やそうとしたりした具体的事例があったことをうかがうことはできないのである(被審人も,上記のような具体的事例があったことを主張していない。)。
以上述べた事情は,13社間に本件AMSチャージ合意が成立していたことを強く裏付けるものである。
被審人の主張について
被審人は,本件AMSチャージ合意の成立を立証する証拠がない,あるいは自社の判断で決定した等主張して,当該合意の成立を否認するが,その主張を採用することができないことは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意についての判断で述べたところと同様である。
本件セキュリティーチャージ等合意について
前記第3で認定した事実及び証拠(各項末尾に括弧書きで掲記)によれば,以下のとおり認められる。
新航空貨物保安措置の導入の経緯等
前記第3の7(1)のとおり,国土交通省は,平成16年12月27日付けで新航空保安対策基準を発出するとともに,RA制度を導入した。これらの措置については,平成17年10月1日から試行的に実施され,平成18年4月1日から本格的に実施された。
前記第3の7(1)のとおり,RA制度は,特定事業者(レギュレーテッドエージェント)が特定荷主(ノウンシッパー)の貨物を取り扱う場合には,新航空保安対策基準で義務付けられている爆発物検査を行うことを免除する制度である。
前記第3の7(2)のとおり,13社は,いずれも,平成18年3月31日までに,国土交通省から特定事業者の認定を受けた。
(査共第159号証ないし第165号証,第168号証)
新航空貨物保安措置の実施に伴う費用の発生
13社は,それぞれ新航空貨物保安措置に対応するため,自社の倉庫の施設が同基準を満たすよう保安対策措置などの必要な措置を講じたり,必要に応じて,X線検査装置又は爆発物探知装置を購入・配備し又は上屋会社若しくは倉庫会社に対して爆発物検査を委託する体制を整備したりするなどした。
13社は,このように,特定航空貨物利用運送事業者として講じた適切な保安措置を維持するために,また,爆発物検査を行うために,新たな費用を負担し,今後も負担し続けることとなったため,かかる費用の全部又は一部を荷主に請求して収受することを検討するようになった。
(査共第162号証ないし第165号証,第168号証)
国際部会役員会の会合等における検討
平成17年11月25日,13社のうちケイライン及び日新を除く各社の実務担当者が出席して「新保安措置に関するSC関連会議」と称する会合(以下「17.11SC会合」という。)が開催され,被審人の曽根,西鉄の古賀などが出席していた。
17.11SC会合は,17.12役員会において新航空貨物保安措置に対する対応方針を検討することとされていたため,これに先立って,実務担当者間で同対応方針を検討することを目的としていた。
上記各社の実務担当者は,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料(以下「セキュリティーチャージ等」という。)の請求内容や請求開始時期について検討を行った。
(査共第166号証ないし第168号証)
当時ケイラインの成田ロジスティックスセンター輸出混載課長兼輸出業務課長兼東京営業本部仕入課長であった井坂修は,17.11SC会合を欠席したが,協会の事務局に対して,欠席する旨を電子メールで連絡した際に,併せて,当該メールに「X線検査装置又は爆発物探知装置を設置するまでは開披検査を実施することとし,その料金設定を最低料金2,000円,1個当たり500円としており,爆発物検査料も同様に設定する方針である旨及び13社の間で統一料金が設定された場合には,その料金をもって荷主に請求することとする」旨を記載し,セキュリティーチャージ等についてのケイラインの方針を表明した。(査共第165号証,第168号証,第170号証)
協会事務局の髙橋成光事務局次長(以下「協会の髙橋次長」という。)は,近鉄の佐伯の依頼を受けて,13社に対し,17.12役員会において,13社各社から,セキュリティーチャージ等について荷主に対する対応方針,検討状況,請求する対象貨物又は対象荷主,新航空貨物保安措置に関して各社が検討している具体的内容,請求開始日等を発表してもらう旨を電子メールで連絡した。(査共第168号証,第171号証)
17.12役員会には13社が出席し,被審人の田中,被審人の曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席した。
近鉄の本の議事進行の下,出席者は,自社の新航空貨物保安措置に対する対応方針や検討状況について発表した。被審人の田中又は被審人の曽根は,方針は未定であるものの,航空会社が本件事業者に請求している航空保安及び安全を確保するために講じた措置を維持するための費用増加分を賄うためのものであるインシュアランスサーチャージ(航空保険特別料金とも称される。以下「ISS」という。)に相当する額とセキュリティーチャージの額を合計した額を荷主に請求し,爆発物検査に必要な額は,別途,荷主に請求することを検討している旨発表した。西鉄の古賀は,セキュリティーチャージ等としてハウスエアウェイビル1件当たり300円を荷主に請求し,爆発物検査については500円を荷主に請求したい旨発表した。バンテックの木村及びケイラインの荒巻は,いずれも社内での検討を終えていないが,13社の間で統一料金が決定されれば,それに従う旨発表した。
このように,各社の新航空貨物保安措置に対する検討状況は,未だ対応方針が決まっていなかったり,請求方法や請求額もまちまちであったりしたことから,近鉄の本は,セキュリティーチャージ等の請求方法や請求額を検討するため,13社に対し,原価等についてアンケート調査を実施することを提案した。そして,アンケート調査の結果を踏まえて,平成18年2月20日に国際部会役員会の会合を開催し,上記事項について検討することとなった。
(査共第44号証,第163号証,第164号証,第168号証,第170号証ないし第180号証)
13社に対するアンケート調査の実施
協会の髙橋次長は,17.12役員会における検討の結果に従って,13社に対し,平成17年12月19日付けで「SC制度に関する調査」と題する書面(以下「アンケート調査票」という。)を電子メールで送付した。
アンケート調査は,AMSチャージ及びISS(インシュアランスサーチャージ。航空会社が本件事業者に請求している航空保険特別料金のことで,本件事業者は荷主に転嫁して請求することを検討していた。)の収受率,セキュリティーチャージの予想コスト,AMSチャージ,ISS及びセキュリティーチャージの請求方法,爆発物検査料の請求方法等を確認するものであり,平成18年1月10日を回答期限とした。
アンケート調査票を受け取った13社は,それぞれ,協会の事務局に対し,自社の収受状況や検討している内容を回答した。13社の荷主に対する請求内容に係る回答は,以下のとおりであった。
被審人
セキュリティーチャージとしてハウスエアウェイビル1件当たり500円,爆発物検査料としてハウスエアウェイビル1件当たり1,500円を請求する。
西鉄
セキュリティーチャージとしてハウスエアウェイビル1件当たり300円,爆発物検査料として貨物1個当たり500円を請求する。
バンテック
セキュリティーチャージとしてハウスエアウェイビル1件当たり1,000円,爆発物検査料としてハウスエアウェイビル1件当たり4,000円を請求する。
ケイライン
セキュリティーチャージとしてハウスエアウェイビル1件当たり500円,爆発物検査料として貨物1個当たり1,000円(上限10,000円)を請求する。
(査共第163号証,第164号証,第168号証,第169号証,第179号証,第181号証ないし第186号証)
平成18年2月20日,18.2役員会が開催されて13社が出席し,被審人の田中,被審人の加藤,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席していた。
13社の出席者は,近鉄の本の議事進行の下,自社の新航空貨物保安措置に対する対応方針を発表した。被審人の田中又は被審人の加藤は,セキュリティーチャージについては,全ての荷主を対象にハウスエアウェイビル1件当たり500円を,爆発物検査料については,ハウスエアウェイビル1件当たり1,500円をそれぞれ請求する旨発表した。西鉄の古賀,バンテックの木村及びケイラインの荒巻も,前記eのアンケートの回答におおむね沿う内容でそれぞれ対応方針を発表した。
出席者の発表が終わった後,近鉄の本は,セキュリティーチャージ等の請求額について多数決の方法により決定することを提案したところ,反対意見を述べる者はいなかったので,挙手の方法により多数決を行った。その結果,全ての荷主に対し,ハウスエアウェイビル1件当たり300円を請求する案に賛成したのは7社,同500円を請求する案に賛成したのは5社,同1,000円を請求する案に賛成したのは1社であった。
また,爆発物検査料の請求額について挙手の方法により多数決を行った。その結果,ハウスエアウェイビル1件当たり500円を請求する案に賛成した者はなく,同1,000円を請求する案に賛成したのは5社,同1,500円を請求する案に賛成したのは6社,同2,000円を請求する案に賛成したのは2社であった。ハウスエアウェイビル1件当たり1,000円を請求する案と同1,500円を請求する案に賛成した者の数がほぼ同じであったため,再度,挙手の方法により多数決を行ったところ,ハウスエアウェイビル1件当たり1,000円を請求する案に賛成したのは4社,同1,500円を請求する案に賛成したのは9社であった。
これらの結果を踏まえて,近鉄の本から,13社としては,AMSチャージ,ISSとは別建てにしてセキュリティーチャージを請求すること,セキュリティーチャージについては,全ての荷主に対しハウスエアウェイビル1件当たり最低300円を請求すること,爆発物検査料については,ハウスエアウェイビル1件当たり最低1,500円をそれぞれ請求すること及び請求開始時期はセキュリティーチャージ及び爆発物検査料ともに平成18年4月1日からとすることを提案した。これらに対し,出席者の中で反対意見を述べた者はいなかった。
(査共第146号証,第163号証ないし第165号証,第168号証,第169号証,第179号証,第187号証ないし第195号証,第199号証)
13社のセキュリティーチャージ及び爆発物検査料の請求開始
セキュリティーチャージ
13社は,別紙4の「セキュリティーチャージ」欄に記載のとおり,荷主に対し,セキュリティーチャージの請求を開始した。請求開始時期については,セキュリティーチャージに消費税が課税されるのか否かについて,国税当局の見解が明らかとなっていないこと,各社の貨物情報処理システムの変更が遅れていること等の事情があったことから,遅くとも平成18年7月1日までに荷主に請求することと変更された。(査共第71号証,第200号証ないし第203号証)
爆発物検査料
13社は,別紙4の「爆発物検査料」欄に記載のとおり,荷主に対し,爆発物検査料の請求を開始した。(査共第71号証,第196号証ないし第199号証)
国際部会役員会の会合における収受の状況の報告と検討
平成18年5月15日に開催された国際部会役員会の会合には13社が出席し,被審人の田中,被審人の曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの濱田などが出席していた。
出席者は,近鉄の本の議事進行の下,セキュリティーチャージについて,請求状況や請求するに至っていない理由を発表し,爆発物検査料について,荷主に対する請求内容を具体的な金額を挙げて発表し,その収受状況を発表した。出席者の発表を受けて,近鉄の本は,爆発物検査料についても,収受率100パーセントを目指す必要がある旨確認した。
また,近鉄の本は,セキュリティーチャージについては,消費税が課税となるのか免税となるのか国税当局の見解が明らかになっていないこと,各社の貨物情報処理システムの変更が遅れていること及び航空会社が本件事業者に請求を予定している「保安サーチャージ」(セキュリティサーチャージとも称されている。)の国土交通省の認可が遅れていることが障害となっていると指摘し,航空会社が「保安サーチャージ」の請求を開始する平成18年6月ないし同年7月に合わせて,荷主に対するセキュリティーチャージの請求を開始する方針に変更することを提案した。この提案に対し,出席者の中で反対意見を述べた者はいなかった。
(査共第204号証ないし第209号証)
18.9役員会には13社が出席し,被審人の矢野,被審人の曽根,西鉄の古賀,バンテックの木村,ケイラインの赤岡などが出席していた。
出席者は,近鉄の田中の議事進行の下,自社のセキュリティーチャージの収受率を発表した。
(査共第95号証ないし第100号証)
19.7役員会には13社のうち日本通運を除く各社が出席し,被審人の矢野,被審人の曽根,バンテックの木村,ケイラインの荒巻などが出席していた。
出席者は,近鉄の田中の議事進行の下,平成19年5月及び同年6月の自社のセキュリティーチャージの収受率及び収受額を発表した。
(査共第62号証,第101号証ないし第106号証)
前記第3及び前記アで認定した事実によれば,本件セキュリティーチャージ等合意の成立をうかがわせる事情としては,特に,以下の事実を指摘することができる。すなわち,本件事業者は,新航空貨物保安措置の導入に伴って,新たな費用を負担することになったところ,この費用(セキュリティーチャージ等)を荷主に転嫁できなければ自らの負担となるため,各社ともに,可能な限り荷主に転嫁することを検討していたこと,新航空貨物保安措置は平成18年4月1日から本格的に導入されることになっていたため,平成17年11月,13社のうちケイライン及び日新を除く各社が出席して17.11SC会合が開催されたこと,この当時,13社は,既に本件荷主向け燃油サーチャージ合意及び本件AMSチャージ合意に基づき,荷主向け燃油サーチャージ及びAMSチャージに関して協調行動を取っており,上記会議においても,セキュリティーチャージ等を荷主に請求することを前提として,請求対象貨物,請求内容及び請求開始時期について意見交換がされたこと,当初は13社の対応方針は必ずしも一致していなかったものの,その後,国際部会役員会においてそれぞれの対応方針が発表されたり,アンケート調査が実施されたりする中で,13社の意見が徐々に集約され,18.2役員会において,セキュリティーチャージと爆発物検査料のそれぞれについて多数決が行われ,この結果を踏まえて,議事進行役であった近鉄の本が,セキュリティーチャージについてはハウスエアウェイビル1件当たり最低300円とすること,爆発物検査料についてはハウスエアウェイビル1件当たり最低1,500円とすること,請求開始時期は平成18年4月1日とすることを提案し,これに対して,出席者は誰も反対しなかったことを指摘することができる。その後の事情として,セキュリティーチャージについては,各社とも平成18年4月1日から8月1日までの間に請求を開始し(開始時期について,上記本の提案と一致せず,各社にばらつきがみられるのは,前記(オ)aのとおり,当初,セキュリティーチャージに消費税が課せられるのか否かが不明であったために,判明まで荷主への請求を控える会社があったからである。),請求額は,各社ともハウスエアウェイビル1件当たり300円以上であって,上記本の提案と一致していたこと,爆発物検査料については,請求開始時期は阪神エアカーゴのみが平成18年5月1日であり,その余の各社は同年4月1日であって,上記本の提案と一致しており,請求額は各社ともハウスエアウェイビル1件当たり1,500円以上であって,上記本の提案と一致していたこと,以上の事実を指摘することができる。
以上認定の経緯によれば,18.2役員会において,本件セキュリティーチャージ等合意が成立したものと認められる。
そして,前記ア(オ)認定のとおり,その後開催された役員会で,13社がセキュリティーチャージ等についての自社の収受率を発表し,情報交換していたことについては,本来,秘密であるべき自社の取引先との交渉内容,交渉経過等を発表していることに照らして,自由な競争が行われていたとすれば,到底考えられないことである。これに加えて,本件全証拠を総合しても,平成18年2月から平成19年11月までの間に,13社のうちのいずれかの会社が,セキュリティーチャージ等を競争の手段にして荷主と交渉し,他社から顧客を奪おうとしたり,従前と比較して取引量を増やそうとしたりした具体的事例があったことをうかがうことすらできないのである(被審人も,上記のような具体的事例があったことを主張していない。)。
以上述べた事情は,13社間に本件セキュリティーチャージ等合意が成立していたことを強く裏付けるものである。
被審人の主張について
被審人は,本件セキュリティーチャージ等合意の成立を立証する証拠がない,あるいは自社の判断で決定した等主張して,当該合意の成立を否認するが,その主張が採用できないことは,本件荷主向け燃油サーチャージ合意についての判断で述べたところと同様である。
会合出席者の価格決定権限について
被審人は,不当な取引制限に当たる合意が成立するためには,合意が成立した会合に価格決定権限を有する者が出席していなければならないところ,審査官において本件合意が成立したと主張する国際部会役員会には,各社の価格決定権限を有する者は出席していないから,本件合意は成立していないと主張する。
しかし,不当な取引制限に該当する行為は,法律行為ではなく,当該事業者が不当な取引制限に該当する行為を行ったと評価できればよいのであって,価格決定権限を有する者同士が直接意思の連絡をしなければならないということはなく,会合に出席した者に価格決定権限がないとしても,当該出席者が,当該事業者から,会合に出席することによって価格についての情報交換をして共通認識を形成し,その結果を持ち帰ることを任されているのであれば,その者を通じて事業者間に合意が成立したものと評価することはできるのである(東京高等裁判所平成21年9月25日判決・公正取引委員会ホームページ「審決等データベース」〔ポリプロピレンカルテル事件取消訴訟〕参照)。
これを本件についてみるに,前記第3で認定したとおり,国際部会役員会の出席予定者は,別紙3-1記載のとおりであり,そのほとんどが各社の役員クラス(代表取締役又は取締役)であって,理事会のメンバーも兼ねていることが多かったこと,国際部会役員会は燃油サーチャージ問題が発生した平成13年以降は,2,3か月に1回の割合で定期的に開催されていたこと,実際に,国際部会役員会の会合に出席していた者は,別紙3-2記載のとおりであって,本件事業者の役員でないとしても営業部門の部課長クラスがほとんどであり,これらの者は前記出席予定者の指示を受けて,その代理として出席していたことが認められるのであって,以上の事情によれば,国際部会役員会の出席者は,実際に14社(平成16年以降は13社)を代表する権限を有する者であったか,そうでないとしても,当該代表者又は役員クラスの者から,会合に出席することなどによって価格についての情報交換をして共通認識を形成し,その結果を持ち帰ることを任されている者であったと推認することができる。
ちなみに,被審人については,本件AMSチャージ合意が成立した16.11役員会及び本件セキュリティーチャージ等合意が成立した18.2役員会には,いずれも代表取締役である被審人の田中が出席していたのであるし,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立した14.9役員会についても出席者個人を特定することはできないものの,14.9役員会に先立って開催された協会の理事会に出席していた被審人の田中又は被審人の田中から指示を受けた者が出席したものと推認される。
また,度々国際部会役員会の会合に出席していた被審人の曽根は,会合終了後,その内容等を被審人に報告していたのであって(査共第31号証,第96号証),このような同人の行動に照らすと,同人は,代表者である被審人の田中又は被審人の矢野から指示を受けて,被審人を代表して出席していたものと認められる。
争点3(本件合意は本件業務の取引分野における競争を実質的に制限するものであるか否か)について
14社(平成16年以降は13社)の本件業務における貨物量の合計は,平成13年から平成20年までの我が国における本件業務における総貨物量に対して,最小で72.5パーセント,最大で75.0パーセントを占めていたことは,前記第3の2(3)で認定したとおりである。
このような市場占有率を有する14社によって,本件業務に関して不当な取引制限に当たる合意が成立すれば,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限することとなることは明らかである。
前記第3で認定した事実,第7の2(1)ア,(2)ア及び(3)アで認定した事実並びに第7の2で判断したところを総合すれば,本件合意は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意によって構成されているところ,これらの合意が成立するに至った一連の過程に照らすと,14社(平成16年以降は13社)は,航空業界等において新しい制度等が導入されることによって,本件事業者において,次々と新たに負担することを余儀なくされるに至った費用である4料金について,これを荷主に転嫁しようと企図するとともに,各社独自の経営判断に基づいて行動することによるリスクを回避するために,合意を形成し,互いの競争を回避してきたものであるが,14社がこのような行動に出たのは,燃油サーチャージ,AMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料といった本件業務を構成する個別の作業の取引分野が存在することを前提として,当該取引分野における競争を回避するためではなく,本件業務という一個の役務の取引分野についての競争を回避するためであったものと認められる。実際にも,本件業務と離れて燃油サーチャージだけの個別の取引分野は存在しないと解されるし,AMSチャージ,セキュリティーチャージ,爆発物検査料については,これに対応する個別の取引分野を観念することは不可能ではないが,少なくとも,14社が本件業務から離れて,これらの個別の取引分野で個々に競争していたことをうかがわせる証拠はない(被審人も,具体的事例があったことを主張していない。)。
以上検討したところによれば,本件荷主向け燃油サーチャージ合意,本件AMSチャージ合意,本件セキュリティーチャージ等合意を,それぞれ別個に不当な取引制限に該当する行為と評価するのは相当ではなく,飽くまでも,本件業務の取引分野における競争を回避するために行われた一連の一個の不当な取引制限に該当する行為と評価するのが相当である。
被審人の主張について
被審人は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意に,ユナイテッド,日本通運及びDHLが参加していないことを前提にして,14社から上記3社を除いた各社の本件業務の取引分野における市場占有率からすれば,本件荷主向け燃油サーチャージ合意は競争を実質的に制限しないと主張する。
しかし,本件荷主向け燃油サーチャージ合意が14社間に成立していたことは,既に述べたとおりであるから,被審人の主張は前提を欠くものであって失当である。
1) 被審人は,被審人の本件業務の売上額に占めるAMSチャージ,セキュリティーチャージ及び爆発物検査料の割合について,AMSチャージが年平均0.0046パーセント,セキュリティーチャージが年平均0.296パーセント,爆発物検査料が年平均0.011パーセントであって,これらを合計しても0.5パーセントに満たないと主張し,このような売上額の0.5パーセントに満たない料金について価格カルテルを行っても実質的競争制限はない旨主張する。
しかしながら,前記(2)で述べたとおり,本件合意は,一連の行動による一個の不当な取引制限に該当する行為と評価するのが相当であるから,そのような観点から競争の実質的制限を判断すべきものであって,本件合意のうち本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意のみを取り出して,競争の実質的制限を判断することはできない。
そこで,本件実行期間(平成16年11月から平成19年11月まで)の4料金の売上げの合計額が,本件業務の売上額に占める割合(以下「4料金割合」という。)がどの程度であるかについて検討する。
審査官は,本件実行期間における13社全体での4料金割合について,12.2パーセントであると主張している(答弁書95頁)が,これを直接裏付ける証拠はないものの,被審人は,上記審査官の主張を積極的に争ってはいなし,上記期間における西鉄の4料金割合は約13パーセントであり(審B第12号証),同期間におけるケイラインの4料金割合も約13パーセントであると認められ(審D第10号証),これらは審査官が主張する上記数値に概ね沿うものであるといえる。
以上検討したところによれば,13社全体における4料金割合は,審査官が主張するように12パーセント程度であると推認することができるのであり,その割合からしても,本件業務の取引分野における競争を実質的に制限していると優に評価できるものである。
以上によれば,本件合意による4料金の売上額が売上額全体に占める割合が低いとはいえず,競争を実質的に制限していると評価できるから,被審人の主張を採用することはできない。
被審人は,本件業務においては,本体運賃で競争が行われているから,本件合意は競争を実質的に制限しないと主張する。
しかしながら,審査官において本件違反行為が存在していたと主張する平成14年9月から平成19年11月までの間に,14社(平成16年以降は13社)間において,本体運賃を競争手段とする競争が実際に存在したこと,すなわち,14社のいずれかが,荷主に対して,本体運賃を値引きすることによって,取引先を奪おうとしたり,取引数量を増やそうとしたりしたことを,具体的にうかがわせる証拠は全くない。また,被審人も,そのような具体的な事実があったことを主張すらしていない。
被審人が主張するように,14社間において本体運賃で自由な競争が行われていたとすれば,本件業務の運賃及び料金の中で,ごく僅かの割合を占めるにすぎない,AMSチャージ,セキュリティーチャージ,爆発物検査料等に関して,14社が不当な取引制限を行う必要はないはずである。ところが,これまで検討してきたところに照らせば,14社は,本件荷主向け燃油サーチャージ合意のみならず,本件AMSチャージ合意,本件セキュリティーチャージ等合意を成立させ,その後も,役員会において,各社の交渉状況,収受状況等を発表し合うといったことを継続し,互いの行動についての情報を収集し,把握しながら協調行動を取っていたのである。
このような14社の行動に鑑みれば,本件業務の取引分野においては,少なくとも違反行為期間中は,本体運賃で競争が行われることはほとんどなかったものと推認されるのであり,そうであるからこそ,各社とも,ごく僅かな割合の費用についてすら,各社の自由な競争となることを恐れ,度々会合を重ね,互いの行動についての情報を交換し合うなどして協調行動を採り続けていたことが合理的に理解できるのである。
以上のとおりであり,本体運賃で自由な競争が行われていたなどということは,およそあり得ないことであり,本体運賃でも競争は行われていなかったものと推認するほかない。したがって,被審人の主張を採用することはできない。
被審人は,本件業務の需要者の圧力を理由にして,本件合意は競争を実質的に制限しない旨主張するが,単に,抽象的に需要者の価格競争力が強いとか,取引先の切替えも容易であったなどと主張するのみであって,本件合意の存在にもかかわらず,本件業務の取引分野における競争が実質的に制限されなかったことについて,具体的な反証をしない。
本件合意が本件業務の取引分野において70パーセント以上のシェアを占める14社によって行われたものであり,少なくとも売上額の10パーセント以上の割合を占める4料金についての不当な取引制限であったことに照らすならば,本件合意が競争を実質的に制限するものであることは明らかであり,被審人の主張は理由がない。
平成21年(判)第18号(本件排除措置命令に対する審判請求事件)についてのまとめ
14社の市場における地位について
平成13年から平成20年までにおいて,14社(平成16年以降は13社)の本件業務における貨物量の合計が,我が国における本件業務における総貨物量の70パーセント以上を占めていたことは,前記認定したとおりである。
本件合意について
本件荷主向け燃油サーチャージ合意について
14.9役員会において,12社間に本件荷主向け燃油サーチャージ合意が成立したこと,その後平成14年11月18日までに日本通運及びDHLも本件荷主向け燃油サーチャージ合意に加わったこと,以上の事実は,前記2(1)で認定したとおりである。
本件AMSチャージ合意について
16.11役員会において,13社間に本件AMSチャージ合意が成立したことは前記2(2)で認定したとおりである。
本件セキュリティーチャージ等合意について
18.2役員会において,本件セキュリティーチャージ等合意が成立したことは前記2(3)で認定したとおりである。
本件荷主向け燃油サーチャージ合意,本件AMSチャージ合意及び本件セキュリティーチャージ等合意を一連の一つの不当な取引制限と評価すべきことは前記3(2)で述べたとおりである。
本件違反行為について
これまで判断してきたところによれば,14社(平成16年以降は13社)は,本件合意をすることにより,公共の利益に反して,我が国における本件業務の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法第3条に違反する。
措置の必要性について
証拠(査共第111号証,第231号証)によれば,平成19年11月12日,当時日本通運の代表取締役副社長であった中谷桂一,近鉄の田中,被審人の矢野,当時協会の理事長であった土橋正義及び協会の事務局長であった髙橋武が,東京都港区に所在する日本通運の本社の会議室において,国際部会役員会の会合の在り方について話し合った結果,同会合を開催しないことを申し合わせたため,同日以降国際部会役員会の会合は開催されていないことが認められるから,本件違反行為は,平成19年11月12日以降,事実上消滅しているものと認められる。
独占禁止法第7条第2項は,違反行為が既になくなっている場合においても,特に必要があると認めるときは,事業者に対し,当該行為が既になくなっている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる旨規定しているところ,「特に必要があると認めるとき」とは,既に違反行為はなくなっているが,当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解され,この要件の該当性の判断については,我が国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する公正取引委員会の専門的な裁量が認められるものと解される(最高裁判所平成19年4月19日判決・最高裁判所裁判集民事224号123頁参照)。
本件違反行為は平成14年から平成19年までの長期間にわたっており,その間,14社(平成16年以降は13社)は,何度も国際部会役員会を開催して互いに意思を確認し,違反行為を継続していたこと,被審人は現時点においても,本件合意の存在を争っていることなどの本件の一切の事情を総合考慮すれば,被審人に対し,本件違反行為が既になくなっている旨の周知措置その他本件違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置等を命ずる必要があると認められる。
このような観点から本件排除措置命令を検討するに,その内容とするところは全て,本件において,被審人に命ずることが必要な措置であると認められる。
まとめ
以上によれば,本件排除措置命令は適法であって何ら違法な点はないから,本件排除措置命令に対する被審人の審判請求は理由がない。
争点4(本件合意の対価性及び役務の売上額)について
4料金は,本件業務の運賃及び料金の一部であることは明らかであるから,本件業務という役務の対価であり,4料金に係る本件合意は,独占禁止法第7条の2第1項第1号の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当する。
また,前記2で判断したところによれば,本件合意は,14社(又は13社)が4料金のみを対象として成立させた合意であり,4料金のみを対象として決定し請求することにより相互に事業活動を拘束していたものと認められる。このような合意が可能であったのは,4料金がその余の料金と区別することが可能であったからである。
他方,本件合意が本体運賃及びその余の料金を対象として決定し請求することにより相互に事業活動を拘束していたことをうかがわせる証拠はない。前記3(3)ウで認定したとおり,本件業務の取引分野においては,少なくとも違反行為期間中は,本体運賃及びその余の料金について競争は行われていなかったものと推認されるが,この状態が不当な取引制限行為によってもたらされていたことを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,本件合意の対象とされていたのは,本件業務の対価の一部である4料金のみであり,4料金の売上額は,本体運賃及びその余の料金と区別することができるのであるから,4料金の売上額に課徴金を課すことに何ら違法な点はないというべきである。
被審人の主張について
被審人は,本件合意は「対価を決定したものではない」から,「対価に係るもの」には該当しない旨主張するが,本件合意が「対価を決定したものである」ことは,前記1(1)で判断したとおりであり,被審人の主張は理由がない。
被審人は,本件業務は不可分な一つの業務であり,その対価も一つしか存在しない,4料金は役務の対価の一構成要素にすぎないから,役務の対価ではないなどと主張する。
しかしながら,被審人自身も,4料金が役務の対価の一構成要素であることは認めているのであるから,4料金を対価ではないというのは被審人の独自の見解にすぎない。
被審人は,不可分の役務の対価の一部である4料金の売上額を観念することはできず,また,4料金に利益や不当利得を観念することができないから,当該役務の売上額には当たらないと主張する。
しかし,4料金の売上額は,本体運賃及びその余の料金と区別することができ,4料金のみの売上額は実際に存在し,これを把握することができることは,上記(1)で述べたとおりである。
課徴金制度は,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的として,既存の刑事罰の定め(独占禁止法第89条)やカルテルによる損害を回復するための損害賠償制度(独占禁止法第25条)に加えて設けられたものであり,カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである。また,課徴金の額の算定方式は,実行期間のカルテル対象商品又は役務の売上額に一定率を乗ずる方式を採っているが,これは,課徴金制度が行政上の措置であるため,算定基準も明確なものであることが望ましく,制度の積極的かつ効率的な運営により抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであって,個々の事案ごとに経済的利益を算定することは適切ではないとして,そのような算定方式が採用され,維持されているものと解される。そうすると,課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではない(最高裁判所平成17年9月13日判決・民集第59巻第7号1950頁参照)。したがって,4料金に利益や不当利得が観念できないことを前提とする被審人の上記主張は理由がない。
争点5(本件業務は小売業に該当するか否か)について
業種と算定率
独占禁止法第7条の2第1項は,課徴金の算定率について,「当該商品又は役務(中略)の百分の十(小売業については百分の三,卸売業については百分の二とする。)」と規定する。算定率の原則は,10パーセントであり,例外として「小売業」に該当する場合は3パーセント,「卸売業」に該当する場合は2パーセントとされるのである。
いずれの業種に該当するかについては,当該事業者の事業全体ではなく,違反行為の対象となる業務に限って判断されるべきであり,また,個別の事業者ごとに判断することになる。
「小売業」及び「卸売業」については,独占禁止法に定義規定はない。しかし,消費税法施行令(平成22年3月31日政令第71号)第57条第6項によれば,「卸売業とは,他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業をいうもの」とされ,「小売業とは,他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で同項第一号に掲げる事業(注:卸売業)以外のもの」をいうものとされている。一般的にも,「小売業」とは,商品を生産者・卸売業者等から買い入れてこれを一般消費者に分けて販売する事業であり,「卸売業」とは,生産者・輸入商等から商品を買い入れて小売業者に販売する事業であるとされている。このように,買い入れた商品をそのまま販売すること,つまり買い入れた商品をその同一性を保持したままで流通させる場合には,商品を流通させることによりマージンを受けるという側面が強いことから,算定率を軽減したものと解される。
本件業務の業種
課徴金制度は一律的な非裁量的制度として法定されており,「卸売業」及び「小売業」のみを明示して例外的な算定率を定めている独占禁止法の下では,本件業務に流通業的性格があるとか,国際航空貨物利用運送業と卸・小売業の各売上高営業利益率が近似しているという点を捉えて,本件業務に卸・小売業に係る算定率を準用することは許されない(東京高等裁判所平成13年11月30日判決・公正取引委員会審決集第48巻550493頁参照)。そして,課徴金制度は,「カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的」(前掲記最高裁判所平成17年9月13日判決参照)とするものであって,強制的行政措置としての非裁量性,簡明性,明確性,透明性及び迅速性の要請から,卸・小売業のみを例外として一律の算定率を定めるものであり,その結果,課徴金の額が現実の不当利得の額とかい離し,そのかい離の幅にも業種によって差が生じる可能性があるが,この差は行政措置としての上記要請に基づき生じるもので,合理性を有するものである(前掲東京高等裁判所平成13年11月30日判決参照)。
本件違反行為の対象となった本件業務は役務であり,通常,「役務の提供」は,商品の販売とは異なるものとされるから,商品を買い入れてそのまま販売する「小売業」及び「卸売業」とは異なる業種であることが明らかである。
また,本件業務は,運輸業の一種であると認められるところ,日本標準産業分類によれば,「小売業,卸売業」と「運輸・通信業」とは別個の分類とされている。
したがって,本件業務は,小売業及び卸売業のいずれにも当たらないというべきである。
なお,前記第3で認定した事実,前記第7の2(2)ア及び(3)アで認定した事実によれば,本件業務は,荷主と本件事業者との間で契約が締結されるが,その内容は,荷主からの貨物の集荷,計量・ラベル貼付等,輸出通関手続,混載貨物仕立て,航空会社への貨物の引渡し,航空機への搭載,航空機による運送,仕向地の空港への到着後の航空機からの取りおろし,混載貨物仕分け,輸入通関手続及び荷受人までの配送等という業務から成り,アメリカ合衆国によって実施されたAMS制度導入に伴う作業,新航空貨物保安措置の実施に伴う作業はこの運送業務に含まれるところ,本件業務を全体としてみるならば,その実質からしても,小売業や卸売業の実態があるなどということはできない。
被審人の主張について
被審人は,航空会社による貨物運送の部分を取り出して「小売業」に当たるとするようであるが,本件業務において,航空機による運送はその業務の一部であるにすぎず,これが基本の業務であるとしても,これを行うにおいて不可欠である作業が存在し,これらが機能的に一体となり,一つの業務を構成するものであることは前記で述べたとおりである。本件業務は,航空会社から一定容量あるいは一定重量の貨物を運送する役務を買い入れ,同一性を保持したままで荷主に販売するというものではなく,航空会社の運送を利用して輸出に必要な検査等の手続を行うことも含めて荷主の貨物を運送するという役務を提供するものであるから,買い入れた商品の同一性を保持したままで流通させる事業でないことは明らかである。なお,仮に,航空会社による貨物運送については仕入れて販売するというものとみることができるとしても,それ以外の貨物の運送に不可欠である作業を付加して一つの業務とすることで,航空会社による貨物運送とは別個の業務となったものであることからすると,単に商品(役務)を流通させる事業とは言えないのであって,「小売業,卸売業」には当たらない。
以上のとおり被審人の主張を採用することはできず,被審人の業務である本件業務は「小売業」及び「卸売業」には該当しない。
したがって,課徴金の算定率は,10パーセント(平成18年1月4日以降の違反行為に係るものについて)又は6パーセント(同月3日以前の違反行為に係るものについて)ということになる。
平成21年(判)第22号(本件課徴金納付命令に対する審判請求事件)についてのまとめ
本件違反行為について
前記4(3)のとおりである。
本件違反行為が役務の対価に係るものであること
前記5で判断したとおりであり,本件違反行為は,本件業務の対価に係るものである。
本件違反行為の主体及び実行期間
被審人は,本件業務を営む者であり,独占禁止法第7条の2第1項に該当する事業者であることは争いがない。
前記2で認定したとおり,本件違反行為は平成14年9月18日に開始され,前記4(4)で認定したとおり,本件違反行為は平成19年11月12日以降事実上消滅しているものと認められるから,本件違反行為の実行期間は,平成16年11月12日から平成19年11月11日までの3年間となる。
売上額
本件実行期間における被審人の4料金に相当する売上額は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令第5条第1項の規定に基づき算定すると,平成17年改正法の施行日である平成18年1月4日(以下「施行日」という。)前に係るものについては54億6047万5472円,施行日以後に係るものについては140億656万651円である(上記売上額については争いがない。)。
課徴金の算定率
被審人の本件業務は小売業には該当しないから,施行日前の売上額には,平成17年改正法附則第5条第2項の規定によりなお従前の例によることとされる平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項の規定により6パーセントの算定率が適用され,施行日以後の売上額には,独占禁止法第7条の2第1項の規定により10パーセントの算定率が適用される。
まとめ
よって,被審人の納付すべき課徴金額は,54億6047万5472円に100分の6を乗じて得た額及び140億656万651円に100分の10を乗じて得た額を合計した額から独占禁止法第7条の2第18項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された17億2828万円となるから,被審人に対し,これと同額の課徴金の納付を命じた本件課徴金納付命令は適法であって,本件課徴金納付命令に対する被審人の審判請求は理由がない。
法令の適用
以上によれば,被審人の本件排除措置命令に対する審判請求及び本件課徴金納付命令に対する審判請求は,いずれも理由がないから,独占禁止法第66条第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。
平成23年3月30日
公正取引委員会事務総局
審判長審判官 大久保 正 道
審判官 酒 井 紀 子
審判官 三 輪 睦
※ 別紙省略。