文字サイズの変更
背景色の変更
独禁法66条2項(独禁法19条〔2条9項5号〕,20条の6),独禁法66条3項(独禁法19条〔2条9項5号〕,20条の6)
平成24年(判)第6号及び第7号
川崎市幸区大宮町1310番地
被審人 日本トイザらス株式会社
同代表者 代表取締役 モニカ・メルツ
同代理人 弁 護 士 洞 ? 敏 夫
同 大 軒 敬 子
同 島 﨑 哲
公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う公正取引委員会関係規則の整備に関する規則(平成27年公正取引委員会規則第2号)による廃止前の公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)(以下「規則」という。)第73条の規定により審判長審判官伊藤繁及び審判官西川康一から提出された事件記録に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。
主 文
1 平成23年12月13日付けの排除措置命令(平成23年(措)第13号)のうち,別紙審決案の別表1の番号欄9及び10記載の各事業者に関する部分を取り消す。
2 平成23年12月13日付けの課徴金納付命令(平成23年(納)第262号)のうち,2億2218万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
3 被審人のその余の審判請求をいずれも棄却する。
理 由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第7と同一であるから,これらを引用する。
2 よって,被審人に対し,独占禁止法第66条第2項及び第3項並びに規則第78条第1項の規定により,主文のとおり審決する。
平成27年6月4日
公 正 取 引 委 員 会
委員長 杉 本 和 行
委 員 小 田 切 宏 之
委 員 幕 田 英 雄
委 員 山 﨑 恒
委 員 山 本 和 史
平成24年(判)第6号及び第7号
審 決 案
川崎市幸区大宮町1310番地
被審人 日本トイザらス株式会社
同代表者 代表取締役 モニカ・メルツ
同代理人 弁 護 士 洞 ? 敏 夫
同 大 軒 敬 子
同 島 﨑 哲
上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。
主 文
1 平成23年12月13日付けの排除措置命令(平成23年(措)第13号)のうち,別表1の番号欄9及び10記載の各事業者に関する部分を取り消す。
2 平成23年12月13日付けの課徴金納付命令(平成23年(納)第262号)のうち,2億2218万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
3 被審人のその余の審判請求をいずれも棄却する。
理 由
第1 審判請求の趣旨
1 平成24年(判)第6号審判事件
平成23年(措)第13号排除措置命令のうち,別表1記載の各事業者に関する部分の取消しを求める。
2 平成24年(判)第7号審判事件
平成23年(納)第262号課徴金納付命令のうち,1億6473万円を超えて納付を命じた部分の取消しを求める。
第2 事案の概要(当事者間に争いがない事実及び公知の事実)
1 公正取引委員会は,被審人が,遅くとも平成21年1月6日から平成23年1月31日までの間,自己の取引上の地位が納入業者(小売業者が自ら販売する商品を,当該小売業者に直接販売して納入する事業者をいう。以下同じ。)のうち別表2記載の117社(以下「特定納入業者」という。) に優越していることを利用して,正常な商習慣に照らして不当に,特定納入業者のうち63社から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ,また,特定納入業者のうち80社に対して取引の対価の額を減じていたものであって,これらの行為は独占禁止法第2条第9項第5号(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律〔平成21年法律第51号。以下「改正法」という。〕の施行日である平成22年1月1日前においては平成21年公正取引委員会告示第18号による改正前の不公正な取引方法〔昭和57年公正取引委員会告示第15号〕の第14項〔以下「旧一般指定第14項」という。〕)に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものであり,かつ,特に排除措置を命ずる必要があるとして,被審人に対し,平成23年12月13日,排除措置を命じた(平成23年(措)第13号。以下,この処分を「本件排除措置命令」といい,同命令において認定された違反行為を「本件違反行為」という。)。この排除措置命令書の謄本は,同月14日,被審人に対して送達された。
2 公正取引委員会は,平成23年12月13日,被審人に対し,本件違反行為は独占禁止法第20条の6に規定する継続してするものであり,本件違反行為をした日から本件違反行為がなくなる日までの期間は平成21年1月6日から平成23年1月31日までであるとした上で,本件違反行為のうち改正法の施行日である平成22年1月1日以後に係るものについて,被審人と特定納入業者のうち別表3記載の61社(以下「61社」という。)それぞれとの間における購入額を前提に,3億6908万円の課徴金の納付を命じた(平成23年(納)第262号。以下,この処分を「本件課徴金納付命令」という。)。この課徴金納付命令書の謄本は,平成23年12月14日,被審人に対して送達された。
3 被審人は,特定納入業者のうち別表1記載の14社(以下「14社」という。なお,同表の番号欄14記載の「株式会社A」は,本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の発出後に「株式会社A´」と商号を変更した〔審第43号証〕が,以下においては,商号変更の前後を通じて同社を「A」という。)との関係では違反行為が存在しないなどと主張して,平成24年2月10日,本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令のうち,14社に関する部分の取消しを求めて審判請求をした。そして,被審人は,同年7月26日の本件審判期日において,本件課徴金納付命令に対する審判請求について,本件課徴金納付命令のうち被審人の61社からの購入額の合計額から14社からの購入額の合計額を控除した残額に対応する課徴金を超えて納付を命じた部分が違法であるとして,本件課徴金納付命令のうち1億6473万円を超えて納付を命じた部分の取消しを求める旨審判請求の趣旨を補正した。
第3 前提となる事実(末尾に括弧書きで証拠を掲記した事実は当該証拠から認定される事実であり,その余の事実は当事者間に争いのない事実である。)
1 被審人について
? 被審人は,肩書地に本店を置き,「トイザらス」又は「ベビーザらス」の名称で,玩具,育児用品,子供衣料,文具,学用品,家庭用ゲーム機,ゲームソフトウェア,書籍,スポーツ用品等の子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業を営む者である。(査第1号証,第2号証,第3号証の1)
? 被審人の平成23年度1月期の年間売上高は約1624億円であり,子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者のうち,大手3社と呼ばれる小売業者の中で最も大きく,我が国に本店を置く子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者の中で最大手の事業者であった。(査第3号証の2,第35号証ないし第37号証)
? 被審人は,自社が販売する商品のほとんど全てを納入業者から買取取引(小売業者が納入業者から商品の引渡しを受けると同時に当該商品の所有権が当該納入業者から当該小売業者に移転し,その後は当該小売業者が当該商品の保管責任を負う取引形態をいう。以下同じ。)の方法により仕入れていた。買取りの方法で仕入れを行うに当たっては,バイヤーが納入業者との間で商談を行い,事前に当該商品の仕入価格等の取引条件を決定していた。(査第3号証の7,第5号証,第15号証ないし第18号証〔枝番を含まない。〕,第20号証,第22号証ないし第34号証〔枝番を含まない。〕)
2 14社について
14社は,玩具,家庭用ゲーム機器,知育玩具,紙おむつ等の製造業者又は卸売業者であり,被審人に対し,被審人が販売する商品を納入していた。(査第15号証ないし第34号証〔枝番を含まない。〕)
3 14社に対する返品及び減額について
? 被審人は,別表4記載のとおり,14社のうち5社から取引に係る商品を受領した後,当該商品を当該取引の相手方に引き取らせた(以下,取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせることを「返品」といい,被審人の上記5社に対する別表4記載の返品を「本件返品」という。)。
? 被審人は,別表5記載のとおり,14社のうち13社に対して取引の対価の額を減じた(以下,取引の相手方に対して取引の対価の額を減じることを「減額」といい,被審人の上記13社に対する別表5記載の減額を「本件減額」という。また,以下,本件返品及び本件減額を含め本件排除措置命令において違反行為と認定された被審人の特定納入業者に対する返品及び減額を一括して「本件行為」という。)。(別表5記載の株式会社Bに対する番号欄①記載の減額に係る対象商品につき査第123号証,C株式会社に対する番号欄①及び②記載の各減額に係る対象商品につき査第25号証の2,D株式会社に対する番号欄①記載の減額に係る対象商品につき査第28号証の2及び第144号証)
なお,被審人は,特定納入業者に対し,当該特定納入業者から購入した商品について値引き販売を実施し,その値引き相当額の全部又は一部を当該特定納入業者に負担させる方法で減額を行っていた。
第4 本件の争点
1 本件返品及び本件減額は被審人が14社に対し自己の取引上の地位が優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当に行ったものか否か(争点1)
2 本件行為又は本件返品及び本件減額に公正な競争を阻害するおそれがあるか否か(争点2)
3 本件における違反行為期間(独占禁止法第20条の6に規定する違反行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間をいう。以下同じ。)はどのように認定すべきか(争点3)
第5 争点についての双方の主張
1 争点1(本件返品及び本件減額は被審人が14社に対し自己の取引上の地位が優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当に行ったものか否か)について
? 審査官の主張
ア 被審人の取引上の地位が14社に優越していたこと
(ア) 判断方法
独占禁止法により優越的地位の濫用が規制されるのは,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,取引の相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあり,このような行為は,公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)があるからである(優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方〔以下「ガイドライン」という。〕第1の1参照)。
このような優越的地位の濫用規制の趣旨を踏まえれば,行為者が取引の相手方に対し取引上の地位が優越しているというためには,取引の相手方との関係で相対的に優越した地位にあれば足り,また,行為者が取引の相手方に対して優越的地位にあるとは,取引の相手方にとって行為者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すために,行為者が取引の相手方にとって著しく不利益な要請等を行っても,取引の相手方がこれを受け入れざるを得ないような場合を意味すると解すべきである(ガイドライン第2の1参照)。
そして,この判断は,行為者による濫用行為の内容(不合理さの程度)を踏まえ,①取引の相手方の行為者に対する取引依存度,②行為者の市場における地位,③取引の相手方にとっての取引先変更の可能性,④その他行為者と取引することの必要性を示す具体的事実を総合的に考慮し,取引の相手方が濫用行為を受け,不当な不利益を甘受しなければならないような関係にあったか否かにより判断されるものである。そして,具体的には,取引の相手方が受け入れた行為者による要請等の不合理さの程度が大きければ大きいほど,取引の相手方がそのような要請等を受け入れている事情が認められれば,取引の相手方にとって行為者と取引することの必要性が高い状況にあるといえるのであり,これを踏まえてその他行為者と取引することの必要性を示す具体的事実(上記①ないし④)を併せて判断すれば,行為者の優越的地位の存在が認められる。
(イ) 14社について
a 本件返品及び本件減額は,後記イのとおり,14社に対してあらかじめ計算できない不利益を与えるものであったから,不合理さの程度が大きい。
b 被審人は,我が国に本店を置く,子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者の中で最大手の事業者であり,有力な地位にあった。
また,14社については,別紙「本件対象業者一覧」記載のとおり,被審人に対する売上高や取引依存度などから被審人を主な取引先としていたこと,被審人に代わる取引先を見付けることが困難であったこと,その他被審人と取引することの必要性が高かったこと等の事情がそれぞれ認められる。
c したがって,前記aのとおり,本件返品及び本件減額が不合理さの大きなものであったことを踏まえて,前記bの事情を総合的に考慮すれば,14社は,自社にとって被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人が自己に著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ない立場にあったといえ,被審人の取引上の地位が14社に優越していたことは明らかである。
イ 被審人が正常な商慣習に照らして不当に返品又は減額を行ったこと
(ア) 判断方法
a 買取取引において,取引の相手方の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず行われる返品又は減額は,取引の相手方にとって,通常は不利益を与えるもので,当該取引の相手方にとって通常は何らの合理性もない上に,行為者にとって行う誘因が大きく,行為者が優越的地位にある場合には事前に合意させることが容易であることからすると,取引の相手方による自由かつ自主的な判断によらず行われるおそれが高い。したがって,仮に合意があったとしても,当該合意自体が取引の相手方にとって,正常な商慣習に照らして不当に不利益となるおそれが高く,濫用行為に該当し得る。
b そこで,取引上の地位が優越する事業者が取引の相手方に対して行う,当該取引の相手方の責めに帰すべき事由がない場合の返品については,原則としてあらかじめ計算できない不利益を与えるものであって,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える濫用行為に当たると考えるべきである。
そして,例外的に,?商品の購入に当たって当該取引の相手方との合意により返品の条件を定め,その条件に従って返品する場合(ガイドライン第4の3(2)イ②に該当する場合),?あらかじめ当該取引の相手方の同意を得て,かつ,商品の返品によって当該取引の相手方に通常生ずべき損失を自己(行為者)が負担する場合(同③に該当する場合)及び?当該取引の相手方から商品の返品を受けたい旨の申出があり,かつ,当該取引の相手方が当該商品を処分することが当該取引の相手方の直接の利益となる場合(同④に該当する場合)には,納入業者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えるものとはいえないとして認められるにすぎない。
c また,取引上の地位が優越する事業者が取引の相手方に対して行う,当該取引の相手方の責めに帰すべき事由がない場合の減額についても,原則としてあらかじめ計算できない不利益を与えるものであって,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える濫用行為に当たると考えるべきである。
そして,例外的に,対価を減額するための要請が対価に係る交渉の一環として行われ,その額が需給関係を反映したものであると認められる場合(ガイドライン第4の3(4)イ②に該当する場合)に,納入業者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えるものとはいえないとして認められるにすぎない。
なお,減額は,取引の相手方にとっては売上額が減少し,通常は不利益となるため,不利益となることが明らかである減額に対して行われる「合意」及び「申出」は,取引の相手方の自由かつ自主的な判断によって行われたものではないおそれが返品に比してより一層高いから,原則として,当該「合意」及び「申出」を減額が濫用行為に該当するか否かを判断するに当たって考慮する必要性は乏しい。
(イ) 本件返品及び本件減額について
a 本件行為は,被審人のモニカ・メルツ社長(以下「メルツ社長」という。)等の指示の下,自社の利益を確保すること等を目的として,組織的かつ計画的に一連かつ一体の行為として行われたものである。
b 本件返品は,取引の相手方の責めに帰すべき事由がない場合の返品であるところ,①取引前に取引の相手方と返品条件について合意したものではなく,②返品前に取引の相手方の同意を得ておらず,商品の返品によって当該取引の相手方に通常生ずべき損失も負担しておらず,③取引の相手方から商品の返品を受けたい旨の申出がなく,あるいは当該申出があったとしても当該取引の相手方が当該商品を処分することが当該取引の相手方の直接の利益とならないから,前記(ア)bの例外的な場合には該当せず,正当な理由がないのに返品を行う場合であって,取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合といえるから,正常な商慣習に照らして不当に返品を行ったものである。
c 本件減額は,取引の相手方の責めに帰すべき事由がない場合の減額であるところ,対価を減額するための要請が対価に係る交渉の一環として行われ,その額が需給関係を反映したものであると認められる場合には該当せず,正当な理由がないのに契約で定めた対価を減額する場合であったといえるから,正常な商慣習に照らして不当に減額を行ったものである。
ウ 優越的地位にある行為者が,相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為である(ガイドライン第2の3参照)。
エ したがって,本件返品及び本件減額は,被審人が14社に対し自己の取引上の地位が優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当に行ったものである。
? 被審人の主張
ア 被審人の取引上の地位が14社に優越していなかったこと
(ア) 判断方法
a 優越的地位の濫用は,①優越的地位にある者が劣位的地位にある取引の相手方との関係で,②不当な返品や不当な減額などの濫用行為に該当する行為を行った場合に成立するものであり,優越的地位と濫用行為とは別個独立の要件であるから,それらは別個独立に判断されるべきである。
b 優越的地位の有無を判断する際には,取引先変更可能性の有無を中心に,行為者が取引の相手方にとって著しく不利益な要請を行っても,取引の相手方がこれを受け入れざるを得ないような場合に当たるか否かを検討した上で,取引の相手方にとって行為者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになるかを検討し,その際に他の要素(取引の相手方の行為者に対する取引依存度,行為者の市場における地位,その他取引の相手方が行為者と取引することの必要性を示す具体的事情)を考慮すべきである。
なお,優越的地位の有無の判断に際しての行為者の市場における地位は,行為者と取引の相手方との取引に係る商品類型を考慮した市場における行為者の地位を検討すべきである。
c 優越的地位の有無は当事者間の相対的な関係によって決せられるから,取引の相手方からみた行為者の地位のみならず,行為者からみた取引の相手方の地位も検討されるべきである。
(イ) 14社について
14社(ただし,株式会社B〔以下「B」という。〕については,同社の親会社で被審人の実質的な取引先である株式会社E〔以下「E」という。〕を基準として優越的地位の有無を判断すべきである。)の事業内容,取扱商品等を踏まえて,14社からみた被審人の地位を検討すれば,14社にとって被審人以外の取引先に変更できる可能性は高いか十分あるといえるから,14社は被審人からの著しく不利益な要請に応じざるを得ない立場にはないし,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことはないかその可能性は低く,他方で被審人からみた14社の地位を検討すれば,被審人にとっては,14社以外の取引先に変更できる可能性はないか極めて低いから,被審人は,14社との関係で優越的地位にない。
イ 被審人が正常な商慣習に照らして不当に返品及び減額を行っていなかったこと
(ア) 判断方法
不当な返品や減額は正常な商慣習に照らして取引の相手方に不当な不利益を与えることとなるため違法になるものと解されることからすれば,取引当事者間において十分に協議がなされ,両者の合意の下で,取引の相手方の意向に沿う内容で,一連の取引関係において取引の相手方の利益となる範囲で返品や減額を受け入れる場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には当たらず,不当な返品や減額にはならないと解される。ましてや,返品や減額が取引の相手方の提案によりなされた場合には,不当な返品や減額にならないことは一層明らかである。
なお,買取取引であっても,次のとおり,売主にとって返品や減額に経済的合理性があり,それが売主の利益となる場合がある。
a 売主にとって返品に経済的合理性があり売主の利益となる場合
小売店の在庫が売れ残るリスクを返品によって軽減することにより,小売店にとっては新商品を含む商品をより多く購入する誘因となり,売主(製造業者や卸売業者)にとっては売上げの増加や希望するタイミングでの新商品の販売を実現することができる場合があり,このような場合,売主にとって返品に経済的合理性があり,売主の利益となる。
b 売主にとって減額に経済的合理性があり売主の利益となる場合
売主側からみると,新商品の早期導入により売上増を図るために,現在取り扱っている商品(旧商品)を消化する手段としては,返品か値引き販売による早期売り切りがある。そのどちらが選択されるかは,商品の形状,売主による他への販売可能性,新商品と旧商品との関係といった要因から決まるものである。したがって,減額についても,返品の場合と同様に売主にとって経済的合理性があり,売主の利益となる場合がある。
(イ) 本件返品及び本件減額について
本件返品及び本件減額は,以下のとおり,不当な返品及び減額ではない(以下において個々の返品又は減額を表記するに当たっては,別表4又は5記載の各事業者ごとに,返品については別表4の番号欄記載の番号を用いて単に「返品①」,「返品②」などと表記し,減額については別表5の番号欄記載の番号を用いて単に「減額①」,「減額②」などと表記する。)。
a 株式会社F(以下「F」という。)に対する行為
Fに対する返品①ないし④は,Fが,同各返品の対象商品と同じ商品を被審人以外の取引先に販売することになっていたが,Fに在庫が無かったことから,在庫を有する被審人に対して上記対象商品の返品を求めたものである。したがって,返品①ないし④は,Fの利益となるものであったから,不当な返品ではない。
b G株式会社(以下「G」という。)に対する行為
Gに対する減額⑩は,[商品]のリニューアルに伴い,旧商品を早期に消化することにより,新商品と旧商品の併売を避けつつ,新商品の販売促進を図るために,Gが旧商品の値引き販売費用の一部負担を提案して負担したものである。その結果,Gは新商品の販売を促進することができたから,減額⑩は,Gの利益となるもので,不当な減額ではない。
c H株式会社(以下「H」という。)に対する行為
Hに対する減額⑪は[商品]のリニューアルに伴うもの,減額⑫は[商品]のリニューアルに伴うものであるが,いずれも旧商品を早期に消化することにより,新商品と旧商品の併売を避けつつ,新商品の販売促進を図るために,Hが旧商品の値引き販売費用の一部負担を提案して負担したものである。その結果,Hは新商品の販売促進や売上増加を実現することができたから,減額⑪及び⑫は,Hの利益となるもので,不当な減額ではない。
d I株式会社(以下「I」という。)に対する行為
Iに対する減額⑨ないし⑪は,いずれも[商品]のリニューアルに伴い,旧商品を早期に消化することにより,新商品と旧商品の併売を避けつつ,新商品の販売促進を図るために,Iが旧商品の値引き販売費用の一部負担を提案して負担したものである。その結果,Iは新商品の販売促進や売上増加を実現することができたから,減額⑨ないし⑪は,Iの利益となるもので,不当な減額ではない。
e 株式会社J(以下「J」という。)に対する行為
Jに対する減額③及び④は,いずれも[商品]の新商品の販売促進を図るために,Jが旧商品の値引き販売費用の一部負担を提案して負担したものである。すなわち,[商品]は絵柄によって売行きが左右されるので,店頭に[商品]を展示して宣伝するのが効果的であるが,店頭におけるスペースが限られているため,売行きの悪い商品については,値引き販売をしてでも早期に売り切り,それに代えて,売上げの見込める新商品を店頭に置いておくことが重要である。減額③及び④により,Jは,新商品の販売促進や売上増加を実現することができた。したがって,減額③及び④は,Jの利益となるものであったから,不当な減額ではない。
f Bに対する行為
Bに対する減額④は,Bの親会社であるE及び同社の商品を取り扱うBの基幹商品である[ブランド名]のリニューアルに伴い,旧商品を早期に消化することにより,新商品の販売促進を図るために,Bが旧商品の値引き販売費用の一部負担を提案して負担したものである。その結果,Bは新商品の販売促進や売上増加を実現できたから,減額④は,Bの利益となるもので,不当な減額ではない。
g C株式会社(以下「C」という。)に対する行為
(a) Cに対する返品②は,被審人が試験的な意味を有する店舗である「トイザらスセレクト なんばパークス店」(以下「トイザらスセレクト」という。)を出店するに際し,被審人とCは,トイザらスセレクトにおいてのみ取り扱う[商品]について,仮にトイザらスセレクトが不成功に終わった場合には,Cが上記[商品]の返品を受けて直営店などで販売するとともに,通常店舗に移行した場合には通常店舗の取扱商品を納品するとの一般的な共通認識を有していたところ,トイザらスセレクトが不成功に終わり通常店舗に移行する際,Cが同社の直営店で上記[商品]販売することが可能であったことから,被審人とCがその返品を合意したものであり,かつ,これによりCは被審人に対し通常のトイザらス店舗の対象商品を納品することができたから,返品②は,不当な返品ではない。
(b) Cに対する減額③及び④は,いずれも[商品]の新商品の販売促進を図るために,Cが想定していた予算の範囲内で,旧商品の値引き販売費用の一部を負担したものである。すなわち,Cは,小売店において商品を効果的に展示することと継続的に新商品を導入することを重視しており,そのために,売行きの悪い商品がある場合には,それを値引きするなどして早期に売り切り,新商品を導入することをビジネスモデルとしている。そして,被審人とCは,値引き販売の費用負担については折半とする旨を年度ごとに合意している。したがって,減額③及び④はその一環としてなされたものであり,それによりCのビジネスモデルどおりに新商品の継続的な導入ができたから,減額③及び④は,Cの利益となるもので,不当な減額ではない。
h K株式会社(以下「K」という。)に対する行為
(a) Kに対する返品①ないし④は[商品]のリニューアルに伴うもの,返品⑤及び⑥は[商品]の新商品導入に伴うものであるが,いずれも新商品の宣伝時期に合わせて被審人の店舗において新商品を販売できるようにするという販売戦略実現のためになされたものである。その結果,Kは新商品の販売促進や売上増加を実現することができたから,返品①ないし⑥は,Kの利益となるもので,不当な返品ではない。
(b) Kに対する減額⑥は[商品]のリニューアルに伴い,旧商品を早期に消化することにより,新商品の宣伝時期に合わせて被審人の店舗において新商品を販売できるようにするという販売戦略実現のために,Kが旧商品の値引き販売費用の一部負担を提案して負担したものである。その結果,Kは新商品の販売促進や売上増加を実現することができたから,減額⑥は,Kの利益となるもので,不当な減額ではない。
i D株式会社(以下「D」という。)に対する行為
Dに対する減額①は,[商品]の新シリーズの商品導入に伴い,旧シリーズの商品を早期に消化することにより,旧シリーズの商品が長期にわたって併売されることによるブランドイメージの低下を避けつつ,新シリーズの商品の販売促進を図るために,Dが旧シリーズの商品の値引き販売費用の一部負担を提案して負担したものである。その結果,Dは新シリーズの商品の販売促進や売上増加を実現することができたから,減額①は,Dの利益となるもので,不当な減額ではない。
j L株式会社(以下「L」という。)に対する行為
Lに対する減額③ないし⑥は,いずれもLの販売方針の一環としてなされたものであり,被審人とLとの合意の下で,Lの意向に沿った内容でなされたものである。すなわち,Lは,売行きの予測がつきにくい独創的な商品を取り扱っていたことから,小売店が購入を控えることのないように,商品の売行きが良くない場合には,値引き販売の費用を負担することで,自社商品の小売店への販売を促すという販売方針を採っていたものである。減額③ないし⑥により,Lは自社の販売方針を実現することができたから,減額③ないし⑥は,Lの利益となるもので,不当な減額ではない。
k M株式会社(以下「M」という。)に対する行為
Mに対する減額①は,対象となった商品([商品])の売買契約を締結した際に,Mとの合意により定めた条件に基づき,Mが値引き販売費用の一部を負担したものである。すなわち,Mは,当該商品の1週間当たりの販売数が100個未満の場合には,Mの費用負担により値引き販売をすることを条件として上記売買契約をすることを提案したものである。したがって,減額①は,Mが,売買契約時から想定していた範囲内での負担であり,これにより新企画の商品を被審人の店頭で発売することができたから,Mの利益となるもので,不当な減額ではない。
l 株式会社N(以下「N」という。)に対する行為
(a) Nに対する返品③及び④は,季節商材である[ブランド名]の売買契約を締結した際に,販売期間終了時に在庫として残っている商品の全てをNに返品するとの条件が付され,その条件に従って返品したものであるから,不当な返品ではない。
(b) Nに対する返品⑤は,[商品・ブランド名]に関するものであるが,Nが被審人に対して返品を申し入れたものであり,その代わりにNは同商品の増量品を被審人に納入して売上増加という直接の利益を得たから,不当な返品ではない。
m 株式会社O(以下「O」という。)に対する行為
Oに対する返品①及び②は,いずれも[ブランド名]ブランドの[商品]のリニューアルに伴い,Oが新商品の販売促進を図るために,被審人に対して返品を申し入れたことに基づきなされたものである。その結果,Oは,新商品の販売促進を図ることができたから,返品①及び②は,Oの利益となるもので,不当な返品ではない。
n Aに対する行為
(a) Aに対する減額②は,被審人の店舗における回転率の悪くなった[商品]を値引き販売により早期に消化し,それに代えて新商品をAの希望するタイミングで導入し,その販売促進を図るために,Aが値引き販売費用の一部負担を提案して負担したものである。その結果,Aは,新商品の販売促進や売上増加を実現することができたから,減額②は,Aの利益となるもので,不当な減額ではない。
(b) Aに対する減額③は,[商品]の新商品発売に伴い,旧商品を早期に消化することにより,新商品の販売促進を図るために,Aが値引き販売費用の一部負担を提案して負担したものである。その結果,Aは,新商品の販売促進や売上増加を実現することができたから,減額③は,Aの利益となるもので,不当な減額ではない。
ウ したがって,本件返品及び本件減額は,被審人が14社に対し自己の取引上の地位が優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当に行ったものではない。
2 争点2(本件行為又は本件返品及び本件減額に公正な競争を阻害するおそれがあるか否か)について
? 審査官の主張
優越的地位の濫用は,取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあるという点で公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)があることから,不公正な取引方法の一つとして規定されているものである。そして,どのような場合に公正競争阻害性があると認められるのかについては,問題となる不利益の程度,行為の広がり等を考慮して,個別の事案ごとに判断することになる(ガイドライン第1の1参照)。
被審人は,特定納入業者117社という多数の取引の相手方に対して,遅くとも平成21年1月6日から平成23年1月31日までの2年以上もの期間にわたり,自己の取引上の地位が相手方に対して優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に本件行為を行っていた。そして,本件行為は,被審人の組織的かつ計画的に一連かつ一体の行為として行われ,一方的な行為として特定納入業者の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,特定納入業者を返品や減額による損失によって必然的に競争上不利にさせる一方で,被審人を当該返品や減額による利益によって必然的に競争上有利にさせる行為であるから,本件行為に公正競争阻害性があることは明らかである。
なお,優越的地位の濫用の成否の判断に際して考慮されるべきは「正常な商慣習」であり,公正な競争秩序の維持・促進の観点から是認されないものは「正常な商慣習」とは認められないから,仮に被審人が主張するように,本件行為が現に存在する商慣習に合致しているとしても,それにより優越的地位の濫用が正当化されることはない(ガイドライン第3参照)。
? 被審人の主張
公正競争阻害性は,①取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害していること及び②取引の相手方がその競争者との関係において競争上不利となり,行為者はその競争者との関係において有利になることが要件になっているものと考えられるが,本件返品及び本件減額が被審人と14社との間の合意に基づき14社の意向に沿うものであったことは前記1?イ(イ)のとおりであるから,14社の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するものではないし,本件返品及び本件減額により14社がその競争者との関係において競争上不利となり,被審人がその競争者との関係において競争上有利となった事実もない。
なお,その業界の慣行とされている返品や値引き販売の実施に伴う費用負担としての減額であれば,取引の相手方がその競争者との関係において競争上不利となるおそれも,行為者がその競争者との関係で競争上有利となるおそれもないから,取引の相手方に返品等を行うことによって,必然的に取引の相手方がその競争者との関係において競争上不利となり,行為者がその競争者との関係で競争上有利となるおそれがあるということはできない。
3 争点3(本件における違反行為期間はどのように認定すべきか)について
? 審査官の主張
ア 優越的地位の濫用行為の公正競争阻害性とは,取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれを必然的に生じさせるという点に求められるものであり,このような優越的地位の濫用の本質に鑑みれば,独占禁止法第2条第9項第5号又は旧一般指定第14項(第1号ないし第4号)に該当する社会的事実が複数みられるとしても,競争阻害効果が同一である限りにおいて,独占禁止法上は一つの優越的地位の濫用として規制されるべきである。
イ 本件では,被審人が,自社の利益を確保すること等を目的として,特定納入業者に対して組織的かつ計画的に一連かつ一体の行為として返品及び減額を行っていたことからすれば,本件行為の競争阻害効果は同一というべきであるから,本件行為は一つの優越的地位の濫用として規制されるべきである。
ウ そして,被審人は,本件行為を,遅くとも平成21年1月6日以降,平成23年1月31日までの間,繰り返し行っていたものであるから,これが継続してするものであることは明白である。
エ なお,前記イのとおり,本件行為は一つの優越的地位の濫用として規制されるべきであるから,特定納入業者ごとに違反行為が成立していると評価すべきではなく,特定納入業者ごとに複数の違反行為が行われていることも必要ではない。また,独占禁止法第20条の6の「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」における「当該行為」とは「第19条の規定に違反する行為(第2条第9項第5号に該当するものであって,継続してするものに限る。)」を指すことが明らかであるところ,違反行為を分断すべき理由はないから,違反行為期間中に違反行為と違反行為との間に合法行為が存在していたとしても,本件行為が繰り返し行われていた事実に変わりはない。
オ 以上によれば,本件における違反行為期間は,平成21年1月6日から平成23年1月31日までの間である。
? 被審人の主張
ア 独占禁止法第20条の6において,「当該事業者に対し,当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間(・・・)における,当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した・・・購入額」,「当該行為の相手方が複数ある場合は当該行為のそれぞれの相手方との間における政令で定める方法により算定した・・・購入額の合計額とする」と規定されていることからすれば,違反行為期間は個々の対象事業者ごとに違反行為の開始時期及び終了時期が認定されることが前提となっていると解釈するのが合理的である。
したがって,違反行為期間は個々の対象事業者ごとに算定されるべきである。
イ そして,課徴金の対象となる優越的地位の濫用行為は「継続してするもの」に限られていること,違反行為期間が「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」と定義されていることからすれば,違反行為の相手方ごとに2回以上の違反行為が存在しなければ課徴金の算定期間を認定できない。
ウ また,ある一定期間において,違反行為(不当な返品又は減額)と違反行為の間に同類型である合法行為(正当な返品又は減額)がある場合には,合法行為の存在により違反行為の継続性は中断されると考えられる。
第6 審判官の判断
1 争点1(本件返品及び本件減額は被審人が14社に対し自己の取引上の地位が優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当に行ったものか否か)について
? 優越的地位の濫用規制の趣旨について
独占禁止法第19条において,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に同法第2条第9項第5号(改正法施行日前においては旧一般指定第14項〔第1号ないし第4号〕)に該当する行為をすることが不公正な取引方法の一つとして規制されているのは,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,取引の相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあり,このような行為は公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)があるといえるからである(ガイドライン第1の1参照)。
? 優越的地位について
前記?のような優越的地位の濫用規制の趣旨に照らせば,取引の一方の当事者(以下「甲」という。)が他方の当事者(以下「乙」という。)に対し,取引上の地位が優越しているというためには,甲が市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位にある必要はなく,取引の相手方との関係で相対的に優越した地位にあれば足りると解される。また,甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合をいうと解される。(ガイドライン第2の1参照)
ところで,取引の相手方に対し正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為(以下「濫用行為」ということもある。)は,通常の企業行動からすれば当該取引の相手方が受け入れる合理性のないような行為であるから,甲が濫用行為を行い,乙がこれを受け入れている事実が認められる場合,これは,乙が当該濫用行為を受け入れることについて特段の事情がない限り,乙にとって甲との取引が必要かつ重要であることを推認させるとともに,「甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合」にあったことの現実化として評価できるものというべきであり,このことは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことに結び付く重要な要素になるものというべきである。
また,乙の甲に対する取引依存度が大きい場合には,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすく(ガイドライン第2の2?参照),甲の市場におけるシェアが大きい場合又はその順位が高い場合には,甲と取引することで乙の取引数量や取引額の増加が期待でき,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすく(同?参照),また,乙が他の事業者との取引を開始若しくは拡大することが困難である場合又は甲との取引に関連して多額の投資を行っている場合には,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすい(同?参照)ものといえる。
したがって,甲が乙に対して優越した地位にあるといえるか否かについては,甲による行為が濫用行為に該当するか否か,濫用行為の内容,乙がこれを受け入れたことについての特段の事情の有無を検討し,さらに,①乙の甲に対する取引依存度,②甲の市場における地位,③乙にとっての取引先変更の可能性,④その他甲と取引することの必要性,重要性を示す具体的事実を総合的に考慮して判断するのが相当である。
? 本件の濫用行為について
ア 被審人と14社との取引は,一部の例外を除き買取取引である。そして,本件返品及び本件減額の各対象商品の取引形態は,いずれも買取取引である。(査第3号証の7,第15号証ないし第18号証〔枝番を含まない。〕,第20号証,第22号証,第23号証,第25号証ないし第34号証〔枝番を含まない。〕)
イ このような買取取引において,取引の相手方の責めに帰すべき事由がない場合の返品及び減額は,一旦締結した売買契約を反故にしたり,納入業者に対して,売れ残りリスクや値引き販売による売上額の減少など購入者が負うべき不利益を転嫁する行為であり,取引の相手方にとって通常は何ら合理性のないことであるから,そのような行為は,原則として,取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えるものであり,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するものとして,濫用行為に当たると解される。
ウ もっとも,返品に関しては,例外的に,①商品の購入に当たって,当該取引の相手方との合意により返品の条件を明確に定め,その条件に従って返品する場合,②あらかじめ当該取引の相手方の同意を得て,かつ,商品の返品によって当該取引の相手方に通常生ずべき損失を自己が負担する場合,③当該取引の相手方から商品の返品を受けたい旨の申出があり,かつ,当該取引の相手方が当該商品を処分することが当該取引の相手方の直接の利益となる場合などは,当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為には当たらないと解される(ただし,上記①については,返品が当該取引の相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり,当該取引の相手方に不利益を与えることとなる場合には,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するものとして,濫用行為に当たることとなる。)。
エ また,減額に関しても,例外的に,①対価を減額するための要請が対価に係る交渉の一環として行われ,その額が需給関係を反映したものであると認められる場合,②当該取引の相手方から値引き販売の原資とするための減額の申出があり,かつ,当該値引き販売を実施して当該商品が処分されることが当該取引の相手方の直接の利益となる場合などは,当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為には当たらないと解される。
オ 以上のとおり,取引の相手方の責めに帰すべき事由がない場合の返品及び減額については,前記ウ及びエのような例外と認められるべき場合(以下,これに該当する場合の事情を「例外事由」という。)はあるものの,通常は取引の相手方にとって何ら合理性のないことであるから,例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えるものと推認され,濫用行為に当たると認めるのが相当である。
? 本件における検討
本件では,前記第3の3のとおり,被審人が14社に対して本件返品及び本件減額を行ったことが認められる。
また,査第3号証の8及び9によれば,本件返品及び本件減額は,いずれも14社の責めに帰すべき事由がない場合の返品又は減額であったことが認められる。
そこで,以下においては,それらを前提として,本件返品及び本件減額について,被審人が14社に対し自己の取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものか否かについて検討する(なお,後記アないしセの各項において,当該項の標題に掲げられている事業者が審査官の報告命令に対して提出した報告書のことを単に「相手方報告書」と,被審人が審査官の報告命令に対して提出した報告書のことを単に「被審人報告書」とそれぞれいい,必要に応じて証拠番号により特定する。)。
ア Fに対する行為
(ア) 濫用行為について
a 被審人のマーチャンダイズ本部コアトイズ商品部長である山田次郎の供述調書(査第7号証)に添付された右上に「10060」と番号が付された返品承認シート(被審人が行う返品に係る社内決裁文書をいう。以下同じ。)は返品①ないし④(改正法施行日以後のもの)に関するものである(査第7号証,第79号証ないし第82号証)ところ,同人は,上記供述調書において,同人が上記返品承認シートによる返品を承認したが,その対象商品(以下,アの項において単に「対象商品」という。)は被審人において不稼働在庫となっているものに間違いなく,返品に当たって作成された返品承認シートには返品理由として「新商品導入の為」と記載されているものの,Fからの新商品の提案の有無及び内容を確認した記憶も,実際に新商品を導入したかを確認した記憶もないと供述している。
また,被審人のF担当バイヤー末木佳奈が平成22年3月15日に被審人の在庫管理担当者に対して送信した電子メール(査第87号証)は対象商品に関するものである(争いがない。)が,上記電子メールには「下記商品の返品およびマークダウンを交渉していますので,DC在庫は今後出庫しないようにお願いします。(出せないかと思いますが。。。)」と記載されている。
したがって,これらの証拠によれば,返品①ないし④は,被審人において,対象商品が売上不振商品であることを理由にしたものと認められる。
b これに対して,被審人は,返品①ないし④について,Fが対象商品と同じ商品を被審人以外の取引先に販売することになっていたが,Fに在庫が無かったことから,在庫を有する被審人に対して対象商品の返品を求めたものであると主張する。
確かに,Fが作成した「H22年6月3日~7月1日の返品の経緯説明」と題する書面(審第79号証。以下,アの項において「相手方意見書」という。)には,Fでは,平成22年4月当時,新たな取引先が急増し,在庫が不足していたため,新たな取引先に納品する商品を確保するために,同年5月,被審人に対し対象商品の返品を提案した旨記載されている。
しかし,Fが被審人に対し,他の取引先に納品する商品を確保するために売却済みの対象商品の返品を求めたというのは不自然である上,前記aの電子メールの記載からすれば,被審人が既に平成22年3月15日の時点において対象商品の返品及び減額を検討していたことが明らかであり,同年5月に被審人に対して対象商品の返品を提案したとの相手方意見書の記載はこれと符合せず,また,返品①ないし④の返品承認シート(査第79号証〔3枚目〕,第80号証〔2枚目〕,第81号証〔2枚目〕,第82号証〔2枚目〕)には返品の理由が「新商品導入の為」と記載され,被審人報告書(査第3号証の8)にも返品の理由が「商品入れ替えのため」と記載されているのであって,相手方意見書の記載はこれらとも符合しない。したがって,相手方意見書は,その内容が不自然であるだけでなく,その内容に反する他の証拠もあるから,採用できない。
c このように,返品①ないし④は被審人がFに対して売上不振商品であることを理由にしたものと認められるところ,同各返品について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同各返品については,Fにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
(イ) 優越的地位について
次に,被審人の取引上の地位がFに優越していたか否かについて検討する。
a 前記(ア)のとおり,被審人は,Fに対し,濫用行為として返品①ないし④を行ったことが認められる。そして,Fが上記濫用行為を受け入れたことについて特段の事情があったことはうかがわれない。
b ところで,証拠によれば,次の事情が認められる。
(a) 被審人の我が国に本店を置く子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者における地位について(前記?②の事情)
前記第3の1?のとおり,被審人は,我が国に本店を置く,子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者の中で最大手の事業者であり,有力な地位にあった。
なお,被審人は,優越的地位の有無の判断に際しての行為者の市場における地位は,行為者と取引の相手方との取引に係る商品類型を考慮した市場における行為者の地位を検討すべきであると主張するが,行為者が供給する商品全体が取引される市場における行為者のシェアが大きい場合又はその順位が高い場合には,そうでない事業者と比べ,納入業者にとって,自らの利益を拡大する上で,行為者がより魅力的な取引先であることは明らかであり,行為者と取引を行う必要性がより高くなると考えられるから,行為者と特定納入業者との取引上の地位の格差を判断するに当たっては,通常は行為者が供給する商品全体が取引される市場における地位を考慮するのが妥当である。
(b) 取引依存度等について(前記?①及び④の事情)
相手方報告書(査第15号証)によれば,Fの平成22年1月1日から始まり同年12月31日に終わる事業年度における被審人に対する年間売上高は約[金額]万円であり,被審人に対する取引依存度は約91.9パーセントで,取引依存度における被審人の順位は[取引先数]社中第1位であったことが認められ,また,Fは,被審人との取引額や取引数量が大きいこと,年間総売上高における被審人に対する取引依存度が高いことを認識していたことが認められるから,Fは被審人を主な取引先としている状況にあったことが認められる。
(c) 取引先変更可能性等について(前記?③の事情)
相手方報告書(査第15号証)によれば,Fは,被審人に対する年間売上高が大きいことから,被審人に代わる取引先を見付けること又は他の取引先との取引を増やすことで被審人との取引停止に伴う損失を補うことは困難であると認識していたことが認められる。
(d) その他取引の必要性,重要性に関する具体的事実(前記?④の事情)
相手方報告書(査第15号証)によれば,Fは,被審人から規格又は仕様の指示を受けて製造した商品を被審人に納入していたこと,被審人との取引額や取引数量が安定していると認識していたこと,被審人が玩具・子供用品の分野で有力な地位にあると認識していたこと及び被審人は消費者に人気のある小売業者であると認識していたことが認められる。
c したがって,前記aの被審人による濫用行為の内容と前記bの事情を総合すれば,Fにとって被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人がFにとって著しく不利益な要請等を行っても,Fがこれを受け入れざるを得ないような場合にあったと認められるから,被審人の取引上の地位はFに優越していたというべきである。
d これに対し,被審人は,Fは[商品]の輸入・製造販売に必要な許可とノウハウを有しており,Fにとって被審人以外の取引先に変更できる可能性は十分あると考えられ,また,被審人とFは製品を共同開発しており両者は相互に必要とするビジネスパートナーであるから,Fは被審人からの著しく不利益な要請に応じざるを得ない立場にはないし,被審人との取引の継続が困難になることがFの事業経営上大きな支障を来す可能性は低いと主張する。
しかし,Fが被審人に代わる取引先を見付けることが困難であると認識していたことは,前記b(c)で認定したとおりであるし,現に被審人はFに対して返品という濫用行為を行い,Fはこれを受け入れているのであり,これを受け入れたことについて前記aのとおり特段の事情があったことはうかがわれず,これと前記bの事情を総合すれば,被審人の取引上の地位はFに優越していたと認めるのが相当であり,被審人の主張する上記事情があったとしても,この認定を覆すに足りるものではない。
e また,被審人は,Fは[商品]の製造販売に必要なノウハウを備え,かつ,製品を共同開発しているビジネスパートナーであって,被審人がF以外の取引先に変更できる可能性は極めて低いから,被審人からみたFの立場を考慮すると,被審人の取引上の地位はFに優越していないと主張するが,上記事実を認めるに足りる証拠はない上,仮にFが被審人にとって必要かつ重要な取引先であったとしても,それだけで被審人がFに対し優越的地位にあるとの前記cの認定を覆すことはできない。
(ウ) 優越的地位にある行為者が取引の相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為であると認められる(ガイドライン第2の3参照)。
(エ) 以上によれば,返品①ないし④については,被審人が,Fに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものと認められる。
イ Gに対する行為
(ア) 濫用行為について
a 減額⑩(改正法施行日以後のもの)について
(a) 減額⑩は,被審人が平成22年5月13日に実施したGから購入した[商品]の値引き販売に伴う費用負担として行われたものである(査第3号証の9,第97号証)。
Gの被審人担当者であるG1は,審査官に対し,Gは相手方報告書(査第16号証の2)において被審人から値引き販売の実施に伴う費用負担を求められたことはない旨回答し,費用負担の状況についても回答していないが,実際には被審人に対し被審人が実施する値引き販売に伴う費用負担分を支払っていること,平成22年5月頃に被審人が実施した値引き販売についてもGが補填のための金銭を支払ったこと,被審人からこの費用負担について要請があり,Gとしても在庫が無くならないと被審人にGの新商品を購入してもらえないためその要請に応じたと具体的に供述しており(査第17号証),この供述によれば,減額⑩については,被審人がGに対し正当な理由がないのに値引き販売の実施に伴う費用負担を求め,同社は今後の取引に与える影響を懸念してそれを受け入れざるを得なかったことが認められる。
なお,被審人は,上記G1の供述は,減額⑩に係る旧商品の値引き販売を実施する以前から被審人が新商品を購入していた事実に反しているから,必ずしも内容が正確ではないと主張するが,査第97号証及び審第74号証の2によれば,Gと被審人との間の上記新商品の売買は,上記値引き販売の実施までに終了したものではなく,その後も継続的に行われていたことが認められるところ,Gが爾後の上記新商品の売買に与える影響を懸念して被審人の減額⑩の要請を受け入れるということは十分にあり得ることであるから,上記G1の供述の内容が正確でないということはできない。
(b) ところで,被審人は,減額⑩は,[商品]のリニューアルに伴い,旧商品を早期に消化することにより,新商品と旧商品の併売を避けつつ,新商品の販売促進を図るために,Gが旧商品の値引き販売費用の一部負担を提案して負担したものであると主張し,Gの「平成22年6月30日のお振込み金額に関しまして」と題する書面(審第74号証)にも,それに沿う記載があるが,前記G1の供述に照らし,いずれも採用できない。
(c) したがって,減額⑩については,Gにあらかじめ計算できない不利益を与えたものであり,濫用行為に当たると認められる。
b 減額①ないし⑨(改正法施行日前のもの)について
被審人は,減額①ないし⑨について具体的な主張をしていないところ,同各減額について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同各減額については,Gにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
(イ) 優越的地位について
次に,被審人の取引上の地位がGに優越していたか否かについて検討する。
a 前記(ア)のとおり,被審人は,Gに対し,濫用行為として減額①ないし⑩を行ったことが認められる。そして,Gが上記濫用行為を受け入れたことについて特段の事情があったことはうかがわれない。
b ところで,証拠によれば,次の事情が認められる。
(a) 被審人の我が国に本店を置く子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者における地位について(前記?②の事情)
前記ア(イ)b(a)と同じ。
(b) 取引依存度等について(前記?①及び④の事情)
相手方報告書(査第16号証)によれば,Gの平成20年4月1日から始まり平成21年3月31日に終わる事業年度における被審人に対する取引依存度は約1.6パーセントであるものの,取引依存度における被審人の順位は[取引先数]社中第11位と比較的高く,被審人に対する年間売上高も約[金額]万円であったこと,同年4月1日から始まり平成22年3月31日に終わる事業年度における被審人に対する取引依存度は約1.5パーセントであるものの,取引依存度における被審人の順位は[取引先数]社中第11位と比較的高く,被審人に対する年間売上高も約[金額]万円であったことが認められるから,Gは被審人を主な取引先としている状況にあったことが認められる。
(c) 取引先変更可能性について(前記?③の事情)
相手方報告書(査第16号証)及び前記G1の供述調書(査第17号証)によれば,Gが被審人に対し主に販売している[商品]等のベビー用品はGの主力商品であるところ,Gは,ベビー用品について,被審人に代わる取引先を見付けることは困難であると認識していたことが認められる。
(d) その他取引の必要性,重要性に関する具体的事実(前記?④の事情)
相手方報告書(査第16号証)によれば,Gは,被審人から規格又は仕様の指示を受けて製造した商品を被審人に納入していたこと,被審人と取引している商品は自社にとって主力商品であると認識していたこと,被審人が玩具・子供用品の分野で有力な地位にあると認識していたこと及び被審人は消費者に人気のある小売業者であると認識していたことが認められる。
c したがって,前記aの被審人による濫用行為の内容と前記bの事情を総合すれば,Gにとって被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人がGにとって著しく不利益な要請等を行っても,Gがこれを受け入れざるを得ないような場合にあったと認められるから,被審人の取引上の地位はGに優越していたというべきである。
d これに対し,被審人は,[商品]の主な販路はドラッグストア等であること,[商品]の小売市場における被審人の地位が低いこと,Gの被審人に対する取引依存度が極めて低いこと,Gは日本の[商品]市場で第[順位]位の地位にあり,有名な[商品]ブランドを保有しており,同社は[商品]を取り扱う小売店にとって必要不可欠なメーカーであることからすれば,Gにとって被審人以外の取引先に変更できる可能性は高く,Gが被審人からの著しく不利益な要請を受け入れざるを得ないような立場にはないし,被審人との取引の継続が困難になることがGの事業経営上大きな支障を来すこともないと主張する。
しかし,Gが主力商品であるベビー用品について被審人に代わる取引先を見付けることが困難であると認識していたことは,前記b(c)で認定したとおりであるし,現に被審人はGに対して減額という著しく不利益な要請を行い,Gはこれを受け入れているのであり,これを受け入れたことについて前記aのとおり特段の事情があったことはうかがわれず,これと前記bの事情を総合すれば,被審人の取引上の地位はGに優越していたと認めるのが相当であり,被審人の主張する上記事情があったとしても,この認定を覆すに足りるものではない。
e また,被審人は,ベビー総合専門店と宣伝する「ベビーザらス」店舗及び玩具・子供用品店と宣伝する「トイザらス」店舗を保有する被審人としては,人気の高い製品をそろえるとともに幅広い品ぞろえの確保が重要であり,Gの人気の高い[商品]の品ぞろえを確保することが必要不可欠であることから,被審人にとってG以外の取引先に変更できる可能性はないと主張するが,上記事実を認めるに足りる証拠はない上,仮にGが被審人にとって必要かつ重要な取引先であったとしても,それだけで被審人がGに対し優越的地位にあるとの前記cの認定を覆すことはできない。
(ウ) 前記ア(ウ)のとおり,優越的地位にある行為者が取引の相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為であると認められる。
(エ) 以上によれば,減額①ないし⑩については,被審人が,Gに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものと認められる。
ウ Hに対する行為
(ア) 濫用行為について
a 減額⑪(改正法施行日以後のもの)について
(a) Hが作成した「お世話になっております。」から始まる書面(審第75号証。以下,ウの項において「相手方意見書」という。)及び審第91号証によれば,減額⑪については,Hが,[商品・ブランド名]をリニューアルするのに伴い,新商品の販売促進と,品質の劣る旧商品が長期間にわたって店頭で販売されることの弊害を避けるために,旧商品を早期に売り切ることを目的として,被審人に対し値引き販売費用の一部負担を提案したこと,その結果,旧商品の値引き販売が実施されて旧商品の消化が促進されるとともに,Hの被審人に対する[商品]の販売実績が上がったことが認められる。
なお,減額⑪のクレジットアローワンスシート(被審人が行う減額に係る社内決裁文書をいう。以下同じ。)(査第106号証)には「旧品補填」との記載があるが,これがHから値引き販売費用の一部負担の申出があったことと矛盾するものとは認められない。
(b) ところで,被審人の担当者五十嵐優比とHの担当者H1との間でなされた電子メールのやり取り(査第108号証)では,上記H1が「忘れておりまして申し訳ないですが,[ブランド名]旧品について一括補填を入れさせていただきます。プラス100円補填しますので,売価変更して売り切りをお願いします。(希望[金額]円前後)」と連絡し,その後,上記五十嵐が「MU%が減るような形でのマークダウンを行なうことが難しいため,1個あたりプラス100円の補填をいただいたとしても,1000円を切る様な値付けをすることができません。MU%を維持し,ルールに沿った値付けを行ないますと,[金額]円までしかつけられません。[金額]円にするのであれば[金額]円,[金額]円にするのであれば[金額]円の補填をいただきたいところです。」などと返信しているところ,審査官は,上記H1が「忘れておりまして申し訳ないですが」と記載していることからすれば,減額⑪は被審人側からの申出が発端であったことがうかがわれる上,「MU%」とは利益率を意味するところ,上記五十嵐の返信の内容からすれば,減額⑪が被審人の利益を確保するために行われたものであることは明らかであると主張する。
しかし,上記H1が上記電子メールにおいて「忘れておりまして申し訳ないですが」と記載しているからといって,それだけで被審人側から減額⑪の申出をしたことがうかがわれるわけではない。また,被審人が,上記電子メールによる交渉の際に,負担額について自社の利益を考慮していたとしても,そのことによってHがあらかじめ計算できない不利益を受けたということには必ずしもならない。
(c) そうすると,減額⑪については,Hから申出があり,かつ,当該減額を原資とした値引き販売の実施により旧商品が処分されることがHの直接の利益となる場合に当たると認められる。
したがって,減額⑪については,Hにあらかじめ計算できない不利益を与えたものではなく,濫用行為に当たるとは認められない。
b 減額⑫(改正法施行日以後のもの)について
相手方意見書及び審第92号証によれば,減額⑫については,Hが,[商品]をリニューアルするのに伴い,新商品の販売促進と,品質の劣る旧商品が長期間にわたって店頭で販売されることの弊害を避けるために,旧商品を早期に売り切ることを目的として,被審人に対し値引き販売費用の一部負担を提案したこと,その結果,旧商品の値引き販売が実施されて旧商品の消化が促進されるとともに,Hの被審人に対する[商品]の販売実績が上がったことが認められる。
なお,減額⑫のクレジットアローワンスシート(査第107号証)には「在庫補填として」との記載があるが,これがHから値引き販売費用の一部負担の申出があったことと矛盾するものとは認められない。
そうすると,減額⑫については,Hから申出があり,かつ,当該減額を原資とした値引き販売の実施により旧商品が処分されることがHの直接の利益となる場合に当たると認められる。
したがって,減額⑫については,Hにあらかじめ計算できない不利益を与えたものではなく,濫用行為に当たるとは認められない。
c 減額①ないし⑩(改正法施行日前のもの)について
被審人は,減額①ないし⑩について具体的な主張をしていないところ,同各減額について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同各減額については,Hにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
(イ) 優越的地位について
次に,被審人の取引上の地位がHに優越していたか否かについて検討する。
a 前記(ア)のとおり,被審人は,Hに対し,濫用行為として減額①ないし⑩を行ったことが認められる。そして,Hが上記濫用行為を受け入れたことについて特段の事情があったことはうかがわれない。
b ところで,証拠によれば,次の事情が認められる。
(a) 被審人の我が国に本店を置く子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者における地位について(前記?②の事情)
前記ア(イ)b(a)と同じ。
(b) 取引依存度等について(前記?①及び④の事情)
相手方報告書(査第18号証)及びH2(Hの[役職])の供述調書(査第19号証)によれば,Hの平成20年4月1日から始まり平成21年3月31日に終わる事業年度における被審人に対する取引依存度は約0.5パーセントであるものの,取引依存度における被審人の順位は[取引先数]社中第9位と比較的高く,被審人に対する年間売上高も約[金額]万円であったこと,同年4月1日から始まり平成22年3月31日に終わる事業年度における被審人に対する取引依存度は約0.5パーセントであるものの,取引依存度における被審人の順位は[取引先数]社中第12位と比較的高く,被審人に対する年間売上高も約[金額]万円であったこと,Hの主な取扱商品である[商品]に限ってみた場合には,被審人に対する取引依存度は約10パーセント弱であり,また,Hの被審人に対する売上げのほとんどは[商品]であったことが認められ,また,Hは,被審人との取引額や取引数量が大きいこと,年間総売上高における被審人に対する取引依存度が高いことを認識していたことが認められるから,Hは被審人を主な取引先としている状況にあったことが認められる。
(c) 取引先変更可能性について(前記?③の事情)
相手方報告書(査第18号証)及び前記H2の供述調書(査第19号証)によれば,Hが被審人に対し主に販売している[商品]はHの主力商品であるところ,Hは,[商品]について,被審人に代わる取引先を見付けることは困難であると認識していたことが認められる。
(d) その他取引の必要性,重要性に関する具体的事実(前記?④の事情)
相手方報告書(査第18号証)及び前記H2の供述調書(査第19号証)によれば,Hは,被審人から規格又は仕様の指示を受けて製造した商品を被審人に納入していたこと,被審人との取引額や取引数量が安定していると認識していたこと,被審人と取引している商品は自社にとって主力商品であると認識していたこと,被審人が玩具・子供用品の分野で有力な地位にあると認識していたこと,被審人は消費者に人気のある小売業者であると認識していたこと及び被審人は今後も店舗の拡大等により伸びていく小売業者であり,取引額の増加が期待できると認識していたことが認められる。
c したがって,前記aの被審人による濫用行為の内容と前記bの事情を総合すれば,Hにとって被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人がHにとって著しく不利益な要請等を行っても,Hがこれを受け入れざるを得ないような場合にあったと認められるから,被審人の取引上の地位はHに優越していたというべきである。
d これに対し,被審人は,[商品]の主な販路はドラッグストア等であること,[商品]の小売市場における被審人の地位が低いこと,Hの被審人に対する取引依存度が極めて低いことからすれば,Hにとって,被審人以外の取引先に変更できる可能性は高く,Hが被審人からの著しく不利益な要請を受け入れざるを得ない立場にはないし,被審人との取引の継続が困難になることがHの事業経営上大きな支障を来すこともないと主張する。
しかし,Hが主力商品である[商品]について被審人に代わる取引先を見付けることが困難であると認識していたことは,前記b(c)で認定したとおりであるし,現に被審人はHに対して減額という濫用行為を行い,Hはこれを受け入れているのであり,これを受け入れたことについて前記aのとおり特段の事情があったことはうかがわれず,これと前記bの事情を総合すれば,被審人の取引上の地位はHに優越していたと認めるのが相当であり,被審人の主張する上記事情があったとしても,この認定を覆すに足りるものではない。
e また,被審人は,ベビー総合専門店と宣伝する「ベビーザらス」店舗及び玩具・子供用品店と宣伝する「トイザらス」店舗を保有する被審人としては,店舗における[商品]の品ぞろえは重要であり,人気の高い[商品]を取り扱うHとの取引は必要不可欠であるため,被審人にとってH以外の取引先に変更できる可能性はないと主張するが,上記事実を認めるに足りる証拠はない上,仮にHが被審人にとって必要かつ重要な取引先であったとしても,それだけで被審人がHに対して優越的地位にあるとの前記cの認定を覆すことはできない。
(ウ) 前記ア(ウ)のとおり,優越的地位にある行為者が取引の相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為であると認められる。
(エ) 以上によれば,減額⑪及び⑫については,被審人が,Hに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものとは認められないが,減額①ないし⑩については,被審人が,Hに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものと認められる。
エ Iに対する行為
(ア) 濫用行為について
a 減額⑨ないし⑪(改正法施行日以後のもの)について
(a) Iが作成した「[商品]の販売に関する意見書」(審第73号証。以下,エの項において「相手方意見書」という。)及びI1(Iの[役職])の参考人審尋における陳述によれば,減額⑨については,Iが,[商品]の柄(春に合わせた桜の柄)が季節に合わなくなってきたことから,これに代えて通常の柄のものを販売する際に,被審人の店舗における在庫の早期消化を目的として,被審人に対し値引き販売費用の一部負担を提案したこと,減額⑩及び⑪については,いずれも,Iが,[商品]をリニューアルするのに伴い,新商品の販売促進と,品質の劣る旧商品が長期間にわたって店頭で販売されることの弊害を避けるために,旧商品を早期に売り切ることを目的として,被審人に対し値引き販売費用の一部負担を提案したこと,その結果,減額⑨ないし⑪について,いずれも旧商品の値引き販売が実施されて旧商品の消化が促進されるとともに,Iの被審人に対する[商品]の販売実績が上がったことが認められる。
なお,上記I1の参考人審尋における陳述は,相手方意見書の記載と符合する上,Iが値引き販売費用の一部負担を提案した理由についても具体的に述べており,信用性が認められる。これに対し,上記I1の前任者であるI2の供述調書(査第21号証)には上記認定に反すると思われる記載があるが,相手方意見書の内容及び上記I1の参考人審尋における陳述に照らし採用できない。
また,減額⑨ないし⑪のクレジットアローワンスシート(査第117号証ないし第119号証)には「在庫補填として」との記載があるが,これがIから値引き販売費用の一部負担の申出があったことと矛盾するものとは認められない。
(b) ところで,審査官は,減額⑩について,被審人の担当者下方一功がIの担当者I3に送信した電子メール(査第120号証)に「[ブランド名]の旧在庫ですが,以下の数量が残っています。新商品と同価格では,売りきれませんので,補填を頂戴して処分できないでしょうか?」と記載されていることからすれば,被審人側から要請したものと認められると主張する。
しかし,前記I1の参考人審尋における陳述によれば,Iでは新商品に関する顧客との商談は面談により開始され,新商品の発売に伴う旧商品の早期消化のための値引き販売に関する話合いも新商品に関する商談との関係で開始されることが認められるところ,上記電子メール発信前の話合いの状況が明らかでないから,上記電子メールの記載は前記(a)の認定を妨げるものではない。
(c) そうすると,減額⑨ないし⑪については,Iから申出があり,かつ,当該各減額を原資とした値引き販売の実施により旧商品が処分されることがIの直接の利益となる場合に当たると認められる。
したがって,減額⑨ないし⑪については,Iにあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為に当たるとは認められない。
b 減額①ないし⑧(改正法施行日前のもの)について
被審人は,減額①ないし⑧について具体的な主張をしていないところ,同各減額について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同各減額については,Iにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
(イ) 優越的地位について
次に,被審人の取引上の地位がIに優越していたか否かについて検討する。
a 前記(ア)のとおり,被審人は,Iに対し,濫用行為として減額①ないし⑧を行ったことが認められる。そして,Iが上記濫用行為を受け入れたことについて特段の事情があったことはうかがわれない。
b ところで,証拠によれば,次の事情が認められる。
(a) 被審人の我が国に本店を置く子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者における地位について(前記?②の事情)
前記ア(イ)b(a)と同じ。
(b) 取引依存度等について(前記?①及び④の事情)
相手方報告書(査第20号証)及び前記I2の供述調書(査第21号証)によれば,Iの平成20年4月1日から始まり平成21年3月31日に終わる事業年度における被審人に対する取引依存度は約0.5パーセントであり,取引依存度における被審人の順位は約[取引先数]社中第21位であるものの,被審人に対する年間売上高は約[金額]万円であったこと,同年4月1日から始まり平成22年3月31日に終わる事業年度における被審人に対する取引依存度は約0.7パーセントであり,取引依存度における被審人の順位は約[取引先数]社中第19位であるものの,被審人に対する年間売上高は約[金額]万円であったこと,Iの主な取扱商品である[商品]に限ってみた場合には,被審人に対する取引依存度は約5パーセントであり,また,Iの被審人に対する売上げの9割以上は[商品]であったことが認められ,また,Iは,被審人との取引額や取引数量が大きいこと,年間総売上高における被審人に対する取引依存度が高いこと,[商品]の取引依存度については被審人の順位が常に上位であることを認識していたことが認められるから,Iは被審人を主な取引先としている状況にあったことが認められる。
(c) 取引先変更可能性について(前記?③の事情)
相手方報告書(査第20号証)及び前記I2の供述調書(査第21号証)によれば,Iが被審人に対し主に販売している[商品]はIの主力商品であるところ,Iは,[商品]について,被審人に代わる取引先を見付けること又は他の取引先との取引を増やすことで被審人との取引停止に伴う損失を補うことは困難であると認識していたことが認められる。
(d) その他取引の必要性,重要性に関する具体的事実(前記?④の事情)
相手方報告書(査第20号証)によれば,Iは,被審人との取引額や取引数量が安定していると認識していたこと,被審人と取引している商品は自社にとって主力商品であると認識していたこと,被審人が玩具・子供用品の分野で有力な地位にあると認識していたこと,被審人と取引することで会社としての信用が確保されると認識していたこと,被審人は消費者に人気のある小売業者であると認識していたことが認められる。
c したがって,前記aの被審人による濫用行為の内容と前記bの事情を総合すれば,Iにとって被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人がIにとって著しく不利益な要請等を行ってもIがこれを受け入れざるを得ないような場合にあったと認められるから,被審人の取引上の地位がIに優越していたというべきである。
d これに対し,被審人は,[商品]の主な販路はドラッグストア等であること,[商品]の小売市場における被審人の地位が低いこと,Iの被審人に対する取引依存度が極めて低いことからすれば,Iにとって,被審人以外の取引先に変更できる可能性は高く,また,Iは[商品]を中心とする多角的な事業経営をする[グループ名]グループのグループ会社であり,かつ,Iの主力商品は[商品]及び[商品]であること,一般的に出生率低下に伴い[商品]の売上高は低下傾向にあることからIにおける[商品]の比率は低いと推測され,更に低くなることが予想されることから,Iが被審人からの著しく不利益な要請を受け入れざるを得ない立場にはないし,被審人との取引の継続が困難になることがIの事業経営上大きな支障を来すこともないと主張する。
しかし,Iが主力商品である[商品]について被審人に代わる取引先を見付けることが困難であると認識していたことは,前記b(c)で認定したとおりであるし,現に被審人はIに対して減額という濫用行為を行い,Iはこれを受け入れているのであり,これを受け入れたことについて前記aのとおり特段の事情があったことはうかがわれず,これと前記bの事情を総合すれば,被審人の取引上の地位はIに優越したと認めるのが相当であり,被審人の主張する上記事情があったとしても,この認定を覆すに足りるものではない。
e また,被審人は,ベビー総合専門店と宣伝する「ベビーザらス」店舗及び玩具・子供用品店と宣伝する「トイザらス」店舗を保有する被審人としては,店舗における[商品]の品ぞろえは重要であり,人気の高い[商品]を取り扱うIとの取引は必要不可欠であるため,被審人にとってI以外の取引先に変更できる可能性はないと主張するが,上記事実を認めるに足りる証拠はない上,仮にIが被審人にとって必要かつ重要な取引先であったとしても,それだけで被審人がIに対して優越的地位にあるとの前記cの認定を覆すことはできない。
(ウ) 前記ア(ウ)のとおり,優越的地位にある行為者が取引の相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為であると認められる。
(エ) 以上によれば,減額⑨ないし⑪については,被審人が,Iに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものとは認められないが,減額①ないし⑧については,被審人が,Iに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものと認められる。
オ Jに対する行為
(ア) 濫用行為について
a 減額③及び④(改正法施行日以後のもの)について
Jが作成した「PMDに関するクレジットアローワンスお支払いの事実関係について」と題する書面(審第85号証。以下,オの項において「相手方意見書」という。)及びJ1(Jの[役職])の参考人審尋における陳述によれば,減額③及び④は,[商品]について,Jが販売不振と判断した被審人の店頭における旧商品を値引き販売することにより売り切り,それに代えて新商品を販売した方が売上げの拡大が見込めることから,Jが値引き販売費用の一部負担を提案したこと,その結果,旧商品の値引き販売が実施されて旧商品の消化が促進されるとともに,Jの被審人に対する[商品]の販売実績が上がったことが認められる。
なお,減額③及び④の対象商品は[商品]であるところ,相手方報告書(査第22号証)及び上記J1の参考人審尋における陳述によれば,上記J1は,減額①ないし④が行われた際,[商品]関連商品を扱う[部署]に在籍しており,[商品]を含む[商品]関連商品以外の商品を扱う[部署]には在籍していなかったことが認められるが,上記各証拠によれば,Jでは毎週営業会議を行っていたことから,上記J1は,[部署]担当の商品についても営業方針等を知っており,また,同人は,本件に関し,[部署]の責任者とともに公正取引委員会から事情聴取を受けたり相手方意見書の作成を担当するなどしたことから,減額①ないし④についても事情を知っていたことが認められるから,その陳述の信用性は否定されない。
また,減額③のクレジットアローワンスシート(査第122号証)には「マークダウン補填として」との記載があるが,これがJから値引き販売費用の一部負担の申出があったことと矛盾するものとは認められない。
そうすると,減額③及び④については,Jから申出があり,かつ,当該各減額を原資とした値引き販売の実施により旧商品が処分されることがJの直接の利益となる場合に当たると認められる。
したがって,減額③及び④については,Jにあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為に当たるとは認められない。
b 減額①及び②(改正法施行日前のもの)について
被審人は,減額①及び②について具体的な主張をしていないところ,同各減額について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同各減額については,Jにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
(イ) 優越的地位について
次に,被審人の取引上の地位がJに優越していたか否かについて検討する。
a 前記(ア)のとおり,被審人は,Jに対し,濫用行為として減額①及び②を行ったことが認められる。そして,Jが上記濫用行為を受け入れたことについて特段の事情があったことはうかがわれない。
b ところで,証拠によれば,次の事情が認められる。
(a) 被審人の我が国に本店を置く子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者における地位について(前記?②の事情)
前記ア(イ)b(a)と同じ。
(b) 取引依存度等について(前記?①及び④の事情)
相手方報告書(査第22号証)によれば,Jの平成20年5月1日から始まり平成21年4月30日に終わる事業年度における被審人に対する年間売上高は約[金額]万円であり,被審人に対する取引依存度は約62.6パーセントで,取引依存度における被審人の順位は[取引先数]社中第1位であったこと,同年5月1日から始まり平成22年4月30日に終わる事業年度における被審人に対する年間売上高は約[金額]万円であり,被審人に対する取引依存度は約68.2パーセントで,取引依存度における被審人の順位は[取引先数]社中第1位であったことが認められ,また,Jは,被審人との取引額や取引数量が大きいこと,年間総売上高における被審人に対する取引依存度が高いことを認識していたことが認められるから,Jは被審人を主な取引先としている状況にあったことが認められる。
(c) 取引先変更可能性について(前記?③の事情)
相手方報告書(査第22号証)によれば,Jは,被審人に対する取引依存度が高いことから,被審人に代わる取引先を見付けること又は他の取引先との取引を増やすことで被審人との取引停止に伴う損失を補うことは困難であると認識していたことが認められる。
(d) その他取引の必要性,重要性に関する具体的事実(前記?④の事情)
相手方報告書(査第22号証)によれば,Jは,被審人から規格又は仕様の指示を受けて製造した商品を被審人に納入していたこと,被審人との取引額や取引数量が安定していると認識していたこと,被審人と取引している商品は自社にとって主力商品であると認識していたこと,被審人が玩具・子供用品の分野で有力な地位にあると認識していたこと,被審人は消費者に人気のある小売業者であると認識していたことが認められる。
c したがって,前記aの被審人による濫用行為の内容と前記bの事情を総合すれば,Jにとって被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人がJにとって著しく不利益な要請等を行っても,Jがこれを受け入れざるを得ないような場合にあったと認められるから,被審人の取引上の地位はJに優越していたというべきである。
d これに対して,被審人は,Jの全販売高の[割合]割を占めるP株式会社(以下「P」という。)の製品は極めて強いブランド力を有する人気商品であって,玩具を扱う小売店にとって必要不可欠な製品であり,また,Jの扱う[商品]や[商品]についても,Jは世界的に人気の高い[キャラクター]のライセンス製品を販売するなどして業界において強い地位を有していること,JはPから指定された問屋であり,Pの製品については同社に取引の判断権があるから,Jの被審人に対する取引依存度はJを介したPの被審人に対する取引依存度により判断すべきであるところ,それは極めて低いこと,[商品]関連市場における被審人の地位が低いと推測されることからすれば,Jにとって,被審人以外の取引先に変更できる可能性は高く,また,JはPから指定された問屋であるから,Jは被審人からの著しく不利益な要請を受け入れざるを得ないような立場にはないし,被審人との取引の継続が困難になることがJの事業経営上大きな支障を来すこともないと主張する。
しかし,Jが被審人に代わる取引先を見付けることが困難であると認識していたことは,前記b(c)で認定したとおりであるし,現に被審人はJに対して減額という著しく不利益な要請を行い,Jはこれを受け入れているのであり,これを受け入れたことについて前記aのとおり特段の事情があったことはうかがわれず,これと前記bの事情を総合すれば,被審人の取引上の地位はJに優越していたと認めるのが相当であり,被審人が主張する上記事情があったとしても,この認定を覆すに足りるものではない。
e また,被審人は,JはPから指定された問屋であるが,被審人がJから購入するPの[商品]関連製品は玩具・子供用品の総合専門店である被審人にとって必須の製品であること,幅広いジャンルの玩具・子供用品を取り扱うことが必要不可欠である被審人にとって,Jから購入する[商品]及び[商品]も外すことができないことから,被審人にとってJ以外の取引先に変更できる可能性はないと主張するが,上記事実を認めるに足りる証拠はない上,仮にJが被審人にとって必要かつ重要な取引先であったとしても,それだけで被審人がJに対して優越的地位にあるとの前記cの認定を覆すことはできない。
(ウ) 前記ア(ウ)のとおり,優越的地位にある行為者が取引の相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為であると認められる。
(エ) 以上によれば,減額③及び④については,被審人が,Jに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものとは認められないが,減額①及び②については,被審人が,Jに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものと認められる。
カ Bに対する行為
(ア) BとEとの関係
B及びEがそれぞれ作成した「1 パーマネントマークダウン・アローワンスについて」と題する書面(順に審第81号証,第82号証。以下,カの項において両者をまとめて「相手方意見書」という。)並びにB1(Bの[役職]兼Eの[役職])の参考人審尋における陳述によれば,Bは,Eの完全子会社であり,Eが被審人との取引を始めるに当たり,被審人に卸売販売をするために当時休眠会社となっていた会社(当時は旧商号)を販売会社として利用したものであることが認められる。
(イ) 濫用行為について
a 減額④(改正法施行日以後のもの)について
相手方意見書,審第102号証及び前記B1の参考人審尋における陳述によれば,減額④は,Bが,「[ブランド名]」という[商品]をリニューアルするのに伴い,旧商品を早期に消化し,新商品を発売日(平成22年3月13日)に合わせて被審人の店舗において販売することを目的として,被審人に対し値引き販売費用の一部負担を提案したこと,その結果,旧商品の値引き販売が実施されて旧商品の消化が促進されたことにより,円滑に新商品への移行が達成されて,Bの被審人に対する上記商品の販売実績が上がったことが認められる。
なお,Bの[役職]B2は,審査官に対し,「トイザらスからは,当社が納入した商品について,例えば,売れ行きが予想に反して悪いとか,特定の商品についてセールスをかけるとかいった場合に,トイザらスが値引き販売を行う場合がありますが,こうした値引きを行うに際し,当社に負担を求められることがありますが,当社はこれに応じています。」と供述している(査第24号証)。しかし,上記B2は相手方報告書(査第23号証,第23号証の2)の作成責任者であり,同人の供述も相手方報告書の記載を前提にしているものと解されるが,相手方報告書には被審人から値引き販売の実施に伴う費用負担を要請されたものとして減額④が記載されておらず(査第23号証の2),上記B2の供述は減額④を念頭に置いているとは認められないから,上記B2の供述は上記認定を妨げるものではない。
また,減額④のクレジットアローワンスシート(査第126号証)には「新商品導入の為のセールス拡販」との記載があるが,これがBから値引き販売費用の一部負担の申出があったことと矛盾するとは認められない。
そうすると,減額④については,Bから申出があり,かつ,当該減額を原資とした値引き販売の実施により旧商品が処分されることがBの直接の利益となる場合に当たると認められる。
したがって,減額④については,Bにあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為に当たるとは認められない。
b 減額①ないし③(改正法施行日前のもの)について
被審人は,減額①ないし③について具体的な主張をしていないところ,同各減額について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同各減額については,Bにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
(ウ) 優越的地位について
次に,被審人の取引上の地位がBに優越していたか否かについて検討する。
a 前記(イ)のとおり,被審人は,Bに対し,濫用行為として減額①ないし③を行ったことが認められる。そして,Bが上記濫用行為を受け入れたことについて特段の事情があったことはうかがわれない。
b ところで,証拠によれば,次の事情が認められる。
(a) 被審人の我が国に本店を置く子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者における地位について(前記?②の事情)
前記ア(イ)b(a)と同じ。
(b) 取引依存度等について(前記?①及び④の事情)
相手方報告書(査第23号証)によれば,Bの平成20年2月21日から始まり平成21年2月20日に終わる事業年度における被審人に対する年間売上高は約[金額]万円であり,Bの売上げの全てが被審人に対する売上げであったことが認められ,また,Bは,被審人との取引額や取引数量が大きいこと,年間総売上高における被審人に対する取引依存度が高いことを認識していたことが認められるから,Bは被審人を主な取引先としている状況にあったことが認められる。
(c) 取引先変更可能性について(前記?③の事情)
相手方報告書(査第23号証)によれば,Bは,被審人に代わる取引先を見付けること又は他の取引先との取引を増やすことで被審人との取引停止に伴う損失を補うことは困難であると認識していたことが認められる。
(d) その他取引の必要性,重要性に関する具体的事実(前記?④の事情)
相手方報告書(査第23号証)によれば,Bの取引先は被審人のみであったこと,Bは,被審人との取引額や取引数量が安定していると認識していたこと,被審人と取引することで会社としての信用が確保されると認識していたこと,被審人は消費者に人気のある小売業者であると認識していたことが認められる。
c したがって,前記aの被審人による濫用行為の内容と前記bの事情を総合考慮すれば,Bにとって被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人がBにとって著しく不利益な要請等を行っても,Bがこれを受け入れざるを得ないような場合にあったと認められるから,被審人の取引上の地位はBに優越していたというべきである。
d これに対して,被審人は,Bの親会社で実質的な取引先であるEを基準として,被審人の取引上の地位を判断すべきであると主張する。
しかし,被審人の取引上の地位を検討するに当たっては,取引の相手方であるBを基準に判断すべきであり,Eの存在はその際の事情の一つとして考慮すれば足りると解される。そして,東京商工リサーチ企業情報(査第164号証)によれば,EにとってBは主要な販売先であることが認められるところ,前記b(b)のとおり,Bの売上げの全てが被審人に対する売上げであるから,Eにとって間接的に被審人が主要な販売先であるということができること,実際,Eの平成20年度(平成21年3月決算)の売上高は約[金額]万円である(査第164号証)から,被審人に対する間接的な取引依存度は約24.1パーセント(BがEから購入した価格と同一の金額で被審人に商品を売却している場合)又はそれに近い割合となり,その依存度はかなり高いことからすれば,Eの存在は,被審人の取引上の地位がBに優越していたとの前記cの結論に影響を及ぼすものとは認められない。
e また,被審人は,Bが取り扱う[ブランド名]シリーズ及び[商品]はロングセラー商品であり,その取扱いを希望する玩具の卸売・小売業者は多数いるものと考えられることからすれば,Eにとって,被審人以外の取引先に変更できる可能性は高いから,Eが被審人からの著しく不利益な要請を受け入れざるを得ない立場にはないし,被審人との取引の継続が困難になることがEの事業経営上大きな支障を来すこともないと主張する。
しかし,前記dのとおり,被審人の取引上の地位が優越しているか否かについては,Bとの関係で判断すべきものであるところ,Bが被審人に代わる取引先を見付けることが困難であると認識していたことは,前記b(c)で認定したとおりであるし,現に被審人はBに対して減額という濫用行為を行い,Bはこれを受け入れているのであり,これを受け入れたことについて前記aのとおり特段の事情があったことはうかがわれず,これと前記bの事情を総合すれば,被審人の取引上の地位はBに優越していたと認めるのが相当である。
f また,被審人は,玩具・子供用品の総合専門店である被審人としては,幅広い玩具の品ぞろえと人気の高い玩具の取扱いが重要であるから,人気の高いEの製品を取り扱うことは必須であるため,被審人にとって,E以外の取引先に変更できる可能性はないと主張する。
しかし,前記dのとおり,被審人の取引上の地位が優越しているか否かについては,Bとの関係で判断すべきものであるところ,Bとの関係で上記事実を認めるに足りる証拠はない上,仮にBが被審人にとって必要かつ重要な取引先であったとしても,それだけで被審人がBに対し優越的地位にあるとの前記cの認定を覆すことはできない。
(エ) 前記ア(ウ)のとおり,優越的地位にある行為者が取引の相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為であると認められる。
(オ) 以上によれば,減額④については,被審人が,Bに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものとは認められないが,減額①ないし③については,被審人が,Bに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものと認められる。
キ Cに対する行為
(ア) 濫用行為について
a 返品①及び②について
(a) 返品②(改正法施行日以後のもの)について
被審人は,返品②について,被審人が試験的な意味を有する店舗であるトイザらスセレクトを出店するに際し,被審人とCは,トイザらスセレクトにおいてのみ取り扱う[商品]について,仮にトイザらスセレクトが不成功に終わった場合には,Cが上記[商品]の返品を受けて直営店などで販売するとともに,通常店舗に移行した場合には通常店舗の取扱商品を納品するとの一般的な共通認識を有していたところ,トイザらスセレクトが不成功に終わり通常店舗に移行する際,Cが同社の直営店で上記[商品]を販売することが可能であったことから,被審人とCがその返品を合意したと主張する。
そして,Cが作成した意見書(審第83号証〔枝番を含む。〕。以下,キの項において「相手方意見書」という。)には「C社は特別な事情がある場合にのみ,返品を受け付けております。2010年1月24日に行いましたなんばパークス店からの[商品]の返品につきましては,そのような特別の事情が確実に存在していました。上記について特別な事情と認められる理由は,C社が,なんばパークス店における配置テストに関し,[商品]を含む取扱範囲の拡大が試験的なものであり,これが成功しなかった場合には返品を受けると常に理解していたことにあります。」と,被審人の上記主張に沿うかのような記載がある(審第83号証,第83号証の2。なお,「1月24日」とあるが,これは「1月14日」の誤記であると思われる。)。
しかし,トイザらスセレクトが終了したのは平成20年10月1日よりも前である(争いがない。)ところ,被審人が返品②の対象商品を含む商品の返品の要請をしたのは平成21年9月又はこれに近接する時期であり(査第128号証),トイザらスセレクトの終了から返品要請までの期間が長いことから,返品②がトイザらスセレクトの終了に原因があるとは考えにくく,また,相手方意見書の上記記載は,Cが,トイザらスセレクト用の商品を納品するに当たり,被審人に対して商品を返品しないことを申し入れていたこと(査第129号証)と整合せず,被審人が返品の要請をしてから実際に返品を行うまでに相当程度時間を要したこと(上記のとおり,被審人が返品の要請をしたのは平成21年9月又はこれに近接する時期であるが,被審人が実際に返品を行ったのは別表4のとおり平成22年1月14日である。)とも整合しないから,相手方意見書のうち返品②に関する部分は採用できない。
そして,他に,返品②について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同返品については,Cにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
(b) 返品①(改正法施行日前のもの)について
被審人は,返品①について具体的な主張をしていないところ,同返品について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同返品については,Cにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
b 減額①ないし④(減額①及び②は改正法施行日前のもの,減額③及び④は改正法施行日以後のもの)について
Cは,相手方報告書(査第25号証の2)において,減額①ないし④を含む事例について,販売促進につながると考え,値引き販売に伴う費用負担に関する要請に応じた旨回答している。
また,相手方意見書には,Cと被審人は,新製品を継続的に導入するために,Cが年度の初めに定めた値引き販売に伴う費用負担についての定めた予算の範囲内で,Cが被審人に販売した商品のうち廃番となった商品の在庫一掃を促進するための値引き販売費用を各2分の1の割合で負担することをあらかじめ合意していたことが記載されているが,これを裏付ける資料(2010年度〔平成22年度〕の値引き販売の実施に伴う費用負担の計画書)も添付されており,相手方報告書の上記記載とも整合することから,相手方意見書のうち減額①ないし④に関する部分は信用することができる。
したがって,これらの証拠によれば,減額①ないし④は,Cが,商品の販売促進を図るために,新製品を継続的に導入すべく,被審人との間で,限度額及び対象商品をあらかじめ限定した上で,値引き販売の原資とするための減額の条件を明確に定め,被審人が,その条件に従って上記限度額及び上記対象商品の範囲内で行った減額であることが認められるから,上記各減額については,Cにあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,また,上記各減額がCが得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり,同社に不利益になることもうかがわれないから,上記各減額については,濫用行為に当たるとは認められない。
(イ) 優越的地位について
次に,被審人の取引上の地位がCに優越していたか否かについて検討する。
a 前記(ア)のとおり,被審人は,Cに対し,濫用行為として返品①及び②を行ったことが認められる。そして,Cが上記濫用行為を受け入れたことについて特段の事情があったことはうかがわれない。
b ところで,証拠によれば,次の事情が認められる。
(a) 被審人の我が国に本店を置く子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者における地位について(前記?②の事情)
前記ア(イ)b(a)と同じ。
(b) 取引依存度等について(前記?①及び④の事情)
相手方報告書(査第25号証)によれば,Cの平成21年1月1日から始まり同年12月31日に終わる事業年度における被審人に対する年間売上高は約[金額]万円であり,被審人に対する取引依存度は約28.3パーセントで,取引依存度における被審人の順位は[取引先数]社中第1位であったこと,平成22年1月1日から始まり同年12月31日に終わる事業年度における被審人に対する年間売上高は約[金額]万円であり,被審人に対する取引依存度は約27.7パーセントで,取引依存度における被審人の順位は[取引先数]社中第1位であったことが認められ,また,Cは,被審人との取引額や取引数量が大きいこと,年間総売上高における被審人に対する取引依存度が高いことを認識していたことが認められるから,Cは被審人を主な取引先としている状況にあったことが認められる。
(c) 取引先変更可能性について(前記?③の事情)
相手方報告書(査第25号証)によれば,Cは,被審人に対する取引依存度が高いことから,被審人に代わる取引先を見付けること又は他の取引先との取引を増やすことで被審人との取引停止に伴う損失を補うことは困難であると認識していたことが認められる。
(d) その他取引の必要性,重要性に関する具体的事実(前記?④の事情)
相手方報告書(査第25号証)によれば,Cは,被審人との取引額や取引数量が安定していると認識していたこと,被審人と取引している商品は自社にとって主力商品であると認識していたこと,被審人が玩具・子供用品の分野で有力な地位にあると認識していたこと及び被審人は消費者に人気のある小売業者であると認識していたことが認められる。
c したがって,前記aの被審人による濫用行為の内容と前記bの事情を総合すれば,Cにとって被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人がCにとって著しく不利益な要請等を行っても,Cがこれを受け入れざるを得ないような場合にあったと認められるから,被審人の取引上の地位はCに優越していたというべきである。
d これに対して,被審人は,世界で人気のある[ブランド名]を取り扱うCにとって,被審人以外の取引先に変更できる可能性は高く,被審人からの著しく不利益な要請を受け入れざるを得ないような立場にはないし,被審人との取引の継続が困難になることがCの事業経営上大きな支障を来すこともないと主張する。
しかし,Cが被審人に代わる取引先を見付けることが困難であると認識していたことは,前記b(c)で認定したとおりであるし,現に被審人はCに対して返品という濫用行為を行い,Cはこれを受け入れているのであり,これを受け入れたことについて前記aのとおり特段の事情があったことはうかがわれず,これと前記bの事情を総合すれば,被審人の取引上の地位はCに優越していたと認めるのが相当である。
e また,被審人は,Cの取り扱う[商品]は極めて人気の高い製品であるため,玩具・子供用品の総合専門店である「トイザらス」店舗を有する被審人としては,Cの[商品]を取り扱うことは必要不可欠であることから,被審人にとってC以外の取引先に変更できる可能性はないと主張するが,上記事実を認めるに足りる証拠はない上,仮にCが被審人にとって必要かつ重要な取引先であったとしても,それだけで被審人がCに対し優越的地位にあるとの前記cの認定を覆すことはできない。
(ウ) 前記ア(ウ)のとおり,優越的地位にある行為者が取引の相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為であると認められる。
(エ) 以上によれば,減額①ないし④については,被審人が,Cに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものとは認められないが,返品①及び②については,被審人が,Cに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものと認められる。
ク Kに対する行為
(ア) 濫用行為について
a 返品①ないし⑥(改正法施行日以後のもの)について
(a) Kが作成した「返品(RTV)/パーマネントマークダウン(PMD)報告書」(審第76号証。以下,クの項において「相手方意見書」という。),審第93号証ないし第95号証及びK1(Kの[役職])の参考人審尋における陳述によれば,返品①ないし④は[商品]のリニューアルに伴うもの,返品⑤及び⑥は[商品]の新商品導入に伴うものであるが,いずれも新商品を早急に市場に流通させ(垂直立ち上げ),販売を促進させることを目的として,Kが被審人に対し旧商品の返品を提案したこと,その結果,Kの被審人に対する上記各商品の販売実績が上がったことが認められる。
なお,返品①ないし④の返品承認シート(査第134号証,第135号証)並びに返品⑤及び⑥の返品承認シート(査第136号証)には返品理由が「商品入替えのため」と記載されているが,これがKから返品の申出があったことと矛盾するものとは認められない。
(b) ところで,審査官は,返品①ないし④に関して,前記K1と被審人の担当者五十嵐優比との間でやり取りされた電子メール(査第137号証)では,上記K1が「店頭で旧・新両方売ることは可能でしょうか?」,「[部品]の仕様も異なりますので,エンドは新製品,定番は旧品展開は可能でしょうか?」などと連絡し,その後,上記五十嵐が「旧品についてですが,互換性がない物を同時期に併売するのは,たとえエンドキャップと元売場と分けたとしてもお客様が混乱しますので,予定通り返品させていただきます。」などと連絡していることから,Kは旧商品と新商品の併売を求めていたことは明らかであると主張する。
しかし,上記K1は,参考人審尋において,当初は新商品と旧商品を入れ替えることにしていたものの,被審人に納入すべき新商品の数量を確保することが困難な状況になったので,新商品と旧商品の併売を求めたが,その後,社内調整等により予定数量に近い新商品を納入することができ,旧商品を併売する必要性がなくなったので,当初の販売戦略どおり新商品と旧商品を入れ替えることにしたと陳述するところ,審査官が指摘する部分だけでなく上記電子メールでのやり取りの全体を見れば,上記K1が,終始,商品が欠品となることを心配して新商品と旧商品を併売することを考えていたことは明らかであって,これは上記K1の参考人審尋における陳述を裏付けるものであるから,審査官の上記主張は採用できない。
(c) そうすると,返品①ないし⑥については,Kから申出があり,かつ,Kが当該返品の対象商品を処分することがKの直接の利益となる場合に当たると認められる。
したがって,返品①ないし⑥については,Kにあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為に当たるとは認められない。
b 減額①ないし⑥について
(a) 減額⑥(改正法施行日以後のもの)について
相手方意見書,審第96号証及び前記K1の参考人審尋における陳述によれば,減額⑥は,Kが,「[ブランド名]」という[商品]をリニューアルするのに伴い,旧商品を早期に売り切った上で,新商品の店頭における発売時期に合わせて新商品の広告宣伝を行うことによって新商品を早急に市場に流通させることを目的として,被審人に対し旧商品の値引き販売費用の一部負担を提案したこと,その結果,旧商品の値引き販売が実施されて旧商品の消化が促進されるとともに,Kの被審人に対する上記商品の販売実績が上がったことが認められる。
なお,被審人のマーチャンダイズ本部アパレル商品部シニア・バイヤーである陶正治は,審査官に対し,値引き販売をする場合に納入業者に対して値引き額に対する填補をお願いして収受していると述べた上で,減額⑥のクレジットアローワンスシート(査第143号証)の説明をしている(査第10号証)が,上記陶の供述は,Kが相手方報告書(査第26号証の2)において被審人から値引き販売の実施に伴う費用負担を要請されたものとして多数の事例を記載しているにもかかわらず減額⑥を記載していないことや,相手方意見書の内容及び上記K1の参考人審尋における陳述に照らして採用できない。
そうすると,減額⑥については,Kから申出があり,かつ,当該減額を原資とした値引き販売の実施により旧商品が処分されることがKの直接の利益となる場合に当たると認められる。
したがって,減額⑥については,Kにあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為に当たるとは認められない。
(b) 減額①ないし⑤(改正法施行日前のもの)について
被審人は,減額①ないし⑤について具体的な主張をしていないところ,同各減額について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同各減額については,Kにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
(イ) 優越的地位について
次に,被審人の取引上の地位がKに優越していたか否かについて検討する。
a 前記(ア)のとおり,被審人は,Kに対し,濫用行為として減額①ないし⑤を行ったことが認められる。そして,Kが上記濫用行為を受け入れたことについて特段の事情があったことはうかがわれない。
b ところで,証拠によれば,次の事情が認められる。
(a) 被審人の我が国に本店を置く子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者における地位について(前記?②の事情)
前記ア(イ)b(a)と同じ。
(b) 取引依存度等について(前記?①及び④の事情)
相手方報告書(査第26号証)によれば,Kの平成21年2月1日から始まり平成22年1月31日に終わる事業年度における被審人に対する年間売上高は約[金額]万円であり,被審人に対する取引依存度は約4.1パーセントで,取引依存度における被審人の順位は[取引先数]中第5位であったことが認められ,また,Kは,被審人との取引額や取引数量が大きいこと,年間総売上高における被審人に対する取引依存度が高いことを認識していたことが認められるから,Kは被審人を主な取引先としている状況にあったことが認められる。
(c) 取引先変更可能性について(前記?③の事情)
相手方報告書(査第26号証)及び前記K1の供述調書(査第27号証)によれば,Kは,被審人に代わる取引先を見付けることで被審人との取引停止に伴う損失を補うことは困難であると認識していたことが認められる。
(d) その他取引の必要性,重要性に関する具体的事実(前記?④の事情)
相手方報告書(査第26号証)及び前記K1の供述調書(査第27号証)によれば,Kは,被審人から規格又は仕様の指示を受けて製造した商品を被審人に納入していたこと,被審人との取引額や取引数量が安定していると認識していたこと,被審人と取引している商品は自社にとって主力商品であると認識していたこと,被審人が玩具・子供用品の分野で有力な地位にあると認識していたこと,被審人は消費者に人気のある小売業者であると認識していたこと,被審人は今後も店舗の拡大等により伸びていく小売業者であり,取引額の増加が期待できると認識していたことが認められる。
c したがって,前記aの被審人による濫用行為の内容と前記bの事情を総合すれば,Kにとって被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人がKにとって著しく不利益な要請等を行っても,Kがこれを受け入れざるを得ないような場合にあったと認められるから,被審人の取引上の地位はKに優越していたというべきである。
d これに対し,被審人は,被審人がKから購入している主な商品である[商品]の主な販路はドラッグストア等であるから,Kにとって被審人以外の取引先に変更できる可能性は高く,また,Kの被審人に対する取引依存度は極めて低いから,Kは被審人から著しく不利益な要請に応じざるを得ない立場にはないし,被審人との取引の継続が困難になることがKの事業経営上大きな支障を来すことにはならないと主張する。
しかし,Kが被審人に代わる取引先を見付けることが困難であると認識していたことは,前記b(c)で認定したとおりであり,また,Kの被審人に対する取引依存度は,前記b(b)のとおり約4.1パーセントであり,低くはない。そして,現に被審人はKに対して減額という著しく不利益な要請を行い,Kはこれを受け入れているのであり,これを受け入れたことについて前記aのとおり特段の事情があったことはうかがわれず,これと前記bの事情を総合すれば,被審人の取引上の地位はKに優越したと認めるのが相当である。
e また,被審人は,ベビー総合専門店と宣伝する「ベビーザらス」店舗及び玩具・子供用品店と宣伝する「トイザらス」店舗を保有する被審人としては,乳児に必要不可欠である[商品]の品ぞろえが重要であるところ,Kは[商品]について少なくとも[割合]パーセント程度の国内シェアを有していること,Kの[商品]は人気が高く,また,極めて特徴的かつ機能的であることからすれば,被審人がKの[商品]を取り扱うことは必須であるから,被審人にとってK以外の取引先に変更できる可能性は極めて低いと主張するが,上記事実を認めるに足りる証拠はない上,仮にKが被審人にとって必要かつ重要な取引先であったとしても,それだけで被審人がKに対し優越的地位にあるとの前記cの認定を覆すことはできない。
(ウ) 前記ア(ウ)のとおり,優越的地位にある行為者が取引の相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為であると認められる。
(エ) 以上によれば,返品①ないし⑥及び減額⑥については,被審人が,Kに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものとは認められないが,減額①ないし⑤については,被審人が,Kに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものと認められる。
ケ Dに対する行為
(ア) Dが作成した「お取引内容についてのご報告について」と題する書面(審第77号証,第98号証)によれば,減額①(改正法施行日以後のもの)は,Dが,[商品]等の新シリーズを発売するのに伴い,旧シリーズが長期にわたって被審人の店頭に残ると,Dのブランドイメージを低下させるとともに,新シリーズの認知を遅らせ,新シリーズの販売促進の障害になると考えて,それを回避する目的で,被審人に対し値引き販売費用の一部負担を提案したこと,その結果,旧シリーズの値引き販売が実施されて旧シリーズの消化が促進されるとともに,Dの被審人に対する上記商品の販売実績が上がったことが認められる。
なお,減額①のクレジットアローワンスシート(査第144号証)には「マークダウン在庫補填として」との記載があるが,これがDから値引き販売費用の一部負担の申出があったことと矛盾するものとは認められない。
そうすると,減額①については,Dから申出があり,かつ,当該減額を原資とした値引き販売の実施により旧商品が処分されることがDの直接の利益となる場合に当たると認められる。
したがって,減額①については,Dにあらかじめ計算できない不利益を与えたものではなく,濫用行為に当たるとは認められない。
(イ) 以上によれば,被審人が,Dに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったとは認められない。
コ Lに対する行為
(ア) 減額③ないし⑥(改正法施行日以後のもの)について
L作成の「前略,いつもお世話になっております。」で始まる書面(審第86号証)及び「石橋様,昨日はお忙しい中にお越しいただき状況ご報告ありがとうございました。」で始まる書面(審第87号証。以下,コの項においてこれらの書面を併せて「相手方意見書」という。)には,Lは,小売店に対し,他社にない独創的なアイデア商品を広告によって宣伝して消費者の指名買いを引き出すというリスクの高い提案をしており,広告効率を勘案し商品が売出しの広告時に小売店に並ばない事態を避けるため,小売店の導入リスクを軽減することを目的に,Lが売行きが悪く失敗と認めた商品については,返品又は値引き販売の費用の負担を提案する販売方針であったこと,減額③ないし⑥は,いずれも,対象商品の売行きが悪かったことから,Lが値引き販売費用の負担を提案したこと,そのうち減額③の対象商品はユニークアイデア商品であり,このような商品は広告が効果を発揮する一方で,発売とともにデッドストック化するおそれもあるハイリスクハイリターン商品であるところ,減額③の対象商品は発売とともにデッドストック化したため,Lが値引き販売の実施に伴う費用負担を申し出たこと,減額④及び⑤については,平成20年に発売を開始した旧商品の売行きが悪くなったため,Lがパッケージ等を変更して再度被審人に販売したが,それでも売行きが悪かったため,Lが値引き販売の実施に伴う費用負担を申し出たこと,減額⑥については,平成22年に発売を開始した旧商品の売行きが悪いため,Lが商品名等を変更して再度被審人に販売したが,それでも売行きが悪かったため,Lが値引き販売の実施に伴う費用負担を申し出たことなどが記載されており,これを裏付ける資料(減額③ないし⑤が行われる際のLの担当者と被審人の担当者の商談の内容を商談の直後にまとめたメモ及び減額⑥が行われる際にLの担当者が被審人の担当者に対して交付した書面の各控え)も添付されている。
また,相手方報告書(査第29号証,第29号証の2)には,被審人からLの不利益となる要請があったとき,当該要請を受け入れざるを得なくなるのはどのような場合かとの設問に対し,「当社の不利益になるものは基本的に受け入れない」と記載され(査第29号証),また,被審人から値引き販売の実施に伴う費用負担を要請されることはなく,Lから提案した場合のみ費用負担をした旨も記載されている(査第29号証の2)。
したがって,これらの証拠によれば,減額③ないし⑥は,Lがその販売方針に基づいて被審人に申し出て行われたものであり,このような販売方針が被審人によって受け入れられることにより,Lは,被審人に対して対象商品を販売することができ,また,対象商品の売行きが悪かったことから,当該各減額を原資とした値引き販売を実施することにより対象商品を早期に消化した上,さらに新たな商品を販売することができたことが認められるから,減額③ないし⑥については,Lから申出があり,かつ,当該各減額を原資とした値引き販売の実施により対象商品が処分されることがLの直接の利益となる場合に当たると認められる。
なお,Lの[役職]L1は,審査官に対し,相手方報告書ではLから提案した場合のみ値引き販売の実施に伴う費用の負担をした旨回答しているが,Lの方から金銭を支払うので値引き販売をしてほしいと提案するということではないこと,商品の売行きが悪く滞留在庫となっていると,被審人に対して新商品の導入を提案した際に利益が出ていないことを理由に受け入れてもらえないことがあるので,旧商品が利益を出しているという形を作って新商品を受け入れてもらうために,被審人が減額を実施するための原資として費用負担に応じることがあったことを供述している(査第38号証)が,上記L1の供述は,相手方意見書に添付された上記裏付け資料と符合しておらず,採用できない。したがって,減額③ないし⑥については,Lにあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為に当たるとは認められない。
(イ) 減額①及び②(改正法施行日前のもの)について
被審人は,減額①及び②について具体的な主張をしていない。
しかし,相手方報告書における前記(ア)の記載と相手方意見書(審第87号証)を総合すれば,減額①及び②は減額③ないし⑥と同様のものであったことが認められるから,減額①及び②についても,Lにあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為に当たるとは認められない。
(ウ) 以上によれば,被審人が,Lに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったとは認められない。
サ Mに対する行為
(ア) 濫用行為について
被審人は,減額①(改正法施行日以後のもの)は,対象となった商品([商品])の売買契約を締結した際に,Mとの合意により定めた条件(当該商品の1週間当たりの販売数が100個未満の場合にはMの費用負担により値引き販売をすること)に基づき,Mが値引き販売費用の一部を負担したものであると主張し,Mが作成した「平成22年4月14日請求のクレジットアローワンスにつきまして」と題する書面(審第88号証)には,それに沿う記載がある。
しかし,被審人は,被審人報告書(査第3号証の9)において,減額①について,商品を購入する前にMとの合意により定めた条件に従って行った値引き販売の実施に伴う費用負担である旨の回答をしていないし,減額①に関するクレジットアローワンスシート(査第147号証)にも事前の合意があったことをうかがわせる記載はない。そして,減額①を行うに当たり,被審人の担当者福井昭直がMの担当者M1(同人の氏名につき査第147号証)に送信した電子メール(査第148号証)には「[ブランド名]のセールスが非常にスローとなっております。添付の通りマークダウンをさせていただきたいのですが,サポートをお願いすることは可能でしょうか。」と記載されているところ,売行きが悪いことを報告して減額を申し入れているだけであって,事前に合意があったことをうかがわせる記載はなく,また,被審人が主張するように一定量の販売数を下回った場合にMの費用負担によって値引き販売をすることが条件となっていたのであれば,通常,その条件が充たされたことを示して,契約条件に従って値引き販売を始める旨連絡すると考えられるにもかかわらず,同メールでは被審人の主張する条件について何ら言及されておらず,むしろ,減額の可否を打診する形で記載されている。
また,上記福井は,審査官に対し,減額①は不稼働在庫の処分のためのサポートであると供述している(査第56号証)。
したがって,減額①は,事前の合意に基づくものであると認められず,むしろ,不稼働在庫であることを理由に被審人が値引き販売の実施に伴う費用負担を求めたものと認められるところ,同減額について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同減額については,Mにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
(イ) 優越的地位について
次に,被審人の取引上の地位がMに優越していたか否かについて検討する。
a 前記(ア)のとおり,被審人は,Mに対し,濫用行為として減額①を行ったことが認められる。そして,Mが上記濫用行為を受け入れたことについて特段の事情があったことはうかがわれない。
b ところで,証拠によれば,次の事情が認められる。
(a) 被審人の我が国に本店を置く子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者における地位について(前記?②の事情)
前記ア(イ)b(a)と同じ。
(b) 取引依存度等について(前記?①及び④の事情)
相手方報告書(査第30号証)によれば,Mの平成21年10月1日から始まり平成22年9月30日に終わる事業年度における被審人に対する年間売上高は約[金額]万円であり,被審人に対する取引依存度は約6.9パーセントで,取引依存度における被審人の順位は[取引先数]社中第1位であったことが認められ,また,Mは,被審人との取引額や取引数量が大きいこと,年間総売上高における被審人に対する取引依存度が高いことを認識していたことが認められるから,Mは被審人を主な取引先としている状況にあったことが認められる。
(c) 取引先変更可能性について(前記?③の事情)
相手方報告書(査第30号証)によれば,Mは,既に多くの玩具を取り扱う事業者と取引を行っていることから,被審人に代わる取引先を見付けること又は他の取引先との取引を増やすことで被審人との取引停止に伴う損失を補うことは困難であると認識していたことが認められる。
(d) その他取引の必要性,重要性に関する具体的事実(前記?④の事情)
相手方報告書(査第30号証)によれば,Mは,被審人から規格又は仕様の指示を受けて製造した商品を被審人に納入していたこと,被審人との取引額や取引数量が安定していると認識していたこと,被審人と取引している商品は自社にとって主力商品であると認識していたこと,被審人が玩具・子供用品の分野で有力な地位にあると認識していたこと及び被審人は消費者に人気のある小売業者であると認識していたことが認められる。
c したがって,前記aの被審人による濫用行為の内容と前記bの事情を総合すれば,Mにとって被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人がMにとって著しく不利益な要請等を行っても,Mがこれを受け入れざるを得ないような場合にあったと認められるから,被審人の取引上の地位はMに優越していたというべきである。
d これに対して,被審人は,Mの取り扱う玩具等は人気のキャラクター等によって他社との差別化が図られているからMとの取引を希望する卸売・小売店は多くいるものと考えられ,実際に幅広い業種の事業者と取引があることから,Mにとって被審人以外の取引先に変更できる可能性は高く,また,Mの被審人に対する取引依存度は低く,Mはオンラインショップも運営しているから,Mは被審人から著しく不利益な要請に応じざるを得ない立場にはないし,被審人との取引の継続が困難になることがMの事業経営上大きな支障を来すことにはならないと主張する。
しかし,Mが被審人に代わる取引先を見付けることが困難であると認識していたことは,前記b(c)で認定したとおりであり,また,Mの被審人に対する取引依存度は,同(b)のとおり約6.9パーセントであり,低くはない。そして,現に被審人はMに対して減額という著しく不利益な要請を行い,Mはこれを受け入れているのであり,これを受け入れたことについて前記aのとおり特段の事情があったことはうかがわれず,これと前記bの事情を総合すれば,被審人の取引上の地位はMに優越したと認めるのが相当であり,被審人の主張する上記事情があったとしても,この認定を覆すに足りるものではない。
e また,被審人は,玩具・子供用品の総合専門店として,幅広いジャンルの玩具の取扱いと人気の高いMのオリジナル商品の取扱いは重要であることから,被審人にとってM以外の取引先に変更できる可能性は低いと主張するが,上記事実を認めるに足りる証拠はない上,仮にMが被審人にとって必要かつ重要な取引先であったとしても,それだけで被審人がMに対し優越的地位にあるとの前記cの認定を覆すことはできない。
(ウ) 前記ア(ウ)のとおり,優越的地位にある行為者が取引の相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為であると認められる。
(エ) 以上によれば,減額①については,被審人が,Mに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものと認められる。
シ Nに対する行為
(ア) 濫用行為について
a 返品①ないし⑤について
(a) 返品③及び④(改正法施行日以後のもの)について
被審人は,返品③及び④について,その対象商品である季節商材の[ブランド名]の売買契約を締結した際に販売期間終了時に在庫として残っている商品の全てをNに返品するとの条件が付され,その条件に従って返品したものであると主張し,Nが作成した「RTV商品報告書」(審第80号証。以下,シの項において「相手方意見書」という。)には,それに沿う記載がある。
しかし,被審人報告書(査第3号証の8)及び相手方報告書(査第31号証)のいずれにおいても,上記商品について返品条件が付されていなかった旨回答されている。また,上記被審人報告書並びに返品③及び④の返品承認シート(査第151号証,第152号証)には,返品理由が順に「商品入れ替えのため」,「商品入替えの為」と記載されており,被審人の主張するような条件が付されていたことはうかがえない。
そうすると,相手方意見書のうち返品③及び④に関する部分は,これを裏付ける証拠はなく,かえって,これに反する証拠があるから,採用できない。
そして,他に,返品③及び④について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同各返品については,Nにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
(b) 返品⑤(改正法施行日以後のもの)について
相手方意見書には,返品⑤の対象商品である[ブランド名]は,当初は内容量35ミリリットルであった(以下,シの項においてこの内容量のものを「旧商品」という。)が,その後,内容量を38ミリリットルとして販売されることとなった(以下,シの項においてこの内容量のものを「新商品」という。)こと,Nは,[ブランド名]の製造業者(Q株式会社)から,旧商品を新商品に差し替えることを依頼されるとともに,同社に対して旧商品を返品することについて承諾を得たこと,Nは,被審人に対し,旧商品の返品を依頼するとともに,新商品の導入を提案したことが記載されている。
しかし,Nの担当者N1から被審人の担当者下方一功に送信された電子メール(査第154号証)には「以前電話でお伝えしたときには10%増量はスポットということで導入をみおくりましたが,やはり増量してから減らすことはできないということで継続になるそうです。今週のPOが出ていますので追加JAN登録で自然切り替えできませんでしょうか。」と記載されており,Nが「自然切り替え」,すなわち,旧商品と新商品を併売して自然に旧商品を無くすことを希望していたことが認められる。この点について,被審人は,「今週のPOが出ていますので追加JAN登録で自然切り替えできませんでしょうか」の意味は,旧商品を対象とする既に発行された今週分のPO(発注書)を新商品のPOとして取り扱うことは可能かとの意味と理解できるから,上記電子メールの記載はNが旧商品と新商品の併売を希望していたことを示すものではないと主張するが,旧商品は既にJAN登録(「JAN」とはいわゆるバーコードとして商品ごとに付される日本の共通商品コードのことである。)されていたはずであるから,「追加JAN登録」とは旧商品に加えて新商品についてもJAN登録することを意味すると解されるのであって,上記電子メールのその前後の記載も併せてみれば,上記N1が,旧商品に加えて新商品についてもJAN登録した上で,旧商品と新商品を併売して自然に旧商品を無くすことを希望していたことは明らかである。
したがって,Nが被審人に対し旧商品の返品を依頼したとは認められない。
そして,他に,返品⑤について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同返品については,Nにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
(c) 返品①及び②(改正法施行日前のもの)について
被審人は,返品①及び②について具体的な主張をしていない。被審人報告書(査第3号証の8)並びに返品①及び②の返品承認シート(査第149号証,第150号証)によれば,被審人は対象商品の経年劣化を理由に同各返品を行ったことが認められるところ,同各返品について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同各返品については,Nにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
b 減額①及び②(改正法施行日前のもの)について
被審人は,減額①及び②について具体的な主張をしていないところ,同各減額について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同各減額については,Nにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
(イ) 優越的地位について
次に,被審人の取引上の地位がNに優越していたか否かについて検討する。
a 前記(ア)のとおり,被審人は,Nに対し,濫用行為として返品①ないし⑤並びに減額①及び②を行ったことが認められる。そして,Nが上記濫用行為を受け入れたことについて特段の事情があったことはうかがわれない。
b ところで,証拠によれば,次の事情が認められる。
(a) 被審人の我が国に本店を置く子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者における地位について(前記?②の事情)
前記ア(イ)b(a)と同じ。
(b) 取引依存度等について(前記?①及び④の事情)
相手方報告書(査第31号証)によれば,Nの平成20年10月1日に始まり平成21年9月30日に終わる事業年度における被審人に対する年間売上高は約[金額]万円であり,被審人に対する取引依存度は約48.3パーセントで,取引依存度における被審人の順位は約[取引先数]社中第1位であったこと,同年10月1日に始まり平成22年7月31日に終わる事業年度における被審人に対する年間売上高は約[金額]万円であり,被審人に対する取引依存度は約49.6パーセントで,取引依存度における被審人の順位は約[取引先数]社中第1位であったことが認められ,また,Nは,被審人との取引額や取引数量が大きいこと,年間総売上高における被審人に対する取引依存度が高いことを認識していたことが認められるから,Nは被審人を主な取引先としている状況にあったことが認められる。
(c) 取引先変更可能性について(前記?③の事情)
相手方報告書(査第31号証)によれば,Nは,被審人に代わる取引先を見付けること又は他の取引先との取引を増やすことで被審人との取引停止に伴う損失を補うことは困難であると認識していたことが認められる。
(d) その他取引の必要性,重要性に関する具体的事実(前記?④の事情)
相手方報告書(査第31号証)によれば,Nは,被審人から規格又は仕様の指示を受けて製造した商品を被審人に納入していたこと,被審人との取引額や取引数量が安定していると認識していたこと及び被審人と取引することで会社としての信用が確保されると認識していたことが認められる。
c したがって,前記aの被審人による濫用行為の内容と前記bの事情を総合すれば,Nにとって被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人がNにとって著しく不利益な要請等を行っても,Nがこれを受け入れざるを得ないような場合にあったと認められるから,被審人の取引上の地位はNに優越していたというべきである。
d これに対して,被審人は,玩具業界における卸売業者であるNの地位は確立されており,Nにとって被審人以外の取引先に変更できる可能性は十分あるから,Nが被審人からの著しく不利益な要請に応じざるを得ない立場にはないし,被審人との取引の継続が困難になることがNの事業経営上大きな支障を来す可能性は低いと主張する。
しかし,Nが被審人に代わる取引先を見付けることが困難であると認識していたことは,前記b(c)で認定したとおりであるし,現に被審人はNに対して返品及び減額という濫用行為を行い,Nはこれを受け入れているのであり,これを受け入れたことについて前記aのとおり特段の事情があったことはうかがわれず,これと前記bの事情を総合すれば,被審人の取引上の地位はNに優越していたと認めるのが相当である。
e また,被審人は,玩具業界において卸売業者であるNの地位が確立されていることや被審人とNとの取引開始の経緯(被審人は,日本に進出した当時,株式会社R〔以下「R」という。〕の製品の取扱いを希望したが,製造業者であるRとの直接取引は認められず,また,その当時被審人の信用は低く,被審人との取引のために卸売業者となってくれる業者を見付けることは困難であったが,Nが被審人のためにRとの取引のための卸売業者となってくれた。)からすると,被審人にとってN以外の取引先に変更できる可能性は低いと主張するが,上記事実を認めるに足りる証拠はない上,仮にNが被審人にとって必要かつ重要な取引先であったとしても,それだけで被審人がNに対し優越的地位にあるとの前記cの認定を覆すことはできない。
(ウ) 前記ア(ウ)のとおり,優越的地位にある行為者が取引の相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為であると認められる。
(エ) 以上によれば,返品①ないし⑤並びに減額①及び②については,被審人が,Nに対し,その地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものと認められる。
ス Oに対する行為
(ア) 濫用行為について
a 返品①及び②(改正法施行日以後のもの)について
Oが作成した「返品依頼についての経緯書」(審第78号証)によれば,返品①及び②は,Oが,[ブランド名]ブランドの[商品]をリニューアルするのに伴い,新商品の販売促進,商品の入替えによる被審人の売場の新鮮なイメージの打ち出し,旧商品が店頭に残ることにより商品のイメージが悪くなることの回避などを図ることを目的として,被審人に対し旧商品の返品を申し出たこと,その結果,Oは,旧商品の返品を受けて新商品を被審人に対し継続的に販売したことにより被審人に対する上記商品の販売実績が上がったこと,Oは,旧商品についても,他の取引先に販売したり直営店で販売したりすることにより全て売り切ったことが認められる。
なお,相手方報告書(査第32号証の2)には,被審人から具体的な制裁や示唆を受けたことはないが,要請を断れば被審人との取引量を減らされるなどの制裁を受ける可能性があると判断したため,一部の返品の要請に応じたとの回答が記載されているが,相手方報告書には被審人から返品を要請されたものとして返品①及び②は記載されておらず,上記理由は返品①及び②に関するものとは認められないから,上記認定を妨げるものではない。
また,返品①及び②の返品承認シート(査第158号証,第159号証)には返品理由が「取扱い終了の為」と記載されているが,これがOから返品の申出があったことと矛盾するものとは認められない。
そうすると,返品①及び②については,Oから申出があり,かつ,Oが当該返品の対象商品を処分することがOの直接の利益となる場合に当たると認められる。
したがって,返品①及び②については,Oにあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為に当たるとは認められない。
b 減額①及び②(改正法施行日前のもの)について
被審人は,減額①及び②について具体的な主張をしていないところ,同各減額について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同各減額については,Oにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
(イ) 優越的地位について
次に,被審人の取引上の地位がOに優越していたか否かについて検討する。
a 前記(ア)のとおり,被審人は,Oに対し,濫用行為として減額①及び②を行ったことが認められる。そして,Oが上記濫用行為を受け入れたことについて特段の事情があったことはうかがわれない。
b ところで,証拠によれば,次の事情が認められる。
(a) 被審人の我が国に本店を置く子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者における地位について(前記?②の事情)
前記ア(イ)b(a)と同じ。
(b) 取引依存度等について(前記?①及び④の事情)
相手方報告書(査第32号証)によれば,Oの平成21年3月1日から始まり平成22年2月28日に終わる事業年度における被審人に対する年間売上高は約[金額]万円であり,被審人に対する取引依存度は約12.8パーセントで,取引依存度における被審人の順位は約[取引先数]社中第1位であったことが認められ,また,Oは,被審人との取引額や取引数量が大きいこと,年間総売上高における被審人に対する取引依存度が高いことを認識していたことが認められるから,Oは被審人を主な取引先としている状況にあったことが認められる。
(c) 取引先変更可能性について(前記?③の事情)
相手方報告書(査第32号証)によれば,Oは,被審人に対する取引依存度が高いことから,被審人に代わる取引先を見付けること又は他の取引先との取引を増やすことで被審人との取引停止に伴う損失を補うことは困難であると認識していたことが認められる。
(d) その他取引の必要性,重要性に関する具体的事実(前記?④の事情)
相手方報告書(査第32号証)によれば,Oは,被審人から規格又は仕様の指示を受けて製造した商品を被審人に納入していたこと,被審人との取引額や取引数量が安定していると認識していたこと,被審人と取引している商品は自社にとって主力商品であると認識していたこと,被審人が玩具・子供用品の分野で有力な地位にあると認識していたこと及び被審人は消費者に人気がある小売業者であると認識していたことが認められる。
c したがって,前記aの被審人による濫用行為の内容と前記bの事情を総合すれば,Oにとって被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人がOにとって著しく不利益な要請等を行っても,Oがこれを受け入れざるを得ないような場合にあったと認められるから,被審人の取引上の地位はOに優越していたというべきである。
d これに対して,被審人は,Oはロングセラーの[商品]や人気製品を取り扱っていることから同社との取引を希望する卸売・小売店は多いものと考えられ,現に同社は様々な業種の事業者と取引があることから,Oにとって被審人以外の取引先に変更できる可能性は高く,また,Oの被審人に対する取引依存度は低く,Oは近年直営店を続々と開店し,オンラインショップも運営しているから,Oは被審人から著しく不利益な要請に応じざるを得ない立場にはないし,被審人との取引の継続が困難になることがOの事業経営上大きな支障を来すことにはならないと主張する。
しかし,Oが被審人に代わる取引先を見付けることが困難であると認識していたことは,前記b(c)で認定したとおりであり,また,Oの被審人に対する取引依存度は,同(b)のとおり約12.8パーセントであり,低くはない。そして,現に被審人はOに対して減額という著しく不利益な要請を行い,Oはこれを受け入れているのであり,これを受け入れたことについて前記aのとおり特段の事情があったことはうかがわれず,これと前記bの事情を総合すれば,被審人の取引上の地位はOに優越していたと認めるのが相当であり,被審人の主張する上記事情があったとしても,この認定を覆すに足りるものではない。
e また,被審人は,ベビー総合専門店と宣伝する「ベビーザらス」店舗及び玩具・子供用品店と宣伝する「トイザらス」店舗を保有する被審人としては,Oが人気製品を取り扱っていることから,Oと取引する必要性は極めて高く,被審人にとってO以外の取引先に変更できる可能性は極めて低いと主張するが,上記事実を認めるに足りる証拠はない上,仮にOが被審人にとって必要かつ重要な取引先であったとしても,それだけで被審人がOに対し優越的地位にあるとの前記cの認定を覆すことはできない。
(ウ) 前記ア(ウ)のとおり,優越的地位にある行為者が取引の相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為であると認められる。
(エ) 以上によれば,返品①及び②については,被審人が,Oに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものとは認められないが,減額①及び②については,被審人が,Oに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものと認められる。
セ Aに対する行為
(ア) 濫用行為について
a 減額③(改正法施行日以後のもの)について
相手方報告書(査第33号証の2)には,被審人から値引き販売の実施に伴う費用負担の要請を受けたものとして減額③を含む事例が記載され,Aが上記要請に応じた理由については,「日本トイザらスのバイヤー等から,要請を断れば同社との取引を打ち切る,取引量を減らす,新商品の採用を見送る,同社が発行する広告チラシへの商品の掲載を見送るなどの制裁を示唆されたため」,「他の納入業者も同様の要請を受け,要請に応じていることから,自社のみ断ることはできなかったため」,「自社商品拡販の為」と記載されている。
また,減額③の対象商品は全て「[ブランド名]」である(査第3号証の9)が,減額③が行われた当時,Aの[部署]において同社が製造する「[ブランド名]」等の営業を担当していたA1は,審査官に対し,被審人は値引き販売をする際,Aを含めた納入業者から値引きの填補分として費用負担を要請しており,Aも当該要請に従って費用負担をしていたこと,Aが当該要請に応じたのは,被審人がAにとって重要な取引先であり,当該要請を断ると取引に影響すると考えているからであり,実際にも被審人のバイヤーから,当該要請を断ると購入量を減らす等のペナルティを示唆されたこともあり,当該要請に応じざるを得なかったこと,また,競合する他の納入業者も同様の要請に応じて費用を負担していたので,Aだけ断るということはできなかったことなどを供述している(査第34号証)。上記A1の供述は,減額③の対象商品に関する営業を行っていた担当者の具体的な供述であり,相手方報告書の内容とも整合しており,信用することができる。
したがって,これらの証拠によれば,減額③については,被審人がAに対し正当な理由がないのに値引き販売の実施に伴う費用負担を求め,同社は今後の取引に与える影響を懸念してそれを受け入れざるを得なかったことが認められる。
なお,Aが作成した「日本トイザらス様商品処分協賛費について」と題する書面(審第84号証。以下,セの項において「相手方意見書」という。)には,減額③について,新商品を発売日に合わせて被審人の店舗において販売するために,旧商品の早期売り切りを目的として,値引き販売費用の一部負担をAが提案したことが記載され,Aの[役職]であるA2も参考人審尋においてそれと同様の陳述をするが,相手方報告書(査第33号証の2)の内容及び上記A1の供述に照らし採用できない。
したがって,減額③については,Aにあらかじめ計算できない不利益を与えたものであり,濫用行為に当たると認められる。
b 減額②(改正法施行日以後のもの)について
相手方報告書(査第33号証の2)には,Aが被審人から値引き販売の実施に伴う費用負担を要請されたものとして減額②が記載されておらず,これと相手方意見書及び前記A2の参考人審尋における陳述を総合すれば,減額②については,Aが,[商品]シリーズについて販売不振の旧商品に代わり新商品を販売するに当たり,それらの商品が店頭でのデモンストレーションが必要な商品であったことから,旧商品を早期に解消し,店頭で新商品のデモンストレーションを行うことによって新商品の販売を促進することを目的として,被審人に対し値引き販売費用の一部負担を提案したこと,その結果,旧商品の値引き販売が実施されて旧商品の消化が促進されるとともに,Aの被審人に対する上記シリーズの販売実績が上がったことが認められる。
なお,減額②のクレジットアローワンスシート(査第163号証)には「マークダウン補填として」との記載があるが,これがAから値引き販売費用の一部負担の申出があったことと矛盾するものとは認められない。
そうすると,減額②については,Aから申出があり,かつ,当該減額を原資とした値引き販売の実施により旧商品が処分されることがAの直接の利益となる場合に当たると認められる。
したがって,減額②については,Aにあらかじめ計算できない不利益を与えるものではなく,濫用行為に当たるとは認められない。
c 減額①(改正法施行日前のもの)について
被審人は,減額①について具体的な主張をしていないところ,同減額について例外事由に当たるなどの特段の事情はうかがわれないから,同減額については,Aにあらかじめ計算できない不利益を与えたものと推認され,濫用行為に当たると認められる。
(イ) 次に,被審人の取引上の地位がAに優越していたか否かについて検討する。
a 前記(ア)のとおり,被審人は,Aに対し,濫用行為として減額①及び③を行ったことが認められる。そして,Aが上記濫用行為を受け入れたことについて特段の事情があったことはうかがわれない。
b ところで,証拠によれば,次の事情が認められる。
(a) 被審人の我が国に本店を置く子供・ベビー用品全般を専門的に取り扱う小売業者における地位について(前記?②の事情)
前記ア(イ)b(a)と同じ。
(b) 取引依存度等について(前記?①及び④の事情)
相手方報告書(査第33号証)及び前記A1の供述調書(査第34号証)によれば,Aの平成21年6月1日から始まり平成22年5月31日に終わる事業年度における被審人に対する取引依存度は約2.2パーセントであるものの,取引依存度における被審人の順位は[取引先数]社中第10位と比較的高く,被審人に対する年間売上高も約[金額]万円であったこと,Aが主力商品であると認識していた自社で製造するオリジナル商品に限ってみた場合の被審人に対する取引依存度は約20パーセントであったこと,Aの被審人に対する売上げのほとんどがオリジナル商品であったことが認められ,また,Aは,被審人との取引額や取引数量が大きいこと,年間総売上高における被審人に対する取引依存度が高く,オリジナル商品についても取引依存度が高いことを認識していたことが認められるから,Aは被審人を主な取引先としている状況にあったことが認められる。
(c) 取引先変更可能性について(前記?③の事情)
相手方報告書(査第33号証)によれば,Aは,オリジナル商品における被審人に対する取引依存度が高く,被審人との取引がなくなるとオリジナル商品の売上げを確保することが厳しくなることから,被審人に代わる取引先を見付けること又は他の取引先との取引を増やすことで被審人との取引停止に伴う損失を補うことは困難であると認識していたことが認められる。
(d) その他取引の必要性,重要性に関する具体的事情(前記?④の事情)
相手方報告書(査第33号証)及び前記A1の供述調書(査第34号証)によれば,Aは,被審人から規格又は仕様の指示を受けて製造した商品を被審人に納入していたこと,被審人との取引額や取引数量が安定していると認識していたこと,被審人と取引している商品は自社にとって主力商品であると認識していたこと及び被審人との取引で大きな割合を占めるオリジナル商品の利益率が非オリジナル商品よりも高かったことが認められる。
c したがって,前記aの被審人による濫用行為の内容と前記bの事情を総合すれば,Aにとって被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人がAにとって著しく不利益な要請等を行っても,Aがこれを受け入れざるを得ないような場合にあったと認められるから,被審人の取引上の地位はAに優越していたというべきである。
d これに対して,被審人は,Aの[商品]は人気商品でありその取扱いを希望する卸売・小売店は多数いると考えられることやAには幅広く多数の取引先があることからすれば,Aにとって被審人以外の取引先に変更できる可能性は高く,また,Aの被審人に対する取引依存度は極めて低いから,Aが被審人からの著しく不利益な要請に応じざるを得ない立場にはないし,被審人との取引の継続が困難になることがAの事業経営上大きな支障を来すこともないと主張する。
しかし,Aが被審人に代わる取引先を見付けることが困難であると認識していたことは,前記b(c)で認定したとおりであるし,現に被審人はAに対して減額という著しく不利益な要請を行い,Aはこれを受け入れているのであり,これを受け入れたことについて前記aのとおり特段の事情があったことはうかがわれず,これと前記bの事情を総合すれば,被審人の取引上の地位はAに優越していたと認めるのが相当であり,被審人の主張する上記事情があったとしても,この認定を覆すに足りるものではない。
e また,被審人は,玩具・子供用品の総合専門店として,複数の[商品]を含む玩具を取り扱うことが重要であり,Aの[商品]を取り扱うことは必須であると考えられるため,被審人にとってA以外の取引先に変更できる可能性はないと主張するが,上記事実を認めるに足りる証拠はない上,仮にAが被審人にとって必要かつ重要な取引先であったとしても,それだけで被審人がAに対し優越的地位にあるとの前記cの認定を覆すことはできない。
(ウ) 前記ア(ウ)のとおり,優越的地位にある行為者が取引の相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為であると認められる。
(エ) 以上によれば,減額②については,被審人が,Aに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものとは認められないが,減額①及び③については,被審人が,Aに対し,その取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものと認められる。
ソ ところで,証拠(査第5号証ないし第12号証,第39号証ないし第78号証)によれば,①被審人においては,自社の利益を確保するため,会社の方針として,従来から,売行きが悪く在庫となった商品や販売期間中に売れ残ったことにより在庫となった季節商品などの売上不振商品等について,当該売上不振商品等を売り切ることを目的として値引き販売を実施した場合には,値引きによる利益の損失を補填するため,当該売上不振商品等を納入した納入業者から値引き相当額の全部又は一部を収受することとし,また,当該売上不振商品等の納入業者に対して返品を行うこととしていたこと,②被審人は,低迷している業績を回復させるために,被審人のメルツ社長が平成20年4月に社長に就任した直後に開催された取締役会において,被審人の戦略のうち,被審人の利益を改善するため,売上不振商品等については,商品群及び店舗ごとに改善を図ることや,業務利益改善方針の一環として,売上不振商品等を生じさせないよう適正な在庫数の確保に努めること,ビジネスの効率性を評価して販売管理費を削減することといった方針を承認可決したこと,③被審人は,このような方針に基づき,被審人の役員とバイヤーが出席する社内会議において,バイヤーに対し,売上不振商品等の値引き販売の実施に伴い納入業者から収受する予定額を報告させ,また,売上不振商品等の返品における具体的な交渉方法など個別具体的に指示を行い,行動指針を徹底するための成績評価指標等を定めるほか,被審人の役員との検討結果を踏まえて,マーチャンダイズ本部(被審人の店舗で販売する商品の仕入業務全般を統括する部門)の各商品部の責任者が売上不振商品等の値引き販売の実施に伴う割引相当額の全部又は一部の収受に係るクレジットアローワンスシート及び売上不振商品等の返品に係る返品承認シートの記載方法をバイヤーに対して指示していたことが認められるから,被審人は,自社の利益を確保すること等を目的として,組織的かつ計画的に一連の行為として本件行為(ただし,前記アないしセにおいて被審人が取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったことが否定されたものを除く。以下「本件濫用行為」という。)を行ったものと認められる。
2 争点2(本件行為又は本件返品及び本件減額に公正な競争を阻害するおそれがあるか否か)について
? 前記1?のとおり,独占禁止法第19条において優越的地位の濫用行為が規制されているのは,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,取引の相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となるおそれがある一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利になるおそれがあり,このような行為は公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)があるからである。
そして,どのような場合に公正競争阻害性があると認められるのかについては,問題となる不利益の程度,行為の広がり等を考慮して,個別の事案ごとに判断すべきである(ガイドライン第1の1参照)。
? 被審人は,既に認定したとおり,特定納入業者のうち115社(本件排除措置命令が認定した本件違反行為の相手方である特定納入業者〔117社〕のうちD及びLを除いた事業者。以下「115社」という。)という多数の取引の相手方に対して,遅くとも平成21年1月6日から平成23年1月31日までの2年以上もの期間にわたり,被審人の組織的かつ計画的に一連の行為として本件濫用行為を行ったものであり,これにより,115社にあらかじめ計算できない不利益を与え,115社の自由かつ自主的な判断による取引が阻害されたものであり,これは,取りも直さず,115社が,返品や減額によって,その競争者との関係において競争上不利となる一方で,被審人が,当該返品や減額によって,その競争者との競争において競争上有利となるおそれを生じさせたものであるから,その点で既に本件濫用行為には公正競争阻害性があることが認められる。
? なお,被審人は,その業界の慣行とされている返品や値引き販売の実施に伴う費用負担としての減額であれば,取引の相手方がその競争者との関係において競争上不利となるおそれも,行為者がその競争者との関係で競争上有利となるおそれもないから,取引の相手方に返品等を行うことによって,必然的に取引の相手方がその競争者との関係において競争上不利となり,行為者がその競争者との関係で競争上有利となるおそれがあるということはできないと主張する。
しかし,優越的地位の濫用の成否の判断に際して考慮されるべきは「正常な商慣習」であり,公正な競争秩序の維持・促進の観点から是認されないものは「正常な商慣習」とは認められないから,仮に本件濫用行為が現に存在する商慣習に合致しているとしても,それにより優越的地位の濫用が正当化されることはない(ガイドライン第3参照)。また,査第167号証及び第168号証からすれば,子供・ベビー用品を取り扱う小売業者において,納入業者の責めに帰すべき事由のない返品や減額が行われることが業界の慣行であると認めることはできない。
したがって,被審人の上記主張は採用できない。
3 争点3(本件における違反行為期間はどのように認定すべきか)について
? 独占禁止法第20条の6は,「事業者が,第19条の規定に違反する行為(第2条第9項第5号に該当するものであって,継続してするものに限る。)をしたときは,・・・当該事業者に対し,当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間(・・・)における,当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が商品又は役務の供給を受ける相手方に対するものである場合は当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した購入額とし,当該行為の相手方が複数ある場合は当該行為のそれぞれの相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額又は購入額の合計額とする。)に100分の1を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。」と規定する。
? ところで,前述したとおり,独占禁止法第19条において優越的地位の濫用行為が規制されているのは,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,取引の相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となるおそれがある一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利になるおそれがあり,このような行為は公正な競争を阻害するおそれがあるからであるが,上記のような優越的地位の濫用規制の趣旨に照らせば,独占禁止法第2条第9項第5号又は旧一般指定第14項(第1号ないし第4号)に該当するような濫用行為は,これが複数みられるとしても,また,複数の取引先に対して行われたものであるとしても,それが組織的,計画的に一連のものとして実行されているなど,それらの行為を行為者の優越的地位の濫用として一体として評価できる場合には,独占禁止法上一つの優越的地位の濫用として規制されることになり,課徴金算定の基礎となる違反行為期間についても,それを前提にして,濫用行為が最初に行われた日を「当該行為をした日」とし,濫用行為がなくなったと認められる日を「当該行為がなくなる日」とするのが相当である。
本件においては,前記2?のとおり,被審人は,組織的かつ計画的に一連のものとして本件濫用行為を行ったものであり,本件濫用行為は,優越的地位の濫用として一体として評価できるから,独占禁止法上一つの優越的地位の濫用として規制されることになる。
したがって,本件の違反行為期間は,本件排除措置命令による違反行為の認定を基に本件課徴金納付命令が認定したとおり,平成21年1月6日から平成23年1月31日までということになる(前記1?アないしセのとおり,一部の返品及び減額については,被審人が取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行ったものとは認められないが,それらの返品及び減額が行われた時期からすれば,本件の違反行為期間は本件課徴金納付命令が認定した違反行為期間と変わらない。)。
なお,被審人は上記違反行為期間に本件濫用行為を繰り返し行っていたものであるから,これが継続してするものであることは明らかである。
? 被審人の主張について
ア 被審人は,独占禁止法第20条の6の規定振りからすれば,違反行為期間は取引の相手方ごとに算定することが前提となっていると主張する。
しかし,独占禁止法第20条の6の「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」における「当該行為」とは,違反行為,すなわち,「第19条の規定に違反する行為(第2条第9項第5号に該当するものであって,継続してするものに限る。)」を指すことが明らかである。したがって,前記?のとおり,本件濫用行為は一つの優越的地位の濫用として規制されることになるから,違反行為期間も取引の相手方ごとに算定されるのではなく,優越的地位の濫用に該当する行為が最初に行われた日から,これがなくなったと認められる日までとすべきことになる。
したがって,被審人の上記主張は採用できない。
イ また,被審人は,違反行為の相手方ごとに2回以上の違反行為が存在しなければ違反行為期間を認定できない,あるいは,違反行為と違反行為との間に同類型の合法行為がある場合には,違反行為の継続性は中断されると主張する。
しかし,既に述べたとおり,本件濫用行為は一つの優越的地位の濫用として規制されることになるから,取引の相手方ごとに複数回の濫用行為がなかったとしても,また,濫用行為と濫用行為との間に同類型の合法行為があったとしても,濫用行為がなくなったと認められる日までは継続性の要件に欠けるところはないというべきである。
したがって,被審人の上記主張は採用できない。
4 結論
? 本件排除措置命令について
前記第2の1のとおり,公正取引委員会は,本件排除措置命令において,被審人が特定納入業者(117社)に対し本件違反行為を行ったとして排除措置を命じたものであるが,前記1のとおり,被審人が,D及びLに対し,自己の取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行った事実は認められない。
したがって,本件排除措置命令のうち,上記2社に関する部分は取り消すべきこととなる。
? 本件課徴金納付命令について
ア 前記第2の2のとおり,公正取引委員会は,本件課徴金納付命令において,被審人に対し,本件違反行為のうち改正法の施行日である平成22年1月1日以後に係るものについて,被審人と61社それぞれとの間における購入額を前提に課徴金の納付を命じたが,前記1のとおり,同日以後,被審人がH,I,J,B,K,D,L及びOに対して,自己の取引上の地位が優越していることを利用して濫用行為を行った事実は認められない。
イ 違反行為期間のうち平成22年1月1日以後の被審人の61社それぞれとの間における私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号)第30条第2項の規定に基づき算定した購入額は,別表3の「購入額」欄記載のとおりであり(争いがない。),その合計額は369億866万5689円であるところ,そのうち前記アの8社を除いた53社からの購入額の合計は222億1860万6344円である。
ウ したがって,被審人が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,独占禁止法第20条の6の規定により,前記イの222億1860万6344円に100分の1を乗じて得た額から,同法第20条の7において準用する同法第7条の2第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された2億2218万円となる。
エ よって,本件課徴金納付命令のうち,2億2218万円を超えて納付を命じた部分は取り消すべきこととなる。
第7 法令の適用
以上によれば,被審人の本件審判請求は,本件排除措置命令のうち別表1の番号欄9及び10記載の各事業者(D及びL)に関する部分の取消し並びに本件課徴金納付命令のうち2億2218万円を超える部分の取消しを求める限度で理由があり,その余はいずれも理由がないから,独占禁止法第66条第3項及び第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当である。
平成27年3月26日
公正取引委員会事務総局
審判長審判官 伊 藤 繁
審判官 西 川 康 一
審判官多田尚史は転任のため署名押印できない。
審判長審判官 伊 藤 繁
※別紙及び別表1ないし5は省略。