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サムスン・エスディーアイ(マレーシア)・ビーイーアールエイチエーディーによる審決取消請求事件

独禁法7条の2
東京高等裁判所

平成27年(行ケ)第37号

判決

平成28年1月29日

マレーシア ネゲリ センビラン ダルール クサス 71450 スンガイ ガドゥッ カワサン ペルインドストリアン トゥアンク ジャファー ロット 635&660

(登録上の本店所在地 ネゲリ センビラン ダルール クサス セレンバン 70200 オークランドインダストリアルパーク ジャランハルアン1 275 リアン セン コート E室)

原告 サムスン・エスディーアイ(マレーシア)・ビーイーアールエイチエーディー

同代表者取締役 イ ビョンリャン

同訴訟代理人弁護士 内田 晴康

同 伊藤 憲二

同 関戸 麦

同 宇都宮 秀樹

同 池田 毅

同 竹腰 沙織

東京都千代田区霞が関一丁目1番1号

被告 公正取引委員会

同代表者委員長 杉本 和行

同指定代理人 岩下 生知

同 榎本 勤也

同 多賀井 満理

同 山崎 利恵

同 関尾 順市

主文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

 公正取引委員会平成22年(判)第7号について,被告が平成27年5月22日付けで原告に対してした審決(以下「本件審決」という。)を取り消す。

第2 事案の概要

1 事案の骨子
 被告は,原告が,別紙1記載の事業者と共同して,おおむね四半期ごとに次の四半期における別紙2記載の事業者(以下「我が国ブラウン管テレビ製造販売業者」という。)が同別紙の「東南アジア地域の製造子会社,関連会社又は製造委託先会社の所在国」欄記載の国に所在する当該事業者の製造子会社,関連会社又は製造委託先会社(以下「現地製造子会社等」という。)に購入させる別紙3記載のテレビ用ブラウン管(以下「特定ブラウン管」という。)の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨を合意することにより,公共の利益に反して,特定ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「独占禁止法」という。)2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法3条の規定に違反するものであり,かつ,独占禁止法7条の2第1項1号に規定する商品の対価に係るものであるとして,原告に対して,平成22年2月12日,13億7362万円の課徴金の納付を命じた(平成22年(納)第23号。以下,この処分を「本件課徴金納付命令」という。)。
 被告は,同日,独占禁止法70条の18の規定に基づき,本件課徴金納付命令に係る課徴金納付命令書の謄本(以下,この命令書を「本件課徴金納付命令書」といい,その謄本を「本件課徴金納付命令書謄本」という。)につき公示送達の手続をした(以下,この送達を「本件公示送達」という。)。
 なお,被告は,平成21年10月7日,本件課徴金納付命令と同一の事実に基づき,課徴金13億7362万円を平成22年1月8日までに納付するよう命ずる旨の原告を名宛人にした課徴金納付命令書(平成21年(納)第65号。以下「平成21年10月7日付け課徴金納付命令書」といい,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書による命令を「平成21年10月7日付け課徴金納付命令」という。)を作成したが,原告に対し,その謄本を送達することができなかった。
 これに対し,原告は,本件課徴金納付命令に関する手続は違法である上,本件については独占禁止法が適用されないなどと主張して,平成22年5月24日,本件課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求をし(以下「本件審判請求」といい,この審判手続を「本件審判手続」という。),被告は,審理の上,平成27年5月22日,本件審判請求を棄却する旨の本件審決をした。
 本件は,原告が,本件課徴金納付命令に関する手続は違法である上,本件については独占禁止法が適用されないから,「審決が憲法その他の法令に違反する場合」(独占禁止法82条1項2号)に当たり,また,独占禁止法の適用があるとしても,我が国に所在する需要者をめぐって行われる競争に関する一定の取引分野における競争の実質的制限を認定する実質的証拠を欠いているから,「審決の基礎となった事実を立証する実質的な証拠がない場合」(同項1号)に当たると主張して,本件審決の取消しを求めた事案である。

2 前提事実(本件審決で認定された事実で原告が実質的な証拠の欠歓を主張していない事実及び本件審決記録から容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告及びサムスンSDIの概要
(ア) サムスンSDIは,大韓民国に本店を置く事業者である。
(イ) 原告は,サムスンSDIの子会社であり,肩書地に本店を置き,テレビ用ブラウン管の製造販売業を営む者である。
イ 原告及びサムスンSDI以外のテレビ用ブラウン管製造販売業者等の概要
(ア) MT映像ディスプレイは,大阪府門真市に本店を置く事業者である。
 MT映像ディスプレイ・インドネシアは,MT映像ディスプレイの子会社であり,インドネシア共和国に本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
 MT映像ディスプレイ・マレーシアは,MT映像ディスプレイの子会社であり,マレーシアに本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
 MT映像ディスプレイ・タイは,MT映像ディスプレイの子会社であり,タイ王国に本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
(イ) 中華映管は,台湾に本店を置く事業者である。
 中華映管マレーシアは,中華映管の子会社であり,マレーシアに本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
(ウ) LGフィリップス・ディスプレイズは,大韓民国に本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
 LPディスプレイズ・インドネシアは,LGフィリップス・ディスプレイズの関連会社であり,インドネシア共和国に本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
 なお,LPディスプレイズ・インドネシアの役員や従業員のほとんどはLGフィリップス・ディスプレイズから派遣されていた。
(エ) タイCRTは,タイ王国に本店を置き,少なくとも後記(4)の日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた者である。
ウ 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の概要
我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,別紙2記載のとおり,我が国に本店を置き,東南アジア地域に製造子会社,関連会社又は製造委託先会社を有して,少なくとも後記(4)の日までブラウン管テレビの製造販売業を営んでいた者である。
(2) テレビ用ブラウン管に関する取引について
ア 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,それぞれ,サムスンSDI,MT映像ディスプレイ,中華映管,LGフィリップス・ディスプレイズ及びタイCRT(以下「サムスンSDIほか4社」という。)ほかのテレビ用ブラウン管製造販売業者の中から1又は複数の事業者を選定し,当該事業者との間で,現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管の仕様のほか,おおむね1年ごとの購入予定数量の大枠やおおむね四半期ごとの購入価格及び購入数量について交渉していた(以下,この我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による選定及び交渉のことを「本件交渉等」という。なお,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の本件交渉等への関与の程度及び内容については争いがある。)。
 なお,本件交渉等は,サムスンSDIが選定された場合には原告が,MT映像ディスプレイが選定された場合にはMT映像ディスプレイ・インドネシア,MT映像ディスプレイ・マレーシア及びMT映像ディスプレイ・タイ(以下「MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社」という。)が,中華映管が選定された場合には中華映管マレーシアが,LGフィリップス・ディスプレイズが選定された場合には同社及びLPディスプレイズ・インドネシアが,タイCRTが選定された場合には同社が,それぞれ現地製造子会社等にテレビ用ブラウン管を販売することを前提として行われていた。
イ 現地製造子会社等は,本件交渉等を経た後,主に原告,MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社,中華映管マレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ,LPディスプレイズ・インドネシア及びタイCRT(以下「原告ほか7社」という。)からテレビ用ブラウン管を購入していた(以下,本件交渉等を経て現地製造子会社等が購入する別紙3記載のテレビ用ブラウン管を「本件ブラウン管」という。)。
ウ 平成15年から平成19年までの5年間における現地製造子会社等の本件ブラウン管の総購入額のうち,原告ほか7社からの購入額の合計の割合は約83.5パーセントであった。
(3) 本件合意
ア サムスンSDIほか4社並びに原告,MT映像ディスプレイ・インドネシア,中華映管マレーシア及びLPディスプレイズ・インドネシアは,本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の安定を図るため,遅くとも平成15年5月22日頃までに,日本国外において,本件ブラウン管の営業担当者による会合を継続的に開催し,おおむね四半期ごとに次の四半期における本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨合意した(以下,この合意を「本件合意」という。)。
イ MT映像ディスプレイ・マレーシアは遅くとも平成16年2月16日までに,MT映像ディスプレイ・タイは遅くとも同年4月23日までに,それぞれ本件合意に加わった。
(4) 本件合意の消滅
 中華映管及び中華映管マレーシアが,平成19年3月30日,競争法上の問題により本件ブラウン管の営業担当者による会合に出席しない旨表明し,その後,MT映像ディスプレイも同様の対応を採ったことなどにより,それ以降,上記会合は開催されていないことから,同日以降,本件合意は事実上消滅している。
(5) 本件課徴金納付命令に関する手続
ア 被告は,平成21年4月7日,原告に対し,課徴金納付命令書案を添付した通知書を送達して,本件違反行為に基づき課徴金13億7362万円の納付を命ずることを予定している旨を通知した。この課徴金納付命令書案の課徴金納付命令の番号,納期限及び作成日は空欄であったが,その内容は,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書と同一であった。
イ 被告は,平成21年4月14日及び同月20日,原告に対し,公正取引委員会の審査に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第5号。私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う公正取引委員会関係規則の整備に関する規則による改正前のもの。以下「審査規則」という。)29条,25条に基づく事前説明を行った。
ウ 原告は,平成21年5月12日,被告に対し,前記アの課徴金納付命令書案について,サムスンSDIと連名の意見陳述書を証拠9点と共に提出した(以下「本件意見申述等」という。)。
エ 被告は,同年9月28日までに,原告に対して課徴金13億7362万円の納付を命ずることなどについて,独占禁止法69条1項に基づき,委員長及び4名の委員の合議により議決した。
オ 被告は,同月29日,原告に対し,原告による本件意見申述等を検討した結果を説明するとともに,原告代理人と調整の上,同年10月7日に課徴金納付命令の申し渡しを行う予定である旨通知した。
カ 被告は,本件違反行為と同一の事実により原告に対して課徴金13億7362万円を平成22年1月8日までに納付するよう命ずる平成21年10月7日付け課徴金納付命令書を作成した。
キ ところが,原告が,同年10月7日,被告に対し,原告の当時の日本国内における代理人及び復代理人全員を同月5日付けで解任した旨の書面を提出したため,被告は,同月7日以降,原告の日本国内の代理人に対し,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書謄本を送達することができなくなった。
ク 被告は,同月19日,我が国外務省を通じて,マレーシア政府(外務省)に対し,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書謄本を領事送達することについて同意するよう求めたが,マレーシア政府(外務省)は,平成22年2月8日までに,我が国外務省に対し,領事送達について同意することはできない旨回答した。
ケ 被告は,同月12日,原告に対し,課徴金13億7362万円を同年5月13日までに納付するよう命ずるとともに(本件課徴金納付命令),本件課徴金納付命令書謄本の公示送達に係る公示送達書の掲示を行った。
 そして,被告は,同年2月12日,原告に対し,審査規則4条に基づき,本件課徴金納付命令書謄本について公示送達をした旨の通知書と公示送達書の写しをそれぞれの英訳とともに国際郵便により送付し,これらは,同月17日,原告に到達した。
コ 本件課徴金納付命令書と平成21年10月7日付け課徴金納付命令書は,課徴金納付命令番号(平成21年(納)第65号と平成22年(納)第23号),納期限(平成22年1月8日と同年5月13日),作成日付(平成21年10月7日と平成22年2月12日),課徴金の額に1万円未満の端数があるときは,その端数を切り捨てることを定めた独占禁止法の条文(平成21年法律第51号による改正前の独占禁止法7条の2第18項と平成21年法律第51号による改正後の独占禁止法7条の2第23項)及び委員長のほかに記名押印をした委員の数(4名と3名)において異なるほか,同一である。

3 争点
(1) 本件課徴金納付命令に関する手続の適法性
ア 本件課徴金納付命令をするに際して,審査規則29条,24条及び25条所定の事前通知及び事前説明(以下「事前手続」という。)が適法に行われたか否か。
イ(ア) 本件課徴金納付命令は被告の委員長及び委員の合議によるものといえるか否か。
(イ) 本件課徴金納付命令書は独占禁止法50条1項の規定に違反しているか否か。
ウ 本件課徴金納付命令は平成21年10月7日付け課徴金納付命令と重複して違法となるか否か。
エ 本件公示送達は適法にされたか否か。
(2) 本件に独占禁止法3条後段を適用することができるか否か。
(3) 本件ブラウン管の売上額は独占禁止法7条の2第1項の「当該商品の売上額」に該当し,課徴金の計算の基礎となるか否か。

4 本件審決の事実認定及び法律の適用
 本件審決は,前記3の争点について,以下のとおり認定判断し,独占禁止法2条6項,3条,7条の2第1項及び23項並びに私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号。以下「独占禁止法施行令」という。)5条1項の規定を適用して,原告に対し,13億7362万円の課徴金納付を命じた本件課徴金納付命令は適法であるとして,独占禁止法66条2項により,本件審判請求を棄却した。
(1) 争点(1)(本件課徴金納付命令に関する手続の適法性)について
ア 争点(1)ア(本件課徴金納付命令をするに際して,事前手続が適法に行われたか否か)についての本件審決の判断
 独占禁止法50条6項,49条3項,5項は,被告が課徴金納付命令をしようとするときは,その名宛人となるべき者に対し,納付を命じようとする課徴金の額,課徴金の計算の基礎及び課徴金に係る違反行為を書面により通知した上で,意見を述べ,及び証拠を提出する機会を付与しなければならない旨規定し,さらに,審査規則29条,25条は,上記通知を受けた者等から申出があったときその他必要があるときは,上記通知事項及び課徴金の計算の基礎又はその課徴金に係る違反行為を基礎付けるために必要な証拠について説明するものとする旨規定する。この趣旨は,課徴金納付命令が不利益処分であることに鑑み,名宛人に対し,事実関係等について弁明の機会を与えてその防御権を保障するとともに,公正な行政を確保することにあると解される。
 前記認定のとおり,被告が平成21年4月7日に原告に通知した課徴金納付命令書案は,課徴金納付命令番号,納期限及び作成日付が空欄であり,課徴金の額に1万円未満の端数があるときは,その端数を切り捨てることを定めた独占禁止法の条文が本件課徴金納付命令書と異なるが,名宛人の名称,所在地及び代表者名,納付すべき課徴金の額,課徴金に係る違反行為並びに課徴金の計算の基礎(上記の端数切捨てに関する条文を除く。)は本件課徴金納付命令書と同一である。被告は,この課徴金納付命令書案を前提に,原告に意見陳述及び証拠提出の機会を与え,さらに,原告の申出に基づいて事前説明を行った上で本件課徴金納付命令をしたのであるから,事前手続制度の趣旨に照らしても,本件課徴金納付命令について所定の事前手続を経たものといえる。
イ 争点(1)イ(ア)(本件課徴金納付命令は被告の委員長及び委員の合議によるものといえるか否か)についての本件審決の判断
 課徴金納付命令書には,違反行為のほかに納期限を記載しなければならないとされているところ(独占禁止法50条1項),課徴金の納期限は,課徴金納付命令書の謄本を発する日から3月を経過した日とされていることから(同条3項),本件のように平成21年10月7日付け課徴金納付命令書謄本を即日発することができなかった場合には,改めて,課徴金納付命令書の謄本を発する日を前提とする課徴金の納期限を記載した課徴金納付命令書を作成することとなる。
 前記2(5)エのとおり,被告の委員長及び委員4名は,平成21年9月28日までに,原告に対し,本件違反行為により課徴金13億7362万円を納付するよう命ずる旨合議の上決定したものであるが,この合議による意思決定は,原告に対して,本件違反行為を理由に課徴金13億7362万円を納付するよう命ずること,及び課徴金納付命令書の謄本を発する日から3月を経過した日を課徴金の納期限とすることを決定したものであるから,平成21年10月7日付け課徴金納付命令と違反行為及び課徴金額が同一で,実質的には納期限のみを変更したものといえる本件課徴金納付命令は,上記の合議による意思決定に基づいてなされたものということができる。
 なお,前記アのとおり,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書と本件課徴金納付命令書とでは,課徴金の額から端数を切り捨てることの根拠となる条文が異なっているが,これは独占禁止法の平成21年法律第51号による改正により,同法7条の2の中の項の番号が変更されたことによるものであり,実質的に同一の条文を適用したものであるから,この点を理由に,本件課徴金納付命令について被告の委員長及び委員が改めて合議をする必要があったとはいえない。
ウ 争点(1)イ(イ)(本件課徴金納付命令書は独占禁止法50条1項の規定に違反しているか否か)についての本件審決の判断
 前記2(5)コのとおり,本件課徴金納付命令書には,平成21年9月28日までに行われた合議に出席した委員のうち1名の記名押印がない。しかし,独占禁止法には,合議に参加した審判官が審決案に署名押印することに支障がある場合に他の審判官が審決案にその事由を付記して署名押印すべきことを定める公正取引委員会の審判に関する規則74条3項のような規定がないことに鑑みると,合議に出席した被告の委員が課徴金納付命令書作成時までに退任した場合には,これに記名押印することができないのはやむを得ないことであり,また,その旨の付記も要求されていないのであるから,これらのことをもって,課徴金納付命令の効力に影響を及ぼすような瑕疵があるとはいえない。実質的にみても,命令書に被告の委員長及び委員の記名押印が必要とされている趣旨は,合議の出席者がそれぞれ命令書の内容と合議の内容の一致を確認することにより命令の正確性を担保するとともに,当該委員の合議への関与を確認することにあると考えられるところ,本件課徴金納付命令書に前記2(5)エの合議に出席した5名のうち4名が記名押印することで,本件課徴金納付命令書の内容の正確性は担保されていると考えられるし,この4名は,5名による合議が成立したことを前提に4名の記名押印のみで本件課徴金納付命令書を作成することを了承しており,1名の委員が決定には関与していたが,退任したために記名押印することができないことを確認していると考えられるからである。
エ 争点(1)ウ(本件課徴金納付命令は平成21年10月7日付け課徴金納付命令と重複して違法となるか否か)についての本件審決の判断
 前記アのとおり,本件課徴金納付命令は,平成21年10月7日付け課徴金納付命令と納付すべき課徴金の額,課徴金に係る違反行為及び課徴金の計算の基礎が同一であり(前記イのとおり,課徴金の額に1万円未満の端数があるときは,その端数を切り捨てることを定めた独占禁止法の条文も実質的には同一である。),実質的に納期限のみを異にするものである。原告は,この事実をもって,本件課徴金納付命令は平成21年10月7日付け課徴金納付命令と同一の行為について重複して課徴金の納付を命ずるものであって,違法であると主張するが,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書は原告に送達されておらず,効力が発生していないから,原告には具体的な不利益は生じていない。よって,これを理由に本件課徴金納付命令が違法であるとはいえない。
オ 争点(1)エ(本件公示送達は適法にされたか否か)についての本件審決の判断
 独占禁止法50条4項の規定による審判請求に基づく審判手続は,原処分の適法性及び相当性を再審査する手続である。
原告は,本件公示送達が違法である旨主張するが,原処分に係る命令書謄本の送達が適法になされたか否かは原処分の効力発生の有無に関する問題であって,原処分自体の適法性や相当性には関係がないから,本件審判手続において本件公示送達の違法性を主張することは失当というほかない。
 ただし,念のため,本件公示送達の適法性について検討すると,前記2(5)クのとおり,マレーシア政府は,本件課徴金納付命令書と実質的には同じ内容の平成21年10月7日付け課徴金納付命令書謄本の領事送達に同意することはできない旨回答していることが認められる。そうすると,本件課徴金納付命令書謄本についても,マレーシア政府が領事送達に同意することは考え難いから,本件課徴金納付命令書謄本を領事送達によって送達することができない場合に当たると認めることができる。また,相手国の管轄官庁に嘱託してする送達(独占禁止法70条の17,民事訴訟法108条。以下「管轄官庁送達」という。)については,マレーシアにおいて,これを実施する権限のある管轄官庁を定めた条約等がないため実施することができない。したがって,マレーシアにおいてすべき本件課徴金納付命令書謄本の送達について,独占禁止法70条の17の規定により読み替えて準用される民事訴訟法108条の規定によることができず,又はこれによっても送達することができないと認めるべき場合(独占禁止法70条の18第1項2号)に該当する。なお,本件公示送達により,マレーシアに所在する原告に対して送達の効力が生じたとしても,マレーシアの領域内において我が国の公権力を行使するものではないから,マレーシアの主権を侵害しないことは明らかである。よって,本件公示送達は適法にされたものと認められる。
(2) 争点(2)(本件に独占禁止法3条後段を適用することができるか否か)について
ア 本件審決が認定した事実
(ア) オリオン電機
a 認定事実
(a) 製造委託先会社との関係
ⅰ WORLD ELECTRIC (THAILAND) LTD.は昭和63年に,また,KORAT DENKI LTD.は平成7年に,オリオン電機の海外におけるブラウン管テレビの製造拠点としてタイ王国においてそれぞれ設立されたブラウン管テレビの製造販売を業とする会社である(以下,上記2社を併せて「ワールド等」という。)。
 オリオン電機は,ワールド等に出資することはしなかったが,ワールド等を自社の製品を製造するグループ企業と位置付け,ワールド等と技術援助契約を締結した上,ワールド等の設立以来,自社の従業員をワールド等の会社代表者,役員及び従業員として派遣している。
ⅱ オリオン電機は,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,遅くとも平成7年頃以降は行っておらず,専ら,ワールド等といった製造委託先会社に設計や仕様を指示してブラウン管テレビの製造を委託していた。なお,オリオン電機は,ブラウン管テレビの製造販売について,量販店の卸売業者や相手先商標製品製造(OEM)の相手先等からの注文を受けてから,製造委託先会社に製造を委託する受注生産方式を採っていた。
ⅲ オリオン電機は,価格交渉力を向上させることや受注したブラウン管テレビの販売価格を管理することを目的として,企画部等の部署において,原価計算をした上,ワールド等に製造委託するブラウン管テレビに使用するブラウン管等の部品の選定やその購入価格及び購入数量の決定等の購買業務等を行っていた。
 なお,前記ⅰの技術援助契約の1条において,ワールド等は必要な資材についてオリオン電機を通じて購入することに協力する旨定められていた。
ⅳ オリオン電機は,ワールド等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビの全てを購入し,北米,欧州及び日本など国内外に販売していた。
 なお,ワールド等はオリオン電機以外からも委託を受けるなどして製品を製造していたが,その割合は売上げの1割にも満たない程度であった。
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ オリオン電機は,主にサムスンSDIほか4社の中から1又は複数の事業者を選定し,その事業者との間で,本件ブラウン管の仕様を交渉して決定するとともに,おおむね1年ごとに本件ブラウン管の購入予定数量の大枠を,また,それを踏まえて,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格及び購入数量を交渉して決定していた。
ⅱ オリオン電機は,ワールド等に対し,テレビ用ブラウン管の仕様,購入価格,購入数量等を記載した部品表若しくは仕様書を送付し,又はそれらのデータを送信することにより,本件ブラウン管を含むテレビ用ブラウン管を前記ⅰのとおり選定した事業者又はその子会社等から購入するよう指示していた。
ⅲ ワールド等は,前記ⅱの指示に従い,オリオン電機により選定された事業者又はその子会社等(原告ほか7社の関係では,MT映像ディスプレイ・マレーシア,MT映像ディスプレイ・タイ,中華映管マレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ及びタイCRT)に対して,本件ブラウン管を発注し,購入していた。
b 前記認定事実によれば,オリオン電機は,ワールド等に製造委託するブラウン管テレビに使用するブラウン管等の部品の選定やその購入価格,購入数量等の決定等の業務を行っており,サムスンSDIほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれをワールド等に伝え,ワールド等は,それに従ってオリオン電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのはオリオン電機であって,ワールド等はオリオン電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,オリオン電機は,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,ワールド等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
(イ) 三洋電機
a 認定事実
(a) 現地製造子会社との関係
ⅰ 三洋電機は,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,平成8年にインドネシア共和国にP.T. SANYO Electronics Indonesia(以下「三洋電子インドネシア」という。)を設立し,同社にブラウン管テレビの製造業務を移管した。
 なお,三洋電子インドネシアの議決権については,三洋電機の完全子会社でシンガポール共和国に所在するSANYO Asia Pte. Ltd.が,平成14年4月から平成16年3月まではその82パーセントを,同年4月以降はその全てを保有していた。
ⅱ 三洋電機は,平成18年9月30日まで,「マルチメディアカンパニー」,「AVソリューションズカンパニー」又は「AVカンパニー」(時期により名称が異なる。)の中の専門部署(例えば「AVカンパニー」のときは「テレビ統括ビジネスユニット」)において,三洋電子インドネシアを含む現地製造子会社(以下「三洋電子インドネシア等」という。)が使用するテレビ用ブラウン管の仕様,製造するブラウン管テレビの仕様,製造方法等に関する規格や検査基準を設定したり,毎年の事業計画,四半期ごとの確認,月次の報告等を通じて三洋電子インドネシア等に対して事業上の指示及び管理を行うなど,三洋電機及び三洋電子インドネシア等が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。また,三洋電機は,上記各カンパニー内の購買部門において,同社及び三洋電子インドネシア等が使用するテレビ用ブラウン管について,購買業務の効率性を高めるとともにボリューム・ディスカウントによるスケール・メリットの獲得等を目的として,まとめて購買業務を行い,一括して交渉を行っていた。
ⅲ 三洋電子インドネシアには,製造したブラウン管テレビを顧客に直接販売するための販売部門がなかったため,三洋電子インドネシアが本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビは,三洋電機が承認した事業計画に従い,同社の販売子会社である三洋セールスアンドマーケティング株式会社及びP.T. Sanyo Sales Indonesiaに販売され,これらの会社により国外向けに販売されていた。
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ 三洋電機は,平成18年9月30日まで,主にサムスンSDI,MT映像ディスプレイ及びLGフィリップス・ディスプレイズの中から1又は複数の事業者を選定し,その事業者から仕様書の提出を受けるなどした上で,本件ブラウン管の仕様を交渉して決定するとともに,おおむね1年ごとに本件ブラウン管の購入予定数量の大枠を,また,それを踏まえて,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格及び購入数量を交渉して決定していた。
ⅱ 三洋電機は,決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を,三洋電子インドネシアの担当者に電子メールで伝え,前記ⅰのとおり選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示していた。
ⅲ 三洋電子インドネシアは,三洋電機が決定した取引条件に従い,同社により選定された事業者又はその子会社等(原告ほか7社の関係では,原告,MT映像ディスプレイ・インドネシア,MT映像ディスプレイ・タイ,LGフィリップス・ディスプレイズ及びLPディスプレイズ・インドネシア)に対して,本件ブラウン管の発注書を送付し,本件ブラウン管の納入を受け,請求書を受領し,代金を支払っていた。
b 前記認定事実によれば,三洋電機は,三洋電機及び三洋電子インドネシア等が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,サムスンSDI,MT映像ディスプレイ及びLGフィリップス・ディスプレイズの中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを三洋電子インドネシアに伝え,同社は,それに従って三洋電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは三洋電機であって,三洋電子インドネシアは三洋電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,三洋電機がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,三洋電子インドネシアに対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
(ウ) シャープ
a 認定事実
(a) 現地製造子会社又は関連会社との関係
ⅰ シャープは,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,遅くとも平成13年頃以降は行っておらず,専ら,後記①ないし⑤の現地製造子会社又は関連会社5社(以下「SREC等」という。)においてブラウン管テレビを製造していた。
 なお,シャープは,自社又は子会社の役員又は従業員をSREC等の役員等として派遣していた。
① マレーシア所在のSharp-Roxy Electronics Corporation (M) Sdn.Bhd.(シャープが議決権の50パーセントを保有していた。)
② フィリピン共和国所在のSharp (Philippines.) Corporation(シャープが議決権の過半数を保有していた。)
③ タイ王国所在のSharp Manufacturing Thailand Co., Ltd.(シャープが,平成17年3月末までは議決権の33パーセントを保有し,同年4月以降は議決権の全てを保有していた。)
④ インドネシア共和国所在のP.T. Sharp Electronics Indonesia(シャープが議決権の過半数を保有していた。)
⑤ マレーシア所在のSharp Electronics (Malaysia) Sdn.Bhd.(以下「SEM」という。シャープが議決権の全てを保有していた。)
ⅱ シャープは,「AVシステム事業本部液晶デジタルシステム第4事業部」等の部署において,同社の連結子会社等である現地製造子会社又は関連会社が策定する,主要部品の調達数量を含む生産計画,販売計画,人員及び在庫についての計画等を含む,現地製造子会社又は関連会社の経営計画に事前の承認を与えていた。また,シャープは,価格交渉力の向上を目的に,現地製造子会社又は関連会社が製造するブラウン管テレビの製造に必要なテレビ用ブラウン管について,取引先を選定し,購入価格,購入数量等の取引条件についてのテレビ用ブラウン管メーカーとの間の交渉を取りまとめ,テレビ用ブラウン管の購入を統括して一元管理するなどして,シャープ,SREC等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。
ⅲ シャープ及び同社の国外の販売子会社等は,SREC等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビの大部分を購入して国内外に販売していた。
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ シャープは,サムスンSDIほか4社等からテレビ用ブラウン管の価格トレンド(テレビ用ブラウン管のインチサイズ別,シャープの現地製造子会社又は関連会社別及びテレビ用ブラウン管の管種別の売買価格及び売買台数並びに貿易条件〔TRADE TERM〕等)の情報を収集し,当該情報とテレビ用ブラウン管業界の動向やテレビ用ブラウン管の新規開発状況等の情報を基に,SEMの設計・開発部門及びSREC等と協議し,その結果を踏まえて,主にサムスンSDIほか4社との間で,テレビ用ブラウン管の仕様や翌半期のテレビ用ブラウン管の価格トレンド等の調整を行い,これらの事業者の中から選定した事業者との間で,毎年1月から2月頃と毎年7月から8月頃にかけて,それぞれ各年度の上期(4月から9月)及び下期(10月から翌年3月)において取引される本件ブラウン管のSREC等全体の購入価格,購入数量等について,交渉の相手方である事業者から仕様等の技術情報を収集しつつ,自ら交渉して,取引条件の取りまとめを行っていた。
ⅱ シャープは,SREC等に対し,前記ⅰの交渉により調整されたSREC等全体の価格トレンドを伝達するとともに,SREC等に対し,SREC等が,固有の貿易条件,支払条件等を加味して更に前記ⅰのとおり選定された事業者又はその子会社等と交渉するか,又は,当該価格トレンドの購入価格に従って本件ブラウン管をそれらの者から購入するか確認していた。
ⅲ SREC等は,シャープから伝達された前記ⅰの交渉により調整済みのSREC等全体の価格トレンドが,既に貿易条件を加味したものであったことから,前記ⅱの確認を受けて更に前記ⅰのとおり選定された事業者又はその子会社等と交渉する場合であっても,多くは支払通貨等の支払条件について交渉するのみで,基本的には,シャープから伝達された前記ⅰの交渉により調整済みの価格トレンドどおりの価格を本件ブラウン管の購入価格としていた。
ⅳ シャープは,前記ⅰのとおり選定した事業者に対し,前記ⅰの交渉及び前記ⅱの確認を受けて更に調整された価格トレンドに従って,本件ブラウン管の購入価格を記載した正式な価格見積書をSREC等に発行するよう依頼していた。
ⅴ SREC等は,シャープにより選定された事業者又はその子会社等(原告ほか7社の関係では全社)から正式な価格見積書を入手し,当該価格見積書の記載に基づきこれらの者に対し本件ブラウン管を発注し,納品,検収及び支払という購買発注及び納入進度管理業務を行っていた。
b 前記認定事実によれば,シャープはSREC等との協議の結果を踏まえてサムスンSDIほか4社との交渉に臨んでいること,SREC等は貿易条件や支払条件については,個別に原告ほか7社と交渉する余地があったことが認められるものの,シャープは,シャープ,SREC等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,サムスンSDIほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等を決定していたこと,SREC等はシャープの指示に基づき,上記交渉を経て決定された価格トレンド(購入価格,購入数量等)に従ってシャープが決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのはシャープであったと認められるのであって,シャープがその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,SREC等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
(エ) 日本ビクター
a 認定事実
(a) 現地製造子会社又は関連会社との関係
ⅰ 日本ビクターは,自社又は自社の子会社若しくは関連会社である販売会社が販売するブラウン管テレビを製造するために,直接又は間接的に出資して,タイ王国にJVC Manufacturing (Thailand) Co., Ltd.(以下「JMT」という。)及びJVC Electronics (Thailand) Co., Ltd.(以下「JET」という。)を,ベトナム社会主義共和国にJVC Vietnam Limited(以下「JVL」という。)をそれぞれ設立し,設計や仕様等を指示してブラウン管テレビを製造させていた。
 なお,JMTは,日本ビクターの完全子会社であり,JETは,JVC Sales and Service (Thailand) Co., Ltd.(日本ビクターの完全子会社でシンガポール共和国に所在するJVC ASIA Pte. Ltd.〔以下「JVCアジア」という。〕が50パーセントの議決権を保有している。)が議決権の99パーセントを保有し,JVLは,JVCアジアが議決権の70パーセントを保有していた。
 また,日本ビクターの完全子会社でシンガポール共和国に所在するJVC Electronics Singapore Pte. Ltd.(以下,JMT,JET及びJVLと併せて「JMT等」という。)は,音響機器の製品開発等を事業内容としていたが,その外に,自社の一部門であるJVC Procurement Asia(A Division Company of JVC Electronics Singapore Pte. Ltd.)において日本ビクターのブラウン管テレビ製造子会社が使用するテレビ用ブラウン管の一部を調達していた。
ⅱ 日本ビクターは,「AV&マルチメディアカンパニーディスプレイ統括カテゴリー」等の部署において,各地の販売拠点からの注文を取りまとめ,それに基づいてJMT等に生産の指示を出し,完成したブラウン管テレビを上記販売拠点から販売するなどして,ブラウン管テレビの生産,販売及び在庫に関する管理をしていたほか,価格交渉力の向上を目的として,JMT等が使用するテレビ用ブラウン管の調達業務を行うなど,日本ビクター,JMT等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。
ⅲ JVLは製造していたブラウン管テレビを自らベトナム社会主義共和国内において販売していたが,JMT及びJETにはブラウン管テレビを販売するための営業部門が存在しなかったため,JMTが製造したブラウン管テレビのほとんど全てを日本ビクターが買い上げて国内外に販売し,また,JETが製造したブラウン管テレビの全量を日本ビクターのタイ王国所在の販売子会社であるJVC Sales and Service (Thailand) Co., Ltd.が買い上げて同国において販売していた。このように,JMT等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビは,日本ビクターが取りまとめた事業計画に沿って,国内外に販売されていた。
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ 日本ビクターは,平成17年4月30日まで,同社の設計部門が設計したブラウン管テレビに適合する仕様のテレビ用ブラウン管について,性能及び品質面,テレビ用ブラウン管メーカーの生産ラインの状況,引渡しに要する時間,価格,それまでの取引状況等を総合的に勘案し,主にサムスンSDIほか4社の中から1又は複数の事業者を選定し,当該事業者との間で,JMT等の各地の製造拠点におけるブラウン管テレビの生産台数に応じたテレビ用ブラウン管を確保するため,年間の購入予定数量の大枠を交渉して決定していた。
 なお,日本ビクターは,サムスンSDI及びLGフィリップス・ディスプレイズとの間で,JMT等を含む現地製造子会社及び関連会社が購入するテレビ用ブラウン管について,年間の購入量の目標とそれを達成した場合の報奨金(インセンティブ)についての合意を交わしていた。
ⅱ 日本ビクターは,前記ⅰのとおり選定した事業者との間で,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格等の取引条件について交渉して,決定していた。
ⅲ 日本ビクターは,JMT等に対し,前記ⅰ及びⅱのとおり決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を,電話,電子メール,ファクシミリ等で伝え,それに従って,前記ⅰのとおり選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示した。
ⅳ JMT等は,前記ⅲの取引条件に従い,日本ビクターにより選定された事業者又はその子会社等(原告ほか7社の関係では,原告,MT映像ディスプレイ・マレーシア,MT映像ディスプレイ・タイ,中華映管マレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ,LPディスプレイズ・インドネシア及びタイCRT)に対して,本件ブラウン管の発注書を送付し,本件ブラウン管の納入を受け,請求書を受領し,代金の支払を行っていた。
b 前記認定事実によれば,日本ビクターは,日本ビクター,JMT等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,サムスンSDIほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれをJMT等に伝え,JMT等は,それに従って日本ビクターが決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは日本ビクターであって,JMT等は日本ビクターの指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,日本ビクターがその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,JMT等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
(オ) 船井電機
a 認定事実
(a) 現地製造子会社との関係
ⅰ 船井電機は,かつては同社の国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,遅くとも平成5年頃以降は行っておらず,専ら,完全子会社であるマレーシアに所在するFUNAI ELECTRIC (MALAYSIA) SDN.BHD.及びタイ王国に所在するFUNAI (THAILAND) CO., LTD.(以下,上記2社を併せて「船井電機マレーシア等」という。)においてブラウン管テレビを製造していた。
ⅱ 船井電機は,前記ⅰのとおり,船井電機マレーシア等にブラウン管テレビの製造業務を移管した後も,引き続き,「テレビ事業本部」等の下の「テレビ事業部」等の部署において,ブラウン管テレビの製造以外の研究開発,技術・生産管理,品質管理,品質保証,マーケティング,営業,購買等の業務を管轄,運営するなど,船井電機並びに船井電機マレーシア等の現地製造子会社及びその他の子会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。
ⅲ 船井電機は,船井電機マレーシア等が製造するブラウン管テレビの製品仕様書や製造指導書等を作成し,船井電機マレーシア等に送付していた。
ⅳ 船井電機は,船井電機マレーシア等が本件ブラウン管を用いて製造したブラウン管テレビを全て購入し,自社の完全子会社であるフナイ販売株式会社,DXアンテナ株式会社及びFUNAI CORPORATION INC.を通じて,国内外の顧客に販売していた。
(b) 平成15年5月22日頃から平成19年3月29日までの本件ブラウン管に関する取引
ⅰ 船井電機は,価格及び供給の安定を目的として,主にサムスンSDIほか4社の中から選定した事業者との間で,翌年1年間において取引される本件ブラウン管の仕様及び購入予定数量の大枠を交渉して,決定し,おおむね四半期ごとに,翌四半期に実際に適用される本件ブラウン管の購入価格及び購入数量について交渉して,決定していた。なお,船井電機は,MT映像ディスプレイとの間で,本件ブラウン管の購入数量の大枠について,管種ごとに,事業年度単位で交渉していた。
ⅱ 前記ⅰの交渉の相手方は,船井電機に対して製品仕様書の案を提出し,船井電機の技術部門は,当該仕様書の案を確認及び承認して,当該仕様書を完成させていた。
ⅲ 船井電機は,船井電機マレーシア等に対し,前記ⅰのとおり決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を,電話や電子メールによって伝え,前記ⅰのとおり選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示していた。
ⅳ 船井電機マレーシア等は,前記ⅲのとおり船井電機から伝達及び指示された本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件に従い,船井電機により選定された事業者又はその子会社等(原告ほか7社との関係では,原告,MT映像ディスプレイ・インドネシアほか2社,中華映管マレーシア,LPディスプレイズ・インドネシア及びタイCRT)に対して,本件ブラウン管の発注書を送付し,本件ブラウン管の納入を受け,請求書を受領し,代金の支払を行っていた。
b 前記認定事実によれば,船井電機は,船井電機並びに船井電機マレーシア等の現地製造子会社及びその他の子会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,サムスンSDIほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを船井電機マレーシア等に伝え,船井電機マレーシア等は,それに従って船井電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは船井電機であって,船井電機マレーシア等は船井電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。すなわち,船井電機がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,船井電機マレーシア等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる。
イ 本件審決の判断
(ア) 本件における独占禁止法の適用についての基本的な考え方
 事業者が日本国外において独占禁止法2条6項に該当する行為に及んだ場合であっても,少なくとも,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合には,同法3条後段が適用されると解するのが相当である。
 なぜならば,独占禁止法は,我が国における公正かつ自由な競争を促進するなどして,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とするところ(1条),同法3条後段は,不当な取引制限行為を禁止して,我が国における自由競争経済秩序を保護することをその趣旨としていることからすれば,同法2条6項に該当する行為が我が国でなされたか否か,あるいは,当該行為を行った事業者が我が国に所在するか否かに関わりなく,少なくとも,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合には,我が国における自由競争経済秩序が侵害されたということができ,同法3条後段を適用するのがその趣旨に合致するからである。
(イ) 本件における一定の取引分野について
 独占禁止法2条6項における「一定の取引分野」は,原則として,違反行為者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して画定すれば足りるものと解される。
 本件合意は,前記第2の2(3)のとおり,本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格について,各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨の合意であり,原告及び別紙1記載の10社(以下「11社」という。)のした共同行為が対象としている取引は,本件ブラウン管の販売に関する取引であって,それにより影響を受ける範囲も同取引であるから,本件ブラウン管の販売分野が一定の取引分野であると認められる。
(ウ) 本件の一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったかについて
a 前記アの認定事実によれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,現地製造子会社等が製造したブラウン管テレビを自社又は販売子会社を通じて販売していたほか,現地製造子会社等が製造するブラウン管テレビの生産,販売及び在庫等の管理等を行うとともにブラウン管テレビの基幹部品であるテレビ用ブラウン管について調達業務等を行い,自社グループが行うブラウン管テレビに係る事業を統括するなどしていたことが認められる。
b また,前記aに加え,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,必要に応じて現地製造子会社等の意向を踏まえながらも,サムスンSDIほか4社との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上で,現地製造子会社等に対して上記決定に沿った購入を指示して,本件ブラウン管を購入させていたことが認められ,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者による交渉・決定及びそれに基づく指示なくしては,現地製造子会社等が本件ブラウン管を購入し,受領することはできなかったといえる。
 そうすると,直接に本件ブラウン管を購入し,商品の供給を受けていたのが現地製造子会社等であるとしても,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の果たしていた上記役割に照らせば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と現地製造子会社等は一体不可分となって本件ブラウン管を購入していたということができる。
c さらに,本件合意がサムスンSDIほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の最低目標価格等を設定するものであることも併せて考えれば,11社は,そのグループごとに,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との関係において,自社グループが購入先として選定されること及び購入価格,購入数量等の重要な取引条件を競い合う関係にあったということができ,購入先や重要な取引条件の決定者である我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,11社に対し,そのような競争を期待し得る地位にあったということができる。
d これらの点を考慮すれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は本件ブラウン管の需要者に該当するものであり,本件ブラウン管の販売分野における競争は,主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったということができる。
(エ) 競争の実質的制限について
 独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような価格カルテルの場合には,その当事者である事業者らがその意思で,当該市場における価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうと解される。
 前記第2の2(2)ウのとおり,平成15年から平成19年までの5年間における現地製造子会社等の本件ブラウン管の総購入額のうち,原告ほか7社からの購入額の合計の割合は,約83.5パーセントとその大部分を占めていたこと,本件違反行為者である原告を含む11社は本件合意に基づき設定された最低目標価格等を踏まえて,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との間で,本件ブラウン管の価格交渉をしていたこと等に照らせば,本件合意により,本件ブラウン管の価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしたといえるから,11社は,本件合意により,本件における一定の取引分野である本件ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限したと認めることができる。
(オ) まとめ
 以上検討したところによれば,一定の取引分野である本件ブラウン管の販売分野における競争が主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったと認められ,かつ,本件合意により当該一定の取引分野における競争が実質的に制限されたと認められる。
 原告は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が実際に本件ブラウン管の供給を受けていないとして,需要者に当たらないことを前提に,本件には独占禁止法3条後段を適用することができないと主張するが,以上説示したとおり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は需要者であると認められるのであるから,その主張は前提を欠くものであるし,また,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が実際に本件ブラウン管の供給を受けていなかったとしても,その事実は,当該事業者が原告に対して独占禁止法違反を理由に損害賠償請求訴訟等を提起した場合に考慮されるべき事情になることがあり得るのは格別,本件のように,一定の取引分野における競争が主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,そこにおける競争が実質的に制限された場合には,我が国における自由競争経済秩序が侵害されたということができるから,これに対して自由競争経済秩序の回復を図る観点から独占禁止法を適用することができるのは当然である。
 したがって,本件に独占禁止法3条後段を適用することができるものというべきである。
(3) 争点(3)(本件ブラウン管の売上額は独占禁止法7条の2第1項の「当該商品の売上額」に該当し,課徴金の計算の基礎となるか否か)についての本件審決の判断
 独占禁止法7条の2第1項にいう「当該商品」とは,違反行為である相互拘束の対象である商品,すなわち,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解されるところ,本件ブラウン管が本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものであることは明らかである。
 したがって,本件ブラウン管は「当該商品」に当たるから,独占禁止法施行令5条に基づき算定された本件ブラウン管の売上額が課徴金の計算の基礎となる。

5 争点に関する原告の主張
(1) 争点(1)(本件課徴金納付命令に関する手続の適法性)について
ア 争点(1)ア(本件課徴金納付命令をするに際して,事前手続が適法に行われたか否か)について
 事前手続は憲法31条の適正手続の保障を背景とする行政処分の相手方に対する事前の告知,弁解及び防御の機会を付与する重要な手続であり,別個の命令に対しては,事前手続の機会も別個に与えられなければならない。本件においては,平成21年10月7日付け課徴金納付命令と本件課徴金納付命令は,異なる時点において事件番号,適用法条及び納期限を異にして発せられた命令であり,全く別個の行政処分であるから,本件課徴金納付命令について,平成21年10月7日付け課徴金納付命令とは別個に,法の定める事前手続を履践する必要があることは当然であるにもかかわらず,平成21年10月7日付け課徴金納付命令の前には事前手続が行われているものの,本件課徴金納付命令の前に別個の事前手続は行われていない。
 したがって,本件課徴金納付命令には,事前手続を履践していないという重大な手続的瑕疵があり,独占禁止法50条6項並びに49条3項及び5項に反する。
イ 争点(1)イ(ア)(本件課徴金納付命令は被告の委員長及び委員の合議によるものといえるか否か)について
 平成21年10月7日付け課徴金納付命令に先立って被告の委員長及び委員の合議及び議決は行われているものの,本件課徴金納付命令のために別個の合議及び議決は行われていない。平成21年10月7日付け課徴金納付命令と本件課徴金納付命令では,事実関係の評価の時点を異にするところ,時間が経過すれば当然に事実関係の評価も変わり得るのであるから,命令の時点で改めて課徴金納付命令を発令すべきか否かが検討されなくてはならない。
 したがって,本件課徴金納付命令は,独占禁止法69条1項に反する。
ウ 争点(1)イ(イ)(本件課徴金納付命令書は独占禁止法50条1項の規定に違反しているか否か)について
 本件課徴金納付命令書には,被告の委員長及び委員3名の記名押印があるが,前記イのとおり,本件課徴金納付命令の発令に当たって,委員長及び委員の合議は実際には行われていないから,記名押印は無効である。
 また,本件課徴金納付命令書には,平成21年10月7日付け課徴金納付命令の合議及び議決を行った委員長及び委員のうち,濱崎恭生委員の記名押印が欠けている。独占禁止法50条1項の要求する委員長及び委員の記名押印については,記名押印することができない際の規定である審判規則74条3項のような規定がないが,これは,そもそも出席した委員の記名押印を欠く課徴金納付命令書は有効な命令として成立し得ない趣旨と解すべきである。
 したがって,本件課徴金納付命令は,独占禁止法50条1項に反する。
エ 争点(1)ウ(本件課徴金納付命令は平成21年10月7日付け課徴金納付命令と重複して違法となるか否か)について
 行政処分は外部へ表示されることにより成立するところ,平成21年10月7日付け課徴金納付命令は,発令までの手続を全て適法に履践し,かつ,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書を添付した外務省に対するマレーシア政府の応諾の取付依頼及び報道発表資料の発出により,外部に表示されており,有効に成立している。
 したがって,本件課徴金納付命令は,同一の事実関係に対して二重に発令された課徴金納付命令であって違法であり,無効である。
オ 争点(1)エ(本件公示送達は適法にされたか否か)について
(ア) 独占禁止法50条4項は,審判手続において主張できる原処分の有効性を争う理由について限定しておらず,処分の効力について争う場合には,別途命令の不存在確認訴訟又は無効確認訴訟を提起しなければならないとするのは迂遠で不合理であり,送達の適法性についても当然に審判手続の審理の対象になるものと解される。また,本件審決は,本来効力を有しない本件課徴金納付命令が有効であることを前提として本件審判請求を棄却しており,本件訴訟においても,本件公示送達の違法性を主張できることは当然である。
(イ) 公示送達の補充性に照らすと,当該命令について外国での送達が試みられることが最低限必要であるところ,たとえ過去に別の命令について当該外国が送達に応諾しないことがあったとしても,時期や命令の内容によって当該外国の回答は変わり得るから,独占禁止法70条の18第1項2号前段の要件を満たすには,最低限,当該命令について外国での送達が試みられたことが必要不可欠である。
 しかし,本件においては,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書について領事送達の応諾を求めた事実はあるものの,本件課徴金納付命令書について外国における送達が試みられた形跡は見当たらず,かえって,作成日当日に公示送達の手続がされている。
 また,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書についても,マレーシア政府の回答の根拠等を再確認した事実は認定されておらず,被告として,マレーシア政府に対して,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書の意義を説明し,領事送達を認めるよう協議や説得を尽くした形跡もない。
 さらに,独占禁止法70条の17が準用する民事訴訟法108条及び独占禁止法70条の18第1項3号からすると,管轄官庁を経由しての送達が予定されていることは明らかであるが,本件において,管轄官庁経由の送達が試みられた形跡は全く見られない。
 したがって,本件課徴金納付命令書について公示送達以外の手段によるための十分な手段を尽くしているとはいえず,独占禁止法70条の18第1項に反する。
(ウ) 本件のように,外国での送達について外国政府が不応諾の意思を明確に表明した場合に公示送達による送達を認めることは,当該外国政府との無用な衝突を生じさせ,国際礼譲にも反するから,独占禁止法上の外国送達及び公示送達制度の趣旨に反して許されないと解すべきである。
(2) 争点(2)(本件に独占禁止法3条後段を適用することができるか否か)について
ア 我が国の独占禁止法を適用することができるか否かについて
 国家がその主権を及ぼすことのできる範囲としての管轄権は,国際法上,国家の領域内に限定されるという属地主義が原則であり,事業活動が国際化する中で,厳密に独占禁止法違反の行為や結果の全てが1つの領域内で完結しない事案については,各国の競争法を適切な範囲内で適用しつつ,複数の法域の競争法が重複して適用されることによる政策の衝突や重複した処分等の弊害を避けなければならない。そこで,国家の領域内に相応の効果又は影響が生じた場合に当該法域の競争法が適用できるという考え方(効果主義)が国内外を問わず広く承認されている。米国や欧州等の主要な法域で効果主義に沿うと理解される事案が積み重ねられているほか(欧州では客観的属地主義や実行理論ということが多いが,具体的な適用や結論としては効果主義と大差ないとされる。),明文で競争法の適用範囲を規定している法域(例えば,米国,韓国,中国及びインド等)においては,自国内に一定の効果が生じた場合に競争法が適用されることを明確にしており,効果主義は,国際的に承認されている。
 域外適用の問題と呼ばれる独占禁止法の適用範囲の問題が,そもそも他国の競争法との衝突や重複適用を回避することを主要な目的としていることからすれば,諸外国の競争法がどのような基準を採用しているかは重要であり,我が国の独占禁止法も,諸外国の競争法の適用範囲と整合しない独自の解釈を採用することは予定していないと解すべきである。
 そして,効果主義における効果の意義については,いずれの法域においても,供給された多数の商品のうち1つだけが行為者の知らないうちに自国の領域内で販売された場合におけるような些細な効果については「効果」と考えられておらず,他国の競争法との衝突や重複適用を回避する観点からも,独占禁止法の適用対象から除外しなければならない。そうすると,米国が採用するように,自国領域内において,直接的,実質的かつ予見可能な効果が発生していることを要件とすることが,他国との整合性を図る観点からも妥当である。
 本件審決は,我が国の領域外において行われたブラウン管の購入に対する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の関与について述べるだけで,我が国の領域内における効果については何ら認定しておらず,その基礎となる証拠も示していないから,独占禁止法を適用できることの実質的証拠を欠き,その取消しを免れない。
イ 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が「需要者」に当たるか否かについて
 独占禁止法2条4項1号の規定に照らすと,「需要者」が商品又は役務の供給を受ける者を意味することは疑いがないところ,商品の供給を受けていない我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が「需要者」に該当する余地はない。
 また,本件審決のように考えると,同一の商品の供給に対して,商品の供給を受ける者と別の者を需要者として重複的に認定することを認めることになり,現在一般化している多国籍企業グループにおける国際的な購買活動において,同一の商品の供給に対して複数の法域の独占禁止法の適用を許容する結果をもたらすことになるが,これは他国の独占禁止法との衝突や重複適用を回避するために独占禁止法の適用範囲を限定するという域外適用における要請に根本的に反している。
 さらに,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と現地製造子会社等は別個の法人格を有しており,オリオン電気とワールド等に至っては資本関係すらないのであるから,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者がブラウン管を購入していたということはできない。
 この点,米国における独占禁止法の適用に関する近時最も重要なケースである液晶パネルに係るカルテルにおけるいわゆるモトローラ事件の連邦第7巡回区控訴裁判所大合議による決定においても,モトローラの外国子会社が購入した液晶パネルに関して,モトローラの外国子会社とモトローラを明確に区別した上で,米国独占禁止法に基づく請求を排斥している。
 したがって,本件裁決は,「需要者」の解釈を誤るものであり,違法なものとして取消しを免れない。
ウ 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の所在地について
 競争は,自らによりよい条件となるよう,供給者及び需要者が,それぞれ商品や役務を供給し,その供給を受けることに向けられたものであるから,商品や役務が供給される場所を需要者の所在地と考えるべきである。各事業者の本店や各部署の所在地は,税制や資金調達の便宜等の様々な考慮で決められており,ビジネスの実態とは無関係であるから,需要者と認定された者の本店所在地又は購買部門の所在地をもって,需要者の所在地の基準とするのは妥当ではない。
エ 本件合意により「一定の取引分野における競争を実質的に制限」されたか否かについて
 本件審決の一定の取引分野の画定の手法は,最高裁判所の判例(最高裁判所平成24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁,以下「平成24年判例」という。)と整合しない上,企業結合審査の場合における解釈と異なり,明らかに間違っている。
 また,我が国の独占禁止法を適用するためには,需要者が我が国に所在するのみならず,競争の実質的制限が我が国の領域内で生じていなければならないと考えるべきであり,価格カルテルにおける競争の実質的制限は,価格を左右できる状態をもたらすことであるところ,本件において,競争の実質的制限は,商品が供給された東南アジアにおいてのみ生じているのであるから,競争の実質的制限は我が国の領域内で生じていない。
 さらに,不当な取引制限の対象となったブラウン管は,現地製造子会社等によりブラウン管テレビという別の商品へ姿を変えており,我が国には供給されておらず,原告らによる不当な取引制限による競争の実質的制限の効果が完成品たるブラウン管テレビに対して及んでいるかどうかにつき,何ら認定されていない。加えて,完成品たるブラウン管テレビのほとんどは,一度も日本国内に物理的に供給されることなく海外で販売されているところ,日本国内に供給された数量や影響についても何らの認定がされていない。
 したがって,本件は,一定の取引分野に我が国を含まず,また,競争の実質的制限が認められないから,不当な取引制限の成立要件を欠くものであって,本件審決は違法なものとしてその取消しを免れない。
オ 一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われたとの本件審決の事実認定が実質的な証拠に基づくものであるか否かについて
 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管の取引先の決定並びに価格や数量等の条件の交渉及び決定を行っていたわけではなく,また,現地製造子会社等も我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の決定に従っていたわけではない。我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,現地製造子会社等がボリュームディスカウントを享受できるようにするために,交渉の一部に関与していたに過ぎず,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の指示なくしては現地製造子会社等がブラウン管を購入したり受領したりすることができなかったとはいえないから,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と現地製造子会社等が一体不可分となって本件ブラウン管を購入していたとはいえない。
 また,本件ブラウン管の取引は,日本国外に所在する独立当事者間で行われており,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が本件ブラウン管の購入先や購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定していたとはいえないから,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が,原告らに対し,競争を期待し得る地位にあったとはいえない。
 したがって,一定の取引分野における競争が主として我が国に所在する需要者をめぐって行われたと認定できる実質的証拠は存在しない。
以下,本件審決の事実認定の問題点を指摘する。
(ア) SREC等(シャープ)
 SREC等においては,ブラウン管の価格交渉は,その収益に直結することから,SREC等が最終的な決定権を有していた。SREC等が必要とするブラウン管について,社内の規定上,シャープの担当者である川口泰弘は価格決定権を有しておらず,むしろ,ブラウン管の調達先の決定の場面では,現地法人の在庫管理上価格のみならずリードタイムも重要となるところ,多少価格が高くても現地法人が選定した調達先からブラウン管を購入することがあったとされている。さらに,タイCRTとのブラウン管取引については,価格決定にシャープは関与せず,Sharp Manufacturing Thailand Co., Ltd.のみで行っていた。これらの取引においては,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は何らの役割も果たしていない。
(イ) JMT,JET及びJVL(日本ビクター)
 JMT等によるブラウン管の購買活動においては,日本ビクターの担当者が関与していたものの,その役割は,ブラウン管メーカーとの間の購買交渉の支援にすぎず,日本ビクターが購入価格を決定していたわけではない。
 JMTによる具体的な購買活動のプロセスは,JMTの購買担当者又は日本ビクターの購買担当者が,対象ブラウン管メーカー又はその親会社の販売担当者と電話,メール又はファックス等によって数回の交渉を行った後,JMTの購買担当者又は日本ビクターの購買担当者の一方又は双方が出席して相手方との会議を開催し,最終的には,JMTの購買担当者が対象ブラウン管メーカーと交渉を行って,実際の取引価格が最終決定されていた。
 JMTについては,日本ビクターがJMT等の購入するブラウン管の購買業務に関与したことについて,日本ビクターやJMT等の内規に根拠となる規定はなかった。また,日本ビクターの購買担当者は,日本ビクターが関与して交渉している価格は「ガイドライン」にすぎなかったと参考人審尋で認めており,日本ビクターが最終的な販売価格の交渉又は決定を行っていなかったことが明らかである。さらに,JETやJVLに至っては,JMTの購買価格を参考にしていたにすぎず,日本ビクターの購買担当者は,「我々が分からないところで接触する機会があります。当然,ベトナムはベトナムで1ドルでも安く買いたいですし,タイはタイでほかの工場よりも安く買いたいという交渉はしていたかもしれません。」と述べており,JETやJVLの購買価格を把握すらしておらず,実質的かつ最終的な価格決定を行っていたのは,日本ビクターではなく,JMT等であると考えられる。
(ウ) 三洋電子インドネシア(三洋電機)
 三洋電機が三洋電子インドネシアによるブラウン管の購買業務に関与したことについて,根拠となる契約書や規則等の文書はなかった。また,ブラウン管の購買業務は,三洋電子インドネシアが作成した同社の事業計画に基づき行われていた。加えて,三洋電子インドネシアと原告の間でも,親会社がいずれも全く関与しないまま価格が決められたこともあったとされる。
(エ) ワールド等(オリオン電機)
 オリオン電機はワールド等と何ら資本関係がなく,ワールド等によるブラウン管の購買業務に関与したことについて,法的な,又は契約上の根拠はなかった。また,オリオン電機の担当者は,ワールド等の担当者が独自にブラウン管メーカーと交渉することを禁止しておらず,むしろワールド等の担当者が独自にブラウン管メーカーと交渉して,オリオン電機が交渉した場合よりも安い価格を実現できればオリオン電機としてもメリットがあると供述している。
(オ) 船井マレーシア等(船井電機)
 船井電機が船井マレーシア等によるブラウン管の購買業務に関与したことについて,根拠となるグループ間の規則や契約上の規定はなかった。また,親会社同士の価格交渉が長引き,所定の価格改定時期を過ぎても妥結されていないような場合,親会社間での交渉の妥結を待たずに現地法人間で取引することもあった。
カ 本件合意により一定の取引分野における競争が実質的に制限されたとの本件審決の事実認定が実質的な証拠に基づくものであるか否かについて
 本件ブラウン管は東南アジア地域において販売され,東南アジア地域の購入者に対して東南アジア地域において供給されていた。すなわち,本件ブラウン管の供給を受けた者は日本国内に存在せず,日本国内において消費や加工もされていない。本件審決は,東南アジア地域における需要者全体のブラウン管の購入量のうち現地製造子会社等が原告ほか7社から購入していたブラウン管が占めるシェアについては何ら認定しておらず,ほかの需要者も含めた実際の供給の取引において競争の実質的制限が生じたことを認定するに足る実質的証拠を欠いている。したがって,本件合意により競争の実質的制限が生じているとしても,それが我が国に所在する需要者をめぐって行われる競争において生じていることを基礎付ける実質的証拠はない。
 また,本件審決は,「需要者」の法解釈を誤った結果,本来証拠に基づき認定する必要があった我が国への効果や影響を基礎付ける認定を全くしておらず,本件審決の認定及び判断は実質的証拠を欠くものである。
(3) 争点(3)(本件ブラウン管の売上額は独占禁止法7条の2第1項の「当該商品の売上額」に該当し,課徴金の計算の基礎となるか否か)について
 欧米を含む他の法域においては,条文に明確な算定方法の定めがあるか否かを問わず,他国との法執行の衝突を回避し,同一の売上げが多重的な制裁の対象となることを防止するために慎重な解釈を積み重ねてきており,自国に一度も物理的に入っていない商品について罰金や制裁金の算定対象としている例は存在しない。にもかかわらず,そのような商品についても我が国の独占禁止法の条文を文言どおり当てはめた場合には,他国よりも桁外れに多い商品が課徴金の算定対象となってしまう。
 したがって,我が国において商品の供給がされておらず,当該商品についての競争の実質的制限が我が国で生じていない商品を,条文の文言のみを理由に除外できないと解する理由はなく,独占禁止法7条の2第1項並びに同施行令5条及び6条を根拠に,外国における売上高か否かを問わずに,課徴金の計算の基礎とする本件審決は,法令の解釈適用を誤っている。

6 争点に関する被告の主張
(1) 争点(1)(本件課徴金納付命令に関する手続の適法性)について
ア 争点(1)ア(本件課徴金納付命令をするに際して,事前手続が適法に行われたか否か)について
 事前手続制度の趣旨は,名宛人に対し,事実関係等について弁明の機会を与えてその防御権を保障するとともに,公正な行政を確保するということにあると解されるところ,被告が平成21年4月7日に原告に通知した課徴金納付命令書案の内容は,本件課徴金納付命令の内容と実質的に同一であるということができ,上記事前手続制度の趣旨に照らしても,本件課徴金納付命令について所定の事前手続を経たものといえることは,本件審決が正しく認定し,判断したとおりであるから,本件課徴金納付命令の発出に当たり,再度事前手続を行う必要はない。
 したがって,本件課徴金納付命令が独占禁止法50条6項,49条3項及び5項に反するとの原告の主張は理由がない。
イ 争点(1)イ(ア)(本件課徴金納付命令は被告の委員長及び委員の合議によるものといえるか否か)について
 平成21年10月7日付け課徴金納付命令書は,被告の委員長及び委員4名が平成21年9月28日までにした合議による意思決定に基づくところ,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書の内容と実質的に同一の本件課徴金納付命令が,上記合議による意思決定に基づいてされたものといえることは,本件審決が正しく認定し,判断したとおりである。 
 なお,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書と本件課徴金納付命令書の実質的な相違は,①課徴金の額から端数を切り捨てることの根拠となる条文の相違と②課徴金の納期限の相違に集約される。このうち,①については,法改正により同一条文の項番号が変更されたことに伴うものであり,被告の委員長及び委員が改めて合議をする必要があったとはいえないことは,本件審決が説示するとおりである。また,②についても,課徴金の納期限は,「課徴金納付命令書の謄本を発する日から三月を経過した日とする」ことが法定されており,課徴金納付命令書謄本の発送日から当然に定まるものであるから,①と同様に被告の委員長及び委員が改めて合議をする必要があったとはいえない。
 したがって,本件課徴金納付命令が独占禁止法69条1項に反するとの原告の主張は理由がない。
ウ 争点(1)イ(イ)(本件課徴金納付命令書は独占禁止法50条1項の規定に違反しているか否か)について
 本件課徴金納付命令が被告の合議による意思決定に基づくことは前記イで述べたとおりである。
 また,課徴金納付命令書の作成時までに退任した委員の記名押印がないことは,記名押印することができないことの付記が法令上要求されていないことや,命令書に被告の委員長及び委員の記名押印が必要とされる趣旨に照らしても,課徴金納付命令の効力に影響を及ぼすような瑕疵とはいえないことは,本件審決が正しく認定し,判断したとおりである。
 したがって,本件課徴金納付命令が独占禁止法50条1項に反するとの原告の主張は理由がない。
エ 争点(1)ウ(本件課徴金納付命令は平成21年10月7日付け課徴金納付命令と重複して違法となるか否か)について
 平成21年10月7日付け課徴金納付命令書は,同命令書に係る納付命令が成立していたとしても原告には送達されておらず,効力が発生していないのであるから,これによって原告に具体的な不利益が生じていないことは,本件審決が正しく認定し,判断したとおりである。被告が本件課徴金納付命令を発出した時点で,平成21年10月7日付けの課徴金納付命令は効力を生ずる可能性がなくなったのであるから,同命令が成立していたことをもって本件課徴金納付命令が違法であるということはできない。
 したがって,本件課徴金納付命令は同一の事実関係に対して二重に発令された命令として違法であり,無効であるとの原告の主張は理由がない。
オ 争点(1)エ(本件公示送達は適法にされたか否か)について
(ア) 本件審決が説示するとおり,原処分に係る命令書謄本の送達が適法にされたか否かは原処分の効力発生の有無に関する問題であって,原処分自体の適法性や相当性には関係がないから,本件公示送達の違法性の主張を失当であるとした本件審決の判断は相当である。
 また,本件審決が「念のため」として説示するとおり,本件においては,①マレーシア政府は,本件課徴金納付命令書と実質的には同じ内容の平成21年10月7日付け課徴金納付命令書謄本の領事送達に同意することはできない旨回答していること,また,②同国において管轄官庁送達を実施するための条約等が存しないことからすれば,民事訴訟法108条の規定によることができず,又はこれによっても送達することができないと認めるべき場合に該当することは明らかである。
 したがって,本件公示送達の違法をいう原告の主張はそもそも失当であり,本件公示送達が独占禁止法70条の18第1項に違反するとの点も理由がない。
(イ) 本件公示送達によりマレーシアに所在する原告に対して送達の効力が生じたとしても,マレーシアの領域内において我が国の公権力を行使するものではなく,同国の主権を侵害しないことは明らかであるから,同国政府との衝突を生じさせることはなく,国際礼譲に反することもないことは,本件審決が正しく説示するとおりである。
 また,外国政府が不応諾の意思を明確に表明した場合に公示送達は許されないという原告の主張は,本件のような事実関係の下での外国企業に対する送達を不可能にするものであり,独自の見解であって妥当でない。
 したがって,外国政府が不応諾の意思を明確に表明した場合には公示送達が許されないとの原告の主張は失当である。
(2) 争点(2)(本件に独占禁止法3条後段を適用することができるか否か)について
ア 我が国の独占禁止法を適用することができるか否かについて
 本件審決は,事業者が日本国外において独占禁止法2条6項に該当する行為に及んだ場合に,同法3条後段を適用することができるか否かの争点について,少なくとも,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合には,同法3条後段が適用されるという規範(以下「本件規範」という。)を示している。
 本件規範は,独占禁止法が,我が国における公正かつ自由な競争を促進するなどして,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としており,同法3条後段が,不当な取引制限行為を禁止して,我が国における自由競争経済秩序を保護することをその趣旨としていることにより根拠付けられる。独占禁止法の直接の目的が「公正且つ自由な競争」,すなわち,自由競争経済秩序の保護にあるということは明らかであるから,同法2条6項に該当する行為が我が国以外の地域でされても,我が国の自由競争経済秩序が侵害されている限り,同法3条後段を適用できるとすることは,同法の目的にかなうものであり,正当である。
 また,市場における供給者間の競争が,需要者に対する取引の獲得をめぐって行われることからすれば,需要者においてこのような競争の結果に基づく自由な取引が侵害されていれば,当該需要者を取り巻く自由競争経済秩序が侵害されたということができる。そうだとすれば,「一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合」であれば,我が国に所在する需要者の取引の自由が侵害されているのであるから,我が国における自由競争経済秩序が侵害されたということができる。したがって,本件審決が,独占禁止法の目的を踏まえた上で需要者に着目して本件規範を導いたことは正当である。
 我が国には,この分野における域外適用の一般原則を定めた法律はないのであり,正に独占禁止法自体の解釈として,本件に同法が適用できるか否かを判断すれば足りるものである。そして,独占禁止法3条後段で禁止する不当な取引制限行為には,同法2条6項により「一定の取引分野における競争の実質的制限」という我が国市場に対する効果に係る要件が定められているのであるから,このような要件の解釈問題として,同要件を充足するのであれば,同法3条後段の適用が肯定できるのであり,これとは別に,原告が主張するような「効果主義」における効果の存否に関する検討や,「属地主義」における行為や効果の生じた地域に関する検討をする必要は認められない。したがって,本件裁決が,いわゆる「効果主義」等,競争法の域外適用に関する一般的な立場を明示しなかったことについても,法令の解釈及び適用の誤りはない。
 独占禁止法の域外適用に関する問題は,違反が問われている対象事案に同法を適用することが,我が国の国家主権の行使として是認されるか否かの問題であるから,当該事案の我が国市場経済に与える影響が,我が国の競争政策を体現した独占禁止法が容認しない事態であるならば,我が国の国家主権の行使として同法の適用が是認されることは当然である。また,そもそも,同一事案を複数の法域が取り上げること自体が禁止されているわけではないから,他国の競争法との衝突や重複の回避といった要請は,自国の競争法の適用を妨げるものではない。したがって,諸外国が自国の市場に影響を与える国際的な違反事例に,自国の競争法をいかに適用しているかは,本件と直接関係するところではない。
 本件審決は,独占禁止法の域外適用に関する一般的な基準を示すことを目的とするものではなく,競争法の衝突や重複適用の回避の機能を果たすことを主眼としてされたものではないものの,本件規範は,少なくとも,一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,当該行為により一定の取引分野における競争が実質的に制限された場合には,同法3条後段が適用されるというものであるから,「属地主義」や「効果主義」といった考え方とも矛盾しない。
 また,現に,本件では東南アジア地域の関係国との間に競争法の重複適用等といった問題は生じていないのであるから,この点に関する原告の主張は理由がない。
イ 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が「需要者」に当たるか否かについて
 一口に需要者といっても,その機能は,取引の交渉をして取引条件を決定するという側面や,商品又は役務の供給を受ける側面,対価を支払う側面,更にはこれを使用収益する側面など多面的であり,他方で,社会又は経済取引が複雑化し,その流通過程も多様化している現状を考えると,自由競争経済秩序に関わる需要者側の主体は,現実の商品又は役務の提供を受けた者に限らないから,独占禁止法上の需要者を商品又は役務の提供を現実に受けた者に限定して狭く解するのは妥当ではない。ここで問題なのは,具体的事案に応じて,我が国の独占禁止法が保護すべき自由競争経済秩序の下における需要者として何に注目すべきかということであり,問題となる取引の実態に即して判断する必要がある。
 本件においては,自社グループが行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が,必要に応じて現地製造子会社等の意向を踏まえながらも,サムスンSDIほか4社と交渉をし,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上で,現地製造子会社等に対して上記決定に従って購入を指示して,本件ブラウン管を購入させていたものであり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者と現地製造子会社等が一体不可分となって本件ブラウン管を購入していたといえるものである。
 また,本件合意がサムスンSDIほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の最低目標価格等を設定するものであることも併せて考えれば,11社は,そのグループごとに,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との関係において,本件ブラウン管の購入先として選定されることやその重要な取引条件を競い合う関係にあったということができ,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,11社に対し,そのような競争を期待し得る地位にあったということができる。
 このような本件ブラウン管の取引の実態をみれば,直接に本件ブラウン管を購入してその供給を受けていたのが現地製造子会社等であったとしても,本件ブラウン管の取引の獲得をめぐるサムスンSDIほか4社(あるいは11社)の攻防は,上記のように重要な取引条件等を実質的に決定している我が国ブラウン管テレビ製造販売業者に対して行われていたということができ(だからこそ本件合意の内容は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき最低目標価格等を設定するものであったといえる。),取引の獲得に向けた事業活動という本質からすれば,これら我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,本件ブラウン管の取引に係る需要者側の主体として不可欠な極めて重要な存在だったのであり,これを需要者から除外することは相当ではない。
 さらに,上記のとおり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,11社に対して競争を期待し得る地位にあったところ,本件合意の内容が,サムスンSDIほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき本件ブラウン管の最低目標価格等を設定するものであったことからすれば,本件合意によって,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の本件ブラウン管の価格交渉の自由や価格決定の自由が侵害されたことは極めて明白であるのに,これを需要者から除外することは相当ではない。
 したがって,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,本件ブラウン管の需要者に該当する。
ウ 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の所在地について
 本件審決が,本件ブラウン管の需要者に該当すると認定した我が国ブラウン管テレビ製造販売業者について,その所在地が我が国であるとしている点は,以下のとおり正当である。
 すなわち,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,いずれも我が国に本店を置き,我が国の法律に準拠して設立された法人であるのみならず,その「ビジネスの実態」をみても,東南アジア地域で生産されるブラウン管テレビに係る事業の統括部門を我が国内に置いて,生産,販売及び在庫等を管理し,現地製造子会社等にブラウン管テレビの設計や仕様を指示し,同統括部門の担当者が我が国内外においてサムスンSDIほか4社と本件交渉を行い,基幹部品である本件ブラウン管の重要な取引条件等を決定した上,これを同統括部門から現地製造子会社等に指示して本件ブラウン管を購入させていたものである。このように,ブラウン管テレビに係る事業活動や本件ブラウン管の調達業務に係る活動の本拠地が我が国に存したことは明らかであるから,この点に依拠して,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が我が国に所在すると認定し,判断している本件審決に誤りはない。
エ 本件合意により「一定の取引分野における競争を実質的に制限」されたか否かについて
 平成24年判例は,違反行為者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して一定の取引分野を画定しているものと考えられ,本件審決の一定の取引分野の画定手法が論理的に誤りであるとはいえない。
 また,本件における一定の取引分野である本件ブラウン管の販売分野における競争は,主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであり,かつ,本件合意により当該一定の取引分野における競争が実質的に制限されたと認められるのであるから,競争の実質的制限が我が国の領域内に生じたことは明らかである。
 独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような価格カルテルの場合には,その当事者である事業者らがその意思で,当該市場における価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうと解されるところ,本件合意の内容が,サムスンSDIほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉に際して提示すべき本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の最低目標価格等を設定するものであることからすれば,本件ブラウン管の価格交渉の自由や価格決定の自由が侵害されたのは,我が国に所在して我が国の内外で交渉等をしていた我が国ブラウン管テレビ製造販売業者である。そうだとすれば,本件合意により,本件ブラウン管の取引に係る市場が有する競争機能が損なわれた場所,すなわち,11社がその意思で本件ブラウン管の価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらした場所は,我が国であるというべきである。
オ 一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われたとの本件審決の事実認定が実質的な証拠に基づくものであるか否かについて
 本件審決が掲記の証拠に基づいて認定した我が国ブラウン管テレビ製造販売業者各社ごとの現地製造子会社等との関係及び本件ブラウン管に関する取引の実態は,本件審決が説示するとおりである。これらの証拠及び認定事実からすれば,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,自社グループが行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,必要に応じて現地製造子会社等の意向を踏まえながらも,サムスンSDIほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを現地製造子会社等に伝え,現地製造子会社等は,それに従って我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたものといえる。そうすると,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは我が国ブラウン管テレビ製造販売業者であって,現地製造子会社等は我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない。
 したがって,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が,サムスンSDIほか4社との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上で,現地製造子会社等に対して上記決定に沿った購入を指示して,本件ブラウン管を購入させていたとの本件審決の認定及び判断は,実質的な証拠に基づく合理的なものであり,また,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が,原告らに対し,競争を期待し得る地位にあったとはいえないとの原告の主張は,前提を欠くものである。
 以下,原告が指摘する本件審決の事実認定が合理的なものであることを述べる。
(ア) SREC等(シャープ)
 本件審決は,原告が引用する川口康弘の供述等を全体的に踏まえた上で,「形式的には,SREC等に本件ブラウン管の取引条件の決定権があることは否定し難い」としつつも,「本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件の実質的な決定権はシャープにあった」こと,「シャープがサムスンSDIほか4社との交渉の際,価格トレンドの情報について,SREC等と協議していたとしても,飽くまで,SREC等の意向を踏まえ,調整を図っていたにすぎない」こと,「その結果,SREC等の意向どおりに本件ブラウン管を購入することがあったとしても,そのことをもってSREC等が本件ブラウン管の取引条件について実質的に決定していたとみることはできない」ことを合理的に認定し,判断しているものである。
 また,タイCRTとのブラウン管の取引についてみても,シャープはタイCRTからも価格トレンドの情報を入手し,シャープのタイ王国に所在する現地製造子会社等であるSharp Manufacturing Thailand Co., Ltd.との合意の下で,タイCRTからの購入数量を割り振っていたというのであるから,シャープがタイCRTと上記現地製造子会社等の取引においても重要な役割を果たしていたことは明らかであり,これら取引においてシャープが何らの役割を果たしていないとはいえない。
(イ) JMT,JET及びJVL(日本ビクター)
 本件審決は,原告が引用する宮﨑孝志の供述等を全体的に踏まえた上で,「日本ビクターがサムスンSDIほか4社と交渉した後に,JMT等が更に被審人ほか7社と価格交渉をしていたことがうかがわれる」としつつも,JMT等による価格交渉は,「日本ビクターがサムスンSDIほか4社と交渉して決定した購入価格を前提に,更に若干の値引きを求めるといった程度のものであった」こと,したがって,「日本ビクターが・・・JMT等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができる」ことを合理的に認定し,判断しているものである。
 また,日本ビクターとJMT等との間に契約や内規による明確な定めがなかったからといって,日本ビクターが本件ブラウン管の調達業務へ実質的に関与していた事実を否定することにはならない。
(ウ) 三洋電子インドネシア(三洋電機),ワールド等(オリオン電機)及び船井マレーシア等(船井電機)
 本件裁決は,前記原告の主張と同旨の本件審判手続における原告の主張を踏まえて,前記のとおり認定し,判断したものである。
カ 本件合意により一定の取引分野における競争が実質的に制限されたとの本件審決の事実認定が実質的な証拠に基づくものであるか否かについて
 一定の取引分野は,原則として,違反行為者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して画定されるところ,本件合意,すなわち,11社のした共同行為が対象としている取引は,本件交渉等を経て現地製造子会社等が購入する本件ブラウン管の販売に関する取引であり,それにより影響を受ける範囲も同取引であるから,本件における一定の取引分野は本件ブラウン管の販売分野であると認められる。他方,本件における一定の取引分野は,現地製造子会社等が購入するブラウン管の販売分野に特定されるのであるから,現地製造子会社等以外の需要者が購入したブラウン管を,本件ブラウン管の販売分野におけるシェア算定の基礎に算入する必要はない。
 また,本件審決が認定した市場シェアの基準量(分母となる数値)には,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が,原告ほか7社以外のテレビ用ブラウン管製造販売業者から現地製造子会社等に購入させた本件ブラウン管の購入額が含まれている。
 さらに,本件ブラウン管の販売分野における競争は,主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったということができ,本件合意により,11社がその意思で本件ブラウン管の価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらした場所は我が国であり,我が国の領域内において競争の実質的制限が生じていたことは明らかである。
(3) 争点(3)(本件ブラウン管の売上額は独占禁止法7条の2第1項の「当該商品の売上額」に該当し,課徴金の計算の基礎となるか否か)について
 本件ブラウン管が独占禁止法7条の2第1項の「当該商品」に当たり,その売上額が課徴金の計算の基礎となることは,本件審決の説示するとおりである。
 課徴金納付命令は非裁量的な行政処分であり,被告は,所定の違反行為に対しては法定の算定方法に従って画一的に課徴金の納付を命じなければならないのであって,かかる独占禁止法の規定に基づいて課徴金の納付を命ずることは,何ら違法ではない。
 したがって,本件ブラウン管の我が国以外の地域における売上高を課徴金の計算の基礎とすることを是認した本件審決に,独占禁止法7条の2第1項その他の法令の解釈適用の誤りはない。

第3 当裁判所の判断

1 争点(1)(本件課徴金納付命令に関する手続の適法性)について
(1) 争点(1)ア(本件課徴金納付命令をするに際して,事前手続が適法に行われたか否か)について
 独占禁止法50条6項,49条3項及び5項が,被告が課徴金納付命令をしようとするときは,その名宛人となるべき者に対し,納付を命じようとする課徴金の額,課徴金の計算の基礎及び課徴金に係る違反行為を書面により通知した上で,意見を述べ,及び証拠を提出する機会を付与しなければならない旨規定し,さらに,審査規則29条及び25条が,上記通知を受けた者等から申出があったときその他必要があるときは,上記通知事項及び課徴金の計算の基礎又はその課徴金に係る違反行為を基礎付けるために必要な証拠について説明するものとする旨規定している趣旨は,課徴金納付命令が不利益処分であることに照らし,名宛人に対し,事実関係等について弁明の機会を与えてその防御権を保障するとともに,公正な行政を確保することにあると解すべきである。
 これを本件についてみると,前記認定のとおり,被告が平成21年4月7日に原告に通知した課徴金納付命令書案は,課徴金納付命令番号,納期限及び作成日付が空欄であり,課徴金の額に1万円未満の端数があるときは,その端数を切り捨てることを定めた独占禁止法の条文が本件課徴金納付命令書と異なるものの,名宛人の名称,所在地及び代表者名,納付すべき課徴金の額,課徴金に係る違反行為並びに課徴金の計算の基礎は,本件課徴金納付命令書と同一であって,被告は,この課徴金納付命令書案を前提に,原告に意見陳述及び証拠提出の機会を与え,さらに,原告の申出に基づいて事前説明を行った上で,本件課徴金納付命令をしたものであるから,事前手続の上記趣旨に従って,原告に対し,本件の事実関係等について弁明の機会を与えてその防御権を十分に保障したものである。
 したがって,本件課徴金納付命令は,独占禁止法所定の事前手続を経たものと認められるから,この点に関する原告の主張は理由がない。
(2) 争点(1)イ(ア)(本件課徴金納付命令は被告の委員長及び委員の合議によるものといえるか否か)について
 被告の委員長及び委員4名が,平成21年9月28日までに,原告に対し,本件違反行為により課徴金13億7362万円を納付するよう命ずる旨合議の上決定したものであることは,本件審決が認定するとおりであるところ,この合議による意思決定は,原告に対して,本件違反行為を理由に課徴金13億7362万円を納付するよう命ずることを決定したものである。
 ところで,課徴金納付命令書には,違反行為のほかに納期限を記載しなければならないとされているところ(独占禁止法50条1項),課徴金の納期限は,課徴金納付命令書の謄本を発する日から3月を経過した日とされていることから(同条3項),本件のように平成21年10月7日付け課徴金納付命令書謄本を送達することができなかった場合には,改めて,課徴金納付命令書の謄本を発する日を前提とする課徴金の納期限を記載した課徴金納付命令書を作成することとなる。
 そうすると,平成21年10月7日付け課徴金納付命令と違反行為及び課徴金額が同一で,実質的には上記のようにして納期限のみを変更したものである本件課徴金納付命令は,前記の合議による意思決定に基づいてされたものというべきである。
 なお,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書と本件課徴金納付命令書とでは,課徴金の額から端数を切り捨てることの根拠となる条文が異なっているが,これは平成21年法律第51号による改正により,独占禁止法7条の2の中の項の番号が変更されたことによるものであり,実質的に同一の条文を適用したものであるから,この点を理由に,本件課徴金納付命令について被告の委員長及び委員が改めて合議をする必要があったとはいえない。
 したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
(3) 争点(1)イ(イ)(本件課徴金納付命令書は独占禁止法50条1項の規定に違反しているか否か)について
 本件課徴金納付命令書に,平成21年9月28日までに行われた合議に出席した委員のうち1名の記名押印がないことは,本件審決が認定するとおりである。しかし,合議に出席した被告の委員が課徴金納付命令書作成時までに退任した場合には,これに記名押印することができないのはやむを得ないことであり,独占禁止法には,合議に参加した審判官が審決案に署名押印することに支障がある場合に他の審判官が審決案にその事由を付記して署名押印すべきことを定める審判規則74条3項のような規定がないことに照らすと,本件課徴金納付命令書作成時までに退任した被告の委員の記名押印がないことをもって,独占禁止法50条1項に違反するということはできない。
 したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
(4) 争点(1)ウ(本件課徴金納付命令は平成21年10月7日付け課徴金納付命令と重複して違法となるか否か)について
 行政処分が行政処分として有効に成立したといえるためには,行政庁の内部において単なる意思決定の事実があるかあるいは当該意思決定の内容を記載した書面が作成され用意されているのみでは足りず,当該意思決定が何らかの形式で外部に表示されることが必要であり,名宛人である相手方の受領を要する行政処分の場合は,更に当該処分が相手方に告知され,又は相手方に到達することによって初めてその相手方に対する効力を生ずるものというべきである(最高裁判所昭和57年7月15日第一小法廷判決・民集36巻6号1146頁参照)。
 これを本件についてみると,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書は原告に送達されておらず,平成21年10月7日付け課徴金納付命令は,原告に対する効力を生じていないというべきであるから,本件課徴金納付命令は平成21年10月7日付け課徴金納付命令と重複して違法となるものではない。
 したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
(5) 争点(1)エ(本件公示送達は適法にされたか否か)について
 独占禁止法50条4項の規定による審判請求に基づく審判手続は,原処分の適法性及び相当性を再審査する手続であるところ,原処分に係る命令書謄本の送達が適法にされたか否かは原処分の効力発生の有無に関する問題であって,原処分自体の適法性や相当性には関係がないから,本件審判手続において本件公示送達の違法性を主張することは失当と解される。
 また,この点をさておくとしても,マレーシア政府が,本件課徴金納付命令書と実質的には同じ内容の平成21年10月7日付け課徴金納付命令書謄本の領事送達に同意することはできない旨回答したことは本件審決が認定するとおりであるところ,平成21年10月7日付け課徴金納付命令書謄本と実質的に同内容の命令が記載された本件課徴金納付命令書謄本について,マレーシア政府が領事送達に同意することは考え難いから,本件課徴金納付命令書謄本を領事送達によって送達することができない場合に当たるというべきである。また,マレーシアにおいて,管轄官庁送達を実施する権限のある管轄官庁を定めた条約等がないため,これを実施することができないことも本件審決が認定するとおりである。
 そうすると,マレーシアにおいてすべき本件課徴金納付命令書謄本の送達について,独占禁止法70条の17の規定により読み替えて準用される民事訴訟法108条の規定によることができず,又はこれによっても送達することができないと認めるべき場合(独占禁止法70条の18第1項2号)に該当するというべきである。
 さらに,我が国において行われた本件公示送達により,マレーシアに所在する原告に対して送達の効力が生じたと認めることは,マレーシアの領域内において我が国の公権力を行使するものではないから,マレーシアの主権を侵害するものではない。
 したがって,本件公示送達は適法にされたものというべきであるから,この点に関する原告の主張は理由がない。

2 争点(2)(本件に独占禁止法3条後段を適用することができるか否か)について
(1) 我が国の独占禁止法を適用することができるか否かについて
 本件において,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,現地製造子会社等が製造したブラウン管テレビを自社又は販売子会社を通じて販売していたほか,現地製造子会社等が製造するブラウン管テレビの生産,販売及び在庫等の管理等を行うとともに,ブラウン管テレビの基幹部品であるテレビ用ブラウン管について調達業務等を行い,自社グループが行うブラウン管テレビに係る事業を統括するなどしており,必要に応じて現地製造子会社等の意向を踏まえながらも,本件交渉等を行い,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上で,現地製造子会社等に対して上記決定に沿った購入を指示して,本件ブラウン管を購入させていたものと認められることは,本件審決が認定するとおりである(なお,この点に関する本件審決の事実認定が実質的証拠に基づくものであると認められることは,後記(5)のとおりである。)。すなわち,本件ブラウン管の購入に関する実質的な契約交渉は,我が国に所在する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が,サムスンSDIほか4社との間で行っていたものであり,だからこそ,本件合意は,サムスンSDIほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との交渉の際に提示すべき本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の最低目標価格等を設定するものであった。
 そうすると,本件合意は,正に本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件について実質的決定をする我が国ブラウン管テレビ製造販売業者を対象にするものであり,本件合意に基づいて,我が国に所在する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との間で行われる本件交渉等における自由競争を制限するという実行行為が行われたのであるから,これに対して我が国の独占禁止法を適用することができることは明らかである。
 この点,原告は,我が国の独占禁止法を適用できるか否かは,いわゆる効果主義に基づくべきであるところ,本件においては,日本国外で本件合意が行われ,日本国外で本件ブラウン管が購入されており,本件ブラウン管を使用したテレビの一部しか我が国に輸入されていないことから,我が国の独占禁止法は適用できないと主張する。
 しかし,いわゆる効果主義の考え方は,もともと国外における行為について例外的な域外適用を認めるためのものであるところ,本件においては,本件合意に基づく本件交渉等における自由競争制限という実行行為が,我が国に所在する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者を対象にして行われているのであるから,そもそもいわゆる効果主義に基づく検討が必要となる余地はなく,我が国の独占禁止法を適用できることは明らかである。
 したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
 なお,原告は,米国や欧州等の主要な法域で効果主義に沿うと理解される事案が積み重ねられており,域外適用の問題と呼ばれる独占禁止法の適用範囲の問題が,そもそも他国の競争法との衝突や重複適用を回避することを主要な目的としていることからすれば,諸外国の競争法がどのような基準を採用しているかは重要であって,我が国の独占禁止法も,諸外国の競争法の適用範囲と整合しない独自の解釈を採用することは予定していないところ,本件審決の判断は,これに整合しないなどと主張する。
 この点,EUにおいては,実施行為が域内に存在する必要があるものとされ,いわゆる実施行為理論が採られているとされているところ,本件においては,本件合意に基づく実行行為が我が国に所在する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者を対象にして行われていたものであるから,実施行為理論の下においても,実施行為は我が国に存在すると認めることができると考えられる。また,原告の引用する米国の連邦第7巡回区控訴裁判所大合議による決定は,損害賠償を請求する民事訴訟において,損害が発生して原告適格ないし訴えの利益を有するのはモトローラではなく,その子会社であることを理由としてモトローラの請求を認めなかったものであって,当裁判所の前記判断と相いれないものではない。
 そうすると,本件において,我が国の独占禁止法の適用を認めることが,直ちに米国や欧州等における競争法の域外適用の考え方と整合性を欠くことになるということはできない。 
 また,原告は,いわゆる効果主義を前提として,本件審決は我が国の領域内における効果について何ら認定していないから,独占禁止法を適用できることの実質的証拠を欠くと主張するが,本件において,原告の主張するいわゆる効果主義を前提にする必要がないことは前記判断のとおりであるから,原告の主張は前提を欠くものである。
(2) 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が「需要者」に当たるか否かについて
 本件において,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,現地製造子会社等が製造したブラウン管テレビを自社又は販売子会社を通じて販売していたほか,現地製造子会社等が製造するブラウン管テレビの生産,販売及び在庫等の管理等を行うとともに,ブラウン管テレビの基幹部品であるテレビ用ブラウン管について調達業務等を行い,自社グループが行うブラウン管テレビに係る事業を統括するなどしており,必要に応じて現地製造子会社等の意向を踏まえながらも,本件交渉等を行い,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上で,現地製造子会社等に対して上記決定に沿った購入を指示して,本件ブラウン管を購入させていたことが認められることは,前記判示のとおりであるから,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は「需要者」に当たるというべきである。
 確かに,現代社会においては,経済のグローバル化に伴い,企業活動や取引が国際的に展開されており,そのような場合には,同一の商品の供給に関して,「需要者」と認められる者が複数存在する場合が生じ得るが,それは独占禁止法の目的並びに企業活動及び取引の実態に照らすと,やむを得ないことであるから,この点が前記判断を左右するものではない。また,複数の国等の競争法が重複して適用されることによる弊害がある場合には,条約等による主権の調整や執行機関間における協力,調整等によって,その弊害の回避が図られるべきものであって,複数の国等の競争法の重複適用があり得ることを理由として,我が国の主権が及ばないという原告の主張は採用することができない。なお,本件においては,原告はマレーシア等において競争法違反で摘発されておらず,原告の主張する重複適用の危険は,実際上発生していない。
(3) 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の所在地について
 我が国ブラウン管テレビ製造販売業者は,いずれも我が国に本店を置き,我が国の法律に準拠して設立された法人であり,東南アジア地域で生産されるブラウン管テレビに係る事業の統括部門を我が国内に置いて,生産,販売及び在庫等を管理し,現地製造子会社等にブラウン管テレビの設計や仕様を指示し,同統括部門の担当者が我が国内外において本件交渉等を行い,基幹部品である本件ブラウン管の重要な取引条件等を決定した上,これを同統括部門から現地製造子会社等に指示して本件ブラウン管を購入させていたものであると認められることは,前記判示のとおりである。
 そうすると,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者のブラウン管テレビに係る事業活動や本件ブラウン管の調達業務に係る活動の本拠地は我が国に存したものと認めるのが相当であり,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が我が国に所在すると認定した本件審決の事実認定は,実質的証拠に基づくものであって,その判断は相当である。
 したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
(4) 本件合意により「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」こととなったか否かについて
 本件合意は,本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格について,各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨の合意であり,11社のした共同行為が対象としている取引は,本件ブラウン管の販売に関する取引であって,それにより影響を受ける範囲も同取引であることは,本件審決の認定するとおりであるから,本件ブラウン管の販売分野が「一定の取引分野」であると認めた本件審決の判断は相当である。
 また,独占禁止法2条6項所定の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような価格カルテルの場合には,その当事者である事業者らが,その意思で,当該市場における価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうと解されるところ(平成24年判例参照),本件合意の内容が,サムスンSDIほか4社が我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との本件交渉等に際して提示すべき本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の最低目標価格等を設定するものであることに照らすと,それによって本件ブラウン管の価格交渉の自由や価格決定の自由が侵害されたのは,我が国に所在して我が国の内外で本件交渉等を行っていた我が国ブラウン管テレビ製造販売業者であるというべきである。 そうすると,本件合意により,11社がその意思で本件ブラウン管の価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされ,本件ブラウン管の取引に係る市場が有する競争機能が損なわれた場所は,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者の所在地である我が国というべきである(このような判断が平成24年判例と整合しないという原告の主張は,採用することができない。)。
 この点,原告は,一定の取引分野という概念は,不当な取引制限と企業結合審査の双方で用いられており,後者が将来の時点における競争制限を問題にする点において異なっているだけであるから,最終的に認定される一定の取引分野は,原則として同一のものになるはずであるところ,本件において,企業結合ガイドラインに基づいて取引分野を画定すれば,その地理的範囲は東南アジア地域となるから,本件審決の一定の取引分野の画定方法は明らかに誤っていると主張する。
 しかし,独占禁止法2条6項における「一定の取引分野」は,そこにおける競争が共同行為によって実質的に制限されているか否かを判断するために画定するものであるところ,不当な取引制限における共同行為は,特定の取引分野における競争の実質的制限をもたらすことを目的及び内容としているのであるから,通常の場合,その共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して,一定の取引分野を画定すれば足りると解される一方,企業結合規制においては,企業結合が通常それ自体で直ちに特定の取引分野における競争を実質的に制限するとはいえない上,特定の商品又は役務を対象とした具体的な行為があるわけではないから,企業結合による市場への影響等を検討する際には,商品又は役務の代替性等の客観的な要素に基づいて一定の取引分野を画定するのが一般的となっていることに照らすと,企業結合規制と不当な取引制限とでは性質上の違いがあることは明らかであって,両者において認定される一定の取引分野が原則として同一のものになるはずであるという原告の主張は,前提を欠くものである。
 したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
(5) 一定の取引分野における競争が我が国に所在する需要者をめぐって行われたとの本件審決の事実認定が実質的な証拠に基づくものであるか否かについて
ア オリオン電機について
 査第1号証ないし第3号証,第5号証ないし第8号証,第28号証,第31号証,第32号証,第62号証,第63号証,第83号証ないし第93号証,第153号証,第154号証,第176号証ないし第187号証,第230号証及び第231号証(枝番を含む。以下同じ。)によれば,前記第2の4(2)ア(ア)aの事実が認められる。
 そうすると,同bのとおり,オリオン電機は,ワールド等に製造委託するブラウン管テレビに使用するブラウン管等の部品の選定やその購入価格,購入数量等の決定等の業務を行っており,本件交渉等を行った上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれをワールド等に伝え,ワールド等は,それに従ってオリオン電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められるから,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのはオリオン電機であって,ワールド等はオリオン電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない,すなわち,オリオン電機は,その選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,ワールド等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができると認めた本件審決の事実認定は,合理的であって,何ら経験則に反するものではない。
 したがって,この点に関する本件審決の事実認定は,実質的証拠に基づくものと認められる。
 この点,原告は,オリオン電機がワールド等と資本関係がない上,ブラウン管の購買業務に関与したことについて,法的又は契約上の根拠はなく,また,オリオン電機の担当者は,ワールド等の担当者が独自にブラウン管メーカーと交渉することを禁止しておらず,むしろワールド等の担当者が独自にブラウン管メーカーと交渉して,オリオン電機が交渉した場合よりも安い価格を実現できればオリオン電機としてもメリットがあると供述していると主張する。
 しかし,オリオン電機において,ワールド等が製造するブラウン管テレビの原価計算をして販売価格を管理していたことなどに照らすと,オリオン電機がブラウン管の調達からブラウン管テレビの製造及び販売について実質的に決定していたと認められるのであって,資本関係がないことや本件ブラウン管の取引条件の交渉や価格の決定方法等について明確な定めがなかったことは前記認定を左右するものではない。むしろ,オリオン電機とワールド等の間の技術援助契約において,ワールド等は必要な資材についてオリオン電機を通じて購入することに協力する旨定められていたことに照らすと,オリオン電機が本件ブラウン管の取引条件の交渉や決定に関与することは,同契約で当然に想定されていたものというべきである。
 また,ワールド等の担当者がブラウン管メーカーと交渉することがあったとしても,その価格交渉は,オリオン電機がサムスンSDIほか4社と交渉して決定した購入価格を前提に,更に若干の値引きを求めるといった程度のものであったと認められることは,本件審決の認定するとおりであり,ワールド等が,本件ブラウン管の仕様,購入数量及び購入先についてオリオン電機の決定に従っていたことや,購入価格についてもオリオン電機の決定したものを前提としていたことなどに照らすと,この点が前記認定を左右するものではない。
イ 三洋電機について
 査第1号証,第2号証,第10号証,第28号証,第29号証,第31号証,第32号証,第63号証,第67号証,第92号証,第93号証,第97号証,第98号証,第188号証ないし第192号証,第223号証及び第224号証によれば,前記第2の4(2)ア(イ)aの事実が認められる。そうすると,同bのとおり,三洋電機は,三洋電機及び三洋電子インドネシア等が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,本件交渉等を行った上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを三洋電子インドネシアに伝え,同社は,それに従って三洋電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められ,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは三洋電機であって,三洋電子インドネシアは三洋電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない,すなわち,三洋電機がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,三洋電子インドネシアに対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができると認めた本件審決の事実認定は合理的であって,何ら経験則に反するものではない。
 したがって,この点に関する本件審決の事実認定は,実質的証拠に基づくものと認められる。
 この点,原告は,三洋電機が三洋電子インドネシアによるブラウン管の購買業務に関与したことについて,根拠となる契約書や規則等の文書はなく,また,ブラウン管の購買業務は,三洋電子インドネシアが作成した同社の事業計画に基づき行われていたものであり,三洋電子インドネシアと原告の間でも,親会社がいずれも全く関与しないまま価格が決められたこともあったとされることに照らすと,三洋電機が本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を交渉の上,決定し,三洋電子インドネシアに指示して本件ブラウン管を購入させていたとはいえないと主張する。
 しかし,取引における実質的な決定権の所在は,その取引の実態に即して判断すべきものであって,契約書又は規則等の文書がないとしても,前記認定を左右するものではない。また,三洋電機が交渉の当事者として最終的に取引条件を決定するに当たり,その過程において,三洋電子インドネシアや他の子会社等の意向を集約し,集中購買によるグループ全体の利益を図りつつ,三洋電子インドネシアや他の子会社等の個々の意向に沿うように配慮し,又は調整することは,むしろ,最終的に取引条件の決定を行う三洋電機としては当然のことであるから,本件ブラウン管の購買業務が三洋電子インドネシアが作成した同社の事業計画を踏まえて行われていたとしても,前記認定を左右するものではない。さらに,原告が指摘する李大儀の供述内容(査第229号証及び審第7号証)は,単に原告と三洋電子インドネシアとの間で本件ブラウン管の価格を決めたこともあった旨供述するにすぎず,具体性に乏しく信用することはできない上,前記認定事実を裏付ける証拠に照らして採用できないことは,本件審決が説示するとおりである。
 したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
ウ シャープについて
 査第1号証ないし第3号証,第11号証ないし第18号証,第28号証,第32号証,第64号証,第68号証,第92号証,第93号証,第97号証,第100号証,第105号証ないし第109号証,第150号証,第193号証ないし第196号証及び第225号証によれば,前記第2の4(2)ア(ウ)aの事実が認められる。そうすると,同bのとおり,シャープはSREC等との協議の結果を踏まえて本件交渉等に臨んでいたこと,SREC等が,貿易条件や支払条件については個別に原告ほか7社と交渉する余地があったことが認められるものの,シャープは,シャープ,SREC等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,サムスンSDIほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等を決定していたこと,SREC等はシャープの指示に基づき,上記交渉を経て決定された価格トレンド(購入価格,購入数量等)に従ってシャープが決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められ,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのはシャープであったと認められるのであって,シャープがその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,SREC等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができると認めた本件審決の事実認定は合理的であって,何ら経験則に反するものではない。
 したがって,この点に関する本件審決の事実認定は,実質的証拠に基づくものと認められる。
 この点,原告は,シャープの担当者であった川口泰弘の供述(査第225号証)によれば,本件ブラウン管の取引条件の最終的な決定権はSREC等にあり,シャープは,本件ブラウン管の購入先の選定や購入価格等について,SREC等の意向を踏まえて,価格交渉に関与していたにすぎず,シャープが本件ブラウン管の購入価格等の取引条件を交渉の上,決定し,SREC等に指示して本件ブラウン管を購入させていたとはいえない旨主張する。
 確かに,SREC等はシャープとは別個の法人格を有するものであり,その名義で本件ブラウン管を発注していたものであって,形式的には,SREC等に本件ブラウン管の取引条件の決定権があったものと認められる。しかし,取引における実質的な決定権の所在は,その取引の実態に即して判断すべきところ,前記認定事実によれば,シャープは,SREC等に必要なテレビ用ブラウン管の購入等を一元管理していたのであるから,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件の実質的な決定権はシャープにあったと認められ,シャープがサムスンSDIほか4社との交渉の際,価格トレンドの情報について,SREC等と協議していたとしても,それは,SREC等の意向を踏まえ,調整を図っていたにすぎないと認められるのであって,その結果,SREC等の意向どおりに本件ブラウン管を購入することがあったとしても,そのことをもってSREC等が本件ブラウン管の取引条件について実質的に決定していたとみることはできないことは,本件審決の説示するとおりである。
 したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
エ 日本ビクターについて
 査第1号証ないし第3号証,第19号証ないし第24号証,第28号証,第32号証,第65号証,第70号証,第92号証,第93号証,第111号証ないし第114号証,第197号証ないし第200号証及び第226号証によれば,前記第2の4(2)ア(エ)aの事実が認められる。そうすると,同bのとおり,日本ビクターは,日本ビクター,JMT等並びにその他の製造子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,本件交渉等を行った上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれをJMT等に伝え,JMT等は,それに従って日本ビクターが決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められ,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは日本ビクターであって,JMT等は,日本ビクターの指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない,すなわち,日本ビクターがその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,JMT等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができると認めた本件審決の事実認定は合理的であって,何ら経験則に反するものではない。
 したがって,この点に関する本件審決の事実認定は,実質的証拠に基づくものと認められる。
 この点,原告は,日本ビクターが関与して交渉する価格は,「ガイドライン」にすぎず,その後,JMT等が原告ほか7社と交渉して本件ブラウン管の最終的な価格が決定されていたのであって,日本ビクターが本件ブラウン管の購入価格等の取引条件を交渉の上,決定し,JMT等に指示して本件ブラウン管を購入させていたとはいえないと主張する。
 確かに,日本ビクターの担当者であった宮﨑孝志の供述(査第226号証)によれば,本件ブラウン管について,日本ビクターがサムスンSDIほか4社と交渉した後に,JMT等が更に原告ほか7社と価格交渉をしていたことがうかがわれるが,宮﨑孝志の供述によれば,上記価格交渉は,日本ビクターがサムスンSDIほか4社と交渉して決定した購入価格を前提に,更に若干の値引きを求めるといった程度のものであったと認められる上,JMT等が,本件ブラウン管の仕様,購入数量及び購入先について日本ビクターの決定に従っていたことや,購入価格についても日本ビクターの決定したものを前提としていたことなどに照らすと,日本ビクターがその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,JMT等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができることは,本件審決の説示するとおりである。
 したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
オ 船井電機について
 査第1号証ないし第3号証,第25号証,第26号証,第28号証,第32号証,第66号証,第92号証,第93号証,第97号証,第116号証ないし第121号証,第149号証,第156号証,第157号証,第201号証ないし204号証,第227号証及び第228号証によれば,前記第2の4(2)ア(オ)aの事実が認められる。そうすると,同bのとおり,船井電機は,船井電機並びに船井電機マレーシア等の現地製造子会社及びその他の子会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,本件交渉等を行った上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを船井電機マレーシア等に伝え,船井電機マレーシア等は,それに従って船井電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたことが認められ,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等といった重要な取引条件を実質的に決定していたのは船井電機であって,船井電機マレーシア等は,船井電機の指示に従っていたにすぎず,本件ブラウン管の購入先及び重要な取引条件の決定について実質的に関与していたとは認められない,すなわち,船井電機がその選定した事業者との間で交渉し,本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定した上,船井電機マレーシア等に対し指示して本件ブラウン管を購入させていたということができると認めた本件審決の事実認定は合理的であって,何ら経験則に反するものではない。
 したがって,この点に関する本件審決の事実認定は,実質的証拠に基づくものと認められる。
 この点,原告は,船井電機が船井電機マレーシア等によるブラウン管の購買業務に関与したことについて,根拠となるグループ間の規則や契約上の規定はなく,また,サムスンSDIほか4社の中から選定した事業者と船井電機の間の価格交渉が長引き,所定の価格改定時期を過ぎても妥結されていないような場合,その交渉の妥結を待たずに現地法人間で取引することもあったと主張する。
 しかし,取引の実質的な決定権の所在は,その取引の実態に即して判断すべきものであって,契約上の根拠又は規則等の文書がないとしても,前記認定を左右するものではない。また,仮に,サムスンSDIほか4社の中から選定した事業者と船井電機の間の価格交渉が長引き,所定の価格改定時期を過ぎても妥結されていないような場合,その交渉の妥結を待たずに現地法人間で取引することもあったとしても,船井電機は,船井電機並びに船井電機マレーシア等の現地製造子会社及びその他の子会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括しており,サムスンSDIほか4社の中から選定した事業者と交渉した上で,本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を決定してそれを船井電機マレーシア等に伝え,船井電機マレーシア等は,それに従って船井電機が決定した購入先から本件ブラウン管を購入していたという取引の実態に照らすと,この点が前記認定を左右するものではない。
(6) 本件合意により一定の取引分野における競争が実質的に制限されたとの本件審決の事実認定が実質的な証拠に基づくものであるか否かについて
 本件における一定の取引分野は,現地製造子会社等が購入する本件ブラウン管の販売分野と特定されることは前記判断のとおりであるから,市場シェアの基準量(分母となる数値)には,我が国ブラウン管テレビ製造販売業者が,原告ほか7社以外のテレビ用ブラウン管製造販売業者から現地製造子会社等に購入させた本件ブラウン管の購入額が含まれていれば足り,それ以上に,現地製造子会社等以外の需要者が購入したブラウン管を,本件ブラウン管の販売分野におけるシェア算定の基礎に算入する必要はないというべきである。
 また,本件ブラウン管の販売分野における競争は,主として我が国に所在する需要者をめぐって行われるものであったということができ,本件合意により,11社がその意思で本件ブラウン管の価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらした場所は我が国であり,我が国の領域内において競争の実質的制限が生じていたものと認められることは前記判示のとおりである。したがって,それ以上に我が国への効果や影響を認定する必要はないから,これらを認定しなかった本件審決が実質的証拠を欠くものであるとの原告の主張は前提を欠くものであり,理由がない。

3 争点(3)(本件ブラウン管の売上額は独占禁止法7条の2第1項の「当該商品の売上額」に該当し,課徴金の計算の基礎となるか否か)について
 独占禁止法7条の2第1項にいう「当該商品」とは,違反行為である相互拘束の対象である商品,すなわち,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解される。これを本件についてみると,本件ブラウン管が本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものであることは明らかであり,本件ブラウン管は「当該商品」に当たるから,独占禁止法施行令5条に基づき算定された本件ブラウン管の売上額が課徴金の計算の基礎となる。
 原告は,本件ブラウン管は,東南アジア地域で供給され,代金の支払も同地域で行われており,日本国内において具体的な競争制限効果が生じていないから,「当該商品」に該当しない旨主張する。
しかし,課徴金の計算に関しては,独占禁止法7条の2第1項が,事業者が不当な取引制限をし,それが商品の対価に係るものである場合には,実行期間における当該商品の政令で定める方法により算定した売上額に同項所定の課徴金算定率を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない旨規定し,独占禁止法施行令5条及び6条が売上額の算定方法について規定していることに照らすと,これらの規定の解釈として,商品の供給や代金の支払が外国において行われた場合にその売上げを課徴金の計算の基礎から除くべきものと解することはできない。
 したがって,本件のような場合に,課徴金の計算に関して例外を設けるべきであるとの原告の主張は,立法論としてはともかく,現行法の解釈として採用することはできない。

第4 結論
 以上によれば,本件審決の認定は証拠に基づく合理的なものであり,また,その認定事実に基づく判断は正当であって,本件審決の判断に原告主張の違法はなく,その手続にも違法は認められない。
 よって,本件審決の取消しを求める原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第3特別部

平成28年1月29日

東京高等裁判所第3特別部

裁判長裁判官 杉原 則彦

裁判官 山口 均

裁判官 高瀬 順久

裁判官 内田 博久

裁判官 朝倉 佳秀

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