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独禁法3条後段
平成28年(措)第6号
平成28年(措)第6号
排 除 措 置 命 令 書
大阪府豊中市千成町三丁目5番3号
松尾電機株式会社
同代表者 代表取締役 常 俊 清 治
仙台市太白区郡山六丁目7番1号
NECトーキン株式会社
同代表者 代表取締役 小 山 茂 典
福島県田村郡三春町大字熊耳字大平16番地
ビシェイポリテック株式会社
同代表者 代表取締役 佐 藤 健
公正取引委員会は,上記の者らに対し,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第7条第2項の規定に基づき,次のとおり命令する。
主 文
1 松尾電機株式会社(以下「松尾電機」という。),NECトーキン株式会社(以下「NECトーキン」という。)及びビシェイポリテック株式会社(以下「ビシェイポリテック」という。)の3社(以下「3社」という。)は,それぞれ,次の事項を,取締役会において決議しなければならない。
(1) タンタル粉体の焼結体表面に形成する酸化皮膜を誘電体とするコンデンサ(陰極に導電性ポリマーを利用するものを除く。以下「タンタル電解コンデンサ」という。)について,遅くとも平成22年6月17日までに3社及びニチコン株式会社(以下「ニチコン」という。)の4社(以下「4社」という。)が共同して行った,販売価格を引き上げる旨の合意が消滅していることを確認すること。
(2) 今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,タンタル電解コンデンサの販売価格を決定せず,各社がそれぞれ自主的に決めること。
(3) 今後,相互に,又は他の事業者と,タンタル電解コンデンサの販売価格の改定に関して情報交換を行わないこと。
2 3社は,それぞれ,前項に基づいて採った措置を,自社を除く2社に通知するとともに,自社のタンタル電解コンデンサの需要者及び自社のタンタル電解コンデンサの取引先である商社等に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
3 3社は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,タンタル電解コンデンサの販売価格を決定してはならない。
4 3社は,今後,それぞれ,相互に,又は他の事業者と,タンタル電解コンデンサの販売価格の改定に関して情報交換を行ってはならない。
5 松尾電機及びNECトーキンは,それぞれ,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については,前2項で命じた措置が遵守されるために十分なものでなければならず,かつ,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
(1) 自社の商品の販売活動に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の改定及び自社の従業員に対する周知徹底(NECトーキンにあっては自社の従業員に対する当該行動指針の周知徹底)
(2) タンタル電解コンデンサの販売活動に関する独占禁止法の遵守についての,タンタル電解コンデンサの営業担当者に対する定期的な研修及び法務担当者による定期的な監査
6 松尾電機及びNECトーキンは,第1項,第2項及び前項に基づいて採った措置を,ビシェイポリテックは,第1項及び第2項に基づいて採った措置を,それぞれ,速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
理 由
第1 事実
1 関連事実
(1) 名宛人等の概要
ア 3社は,それぞれ,肩書地に本店を置き,タンタル電解コンデンサを,需要者又は商社等(以下「需要者等」という。)に対して,直接販売していた。
なお,3社のうちビシェイポリテックは,平成22年3月31日,名宛人以外の日立化成エレクトロニクス株式会社(以下「日立化成エレクトロニクス」という。)からタンタル電解コンデンサの製造販売に係る事業を譲り受けたホリストンポリテック株式会社が,平成26年11月1日付けで現商号に変更した者である。
イ 日立化成エレクトロニクスは,茨城県筑西市小川1500番地に本店を置き,タンタル電解コンデンサの製造販売に係る事業を営んでいた者であるが,平成21年10月1日付けで日立エーアイシー株式会社から現商号に変更し,平成22年3月31日,ビシェイポリテックに対し,同事業を譲渡し,同日以降,同事業を営んでいない。
ウ 名宛人以外のニチコンは,京都市中京区烏丸通御池上る二条殿町551番地に本店を置き,タンタル電解コンデンサの製造販売に係る事業を営んでいた者であるが,平成25年2月6日,中華人民共和国香港特別行政区に所在するエーブイエックス・キョーセラ・アジア・リミテッドに対し,同事業を譲渡し,同日以降,同事業を営んでいない。
(2) タンタル電解コンデンサの取引形態等
ア 4社は,それぞれ,需要者等と直接交渉して,タンタル電解コンデンサの販売価格を定めていた。
イ NECトーキンは,自社が販売するタンタル電解コンデンサのほとんど全てをタイ王国に所在する自社の子会社で生産していた。
ウ 4社のタンタル電解コンデンサの販売金額の合計は,我が国におけるタンタル電解コンデンサの総販売金額の大部分を占めていた。
2 合意の成立等
(1) 松尾電機,NECトーキン及び日立化成エレクトロニクスは,遅くとも平成20年7月頃以降,マーケット研究会又はマーケティング研究会と称する会合(以下「マーケット研究会」という。)をおおむね毎月1回開催し,タンタル電解コンデンサの受注実績及びその見通し,原材料価格の動向,販売価格の引上げ等について情報交換を行っていた。また,松尾電機,NECトーキン,ニチコン及び日立化成エレクトロニクスは,遅くとも同月頃以降,営業責任者級の者らによる面談等を実施し,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げ,販売価格の改定に係る需要者等との交渉状況,原材料価格の動向等について情報交換を行うなどしていた。
(2)ア(ア) 平成22年1月頃,タンタル電解コンデンサの原材料であるタンタル資材の価格の上昇が見込まれたところ,NECトーキン及びニチコンは,今後,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる必要がある旨を伝え合うなどした。NECトーキンは,松尾電機に対し,同月のマーケット研究会で,タンタル資材の価格が上昇する見通しであることを,同年2月のマーケット研究会で,ニチコンがタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる見通しであることを,それぞれ伝えるなどした。
(イ) ニチコンは,平成22年3月頃,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げることとし,不採算な取引について当該価格の引上げに着手した。同月頃以降,ニチコンは,当該価格の改定に係る需要者等との交渉状況をNECトーキンに伝え,NECトーキンは,これをマーケット研究会で松尾電機に伝えるなどした。
イ(ア) NECトーキン及びニチコンは,平成22年4月頃,営業責任者級の者らによる面談を行うなどして,タンタル資材の価格上昇が見込まれること,このためタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる必要があること等を伝え合った。
(イ) 平成22年5月中旬頃,ニチコンは,タンタル電解コンデンサの販売価格を全面的に引き上げることとした。同月20日,ニチコンは,タンタル資材の価格上昇のためタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げることとしたこと及びタンタル電解コンデンサの受注が供給能力を上回っていることをNECトーキンに伝えるとともに,タンタル資材の価格が上昇することを松尾電機に伝えた。3社は,同月下旬頃,ニチコンがタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げること,NECトーキンもタンタル資材の価格上昇のためタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる必要があること等を伝え合った。
(ウ) ビシェイポリテックは,遅くとも平成22年6月15日までに,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げることをNECトーキンに伝えるなどした。
(エ) 平成22年6月17日,横浜市港北区に所在する貸会議室で開催されたマーケット研究会において,NECトーキンは,自社及びビシェイポリテックがタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げること等を松尾電機に伝え,松尾電機は,当該価格を引き上げること等をNECトーキンに伝えた。
(オ) これにより,4社は,遅くとも平成22年6月17日までに,タンタル電解コンデンサの販売価格を共同して引き上げることを合意した。
3 実施状況等
(1) 4社は,マーケット研究会,営業責任者級の者らによる面談等を通じ,タンタル電解コンデンサの販売価格の改定に係る需要者等との交渉状況を伝え合う,需要者等に提示する見積価格を調整するなどして,前記2(2)イの合意の実効を確保していた。
(2) 4社は,前記2(2)イの合意に基づき,需要者等に対して,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨の申入れを行い,当該価格を引き上げるなどしていた。
4 合意の消滅
(1)ア 平成23年10月19日,前記1(2)イのNECトーキンの子会社の工場が洪水により被災し,同工場においてタンタル電解コンデンサを生産することができなくなった。NECトーキンは,同日,同工場でのタンタル電解コンデンサの生産の再開のめどが立たない旨を公表し,その後,松尾電機,ビシェイポリテック及びニチコンに対し,同工場でのタンタル電解コンデンサの生産を再開しない旨を伝えた。
イ 平成23年10月19日以降,松尾電機,ビシェイポリテック及びニチコンの間でのタンタル電解コンデンサの販売価格の改定に関する情報交換をNECトーキンが仲介することはなく,4社の間で前記3の行為は行われていない。
(2) このため,前記2(2)イの合意は,平成23年10月19日以降,事実上消滅しているものと認められる。
第2 法令の適用
前記事実によれば,4社は,共同して,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨を合意することにより,公共の利益に反して,我が国におけるタンタル電解コンデンサの販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。
また,前記の違反行為は既になくなっているが,4社は,いずれも,独占禁止法第7条第2項第1号に該当する者であり,3社については,長期にわたり違反行為を継続していたこと,かねてからタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げ,販売価格の改定に係る需要者等との交渉状況,原材料価格の動向等に関する情報交換を行うなどの長期にわたる協調関係の下で違反行為を行っていたこと等の諸事情を総合的に勘案すれば,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。
よって,3社に対し,独占禁止法第7条第2項の規定に基づき,主文のとおり命令する。
平成28年3月29日
公 正 取 引 委 員 会
委員長 杉 本 和 行
委 員 小 田 切 宏 之
委 員 幕 田 英 雄
委 員 山 本 和 史
委 員 三 村 晶 子
平成28年3月29日