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加藤化学株式会社に対する件

独禁法66条2項(独禁法3条後段,独禁法7条の2)

平成25年(判)第24号ないし第27号

審判請求棄却審決(排除措置命令及び課徴金納付命令に係る審判請求棄却審決)

愛知県知多郡美浜町大字河和字上前田18番地
被審人 加藤化学株式会社
同代表者 代表取締役 加 藤 栄 一
同代理人 弁 護 士 洞 雞 敏 夫
同          大 軒 敬 子

公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う公正取引委員会関係規則の整備に関する規則(平成27年公正取引委員会規則第2号)による廃止前の公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)(以下「規則」という。)第73条の規定により審判長審判官山門優,審判官南雅晴及び審判官數間薫から提出された事件記録,規則第75条の規定により被審人から提出された異議の申立書並びに独占禁止法第63条及び規則第77条の規定により被審人から聴取した陳述に基づいて,同審判官らから提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
被審人の各審判請求をいずれも棄却する。

理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,後記第2項のとおり訂正するほかは,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第7と同一であるから,これらを引用する。
2 別紙審決案を以下のとおり訂正する(頁数は,同審決案の頁数を指す。)。
(1) 2頁3行目の「平成25年(措)第8号排除措置命令」を「平成25年(納)第15号課徴金納付命令」に改める。
(2) 2頁5行目の「平成25年(納)第15号課徴金納付命令」を「平成25年(措)第8号排除措置命令」に改める。
(3) 30頁18行目の「前記第5の1?ウないしオ」の次に「,前記第5の2?ウ」を加える。
3 よって,被審人に対し,独占禁止法第66条第2項及び規則第78条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

平成28年4月15日

公 正 取 引 委 員 会
委員長  杉  本  和  行
委 員  小 田 切  宏  之
委 員  幕  田  英  雄
委 員  山  本  和  史
委 員  三  村  晶  子

平成25年(判)第24号ないし第27号

審   決   案

愛知県知多郡美浜町大字河和字上前田18番地
被審人 加藤化学株式会社
同代表者 代表取締役 加 藤 栄 一
同代理人 弁 護 士 洞 ? 敏 夫
同          大 軒 敬 子
同          島 﨑   哲

上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う公正取引委員会関係規則の整備に関する規則(平成27年公正取引委員会規則第2号)による廃止前の公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号。以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。
なお,以下の用語のうち,別紙1の「用語」欄に掲げるものの定義は,同「定義」欄に記載のとおりである。

主     文
被審人の各審判請求をいずれも棄却する。

理     由
第1 審判請求の趣旨
1 平成25年(判)第24号審判事件
平成25年(措)第7号排除措置命令の全部の取消しを求める。
2 平成25年(判)第25号審判事件
平成25年(措)第8号排除措置命令の全部の取消しを求める。
3 平成25年(判)第26号審判事件
平成25年(納)第15号課徴金納付命令の全部の取消しを求める。
4 平成25年(判)第27号審判事件
平成25年(納)第24号課徴金納付命令の全部の取消しを求める。
第2 事案の概要(当事者間に争いのない事実及び公知の事実)
1 公正取引委員会は,被審人が,別紙2記載の各事業者(以下「9社」といい,被審人を含めて「10社」という。)と共同して,特定異性化糖の販売価格を引き上げる旨を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における特定異性化糖の販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものであり,かつ,特に排除措置を命ずる必要があるとして,平成25年6月13日,10社に対し,同法第7条第2項に基づき,排除措置を命じた(平成25年(措)第7号。以下「本件排除措置命令1」という。)。
2 公正取引委員会は,本件排除措置命令1に係る違反行為(以下「本件違反行為1」という。)は独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する商品の対価に係るものであるとして,平成25年6月13日,被審人に対し,2億2284万円の課徴金の納付を命じた(平成25年(納)第15号。以下「本件課徴金納付命令1」という。)。
3 公正取引委員会は,被審人が,9社と共同して,特定水あめ・ぶどう糖の販売価格を引き上げる旨を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における特定水あめ・ぶどう糖の販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条に違反するものであり,かつ,特に排除措置を命ずる必要があるとして,平成25年6月13日,10社から日本食品化工株式会社及び日本コーンスターチ株式会社を除いた8社に対し,同法第7条第2項に基づき,排除措置を命じた(平成25年(措)第8号。以下「本件排除措置命令2」といい,本件排除措置命令1と併せて「本件各排除措置命令」という。)。
4 公正取引委員会は,本件排除措置命令2に係る違反行為(以下「本件違反行為2」といい,本件違反行為1と併せて「本件各違反行為」という。)は独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する商品の対価に係るものであるとして,平成25年6月13日,被審人に対し,1億6552万円の課徴金の納付を命じた(平成25年(納)第24号。以下「本件課徴金納付命令2」といい,本件課徴金納付命令1と併せて「本件各課徴金納付命令」という。)。
5 本件各排除措置命令及び本件各課徴金納付命令の命令書の謄本は,いずれも平成25年6月14日,被審人に対して送達された。
被審人は,同年8月12日,本件各排除措置命令及び本件各課徴金納付命令の全部の取消しを求める審判請求をした。
6 本件各排除措置命令は,被審人に対するものを除き,いずれも確定した。
第3 前提となる事実(各項末尾に括弧書きで証拠を掲記した事実は当該証拠から認定される事実であり,その余の事実は当事者間に争いのない事実又は公知の事実である。なお,証拠の表記については,「第」及び「号証」を略し,単に「査○」,「審○」と記載する。)
1 10社の概要
被審人は,糖化製品の製造業を営む者である。
9社(以下,各社の名称については,別紙2の「略称」欄記載のものを使用する。)のうち,群栄化学工業を除く8社は,いずれも糖化製品の製造業を営む者であり,群栄化学工業は,異性化糖については製造業を,水あめ・ぶどう糖については卸売業を営む者である。(査2ないし10)
2 糖化製品の特性及び用途等
(1) 特性及び用途
異性化糖は,精製糖(いわゆる砂糖)と異なり,低温で甘味度が高く,食べた直後に甘さを感じやすく,後に甘みを残しにくいという特徴があることから,主として清涼飲料水製造業者に販売されている。(査11ないし13)
水あめ・ぶどう糖は,異性化糖に比べると甘味度が低い。また,一般的に水あめと呼称されるものは,粘性や保水性を有し,食品に粘りや硬さを付けることができることから,飴菓子,餅菓子,ガム,ゼリー等の製造業者に販売されているほか,発泡酒の発酵酵母を培養するための材料として酒類製造業者に販売されている。一般的にぶどう糖と呼称されるものは,菓子類の製造業者に販売されるほか,結晶化しやすいため,粉末調味料の製造業者や医薬品の製造業者に販売されている。
糖化製品は,いずれも液糖と結晶・粉末化したものとに分けられる。
(2) 価格決定方式
糖化製品の原料となるでん粉は,とうもろこしから生成されるところ,でん粉に生成されるとうもろこしのほとんどはアメリカ合衆国から輸入されており,10社のうち群栄化学工業を除く各社(以下「群栄化学工業以外の各社」という。)のとうもろこしの仕入価格は,主にシカゴ商品取引所のとうもろこし先物相場(以下「とうもろこしのシカゴ相場」という。)に左右される。なお,群栄化学工業は,とうもろこしを輸入せず,とうもろこしでん粉の製造業者からでん粉を購入している。(査31ないし34)
糖化製品の需要者向け販売価格の決定方式には,ルール決め,固定価格及びジャン決めとそれぞれ呼称されるものがある。ジャン決めとは,ルール決め及び固定価格を除く価格決定方式であり,需要者との間で,あらかじめ価格の計算式,交渉時期,適用期間等を定めずに,原料価格の変動等を理由として,必要な都度,需要者と相対で交渉して価格を定める方式である。
特定異性化糖及び特定水あめ・ぶどう糖(これらを併せて,以下「本件各製品」という。)とは,ジャン決めにより価格を定める条件で取引する需要者向けに販売される糖化製品である。
(3) 商流等
10社は,本件各製品について,直接又は商社等を通じて,需要者である清涼飲料水製造業者,酒類製造業者,菓子類製造業者等に販売し,その販売価格を,通常,直接又は商社等を通じて需要者と交渉して定めていた。
商社等は,本件各製品の販売価格の引上げに関し,10社と需要者を仲介する役割を果たしており,10社から販売価格の引上げを指示されれば,その指示に沿って需要者との間で販売価格の引上げ交渉を行っており,商社等が10社の意向と違う形で独自に販売価格の引上げ交渉を行うことはなかった。
(査22,28,35,38ないし40)
(4) シェア
平成23年の10社における特定異性化糖の国内向け販売数量の合計は,我が国における特定異性化糖の総販売数量の約97.5パーセントを占めていた。また,同年の10社における特定水あめ・ぶどう糖の国内向け販売数量の合計は,我が国における特定水あめ・ぶどう糖の総販売数量の約74.4パーセントを占めていた。(査27)
3 日本スターチ・糖化工業会
(1) 日本スターチ・糖化工業会の組織
日本スターチ・糖化工業会(以下「工業会」という。)は,でん粉及び糖化工業の地位を確立し,これらに関する知識の普及及び消費の拡大を図り,振興と国民経済の発展に寄与することなどを目的に,平成9年4月,日本コーンスターチ工業会と日本糖化工業会が合併して設立された任意の事業者団体である。
工業会は,群栄化学工業以外の各社,向後スターチ株式会社及び株式会社J-オイルミルズを会員とし,理事会の下に政策委員会が置かれ,その下にコンス委員会,糖化委員会,技術委員会及び原料対策委員会が設けられていた。
(2) 糖化委員会の概要
糖化委員会は,10社をもって構成されており(なお,群栄化学工業は,工業会の会員ではなかったが,糖化委員会の会合には出席していた。),砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律(昭和40年法律第109号。平成19年4月以前は農産物価格安定法〔昭和28年法律第225号〕)に基づき農林水産省が公表する価格等について,各社の共通する諸問題に関する意見及び情報の交換,需要分析,売戻価格の分析等を行っていた。
糖化委員会では,おおむね毎月1回,昼に1時間程度,東京都港区に所在する工業会事務所内の会議室において,会合を開催していた。同会合には,10社からそれぞれ,主として営業部長,支店長等の営業責任者級の者が出席するほか,工業会の専務理事及び全日本糖化工業会(自らでん粉を製造せずに,他社から購入したでん粉を用いて糖化製品を製造する事業者を会員とする任意の事業者団体。)の専務理事が出席し,昼食をとった後,同委員会の委員長の司会により,冒頭,工業会の専務理事から,糖化製品に関する統計資料等の説明が行われ,その後に,10社からの出席者が,順次,各社における糖化製品の販売状況等について発言していくのが通例であった(なお,10社からの出席者の具体的な発言内容については,後記のとおり,当事者間に争いがある。)。
平成22年10月から平成24年1月までの間の糖化委員会の開催日並びに出席者及び出席者の出席当時における各社での役職は,別紙3のとおりである(以下,上記のとおり開催された糖化委員会については別紙3の「会合の略称」欄記載の略称,同委員会の出席者については同別紙記載の略称を使用する。)。
糖化委員会では,10社の中から委員長1名及び副委員長2名を選任していた。平成22年10月の糖化委員会から平成23年9月の糖化委員会までの委員長は日本食品化工の首藤,副委員長は王子コーンスターチの野村及びサンエイ糖化の取締役執行役員営業本部長の竹内昌伸(以下「サンエイ糖化の竹内」という。)であった。また,平成23年10月の糖化委員会から同年12月の糖化委員会までの委員長は被審人の西原,副委員長は三和澱粉工業の齊部及び日本澱粉工業の本坊であり,平成24年1月の糖化委員会からは,日本澱粉工業の本坊が委員長であった。(査13,48ないし63,225)
4 とうもろこし価格の高騰
とうもろこしのシカゴ相場は,平成22年春頃の1ブッシェル(約35リットル)当たり3ドルから4ドル台の水準から,同年夏頃以降は同5ドルを超える水準で推移するようになった。同相場は,平成23年に入っても上昇を続け,同年1月に1ブッシェル当たり6ドルとなり,同年4月には同7ドルを超える水準となったが,同年9月頃から下落し始め,同6ドル台となった。
5 10社による価格引上げ活動
10社は,本件各製品の原料となるでん粉を生成するために必要なとうもろこしの価格が前記4のとおり高騰したことなどを理由に,別紙4のとおり,本件各製品の需要者に対し,平成23年1月から同年2月にかけて,同製品の販売価格を1キログラム当たり10円引き上げることを求める交渉を開始し,さらに,その後も,とうもろこしのシカゴ相場の高騰が続いていることなどを理由に,同別紙のとおり,本件各製品の販売価格を追加で引き上げ,前記引上げと併せて合計で1キログラム当たり15円ないし20円引き上げることを求める交渉を継続した(以下,最初の値上げの申入れを「本件当初値上げ」,更なる値上げの申入れを「本件追加値上げ」といい,両者を併せて「本件各値上げ」という。なお,被審人の本件当初値上げの交渉開始時期については,後記のとおり当事者間に争いがある。)。
6 公正取引委員会による立入検査
公正取引委員会は,平成24年1月31日,本件排除措置命令1により措置を命じた事件について,独占禁止法第47条第1項第4号の規定に基づく立入検査を行った。10社は,同日以降,本件各製品の販売価格について情報交換を行っていない。
7 本件各製品の売上額
審査官が被審人の本件各違反行為の実行期間であると主張する平成23年3月1日から平成24年1月30日までの間における本件各製品に係る被審人の売上額を,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号。以下「独占禁止法施行令」という。)第5条第1項の規定に基づき算定すると,特定異性化糖に係る売上額は55億7116万4771円であり,特定水あめ・ぶどう糖に係る売上額は51億7257万9019円を下回るものではない。
第4 争点
1 10社は,本件当初値上げに当たり,本件各製品の販売価格を引き上げる旨を合意したか(争点1)
2 10社は,本件追加値上げに当たり,本件各製品の販売価格を更に引き上げる旨を合意したか(争点2)
3 争点1及び争点2に係る合意の対象に純果糖は含まれるか(争点3)
第5 争点に係る双方の主張
1 争点1(10社は,本件当初値上げに当たり,本件各製品の販売価格を引き上げる旨を合意したか)について
(1) 審査官の主張
10社は,遅くとも平成22年12月の糖化委員会が開催された同月28日までに,本件各製品について,平成23年1月以降,販売価格を現行価格より1キログラム当たり10円引き上げることを合意した(以下,特定異性化糖に係る当該合意を「特定異性化糖の当初合意」,特定水あめ・ぶどう糖に係る当該合意を「特定水あめ・ぶどう糖の当初合意」といい,これらを併せて「本件各当初合意」という。)。
本件各当初合意が形成されていることは,①10社は,平成22年10月,同年11月及び同年12月の糖化委員会において,本件各製品の販売価格を平成23年1月以降,1キログラム当たり10円引き上げることなどを内容とする情報交換を行っていたこと,②10社はそれぞれ,前記①の情報交換を受けて,本件各製品の販売価格引上げを決定したこと,③10社は,平成22年12月の糖化委員会後,平成23年1月又は2月から,本件各製品の需要者に対し,同年2月又は3月を販売価格引上げの実施時期とし,引上げ額を1キログラム当たり10円とする価格引上げ交渉を開始するなど,ほぼ一致した行動に出たこと,④10社は,本件各製品について,平成23年1月から同年6月にかけて,糖化委員会の会合の場において販売価格引上げ交渉の進捗状況等に関する情報交換を行ったり,個別の需要者に対する販売価格引上げの交渉時期,販売価格の引上げ幅及び交渉の進捗状況等について,他の入れ合い先(複数の同業者がお互いに競合する商品を同一の需要者に納入している場合における当該同業者を指す。以下同じ。)と個別に連絡を取り合って足並みをそろえたりしていたこと,などに照らし明らかである。
被審人においても,本件各当初合意を踏まえて,別紙4のとおり,平成23年1月以降,取引先に対し,本件各製品の販売価格の引上げ交渉を開始している。
(2) 被審人の主張
ア 10社が本件各当初合意をしたことは否認する。
イ 糖化委員会の会合は,各出席者が長々と発言する機会はなく,その場で議論したり,決定や合意をしたりというものではなかった。そもそも,糖化製品の業界は競争が激しく,互いにシェアを奪い合うことはまれでなく,糖化委員会の会合の出席者が歩調を合わせることのできる状況ではなかった。糖化委員会の会合の出席者は,他社の発言を必ずしも真意であるとは受け止めておらず,駆け引きの一環とも理解していた。
平成22年10月,同年11月及び同年12月の糖化委員会において,出席者の中には,原料の値上げを製品価格に転嫁することを希望している旨,1キログラム当たり10円の値上げを考えている旨の発言をする者もいたが,同業他社同士で歩調を合わせて値上げをする旨の発言がなされたことはなく,本件各当初合意がなされた事実はない。
ウ 被審人は,いわゆる同族会社であり,創業者一家が経営者として経営方針や営業方針を決定し,本件各製品の販売価格の決定権限は全て営業本部長にあった。被審人は,海外でビル及びホテルを経営して多額の利益を上げるなど,多角的な事業を行っており,経営が安定しているため,糖化製品の製造業においても,短期的な損得を離れて,中長期的な視点でシェアの拡大維持と利益の増大の実現を図る方針を採っていた。競争事業者と歩調を合わせることは,上記方針に反するものであり,被審人にとって何ら得るものがない。
エ 被審人は,同業他社の営業に関する発言(値上げに関する発言を含む。)を信用に値するものとは考えておらず,そのため,糖化委員会の会合の場での同業他社の発言も信用に値するものとは考えていなかった。被審人の営業本部長その他の経営者らは,糖化委員会の会合における議題には興味がなく,単に農林水産省との関係での義務感から,被審人の西原を糖化委員会の会合に出席させていただけであり,被審人の西原も,その内容を営業本部長らに報告することはなかった。
オ 被審人においては,平成22年9月以降,原料価格が上昇していたものの,同月末から平成23年1月中旬頃までの間は,取引先に多大な迷惑をかける異例の事態(平成22年9月29日に発生した被審人の工場での火災事故による操業停止,大規模なボイラー検査のための操業停止による大口取引先に対する年末年始の供給制限の依頼及び平成23年1月16日に発生した被審人の工場での死亡事故)が続発したため,値上げを検討し取引先に申し入れることが到底できない状況にあった。当時被審人の営業本部長であった加藤鐘二(以下「被審人の鐘二」という。)は,それらの対応が一段落した同年2月16日,原料の高騰等の諸事情を考慮の上,本件各製品につき1キログラム当たり10円の値上げを申し入れることを決定し,その旨社内に指示した。
カ 平成23年2月16日より以前に,被審人の一部の取引先に対して,被審人の大阪支店を作成名義人とする,本件各製品の「製品価格改定のお願い」と題する文書(査135。以下「2月9日付け文書」という。)が送付されたり,本件各製品の販売価格引上げの申入れがされたりしたことは事実である。
しかしながら,上記文書は,同支店の取引先の一部から,いずれ被審人も販売価格引上げを行うのであれば早急に文書を提出するよう催促されたことから,近い将来予想される値上げに向けての下準備のための打診をしたものにすぎない。また,上記値上げの申入れは,採算の採れていない取引先や,被審人が値上げをすることを前提に問い合わせをしてきた取引先等に対してなされたものである。
これらの行為は,営業担当者や支店が,販売価格決定権限を有する営業本部長に相談ないし了解を得ることなく,独断で行ったものであり,被審人としての値上げの申入れではない。
キ 糖化製品の製造販売に関しては,輸入とうもろこしの関税割当制度及びそれに伴う調整金制度並びに砂糖との調整金制度が存在することから,糖化製品の販売価格について競争原理が働く範囲には少なからず制約があり,販売価格は均一化される傾向にあった。
とうもろこしのシカゴ相場が変動し,又は為替に変動が生じることにより,糖化製品の製造業者が糖化製品の販売価格を変動させたいと考えることは経済合理的なことである。仮に,被審人における糖化製品の販売価格の引上げ時期及び引上げ幅が同業者らと一致していたとしても,それは不自然な一致ではなく,同業者ら全てに同じ影響を及ぼすような費用変動要因への対応の結果としてもたらされたにすぎない。
また,本件当初値上げに当たり,10社が同一又はこれに準じた行動に出たともいえない。三和澱粉工業は,平成22年10月末に本件各製品の価格を1キログラム当たり2円値上げしているし,本件当初値上げに当たっても,取引先ごとに必要な値上げ幅を検討している者や,平成22年12月の糖化委員会以前に値上げを決定していた者などがいる。
2 争点2(10社は,本件追加値上げに当たり,本件各製品の販売価格を更に引き上げる旨を合意したか)について
(1) 審査官の主張
ア 10社は,遅くとも平成23年6月の糖化委員会が開催された同月29日までに,本件各製品について,本件各当初合意により合意した引上げ額を1キログラム当たり15円ないし20円に修正することを合意した(以下,特定異性化糖に係る当該合意を「特定異性化糖の修正合意」,特定水あめ・ぶどう糖に係る当該合意を「特定水あめ・ぶどう糖の修正合意」といい,これらを併せて「本件各修正合意」という。また,本件各当初合意と本件各修正合意を併せて「本件各合意」という。)。
本件各修正合意が形成されていることは,①10社間には,既に本件各当初合意に基づく協調関係が生じていたことに加え,②10社は,平成23年1月から同年6月にかけての糖化委員会において,本件各製品の販売価格について,本件各当初合意による引上げ額を1キログラム当たり15円ないし20円と修正することなどを内容とする情報交換を行ったこと,③10社は,前記②の情報交換を受けて,本件各製品の販売価格の追加の引上げを決定したこと,④10社は,平成23年6月の糖化委員会後,同年7月頃以降も,追加分を含めて1キログラム当たり合計15円ないし20円という極めて近似した引上げ幅による本件各製品の販売価格引上げ交渉を継続して行うなど,ほぼ一致した行動に出たこと,⑤10社は,同年7月以降も,糖化委員会の会合において,追加分を含めた本件各製品の販売価格引上げ交渉の進捗状況等に関する情報交換や,同年9月頃以降のとうもろこしのシカゴ相場の下落を踏まえた需要者からの本件各製品の販売価格引下げ要請に対する対応を検討していたほか,個別の需要者に対する販売価格引上げの交渉の時期,販売価格引上げ幅及び交渉の進捗状況等について,他の入れ合い先と個別に連絡を取り合って足並みをそろえていたこと,などに照らし明らかである。
イ 10社は,前記第3の2?のとおり,特定異性化糖及び特定水あめ・ぶどう糖の販売分野において高い市場占有率を持つ者であり,本件各合意をすることにより,公共の利益に反して,我が国における特定異性化糖及び特定水あめ・ぶどう糖の各販売分野における競争を実質的に制限していた。
(2) 被審人の主張
ア 10社が本件各修正合意をしたことは否認する。
イ 糖化委員会の会合において値上げに関する合意ができるものではなかったことについては,前記1(2)イのとおりである。平成23年1月から同年6月までの糖化委員会において,同業他社同士で販売価格の引上げの合意がなされた事実はない。
ウ 平成23年4月1日に被審人の鐘二に代わって被審人の営業本部長に就任した加藤貞男(以下「被審人の貞男」という。)は,同年5月12日又はその前日,近い将来,本件各製品の販売価格を1キログラム当たり10円引き上げること,値上げの申入れ時期は他社の動向等の状況を見て判断すること,ジャン決めによる価格決定方式を採用している取引先に対して徐々にルール決めによる価格決定方式への変更を申し入れることを決定し,その旨社内に指示した。
被審人の貞男がこの時期に追加の値上げを決定したのは,営業本部長に就任後,糖化製品の取引に収益が上がっていないものが多々見られ,その改善をする必要があると考えていたところ,同年5月中旬になり,東日本大震災による影響がある程度落ち着いてきたためである。同決定は,糖化委員会の会合とは無関係に独自になされたものである。
エ 本件追加値上げに当たり,10社が同一又はこれに準ずる行動に出たとはいえない。
審査官の主張によっても,本件追加値上げの額は,1キログラム当たり5円ないし10円という幅のあるものであるところ,商慣習上,糖化製品の販売価格引上げの申入れを行う場合の引上げ額は,5円又は10円のいずれかである。5円の値上げを求める業者と10円の値上げを求める業者がいたということは,10社が同一又はこれに準ずる行動に出ていないことを示している。
3 争点3(争点1及び争点2に係る合意の対象に純果糖は含まれるか)について
(1) 審査官の主張
ア 純果糖とは,被審人が製造している無水結晶果糖の商品名である。無水結晶果糖とは,結晶・粉末化した異性化糖のうち,果糖100パーセントのものをいう。
純果糖は,とうもろこしから生成されたでん粉を加水分解し,異性化して得られた果糖を成分としており,粉末状であるとしても異性化糖に属するものであるから,ジャン決めによって価格を決める条件で取引する需要者向けに販売されるものであれば,特定異性化糖に他ならない。
10社は,特定異性化糖の販売価格の引上げに関する情報交換を行っていたが,情報交換の契機になったのは,とうもろこしのシカゴ相場における価格の高騰であり,この情報交換の対象は,とうもろこしを原料とする特定異性化糖全般であって,純果糖など一部のものを除くことは想定されていなかった。
実際,被審人は,ジャン決めに係る純果糖について,他の特定異性化糖と同様に,需要者に対し,特定異性化糖の当初合意及び修正合意の内容に即した販売価格の引上げを申し入れている。
イ 純果糖とその他の異性化糖の形状の違いは,製品の効用において大きな差異をもたらすものではない。また,一般に異性化糖においては,果糖含有率(糖のうちの果糖の割合)の相違によって甘味度が異なり,高果糖液糖と称される,果糖含有率が95パーセント以上のものも存在する。甘味度に応じて用途が異なることは当然であるから,純果糖の果糖含有率が100パーセントであることは,他の異性化糖から特別視する理由にならない。
このように,純果糖については,液糖である異性化糖(以下「異性化液糖」という。),特に高果糖液糖との代替性が優に肯定できるため,純果糖とその他の異性化糖を含めた特定異性化糖という取引分野を構成し得る。このような取引分野における競争を制限する旨の特定異性化糖の当初合意及び修正合意の対象には,純果糖も含まれていたと解するのが相当である。
(2) 被審人の主張
ア 純果糖は,異性化糖に含まれるものであるが,次のとおり,他の異性化糖とは性状等を異にし,両者の間に代替性はなく,競争状況も異なるものであり,異なる取引分野を構成する。したがって,仮に異性化液糖について不当な取引制限行為があったとしても,10社の間で純果糖について不当な取引制限が行われたことはない。
(ア) 異性化液糖が液糖であるのに対し,純果糖は粉末状である。このような性状の違いがあるため,両者は,配送及び保管方法が異なり,受入先における設備や使用方法も異なる。また,純果糖は果糖100パーセントであるのに対し,他の異性化糖は,果糖のほかに,ぶどう糖その他の糖類を含むものであり,成分の違いから甘味度や甘味の質も異なる。このように純果糖と異性化液糖には差異があることから,需要者は,その用途に合わせて純果糖又は異性化液糖を選んでいる。日本農林規格においても,液糖である異性化糖のみに定義規定が設けられている。
市場の画定は,主に製品の需要代替性の観点から検討されるところ,異性化液糖と純果糖には,上記のような違いがあることから,両者の間に需要代替性はなく,それぞれ異なる市場を構成する。
(イ) 無水結晶果糖は,国内生産品よりも輸入品の量が多く,国内においては被審人が唯一の製造業者である。したがって,我が国において純果糖と競争関係にあるのは,輸入による無水結晶果糖のみである。
イ 審査官が被審人の本件各違反行為の実行期間であると主張する期間における特定異性化糖に係る被審人の売上額を独占禁止法施行令に基づき算定した金額は,前記第3の7のとおりであるが,同金額には,ジャン決めによる価格決定方式による純果糖の売上高(4億6051万0267円)が含まれている。
第6 審判官の判断
1 認定事実
(1) 当事者間に争いのない事実,公知の事実及び証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア 10社の協調関係
10社は,平成22年10月の糖化委員会が開催される以前にも,かねてより,糖化委員会の会合等において,各社における糖化製品の販売価格,値上げ交渉の状況等について情報交換を行っていた。
また,日本経済新聞社が発行する日本経済新聞(以下「日経新聞」という。)には,同社の取材に基づく糖化製品の価格相場(以下「日経相場」という。)が掲載されており,糖化委員会も,同社の記者(以下「日経記者」という。)の取材を受けることがあった。
10社は,需要者との間で糖化製品の販売価格を交渉する際に,有力紙である日経新聞に掲載される糖化製品に関する記事や日経相場の状況が影響を与えることがあったことから,糖化製品の値上げの局面等においては,値上げに関する需要者の理解を得やすくし,値上げ交渉を円滑に進めるために,日経記者に対し,値上げが必要な事情や各社の値上げの方針,値上げの状況を説明し,これを記事にしてもらうよう働きかけるなどしていた。10社は,糖化委員会の会合等において,上記の目的で日経記者に対して懇談会(以下「日経記者との懇談会」という。)の開催を申し入れることや,日経記者から糖化製品の価格に関して取材を受けた場合の対応等について話し合っていた。
10社は,以上のような日本経済新聞社に対する対応を総称して,「日経対策」と呼んでいた。
(査67ないし89)
イ 平成22年10月から同年12月までの10社間の情報交換等
(ア) 平成22年10月の糖化委員会
平成22年10月の糖化委員会において,王子コーンスターチの野村,サンエイ糖化の松下及び日本食品化工の青木は,とうもろこしのシカゴ相場の上昇傾向を受け,本件各製品について,年明けに1キログラム当たり5円から10円値上げすることに向けてのアナウンスを一部の取引先に対して始めている旨発言した。
また,被審人の西原は,原料高の状況の中,価格については本腰を入れなければならない旨,日本コーンスターチの東は,値上げに対する具体的な資料を作成中である旨,日本澱粉工業の本坊は,原料相場からすると1キログラム当たり10円程度の値上げが必要である旨それぞれ発言し,昭和産業の杉山,敷島スターチの土井及び三和澱粉工業の齊部からも,値上げが必要となるという趣旨の発言があった。
これらの発言に対し,特段異議を唱える出席者はいなかった。
(査31,33,37,44,66,91,97,98)
(イ) 平成22年11月の糖化委員会
平成22年11月の糖化委員会において,日本食品化工の青木は,「平成23年1月納入分から,異性化糖を中心とした糖類を1キログラム当たり10円値上げすることで,取引先に対し値上げ活動を行っていく」旨発言し,群栄化学工業の岡本は,「群栄ぐらいの小さなシェアの会社は皆様に追随せざるを得ませんので,うちも年明けから値上げを検討しています」旨発言し,王子コーンスターチの野村は,「弊社としては,1月から10円程度の値上げが必要な状況となっています」旨発言するなど,各出席者はそれぞれ,本件各製品について値上げをする方向で検討している旨報告した。
なお,各社が販売価格の引上げの意向を述べたことに関し,群栄化学工業の岡本が,同業者が集まる場でこのような話をするのは問題である旨発言したところ,当時,糖化委員会の委員長であり,同会合の司会を務めていた日本食品化工の首藤は,「各社が独り言を言っていると思って欲しい」旨発言し,同発言以降,岡本の上記発言に関する出席者からの発言はなされず,その後の糖化委員会の会合でも,岡本と同様の発言をする者はいなかった。
各出席者からの発言後,日本食品化工の首藤は,各社とも1キログラム当たり10円の値上げでしっかり取り組んでいきましょうという趣旨の発言をし,被審人の西原を含め,特にこれに異を唱える出席者はいなかった。
また,同会合において,日経対策として日経記者との懇談会を開き,糖化委員会の幹事会社(委員長及び副委員長)である日本食品化工の首藤及び同青木,王子コーンスターチの野村並びにサンエイ糖化の松下の4名が,日経記者に対して,各社における本件各製品の販売価格の引上げ方針を日経新聞に掲載してもらうよう働きかけることとされた。
(査32,37,44,65,66,92,93,100ないし103,105ないし107,279)
(ウ) 平成22年12月の日経記者との懇談会及び記事の掲載
日本食品化工の首藤ら前記(イ)の4名及び工業会の中野は,平成22年12月14日,日経記者の五十嵐孝(以下「五十嵐記者」という。)と面会し,同記者に対し,本件各製品の原料であるとうもろこしの価格の推移に関する資料等を示しながら,日本食品化工,王子コーンスターチ及びサンエイ糖化が,いずれも平成23年1月納入分から,本件各製品の販売価格を1キログラム当たり10円引き上げる方針である旨説明した。
その結果,同月22日付けの日経新聞に,王子コーンスターチなどの異性化糖メーカーが,原料であるとうもろこしの価格の急騰を主因として,平成23年1月出荷分から糖化製品を1キログラム当たり10円値上げし,王子コーンスターチ及びサンエイ糖化は同月4日,日本食品化工は同月5日からの実施をそれぞれ目指す旨の記事が掲載された。
(査33,44,66,101,103,108ないし112)
(エ) 平成22年12月の糖化委員会
平成22年12月の糖化委員会において,日本食品化工の首藤は,日経新聞に前記(ウ)の記事が掲載されたことを報告し,「記事に取り上げてもらっているので,平成23年1月以降の価格修正について,非常にやり易くなった」旨発言した。
出席者からは,王子コーンスターチの野村が,「弊社としては,日経の記事にもあるとおり,来年1月から値上げ交渉に入ります」などと発言し,その他の出席者からも,「原料の高騰による値上げのアナウンスを行ってきたが,平成23年1月から1キログラム当たり10円の値上げの交渉に入る」旨,「日経新聞に記事が出たこともあり,1月より1キログラム当たり10円で粘り強く交渉を行う」旨の発言等,本件各製品について,平成23年1月から1キログラム当たり10円の値上げを目指して交渉を行っていくとの発言が多くなされ,被審人の西原を含め,これに異を唱える出席者はいなかった。
各出席者からの上記発言後,日本食品化工の首藤は,原料価格が高騰し続けているので,需要者との価格交渉を頑張っていこうという趣旨の取りまとめの発言をした。
(査37,44,66,94,95,101,114,115)
ウ 本件各製品の販売価格の引上げ
10社ではそれぞれ,糖化委員会の会合の出席者又は当該出席者から糖化委員会の会合における情報交換の内容について報告を受けた者が中心となり,遅くとも平成23年1月下旬までに,本件各製品の販売価格を現行価格より1キログラム当たり10円引き上げる旨を需要者に対して申し入れる旨決定し,同年1月から2月にかけて,需要者に対し,同年2月1日又は同年3月1日を実施期日として,本件各製品の販売価格を現行価格より10円引き上げる旨を申し入れるなど,販売価格の引上げ交渉を開始した(別紙4参照)。(査37,66,103,108,114ないし132)
被審人においても,大阪支店長の仲山博一(以下「被審人の仲山」という。)ら同社の営業担当社員又は取引先である商社(以下,単に「商社」という。)の担当社員が,平成23年1月25日から同年2月15日にかけて,需要者の事務所を訪れて,本件各製品につき1キログラム当たり10円の値上げを申し入れたり(査22,29,133,166,167,171,172,174),同年1月末頃から2月上旬頃に,商社を通じて,一部の需要者に対して値上げを申し入れ,交渉の結果,同年2月14日に,特定異性化糖につき1キログラム当たり4円ないし6円の値上げを実現したり(査24,170,173),被審人大阪支店の所管する商社及び需要者に対し2月9日付け文書を送付し,本件各製品について,同年3月1日以降納入分より,1キログラム当たり10円の値上げを行うことを申し入れる(査117,135,168,169,審9)などした。
また,被審人は,ジャン決めに係る純果糖についても,他の特定異性化糖と同様に,販売価格の引上げを申し入れた。(査134,289)
エ 平成23年1月から同年6月までの10社間の情報交換等
(ア) 平成23年1月の糖化委員会
平成23年1月の糖化委員会において,日本食品化工の首藤は,同月28日付けの日経新聞に,異性化糖の販売価格の引上げが1キログラム当たり6円から7円で決着し,水あめ・ぶどう糖もそれぞれ値上がりした旨の記事が掲載されたことを報告した上で,原材料の価格は高騰を続けており,更なる値上げが必要である旨発言した。
他の出席者からは,本件各製品の販売価格の引上げについて,日本食品化工の青木が,更なる値上げが必要であり,1キログラム当たり6円ないし7円ではなく,あくまで10円の値上げを社内の営業担当者に指示している旨,昭和産業の杉山が,同年3月までには1キログラム当たり10円の値上げを行い,同年4月以降更に1キログラム当たり10円の値上げを目指す旨,敷島スターチの土井が,基本的に昭和産業と足並みをそろえる旨,日本コーンスターチの斉藤が,1キログラム当たり10円の値上げは達成していないが,10円は必ず上げるように社内の営業担当者に指示している旨,サンエイ糖化の松下が,同年3月末までに1キログラム当たり10円の値上げを目指し交渉中である旨,王子コーンスターチの野村が,現在の進捗は1キログラム当たり平均6円ないし7円であるが,同年3月までに分割でもよいから1キログラム当たり10円の値上げを指示している旨,三和澱粉工業の齊部が,需要者は事情を理解してくれており,1キログラム当たり10円の値上げを目指しているが,原料状況から更なる値上げも必要である旨,日本澱粉工業の本坊が,1キログラム当たり10円の値上げを目指して交渉しているところであり,原料相場からすると,更に値上げが必要である旨,被審人の西原が,需要者も覚悟はできており,値上げ時期と幅は入れ合い先と歩調を合わせて実施していく旨,それぞれ発言した。
各出席者からの上記発言後,日本食品化工の首藤は,とうもろこしのシカゴ相場の今後の動向からすれば,1キログラム当たり10円の値上げだけでは足りないので,更なる値上げを検討しなければならない旨の取りまとめの発言をした。
(査66,179ないし183)
(イ) 平成23年2月の糖化委員会
平成23年2月の糖化委員会では,日本食品化工の青木が,原料価格の高騰を踏まえ,更に5円の値上げ,合計で15円の値上げが必要である旨発言し,王子コーンスターチの野村が,原料価格の更なる高騰から,同年4月以降,1次値上げに追加して5円以上の値上げが必要と考えている旨発言するなど,同年3月までに1キログラム当たり10円の値上げを交渉中であるが,現在も続いている原料価格の高騰を踏まえると,同年4月以降に更なる値上げが必要であるとの発言が大勢を占め,被審人の西原を含め,これに異を唱える出席者はいなかった。
また,同会合において,日経対策として,幹事会社が日経記者との懇談会を開き,本件各製品につき販売価格の追加の引上げに関する記事を掲載してもらうよう働きかけることとされた。
その後,日本食品化工の首藤,王子コーンスターチの野村,サンエイ糖化の松下及び工業会の中野は,同年3月1日,五十嵐記者と面会し,原料であるとうもろこしの価格の推移等に関する資料を示しながら,首藤が,同年1月以降の1キログラム当たり10円の値上げに追加して,同年4月以降更に5円の値上げが必要である旨説明し,野村及び松下も,自社の方針は日本食品化工と同様である旨を伝えた。しかし,同月11日に東日本大震災が発生したことなどから,上記追加の販売価格引上げに関することは記事として日経新聞に掲載されなかった。
(査178,182,185ないし189)
(ウ) 平成23年3月の糖化委員会
平成23年3月の糖化委員会において,昭和産業の杉山は,自社工場が東日本大震災で被災したことから今は値上げのお願いに行ける状況ではない旨報告した。一方,群栄化学工業の岡本は,「1月から,10円の値上げをお願いするべく動いているが,原料価格の高騰を考えると,4月から更に5円程度の値上げが必要である」旨発言し,被審人の西原も「4月以降も5円上げないと厳しい」旨発言した。
他の出席者からも,「1キログラム当たり10円の値上げについては70ないし80パーセント程度達成したが,4月から更に1キログラム当たり5円値上げし,合計で1キログラム当たり15円の値上げに向けて交渉中である」旨,「1キログラム当たり10円の値上げについてはほとんど決着したが,震災の影響で更なる値上げのタイミングを逸しており,値上げ幅は決めかねているものの2次値上げは必要である」旨,「震災の影響で日本への入港を回避する船もおり,船賃が余計に上昇していることなどから,追加の値上げは必要である」旨,「震災の影響で安定供給を望むユーザーが増えており,値上げがしやすい環境になってきている」旨,「震災の影響で配送運賃が割増しになっており,その分の値上げが必要である」旨,「燃料費の上昇傾向や船賃が上昇する懸念があるため,4月から1キログラム当たり5円の値上げを打ち出す」旨の発言等,本件当初値上げの進捗状況の報告とともに,震災の影響を踏まえつつも,追加の販売価格引上げを行っていく必要があるとの発言がなされた。
(査65,178,185,189ないし191)
(エ) 平成23年4月の糖化委員会
平成23年4月の糖化委員会では,各出席者から,「1次値上げ及び2次値上げの合計で1キログラム15円の値上げで交渉中であるが,更に3次値上げも必要である」旨,「1次値上げは1キログラム当たり10円でほぼ決着しているが,4月から2次値上げとして1キログラム10円の値上げを申し入れている」旨,「1次値上げの1キログラム当たり10円について,正直100パーセント達成しておらず,2次値上げにおいて,ユーザーごとに値位置(需要者に対する販売価格の水準のことを指す。以下同じ。)を見ながら,1キログラム当たり5円ないし10円で交渉していく」旨,「1次値上げの1キログラム当たり10円がほぼ達成でき,4月から2次値上げとして1キログラム当たり5円以上で申し入れているが,一部の取引先から,同業他社で2次値上げを言ってきたところはないと断られた」旨,「1月から1次値上げとして1キログラム当たり10円,4月から2次値上げとして1キログラム当たり5円ないし10円の値上げを申し入れているが,現状の原料状況から3次値上げも必要である」旨の発言など,本件当初値上げの進捗状況が報告されるとともに,追加の販売価格引上げの必要性に言及する発言がなされた。被審人の西原も,「1次値上げと2次値上げ合わせて10円から15円を取りたい」旨発言した。(査182,185,188,192ないし195)
(オ) 平成23年5月の糖化委員会
平成23年5月の糖化委員会では,各出席者から,「1キログラム当たり10円の1次値上げは,ほぼ達成できたが,4月からの1キログラム当たり5円の2次値上げについては難航中である」旨,「2次値上げを交渉中であるが,一部の取引先から,同業他社からは案内がないと言われている。1次,2次値上げの合計で,昨年12月比1キログラム当たり20円の値上げが必要である」旨,「2次値上げは,値位置によるが,1キログラム当たり5円ないし10円の値上げを目指している」旨,「2次値上げとして,6月1日から1キログラム当たり10円の値上げを交渉中である」旨の発言等,本件各製品の販売価格引上げの進捗状況について,本件当初値上げに追加して,更に同5円から10円の値上げを目指しているとの発言が多くなされ,被審人の西原は,販売先の値位置によって値上げ幅を変える旨発言した。
また,同会合において,日経対策として,幹事会社が日経記者との懇談会を開き,本件各製品につき,同年6月以降に追加で1キログラム当たり10円,すなわち同年1月以降で合計20円の値上げを行う旨の記事を掲載してもらうよう働きかけることとされた。
(査182,185,188,192,196ないし202)
(カ) 平成23年6月の日経記者との懇談会及び記事の掲載
日本食品化工の首藤及び同青木,王子コーンスターチの野村,サンエイ糖化の松下並びに工業会の中野は,平成23年6月1日,日経記者の石原恭子(以下「石原記者」という。)と面会し,同記者に対し,原料であるとうもろこしの価格の推移等に関する資料を示しながら,本件各製品について,原料価格の高騰のため,平成23年1月以降の1キログラム当たり10円の値上げに加え,同年6月以降の更なる値上げ(具体的には合計で20円の値上げ)が必要であることと,その旨を記事にして欲しいことを伝えた。
その結果,同月2日付けの日経新聞に,日本食品化工などの糖化メーカーが,原料となるとうもろこし価格の高騰を転嫁するために,同月出荷分から異性化糖を1キログラム当たり10円値上げする旨,年初にも10円の値上げを実施しており,値上げが浸透すれば昨年末に比べ計20円の上昇となる旨の記事が掲載された。
(査185,188,192,203ないし205)
(キ) 平成23年6月の糖化委員会
平成23年6月の糖化委員会において,日本食品化工の首藤は,日経新聞に前記(カ)の記事が掲載されたことを報告した。
その後,他の出席者からは,本件各製品の販売価格の引上げについて,日本食品化工の青木が,1キログラム当たり合計20円の値上げに向けて頑張っているが,とうもろこしのシカゴ相場が下がったこともあり,1キログラム当たり15円ないし16円になる取引先もある旨,日本コーンスターチの佐藤が,1キログラム当たり合計20円の値上げにもっていく旨,群栄化学工業の岡本が,1次値上げの1キログラム当たり10円についてはほぼ終わったが,追加の値上げについては苦しんでいる旨,サンエイ糖化の松下が,1キログラム当たり10円の値上げは終了したが,追加の値上げはこれからである旨,三和澱粉工業の齊部又は同米田が,需要者によって1キログラム当たり5円又は10円の追加値上げを申し入れている旨,王子コーンスターチの野村が,1キログラム当たり20円の値上げをしてもらった需要者もあり,需給が逼迫しているうちに1キログラム当たり20円の値上げを実現させたい旨,被審人の西原が,「10はほぼ終了し,7月から更に10をすすめる」,「10に到達していないところは,不足分も含め,計20としている」,「ただ相場のダウンもあり,追加は+5か…」などといった旨を,それぞれ発言した。
日本食品化工の首藤は,各出席者からの報告の後,合計20円の値上げに取り組んでいく旨を各出席者に呼び掛けたところ,特に異論を唱える出席者はいなかった。
また,日本食品化工の首藤は,石原記者から糖化製品の販売価格引上げの進捗状況に関する問い合わせがあったことを報告し,「値上げは合計20円でうまくいっている」旨回答するつもりであり,今後,日経新聞には,値上げが浸透したという旨の記事を掲載してもらうつもりである旨説明した。
(査13,185,192,206ないし208,210)
(ク) 平成23年7月の日経記者への依頼及び記事の掲載
日本食品化工の首藤は,平成23年7月6日,石原記者の取材を受け,同記者に対し,本件各製品について,値上げは合計20円でうまくいっている旨回答するとともに,追加の値上げの10円,すなわち同年1月以降の合計20円の値上げが浸透しているという記事を書いて欲しい旨を依頼した。
その結果,同年7月7日付けの日経新聞に,糖化製品について,メーカー各社が同年春に1キログラム当たり10円の値上げを浸透させたのに続き,同年6月にも再び同額の値上げを打ち出し,飲料メーカーなどがこれを受け入れて,値上げ交渉がほぼ決着した旨の記事が掲載された。また,日経相場も改定され,同新聞に掲載された同年7月の日経相場は,平成22年末比で約20円の上昇となった。
(査185,211ないし213)
オ 本件各製品の販売価格の追加引上げ
10社ではそれぞれ,糖化委員会の会合の出席者又は当該出席者から糖化委員会の会合における情報交換の内容について報告を受けた者が中心となり,遅くとも平成23年6月29日までに,同年1月以降に1キログラム当たり10円引き上げることとした本件各製品の販売価格を更に引き上げ,引上げ額を合計15円ないし20円とした上,販売価格の引上げ交渉を継続することを決定し,需要者に対し,本件各製品の販売価格の引上げを申し入れるなど,同年7月以降も販売価格の引上げ交渉を継続した(別紙4参照)。(査108,188,206,214ないし224)
また,被審人は,ジャン決めに係る純果糖についても,他の特定異性化糖と同様に,販売価格の引上げを申し入れた。(査149,289)
カ 平成23年7月以降の10社間の情報交換等
(ア) 平成23年7月の糖化委員会
平成23年7月の糖化委員会において,日本食品化工の首藤は,前記エ(ク)の記事を紹介した。
その後,本件各製品の販売価格引上げ交渉の進捗状況に関し,多くの出席者から,「1次,2次合計で,1キログラム当たりおおよそ15円の値上げを達成しているが,残り5円のハードルは高い」旨の発言がされたほか,「2次値上げについては,値位置を見ながら取引先ごとに対応している」旨,「1次値上げ,2次値上げの合計で1キログラム当たり20円の値上げの旗は降ろさないつもりである」旨の発言がなされるなどした。
日本食品化工の首藤は,これらの報告を受けて,値上げがおおむね浸透したという日経新聞の記事も出たので20円を大事にしていこうという趣旨の発言をした。これに対し,被審人の西原も含め,特に異論を唱える出席者はいなかった。
(査13,185,192,213,227ないし229)
(イ) 平成23年8月の糖化委員会
平成23年8月の糖化委員会では,多くの出席者から,「1次値上げと2次値上げの合計で1キログラム当たりおおよそ15円の値上げを達成した」旨の発言がなされたほか,「2次値上げは,値位置にもよるが,1キログラム当たり5円ないし10円値上げしていく方向で交渉している」旨,「一部値位置の悪い取引先については,1次値上げ,2次値上げで合計20円の値上げを行った」旨,「1次,2次合計で1キログラム当たり15円の値上げを行ったが,1キログラム当たり合計20円の値上げに向けて交渉中である」旨の発言がなされるなどした。(査13,206,213,231,232)
(ウ) 平成23年9月の糖化委員会
平成23年9月の糖化委員会では,各出席者から,前月の糖化委員会に引き続き,本件各製品の販売価格の引上げ交渉の進捗状況に関する発言がなされた。(査206,231)
(エ) 平成23年10月の糖化委員会
平成23年10月の糖化委員会でも,各出席者から,前月の糖化委員会に引き続き,本件各製品の販売価格の引上げ交渉の進捗状況に関する発言がなされた。(査13,227)
また,工業会の中野は,同年9月頃からとうもろこしのシカゴ相場が下落し始めたことを受けて,石原記者から糖化製品の販売価格引下げの可能性を照会された旨報告した。(査230,233,234)
(オ) 平成23年11月の糖化委員会
平成23年11月の糖化委員会では,本件各製品の販売価格に関し,複数の出席者から,とうもろこしのシカゴ相場が下落したことに伴い,需要者から販売価格の引下げを求められているとの報告があった。この点について,大手需要者のうち価格決定方式をルール決めとしている需要者との価格交渉が終わった後で検討すべきだとの発言があったところ,これに異を唱える出席者はいなかった。(査13,231,235)
(カ) 平成23年12月の糖化委員会
平成23年12月の糖化委員会では,本件各製品の販売価格に関し,出席者から,前月の糖化委員会に引き続き,とうもろこしのシカゴ相場が下落したことに伴い,需要者から販売価格の引下げを求められているとの報告があった。また,工業会の中野は,とうもろこしのシカゴ相場の下落に伴う糖化製品の値下げに関する石原記者からの取材要請への対応について,改めて糖化委員会として正式に検討する必要がある旨報告した。これらの点について,出席者の中には,3月までは需要者からの販売価格の引下げ要求に応じない方がよいなどと発言する者もいたが,特段異議を唱える出席者はいなかった。(査13,230,231,236)
(キ) 平成24年1月の糖化委員会
平成24年1月の糖化委員会では,本件各製品の販売価格に関し,前月の糖化委員会に引き続き,石原記者からの取材要請への対応について協議がなされた。その結果,石原記者に対して,同年3月までは価格を据え置くと回答することとなった。(査230,231)
キ 糖化委員会の会合以外での10社間の情報交換等
10社は,糖化委員会の会合の場以外でも,入れ合い先の営業担当者同士で面談をしたり,電話や電子メールで連絡を取り合うなどして,本件各値上げに係る交渉の進捗状況等について情報交換を行い,その結果を踏まえて,需要者に値上げを申し入れる時期を決めたり,申し入れる引上げ額につき他社と足並みをそろえるなどして,需要者との交渉を行った。
被審人においても,大阪支店長である被審人の仲山が,平成23年2月9日に,日本コーンスターチ,日本食品化工,三和澱粉工業及び日本澱粉工業の営業担当者とともに,大阪市に所在する飲食店において会合を開催し,本件当初値上げの実施状況等について情報交換を行ったり,ブルドックソース株式会社等の需要者に対する値上げの進捗状況について,被審人の西原,同仲山及び被審人の営業部部長代理である鈴置高司(以下「被審人の鈴置」という。)らが,他の入れ合い先の営業担当者らと情報交換を行いつつ,需要者と本件各値上げの交渉を行うなどした。
(査22,23,34,128,237ないし277)
(2)ア 被審人は,平成22年10月から平成23年6月までの糖化委員会において,同業他社同士で歩調を合わせて値上げをする旨の発言がなされたことはなく,また,糖化製品の業界は競争が激しく,糖化委員会の会合の出席者が歩調を合わせることのできる状況にはなかったものであり,各出席者は,他社の発言が必ずしも真意であるとは受け止めておらず,駆け引きの一環とも理解していたと主張し(前記第5の1?イ,第5の2?イ),被審人の西原及び工業会の中野の参考人審尋における各陳述(同人らの各陳述書〔審1,4〕を含む。)並びに被審人代理人作成の日本食品化工の首藤との面談結果をまとめたとする報告書(審5)及び日本澱粉工業の本坊の陳述書(審6)中には,同主張に沿う部分がある。
しかしながら,平成22年10月から平成24年1月までの糖化委員会に出席した日本食品化工の首藤及び同青木,日本コーンスターチの東及び同佐藤,日本澱粉工業の本坊及び同臼井,サンエイ糖化の松下,三和澱粉工業の齊部及び同米田,王子コーンスターチの野村並びに群栄化学工業の岡本及び同塚越(以下「日本食品化工の首藤ら」という。)は,審査官に対し,上記糖化委員会において10社間で本件各製品の販売価格の値上げの方針及び値上げの進捗状況等に関する情報交換や,日経対策に関する協議が行われ,これらの情報や日経対策の結果等を踏まえて,糖化委員会の会合の出席者又は当該出席者から糖化委員会の会合における情報交換の内容について報告を受けた者が中心となり,自社における本件各製品の値上げが決定された旨を供述し,その旨が記載された供述調書に署名押印していることが認められる(査32,33,37,66,100,101,103,104,105,106,108,114,115,128,129,182,183,185,188,189,196,201,202,206,213,221,227,231,279)。
日本食品化工の首藤らの前記各供述は,いずれも具体的であり,内容に特段不自然,不合理な点はなく,各糖化委員会において10社間でなされた本件各製品の販売価格の引上げに関する情報交換及び日経対策に関する協議の概要,並びに本件各製品の販売価格の引上げに当たり日経対策を行う理由(前記?ア参照)等の主要な点において,相互に一致する。
また,日本食品化工の首藤らの前記各供述は,以下の①ないし⑤の事実関係及び証拠ともよく符合する。
① 日本澱粉工業の本坊,同臼井及び同田中は,糖化委員会の結果を自社の役員等に報告するために,同委員会の開催日当日又はその数日後にメモを作成していた。同メモには,本件各製品の販売価格の引上げに関する各出席者の発言内容の要旨が具体的に記載されており,一部のメモでは発言者も特定されている。(査91ないし95,97,179,180,186,187,190,191,193,194,197,198,207,208,228,229,232,235,236)
② 日本コーンスターチの佐藤は,糖化委員会の各出席者の発言等を基に,同業他社の値上げ状況に関するメモを作成し,同社の代表取締役に報告していた。同メモには,同業他社が行う値上げの金額や時期が具体的に記載されていた。(査199)
③ 王子コーンスターチの野村は,糖化製品の営業担当役員らが出席する自社の販売戦略会議において,業界報告として,糖化委員会における他社の発言内容及び日経対策に関する協議内容について説明していた。(査98,102,176,181,195,200,210)
④ 日経記者との懇談会が開催されたのは,糖化委員会で協議したとおりの時期であり,糖化委員会の幹事会社の者が出席した。同懇談会の出席者は,日経記者に対し,自社の値上げ方針及び値上げ交渉の進捗状況等に関して,同人が糖化委員会において発言した内容と同様の説明をした。(前記?イ(イ),(ウ),エ(イ),(オ)ないし(ク)参照)
⑤ 10社における本件各値上げの内容は,糖化委員会における各社からの出席者の発言内容とおおむね一致していた。
さらに,日本食品化工の首藤らが,前記供述により自身及び自身の所属する企業の独占禁止法違反行為への関与が認定され,それに伴う法的,社会的責任の負担を課されるおそれがあるにもかかわらず,あえて虚偽の供述をしたことをうかがわせる事情は特段見受けられない。
以上の点を総合的に考慮すると,日本食品化工の首藤らの前記各供述の信用性は高いというべきであり,同供述に反する内容の被審人西原らの前記陳述を採用することはできず,ほかに前記?の認定を覆すに足りる証拠はない。
イ 被審人は,日本食品化工の首藤らの前記供述調書の内容や日本澱粉工業の本坊らが作成した前記メモ,王子コーンスターチの前記販売戦略会議の議事録等(以下「日本食品化工の首藤らの前記供述調書等」という。)には審査官の主張と矛盾する部分や相互に矛盾する部分があることなどから,その証拠価値は低い旨を主張し,その具体例として,①日本澱粉工業の本坊が作成した平成22年10月の糖化委員会のメモ(査91。以下「本坊メモ」という。)に,王子コーンスターチほか2社の出席者が,各社において本件各製品の販売価格の1キログラム当たり5円から10円の引上げを取引先に対してアナウンスしている旨発言したと記載されており,本坊の供述調書(査37。以下「本坊調書」という。)にも同様の記載があるが,同記載は,少なくとも平成22年10月の糖化委員会の時点では10社において本件各製品の販売価格を引き上げる旨の決定がなされていないことを前提とする審査官の主張と矛盾すること,②本坊調書には,平成22年10月に始まった大手ユーザー向けの翌年の取引条件を決める交渉が,被審人と日本コーンスターチの2社が採算を無視したような価格を提示して翌年のシェアを取りにきており,厳しい状況にあった旨の記載があるところ,同記載は,本坊メモに「価格対応については、全社が値上が必要とのことで一致」と記載されていることと矛盾すること等を挙げる。
しかしながら,本坊調書によれば,日本澱粉工業の本坊は,本坊メモ中の上記①の記載について,「アナウンスとは,取引先に対し,原料価格が高騰している状況にあるため,5円から10円の値上げが将来必要であるということを説明するものです。」と述べていることが認められる。したがって,被審人が上記①において指摘する本坊メモ及び本坊調書中の記載は,王子コーンスターチほか2社が取引先に対して正式に値上げの申入れをした事実を表現したものとは認められない。なお,仮に,平成22年10月の糖化委員会よりも前の時点で,王子コーンスターチほか2社が,独自の判断として本件各製品の販売価格の引上げを決定し,一部の取引先に対して値上げの申入れをしていたとしても,これらの会社において,値上げをしない競争者に顧客を奪われる可能性を回避し,値上げ交渉を支障なく進めることができるようにするためなどに,その後の糖化委員会の会合等において,競争者との間で,本件各製品の販売価格の引上げに関する情報交換や同値上げのための日経対策に関する協議を行い,同値上げに関する共通の意思を形成する実益は十分にあるといえる。したがって,仮に,王子コーンスターチほか2社が平成22年10月の糖化委員会よりも前の時点で正式に値上げの申入れをしていた事実があったとしても,同事実は,平成22年12月28日までに本件各当初合意が成立したとする審査官の主張と矛盾するものではない。
また,被審人が上記②で指摘する記載は,そもそも本件各製品のようなジャン決めによる価格決定方式を採る取引先に関するものではなく,年間の取引価格を前年の10月から年末にかけて交渉する大手ユーザーとの価格交渉に関するものであると認められる(査37,92,93,97,279)。他方,本坊調書によれば,日本澱粉工業の本坊は,本坊メモ中の「全社が値上が必要とのことで一致」との記載はジャン決めによる価格決定方式を採る取引先に関するものであると述べていることが認められる。したがって,被審人が上記②において指摘する本坊調書中の記載は,本坊メモ中の記載と矛盾するものではない。
被審人は,上記①及び②のほかにも,日本食品化工の首藤らの前記供述調書等に相互に矛盾する部分があると縷々主張するが,いずれも,日本食品化工の首藤らの前記供述調書等を全体的に検討すれば,矛盾とはいえないものであるか,些細な食い違いにすぎないものであるから,日本食品化工の首藤らの前記供述調書等の信用性を減殺させる事情とはならない。
(3)ア 被審人は,同社は中長期的な視点でシェアの拡大維持と利益増進を図っていたものであり,他社と歩調を合わせることは同方針に反する,また,同社は糖化委員会の会合の場での他社の発言を信用に値するものとは考えていなかったものであり,当時営業本部長であった被審人の鐘二及び同貞男は,糖化委員会の会合で話し合われた内容について被審人の西原等から何ら報告を受けていない,本件当初値上げは被審人の鐘二が平成23年2月16日に独自の判断により決定したものであり,本件追加値上げは被審人の貞男が同年5月12日頃に独自の判断により決定したものであるとも主張し(前記第5の1?ウないしオ),被審人の鐘二及び同西原の参考人審尋における各陳述(同人らの陳述書〔審3,4〕を含む。以下同じ。)並びに被審人の貞男の陳述書(審2)中には同主張に沿う部分がある。
しかしながら,糖化委員会に9社から出席した者の大半は,審査官に対し,同委員会において10社間で本件各製品の販売価格の値上げの方針及び値上げの進捗状況等に関する情報交換や,日経対策に関する協議が行われ,その結果を自社の営業担当役員等に報告し,これらの情報や日経対策の結果等を踏まえて,自社における本件各製品の値上げが決定された旨を供述していること,これらの供述が信用できるものであることについては,前記?のとおりである。
このような意義を有する糖化委員会での情報交換及び協議の内容を,出席者の中で被審人の西原ら被審人からの出席者のみが,自社に対して全く報告しなかったというのは,不自然,不合理である感を禁じ得ない。
また,被審人の鐘二らの上記陳述は,①被審人の西原の前任の東京支店長であった西敏は,自らが糖化委員会の会合に出席した際には,その会合における情報交換の内容を営業本部長に報告しており,その旨を後任である被審人の西原に引き継いだ旨供述していること(査163),②被審人の西原が平成23年3月28日に被審人の営業会議において報告した同業他社の価格改定の状況(査226)は,同年2月の糖化委員会における出席者の発言内容(前記?エ(イ)参照)に沿う部分があること,③日本澱粉工業の田中は,被審人の仲山から,平成23年1月上旬頃に,被審人では,被審人の西原が糖化委員会で話題になった値上げに関する方向性を社内にフィードバックした上で,被審人の西原ないし本社から値上げの指示が来ないと,大阪支店の判断で独自に値上げ活動を行うことはできないと聞き,その旨を自己の手帳にメモした旨供述していること(査287),④被審人の西原ら被審人の営業担当者は,本件各値上げの実施に当たり,他の入れ合い先である9社の営業担当者らと情報交換を行いつつ,需要者と本件各値上げの交渉を行っており,他社から入手した情報であっても,それを活用していること(前記?キ),などの事実関係及び証拠とも整合しない。
さらに,被審人において,平成23年2月16日以前から需要者に対して本件各製品の値上げの申入れをしていたことについては,前記?ウのとおりである。
したがって,前記?の認定に反する被審人の鐘二らの上記陳述を採用することはできない。むしろ,上記事情に鑑みれば,被審人の西原は,被審人の鐘二及び同貞男に対し,糖化委員会での情報交換や協議の内容を報告していたと推認するのが相当であり,他にこれを覆すに足りる証拠はない。
イ 被審人は,2月9日付け文書は,近い将来予想される値上げに向けての下準備のための打診をしたものにすぎず,平成23年2月16日以前に被審人の一部の取引先に対してなされた本件各製品の値上げの申入れは,採算の取れていない取引先や,被審人が値上げをすることを前提にした問い合わせをしてきた取引先等に対してなされたものであって,これらの行為はいずれも,営業担当者や支店が,販売価格決定権限を有する営業本部長に相談ないし了解を得ることなく独断で行ったものであり,被審人としての値上げの申入れではない旨主張し(前記第5の1?カ),被審人の鐘二及び同西原の参考人審尋における各陳述並びに被審人の鈴置,同仲山及び同並木の各陳述書(審12の2,13の2,14の2)中には,同主張に沿う部分がある。
しかしながら,被審人の鐘二らの上記陳述は,これを裏付けるに足りる客観的な証拠が存在しない上,①2月9日付け文書は,その表題,作成名義人及び記載内容等の体裁からすると,一般的には,正式かつ具体的な値上げの申入れ文書と認識されるものであり,同文書を送付した取引先の数も,少ないものではないこと(査117,審9),②被審人の大阪支店が,株式会社日本アクセス近畿支社に対して2月9日付け文書を送信した際の電子メールの本文には,一部の需要者については被審人の本社において直接需要者と交渉する旨が記載されていること(審9),③2月9日付け文書に記載された値上げの対象となる製品,値上げの実施時期及び値上げ幅は,いずれも,被審人が平成23年2月16日に決定されたと主張する被審人における本件当初値上げの内容と一致すること,④2月9日付け文書の送付先を含む,同月16日以前に被審人から本件各製品の値上げの申し入れを受けた需要者及び商社の数は,相当数に及んでいること(前記(?ウ),⑤前記④の需要者の中には,値上げの申入れは原料価格(とうもろこしのシカゴ相場)の高騰等を理由に被審人から行われたものである旨を供述する者が複数存在するほか(査22,24,29,133),需要者の一部が作成した業務日報等にも,被審人から同様の理由により値上げの申入れがされた旨が記載されていること(査171,172),⑥前記⑤の供述者は,いずれも被審人の取引先であり,被審人を陥れるなどするために殊更虚偽の供述をしたことをうかがわせる事情は特段見受けられないこと等の事実関係に照らしても,にわかに信用できないといわざるを得ず,これらの陳述を採用することはできない。
2 争点1(10社は,本件当初値上げに当たり,本件各製品の販売価格を引き上げる旨を合意したか)について
(1) 独占禁止法第3条において禁止されている「不当な取引制限」,すなわち「事業者が,・・・他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は・・・取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(同法第2条第6項)にいう「共同して」に該当するというためには,複数の事業者が対価を引き上げるに当たって,相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要であると解されるが,ここにいう「意思の連絡」とは,複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調をそろえる意思があることを意味する。また,その判断に当たっては,対価引上げがなされるに至った前後の諸事情を勘案して,事業者の認識及び意思がどのようなものであったかを検討し,事業者相互間に共同の認識,認容があるかどうかを判断すべきである。(東京高等裁判所平成7年9月25日判決・公正取引委員会審決集42巻393頁〔東芝ケミカル株式会社による審決取消請求事件〕)
本件当初値上げの前後の事情をみると,前記認定の事実関係によれば,次のとおりである。
① 10社は,とうもろこしのシカゴ相場の高騰を背景に,平成22年10月,同年11月及び同年12月の糖化委員会において,本件各製品の販売価格を年明けから1キログラム当たり10円引き上げること等に関する情報交換や,当該値上げのための日経対策に関する協議を行った。
② 同年11月の糖化委員会での協議結果を踏まえて日経記者との懇談会が行われ,同年12月22日付けの日経新聞に,王子コーンスターチほか2社が糖化製品の販売価格を1キログラム当たり10円値上げする旨の記事が掲載された。
③ 10社ではそれぞれ,平成23年1月下旬までには,糖化委員会の会合の出席者又は当該出席者から糖化委員会の会合における情報交換の内容について報告を受けた者が中心となり,本件各製品の販売価格を1キログラム当たり10円引き上げる旨を決定し,平成23年1月から同年2月にかけて,その旨を需要者や商社に申し入れた。
④ 同年1月以降の糖化委員会において,出席者の間で,本件各製品の販売価格引上げの交渉の進捗状況について情報交換が行われた。
⑤ 糖化委員会の場以外でも,10社の間では,個別の需要者に対する販売価格引上げの交渉の時期,販売価格引上げ幅及び交渉の進捗状況等について,他の入れ合い先と連絡を取り合って足並みをそろえるなどしていた。
他方で,被審人における本件当初値上げが9社の行動と無関係に独自の判断によって行われたことをうかがわせる事情はない。
これらの事情に鑑みると,遅くとも平成22年12月の糖化委員会が開催された同月28日までには,10社は相互に,本件各製品の販売価格を1キログラム当たり10円引き上げることを認識ないし予測し,これと歩調をそろえる意思を有していたものであり,もって上記「意思の連絡」に当たる本件各当初合意が存在したものと認められる(なお,本件各当初合意の対象に純果糖も含まれることについては,後述する。)。
(2) 被審人は,三和澱粉工業が平成22年10月に本件各製品の価格を1キログラム当たり2円値上げしたことを聞いたとの日本澱粉工業の本坊の供述調書(査182)中の記載や,本件当初値上げに当たり取引先ごとに必要な値上げ幅を検討していたとのサンエイ糖化の竹内の供述調書(査127)中の記載を根拠に,10社が同一又はこれに準ずる行動に出たとはいえないと主張する(前記第5の1?キ)。
しかしながら,本件当初値上げに当たり,三和澱粉工業を含む10社が,ほぼ同一の時期に同額の値上げを求めたものと認められることについては,前記第3の5のとおりである。また,1キログラム当たり10円の値上げという目標を掲げながらも,個別の需要者に対する具体的な値上げ交渉において,当該需要者の値位置や需要者との力関係等により,個別の対応を検討することがあるのは当然であるため,全ての需要者に対して本件各当初合意どおりの価格引上げの申入れを行わなければ当該合意が存在しなかったということには,必ずしもならない。
したがって,仮に,10社の中に,個別の需要者との間における具体的な値上げ交渉において,本件当初値上げと異なる対応をする者がいたとしても,そのことは,本件各当初合意が存在したとの前記認定を覆すに足りるものではなく,被審人の上記主張には理由がない。
3 争点2(10社は,本件追加値上げに当たり,本件各製品の販売価格を更に引き上げる旨を合意したか)について
(1) 不当な取引制限について定義する独占禁止法第2条第6項にいう「共同して」に該当するためには,複数の事業者が対価を引き上げるに当たって,相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要であること,その判断に当たっては,対価引上げがなされるに至った前後の諸事情を勘案して,事業者の認識及び意思がどのようなものであったかを検討する必要があることについては,前記2のとおりである。
本件追加値上げの前後の事情をみると,前記認定の事実関係によれば,以下のとおりである。
① 10社は,とうもろこしのシカゴ相場が平成23年1月以降も高騰を続けたことを背景に,同年1月から同年6月までの各糖化委員会において,本件各当初値上げによる本件各製品の販売価格の引上げ額を1キログラム当たり15円ないし20円と修正することなどに関する情報交換や,当該値上げのための日経対策に関する協議を行った。
② 平成23年2月及び同年5月の糖化委員会での協議結果を踏まえて,日経記者との懇談会が行われ,同年6月2日付けの日経新聞に,日本食品加工等の糖化メーカーが異性化糖の販売価格を1キログラム当たり10円値上げする,値上げが浸透すれば昨年末に比べ20円の上昇となる旨の記事が掲載された。
③ 10社ではそれぞれ,平成23年6月29日までには,糖化委員会の会合の出席者又は当該出席者から糖化委員会の会合における情報交換の内容について報告を受けた者が中心となり,本件各当初値上げにより1キログラム当たり10円引き上げることとした本件各製品の販売価格を更に引き上げ,引上げ額を1キログラム当たり15円ないし20円とする旨を決定し,その旨を需要者や商社に申し入れた。
④ 同年7月以降の糖化委員会において,出席者の間で,追加分を含めた本件各製品の販売価格引上げの交渉の進捗状況に関する情報交換や,同年9月以降のとうもろこしのシカゴ相場の下落を踏まえた需要者からの本件各製品の販売価格の引下げ要請に対する対応の検討が行われた。
⑤ 糖化委員会の場以外でも,10社の間では,個別の需要者に対する販売価格引上げの交渉の時期,販売価格引上げ幅及び交渉の進捗状況等について,他の入れ合い先と連絡を取り合って足並みをそろえるなどしていた。
他方で,被審人における本件追加値上げが9社の行動と無関係に独自の判断によって行われたことをうかがわせる事情はない。
これらの事情に鑑みると,遅くとも平成23年6月の糖化委員会が開催された同月29日までには,10社は相互に,本件当初合意により合意した本件各製品の引上げ額を1キログラム当たり15円ないし20円に引き上げることを認識ないし予測し,これと歩調をそろえる意思を有していたものであり,もって上記「意思の連絡」に当たる本件各修正合意が存在したものと認められる(なお,本件各修正合意の対象に純果糖も含まれることについては,後述する。)。
(2) 被審人は,商慣習上,糖化製品の販売価格引上げの申入れを行う場合の引上げ額は5円又は10円のいずれかであり,本件追加値上げに当たり,5円の値上げを求める業者と10円の値上げを求める業者がいたことから,10社は同一又はこれに準ずる行動に出ていないと主張する(前記第5の2?エ)。
しかしながら,そもそも糖化製品の販売価格引上げの申入れを行う場合の引上げ額が5円又は10円のいずれかであるという商慣習の存在を認めるに足りる証拠はない。むしろ,証拠(査150)によれば,1キログラム当たり7円や8円といった,被審人の主張する商慣習と異なる販売価格引上げの申入れも現に行われていたことが認められる。
また,①10社はいずれも,本件当初値上げ後に,需要者に対し,本件当初値上げと併せて本件各糖化製品の販売価格を1キログラム当たり15円ないし20円引き上げることを申し入れ,その交渉を継続したこと,②10社は,いずれも,本件追加値上げに当たり,追加の引上げ額を1キログラム当たり10円(本件当初値上げと併せて同20円)とする申入れ文書を作成し,これを需要者に対して送付していることについては,前記認定(第3の5。なお,別紙4参照。)のとおりである。
したがって,本件追加値上げに当たり,10社が同一又はこれに準ずる行動に出たといえることは明らかであり,被審人の主張には理由がない。
4 争点3(争点1及び争点2に係る合意の対象に純果糖は含まれるか)について
「異性化糖」を別紙1のとおり定義する場合,純果糖も「異性化糖」に含まれることについては,当事者間に争いがない。したがって,ジャン決めによって価格を決める条件で取引する需要者向けに販売される純果糖は,特定異性化糖に該当する。
また,本件各合意がなされた背景には,糖化製品の原料価格(とうもろこしのシカゴ相場)の高騰により値上げの必要が生じたという事情があるところ,同事情は,純果糖にも当てはまるものであり,10社が糖化委員会の会合の場等において特定異性化糖の販売価格の引上げに関する情報交換や日経対策に関する協議を行った際にも(前記1?イ,エ),値上げの対象から純果糖が除外されていたことをうかがわせる証拠はなく,実際,被審人は,ジャン決めに係る純果糖についても,他の特定異性化糖と同様に,特定異性化糖に係る当初合意及び修正合意の内容に即した販売価格の引上げを申し入れている(前記1?ウ,オ)。
これに加えて,①砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律は,異性化糖について別紙1と同旨の定義をしており(同法第2条第4項),液糖か結晶かという性状は問われていないこと,②純果糖と異性化液糖は多くの用途において共通し(査292),需要者においても,純果糖を水に溶かして異性化液糖の代替品を製造することが可能であると認識され(査291),実際にも,それまでの純果糖の使用から異性化液糖の使用に切り替わった商品も存在すること(査290),③純果糖の需要者の中には異性化液糖も購入している者が多数存在すること(査291)などを併せ考えると,純果糖と他の異性化糖の性状の相違など,被審人の主張する事情を考慮してもなお,特定異性化糖の当初合意及び修正合意の対象には純果糖も含まれていたと認めるのが相当である。
5 本件各合意が「不当な取引制限」に該当すること
前記1ないし4によれば,被審人は,9社と共同して,本件各製品の販売価格を引き上げる旨の本件各合意をしたものであり,同合意をすることにより,10社は相互にその事業活動を拘束したと認められる。
また,本件各合意は,本件各製品の販売価格の引上げに係るものであり,10社の平成23年における本件各製品の国内販売数量のシェアは,特定異性化糖につき約97.5パーセント,特定水あめ・ぶどう糖につき約74.4パーセントであったこと(前記第3の2?)からすると,本件各合意のうち,特定異性化糖の当初合意及び修正合意は特定異性化糖の販売という取引分野における競争を,特定水あめ・ぶどう糖の当初合意及び修正合意は特定水あめ・ぶどう糖の販売という取引分野における競争を,公共の利益に反して,それぞれ実質的に制限するものであったと認められる。
したがって,本件各合意は,独占禁止法第2条第6項に定める「不当な取引制限」に該当するものと認められる。
6 結論
(1) 本件排除措置命令1について
被審人は,前記1ないし5のとおり,他の事業者と共同して,特定異性化糖の販売価格を引き上げる旨を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における特定異性化糖の販売分野における競争を実質的に制限していたものである。これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものと認められる。
また,被審人の本件違反行為1は既に消滅しているものの,被審人が本件違反行為1を取りやめたのは,被審人の自発的な意思によるものではなく,公正取引委員会の立入検査を契機としたものであること(前記第3の6)等の諸事情を総合的に勘案すれば,被審人については,特に排除措置を命ずる必要がある(独占禁止法第7条第2項)と認められる。
よって,本件排除措置命令1は相当である。
(2) 本件排除措置命令2について
被審人は,前記1ないし5のとおり,他の事業者と共同して,特定水あめ・ぶどう糖の販売価格を引き上げる旨を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における特定水あめ・ぶどう糖の販売分野における競争を実質的に制限していたものである。これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものと認められる。
また,被審人の本件違反行為2は既に消滅しているものの,被審人が本件違反行為2を取りやめたのは,被審人の自発的な意思によるものではなく,公正取引委員会の立入検査を契機としたものであること(前記第3の6)等の諸事情を総合的に勘案すれば,被審人については,特に排除措置を命ずる必要がある(独占禁止法第7条第2項)と認められる。
よって,本件排除措置命令2は相当である。
(3) 本件課徴金納付命令1について
ア 課徴金に係る違反行為
前記(1)の違反行為が独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する商品の対価に係るものであることは,特定異性化糖の当初合意及び修正合意の内容から明らかである。
イ 課徴金の計算の基礎となる事実
被審人は,特定異性化糖の製造業を営んでいた者である(争いがない)。
被審人が前記アの違反行為の実行としての事業活動を行った日は,特定異性化糖の当初合意に基づき被審人が最初に特定異性化糖の販売価格の引上げを実施することとした平成23年3月1日であると認められる。また,被審人は,平成24年1月31日以降,特定異性化糖の当初合意及び修正合意に基づく情報交換を行っておらず(前記第3の6),同月30日に本件違反行為1の実行としての事業活動はなくなっているものと認められる。したがって,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は,平成23年3月1日から平成24年1月30日までとなる。
上記実行期間における特定異性化糖に係る被審人の売上額を独占禁止法施行令第5条第1項の規定に基づき算定すると,55億7116万4771円である(前記第3の7)。
被審人は,上記実行期間を通じ,資本金の額が3億円以下の会社であって,糖化製品等の製造業を主たる事業として営んでいた者である(争いがない。)。したがって,被審人は,独占禁止法第7条の2第5項第1号に該当する事業者である。
以上によれば,被審人が国庫に納付すべき課徴金の額は,独占禁止法第7条の2第1項及び第5項の規定により,上記55億7116万4771円に100分の4を乗じて得た額から,同条第23項の規定により1万円未満を切り捨てて算出された2億2284万円である。
ウ よって,被審人に対してこれと同額の課徴金の納付を命じた本件課徴金納付命令1は相当である。
(4) 本件課徴金納付命令2について
ア 課徴金に係る違反行為
前記(2)の違反行為が独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する商品の対価に係るものであることは,特定水あめ・ぶどう糖の当初合意及び修正合意の内容から明らかである。
イ 課徴金の計算の基礎となる事実
被審人は,特定水あめ・ぶどう糖の製造業を営んでいた者である(争いがない)。
被審人が前記アの違反行為の実行としての事業活動を行った日は,特定水あめ・ぶどう糖の当初合意に基づき被審人が最初に特定水あめ・ぶどう糖の販売価格の引上げを実施することとした平成23年3月1日であると認められる。また,被審人は,平成24年1月31日以降,特定水あめ・ぶどう糖の当初合意及び修正合意に基づく情報交換を行っておらず(前記第3の6),同月30日に本件違反行為2の実行としての事業活動はなくなっているものと認められる。したがって,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は,平成23年3月1日から平成24年1月30日までとなる。
上記実行期間における特定水あめ・ぶどう糖に係る被審人の売上額を独占禁止法施行令第5条第1項の規定に基づき算定すると,51億7257万9019円を下回らない(前記第3の7)。
被審人は,上記実行期間を通じ,資本金の額が3億円以下の会社であって,糖化製品等の製造業を主たる事業として営んでいた者である(争いがない。)。したがって,被審人は,独占禁止法第7条の2第5項第1号に該当する事業者である。
被審人は,公正取引委員会による調査開始日である平成24年5月15日の一月前の日までに本件違反行為2をやめており,本件違反行為2に係る実行期間が2年未満であるので,独占禁止法第7条の2第6項に該当する事業者である。
以上によれば,被審人が国庫に納付すべき課徴金の額は,独占禁止法第7条の2第1項,第5項及び第6項の規定により,上記51億7257万9019円に100分の3.2を乗じて得た額から,同条第23項の規定により1万円未満を切り捨てて算出された1億6552万円である。
ウ よって,被審人に対してこれと同額の課徴金の納付を命じた本件課徴金納付命令2は相当である。
第7 法令の適用
以上のとおり,本件各排除措置命令及び本件各課徴金納付命令はいずれも相当であり,これらの命令に係る被審人の各審判請求はいずれも理由がないから,独占禁止法第66条第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。

平成28年1月7日

公正取引委員会事務総局

審判長審判官  山 門   優

審判官  南   雅 晴

審判官  數 間   薫

※審決案別紙1ないし4は省略

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