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日本エア・リキード(株)による審決取消請求事件

独禁法3条後段,独禁法7条の2
東京高等裁判所

平成27年(行ケ)第50号

判決

東京都港区芝浦3丁目4番1号グランパークタワー
原告           日本エア・リキード株式会社
同代表者代表取締役 矢原 史朗
同訴訟代理人弁護士 雨宮 慶
同             斎藤 三義
同             佐藤 恭子

東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告           公正取引委員会
同代表者委員長    杉本 和行
同指定代理人      岩下 生知
同             榎本 勤也
同             多賀井 満理
同             山崎 利恵
同             塚田 益徳

主文

1 原告の各請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判

1 請求の趣旨
(1) 被告が原告に対し平成27年9月30日付けでした公正取引委員会平成23年(判)第79号及び同第80号日本エア・リキード株式会社に対する件についての審決(以下「本件審決」という。)をいずれも取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。

2 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨

第2 事案の概要

1 事案の要旨
(1) 原告は,酸素,窒素,アルゴンその他各種圧縮又は液化ガスの製造販売業等を目的とする株式会社である。
 原告は,被告から,原告と同様に産業ガスの製造販売業を営む3社(大陽日酸株式会社,エア・ウォーター株式会社及び岩谷産業株式会社(以下それぞれ「大陽日酸」,「エア・ウォーター」及び「岩谷産業」という。))と共同して,タンクローリーによって供給される液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの販売価格を,平成20年4月1日出荷分から現行価格より10パーセントを目安に引き上げる旨合意したこと(以下,上記合意を「本件合意」という。)が,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限するので,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成25年法律第100号による改正前のもの。以下「独占禁止法」 という。)2条6項の不当な取引制限に該当し,同法3条に違反するとして,同法7条1項による排除措置命令を受けた。
 また,原告は,その業種が小売業や卸売業でないとの認定判断の下,同法7条の2第1項により算定率100分の10として計算した48億2216万円の課徴金の納付命令を受けた。
(2) 原告は,上記の排除措置命令及び課徴金納付命令につき審判請求をしたが,平成27年9月30日付けで各審判請求をいずれも棄却する旨の本件審決がされた。
(3) 本件は,原告が,本件審決には,その基礎とされた本件合意の存在及び合意された対象範囲に係る事実を立証する実質的な証拠がなく,また,本件合意による競争の実質的制限,排除措置命令の必要性及び相当性,課徴金算定の対象及びその算定率の各認定に誤りがあり,その他の手続違背もあることから,審決が法令に違反することなどを主張して,独占禁止法82条1項に基づき,その取消しを求めた事案である。

2 前提事実(いずれも当事者間に争いがないか,本件審判事件の記録上明らかである。)
(1) 当事者等
ア 原告は,酸素,窒素,アルゴンその他各種圧縮又は液化ガスの製造販売業等を目的とする株式会社であり,平成19年9月1日,東京都江東区東雲一丁目9番1号に本店を置いていたジャパン・エア・ガシズ株式会社(以下「JAG」という。)を吸収合併した(査第1号証)。
 原告は,帝国酸素株式会社(以下「帝国酸素」という。)の商号で,昭和5年8月8日,設立され,昭和56年4月1日付けでテイサン株式会社に商号を変更し,更に,平成10年4月1日付けで現在の商号である日本エア・リキード株式会社に商号を変更した(審第65号証の2)。
 JAGは,大阪酸素工業株式会社(以下「大阪酸素工業」という。)の商号で,昭和9年5月26日,設立され,平成15年1月6日付けでジャパン・エア・ガシズ株式会社に商号を変更していた(審第64号証)。(以下,特に断らない限り,商号変更や吸収合併の前後を問わず,原告という。)
イ 原告と関係を有する会社には,このほかに,株式会社水島オキシトン,北九州オキシトン株式会社,鹿児島オキシトン株式会社,熊本オキシトン株式会社,川崎オキシトン株式会社,四日市オキシトン株式会社及び製鉄オキシトン株式会社(以下それぞれを「水島オキシトン」,「北九州オキシトン」,「鹿児島オキシトン」,「熊本オキシトン」,「川崎オキシトン」,「四日市オキシトン」及び「製鉄オキシトン」といい,上記7社を併せて「オキシトン7社」ともいう。)がある。
 このうち水島オキシトンは,原告が岡山県倉敷市水島地区にあるコンビナートに供給する特定エアセパレートガス等の製品を製造することを目的のーつとして設立された会社である(査第174号証の1及び2)。
 北九州オキシトンは,原告及びエア・ウォーターが販売する特定エアセパレートガス等の製品を製造することを目的の一つとして設立された会社である(査第175号証)。
 鹿児島オキシトンは,原告が販売する特定エアセパレートガス等の製品を製造することを目的の一つとして,原告及び京都セラミック株式会社(以下「京都セラミック」という。)によって設立された会社である(査第176号証の1及び3)。
 熊本オキシトンは,原告が販売する特定エアセパレートガス等の製品を製造して,安定かつ廉価に供給することを目的の一つとして,原告及びチッソ株式会社(以下「チッソ」という。)によって設立された会社である(査第177号証の1及び2)。
 川崎オキシトンは,原告,小池酸素工業株式会社(以下「小池酸素工業」という。)及び昭和電工株式会社(以下「昭和電工」という。)の3社が販売する特定エアセパレートガス等の製品を製造することを目的の一つとして,3社が共同して設立した会社である(査第178号証の1及び2)。
 四日市オキシトンは,その製造する特定エアセパレートガス等の製品の全てを原告に販売することを目的の一つとして,原告及び新大協和石油化学株式会社(以下「新大協和石油化学」という。)によって設立された会社である(査第179号証の1及び2)。
 製鉄オキシトンは,合併により新日本製鐵株式会社に承継される前の富士製鐵株式会社(以下「旧富士製鐵」という。)が必要とし,原告が販売する特定エアセパレートガス等を,低廉かつ安定して製造することを目的の一つとして,原告及び旧富士製鐵によって設立された会社である(査第180号証の1及び2)。
ウ 大陽日酸,エア・ウォーター及び岩谷産業は,いずれも,酸素,窒素及びアルゴン等の産業ガスの製造販売業等を営む者である。
(2) 関係する製品の概要
ア 特定エアセパレートガス
 本件合意の対象である特定エアセパレートガスとは,平成27年3月30日付け審決案の別紙記載のとおり,タンクローリーによる輸送によって供給される酸素,窒素及びアルゴン(ただし,医療に用いられるものとして販売するものを除く。)の総称であるとされている。
 このうち,酸素は,その強い支燃性を利用して鉄鋼分野等において溶接及び切断に利用され,酸化力を利用して化学製品製造の酸化反応工程等に利用されるなど,幅広く利用されている。窒素は,常温下での不活性を利用して化学製品や半導体の製造分野において酸化防止に利用され,液体での極低温性を利用して食料品の急速冷凍等に利用されるなど,幅広く利用されている。アルゴンは,高温高圧下でも化学反応を起こさないという特性を利用し,酸化及び窒化を嫌うアルミニウム等の非鉄金属の溶接加工や金属精錬加工,半導体加工等に幅広く利用されている。
イ 各製品の製造方法
 酸素,窒素及びアルゴンは,いずれも空気を唯一の原料とし,それぞれの沸点の違いを利用して空気から蒸留分離することによって製造される。空気から製造されることから,原料費は必要でなく,製造費用のなかでは電気代が大きな比率を占める。各製品の製造方法には,深冷分離方式,膜式製造法,吸着分離法などがあり,液化酸素や液化アルゴンを製造する場合には,一般的に深冷分離方式が用いられる。
ウ 各製品の供給形態
 酸素,窒素及びアルゴンの一般的な供給形態には,(ア) ローリー供給,(イ) シリンダー供給,(ウ) パイピング供給及び(エ) オンサイト供給の4つがある。
 このうち(ア)のローリー供給とは,液化した酸素,窒素又はアルゴンをタンクローリーによって輸送し供給する方法をいい, (イ)のシリンダー供給とは,液化した酸素,窒素又はアルゴンを充てん所において気化させ,シリンダー容器に充てんしてから供給する方法をいい,(ウ)のパイピング供給とは,製造業者の製造プラントから直接配管で気体状の酸素,窒素又はアルゴンを供給する方法をいい,(エ)のオンサイト供給とは,需要者の工場の敷地内に酸素,窒素又はアルゴンの製造プラントを設置して製造供給する方法をいう。
エ 各製品の販売経路
 酸素,窒素及びアルゴンの一般的な販売経路には,(ア) 製造業者が需要者に対し直接販売する,(イ) ディーラー(専ら他社から仕入れて販売する者をいう。以下同じ。)を通じて販売する,(ウ) グループ会社を通じて販売する,(エ) 他の製造業者を経由して販売する,などのものがある。
(3) 排除措置命令及び課徴金納付命令
ア 本件については,平成22年1月19日,公正取引委員会が独占禁止法47条1項4号の規定に基づく立入検査を行い,原告,大陽日酸,エア・ウォーター及び岩谷産業の4社(以下単に「4社」ともいう。)は,同日以降,特定エアセパレートガスの販売価格についての情報交換を行っていない。
イ 独占禁止法7条の2第1項は,不当な取引制限をした事業者に対して納付を命ずべき課徴金の算定につき,当該行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(実行期間)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に100分の10を乗じて得た額に相当する額とし,この算定率につき,特に小売業については100分の3,卸売業については100分の2とすることを定めている。
 公正取引委員会において,原告が平成20年4月1日から平成22年1月18日までの間にタンクローリーにより原告以外の者に対して供給(配送)した酸素,窒素及びアルゴン(粗アルゴン,すなわち,通常のアルゴンよりも多少純度が低く,一部用途が異なるものを除く。以下同じ。)の売上額から,一定のものを控除した金額を,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号。以下「独占禁止法施行令」という。)5条1項の規定に基づいて算定した額は,482億2164万7933円であった。
 なお,上記算定において売上額の全体から控除されているものとは,① 大陽日酸,エア・ウォーター及び岩谷産業に対する売上額,② バーター取引(ある地域に製造設備を有していないA社に対して,同地域で製造設備を有するB社が商品を販売する一方で,他の地域においてA社がB社に対して,原則として等量等価の商品を販売するという取引をいう。以下同じ。)の売上額(ただし,上記3社とのバーター取引の売上額を除く。以下同じ。)並びに③ ダイサンガスセンター株式会社に対する売上額である。
ウ(ア) 被告は,原告が,大陽日酸,エア・ウォーター及び岩谷産業と共同して,特定エアセパレートガスの販売価格につき,平成20年4月1日出荷分から現行価格より10パーセントを目安に引き上げる旨の本件合意をしたことが独占禁止法2条6項の不当な取引制限に該当し,同法3条に違反するとして,平成23年5月26日付けで,原告,大陽日酸.エア・ウォーター及び岩谷産業の4社に対し,排除措置命令(平成23年(措)第3号。以下「本件排除措置命令」という。)を発した。
(イ) 本件排除措置命令の主文は,次のとおりである(ただし,原告ほか関係事業者の名称は略称している。)。
「1 大陽日酸,原告,エア・ウォーター及び岩谷産業は,それぞれ,次の事項を取締役会において決議しなければならない。
(1) 別紙記載のエアセパレートガス(以下「特定エアセパレートガス」という。)について,遅くとも平成20年1月23日までに4社が共同して行った販売価格を引き上げる旨の合意が消滅している旨を確認すること
(2) 今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,特定エアセパレートガスの販売価格を決定せず,各社がそれぞれ自主的に決める旨
(3) 今後,相互に,又は他の事業者と,特定エアセパレートガスの販売価格の改定に関して情報交換を行わない旨
2 4社は,それぞれ,前項に基づいて採った措置を,自社を除く3社に通知するとともに,自社の取引先である特定エアセパレートガスの製造業者及び販売業者(当該3社を除く。)並びに需要者に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知,周知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
3 4社は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,特定エアセパレートガスの販売価格を決定してはならない。
4 4社は,今後,それぞれ,相互に,又は他の事業者と,特定エアセパレートガスの販売価格の改定に関して情報交換を行ってはならない。
5 4社は,今後,それぞれ,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については,前2項の行為をすることのないようにするために十分なものでなければならず,かつ,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
(1) 自社の従業員に対する,自社の商品の販売活動に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の周知徹底(岩谷産業にあっては改定及び周知徹底)
(2) 特定エアセパレートガスの販売活動に関する独占禁止法の遵守についての,特定エアセパレートガスの営業担当者に対する定期的な研修及び法務担当者による定期的な監査
6 4社は,それぞれ,第1項,第2項及び前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
(別紙)
 エアセパレートガス(空気から製造される酸素,窒素及びアルゴンをいう。)のうち,タンクローリーによる輸送によって供給するもの(医療に用いられるものとして販売するものを除く。)」
エ 被告は,同日,原告に対し,同法7条の2第1項により課徴金算定率を100分の10として計算した48億2216万円の課徴金の納付を命ずる課徴金納付命令(平成23年(納)第59号。以下「本件課徴金納付命令」という。)を発した。
(4) 原告以外の3社に対する命令等
 4社のうち,原告を除く大陽日酸,エア・ウォーター及び岩谷産業の3社は,本件排除措置命令に対する審判請求を行わず,本件排除措置命令のうち上記3社に対する部分は確定した。
 また,被告は,平成23年5月26日,上記3社に対しても,それぞれ課徴金の納付を命じたが,大陽日酸及び岩谷産業は自社に対する各課徴金納付命令(平成23年(納)第58号,同第61号)に対する審判請求を行わず,上記2社に対する各課徴金納付命令はいずれも確定した。
 一方,エア・ウォーターに対する課徴金納付命令(平成23年(納)第60号)については,同年7月22日,同社から審判請求がされ,公正取引委員会は,平成25年11月19日,同社の審判請求を棄却する旨の審決(平成23年(判)第81号)を行った。これに対し,同社が東京高等裁判所において同審決取消しの訴えを提起したところ,裁判所は,平成26年9月26日,同審決を取り消す旨の判決をし,同判決は確定した。被告は,同判決確定後の同年10月14日,同判決の趣旨に従い,エア・ウォーターに対する上記課徴金納付命令を一部取り消す旨の審決を行い,同審決は確定した。
(5) 本件審決に対する不服申立て
 原告は,平成23年7月25日,本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の全部の取消しを求めて各審判請求をしたところ(公正取引委員会同年(判)第79号及び第80号),被告から,平成27年9月30日付けで,「被審人の各審判請求をいずれも棄却する」との本件審決を受けたので,同年10月30日,本件訴訟提起に至った。

3 本件の主要な争点は次のとおりである。
(1) 本件合意の有無及びその対象範囲(争点1)
(2) 本件合意による実質的な競争制限の有無(争点2)
(3) 本件排除措置命令の必要性及び相当性の有無(争点3)
(4) 課徴金算定の対象(争点4)
(5) 課徴金算定率(争点5)

4 争点に関する当事者の主張の要旨
(1) 被告は,本件審決が認定した事実は,いずれも本件審決掲記の証拠によって合理的に認定できるものであるから,これを立証する実質的な証拠があり,また,本件審決には,その手続を含め憲法その他の法令違反はないから,独占禁止法82条1項各号が定める取消事由は存在せず,したがって,本件審決は適法であると主張している。
 これに対し,各争点に関する原告の主張の要旨は,後記(2)のとおりである。
(2) 各争点に関する原告の主張の要旨
ア 本件合意の有無及びその対象範囲(争点1)について
 4社間に何らかの合意があったことを基礎付ける実質的な証拠はなく,仮に何らかの合意があったとしても,それは本件合意とは異なる合意にすぎないから,結局,本件合意を基礎付ける実質的証拠はなく,本件課徴金納付命令は「課徴金に係る違反行為」を欠くことになる。
 仮に,4社間の何らかの合意の存在を基礎付ける実質的証拠があり,それに基づいて本件において課徴金納付命令を行うことが可能であるとしても,その合意の対象は,一般産業向けのローリー供給の液体酸素,液体窒素,液体アルゴンの範囲を超えるものではないから,かかる範囲を超える部分についての審判請求を棄却した本件審決は,実質的証拠を欠き,また,独占禁止法7条の2に違反することになる。
 そして,少なくとも,(ア) エレクトロニクス産業向けの液体酸素,液体窒素及び液体アルゴン,(イ) 大規模顧客向けの液体酸素,液体窒素及び液体アルゴン,(ウ) バックアップとして供給する液体酸素,液体窒素及び液体アルゴン,(エ) 超高純度ガスたる液体酸素,液体窒素及び液体アルゴンは,上記合意の対象に含まれないから,課徴金算定の基礎となる同法7条の2第1項の「当該商品」に該当することもないというべきである。
イ 本件合意による実質的な競争制限の有無(争点2)について
 独占禁止法において「不当な取引制限」とは,事業者が,契約,協定その他何らの名義をもってするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう(同法2条6項)とされている。
 ところが,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンは,それぞれ需用者を異にするので,相互の間に需要の代替性がなく,そうすると競争関係が存在しないことになるから,これらを合わせた特定エアセパレートガスという1個の取引分野は成立し得ない。
 本件審決は,本件合意が特定エアセパレートガスという一定の取引分野において実質的な競争制限をもたらすものであるとしている点において,前提を欠き,誤りである。
ウ 本件排除措置命令の必要性及び相当性の有無(争点3)について
 事業者が独占禁止法3条の規定に違反する不当な取引制限を行ったときは,公正取引委員会は,その事業者に対し,当該行為の差止め,事業の一部の譲渡その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができる(同法7条1項)とされ,違反行為が既になくなっている場合においても,特に必要があると認めるときは,事業者に対し,当該行為が既になくなっている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる(同条2項)とされている。
 ところが,本件においては,同項にいう「特に必要があると認めるとき」に係る事実を立証する実質的な証拠がない。
 また,本件排除措置命令は,その主文のうち,4社に対し,(ア) 今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,特定エアセパレートガスの販売価格を決定することを禁止した部分(第3項)及びその旨等を取締役会において決議することを命じた部分(第1項(2)),並びに,(イ) 今後,相互に,又は他の事業者と,特定エアセパレートガスの販売価格の改定に関して情報交換を行うことを禁止した部分(第4項)及びその旨を取締役会において決議することを命じた部分(第1項(3))は,いずれも「他の事業者」に限定がなく,そこでいう「販売価格」の意味も不明であることから,その適用範囲が過度に広範で不明確であって,それ自体として無効であるというべきである。
エ 課徴金算定の対象(争点4)
 独占禁止法の定める課徴金の額の算定方法は,実行期間のカルテル対象商品又は役務の売上額に一定率を乗ずるものであるところ,本件審決は,特定エアセパレートガスであれば同法7条の2第1項にいう「当該商品」に該当するとして,すべて課徴金の額の算定の基礎としている。
 しかしながら,特定エアセパレードガスである液体酸素,液体窒素及び液体アルゴンのうち,(ア) エレクトロニクス産業向けのもの,大規模顧客向けのもの,バックアップとして供給されるもの,(イ) シリンダー充てん業者に対して販売されたもののほか,(ウ) 超高純度ガスたる液体酸素,液体窒素及び液体アルゴンは,課徴金算定の対象である「当該商品」に該当しないというべきである。
 このうち,バックアップとは,エアセパレートガスのオンサイト供給及びパイピング供給においてガス発生装置の例外的な運転の停止に備えてエアセパレートガスを準備しておくこと(狭義のバックアップ)並びにオンサイト供給において製造量の不足分を補うためにエアセパレートガスを供給すること(ピークシェイブのバックアップ)に係るものをいうが,その用途が他と異なり,合意の対象範囲に含まれないものであるし,エアセパレートガスの4つの供給方法を正しく理解すれば,シリンダー充てん業者に対して販売された特定エアセパレートガスも,当該商品に該当しないことになる。
 さらに,超高純度ガスたる酸素,窒素及びアルゴンは,一般のそれらと比較し,用途,製造工程,出荷・運搬方法,取引形態,価格などで異なっていることを考慮すべきである。本件審決は,特定エアセパレートガスであれば全て本件合意の対象範囲に含まれるかのようにいうが,本件審決も粗アルゴンは本件合意の対象範囲に含まれないとしていることからすれば,同様の理由で,超高純度ガスたる酸素,窒素及びアルゴンも本件合意の対象範囲に含まれないこととしなければ一貫しない。
 このほか,予備的主張として,次のとおり主張する。
 まず,原告の全額出資子会社であるエア・リキード工業ガス株式会社並びに同社に吸収合併される前の株式会社エア・ガシズ北越,株式会社エア・ガシズ東京,株式会社エア・ガシズ東海,株式会社エア・ガシズ山口,株式会社エア・ガシズ・ウェルディング及びダイサンガスセンター株式会社6社の計7社(以下単に「全額出資子会社」という。)に対して販売した特定エアセパレートガスの売上げは,本件における課徴金の計算の基礎から除外されるべきである。
 また,後記オの業種認定の判断において,オキシトン7社につき原告の製造拠点であると認定されるのであれば,原告のオキシトン7社に対する特定エアセパレートガスの販売とは,自社の工場に対して販売したものであることになるから,その売上額は,本件における課徴金の計算の基礎から除外されるべきである。
オ 課徴金算定率(争点5)について
(ア) 独占禁止法7条の2第1項は,課徴金の算定率を,不当な取引制限をした事業者の行う事業活動が卸売業であるか,小売業であるか,それ以外の業種であるかによって区別しているが,違反行為に係る取引につき,卸売業又は小売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われている場合において,業種を認定するための考え方には,実行期間における違反行為に係る取引との関係で,過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて単一の業種を決定すべきであるというもの(以下「過半理論」 という。)がある。
 また,当該事業者の行っている事業活動の認定をする際には,事業活動の内容が商品を第三者から購入して販売するものであっても,実質的に見て卸売業又は小売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情があるときには,当該他業種と同視できる事業を行っているものとして業種の認定を行うべきであるという考え方(以下「実質製造業理論」という。)がある。
 本件審決は,原告に適用すべき課徴金算定率10パーセントを導くための基礎となる原告の業種認定につき,過半理論により,原告に単一の業種を認定するとともに,実質製造業理論を採用して,原告がオキシトン7社から購入して販売した特定エアセパレートガスに係る取引につき特段の事情の有無を検討した。しかしながら,過半理論及び実質製造業理論は,独占禁止法7条の2第1項の解釈を誤るものであるし,過半理論に実質製造業理論を併用することは矛盾かつ背理であるから,本件課徴金納付命令を是認した本件審決は違法である。
 すなわち,過半理論は,仕入販売(卸売業又は小売業)と製造販売が同数である場合や過半を占める業種がない場合には機能しないという点に欠陥があることに加え,過半理論によって1つの業種を決定して全体に同じ課徴金算定率を適用することは,例えば,課徴金の算定対象としての実行期間が,「実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼつて3年間」(独占禁止法7条の2第1項括弧書)となる場合に,この3年間と実際に実行としての事業活動を行った期間とで,事業活動の割合が異なり,そのほかにも,事業活動の割合に僅かな違いしかない場合(例えば,49パーセント対51パーセント)など,偶然の事情によって大きく課徴金算定率が異なることとなり,予測可能性,違反行為とその制裁との均衡,名宛人の公平感,抑止効果に鑑み,合理性がない。
 また,独占禁止法や独占禁止法施行令は, 1つの業種に対して1つの算定率を用いることを規定しているにすぎないのに,本件審決は,1つの違反行為に対して1つの算定率を用いること,すなわち,業種は1つでなければならないとしており,この点において誤りである。
 仮に,算定基準の明確性を理由に過半理論を採用するとしても,これと実質製造業理論とを併用するのであれば,結局,算定基準の明確性という特長を維持することはできない。
 むしろ,本件においては,卸売業又は小売業としての事業活動の売上高に卸売業又は小売業の算定率を,それ以外の業種としての事業活動の売上高に卸売業又は小売業以外の業種の算定率を,それぞれ乗じて課徴金を算定すべきであるという考え方(以下「按分理論」という。)によるべきである。そもそも,独占禁止法7条の2第1項や独占禁止法施行令の規定は,違反行為ではなく「実行としての事業活動」に着目しているのであるから,卸売業又は小売業としての事業活動に卸売業又は小売業の算定率を適用し,それ以外の業種の事業活動にそれ以外の業種の算定率を適用することに何ら問題はなく,むしろ,按分理論は,偶然の事情の違いによって過大な結論の差異がないなど,予測可能性,違反行為とその制裁の均衡,名宛人の公平感,抑止効果の点において過半理論より優れている。
(イ) 本件審決においては,課徴金算定の対象である「当該商品」の認定(争点4)においては,全額出資子会社であっても別個の法人格を有し,独立の取引主体となることを理由として,全額出資子会社に対する売上げも課徴金算定の対象としていた一方で,課徴金の算定率に関わる業種認定においては,子会社であることを理由として原告の製造拠点と同視できると判断しているが,そのような判断は矛盾しているというべきである。
(ウ) 仮に,実質製造業理論を採用したとしても,オキシトン7社の事業活動において,原告が一方的に自己の意のままにしていたわけではなく,主導権はオキシトン7社にあったこと,特に特定エアセパレートガス等の製品の価格設定においては,原告のほか,オキシトン7社や共同出資者の意向を無視することはできなかったことからすれば,オキシトン7社からの特定エアセパレートガスの購入について,特段の事情を認めることはできない。

第3 当裁判所の判断

1 争点1(本件合意の有無及びその対象範囲)について
(1) 本件審決が認定した事実等は,概ね以下のとおりである。
ア 原告における主要な関係者
 本件当時,原告において上席常務執行役員であり営業本部長であったのは,島谷友博(以下「島谷本部長」という。)であり,営業本部の営業部長であったのは,木本州保(以下「木本営業部長」 という。)である。木本営業部長は,原告の本社において,平成15年4月頃から,営業本部営業部の部長を務めていた。原告の営業本部は,全国の支社において行われる顧客に対する営業活動を総括する部門であり,その中で営業部は,タンクローリーで供給する液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンの主要顧客に対する値上げの交渉や支社からの相談の窓口となっており,木本営業部長は,同業他社との調整,話合いの窓口業務を担当していた。(査第13号証,第32号証,第63号証,第98号証,第138号証,第141号証,審第46号証の1ないし3)
イ 部長級会合に至る経緯
(ア) 過去の値上げの際に4社のとった行動
 4社は,平成17年に製造コストに影響する電気料金や原油価格の上昇を契機として酸素,窒素及びアルゴンの値上げをし,また,平成18年にも長距離輸送コストの上昇を契機として液化アルゴンの値上げをしたが,それらの際には,各社の部長級の者において個別に面談するなど,各社の値上げ方針等について情報交換が行われた(査第25号証ないし第32号証,第36号証,第37号証)。
(イ) 平成20年4月の値上げの背景事情
 電気料金,重油価格及び軽油価格は,平成17年秋頃から平成19年秋頃までの間,一時的に下落することはあるものの,全般的には上昇傾向にあった(査第38号証ないし第40号証)。
(ウ) 個別の面談による情報交換
a 島谷本部長及び木本営業部長は,平成19年10月16日,自ら働きかけて,大陽日酸の常務執行役員でありガス事業本部副本部長であった伊藤彬(以下「伊藤副本部長」という。)及びそのガス事業本部セパレートガス事業部長兼セパレートガス営業部長であった佃淳一(以下「佃部長」という。)と,大腸日酸の本社において面談した。原告の島谷本部長は,上記面談において,大陽日酸の伊藤副本部長に対し,酸素,窒素及びアルゴンの値上げを検討している旨を伝えたところ,伊藤副本部長も,島谷本部長に対し,原告と同様に値上げの検討をしている旨を伝え,値上げに向けて動くことを相互に確認した。(査第41号証,第42号証,第45号証ないし第47号証)
b 大陽日酸の伊藤副本部長は,その後,エア・ウォーターの専務取締役であり産業事業本部長兼産業事業部長であった角谷登と個別に面談し,大陽日酸とエア・ウォーターの2社が酸素,窒素及びアルゴンの値上げを行う意向であることを相互に確認することができたことから,自社の佃部長に対し,エア・ウォーターも値上げの意向を有していることを伝えた上,原告及びエア・ウォーターと情報交換を行って値上げに向けた動向を把握するよう指示した(査第45号証,第47号証)。
c 大陽日酸の佃部長は,平成19年11月頃,原告の木本営業部長及びエア・ウォーターの産業事業本部産業事業部エアガス部長であった白井清司(以下「白井部長」という。)に連絡し,酸素,窒素及びアルゴンの値上げの具体策について話し合う場を持つこととした。
 原告の木本営業部長,大陽日酸の佃部長及びエア・ウォーターの白井部長は,同月15日,大陽日酸の新橋ビルにおいて面談を行い,原告,大陽日酸及びエア・ウォーターの3社が,酸素,窒素及びアルゴンの値上げを行う意向を有していることを相互に確認した。
 (査第45号証,第49号証ないし第54号証)
d 大陽日酸の伊藤副本部長は,平成19年11月中旬から下旬頃,岩谷産業の専務取締役であり産業ガス・溶材本部本部長であった宮川隆史(以下「宮川本部長」という。)とも個別に面談し,大陽日酸及び岩谷産業の2社が酸素,窒素及びアルゴンの値上げを行う意向であることを相互に確認したことから,自社の佃部長に対し,岩谷産業も値上げの意向を有していることを伝え,同社とも情報交換を行って値上げに向けた動向を把握するよう指示した(査第45号証,第47号証)。
ウ 部長級会合の開催状況
(ア) 平成19年12月18日の会合
 大陽日酸の佃部長は,平成19年12月18日,4社による酸素,窒素及びアルゴンの値上げの実施について協議するため,大陽日酸の新橋ビルにおいて,原告の木本営業部長,エア・ウォーターの白井部長及び岩谷産業の産業ガス・溶材本部エアガス部長であった岩永友孝(以下「岩永部長」という。)と会合を行った。
 同会合において,大陽日酸の佃部長は,大陽日酸は平成20年4月から酸素,窒素及びアルゴンの価格を平均10パーセント値上げする意向であると述べたところ,エア・ウォーターの白井部長及び原告の木本営業部長は,それぞれ自社も同様の値上げを行う意向である旨を述べ,岩谷産業の岩永部長も,同社が同様の値上げに賛成する旨の発言をした。原告の木本営業部長ら上記4名は,4社がいずれも値上げの意向を有していることを相互に確認した上,同月1日出荷分から,4社で足並みをそろえて,現行価格より10パーセント(液化酸素及び液化窒素についてはそれぞれ1立方メートル当たり3円前後,液化アルゴンについては同15円前後)を目安に引き上げることを確認し合い,同年1月に再度会合を行うことを決めた。
 (査第45号証,第55号証ないし第61号証,第63号証)
(イ) 平成20年1月23日の会合
 大陽日酸の佃部長,原告の木本営業部長,エア・ウォーターの白井部長及び岩谷産業の岩永部長の4名は,平成20年1月23日,エア・ウォーターの本社において会合を行い,4社の酸素,窒素及びアルゴンの値上げに向けた社内での取組の状況等について協議した。
 同会合において,白井部長は,エア・ウォーターにおいては過去に値上げができていない取引先を中心として同年4月から平均10パーセント値上げする意向である旨を述べ,佃部長は,大陽日酸においては同月から平均10パーセント値上げすることが社内会議で決定され,全国の営業担当者に対して値上げ指示を行った旨を述べ,岩永部長は,岩谷産業においては同月から平均10パーセント値上げすることに向けて社内で準備している旨を述べ,原告の木本営業部長も,これらに異議を唱えることはなく,上記4名において,酸素,窒素及びアルゴンの販売価格について,4社が足並みをそろえて,同年4月1日出荷分から,現行価格より10パーセントを目安に引き上げることを相互に確認した。
 また,同会合において,原告の木本営業部長と大陽日酸の佃部長との間で,値上げのプレスリリースをどちらが先に行うかについてのやり取りも行われた。
 (査第45号証,第60号証,第65号証ないし第71号証)
(ウ) 上記各会合についての報告
 平成19年12月18日及び平成20年1月23日に開催された各部長級会合は,前記のとおり,平成19年10月に行われた4社の役員級の者による個別の面談を受けて実現したもので,各会合の開催状況やそこでされた合意の内容は,いずれも4社の役員級の者に報告されていた(査第47号証,第48号証,第60号証,第63号証)。
(エ) 顧客との交渉状況に関する情報交換等
a 4社は,4社のうち複数の者が酸素,窒素及びアルゴンを納入している需要者(以下「共納先」という。)に対してその販売価格の引上げを実施する場合には,各支社や各支店の営業担当者間を中心として,また,一部の需要者に対する値上げを実施する場合には,本社の部長級の者である原告の木本営業部長,大陽日酸の佃部長,エア・ウォーターの白井部長及び岩谷産業の岩永部長の間で,それぞれ値上げの申入れ額,値上げの実施方法,妥結額等について情報交換を行い,値上げ実施のための調整を行った(査第11号証,第73号証ないし第76号証)。
b 原告の木本営業部長,大陽日酸の佃部長,エア・ウォーターの白井部長及び岩谷産業の岩永部長は,平成20年2月28日及び同年8月22日にも,それぞれ会合を行ったほか,これとは別に4社間における個別の面談も行い,酸素,窒素及びアルゴンの値上げ交渉の状況等について情報交換を行った(査第76号証ないし第95号証)。
c 4社は,酸素,窒素及びアルゴンの販売価格の引上げを阻害する行動を取った他社に対して抗議を行ったほか,販売価格の引上げを阻害することがないよう,新規発注の引き合いに応じて受注調整を行った(査第96号証ないし第101号証)。
エ 顧客に対する値上げ申入れの実施状況
(ア) 4社は,平成20年1月ないし同年3月頃,それぞれ,顧客に対して酸素,窒素及びアルゴンの販売価格の引上げを申し入れたところ,その内容は,各社とも本件合意の内容に沿うものであった(査第126号証ないし第131号証)。
(イ) 木本営業部長が所属する営業本部営業部の者は,平成20年1月下旬頃から,事業部門及び地域別に組織された全国の支社に対し,液化酸素,液化窒素又は液化アルゴンにつきそれぞれ1立方メートル当たり3円,3円,15円といった,本件合意において目安とされた10パーセントの値上げ幅と符合する値上げの指示や説明を行うとともに,自身が担当する顧客に対してもそれと同内容の値上げの申入れをした。また,営業本部営業企画部長であった竹中郁らも,その頃,原告の各支社を訪問して,値上げの内容や方法を説明し,これらの指示・説明を受けた原告の各支社の営業担当者は,上記内容で顧客との値上げ交渉を行った。(査第133号証,第138号証,第141号証ないし第143号証)
(ウ) 原告の営業本部は,当初,平成20年4月1日納入分からの値上げを各支社に指示するなど,同日からの値上げを予定していたが,同年2月18日に開催された役員級の者らによるプライスコミッティと称する会議において,値上げの開始時期を同年3月1日とする旨のプレスリリースを行うことが決定された。もっとも,この決定によって具体的な値上げ開始時期が変更されたことはなく,顧客に対して行われた値上げ活動においては,同年4月1日納入分からの値上げの申入れがされていた。(査第128号証,第132号証の1及び2,第133号証,竹中郁参考人審尋速記録)
(2) 前記(1)の各事実は,いずれも摘示の証拠に基づく合理的なものと認められ,これと異なる旨をいう原告の主張はいずれも理由がない。そして,上記各事実によれば,4社の間において,遅くとも,2回目の部長級会合が行われた平成20年1月23日までに本件合意が成立したことは,優に認められる。
(3) ところで,原告は,仮に本件合意の存在が認定できるとしても,特定エアセパレートガスのうちエレクトロニクス産業向けのもの及び大規模顧客向けのものは,本件合意の対象範囲に含まれていない旨を主張する。
 しかしながら,本件審決が証拠(査第4号証,第45号証,第60号証,第83号証,第93号証,第94号証,第128号証,第132号証の1及び2,第133号証,第153号証ないし第159号証,第191号証,第192号証,第194号証,第195号証,第198号証,第199号証,第200号証,第201号証の1ないし3,第202号証,第204号証,第205号証,第206号証,第208号証,第220号証,第226号証,審第47号証,第55号証の1及び2,第56号証の1ないし3,第68号証,第69号証,竹中郁参考人審尋速記録)に基づき合理的に認定した事実,特に,営業本部の島谷本部長や木本営業部長は,一般産業向けのガスを取り扱う工業・販売ネットワークと称する事業部門(後の工業事業本部)に限らず,エレクトロニクス産業向けのガスを取り扱うエレクトロニクス事業本部や,大規模顧客向けのガスを取り扱うラージインダストリー事業本部において扱われる特定エアセパレートガスの販売価格についても影響力を行使できる立場にあったというべきであるし,島谷本部長が原案の作成に関与し,平成20年2月26日に公表された特定エアセパレートガスを含むガス種の販売価格の引上げに関するプレスリリースにおいても,値上げの対象となる製品については,事業本部の所管による限定は示されていなかったことからすれば,各部門の所管の違いを強調する原告の上記主張は当を得ないものというべきである。
 また,原告は,オンサイト供給及びパイピング供給においてガスの発生装置の例外的な運転の停止に備えてエアセパレートガスを準備しておくこと(狭義のバックアップ)並びにオンサイト供給におけるガスの発生装置による製造量の不足分を補うためにエアセパレートガスを供給すること(ピークシェイブのバックアップ)を指摘して,特定エアセパレートガスのうちこれらのバックアップに係るものは,本件合意の対象範囲に含まれていないとも主張する。
 しかしながら,本件審決が証拠(査第74号証,第93号証,第160号証ないし第162号証,第182号証の1ないし4,第183号証,第184号証の1及び2,第185号証の1及び2,第186号証の1ないし3,第187号証の1ないし4,第188号証の1ないし3,第189号証の1及び2,審第43号証)に基づき合理的に認定した事実,すなわち,原告が平成17年に実施した「リカバリー2000」と称する値上げキャンペーンにおいては,バックアップに係る特定エアセパレートガスについて,価格改定条項が存する場合には時期を見計らって,価格改定が厳格に制限されている場合には価格に関する条項を改定した上で,値上げ交渉を行っており,本件合意に係る今般の部長級会合においても,バックアップに係るものかどうかを特に区別することなく,本件合意の成立に向けて話をしていたこと,大王製紙株式会社ほか7社との間で行われたバックアップに係る契約条項及び値上げの申入れ状況をみても,バックアップに係るものが値上げの対象から除外されていたとはみられないことなどからすれば,原告の上記主張は理由がないというほかない。
 さらに,原告は,本件審決が,「超高純度ガスであっても,ローリー供給に係るものである限り,特定エアセパレートガスに該当するのであり,本件合意の対象であった」と認定・判断したことについて,特定エアセパレートガスのうち超高純度ガスたる酸素,窒素及びアルゴンは,一般のそれらと比較し,用途,製造工程,出荷・運搬方法,取引形態,価格などで異なっていることを指摘し,また,本件審決が粗アルゴンを本件合意の対象範囲に含まれないとしていることからすれば,同様の理由で超高純度ガスたる酸素,窒素及びアルゴンも本件合意の対象範囲に含まれないとしなければ一貫しないと主張する。
 しかしながら,原告のいうとおり,特定エアセパレートガスのうち超高純度ガスたる酸素,窒素及びアルゴンが,一般のそれらと比較し,用途,製造工程,出荷・運搬方法,取引形態,価格などで異なっているとしても,その相違は,本件合意の成立につき本件審決掲記の証拠により認定される事実関係によれば,4社の部長級の者がローリー供給に係る超高純度ガスを特定エアセパレートガスから除外して認識したり,異なる取引分野と認定するほどの相違であるとはいえない。また,粗アルゴンについては,4社の部長級の者がエアセパレートガスとは別の商品と認識しており,本件合意の対象とはいえないことを認定できる証拠(査第45号証31頁,第94号証7ないし8頁,第98号証2頁,第99号証1頁等)があることから,本件合意の対象から除外されたものということができるのに対し,超高純度ガスについては,そのように本件合意の対象外とされたことをうかがわせる事情はないから,粗アルゴンが本件合意の対象範囲に含まれないからといって,超高純度ガスも当然に本件合意の対象範囲に含まれないということにはならない。
(4) 原告は,営業本部及び営業部の所管事項は限定されていることから,島谷本部長や木本営業部長が本件合意の成立に関与したとしても,本件合意の対象は,営業本部及び営業部の所管事項の制約を受ける旨を主張する。
 ところで,証拠(査第155号証,第156号証,第198号証)によれば,原告においては,平成19年11月頃以降,「スクラム1250」と題する製品価格の引上げに向けた社内プロジェクトが進められていたことが認められる。なるほど,この「スクラム1250」プロジェクトと,4社間の本件合意により平成20年4月1日出荷分から特定エアセパレートガスの値上げが図られたこととの間に,時期的近接性があることは明らかであるものの,本件全証拠によっても,両者の結びつきの有無等についてまで明らかになっているとはいえないが,同プロジェクトにおける営業本部及び営業部の地位や役割が広範なものであることから,同プロジェクトを離れた通常の業務における営業本部及び営業部の地位や役割が広範なものであったことを推認することはできる。そして,このような推認を経ることによって,本件合意の対象が原告のいうような所管事項による制約を受けるものでないことを認定することには支障はないというべきである。
 その他,原告の主張に照らし,本件訴訟記録を検討しても,上記(3)の認定判断を左右するに足りる的確な主張等はないというべきである。
(5) まとめ
 以上によれば,4社の間で,特定エアセパレートガスの販売価格を引き上げる旨の本件合意が成立したことが認められ,このような本件合意により4社の事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかであるから,本件合意は,独占禁止法2条6項の「その事業活動を拘束し」の要件を充足する。また,本件合意の成立により,4社の間に,本件合意の内容に基づいた行動をとることを互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものということができるから,本件合意は,同項の「共同して・・相互に」の要件も充足するというべきである。
 そうすると,これらの点に関する本件審決の判断には違法はない。

2 争点2(本件合意による実質的な競争制限の有無)について
(1) 特定エアセパレートガスの販売分野という取引分野を画定することの可否
ア 前記1で認定し判断したところによれば,4社の間には,いわゆる価格カルテルが成立していることになる。
 独占禁止法は,2条6項において,「不当な取引制限」を「事業者が他の事業者と共同して・・相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」と定義し,3条において,事業者による不当な取引制限を禁止しており,同法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような価格カルテルの場合には,その当事者である事業者らがその意思で,当該市場における価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうものと解される(最高裁判所第一小法廷平成24年2月20日判決・民集66巻2号796頁参照)。
 このうち「一定の取引分野」とは,そこにおける競争が共同行為によって実質的に制限されているか否かを判断するために画定されるものであるが,価格カルテル等の不当な取引制限における共同行為は,特定の取引分野における競争の実質的制限をもたらすことを目的及び内容としていることや,行政処分の対象として必要な範囲で市場を画定するという観点からは,共同行為の対象外の商品役務との代替性や対象である商品役務の相互の代替性等について厳密な検証を行う実益は乏しいことからすれば,通常の場合には,その共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して,一定の取引分野を画定すれば足りるものと解される(東京高等裁判所平成5年12月14日判決・高等裁判所刑事判例集46巻3号322頁参照)。
 本件合意は,タンクローリーによって供給される液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの総称である特定エアセパレートガスの販売価格の引上げに関するものであることからすれば,本件合意において,特定エアセパレートガスの販売分野という一定の取引分野が画定され,このような取引分野において競争が実質的に制限されているかを検討することが相当であり,かつ,それで足りるというべきである。
イ これに対し,原告は,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンは,需要者を異にするので,相互の間に需要の代替性がなく,競争関係が存在しないから,これらを合わせた特定エアセパレートガスという1個の取引分野は成立し得ない旨主張する。
 しかしながら,本件において,4社は,いずれも液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの製造及び販売を営む者としてその立場を共通していることに加え,証拠(査第6号証の2,第144号証,第145号証)によれば,平成20年度において,我が国における特定エアセパレートガス全体についても,それぞれのガス種のいずれについても,90パーセント弱の高い市場占有率を有していたことが認められるというのである。
 このような4社が,これらのガスの製造費用のうち大きな比率を占めている電気料金,重油価格及び軽油価格の高騰を背景に,タンクローリーによる輸送によって供給される液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの販売価格を引き上げる旨の本件合意を行ったことに鑑みれば,上記各産業ガスの総称である特定エアセパレートガスの全体を一個の取引分野として画定することについて,特に不都合は見当たらない。かえって,そのように取引分野を画定することは,液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンに共通する値上げ要因である電気料金,重油価格及び軽油価格の高騰を背景にして,いずれのガス種についても高い市場占有率を有する4社により本件合意が行われた,という本件の社会的実態に即した形で,取引の実質的制限の判断が可能になるものである。
 したがって,特定エアセパレートガスの販売分野という1個の取引分野は成立し得るものと解するのが相当であり,これと異なる旨をいう原告の主張は理由がない。
(2) 本件合意が対象とする取引及びそれにより影響を受ける範囲について
 独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野」とは,違反者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して,画定される。
 これを本件についてみれば,特定エアセパレートガスの販売経路は,製造業者が直接需要者に販売する場合のほか,製造業者がディーラーに販売し,ディーラーがそれを需要者に販売する場合,製造業者がグループ会社に販売し,グループ会社が需要者に販売する場合,製造業者がディーラーポジションになり,他の製造業者から特定エアセパレートガスを購入し,それを直接又はディーラーを通じて需要者に販売する場合など様々なものがあるが,本件合意は,4社の取引先に対する特定エアセパレートガスの販売価格を引き上げる旨の合意である。そして,本件合意は,ディーラー又はグループ会社から需要者への販売価格まで制限するものではないが,4社による特定エアセパレートガスの総販売金額は,我が国における大手のガス製造業者13社による特定エアセパレートガスの総販売金額の約9割を占めているのであるから,4社の取引先に対する特定エアセパレートガスの販売価格が引き上げられれば,ディーラー又はグループ会社から需要者への販売価格にも影響を与えることは明らかである。
 したがって,本件審決が,本件における一定の取引分野を,製造業者による出荷から需要者の購入に至るまでの特定エアセパレートガスの販売分野全体として判断したことは相当である。
(3) 市場占有率の算定方法について
 本件における4社の市場占有率については,前記(1)イで述べたとおり,平成20年度において,我が国における特定エアセパレートガス全体についても,それぞれのガス種のいずれについても,90パーセント弱という高いものであったところ,この市場占有率は,4社を含む大手ガス製造業者13社の直接の販売相手に対する販売金額を算出し,これに対する4社の各販売金額の割合を計算する方法により算定されている。
 本件のように,一定の取引分野が,製造業者から需要者への直接販売のほか,製造業者がディーラーへ直接販売し,ディーラーがそれを需要者へ販売するもの,製造業者がグループ会社に直接販売し,グループ会社がそれを需要者に販売するもの,製造業者がディーラーポジションになり,他の製造業者から特定エアセパレートガスを購入し,それを直接又はディーラーを通じて需要者に販売するものなど,複数の取引段階を包含して画定される場合,取引段階を異にする全ての販売に係る販売金額を合計することは,一つの商品の販売金額が重複して計上される場合もあることから,これを避ける必要があると解される。
 このような場合,製造業者の市場占有率が問題なのであるから, 4社を含む大手ガス製造業者13社の直接の販売相手に対する取引段階を捕捉して算定する方法が,製造業者別にその販売金額を直接的に把握することができる点で,多数存在するディーラーや需要者からその取引金額を集計する方法よりも,正確性や簡便性の点で優れ,さらに, 13社各社の総販売金額を単純に合計すれば,13社間の売買部分について一つの商品の販売金額が重複して計上されることになるから,当該13社間の売買における売主の販売金額を控除されている。
 そして,このような本件における4社の市場占有率の算定方法は合理的であるというべきである。
 これに対して原告は,上記算定方法が不相当である旨縷々主張するが,いずれも合理的理由に乏しく,上記判断を左右しない。
(4) 以上によれば,我が国における大手ガス製造業者13社による特定エアセパレートガスの総販売金額の約9割を占めていた4社が本件合意をしたものであり,これにより4社がその意思で我が国における特定エアセパレートガスの取引分野における販売価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされたことが認められるから,本件合意は,独占禁止法2条6項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足しており,この点に関する本件審決の判断に違法はない。
 その他,原告の主張に照らし,本件訴訟記録を検討しても,上記認定判断を左右するに足りる的確な主張等はないというべきである。

3 争点3(本件排除措置命令の必要性及び相当性の有無)について
(1) 排除措置を命ずるにつき「特に必要であると認められるとき」に該当するか否か
ア 独占禁止法7条の定める排除措置命令の制度は,違反行為を排除し,当該行為によってもたらされた違法状態を除去し,競争秩序の回復を図るとともに,当該行為の再発を防止することを目的として,作為又は不作為を命ずる行政処分であり,一般に,(ア) 現在する違反行為の取りやめ又は既往の違反行為を取りやめていることの確認,(イ) 上記(ア)の措置をとったことにつき発注先,取引先等への通知,役員,従業員,一般消費者等への周知徹底,(ウ) 今後同様の行為をしない将来の不作為,及び(エ) 上記(ア)ないし(イ)のとるべき措置の公正取引委員会の承認及びとった措置の報告等が内容とされている。
 同条は,その2項において,違反行為が既になくなっている場合においても,特に必要があると認めるときは,事業者に対し,当該行為が既になくなっている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる旨規定しているが,上記排除措置命令制度の趣旨目的に照らせば,同項にいう「特に必要があると認めるとき」とは,排除措置を命じた時点で既に違反行為はなくなっているが,当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存し,競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解される。
 そして,「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断については,我が国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する公正取引委員会の専門的な裁量が認められるものと解される(最高裁判所第一小法廷平成19年4月19日判決・公正取引委員会審決集54巻657頁参照)。
イ ところで,4社に対しては,平成22年1月19日,公正取引委員会による立入検査が行われ,4社は,同日以降,特定エアセパレートガスの販売価格についての情報交換を行っていないことから,本件合意は,同日をもって事実上消滅し,その結果,平成20年4月1日から始まった原告の違反行為もなくなっているというのである。
 しかしながら,本件違反行為の実行期間は約1年9か月で,必ずしも短いとはいえない。また,4社においては,平成20年当時,我が国における大手のガス製造業者13社による特定エアセパレートガスの総販売金額の約9割を占めており,そのような状態は,本件排除措置命令の時においても,将来相当期間継続することが容易に予想されたことから,4社が協調的な行動を取りやすく,同種の違反行為が行われやすい環境であったものと評価することができる。加えて,原告を含む4社が,平成22年1月19日に本件違反行為を取りやめた経緯も,公正取引委員会が,同日,本件違反行為について立入検査を行ったことを契機とし,原告らの自発的な意思に基づくものではなかった。
ウ そうすると,原告らによって本件違反行為と同様の違反行為が繰り返されるおそれがあると認めて,本件においては,原告に対して排除措置を命ずるにつき「特に必要がある」ものとした公正取引委員会の判断につき,それが合理性を欠くものであるということはできず,その裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものということはできない。
 したがって,この点について,本件排除措置命令に違法はない。
(2) 本件排除措置命令の主文の相当性
ア 排除措置命令の主文には,公正取引委員会が名宛人に命ずる措置の具体的内容が記載されるが,前記の排除措置命令制度の趣旨目的に加え,公正取引委員会は独占禁止法の運用機関として競争政策に専門的な知見を有していることからすれば,公正取引委員会には,「特に必要がある」と認めて排除措置命令を行うべきか否かという点だけでなく,命ずる措置の内容についても,専門的な裁量が認められているものと解される。
イ ところで,原告は,本件排除措置命令の主文第1項(2)及び第3項並びに第1項(3)及び第4項は,いずれも「他の事業者」に限定がなく, 「販売価格」の意味も不明であるため,その適用範囲が過度に広範で不明確である旨主張する。
 しかしながら,本件排除措置命令は,特定エアセパレートガスの販売分野において競争関係にある4社が,共同して特定エアセパレートガスの販売価格を引き上げる旨の合意をしたことを違反行為として,当該違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命じたものであることが明らかである。
 このような本件排除措置命令の趣旨及び目的に鑑み,社会通念に従って合理的に解釈すれば,本件排除措置命令の主文の上記各条項において販売価格の決定やその改定に関する情報交換が禁止される「他の事業者」とは,原告と競争関係に立つ事業者を意味し,禁止される「販売価格」の決定やその改定に関する情報交換とは,上記意味の事業者間において競争手段となるはずである,自社の販売先に対する「販売価格」に関する決定やその改定に関する情報交換を,当該事業者間ですることを意味するということは,明らかというべきである。
 したがって,本件排除措置命令の主文の上記各条項の内容が不明確であるとはいえないし,「他の事業者」や「販売価格」の意味内容につき上記のとおりに解することができることからすれば,本件排除措置命令の主文の上記各条項の適用範囲が過度に広範ということもない。
 なお,本件合意は4社による直接の販売先に対する販売価格の引上げの合意であるが,4社が特定エアセパレートガスの販売分野全体に与える影響を鑑みると,ここでいう「販売価格」とは,直接の販売先のみならず,ディーラー等を介した間接の販売先である最終需要者等に対する販売価格を含むものと解するのが相当であるし,このような範囲についてまで販売価格に関する決定や情報交換を行うことを禁止することが,過度に広範な規制であるということもできない。
 したがって,原告の上記主張にはいずれも理由がない。
ウ 原告は,さらに,本件排除措置命令の主文第1項に基づいて採った措置の周知を命ずる同主文第2項は,その周知先である「販売業者」の範囲が明らかでなく,同じく周知先である「製造業者」には,文理上,仕入先が含まれるが,仕入先に周知する根拠も必要もないとして,同条項は過度に広範かつ不明確な措置である旨も主張する。
 しかしながら,上記主文第2項によって周知が命じられる「製造業者及び販売業者」とは,同項に「自社の取引先である特定エアセパレートガスの製造業者及び販売業者」とあるとおり,取引関係の存することが前提となっているから,原告自身の特定エアセパレートガスの取引関係に照らせば,その範囲は明らかというべきである。また,本件違反行為は,特定エアセパレートガスの販売価格の引上げカルテルであるが,このような違反行為を排除するための本件排除措置命令の趣旨,目的に鑑み,社会通念に従って合理的に解釈すれば,同主文第2項における「取引先である製造業者及び販売業者」に仕入先を含まないことも明らかである。さらに,同主文第2項は,その周知の方法について,あらかじめ公正取引委員会の承認を受けることを求めているところ,周知先や周知文案を含め,周知方法は,公正取引委員会による本件排除措置命令の趣旨及び目的と社会通念に従って導かれる客観的基準に即した裁量に基づく承認によって確定されるものと解される(最高裁判所第二小法廷昭和52年4月13日決定・公正取引委員会審決集24巻234頁参照)。そうすると, 同項が過度に広範で不明確であるということもできない。
 したがって,原告の上記主張にはいずれも理由がない。
エ よって,本件排除措置命令の主文が,過度に広範で不明確なものであり違法である旨をいう原告の主張には理由がないというべきである。

4 争点4(課徴金算定の対象)について
(1) 課徴金算定の対象に関する基本的な考え方
ア 独占禁止法の定める課徴金の制度は,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的として,既存の刑事罰の定め(同法89条)やカルテルによる損害を回復するための損害賠償制度(同法25条)に加えて設けられたものであり,カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである。
 そして,課徴金の額の算定方式は,実行期間のカルテル対象商品又は役務の売上額に一定率を乗ずる方式を採っているが,これは,課徴金制度が行政上の措置であるため,算定基準も明確なものであることが望ましく,また,制度の積極的かつ効率的な運営により抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであって,個々の事案ごとに経済的利益を算定することは適切ではないとして,そのような算定方式が採用され,維持されているものと解される。
 このため,課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないと解される。
 (以上につき,最高裁判所第三小法廷平成17年9月13日判決・民集59巻7号1950頁参照)
イ 独占禁止法7条の2第1項にいう「当該商品」とは,違反行為である相互拘束の対象である商品,すなわち,違反行為の対象商品の範疇に属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものをいうものと解される。そして,違反行為の対象商品の範疇に属する商品については,一定の商品につき,違反行為を行った事業者又は事業者団体が,明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められない限り,違反行為による拘束が及んでいるものと推定し,課徴金算定の対象となる当該商品に該当するものとして課徴金の算定対象に含めるのが相当である。
 この場合には,違反行為者が,実行期間中に違反行為の対象商品の範疇に属する商品を引き渡して得た対価の額が,課徴金の算定の基礎となる売上額となるものというべきである。
(以上につき,東京高等裁判所平成22年11月26日判決・公正取引委員会審決集57巻第2分冊194頁参照)
ウ 本件においては,特定エアセパレートガスが,本件違反行為の対象商品の範疇に属することになるから,特定エアセパレートガスであるものについてはそれが違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められない限り,違反行為による拘束が及んでいるものとして,課徴金算定の対象となる当該商品に含まれることになる。
(2) 原告の主張とその検討
ア 原告は,特定エアセパレートガスのうち,(ア) エレクトロニクス産業向けのもの,大規模顧客向けのもの,バックアップに係るもの及び超高純度ガスに当たるもの,(イ) シリンダー充てん業者に対して販売したもの,(ウ) 全額出資子会社等,すなわち,オキシトン7社及びそれ以外の原告の全額出資子会社(以下「全額出資子会社等」という。)に対して販売したものは,いずれも特定エアセパレートガスであっても独占禁止法7条の2第1項にいう「当該商品」に該当しない旨主張する。
 そこで,以下,それぞれについて,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が存在するか否かを検討する。
(ア) まず,特定エアセパレートガスのうち,エレクトロニクス産業向けのもの,大規模顧客向けのもの,バックアップに係るもの及び超高純度ガスに該当するものは,前記のとおり,いずれも本件合意の対象に含まれており,本件合意による相互拘束から除外されていることを示す事情も見当たらない。
(イ) また,原告は,シリンダー充てん業者に対する取引は,特定エアセパレートガスの販売分野という一定の取引分野に含まれないから,シリンダー充てん業者に対して販売したエアセパレートガスは「当該商品」に該当しない旨主張する。
 しかしながら,本件における「一定の取引分野」とは,特定エアセパレートガスの販売分野全体をいうことは,前記のとおりであり,ローリー供給によって供給されるエアセパレートガスの販売であれば,取引段階を問わず本件における「一定の取引分野」に含まれることになる。そして,原告からシリンダー充てん業者に対しローリー供給によって供給されるエアセパレートガス,すなわち特定エアセパレートガスの販売も当然にこれに含まれるものであり,シリンダー充てん業者からエアセパレートガス一般の需要者への販売がシリンダー供給であるからといって,上記と別異に解する理由はない。
 したがって,原告の上記主張には理由がなく,他に,シリンダー充てん業者に対して販売した特定エアセパレートガスについて,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情は存在しないことから,これらは「当該商品」に含まれる。
(ウ) さらに,原告は,全額出資子会社等に対する売上げは,経理上売上げとしているものの,同一企業内における加工部門への物資の移動と同視し得るものであるから,対象商品の範疇に属しないか,少なくとも違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が存在する旨主張する。
 しかしながら,全額出資子会社等であるとはいえ,原告とは別個の法人格を有し,法律上も独立の取引主体として活動していることからすれば,そのような子会社に販売した商品が違反行為の対象である商品から除外されているものと認めることはできない。全額出資子会社等に対する商品の販売が,同一企業内における加工部門への物資の移動と同視し得るような事情が存在する場合には,そのような子会社へ販売した商品が,違反行為の対象となる商品から除外され,その商品の売上額が,課徴金算定の基礎となる売上額から除外されると解すべき余地はあるとしても,本件においては,原告から全額出資子会社等への特定エアセパレートガスの販売が同一企業内における加工部門への物資の移動と同視し得るような事情は見当たらない。
 そうすると,全額出資子会社等に対して販売した特定エアセパレートガスについて,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情は存在しないことから,これらは「当該商品」に含まれるというべきである。
イ その他,本件訴訟記録を検討しても,上記認定判断を左右するに足りる的確な主張等はない。
ウ 以上のとおり,特定エアセパレートガスは,原告の主張に係る各製品を含めて,独占禁止法7条の2第1項にいう「当該商品」に該当するものと認められ,この点についての本件審決の判断に違法はない。

5 争点5(課徴金算定率)について
(1) 課徴金の額の算定における業種の認定とその方法について
ア 独占禁止法の定める課徴金の制度趣旨,課徴金の額の算定方式,及び,課徴金の額がカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないと解されることは,前記のとおりである(前掲最高裁判所第三小法廷平成17年9月13日判決参照)。
イ ところで,課徴金の額の算定に当たっては,実行期間のカルテル対象商品又は役務の売上額に一定率を乗ずる方式が採られ,この率は,当該事業者が小売業を営む場合は100分の3,卸売業を営む場合は100分の2,それ以外の場合は100分の10であるとされている(独占禁止法7条の2第1項)。
 もっとも,実際には,事業者の行った違反行為に係る取引につき,小売業又は卸売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われている場合があり得るが,そのような場合においても,既に述べた独占禁止法の定める課徴金の制度趣旨や,課徴金の額の算定方式に係る考え方に照らせば,単一の業種を決定することが相当であり,その決定に当たっては,実行期間における違反行為に係る取引において過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて決定することが相当であると解される(東京高等裁判所平成24年5月25日判決・公正取引委員会審決集59巻第2分冊1頁参照)。
 また,独占禁止法7条の2第1項が,売上額に乗ずる課徴金算定率について,100分の10を原則としつつ,小売業又は卸売業について例外的に軽減した課徴金算定率を規定した趣旨は,小売業及び卸売業においては商品を右から左に流通させることによりマージンを受け取るという側面が強く,事業活動の性質上,営業利益率も小さくなっている実態を考慮したためであると解される。そうすると,課徴金の計算に当たっては,外形的には事業活動の内容が商品を第三者から購入して販売するものであっても,実質的にみて小売業又は卸売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情があるときには,当該他業種と同視できる事業を行っているものとして業種の認定を行い,原則的な課徴金算定率である100分の10を適用することが相当であると解される。
 そして,ここでいう特段の事情の有無については,仕入先への出資比率や役員構成,運営への関与,出向者数,技術・設備の供与,利益構造,製造面での関与,業務内容,仕入先の事業者としての実質的な独立性,その他の要素を考慮し,事業活動の実態を総合的に検討する必要があるものと解される。
(以上につき,東京高等裁判所平成26年9月26日判決・公正取引委員会審決集61巻217頁参照)
ウ これに対し,原告は,本件審判手続において,過半理論を用いて単一の業種認定を行うことは誤りであり,按分理論,すなわち,卸売業又は小売業としての事業活動の売上高に卸売業又は小売業の算定率を,それ以外の業種としての事業活動の売上高に卸売業又は小売業以外の業種の算定率を,それぞれ乗じて課徴金を算定すべきであると主張するが,上記説示したところに照らし,原告の主張には理由がないというべきである。
(2) 本件において適用される課徴金算定率
 原告が,本件実行期間中において自ら製造し販売した特定エアセパレートガスの数量は,4億1009万5032.68(S?)であり,オキシトン7社から購入して販売した特定エアセパレートガスの数量は,4億5447万9375.66(S?)であるものと認められる(査第170号証)。
 そこで,原告がオキシトン7社から購入して販売した特定エアセパレートガスに係る取引につき,実質的にみて自ら製造し販売したものと認められる特段の事情があるか否かを検討するに,証拠によれば以下の事実等が認められる。
ア エアセパレートガスの製造拠点
 一般に,エアセパレートガスの製造業者は,エアセパレートガスを顧客に安定的に供給し,また,その輸送等に掛かる費用を削減するため,顧客の所在する地域に合わせて国内の各地に製造拠点を設けていることがあり,その場合には,自らの製造工場を設置するほか,設備投資に対する過大なリスクを回避し,かつ,エアセパレートガスの製造に掛かる費用を削減するなどの観点から,子会社を設立して製造工場を設置させたり,他の事業者との合弁事業により別法人を設立して製造工場を設置したりするなどして,製造拠点を設けてきている(査第164号証ないし第169号証)。
イ ところで,水島オキシトンは,前記前提事実のとおり,原告が岡山県倉敷市水島地区にあるコンビナートに供給する特定エアセパレートガス等の製品を製造することを目的の一つとして設立された会社であることに加え,証拠(査第170号証,第172号証,第174号証の1及び2)によれば,本件実行期間中,原告の販売する特定エアセパレートガスである液化酸素,液化窒素及び液化アルゴンの一部を製造していたものであって,原告にとって,特定エアセパレートガス等の製品の安定的供給,輸送等の費用の削減を図るための製造拠点の一つであったと認められる。
 また,水島オキシトンは,本件実行期間中,原告が議決権の100パーセントを保有する原告の完全子会社であり,水島オキシトンの取締役は1名で,その者は原告の従業員であった(査第173号証)。
 さらに,原告は,水島オキシトンの必要とする設備の調達を一任されていたほか,工場の運転保守及び増設も,全て原告の管理及び援助の下で行われていた(査第174号証の1)。
 加えて,水島オキシトンは,自ら製造する特定エアセパレートガス等の製品を全て原告に対して販売しており(旭化成水島コンビナートに供給するガス状窒素も,帝国酸素,すなわち原告を介して同コンビナートに供給されていた。査第174号証の1及び2),原告は,水島オキシトンの工場運営のため,原則として,毎月分,毎週分等の製品引取計画を,各々定める期日までに,水島オキシトンに通知することとされていた(査第174号証の1及び2)。
 以上の事実を総合すれば,原告による100パーセントの議決権保有率や取締役に対して原告の支配が及んでいるという会社支配の観点,原告により製造設備の設置管理が行われている状況,原告による特定エアセパレートガス等の製品の全量引取りの実態,原告による水島オキシトンの生産量や販売価格への関与の実態に照らし,水島オキシトンによる特定エアセパレートガスの製造は,原告の支配下にあったということができ,水島オキシトンにおいては原告自らが製造するのと同様の実態があったと認めるのが相当である。
ウ また,前記前提事実及び関係証拠(査第170号証,第172号証,第173号証,第175号証,第176号証の1ないし3,第177号証の1及び2,第178号証の1及び2,第179号証の1及び2,第180号証の1ないし3)から認められる事実を総合すれば,オキシトン7社のうちその余の6社についても,水島オキシトンと同様に,原告にとって特定エアセパレートガスの製造拠点であり,かつ,その製造については,原告の支配下にあり,各社においては原告自らが製造するのと同様の実態があったと認めるのが相当である。
(3) まとめ
ア 以上のとおり,オキシトン7社による特定エアセパレートガスの製造分については,原告が自ら特定エアセパレートガスを製造しているのと同様の実態があったといえるので,実質的に見て,小売業又は卸売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情が認められるというべきである。
 そして,前記のとおり,原告が,本件実行期間中において自ら製造し販売した特定エアセパレートガスの数量は,4億1009万5032.68(S?)であり,オキシトン7社から購入して販売した特定エアセパレートガスの数量は,4億5447万9375.66(S?)であるものと認められるから,これらを合算した数量は,8億6457万4408.34(S?)となる。これは,原告が上記期間中において製造し又は購入した総量として認められる15億3377万5142.38(S?。査第170号証)の約56.37パーセントに相当し,その過半を占める。
 そうすると,前記の過半理論により,原告の業種については小売業又は卸売業以外の業種であると認定し,その課徴金算定率を100分の10とするのが相当である。
イ これに対し,原告は,課徴金算定の対象である「当該商品」の認定(争点4)においては,全額出資子会社であっても別個の法人格を有し,独立の取引主体となることを理由として,全額出資子会社に対する売上げも課徴金算定の対象としていた一方で,課徴金の算定率に関わる業種認定(争点5)においては,子会社であることを理由として原告の製造拠点と同視できるという判断をするのは矛盾である旨主張する。
 しかしながら,違反行為の対象商品の範疇に属する「当該商品」に含まれるか否かの判断と業種認定の判断は場面を異にしており,オキシトン7社の製造分について,小売業又は卸売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情を認める一方で,原告が全額出資子会社に販売した特定エアセパレートガスについては本件違反行為の対象から除外されたことを示す事情がないとして,「当該商品」に該当すると判断することは矛盾するものではないから,原告の主張は理由がない。
ウ また,原告は,オキシトン7社の事業活動において,原告が一方的に自己の意のままにしていたわけではなく,主導権はオキシトン7社にあったこと,特に特定エアセパレートガス等の製品の価格設定においては,原告のほか,オキシトン7社や共同出資者の意向を無視することはできなかったことからすれば,オキシトン7社からの特定エアセパレートガスの購入について,特段の事情を認めることはできないとも主張する。
 しかしながら,特段の事情の判断に当たっては,必ずしもオキシトン7社の事業活動を原告が一方的に意のままにしていることまで必要ではなく,前記のとおり,仕入先への出資比率や役員構成,運営への関与,出向者数,技術・設備の供与,利益構造,製造面での関与,業務内容,仕入先の事業者としての実質的な独立性,その他の要素を考慮し,事業活動の実態を総合的に検討すべきである。そして,これらの要素を総合すれば,オキシトン7社のいずれからの特定エアセパレートガスの購入についても特段の事情が認められるのであるから,原告の上記主張にも理由がない。
エ その他,本件訴訟記録を検討しても,上記アの認定判断を左右するに足りる的確な主張等はない。
 以上のとおり,原告の業種が小売業や卸売業でないとの認定判断の下,独占禁止法7条の2第1項により算定率100分の10として計算した48億2216万円の課徴金の納付を原告に対して命じた本件課徴金納付命令に違法はない。

6 小括
 以上の次第で,本件審決の基礎となった事実認定に違法不当な点はなく,原告主張に係る憲法その他の法令違反も存しないというべきであるので,本件審決に独占禁止法82条1項1号及び2号の事由があるとは認められない。
 そして,その他,原告が本件審決の瑕疵として主張するところに鑑み,本件訴訟記録を精査しても,上記認定判断を左右するに足りる的確な主張等はないというべきである。

第4 結論

 よって,原告の各請求は理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

平成28年5月25日

東京高等裁判所第3特別部

裁判長裁判官  河野 清孝
裁判官      古谷 恭一郎
裁判官      岡口 基一
裁判官      小林 康彦
裁判官峯俊之は転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官  河野 清孝

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