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独禁法旧70条の7
東京高等裁判所
平成28年(行タ)第146号
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号中央合同庁舎第6号館B棟
申立人 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 田中久美子
西本良輔
石田健
三角未知人
川口菜摘子
塩田修平
小畑紳一郎
東京都渋谷区上原三丁目6番12号
相手方 一般社団法人日本音楽著作権協会
同代表者代表理事 浅石道夫
同代理人弁護士 田中豊
藤原浩
矢吹公敏
鈴木道夫
市村直也
髙木加奈子
主文
申立人が平成21年2月27日にした排除措置命令(平成21年(措)第2号)につき,相手方がその執行を免れるために保証金として供託した1億円のうち3000万円を没取する。
理由
第1 申立ての趣旨
申立人が平成21年2月27日にした排除措置命令(平成21年(措)第2号)につき,相手方がその執行を免れるために保証金として供託した1億円の全部を没取する。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は,申立人が相手方に対してした平成21年2月27日付け排除措置命令(以下「本件排除措置命令」という。)が平成28年9月9日に確定したことから,申立人が,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成25年法律第100号による改正前のもの。以下「独占禁止法」という。)70条の7第1項に基づき,本件排除措置命令の執行を免れるために相手方が平成21年8月6日に供託した保証金1億円の全部の没取を求めた事案である。
2 認定事実
一件記録によれば,次の事実を認めることができる。
(1)相手方は,著作権等管理事業法に基づく登録を受けて,音楽著作物の箸作権(以下「音楽著作権」という。)を有する者から委託を受けて音楽著作物の利用許諾等の音楽著作権の管理を行う事業者(以下「管理事業者」という。)であり,その管理に係る音楽著作物(以下「管理楽曲」という。)にっき,その利用を希望する者との問で利用許諾契約を締結してその利用を許諾し,その契約に定められた使用料を徴収して管理楽曲の著作権者等に分配することを内容とする音楽著作権管理事業を行う非営利目的の一般社団法人である。
相手方は,かねてより,ほとんど全ての放送事業者(平成22年法律第65号による改正前の放送法2条3号の2に規定する放送事業者及び平成22年法律第65号による廃止前の電気通信役務利用放送法2条3項に規定する電気通信役務利用放送事業者のうち平成23年総務省令第62号による廃止前の電気通信役務利用放送法施行規則2条1号に規定する衛星役務利用放送を行う者をいう。以下同じ。)との間で,放送事業者による管理楽曲の放送(放送のための複製等を含む。)への利用について,年度ごとの放送事業収入に所定の率を乗じて得られる金額又は所定の金額による使用料の徴収を定めた利用許諾契約を締結して,放送等使用料を徴収していた(以下,この方法により放送等使用料を徴収する行為を「本件行為」という。)。
(2)申立人は,平成21年2月27日,本件行為につき,音楽著作権管理事業に係る市揚のうち放送事業者による管理楽曲の放送利用に係る利用許諾に関するもの(以下「本件市場」という。)における他の管理事業者の事業活動を排除するものとして,独占禁止法2条5項所定の排除型私的独占に該当し独占禁止法3条に違反するとして,相手方に対し,独占禁止法7条1項に基
づき次のような内容を命じる本件排除措置命令(平成21年(措)第2号。疎乙第1号証)をし,本件排除措置命令は,その頃,その命令書の謄本が相手方に送達されたことにより,独占禁止法49条2項に基づきその効力を生じた。
ア相手方は,放送事業者であって管理事業者から音楽著作物の利用許諾を受け放送等利用を行う者から徴収する放送等使用料の算定において,当該放送事業者が放送番組において利用した音楽著作物の総数に占める相手方の管理楽曲の割合(以下「放送等利用割合」という。)が当該放送等使用料に反映されないような方法を採用することにより,当該放送事業者が他の管理事業者にも放送等使用料を支払う場合には,当該放送事業者が負担する放送等使用料の総額がその分だけ増加することとなるようにしている行為を取りやめなければならない。
イ相手方は,前項の行為を取りやめる旨及び今後,前項の行為と同様の行為を行わない旨を,理事会において決議しなければならない。
ウ相手方は,前記アの行為を取りやめるに当たり採用する放送等使用料の徴収方法について,あらかじめ,申立人の承認を受けなければならない。
エ相手方は,前記ア及びイに基づいて採った措置を自己と音楽著作物の利用許諾に関する契約を締結している放送事業者,他の管理事業者及び自己に音楽著作権の管理を委託している者に通知しなければならない。この通知の方法については,あらかじめ,申立人の承認を受けなければならない。
オ相手方は,今後,前記アの行為と同様の行為を行ってはならない。
カ相手方は,前記ア,イ及びエに基づいて採った措置を速やかに申立人に報告しなければならない。
(3)相手方は,平成21年4月28日,申立人に対し,独占禁止法49条6項に基づき,本件排除措置命令の取消しを求めて審判を請求し,同年6月16日,東京高等裁判所に対し,独占禁止法70条の6第1項に基づき,本件排除措置命令につき執行免除の申立てを行った(東京高等裁判所平成21年(行タ)第60号)。
東京高等裁判所は,同年7月9日,相手方が保証金として1億円を供託することにより本件排除措置命令確定までその執行を免除する旨の決定をし,相手方は,同年8月6日,東京法務局に保証金として1億円を供託した(東京法務局平成21年度金第30253号。疎甲第2号証)。
(4)申立人は,平成21年5月25日,相手方が請求した審判手続を開始し(平成21年(判)第17号),本件排除措置命令から約3年3か月を経過した後である平成24年6月12日,本件行為が本件市場における他の管理事業者の事業活動を排除する効果(以下「排除効果」という。)を有するとまで断ずることはできないと判断して,本件排除措置命令を取り消す旨の密決(以下「本件審決」という。)をした(疎乙第2号証)。
管理事業者である株式会社イーライセンス(現商号株式会社NexTone。以下「イーライセンス」という。)は,本件審決を不服として,同年7月10日,東京高等裁判所に対し,申立人を被告として審決取消請求の訴えを提起した(東京高等裁判所平成24年(行ケ)第8号。以下「本件訴訟」という。)。
本件訴訟において,申立人は,本件審決の判断が正当であると主張し,相手方も,申立人に補助参加して同様の主張をした。
東京高等裁判所は,平成25年11月1日,本件行為は排除効果を有するものと認められると判断し,イーライセンスの請求を認容して本件審決を取り消す旨の判決をした。そこで,相手方は,同月13日,最高裁判所に対して上告提起及び上告受理申立てを行い(最高裁判所平成26年(行ツ)第67号及び同平成26年(行ヒ)第74号),申立人も,同日,上告受理申立てを行った(最高裁判所平成26年(行ヒ)第75号)。
(5)他方,相手方は,自主的に本件行為を改めることとし,平成26年3月31日に日本放送協会との間で,同年6月12日に一般社団法人日本民間放送連盟(以下「民放連」という。)との間で,また,同年11月5日に一般社団法人衛星放送協会との問で,管理楽曲の利用実績比率を勘案して放送等使用料を算定することなどに関してそれぞれ合意したほか,文化庁の関与の下に,日本放送協会,民放連,イーライセンス及び管理事業者である株式会社ジャパン・ライツ・クリアランス(以下「JRC」という。平成28年2月1日にイーライセンスに合併された。)との間で,放送分野における音楽の利用割合の算出方法に関する協議(以下「5者協議」という。)を重ねるようになった(疎乙第3号証の1ないし3)。
(6)最高裁判所は,平成27年4月14日,本件訴訟について相手方の上告を棄却する旨の決定及び上告審として受理しない旨の決定をする一方,申立人の上告を受理する決定をした上で,同月28日,本件行為には排除効果があると判断して上告を棄却する旨の判決をした。その結果,同日,東京高等裁判所の前記(4)の判決が確定した。
そこで,申立人は,同年6月12日,平成27年公正取引委員会規則第2号による廃止前の公正取引委員会の審判に関する規則78条2項に基づき,審判手続を再開した。
他方,相手方,日本放送協会,民放連,イーライセンス及びJRCは,同年9月17日,5者協議において放送等利用割合の算出方法の仕組みについて合意文書を取り交わすに至り,相手方は,その後,日本放送協会及び民放連との間で,平成27年度から(平成27年4月1日から)当該合意の枠組みに基づいて放送等使用料を算定することとした。なお,相手方は,5者協議における協議の状況や,上記合意後の実務的な協議の状況について,適宜申立人に報告していた(疎乙第4号証)。l
(7)相手方は,平成28年9月9日,申立人に対して前記(3)の審判請求を取り下げる申立てをしたため,本件排除措置命令は,同日,独占禁止法52条5項に基づき確定した。
3 当事者の主張;
(1)申立人の主張
排除措置命令は,確定前においても執行力を有する(独占禁止法97条)一方,審判によって長期間経過後に取り消されることもあり,この場合には,名宛人が原状を回復することが極めて困難又は不可能であるということもあり得る。そこで,これらを調整して,安易な執行免除の申立てを防止するため,独占禁止法70条の6第1項によって,供託による排除措置命令の執行免除制度が設けられ,独占禁止法70条の7第1項によって,排除措置命令が確定した場合における保証金没取の制度が設けられている。
したがって,排除措置命令が確定した場合には,特段の事情がない限り,独占禁止法70条の7第1項に基づき保証金の全部を没取することが制度の目的に合致する。
他方,本件において,保証金の全部又は一部について没取しないで返還を認めるべき特段の事情は見当たらない。
よって,相手方が保証金として供託した1億円の全部を没取すべきである。
(2)相手方の主張
ア申立人は,本件審決により本件排除措置命令を取り消してこれが命令時に遡って存在しないこととし,本件訴訟においては相手方と共に本件行為が独占禁止法違反の行為ではないことを主張してきたものである。そして,排除効果以外の要件該当性ひいては本件行為が独占禁止法に違反していたか否かについては司法判断がされていない。
イ相手方は,独占禁止法に基づき審判請求をするなど適正な権利行使をしたにとどまり,濫用的又は不当な主張立証活動を行ったものではない一方,任意に放送事業者等と交渉を開始し,本件行為を取りやめているのであるから,もはや違反行為の速やかな排除という公益上の必要もない。
そうすると,本件では,違反行為の速やかな排除という公益上の要請,相手方の利益保護の要請,安易な執行免除申立の阻止という,執行免除及び保証金没取の制度の目的に反するような事情は認められず,排除措置命令確定まで執行を免れたことや保証金の返還を受けることが,独占禁止法上不当な利益を享受することに該当するとはいえないから,保証金を没取しなければならない理由はない。
ウ相手方は,本件排除措置命令がされる前から,放送事業者に対して管理楽曲の放送等利用割合について全部報告を求めるなど,本件排除措置命令の内容を実現するための努力を一貫して継続していたのであって,本件排除措置命令がされた後,放送事業者から十分な協力を得られるようになった結果,本件訴訟について最高裁判所の判決が言い渡されるより前に,本件行為の取りやめを実質的に実現していた。
エ相手方は,非営利の一般仕団法人であり,保証金が没取された場合には,その一般会計の費用が増加する結果,収支が下振れし,受益者すなわち音楽著作権者全体にとっての損失が発生する。
オ本件では,相手方は,濫用的又は不当な訴訟活動や不当に審判手続を長期化させるような活動をしておらず,また,本件排除措置命令は,本件審決により取り消されていたから,本件訴訟について最高裁判所の判決が言い渡されるまでは,執行免除による違反行為の速やかな排除という公益上の要請が害されたとはいえない。
さらに,保証金は,執行免除の申立てがされることなく違反行為が継続した場合に課せられる過料(独占禁止法97条)の代わりという法的性格を有するところ,本件の保証金は,過料の最大額(50万円)に比較しても他の事例に比較しても,極めて高額である。
カ保証金没取の是非及び没取金額の判断は,違反行為の速やかな排除による競争政策の実施という公益上の要請が害された程度と執行免除によって名宛人が受ける利益の程度とを衡量して決すべきであるが,以上のとおり,本件においては保証金を没取する理由はなく,保証金の全部又は少なくとも一部について没取しないで相手方に対する返還を認めるべき特段の事情があるといえる。
(3)申立人の反論
ア排除措置命令の対象とされた行為について司法判断がされることは,保証金の没取の要件ではないばかりか,本件行為について排除効果以外の要件について司法判断がされなかったのは,相手方が自ら審判請求を取り下げたからである。
イ本件行為は,継続的な違反行為であって,本件排除措置命令は,本件審決までだけでも3年3か月以上にわたり執行が妨げられていたばかりか,本件訴訟に係る最高裁判所の判決が排除効果以外の要件についても傍論として言及していることに照らしても,本件行為を速やかに排除すべき事情がなかったとはいえない。
また,保証金没取制度の趣旨は,排除措置命令が確定した時点から顧みれば,本来なら公益上迅速に実現されていてしかるべき排除措置がそれまで行われず,競争秩序に悪影響を及ぼしていたという望ましくない状況を招来することになるため,保証金の没取をもって安易な執行免除の申立てを防止する点にあると解される。したがって,執行免除申立制度の悪用ないし濫用による場合や,審判手続等における不適切な主張立証があった場合にのみ没取すべきということにはならず,このことは,独占禁止法70条の7の文言や過去の先例に照らしても明らかである。
さらに,相手方が放送等使用料の算定に管理楽曲の放送等利用割合を反映させるようになったのは,本件排除措置命令から長期間を経過した後のことであって,上記の趣旨からすれば,保証金を没取することを妨げる事情にはならない。
ウ相手方は,例えば既に実施していた放送事業者からのサンプリング報告を利用することで管理楽曲の放送等利用割合を把握し,早期に本件排除措置命令の内容を実現することが可能であったし,5者協議による合意が成立したのは,最高裁判所が本件訴訟について判決をした後にすぎない。
エ独占禁止法上,保証金の没取に当たっては,事業者が営利法人であるか否かや会計上の理由などの事情は考慮されていない。また,事業者が株式会社の場合であっても,保証金が没取されれば株主が不利益を被るのであって,非営利の一般社団法人のみを別異に解すべき理由はない。
オ相手方が濫用的又は不当な訴訟活動や不当に審判手続を長期化させるような活動をしていないことは,没取を免れる事情とはならず,また,仮に本件審決後の事情を考慮したとしても,本件排除措置命令が本件審決まで3年3か月以上にわたって執行されなかったことにより,公益上の要請は看過できない程度に害されている。また,本件で保証金が高額であることは,本件行為の悪質性によるものであるから,没取の必要性が高いことを示している。
第3 当裁判所の判断
1独占禁止法は,7粂1項で,「第3条又は前条の規定に違反する行為があるときは,公正取引委員会は,…事業者に対し,当該行為の差止め,事業の一部の譲渡その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。」として排除措置命令について規定し,49条2項で,「排除措置命令は,その名あて人に排除措置命令書の謄本を送達することによって,その効力を生ずる。」と,97条本文で,「排除措置命令に違反したものは,50万円以下の過料に処する。」とそれぞれ規定して,排除措置命令に強制的な執行力を認めている。
他方,独占禁止法70条の6第1項は,「公正取引委員会が排除措置命令をしたときは,被審人は,裁判所の定める保証金…を供託して,当該排除措置命令が確定するまでその執行を免れることができる.」と規定し,これを受けて,独占禁止法70条の7第1項は,「被審人が,前条第1項の規定により供託をした場合において,当該排除措置命令が確定したときは,裁判所は,公正取引委員会の申立てにより,供託に係る保証金…の全部又は一部を没取することができる。」と規定しているところ,これらの執行免除及び保証金没取の制度は,違反行為の速やかな排除という公益上の要請と排除措置命令の執行による回復困難な損害の回避という被審人の利益保護の要請との調和を図り,安易な執行免除の申立てを抑制することをその目的としているものである。
そして,保証金の供託によって排除措置命令の執行を免れながら,後にこれが確定した場合には,被審人は,本来ならば速やかに実行されるべきであった排除措置命令の内容の実現及び違反行為の排除を当該確定まで免れていたことになるから,独占禁止法70条の7第1項の上記趣旨に照らすと,被審人が供託をしていた保証金は,特段の事情がない限り,全部没取されるべきものである。
2これを本件についてみると,前記認定のとおり,相手方は,平成21年2月27日付けで本件行為について本件排除措置命令を受け,平成24年6月12日にこれを取り消す旨の本件審決を受けたが,本件審決が本件訴訟の判決により取り消された後,平成28年9月9日に審判請求を取り下げた結果,本件排除措置命令の確定をみたものである。したがって,相手方は,少なくとも本件審決まで約3年3か月間にわたって本件排除措置命令の執行を免れ,本件行為により公益を侵害する状態を継続させていたということができる。
しかしながら,相手方は,本件排除措置命令を受けた後,自主的に本件行為を改めることとし,文化庁の関与の下に,放送事業者らとの間で5者協議を重ね,本件訴訟の判決が確定して間もない平成27年9月17日,5者協議において放送等利用割合の算出方法の仕組みについて合意文書を取り交わすに至り,日本放送協会及び民放連との間で,平成27年度から(平成27年4月1日から)当該合意の枠組みに基づいて放送等使用料を算定することとしたものであって,その協議状況等についても適宜申立人に報告していたところである。このように,相手方は,本件排除措置命令が確定した平成28年9月9日までに,本件行為の取りやめや申立人に対する報告など,本件排除措置命令で命じられた事項の主要部分を実質的に実現していたのであるから,違反行為の速やかな排除という公益上の要請は,相当程度充たされていたものということができる。
次に,相手方が公益を侵害する状態を約3年3か月にわたって継続していたとしても,本件排除措置命令に従って本件行為を取りやめるには放送事業者との協議及び合意の締結が不可欠であり,現に5者協議を通じて上記合意文書を取り交わすまでには相当の年月を要している。そうすると,上記期間をもって公益を侵害する状態が不相当に長期間継続したと評価することはできない。
また,本件排除措置命令は,本件審決によっていったん取り消されており,相手方は,その後,申立人と共に本件訴訟において本件審決の判断が正当であると主張していたのであって,本件排除措置命令に対する審判手続及び本件訴訟のいずれにおいても不当ないし不適切な活動をしていたとは認められないばかりか,最終的に審判請求を取り下げることによって自ら本件排除措置命令を確定させてこれに服する意向を示している。そうすると,本件排除措置命令の確定までに約7年半を要したことについて相手方には非難されるべき点は見当たらない。
さらに,相手方は,非営利目的の一般社団法人であって,本件行為によって独自に利得を得ていたものではない一方,本件における保証金が1億円と高額であることも併せ考えると,相手方による執行免除の申立ては,安易にされたものとは到底いえない。
3以上のとおり,相手方が本件排除措置命令の主要部分を実質的に実現することで違反行為の速やかな排除という公益上の要請は相当程度充たされており,公益を侵害する状態が不相当に長期間継続したと評価することはできず,本件排除措置命令の確定までに時間を要したことについて相手方に非難されるべき点はなく,執行免除の申立ても安易にされたものではないという事情を踏まえると,相手方が供託した保証金を現段階で全額没取することは,執行免除及び保証金没取の制度の目的に照らして相当ではないというべきである。
よって,本件にっいては,前記特段の事情があるというべきであり,本件行為に上記の各事情を合わせて総合考慮すると,本件においては,保証金1億円のうち3000万円を没取するのが相当である。
第4 結論
以上によれば,相手方が本件排除措置命令の執行を免れるために保証金として供託した1億円のうち3000万円を没取するのが相当であるから,主文のとおり決定する。
平成29年2月14日
東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官 杉原則彦
裁判官 山口均
裁判官 渡邉和義
裁判官 野本淑子
裁判官 井上泰人