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独禁法3条後段・独禁法7条の2
東京高等裁判所
平成28年(行ケ)第3号
平成28年6月30日
大阪市北区西天満2丁目4番4号
原告 積水化学工業株式会社
同代表者代表取締役 《氏名》
上記訴訟代理人弁護士 長澤哲也
上記訴訟復代理人弁護士 寺井一弘
藤井範弘
山口拓郎
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
上記指定代理人 岩下生知
榎本勤也
多賀井満理
山崎利恵
遠藤光
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が,原告に対する公正取引委員会平成21年(判)第6号及び第8号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反審判事件について,平成28年2月24日付けでした審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,原告に対する公正取引委員会平成21年(判)第6号及び第8号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反審判事件について平成28年2月24日付けで被告のした原告の審判請求をいずれも棄却する旨の審決について,取消しを求める審決取消請求事件である。以下,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)を「独占禁止法」という。
1 前提となる事実
⑴ 本件排除措置命令及び課徴金納付命令
ア 本件排除措置命令
被告は,原告及び三菱樹脂株式会社(以下「三菱樹脂」という。)が,平成16年1月27日頃及び同年8月25日頃に株式会社クボタ(以下「クボタ」という。),シーアイ化成株式会社(以下「シーアイ化成」という。)及びアロン化成株式会社(以下「アロン化成」という。)と,平成17年8月25日頃及び平成18年5月11日頃までにクボタシーアイ株式会社(以下「クボタシーアイ」という。)とそれぞれ共同して,電線共同溝等に設置される電線又は通信ケーブルを保護するために用いられるものを除く塩化ビニル樹脂等を原料とする硬質ポリ塩化ビニル管及び硬質ポリ塩化ビニル管継手(以下,両者を併せて「塩化ビニル管等」という。)の出荷価格を引き上げる旨を合意することにより,公共の利益に反して,塩化ビニル管等の販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものであるとして,平成21年2月18日,原告らに対し,排除措置を命じた(平成21年(措)第1号。以下,この処分を「本件排除措置命令」という。)。この排除措置命令書の謄本は,同月19日,原告らに対し,それぞれ送達された。
これに対して,原告は,同年4月13日,三菱樹脂は,同月16日,それぞれ本件排除措置命令の取消しを求めて審判請求(原告が平成21年(判)第6号審判事件,三菱樹脂が同第7号審判事件)をした。
イ 本件課徴金納付命令
(ア) 原告
被告は,本件排除措置命令に係る違反行為は独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する商品の対価に係るものであるとして,平成21年2月18日,原告に対し,79億6532万円の課徴金の納付を命じた(平成21年(納)第1号。以下,この処分を「本件第1号課徴金納付命令」という。)。この課徴金納付命令書の謄本は,同月19日,原告に対し,送達された。
これに対して,原告は,同年4月13日,本件第1号課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求(平成21年(判)第8号審判事件)をした。
(イ) 三菱樹脂
被告は,本件排除措置命令に係る違反行為は独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する商品の対価に係るものであるとして,平成21年2月18日,三菱樹脂に対し,37億2137万円の課徴金の納付を命じた(平成21年(納)第2号。以下,この処分を「本件第2号課徴金納付命令」という。)。この課徴金納付命令書の謄本は,同月19日,三菱樹脂に対し,送達された。
これに対して,三菱樹脂は,同年4月16日,本件第2号課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求(平成21年(判)第9号審判事件)をした。
⑵ 本件審決
被告は,平成28年2月24日,原告に対し,本件排除措置命令及び本件第1号課徴金納付命令に対する審判請求を棄却し,三菱樹脂に対し,本件排除措置命令に対する審判請求を棄却し,本件第2号課徴金納付命令のうち37億1041万円を超えて納付を命じた部分を取り消す審決をした。
⑶ 原告らの概要
ア 原告及び積水化学北海道株式会社
原告は,肩書地に本店を置き,塩化ビニル管等の製造販売業を営むものである。
積水化学北海道株式会社(以下「積水化学北海道」という。)は,北海道岩見沢市に本店を置き,塩化ビニル管等の製造販売業を営むものである。原告は,積水化学北海道の議決権の全てを有している。
イ 三菱樹脂
三菱樹脂は,東京都千代田区に本店を置き,塩化ビニル管等の製造販売業を営んでいた。しかし,三菱樹脂は,平成24年12月1日,塩化ビニル管等の製造販売事業を原告に譲渡した。以後,三菱樹脂は,同事業を営んでいない。
ウ クボタ,シーアイ化成及びクボタシーアイ
クボタは,大阪市に本店を置き,シーアイ化成は,東京都中央区に本店を置き,それぞれ塩化ビニル管等の製造販売業を営んでいたものであるが,平成17年4月1日,共同新設分割によりクボタシーアイを設立し,同社に対し,同日付けで塩化ビニル管等の製造販売に係る事業をそれぞれ承継させ,以後,同事業を営んでいない。
クボタシーアイは,大阪市に本店を置き,塩化ビニル管等の製造販売業を営むものである。クボタシーアイは,上記のとおり,平成17年4月1日,クボタ及びシーアイ化成による共同新設分割により設立された会社であり,同日付けでクボタ及びシーアイ化成からそれぞれ塩化ビニル管等の製造販売に係る事業を承継した。
エ アロン化成
アロン化成は,東京都港区に本店を置き,塩化ビニル管等の製造販売業を営むものである。
⑷ 塩化ビニル管等
塩化ビニル管等は,塩化ビニル樹脂等を原料とする成型品である(塩化ビニル樹脂は,石油製品であるナフサ(原油を精製して製造する石油製品の一つ)から製造される。)。塩化ビニル管等は,流体を輸送するための水路の一部を形成するものであり,塩化ビニル管は,その直線部分に使用され,塩化ビニル管継手は,塩化ビニル管と塩化ビニル管をつないで,水路の方向を変えるなどの働きをする。その用途は,上水道,下水道,農業用水,設備等多岐にわたっており,それらの多くは日本工業規格(JIS),日本水道協会規格(JWWA),日本下水道協会規格(JSWAS)等の規格品となっている。(査第1号証,第2号証,第3号証)
⑸ 塩化ビニル管等の製造販売業者
我が国における塩化ビニル管等の製造販売業者(以下「塩化ビニル管メーカー」という。)のうち,本件違反行為時である平成16年ないし平成18年頃,塩化ビニル管メーカーの中でも,クボタシーアイ(同社設立前はクボタ),原告,三菱樹脂の3社は,市場占拠率の合計がおおむね50パーセントを超えており,大手塩化ビニル管メーカーと認識されていた。(査第7号証,第24号証,第25号証,第32号証,第46号証,第114号証,第117号証,第118号証の2)
⑹ 塩化ビニル管等に係る取引
塩化ビニル管メーカーは,それぞれ,一次店と称する販売業者,直二次店と称する販売業者又は需要者に対し,塩化ビニル管等を販売していた。
一次店は二次店と称する販売業者に,二次店及び直二次店は需要者に,それぞれ塩化ビニル管等を販売することが一般的であった。
一次店は特定の塩化ビニル管メーカーの製品を専門に取り扱うところが多く,概ね塩化ビニル管メーカーごとに系列化していた。二次店や直二次店もある程度は塩化ビニル管メーカーごとに系列化されてはいたが,複数の塩化ビニル管メーカーの製品を販売する併売店がほとんどであった。
なお,一次店に納入される際の塩化ビニル管等の価格はメーカー出荷価格であり,一次店価格と呼ばれることもあった。また,二次店に納入される際の塩化ビニル管等の価格は二次店価格と呼ばれていた。そして,直二次店に納入される際の塩化ビニル管等の価格は,メーカー出荷価格であり二次店価格であった。
一次店は専売,二次店や直二次店は併売が多いことから,塩化ビニル管等は二次店価格のところで価格競争が起こりやすく,ここを拘束しないと,二次店価格が下がり,その結果,メーカー出荷価格も下がってしまい,塩化ビニル管メーカーは自社の売上を確保できないという関係にあった。
(査第4号証ないし第6号証)
⑺ 塩化ビニル管等の種類
塩化ビニル管等のうち,排水設備等に用いられるVU100と称する塩化ビニル管並びに下水道に用いられるSRA150及びSRA200とそれぞれ称する塩化ビニル管(以下,これら3種類の塩化ビニル管を「3管種」という。)は,ほとんどの塩化ビニル管メーカーが製造販売している汎用品である。
VU100は,口径が100ミリメートル,長さが4メートルの排水設備用管である。宅内マスから公共マスに至る部分に使われる配水管である。
SRA150は,口径が150ミリメートル,長さが4メートルの下水用管である。ゴム輪受口を持っており,下水道本管に使用される。
SRA200は,口径が200ミリメートル,長さが4メートルの下水用管である。SRA150とは,口径が違うだけである。
(査第3号証,第4号証)
⑻ 塩化ビニル管等の値上げ
ア 平成16年2月頃の値上げ
平成16年2月頃,原告,三菱樹脂,クボタ,シーアイ化成及びアロン化成は,塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げた(以下,この価格の引上げを「第1次値上げ」という。)。
イ 平成16年9月頃の値上げ
平成16年9月頃,原告,三菱樹脂,クボタ,シーアイ化成及びアロン化成は,塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げた(以下,この価格の引上げを「第2次値上げ」という。)。
ウ 平成17年10月頃の値上げ
平成17年10月頃,原告,三菱樹脂及びクボタシーアイは,塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げた(以下,この価格の引上げを「第3次値上げ」という。)。
エ 平成18年5月頃の値上げ
平成18年5月頃,原告,三菱樹脂及びクボタシーアイは,塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げた(以下,この価格の引上げを「第4次値上げ」という。)。
⑼ ポリエチレン樹脂製のガス導管等の不当な取引制限事件の調査の開始
被告は,平成18年11月14日,平成19年(措)第13号及び同第14号により措置を命じた事件において,原告,三菱樹脂及びクボタシーアイを含むポリエチレン樹脂製のガス導管等の製造販売業者の営業所等に独占禁止法第47条第1項第4号の規定に基づく立入検査を行ったところ,上記の3社は,同日以降各社の本社の事業部長級の者らによる会合を行っていない。(査第154号証,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
2 争点
⑴ 独禁法2条6項の該当性-原告は,他の事業者との間で,塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げる旨の合意(以下「本件合意」という。)をし,共同して相互にその事業活動を拘束したか(争点1)
(ア) 第1次値上げに係る合意の成否
原告は,平成16年1月27日頃,三菱樹脂,クボタ,シーアイ化成及びアロン化成との間で塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げる旨の合意をしたか。
(イ) 第2次値上げに係る合意の成否
原告は,平成16年8月25日頃,三菱樹脂,クボタ,シーアイ化成及びアロン化成との間で塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げる旨の合意をしたか。
(ウ) 第3次値上げに係る合意の成否
原告は,平成17年8月25日頃までに,三菱樹脂,クボタシーアイとの間で塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げる旨の合意をしたか。
(エ) 第4次値上げに係る合意の成否
原告は,平成18年5月11日頃,三菱樹脂,クボタシーアイとの間で塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げる旨の合意をしたか。
ア 被告
(ア) 課徴金減免申請者の従業員の供述の信用性
原告は,課徴金減免申請者やその従業員は,違反行為が認定されれば免責が約束される立場にあるので,被告に全面的に協力するインセンティブを有すると主張するが,そもそも,課徴金減免申請は,独占禁止法違反行為を認める事業者がその判断において自発的に行うものであり,当該事業者が実際には独占禁止法違反行為を行っていないのであれば,当該事業者やその従業員が,違反行為が認定されることに伴う法的・社会的なリスクがあるにもかかわらず(行政処分や刑事告発のほかにも,民事上の各種責任追及等のおそれもある。),あえて課徴金減免申請や違反行為を認める供述をするメリットは何ら存在しない(違反行為を行っていないなら課徴金減免のメリットもない。)。また,課徴金減免申請者に対する減免制度の適用の可否は,当該申請者の報告内容を基準に判断され,その従業員の供述の如何のみによって判断されるものではないから,たとえ従業員が違反行為を否認したとしても,申請者(事業者)による報告内容(違反行為をしたという報告内容)が事実であるならば,当該申請者は課徴金減免等の恩恵を受けられるし,逆に違反行為を否認する従業員の供述が事実であるならば,申請者や従業員に対する行政処分や刑事告発がなされることはない。
このことからすれば,課徴金減免申請者やその従業員が,事実に反してまで違反行為を認めるインセンティブがあるとは到底いえず,原告が主張するような「独占禁止法違反を構成する『ストーリー』を供述する強いインセンティブ」や「被告が好むであろうシナリオに沿って,被告に全面的に協力をするというインセンティブ」を有しているということはできない。したがって,課徴金減免申請者の従業員の供述が,一般的に信用性に乏しいかのような原告の主張は理由がない。
このように,課徴金減免申請者の従業員の供述であるからといって信用性に乏しいと一概に解すべき理由はないのであるから,その信用性は,個別具体的に判断すべきである。
(イ) 本件合意の成否
本件合意が成立したとするクボタ及びクボタシーアイの《A1》(以下「クボタの《A1》」ないし「クボタシーアイの《A1》」という。)並びに同社の《A2》(以下「クボタシーアイの《A2》」という。)の各供述は,本件合意の核心的部分を含む重要な点で供述が一致しており,関係者との供述や客観的事実とも整合していることから,信用性が高い。原告の指摘する同人らの供述の変遷は,そもそも変遷していないか,調査の過程において明らかとなった資料や事実関係に基づいて改めて事情聴取されることにより記憶が喚起され,修正されたものとして理解しうるものであるか,あるいは数年前の出来事であることから記憶が曖昧になっているとしても不自然とはいえないものであり,いずれも細部にわたる事柄についてのものであることから,同人らの本件合意が成立したとする供述の信用性を損なうものではない。さらに,原告が客観的事実と整合性を欠くと主張する点も,供述の理解を誤るか,あるいは必ずしも整合性を欠くとは評価できないものであり,いずれにせよ供述の信用性を失わせるものではない。
後掲証拠によって認められる(a)ないし(d)の各事実により,原告が他の事業者との間で塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げる旨の本件合意をしたと認められる。
(a) 平成16年1月27日,原告の《B1》(以下「原告の《B1》」という。),三菱樹脂の《C1》(以下「三菱樹脂の《C1》」という。),クボタの《A1》,アロン化成の《D1》(以下「アロン化成の《D1》」という。)及びシーアイ化成の《E》(以下「シーアイ化成の《E》」という。)は,原告東京本社近くの飲食店「《F》」の会議室において会合を開催し,この会合において,5社は,平成16年3月1日受注分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から15パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく10パーセント以上引き上げること,その値上げの実施を確実にするため,3管種にあっては,1本当たりの二次店価格を,VU100は950円,SRA150は2400円,SRA200は4000円とすることを合意した。(査第15号証,第16号証,第20号証,第21号証,第22号証,第43号証,第127号証,第161号証の4,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録,《原告のB2》参考人審尋速記録)
(b) 原告の《B1》,平成16年10月から同人の後任として同社の環境・ライフラインカンパニー給排水システム事業部長となることが決まっていた同社の《B2》(以下「原告の《B2》」という。),三菱樹脂の《C1》,クボタの《A1》,シーアイ化成の《E》及び同年3月からアロン化成の《D1》の後任となった同社の《D2》(以下「アロン化成の《D2》」という。)は,同年8月25日,原告の東京本社近くの飲食店「《G》」において会合を開催し,この会合において,5社は,平成16年10月1日出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から10パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく8パーセント以上引き上げること,その値上げの実施を確実にするため,3管種にあっては,1本当たりの二次店価格を,VU100は1100円,SRA150は2800円から3000円,SRA200は4500円とすることを合意した。(査第22号証,第23号証,第24号証,第25号証,第26号証,第27号証ないし第29号証,第43号証,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録)
(c) 原告の《B2》,平成17年4月から三菱樹脂の《C1》の後任として塩化ビニル管等に係る営業等の担当者となった同社の《C2》(以下「三菱樹脂の《C2》」という。)及びクボタシーアイの《A1》は,同年8月25日,クボタシーアイ東京本社の応接室において会合を開催し,3社は,平成17年10月11日頃出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から8パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく5パーセント以上引き上げること,その値上げの実施を確実にするため,3管種にあっては,1本当たりの二次店価格を,VU100は1200円,SRA150は3200円,SRA200は4800円とすることを合意した。(査第26号証,第31号証,第33号証,第34号証,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録)
(d) 平成18年5月10日,クボタシーアイの《A2》は,同年6月21日出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から15パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく10パーセント以上引き上げること,その値上げの実施を確実にするため,3管種にあっては,1本当たりの二次店価格を,VU100は1400円,SRA150は3800円,SRA200は5200円とすることを決定するとともに,第4次値上げの公表日を同年5月25日に決定した。
平成18年5月10日頃,クボタシーアイの《A2》は,原告の《B2》に電話をかけ,同年6月21日出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から15パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく10パーセント以上引き上げること,その値上げの実施を確実にするため,3管種にあっては,1本当たりの二次店価格を,VU100は1400円,SRA150は3800円,SRA200は5200円とすることを自社で決定したと連絡し,原告もクボタシーアイの値上げ方針に沿って塩化ビニル管等の値上げを実施するよう求めたところ,原告の《B2》はこれを了承した。(査第37号証,第38号証,第39号証,第40号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
また,平成18年5月11日,クボタシーアイの《A2》は,三菱樹脂本社に同社の《C2》を訪ね,三菱樹脂の《C2》に対し,前記の自社の値上げ方針等を伝え,第4次値上げはクボタシーアイが先頭になって値上げを実施するので,三菱樹脂もクボタシーアイの値上げ方針に沿って塩化ビニル管等の値上げを実施するよう求めたところ,同人は,これを了承し,同社において値上げの内容を決定した場合には,これをクボタシーアイの《A2》に連絡する旨を述べた。(査第33号証,第37号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
クボタシーアイの《A2》は,自社の値上げ方針等を連絡する際には,原告の《B2》に対しては三菱樹脂の《C2》にも,三菱樹脂の《C2》に対しては原告の《B2》にも同じ内容を伝えた,あるいは伝える旨を話していた。(査第37号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
(ウ) 独占禁止法2条6項の該当性
本件合意により,合意参加者の事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかであるから,本件合意は,独占禁止法2条6項の「その事業活動を拘束し」の要件を充たす。また,本件合意の内容に基づいた行動をとることをお互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから,本件合意は,同項の「共同し・・・・相互に」の要件も充足する。
イ 原告
(ア) 課徴金減免申請者の従業員の供述の信用性
課徴金減免制度は,競争者間での情報交換が違法なカルテルに該当するか否かにかかわらず,いち早く課徴金減免申請を行うことで巨額の課徴金や刑事罰を受けるリスクに保険を掛けることを許容するものである。そして,被告は,課徴金減免申請をした事業者の「ストーリー」によって事件の骨格を形成し,調査を開始する。また,課徴金減免申請者やその従業員は,首尾良く独占禁止法違反が認定されれば自らの免責が約束される立場にあるから,独占禁止法違反を構成する「ストーリー」に沿った供述を行う強いインセンティブを有している。すなわち,課徴金減免申請を行った会社の従業員としては,会社の方針に従ってカルテルを認める供述をせざるを得ず,また,課徴金減免申請者としての地位を維持することに強い動機を有する一方で,事実に反する供述をすることの不利益はないのであるから,被告の好むシナリオに沿って虚偽の供述をする可能性がある。
このように課徴金減免申請者及びその従業員は,独占禁止法違反を構成する「ストーリー」を供述する強いインセンティブを有している上に,本件においては,クボタ,クボタシーアイ及びシーアイ化成が課徴金減免申請者であり,この3社は実質的に1社と評価できることから,クボタ,クボタシーアイ及びシーアイ化成の従業員がそれぞれに矛盾した供述をすることは考え難い。従って,カルテルの合意を認めているのがクボタ及びクボタシーアイの《A1》,クボタシーアイの《A2》及びシーアイ化成の《E》だけである本件において,クボタ及びクボタシーアイの《A1》並びにクボタシーアイの《A2》の供述が審査段階から参考人審尋に至るまで重要な点について供述内容が一貫していることは,いわば当然のことであり,そのことを根拠に供述に信用性があると判断してはならないし,クボタの《A1》の供述の信用性の判断にあたってシーアイ化成の《E》の供述との一致を重視することもできず,課徴金減免申請者の従業員であることによる虚偽陳述の可能性を念頭に置いて,各供述の信用性を慎重に判断する必要がある。
以上によれば,本件は,クボタ,クボタシーアイ及びシーアイ化成が課徴金減免申請者であり,かつ,この3社は実質的に1社と評価できる点を考慮して,クボタ及びクボタシーアイの《A1》及びクボタシーアイの《A2》の供述は慎重に判断されなければならない事案であるにもかかわらず,本件審決は,原告らの指摘にもかかわらず,一切このような点を考慮せずに,課徴金減免申請者の供述に信用性を認めたのであり,本件審決の本質的な問題点は,ここにある。
(イ) 本件合意の成否
上記(ア)の観点から,本件合意が成立したとするクボタ及びクボタシーアイの《A1》並びにボタシーアイの《A2》の供述の信用性を慎重に検討するならば,これらの供述は,以下のとおり,客観的証拠と矛盾し,あるいは不自然な変遷がみられることから信用性がなく,本件合意は存在しない。
a 第1次値上げの合意について
(a) クボタの《A1》の供述と客観的証拠との矛盾
ⅰ 平成16年1月20日のクボタの《A1》の電子メールとの矛盾
クボタの《A1》は,二次店価格を含む3社による第1次値上げの合意がされたとする平成16年1月21日の前日である同月20日に地区の営業責任者等に対し,電子メール(査第15号証〔資料3〕)を送信して,3管種等の目標とする二次店価格に関する意見を同月23日までに寄せるよう求め,各地区の営業責任者等から回答を受け取り,それを落とし込んだ詳細な資料を,同年2月4日付けで「地区課長ヒアリング結果」として作成した(査第127号証〔資料2〕)。
かかる事実は,クボタを含む3社が平成16年1月21日に第1次値上げに係る合意をしたとするクボタの《A1》の供述と矛盾する。すなわち,クボタの《A1》が,同日までに値上げの具体的内容について3社で合意するつもりであったならば,その前日である同月20日(火)に「今週中にお聞かせ頂ければ,幸甚です」などと,悠長にVU100の二次店価格等の情報を問い合わせたことは極めて不合理である。また,クボタの《A1》が,この電子メールの送信後,各地区の営業責任者等から,実際に回答を受け取り,それを落とし込んだ非常に詳細で作成に時間を要する資料を作成している事実からしても,当該電子メールは,クボタとして独自に値上げの具体的内容を検討するための情報収集として送信されたものと考えるのが合理的である。クボタの《A1》は,この電子メールは第1次値上げについてカルテルを行ったことが露見しないようにするためのダミーの電子メールであったと供述するが,他に同様のダミーの電子メールが存在しないことや,クボタの《A1》は人目につきやすく記録が残り易い場所で会合を行っている事実等に照らし,極めて不自然かつ不合理であり,信用できない。
ⅱ 値上げの公表内容が合意内容と異なること
クボタの《A1》は,第1次値上げについては,平成16年3月1日受注分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から15パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく10パーセント以上引き上げるという合意がなされたと供述するが,三菱樹脂は,平成16年3月15日出荷分からの値上げと公表し,また,シーアイ化成は塩化ビニル管継手について15パーセント以上の値上げと公表している。
かかる事実は,値上げ内容に関する合意があったというクボタの《A1》の供述と矛盾する事実であって,各社が独自に値上げの具体的内容を検討した結果,異なる値上げ内容が公表されたと考えるのが自然である。そして,本件において,第2次値上げに関し,上記2社において,社内における値上げの検討過程において値上げ幅の内容や実施時期が変遷したことを示す証拠は存在しないのであるから,5社ないし3社による値上げの合意は存在しないと考えるのが合理的である。
ⅲ アロン化成の平成17年4月以降の会合不参加
クボタシーアイの《A1》の供述によれば,第1次値上げ及び第2次値上げに係る各合意ではアロン化成も当事者となっていたが,アロン化成は,平成17年4月以降,クボタシーアイ,原告及び三菱樹脂との会合には参加しなくなった。
この事実は,アロン化成が参加していた第1次値上げ及び第2次値上げの頃に行われた会合は,参加してもしなくてもどちらでもよいもの,すなわち相互拘束性のある合意を行うためではなかったか,または,仮にそれらが相互拘束性のあるものであったとしても,平成17年4月以降,その拘束性は事実上消滅したことを示す事実である。この点,クボタシーアイの《A1》の供述は,クボタシーアイ,原告及び三菱樹脂の3社が,平成17年8月30日,アロン化成を第3次値上げに係る合意に参加させないことを合意したと供述するが,合意からの排除という従前の枠組みを崩す重要な取決めがなされたのであるならば,その事実は各社内で報告されるはずであるにもかかわらず,クボタシーアイの《A1》自身,その事実はクボタシーアイ内で「全く伝えていません」と陳述しているし(《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録),クボタシーアイの《A1》の後任の《A2》でさえもアロン化成の排除合意の存在を認識していない(《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)。また,本件合意から排除されたはずのアロン化成にも排除の取決めは伝えられていない(原告の最終意見)のであるから,クボタシーアイの《A1》の供述は不自然かつ不合理である。
(b) クボタの《A1》の供述自体の矛盾ないし変遷
ⅰ 平成16年1月中旬のアロン化成への訪問に関する供述
クボタの《A1》は,平成16年1月中旬にアロン化成のトップに値上げへの協力を要請に行ったと供述するが,原告の《B3》常務が参加したか否かについての供述に変遷があるほか,クボタの《A1》の供述ではクボタ,原告及び三菱樹脂の3社が値上げを決定したのは平成16年1月20日頃とするので,それ以前にアロン化成を訪問したとの供述は時系列的に矛盾があり,さらに,2004年01月国内出張旅費精算明細表(査第15号証資料1)には,アロン化成の訪問目自 的をOEM打合わせと記載されており,クボタの《A1》は出張旅費自体,虚偽を書くことはないと参考人審尋において述べていることから,アロン化成への値上げの協力要請を行ったとの上記供述は信用できない。
ⅱ 平成16年1月21日の3社会合以前の情報交換に関する供述
平成16年1月21日あるいは同月20日前後に開催されたという3社会合の前に,個別に又は揃っての話合いがなされたという臨検捜索後に作成された質問調書におけるクボタの《A1》の供述は,極めて曖昧且つ漠然としたもので俄かに信用できないばかりか,《A1》は臨検捜索前に作成された質問調書や参考人審尋において,同月21日あるいは同月20日前後の3社会合の前に話合いがなされていたという供述をしていないことと矛盾することから,上記3社会合の前に情報交換がなされていたというクボタの《A1》の供述は信用性がない。
ⅲ 平成16年1月21日の3社会合に関する供述
クボタの《A1》の臨検捜索後の供述は,上記会合の開催場所について変遷しただけでなく,この会合において,初めて原告がクボタの《A1》らに原告の値上げ内容を伝えたのか,あるいは,この会合までに値上げの内容は合意されていたのかという点や,この会合で旧値打切り時期を決めたのか,この会合までには既に旧値打切り時期は決まっていたのか,プレス発表時期はクボタが一番になるとの合意であったのか,原告が最初にするという合意であったのか,あるいは,この会合は原告,クボタ及び三菱樹脂の3社で値上げに関する打合せをするためのものであったのか,3社以外の塩化ビニル管メーカーが値上げに対してどのような姿勢をもっているかを確認するための会議であったのか等といった点について,クボタの《A1》の供述は,合理的理由もなく大きく変遷しており,信用できない。
ⅳ 平成16年1月23日の《H》《H1》副社長との面談に関する供述
平成16年1月23日に,クボタの応接室において,原告の《B3》常務及び《B1》ととともに,《H》の《H1》副社長及び《H2》と面談し,原告の《B3》常務から《H》の《H1》副社長に対して,第1次値上げの協調は,《H1》副社長の管理にかかっているということを話したとのクボタの《A1》の臨検捜索後の質問調書における供述は,臨検捜索前に作成された質問調書から,《H》には誰から連絡し,《H》には何社で行ったのかという点について合理的な理由もなく供述を大きく変遷させている。臨検捜索後には,会話の内容まで詳細に説明ができる者が,合理的理由もなくこのような供述の変遷をさせることは極めて不自然であり,信用できない。
ⅴ 平成16年2月3日の《I》への訪問に関する供述
クボタの《A1》は,平成16年2月3日,原告の《B3》常務及び《B1》並びに三菱樹脂の《C1》とともに,《I》を訪問し,《I》の本社近くの喫茶店において《I1》社長及び《I2》と会い,原告の《B3》常務から値上げを要請したと供述する。
しかし,《A1》の出張旅費精算明細表には,当日,特許実施許諾で《I》を訪問したという記載があるのみであり(査第15号証資料7),クボタの《A1》は,参考人審尋において,出張旅費自体,虚偽をしたことはないと述べているのであるから,この日は《A1》が単独で特許実施許諾の問題で《I》を訪問したと考える方が自然である。
また,原告からは常務取締役である《B3》常務が参加しているにもかかわらず,《I》に対する連絡担当であったクボタからは,《A1》しか参加しなかったという供述内容自体も極めて不自然である。
(c) 原告の値上げは独自に行ったものであること
原告は,平成15年12月頃から懸念が広がっていた塩化ビニル樹脂の国内における需給逼迫状況への対応として,塩化ビニル樹脂の安定供給を受けることを最優先とし,塩化ビニル樹脂メーカーとの良好な関係を構築するため,他社に先駆けて,塩化ビニル樹脂の値上げや価格先決め方式への移行の要求に応じるとの方針を採った(審A第78号証)。そのため,原告の給排水システム事業部は,塩化ビニル樹脂の価格引上げに伴って塩化ビニル管等を値上げすることを決定し,平成16年1月14日に開催した給排水システム全国所長会議において,各営業所の所長等に対し,平成16年2月初旬に発表される値上げ率は,塩化ビニル管につき15パーセント,塩化ビニル管継手につき10パーセントであり,同月末には旧価格での販売を打ち切る方針である旨が示された(査第19号証,審A第65号証)。
このように,原告は,被告の主張する平成16年1月21日の「3社会合」や同月27日の「5社会合」よりも前に自社独自の判断で値上げの方針を決定し,また,その後,各営業所に対し,独自の方策による値上げの実行を指示していたものであり,他の事業者から何らの拘束も受けていたものではない。
b 第2次値上げの合意について
(a) 客観的証拠との矛盾
ⅰ 値上げの公表内容が合意内容と異なること
クボタの《A1》は,第2次値上げについては,平成16年10月1日出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から10パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく8パーセント以上引き上げるという合意がなされたと供述するが,クボタは,塩化ビニル管について12パーセント以上の値上げと公表し,また,シーアイ化成は平成16年10月1日受注分からの値上げと公表している。
かかる事実の評価については,第1次値上げについてと同様である。
ⅱ アロン化成の平成17年4月以降の会合不参加
第一次値上げの合意について述べるところと同様である。
(b) クボタの《A1》の供述自体の矛盾あるいは変遷
ⅰ 平成16年8月下旬の3社の合意に関する供述
クボタの《A1》の平成16年8月下旬の3社の合意に関する供述は,臨検捜索後には,臨検捜索前に比し,三菱樹脂の《C1》の3管種に係る発言が詳細になる一方で,会合の開催場所や値上げに関する考えを披露した順番,司会進行役を務めた者,会合への原告の《B2》の出席の有無について供述が後退するなど不自然に変遷しており,被告の創ったストーリーに沿うように事実を歪曲したものであり,信用性は極めて疑わしい。
ⅱ 平成16年8月25日の5社の合意に関する供述
クボタの《A1》は,臨検捜索前は3社で第2次値上げの合意をした後,5社による会合が開催されたことは一切供述していなかったのに,臨検捜索後において,5社の会合が開催されたことを突如として供述し,参加者の発言内容まで詳細に供述できるというのは極めて不自然である。
ⅲ アロン化成に対する事前の要請に関する供述
クボタの《A1》は,臨検捜索前及び臨検捜索後の質問調書において,3社合意の後,8月25日の5社の会合までに,事前にアロン化成の《D2》に値上げの要請をしたと供述していたのに,参考人審尋においては,記憶はないと供述しており,そもそもアロン化成に対して要請を行ったとする前記供述は日時も場所も特定されておらず,極めて抽象的で,その信用性に疑問がある。
(c) 原告の値上げは合意によらず独自に行ったものであること
原告は,平成16年7月31日に《略》県に上陸した台風10号の被害を受けた子会社の《会社名略》(《略》県《略》市に工場がある)の供給懸念や国内における塩ビ樹脂の需給逼迫状況への対応として,塩化ビニルの安定供給を受けることを最優先事項とした。これに伴い,原告は,塩化ビニル樹脂メーカーとの良好な関係を構築し原料を確保するため,他社に先駆けて原料値上げを受諾する方針を決定し,塩化ビニル管等についても同年8月19日までに値上げ方針を決定した(審A第66号証,審A第78号証)
このように,原告は,被告の主張する平成16年8月25日の5社会合よりも前に自社の事情に基づき独自の判断で値上げ方針を決定し,かかる決定に基づき,各営業所に対して,値上げの実行を指示していたものであり,他の事業者から何らの拘束も受けていたものではない。
c 第3次値上げの合意について
(a) 客観的証拠との矛盾
ⅰ アロン化成の中期経営計画に関するIR情報の提示
クボタシーアイの《A1》は,平成17年7月22日の原告の《B2》及び三菱樹脂の《C2》との会合において,アロン化成のホームページに掲載された中期経営計画に関するIR情報を見せられたと供述するが(《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録15頁),クボタシーアイの《A1》が供述する会合の時点ではアロン化成のホームページには中期経営計画に関するIR情報は掲載されておらず(審A第116号証),クボタシーアイの《A1》の供述は客観的証拠と矛盾している。
ⅱ 値上げの公表内容が合意内容と異なること
クボタシーアイの《A1》は,第3次値上げについては,平成17年10月11日頃出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から8パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく5パーセント以上引き上げるという合意がなされたと供述するが,原告は,平成17年10月3日出荷分から,塩化ビニル管については8ないし10パーセントの値上げと公表し,三菱樹脂は,塩化ビニル管については平均10パーセント以上,塩化ビニル管継手については平均6パーセント以上の値上げと公表している。
かかる事実の評価については,第1次値上げについてと同様である。
(b) クボタシーアイの《A1》の供述自体の矛盾ないし変遷
ⅰ 平成17年7月22日の会合に関する供述
クボタシーアイの《A1》の供述は,臨検捜索の前後及び参考人審尋の各段階において,会合の目的が第2次値上げの進捗確認のためか,アロン化成のシェア拡大方針への対応等を話し合うためか,これによるクボタシーアイの実害の有無について,合理的な理由もなく供述が変遷している。
ⅱ 平成17年8月17日の会合に関する供述
クボタシーアイの《A1》の供述は,第3次値上げに係る平成17年8月17日の3社会合に関して,臨検捜索前は持ち掛けたのは原告の《B2》であったと供述し,臨検捜索後は自分自身が持ち掛けたと供述を変え,さらに参考人審尋においては,ポリエチレン管の団体統合が主目的であり,値上げに関するやり取りをしたのか明確な記憶はないと供述するに至っており,クボタシーアイの《A1》は同会合について明確な記憶がないまま被告の創り出したストーリーに沿うように供述したものと推認される。
ⅲ 平成17年8月25日の会合に関する供述
3社で3次値上げの内容を合意したという平成17年8月25日の会合についても,クボタシーアイの《A1》は,臨検捜索後の前後で,会合の開催場所,司会進行役を務めた者,二次店価格の提案者,二次店価格の決定経緯に関する供述を変遷させているが,臨検捜索後に作成された質問調書では原告の《B2》や三菱樹脂の《C2》の会話の内容まで具体的に供述でき,特に自ら司会を務め,主体的に行動したため記憶に残り易いであろう出来事に関し,その約7か月前の時点では,記憶を誤るということは考えられない。クボタシーアイの《A1》の第3次値上げの合意に関する核心的部分の供述は,このように不自然に変遷していることに加え,平成17年8月25日の会合に関するクボタシーアイの《A1》の供述は,同日時点において三菱樹脂は塩化ビニル管について何パーセントの値上げとするか決定していない状況だったという客観的事実とも矛盾していることからすれば,同日の会合に関するクボタシーアイの《A1》の供述も,実際に体験した事実の記憶に基づいた供述ではなく,被告によって創られたストーリーに沿って事実を歪曲した供述であると強く推認される。
ⅳ 他の塩化ビニル管メーカーへの連絡に関する供述
クボタシーアイの《A1》の供述は,臨検捜索の前後で,他の塩化ビニル管メーカーへの連絡係の決定経緯や《I》に対して原告が連絡したのか自らが連絡したのかという点について供述が変遷しており,極めて不自然である。
(c) 原告の値上げは合意によらず独自に行ったものであること
原告は,平成17年8月の第1週には,塩化ビニル管等の値上げについての検討を開始し(審A第78号証),同月17日の夕方か18日には,塩化ビニル管等の値上げ方針を正式に決定していたのであり(審A第68号証),同月25日のクボタシーアイの《A1》らとの会合において,他の事業者を拘束する趣旨での情報交換,即ち,第3次値上げに係る本件合意を行ったとの事実はない。
d 第4次値上げの合意について
(a) 客観的証拠等との矛盾
ⅰ 《塩ビ管等業界団体》定時総会後の《A3》社長とのやり取り
クボタシーアイの《A2》の供述によれば,クボタシーアイ,原告及び三菱樹脂は,平成18年5月11日頃までに第4次値上げに係る合意をし,同月22日頃,原告の《B2》は,クボタシーアイの《A2》に対し,自社の値上げ方針を連絡したとされる。
しかし,原告の《B2》は,平成18年5月30日に京都で行われた《塩ビ管等業界団体》の定時総会後の懇親会の際,クボタシーアイ社長の《A3》から「塩ビ管値上げを早くしろと。さっさとせえ。」と「罵倒」された事実がある(《原告のB2》参考人審尋速記録36頁)。
仮に約1週間前の同月22日頃に原告の《B2》からクボタシーアイの《A2》に対して原告の値上げ方針が伝えられていたとするならば,クボタシーアイ社長の《A3》が原告の《B2》に値上げを迫って詰め寄るのは明らかに不合理であり,かかる事実からすれば,原告の《B2》は,《A2》がカルテルを持ち掛けたことに対し,それを拒否していたと考えるのが自然である。
ⅱ 値上げの率が大きく異なること
第4次値上げにおける値上げ率は,クボタシーアイが塩化ビニル管については15パーセント以上,塩化ビニル管継手については10パーセント以上であるのに対し,原告が公表した値上げ率は,塩化ビニル管については12パーセント以上,塩化ビニル管継手については8パーセント以上であり(査第43号証資料15),塩化ビニル管について3パーセント,塩化ビニル管継手について2パーセントの開きがある。
出荷価格の引上げの合意をしていたというのであれば,これだけの値上げ率の差があるのは不自然であり,かかる事実からは,各社が独自の判断で値上げを決定したと考えるのが自然である。
ⅲ 平成18年5月8日のクボタシーアイ《A2》と原告《B2》との面接の設定経緯に関する供述
クボタシーアイの《A2》は,平成18年4月28日の役員打合せにおいて値上げ実施が決定され,クボタシーアイの《A3》社長の了解を得た後の夕方に原告の《B2》に電話をかけ,塩化ビニル管の値上げを実施する旨話をし,同年5月8日午後5時に東京で会う約束をしたと供述する(査第37号証,同号証資料1)。
しかし,原告の会議室の予約記録(審A第63号証)によれば,原告の《B2》は,原告東京本社の応接室を同年5月8日午後5時から午後6時まで予約しているが,その予約をした時間は「2006/4/27 17:07」である。また,原告の《B2》も三菱樹脂の《C2》も,同年4月28日は午後1時30分から無錫董事会及び懇親会に出席し(査第33号証資料23),同日の午後は会議と会食となっていたため,《B2》は《A2》からの電話に応じて話ができるような状況ではなかった(《原告のB2》参考人審尋速記録)のであり,《A2》の供述はかかる客観的証拠と矛盾している。
ⅳ 平成18年5月8日の面談において原告《B2》が値上げに同意したことの供述
クボタシーアイの《A2》は,平成18年5月8日,原告の《B2》と面談し,同人に対し,原告がクボタシーアイと足並みを揃えて値上げすることに同意したと供述する(査第37号証,査第145号証)。
しかし,原告の《B2》が,同日午後2時18分に,原告の営業所長らに発信したメール(審A64号証)には,「連休前から,新聞などで発表されていますように,原料事情が厳しくなっております。当社にも新聞発表前に,一部メーカーが値上げ打診として来社しており おそらく今週あたりにも,他メーカーの追随発表がある可能性があります 今後の展開として,値上げ受け入れの可否,時期,幅などについては,未定ではありますが,現状の原油価格,ナフサ価格を鑑みますと かなり強気で強硬な申し入れがあると予想されます (もちろん現時点では,パイプ全体の需給バランスが弱いという市場環境を説明しており,受諾できない旨のことは伝えています)」と記載があるとおり,原告は,同年5月8日時点で,原料メーカーである塩化ビニル樹脂メーカーからの値上げを受諾しておらず,塩化ビニル樹脂メーカーには値上げの受諾をできない旨を連絡していた。
さらに,同月16日に,原告給排水事業部の《B4》が購買部及び原告工場に対して,塩ビ樹脂が「値上げされそうな状況ですが,当社の対応は未定です。」(審A第69号証)と伝えているように,原告では,同日の時点でも,塩化ビニル樹脂メーカーからの値上げ要請を受諾するかは未定の状況であった。
このように,原告の《B2》及び《B4》が発信した電子メールという客観的証拠に照らして,原告は,同年5月8日の時点で,塩化ビニル樹脂メーカーに対して塩化ビニル管の値上げは受諾できない旨を連絡し,未だ塩化ビニル管等の値上げを検討していない状況であったことは明らかであり,同日に,原告がクボタシーアイと同じような時期に,同じような内容で値上げすることに同意することはあり得ない。
ⅴ 平成18年5月10日又は11日に変更後の値上げ内容を原告の《B2》に伝え,了解を得たとの供述
クボタシーアイの《A2》は,平成18年5月10日又は11日に,原告の《B2》に対して,変更後の値上げの内容と3管種の二次店価格を伝えたところ,原告の《B2》から「うちもクボタシーアイと一緒にしておきますよ」と言われたと供述する(査第37号証)。
しかし,かかる供述も,前記の原告における塩化ビニル樹脂メーカーからの値上げ要請に対する対応状況に反し信用できない。
ⅵ 平成18年5月11日のクボタシーアイの《A2》と三菱樹脂の《C2》との面談に関する供述
クボタシーアイの《A2》は,平成18年5月11日,三菱樹脂の《C2》と面会し,クボタシーアイの値上げの実施時期,値上げの内容を伝えたところ,同人は,これまでの値上げの際と同様に,三菱樹脂も当社と足並みを揃えて値上げを実施することに同意したと供述する(査第37号証)。
しかし,三菱樹脂は,平成18年5月1日の時点で,仮に塩化ビニル樹脂メーカーから値上げの要請があっても,徹底抗戦の構えで臨む方針をとっており(審B第37号証),同月12日の時点では,塩化ビニル樹脂メーカーからの値上げ受諾は決まっておらず,塩化ビニル樹脂メーカーからの値上げ要請を受諾した場合を想定した仮定の検討をしている状況であった(審B第38号証)。そして,三菱樹脂が最終的に塩化ビニル樹脂メーカーの値上げ要請を受諾し,塩化ビニル管等の値上げを決定したのは,同年6月5日になってからである(審B第39号証)。
このような客観的な証拠によれば,三菱樹脂は,平成18年5月11日の時点で,塩化ビニル管等の値上げを決定していないのであるから,三菱樹脂の《C2》が,同日,クボタシーアイの《A2》に対して,三菱樹脂もクボタシーアイと同じような時期に,同じような内容で値上げを実施することを同意することはあり得ない。
ⅶ 平成18年5月15日に原告の《B2》と三菱樹脂の《C2》に連絡したとの供述
クボタシーアイの《A2》は,平成18年5月15日の緊急営業会議当日の午前中の営業部長との打合せにおいて,3管種の価格をVU100は1400円,SRA150は3500円,SRA200は5200円と変更することを説明した前後に,原告の《B2》と三菱樹脂の《C2》の携帯電話に連絡し,2人から修正案に合意を得たと供述する(査第37号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)。
しかし,クボタシーアイの《A2》が,この日に,原告の《B2》と三菱樹脂の《C2》に電話をしたという客観的証拠は存在しない。むしろ,平成18年5月24日に開催された三菱樹脂のブロック長会議の議事録では,SRA150の手離れ価格は3500円と記載されている(審B第40号証)。同月15日の時点でSRA150の二次店価格が3500円と合意されたのであれば,手離れ価格はそれよりも低く設定しなければならないから,三菱樹脂のブロック長会議でSRA150の手離れ価格が3500円とされたということは,同日に三菱樹脂の《C2》がSRA150の二次店価格を3500円とすることに合意したというクボタシーアイの《A2》の供述とは明らかに矛盾している。
⑵ インサート継手その他課徴金の算定対象となった商品は,本件第1号課徴金納付命令が前提とする「一定の取引分野」に含まれ,かつ,本件合意の対象となっていたか。(争点2)
ア 被告
(ア) 本件において,第1次値上げ及び第2次値上げにおいては,原告,三菱樹脂,クボタ,アロン化成及びシーアイ化成の5社が,第3次値上げ及び第4次値上げにおいては,原告,三菱樹脂及びクボタシーアイの3社が値上げに関する合意を行ったものであるところ,3社又は5社は,本件合意に関するそれぞれの話合いにおいて,値上げの対象となる塩化ビニル管等について特段の限定を付さずに話合いをし,特に対象商品を除外することなく値上げ方針を定めていたことが認められる。そうすると,本件違反行為の対象商品は塩化ビニル管等であり,その範疇に属する商品は,違反行為者が明示的又は黙示的に本件違反行為の対象から除外するなど当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,本件違反行為による拘束が及んでいるものと解される。
原告主張のインサート継手は,原材料のうち銅合金のコスト費が高いといっても,塩化ビニル樹脂等を原料とする塩化ビニル管継手であることに変わりはなく,これが違反行為である相互拘束から除外されていることをしめる特段の事情もないから,「当該商品」に該当する。
(イ) 原告が「当該商品」に該当しないと主張するその他の商品についても,本件違反行為の対象商品の範疇に属し,かつ,本件違反行為の相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められない。
イ 原告
(ア) インサート継手の原料は,真鍮(銅合金)と塩ビ樹脂であり,その重量比は個々の製品によって異なるものの,平均すると銅合金がほぼ半分を占め,また,銅合金の単価は,塩ビ樹脂の単価の4倍以上である。このようにインサート継手は,銅合金を主たる原料とする継手であり,値上げを検討するに際しても,塩化ビニル管継手とは異なり,銅合金の価格が最も重要な考慮要素とされる。そのため,塩ビ樹脂が値上がりしたとしても,値上がり分を製品価格に転嫁する必要性は汎用の塩化ビニル管及び塩化ビニル管継手に比べて大幅に低かった。このため,原告及びクボタシーアイでは,インサート継手の値上げを,塩化ビニル管及び塩化ビニル管継手とは別個に検討していたという客観的事実が存在し,また,原告とクボタシーアイでは,インサート継手の値上げ幅も値上げ時期も全く異なるという客観的事実が存在する。これに対して,本件審決においてはインサート継手について原告とクボタシーアイまたは三菱樹脂との間で情報交換がなされたという事実さえ認定されていない。
このように,インサート継手が本件合意の対象になっていないことは客観的事実から明らかであるにもかかわらず,単に「インサート継手は,・・・塩化ビニル樹脂等を原料とする塩化ビニル管継手であるから,塩化ビニル管等に当たる」,「塩化ビニル樹脂の値上げがあれば,製品の販売価格を値上げする必要性が出てくることは一般の塩化ビニル管等と同様である」等として,インサート継手も本件合意の対象になっていたという認定は,実質的証拠を欠く認定であることは明らかであるし,経験則の適用を誤った法令違反のある認定であることも明らかである。
(イ) 上記インサート継手のほかにも,別表1の各商品は,本件違反行為の対象商品の範疇に属さないし,仮に対象商品の範疇に属するとしても,本件違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がある。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,原告の請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は,次項以下のとおりである。
2 争点1について
⑴ 認定事実
後掲各証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア 第1次値上げについて
(ア) 塩化ビニル樹脂の価格の引上げ等
a 塩化ビニル樹脂メーカーは,塩化ビニル樹脂の原料のナフサの価格が高騰したこと,中国における塩化ビニル樹脂の需要が拡大し,輸出価格が高くなって輸出量が増大し,日本国内における塩化ビニル樹脂の需給バランスが逼迫してきたことを背景として,平成15年末から平成16年初めにかけて,塩化ビニル管メーカーに対し,塩化ビニル樹脂の価格の引上げを強く求め,同年1月上旬頃には,塩化ビニル樹脂の価格が同年2月頃以降に引き上げられる見通しとなった。
また,塩化ビニル樹脂メーカーは,塩化ビニル樹脂の価格決定方式を従前行っていた後決め方式から先決め方式に変更することも要求した。後決め方式とは,塩化ビニル樹脂メーカーが塩化ビニル管メーカーとの間で,塩化ビニル樹脂納品後に事後的な調整を行って塩化ビニル樹脂の価格を決めるという商慣習であり,先決め方式とは,塩化ビニル樹脂の納品に先立って予め取り決めた樹脂価格により取引し,価格決定に当たり納品後の事情を考慮しないというものである。
b これに対し,塩化ビニル管メーカーは,原材料である塩化ビニル樹脂の安定的な供給を受ける必要性から,塩化ビニル樹脂メーカーの要求を受け入れざるを得ない状況となった。
このため,塩化ビニル管メーカーは,塩化ビニル樹脂の価格が引き上げられた場合,自社の利益を確保するためには,塩化ビニル樹脂の価格引上げ分を塩化ビニル管等の価格に転嫁し,塩化ビニル管等の値上げを確実に実施して値上げ後の価格を維持することが必要となった。
また,従前は,交渉上優位にあった塩化ビニル管メーカーは,後決め方式のもと,製品値上げが浸透しなくても,塩化ビニル樹脂メーカーに働きかけて,原料値上げ分をすべてバックマージンとして期末に処理することができたが,先決め方式への移行により,事後に調整することができなくなることから,製品値上げの浸透をより一層図ることが必要な状況となった。
c 塩化ビニル管等は,主原料である塩ビレジンが製造コストのほぼ半分を占めており,付加価値が小さく差別化しにくい商品であり,日本工業規格(JIS規格)や日本水道協会規格,日本下水道協会規格などに適合した規格品がほとんどであった。このため,塩化ビニル管等については,クボタや原告などの大手メーカーのブランド力はあるにしても,どのメーカーが製造した製品であっても一定の品質水準を有しており,需要家としては,基本的には価格重視で製品を選択する傾向が強いため価格競争が生じやすく,メーカーや販売店の思惑ひとつで容易に価格が下落してしまう実態にあった。このため,メーカーが原料コストの上昇分を製品価格に転嫁し,値上げしようとしても,販売店において安価な他のメーカーに仕入れ先を変更することが容易であり,メーカー単独で値上げを行うことが困難な状況にあった。
(査第4号証,第7号証,第11号証,第14号証,第15号証ないし第17号証,審B第48号証,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録)
(イ) クボタの《A3》,《A1》及び原告の《B1》のアロン化成への訪問
クボタの《A3》,《A1》及び原告の《B1》は,平成16年1月13日にアロン化成を訪問し,同社の《D3》常務取締役管材事業部長に対して,塩化ビニル管メーカーが足並みを揃えて製品値上げを行うよう要請をし,了承を得た(査第15号,第137号)。
(ウ) 3社の担当者による会合
a 前記(ア)aの状況を受けて,原告の《B1》,三菱樹脂の《C1》及びクボタの《A1》は,平成16年1月頃から,塩化ビニル管等の値上げについて情報交換を行っていたが,同月21日,クボタ東京本社の応接室において,会合を開催した。そして,3社は,遅くともこのときまでには,同年3月1日受注分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から15パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく10パーセント以上引き上げること,その値上げの実施を確実にするため,3管種にあっては,1本当たりの二次店価格を,VU100は950円,SRA150は2400円,SRA200は4000円とすることを決定し,また,値上げの公表は最初に原告が行うことを決めた。
b このように3社が3管種の二次店価格を決定したのは,二次店価格の値崩れが一次店価格の値崩れにつながることが多かったところ,中でも3管種は他の塩化ビニル管等と比べて値崩れを起こしやすかったことから,3管種の二次店価格を3社の会合において決定することで,塩化ビニル管等の値上げの実施を確実にするためであった。すなわち,塩化ビニル管等が一次店を経由する場合,メーカーがいくら出荷価格を引き上げようとしても,一次店から二次店への納入価格が上がらなければ,一次店に値上げを受け入れてもらえないという実態にあった。また,二次店の多くは複数のメーカーの塩化ビニル管等を扱っており,二次店への販売価格に競争が起こって値上げが進まないという事態を防ぐためには二次店への販売価格をコントロールする必要もあった。
c 3社で合意した値上げを確実に市場に浸透させるためには,他の塩化ビニル管メーカーにも値上げに同調してもらう必要があることから,原告の《B1》,三菱樹脂の《C1》及びクボタの《A1》は,上記会合の際,5社で上記会合において決定した内容のとおり価格を引き上げることを合意するため,会合を開催することとした。
(査第4号証,第7号証ないし第10号証,第15号証,第16号証,第18号証,第19号証,第22号証,第44号証,第46号証,第53号証ないし第58号証,第60号証ないし第75号証,第78号証,第79号証,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録)
(エ) 5社の担当者による会合
前記(ウ)aの会合を受けて,平成16年1月27日,原告の《B1》,三菱樹脂の《C1》,クボタの《A1》,アロン化成の《D1》及びシーアイ化成の《E》は,原告東京本社近くの飲食店「《F》」の会議室において会合を開催した。
この会合において,原告の《B1》が,前記(ウ)aの決定内容について説明したところ,アロン化成の《D1》及びシーアイ化成の《E》はこれを了承し,それぞれ,同様の内容で価格の引上げを実施する旨述べ,もって,5社は,前記(ウ)aの決定のとおり,平成16年3月1日受注分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から15パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく10パーセント以上引き上げること,その値上げの実施を確実にするため,3管種にあっては,1本当たりの二次店価格を,VU100は950円,SRA150は2400円,SRA200は4000円とすることを合意した。
また,5社は,第1次値上げの公表について,まず平成16年2月4日に原告が行い,次に同月9日にクボタが行うことを確認した。
(査第15号証,第16号証,第20号証,第21号証,第22号証,第43号証,第127号証,第161号証の4,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録,《原告のB2》参考人審尋速記録)
(オ) 他社への働きかけ
クボタの《A1》と原告の《B3》常務及び《B1》は,同年1月23日頃,《H》の《H1》副社長らをクボタに呼んで,第1次値上げへの協力を要請し,その了承を得た。また,原告の《B1》は,同月30日,《J》パイプ事業部取締役事業本部長の《J1》(以下「《J》の《J1》」という。)に対し,塩化ビニル樹脂メーカーとの原材料の取引が先決め方式になることから,今回は各大手とも甘い考えのもとに値上げを行うのではなく,今回は各大手とも不退転の決意で値上げを行うと話をし,第1次値上げへの同調を求めた。さらに,原告の《B3》常務及び《B1》,クボタの《A1》並びに三菱樹脂の《C1》は,同年2月3日頃,《I》を訪問し,同社近くの喫茶店で同社の《I1》社長らに第1次値上げへの協力を依頼し,その了承を得た。
(カ) 5社の価格引上げについての公表
a 原告
原告は,平成16年2月5日,同年3月1日受注分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:15ないし20パーセント
(b) 塩化ビニル管継手:10パーセント
(c) 関連製品:10パーセント
(査第43号証)
b クボタ
クボタは,平成16年2月9日,同年3月1日受注分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:15パーセント以上
(b) 塩化ビニル管継手:10パーセント以上
(c) その他塩化ビニル関連製品:10パーセント以上
(査第43号証)
c アロン化成
アロン化成は,平成16年2月12日,同年3月1日受注分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:15パーセント以上
(b) 塩化ビニル管継手:10パーセント以上
(c) 塩化ビニル製マス類:10パーセント以上
(査第43号証)
d 三菱樹脂
三菱樹脂は,平成16年2月16日,同年3月15日出荷分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:15ないし20パーセント
(b) 塩化ビニル管継手他関連製品:10パーセント以上
(査第43号証)
e シーアイ化成
シーアイ化成は,平成16年2月16日,同年3月1日受注分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:15パーセント以上
(b) 塩化ビニル管継手:15パーセント以上
(c) 関連製品:15パーセント以上
(査第43号証)
イ 第2次値上げについて
(ア) 塩化ビニル樹脂の価格の引上げ
遅くとも平成16年8月に入った頃,塩化ビニル樹脂の価格が同年9月頃以降に引き上げられる見通しとなった。(査第14号証,第23号証)
(イ) 3社の担当者による会合
そこで,原告の《B1》,三菱樹脂の《C1》及びクボタの《A1》は,平成16年8月に入った頃から,塩化ビニル管等の値上げについて情報交換を行い,遅くとも同月25日の5社による会合の開催までに,同年10月1日出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から10パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく8パーセント以上引き上げること,その値上げの実施を確実にするため,3管種にあっては,1本当たりの二次店価格を,VU100は1100円,SRA150は2800円から3000円,SRA200は4500円と決定し,値上げの公表については,最初にクボタが同年9月7日に行い,次いで原告が同月9日に行うことを確認した。
なお,従前,値上げは何月何日受注分よりとして打ち出していたが,これでは,値上げ実施日前の旧値による受注残が大量に残ることから,三菱樹脂の《C1》の提案により,値上げ実施日については,出荷分をもって定めることを決めた。
(査第23号証)
(ウ) 5社の担当者による会合
原告の《B1》,平成16年10月から同人の後任として同社の環境・ライフラインカンパニー給排水システム事業部長となることが決まっていた同社の《B2》,三菱樹脂の《C1》,クボタの《A1》,シーアイ化成の《E》及び同年3月からアロン化成の《D1》の後任となった同社の《D2》は,同年8月25日,原告東京本社近くの飲食店「《G》」において会合を開催した。
この会合において,冒頭,原告の《B1》から,自らが異動し,同社の《B2》が後任となること,同人が同社の担当者となることについて話があった。
続いて,原告の《B1》及びクボタの《A1》が中心となって,前記(イ)のとおり3社で決定した塩化ビニル管等の値上げの内容について説明したところ,アロン化成の《D2》及びシーアイ化成の《E》はこれを了承し,それぞれ,同様の内容で値上げを実施する旨述べ,もって,5社は,前記(イ)の決定のとおり,平成16年10月1日出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から10パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく8パーセント以上引き上げること,その値上げの実施を確実にするため,3管種にあっては,1本当たりの二次店価格を,VU100は1100円,SRA150は2800円から3000円,SRA200は4500円とすることを合意した。
また,5社は,第2次値上げの公表について,最初にクボタが平成16年9月7日に行い,次いで原告が同月9日に行うことを確認した。
原告の《B1》は,平成16年8月下旬頃,《J》の《J1》と面談し,原告ら大手塩化ビニル管メーカーが第2次値上げを同年9月7日ないし8日に発表予定であることなどを告げ,暗にこれへの同調を求めた。
(査第22号証ないし第29号証,第43号証,第44号証,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録)
(エ) 5社の価格引上げについての公表
a クボタ
クボタは,平成16年9月7日,同年10月1日出荷分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:12パーセント以上
(b) 塩化ビニル管継手:8パーセント以上
(c) その他塩化ビニル関連製品:8パーセント以上
(査第43号証)
b シーアイ化成
シーアイ化成は,平成16年9月8日,同年10月1日受注分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:10パーセント以上
(b) 塩化ビニル管継手:8パーセント以上
(c) 関連製品:8パーセント以上
(査第43号証)
c 原告
原告は,平成16年9月9日,同年10月1日出荷分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:10パーセント
(b) 塩化ビニル管継手,マス他関連製品:8パーセント
(査第43号証)
d 三菱樹脂
三菱樹脂は,平成16年9月13日,同年10月1日出荷分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:10パーセント以上
(b) 塩化ビニル管継手,マス,接着剤等関連製品:8パーセント以上
(査第43号証)
e アロン化成
アロン化成は,平成16年9月15日,同年10月1日出荷分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:10パーセント以上
(b) 塩化ビニル管継手:8パーセント以上
(c) 塩化ビニル製マス類:8パーセント以上
(査第43号証)
ウ クボタシーアイの設立
平成17年4月1日,クボタ及びシーアイ化成による共同新設分割によりクボタシーアイが設立され,同社は,同日付けでクボタ及びシーアイ化成から,それぞれ塩化ビニル管等の製造販売に係る事業を承継した。(争いのない事実)
同日以後,クボタシーアイが,クボタ及びシーアイ化成に代わって第1次値上げに係る合意及び第2次値上げに係る合意に参加し,クボタの《A1》が,クボタシーアイの市場企画部長として,引き続き,担当者を務めた。(査第30号証,第31号証)
エ 第3次値上げについて
(ア) 塩化ビニル樹脂の価格の引上げ
遅くとも平成17年8月に入った頃,塩化ビニル樹脂の価格が同年10月頃以降に引き上げられる見通しとなった。(査第14号証,第31号証)
(イ) 3社の担当者による会合
前記(ア)の状況を受けて,原告の《B2》,平成17年4月から三菱樹脂の《C1》の後任として塩化ビニル管等に係る営業等の担当者となった同社の《C2》及びクボタシーアイの《A1》は,同年8月25日,クボタシーアイ東京本社の応接室において会合を開催した。
同会合においては,クボタシーアイの《A1》が,同社では,平成17年10月11日出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から10パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく6パーセント以上引き上げる予定であることを説明した。これに対し,原告の《B2》及び三菱樹脂の《C2》も,それぞれ,クボタシーアイと同じような時期に,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から8パーセント,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく5パーセントから6パーセント引き上げる予定であると説明した。クボタシーアイの《A1》は,同時期に,ある水準以上の値上げ幅で足並みをそろえることができれば,塩化ビニル管等の値上げ幅について,原告及び三菱樹脂と2パーセント程度の差があるとしても,本社レベルの合意としては大枠が決められればよいということから,問題にはならないと考え,原告の《B2》及び三菱樹脂の《C2》の上記説明に対し,何ら異議を差し挟まなかった。
また,3管種の二次店価格について,クボタシーアイの《A1》が,VU100は1200円,SRA150は3300円,SRA200は4800円とすることを提案したところ,原告の《B2》からSRA150の二次店価格を3300円とするのは高すぎるので3200円とすべきである旨の意見があった。また,三菱樹脂の《C2》も原告の《B2》の上記意見に賛成する意見を述べた。そこで,クボタシーアイの《A1》も,これに応じ,SRA150の二次店価格を3200円とする旨述べた。
このように,3社は,平成17年10月11日頃出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から8パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく5パーセント以上引き上げること,その値上げの実施を確実にするため,3管種にあっては,1本当たりの二次店価格を,VU100は1200円,SRA150は3200円,SRA200は4800円とすることを合意した。
また,3社は,第3次値上げの公表について,最初に名実ともに塩化ビニル管のトップメーカーとなったクボタシーアイが平成17年9月7日に行い,次いで原告が行うことを確認した。
なお,第1次値上げ及び第2次値上げの際には,3社による会合の後,5社による会合を開催していたが,シーアイ化成がクボタとともにクボタシーアイとなったため,シーアイ化成に対し改めて諮る必要がなくなったことから,残るアロン化成について,どのように扱うかが問題となったが,これについては同日には決まらなかった。
会合の帰り際,三菱の《C2》が値上げカルテルの発覚することを恐れた発言をすると,他の参加者は,仮にカルテルの疑いをかけられたとしても,この会合は情報交換の場であって,何も決めていないことにしようと申し合わせた。
原告の《B2》は,平成17年8月29日,《J》の《J1》と面談し,原告を含む塩化ビニル管大手メーカーの第三次値上げの予定を伝え,暗にこれに同調するよう求めた。
(査第26号証,第31号証,第33号証,第34号証,第44号証,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録)
(ウ) クボタシーアイからアロン化成への協力要請
平成17年8月29日,クボタシーアイの《A1》は,アロン化成の《D2》に対し,前記(イ)の合意の内容を伝え,塩化ビニル管等の値上げに協力するよう要請した。(査第31号証,第35号証,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録)
(エ) 5社による会合の消滅によるアロン化成の取扱い
平成17年8月30日,クボタシーアイの《A1》,原告の《B2》及び三菱樹脂の《C2》は,会合をもち,ポリエチレン管の事業者団体の統合問題を協議するとともに,第3次値上げにおけるアロン化成の取扱いについて協議した。
第1次値上げに係る合意及び第2次値上げに係る合意において開催していた3社による会合はシーアイ化成がクボタに統合されたことから,事実上,4社による会合となっており,改めてアロン化成を加えて開催するまでもないことや,原告の《B2》及び三菱樹脂の《C2》が,中期経営計画において塩化ビニル管のシェア拡大を推進していくことなどを表明したアロン化成に対して不信感を示し,アロン化成に手の内の情報をさらす必要はない,アロン化成は社格が違うなどと言って,第3次値上げの合意にアロン化成を参加させることに反対したため,アロン化成を上記合意には参加させないこととなった。
同日以後,アロン化成は本件合意に参加していないが,クボタシーアイの《A1》は,塩化ビニル管メーカー各社に足並みを揃えてもらう必要があることから,個別に,アロン化成の《D2》に連絡を取り,共同しての値上げを実行した。
(査第31号証,第32号証,第35号証,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録)
(オ) 3社の価格引上げについての公表
a クボタシーアイ
クボタシーアイは,平成17年9月7日,同年10月11日出荷分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:10パーセント以上
(b) 塩化ビニル管継手:6パーセント以上
(c) その他塩化ビニル関連製品:6パーセント以上
(査第43号証)
b 原告
原告は,平成17年9月8日,同年10月3日出荷分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:8ないし10パーセント
(b) 塩化ビニル管継手,マス,他関連製品:5パーセント
(c) バルブ及び関連製品:5ないし10パーセント
(査第43号証)
c 三菱樹脂
三菱樹脂は,平成17年9月12日,同年10月11日出荷分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:平均10パーセント以上
(b) 塩化ビニル管継手,マス,接着剤等関連製品:平均6パーセント以上
(査第43号証)
オ 第4次値上げについて
(ア) 3社の担当者による会合
平成18年4月1日,クボタシーアイの市場企画部長が同社の《A1》から同社の《A2》に代わった。
同月10日,クボタシーアイの《A1》,同社の《A2》,原告の《B2》及び三菱樹脂の《C2》は,原告東京本社において,同月18日に開催される《ポリエチレン管の業界団体》の総会について会合を開催したが,その際,クボタシーアイの《A1》の後任として同社の《A2》が同社の担当者となることを確認した。
(査第36号証,第37号証,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
(イ) 塩化ビニル樹脂の価格の引上げとクボタシーアイにおける検討等
遅くとも平成18年5月上旬頃,塩化ビニル樹脂の価格が同年6月頃以降に引き上げられる見通しとなった。
同年4月26日頃,クボタシーアイの《A2》は,同社の《A3》社長から,早急に塩化ビニル管等の値上げを検討するように指示を受けた。
そこで,同月28日,クボタシーアイの《A2》は,同社の《A1》等の役員と打合せをして,同年6月12日出荷分から値上げを実施すること,地区の担当者を招致して値上げを指示する営業会議を同年5月15日に開催すること,値上げの公表日を同月18日とすることを決定し,同決定内容を《A3》社長に示したところ,同人から了解を得られた。
また,クボタシーアイの《A2》は,値上げの詳細や3管種の二次店価格等について,同年5月10日に同人の前任者であった同社の《A1》を交えた社内打合せを行い,検討することとした。
(査第14号証,第37号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
(ウ) 3社による合意の成立
クボタシーアイの《A2》は,前記(イ)の同社役員との打合せにおいて決定した塩化ビニル管等の値上げを実現するためには,従来の3社による会合の枠組みを維持し,3社の合意に基づいて値上げを実施することが不可欠であると認識していたものの,クボタシーアイの値上げの公表前に3社の担当者が集まったのでは,独占禁止法違反の疑いをかけられた場合に言い訳することすらできないと考え,少なくともクボタシーアイの値上げの公表まで3社で集まることは避け,個別に連絡を取り合うなどの方法により,3社で合意するという枠組みを維持していくことがよいと考えた。(査第37号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
そこで,以下のとおり,クボタシーアイの《A2》が,同社の値上げ方針を原告の《B2》及び三菱樹脂の《C2》に個別に連絡し,平成18年5月11日頃までに,原告の《B2》及び三菱樹脂の《C2》から同方針に沿って塩化ビニル管の値上げを実施することの同意を得たことにより,3社は,クボタシーアイの値上げ方針に沿って値上げすることを合意した。なお,原告の《B2》は,当初,クボタシーアイの《A2》からの電話に対し,「ずいぶん,先走りするなあ」という感想をもらしていた。(査第37号証ないし第42号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
a 平成18年5月8日のクボタシーアイの《A2》と原告の《B2》との面談
平成18年5月8日,クボタシーアイの《A2》は,原告東京本社に原告の《B2》を訪ね,独占禁止法違反の疑いをかけられないよう,クボタシーアイの値上げの公表までは3社では集まらずに,1対1で会うか,電話等で連絡を取り合うという方法により,3社で合意するという従来の枠組みを維持していくことを提案したところ,《B2》もこれを了承した。
そして,クボタシーアイの《A2》は,同社の塩化ビニル管等の値上げ方針について,原告の《B2》に対し,前記(イ)の同年4月28日の役員との打合せで決定した値上げの日程,塩化ビニル管の出荷価格の上げ幅については現行価格から13パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格の上げ幅については同じく10パーセント以上とすること,第4次値上げはクボタシーアイが先頭になって値上げを実施することを伝え,原告もクボタシーアイの値上げ方針に沿って塩化ビニル管等の値上げを実施するよう求めた。これに対し,原告の《B2》は,クボタシーアイの《A2》の要請を了承し,原告において値上げの内容を決定した場合には,これをクボタシーアイの《A2》に連絡する旨を述べた。
なお,前記(イ)のとおり,クボタシーアイの《A2》は,値上げの詳細や3管種の二次店価格等について,同年5月10日の社内打合せで決定する予定であったことから,同社において3管種の二次店価格を決定した場合,あるいは,値上げ方針を変更した場合には別途連絡する旨を伝え,原告の《B2》は,これを了承した。
(査第37号証,第38号証,第39号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
b 平成18年5月10日のクボタシーアイの社内打合せ
平成18年5月10日,クボタシーアイの《A2》は,同社の《A1》らと社内の打合せを行ったが,その時点では,原料メーカーの値上げ発表が全社出揃っていなかったため,ちょっと早すぎるから予定を遅らせる方向で調整した方がよいという《A1》の提案等を受けて,それまでに決定していた値上げ方針を一部変更して,同年6月21日出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から15パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく10パーセント以上引き上げること,その値上げの実施を確実にするため,3管種にあっては,1本当たりの二次店価格を,VU100は1400円,SRA150は3800円,SRA200は5200円とすることを決定するとともに,第4次値上げの公表日も同年5月25日に変更した。(査第37号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
c 平成18年5月10日頃のクボタシーアイの《A2》のした原告の《B2》への連絡
平成18年5月10日頃,クボタシーアイの《A2》は,原告の《B2》に電話をかけ,前記bで決定した自社の値上げ方針等を連絡したところ,《B2》はこれを了承した。(査第37号証,第38号証,第39号証,第40号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
d 平成18年5月11日のクボタシーアイの《A2》と三菱樹脂の《C2》の面談
平成18年5月11日,クボタシーアイの《A2》は,三菱樹脂本社に同社の《C2》を訪ね,原告の《B2》に対して提案したのと同様に,なるべく独占禁止法違反の疑いをかけられないよう,クボタシーアイの値上げの公表までは3社では集まらずに,1対1で会うか,電話等で連絡を取り合うという方法により,3社で合意するという従来の枠組みを維持していくことを提案したところ,三菱樹脂の《C2》も,これを了承した。
そして,クボタシーアイの《A2》は,三菱樹脂の《C2》に対し,前記bで決定した自社の値上げ方針等を伝え,第4次値上げはクボタシーアイが先頭になって値上げを実施するので,三菱樹脂もクボタシーアイの値上げ方針に沿って塩化ビニル管等の値上げを実施するよう求めたところ,三菱樹脂の《C2》はこれを了承し,同社において値上げの内容を決定した場合には,これをクボタシーアイの《A2》に連絡する旨を述べた。
(査第33号証,第37号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
e 相互の伝達
クボタシーアイの《A2》は,自社の値上げ方針等を連絡する際には,原告の《B2》に対しては三菱樹脂の《C2》にも,三菱樹脂の《C2》に対しては原告の《B2》にも同じ内容を伝えた,あるいは伝える旨を話していた。(査第37号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
f 以上のとおり,第4次値上げについては,クボタシーアイが先頭になって値上げを実施し,原告と三菱樹脂がその値上げ方針に沿ってこれに追随するという旨合意した。
(エ) 合意成立後の行動
a 二次店価格の再検討
クボタシーアイの《A2》は,前記(ウ)の合意成立後,合意した3管種の二次店価格について再検討した結果,SRA150の二次店価格を3800円から3500円に変更することが適当であると考えるに至った。
そこで,平成18年5月15日,クボタシーアイの《A2》は,原告の《B2》及び三菱樹脂の《C2》にそれぞれ電話し,SRA150の二次店価格を3500円に変更する旨を連絡したところ,原告の《B2》及び三菱樹脂の《C2》は,これを了承した。
(査第37号証,第38号証,第39号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
b 原告の《B2》からクボタシーアイの《A2》への連絡
原告の《B2》は,平成18年5月22日頃,クボタシーアイの《A2》に電話をかけ,自社の値上げについて,同年7月3日出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から10パーセントないし12パーセント,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく8パーセント引き上げること,3管種の二次店価格はクボタシーアイと同額とすること,第4次値上げの公表日を同年6月7日とすることを伝えた。(査第37号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
c 三菱樹脂の《C2》からクボタシーアイの《A2》への連絡
三菱樹脂の《C2》は,平成18年6月1日頃,クボタシーアイの《A2》に電話をかけ,自社の値上げについて,同年7月10日出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から12パーセントないし15パーセント,塩化ビニル管継手の出荷価格については同じく8パーセント引き上げること,3管種の二次店価格はクボタシーアイと同額とすること,第4次値上げの公表日を同年6月12日とすることを伝えた。(査第37号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
d 平成18年6月7日の3社の担当者の会合
クボタシーアイの《A2》,原告の《B2》及び三菱樹脂の《C2》は,平成18年6月7日,「《F》」の会議室において,《ポリエチレン管の業界団体》の臨時総会に関する協議をするとともに,原告らが前記(ウ)の合意に基づいて値上げすることを改めて確認し,今後,継続的に3社による会合を開催して,第4次値上げの実施状況を相互に監視していくことを確認した。(査第33号証,第37号証,第41号証,第42号証,第60号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
(オ) 3社の価格引上げについての公表
a クボタシーアイ
クボタシーアイは,平成18年5月25日,同年6月21日出荷分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:15パーセント以上
(b) 塩化ビニル管継手:10パーセント以上
(c) 成形メタル継手:35パーセント以上
(d) その他塩化ビニル関連製品:10パーセント以上
(査第43号証)
b 原告
原告は,平成18年6月7日,同年7月3日出荷分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:12パーセント以上
(b) 塩化ビニル管継手,マス,他関連製品:8パーセント以上
(査第43号証)
c 三菱樹脂
三菱樹脂は,平成18年6月12日,同年7月10日出荷分から,次のとおり価格を引き上げることを公表した。
(a) 塩化ビニル管:平均12ないし15パーセント以上
(b) 塩化ビニル管継手,マス,接着剤等関連製品:平均8パーセント以上
(査第43号証)
カ 各値上げの実施
(ア) 他の塩化ビニル管メーカーへの協力要請
3社の担当者は,各値上げの実施について,分担して,本件合意に参加していない他の塩化ビニル管メーカーのうち,《K》,《L》,《M》,《I》,《H》,《N》及び《J》の7社(第3次値上げに係る合意及び第4次値上げに係る合意においてはアロン化成を加えた8社)に対して,塩化ビニル管等の値上げに協力するよう要請していた。(査第15号証,第23号証,第31号証,第34号証,第37号証,第44号証,第45号証,第46号証,第81号証,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
(イ) 地区担当者の会合等
5社(第3次値上げに係る合意及び第4次値上げに係る合意においては3社)の担当者は,本社レベルの合意が成立すると,自社の各地区の支店等の担当者に対し,前記第1次から第4次までの合意に基づいて値上げをするように指示し,それぞれの地区において,塩化ビニル管等の種類ごとに当該地区の二次店価格の最低価格を決定させた。
これを受けて,値上げの指示を受けた地区の担当者は,各地区において他の塩化ビニル管メーカーの地区の担当者と会合を開催するなどして,まず各社の値上げの指示の内容が同様であること,各社の値上げの指示が中央の担当者による本件合意に基づくものであることを確認した上で,地区ごとの管種別の最低目標価格であるガイドを決定していた。それぞれの地区では,地区の会合で取り決めたガイドに基づいて,各社が足並みを揃えて販売業者に対して値上げ交渉を行った。
(査第6号証,第7号証,第9号証,第16号証,第18号証,第22号証,第47号証,第48号証,第49号証,第50号証,第51号証,第52号証ないし第72号証,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録)
(ウ) 地区担当者による一次店,二次店に対する要請
5社(第3次値上げに係る合意及び第4次値上げに係る合意においては3社)の地区の担当者は,それぞれ,一次店,二次店に対し,価格の引上げを要請した。一次店の担当者に同行し,二次店を回る者もいた。(査第7号証,第50号証,第56号証,第60号証,第70号証,第73号証,第74号証,第75号証,第76号証,第77号証,第78号証,第79号証,《原告のB2》参考人審尋速記録)
キ 各値上げの実施の確認
5社(第3次値上げに係る合意及び第4次値上げに係る合意においては3社)の担当者は,おおむね月1回程度の割合で会合を開催し,実施状況を報告し,十分に値上げされていない場合には指摘し,値上げするよう要請した。
前記のとおり,地区では,地区の会合で取り決めたガイドに基づいて,販売業者に対して値上げ交渉を行うが,地区で合意した価格よりも安い価格であるメーカーが販売するといった問題が発生することがあり,こうした場合には,まずは地区において,問題を解決するように努めるが,そこで解決できない場合は,各営業部長クラスで解決を図り,ここでも解決できない場合には,本社レベルで,各社の事業部長クラスの話し合いによって問題解決を図ってきた。値上げ合意を守れない地区の営業担当者を他社からの苦情により人事異動させることもあった。
また,塩化ビニル管メーカーは,他社が販売している卸売業者に売り込みをかけるなどして,新たに取引を始めるといういわゆる切り込みを禁止していた。切り込みを容認すると,他社の顧客を奪う過程で,どうしても安値が提示されることが多く,奪われそうになったところも対抗して安値を提示することから,価格競争になりやすく,切り込みを禁止して価格競争が起こることを未然に防止していた。
(査第4号証,第6号証,第9号証,第10号証,第11号証,第24号証,第25号証,第35号証,第36号証,第46号証,第55号証,第60号証,第77号証,第78号証,第82号証ないし第85号証)
(ア) 第1次値上げ
第1次値上げにおいて,平成16年2月16日,同年3月18日,同年4月21日及び同年6月11日に会合を開催し,進捗状況を確認した。(査第7号証,第25号証,第32号証)
(イ) 第2次値上げ
第2次値上げにおいて,平成16年10月20日,同年12月14日及び平成17年1月24日に会合が開催された。さらに,同年3月4日には京都の「《店名略》」という料亭において会合を開催し,進捗状況を確認した。(査第32号証,第36号証)
(ウ) 第3次値上げ
第3次値上げにおいて,平成17年9月30日,同年10月13日,同月25日,同年11月28日及び同年12月13日において3社により会合が開催された。(査第33号証,第36号証)
原告の《B2》と三菱樹脂の《C2》は,平成17年10月13日の会合で,クボタシーアイの値上げに向けての動きが全体として非常に遅いとクボタシーアイの《A1》を責め,このままでは大問題になるので早急にクボタシーアイとしての回答が欲しいと申し入れた。《A1》は,同月25日の会合で,クボタからクボタシーアイへの従業員の転籍問題等で対応が遅れたとして,クボタシーアイの非を認めて謝罪し,同年11月中旬には新値に切り替えると回答した。(査第36号証)
(エ) 第4次値上げ
第4次値上げにおいて,平成18年6月7日に,「《F》」C会議室で開催された会合において進捗状況を確認した。(査第33号証,第37号証,第41号証,第42号証,第79号証,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録)
⑵ 認定の理由
ア 課徴金減免申請者の従業員の供述の信用性の評価について
(ア) 原告の主張
クボタ及びクボタシーアイの《A1》並びにクボタシーアイの《A2》は,本件合意の存在を認める供述をしているところ(シーアイ化成の《E》も同様である。),原告は,課徴金減免申請者は,独占禁止法違反を構成する「ストーリー」を供述する強いインセンティブを有しており,かつ,実質的に1社と評価できるクボタ,クボタシーアイ及びシーアイ化成の従業員がそれぞれに矛盾した供述をすることは考え難いのであるから,カルテルの合意を認めているのがクボタ及びクボタシーアイの《A1》,クボタシーアイの《A2》及びシーアイ化成の《E》だけである本件においては,クボタ及びクボタシーアイの《A1》やクボタシーアイの《A2》の供述の信用性を安易に認めることや,クボタの《A1》の供述の信用性の判断にあたってシーアイ化成の《E》の供述との一致を重視することは,事実の認定を誤る危険があると主張する。
そこで,以下にこの点について検討する。
(イ) 課徴金減免制度の概要
課徴金減免制度は,減免によって違反事業者が自ら被告に申告するインセンティブを高め,違反行為の発見及び事案の解明を容易にすることによって,違法状態の解消及び違反行為の抑制を図ろうとする制度である。直接的には,証拠収集を容易にして違反行為の摘発を促進するものであるが,この制度により,一刻も早い申請を促してカルテルの崩壊を早めたり,カルテルの締結自体を困難にしたりするなど,摘発率の向上による違反行為の抑止効果を発揮させることなども意図されて,平成17年の独占禁止法の改正により導入されたものである。
独占禁止法上の課徴金減免制度は,予め定められた基準に従い非裁量的に適用される取引的要素のない制度であり,被疑者が特定の情報提供等を行う見返りとして取引的に処分が軽減されるものではない。また,証拠収集の容易化と抑止効果の発揮を目的とする行政上の措置であって,被告に対して協力的な態度をとったなどの違反事業者の情状を考慮するものではない。
減免の対象となるのは,不当な取引制限に該当し,課徴金納付命令の対象となる違反行為であり,減免が認められるのは,本件当時は(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成21年法律第51号)による改正前のもの),申請順位が3番目の事業者までであった。課徴金を納付すべき事業者が,「調査開始日」の前日までに,「単独で」「当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出」を行った場合は,失格事由に当たらない限り,第1位申請者は課徴金を全額免除され,第2位は50パーセント,第3位は30パーセントの減額がされる(独占禁止法7条の2第7項・8項)。ここにいう「調査開始日」とは,立会調査(同法47条1項4号),臨検・捜索・差押え(同法102条1項)が最初に行われた日などをいう。
減免の申請は単独で行わなければならず,報告書を提出して減免の申請を行った事業者は,「正当な理由なく,その旨を第三者に明らかにしてはならない」(「課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則」(以下「減免規則」という。)8条)とされているが,親会社や弁護士に報告することは正当な理由にあたると解されている。
申請を行うことを決定した事業者は,まず,違反行為の概要を記載した「様式第1号による報告書」を提出して,被告から当該報告書の提出順位及び「様式第2号による報告書」の提出期限の通知を受ける。次いで,当該期間内に,「様式第2号による報告書」による報告及び資料の提出を行う。ここで求められるのは,「違反行為に関与した個人が知っていた情報を含め,違反行為者であれば知り得る情報」の提出であり,したがって,事業者は,違反行為に関係した個人に対する詳細な聞き取り調査を行い,関連するすべての文書や記録を収集して精査するなど,可能な限り包括的で実効性のある社内調査を行い,これに基づいて報告・資料の提出を行わなければならないとされている。課徴金減免制度における事業者から被告への報告は,その時点で公表されることはないが,企業の代表者名をもって行われる公式の行為であり,企業内部の意思決定が必要である。
減免の申請が行われた後,被告は申請事業者に対し,当該違反行為に係る追加の報告・資料の提出を求めることができ,この報告要求に応じなかった事業者は減免を受ける資格を失う(独占禁止法7条の2第11項,12項2号)。また,申請時に報告・提出した資料に「虚偽の内容が含まれていた」場合,又は,追加の報告要求に対して「虚偽の報告若しくは資料の提出をした」場合には,減免を受ける資格を失う。
減免の申請をして調査に協力した事業者は,失格事由に該当しない限り,排除措置命令及び課徴金納付命令に際して,免除又は減額の処分がなされる。免除の場合には,他の違反行為者に対して課徴金納付命令をする際に,当該事業者に対し納付を命じない旨の通知がなされ,減額の場合には,所定の額を控除した課徴金納付命令がなされる。独占禁止法7条の2第12項の欠格事由は,免除の通知ないし減額された納付命令がなされるまでの間に判明したものに限定されているから,被告は,事後にこれを取り消すことはできない。
調査開始日前の1番目に減免の申請を行った事業者で,失格事由に該当しない者に対しては,被告による刑事告発は行われない。当該事業者の役員,従業員等についても基本的には同様であり,事業者として調査に協力しているにもかかわらず,個人として協力を拒否しているなどの事情がない限り,告発されることはない(告発・犯則調査方針1⑵)。
(ウ) 課徴金減免申請者の従業員の供述の信用性評価
以上によれば,事業者にとって課徴金減免申請を行うことは,それによって課徴金の減免の利益を受けられる可能性がある反面,違法行為に関与したことを自ら認めることにより,刑事責任や民事責任を追求される可能性のみならず,取引先や株主その他のステークホルダーからの厳しい批判に曝され,企業としての社会的信用を大きく失墜させる恐れもあることは容易に想像されるところである。しかも,課徴金減免制度の申請手続は既に述べたとおりであり,課徴金減免を申請する事業者は,コンプライアンス部門が関与するなどして,弁護士の援助等も受けて,違反行為に関係した個人に対する詳細な聞き取り調査を行い,関連するすべての文書や記録を収集して精査するなどして,可能な限り包括的で実効性のある社内調査を行い,これらを踏まえて,正式な社内決裁を経て,代表者名で申請を行うものであることからすると,事業者が真に違法行為に関与していないにも関わらず,あえてこれを認めて課徴金減免申請を行い,あるいは,疑わしい行為があればとにかく課徴金減免申請をしておくということは,通常は考え難いことである。
原告は,課徴金減免申請者は単なる情報交換であってもそれをカルテルとして供述する危険があるとか,課徴金減免申請者やその従業員は,首尾良く独占禁止法違反が認定されれば自らの免責が約束される立場にあるから,独占禁止法違反を構成する「ストーリー」に沿った供述を行う強いインセンティブを有していると主張する。しかしながら,既に見たように,課徴金減免制度は,予め定められた基準に従い非裁量的に適用される取引的要素のない制度であって,被疑者が特定の情報提供等を行う見返りとして取引的に処分が軽減されるものではなく,被告に対して協力的な態度をとったなどの違反事業者の情状を考慮する余地のないものであり,さらに虚偽申告に対しては課徴金減免が認められないことからして,課徴金減免申請者及びその従業員が,自らの関与を超えて被告の調査に迎合すべき理由は乏しいというべきである。また,そもそもカルテルの合意が存在しないのであれば,課徴金を納付する必要もないのであるから,事業者において,カルテルの合意が存在しないにもかかわらず,これが存在すると虚偽の申告をする合理的な理由は想定し難いし,その従業員が客観的には存在していないカルテルの合意をこれが存在すると敢えて虚偽の供述を行うべき必要性も通常は見出し難い。カルテルの合意の成立のためには合意の相手方である他社の存在が必要であるところ,仮にカルテルの範囲を拡大して無関係な第三者を巻き込んだところで,課徴金の減免が受けられるかどうかは,減免の申請順位次第であり,また,これによって課される課徴金の多寡には影響がないことから,刑事事件で見られるとされるように,犯罪者が自らの刑責を軽減するために虚偽の供述をして,本来は無関係な第三者を共犯として巻き込むという構造は見出し難い。
本件においては,被告によるガスポリエチレンパイプに関する立ち入りが平成18年11月14日に行われたことを契機に,クボタシーアイは,親会社クボタのコンプライアンス部門の意向があり,《A3》社長の指示により,社内において,カルテルの実施の有無についての調査が実施され,同月末までには本件合意に係るカルテルの実態が《A3》社長に報告されていたこと,上記の調査にあたっては,クボタシーアイの《A1》や《A2》もこれに協力してカルテルに関する事実を述べたこと,クボタシーアイの《A1》としては,業界仁義の絡みもあり,クボタシーアイが課徴金減免手続をとることには消極的な意向であったが,新設間もないクボタシーアイを守るためには課徴金減免手続を申請するしかないと説得されて納得し,親会社クボタの判断もあって,クボタシーアイは,平成19年1月頃,課徴金減免手続を申請したことがそれぞれ認められるのであって(査第154号証,《クボタシーアイのA1》及び《クボタシーアイのA2》の各参考人審尋速記録),以上の事実によれば,クボタ及びクボタシーアイは,社内において,本件合意に関する必要な調査を行い,少なくともクボタ及びクボタシーアイの社内においては,本件合意の存在が確認されたことから,課徴金減免手続を申請したものと認められる。
以上によれば,課徴金減免申請者の従業員の供述の信用性の判断にあたっては,それが不利益事実の自認を含む点に目を奪われて全体の信用性を過大評価すべきでないものの,カルテル合意の存在について虚偽の供述がなされる強い動機が存在するものとして,類型的に信用性の低いものとみることも相当ではなく,一般的な供述証拠の信用性の評価手法に従って判断すべきものというべきである。
なお,第1位申請者は課徴金を全額免除されるが,第2位申請者は50パーセント,第3位申請者は30パーセントの減額しかされないことからすると,カルテル参加の核心部分が真実であると判断して課徴金減免申請をしようとする事業者はできるだけ速やかに申請を行う必要があるし,正当な理由なく申請の事実を第三者に明らかにしてはならないとされているのであるから,申請手続をした事業者の従業員の当初の供述は,自社の資料等にのみに基づいてなされることになるため,その後,他の事業者等への調査が進むにつれて客観的証拠が集積され,これらを踏まえて,その供述内容が再検討され記憶違いが正されるなどして,その供述内容の細部について改められることは十分想定されるところであり(《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録),かかる事態は,単独の申請を原則とする課徴金減免制度下においては当然生じうることといえ,かかる供述内容の細部の変更のみを捉えて当該従業員の供述の全体の信用性を否定することは相当ではない。
この点に関連して,クボタ及びクボタシーアイの《A1》並びにクボタシーアイの《A2》の供述に臨検捜索の前後で変遷がみられる部分もあるが,クボタの《A1》らの供述は,数年前の出来事に関するものであるし,臨検捜索前のそれはクボタ及びクボタシーアイ社内の資料等を前提に供述されたものであるが(《A1》は自らの手帳は年度が終わると処分してしまっていたと述べている。(《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録)),臨検捜索後は,原告らから収集された客観的証拠等を踏まえ,被告からの指摘を受けて,改めて記憶を呼び戻すなどして供述されたものである(クボタ及びクボタシーアイの《A1》は,押収記録を見ながら5W1H等の確認を行った旨参考人審尋で述べている。)。そうすると,クボタ及びクボタシーアイの《A1》並びにクボタシーアイの《A2》の供述内容が細部について臨検捜索の前後で変遷がみられるとしても,そのことによって直ちに同人らの供述の信用性を否定することは相当ではないというべきである。
イ クボタ及びクボタシーアイの《A1》並びにクボタシーアイの《A2》の供述の信用性について
(ア) 上記アに述べたところより,クボタ及びクボタシーアイの《A1》並びにクボタシーアイの《A2》の供述の信用性を検討するに,これら供述は,値上げに係る本件合意が存在したとする事実関係の基本的部分について,審査段階から参考人審尋に至るまで一貫しているところ,既に認定した事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,一連の値上げの経過について以下の各事実を認めることができる。
a 本件各値上げに先立ち,市況の変化等により塩化ビニル管の原材料である塩化ビニル樹脂メーカーによる価格引き上げが一斉に行われ,また価格決定方式も後決め方式から先決め方式に移行したことから,塩化ビニル管メーカーは原料価格の上昇分を価格転嫁する必要に迫られていたところ,塩化ビニル管等はほとんどが規格品であるため商品差別化が図りにくく,価格競争に曝されていたことから,塩化ビニル管メーカーが単独で価格を引き上げることは困難な状況にあった。
b 本件各値上げに先立ち5社ないし3社は,会合を設けるなどして,以下のとおり,値上げの内容及び時期について情報交換を行い,また,他のメーカーに対して値上げの情報を提供し,あるいは値上げを働きかけていた。
(a) 第1次値上げ
ⅰ 原告の《B1》,三菱樹脂の《C1》及びクボタシーアイの《A1》は,平成16年1月21日,クボタ東京本社において3社会合を持ち,原告の《B1》,三菱樹脂の《C1》,クボタの《A1》,シーアイ化成の《E》及びアロン化成の《D1》は,同月27日,飲食店「《F》」において,5社会合を持った。
ⅱ 原告の環境・ライフラインカンパニー東京支店プラント資材営業所所長の《B5》(以下「《B5》」という。)の平成16年度版の手帳(査第19号証)には,「給排水全国所長会議(1/14 《建物名の記載》8F)」として「①《原告のB1の姓の記載》事業部長」,「値上げについては後述 各メーカーと協議中」,「⑩値上げについて」,「4/1出荷分よりパイプ15% 継手10%」,「セキスイ2/1に発表 Kも発表する予定 2末で旧値を打ち切りたい」,「1番手はセキスイで考えている」,「アライアンスで締めているが,AR,SPへのトップへ具申」との記載があり,平成16年1月14日の時点で,原告が値上げについて各メーカーと協議中であり,関係者がアロン化成や《H》のトップへも働きかけを行う予定であったことが認められる。
なお,《B5》は,会議の内容等を詳細に記録していることが原告社内では有名であり,平成19年8月20日頃,上司である原告の東京支店管工機材営業部部長《B6》から,被告の原告に対する塩化ビニル管カルテルに関する立ち入り調査(平成19年7月10日)後,《B5》が出席した打合せ等の内容を詳細に記録していた手帳を処分するよう指示されたが,これまで詳細に記録を残してきた上記手帳を廃棄する決心がつかず,《B6》に対しては廃棄したと伝える一方,被告の差し押さえを免れるために,《略》市の実家に上記手帳を送付していたものである。(査第88号証,第89号証)
ⅲ 原告の《B2》の手帳の平成16年1月26日の週の右頁のメモ欄(査第161号証の4)には,
「3/1契約
パイプ 15-20 VU100 950
ツ 10 SRA200 4000 146/K
化 10 150 2400 145/K
Hi 270K
プレス 2/4 K2/9 」
との記載があり,この頃,原告とクボタとの間で,値上げの公表の時期及び3管種の二次店価格を含む値上げの内容について情報交換がなされていたことが認められる。
ⅳ 《J》の《J1》が作成した平成16年2月3日付けの同社社長及び専務宛の事業報告書(査第44号証)には,
「 積水との打合せ(1月30日)
製品値上げの発表 2月4日 記者発表→上げ幅 パイプ
15~20% 継手 10~15% 2月末受注分まで
他社状況 他大手もSに追随(K9日 M12日)MSは2月20日以降新値 SP,ARも歩調を合わせる模様」
との記載があり,原告において,平成16年1月30日時点で,クボタ及び三菱樹脂と値上げの内容や発表時期について情報交換を行っていたこと,《H》,アロン化成,《I》が値上げの動きに同調するとの情報を有していたことが認められる。
ⅴ 原告の《B3》常務及び《B1》,クボタの《A1》並びに三菱樹脂の《C1》は,平成16年2月3日頃,《I》を訪問し,同社の《I1》社長らに対して値上げへの協力を要請した。
(b) 第2次値上げ
ⅰ 原告の《B1》及び《B2》,クボタの《A1》,三菱樹脂の《C1》,アロン化成の《D2》,シーアイ化成の《E》は,平成16年8月25日,飲食店「《G》」で5社会合を持った。
ⅱ 《J》の《J1》の平成16年8月31日付けの同社社長及び専務宛の事業報告書には,「製品値上げ」,「9月7~8日 大手値上げの発表予定,時期10月1日,上げ幅パイプ10% 継手8% 当社は大手発表の翌週に通知予定 時期が大手より1週間から10日遅れ 上げ幅追随」との記載があり,同人の供述と合わせると,原告の《B1》が平成16年8月24日から31日までの間に《J1》に対して,大手の値上げの情報を提供し,値上げへの協力を要請したこと,その前提として,原告が大手メーカーと値上げの内容や発表の時期について情報交換していたことが認められる。
ⅲ クボタの《A1》は第2次値上げの発表前に,《I》を訪問し,同社の常務取締役営業本部長であった《I2》(以下「《I》の《I2》」という。)に対して,3社の値上げ率,値上げの実施日,値上げの公表日,3管種の最低目標価格を伝え,値上げへの協力を求めた(査第163号証)。
(c) 第3次値上げ
ⅰ クボタシーアイの《A1》,原告の《B2》及び三菱樹脂の《C2》は,平成17年8月25日,クボタシーアイの会議室において,3社会合を持った。
原告の《B2》の手帳の同年8月22日の週の欄の右頁のメモ欄(査第34号証)には,
「 パ ツ
S 8 5 10/1 9/1
KC 10 6 10/11 9/29
M 10 6 10/1 9/7
8 4
2次
1100 1200 Not900
4500 4800 5300
2800 3200 3600 」
との記載があり,原告,クボタ及び三菱の塩化ビニル管及び塩化ビニル管継手の値上げ率,実施日,発表日,さらには二次店価格と解される記載であり,この頃,3社の間で,値上げの内容及び発表時期等について情報交換がなされていたことが認められる。
ⅱ 《J》の《J1》が平成17年8月30日付けで作成した同社社長及び専務宛の事業報告書(査第44号証)に添付された「積水化学工業株式会社打合せ議事録」には,平成17年8月29日に原告の《B2》が《J》を訪問し,《J1》及び《J2》と面談した打ち合わせ内容として,「積水としては,10月3日出荷分から,8~10%値上げという文書を出す。新聞発表は9月8日にします。継ぎ手,接着剤は5%の値上げです。」,「クボタシーアイは,10月11日に出荷分よりの値上げで,率はパイプ10%,継ぎ手6%で,9月7日に新聞発表する予定と聞いています。三菱も,10月1日実施予定」,「営業員に対する全体会議を,Sは9月1日,KCは8月29日に開催します。価格は,VU100で1200円,SRA200で4800円,SRA150で3200円です。」との記載があり,これによれば,この頃,原告,クボタシーアイ及び三菱で,値上げの内容及び発表時期について情報交換を行っていたことが認められる。
ⅲ クボタシーアイの《A1》は,第3次値上げの発表前に《I》を訪問し,《I2》に対して,3社の値上げ率,値上げの実施日,値上げの公表日,3管種の最低目標価格を伝え,値上げへの協力を求めた(査第163号証)。
(d) 第4次値上げ
ⅰ 原告の《B2》とクボタシーアイの《A2》は,平成18年5月8日 午後5時頃,原告の東京本社会議室において面談した(査第160号証の3,審A第63号証)
原告の《B2》の手帳の平成18年5月8日の欄には,「17KC」と,その右頁のメモ欄には,「KC ② S手離」 「200 4800 4500」 「250 3500 3800 3000」 「3200 3500 1200」 「100」 「上→上25円」と記載した上で消去した痕跡が認められ(査第38号証,第39号証),「17KC」は同月8日午後5時にクボタシーアイに関する予定があったこと,また,その他の記載については,原告の《B2》とクボタシーアイの《A2》との間で,二次店価格についての値上げの内容についての情報交換がなされたことが認められる(査第38号証,第39号証)。
ⅱ さらに,同手帳の同月13日欄及び14日欄にかけて,「KC6/21」 「発 パ 15 ツ 10」と記載した後に消去した痕跡が認められるところ,これは,次に(ⅲ)で述べるところに照らして,クボタシーアイが同年6月21日出荷分から,塩化ビニル管15%,塩化ビニル管継手10%の値上げをする趣旨に解され,原告の《B2》がクボタシーアイの値上げに関する情報を入手していたことが認められる(査第38号証,第39号証)。
ⅲ 原告の《B2》が,平成18年5月12日に発出した電子メールには,クボタシーアイが同月15日に課長会議を行うこと,同月25日又は同月26日に値上げを公表すること,値上げは同年6月21日出荷分から実施されること,値上げ幅は10ないし15%であることが記載されており,原告の《B2》が,この頃,クボタシーアイの値上げ内容及び発表時期に関する情報を得ていたことが認められる(査第40号証)。
ⅳ 《J》の《J1》及び《J2》は,平成18年5月11日に原告東京本社を訪れ,原告の《B2》と打合せを行ったが,同人らの作成した打合せ議事録には,《B2》の発言として,「今回の値上げを早くしたいと言っている。積水もそのことに追従していこうとしている。」「4次値上げはKCIが先頭に立ち,S,Mが同様に行動を起こせば成功すると思います。」との記載があり,第4次値上げは,クボタシーアイが値上げを急いでおり,同社が値上げを行い,これに原告と三菱樹脂が追随する形で検討されていることがうかがわれる記載がある(査第81号証)
c 第1次値上げから第4次値上げに関して,5社ないし3社は,1週間からか2週間程度の間に,相次いで,内容をほぼ同じくする値上げを公表し,各地区の担当者に値上げを指示し,各地区の担当者は,他の塩化ビニルメーカーの地区の担当者と会合を持つなどして,地区ごとに管種別の最低目標価格であるガイドを決定し,販売店に対して足並みを揃えて値上げ交渉を行い,値上げを実施に移した。
(イ) 各値上げの経過について上記に認定した各事実はそれ自体として,《A1》及び《A2》の各供述を裏付ける客観的事実であるとともに,これらの事実からうかがえる①塩化ビニル管の原材料の数次に及ぶ値上げがなされ,その都度,塩化ビニル管メーカーは,原料コストの上昇分を価格転嫁する必要に迫られたが,塩化ビニル管等は規格品であることから価格競争に曝され,塩化ビニル管メーカー単独では製品価格を引き上げることが困難な状況にあったこと,②各値上げに先立ち5社ないし3社は,値上げの内容及び公表時期に関する詳細な情報交換を行い,さらに他社に対しても,値上げに関する情報を提供し,あるいは値上げへの協力を働きかけていること,③5社ないし3社は近接する時期に相次いでほぼ内容を同じくする値上げを公表し,各地区において足並みを揃えて実施に移していること,④このような値上げのパターンが2年数か月の間に4回も繰り返されていることは,相互拘束性のある本件合意の存在を推認させる事情というべきであって,本件合意が存在したとする《A1》及び《A2》の供述の信用性を高めるものといえる。なお,原告は,値上げの公表前に,値上げ金額及び値上げ実施日を他社に連絡することは人事異動情報の提供と同様にサラリーマン仁義ともいうべきビジネスマンの基本であり,《B2》が行っていたのは単なる値上げに関する情報交換にすぎず,カルテルの合意ではないと主張し,原告の《B2》の参考人審尋における供述にはこれに沿う部分がある。しかしながら,企業にとって,自社の製品の値上げ幅,値上げの実施日及び値上げの公表日は営業戦略上の重要機密であって,これらの詳細をライバル企業間でお互いに情報提供し合うことは,値上げについて共同歩調をとる目的以外の目的は通常は考え難いというべきであって,現に,情報提供から間を置かずに,同じタイミングで,ほぼ同内容の値上げが行われていることに照らしても,原告の《B2》の供述は信用できず,原告の主張は採用できない。
以上に加えて,前記事業報告書(査第44号証)及び打合せ議事録(査第81号証)を作成した《J》の《J1》は,第1次値上げから第4次値上げの都度,これに先立ち原告の《B1》あるいは《B2》から大手メーカーの値上げの合意内容について説明を受け,値上げへの協力要請と受け止めて,これに追随したと供述し,また,《I》の《I2》は,原告,クボタ,三菱樹脂の大手三社が主導する中央と地区からなる価格カルテルの仕組み及び第1次値上げないし第4次値上げが大手三社の中央の担当者から大手三社が取り決めた値上げ内容を聞いて実施したものであると供述しているところ,《A1》及び《A2》の供述は,《J1》及び《I2》の供述とも,基本的事実関係において整合するものである。
以上に検討したところによれば,各値上げに係る本件合意が存在したとする《A1》及び《A2》の供述は信用できるというべきである。
ウ 原告の主張の検討
(ア) 値上げの公表内容が合意内容と異なるとの主張について
原告は,各値上げについて,《A1》ないし《A2》の供述する値上げの合意内容と各社の値上げの公表内容とが異なることから,各値上げに係る合意があったとする《A1》ないし《A2》の供述は信用できないか,あるいは仮に合意があったとしても相互拘束性のあるようなものではなかったと主張する。
そこで検討するに,既に述べたところによれば,各社の値上げの公表内容は,第1次値上げにおいては,5社のうち,三菱樹脂のみが実施時期を平成16年3月1日受注分ではなく,同月15日出荷分とし,シーアイ化成のみが値上げ幅を塩化ビニル管継手について他社よりも5%高い15%以上とし,第2次値上げにおいては,5社のうち,クボタのみが値上げ幅を他社よりも2%高い12%以上とし,シーアイ化成のみが実施時期を平成16年10月1日出荷分からではなく,同日受注分からとし,第3次値上げにおいては,3社のうち,原告のみが平成17年10月11日出荷分からではなく同月3日出荷分からとし,値上げ幅も,塩化ビニル管,塩化ビニル管継手の順に,クボタシーアイが10%以上,6%以上,原告が8ないし10%,5%,三菱樹脂が10%以上,平均6%以上であり,さらに第4次値上げにおいては,実施時期,塩化ビニル管及び塩化ビニル管継手の値上げ幅の順に,クボタシーアイは,平成18年6月21日出荷分,15%以上,10%以上,原告は,同年7月3日出荷分,12%,8%,三菱樹脂は,同月10日出荷分,平均12ないし15%以上,平均8%以上となっており,各社の発表内容に若干の差が認められる。
しかしながら,各値上げ幅についてみると,第1次値上げから第3次値上げの合意は,最低値上げ幅を合意するものであり,第3次値上げにおいては,最低値上げ幅に2%程度の差が出ることは許容する合意であったと《A1》は供述しており,さらに第4次値上げは,3社が具体的値上げ幅を合意するものではなく,クボタシーアイの方針に沿って出荷価格を引き上げることを合意したもので,塩化ビニル管については概ね12%以上,塩化ビニル管継手については概ね8%以上とすることが想定されていたと《A2》は供述しているのであり,各社の値上げ幅についての公表内容は,《A1》及び《A2》の供述と矛盾するものではない。さらに,塩化ビニル管等の値上げについては,本社レベルで値上げ率と実施時期及び3管種の二次店価格の最低目標価格を合意した後,各地区の営業担当者が他のメーカーの地区担当者と地区ごとの管種別の最低目標価格であるガイドを取り決め,これに基づいて販売店との値上げ交渉を行う形で実施されていたのであり,本社レベルでの合意は値上げの大枠を定めるものであったとみることができ,各社の発表する値上げ幅や実施時期に若干の差があったとしても,そのことから直ちに値上げについての合意が存在しなかったこととはならないし,また,値上げの合意が相互拘束性を欠くことともならないというべきである。したがって,原告の主張は失当である。
(イ) 原告の値上げは合意によらずに独自に行ったものであるとの主張
原告は第1次値上げから第3次値上げに係る合意がなされたとされる会合よりも前に自社独自の判断で値上げの方針を決定し,実施したものであって,他の事業者から何らの拘束を受けたものではないと主張する。
しかしながら,仮に原告が主張する時期に原告が独自の判断で値上げの方針を決定したとしても,既に述べたとおり(第3.2.⑴.ア.(ア).C等参照),原告としては他のメーカーと値上げの共同歩調をとることに実益を有したことは否定し難いところ,原告は,値上げの実施に至るまでの間に,5社ないし3社の間で値上げの内容及び実施時期について情報交換を行い,5社ないし3社が同じタイミングでほぼ同内容の値上げを公表したことは既に認定したとおりであり,原告においてかかる情報交換を行ったことについて何らの合理的説明もなされていないこと,さらに既に述べたように各値上げについての合意の存在を裏付ける多数の証拠が存在することに鑑みると,仮に原告の主張するとおり5社ないし3社の会合に先立ち原告が値上げを正式に決定していたとしても,原告が各値上げについて5社ないし3社と合意形成を行ったとの認定を左右するものではない。
(ウ) アロン化成の平成17年4月以降の会合不参加に関する主張
原告は,アロン化成が平成17年4月以降,会合に参加しなくなったということは,第1次値上げ及び第2次値上げに係る合意の相互拘束性がなかったことを示す事実であると主張する。
しかしながら,既に認定したとおり,平成17年4月以降,アロン化成が従前の5社会合に参加しなくなったのは,同年4月1日にクボタシーアイの設立によりシーアイ化成がクボタに統合され,3社による会合は事実上4社による会合となっていたことから,改めてアロン化成を加えて開催するまでもなくなったとの事情によるものであり,これをもって第1次値上げ及び第2次値上げに係る合意が相互拘束性をもつものではなかったとか,あるいはこれを失ったとはいえない。また,クボタシーアイの《A1》は,第3次値上げにおいても,個別にアロン化成の《D2》に値上げの協力を要請し,同社もこれに応じていたのであって,3社を中心として他のメーカーの協力を得て値上げを実施するという枠組自体に変更は生じていないことから,《A1》がアロン化成を会合に参加させないという取り決めを自社内に報告していなかったとしても不自然ではなく,この点を指摘して《A1》の供述には信用性がないとする原告の主張も失当である。
(エ) 第1次値上げに関する主張について
a 平成16年1月20日のクボタの《A1》の電子メール(査第15号証[資料3])に関する主張
原告は,クボタの《A1》の平成16年1月21日の3社会合において3管種の二次店価格を含む第1次値上げが合意されたとの供述は,《A1》がその前日に各地区の営業責任者に対して3管種の目標とする二次店価格についての意見を同月23日までに提出するよう求める上記メールを発出していることと矛盾するし,上記メールはカルテルを隠蔽するためのダミーメールであるとの同人の供述は不合理であると主張する。
しかしながら,クボタの《A1》は,平成16年になる頃から,原告の《B1》及び三菱樹脂の《C1》と何度か個別又はそろって話し合うなどして第1次値上げの内容をとりまとめていったと供述しているところ,この供述は既に述べた《B5》の手帳に同年1月14日の給排水全国所長会議において原告の《B1》から値上げについては各メーカーと協議中との説明がされた旨の記載とも整合し,上記メールの内容から直ちに同年1月21日の時点でクボタの《A1》が3社の合意を形成するに足りる材料を有していなかったとはいえない。原告は,クボタの《A1》は第2次値上げ及び第3次値上げの際はダミーメールを発出していないのであるから,第1次値上げのときだけダミーメールを発出したとの同人の供述は不合理で信用できないと主張するが,《A1》は,第2次値上げ及び第3次値上げの際は慣れなどもあってダミーメールを発出しなかったと供述しており,これをもってあながち不合理であるとはいえない。
b 平成16年1月中旬のアロン化成への訪問に関する主張
原告は,平成16年1月中旬にアロン化成のトップに原告とクボタの担当者が値上げへの協力を要請に行ったとの供述は,3社が値上げを決定したのは同月21日頃であるから時系列的に矛盾するし,さらに出張旅費精算明細表(査第15号証資料1)の出張目的にOEM打合せと記載されていることとも矛盾すると主張する。
しかしながら,上記のとおり3社は平成16年になる頃から第1次値上げの協議を行っていたのであり,また,既に述べたとおり,《B5》の手帳には平成16年1月14日の給排水全国所長会議においてアロン化成や《H》のトップへの働きかけを予定しているとの説明がなされたことをうかがわせる記載がされていることに照らし,原告の主張は採用できない。また,出張旅費精算明細表の出張目的の記載についても,《A1》はカルテルが発覚するような値上げの要請などと書けないので,OEM打合せと虚偽の目的を記載していたと供述していることに照らして,同人の供述と矛盾するものではない。
c 平成16年1月21日の3社会合以前の情報交換に関する主張
原告は,平成16年1月21日の3社会合以前から3社で値上げについての情報交換が行われていたとの《A1》の供述は,極めて曖昧で漠然としており信用できないと主張するが,既に述べたとおり《B5》の手帳の記載に照らして採用することはできない。
d 平成16年1月21日の3社会合に関する主張
原告は,上記会合に関する《A1》の供述は,会合の開催場所等について変遷がみられ信用できないと主張する。
しかしながら,会合の開催場所の変遷を重大視すべきでないことは,ア(ウ)において既に述べたとおりであり,《A1》の上記会合に関する供述は核心部分について変遷があるとは認め難く,原告の主張は採用できない。
e 平成16年1月23日の《H》《H1》副社長との面談に関する主張
原告は上記に関する《A1》の供述が臨検捜索の前後において変遷しているから信用できないと主張するが,必ずしも変遷があるとは認められず,また,原告らにより《H》のトップへの働きかけが行われたことは,前記《B5》の手帳の記載や《J1》の平成16年2月3日付けの事業報告書の記載によっても裏付けられているところであり,原告の主張は採用できない。
f 平成16年2月3日の《I》への訪問に関する主張
原告は,《A1》の平成16年2月3日の出張旅費等精算明細表(査第15号証資料7)には,出張目的に特許実施許諾と記載されていることから,同日,原告の《B3》常務及び《B1》並びに三菱樹脂の《C1》とともに《I》を訪問し,同社の社長に値上げを要請したとの《A1》の供述は信用できないなどと主張する。しかし,出張旅費精算明細書の出張目的の記載をもって,《A1》の供述の信用性を否定できないことは上記bにおいて述べたとおりであり,他に上記に関する《A1》の供述の信用性を疑わせる事情はない。
(オ) 第2次値上げに関する主張について
原告は,平成16年8月下旬の3社の合意,同年8月25日の5社の合意及びアロン化成に対する事前の要請に関する《A1》の供述に臨検捜索前後で変遷がみられることなどから,《A1》の供述は信用できないと主張する。
しかしながら,供述内容が臨検捜索の前後で変遷しているからといって,原告が主張するように直ちに被告のストーリーに迎合した虚偽の供述がなされてとはいえないことはア(ウ)で述べたとおりであり,原告の主張する点は必ずしも変遷といえないか,変遷であるとしても記憶の誤りと解しうるものであって,これをもって《A1》の第2次値上げに係る合意がなされたとの供述自体に疑いを生じさせるものとはいえない。
(カ) 第3次値上げに関する主張について
a 平成17年7月22日の3社会合におけるアロン化成の中期経営計画に関するIR情報の提示についての主張
原告は,《A1》は上記会合において,アロン化成のホームページに掲載された中期経営計画に関するIR情報を見せられたと供述するが,その時点でアロン化成のホームページにはかかる情報は掲載されておらず,《A1》の供述は客観的事実に矛盾するから信用できないと主張する。
しかしながら,《A1》の供述は上記会合においてアロン化成のシェア拡大方針が問題とされたことについては供述内容が一貫しているところ,このことは,《J》の《J1》及び《J2》が同月21日に原告東京本社を訪れて原告の《B2》と打合せを行った際に,同人らが作成した打合せ議事録に,原告の《B2》の発言として,「他社との情報交換をKCI・Mと定期的に行い,ほぼ三社の間では局地的には問題点はあるが,大局は価格を維持していると認識している。今の懸念はARの動きで三社の認識は一致しています。」と記載されていることからも裏付けられ,《A1》のIR情報を見せられたとの供述は単なる記憶違いであり,これをもって同人の供述の信用性を損なうものとはいえない。
b 《A1》の供述自体の矛盾ないし変遷についての主張
原告は,平成17年7月22日の会合,同年8月17日の会合,同月25日の会合及び他の塩化ビニル管等メーカーへの連絡に関する《A1》の供述は,臨検捜索の前後で矛盾ないし変遷があり信用できないと主張する。
しかしながら,原告の指摘する点は,そもそも矛盾あるいは変遷に当たらないか,変遷に当たるとしても《A1》の供述の信用性に疑問を生じさせるようなものとはいえない。さらに,原告は,三菱樹脂は,平成17年8月29日の時点においても値上げ率を決定できない状況だったから,同月25日の会合で三菱樹脂の《C2》が同社の値上げ率を発言することは考えられないとして,この点に関する《A1》の供述は事実に反すると主張する。しかし,前記のとおり原告の《B2》の手帳にはこの頃における三菱樹脂の値上げ内容に関する記載があり,三菱樹脂が他社との協議の中で値上げ内容を決定することは可能であることから,原告の主張は《A1》の供述の信用性を損なうものではない。
(キ) 第4次値上げに関する主張について
a 《塩ビ管等業界団体》定時総会後の《A3》の言動に関する主張
原告は,仮に,平成18年5月22日頃に,原告の《B2》がクボタシーアイの《A2》に対し,原告の値上げの方針を伝えていたのなら,同月30日の上記総会後の懇親会において,クボタシーアイの《A3》社長が原告の《B2》に対して早く値上げするよう詰め寄るということは考え難いと主張し,原告の《B2》の供述には,《A3》社長から「塩ビ管値上げを早くしろ。さっさとせえ。おまえのところは大体値上げ幅が低いし」と罵倒されたとする部分(《原告のB2》参考人審尋速記録36頁)がある。
しかしながら,仮に第4次値上げに係る合意が存在していないならば,クボタシーアイの《A3》社長が,先頭に立って値上げを実施した同社に追随しない他社の対応に不満を持ち,競争会社の担当者を公の場で罵倒してまで競争会社の値上げ方針に介入するという挙に出ることはにわかに考え難いことであり,クボタシーアイの《A3》社長の言動は,第4次値上げの合意の存在を疑わせるものではなく,むしろ,その存在をうかがわせるものというべきである。
b 平成18年5月8日のクボタシーアイの《A2》と原告の《B2》の面談の設定経緯に関する主張
原告は,クボタシーアイの役員会において値上げ実施が決定された平成18年4月28日の夕方に原告の《B2》に電話をして,5月8日に東京で会う約束をしたとのクボタシーアイの《A2》の供述は,原告の《B2》が原告東京本社の応接室を予約したのが同年4月27日の午後5時7分であることなどに矛盾すると主張する。
しかしながら,原告が主張するように,4月27日の時点で既にクボタシーアイの《A2》との間で別件での面談を5月8日に実施することが予定されていたとしても,4月28日に《A2》が原告の《B2》に値上げの協議を行う予定であると連絡することは格別不自然なものではない。いずれにせよ,5月8日にクボタシーアイの《A2》と原告の《B2》が原告の東京本社で面談し値上げについて協議したことは,原告の《B2》の手帳の記載によって明らかであり(査第38号証,第39号証),原告の主張は,そもそも本件の帰趨に影響を与える主張ではない。
c 平成18年5月8日の面談における原告の《B2》の対応に関する主張
原告は,原告の《B2》が同日,原告の営業所長らに発信したメール(審A第64号証)には原告が同時点で塩化ビニル樹脂メーカーからの値上げを受諾していなかったことが示されており,原告給排水事業部の《B4》が同月16日に原告の購買部及び工場に発信したメール(審A第69号証)には塩化ビニル樹脂が値上げされそうな状況であるが原告の対応は未定であるとしているのであるから,上記5月8日の面談において原告の《B2》が,クボタシーアイと同じような時期に同じような値上げをすることに同意することはあり得ないことから,原告の《B2》が値上げに同意したとするクボタシーアイの《A2》の供述は客観的事実に反して信用できないと主張する。
しかしながら,原告の《B2》が発信した上記メールには,「まだ未定ではありますが,現状の原油価格,ナフサ価格に鑑みますと,かなり強気で強硬な申し入れがあると予想されます」,「今回 値上げを受け入れた場合,きっちり 取り幅を確保できるよう,準備願います」と記載されており,これによれば,原告の《B2》は,塩化ビニル樹脂の値上げを受け入れざるを得ない状況にあるとの認識を有していたことがうかがわれ,同日,第4次値上げに同意することがあり得ないとはいえない。
さらに,原告はクボタシーアイの《A2》は上記面談の場所について供述を変遷していることなどを指摘するが,同日の面談が原告東京本社において行われたこと自体は客観的証拠により裏付けられているところ,場所についての記憶の変遷をもって同人の供述全体の信用性を否定することはできない。
d 平成18年5月10日又は11日に変更後の値上げの内容等を原告の《B2》に伝えた際の同人の対応についての主張
原告は,平成18年5月10日又は11日に,クボタシーアイの《A2》が変更後の値上げの内容等を原告の《B2》に伝え,同人の了解を得たとのクボタシーアイの《A2》の供述は,原告における塩化ビニル樹脂メーカーからの値上げ要請に対する対応状況に反して信用できないと主張する。
しかしながら,上記cで述べた点及び《J》の《J1》らが原告の《B2》との同月11日の打合せの結果をまとめた打合せ議事録の記載(査第81号証)に照らして,原告の主張は採用できない。
e 平成18年5月11日のクボタシーアイの《A2》と三菱樹脂の《C2》との面談時の《C2》の対応に関する主張
原告は,クボタシーアイの《A2》は,平成18年5月11日に三菱樹脂の《C2》に面談し,クボタシーアイの値上げの実施時期,値上げの内容を伝えたところ,同人は三菱樹脂と足並みを揃えて値上げを実施することに同意したと供述するが,三菱樹脂は,同月1日時点では,仮に塩化ビニル樹脂メーカーから値上げ要請があっても,徹底抗戦の構えで臨む方針をとっており(審B第37号証),同月12日の時点では,塩化ビニル樹脂メーカーからの値上げ要請の受諾は決まっておらず(審B第38号証),三菱樹脂が最終的に塩化ビニル樹脂メーカーの値上げ要請を受諾し,塩化ビニル管等の値上げを決めたのは同年6月になってからである(審B第39号証)から,《C2》が同年5月11日にクボタシーアイと足並みを揃えて値上げを実施することに同意するはずはないと主張する。
しかしながら,審B第37号証の電子メールの記載からは,三菱樹脂において同年5月11日時点で塩化ビニル樹脂メーカーの値上げが避けられそうにもない状況にあることを前提として,第4次値上げを前提とした社内検討が行われていたことがうかがわれ,また,審B第38号証によれば,同月12日時点で値上げの時期,値上げ幅及び仮受の受付期限等を含む具体的な値上げ方針が検討されていることが認められることからすると,同月11日の時点で《C2》が第4次値上げについて合意することはあり得ないとはいえない。
f 平成18年5月15日のクボタシーアイの《A2》から原告の《B2》及び三菱樹脂の《C2》に対するSRA150の二次店価格の3800円から3500円の変更の連絡についての主張
原告は上記に関するクボタシーアイの《A2》の供述は,客観的裏付けを欠くと主張するが,《A2》がクボタシーアイの3管種の二次店価格等の値上げ方針を原告の《B2》に伝えていたことは原告の《B2》の手帳の記載(査第38号証,第39号証)により,クボタシーアイにおいてその後SRA150の二次店価格を3800円から3500円に変更する検討を行ったことは,クボタシーアイの《A2》が平成18年5月15日付けで作成した「価格改定SRAの考え方」(査第37号証[資料59]により,それぞれ裏付けられており,同人の供述は主要部分について客観的証拠の裏付けを有する。
また,原告は,SRA150の二次店価格が3500円と合意されたのであれば,より低く設定されるはずの手離れ価格について,同月24日に開催された三菱樹脂のブロック長会議の議事録において,手離れ価格3500円と記載されている(審B第40号証2)のは,クボタシーアイの《A2》の供述と矛盾するとも主張する。
しかし,第4次値上げに係る合意は,クボタシーアイの値上げ方針に沿って値上げすることを内容とするものであったと《A2》は供述しているのであり,原告の指摘はこれと矛盾するものではない。
(ク) 原告は,その他,クボタ及びクボタシーアイの《A1》並びにクボタシーアイの《A2》の各供述の微細な部分をとらえて,その信用性に疑問を投げかけているが,いずれも,供述の主要部分の信用性に疑いを生じさせるものではない。
⑶ 結論
前記認定の事実によれば,原告は,平成16年1月27日頃,三菱樹脂,クボタ,シーアイ化成及びアロン化成との間で塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げる旨の合意(第1次値上げに係る合意)をし,平成16年8月25日頃,三菱樹脂,クボタ,シーアイ化成及びアロン化成との間で塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げる旨の合意(第2次値上げに係る合意)をし,平成17年8月25日頃,三菱樹脂,クボタシーアイとの間で塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げる旨の合意(第3次値上げに係る合意)をし,平成18年5月11日頃,三菱樹脂,クボタシーアイとの間で塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げる旨の合意(第4次値上げに係る合意)をし,共同して相互にその事業活動を拘束し,一定の取引分野における競争を実質的に制限したものと認められる。
3 争点2について
⑴ 本件合意の対象となる商品について独占禁止法7条の2第1項にいう「当該商品」とは,違反行為である相互拘束にかかる合意の対象とされる商品をいい,違反行為の対象商品の範疇に属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解すべきである。そして,課徴金制度の趣旨及び課徴金の算定方法に照らせば,違反行為の対象商品の範疇に属する商品については,一定の商品につき,違反行為を行った事業者又は事業者団体が,明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど,当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,違反行為による拘束が及んでいるものとして,課徴金算定の対象となる「当該商品」に含まれ,違反行為者が,実行期間中に違反行為の対象商品の範疇に属する商品を引き渡して得た対価の額が,課徴金の算定の基礎となる売上額となると解すべきである。
本件において,第1次値上げ及び第2次値上げにおいては,原告,三菱樹脂,クボタ,アロン化成及びシーアイ化成の5社が,第3次値上げ及び第4次値上げにおいては,原告,三菱樹脂及びクボタシーアイの3社が値上げに関する合意を行ったものであるところ,前記認定したとおり,上記の3社又は5社は,本件合意に関する各話合いにおいて,値上げの対象となる塩化ビニル管等について特段の限定を付さずに話合いをし,特に対象商品を除外することなく値上げ方針を定めていたことが認められる。
したがって,塩化ビニル樹脂等を原料とする硬質ポリ塩化ビニル管及び硬質ポリ塩化ビニル管継手のうち,電線保護管等(電線共同溝等に設置される電線又は通信ケーブルを保護するために用いられるもの)は除外されていたものの(査第3号証,第107号証,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録,《クボタシーアイのA2》参考人審尋速記録),それ以外の塩化ビニル樹脂等を原料とする塩化ビニル管及び塩化ビニル管継手(すなわち塩化ビニル管等)は広く本件合意の対象となっていたと認められる。
⑵ 原告は,インサート継手について,「インサート継手の原料は,真鍮(銅合金)と塩ビ樹脂であり,その重量比は個々の製品によって異なるものの,平均すると銅合金がほぼ半分を占め,また,銅合金の単価は,塩ビ樹脂の単価の4倍以上である。このようにインサート継手は,銅合金を主たる原料とする継手であり,値上げを検討するに際しても,塩化ビニル管継手とは異なり,銅合金の価格が最も重要な考慮要素とされる。そのため,塩ビ樹脂が値上がりしたとしても,値上がり分を製品価格に転嫁する必要性は汎用の塩化ビニル管及び塩化ビニル管継手に比べて大幅に低かった。したがって,インサート継手が対象商品から除外されていることを示す特段の事情がある。」と主張する。しかしながら,インサート継手は,原材料のうち銅合金のコスト比が塩化ビニル樹脂に対して高いといっても,塩化ビニル樹脂等を原料とする塩化ビニル管継手であるから,塩化ビニル管等にあたり,本件違反行為の対象商品の範疇に属するところ,塩化ビニル樹脂の値上げがあれば,製品の販売価格を値上げする必要のあることは一般の塩化ビニル管等と同様であり,現に,第1次ないし第3次値上げの際に3社はインサート継手を値上げの対象としていたこと(査第92号証ないし第94号証,第128号証,第129号証,《クボタシーアイのA1》参考人審尋速記録,審B第59号証)に照らしてもインサート継手が本件合意から除外されている特段の事情があるとはいえない。
原告は,「原告及びクボタシーアイでは,インサート継手の値上げを,塩化ビニル管及び塩化ビニル管継手とは別個に検討していたという客観的事実が存在し,また,原告とクボタシーアイでは,インサート継手の値上げ幅も値上げ時期も全く異なるという客観的事実が存在する。これに対して,本件審決においてはインサート継手について原告とクボタシーアイまたは三菱樹脂との間で情報交換がなされたという事実さえ認定されていない。このように,インサート継手が本件合意の対象になっていないことは客観的事実から明らかである。」と主張する。しかしながら,塩化ビニル樹脂の値上がりを背景とした本件合意に基づく値上げの対象商品に,インサート継手が含まれていたことは,クボタ及びクボタシーアイの《A1》並びにクボタシーアイの《A2》がこれを肯定する供述をしており(各参考人審尋速記録,査第157号証),さらに既に述べたとおり,第1次値上げないし第3次値上げにあたり,3社はインサート継手を値上げの対象としていたのであるから,原告の主張は採用することができない。
原告は,第4次値上げにあたり,インサート継手の値上げについて,その値上げ幅(値上げ率)や値上げの実施時期が原告とクボタシーアイとでは異なると主張するが,原告が,インサート継手について,塩化ビニル樹脂の価格の値上がりという要因とともに,銅合金価格の値上がりという別の値上げ要因を加味して値上げを検討し,他の塩化ビニル管等に先立って値上げを実施したものにすぎず,塩化ビニル樹脂の値上がりに基因する本件合意及びこれに基づく塩化ビニル管等の値上げの実施と無関係に実施されたものとはいえないから,第4次値上げのみ,インサート継手の値上げにつき塩化ビニル樹脂の値上がり分を考慮しなかったと認めることはできない。銅合金の価格高騰分を含めて値上げ幅が定められた以上,他の塩化ビニル管継手の値上げ幅を大きく上回ることは当然のことであるし,これを含めた値上げ幅について原告とクボタシーアイとの間に差があったとしても,そのことをもって,本件合意とは無関係に係る値上げが実施されたとは認めることができない。
以上のとおりであって,本件では,インサート継手は本件違反行為の対象商品の範疇に属し,本件違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が存するとは認められないから,原告の主張は理由がない。
⑶ 原告は,インサート継手のほかにも,別表1の各商品は,本件違反行為の対象商品の範疇に属さないし,仮に対象商品の範疇に属するとしても,本件違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があると主張する。
しかしながら,インサート継手以外の別表1の各商品が,塩化ビニル樹脂等を原料とする塩化ビニル管及び塩化ビニル管継手であることを原告は審決段階から明らかに争うものではなく,また,これらの各商品には上記特段の事情を認めることもできないから,インサート継手以外の別表1の各商品についても独占禁止法7条の2第1項の「当該商品」にあたるものと認められる。
⑷ 以上によれば,争点2に関する原告の主張は理由がなく,独占禁止法7条の2第1項の「当該商品」に関する本件裁決の判断は実質的証拠に基づくもので理由があると認められる。
4 結論
⑴ 既に説示したように,原告は,他の事業者と共同して,塩化ビニル管等の出荷価格を引き上げる旨を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における塩化ビニル管等の販売分野における競争を実質的に制限したのであるから,これは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反する。本件違反行為は既に消滅してはいるが,違反行為が長期間にわたって行われており,原告ら塩化ビニル管メーカーは長年にわたり協調的関係を継続していたことや,原告らは自主的に本件違反行為をやめたものでないこと等の事情を総合的に勘案すれば,本件排除措置命令の時点においては,原告が本件違反行為と同様の違反行為を繰り返すおそれがあったと認められる。したがって,本件排除措置命令は適法であるから,原告の本件排除措置命令に係る審判請求は理由がなく,これを棄却した本件審決の取消しを求める本件請求は理由がない。
⑵ア 本件第1号課徴金納付命令についてみるに,前記のとおり,原告の前記違反行為が独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する商品の対価に係るものである。
そして,原告が,前記の違反行為の実行としての事業活動を行った日は,第1次値上げに係る合意に基づき原告が最初に出荷価格の引上げを実施することとした平成16年3月1日である。また,原告は,平成18年11月14日以降,当該違反行為を取りやめており,同月13日にその実行としての事業活動はなくなっている。したがって,原告については,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「平成17年改正法」という。)附則第5条第2項及び第3項の規定(平成21年法律第51号による改正前のもの)により変更して適用される独占禁止法第7条の2第1項の規定により,実行期間は,平成16年3月1日から平成18年11月13日までとなる。
前記の実行期間における塩化ビニル管等に係る原告の売上額は独占禁止法施行令第5条第1項の規定に基づき算定すべきところ,本件審決は,当該規定に基づき算定した原告の売上額について,前記の違反行為のうち平成17年改正法の施行日である平成18年1月4日(以下「平成17年改正法施行日」という。)前に係るものが594億6546万8699円であり,前記の違反行為のうち平成17年改正法施行日以後に係るものが293億1595万6452円と認定するところ,原告はこれを明らかには争わない。
また,原告は,独占禁止法第7条の2第6項第1号(平成21年法律第51号による改正前のもの)に該当する事業者であることも争わない。
イ 以上によれば,原告が国庫に納付すべき課徴金の額は,
① 前記の違反行為のうち平成17年改正法施行日前に係るものについては,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,前記594億6546万8699円に,平成17年改正法附則第5条第2項の規定(平成21年法律第51号による改正前のもの)によりなお従前の例によることとされる平成17年改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項に規定する売上額に乗ずる率である100分の6を乗じて得た額
② 前記の違反行為のうち平成17年改正法施行日以後に係るものについては,独占禁止法第7条の2第1項及び第6項(平成21年法律第51号による改正前のもの)の規定により,前記293億1595万6452円に100分の15を乗じて得た額
を合計した額から独占禁止法第7条の2第18項(平成21年法律第51号による改正前のもの)の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された79億6532万円である。
ウ したがって,原告に対してこれと同額の課徴金の納付を命じた本件第1号課徴金納付命令は適法であるから,原告の上記命令に係る審判請求は理由がなく,その取消しを求める原告の請求は理由がない。
⑶ 以上によれば,原告の請求は棄却すべきであり,主文のとおり判決する。
注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。
平成29年6月30日
裁判長裁判官 永野厚郎
裁判官 見米正
裁判官 三浦隆志
裁判官 中山雅之
裁判官 筈井卓矢
【別表1省略】