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独禁法3条後段・独禁法7条の2
東京高等裁判所
平成29年(行ケ)第15号
平成30年8月10日
山梨県甲州市塩山熊野1414番地1
原告 天川工業株式会社
同代表者代表取締役 《氏名》
山梨県甲州市塩山上粟生野1076番地
原告 岩波建設株式会社
同代表者代表取締役 《氏名》
山梨県甲州市塩山竹森3020番地
原告 株式会社タナベエンジニアリング
同代表者代表取締役 《氏名》
山梨県山梨市牧丘町窪平19番地
原告 株式会社甲斐建設
同代表者代表取締役 《氏名》
山梨県山梨市牧丘町城古寺358番地
原告 株式会社渡辺建設
同代表者代表取締役 《氏名》
山梨県山梨市三富下荻原387番地
原告 株式会社広瀬土木
同代表者代表取締役 《氏名》
山梨県山梨市小原西1274番地
原告 株式会社佐藤建設工業
同代表者代表取締役 《氏名》
山梨県山梨市下井尻480番地
原告 有限会社山梨技建
同代表者代表取締役 《氏名》
山梨県山梨市万力1147番地
原告 奥山建設株式会社
同代表者代表取締役 《氏名》
原告ら訴訟代理人弁護士 中村信雄
同 押久保 公人
同 田中 裕美子
同 友田 順
同 酒井奈緒
同 室之園 大介
同 横山雅明
同 田邉 幸太郎
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 横手哲二
同 榎本勤也
同 堤 優子
同 津田和孝
同 黒江 那津子
同 石谷直久
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
被告の原告らに対する平成23年(判)第11号,第12号,第16号,第17号,同25号,第27号ないし第29号排除措置命令審判事件及び第33号,第34号,第38号ないし第40号,第48号,第50号ないし第52号課徴金納付命令審判事件について,被告が平成29年6月15日にした審決(以下「本件審決」という。)をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
1 原告らを含む別紙2「事業者目録」記載の事業者ら23社(以下,各社を総称して「23社」といい,各社については,同別紙中の「事業者の呼称」により,その代表者については「代表者」又は「事業者代表者の略称」によって表記する。)が,遅くとも平成18年4月1日から平成22年3月23日までの間(以下「本件対象期間」という。),別紙3「7社目録」記載の7社(この7社と23社の合計30社について,以下「30社」という。なお,7社の各社については,以下,別紙3の「事業者の呼称」により表記する。)と共同し,山梨県が一般競争入札又は指名競争入札の方法により土木一式工事として発注する工事のうち,同県山梨市又は甲州市の区域を施工場所とする工事について,受注すべき者又は特定建設工事共同企業体(以下,両者を併せて「受注予定者」という。)を決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた価格で受注できるように協力する旨の合意(以下「本件合意」という。)の下に受注調整をしたことは,公共の利益に反して,本件対象工事を取引分野とする競争を実質的に制限しており,これは,平成25年法律第100号の附則2条により,なお従前の例によるとされた同法律による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)2条6項の不当な取引制限に当たり,同法3条に違反するものであるとともに,特に排除措置を命ずる必要があるとして,平成23年4月15日,被告が23社中の渡辺建設を除く22社(以下「22社」という。)に対して排除措置を命じ(平成23年(措)第1号。以下「本件排除措置命令」といい,同命令において認定された違反行為を「本件違反行為」という。),かつ,本件違反行為は,同法7条の2第1項1号の「役務の対価に係るもの」であるとして,同日,23社に対し,それぞれ課徴金の納付を命じた(平成23年(納)第21号ないし第43号。以下,23社に対する各課徴金納付命令を併せて「本件課徴金納付命令」といい,本件排除措置命令と併せて「本件各命令」という。)。
これに対し,原告らを含む23社が本件各命令の取消しを求める審判請求をしたところ(平成23年(判)第8号ないし第52号。同請求にかかる審判手続を「本件審判手続」という。),平成29年6月15日,被告は各審判請求を棄却する本件審決をした。
本件は,原告らが,被告に対し,本件審決のうち原告らに関する部分の取消しを求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実,本件審決が掲記の証拠により認定した事実で原告らも実質的な証拠の欠缼を主張していない事実)
⑴ 30社
30社は,いずれも山梨県山梨市又は甲州市(以下,両市の区域を併せて「塩山地区」という。)に本店を置く建設事業者である。
なお,30社のうち,峡東建設は,平成18年12月14日,有限会社峡東建設から,原告タナベエンジニアリングは,平成20年1月1日,田辺建設株式会社から,それぞれ商号を変更している(査2,3)。
⑵ 本件対象工事の概要
ア 発注業務の担当部署
山梨県では,同県が発注する土木一式工事について,本庁又は出先機関の各部署が,それぞれの所掌する事務に応じて発注業務を担当している。
本件対象期間中に発注された土木一式工事については,山梨県県土整備部(平成20年3月31日以前は土木部)道路整備課,同部道路管理課,同部峡東建設事務所,同部広瀬・琴川ダム管理事務所(平成20年3月31日以前は広瀬・琴川ダム事務所),同県農政部峡東農務事務所(以下「峡東農務事務所」という。),同県森林環境部峡東林務環境事務所(以下「峡東林務環境事務所」という。)等が発注業務を担当していた(査17ないし19)。
イ 入札参加資格者の等級区分及び名簿登載
山梨県は,本件対象期間において,同県が発注する土木一式工事の指名競争入札又は一般競争入札への参加を希望する事業者に対し,これらの入札に参加するために必要な資格の審査を行った上で,当該入札への参加資格を有すると認定した事業者を工事施工能力の審査結果に基づきA,B,C又はDのいずれかの等級に格付して(以下,A等級に格付されている事業者を「A等級事業者」といい,B等級に格付されている事業者を「B等級事業者」という。),入札参加有資格者名簿(以下「有資格者名簿」という。)に登載していた(査21,22)。
また,山梨県は,土木一式工事を予定価格に応じて区分し,個々の工事の発注に際しては,有資格者名簿に登載されている者のうち当該区分に対応した等級に格付されている事業者が入札参加資格を有する者とされていた。土木一式工事のうち予定価格がおおむね3億円以上の工事については,特定建設工事共同企業体(以下「JV」という。)の施工対象工事とされ,A等級事業者で構成されるJV(A等級事業者で構成することが難しい場合であって特に必要があると認められるときは,A等級事業者及びB等級事業者で構成されるJV)が入札参加資格を有する者とされていた(査21,23,24)。
30社は,本件対象期間(別紙4記載の事業者については,同表の「期間」欄記載の各期間)において,A等級事業者又はB等級事業者に格付されていた(査1)。
ウ 工事の発注方法
山梨県は,本件対象期間における,塩山地区を施工場所とする土木一式工事のうち,①A等級事業者のみ,②B等級事業者のみ,③A等級事業者及びB等級事業者のみ,又は④JVのみを入札の参加者とするもの(以下「本件対象工事」という。)について,指名競争入札又は一般競争入札の方法により発注していた。一般競争入札には,価格により落札者を決定する通常の一般競争入札と,価格に加え評価項目ごとの評価点を考慮する総合評価落札方式による一般競争入札があった。入札の執行はインターネット上のウェブサイトである山梨県公共事業ポータルサイト(以下「ポータルサイト」という。)の電子入札システム(以下「電子入札システム」という。)により行っていた(査18,23)。
本件対象期間における本件対象工事の具体的な発注方法は,以下のとおりである。
(ア) 指名競争入札
a 入札参加者
山梨県は,平成18年4月1日から平成19年3月31日までの間,予定価格が1億円未満の本件対象工事の一部について,指名競争入札の方法により発注し,そのほとんど全てにおいて,塩山地区に本店を置くA等級事業者又はB等級事業者の中から当該入札の参加者を指名していた(査18,21,25)。
b 入札の実施方法
山梨県は,指名競争入札の方法により発注する場合,有資格者名簿において当該入札の予定価格の区分に対応する等級に格付されている事業者の中から原則として6社ないし10社を指名事業者として選定し,当該事業者に対し,入札書提出締切日の約15日前までに,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した指名通知書を送付することにより指名していた。
指名を受けた事業者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた(査21,26,27)。
(イ) 一般競争入札
a 入札参加者
山梨県は,本件対象期間における本件対象工事について,指名競争入札の方法によらない場合は一般競争入札の方法により発注し,その大部分において,塩山地区又は山梨県笛吹市(平成18年7月31日までの間は笛吹市又は東八代郡芦川村。以下同じ。)の区域(以下,笛吹市の区域を「石和地区」といい,塩山地区と石和地区を併せて「峡東地域」という。)に本店を置くA等級事業者又はB等級事業者であることを入札参加の条件として,公告により入札参加希望者を募り,入札への参加を申請した事業者(JVを含む。)を当該入札の参加者としていた(査18,23ないし25)。
b 入札の実施方法
山梨県は,一般競争入札の方法により発注する場合,入札書提出締切日の約25日前までに,入札参加条件等を示した入札公告により入札参加希望者を募り,入札への参加を申請した事業者(JVを含む。)に対し,入札書提出締切日の約1週間前までに,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した「競争参加資格確認通知書」を送付していた。
入札参加者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた(査27ないし29)。
(ウ) 総合評価落札方式による一般競争入札
a 導入時期,種類,落札者の決定方法及び入札参加者
山梨県は,一般競争入札の方法により発注する本件対象工事の一部について,平成19年頃から,総合評価落札方式を導入した。
総合評価落札方式には,「簡易型」(平成19年度導入),「特別簡易型」(平成20年度導入),「特別簡易型(Ⅰ)」及び「特別簡易型(Ⅱ)」(いずれも平成21年度導入。なお,「特別簡易型(Ⅰ)」は,平成20年度における「特別簡易型」に相当する。)等の種類がある。
総合評価落札方式では,以下のとおり,入札価格が予定価格の範囲内にある入札者について,あらかじめ定められた評価項目ごとの評価点を合計した後,各入札者の評価点の合計点数の比に応じて加算点(加算点の満点は,工事ごとに定める。)を算出し,それに標準点(100点)を加えた数値を入札価格で除し,これに1億を乗じて得た評価値が最も高い者を落札者としていた。
評価値=(標準点+加算点)/入札価格×100,000,000
総合評価落札方式における入札参加者は,前記(イ)aと同じである(査18,30ないし33)。
b 評価項目
評価項目は,「簡易型」では①企業の施工実績,②地域精通度,③地域貢献度,④配置予定技術者の能力及び⑤施工計画,「特別簡易型(Ⅱ)」では上記①ないし④,「特別簡易型」及び「特別簡易型(Ⅰ)」では上記①ないし③であり,いずれも評価項目ごとに最高評価点が設定されていた(査30ないし33)。
c 評価点の算出方法
評価点は,入札参加申請の際に申請者から併せて提出される施工計画書等の資料(以下「技術審査資料」という。)に基づき,発注業務を担当する部署(以下「発注担当部署」という。)において,以下のとおり,評価項目ごとに算出することとされていた。
前記b①の「企業の施工実績」については,都道府県又は国・公団等の同種工事の施工実績の有無,山梨県発注の土木一式工事での工事成績評定点の平均点等,同②の「地域精通度」については,近隣地域での施工実績の有無等,同③の「地城貢献度」については,災害協定の締結の有無,土木施設等緊急維持修繕業務委託の実績等,同④の「配置予定技術者の能力」については,1級土木施工管理技士等又は技術士であるかどうか,同種工事の施工実績等といった客観的なデータを基に,入札参加者が山梨県所定の様式で作成・記載した根拠資料を提出することにより点数化されることとされていた。
なお,配置予定技術者は,一定の資格を有することのほかに,対象工事に専任で配置することが必要とされていた。
前記b⑤の「施工計画」については,入札参加者が客観的なデータを提出するものではなく,「工程管理に係わる技術的所見」,「品質管理に係わる技術的所見」等の5項目の中から選択された1つ又は2つの項目について,入札参加者が提出する施工計画書の内容により,「10点」(内容が適切であり,重要な項目が記載され,工夫が見られる),「5点」(内容が適切であり,工夫が見られる),「0点」(内容が適切である),又は「欠格」(未記入,又は不適切である)と評価されていた(査30ないし33)。
d 評価項目等の公表
山梨県は,総合評価落札方式における評価項目,評価の方法,最高評価点及び評価値の算出方法について,「山梨県建設工事総合評価実施要領」(以下「総合評価実施要領」という。)に記載し,公表していた(査30ないし33)。
e 入札の実施方法
山梨県は,総合評価落札方式による一般競争入札の方法により発注する場合,入札書提出締切日の約半月ないし1か月前までに,当該工事の入札方式,総合評価落札方式の種類など総合評価に関する事項,入札参加資格等を示した入札公告により入札参加希望者を募り,入札書提出締切日の約2日ないし7日前までに,入札への参加を申請した事業者に対し,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した「競争参加資格確認通知書」を送付していた。
入札参加者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた(査27,33,34)。
エ 最低制限価格及び低入札価格調査の基準価格
(ア) 最低制限価格
山梨県は,本件対象工事のうち,指名競争入札の方法により発注するもの及び総合評価落札方式以外の一般競争入札の方法により発注するものについて,最低制限価格を設定し,同価格を下回る価格の入札は失格としていた(査18)。
(イ) 低入札価格調査の基準価格
山梨県は,本件対象工事のうち総合評価落札方式による一般競争入札の方法により発注するものについて,低入札価格調査の対象とする基準価格(以下「低入札調査基準価格」という。)を設定していた。
山梨県は,入札の結果,評価値が最も高かった者の入札価格が低入札調査基準価格を下回った場合には,落札者の決定を保留した上で,当該入札額で契約の内容に適合した履行がされるか否かについて調査を行い,その結果,適合した履行がされると認めた場合は,当該入札者を落札者とし,適合した履行がされないおそれがあると認めた場合は,他の入札者のうち最も評価値の高い者を落札者としていた(査18,35)。
オ 入札情報の公表
(ア) 予定価格,最低制限価格及び低入札調査基準価格
山梨県は,本件対象工事について,ごく一部の工事を除き,入札公告時又は指名通知時に予定価格を公表していたが,最低制限価格及び低入札調査基準価格は入札書提出締切日前には公表していなかった(査36)。
(イ) 入札参加者
山梨県は,本件対象工事について,入札書提出締切日前には入札参加者を公表せず,落札者決定後速やかに公表していた(査36)。
(ウ) 入札結果
山梨県は,本件対象工事の入札結果について,県民情報センター及びポータルサイトにおいて閲覧に供する方法により,落札者決定後速やかに公表していた。
また,山梨県は,総合評価落札方式による一般競争入札については,入札参加者の評価項目ごとの評価点を,評価調書の様式によりポータルサイトにおいて公表していた(査30ないし32,36,170)。
カ 本件対象期間における本件対象工事の発注及び受注状況
本件対象期間に発注(開札)された本件対象工事は,別紙5のとおり316物件であり(以下,同別紙に記載の316の物件を「316物件」という。また,個別の工事については,同別紙の「一連番号」欄記載の番号に従って「物件1」等と表記する。),いずれも30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注した。
316物件の発注担当部署,公告日(又は指名通知日),開札日,工事名,施工場所,発注方法,入札参加条件としての本店所在地,予定価格,入札参加者,入札価格,入札率(予定価格に対する入札価格の割合),落札者,落札率(予定価絡に対する落札価格の割含),並びに総合評価落札方式の種類,価格以外の評価結果及び評価値は,それぞれ別紙5の該当欄に記載のとおりである。
316物件のうち,指名競争入札の方法により発注された工事は,そのほとんど全てにおいて,30社の中から入札参加者が指名されている。
また,316物件のうち,一般競争入札の方法により発注された工事は,そのほとんどにおいて30社のみが入札に参加しており,塩山地区以外に本店を置く事業者(以下「アウトサイダー」という。)が入札に参加した工事は17件であった(査18,297)。
キ 原告らの売上額
本件各課徴金納付命令における本件違反行為の実行期間において原告らが受注した本件対象工事の売上額を私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号。以下「独占禁止法施行令」という。)6条1項及び2項の規定に基づき算定すると,各工事の対価の額は別紙6の1ないし9中の各「4 対象物件一覧」中の「課徴金算定の基礎となる売上額(円)」欄記載の金額となり,各合計額は上記各別紙の「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」記載の金額となる(なお,後記第3の2⑷,⑸のとおり,原告岩波建設,原告佐藤建設工業,原告甲斐建設,原告奥山建設及び原告渡辺建設については,実行期間又は売上額について争いがあるが,その余の原告らについては,争いがない(査18))。
⑶ 塩山地区における建設業協会等の概要
ア 社団法人山梨県建設業協会塩山支部
(ア) 事務所等
社団法人山梨県建設業協会塩山支部(以下「塩山支部」という。)は,社団法人山梨県建設業協会(以下「山梨県建設業協会」という。)の支部であり,山梨県甲州市塩山熊野137番地に所在する同支部の会館(以下「塩山支部会館」という。)内に事務所を置いていた(査4ないし6,103,104)。
(イ) 会員及び事業
塩山支部の規約によれば,同支部は,塩山地区に本店又は営業所等を有する建設事業者を会員とし,建設業に関する資料,情報及び統計の収集並びに頒布,官庁その他機関との連絡,交渉及び提携等の事業を行うものとされていた。
30社のうち藤プラント建設及び原告奥山建設を除く28社(以下「28社」という。)は遅くとも平成18年4月までに,藤プラント建設及び原告奥山建設は平成19年6月頃までに,それぞれ塩山支部の会員となっていた。
また,本件対象期間において,塩山支部の会員のうち,A等級事業者又はB等級事業者であって本件対象工事の入札に参加していた事業者は,30社のみであった(査4ないし7,81)。
(ウ) 役員
塩山支部では,支部長,副支部長,理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,支部長及び副支部長は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた(以下,塩山支部の支部長を「塩山支部長」,同副支部長を「塩山副支部長」といい,両者を併せて「塩山支部の執行部」という。)。
平成18年度の塩山支部長は原告岩波建設の《A》社長,塩山副支部長は廣川工業所の《B》社長及び内田組の《C1》社長であった。
また,平成19年度ないし平成21年度の塩山支部長は廣川工業所の《B》社長,塩山副支部長は原告タナベエンジニアリングの《D》社長及び植野興業の《E》社長であり,平成21年度に塩山副支部長に大和工務店の《F》社長が加わった(査4ないし6)。
(エ) 職員
塩山支部は,事務員として《G》(以下「《G》事務員」という。)を雇用しており,同事務員は塩山支部会館において勤務していた(査103,104)。
(オ) 塩山支部に対する過去の勧告審決
被告は,平成6年5月16日,塩山支部が遅くとも昭和62年4月までに,山梨県が指名競争入札の方法により発注する土木部所管で塩山土木事務所の管轄区域を施工場所とする土木一式工事(共同施工方式により施工される工事を除く。)について,会員の受注価格の低落を防止するため,会員に,あらかじめ受注予定者を決定させ,受注予定者が受注できるようにさせていた行為が,当時の独占禁止法8条1項1号の規定に違反するものであるとして,同支部に対し,勧告審決をした(平成6年(勧)第14号。以下「塩山支部に対する平成6年の勧告審決」という。)。
28社は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決以前から塩山支部の会員であったところ,平成7年4月14日,被告から,課徴金納付命令を受けた(査37,38)。
イ 社団法人山梨県土地改良協会峡東支部
(ア) 事務所等
社団法人山梨県土地改良協会峡東支部(以下「土地協会峡東支部」という。)は,社団法人山梨県土地改良協会の支部であり,山梨県笛吹市石和町広瀬765番地に所在する山梨県建設業協会石和支部会館内に事務所を置いていた(査8,9,104)。
(イ) 会員及び事業
社団法人山梨県土地改良協会の定款及び土地協会峡東支部の規約によれば,同支部は,峡東農務事務所管内に本店を置く建設事業者を会員とし,土地改良事業に関する資料,情報及び統計の収集並びに頒布,関係団体との連絡,交渉及び提携等の事業を行うものとされていた。
28社は遅くとも平成18年4月までに,原告奥山建設は平成20年5月頃以降に,藤プラント建設は平成21年4月頃までに,それぞれ土地協会峡東支部の会員となっていた(査7ないし11,81)。
(ウ) 役員
土地協会峡東支部では,支部長,副支部長及び理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,支部長及び副支部長は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた(以下,支部長及び副支部長のうち塩山地区に本店を置く事業者の役員をまとめて「土地協会峡東支部の執行部」という。)。
平成18年度の支部長は内田組の《C1》社長,副支部長は石和地区に本店を置く《株式会社H》の《氏名略》社長,同地区に本店を置く《株式会社I》の《氏名略》社長及び原告岩波建設の《A》社長であった。
また,平成19年度ないし平成21年度の支部長は石和地区に本店を置く《J株式会社》の《氏名略》社長,副支部長は塩山地区に本店を置くC等級事業者である《K株式会社》の《K1》社長(以下「《K株式会社》の《K1》社長」という。)及び原告天川工業の《M1》社長であった(査8ないし10)。
ウ 塩山地区治山林道協会
(ア) 事務所等
塩山地区治山林道協会(以下「塩山治山協会」といい,塩山支部及び土地協会峡東支部と併せて「塩山支部等」という。)は,社団法人山梨県治山林道協会の地区協会であり,塩山支部会館内に事務所を置いていた(査12ないし15,103,104)。
(イ) 会員及び事業
社団法人山梨県治山林道協会の定款及び塩山治山協会の規約によれば,塩山治山協会は,峡東林務環境事務所管内に本店を置く建設事業者を会員とし,治山事業及び林道事業に関する資料,情報及び統計の収集頒布並びに官庁その他関係団体及び機関との連絡交渉及び提携等の事業を行うものとされていた。
28社は,遅くとも平成18年4月までに,塩山治山協会の会員となっていた(査12ないし16)。
(ウ) 役員
塩山治山協会では,会長,副会長,理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,会長及び副会長は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた(以下,会長及び副会長のうち塩山地区に本店を置く事業者の役員をまとめて「塩山治山協会の執行部」といい,塩山支部の執行部及び土地協会峡東支部の執行部と併せて「塩山支部等の執行部」という。)。
平成18年度の会長は廣川工業所の《B》社長,副会長は甲信建設の《L1》社長,原告天川工業の《M1》社長及び石和地区に本店を置く《N株式会社》(平成19年2月19日に商号を株式会社《名称略》に変更した。)の《N1》社長(ただし,任期途中で石和地区に本店を置く《株式会社O》の《O1》社長に交代した。)であった。また,平成19年度ないし平成21年度の会長は甲信建設の《L1》社長,副会長は野澤工業の《P》社長及び上記《株式会社O》の《O1》社長であった(査12ないし14)。
(エ) 職員
塩山治山協会は,事務員として《Q》(以下「《Q》事務員」といい,同事務員と《G》事務員と併せて「塩山支部等の事務員」という。)を雇用しており,同事務員は塩山支部会館において勤務していた(査104)。
(オ) 被告による立入検査
被告は,平成22年3月24日,本件について独占禁止法第47条第1項第4号の規定に基づく立入検査(以下「本件立入検査」という。)を行った。
第3 本件審判手続における争点並びに本件審決の認定及び判断
1 争点
⑴ 30社が,本件合意をしていたか否か
⑵ 本件合意が,独占禁止法2条6項の「不当な取引制限」に該当するか否か
⑶ 23社が受注した別紙6の1ないし9記載のものを含む各工事は,独占禁止法7条の2第1項の「当該商品又は役務」(以下「当該役務」という。)に該当するか否か
⑷ 本件立入検査後に契約が締結された工事の対価は,本件違反行為の実行期間における売上高に含まれるか否か
⑸ 受注者が工事を中止したことにより,本件違反行為の実行期間後に工事代金が出来高に応じて減額された場合,減額後の金額が課徴金算定の基礎となるか否か
⑹ 本件各命令発出手続の適法性
2 上記の各争点に対する本件審決の判断及び判断の基礎とされた証拠
⑴ 上記争点⑴(30社が,本件合意をしていたか否か)について
ア 本件審決が認定した事実
(ア) 塩山支部に対する平成6年の勧告審決後の状況
山梨県では,平成17年度頃までは,指名競争入札の方法により土木一式工事を発注することが多かったところ,塩山地区の建設事業者は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決を受けたにもかかわらず,再び受注調整を行うようになり,塩山地区を施工場所とする土木一式工事の指名を受けると塩山支部会館に集まり,受注を希望する者は塩山支部等の執行部に対して受注希望を表明し,塩山支部等の執行部を交えて受注希望者同士で話合いを行うなどして受注予定者を決め,受注予定者は,他の指名事業者に対して受注に協力するよう依頼し,他の指名事業者は,受注予定者よりも高い金額で入札するなどして,受注予定者が受注できるように協力し合っていた(査47,55,74,84,94,99)。
(イ) 本件合意に基づく受注調整の方法及びその実施状況
a 入札参加者の情報集約
30社は,平成18年4月1日以降(ただし,三森建設については,平成19年5月15日以降。以下同じ。),一般競争入札の方法により発注される本件対象工事の入札に参加しようとする場合には,入札公告が行われた日から数日のうちに,当該工事の入札に参加する旨を当該工事の前記第2の2⑵ア記載の発注担当部署の区分に応じて,塩山支部等の執行部又は塩山支部等の事務員に連絡していた。30社は,基本的にはポータルサイトに公表される入札公告を印刷したものに自社名を記載したものを塩山支部会館に持参するか,又はファクシミリにより送信する方法によって入札に参加する旨を連絡していたが,塩山支部等の執行部又は塩山支部等の事務員に対して,電話又は直接口頭で入札に参加する旨を伝える場合もあった。
また,本件対象工事が指名競争入札の方法により発注される場合においても,30社は,当該入札に指名された場合には,発注担当部署から送付される指名通知書の写しに自社名を記載したものを塩山支部会館に持参等することにより,その旨を連絡していた。
なお,このような塩山支部等への連絡は,塩山支部等の会員だけが行っていたわけではなく,藤プラント建設及び原告奥山建設は,塩山支部等の会員ではなかった時も,30社中のその他の事業者と同様に,本件対象工事の入札に参加しようとする場合又は指名を受けた場合には,塩山支部等へ連絡していた。
塩山支部等では,上記連絡を受けると,峡東建設事務所等の発注物件については《G》事務員が,峡東農務事務所の発注物件及び峡東林務環境事務所の発注物件については《Q》事務員が,ポータルサイトに掲載された入札公告に基づき,パソコン上で,その工事名,予定価格等の情報を入力して,入札参加者名を記載する欄を設けた表を作成し,それを印刷したものに,入札に参加する旨連絡してきた事業者名又は指名通知書の写しに基づき指名事業者名等の社名のスタンプを押すなどした上,入札参加申請後に山梨県から送付される競争参加資格確認通知書の通知番号を追記した入札参加者取りまとめ表(以下「入札参加者取りまとめ表」という。)を作成していた。そして,塩山支部等の事務員は,当該工事の落札者決定後は,塩山支部等の執行部の指示により,入札参加者取りまとめ表をシュレッダーにかけるなどして廃棄していた。
30社は,このように作成された入札参加者取りまとめ表を閲覧したり,塩山支部等の事務員に確認したりするなどして,あらかじめ当該工事の入札参加者を把握していた。(査39ないし45,47,50ないし52,54,57,58,63,64,66,70ないし72,77,79,83,85,87,88,90,98ないし109)
b 受注予定者の決定方法
30社は,平成18年4月1日以降,上記のとおり,あらかじめ当該工事の入札参加者を把握していたところ,本件対象工事の受注を希望する場合には,入札公告が行われてから数日の間に,峡東建設事務所等発注物件については塩山支部の執行部に,峡東農務事務所発注物件については土地協会峡東支部の執行部に,峡東林務環境事務所発注物件については塩山治山協会の執行部に,それぞれ当該工事の受注を希望する旨を表明していた。また,30社の中には,入札参加又は指名の連絡と同時に受注希望を表明する者や,他の入札参加者に直接受注希望を表明する者もいた。
そして,30社は,自社が受注を希望する場合には,塩山支部等の執行部や塩山支部等の事務員に問い合わせ又は個別に入札参加者と連絡を取るなどして,他社の受注希望の有無を確認し,受注希望者が1社のときは当該受注希望者が受注予定者となり,受注希望者が複数のときは受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定していた。
30社の代表者等は,頻繁に塩山支部会館に出入りしていたため,各社の代表者等同士が顔を合わせる機会が多く,そのような機会を利用して,受注調整に関する情報交換や話合いを行っていた。
受注希望者間の話合いに際しては,工事ごとに,各受注希望者が,地域性,継続性等の自社が受注予定者たり得る理由を主張し合い,互いの主張や塩山支部等の執行部の助言等を勘案して,受注予定者を決定していた。
また,30社は,前記第2の2⑵ア記載の発注担当部署の区分に対応した塩山支部等の執行部を交えて,受注予定者を決める話合いのため,「調整会議」と称する会合等(以下「調整会議等」という。)を開催する場合もあった。
このような受注希望者間での話合いや調整会議等は,入札公告が行われた日から土日祝日を除いて数日後(そのほとんどは3日後)の午前10時頃から塩山支部会館において行われることが多かった。
30社は,自社が入札に参加する工事や受注を希望する工事であっても,情報交換等によって他の受注希望者を確認する中で,地域性,継続性等の事情が他の受注希望者よりも弱く,自社が受注予定者となることが困難と思われる工事にあっては,受注希望の表明や話含いへの参加をすることなく他の受注希望者の受注に協力する場合もあった。(査39ないし43,47,48,54ないし59,62,64,65,67ないし74,76ないし79,82ないし86,93,97,99,101,104,105,177)
c 入札価格等の連絡
上記aの方法によって受注予定者となった者は,他の入札参加者に対し,自社が受注予定者である旨連絡するとともに,他の入札参加者が入札すべき価格又は入札率や自社の入札する価格又は入札率を連絡していた。他の入札参加者は,こうした価格等の連絡を受け,受注予定者よりも高い価格で入札するなどして,受注予定者が受注できるように協力していた。
なお,工事によっては価格連絡を行わない受注予定者もいたが,そのような場合であっても,他の入札参加者は,予定価格に極めて近い価格で入札し,受注予定者が受注できるように協力していた。(査54,55,57ないし59,64,70,75ないし77,82,84,85,88,99,101)
d 総合評価落札方式の工事の場合の協力
前記第2の2⑵ウ(ウ)のとおり,総合評価落札方式の工事における評価項目のうち,「企業の施工実績」,「地域精通度」及び「地域貢献度」は,いずれも客観的なデータに基づいて算定されるものであり,入札参加者が山梨県所定の様式で作成,記載して提出した資料に基づいて点数化されることが,総合評価実施要領で公表されていた。そのため,30社は,過去の入札結果等により,各入札参加者の評価点を予想することが可能であった。
評価項目のうち「配置予定技術者の能力」も,総合評価実施要領に基づき客観的なデータが点数化されるものであるため,少なくとも,入札参加者において自社の評価点を予想することは可能であった。
評価項目のうち「施工計画」については,上記「企業の施工実績」等と異なり,総合評価実施要領に基づき客観的なデータが点数化されるものではなく,評価が発注者の裁量に委ねられるものであるため,正確に評価点を予想することはできなかったが,0点,5点又は10点と3段階で配点されていたこともあり,少なくとも,入札参加者において,自社の作成した施工計画書の内容から自社の評価点の高低をある程度予想することは可能であった。
このような状況の下で,30社は,互いの評価点を予想し,又は連絡し合い,受注予定者以外の者は,入札を辞退し,又は高い入札価格で入札するほか,評価点の低い配置予定技術者を配置する,簡易な内容の施工計画書を提出する,受注予定者との間で施工計画書をやり取りして内容を確認するなどして,総合評価落札方式の工事の入札においても,受注予定者を決定し,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力し合っていた。(査30ないし32,52,53,60,68,69,73,76,80,86,87,90,97,99,169,171,184,193,194,196,212,217,218)
e 塩山支部等の役員会における協議
(a) 平成19年5月11日の塩山支部の役員会における廣川工業所の《B》社長の提案
塩山支部は,平成19年5月11日,山梨県笛吹市 に所在する旅館「《旅館名略》」において,同支部の月例役員会を開催した(以下「本件5月役員会」という。)。本件5月役員会には,塩山支部長である廣川工業所の《B》社長,同副支部長である原告タナベエンジニアリングの《D》社長及び植野興業の《E》社長,同理事である大和工務店の《F》社長,原告天川工業の《M1》社長,天川組の《S1》社長,原告岩波建設の《A》社長,髙野建設の《T》社長,内田組の《C1》社長,甲信建設の《L1》社長,《K株式会社》の《K1》社長及び坂本組の《U1》社長(以下「坂本組の《U1》社長」という。),同監事である原告山梨技建の《R》社長ら15名が出席した。
本件5月役員会において,廣川工業所の《B》社長は,他の出席者に対し,本件合意に基づいて受注調整が行われていることが被告等の外部に漏れることを防ぐため,今後は受注調整のための話合いや調整会議等の出席者を各社の社長又はその兄弟若しくは息子に限定することを提案した。また,同月14日に塩山支部会館において開催された塩山支部の会員が出席する月例総会においても,廣川工業所の《B》社長が同様の提案をした。
しかし,これらの会合において,坂本組の《U1》社長が,それまで同社において受注調整のための話合いに出席していた同社の取締役社長代理である《U2》は同社長と血縁関係になく,同社長には他に受注調整のための話合いに出席させることのできる兄弟又は息子がいないことを理由に,上記提案に強く反対したため,上記提案に関する結論は出なかった。(査43,92,99,110ないし114)
(b) 平成19年6月13日の塩山支部の役員会におけるルールの確認
平成19年6月13日に開催された塩山支部の役員会(以下「本件6月役員会」という。)において,出席者の間で,本件対象工事の入札に参加しようとする場合には,入札公告が行われた日の翌日までに,当該工事の入札に参加する旨を塩山支部等の執行部又は塩山支部等の事務員に連絡するとともに,当該工事の受注を希望する場合には,原則として,入札公告が行われた日から数日後の指定された日の午前10時に塩山支部会館に出向き,塩山支部等の執行部に当該工事の受注を希望する旨を伝えることを確認した。
その後,上記確認事項は,原告甲斐建設や藤プラント建設など,役員以外の塩山支部の会員にも伝えられた。(査39ないし43,47ないし49,72,99,100,115ないし117)
f 個別工事における受注調整
別紙5の「別紙12」欄に「○」の付された44件(以下「44物件」という。)については,当該工事について,受注予定者を決定し,他の入札参加者は受注予定者が受注できるように協力するなど,本件合意の内容に沿った受注調整が行われていたことを裏付ける電子メールや入札公告への書込みなどの客観的な証拠が存在する。
また,別紙5の「別紙13」欄に「○」の付された60件(以下「60物件」という。)についても,入札参加者が塩山支部等に対して当該工事の入札に参加する旨を届け出て,同支部等において入札参加者取りまとめ表を作成するなど,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことを裏付ける客観的な証拠がある。
g 落札率
312物件についての平均落札率は96.3%であった。
イ 本件審決の判断
前記ア(ア)のとおり,山梨県では,平成17年度頃までは指名競争入札の方法により土木一式工事を発注することが多かったが,30社を含む塩山地区の建設事業者は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決以降も,塩山地区を施工場所とする土木一式工事の指名競争入札において受注調整を行うなど協調関係にあった。
また,山梨県では,平成18年度頃から一般競争入札の方法により土木一式工事を発注することが増え,平成19年頃からは,一般競争入札の方法により発注する土木一式工事の一部について総合評価落札方式を導入したが(別紙5。査18),前記ア(イ)のとおり,30社は,平成18年4月1日以降も,これらの塩山地区にかかる土木一式工事について,塩山支部等において入札参加情報を集約し,受注希望者が1社(1JV)の場合はその者(そのJV)を受注予定者とし,受注希望者が複数の場合は地域性,継続性等を勘案して受注希望者間の話合い等により受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力していた。
さらに,前記ア(イ)fのとおり,本件対象期間に発注された本件対象工事のうち,44物件について本件合意の内容に沿った受注調整が行われたこと,60物件について本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことについて,客観的な証拠がある。
また,これらの工事の発注方法は,指名競争入札,通常の一般競争入札,総合評価落札方式による一般競争入札のいずれも含んでおり,発注担当部署をみても,山梨県県土整備部等,峡東農務事務所及び峡東林務環境事務所のいずれも含まれ,工事の内容も土木工事,林務工事,農務工事に及び,発注時期も本件対象期間の全般にわたっている。
加えて,前記第2の2⑵カのとおり,本件対象工事は,いずれも30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注したものであり,また,前記ア(イ)gのとおり,競争制限がされたと認定された312の物件(以下「312物件」という。)の平均落札率も,96.3%という相当高いものであった。以上の事情に鑑みれば,30社のうち三森建設を除く29社は,遅くとも平成18年4月1日までに,本件対象工事について,受注価格の低落防止を図るために本件合意をし,三森建設は,遅くとも平成19年5月15日までに本件合意に参加し,本件合意に基づいて受注調整を行っていたことが認められる。
⑵ 争点⑵(本件合意が,独占禁止法2条6項の「不当な取引制限」に該当するか否か)についての判断
本件合意は,30社が,本件対象工事について,受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力するという内容の取決めであり,このような取決めがされたときは,入札参加者は,これに制約されて意思決定を行うことになるという意味において,その事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかであるから,本件合意は,独占禁止法2条6項にいう「その事業活動を拘束し」の要件を充足するものである。
そして,本件合意の成立により,30社の間に,上記の取決めに基づいた行動をとることを互いに認識し,認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから,本件合意は,独占禁止法2条6項にいう「共同して対価を決定し…制限する等相互に」の要件も充足する。
また,同項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引にかかる市場が有する競争機能を損なうことをいうものであり,本件合意のような一定の入札市場における受注調整を行うことを取り決める行為によって競争制限が行われる場合には,当該取決めによって,その当事者である事業者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右できる状態をもたらすことをいうものと解される。①前記第2の2⑵カのとおり,本件対象期間に発注された本件対象工事のうち,指名競争入札の方法により発注されたほとんどの工事は,30社の中から当該入札の参加者が指名され,一般競争入札の方法により発注されたほとんどの工事でも,30社又は30社のいずれかで構成されるJVのみが入札に参加して,本件対象期間に発注された本件対象工事の全てを30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注し,平均落札率も相当高いものであること,②前記ア(イ)fのとおり,本件合意に沿った受注調整等を行ったことを裏付ける客観的な証拠が存在する工事が多数あることなどからすると,本件合意は,本件対象期間中,本件対象工事にかかる入札市場において,事実上の拘束力をもって有効に機能し,上記の状態をもたらしていたものといえる。
したがって,本件合意は,独占禁止法2条6項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものに当たるとともに,「公共の利益に反」することは明らかである。
以上によれば,本件合意は,同項にいう不当な取引制限に該当する。
⑶ 争点⑶(23社が受注した別紙6の1ないし9記載のものを含む各工事は,独占禁止法7条の2第1項の「当該役務」に該当するか否か)についての判断
不当な取引制限等の摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,不当な取引制限等の予防効果を強化することを目的とする課徴金制度の趣旨に鑑みると,「当該役務」とは,本件合意の対象とされた工事のうち,本件合意に基づく受注調整等の結果,具体的競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解される。
30社は,前記⑴説示のとおり,平成18年4月1日以降,本件対象工事について,受注価格の低落防止を図るため,本件合意の下,受注調整を行っていたものである。
そして,①30社は,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるよう協力し合っており(前記2⑴ア),受注調整を組織的に行っていたものであること,②30社は,本件対象工事の全てを対象に受注調整を行うことが容易な立場にあり,実際に30社又は30社のいずれかで構成されるJVが本件対象期間に発注された本件対象工事の全てを受注し,その平均落札率も96%を超える相当高いものであったこと,③30社が本件合意の内容に沿った受注調整を行ったこと又は本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為を行ったことが客観的に裏付けられている合計104件の物件について(前記2⑴ア(イ)f),発注方法,発注担当部署,工事内容及び発注時期において特段の偏りはみられないこと,④30社の代表者のうち,本件合意への参加を認める供述をする者が約半数いる一方,本件対象工事に該当する工事について本件合意に基づく受注調整が行われなかった旨を供述している者はいないこと,⑤本件合意の目的が受注価格の低落防止にあることに照らすと,本件対象工事の全てを受注調整の対象としたと合理的に考えられることからすれば,本件対象工事に該当し,かつ,30社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限の下に受注されたものと推認するのが相当である(以下「本件推定」という。)。
そして,別紙6の1ないし9記載の各工事には,受注調整が行われたと認められない特段の事情はないから,これらの工事は,いずれも「当該役務」に該当する。
⑷ 争点⑷(本件立入検査後に契約が締結された工事の対価は,本件違反行為の実行期間における売上額に含まれるか否か)についての判断
独占禁止法7条の2第1項にいう「実行期間」とは,違反行為の対象となった商品又は役務にかかる売上額を算定するための基準であるところ,①上記条項は,「実行としての事業活動がなくなる日」と定めて,違反行為の終了日と明確に区別して規定していること,②仮に,違反行為の終了時をもって実行期間終了日と解した場合,違反行為終了後に発生した違反行為による売上げを一律に課徴金の対象から除外することとなり,適切でないこと,③売上額の確定にかかる実行期間を違反行為者間で同時期とすべきものとも解されないことから,同項にいう「実行としての事業活動がなくなる日」とは,違反行為の終了日ではなく,違反行為者につき,それぞれ違反行為にかかる事業活動が終了したと認められる日と解すべきである。
また,契約が締結されれば,当該契約に基づく対価にかかる債権債務関係が発生するのが通常であるから,独占禁止法施行令6条の基準が適用される場合において,違反行為終了前に受注調整にかかる入札が行われて受注予定者が落札し,違反行為終了後に当該工事の契約を締結した時には,契約締結時をもって違反行為にかかる事業活動の終了日,すなわち「実行としての事業活動がなくなる日」と解し,当該契約によって発生した対価を課徴金算定の基礎とするのが相当である。
したがって,本件立入検査後に契約が締結された工事の対価は,本件違反行為の実行期間における売上額に含まれる。
⑸ 争点⑸(受注者が工事を中止したことにより,本件違反行為の実行期間後に工事代金が出来高に応じて減額された場合,減額後の金額が課徴金算定の基礎となるか否か)についての判断
独占禁止法における不当な取引制限に対する課徴金制度は,一定のカルテル行為による不当な経済的利得をカルテルに参加した事業者から剥奪することによって,社会的公正を確保するとともに,違反行為の抑止を図り,カルテル禁止規定の実効性を確保するために設けられたものであり,この目的を達するため,法政策的観点から,あるいは法技術的制約等を考慮し,具体的なカルテル行為による現実の経済的利得そのものとは一応切り離し,一律かつ画一的に算定する売上額に一定の比率を乗ずる方法により算出された金額を,いわば観念的に剥奪すべき経済的利得と擬制するものである。
そして,独占禁止法7条の2は,課徴金の額について,実行期間における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に所定の割合を乗じた額に相当する額と定め,これを受けて独占禁止法施行令5条及び6条は,上記の一律かつ画一的な算定という要請の範囲内においてカルテル行為の実行期間中の事業活動の結果を反映させるように,その算定方法を具体的に規定している。
かかる趣旨から,独占禁止法施行令6条は,「実行期間において締結した契約により定められた…対価の額」をもって独占禁止法7条の2の売上額を算定するものと規定しているところ,実行期間において一旦有効に契約が成立した以上,そこに定められた請負代金額をもって上記売上額を算定すべきであり,仮に,実行期間の終期において,当該工事の出来高が客観的に確定していたとしても,この出来高によることはできず,その後の契約変更による請負代金額の増減についても,実行期間経過後の変更契約についてはこれを考慮することはできないものと解すべきである。
物件234は,原告渡辺建設が平成21年5月26日に受注し,同工事にかかる契約は同月27日に有効に成立したものであるところ(査312),原告渡辺建設が山梨県から有資格者名簿への登載を抹消されたことにより,その事業活動を終了した同年9月27日までに上記契約は変更されなかったから,物件234については,当初の契約によって定められた請負代金額をもって課徴金を算定するのが相当である。
⑹ 争点⑹(本件各命令の発出手続等は適法性)についての判断
ア 本件各命令書の記載について
(ア) 独占禁止法49条1項が排除措置命令書に「公正取引委員会の認定した事実」を付記すべきとしているのは,排除措置命令が,その名宛人に対して当該命令の主文に従った排除措置の履行義務を課すなど,名宛人の事業活動の自由等を制限するものであることに鑑み,被告の判断の慎重さと合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,排除措置命令の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるためのものと解される。
このような排除措置命令の性質及び理由付記を命じた趣旨・目的に鑑みれば,排除措置命令書に記載すべき「事実」とは,違反行為に関する認定事実のほか,いかなる事実関係に基づき排除措置が命じられたのかを,名宛人においてその記載自体から了知し得るものでなければならない。
(イ) これを本件についてみるに,本件排除措置命令書には,本件合意が存在するに至った時期,内容,行為者等のほか,本件合意に基づいて行われていた行為が具体的に記載されており,かかる記載から本件排除措置命令の名宛人となった22社は具体的にいかなる行為を行ったために同命令を発せられたのかを了知することは可能であって,同命令に対する不服申立てに十分な便宜を与える程度に記載されていると認められるから,本件排除措置命令書における「公正取引委員会の認定した事実」の記載は独占禁止法49条1項に違反するものでなく,本件各課徴金納付命令書における「課徴金に係る違反行為」の記載も同法50条1項に違反するものではない。
なお,本件排除措置命令書には,本件合意の成立した日時,場所及び方法に関する記載はないが,不当な取引制限における合意の形成過程について,日時,場所等をもって具体的に特定することまでを要するものではない。
イ 本件各命令の事前説明手続
(ア) 事前説明手続の際に関係人に示す証拠について,その閲覧謄写を求めることができることを規定する法令は存在せず,それを謄写することは,そもそも事前説明手続では予定されておらず(査227),留置物の謄写も,常に認められるわけではない。
したがって,被告が事前説明手続において上記証拠の閲覧,謄写に応じなかったとしても,かかる行為は違法ではない。
(イ) 事前説明手続における意見申述期間は,2週間程度を想定しているところ(査227),本件においては,被告において当初3週間の期間を設定し,原告ら及び内田組については,その申出を踏まえ更にこれを1週間延長して,合計4週間の期間を設定したものであることからすれば,上記期間の設定は適正に行われている。
⑺ 本件審決の結論
ア 本件排除措置命令について
30社は,共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,本件対象工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条に反するものと認められる。
また,本件違反行為は既に消滅しているが,本件違反行為は長期間にわたり行われていたこと,22社の大部分は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決に伴い課徴金納付命令を受けたにもかかわらず再度同様の違反行為をしていたこと,22社は自主的に本件違反行為を取りやめたものではないこと等の事情が認められ,これらの事情を総合的に勘案すれば,本件排除措置命令の時点において22社は本件違反行為と同様の行為を繰り返すおそれがあったと認められ,特に排除措置を命ずる必要がある(独占禁止法7条2項)ことは明らかである。
イ 本件課徴金納付命令
本件違反行為が独占禁止法第7条の2第1項1号に規定する役務の対価にかかるものであることは,本件合意の内容から明らかである。
ウ 課徴金の計算の基礎となる事実
(ア) 事業者
23社は,いずれも本件対象工事を請け負う事業を営んでいた者である。
(イ) 実行期間
a 原告渡辺建設
原告渡辺建設が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成18年9月27日以前であると認められる。また,原告渡辺建設は,平成21年9月27日に山梨県から有資格者名簿への登載を抹消されており,同日に本件違反行為の実行としての事業活動はなくなっているものと認められる。
したがって,原告渡辺建設については,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日から本件違反行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間が3年を超えるため,独占禁止法7条の2第1項の規定により,実行期間は平成18年9月28日から平成21年9月27日までの3年間となる。
b 原告天川工業,同タナベエンジニアリング,同広瀬土木及び同山梨技建
原告天川工業,同タナベエンジニアリング,同広瀬土木及び同山梨技建が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成19年3月23日以前であると認められる。また,上記原告らは,本件立入検査が行われた日である平成22年3月24日以降,本件違反行為を行っておらず,同月23日にその実行としての事業活動はなくなっているものと認められる。
したがって,上記原告らについては,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日から本件違反行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間が3年を超えるため,独占禁止法7条の2第1項の規定により,実行期間は平成19年3月24日から平成22年3月23日までの3年間となる。
c 原告岩波建設及び同甲斐建設
原告岩波建設及び同甲斐建設が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成19年3月30日以前であると認められる。また,上記原告らは,本件立入検査が行われた日である平成22年3月24日以降,本件違反行為を行っていないが,同日より前に行われた一般競争入札による最後の契約を同月30日に締結しているから,本件違反行為の実行としての事業活動がなくなったのは同日であると認められる。
したがって,上記原告らについては,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日から本件違反行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間が3年を超えるため,独占禁止法7条の2第1項の規定により,実行期間は平成19年3月31日から平成22年3月30日までの3年間となる。
d 原告佐藤建設工業及び原告奥山建設
原告佐藤建設工業及び原告奥山建設が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成19年3月31日以前であると認められる。また,上記原告らは,平成22年3月24日以降,本件違反行為を行っていないが,同日より前に行われた一般競争入札による最後の契約を同月31日に締結しているから,本件違反行為の実行としての事業活動がなくなった日は同日であると認められる。
したがって,上記原告らについては,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日から本件違反行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間が3年を超えるため,独占禁止法7条の2第1項の規定により,実行期間は平成19年4月1日から平成22年3月31日までの3年間となる。
(ウ) 売上額
原告らの前記(イ)の各実行期間における本件対象工事にかかる売上額を独占禁止法施行令6条1項及び2項の規定に基づき算定すると,各工事の対価の額は別紙6の1ないし9の各「4 対象物件一覧」中の「課徴金算定の基礎となる売上額(円)」欄記載の金額となり,また,原告らの各工事の売上額の総額は上記各別紙の「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」記載の金額となる。
(エ) 算定率
原告らは,いずれも前記(イ)の実行期間を通じ,資本金の額が3億円以下の会社であって,建設業に属する事業を主たる事業として営んでいた者である。
したがって,原告らは,いずれも独占禁止法7条の2第5項1号に該当する事業者である。
(オ) 課徴金の額
以上によれば,原告らが国庫に納付すべき課徴金の額は,独占禁止法7条の2第1項及び5項の規定により,それぞれ別紙6の1ないし9の「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」記載の金額に100分の4を乗じて得た額から,同条23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された,上記各別紙の「3 課徴金額」記載の各金額となる。
第4 本訴における争点及び当事者の主張
1 本訴における争点
⑴ 本件合意の存在について実質的証拠があるか
⑵ 本件合意が独占禁止法2条6項の「不当な取引制限」に該当するか
⑶ 原告らが受注した別紙6の1ないし9記載の各工事が当該役務に該当することについて実質的証拠があるか
⑷ 本件立入検査後に契約が締結された工事の対価は,本件違反行為の実行期間における売上高に含まれるか
⑸ 受注者が工事を中止したことにより,本件違反行為の実行期間後に工事代金が出来高に応じて減額された場合,減額後の金額が課徴金算定の基礎となるか
⑹ 本件各命令発出手続の適法性
2 争点⑴(本件合意の存在について実質的証拠があるか)について
⑴ 被告の主張
本件審決は,本件審決が掲げる証拠である一部事業者の代表者等の供述,同供述を裏付ける電子メールや入札公告への書込み等から,①塩山支部等において,受注調整をする目的で入札参加者を集約して把握していたこと,②工事の受注を希望する業者は,総合評価落札方式による場合を含め,受注希望者間での話合いや調整会議等をするなどして受注予定者を決定し,他の入札参加者に対して価格や入札率等を連絡するなどし,受注予定者が定めた価格で受注できるように協力していたこと,③本件5月役員会等において,受注調整が発覚しないようにするために受注調整の話合いの出席者を各社の代表者等に限定することを検討したり,塩山支部等へ入札参加をする旨の連絡をする際のルールを確認したりするなどしていたこと,④本件対象期間に発注された本件対象工事の312物件のうち,44物件については本件合意の内容に沿った受注調整が行われ,60物件についても本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたこと,⑤312物件は,いずれも30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注したものであり,その平均落札率が96.3%と相当に高いものであることが認められ,これらによって30社は本件合意をしていたと認定したものである。したがって,本件合意の存在は実質的証拠に基づいて認定されたものである。
⑵ 原告らの主張
ア 本件審決では,30社の代表者のうち約半数が,その供述調書において受注調整の方法について供述しているとするが,各社代表者の供述調書には,同じ文章が使い回されているものがあるなど,審査官が事前に作文したものであることは一見して明白である。また,各代表者等は,事情聴取に際し,審査官に対して供述調書の訂正を求めたが,審査官は,後で訂正するなどと言いながら,その後に訂正に応じなかったものであり,虚偽の説明により作成された供述調書には任意性も信用性もない。
イ 本件審決は,塩山支部等において,個別工事の入札に参加することを希望する者から,その旨の情報を提供してもらい,入札参加者の情報を集約していたことが,本件合意を基礎づける事実であるとする。
この点,塩山支部等において入札参加者の情報を集約していたことは事実であるが,これは,山梨県入札監視委員会において,少数社による入札が問題視され(審B共2の1ないし6),山梨県建設業協会常任理事会でも山梨県から入札参加数が少ないことが問題であるとされていたため(審B共3),1社しか入札に参加しないまま入札手続きが行われること(以下「1社入札」という。)を防止するために行っていたものである。
このことは,被告による本件立入調査後,入札参加者の情報提供をやめたことに伴い,1社入札のまま落札された工事が多数発生していたこと(審B共4,5)からも,客観的に裏付けられている。
ウ 本件審決は,本件合意に基づいて受注調整が行われていることが被告等の外部に漏れることを防ぐため,廣川工業所の《B》社長が,本件5月役員会において,今後は受注調整のための話合いの出席者を各社の社長又はその兄弟若しくは息子に限定する旨の提案をしたと認定するが,《B》社長の発言は,受注調整に関するものではないし,仮に,これが受注調整に関する発言であったとしても,本件5月役員会には30社の全てが出席したわけでもなく,30社全てを相互に拘束する合意がされたわけでもない。
また,本件6月役員会において,入札参加者の情報を提供することが確認されたことも,1社入札を防止するためのものにすぎない。
エ 本件審決において,312物件のうち,受注調整を行ったとする証拠があるとされる物件は44件にすぎず,これは,本件対象工事について,受注調整がされていたというには,あまりにも少ないものというほかなく,また,44物件についても,個別の事情を見れば,受注調整が行われたとは認められないものである。
オ 被告は,60物件について,受注調整が行われた証拠があるというが,そこで挙げられている証拠は,単に入札に向けての情報を収集していることを示すものにすぎず,それらをもって受注調整が行われたことが推認されるものではない。
カ 本件審決は,312物件の平均落札率が96.3%であることを指摘し,これは「相当高いものである」として,本件合意があったことの根拠とするが,落札率96.3%が相当高いといえるだけの根拠はない。受注調整がされていたとすれば,受注予定者は,むしろ,上記より高い価格で入札できたはずである。
また,本件立入検査が行われた平成22年3月24日以後(平成22年4月1日から同24年3月31日まで)の塩山地区を施工場所とする県土整備部,森林環境部及び農政部発注のうち税込予定価格が3000万円以上の土木一式工事は,被告の審査官が本件違法行為はなかったと主張する工事であるところ,その平均落札率は95.9%であり,本件対象期間の落札率とほとんど変わらず,かかる事実は,本件合意が存在しなかったことを裏付けるものといえる。
キ 本件各命令の根拠とされた本件合意は,価格を巡るやり取りをすることによって受注調整をし,事業者を相互に拘束する合意であるというところ,総合評価落札方式による物件については,価格のみで落札者が決まるものではないから,同方式による物件は,本件合意の対象に含まれない。
また,同方式では,価格のほか,入札参加者の施工計画,配置予定の技術者の経験等における点数で評価点が算出され,落札者決定の基準とされるのであり,自社においても他社においても,落札の可否を予想することは困難であるといわざるを得ないから,上記方式による物件については,具体的な競争制限効果が生じていたとはいえない。
ク 上記のほか,原告岩波建設は,他社との折り合いが悪く,必ずしも,他者から持ちかけられた話に協調して参加するという状況ではなかった。
ケ 以上によれば,原告らを含む30社の間において,本件合意が成立していたと認めることはできない。
⑶ 被告の反論
ア 30社の代表者等の供述調書は,本件違反行為という同一の事実関係を聴取したものであり,逐語的に録取したものではないから,その録取内容の一部において表現が酷似することがあったとしても不自然ではない。各供述調書が審査官による事前の作文であり,任意性や信用性がないという原告らの主張は理由がない。
イ 山梨県が,山梨県建設業協会やその事業者に対し,1社入札の防止を要請したとは考えられないし,仮に,そのような要請をしたことがあったとしても,その対策として,本来知らされないはずの入札参加情報の集約や形ばかりの入札参加といった,競争性の向上に反するような対応を期待してされたものとは到底解されない。
ウ 本件5月役員会の席上での廣川工業所の《B》社長の発言については,同役員会に出席した坂本組の《U1》社長が,廣川工業所の《B》社長は,被告のこともあり内部の話が外部に漏れては困るので,受注調整の話合いの出席者は,今後,各社の社長,その兄弟又は息子に限ると話していたと供述しているところ(査99),坂本組の《U1》社長の供述内容は,《B》社長自身のメモ(査113)及び同役員会に出席していた原告天川工業の《M1》社長の手帳の記載(査43の添付書面)などと符合し,客観的な証拠によって裏付けられている。
エ 競争入札において平均落札率が高いことは受注調整が行われていたことをうかがわせる事情の一つであるということができる。
また,総合評価落札方式による物件について受注調整を行う場合,受注予定者は,他の入札参加者に高い評価値が予想されるときには,予定価格より相当低い価格での入札を余儀なくされるから,平均落札率が96.3%程度となることが不自然であるとはいえない。
なお,本件違反行為後も平均落札率がほとんど変わらないという事実は,地域性や継続性等の優位性を持たない事業者が,入札参加に消極的な態度を取るなどして競争性が高まっておらず,本件違反行為の効果が残存していることの現れとみることもできる。
オ 総合評価落札方式による場合であっても,自社の評価点の高低をある程度予測することはでき,入札参加者間でこれを予想し,又は連絡し合うなどして,受注調整を行うことが可能である。
カ 原告岩波建設と他の塩山支部等の会員との間に立場や意見の相違等があったとしても,受注価格の低落防止といった30社に共通した利益を図るために,本件合意の内容に従った行動を自ら取ったり,他の事業者にこれを期待したりすることはあり得ることである。
3 争点2(本件合意が独占禁止法2条6項の「不当な取引制限」に該当するか)について
⑴ 原告らの主張
ア 本件各命令では,本件合意について,「受注予定者を決定する。受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する。」などという抽象的な内容の記載しかしておらず,いつ,どこで,どのような方法で意思の連絡がなされたというのか,何ら具体的な特定がされていない。また,審判の過程においても,何ら具体的な意思の連絡方法が立証されていない。
違反した場合には刑事罰が課されることがある排除措置命令や金銭的な制裁が課される課徴金納付命令を発出するためには,相当程度に具体的な事実関係の主張・立証がなされたことを前提としなければならず,これに反した場合には,適正手続の保障(憲法第31条)に反することになる。
イ 本件審決は,本件対象工事を,独占禁止法2条6項の「一定の取引分野」であるとするが,同工事には,土木工事,治山工事,林道工事,農務工事の4種類の工事があり,発注部署やその工事内容も大きく異なるのであり,「本件対象工事」などという取引分野は存在しない。
ウ 独占禁止法2条6項にいう不当な取引制限は,事業者が相互にその事業活動を拘束することにより一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいい,そのためには,当該制限によって,落札者及び落札価格を相当程度自由に支配する状態を作出するものでなければならないが,前記のとおり,本件審決が認定する本件合意は抽象的な内容であり,競争を実質的に制限するような効果をもたらすものということはできないし,各個別の物件について,本件合意により,どのように具体的な競争制限効果が生じたのかについての証明もない。
⑵ 被告の主張
ア 「不当な取引制限」(独占禁止法2条6項)における「共同して対価を決定し…制限する等相互に」の要件を充足するには,「意思の連絡」が必要であるところ,「意思の連絡」があるというためには,事業者相互間で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要ではなく,合意した競争制限行為をすることを互いに認識認容し,これに歩調を合わせるという意思が形成されることで足り,それは黙示的なものでも足りるところ,本件審判手続において,その点についての立証は十分になされている。
イ 山梨県は,土木工事,治山工事,林道工事,農務工事の4種類の工事について,いずれも「土木一式工事」として発注していたものであり,30社は,本件対象工事について,4種類の工事を区別することなく受注調整の対象としていたものであるから,本件対象工事という取引分野が存在しないものではない。
ウ 「一定の取引分野における競争を制限する」とは,本件のような一定の入札市場における受注調整を行うことを取り決める行為によって競争制限が行われる場合にあっては,当該取決めによって,その当事者である事業者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうところ,本件合意は,本件対象期間中,本件対象工事にかかる入札市場において,事実上の拘束力をもって有効に機能し,上記状態をもたらしたといえる。
また,「不当な取引制限」は,基本合意により,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争が実質的に制限されると認められるときに違反行為として成立するものであり,合意された内容が各事業者によって実施に移されたことを要するものではないから,合意の対象となった個別の入札物件の全てについて,本件合意に基づく受注調整によって具体的な競争制限効果が生じているとの立証を要するものではない。
4 争点3(原告らが受注した別紙6の1ないし9記載の各工事が当該役務に該当することについて実質的証拠があるか)について
⑴ 被告の主張
ア 本件審決は,本件対象工事に関する,①30社による受注調整の内容からうかがえる受注調整の組織性,②本件対象期間における入札参加状況や平均落札率からうかがえる受注調整の実在可能性,③44物件及び60物件からうかがえる受注調整等の存在と遍在性(すなわち,不偏在性),④30社の代表者の供述からうかがえる受注調整に関する否定供述の不存在,⑤本件合意の目的からうかがえる全物件を受注調整の対象とすることの合理性などを総合して,本件対象工事に該当し,かつ,30社のいずれかが入札に参加して受注した工事,すなわち,本件合意の対象となる工事について,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したとの本件推定をしたものである。
すなわち,本件審決は,本件合意の存在から直ちに本件対象工事全般に具体的競争制限効果が及んでいると推認したものではないし,また,本件合意の内容に沿った受注調整が行われたと認定した44物件のみを上記推認の根拠としたものでもない。
その上で,本件審決は,本件合意の対象工事のうち,原告らに対する課徴金の計算の基礎となった別紙6の1ないし9記載の各工事について,特段の事情もないことから,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したと認定したものであり,同事実認定は,実質的な証拠に基づいてされたものである。
⑵ 原告らの主張
ア 本件推定について
本件審決では,わずか44物件について本件合意に基づく受注調整をしたことを裏付ける証拠があるとするだけで,各個別物件についてどのような具体的な競争制限効果が及んでいるか明らかとされないまま,本件合意が成立した結果,本件対象工事の全てについて競争制限効果が及んでいるとしているが,以下のような個別の物件の状況によれば,具体的競争制限効果は及んでいない。
(ア) 継続性,地域性
継続性や地域性のある工事については,既に工事を行っている事業者の方が条件的に有利であるから,そのような事業者は,受注調整をしなくても受注が可能である。
(イ) 総合評価落札方式について
総合評価落札方式による物件には,競争制限効果は発生し得ない。
(ウ) 受注者を1社に絞り込めなかったとする物件について
本件審決は,本件合意に基づく受注調整によっても,受注予定者が1社に絞り込めず,絞り込まれた複数の受注予定者の間で競争が行われた工事であっても,競争制限効果の発生を妨げる特段の事情には当たらないとするが,そもそも,原告らが受注した物件について,受注調整をした結果,受注予定者を1社に絞り込めず,2社以上で争われた物件などというものは存在しない。入札参加者のうち,競争する社を何社かに絞るとの合意があったとしても,本件各命令で本件違反行為とされた「受注予定者を決定し,それ以外の者は,受注予定者が定めた価格で受注できるように協力する。」ことに含まれないはずである。
また,本件審決は,受注調整の結果,受注予定者を1社に絞れなかった場合であっても,競争単位の減少という具体的競争制限効果が発生しているとするが,そもそも入札に参加予定の事業者の数が決まっているわけではないから,競争単位が減少するということ自体が論理的にもあり得ないし,仮に競争する事業者の数が減少したとしても,そのことから,競争が制限され,公正な価格が担保できなくなるとまでいうことはできない。
(エ) 1社入札について
本件の個別物件の中には,入札参加者が1社しかなかったため,山梨県側の要請に基づき,他社に形だけの入札してもらったものが複数あり,その場合,具体的競争制限効果が発生することはない(被告も,1社入札の4つの物件を課徴金対象から外している。)。
(オ) 本件審決の認定と本件各命令の認定事実には同一性がなく,独占禁止法58条及び公正取引委員会の審判に関する規則28条に違反している。
イ 原告らの個別的な事情
原告らが受注した個別的な工事については,以下のとおりの事情があるから,本件合意に基づく受注調整に起因して,具体的競争制限効果が発生していたとは認められない特段の事情があり,独占禁止法7条の2第1項の当該役務に該当せず,課徴金算定の基礎とならない。
(ア) 原告岩波建設
原告岩波建設に対する課徴金納付命令の対象となっている13物件については,いずれも本件推定をすることは相当ではない。
物件103(74.7%),179(85.4%),187(94.4%)は,落札率が極めて低く,物件204,260,265は,入札価格が高かった原告岩波建設が落札しているから,具体的競争制限効果が及んでいたとはいえない。また,物件150,245,258,305は,いずれも総合評価落札方式によるものであるから,本件合意によって落札できたものではない。その他の物件についても,原告岩波建設の判断により入札に参加したものであり,受注調整は行っていない。
(イ) 原告タナベエンジニアリング
原告タナベエンジニアリングに対する課徴金納付命令の対象となっている12物件については,いずれも本件合意に基づく受注調整に起因して,具体的競争制限効果が発生していたとは認められない特段の事情がある。
44物件に該当するとされるものは,原告タナベエンジニアリングに対する課徴金納付命令の対象である12物件のうち1件しかない。また,物件194(89.8%),198(95.4%)は,落札率が極めて低く,具体的競争制限効果が及んでいたとはいえないし,物件205は,総合評価落札方式かつ1社入札の物件であり,物件255は,総合評価落札方式によるものであるから,本件合意によって落札できたものではない。その他の物件についても,工事実績を積みたい,有利な競争が期待できるなどの判断により入札に参加したものであり,受注調整は行っていない。
(ウ) 原告佐藤建設工業
原告佐藤建設工業に対する課徴金納付命令の対象となっている5物件については,いずれも本件合意に基づく受注調整に起因して,具体的競争制限効果が発生していたとは認められない特段の事情がある。
物件310は,落札率が極めて低く(75%),物件131は,1社入札の物件であるから,具体的競争制限効果が及んでいたとはいえないし,物件202は,総合評価落札方式によるものであるから,本件合意によって落札できたものではない。その他の物件についても,利益率が良かったり,前の経験が生かせたりするなどの判断により入札に参加したものであり,受注調整は行っていない。
(エ) 原告天川工業
原告天川工業に対する課徴金納付命令の対象となっている13物件については,いずれも本件合意に基づく受注調整に起因して,具体的競争制限効果が発生していたとは認められない特段の事情がある。
物件217(92.1%),228(94%)は落札率が極めて低く,物件174,236は1社入札の物件であるから,具体的競争制限効果が及んでいたとはいえず,物件209,273,300は,総合評価落札方式かつ1社入札の物件であり,物件267は,総合評価落札方式によるものであるから,本件合意によって落札できたものではない。その他の物件についても,工事の内容に精通しており競争力ある価格で入札参加できるなどの判断により入札に参加したものであり,受注調整は行っていない。
(オ) 原告甲斐建設
原告甲斐建設に対する課徴金納付命令の対象となっている10物件については,いずれも本件合意に基づく受注調整に起因して,具体的競争制限効果が発生していたとは認められない特段の事情がある。
課徴金納付命令の対象となっている物件のうち,44物件に該当するとされているものはわずか1件しかないし,その他の物件についても,継続的に行ってきた工事であるなど,工事の内容に精通しており競争力ある価格で入札参加できるなどの判断により入札に参加したものであり,受注調整は行っていない。
(カ) 原告渡辺建設
原告渡辺建設に対する課徴金納付命令の対象となっている11物件については,いずれも本件合意に基づく受注調整に起因して,具体的競争制限効果が発生していたとは認められない特段の事情がある。
物件106(93.3%),110(93.5%),127(90.8%),136(93.5%),159(95.2%)は,落札率が極めて低く,具体的競争制限効果が及んでいたとはいえないし,その他の物件についても,継続性や地域性があるなどの判断により入札に参加したものであり,受注調整は行っていない。
(キ) 原告奥山建設
原告奥山建設に対する課徴金納付命令の対象となっている3物件については,いずれも本件合意に基づく受注調整に起因して,具体的競争制限効果が発生していたとは認められない特段の事情がある。
落札率が低い物件(物件311)については,具体的競争制限効果が及んでいるとはいえないし,その他の物件についても,地域性があるなどの判断により入札に参加したものであり,受注調整は行っていない。
(ク) 原告山梨技建
原告山梨技建に対する課徴金納付命令の対象となっている6物件については,いずれも本件合意に基づく受注調整に起因して,具体的競争制限効果が発生していたとは認められない特段の事情がある。
総合評価落札方式による物件(物件197)は,本件合意によって落札できたものではないし,その他の物件も,いずれも1社入札を回避するために他社に入札を依頼した物件であり,具体的競争制限効果が及んでいたとはいえない。
(ケ) 原告広瀬土木
原告広瀬土木に対する課徴金納付命令の対象となっている5物件については,いずれも本件合意に基づく受注調整に起因して,具体的競争制限効果が発生していたとは認められない特段の事情がある。
総合評価落札方式による物件(物件275)は,本件合意によって落札できたものではないし,1社入札を回避するために他社に入札を依頼した物件(物件286)については,具体的競争制限効果が及んでいたとはいえない。その他の物件についても,地域性があるなどの判断により入札に参加したものであり,受注調整は行っていない。
⑶ 被告の反論
ア 落札者が当該物件に地域性,継続性を有する場合,他の入札参加者より有利な条件で施工することができる分,利益を見込みやすく,そのことからより確実に多くの利益を得ようとして,これが受注調整の動機となり得ることは明らかである。
イ 総合評価落札方式による場合であっても,自社の評価点の高低をある程度予測することはでき,入札参加者間でこれを予想し,又は連絡し合うなどして,受注調整を行うことが可能であり,現に受注調整をしていた。
ウ 原告らは,受注予定者を1社に絞り込めずに2社以上で争われた物件は存在しないというのであるから,本件合意により競争制限効果が働いていたということができる。
受注予定者を決定することを内容とするいわゆる入札談合は,「取引の相手方を制限する」(独占禁止法2条6項)行為であり,競争単位の減少を図るだけでも競争制限効果が認められるべきものであるから,結果的に受住予定者を1社に絞り込めなかった場合であっても,白紙に戻していわゆるフリー物件とするとの合意でもされない限り,本件合意の対象として競争単位の減少による具体的競争制限効果の発生した事実が否定されることはない。
エ 1社入札の物件についても,本件合意に基づく受注調整の下では,30社は,受注希望を表明し合うことによって受注希望者が1社であることを確認すれば,他の入札参加者が競争的な行動をしてこないことがあらかじめ分かるので,競争が機能することはなく,当該受注希望者は自らを受注予定者として,安心して高値の落札を目指した入札を行うことができるし,入札希望者の有無等を知ることにより,受注予定者となることが困難であると判断した事業者が他の事業者の落札に協力することもあり得る。
このように,実質的に1社しか受注希望者がいなかったとしても,そのことから,本件合意による競争制限効果がなかったということはできない。
オ 本件審決では,316物件中の4つの物件を本件違反行為の対象としていないが,これは,入札参加申請をしないことにより受注予定者の受注に協力することが本件違反行為の対象に含まれていたことを示す証拠がなかったからにすぎず,1社入札であることを理由に具体的な競争制限効果がないと判断したものではない。
カ 上記のほか,原告らは,原告らが受注した各個別の物件につき,落札率が低いものがある,総合評価落札方式によるものがあるなどと,本件合意に基づいた具体的な競争制限効果が及んでいたとはいえない特段の事情がある旨主張する。
しかし,上記原告らが受注した物件の中に総合評価落札方式によるものがあったとしても,そのことにより,本件合意による競争制限効果が及んでいないということができないことは,前記イに述べたとおりである。総合評価落札方式における受注調整においては,評価点との関係で落札価格が低くなることも起こり得るものであるし,受注調整の結果,受注予定者を1社に絞り込めなかった物件もあるなど,相対的に見て落札率が低いものがあったとしても,本件合意に基づいた具体的な競争制限効果が及んでいたとはいえない特段の事情があるとはいえない。
5 争点4(本件立入検査後に契約された工事の対価は,本件違反行為の実行期間における売上高に含まれるか)について
⑴ 原告岩波建設,同佐藤建設工業,同甲斐建設,同奥山建設の主張
課徴金の対象となっている物件のうち,原告岩波建設,同佐藤建設工業,同甲斐建設,同奥山建設が最後に落札した物件については,平成22年3月30日又は同月31日に契約が締結されている。
本件課徴金納付命令では,平成22年3月24日以降,原告らは本件違反行為を行っていないというのであるから,これらの物件は課徴金の対象とされるべきものではない。
⑵ 被告の主張
独占禁止法7条の2第1項にいう「実行期間」の終期は,違反行為の終了日ではなく,違反行為者につき,それぞれ違反行為にかかる事業活動が終了したと認められる日を意味する。
そして,受注調整は,受注予定者が入札物件を落札して工事契約を締結することを目指して行われるものであるから,違反行為終了前に行われた受注調整によって落札した物件につき,違反行為終了後に落札者が工事契約を締結した場合であっても,落札者が落札内容どおりの契約を締結することは,落札した時点でほぼ確実だったのであるから,上記も「実行としての事業活動」と認められる。
6 争点5(受注者が工事を中止したことにより,本件違反行為の実行期間後に工事代金が出来高に応じて減額された場合,減額後の金額が課徴金算定の基礎となるか)について
⑴ 原告渡辺建設の主張
原告渡辺建設に課徴金が賦課された物件234は,同原告が途中で工事を中止することとなったため,平成21年10月6日に山梨県による出来高検査・確認(1522万9410円)がなされ(審Bカ1),その後,原告渡辺建設が中止した本件工事の残りの部分の工事は,物件297として発注された。
原告渡辺建設に対し,途中で終了した物件234の工事について当初の契約の金額(工事完了までの全体の金額)を基に課徴金を課し,物件297についても,工事の契約金額(渡辺建設が途中でやめた後の部分の金額)を基にした課徴金を課すようなことがあれば,原告渡辺建設が途中でやめた後の部分について,二重に課徴金を課すことになり,適正手続に違反(憲法31条)する。
⑵ 被告の主張
課徴金制度の趣旨からすれば,実行期間において一旦有効に契約が成立した以上,そこに定められた請負代金額をもって売上額を算定すべきであり,仮に,実行期間の終期において,当該工事の出来高が客観的に確定していたとしても,この出来高によることはできず,その後の契約変更による請負代金の増減(減額のみならず増額の場合を含む。)についても,実行期間経過後の変更契約についてはこれを考慮することはできないものと解される。
物件234については,平成21年5月26日,原告渡辺建設が受注し,同月27日,同工事にかかる契約は有効に成立し(請負代金額4935万円。査312),同年9月27日,同原告は,山梨県から有資格者名簿への登録を抹消され,本件対象工事の入札に参加することができなくなったから,同日が実行期間の終期であるところ,同日までに上記契約内容は変更されていない。
そうすると,仮に平成21年9月27日時点で物件234の出来高が確定していたとしても,実行期間内に契約の変更がない以上,出来高をもって売上額とすることはできないし,原告渡辺建設は,残余の工事である物件297を受注したわけではないから,課徴金の二重賦課の問題は生じない。
7 争点6(本件各命令発出手続の適法性)について
⑴ 原告らの主張
被告は,本件各命令において,「遅くとも平成18年4月1日以降,本件対象工事について,受注価格の低落防止を図るため,『受注予定者を決定する。受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する。』旨の合意」をしたと認定しているが,本件合意が,いつ,どこで,だれによって,どのようになされたのかについて特定を欠いており,独占禁止法49条1項及び同法50条1項並びに適正手続(憲法第31条)に違反している。
⑵ 被告の主張
本件排除措置命令書には,本件合意が存在するに至った時期,内容,行為者等のほか,本件合意に基づいて30社によって行われた行為が具体的に記載されているから,違法な点はない。
また,不当な取引制限における合意の形成過程について,日時,場所等をもって具体的に特定することまでを要するものでなく,本件各課徴金納付命令にも違法な点はない。
第5 当裁判所の判断
1 前記争点⑴(本件合意の存在について実質的証拠があるか)について
⑴ 30社のうち22社の代表者及び担当者は,被告の審査官に対し山梨県発注の工事について塩山支部等の会員の間でされた受注調整等について,次のとおり供述したことが認められる。
ア 高野建設の《T》社長は,入札事業者間であらかじめ工事を受注する事業者を決め,当該事業者が受注することができるように協力し合っていたと供述した(査46)。
イ 原告天川工業の《M1》社長は,話合いで本命が決められなかったときには,競争により入札に臨むこともあったが,入札前には,入札に参加しようとする会社の社長が集まり,どの会社が受注予定者になるかについての共通認識を持つようにし,それ以外の者は,本命が受注できるように協力していたと供述した(査47,48)。
ウ 原告岩波建設の《A》社長は,塩山支部からの呼び出しを受け,JVを組んで入札に参加する予定だった物件(別紙5の「番外」)について,複数の事業者と話していたと供述した(査49)。
エ 内田組の《C2》総務部長は,総合評価落札方式による入札がされた物件に関し,被告の審査官から自らが記載したメモ(査217)を示されて,競合する事業者の入札金額を検討して記載したメモであると認めた上で,受注調整が行われた状況を供述した。また,被告の審査官から自らが原告山梨技建に送信した電子メール(査193)を示されて,内田組が入札するに当たり,競合する事業者である原告山梨技建に対して,内田組の施工計画書よりも評価が低くなるような施工計画書の提出を依頼するために,簡素な内容の施工計画書を添付した電子メールを送信したこと,同物件の入札結果では,内田組の施工計画書の評価が5点であったのに対し,原告山梨技建は0点となり,内田組が物件を受注できたことなどを供述した。(査52,53)
オ 峡東建設の《AA》社長は,具体例(物件180)を挙げながら,受注したい物件については,他の事業者に自社が受注できるように協力依頼をしていたと供述した(査54)。
カ 原告タナベエンジニアリングの《D》社長は,塩山支部等の執行部から受注を希望している事業者の情報を得ると,受注を希望する事業者同士で自社が受注できるように話し合いをし,そこで決まった事業者が受注できるようにお互いに協力していたと供述した(査55)。
キ 原告甲斐建設の《AB》社長は,他の業者のテリトリーの物件を受注すると,自分のテリトリーの物件を他の業者が取りにきてしまうので,そのようなことはしないという暗黙の了解があった,他の業者のテリトリー物件については,落札することのないような高い価格で応札していた,塩山支部からテリトリー外の業者に物件を取らせてやるよう要請されたこともあったと供述した(査57)。
ク 原告渡辺建設の《AC1》社長は,各業者の間で,お互いのテリトリーを守って,他の業者のテリトリーの物件を取りに行かないという暗黙の了解があったので,自社のテリトリーの物件については,96から97%程度の価格で入札し,他の業者のテリトリーの物件については,予定価格の99%などの高い価格で応札していたと供述した。また。被告の審査官から,原告渡辺建設の元入札担当者であった原告廣瀬土木の《AC2》営業部長(上記各原告に所属していた期間を含め,以下「《AC2》」という。)のパソコン内に残されていた原告天川工業から《AC2》に送信された電子メール(査169)を示されて,原告天川工業が,総合評価落札方式による入札が実施される物件について受注するために,他の入札者に対し,自社の施工計画書より評価の低くなるような施工計画書案を添付して送信したものであると供述した(査58ないし60)。
ケ 天川組の《S1》社長は,「いわゆる談合を行っていました。」と供述するとともに,受注を希望する物件については,塩山支部等の執行部に,その旨の連絡をしていたと供述した(査61,62)。
コ 甲信建設の《L1》社長は,各社が物件ごとに地域性や継続性などから受注すべき業者を棲み分けており,他の入札参加者が受注すべき物件については,当該業者が受注できるように協力し,自社が受注すべき物件については,電話で協力を依頼するなどして,自社が受注できるよう予定価格の99%などの高い価格で入札して協力してもらっていたと供述した(査64,65)。
サ 野澤工業の《P》社長は,同社が継続性や地域性のない物件については,入札に参加することはあっても受注を目指すことはなく,入札する場合には,予定価格の99%などの高い入札価格で入札していたと供述した(査66)。
シ 三森建設の《AD》社長は,被告の審査官から,三森建設が他の業者に送信した電子メール(本文には,「予定価格38,740,000-(抜き) ¥38,400,000-(抜き)以上で入札お願いします。一番点数がよくてよわりました。」,「積算書添付します。参考でお願いします。」などと記載され,「総合評価落札方式に関する評価調書」と題する書面が添付されたもの)(査171)を示されて,総合評価落札方式による入札がされた受注を希望した物件について,点数を試算した結果,総合評価の点数が最も高くなりそうな他社に対して送信した電子メールであると供述した(査69)。
ス 大和工務店の《F》社長は,受注を希望しない事業者は,予定価格の99%以上の落札できそうもない金額で入札に参加して,受注を希望する事業者が落札できるようにしたり,受注を希望する事業者が2社以上の場合は,事業者同士で話し合いをしたりしていたと供述した(査70)。
セ 山梨建設の《R》社長は,公示後,塩山支部で情報交換及び話合いにより受注予定者を決めており,どの会社が優位な工事なのかはっきりしない場合には,支部長から声を掛けられ支部長室で話をした,総合評価落札方式による入札の場合,予想外の落札を避けるために,積算していた数字よりも高い金額で入札したことがあったと供述した(査71ないし73)。
ソ 飯島工事の《AE》社長は,共同して受注予定者を決めて受注予定者が受注できるように協力し合う「いわゆる談合」を行っていた,自社が落札したい物件については,他の入札参加者には自社が落札できる高い価格で入札してもらっていた,自社が受注を希望しない場合は,99%程度で入札し,総合評価落札方式による入札の場合,自社が落札しないように経験の浅い技術者をあえて付けて低い点数となるようにしていたと供述した(査74ないし76)。
タ 原告広瀬土木の《AF》社長は,自社が本命である物件については,他の入札参加者に対し,「うちは○%です。」などと伝え,他社に高い価格で入札してもらったり,暗黙の了解として予定価格の99%などの高い価格で入札してもらったりしていたと供述した(査77ないし79)。
さらに,《AC2》は,前記クにおけるのと同じ電子メール(査169)を示され,原告渡辺建設は上記電子メールに添付された施工計画書を利用して作成した自社の施工計画書を山梨県に提出するなどしていたと供述した(査80)。
チ 藤プラント建設の《V2》社長は,地域性,継続性のある事業者が物件を受注できるように,入札に参加する事業者は遠慮し合うなど協力をしてきたと供述した(査82)。
ツ 原告佐藤建設工業の《AI》社長は,他社が地域性や継続性を有する物件については,自社が落札することがないと考えられる金額で入札していたと供述した(査83)。
テ 原告山梨技建の《AG1》社長は,山梨県が峡東地域を施工場所として行う土木一式工事の入札参加者は,従前から,入札前に受注予定者を入札参加事業者の間で決めていた,かかる調整が行われるようになったのは,供述調書が作成された平成22年3月24日の10年ほど前からである,自社が受注を希望する場合は,塩山支部で確認するなどして入札への参加を希望する可能性のある事業者に対して携帯電話で連絡をとるなどして,自社が受注を希望している旨を伝えていた,逆に,他の業者が希望した場合には,その業者が受注できるよう協力していたと供述し,平成18年から平成21年にかけて入札が実施された複数の物件(物件97,146,167等)について,他に指名を受けている事業者に連絡を取るなどして受注調整を行った状況を具体的に供述した(査84ないし86)。
また,原告山梨技建の従業員《AG2》も,被告の審査官から,内田組から受信した「天神川砂防工事の様式5-1を送ります。(簡単になっています。)」と記載された電子メール(査193)を示されて,原告山梨技建と内田組が入札に参加した総合評価落札方式による物件ついて,内田組の施工計画書が優れていると評価されるように簡素な内容の施工計画書が添付されていたと受注調整がされたことを供述した(査87)。
ト 宮原土建の《AH》社長(以下「宮原土建の《AH》社長」という。)は,山梨県が峡東地域を施工場所として発注する土木一式工事について,建設業者は受注調整を繰り返してきており,通常の一般競争入札方式に加えて総合評価落札方式が多く導入されるようになった平成19年以降も,事前に情報交換をし,技術面,安全面などの評価点1点が入札価格の何円分に相当するのかなどといったことも検討し,受注予定者が間違いなく落札できるように協力し合うなどしたと述べた上,具体的な物件(物件267,287等)についても受注調整が行われた状況を供述するとともに,本件5月役員会の場で,当時の支部長であった廣川工業所の《B》社長が,受注調整を行っていることが外部に漏れることを防ぐため,連絡調整をする者を各社の社長や親族に限りたいと提案したと聞いたことや,入札価格のメモは受注調整の動かぬ証拠になるので,用済み後速やかにシュレッダーにかけていたことなどを供述した(査88ないし98)。
ナ 坂本組の《U1》社長は,塩山支部に対する平成6年の勧告の後も,引き続き受注調整が行われてきた,廣川工業所の《B》社長が,本件5月役員会において,被告のこともあり,内部の話が外部に漏れては困るので,受注調整の話し合いの出席者は,今後,各社の社長,その兄弟又は息子に限るという提案をしていたと述べた上,具体的な物件(物件288,別紙5の「番外」)を挙げて受注調整が行われた態様等を供述した(査99ないし101)。
ニ 植野興業の《E》社長は,山梨県発注の建設工事については,長年にわたって受注調整が行われてきており,業者間で話し合って本命を決め,本命を1社に絞れなかったときには,支部長が助言・指導をして裁定をし,調整に反する行為をしたり,支部長裁定に従わなかったりした場合には処分があったと供述した(査327)。
⑵ア 上記⑴のとおり,30社のうちの多くの社長や担当者は,山梨県発注の工事において,指名競争入札方式や通常の一般競争入札方式により入札が行われた物件については,入札に参加する塩山地区等の事業者間で,受注予定者を決めて,そこで決定した事業者が確実に当該物件を落札できるように予定価格の99%など高い価格で入札するという受注調整が恒常的に行われていた旨の供述をし,総合評価落札方式により入札が行われた物件についても,同様に他の入札参加者が高い価格で入札したり,受注予定者が入札参加者に対して,自社の施工計画書より劣る内容の施工計画書を送付して提出してもらったりするなどして受注調整を行っていた旨の供述をしているところ,上記供述内容は相互に一致し,その一部(前記⑴エ,ク,シ,テ,タ)については,裏付けとなる電子メールや書込みがされた入札公告などの客観的な証拠が存在し,供述者に示されており,現に,受注予定者から送付された施工計画書をそのまま利用して山梨県に提出した事業者もいたこと(前記⑴タ)からすれば,受注調整があったことを認めている前記社長らの供述の内容は信用できるといえる。
イ さらに,後記⑹のとおり,別紙5に記載のもののうち,44の物件については,本件合意に基づく受注調整が行われていたことを直接裏付ける電子メールや書込みがされた入札公告などの客観的な証拠が存在し,また,60物件についても,入札参加者が塩山支部等に対して当該工事の入札に参加する旨を届け出て,同支部等において入札参加者取りまとめ表を作成していたことなど,本件合意の内容に基づく受注調整が行われたことを推認させる事実を裏付ける客観的な証拠が存在することからしても,被告の審査官に対する上記⑴の社長らの供述は,客観的な証拠にも裏付けられた信用性の高いものと認められる。
⑵ このように信用性の高い前記社長らの供述によれば,塩山地区等に所在する30社にあっては,入札に参加する事業者間で,受注予定者を決めて,受注予定者が定めた価格で受注できるように協力するという受注調整が恒常的に行われていたと認められるのであり,その後の本件審判手続において,上記供述内容を翻し,本件合意の成立や受注調整が行われた事実を否定するに至った者がいたとしても,そのことにより上記認定が左右されるものとはいえない。
なお,原告らは,被告が作成した供述調書には信用性も任意性もないなどと主張するが,これらの供述調書は,供述者自らが記載したものではなく,被告の審査官が供述者から事情を聴き取った上で,その供述内容をまとめて記載し,供述者に閲覧をさせ,あるいは読み聞かせをして内容が正しいことを確認させて作成したものであるから,供述内容をまとめる審査官が,複数の供述調書で似たような表現を用いていたとしても,直ちに不自然であるとはいえず,かかる事実のみをもって,各供述調書の内容に信用性がないということはできない。また,任意に事情を聴かれていたにすぎない供述者らが,被告の審査官から,後で訂正できるからと言われて,全く事実と異なる内容の供述調書にそろって署名押印したとは到底考えられないところであり,被告の審査官が,事実と異なる供述調書を作成するために,供述者に対し,署名押印した後に訂正できるなどと説明したとは認められない。この点についての原告らの主張は,いずれも採用できない。
⑷ 上記に対し,原告らは,塩山支部等において,入札参加者の情報を集約していたのは,1社入札を防止するためであったと主張する。
確かに,山梨県入札監視委員会や同県土木森林環境委員会において,低価格入札や独占禁止法違反等の不正事案等とともに,入札者が少ない物件が話題となり,また,山梨県建設業協会は,同県から入札参加者が少ないとの指摘を受けた事実があったと認められる(審B共2の1ないし6,共3)。
しかし,被告の審査官から事情聴取を受けて供述調書が作成された30社の社長や担当者の中に,塩山支部等において入札希望者の情報を集めて入札参加者取りまとめ表を作成していたのは,1社入札を防止するという山梨県からの要請に応じるためであったなどと供述した者は一人もいなかった上,山梨県の発注担当者であった《氏名略》は,建設事業者や建設事業者団体に対して,1社入札とならないように入札参加者の数を調整してほしいと要請したことはない旨供述し(査231),平成21年4月から山梨県建設業協会の会長職にあった昭和建設の《W》社長も,そのような話を聞いたことはないと供述していること(査6,232),1社入札を避けるためだけであれば,入札参加者の情報を集めて,その取りまとめ表の作成まで行う必要も,落札者の決定後に入札参加者取りまとめ表をシュレッダーにかけて廃棄する必要もないことからすると,原告らの主張は採用できない。
そうすると,塩山支部等において入札参加情報を集約していたのは,入札参加者の間で話合い等をすることにより,受注予定者を決定して受注調整をするために行われていたものと推認することができる。
⑸ア 原告らは,本件5月役員会における廣川工業所の《B》社長の発言は,受注調整が行われていることが外部に漏れることを防止する趣旨のものではなかったし,本件5月役員会には30社の全てが出席したわけではないなどと主張する。
しかしながら,前記⑴ト,ナのとおり,坂本組の《U1》社長は,本件5月役員会において,廣川工業所の《B》社長が,受注調整の話合いの出席者は,今後,各社の社長や親族に限るという提案をしたと供述しており,宮原土建の《AH》社長も,同様の話を聞いたと供述していることに加え,廣川工業所の《B》社長が作成した本件5月役員会に関するメモ(査113)にも,「役員会 5月11日 PM、6、30 《ホテルの名称の記載》」,「仕事に関する会議は本人以外は認めない ただし親子は認める」との記載があるところ,《B》社長は,「仕事」という言葉は「入札物件に関する情報交換などの疑わしい話」を指すものとして用いることがある旨供述している(査234)。原告天川工業の《M1》社長の平成19年の手帳(査43)にも,「5/11 塩山支部役員会 PM6:00 《旅館の名称の記載》……調整会議 希望等は社長あるいは息子」と記載されているところ,平成21年の手帳(査177)の「調整会議6社希望,調整つかず24日再会議」との記載からすれば,《M1》社長は,「調整会議」を「受注調整のための会議」という意味で用いていたと認められ,《M1》社長としては,《B》社長の発言は受注調整を意味するものと理解していたことがうかがわれる。
以上によれば,本件5月役員会における廣川工業所の《B》社長の発言が,受注調整が行われていることについての情報が被告等に漏れることを防ぐことを目的とするものであったことは明らかであり,そのことは同役員会の出席者も当然了解していたものと認められる。
イ また,原告山梨技研の《AG1》社長等の供述及び原告天川工業の《M1》社長の手帳等(査39ないし43,47ないし49,72,99,100,115ない117)によれば,本件6月役員会において,出席者の間で,本件対象工事の入札に参加しようとする場合には,入札公告が行われた日の翌日までに,当該工事の入札に参加する旨を塩山支部等の執行部又は塩山支部等の事務員に連絡するとともに,当該工事の受注を希望する場合には,原則として,入札公告が行われた日から土日祝日を除いて数日後(ほとんどは3日後)の午前10時頃に塩山支部会館に出向き,塩山支部等の執行部に当該工事の受注を希望する旨を伝えることが確認されていたことが認められる。
そして,原告甲斐建設及び藤プラント建設は,いずれも平成19年6月13日当時は塩山支部の役員ではなかったが,原告甲斐建設が保管していた資料(査41)には,「入札公告の日に希望を支部へFAX 公告より中2日で支部へ行く.土,日カウントしない」と記載され,藤プラント建設が保管していた資料(査39)にも,「県・工事 工事希望型」,「公告があって申し込みする時 - 支部に『一般競争入札』公告をFAX」,「公告があって工事希望の時 - 公告より中2日後AM10:00支部に出向き執行部に希望をかける。(4日目が休日の場合その翌日)」,「確認通知書確認後 - その日の午後支部へ行く(複数社希望があったときのため)その後の話し合いについての日時は支部より連絡あり」と記載されていることからすると,上記のとおり,塩山支部の役員会で確認がされた事項が,塩山支部の役員以外の会員全体に周知されていたことも認められるのであり,原告らの主張は採用できない。
なお,入札参加者の情報集約が1社入札を防止するためのものであったとは認められないことは前記⑷において説示したとおりである。
⑹ア 原告らは,本件審決が受注調整が行われたことを裏付ける証拠があるとする44物件について,個別の事情を見れば,各証拠からそのような認定はできないし,裏付け証拠のある物件が44というのはあまりにも数が少ない旨,また,本件審決が受注調整に関わる行為が行われたことを裏付ける証拠があるとする60物件についても,入札に向けての情報を収集していることを示しているにすぎない旨主張する。
イ しかし,44物件についてみるに,まず,原告が本件合意に基づく受注調整がされているとは認められない特段の事情があると主張する各物件に含まれる13物件(物件88,89,98,137,159,197,205,209,273,275,282,300,305)については,後記3⑹のとおり,それぞれ電子メール,ファクシミリ,30社関係者の作成文書や手帳,競争参加資格確認通知書や入札公告への書き込みといった客観的証拠によって本件合意に基づく受注調整がされたことが裏付けられている。
その他の31物件についても,①物件274,306,312については,それぞれ入札参加者の評価点及び入札価格等をシュミレーションした結果が記載された文書等(査192,217,218)が存在し,②物件214,254についても,それぞれ入札参加者間で施工計画書等の発注者に提出する資料をやり取りしている電子メール等(査171,184)が存在し,③物件69,81,82,83,85,86,87,90,96,99,111,139,166,170,190,223,281,313については,当該工事を落札した事業者の名称及び落札価格並びに自社の入札価格等が書き込まれた競争参加資格確認通知書及び入札公告等(査128,130,271,272,134~136,139,141・142,149・150,152,154・155,156,158,273,274,158・164,172,198,106の3・107の46)が存在し,④物件52,244,247,248,253,268,276,301についても,当該工事の受注調整に関する事実が記載された入札参加者の代表者の手帳等(査124,177,190)が存在し,これらの客観的証拠によって,本件合意に基づく受注調整がされたことが裏付けられている。
そして,上記の44物件という件数は,本件合意に基づく受注調整がされていたこと自体を直接裏付ける客観的証拠が存在するものであることに照らせば,上述⑴のとおり,30社のうちの多くの社長や担当者が相互に一致して供述する内容を優に裏付け得るものというべきであり,決して少なすぎるなどとはいえない。
ウ 60物件についてみるに,①物件116,124,151,156,163,164,167,171ないし173,176,178,181,189,192,195,196,199ないし202,212,264,297,299については,入札参加者が塩山支部等に対し,入札に参加する旨を届け出ていた,自社の名称を記載したファクシミリ等(査107の枝番号2,4,8ないし11,13,15ないし22,24ないし27,30ないし38,42,43,47)が,②物件309ないし311,314ないし316,番外についても,塩山支部において作成していた入札参加者取りまとめ表(査106の枝番号1ないし4)が,③物件7,11,17,40,107,125,135,155,198,212,215,229,233,236についても,落札者において,自社以外の入札参加者を入札前に把握し,記載していた手帳等(査175,176,256ないし266,269)がそれぞれ証拠として存在している。④物件16,215,217についても,入札参加者等において,当該工事の入札前に他社に対して受注希望を表明し,又は他社から受注希望を表明された旨が記載された手帳等(査118,284)が,⑤物件97,191,199,264,295,296,298,314ないし316,番外については,入札参加者等において,調整会議等の開催予定日時や他の入札参加者と受注調整の話合いを行った旨が記載された手帳等(査151,188,189,209ないし211,219,278,281ないし283)が,⑥物件47,145,153,259についても,入札参加者等において,入札前に受注予定者を把握し,記載していた手帳等(査121,122,270,287,288)が,⑦物件225についても,入札参加者において,他の入札参加者に対して当該工事の見積書を参考に見せてほしいと依頼した旨が記載された手帳等(査173)が,⑧物件14,84,201,202,294についても,入札参加者間において,入札資料を受送信している電子メールやファクシミリ(査132,207,290,292)が,いずれもそれぞれ証拠として存在している。
そして,上記の各証拠によれば,①ないし③については,入札参加者の情報の集約がされていたことが認定できるところ,原告の主張する1社入札を回避する目的であったとは認められない(前記⑷)以上,この情報集約がされていた事実も,本件合意に基づく受注調整が行われていたことを推認させるものといわざるを得ない。また,④ないし⑧については,入札参加者の情報集約がされていた事実を越えて,更に受注調整がされていたことを推認させる客観的な証拠ということができる。
⑺ さらに,原告らは,総合評価落札方式による入札が行われた物件については受注調整を行うことはできないと主張する。
しかし,前記第2の2⑵ウ(ウ)のとおり,総合評価落札方式の工事における評価項目のうち,「企業の施工実績」,「地域精通度」及び「地域貢献度」は,いずれも客観的なデータに基づいて算出されるものであり,入札参加者が山梨県所定の様式で作成,記載して提出した資料に基づいて点数化されることが,総合評価実施要領で公表されていたから,30社は,過去の入札結果等により,各入札参加者の評価点を予想することが可能であったし,評価項目のうち「配置予定技術者の能力」も,総合評価実施要領に基づき客観的なデータが点数化されるものであるため,少なくとも,入札参加者において自社の評価点を予想することは可能であった。そして,評価項目のうち「施工計画」については,上記「企業の施工実績」等と異なり,総合評価実施要領に基づき客観的なデータが点数化されるものではなく,評価が発注者の裁量に委ねられるものであるため,正確に評価点を予想することはできないものの,0点,5点又は10点と3段階で配点されていたこともあり,少なくとも,入札参加者において,自社の作成した施工計画書の内容から自社の評価点の高低をある程度予想することは可能であった。
このように,自社の評価点の高低を相当程度予測できることは,前記⑴記載の代表者らの供述によっても裏付けられており,受注調整が行われたことを裏付ける客観的な証拠がある44物件の中には,物件159,190,197,205,209,214,244,247,248,253,254,273,274,275,300,301,305,306,312,313のように,総合評価落札方式によるものが多数含まれていることからすれば,総合評価落札方式による入札が行われた物件についても受注調整が行われていたと認められるのであり,原告らの主張は採用できない。
⑻ 原告らは,原告岩波建設と他の塩山支部等の会員との人間関係が悪かったから,原告岩波建設を含む30社の間で本件合意が成立していたとは認められないと主張する。
しかし,本件違反行為を行ったことを自認する宮原土建の《AH》社長も,「私は言わば異端児的な存在で,私以上に支部に非協力的な業者はいなかったはずですが,その私ですら,入札ごとに,受注予定者から頼まれれば,受注予定者よりも高い価格で応札して受注予定者の落札に協力し・・・受注調整の最低限のルールはきちんと守って協力しておりました。」(査94)と供述しているように,30社のうちの一部の事業者間の不仲や人間関係の悪さといった事柄と,それぞれの企業の利益を確保するために,純粋に経済的な観点から始まった受注調整とは次元を異にするものであり,原告ら主張の事実をもって,本件合意の成立が否定されるものではない。
⑼ なお,本件審決では,落札率の高さも本件合意が成立したことを裏付ける事実の一つとしているが,本件合意は,受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた価格で受注できるように協力するというものであり,その協力の方法は,前記⑴記載の代表者らの供述によれば,受注予定者から入札金額や落札率を具体的に示されている場合もあれば,単に受注予定者のみを示し,入札金額や落札率を示していない場合もあり,後者の場合には,受注予定者以外の入札者は99%などの高い入札率で入札する方法によって,受注予定者が入札した金額で落札できるように協力していたものと認められる。
本件合意には,受注価格の低落を防止するという目的があるから,落札率がある程度低くならない傾向があるとしても,それと同時に,受注予定者は,他の入札参加者が受注予定者よりも高い入札率で入札をすることを前提として,アウトサイダーの存在や自社の利益,総合評価落札方式による場合にあっては自社と他の入札参加者の評価点などを考慮しつつ,入札価格を決定していたものといえるから,受注調整が行われた場合であっても,常に落札率が絶対的に高くなるということはできない。なお,受注調整を行って受注予定者を絞り込んだが,1社には絞り込めず,複数社による競争が残った場合にも落札者は絶対的に高くなるということはできない。
そうすると,落札率が相対的に低かった物件についても,そのことのみをもって,本件合意の存在や本件合意の下での受注調整が行われた事実が否定されるものとはいえない。
⑽ 上記に説示した諸点に照らせば,30社の間において,本件合意が成立していた事実は優に認定でき,この点に関する本件審決の判断は,実質的な証拠に基づく正当なものと認められる。
2 争点2(本件合意が独占禁止法2条6項の「不当な取引制限」に該当するか)について
⑴ 原告らは,本件各命令では,本件合意について,いつ,どこで,どのような方法で意思の連絡がなされたかについて,何ら具体的な特定がされていないし,本件審判手続においても,何ら立証されていないと主張する。
入札における「不当な取引制限」の前提となる,複数の事業者による不当な取引制限があるというためには,入札に先立って各事業者間で相互にその行動に事実上の拘束を生じさせ,一定の取引分野において実質的に競争を制限する効果をもたらす「意思の連絡」がされることが必要であるが,意思の連絡があるというためには,各事業者が当該意思を有しており,相互に拘束する意思の連絡が形成されていることが認められればよく,その形成過程について日時,場所等をもって具体的に特定することまでは要しないものと解されるから(東京高等裁判所平成18年(行ケ)第18号・同裁判所平成20年4月4日判決参照),本件合意に基づく受注調整にかかる事案にあっては,本件審決における特定としては十分というべきであり,原告らの主張は採用することができない。
⑵ 原告らは,本件審決は,本件対象工事を,独占禁止法2条6項の「一定の取引分野」であるとするが,同工事には,土木工事,治山工事,林道工事,農務工事の4種類の工事があり,発注部署やその工事内容も大きく異なるのであり,「本件対象工事」などという取引分野は存在しないと主張する。
本件対象工事は,それぞれ発注部署,工事内容が異なっており,原告らの主張するような種類の工事があることがうかがわれるが,前提事実⑵のとおり,山梨県は,本件対象工事をいずれも「土木一式工事」として発注していたものであること,A等級事業者又はB等級事業者である30社は,いずれも土木一式工事の施工能力があるとして有資格者名簿に登載されていたこと,30社が,工事の種類等を区別して受注調整をしていた事実はうかがわれないことからすれば,本件合意における「一定の取引分野」を,山梨県が一般競争入札又は指名競争入札の方法により土木工事一式として発注する工事のうち,本件対象期間における塩山地区を施工場所とする工事(本件対象工事)とした本件審決の判断は相当なものということができ,原告らの主張は採用することができない。
⑶ 原告らは,独占禁止法2条6項にいう不当な取引制限は,事業者が相互にその事業活動を拘束することにより一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいい,そのためには,当該制限によって,落札者及び落札価格を相当程度自由に支配し得る状態を作出するものでなければならないところ,本件合意はその程度に至っていないと主張する。
しかし,同項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引にかかる市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件合意のような一定の入札市場における受注調整の基本的な方法や手順等を取り決めることによって競争制限が行われる場合には,当該取決めによって,その当事者である事業者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすものと解される。
これを本件についてみるに,本来,各入札参加者は,入札するか否か及び入札する際の金額を自由に決定できるはずであるのに,本件合意は,本件対象工事について,受注予定者をあらかじめ決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた価格で受注できるように協力するという合意であるから,入札参加者の自由な意思決定を制約するものであり,独占禁止法2条6項の不当な取引制限に当たることは明らかである。
また,本件対象工事は,指名競争入札のほぼ全てにおいて,30社の中から当該入札の参加者が指名され,一般競争入札のほぼ全てにおいて,30社又は30社のいずれかで構成されるJVのみが入札に参加し,その全てを30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注していたこと(前提事実⑵カ)からすれば,本件合意は,その当事者である30社が,その意思で本件対象工事にかかる入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしたものと認められる。
3 争点3(原告らが受注した別紙6の1ないし9記載の各工事が当該役務に該当することについて実質的証拠があるか)について
⑴ 塩山支部等の会員の間で本件合意が成立し,その結果,同支部等に入札希望者に関する情報が集約され,受注希望者の話し合いがされるなどして受注予定者が決定され,他の入札参加者は,受注予定者が,入札する金額で落札できるように協力するという受注調整が行われてきたと認められることは前記1に説示のとおりである。かかる受注調整が塩山支部等において組織的に,かつ,長期間にわたって行われてきたことからすると,本件対象期間中,30社のうちのいずれかが入札に参加した工事については,受注調整が行われたとは認められない特段の事情がない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,その結果,具体的な競争制限効果が発生したものと本件推定をすべきものといえる。
⑵ 原告らは,継続性や地域性がある事業者は,他の事業より有利な立場にあるため,受注調整をしなくても,受注することが可能であると主張する。
なるほど,継続性や地域性がある事業者が,工事を受注するに当たって他の事業より有利な立場にある場合のあることは否定できない。
しかし,前記1⑴キ,ク,コ,サ,チ,ツ記載のとおり,原告甲斐建設の《AB》社長,原告渡辺建設の《AC1》社長,甲信建設の《L1》社長,野澤工業の《P》社長,藤プラント建設の《V2》社長,原告佐藤建設工業の《AI》社長は,継続性や地域性がある事業者についても,当該事業者が受注を希望する物件を落札できるように受注調整をし,入札に当たって配慮していたと供述しているように,当該工事に継続性や地域性のある事業者は,当該物件を確実に受注することを望むため,受注調整を行う動機も十分にあるものというべきであり,継続性や地域性がある事業者が他の事業より有利な立場にあるからといって,そのことにより受注調整がされていないと認められるものではない。
⑶ 原告らは,総合評価落札方式による物件について,競争制限効果を生じる受注調整をすることはできないと主張する。
しかし,総合評価落札方式による物件についても受注調整が行われていたと認められることは,前記1⑺に説示のとおりであり,受注調整がされていた以上,本件推定をすべきものといえるから,原告らの主張は採用することができない。
⑷ 原告らは,本件審決が,本件合意に基づく受注調整によっても,受注予定者が1社に絞り込めず,絞り込まれた複数の受注予定者の間で競争が行われた工事であっても,競争制限効果の発生を妨げる特段の事情には当たらないとするのに対し,そもそも受注調整をした結果,受注予定者を1社に絞り込めず,2社以上で争われた物件などというものは存在しないし,仮に,受注調整の結果,受注予定者を1社に絞れなかった場合があったとすれば,数社に絞るという合意は本件合意の内容に含まれず,また,競争単位が減少したからといって,競争が制限されて公正な価格を担保できなくなるわけではないと主張する。
しかし,受注調整の結果,受注予定者を1社に絞れなかったとしても,受注調整により受注することを諦めた事業者が存在すれば,本来,自由に行われるべき入札の参加者が減少することになるし,受注価格についても,受注を諦めた事業者は予定価格に近い高い入札率で入札するなどして受注予定者のいずれかが受注するように協力することになるから,競争制限効果があることは明らかであり,原告らの主張は採用することができない。
⑸ 原告らは,本件の個別物件の中には,入札参加者が1社しかなかったため,山梨県側の要請に基づき,他社に形だけの入札してもらったものが複数あるところ,そのような場合,具体的な競争制限効果が発生することはない,現に,被告も入札参加者が1社しかなかった4つの物件を課徴金の賦課対象から外していると主張する。
しかし,塩山支部等における入札希望者の情報の収集等が,1社入札を避けることを目的として行われていたものと認められないことは前記1⑷に説示のとおりである。
また,被告が課徴金賦課対象から外した4物件は,実際に入札参加者が1社しかなかったものであり,当該事実のみでは,受注調整の結果として,入札に参加しないという協力がされたものであるのか明らかではないとして課徴金納付命令の対象とされなかったものであるから,現に,複数の事業者が入札に参加した他の物件について,原告らが,実質的には1社入札であると主張したとしても,そのことにより,受注調整が行われたと認められない特段の事情があるとはいえない。
⑹ 次に,原告らは,原告らが受注した個別的な工事について,本件合意に基づく受注調整がされていないと認められる特段の事情があると主張する。
そこで,以下,原告毎に順次検討を加えることにする。
ア 原告岩波建設について
(ア) 原告岩波建設は,物件103,179,187については,落札率が比較的低い,物件204,260,265については,落札者よりも低い落札率で入札した者がいるから,具体的な競争制限効果が及んでいるとはいえない,物件150,245,258,305は,いずれも総合評価落札方式によるものであるから,本件合意に基づく受注調整がされていないと認められる特段の事情があるなどと主張する。
(イ) しかしながら,別紙5のとおり,原告岩波建設が落札した全ての物件について,入札参加者の中には,予定価格の99%前後の高い入札率で入札した者がいたことが認められるところ,そのような入札参加者が,真に落札をする意思を有していたかは疑わしく,前記1⑴記載のとおり,30社の代表者らが,入札予定者が落札できるように協力するために,予定価格の99%程度で入札するなどしていたと述べていることを併せ考慮すると,これらの物件については,受注調整がされたと認めるのが合理的であって,このような高い入札率で入札した事業者を実質的に競争から排除したという意味において,本件合意による受注調整が行われ,具体的競争制限効果があったと認められる。
そして,当該物件にかかる落札率が相対的に低かったとしても,そのことのみをもって,本件合意の存在や本件合意の下での受注調整が行われた事実が否定されるものとはいえないことは,前記1⑼に説示のとおりである。そうすると,物件103,179,187については,落札率が低いから,直ちに本件合意の競争制限効果が及んでいないといえるものではない。
(ウ) 原告岩波建設が落札した工事のうち,物件150,179,187,204,245,258,260,265,305は,いずれも総合評価落札方式によって入札がされたものであるところ,総合評価落札方式による入札がされた物件についても,受注調整がされていたと認められることは前記1⑺に説示のとおりである。
現に,物件305については,原告広瀬土木が提出した「『一般競争入札(総合評価落札方式)』公告」と題する「工事名林道川上牧丘線改築工事(明許)」と記載のある文書(査107の44)の右上部の余白部分に,「岩波」,「48,500-(抜)」と,下部の余白部分にも,「広土 広川 飯島 奥山 佐藤 天工」,「2/23(火)」と書き込みがされた後に修正用品で抹消した痕跡が認められるところ(査216),これらの事業者名は,原告奥山建設を除いて実際に入札した事業者名と一致し,「48,500-(抜)」との記載も,原告広瀬土木の入札価格に合致するものであったこと,原告天川工業の《M1》社長の手帳(査214)の平成22年2月23日の欄には,「塩山支部AM10:00(川上線)」との書込みが,原告佐藤建設工業の《AI》社長の手帳(査215)の同日の欄には,「10:00塩山支部川上線」との書込みがされていたことからすると,上記物件については,少なくとも入札に参加した事業者が入札価格を含めた受注調整をしていたことが明らかであって,この事実からも,総合評価落札方式による入札であるとの一事をもって,本件合意によって受注調整がされていなかったとはいえず,総合評価落札方式により入札がされた工事については競争制限効果が及んでいないとの原告岩波建設の主張は採用することができない。
総合評価落札方式よって入札がされた物件204,260,265については,総合評価落札方式においては,各物件を落札できるか否かは評価値と入札価格との総合評価によることになるから,原告岩波建設よりも低い落札率で入札した者がいるというだけで,本件合意による競争制限効果が及んでいないものと認めることはできない。
(エ) 原告岩波建設が受注したその他の物件についても,原告岩波建設が主張するような事情があったとしても,本件合意に基づく受注調整がされたとは認められない特段の事情があるとはいえず,受注調整による具体的競争制限の下に受注されたとの本件推定を覆すに足りる証拠はない。
イ 原告タナベエンジニアリングについて
(ア) 原告タナベエンジニアリングは,物件194,198については,落札率が比較的低く,物件205,255は,いずれも総合評価落札方式によるものであるから,本件合意によって落札できたものではなく,本件合意に基づく受注調整に起因して,具体的競争制限効果が発生していたとは認められない特段の事情があるなどと主張する。
(イ) しかしながら,原告タナベエンジニアリングが指摘する上記の全ての物件について,入札参加者の中には,予定価格の99%前後の高い入札率で入札した者がいたことが認められるから,これらの物件については,受注調整がされたと認めるのが合理的であって,このような高い入札率で入札した事業者を実質的に競争から排除したという意味において,本件合意による受注調整が行われ,具体的競争制限効果があったと認められるし,当該物件にかかる落札率が相対的に低かったとしても,そのことのみをもって,本件合意の存在や本件合意の下での受注調整が行われた事実が否定されないことは,前記1⑼に説示のとおりである。
(ウ) また,原告タナベエンジニアリングが指摘する上記の全ての物件は,総合評価落札方式によるものであるところ,総合評価落札方式によっても,受注調整がされていたと認められることは前記1⑺に説示のとおりである。
現に,物件205については,原告タナベエンジニアリングが野澤工業に対し,「平沢千野線災害防除工事の積算書です。よろしくお願いします。」等と記載し,工事価格を4306万円とする工事費内訳表等を添付したファクシミリを送信していたこと(査168)からも,受注調整が行われたことは明らかである。
この点,原告タナベエンジニアリングは,同原告しか受注希望者がいなかったため,形だけの入札参加を野澤工業に依頼したものであり,工事費内訳表を送信したのは同社の手間を軽減するためであったと主張するが,野澤工業の《P》社長は,上記物件が原告タナベエンジニアリングが得意とする工法を用いるものであったため,同工事にかかる積算作業を依頼したものであると供述し,上記が1社入札を避けるためであったとは供述しておらず(審A共13),上記原告タナベエンジニアリングの主張は採用することができない。さらに,野澤工業の《P》社長の上記供述についても,そもそも競合する入札業者に対して積算作業を依頼するということ自体が不自然であり,信用することはできない。
上記物件205については,野澤工業が上記ファクシミリに記載された金額に極めて近い4300万円で入札したのに対し,原告タナベエンジニアリングは4220万円で入札して落札していたことからすると,同物件についても,本件合意に基づく受注調整が行われていたものと認められる。
(エ) 原告タナベエンジニアリングが受注したその他の物件についても,原告タナベエンジニアリングが主張するような事情があったとしても,本件合意に基づく受注調整がされたとは認められない特段の事情があるとはいえず,受注調整による具体的競争制限の下に受注されたとの本件推定を覆すに足りる証拠はない。
ウ 原告佐藤建設工業について
(ア) 原告佐藤建設工業は,物件310については,落札率が低く,物件131は,1社入札の物件であり,物件202は,総合評価落札方式によるものであるから,本件合意によって落札できたものではなく,本件合意に基づく受注調整に起因して,具体的競争制限効果が発生していたとは認められない特段の事情があると主張する。
(イ) しかしながら,原告佐藤建設工業が受注した全ての物件について,入札参加者の中には,予定価格の99%前後の高い入札率で入札した者がいたことが認められるから,これらの物件については,受注調整がされたと認めるのが合理的であって,このような高い入札率で入札した事業者を実質的に競争から排除したという意味において,本件合意による受注調整が行われ,具体的競争制限効果があったと認められるし,当該物件にかかる落札率が相対的に低かったとしても,そのことのみをもって,本件合意の存在や本件合意の下での受注調整が行われた事実が否定されないことは,前記1⑼に説示のとおりである。
なお,物件310については,これを落札した原告佐藤建設工業の落札率75%が相対的に低いことは否定できず,また,次点の藤プラント建設はこれよりも低い入札率74.8%で入札しているが,3番目の原告山梨技研は入札率98.6%と上記2社に比べて明らかに高い入札率で入札していることからすると,最終的に原告佐藤建設工業と藤プラント建設の2社の間で受注予定者を絞り込めなかったものと推認することができ,前記3⑷に説示のとおり,受注調整で受注予定者を絞り込んだものの,1社に絞り込めなかった場合にも競争制限効果はあるから,このような事実から,本件合意に基づく受注調整がされたとは認められない特段の事情があるとはいえない。
(ウ) 物件202,310は,総合評価落札方式による入札が行われた物件であるが,総合評価落札方式によっても,受注調整がされていたと認められることは前記1⑺に説示のとおりである。
そのうち,物件202ついては,原告甲斐建設が原告佐藤建設工業に対して工事費内訳書を電子メールで送信しているのであり(査292),その後,原告甲斐建設が物件202の入札に参加していなかったとしても,受注調整が行われたことは明らかであって,本件合意に基づく受注調整がされたとは認められない特段の事情はなく,本件推定を覆すに足りる証拠はない。
(エ) 原告佐藤建設工業は,物件131は1社入札の物件であると主張するが,同工事には,原告佐藤建設工業の他に4社が入札に参加しており,同工事が1社入札の物件であり,受注調整がされていないことを裏付けるに足りる証拠はない。
(オ) その他の工事についても,例えば,物件282については,原告佐藤建設工業の《AI》社長が,入札前に飯島工事の《AE》社長に対して送信した「橋梁補修工事内訳書」と題する電子メール(査200)には,「内訳書を添付します。単価は変えてありますので,そのまま使っても大丈夫です。」との記載があり,工事価格を3900万円とする工事費内訳表が添付されていたほか,原告佐藤建設工業が保有する同物件の競争参加資格確認通知書(査199)には「甲斐」,「技建」,「飯島」,「佐藤」及び「4社」と書込みがされ,原告甲斐建設が保有する同物件の入札公告(査202)にも,「佐」及び「38,900,000-」との書込みがされ,原告山梨技建の《AG1》社長は,被告の審査官に対し,上記物件を原告佐藤建設工業に譲り,同原告に自社の入札価格を知らせたと供述していたことからすれば(査85),物件282について,受注調整が行われたことは明らかである。この点,原告らは,入札参加者が少なかったために飯島工事に入札に参加するよう依頼したところ,同社から,工事単価を教えてほしいと言われたため,工事費内訳表を送ったものであり,また,原告山梨技建の入札公告への記載は,開札後に入札結果を記載したものにすぎないと主張するが,原告山梨技建の《AG1》社長の供述に照らして,採用することができない。
(カ) 原告佐藤建設工業が受注したその他の物件についても,原告佐藤建設工業が主張するような事情があったとしても,本件合意に基づく受注調整がされたとは認められない特段の事情があるとはいえず,受注調整による具体的競争制限の下に受注されたとの本件推定を覆すに足りる証拠はない。
エ 原告天川工業について
(ア) 原告天川工業は,物件217,228については,落札率が低く,物件174,236は,1社入札の物件であり,物件209,273,300は,総合評価落札方式かつ1社入札の物件であり,物件267は,総合評価落札方式によるものであるから,本件合意によって落札できたものではなく,本件合意に基づく受注調整に起因して,具体的競争制限効果が発生していたとは認められない特段の事情があると主張する。
(イ) しかしながら,原告天川工業が受注した全ての物件について,入札参加者の中には,予定価格の99%前後(ただし,物件151と175は98%超,144については100%超)という高い入札率で入札した者がいたことが認められるから,これらの物件については,受注調整がされたと認めるのが合理的であって,このような高い入札率で入札した事業者を実質的に競争から排除したという意味において,本件合意による受注調整が行われ,具体的競争制限効果があったと認められるし,当該物件にかかる落札率が相対的に低かったとしても,そのことのみをもって,本件合意の存在や本件合意の下での受注調整が行われた事実が否定されないことは,前記1⑼のとおりである。
(ウ) 物件209,217,228,267,273,300は,総合評価落札方式による入札が行われた物件であるが,総合評価落札方式にる物件についても,受注調整がされていたと認められることは前記1⑺に説示のとおりである。
現に,物件209については,原告天川工業で入札業務を担当していた《M2》が,技術審査資料の提出期限より前に,原告渡辺建設に在職中の《AC2》に対し,「別紙の資料を活用して下さい。」などと記載し,原告天川工業が作成した施工計画書を添付した「資料-玉宮地区幹線道路文殊川橋梁下部工事(明許)」と題する電子メールを送信し(査169),原告渡辺建設は,電子メールに添付された施工計画書を利用して自社の施工計画書を作成して提出し(査60の資料4),原告天川工業は,より詳しい内容の施工計画書(査60・資料5)を発注者に提出していた。そして,原告渡辺建設の《AC1》社長及《AC2》は,電子メールに添付された施工計画書を提出したのは原告天川工業の受注に協力する趣旨のものであったと供述している(査60,80)。また,物件273についても,公告日が平成21年8月21日の上記物件の施工現場は,山梨市三富川浦天科地内であるところ,原告天川工業の《M1》社長の手帳の同月26日の欄には,「三富川浦の物件、総合評価の為、甲斐、佐藤依頼」と記載されている(査191)。さらに,物件300については,落札者である原告天川工業が,入札前に,「入札チェックリスト」及び「入札参加資格確認資料作成要領(簡易型)」と称する資料を作成しており(査212),そこには,「参加企業」として原告天川工業,天川組及び野澤工業の名称が記載され,「各社申告点」としてそれぞれの評価点の合計点のほか,「修正入札価格」として各社の入札価格が記載されていたところ,実際の入札価格は,上記に記載された金額にほぼ一致していた。これらの事実は,いずれも上記各物件につき,受注調整が行われたことを裏付けるものといえる。
(エ) 原告天川工業は,物件174,236は1社入札の物件であると主張するが,原告天川工業の他に物件174については3社が,物件236については5社がそれぞれ入札に参加しており,同工事が1社入札の物件であり,受注調整がされていないことを裏付けるに足りる証拠はない。
(オ) その他の工事についても,例えば,物件88については,原告奥山建設が,同物件の入札公告に「天川工」と書き込み(査143),同じく競争参加資格確認通知書にも,「5,680万」,「天川工業 ¥55,500,000 決定」,「設計 ¥57,243,000-」と書き込んでいるところ(査144),上記金額は原告天川工業の実際の入札額と一致していることからすると,これは受注調整が行われていた事実を裏付けるものといえるし,物件236についても,落札者である原告天川工業の《M1》社長の手帳には,同工事に関し,「・昨日源次郎線の入札に,予期せぬ指名者昭和建設が指名に 《L1》会長に抗議,「うっかり事」で片付けられる」との記載があり(査176),同工事に関し,受注調整が行われたものと認められる。
(カ) 原告天川工業が受注したその他の物件についても,原告天川工業が主張するような事情があったとしても,本件合意に基づく受注調整がされたとは認められない特段の事惰があるとはいえず,受注調整による具体的競争制限の下に受注されたとの本件推定を覆すに足りる証拠はない。
オ 原告甲斐建設について
(ア) 原告甲斐建設が受注した全ての物件について,入札参加者の中には,予定価格の98~99%超という高い入札率で入札した者がいたことが認められるから,これらの物件については,受注調整がされたと認めるのが合理的であって,このような高い入札率で入札した事業者を実質的に競争から排除したという意味において,本件合意による受注調整が行われ,具体的競争制限効果があったと認められる。
(イ) また,物件201,250,309は,総合評価落札方式による入札が行われた物件であるが,総合評価落札方式によっても,受注調整がされていたと認められることは前記1⑺に説示のとおりである。
(ウ) その他の工事についても,例えば,物件89については,原告奥山建設が保管する同物件の入札公告(査146)に実際の落札者である「甲斐」との書込みが,同じく競争参加資格確認通知書(査147)には,「¥55,950,000-」・「O.K」,「甲斐 ¥55,300,000」と,実際の入札額と同額の書込みがあり,また,藤プラント建設が保管する同物件の競争参加資格確認通知書(査148)にも,「甲斐建設 55,300,000 - 96.85」,「《「予」を丸囲みした記載》 57,097,000」,「応札 56,000,000-」など,受注調整の結果を記載したとしか考えられない書込みがあることからすると,上記物件に関して受注調整がされたことは明らかといえる。
(エ) 原告甲斐建設が受注したその他の物件についても,原告甲斐建設が主張するような事情があったとしても,本件合意に基づく受注調整がされたとは認められない特段の事情があるとはいえず,受注調整による具体的競争制限の下に受注されたとの本件推定を覆すに足りる証拠はない。
カ 原告渡辺建設について
(ア) 原告渡辺建設は,物件106,110,127,136,159については,落札率が低く,本件合意に基づく受注調整がされていないと認められる特段の事情があると主張する。
(イ) しかしながら,原告渡辺建設が受注した全ての物件について,入札参加者の中には,予定価格の98~99%超(ただし,物件127,199,124は98%前後)という高い入札率で入札した者がいたことが認められるから,これらの物件については,受注調整がされたと認めるのが合理的であって,このような高い入札率で入札した事業者を実質的に競争から排除したという意味において,本件合意による受注調整が行われ,具体的競争制限効果があったと認められるし,当該物件にかかる落札率が相対的に低かったとしても,そのことのみをもって,本件合意の存在や本件合意の下での受注調整が行われた事実が否定されないことは,前記1⑼に説示のとおりである。
例えば,物件159については,原告甲斐建設は,同物件の入札公告(査161)に,「渡辺 《AC2の名字漢字》」,「57,500,000」と記載した後,「渡辺 《AC2の名字漢字》」の記載を修正用品により抹消していること(査162),同工事の入札参加者は,原告渡辺建設,原告甲斐建設,阪本組の3社であり,同記載のとおり,原告渡辺建設が落札し,記載された数字は原告甲斐建設の入札価格に一致することからすれば,原告甲斐建設は,原告渡辺建設から,同工事の受注予定者は原告渡辺建設であり,原告甲斐建設には5750万円で入札して欲しいとの連絡を受けて,これを記載し,そのとおりの金額で入札に参加することにより,原告渡辺建設が受注することに協力したものと認めることが相当である。
また,物件106については,入札金額が最も低い原告渡辺建設が落札することは十分に見込まれていたといえるし,物件110の工事についても,内田組が96.2%で入札しても,事前に予測し得る内田組の評価点を考慮すれば,原告渡辺建設が落札することは十分に見込まれたといえる。物件136についても,原告山梨技建の入札率は99.2%であったことからすれば,原告山梨技建の「配置予定の技術者の能力」が高得点であったとしても,原告渡辺建設が落札することは十分に見込まれたといえ,このような事情は,いずれも原告渡辺建設を受注予定者として受注調整をしていたとの推認を妨げるものとはいえない。
(ウ) 原告渡辺建設が受注したその他の物件についても,原告渡辺建設が主張するような事情があったとしても,本件合意に基づく受注調整がされたとは認められない特段の事情があるとはいえず,受注調整による具体的競争制限の下に受注されたとの本件推定を覆すに足りる証拠はない。
キ 原告奥山建設について
(ア) 原告奥山建設が受注した全ての物件について,入札参加者の中には,予定価格の98~99%超という高い入札率で入札した者がいたことが認められるから,これらの物件については,受注調整がされたと認めるのが合理的であって,このような高い入札率で入札した事業者を実質的に競争から排除したという意味において,本件合意による受注調整が行われ,具体的競争制限効果があったと認められるし,当該物件にかかる落札率が相対的に低かったとしても,そのことのみをもって,本件合意の存在や本件合意の下での受注調整が行われた事実が否定されないことは,前記1⑼に説示のとおりである。
物件311についても,原告奥山建設の入札率は79.7%であり,その率は相対的に低いということができるが,次点の高野建設は,評価点が原告奥山建設よりと僅差である中で,これよりも10%程度高い89.9%で入札していたほか,3番目の昭和建設の入札率は99.8%と非常に高率であるとともに,施工計画も0点であることなどからすると,上記物件についても本件合意に基づく受注調整が行われたものとの推認することができ,その他に,同物件につき,受注調整がされたとは認められない特段の事情はない。
(イ) その他の工事についても,物件98については,入札に参加した原告甲斐建設が保管していた同物件についての「『一般競争入札』公告」(査153)中に,手書きで「奥」,「積 29,597,457」,「《「入」を丸囲みした記載》 29,400,000」と書込みがされているところ,同物件は,原告奥山建設が落札していることからすれば,上記の「奥」とは受注予定者としての同社を意味しているものと認められ,「《「入」を丸囲みした記載》」の欄に記載された金額についても,原告甲斐建設の入札価格と一致していることからすれば,同物件について,入札参加者の間で受注調整が行われたことが認められる。また,物件137については,原告佐藤建設工業が,山梨県山梨市に本店を置くA等級事業者及びB等級事業者のうち自社及び自社の近隣に所在する事業者の落札した工事並びに同市内を施工場所とする「甲府山梨線」及び「電線共同溝」工事の落札者についてまとめた一覧表(査158)を作成し,この一覧表の「電線共同溝」の「平成19年度11月」の欄に「奥山建設」と記載し,その下に「降りた」と記載していたほか,同物件の入札に参加した坂本組の《U1》社長も,同物件については原告奥山建設が受注予定者となっていたと供述していること(査99)からすれば,同物件について,入札参加者の間で受注調整が行われたことが認められるのであり,これらの物件について,受注調整による具体的競争制限の下に受注されたとの本件推認を覆すに足りる証拠はない。
ク 原告山梨技建について
(ア) 原告山梨技建が受注した物件197,297について,入札参加者の中には,予定価格の98~99%超という高い入札率で入札した者がいたことが認められるから,これらの物件については,受注調整がされたと認めるのが合理的であって,このような高い入札率で入札した事業者を実質的に競争から排除したという意味において,本件合意による受注調整が行われ,具体的競争制限効果があったと認められるし,当該物件にかかる落札率が相対的に低かったとしても,そのことのみをもって,本件合意の存在や本件合意の下での受注調整が行われた事実が否定されないことは,前記1⑼に説示のとおりである。
(イ) また,物件197は,総合評価落札方式によるものであるが,総合評価落札方式によっても,受注調整がされていたと認められることは前記1⑺に説示のとおりである上,原告佐藤建設工業は,上記キ(イ)で述べた一覧表(査158)を作成していたところ,この一覧表の「電線共同溝」の「平成20年度8月」の欄には,「山梨技建」,「降りた」と記載されており,この記載によれば,上記物件に関し,受注調整が行われたことが裏付けられ,また,原告山梨技建の《AG1》社長も,物件197について受注調整が行われていた旨供述しており(査85),同工事について,入札者の間で受注調整が行われたことが認められる。
(ウ) 物件119,146,167については,入札参加者が,いずれも予定価格の97~98%で入札しているが,いずれの工事についても,原告山梨技建の《AG1》社長は,受注調整が行われていた旨供述しており,受注調整による具体的競争制限の下に受注されたとの本件推定を覆すに足りる証拠はない。
ケ 原告広瀬土木について
(ア) 物件275及び286は,総合評価落札方式による入札が行われた物件であるが,総合評価落札方式によっても,受注調整がされていたと認められることは前記1⑺に説示のとおりであるし,入札参加者の中には,予定価格の99%超という高い入札率で入札した者がいたことが認められるから,これらの物件については,受注調整がされたと認めるのが合理的である。なお,物件275については,原告渡辺建設に在職中の《AC2》が,同物件の技術審査資料の提出期限日より前に,原告広瀬土木の《AF》社長に対し,「所の沢砂防工事の施工計画書を送りますので,確認して下さい。」と記載して自社が提出する予定の施工計画書を添付した電子メールを送信しており(査196),そのことからすると,両社の間で受注調整がされたものと認めるのが相当である。
(イ) 原告広瀬土木が受注したその他の物件についても,原告広瀬土木が主張するような事情があったとしても,本件合意に基づく受注調整がされたとは認められない特段の事情があるとはいえず,受注調整による具体的競争制限の下に受注されたとの本件推定を覆すに足りる証拠はない。
⑶ 以上によれば,本件対象期間中,原告らを含む30社は,本件合意の下に,山梨県が発注する本件対象工事につき,事前に入札する意思を有する者に届出をさせて取りまとめを行い,入札参加者の間の話合いをするなどして,受注予定者を1社又は1社に絞り込めなかったときには数社に決めて,同社が定めた価格で受注できるように他の事業者が協力することとし,その他の事業者は入札を差し控え,あるいは自らが落札しないような条件で入札するなどの受注調整をし,その結果,本件対象工事について,具体的に競争制限効果が発生するに至ったとの本件審決の認定は,実質的証拠に基づくものといえる。
そうすると,被告が,原告らのうち原告渡辺建設を除く8社に対して本件排除措置命令をしたことには理由があり,また,本件合意の下に受注された工事につき,これが不当な取引制限に当たるものであるとして,別紙6の1ないし9に記載の各工事について課徴金の納付を命じた本件課徴金納付命令も相当なものと認められる。
⑷ なお,原告らは,本件審決の認定と本件各命令の認定事実には同一性がなく,独占禁止法58条及び公正取引委員会の審判に関する規則28条に違反していると主張するが,本件各命令は,本件審決と同じく,本件対象期間中,本件対象工事について,30社が共同し,受注すべき者又はJVを決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反し,本件対象工事の取引分野における競争を実質的に制限したことを違反行為とするものであって,両者の間に同一性があることは明らかである。
4 争点4(本件立入検査後に契約が締結された工事の対価は,本件違反行為の実行期間における売上高に含まれるか)について
⑴ 原告らのうち原告岩波建設,原告佐藤建設工業,原告甲斐建設及び原告奥山建設に対する本件課徴金納付命令は,その対象となった物件のうち最後に落札したもの(原告岩波建設については物件305,原告佐藤建設工業については物件310,原告甲斐建設については物件309,原告奥山建設については物件311)については,いずれも平成22年3月30日又は31日に契約が締結されているところ,これは被告が主張する本件対象期間が終了した同月23日の7日又は8日後になる。
⑵ しかし,独占禁止法7条の2第1項の「実行期間」は違反行為の対象となった商品又は役務にかかる売上額を算定するための基準であるところ,その終期である「当該行為の実行としての事業活動がなくなる日」についてみるに,入札方式による発注について受注調整が行われたような場合には,当該行為がされた日とこれに基づいて物件が落札され,契約が締結される日との間に一定の間隔が開くのが通常であるが,入札は,契約の受注者と受注価格を定めるための手続であって,当然,その後に入札結果を踏まえた契約が締結されるのであるから,上記基準の趣旨に従い,本件対象期間が終了する前に受注調整が行われ,入札が行われた後に落札者との間で契約が締結されたときには,契約締結時をもって「実行としての事業活動がなくなる日」と解するのが相当である。
そして,上記各物件にあっては,各入札書の受付締切日が,物件305は同月15日(査107の44),物件309,310,311はいずれも同月16日(査106の3)であり,いずれも本件対象期間内であるから,それぞれの契約締結日が実行期間の終期となるといえる。
⑶ そうすると,上記各物件については,いずれも本件違反行為による事業活動が終了する前のものというべきであり,かかる物件を「実行としての事業活動」として本件課徴金納付命令の対象とした本件審決の判断は相当である。
5 争点5(受注者が工事を中止したことにより,本件違反行為の実行期間後に工事代金が出来高に応じて減額された場合,減額後の金額が課徴金算定の基礎となるか)について
課徴金制度は,違反行為を防止するという行政目的を達成するために行政庁が違反事業者等に対して金銭的不利益を課す行政上の措置であり,課徴金の額は,独占禁止法が行為類型毎に定める一定の売上高等の算定基礎に,同法が定める課徴金算定率を乗じてその額を定めるものであり,上記算定基礎が現実に事業者が得る利益を超えることも当然想定されているものである。
そうすると,原告渡辺建設が途中で工事を中止した物件234についても,当初の契約で定められた代金額を基に課徴金を算定すべきであり,途中で工事が中止されたとしても,その時点での出来高を基に課徴金を算定することはできない。
なお,物件234の残工事として発注された物件297については,原告渡辺建設ではなく,原告山梨技建が受注しているのであるから,原告渡辺建設に対して課徴金が二重に賦課されたということはできない。
6 争点6(本件各命令発出手続の適法性)について
独占禁止法49条1項には,排除措置命令書に「公正取引委員会の認定した事実」を示さなければならないと規定されており,同法50条1項には,課徴金納付命令書には「課徴金に係る違反行為」の記載をしなければならないと規定されているところ,本件各命令書の記載内容は,本件合意に基づく受注調整にかかる特定についての前記2⑴に説示を踏まえれば,原告らが,自らの違反行為等の内容を推知し得たものといえるから,本件各命令の記載に違法な点は認められない。
その他に,本件各命令の発出手続に違法があったと認めるに足りる証拠はない。
7 結論
以上のほか,本件審決の認定が実質的な証拠に基づかず,あるいはその判断に不当な点は認められない。
そうすると,本件審決は相当であって,原告らの請求にはいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
平成30年8月10日
裁判長裁判官 垣内 正
裁判官 髙宮健二
裁判官 内堀宏達
裁判官 小川 理津子
裁判官 廣澤 諭
注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。
【別紙添付省略】