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㈱廣川工業所による審決取消請求事件

独禁法3条後段・独禁法7条の2
東京高等裁判所

平成29年(行ケ)第16号

判決

平成30年8月31日

山梨県甲州市塩山上萩原142番地
原告 株式会社廣川工業所
同代表者代表取締役 《氏名》
同訴訟代理人弁護士 小林 覚
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
指定代理人 横手哲二
同 榎本勤也
同 堤優子
同 津田和孝
同 黒江那津子
同 西川康一

主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
 1 公正取引委員会平成23年(判)第8号ないし第52号審判事件について,被告が平成29年6月15日付けで原告に対してした審決(以下「本件審決」という。)を取り消す。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要等
 1 事案の概要
⑴ 本件排除措置命令の発出
公正取引委員会は,原告を含む別紙1の「被審人」欄記載の23社(以下「23社」といい,23社及びその代表者の名称については,原告を除き,同別紙の被審人の「略称」欄及び「被審人代表者の略称」欄記載の略称をそれぞれ用いる。)が,遅くとも平成18年4月1日以降平成22年3月23日まで(以下「本件対象期間」という。),別紙2記載の事業者7社(各社の名称については,同別紙の「事業者の略称」欄記載の略称を用いる。また,以下,上記7社と23社を併せて「30社」という。)と共同して,別紙3記載の工事(以下「塩山地区特定土木一式工事」という。)について,受注すべき者又は特定建設工事共同企業体(以下,「JV」といい,受注すべき者と併せて「受注予定者」という。)を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,塩山地区特定土木一式工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則2条の規定により,なお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条に違反するものであり,かつ,特に排除措置を命ずる必要があるとして,平成23年4月15日,23社のうち渡辺建設を除く22社(以下「22社」という。)に対し,排除措置を命じた(平成23年(措)第1号。以下「本件排除措置命令」といい,同命令において認定された違反行為を「本件違反行為」という。)。
⑵ 本件違反行為の内容
本件違反行為は,「30社は,遅くとも平成18年4月1日以降(ただし,被審人三森建設については,遅くとも平成19年5月15日以降。),塩山地区特定土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るため
ア(ア) 受注予定者を決定する
(イ) 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する
旨の合意(以下「本件合意」という。)の下に
イ(ア) 当該工事の入札に参加しようとする者又はJVは,当該工事に係る他の入札参加者について塩山支部等(後記第3の3⑶ア)から情報を得ることができるよう,当該工事の入札に参加する旨を塩山支部等に連絡する
(イ) 当該工事の受注を希望する者又はJV(以下,まとめて「受注希望者」という。)は,その旨を塩山支部等に連絡する
(ウ) 受注希望者が1名のときは,その者を受注予定者とする
(エ) 受注希望者が複数名のときは,当該工事の施工場所,過去に受注した工事との継続性,塩山支部等の支部長の助言等を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する
などにより,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた(以下「本件受注調整」という。)」というものである。
⑶ 本件排除措置命令の送達及び審判請求
本件排除措置命令の命令書(以下「本件排除措置命令書」という。)の謄本は,別紙4の「送達日」欄記載の日に,22社に対し,それぞれ送達された。
22社は,別紙4の「審判請求日」欄記載の日に,それぞれ本件排除措置命令の全部の取消しを 求める審判請求をした。
⑷ 本件各課徴金納付命令等
公正取引委員会は,本件違反行為は,独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し, 同法3条に違反するものであり,かつ,同法7条の2第1項1号に規定する役務の対価に係るものであるとして,平成23年4月15日,23社に対し,別紙5の「課徴金額」欄記載の課徴金の納付をそれぞれ命じた(平成23年(納)第21号ないし第43号。以下,原告に対する課徴金納付命令(同第26号)を「本件課徴金納付命令」,23社に対する各課徴金納付命令を併せて「本件各課徴金納付命令」といい,本件排除措置命令と併せて「本件各命令」という。)。
本件各課徴金納付命令の命令書(以下「本件各課徴金納付命令書」といい,本件排除措置命令書 と併せて「本件各命令書」という。)の謄本は,別紙5の「送達日」欄記載の日に,23社に対し,それぞれ送達された。
23社は,別紙5の「審判請求日」欄記載の日に,それぞれ本件各課徴金納付命令の全部の取消 しを求める審判請求をした。
⑸ 本件審決
原告の前記各審判請求に係る審判手続は,23社のうち原告を除く事業者の前記各審判請求に係る審判手続と併合して審理され(以下,この併合された審判手続を「本件審判手続」という。),公正取引委員会は,平成29年6月15日,原告を含む23社の各審判請求をいずれも棄却する旨の審決(平成23年(判)第8号ないし第52号。本件審決)をした。
この審決書の謄本は,同月19日,原告に送達された。
2 本件請求の内容
本件は,原告が被告に対し,本件審決は,その事実認定が実質的な証拠を欠くものであり,また法令に違反しているとして,原告に対する本件審決の取消しを求める事案である。
第3 前提となる事実(本件審決が「前提となる事実」とした事実であり,当事者間に争いのない事実,本件審判事件の記録上明らかな事実及び被告が本件審決で認定した事実で原告も実質的な証拠の欠缺を主張していない事実)
1 30社の概要
30社は,いずれも山梨県山梨市又は甲州市(以下,両市の区域を併せて「塩山地区」という。)に本店を置く建設業者である。(争いがない。)
2 塩山地区特定土木一式工事の概要
⑴ 発注業務の担当部署
山梨県では,同県が発注する土木一式工事について,本庁又は出先機関の各部署が,それぞれの所掌する事務に応じて発注業務を担当している。
本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事については,山梨県県土整備部(平成20年3月31日以前は土木部。以下同じ。)道路整備課,同部道路管理課,同部峡東建設事務所,同部広瀬・琴川ダム管理事務所(平成20年3月31日以前は広瀬・琴川ダム事務所。以下同じ。),同県農政部峡東農務事務所(以下「峡東農務事務所」という。),同県森林環境部峡東林務環境事務所(以下「峡東林務環境事務所」という。)等が発注業務を担当していた。
(査17ないし査19)
⑵ 入札参加資格者の等級区分及び名簿登載
山梨県は,本件対象期間において,同県が発注する土木一式工事の指名競争入札又は一般競争入札への参加を希望する事業者に対し,これらの入札に参加するために必要な資格の審査を行った上で,当該入札への参加資格を有すると認定した事業者を工事施工能力の審査結果に基づきA,B,C又はDのいずれかの等級に格付して(以下,A等級に格付されている事業者を「A等級業者」,B等級に格付されている事業者を「B等級業者」,C等級に格付されている事業者を「C等級業者」という。),入札参加有資格者名簿(以下「有資格者名簿」という。)に登載していた。(査21,22)
また,山梨県は,土木一式工事を予定価格に応じて区分し,個々の工事の発注に際しては,有資格者名簿に登載されている者のうち当該区分に対応した等級に格付されている事業者が入札参加資格を有する者とされていた。土木一式工事のうち予定価格がおおむね3億円以上の工事については,JVの施工対象工事とされ,A等級業者で構成されるJV(A等級業者で構成することが難しい場合であって特に必要があると認められるときは,A等級業者及びB等級業者で構成されるJV)が入札参加資格を有する者とされていた。
(査21,査23,査24)
30社は,本件対象期間(別紙6記載の事業者については,同別紙の「期間」欄記載の各期間)において,A等級業者又はB等級業者に格付されていた。(査1)
⑶ 工事の発注方法
山梨県は,本件対象期間における塩山地区特定土木一式工事について,指名競争入札又は一般競争入札の方法により発注していた。一般競争入札には,価格により落札者を決定する通常の一般競争入札と,価格に加え評価項目ごとの評価点を考慮する総合評価落札方式による一般競争入札があった。入札の執行はインターネット上のウェブサイトである山梨県公共事業ポータルサイト(以下「ポータルサイト」という。)の電子入札システム(以下「電子入札システム」という。)により行っていた。(査18,査23)
本件対象期間における塩山地区特定土木一式工事の具体的な発注方法は,以下のとおりである。
ア 指名競争入札
(ア) 入札参加者
山梨県は,平成18月4月1日から平成19年3月31日までの間,予定価格が1億円未満の塩山地区特定土木一式工事の一部について,指名競争入札の方法により発注し,そのほとんど全てにおいて,塩山地区に本店を置くA等級業者又はB等級業者の中から当該入札の参加者を指名していた。(査18,査21,査25)
(イ) 入札の実施方法
山梨県は,指名競争入札の方法により発注する場合,有資格者名簿において当該入札の予定価格の区分に対応する等級に格付されている事業者の中から原則として6社ないし10社を指名業者として選定し,当該業者に対し,入札書提出締切日の約15日前までに,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した指名通知書を送付することにより指名していた。
指名を受けた業者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた。
(査21,査26,査27)
イ 一般競争入札
(ア) 入札参加者
山梨県は,本件対象期間における塩山地区特定土木一式工事について,指名競争入札の方法によらない場合は一般競争入札の方法により発注し,その大部分において,塩山地区又は山梨県笛吹市(平成18年7月31日までの間は笛吹市又は東八代郡芦川村。以下同じ。)の区域(以下,笛吹市の区域を「石和地区」といい,塩山地区と石和地区を併せて「峡東地域」という。)に本店を置くA等級業者又はB等級業者であることを入札参加の条件として,公告により入札参加希望者を募り,入札への参加を申請した事業者(JVを含む。)を当該入札の参加者としていた。
(査18,査23ないし査25)
(イ) 入札の実施方法
山梨県は,一般競争入札の方法により発注する場合,入札書提出締切日の約25日前までに,入札参加条件等を示した入札公告により入札参加希望者を募り,入札への参加を申請した事業者(JVを含む。)に対し,入札書提出締切日の約1週間前までに,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した「競争参加資格確認通知書」を送付していた。
入札参加者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた。
(査27ないし査29)
ウ 総合評価落札方式による一般競争入札
(ア) 導入時期,種類,落札者の決定方法及び入札参加者
山梨県は,一般競争入札の方法により発注する塩山地区特定土木一式工事の一部について,平成19年頃から,総合評価落札方式を導入した。
総合評価落札方式には,「簡易型」(平成19年度導入),「特別簡易型」(平成20年度導入),「特別簡易型(Ⅰ)」及び「特別簡易型(Ⅱ)」(いずれも平成21年度導入。なお,「特別簡易型(Ⅰ)」は,平成20年度における「特別簡易型」に相当する。)等の種類がある。
総合評価落札方式では,以下のとおり,入札価格が予定価格の範囲内にある入札者について,あらかじめ定められた評価項目ごとの評価点を合計した後,各入札者の評価点の合計点数の比に応じて加算点(加算点の満点は,工事ごとに定める。)を算出し,それに標準点(100点)を加えた数値を入札価格で除し,これに1億を乗じて得た評価値が最も高い者を落札者としていた。
評価値=(標準点+加算点)/入札価格×100,000,000
  総合評価落札方式における入札参加者は,前記イ(ア)と同じである。
  (査18,査30ないし査33)
(イ) 評価項目
評価項目は,「簡易型」では①企業の施工実績,②地域精通度,③地域貢献度,④配置予定技術者の能力及び⑤施工計画,「特別簡易型(Ⅱ)」では上記①ないし④,「特別簡易型」及び「特別簡易型(Ⅰ)」では上記①ないし③であり,いずれも,評価項目ごとに最高評価点が設定されていた。(査30ないし査33)
(ウ) 評価点の算出方法
評価点は,入札参加申請の際に申請者から併せて提出される施工計画書等の資料(以下「技術審査資料」という。)に基づき,発注業務を担当する部署(以下「発注担当部署」という。)において,以下のとおり,評価項目ごとに算出することとされていた。
前記(イ)①の「企業の施工実績」については,都道府県又は国・公団等の同種工事の施工実績の有無,山梨県発注の土木一式工事での工事成績評定点の平均点等,同②の「地域精通度」については,近隣地域での施工実績の有無等,同③の「地域貢献度」については,災害協定の締結の有無,土木施設等緊急維持修繕業務委託の実績等,同④の「配置予定技術者の能力」については,1級土木施工管理技士等又は技術士であるかどうか,同種工事の施工実績等といった客観的なデータを基に,入札参加者が山梨県所定の様式で作成・記載した根拠資料を提出することにより点数化されることとされていた。
なお,配置予定技術者は,一定の資格を有することのほかに,対象工事に専任で配置することが必要とされていた。
前記(イ)⑤の「施工計画」については,入札参加者が客観的なデータを提出するものではなく,「工程管理に係わる技術的所見」,「品質管理に係わる技術的所見」等の5項目の中から選択された1ないし2項目について,入札参加者が提出する施工計画書の内容により,「10点」(内容が適切であり,重要な項目が記載され,工夫が見られる),「5点」(内容が適切であり,工夫が見られる),「0点」(内容が適切である),又は「欠格」(未記入,又は不適切である)と評価されていた。
(査30ないし査33)
(エ) 評価項目等の公表
山梨県は,総合評価落札方式における評価項目,評価の方法,最高評価点及び評価値の算出方法について,「山梨県建設工事総合評価実施要領」(以下「総合評価実施要領」という。)に記載し,公表していた。
(査30ないし査33)
(オ) 入札の実施方法
山梨県は,総合評価落札方式による一般競争入札の方法により発注する場合,入札書提出締切日の約半月ないし1か月前までに,当該工事の入札方式,総合評価落札方式の種類など総合評価に関する事項,入札参加資格等を示した入札公告により入札参加希望者を募り,入札書提出締切日の約2日ないし7日前までに,入札への参加を申請した事業者に対し,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した「競争参加資格確認通知書」を送付していた。
入札参加者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた。
(査27,査33,査24)
⑷ 最低制限価格及び低入札価格調査の基準価格
ア 最低制限価格
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事のうち,指名競争入札の方法により発注するもの及び総合評価落札方式以外の一般競争入札の方法により発注するものについて,最低制限価格を設定し,同価格を下回る価格の入札は失格としていた。(査18)
イ 低入札価格調査の基準価格
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事のうち総合評価落札方式による一般競争入札の方法により発注するものについて,低入札価格調査の対象とする基準価格(以下「低入札調査基準価格」という。)を設定していた。
山梨県は,入札の結果,評価値が最も高かった者の入札価格が低入札調査基準価格を下回った 場合には,落札者の決定を保留した上で,当該入札額で契約の内容に適合した履行がされるか否かについて調査を行い,その結果,適合した履行がされると認めた場合は,当該入札者を落札者とし,適合した履行がされないおそれがあると認めた場合は,他の入札者のうち最も評価値の高い者を落札者としていた。
(査18,査35)
⑸ 入札情報の公表
ア 予定価格,最低制限価格及び低入札調査基準価格
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事について,ごく一部の工事を除き,入札公告時又は指名 通知時に予定価格を公表していたが,最低制限価格及び低入札調査基準価格は入札書提出締切日前には公表していなかった。
(査36)
イ 入札参加者
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事について,入札書提出締切日前には入札参加者を公表せず,落札者決定後速やかに公表していた。(査36)
ウ 入札結果
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事の入札結果について,県民情報センター及びポータルサイトにおいて閲覧に供する方法により,落札者決定後速やかに公表していた。
また,山梨県は,総合評価落札方式による一般競争入札については,入札参加者の評価項目ごとの評価点を,評価調書の様式によりポータルサイトにおいて公表していた。
(査30ないし査32,査36,査170)
⑹ 本件対象期間における塩山地区特定土木一式工事の発注及び受注状況
本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事は,別紙7のとおり316件であり(以下「316物件」という。また,個別の工事については,同別紙の「一連番号」欄記載の番号に従って「物件1」等と表記する。),いずれも30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注した。
316物件の発注担当部署,公告日(又は指名通知日),開札日,工事名,施工場所,発注方法,入札参加条件としての本店所在地,予定価格,予定価格の事前公表の有無,入札参加者,入札価格,入札率(予定価格に対する入札価格の割合),落札者,落札率(予定価格に対する落札価絡の割合),並びに総合評価落札方式の種類,価格以外の評価結果及び評価値は,それぞれ別紙7の該当欄記載のとおりである。
316物件のうち,指名競争入札の方法により発注された工事は,そのほとんど全てにおいて,30社の中から入札参加者が指名されていた。
また,316物件のうち,一般競争入札の方法により発注された工事は,そのほとんどにおいて30社のみが入札に参加しており,塩山地区以外に本店を置く事業者が入札に参加した工事は17件であった。
(査18,査297)
⑺ 23社の売上額
本件各課徴金納付命令における本件違反行為の実行期間において原告が受注した塩山地区特定土木一式工事の売上額を私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号。以下「独占禁止法施行令」という。)6条1項及び2項の規定に基づき算定すると,各工事の対価の額は別紙8の「4 対象物件一覧」中の「課徴金算定の基礎となる売上額(円)」欄記載の金額となり,原告の売上額は同別紙の「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」記載の金額となる(なお,後記争点4のとおり,原告の実行期間及び売上額には争いがある。)。(査18)
3 塩山地区における建設業協会等の概要
⑴ 社団法人山梨県建設業協会塩山支部
ア 事務所等
社団法人山梨県建設業協会塩山支部(以下「塩山支部」という。)は,社団法人山梨県建設業協会(以下「山梨県建設業協会」という。)の支部であり,山梨県甲州市塩山熊野137番地に所在する同支部の会館(以下「塩山支部会館」という。)内に事務所を置いていた。(査4ないし査6,査103,査104)
イ 会員及び事業
塩山支部の規約によれば,同支部は,塩山地区に本店又は営業所等を有する建設業者を会員とし,建設業に関する資料,情報及び統計の収集並びに頒布,官庁その他機関との連絡,交渉及び提携等の事業を行うものとされていた。
30社のうち藤プラント建設及び奥山建設を除く28社(以下「28社」という。)は遅くとも平成18年4月以降に,藤プラント建設及び奥山建設は平成19年6月頃以降に,それぞれ塩山支部の会員となっていた。
また,本件対象期間において,塩山支部の会員のうち,A等級業者又はB等級業者であって塩山地区特定土木一式工事の入札に参加していた事業者は,30社のみであった。
(査4ないし査7,査81)
ウ 役員
塩山支部では,支部長,副支部長,理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,支部長及び副支部長は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた(以下,塩山支部の支部長を「塩山支部長」,同副支部長を「塩山副支部長」といい,両者を併せて「塩山支部の執行部」という。)。
平成18年度の塩山支部長は岩波建設の《A》社長,塩山副支部長は原告の《B》社長及び内田組の《C1》社長であった。また,平成19年度ないし平成21年度の塩山支部長は原告の《B》社長,塩山副支部長はタナベエンジニアリングの《D》社長及び植野興業の《E》社長であり,平成21年度に塩山副支部長に大和工務店の《F》社長が加わった。
(査4ないし査6)
エ 職員
塩山支部は,事務員として《G》(以下「《G》事務員」という。)を雇用しており,同事務員は塩山支部会館において勤務していた。(査103,査104)
オ 塩山支部に対する過去の勧告審決
公正取引委員会は,平成6年5月16日,塩山支部が遅くとも昭和62年4月までに,山梨県が指名競争入札の方法により発注する土木部所管で塩山土木事務所の管轄区域を施工場所とする土木一式工事(共同施工方式により施行される工事を除く。)について,支部員の受注価格の低落を防止するため,支部員に,あらかじめ受注予定者を決定させ,受注予定者が受注できるようにさせていた行為が,当時の独占禁止法8条1項1号の規定に違反するものであるとして,同支部に対し,勧告審決をした(平成6年(勧)第14号。以下「塩山支部に対する平成6年の勧告審決」という。)。
28社は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決以前から塩山支部の会員であったところ,平成7年4月14日,公正取引委員会から,同審決に伴い課徴金納付命令を受けた。
(査37,査38)
⑵ 社団法人山梨県土地改良協会峡東支部
ア 事務所等
社団法人山梨県土地改良協会峡東支部(以下「土地協会峡東支部」という。)は,社団法人山梨県土地改良協会の支部であり,山梨県笛吹市石和町広瀬765番地に所在する山梨県建設業協会石和支部会館内に事務所を置いていた。(査8,査9,査104)
イ 会員及び事業
社団法人山梨県土地改良協会の定款及び土地協会峡東支部の規約によれば,同支部は,峡東農務事務所管内に本店を置く建設業者を会員とし,土地改良事業に関する資料,情報及び統計の収集並びに頒布,関係団体との連絡,交渉及び提携等の事業を行うものとされていた。
28社は遅くとも平成18年4月以降に,奥山建設は平成20年5月頃以降に,藤プラント建設は平成21年4月頃以降に,それぞれ土地協会峡東支部の会員となっていた。
(査7ないし査11,査81)
ウ 役員
土地協会峡東支部では,支部長,副支部長及び理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,支部長及び副支部長は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた(以下,支部長及び副支部長のうち塩山地区に本店を置く事業者の役員又は従業員をまとめて「土地協会峡東支部の執行部」という。)。
平成18年度の支部長は内田組の《C1》社長,副支部長は石和地区に本店を置く《株式会社H》の《氏名略》社長,同地区に本店を置く《株式会社I》の《氏名略》社長及び岩波建設の《A》社長であった。また,平成19年度ないし平成21年度の支部長は石和地区に本店を置く《J株式会社》の《氏名略》社長,副支部長は塩山地区に本店を置くC等級業者である《K株式会社》の《K1》社長(以下「《K株式会社》の《K1》社長」という。)及び天川工業の《M1》社長であった。
(査8ないし査10)
⑶ 塩山地区治山林道協会
ア 事務所等
塩山地区治山林道協会(以下「塩山治山協会」といい,塩山支部及び土地協会峡東支部と併せて「塩山支部等」という。)は,社団法人山梨県治山林道協会の地区協会であり,塩山支部会館内に事務所を置いていた。(査12ないし査15,査103,査104)
イ 会員及び事業
社団法人山梨県治山林道協会の定款及び塩山治山協会の規約によれば,塩山治山協会は,峡東 林務環境事務所管内に本店を置く建設業者を会員とし,治山事業並びに林道事業に関する資料,情報及び統計の収集頒布,官庁その他関係団体並びに機関との連絡交渉及び提携等の事業を行うものとされていた。
28社は,遅くとも平成18年4月以降に,塩山治山協会の会員となっていた。
(査12ないし査16)
ウ 役員
塩山治山協会では,会長,副会長,理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,会長及び副会長は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた(以下,会長及び副会長のうち塩山地区に本店を置く事業者の役員又は従業員をまとめて「塩山治山協会の執行部」といい,塩山支部の執行部及び土地協会峡東支部の執行部と併せて「塩山支部等の執行部」という。)。
平成18年度の会長は原告の《B》社長,副会長は甲信建設の《L1》社長,天川工業の《M1》社長及び石和地区に本店を置く《N株式会社》(平成19年2月19日に商号を株式会社《名称略》に変更した。)の《N1》社長(ただし,任期途中で石和地区に本店を置く《株式会社O》の《O1》社長に交代した。)であった。また,平成19年度ないし平成21年度の会長は甲信建設の《L1》社長,副会長は野澤工業の《P》社長及び上記《株式会社O》の《O1》社長であった。
(査12ないし査14)
エ 職員
塩山治山協会は,事務員として《Q》(以下「《Q》事務員」といい,《G》事務員と併せて「塩山支部等の事務員」という。)を雇用しており,同事務員は塩山支部会館において勤務していた。(査104)
4 公正取引委員会による立入検査
公正取引委員会は,平成22年3月24日,本件について独占禁止法47条1項4号の規定に基づく立入検査(以下「本件立入検査」という。)を行った。
(争いがない。)
第4 争点
1 30社は,塩山地区特定土木一式工事について,受注予定者を決定し,その者が受注できるように協力する旨合意していたか(争点1)
2 上記1の合意(本件合意)は,独占禁止法2条6項にいう不当な取引制限に該当するか(争点2)
3 原告が受注した別紙8の各工事は,独占禁止法7条の2第1項にいう「当該…役務」(以下「当該役務」という。)に該当するか(争点3)
4 本件立入検査後に契約が締結された工事の対価は,本件違反行為の実行期間における売上額に含まれるか(争点4)
5 本件各命令の発出手続等は適法か(争点5)
第5 本件審決の認定事実及び争点に関する判断
1 争点1(30社は,塩山地区特定土木一式工事について,受注予定者を決定し,その者が受注できるように協力する旨合意していたか)について
⑴ 認定事実
ア 塩山支部に対する平成6年の勧告審決以降の受注調整の状況
山梨県では,平成17年度頃までは,指名競争入札の方法により土木一式工事を発注することが多かった。
塩山地区の建設業者は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決を受けたにもかかわらず,再び受注調整を行うようになり,塩山地区を施工場所とする土木一式工事の指名を受けると,塩山支部会館に集まり,受注を希望する者は塩山支部等の執行部に対して受注希望を表明し,塩山支部等の執行部を交えて受注希望者同士で話合いを行うなどして受注予定者を決め,受注予定者は,他の指名業者に対して受注に協力するよう依頼し,他の指名業者は,受注予定者よりも高い金額で入札するなどして,受注予定者が受注できるように協力し合っていた。
(査47,査55,査74,査84,査94,査99)
イ 本件受注調整の方法及びその実施状況
(ア) 入札参加者の確認方法
30社は,遅くとも平成18年4月1日以降(ただし,三森建設については,遅くとも平成19年5月15日以降。以下同じ。),一般競争入札の方法により発注される塩山地区特定土木一式工事の入札に参加しようとする場合には,入札公告が行われた日から土日祝日を除いて数日のうちに,当該工事の入札に参加する旨を,当該工事の前記第3の2⑴記載の発注担当部署の区分に応じて,塩山支部等の執行部又は塩山支部等の事務員に連絡していた。30社は,基本的にはポータルサイトに公表される入札公告を印刷したものに自社名を記載したものを塩山支部会館に持参するか,又はファクシミリにより送信する方法によって入札に参加する旨を連絡していたが,塩山支部等の執行部又は塩山支部等の事務員に対して,電話又は直接口頭で入札に参加する旨を伝える場合もあった。また,塩山地区特定土木一式工事が指名競争入札の方法により発注される場合においても,当該入札に指名された場合には,発注担当部署から送付される指名通知書の写しに自社名を記載したものを塩山支部会館に持参等することにより,その旨を連絡していた。
なお,このような塩山支部等への連絡は,塩山支部等の会員だけが行っていたわけではなく,藤プラント建設及び奥山建設は,塩山支部等の会員ではなかった時も,他の被審人らと同様に,塩山地区特定土木一式工事の入札に参加しようとする場合又は指名を受けた場合には,塩山支部等へ連絡していた。
塩山支部等では,上記連絡を受けると,峡東建設事務所等発注物件については《G》事務員が,峡東農務事務所発注物件及び峡東林務環境事務所発注物件については《Q》事務員が,それぞれ公告された工事ごとに入札参加者取りまとめ表を作成していた。
具体的には,塩山支部等の事務員が,ポータルサイトに掲載された入札公告に基づき,パソコン上で,その工事名,予定価絡等の情報を入力して,入札参加者名を記載する欄を設けた表を作成し,それを印刷したものに,入札に参加する旨連絡してきた事業者の社名のスタンプを押すなどしていた。その後,塩山支部等の事務員は,一般競争入札の場合,上記連絡をしてきた事業者が実際に入札に参加するか否かを確認するため,入札参加申請後に山梨県から送付される競争参加資格確認通知書の通知番号を各事業者に確認し,入札参加者取りまとめ表に当該通知番号を追記していた。また,指名競争入札の場合は,指名を受けた者から送付された指名通知書の写しに基づき指名業者名等を記載した表を同様に作成していた。
30社は,入札参加者取りまとめ表を閲覧する,又は塩山支部等の事務員に確認するなどして,あらかじめ当該工事の入札参加者を把握していた。そして,入札参加者取りまとめ表は,塩山支部等の執行部の指示により,当該工事の落札者決定後,塩山支部等の事務員がシュレッダーにかけるなどして廃棄していた。
(査39ないし査45,査47,査50ないし52,査54,査57,査58,査63,査64,査66,査70ないし査72,査77,査79,査83,査85,査87,査88,査90,査98ないし査109)
(イ) 受注予定者の決定方法
30社は,遅くとも平成18年4月1日以降,塩山地区特定土木一式工事の受注を希望する場合には,入札公告が行われてから数日の間に,峡東建設事務所等発注物件については塩山支部の執行部に,峡東農務事務所発注物件については土地協会峡東支部の執行部に,峡東林務環境事務所発注物件については塩山治山協会の執行部に,それぞれ当該工事の受注を希望する旨を表明していた。また,30社の中には,入札参加又は指名の連絡と同時に受注希望を表明する者や,他の入札参加者に直接受注希望を表明する者もいた。
そして,30社は,自社が受注を希望する場合には,塩山支部等の執行部や塩山支部等の事務員に問い合わせる,又は個別に入札参加者と連絡を取るなどして,他社の受注希望の有無を確認し,受注希望者が1社のときは当該受注希望者が受注予定者となり,受注希望者が複数のときは受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定していた。
30社の代表者等は,頻繁に塩山支部会館に出入りしていたため,各社の代表者等同士が顔を合わせる機会が多く,そのような機会を利用して,受注調整に関する情報交換や話合いを行っていた。
受注希望者間の話合いに際しては,工事ごとに,各受注希望者が,地域性,継続性等の自社が受注予定者たり得る理由を主張し合い,これらの主張や塩山支部等の執行部の助言等を勘案して, 受注予定者を決定していた。
また,30社は,前記第3の2⑴記載の発注担当部署の区分に応じた塩山支部等の執行部を交えて,受注予定者を決める話合いのため,「調整会議」と称する会合等(以下「調整会議等」という。)を開催する場合もあった。
このような受注希望者間での話合いや調整会議等は,入札公告が行われた日から土日祝日を除いて数日後(そのほとんどは3日後)の午前10時頃から塩山支部会館において行われることが多かった。
30社は,自社が入札に参加する工事や受注を希望する工事であっても,上記の方法により他の受注希望者を確認する中で,地域性,継続性等の事情が他の受注希望者よりも弱く,自社が受注予定者となることが困難と思われる工事にあっては,受注希望の表明や話合いへの参加をすることなく他の受注希望者の受注に協力する場合もあった。
さらに,入札参加者の数が少ない場合には,受注予定者が30社のうちの他の事業者に対して 入札への参加を依頼し,依頼を受けた事業者が当該入札に参加した上で受注予定者が受注できるように協力することもあった。
(査39ないし査43,査47,査48,査54ないし査59,査62,査64,査65,査67ないし査74,査76ないし査79,査82ないし査86,査93,査97,査99,査101,査104,査105,査177)
(ウ) 入札価格等の連絡
前記(イ)により受注予定者となった者は,他の入札参加者に対し,自社が受注予定者である旨連絡するとともに,当該他の入札参加者が入札すべき価格又は予定価絡に対する率や自社の入札する価格又は予定価格に対する率を連絡していた。他の入札参加者は,こうした価格等の連絡を受け,受注予定者よりも高い価格で入札するなどして,受注予定者が受注できるように協力していた。
なお,工事によっては価格連絡を行わない受注予定者もいたが,そのような場合であっても,他の入札参加者は,予定価格に極めて近い価格で入札し,受注予定者が受注できるように協力していた。
(査54,査55,査57ないし査59,査64,査70,査75ないし査77,査82,査84,査85,査88,査99,査101)
(エ) 総合評価落札方式の工事の場合の協力
総合評価落札方式の工事における評価項目のうち,「企業の施工実績」,「地域精通度」及び「地域貢献度」は,前記第3の2⑶ウ(ウ)のとおり,いずれも客観的なデータに基づいて算定されるものであり,入札参加者が山梨県所定の様式で作成・記載して提出した資料に基づいて点数化されることが,総合評価実施要領で公表されていた。そのため,30社は,過去の入札結果等により,各入札参加者の評価点を予想することが可能であった。
評価項目のうち「配置予定技術者の能力」も,前記第3の2⑶ウ(ウ)のとおり,総合評価実施要領に基づき客観的なデータが点数化されるものであるため,少なくとも,入札参加者において自社の評価点を予想することは可能であった。
評価項目のうち「施工計画」については,上記「企業の施工実績」等と異なり,総合評価実施要領に基づき客観的なデータが点数化されるものではなく,評価が発注者の裁量に委ねられるものであるため,正確に評価点を予想することはできなかったが,0点,5点又は10点と3段階で配点されていたこともあり,少なくとも,入札参加者において,自社の作成した施工計画書の内容から自社の評価点の高低をある程度予想することは可能であった。
このような状況の下で,30社は,互いの評価点を予想し,又は連絡し合い,受注予定者以外 の者は,入札を辞退し,又は高い入札価格で入札するほか,評価点の低い配置予定技術者を配置する,簡易な内容の施工計画書を提出する,受注予定者との間で施工計画書をやり取りして内容を確認するなどして,総合評価落札方式の工事の入札においても,あらかじめ受注予定者を決定し,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力し合っていた。
(査30ないし査32,査52,査53,査60,査68,査69,査73,査76,査80,査86,査87,査90,査97,査99,査169,査171,査184,査193,査194,査196,査212,査217,査218)
(オ) 塩山支部の役員会における協議
a 平成19年5月11日の役員会における原告の《B》社長の提案
塩山支部は,平成19年5月11日,《略》県《略》市に所在する旅館「《旅館名略》」において,同支部の月例役員会を開催した。同役員会には,塩山支部長である原告の《B》社長,同副支部長であるタナベエンジニアリングの《D》社長及び植野興業の《E》社長,同理事である大和工務店の《F》社長,天川工業の《M1》社長,天川組の《S1》社長,岩波建設の《A》社長,髙野建設の《T》社長,内田組の《C1》社長,甲信建設の《L1》社長,《K株式会社》の《K1》社長及び坂本組の《U1》社長(以下「坂本組の《U1》社長」という。),同監事である山梨建設の《R》社長ら15名が出席した。
同役員会において,原告の《B》社長は,他の出席者に対し,本件合意に基づいて本件受注調整が行われていることが公正取引委員会等の外部に漏れることを防ぐため,今後は調整会議等の受注調整のための話合いの出席者を各社の社長又はその兄弟若しくは,息子に限定する旨提案した。
また,同月14日に塩山支部会館において開催された塩山支部の会員が出席する月例総会においても,原告の《B》社長が同様の提案をした。
しかし,これらの会合において,坂本組の《U1》社長が,それまで同社において受注調整のための話合いに出席していた同社の取締役社長代理である《U2》(以下「坂本組の《U2》社長代理」という。)は同社長と血縁関係になく,同社長には他に受注調整のための話合いに出席させることのできる兄弟又は息子がいないことを理由に,上記提案に強く反対したため,上記提案に関する結論は出なかった。
(査43,査92,査99,査110ないし査114)
b 平成19年6月13日の役員会におけるルールの確認
平成19年6月13日の役員会において,出席者の間で,塩山地区特定土木一式工事の入札に参加しようとする場合には,入札公告が行われた日の翌日までに,当該工事の入札に参加する旨を塩山支部等の執行部又は塩山支部等の事務員に連絡するとともに,当該工事の受注を希望する場合には,原則として,入札公告が行われた日から土日祝日を除いて数日後の午前10時に塩山支部会館に出向き,塩山支部等の執行部に当該工事の受注を希望する旨を伝えることを確認した。
その後,上記確認事項は,甲斐建設や藤プラント建設など,役員以外の塩山支部の会員にも伝えられた。
(査39ないし査43,査47ないし査49,査72,査99,査100,査115ないし査117)
ウ 個別工事における受注調整
312物件のうち,少なくとも別紙7の「別紙12」欄に「○」の付された44件(以下「44物件」という。)については,電子メールやメモなどの客観的な証拠等が存在することから,当該工事について,あらかじめ受注予定者を決定し他の入札参加者は受注予定者が受注できるように協力するなど,本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことが認められる。
なお,44物件の内訳は,①入札参加者の評価点及び入札価格等をシミュレーションした結果が記載された文書等の証拠が存在する工事が4件,②入札参加者間で施工計画書等の発注者に提出する資料をやり取りしている電子メール等の証拠が存在する工事が6件,③当該工事を落札した事業者の名称及び落札価格並びに自社の入札価格等が書き込まれた競争参加資格確認通知書等の証拠が存在する工事が25件,④当該工事の受注調整に関する事実が記載された入札参加者の代表者の手帳等の証拠が存在する工事が9件であり,原告については,物件223が③の理由により44物件に該当する。
また,少なくとも別紙7の「別紙13」欄に「○」の付された60件(以下「60物件」という。)については,客観的な証拠から,入札参加者が塩山支部等に対して当該工事の入札に参加する旨を届け出る,塩山支部等において入札参加者取りまとめ表を作成するなど,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことが認められる。
原告については,物件153,163が60物件に該当する。
エ 本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事の落札率
本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事である316物件のうち,4物件を除く312物件は,いずれも30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注しているところ,その落札率は,いずれの入札方法においても97パーセント台に集中しており,落札率の平均は96.3パーセントである。(査18)
⑵ 本件合意について
前記⑴アのとおり,山梨県では,平成17年度頃までは指名競争入札の方法により土木一式工事を発注することが多かったが,30社を含む塩山地区の建設業者は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決以降も,塩山地区を施工場所とする土木一式工事の指名競争入札において受注調整を行うなど,協調関係にあったことが認められる。
また,山梨県では,平成18年度頃から一般競争入札の方法により土木一式工事を発注することが増え,平成19年頃からは,一般競争入札の方法により発注する土木一式工事の一部について総合評価落札方式を導入したが(査18),前記⑴イのとおり,30社は,平成18年4月1日以降も,これらの塩山地区に係る土木一式工事について,塩山支部等において入札参加情報を集約し,受注希望者が1社又は1JVの場合はその者又はJVを受注予定者とし,受注希望者が複数の場合は地域性,継続性等を勘案して受注希望者間の話合い等により受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力していたことが認められる。
さらに,前記⑴ウのとおり,本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事である312物件のうち,少なくとも,44物件について本件合意の内容に沿った受注調整が行われたこと,60物件について本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことが客観的な証拠によって認められる。
そして,これらの工事の発注方法は,指名競争入札,通常の一般競争入札,総合評価落札方式に よる一般競争入札のいずれも含んでおり,発注担当部署をみても,山梨県県土整備部等,峡東農務事務所及び峡東林務環境事務所のいずれも含まれ,工事の内容も土木工事,林務工事,農務工事に及び,発注時期も本件対象期間の全般にわたっている。
加えて,前記⑴エのとおり,312物件は,いずれも30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注したものであり,312物件の平均落札率も,96.3パーセントという相当高いものであったことが認められる。
以上の事情に鑑みれば,30社のうち三森建設を除く29社は,遅くとも平成18年4月1日までに,塩山地区特定土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るために本件合意をし,三森建設は,遅くとも平成19年5月15日までに本件合意に参加したこと,30社は,遅くとも平成18年4月1日以降,本件合意に基づいて本件受注調整を行っていたことが認められる。
2 争点2(本件合意は,独占禁止法2条6項にいう不当な取引制限に該当するか)について
⑴ 本件合意が不当な取引制限に該当すること
本件合意は,30社が,塩山地区特定土木一式工事について,話合い等によって受注予定者をあらかじめ決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力するという内容の取決めであり,入札参加者は,本来的には自由に入札価格を決めることができるはずのところを,このような取決めがされたときは,これに制約されて意思決定を行うことになるという意味において,その事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかであるから,本件合意は,独占禁止法2条6項にいう「その事業活動を拘束し」の要件を充足する。そして,本件合意の成立により,30社の間に,上記の取決めに基づいた行動をとることを互いに認織し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから,本件合意は,同項にいう「共同して…相互に」の要件も充足する(最高裁判所平成24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁。以下「多摩談合事件最高裁判決」という。)。
また,独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件合意のような一定の入札市場における受注調整を行うことを取り決める行為によって競争制限が行われる場合には,当該取決めによって,その当事者である事業者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうものと解される(多摩談合事件最高裁判決参照)。
そして,本件合意の当事者及びその対象となった工事の規模,内容によれば,本件合意は,それ によって上記の状態をもたらし得るものであったといえる。しかも,前記第3の2⑹,前記1⑴ウ及びエのとおり,①本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事のうち,指名競争入札の方法により発注された工事は,そのほとんど全てにおいて30社の中から当該入札の参加者が指名され,一般競争入札の方法により発注された工事でも,そのほとんどにおいて30社又は30社のいずれかで構成されるJVのみが入札に参加していたこと,②本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事の全てを,30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注しており,その平均落札率も,96パーセントを超える相当高いものであること,③実際に,本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事の中に,30社が本件合意の内容に沿った受注調整を行ったこと,又は本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為を行ったことを裏付ける客観的な証拠が存在する工事が多数あることなどからすると,本体合意は,本件対象期間中,塩山地区特定土木一式工事に係る入札市場において,事実上の拘束力をもって有効に機能し,上記の状態をもたらしていたものといえる。
したがって,本件合意は,独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足する。
⑵ さらに,このような本件合意が,独占禁止法2条6項にいう「公共の利益に反して」の要件を充足するものであることも明らかである。
⑶ 以上によれば,本件合意は,独占禁止法2条6項にいう不当な取引制限に該当する。
3 争点3(原告が受注した別紙8の各工事は,独占禁止法7条の2第1項にいう当該役務に該当するか)について
⑴ 当該役務
不当な取引制限等の摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,不当な取引制限 等の予防効果を強化することを目的とする課徴金制度の趣旨に鑑みると,独占禁止法7条の2第1項所定の課徴金の対象となる当該役務とは,本件においては,本件合意の対象とされた工事であって,本件合意に基づく受注調整等の結果,具体的競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解される(多摩談合事件最高裁判決参照)。
30社は,前記1⑵のとおり,遅くとも平成18年4月1日以降,塩山地区特定土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るため,本件合意の下,本件受注調整を行っていたものである。
そして,本件においては,以下の①ないし⑤の各事情が見られることから,塩山地区特定土木一 式工事に該当し,かつ,30社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当である。
① 30社は,塩山支部等において,受注調整のために,あらかじめ30社の入札参加及び受注希望に関する情報を取りまとめ,塩山支部等において入札参加者取りまとめ表を作成し,受注希望者が複数の場合には受注希望者間で話合い等をし,時には塩山支部等の執行部の助言を勘案するなどして,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるよう協力し合っていたものであり(前記1⑴イ(ア)及び(イ),同⑵),本件受注調整を組織的に行っていた。
② 本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事のうち,9割以上の工事において,30社のみが入札に参加していたことから(前記第3の2⑹),30社は,塩山地区特定土木一式工事の全てを対象に受注調整を行うことが容易な立場にあり,実際に,本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事の全てを,30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注しており,その平均落札率も96パーセントを超える相当高いものであった(前記第3の2⑹及び前記1⑴エ)。
③ 312物件のうち,44物件及び60物件の合計104件の工事について,30社が本件合意の内容に沿った受注調整を行ったこと,又は本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為を行ったことが認められ(前記1⑴ウ),これらの工事は,発注方法,発注担当部署,工事内容及び発注時期において特段の偏りはみられない。
④ 30社の代表者のうち,本件合意への参加を認める旨の供述をする者が約半数いるが,これらの者の中に,塩山地区特定土木一式工事に該当する特定の工事について本件合意に基づく本件受注調整が行われなかった旨を供述している者はいない。
⑤ 本件合意の目的が受注価格の低落防止にあること(前記1⑵)に照らすと,塩山地区特定土木一式工事の全てを受注調整の対象とするのが合理的である。
⑵ 別紙8の工事について
本件対象期間に原告が受注した塩山地区特定土木一式工事のうち,本件各課徴金納付命令において課徴金算定の対象とされた工事は,別紙8の「4 対象物件一覧」記載のとおりである。
これらの工事は,いずれも本件合意の対象である塩山地区特定土木一式工事に該当し,原告が入札に参加して受注した工事であるところ,前記⑴のとおり,かかる工事については,特段の事情がない限り,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したと推認される。また,これらの工事の中には,本件合意の内容に沿った個別の受注調整が行われたこと又は本件合意の内容に沿った個別の受注調整に関わる行為が行われたことを裏付ける客観的な証拠が存在する工事(44物件及び60物件)も3件含まれている。
⑶ 特段の事情の有無について
原告は,別紙8の工事の中にも具体的競争制限効果が発生していないものが存在する旨主張するが,原告の主張する事情はいずれも,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したとの推認を妨げるものとは認められず,原告の主張を採用することはできない。
⑷ 小括
以上のとおり,別紙8の工事は,いずれも,本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情はなく,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したと認められる。
よって,これらの工事は,いずれも独占禁止法7条の2第1項にいう当該役務に該当する。
4 争点4(本件立入検査後に契約が締結された工事の対価は,本件違反行為の実行期間における売上額に含まれるか)について
独占禁止法7条の2第1項にいう「実行期間」とは,違反行為の対象となった商品又は役務に係る売上額を算定するための基準であるところ,①上記条項は,「実行としての事業活動がなくなる日」と定めて,違反行為の終了日と明確に区別して規定していること,②仮に違反行為の終了時をもって実行期間終了日と解した場合,違反行為終了後に発生した違反行為による売上げを一律に課徴金の対象から除外することとなり,適切でないこと,③売上額の確定に係る実行期間を違反行為者間で同時期とすべきものとも解されないことから,同項にいう「実行としての事業活動がなくなる日」とは,違反行為の終了日ではなく,違反行為者につき,それぞれ違反行為に係る事業活動が終了したと認められる日と解すべきである。
また,契約が締結されれば,当該契約に基づく対価に係る債権債務関係が発生するのが通常であるから,独占禁止法施行令6条により契約基準が適用される場合において,違反行為終了前に受注調整に係る入札が行われて受注予定者が落札し,当該工事の契約を違反行為終了後に締結した時には,契約締結時をもって違反行為に係る事業活動の終了日,すなわち「実行としての事業活動がなくなる日」と解し,当該契約における対価を課徴金算定の基礎とするのが相当である。
5 争点5(本件各命令の発出手続等は適法か)について
⑴ 独占禁止法49条1項が排除措置命令書に「公正取引委員会の認定した事実」を付記すべきとしているのは,排除措置命令が,その名宛人に対して当該命令の主文に従った排除措置の履行義務を課すなど,名宛人の事業活動の自由等を制限するものであることに鑑み,公正取引委員会の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,排除措置命令の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるためのものと解される。
このような排除措置命令の性質及び理由付記を命じた趣旨・目的に鑑みれば,排除措置命令書に記載すべき「事実」とは,違反行為に関する認定事実のほか,いかなる事実関係に基づき排除措置が命じられたのかを,名宛人においてその記載自体から了知し得るものでなければならない。
これを本件についてみるに,本件排除措置命令書には,本件合意が存在するに至った時期,内容,行為者等のほか,本件合意に基づいて22社によって行われていた行為が具体的に記載されていると認められるところ,かかる記載から,22社が具体的にいかなる行為を行ったために本件排除措置命令を発せられたのかを了知することは可能であり,同命令に対する不服申立てに十分な便宜を与える程度に記載されていると認められる。
なお,本件排除措置命令書には,本件合意の成立した日時,場所及び方法に関する記載はないが,不当な取引制限における合意の形成過程について,日時,場所等をもって具体的に特定することまでを要するものでない。
⑵ 以上のとおり,本件排除措置命令書における「公正取引委員会の認定した事実」の記載は独占禁止法49条1項に違反するものでなく,本件各課徴金納付命令書における「課徴金に係る違反行為」の記載も同法50条1項に違反するものではない。
6 結論
⑴ 本件排除措置命令
30社は,前記2のとおり,共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,塩山地区特定土木一式工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものと認められる。
また,本件違反行為は既に消滅しているが,本件違反行為は長期間にわたり行われていたこと,22社の大部分は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決に伴い課徴金納付命令を受けたにもかかわらず再度同様の違反行為をしていたこと,22社は自主的に本件違反行為を取りやめたものではないこと等の事情が認められ,これらの事情を総合的に勘案すれば,本件排除措置命令の時点において22社は本件違反行為と同様の行為を繰り返すおそれがあったと認められ,特に排除措置を命ずる必要がある(独占禁止法7条2項)ことは明らかである。
よって,本件排除措置命令は相当である。
⑵ 本件課徴金納付命令
ア 課徴金に係る違反行為
本件違反行為が独占禁止法7条の2第1項1号に規定する役務の対価に係るものであることは,本件合意の内容から明らかである。
イ 課徴金の計算の基礎となる事実
(ア) 事業者
原告は,塩山地区特定土木一式工事を請け負う事業を営んでいた者である。(争いがない。)
(イ) 原告の実行期間
原告が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成19年3月24日以前であると認められる。また,原告は,平成22年3月24日以降,本件違反行為を行っていないが,同日前に行われた一般競争入札に基づく最後の契約を同日に締結していることから,本件違反行為の実行としての事業活動がなくなる日は同日であると認められる(前記4参照)。
したがって,原告については,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日から本件違反行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間が3年を超えるため,独占禁止法7条の2第1項の規定により,実行期間は平成19年3月25日から平成22年3月24日までの3年間となる。
(ウ) 算定率
原告は,前記(イ)の実行期間を通じ,資本金の額が3億円以下の会社であって,建設業に属する事業を主たる事業として営んでいた者である。
したがって,原告は,独占禁止法7条の2第5項1号に該当する事業者である。
(争いがない。)
(エ) 課徴金の額
以上によれば,原告が国庫に納付すべき課徴金の額は,独占禁止法7条の2第1項及び5項の規定により,別紙8の「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」記載の金額に100分の4を乗じて得た額から,同条23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された,同別紙の「3 課徴金額」記載の金額である。
ウ 結論
よって,原告に対して前記イ(エ)の「課徴金の額」と同額の課徴金の納付を命じた本件課徴金納付命令は相当である。
⑶ 以上のとおり,本件各命令はいずれも相当であり,22社の本件排除措置命令に係る審判請求及び23社の本件各課徴金納付命令に係る審判請求はいずれも理由がないから,原告らの審判請求をいずれも棄却する審決(本件審決)をする。
第6 争点に関する当事者双方の主張
1 争点1(30社は,塩山地区特定土木一式工事について,受注予定者を決定し,その者が受注できるように協力する旨合意していたか)について
(原告の主張)
本件審決は,「30社のうち三森建設を除く29社は,遅くとも平成18年4月1日までに,塩山地区特定土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るために本件合意をし,・・・遅くとも平成18年4月1日以降,本件合意に基づいて本件受注調整を行っていたことが認められる」と認定した(前記第5の1⑵)。
しかし,本件審決の上記認定は,いずれも証拠の評価を誤るなどして事実認定を誤っているか,事実の評価を誤っており,実質的証拠を欠くものである。
⑴ 塩山支部に対する平成6年の勧告審決以降の受注調整の状況について
本件審決は,「30社を含む塩山地区の建設業者が平成6年勧告審決以降も塩山地区を施工場所 とする土木一式工事の指名競争入札において受注調整を行うなど,協調関係にあった」と認定した。
しかし,本件審決は,信用性のない供述証拠のみに基づき,これを認定しているのであって,平成6年勧告審決以降,平成18年4月1日までの間に受注調整が行われていたとの実質的な証拠はない。
⑵ 入札参加情報の集約について
入札参加情報の集約は,受注調整のためのものであるとの本件審決の認定は,次のとおり事実誤 認である。
ア 23社の代表者は,代表者審尋において,いずれも1社入札を防止する目的で入札参加情報を集約していた旨を供述している。
イ 公共工事における1社入札問題は,新聞でも取り上げられるような関心事であった(審E9)。現に,山梨県の発注担当者である平成22年当時の峡東建設事務所長も「発注者側としては,多くの業者が入札に参加してくれた方が,競争性が高まり好ましい」と述べている(査231・6 頁)ように,山梨県の発注担当者は,1社入札を回避したいという意識を強く持っていた。
原告は,新聞等の報道により1社入札の問題性を意識せざるを得ないなかで,日頃から山梨県の発注担当者を始めとする行政関係者や業界関係者からこのような話を聞いていたことから,山梨県が「1社入札にならないことが好ましい。」と考えていると捉え,1社入札を避けるために自発的に情報を集約し,又は積極的ではないにせよ,情報集約に協力していたにすぎない。
ウ したがって,本件審決が入札参加情報の集約の目的を受注調整であるとしたのは,事実誤認であり,入札参加情報の集約は,本件合意の存在を推認する間接事実とはなり得ない。
⑶ 塩山支部の役員会における協議について
本件審決は,「平成19年5月11日の塩山支部の月例役員会において,原告の《B》社長が他の出席者に対し,本件合意に基づいて本件受注調整が行われていることが公正取引委員会等の外部に漏れることを防ぐため,今後は調整会議等の受注調整のための話合いの出席者を各社の社長又はその兄弟若しくは息子に限定する旨提案した」と認定した。
しかし,上記認定は,坂本組の《U1》社長の供述調書(査99)及び宮原土建の《AH》社長の供述調書(査92)に基づくものであるが,《U1》社長の供述は,審判廷での反対尋問を受けておらず,内容的にも,出席していない山梨建設の《R》社長が出席していたとの虚偽の内容を含むものであり,《AH》社長の供述は,株式会社中川工務所の《氏名略》からの伝聞に過ぎず,いずれも信用性がない。
これに対し,《B》社長の代表者審尋における供述によれば,《B》社長はそのような発言はしておらず,仕事に関する会議の出席者については,兄弟又は息子でも,兄弟又は親子でもなく,「親子に限ると,確か言ったと覚えてます。」と明言している(速記録9ないし11頁〔審判事件記録5812ないし5814丁〕)が,「仕事に関する会議」とは,「支部の行事の会議と仕事の話」という趣旨であり,「受注調整の話し合い」でないことは明らかである。
《B》社長は,代表者審尋において,同人作成のメモ(査113)に「支部は仕事に関する会議と工事の話は親子に限る」と記載した理由と「仕事に関する会議は本人以外は認めないただし親子は認める」と記載した理由は同じであるとした上,「これは,支部はいろんな行事をたくさんやっておりまして,その行事の会議と仕事の話は,親子くらいにしようということでございます。」(速記録9頁〔審判事件記録5812丁〕)と供述している。ここでいう「親」は代表者のことであり,《B》社長は,行事について親子に限るとする趣旨について,作業後の親睦会の関係とともに,支部の会議には,本来代表者が出るべきであり,代表者が出て来ないと速やかな決定ができないとしており,その発言には,十分な合理性がある。
以上のとおり,査113の「仕事に関する会議は本人以外認めないただし親子は認める」との記 載は,《U1》社長の前記供述と異なることは明らかである。なお,《B》社長の役員会における発言とメモは,「親子は認める」というもので,「兄弟又は息子に限る」ではなく,その点でも《U1》社長の供述は客観的な証拠と矛盾している。
また,《B》社長の上記供述は,植野興業の《E》社長の認識とも一致する(《E》社長の代表者審尋の速記録18頁,19頁〔審判事件記録5373,5374丁〕)。
したがって,平成19年5月11日の役員会における《B》社長の発言及び同日の役員会の協議内容についての認定は誤りである。
⑷ 個別工事における受注調整について
ア 本件審決は,44物件について,本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことが認められるとし,60物件について,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことが認められるとし,これらの事実を間接事実の1つとして,本件合意の存在を認定している。
しかしながら,本件審決の挙げる証拠は,必ずしも本件合意の存在を裏付ける客観的な証拠と はいえない。
イ 本件審決は,タナベエンジニアリングの平成20年3月4日開催の幹部会の資料に「昭和→広川 3/25」との手書きの書き込みがされていること(査288)をもって,物件153が60物件に該当すると認定し,タナベエンジニアリングが,同月4日の時点で,本工事は昭和建設ではなく,原告が受注することを把握していたとみるのが合理的であるとした。
しかし,物件153の入札に参加すらしていないタナベエンジニアリングのこれだけの記載をそのようにみることに何の合理性もない。上記書き込みをした同社の《D》社長は,代表者審尋において,「当初昭和建設の受注意欲が強いと思っていたものの,その後原告から下請として協力するかとの意向打診があり,原告の方がより受注意欲が高いと思い,廣川さんと記した。」旨供述している(速記録11,12頁〔審判事件記録6109,6110丁〕)。
原告が本工事を落札すれば,タナベエンジニアリングは,その下請として関与することになる 立場であるから,このような書き込みがあることは自然である。
したがって,査288は,物件153が60物件であることの客観的証拠とはいえない。
ウ また,本件審決は,原告が落札した物件163を60物件に該当するとし,査107の10をその客観的な証拠とする。
査107の10は,佐藤建設工業宛ての競争参加資格確認通知書であり,同社は,塩山支部等へファクシミリでこれを送信したものである。しかし,同社の《AI》社長は,代表者審尋において,1社入札を防ぐため,入札に参加したことを伝えるため塩山支部等にファクシミリで送信したにすぎない旨供述しており(速記録1頁〔審判事件記録6140丁〕),査107の10は,受注調整に関わる行為が行われた客観的な証拠とはいえない。
⑸ 本件対象期間中の平均落札率が96.3パーセントであったことについて
本件審決は,本件対象期間に発注された312物件の平均落札率が96.3パーセントであることを,本件合意に基づく本件受注調整を行っていたことの間接事実とする。
しかし,被告の立入調査が行われた平成22年3月24日以後(平成22年4月1日から平成2 4年3月31日まで)の塩山地区を施工場所とする山梨県発注の土木一式工事のうち税込予定価格が3000万円以上の工事の平均落札率は95.9パーセントであり(審A共3),それ以前の96.3パーセントとの間には,わずか0.4パーセントの差しかなく,両者の間に有意な差があるとは到底いえない。
本件審決が認定したところによっても,原告は,平成22年3月24日以降,本件違反行為は行っていないし,本件違反行為の実行行為としての事業活動がなくなる日も同日である。独占禁止法に違反する談合行為が行われなくなり,その実行としての事業活動もなくなれば,違反行為の対象となった取引分野においては自由かつ公正な競争が行われるようになったものと考えるのが自然である。
よって,本件対象期間中の落札率が96.3パーセントであったことから,受注調整,ひいては本件合意を推認することはできない。
⑹ 総合評価落札方式の工事について
本件審決は,総合評価落札方式の工事においても,入札参加者の間で,互いの評価点を予想し,又は連絡し合うなどし,それを踏まえて各社の入札価格を調整するなどすれば,受注調整を行うことは可能であったとするが,これは,総合評価落札方式による入札と他の入札方式との質的相違及びその採用時期を無視したものである。
① 総合評価落札方式と他の入札方式との質的相違
総合評価落札方式は,入札価格のみで決定される指名競争入札又は一般競争入札とは全く異なる入札制度であり,とりわけ簡易型と特別簡易型Ⅱについては,評価点の調整が極めて困難であり,仮に情報を共有したうえで受注予定者を定めたところで,決めたとおりに落札させることができるとは限らない。
評価項目のうち「企業の施工実績」,「地域精通度」及び「地域貢献度」については,過去の 入札結果等により自社及び他社の評価点を予想することが可能であったとしても,それだけでは,受注調整はできない。総合評価落札方式において受注調整を行うためには,入札価格以外に,評価点が与えられる多数の評価項目についての情報を共有することが必要であり,各評価項目についての情報を共有することについての協力方法を予め取り決めておかなければならないからである。
また,「配置予定技術者の能力」について,自社の評価点を予想することは可能であったとしても,自社の評価点のみを予想しても格別意味がないし,他社の「配置予定技術者の能力」を容易に予想できるものではない。「他社の配置予定技術者の能力」を予想するためには,他社の技術者の資格や経験のみならず,入札参加時点における他社の他の工事との兼ね合いも把握していなければ,誰が配置されるかも分からないからである。
さらに,総合評価落札方式における「施工計画」については,正確に評価点を予想することはできない。すなわち,「施工計画」については,評価点が0点,5点又は10点の3段階で配点されているからといって,白紙の「施工計画」を提出しない以上,「施工計画」は,第三者が評価するものであり,記載した分量の多寡で評価が決まるわけでもないから,評価点を予想することはできない。なお,白紙の施工計画書を提出することは,山梨県の技術評価資料作成要領により欠格事由とされているから,事実上不可能である。
以上のとおり,総合評価落札方式による入札において受注調整を行おうとするのであれば,入札価格のみならず,評価点が与えられる多種多様な項目についての情報を共有するための協力方法を合意しておかなければならず,入札価格のみのやり取りをする前提での受注調整の合意と総合評価落札方式の工事で受注調整する合意は質的に全く異なるものであって,前者の合意に後者の合意は含まれず,また,前者の合意で後者の合意に代替することもできない。
② 本件合意の成立時には総合評価落札方式が存在しなかったこと
仮に,本件合意が平成18年4月1日当時に成立したとしても,その合意の対象は,その当時採用されていた入札方式の工事に関するものに限られるはずである。
総合評価落札方式は,平成19年度から採用されたものであり,被告が主張する本件合意の成立時には存在しておらず,前記①のとおり,他の入札方式とは質的に異なるものであるから,総合評価落札方式の工事が本件合意の対象に含まれることはあり得ない。
したがって,本件審決が,通常入札との相違を看過して,総合評価落札方式の工事をも本件合意の対象に含まれると認定したことは誤りである。
(被告の主張)
⑴ 塩山支部に対する平成6年の勧告審決以降の受注調整の状況について
本件審決が認定に供した供述調書(査47,査55,査74,査84,査94,査99)は,入札参加や受注希望を塩山支部等に届け出ていた等の供述部分において,遅くとも平成18年4月1日以降の塩山支部等における入札参加情報の集約という客観的な事実関係と符合し,また,個別物件における受注調整や受注調整に関わる行為が行われたこと等の供述部分においては,これらを裏付ける客観的な証拠が存在し,全体として信用性が極めて高いところ,平成6年の勧告審決以降の受注調整に係る供述部分に限って,信用性を疑うべき事情はない。
したがって,上記受注調整の状況は,上記供述調書により合理的に認定することができる。
⑵ 入札参加情報の集約について
ア 塩山支部等における入札参加情報の集約が1社入札を避けるためであったとの23社の代表者の代表者審尋における供述は,いずれも採用することができない。
イ 1社入札が問題視され,山梨県の発注担当者等においてもこれを回避したいとの意識を持っていたこと自体は,本件審決が否定するところではない。また,塩山支部等における入札参加情報の集約が,原告その他の塩山支部等の会員による自発的な行動であるとの原告の主張も,本件審決の認定に沿うものである。問題は,かかる自発的な入札参加情報の集約が,何を目的としてされていたかである。
塩山支部等において入札参加情報の集約が行われていたことは争いがない。そして,その目的が何かをひとまず措くとしても,かかる入札参加情報が受注調整に利用されていたことは,本件審決が認定したとおりであり,そのことは,44物件の中に,落札者においてあらかじめ他の入札参加者を把握し,それを踏まえて受注調整を行っていることが認められるものが多数存在することからも明らかである。
他方,本件対象期間において塩山支部における副支部長又は支部長であった原告の《B》社長によれば,同人は,1社入札を避けるために入札参加情報が集約されていたはずの入札参加者取りまとめ表に,必ずしも目を通していたわけではなく,これによって入札参加者が少ない入札が確認できたとしても,次の入札までに会員に入札参加を呼びかけていた程度であり,それによって入札参加者が増えなかったとしても特段の措置や対策は取っていなかったのであるから(《B》社長の代表者審尋の速記録15頁〔審判事件記録5818丁〕),1社入札回避の実効性には乏しく,当該目的のために積極的に活用がされていなかったことが明らかである。
そして,上記のように1社入札の回避という目的からすれば,およそ不盛況な活用状況にもかかわらず,入札参加等の届出のルールは塩山支部等の会員に周知・徹底されており,入札参加のみならず,受注希望についても情報が集約されていた(査39ないし査45,査47,査50ないし査52,査54,査57,査58,査63,査64,査66,査70ないし査72,査77,査79,査83,査85,査87,査88,査90,査98ないし査109)。これらのことからすれば,入札参加情報の集約の目的は,受注調整のためであったと合理的に認定できるところである。
さらに,仮に,塩山支部等における入札参加情報の集約が30社による自発的なものであったとしても,1社入札を避けることを目的としていたのであれば,その発案の経緯や当該目的遂行のための方法や成果が,30社のうちに情報として共有されるなり,客観的な証憑として存在するなりしてしかるべきである。だとすれば,23社の代表者の供述において,山梨県から1社入札を避けるように要請を受けた時期や経緯,その他,入札参加情報の集約について主要な点に関する供述が曖昧なのは,当然ということはできない。むしろ,本来披瀝されないはずの入札参加情報を集約することは,一般競争入札制度の趣旨にも反することからも,これらの真意や経緯が30社によって隠蔽されていたことさえうかがわせる。
⑶ 塩山支部の役員会における協議について
平成19年5月11日の塩山支部役員会において,受注調整のための話合いの出席者に関する原告の《B》社長の提案があったことは,本件審決が掲記の証拠によって合理的に認定したとおりである。
⑷ 個別工事における受注調整について
ア 本件審決は,44物件及び60物件に係る事実関係(又はこれらを基礎付ける証拠)のみから本件合意の存在を認定するものではなく,また,これら事実関係(又はこれらを基礎付ける証拠)のみから,本件合意の対象工事に本件合意に基づく受注調整が行われたと認定するものでもない。したがって,これら事実関係を基礎付ける証拠とされる査288や査107の10といった個々の証拠が直接的に本件合意の存在を裏付けるものでなければ,本件合意の存在が認定できないという関係にあるわけではない。
イ また,44もの物件において,偶々それぞれの入札参加者が,個々に受注調整を行うことを話し合って決めていたとみることは不自然であり,そこに通底する本件合意があったとみる方がはるかに合理的であるし,60物件に係る事実関係は,かかる見方を補強するものである。そうすると,44物件及び60物件に係る事実関係だけでも,本件合意を推認するに十分な根拠たり得るものである。
ウ 原告の主張に対する被告の反論
(ア) 原告は,物件153に係る査288の書き込みは,入札参加者でもないタナベエンジニアリングが,いつ手書きしたかも不明確であるから,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われた客観的な証拠とはいえないと主張する。
しかし,査288の「9工区 昭和→広川《「広川」の下波線を付した記載」》 3/25」との書き込みにおいて,「9工区」とは物件153の「施工場所」の一部を,「3/25」とは同物件の「開札日」である平成20年3月25日を意味するところ(別紙7「一連番号」153),上記書き込みは,タナベエンジニアリングの《D》社長が,開札以前の同月4日に同社の幹部会議の席上で行ったものである(《D》社長の代表者審尋の速記録11,12頁〔審判事件記録6109,6110丁〕)。また,「昭和→広川《「広川」の下波線を付した記載」》」との書き込みは,その後,実際に同物件の入札には昭和建設と原告が参加しており,昭和建設は94.8パーセントという高い入札率に相当する価格で入札し,原告が落札していることからしても,タナベエンジニアリングにおいて,同物件の入札には,昭和建設と原告が参加すること,少なくとも上記2社の間では原告が受注予定者となっていることを,入札前に把握して記載したものとみるのが合理的である。
このように,タナベエンジニアリングが受注予定者等を事前に把握していたことは,そこから直ちに物件153について本件合意の内容に沿った受注調整が行われていたとは認定し得ないとしても,本件合意に基づく受注調整が行われていたとすれば,それに沿う内容の行為であるから,かかる受注調整に関わる行為ということができるし,査288はその客観的な証拠ということができる。
この点について,タナベエンジニアリングの《D》社長は,代表者審尋において,原告の受注意欲が強いと思ってメモした旨(速記録12頁〔審判事件記録6110丁〕)供述するが,そのように判断した根拠については,結局,「自分なりの判断ですから」(速記録28,29頁〔6126,6127丁〕)と述べるのみで明らかでなく,信用に値しない。
以上のとおり,査288は,物件153について本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことの客観的な証拠である。
(イ) また,原告は,物件163に係る査107の10について,佐藤建設工業がファックスで入札参加することを塩山支部に送信して伝えたにすぎないから,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われた客観的な証拠といえないと主張する。
しかし,本件合意に基づく受注調整は,主として,入札参加や受注希望といった情報を塩山支部等で集約する方法で行われていたから,査107の10からうかがわれる佐藤建設工業の行為は,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為ということができるし,査107の10は,その客観的な証拠ということができる。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)のとおり,査288及び査107の10は,60物件に係る事実関係を裏付ける客観的な証拠であり,その他,本件審決に掲記の証拠は,いずれも44物件及び60物件に係る事実関係の認定に供するに合理的なものである。
⑸ 本件対象期間中の平均落札率が96.3パーセントであったことについて
ア 原告は,96.3パーセントという312物件の平均落札率が本件合意の存在を推認させるものではないと主張するが,本件合意の目的が受注価格の低落防止にあることからすると,本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事のほとんど全てを占める312物件の平均落札率が96.3パーセントという相当高いものであることは,受注価格の低落防止という目的と結び付きやすく,また,他の証拠等と合わせてみれば,本件合意の認定に資するものと認められる。
したがって,本件立入検査後において,塩山地区特定土木一式工事の平均落札率が本件立入検査前のそれと有意な差がなかったとしても(あるいは上昇したとしても),そのことから直ちに,本件立入検査前の本件合意の存在を推認できなくなるものでもない。
イ また,本件立入検査後,すなわち,本件違反行為後においても,平均落札率に有意な差がないという事実は,地域性や継続性等の優位性を持たない事業者が,入札参加に消極的な態度を執るなどして競争性が高まっておらず,本件違反行為の効果が残存していることの現れとみることができ,このことからも,違反行為が終了していれば自由かつ公正な競争が行われるようになったと考えることが自然であるなどとはいえない。
⑹ 総合評価落札方式の工事について
ア 総合評価落札方式と他の入札方式の質的相違について
(ア) 本件合意は,塩山地区土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るため,受注予定者をあらかじめ決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力するという内容の取決めであり,特定の発注方法を前提とするものではなく,また,協力の方法を限定したものでもない。そして,総合評価落札方式は,落札者は入札価格のみで決定されるものではないものの,本件合意の上記のような目的及び内容と相容れない発注方法ではない。
(イ) すなわち,上記のような本件合意の内容からすれば,受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた価格での受注に協力すればよいのであって,それは総合評価落札方式による一般競争入札においても実現することができる。例えば,受注予定者が各入札参加者の評価値を予測し,自社の落札可能な入札価絡をシミュレーションした上でこれを定め,他の入札参加者において受注予定者が定めたその価格での受注に協力することは可能であるし,それは本件合意の目的や内容に沿うものである。
なお,原告は,「少なくとも自社の評価点を予想することは可能であった」との本件審決の認定に対し,自社の評価点のみを予想しても格別意味がないとも主張するが,自社の評価点の予想を受注予定者等の他の入札参加者に伝えることで,上記のようなシミュレーションがより容易になることは明白である。
(ウ) また,本件受注調整の方法をみても,入札参加や受注希望の連絡方法や受注予定者の決定方法は,入札価格のやり取りが典型的ではあるが,それに限定されたものではないから,入札価格のやり取りのみを前提としたものではないし,各評価項目に係る情報共有に関して,別途,協力方法を取り決めておかなければならないというものでもない。
現に30社の中には,受注予定者からの入札価格の連絡の有無にかかわらず,落札が見込めないような高い価格で入札し,受注予定者の受注に協力した旨述ベる者が多数存在するし(査54・5頁〔証拠の写し639丁〕,査58・4頁〔同656丁〕,査64・5頁〔同702丁〕,査67・5頁〔同720丁〕等),入札価格以外の評価項目に関する情報を交換していた様子も顕著である(査53・1ないし9〔同618ないし626丁〕,査87・4ないし9頁〔同917ないし922丁〕,査69・1ないし7〔同726ないし732丁〕等)。
(エ) なお,原告は,総合評価落札方式とそれ以外の入札方式との質的な相違として,評価項目が多種多様であり,また第三者である山梨県が評価することから,自社や他社の評価点を予想することが困難であること,その結果,受注調整が困難で,受注予定者が落札できるとは限らないことを強調する。
しかし,個別の物件において,評価点の読み違え等によって受注予定者が落札できなかったとしても,本件合意や当該受注調整が遡って存在しなかったということにはならないし,受注予定者が落札できない事態が起こり得ることは,総合評価落札方式以外の競争入札による場合(例えばアウトサイダーによる落札)でも同様であるから,原告の主張は失当である。
(オ) 以上のとおり,総合評価落札方式による一般競争入札には,入札価格のみで落札者が決まるわけではないという意味で,それ以外の競争入札と質的に異なる面はあるものの,総合評価落札方式の工事について,本件合意に基づく受注調整を行うことは十分に可能であるから,質的な相違を強調する原告の主張は理由がない。
イ 被告主張の本件合意の成立時には総合評価落札方式が存在しなかったことについて
総合評価落札方式が本件合意の目的及び内容と相容れない発注方法ではないことや,総合評価落札方式の工事について,入札参加者間でこれを予想し,又は連絡し合うなどして,受注調整を行うことが可能であって,実際に行われていたことは,前記アのとおりである。
また,総合評価落札方式の工事を含めて全ての工事を受注調整の対象とすることで,より調整がしやすくなり,受注価格の低落防止という本件合意の目的にも一層適うこととなる。
これらのことからすれば,本件合意時には採用されていなかったからといって,その後に採用された総合評価落札方式の工事について,30社が本件合意の対象外として,自由かつ公正な競争を行っていたとはおよそ認められない。
2 争点2(本件合意は,独占禁止法2条6項にいう不当な取引制限に該当するか)について
(原告の主張)
⑴ 本件審決は,「塩山地区土木特定一式に係る入札市場」を「一定の取引分野」と画定した上,本件合意は,独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」との要件を充足し,不当な取引制限に該当するとする。
⑵ しかし,「一定の取引分野」とは,事業者間で競争が行われている個別取引の分野であるところ,塩山地区においては,土木工事,林道工事,治山工事及び農務工事の4種類の工事分野は,それぞれにおいて事業者間で競争が行われている個別の取引分野であって,これらの工事分野を超えた競争関係は存在しない。
そもそも,「一定の取引分野」の画定は,本来,まず需要者の画定を行い,その次にその需要者にとって選択肢となる供給者の範囲を画定すべきであるところ,本件においては,4種類の工事の発注担当部署が異なっており,それぞれの工事も特殊な工事であり,工事の施工に当たり特殊な設備や道具及び専門の技術を有する者が必要であるなど,それぞれの種類の工事における需要は異なっており,需要者も異なっていたというべきである。また,供給者側に立つ建設業者にも,それぞれ得意とする工事分野があり,得意とする工事分野の入札に積極的に参加していたものであり,4種類の工事により区々であった。
このような需要者と供給者の状況からすれば,たとえ形式的には「山梨県」が「土木一式工事」として発注していたとしても,需要者は4種類の工事それぞれの発注担当部署ごとに見るべきであり,それらの需要に対する供給者も工事の種類ごとに異なっていたと見るべきである。
したがって,本件における「一定の取引分野」は,4種類の工事ごとに画定すべきであり,土木工事,林道工事,治山工事及び農務工事を一体とした「塩山地区特定土木一式工事」という「一定の取引分野」は存在せず,当該「一定の取引分野」を前提とする本件違反行為は存在し得ない。
(被告の主張)
⑴ 山梨県において塩山地区特定土木一式工事の発注業務を担当する部署がどこであるかは,山梨県の組織機構や業務分掌のあり方に依存する問題であって,4種類の工事を異なる部署で分掌しているか同一の部署が所掌しているかは,一定の取引分野を画定するに当たって,本質的な問題ではない。むしろ,4種類の工事はいずれも山梨県が発注者(需要者)であることに変わりはない。
他方,発注者である山梨県は,塩山地区特定土木一式工事の施工業者(供給者)となる建設業者について,予定価格に応じた区分はあるとしても,4種類の工事の種別によって入札参加資格を区分していないのであるから(前記第3の2⑵),30社は,入札参加資格を有する塩山地区特定土木一式工事の取引分野において競争可能な状況にあることは明らかであり,事業者間の競争性と関係がないとはいえない。
また,仮に,工事の種類によって,特殊性や専門性があり,30社により特定の種類の工事に得意・不得意があったとしても,技術者の育成や施工実績を積むという目的のために,不慣れな工事の入札に参加することがあり得ること(審A共16・12,13頁〔証拠の写し3122,3123丁〕,審B共18・14頁〔同3447丁〕,審B共20・2頁〔同3458丁〕),あるいは工事の種類に応じた特殊な設備や道具を購入ないし貸与を受けて調達・準備した上で,入札に参加することが可能であること(これが不可能であったことをうかがわせる事情はない。)は,入札参加資格を有する30社において,4種類の工事のいずれについても入札参加や施工が可能であり,少なくともそこには潜在的に競争が存在することを基礎付ける事実であるから,競争がなされるか否かとは別問題であるとはいえない。
⑵ また,4種類の工事全てを本件合意の対象とする方が,受注調整を行いやすく,受注価格の低落防止という本件合意の目的にも適うことは明らかである上,後に発注が予想される土木工事(物件301)の受注予定者となることを見返りとして,農務工事(物件268,276)の受注を譲るという形で受注調整が行われることもあったのであり,これらの事実は,証拠に基づかない認定でも,被告が勝手に主張していることでもない。
⑶ 仮に,原告が主張する手法で一定の取引分野を画定するにせよ,4種類の工事の需要者はいずれも山梨県であり,また,山梨県によって選択肢となる供給者の範囲は,30社を含む塩山地区特定土木一式工事の入札参加資格を有する建設業者であるから,本件における「一定の取引分野」を「塩山地区特定土木一式工事の取引分野」と画定することに何ら支障はない。
また,4種類の工事につき,それぞれ山梨県の発注業務の担当部署が異なること,工事ごとに特殊性や専門性があること,建設業者ごとに得意・不得意があることは,前記⑴で述べたところから明らかなとおり,上記取引分野の画定を否定する事情にはならない。
3 争点3(原告が受注した別紙8の各工事は,独占禁止法7条の2第1項にいう当該役務に該当するか)について
(原告の主張)
⑴ 総合評価落札方式の工事について
前記1⑹のとおり,総合評価落札方式の工事は,本件合意の対象となっていないから,当然,課徴金の対象としての「当該商品又は役務」にも該当しない。
したがって,原告に対し課徴金の対象とされた10件の個別工事のうち,総合評価落札方式の工事である物件153,221,222,278及び293の5件は,課徴金の対象から除外されるべきである。
⑵ 課徴金の対象となる要件について
ア 本件審決は,「当該商品又は役務」(法7条の2第1項)として課徴金を課すには,個別の工事について原告らの主張する3要件,すなわち①基本合意の対象とされた工事であること,②当該工事の入札に当たり基本合意に基づく受注調整等がされたこと,③上記②の結果,具体的に競争制限効果が発生したことを審査官において主張立証する必要がないとした。
しかし,上記判断は,多摩談合事件最高裁判決に反しており,誤りである。なぜならば,多摩談合事件最高裁判決は,「当該商品又は役務」の対象となる工事について,本件審決のように,基本合意の対象となる工事であり,かつ,被審人らが入札して受注した工事であれば,特段の事情がない限り,上記②,③の要件が満たされるなどとはしていない。
むしろ,多摩談合事件最高裁判決は,全ての個別工事における入札の実施状況及び基本合意に関する詳細な事実を述べた上,それらの事実を踏まえて,「本件個別工事は,いずれも本件基本合意に基づく個別の受注調整の結果,受注予定者とされた者が落札し受注したものであり,しかもその落札率は89.79パーセントないし99.97パーセントといずれも高いものであったから」との理由で「本件個別工事についてその結果として具体的な競争制限効果が発生したことは明らかである」と結論づけているのである。
そして,上記3要件の主張立証の責任が,不利益処分を課す被告にあることは当然である。
本件において,被告が本件合意に基づく受注調整があったと証拠により認定したものは,本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことが認められるとした44物件に過ぎず,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことが認められるとする60物件を含めたとしても,104件の工事に過ぎない。その余の216件の工事については,当該役務に該当することについて,何らの主張・立証もされておらず,証拠による認定も当然なされていない。
したがって,44物件及び60物件以外の216件の工事については,当該役務の主張・立証 がないとして,課徴金の対象から外されなければならない。
イ 本件合意の存在から具体的競争制限効果の発生を推認できないこと
本件審決は,前記第5の3⑴①~⑤の事情(以下「本件①ないし⑤の事情」という。)を挙げ,「特段の事情がない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当である。」とする。
しかし,本件①ないし⑤の事情は,いずれも本件合意を認定するに当たって用いられたものであり,本件審決の認定では,本件合意が不当な取引制限と認定されれば,必然的に具体的制限効果も認定されるという関係に立つから,結局のところ,本件合意から直ちに個別工事における具体的競争制限効果の発生を推認していることと何ら変わりがない。
そして,この程度の事情からは,具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当であるとは到底いえない。仮に,本件合意が認められたとしても,312物件全ての個別の工事について,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認することはできない。
よって,基本合意の認定に用いた間接事実があるというだけで「特段の事情がない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当である」とは,到底いえない。
ウ 具体的競争制限効果の発生を否定する事情
仮に,原告が落札した塩山地区特定土木一式工事について,本件合意の存在から具体的競争制限効果を推認することができるとしても,次の個別事情(以下,順次「反対事情①」,「反対事情②」等という。)が認められる工事については,具体的競争制限効果が発生しているとの推認は働かないというべきである。
① 低落札率(落札率90%未満)であること。
② 総合評価落札方式の入札が実施された個別工事で,かつ,落札者の入札価格が次点の事業者の入札価格より高いか,同額であること。
③ 総合評価落札方式の入札が実施された個別工事で,かつ,落札者の落札価格と次点の事業者 の入札価格との差が小さいこと。
④ 総合評価落札方式(簡易型又は特別簡易型Ⅱ)の入札が実施された個別工事で,かつ,仮に,落札者の評価点が1~5点(簡易型の場合)若しくは1点(特別簡易型Ⅱの場合)下がるか,又は他の入札参加者の評価点が1~5点(簡易型の場合)若しくは1点(特別簡易型Ⅱの場合)上がるかした場合に,他の入札参加者が落札する結果になること。
⑤ 総合評価落札方式の入札が実施された個別工事で,かつ,施工計画,配置予定技術者,企業の施工実績に関する物証がないこと(受注調整のためには,施工計画書,配置予定技術者,企業の施工実績に関する情報のやり取りが必要であり,特に,施工計画書については口頭で情報のやり取りができないから,書面や電子データなどの物証が多く残るはずである。しかも,電子データは存在していたのであれば,削除されても被告による復元がなされているはずである。)。
⑥ 総合評価落札方式(簡易型又は特別簡易型Ⅱ)の入札が実施された個別工事で,かつ,落札者の配置予定技術者の能力の評価点がそれ以外の入札参加者の配置予定技術者の能力の評価点と同じか,それよりも低いこと。
⑦ 総合評価落札方式(簡易型)の入札が実施された個別工事で,落札者の「施工計画」の評価点がそれ以外の入札参加者の「施工計画」の評価点と同じか,それよりも低いこと。
⑶ 総合評価落札方式の個別工事に関する主張
これらの工事については,反対事情①ないし⑦が一つ又は複数あるから,受注調整による競争制限効果が生じていたとはいえず,課徴金算定の対象から除外されるべきである。
ア 物件153「国道411号道路改良工事」について
(ア) 本件審決は,本工事について,地域性及び継続性があり,60物件に該当するとしている。
(イ) しかし,地域性のある工事については,地元の事業者の方が地質や周辺の状況に詳しいのみならず,地域社会との関係を構築しており,機材や材料などの搬入コストなどの負担も大きくないので,受注調整の有無にかかわらず,入札における競争力が高いことは明らかである。また,継続性のある工事については,以前から施工している事業者の方が地形,地質,危険性,地権者や周辺の状況その他の施工に有用な情報を把握し,ノウハウを有していることもあり,受注調整の有無にかかわらず,入札における競争力が高いことは明らかである。
したがって,地域性,継続性があることは,何ら受注調整を推認させるものではない。
(ウ) 本件審決は,本工事が60物件に該当するとするが,前記1の(原告の主張)⑷イのとおり,本件審決が証拠とする査288は,物件153が60物件であることの客観的証拠とはいえない。
(エ) 本工事における原告の落札率は76.4パーセントであり(反対事情①に該当),次点となった岩波建設の入札率は88.9パーセントといずれも入札率90パーセントを下回っている。また,最下位となった昭和建設の入札率も94.8パーセントであって,入札者全員の入札率は,本件審決が受注調整が推認されると主張する落札率97パーセントをいずれも大きく下回っており,この点からも,受注調整が行われていないことは明らかである。
特に,原告の落札率は,76.4パーセントと著しく低く,低落札の基準に該当する金額であり,このような落札率で入札する者が受注調整していたと考えること自体誤りといわざるを得ない。
(オ) 施工計画,配置予定技術者,企業の施工実績に関する物証もない(反対事情⑤に該当)。
(カ) 原告の配置予定技術者の能力の評価点は2点であり,昭和建設のそれと同点である(反対事情⑥に該当)。
受注調整がされ,原告が落札者,昭和建設がこれに協力する入札者と決まっていれば,昭和建設がわざわざ原告と評価点が同じ技術者を配置予定技術者とすることはない。
また,技術者の登録は,入札に先立つ入札参加申請の際に行われるから,その時点で受注予定者が決まっていない場合も起こり得るが,そのような事情があったとの証拠はない。
イ 物件221「大久保沢砂防工事(明許)」について
(ア) 本件審決は,本工事について,継続性があるとしているが,継続性があることは,何ら受注調整を推認させるものではない。
(イ) 本工事には,施工計画書,配置予定技術者及び企業の施工実績に関する物証がない(反対事情⑤に該当)。
(ウ) 原告の「施工計画」の評価点は,5点であるところ,次点であった峡東建設の評価点も同じ5点である(反対事情⑦に該当)。
仮に,入札参加者が受注調整をしようとするのであれば,配点の大きい「施工計画」で大きく点差を広げる必要があり,落札者が少なくとも5点以上獲得し,その他の入札参加者が0点という結果となるはずである。したがって,落札者の「施工計画」の評価点がそれ以外の入札参加者の「施工計画」の評価点と同じか,それよりも低いことは,受注調整をしていたとの推認を覆す事情である。
また,具体的に原告の施工計画書(審C2)と次順位者峡東建設の施工計画書(審C3)とを比較して見れば,後者は枚数で1枚少なく,写真がないものの,次の点で原告の施工計画書にない工夫が見られる。
・ 公園利用者の現場への進入を右岸側も対象としている点。
・ 交通誘導員の配置に制限を設けず,毎日としている点。
・ 公園駐車場を利用する一般車との交通事故対策として,車両出入り時の全てを対象とした 上,工事関係車両の制限速度を20km/hではなく,10km/hと厳しくしている点。
・ 環境対策として,振動対策を提案している点。
・ 粉塵の発生原因対策を提案している点。
・ 「流路工」のみならず,「付替道路」についても安全対策と環境対策を提案している点。
峡東建設の施工計画書には,このような工夫が見られたからこそ,原告と同点の5点が獲得できたと考えられるのであって,この峡東建設の施工計画書をもって,手抜きであるとか,0点を狙ったにもかかわらず偶然5点となった等と評価することは到底できない。
ウ 物件222「国道411号道路改良工事(明許)」について
(ア) 本件審決は,本工事について,地域性及び継続性があるとしているが,地域性及び継続性があることは,何ら受注調整を推認させるものではない。
(イ) 本工事における原告の入札率は85.0パーセントであり,90パーセントを下回っており(反対事情①に該当),次点以下と大きな差がある。この点からも,受注調整が行われていないことは明らかである。
(ウ) 本工事については,施工計画書,配置予定技術者及び企業の施工実績に関する物証がない(反対事情⑤に該当)。
(エ) 本工事の配置予定技術者の能力については,落札者である原告が0点であるのに対し,次点の昭和建設から4位のタナベエンジニアリングまでがいずれも2点,最下位の岩波建設は4点であり,落札者である原告よりも他の全ての入札参加者の点数が上回っている(反対事情⑥に該当)。
入札者が受注調整をしようとしていたとすれば,原告以外の者が全て原告よりも高得点を獲得することなどあり得ない。
また,技術者の登録が入札に先立つ入札参加申請の際に行われるから,その時点で受注予定者が決まっていない場合も起こり得るが,そのような事情があったとの証拠はない。
(オ) 本工事の「施工計画」の評価点については,落札者である原告と次点の昭和建設及び最下位の岩波建設の点数は,いずれも同じ5点である(反対事情⑦に該当)。
エ 物件278「一般国道411号上萩原バイパス道路改良工事」について
(ア) 本件審決は,本工事について,地域性及び継続性があるとするが,地域性及び継続性があることは,何ら受注調整を推認させるものではない。
(イ) 本工事の入札率の差は0.82パーセントであって,1パーセント未満の僅差である(反対事情③に該当)。
本工事における入札金額及び入札率については,落札者となった原告が4750万円(97.53パーセント),次点のタナベエンジニアリングが4790万円(98.35パーセント)であり,その差は,金額で40万円,入札率で1パーセントにも満たない0.82パーセントといずれも極めて僅少であり,競争が行われていたことは明らかである。
(ウ) 本工事には,施工計画書,配置予定技術者及び企業の施工実績に関する物証がない(反対事情⑤に該当)。
オ 物件293「玉宮地区幹線道路重川橋梁下部工事(明許)」について
(ア) 本件審決は,本工事について,具体的な主張を一切していない。
(イ) 本工事の落札率は,89.20パーセントであり,90パーセント未満である(反対事情①に該当)。本工事における原告の入札率は,89.2パーセントであり,次点となった岩波建設の入札率は91.8パーセントである。
(ウ) 本工事は,落札者である原告の評価点が5点下がるか,又は次点者である岩波建設の評価点が5点上がるかした場合には,岩波建設が逆転して落札する結果となる(反対事情④に該当)。
総合評価落札方式において受注調整をしようとするのであれば,受注予定者が評価点で他の入札参加者に負けても,入札金額で勝てるよう調整するはずである。そして,総合評価落札方式のうち,簡易型においては,「施工計画」の配点が5点刻みであり,容易に5点差が付くことに鑑みると,5点差が付いても負けない入札金額を相互に設定するはずである。
本工事では,原告の「施工計画」の評価点が5点で,評価値が253.165,岩波建設の「施工計画」の評価点が0点で,評価値が243.340,タナベエンジニアリングの「施工計画」の評価点が0点で,評価値が216.255である。そして,岩波建設の「施工計画」の評価点も5点であった(5点上がった)と仮定すると,同社の評価値は245.902に上がり,他方,原告の評価値は244.726と下がる。その結果,原告は落札できなかったことになるが,それでは受注調整の意味がない。仮に,本工事で受注調整が行われていたのであれば,原告は,5点差が付いても逆転しないよう,入札金額を最高でも4710万円にしていたはずである。原告がこの金額で入札していた場合には,仮に岩波建設の「施工計画」の評価点が5点であっても,原告の評価値は246.285となり,原告が落札することができる。
したがって,仮に,落札者の評価点が1~5点(簡易型の場合)下がるか,又は他の入札参加者の評価点が1~5点(簡易型の場合)上がるかした場合において,他の入札参加者が逆転して落札する結果になるときも,受注予定者の応札価格に十分に余裕をもって金額を上乗せして応札していないことになり,受注調整が行われていなかったことが推認される。
(エ) 本工事には,施工計画書,配置予定技術者及び企業の施工実績に関する物証がない(反対事情⑤に該当)。
(オ) 本工事の「配置予定技術者の能力」は,落札者である原告と最下位のタナベエンジニアリングが共に1点であるのに対し,次点の岩波建設は,4点であり,落札者である原告よりも他の全ての入札参加者の点数が同じか上回っている(反対事情⑥に該当)。
⑷ 総合評価落札方式以外の個別工事に関する主張
これらの工事についても,受注調整による競争制限効果が生じていたとはいえず,課徴金算定の 対象から除外されるべきである。
ア 物件128「玉宮地区幹線道路(第2工区)改良工事」について
(ア) 本工事は,一般競争入札方式で原告外8社が入札し,原告が5780万円で落札した。
(イ) 本工事における原告の入札率は,97.2パーセントであり,これは,受注調整が行われていないことが明らかな平成22年3月14日以降の塩山地区における特定土木一式工事の平均落札率95.9パーセント(審A共3)と1.3パーセントしか違わない。
(ウ) さらに,原告の《B》社長は,本工事について,地下水位が高く地盤が軟弱で,暗渠排水管等の設備が必要となる等で費用が多額となることが想定されたため,このような入札率となったと,本工事の特殊性に伴う入札率決定の理由を具体的に陳述している(審C9〔26,27頁〕)。
イ 物件142「大久保沢砂防工事(明許)」について
(ア) 本工事は,一般競争入札方式で原告外6社が入札し,原告が5030万円で落札した。
(イ) 本件審決は,本工事につき,継続性があるとするが,継続性があることは,受注調整を推認させるものではない。
(ウ) また,本工事における原告の入札率は,97.0パーセントであり,これは,受注調整が行われていないことが明らかな平成22年3月14日以降の塩山地区における特定土木一式工事の平均落札率95.9パーセントと1.1パーセントしか違わない。
(エ) 《B》社長は,工事内容が流路工で小規模な床固構造物を数多く施工するもので作業効率が悪いことから低価格での入札ができなかったと具体的に述べている(審C9〔28頁〕)。
(オ) さらに,本工事の入札においては,原告の落札価格と最下位の業者の入札価格との差額は80万円しかなく,その僅かな金額の幅のなかで合計7社が争っていたものであり,自由競争が行われていたことは明らかである。
ウ 物件163「青笹川治山工事」について
(ア) 本工事は,一般競争入札方式で原告外6社が入札し,原告が7400万円で落札(入札率97.5%)した。
(イ) 本件審決は,本工事について,継続性があるとするが,継続性があることは,受注調整を推認させるものではない。
(ウ) 本件審決は,本工事を60物件に該当するとし,査107の10をその証拠としている。
しかし,前記1の(原告の主張)⑷ウのとおり,査107の10は,本工事が60物件に該当する客観的な証拠とはいえない。
(エ) また,本工事における原告の入札率は,97.5パーセントであり,これは,受注調整が行われていないことが明らかな平成22年3月14日以降の塩山地区における特定土木一式工事の平均落札率95.9パーセントと1.6パーセントしか違わない。
(オ) さらに,本工事の入札は,原告の落札価格と最下位の業者の入札価格との差は85万円しかなく,その僅かな金額の幅のなかで合計7社が争っていたものであり,自由競争が行われていたことは明らかである。
エ 物件223「国道411号上萩原バイパス15工区道路改良工事(明許)」について
(ア) 本工事は,一般競争入札方式で原告外4社が入札し,原告が6500万円で落札(入札率97.6パーセント)した。
(イ) 本件審決は,本工事につき,地域性及び継続性があり,44物件にも該当するとするが,地域性及び継続性があることは受注調整を推認させるものではない。
(ウ) また,本件審決が,本工事が44物件に該当する証拠とする査172は,一般競争入札公告をプリントアウトしたものに「98%パーセント以上 ¥58,290,400」等と書き込んだものであるが,このような書き込みをもって,本件違反行為に基づく受注調整が行われた客観的な証拠とはいえない。
(エ) 本工事における原告の入札率は,97.6パーセントであり,受注調整が行われていないことが明らかな平成22年3月14日以降の塩山地区における特定土木一式工事の平均落札率95.9パーセントと1.7パーセントしか違わず,自由競争が行われていたことが明らかである。
オ 物件308「大久保沢砂防工事(明許)」について
(ア) 本工事は,一般競争入札方式で原告外4社が入札し,原告が5800万円で落札した。
(イ) 本件審決は,本工事について,継続性があるとするが,継続性があることは,受注調整があったことを推認させるものではない。
(ウ) また,《B》社長は,工事内容が流路工で小規模な床固構造物を数多く施工する必要から主要材料である生コンクリートを多く使用しなければならないこと,資機材の出し入れの回数の増加による費用が大きな負担となること,非常に小規模の橋梁の下部工の基礎に大規模な機械の使用が必要であったこと等から,低価格での入札ができなかったことを具体的に述べている(審C9〔24頁〕)。
(エ) さらに,本工事における原告の入札率は,96.9パーセントであり,受注調整が行われていないことが明らかな平成22年3月14日以降の塩山地区における特定土木一式工事の平均落札率95.9パーセントと1.0パーセントしか違わず,自由競争が行われていたことが明らかである。
本工事の入札は,原告の落札価格と最下位の業者の入札価格との差額は120万円しかなく,その僅かな金額の幅のなかで合計5社が争っていたものであり,自由競争が行われていたことは明らかである。
⑸ 2社以上で落札が争われた個別工事が本件違反行為の対象となっていないこと
ア 本件課徴金納付命令書に記載された,「課徴金に係る違反行為」には,受注調整の有無を問わず,2社以上で落札が争われた個別工事は含まれていないから,当該個別工事は,全て課徴金の算定対象とはならない。
すなわち,「課徴金に係る違反行為」とは,塩山地区特定土木一式工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしたことであるところ,ここでいう「受注予定者を決定」するとは,受注予定者1社(共同企業体も含む。)を決定したことを指し,受注予定者が複数名の場合を指さないことは当然である。何故ならば,入札における落札業者は1社のみであり,受注予定者を1社に絞り込まない限り,文理上,「受注予定者を決定」したことにならないからである。このことは,本件排除措置命令書において,「受注希望者が複数名のときは,当該工事の施工場所,過去に受注した工事との継続性,塩山支部等の支部長の助言等を勘案して,受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する」として,受注希望者が1社の場合にその事業者を受注予定者とする行為と並べて,受注希望者が複数名の場合に話合いにより受注希望者を絞り込む行為が本件違反行為の内容として挙げられていることからも明らかである。
本件排除措置命令書及び本件課徴金納付命令書の記載は,文理上,本件違反行為(基本合意)の内容が「受注予定者1社を決定する」という意味としか読むことができない,逆にいえば,受注予定者を1社に絞れない場合については記載されていないのであり,課徴金の算定対象として,2社以上で落札が争われた個別工事も含まれる(受注予定者を1社に絞れない場合であっても協力する旨の合意がある)ということであれば,排除措置命令書及び課徴金納付命令書にその旨を記載しなければならない。
イ 本件審決は,受注予定者を1社に絞り込めずに2社以上で争われた工事についても,具体的競争制限効果の発生を認めている。
しかし,被告は,本件課徴金納付命令が発令された当時,受注予定者を1社に絞り込めずに2社以上で争われた工事の存在を意識しておらず,審判の途中から,受注予定者を1社まで絞り込めなくても,絞り込む行為自体が「課徴金に係る違反行為」である旨主張し始めた。
ところが,本件審決は,その点には触れずに,受注予定者を1社に絞り込めなくても,絞り込む行為自体が「課徴金に係る違反行為」に含まれているという前提で,課徴金の算定対象に加えている。これは,当初の「課徴金に係る違反行為」に含まれていない行為について,本件審判手続内で,実質的に補正を認めて,「課徴金に係る違反行為」に含めたことにほかならない。
しかし,審判手続は,事後的に,公正取引委員会の命令,ひいては,その前提となる事実認定の是非を吟味・検討する手続である。刑罰を科すのに先立って,裁判所の判断を求める刑事裁判手続とは根本的に異なり,審判手続には訴因変更のように手続内で課徴金納付命令の対象となっている違反行為を変更(追加)する制度は存在しないのであるから,発令されて効力を生じた課徴金納付命令の対象となっている違反行為の内容を審判手続において変えることは許されない。
ウ したがって,本件審決には,明らかな審理不尽が認められる上,実質的に「課徴金に係る違反行為」の補正を認めたという手続違反がある。受注予定者を1社に絞り込めず,2社以上で争われた工事については,課徴金の算定対象から外さなければならない。
(被告の主張)
⑴ 総合評価落札方式の工事について
総合評価落札方式の工事が本件合意の対象ではないとの原告の主張に理由がないことは,前記1の(被告の主張)⑹のとおりであるから,同工事を課徴金の対象から除外すべきであるとの原告の主張も理由がない。
⑵ 課徴金の対象となる要件について
ア 本件審決は,塩山地区特定土木一式工事に該当し,かつ,30社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,特段の事情がない限り,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認されるとした上で(以下,この推認を「本件推認」という。),個別物件の受注調整や具体的競争制限効果について判断したものである。
これに対し,多摩談合事件最高裁判決は,課徴金の算定の対象とされた工事について,基本合意に基づく個別調整の結果,受注予定者とされた者が落札し受注したという,原審が認定した事実関係を前提として判示されたものであり,そもそも本件推認のような認定手法を採る必要がなく,事案を異にするから,本件審決が上記最高裁判決に反するということはできない。
イ また,本件審決は,本件推認の下では,「当該役務」の該当性を認めるために,必ずしも,本件合意に基づき受注予定者が決定された具体的経緯が明らかにされることや,当該工事につき受注調整がされたことを裏付ける直接証拠が存在することを要しないとはしているが,本件課徴金納付命令において課徴金の算定の対象とされた312物件について,原告がいう3要件について認定していないものではない。すなわち,本件審決は,上記各物件について,いずれも本件合意の対象である塩山地区特定土木一式工事に該当するところ,これらについて本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情もないことから,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したと認定したものである。
このことからすれば,44物件及び60物件以外の課徴金の対象とされた物件の工事についても,「当該役務」に該当することが認定・判断されていることは明らかである。
ウ 本件合意の存在から具体的競争制限効果の発生を推認できないとの主張について
(ア) 本件審決は,塩山地区特定土木一式工事に関する,①30社による本件受注調整の内容からうかがえる受注調整の組織性,②本件対象期間における入札参加状況や平均落札率からうかがえる受注調整の実在可能性,③44物件及び60物件からうかがえる受注調整等の存在と遍在性(すなわち,不偏在性),④30社の代表者の供述からうかがえる受注調整に関する否定供述の不存在,⑤本件合意の目的からうかがえる全物件を受注調整の対象とすることの合理性などを総合して,塩山地区特定土木一式工事に該当し,かつ,30社のいずれかが入札に参加して受注した工事,すなわち,本件合意の対象となる工事について,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したと推認するものとして,本件推認を導いたものである。したがって,本件推認は,本件合意の存在から直ちに個別の工事に具体的競争制限効果が及んでいると推認するものではない。
この点,原告は,本件合意の存在の認定に供した事実関係が,本件推認を導く根拠事情ともなっていると指摘するが,本件推認の根拠とされた本件①ないし⑤の事情をみれば,例えば,④や⑤の事情は本件合意の存在を認定した根拠事実とは異なるし,その他の事情も本件合意の存在を認定した事情とは別の観点からの評価を含んでおり,明らかに異なる事情というべきである。
なお,本件審決が認定した事実関係の1つ(例えば44物件や60物件に係る事実関係)が,本件合意の存在を認定する根拠事実の1つとなると同時に,本件合意の対象であることから,個別の受注調整が行われたと推認する(本件推定の)根拠の1つともなることは,何ら不合理ではない。
(イ) また,本件①ないし⑤の事情は,いずれも本件合意の対象となる個々の物件について,あまねく本件受注調整の対象としたことをうかがわせる事情であり,これら複数の事情が無関係に存在していたというよりは,実際にも本件合意の対象である物件について,あまねく受注調整が行われていたからうかがえる事情と考えることが極めて合理的である。そうだとすれば,本件①ないし⑤の事情は本件推認を基礎付けるに十分なものであって,塩山地区特定土木一式工事に該当し,かつ,30社のいずれかが入札に参加して受注した工事に該当すれば,特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したと推認することは相当である。
エ 具体的競争制限効果の発生を否定する事情(反対事情①ないし⑦)について
原告は,仮に本件合意が認められたとしても,312物件すべての工事について,具体的競争制限効果が発生したことを基礎付ける実質的証拠はないとの前提で,反対事情①ないし⑦は,受注調整を行っていないことを推認させるものであって,これらが認められる工事については,特段の事情が認められることになると主張し,さらに,個別の工事を挙げて,具体的競争制限効果が発生しているとの推認が働かないと主張する。
しかし,本件推認が相当であることや,課徴金の算定の対象となった312の全物件について,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したと認められることは,前記イのとおりであり,そこで述べたことからすれば,本件審決の認定・判断が実質的な証拠に基づく合理的なものであることも明らかである。
⑶ 総合評価落札方式の個別工事に関する主張
ア 物件153「国道411号道路改良工事」について
(ア) 原告は,本物件について,原告が地域及び継続性を有していても,受注調整を行っていたとは推認できないとも主張するが,本件審決は,本物件に原告が地域性及び継続性を有することから本件推認が直ちに及ぶとするものではない。
(イ) 査288の「昭和→広川3/25」という記載からすれば,受注意欲の高低を「→」をもって表現するというのは不自然であり,実際の入札結果(別紙7の「一連番号」153)に照らしても,タナベエンジニアリングにおいて,昭和建設が本物件の受注を原告に譲るなどした結果,受注予定者が原告となったことを事前に把握していたものと解するのが合理的である。
この意味で,本物件については,本件合意による受注調整に関わる行為が行われたと認められる。
(ウ) また,原告は,本物件には,「反対事情①」(落札率90パーセント未満)があり,落札率にして76.4パーセントという低入札価格に該当するほどの低価絡で受注調整をすることはあり得ないなどと主張する。
しかし,本物件の落札率が低いのは,原告と他の入札参加者である岩波建設とが落札を争った結果とみられるのであり,このように受注予定者が1社に絞り込めず,2社以上で落札が争われたという事実のみでは,具体的競争制限効果の発生の推認を妨げる特段の事情に当たらない。
(エ) さらに,原告は,本物件には,反対事情⑤(総合評価落札方式の入札が実施された個別工事で,かつ,施工計画,配置予定技術者,企業の施工実績に関する物証がないこと)があり,証拠として電子データが存在していたとすれば,削除されても被告による復元がなされているはずであるから,物証がないことは初めからそのような証拠が存在しないと考えるべきであるなどと主張する。
しかし,受注調整に利用されたデータや書面等は廃棄されることなく残されていることを前提としているが,むしろ,このような物証となり得るものは残さないようにするのが通常であるから,上記主張は失当である。
なお,いかにデジタルフォレンジックを駆使したとしても,常に,電子データの消去の痕跡を発見できるわけではなく,消去の痕跡を残さないで完全消去された電子データを復元できるわけでもない。
(オ) 次いで,原告は,本物件には,「反対事情⑥」(総合評価落札方式(簡易型又は特別簡易型Ⅱ)の入札が実施された個別工事で,かつ,落札者の「配置予定技術者の能力」の評価点がそれ以外の入札参加者の「配置予定技術者の能力」の評価点と同じか,それよりも低いこと)があり,昭和建設が受注に協力すると決まっていれば,原告と評価点が同じ技術者を配置することはあり得ず,また,本件審決が説示するような,配置予定技術者の登録をする入札参加申請を行った時点で,受注予定者が決まっていなかったという証拠はないなどと主張する。
しかし,配置予定技術者は,一定の資格を有すること及び対象工事に専任で配置することが必要であるため,受注予定者以外の入札参加者において,受注予定者よりも評価点の低い配置予定技術者を選任することができない場合も,当然に起こり得るし,配置予定技術者の登録は,入札に先立つ入札参加申請の際に行われるところ,複数の受注希望者が互いに譲らないために,これらの者が入札参加申請をした時点では受注予定者が決まっていない場合も起こり得るから,「配置予定技術者の能力」の評価点のみを比較すれば落札者の点数の方が他の入札参加者より高い,又は同点であることも,当然に起こり得るものであり,そのことを想定の上で受注調整を行っていたことがうかがえるのであって,かかる事実は,当該工事における具体的競争制限効果の発生の推認を妨げる特段の事情に当たらない。
そして,本件合意の対象である本物件に,原告が主張するような証拠がなければ,本件推認が及ばないというものではないし,本件合意に基づく受注調整が認定できないというものでもない。
また,前記(ウ)のとおり,原告と岩波建設が落札を争ったとみられることからすれば,受注予定者の絞込みが十分でないままに,昭和建設が入札参加申請をしたことも十分にあり得るところである。このことは,前記(イ)のとおり,タナベエンジニアリングによる「昭和→広川 3/25」との書き込み(査288)が,昭和建設が原告に本物件の受注を譲ったことを示している(受注を譲るまでは受注意欲を有しており,その前提で入札参加申請をしていたとみられる。)こととも符合する。
(カ) 以上により,本物件について特段の事情は認められない。
イ 物件221「大久保沢砂防工事(明許)」について」について
(ア) 原告は,本物件について,原告が継続性を有するということだけで,受注調整を推認できないと主張するが,本件審決は,本物件に原告が継続性を有することから本件推認が直ちに及ぶとするものではない。
(イ) また,原告は,本物件には,「反対事情⑤」があると主張するが,この点の主張に理由がないことは,前記ア(エ)のとおりである。
(ウ) さらに,原告は,本物件には,「反対事情⑦」(総合評価落札方式(簡易型)の入札が実施された個別工事で,落札者の「施工計画」の評価点がそれ以外の入札参加者の「施工計画」の評価点と同じか,それよりも低いこと)があり,受注調整が行われたのであれば,峡東建設が高得点を得られる施工計画書を提出することはあり得ない旨主張する。
しかし,「施工計画」の評価点は,客観的なデータが点数化されるものではなく,評価が山梨県の裁量に委ねられるため,入札への参加を希望する者は,自社の評価点の高低をある程度見込むことは可能であったものの,正確に評価点を予想することはできず,自由に評価点を調整することまではできなかったから,受注調整を行った場合でも,少なくとも落札者の「施工計画」の評価点が他の入札参加者と同点であることは,当然に起こり得る。
また,入札参加申請時に受注予定者が決まっていない場合は,落札者の「施工計画」の評価点が他の入札参加者より低い,又は同点であったとしても何ら不自然でない。
したがって,「施工計画」の評価点のみを比較すれば落札者の点数の方が他の入札参加者より低い,又は同点であることも,当然に起こり得るものであり,30社は,そのことを想定の上で受注調整を行っていたことがうかがえるのであって,かかる事実は,当該工事における具体的競争制限効果の発生の推認を妨げる特段の事情に当たらないから,「反対事情⑦」は,具体的競争制限効果の発生の推認を妨げる特段の事情に当たらない。
また,本物件の入札結果(別紙7「一連番号」221)をみると,原告の「施工計画」及び「配置予定技術者の能力」以外の比較的予測が容易な評価点の合計(10点)が,他の入札参加者である峡東建設(6点)や天川組(9点)を上回っている。原告としては,自身のこれらの評価点の合計が他の入札参加者と同等又はそれを上回ると見込んで,自らは高得点を目指した施工計画書を提出したり,高得点を期待できる技術者を配置したりするなどし,かつ,他の入札参加者より入札価格を抑えることで,落札を確実なものにできると容易に推測できたところである。したがって,峡東建設が「施工計画」の評価点において高得点を獲得したことは,本物件について受注調整が行われたことと何ら矛盾するものではない。
(エ) 以上により,本物件について特段の事情は認められない。
ウ 物件222「国道411号道路改良工事(明許)」について
(ア) 原告は,本物件について,原告が地域性及び継続性を有するということだけで,受注調整を推認できないと主張するが,本件審決は,本物件に原告が地域性及び継続性を有することから本件推認が直ちに及ぶとするものではない。
(イ) また,原告は,本物件には,反対事情①,反対事情⑤ないし⑦があると主張するが,これらの主張に理由がないことは,前記ア(エ),イ(ウ)のとおりである。
なお,本物件の入札結果(別紙7「一連番号」222)をみると,他の入札参加者である昭和建設や岩波建設における「施工計画」及び「配置予定技術者の能力」以外の比較的予測が容易な評価点の合計が,高得点となっている。原告としては,他の入札参加者のこれら評価点の合計が高得点となることを見込んで,自らは高得点を目指した施工計画書を提出し,かつ,他の入札参加者と比較して大幅に低い入札価格をもって入札することで,落札を確実なものにできると推測できたところである。したがって,上記のような各事情は,本物件について受注調整が行われたことと何ら矛盾するものではない。
(ウ) 以上により,本物件について特段の事情は認められない。
エ 物件278「一般国道411号上萩原バイパス道路改良工事」について
(ア) 原告は,本物件について,原告が地域性及び継続性を有するということだけで,受注調整を推認できないと主張するが,本件審決は,本物件に原告が地域性及び継続性を有することから本件推認が直ちに及ぶとするものではない。
(イ) また,原告は,本物件には,反対事情③(総合評価落札方式の入札が実施された個別工事で,かつ,落札者の落札価格と次点の事業者の入札価格との差が小さいこと)があり,落札者である原告と次点のタナベエンジニアリングの入札価格の差は,金額にして40万円,入札率にして0.82パーセントポイントの僅差しかなく,競争が行われたことは明らかであると主張する。
しかし,30社は,総合評価落札方式の工事においても,互いの評価点を予想し,又は連絡し合うなどして受注調整を行っていたものである。したがって,予想した評価点の点数において受注予定者が他の入札参加者を上回る場合には,受注予定者は必ずしも入札価格を最も低くしなければ受注できないものではない。また,30社の間では,本件合意の下で受注調整を行ったが,受注予定者を1社に絞り込めず,複数の入札参加者が受注を目指して入札している工事もあった。これらの事情により,入札価格のみを比較すれば落札者の入札価格の方が次順位の者より高い,又は同額であることや,落札者の入札価格と次順位の者との差が僅差であることも,当然に起こり得るものであり,そのことを想定の上で受注調整を行っていたことがうかがえるのであって,反対事情③は,具体的競争制限効果の発生の推認を妨げる特段の事情に当たらない。
また,本物件の入札結果(別紙7「一連番号」278〕)をみると,原告における「配置予定技術者の能力」以外の比較的予測が容易な評価点の合計(10点)は,他の入札参加者であるタナベエンジニアリング(10点),天川組(10点)及び岩波建設(12点)と同じか大差がない。原告としては,他の入札参加者のこれら評価点の合計が自身と同じか大差がないと見込んで,自らは高得点を期待できる技術者を配置し,かつ,他の入札参加者より入札価格を抑えることで,落札を確実なものにできると容易に推測できたところである。したがって,落札価格がタナベエンジニアリングの入札価格と僅差であったことは,本物件について受注調整が行われたことと何ら矛盾するものではない。
むしろ,上記予測が容易な評価点の合計が最も高かった岩波建設が,入札価格において最も高くなっていること,落札者から順にみた入札価格の差が,それぞれ40万円,40万円,20万円と整然と並んでいることからすれば,本物件の入札結果は絶妙に受注調整された結果であるとさえいえる。
(ウ) さらに,原告は,本物件には,反対事情⑤があると主張するが,この点の主張に理由がないことは,前記ア(エ)のとおりである。
(エ) 以上により,本物件について特段の事情は認められない。
オ 物件293「玉宮地区幹線道路重川橋梁下部工事(明許)」について
(ア) 原告は,本物件について,「本件審決は・・・具体的な主張を一切していない」と主張する。
しかし,本物件に具体的競争制限効果を認定するに当たり,本件合意に基づき受注予定者が決定された具体的経緯が明らかにされることや,当該工事につき受注調整がされたことを裏付ける直接証拠が存在することを要しない。
(イ) また,原告は,本物件には,反対事情①があると主張するが,この点の主張に理由がないことは,前記ア(ウ)のとおりである。
(ウ) さらに,原告は,本物件には,反対事情④(総合評価落札方式(簡易型又は特別簡易型Ⅱ)の入札が実施された個別工事で,かつ,仮に,落札者の評価点が1~5点(簡易型の場合)若しくは1点(特別簡易型Ⅱの場合)下がるか,又は他の入札参加者の評価点が1~5点(簡易型の場合)若しくは1点(特別簡易型Ⅱの場合)上がるかした場合に,他の入札参加者が落札する結果になること)があり,受注調整が行われたのであれば,岩波建設の「施工計画」の評価点が5点上がれば,評価値において逆転されるような調整を行うはずがない旨主張する。
しかし,30社は,「施工計画」について,少なくとも自社の作成した施工計画書の内容から自社の評価点の高低をある程度予想することは可能であり,簡易な内容の施工計画書を提出したり,ときには事業者間で施工計画書をやり取りして内容を確認したりするなどして,受注予定者が受注できるように協力し合っていたものである。したがって,そもそも,「施工計画」の評価点について,落札者の点だけが実際の入札結果より5点下がったり,次順位の者の点だけが実際の入札結果より5点上がったりすることが起きる可能性は低かったことがうかがえるし,受注予定者において,常に上記可能性を考慮して自社及び他の入札参加者の入札すべき価格を決めていたと認めるに足りる証拠もない。また,30社の間では,本件合意の下で受注調整を行ったが,受注予定者を1社に絞り込めず,複数の入札参加者が受注を目指して入札している工事もあった。したがって,「反対事情④」は,具体的競争制限効果の発生の推認を妨げる特段の事情に当たらない。
また,本物件において原告と岩波建設の評価値(評価点や入札価格の総合評価の結果)が僅差なのは,両者が落札を争った結果(別紙7「一連番号」293参照)とみられるのであり,このように受注予定者を1社に絞り込めず,2社以上で落札が争われたという事実のみでは,具体的競争制限効果の発生の推認を妨げる特段の事情に当たらない。
(エ) 原告は,本物件には,反対事情⑤及び⑥があると主張するが,これらの主張に理由がないことは,前記ア(ウ)及び(オ)のとおりである。
(オ) 以上により,本物件について特段の事情は認められない。
⑷ 総合評価落札方式以外の個別工事に関する主張
ア 物件128「玉宮地区幹線道路(第2工区)改良工事」について
(ア) 本件審決は,本物件について,本件推認の下,受注調整が行われたとは認められない特段の事情もないことから,本件合意に基づく受注調整と具体的競争制限効果の発生を認定したものである。
(イ) また,本物件における97.2パーセントという原告の落札率は,312物件の平均落札率(96.3パーセント)をも上回る高い水準であり,原告の《B》社長が供述するところも,受注調整が行われたことと何ら矛盾する内容ではないから,本件審決の上記認定を左右するものではない。
イ 物件142「大久保沢砂防工事(明許)」について
(ア) 本件審決は,本物件についても,本件推認の下,受注調整が行われたとは認められない特段の事情もないことから,本件合意に基づく受注調整と具体的競争制限効果の発生を認定したものであって,原告が本物件について継続性を有することから,本件合意に基づく受注調整が行われたと直ちに認定するものではない。
(イ) また,本物件における97.0パーセントという原告の落札率は,312物件の平均落札率(96.3パーセント)をも上回る高い水準であり,原告の《B》社長が陳述するところも,受注調整が行われたことと何ら矛盾する内容ではない。さらに,落札価格と最下位の入札業者の入札価格との差が80万円しかないことも,受注調整の結果,殊に,入札価格のみによって受注調整が可能な,総合評価落札方式によらない通常の一般競争入札である本物件についての受注調整の結果として,何ら不自然なことではない(そもそも原告の落札価格と公表されていた予定価格との差も157万4000円しかない。)。よって,いずれの点も,本件審決の上記認定を左右するものではない。
ウ 物件163「青笹川治山工事」について
(ア) 本件審決は,本物件についても,本件推認の下,受注調整が行われたとは認められない特段の事情もないことから本件合意に基づく受注調整と具体的競争制限効果の発生を認定したものであって,原告が本物件について継続性を有することや,本物件が60物件に該当することから,直ちに本件合意に基づく受注調整が行われたと認定するものではない。
(イ) また,本物件における97.5パーセントという原告の落札率は,312物件の平均落札率(96.3パーセント)をも上回る高い水準である。さらに,落札価格と最下位の入札業者の入札価格との差が85万円しかないことも,受注調整の結果,殊に,入札価格のみによって受注調整が可能な,総合評価落札方式によらない通常の一般競争入札である本物件についての受注調整の結果として,何ら不自然なことではない(そもそも原告の落札価格と公表されていた予定価格との差も193万5000円しかない。)。
エ 物件223「国道411号上萩原バイパス15工区道路改良工事(明許)」について」について
(ア) 本件審決は,原告が本物件について地域性及び継続性を有することから本件合意に基づく受注調整が行われたと直ちに認定するものではない。
(イ) 本物件に関する「一般競争入札公告」への原告の書き込み(査172)等によれば,本件審決が合理的に認定したとおり,原告は,本物件について,事前に他の入札参加者4社を把握した上で,自社の入札予定価格や他の入札参加者が入札すべき価格及び入札率を上記入札公告に記載したものであり,原告が受注予定者となり,他の4社に対して入札すべき価格又は入札率を伝え,他の4社が原告から伝えられた価格又は入札率から算定した価格で入札することで,原告の受注に協力したこと(44物件に該当すること)が明らかである。
(ウ) また,本物件における97.6パーセントという原告の落札率は,312物件の平均落札率(96.3パーセント)をも上回る高い水準であり,入札参加者間において自由な競争が行われていたことをうかがわせるものではない。
オ 物件308「大久保沢砂防工事(明許)」について
(ア) 本件審決は,本物件についても,本件推認の下,受注調整が行われたとは認められない特段の事情もないことから,本件合意に基づく受注調整と具体的競争制限効果の発生を認定したものであって,原告が本物件について継続性を有することから,本件合意に基づく受注調整が行われたと直ちに認定するものではない。
(イ) また,本物件における96.9パーセントという原告の落札率は,312物件の平均落札率(96.3パーセント)を上回る高い水準であり,原告の《B》社長が供述するところも,受注調整が行われたことと何ら矛盾する内容ではない。さらに,落札価格と最下位の入札業者の入札価格との差が120万円しかないことも,受注調整の結果,殊に,入札価格のみによって受注調整が可能な,総合評価落札方式によらない通常の一般競争入札である本物件についての受注調整の結果として,何ら不自然なことではない(そもそも原告の落札価格と公表されていた予定価格との差も186万円しかない。)。
4 争点4(本件立入検査後に契約が締結された工事の対価は,本件違反行為の実行期間における売上額に含まれるか)について
(原告の主張)
⑴ 本件審決は,①独占禁止法7条の2第1項は,「実行としての事業活動がなくなる日」と定めて,違反行為の終了日と明確に区別して規定していること,②仮に違反行為の終了時をもって実行期間終了日と解した場合,違反行為終了後に発生した違反行為による売上を一律に課徴金の対象から除外することとなり,適切でないこと,③売上額の確定に係る実行期間を違反行為者間で同時期とすべきものとも解されないことを理由として,原告について,平成22年3月16日以降違反行為を終了したにもかかわらず,同年3月24日に契約を締結した物件308の工事をも課徴金納付命令の対象とした。
⑵ しかし,「実行としての事業活動がなくなる日」とは,一般に「実行としての事業活動がそれ以降行われないことが明確化された日」と解されており,これは結局のところ「違反行為が取りやめられた日」と解される。
原告は,平成22年3月16日の後は,入札行為を行っておらず,「違反行為が取りやめられた日」とは,同年3月17日である。また,そうでないとしても,遅くとも,被告が立入検査を行った3月24日の前日である3月23日が「違反行為が取りやめられた日」に当たるから,契約締結日が3月24日である物件308の工事を本件課徴金納付命令の対象とすることは誤りである。
(被告の主張)
⑴ 独占禁止法7条の2第1項にいう「実行期間」の終期,すなわち「実行としての事業活動がなくなる日」とは,違反行為の終了日ではなく,違反行為者につき,それぞれ違反行為に係る事業活動が終了したと認められる日と解すべきこと,そして,独占禁止法施行令6条により契約基準が適用される場合において,違反行為終了前に受注調整に係る入札が行われて受注予定者が落札し,当該物件に係る工事の契約を違反行為終了後に締結したときには,契約締結時をもって「実行としての事業活動がなくなる日」と解すべきである。
⑵ すなわち,受注調整は,受注予定者が入札物件を落札して工事契約を締結することを目指して行われるものであるから,違反行為終了前に行われた受注調整によって落札した物件につき,落札者が当該物件の工事契約を締結することは,それが違反行為終了後になされるものであっても,受注調整が目指した当然の成り行きであり,また,その場合,会計法令により,落札者を契約の相手方として落札内容どおりの契約が締結されることはほぼ確実であるから,「実行としての事業活動」といい得るものである。
5 争点5(本件各命令の発出手続等は適法か)について
(原告の主張)
⑴ 本件排除措置命令は,本件合意の内容について
「30社は,遅くとも平成18年4月1日以降,塩山地区特定土木一式工事について,受注価格 の低落防止を図るため
ア 受注予定者を決定する
イ 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する
旨の合意(をした)」と極めて不明確かつ抽象的であるのみならず,その方法についても,「~などにより,」とするのみで,限定をしていない。
⑵ このような記載では,少なくとも,合意の「内容」が具体的に記載されていると認められないか,本件排除措置命令は,「公正取引委員会の認定した事実」を示しているとはいえず,独占禁止法49条1項に違反し,本件課徴金納付命令は,「課徴金に係る違反行為」を示しているとはいえず,独占禁止法50条1項に反し,本件各命令は,いずれも取り消されるべきである。
(被告の主張)
本件排除措置命令書には,本件合意が存在するに至った時期,内容,行為者等のほか,本件合意に基づいて30社によって行われた行為が具体的に記載されており,不当な取引制限における合意の形成過程について,日時,場所等をもって具体的に特定することまでは要しない。
第7 当裁判所の判断
1 争点1(30社は,塩山地区特定土木一式工事について,受注予定者を決定し,その者が受注できるように協力する旨合意していたか)について
⑴ 判断の枠組みについて
第5の1⑵のとおり,本件審決は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決以降の受注調整の状況(同⑴の認定事実ア),入札参加情報の集約(認定事実イ(ア)),受注予定者の決定方法(認定事実イ(イ)),入札価格等の連絡(認定事実イ(ウ)),塩山支部の役員会における協議(認定事実イ(オ)),個別工事における受注調整(認定事実ウ)及び本件対象期間中の平均落札率が96.3パーセントであったこと(認定事実エ)をそれぞれ認定した上,これらを間接事実として,30社のうち三森建設を除く29社は,遅くとも平成18年4月1日までに,塩山地区特定土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るために本件合意をし,三森建設は,遅くとも平成19年5月15日までに本件合意に参加したこと,30社は,遅くとも平成18年4月1日以降,本件合意に基づいて本件受注調整を行っていたことを認定したものである。
したがって,以下では,本件審決の認定した上記間接事実(認定事実アないしエ)にそれぞれ実質的な証拠があるかについて検討した上,これらの間接事実を総合して本件合意を認定することができるかについて検討する(なお,原告は,総合評価落札方式の工事については本件合意の対象に含まれないと主張しているので,この点についても併せて検討する。)。
⑵ 塩山支部に対する平成6年の勧告審決以降の受注調整の状況(認定事実ア)に関する実質的証拠の有無について
ア 本件審決が,塩山支部に対する平成6年の勧告審決以降の受注調整の状況について,挙げている証拠は,査47,査55,査74,査84,査94,査99である。
イ 原告は,本件審決は,信用性のない供述証拠のみに基づき,平成6年勧告審決以降に受注調整が行われていたと認定しており,上記認定について実質的な証拠はない旨主張するが,後記⑷のとおり,上記アの供述調書(天川工業の《M1》社長〔査47〕,タナベエンジニアリングの《D》社長〔査55〕,飯島工事の《AE》社長〔査74〕,山梨技建の《AG1》社長〔査84〕,宮原土建の《AH》社長〔査94〕,坂本組の《U1》社長〔査99〕の供述調書)は,信用することができるから,本件審決の塩山支部に対する平成6年の勧告審決以降の受注調整の状況に関する認定には,実質的な証拠があると認められる。
⑶ 入札参加情報の集約(認定事実イ(ア))について
原告は,30社は1社入札を避けるために自発的に入札参加情報を集約していたにすぎず,本件 審決が入札参加情報の集約の目的が受注調整であると認定したのは,事実誤認であると主張し,23社の代表者の代表者審尋における供述(なお,藤プラント建設については,審尋当時の取締役であった《V1》の参考人審尋における供述)並びに審A共12,審A共13,審A共15ないし審A共20,審B共17ないし審B共26,審C9,審D10,審E2,審E8,審Fア2及び審Fイ10の各陳述書(以下,審尋における各供述と各陳述書における供述をまとめて「23社の代表者の供述」という。)中には,これに沿う部分がある。
しかし,本件審決(審決案51,52頁)は,23社の代表者の供述は,「入札参加者取りまと め表は何の目的で誰の指示により作成され,どのように使用又は管理されていたのか,情報集約のルールについて塩山支部等から会員に対していつどのように説明がなされ,会員の了解を得たのかなど,主要な点に関する供述が曖昧であり,その内容について客観的な裏付けも欠いている」などとして,23社の代表者の供述は,不合理であって採用することができないとしているところ,この判断は,23社の代表者の供述の信用性の検討において不合理な点はないから,相当と認められる。
また,前記のとおり,原告は,1社入札を避けるために自発的に入札参加情報を集約していたにすぎないと主張するところ,本件対象期間において塩山支部における副支部長又は支部長であった原告の《B》社長によれば,1社入札を避けるために入札参加情報が集約されていたはずの入札参加者取りまとめ表に必ずしも目を通していたわけではなく,この表によって入札参加者が少ない入札が確認されたとしても,次の入札までに会員に入札参加を呼びかけていた程度であり,それによって入札参加者が増えなかったとしても特段の措置や対策を取っていなかったというのであるから(《B》社長の代表者審尋の速記録15頁〔審判事件記録5818丁〕),1社入札回避の目的のために入札参加情報を集約していたとすることには疑問がある。
さらに,1社入札の回避という目的からすれば,上記のとおり集約した入札参加情報はあまり活 用されていたとはいえないところ,それにもかかわらず,入札参加等の届出のルールは塩山支部等の会員に周知・徹底されており,入札参加のみならず,受注希望についても情報が集約されていたこと(査39ないし査45,査47,査50ないし査52,査54ないし査58,査62ないし査64,査66,査70ないし査72,査75,査77,査79,査83,査85,査87,査88,査90,査98ないし査109)によれば,入札参加情報の集約の目的は,受注調整のためであったと合理的に推認することができる。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができず,入札参加情報の集約の目的が受注調整 であるとの本件審決の認定が実質的な証拠を欠くということはできない。
⑷ 受注予定者の決定方法(認定事実イ(イ))及び入札価格等の連絡(認定事実イ(ウ))について
ア 本件審決が,これらの事実の認定に沿う証拠として挙げている供述調書は,30社のうち半数を超える代表者(髙野建設の《T》社長〔査46〕,天川工業の《M1》社長〔査47,査48〕,峡東建設の《AA》社長〔査54〕,タナベエンジニアリングの《D》社長〔査55,査56〕,甲斐建設の《AB》社長〔査57〕,渡辺建設の《AC1》社長〔査58ないし査60〕,天川組の《S1》社長〔査61,査62〕,甲信建設の《L1》社長〔査64,査65〕,三森建設の《AD》社長〔査67ないし査69〕,大和工務店の《F》社長〔査70〕,山梨建設の《R》社長〔査71ないし査73〕,飯島工事の《AE》社長〔査74ないし査76〕,広瀬土木の《AF》社長〔査77ないし査79〕,藤プラント建設の《V2》社長〔査82〕,山梨技建の《AG1》社長〔査84ないし査86〕,宮原土建の《AH》社長〔以下「宮原土建の《AH》社長」という。査88ないし査98〕及び坂本組の《U1》社長〔査99〕)並びに坂本組の《U2》社長代理(査100,査101)のものである。
イ 上記アの供述調書においては,30社の半数を超える17社の代表者が,塩山地区特定土木一式工事について受注調整がされており,自社もこれに参加した旨供述しており,渡辺建設の《AC1》社長〔査60〕,三森建設の《AD》社長〔査69〕,山梨建設の《R》社長〔査73〕,山梨技建の《AG1》社長〔査84ないし査86〕のように具体的な工事を挙げて供述している者もいるから,その信用性は高いというべきであり,本件審決の上記認定事実には実質的な証拠があるというべきである(原告は,本件訴訟において,これらの供述調書の信用性を疑わせる事実について,原告に関連するもの以外は具体的な主張をしていない。)。
ウ したがって,本件審決が認定した,本件受注調整の方法及びその実施状況のうち,受注予定者の決定方法及び入札価格等の連絡には,実質的な証拠があると認められる。
⑸ 塩山支部の役員会における協議(認定事実イ(オ))について
ア 原告は,本件審決が,「平成19年5月11日の塩山支部の月例役員会において,原告の《B》社長が他の出席者に対し,本件合意に基づいて本件受注調整が行われていることが公正取引委員会等の外部に漏れることを防ぐため,今後は調整会議等の受注調整のための話合いの出席者を各社の社長又はその兄弟若しくは息子に限定する旨提案した」と認定したのは事実誤認であり,原告の《B》社長は,塩山支部の行事の会議と仕事の話の出席者は親子に限る旨発言したにすぎないと主張し,その代表者審尋における供述(審C9の陳述書を含む。)中には,これに沿う部分がある。
イ しかし,本件合意に基づいて本件受注調整が行われていることが公正取引委員会等の外部に漏れることを防ぐためというのであれば,出席者を限定する必要があると考えられるが,塩山支部の行事の会議と仕事の話について,同支部の会員の代表者又はその親子以外の者の出席を一般的に制限しなければならない理由があるとは考え難い(原告の《B》社長は,代表者審尋において,「親睦会を開くときに,一般の社員とかそういう方がいると,ちょっと気を使ってしらけてしまい,親睦会にならない。」と供述する(速記録9頁〔審判事件記録5812頁〕)が,そのような理由から,会議の出席者を一般的に制限する必要があるとは考え難い。)。
また,本件審決(審決案55頁)は,「①平成19年5月11日の役員会に出席していた天川工業の《M1》社長は,同人の平成21年の手帳(査177)に「調整会議6社希望,調整つかず24日再会議」と記載するなど,「調整会議」という用語を「受注調整のための会議」という意味で用いていたところ,同人の平成19年の手帳に,「5/11 塩山支部役員会 PM6:00 《旅館の名称の記載》……調整会議 希望等は社長あるいは息子」(査43)と記載していること,②原告の《B》社長が作成した平成19年5月11日の役員会に関するメモにも「役員会 5月11日 PM、6、30 《ホテルの名称の記載》……(略)仕事に関する会議は本人以外認めない ただし親子は認める」(査113)と記載されていること,③平成19年5月11日の役員会に出席していた坂本組の《U1》社長は,本件審決の認定に沿う供述をしていること(査99)などに照らして,原告の《B》社長の供述は採用することができない。」としており,この判断は相当と認められる。
ウ したがって,本件審決が認定した,塩山支部の役員会における協議には,実質的な証拠があると認められる。
⑹ 個別工事における受注調整(認定事実ウ)について
ア 原告は,物件153及び同163が60物件に該当することを争っているので,検討する。
(ア) 物件153について
タナベエンジニアリングの平成20年3月4日開催の幹部会の資料に「昭和→広川 3/25」との手書きの書き込みがされている(査288)ところ,原告は,上記書き込みは,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われた客観的な証拠とはいえないと主張する。
しかし,査288の「9工区 昭和→広川《「広川」に下波線を付した記載」》 3/25」との書き込みにおける「9工区」は物件153の「施工場所」である「甲州市塩山萩原9工区」の一部を,「3/25」は同物件の「開札日」である平成20年3月25日を意味すると解されるところ(別紙7「一連番号」153参照),タナベエンジニアリングの《D》社長は,代表者審尋において,上記書き込みは開札日以前の同月4日に同社の幹部会議の席上で行ったと供述している(速記録11,12頁〔審判事件記録6109,6110丁〕)。また,「昭和→広川《「広川」に下波線を付した記載」》」との書き込みは,その後,実際に同物件の入札には昭和建設と原告が参加しており,昭和建設は94.8パーセントという高い入札率に相当する価格で入札し,原告が落札していることからしても,タナベエンジニアリングが入札前に,同物件の入札に昭和建設と原告が参加すること,少なくとも上記2社の間では原告が受注予定者となっていることを把握していたことを裏付けるものということができる。
このように,タナベエンジニアリングが受注予定者を事前に把握していたことは,本件合意に基づく受注調整に関わる行為ということができるし,査288はその客観的な証拠ということができる。
これに対し,タナベエンジニアリングの《D》社長は,代表者審尋において,原告の受注意欲が強いと思ってメモした旨供述する(速記録28,29頁〔6126,6127丁〕)が,そのように判断した根拠は明らかでなく,その供述は信用することができない。
したがって,原告の上記主張は採用することはできない。
(イ) 物件163について
査107の10は,佐藤建設工業宛ての競争参加資格確認通知書であるところ,原告は,同社の《AI》社長は,代表者審尋において,1社入札を防ぐため,入札に参加したことを伝えるため塩山支部等にファクシミリで送信したにすぎない旨供述しているから,受注調整に関わる行為が行われた客観的な証拠とはいえないと主張する。
しかし,本件合意に基づく受注調整は,主として,入札参加や受注希望といった情報を塩山支部等で集約する方法で行われていたのであり(認定事実イ(ア),(イ)),また,前記⑶のとおり,1社入札を避けるために入札参加情報を集約していたとの原告の主張は採用することができないから,佐藤建設工業が自社宛ての競争参加資格確認通知書を塩山支部等にファクシミリで送信した行為は,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為ということができ,査107の10は,その客観的な証拠ということができる。
したがって,原告の上記主張は採用することはできない。
イ 物件223について
(ア) 原告は,本件審決が,本工事が44物件に該当する証拠とする査172は,一般競争入札公告をプリントアウトしたものに「98%以上 ¥58,290,400」等と書き込んだものであるところ,このような書き込みをもって,本件違反行為に基づく受注調整が行われた客観的な証拠とはいえないと主張する(第6の3⑷エ(ウ))。
(イ) しかし,本件審決(審決案175頁)は,「証拠(査18,査172)によれば,原告は,本工事の入札公告(査172)に,
「(税抜き¥66,590,000-)」
「6500万円《「6500万円」を四角囲みした記載》」
「65,258,200」
「98% ¥66,258,200《「¥66,258,200」に二重取消線を付した記載》」
「渡辺99%」
「昭6550」
「植98%」
「タナベ98%」
と書き込んでいること,本工事の入札参加者は,原告,タナベエンジニアリング,植野興業, 渡辺建設及び昭和建設の5社であること,各社の入札価格及び入札率は,原告が6500万円及び97.6パーセント,タナベエンジニアリング及び植野興業が各6550万円及び98.4パーセント,渡辺建設が6600万円及び99.1パーセント,昭和建設が6650万円及び99.9パーセントであり,原告が落札したことが認められる。
これらのこと(とりわけ,昭和建設のみ入札率でなく,入札価格が記載されており,その金額も実際の入札価格と異なること)からすると,上記入札公告への書き込みは,原告において,本工事の入札前に,他の入札参加予定者がタナベエンジニアリング,植野興業,渡辺建設及び昭和建設の4社であることを把握し,自社の入札予定価格並びに上記4社の入札すべき価格及び入札率を記載したものと認められ,原告が本工事の受注予定者となり,原告が4社に対してその入札すべき価格又は入札率を伝え,4社は原告から伝えられた価格又は入札率から算定した価格で入札することで原告の受注に協力したことは明らかである。」としているところ,その証拠関係に照らして,この判断は相当と認められる。
したがって,査172は,本件違反行為に基づく受注調整が行われた客観的な証拠というべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は,上記ア,イ以外の物件については,44物件及び60物件に該当するとした本件審決の判断に対する具体的な主張をしていないから,個別工事における受注調整に関する本件審決の認定には,実質的な証拠があると認められる。
⑺ 本件対象期間中の平均落札率が96.3パーセントであったこと(認定事実エ)について
ア 原告は,96.3パーセントという312物件の平均落札率は,本件合意の存在を推認させるものではないと主張する。
イ しかし,本件審決(審決案58頁)は,「本件合意の目的が受注価格の低落防止にあることからすると,本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事のほとんど全てを占める312物件の平均落札率が96.3パーセントという相当高いものであることは,上記目的と結び付きやすく,また,他の証拠等と合わせてみれば,本件合意の認定に資するものと認められる。」,「312物件の平均落札率と本件違反行為終了後に発注された塩山地区特定土木一式工事の平均落札率が同程度であることは本件合意が存在しなかったことを裏付けるものである旨」の主張は,「本件違反行為終了後は塩山地区特定土木一式工事の入札において事業者間で自由かつ公正な競争が行われていることを前提とするものであるところ,かかる事実を認めるに足る証拠はない。」としているところ,この判断に不合理な点はないから,本件審決の上記判断は相当と認められる。
したがって,96.3パーセントという312物件の平均落札率は,他の証拠等と合わせてみれば,本件合意の存在の認定に資するものといえるから,本件合意の存在を推認させるものということができ,原告の上記主張は採用することができない。
⑻ 総合評価落札方式の工事について
ア 総合評価落札方式と他の入札方式との質的相違について
原告は,総合評価落札方式は,入札価格のみで決定される指名競争入札又は一般競争入札とは 全く異なる入札制度であり,とりわけ簡易型と特別簡易型Ⅱについては,評価点の調整が極めて困難であり,仮に情報を共有したうえで受注予定者を定めたところで,決めたとおりに落札させることができるとは限らず,総合評価落札方式による入札において受注調整を行おうとするのであれば,入札価格のみならず,評価点が与えられる多種多様な項目についての情報を共有するための協力方法を合意しておかなければならず,入札価格のみのやり取りをする前提での受注調整の合意と総合評価落札方式の工事で受注調整する合意は質的に全く異なるものであって,前者の合意に後者の合意は含まれず,また,前者の合意で後者の合意に代替することもできない旨主張する。
しかし,原告も,評価項目のうち「企業の施工実績」,「地域精通度」及び「地域貢献度」については,過去の入札結果等により自社及び他社の評価点を予想することが可能であること,「配置予定技術者の能力」についても自社の評価点を予想することは可能であったことは争っていない(第3の2⑸ウのとおり,山梨県は,総合評価落札方式による一般競争入札については,入札参加者の評価項目ごとの評価点を,評価調書の様式によりポータルサイトにおいて公表していた。)。
そして,通常であれば,他社の「配置予定技術者の能力」及び自社と他社の「施工計画」の評価点を正確に予測することはできないと考えられるが,30社が本件合意に基づく受注調整を行なっていたとすれば,自社の評価点の予想を受注予定者等の他の入札参加者に伝えることなどによって,他社の「配置予定技術者の能力」及び「施工計画」の評価点を相当程度正確に予測することは可能であったと考えられるから,総合評価落札方式と他の入札方式との間に質的な相違があるとは認められない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ 本件合意の成立時には総合評価落札方式が存在しなかったことについて
原告は,仮に,本件合意が平成18年4月1日当時に成立したとしても,その合意の対象は,その当時採用されていた入札方式の工事に関するものに限られるはずであるが,総合評価落札方式は,平成19年度から採用されたものであり,被告が主張する本件合意の成立時には存在していないから,総合評価落札方式の工事が本件合意の対象に含まれることはあり得ないと主張する。
しかし,上記アのとおり,総合評価落札方式は,他の入札方式との間に質的な相違があるとは認められず,本件合意は,塩山地区土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るため,受注予定者をあらかじめ決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力するという内容の取決めであり,特定の発注方法を前提としたり,協力の方法を限定したりするものでもないから,本件合意は,総合評価落札方式が採用された時点で,同方式による工事も対象とするものになっていたと推認するのが相当である。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
⑼ 以上のとおり,本件審決の認定事実(前記第5の1⑴)アないしエについては,いずれも実質的な証拠があるというべきであり,これらの間接事実を総合すれば,30社が本件合意をしたと推認するのが相当であり,この推認を左右するに足りる証拠はないから,本件審決が本件合意を認定したのは相当というべきである。
2 争点2(本件合意は,独占禁止法2条6項にいう不当な取引制限に該当するか)について
⑴ 原告は,本件審決は,「塩山地区土木特定一式に係る入札市場」を「一定の取引分野」と画定した上,本件合意は,独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」との要件を充足し,不当な取引制限に該当するとしたが,「一定の取引分野」とは,事業者間で競争が行われている個別取引の分野であるところ,塩山地区においては,土木工事,林道工事,治山工事及び農務工事の4種類の工事分野は,それぞれにおいて事業者間で競争が行われている個別の取引分野であって,これらの工事分野を超えた競争関係は存在しないから,本件における「一定の取引分野」は,4種類の工事ごとに画定すべきであり,土木工事,林道工事,治山工事及び農務工事を一体とした「塩山地区特定土木一式工事」という「一定の取引分野」は存在せず,当該「一定の取引分野」を前提とする本件違反行為は存在し得ないと主張する。
⑵ しかし,本件審決(審決案69,70頁)が説示するとおり,これら4種類の工事は,発注担当部署は異なるものの,いずれも山梨県が「土木一式工事」として発注していたものであり(前記第3の2⑴),発注担当部署を異にするにすぎない。
また,山梨県は,「土木一式工事」の入札への参加を希望する事業者に対し,あらかじめ資格審 査を行い,A,B,C又はDのいずれかの等級に格付し,有資格者名簿に登載していたこと(前記第3の2⑵)からすれば,有資格者名簿に登載されたA等級業者及びB等級業者(30社も,これに該当する。)は,いずれも,4種類の工事を含む塩山地区特定土木一式工事の全てについて施工能力を有していたものと認められる。
仮にこれらの事業者の中に,4種類の工事のいずれかを得意とし積極的に受注していた事業者と,そうでない事業者がいたとしても,専門的知識を有する技術者を育成する,あるいは実績を積むために,あえて入札に参加することもあり得ることであり,自社が所持していない特殊な設備や道具を必要とする場合であっても,これらの設備等を購入する,あるいは借りることが可能であることからすると,これらの事業者が特定の種類の工事の施工能力をおよそ欠いていたものではなく,有資格者名簿に登載された他の事業者との間には,競争関係が存在したものと認められる。
さらに,30社が,特定の種類の工事を他の種類の工事と区別して受注調整していた事実はうかがえない。むしろ,30社としては,山梨県が発注する「土木一式工事」の中で30社が入札参加資格を有する全ての工事を受注調整の対象とすることで,より調整がしやすくなるし,受注価格の低落防止という本件合意の目的にもかなうことになる。
このように,30社は,塩山地区特定土木一式工事について,4種類の工事を区別することなく受注調整の対象としていたものであるから,本件における「一定の取引分野」は「塩山地区特定土木一式工事」に関するものというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
3 争点3(原告が受注した別紙8の各工事は,独占禁止法7条の2第1項にいう当該役務に該当するか)について
⑴ 原告は,総合評価落札方式の工事は,本件合意の対象となっていないから,課徴金の対象としての「当該商品又は役務」にも該当しないと主張するが,前記1⑻のとおり,本件合意は,総合評価落札方式が採用された時点で,同方式による工事も対象とするものになっていたということができるから,原告の上記主張は採用することができない。
⑵ 課徴金の対象となる要件について
ア 原告の主張する3要件について
原告は,本件審決が,「当該商品又は役務」(法7条の2第1項)として課徴金を課すには,個別工事について原告らの主張する3要件,すなわち,①基本合意(本件合意)の対象とされた工事であること,②当該工事の入札に当たり基本合意に基づく受注調整等がされたこと,③上記②の結果,具体的に競争制限効果が発生したことを審査官において主張立証する必要がなく,本件合意の存在のみを主張立証すればよいとしたのは不当である旨と主張する。
しかし,前記第5の3⑴のとおり,本件審決は,本件合意のみならず,本件においては,本件①ないし⑤の事情が見られることから,塩山地区特定土木一式工事に該当し,かつ,30社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当であるとしたものであり,原告の上記主張はその前提を欠くものである。
イ 本件審決の上記推認は,本件合意から直ちに個別工事における具体的競争制限効果の発生を推認していることと何ら変わりがないとの原告の主張について
原告は,本件①ないし⑤の事情は,いずれも本件合意を認定するに当たって用いられた間接事実であり,本件合意が不当な取引制限と認定されれば,必然的に具体的競争制限効果も認定されるという関係に立つから,結局のところ,本件合意から直ちに個別工事における具体的競争制限効果の発生を推認していることと何ら変わりがなく,また,本件①ないし⑤の事情から具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当であるとはいえない旨主張する。
しかし,本件①ないし⑤の事情のうち,④の事情(30社の代表者のうち,本件合意への参加を認める旨の供述をする者が約半数いるが,これらの者の中に,塩山地区特定土木一式工事に該当する特定の工事について本件合意に基づく本件受注調整が行われなかった旨を供述している者はいない。)は,本件審決において,本件合意を認定した間接事実とはされていない。
また,本件合意に加え,本件①ないし⑤の事情が認められる本件において,本件審決が,「塩山地区特定土木一式工事に該当し,かつ,30社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当である」としたことについて,実質的な証拠を欠くものと認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告の主張する具体的競争制限効果の発生を否定する事情について
(ア) 反対事情①について
原告は,低落札率(落札率90%未満)であることは,具体的競争制限効果の発生を否定する事情といえると主張する。
しかし,独占禁止法が,公正かつ自由な競争を促進することなどにより,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としていること(1条)等に鑑みると,法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件合意のような一定の入札市場における受注調整の基本的な方法や手順等を取り決める行為によって競争制限が行われる場合には,当該取決めによって,その当事者である事業者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうものと解される(多摩談合事件最高裁判決参照)。
したがって,受注予定者を1社に絞り込むことができず,2社以上で落札が争われ,その結果,低落札率になったとしても,本件合意は,それ以外の事業者が入札に参加することを制限し,これにより,入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすものといえるから,受注予定者が1社に絞り込まれることなく,2社以上が落札を争うことになり,その結果,低落札率になったからといって,具体的競争制限効果の発生を否定することはできないというべきである。
(イ) 反対事情②ないし④,⑥,⑦について
原告は,総合評価落札方式の入札が他の入札方式と質的に異なることを前提として,反対事情②ないし④,⑥,⑦がある場合には,具体的競争制限効果の発生を否定すべきと主張する。
しかし,総合評価落札方式の入札が他の入札方式と質的に異なるとの主張を採用することができないことは,上記1⑻のとおりである。
のみならず,前記第3の2⑶ウ(オ)のとおり,山梨県は,総合評価落札方式による一般競争入札の方法により発注する場合,入札書提出締切日の約半月ないし1か月前までに,当該工事の入札方式,総合評価落札方式の種類など総合評価に関する事項,入札参加資格等を示した入札公告により入札参加希望者を募り,入札書提出締切日の約2日ないし7日前までに,入札への参加を申請した事業者に対し,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した「競争参加資格確認通知書」を送付していたこと,入札参加者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていたことが認められ,また,同ウ(ウ)のとおり,評価点は,入札参加申請の際に申請者から併せて提出される施工計画書等の資料(技術審査資料)に基づき,発注担当部署において,評価項目ごとに算出することとされていたことが認められる。
そうすると,入札参加者は,入札参加申請の際に施工計画書等の資料を提出しているのであり,上記資料の提出から入札書提出締切日までには,少なくとも数日の期間があることが明らかである。
したがって,上記資料の提出時には,30社間の受注調整が終了していなかったが,入札書提出締切日までにこれが終了した場合には,反対事実②ないし④,⑥,⑦のような事態が生じることは当然想定されることであるから,これらの事情があるからといって,具体的競争制限効果の発生を否定することはできない。
(ウ) 反対事情⑤について
原告は,総合評価落札方式の入札の受注調整のためには,施工計画書,配置予定技術者,企業の施工実績に関する情報のやり取りが必要であり,特に,施工計画書については口頭で情報のやり取りができないから,書面や電子データなどの物証が多く残るはずであり,電子データが存在していたのであれば,削除されても被告による復元がなされているはずであるから,総合評価落札方式の入札が実施された個別工事で,かつ,施工計画,配置予定技術者,企業の施工実績に関する物証がない場合には,具体的競争制限効果の発生を否定すべきであると主張する。
しかし,本件合意に基づく受注調整が行われていたとすれば,その性質上,書面や電子データなどの物証は処分されるのが通常と考えられ,しかも,前記第3の3⑴オのとおり,28社は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決を受け,課徴金納付命令も受けていたのであるから,これらの物証を残さないようにしていたと推認することは何ら不合理ではない。
したがって,反対事情⑤があるからといって,具体的競争制限効果の発生を否定することはできない。
エ そうすると,前記アのとおり,塩山地区特定土木一式工事に該当し,かつ,30社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当であるところ,原告が個別工事において主張する事由(第6の3⑶,⑷)のみでは,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情があるということはできない。
オ 2社以上で落札が争われた個別工事が本件違反行為の対象となっていないとの原告の主張について
(ア) 原告は,本件排除措置命令書及び本件課徴金納付命令書の「受注予定者を決定」との記載は,文理上,「受注予定者1社を決定する」という意味としか読むことができない,逆にいえば,受注予定者を1社に絞れない場合については記載されていないから,2社以上で落札が争われた個別工事は含まれておらず,当該個別工事は,全て課徴金の算定対象とはならないと主張する。
(イ) しかし,前記ウ(ア)のとおり,受注予定者を1社に絞り込むことができず,2社以上で落札が争われたとしても,本件合意は,それ以外の事業者を入札に参加することを制限し,これにより,入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすものといえるから,受注予定者が1社に絞り込まれることなく,他社と落札を争うことになり,その結果,低落札率になったからといって,具体的競争制限効果の発生を否定することはできないのであり,本件排除措置命令書等の記載もこれを当然の前提とするものと解されるから,原告の上記主張は前提を欠くものである。
4 争点4(本件立入検査後に契約が締結された工事の対価は,本件違反行為の実行期間における売上額に含まれるか)について
⑴ 原告は,独占禁止法7条の2第1項の「実行としての事業活動がなくなる日」とは,一般に「実行としての事業活動がそれ以降行われないことが明確化された日」と解されており,これは結局のところ「違反行為が取りやめられた日」と解されるが,原告は,平成22年3月16日以降,本件違反行為である入札行為をしていないから,本件審決が同年3月24日に契約が締結された物件308を本件課徴金納付命令の対象としたのは不当であると主張する。
⑵ しかし,独占禁止法の定める課徴金の制度は,不当な取引制限等の摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,不当な取引制限等の予防効果を強化することを目的として,刑事罰の定め(法89条)や損害賠償制度(法25条)に加えて設けられたものであり,上記の課徴金制度の趣旨に鑑みると,独占禁止法7条の2第1項所定の課徴金の対象となる「当該…役務」とは,本件においては,本件合意の対象とされた工事であって,本件合意に基づく受注調整等の結果,具体的な競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解される(多摩談合事件最高裁判決参照)。
そして,別紙7「一連番号308」のとおり,物件308は,平成22年2月19日に公告・指 名通知がされ,同年3月17日に開札され,同月24日に契約が締結されたところ,同日,本件立入検査がされたものである(前記第3の4)。
したがって,物件308が,本件合意の対象とされた工事であることは明らかであって,本件合意に基づく受注調整等の結果,物件308につき,原告が落札した上で契約を締結しており,具体的な競争制限効果が発生するに至ったものと認められるから,課徴金算定の対象となる工事というべきである。
5 争点5(本件各命令の発出手続等は適法か)について
⑴ 原告は,本件排除措置命令は,本件合意の内容について,極めて不明確かつ抽象的であるのみならず,その方法についても,「~などにより,」とするのみで,限定をしていないところ,このような記載では,少なくとも,合意の「内容」が具体的に記載されていると認められないか,本件排除措置命令は,「公正取引委員会の認定した事実」を示しているとはいえず,独占禁止法49条1項に違反し,本件課徴金納付命令は,「課徴金に係る違反行為」を示しているとはいえず,独占禁止法50条1項に反し,本体各命令は,いずれも取り消されるべきであると主張する。
⑵ 独占禁止法49条1項が排除措置命令書に「公正取引委員会の認定した事実」を付記すべきものとしているのは,排除措置命令が,その名宛人に対して当該命令の主文に従った排除措置の履行義務を課すなど,名宛人の事業活動の自由等を制限するものであることに鑑み,公正取引委員会の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,排除措置命令の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるためのものと解される。
このような排除措置命令の性質及び理由付記を命じた趣旨・目的に鑑みれば,排除措置命令書に記載すべき「事実」とは,違反行為に関する認定事実のほか,いかなる事実関係に基づき排除措置が命じられたのかを,名宛人においてその記載自体から了知し得るものでなければならない(最高裁判所昭和60年1月22日第三小法廷判決・民集39巻1号1頁参照)。
これを本件についてみると,本件排除措置命令書には,本件合意が存在するに至った時期,内容,行為者等のほか,本件合意に基づいて22社によって行われていた行為が具体的に記載されていると認められるところ,かかる記載から,22社が具体的にいかなる行為をしたことによって本件排除措置命令を発せられたのかを了知することは可能であり,同命令に対する不服申立てに十分な便宜を与える程度に記載されていると認められる(公共事業に関する工事における受注調整の基本合意であるという本件合意の性質上,本件合意の形成過程等について,日時,場所等をもって具体的に特定することは要しないと解するのが相当である。)。したがって,本件排除措置命令は相当であって,本件各命令は適法であるから,原告の上記主張は採用することができない。
6 結論
以上のとおり,本件審決の事実認定には実質的な証拠があり,また,本件審決は法令に違反するものでもない。
よって,本件審決は適法であり,その取消しを求める原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

平成30年8月31日

裁判長裁判官 大段亨     
裁判官 小林元二     
裁判官 浦木厚利     
裁判官 大野和明     
裁判官 小河原寧

【別紙省略】

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