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独禁法3条後段・独禁法7条の2
東京高等裁判所
平成29年(行ケ)第13号
平成30年10月26日
山梨県甲州市勝沼町菱山3687番地
原告 三森建設株式会社
同代表者代表取締役 《氏名》
訴訟代理人弁護士 柄澤昌樹
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 横手哲二
同 榎本勤也
同 堤 優子
同 津田和孝
同 黒江 那津子
同 西川康一
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
被告が,原告に対する公正取引委員会平成23年(判)第21号及び同年第44号排除措置命令及び課徴金納付命令審判事件について,平成29年6月15日付けでした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 事実の要旨
⑴ 被告は,原告を含む別紙1「23社目録」記載の事業者ら23社(以下「23社」という。)が,遅くとも平成18年4月1日以降平成22年3月23日まで(以下「本件対象期間」という。),別紙2「7社目録」記載の7社(以下,23社と併せて「30社」という。30社のうち,23社の各社については,別紙1中の「事業者の略称」により,その代表者については,「代表者(代表取締役)」又は「代表者の略称」によって表記し,7社の各社については,別紙2中の「事業者の略称」により表記する。)と共同して,別紙3記載の工事(以下「塩山地区特定土木一式工事」という。)について,受注すべき者又は特定建設工事共同企業体(以下,併せて「受注予定者」という。)を決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた価格で受注できるよう協力する旨の合意(以下「本件合意」という。)の下に受注調整をしたことは,公共の利益に反して,塩山地区特定土木一式工事の取引分野における競争を実質的に制限したものであって,この行為は,平成25年法律第100号の附則2条により,なお従前の例によるとされた同法律による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号,以下「独占禁止法」という。)2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条に違反するものであり,かつ,特に排除措置を命じる必要があるとして,平成23年4月15日,23社のうち渡辺建設を除く22社(以下「22社」という。)に対し,排除措置を命じ(平成23年(措)第1号,以下「本件排除措置命令」という。同命令において認定された違反行為を「本件違反行為」という。),さらに,本件違反行為は,同法7条の2第1項第1号に規定する役務の対価に係るものであるとして,同日,23社に対し,課徴金の納付を命じた(平成23年(納)第21号ないし43号,以下「本件各課徴金納付命令」といい,本件排除措置命令と併せて表示するときは「本件各命令」という。原告に対する納付命令は平成23年(納)第35号,課徴金額は1434万円である。)。
⑵ 22社は,独占禁止法49条6項に基づき本件排除措置命令の全部の取消しの審判講求をし(平成23年(判)第8号ないし29号,原告の審判請求は第21号),23社は,同法50条4項に基づき本件各課徴金納付命令の取消しを求める審判請求をし(平成23年(判)第30号ないし52号,原告の審判請求は第44号),被告は,各審判請求を併合した上,平成29年6月15日付けで,原告を含む被審人らの各審判請求をいずれも棄却する審決をした(平成23年(判)第8号ないし52号,以下「本件審決」という。)。
⑶ 本件は,原告が,被告に対し,本件審決が認定した事実を認める実質的証拠はないなどと主張し,本件審決は違法であるとして,本件審決のうち原告の審判請求に係る審判の取消しを求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実,本件審判事件の記録上明らかな事実及び被告が本件審決で証拠により認定した事実で原告も実質的証拠の欠缺を主張していない事実)
⑴ 30社について
30社は,いずれも山梨県山梨市又は甲州市(以下「塩山地区」という。)に本店を置く建設事業者である。
⑵ 塩山地区特定土木一式工事の概要
ア 発注業務の担当部署
山梨県では,本庁又は出先機関の各部署が,それぞれ所掌する事務に応じて発注業務を担当している。
本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事については,山梨県県土整備部(平成20年3月31日以前は「土木部」)道路整備課,同部道路管理課,同部峡東建設事務所,同部広瀬・琴川ダム管理事務所(平成20年3月31日以前は広瀬・琴川ダム事務所),山梨県農政部峡東農務事務所(以下「峡東農務事務所」という。),山梨県森林環境部峡東林務環境事務所(以下「峡東林務環境事務所」という。)等が発注業務を担当していた。(査17ないし19)
イ 入札参加資格者の等級区分及び名簿登載
山梨県は,本件対象期間において,発注する土木一式工事の指名競争入札又は一般競争入札への参加を希望する事業者に対し,これらの入札に参加するために必要な資格の審査を行った上で,当該入札への参加資格を有すると認定した事業者を工事施工能力の審査結果に基づきA,B,C又はDのいずれかの等級に格付して(以下,A等級に格付されている事業者を「A等級業者」,B等級に格付されている事業者を「B等級業者」という。),入札参加有資格者名簿(以下「有資格者名簿」という。)に審査結果を付して登載していた(査21,22)。
また,山梨県は,土木一式工事を予定価格に応じて区分し,個々の工事の発注に際しては,有資格者名簿に登載されている者のうち,当該区分に対応した等級に格付されている事業者が入札参加資格を有する者とされていた。土木一式工事のうち予定価格がおおむね3億円以上の工事については,特定建設工事共同企業体(以下「JV」という。)の施工対象工事とされ,A等級業者で構成されるJV(A等級業者で構成することが難しい場合であって特に必要があると認められるときは,A等級業者とB等級業者で構成されるJV)が入札参加資格を有する者とされていた(査21,23,24)。
30社は,本件対象期間(ただし,原告を含む別紙4記載の事業者については同表の各期間。原告は平成18年度までC等級業者に格付されていた。)において,A等級業者又はB等級業者に格付されていた(査1)。
ウ 工事の発注方法
山梨県は,本件対象期間における塩山地区特定土木一式工事について,指名競争入札又は一般競争入札の方法により発注していた。一般競争入札には,価格により落札者を決定する一般競争入札と,価格に加え評価項目ごとの評価を考慮する総合評価方式による一般競争入札があった。入札の執行はインターネット上のウェブサイトである山梨県公共事業ポータルサイト(以下「ポータルサイト」という。)の電子入札システム(以下「電子入札システム」という。)により行っていた(査18,23)。
(ア) 指名競争入札
a 入札参加者
山梨県は,平成18年4月1日から平成19年3月31日までの間,予定価格が1億円未満の塩山地区特定土木一式工事の一部について,指名競争入札の方法により発注し,そのほとんど全てにおいて,塩山地区に本店を置くA等級業者又はB等級業者の中から当該入札の参加者を指名していた(査18,21,25)。
b 入札の実施方法
山梨県は,指名競争入札の方法により発注する場合,有資格者名簿において当該入札の予定価格の区分に対応する等級に格付されている事業者の中から原則として6社ないし10社を指名業者として選定し,当該業者に対し,入札書提出締切日の約15日前までに,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した指名通知書を送付することにより指名していた。
指名を受けた業者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに,当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた。(査21,26,27)
(ア) 一般競争入札
a 入札参加者
山梨県は,本件対象期間における塩山地区特定土木一式工事について,指名競争入札の方法によらない場合は一般競争入札の方法により発注し,その大部分において,塩山地区又は山梨県笛吹市(平成18年7月31日までの間は笛吹市又は東八代郡芦川村。以下同じ。)の区域(以下,笛吹市の区域を「石和地区」といい,塩山地区と石和地区を併せて「峡東地域」という。)に本店を置くA等級業者又はB等級業者であることを入札参加の条件として,公告により入札参加希望者を募り,入札への参加を申請した事業者(JVを含む。)を当該入札の参加者としていた(査18,23ないし25)。
b 入札実施方法
山梨県は,一般競争入札の方法により発注する場合,入札書提出締切日の約25日前までに,入札参加条件等を示した入札公告により入札参加希望者を募り,入札への参加を申請した事業者(JVを含む。)に対し,入札書提出締切日の約1週間前までに,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した「競争参加資格確認通知書」を送付していた。
入札参加者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに,当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた。(査27ないし29)
(ウ) 総合評価落札方式による一般競争入札
a 導入時期,種類,落札者の決定方法及び入札参加者
山梨県は,平成19年頃から,一般競争入札の方法により発注する工事の一部について,総合評価落札方式を導入した。
総合評価落札方式には,「簡易型」(平成19年度導入),「特別簡易型」(平成20年度導入),「特別簡易型(Ⅰ)」及び「特別簡易型(Ⅱ)」(いずれも平成21年度導入,なお,「特別簡易型(Ⅰ)」は,平成20年度における「特別簡易型」に相当する。)等の種類がある。
総合評価落札方式では,以下のとおり,入札価格が予定価格の範囲内にある入札参加者について,あらかじめ定められた評価項目ごとの評価点を合計した後,各入札参加者の評価点の合計点数の比に応じて加算点(加算点の満点は,工事ごとに定める。)を算出し,それに標準点(100点)を加えた数値を入札価格で除し,これに1億を乗じて得た評価値が最も高い者を落札者としていた。
評価値=(標準点+加算点)/入札価格×100,000,000
総合評価落札方式における入札参加者は,前記(イ)aと同じである。
(査18,30ないし33)
b 評価項目
評価項目は,「簡易型」では①企業の施工実績,②地域精通度,③地域貢献度,④配置予定技術者の能力及び⑤施工計画,「特別簡易型(Ⅱ)」では上記①ないし④,「特別簡易型」及び「特別簡易型(Ⅰ)」では上記①ないし③であり,いずれも,評価項目ごとに最高評価点が設定されていた(査30ないし33)。
c 評価点の算出方法
評価点は,入札参加申請の際に申請者から併せて提出される施工計画書等の資料に基づき,発注業務を担当する部署(以下「発注担当部署」という。)において,以下のとおり,評価項目ごとに算出することとされていた。
前記b①の「企業の施工実績」については,都道府県又は国・公団等の同種工事の施工実績の有無,山梨県発注の土木一式工事での工事成績評定点の平均点等,同②の「地域精通度」については,近隣地域での施工実績の有無等,同③の「地域貢献度」については,災害協定の締結の有無,土木施設等緊急維持修繕業務委託の実績等,同④の「配置予定技術者の能力」については,1級土木施工管理技士等又は技術士であるかどうか,同種工事の施工実績等といった客観的データを基に,入札参加者が山梨県所定の様式で作成・記載した根拠資料を提出することにより点数化されることとされていた。
なお,配置予定技術者は,一定の資格を有することのほかに,対象工事に専任で配置することが必要とされていた。
前記b⑤の「施工計画」については,入札参加者が客観的なデータを提出するものではなく,「工程管理に係わる技術的所見」,「品質管理に係わる技術的所見」等の5項目の中から選択された1ないし2項目について,入札参加者が提出する施工計画書の内容により,「10点」(内容が適切であり,重要な項目が記載され,工夫が見られる),「5点」(内容が適切であり,工夫が見られる),「0点」(内容が適切である),又は「欠格」(未記入,又は不適切である)と評価されていた。(査30ないし33)
d 評価項目等の公表
山梨県は,総合評価落札方式における評価項目,評価の方法,最高評価点及び評価値の算出方法について,「山梨県建設工事総合評価実施要領」(以下「総合評価実施要領」という。)に記載し,公表していた(査30ないし33)。
e 入札の実施方法
山梨県は,当該工事の入札方式,総合評価落札方式の種類など総合評価に関する事項,入札参加資格等を示した入札公告により入札参加希望者を募り,入札への参加を申請した事業者に対し,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した「競争参加資格確認通知書」を送付していた。
入札参加者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた。(査27,33,34)
エ 最低制限価格及び低入札価格調査の基準価格
(ア) 最低制限価格
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事のうち,指名競争入札の方法により発注するもの及び総合評価落札方式以外の一般競争入札の方法により発注するものについて,最低制限価格を設定し,同価格を下回る価格の入札は失格としていた(査18)。
(イ) 低入札価格調査の基準価格
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事のうち,総合評価落札方式による一般競争入札の方法により発注するものについて,低入札価格調査の対象とする基準価格(以下「低入札調査基準価格」という。)を設定していた。
山梨県は,入札の結果,評価値が最も高かった者の入札価格が低入札調査基準価格を下回った場合には,落札者の決定を保留した上で,当該入札額で契約の内容に適合した履行がされるか否かについて調査を行い,その結果,適合した履行がされると認めた場合は,当該入札者を落札者とし,適合した履行がされないおそれがあると認めた場合は,他の入札者のうち最も評価値の高い者を落札者としていた。(査18,35)
オ 入札情報の公表
(ア) 予定価格,最低制限価格及び低入札調査基準価格
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事について,ごく一部の工事を除き,入札公告時又は指名通知時に予定価格を公表していたが,最低制限価格及び低入札調査基準価格は,入札書提出締切日前には公表していなかった(査36)。
(イ) 入札参加者
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事について,入札書提出締切日前には入札参加者を公表せず,落札者決定後速やかに公表していた(査36)。
(ウ) 入札結果
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事の入札結果について,山梨県民情報センター及びポータルサイトにおいて閲覧に供する方法により,落札者決定後速やかに公表していた。
また,山梨県は,総合評価落札方式による一般競争入札については,入札参加者の評価項目ごとの評価点を,評価調書の様式によりポータルサイトにおいて公表していた。(査30ないし32,36,170)
カ 本件対象期間における塩山地区特定土木一式工事の発注及び受注状況
本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事は,別紙5のとおり316件であり(以下「316物件」という。また,個別の工事については,同別紙の「一連番号」欄記載の番号に従って「物件1」等と表記することがある。),いずれも30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注した。
316物件の発注担当部署,公告日(又は指名通知日),開札日,工事名,施工場所,発注方法,入札参加条件としての本店所在地,予定価格,予定価格の事前公表の有無,入札参加者,入札価格,入札率(予定価格に対する入札価格の割合),落札者,落札率(予定価格に対する落札価格の割合),並びに総合評価落札方式の種類,価格以外の評価結果及び評価値は,それぞれ別紙5の該当欄記載のとおりである。
316物件のうち,指名競争入札の方法により発注された工事は,そのほとんど全てにおいて,30社の中から入札参加者が指名されている。
また,316物件のうち,一般競争入札の方法により発注された工事は,そのほとんどにおいて30社のみが入札に参加しており,塩山地区以外に本店を置く事業者が入札に参加した工事は17件であった。(査18,297)
キ 23社の売上額
本件各課徴金納付命令における本件違反行為の実行期間において原告が受注した塩山地区特定土木一式工事の売上額を私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号。以下「独占禁止法施行令」という。)6条1項及び2項の規定に基づき算定すると,各工事の対価の額は,別紙8の各「4 対象物件一覧」中の「課徴金算定の基礎となる売上額(円)」欄記載の金額となり,合計額は同別紙の「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」記載の金額となる。ただし,実行期間及び売上額に争いがある。(査18)
⑶ 塩山地区における建設業協会等の概要
ア 社団法人山梨県建設業協会塩山支部
(ア) 事務所等
社団法人山梨県建設業協会塩山支部(以下「塩山支部」という。)は,山梨県甲州市塩山熊野137番地に所在する同支部の会館(以下「塩山支部会館」という。)内に事務所を置いていた(査4ないし6,103,104)。
(イ) 会員及び事業
塩山支部は,塩山地区に本店(社)又は営業所等を有する建設事業者を会員とし,建設業に関する資料,情報及び統計の収集並びに頒布,官庁その他の関係団体及び機関との連絡,交渉及び提携等の事業を行うものとされていた。
30社のうち藤プラント建設及び奥山健設を除く28社(以下「28社」という。)は遅くとも平成18年4月以降に,藤プラント建設及び奥山建設は平成19年6月頃以降に,それぞれ塩山支部の会員となっていた。
また,本件対象期間において,塩山支部の会員のうちA等級業者又はB等級業者であって塩山地区特定土木一式工事の入札に参加していた事業者は,30社のみであった。(査4ないし7,81)
(ウ) 役員
塩山支部では,支部長,副支部長,理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,支部長及び副支部長は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた(以下,塩山支部の支部長を「塩山支部長」,同副支部長を「塩山副支部長」といい,両者を併せて「塩山支部の執行部」という。)。
平成18年度の塩山支部長は岩波建設の《A》社長,塩山副支部長は廣川工業所の《B》社長及び内田組の《C1》社長であった。また,平成19年度ないし平成21年度の塩山支部長は廣川工業所の《B》社長,塩山副支部長はタナベエンジニアリングの《D》社長及び植野興業の《E》社長であり,平成21年度に塩山副支部長として大和工務店の《F》社長が加わった。(査4ないし6)
(エ) 職員
塩山支部は,事務員として《G》(以下「《G》事務員」という。)を雇用しており,同事務員は塩山支部会館において勤務していた(査103,104)。
(オ) 塩山支部に対する過去の勧告審決
被告は,平成6年5月15日,塩山支部が遅くとも昭和62年4月までに,山梨県が指名競争入札の方法により発注する土木部所管で塩山土木事務所の管轄区域を施工場所とする土木一式工事(共同施工方式により施工される工事を除く。)について,支部員の受注価格の低落を防止するため,支部員に,あらかじめ受注予定者を決定させ,受注予定者が受注できるようにさせていた行為が,当時の独占禁止法8条1項1号の規定に違反するものであるとして,同支部に対し,勧告審決をした(平成6年(勧)第14号,以下「塩山支部に対する平成6年の勧告審決」という。)
28社は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決以前から塩山支部の会員であったところ,平成7年4月14日,被告から同審決に伴い課徴金納付命令を受けた(事件番号は省略)。(査37,38)
イ 社団法人山梨県土地改良協会峡東支部
(ア) 事務所等
社団法人山梨県土地改良協会峡東支部(以下「土地協会峡東支部」という。)は,山梨県笛吹市石和町広瀬765番地に所在する山梨県建設業協会石和支部会館内に事務所を置いていた(査8,9,104)。
(イ) 会員及び事業
社団法人山梨県土地改良協会の定款及び土地協会峡東支部の規約によれば,土地協会峡東支部は,峡東農務事務所管内に本店を置く建設事業者を会員とし,土地改良事業に関する資料,情報及び統計の収集並びに頒布,関係団体との連絡,交渉及び提携等の事業を行うものとされていた。
28社は遅くとも平成18年4月以降に,奥山建設は平成20年5月頃以降に,藤プラント建設は平成21年4月頃に,それぞれ土地協会峡東支部の会員となっていた。(査7ないし11,81)
(ウ) 役員
土地協会峡東支部では,支部長,副支部長及び理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,支部長及び副支部長は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた(以下,支部長及び副支部長のうち塩山地区に本店を置く事業者の役員又は従業員をまとめて「土地協会峡東支部の執行部」という。)。
平成18年度の支部長は内田組の《C1》社長,副支部長は石和地区に本店を置く《株式会社H》の《氏名略》社長,同地区に本店を置く《株式会社I》の《氏名略》社長及び岩波建設の《A》社長であった。また,平成19年度ないし平成21年度の支部長は石和地区に本店を置く《J株式会社》の《氏名略》社長,副支部長は塩山地区に本店を置くC等級業者である《K株式会社》の《K1》社長(以下「《K株式会社》の《K1》社長」という。)及び天川工業の《M1》社長であった。(査8ないし10)
ウ 塩山地区治山林道協会
(ア) 事務所等
塩山地区治山林道協会(以下「塩山治山協会」といい,塩山支部及び土地協会峡東支部と併せて「塩山支部等」という。)は,社団法人山梨県治山林道協会の地区協会であり,塩山支部会館内に事務所を置いていた(査12ないし15,103,104)。
(イ) 会員及び事業
社団法人山梨県治山林道協会の定款及び塩山治山協会の規約によれば,塩山治山協会は,峡東林務環境事務所管内に本店を置く建設事業者を会員とし,治山事業並びに林道事業に関する資料,情報及び統計の収集頒布,官庁その他関係団体並びに機関との連絡交渉及び提携等の事業を行うものとされていた。
28社は,遅くとも平成18年4月以降に,塩山治山協会の会員となっていた。(査12ないし16)
(ウ) 役員
塩山治山協会では,会長,副会長,理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,会長及び副会長は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた(以下,会長及び副会長のうち塩山地区に本店を置く事業者の役員又は従業員をまとめて「塩山治山協会の執行部」といい,塩山支部の執行部及び土地協会峡東支部の執行部と併せて「塩山支部等の執行部」という。)。
平成18年度の会長は廣川工業所の《B》社長,副会長は甲信建設の《L1》社長,天川工業の《M1》社長及び石和地区に本店を置く《N株式会社》(平成19年2月19日に商号を株式会社《名称略》に変更した。)の《N1》社長(ただし,任期途中で石和地区に本店を置く《株式会社O》の《O1》社長に交代した。)であった。また,平成19年度ないし21年度の会長は甲信建設の《L1》社長,副会長は野澤工業の《P》社長及び上記《株式会社O》の《O1》社長であった。(査12ないし14)
(エ) 職員
塩山治山協会は,事務員として《Q》(以下「《Q》事務員」といい,同事務員と《G》事務員を併せて「塩山支部等の事務員」という。)を雇用しており,同事務員は塩山支部会館において勤務していた(査104)。
⑷ 被告による立入検査
被告は,平成22年3月24日,本件について独占禁止法47条1項4号の規定に基づく立入検査(以下「本件立入検査」という。)を行った。
⑸ 本件各命令
被告は,平成23年4月15日,本件各命令を発令した。本件排除措置命令書における「本件合意」の記載は,別紙9に記載のとおりであり,本件各課徴金納付命令書には本件排除措置命令書の写しが添付されている。
第3 本件審判手続における争点並びに本件審決の認定及び判断
1 争点
⑴ 30社が本件合意をしていたか否か
⑵ 本件合意が,独占禁止法2条6項の「不当な取引制限」に該当するか否か
⑶ 23社が受注した別紙8記載のものを含む各工事は,独占禁止法7条の2第1項の「当該商品又は役務」(以下「当該役務」という。)に該当するか否か
⑷ 本件立入検査後に契約が締結された工事の対価は,本件違反行為の実行期間における売上高に含まれるか否か
⑸ 受注者が工事を中止したことにより,本件違反行為の実行期間後に工事代金が出来高に応じて減額された場合,減額後の金額が課微金算定の基礎となるか否か
⑹ 本件各命令発出手続の適法性
2 上記各争点に対する本件審決の判断及び判断の基礎とされた証拠
⑴ 上記争点⑴(30社が,本件合意をしていたか否か)についての判断
ア 本件審決が認定した事実
(ア) 塩山支部に対する平成6年の勧告審決後の状況
山梨県では,平成17年度頃までは,指名競争入札の方法により土木一式工事を発注することが多かったところ,塩山地区の建設事業者は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決を受けたにもかかわらず,再び受注調整を行うようになり,塩山地区を施工場所とする土木一式工事の指名を受けると塩山支部会館に集まり,受注を希望する者は塩山支部等の執行部に対して受注希望を表明し,塩山支部等の執行部を交えて受注希望者同士で話合いを行うなどして受注予定者を決め,受注予定者は,他の指名事業者に対して受注に協力するように依頼し,他の指名事業者は,受注予定者よりも高い金額で入札するなどして,受注予定者が受注できるように協力し合っていた(査47,55,74,84,94,99)。
(イ) 本件合意に基づく受注調整の方法及びその実施状況
a 入札参加者の情報集約
30社は,平成18年4月1日以降(ただし,原告については,平成19年5月15日以降。以下同じ。),一般競争入札の方法により発注される塩山地区特定土木一式工事の入札に参加しようとする場合には,入札公告が行われた日から数日のうちに,当該工事の入札に参加する旨を当該工事の前記2の2⑵ア記載の発注担当部署の区分に応じて,塩山支部等の執行部又は塩山支部等の事務員に連絡していた。30社は,基本的にはポータルサイトに公表される入札公告を印刷したものに自社名を記載したものを塩山支部会館に持参するか,又はファクシミリにより送信する方法によって入札に参加する旨を連絡していたが,塩山支部等の執行部又は塩山支部等の事務員に対して,電話又は直接口頭で参加する旨を伝える場合もあった。
また,塩山地区特定土木一式工事が指名競争入札の方法により発注される場合においても,30社は,当該入札に指名された場合には,発注担当部署から送付される指名通知書の写しに自社名を記載したものを塩山支部会館に持参することにより,その旨を連絡していた。
なお,このような塩山支部等への連絡は,塩山支部等の会員だけが行っていたわけではなく,藤プラント建設及び奥山建設は,塩山支部等の会員ではなかった時も,30社中のその他の事業者と同様に,塩山地区特定土木一式工事の入札に参加しようとする場合又は指名を受けた場合には,塩山支部等へ連絡していた。
塩山支部等では,上記連絡を受けると,峡東建設事務所等の発注物件については《G》事務員が,峡東農政事務所の発注物件及び峡東林務環境事務所の発注物件については《Q》事務員が,ポータルサイトに掲載された入札公告に基づき,パソコン上で,その工事名,予定価格等の情報を入力して,入札参加者を記載する欄を設けた表を作成し,それを印刷したものに,入札に参加する旨連絡してきた事業者名又は指名通知書の写しに基づき指名事業者名等の社名のスタンプを押すなどした上,入札参加申請後に山梨県から送付される競争参加資格確認通知書の通知番号を追記した入札参加取りまとめ表(以下「入札参加取りまとめ表」という。)を作成していた。そして,塩山支部等の事務員は,当該工事の落札者決定後は,塩山支部等の執行部の指示により,入札参加者取りまとめ表をシュレッダーにかけるなどして廃棄していた。
30社は,このように作成された入札参加者取りまとめ表を閲覧したり,塩山支部等の事務員に確認するなどして,あらかじめ当該工事の入札参加者を把握していた。(査39ないし45,47,50ないし52,54,57,58,63,64,66,70ないし72,77,79,83,85,87,88,90,98ないし109)
b 受注予定者の決定方法
30社は,平成18年4月1日以降,上記のとおり,あらかじめ当該工事の入札参加者を把握していたところ,塩山地区特定土木一式工事の受注を希望する場合には,入札公告が行われてから数日の間に,峡東建設事務所発注物件については塩山支部の執行部に,峡東農政事務所発注物件については土地協会峡東支部の執行部に,峡東林務環境事務所発注物件については塩山治山協会の執行部に,それぞれ当該工事の受注を希望する旨を表明していた。また,30社の中には,入札参加又は指名の連絡と同時に受注希望を表明する者や,他の入札参加者に直接受注希望を表明する者もいた。
そして,30社は,自社が受注を希望する場合には,塩山支部等の執行部や塩山支部等の事務員の問い合わせ又は個別に入札参加者と連絡を取るなどして,他社の受注希望の有無を確認し,受注希望者が1社のときは当該受注希望者が受注予定者となり,受注希望者が複数のときは受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定していた。
30社の代表者等は,頻繁に塩山支部会館に出入りしていたため,各社の代表者同士が顔を合わせる機会が多く,そのような機会を利用して,受注調整に関する情報交換や話合いを行っていた。
受注希望者間の話合いに際しては,工事ごとに,各受注希望者が,地域性,継続性等の自社が受注予定者たり得る理由を主張し合い,互いの主張や塩山支部等の執行部の助言を勘案して,受注予定者を決定していた。
また,30社は,前記2の2⑵ア記載の発注担当部署の区分に対応した塩山支部等の執行部を交えて,受注予定者を決める話合いのため,「調整会議」と称する会合等(以下「調整会議等」という。)を開催する場合もあった。
このような受注希望者間での話合いや調整会議等は,入札公告が行われた日から土日祝日を除いて数日後(そのほとんどは3日後)の午前10時頃から塩山支部会館において行われることが多かった。
30社は,自社が入札に参加する工事や受注を希望する工事であっても,情報交換等によって他の受注希望者を確認する中で,地域性,継続性等の事情が他の受注希望者よりも弱く,自社が受注予定者となることが困難と思われる工事にあっては,受注希望の表明や話合いへの参加をすることなく,他の受注希望者の受注に協力する場合もあった。(査39ないし43,47,48,54ないし59,62,64,65,67ないし74,76ないし79,82ないし86,93,97,99,101,104,105,177)
c 入札価格等の連絡
上記bの方法によって受注予定者となった者は,他の入札参加者に対し,自社が受注予定者である旨を連絡するとともに,他の入札参加者が入札すべき価格又は入札率や自社が入札する価格又は入札率を連絡していた。他の入札参加者は,こうした価格等の連絡を受け,受注予定者よりも高い価格で入札するなどして,受注予定者が受注できるように協力していた。
なお,工事によっては価格連絡を行わない受注予定者もいたが,そのような場合であっても,他の入札参加者は,予定価格に極めて近い価格で入札し,受注予定者が受注できるように協力していた。(査54,55,57ないし59,64,70,75ないし77,82,84,85,88,99,101)
d 総合評価落札方式の工事の場合の協力
前記2の2⑵ウ(ウ)のとおり,総合評価落札方式の工事における評価項目のうち,「企業の施工実績」,「地域密着度」及び「地域貢献度」は,いずれも客観的なデータに基づいて算定されるものであり,入札参加者が山梨県所定の様式で作成,記載して提出した資料に基づいて点数化されることが,総合評価実施要領で公表されていた。そのため,30社は,過去の入札結果等により,各入札参加者の評価点を予想することが可能であった。
評価項目のうち「配置予定技術者の能力」も,総合評価実施要領に基づき客観的なデータが点数化されるものであるため,少なくとも,入札参加者において自社の評価点を予想することは可能であった。
評価項目のうち「施工計画」については,上記「企業の施工実績」等と異なり,総合評価実施要領に基づき客観的なデータが点数化されるものではなく,評価が発注者の裁量に委ねられるものであるため,正確に評価点を予想することはできなかったが,0点,5点又は10点と3段階で配点されていたこともあり,少なくとも,入札参加者において,自社の作成した施工計画書の内容から自社の評価点の高低をある程度予想することは可能であった。
このような状況の下で,30社は,互いの評価点を予想し,又は連絡し合い,受注予定者以外の者は,入札を辞退し,又は高い入札価格で入札するほか,評価点の低い配置予定技術者を配置する,簡易な内容の施工計画書を提出する,受注予定者との間で施工計画書をやり取りして内容を確認するなどして,総合評価落札方式の工事の入札においても,受注予定者を決定し,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力し合っていた。(査30ないし32,52,53,60,68,69,73,76,80,86,87,90,97,99,169,171,184,193,194,196,212,217,218)
e 塩山支部等の役員会における協議
(a) 平成19年5月11日の役員会における廣川工業所の《B》社長の提案
塩山支部は,平成19年5月11日,山梨県笛吹市 に所在する旅館「《旅館名略》」において,同支部の月例役員会(以下「平成19年5月11日の役員会」という。)を開催した。同役員会には,塩山支部長である廣川工業の《B》社長,同副支部長であるタナベエンジニアリングの《D》社長及び植野興業の《E》社長,同理事である大和工務店の《F》社長,天川工業の《M1》社長,天川組の《S1》社長,岩波建設の《A》社長,髙野建設の《T》社長,内田組の《C1》社長,甲信建設の《L1》社長,《K株式会社》の《K1》社長及び坂本組の《U1》社長(以下「坂本組の《U1》社長」という。),同監事である山梨建設の《R》社長ら15名が出席した。
同役員会において,廣川工業所の《B》社長は,他の出席者に対し,本件合意に基づいて受注調整が行われているが被告等の外部に漏れることを防ぐため,今後は調整会議等の受注調整のための話合いの出席者を各社の社長又はその兄弟若しくは息子に限定する旨を提案した。
また,同月14日に塩山支部会館において開催された塩山支部の会員が出席する月例総会においても,廣川工業所の《B》社長が同様の提案をした。
しかし,これらの会合において,坂本組の《U1》社長が,それまで同社において受注調整のための話合いに出席していた同社の取締役社長代理である《U2》は同社長と血縁関係になく,同社長には他に受注調整のための話合いに出席させることのできる兄弟又は息子がいないことを理由に,上記提案に強く反対したため,上記提案に関する結論は出なかった。(査43,92,99,110ないし114)
(b) 平成19年6月13日の役員会におけるルールの確認
平成19年6月13日の塩山支部の月例役員会(以下「平成19年6月13日の役員会」という。)において,出席者の間で,塩山地区特定土木一式工事の入札に参加しようとする場合には,入札公告が行われた日の翌日までに,当該工事の入札に参加する旨を塩山支部等の執行部又は塩山支部等の事務員に連絡するとともに,当該工事の受注を希望する場合には,原則として,入札公告が行われた日から土日祝日を除いて数日後の午前10時に塩山支部会館に出向き,塩山支部等の執行部に当該工事の受注を希望する旨を伝えることを確認した。
その後,上記確認事項は,甲斐建設や藤プラント建設など,役員以外の塩山支部の会員にも伝えられた。(査39ないし43,47ないし49,72,99,100,115ないし117)
(ウ) 個別工事における受注調整
本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事である316物件のうち,入札参加者が30社のうち1社又は1JVのみであった物件68,162,165及び252(これらを総称して,以下「4物件」という。)を除く312物件(以下「312物件」という。)を見れば,少なくとも別紙5の「別紙6」の欄に「○」の付された44件(以下「44物件」という。)については,本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことを裏付ける電子メールやメモなどの客観的証拠等が存在する。
また,少なくとも別紙5の「別紙7」の欄に「○」の付された60件(以下「60物件」という。)についても,入札参加者が塩山支部等に対して当該工事の入札に参加する旨を届け出て,同支部等において入札参加者取りまとめ表を作成するなど,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことを裏付ける客観的証拠がある。
(エ) 本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事の落札率
本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事である316物件のうち,4物件を除く312物件は,いずれも30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注しているところ,その落札率は,いずれの入札方法においても97%台に集中しており,落札率の平均は96.3%であった(査18)。
イ 本件審決の判断
(ア) 前記ア(ア)のとおり,山梨県では,平成17年度頃までは指名競争入札の方法により土木一式工事を発注することが多かったが,30社を含む塩山地区の建設事業者は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決以降も,塩山地区を施工場所とする土木一式工事の指名競争入札において受注調整を行うなど,協調関係にあったことが認められる。
また,山梨県では,平成18年度頃から一般競争入札の方法により土木一式工事を発注することが増え,平成19年度頃からは,一殻競争入札の方法により発注する土木一式工事の一部について総合評価落札方式を導入したが(別紙5,査18),前記ア(イ)のとおり,30社は,平成18年4月1日以降も,これらの塩山地区に係る土木一式工事について,塩山支部等において入札参加情報を集約し,受注希望者が1社又は1JVの場合はその者又はJVを受注予定者とし,受注希望者が複数の場合は地域性,継続性を勘案して受注希望者間の話合い等により受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力していたことが認められる。
さらに,上記ア(ウ)のとおり,本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事である312物件のうち,少なくとも44物件について本件合意の内容に沿った受注調整が行われたこと,60物件について本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことが客観的な証拠によって認められる。
これらの工事の発注方法は,指名競争入札,通常の一般競争入札,総合評価落札方式による一般競争入札のいずれも含んでおり,発注部署をみても,山梨県県土整備部等,峡東農務事務所及び峡東林務環境事務所のいずれも含まれ,工事の内容も,土木工事,林務工事,農務工事に及び,発注時期も本件対象行為の全般にわたっている。
加えて,前記ア(エ)のとおり,312物件は,いずれも30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注したものであり,312物件の平均落札率も96.3%という相当高いものであったことが認められる。
以上の事情に鑑みれば,30社のうち原告を除く29社は,遅くとも平成18年4月1日までに,塩山地区特定土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るために本件合意をし,原告は,遅くとも平成19年5月15日までに本件合意に参加したこと,30社は,遅くとも平成18年4月1日以降,本件合意に基づいて受注調整を行っていたことが認められる。
(イ) 原告は,同社が遅くとも平成19年5月15日までに本件合意に参加した事実はない旨主張し,原告の《AD》社長の代表者審尋における陳述(審E2及び審E8の陳述書を含む。以下同じ。)中には,これに沿う部分がある。
しかし,原告は,遅くとも平成18年4月以降,塩山支部等に加盟しており,平成18年度はC等級業者であったために塩山地区特定土木一式工事の入札に参加できなかったが,平成19年度からはB等級業者になったために同工事の入札に参加する資格を得ていたこと(査1),別紙6の3項⑹記載のとおり,平成19年4月19日に入札公告が行われた物件81について,他の入札参加者の協力を得て同工事を受注し,別紙7の8項記載のとおり,同日に入札公告が行われた物件84について,落札者である大和建設との間で入札に関する資料をファクシミリで送受信していること,原告が本件対象期間に受注した塩山地区特定土木一式工事のうち,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことが認められる工事が相当数存在すること(別紙6の2項⑵及び⑸記載の各工事並びに別紙7の1項記載の物件116)が認められる。
これらの事実からすると,原告は遅くとも物件81の入札書受付開始日である平成19年5月15日(査107の1)以降,本件合意に参加していたと認められる。
⑵ 上記争点⑵(本件合意が,独占禁止法2条6項の「不当な取引制限」に該当するか否か)についての判断
本件合意は,30社が,塩山地区特定土木一式工事について,話合い等によって受注予定者をあらかじめ決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力するという内容の取決めであり,入札参加者は,本来的には自由に入札価格を決めることができるはずのところを,このような取決めがされたときは,これに制約されて意思決定を行うことになるという意味において,その事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかである。本件合意は,独占禁止法2条6項にいう「その事業活動を拘束し」の要件を充足する。そして,本件合意の成立により,30社の間に,上記取決めに基づいた行動をとることを互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから,本件合意は,独占禁止法2条6項にいう「共同して対価を決定し…制限する等相互に」の要件も充足する。
また,同項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件合意のような一定の入札市場における受注調整を行うことを取り決める行為によって競争制限が行われる場合には,当該取決めによって,その当事者である事業者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうものと解される。
本件合意の当事者及びその対象となった工事の規模,内容によれば,本件合意は,それによって上記の状態をもたらし得るものであったといえる。しかも,前記第2の2⑵ウ及び第3の2⑴アのとおり,①本件対象期間中に発注された塩山地区特定土木一式工事のうち,指名競争入札の方法により発注された工事はほとんど全てにおいて30社の中から当該入札の参加者が指名され,一般競争入札の方法により発注された工事でも,そのほとんどにおいて30社又は30社のいずれかで構成されるJVのみが入札に参加していたこと,②本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事の全てを,30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注しており,その平均落札率も96%を超える相当高いものであること,③実際に本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事の中に,30社が本件合意の内容に沿った受注調整を行ったこと,又は本件合意内容に沿った受注調整に関わる行為を行ったことを裏付ける客観的な証拠が存在する工事が多数あることなどからすると,本件合意は,本件対象期間中,塩山地区特定土木一式工事に係る入札市場において,事実上の拘束力をもって有効に機能し,上記状態をもたらしていたものといえる。
したがって,本件合意は,独占禁止法2条6項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものに当たるとともに,「公共の利益に反して」の要件を充足するものであることも明らかである。
以上によれば,本件合意は,同項による不当な取引制限に該当する。
⑶ 上記争点⑶(23社が受注した別紙8記載のものを含む各工事は,独占禁止法7条の2第1項の当該役務に該当するか否か)についての判断
不当な取引制限等の摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,不当な取引制限等の予防効果を強化することを目的とする課徴金制度の趣旨に鑑みると,当該役務とは,本件合意の対象とされた工事のうち,本件合意に基づく受注調整の結果,具体的競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解される。
30社は,前記⑴説示のとおり,平成18年4月1日以降,塩山地区特定土木一式工事について,受注価格の低落防止のため,本件合意の下,受注調整を行っていたものである。
本件においては,次の①ないし⑤の各事情が認められることから,30社のうちいずれかが入札に参加して受注した塩山地区特定土木一式工事については,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情がない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当である(以下「本件推認」という。)。
① 30社は,塩山支部等において,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるよう協力し合っていたものであり,受注調整を組織的に行っていた。
② 30社は,塩山地区特定土木一式工事の全てを対象に受注調整を行うことが容易な立場にあり,実際に,本件対象期間に発注された塩山地区特定土木一式工事の全てを,30社又は30社のいずれかで構成されるJVが受注しており,その平均落札率も96%を超える相当高いものであった(前記⑴ア(エ))。
③ 312物件のうち,別紙6及び同7記載の合計104件の工事について,30社が本件合意の内容に沿った受注調整を行ったこと,又は本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為を行ったことが認められ(前記⑴ア(ウ)),これらの工事は,発注方法,発注担当部署,工事内容及び発注時期において特段の隔たりは見られない。
④ 30社の代表者のうち,本件合意への参加を認める旨の供述をする者は約半数いるが,これらの者の中に塩山地区特定土木一式工事に該当する特定の工事について本件合意に基づく受注調整が行われなかった旨を供述している者はいない。
⑤ 本件合意の目的が受注価格の低落防止にあることに照らすと,塩山地区特定土木一式工事の全てを受注調整の対象とするのが合理的である。
⑷ 上記争点⑷(本件立入検査後に契約が締結された工事の対価は,本件違反行為の実行期間における売上額に含まれるか)についての判断
独占禁止法7条の2第1項にいう「実行期間」とは,違反行為の対象となった商品又は役務に係る売上額を算定するための基準であるところ,①上記条項は,「実行としての事業活動がなくなる日」を定めて,違反行為の終了日と明確に区別して規定していること,②仮に,違反行為の終了時をもって実行期間終了日と解した場合,違反行為終了後に発生した違反行為による売上げを一律に課徴金の対象から除外することとなり,適切でないこと,③売上額の確定に係る実行期間を違反行為者間で同時期とすべきものとも解されないことから,同項にいう「実行としての事業活動がなくなる日」とは,違反行為の終了日ではなく,違反行為者につき,それぞれ違反行為に係る事業活動が終了したと認められる日と解すべきである。
また,契約が締結されれば,当該契約に基づく対価に係る債権債務関係が発生するのが通常であることから,独占禁止法施行令6条の基準が適用される場合において,違反行為終了前に受注調整に係る入札が行われて受注予定者が落札し,違反行為終了後に当該契約を締結した時には,契約締結時をもって違反行為に係る事業活動の終了日,すなわち「実行としての事業活動がなくなる日」と解し,当該契約によって発生した対価を課徴金算定の基礎とするのが相当である。
したがって,本件立入検査後に契約が締結された工事の対価は,本件違反行為の実行期間における売上額に含まれる。
⑸ 争点⑸(受注者が工事を中止したことにより,本件違反行為の実行期間後に工事代金が出来高に応じて減額された場合,減額後の金額が課徴金算定の基礎となるか否か)についての判断
独占禁止法7条の2の課徴金制度の趣旨から,独占禁止法施行令6条は,「実行期間において締結した契約により定められた…対価の額」をもって独占禁止法第7条の2の売上額を算定するものと規定しているところ,実行期間において一旦有効に契約が成立した以上,そこに定められた請負代金額をもって上記売上額を算定すべきであり,仮に,実行期間の終期において,当該工事の出来高が客観的に確定していたとしても,この出来高によることはできず,その後の契約変更による請負代金額の増減についても,実行期間経過後の変更契約についてはこれを考慮することはできないものと解すべきである。
⑹ 争点⑹(本件各命令発出手続の適法性)について
ア 本件各命令書の記載について
(ア) 独占禁止法49条1項が排除措置命令書に「公正取引委員会の認定した事実」を付記すべきとしているのは,排除措置命令が,その名宛人に対して当該命令の主文に従った排除措置の履行義務を課すなど,名宛人の事業活動の自由等を制限するものであることに鑑み,被告の判断の慎重さと合理性を担保してその恣意性を抑制するとともに,排除措置命令の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるためのものと解される。
このような排除措置命令の性質及び理由付記を命じた趣旨・目的に鑑みれば,排除措置命令書に記載すべき「事実」とは,違反行為に関する認定事実のほか,いかなる事実関係に基づき排除措置が命じられたのかを,名宛人においてその記載内容自体から了知し得るものでなければならない。
(イ) これを本件についてみるに,本件排除措置命令書には,本件合意が存在するに至った時期,内容,行為者等のほか,本件合意に基づいて30社によって行われていた行為が具体的に記載されているところ,かかる記載から,22社が具体的にいかなる行為を行ったために本件排除措置命令を発せられたのかを了知することは可能であり,同命令に対する不服申立てに十分な便宜を与える程度に記載されていると認められる。
なお,本件排除措置命令書には,本件合意の成立した日時,場所及び方法に関する記載はないが,不当な取引制限における合意の形成過程について,日時,場所等をもって具体的に特定することまでを要するものではない。
以上のとおり,本件排除措置命令書における「公正取引委員会の認定した事実」の記載は独占禁止法49条1項に違反するものでなく,本件各課徴金納付命令書における「課徴金に係る違反行為」の記載も同法50条1項に違反するものではない。
イ 本件各命令の事前説明手続
被告が事前説明手続において証拠の閲覧,謄写に応じなかったとしても,かかる行為は違法ではなく,意見具申期間が短かったともいえない。
⑺ 本件審決の結論
ア 本件排除措置命令について
30社は,共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,塩山地区特定土木一式工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは独占禁止法2条6項の規定する不当な取引制限に該当し,同法3条に反するものと認められる。
また,本件違反行為は既に消滅しているが,本件違反行為は長期間にわたり行われていたこと,22社の大部分は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決に伴い課徴金納付命令を受けたにもかかわらず,再度同様の違反行為をしていたこと,22社は自主的に本件違反行為を取りやめたものではないこと等の事情が認められ,これらの事情を総合的に勘案すれば,本件排除措置命令の時点において22社は本件違反行為と同様の行為を繰り返すおそれがあったと認められ,特に排除措置を命じる必要がある(独占禁止法7条2項)ことは明らかである。
イ 本件各課徴金納付命令
本件違反行為が独占禁止法7条の2第1項1号に規定する当該役務の対価に関わるものであることは,本件合意の内容から明らかである。
ウ 原告に対する課徴金の計算の基礎となる事実
(ア) 事業者
23社は,いずれも塩山地区特定土木一式工事を請け負う事業を営んでいたものである。
(イ) 実行期間
原告が本件違反行為の実行として事業活動を行った日は,原告が本件違反行為に基づき最初に参加した塩山地区特定土木一式工事の入札に係る物件81の入札書受付開始日である平成19年5月15日であると認められる。また,原告は,平成22年3月24日以降,本件違反行為を行っていないが,同日前に行われた一般競争入札に基づく最後の契約を同月30日に締結していることから,本件違反行為の実行としての事業活動がなくなる日は同日であると認められる。
したがって,原告については,独占禁止法7条の2第1項の規定により,実行期間は平成19年5月15日から平成22年3月30日までとなる。
(ウ) 売上額
原告の前記(イ)の実行期間における塩山地区特定土木一式工事に係る売上額を独占禁止法施行令6条1項及び2項の規定に基づき算定すると,各工事の対価の額は別紙8-15の「4 対象物件一覧」中の「課徴金算定の基礎となる売上額(円)」欄記載の金額となり,また,原告の各工事の売上額の総額は同別紙の「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」記載の金額となる。
(エ) 算定率
原告は,前記(イ)の実行期間を通じ,資本金の額が3億円以下の会社であって,建設業に属する事業を主たる事業として営んでいた者である。
したがって,原告は,独占禁止法7条の2第5項1号に該当する事業者である。
(オ) 課徴金の額
以上によれば,原告が国庫に納付すべき課徴金の額は,独占禁止法7条の2第1項及び第5項の規定により,別紙8-15の「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」記載の金額に100分の4を乗じて得た額から,同条23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された,同別紙の「3 課徴金額」記載の金額である1434万円となる。
第4 本訴における争点及び当事者の主張
1 本訴における争点
⑴ 本件合意の存在について実質的証拠があるか
⑵ 原告が本件合意に中途参加したことが具体的に立証されているか
⑶ 本件合意が独占禁止法2条6項の「不当な取引制限」に該当するか
⑷ 原告が受注した別紙8-15記載の各工事が同法7条の2第1項の当該役務に該当することについて実質的証拠があるか
⑸ 本件立入検査後に契約が締結された工事の対価は,本件違反行為の実行期間における売上高に含まれるか
⑹ 本件各命令の発出手続は適法か
2 前提としての被告の主張
前記第3の2イのとおり,本件審判手続における争点に開し,本件審決は,⑴30社は,本件合意をしたものであり,⑵本件合意は「不当な取引制限」に該当し,⑶23社が受注した工事は当該役務に該当し,⑷本件立入検査後に契約が締結された工事の対価は,本件違反行為の実行期間の売上高に含まれ(⑸については,原告に関係する争点でないため記載を省略),⑹本件各命令の発出手続は適法である旨の認定判断をした。これらの認定判断については,いずれも本件審決掲記の証拠によって合理的に認定判断することができるもので,これらを立証する実質的な証拠に基づくものである。
3 争点⑴(本件合意の存在について実質的証拠があるか)
⑴ 原告の主張
ア 塩山支部に対する平成6年の勧告審決後の状況について
塩山支部に対する平成6年勧告審決後の状況について本件審決がした事実認定は,具体的な証拠に基づかない抽象的な内容の供述調書に依拠しているにすぎず,上記勧告審決以降,受注調整が行われていたことを示す客観的な証拠はなく,本件審決は証拠の評価を誤っている。
イ 本件合意に基づく受注調整の方法及び実施状況について
本件合意に基づく受注調整の方法及びその実施状況について,本件審決がした事実認定には,次に述べるような点において問題があり,実質的な証拠に基づく認定がされているとはいえない。
(ア) 情報集約は1社入札を防止するためである
塩山支部等で入札参加情報を集約していたのは,1社入札防止のためであり,一般にも「全国知事会の調査では,競争性を十分に確保できないとして,10年(2010年=平成22年)時点で47都道府県の約2割が1者入札を無効にしていた。」と新聞報道されているのであるから(審E9),塩山支部等の役員が自発的に1社入札防止のために入札参加情報を集約することは十分にあり得ることである。
(イ) 供述調書が証拠とならないこと
本件審決は,30社の代表者の供述を中心的な証拠として,受注予定者の決定方法・入札価格等の連絡・塩山支部の役員会における協議などの事実を認定しているが,これらの供述調書は,証拠を添付した形式で,具体的な証拠に基づく供述調書となっていない。上記の供述のうち,証拠を添付した形式で,具体的な証拠に基づく供述調書となっているのは,宮原土建の《AH》社長の供述調書(査98)のみであるところ,同供述調書が信用できないことは原告の《AD》社長が審判廷で陳述したとおりであり,これを含めいずれの供述調書においても,原告が本件合意に中途参加したとは記載されておらず,また,原告の名前が挙がっている甲信建設の《L1》社長の供述調書(査64)を見ても,同人と原告の《AD》社長が義理の従兄弟関係にあることから,「普段から深い付き合いのある会社」として名前が挙げられているにすぎず,原告が本件合意に中途参加したことは記載されていない。
(ウ) 《AD》社長の供述調書(査67ないし69)
《AD》社長の供述調書(査67ないし69)は,「地域性,継続性」のある業者は「地域性,継続性」のない業者よりも入札において有利な立場にあるという趣旨を述べているにすぎないものであり,「自白調書」ではない。もともと「地域性,継続性」は,自由な競争が行われている入札において,業者がより有利な積算を行うことのできる経済合理性のある事情であって,上記のような趣旨を述べたとしても,これが「本件合意」や「本件合意」に基づく受注調整を立証するものではない。
(エ) 平成19年5月11日の役員会
平成19年5月11日の役員会における《B》社長の発言を認定するための客観的な証拠とされる《B》社長のメモ(査113)は,「仕事に関する会議は本人以外認めない ただし親子は認める」というものにすぎず,そこで使用されている「仕事」という言葉の意味は多義的で曖昧であり,審判廷で《B》社長自身が,本件審決で認定するような意味であることを否定しており,上記のメモから本件審決で認定するような事実を認めることはできない。
また,原告は,《AD》社長が審判廷で述べているように,平成19年5月11日の役員会があったことすら知らなかったのであるから,原告との関係では,「本件合意」の存在を推認させる事情とはなり得ない。
(オ) 平成19年6月13日の役員会
平成19年6月13日の役員会において入札参加の情報集約に関するルールが確認されたとしても,これは,1社入札防止のためであり,このことから「本件合意」の存在を認定することはできない。
また,原告は,平成19年6月13日の役員会についても,《AD》社長が審判廷で述べるように,会合があったことすら知らなかったのであるから,原告との関係では,「本件合意」の存在を推認させる事情とはなり得ない。
ウ 個別の受注調整について
本件審決は,「44物件」について「本件合意」に沿った受注調整が行われ,「60物件」について「本件合意」に沿った受注調整に関わる行為が行われたとして,「本件合意」を認める根拠としている。しかし,本件審決は,「44物件」の1つである物件81に関する証拠である原告事務所から押収した原告の会社名が押印された入札公告(査107の1)について,これを原告がファクシミリで塩山支部等に送信したと認定して受注調整の客観的な証拠と評価しているが,誤っている。
また,「60物件」の1つである物件84について,大和開発から原告に送信されたファクシミリ(査132)は入札に関する情報ではなく,入札に関する一般的な情報を教えてもらったにすぎず,このことから受注調整に関する行為が行われたと認定することも誤りである。なお,物件116にも,上記物件81と同様の証拠評価の誤りがある。
「44物件」及び「60物件」に関しては,上記のような誤りがあり,これを受注調整が行われたことの根拠とすることはできない。
エ 落札率について
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事について,ごく一部の工事を除き,入札公告時に又は指名通知時に予定価格を公表していたのであって,本件において入札参加者は予定価格を入札前に知ることができたのであるから,平均落札率が96.3%と相当高いことをもって「本件合意」の存在を基礎づける事情と位置付けるのは誤りである。
⑵ 被告の反論
ア 原告の上記主張は,いずれも理由がない。特に,原告は,本件審決が認定に供した30社の代表者等の各供述調書における供述について,抽象的であるとか,具体的な証拠に基づくものでないなどと主張しているが,これらの内容は具体的なもので,相互に一致しており,また,他の供述調書や客観的証拠とも整合しており,信用性の高いものである。
イ 本件における情報集約が受注調整のためであることは,本件審決が認定するとおりである。仮に,30社や塩山支部等が1社入札の問題性を意識していたとしても,そのことは,集約した情報を受注調整に利用していた事実を何ら否定しない。
ウ 本件審決が,平成19年5月11日の役員会及び平成19年6月13日の役員会について認定した事実は,実質的証拠に基づく合理的なものである。原告がこれらの事実を知らされていなかったとしても,そのことは,本件審決の認定を左右するものではない。
エ 物件81について本件合意の内容に沿った受注調整が行われたこと,物件84及び物件116について本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことが客観的証拠によって認められることは,本件審決が正しく認定・判断したとおりである。
オ 本件審決は,平均落札率が高いことのみをもって本件合意の存在を認定したものではない。他の証拠や間接事実と併せて,平均落札率が高いことを認定根拠の一つとしたことは誤りでなく,また,以上のことは予定価格の公表の有無に関わるものではない。
4 争点⑵(原告が,本件合意に中途参加したことが実質的証拠をもって具体的に立証されているか)について(原告のみの争点)
⑴ 原告の主張
本件審決は,原告が遅くとも平成19年5月15日までに本件合意に参加し,別紙8-15記載の各工事について,本件合意に基づいて受注調整を行っていたと認定判断するが,入札参加者が多いことや倒産した事業者が入札に参加していたこと,工事について地域性,継続性が認められることなどからすると,原告が上記の各物件を受注したのは,自由で自主的な競争の結果であって,本件審決の上記の認定判断は全くの誤りである。
そもそも被告は,原告が「本件合意」に中途参加した事実を厳格に立証しなければならない責任を負っているのであって,本件審決は,この点,いくつかの証拠や間接事実を挙げて,原告が「本件合意」に中途参加した疑いがあることを立証したにすぎない。また,被告は「原告が本件合意に遅くとも平成19年5月15日までに中途参加した」という時的要素を証明できていない。原告が塩山支部に加盟したことや平成19年度からB等級業者になったことなどは,「本件合意」に中途参加した事実を認定するための間接事実とはならない。さらに,44物件のうち物件214については,受注調整がされたことが客観的証拠によって裏付けられているとしても,被告が主張している本件合意に中途参加した年月日である「平成19年5月15日」より1年7か月以上後の出来事であって,これも「本件合意」に中途参加した事実を認定するための間接事実とはならない。
⑵ 被告の反論
原告が主張する事実は,いずれも別紙8-15記載の各工事について,自由で自主的な競争が行われたことを根拠づけるものではない。また,原告が本件合意に中途参加したことを認定するためには,原告が本件合意に参加した過程について,日時,場所等をもって具体的に特定することまでを要するものではない。
5 争点⑶(本件合意が独占禁止法2条6項の「不当な取引制限」に該当するか)について
⑴ 原告の主張
本件審決は,一定の取引分野について塩山地区特定土木一式工事の取引分野とするが,本件の取引実態からすれば,土木工事,林務工事,農務工事の3種類の工事は,それぞれ①発注担当部署,所管官庁が異なること,②工事内容が異なること,③得意とする事業者が別個に存在していること,④事業者団体が別個に存在していること等から,それぞれ異なる取引分野を形成しているのである。したがって,土木工事,林務工事,農務工事の3種類の工事を一体とした「塩山地区特定土木一式工事」という「一定の取引分野」が成立することはなく,本件審決は,この点において判断を誤った違法がある。
⑵ 被告の反論
山梨県は,土木工事,林務工事,農務工事の3種類の工事について,いずれも土木一式工事として発注していたもので,30社は,いずれの工事についても施工能力があり,自らの得意としない分野の工事について入札に参加することもあったことなどからすると,土木一式工事という一定の取引分野が成立することは妨げられない。また,30社はいずれも3種類の工事の施工能力を有しており,仮に,3種類の工事のうちいずれかを得意とし積極的に受注していた業者とそうでない業者があったとしても,そうでない業者がおよそ施工能力を欠いたものではない。実際に,30社において,これらの工事を区別して受注していた事実は認められない。
6 争点⑷(原告が受注した別紙8-15記載の各工事が独占禁止法7条の2第1項の当該役務に該当することについて実質的証拠があるか)について
⑴ 原告の主張
ア 「地域性・継続性」について
個別物件において,「地域性・継続性」のある業者が工事を落札したからといって,当該個別物件につき「本件合意に基づく受注調整」を行ったなどと評価することはできず,むしろ,「地域性・継続性」のある業者が工事を落礼しているのは,当該個別物件につき,自由で自主的な競争が行われた結果であると評価することができる。「地域性・継続性」は,当該工事における具体的競争制限効果の発生を妨げる特段の事情となる。
原告が落札した8件の個別工事については,すべて「地域性・継続性」のある工事であり,当該工事における具体的競争制限効果の発生を妨げる特段の事情が認められることになるから,8件の個別工事のすべてについて,課徴金の対象から除外されるべきである。
イ 総合評価落札方式の工事について
総合評価落札方式による工事は,①「本件合意」の後である平成19年頃に導入されたものであること,②総合評価落札方式は通常競争入札とは質的に異なること,③「本件合意」の文言も通常競争入札の工事を念頭に置いていることなどからすると,受注調整が可能であったか否かにかかわらず,そもそも総合評価落札方式による合意は「本件合意」には含まれないというべきであり,本件審決の認定は誤りである。したがって,原告に対し課徴金の対象とされた個別工事のうち,総合評価落札方式の工事である物件161,214,254,289の4件は,課徴金の対象から除外されるべきである。
⑵ 被告の反論
地域性,継続性がある工事であることは,具体的競争制限効果の発生を妨げる事情とはならない。また,本件においては,総合評価落札方式の工事についても,他の方式と同様に受注調整が行われており,これを課徴金の対象から除外する理由はない。
7 争点⑸(立入検査後に契約が締結された工事の対価は,違反行為の実行期間における売上額に含まれるか)について
⑴ 原告の主張
独占禁止法7条の2第1項の「実行としての事業活動がなくなる日」の解釈としては,入札談合の場合においては,「違反行為が取りやめられた日」以降は,違反行為者間の合意の相互拘束力は解消され,合意の実効性は確定的に失われる状態になっているのであるから,「実行としての事業活動がなくなる日」は「違反行為が取りやめられた日」と同一となると解すべきである。
本件についてみれば,「違反行為が取りやめられた日」とは,被告が立入検査を行った日の前日である平成22年3月23日を意味する。原告は,同月24日以降,入札行為も「違反行為」も行っていないのであるから同日が独占禁止法7条の2第1項の「実行としての事業活動がなくなる日」に該当する。
上記のように解さないと,実行期間が3年を超える場合,違反行為を取りやめた日が同一であっても,以後契約を締結しなかった業者と,たまたま契約日が後になった業者とで課される課徴金の額が異なり得ることになり不均衡を生じる。
⑵ 被告の反論
実行としての事業活動がなくなる日とは,違反行為者につき,それぞれ違反行為に係る事業活動が終了したと認められる日と解すべきである。
事業者は個別に入札に参加して契約を締結していたのであるから,事業者ごとに実行としての事業活動がなくなる日が異なることは当然であり,これにより課徴金の額が異なったとしても,法律を適用したことによる差異にすぎず,不均衡と評価することはできない。
8 争点⑹(本件各命令の発出手続の適法性)について
⑴ 原告の主張
本件排除措置命令書に記載されている「本件合意」の内容は,別紙9に記載のとおりであるが,極めて不明確かつ抽象的であるのみならず,その方法についても,「…などにより,」とこれまた限定していない。
このような記載では,少なくとも「本件合意」の内容が具体的に記載されているとはいえない。したがって,独占禁止法49条1項に違反し,本件排除措置命令書の写しを添付して「本件合意」の内容を特定している本件各課徴金納付命令も,「課徴金に係る違反行為]を示しているとはいえないから同法50条1項に違反する。
⑵ 被告の反論
本件排除措置命令書に記載されている本件合意の内容が,独占禁止法の趣旨にかなったものであることは,本件審決が説示するとおりであり,原告の主張は理由がない。
第5 当裁判所の判断
1 本件争点⑴(本件合意の存在について実質的証拠があるか)
⑴ 本件合意が存在したといえるためには,受注予定者を決定し,その者が受注できるように協力する旨の本件合意の内容につき,30社において意思の連絡があることが必要である。そして,意思の連絡とは,30社相互間で本件合意の内容を明示して合意することまでは必要ではなく,本件合意の内容を互いに認識,認容し,これに歩調を合わせるという意思が形成されることで足り,それは黙示的なものであっても足りる。また,意思の連絡があるとは,30社が本件合意の内容のような意思を有しており,相互に拘束する意思が形成されていることが認められればよく,その形成過程について,日時,場所等をもって具体的に特定することまでを要するものではないと解すべきである。
本件審決は,このような意味での意思の連絡があることが,関係者の供述及びこれを裏付ける客観的な書証等から認められるとして,本件合意の存在を認定した(第3の2⑴)。
⑵ 関係者の供述のうち,本件において最も重要なものは,本件合意の主体である30社の代表者及び担当者の供述であるところ,30社の代表者及び担当者の供述調書の供述内容は,別紙10「供述内容一覧表」記載のとおりであって,その供述内容を総合すると,次のようにいうことができる。
ア 30社が平成18年4月1日以降,塩山地区特定土木一式工事について,塩山支部等に入札の参加者の情報を集約していたことについては(第3の2⑴ア(イ)a),30社の代表者及び担当者の多くが認めるところであり(査45,47,50,51,54,57,58,64,66,70,71,77,83,85,90,99),塩山支部等の事務員の供述(査103ないし105)によっても裏付けられているところであって,塩山支部等に入札参加者の情報が集約されていたことは,本件においては明白に認められる。
イ 次に,30社が,塩山地区特定土木一式工事について,塩山支部等に集約した情報をもとに受注予定者を決定していたこと(第3の2⑴ア(イ)b),受注予定者が定めた受注価格を他の入札参加者に連絡し,他の入札参加者は,受注予定者より高い入札価格で入札し,受注予定者が落札できるよう協力したこと(第3の2⑴ア(イ)c)に関しても,30社の約半数の代表者及び担当者が認めている(査47,54,55,57,58,62,64,67,70,71,74,77,82ないし84,93,99)。
ウ 以上の事実に,入札参加者の情報集約及びこれに基づく受注調整について平成6年の塩山支部に対する勧告審決後から行われていた旨を述べる代表者等も存すること(第3の2⑴ア(ア),査47,55,74,84,94,99),役員会における協議で,受注調整等の秘密保持のための措置が役員から提案されたり(査92,99),情報集約の方法につき確認されたルールをメモした(査72,この供述調書には実際に作成したメモが添付されている。)と述べる者もいたことを併せ考慮すると,上記の入札参加者の情報集約や受注調整が,塩山支部等において長期間にわたり組織的に行われていたことが認められる。
エ 総合評価落札方式の工事の場合にも受注調整が行われたこと(第3の2⑴ア(イ)d)についても,少なくない代表者及び担当者が認めている(査52,60,73,76,80,86,87,90,97,99)。
オ なお,上記の供述調書につき,供述をした30社の代表者の中には,その後の審尋手続において,供述調書の録取に際し,無理やり言わされたとか,供述調書の訂正を求めたが,後に訂正できるなどと言われ審査官に応じてもらえなかったなどと陳述している者もいるが,本件の供述調書を作成する際の事情聴取は強制力のない任意の手続によるものであり,実際の供述内容と異なる内容の供述調書を作成されたにもかかわらず,後に訂正するなどと言われて署名押印に応じたというのは,それ自体考えにくいことというほかない。特に,塩山支部に対しては,平成6年に勧告審決がされたことがあり,供述した同支部に所属する30社の代表者及び担当者は,供述調書の録取の意味を十分認識していたと認められるところ,それにもかかわらず,自らの供述した内容と異なる供述調書に署名押印に応じるということは,なおさら考え難いことというべきである。
⑶ 本件においては,本件審決が説示するように,別紙6の44物件については,受注調整が行われたことを裏付ける客観的証拠が存し,別紙7の60物件についても,受注調整に関わる行為を裏付ける客観的な証拠があると認められること(第3の2⑴ア(ウ)),落札率が相当に高いものであったこと(第3の2⑴ア(エ))がそれぞれ認められる。
⑷ 以上によれば,本件合意が存在するとの本件審決の認定判断については,実質的証拠があるというべきである。
⑸ 原告の本訴における主張について
ア 原告は,塩山地区の建設事業者は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決を受けたにもかかわらず,再び受注調整を行うようになったとの事実について,客観的証拠がないなどと主張するが,上記のように30社の代表者のうち複数の者がその事実を認めており,塩山支部等への入札参加者の情報集約や受注調整が組織的なものであって,むしろ,平成18年4月以降,突然始まったとするのは不自然であることからすると,上記勧告審決を受けたにもかかわらず再び受注調整が行われるようになっていたというのが自然かつ合理的であるから,原告の主張は理由がない。
イ 本件合意に基づく受注調整の方法とその実施状況につき,
(ア) 原告は,1社入札を避けるために入札参加情報を集約していただけであると主張するが,そうであるとすれば,そのことを真っ先に主張するはずであるところ,30社の代表者及び担当者のうち,原告の《AD》社長も含め誰一人そのようには供述しておらず,むしろ,30社の代表者の中には,率直に受注価格の低下を防ぐためであったことを認めている者もいるのであるから(査70,84),原告の主張は理由がない。
(イ) 原告は,30社の代表者及び担当者の供述調書は証拠とならないなどと主張するが,供述調書は,30社の代表者及び担当者が任意の手続による事情聴取において述べたことを録取したものであり,信用性が認められる。原告は,証拠を添付した形式でなく,具体的な証拠に基づく供述調書ではないなどと主張するが,供述内容の信用性を左右するものではないし,被告の審査官が客観的証拠を引用して供述を求めていることを認める《AH》社長の供述調書のほかにも,押収された証拠等を示されて供述を求められている供述調書が複数あることからしても(査49,52,53,60,69,70,73,79,80,87,101),原告の主張は前提を欠くものである。
(ウ) 原告は,原告代表者の《AD》社長の供述調書は,地域性・継続性のある業者は,これがない業者よりも入札において有利な立場にあるという趣旨を述べているにすぎず,本件合意の存在を立証するものではないと主張する。しかしながら,《AD》社長は,地域性,継続性から他の業者が受注すべき物件であると判断して,話合いを経ることなく他の受注予定者に協力することがある旨を述べており(査67ないし69),これらは本件合意や本件合意に基づく受注調整を認定する資料になるものでもあるから,原告の主張は失当である。
(エ) 平成19年5月11日の役員会及び同年6月13日の役員会について,原告は,これらの会合が行われたことを知らないから,これらの会合は,原告との関係で本件合意が行われた証拠にならない旨を主張するが,塩山支部等の役員会が行われたことは,塩山支部等の役員が本件合意に基づいて組識的に受注調整をしていたという事実をうかがせる間接事実であり,これを個別の支部員が認識していなかったとしても本件合意を推認させる証拠にならないとはいえない。
ウ 個別の受注調整について
(ア) 原告は,44物件の1つである物件81に関して,原告の会社名が押印された入札公告(査107の1)を,受注調整の客観的証拠とするのは誤っていると主張する。
しかしながら,物件81について,受注調整が行われたことを裏付ける客観的証拠として重要なのは,競争参加資格確認通知書(査130)である。これには,藤プラントによる
「三森建設 41,000,000」
「応札 41,450,000」
「《「予」を丸囲みした記載》 42,291,000」
との書き込みがあり,この数字は,本工事の予定価格,藤プラントの入札価格,原告の落札価格と一致する。
一方,査107の1は,物件81について,原告が塩山支部等にファクシミリで連絡した証拠となるものである。この点,本件において,ほかにも塩山支部等に支部員が入札公告に社名をゴム印で押印した入札公告があり(査106の1の8枚目表裏),《Q》事務員の供述はファクシミリの使用を明示したものではないが,入札公告をファクシミリで送信したことを認める者もいること(査63,元藤プラント建設の代表者である《V1》の参考人審尋)からすると,入札公告がファクシミリで送付された可能性は高いというべきである。なお,60物件に含まれる物件116についての入札公告(査107の2)についても同様である。
(イ) 原告は,物件84について,大和開発から送信されたファクシミリ(査132)について,入札に関する情報でなく,入札に関する一般的情報を教えてもらっただけであると主張するが,これは大和建設が同一工事に入札する原告に対して,本来披瀝しないはずの自社の入札情報をファクシミリで送信したものであるから,単に一般的情報として教えただけであるとは認められない。
エ 落札率
原告は,山梨県は,塩山地区特定土木一式工事について予定価格を公表していたから,平均落札率が高いことを本件合意の存在を基礎づける事情と位置付けるのは誤りである旨主張する。しかしながら,本件合意は,受注予定者を決定し,受注予定者以外の入札参加者は,受注予定者が定めた価格で受注できるよう協力するというものであり,その目的は落札価格の低下を防ぐことにあると認められ,平均落札率が高いことは,本件合意の存在を基礎づける事情となる。
2 本件争点⑵(原告が,本件合意に中途参加したことが実質的証拠をもって具体的に立証されているか)について(原告のみの争点)
⑴ 原告は,遅くとも平成18年4月以降,塩山支部等に加盟していたところ,平成18年度はC等級業者であったため,塩山地区特定土木一式工事の入札に参加することはできなかったが,平成19年度からB等級業者になるや,別紙7の8項記載のとおり,同年4月19日に入札公告が行われた物件84について,落札者である大和建設との間で入札に関する資料をファクシミリで送受信していること,原告は,物件81の工事の入札公告に自社の社名を押印し,ファクシミリで送信する方法によって,入札に参加する旨を連絡したところ,物件81の入札書受付開始日は同年5月15日であったこと,原告が本件対象期間に受注した塩山地区特定土木一式工事のうち,別紙6の2項⑵及び⑸記載の各工事並びに別紙7の1項記載の物件116については,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことなどの事実が実質的証拠をもって具体的に立証されているというべきである。
そして,これらの事実によれば,原告は,遅くとも平成19年5月15日までには,本件合意に参加したと認めることができる。
⑵ 原告は,本件審決が,原告は遅くとも平成19年5月15日までに本件合意に参加し,別紙8-15記載の各工事につき本件合意に基づいて受注調整を行っていたと認定判断したことについて,入札参加者が多いことや倒産した事業者が入札に参加していたこと,工事について地域性,継続性が認められることなどからすると,原告が各工事を受注したのは自由で自主的な競争の結果であり,本件審決の認定判断は誤りであると主張する。
しかしながら,入札参加者が多いという点については,別紙8-15記載の各物件の入札参加者はすべて本件違反行為が疑われていた30社のいずれかであるから,このような入札参加者が多いことをもって,直ちに自由で自主的な競争が行われていたということはできないし,入札参加者の中にその後倒産した事業者がいたこと,工事について地域性,継続性が認められることなどの事情は,自由で自主的な競争が行われたことを裏付ける根拠となるものとはいえないから,原告の上記主張は理由がない。
⑶ 原告は,原告が本件合意に中途参加した事実の立証が不十分であると主張するが,上記⑴のとおり,原告が遅くとも平成19年5月15日までに本件合意に参加したことは十分に認められるのであって,原告が本件合意に参加したことを認定するのに,参加した日時,場所等を具体的に特定することまで要するものではないと解すべきである。
その他原告がるる主張することをもって,上記⑴の認定を左右することはできない。
3 本件争点⑶(本件合意が独占禁止法2条6項の「不当な取引制限」に該当するか)について
⑴ 原告は,本件審決が本件における一定の取引分野を塩山地区特定土木一式工事の取引分野であると認定しているところ,3種類の工事は,それぞれ①発注担当部署,所管官庁が異なること,②工事内容が異なること,③得意とする事業者が別個に存在していること,④事業者団体が別個に存在していること等から,それぞれ異なる取引分野を形成しているとみるべきであり,本件審決はこの点について違法があると主張する。
⑵ しかしながら,原告が主張する3種類の工事は,いずれも山梨県が土木一式工事として発注していたものであり(第3の2⑴),単に発注担当部署を異にするにすぎず,山梨県の有資格者名簿に登載されたA等級業者及びB等級業者は,いずれも,3種類の工事を含む塩山地区特定土木一式工事の全てについて施工能力を有していたものと認められる。また,仮に,工事の種類によって,特殊性や専門性があり,30社により特定の種類の工事に得意・不得意があったとしても,技術者の育成や施工実績を積むという目的のために不慣れな工事の入札に参加することがあり得ることを30社の代表者が陳述書で認めていること(審A共16の12ないし13頁,審B共18の14頁,審B共20の2頁),あるいは,工事の種類に応じた特殊な設備や道具の購入ないし貸与を受けて調達・準備した上で,入札に参加することが可能であると認められることは,入札参加資格を有する30社において,3種類の工事のいずれについても入札参加や施工が可能であり,少なくともそこには潜在的に競争が存在することを基礎付けるものである。
これらのことからすれば,30社は,塩山地区特定土木一式工事について,3種類の工事を区別することなく受注調整の対象としていたものであり,本件における一定の取引分野は,塩山地区特定土木一式工事の取引分野であると認められる。したがって,本件合意は,独占禁止法2条6項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものに当たり,「公共の利益に反して」の要件も充足すると解されるから,「不当な取引制限」に該当する。
4 本件争点⑷(原告が受注した別紙8-15記載の各工事が独占禁止法7条の2第1項の当該役務に該当するか)について
本件においては,塩山地区特定土木一式工事に該当し,かつ,30社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情がない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当である(本件推認。第3の2⑶)。
⑴ 地域性,継続性について
原告は,地域性,継続性を有する事業者が,当該工事に関する情報を他の事業者より有していることは否定されないし,それによって競争上有利な立場にあることも否定されるものではないことから,地域性,継続性が認められる工事においては,本件推認を妨げる事情となると主張する。
しかしながら,そのような工事であっても,入札参加資格を有する事業者であれば,入札に参加することは可能であり,地域性,継続性を有する事業者が競争上有利な立場にあったとしても,それが一社に限られるものではなく,地域性,継続性を有する事業者の間でも競争が存し,また,地域性,継続性を有する事業者とその他の入札参加資格を有する事業者との間でも,それ以外の技術力などの要素でカバーすることによって競争することは可能であるから,競争が全くなかったとまで認めることは困難である。
むしろ,ある工事に地域性,継続性を有する事業者は,他の入札参加者より有利な条件で施工できるものであるから,より強く受注したいと考えるのが通常であり,受注調整により確実に受注することでより多くの利益を得られることから,受注調整を行う動機になるともいえる。
したがって,落札者が当該工事について地域性,継続性を有するという事実は,当該工事における具体的競争制限効果の発生の推認を妨げる特段の事情に当たらない。
⑵ 総合評価落札方式について
総合評価落札方式は,落札者は入札価格のみで決定されるものではないものの,受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた価格での受注に協力すればよいのであって,それは総合評価落札方式による一般競争入札においても実現することができる。現に,30社の代表者の中には,総合評価落札方式の場合に,受注予定者からの入札価格の連絡の有無にかかわらず,落札が見込めないような高い価格で入札し,受注予定者の受注に協力した旨述べる者がいるほか(査54,58,64など),原告の《AD》社長も同旨を述べており(査67),入札価格以外の評価項目(施工計画書等)により調整したなどと述べる者もいる(査53,69,87)。
総合評価落札方式による一般競争入札には,入札価格のみで落札者が決まるわけではないという意味で,それ以外の競争入札と質的に異なる面はあるものの,総合評価落札方式の工事について,本件合意に基づく受注調整を行うことは十分に可能であるから,質的な相違を主張する原告の主張は理由がない。
⑶ 以上によれば,別紙8-15記載の原告が落札した8件の工事は,いずれも具体的競争制限効果が発生したと認められるから,独占禁止法7条の2第1項の当該役務に該当するというべきである。
5 本件争点⑸(立入検査後に契約が締結された工事の対価は,違反行為の実行期間における売上額に含まれるか)について
⑴ 原告は,本件において,立入検査があった平成22年3月24日よりも後の同月30日に工事契約を締結しているが,その日をもって「実行としての事業活動がなくなる日」と認めるのが相当であるから,上記工事の対価は,違反行為の実行期間における売上額に含まれると解すべきである。
⑵ これに対し,原告は,「実行としての事業活動がなくなる日」は「違反行為が取りやめられた日」と同一と解すべきである旨主張する。
しかしながら,受注調整は,受注予定者が入札物件を落札して工事契約を締結することを目指して行われるものであるから,違反行為終了前に行われた受注調整によって落札した物件につき,落札者が当該物件の工事契約を締結することは,それが違反行為終了後にされるものであっても受注調整が目指した当然の成り行きであり,また,会計法令により,落札者を契約の相手方として落札内容どおりの契約が締結されることはほぼ確実であるから,「実行としての事業活動」といい得るものである。
⑶ また,原告は,「実行としての事業活動がなくなる日」は「違反行為が取りやめられた日」と同一となると解さない場合には,事業者ごとに「実行としての事業活動がなくなる日」が異なる結果,課徴金の算定において不均衡が生じると主張するが,事業活動は個々の事業者によって異なるのは当然であるから,実行期間や「実行としての事業活動がなくなる日」がそれぞれの違反行為者にとって一律である必要はなく,適正な法律解釈の結果,各違反行為者間に差異が生じたとしても,それをもって不均衡と評価することはできない。
6 本件争点⑹(本件各命令発出手続の適法性)
原告は,本件排除措置命令書の「本件合意」の内容の記載が,具体的に記載されているとはいえないから,本件各命令発出手続は独占禁止法に反する違法なものであると主張する。
しかしながら,排除措置命令書に「公正取引委員会の認定した事実」を示さなければならないと規定されている趣旨は,本件審決において説示するとおりであり(第3の2⑹),これによれば,別紙9記載のとおり本件排除措置命令書に記載された本件合意の内容は,独占禁止法49条1項の趣旨に合致したものというべきであり,同様に,本件各課徴金納付命令書も,同法50条1項の趣旨に合致したものである。
その他,原告が主張する点を考慮しても,本件各命令の発出手続に違法があったと認めることはできない。
7 結論
以上のほか,本件審決の認定判断について実質的証拠に基づかない点や不当な点などは認められない。よって,本件審決は相当であり,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
平成30年10月26日
裁判長裁判官 萩原秀紀
裁判官 河田泰常
裁判官 馬場純夫
裁判官 西森政一
裁判官 矢向孝子
注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。
【別紙添付省略】