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独禁法3条後段・独禁法7条の2
東京高等裁判所
平成29年(行ケ)第34号
平成30年10月26日
山梨県笛吹市境川町藤垈880番地1
原告 株式会社中村工務店
同代表者代表取締役 《氏名》
同訴訟代理人弁護士 中藤 力
外崎友隆
藤井健一
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 横手哲二
榎本勤也
堤 優子
津田和孝
黒江 那津子
西川康一
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が,原告に対する公正取引委員会平成23年(判)第54号及び第66号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反審判事件について,平成29年10月4日付けでした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 被告は,山梨県笛吹市(平成18年7月31日までは同県笛吹市又は東八代郡芦川村。以下「石和地区」という。),同県甲府市又は同県中央市に本店又は支店を置く原告を含む別紙1(なお,本判決に添付する別紙の番号は,便宜上,上記審決が引用する被告事務総局審判官作成の平成29年3月31日付け審決案の別紙の番号をそのまま用いることする。)の「被審人」欄記載の11社(以下,「原告ら11社」といい,個別に社名や代表者をいうときは,「飯塚工業」,「飯塚工業の《A1》社長」などという。)が,遅くとも平成18年4月1日から平成22年3月23日までの間(以下「本件対象期間」という。),同じ地域に本店又は支店を置く別紙4の「事業者」欄記載の10社(以下,「原告ら以外の10社」といい,個別にいうときは,「事業者の略称」欄記載の略称を用いることとする。また,原告ら11社と併せて「関係業者21社」という。)と共同して,別紙5記載の工事(以下「石和地区特定土木一式工事」という。)について,受注すべき者又は特定建設工事共同企業体(以下,まとめて「受注予定者」といい,後者については「JV」という。)を決定し,受注予定者が受注できるように受注を調整する合意(以下「本件合意」という。)をすることにより,公共の利益に反して,石和地区特定土木一式工事の取引分野における競争を実質的に制限したことが,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「独占禁止法」という。)2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法3条に違反するものであり,かつ,特に排除措置を命ずる必要があるとして,平成23年4月15日,原告ら以外の10社のうち当時事業活動の全部を取りやめていた7社を除く3社と原告ら11社を併せた14社に対し,排除措置を命じたほか(平成23年(措)第2号。以下,「本件排除措置命令」といい,同命令において認定された違反行為を「本件違反行為」という。),本件違反行為は,独占禁止法7条の2第1項1号に規定する役務(以下「当該役務」という。)の対価に係るものであるとして,同日,原告ら11社のうち1社(中楯建設)を除く10社(以下「原告ら10社」という。)に対し,課徴金(原告に対する課徴金額は3245万円(平成23年(納)第47号))の納付を命じた(以下,「本件各課徴金納付命令」といい,本件排除措置命令と併せて「本件各命令」という。)。
これに対し,原告ら11社は,独占禁止法49条6項に基づき本件排除措置命令の全部の取消しを求める審判請求(原告の審判請求は平成23年(判)第54号)をするとともに,原告ら10社は独占禁止法50条4項に基づき本件各課徴金納付命令の取消しを求める審判請求(原告の審判請求は平成23(判)第66号)をし,被告は,平成29年10月4日付けで,原告ら11社の上記各審判請求をいずれも棄却する旨の審決(以下「本件審決」という。なお,本件審決は,前記平成29年3月31日付け審決案の理由第1から第7までを,一部を訂正の上,引用している。)をした。
2 本件は,原告が,本件審決は本件違反行為を認定するに足りる実質的な証拠を欠くなどと主張して,本件審決のうち原告の審判請求に係る審決の取消しを求める事案である。
第3 前提となる事実(各項末尾に括弧書きで証拠を掲記した事実は,本件審判手続で取り調べられた証拠から認定される事実であり,その余の事実は,当事者間に争いのない事実又は公知の事実である。なお,証拠の番号については,「査○」などと略記する。)
1 関係業者21社の概要
関係業者21社は,いずれも石和地区,山梨県甲府市又は同県中央市に本店又は支店を置く建設業者である。
なお,八木沢興業は,山梨県南巨摩郡身延町に本店を置く建設業者であるところ,平成20年10月1日,窪川組から同社の事業の全部を譲り受け,同社の本店を八木沢興業の峡東支店としたものである。(査3ないし査5,査7,査55)
2 石和地区特定土木一式工事の概要
⑴ 発注業務の担当部署
山梨県では,同県が発注する土木一式工事について,本庁又は出先機関の各部署が,それぞれの所掌する事務に応じて発注業務を担当している。
本件対象期間に発注された石和地区特定土木一式工事については,山梨県県土整備部(平成20年3月31日以前は土木部。以下同じ。)道路整備課,同部道路管理課,同部峡東建設事務所,同部流域下水道事務所(以下,上記4部署をまとめて「山梨県県土整備部等」という。),同県農政部峡東農務事務所(以下「峡東農務事務所」という。),同県森林環境部峡東林務環境事務所(以下「峡東林務環境事務所」という。)等が発注業務を担当していた。(査17ないし査19)
⑵ 入札参加資格者の等級区分及び名簿登載
山梨県は,本件対象期間において,同県が発注する土木一式工事の指名競争入札又は一般競争入札への参加を希望する事業者に対し,これらの入札に参加するために必要な資格の審査を行った上で,当該入札への参加資格を有すると認定した事業者を工事施工能力の審査結果に基づきA,B,C又はDのいずれかの等級に格付して(以下,A等級に格付されている事業者を「A等級業者」,B等級に格付されている事業者を「B等級業者」という。),入札参加有資格者名簿(以下「有資格者名簿」という。)に登載していた。(査21,査22)
また,山梨県は,土木一式工事を予定価格に応じて区分し,個々の工事の発注に際しては,有資格者名簿に登載されている者のうち当該区分に対応した等級に格付されている事業者が入札参加資格を有するものとしていた。
土木一式工事のうち予定価格がおおむね3億円以上の工事については,JVの施工対象工事とされ,A等級業者で構成されるJV(A等級業者で構成することが難しい場合であって特に必要があると認められるときは,A等級業者及びB等級業者で構成されるJV)が入札参加資格を有する者とされていた。(査21,査23,査24)
関係業者21社は,本件対象期間(ただし,6社(原告は該当しない。)については,その一部期間を除く。)において,A等級業者又はB等級業者に格付されていた。(査1)
⑶ 工事の発注方法
山梨県は,本件対象期間における石和地区特定土木一式工事について,指名競争入札又は一般競争入札の方法により発注していた。一般競争入札には,価格により落札者を決定する通常の一般競争入札と,価格に加え評価項目ごとの評価点を考慮する総合評価落札方式による一般競争入札があった。入札の執行は,インターネット上のウェブサイトである山梨県公共事業ポータルサイト(以下「ポータルサイト」という。)の電子入札システム(以下「電子入札システム」という。)により行っていた。(査18,査18の2,査23)
本件対象期間における石和地区特定土木一式工事の具体的な発注方法は,以下のとおりである。
ア 指名競争入札
(ア) 入札参加者
山梨県は,平成18年4月1日から平成19年3月31日までの間,予定価格が1億円未満の石和地区特定土木一式工事の一部について,指名競争入札の方法により発注し,その大部分において,石和地区に本店を置くA等級業者又はB等級業者の中から当該入札の参加者を指名していた。(査18,査21,査25)
(イ) 入札の実施方法
山梨県は,指名競争入札の方法により発注する場合,有資格者名簿において当該入札の予定価格の区分に対応する等級に格付されている事業者の中から原則として6社ないし10社を指名業者として選定し,当該事業者に対し,入札書提出締切日の約15日前までに,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した指名通知書を送付することにより指名していた。
指名を受けた事業者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに,当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた。
(査21,査26,査27)
イ 一般競争入札
(ア) 入札参加者
山梨県は,本件対象期間における石和地区特定土木一式工事について,指名競争入札の方法によらない場合は一般競争入札の方法により発注し,その大部分において,山梨県山梨市,同県甲州市(以下,両市の区域を併せて「塩山地区」という。)又は石和地区の区域(以下,石和地区と塩山地区を併せて「峡東地域」という。)に本店を置くA等級業者又はB等級業者であることを入札に参加するための条件(以下「入札参加条件」という。)として,公告により入札参加希望者を募り,入札への参加を申請した事業者又はJVを当該入札の参加者としていた。
なお,本件対象期間に一般競争入札の方法により発注された石和地区特定土木一式工事の中には,峡東地域又は中北地域(平成22年6月25日時点における山梨県甲府市,韮崎市,南アルプス市,北杜市,甲斐市,中央市又は中巨摩郡昭和町の区域をいう。)に本店を置くA等級業者又はB等級業者であることを入札参加条件とするものや,山梨県内に本店を置くA等級業者又はB等級業者であることを入札参加条件とするものもあった。(査18,査18の2,査25)
(イ) 入札の実施方法
山梨県は,一般競争入札の方法により発注する場合,入札書提出締切日の約25日前までに,入札参加条件等を示した入札公告により入札参加希望者を募り,入札への参加を申請した事業者(JVを含む。)に対し,入札書提出締切日の約1週間前までに,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した競争参加資格確認通知書を送付していた。
入札参加者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに,当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた。
(査27ないし査29)
ウ 総合評価落札方式による一般競争入札
(ア) 導入時期,種類,落札者の決定方法及び入札参加者
山梨県は,一般競争入札の方法により発注する石和地区特定土木一式工事の一部について,平成18年頃から,総合評価落札方式を導入した。
総合評価落札方式には,簡易型(平成18年度導入),特別簡易型(平成20年度導入),特別簡易型(Ⅰ)及び特別簡易型(Ⅱ)(いずれも平成21年度導入。なお,特別簡易型(Ⅰ)は,平成20年度における特別簡易型に相当する。)等の種類がある。
総合評価落札方式では,以下のとおり,入札価格が予定価格の範囲内にある入札者について,あらかじめ定められた評価項目ごとの評価点を合計した後,各入札者の評価点の合計点数の比に応じて加算点(加算点の満点は工事ごとに定める。)を算出し,それに標準点(100点)を加えた数値を入札価格で除し,これに1億を乗じて得た評価値が最も高い者を落札者としていた。
評価値=(標準点+加算点)/入札価格×100,000,000
総合評価落札方式における入札参加者は,前記イ(ア)と同じである。
(査18,査18の2,査30ないし査34)
(イ) 評価項目
評価項目は,簡易型では①企業の施工実績,②地域精通度,③地域貢献度,④配置予定技術者の能力及び⑤施工計画,特別簡易型(Ⅱ)では上記①ないし④,特別簡易型及び特別簡易型(Ⅰ)では上記①ないし③であり,いずれも評価項目ごとに最高評価点が設定されていた。(査30ないし査34)
(ウ) 評価点の算出方法
評価点は,入札参加申請の際に申請者から併せて提出される施工計画書等の資料(以下「技術審査資料」という。)に基づき,発注業務を担当する部署(以下「発注担当部署」という。)において,以下のとおり,評価項目ごとに算出することとされていた。
前記(イ)①の企業の施工実績については,都道府県又は国・公団等の同種工事の施工実績の有無,山梨県発注の土木一式工事での工事成績評定点の平均点等,同②の地域精通度については近隣地域での施工実績の有無等,同③の地域貢献度については,災害協定の締結の有無,土木施設等緊急維持修繕業務委託の実績等,同④の配置予定技術者の能力については,1級土木施工管理技士等又は技術士であるかどうか,同種工事の施工実績等といった客観的なデータを基に入札参加者が山梨県所定の様式で作成,記載した根拠資料を提出することにより点数化されることとされていた。
なお,配置予定技術者は,一定の資格を有することのほかに,対象工事に専任で配置することが必要とされていた。
前記(イ)⑤の施工計画については,入札参加者が客観的なデータを提出するものではなく,「工程管理に係わる技術的所見」,「品質管理に係わる技術的所見」等の5項目の中から選択された1ないし2項目について,入札参加者が提出する施工計画書の内容により,10点(内容が適切であり,重要な項目が記載され,工夫が見られる),5点(内容が適切であり,工夫が見られる),0点(内容が適切である),又は欠格(未記入,又は不適切である)と評価されていた。
(査30ないし査34)
(エ) 評価項目等の公表
山梨県は,総合評価落札方式における評価項目,評価の方法,最高評価点及び評価値の算出方法について,「山梨県建設工事総合評価実施要領」(以下「総合評価実施要領」という。)に記載し,公表していた。(査30ないし査34)
(オ) 入札の実施方法
山梨県は,総合評価落札方式による一般競争入札の方法により発注する場合,入札書提出締切日の約半月ないし1か月前までに,当該工事の入札方式,総合評価落札方式の種類などの総合評価に関する事項,入札参加条件等を示した入札公告により入札参加希望者を募り,入札への参加を申請した事業者(JVを含む。)に対し,入札書提出締切日の約2日ないし7日前までに,入札開始日時,入札書提出締切日時,開札予定日時等を記載した競争参加資格確認通知書を送付していた。
入札参加者は,当該入札の入札書提出締切日時までに,電子入札システムにより,所定の様式に自社の入札金額を入力するとともに,当該工事の本工事費内訳書を添付して送信することとされていた。(査27,査33ないし査35)
⑷ 最低制限価格及び低入札価格調査の基準価格
ア 最低制限価格
山梨県は,石和地区特定土木一式工事のうち,指名競争入札の方法により発注するもの及び総合評価落札方式以外の一般競争入札の方法により発注するものについて,最低制限価格を設定し,同価格を下回る価格の入札は失格としていた。(査18)
イ 低入札価格調査の基準価格
山梨県は,石和地区特定土木一式工事のうち総合評価落札方式による一般競争入札の方法により発注するものについて,低入札価格調査の対象とする基準価格(以下「低入札調査基準価格」という。)を設定していた。
山梨県は,入札の結果,評価値が最も高かった者の入札価格が低入札調査基準価格を下回った場合には,落札者の決定を保留した上で,当該入札額で契約の内容に適合した履行がなされるか否かについて調査を行い,その結果,適合した履行がなされると認めたときは当該入札者を落札者とし,適合した履行がなされないおそれがあると認めたときは,他の入札者のうち最も評価値の高い者を落札者としていた。
(査18,査36)
⑸ 入札情報の公表
ア 予定価格,最低制限価格及び低入札調査基準価格
山梨県は,石和地区特定土木一式工事について,ごく一部の工事を除き,入札公告時又は指名通知時に予定価格を公表していたが,最低制限価格及び低入札調査基準価格については入札書提出締切日前に公表していなかった。(査37)
イ 入札参加者
山梨県は,石和地区特定土木一式工事について,入札書提出締切日前には入札参加者を公表せず,落札者決定後速やかに公表していた。(査37)
ウ 入札結果
山梨県は,石和地区特定土木一式工事の入札結果について,山梨県県民情報センター及びポータルサイトにおいて閲覧に供する方法により,落札者決定後速やかに公表していた。
また,山梨県は,総合評価落札方式による一般競争入札については,入札参加者の評価項目ごとの評価点を,評価調書の様式によりポータルサイトにおいて公表していた。
(査30ないし査33,査37,査85)
⑹ 本件対象期間における石和地区特定土木一式工事の発注及び受注状況
本件対象期間に発注された石和地区特定土木一式工事は,別紙9のとおり174件(以下「174物件」という。また,個別の工事については,同別紙の「一連番号」欄記載の番号に従って「物件1」等と表記する。)であり,その大部分を関係業者21社又は関係業者21社のいずれかで構成されるJVが受注した。
174物件の発注担当部署,入札公告日(又は指名通知日),開札日,工事名,施工場所,発注方法,入札参加条件としての本店所在地,予定価格,入札参加者,入札価格,入札率(予定価格に対する入札価格の割合),落札者,落札率(予定価格に対する落札価格の割合),並びに総合評価の種類,入札価格以外の評価結果及び評価値は,それぞれ別紙9の該当欄記載のとおりである。
174物件のうち,指名競争入札の方法により発注された工事は,そのほとんどにおいて,関係業者21社の中から当該入札の参加者が指名されている。
また,174物件のうち,一般競争入札の方法により発注された工事の入札参加者は,その大部分が関係業者21社で占められている。(査18,査18の2,査153,査153の2)
⑺ 原告ら10社の売上額
本件各課徴金納付命令における本件違反行為の実行期間において原告ら10社が受注した石和地区特定土木一式工事の売上額を私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号。以下「独占禁止法施行令」という。)6条1項及び2項の規定に基づき算定すると,各工事の対価の額は別紙10の1ないし10の各「4 対象物件一覧」中の「課徴金算定の基礎となる売上額(円)」欄記載の金額となり,原告ら10社の売上額は上記各別紙の「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」欄記載の金額となる。(査18,査18の2)
3 石和地区における建設業協会等の概要
⑴ 社団法人山梨県建設業協会石和支部
ア 事務所
社団法人山梨県建設業協会石和支部(以下「石和支部」という。)は,社団法人山梨県建設業協会(以下「山梨県建設業協会」という。)の支部であり,山梨県笛吹市石和町広瀬765番地に所在する同支部の会館(以下「石和支部会館」という。)内に事務所を置いていた。(査3ないし査5)
イ 会員及び事業
石和支部の規約によれば,同支部は,山梨県県土整備部峡東建設事務所管内(平成23年9月16日当時の所管区域は,山梨市,笛吹市及び甲州市の区域。)に本店又は営業所等を有する建設業者を会員とし,建設業に関する資料,情報及び統計の収集並びに頒布,官庁その他関係団体及び機関との連絡,交渉及び提携等の事業を行うものとされていた。
関係業者21社のうち八木沢興業を除く20社は遅くとも平成18年4月以降に,八木沢興業は平成20年10月頃以降に,それぞれ石和支部の会員となっていた。
また,本件対象期間において,石和支部の会員のうち,A等級業者又はB等級業者であって,石和地区特定土木一式工事の入札に参加していた事業者は,関係業者21社のみであった。
(査3ないし査7,査55)
ウ 役員
石和支部では,支部長,副支部長,理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,支部長及び副支部長は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた(以下,石和支部の支部長を「石和支部長」,同副支部長を「石和副支部長」といい,両者を併せて「石和支部の執行部」という。)。
平成18年度ないし平成21年度の石和支部長は飯塚工業の《A1》社長,石和副支部長は矢崎興業の《B》社長であった。また,平成19年度からは小泉建設の《C1》社長が,平成21年度からは栗田工業の《D1》社長が,石和副支部長に加わった。
(査3ないし査7,査56)
エ 職員
石和支部は,事務員として《E》(以下「石和支部の《E》事務員」又は単に「《E》事務員」という。)を雇用しており,《E》事務員は石和支部会館において勤務していた。(査3,査4,査62)
オ 石和支部に対する過去の勧告審決
被告は,平成6年5月16日,石和支部が遅くとも昭和62年4月までに,山梨県が指名競争入札の方法により発注する土木部所管で石和土木事務所の管轄区域を施工場所とする土木一式工事(共同施工方式により施行される工事を除く。)について,支部員の受注価格の低落を防止するため,支部員に,あらかじめ受注予定者を決定させ,受注予定者が受注できるようにさせていた行為が,当時の独占禁止法8条1項1号の規定に違反するものであるとして,同支部に対し,勧告審決(平成6年(勧)第15号。以下「石和支部に対する平成6年の勧告審決」という。)をした。
関係業者21社のうち友愛工業,芦沢組土木,長田建設,八木沢興業及び地場工務店の5社を除く16社は,上記勧告審決以前から石和支部の会員であったところ,平成7年4月14日,被告から,同審決に伴い課徴金納付命令(平成7年(納)第268号ないし第274号,第276号ないし第279号,第283号,第287号ないし第289号及び第291号)を受けた。
(査38,査39)
⑵ 社団法人山梨県土地改良協会峡東支部
ア 事務所
社団法人山梨県土地改良協会峡東支部(以下「土地協会峡東支部」という。)は,社団法人山梨県土地改良協会の支部であり,石和支部会館内に事務所を置いていた。(査8ないし査10)
イ 会員及び事業
社団法人山梨県土地改良協会の定款及び土地協会峡東支部の規約によれば,同支部は,峡東農務事務所管内に本店を置く建設業者を会員とし,土地改良事業に関する資料,情報及び統計の収集並びに頒布,関係団体との連絡,交渉及び提携等の事業を行うものとされていた。
関係業者21社のうち八木沢興業を除く20社は遅くとも平成18年4月以降に,八木沢興業は平成20年10月頃以降に,それぞれ土地協会峡東支部の会員となっていた。(査7ないし査11,査55)
ウ 役員
土地協会峡東支部では,支部長,副支部長及び理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,支部長及び副支部長は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた(以下,支部長及び副支部長のうち石和地区に本店を置く事業者の役員又は従業員をまとめて「土地協会峡東支部の執行部」という。)。
平成18年度の支部長は塩山地区に本店を置く株式会社《会社名略》の《氏名略》社長,副支部長は宮川工務所の《氏名略》社長,栗田工業の《D2》社長(同人は,平成20年7月に栗田工業の代表取締役を退任している。以下「栗田工業の《D2》前社長」という。)であった。また,平成19年度ないし平成21年度の支部長は矢崎興業の《B》社長,副支部長はいずれも塩山地区に本店を置く《会社名略》株式会社の《氏名略》社長及び《会社名略》株式会社の《氏名略》社長であった。
(査8ないし査10)
⑶ 塩山地区治山林道協会
ア 事務所
塩山地区治山林道協会(以下「塩山治山協会」といい,石和支部及び土地協会峡東支部と併せて「石和支部等」という。)は,社団法人山梨県治山林道協会の地区協会であり,山梨県甲州市塩山熊野137番地に所在する山梨県建設業協会塩山支部会館内に事務所を置いていた。(査12ないし査15)
イ 会員及び事業
社団法人山梨県治山林道協会の定款及び塩山治山協会の規約によれば,塩山治山協会は,峡東林務環境事務所管内に本店を置く建設業者を会員とし,治山事業並びに林道事業に関する資料,情報及び統計の収集頒布,官庁その他関係団体及び機関との連絡,交渉並びに提携等の事業を行うものとされていた。
関係業者21社のうち芦沢組土木,長田建設,八木沢興業,地場工務店及びサノ工業の5社を除く16社は遅くとも平成18年4月以降に,八木沢興業は平成20年10月頃以降に,塩山治山協会の会員となっていた。
(査7,査12ないし査16,査55)
ウ 役員
塩山治山協会では,会長,副会長,理事等の役員を置き,理事は会員の中から選任され,会長及び副会長は理事の互選によるものとされ,役員の任期は2年と定められていた(以下,塩山治山協会の会長及び副会長のうち石和地区に本店を置く事業者の役員又は従業員,石和支部の執行部及び土地協会峡東支部の執行部を併せて「石和支部等の執行部」という。)。
平成18年度の会長は,塩山地区に本店を置く株式会社《G》の《G1》社長,副会長は三興産業(なお,同社は,平成19年2月19日に商号を初海工業株式会社から現商号に変更した。)の《氏名略》社長(ただし,任期途中で原告の《F1》社長に交代した。),塩山地区に本店を置く《会社名略》株式会社の《氏名略》社長及び《会社名略》株式会社の《氏名略》社長であった,
また,平成19年度ないし平成21年度の会長は上記《会社名略》株式会社の《氏名略》社長,副会長は塩山地区に本店を置く《会社名略》株式会社の《氏名略》社長及び原告の《F1》社長であった。(査12ないし査14,査45)
4 被告による立入検査
被告は,平成22年3月24日,本件について,独占禁止法47条1項4号の規定に基づく立入検査(以下「本件立入検査」という。)を行った。
第4 本件審決における認定・判断
1 被告は,本件審決において,当事者間に争いのない事実,公知の事実及び以下に掲記の証拠から次の事実を認定した。
⑴ 石和支部に対する平成6年の勧告審決以降の受注調整の状況
山梨県では,平成17年度頃までは,指名競争入札の方法により土木一式工事を発注することが多かった。
石和地区の建設業者は,石和支部に対する平成6年の勧告審決を受けたにもかかわらず,再び受注調整を行うようになり,石和地区を施工場所とする土木一式工事の指名を受けると,指名を受けた旨及び当該工事の受注を希望するときはその旨を,石和支部等の執行部又は石和支部の事務員に連絡し,石和支部において指名業者及び受注希望者を取りまとめた上,受注希望者同士で話合いを行うなどして受注予定者を決め,受注予定者は,他の指名業者に対し,当該指名業者の入札すべき金額を記載した紙を渡したり,電話で当該指名業者の入札すべき金額を伝えたり,自社の作成した当該工事の本工事費内訳書を当該指名業者の積算の参考のために交付したりするなどして自社の受注に協力するように依頼し,受注予定者以外の指名業者は,上記のとおり連絡を受けた価格で入札するなどして受注予定者の受注に協力していた。
(査40の1ないし査40の3,査41,査42の1,査42の2,査43,査49,査50,査52,査60,査61,査123,査166ないし査169,査171)
⑵ 関係業者21社による受注調整の方法及びその実施状況
ア 石和支部等による入札参加情報等の集約
関係業者21社は,遅くとも平成18年4月1日以降,一般競争入札の方法により発注される石和地区特定土木一式工事の入札に参加しようとする場合には,当該工事の入札に参加する旨及び当該工事の受注を希望するときはその旨を,石和支部等の執行部又は石和支部の《E》事務員に,ファクシミリ,電話又は口頭で連絡していた。また,石和地区特定土木一式工事が指名競争入札の方法により発注される場合においても,当該入札に指名された旨及び当該工事の受注を希望するときはその旨を同様に連絡していた。
石和支部等において上記連絡を受けると,《E》事務員が,発注担当部署ごとに区別することなく,入札公告が行われた工事ごとに入札参加者及び受注希望者を取りまとめた一覧表(以下「入札参加者等取りまとめ表」という。)を作成していた。また,《E》事務員は,上記工事のうち,峡東林務環境事務所を発注担当部署とする工事のみに係る入札参加者等取りまとめ表を別途作成していた。
具体的には,《E》事務員が,ポータルサイトに掲載された入札公告に基づき,各工事の発注担当部署,工事名,予定価格等の情報をパソコンに入力し,これを打ち出した表の余白に手書きで,入札参加の連絡を受けた事業者の社名を記載し,そのうち受注を希望する旨の連絡を受けた事業者については当該社名を丸で囲んでいた。《E》事務員は,以前は,入札参加者等取りまとめ表に入札参加者名を記載する欄を設けて,入札参加の連絡を受けた事業者の社名もパソコンに入力していたが,石和支部等の執行部の指示により,同欄を削除し,欄外に手書きで記載するようになった。
なお,石和支部等の執行部の指示により,《E》事務員は,入札参加者等取りまとめ表及びファクシミリによる連絡文書を一般の者の目に触れることがないように管理していた。また,《E》事務員は,事業者名が書き込まれていない入札参加者等取りまとめ表のデータをパソコンのハードディスクではなくUSBメモリに保存し,かばんに入れて常時携帯していたほか,落札者が決定した工事に係る入札参加者等取りまとめ表及びファクシミリによる連絡文書をシュレッダーにかけて廃棄していた。
このように石和支部等において入札参加情報等を集約していたのは,この情報を利用して受注調整を行うためであった。
(査18,査18の2,査46,査47,査49,査52,査58ないし査64,査66,査67,査78,査94,査95,査171,査182の1,査182の2,査183,査194の1,査225)
イ 受注予定者の決定方法
関係業者21社は,前記アの連絡を行うことにより石和支部等において集約された入札参加者及び受注希望者に関する情報を利用し,受注予定者を決定していた。
具体的には,発注担当部署の区分に応じて,石和支部等のそれぞれの執行部が入札参加者等取りまとめ表で入札参加者及び受注希望者を確認するなどした上,受注希望者が1社のときは,その者が受注予定者である旨を当該受注希望者に連絡し,受注希望者が複数のときは,受注希望者同士で話合いをするよう受注希望者に連絡するなどしていた。
このようにして,受注希望者が1社のときは,その者が受注予定者となり,受注希望者が複数のときは,受注希望者同士で話合いをするなどして,受注予定者を決定していた。
受注希望者同士の話合いに際しては,工事ごとに,各受注希望者が,当該工事の施工場所が自社の事務所等に近いといった事情(以下「地域性」という。)や,過去に受注した工事との継続性(以下「継続性」という。)等の自社が受注予定者たり得る理由を主張し合い,受注予定者を決定していた。上記話合いがまとまらなかった際には,石和支部等の執行部が調整会議と称する会合を開催して,受注予定者を決定したり,助言を行ったりすることもあった。
関係業者21社は,受注予定者とならなかった場合でも,発注者に入札への意欲を示したり,受注予定者に対して今後受注協力の実績を主張したりすることを目的として入札に参加し,受注予定者の受注に協力していた。
(査46,査47,査49,査52,査60,査82,査83,査129,査130,査171)
ウ 入札価格等の連絡
前記イにより受注予定者となった者は,他の入札参加者に対し,自社が受注予定者である旨を連絡するとともに,当該他の入札参加者の入札すべき価格若しくは予定価格に対する率又は自社の入札する価格若しくは予定価格に対する率を連絡し,自社が作成した本工事費内訳書を配布するなどしていた。他の入札参加者は,上記のような価格連絡を受け,受注予定者よりも高い価格で入札したり,入札を辞退したりするなどして,受注予定者が受注できるように協力していた。
なお,工事によっては価格連絡を行わない受注予定者もいたが,そのような場合であっても,他の入札参加者は,予定価格に極めて近い価格で入札したり,入札を辞退したりするなどして,受注予定者が受注できるように協力していた。
(査44,査46,査47,査50ないし査52,査60,査61,査73,査74,査76,査86,査89,査92,査93,査131ないし査138,査171,査202,査203,査205ないし査207,査209ないし査213,査216ないし査220,査224)
エ 総合評価落札方式の工事の場合の協力
総合評価落札方式による一般競争入札で発注される工事(以下「総合評価落札方式の工事」という。)における評価項目のうち,企業の施工実績,地域精通度及び地域貢献度は,前記第3の2⑶ウ(ウ)のとおり,いずれも客観的なデータに基づいて算出されるものであり,入札参加者が山梨県所定の様式で作成,記載して提出した根拠資料に基づいて点数化されることが,総合評価実施要領で公表されていた。そのため,関係業者21社は,過去の入札結果等により,各入札参加者の評価点を予想することは可能であった。
評価項目のうち配置予定技術者の能力も,前記第3の2⑶ウ(ウ)のとおり,総合評価実施要領に基づき客観的なデータが点数化されるものであるため,少なくとも,入札参加者において自社の評価点を予想することは可能であった。
評価項目のうち施工計画については,企業の施工実績等と異なり,総合評価実施要領に基づき客観的なデータが点数化されるものではなく,評価が発注者の裁量に委ねられるために,正確に評価点を予想することはできなかったが,0点,5点又は10点と3段階で配点されていたこともあり,少なくとも,入札参加者において,自社の作成した施工計画書の内容から自社の評価点の高低をある程度予想することは可能であった。
このような状況の中で,関係業者21社は,互いの評価点を予想し,又は連絡し合い,受注予定者以外の者は,自社の評価点が高いことが見込まれる場合は入札を辞退する,又は高い価格で入札する,受注予定者は,最も高い評価値を得ることができるよう入札価格を低めに設定する,他社の受注に協力する場合よりも綿密に施工計画書を作成するなどして,総合評価落札方式の工事の入札においても,あらかじめ受注予定者を決定し,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力していた。
(査49,査50,査52,査76,査78,査83,査87,査91,査92)
⑶ 個別工事における受注調整
本件審判手続において審査官が,本件合意に基づき受注調整が行われた工事であると主張するもの(以下「本件違反対象物件」という。)は,174物件から物件6,7,13,30,64,67,68,77,86,98,99,101,102,107,134及び144の16物件を除いた158件(以下「158物件」という。)であるところ,158物件のうち,少なくとも別紙9の「別紙11等」欄に「○」の付された40件(以下「40物件」という。)については,別紙11記載のとおり,入札公告への書き込みやメモなどの客観的な証拠等が存在することから,当該工事について,あらかじめ受注予定者を決定し他の入札参加者は受注予定者が受注できるように協力するなど,本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことが認められる。
また,158物件のうち,少なくとも別紙9の「別紙11等」欄に「●」の付された4件(以下「4物件」という。)については,以下に掲記する客観的な証拠から,当該工事について入札参加者等取りまとめ表が作成され,石和支部等の執行部に対して同表がファクシミリで送信されていること(物件5〔査66〕,物件60〔査225〕),入札参加者が石和支部等に対して当該工事の入札に参加する旨を連絡していること(物件99〔査63〕),入札参加者に対して受注調整の働き掛けが行われたこと(物件97〔査237〕)など,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことが認められる。
⑷ 本件対象期間に発注された石和地区特定土木一式土事の落札率
本件対象期間に発注された石和地区特定土木一式工事である158物件は,いずれも関係業者21社が受注しているところ,その平均落札率は94.0パーセントである。(査18,査18の2)
2 そして,被告は,本件審決において,上記認定事実に基づき,次のとおり判断した。
⑴ 本件合意の存否について
前記1⑴のとおり,山梨県では,平成17年度頃までは指名競争入札の方法により土木一式工事を発注することが多かったが,関係業者21社を含む石和地区の建設業者は,石和支部に対する平成6年の勧告審決以降も,石和地区を施工場所とする土木一式工事の指名競争入札において受注調整を行うなど,協調関係にあったことが認められる。
また,山梨県では,平成18年度頃から一般競争入札の方法により土木一式工事を発注することが増え,同時期から,一般競争入札の方法により発注される土木一式工事の一部について総合評価落札方式を導入したが(別紙9,査18,査18の2),前記1⑵のとおり,関係業者21社は,平成18年4月1日以降も,これらの石和地区に係る土木一式工事について,石和支部等において入札参加情報等を集約し,受注希望者が1社の場合はその者を受注予定者とし,受注希望者が複数の場合は地域性,継続性等を勘案して受注希望者同士の話合いなどにより受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力していたことが認められる。
さらに,前記1⑶のとおり,本件対象期間に発注された石和地区特定土木一式工事である158物件のうち,少なくとも40物件について本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことを裏付ける客観的な証拠が存在し,少なくとも4物件について本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことを裏付ける客観的な証拠が存在する。また,これらの工事の発注方法は,指名競争入札,通常の一般競争入札,総合評価落札方式による一般競争入札のいずれも含んでおり,発注担当部署は,山梨県県土整備部等,峡東農務事務所及び峡東林務環境事務所のいずれも含まれ,発注時期も本件対象期間の全般にわたっている。
加えて,前記1⑷のとおり,158物件は,いずれも関係業者21社が受注したものであり,158物件の平均落札率も,94.0パーセントという高いものであったことが認められる。
以上の事情に鑑みれば,関係業者21社のうち芦沢組土木,八木沢興業及び地場工務店を除く18社は,遅くとも平成18年4月1日までに,石和地区特定土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るために本件合意をし,本件合意の下に受注調整を行っていたことが認められる。
また,芦沢組土木,八木沢興業及び地場工務店は,いずれも平成18年4月1日時点においては石和地区特定土木一式工事の入札参加資格を有していなかったが,芦沢組土木については,平成19年度からB等級業者に格付されたことにより(査1),八木沢興業については,平成20年10月1日に窪川組から同社の事業の全部を譲り受けたことにより(前記第3の1),地場工務店については,平成21年度にB等級業者に格付されたことにより(査1),石和地区特定土木一式工事の入札参加資格を有するようになったことが認められる。
これらの事実からすると,芦沢組土木,八木沢興業及び地場工務店は,遅くとも,自社が石和地区特定土木一式工事の入札参加資格を有するようになって以降に最初に入札に参加した石和地区特定土木一式工事の入札書提出締切日である,芦沢組土木については平成19年6月19日(物件61及び63〔査18〕),八木沢興業については平成20年10月2日(物件119及び120〔査18〕),地場工務店については平成21年7月30日(物件148及び149〔査18〕)までに,それぞれ本件合意に参加していたと認められる。
⑵ 原告ら10社が受注した別紙10の1ないし10記載の各工事の当該役務の該当性について
不当な取引制限等の摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,不当な取引制限等の予防効果を強化することを目的とする課徴金制度の趣旨に鑑みると,独占禁止法7条の2第1項所定の課徴金の対象となる当該役務とは,本件においては,本件合意の対象とされた工事であって,本件合意に基づく受注調整等の結果,具体的な競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解される。そして,原告を含む関係業者21社は,遅くとも平成18年4月1日以降,石和地区特定土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るため,本件合意の下,受注調整を行っていたものであって,本件においては,前記認定の各事情がみられることから,石和地区特定土木一式工事に該当し,かつ,関係業者21社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当であるところ,別紙10の1ないし10記載の各工事について,いずれも,本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情はなく,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したと認められるから,これらの工事はいずれも独占禁止法7条の2第1項にいう当該役務に該当する。
⑶ 結論
ア 本件排除措置命令
原告を含む関係業者21社は,本件対象期間中,石和地区特定土木一式工事について,話合い等によって受注予定者をあらかじめ決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力するという内容の本件合意をして,関係業者21社の間に,上記の取決めに基づいた行動をとることを互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡を形成し,本件合意の下,合意の内容に沿った受注調整を行ったこと,又は本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為を行ったことにより,入札参加者の事業活動が事実上拘束される結果を生じさせて,独占禁止法2条6項にいう「その事業活動を拘束し」,また,当該取引に係る市場が有する競争機能を損ない,同項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」状態をもたらしたものであり,「公共の利益に反して」の要件を充足するものであることも明らかであり,本件合意は,同項にいう不当な取引制限に該当し,独占禁止法3条に違反するものと認められる。
また,本件違反行為は既に消滅しているが,本件違反行為は長期間にわたり行われていたこと,原告ら11社の大半は,石和支部に対する平成6年の勧告審決に伴い課徴金納付命令を受けたにもかかわらず再度同様の行為をしていたこと,原告ら11社は自主的に本件違反行為を取りやめたものではないこと等の事情が認められ,これらの事情を総合的に勘案すれば,本件排除措置命令の時点において原告ら11社は本件違反行為と同様の行為を繰り返すおそれがあったと認められ,特に排除措置を命ずる必要がある(独占禁止法7条2項)と認められる。
よって,本件排除措置命令は相当である。
イ 本件各課徴金納付命令
(ア) 課徴金に係る違反行為(ただし,原告に関する部分のみ抜粋)
本件違反行為が独占禁止法7条の2第1項1号に規定する役務の対価に係るものであることは,本件合意の内容から明らかである。
(イ) 課徴金の計算の基礎となる事実(ただし,原告に関する部分のみ抜粋)
a 事業者
原告は,石和地区特定土木一式工事を請け負う事業を営んでいた者である。(争いがない。)
b 実行期間
原告が本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成19年3月23日以前であると認められる。また,原告は,本件立入検査が行われた日である平成22年3月24日以降,本件違反行為を行っておらず,同月23日にその実行としての事業活動はなくなっているものと認められる。
したがって,原告については,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日から本件違反行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間が3年を超えるため,独占禁止法7条の2第1項の規定により,実行期間は平成19年3月24日から平成22年3月23日までの3年間となる。
c 売上高
原告の上記の実行期間における石和地区特定土木一式工事に係る売上額を独占禁止法施行令6条1項及び2項の規定に基づき算定すると,工事の対価の額は別紙10の2の「4 対象物件一覧」中の「課徴金算定の基礎となる売上額(円)」欄記載の金額となり,原告の売上額は上記別紙の「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」記載の金額となる(前記第3の2⑺)。
d 算定率
原告は,上記の実行期間を通じ,資本金の額が3億円以下の会社であって,建設業に属する事業を主たる事業として営んでいた者である。
したがって,原告は,独占禁止法7条の2第5項1号に該当する事業者である。(争いがない。)
e 課徴金の額
以上によれば,原告が国庫に納付すべき課徴金の額は,独占禁止法7条の2第1項及び5項の規定により,別紙10の2の「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」に記載の金額に100分の4を乗じて得た額から,同条23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された,上記別紙の「3 課徴金額」記載の金額である。
(ウ) よって,本件各課徴金納付命令は相当である。
ウ よって,本件各命令は相当である。
第5 当事者の主張
1 被告の主張
本件審決が認定した上記事実は,いずれも本件審決掲記の証拠によって合理的に認定することができるから,これらの認定事実には,それを立証する実質的な証拠があるものと認められ,また,本件審決の認定・判断には,その手続を含め憲法その他の法令違反はないから,本件審決に独占禁止法82条1項が定める取消事由は存在せず,したがって,本件審決は適法である。
2 原告の主張
⑴ 峡東林務環境事務所発注工事については,受注調整自体が存在しなかったことについて
ア 原告は,かねて石和支部において執行部を務める飯塚工業及びこれと同調する会社と対立関係にあった。そして,このような対立関係にあった平成18年度の途中で,原告の《F1》社長は,塩山治山協会の副会長職,石和支部の「林務の会長」職に就任し,平成19年度ないし平成21年度もそれぞれの役職に在職した。これらの役職は,飯塚工業を中心とする石和支部の執行部に含まれず,「林務」に関して,相互に意見を述べたり,相談したりすることは皆無であり,原告の《F1》社長は独自に活動を行っていた。
イ そして,このような状況下において,原告の《F1》社長が上記「林務」の会長に就任して以降,原告が知る限り,峡東林務環境事務所発注物件において,被告が主張するような受注調整が行われた事実はなく,また,何らかの受注調整に原告が関与した事実も存在しない。このことは,《F1》社長が「林務の会長」に就任して以降の同事務所発注の14件のうち,落札率が90パーセント以下のものが10件,さらにそのうち落札率が70パーセント台のものが5件(年度ごとの平均落札率では,平成19年度は約82.0パーセント,平成20年度は約87.2パーセント,平成21年度は約89.2パーセント)であって,かかる落札率の低さからみても明らかである。
さらに,峡東林務環境事務所発注物件については,いわゆるアウトサイダーの参加する物件も多く存在し,この点からも,被告が主張するような受注調整が行われたとすることに無理がある。
ウ 以上のとおり,峡東林務環境事務所発注物件については,受注調整が存在しなかったという強い推定が働くにもかかわらず,被告がこの事実を立証するために提出した供述証拠(査52,査60,査62など)のうち,少なくとも峡東林務環境事務所発注物件に係る受注調整とこれに原告が関与したことが記載されている部分は,審査官の誘導により具体性のない憶測を述べたものであり,また,《E》事務員の供述調書については,帰宅を急ぎ,あるいは,審査官に逆らったら逮捕されるかもしれない恐怖の下に供述を求められて作成されたものであって,いずれも証明力,さらには証拠能力のない証拠であることが明らかであり,本件では,これらの証拠を含めて,上記の推定を覆すに足りる証拠はない。
⑵ 原告は,平成19年3月以降に入札に参加した石和地区特定土木一式工事について,被告が主張するような受注調整に関与していなかったことについて
ア 平成19年3月以降,それまでの平均落札率は5パーセント超も下落し,それまでは皆無であった落札率90パーセントを下回る極めて低い落札率の物件が全体の4分の1強を占めるに及んでいる。そのため,少なくとも平成19年3月以降は,被告が主張するような受注調整が行われていないことは明白であり,原告はかかる受注調整に関与していない。
イ また,個別物件ごとに,受注調整の存否を検討する際,以下の点は前提とされるべきである。
第1に,入札に参加した業者は,人的資源,採算性,他の工箏との比較等々の理由により,応札時に積極的に受注を目指さないとすることは,頻繁にあることであり,このような場合,入札を辞退したり,予定価格に近い金額で応札して受注を回避することは,一般的に行われている。したがって,入札に参加した業者が,入札を辞退したり,予定価格に近い金額で応札したことをもって,その物件について,他の業者の協力により受注調整が行われたと推認することはできない。
第2に,業者は,入札公告がされた工事の選定に当たり,地縁があり資材や重機の仮置き場の手配が円滑に運べる物件であるか,過去に類似工事や先行工事の経験があることで他社に比べ採算面において有利となるかといった事情を当然に考慮に入れるから,このような地域性,継続性があることをもって,その物件について,受注調整が行われたと推認することはできない。
第3に,個別物件の中で高い落札率で応札された物件があったとしても,実際には,赤字工事であったり,赤字工事ではないが採算の厳しい物件について,落札できた場合には対応しようといった方針で予定価格に近い価格で入札して落札したりするなど,その受注に至る経過は一様ではないから,当該物件が仮に高い落札率で応札されたとしても,その事実からその物件について,受注調整が行われたと推認することはできない。
ウ 以上の点を踏まえて,原告が入札に参加した個別物件についてみると,原告が落札した個別物件(物件66,78,83,92,128,132,136,137,157,169及び173)についても,原告が落札できなかった個別物件(物件60,65,69,71,72,79,85,88,89,95,96,103,104,108,109,110,113,117,122,133,138,140,143,145,146,148,151,153,155,156,158,159,160,163,165,166,168,170,171,172及び174)についても,被告が本件審決において認定に供した証拠からは受注調整が存在したという具体的な立証があったとはいえないのであって,何らの証拠もないままに,他の業者が原告の落札に協力し又は他の業者の落札に原告が協力した,地域性や継続性がある,落札率が高いなどと主張して,原告が入札に参加した個別物件について,受注調整が存在したと推認することは許されない。
⑶ 本件合意が存在しないことについて
ア 本件合意の認定とその問題点
被告は,本件審決において,関係業者21社が,①石和支部に対する平成6年の勧告審決以降も受注調整を行うなど協調関係にあったこと,②石和支部等において入札参加情報等を集約し,地域性,継続性を勘案して受注希望者同士の話合いなどにより受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は受注予定者が定めた価格で受注できるように協力していたこと,③少なくとも40物件について本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことが認められること,そのうち少なくとも4物件について本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことが認められること,これらの工事の発注方法,発注担当部署及び発注時期において特段の偏りはみられないこと,④158物件はいずれも関係業者21社が受注したものであり,その平均落札率は94.0パーセントと高いものであることを根拠に,本件合意の存在を認定しているが,全く合理性を欠くものである。
すなわち,①の関係業者21社が石和支部に対する平成6年の勧告審決以降も受注調整を行うなど協調関係にあったとする点については,石和支部では執行部の変遷や前記のとおりの激しい勢力争いなどが起こっていたこと,一般競争入札や総合評価方式の導入など発注形態の変更もあったこと,落札率も大きく変化し,特に平成19年3月以降は,前記のとおり,それまでの平均落札率は5パーセント超も下落し,それまでは1件もなかった落札率90パーセントを下回る極めて低い落札率の物件が全体の4分の1強を占めるに及んでいることに照らせば,平成6年の勧告審決以降,受注調整を行うことができる協調関係にあったということはできない。
また,②の石和支部等において入札参加情報等を集約していたとする点については,入札が不調となるおそれのある1社入札を避けたいという発注者側の意向を受けて行われていたもので,合理的な理由があるから,入札参加情報等の集約が行われていたことをもって,本件合意の存在を推認することはできない。地域性,継続性を勘案して受注希望者同士の話合いなどにより受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は受注予定者が定めた価格で受注できるように協力していたとする点については,本件合意の内容を操り返すトートロジーにすぎず,本件合意を認定する基礎事実とはなり得ない。
また,④の158物件は,本件対象期間に発注された174物件から関係業者21社以外のアウトサイダーが受注した物件を除外したものであり,かかる人為的な操作を経た件数を本件合意を認定する間接事実とみることはできない。158物件の平均落札率が94.0パーセントとする点についても,本件対象期間4年間のうち,物件54以降(平成19年3月以降)の3年間は落札率は平均約92.1パーセントにとどまり,落札率90パーセント以下の物件が全体の4分の1強に及んでおり,上記94.0パーセントは,実態を正しく反映したものではない。のみならず,物件58,60,63,65,68,90,106,109及び143のように応札価格として1番札を入れた業者が落札をしていないものも含まれており,平均落札率が高いとする判断には何ら合理性はない。
さらに,③の少なくとも40物件について本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことが認められること等についても,個別物件ごとの応札状況について述べたとおり,合理性はない。
イ 個別物件の応札結果(客観的事実)から明らかとなる本件の実態
以下のような個別物件の応札結果に関する客観的事実からすれば,本件において,単純に昔から受注調整のルールが存在し,それを継続して実行してきたと認定できる状況にはなく,したがって,個別物件について原告に受注調整の対象ではなかったことについて立証責任を課し,その立証のない限り,当該受注を課徴金算定の基礎となる売上げに含めるとすることは明らかに不合理である。
(ア) 原告が落札率75.5パーセントで受注した物件54以降(平成19年3月以降),平均落札率が5パーセント超ほど落ち込み,約92.1パーセントにとどまっている。
(イ) 落札率90パーセントを下回る物件が平成19年3月以降のみ偏在し,その割合が4分の1強に及んでいる。
(ウ) 落札業者である一番札の業者と二番札の業者との応札率の差が5パーセント以上も開きのある物件が多数存在し,そのすべてが平成19年3月以降にのみ偏在している。
(エ) 一番札であるにもかかわらず,最低制限価格を下回ったがゆえに失注した業者がいる物件が多数存在し,そのすべてが平成19年3月以降にのみ偏在している。
(オ) 総合評価落札方式の物件において,落札業者ではないにもかかわらず,施工計画で高い評価を受けている業者が多数存在し,そのすべてが平成19年3月以降にのみ偏在している。
(カ) 総合評価落札方式の物件において,価格評価で一番札であるにもかかわらず,価格以外の評価点で逆転された業者がいる物件があり,そのすべてが平成19年3月以降にのみ偏在している。
(キ) 峡東農務事務所発注物件の落札率は受注調整がされていない期間においても高い。
(ク) 峡東林務環境事務所発注物件にはアウトサイダーが多く参加しており,平成19年3月以降,その落札率は著しく低い。
(ケ) アウトサイダーが受注した物件(受注調整が存在しない物件)の平均落札率と本件の落札率に有意の差が存在しない。
ウ 受注調整に係る客観的な証拠が存在するとされた40物件のうち原告が入札に参加していない以下の16物件について(なお,これらの物件については,仮に何らかの受注調整が行われていたとしても,原告に直接影響が及ぶことはない。)
(ア) 物件36は,採算性が悪く一般的に落札率が高い峡東農務事務所発注物件であること,複数のアウトサイダーも入札に参加しているのに,どのように受注調整が行われたのかについて主張立証が全くされていないことに照らせば,落札率が97.9パーセントであったからといって,受注調整の存在が推認されるものではない。被告が本件審決において認定に供した証拠からは上記物件について受注調整の存在を認定することはできない。
(イ) 物件73及び74も,同じく峡東農務事務所発注物件であり,落札率の傾向が大きく変化した物件54以降(平成19年3月頃以降)の発注物件であることに照らせば,落札率がそれぞれ96.0パーセント,96.5パーセントであったからといって,受注調整の存在が推認されるものではない。被告が本件審決において認定に供した証拠からは上記各物件について受注調整の存在を認定することはできない。
(ウ) 物件80ないし82,118,120,139,147,150,164及び167は,同じく物件54以降(平成19年3月頃以降)の発注物件であることに加え,そのうち物件80ないし82,167は,上記のような峡東農務事務所発注物件であるから,落札率がそれぞれ95.0パーセントないし96.8パーセントであったからといって,受注調整の存在が推認されるものではなく,物件147は,原告の《F1》社長が「林務の会長」に就任して以降落札率が低く推移した峡東林務環境事務所発注物件であって,実際にその落札率は90.0パーセントと低く,また,物件139の落札率も84.0パーセントと著しく低いから,いずれも受注調整の存在が推認されるものではない。被告が本件審決において認定に供した証拠からは上記各物件について受注調整の存在を認定することはできない。
(エ) 物件116,119及び135は,同じく物件54以降(平成19年3月頃以降)の発注物件であることに加え,物件116は,上記のような峡東農務事務所発注物件であるから,落札率がそれぞれ95.5パーセントであったからといって,受注調整の存在が推認されるものではなく,物件135は,アウトサイダーも入札に参加しているのに,どのように受注調整が行われたのかについて主張立証が全くされていないことにも照らせば,受注調整がされたと推認することはできない。被告が本件審決において認定に供した証拠からは上記各物件について受注調整の存在を認定することはできない。
エ 受注調整に係る客観的な証拠が存在するとされた4物件について(なお,物件5,60及び97については,仮に何らかの受注調整が行われていたとしても,原告は入札に参加していないので,原告に直接影響が及ぶことはない。)
(ア) 物件5は,同じく峡東農務事務所が同時期に発注した物件4,6及び7とともにアウトサイダーも入札に参加しているのに,どのように受注調整が行われたのかについて主張立証が全くされていないことに照らせば,これらの物件につき受注調整がされたと推認することはできない。被告が本件審決において認定に供した証拠からは上記物件について受注調整の存在を認定することはできない。
(イ) 物件60は,落札率が74.4パーセントと極めて低い上,一番札で応札率74.2パーセントの風間建設のほか,80.0パーセントの栗田工業,90.0パーセントの筒井工業らが失注するなど熾烈な受注競争が繰り広げられたことは明白であり,また,アウトサイダーも入札に参加していたことから,この物件につき受注調整がされたと推認することはできない。被告が本件審決において認定に供した証拠からは上記物件について受注調整の存在を認定することはできない。
(ウ) 物件97は,物件54以降(平成19年3月頃以降)の発注物件であることに加え,採算性が悪く一般的に落札率が高い峡東農務事務所発注物件であるにもかかわらず,その落札率は89.9パーセントにとどまっていることから,受注調整の存在を推認することはできない。被告が本件審決において認定に供した証拠からは上記物件について受注調整の存在を認定することはできない。
(エ) 物件99は,同じく物件54以降(平成19年3月頃以降)の発注物件であることに加え,上記のような峡東農務事務所発注物件であるにもかかわらず,その落札率は74.2パーセントと極めて低いこと,74.2パーセントの窪川組,75.1パーセントの風間建設,82.0パーセントの友愛工業,89.4パーセントの飯塚工業らが失注しているなど熾烈な受注競争が繰り広げられたことは明白であること,この物件にはアウトサイダーも入札に参加していたことに照らせば,受注調整の存在を推認することはできない。被告が本件審決において認定に供した証拠からは上記物件について受注調整の存在を認定することはできない。
第6 当裁判所の判断
1 被告が本件審決において認定した事実は,前記第4の1⑴,⑵アないしエ,⑶及び⑷のとおりであるところ,これらの認定に供された証拠の概要は,次のとおりである。
⑴ 前記第4の1⑴の事実(石和支部に対する平成6年の勧告審決以降の受注調整の状況)の認定に供された証拠は,査40の1ないし査40の3,査41,査42の1,査42の2,査43,査49,査50,査52,査60,査61,査123,査166ないし査169,査171であるところ,うち①査49,査50,査52,査60,査61及び査171は,原告ら11社の一つ風間建設の元常務取締役《H2》(査49)とその営業部長《H3》(査50),同じく栗田工業の元代表取締役《D2》(査52),関係業者21社以外の《会社名略》株式会社の代表取締役《氏名略》(査60及び査61)及び同じく《会社名略》株式会社の代表取締役《氏名略》(査171)が,審査官に対し,平成6年以降も石和支部において受注調整が繰り返されていた旨,自社もこれに関与していた旨,同様に受注調整に関与していた他の業者名,受注調整のための具体的な協力方法など,上記認定事実に沿う内容を供述した供述調書(供述者が提出した陳述書や供述を裏付ける手帳その他の資料の写しを含む。以下に掲記する供述調書についても同じ。)であり,その余の証拠は,②石和地区の建設業者が作成した,本件対象外工事について入札価格等について連絡を取り合っていたことを示す書面(査40の1ないし査40の3,査42の1,査42の2,査166ないし査169),③その工事についての入札結果(査41,査43)など,上記各供述の内容を裏付ける客観的な証拠である。
⑵ア 同じく⑵の事実(関係業者21社による受注調整の方法及びその実施状況)のうちアの事実(石和支部等による入札参加情報等の集約)の認定に供された証拠は,査18,査18の2,査46,査47,査49,査52,査58ないし査64,査66,査67,査78,査94,査95,査171,査182の1,査182の2,査183,査194の1,査225であるところ,うち①査182の1は,石和支部の《E》事務員が,旧東八代郡下に所在する土木業者は,発注者・発注方法に関係なく,受注を希望する物件を石和支部にファクシミリで知らせ,石和支部執行部が話合いをして受注を希望する業者が落札している旨を記載した書面であり,②査62及び査183は,《E》事務員が,審査官に対し,石和地区で一般競争入札又は指名競争入札の方法により土木工事の入札が実施される場合において,業者から,電話やファクシミリ等で,当該工事の入札に参加する旨とさらに受注を希望する場合にはその旨も併せて連絡を受けていた旨,連絡をしてきた業者は,飯塚工業,風間興業,原告,矢崎興業,八木沢興業,風間建設,栗田工業,芦沢組土木らであった旨,これらの入札情報は,入札参加者等取りまとめ表に記載し,特に受注を希望する業者については丸で囲んだ旨,かかる情報はパソコンのハードディスクではなくUSBメモリに保存し,かばんに入れて常時携帯していたほか,落札者が決定した工事に係る入札参加者等取りまとめ表及びファクシミリによる連絡文書をシュレッダーにかけて廃棄していた旨など,上記認定事実のとおりの具体的な内容を供述した供述調書であり,③査46,査47,査49,査52,査58ないし査61は,原告ら11社の一つ風間興業の《I1》社長(査46),同じく矢崎興業の《B》社長(査47),同じく風間建設の元常務取締役《H2》(査49),同じく栗田工業の元代表取締役《D2》(査52),同じく中楯建設の《M》社長(査58,査59),関係業者21社以外の《会社名略》株式会社の代表取締役《氏名略》(査60及び査61)及び同じく《会社名略》株式会社の代表取締役《氏名略》(査171)が,審査官に対し,上記入札が実施される場合,入札に参加する旨,さらには受注を希望する場合はその旨を石和支部ないし《E》事務員に連絡していた旨を述べる供述調書であり,その余の証拠は,①原告ら11社の一つ友愛工業が入札参加の意思を石和支部に伝えていたことを示すカレンダーの記載(査64),⑤《E》事務員が作成していた入札参加者等取りまとめ表の一部(査66,査67),⑥原告が事前に送付を受けて保管していた物件137に関する入札参加者等取りまとめ表で,「中村工務店」「筒井建設」「八木沢興業」「風間建設」などと記載され,「八木沢興業」「風間建設」については辞退と手書きで記載されたもの(査78。なお,この物件は原告が落札した。),⑦原告が同じく事前に送付を受けて保管していた物件174に関する入札参加者等取りまとめ表で,欄外に「中村」「矢崎」「風興」などと記載され,「中村」と「矢崎」の上には棒線が引かれ,「風興」は丸で囲まれているもの(査94。なお,この物件は風間興業が落札した。),⑧原告が同じく事前に送付を受けて保管していた複数の物件についての入札参加者等取りまとめ表で,欄外に,それぞれの物件ごとに複数の業者名が記載されているほか,その業者名の一部が丸で囲まれたり,赤字で「戦」「もめた」などと示されているもの(査95),⑨風間興業,矢崎興業,風間建設ら一部の業者が本件対象外工事につき石和支部に入札に参加した旨を伝えたファクス文書(査194の1),⑩原告が事前に送付を受けて保管していた物件60についての入札参加者等取りまとめ表で,手書きで「50,960,000 飯塚工業」と記載されているもの(査225。なお,この物件は飯塚工業が落札した。)など,上記各供述の内容を裏付ける客観的な証拠である。
イ 同じく⑵イの事実(受注予定者の決定方法)の認定に供された証拠は,査46,査47,査49,査52,査60,査82,査83,査129,査130,査171であるところ,うち①査46,査47,査49,査52,査60及び査171は,原告ら11社の一つ風間興業の《I1》社長(査46),同じく矢崎興業の《B》社長(査47),同じく風間建設の元常務取締役《H2》(査49),同じく栗田工業の元代表取締役《D2》(査52),関係業者21社以外の《会社名略》株式会社の代表取締役《氏名略》(査60),同じく《会社名略》株式会社の代表取締役《氏名略》(査171)が,審査官に対し,上記認定事実のとおりの内容の全部又は一部を述べる供述調書であり,その余の証拠は,②原告の《F1》社長の日記で,「2/18 11:00 石和支部ニテ話し合い。螢見橋は,今までの業者的に考えると,中村の継続と思っています。が,御社が希望すると言っていますので,それも承知しますが,今後,地域とか継続とかでなく仲良くしていく為にはそれぞれの能力の中でこの管内の仕事を分け合っていくということが約束されるのであれば今回はご遠リョ申し上げます。了解の時はここにサインしてを下さい。」なとど記載されたもの(査82。なお,その日付や対象が橋梁工事であることから,入札物件は物件140の橋梁工事で,話合いの相手は落札した飯塚工業であると認められる。),③原告が事前に石和支部から送付を受けて保管していた入札参加者等取りまとめ表で,物件153(№10)に係る行の欄外に「矢」,物件155(№18)に係る行の欄外に「友」,物件156(№21)に係る行の欄外に「飯塚」,物件157(№20)に係る行の欄外に「中村」「中」,物件158(№22)に係る行の欄外に「風興」「風」と記載されたもの(査83。なお,上記各物件は,順に,矢崎興業,友愛工業,飯塚工業,原告,風間興業が落札した。)など,上記各供述の内容を裏付ける客観的な証拠である。
ウ 同じく⑵ウの事実(入札価格等の連絡)の認定に供された証拠は,査44,査46,査47,査50ないし査52,査60,査61,査73,査74,査76,査86,査89,査92,査93,査131ないし査138,査171,査202,査203,査205ないし査207,査209ないし査213,査216ないし査220,査224であるところ,うち①査46,査47,査50ないし査52,査60,査61は,原告ら11社の一つ風間興業の《I1》社長(査46)とその営業部長《H3》(査50)及び営業部課長《H4》(査51),同じく栗田工業の元代表取締役《D2》(査52),関係業者21社以外の《会社名略》株式会社の代表取締役《氏名略》(査60及び査61),同じく《会社名略》株式会社の代表取締役《氏名略》(査171)が,審査官に対し,上記認定事実のとおりの内容の全部又は一部を述べる供述調書であり,その余の証拠は,②飯塚工業のノートで,「営業ISOの流れ」「本命の時 内訳書→入札日の1,2日前,10~12通」「→配布各社」「本命でない時←→配布される」「電子入札(添付書類として)」「県→P.D.F」等と記載されたもの(査44),③栗田工業が物件96に係る「一般競争入札」公告の欄外に「69,000,000」「2回目最低より400,000ひく」と記載したもの(査73。なお,この物件は,風間興業が落札した。),④八木沢工業が「風間興業 渋川希望 調整 6900万以上 2回目 最入札40万」と記載した紙片(査74。なお,このメモには「渋川」と記載されていることから,同じく物件96に関するものと解される。),⑤風間建設の元常務取締役《H2》の手帳で,物件163に関して「飯塚《A2》 99以上」「矢崎辞退」「中村 《F2》 99以上」などと記載されたもの(査86。なお,この工事は風間建設が落札した。),⑥風間建設の営業部課長《H4》が物件172に関し「峡東じょうかセンター私共で希望しますのでよろしく いいずか」と記載したメモ(査89。なお,この物件は飯塚工業が落札した。),⑦原告のカレンダーで,《F1》社長が物件173に開し「ホタルミ 外2社前回と同じ文章で御願いした。」と記載したもので(査92),⑧同じくその工事につき事前に原告から風間興業に対し電子メールで送信された本工事費内訳表(査93。なお,その物件は原告が落札した。),⑨「一般競争入札」(公告)や指名通知書又は競争参加資格確認書等の欄外に入札価格等が手書きで記載されたもの(査131ないし査138,査202,査203,査205ないし査207,査209ないし査213,査216ないし査220)など,上記各供述の内容を裏付ける客観的な証拠である。
エ 同じく⑵エの事実(総合評価落札方式の工事の場合の協力)の認定に供された証拠は,査49,査50,査52,査76,査78,査83,査87,査91,査92であるところ,うち①査49,査50,査52は,原告ら11社の一つ風間建設の元常務取締役《H2》(査49)とその営業部長《H3》(査50),同じく栗田工業の元代表取締役《D2》(査52)が,審査官に対し,原告ら21社は,総合評価方式の下でも,互いの評価点を予想し,あるいは,連絡し合いながら,受注調整を行っていた旨を述べる供述調書であり,その余の証拠は,②総合評価落札方式により実施された物件116の入札につき,事前に,長田建設から小泉建設に対しファクシミリで送信された長田建設の技術審査資料(査76。なお,その物件は小泉建設が落札した。),③同じく物件137の入札につき,前記のとおり「中村工務店」「筒井建設」「八木沢興業」「風間建設」などと記載され,「八木沢興業」「風間建設」については「辞退」と手書きで記載された,原告の保管していた入札参加者等取りまとめ表(査78。なお,この物件は原告が落札したことは,前記のとおりである。),④同じく物件153(№10),155(№18),156(№21),157(№20)及び158(№22)の入札につき,前記のとおり欄外に「矢」,「友」,「飯塚」,「中村」,「風興」などと記載された,原告の保管していた入札参加者等取りまとめ表(査83。なお,上記各物件は,順に,矢崎興業,友愛工業,飯塚工業,原告,風間興業が落札したことは,前記のとおりである。),⑤同じく物件165の入札につき,風間興業が総合評価落札方式に関する評価調書に手書きで「風興17」「友愛26」「中村24」などと評価点を記載し,「風興65,960」「友愛67,700」「中村67,600」などと記載したもの(査87。なお,この物件は風間興業が落札した。),⑥同じく物件137の入札につき,原告が総合評価落札方式に関する評価調書に手書きで評価点等を記載したもの(査91)や,《F1》社長が前記のとおり「ホタルミ 外2社前回と同じ文章で御願いした。」と記載した原告のカレンダー(査92。なお,この物件は原告が落札したことは,前記のとおりである。)など,上記各供述の内容を裏付ける客観的な証拠である。なお,査224は,本件審決には前記事実の認定に供された証拠としては掲記されていないが,原告が物件173に関する総合評価落札方式に関する評価調書の欄外に手書きで「30」(原告の欄),「15」(矢崎興業の欄)「10」(風間興業の欄)などと評価点を記載したものであって(なお,この物件は原告が落札した。),同じく上記各供述の内容を裏付ける客観的な証拠であるといえる。
⑶ 同じく⑶の事実(個別工事における受注調整)についての証拠の概要は,別紙11に記載のとおりである。
⑷ 同じく⑷の事実(本件対象期間に発注された石和地区特定土木一式工事の落札率)の認定に供された証拠(査18)は統計数値であり(なお,査18の2は,入札参加資格等に係る本店所在地の一部を修正したものである。),前記の平均落札率が94.0パーセントであることは,原告においても争わないところである。
前記第4の1⑴,⑵アないしエ,⑶及び⑷の事実の認定に供された証拠の概要は,以上のとおりである。
原告は,上記認定に供された供述証拠(査52,査60,査62など)のうち,少なくとも峡東林務環境事務所発注物件に係る受注調整とこれに原告が関与したことが記載されている部分は,審査官の誘導により具体性のない憶測を述べたものであり,また,《E》事務員の供述調書については,帰宅を急ぎ,あるいは,審査官に逆らったら逮捕されるかもしれない恐怖の下に供述を求められて作成されたものであって,いずれも証明力,さらには証拠能力のない証拠であることが明らかであると主張する。確かに,前記《D2》(査52)及び《氏名略》(査60)の各供述調書にはいわゆる伝聞供述が含まれているものの,審査官から誘導されたり,根拠のない憶測を述べたことはうかがわれず,むしろ,峡東林務環境事務所発注物件のうち物件60,137及び174については,前記のとおり,受注調整が行われたことを裏付ける客観的な証拠が存在し,物件93,143及び147についても客観的な証拠が存在する(順に,査137,査203,査211)。特に,そのうち物件60,137及び174については,前記のとおり,原告自らが保管していた客観的な証拠も存在しているのであって,かかる客観的な証拠に沿う上記各供述調書は,証拠能力があるのはもとより,その信用性も肯定することができる。また,《E》事務員の供述調書については,飯塚工業ら及び原告がそれぞれ提出した《E》事務員の陳述書(審A共10,審B17)並びに同人の参考人尋問における陳述によれば,同人は,上記供述調書の一部の表現が不正確である点と,受注を希望する業者が受注していたので執行部を中心とした話合いにより受注業者を決めていたと思う旨の記載について,かかる供述をした記憶はなく,執行部を中心とした話合いにより受注業者を決めていたとの認識もない旨を陳述しているが,上記供述調書中の,石和地区で一般競争入札又は指名競争入札の方法により土木工事の入札が実施される場合,業者から入札に参加し,さらには受注を希望するといった連絡を受けていた旨,これらの入札情報を入札参加者等取りまとめ表に記載していた旨や,かかる情報データの管理方法や廃棄方法などといった事実関係については,上記供述調書中の供述内容は具体的で,それを裏付ける客観的な証拠も多数存在していることからすれば,上記陳述書(審A共10,審B17)や参考人尋問における陳述よりも合理的で信用性が高く,実際の体験に基づく供述と認められるから,供述内容全体について,証拠能力があるのはもとより,その信用性も認められる(なお,《E》事務員の上記各陳述書(審A共l0,審B17)及び参考人尋問における陳述中,《E》事務員の上記供述調書における供述の任意性に係る陳述は,直ちに信用することができない上,その陳述内容は任意性を疑わせる程度のものということはできず,他にその任意性を疑わせるに足りる証拠はない。)。また,原告ら11社のうち一部の業者の代表者等の陳述書(審A共4,審A共5,審A共8,審A共14,審A共15,審A共16,審B16)及び代表者尋問・参考人尋問における陳述中には,前記各認定事実に反する部分があるが,いずれも,自身に関する前記客観的な証拠について,あいまい又は納得し難い不合理な説明に終始していることに照らせば,信用することができない(例えば,原告の《F1》社長についていえば,査78,査82,査83,査91,査93,査94,査95,査224,査225という客観的な証拠が前記各認定事実を裏付けているところ,これら証拠についての原告の《F1》社長の弁解(査78につき《F1》社長の審尋調書4頁・36頁,査82につき審B16の9頁,同調書14頁,査83につき審B16の11頁,同調書40頁・43頁,査91につき同調書51頁,査93につき同調書58頁・59頁,査94につき審B16の11頁,同調書33頁・40頁・54頁・58頁,査95につき同調書41頁・44頁,査224につき同調書16頁・52頁,査225につき同調書34頁)は,いずれもあいまい又は不合理で直ちに信用することができない。)。そして,他に前記各認定事実を裏付ける各供述証拠の信用性を疑わせるに足りる事情は認められない。
さらに,前記各事実の認定に供された証拠は,①同じ建設業界支部に所属し,本件違反行為若しくはこれと同様の行為に関与し若しくは関与したことのある業者の担当者又はその支部の事務職員による供述調書で,自社のみならず,その支部に所属する関係業者の不利益な事実の承認を内容とするものであるところ,かかる供述内容が本件各命令の理由とされ,自社のみならず関係業者に多大な不利益を与えるかもしれないことを承知で,あえて虚偽の事実を述べるような動機が存在したことはうかがわれず,②それらの供述に沿う客観的な証拠も前記のとおり多数存在していることに加え,③158物件は,いずれも関係業者21社が受注し,158物件の平均落札率が94.0パーセントとの高さであったという客観的な事実も併せると,こららの証拠が相互に補い合って信用性をより高めているということができるのであって,このような証拠に基づいて前記各事実を認定したことは合理的であり,それを立証する実質的な証拠があるものと認められる。
2 そして,上記のとおり実質的な証拠により認定された前記第4の1の各事実に前記第3の前提となる事実を併せれば,前記第4の2⑴ないし⑶のとおり認定することが合理的であり(ただし,第4の2⑵において,遅くとも平成18年4月1日以降受注調整を行ったと認定されている「原告を含む関係業者21社」は,⑴で認定されているとおり,当初は関与していない芦沢組土木,八木沢興業及び地場工務店を除くべきであるから,そのように訂正する。),かかる認定について,それを立証する実質的な証拠があるものと認められる。
3 原告の主張について
⑴ 峡東林務環境事務所発注工事については受注調整自体が存在しなかったとの主張について
ア 原告は,かねて石和支部において執行部を務める飯塚工業及びこれと同調する会社と対立関係にあったとした上,原告の《F1》社長が「林務」の会長に就任した以降,「林務」に関して,相互に意見を述べたり,相談したりすることは皆無であった旨主張する。
しかし,仮に,原告と飯塚工業らとの関係が良好でなかったとしても,これらの業者が反目し合いながらも受注価格の低落防止といった共通の利益を図るため,本件合意の内容に従った行動を採ったり,他の業者にこれを期待したりすることはあり得るところであり,むしろ,前記のとおり,物件140の橋梁工事について,原告の《F1》社長と飯塚工業が話し合ってこれを飯塚工業が落札したこと(査82),原告の保管していた入札参加者等取りまとめ表(査83)には欄外に「飯塚」「中村」などと記載されていて,それぞれの工事について,その欄外に記載された飯塚工業,原告などが落札したことが認められるのであって,これらの事実にも照らせば,上記各物件を含めて原告と飯塚工業らとの間で受注について話合いをすることはなかったとの上記主張は採用することができない。
イ 原告は,《F1》社長が「林務の会長」に就任して以降,峡東林務環境事務所発注の14件のうち,落札率が90パーセント以下のものが10件,さらにそのうち落札率が70パーセント台のものが5件あって落札率が低い上,同事務所発注物件については,いわゆるアウトサイダーの参加する物件も多く存在することから,被告が主張するような受注調整が行われたとすることには無理があると主張する。
しかし,一般に,落札率が低い工事が存在したとしても,受注調整によって受注予定者が1社に絞り込めず,2社以上で落札を争った結果,落札率が低下することはあるし(別紙11の⒀の物件138(落札率は80.0パーセント),(21)の物件174(落札率は81.0パーセント)がこれに該当する。),総合評価落札方式の工事においても,受注予定者が最も高い評価値を得ることできるよう入札価格を低めに設定した結果,落札率が低下したり(物件83,104,105,149,153,155,159及び171がこれに該当することがうかがわれる。),あるいは,受注調整に非協力的な業者が存在する物件について(なお,査49によれば,平成19年7月頃から平成20年秋頃まで,風間建設は受注調整の誘いを受けてもこれを拒絶し,独自に積算して入札する意向を伝えていたことが認められる。),受注予定者がこれを警戒して低めに入札価格を設定した結果,落札率が低下したりすることはあり得るところである。しかも,前記認定のとおり,《F1》社長が「林務の会長」に就任して以降の峡東林務環境事務所発注物件のうち物件60,93,137,143,147及び174については,受注調整が行われたことを裏付ける客観的な証拠が存在し,そのうち物件60,137及び174については,原告自らが保管していた客観的な証拠も存在しているのであるから,前記の落札率から峡東林務環境事務所発注物件について受注調整が存在したとの認定が左右されるということはできない。原告は,アウトサイダーが受注した物件については受注調整は存在しないとした上で,その平均落札率と関係業者21社が受注した158物件の平均落札率との間には有意の差はなく,同事務所発注物件についてはアウトサイダーの参加する物件も多く存在していたと主張するが,アウトサイダーが受注した物件について受注調整が存在しなかったと認めるに足りる証拠はなく,アウトサイダーが入札に参加したが受注しなかった本件違反対象物件について,アウトサイダーの入札率をみると,96.0パーセント(峡東林務環境事務所発注の物件93)ないし99.7パーセント(同じく物件62)と相当に高い率であることが認められ(別紙9),アウトサイダーの中に低価格で入札するなど競争的な行動をとった業者が存在した形跡はうかがわれないことにも照らすと,同事務所発注物件にアウトサイダーの参加する物件が多く存在したとしても,同事務所発注物件について受注調整が存在したとの前記認定は左右されない。
ウ なお,峡東林務環境事務所発注物件について受注調整が存在し,これに原告が関与したことを述べる供述証拠(査52,査60,査62など)について,証拠能力があり,信用性もあることは,すでに説示したとおりである。
エ したがって,原告の前記主張は,本件審決の認定判断の合理性を左右するものとはいえない。
⑵ 原告は,平成19年3月以降に入札に参加した石和地区特定土木一式工事について,被告が主張するような受注調整に関与していなかったとの主張について
ア 原告は,平成19年3月以降,それまでの平均落札率は5パーセント超も下落し,それまで皆無であった落札率90パーセントを下回る極めて低い落札率の物件が全体の4分の1強を占めるに及んでいるから,少なくとも平成19年3月以降は,被告が主張するような受注調整が行われていないことは明白であると主張する。
しかし,受注調整が行われても落札率が低くなることがあること,その要因の一つである受注調整に非協力的な業者として,平成19年7月頃から平成20年秋頃までの間,風間建設がその態度を明らかにしていたことは,上記のとおりであるから,上記の平均落札率の推移等からは直ちに上記工事について受注調整が存在したとの前記認定は左右されない。
イ 原告は,入札に参加した業者が,人的資源,採算性,他の工事との比較等々の理由により,入札を辞退したり,予定価格に近い金額で応札して受注を回避したりすることは一般的に行われているところであり,また,地域性,継続性を考慮することも当然のことであって,さらに,高い落札率で応札されたとしても実際には赤字工事又は採算の厳しい工事であることもあるから,原告が入札に参加した物件について,このような個別的な事情を考慮することなく,単に,他の業者が原告の落札に協力し又は他の業者の落札に原告が協力したとか,地域性や継続性があるとか,落札率が高いなどの理由だけで,受注調整が存在したと推認することは許されない旨主張する。
しかし,原告が主張するような入札参加業者の思惑や行動は,石和地区特定土木一式工事について受注調整が存在し,これに原告が関与したことと相反するものとは解されない。被告は,本件審決において,関係業者21社が,①石和支部に対する平成6年の勧告審決以降も受注調整を行うなど協調関係にあったこと,②石和支部等において入札参加情報等を集約し,地域性,継続性を勘案して受注希望者同士の話合いなどにより受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は受注予定者が定めた価格で受注できるように協力していたこと,③少なくとも40物件について本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことが認められること,そのうち少なくとも4物件について本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことが認められること,これらの工事の発注方法,発注担当部署及び発注時期において特段の偏りはみられないこと,④158物件はいずれも関係業者21社が受注したものであり,その平均落札率は94.0パーセントと高いものであることの各事実を認定した上,この認定事実等を総合して,原告が入札に参加した物件を含めて,本件合意の存在と本件合意の下に原告を含む関係業者21社が受注調整を行っていた事実を認定したのであって,それを立証する実質的な証拠があると認められることは,前記のとおりである。そして,原告を含む関係業者21社は,遅くとも平成18年4月1日以降(ただし,芦沢組土木,八木沢興業及び地場工務店はその後に参加した。),石和地区特定土木一式工事について,本件合意の下,受注調整を行っていたものであって,前記認定の各事情が認められる本件においては,石和地区特定土木一式工事に該当し,かつ,21社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当であるところ,そのうち原告が入札に参加した物件について,本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情があると認めるに足りる証拠はない。原告の前記主張は,上記のとおり原告が入札に参加した物件について特段の事情のない限り本件合意に基づく受注調整が行われたと合理的に推認されるにもかかわらず,被告に更なる立証が必要であることを前提とするものであって,その前提自体が失当といわざるを得ない。
ウ したがって,原告の前記主張も,本件審決の認定判断の合理性を左右するものとはいえない。
⑶ 本件合意が存在しないとの主張について
ア 原告は,①石和支部での執行部の変遷,勢力争い,発注形態の変更,平均落札率の変化(平成19年3月以降の低下),②1社入札を避けたい発注者側の意向により入札参加者情報の集約がされたものであること,③158物件の落札率94.0パーセントについて,平成19年3月以降は,平均92.1パーセントにとどまり,90パーセント以下が4分の1強に及び,1番札の業者が落札していないものも含まれていること,④客観的な証拠が存在するとされた40物件の応札状況(平成19年3月以降に落札率90パーセントを下回る物件が偏在していること,一番札と二番札の応札率の差が5パーセント以上あるものが多数存在していること,一番札であるにもかかわらず失注した業者が多数存在していること,総合評価方式において,落札業者でないのに施工計画で高い評価を受けている業者が多数存在していること,価格評価で一番札であるにもかかわらず,逆転された業者が存在していること,峡東農務事務所発注物件では受注調整がされたとされていない期間でも落札率は高いこと,アウトサイダーの参加とその落札率に有意な差がないこと),⑤40物件のうち,原告が参加していない16物件について,平成19年3月以降の発注物件であること,峡東農務事務所発注物件であること,落札率が低いこと,落札率が高くてもアウトサイダーが参加していること,⑥4物件について同趣旨の根拠を挙げ,受注調整の存在したことを認定することができない旨主張する。
しかし,既に説示したとおり,本件審決で認定した事実には,これを認定する実質的な証拠があり,その事実によれば,本件合意の存在が認められるとともに,石和地区特定土木一式工事に該当し,かつ,21社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当であるところ,原告の主張するところは,いずれも,その大部分が既に説示したところにより受注調整が存在したとの認定を左右し得ない事情を繰り返して主張するものにすぎず,その余の主張も上記認定を左右し得ないものであって,本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情とは認められない。原告の上記主張は,本件対象期間,石和地区特定土木一式工事について,本件合意に基づく受注調整が行われたと合理的に推認されるにもかかわらず,被告に更なる立証が必要であることを前提とするものであって,その前提自体が失当といわざるを得ない。
イ したがって,原告の前記主張も,本件審決の認定判断の合理性を左右するものとはいえない。
4 以上のとおりであって,本件審決は実質的な証拠に基づく事実の認定の下にされた正当なものというべきであり,本件各命令に原告が主張する違法は認められず,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
平成30年10月26日
裁判長裁判官 都築政則
裁判官 浦木厚利
裁判官 飯塚圭一
裁判官 石原寿記
裁判官 山本 拓
注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。
【別紙添付省略】