公正取引委員会審決等データベース

文字サイズの変更

背景色の変更

本文表示content

植野興業㈱ほか6名による審決取消請求事件

独禁法3条後段・独禁法7条の2
東京高等裁判所

平成29年(行ケ)第17号

判決

平成30年11月30日

山梨県甲州市塩山上於曽1896番地
原告 植野興業株式会社
代表者代表取締役 《氏名》
山梨県甲州市塩山熊野80番地1
原告 昭和建設株式会社
代表者代表取締役 《氏名》
山梨県甲州市勝沼町勝沼2893番地
原告 株式会社髙野建設
代表者代表取締役 《氏名》
山梨県甲州市勝沼町菱山1063番地
原告 甲信建設株式会社
代表者代表取締役 《氏名》
山梨県甲州市大和町初鹿野1953番地の1
原告 野澤工業株式会社
代表者代表取締役 《氏名》
山梨県甲州市塩山赤尾451番地1
原告 株式会社大和工務店
代表者代表取締役 《氏名》
山梨県山梨市上神内川1126番地1
原告 山梨建設株式会社
代表者代表取締役 《氏名》
上記7名訴訟代理人弁護士 坂井雄介
宇佐美善哉
志賀厚介
苧坂昌宏
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告 公正取引委員会
代表者委員長 杉本和行
指定代理人 横手哲二
榎本勤也
堤優子
津田和孝
黒江那津子
西川康一

主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
公正取引委員会平成23年(判)第8号~10号,19号,20号,22号,23号,30号~32号,42号,43号,45号,46号審判事件について,被告が平成29年6月15日付けで原告らに対してした審決(以下「本件審決」という。)を取り消す。
第2 事案の概要
1 用語及び適用法令
⑴ 原告らを含む別紙1事業者目録記載の会社の商号中「株式会社」又は「有限会社」の記載は省略する。
⑵ 本件については,平成25年法律第100号附則2条により,同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)が適用される。
2 本件審決に係る手続経過等
⑴ 原告らを含む別紙1事業者目録番号1~30記載の会社(以下「本件30社」という。)は,いずれも山梨市又は甲州市(以下両市を併せて「塩山地区」という。)に本店を置く建設事業者である。
⑵ 被告は,本件30社が,遅くとも平成18年4月1日から平成22年3月23日までの間(以下「本件対象期間」という。),山梨県が一般競争入札又は指名競争入札の方法により土木一式工事として発注する工事のうち,塩山地区を施行場所とする工事について,共同して,受注予定者を決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた価格で受注できるように協力する旨の合意(以下「本件合意」という。)の下に受注調整をすること(以下「本件違反行為」という。)により,公共の利益に反して,塩山地区土木一式工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり,この行為は独占禁止法2条6項所定の「不当な取引制限」に該当するとして,平成23年4月15日,本件30社のうち,原告らを含む別紙1事業者目録番号1~22記載の22社(以下「本件22社」という。)に対して排除措置を命じ(平成23年(措)第1号,以下「本件排除措置命令」という。),本件22社に渡辺建設(同目録番号23)を加えた23社(以下「本件23社」という。)に対し課徴金の納付を命じた(平成23年(納)第21号ないし43号,以下「本件課徴金納付命令」という。)。
⑶ 原告らを含む本件23社は,本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の取消(ただし,渡辺建設は本件課徴金納付命令の取消のみ)を求めて審判請求をした(平成23年(判)第8号ないし52号)。上記各審判事件は,併合して審理され,被告は,平成29年6月15日,本件23社の審判請求をいずれも棄却する旨の審決(このうち,原告らに関するものが本件審決である。)をした。
⑷ これに対し,原告らが本件審決の取消しを求めて訴えを提起したのが本件である。なお,峡東建設は,原告らとともに本件訴訟を提起したが,平成30年2月14日午後5時,破産手続開始決定を受けた。峡東建設の破産管財人は,同年4月25日,本件訴訟を取り下げた。
3 前提事実
当事者間に争いのない事実及び掲記の証拠により容易に認定できる事実は以下のとおりである(これらの事実については,原告らも実質的な証拠の欠缺を主張していない。)。
⑴ 山梨県における土木一式工事の発注方法等の概要
ア 発注業務の担当部署
山梨県では,同県が発注する土木一式工事について,本庁又は出先機関の各部署が,それぞれの所掌する事務に応じて発注業務を担当している(査17~19)。
イ 入札参加資格社の等級区分及び名簿登載等
山梨県は,本件対象期間において,同県が発注する土木一式工事の入札への参加を希望する事業者に対し,必要な資格審査を行った上で,参加資格を有すると認定した事業者を工事施工能力の審査結果に基づき,A,B,C又はDのいずれかの等級に格付して,入札参加有資格者名簿に登載していた(査21,22)。
また,山梨県は,土木一式工事を予定価格に応じて区分し,個々の工事の発注に際しては,有資格者名簿に登載されている者のうち当該区分に対応した等級に格付されている事業者が入札参加資格を有するとされていた。土木一式工事のうち予定価格が概ね3億円以上の工事については,特定建設工事共同企業体(以下「JV」という。)の施工対象工事とされ,原則としてA等級事業者で構成されるJVが入札参加資格を有するとされていた。(査21,23,24)
本件30社は,本件対象期間中の全部又は一部の期間において,A等級事業者又はB等級事業者に格付されていた(査1)。
ウ 工事の発注方法
山梨県は,本件対象期間における,塩山地区を施工場所とする土木一式工事のうち,①A等級事業者のみ,②B等級事業者のみ,③A等級事業者及びB等級事業者のみ,又は④JVのみを入札の参加者とするもの(以下「塩山地区特定土木一式工事」という。)について,指名競争入札又は一般競争入札の方法により発注していた。一般競争入札には,価格により落札者を決定する通常の一般競争入札と,価格に加え評価項目ごとの評価点を考慮する総合評価落札方式による一般競争入札があった。本件対象期間における塩山地区特定土木一式工事の具体的な発注方法は以下のとおりである。(査18,23)
(ア) 指名競争入札
山梨県は,平成18年4月1日から平成19年3月31日までの間,予定価格が1億円未満の塩山地区特定木一式工事の一部について,指名競争入札の方法により発注し,そのほとんどすべてにおいて,塩山地区に本店を置くA等級業者又はB等級業者の中から当該入札の参加者を指名していた。(査18,21,25)
(イ) 一般競争入札
山梨県は,本件対象期間における塩山地区特定土木一式工事について,指名競争入札の方法によらない場合は一般競争入札の方法により発注し,その大部分において,塩山地区又は山梨県笛吹市に本店を置くA等級業者又はB等級業者であることを入札参加の条件として,公告により入札参加希望者を募っていた。(査18,23~25)
(ウ) 総合評価落札方式による一般競争入札
山梨県は,一般競争入札の方法により発注する塩山地区特定土木一式工事の一部について,平成19年頃から,総合評価落札方式を導入した。総合評価落札方式では,入札価格が予定価格の範囲内にある入札者について,あらかじめ定められた評価項目ごとの評価点を合計した後,各入札者の評価点の合計点数の比に応じて加算点を算出し,それに標準点(100点)を加えた数値を入札価格で除し,これに1億を乗じて得た評価値が最も高い者を落札者としていた。(査18,30~33)
エ 最低制限価格及び低入札価格調査の基準価格
(ア) 最低制限価格
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事のうち,指名競争入札の方法により発注するもの及び総合評価落札方式以外の一般競争入札の方法により発注するものについて,最低制限価格を設定し,同価格を下回る価格の入札は失格としていた(査18)。
(イ) 低入札価格調査の基準価格
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事のうち総合評価落札方式による一般競争入札の方法により発注するものについて,低入札価格調査の対象とする基準価格(以下「低入札調査基準価格」という。)を設定していた。
山梨県は,入札の結果,評価値が最も高かった者の入札価格が低入札調査基準価格を下回った場合には,落札者の決定を保留した上で,当該入札額で契約の内容に適合した履行がされるか否かについて調査を行い,その結果,適合した履行がされると認めた場合は,当該入札者を落札者とし,適合した履行がされないおそれがあると認めた場合は,他の入札者のうち最も評価値の高い者を落札者としていた。(査18,35)
オ 入札情報の公表
(ア) 予定価格,最低制限価格及び低入札調査基準価格
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事について,ごく一部の工事を除き,入札公告時又は指名通知時に予定価格を公表していたが,最低制限価格及び低入札調査基準価格は入札書提出締切日前には公表していなかった(査36)。
(イ) 入札参加者
山梨県は,塩山地区特定土木一式工事について,入札書提出締切日前には入札参加者を公表せず,落札者決定後速やかに公表していた(査36)。
(ウ) 入札結果
山梨県は,総合評価落札方式による一般競争入札については,入札参加者の評価項目ごとの評価点を入札後開札前に公表していた。また,山梨県は,塩山地区特定土木一式工事の入札結果について,県民情報センター及びポータルサイトにおいて閲覧に供する方法により,落札者決定後速やかに公表していた。(査18,30~33,36,170)
⑵ 本件対象期間における塩山地区特定土木一式工事の受注状況
本件対象期間に発注(開札)された塩山地区特定土木一式工事は,別紙2(本件審決添付別紙9)記載の316物件(以下「316物件」という。また,個別の工事については,別紙2の「一連番号」欄記載の番号に従って「物件1」などと表記する。)であり,いずれも本件30社又は本件30社のいずれかで構成されるJVが受注した。316物件のうち,指名競争入札の方法により発注された工事は,そのほとんど全てにおいて,本件30社の中から入札参加者が指名されている。また,316物件のうち,一般競争入札の方法により発注された工事は,そのほとんどにおいて本件30社のみが入札に参加しており,塩山地区以外に本店を置く事業者(以下「アウトサイダー」という。)が入札に参加した工事は17件であった。(査18,297)。
⑶ 塩山地区における建設業協会等の概要
ア 社団法人山梨県建設業協会塩山支部(当時・以下「塩山支部」という。)は,塩山地区に本店又は営業所等を有する建設事業者を会員とし,建設業に関する資料,情報及び統計の収集並びに頒布,官庁その他機関との連絡,交渉及び提携等の事業を行っている。本件30社のうち,藤プラント建設及び奥山建設を除く28社は遅くとも平成18年4月までに,藤プラント建設及び奥山建設は平成19年6月頃までに,それぞれ塩山支部の会員となった。塩山支部では,支部長,副支部長,理事等の役員を置いていた。(査4~7,81,103,104)。
イ 社団法人山梨県土地改良協会峡東支部(当時・以下「土改協会峡東支部」という。)は,山梨県農政部峡東農務事務所管内に本店を置く建設事業者を会員とし,土地改良事業に関する資料,情報及び統計の収集並びに頒布,関係団体との連絡,交渉及び提携等の事業を行っている。本件30社のうち藤プラント建設及び奥山建設を除く28社は,遅くとも平成18年4月までに,奥山建設は平成20年5月頃以降に,藤プラント建設は平成21年4月頃までに,それぞれ土改協会峡東支部の会員となっていた。土改協会峡東支部では,支部長,副支部長及び理事等の役員を置いていた。(査7~11,81)。
ウ 社団法人塩山地区治山林道協会(当時・以下「塩山治山協会」といい,塩山支部及び土改協会峡東支部と併せて「塩山地区業界団体」という。)は,山梨県森林環境部峡東林務環境事務所管内に本店を置く建設事業者を会員とし,治山事業及び林道事業に関する資料,情報及び統計の収集頒布並びに官庁その他関係団体及び機関との連絡交渉及び提携等の事業を行っている。本件30社のうち奥山建設及び藤プラント建設を除く28社は,遅くとも平成18年4月以降,塩山治山協会の会員となっていた。塩山治山協会では,会長,副会長,理事等の役員を置いていた。(査12~16,103,104)。
⑷ 塩山支部に対する平成6年の勧告審決
被告は,平成6年5月16日,塩山支部が遅くとも昭和62年4月までに,山梨県が指名競争入札の方法により発注する土木部所管で塩山土木事務所の管轄区域を施工場所とする土木一式工事(共同施工方式により施工される工事を除く。)について,会員の受注価格の低落を防止するため,会員に,あらかじめ受注予定者を決定させ,受注予定者が受注できるようにさせていた行為が,当時の独占禁止法8条1項1号の規定に違反するとして,塩山支部に対し,勧告審決をした(平成6年(勧)第14号。)。
本件30社のうち奥山建設及び藤プラント建設を除く28社は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決以前から塩山支部の会員であり,平成7年4月14日,被告から課徴金納付命令を受けた。(査37,38)
⑸ 本件立入検査
被告は,平成22年3月24日,本件について独占禁止法47条1項4号の規定に基づく立入検査(以下「本件立入検査」という。)を行った。
4 本件審決の認定判断の要旨
⑴ 本件審決が認定した事実関係の要旨は,以下のとおりである。
ア 山梨県では,平成17年度頃までは指名競争入札の方法により土木一式工事を発注することが多かった。本件30社を含む塩山地区の建設業者は,塩山支部に対する平成6年の勧告審決以降も,塩山地区を施工場所とする土木一式工事の指名競争入札において受注調整を行っていた。
イ 山梨県では,平成18年度頃から一般競争入札の方法により土木一式工事を発注することが増え,平成19年頃からは,一般競争入札の方法により発注する土木一式工事の一部について総合評価落札方式を導入した。本件30社は,遅くとも平成18年4月1日以降,塩山地区特定土木一式工事について,塩山地区業界団体において入札参加情報を集約し,塩山地区業界団体の事務員において入札参加者とりまとめ表を作成していた。本件30社は,入札参加者取りまとめ表を閲覧するか又は塩山地区業界団体の事務員に確認するなどして,あらかじめ入札参加者を把握していた。なお,入札参加者とりまとめ表は落札者決定後,塩山地区業界団体の事務員においてシュレッダーにかけるなどして廃棄していた。
ウ 本件30社は,受注を希望する場合には,塩山地区業界団体の役員や事務員等に問い合わせるなどして他の受注希望者の有無を確認し,受注希望者が1社又は1JVの場合はその事業者又はJVを受注予定者とし,受注希望者が複数の場合は,受注希望者間の話合いや塩山地区業界団体の役員を交えた調整会議等によって,地域性,継続性等を勘案の上,受注予定者を決定していた。
エ 上記ウにより受注予定者となった者は,他の入札参加者に対し,自社が受注予定者である旨連絡するとともに,自社の入札価格や他の入札参加者が入札すべき価格等を連絡していた。他の入札参加者は,上記連絡を受け,受注予定者よりも高い価格で入札するなどして,受注予定者が受注できるように協力していた。
オ 総合評価落札方式による工事についても,評価点の予想が可能であったことから,本件30社は,互いの予想評価点を連絡し合い,受注予定者以外の者は,高い入札価格で入札したり,評価点が低くなるような内容の施工計画書を提出するなどして,あらかじめ受注予定者を決定し,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力していた。
カ 平成19年5月11日に開催された塩山支部の月例役員会において,当時の塩山支部長であった廣川工業所の代表者は,他の出席者に対し,本件合意に基づいて受注調整が行われていることが被告等外部に漏れることを防ぐため,今後は調整会議等の出席者を各社の社長又はその兄弟もしくは息子に限定することを提案した。廣川工業所の代表者は,同月14日に開催された塩山支部の月例総会においてもその旨の提案をした。
同年6月13日に開催された塩山支部の月例役員会において,出席者の間で,塩山地区特定土木一式工事の入札に参加しようとする場合には,入札公告が行われた日の翌日までに,入札に参加する旨を塩山地区業界団体の役員又は事務員に連絡するとともに,工事の受注を希望する場合には,原則として,入札公告が行われた日から土日祝日を除いて数日後の午前10時に塩山支部会館に出向き,塩山地区業界団体の役員に受注を希望する旨を伝えることなど,受注調整におけるルールを確認した。上記確認事項は,塩山支部の役員以外の会員にも伝えられた。
キ 本件対象期間中に発注された塩山地区特定土木一式工事(316物件)のうち,入札参加者が本件30社のうちの1社又は1JVのみであった4物件を除くと312件(以下「312物件」という。)となる。312物件のうち,少なくとも44件については,電子メールやメモなどの客観的な証拠が存在することから,あらかじめ受注予定者を決定し,他の入札参加者は受注予定者が受注できるように協力するなど,本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことが認められる。また,312物件のうち60件については,客観的な証拠から,入札参加者が塩山地区業界団体に対して入札に参加する旨を届け出る,塩山地区業界団体において入札参加者取りまとめ表を作成するなど,本件合意の内容に沿った受注調整に関わる行為が行われたことが認められる。
また,上記104件の工事の発注方法は,指名競争入札,通常の一般競争入札,総合評価落札方式による一般競争入札のいずれも含んでおり,発注担当部署も,山梨県県土整備部等,峡東農林事務所,峡東林務環境事務所のいずれも含んでいる。工事内容も,土木工事,林務工事,農務工事に及び,発注時期も本件対象期間の全般にわたっている。
ク 312物件は,いずれも本件30社又は本件30社のいずれかで構成されるJVが受注しており,312物件の落札率(予定価格に対する落札価格の割合)の平均も96.3%と相当高いものであった。
ケ 原告昭和建設,同甲信建設,同野澤工業,同大和工務店及び同山梨建設は,平成19年3月23日以前から本件違反行為の実行としての事業活動を行っていたが,本件立入検査が行われた平成22年3月24日以降,本件違反行為の実行としての事業活動を行っていない。
原告植野興業及び同髙野建設は,平成19年3月30日以前から本件違反行為の実行としての事業活動を行っていた。原告植野興業及び同髙野建設は,本件立入検査が行われた平成22年3月24日以降,本件違反行為を行っていないが,同日前に行われた一般競争入札に基づく最後の契約を同月30日に締結した。
コ 本件対象期間中の塩山地区特定土木一式工事のうち,本件課徴金納付命令において課徴金算定の対象とされた工事は,別紙3の1~23(本件審決添付の別紙10の1~23)の各「4 対象物件一覧」記載のとおりである(以下,別紙3記載の工事を「本件対象工事」という。)。
⑵ 前提事実及び上記⑴の事実に基づく本件審決の判断の要旨は,以下のとおりである。
ア 本件合意の存在
本件30社のうち三森建設を除く29社は,遅くとも平成18年4月1日までに,塩山地区特定土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るために本件合意をし,三森建設は,遅くとも平成19年5月15日までに本件合意に参加した。本件30社は,遅くとも平成18年4月1日以降,本件合意に基づいて受注調整を行っていた。総合評価落札方式による工事も,本件合意及び受注調整の対象であった。
イ 本件合意の「不当な取引」該当性
本件合意は,本件30社が塩山地区特定土木一式工事について,受注予定者をあらかじめ決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力するという内容の取り決めであり,これによって本件30社の事業活動が事実上拘束されることは明らかである。また,本件合意は,本件対象期間中,塩山地区特定土木一式工事に係る入札市場における競争を実質的に制限していたと認められる。さらに,このような本件合意が公共の利益に反することは明らかである。したがって,本件合意は,独占禁止法2条6項所定の「不当な取引制限」に該当し,同法3条に違反するものと認められる。
ウ 本件対象工事の「当該役務」該当性
本件対象工事は,いずれも独占禁止法7条の2第1項所定の課徴金の対象となる「当該役務」に該当する。
エ 課徴金算定の前提となる実行期間
(ア) 原告昭和建設,同甲信建設,同野澤工業,同大和工務店及び同山梨建設の実行期間は,平成19年3月24日から本件立入検査の前日である平成22年3月23日までである。
(イ) 原告植野興業及び同髙野建設の実行期間は,平成19年3月31日から本件立入検査前の一般競争入札に基づく最後の契約が締結された平成22年3月30日までである。
オ 結論
(ア) 本件排除措置命令について
本件違反行為は,独占禁止法2条6項に規定する「不当な取引制限」に該当し,同法3条に違反するものであるところ,本件違反行為はすでに消滅しているものの,原告らについて特に排除措置を命ずる必要がある(同法7条2項)と認められる。よって,本件排除措置命令は相当である。
(イ) 本件課徴金納付命令について
本件違反行為は,独占禁止法2条6項規定の「不当な取引制限」に該当し,同法7条の2第1項1号規定の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当する。独占禁止法施行令6条1項及び2項に基づいて算定される上記実行期間中の原告らの売上額は,別紙3の1~3,13,14,16,17の各「2 課徴金算定の基礎となる売上額の合計」記載のとおりである。これをもとに原告らが納付すべき課徴金額を独占禁止法7条の2第1項及び第5項により算定すると,原告植野興業6670万円,同昭和建設5134万円,同髙野建設4778万円,同甲信建設1843万円,同野澤工業1520万円,同大和工務店1394万円,同山梨建設1244万円となる。したがって,原告らに同額の課徴金の納付を命じた本件課徴金納付命令は相当である。
5 原告らの主張
⑴ 本件合意の存否
本件合意が存在したとする本件審決の認定判断は,実質的証拠を欠いており,事実誤認の違法がある。仮に,本件合意の存在が認められたとしても,総合評価落札方式による工事は,本件合意の対象とはなり得ない。
⑵ 塩山地区特定土木一式工事の「一定の取引分野」該当性
独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野」とは,事業者間で競争が行われている場をいう。原告らが山梨県から受注する工事には,土木工事,治山工事,林道工事及び農務工事の4種類の工事があり,これら4種類の工事は,それぞれ個別の取引分野である。これらの工事分野を超えて,「塩山地区特定土木一式工事に係る入札市場」という取引分野は存在しない。したがって,本件合意は「不当な取引制限」に該当しない。
⑶ 本件対象工事の「当該役務」該当性
独占禁止法7条の2第1項所定の課徴金の対象となる「当該役務」に該当するというためには,被告において,①当該工事が本件合意の対象とされた工事であること,②当該工事の入札にあたり本件合意に基づく受注調整等が行われたこと,③受注調整の結果,具体的に競争制限効果が発生したことを主張立証する必要があるところ,被告は,その主張立証を尽くしていない。また,総合評価落札方式による工事は本件合意の対象となっていないから,課徴金の対象から除外すべきである。
仮に,本件合意の存在から具体的競争制限効果の発生が推認されるとしても,総合評価落札方式による工事の一部,2社以上で争われた工事,落札率が90%未満の工事及びアウトサイダーが入札に参加した工事については,上記推認を覆すに足りる特段の事情があるとみるべきである。
⑷ 課徴金算定の前提となる実行期間
独占禁止法7条の2第1項の「実行としての事業活動がなくなる日」とは,「実行としての事業活動がそれ以降行われないことが明確化した日」と解すべきである。原告植野興業及び同髙野建設は,本件立入検査(平成22年3月24日)以降は本件違法行為を行っていないのであるから,課徴金算定の前提となる実行期間は,他の原告らと同様,平成19年3月24日から平成22年3月23日までである。同月24日以降に契約が締結された工事は,課徴金の算定対象から除外すべきである。
6 被告の主張
⑴ 本件合意の存在
本件合意の存在は,本件30社の代表者らの供述調書のほか,多数の客観的な証拠によって裏付けられている。本件合意の存在を認定した過程にも経験則違反等は認められない。本件合意の存在を認定した本件審決は正当である。また,総合評価落札方式の工事も本件合意の対象に含まれている。
⑵ 本件合意の「不当な取引制限」該当性
原告らが主張する4種類の工事は,いずれも山梨県が「土木一式工事」として発注していたものであり,単に発注担当部署が異なるに過ぎない。原告らを含む本件30社は,4種類の工事を含むすべての塩山地区特定土木一式工事について,入札参加資格を有し,施工能力を有していた。したがって,本件における「一定の取引分野」は,塩山地区特定土木一式工事の取引分野であると認められる。本件合意が独占禁止法2条6項にいう「不当な取引制限」に該当するとした本件審決は正当である。
⑶ 本件対象工事の「当該役務」該当性
塩山地区特定土木一式工事に該当し,かつ本件30社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情がない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したものと推認するのが相当である。総合評価落札方式の工事も本件合意の対象であるから,上記のとおり推認できる。本件対象工事につき,具体的競争制限効果の発生を否定すべき特段の事情は認められない。本件対象工事につき,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したと認められるから,本件対象工事は,独占禁止法7条の2第1項にいう「当該役務」に該当する。
⑷ 課徴金算定の前提となる実行期間
独占禁止法7条の2第1項にいう「実行としての事業活動がなくなる日」とは,違反行為の終了日ではなく,違反行為者につき,それぞれの違反行為に係る事業活動が終了したと認められる日と解すべきである。原告植野興業及び同髙野建設の実行期間の終期を,違反行為終了前に行われた一般競争入札に基づく最後の契約が締結された平成22年3月30日とした本件審決は正当である。
第3 当裁判所の判断
1 本件合意の存在について
⑴ 本件審決が認定した前記第2の4⑴アないしクの事実は,いずれも本件30社の代表者等の供述調書(査45~105,この中には,本件30社の代表者の約半数の供述調書が含まれている。)のほか,塩山地区業界団体の事務員が作成した入札参加者とりまとめ表(査106),本件30社の代表者らが入札情報を送受信した電子メール・ファクシミリ(査132,207,290,292),手帳等の記載(査118,121,122,270,287,288ほか)等,多数の客観的な証拠によって裏付けられている。したがって,上記事実に基づいて本件合意の存在を認定した本件審決の判断には実質的証拠があるといえる。
⑵ 供述調書の信用性について
原告らは,本件30社の代表者等の供述調書の中には,同じ文言や言い回しが使われているものがあり,これらは,被告の審査官が自己の認識に基づいて作成した作文にすぎず,各供述者は審査官に署名押印を強要されたものであるから信用性はないと主張する。
しかしながら,本件30社の代表者等の供述調書は,供述者の供述を逐語的に録取して作成したものではなく,被告の審査官が供述者から録取した内容を要約して作成したものであるから,複数の供述調書で同様の表現が用いられていたとしても,そのことのみをもって直ちに信用性がないとはいえない。また,各供述者(本件30社の代表者等)は,いずれも審査官から任意に事情を聴取されていたにすぎないから,供述調書への署名押印を強要されたとは考えにくく,これを認めるに足りる証拠もない。原告らの上記主張は採用できない。
本件30社の代表者等の供述調書は,上記⑴に摘示した電子メール,ファクシミリ,手帳等,客観的な証拠によって裏付けられている。原告らは,上記供述調書には客観的な事実と異なる部分があるなどと主張しているが,いずれも本件合意の存在を裏付ける重要な部分に関するものとはいえず,上記供述調書の信用性に影響を及ぼすものではない。したがって,本件30社の代表者等の供述調書に基づいて本件合意の存在を認定した本件審決の判断に所論の違法はない。
⑶ 入札参加者情報集約の目的について
原告らは,塩山地区業界団体における入札参加者情報の集約は受注調整目的ではなく1社入札防止目的で行われていたのであるから,上記事実をもって本件合意の存在を推認することはできないと主張する。
しかしながら,1社入札を避けるためだけであれば,塩山地区業界団体において入札参加者の情報を集め,入札参加者取りまとめ表を作成し,会員の閲覧に供するまでの必要はないはずである。また,塩山地区業界団体においては,入札参加情報の集約のルールが確認され,会員に対しても周知されていたこと(前記第2の4⑴カの事実)や,塩山地区業界団体において集約された入札参加者情報は,実際に受注調整のために利用されていたこと(前記第2の4⑴イ及びウの事実)からすると,入札参加者情報の集約の目的は,受注調整のためであったと認められる。原告らの上記主張は採用できない。
⑷ 個別工事における受注調整について
原告らは,仮に塩山地区業界団体に属する複数の事業者間で本件合意が成立したと認められるとしても,それは本件30社全員による合意ではなく,少なくとも原告らが本件合意の内容に沿った受注調整又は受注調整に関わる行為を行ったとは認定できないから,本件30社による本件合意の成立を認めた本件審決には事実誤認があると主張している。
しかしながら,原告らにおいて本件合意の内容に沿った受注調整又は受注調整に関わる行為を行っていたことは,原告らの代表者等もその供述調書(査45,46,64~66,70~73)において認めているほか,原告ら以外の本件30社の代表者等の供述調書(査54,76,78,91)及び電子メールや入札参加者とりまとめ表等の客観的な証拠(査106,107,184,186,207)によっても裏付けられている。
また,原告らは,本件審決において,本件合意の内容に沿った受注調整又は受注調整に関わる行為が行われていたと認定された104件の工事(前記第2の4⑴キ参照)につき,本件審決の認定判断には誤りがあると主張する。
しかしながら,証拠を精査しても,本件審決の証拠評価及び認定判断に不合理な点は認められない。原告らの上記主張は採用できない。
⑸ 平均落札率について
原告らは,本件対象期間内に発注された312物件の平均落札率が96.3%であることをもって,本件合意の存在を推認することはできないと主張する。
確かに,落札率が高いからといって,そのことのみをもって当該工事において受注調整が行われていたと推認することはできない。しかしながら,受注調整は,通常,受注価格の低落を防ぐために行われるものであり,一般的に,受注調整が行われていれば落札率は高くなるということはできるから,312物件の平均落札率が高いことは,受注調整の存在を推認させるひとつの事情ということはできる。本件審決は,平均落札率が高いことのみをもって本件合意の存在を認定したものではなく,推認の一事情として考慮し,本件合意の存在を推認できる他の事実(前記第2の4⑴のアからキまでの事実)とを総合考慮して本件合意の存在を認定したものである。したがって,本件審決の認定が経験則に違反するとはいえない。
また,原告らは,本件立入検査後である平成24年4月1日から平成30年3月31日までの平均落札率が本件対象期間中の平均落札率よりも高いか又は有意な差がないこと(甲1)からして,本件対象期間中に受注調整は行われていなかったと推認すべきであると主張する。
しかしながら,違反行為終了後にも違反行為の効果が残存することは珍しくなく,直ちに自由かつ公正な競争が回復するとは限らないから,原告らの上記主張は採用できない。
⑹ 総合評価落札方式による工事について
原告らは,本件合意が成立したとされる平成18年4月1日の時点で,総合評価落札方式は導入されていなかった(山梨県において総合評価落札方式が導入されたのは平成19年頃)から,総合評価落札方式による工事は,本件合意の対象に含まれていないと主張する。
しかしながら,本件合意は,塩山地区特定土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るため,受注予定者をあらかじめ決定し,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力するという内容の取り決めであり,特定の発注方法を前提とするものではない。総合評価落札方式が導入された後も,自社及び他社の評価点を予想することが可能であれば,同方式による工事について受注調整を行うことは可能であり(前記第2の4⑴オ参照),実際に,同方式が導入された平成19年頃以降,同方式による工事についても受注調整が行われている(前記第2の4⑴キの事実)。原告らの上記主張は採用できない。
⑺ 以上によれば,本件合意の存在を認めた本件審決の認定は,実質的な証拠に基づく合理的なものであって,所論の違法はないといえる。
2 塩山地区特定土木一式工事の「一定の取引分野」該当性について
原告らは,本件30社が山梨県から受注した工事には,土木工事,治山工事,林道工事及び農務工事の4種類の工事があり,これら4種類の工事の分野は,それぞれにおいて事業者間の競争が行われている個別の取引分野であり,これらを超えて,塩山地区特定土木一式工事に係る入札市場という取引分野は存在しないと主張する。
しかしながら,上記4種類の工事は,発注部署や工事内容等を異にするものの,山梨県は,これらの工事を区別することなく「土木一式工事」として発注しており,本件30社は,いずれもA等級事業者又はB等級事業者として有資格者名簿に登載され,いずれの工事についても施工能力を有していた(前記第2の3⑴の事実)。また,本件合意及びこれに基づいて行われた受注調整において,上記4種類の工事が区別されていた形跡はうかがわれない。したがって,上記4種類の工事ごとに入札市場が成立しているとする原告らの主張は採用できない。上記の事情を総合すると,本件対象期間における塩山地区特定土木一式工事に係る入札市場は「一定の取引分野」に該当すると認められる。このことを前提に,本件合意が独占禁止法2条6項にいう「不当な取引制限」に該当するとした本件審決の判断に所論の違法はない。
3 「当該役務」該当性について
⑴ 本件審決は,本件対象期間中,本件30社のうちのいずれかが入札に参加した工事については,受注調整が行われたとは認められない特段の事情がない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,その結果具体的な競争制限効果が発生したものと推認すべきである旨判断しているところ,原告らは,このような判断は,経験則・論理則に違反する不合理な推認であり,実質的に主張立証責任を原告らに転換しているものであって不当であると主張する。
しかしながら,①本件30社が本件合意に基づいて受注調整を組織的に行っていたこと(前記第2の4⑴ア~カの事実),②本件対象期間中に発注された塩山地区特定土木一式工事のすべてを本件30社又は本件30社のいずれかで構成されるJVが受注しており,その平均落札率も96%を超える相当高いものであったこと(同クの事実),③312物件のうち104件について,本件合意の内容に沿った受注調整又はこれに関わる行為があったことに関する客観的な証拠があること(同キの事実),④本件30社の代表者のうち,本件合意への参加を認める旨の供述をする者が約半数いるところ,これらの者の中に,本件合意に基づく受注調整が実施されていない個別の工事がある旨を供述している者はいないこと,⑤受注価格の低落防止という本件合意の目的(前記第2の4⑵アの認定)を達成するには塩山地区特定土木一式工事の全部を受注調整の対象とするのが常識的であることなどの事情を総合すると,塩山地区特定土木一式工事に該当し,かつ本件30社のうちいずれかが入札に参加して受注した工事については,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的な競争制限効果が発生したと推認できるとした本件審決の認定判断は合理的である。また,本件審決は,上記①~⑤の事情から受注調整及び具体的な競争制限効果の発生を推認したものであって,主張立証責任を原告らに転換したものではない。本件審決に所論の違法はない。
原告らは,総合評価落札方式による工事は,本件合意の対象となり得ないから,課徴金算定の対象となる「当該役務」に含まれないと主張する。しかしながら,総合評価落札方式による工事も本件合意の対象となっていたことは前記1⑹認定のとおりである。原告らの上記主張は採用できない。
⑵ 具体的競争制限効果の発生を否定する特段の事情の存否について
ア 総合評価落札方式による工事
原告らは,総合評価落札方式による工事のうち,落札者の入札価格が次点の事業者の入札価格より高いか又は同額のものなどについては,具体的競争制限効果の発生を否定する特段の事情があると主張する。
しかしながら,本件合意の目的が受注価格の低落防止にあることからすると,受注予定者は,可能な限り高い価格で落札しようと試みるであろうと考えられる。また,総合評価落札方式の場合には,入札価格のみによって落札者が決まるものではない。受注予定者以外の者が,評価点が低くなるような施工計画書で入札に参加することも可能である。本件30社は,他の入札参加者から各社の評価点の予想に関する情報の提供を受けるなどして,自社が落札できる価格を入念にシミュレーションしていたと認められる(査90,212)。その結果,一部の工事について,落札者の入札価格が次点の事業者よりも高くなることもあり得る。落札者の入札価格が次点の事業者の落札価格よりも高いか又は同額であることをもって,具体的競争制限効果の発生を否定する特段の事情があるとはいえない。原告らの主張するその他の事情についても同様である。
イ 2社以上で落札を争った工事
原告らは,2社以上で落札を争った工事については,具体的競争制限効果の発生を否定する特段の事情があると主張する。
しかしながら,本来,入札制度は,入札参加者全員が自由かつ公正な競争を行うことを予定しているものであり,受注調整によって入札参加者の絞り込みが行われた場合には,仮に絞り込みが行われた受注参加者の間で競争が行われたとしても,競争が制限された状況が生じていることに変わりはないから,具体的な競争制限効果が発生しているとの推認を覆すには足りない。原告らの上記主張は採用できない。
ウ 落札率が90%未満の工事
原告らは,落札率が90%未満の工事については,具体的競争制限効果の発生を否定する特段の事情があると主張する。
原告らは,上記主張の前提として,落札率が90%未満である事実は,受注調整が行われていないことを推認させる間接事実のひとつであると主張している。しかしながら,経験則上,そのような推認が合理的であるとは認められない。落札率が90%未満の工事の中にも,本件合意に沿った受注調整が行われたことが認められる工事(物件139,物件312),落札者以外の入札参加者の評価点や入札価格に照らし,落札者以外の入札参加者に受注意欲がなく,落札者に協力したことがうかがわれる工事(物件179,物件222)が含まれていることに照らすと,落札率が90%未満であることをもって,当該工事において受注調整が行われていないと推認することはできない。原告らの上記主張は採用できない。
エ アウトサイダーが入札に参加した工事
原告らは,アウトサイダーが入札に参加した工事については,具体的競争制限効果の発生を否定する特段の事情があると主張する。
しかしながら,本件対象工事のうち,アウトサイダーが入札に参加した工事は4件(物件100,物件101,物件109,物件118)であり,いずれも各工事に1社又は1JVのアウトサイダーが入札に参加している。これらの工事の中に,アウトサイダーが落札したものはなく,各工事の落札率も相当高い(95.4%~97.0%)。これらの事情を総合すると,アウトサイダーが入札に参加していることをもって,入札に参加した事業者間で実質的な受注競争が行われたと推認することは困難である。原告らの上記主張は採用できない。
オ その他
原告らは,本件対象工事の一部については,評価や入札価格が僅差であり,入札参加者が激しく競争していたことが推認できるから,具体的競争制限効果の発生を否定する特段の事情があると主張する。しかしながら,入札参加者の評価や入札価格が僅差であることなどは,受注調整が行われた事実と矛盾するものではない。原告ら主張に係る各工事について,具体的競争制限効果の発生を否定する特段の事情があるとは認められない。本件審決の認定は合理的である。
4 課徴金算定の前提となる実行期間(独占禁止法7条の2第1項)について
⑴ 原告らのうち,原告昭和建設,同甲信建設,同野澤工業,同大和工務店及び同山梨建設は,平成22年3月24日の本件立入検査後は,本件違反行為を行っていない。また,同日から3年さかのぼった平成19年3月24日以前から本件違反行為を行っていた。したがって,上記原告らについての課徴金算定の前提となる実行期間(独占禁止法7条の2第1項)は,平成19年3月24日から平成22年3月23日までとなる。
⑵ これに対し,原告植野興業及び同髙野建設は,平成22年3月24日の本件立入検査後は,本件違反行為を行っていないが,同日前に行われた一般競争入札に基づく最後の契約を同月30日に締結している。
独占禁止法7条の2第1項にいう「実行期間」は,課徴金算定の前提として,違反行為の対象となった商品又は役務に係る売上額を算定するためのものである。違反事業者に対し金銭的不利益を課すことによって違反行為を防止するとした課徴金制度の趣旨に照らすと,「実行期間」の終期である「実行としての事業活動がなくなる日」とは,違反行為の終了日ではなく,違反行為者につき,それぞれ違反行為に係る事業活動が終了したと認められる日をいうものと解される。そうすると,原告植村興業及び同髙野建設については,違反行為終了前に行われた一般競争入札に基づく最後の契約が締結された平成22年3月30日をもって「実行としての事業活動がなくなる日」(実行期間の終期)と認定するのが相当である。原告植村興業及び同髙野建設は,同日から3年さかのぼった平成19年3月31日以前から本件違反行為を行っていたものであるから,原告植村興業及び同髙野建設の実行期間を平成19年3月31日から平成22年3月30日までとした本件審決の判断に所論の違法はない。
原告植村興業及び同髙野建設は,同じ事案では統一的処理が必要であるから,原告らの実行期間が異なるのは相当でないと主張するが,前提となる事実関係が異なる以上,事業者ごとに実行期間が異なるのは当然である。課徴金制度の趣旨に照らしても,受注調整をしていた事業者間で統一的な処理が必要であるとはいえない。原告らの上記主張は採用できない。
5 以上によれば,本件審決に独占禁止法82条1項所定の取消事由があるとは認められない。
第4 結論
よって,原告らの請求は理由がないからこれをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

平成30年11月30日

裁判長裁判官 野山宏     
裁判官 橋本英史     
裁判官 吉田彩     
裁判官 角井俊文     
裁判官宮坂昌利は転補につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官  野山宏

【別紙省略】

ページトップへ

ページトップへ