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独禁法3条後段・独禁法7条の2
東京高等裁判所
平成29年(行ケ)第32号
平成30年11月30日
山梨県笛吹市石和町八田320番地
原告 友愛工業株式会社
同代表者代表取締役 《氏名》
同訴訟代理人弁護士 鳥飼重和
同 本田 聡
同 高橋美和
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 横手哲二
同 榎本勤也
同 堤 優子
同 津田和孝
同 黒江 那津子
同 西川康一
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
被告が,公正取引委員会平成23年(判)第56号及び第68号事件について,平成29年10月4日付けでした審決をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,被告の原告に対する平成23年4月15日付け排除措置命令(平成23年(措)第2号。以下「本件排除措置命令」という。)及び課徴金納付命令(同年(納)第49号。以下「本件課徴金納付命令」という。)の各取消しを求める審判請求(同年(判)第56号及び第68号。以下「本件審判事件」という。)について,被告が平成29年10月4日付けでした原告の審判請求をいずれも棄却するとの審決(以下「本件審決」という。)の取消しを求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがない事実,本件審判事件の記録上明らかな事実及び被告が本件審決で証拠により認定した事実で原告もそれを立証する実質的な証拠の欠缼を主張していない事実)
(1) 本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令
ア 被告は,平成23年4月15日,原告に対し,原告を含む別紙1(本件審決の引用する審決案の別紙1と同じ。なお,以下,本判決の別紙の番号は,同審決案の別紙の番号と同じ番号を使用することとする。)記載の事業者11社(以下「11社」という。)及び別紙4記載の事業者10社(以下「10社」といい,11社と併せて「21社」という。)が,遅くとも平成18年4月1日から平成22年3月23日までの間(以下「本件対象期間」という。)において,共同して,山梨県が発注する別紙5(ただし,同別紙の5行目から7行目までの各「山梨県から土木一式工事について」をいずれも削る。)記載の工事(以下「本件土木一式工事」という。)について,受注すべき者又は特定建設工事共同企業体(以下,「JV」といい,これらを併せて「受注予定者」という。)を決定し,受注予定者が受注することができるようにしていた行為(以下「本件違反行為」という。)が,公共の利益に反して,本件土木一式工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであり,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則2条の規定によりなお従前の例によるものとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)2条6項の規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであり,かつ,特に排除措置を命ずる必要があるとして,排除措置を命ずるとともに(本件排除措置命令),当該不当な取引制限が同法7条の2第1項第1号の役務の対価に係るものであるとして,課徴金2631万円の納付を命じた(本件課徴金納付命令)。
イ 原告は,平成23年6月13日,本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令について,それぞれ全部の取消しを求める審判請求をしたところ,被告は,平成29年10月4日,原告の各審判請求をいずれも棄却する本件審決をし,その審決書の謄本は,翌5日,原告に送達された。
ウ 原告は,平成29年11月1日,当庁に対し,本件審決の取消しを求める本件訴えを提起した。
(2) 21社について
ア(ア) 原告を含む21社は,いずれも山梨県笛吹市(平成18年4月1日から同年7月31日までの間にあっては,同市又は同県東八代郡芦川村。以下「石和地区」という。),同県甲府市又は同県中央市に本店又は支店を置く建設業者である。
なお,別紙4記載番号2の株式会社八木沢興業(以下「八木沢興業」という。)は,山梨県南巨摩郡身延町に本店を置く建設業者であるところ,平成20年10月1日,別紙4記載番号7の株式会社窪川組(以下「窪川組」という。)から同社の事業の全部を譲り受け,同社の本店を八木沢興業の峡東支店としたものである。
(イ) 21社は,本件対象期間(別紙8記載の各事業者については,同別紙の「期間」欄記載の各期間)において,山梨県から同県が発注する土木一式工事の指名競争入札又は一般競争入札への参加資格についてA等級業者又はB等級業者に格付されていた(後記(3)イ参照)。
(ウ) 原告は,本件課徴金納付命令において独占禁止法7条の2第1項の規定に定める実行期間とされた平成19年3月24日から平成22年3月23日までの間(以下「本件実行期間」という。)を通じ,資本金の額が3億円以下の会社で,建設業に属する事業を主たる事業として営んでいた者である。
イ 社団法人山梨県建設業協会石和支部(以下「石和支部」という。)
(ア) 石和支部は,山梨県笛吹市石和町広瀬765番地に所在する同支部の会館(以下「石和支部会館」という。)内に事務所を置く社団法人山梨県建設業協会の支部であり,平成17年7月1日時点での同支部の規約上,会員の資格につき,「建設業法の許可を得たもので,県の設置する峡東地域振興局石和建設部管内に,本店(社)又は営業所等を有する信用のある建設業者」と定められ,建設業に関する資料,情報及び統計の収集並びに頒布等の事業等を行うものとされている。
(イ) 21社のうち八木沢興業を除く20社は,遅くとも平成18年4月1日までに石和支部の会員となり,八木沢興業は,平成20年10月,窪川組から事業の譲渡を受けたことに伴い,石和支部の会員資格を承継した。
ウ 社団法人山梨県土地改良協会峡東支部(以下「峡東支部」という。)
(ア) 峡東支部は,社団法人山梨県土地改良協会の支部であり,平成17年9月当時は事務所を社団法人山梨県建設業協会塩山支部会館が所在するのと同じ山梨県塩山市熊野137番地に置いていたが,平成19年4月23日以降は石和支部会館内に事務所を置いている。会員の資格は,平成17年9月時点での同支部の規約上,「建設事業法による許可を受けた者で峡東地域振興局農務部管内に本店(社)を置き,土地改良事業を担当する信用のある建設業者」と定められ,土地改良事業に関する資料,情報及び統計の収集並びに頒布等の事業等を行うものとされている。
(イ) 21社のうち八木沢興業を除く20社は,遅くとも平成18年4月1日までに峡東支部の会員となり,八木沢興業は,平成20年10月,窪川組から事業の譲渡を受けたことに伴い,峡東支部の会員資格を承継した。
エ 社団法人山梨県治山林道協会塩山地区治山林道協会(以下「治山協会」といい,石和支部,峡東支部と併せて「石和支部等」という。)
(ア) 治山協会は,社団法人山梨県治山林道協会の地区協会であり,山梨県塩山市熊野(現在の甲州市塩山熊野)137番地に所在する社団法人山梨県建設業協会塩山支部会館内に事務所を置いており,平成17年11月1日時点での同協会の規約上,会員資格につき,「治山林道事業の施行の市町村および建設業法による許可済の者で,峡東地域振興局林務環境部管内に本店(社)を置き,信用あるもの」と定められ,治山事業及び林道事業に関する資料,情報及び統計の収集頒布等の事業等を行うものとされている。
(イ) 原告を含む21社のうち別紙1番号8記載の株式会社芹沢組土木(以下「芹沢組土木」という。)及び同10の長田建設株式会社並びに別紙4記載番号2の八木沢興業,同3の株式会社地場工務店(以下「地場工務店」という。)及び同5のサノ工業株式会社を除く16社は,遅くとも平成18年4月までに治山協会の会員となっており,また,八木沢興業は,平成20年10月,窪川組から事業の譲渡を受けたことに伴い,峡東支部の会員資格を承継した。
(3) 山梨県の土木一式工事の発注方法
ア 発注方法
山梨県は,本件対象期間において,本件土木一式工事について,指名競争入札又は一般競争入札の方法により発注した。
イ 入札参加資格
山梨県は,本件対象期間において,同県が発注する土木一式工事の指名競争入札又は一般競争入札への参加を希望する事業者に対し,これらの入札に参加するために必要な資格の審査を行った上で,当該入札への参加資格を有すると認定した事業者を,工事施工能力の審査結果に基づき,A,B,C又はDのいずれかの等級に格付をして,入札参加有資格者名簿に登載していた(以下,A及びBの各等級に格付がされている事業者を,それぞれ「A等級業者」,「B等級業者」という。)。
山梨県が発注する土木一式工事は,予定価格に応じて区分され,個々の工事の発注に際しては,当該区分に対応した等級に格付がされている事業者に入札参加資格があるものとされ,土木一式工事のうち予定価格が概ね3億円以上の工事については,JV(A等級業者のみ又はA等級業者及びB等級業者のみで構成される。)の施工対象工事とされていた。
ウ 指名競争入札
山梨県は,本件対象期間のうちの平成18年4月1日から平成19年3月31日までの間,本件土木一式工事のうち予定価格が1億円未満のものの一部について,指名競争入札の方法により発注し,その大部分において,石和地区に本店を置くA等級業者又はB等級業者の中から当該入札の参加者を指名していた。
エ 一般競争入札
山梨県は,本件対象期間における本件土木一式工事について,指名競争入札の方法によらない場合は,一般競争入札の方法により発注し,その大部分において,山梨県山梨市及び同県甲州市(以下,両市の区域を併せて「塩山地区」という。)又は石和地区の区域(以下,塩山地区と石和地区を併せて「峡東地域」という。)に本店を置くA等級業者又はB等級業者であることを入札参加の条件としていた(オの総合評価落札方式を用いる場合も同じ。)。
オ 総合評価落札方式を用いた一般競争入札
(ア) 総合評価落札方式
山梨県は,一般競争入札の方法により発注する土木一式工事の一部について,平成18年頃から,総合評価落札方式を導入した。総合評価落札方式には,工事の規模及び技術的難易度に応じて幾つかの総合評価の種類があったが,いずれにおいても,入札価格が予定価格の制限の範囲内にある入札者について,あらかじめ定められた評価項目ごとに評価の基準に基づき評価を行った結果得られた評価点を合計した後,各入札者の評価点の合計点数の比に応じて加算点を算出し,それに標準点(100点)を加えた数値を入札価格で除し,これに1億を乗じて得た評価値が最も高い者を落札者とするものとされていた。
(イ) 評価項目
総合評価落札方式において上記(ア)の加算点を算出するに当たり,「企業の技術力」,「企業の信頼性社会性」及び「高度な技術力」の各評価項目ごとに評価の基準に基づき評価を行うものとされ,「企業の技術力」については①施工計画,②配置予定技術者の能力及び③企業の施工実績が,「企業の信頼性社会性」については④地域精通度及び⑤地域貢献度がそれぞれ更に項目化され,各項目に関して定められた評価の基準ごとに評価点数が定められ,「高度な技術力」について評価の基準ごとに評価点数が定められており,総合評価の種類に応じて,上記①ないし⑤のうちの全て又は一部の項目を用いることとされていた。
(ウ) 評価点の算出方法
評価点は,入札参加申請の際に申請者から併せて提出される施工計画書等の資料に基づき,発注業務を担当する部署において,評価項目ごとに算出することとされていた。
(エ) 評価項目等の公表
山梨県は,総合評価落札方式における評価項目,評価の方法,最高評価点及び評価値の算出方法について,「山梨県建設工事総合評価実施要領」に記載し,公表していた。
(4) 本件対象期間に発注された本件土木一式工事は,別紙9のとおり174物件(以下「174物件」という。また,以下においては,個別の工事については同別紙の「一連番号」欄記載の番号に従って「物件1」などと表記する。)であり,そのうち①21社以外の事業者が落札した物件6,同7,同13,同30,同64,同67,同77,同99,同102,同107及び同144,②別紙1番号7記載の風間建設株式会社(以下「風間建設」という。)が受注調整の一切を明確に拒否し,独自に受注した物件68,同98及び同101記載,③21社のうちの入札参加者が1JV又は1社のみであった物件86及び同134の16物件を除く158物件(以下「158物件」という。)を21社又は21社のいずれかで構成されるJVが受注し,その平均落札率は,94.0%であった。
174物件のうち,指名競争入札の方法により発注された工事のほとんど全てにおいて,入札参加者は21社の中から指名されており,また,174物件のうち,一般競争入札の方法により発注された工事の入札参加者は,その大部分が21社によって占められていた。
(5)ア 被告は,平成22年3月24日,本件について,独占禁止法47条1項4号の規定に基づく立入検査をした。
イ 原告は,同日以降,独占禁止法3条の規定に違反する行為を行っていない。
(6) 原告に対する課徴金の算定
ア 原告が本件課徴金納付命令において本件実行期間とされた平成19年3月24日から平成22年3月23日までの間に受注した別紙10の4記載の13件の本件土木一式工事(以下「本件対象工事」という。)の売上額を私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号)6条1項及び2項の規定に基づき算定すると,本件対象工事の対価の合計額は,同別紙の「課徴金算定の基礎となる売上額(円)」欄記載のとおり合計6億5778万0800円である。
イ 原告は,独占禁止法7条の2第5項1号の規定に該当する事業者でり,同条1項及び5項の規定により,上記アの売上額に100分の4を乗じて得た額から,同条23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出した額は,2631万円となる。
(7) 本件審決の認定及び同認定に用いられた証拠並びに判断
ア 本件排除措置命令について
(ア)① 山梨県においては,平成17年度頃まで指名競争入札の方法により土木一式工事を発注することが多かったが,21社を含む石和地区の建設業者は,被告が石和支部に対して平成6年に勧告審決をした以降も,石和地区を施工場所とする土木一式工事の指名競争入札において受注調整を行うなど協調関係にあった(査第40号証の1ないし3,第41号証,第42号証の1及び2,第43号証,第49号証,第50号証,第52号証,第60号証,第61号証,第123号証,第166ないし第169号証,第171号証)。
② 山梨県では,平成18年度頃から一般競争入札の方法により土木一式工事を発注することが増え,同時期から,一般競争入札の方法により発注される土木一式工事の一部について総合評価落札方式を導入したところ,21社は,遅くとも同年4月1日以降,一般競争入札の方法により発注される本件土木一式工事の入札に参加しようとする場合には,当該工事の入札に参加する旨及び当該工事の受注を希望するときはその旨を,石和支部等の執行部又は石和支部の事務員に,ファクシミリ,電話又は口頭で連絡し,指名競争入札の方法により発注される場合においても,同様に当該入札に指名された旨及び当該工事の受注を希望するときはその旨を連絡し,これにより石和支部等において集約された入札参加者及び受注希望者に関する情報を利用して,受注希望者が1社又は1JVである場合にはその1社又は1JVを受注予定者とし,受注希望者が複数の場合には受注希望者間で地域性,継続性等を勘案して話合いにより受注予定者を決定し,この話合いによっても決まらない場合には石和支部等の執行部が調整会議と称する会合を開催して,受注予定者を決定し,受注予定者となった者は,他の入札参加者に対し,自社が受注予定者である旨を連絡するとともに,他の入札参加者の入札すべき価格若しくは予定価格に対する率又は自社の入札する価格若しくは予定価格に対する率を連絡し,自社が作成した入札手続用の本工事費内訳書を配布するなどし,他の入札参加者は,上記の連絡を基に,受注予定者よりも高い価格で入札したり,入札を辞退したりするなどして,受注予定者が受注できるように協力していた。なお,石和支部等が上記の入札参加情報等を集約していたのは,この情報を利用して受注調整を行うためであった(査第18号証,第18号証の2,第44号証,第46号証,第47号証,第49ないし第52号証,第58ないし第64号証,第66号証,第67号証,第73号証,第74号証,第76号証,第78号証,第82号証,第83号証,第86号証,第89号証,第92ないし第95号証,第129ないし第138号証,第171号証,第182号証の1及び2,第183号証,第194号証の1,第202号証,第203号証,第205ないし第207号証,第209ないし第213号証,第216ないし第220号証,第224号証,第225号証)。
③ 21社は,総合評価落札方式を用いた一般競争入札の場合においても,②に述べたところに基づき,互いの評価点を予想し,又は連絡し合い,受注予定者以外の者は,自社の評価点が高いことが見込まれる場合は入札を辞退し,又は高い価格で入札し,受注予定者は,最も高い評価点を得ることができるように入札価格を低めに設定したり,他社の受注に協力する場合よりも綿密に施工計画書を作成したりするなどして,予め受注予定者を決定し,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力していた(査第49号証,第50号証,第52号証,第76号証,第78号証,第83号証,第87号証,第91号証,第92号証)。
④ 158物件のうち別紙9の「別紙11等」欄に○印が付された40件(以下「40物件」という。)については,別紙11記載のとおり,入札公告への書き込みやメモなど後記(イ)の本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことを裏付ける客観的な証拠等が存在し,158物件のうち別紙9の「別紙11等」欄に●印が付された4件(以下「4物件」といい,40物件と併せて「44物件」という。)については,入札参加者等取りまとめ表の作成など受注調整に関わる行為が行われたことを示す客観的な証拠(査第63号証,第66号証,第225号証,第237号証)がある。
⑤ 本件対象期間に発注された158物件は,いずれも21社又は21社のいずれかで構成されるJVが受注しているところ,その平均落札率は,94.0%であった(査第18号証,第18号証の2)。
⑥ 別紙1番号3記載の風間興業株式会社(以下「風間興業」という。)の元代表取締役の《I1》(以下「《I1》元社長」という。),別紙1番号5記載の矢崎興業株式会社(以下「矢崎興業」という。)の代表取締役の《B》(以下「《B》社長」という。),別紙1番号6記載の株式会社栗田工業(以下「栗田工業」という。)の元代表取締役の《D2》(以下「《D2》元社長」という。),平成22年3月当時風間建設の常務取締役の地位にあった《H2》(以下「《H2》常務」という。),風間建設の営業部長の《H3》及び営業部課長の《H4》,《O株式会社》(以下「《O株式会社》」という。)の代表取締役の《O1》(以下「《O1》社長」という。),石和支部の事務員の《E》(以下「《E》事務員」という。)らは,本件土木一式工事の受注調整の方法について前記②に沿う供述をしている(査第46ないし第53号証,第60ないし第62号証,第183号証)。
(イ) 前記(ア)の①ないし⑥の事情によれば,原告を含む21社のうち芹沢組土木,八木沢興業及び地場工務店を除く18社は遅くとも平成18年4月1日までに,芹沢組土木は遅くとも平成19年6月19日以降,八木沢興業は遅くとも平成20年10月2日以降,地場工務店は遅くとも平成21年7月30日以降,本件土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るために,受注予定者を決定し,受注予定者は受注すべき価格を決め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する旨の合意(以下「本件合意」という。)をしたものと認められる。
(ウ) 21社は,総合評価落札方式を用いた一般競争入札の場合においても,本件合意に基づき,互いの評価点を予想し,又は連絡し合い,受注予定者以外の者は,自社の評価点が高いことが見込まれる場合は入札を辞退し,又は高い価格で入札し,受注予定者は,最も高い評価点を得ることができるように入札価格を低めに設定したり,他社の受注に協力する場合よりも綿密に施工計画書を作成したりするなどして,予め受注予定者を決定し,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力していた。
(エ) 本件合意は,本件土木一式工事に係る入札市場において,21社が共同して,相互にその事業活動を拘束し,競争を実質的に制限したものであるから,独占禁止法2条6項の規定する不当な取引制限に該当する。
(オ) 本件違反行為は既に消滅しているが,本件排除措置命令の時点において,原告を含む11社には,本件違反行為と同様の行為を繰り返すおそれがあったから,特に排除措置を命ずる必要があった。したがって,本件排除措置命令は相当である。
イ 本件課徴金納付命令について
原告は,前記(5)イのとおり,平成22年3月24日以降,独占禁止法3条の規定に違反する行為を行っておらず,本件違反行為の実行としての事業活動を行った日は平成19年3月23日以前であるから,独占禁止法7条の2第1項の規定により,その実行期間は平成19年3月24日から平成22年3月23日までの3年間となるところ,同期間における原告の本件土木一式工事である本件対象工事の売上額の合計額は,6億5778万0800円であり,原告は,独占禁止法7条の2第5項1号の規定に該当する事業者であるから,同条1項及び5項の規定により,上記の売上額に100分の4を乗じて得た額から,同条23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出した額は,2631万円となるから,原告に対して同額の課徴金の納付を命じた本件課徴金納付命令は相当である。
2 争点
(1) 原告が本件合意に加わっていたことを立証する実質的証拠があるか
ア 原告の主張
原告は,平成7年に石和支部に準会員として入会したが,平成16年に石和支部の当時の役員であった風間建設から受けた受注調整に加わることへの勧誘を拒否したため,その後の指名競争入札における参加者の指名からは疎外された状況に陥った。
このため,原告は,石和支部の事務局から事務的な連絡は受けるが,会員を中心として行われる懇親の場に呼ばれることはなく,参加することもなかった。原告は,会員として会費を支払いながら,実質的には支部員として扱われていなかったところ,平成17年に,当時の石和支部の支部長であった別紙1記載番号1の株式会社飯塚工業(以下「飯塚工業」という。)の代表取締役の《A1》(以下「《A1》社長」という。)から,正式の手続を経た除名ではないものの,除名宣告を受け,以後実質的に除名されたのと同様の扱いを受けてきた。
本件審決において,原告が受注調整行為に加わっていたと認定されているが,石和支部内において原告が上記のような状況に置かれる中,原告が入札に参加することや工事の受注を希望することなどを連絡したことはなく,執行部から入札に関する連絡を受けたこともなく,ましてや原告が受注調整行為を行っていたことはないのであって,本件審決の上記認定は,以下に述べる証拠等を正当に評価せず,恣意的な判断によるものといわざるを得ない。
(ア) 原告の代表者や従業員などの関係者には,個別の受注調整行為を行ったことを認める供述をした者は存在しない。しかも,原告が受注調整行為を行い,受注希望を逐一石和支部に連絡をしていたことに関する証拠は,11社のうち原告を除く10社に比べて極めて数が少なく,石和支部における取りまとめに関する証拠は存在しないばかりか,石和支部の《E》事務員は,本件審判事件における審尋において,原告が支部に連絡をしたことはないと供述しているが,本件審決の上記認定は,これらを殊更に看過したものである。
(イ) 本件審決において,原告が受注調整行為を行っていたことを示す客観証拠として掲げられている証拠は,上記認定の根拠とするには疑問があり,証拠の評価として誤りがあるというほかない。
① 査第61号証及び審C第1号証について
これらは,《O株式会社》の《O1》社長の供述調書及び陳述書であるが,同人は,原告代表者とも親しい関係にあり,飯塚工業の《A1》社長とも話ができたため,平成17年頃からの原告と石和支部との関係の経緯を良く知る人物である。
《O1》社長は,同年11月頃,《ホテル名略》で《A1》社長を囲んで宴会が開かれ,石和支部の会員約10名が出席したが,その席上において,石和支部の支部長であった《A1》社長が原告を除名することを宣言したことを見聞きし,これにより両者の関係が決裂し,原告は,石和支部の他の会員が関与している談合とはっきり関係が決裂し,《A1》社長が,原告の入札が見込まれる物件に関して,時折,他の会員に入札させることもあり,原告代表者からも,《A1》社長に泡を吹かせてやるなどと聞かされることもあったことから,上記の除名宣告以降に,原告が受注調整に参加していたとは考えられない旨を明確に供述している。
《O1》社長は,石和支部における立場が悪くなるかもしれないにもかかわらず,このようなあえて不利となるかもしれない供述をしており,その内容も,具体的で迫真性があることなどからすると,信用できる。しかも,《O1》社長は,平成24年に石和支部の幹部になるや,それまでの原告との友好的な態度を一変させ,原告と断絶する状態となったのであり,このことは,石和支部と原告との関係を反映する事実である。
本件審決は,《O1》社長の上記の供述を全く評価しない点において,違法な事実認定である。
② 査第62号証について
これは,《E》事務員の供述調書であるところ,同人は,一般競争入札に参加申込をした業者は,石和支部にその旨を連絡してくることや受注を希望する場合はその旨を連絡してくることを供述しつつ,原告からの連絡を受けたことはないと明確に供述している。
したがって,原告が石和支部に受注予定価格の連絡をしたことがないことは明らかである。
③ 査第49号証について
これは,11社のうちの風間建設の《H2》常務の供述調書であるが,その供述の中で挙げる栗田工業ほか4社の中に原告は含まれていない。
そもそも原告について「友愛興業」などと基本的な部分で誤った表記となっていることからすると,《H2》常務が調書を閲読して正しい供述を記載したものと認めて作成されたものとはいい難い上,原告が受注調整に関与していたことをうかがわせる事情は一切記載されていない。
査第49号証には,原告からの受注を希望する旨の連絡について一切の言及がされておらず,極めて不自然な供述調書であり,原告が受注調整に関与したことを推認することはできないし,むしろ,原告による受注調整行為が存在しないことを推認させる証拠である。
④ 査第52号証及び査第53号証について
これらは,いずれも栗田工業の《D2》元社長の供述調書である。
栗田工業は,飯塚工業と近い関係にあり,《A1》支部長の下で,栗田工業の代表取締役の《D1》が副支部長に就いていることから,原告とは最も縁遠い存在であったのであり,その受注調整に原告が参加し,あるいは入札についての連絡を行うということはあり得ないことである。
《D2》元社長は,査第53号証において,原告の営業担当と連絡を取り合っていた旨を供述しているが,原告には営業担当などは存在せず,原告の誰と連絡を取り合っていたのか全く不明であり,《D2》元社長の供述は全く信用できない。
したがって,これらの証拠をもって,原告の受注調整への関与を認めることはできない。
⑤ 査第79号証について
これは,風間建設の《H2》常務の手帳であり,物件138の工事に係る入札希望者が記載されているが,同工事を落札した原告の名前は記載されていない。また,物件138の工事に関して,《H2》常務の手帳(査第235号証)の「友愛」,「友愛に取られる 79.88位」との書き込みについては,原告は全く知らないところで作成されたものであって,原告が物件138の工事に係る入札に関して受注調整行為に関与したことを示すものではない。
⑥ 査第64号証について
これは,原告の従業員である《J1》(以下「《J1》」という。)が所持していたとされる日めくりカレンダーの平成18年9月20日分1枚であり,「支部へ」ないし「支部~」との記載に続けて,「9/27・9/28 10/3」との記載がされており,その右下に「指名分連絡」との記載がされているものである。
しかし,仮に,原告が平成18年から平成23年まで受注調整行為を繰り返していたというのであれば,なぜこのようなカレンダーが上記の1日分しか提出されていないのか不可解というほかない。
また,上記の「支部~」の記載は,支部から何らかの連絡,例えば,入札するか否かについて探りを入れるような電話があった,あるいは,支部から入札に関する何らかの電話があった(原告は,このような電話を待っていたわけではなく,一方的に架電されたためこれに応対したというにすぎない。)と理解すべきものであり,上記の各記載だけでは原告の個別の物件の受注調整行為への関与をうかがわせるものではない上,その解釈のし方はいくらでもあり得るところである。なお,原告代表者は,本件審判事件における審尋において,上記の記載について,「《関係性略》が《関係性略》と交代して入った年が18年でございます。《関係性略》ということで,そういったものを,支部から言われたものを書いたものだと私は考えるにしか至りません。」と供述しているが,上記のカレンダーが《J1》から出てきたとの質問に答えて,そうであれば,同人が書いたものであろうという趣旨で供述したにすぎない。
また,上記のカレンダーの「20日会欠席 専務出席」との記載は,原告の取締役である《J2》(以下「《J2》専務」という。)が20日会に恒常的に出席していたことを意味するものではなく,社長だけが出席できる20日会に原告代表者は出席しないが,《J2》専務が費用を届けるために同会に行ったことを指しているのであって,石和支部と原告とが断絶していたことを否定する根拠にはならない。
⑦ 査第73号証,査第75号証,査第129号証,査第130号証及び査第131号証について
これらは,いずれも山梨県のウェブサイトから印刷した入札広告等の入札関連情報の用紙に金額又はパーセンテージが書き込まれているものであるが,上記の各書面に記載されている受注予定価格を連絡した者の中に原告は含まれていない上,原告にはこのような書き込みをした書面は存在しないから,上記証拠によっても原告が受注調整行為に加わっていたことを認める根拠とはならない。むしろ,原告は,受注予定価格の連絡を受けることも連絡をしたこともないことを示すものである。
⑧ 査第68号証について
これは,原告代表者が提出した平成14年10月16日付けの文書であるが,これが原告のいかなる受注調整行為を推認させるものか全く明らかではない。証拠を事実認定に用いる以上は,本件を違反行為として認定する際のいかなる要件事実を立証するものであるかが明確でなければならないが,それが一切されていない。この点で,本件審決が単なる印象による事実認定に依拠していることは糾弾されるべきである。
また,上記のメモは,その筆跡からすると,原告の事務員の作成によるものと推測されるが,同人には,同メモに記載されているような事項を決める権限はなく,権限のある原告代表者には同メモの内容に覚えがない。したがって,当該記載は,単に電話で第三者より伝えられた内容をメモしたにすぎないものであり,原告代表者がその存在を知らない上記のメモと原告の当該工事の落札とは無関係である。
上記のメモは,石和支部と原告との平成14年当時の関係を前提とするものであるが,原告は,平成17年秋に石和支部から除名宣告を受け,石和支部との関係が断たれたのであるから,同メモと本件土木一式工事の落札とは無関係である。
⑨ 査第83号証について
これは,別紙1記載番号2の株式会社中村工務店(以下「中村工務店」という。)が作成した工事の一覧表であり,笛吹市発注の林道鶯宿中芦川線開設工事(同一覧表No.14)の左側の欄外に飯塚工業を示すと考えられる「飯」という文字が記載されているところ,本件審決においては,飯塚工業が同工事を落札していないことから,落札者を事後的に記載したものではなく受注予定者を記載したものであるとの推測を前提として,同一覧表の欄外に同様にある「友」との記載は,原告が受注予定者であることを示すものとし,中村工務店もこれを了解していたことを示すものとして解していると思われるが,受注調整行為の結果決定された受注予定者を記載したのであれば,同工事において飯塚工業が受注していないことは不自然であるから,単に入札の予想を記載したものと理解するのが自然である。上記の一覧表には,No.14の工事の左右の欄外に「飯」との記載がある一方で,No.17やNo.19の各工事については欄外に何ら記載のないものもあることから,上記の欄外の記載は,必ずしも受注予定者の頭文字を記載したものではない。
上記の一覧表には,複数の日付を示す記載があるほか,同一覧表の欄内及び欄外にはたくさんの色ペン,黒ペン又は鉛筆による記載や複数のカラーのラインの記載があり,これらの記載から,同一覧表が日を分けて複数の者によって加筆されたものであることが明らかであるが,それぞれの記載の意味は全く不明である。「飯」の記載も,落札者と一致する部分と一致しない部分があるから,落札者を記載したものとすることは不可能であり,一義的にどのような意味を有するかを推認することはできず,証拠としての価値はない。
上記の「友」の記載に関しても,落札結果を記載したものか,原告が入札しようとしていることを予想して記載したものかを特定することはできず,いずれにせよ,その記載の目的や時期は全く不明であり,この記載から何らかの事実を推認することはできない。中村工務店の代表取締役の《F1》(以下「《F1》社長」という。)も,入札結果を記載したものか,入札を予想して記載したものであると供述している。
したがって,上記の一覧表の中の原告が落札した工事に「友」との記載があることをもって,原告が同工事の受注調整に関与していたことを推認することはできず,査第83号証を事実認定の根拠とするには適切とはいえない。
⑩ 査第87号証について
これは,風間興業が作成した「(簡易型・特別簡易型用)総合評価落札方式に関する評価調書」と題する書面であるところ,同書面の「価格以外の評価結果」のうちの「合計」等の欄及び「総合評価結果」欄のうちの「入札金額」等の欄に風間興業,原告及び中村工務店に関する記載がある。
しかしながら,風間興業の物件165における入札価格は,上記の記載とは異なる金額であり,受注調整のための価格を記載したものとしては不自然である。総合評価落札方式を用いた一般競争入札の方法による場合,総合評価による評価点によって入札価格が定額であっても落札できないことがあり得るため,評価点を推測することが重要であることから,上記の書面は,当該工事の入札後に公表された入札価格を基に原告の評価点の試算を行うなどしたものであると考えるのが自然である。これを受注調整の一環として記載されたものであると認めることはできない。
風間興業の代表取締役の《I2》(以下「《I2》社長」という。)も,本件審判事件における審尋において,入札後に評価点を見てその後のために試算をした資料であると述べているのであるから,上記の書面を原告による受注調整への関与を示すものとして用いるのは無理があり,《I2》社長の供述に変遷があったとしても,実質的な証拠がないにもかかわらず,事実認定をしたことを示すものである。
⑪ 査第94号証について
これは,石和支部から物件174の工事に関して中村工務店に送信されたファクシミリであるとされ,同工事の入札一覧の欄外に石和支部の会員である複数の事業者名が手書きにより記載され,その中の「風興」の記載を囲むように丸が記載されている。
同号証の2枚目の表面の表は,石和支部が作成したものであり,同支部の職員が入札参加予定業者のうち「中村」,「風興」及び「矢崎」の各記載を入札前に書き込んだものであり,同支部の《E》事務員もこれを認める供述をしている。
《E》事務員は,同書面の作成に当たって,入札の連絡があった業者の名称のみを記載していたのであるから,名称の記載がされなかった原告は,同支部に連絡をしなかったということになる。
したがって,原告は同支部に入札の連絡をしていないことが,同号証によって証明されているのである。その余の事情は,一切憶測にすぎないのであって,同号証をもって,原告が受注調整行為を行っていたと認定するのは,経験則を超える違法な事実認定である。
⑫ 査第95号証について
これは,中村工務店から提出された物件174の工事の取りまとめ表であり,入札一覧との表題の下で,入札日,発注先,受付日,契約番号及び工事名等の各欄が設けられ,工事ごとにその内容が記載されているが,同表の右側の欄外に「中村」,「風建」,「風興」などと21社の中の事業者を指すものと解される記載がされている。
この書面は,《E》事務員が作成したものであり,ボールペンによる記載は,同事務員が石和支部の会員から入札の希望についての連絡があった場合に,その連絡をした事業者名を記載したものである。また,同書面には,鉛筆で書き込まれた記載もあり,同書面の表面の表の最後の工事の欄外に原告を示すものと解される「友愛」の記載があるが,《E》事務員の本件審判事件における審尋における供述によると,これは同人が書き込んだものではない。
《E》事務員は,入札について連絡のあった事業者の名称だけをボールペンで書き込んだというのであるから,連絡のなかった事業者の名称については書き込むことはなかったのであり,同一覧表の表面の表の最後の工事の欄外に鉛筆で書き込まれた「友愛」は,同事務員が書き込んだものではない。そうすると,同号証は,物件174の工事の入札に参加した原告の名前だけが記載されておらず,このことは,むしろ原告が入札希望の連絡をしていないことを示すものであり,原告が石和支部に入札の希望を連絡していないことが立証されている。その余の事情は,一切憶測にすぎないのであって,同号証をもって,原告が受注調整行為を行っていたと認定するのは,経験則を超える違法な事実認定である。
⑬ 査第100号証について
これは,原告代表者が提出した平成19年の日めくりカレンダーの4月27日の部分であり,「20日会」との記載がされている。
しかしながら,原告が石和支部の一部と付き合いを持つことが直ちに受注調整行為に当たるものではないことはいうまでもないことである。原告が石和支部を形式的にせよ脱会しなかった理由は,行政に協力して災害協定を締結し一定の協力を行うことがボランティア活動として総合評価における付加点数となるからであった。この災害協定は,県や市と石和支部とが締結するものであり,個別の事業者が単独で県や市と締結することはできないものであったから,災害協定を締結する石和支部に在籍していることは必要であった。
20日会に参加することは,地方で事業を行う者として,他の事業者との必要最低限の交流の一部に当たり,石和支部そのものとの関係を示すものではない。
⑭ 査第128号証について
これは,物件119の工事(笛吹市道竹居線の道路工事)に係る入札関連情報に風間興業の総務部長が書き込みをしたものであるが,《I2》社長の本件審判事件における審尋によって,同社の総務部長が入札前に予想した5社と後日に入札したことが判明した2社を書き込んだものであることが明らかになっており,原告については辞退したことを示す記載がされている。
そして,原告は,上記の工事の入札を辞退することを他の事業者に事前に伝えたことは一切ない。原告代表者は,上記書面の書き込みに直接にも間接にも関わっておらず,上記の記載が仮に開札前にされていたとしても,それは,記載した風間興業の総務部長ないしその他の者が原告の様子をうかがって予測したものとしか考えられない。
⑮ 査第145号証について
これは,原告代表者が提出した平成19年の日めくりカレンダーの3月22日の部分であり,「林ム2件連絡する」との記載がされている。
しかし,上記の記載が誰に対する連絡か,誰がした連絡か,どのような内容の連絡なのかについては全く不明であり,この記載をもって何らかの意味を有するものと判断することは到底できない。仮に,本件合意に従った受注調整の一環としての連絡であるとすれば,その時期が遅すぎて不自然である。
すなわち,「林ム 2件」とは,その時期からすると,物件56及び同57の工事を指すと考えるのが相当であるところ,これらの工事の入札公告日は,同月1日であるから,これらの工事に係る受注調整の連絡であれば,同日から数日中にされるはずである。しかも,この連絡は,入札参加申込締切日である同月14日の後の同月22日にされたということになり,これでは時期が遅すぎであることから,受注調整のための連絡であるとは考えられない。原告が受注調整行為を行っていたと認定するのは,経験則を超える違法な事実認定である。
⑯ 査第225号証について
これは,物件60の工事に係る入札参加者の取りまとめ表であり,「指名業者」の欄に「友愛工業」の記載があるが,これがどのように作成されたのか不明である上,原告代表者及び原告の《J2》専務のいずれも全く知らない記載であり,原告の入札とこの記載は何の関係もなく,原告が入札についての連絡をしたことを示すものではない。
(ウ) 本件審決は,落札率が高い場合には,そのことをもって受注調整行為があったことを推認する根拠としているが,落札率が低い場合には,受注調整行為が存在しないことを示す事情として正当に評価していない。これは,完全なダブルスタンダードであって,違法な事実認定である。
原告が落札した工事の落札率は,他のどの事業者の落札率よりも低く,平成18年から平成21年の平均で90.3%,平成19年から平成21年の平均で88%,平成20年から平成21年の平均で89.4%であって,他の全ての事業者の平均落札率よりも下回っている。
(エ) 本件審決においては,総合評価落札方式を用いて一般競争入札に付された物件についても受注予定者が受注できるように調整することが可能であったとされているが,評価点をある程度にせよ推測することは困難であり,原告は,評価点についてあるいは試算結果について他に連絡したこともなければ,他から連絡を受けたこともない。そのため,原告が受領し,あるいは送付したという評価点に関する証拠は一切ないのであって,本件審決は,総合評価落札方式を用いて一般競争入札に付された物件を本件合意の対象に含めることにつき合理的な理由を示していない。
イ 被告の反論等
本件審決は,原告を含む21社が本件土木一式工事について受注価格の低落防止を図るため本件合意をしたことを認定したが,この認定は,前記1(7)ア(ア)及び(イ)に記載した証拠に基づくものであり,当該事実を立証する実質的証拠があるから,本件審決を取り消すべき理由はない。
(2) 物件61,同65,同105,同138,同143及び同146の工事について課徴金の対象に含まれるか
ア 原告の主張
本件審決は,本件合意の成立が認められ,その合意の対象となる商品又は役務の範ちゅうに含まれる物件に係る入札の全てに競争制限効果が及ぶものと判断しているが,それは理の当然ではなく,評価の問題として競争制限効果が及ぶと認められるものに限られるべきである。独占禁止法7条の2第1項に規定する「当該商品又は役務」とは,原則として,不当な取引制限の対象とされた商品又は役務全体を指すものと解すべきであるが,本件合意のような入札談合の場合においては,合意の成立が認められ,その合意によって対象となる商品又は役務が特定されたとしても,各商品又は役務について個別の入札が実施されるため,合意の成立によって発生した競争制限効果が当然に各商品又は役務に及ぶことにはならない。このような場合における「当該商品又は役務」とは,合意の対象となった商品又は役務全体のうち,個別の入札において合意の成立により発生した競争制限効果が及んでいると認められるものをいうと解すべきであり,競争制限効果が及んでいると評価することができる行為の存在について具体的事実を要する。裏を返せば,合意の内容が,その対象となる物件について競争制限効果を及ぼし得るほど確定的で堅固なものであることを要するものと解される。
本件審決は,本件合意の内容が,その対象となる物件について競争制限効果を及ぼし得るほど確定的で堅固なものであるかどうかについては,評価も判断もしていない。このことは違法である。
原告は,そもそも本件合意に参加せず,受注調整に関して石和支部との関係を一切断っていたのであり,本件対象工事のうち物件61,同65,同105,同138,同143及び同146については,風間建設が受注調整の一切を明確に拒否していた物件68,同98及び同101と同様の事情があることに加え,原告が入札し,低価格で落札することがある程度想定される工事であったという事情があるため,上記の3物件と同様に課徴金の対象とはならない。上記の各物件に係る工事は,平成19年3月以降の原告代表者の経営方針に沿って,飯塚工業を始めとする石和支部の会員らに対し,競争を仕掛けていくために積極的に低い価格で入札を行い,他の会員が受注を希望しているであろう物件であっても原告が希望する物件に係る工事を取りにいくという行動に出た工事であるから,課徴金の対象とされるべきではない。
イ 被告の反論等
本件対象期間に原告が受注した本件土木一式工事のうち,本件課徴金納付命令において課徴金の算定の対象とされた工事(本件対象工事)は,別紙10の4記載のとおりである。
これらの工事は,いずれも本件合意の対象である本件土木一式工事に該当し,原告が入札に参加して受注した工事であるところ,特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的競争制限効果が発生したと推認される。
原告は,物件61,同65,同105,同138,同143及び同146については,風間建設が受注調整の一切を明確に拒否していた物件68,同98及び同101と同様の事情に加え,本件合意に参加せず,受注調整に関して石和支部との関係を一切断っている原告が入札し,低価格で落札することがある程度想定される工事であったという事情があるため,上記の3物件と同様に課徴金の対象とはならない旨主張するが,原告が本件合意に参加していたことは既に述べたとおりであり,原告が受注した物件138については,本件合意に沿った受注調整が行われたことを裏付ける客観的な証拠が存在する。さらに,その他の工事についても,その入札参加者の入札価格や評価点などを見ると,原告以外の入札参加者の複数の者が,原告よりも相当高い価格で入札する,又は辞退するなどしているのであって,上記の物件の工事に係る入札において,21社間で自由に競争が行われたことをうかがわせる証拠はない。
以上のとおり,原告の主張は,その主張する事情がそもそも認められない上,具体的競争制限効果の発生の推認を妨げる特段の事情にも当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告が本件合意に加わっていたことを立証する実質的証拠があるか)について
(1) 本件審決においては,前記第2の1(7)のとおり,①山梨県においては,平成17年度頃まで指名競争入札の方法により土木一式工事を発注することが多かったが,21社を含む石和地区の建設業者は,石和支部に対する平成6年の勧告審決以降も,石和地区を施工場所とする土木一式工事の指名競争入札において受注調整を行うなど協調関係にあったこと,②21社は,遅くとも平成18年4月1日以降,一般競争入札の方法により発注される本件土木一式工事の入札に参加しようとする場合には当該工事の入札に参加する旨及び当該工事の受注を希望するときはその旨を,指名競争入札の方法により発注される場合においても同様に当該入札に指名された旨及び当該工事の受注を希望するときはその旨を石和支部等に連絡し,石和支部等において入札参加者及び受注希望者に関する情報を集約していたこと,③石和支部等において上記の入札参加情報等を集約していたのは,この情報を利用して受注調整を行うためであったこと,④21社は,上記②の集約された入札参加者情報等を利用して,受注希望者が1社又は1JVである場合にはその1社又は1JVを受注予定者とし,受注希望者が複数の場合には受注希望者間で地域性,継続性等を勘案して話合いをするなどして受注予定者を決定していたこと,⑤受注予定者となった者は,他の入札参加者に対し,自社が受注予定者である旨を連絡するとともに,他の入札参加者の入札すべき価格若しくは予定価格に対する率又は自社の入札する価格若しくは予定価格に対する率を連絡し,自社が作成した入札手続用の本工事費内訳書を配布するなどし,他の入札参加者は,上記の連絡を基に,受注予定者よりも高い価格で入札したり,入札を辞退するなどして,受注予定者が受注できるように協力していたこと,⑥21社は,総合評価落札方式を用いた一般競争入札の場合においても,⑤に述べたところに基づき,互いの評価点を予想し,又は連絡し合い,受注予定者以外の者は,自社の評価点が高いことが見込まれる場合は入札を辞退し,又は高い価格で入札し,受注予定者は,最も高い評価点を得ることができるように入札価格を低めに設定したり,他社の受注に協力する場合よりも綿密に施工計画書を作成したりするなどして,予め受注予定者を決定し,受注予定者がその定めた価格で受注できるよう協力していたこと,⑦40物件については,本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことを裏付ける客観的な証拠等が存在し,4物件については,受注調整に関わる行為が行われたことを示す客観的な証拠が存在すること,⑧本件対象期間に発注された158物件は,いずれも21社又は21社のいずれかで構成されるJVが受注しているところ,その平均落札率は,94.0%であったこと等を根拠として,原告を含む21社のうち芹沢組土木,八木沢興業及び地場工務店を除く18社は遅くとも平成18年4月1日までに,芹沢組土木は遅くとも平成19年6月19日以降,八木沢興業は遅くとも平成20年10月2日以降,地場工務店は遅くとも平成21年7月30日以降,本件土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るために,受注予定者を決定し,受注予定者は受注すべき価格を決め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する旨の合意(本件合意)をしたと認定されたものである。
そして,本件審決が上記の認定に用いた証拠(前記第2の1(7)ア(ア)の各認定事実の末尾の括弧内に掲記されたもの。)によれば,被告が上記①ないし⑧の各事実を認定したことは合理的であり,上記①ないし⑧の諸事情を総合すると,本件合意が成立していたと認定したことも合理的であるというべきであるから,本件審決による本件合意の存在の認定については,それを立証する実質的な証拠があるものと認められる。
(2) 原告は,上記の認定について,原告は平成17年に石和支部の当時の支部長であった《A1》社長から除名宣告を受け,以後実質的に除名されたのと同様の扱いを受けており,原告が入札に参加することや工事の受注を希望することなどを連絡したことはなく,受注調整行為を行ったこともないと主張し,査第60号証(原告は,査第61号証と主張するが,誤記であると解される。)及び審C第1号証には,《O株式会社》の《O1》社長が《A1》社長から指示されて《A1》社長の原告を除名する旨の意向を伝えた旨の供述等がある。
しかしながら,《A1》社長と原告代表者との関係が良好ではなく,平成17年に上記のような出来事があったとしても,21社の他の事業者との間までが同様の状況にあったことをうかがわせる証拠は見当たらない上,21社には受注価格の低落防止という共通の利害関係があり,少なくとも本件土木一式工事の入札に関しては協力する関係にあったとしても不合理ではなく,現に峡東支部及び治山協会の会員であった《会社名略》株式会社の代表取締役の《氏名略》は,石和支部等と一定の距離を置くようにしていた等としつつ,本件合意の枠内で行動していたことを認めており(査第8ないし第10号証,第12ないし第15号証,第171号証),また,21社のうちの中村工務店の《F1》社長も,石和支部の執行部と深い確執があり,執行部や支部運営と距離を置いていたとしつつ,《E》事務員に入札への参加の予定につき連絡をしたことがあり,他の事業者から中村工務店が受注予定者であるという趣旨の連絡を受けたこともあることを認めている(査B第16号証)。
しかも,栗田工業の《D2》元社長は,受注調整のために連絡を取り合った相手の中に原告の営業担当がいたことを供述しており(査第52号証及び第53号証。なお,これらの供述においては,原告の営業担当とされる者は氏名等をもって特定されていないが,このことから同供述の信用性が直ちに否定されるとは認め難い。),証拠(査第64号証,第83号証,第94号証,第95号証,第145号証,第225号証)によれば,原告が石和支部等に入札の連絡をしていたことが見て取れるのであって,原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 原告は,査第62号証(石和支部の《E》事務員の供述調書)において,《E》事務員が原告から連絡を受けたことはない旨を明確に供述していると主張するが,同人は,上記の供述中で,原告からは連絡を受けていないと積極的に否定しているわけではなく,飯塚工業のほか7社の具体的な会社名を挙げて,ここ数年の間に連絡をしてきたのが上記の8社らであった旨を供述しているものであって,他にも連絡をしてきた会社があることを排除することのない内容を供述をしている。そして,《E》事務員が挙げた上記の8社の中に別紙1番号11記載の中楯建設株式会社(以下「中楯建設」という。)は含まれていないが,中楯建設の代表取締役の《M》は,《E》事務員に入札に参加する旨の電話連絡をした旨を供述していること(査第58号証)に照らすと,《E》事務員の挙げた上記の8社以外にも入札の連絡をしていた会社が存在したものと認めるのが相当である。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 原告は,査第49号証(風間建設の《H2》常務の供述調書)について,原告からの受注を希望する旨の連絡について一切言及されていないことから極めて不自然であり,むしろ原告による受注調整行為が存在しないことを推認させるものであると主張するが,上記の供述調書の内容は,いずれも風間建設が落札した物件117,同125及び同131の各工事に係る入札について,石和支部において受注調整をしてくれたために労せずに受注できたことをその経緯とともに供述するものであって,物件131の工事に係る入札には原告は参加していないものの,他の2物件の各工事に係る入札には原告も参加していたこと(査第18号証)のほか,その供述内容の信用性に格別疑問を差し挟むべきような不自然ないしは不合理な点はなく,原告による受注調整の関与の具体的な内容については言及されていないものの,少なくとも原告による受注調整行為が存在しないことを一般的に推認させるものであるということはできない。原告は,上記供述調書に関して他にも主張するが(前記第2の2(1)ア(イ)③),いずれも採用することはできない。
(5) 原告は,査第79号証(風間建設の《H2》常務の手帳)について,物件138の工事に係る入札希望者の記載の中に同工事を落札した原告が含まれていないこと等から原告が受注調整行為に関与したことを示すものではないと主張する。
しかしながら,上記の手帳の記載は,《H2》常務の作成した他のメモ等(査第80号証,第235号証)とともに,《H2》常務が平成21年1月10日から同月13日までに石和支部の副支部長(査第4号証,第5号証)である別紙1番号9記載の小泉建設株式会社の代表取締役の《C1》(以下「《C1》社長」という。)と行ったやり取り,すなわち,《C1》社長から物件138の平等川河川工事について入札への参加を取り止めてほしいとの依頼を受けたが,これを拒否したことにより決裂し,風間建設は独自に入札したものの,原告が落札したことを裏付けるものであって(査第48号証,第49号証,第179号証),《H2》常務も原告と直接やり取りがあったことを供述しているわけではないものの(査第48号証),本件合意が存在したことを示す証拠として認めるのが相当である。
(6) 原告は,査第64号証(原告の従業員の《J1》が所持していた日めくりカレンダーの平成18年9月20日分)の記載について,その中の「支部へ」ないし「支部~」とされている記載は,支部から入札に関する何らかの電話があったことを示すものと理解すべきものであり,上記の記載だけでは原告の個別の物件の受注調整行為への関与をうかがわせるものではない上,その解釈のし方はいくらでもあり得るところであると主張する。
しかしながら,上記の記載は,「支部へ」ないし「支部~」とされる記載に続く「9/27・9/28 10/3」との記載の真下に「指名分連絡」という記載がされているものであって,原告に対する入札における指名に関する記載であると理解するのが自然かつ合理的であり,石和支部等との間でそのような事情に関するやり取りがあったことを裏付けるものと認めるのが相当であって,原告の上記主張を採用することはできない。
(7) 原告は,査第73号証,第75号証,第129号証,第130号証及び131号証(山梨県のウェブサイトから印刷された用紙に金額等が書き込まれているもの)について,上記の各書面に記載されている受注予定価格を連絡した者の中に原告は含まれていない上,原告にはこのような書き込みをした書面は存在しないから,上記証拠によっても原告が受注調整行為に加わっていたことを認める根拠とはならず,むしろ,原告は,受注予定価格の連絡を受けることも連絡をしたこともないことを示すものであると主張する。
しかしながら,上記の各証拠は,原告が入札に参加しなかった物件96,同113,同161,同163及び同4の各工事に係る受注予定者及びその受注予定価格又は受注予定者から連絡及び指示を受けた他の入札者の入札価格が書き込まれたものであり,本件合意の内容に沿った受注調整が行われたことを示すものと認めるのが相当である。原告は,上記の各入札に参加していないから,上記各証拠中に原告に関する書き込みがないことは不自然ではなく,上記の各証拠中に原告に関する書き込みはないことをもって,他の物件の工事に係る入札において原告が受注予定価格の連絡を受けることも連絡をしたこともないことを示すものということはできない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(8) 原告は,査第68号証(原告代表者が提出した平成14年10月16日付けのメモ)について主張するが,前記第2の1(7)のとおり,本件審決は,同号証を事実認定に用いていないから,原告の上記主張は理由がなく,採用することができない。
(9) 原告は,査第83号証(中村工務店作成の一覧表)の欄外の「飯」,「友」等の記載について,必ずしも受注予定者の頭文字を意味するものではないと主張する。
しかしながら,証拠(査第18号証,第83号証,第153号証)によれば,同一覧表の「芦川線防災工事」(No.10。物件153)の右側の欄外に「矢」との記載があり,同工事を落札したのは矢崎興業であったこと,「平等川工事」(No.18。物件155)の左側の欄外に「友」との記載があり,原告が落札したこと,「米倉農2工区工事」(No.21。物件156)の左側の欄外に「飯塚」との記載があり,同工事を落札したのは飯塚工業であったこと,「鶯宿農道その2工事」(No.20。物件157)の左右の欄外に「中村」及び「中」との記載があり,同工事を落札したのは中村工務店であったこと,「浅川橋梁下部工事」(No.22。物件158)の左右の欄外に「風興」及び「風」との記載があり,同工事を落札したのは風間興業であったこと,中村工務店は,芦川線防災工事(物件153)においては99.9%と極めて高い入札率の価格で入札し,平等川工事(物件155),米倉農2工区工事(物件156)及び浅川橋梁下部工事(物件158)においては入札を辞退したことが認められることに照らすと,上記の欄外の書き込みは,中村工務店において,各工事の入札前において,当該工事の受注予定者を把握し,それを記載したものであると推認することができる。中村工務店の《F1》社長の陳述書(査B第16号証)には,上記の一覧表の記載について,同人において応札する会社を予想しながら書き込んだ部分,公表された入札結果を書き込んだ部分など様々であるが,いずれも他の業者との情報交換を経て書いたものではない旨の記載があるが,鶯宿農道その2工事(物件157)についての欄外の記載につき開札後の自社が落札したことが判明した時点でこのような記載をする必要性は乏しく,また,応札する可能性のある会社として自社の名称を書き込むことは不合理であること,入札を辞退し又は入札したものの落札できなかった上記の各工事の落札者を書き込むことの合理的理由もないことに照らすと,上記の陳述書の記載を採用することはできない。
そして,上記の一覧表の記載は,既に述べた事情に照らし,原告が石和支部等に入札参加又は受注希望を連絡していたことを示すものと認めるのが相当である。
なお,原告は,上記の一覧表の「林道鶯宿中芦川線工事」(No.14)の欄外に「飯」との記載があるにもかかわらず,落札者は飯塚工業ではなかったのであるから,これらの欄外の記載は,受注予定者を記載したものではないとするが,同工事は笛吹市発注の工事であって(査第84号証),本件合意の対象外の工事であるから,上記の事実をもって上記推認を覆すとまではいえない。したがって,原告の上記主張も採用することはできない。
(10) 原告は,査第87号証(風間興業作成の「(簡易型・特別簡易型用)総合評価落札方式に関する評価調書」)の「価格以外の評価結果」欄のうちの「合計」等の欄及び「総合評価結果」欄のうちの「入札金額」等の欄に風間興業,原告及び中村工務店に関する記載があるが,風間興業の物件165における入札価格は,上記の記載とは異なる金額であり,受注調整のための価格を記載したものとしては不自然である旨主張する。
証拠(査第87号証,第143号証,《I2》社長の本件審判事件における審尋の結果)によれば,上記の評価調書への書き込みは,本件合意の対象ではない入札物件に係る評価調書に風間興業においてされたものであることが認められるところ,「総合評価結果」欄のうちの「入札者」及び「入札金額(税抜き)(A)」の欄にそれぞれ「風興 65,960」,「友愛 67,700」,「中村 67,600」との書き込みがされており,上記の「風興」については,「低入札」欄に「64,600」との,「落札者決定基準(失格基準)」の①欄に「64,000」との書き込みがそれぞれされているほか,上記の「65,960」との記載の上の欄に「97%」との,「64,000」との記載の上の欄に「95」との書き込みがそれぞれされていることが認められる。そして,上記の「友愛 67,700」及び「中村 67,600」の記載は,原告につき6770万円,中村工務店につき6760万円を意味するものと理解できるところ,証拠(査第18号証,第88号証,第153号証)によれば,総合評価落札方式を用いた一般競争入札の方法による物件165の工事に係る入札については,風間興業,中村工務店,原告,矢崎興業及び飯塚工業が入札参加者であったが,飯塚工業は入札を辞退したこと,上記の各金額は原告及び中村工務店の各入札価格といずれも一致していること及び風間興業が6450万円で落札したことが認められる。
以上によれば,風間興業は,物件165の工事に係る入札について,原告及び中村工務店が上記の入札に参加することを把握し,両社の評価点を見込んだ上で,段階的に自社の入札価格を試算したものと推認することができ,原告及び中村工務店は,風間興業の試算に基づく入札価格の連絡を受け,その価格で入札したものと推認することができる。この点について,風間興業の《I2》社長は,本件審判事件における審尋において,入札結果が判明した段階で,将来のために,シミュレーションをして検証したものである旨供述しているが,上記の工事を落札した風間興業が,入札結果が判明した後に,入札参加者のうちの原告と中村工務店についてだけを対象として,その落札可能な価格を検証することの合理的理由を見いだすことは困難である。《I2》社長は,上記の審尋において,4社を対象に検証すると計算が大変であり,評価点が風間興業と大差がない原告と中村工務店のみを対象としたとも供述をするが,この供述の内容を考慮しても,やはり,これを採用することはできないというべきである。
(11) 原告は,査第94号証(石和支部から物件174の工事に関してファクシミリにより送信された文書)について,《E》事務員が物件174について入札の連絡をしてきた事業者の名称のみを記載したものであり,原告について書き込みがないことからすると,同号証は,原告が入札希望の連絡をしていないことを示すものである等と主張する。
しかしながら,《E》事務員は,上記の連絡は石和支部の執行部に直接される場合もあることを供述しており(査第62号証),《E》事務員に対して連絡するという方法に限らないと認められるから,《E》事務員が原告の名称を書き込んでいないからといって,直ちに原告による連絡がなかったとすることはできない。かえって,中村工務店の《F1》社長は,本件審判事件における審尋において,査第94号証の鉛筆による書き込みをしたことを供述しており,その中には「八木沢」や「友愛」との書き込みがされていることが認められるから,治山協会の副会長であり,石和支部等の執行部の1人であった《F1》社長(査第2ないし第5号証,第8ないし第10号証,第12ないし第15号証)が原告の入札参加を知っていたことが認められ,このことは,原告が石和支部等に入札参加等の連絡をしていたことを示すものであるということができる。
(12) 原告は,査第95号証(中村工務店から提出された物件174の工事の取りまとめ表)について,《E》事務員が入札について連絡のあった事業者の名称についてボールペンにより書き込んだものであるが,同号証の表面の表の最後の工事の欄外に鉛筆で書き込まれた「友愛」は,同事務員が書き込んだものではないから,物件174の工事に係る入札に参加した原告についてのみ同事務員が記載しておらず,このことは原告が入札希望等の連絡をしていないことを示す旨主張する。
しかしながら,前記(11)で述べたように,入札参加等の連絡については,《E》事務員に対してする方法に限らないから,同事務員が同号証に原告の名称を書き込んでいないからといって,直ちに原告による入札希望の連絡等がなかったとすることはできない。そして,前記(11)で述べたように中村工務店の《F1》社長がした査第94号証の「友愛」の書き込みと査第95号証の「友愛」の鉛筆での書き込みの文字は,両者を対照すると同一人物の筆跡によるものと認められるから,査第95号証の表面の表の最後の工事の欄外の「友愛」の書き込みも《F1》社長がしたものであると認められ,査第95号証の取りまとめ表は,開札日である平成22年3月25日の前日に行われた立入検査の際に留置されたのであるから(査第18号証,本件審判事件における査第95号証の証拠申出書),開札前に《F1》社長が原告の入札参加を知っていたことが推認できるのであって,同号証も原告が石和支部等に入札希望等の連絡をしていたことを示すものであるといえ,原告の上記主張は,採用することができない。
(13) 原告は,査第100号証(原告代表者が提出した平成19年の日めくりカレンダーの4月27日分)における「20日会」との記載は,石和支部の会員の一部との交流があったことを示すだけで,石和支部そのものとの関係を示すものではない旨主張するが,同号証は,少なくとも,原告が,その主張するように,会員を中心として行われる懇親の場に呼ばれることはなく,参加することもなく,会員として会費を支払いながら,実質的には支部員として扱われていなかった等という状況にあったこととは整合しないものであり,原告が石和支部の会員と一定の交流をしていたことを示すものと認めるのが相当である。
(14) 原告は,査第128号証(物件119の工事に係る入札関連情報)の書き込みについて,風間興業の《I2》社長の本件審判事件における審尋によると,同社の総務部長が入札前に予想した5社と後日に入札したことが判明した2社を書き込んだものであり,原告については辞退したことを示す記載がされているが,原告は上記の工事の入札を辞退することを他の事業者に事前に伝えたことは一切なく,原告代表者は上記書面の書き込みに直接にも間接にも関わっておらず,上記の記載が仮に開札前にされていたとしても,それは,記載した風間興業の総務部長ないしその他の者が原告の様子をうかがって予測したものとしか考えられないと主張する。
しかしながら,証拠(査第18号証,第128号証,第153号証,第213号証)によれば,上記の入札関連情報に書き込まれた「風間興業 28,600,000 95.17%」の記載は,上記の工事を落札した風間興業の入札価格が2860万円であることと一致し,「入札5社」,「窪川 友愛-辞退 筒井 芹沢-辞退 風間興 栗田 風間建」との記載は,上記入札に参加した5社及び辞退した2社とも一致するものであり,しかも,上記の入札に参加した栗田工業の入札価格2950万円は,同じく物件119の入札関連情報(査第213号証)における「30,050,000×0.98≒29,500,000」の記載と一致することが認められることに照らすと,物件119の工事に係る入札において,本件合意の内容に沿った受注調整が行われていたことが推認できる。
この点について,《I2》社長は,本件審判事件における審尋において,同社の総務部長が入札参加者を予想して書き込んだものと開札後に結果が判明した後に入札参加者の予想から漏れていた会社を書き込んだものである旨を供述するが,上記工事を落札した風間興業が,開札後に,漏れていたとする入札参加者や予想していた入札参加者の辞退の事実を書き込む必要性が見当たらない上,風間興業が,上記工事の落札者となった後に,上記書き込みと重複する記載を明確な形で整理記載した入札結果を印刷したものと一緒にひとまとめにして保管していたことの合理的な理由も見いだし難く,《I2》社長の上記供述を採用することはできない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(15) 原告は,査第145号証(原告代表者が提出した平成19年の日めくりカレンダーの3月22日分)の「林ム2件連絡する」との記載について主張するが,前記第2の1(7)とおり,本件審決は,同号証を事実認定に用いていないから,原告の上記主張は理由がなく,採用することができない。
(16) 原告は,査第225号証(物件60の工事に係る入札参加者の取りまとめ表)の「指名業者」の欄に「友愛工業」の記載があるが,これがどのように作成されたのか不明である上,原告代表者及び原告の《J2》専務のいずれも全く知らない記載であるから,原告の入札とこの記載は何の関係もなく,原告が入札についての連絡をしたことを示すものではない旨主張する。
しかしながら,《E》事務員は,本件審判事件における審尋において,上記の取りまとめ表を作成の上,林務(治山協会)の役員であった中村工務店に送信したものであると供述しており,石和支部等において原告が上記工事に係る入札に参加することを了知していたことを推認することができ,このことは,原告が石和支部等にその旨を何らかの方法で連絡をしていたことを示すものと認めるのが相当である。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(17) 原告は,本件審決は,落札率が高い場合には,そのことをもって受注調整行為があったことを推認する根拠としているが,落札率が低い場合には,受注調整行為が存在しないことを示す事情として正当に評価しておらず,原告が落札した工事の落札率は,他のどの事業者の落札率よりも低く,平成18年から平成21年の平均で90.3%,平成19年から平成21年の平均で88%,平成20年から平成21年の平均で89.4%であって,他の全ての事業者の平均落札率よりも下回っている旨主張する。
しかしながら,本件対象期間に発注された158物件は,いずれも21社又は21社のいずれかで構成されるJVが受注しており,その平均落札率が94.0%と高いことは,受注価格の低落防止という本件合意の目的が達成された結果であることをうかがわせるものであって,本件審決が,このことを他の事情とともに総合考慮することによって,本件合意の存在を推認したことは合理的であるといえる。他方,平均落札率は,21社による落札率の平均であるから,事業者ごとの平均落札率を個別にみれば,21社の中に上記の平均落札率を下回る事業者が存在することはあり得ることであって,他の事業者よりも平均落札率が低いというだけでは,直ちに,原告が本件合意に参加していたことについての推認を覆すに足りるものとはいえない。そして,原告が主張する上記の88%から90.3%の落札率であっても,相当に高い落札率であることに変わりはなく,《J2》専務が,本件審判事件における審尋において,同人がこれまで低い入札率でも赤字になったことはなく,物件61の工事を73.8%で入札したが赤字にはならなかった旨を供述していることに照らせば,原告の主張する上記の落札率を前提としても,原告が本件合意に加わっていたと推認することを覆すに足りるものではないということができる。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(18) 原告は,総合評価落札方式を用いて一般競争入札に付された物件に係る入札において,評価点をある程度にせよ推測することは困難であるから,受注予定者が受注できるように調整することはできない旨主張し,《J2》専務は,本件審判事件における審尋において,発注者が付ける評価点を推測することはできない旨供述する。
しかしながら,前記第2の1(7)ア(ア)③のとおり,本件審決が,本件合意の対象に総合評価落札方式を用いた一般競争入札の方法によって発注された工事も含まれることをその引用する証拠によって認定したことは,合理的というべきである。
総合評価落札方式においては,入札参加者の評価点を正確に把握することに一定の困難を伴うといえるが,過去の事例などを基にある程度の予想をすることは可能であって,これを互いに連絡し合うこと等によって受注調整を行うことは可能であるものと認められる。そして,総合評価落札方式において落札者を決める基礎とされる評価点は,前記第2の1(3)オ(ア)のとおり,標準点と加算点の和に比例し,入札価格に反比例する関係にあるから,ある程度予想された評価点を基に,上記の関係を考慮して,入札価格を決めること等によって,受注予定者による受注を可能にすることができるのであって,実際にも,総合評価落札方式を用いた一般競争入札においても受注調整が行われたことを示す客観的な証拠(査第83号証,第87号証)が存在する。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
2 争点2(物件61,同65,同105,同138,同143及び同146の工事について課徴金の対象に含まれるか)について
(1) 本件審決においては,独占禁止法7条の2第1項に規定する課徴金の対象となる当該役務とは,本件においては,本件合意の対象とされた工事であって,本件合意に基づく受注調整等の結果,具体的な競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解される(最高裁平成22年(行ヒ)第278号同24年2月20日第一小法廷判決・民集第66巻2号796頁)とした上で,21社は,遅くとも平成18年4月1日以降,本件土木一式工事について,受注価格の低落防止を図るため,本件合意の下で受注調整を行っていたものであり,前記第2の1(7)ア(ア)の①ないし⑥の事情に照らすと,本件土木一式工事の全てを受注調整の対象とするのが合理的であることを根拠として,本件土木一式工事に該当し,かつ,21社のいずれかが入札に参加して受注した工事については,当該工事について本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的な競争制限効果が発生したものと推認するのが相当であるとの認定判断がされたが,上記①ないし⑥の末尾の括弧内に掲げた各証拠によれば,被告が上記①ないし⑤の事実を認定したことは合理的であって,これらの認定事実に加えて,44物件に係る工事について,発注方法,発注担当部署,工事内容及び発注時期において特段の偏りがみられないこと及び上記⑥記載の者の中に本件土木一式工事に該当する特定の工事について本件合意に基づく受注調整が行われなかった旨を供述している者がいないこと等を併せ考慮すると,本件審決が採用した上記の推認方法も合理的であるというべきである。そうすると,本件審決における事実の認定については,それを立証する実質的な証拠があるものと認められる。
(2) 原告は,個別の工事の入札において受注調整が行われたことは当該役務の該当性判断の前提として立証を要するが,この点の立証は不十分である旨主張するが,本件合意の対象となる工事については,特段の事情のない限り,本件合意に基づく受注調整が行われ,具体的な競争制限効果が発生したものと推認するのが相当であることは,前記(1)のとおりである。
(3) 原告は,そもそも本件合意に参加せず,受注調整に関して石和支部との関係を一切断っていたのであり,本件対象工事のうち物件61,同65,同105,同138,同143及び同146については,風間建設が受注調整の一切を明確に拒否していた物件68,同98及び同101と同様の事情があることに加え,原告が入札し,低価格で落札することがある程度想定される工事であったという事情があるため,課徴金の対象とはならない旨主張するが,原告が本件合意に参加していたと認められることは既に述べたとおりである。なお,物件138について,受注調整が行われたことを裏付ける客観的証拠があることは,前記1(5)のとおりである。
原告がその他に主張する事実は,本件合意に基づく受注調整が行われたとは認められない特段の事情に当たるとは認められず,原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 以上のとおり,本件対象工事は,いずれも独占禁止法7条の2第1項の規定する当該役務に該当すると認められるから,これらが本件課徴金納付命令の対象となるとした本件審決の判断に誤りはない。
3 以上によれば,本件審決における事実の認定については,いずれもそれを立証する実質的な証拠があるものということができ,本件審決に原告の主張する違法はなく,本件審決は適法というべきである。
第4 結論
以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
平成30年11月30日
裁判長裁判官 八木一洋
裁判官 柴﨑哲夫
裁判官 片山憲一
裁判官 平田直人
裁判官 杉山順一
注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。
【別紙添付省略】