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独禁法3条後段・独禁法7条2
東京地方裁判所民事第8部
平成28年(行)ウ第443号,平成28年(行)ウ第447号及び平成28年(行)ウ第448号
第1事件原告 ルビコン株式会社
(以下「原告ルビコン」という。)
同代表者代表取締役 《N7》
同訴訟代理人弁護士 長谷川 洋 二
同訴訟復代理人弁護士 中西康晴
京都市中京九烏丸通御池上る二条殿町551番地
第2事件原告 ニチコン株式会社
(以下「原告ニチコン」という。)
同代表者代表取締役 《L2》
同訴訟代理人弁護士 碩 省三
同 日詰栄治
同 茂野祥子
同 寺井昭仁
同 村上 拓
同 武井祐生
大阪府豊中市千成町三丁目5番3号
第3事件原告 松尾電機株式会社
(以下「原告松尾電機」という。)
同代表者代表取締役 《M6》
同訴訟代理人弁護士 山口孝司
同 松岡伸晃
同 大石賀美
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 大胡 勝
同 三好一生
同 平野朝子
同 平塚理慧
同 髙橋 浩
同 八子洋一
同 五十嵐 俊 之
同 佐久間 友紀子
同 長谷川 和 己
同 石田未来
同 川端龍徳
同 石塚杏奈
同 川 田 美沙樹
同 近藤海斗
同 山中康平
同 佐久間 一 乃
注釈 《 》及び■■■部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。
主文
1 被告が原告松尾電機に対し平成28年3月29日付けでした排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第6号)のうち,同命令主文第1項⑴において「タンタル電解コンデンサ」と略称する製品のうち電解質(陰極)として電解液を用いるもの(湿式タンタル電解コンデンサ)について排除措置を命じた部分を取り消す。
2 被告が原告松尾電機に対し平成28年3月29日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会平成28年(納)第22号)のうち,4億2414万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
3 原告ルビコン及び原告ニチコンの請求並びに原告松尾電機のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告ルビコンと被告との間に生じた費用については原告ルビコンの負担とし,原告ニチコンと被告との間に生じた費用については原告ニチコンの負担とし,原告松尾電機と被告との間に生じた費用については,これを25分し,その1を被告の負担とし,その余を原告松尾電機の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
⑴ 被告が原告ルビコンに対し平成28年3月29日付けでした排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第5号)を取り消す。
⑵ 被告が原告ルビコンに対し平成28年3月29日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会平成28年(納)第21号)を取り消す。
2 第2事件
⑴ 被告が原告ニチコンに対し平成28年3月29日付けでした排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第5号)を取り消す。
⑵ 被告が原告ニチコンに対し平成28年3月29日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会平成28年(納)第19号)を取り消す。
⑶ 被告が原告ニチコンに対し平成28年3月29日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会平成28年(納)第23号)を取り消す。
3 第3事件
⑴ 被告が原告松尾電機に対し平成28年3月29日付けでした排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第6号)の主文第1項⑴において「タンタル電解コンデンサ」と略称する製品のうち,陰極に二酸化マンガンを利用し,リード線端子を持たない,表面実装用固定タンタル固体(MnO2)電解コンデンサ(ヒューズ付きの複合製品を除く。)を除く製品について認定した部分を取り消す。
⑵ 被告が原告松尾電機に対し平成28年3月29日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会平成28年(納)第22号)のうち,3億3215万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
第2 事案の概要
1 被告は,原告ルビコン,原告ニチコン及び日本ケミコン株式会社(以下「日本ケミコン」といい,原告ルビコン及び原告ニチコンと併せた3社を「アルミ3社」という。)が,平成22年2月18日までに,共同して,アルミニウム箔表面に形成する酸化皮膜を誘電体とするコンデンサのうち陰極に導電性ポリマーを用いるものを除くもの(以下,特記しない限り,この定義に当てはまるコンデンサを「アルミ電解コンデンサ」という。)の販売価格を引き上げる旨の合意(以下「本件アルミ合意」という。)をし,日立エーアイシー株式会社(以下,同社とアルミ3社を併せて「アルミ4社」という。)が同年3月2日までに本件アルミ合意に参加し,公共の利益に反して,日本国内におけるアルミ電解コンデンサの販売分野の競争を実質的に制限したものであり,この行為が,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)2条6項の不当な取引制限に該当し,同法3条に違反することを理由として,平成28年3月29日,原告ルビコン,原告ニチコン及び日本ケミコンに対し,排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第5号。以下「本件アルミ排除措置命令」という。)を行うとともに,上記行為が同法7条の2第1項1号の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当することを理由として,原告ルビコン及び原告ニチコンに対し,課徴金納付命令(原告ルビコンにつき公正取引委員会平成28年(納)第21号(以下「本件アルミ課徴金納付命令(原告ルビコン)」という。),原告ニチコンにつき公正取引委員会平成28年(納)第19号(以下「本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)」という。))を行った。
また,被告は,原告ニチコン,原告松尾電機,NECトーキン株式会社(以下「NECトーキン」という。)及びホリストンポリテック株式会社(以下「ホリストン」といい,原告ニチコン,原告松尾電機及びNECトーキンと併せた4社を「タンタル4社」という。)が,平成22年6月17日までに,共同して,タンタル粉体の焼結体表面に形成する酸化皮膜を誘電体とするコンデンサのうち陰極に導電性ポリマーを用いるものを除くもの(以下,特記しない限り,この定義に当てはまるコンデンサを「タンタル電解コンデンサ」という。)の販売価格を引き上げる旨の合意(以下「本件タンタル合意」という。)をし,公共の利益に反して,日本国内におけるタンタル電解コンデンサの販売分野の競争を実質的に制限したものであり,この行為が,独禁法2条6項の不当な取引制限に該当し,同法3条に違反することを理由として,平成28年3月29日,原告松尾電機,NECトーキン及びホリストンに対し,排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第6号。以下「本件タンタル排除措置命令」という。)を行うとともに,上記行為が同法7条の2第1項1号の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当することを理由として,原告ニチコン及び原告松尾電機に対し,課徴金納付命令(原告ニチコンにつき公正取引委員会平成28年(納)第23号(以下「本件タンタル課徴金納付命令(原告ニチコン)」という。),原告松尾電機につき公正取引委員会平成28年(納)第22号(以下「本件タンタル課徴金納付命令(原告松尾電機)」という。))を行った。
本件は,原告らが,上記各命令(以下「本件各命令」という。)はその処分要件を欠く違法なものであるなどと主張して,原告ルビコンが本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(原告ルビコン)の取消しを,原告ニチコンが本件アルミ排除措置命令,本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)及び本件タンタル課徴金納付命令(原告ニチコン)の取消しを,原告松尾電機が本件タンタル排除措置命令及び本件タンタル課徴金納付命令(原告松尾電機)の各一部の取消しを,それぞれ求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠(特記しない限り,枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
⑴ 当事者等
ア アルミ4社
本件アルミ合意を行ったとされるのは以下の4社であり,その概要は次のとおりである。
(ア) 原告ルビコン
原告ルビコンは,長野県伊那市に本店を置き,アルミ電解コンデンサの製造販売事業等を営む株式会社である。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(イ) 原告ニチコン
原告ニチコンは,京都市中京区に本店を置き,アルミ電解コンデンサの製造販売事業等を営む株式会社である。原告ニチコンは,タンタル電解コンデンサの製造販売事業も営んでいたが,平成25年2月6日,同事業を別法人に譲渡したため,本件各命令が行われた平成28年3月29日当時,同事業を営んでいなかった。(乙共1)
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(ウ) 日本ケミコン
日本ケミコンは,東京都品川区に本店を置き,アルミ電解コンデンサの製造販売事業等を営む株式会社である。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(エ) 日立エーアイシー株式会社
アルミ電解コンデンサ及びタンタル電解コンデンサの製造販売事業等を営んでいた日立エーアイシー株式会社は,平成21年10月1日,会社分割によりアルミ電解コンデンサの製造販売事業を新町コンデンサ株式会社に承継させるとともに自らの商号を日立化成エレクトロニクス株式会社(以下,会社分割後の同社を「日立化成」という。)に変更し,新町コンデンサ株式会社はその商号を日立エーアイシー株式会社に変更した(以下,商号変更後の同社及び会社分割前の上記会社を「日立エーアイシー」という。)。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
イ タンタル4社
本件タンタル合意を行ったとされるのは,原告ニチコン及び以下の3社であり,その3社の概要は次のとおりである。
(ア) 原告松尾電機
原告松尾電機は,大阪府豊中市に本店を置き,タンタル電解コンデンサの製造販売事業等を営んでいる株式会社である。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(イ) NECトーキン
NECトーキンは,仙台市太白区に本店を置き,タンタル電解コンデンサの製造販売事業等を営んでいた株式会社であるが,平成24年5月頃以降,タンタル電解コンデンサについては販売事業のみを行っている。NECトーキンは,平成23年10月頃まで,同社が販売するタンタル電解コンデンサのほぼ全てをタイ王国所在の同社の子会社が製造していた。(乙共7,乙イ61,62)
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(ウ) ホリストン
日立エーアイシーは,前記ア(エ)記載のとおり,平成21年10月1日,会社分割によりアルミ電解コンデンサの製造販売事業を新町コンデンサ株式会社に承継させるとともに自らの商号を日立化成に変更した後も,タンタル電解コンデンサの製造販売事業を継続したが,平成22年3月31日,同事業をホリストンに譲渡した。ホリストンは,福島県田村郡に本店を置き,同事業の譲受け以降,タンタル電解コンデンサの製造販売事業等を営んでいるが,平成26年11月1日,商号をビシェイポリテック株式会社に変更した(以下,商号変更の前後を問わずホリストンという。)。(乙共9,60,乙イ68)
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⑵ コンデンサの製品概要
ア コンデンサ全般
コンデンサは,誘電体を挟んで対向させた電極(陽極及び陰極)に電圧をかけることによって電荷を蓄積させ,それによって電圧の変化を吸収して電圧の安定化を図るなどの機能を有している電子部品の一種であり,電子機器や産業機械等を製造する際に部品として組み込まれている。コンデンサは,使用される誘電体によって種類が大別されるところ,電解コンデンサは,陽極となるアルミニウム,タンタル,ニオブ等の金属を電解酸化することで,その表面に皮膜(酸化皮膜)を形成させ(陽極酸化),これを誘電体として用いるものである。(乙共66)
イ アルミ電解コンデンサ
アルミ電解コンデンサは,陽極にアルミニウム箔を用い,アルミニウム箔表面に形成させた酸化皮膜を誘電体とするコンデンサであり,電解質(陰極)として電解液を用いるものが一般的である。定義上はアルミ電解コンデンサから除かれているが,アルミニウム箔表面に形成する酸化皮膜を誘電体とするコンデンサであって,陰極にポリピロール等の導電性ポリマーを用いるもの(以下「導電性アルミ電解コンデンサ」という。)もある。
アルミ電解コンデンサは,基板等への実装方式により,主として,①電極から引き出されたリード線端子を通じて実装するもの(「リード線形」又は「04形」などと呼ばれる。以下「リード線形」という。),②本体を基板等に直接はんだ付けして実装するもの(「チップ形」又は「表面実装形」などと呼ばれる。以下「チップ形」という。),③爪形の端子をはめ込んで実装するもの(「基板自立形」又は「スナップイン」などと呼ばれる。以下「スナップイン」という。),④ネジ状の端子を締め付けて実装するもの(以下「ネジ端子形」という。)の4種があり,①及び②を小型,③及び④を大型と称することがある。
(乙共53,66,乙ア27)
ウ タンタル電解コンデンサ
タンタル電解コンデンサは,陽極にタンタルを使用し,タンタル粉体等の焼結体表面に形成させた酸化皮膜を誘電体として用いるコンデンサであり,同一の大きさであればアルミ電解コンデンサよりも大きな静電容量を得られ,小型化が容易であるといった特性を有する一方,希少金属であるタンタルを原材料としているため,比較的単価が高く,一般的に大型化には向かないとされている。
タンタル電解コンデンサには,①電解質(陰極)として電解液を用いるもの(以下「湿式タンタル電解コンデンサ」という。),②陰極として固体である二酸化マンガンを用いるもの(以下「マンガン品」という。)があり,定義上はタンタル電解コンデンサから除かれているが,タンタル粉体等の焼結体表面に形成させた酸化被膜を誘電体として用いるコンデンサのうち,陰極にポリピロール等の導電性ポリマーを用いるもの(以下「導電性タンタル電解コンデンサ」という。)もある。
タンタル電解コンデンサは,かつては湿式タンタル電解コンデンサのみであったが,昭和30年頃にマンガン品が発明されて以降,マンガン品がタンタル電解コンデンサの主流となり,平成22年6月時点で,タンタル4社の中で湿式タンタル電解コンデンサを製造しているのは原告松尾電機のみであった。
マンガン品は,その外装により,①素子部分を金属ケースにハーメチック(密閉)封入した外装を有するもの(以下「ハーメチック品」という。),②樹脂溶液に素子を浸し,これを乾燥させて外装を形成するもの(以下「樹脂ディップ品」という。),③型に入れ固めた樹脂を外装とするもの(以下「樹脂モールド品」という。),④素子表面に樹脂の塗装によるコーティングを施して外装とするもの(以下「簡易樹脂外装品」という。)に大別される。
タンタル電解コンデンサも,アルミ電解コンデンサと同様,基板等への実装方式により,リード線形とチップ形に区分されるところ,一部の例外を除き,湿式タンタル電解コンデンサはリード線形,マンガン品のうち,①ハーメチック品及び②樹脂ディップ品はリード線形,③樹脂モールド品はチップ形又はリード線形,④簡易樹脂外装品はチップ形である。また,チップ形の樹脂モールド品には,ヒューズ内蔵型のものとヒューズ非内蔵型のものがある。
(乙共66,乙イ51,乙B7)
⑶ アルミ電解コンデンサ及びタンタル電解コンデンサの取引概要
ア 需要者等
アルミ電解コンデンサは,日本国内においては,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■等の電子機器等製造業者に対して売却・納品され,これらの業者が製造する製品等に部品として組み込まれていた。
タンタル電解コンデンサは,日本国内においては,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■等の電子機器等製造業者に対して売却・納品され,これらの業者が製造する製品等に部品として組み込まれていた。
コンデンサ製造販売業者は,これらの売却・納品先である需要者,又は商社若しくは販売代理店等(以下「需要者等」という。)に対し,自社の製品を販売していた。
(乙共48,53,55,乙イ52,72)
イ コンデンサの製造販売業者と需要者等との関係
需要者は,新たにコンデンサを調達する場合,コンデンサ製造販売業者に対して新製品等に必要なコンデンサの仕様を伝達し,サンプル品を納入させた上で,当該サンプル品が自らの求める機能等を具備しているか否かを検討する(需要者は,かかる機能等を具備していると判断することを「認定」するなどと呼んでいた。)。その後,需要者は,複数のコンデンサ製造販売業者から「認定」済みのコンデンサの見積りを提出させ,調達先のコンデンサ製造販売業者を決めるなどしていた。(乙共38,53,65)
需要者等は,コンデンサを継続して調達する場合,半年又は3か月に1回ほどの頻度で,定期的にコンデンサ製造販売業者に対し,「定期コストダウン要請」又は「定期原価低減要請」などと称して販売価格を引き下げるよう求めることがあった(以下「定期原価低減要請」という。)。他方,コンデンサ製造販売業者は,需要者等に対し,コンデンサの販売価格の引上げを求めることがあり,その方法としては,定期原価低減要請に対して逆に販売価格の引上げを求める旨を回答する方法や,同要請とは関係なく,需要者等に直接連絡を取って交渉する方法があった。(乙共35,43,乙ア40)
⑷ 日本国内における市場シェア等
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⑸ 平成22年の販売価格の引上げの決定に関する状況(争いのない事実)
ア アルミ電解コンデンサ
原告ルビコンは,平成21年7月頃アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを決定し,需要者等との交渉等を行った。また,日本ケミコンも,平成21年9月頃から平成22年にかけて,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを決定した。
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イ タンタル電解コンデンサ
タンタル電解コンデンサの主要な材料であるタンタルパウダー及びタンタルワイヤー(以下「タンタル資材」という。)は,平成22年1月頃,その価格の上昇が予想されるようになった。
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また,原告松尾電機は,平成22年6月頃,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げることとし,顧客及び製品ごとに具体的な値上げ率などを決定した。
⑹ 平成23年の値上げ活動終了に至る経緯に関する状況(争いのない事実)
ア アルミ電解コンデンサ
アルミ電解コンデンサは,平成22年春頃,需要が多く材料費も高騰して製品価格が値上げ基調にあったが,平成23年3月11日の東日本大震災後,日本ケミコンのみならず,原告ニチコン,原告ルビコン及び日立エーアイシーも,自社の製造拠点その他が被災するなどして生産能力が減少したのみならず,アルミ電解コンデンサの確保を重視して二重三重の発注を行う顧客があり,アルミ電解コンデンサの需要が供給を上回る状況となったばかりか,日本ケミコンと取引をしていた需要者の中には,他のアルミ電解コンデンサの製造販売業者に対して発注した者もあった。
イ タンタル電解コンデンサ
タイ王国所在のNECトーキンの子会社工場は,平成23年10月同国内で洪水が発生したため,同月13日従業員を避難させたが,同月17日,同工場を含む工業団地の防水堤が決壊して同工業団地への浸水が始まったことから,再稼働の時期については周辺の水位や従業員の安全を考慮しながら判断する旨を公表し,同月19日,同工場への浸水が確認され操業再開の目処が立っていないことを発表した。同工場は,同月13日以降,タンタル電解コンデンサを製造していない。
⑺ 本件各命令
ア 本件アルミ合意
(ア) 被告は,アルミ4社は,本件アルミ合意により,公共の利益に反して,日本国内におけるアルミ電解コンデンサの販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,この行為は独禁法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条に違反するなどと認定して,平成28年3月29日,原告ルビコン,原告ニチコン及び日本ケミコンに対し,同法7条2項に基づき,本件アルミ排除措置命令をした(甲A15,甲B1)。
(イ) 被告は,平成28年3月29日,原告ルビコンに対し,上記行為は,独禁法3条に違反し,かつ独禁法7条の2第1項の商品の対価に係るものであるとした上で,不当な取引制限行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(以下「実行期間」という。同項柱書参照)を平成22年4月1日から平成23年11月21日まで,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令5条1項の規定に基づく当該実行期間におけるアルミ電解コンデンサに係る原告ルビコンの売上額(以下,同項の規定に基づく売上額を単に「売上額」という。)を190億6692万9443円と認定し,原告ルビコンが課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則の定めるところにより事実の報告及び資料の提出を行った者であることをも考慮して,独禁法7条の2第1項,6項,11項,23項の規定により,課徴金として10億6774万円を国庫に納付するよう命じた(甲A16,本件アルミ課徴金納付命令(原告ルビコン))。
(ウ) 被告は,平成28年3月29日,原告ニチコンに対し,上記と同様の違反行為を認定した上で,実行期間を平成22年3月1日から平成23年11月21日まで,当該実行期間におけるアルミ電解コンデンサに係る原告ニチコンの売上額を420億2792万3721円と認定するなどし,独禁法7条の2第1項,6項,23項の規定により,課徴金として33億6223万円を国庫に納付するよう命じた(甲B2,本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン))。
イ 本件タンタル合意
(ア) 被告は,タンタル4社は,本件タンタル合意により,公共の利益に反して,日本国内におけるタンタル電解コンデンサの販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,この行為は独禁法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条に違反するなどと認定して,平成28年3月29日,原告松尾電機,NECトーキン及びホリストンに対し,同法7条2項に基づき,本件タンタル排除措置命令をした(甲C1)。
(イ) 被告は,平成28年3月29日,原告ニチコンに対し,上記行為は,独禁法3条に違反し,かつ独禁法7条の2第1項の商品の対価に係るものであるとした上で,実行期間を平成22年6月22日から平成23年10月18日まで,当該実行期間におけるタンタル電解コンデンサに係る原告ニチコンの売上額を34億7440万0587円と認定するなどし,独禁法7条の2第1項,6項,23項の規定により,課徴金として2億7795万円を国庫に納付するよう命じた(甲B3,本件タンタル課徴金納付命令(原告ニチコン))。
(ウ) 被告は,平成28年3月29日,原告松尾電機に対し,上記と同様の違反行為を認定した上で,実行期間を平成22年8月1日から平成23年10月18日まで,当該実行期間におけるタンタル電解コンデンサに係る原告松尾電機の売上額を53億4563万4467円と認定するなどし,独禁法7条の2第1項,6項,23項の規定により,課徴金として4億2765万円を国庫に納付するよう命じた(甲C2,本件タンタル課徴金納付命令(原告松尾電機))。
⑻ 本件各訴えの提起
原告ルビコンは平成28年9月23日第1事件の訴えを,原告ニチコンは同月26日第2事件の訴えを,原告松尾電機は同月27日第3事件の訴えを,それぞれ東京地方裁判所に提起した。
3 争点及び争点に関する当事者の主張
⑴ 本件アルミ合意について
ア アルミ4社間において本件アルミ合意(意思の連絡)は成立したか。
(被告の主張)
(ア) 独禁法2条6項の「共同して」に該当するというためには,複数の事業者が対価を引き上げるに当たって,相互に「意思の連絡」があったと認められることが必要であるところ,「意思の連絡」とは,複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思があることを意味し,一方の対価引上げを他方が単に認識,認容するのみでは足りないが,事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要ではなく,相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して,暗黙のうちに認容することで足りると解すべきである。
本件では,以下の事実によれば,遅くとも平成22年2月18日までに,アルミ3社間にアルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨の合意(本件アルミ合意)が成立し,遅くとも同年3月2日までに,日立エーアイシーが本件アルミ合意に参加したのであるから,これにより, アルミ4社間に「相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思」が成立したというべきであり,本件アルミ合意は「意思の連絡」に該当する。
a 原告ルビコン及び原告ニチコンらのアルミ電解コンデンサ製造販売業者は,平成18年3月頃から平成21年5月頃までの間,アルミ電解コンデンサについて,相互に値上げの意向や需要者等との価格交渉の状況等を伝え合いながら,協調して販売価格の引上げや維持に取り組んだことがあり,本件アルミ合意より前のこのような共通の経験は,それらとおおむね同様の行動をとることで歩調を揃えて値上げ活動ができるというアルミ4社の共通認識を生んだ。
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c その後,リーマンショックと呼ばれる世界的な景気後退によりアルミ電解コンデンサの需要が一時減退したが,平成21年初旬,需要が回復し始め,同年6月頃には,一部製品で需要が供給能力を上回る状況になった。このような状況の下,原告ルビコンは,同年7月頃,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げることとし,需要者の一部に対してその申入れを開始した。続いて,日本ケミコンも,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げることとし,同年9月25日開催の社内会議において,販売価格の引上げの指示をした。原告ルビコン,日本ケミコン及び原告ニチコンは,原告ルビコンが販売価格の引上げを決めた同年7月頃から同年12月頃にかけて,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げ等に関する情報交換をしたが,原告ニチコンが販売価格の引上げを開始しなかったことから,原告ルビコン及び日本ケミコンは,アルミ電解コンデンサの販売価格を十分に引き上げることができなかった。
d 原告ルビコンは,平成21年12月23日社内会議において,それまで販売価格の引上げが遅れていた日系需要者等(日本国内の企業及びその海外に所在する子会社,支社,支店等をいう。以下同じ。)に販売するアルミ電解コンデンサについて,需要者等ごとの販売総額をその仕入総額(原告ルビコンの製造部門から営業部門に対してアルミ電解コンデンサを販売するとみなす場合の当該販売価格の合計をいう。以下同じ。)以上とすることを目標として,原則として平成22年4月1日納入分から,需要者等に対し販売価格の引上げを申し入れて交渉することを決定した。原告ルビコンの■■■■■■■■■■■■■は,同年1月初旬,日本ケミコンの《K1》に対し,上記社内決定に従って販売価格の引上げに取り組んでいくことを伝えた。
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日立エーアイシーは,遅くとも平成22年3月2日までに,同社の■■■■■■■■■■■及び日立化成の■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を通じて,日本ケミコン及び原告ルビコンとの間で,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げることなどを伝え合った。
e アルミ4社は,上記dの頃から各社内に対し,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを需要者等に申し入れて交渉するよう指示を出すなどして,需要者等に対する値上げ活動を行い,実際にアルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げるなどした。
f アルミ4社は,平成22年2月18日開催のマーケット研究会以降,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げ等に関して,マーケット研究会や個別の連絡等を通じて,各社が値上げ活動に取り組んでいることや値下げを行っていないことを繰り返し確認し合い,必要に応じ,個々の需要者等に対する値上げ交渉の方針や具体的な販売価格について話し合ったり,販売価格の引上げの申入れや交渉の経緯等の値上げ活動の状況やその結果を伝え合ったりしていた。
(イ) 原告ニチコンは,アルミ電解コンデンサに関する各命令においては,本件アルミ合意の内容として値上げ率や値上げ時期等の具体的内容が含まれておらず,何らの具体性なく単に販売価格の引上げを行うというだけの極めて抽象的な内容を確認しただけでは,実質的に競争を制限する効果をもたらす「同内容又は同種の対価の引上げ」について歩調を揃えることを合意したとは到底認められないから,本件アルミ合意は「意思の連絡」に該当しないと主張する。
しかし,合意の成立のために,原告ニチコンが主張するような値上げ率や値上げ時期等の販売価格の引上げの具体的内容までを認識ないし予測する必要はなく,不当な取引制限を認める上で,本件アルミ合意の内容は「アルミ電解コンデンサの販売価格を共同して引き上げること」で十分である。すなわち,アルミ4社は,需要者等に対して協調して値上げ活動を行って製品の販売価格を引き上げることを合意したことにより,自らが販売価格を引き上げる際に,より低い販売価格を提示する競争事業者に取引を大幅に奪われ,自らの売上げや利益が減少するというリスクを低下させることができ,製品価格を引き上げることが容易になった。反面,本来は,アルミ4社がこのリスクを前提にそれぞれ独自に判断して行うべき個々の需要者等に対する販売価格の決定や価格交渉等の事業活動は,他社との合意に制約されて行われることになるから,この意味で,アルミ4社の事業活動は拘束されていたものである。
(原告ルビコンの主張)
本件アルミ合意の意味が,「少なくとも原告ルビコンにおいては,日系需要者に対する,それまで販売総額が仕入総額以下となっていたアルミ電解コンデンサを対象として,これを需要者ごとに販売総額を仕入総額以上に値上げする合意」という意味であれば認めるが,アルミ電解コンデンサ全体を対象として意思の連絡が成立したことは否認する。原告ルビコンの販売価格の引上げの対象が上記の範囲であることが他社に伝わっていたことは,被告の主張上も明らかである。
(原告ニチコンの主張)
(ア) 以下の事情等からすれば,原告ニチコンと他社との間で本件アルミ合意は成立しておらず,意思の連絡はない。
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c 原告ニチコンは,平成17年2月,自主的統計収集という本来の会の目的から徐々に逸脱し始めていたATC会と称する会合を脱退した。他社は,それ以降,当局への密告を恐れて原告ニチコンに対して同会の存在を隠し,会の名称をマーケット研究会と変更した上で継続して定期的に同会を開催し続けていたが,原告ニチコンは,マーケット研究会に参加しておらず,一貫してアウトサイダーの立場であった。
d 原告ニチコンは,平成22年2月18日以降も,他社より安い販売価格を提示することにより他社のシェアを奪う行動に出ている。また,他社は,原告ニチコンによる値上げ活動を「強引な値上げ」と警戒し,社内に注意を促していた。
(イ) 被告は本件アルミ合意の内容を「アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨の合意」であると主張するが,このような内容の合意では「意思の連絡」の要件を充たさない。すなわち,本件においては,少なくとも当時の市場の状況に照らし,各社が販売価格の引上げを実施することは自明であったから,何らの具体性なく単に販売価格の引上げを行うというだけの極めて抽象的な内容を確認しただけでは,実質的に競争を制限する効果をもたらす「同内容又は同種の対価の引上げ」について歩調を揃えることを合意したとは到底認められず,「意思の連絡」に該当しない。
イ 本件アルミ合意が対象とした製品の範囲
(被告の主張)
アルミ4社は,本件アルミ合意成立の前後を通じてアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げに関して種々の伝達や情報交換をしており,その内容を総じてみれば,その対象は,特に種類や需要者等を問わず,アルミ電解コンデンサ全体であったというべきである。
(原告ルビコンの主張)
被告が主張する本件アルミ合意に関する経緯等を前提とすると,本件アルミ合意が対象とした製品の範囲には日系需要者以外に納入する製品は含まれず,また,その製品はアルミ電解コンデンサのうち販売総額が仕入総額以下のものに限られていた。
(原告ニチコンの主張)
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(イ) 原告ニチコンは,東日本大震災により日本ケミコンの製造拠点が被災したことに伴い,同社からの製品供給を受けられなくなった顧客から,同社に代わって製品の納入をして欲しい旨の代替品納入要請(以下「ヘルプ要請」という。)を相次いで受けた。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■また,原告ニチコンは,ヘルプ要請に基づく受注を契機として日本ケミコンのシェアを奪おうと考え,実際にシェアを拡大している。したがって,アルミ電解コンデンサに係る取引のうちヘルプ要請に基づくものは,本件アルミ合意の対象外である。
(ウ) アルミ電解コンデンサのうちコンデンサユニット品は,一般市場において原告ニチコンしか販売していない独自の製品であり,他社とは全く競合していない製品であるため,本件アルミ合意の対象外である。
ウ 実行期間
(被告の主張)
(ア) 原告ルビコンは,平成22年3月5日,同年4月1日を適用日としてアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れているから,同日が「不当な取引制限行為の実行としての事業活動を行った日」である。
(イ) 原告ニチコンは,平成22年2月19日,同年3月1日を適用日としてアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れているから,同日が「不当な取引制限行為の実行としての事業活動を行った日」である。
(ウ) 日本ケミコンの■■■■■■■■■■■■■■■■は,平成23年11月21日社内会議において,値下げしてでもアルミ電解コンデンサの受注獲得に動くよう指示し,それ以降,日本ケミコンは値下げを行うようになった。原告ニチコン及び原告ルビコンも,これに対抗して,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き下げる状況になったから,同月22日以降,本件アルミ合意は事実上消滅している。よって,同月21日が「当該行為の実行としての事業活動がなくなる日」である。
したがって,原告ルビコンに係る実行期間は,平成22年4月1日から平成23年11月21日までであり,原告ニチコンに係る実行期間は,平成22年3月1日から平成23年11月21日までである。
(原告ルビコンの主張)
実行期間については争わない。
(原告ニチコンの主張)
(ア)a 日本ケミコンは,平成22年当時,日本国内のアルミ電解コンデンサ市場において3割を超える市場シェアを有していたところ,平成23年3月11日に発生した東日本大震災により,供給能力を喪失し,市場のニーズに全く応えられなくなったことから,本件アルミ合意成立当時の競合関係は完全に消失した。また,本件アルミ合意成立時の市場における需給バランスは,東日本大震災により完全に崩壊し,異常ともいえる需要過多状態に陥り,前提となる市況が一変した以上,本件アルミ合意の実効性も失われた。それに伴い,アルミ電解コンデンサメーカーと需要者等との交渉は,従来の価格交渉から,供給量ないし納期の交渉へと一変し,毎年,定期的にされていた需要者等からの販売価格引下げの要請(「RFQ」と呼ばれていた。)も,東日本大震災後は行われなくなった。需要過多状態の下で,原告ニチコン,原告ルビコン及び当時マーケット研究会に参加していた《F》は,それぞれ独自に日本ケミコンのシェアを奪おうとする一方,同研究会に参加していた■■■■■■■■■■■■■■■■■■は,同業他社に利益率の低い取引を押し付け,その売上げや利益を減少させるようとするなど,各社が本件アルミ合意から離れた事業活動をした。
b 平成23年6月ないし7月頃になると,アルミ電解コンデンサの需要過多の反動による需要の激減状態となり,結局,従前の市況には回帰しなかった。この需要激減状態の下,原告ニチコン,原告ルビコン及び《P》は,それぞれ独自に,販売価格の引上げだけではなく,販売価格を維持するという新たな販売価格方針をとっていた。原告ニチコンは,東日本大震災後,同業他社との間で,本件アルミ合意に基づく販売価格の引上げに関する情報交換を行ったことはなく,マーケット研究会においても,本件アルミ合意に基づく販売価格の引上げに関する情報交換は行われていない。
また,被告は,東日本大震災前の電子機器や電子部品の製造販売業者が会員として参加している一般社団法人電子情報技術産業協会(以下「JEITA」という。)の会合を,本件アルミ合意に基づく販売価格の引上げに関する情報交換の場として挙げる一方,震災後のJEITAの会合は挙げていない。
c 以上によれば,(仮に本件アルミ合意が成立しているとしても)本件アルミ合意成立時に存在した市場の状況は,東日本大震災により一変し,これと不可分の関係にある同業他社間の販売価格方針の不透明性も一変した。その結果,合意当事者において,上記のとおり本件アルミ合意と離れて事業活動を行う状態が形成・固定化され,本件アルミ合意の実効性は確定的に失われるに至ったものである。
したがって,本件アルミ合意の実行としての事業活動は,平成23年3月11日をもって消滅したことが明らかであるところ,本件アルミ合意に係る各命令は実行期間の終了から5年以上経過した後にされたものであるから,本件アルミ排除措置命令は独禁法7条2項ただし書に,本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)は同法7条の2第27項にそれぞれ違反する。
(イ) 仮に,(ア)の主張が容れられないとしても,他社は,原告ニチコンが販売価格の引上げの最終方針を確定するのは平成22年3月5日であると理解していたこと,コンデンサ市場においては,需要者の多くが製造販売業者と交渉して,毎年4月から9月までの納入分の調達価格を直前の1月から3月頃に決定するのが通常であり,原告ルビコンを始めとするマーケット研究会の参加者は同年4月1日から適用される販売価格の引上げを協調していたことからすると,実行期間の始期は早くとも同年4月1日である。
また,日本ケミコンは,平成23年8月19日開催の営業本部会議において,値下げを前提とした受注攻勢に出ることを決定し,実際に値下げ攻勢に出ているのであるから,遅くとも同時点において,本件アルミ合意が消滅したことは明らかである。
したがって,実行期間は,早くとも平成22年4月1日からであり,遅くとも平成23年8月19日までであるから,本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)は,これに反する限度で取り消されるべきである。
そして,この期間における原告ニチコンのアルミ電解コンデンサの売上額は■■■■■■■■■■■■■■であるから,同命令は,■■■■■■■■■を超える部分につき取消しを免れない。
エ 「当該商品」(独禁法7条の2第1項)の範囲
(被告の主張)
独禁法7条の2第1項にいう「当該商品」は,違反行為である相互拘束の対象である商品,すなわち,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解すべきであるところ,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,一定の商品につき,違反行為を行った事業者又は事業者団体が明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど,当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められない限り,違反行為による拘束が及んでいるものとして,課徴金算定の対象となる「当該商品」に含まれる。
本件においては,アルミ電解コンデンサのうち一定の製品について,アルミ4社が明示的又は黙示的に違反行為の対象から除外するなど,当該製品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情は認められないから,アルミ電解コンデンサ全体が「当該商品」に含まれる。
(原告ルビコンの主張)
本件アルミ合意の内容は「日系需要者に対するアルミ電解コンデンサの販売総額を仕入総額以上に値上げする」ことに限定される以上,「当該商品」の範囲もかかる合意の内容に即して限定されるべきである。
具体的には,上記合意の内容を達成するためには,まず不採算製品の販売価格を引き上げることになるから,販売総額が仕入総額以下の日系需要者に対する売上額のうち不採算を理由として販売価格を引き上げた製品の■■■■■■■■■■■■■■■が,課徴金額算定の基礎となる売上額とされるべきである。
仮に,この主張が容れられないとしても,同金額に,販売総額が仕入総額以下の日系需要者に対する売上額のうち不採算以外の理由で販売価格を引き上げた製品の■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■が,課徴金額算定の基礎となる売上額とされるべきである。
さらに,これらの主張が容れられないとしても,同金額に,販売総額が仕入総額以下の日系需要者に対する売上額のうち販売価格の引上げもその申請もしていない製品の■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■が,課徴金額算定の基礎となる売上額とされるべきである。
(原告ニチコンの主張)
(ア) ①不採算製品等以外の製品,②東日本大震災のヘルプ要請に基づく取引に係る製品及び③コンデンサユニット品は,黙示的に,本件アルミ合意の実行としての事業活動の対象からあえて除外した,又は,少なくとも定型的に,本件アルミ合意による拘束から除外されていたと認められるから,「当該商品」の範囲には含まれない。
(イ) ①が「当該商品」から除外された場合,被告が主張する実行期間における■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■であるから,同金額が課徴金額算定の基礎となる売上額とされるべきである。
(ウ) ②が「当該商品」から除外された場合,被告が主張する実行期間における東日本大震災のヘルプ要請による受注増大に伴う■■■■■■■■■■■■■■■■■■■であるから,同金額は課徴金額算定の基礎となる売上額から控除されるべきである。
(エ) ③が「当該商品」から除外された場合,被告が主張する実行期間における■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■であるから,同金額は課徴金額算定の基礎となる売上額から控除されるべきである。
オ 本件アルミ合意に関する各命令は平等原則及び比例原則に違反するか。
(原告ニチコンの主張)
仮に,原告ニチコンに何らかの違反行為があるとしても,被告は,マーケット研究会等に参加し他社との情報交換等を行っていた《P》とアルミ4社とを別異に取り扱う合理的な理由が存在しないにもかかわらず,正当な理由なく処分対象となる企業を取捨選択し,恣意的に法律を執行した。また,被告は,原告ニチコンの関与の程度や悪質性が他社と比較して極めて低いことを一切勘案せずに処分を行った。さらに,被告は,本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)に関し,①本件アルミ合意の当事者の認定,②違反期間の認定,③東日本大震災のヘルプ要請に基づく受注による一時的な売上げ増分を含めて課徴金納付命令の基礎としているという3点において,全く合理性のない,原告ニチコンに極めて不利な認定を行っている。これらの点からすると,本件アルミ合意に関する各命令は,社会通念上著しく妥当性を欠き,平等原則及び比例原則に反する違法な処分である。
(被告の主張)
《P》については,マーケット研究会における《P》からの出席者の担当業務や発言内容に関する証拠等の状況からして,本件アルミ合意により事業活動の拘束を受けていたと認めて独禁法上の行政処分を行うに足りる証拠が必ずしも十分とはいえないのであるから,《P》とアルミ4社との間で取扱いに差異を設けることには合理性がある。また,原告ニチコンの関与の程度や悪質性が他社より低いということはない上,課徴金納付命令は法令に従い売上高に応じて発するものであり,被告には関与の程度や悪質性を勘案して処分をする裁量はない。さらに,平等原則違反を理由とする裁量権の逸脱や濫用が認められるためには,被告がその権限を行使することがいわれのない差別的な取扱いであると認められることが必要であると解されるところ,原告ニチコンは,そのような取扱いがされたことを基礎づける事情を主張していない。したがって,本件アルミ合意に関する各命令に平等原則違反及び比例原則違反はない。
カ 本件アルミ合意に関する各命令に係る手続に瑕疵があるか。
(原告ニチコンの主張)
本件アルミ合意に関する各命令は,本件アルミ合意の内容として値上げ率や値上げ時期等が明らかにされておらず,具体的にいかなる行為を共同して行うことを合意したと認定したのかが不明確である上,平成22年当時,マーケット研究会に参加し競合他社と情報交換を行っていた《P》を合意の当事者から除外する合理的な理由が明らかにされていない点で,全く特定されずにされた違法な処分である。
原告ニチコンは,このように特定を欠く本件アルミ合意を前提とした処分通知しか受けておらず,適切に防御権を行使できなかったから,本件アルミ合意に関する各命令に係る意見聴取手続には,防御や反論の機会が実質的に保障されていないという手続的瑕疵が存在する。
(被告の主張)
合意成立のためには「複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思があること」が必要であるが,原告ニチコンが主張するような値上げ率や値上げ時期等の販売価格の引上げの具体的内容までを認識ないし予測する必要はない。また,行政処分において認定しなかった事実関係に関し,その認定しなかった理由を処分理由中で明らかにしなくても,当該処分が違法となるものではないから,被告が,《P》が本件アルミ合意の当事者であると認定しなかった理由を明らかにしなかったことは,当該処分の違法を基礎付けるものではない。したがって,本件アルミ合意に関する各命令に係る意見聴取手続に,手続的瑕疵はない。
⑵ 本件タンタル合意について
ア タンタル4社間において本件タンタル合意(意思の連絡)は成立したか。
(被告の主張)
(ア) 以下の事実によれば,タンタル4社間において,遅くとも平成22年6月17日までに本件タンタル合意が成立し,これにより,タンタル4社の間には「相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思」が存在したというべきであり,本件タンタル合意は「意思の連絡」に該当する。
a NECトーキン,日立エーアイシー及び原告松尾電機の従業員らは,平成20年4月頃から同年7月頃にかけて,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げや個別の需要者等への提示額等の情報交換を行っており,そうした経緯を経て,NECトーキン及び原告松尾電機は,同年8月18日までに社内において,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを決定した。原告ニチコンの《L1》は,NECトーキンや原告松尾電機の担当者とタンタル電解コンデンサの販売価格等について話し合うなどし,原告ニチコンは,同年10月6日頃,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを決定した。その後,リーマンショックによる景気後退等により,遅くとも平成21年2月頃までにNECトーキン,原告ニチコン及び原告松尾電機による値上げ活動はおおむね終息したが,本件タンタル合意より前のこのような共通の経験は,タンタル4者間に,それらとおおむね同様の行動をとることで歩調を揃えて値上げ活動をすることができるという共通認識を生んだ。
b 平成22年1月頃,タンタル資材の価格の上昇が予想されるようになったところ,原告ニチコンの《L1》らは,同月7日,NECトーキンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■らと面談し,《A》の定期原価低減要請に対して販売価格の引上げを申し入れる旨回答することを確認するとともに,タンタル資材の購入価格の動向等について情報交換を行った。その後も,各社間で情報交換等が行われた結果,原告ニチコンは,同年3月頃社内に対し,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを指示するとともに,需要者等に対する販売価格の引上げに着手した。
原告ニチコンの《L1》は,その頃NECトーキンの《Q1》との間で,原告ニチコンの値上げ方針等について情報交換を行い,同人は同月18日開催のマーケット研究会において,原告松尾電機や日立化成の担当者に対し,原告ニチコンの販売価格の引上げの実施状況について報告した。
c 平成22年4月頃から同年6月頃にかけて,タンタル4社間でタンタル資材価格の上昇やタンタル電解コンデンサの販売価格等について情報交換が行われた。この間,NECトーキンの《Q1》は,同月17日開催のマーケット研究会において,原告松尾電機で■■■■■■■■■■■■■■■■に対し,原告ニチコンがタンタル電解コンデンサの全需要者に対して販売価格の大幅な引上げを行っていること,自社もタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを開始すること,ホリストンも需要者等にタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げ要請を開始していることなどを伝え,《M3》から,原告松尾電機もタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施することなどの報告を受けた。
d このように,タンタル4社は,上記cの頃から,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを決定し,需要者等に対する値上げ活動を行い,実際にタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げるなどしており,特に平成22年6月17日のマーケット研究会以降は,各社の担当者間で値上げ活動の状況等につき連絡を取り合うことができる関係を維持し,必要に応じ,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げ等に関して相互に情報交換を行うなどしていたものである。
(イ) 原告ニチコンは,被告が主張する本件タンタル合意の内容を前提とすると,本件タンタル合意は「意思の連絡」の要件を充たさないなどと主張するが,不当な取引制限の成立を認める上で,本件タンタル合意の内容は「タンタル電解コンデンサの販売価格を共同して引き上げること」で十分である。
(原告ニチコンの主張)
(ア) 以下の事情等からすれば,原告ニチコンと他社との間で本件タンタル合意は成立したとはいえない。
a 原告ニチコンは,平成22年1月から同年5月にかけて,独自に販売価格の引上げの実施及びその具体的内容(値上げ時期,対象製品,値上げ率等)を決定しており,平成22年6月以降も含め,他社との間で,相互に「同内容又は同種の対価の引上げ」を実施することを認識ないし予測し歩調を揃える意思を有していたとは認められない。
b 原告ニチコンの販売価格の引上げは,■■■■■■■■■■■■タンタル資材の急騰を踏まえた不採算取引の是正に主眼が置かれており,■■■■■■■■■価格を是正することができなければ他社への転注を申し出るなど強行的なものであり,他社の動向にかかわらず,不採算が是正されない限りは販売価格の引上げを実施するという方針であったため,およそ他社と足並みを揃えて実施するというような販売価格の引上げではなかった。
c また,当時は,他社と協調して値上げを行う必要性が高いという状況にもなかった。
(イ) 被告が主張する本件タンタル合意の内容を前提とすると,本件タンタル合意は「意思の連絡」の要件を充たさない。少なくとも,当時,タンタル資材価格の異常な高騰によって製品の販売価格の引上げが不可避の状況にあり,各社が販売価格の引上げを実施することは自明であったという本件の特殊性に鑑みれば,何らの具体性なく単に販売価格の引上げを行うというだけの極めて抽象的な内容を確認しただけでは,実質的に競争を制限する効果をもたらす「同内容又は同種の対価の引上げ」について歩調を揃えることを合意したとは到底認められず,「意思の連絡」に該当しない。
(原告松尾電機の主張)
(ア) 本件タンタル合意がヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(原告松尾電機の主張する「チップ形マンガン品」と同義)につき成立したことは争わない。
(イ) 湿式タンタル電解コンデンサ(原告松尾電機の主張する「湿式コンデンサ」と同義)やリード線形の樹脂モールド品(原告松尾電機の主張する「モールド形マンガン品」と同義)は,旧式のコンデンサであって,需要が限定的でヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品や導電性タンタル電解コンデンサ(原告松尾電機の主張する「チップ形ポリマー品」と同義)と明確に区別されており,殆どの製造業者が製造を中止していて,製造再開は物理的に不可能であり,経済的にも合理性がない。このように多数の事業者が生産を行うだけの需要が現実に存在せず,その殆どが製造を中止し,製造を継続していた事業者も販促活動をせずにいたヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外のタンタル電解コンデンサについては,導電性タンタル電解コンデンサ以上に,複数の事業者が需要を充たすために競って製造販売していたヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品と同一の取引分野を構成するものとはいえない。被告が主張する本件タンタル合意は事業者が品種品番を特定して販売価格の引上げの額や幅について合意したものではないから,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外の製品を含むタンタル電解コンデンサ全体について,本件タンタル合意が成立したとはいえない。
(ウ) 被告は,マーケット研究会やJEITAの会合がタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げ等に関する情報交換の場であったと主張する。
しかし,マーケット研究会においては,マンガン品と導電性タンタル電解コンデンサが情報交換の対象として明示されており,他方,湿式タンタル電解コンデンサに触れられたことはなく,リード線形の樹脂モールド品が情報交換の対象となったことも明確に認定されてはいない。また,JEITAの会合においては,あらゆる種類のコンデンサが情報交換の対象であった。
タンタル電解コンデンサには,マンガン品とは性状も形状も異なる湿式タンタル電解コンデンサや,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品と代替性がない形状のリード線形の樹脂モールド品や性状から代替性のないヒューズ内蔵型でチップ形の樹脂モールド品が含まれる一方,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品と代替性が高く,現に置換えが進んでいた導電性タンタル電解コンデンサが含まれていないところ,情報交換の対象となっていたことが認められる導電性タンタル電解コンデンサについて合意の成立を否定するのであれば,情報交換の事実が認められないヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外のタンタル電解コンデンサについて,合意の成立を認める理由はない。
イ 本件タンタル合意が対象とした製品の範囲
(被告の主張)
タンタル4社は,本件タンタル合意成立の前後を通じて,タンタル電解コンデンサの値上げに関して種々の伝達や情報交換をしており,その内容を総じてみれば,その対象は,特に種類や需要者等を問わず,タンタル電解コンデンサ全体であったというべきである。
(原告ニチコンの主張)
タンタル電解コンデンサのうち原告ニチコンが扱うチップ形の簡易樹脂外装品(原告ニチコンの主張する「樹脂外装タイプ」と同義)は,他のタンタル電解コンデンサにより代替することが不可能な特殊な製品であり,かつ,市場には同種の製品を取り扱う競合他社が存在せず,他社との間で競合が生じ得ない製品であるため,本件タンタル合意の対象外である。
(原告松尾電機の主張)
ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品を除くタンタル電解コンデンサは,本件タンタル合意が対象とした製品ではない。
ウ 競争が実質的に制限される「一定の取引分野」の範囲
(被告の主張)
前記のとおり,本件タンタル合意は,タンタル電解コンデンサ全体を対象として成立したと認められることに加え,本件タンタル合意は,日本国内におけるタンタル電解コンデンサの総販売金額の9割を超える市場シェアを有していたタンタル4社が参加していたものであることからすれば,タンタル電解コンデンサ全般について競争が実質的に制限されていたといえる。
(原告松尾電機の主張)
(ア) タンタル電解コンデンサには,各品種間において,製品の効用等の同種性が乏しく,需要者にとっての代替可能性もなく,競争が現に生じておらず,将来的にも生じることがないものが存在するにもかかわらず,被告がこのような製品群をまとめて「一定の取引分野」と画定したことは,明らかな誤りである。上記のような観点からすると,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外のタンタル電解コンデンサについては,タンタル電解コンデンサ製造販売業者の間において,競争状況にはなかった。
(イ) タンタル電解コンデンサ製造業者は,導電性タンタル電解コンデンサを含むタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げについて話合いをし,これを実行していたのであるから,導電性タンタル電解コンデンサを除外した「一定の取引分野」を画定することはできない。「一定の取引分野」から導電性タンタル電解コンデンサが除外される場合には,導電性タンタル電解コンデンサよりもヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品との代替性等が劣るヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外のタンタル電解コンデンサを含んだ形で,競争が実質的に制限される「一定の取引分野」を観念することはできない。
エ 実行期間
(被告の主張)
(ア) 原告ニチコンは,平成22年6月22日,■■■■■■■■■■■■■■■■■■に対し,同月1日を適用日としてタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れているから,同月22日が「不当な取引制限行為の実行としての事業活動を行った日」である。
(イ) 原告松尾電機は,平成22年7月15日,■■■■■■■等に対し,同年8月1日納入分から適用するとしてタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れているから,同日が「不当な取引制限行為の実行としての事業活動を行った日」である。
(ウ) タイ王国所在のNECトーキンの子会社が洪水に伴う浸水によってタンタル電解コンデンサを生産することができなくなった平成23年10月19日以降,NECトーキンがタンタル電解コンデンサの販売価格の改定に係る同業者間の情報交換を仲介することはなく,タンタル4社は,タンタル電解コンデンサの販売価格等について情報交換等を行っていないから,同日以降,本件タンタル合意は事実上消滅した。よって,同日が「当該行為の実行としての事業活動がなくなる日」である。
したがって,原告ニチコンに係る実行期間は,平成22年6月22日から平成23年10月18日までであり,原告松尾電機に係る実行期間は,平成22年8月1日から平成23年10月18日までである。
(原告ニチコンの主張)
(ア) 原告ニチコンが本件タンタル合意に基づき最初に販売価格の引上げを申し入れたのは,早くとも平成22年6月25日であるというべきであるから,実行期間の始期は同日である。
(イ) タイ王国所在のNECトーキンの子会社工場は,平成23年10月14日付けプレスリリースにより,その操業再開の見通しが立たなくなったことが対外的に明らかになっていたのであるから,実行期間の終期は同日である。
(ウ) 以上によれば,原告ニチコンに係る実行期間は平成22年6月25日から平成23年10月14日までとなるところ,同期間における原告ニチコンのタンタル電解コンデンサの売上額は■■■■■■■■■■■■■であるから,本件タンタル課徴金納付命令(原告ニチコン)は■■■■■■■■を超える部分につき取り消されるべきである。
(原告松尾電機の主張)
実行期間については争わない。
オ 「当該商品」(独禁法7条の2第1項)の範囲
(被告の主張)
タンタル4社が,タンタル電解コンデンサのうち一定の製品について,明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外するなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情は認められないから,タンタル電解コンデンサ全体が「当該商品」に含まれる。
(原告ニチコンの主張)
チップ形の簡易樹脂外装品は,(仮にこれが本件タンタル合意の範囲から除外されないとしても)黙示的に,本件タンタル合意の実行として事業活動の対象からあえて除外し,又は,少なくとも定型的に,本件タンタル合意による拘束から除外されていたというべきであるから,「当該商品」の範囲から除外されるべきである。
チップ形の簡易樹脂外装品が「当該商品」から除外された場合,被告が主張する実行期間における①チップ形の簡易樹脂外装品の売上額は■■■■■■■■■■■■■②返品された製品の価格は■■■■■■■■■■であるから,①から②を控除した■■■■■■■■■■■■は,課徴金額算定の基礎となる売上額から控除されるべきである。
(原告松尾電機の主張)
「当該商品」にはヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品のみが該当する。
被告が主張する実行期間におけるヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品の売上額は■■■■■■■■■■■■■であるから,本件タンタル課徴金納付命令(原告松尾電機)は,■■■■■■■■を超える部分につき取り消されるべきである。
カ 本件タンタル合意に関する各命令は平等原則に違反するか。
(原告松尾電機の主張)
導電性タンタル電解コンデンサについて不当な取引制限があったと認めるべきことが明らかになったにもかかわらず,導電性タンタル電解コンデンサには措置を講じない一方で,導電性タンタル電解コンデンサよりもヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品との代替性が劣り,かつ取引量が少なく社会的影響も小さいヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外のタンタル電解コンデンサについて,被告が処分権限を行使することは,平等原則に違反する裁量逸脱がある。
(被告の主張)
本件タンタル合意の成立に関する事実等を立証する証拠において,被告が認定した合意に係る製品以外を対象とする情報交換がみられたからといって,必ずしも,当該事実の存否を認定し,それに対応して不当な取引制限の成否を認定する必要はなく,少なくとも,これをしなかったことは現にされた処分の違法性を基礎付けるものではない。
また,導電性タンタル電解コンデンサの製造販売業者が,タンタル4社とともに,導電性タンタル電解コンデンサを含むタンタル電解コンデンサを対象とする合意を成立させたと認めるに足りる証拠はなく,導電性タンタル電解コンデンサの製造販売業者とタンタル4社を別異に取り扱うことには合理性が認められるから,平等原則違反はない。
キ 本件タンタル合意に関する各命令に係る手続に瑕疵があるか。
(原告ニチコンの主張)
本件タンタル合意に関する命令は,本件タンタル合意の内容につき,具体的にいかなる行為を共同して行うことを合意したと認定するのかを明らかにしておらず,全く特定されないままされた違法な処分である。原告ニチコンは,このように特定を欠く本件タンタル合意を前提とした処分通知しか受けておらず,適切に防御権を行使できなかったから,本件タンタル合意に関する各命令に係る意見聴取手続には,防御や反論の機会が実質的に保障されていないという手続的瑕疵が存在する。
(被告の主張)
不当な取引制限の成立を認める上で,本件タンタル合意の内容は「タンタル電解コンデンサの販売価格を共同して引き上げること」で十分であり,特定に欠けるものとはいえない。したがって,本件タンタル合意に関する各命令に係る意見聴取手続に手続的瑕疵はない。
第3 アルミ電解コンデンサに関する当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に加え,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,コンデンサ製造販売業者が開催していた会合及びアルミ電解コンデンサの製造販売業者の間でされた情報交換等に関して,以下の事実が認められる。
⑴ コンデンサ製造販売業者が開催していた会合
ア ECC会及びTC会
原告ルビコン及び原告ニチコンを含むアルミ電解コンデンサ製造販売業者は,遅くとも平成7年から平成15年5月頃までの間,「ECC会」と称する会合を定期的に開催していた。ECC会には,平成15年頃においては,原告ルビコン,原告ニチコン,日本ケミコン,日立エーアイシー,■■■■■■■■■■■■■■■■■,■■■■■■及び《P》が参加していた。ECC会の国内向けの営業責任者らによる会合には,原告ルビコンの■■■■■,原告ニチコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■,日本ケミコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■等が出席していた。
原告ニチコン及び原告松尾電機を含むタンタル電解コンデンサの製造販売業者は,遅くとも平成14年4月頃から平成15年5月頃までの間,同製造販売業者のみが出席する「TC会」と称する会合を毎月1回程度開催していた。TC会には,原告ニチコン,原告松尾電機,NECトーキン,日立エーアイシー,《T》,■■■■■■■■■■■■■■■■■■,日本ケミコン,《P》,■■■■■■及び■■■■■■■■■■■■■■■■■■の10社が参加していた。TC会の国内向けの営業責任者らによる会合には,日本ケミコンの《K3》,NECトーキンの《Q1》等が出席していた。
ECC会及びTC会の重役が出席する会合(「社長会」と呼ばれていた。)は,両会合同で開催されていた。
(乙共10,11,49,56)
イ ATC会等
原告らは,平成15年6月頃,ECC会とTC会を統合し,「ATC会」と称するようになった。ATC会には,原告ら3社,NECトーキン,日立エーアイシー,《T》,《V》,日本ケミコン,《P》,《W》の10社が参加していた。ATC会も,社長会や国内向けの営業責任者らの会合を開催しており,後者には原告ルビコンの■■■■■,原告ニチコンの《L3》,日本ケミコンの《K3》,NECトーキンの《Q1》等が出席していた。ATC会は,平成17年2月頃に原告ニチコンが脱会して以降,原告ニチコンを除いた会社により開催されていた。(乙共11,12,36,57)
また,アルミ電解コンデンサの製造販売業者である原告ルビコン,原告ニチコン,日本ケミコン,日立エーアイシー,《P》及び《T》は,遅くとも平成13年4月頃から原告ニチコンが脱会する平成16年又は平成17年頃までの間,関西地区の営業責任者らが参加して,「KCC会」と称する会合を年数回程度開催し,アルミ電解コンデンサの市況や各社の販売数量等について情報交換をしていた(乙ア25)。
ウ マーケット研究会
ATC会の参加会社のうち原告ニチコンを除く9社は,原告ニチコンがATC会を脱退したことなどから,一旦ATC会を解散するものの,私的な会合という名目でこれまでどおりコンデンサ製造販売業者による情報交換を継続することとし,平成17年5月頃,ATC会に代わり,マーケット研究会を開催するようになった(乙共36,57)。
マーケット研究会は,各社の重役が出席する社長会と各社の営業責任者らが出席する会合(「定例会」と呼ばれていた。)を開催していた。社長会は,当初,年2回開催されていたが,平成20年を最後に開催されなくなった。他方,定例会は,毎月1回程度,東京都内又は横浜市内の貸会議室等で開催され,アルミ電解コンデンサ及びタンタル電解コンデンサの受注状況や販売価格等について情報交換がされていた。その際,アルミ電解コンデンサについては,アルミ電解コンデンサ全体,リード線形,チップ形,スナップイン,ネジ端子形及び導電性アルミ電解コンデンサのそれぞれに関し,タンタル電解コンデンサについては,マンガン品及び導電性タンタル電解コンデンサのそれぞれに関し,製造販売業者ごとの各月の受注状況(数量及び金額)を整理した表が配布されていた。(乙共18,36,48~51,57,58,60,乙ア27,乙イ35)
その後,《W》は平成17年頃マーケット研究会に参加しなくなり,《V》も,平成21年4月頃原告ニチコンに対しコンデンサ事業を譲渡したことを契機として,同会に参加しなくなり,《T》を承継した《F》は平成22年10月同会に参加しなくなった(乙共37,49,63,乙ア27)。
日立エーアイシーは,平成20年8月頃親会社から,同業者間の会合への参加を控えるよう指示されたため,同社の《O1》は,マーケット研究会には稀にしか出席しないこととしたものの,その後の懇親会には度々出席していた(乙共60,61,乙ア116,117)。
他方,日立エーアイシーの従業員であった《O2》は,平成20年8月頃以降もマーケット研究会への出席を続け,同社が平成21年10月1日アルミ電解コンデンサの製造販売事業を譲渡した後は,日立化成の従業員としてマーケット研究会に出席していたが,日立化成が平成22年3月31日ホリストンに対し,タンタル電解コンデンサの製造販売事業を譲渡した際,同社に移籍した。ホリストンは,平成22年10月以降,マーケット研究会の会合に参加するようになった。(乙共60,乙イ71)
エ JEITA
JEITAには,電子部品の製造業者が参加する電子部品部会があり,その下にコンデンサ,抵抗器等の受動部品の製造業者によって構成される受動部品事業委員会があった。平成22年頃,受動部品事業委員会に参加するコンデンサ(アルミ電解コンデンサやタンタル電解コンデンサに加え,フィルム電解コンデンサやセラミックコンデンサも含む。)の製造販売業者は,同委員会の開催前などにコンデンサ部会などと称する会合(以下「コンデンサ部会」という。)を開催していた。コンデンサ部会は,JEITAの正式な内部組織ではなかったが,JEITAの職員が出席し,議事録が作成されていた。コンデンサ部会には,原告ら3社,日本ケミコン,日立エーアイシー及びNECトーキンらが参加しており,参加各社は,自社製品の受注状況,電子機器の市況等について報告を行っていたほか,コンデンサの販売価格,原材料価格等についても情報交換を行っていた。
(乙共40,乙イ18,34)
オ SM部会
原告ルビコン,原告ニチコン,日本ケミコン等のアルミ電解コンデンサの製造販売業者は,香港やシンガポール共和国において,各社の海外の営業拠点の責任者等が集まる会合を開催し,アルミ電解コンデンサの市況,需要者等との価格交渉の状況等について意見交換を行っており,こうした会合はSM部会と呼ばれることがあった(以下,これらの会合を「SM部会」という。)。SM部会では,日系海外需要者を含む海外の需要者等に対する販売価格等が話題とされたほか,日本国内の需要者等との価格交渉の状況等についても情報交換が行われることがあった。(乙共37,乙ア43)
⑵ 平成21年5月頃までの販売価格の引上げに関する状況
ア 日本ケミコンは,アルミ電解コンデンサの原料となるアルミニウム地金の相場価格が平成17年頃から高騰したことから,平成18年3月頃,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げることとし,需要者等との値上げ交渉を開始するとともに,同月14日開催のマーケット研究会において,需要者等にアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れて交渉する旨報告した(乙ア27,57,103)。
イ 日本ケミコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■や同社従業員は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■と,同月5日■■■■■■■■■■■■■■■■■■■らとそれぞれ面談し,アルミ電解コンデンサの原材料の高騰に伴いアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げが必要な状況であることや,需要者等に対して値上げ交渉をするためには同業者と協力する必要があることなどについて話し合った(乙ア57,102,103)。
それ以降,原告ルビコン及び原告ニチコンを含むアルミ電解コンデンサ製造販売業者は,各社の販売価格の引上げの方針や進捗状況等に関する情報交換を繰り返し行った上で,需要者等に対してアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げの申入れを行った。他方,原告ニチコンの営業担当者の中には,需要者等に対して低価格を提示する者もいた。(乙共52,乙ア25,103)
ウ 原告ニチコンは,平成18年11月末頃,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げにより上積みすることとされた売上金額の目標を達成することができず,社内においてその進捗が遅れている旨の報告がされた。原告ニチコンの《L1》は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■に代わって■■■■■に就任した際,原告ニチコンがアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを十分実現することができず,■■■■の業績が悪化したことから,《L6》を営業現場から外すために人事異動がされたものと理解した。(乙ア61,74)
また,原告ニチコンにおいては,各需要者等に対する販売価格の決定は各需要者等を担当する拠点長が行うものとされていたところ,原告ニチコンの《L1》は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■同日以降,同業他社から業界動向に関する情報を入手し,これを各担当拠点長を含む社内に周知するなどした(乙共44,45,乙ア61,62,65)。
エ アルミ4社は,平成18年12月13日以降,アルミ電解コンデンサの製造販売業者のみで販売価格の引上げ等について話し合うため,おおむね月1回の割合で営業責任者らによる会合を開催するようになり,同月22日頃からはこの会合をCUP会又はCUP会議と称するようになった(以下,後記オの同月13日の会合も含めて「CUP会」という。)(乙ア29,61,94)。
オ 平成18年12月13日開催のCUP会には,原告ルビコンの■■■■■■■■■■■■■や■■■■■■■■■■■■■■,原告ニチコンの《L1》,日本ケミコンの《K3》や■■■■■■■■■■■■■,日立エーアイシーの《O1》らが出席し,これらの出席者は,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げていくため,需要者等と値上げ交渉をするスケジュールや需要者等に対して説明する販売価格の引上げの理由を確認し合うなどした(乙ア4,29,61,94,115)。
カ その後も,原告ルビコン及び原告ニチコンを含むアルミ電解コンデンサの製造販売業者は,マーケット研究会(ただし,原告ニチコンは参加していない。)やCUP会等の機会に,値上げ交渉の際に需要者等に提示する価格をアルミ電解コンデンサの製品類型ごとに決定したり,各社が特に販売価格の引上げをしたいと考えている需要者等を挙げ,その交渉の状況や従来の販売価格,今後提示する値上げ率等について情報交換をしたりした。のみならず,上記製造販売業者は,必要に応じて,個別に面談や電話等により情報交換を行い,需要者等に提示する価格等の調整をしながら,実際に需要者等に対してアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げ交渉を行った。(乙ア3,4,29~31,57,61~63,81,94,96,104,115,116)
キ アルミ電解コンデンサに係る上記値上げ活動は,いわゆるリーマンショックに端を発する平成20年9月以降の世界的な景気後退により,アルミ電解コンデンサの需要が大幅に減少し,販売価格の引上げの継続が困難となったために終息していった。これに伴い,平成20年秋頃以降,CUP会やマーケット研究会において販売価格の引上げが話題になることも徐々に減少し,CUP会は平成21年5月頃を最後に開催されなくなった。
(乙共35,37,乙ア25,57,58,63,74,97)
⑶ 平成22年の販売価格の引上げ決定に至る経緯
ア 平成21年7月以降の原告ルビコンによる同業他社への報告等
平成21年6月18日開催のマーケット研究会には,原告ルビコン,日本ケミコン,《P》,日立エーアイシーの営業担当者らが出席し,これらの出席者は,アルミ電解コンデンサの需要が回復し始め,一部製品で需要が供給能力を上回る状況となったことについて情報交換をした。その後,原告ルビコンは,同年7月頃,アルミ電解コンデンサ事業の採算を改善するため,採算の取れていない製品を中心にアルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げることとし,需要者等に対する販売価格の引上げの申入れを開始した。(乙ア33,41,50)
平成21年7月16日開催のマーケット研究会には,原告ルビコンの《N2》及び《N1》,日本ケミコンの《K1》及び《K3》,日立エーアイシーの《O2》らが出席し,原告ルビコンの《N2》が,リード線形のアルミ電解コンデンサにつき,海外での需要が旺盛で供給が逼迫している上,円高の影響もあることから,販売価格の引上げが必要であることなどを報告した。また,同年8月21日開催のマーケット研究会には,原告ルビコンの《N2》及び《N1》,日本ケミコンの《K1》及び《K3》らが出席し,原告ルビコンの《N2》において,同社がアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを行っていることを報告するとともに,日本ケミコンの《K1》及び《K3》に対し,同社が受注確保のために値下げを行っていることについての苦情を述べ,より利益の取れる営業をするよう申し入れた。さらに,同年9月17日開催のマーケット研究会には,原告ルビコンの《N2》,日本ケミコンの《K5》及び《K3》,日立エーアイシーの《O2》らが出席し,原告ルビコンの《N2》において,円高が進行することを見越して,需要者が日系であるか外資系であるかを問わず,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを実施し,不採算品目の解消を図る旨を報告した。(乙共18,乙ア33,34,41,43,98)
イ 平成21年9月頃の情報交換等
日本ケミコンは,平成21年9月25日開催の社内会議において,アルミ電解コンデンサの需要が急増したことに加え,円高が進行し,原材料価格が高騰したことから,アルミ電解コンデンサ事業の採算を改善するため,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げるよう指示を出した(乙ア83,87)。
日本ケミコンの《K3》は,平成21年9月29日頃,原告ルビコンの《N2》及び原告ニチコンの《L6》と個別に連絡を取り,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げに関する情報交換等を行ったが,その際,原告ルビコンの《N2》から,日本ケミコンが販売価格の引上げに取り組むことは原告ルビコンの幹部にも伝えること,円高による採算悪化に対応するため,海外向けの年間契約の販売価格改定交渉において販売価格の引上げを交渉していくこと,原告ルビコンは需要者である■■■■■■■■の製品別の取引数量を加味した加重平均で3パーセントの販売価格の引上げを申し入れたが,日本ケミコンが値下げを提示して原告ルビコンの足を引っ張らないようにして欲しいことなどを伝えられた。また,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
日本ケミコンの《K1》は,平成21年9月頃,原告ニチコンの《L1》に対し,日本ケミコンはアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを行う方針であることを伝えた上,原告ニチコンも販売価格の引上げに同調するよう求めたところ,同人から,同社の■■の指示が出るまで販売価格の引上げはできないなどの回答を受けた。また,日本ケミコンの《K1》は,同じ頃,既に販売価格の引上げを決めていた原告ルビコンの《N1》に対し,日本ケミコンもアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを行うことを伝えた上,同人との間で値上げ率や時期等について話し合った。(乙ア64,87)
原告ルビコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■は,平成21年9月29日香港で開催されたSM部会において,同会に出席していた原告ニチコンや日本ケミコンの担当者らに対し,原告ルビコンが日本国内で販売価格の引上げに取り組んでいることなどを伝えた(乙ア43)。
ウ 平成21年10月から同年11月頃の情報交換等
原告ニチコンの《L1》は,平成21年10月頃,原告ルビコンの《N1》に対し,同社がアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げに取り組んでいることを聞いたが,原告ニチコンは未だ販売価格の引上げを行っていない旨を伝えた(乙ア34,64)。
原告ルビコンの《N2》は,平成21年10月16日開催のマーケット研究会において,円高のためアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを継続的に実施している旨を報告し,同社の《N1》も,同年11月25日開催のマーケット研究会において,同社では需要者等からの値下げ要請を全て断っているなどと報告した。日本ケミコンの担当者らはこれらの会合に出席しており,同社が需要者等に対し,円高のためにアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れている旨を報告した。(乙共64,乙ア34,43,88,99)
エ 平成21年12月頃の情報交換等
(ア) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(イ) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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(ウ) 平成21年12月21日開催のマーケット研究会には,原告ルビコンの《N1》及び《N2》,日本ケミコンの《K1》及び《K5》,日立化成の《O2》らが出席したが,出席者らは,各社ともにアルミ電解コンデンサの受注が増えて供給が逼迫している状況であることなどについて報告した。日本ケミコンの《K1》は,同研究会終了後,飲食店において原告ルビコンの《N1》と面談し,ここで何としてでもアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを実現しなくてはならないなどと伝えたところ,原告ルビコンの《N1》もこれに同意する旨述べた。(乙共64,ア32,34,43)
(エ) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(オ) 原告ルビコン及び日本ケミコンは,原告ニチコンがアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを開始せず,かえって需要者等に安値を提示するなどしていたことから,平成21年12月頃まではアルミ電解コンデンサの販売価格を十分に引き上げることができなかった(乙ア32,83,105)。
オ 平成22年1月頃の販売価格の引上げに関する情報交換等
(ア) 原告ルビコンは,平成21年12月23日国内外の需要者等に対する営業方針を話し合う社内会議において,それまで販売価格の引上げが遅れていた日系需要者等に販売するアルミ電解コンデンサに関し,海外工場向けの取引については全ての需要者等に対し,日本国内工場向けの取引については需要者等ごとの販売総額をその仕入総額以上とすることを目標として,原則として平成22年4月1日納入分からの販売価格の引上げを需要者等ごとに申し入れて交渉することを決定した。原告ルビコンの《N1》は,平成22年1月初旬,日本ケミコンの《K1》に対し,原告ルビコン社内においてこのような決定がされ,今後はこの決定に従ってアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを実施していくことを伝えた。(乙ア34,35,43)
(イ) 平成22年1月21日開催のマーケット研究会には,原告ルビコン,日本ケミコン,日立エーアイシーの担当者らが出席し,複数の出席者らは,アルミ電解コンデンサについて旺盛な受注を得ていることを報告したほか,原告ルビコンの《N2》が,円高が継続していることに加え,原材料価格に高騰の兆しがあるため,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げ(少なくとも維持)が必要である旨報告し,日本ケミコンの《K1》が,日系需要者等に対するアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを同年3月末までに目処を付けることを目標としていること,需要者である《A》から事実上の値下げ要請を受けたが断ったことなどを報告した(乙共19,64,乙ア44,87,89,99)。
(ウ) 日本ケミコンは,平成22年1月22日開催の社内会議において,日系需要者等に対する値上げ交渉が遅れていることなどを理由として,同年3月1日までに日系需要者等から販売価格の引上げを受け入れるか否かの結論を得るべく積極的に交渉するよう指示をした(乙ア84,87)。
(エ) 原告ニチコンの《L1》は,平成22年1月頃,原告ルビコンの《N1》から,同社が日系需要者等向けにアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げに注力することになった旨を聞くとともに,原告ニチコンは販売価格を引き上げないのかを尋ねられ,まだ値上げの指示がない旨を回答した。また,原告ニチコンの《L1》は,同じ頃,日本ケミコンの《K1》からも,同社と原告ルビコンはアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げに取り組んでいるが,原告ニチコンもこれに取り組んでくれないとやりにくいなどと苦言を呈されたが,まだ指示がない旨を回答した。(乙ア32,65,87)
(オ) 平成22年1月25日シンガポール共和国で開催されたSM部会においては,アルミ電解コンデンサにつき,原告ルビコンの《N3》が,既に外資系需要者等に対しては販売価格の引上げを敢行しており,今後は日系需要者等に対しても実施していく必要があることを,日本ケミコンの担当者が,外資系需要者等に対する販売価格の引上げは完了し,これからは日本国内で日系需要者等に対する値上げ交渉をしていく見込みであることを,原告ニチコンの担当者(同社のシンガポール共和国法人の■■■)が,販売価格の引上げの指示がまだ出ていないことをそれぞれ報告した(乙ア13,14)。
カ 平成22年2月頃の原告ニチコン及び日本ケミコンにおける販売価格の引上げの決定等
(ア) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■■■■■■■■
(イ) 日本ケミコンの《K1》は,遅くとも平成22年2月18日までに,原告ニチコンの《L1》から,同社内でアルミ電解コンデンサの販売価格引上げの指示が出た旨を聞き,同日までに原告ルビコンの《N1》に対し,その旨を伝えた(乙ア32,35,64,65,87,90)。
(ウ) 日本ケミコンは,平成22年2月中旬頃開催の社内会議において,原告ニチコンの社内で販売価格の引上げの指示が出たことを受け,需要者等に対して直ちに販売価格の引上げを申し入れるよう指示を出した(乙ア111)。
キ 平成22年2月18日開催のマーケット研究会
平成22年2月18日開催のマーケット研究会には,日本ケミコンの《K1》,《K5》及び《K3》,原告ルビコンの《N2》及び《N1》,日立化成の《O2》,《P》の担当者らが出席した。同研究会において,原告ルビコンの《N2》は,アルミ電解コンデンサについて,外資系の需要者等に対する販売価格の引上げはほぼ完了したため,引き続き日系需要者等に対しても実施すること,値上げ率等は顧客別に設定すること,円高基調の継続が想定されるのでこのタイミングを逃すことはできないと考えていることなどを報告した。また,日本ケミコンの《K1》は,■■■■■■■■■■等の個別の需要者に対する値上げ活動の状況等に加え,原告ニチコンにおいても,同社の■■の指示により,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを実施することになった旨を報告し,これにより業界全体として本腰を入れて値上げ交渉ができるなどと述べたところ,他の出席者はこれに賛成の意を示した。さらに,参加していたアルミ電解コンデンサを取り扱う各社の担当者は,アルミ電解コンデンサについて旺盛な受注を得ていることをそれぞれ報告した。
原告ルビコンの《N2》は,帰社後社内において,上記研究会の状況につき,各社いずれも受注が旺盛であり,販売価格の引上げの気運が高まっている旨を報告した。
(乙共61,62,乙ア32,35,45,49,87,90)
ク 平成22年2月18日開催のマーケット研究会以降の販売価格引上げの決定等
(ア) 日本ケミコンは,平成22年2月19日社内に対し,定格電圧350ボルト以上の高耐圧のアルミ電解コンデンサについて更に販売価格の引上げを行うよう指示をした(乙ア84)。
(イ) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ケ 日立エーアイシーと原告ルビコン及び日本ケミコンとの連絡等
日立エーアイシーの《O1》は,マーケット研究会後の懇親会に頻繁に出席するとともに,原告ルビコンの《N1》や日本ケミコンの《K5》らの同業他社の担当者との間で個別に面談や電話をし,アルミ電解コンデンサの受注状況や販売価格の引上げの状況等に関する情報交換を行っていた(乙共35,乙ア32,36,92,99,117,118)。
日立化成(日立エーアイシー)の《O2》は,平成22年4月ホリストンに移籍するまでの間日立化成の従業員としてマーケット研究会に参加し続け,執務上知り得た日立エーアイシーのアルミ電解コンデンサの受注状況等を報告するとともに,同研究会で得た情報を日立エーアイシーの《O1》や■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■らに伝えていた(乙共60)。
日立エーアイシーは,平成22年1月18日,■■■■■が,アルミ電解コンデンサにつき,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■値上げをしている状況にあることを考慮し,販売価格の引上げも含め価格戦略を立てるよう指示をした。これを受けて,日立エーアイシーの《O1》は,同月21日開催のマーケット研究会及びその後の懇親会のいずれか又は双方に出席するとともに,同年2月18日開催のマーケット研究会後の懇親会にも出席し,同業他社のアルミ電解コンデンサの受注状況や値上げ状況等について情報交換を行った。また,日立化成の《O2》も,これらのマーケット研究会のいずれにも出席し,同様に情報交換を行った。(乙共18,62,乙ア35,44,45,99,117,118)
日立エーアイシーの《O1》は,平成22年2月23日に面談した原告ルビコンの《N2》に対し,アルミ電解コンデンサについて,特に採算の悪い顧客名を挙げて,その顧客に対しては■■■■■■■の販売価格の引上げが必要であると考えていることなどを伝えるとともに,同年3月1日に日本ケミコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■や原告ニチコンの担当者らと面談し,同人らとの間で,各社が販売価格の引上げの申入れをする顧客やその申入れ状況等について情報交換をした(乙共52,乙ア45,118)。
⑶ 上記販売価格の引上げ決定後の値上げ活動の状況等
ア ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
イ 日立エーアイシーは,平成22年3月2日開催の社内会議において,アルミ電解コンデンサにつき,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■値上げに取り組む方針を定め,同月3日社内に対し,かかる方針に従って値上げ活動に取り組むこと,値上げの実施時期は原則として同年5月1日納入分からとすることを指示した(乙ア117,118)。
ウ アルミ3社の各営業担当者らは,平成22年3月3日,大阪市内のホテルで会合を行い,アルミ3社はアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを実施すること,今後,その進捗状況等について情報交換しながら,販売価格の引上げに取り組むことを相互に確認した上,アルミ電解コンデンサの主要な顧客に関し,具体的な値上げ率を明示するなどして各社の値上げ方針やその進捗状況等について情報交換を行うとともに,今後も,個別の顧客に関して,必要に応じて競合する同業他社の間で会合や電話をするなどして情報交換をしながら,販売価格の引上げに取り組むことを確認した(乙ア51,53,73,79,107,111)。
エ 平成22年3月18日開催のマーケット研究会には,日本ケミコンの《K1》,《K5》及び《K3》,原告ルビコンの《N2》及び《N1》,日立化成の《O2》らが出席した。同研究会において,原告ルビコンの《N2》は,平成22年度も円高が続く見込みであることや原材料価格が上昇していることから,引き続き採算改善のためのアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを行っていくこと,リード線形のうち特に高圧品と呼ばれる製品(定格電圧が400ボルト以上のもの)について,受注に供給が追い付かない状況であることなどを報告した。また,日本ケミコンの《K1》は,リード線形のアルミ電解コンデンサは,電源用の受注が増えて生産能力が上限に達しており,しばらくはアルミ電解コンデンサ全体として受注が多い状態が継続する見込みであること,日本国内の工場で生産した製品については,円高を理由として8パーセントの販売価格の引上げを需要者等に申し入れて交渉していることなどを報告した。さらに,日立化成の《O2》は,日立エーアイシーにおいても,アルミ電解コンデンサの受注が多いために供給が追い付かず,この状況は同年6月までは継続する見込みであることなどを報告した。
この研究会の後に開催されたマーケット研究会出席者による懇親会には,日立エーアイシーの《O1》も出席した。
(乙ア36,46,90)
オ 原告ニチコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■及び日本ケミコンの《K7》は,平成22年3月24日,名古屋市内の飲食店で面談し,両社が競合するアルミ電解コンデンサの需要者等(《G》等)に対する販売価格の引上げの申入れ状況やその進捗状況等について情報交換をした(乙共47,52)。
カ 原告ニチコンの《L1》,日本ケミコンの《K1》及び《K4》並びに原告ルビコンの《N1》は,平成22年3月30日,東京都内の飲食店で会合を行い,アルミ3社におけるアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げの実施状況等について情報交換をした上,日本ケミコンの《K4》が原告ニチコンの《L1》に対し,需要者等に安値を提示するような行動に出ないよう釘を刺す趣旨の発言をした。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■
キ 原告ニチコンの《L7》及び《L8》と日本ケミコンの《K6》及び《K8》は,平成22年3月30日,大阪市内のホテルで会合を行い,アルミ電解コンデンサにつき,■■■■■■■■等の顧客ごとに申し入れる予定の値上げ率や販売価格の引上げの申入れ状況等に関する情報交換をしたほか,今後の交渉方針等を話し合った(乙ア79,108,111)。
ク 原告ルビコンの■■■■■■■■■■■■■■■及び日本ケミコンの《K7》は,平成22年4月5日,名古屋市内の飲食店で会合を行い,アルミ電解コンデンサにつき,両社が競合する需要者等(《G》等)に対する販売価格の引上げの進捗状況等に関する情報交換を行うなどした(乙共52)。
ケ 日本ケミコンの《K8》は,平成22年4月7日頃,原告ルビコンの■■■■■■■■■■■■■■に電話をかけ,日本ケミコンが《C》に納入している製品について,同社に10パーセントの販売価格の引上げを申し入れる予定であるため,原告ルビコンにも《C》に対して同様の要請をして欲しい旨伝えた。これを受けて,原告ルビコンは,その約1か月後,《C》に対し,日本ケミコンから販売価格の引上げを要請された規格のアルミ電解コンデンサについて,販売価格の引上げの申入れを行った。(乙ア53)
コ 原告ニチコンの《L7》は,平成22年4月8日頃,日本ケミコンの《K6》に電話をかけ,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■や■■■■■■■■等に対するアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げの実施状況等について情報交換をするとともに,原告ニチコンが《AB》に対して強硬に値上げ交渉をしたところ,同社から新たに競合他社に対して見積依頼をするなどと言われたことから,同社から日本ケミコンに対して見積依頼が来た際は連絡をするよう依頼した(乙ア108)。
サ 原告ニチコンの《L5》,日本ケミコンの《K6》及び日立エーアイシーの■■■■■■■■■■■■■■■■は,平成22年4月13日頃,大阪市内で会合を行い,アルミ電解コンデンサにつき,■■■■■■■■■■等の顧客ごとに各社が申し入れた具体的な値上率を含む販売価格の引上げの申入れ状況等に関して情報交換をした上,帰社後,確認する必要がある事項については,後日情報提供することを約束した。《K6》は,同会合後,各顧客を担当する日本ケミコンの■■■■■■や■■■■に対して入手した情報を伝えた。(乙ア108)
シ 原告ルビコンは,平成22年4月13日付けで社内に対し,日系需要者等について,原則として,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■として,値上げ活動をすること,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ス 平成22年4月21日開催のマーケット研究会には,日本ケミコンの《K1》及び《K5》,原告ルビコンの《N2》及び《N1》らが出席した。同研究会において,原告ルビコンの《N2》又は《N1》は,アルミ電解コンデンサにつき,高圧品(定格電圧が400ボルト以上)の製品を中心として,全般的に受注過多で供給が追い付かない状況であり,とりわけリード線形やスナップインの製品でそのような状況が著しかったため,これらの製品に関しては受注を制限していること,需要者等から販売価格の引上げを受け入れてもらえているので,今後も引き続き値上げ交渉を行っていくことなどを報告した。また,日本ケミコンの《K1》又は《K5》は,アルミ電解コンデンサにつき,高圧品を中心に供給が追い付かないこと,この状況は年末までは続く見込みであること,社内において,利益を重視して赤字販売を止めるよう指示が出ており,スナップインやネジ端子形の製品に関しては赤字品以外についても販売価格の引上げの指示が出ていることなどを報告した。
この研究会の後に開催されたマーケット研究会出席者による懇親会には,日立エーアイシーの《O1》も出席した。
(乙共18,乙ア36,46,90)
セ 平成22年4月28日開催のSM部会には,原告ニチコンの《L9》,日本ケミコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■及び原告ルビコンの《N3》らが出席し,アルミ電解コンデンサにつき,各社とも受注が多く供給が追い付かないことなどを相互に報告した(乙ア36)。
ソ 平成22年5月21日開催のマーケット研究会には,日本ケミコンの《K1》及び《K5》,原告ルビコンの《N2》らが出席した。同研究会において,原告ルビコンの《N2》は,アルミ電解コンデンサにつき,受注が旺盛で供給が追い付かない状況にあること,特にリード線形,スナップイン及びチップ形に関しては,販売価格の引上げを実施したことにより受注数量の伸びを受注金額の伸びが上回ったことなどを報告し,日本ケミコンの《K1》も,アルミ電解コンデンサについて受注数量の伸びを受注金額の伸びが上回っていることなどを報告した。また,前記ア記載のとおり,アルミ3社は,この頃《A》から,ペンシルコンと呼ばれるアルミ電解コンデンサに係る見積書の提出依頼を受けており,アルミ3社で話し合って《A》に提示する金額を決めていたところ,日本ケミコンがその金額よりも低い金額を《A》に提示していたため,原告ルビコンの《N2》は,同研究会において,日本ケミコンの《K1》に対し,《A》に金額を提示する前に原告ルビコンと協議するよう申し入れた。(乙ア46,90)
タ 原告ニチコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■は,平成22年5月21日頃,原告ルビコンの《N5》に電話をかけ,《C》からのペンシルコンの見積依頼に対する今後の対応について相談した。原告ルビコンの■■■■■■■■■■■■■は,《N5》から上記電話につき報告を受け,原告ニチコンは《C》が求める数量を賄うだけの生産能力が不足しているにもかかわらず,同社に対して安価な見積価格を安易に提示することは控えて欲しいと考え,《N5》に対し,原告ニチコンに原告ルビコンが《C》に提示しているペンシルコンの見積価格を教えることを容認した。これを受けて,《N5》は,《L11》に対し,原告ルビコンが《C》に対して提示していたペンシルコンの見積価格を伝えた。(乙ア51)
チ 原告ルビコンの《N1》,原告ニチコンの《L1》及び日本ケミコンの《K1》は,平成22年5月31日,東京都内の飲食店において会合を行い,《A》から納入の打診を受けていたペンシルコンの2種類の製品について,各社が《A》に対して提示する具体的な見積価格を決定した(その際,最安値を提示する会社が特定の一社に偏らないよう配慮して価格設定をした。)のみならず,レガシー部品と呼ばれる製品(アルミ電解コンデンサのリード線形の一種)につき,原告ルビコンが《A》に販売価格の引上げを受け入れさせることに成功していたため,《N1》が,《L1》及び《K1》に対し,原告ルビコンにおける同製品の具体的な販売価格を説明した(乙ア37,67)。
ツ 平成22年6月17日に開催されたマーケット研究会には,日本ケミコンの《K1》及び《K5》,原告ルビコンの《N1》及び《N2》らが出席した。同研究会において,原告ルビコンの《N2》は,アルミ電解コンデンサにつき,赤字販売を解消するために日系顧客及び外資系顧客に対して販売価格の引上げを実施してきたが,これに関しては一定の成果を得て一応終了したこと,現在は,日系顧客に対し,定格電圧が比較的高い製品を中心として,原材料価格の高騰を見越した交渉を実施中であることなどを報告し,日本ケミコンの《K1》も,アルミ電解コンデンサにつき,原材料価格の高騰を理由として更に販売価格の引上げを実施することなどを報告した。(乙ア37,47,90)
テ 原告ニチコンは,需要者である■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■に対し,大型のアルミ電解コンデンサにつき値上げを申し入れて交渉していたところ,同社が同業他社にも見積書の提出を求めると述べたことから,原告ニチコンにおいて《AD》を担当していた■■■■は原告ニチコンの《L1》に対し,同業他社が《AD》に対して低価格を提示しないよう歯止めをかけて欲しいなどと依頼した。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ト 原告ニチコン及び日本ケミコンは,平成22年6月頃,需要者等に販売価格の引上げの受入れを迫るためにアルミ電解コンデンサの受注数量を制限した。原告ニチコンの《L1》は,その頃日本ケミコンの《K1》との間で,受注数量の制限について情報交換を行い,同人に対して原告ニチコンが受注制限をすることを伝えた。また,《L1》は,同月24日開催のJEITAの会合に出席した際,原告ルビコンの《N2》と個別に面談し,原告ニチコン及び日本ケミコンは需要者等に対し,アルミ電解コンデンサの受注制限を行う旨の文書を配布することとしたことを伝えた上で,原告ルビコンも同様の対応をするよう促した。(乙47,67,90)
ナ 平成22年6月24日に開催されたJEITAのコンデンサ部会には,原告ルビコンの《N2》,原告ニチコンの《L1》,日立エーアイシーの《O5》らが出席した。同会合において,原告ルビコンの《N2》は,アルミ電解コンデンサにつき,原材料の入手が困難となりその価格も高騰しているために,販売価格の引上げを進めていること,受注に供給が追い付かないものが2か月分以上継続していることなどを報告した。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■さらに,日立エーアイシーの《O5》は,アルミ電解コンデンサの一部の製品について納期までに生産が間に合わない状況が生じていることなどを報告した。(乙共25,40)
ニ 日立エーアイシーの《O1》は,平成22年6月25日頃,原告ルビコンの《N1》に対し,日立エーアイシーが,アルミ電解コンデンサにつき多くの受注を得ていることや販売価格の引上げを実施していることを伝えた(乙ア37)。
ヌ 原告ニチコンの■■■■■■■は,平成22年6月28日,同社の《L1》に対し,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■向けの大型のアルミ電解コンデンサにつき,競合する原告ルビコンが販売価格の引上げに動いていないとの情報を得たとして,同社に対して原告ニチコンに追随するよう申入れをすることを依頼した(乙ア17,70)。
ネ 原告ルビコンは,平成22年7月15日社内に対し,他の製品と比較して利益率が高かったためにそれ以前に販売価格の引上げが進んでいなかったカメラの大型ストロボ用のアルミ電解コンデンサにつき,材料費の高騰等を理由として,不採算品か否かを問わず,原則として一律15パーセント以上の販売価格の引上げを行うよう指示をした。これを受けて,原告ルビコンの《N1》は,同コンデンサにつき,主要な競合先である日立エーアイシーの《O1》との間で,当該製品の販売価格の引上げにつき協議するとともに,需要者等に提示する値上率の目安を取り決めた。(乙ア38)
ノ 日立エーアイシーは,平成22年7月頃,アルミ電解コンデンサにつき,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■採算の悪い需要者等も,販売価格の引上げの対象にすることとした(乙ア118)。
ハ 原告ルビコンの《N5》及び日本ケミコンの《K8》は,平成22年7月29日,大阪市内のホテルで会合を行い,《C》から納入の打診を受けていた薄型テレビ向けのアルミ電解コンデンサにつき,品種ごとにいずれの会社が受注するかを決めた上,《C》に提示する具体的な見積価格についても話し合った。その後,《N5》は,《N6》に対し,《K8》との上記会合の内容を報告し,同人と調整した見積価格に基づき,《C》に対する見積価格の提示をした。(乙ア54)
ヒ 原告ルビコンの《N1》,原告ニチコンの《L1》及び日本ケミコンの《K1》は,平成22年8月9日,東京都内の飲食店で会合を行い,《A》に納入するペンシルコンの数量を確保する方策について話し合ったほか,同年10月1日以降に納入するアルミ電解コンデンサの需要者からの見積依頼に対し,需要者ごとに提示する金額について協議し,その方針を決定するなどした(乙ア38)。
フ 平成22年8月25日に開催されたJEITAのコンデンサ部会には,原告ルビコンの《N2》,原告ニチコンの《L1》,日立エーアイシー及び日本ケミコンの各担当者らが出席した。同会合において,原告ルビコンの《N2》は,アルミ電解コンデンサにつき,受注が旺盛で供給が逼迫していること,一部製品で供給制限を継続していること,円高が進んでおり,この状況が継続する場合は更なる販売価格の引上げが必要となることなどを報告した。(乙共26)
へ 日本ケミコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■は,平成22年8月30日頃,需要者である■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■向けのゲーム機の電源用のアルミ電解コンデンサ(定格電圧450ボルト・静電容量100マイクロファラド)につき,日立エーアイシーの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■から,同社が需要者に提示する金額(1個当たり80セント)及び原告ルビコンが需要者に提示するおおよその金額(1個当たり80セント以下)を伝えられた。日本ケミコンの営業担当者であった《K11》は,その後《K10》から,原告ルビコンが《AF》に提示する金額が実際に80セント以下であることを確認するよう指示を受け,原告ルビコンの担当者と連絡を取って,同社が《AF》に対して提示する具体的金額が80セント以下であることを確認した。
《AF》向けのゲーム機の電源用のアルミ電解コンデンサについては,原告ルビコン,日本ケミコン及び日立エーアイシーの3社が競合していたところ,これらの3社は,同電源が毎年のようにモデルチェンジされる都度,《AF》に対して提示する見積価格に関して上記のような情報交換を行っていた。
(乙ア113,114)
ホ 日本ケミコンは,平成22年8月末頃にも社内に対し,アルミ電解コンデンサにつき,同年10月1日納入分から販売価格の引上げを行うよう指示をした(乙ア84)。
マ 原告ルビコンの《N1》,原告ニチコンの《L1》及び日本ケミコンの《K1》らは,平成22年9月1日,原告ニチコンの東京支店内で会合を行い,アルミ電解コンデンサの個別の需要者に対する製品ごとの値上げ交渉の状況等について情報交換を行った上,当該需要者に提示する具体的な金額や値上げ率について,協議・調整を行うなどした(乙ア38,69,114)。
ミ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ム 原告ニチコンの《L8》及び日本ケミコンの《K8》らは,平成22年10月4日,大阪市内のホテルで会合を行い,アルミ電解コンデンサにつき,西日本の営業拠点が担当する■■■■■■■等の需要者等との値上げ交渉の状況や今後の方針等に関して話し合った(乙ア60,76,111)。
メ 日立エーアイシーの《O6》は,平成22年10月26日頃,前記のとおり,《AF》向けのゲーム機の電源用のアルミ電解コンデンサにつき競合関係にあった日本ケミコンの《K10》に対し,日立エーアイシーにおける《AF》との価格交渉の状況,同社への具体的な提示価格等を伝えた(乙ア119)。
モ 原告ルビコンの《N5》は,平成22年11月4日,原告ニチコンの《L11》に対し,原告ルビコンにおける■■■■■■■とのアルミ電解コンデンサの取引につき,定格電圧220ボルト・静電容量180マイクロファラドの製品の販売価格の引上げを受け入れさせたこと,汎用品のうち,耐用温度が摂氏105度のものは販売価格の引上げの対象としていない一方,耐用温度が摂氏85度のものは,■■■■■■■■に対し,従来価格から30パーセント程度の値上げを要請しており,■■■■■■■に対しては既に販売価格の引上げを実施済みであること,チップ形の製品に関し,《AI》に対し値上げ要請をする予定であることなどを伝えた(乙ア54)。
ヤ 平成22年11月15日開催のマーケット研究会において,原告ルビコンの《N1》は,アルミ電解コンデンサにつき,受注が旺盛な状況は徐々に落ち着きつつあるものの,高圧品に関しては原材料が不足していることから,平成23年1月以降に販売価格の引上げを行う予定であること,チップ形に関しては受注を断り生産能力を削減したことなどを報告した。また,日本ケミコンの担当者も,アルミ電解コンデンサのうち高圧品に関し,原告ルビコンと同様の理由から,同月以降,おおむね10パーセントの販売価格の引上げを行うことなどを報告した。(乙ア39,101)
ユ アルミ電解コンデンサの製造販売業者は,当時,需要者等からのアルミ電解コンデンサの受注が減少した際,その原因が,当該需要者等の発注数量全体の減少によるのか,それとも同業他社が当該需要者等に対して低価格を提示して取引を奪取したことによるのかを確認するため,連絡を取り合うことがあったところ,原告ルビコンの《N1》は,平成22年11月16日頃,日本ケミコンの《K1》から,同社において《A》からのアルミ電解コンデンサの発注数量が減少している旨を告げられ,原告ルビコンの状況を尋ねられたため,同社でも受注数量が減少している旨を回答した(乙ア39)。
ヨ 平成22年12月7日に香港の飲食店で開催されたSM部会には,原告ルビコンの《N3》,原告ニチコンの《L9》及び日本ケミコンの《K9》が出席し,日系需要者等を含む需要者等との値上げ交渉の状況や今後の方針等について協議した(乙ア39)。
ラ 原告ニチコンの《L6》及び日本ケミコンの《K6》は,平成22年12月27日頃,原告ルビコンの《N6》に対し,《F》にアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れたが受け入れられていない旨を伝えた(乙ア76,109)。
リ 原告ルビコンの《N5》は,平成23年1月14日,原告ニチコンの《L11》に対し,《C》の液晶テレビ用のチップ形アルミ電解コンデンサにつき,単価を0.6円引き上げたいと申し入れて交渉をしていることなどを伝えた(乙ア54)。
ル 平成23年1月19日開催のJEITAのコンデンサ部会には,原告ルビコンの《N2》,原告ニチコンの《L1》らが出席した。同部会において,アルミ電解コンデンサにつき,原告ルビコンの《N2》は,原材料価格の高騰が今後も問題となることなどを報告し,原告ニチコンの《L1》は,同月の受注が供給能力の上限に達したこと,ネジ端子形に関しては受注が多く供給が間に合わない分が多数あることなどを報告した。(乙共27)
レ 原告ルビコンの《N5》及び日本ケミコンの《K8》は,平成23年1月19日,大阪市内のホテルで会合を行い,《C》から見積価格を提示するよう求められていた平成23年春モデルの■■■■■■■向けのアルミ電解コンデンサにつき,各社が《C》に対して提示する価格に関して協議した(乙ア54)。
ロ 原告ルビコンの《N6》,原告ニチコンの《L6》及び日本ケミコンの《K6》は,平成23年1月20日,大阪市内のホテルで会合を行い,■■■■■■■■■■■■のアルミ電解コンデンサ合計19品種について,需要者との交渉方針を協議した結果,アルミ3社が従来納入してきた製品に関し,お互いの領域を尊重して奪い合いはしないことで意見が一致し,従来の納入業者以外の2社が従来の納入業者よりも高い価格を需要者に対して提示することにより,従来の納入業者が受注を維持できるようにするため,アルミ3社が需要者に対して提示する具体的な価格を品種ごとに協議・決定した(乙ア52,54,76,109)。
ワ 原告ルビコンの《N1》,原告ニチコンの《L1》及び日本ケミコンの《K1》らは,平成23年1月26日,原告ニチコンの東京支店内において会合を行い,アルミ電解コンデンサにつき,《A》からのペンシルコンの発注が激減したことに対する対応方針を協議したほか,■■■■■■■■■■■■等の個々の需要者に対する具体的な値上げ率を含む値上げ交渉の方針について協議した(乙ア39)。
ヲ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ン 原告ルビコンの《N6》及び日本ケミコンの《K6》らは,平成23年2月9日,大阪市内で会合を行い,アルミ電解コンデンサにつき,需要者等との値上げ交渉の状況に関して情報交換を行った(乙ア109)。
⑷ 値上げ活動終了に至る経緯
ア 日本ケミコンは,平成23年3月11日に発生した東日本大震災により,アルミ電解コンデンサの製造拠点である子会社等が被災して稼働不能となったため,アルミ電解コンデンサの供給ができない状況となった。日本ケミコンは,同年5月19日完全復旧宣言を行い,同震災前に受注していた製品を納入するために各工場を稼働させたものの,同震災後の景気の低迷等の影響によりアルミ電解コンデンサの需要も落ち込み,同年8月頃には一部の生産ラインを休止させなければならなくなるなど,赤字を改善させられない状態が続いた。
他方,東日本大震災後,確実にアルミ電解コンデンサの納品を確保しようと企図した需要者等は,長期契約で同じ数量の発注を複数の業者に対して行った(ダブル発注,トリプル発注等と呼ばれていた。)ため,日本ケミコン以外のアルミ電解コンデンサ製造販売業者は,こうした発注への対応に追われる状況となった。
こうした状況の下,原告ルビコンは,アルミ電解コンデンサにつき,日本ケミコンの需要者等からの発注に対しては,原材料不足によるコスト増加を理由として,同社の販売価格を上回る水準の価格で製品を供給し,原告ルビコンの既存の需要者等からの発注に対しては,原則として従前どおりの販売価格で製品を供給した。また,原告ニチコンは,アルミ電解コンデンサにつき,日本ケミコンの需要者等からの発注に対しては,■■■■■■の価格を提示されれば受注して製品を供給し,原告ニチコンの既存の需要者等からの発注に対しては,原則として従前どおりの販売価格で製品を供給した。
(甲B6~9,12,乙共38,乙ア71,85,91)
イ 平成23年5月20日開催のマーケット研究会において,原告ルビコンの担当者は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ヘルプ要請は減ってきていることなどを報告し,日本ケミコンの担当者は,全ての工場が稼働を再開したものの,これまでに発注を受けながら供給が終了していない製品が大量にあり,当面は工場を休みなく稼働させる予定であることなどを報告した(乙共18)。
ウ 平成23年6月7日香港の飲食店で開催されたSM部会には,原告ルビコンの《N3》,ニチコン(ホンコン)リミテッド(以下「ニチコン香港」という。)の■■■■■■■■■■■■ら,日本ケミコンの《K9》が出席した。同部会において,日本ケミコンの担当者は,アルミ電解コンデンサにつき,日系需要者に対し,日本国内で個別に不採算製品の値上げ交渉を行っていることなどを報告するとともに,今まで苦労して行ってきた価格調整の流れを変えることはせず,業界の流れを遵守する旨を述べた。また,ニチコン香港の担当者は,SM部会の流れは非常に大事であり,今後も継続して参加協力する旨を述べた。さらに,原告ルビコンの担当者は,アルミ電解コンデンサにつき,日系の需要者等に対して日本国内で引き続き不採算製品の値上げ交渉を行っていることなどを報告するとともに,今まで値下げ競争を行ってきたコンデンサ業界の歴史がここ数年で逆転したのであり,互いにこの流れを持続していくことを認識していくべきである旨を述べた。(乙共38)
エ 日本ケミコンの《K1》は,平成23年6月頃,原告ニチコンの《L1》に対し,日本ケミコンが東日本大震災で失った取引の回復に取り組んでいるが,同震災後に同社との取引を停止した需要者等の中には同震災前の価格より低い価格を提示しなければ取引を戻さない旨を述べる者もいることなどを伝えたところ,《L1》から,日本ケミコンの同震災前の価格よりも低い価格を提示して取引を奪うようなことはしていないとの説明を受けた(乙ア71)。
オ 原告ルビコンの《N1》は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■から,ネジ端子形のアルミ電解コンデンサにつき見積提出の依頼を受けたため,平成23年8月17日頃,原告ニチコンの《L1》に対し,同社における同製品の販売価格を尋ねた。これに対し,《L1》は,《N1》に対し,同製品への参入は諦めて,《AK》には高い価格を提示するよう説得するとともに,同製品の販売価格として,原告ニチコンにおける同製品の実際の販売価格よりも1割程度高い価格を伝えた。(乙ア71)
カ 日本ケミコンの《K2》は,平成23年8月19日開催の社内会議において,同社の子会社等が被災してアルミ電解コンデンサが供給できなくなったことなどにより,同業他社へ転注されてしまった注文を取り戻すよう指示するとともに,アルミ電解コンデンサの値下げをする場合でも,無謀な値下げをしないように各地区の営業統括部長が判断した上で行うものとし,同業他社との間でメリットのない値下げ合戦は避けるよう指示した(乙ア85)。
キ 平成23年8月30日開催のマーケット研究会において,原告ルビコンの《N1》は,アルミ電解コンデンサにつき,同業他社が値下げを開始することを牽制する意図の下に,一部の需要者等からこれまでに販売価格を引き上げた分を値下げするよう依頼を受けているが断っている旨を報告した。また,日本ケミコンの担当者は,アルミ電解コンデンサにつき,受注は落ち込んでいるものの,円高が進んでおり,ドル建て決済の取引に関してはこれを理由として販売価格の引上げを申し入れることとし,値上げ要請文書を作成中である旨を報告した。(乙共18,33,38)
ク 平成23年9月22日開催のマーケット研究会において,原告ルビコンの《N1》は,アルミ電解コンデンサの受注が減少する中で,同業他社が値下げを行って価格競争に突入することを防ぐ意図の下に,一部の日系需要者等から円高を理由として値下げするよう求められているが断っている旨を報告した(乙共38)。
ケ 原告ルビコンの《N3》は,平成23年10月17日頃,ニチコン香港の《L13》に対し,アルミ電解コンデンサにつき,絶対に価格を下げて注文を取りにいかないよう念を押した(乙共38)
コ アルミ電解コンデンサの需要者である電子機器等の製造販売業者の一部は,平成23年10月タイ王国で発生した洪水により生産拠点が被災したため,アルミ電解コンデンサの需要は減退することとなった(乙ア85)。
サ 日本ケミコンの《K2》は,平成23年11月22日開催の社内会議において,値下げをしてでもアルミ電解コンデンサの生産数量の確保に努めるよう指示をした。その後,アルミ電解コンデンサの製造販売業者は,各社とも需要者等に安値を提示して,顧客を奪い合う状態となった。(乙共38,乙ア85)
⑸ 原告らが実現した販売価格の引上げの状況等
ア 原告ルビコンは,平成22年6月28日頃には同社の顧客のうち主要な日系需要者等中の12社に対し,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを受け入れさせることにより損益を改善させ,さらに,遅くとも平成23年9月末までに全ての日系需要者等との間で,需要者等ごとの販売総額をその仕入総額以上とするという目標を達成した(乙ア40)。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
2 争点に対する判断
⑴ 争点⑴ア(アルミ4社間において本件アルミ合意(意思の連絡)は成立したか。)について
まず,アルミ4社間において,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げに関する合意(意思の連絡)が成立したか否かについて検討する(合意の対象となるアルミ電解コンデンサの製品の範囲については,後記⑵参照)。
ア 「共同して」(独禁法2条6項)の要件の意義
独禁法3条において禁止されている「不当な取引制限」,すなわち「事業者が,契約,協定その他何らの名義をもつてするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(独禁法2条6項)にいう「共同して」に該当するというためには,複数事業者が対価を引き上げるに当たって,相互の間に意思の連絡があったことが認められることが必要であると解される。ここでいう「意思の連絡」とは,複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思があることを意味し,一方の対価引上げを他方が単に認識,認容するのみでは足りないが,事業者間で相互に拘束し合うことを明示して合意することまでは必要なく,相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して,暗黙のうちに認容することで足りると解するのが相当である。そして,事業者相互間に上記のような共同の認識,認容があるか否かを判断するためには,対価引上げがされるに至った前後の諸事情を勘案し,事業者の認識及び意思がどのようなものであったかを検討することが必要である。
イ 本件についての検討
(ア) 前記1の認定事実によれば,原告ルビコンは,平成21年12月23日社内会議において,アルミ電解コンデンサにつき,日本国内工場向けの取引に関しては需要者等ごとの販売総額をその仕入総額以上とすることを目標として,原則として平成22年4月1日納入分からの販売価格の引上げを需要者等ごとに申し入れて交渉することを決定したこと,原告ルビコンの《N1》は,平成22年1月初旬日本ケミコンの《K1》に対し,原告ルビコン社内においてそのような決定がされたことを伝えたこと,日本ケミコンの《K1》は,同月21日開催のマーケット研究会において,日系需要者等に対するアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げにつき,同年3月末までに目処を付けることを目標としていることなどを報告したこと,日本ケミコンは,同年1月22日開催の社内会議において,日系需要者等に対する値上げ交渉が遅れていることなどを理由として,同年3月1日までに日系需要者等から販売価格の引上げを受け入れるか否かの結論を得るべく積極的に交渉するよう指示をしたこと,原告ニチコンの《L1》は,同年1月頃原告ルビコンの《N1》から,原告ニチコンはアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを実施しないのかを尋ねられ,日本ケミコンの《K1》からも,同社と原告ルビコンはアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げに取り組んでいるが,原告ニチコンもこれに取り組んでくれないとやりにくいなどと苦言を呈されたものの,未だ指示がないなどと回答したこと■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■日本ケミコンの《K1》は,遅くとも同年2月18日までに原告ニチコンの《L1》から,原告ニチコンの社内で上記のような指示が出た旨を聞き,同日までに原告ルビコンの《N1》に対してその旨伝えたこと,同日開催されたマーケット研究会において,原告ルビコン,原告ニチコン及び日本ケミコンの3社がアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを実施し,又は実施することになったことが報告されたこと(原告ニチコンの担当者は,同研究会に出席しなかったが,原告ニチコンの情報が日本ケミコンの担当者を通じて報告されることを認識していた。)が認められる。
(イ) また,前記1の認定事実によれば,アルミ電解コンデンサにつき,日立エーアイシーの《O1》は,かねてよりマーケット研究会後の懇親会に頻繁に出席していたほか,原告ルビコンの《N1》や日本ケミコンの《K5》といった同業他社の担当者らとの間で,受注状況や値上げ状況等に関する情報交換を行っていたこと,日立化成(日立エーアイシー)の《O2》はマーケット研究会に参加し,執務上知り得た日立エーアイシーのアルミ電解コンデンサの受注状況等を報告するとともに,マーケット研究会で得た情報を日立エーアイシーの《O1》らに提供していたこと,日立エーアイシーは,平成22年1月18日,同業他社が販売価格の引上げをしている状況にあることなどを考慮して,販売価格の引上げを含め価格戦略を立てるよう指示をしたこと,日立エーアイシーの《O1》及び日立化成(日立エーアイシー)の《O2》は,同月21日及び同年2月18日に開催されたマーケット研究会又はその後の懇親会に出席し,同業他社の担当者とアルミ電解コンデンサの受注状況や販売価格の引上げの実施状況等について情報交換を行ったこと,日立エーアイシーの《O1》は,同月23日原告ルビコンの《N2》と,同年3月1日日本ケミコンの《K7》及び原告ニチコンの担当者らとそれぞれ面談し,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げ等に関する情報交換をしたこと,日立エーアイシーは,同月2日開催の社内会議において,■■■■■■■■■■■■■■の需要者等を中心として販売価格の引上げに取り組む方針を定め,同月3日社内に対し,かかる方針に従って値上げ活動に取り組むことなどを指示したことが認められる。
(ウ) さらに,前記1の認定事実によれば,アルミ4社の営業担当者らは,平成22年2月18日のマーケット研究会以降(日立エーアイシーに関しては同年3月2日以降)も,毎月1回程度の割合で開催されたマーケット研究会のほか,SM部会及びJEITAのコンデンサ部会等の各会合において,各社とも円高や原材料の価格高騰に伴い採算改善のために販売価格の引上げが必要な状況にあることや,受注が旺盛で供給が追い付かない状況にあることなどを確認したほか,具体的な値上げ率を含む販売価格の引上げの申入れ状況等について情報交換をしたこと(ただし,いずれの会合についても,毎回,アルミ4社全ての営業担当者らが出席していたわけではなく,少なくともマーケット研究会については,原告ニチコンの営業担当者らは出席していなかった。),アルミ4社の営業担当者らは,これらの会合以外の機会にも,個別に面談したり電話をかけたりするなどして,各社の販売価格の引上げの実施状況等に関する情報交換を行い,そこで得た情報を各社の社内で報告していたこと,アルミ4社のうち複数の会社が競合して同一の需要者等と取引をしている場合,これらの競合会社の営業担当者らの間で,当該需要者等に申し入れる具体的な値上げ率や提示価格等を協議して決めることがあったことが認められる。
(エ) 上記(ウ)に加えて,前記1の認定事実によれば,アルミ電解コンデンサにつき,平成22年2月18日のマーケット研究会以降(日立エーアイシーに関しては同年3月2日以降),アルミ4社のうちの1社が,ある需要者等に対して安値を提示するなど,他社の値上げ活動と歩調の揃わない営業活動をしている場合,他社が当該会社に対してかかる営業活動を止めるよう要請することがあったこと,アルミ4社のうちの1社が,取引関係にある需要者等から競合他社に見積依頼をする旨申し向けられた際,アルミ4社中の他社に対し,当該需要者等から見積依頼があった場合は連絡するよう要請することがあったこと,アルミ4社のうちの複数の会社が同一需要者から新規製品の見積依頼を受けた際,各社の生産能力等を踏まえつつ,各社が受注を希望する製品や各社の受注割合等を協議し,それを実現するために各社が当該需要者等に提示する見積価格をあらかじめ決めることがあったことが認められる。
(オ) そして,前記1の認定事実によれば,アルミ4社を含むアルミ電解コンデンサ製造販売業者は,少なくとも平成18年頃から平成20年頃までの間,CUP会,マーケット研究会及びSM部会等の会合又は個別の面談や電話連絡等を通じて,同業他社との間で,アルミ電解コンデンサの原材料価格の動向や需要者等への値上げ活動の状況等に関する情報交換をしつつ,各社がアルミ電解コンデンサの値上げ活動を実施していたことが認められる。
(カ) このように,①アルミ4社を含むアルミ電解コンデンサの製造販売業者は,少なくとも平成18年頃から平成20年頃までの間,同業他社との間で,値上げ活動の状況等に関する情報交換をしつつアルミ電解コンデンサの値上げ活動をしていた経緯があること,②アルミ4社は,平成22年2月頃までにそれぞれアルミ電解コンデンサについて,不採算製品を中心として販売価格の引上げを実施することを決定したこと,③アルミ3社は,その決定に関する情報を遅くとも同月18日(日本ケミコンについては同年3月2日)までに各会社間で共有したこと,④アルミ4社は,その後,各会社間で継続的に,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げの状況や値上げ交渉の状況等につき詳細な情報交換をし,これを自社内に持ち帰って共有した上で,一貫して値上げ活動をしていること,⑤アルミ4社は,需要者等に対して安値を提示する営業活動をしている会社に対し,そのような営業活動をしないように釘を刺したり,複数の会社が新規製品の見積依頼を受けた場合,あらかじめ最終的な受注者や受注割合等を定め,需要者等に対して提示する見積価格を決めておいたりしたことが認められるというのであるから,これらの事情を総合すれば,アルミ4社は,各社が同じような時期に不採算製品を中心として販売価格の引上げをすること,各社が需要者等に提示する価格を教示したり,協議・決定したりすることを通じて,確実にアルミ電解コンデンサの製品を受注できるようにすること,及び,このような販売価格の引上げ活動に他社が協力すること(すなわち,アルミ4社のうちの1社が需要者等に安値を提示するなどしてアルミ電解コンデンサのシェアを奪う行為に出るといった販売価格の引上げを妨害する行為をしないこと)を認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思が,遅くとも同年2月18日(日本ケミコンについては同年3月2日)までに形成されており,アルミ4社相互の間には「意思の連絡」があったと認定するのが相当である。
ウ 原告ニチコンの主張について
(ア)a 原告ニチコンは,①平成22年2月頃のアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げ実施の具体的内容は,他社の情報とは無関係に,独自の判断によって決定したものであること,②他社より安い販売価格を提示することにより他社のシェアを奪う行動に出たほか,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■他社も原告ニチコンの値上げ活動が「強引な値上げ」であると警戒していたこと,③原告ニチコンの《L1》が日本ケミコンの《K1》に対し,原告ニチコンがアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げ実施が決定された事実を伝えたのは,個人的に懇意にしていた同人からの照会に応じて事実を報告したものにすぎない上,原告ニチコンの《L1》は,日本ケミコンの《K1》との間で何らかの行動を約束できる立場にはなく,その権限もなかったこと,④原告ニチコンはマーケット研究会に参加しておらず,一貫してアウトサイダーの立場であったことなどを根拠として,原告ニチコンと他社との間に本件アルミ合意が成立していないなどと主張する。
b ①について,たしかに,前記1の認定事実によれば,アルミ4社は,平成21年7月頃から平成22年3月頃にかけて,それぞれアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを決定したものの,その実施時期,対象製品及び値上げ率等がアルミ4社間で完全には一致していなかったことが認められ,販売価格の引上げの実施方法の詳細は,各社が独自の判断で決定していた面があるというべきである。しかし,他方,前記1の認定事実によれば,原告ルビコン及び日本ケミコンは,先行してアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを決定したものの,原告ニチコンが販売価格の引上げを決定するまでの間,十分な値上げ活動ができなかったこと,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■原告ルビコンは,需要者等ごとに販売総額をその仕入総額以上とすることを目標として販売価格の引上げの決定をしたところ,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■などからすれば,原告ニチコンは,他社の情報とは無関係に独自の判断で販売価格の引上げ実施を決定したということはできず,むしろ,他社の情報を参考としつつ,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げの実施時期,対象製品及び値上げ幅等を判断したとみるのが自然である。
c ②について,前記1の認定事実によれば,たしかに,原告ニチコンは,需要者等に対して安値を提示したり,《AB》に対して強行的な値上げ交渉をしたりすることがあったことが認められるが,他方で,原告ニチコンの《L1》は,平成22年3月30日開催の会合において,日本ケミコンの《K4》から,需要者等に安値を提示するような行動に出ないよう釘を刺され,それ以降は逆に,日立エーアイシーの《O1》及び原告ルビコンの《N1》に対し,原告ニチコンが《AD》に提示している単価341円を上回る350円程度の金額を提示するよう依頼するなど,他社が安値を提示してシェアを奪う行為に出ることを阻止するような行動を取っていること,原告ニチコンの《L7》は,日本ケミコンの《K6》に対し,原告ニチコンが《AB》に対して強行的な値上げ交渉をしたところ,同社から新たに競合他社に対し見積依頼をするなどと言われたため,同社から日本ケミコンに対して見積依頼が来た際は連絡をするよう依頼したことも認められる。これらの事情を総合すれば,原告ニチコンは,アルミ電解コンデンサにつき,専ら他社のシェアを奪う行動に出たり強行的な値上げ活動を行ったりしたということはできず,むしろ積極的に他社と協調しながら値上げ活動を行っていたと見るのが相当である。
d ③について,前記1の認定事実によれば,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■日本ケミコンの《K1》は,マーケット研究会において,原告ニチコンのアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げの実施状況等についても報告をしていることが認められる。
これらの事情からすれば,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ところ,そのような役割を的確に果たすために日本ケミコンの《K1》と情報交換等を行っていたと認められるから,《L1》が個人的に懇意にしていた日本ケミコンの《K1》の照会に応じて事実を報告したものにすぎないなどとして,本件アルミ合意が成立したことを否定する原告ニチコンの主張は,採用することができない。
e ④について,前記1の認定事実によれば,たしかに,原告ニチコンは,マーケット研究会の前身であるATC会から平成17年2月頃に脱退して以降,同年5月頃から開催されるようになったマーケット研究会にも参加していなかったことが認められるが,他方,CUP会,JEITAの会合やSM部会には原告ニチコンの営業担当者らが出席し,他社との間でアルミ電解コンデンサに関する情報交換を行っていたことも認められる。これに加え,前記認定・説示のとおり,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■マーケット研究会において,日本ケミコンの《K1》を通じて原告ニチコンのアルミ電解コンデンサの販売価格引上げの実施状況等が報告されていたことをも考慮すると,原告ニチコンは,同業他社と協調しながらアルミ電解コンデンサの値上げ活動をしていたというべきであり,マーケット研究会に参加していないとの一事をもって,アウトサイダーとして活動していたと断ずることはできない。
f 以上のとおり,①から④の事情はいずれも,原告ニチコンと他社との間で本件アルミ合意が成立していない根拠となるものではなく,他に原告ニチコンと他社との間で本件アルミ合意が成立していないことを窺わせる証拠はないから,原告ニチコンの前記主張は採用することができない。
(イ) 原告ニチコンは,被告は本件アルミ合意の内容を「アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨の合意」であると主張するが,本件においては,少なくとも当時の市場の状況に照らし,各社が販売価格の引上げを実施することは自明であったから,何らの具体性なく単に販売価格の引上げを行うというだけの極めて抽象的な内容を確認しただけでは,実質的に競争を制限する効果をもたらす「同内容又は同種の対価の引上げ」について歩調を揃えることを合意したとは到底認められず,「意思の連絡」に該当しないと主張する。
たしかに,被告が本件アルミ合意の内容として主張する「アルミ電解コンデンサの販売価格を共同して引き上げること」は,極めて抽象的であって,それのみで直ちに「意思の連絡」に該当するといえるかについては,疑問がないわけではない。
しかしながら,他方,アルミ4社は,各社が同じような時期に,アルミ電解コンデンサについて不採算製品を中心として販売価格の引上げをすること,各社が需要者等に提示する価格を教示したり協議・決定したりすることを通じて,確実にアルミ電解コンデンサの製品を受注できるようにすること,及び,このような販売価格の引上げ活動に他社が協力することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思を有していたものと認められることは,前記認定・説示のとおりであり,さらに,前記1の認定事実によれば,アルミ4社は,その後も,本件アルミ合意に基づいて,具体的な販売価格の引上げの態様等に関する情報を継続的に交換し,これに基づいて値上げ活動をしていたというべきであるから,本件アルミ合意は,成立後,このような情報交換及び値上げ活動をすることをも想定していたものというべきである。
そして,アルミ4社は,このような内容の合意をすれば,本件アルミ合意の時点で具体的な販売価格の引上げの時期,対象製品や値上げ幅等を合意しなくても,各社が需要者等に対し販売価格の引上げを申し入れて交渉する際,自らが突出した販売価格を提示したり,他社が当該需要者等に対して低い販売価格を提示して価格交渉を妨害したりすることはないと信頼することができ,競争事業者に取引を奪われるおそれを減少させることができるから,このような合意は,市場の競争制限効果をもたらす合意であるということができ,「意思の連絡」に該当するというべきである。
したがって,本件アルミ合意が「意思の連絡」に該当しないとする原告ニチコンの上記主張は,採用することができない。
⑵ 争点⑴イ(本件アルミ合意が対象とした製品の範囲)について
ア 前記1の認定事実及び弁論の全趣旨によれば,マーケット研究会においては,アルミ電解コンデンサについて,アルミ電解コンデンサ全体,リード線形,チップ形,スナップイン,ネジ端子形及び導電性アルミ電解コンデンサのそれぞれに関し,製造販売業者ごとの各月の受注状況(数量及び金額)を整理した表が配布されており,アルミ電解コンデンサのうちの特定の類型の製品に限った情報交換や特定の類型の製品を除いた情報交換がされていたわけではなかったこと,JEITAの会合やSM部会における情報交換や各社の営業担当者らによる個別の情報交換においても,同様に,アルミ電解コンデンサのうちの特定の類型の製品に限った情報交換や特定の類型の製品を除いた情報交換がされていたわけではなかったこと,アルミ4社は,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを決定するに当たり,その対象を特定の類型のものに限ったり,特定の類型のものを除いたりはしていないことが認められるから,これらの事情を総合すれば,アルミ4社が本件アルミ合意において対象としていた製品の範囲は,アルミ電解コンデンサ全体であったと認定するのが相当である。
イ 原告ルビコンの主張について
(ア) 原告ルビコンは,被告が主張する本件アルミ合意に関する経緯等を前提とすると,本件アルミ合意が対象とした製品には日系需要者以外に納入する製品は含まれず,また,その製品はアルミ電解コンデンサのうち販売総額が仕入総額以下のものに限られていたと主張する。
(イ) 前記1の認定事実によれば,原告ルビコンは,①平成22年4月13日付けで社内に対し,日系需要者等について,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を目標として,値上げ活動をすること,これらに該当する場合でも,不採算の度合いの大きい顧客に対しては他社への発注を依頼し,当該顧客との取引を打ち切るよう指示したこと,②同年7月15日社内に対し,カメラの大型ストロボ用のアルミ電解コンデンサにつき,材料費の高騰等を理由として,不採算品か否かを問わず,原則として一律15パーセント以上の販売価格の引上げを行うよう指示をしたこと,③これらの指示に基づいて値上げ活動が行われたことが認められる。このように,原告ルビコンにおいて,本件アルミ合意成立後に,一部の製品について,不採算品か否かを問わず価格引上げを行うよう指示がされるとともに,小口の需要者等について,粗利を一定割合以上とすることを目標とするよう指示がされるなどし,それに沿った値上げ活動がされたことからすると,本件アルミ合意成立時に,それ以降の値上げ活動として,「日系需要者に対し,アルミ電解コンデンサの販売総額を仕入総額以上に値上げすること」のみが念頭に置かれていたものではないことが推認されるというべきである。
また,前記1の認定事実によれば,アルミ4社のうち原告ルビコン以外の3社においても,不採算製品を中心として販売価格の引上げを行うことが決定されていたことが認められるが,不採算製品が各社において同一であったことを認めるに足りる証拠はなく,他に不採算製品以外の製品が本件アルミ合意の対象から除かれていたことを認めるに足りる証拠もない。
(ウ) したがって,本件アルミ合意が対象とした製品の範囲に関する原告ルビコンの主張は,採用することができない。
ウ 原告ニチコンの主張について
(ア) 原告ニチコンは,本件アルミ合意の対象は,アルミ電解コンデンサのうち不採算製品に限定されていたなどと主張し,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
しかしながら,アルミ4社間においては,アルミ電解コンデンサのうちの特定の類型の製品に限った情報交換や特定の類型の製品を除いた情報交換がされていたわけではなかったことは,前記認定・説示のとおりである。加えて,前記1の認定事実及び弁論の全趣旨によれば,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ことが認められる。
また,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
したがって,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
(イ) 原告ニチコンは,アルミ電解コンデンサに係る取引のうちヘルプ要請に基づくものは,本件アルミ合意の対象外であるなどと主張する。
しかしながら,前記1の認定事実によれば,日本ケミコンの需要者等からの発注に対応した原告ルビコン及び原告ニチコンは,日本ケミコンの従前の販売価格を下回る価格を上記需要者等に提示して,日本ケミコンのシェアを奪うための競争的な行為を行ったということはできず,むしろ,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ことが認められる。また,後記のとおり,ヘルプ要請に基づく取引を契機として,本件アルミ合意に基づく値上げ活動が終了したといった事情を認めることはできず,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ことが認められる。
したがって,ヘルプ要請に基づく取引も本件アルミ合意の対象の範囲内であるというべきであるから,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
(ウ) 原告ニチコンは,アルミ電解コンデンサのうちコンデンサユニット品は,一般市場において原告ニチコンしか販売していない独自の製品であり,他社とは全く競合していない製品であるから,本件アルミ合意の対象外であると主張する。
この点,証拠(乙B8,11)及び弁論の全趣旨によれば,原告ニチコンが製造販売していたコンデンサユニット品は,複数の大型アルミ電解コンデンサを並列又は直列につないだ回路製品であり,大きな静電容量や高い定格電圧が必要となる製品に用いられるものであるところ,アルミニウムを陽極とし,アルミニウム表面に形成する酸化被膜を誘電体とする点や,蓄電により電圧の変化を吸収して電圧を安定化(平滑化)する機能を有し,それ以外の機能を有しない点では,単体のアルミ電解コンデンサと変わるところはなく,アルミ電解コンデンサの一類型であるというべきであること,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ことが認められる。そして,アルミ4社間においては,アルミ電解コンデンサのうちの特定の類型の製品に限った情報交換や特定の類型の製品を除いた情報交換がされていたわけではなかったことは,前記認定・説示のとおりであり,コンデンサユニット品についても,情報交換の対象から除外されてはいなかったものである。
さらに,証拠(乙B9,11)によれば,日本ケミコンにおいても,顧客が求める電圧や静電容量に対応できるよう,複数のアルミ電解コンデンサを直列又は並列につないだ原告ニチコンが販売しているコンデンサユニット品と類似の製品を販売していたこと,需要者等は,単体のアルミ電解コンデンサでは必要な電圧や静電容量が得られない場合には, 原告ニチコンが販売するコンデンサユニット品を購入することもあれば,同社又は他社のアルミ電解コンデンサを複数購入し,自社でつなぎ合わせてユニット化することもあったことが認められるから,原告ニチコンが販売するコンデンサユニット品は,他社の販売するアルミ電解コンデンサと全く競合しなかったと断ずることはできない。
以上によれば,コンデンサユニット品も本件アルミ合意が対象とする製品の範囲に含まれるというべきであるから,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
⑶ 争点⑴ウ(実行期間)について
ア 実行期間の始期
(ア) 実行期間の始期の意義
独禁法7条の2第1項は,実行期間の始期について,「当該行為の実行としての事業活動を行った日」と規定しているところ,合意が成立した日以降に値上げ予定日が定められ,その日からの販売価格の引上げに向けて交渉が行われた場合には,現実にその日に販売価格の引上げが実現したか否かにかかわらず,その日が当該行為の実行としての事業活動を行った日に当たると解するのが相当である。
(イ) 本件についての検討
前記1の認定事実,証拠(乙B5)及び弁論の全趣旨によれば,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ことが認められる。
このように,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■のであるから,本件アルミ合意の実行期間の始期は平成22年3月1日であるというべきである。
(ウ) 原告ニチコンの主張について
原告ニチコンは,予備的主張として,実行期間の始期は早くとも平成22年4月1日であると主張する。
しかし,本件アルミ合意がアルミ3社の間で成立したのは平成22年2月18日であることは前記認定・説示のとおりであり,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ことを認めるに足りる的確な証拠はない。また,仮に,原告ルビコンを始めとするマーケット研究会の参加者が平成22年4月1日から適用される販売価格の引上げを協調していたとしても,違反行為の実行としての事業活動を各社が個別に行うことが妨げられる理由はないから,上記協調行為の存在から直ちに,原告ニチコンの実行期間の始期が同日となるわけではない。
したがって,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
イ 実行期間の終期
(ア) 実行期間の終期の意義
独禁法7条の2第1項は,実行期間の終期について,「当該行為の実行としての事業活動がなくなる日」と規定しているところ,不当な取引制限行為とは,違反行為者間の合意による相互拘束状態の下に,競争を実質的に制限する行為をいうから,上記終期は,そのような相互拘束状態が解消されて,もはや,競争制限的な事業活動がされなくなった時点を指すものと解される。そして,不当な取引制限は,各事業者が違反行為の相互拘束に反する意思の表明等相互拘束が解消されたと認識して事業活動を行うまで継続するのであり,いわゆる価格カルテルについては,事業者間の合意が破棄されるか,破棄されないまでも当該合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情が生じるまで当該合意による相互拘束が継続すると解するのが相当である。
(イ) 本件についての検討
前記1の認定事実によれば,アルミ4社間において,本件アルミ合意が明示的に破棄されたことはなかったこと,日本ケミコンの《K2》は,平成23年11月22日開催の社内会議において,値下げをしてでもアルミ電解コンデンサの生産数量の確保に努めるよう指示をしたこと,その後,アルミ電解コンデンサの製造販売業者は,各社とも需要者等に安値を提示して,顧客を奪い合う状態となったことが認められる。
そうすると,アルミ4社は,平成23年11月22日以降,いずれも需要者等に対して安値を提示して,顧客を奪い合う状態になっている以上,本件アルミ合意による拘束が事実上消滅したと認められる特段の事情が生じたものといえる。
(ウ) 原告ニチコンの主張について
a 原告ニチコンは,本件アルミ合意の実行としての事業活動は,東日本大震災が発生した平成23年3月11日をもって消滅したことが明らかであるなどとして,本件アルミ合意の実行期間の終期は同日であると主張する。
たしかに,前記1の認定事実によれば,日本ケミコンは,平成23年3月11日に発生した東日本大震災により,アルミ電解コンデンサの製造拠点である子会社等が被災して稼働不能となったため,アルミ電解コンデンサの供給ができない状況となったこと,日本ケミコン以外のアルミ電解コンデンサ製造販売業者は,確実にアルミ電解コンデンサを確保したい需要者等からのダブル発注やトリプル発注への対応に追われる状況になったことが認められ,東日本大震災発生直後のアルミ電解コンデンサの市場の状況がそれ以前と比べて変化したことは,否定できないところである。
しかしながら,他方,前記1の認定事実によれば,日本ケミコンは,平成23年5月19日完全復旧宣言を行い,東日本大震災以前に受注していた製品を納入するために同社の各工場を再び稼働させたこと,同月20日開催のマーケット研究会において,原告ルビコンの担当者がヘルプ要請は減ってきている旨を報告し,日本ケミコンの担当者が,全ての工場が稼働を再開し,当面は休みなく稼働させる予定である旨を報告したことが認められ,これらの事実によれば,東日本大震災が発生してから約2か月余り後には,同震災発生直後の上記のような市場の状況は脱しつつあったものというべきである。
また,前記1の認定事実によれば,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ことからすると,同震災発生後もなお,部分的には,本件アルミ合意の相互拘束が継続していたものというべきである。
さらに,前記1の認定事実及び弁論の全趣旨によれば,東日本大震災発生後もアルミ4社間におけるアルミ電解コンデンサの値上げ活動の状況等に関する情報交換は継続され,平成23年6月7日開催のSM部会では,原告ルビコン,ニチコン香港及び日本ケミコンの各出席者が,アルミ電解コンデンサにつき,今後も販売価格の引上げを前提とする価格調整の流れを継続することの重要性を確認し合ったこと,その後,アルミ電解コンデンサの需要が激減する状況の中で,同年8月30日及び同年9月22日開催されたマーケット研究会において,原告ルビコンの《N1》は,同業他社がアルミ電解コンデンサの値下げを開始することを牽制する意図の下に,一部の需要者等からこれまでの販売価格の引上げ分を値下げするよう依頼を受けているが断っている旨を報告したことが認められ,これらの事実によれば,アルミ4社は,東日本大震災後も情報交換を継続しつつ事業活動を行い,時に相互拘束状態から抜けることを牽制するような動きも見られるというのであるから,アルミ4社が本件アルミ合意の相互拘束状態を離れ,独自に事業活動を行っていたともいい難い。
以上の事情を考慮すると,東日本大震災が平成23年3月11日に発生したことにより,アルミ4社間において,本件アルミ合意による相互拘束状態が解消されて,もはや競争制限的な事業活動がされなくなったとはいい難く,本件アルミ合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情があるとまではいえないものというべきである。
したがって,平成23年3月11日が本件アルミ合意の実行期間の終期であるとする原告ニチコンの上記主張は,採用することができない。
b 原告ニチコンは,予備的主張として,平成23年8月19日が本件アルミ合意の終期である旨主張する。
前記1の認定事実によれば,日本ケミコンの《K2》は,平成23年8月19日開催の社内会議において,同社の子会社等が被災してアルミ電解コンデンサが供給できなくなったことなどにより,同業他社へ転注されてしまった注文を取り戻すよう指示をするとともに,アルミ電解コンデンサの値下げを行う場合には,無謀な値下げをしないように各地区の営業統括部長が判断した上で行うものとする旨の指示を出したことが認められ,日本ケミコンは,同日以降,アルミ電解コンデンサの値下げも視野に入れて営業活動を行う方針となったことが窺われる。しかし,他方,前記1の認定事実によれば,日本ケミコンの《K2》は,上記指示を出す際,同業他社との間でメリットのない値下げ合戦は避けるよう併せて指示したことが認められる上,前記1の認定事実及び弁論の全趣旨によれば,平成23年8月30日開催のマーケット研究会において,日本ケミコンの担当者は,アルミ電解コンデンサの受注は落ち込んでいるものの円高が進んでおり,ドル建て決済の取引に関してはこれを理由として販売価格の引上げを申し入れることなどを報告し,その後,同年11月22日日本ケミコン社内で値下げをしてでもアルミ電解コンデンサの生産数量の確保に努めるよう指示が出されるまで,需要者等に対し,値下げの申入れをしていないことも認められるから,結局,同年8月19日の時点で,日本ケミコンが本件アルミ合意の相互拘束を離れて独自に事業活動を行ったとはいえないものというべきである。
よって,平成23年8月19日が本件アルミ合意の実行期間の終期であるとする原告ニチコンの主張は,採用することができない。
(エ) 以上によれば,平成23年11月21日よりも前の時点を実行期間の終期と認めるべき特段の事情があるとはいえないから,同月21日をもって実行期間の終期とした本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)が違法であるということはできない。
⑷ 争点⑴エ(「当該商品」(独禁法7条の2第1項)の範囲)について
ア 「当該商品」の意義
独禁法7条の2第1項にいう「当該商品」は,違反行為である相互拘束の対象である商品,すなわち,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解するのが相当であるところ,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,違反行為を行った事業者等が,一定の商品を明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど,当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められない限り,課徴金算定の対象となる「当該商品」に含まれるというべきである。
イ 本件についての検討
(ア) 本件アルミ合意の対象がアルミ電解コンデンサ全体であると認められることは,前記認定・説示のとおりであって,アルミ電解コンデンサ全体は,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する製品であり,違反行為である相互拘束を受けたものに当たるといえるから,「当該商品」に該当する。
(イ) これに対し,原告ルビコンは,本件アルミ合意の対象である製品の範囲が「日系需要者に対するアルミ電解コンデンサの販売総額を仕入総額以上に値上げする」ことに限定されることを前提として,「当該商品」もこの範囲に限定されると主張し,原告ニチコンは,①不採算品以外の製品,②ヘルプ要請に基づく取引,③コンデンサユニット品は,「当該商品」から除外されるべきであると主張する。
しかしながら,前記認定・説示によれば,アルミ4社間において,明示的又は黙示的に,違反行為の対象を原告ルビコンが主張する製品の範囲に限定することを示す事情,又は原告ニチコンが主張する①ないし③の各類型の製品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情は認められないものというべきである。
よって,「当該商品」の範囲に関する原告ルビコン及び原告ニチコンの主張は,いずれも採用することができない。
⑸ 争点⑴オ(本件アルミ合意に関する各命令は平等原則及び比例原則に違反するか。)について
ア 原告ニチコンは,仮に,原告ニチコンに何らかの違反行為があるとしても,被告は,①マーケット研究会等に参加し他社との情報交換等を行っていた《P》とアルミ4社とを別異に取り扱う合理的な理由が存在しないにもかかわらず,正当な理由なく処分対象となる企業を取捨選択し,恣意的に法律を執行したこと,②原告ニチコンの関与の程度や悪質性が他社と比較して極めて低いことを一切勘案せずに処分を行ったこと,③本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)に関し,○ア本件アルミ合意の当事者の認定,○イ違反期間の認定,○ウ東日本大震災のヘルプ要請に基づく受注による一時的な売上げ増分を含めて課徴金納付命令の基礎としているという3点において,全く合理性のない認定を行っているから,本件アルミ合意に関する各命令は,社会通念上著しく妥当性を欠き,平等原則及び比例原則に反する違法な処分であると主張する。
イ しかしながら,①について,前記前提事実によれば,被告は,アルミ4社が日本国内でのアルミ電解コンデンサの販売分野における競争を実質的に制限したことを理由として,本件アルミ合意に関する各命令を行っていると認められるところ,証拠(乙共18)によれば,《P》の担当者はマーケット研究会に出席しているものの,その発言内容は,ドル建て,ユーロ建ての外貨取引等,欧米やアジアに所在するアルミ電解コンデンサの需要者等に関するものが多くの部分を占めることが認められ,《P》は,アルミ4社と比べて,日本国内の需要者等に対するアルミ電解コンデンサの販売数量は多くなかったものと推認することができる。加えて,《P》がマーケット研究会以外の会合に参加して,日本国内のアルミ電解コンデンサの需要者等に提示する具体的な販売価格について話し合うなどしていたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,被告が《P》とアルミ4社とを別異に取り扱ったことが不合理とはいえないというべきである。
また,②については,公正取引委員会は,独禁法が定める特定の違反行為を行った事業者に対して課徴金の納付を命じなければならず(独禁法7条の2),処分要件に該当する事実の有無によって課徴金納付命令をするか否かが決まるのであって,公正取引委員会が事業者の違反行為への関与の程度や悪質性を考慮して処分をしなかったとしても,そのこと自体が違法事由を構成すると解することはできない。のみならず,前記1の認定事実によれば,原告ニチコンは,マーケット研究会には参加・出席していなかったものの,SM部会やJEITAの会合には出席し,アルミ電解コンデンサの値上げ活動の状況等について同業他社と情報交換を行っていたこと,原告ルビコンや日本ケミコンと同等の頻度で,個別に,同業他社の担当者らと会合を行い,アルミ電解コンデンサの値上げ活動に関する情報交換や需要者等に提示する見積価格を協議・決定していたことが認められ,原告ニチコンは,同社以外のアルミ4社と比較して,その関与の程度や悪質性が低いとはいえないから,原告ニチコンの上記主張は,その前提を欠くものである。
さらに,③について,○アから○ウに関する原告ニチコンの主張をいずれも採用することができないことは,前記認定・説示のとおりである。
ウ 以上によれば,原告ニチコンに対する本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)が,社会通念上著しく妥当性を欠き,平等原則及び比例原則に反する違法な処分であるとはいえないから,原告ニチコンの主張は採用することができない。
⑹ 争点⑴カ(本件アルミ合意に関する各命令に係る手続に瑕疵があるか。)について
原告ニチコンは,本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)においては,本件アルミ合意の内容として値上げ率や値上げ時期等が明らかにされておらず,具体的にいかなる行為を共同して行うことを合意したと認定したのかが不明確である上,平成22年当時,マーケット研究会に参加し競合他社と情報交換を行っていた《P》を合意の当事者から除外する合理的な理由が明らかにされていない点で,全く特定されずにされた違法な処分であり,原告ニチコンはこのように特定を欠く本件アルミ合意を前提とした処分通知しか受けておらず,適切に防御権を行使できなかったから,本件アルミ合意に関する各命令に係る意見聴取手続には,防御や反論の機会が実質的に保障されていないという手続的瑕疵が存在すると主張する。
しかしながら,証拠(甲B1,2)及び弁論の全趣旨によれば,本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)には,本件アルミ合意の当事者,合意の成立及び消滅時期,合意の成立を根拠付ける事実の概要等が記載されていたこと,本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)には課徴金額の算出過程が記載されていたことが認められ,これにより,処分の内容や処分の対象となった取引の範囲は相当程度明らかであったといえるから,本件アルミ合意は,少なくとも原告ニチコンが防御や反論をすることが可能な程度には,その内容が特定されていたといえる。
したがって,本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)に係る意見聴取手続において,被審人である原告ニチコンの防御や反論の機会が実質的に保障されていないという手続的瑕疵が存在するとはいえないから,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
第4 タンタル電解コンデンサに関する当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に加え,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,タンタル電解コンデンサの製造販売業者間の情報交換等に関して,以下の事実が認められる(ただし,以下の認定事実中,原告松尾電機が他社との間で,タンタル電解コンデンサに関して情報交換等をしたとの事実について,当該情報交換等の対象に湿式タンタル電解コンデンサが明示的に含まれていたことを認めるに足りる証拠はない。)。
⑴ 平成21年2月頃までの販売価格の引上げに関する状況
ア 原告松尾電機,NECトーキン及び日立エーアイシーによる情報交換
(ア) NECトーキン,日立エーアイシー及び原告松尾電機の各従業員らは,平成20年4月頃から同年7月頃にかけて,マーケット研究会や個別の接触の機会を通じて,タンタル資材の値上がりの見込み,タンタル電解コンデンサの値上げ状況,需要者等に対して提示する販売価格等に関する情報交換を行った(乙共16,乙イ25,33,42)。
(イ) NECトーキン及び原告松尾電機は,このような情報交換を踏まえ,平成20年8月18日までに社内において,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを決定した(乙イ33,42)。
(ウ) その後,原告松尾電機の《M2》とNECトーキンの《Q1》らとは,マーケット研究会や個別の接触の機会を通じて,需要者等に対して提示する特定のタンタル電解コンデンサの具体的な販売価格や販売価格の引上げの実施状況につき情報交換をするなどした(乙イ25,26,33,43)。
イ 原告ニチコンによる情報交換等
(ア) 原告ニチコンの《L1》は,同社がATC会やその後のマーケット研究会に出席しなくなった後も,NECトーキンや原告松尾電機の従業員と情報交換を行い,タンタル電解コンデンサの販売価格や需要者等に対して提示する見積価格について協議するなどした(乙共44,46,乙イ24,50,53)。
(イ) 原告ニチコンの《L1》は,平成20年5月頃,NECトーキンの《Q1》から,NECトーキン及び日立エーアイシーにおけるタンタル資材価格の値上がりの見通しについて聴取し,その内容を原告ニチコンの《L3》及び《L6》に報告した(乙イ2,14,15)。
また,原告ニチコンの《L1》は,遅くとも平成20年8月以降,NECトーキンの《Q1》らと個別に面会や電話連絡をするなどして,タンタル資材の価格動向,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げの実施状況,需要者等に対して提示する販売価格等について情報交換を行った。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ウ 値上げ活動の終息
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⑵ 平成22年の販売価格の引上げ決定に至る経緯
ア 平成22年1月頃のタンタル電解コンデンサに関する情報交換等
(ア) タンタル電解コンデンサの主要な材料であるタンタル資材は,平成22年1月頃,その価格の上昇が予想されるようになった。原告ニチコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■は,同月7日,原告ニチコンの東京支店において,《A》とのタンタル電解コンデンサの取引で競合していたNECトーキンの《Q1》及び同社の■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■と面談し,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ほか,タンタル資材の価格動向等について情報交換をした。
原告ニチコンの《L1》らとNECトーキンの《Q2》らは,その後も《A》に対する対応方針について協議を行い,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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(イ) 平成22年1月21日開催のマーケット研究会には,NEC卜ーキンの《Q2》,原告松尾電機の■■■■■■■■■■■■■■,日立化成の《O2》らが出席した。同研究会において,NECトーキンの《Q2》は,タンタル資材メーカーからタンタル資材の購入価格の引上げ要請を受けたことや■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を報告し,日立化成の《O2》も,タンタル資材メーカーからタンタル資材の値上げ要請を受けていることやマンガン品の一部の製品の需要が増加していることなどを報告した。(乙共61,乙イ45,54,56,76)
イ 平成22年2月頃のタンタル電解コンデンサに関する情報交換等
平成22年2月18日開催のマーケット研究会には,日本ケミコンの《K1》,NECトーキンの《Q1》,原告松尾電機の《M3》,日立化成の《O2》らが出席した。同研究会において,日本ケミコンの《K1》は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■旨発言したところ,NECトーキンの《Q1》は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を報告した。(乙共18,61,乙イ37,45,56,76)
ウ 平成22年3月頃のタンタル電解コンデンサに関する情報交換等
(ア) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(イ) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(ウ) 平成22年3月18日開催のマーケット研究会には,NECトーキンの《Q1》,原告松尾電機の《M4》,日立化成の《O2》らが出席し,NECトーキンの《Q1》が,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■について報告した(乙共18,61,乙イ16,45,46,54,56,76)。
エ 平成22年4月頃のタンタル電解コンデンサに関する情報交換等
(ア) 原告ニチコンの《L1》は,平成22年4月頃,NECトーキンの《Q1》や《Q2》らと個別に面談や電話連絡を行い,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(イ) 平成22年4月21日開催のマーケット研究会には,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》,原告松尾電機の《M3》らが出席し,NECトーキンの《Q1》又は《Q2》が,需要者等に対し,マンガン品のうち不採算品を対象として販売価格の引上げを申し入れて交渉していること,《A》や《C》に対しても,同年下期に向けて販売価格の引上げを申し入れて交渉する方針であること,タンタル資材の価格は今後も上昇する見込みであること,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■などを報告した(乙共18,乙イ37,46,54,76)。
オ 平成22年5月頃のタンタル電解コンデンサに関する情報交換等
(ア) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(イ) ホリストンは,平成22年4月21日頃,収益改善のためにタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる方針を固め,同年5月上旬頃から,採算の取れていない日本国内の需要者等を中心として,販売価格を引き上げる取組を開始した(乙イ68)。
(ウ) 平成22年5月20日開催のJEITAの受動部品事業委員会には,原告ニチコンの《L1》,NECトーキンの《Q1》及び《Q3》,原告松尾電機の《M1》及び《M4》らが出席した。同会合において,原告ニチコンの《L1》は,タンタル電解コンデンサの受注が供給能力を上回っていること,タンタル資材の価格上昇が危惧されることなどを報告し,NECトーキンの《Q1》も,同じくタンタル資材の価格上昇が見込まれることを報告した。
原告松尾電機の《M4》は,上記会合に出席した会員会社の発言内容を議事録にまとめ,社内で共有した。
(乙共21~24,乙イ17,34,47)
(エ) 平成22年5月21日開催のマーケット研究会には,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》,原告松尾電機の《M4》及び《M3》が出席し,NECトーキンの《Q1》又は《Q2》が,タンタル電解コンデンサにつき,タンタル資材の価格が高騰しているため販売価格の引上げが必要であることや,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を報告した(乙共18,64,乙イ34,37,45,47,54,56,76)。
(オ) ホリストンは,平成22年4月から同年9月までの間,マーケット研究会に出席していなかったが,日立化成からホリストンへ事業が譲渡されるのに伴い移籍した《O2》(以下,同社に移籍後の同人を「ホリストンの《O2》」という。)は,移籍後も,NECトーキンの《Q1》,原告松尾電機の《M2》及び《M3》と連絡を取り合い,マーケット研究会における各社の報告内容やタンタル電解コンデンサの各社の販売活動の状況等について情報提供を受けるとともに,情報交換を続けた。
ホリストンの《O2》は,このような情報交換を通じ,平成22年5月下旬頃から同年6月初旬頃にかけて,タンタル電解コンデンサにつき,同社における販売価格の引上げの検討及び実施状況等を同業他社に伝えるとともに,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■NECトーキンが,タンタル資材の価格高騰に伴い,業界全体としてタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げが必要であると考えていることなどの情報を入手した。
(乙イ28,36,37,63,65,66)
カ 平成22年5月下旬頃から6月頃までのタンタル電解コンデンサに関する情報交換等
(ア) NECトーキンは,平成22年5月31日開催の社内会議において,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる方針を決定した。これを受けて,NECトーキンの《Q1》は,この頃ホリストンの《O2》に対し,NECトーキンがタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施することを伝えた。(乙イ54,65)
(イ) ホリストンは,平成22年6月1日頃,タンタル電解コンデンサにつき,採算の取れている製品も含めて全面的に販売価格の引上げを実施することとし,同月5日頃以降需要者に対し,値上げ要請文書を配布するなどして,同年7月1日出荷分からの販売価格の引上げの申入れをした(乙イ68)。
(ウ) 原告松尾電機の《M2》は,平成22年6月初旬頃,同社の《M1》から,タンタル資材の価格の高騰を理由としてタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げることとするので,そのための値上げ方針を策定するよう指示されたため,同月9日開催の社内会議において,同社の《M4》や《M3》等の営業部長に対し,今後,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げることとするが,値上げ幅や販売価格の引上げの実施時期等の具体的な実施方法はこれから検討する旨を伝達した(乙イ29,34,38)。
(エ) ホリストンの《O2》は,平成22年6月11日,原告松尾電機の《M2》に対し,タンタル電解コンデンサにつき,ホリストンの《B》に対する値上げ活動の状況を伝えるとともに,同人から,原告松尾電機において販売価格の引上げの実施方法の検討が開始されたとの情報を得た(乙イ28,64)。
(オ) ホリストンの《O2》は,平成22年6月15日,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》に電子メールを送付し,同月17日開催予定のマーケット研究会において,ホリストンが,タンタル電解コンデンサの販売価格の全面的な引上げを開始したこと,同年9月以降はマーケット研究会に参加する意向であることなどを報告するよう依頼した(乙イ45,47,56,64)。
(カ) 平成22年6月17日開催のマーケット研究会には,NECトーキンの《Q1》,原告松尾電機の《M3》らが出席した。同研究会において,NECトーキンの《Q1》は,タンタル電解コンデンサにつき,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■NECトーキンも,販売価格の引上げを決定し,平成22年8月1日納入分から,Aケースと呼ばれるサイズのものは10パーセント程度,Bケースと呼ばれるサイズのものは25パーセント程度の販売価格の引上げをすることが見込まれること,ホリストンも需要者等に対する販売価格の引上げの要請を開始したことなどを報告した。また,原告松尾電機の《M3》は,タンタル資材の高騰を理由としたタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施するが,値上げの幅や時期は検討中であることなどを報告した。(乙共64,乙イ27,38,45,47,56,76)
⑶ 平成22年6月頃の値上決定後の値上活動の状況等
ア 原告松尾電機の《M3》とホリストンの■■■,同社の■■■■■■■■■■■■■■■■及び同社の■■■■■■■■■■■■■■■■■■とは,平成22年6月21日,東京都内で会合を行った。同会合において,原告松尾電機の《M3》は,ホリストンの上記3名に対し,同月17日開催されたマーケット研究会において,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を伝えるとともに,その時点における原告松尾電機の《AM》や《B》に対するマンガン品の販売価格等の情報を提供した。(乙イ38,69,72,73)
イ 原告松尾電機の《M3》は,平成22年6月22日頃,ホリストンの《O9》に対し,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■原告松尾電機は《B》に対し,原告ニチコン及びホリストンが提示する予定の販売価格の中間の価格を提示する予定であることを伝えた。それを受けて,ホリストンの《O9》は,同日,同社の《O7》や《O8》らに対し,《M3》から得た上記の情報をメールで報告した。(乙イ38,72,73)
ウ 原告松尾電機の《M2》は,平成22年6月24日頃までに,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げることを決定した(乙イ29)。
エ NECトーキンの《Q1》は,平成22年6月17日から同月24日頃にかけて,原告ニチコンの《L1》に対し,原告松尾電機及びホリストンがタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施する方針となったことを伝えた(乙イ17,19,45)。
オ 平成22年6月24日開催のJEITAのコンデンサ部会には,原告ニチコンの《L1》,原告松尾電機の《M4》,NECトーキンの《Q1》及び《Q3》らが出席した。同会合において,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■原告松尾電機の《M4》は,タンタル資材の値上がりのためにタンタル電解コンデンサの販売価格を今後引き上げることなどを,NECトーキンの《Q3》は,タンタル資材が50パーセント値上がりすることなどをそれぞれ報告した。(乙共25,40,乙イ17,18,34,47)
カ NECトーキンは,前記販売価格の引上げ決定に基づき,平成22年7月1日頃から需要者等に対し,販売価格を20パーセント引き上げたいなどと記載した文書を配布するなどして,同年8月1日出荷分からの販売価格の引上げを申し入れた(乙イ47)。
キ 松尾電機は,前記販売価格の引上げ決定に基づき,平成22年7月15日頃から需要者等に対し,販売価格の引上げを要請する文書を配布するなどして販売価格の引上げを申し入れた(乙イ29)。
ク 平成22年7月16日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M2》及び《M3》,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》らが出席した。同研究会において,原告松尾電機の《M3》は,タンタル資材の価格高騰やタンタル電解コンデンサの受注急増を理由として,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施することとしたこと,値上げ幅は品種ごとに検討することなどを報告した。また,NECトーキンの《Q1》又は《Q2》は,タンタル電解コンデンサの販売価格を20パーセント引き上げることなどを報告した。
NECトーキンの《Q2》は,この研究会の休憩時間に,原告松尾電機の《M2》及び《M3》らに対し,タンタル電解コンデンサの値上げ交渉の際にNECトーキンが行っている需要者等への説明方法を伝えた。
(乙イ38,48,56)
ケ 原告ニチコンの《L1》は,平成22年7月27日,原告松尾電機の《M2》に対し,《J》に対するタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げに関し,原告ニチコンの■■■■■■が連絡をする可能性があるため,そのときには対応して欲しいなどと依頼するとともに,同社及びNECトーキンの《A》に対する値上げ活動の状況等を伝え,《M2》から,原告松尾電機におけるタンタル電解コンデンサの値上げ活動の状況につき,情報提供を受けた(乙共47,乙イ3,17,19,28)。
コ 原告ニチコンの《L1》は,平成22年7月29日頃,NECトーキンの《Q1》又は原告松尾電機の《M2》から,両社が全ての需要者等に対し,同年10月1日納入分からタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施するとの情報を入手したため,当該情報を原告ニチコンの■■■■■に周知した(乙イ19)。
サ 平成22年8月5日開催のマーケット研究会には,NECトーキンの《Q2》,原告松尾電機の《M3》らが出席し,NECトーキンの《Q2》が,タンタル電解コンデンサの大手の日系需要者等は同年10月からの販売価格の引上げであれば受け入れる見込みであることなどを報告し,原告松尾電機の《M3》が,タンタル電解コンデンサの値上げ交渉は苦戦していることなどを報告した(乙イ28,38,48)。
シ 原告松尾電機の《M3》とホリストンの《O7》及び《O8》とは,平成22年8月11日,東京都内で会合を行い,タンタル電解コンデンサの需要者である■■■■■■■■,■■■■■■■,《AM》等との価格交渉の状況について情報交換を行うとともに,これらの需要者に提示している見積価格の情報を共有するなどした(乙イ39,69,72)。
ス NECトーキンの《Q2》と原告ニチコンの《L14》とは,平成22年8月18日,原告ニチコンの東京支店において,《A》に対して提示する平成22年10月以降の納入分のタンタル電解コンデンサの見積価格について協議した(乙イ55)。
セ NECトーキンの《Q1》は,平成22年8月23日,原告松尾電機の《M2》と面談し,同人に対し,《A》に対する販売数量が多いタンタル電解コンデンサの製品に関する具体的な見積価格等の情報を提供するとともに,同人から,原告松尾電機も《A》に対する値上げ活動を開始することなどの情報を得た(乙イ28)。
ソ 平成22年8月25日開催のJEITAのコンデンサ部会には,原告ニチコンの《L1》,NECトーキンの《Q1》及び《Q3》らが出席し,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■原材料であるタンタルパウダーが同年9月1日から値上がりする見込みであることなどを報告し,NECトーキンの《Q3》が,一部の製品に関して受注が好調であることなどを報告した(乙共26)。
タ 平成22年9月16日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》らが出席し,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げの実施状況や受注状況等について情報交換をした(乙共18,乙イ4,5)。
チ 平成22年10月18日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,ホリストンの《O2》及び《O7》らが出席し,原告松尾電機の《M3》が,タンタル電解コンデンサの値上げ活動の状況等を報告し,ホリストンの《O2》又は《O7》が,タンタル資材の調達価格の高騰が深刻化しており,引き続きタンタル電解コンデンサの値上げ活動を継続していることを報告したほか,原告ニチコン,NECトーキン及びホリストンの3社が,同年7月1日以降に販売価格の引上げを行ったことが話題に上った(乙イ74)。
ツ 平成22年11月15日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》,ホリストンの《O7》らが出席した。同研究会において,タンタル電解コンデンサにつき,原告松尾電機の出席者は,販売価格の引上げ実施の効果で受注金額が上昇したことや原材料であるタンタルパウダーの調達価格の具体的な値上げ率等を報告し,NECトーキンの出席者は,タンタル資材の価格上昇等に伴い,日本国内の需要者等に対して平成23年4月納入分から更に販売価格の引上げをする方針であることなどを報告し,ホリストンの出席者は,タンタル資材の価格高騰への対応に苦慮していることなどを報告した。(乙イ6,40,48,58,74)
テ 平成22年12月20日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q1》,ホリストンの《O7》らが出席した。同研究会において,タンタル電解コンデンサにつき,原告松尾電機の出席者は,値上げ交渉を継続していることや,タンタル資材の値上がりにより,タンタル電解コンデンサの原価が20パーセント上昇することなどを報告した。また,NECトーキンの出席者は,タンタル資材の価格の高騰が深刻であり,平成23年4月から更に20パーセントの販売価格の引上げが必要となる可能性があることなどを報告した。さらに,ホリストンの出席者は,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げ実施により,顧客の中にはアルミ電解コンデンサやセラミックコンデンサへの置き換えを検討しているところもあることや,タンタル資材の価格高騰への対応に苦慮していることなどを報告した。(乙イ7,40,48,74)
ト 平成23年1月19日開催のJEITAのコンデンサ部会には,原告ニチコンの《L1》,NECトーキンの《Q3》らが出席し,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■などを報告し,NECトーキンの《Q3》が,需要者が販売価格の引上げを予想してタンタル電解コンデンサを備蓄していることなどを報告した(乙共27)。
ナ NECトーキンの《Q1》は,平成23年2月頃,原告ニチコンの《L1》に対し,同年3月からタンタル電解コンデンサの再度の販売価格の引上げを行う旨を伝えた(乙イ48)。
ニ 平成23年2月17日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》,ホリストンの《O7》らが出席した。同研究会において,原告松尾電機の《M3》は,タンタル電解コンデンサの需要者等との間で,7パーセントから8パーセントの値上げ率とすることで交渉していることなどを報告した。また,NECトーキンの《Q1》又は《Q2》は,中国における販売価格の引上げの影響によりタンタル電解コンデンサの受注が減少したことや,タンタル資材の価格の高騰の状況等について報告した。さらに,ホリストンの《O7》は,平成22年6月から加重平均で20パーセント程度販売価格の引上げを実施したことにより,平成23年4月以降の自動車メーカー向けの新規設計品においてはセラミックコンデンサに置き換えられる予定であることなどを報告した。(乙イ8,41,48,58,74)
ヌ 平成23年3月7日開催のJEITAのコンデンサ部会には,原告ニチコンの《L1》,NECトーキンの《Q1》及び《Q3》らが出席し,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■などを報告し,NECトーキンの《Q3》が,来期の受注が増加すると予想していることや原材料であるタンタルパウダーの価格が上昇していることなどを報告した(乙共28)。
ネ 平成23年3月17日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》らが出席し,NECトーキンの《Q1》又は《Q2》が,同月3日付けで需要者等に対し,タンタル電解コンデンサの値上げ要請を行ったことなどを報告したほか,出席者の間で,東日本大震災による被害の状況や今後の生産の見通し等について情報交換をした(乙イ9,40,48,74)。
ノ 平成23年4月19日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q2》,ホリストンの《O7》らが出席した。同研究会において,原告松尾電機の《M3》は,タンタル電解コンデンサにつき,東日本大震災の影響により,民生品の需要者からの発注は大幅に減少しているものの,原告松尾電機は自動車用や産業機械用のタンタル電解コンデンサを多く取り扱っているため,受注数量はそれほど落ちていないことなどを報告した。また,NECトーキンの《Q2》は,《A》向けのタンタル電解コンデンサの値上げ交渉が未決着であること,マンガン品の販売価格を引き上げたことにより,セラミックコンデンサへの置き換えが更に進み,世界的なマンガン品の需要が前年比で20パーセント減少していることなどを報告した。さらに,ホリストンの《O7》は,タンタル資材の価格高騰により厳しい状況にあることなどを報告した。(乙イ10,40,48,59,75)
ハ 平成23年5月18日開催のJEITAの受動部品事業委員会の会合には,原告ニチコンの《L1》,NECトーキンの《Q1》,《Q2》及び《Q3》らが出席し,原告ニチコンの出席者が,同年4月から6月までのタンタル電解コンデンサの受注は,同年1月から3月までの受注実績の80パーセントを見込んでいることなどを報告し,NECトーキンの出席者が,タンタル資材の高騰により,需要者がタンタル電解コンデンサをセラミックコンデンサ等に置き換える動きが進んでいることなどを報告した(乙共29,30)。
ヒ 平成23年5月20日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q2》,ホリストンの《O7》らが出席し,NECトーキンの《Q2》が,海外を中心にタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施しているが,その影響でタンタル電解コンデンサからセラミックコンデンサへの置き換えが全世界的に進み,マンガン品の総需要が減少していること,販売価格の引上げの効果により同月は受注数量より受注金額の数値の方が大きくなったことなどを報告し,ホリストンの《O7》が,タンタル電解コンデンサにつき,台湾本社から,採算の合わない価格での顧客からの注文は断るよう指示されていることなどを報告した(乙イ11,40,59,67,75)。
フ 平成23年6月17日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q2》,ホリストンの《O7》らが出席した。同研究会において,原告松尾電機の《M3》は,産業機械用のタンタル電解コンデンサの需要者等が販売価格の引上げを受け入れたため,平成23年6月から同年8月までの出荷分は,受注数量に比して受注金額が多いことなどを報告した。また,NECトーキンの《Q2》は,コンゴ産のタンタル鉱石を使えるようにしないとタンタル資材の価格は下がらないことなどを報告した。さらに,ホリストンの《O7》は,タンタル電解コンデンサにつき,日本国内における受注は一部で回復してきているものの,中華圏での需要が低調であるため,全体的には低迷基調が続いていることなどを報告した。(乙イ12,13,60,67,75)
ヘ 平成23年7月1日開催のJEITAのコンデンサ部会には,原告ニチコンの《L3》,NECトーキンの《Q1》らが出席し,原告ニチコンの《L3》が,タンタル電解コンデンサの受注が減少している一方,原材料であるタンタルパウダーの価格が高騰していることなどを報告し,NECトーキンの《Q1》が,平成23年のタンタル電解コンデンサの販売数量は前年比で105パーセント増加した一方,販売金額は前年比で90パーセント減少しているが,これは値下げによるものではなく,円高が進行したことによるものであることなどを報告した(乙共31,41,乙イ18)。
ホ 平成23年7月22日開催のマーケット研究会においては,NECトーキンの出席者が,タンタル資材の価格がかつての2倍から3倍程に上昇している一方,今後はタンタル鉱石の価格が下がる見通しであることなどを報告し,原告松尾電機の出席者が,タンタル電解コンデンサのうちマンガン品の受注は同年5月で下げ止まり,その後は増加傾向にあり,特に自動車向けで受注が伸びていることなどを報告した(乙イ49,75)。
マ 平成23年8月24日開催のJEITAのコンデンサ部会には,原告ニチコンの《L1》,NECトーキンの《Q2》及び《Q3》らが出席し,原告ニチコンの《L1》が,同社のタンタル電解コンデンサの受注状況は,前年同期と比較して70パーセント程度にとどまることなどを報告し,NECトーキンの《Q2》又は《Q3》が,タンタル電解コンデンサの需要は減少する一方,タンタル資材の価格は上昇していることなどを報告した(乙共32,41,乙イ18)。
⑷ 値上げ活動終了に至る経緯
ア NECトーキンは,タイ王国所在の子会社の工場において,同社のタンタル電解コンデンサの95パーセント(売上額ベース)近くの製品を生産していたところ,同工場は,平成23年10月頃洪水の被害に遭い,同月19日同工場内への浸水が始まり,同月20日には同工場の生産ラインが完全に水没してしまい,タンタル電解コンデンサが生産不能の状態となった(乙イ61,62)。
NECトーキンは,同社のホームページ上で,上記子会社の工場の被害状況等について次のような公表を行った。
(ア) 平成23年10月12日付け公表(甲B21)
平成23年10月11日午後から夜にかけて操業を停止していたが,安全が確認されたため,同月12日午前8時より操業を開始し,同日午前10時時点でも工場内への浸水はなく,操業中である。
(イ) 平成23年10月14日付け公表(甲B22)
工場が所在する工業団地の運営会社から避難勧告は出ていないものの,周辺の水位が上昇しているため,従業員の安全を考慮し,平成23年10月13日午後7時をもって自主避難を行った。工場への浸水はない。
(ウ) 平成23年10月17日付け公表(甲B23)
平成23年10月17日,上記工業団地の防水堤が決壊し,同工業団地への浸水が始まったが,工場は周囲を土嚢で囲っており,現時点では工場敷地内への浸水は見られない。
(エ) 平成23年10月19日付け公表(甲B24)
平成23年10月19日朝,工場への浸水が確認され,それによる設備への影響も考えられることから,操業再開の目処は立っていない。
イ 平成23年10月19日以降,タンタル電解コンデンサにつき,原告ニチコンがNECトーキンを通じて,原告松尾電機及びホリストンの販売価格改定に関する情報を得たり,原告松尾電機及びホリストンがNECトーキンを通じて,原告ニチコンの販売価格等に関する情報を得たりしたことはなく,タンタル4社が,販売価格の改定に向けた需要者等との交渉状況等につき相互に情報提供したり,需要者等に提示する見積価格を協議・調整したりすることもなかった。
⑸ 原告らが実現した販売価格の引上げの状況等
ア 原告ニチコンは,平成22年9月28日時点で,日本国内の営業拠点が販売価格の引上げによって増加すべきものとされた■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
原告ニチコンは,その後もタンタル電解コンデンサの値上げ活動を継続し,平成23年3月11日発生した東日本大震災の影響により一旦は値上げ交渉を中断したものの,同年4月頃には,値上げを受け入れていない一部の需要者等に対する値上げ交渉を再開した。もっとも,原告ニチコンは,同月以降,タンタル資材の価格が高止まりしている一方,タンタル電解コンデンサの需要が減少していたことから,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
イ 原告松尾電機は,平成22年7月15日頃からタンタル電解コンデンサの需要者等に対する販売価格の引上げの申入れを行った結果,平成23年1月時点において,タンタル電解コンデンサの全品種について,販売単価が営業基準単価(工場原価に一定の利益を加えた単価)を上回った。原告松尾電機は,その後もタンタル資材価格が高水準を維持していたため,まだ販売価格の引上げを受け入れていない需要者等に対する値上げ交渉を継続しつつ,それ以外の需要者等に対しては,基本的に現状の価格を維持するよう交渉を行った。(乙イ29,30,41)
ウ NECトーキンは,平成22年7月1日頃からタンタル電解コンデンサの需要者等に対する販売価格の引上げの申入れを行った結果,同年秋頃までに,《A》等の重点顧客も販売価格の引上げを受け入れるに至った。
NECトーキンは,平成23年3月頃,タンタル資材の価格高騰が続いたことなどから,販売価格の引上げを受け入れていない需要者等に対し,同年4月分からの値上げ交渉を開始したが,同年3月11日発生した東日本大震災の影響により,同日以降,値上げ交渉を中断することとし,需要者等との間で価格を維持する方針の下に交渉を行った。
(乙イ47,49,54,57~59)
エ ホリストンは,平成22年6月5日頃からタンタル電解コンデンサの需要者等に対する販売価格の引上げの申入れを行った結果,同年11月頃までに,大手の需要者等を含む多くの需要者等が販売価格の引上げを受け入れるに至った。
ホリストンは,平成23年3月11日発生した東日本大震災の影響により,タンタル電解コンデンサの需要が落ち込んだため,それ以降は販売価格を維持する方針をとった。
(乙イ68,70,71)
2 争点に対する判断
⑴ 争点⑵ア(タンタル4社間において本件タンタル合意(意思の連絡)は成立したか。)について
まず,タンタル4社間において,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げに関する合意(意思の連絡)が成立したか否かについて検討する(合意の対象となるタンタル電解コンデンサの製品の範囲については,後記⑵参照)。
ア 本件についての検討
(ア) 前記1の認定事実によれば,原告ニチコン,原告松尾電機,NECトーキン,日立エーアイシーらのタンタル電解コンデンサ製造販売業者は,本件に先立って,平成20年頃から平成21年頃までの間も,マーケット研究会等の会合又は個別の面談や電話連絡等を通じて同業他社との間で,タンタル電解コンデンサの原材料価格の動向や需要者等への値上げ活動の状況等に関する情報交換を継続しつつ,タンタル電解コンデンサの値上げ活動をしていたことが認められる。
(イ) そして,前記1の認定事実によれば,原告ニチコンは,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■同日以降,需要者等に対する値上げ交渉を開始したこと,そのことは,同月18日開催のマーケット研究会において,NECトーキンの《Q1》を通じて報告されたこと,その後同年4月にかけて,タンタル電解コンデンサの製造販売業者は,マーケット研究会や個別の会合等の機会において,タンタル資材の価格が高騰しているため,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げが必要であることを相互に確認するなどしていたこと,NECトーキンは,同年4月21日開催のマーケット研究会において,出席した《Q1》又は《Q2》がタンタル電解コンデンサのうち不採算品を対象として需要者等に販売価格の引上げを申し入れて交渉している旨を報告していたが,同年5月31日開催の社内会議において,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる方針を決定したこと,ホリストンは,同年4月21日頃,収益改善のためにタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる方針を固め,同年5月上旬頃から,採算の取れていない日本国内の需要者等を中心として販売価格を引き上げる取組を開始し,同年6月1日頃以降,採算の取れている製品も含めて全面的にタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施することとして,需要者等に対して販売価格の引上げを申し入れたこと,原告松尾電機は,同月初旬頃,タンタル資材の価格の高騰を理由としてタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げることとしたこと,同月17日開催の研究会において,タンタル4社(原告ニチコン及びホリストンに係る情報は,出席したNECトーキンの《Q1》が報告した。)がいずれも,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる方針を固め又は既に価格引上げに向けた交渉に着手したことなどを確認したことが認められる。
(ウ) また,上記(イ)の認定事実に加えて前記1の認定事実によれば,タンタル電解コンデンサの営業担当者は,平成22年6月17日の後も同コンデンサの販売価格の引上げに関する情報交換を続けていたところ,その中では,タンタル資材の調達価格が高騰しているため,各社ともにタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げが必要な状況にあることが折に触れて確認され,需要者等に提示する具体的な値上げ率等が度々話題とされていたことが認められる。
(エ) このように,①タンタル4社を含むタンタル電解コンデンサ製造販売業者は,もともと平成20年頃から平成21頃までの間,同業他社との間で,タンタル電解コンデンサの原材料価格の動向や需要者等への値上げ活動の状況等に関する情報交換を継続しつつ,タンタル電解コンデンサの値上げ活動をしていた経緯があること,②タンタル4社は,タンタル資材の価格が高騰していることやタンタル電解コンデンサの製品の一部が採算のとれない状況となっていることを理由として,平成22年3月頃以降同年6月までの間に,それぞれ,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる方針を固め,遅くとも同年6月17日までに,そうした方針に関する情報や既に価格引上げに向けて交渉に着手したとの情報を共有したこと,③タンタル4社の営業担当者らは,その後もタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げに関する情報交換を継続し,その中では,需要者等に提示する具体的な値上げ率等が度々話題とされ,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げが必要な状況にあることが折に触れて確認されていたことなどが認められるというのであるから,これらの事情を総合すれば,タンタル4社は,タンタル電解コンデンサについて,高騰したタンタル資材の価格をタンタル電解コンデンサの販売価格に上乗せすることを主たる目的として,各社が同じような時期に販売価格の引上げを実施すること,各社が他社の値上げ活動に乗じて自らも販売価格を引き上げることに加えて,このような販売価格の引上げ活動に他社が協力すること(すなわち,タンタル4社のうちの1社が需要者等に安値を提示するなどしてタンタル電解コンデンサのシェアを奪う行為に出るといった販売価格の引上げを妨害する行為をしないこと)を認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思が遅くとも平成22年6月17日までに形成されており,タンタル4社相互の間には「意思の連絡」があったと認定するのが相当である。
イ 原告ニチコン及び原告松尾電機の主張について
(ア) 原告ニチコンは,タンタル電解コンデンサについて,当時は,他社と協調して販売価格の引上げを行う必要性が高いという状況にはなく,同社は,平成22年1月から5月にかけて,独自に販売価格の引上げの実施及びその具体的内容を決定し,その後の値上げ活動も他社と足並みを揃えて実施するというようなものではなかったなどとして,原告ニチコンと他社との間で本件タンタル合意が成立したとはいえないなどと主張をする。
しかしながら,前記1の認定事実によれば,原告ニチコンにおいて決定されたタンタル電解コンデンサに関する販売価格の引上げ実施の決定内容等は,同社の《L1》がNECトーキンの《Q1》に伝達しこれを同人がマーケット研究会で報告する(原告ニチコンの《L1》は,NECトーキンの《Q1》等に情報を提供すれば,それが原告ニチコン以外のタンタル4社間で共有されることは十分認識していたものと認められる。)などして,タンタル4社間で共有されていたこと,原告ニチコンの《L1》を始めとする担当者は,原告ニチコン以外の販売価格の引上げに関する情報を収集し,これを原告ニチコン内で共有していたこと,平成22年6月17日開催のマーケット研究会の後も,タンタル4社の営業担当者らは,タンタル電解コンデンサの需要者等に提示する具体的な値上げ率等も含む販売価格の引上げに関する情報交換をしていたことが認められるから,これらの事情によれば,原告ニチコンが,独自の判断で販売価格の引上げ実施やその具体的内容を決定したり,それに基づく値上げ活動を実施したりしていたとはいえないものというべきである。
したがって,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
(イ) 原告ニチコンは,被告は本件タンタル合意の内容を「タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨の合意」であると主張するが,少なくとも,当時,タンタル資材価格の異常な高騰によって製品の販売価格の引上げが不可避な状況にあり,各社がこれを実施することは自明であった本件においては,何らの具体性なく単に販売価格の引上げを行うというだけの極めて抽象的な内容を確認しただけでは,実質的に競争を制限する効果をもたらす「同内容又は同種の対価の引上げ」について歩調を揃えることを合意したとは認められず,「意思の連絡」に該当しないなどと主張し,原告松尾電機も,販売価格の引上げの対象を品種ごとに特定していないため,「意思の連絡」に該当しないとの趣旨の主張をする。
たしかに,被告が本件タンタル合意の内容として主張する「共同してタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨の合意」は,極めて抽象的であり,その文言のみを見る限り,直ちに「意思の連絡」に該当するといえるかについては,疑問がないわけではない。
しかしながら,タンタル4社は,タンタル電解コンデンサについて,高騰したタンタル資材の価格をタンタル電解コンデンサの販売価格に上乗せすることを主たる目的として,各社が同じような時期に販売価格の引上げを実施すること,各社が他社の値上げ活動に乗じて自らも販売価格を引き上げることに加え,このような販売価格の引上げ活動に他社が協力することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思が遅くとも平成22年6月17日までに形成されたと認められることは,前記認定・説示のとおりであり,さらに,前記1の認定事実によれば,タンタル4社は,その後も,本件タンタル合意に基づいて,具体的な販売価格の引上げの態様等に関する情報や,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げの終了時期に関する情報等を継続的に交換し,これに基づいて値上げ活動をしていたというべきであるから,本件タンタル合意は,成立後,このような情報交換及び値上げ活動をすることをも想定していたものというべきである。
そして,タンタル4社は,このような内容の合意をすれば,本件タンタル合意の時点で具体的な販売価格の引上げの時期,対象製品や値上げ幅等を合意しなくても,各社が需要者等に販売価格の引上げを申し入れて交渉する際,自らが突出した販売価格を提示したり,他社が当該需要者等に対して低い販売価格を提示して価格交渉を妨害したりすることはないと信頼することができ,競争事業者に取引を奪われるおそれを減少させることができるから,このような合意は,市場の競争制限効果をもたらす合意であるということができ,「意思の連絡」に該当するというべきである。
したがって,本件タンタル合意が「意思の連絡」に該当しないとする原告ニチコン及び原告松尾電機の上記主張は,採用することができない。
⑵ 争点⑵イ(本件タンタル合意が対象とした製品の範囲)について
ア 認定事実
前記前提事実,前記認定事実,証拠(甲C6,12~16,23,24,38,証人《M5》)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) タンタル電解コンデンサには,電解質(陰極)として電解液を用いる湿式タンタル電解コンデンサと陰極として固体である二酸化マンガンを用いるマンガン品とがあり,マンガン品には,製品類型として,①リード線形のハーメチック品(「上記①の製品類型」といい,他の製品類型についても同様に呼称する。),②リード線形の樹脂ディップ品,③ヒューズ内蔵型でチップ形の樹脂モールド品,④ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品,⑤リード線形の樹脂モールド品,⑥チップ形の簡易樹脂外装品がある(定義上はタンタル電解コンデンサから除かれているが,陽極にタンタルを使用し,タンタル粉体等の焼結体表面に形成させた酸化被膜を誘電体として用いるコンデンサのうち,陰極にポリピロール等の導電性ポリマーを用いるもの(導電性タンタル電解コンデンサ。ポリマー品とも呼ばれる。)がある。)。
(イ) 本件タンタル合意の成立時(平成22年6月17日)からその実行期間の終期(後記のとおり平成23年10月18日)までの間において,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(上記④の製品類型)については,タンタル4社の全てが製造していたが,リード線形のハーメチック品(上記①の製品類型)及びリード線形の樹脂ディップ品(上記②の製品類型)については,タンタル4社の中では原告松尾電機及びNECトーキンのみが製造販売し,ヒューズ内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(上記③の製品類型)については,タンタル4社の中では原告松尾電機及びホリストンのみが製造販売し,チップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)については,タンタル4社の中では原告ニチコンのみが製造販売し,リード線形の樹脂モールド品(上記⑤の製品類型)及び湿式タンタル電解コンデンサについては,タンタル4社の中では原告松尾電機のみが製造販売していた。
(ウ) タンタル4社の中では原告松尾電機のみが製造販売していた湿式タンタル電解コンデンサ及びリード線形の樹脂モールド品(上記⑤の製品類型)や,原告ニチコンのみが製造販売していたチップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)についても,他のマンガン品と同様,本件タンタル合意の後,上記各社による値上げ活動が行われた。
(エ) 各社の営業担当者は,マーケット研究会,JEITA等の会合や各個別の情報交換の場において,「ポリマー品」や「マンガン品」を一括りにし,そうした製品群に係る販売価格等について情報交換することが多かった。
他方,各社の営業担当者が,明示的に湿式タンタル電解コンデンサを含めて情報交換することはなかった。
(オ) 原告松尾電機が平成22年当時製造販売していた湿式タンタル電解コンデンサは,《AP》から海外品の国産化をするために原告松尾電機が要請を受けて開発し,昭和57年に《AP》及び一般向けに販売を開始した特殊な性能を持つ製品であるが,その製造のためには特別な材料や設備が必要であり,単価も1個1万円程度と高額であったため,平成22年度の需要者は■■■■■販売量も■■■■■■■であった。
本件タンタル課徴金納付命令(原告松尾電機)における課徴金額の算定の基礎となる■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■であった。
(カ) リード線形のマンガン品(上記①,②,⑤の各製品類型)は,昭和36年以降,湿式タンタル電解コンデンサに代わってタンタル電解コンデンサの主力商品となったが,昭和50年代に製造工程の自動化に適したチップ形のマンガン品の製造が開始されてからは,需要が激減した。
イ 本件タンタル合意が対象とした製品の範囲に湿式タンタル電解コンデンサが含まれるかについて
上記アの認定事実によれば,湿式タンタル電解コンデンサは,本件タンタル合意が成立した平成22年当時,タンタル4社の中では原告松尾電機しか製造販売していなかったこと,湿式タンタル電解コンデンサは,特殊な性能を持つ高額な製品であり,生産個数も少なく,需要者も限定的であったこと,各社の営業担当者が明示的に湿式タンタル電解コンデンサを含めて情報交換することはなかったことが認められるから,そもそも湿式タンタル電解コンデンサについては,その販売に当たっての競争性が低い状態にあったのみならず,タンタル4社のうち原告松尾電機を除く3社は,原告松尾電機からその販売価格に関する情報を取得する必要性が乏しい状況にあったものである。加えて,証拠(甲C28,29,乙C3)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件各命令に先立つ意見聴取手続において,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を回答したものの,それ以外に,本件タンタル合意が対象とした製品の範囲にタンタル電解コンデンサが含まれることを示す主張・立証を補充したことは窺われない。
したがって,湿式タンタル電解コンデンサとマンガン品がいずれもタンタル資材を原料とするものであり,タンタル資材の調達価格の高騰を理由として本件タンタル合意がされた経緯や,原告松尾電機が,他のタンタル電解コンデンサと同様,湿式タンタル電解コンデンサについても値上げ活動を行っていたことなど,前記1及びアの認定事実において認定した事実を考慮しても,湿式タンタル電解コンデンサについては,マンガン品と異なり,タンタル4社の間に,その一部が販売価格の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思があったと認めるにはちゅうちょを覚えざるを得ず,他方,原告松尾電機における販売価格の引上げを他社が認識して認容することにより原告松尾電機の事業活動が拘束されていたといえるかも疑問である。
したがって,湿式タンタル電解コンデンサは本件タンタル合意が対象とした製品の範囲に含まれるということはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
ウ 本件タンタル合意が対象とした製品の範囲にマンガン品が含まれるかについて
前記アの認定事実及び弁論の全趣旨によれば,タンタル4社の営業担当者は,マーケット研究会,JEITA等の会合や各個別の情報交換の場において,「ポリマー品」や「マンガン品」を一括りにして情報交換することが多かったことが認められる上,上記①から⑥までの製品類型のうち特定のもののみを一貫して情報交換の対象としたり,一貫して情報交換の対象から外したりしたことを認めるに足りる証拠はない。また,前記アの認定事実によれば,タンタル4社の中では原告松尾電機のみが製造販売していた湿式タンタル電解コンデンサ及びリード線形の樹脂モールド品(上記⑤の製品類型)や,原告ニチコンのみが製造販売していたチップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)についても,他のマンガン品と同様,本件タンタル合意の後,上記各社による値上げ活動が行われたことが認められる。
これらの事実からすれば,タンタル4社は,マンガン品全体について,相互に販売価格の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思を有していたというべきであるから,タンタル4社が本件タンタル合意において対象とした製品の範囲は,タンタル電解コンデンサのうちのマンガン品全体であったと認定するのが相当である。
エ 原告ニチコンの主張について
(ア) 原告ニチコンは,原告ニチコンが製造販売するチップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型。樹脂外装タイプのタンタル電解コンデンサ)は,他のタンタル電解コンデンサでは代替が不可能な特殊な製品であり,かつ,市場には同種の製品を取り扱う競合他社が存在せず,他社との間で競合が生じ得ない製品であるため,本件タンタル合意が対象とした製品の範囲外であると主張する。
(イ) 前記アの認定事実によれば,たしかに,本件タンタル合意の成立時,チップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)については原告ニチコンのみが製造販売していたことが認められるが,他方,タンタル4社の営業担当者が会合や個別の情報交換の場において,「ポリマー品」や「マンガン品」を一括りにして情報交換することが多かったこと,上記①から⑥までの製品類型のうち特定のもののみを一貫して情報交換の対象としたり,一貫して情報交換の対象から外したりしたことを認めるに足りる証拠はないことも,前記認定・説示のとおりである。
また,証拠(乙B12,13)及び弁論の全趣旨によれば,原告ニチコンは,本件タンタル合意の成立時又はその直後である平成22年6月頃から同年8月頃にかけて,チップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)についても,需要者に対して販売価格の引上げを申し入れていることが認められ,原告ニチコンが,値上げ活動に当たり,チップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)と他の種類のタンタル電解コンデンサとで異なる取扱いをしていなかったことが窺われる。そして,証拠(乙B12,13)によれば,需要者は,製品を設計する段階では,タンタル電解コンデンサの基本的な機能以外に重視する機能等を考慮し,原告ニチコンが販売するチップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)とそれ以外のタンタル電解コンデンサを比較検討して採用するコンデンサを決定すること,需要者が,原告ニチコンが製造販売するチップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)を使用している製品を設計変更する場合,設計変更後の後継製品には,チップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)以外のタンタル電解コンデンサを採用することがあることが認められ,これらの事情によれば,原告ニチコンが製造販売するチップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)とそれ以外の製品類型のタンタル電解コンデンサとの間には,代替性がなく商品としての競合関係がなかったとまで断じることはできない。
(ウ) そうすると,タンタル4社には,あえて原告ニチコンが製造販売するチップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)のタンタル電解コンデンサを本件タンタル合意の対象から除く意図があったとは言い難いから,チップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)が,本件タンタル合意が対象とした製品の範囲外であるとする原告ニチコンの上記主張は,採用することができない。
オ 原告松尾電機の主張について
(ア) 原告松尾電機は,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(上記④の製品類型。チップ形マンガン品)以外のマンガン品については,本件タンタル合意が対象とした製品の範囲に含まれないなどと主張する。
(イ) タンタル4社の営業担当者が会合や個別の情報交換の場において,「ポリマー品」や「マンガン品」を一括りにして情報交換することが多かったこと,上記①から⑥までの製品類型のうち特定のもののみを一貫して情報交換の対象としたり,一貫して情報交換の対象から外したりしたことを認めるに足りる証拠はないことは,前記認定・説示のとおりである。加えて,前記1の認定事実によれば,タンタル4社は,いずれもタンタル資材の高騰等を理由として各社が取り扱う全製品を対象として販売価格の引上げを行ったことが認められ,特定の品種について,他社と競合していないことを理由として,他の品種と異なる値上げ活動を行っていたことは窺えない。
さらに,前記アの認定事実によれば,たしかに,マンガン品のうち,リード線形の樹脂モールド品(上記⑤の製品類型)は,タンタル4社の中では原告松尾電機のみが製造販売し,リード線形のハーメチック品(上記①の製品類型),リード線形の樹脂ディップ品(上記②の製品類型)及びヒューズ内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(上記③の製品類型)は同じく原告松尾電機及びタンタル4社中の1社のみがそれぞれ製造販売していたことが認められるが,他方,前記エ(イ)で認定・説示したところに照らせば,需要者は,製品を設計する段階では,タンタル電解コンデンサの基本的な機能以外に重視する機能等を考慮して,いずれのタンタル電解コンデンサを採用するのかを決定することも認められる上,リード線形の樹脂モールド品(上記⑤の製品類型)について,その性能,形状及び価格等に照らし,他の種類のリード線形のマンガン品との間に代替性がなく競合関係になかったことを認めるに足りる証拠はない。
これらの事情によれば,本件タンタル合意が対象とした製品の範囲は,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(上記④の製品類型)に限られていたとはいえないものというべきである。
(ウ) よって,タンタル4社には,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(上記④の製品類型)以外のマンガン品(上記①,②,③,⑤の各製品類型)についても,本件タンタル合意の対象とする意図があったというべきであるから,これらの製品類型については本件タンタル合意が対象とした製品の範囲に含まれないとする原告松尾電機の上記主張は,採用することができない。
カ 小括
以上によれば,湿式タンタル電解コンデンサ(タンタル電解コンデンサのうち,電解質(陰極)として電解液を用いるもの)が本件タンタル合意の対象製品の範囲に含まれるということはできないが,タンタル電解コンデンサのうちのマンガン品全体は,本件タンタル合意の対象製品の範囲に含まれるものというべきである。
そして,前記前提事実及び前記アの認定事実によれば,本件タンタル課徴金納付命令(原告松尾電機)において課徴金額の算定の基礎とされた売上額の合計は■■■■■■■■■■■■■■(①)であること,そのうち湿式タンタル電解コンデンサの売上額は■■■■■■■■■■(②)であったことが認められるから,本件タンタル課徴金納付命令(原告松尾電機)のうち,①から②を控除した売上額合計■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を乗じた金額(1万円未満切捨て)である4億2414万円を超えて納付を命じた部分は,理由がないことになる。
⑶ 争点⑵ウ(競争が実質的に制限される「一定の取引分野」の範囲)について
ア 「一定の取引分野」の意義等
独禁法2条6項における「一定の取引分野における競争の実質的制限」に該当するというためには,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような価格カルテルの場合には,その当事者である事業者らがその意思で,当該市場における価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうものと解される(最高裁平成22年(行ヒ)第278号同24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁参照)。
このうち「一定の取引分野」とは,そこにおける競争が共同行為によって実質的に制限されているか否かを判断するために画定されるものであるが,価格カルテル等の不当な取引制限における共同行為は,特定の取引分野における競争の実質的制限をもたらすことを目的及び内容としていることや,行政処分の対象として必要な範囲で市場を画定するという観点からは,共同行為の対象外の商品役務との代替性や対象である商品役務の相互の代替性等について厳密な検証を行う必要性が乏しいことからすれば,通常の場合には,その共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して,一定の取引分野を画定すれば足りるものというべきである。
イ 本件についての検討
(ア) 前記認定・説示のとおり,本件タンタル合意は,タンタル電解コンデンサのうちマンガン品全体を対象として成立したものであることに加え,前記前提事実によれば,タンタル電解コンデンサの日本国内の販売分野におけるタンタル4社の市場シェアは,平成22年頃,販売金額ベースで9割を超えるものであったことが認められ,マンガン品に限ってもほぼ同様であったと考えられることからすると,タンタル4社により,その意思で,日本国内におけるタンタル電解コンデンサのうちマンガン品全体の取引分野における販売価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされていたというべきである。
そうすると,本件タンタル合意により,タンタル電解コンデンサのうちマンガン品全体の取引分野における競争が実質的に制限されたと認定するのが相当である。
(イ) これに対し,原告松尾電機は,①ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(チップ形マンガン品)以外のタンタル電解コンデンサについては,タンタル電解コンデンサ製造販売業者間において競争状況にはなかった,②導電性タンタル電解コンデンサ(ポリマー品)を含むタンタル電解コンデンサ全体をみた場合,導電性タンタル電解コンデンサ(ポリマー品)を除外した「一定の取引分野」を画定することはできないなどとして,タンタル電解コンデンサ全体について実質的に競争が制限されたとする被告の認定は誤りであるなどと主張する。
しかしながら,①ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(チップ形マンガン品)以外のマンガン品についても,タンタル電解コンデンサの製造販売業者間で競争状況がなかったとまではいえないことは,前記認定・説示のとおりであり,②被告が導電性タンタル電解コンデンサ(ポリマー品)を本件タンタル合意の対象から除外して本件タンタル合意に関する各命令をしたことが不合理とはいえないことは,後記認定・説示のとおりであるから,原告松尾電機の上記主張はいずれも採用することができない。
⑷ 争点⑵エ(実行期間)について
ア 実行期間の始期
(ア) 証拠(乙B6)によれば,原告ニチコンは,《R》に対し,原告ニチコンの《L1》名義の平成22年6月22日付け「タンタル電解コンデンサの価格是正に係るお願い」と題する文書を送付し,同月1日納入分から適用することとして,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れたことが認められる。このように,原告ニチコンは,本件タンタル合意が成立した後である同月22日付け文書をもって需要者に対し,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れたのであるから,同月22日以降,違反行為の実行としての事業活動を行ったものといえる。
したがって,本件タンタル合意の実行期間の始期は平成22年6月22日である。
(イ) これに対し,原告ニチコンは,《R》に対してタンタル電解コンデンサの販売価格引上げの申入れを行ったのは,早くとも平成22年6月25日であるから,実行期間の始期は同日であると主張し,原告ニチコンの《L1》の供述調書(乙B6)に添付された進捗管理表(同調書の資料1の3枚目)には,《R》に対する「文書提出日」が平成22年6月25日である旨の記載がある。しかし,原告ニチコンの《L1》の供述調書中には,当時の担当者に確認したところ,《R》に販売価格の引上げの申入れを行ったのは上記文書の作成日付のとおり同月22日であり,それに対する回答を受領する予定日が同月25日であったため,進捗管理表には同月25日と記載したとの供述記載があり(乙B6・7頁から8頁まで),当該記載の信用性を否定する事情はないから,《R》に対する販売価格の引上げの申入日を同月25日であると認定することはできない。
したがって,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
イ 実行期間の終期
(ア) 前記1の認定事実によれば,NECトーキンは,平成23年10月頃,同社のタンタル電解コンデンサの売上の95パーセント近くの製品を生産していたタイ王国所在の子会社の工場が洪水の被害に遭い,同月19日に同工場内への浸水が始まり,同月20日には同工場の生産ラインが完全に水没したため,タンタル電解コンデンサの生産が不能の状態となったこと,タンタル4社は,同月19日以降,タンタル電解コンデンサについて,相互に販売価格の引上げに係る需要者等との交渉状況を伝え合ったり,需要者等に提示する見積価格を調整するなどの行為も行われていないことが認められる。そうすると,同月19日,NECトーキンの子会社工場への浸水被害により,同工場の製品生産は将来に向かって継続的に停止し,同日以降,タンタル4社の間で,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げに関する情報交換はされていないというのであるから,同日をもって,本件タンタル合意による拘束が事実上消滅したと認められる特段の事情が生じたものといえる。
(イ) 原告ニチコンは,平成23年10月14日付けのプレスリリースにより,NECトーキンのタイ王国所在の工場の操業再開の見通しが立たなくなったことが対外的に明らかになったなどとして,実行期間の終期は同日であると主張する。
しかしながら,前記1の認定事実によれば,NECトーキンは,同社のホームページにおいて,平成23年10月14日付けで,上記工場が所在する工業団地の運営会社から避難勧告は出ていないものの,周辺の水位が上昇しているため,従業員の安全を考慮し,同月13日午後7時をもって自主避難を行ったが,工場への浸水はないと公表し,同月17日付けで,同日,上記工業団地の防水堤が決壊し,同工業団地への浸水が始まったが,工場は周囲を土嚢で囲っており,現時点では工場敷地内への浸水は見られないと公表していることが認められ,これらの公表内容を前提とすれば,同月14日の時点では同工場の操業を再開させることができる余地があったというべきである。
そして,他に,同日時点で同工場の操業再開の見通しが立たなくなったことを示す証拠はないから,同日以降,当該合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情が生じたとまではいえないというほかはなく,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
(ウ) 以上によれば,本件タンタル合意の実行期間の終期は,平成23年10月18日であるというべきである。
⑸ 争点⑵オ(「当該商品」(独禁法7条の2第1項)の範囲)について
湿式タンタル電解コンデンサ(タンタル電解コンデンサのうち,電解質(陰極)として電解液を用いるもの)が本件タンタル合意の対象製品の範囲に含まれるということはできないが,タンタル電解コンデンサのうちのマンガン品全体は,本件タンタル合意の対象製品の範囲に含まれるものというべきであることは,前記認定・説示のとおりであるから,タンタル電解コンデンサのうち湿式タンタル電解コンデンサを除いたもの(マンガン品全体)が,違反行為の対象製品の範ちゅうに属する製品であって,違反行為である相互拘束を受けたものといえ,「当該商品」に該当するものと解される。
これに対し,原告ニチコンは,チップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型。樹脂外装タイプのタンタル電解コンデンサ)は「当該商品」の範囲から除外されるべきであると主張し,原告松尾電機はヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(上記③の製品類型。チップ形マンガン品。)のみが「当該商品」に該当すると主張するが,いずれの主張も採用することができないことは,前記2⑵(争点⑵イ(本件タンタル合意が対象とした製品の範囲)について)において述べたところと同様であり,他に,チップ形の簡易樹脂外装品や,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外のタンタル電解コンデンサが,「当該商品」から除外されていることを示す事情を認めるに足りる証拠はない。
⑹ 争点⑵カ(本件タンタル合意に関する各命令は平等原則に違反するか。)について
ア 原告松尾電機は,導電性タンタル電解コンデンサについて不当な取引制限を認めるべきことが明らかになったにもかかわらず,導電性タンタル電解コンデンサには措置を講じない一方で,導電性タンタル電解コンデンサよりもヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品との代替性が劣り,かつ取引量が少なく社会的影響も小さい,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外のタンタル電解コンデンサについて,被告が処分権限を行使することは,平等原則に違反するなどと主張する。
イ この点,証拠(乙C5,6)及び弁論の全趣旨によれば,日本国内における導電性タンタル電解コンデンサ(原告松尾電機が主張するポリマー品)の製造販売業者の平成22年度におけるシェアは,《F》が65.1パーセント,NECトーキンが25.9パーセント,原告ニチコンが4.2パーセント,原告松尾電機が2.7パーセントであること,日本国内で導電性タンタル電解コンデンサの最大シェアを誇る《F》は,平成22年7月23日開催の社内会議において,導電性タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを行うのは海外のみであって,日本国内では考えていない旨を確認したことが認められる。この事実に,《F》が,本件タンタル合意が成立した後,タンタル4社と情報交換を行うなどして,日本国内の需要者等に対して導電性タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げに向けた値上げ活動をしたことを窺わせる証拠はないことをも併せ考慮すると,本件において,導電性タンタル電解コンデンサに対して不当な取引制限があった事実を認定すべきことが明らかであるとまではいえないというべきである。
ウ したがって,導電性タンタル電解コンデンサ(ポリマー品)に対して不当な取引制限があった事実を認定すべきことが明らかであることを前提として平等原則違反をいう原告松尾電機の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。
⑺ 争点⑵キ(本件タンタル合意に関する各命令に係る手続に瑕疵があるか。)について
原告ニチコンは,本件タンタル合意に関する命令は,本件タンタル合意の内容につき,具体的にいかなる行為を共同して行うことを合意したと認定するのかを明らかにしておらず,全く特定されずにされた違法な処分であり,原告ニチコンは,このように特定を欠く本件タンタル合意を前提とした処分通知しか受けておらず,適切に防御権を行使できなかったから,本件タンタル合意に関する各命令に係る意見聴取手続には,防御や反論の機会が実質的に保障されていないという手続的瑕疵が存在すると主張する。
しかしながら,証拠(甲B3)及び弁論の全趣旨によれば,本件タンタル課徴金納付命令(原告ニチコン)には,本件タンタル合意の当事者,合意の成立及び消滅時期,合意の成立を根拠付ける事実の概要等が記載されていたこと,本件タンタル課徴金納付命令(原告ニチコン)には課徴金額の算出過程が記載されていたことが認められ,これにより,処分の内容や処分の対象となった取引の範囲は相当程度明らかであったといえるから,本件タンタル合意は,少なくとも原告ニチコンが防御や反論をすることが可能な程度には,内容が特定されていたといえる。
したがって,本件タンタル課徴金納付命令(原告ニチコン)に係る意見聴取手続において,被審人である原告ニチコンの防御や反論の機会が実質的に保障されていないという手続的瑕疵が存在するとはいえないから,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
第5 結論
以上の次第で,原告松尾電機の請求は主文第1項及び第2項の限度で理由があるから認容し,その余の原告松尾電機の請求並びに原告ルビコン及び原告ニチコンの請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第8部
裁判官 下馬場 直 志
裁判官 君島直之
裁判長裁判官大竹昭彦は差支えのため署名押印することができない。
裁判官 下馬場 直 志
別紙 当事者目録
長野県伊奈市西箕輪1938番地1
第1事件原告 ルビコン株式会社
(以下「原告ルビコン」という。)
同代表者代表取締役 《N7》
同訴訟代理人弁護士 長谷川 洋 二
同訴訟復代理人弁護士 中西康晴
京都市中京九烏丸通御池上る二条殿町551番地
第2事件原告 ニチコン株式会社
(以下「原告ニチコン」という。)
同代表者代表取締役 《L2》
同訴訟代理人弁護士 碩 省三
同 日詰栄治
同 茂野祥子
同 寺井昭仁
同 村上 拓
同 武井祐生
大阪府豊中市千成町三丁目5番3号
第3事件原告 松尾電機株式会社
(以下「原告松尾電機」という。)
同代表者代表取締役 《M6》
同訴訟代理人弁護士 山口孝司
同 松岡伸晃
同 大石賀美
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 大胡 勝
同 三好一生
同 平野朝子
同 平塚理慧
同 髙橋 浩
同 八子洋一
同 五十嵐 俊 之
同 佐久間 友紀子
同 長谷川 和 己
同 石田未来
同 川端龍徳
同 石塚杏奈
同 川 田 美沙樹
同 近藤海斗
同 山中康平
同 佐久間 一 乃
注釈 《 》及び■■■部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。
平成31年3月28日判決言渡
平成28年(行ウ)第443号 排除措置命令等取消請求事件(第1事件)
平成28年(行ウ)第447号 排除措置命令等取消請求事件(第2事件)
平成28年(行ウ)第448号 排除措置命令等取消請求事件(第3事件)
口頭弁論終結日 平成30年12月11日
判決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主文
1 被告が原告松尾電機に対し平成28年3月29日付けでした排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第6号)のうち,同命令主文第1項⑴において「タンタル電解コンデンサ」と略称する製品のうち電解質(陰極)として電解液を用いるもの(湿式タンタル電解コンデンサ)について排除措置を命じた部分を取り消す。
2 被告が原告松尾電機に対し平成28年3月29日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会平成28年(納)第22号)のうち,4億2414万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
3 原告ルビコン及び原告ニチコンの請求並びに原告松尾電機のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告ルビコンと被告との間に生じた費用については原告ルビコンの負担とし,原告ニチコンと被告との間に生じた費用については原告ニチコンの負担とし,原告松尾電機と被告との間に生じた費用については,これを25分し,その1を被告の負担とし,その余を原告松尾電機の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
⑴ 被告が原告ルビコンに対し平成28年3月29日付けでした排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第5号)を取り消す。
⑵ 被告が原告ルビコンに対し平成28年3月29日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会平成28年(納)第21号)を取り消す。
2 第2事件
⑴ 被告が原告ニチコンに対し平成28年3月29日付けでした排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第5号)を取り消す。
⑵ 被告が原告ニチコンに対し平成28年3月29日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会平成28年(納)第19号)を取り消す。
⑶ 被告が原告ニチコンに対し平成28年3月29日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会平成28年(納)第23号)を取り消す。
3 第3事件
⑴ 被告が原告松尾電機に対し平成28年3月29日付けでした排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第6号)の主文第1項⑴において「タンタル電解コンデンサ」と略称する製品のうち,陰極に二酸化マンガンを利用し,リード線端子を持たない,表面実装用固定タンタル固体(MnO2)電解コンデンサ(ヒューズ付きの複合製品を除く。)を除く製品について認定した部分を取り消す。
⑵ 被告が原告松尾電機に対し平成28年3月29日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会平成28年(納)第22号)のうち,3億3215万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
第2 事案の概要
1 被告は,原告ルビコン,原告ニチコン及び日本ケミコン株式会社(以下「日本ケミコン」といい,原告ルビコン及び原告ニチコンと併せた3社を「アルミ3社」という。)が,平成22年2月18日までに,共同して,アルミニウム箔表面に形成する酸化皮膜を誘電体とするコンデンサのうち陰極に導電性ポリマーを用いるものを除くもの(以下,特記しない限り,この定義に当てはまるコンデンサを「アルミ電解コンデンサ」という。)の販売価格を引き上げる旨の合意(以下「本件アルミ合意」という。)をし,日立エーアイシー株式会社(以下,同社とアルミ3社を併せて「アルミ4社」という。)が同年3月2日までに本件アルミ合意に参加し,公共の利益に反して,日本国内におけるアルミ電解コンデンサの販売分野の競争を実質的に制限したものであり,この行為が,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)2条6項の不当な取引制限に該当し,同法3条に違反することを理由として,平成28年3月29日,原告ルビコン,原告ニチコン及び日本ケミコンに対し,排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第5号。以下「本件アルミ排除措置命令」という。)を行うとともに,上記行為が同法7条の2第1項1号の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当することを理由として,原告ルビコン及び原告ニチコンに対し,課徴金納付命令(原告ルビコンにつき公正取引委員会平成28年(納)第21号(以下「本件アルミ課徴金納付命令(原告ルビコン)」という。),原告ニチコンにつき公正取引委員会平成28年(納)第19号(以下「本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)」という。))を行った。
また,被告は,原告ニチコン,原告松尾電機,NECトーキン株式会社(以下「NECトーキン」という。)及びホリストンポリテック株式会社(以下「ホリストン」といい,原告ニチコン,原告松尾電機及びNECトーキンと併せた4社を「タンタル4社」という。)が,平成22年6月17日までに,共同して,タンタル粉体の焼結体表面に形成する酸化皮膜を誘電体とするコンデンサのうち陰極に導電性ポリマーを用いるものを除くもの(以下,特記しない限り,この定義に当てはまるコンデンサを「タンタル電解コンデンサ」という。)の販売価格を引き上げる旨の合意(以下「本件タンタル合意」という。)をし,公共の利益に反して,日本国内におけるタンタル電解コンデンサの販売分野の競争を実質的に制限したものであり,この行為が,独禁法2条6項の不当な取引制限に該当し,同法3条に違反することを理由として,平成28年3月29日,原告松尾電機,NECトーキン及びホリストンに対し,排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第6号。以下「本件タンタル排除措置命令」という。)を行うとともに,上記行為が同法7条の2第1項1号の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当することを理由として,原告ニチコン及び原告松尾電機に対し,課徴金納付命令(原告ニチコンにつき公正取引委員会平成28年(納)第23号(以下「本件タンタル課徴金納付命令(原告ニチコン)」という。),原告松尾電機につき公正取引委員会平成28年(納)第22号(以下「本件タンタル課徴金納付命令(原告松尾電機)」という。))を行った。
本件は,原告らが,上記各命令(以下「本件各命令」という。)はその処分要件を欠く違法なものであるなどと主張して,原告ルビコンが本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(原告ルビコン)の取消しを,原告ニチコンが本件アルミ排除措置命令,本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)及び本件タンタル課徴金納付命令(原告ニチコン)の取消しを,原告松尾電機が本件タンタル排除措置命令及び本件タンタル課徴金納付命令(原告松尾電機)の各一部の取消しを,それぞれ求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠(特記しない限り,枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
⑴ 当事者等
ア アルミ4社
本件アルミ合意を行ったとされるのは以下の4社であり,その概要は次のとおりである。
(ア) 原告ルビコン
原告ルビコンは,長野県伊那市に本店を置き,アルミ電解コンデンサの製造販売事業等を営む株式会社である。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(イ) 原告ニチコン
原告ニチコンは,京都市中京区に本店を置き,アルミ電解コンデンサの製造販売事業等を営む株式会社である。原告ニチコンは,タンタル電解コンデンサの製造販売事業も営んでいたが,平成25年2月6日,同事業を別法人に譲渡したため,本件各命令が行われた平成28年3月29日当時,同事業を営んでいなかった。(乙共1)
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(ウ) 日本ケミコン
日本ケミコンは,東京都品川区に本店を置き,アルミ電解コンデンサの製造販売事業等を営む株式会社である。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(エ) 日立エーアイシー株式会社
アルミ電解コンデンサ及びタンタル電解コンデンサの製造販売事業等を営んでいた日立エーアイシー株式会社は,平成21年10月1日,会社分割によりアルミ電解コンデンサの製造販売事業を新町コンデンサ株式会社に承継させるとともに自らの商号を日立化成エレクトロニクス株式会社(以下,会社分割後の同社を「日立化成」という。)に変更し,新町コンデンサ株式会社はその商号を日立エーアイシー株式会社に変更した(以下,商号変更後の同社及び会社分割前の上記会社を「日立エーアイシー」という。)。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
イ タンタル4社
本件タンタル合意を行ったとされるのは,原告ニチコン及び以下の3社であり,その3社の概要は次のとおりである。
(ア) 原告松尾電機
原告松尾電機は,大阪府豊中市に本店を置き,タンタル電解コンデンサの製造販売事業等を営んでいる株式会社である。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(イ) NECトーキン
NECトーキンは,仙台市太白区に本店を置き,タンタル電解コンデンサの製造販売事業等を営んでいた株式会社であるが,平成24年5月頃以降,タンタル電解コンデンサについては販売事業のみを行っている。NECトーキンは,平成23年10月頃まで,同社が販売するタンタル電解コンデンサのほぼ全てをタイ王国所在の同社の子会社が製造していた。(乙共7,乙イ61,62)
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(ウ) ホリストン
日立エーアイシーは,前記ア(エ)記載のとおり,平成21年10月1日,会社分割によりアルミ電解コンデンサの製造販売事業を新町コンデンサ株式会社に承継させるとともに自らの商号を日立化成に変更した後も,タンタル電解コンデンサの製造販売事業を継続したが,平成22年3月31日,同事業をホリストンに譲渡した。ホリストンは,福島県田村郡に本店を置き,同事業の譲受け以降,タンタル電解コンデンサの製造販売事業等を営んでいるが,平成26年11月1日,商号をビシェイポリテック株式会社に変更した(以下,商号変更の前後を問わずホリストンという。)。(乙共9,60,乙イ68)
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⑵ コンデンサの製品概要
ア コンデンサ全般
コンデンサは,誘電体を挟んで対向させた電極(陽極及び陰極)に電圧をかけることによって電荷を蓄積させ,それによって電圧の変化を吸収して電圧の安定化を図るなどの機能を有している電子部品の一種であり,電子機器や産業機械等を製造する際に部品として組み込まれている。コンデンサは,使用される誘電体によって種類が大別されるところ,電解コンデンサは,陽極となるアルミニウム,タンタル,ニオブ等の金属を電解酸化することで,その表面に皮膜(酸化皮膜)を形成させ(陽極酸化),これを誘電体として用いるものである。(乙共66)
イ アルミ電解コンデンサ
アルミ電解コンデンサは,陽極にアルミニウム箔を用い,アルミニウム箔表面に形成させた酸化皮膜を誘電体とするコンデンサであり,電解質(陰極)として電解液を用いるものが一般的である。定義上はアルミ電解コンデンサから除かれているが,アルミニウム箔表面に形成する酸化皮膜を誘電体とするコンデンサであって,陰極にポリピロール等の導電性ポリマーを用いるもの(以下「導電性アルミ電解コンデンサ」という。)もある。
アルミ電解コンデンサは,基板等への実装方式により,主として,①電極から引き出されたリード線端子を通じて実装するもの(「リード線形」又は「04形」などと呼ばれる。以下「リード線形」という。),②本体を基板等に直接はんだ付けして実装するもの(「チップ形」又は「表面実装形」などと呼ばれる。以下「チップ形」という。),③爪形の端子をはめ込んで実装するもの(「基板自立形」又は「スナップイン」などと呼ばれる。以下「スナップイン」という。),④ネジ状の端子を締め付けて実装するもの(以下「ネジ端子形」という。)の4種があり,①及び②を小型,③及び④を大型と称することがある。
(乙共53,66,乙ア27)
ウ タンタル電解コンデンサ
タンタル電解コンデンサは,陽極にタンタルを使用し,タンタル粉体等の焼結体表面に形成させた酸化皮膜を誘電体として用いるコンデンサであり,同一の大きさであればアルミ電解コンデンサよりも大きな静電容量を得られ,小型化が容易であるといった特性を有する一方,希少金属であるタンタルを原材料としているため,比較的単価が高く,一般的に大型化には向かないとされている。
タンタル電解コンデンサには,①電解質(陰極)として電解液を用いるもの(以下「湿式タンタル電解コンデンサ」という。),②陰極として固体である二酸化マンガンを用いるもの(以下「マンガン品」という。)があり,定義上はタンタル電解コンデンサから除かれているが,タンタル粉体等の焼結体表面に形成させた酸化被膜を誘電体として用いるコンデンサのうち,陰極にポリピロール等の導電性ポリマーを用いるもの(以下「導電性タンタル電解コンデンサ」という。)もある。
タンタル電解コンデンサは,かつては湿式タンタル電解コンデンサのみであったが,昭和30年頃にマンガン品が発明されて以降,マンガン品がタンタル電解コンデンサの主流となり,平成22年6月時点で,タンタル4社の中で湿式タンタル電解コンデンサを製造しているのは原告松尾電機のみであった。
マンガン品は,その外装により,①素子部分を金属ケースにハーメチック(密閉)封入した外装を有するもの(以下「ハーメチック品」という。),②樹脂溶液に素子を浸し,これを乾燥させて外装を形成するもの(以下「樹脂ディップ品」という。),③型に入れ固めた樹脂を外装とするもの(以下「樹脂モールド品」という。),④素子表面に樹脂の塗装によるコーティングを施して外装とするもの(以下「簡易樹脂外装品」という。)に大別される。
タンタル電解コンデンサも,アルミ電解コンデンサと同様,基板等への実装方式により,リード線形とチップ形に区分されるところ,一部の例外を除き,湿式タンタル電解コンデンサはリード線形,マンガン品のうち,①ハーメチック品及び②樹脂ディップ品はリード線形,③樹脂モールド品はチップ形又はリード線形,④簡易樹脂外装品はチップ形である。また,チップ形の樹脂モールド品には,ヒューズ内蔵型のものとヒューズ非内蔵型のものがある。
(乙共66,乙イ51,乙B7)
⑶ アルミ電解コンデンサ及びタンタル電解コンデンサの取引概要
ア 需要者等
アルミ電解コンデンサは,日本国内においては,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■等の電子機器等製造業者に対して売却・納品され,これらの業者が製造する製品等に部品として組み込まれていた。
タンタル電解コンデンサは,日本国内においては,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■等の電子機器等製造業者に対して売却・納品され,これらの業者が製造する製品等に部品として組み込まれていた。
コンデンサ製造販売業者は,これらの売却・納品先である需要者,又は商社若しくは販売代理店等(以下「需要者等」という。)に対し,自社の製品を販売していた。
(乙共48,53,55,乙イ52,72)
イ コンデンサの製造販売業者と需要者等との関係
需要者は,新たにコンデンサを調達する場合,コンデンサ製造販売業者に対して新製品等に必要なコンデンサの仕様を伝達し,サンプル品を納入させた上で,当該サンプル品が自らの求める機能等を具備しているか否かを検討する(需要者は,かかる機能等を具備していると判断することを「認定」するなどと呼んでいた。)。その後,需要者は,複数のコンデンサ製造販売業者から「認定」済みのコンデンサの見積りを提出させ,調達先のコンデンサ製造販売業者を決めるなどしていた。(乙共38,53,65)
需要者等は,コンデンサを継続して調達する場合,半年又は3か月に1回ほどの頻度で,定期的にコンデンサ製造販売業者に対し,「定期コストダウン要請」又は「定期原価低減要請」などと称して販売価格を引き下げるよう求めることがあった(以下「定期原価低減要請」という。)。他方,コンデンサ製造販売業者は,需要者等に対し,コンデンサの販売価格の引上げを求めることがあり,その方法としては,定期原価低減要請に対して逆に販売価格の引上げを求める旨を回答する方法や,同要請とは関係なく,需要者等に直接連絡を取って交渉する方法があった。(乙共35,43,乙ア40)
⑷ 日本国内における市場シェア等
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⑸ 平成22年の販売価格の引上げの決定に関する状況(争いのない事実)
ア アルミ電解コンデンサ
原告ルビコンは,平成21年7月頃アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを決定し,需要者等との交渉等を行った。また,日本ケミコンも,平成21年9月頃から平成22年にかけて,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを決定した。
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イ タンタル電解コンデンサ
タンタル電解コンデンサの主要な材料であるタンタルパウダー及びタンタルワイヤー(以下「タンタル資材」という。)は,平成22年1月頃,その価格の上昇が予想されるようになった。
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また,原告松尾電機は,平成22年6月頃,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げることとし,顧客及び製品ごとに具体的な値上げ率などを決定した。
⑹ 平成23年の値上げ活動終了に至る経緯に関する状況(争いのない事実)
ア アルミ電解コンデンサ
アルミ電解コンデンサは,平成22年春頃,需要が多く材料費も高騰して製品価格が値上げ基調にあったが,平成23年3月11日の東日本大震災後,日本ケミコンのみならず,原告ニチコン,原告ルビコン及び日立エーアイシーも,自社の製造拠点その他が被災するなどして生産能力が減少したのみならず,アルミ電解コンデンサの確保を重視して二重三重の発注を行う顧客があり,アルミ電解コンデンサの需要が供給を上回る状況となったばかりか,日本ケミコンと取引をしていた需要者の中には,他のアルミ電解コンデンサの製造販売業者に対して発注した者もあった。
イ タンタル電解コンデンサ
タイ王国所在のNECトーキンの子会社工場は,平成23年10月同国内で洪水が発生したため,同月13日従業員を避難させたが,同月17日,同工場を含む工業団地の防水堤が決壊して同工業団地への浸水が始まったことから,再稼働の時期については周辺の水位や従業員の安全を考慮しながら判断する旨を公表し,同月19日,同工場への浸水が確認され操業再開の目処が立っていないことを発表した。同工場は,同月13日以降,タンタル電解コンデンサを製造していない。
⑺ 本件各命令
ア 本件アルミ合意
(ア) 被告は,アルミ4社は,本件アルミ合意により,公共の利益に反して,日本国内におけるアルミ電解コンデンサの販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,この行為は独禁法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条に違反するなどと認定して,平成28年3月29日,原告ルビコン,原告ニチコン及び日本ケミコンに対し,同法7条2項に基づき,本件アルミ排除措置命令をした(甲A15,甲B1)。
(イ) 被告は,平成28年3月29日,原告ルビコンに対し,上記行為は,独禁法3条に違反し,かつ独禁法7条の2第1項の商品の対価に係るものであるとした上で,不当な取引制限行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(以下「実行期間」という。同項柱書参照)を平成22年4月1日から平成23年11月21日まで,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令5条1項の規定に基づく当該実行期間におけるアルミ電解コンデンサに係る原告ルビコンの売上額(以下,同項の規定に基づく売上額を単に「売上額」という。)を190億6692万9443円と認定し,原告ルビコンが課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則の定めるところにより事実の報告及び資料の提出を行った者であることをも考慮して,独禁法7条の2第1項,6項,11項,23項の規定により,課徴金として10億6774万円を国庫に納付するよう命じた(甲A16,本件アルミ課徴金納付命令(原告ルビコン))。
(ウ) 被告は,平成28年3月29日,原告ニチコンに対し,上記と同様の違反行為を認定した上で,実行期間を平成22年3月1日から平成23年11月21日まで,当該実行期間におけるアルミ電解コンデンサに係る原告ニチコンの売上額を420億2792万3721円と認定するなどし,独禁法7条の2第1項,6項,23項の規定により,課徴金として33億6223万円を国庫に納付するよう命じた(甲B2,本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン))。
イ 本件タンタル合意
(ア) 被告は,タンタル4社は,本件タンタル合意により,公共の利益に反して,日本国内におけるタンタル電解コンデンサの販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,この行為は独禁法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条に違反するなどと認定して,平成28年3月29日,原告松尾電機,NECトーキン及びホリストンに対し,同法7条2項に基づき,本件タンタル排除措置命令をした(甲C1)。
(イ) 被告は,平成28年3月29日,原告ニチコンに対し,上記行為は,独禁法3条に違反し,かつ独禁法7条の2第1項の商品の対価に係るものであるとした上で,実行期間を平成22年6月22日から平成23年10月18日まで,当該実行期間におけるタンタル電解コンデンサに係る原告ニチコンの売上額を34億7440万0587円と認定するなどし,独禁法7条の2第1項,6項,23項の規定により,課徴金として2億7795万円を国庫に納付するよう命じた(甲B3,本件タンタル課徴金納付命令(原告ニチコン))。
(ウ) 被告は,平成28年3月29日,原告松尾電機に対し,上記と同様の違反行為を認定した上で,実行期間を平成22年8月1日から平成23年10月18日まで,当該実行期間におけるタンタル電解コンデンサに係る原告松尾電機の売上額を53億4563万4467円と認定するなどし,独禁法7条の2第1項,6項,23項の規定により,課徴金として4億2765万円を国庫に納付するよう命じた(甲C2,本件タンタル課徴金納付命令(原告松尾電機))。
⑻ 本件各訴えの提起
原告ルビコンは平成28年9月23日第1事件の訴えを,原告ニチコンは同月26日第2事件の訴えを,原告松尾電機は同月27日第3事件の訴えを,それぞれ東京地方裁判所に提起した。
3 争点及び争点に関する当事者の主張
⑴ 本件アルミ合意について
ア アルミ4社間において本件アルミ合意(意思の連絡)は成立したか。
(被告の主張)
(ア) 独禁法2条6項の「共同して」に該当するというためには,複数の事業者が対価を引き上げるに当たって,相互に「意思の連絡」があったと認められることが必要であるところ,「意思の連絡」とは,複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思があることを意味し,一方の対価引上げを他方が単に認識,認容するのみでは足りないが,事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要ではなく,相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して,暗黙のうちに認容することで足りると解すべきである。
本件では,以下の事実によれば,遅くとも平成22年2月18日までに,アルミ3社間にアルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨の合意(本件アルミ合意)が成立し,遅くとも同年3月2日までに,日立エーアイシーが本件アルミ合意に参加したのであるから,これにより, アルミ4社間に「相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思」が成立したというべきであり,本件アルミ合意は「意思の連絡」に該当する。
a 原告ルビコン及び原告ニチコンらのアルミ電解コンデンサ製造販売業者は,平成18年3月頃から平成21年5月頃までの間,アルミ電解コンデンサについて,相互に値上げの意向や需要者等との価格交渉の状況等を伝え合いながら,協調して販売価格の引上げや維持に取り組んだことがあり,本件アルミ合意より前のこのような共通の経験は,それらとおおむね同様の行動をとることで歩調を揃えて値上げ活動ができるというアルミ4社の共通認識を生んだ。
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c その後,リーマンショックと呼ばれる世界的な景気後退によりアルミ電解コンデンサの需要が一時減退したが,平成21年初旬,需要が回復し始め,同年6月頃には,一部製品で需要が供給能力を上回る状況になった。このような状況の下,原告ルビコンは,同年7月頃,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げることとし,需要者の一部に対してその申入れを開始した。続いて,日本ケミコンも,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げることとし,同年9月25日開催の社内会議において,販売価格の引上げの指示をした。原告ルビコン,日本ケミコン及び原告ニチコンは,原告ルビコンが販売価格の引上げを決めた同年7月頃から同年12月頃にかけて,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げ等に関する情報交換をしたが,原告ニチコンが販売価格の引上げを開始しなかったことから,原告ルビコン及び日本ケミコンは,アルミ電解コンデンサの販売価格を十分に引き上げることができなかった。
d 原告ルビコンは,平成21年12月23日社内会議において,それまで販売価格の引上げが遅れていた日系需要者等(日本国内の企業及びその海外に所在する子会社,支社,支店等をいう。以下同じ。)に販売するアルミ電解コンデンサについて,需要者等ごとの販売総額をその仕入総額(原告ルビコンの製造部門から営業部門に対してアルミ電解コンデンサを販売するとみなす場合の当該販売価格の合計をいう。以下同じ。)以上とすることを目標として,原則として平成22年4月1日納入分から,需要者等に対し販売価格の引上げを申し入れて交渉することを決定した。原告ルビコンの■■■■■■■■■■■■■は,同年1月初旬,日本ケミコンの《K1》に対し,上記社内決定に従って販売価格の引上げに取り組んでいくことを伝えた。
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日立エーアイシーは,遅くとも平成22年3月2日までに,同社の■■■■■■■■■■■及び日立化成の■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を通じて,日本ケミコン及び原告ルビコンとの間で,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げることなどを伝え合った。
e アルミ4社は,上記dの頃から各社内に対し,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを需要者等に申し入れて交渉するよう指示を出すなどして,需要者等に対する値上げ活動を行い,実際にアルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げるなどした。
f アルミ4社は,平成22年2月18日開催のマーケット研究会以降,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げ等に関して,マーケット研究会や個別の連絡等を通じて,各社が値上げ活動に取り組んでいることや値下げを行っていないことを繰り返し確認し合い,必要に応じ,個々の需要者等に対する値上げ交渉の方針や具体的な販売価格について話し合ったり,販売価格の引上げの申入れや交渉の経緯等の値上げ活動の状況やその結果を伝え合ったりしていた。
(イ) 原告ニチコンは,アルミ電解コンデンサに関する各命令においては,本件アルミ合意の内容として値上げ率や値上げ時期等の具体的内容が含まれておらず,何らの具体性なく単に販売価格の引上げを行うというだけの極めて抽象的な内容を確認しただけでは,実質的に競争を制限する効果をもたらす「同内容又は同種の対価の引上げ」について歩調を揃えることを合意したとは到底認められないから,本件アルミ合意は「意思の連絡」に該当しないと主張する。
しかし,合意の成立のために,原告ニチコンが主張するような値上げ率や値上げ時期等の販売価格の引上げの具体的内容までを認識ないし予測する必要はなく,不当な取引制限を認める上で,本件アルミ合意の内容は「アルミ電解コンデンサの販売価格を共同して引き上げること」で十分である。すなわち,アルミ4社は,需要者等に対して協調して値上げ活動を行って製品の販売価格を引き上げることを合意したことにより,自らが販売価格を引き上げる際に,より低い販売価格を提示する競争事業者に取引を大幅に奪われ,自らの売上げや利益が減少するというリスクを低下させることができ,製品価格を引き上げることが容易になった。反面,本来は,アルミ4社がこのリスクを前提にそれぞれ独自に判断して行うべき個々の需要者等に対する販売価格の決定や価格交渉等の事業活動は,他社との合意に制約されて行われることになるから,この意味で,アルミ4社の事業活動は拘束されていたものである。
(原告ルビコンの主張)
本件アルミ合意の意味が,「少なくとも原告ルビコンにおいては,日系需要者に対する,それまで販売総額が仕入総額以下となっていたアルミ電解コンデンサを対象として,これを需要者ごとに販売総額を仕入総額以上に値上げする合意」という意味であれば認めるが,アルミ電解コンデンサ全体を対象として意思の連絡が成立したことは否認する。原告ルビコンの販売価格の引上げの対象が上記の範囲であることが他社に伝わっていたことは,被告の主張上も明らかである。
(原告ニチコンの主張)
(ア) 以下の事情等からすれば,原告ニチコンと他社との間で本件アルミ合意は成立しておらず,意思の連絡はない。
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c 原告ニチコンは,平成17年2月,自主的統計収集という本来の会の目的から徐々に逸脱し始めていたATC会と称する会合を脱退した。他社は,それ以降,当局への密告を恐れて原告ニチコンに対して同会の存在を隠し,会の名称をマーケット研究会と変更した上で継続して定期的に同会を開催し続けていたが,原告ニチコンは,マーケット研究会に参加しておらず,一貫してアウトサイダーの立場であった。
d 原告ニチコンは,平成22年2月18日以降も,他社より安い販売価格を提示することにより他社のシェアを奪う行動に出ている。また,他社は,原告ニチコンによる値上げ活動を「強引な値上げ」と警戒し,社内に注意を促していた。
(イ) 被告は本件アルミ合意の内容を「アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨の合意」であると主張するが,このような内容の合意では「意思の連絡」の要件を充たさない。すなわち,本件においては,少なくとも当時の市場の状況に照らし,各社が販売価格の引上げを実施することは自明であったから,何らの具体性なく単に販売価格の引上げを行うというだけの極めて抽象的な内容を確認しただけでは,実質的に競争を制限する効果をもたらす「同内容又は同種の対価の引上げ」について歩調を揃えることを合意したとは到底認められず,「意思の連絡」に該当しない。
イ 本件アルミ合意が対象とした製品の範囲
(被告の主張)
アルミ4社は,本件アルミ合意成立の前後を通じてアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げに関して種々の伝達や情報交換をしており,その内容を総じてみれば,その対象は,特に種類や需要者等を問わず,アルミ電解コンデンサ全体であったというべきである。
(原告ルビコンの主張)
被告が主張する本件アルミ合意に関する経緯等を前提とすると,本件アルミ合意が対象とした製品の範囲には日系需要者以外に納入する製品は含まれず,また,その製品はアルミ電解コンデンサのうち販売総額が仕入総額以下のものに限られていた。
(原告ニチコンの主張)
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(イ) 原告ニチコンは,東日本大震災により日本ケミコンの製造拠点が被災したことに伴い,同社からの製品供給を受けられなくなった顧客から,同社に代わって製品の納入をして欲しい旨の代替品納入要請(以下「ヘルプ要請」という。)を相次いで受けた。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■また,原告ニチコンは,ヘルプ要請に基づく受注を契機として日本ケミコンのシェアを奪おうと考え,実際にシェアを拡大している。したがって,アルミ電解コンデンサに係る取引のうちヘルプ要請に基づくものは,本件アルミ合意の対象外である。
(ウ) アルミ電解コンデンサのうちコンデンサユニット品は,一般市場において原告ニチコンしか販売していない独自の製品であり,他社とは全く競合していない製品であるため,本件アルミ合意の対象外である。
ウ 実行期間
(被告の主張)
(ア) 原告ルビコンは,平成22年3月5日,同年4月1日を適用日としてアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れているから,同日が「不当な取引制限行為の実行としての事業活動を行った日」である。
(イ) 原告ニチコンは,平成22年2月19日,同年3月1日を適用日としてアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れているから,同日が「不当な取引制限行為の実行としての事業活動を行った日」である。
(ウ) 日本ケミコンの■■■■■■■■■■■■■■■■は,平成23年11月21日社内会議において,値下げしてでもアルミ電解コンデンサの受注獲得に動くよう指示し,それ以降,日本ケミコンは値下げを行うようになった。原告ニチコン及び原告ルビコンも,これに対抗して,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き下げる状況になったから,同月22日以降,本件アルミ合意は事実上消滅している。よって,同月21日が「当該行為の実行としての事業活動がなくなる日」である。
したがって,原告ルビコンに係る実行期間は,平成22年4月1日から平成23年11月21日までであり,原告ニチコンに係る実行期間は,平成22年3月1日から平成23年11月21日までである。
(原告ルビコンの主張)
実行期間については争わない。
(原告ニチコンの主張)
(ア)a 日本ケミコンは,平成22年当時,日本国内のアルミ電解コンデンサ市場において3割を超える市場シェアを有していたところ,平成23年3月11日に発生した東日本大震災により,供給能力を喪失し,市場のニーズに全く応えられなくなったことから,本件アルミ合意成立当時の競合関係は完全に消失した。また,本件アルミ合意成立時の市場における需給バランスは,東日本大震災により完全に崩壊し,異常ともいえる需要過多状態に陥り,前提となる市況が一変した以上,本件アルミ合意の実効性も失われた。それに伴い,アルミ電解コンデンサメーカーと需要者等との交渉は,従来の価格交渉から,供給量ないし納期の交渉へと一変し,毎年,定期的にされていた需要者等からの販売価格引下げの要請(「RFQ」と呼ばれていた。)も,東日本大震災後は行われなくなった。需要過多状態の下で,原告ニチコン,原告ルビコン及び当時マーケット研究会に参加していた《F》は,それぞれ独自に日本ケミコンのシェアを奪おうとする一方,同研究会に参加していた■■■■■■■■■■■■■■■■■■は,同業他社に利益率の低い取引を押し付け,その売上げや利益を減少させるようとするなど,各社が本件アルミ合意から離れた事業活動をした。
b 平成23年6月ないし7月頃になると,アルミ電解コンデンサの需要過多の反動による需要の激減状態となり,結局,従前の市況には回帰しなかった。この需要激減状態の下,原告ニチコン,原告ルビコン及び《P》は,それぞれ独自に,販売価格の引上げだけではなく,販売価格を維持するという新たな販売価格方針をとっていた。原告ニチコンは,東日本大震災後,同業他社との間で,本件アルミ合意に基づく販売価格の引上げに関する情報交換を行ったことはなく,マーケット研究会においても,本件アルミ合意に基づく販売価格の引上げに関する情報交換は行われていない。
また,被告は,東日本大震災前の電子機器や電子部品の製造販売業者が会員として参加している一般社団法人電子情報技術産業協会(以下「JEITA」という。)の会合を,本件アルミ合意に基づく販売価格の引上げに関する情報交換の場として挙げる一方,震災後のJEITAの会合は挙げていない。
c 以上によれば,(仮に本件アルミ合意が成立しているとしても)本件アルミ合意成立時に存在した市場の状況は,東日本大震災により一変し,これと不可分の関係にある同業他社間の販売価格方針の不透明性も一変した。その結果,合意当事者において,上記のとおり本件アルミ合意と離れて事業活動を行う状態が形成・固定化され,本件アルミ合意の実効性は確定的に失われるに至ったものである。
したがって,本件アルミ合意の実行としての事業活動は,平成23年3月11日をもって消滅したことが明らかであるところ,本件アルミ合意に係る各命令は実行期間の終了から5年以上経過した後にされたものであるから,本件アルミ排除措置命令は独禁法7条2項ただし書に,本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)は同法7条の2第27項にそれぞれ違反する。
(イ) 仮に,(ア)の主張が容れられないとしても,他社は,原告ニチコンが販売価格の引上げの最終方針を確定するのは平成22年3月5日であると理解していたこと,コンデンサ市場においては,需要者の多くが製造販売業者と交渉して,毎年4月から9月までの納入分の調達価格を直前の1月から3月頃に決定するのが通常であり,原告ルビコンを始めとするマーケット研究会の参加者は同年4月1日から適用される販売価格の引上げを協調していたことからすると,実行期間の始期は早くとも同年4月1日である。
また,日本ケミコンは,平成23年8月19日開催の営業本部会議において,値下げを前提とした受注攻勢に出ることを決定し,実際に値下げ攻勢に出ているのであるから,遅くとも同時点において,本件アルミ合意が消滅したことは明らかである。
したがって,実行期間は,早くとも平成22年4月1日からであり,遅くとも平成23年8月19日までであるから,本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)は,これに反する限度で取り消されるべきである。
そして,この期間における原告ニチコンのアルミ電解コンデンサの売上額は■■■■■■■■■■■■■■であるから,同命令は,■■■■■■■■■を超える部分につき取消しを免れない。
エ 「当該商品」(独禁法7条の2第1項)の範囲
(被告の主張)
独禁法7条の2第1項にいう「当該商品」は,違反行為である相互拘束の対象である商品,すなわち,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解すべきであるところ,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,一定の商品につき,違反行為を行った事業者又は事業者団体が明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど,当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められない限り,違反行為による拘束が及んでいるものとして,課徴金算定の対象となる「当該商品」に含まれる。
本件においては,アルミ電解コンデンサのうち一定の製品について,アルミ4社が明示的又は黙示的に違反行為の対象から除外するなど,当該製品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情は認められないから,アルミ電解コンデンサ全体が「当該商品」に含まれる。
(原告ルビコンの主張)
本件アルミ合意の内容は「日系需要者に対するアルミ電解コンデンサの販売総額を仕入総額以上に値上げする」ことに限定される以上,「当該商品」の範囲もかかる合意の内容に即して限定されるべきである。
具体的には,上記合意の内容を達成するためには,まず不採算製品の販売価格を引き上げることになるから,販売総額が仕入総額以下の日系需要者に対する売上額のうち不採算を理由として販売価格を引き上げた製品の■■■■■■■■■■■■■■■が,課徴金額算定の基礎となる売上額とされるべきである。
仮に,この主張が容れられないとしても,同金額に,販売総額が仕入総額以下の日系需要者に対する売上額のうち不採算以外の理由で販売価格を引き上げた製品の■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■が,課徴金額算定の基礎となる売上額とされるべきである。
さらに,これらの主張が容れられないとしても,同金額に,販売総額が仕入総額以下の日系需要者に対する売上額のうち販売価格の引上げもその申請もしていない製品の■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■が,課徴金額算定の基礎となる売上額とされるべきである。
(原告ニチコンの主張)
(ア) ①不採算製品等以外の製品,②東日本大震災のヘルプ要請に基づく取引に係る製品及び③コンデンサユニット品は,黙示的に,本件アルミ合意の実行としての事業活動の対象からあえて除外した,又は,少なくとも定型的に,本件アルミ合意による拘束から除外されていたと認められるから,「当該商品」の範囲には含まれない。
(イ) ①が「当該商品」から除外された場合,被告が主張する実行期間における■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■であるから,同金額が課徴金額算定の基礎となる売上額とされるべきである。
(ウ) ②が「当該商品」から除外された場合,被告が主張する実行期間における東日本大震災のヘルプ要請による受注増大に伴う■■■■■■■■■■■■■■■■■■■であるから,同金額は課徴金額算定の基礎となる売上額から控除されるべきである。
(エ) ③が「当該商品」から除外された場合,被告が主張する実行期間における■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■であるから,同金額は課徴金額算定の基礎となる売上額から控除されるべきである。
オ 本件アルミ合意に関する各命令は平等原則及び比例原則に違反するか。
(原告ニチコンの主張)
仮に,原告ニチコンに何らかの違反行為があるとしても,被告は,マーケット研究会等に参加し他社との情報交換等を行っていた《P》とアルミ4社とを別異に取り扱う合理的な理由が存在しないにもかかわらず,正当な理由なく処分対象となる企業を取捨選択し,恣意的に法律を執行した。また,被告は,原告ニチコンの関与の程度や悪質性が他社と比較して極めて低いことを一切勘案せずに処分を行った。さらに,被告は,本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)に関し,①本件アルミ合意の当事者の認定,②違反期間の認定,③東日本大震災のヘルプ要請に基づく受注による一時的な売上げ増分を含めて課徴金納付命令の基礎としているという3点において,全く合理性のない,原告ニチコンに極めて不利な認定を行っている。これらの点からすると,本件アルミ合意に関する各命令は,社会通念上著しく妥当性を欠き,平等原則及び比例原則に反する違法な処分である。
(被告の主張)
《P》については,マーケット研究会における《P》からの出席者の担当業務や発言内容に関する証拠等の状況からして,本件アルミ合意により事業活動の拘束を受けていたと認めて独禁法上の行政処分を行うに足りる証拠が必ずしも十分とはいえないのであるから,《P》とアルミ4社との間で取扱いに差異を設けることには合理性がある。また,原告ニチコンの関与の程度や悪質性が他社より低いということはない上,課徴金納付命令は法令に従い売上高に応じて発するものであり,被告には関与の程度や悪質性を勘案して処分をする裁量はない。さらに,平等原則違反を理由とする裁量権の逸脱や濫用が認められるためには,被告がその権限を行使することがいわれのない差別的な取扱いであると認められることが必要であると解されるところ,原告ニチコンは,そのような取扱いがされたことを基礎づける事情を主張していない。したがって,本件アルミ合意に関する各命令に平等原則違反及び比例原則違反はない。
カ 本件アルミ合意に関する各命令に係る手続に瑕疵があるか。
(原告ニチコンの主張)
本件アルミ合意に関する各命令は,本件アルミ合意の内容として値上げ率や値上げ時期等が明らかにされておらず,具体的にいかなる行為を共同して行うことを合意したと認定したのかが不明確である上,平成22年当時,マーケット研究会に参加し競合他社と情報交換を行っていた《P》を合意の当事者から除外する合理的な理由が明らかにされていない点で,全く特定されずにされた違法な処分である。
原告ニチコンは,このように特定を欠く本件アルミ合意を前提とした処分通知しか受けておらず,適切に防御権を行使できなかったから,本件アルミ合意に関する各命令に係る意見聴取手続には,防御や反論の機会が実質的に保障されていないという手続的瑕疵が存在する。
(被告の主張)
合意成立のためには「複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思があること」が必要であるが,原告ニチコンが主張するような値上げ率や値上げ時期等の販売価格の引上げの具体的内容までを認識ないし予測する必要はない。また,行政処分において認定しなかった事実関係に関し,その認定しなかった理由を処分理由中で明らかにしなくても,当該処分が違法となるものではないから,被告が,《P》が本件アルミ合意の当事者であると認定しなかった理由を明らかにしなかったことは,当該処分の違法を基礎付けるものではない。したがって,本件アルミ合意に関する各命令に係る意見聴取手続に,手続的瑕疵はない。
⑵ 本件タンタル合意について
ア タンタル4社間において本件タンタル合意(意思の連絡)は成立したか。
(被告の主張)
(ア) 以下の事実によれば,タンタル4社間において,遅くとも平成22年6月17日までに本件タンタル合意が成立し,これにより,タンタル4社の間には「相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思」が存在したというべきであり,本件タンタル合意は「意思の連絡」に該当する。
a NECトーキン,日立エーアイシー及び原告松尾電機の従業員らは,平成20年4月頃から同年7月頃にかけて,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げや個別の需要者等への提示額等の情報交換を行っており,そうした経緯を経て,NECトーキン及び原告松尾電機は,同年8月18日までに社内において,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを決定した。原告ニチコンの《L1》は,NECトーキンや原告松尾電機の担当者とタンタル電解コンデンサの販売価格等について話し合うなどし,原告ニチコンは,同年10月6日頃,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを決定した。その後,リーマンショックによる景気後退等により,遅くとも平成21年2月頃までにNECトーキン,原告ニチコン及び原告松尾電機による値上げ活動はおおむね終息したが,本件タンタル合意より前のこのような共通の経験は,タンタル4者間に,それらとおおむね同様の行動をとることで歩調を揃えて値上げ活動をすることができるという共通認識を生んだ。
b 平成22年1月頃,タンタル資材の価格の上昇が予想されるようになったところ,原告ニチコンの《L1》らは,同月7日,NECトーキンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■らと面談し,《A》の定期原価低減要請に対して販売価格の引上げを申し入れる旨回答することを確認するとともに,タンタル資材の購入価格の動向等について情報交換を行った。その後も,各社間で情報交換等が行われた結果,原告ニチコンは,同年3月頃社内に対し,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを指示するとともに,需要者等に対する販売価格の引上げに着手した。
原告ニチコンの《L1》は,その頃NECトーキンの《Q1》との間で,原告ニチコンの値上げ方針等について情報交換を行い,同人は同月18日開催のマーケット研究会において,原告松尾電機や日立化成の担当者に対し,原告ニチコンの販売価格の引上げの実施状況について報告した。
c 平成22年4月頃から同年6月頃にかけて,タンタル4社間でタンタル資材価格の上昇やタンタル電解コンデンサの販売価格等について情報交換が行われた。この間,NECトーキンの《Q1》は,同月17日開催のマーケット研究会において,原告松尾電機で■■■■■■■■■■■■■■■■に対し,原告ニチコンがタンタル電解コンデンサの全需要者に対して販売価格の大幅な引上げを行っていること,自社もタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを開始すること,ホリストンも需要者等にタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げ要請を開始していることなどを伝え,《M3》から,原告松尾電機もタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施することなどの報告を受けた。
d このように,タンタル4社は,上記cの頃から,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを決定し,需要者等に対する値上げ活動を行い,実際にタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げるなどしており,特に平成22年6月17日のマーケット研究会以降は,各社の担当者間で値上げ活動の状況等につき連絡を取り合うことができる関係を維持し,必要に応じ,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げ等に関して相互に情報交換を行うなどしていたものである。
(イ) 原告ニチコンは,被告が主張する本件タンタル合意の内容を前提とすると,本件タンタル合意は「意思の連絡」の要件を充たさないなどと主張するが,不当な取引制限の成立を認める上で,本件タンタル合意の内容は「タンタル電解コンデンサの販売価格を共同して引き上げること」で十分である。
(原告ニチコンの主張)
(ア) 以下の事情等からすれば,原告ニチコンと他社との間で本件タンタル合意は成立したとはいえない。
a 原告ニチコンは,平成22年1月から同年5月にかけて,独自に販売価格の引上げの実施及びその具体的内容(値上げ時期,対象製品,値上げ率等)を決定しており,平成22年6月以降も含め,他社との間で,相互に「同内容又は同種の対価の引上げ」を実施することを認識ないし予測し歩調を揃える意思を有していたとは認められない。
b 原告ニチコンの販売価格の引上げは,■■■■■■■■■■■■タンタル資材の急騰を踏まえた不採算取引の是正に主眼が置かれており,■■■■■■■■■価格を是正することができなければ他社への転注を申し出るなど強行的なものであり,他社の動向にかかわらず,不採算が是正されない限りは販売価格の引上げを実施するという方針であったため,およそ他社と足並みを揃えて実施するというような販売価格の引上げではなかった。
c また,当時は,他社と協調して値上げを行う必要性が高いという状況にもなかった。
(イ) 被告が主張する本件タンタル合意の内容を前提とすると,本件タンタル合意は「意思の連絡」の要件を充たさない。少なくとも,当時,タンタル資材価格の異常な高騰によって製品の販売価格の引上げが不可避の状況にあり,各社が販売価格の引上げを実施することは自明であったという本件の特殊性に鑑みれば,何らの具体性なく単に販売価格の引上げを行うというだけの極めて抽象的な内容を確認しただけでは,実質的に競争を制限する効果をもたらす「同内容又は同種の対価の引上げ」について歩調を揃えることを合意したとは到底認められず,「意思の連絡」に該当しない。
(原告松尾電機の主張)
(ア) 本件タンタル合意がヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(原告松尾電機の主張する「チップ形マンガン品」と同義)につき成立したことは争わない。
(イ) 湿式タンタル電解コンデンサ(原告松尾電機の主張する「湿式コンデンサ」と同義)やリード線形の樹脂モールド品(原告松尾電機の主張する「モールド形マンガン品」と同義)は,旧式のコンデンサであって,需要が限定的でヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品や導電性タンタル電解コンデンサ(原告松尾電機の主張する「チップ形ポリマー品」と同義)と明確に区別されており,殆どの製造業者が製造を中止していて,製造再開は物理的に不可能であり,経済的にも合理性がない。このように多数の事業者が生産を行うだけの需要が現実に存在せず,その殆どが製造を中止し,製造を継続していた事業者も販促活動をせずにいたヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外のタンタル電解コンデンサについては,導電性タンタル電解コンデンサ以上に,複数の事業者が需要を充たすために競って製造販売していたヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品と同一の取引分野を構成するものとはいえない。被告が主張する本件タンタル合意は事業者が品種品番を特定して販売価格の引上げの額や幅について合意したものではないから,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外の製品を含むタンタル電解コンデンサ全体について,本件タンタル合意が成立したとはいえない。
(ウ) 被告は,マーケット研究会やJEITAの会合がタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げ等に関する情報交換の場であったと主張する。
しかし,マーケット研究会においては,マンガン品と導電性タンタル電解コンデンサが情報交換の対象として明示されており,他方,湿式タンタル電解コンデンサに触れられたことはなく,リード線形の樹脂モールド品が情報交換の対象となったことも明確に認定されてはいない。また,JEITAの会合においては,あらゆる種類のコンデンサが情報交換の対象であった。
タンタル電解コンデンサには,マンガン品とは性状も形状も異なる湿式タンタル電解コンデンサや,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品と代替性がない形状のリード線形の樹脂モールド品や性状から代替性のないヒューズ内蔵型でチップ形の樹脂モールド品が含まれる一方,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品と代替性が高く,現に置換えが進んでいた導電性タンタル電解コンデンサが含まれていないところ,情報交換の対象となっていたことが認められる導電性タンタル電解コンデンサについて合意の成立を否定するのであれば,情報交換の事実が認められないヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外のタンタル電解コンデンサについて,合意の成立を認める理由はない。
イ 本件タンタル合意が対象とした製品の範囲
(被告の主張)
タンタル4社は,本件タンタル合意成立の前後を通じて,タンタル電解コンデンサの値上げに関して種々の伝達や情報交換をしており,その内容を総じてみれば,その対象は,特に種類や需要者等を問わず,タンタル電解コンデンサ全体であったというべきである。
(原告ニチコンの主張)
タンタル電解コンデンサのうち原告ニチコンが扱うチップ形の簡易樹脂外装品(原告ニチコンの主張する「樹脂外装タイプ」と同義)は,他のタンタル電解コンデンサにより代替することが不可能な特殊な製品であり,かつ,市場には同種の製品を取り扱う競合他社が存在せず,他社との間で競合が生じ得ない製品であるため,本件タンタル合意の対象外である。
(原告松尾電機の主張)
ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品を除くタンタル電解コンデンサは,本件タンタル合意が対象とした製品ではない。
ウ 競争が実質的に制限される「一定の取引分野」の範囲
(被告の主張)
前記のとおり,本件タンタル合意は,タンタル電解コンデンサ全体を対象として成立したと認められることに加え,本件タンタル合意は,日本国内におけるタンタル電解コンデンサの総販売金額の9割を超える市場シェアを有していたタンタル4社が参加していたものであることからすれば,タンタル電解コンデンサ全般について競争が実質的に制限されていたといえる。
(原告松尾電機の主張)
(ア) タンタル電解コンデンサには,各品種間において,製品の効用等の同種性が乏しく,需要者にとっての代替可能性もなく,競争が現に生じておらず,将来的にも生じることがないものが存在するにもかかわらず,被告がこのような製品群をまとめて「一定の取引分野」と画定したことは,明らかな誤りである。上記のような観点からすると,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外のタンタル電解コンデンサについては,タンタル電解コンデンサ製造販売業者の間において,競争状況にはなかった。
(イ) タンタル電解コンデンサ製造業者は,導電性タンタル電解コンデンサを含むタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げについて話合いをし,これを実行していたのであるから,導電性タンタル電解コンデンサを除外した「一定の取引分野」を画定することはできない。「一定の取引分野」から導電性タンタル電解コンデンサが除外される場合には,導電性タンタル電解コンデンサよりもヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品との代替性等が劣るヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外のタンタル電解コンデンサを含んだ形で,競争が実質的に制限される「一定の取引分野」を観念することはできない。
エ 実行期間
(被告の主張)
(ア) 原告ニチコンは,平成22年6月22日,■■■■■■■■■■■■■■■■■■に対し,同月1日を適用日としてタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れているから,同月22日が「不当な取引制限行為の実行としての事業活動を行った日」である。
(イ) 原告松尾電機は,平成22年7月15日,■■■■■■■等に対し,同年8月1日納入分から適用するとしてタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れているから,同日が「不当な取引制限行為の実行としての事業活動を行った日」である。
(ウ) タイ王国所在のNECトーキンの子会社が洪水に伴う浸水によってタンタル電解コンデンサを生産することができなくなった平成23年10月19日以降,NECトーキンがタンタル電解コンデンサの販売価格の改定に係る同業者間の情報交換を仲介することはなく,タンタル4社は,タンタル電解コンデンサの販売価格等について情報交換等を行っていないから,同日以降,本件タンタル合意は事実上消滅した。よって,同日が「当該行為の実行としての事業活動がなくなる日」である。
したがって,原告ニチコンに係る実行期間は,平成22年6月22日から平成23年10月18日までであり,原告松尾電機に係る実行期間は,平成22年8月1日から平成23年10月18日までである。
(原告ニチコンの主張)
(ア) 原告ニチコンが本件タンタル合意に基づき最初に販売価格の引上げを申し入れたのは,早くとも平成22年6月25日であるというべきであるから,実行期間の始期は同日である。
(イ) タイ王国所在のNECトーキンの子会社工場は,平成23年10月14日付けプレスリリースにより,その操業再開の見通しが立たなくなったことが対外的に明らかになっていたのであるから,実行期間の終期は同日である。
(ウ) 以上によれば,原告ニチコンに係る実行期間は平成22年6月25日から平成23年10月14日までとなるところ,同期間における原告ニチコンのタンタル電解コンデンサの売上額は■■■■■■■■■■■■■であるから,本件タンタル課徴金納付命令(原告ニチコン)は■■■■■■■■を超える部分につき取り消されるべきである。
(原告松尾電機の主張)
実行期間については争わない。
オ 「当該商品」(独禁法7条の2第1項)の範囲
(被告の主張)
タンタル4社が,タンタル電解コンデンサのうち一定の製品について,明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外するなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情は認められないから,タンタル電解コンデンサ全体が「当該商品」に含まれる。
(原告ニチコンの主張)
チップ形の簡易樹脂外装品は,(仮にこれが本件タンタル合意の範囲から除外されないとしても)黙示的に,本件タンタル合意の実行として事業活動の対象からあえて除外し,又は,少なくとも定型的に,本件タンタル合意による拘束から除外されていたというべきであるから,「当該商品」の範囲から除外されるべきである。
チップ形の簡易樹脂外装品が「当該商品」から除外された場合,被告が主張する実行期間における①チップ形の簡易樹脂外装品の売上額は■■■■■■■■■■■■■②返品された製品の価格は■■■■■■■■■■であるから,①から②を控除した■■■■■■■■■■■■は,課徴金額算定の基礎となる売上額から控除されるべきである。
(原告松尾電機の主張)
「当該商品」にはヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品のみが該当する。
被告が主張する実行期間におけるヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品の売上額は■■■■■■■■■■■■■であるから,本件タンタル課徴金納付命令(原告松尾電機)は,■■■■■■■■を超える部分につき取り消されるべきである。
カ 本件タンタル合意に関する各命令は平等原則に違反するか。
(原告松尾電機の主張)
導電性タンタル電解コンデンサについて不当な取引制限があったと認めるべきことが明らかになったにもかかわらず,導電性タンタル電解コンデンサには措置を講じない一方で,導電性タンタル電解コンデンサよりもヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品との代替性が劣り,かつ取引量が少なく社会的影響も小さいヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外のタンタル電解コンデンサについて,被告が処分権限を行使することは,平等原則に違反する裁量逸脱がある。
(被告の主張)
本件タンタル合意の成立に関する事実等を立証する証拠において,被告が認定した合意に係る製品以外を対象とする情報交換がみられたからといって,必ずしも,当該事実の存否を認定し,それに対応して不当な取引制限の成否を認定する必要はなく,少なくとも,これをしなかったことは現にされた処分の違法性を基礎付けるものではない。
また,導電性タンタル電解コンデンサの製造販売業者が,タンタル4社とともに,導電性タンタル電解コンデンサを含むタンタル電解コンデンサを対象とする合意を成立させたと認めるに足りる証拠はなく,導電性タンタル電解コンデンサの製造販売業者とタンタル4社を別異に取り扱うことには合理性が認められるから,平等原則違反はない。
キ 本件タンタル合意に関する各命令に係る手続に瑕疵があるか。
(原告ニチコンの主張)
本件タンタル合意に関する命令は,本件タンタル合意の内容につき,具体的にいかなる行為を共同して行うことを合意したと認定するのかを明らかにしておらず,全く特定されないままされた違法な処分である。原告ニチコンは,このように特定を欠く本件タンタル合意を前提とした処分通知しか受けておらず,適切に防御権を行使できなかったから,本件タンタル合意に関する各命令に係る意見聴取手続には,防御や反論の機会が実質的に保障されていないという手続的瑕疵が存在する。
(被告の主張)
不当な取引制限の成立を認める上で,本件タンタル合意の内容は「タンタル電解コンデンサの販売価格を共同して引き上げること」で十分であり,特定に欠けるものとはいえない。したがって,本件タンタル合意に関する各命令に係る意見聴取手続に手続的瑕疵はない。
第3 アルミ電解コンデンサに関する当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に加え,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,コンデンサ製造販売業者が開催していた会合及びアルミ電解コンデンサの製造販売業者の間でされた情報交換等に関して,以下の事実が認められる。
⑴ コンデンサ製造販売業者が開催していた会合
ア ECC会及びTC会
原告ルビコン及び原告ニチコンを含むアルミ電解コンデンサ製造販売業者は,遅くとも平成7年から平成15年5月頃までの間,「ECC会」と称する会合を定期的に開催していた。ECC会には,平成15年頃においては,原告ルビコン,原告ニチコン,日本ケミコン,日立エーアイシー,■■■■■■■■■■■■■■■■■,■■■■■■及び《P》が参加していた。ECC会の国内向けの営業責任者らによる会合には,原告ルビコンの■■■■■,原告ニチコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■,日本ケミコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■等が出席していた。
原告ニチコン及び原告松尾電機を含むタンタル電解コンデンサの製造販売業者は,遅くとも平成14年4月頃から平成15年5月頃までの間,同製造販売業者のみが出席する「TC会」と称する会合を毎月1回程度開催していた。TC会には,原告ニチコン,原告松尾電機,NECトーキン,日立エーアイシー,《T》,■■■■■■■■■■■■■■■■■■,日本ケミコン,《P》,■■■■■■及び■■■■■■■■■■■■■■■■■■の10社が参加していた。TC会の国内向けの営業責任者らによる会合には,日本ケミコンの《K3》,NECトーキンの《Q1》等が出席していた。
ECC会及びTC会の重役が出席する会合(「社長会」と呼ばれていた。)は,両会合同で開催されていた。
(乙共10,11,49,56)
イ ATC会等
原告らは,平成15年6月頃,ECC会とTC会を統合し,「ATC会」と称するようになった。ATC会には,原告ら3社,NECトーキン,日立エーアイシー,《T》,《V》,日本ケミコン,《P》,《W》の10社が参加していた。ATC会も,社長会や国内向けの営業責任者らの会合を開催しており,後者には原告ルビコンの■■■■■,原告ニチコンの《L3》,日本ケミコンの《K3》,NECトーキンの《Q1》等が出席していた。ATC会は,平成17年2月頃に原告ニチコンが脱会して以降,原告ニチコンを除いた会社により開催されていた。(乙共11,12,36,57)
また,アルミ電解コンデンサの製造販売業者である原告ルビコン,原告ニチコン,日本ケミコン,日立エーアイシー,《P》及び《T》は,遅くとも平成13年4月頃から原告ニチコンが脱会する平成16年又は平成17年頃までの間,関西地区の営業責任者らが参加して,「KCC会」と称する会合を年数回程度開催し,アルミ電解コンデンサの市況や各社の販売数量等について情報交換をしていた(乙ア25)。
ウ マーケット研究会
ATC会の参加会社のうち原告ニチコンを除く9社は,原告ニチコンがATC会を脱退したことなどから,一旦ATC会を解散するものの,私的な会合という名目でこれまでどおりコンデンサ製造販売業者による情報交換を継続することとし,平成17年5月頃,ATC会に代わり,マーケット研究会を開催するようになった(乙共36,57)。
マーケット研究会は,各社の重役が出席する社長会と各社の営業責任者らが出席する会合(「定例会」と呼ばれていた。)を開催していた。社長会は,当初,年2回開催されていたが,平成20年を最後に開催されなくなった。他方,定例会は,毎月1回程度,東京都内又は横浜市内の貸会議室等で開催され,アルミ電解コンデンサ及びタンタル電解コンデンサの受注状況や販売価格等について情報交換がされていた。その際,アルミ電解コンデンサについては,アルミ電解コンデンサ全体,リード線形,チップ形,スナップイン,ネジ端子形及び導電性アルミ電解コンデンサのそれぞれに関し,タンタル電解コンデンサについては,マンガン品及び導電性タンタル電解コンデンサのそれぞれに関し,製造販売業者ごとの各月の受注状況(数量及び金額)を整理した表が配布されていた。(乙共18,36,48~51,57,58,60,乙ア27,乙イ35)
その後,《W》は平成17年頃マーケット研究会に参加しなくなり,《V》も,平成21年4月頃原告ニチコンに対しコンデンサ事業を譲渡したことを契機として,同会に参加しなくなり,《T》を承継した《F》は平成22年10月同会に参加しなくなった(乙共37,49,63,乙ア27)。
日立エーアイシーは,平成20年8月頃親会社から,同業者間の会合への参加を控えるよう指示されたため,同社の《O1》は,マーケット研究会には稀にしか出席しないこととしたものの,その後の懇親会には度々出席していた(乙共60,61,乙ア116,117)。
他方,日立エーアイシーの従業員であった《O2》は,平成20年8月頃以降もマーケット研究会への出席を続け,同社が平成21年10月1日アルミ電解コンデンサの製造販売事業を譲渡した後は,日立化成の従業員としてマーケット研究会に出席していたが,日立化成が平成22年3月31日ホリストンに対し,タンタル電解コンデンサの製造販売事業を譲渡した際,同社に移籍した。ホリストンは,平成22年10月以降,マーケット研究会の会合に参加するようになった。(乙共60,乙イ71)
エ JEITA
JEITAには,電子部品の製造業者が参加する電子部品部会があり,その下にコンデンサ,抵抗器等の受動部品の製造業者によって構成される受動部品事業委員会があった。平成22年頃,受動部品事業委員会に参加するコンデンサ(アルミ電解コンデンサやタンタル電解コンデンサに加え,フィルム電解コンデンサやセラミックコンデンサも含む。)の製造販売業者は,同委員会の開催前などにコンデンサ部会などと称する会合(以下「コンデンサ部会」という。)を開催していた。コンデンサ部会は,JEITAの正式な内部組織ではなかったが,JEITAの職員が出席し,議事録が作成されていた。コンデンサ部会には,原告ら3社,日本ケミコン,日立エーアイシー及びNECトーキンらが参加しており,参加各社は,自社製品の受注状況,電子機器の市況等について報告を行っていたほか,コンデンサの販売価格,原材料価格等についても情報交換を行っていた。
(乙共40,乙イ18,34)
オ SM部会
原告ルビコン,原告ニチコン,日本ケミコン等のアルミ電解コンデンサの製造販売業者は,香港やシンガポール共和国において,各社の海外の営業拠点の責任者等が集まる会合を開催し,アルミ電解コンデンサの市況,需要者等との価格交渉の状況等について意見交換を行っており,こうした会合はSM部会と呼ばれることがあった(以下,これらの会合を「SM部会」という。)。SM部会では,日系海外需要者を含む海外の需要者等に対する販売価格等が話題とされたほか,日本国内の需要者等との価格交渉の状況等についても情報交換が行われることがあった。(乙共37,乙ア43)
⑵ 平成21年5月頃までの販売価格の引上げに関する状況
ア 日本ケミコンは,アルミ電解コンデンサの原料となるアルミニウム地金の相場価格が平成17年頃から高騰したことから,平成18年3月頃,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げることとし,需要者等との値上げ交渉を開始するとともに,同月14日開催のマーケット研究会において,需要者等にアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れて交渉する旨報告した(乙ア27,57,103)。
イ 日本ケミコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■や同社従業員は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■と,同月5日■■■■■■■■■■■■■■■■■■■らとそれぞれ面談し,アルミ電解コンデンサの原材料の高騰に伴いアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げが必要な状況であることや,需要者等に対して値上げ交渉をするためには同業者と協力する必要があることなどについて話し合った(乙ア57,102,103)。
それ以降,原告ルビコン及び原告ニチコンを含むアルミ電解コンデンサ製造販売業者は,各社の販売価格の引上げの方針や進捗状況等に関する情報交換を繰り返し行った上で,需要者等に対してアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げの申入れを行った。他方,原告ニチコンの営業担当者の中には,需要者等に対して低価格を提示する者もいた。(乙共52,乙ア25,103)
ウ 原告ニチコンは,平成18年11月末頃,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げにより上積みすることとされた売上金額の目標を達成することができず,社内においてその進捗が遅れている旨の報告がされた。原告ニチコンの《L1》は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■に代わって■■■■■に就任した際,原告ニチコンがアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを十分実現することができず,■■■■の業績が悪化したことから,《L6》を営業現場から外すために人事異動がされたものと理解した。(乙ア61,74)
また,原告ニチコンにおいては,各需要者等に対する販売価格の決定は各需要者等を担当する拠点長が行うものとされていたところ,原告ニチコンの《L1》は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■同日以降,同業他社から業界動向に関する情報を入手し,これを各担当拠点長を含む社内に周知するなどした(乙共44,45,乙ア61,62,65)。
エ アルミ4社は,平成18年12月13日以降,アルミ電解コンデンサの製造販売業者のみで販売価格の引上げ等について話し合うため,おおむね月1回の割合で営業責任者らによる会合を開催するようになり,同月22日頃からはこの会合をCUP会又はCUP会議と称するようになった(以下,後記オの同月13日の会合も含めて「CUP会」という。)(乙ア29,61,94)。
オ 平成18年12月13日開催のCUP会には,原告ルビコンの■■■■■■■■■■■■■や■■■■■■■■■■■■■■,原告ニチコンの《L1》,日本ケミコンの《K3》や■■■■■■■■■■■■■,日立エーアイシーの《O1》らが出席し,これらの出席者は,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げていくため,需要者等と値上げ交渉をするスケジュールや需要者等に対して説明する販売価格の引上げの理由を確認し合うなどした(乙ア4,29,61,94,115)。
カ その後も,原告ルビコン及び原告ニチコンを含むアルミ電解コンデンサの製造販売業者は,マーケット研究会(ただし,原告ニチコンは参加していない。)やCUP会等の機会に,値上げ交渉の際に需要者等に提示する価格をアルミ電解コンデンサの製品類型ごとに決定したり,各社が特に販売価格の引上げをしたいと考えている需要者等を挙げ,その交渉の状況や従来の販売価格,今後提示する値上げ率等について情報交換をしたりした。のみならず,上記製造販売業者は,必要に応じて,個別に面談や電話等により情報交換を行い,需要者等に提示する価格等の調整をしながら,実際に需要者等に対してアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げ交渉を行った。(乙ア3,4,29~31,57,61~63,81,94,96,104,115,116)
キ アルミ電解コンデンサに係る上記値上げ活動は,いわゆるリーマンショックに端を発する平成20年9月以降の世界的な景気後退により,アルミ電解コンデンサの需要が大幅に減少し,販売価格の引上げの継続が困難となったために終息していった。これに伴い,平成20年秋頃以降,CUP会やマーケット研究会において販売価格の引上げが話題になることも徐々に減少し,CUP会は平成21年5月頃を最後に開催されなくなった。
(乙共35,37,乙ア25,57,58,63,74,97)
⑶ 平成22年の販売価格の引上げ決定に至る経緯
ア 平成21年7月以降の原告ルビコンによる同業他社への報告等
平成21年6月18日開催のマーケット研究会には,原告ルビコン,日本ケミコン,《P》,日立エーアイシーの営業担当者らが出席し,これらの出席者は,アルミ電解コンデンサの需要が回復し始め,一部製品で需要が供給能力を上回る状況となったことについて情報交換をした。その後,原告ルビコンは,同年7月頃,アルミ電解コンデンサ事業の採算を改善するため,採算の取れていない製品を中心にアルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げることとし,需要者等に対する販売価格の引上げの申入れを開始した。(乙ア33,41,50)
平成21年7月16日開催のマーケット研究会には,原告ルビコンの《N2》及び《N1》,日本ケミコンの《K1》及び《K3》,日立エーアイシーの《O2》らが出席し,原告ルビコンの《N2》が,リード線形のアルミ電解コンデンサにつき,海外での需要が旺盛で供給が逼迫している上,円高の影響もあることから,販売価格の引上げが必要であることなどを報告した。また,同年8月21日開催のマーケット研究会には,原告ルビコンの《N2》及び《N1》,日本ケミコンの《K1》及び《K3》らが出席し,原告ルビコンの《N2》において,同社がアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを行っていることを報告するとともに,日本ケミコンの《K1》及び《K3》に対し,同社が受注確保のために値下げを行っていることについての苦情を述べ,より利益の取れる営業をするよう申し入れた。さらに,同年9月17日開催のマーケット研究会には,原告ルビコンの《N2》,日本ケミコンの《K5》及び《K3》,日立エーアイシーの《O2》らが出席し,原告ルビコンの《N2》において,円高が進行することを見越して,需要者が日系であるか外資系であるかを問わず,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを実施し,不採算品目の解消を図る旨を報告した。(乙共18,乙ア33,34,41,43,98)
イ 平成21年9月頃の情報交換等
日本ケミコンは,平成21年9月25日開催の社内会議において,アルミ電解コンデンサの需要が急増したことに加え,円高が進行し,原材料価格が高騰したことから,アルミ電解コンデンサ事業の採算を改善するため,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げるよう指示を出した(乙ア83,87)。
日本ケミコンの《K3》は,平成21年9月29日頃,原告ルビコンの《N2》及び原告ニチコンの《L6》と個別に連絡を取り,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げに関する情報交換等を行ったが,その際,原告ルビコンの《N2》から,日本ケミコンが販売価格の引上げに取り組むことは原告ルビコンの幹部にも伝えること,円高による採算悪化に対応するため,海外向けの年間契約の販売価格改定交渉において販売価格の引上げを交渉していくこと,原告ルビコンは需要者である■■■■■■■■の製品別の取引数量を加味した加重平均で3パーセントの販売価格の引上げを申し入れたが,日本ケミコンが値下げを提示して原告ルビコンの足を引っ張らないようにして欲しいことなどを伝えられた。また,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
日本ケミコンの《K1》は,平成21年9月頃,原告ニチコンの《L1》に対し,日本ケミコンはアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを行う方針であることを伝えた上,原告ニチコンも販売価格の引上げに同調するよう求めたところ,同人から,同社の■■の指示が出るまで販売価格の引上げはできないなどの回答を受けた。また,日本ケミコンの《K1》は,同じ頃,既に販売価格の引上げを決めていた原告ルビコンの《N1》に対し,日本ケミコンもアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを行うことを伝えた上,同人との間で値上げ率や時期等について話し合った。(乙ア64,87)
原告ルビコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■は,平成21年9月29日香港で開催されたSM部会において,同会に出席していた原告ニチコンや日本ケミコンの担当者らに対し,原告ルビコンが日本国内で販売価格の引上げに取り組んでいることなどを伝えた(乙ア43)。
ウ 平成21年10月から同年11月頃の情報交換等
原告ニチコンの《L1》は,平成21年10月頃,原告ルビコンの《N1》に対し,同社がアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げに取り組んでいることを聞いたが,原告ニチコンは未だ販売価格の引上げを行っていない旨を伝えた(乙ア34,64)。
原告ルビコンの《N2》は,平成21年10月16日開催のマーケット研究会において,円高のためアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを継続的に実施している旨を報告し,同社の《N1》も,同年11月25日開催のマーケット研究会において,同社では需要者等からの値下げ要請を全て断っているなどと報告した。日本ケミコンの担当者らはこれらの会合に出席しており,同社が需要者等に対し,円高のためにアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れている旨を報告した。(乙共64,乙ア34,43,88,99)
エ 平成21年12月頃の情報交換等
(ア) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(イ) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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(ウ) 平成21年12月21日開催のマーケット研究会には,原告ルビコンの《N1》及び《N2》,日本ケミコンの《K1》及び《K5》,日立化成の《O2》らが出席したが,出席者らは,各社ともにアルミ電解コンデンサの受注が増えて供給が逼迫している状況であることなどについて報告した。日本ケミコンの《K1》は,同研究会終了後,飲食店において原告ルビコンの《N1》と面談し,ここで何としてでもアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを実現しなくてはならないなどと伝えたところ,原告ルビコンの《N1》もこれに同意する旨述べた。(乙共64,ア32,34,43)
(エ) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(オ) 原告ルビコン及び日本ケミコンは,原告ニチコンがアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを開始せず,かえって需要者等に安値を提示するなどしていたことから,平成21年12月頃まではアルミ電解コンデンサの販売価格を十分に引き上げることができなかった(乙ア32,83,105)。
オ 平成22年1月頃の販売価格の引上げに関する情報交換等
(ア) 原告ルビコンは,平成21年12月23日国内外の需要者等に対する営業方針を話し合う社内会議において,それまで販売価格の引上げが遅れていた日系需要者等に販売するアルミ電解コンデンサに関し,海外工場向けの取引については全ての需要者等に対し,日本国内工場向けの取引については需要者等ごとの販売総額をその仕入総額以上とすることを目標として,原則として平成22年4月1日納入分からの販売価格の引上げを需要者等ごとに申し入れて交渉することを決定した。原告ルビコンの《N1》は,平成22年1月初旬,日本ケミコンの《K1》に対し,原告ルビコン社内においてこのような決定がされ,今後はこの決定に従ってアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを実施していくことを伝えた。(乙ア34,35,43)
(イ) 平成22年1月21日開催のマーケット研究会には,原告ルビコン,日本ケミコン,日立エーアイシーの担当者らが出席し,複数の出席者らは,アルミ電解コンデンサについて旺盛な受注を得ていることを報告したほか,原告ルビコンの《N2》が,円高が継続していることに加え,原材料価格に高騰の兆しがあるため,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げ(少なくとも維持)が必要である旨報告し,日本ケミコンの《K1》が,日系需要者等に対するアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを同年3月末までに目処を付けることを目標としていること,需要者である《A》から事実上の値下げ要請を受けたが断ったことなどを報告した(乙共19,64,乙ア44,87,89,99)。
(ウ) 日本ケミコンは,平成22年1月22日開催の社内会議において,日系需要者等に対する値上げ交渉が遅れていることなどを理由として,同年3月1日までに日系需要者等から販売価格の引上げを受け入れるか否かの結論を得るべく積極的に交渉するよう指示をした(乙ア84,87)。
(エ) 原告ニチコンの《L1》は,平成22年1月頃,原告ルビコンの《N1》から,同社が日系需要者等向けにアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げに注力することになった旨を聞くとともに,原告ニチコンは販売価格を引き上げないのかを尋ねられ,まだ値上げの指示がない旨を回答した。また,原告ニチコンの《L1》は,同じ頃,日本ケミコンの《K1》からも,同社と原告ルビコンはアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げに取り組んでいるが,原告ニチコンもこれに取り組んでくれないとやりにくいなどと苦言を呈されたが,まだ指示がない旨を回答した。(乙ア32,65,87)
(オ) 平成22年1月25日シンガポール共和国で開催されたSM部会においては,アルミ電解コンデンサにつき,原告ルビコンの《N3》が,既に外資系需要者等に対しては販売価格の引上げを敢行しており,今後は日系需要者等に対しても実施していく必要があることを,日本ケミコンの担当者が,外資系需要者等に対する販売価格の引上げは完了し,これからは日本国内で日系需要者等に対する値上げ交渉をしていく見込みであることを,原告ニチコンの担当者(同社のシンガポール共和国法人の■■■)が,販売価格の引上げの指示がまだ出ていないことをそれぞれ報告した(乙ア13,14)。
カ 平成22年2月頃の原告ニチコン及び日本ケミコンにおける販売価格の引上げの決定等
(ア) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■■■■■■■■
(イ) 日本ケミコンの《K1》は,遅くとも平成22年2月18日までに,原告ニチコンの《L1》から,同社内でアルミ電解コンデンサの販売価格引上げの指示が出た旨を聞き,同日までに原告ルビコンの《N1》に対し,その旨を伝えた(乙ア32,35,64,65,87,90)。
(ウ) 日本ケミコンは,平成22年2月中旬頃開催の社内会議において,原告ニチコンの社内で販売価格の引上げの指示が出たことを受け,需要者等に対して直ちに販売価格の引上げを申し入れるよう指示を出した(乙ア111)。
キ 平成22年2月18日開催のマーケット研究会
平成22年2月18日開催のマーケット研究会には,日本ケミコンの《K1》,《K5》及び《K3》,原告ルビコンの《N2》及び《N1》,日立化成の《O2》,《P》の担当者らが出席した。同研究会において,原告ルビコンの《N2》は,アルミ電解コンデンサについて,外資系の需要者等に対する販売価格の引上げはほぼ完了したため,引き続き日系需要者等に対しても実施すること,値上げ率等は顧客別に設定すること,円高基調の継続が想定されるのでこのタイミングを逃すことはできないと考えていることなどを報告した。また,日本ケミコンの《K1》は,■■■■■■■■■■等の個別の需要者に対する値上げ活動の状況等に加え,原告ニチコンにおいても,同社の■■の指示により,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを実施することになった旨を報告し,これにより業界全体として本腰を入れて値上げ交渉ができるなどと述べたところ,他の出席者はこれに賛成の意を示した。さらに,参加していたアルミ電解コンデンサを取り扱う各社の担当者は,アルミ電解コンデンサについて旺盛な受注を得ていることをそれぞれ報告した。
原告ルビコンの《N2》は,帰社後社内において,上記研究会の状況につき,各社いずれも受注が旺盛であり,販売価格の引上げの気運が高まっている旨を報告した。
(乙共61,62,乙ア32,35,45,49,87,90)
ク 平成22年2月18日開催のマーケット研究会以降の販売価格引上げの決定等
(ア) 日本ケミコンは,平成22年2月19日社内に対し,定格電圧350ボルト以上の高耐圧のアルミ電解コンデンサについて更に販売価格の引上げを行うよう指示をした(乙ア84)。
(イ) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ケ 日立エーアイシーと原告ルビコン及び日本ケミコンとの連絡等
日立エーアイシーの《O1》は,マーケット研究会後の懇親会に頻繁に出席するとともに,原告ルビコンの《N1》や日本ケミコンの《K5》らの同業他社の担当者との間で個別に面談や電話をし,アルミ電解コンデンサの受注状況や販売価格の引上げの状況等に関する情報交換を行っていた(乙共35,乙ア32,36,92,99,117,118)。
日立化成(日立エーアイシー)の《O2》は,平成22年4月ホリストンに移籍するまでの間日立化成の従業員としてマーケット研究会に参加し続け,執務上知り得た日立エーアイシーのアルミ電解コンデンサの受注状況等を報告するとともに,同研究会で得た情報を日立エーアイシーの《O1》や■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■らに伝えていた(乙共60)。
日立エーアイシーは,平成22年1月18日,■■■■■が,アルミ電解コンデンサにつき,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■値上げをしている状況にあることを考慮し,販売価格の引上げも含め価格戦略を立てるよう指示をした。これを受けて,日立エーアイシーの《O1》は,同月21日開催のマーケット研究会及びその後の懇親会のいずれか又は双方に出席するとともに,同年2月18日開催のマーケット研究会後の懇親会にも出席し,同業他社のアルミ電解コンデンサの受注状況や値上げ状況等について情報交換を行った。また,日立化成の《O2》も,これらのマーケット研究会のいずれにも出席し,同様に情報交換を行った。(乙共18,62,乙ア35,44,45,99,117,118)
日立エーアイシーの《O1》は,平成22年2月23日に面談した原告ルビコンの《N2》に対し,アルミ電解コンデンサについて,特に採算の悪い顧客名を挙げて,その顧客に対しては■■■■■■■の販売価格の引上げが必要であると考えていることなどを伝えるとともに,同年3月1日に日本ケミコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■や原告ニチコンの担当者らと面談し,同人らとの間で,各社が販売価格の引上げの申入れをする顧客やその申入れ状況等について情報交換をした(乙共52,乙ア45,118)。
⑶ 上記販売価格の引上げ決定後の値上げ活動の状況等
ア ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
イ 日立エーアイシーは,平成22年3月2日開催の社内会議において,アルミ電解コンデンサにつき,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■値上げに取り組む方針を定め,同月3日社内に対し,かかる方針に従って値上げ活動に取り組むこと,値上げの実施時期は原則として同年5月1日納入分からとすることを指示した(乙ア117,118)。
ウ アルミ3社の各営業担当者らは,平成22年3月3日,大阪市内のホテルで会合を行い,アルミ3社はアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを実施すること,今後,その進捗状況等について情報交換しながら,販売価格の引上げに取り組むことを相互に確認した上,アルミ電解コンデンサの主要な顧客に関し,具体的な値上げ率を明示するなどして各社の値上げ方針やその進捗状況等について情報交換を行うとともに,今後も,個別の顧客に関して,必要に応じて競合する同業他社の間で会合や電話をするなどして情報交換をしながら,販売価格の引上げに取り組むことを確認した(乙ア51,53,73,79,107,111)。
エ 平成22年3月18日開催のマーケット研究会には,日本ケミコンの《K1》,《K5》及び《K3》,原告ルビコンの《N2》及び《N1》,日立化成の《O2》らが出席した。同研究会において,原告ルビコンの《N2》は,平成22年度も円高が続く見込みであることや原材料価格が上昇していることから,引き続き採算改善のためのアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを行っていくこと,リード線形のうち特に高圧品と呼ばれる製品(定格電圧が400ボルト以上のもの)について,受注に供給が追い付かない状況であることなどを報告した。また,日本ケミコンの《K1》は,リード線形のアルミ電解コンデンサは,電源用の受注が増えて生産能力が上限に達しており,しばらくはアルミ電解コンデンサ全体として受注が多い状態が継続する見込みであること,日本国内の工場で生産した製品については,円高を理由として8パーセントの販売価格の引上げを需要者等に申し入れて交渉していることなどを報告した。さらに,日立化成の《O2》は,日立エーアイシーにおいても,アルミ電解コンデンサの受注が多いために供給が追い付かず,この状況は同年6月までは継続する見込みであることなどを報告した。
この研究会の後に開催されたマーケット研究会出席者による懇親会には,日立エーアイシーの《O1》も出席した。
(乙ア36,46,90)
オ 原告ニチコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■及び日本ケミコンの《K7》は,平成22年3月24日,名古屋市内の飲食店で面談し,両社が競合するアルミ電解コンデンサの需要者等(《G》等)に対する販売価格の引上げの申入れ状況やその進捗状況等について情報交換をした(乙共47,52)。
カ 原告ニチコンの《L1》,日本ケミコンの《K1》及び《K4》並びに原告ルビコンの《N1》は,平成22年3月30日,東京都内の飲食店で会合を行い,アルミ3社におけるアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げの実施状況等について情報交換をした上,日本ケミコンの《K4》が原告ニチコンの《L1》に対し,需要者等に安値を提示するような行動に出ないよう釘を刺す趣旨の発言をした。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■
キ 原告ニチコンの《L7》及び《L8》と日本ケミコンの《K6》及び《K8》は,平成22年3月30日,大阪市内のホテルで会合を行い,アルミ電解コンデンサにつき,■■■■■■■■等の顧客ごとに申し入れる予定の値上げ率や販売価格の引上げの申入れ状況等に関する情報交換をしたほか,今後の交渉方針等を話し合った(乙ア79,108,111)。
ク 原告ルビコンの■■■■■■■■■■■■■■■及び日本ケミコンの《K7》は,平成22年4月5日,名古屋市内の飲食店で会合を行い,アルミ電解コンデンサにつき,両社が競合する需要者等(《G》等)に対する販売価格の引上げの進捗状況等に関する情報交換を行うなどした(乙共52)。
ケ 日本ケミコンの《K8》は,平成22年4月7日頃,原告ルビコンの■■■■■■■■■■■■■■に電話をかけ,日本ケミコンが《C》に納入している製品について,同社に10パーセントの販売価格の引上げを申し入れる予定であるため,原告ルビコンにも《C》に対して同様の要請をして欲しい旨伝えた。これを受けて,原告ルビコンは,その約1か月後,《C》に対し,日本ケミコンから販売価格の引上げを要請された規格のアルミ電解コンデンサについて,販売価格の引上げの申入れを行った。(乙ア53)
コ 原告ニチコンの《L7》は,平成22年4月8日頃,日本ケミコンの《K6》に電話をかけ,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■や■■■■■■■■等に対するアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げの実施状況等について情報交換をするとともに,原告ニチコンが《AB》に対して強硬に値上げ交渉をしたところ,同社から新たに競合他社に対して見積依頼をするなどと言われたことから,同社から日本ケミコンに対して見積依頼が来た際は連絡をするよう依頼した(乙ア108)。
サ 原告ニチコンの《L5》,日本ケミコンの《K6》及び日立エーアイシーの■■■■■■■■■■■■■■■■は,平成22年4月13日頃,大阪市内で会合を行い,アルミ電解コンデンサにつき,■■■■■■■■■■等の顧客ごとに各社が申し入れた具体的な値上率を含む販売価格の引上げの申入れ状況等に関して情報交換をした上,帰社後,確認する必要がある事項については,後日情報提供することを約束した。《K6》は,同会合後,各顧客を担当する日本ケミコンの■■■■■■や■■■■に対して入手した情報を伝えた。(乙ア108)
シ 原告ルビコンは,平成22年4月13日付けで社内に対し,日系需要者等について,原則として,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■として,値上げ活動をすること,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ス 平成22年4月21日開催のマーケット研究会には,日本ケミコンの《K1》及び《K5》,原告ルビコンの《N2》及び《N1》らが出席した。同研究会において,原告ルビコンの《N2》又は《N1》は,アルミ電解コンデンサにつき,高圧品(定格電圧が400ボルト以上)の製品を中心として,全般的に受注過多で供給が追い付かない状況であり,とりわけリード線形やスナップインの製品でそのような状況が著しかったため,これらの製品に関しては受注を制限していること,需要者等から販売価格の引上げを受け入れてもらえているので,今後も引き続き値上げ交渉を行っていくことなどを報告した。また,日本ケミコンの《K1》又は《K5》は,アルミ電解コンデンサにつき,高圧品を中心に供給が追い付かないこと,この状況は年末までは続く見込みであること,社内において,利益を重視して赤字販売を止めるよう指示が出ており,スナップインやネジ端子形の製品に関しては赤字品以外についても販売価格の引上げの指示が出ていることなどを報告した。
この研究会の後に開催されたマーケット研究会出席者による懇親会には,日立エーアイシーの《O1》も出席した。
(乙共18,乙ア36,46,90)
セ 平成22年4月28日開催のSM部会には,原告ニチコンの《L9》,日本ケミコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■及び原告ルビコンの《N3》らが出席し,アルミ電解コンデンサにつき,各社とも受注が多く供給が追い付かないことなどを相互に報告した(乙ア36)。
ソ 平成22年5月21日開催のマーケット研究会には,日本ケミコンの《K1》及び《K5》,原告ルビコンの《N2》らが出席した。同研究会において,原告ルビコンの《N2》は,アルミ電解コンデンサにつき,受注が旺盛で供給が追い付かない状況にあること,特にリード線形,スナップイン及びチップ形に関しては,販売価格の引上げを実施したことにより受注数量の伸びを受注金額の伸びが上回ったことなどを報告し,日本ケミコンの《K1》も,アルミ電解コンデンサについて受注数量の伸びを受注金額の伸びが上回っていることなどを報告した。また,前記ア記載のとおり,アルミ3社は,この頃《A》から,ペンシルコンと呼ばれるアルミ電解コンデンサに係る見積書の提出依頼を受けており,アルミ3社で話し合って《A》に提示する金額を決めていたところ,日本ケミコンがその金額よりも低い金額を《A》に提示していたため,原告ルビコンの《N2》は,同研究会において,日本ケミコンの《K1》に対し,《A》に金額を提示する前に原告ルビコンと協議するよう申し入れた。(乙ア46,90)
タ 原告ニチコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■は,平成22年5月21日頃,原告ルビコンの《N5》に電話をかけ,《C》からのペンシルコンの見積依頼に対する今後の対応について相談した。原告ルビコンの■■■■■■■■■■■■■は,《N5》から上記電話につき報告を受け,原告ニチコンは《C》が求める数量を賄うだけの生産能力が不足しているにもかかわらず,同社に対して安価な見積価格を安易に提示することは控えて欲しいと考え,《N5》に対し,原告ニチコンに原告ルビコンが《C》に提示しているペンシルコンの見積価格を教えることを容認した。これを受けて,《N5》は,《L11》に対し,原告ルビコンが《C》に対して提示していたペンシルコンの見積価格を伝えた。(乙ア51)
チ 原告ルビコンの《N1》,原告ニチコンの《L1》及び日本ケミコンの《K1》は,平成22年5月31日,東京都内の飲食店において会合を行い,《A》から納入の打診を受けていたペンシルコンの2種類の製品について,各社が《A》に対して提示する具体的な見積価格を決定した(その際,最安値を提示する会社が特定の一社に偏らないよう配慮して価格設定をした。)のみならず,レガシー部品と呼ばれる製品(アルミ電解コンデンサのリード線形の一種)につき,原告ルビコンが《A》に販売価格の引上げを受け入れさせることに成功していたため,《N1》が,《L1》及び《K1》に対し,原告ルビコンにおける同製品の具体的な販売価格を説明した(乙ア37,67)。
ツ 平成22年6月17日に開催されたマーケット研究会には,日本ケミコンの《K1》及び《K5》,原告ルビコンの《N1》及び《N2》らが出席した。同研究会において,原告ルビコンの《N2》は,アルミ電解コンデンサにつき,赤字販売を解消するために日系顧客及び外資系顧客に対して販売価格の引上げを実施してきたが,これに関しては一定の成果を得て一応終了したこと,現在は,日系顧客に対し,定格電圧が比較的高い製品を中心として,原材料価格の高騰を見越した交渉を実施中であることなどを報告し,日本ケミコンの《K1》も,アルミ電解コンデンサにつき,原材料価格の高騰を理由として更に販売価格の引上げを実施することなどを報告した。(乙ア37,47,90)
テ 原告ニチコンは,需要者である■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■に対し,大型のアルミ電解コンデンサにつき値上げを申し入れて交渉していたところ,同社が同業他社にも見積書の提出を求めると述べたことから,原告ニチコンにおいて《AD》を担当していた■■■■は原告ニチコンの《L1》に対し,同業他社が《AD》に対して低価格を提示しないよう歯止めをかけて欲しいなどと依頼した。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ト 原告ニチコン及び日本ケミコンは,平成22年6月頃,需要者等に販売価格の引上げの受入れを迫るためにアルミ電解コンデンサの受注数量を制限した。原告ニチコンの《L1》は,その頃日本ケミコンの《K1》との間で,受注数量の制限について情報交換を行い,同人に対して原告ニチコンが受注制限をすることを伝えた。また,《L1》は,同月24日開催のJEITAの会合に出席した際,原告ルビコンの《N2》と個別に面談し,原告ニチコン及び日本ケミコンは需要者等に対し,アルミ電解コンデンサの受注制限を行う旨の文書を配布することとしたことを伝えた上で,原告ルビコンも同様の対応をするよう促した。(乙47,67,90)
ナ 平成22年6月24日に開催されたJEITAのコンデンサ部会には,原告ルビコンの《N2》,原告ニチコンの《L1》,日立エーアイシーの《O5》らが出席した。同会合において,原告ルビコンの《N2》は,アルミ電解コンデンサにつき,原材料の入手が困難となりその価格も高騰しているために,販売価格の引上げを進めていること,受注に供給が追い付かないものが2か月分以上継続していることなどを報告した。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■さらに,日立エーアイシーの《O5》は,アルミ電解コンデンサの一部の製品について納期までに生産が間に合わない状況が生じていることなどを報告した。(乙共25,40)
ニ 日立エーアイシーの《O1》は,平成22年6月25日頃,原告ルビコンの《N1》に対し,日立エーアイシーが,アルミ電解コンデンサにつき多くの受注を得ていることや販売価格の引上げを実施していることを伝えた(乙ア37)。
ヌ 原告ニチコンの■■■■■■■は,平成22年6月28日,同社の《L1》に対し,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■向けの大型のアルミ電解コンデンサにつき,競合する原告ルビコンが販売価格の引上げに動いていないとの情報を得たとして,同社に対して原告ニチコンに追随するよう申入れをすることを依頼した(乙ア17,70)。
ネ 原告ルビコンは,平成22年7月15日社内に対し,他の製品と比較して利益率が高かったためにそれ以前に販売価格の引上げが進んでいなかったカメラの大型ストロボ用のアルミ電解コンデンサにつき,材料費の高騰等を理由として,不採算品か否かを問わず,原則として一律15パーセント以上の販売価格の引上げを行うよう指示をした。これを受けて,原告ルビコンの《N1》は,同コンデンサにつき,主要な競合先である日立エーアイシーの《O1》との間で,当該製品の販売価格の引上げにつき協議するとともに,需要者等に提示する値上率の目安を取り決めた。(乙ア38)
ノ 日立エーアイシーは,平成22年7月頃,アルミ電解コンデンサにつき,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■採算の悪い需要者等も,販売価格の引上げの対象にすることとした(乙ア118)。
ハ 原告ルビコンの《N5》及び日本ケミコンの《K8》は,平成22年7月29日,大阪市内のホテルで会合を行い,《C》から納入の打診を受けていた薄型テレビ向けのアルミ電解コンデンサにつき,品種ごとにいずれの会社が受注するかを決めた上,《C》に提示する具体的な見積価格についても話し合った。その後,《N5》は,《N6》に対し,《K8》との上記会合の内容を報告し,同人と調整した見積価格に基づき,《C》に対する見積価格の提示をした。(乙ア54)
ヒ 原告ルビコンの《N1》,原告ニチコンの《L1》及び日本ケミコンの《K1》は,平成22年8月9日,東京都内の飲食店で会合を行い,《A》に納入するペンシルコンの数量を確保する方策について話し合ったほか,同年10月1日以降に納入するアルミ電解コンデンサの需要者からの見積依頼に対し,需要者ごとに提示する金額について協議し,その方針を決定するなどした(乙ア38)。
フ 平成22年8月25日に開催されたJEITAのコンデンサ部会には,原告ルビコンの《N2》,原告ニチコンの《L1》,日立エーアイシー及び日本ケミコンの各担当者らが出席した。同会合において,原告ルビコンの《N2》は,アルミ電解コンデンサにつき,受注が旺盛で供給が逼迫していること,一部製品で供給制限を継続していること,円高が進んでおり,この状況が継続する場合は更なる販売価格の引上げが必要となることなどを報告した。(乙共26)
へ 日本ケミコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■は,平成22年8月30日頃,需要者である■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■向けのゲーム機の電源用のアルミ電解コンデンサ(定格電圧450ボルト・静電容量100マイクロファラド)につき,日立エーアイシーの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■から,同社が需要者に提示する金額(1個当たり80セント)及び原告ルビコンが需要者に提示するおおよその金額(1個当たり80セント以下)を伝えられた。日本ケミコンの営業担当者であった《K11》は,その後《K10》から,原告ルビコンが《AF》に提示する金額が実際に80セント以下であることを確認するよう指示を受け,原告ルビコンの担当者と連絡を取って,同社が《AF》に対して提示する具体的金額が80セント以下であることを確認した。
《AF》向けのゲーム機の電源用のアルミ電解コンデンサについては,原告ルビコン,日本ケミコン及び日立エーアイシーの3社が競合していたところ,これらの3社は,同電源が毎年のようにモデルチェンジされる都度,《AF》に対して提示する見積価格に関して上記のような情報交換を行っていた。
(乙ア113,114)
ホ 日本ケミコンは,平成22年8月末頃にも社内に対し,アルミ電解コンデンサにつき,同年10月1日納入分から販売価格の引上げを行うよう指示をした(乙ア84)。
マ 原告ルビコンの《N1》,原告ニチコンの《L1》及び日本ケミコンの《K1》らは,平成22年9月1日,原告ニチコンの東京支店内で会合を行い,アルミ電解コンデンサの個別の需要者に対する製品ごとの値上げ交渉の状況等について情報交換を行った上,当該需要者に提示する具体的な金額や値上げ率について,協議・調整を行うなどした(乙ア38,69,114)。
ミ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ム 原告ニチコンの《L8》及び日本ケミコンの《K8》らは,平成22年10月4日,大阪市内のホテルで会合を行い,アルミ電解コンデンサにつき,西日本の営業拠点が担当する■■■■■■■等の需要者等との値上げ交渉の状況や今後の方針等に関して話し合った(乙ア60,76,111)。
メ 日立エーアイシーの《O6》は,平成22年10月26日頃,前記のとおり,《AF》向けのゲーム機の電源用のアルミ電解コンデンサにつき競合関係にあった日本ケミコンの《K10》に対し,日立エーアイシーにおける《AF》との価格交渉の状況,同社への具体的な提示価格等を伝えた(乙ア119)。
モ 原告ルビコンの《N5》は,平成22年11月4日,原告ニチコンの《L11》に対し,原告ルビコンにおける■■■■■■■とのアルミ電解コンデンサの取引につき,定格電圧220ボルト・静電容量180マイクロファラドの製品の販売価格の引上げを受け入れさせたこと,汎用品のうち,耐用温度が摂氏105度のものは販売価格の引上げの対象としていない一方,耐用温度が摂氏85度のものは,■■■■■■■■に対し,従来価格から30パーセント程度の値上げを要請しており,■■■■■■■に対しては既に販売価格の引上げを実施済みであること,チップ形の製品に関し,《AI》に対し値上げ要請をする予定であることなどを伝えた(乙ア54)。
ヤ 平成22年11月15日開催のマーケット研究会において,原告ルビコンの《N1》は,アルミ電解コンデンサにつき,受注が旺盛な状況は徐々に落ち着きつつあるものの,高圧品に関しては原材料が不足していることから,平成23年1月以降に販売価格の引上げを行う予定であること,チップ形に関しては受注を断り生産能力を削減したことなどを報告した。また,日本ケミコンの担当者も,アルミ電解コンデンサのうち高圧品に関し,原告ルビコンと同様の理由から,同月以降,おおむね10パーセントの販売価格の引上げを行うことなどを報告した。(乙ア39,101)
ユ アルミ電解コンデンサの製造販売業者は,当時,需要者等からのアルミ電解コンデンサの受注が減少した際,その原因が,当該需要者等の発注数量全体の減少によるのか,それとも同業他社が当該需要者等に対して低価格を提示して取引を奪取したことによるのかを確認するため,連絡を取り合うことがあったところ,原告ルビコンの《N1》は,平成22年11月16日頃,日本ケミコンの《K1》から,同社において《A》からのアルミ電解コンデンサの発注数量が減少している旨を告げられ,原告ルビコンの状況を尋ねられたため,同社でも受注数量が減少している旨を回答した(乙ア39)。
ヨ 平成22年12月7日に香港の飲食店で開催されたSM部会には,原告ルビコンの《N3》,原告ニチコンの《L9》及び日本ケミコンの《K9》が出席し,日系需要者等を含む需要者等との値上げ交渉の状況や今後の方針等について協議した(乙ア39)。
ラ 原告ニチコンの《L6》及び日本ケミコンの《K6》は,平成22年12月27日頃,原告ルビコンの《N6》に対し,《F》にアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れたが受け入れられていない旨を伝えた(乙ア76,109)。
リ 原告ルビコンの《N5》は,平成23年1月14日,原告ニチコンの《L11》に対し,《C》の液晶テレビ用のチップ形アルミ電解コンデンサにつき,単価を0.6円引き上げたいと申し入れて交渉をしていることなどを伝えた(乙ア54)。
ル 平成23年1月19日開催のJEITAのコンデンサ部会には,原告ルビコンの《N2》,原告ニチコンの《L1》らが出席した。同部会において,アルミ電解コンデンサにつき,原告ルビコンの《N2》は,原材料価格の高騰が今後も問題となることなどを報告し,原告ニチコンの《L1》は,同月の受注が供給能力の上限に達したこと,ネジ端子形に関しては受注が多く供給が間に合わない分が多数あることなどを報告した。(乙共27)
レ 原告ルビコンの《N5》及び日本ケミコンの《K8》は,平成23年1月19日,大阪市内のホテルで会合を行い,《C》から見積価格を提示するよう求められていた平成23年春モデルの■■■■■■■向けのアルミ電解コンデンサにつき,各社が《C》に対して提示する価格に関して協議した(乙ア54)。
ロ 原告ルビコンの《N6》,原告ニチコンの《L6》及び日本ケミコンの《K6》は,平成23年1月20日,大阪市内のホテルで会合を行い,■■■■■■■■■■■■のアルミ電解コンデンサ合計19品種について,需要者との交渉方針を協議した結果,アルミ3社が従来納入してきた製品に関し,お互いの領域を尊重して奪い合いはしないことで意見が一致し,従来の納入業者以外の2社が従来の納入業者よりも高い価格を需要者に対して提示することにより,従来の納入業者が受注を維持できるようにするため,アルミ3社が需要者に対して提示する具体的な価格を品種ごとに協議・決定した(乙ア52,54,76,109)。
ワ 原告ルビコンの《N1》,原告ニチコンの《L1》及び日本ケミコンの《K1》らは,平成23年1月26日,原告ニチコンの東京支店内において会合を行い,アルミ電解コンデンサにつき,《A》からのペンシルコンの発注が激減したことに対する対応方針を協議したほか,■■■■■■■■■■■■等の個々の需要者に対する具体的な値上げ率を含む値上げ交渉の方針について協議した(乙ア39)。
ヲ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ン 原告ルビコンの《N6》及び日本ケミコンの《K6》らは,平成23年2月9日,大阪市内で会合を行い,アルミ電解コンデンサにつき,需要者等との値上げ交渉の状況に関して情報交換を行った(乙ア109)。
⑷ 値上げ活動終了に至る経緯
ア 日本ケミコンは,平成23年3月11日に発生した東日本大震災により,アルミ電解コンデンサの製造拠点である子会社等が被災して稼働不能となったため,アルミ電解コンデンサの供給ができない状況となった。日本ケミコンは,同年5月19日完全復旧宣言を行い,同震災前に受注していた製品を納入するために各工場を稼働させたものの,同震災後の景気の低迷等の影響によりアルミ電解コンデンサの需要も落ち込み,同年8月頃には一部の生産ラインを休止させなければならなくなるなど,赤字を改善させられない状態が続いた。
他方,東日本大震災後,確実にアルミ電解コンデンサの納品を確保しようと企図した需要者等は,長期契約で同じ数量の発注を複数の業者に対して行った(ダブル発注,トリプル発注等と呼ばれていた。)ため,日本ケミコン以外のアルミ電解コンデンサ製造販売業者は,こうした発注への対応に追われる状況となった。
こうした状況の下,原告ルビコンは,アルミ電解コンデンサにつき,日本ケミコンの需要者等からの発注に対しては,原材料不足によるコスト増加を理由として,同社の販売価格を上回る水準の価格で製品を供給し,原告ルビコンの既存の需要者等からの発注に対しては,原則として従前どおりの販売価格で製品を供給した。また,原告ニチコンは,アルミ電解コンデンサにつき,日本ケミコンの需要者等からの発注に対しては,■■■■■■の価格を提示されれば受注して製品を供給し,原告ニチコンの既存の需要者等からの発注に対しては,原則として従前どおりの販売価格で製品を供給した。
(甲B6~9,12,乙共38,乙ア71,85,91)
イ 平成23年5月20日開催のマーケット研究会において,原告ルビコンの担当者は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ヘルプ要請は減ってきていることなどを報告し,日本ケミコンの担当者は,全ての工場が稼働を再開したものの,これまでに発注を受けながら供給が終了していない製品が大量にあり,当面は工場を休みなく稼働させる予定であることなどを報告した(乙共18)。
ウ 平成23年6月7日香港の飲食店で開催されたSM部会には,原告ルビコンの《N3》,ニチコン(ホンコン)リミテッド(以下「ニチコン香港」という。)の■■■■■■■■■■■■ら,日本ケミコンの《K9》が出席した。同部会において,日本ケミコンの担当者は,アルミ電解コンデンサにつき,日系需要者に対し,日本国内で個別に不採算製品の値上げ交渉を行っていることなどを報告するとともに,今まで苦労して行ってきた価格調整の流れを変えることはせず,業界の流れを遵守する旨を述べた。また,ニチコン香港の担当者は,SM部会の流れは非常に大事であり,今後も継続して参加協力する旨を述べた。さらに,原告ルビコンの担当者は,アルミ電解コンデンサにつき,日系の需要者等に対して日本国内で引き続き不採算製品の値上げ交渉を行っていることなどを報告するとともに,今まで値下げ競争を行ってきたコンデンサ業界の歴史がここ数年で逆転したのであり,互いにこの流れを持続していくことを認識していくべきである旨を述べた。(乙共38)
エ 日本ケミコンの《K1》は,平成23年6月頃,原告ニチコンの《L1》に対し,日本ケミコンが東日本大震災で失った取引の回復に取り組んでいるが,同震災後に同社との取引を停止した需要者等の中には同震災前の価格より低い価格を提示しなければ取引を戻さない旨を述べる者もいることなどを伝えたところ,《L1》から,日本ケミコンの同震災前の価格よりも低い価格を提示して取引を奪うようなことはしていないとの説明を受けた(乙ア71)。
オ 原告ルビコンの《N1》は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■から,ネジ端子形のアルミ電解コンデンサにつき見積提出の依頼を受けたため,平成23年8月17日頃,原告ニチコンの《L1》に対し,同社における同製品の販売価格を尋ねた。これに対し,《L1》は,《N1》に対し,同製品への参入は諦めて,《AK》には高い価格を提示するよう説得するとともに,同製品の販売価格として,原告ニチコンにおける同製品の実際の販売価格よりも1割程度高い価格を伝えた。(乙ア71)
カ 日本ケミコンの《K2》は,平成23年8月19日開催の社内会議において,同社の子会社等が被災してアルミ電解コンデンサが供給できなくなったことなどにより,同業他社へ転注されてしまった注文を取り戻すよう指示するとともに,アルミ電解コンデンサの値下げをする場合でも,無謀な値下げをしないように各地区の営業統括部長が判断した上で行うものとし,同業他社との間でメリットのない値下げ合戦は避けるよう指示した(乙ア85)。
キ 平成23年8月30日開催のマーケット研究会において,原告ルビコンの《N1》は,アルミ電解コンデンサにつき,同業他社が値下げを開始することを牽制する意図の下に,一部の需要者等からこれまでに販売価格を引き上げた分を値下げするよう依頼を受けているが断っている旨を報告した。また,日本ケミコンの担当者は,アルミ電解コンデンサにつき,受注は落ち込んでいるものの,円高が進んでおり,ドル建て決済の取引に関してはこれを理由として販売価格の引上げを申し入れることとし,値上げ要請文書を作成中である旨を報告した。(乙共18,33,38)
ク 平成23年9月22日開催のマーケット研究会において,原告ルビコンの《N1》は,アルミ電解コンデンサの受注が減少する中で,同業他社が値下げを行って価格競争に突入することを防ぐ意図の下に,一部の日系需要者等から円高を理由として値下げするよう求められているが断っている旨を報告した(乙共38)。
ケ 原告ルビコンの《N3》は,平成23年10月17日頃,ニチコン香港の《L13》に対し,アルミ電解コンデンサにつき,絶対に価格を下げて注文を取りにいかないよう念を押した(乙共38)
コ アルミ電解コンデンサの需要者である電子機器等の製造販売業者の一部は,平成23年10月タイ王国で発生した洪水により生産拠点が被災したため,アルミ電解コンデンサの需要は減退することとなった(乙ア85)。
サ 日本ケミコンの《K2》は,平成23年11月22日開催の社内会議において,値下げをしてでもアルミ電解コンデンサの生産数量の確保に努めるよう指示をした。その後,アルミ電解コンデンサの製造販売業者は,各社とも需要者等に安値を提示して,顧客を奪い合う状態となった。(乙共38,乙ア85)
⑸ 原告らが実現した販売価格の引上げの状況等
ア 原告ルビコンは,平成22年6月28日頃には同社の顧客のうち主要な日系需要者等中の12社に対し,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを受け入れさせることにより損益を改善させ,さらに,遅くとも平成23年9月末までに全ての日系需要者等との間で,需要者等ごとの販売総額をその仕入総額以上とするという目標を達成した(乙ア40)。
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2 争点に対する判断
⑴ 争点⑴ア(アルミ4社間において本件アルミ合意(意思の連絡)は成立したか。)について
まず,アルミ4社間において,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げに関する合意(意思の連絡)が成立したか否かについて検討する(合意の対象となるアルミ電解コンデンサの製品の範囲については,後記⑵参照)。
ア 「共同して」(独禁法2条6項)の要件の意義
独禁法3条において禁止されている「不当な取引制限」,すなわち「事業者が,契約,協定その他何らの名義をもつてするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(独禁法2条6項)にいう「共同して」に該当するというためには,複数事業者が対価を引き上げるに当たって,相互の間に意思の連絡があったことが認められることが必要であると解される。ここでいう「意思の連絡」とは,複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思があることを意味し,一方の対価引上げを他方が単に認識,認容するのみでは足りないが,事業者間で相互に拘束し合うことを明示して合意することまでは必要なく,相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して,暗黙のうちに認容することで足りると解するのが相当である。そして,事業者相互間に上記のような共同の認識,認容があるか否かを判断するためには,対価引上げがされるに至った前後の諸事情を勘案し,事業者の認識及び意思がどのようなものであったかを検討することが必要である。
イ 本件についての検討
(ア) 前記1の認定事実によれば,原告ルビコンは,平成21年12月23日社内会議において,アルミ電解コンデンサにつき,日本国内工場向けの取引に関しては需要者等ごとの販売総額をその仕入総額以上とすることを目標として,原則として平成22年4月1日納入分からの販売価格の引上げを需要者等ごとに申し入れて交渉することを決定したこと,原告ルビコンの《N1》は,平成22年1月初旬日本ケミコンの《K1》に対し,原告ルビコン社内においてそのような決定がされたことを伝えたこと,日本ケミコンの《K1》は,同月21日開催のマーケット研究会において,日系需要者等に対するアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げにつき,同年3月末までに目処を付けることを目標としていることなどを報告したこと,日本ケミコンは,同年1月22日開催の社内会議において,日系需要者等に対する値上げ交渉が遅れていることなどを理由として,同年3月1日までに日系需要者等から販売価格の引上げを受け入れるか否かの結論を得るべく積極的に交渉するよう指示をしたこと,原告ニチコンの《L1》は,同年1月頃原告ルビコンの《N1》から,原告ニチコンはアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを実施しないのかを尋ねられ,日本ケミコンの《K1》からも,同社と原告ルビコンはアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げに取り組んでいるが,原告ニチコンもこれに取り組んでくれないとやりにくいなどと苦言を呈されたものの,未だ指示がないなどと回答したこと■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■日本ケミコンの《K1》は,遅くとも同年2月18日までに原告ニチコンの《L1》から,原告ニチコンの社内で上記のような指示が出た旨を聞き,同日までに原告ルビコンの《N1》に対してその旨伝えたこと,同日開催されたマーケット研究会において,原告ルビコン,原告ニチコン及び日本ケミコンの3社がアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを実施し,又は実施することになったことが報告されたこと(原告ニチコンの担当者は,同研究会に出席しなかったが,原告ニチコンの情報が日本ケミコンの担当者を通じて報告されることを認識していた。)が認められる。
(イ) また,前記1の認定事実によれば,アルミ電解コンデンサにつき,日立エーアイシーの《O1》は,かねてよりマーケット研究会後の懇親会に頻繁に出席していたほか,原告ルビコンの《N1》や日本ケミコンの《K5》といった同業他社の担当者らとの間で,受注状況や値上げ状況等に関する情報交換を行っていたこと,日立化成(日立エーアイシー)の《O2》はマーケット研究会に参加し,執務上知り得た日立エーアイシーのアルミ電解コンデンサの受注状況等を報告するとともに,マーケット研究会で得た情報を日立エーアイシーの《O1》らに提供していたこと,日立エーアイシーは,平成22年1月18日,同業他社が販売価格の引上げをしている状況にあることなどを考慮して,販売価格の引上げを含め価格戦略を立てるよう指示をしたこと,日立エーアイシーの《O1》及び日立化成(日立エーアイシー)の《O2》は,同月21日及び同年2月18日に開催されたマーケット研究会又はその後の懇親会に出席し,同業他社の担当者とアルミ電解コンデンサの受注状況や販売価格の引上げの実施状況等について情報交換を行ったこと,日立エーアイシーの《O1》は,同月23日原告ルビコンの《N2》と,同年3月1日日本ケミコンの《K7》及び原告ニチコンの担当者らとそれぞれ面談し,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げ等に関する情報交換をしたこと,日立エーアイシーは,同月2日開催の社内会議において,■■■■■■■■■■■■■■の需要者等を中心として販売価格の引上げに取り組む方針を定め,同月3日社内に対し,かかる方針に従って値上げ活動に取り組むことなどを指示したことが認められる。
(ウ) さらに,前記1の認定事実によれば,アルミ4社の営業担当者らは,平成22年2月18日のマーケット研究会以降(日立エーアイシーに関しては同年3月2日以降)も,毎月1回程度の割合で開催されたマーケット研究会のほか,SM部会及びJEITAのコンデンサ部会等の各会合において,各社とも円高や原材料の価格高騰に伴い採算改善のために販売価格の引上げが必要な状況にあることや,受注が旺盛で供給が追い付かない状況にあることなどを確認したほか,具体的な値上げ率を含む販売価格の引上げの申入れ状況等について情報交換をしたこと(ただし,いずれの会合についても,毎回,アルミ4社全ての営業担当者らが出席していたわけではなく,少なくともマーケット研究会については,原告ニチコンの営業担当者らは出席していなかった。),アルミ4社の営業担当者らは,これらの会合以外の機会にも,個別に面談したり電話をかけたりするなどして,各社の販売価格の引上げの実施状況等に関する情報交換を行い,そこで得た情報を各社の社内で報告していたこと,アルミ4社のうち複数の会社が競合して同一の需要者等と取引をしている場合,これらの競合会社の営業担当者らの間で,当該需要者等に申し入れる具体的な値上げ率や提示価格等を協議して決めることがあったことが認められる。
(エ) 上記(ウ)に加えて,前記1の認定事実によれば,アルミ電解コンデンサにつき,平成22年2月18日のマーケット研究会以降(日立エーアイシーに関しては同年3月2日以降),アルミ4社のうちの1社が,ある需要者等に対して安値を提示するなど,他社の値上げ活動と歩調の揃わない営業活動をしている場合,他社が当該会社に対してかかる営業活動を止めるよう要請することがあったこと,アルミ4社のうちの1社が,取引関係にある需要者等から競合他社に見積依頼をする旨申し向けられた際,アルミ4社中の他社に対し,当該需要者等から見積依頼があった場合は連絡するよう要請することがあったこと,アルミ4社のうちの複数の会社が同一需要者から新規製品の見積依頼を受けた際,各社の生産能力等を踏まえつつ,各社が受注を希望する製品や各社の受注割合等を協議し,それを実現するために各社が当該需要者等に提示する見積価格をあらかじめ決めることがあったことが認められる。
(オ) そして,前記1の認定事実によれば,アルミ4社を含むアルミ電解コンデンサ製造販売業者は,少なくとも平成18年頃から平成20年頃までの間,CUP会,マーケット研究会及びSM部会等の会合又は個別の面談や電話連絡等を通じて,同業他社との間で,アルミ電解コンデンサの原材料価格の動向や需要者等への値上げ活動の状況等に関する情報交換をしつつ,各社がアルミ電解コンデンサの値上げ活動を実施していたことが認められる。
(カ) このように,①アルミ4社を含むアルミ電解コンデンサの製造販売業者は,少なくとも平成18年頃から平成20年頃までの間,同業他社との間で,値上げ活動の状況等に関する情報交換をしつつアルミ電解コンデンサの値上げ活動をしていた経緯があること,②アルミ4社は,平成22年2月頃までにそれぞれアルミ電解コンデンサについて,不採算製品を中心として販売価格の引上げを実施することを決定したこと,③アルミ3社は,その決定に関する情報を遅くとも同月18日(日本ケミコンについては同年3月2日)までに各会社間で共有したこと,④アルミ4社は,その後,各会社間で継続的に,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げの状況や値上げ交渉の状況等につき詳細な情報交換をし,これを自社内に持ち帰って共有した上で,一貫して値上げ活動をしていること,⑤アルミ4社は,需要者等に対して安値を提示する営業活動をしている会社に対し,そのような営業活動をしないように釘を刺したり,複数の会社が新規製品の見積依頼を受けた場合,あらかじめ最終的な受注者や受注割合等を定め,需要者等に対して提示する見積価格を決めておいたりしたことが認められるというのであるから,これらの事情を総合すれば,アルミ4社は,各社が同じような時期に不採算製品を中心として販売価格の引上げをすること,各社が需要者等に提示する価格を教示したり,協議・決定したりすることを通じて,確実にアルミ電解コンデンサの製品を受注できるようにすること,及び,このような販売価格の引上げ活動に他社が協力すること(すなわち,アルミ4社のうちの1社が需要者等に安値を提示するなどしてアルミ電解コンデンサのシェアを奪う行為に出るといった販売価格の引上げを妨害する行為をしないこと)を認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思が,遅くとも同年2月18日(日本ケミコンについては同年3月2日)までに形成されており,アルミ4社相互の間には「意思の連絡」があったと認定するのが相当である。
ウ 原告ニチコンの主張について
(ア)a 原告ニチコンは,①平成22年2月頃のアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げ実施の具体的内容は,他社の情報とは無関係に,独自の判断によって決定したものであること,②他社より安い販売価格を提示することにより他社のシェアを奪う行動に出たほか,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■他社も原告ニチコンの値上げ活動が「強引な値上げ」であると警戒していたこと,③原告ニチコンの《L1》が日本ケミコンの《K1》に対し,原告ニチコンがアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げ実施が決定された事実を伝えたのは,個人的に懇意にしていた同人からの照会に応じて事実を報告したものにすぎない上,原告ニチコンの《L1》は,日本ケミコンの《K1》との間で何らかの行動を約束できる立場にはなく,その権限もなかったこと,④原告ニチコンはマーケット研究会に参加しておらず,一貫してアウトサイダーの立場であったことなどを根拠として,原告ニチコンと他社との間に本件アルミ合意が成立していないなどと主張する。
b ①について,たしかに,前記1の認定事実によれば,アルミ4社は,平成21年7月頃から平成22年3月頃にかけて,それぞれアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを決定したものの,その実施時期,対象製品及び値上げ率等がアルミ4社間で完全には一致していなかったことが認められ,販売価格の引上げの実施方法の詳細は,各社が独自の判断で決定していた面があるというべきである。しかし,他方,前記1の認定事実によれば,原告ルビコン及び日本ケミコンは,先行してアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを決定したものの,原告ニチコンが販売価格の引上げを決定するまでの間,十分な値上げ活動ができなかったこと,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■原告ルビコンは,需要者等ごとに販売総額をその仕入総額以上とすることを目標として販売価格の引上げの決定をしたところ,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■などからすれば,原告ニチコンは,他社の情報とは無関係に独自の判断で販売価格の引上げ実施を決定したということはできず,むしろ,他社の情報を参考としつつ,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げの実施時期,対象製品及び値上げ幅等を判断したとみるのが自然である。
c ②について,前記1の認定事実によれば,たしかに,原告ニチコンは,需要者等に対して安値を提示したり,《AB》に対して強行的な値上げ交渉をしたりすることがあったことが認められるが,他方で,原告ニチコンの《L1》は,平成22年3月30日開催の会合において,日本ケミコンの《K4》から,需要者等に安値を提示するような行動に出ないよう釘を刺され,それ以降は逆に,日立エーアイシーの《O1》及び原告ルビコンの《N1》に対し,原告ニチコンが《AD》に提示している単価341円を上回る350円程度の金額を提示するよう依頼するなど,他社が安値を提示してシェアを奪う行為に出ることを阻止するような行動を取っていること,原告ニチコンの《L7》は,日本ケミコンの《K6》に対し,原告ニチコンが《AB》に対して強行的な値上げ交渉をしたところ,同社から新たに競合他社に対し見積依頼をするなどと言われたため,同社から日本ケミコンに対して見積依頼が来た際は連絡をするよう依頼したことも認められる。これらの事情を総合すれば,原告ニチコンは,アルミ電解コンデンサにつき,専ら他社のシェアを奪う行動に出たり強行的な値上げ活動を行ったりしたということはできず,むしろ積極的に他社と協調しながら値上げ活動を行っていたと見るのが相当である。
d ③について,前記1の認定事実によれば,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■日本ケミコンの《K1》は,マーケット研究会において,原告ニチコンのアルミ電解コンデンサの販売価格の引上げの実施状況等についても報告をしていることが認められる。
これらの事情からすれば,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ところ,そのような役割を的確に果たすために日本ケミコンの《K1》と情報交換等を行っていたと認められるから,《L1》が個人的に懇意にしていた日本ケミコンの《K1》の照会に応じて事実を報告したものにすぎないなどとして,本件アルミ合意が成立したことを否定する原告ニチコンの主張は,採用することができない。
e ④について,前記1の認定事実によれば,たしかに,原告ニチコンは,マーケット研究会の前身であるATC会から平成17年2月頃に脱退して以降,同年5月頃から開催されるようになったマーケット研究会にも参加していなかったことが認められるが,他方,CUP会,JEITAの会合やSM部会には原告ニチコンの営業担当者らが出席し,他社との間でアルミ電解コンデンサに関する情報交換を行っていたことも認められる。これに加え,前記認定・説示のとおり,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■マーケット研究会において,日本ケミコンの《K1》を通じて原告ニチコンのアルミ電解コンデンサの販売価格引上げの実施状況等が報告されていたことをも考慮すると,原告ニチコンは,同業他社と協調しながらアルミ電解コンデンサの値上げ活動をしていたというべきであり,マーケット研究会に参加していないとの一事をもって,アウトサイダーとして活動していたと断ずることはできない。
f 以上のとおり,①から④の事情はいずれも,原告ニチコンと他社との間で本件アルミ合意が成立していない根拠となるものではなく,他に原告ニチコンと他社との間で本件アルミ合意が成立していないことを窺わせる証拠はないから,原告ニチコンの前記主張は採用することができない。
(イ) 原告ニチコンは,被告は本件アルミ合意の内容を「アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨の合意」であると主張するが,本件においては,少なくとも当時の市場の状況に照らし,各社が販売価格の引上げを実施することは自明であったから,何らの具体性なく単に販売価格の引上げを行うというだけの極めて抽象的な内容を確認しただけでは,実質的に競争を制限する効果をもたらす「同内容又は同種の対価の引上げ」について歩調を揃えることを合意したとは到底認められず,「意思の連絡」に該当しないと主張する。
たしかに,被告が本件アルミ合意の内容として主張する「アルミ電解コンデンサの販売価格を共同して引き上げること」は,極めて抽象的であって,それのみで直ちに「意思の連絡」に該当するといえるかについては,疑問がないわけではない。
しかしながら,他方,アルミ4社は,各社が同じような時期に,アルミ電解コンデンサについて不採算製品を中心として販売価格の引上げをすること,各社が需要者等に提示する価格を教示したり協議・決定したりすることを通じて,確実にアルミ電解コンデンサの製品を受注できるようにすること,及び,このような販売価格の引上げ活動に他社が協力することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思を有していたものと認められることは,前記認定・説示のとおりであり,さらに,前記1の認定事実によれば,アルミ4社は,その後も,本件アルミ合意に基づいて,具体的な販売価格の引上げの態様等に関する情報を継続的に交換し,これに基づいて値上げ活動をしていたというべきであるから,本件アルミ合意は,成立後,このような情報交換及び値上げ活動をすることをも想定していたものというべきである。
そして,アルミ4社は,このような内容の合意をすれば,本件アルミ合意の時点で具体的な販売価格の引上げの時期,対象製品や値上げ幅等を合意しなくても,各社が需要者等に対し販売価格の引上げを申し入れて交渉する際,自らが突出した販売価格を提示したり,他社が当該需要者等に対して低い販売価格を提示して価格交渉を妨害したりすることはないと信頼することができ,競争事業者に取引を奪われるおそれを減少させることができるから,このような合意は,市場の競争制限効果をもたらす合意であるということができ,「意思の連絡」に該当するというべきである。
したがって,本件アルミ合意が「意思の連絡」に該当しないとする原告ニチコンの上記主張は,採用することができない。
⑵ 争点⑴イ(本件アルミ合意が対象とした製品の範囲)について
ア 前記1の認定事実及び弁論の全趣旨によれば,マーケット研究会においては,アルミ電解コンデンサについて,アルミ電解コンデンサ全体,リード線形,チップ形,スナップイン,ネジ端子形及び導電性アルミ電解コンデンサのそれぞれに関し,製造販売業者ごとの各月の受注状況(数量及び金額)を整理した表が配布されており,アルミ電解コンデンサのうちの特定の類型の製品に限った情報交換や特定の類型の製品を除いた情報交換がされていたわけではなかったこと,JEITAの会合やSM部会における情報交換や各社の営業担当者らによる個別の情報交換においても,同様に,アルミ電解コンデンサのうちの特定の類型の製品に限った情報交換や特定の類型の製品を除いた情報交換がされていたわけではなかったこと,アルミ4社は,アルミ電解コンデンサの販売価格の引上げを決定するに当たり,その対象を特定の類型のものに限ったり,特定の類型のものを除いたりはしていないことが認められるから,これらの事情を総合すれば,アルミ4社が本件アルミ合意において対象としていた製品の範囲は,アルミ電解コンデンサ全体であったと認定するのが相当である。
イ 原告ルビコンの主張について
(ア) 原告ルビコンは,被告が主張する本件アルミ合意に関する経緯等を前提とすると,本件アルミ合意が対象とした製品には日系需要者以外に納入する製品は含まれず,また,その製品はアルミ電解コンデンサのうち販売総額が仕入総額以下のものに限られていたと主張する。
(イ) 前記1の認定事実によれば,原告ルビコンは,①平成22年4月13日付けで社内に対し,日系需要者等について,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を目標として,値上げ活動をすること,これらに該当する場合でも,不採算の度合いの大きい顧客に対しては他社への発注を依頼し,当該顧客との取引を打ち切るよう指示したこと,②同年7月15日社内に対し,カメラの大型ストロボ用のアルミ電解コンデンサにつき,材料費の高騰等を理由として,不採算品か否かを問わず,原則として一律15パーセント以上の販売価格の引上げを行うよう指示をしたこと,③これらの指示に基づいて値上げ活動が行われたことが認められる。このように,原告ルビコンにおいて,本件アルミ合意成立後に,一部の製品について,不採算品か否かを問わず価格引上げを行うよう指示がされるとともに,小口の需要者等について,粗利を一定割合以上とすることを目標とするよう指示がされるなどし,それに沿った値上げ活動がされたことからすると,本件アルミ合意成立時に,それ以降の値上げ活動として,「日系需要者に対し,アルミ電解コンデンサの販売総額を仕入総額以上に値上げすること」のみが念頭に置かれていたものではないことが推認されるというべきである。
また,前記1の認定事実によれば,アルミ4社のうち原告ルビコン以外の3社においても,不採算製品を中心として販売価格の引上げを行うことが決定されていたことが認められるが,不採算製品が各社において同一であったことを認めるに足りる証拠はなく,他に不採算製品以外の製品が本件アルミ合意の対象から除かれていたことを認めるに足りる証拠もない。
(ウ) したがって,本件アルミ合意が対象とした製品の範囲に関する原告ルビコンの主張は,採用することができない。
ウ 原告ニチコンの主張について
(ア) 原告ニチコンは,本件アルミ合意の対象は,アルミ電解コンデンサのうち不採算製品に限定されていたなどと主張し,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
しかしながら,アルミ4社間においては,アルミ電解コンデンサのうちの特定の類型の製品に限った情報交換や特定の類型の製品を除いた情報交換がされていたわけではなかったことは,前記認定・説示のとおりである。加えて,前記1の認定事実及び弁論の全趣旨によれば,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ことが認められる。
また,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
したがって,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
(イ) 原告ニチコンは,アルミ電解コンデンサに係る取引のうちヘルプ要請に基づくものは,本件アルミ合意の対象外であるなどと主張する。
しかしながら,前記1の認定事実によれば,日本ケミコンの需要者等からの発注に対応した原告ルビコン及び原告ニチコンは,日本ケミコンの従前の販売価格を下回る価格を上記需要者等に提示して,日本ケミコンのシェアを奪うための競争的な行為を行ったということはできず,むしろ,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ことが認められる。また,後記のとおり,ヘルプ要請に基づく取引を契機として,本件アルミ合意に基づく値上げ活動が終了したといった事情を認めることはできず,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ことが認められる。
したがって,ヘルプ要請に基づく取引も本件アルミ合意の対象の範囲内であるというべきであるから,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
(ウ) 原告ニチコンは,アルミ電解コンデンサのうちコンデンサユニット品は,一般市場において原告ニチコンしか販売していない独自の製品であり,他社とは全く競合していない製品であるから,本件アルミ合意の対象外であると主張する。
この点,証拠(乙B8,11)及び弁論の全趣旨によれば,原告ニチコンが製造販売していたコンデンサユニット品は,複数の大型アルミ電解コンデンサを並列又は直列につないだ回路製品であり,大きな静電容量や高い定格電圧が必要となる製品に用いられるものであるところ,アルミニウムを陽極とし,アルミニウム表面に形成する酸化被膜を誘電体とする点や,蓄電により電圧の変化を吸収して電圧を安定化(平滑化)する機能を有し,それ以外の機能を有しない点では,単体のアルミ電解コンデンサと変わるところはなく,アルミ電解コンデンサの一類型であるというべきであること,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ことが認められる。そして,アルミ4社間においては,アルミ電解コンデンサのうちの特定の類型の製品に限った情報交換や特定の類型の製品を除いた情報交換がされていたわけではなかったことは,前記認定・説示のとおりであり,コンデンサユニット品についても,情報交換の対象から除外されてはいなかったものである。
さらに,証拠(乙B9,11)によれば,日本ケミコンにおいても,顧客が求める電圧や静電容量に対応できるよう,複数のアルミ電解コンデンサを直列又は並列につないだ原告ニチコンが販売しているコンデンサユニット品と類似の製品を販売していたこと,需要者等は,単体のアルミ電解コンデンサでは必要な電圧や静電容量が得られない場合には, 原告ニチコンが販売するコンデンサユニット品を購入することもあれば,同社又は他社のアルミ電解コンデンサを複数購入し,自社でつなぎ合わせてユニット化することもあったことが認められるから,原告ニチコンが販売するコンデンサユニット品は,他社の販売するアルミ電解コンデンサと全く競合しなかったと断ずることはできない。
以上によれば,コンデンサユニット品も本件アルミ合意が対象とする製品の範囲に含まれるというべきであるから,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
⑶ 争点⑴ウ(実行期間)について
ア 実行期間の始期
(ア) 実行期間の始期の意義
独禁法7条の2第1項は,実行期間の始期について,「当該行為の実行としての事業活動を行った日」と規定しているところ,合意が成立した日以降に値上げ予定日が定められ,その日からの販売価格の引上げに向けて交渉が行われた場合には,現実にその日に販売価格の引上げが実現したか否かにかかわらず,その日が当該行為の実行としての事業活動を行った日に当たると解するのが相当である。
(イ) 本件についての検討
前記1の認定事実,証拠(乙B5)及び弁論の全趣旨によれば,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ことが認められる。
このように,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■のであるから,本件アルミ合意の実行期間の始期は平成22年3月1日であるというべきである。
(ウ) 原告ニチコンの主張について
原告ニチコンは,予備的主張として,実行期間の始期は早くとも平成22年4月1日であると主張する。
しかし,本件アルミ合意がアルミ3社の間で成立したのは平成22年2月18日であることは前記認定・説示のとおりであり,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ことを認めるに足りる的確な証拠はない。また,仮に,原告ルビコンを始めとするマーケット研究会の参加者が平成22年4月1日から適用される販売価格の引上げを協調していたとしても,違反行為の実行としての事業活動を各社が個別に行うことが妨げられる理由はないから,上記協調行為の存在から直ちに,原告ニチコンの実行期間の始期が同日となるわけではない。
したがって,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
イ 実行期間の終期
(ア) 実行期間の終期の意義
独禁法7条の2第1項は,実行期間の終期について,「当該行為の実行としての事業活動がなくなる日」と規定しているところ,不当な取引制限行為とは,違反行為者間の合意による相互拘束状態の下に,競争を実質的に制限する行為をいうから,上記終期は,そのような相互拘束状態が解消されて,もはや,競争制限的な事業活動がされなくなった時点を指すものと解される。そして,不当な取引制限は,各事業者が違反行為の相互拘束に反する意思の表明等相互拘束が解消されたと認識して事業活動を行うまで継続するのであり,いわゆる価格カルテルについては,事業者間の合意が破棄されるか,破棄されないまでも当該合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情が生じるまで当該合意による相互拘束が継続すると解するのが相当である。
(イ) 本件についての検討
前記1の認定事実によれば,アルミ4社間において,本件アルミ合意が明示的に破棄されたことはなかったこと,日本ケミコンの《K2》は,平成23年11月22日開催の社内会議において,値下げをしてでもアルミ電解コンデンサの生産数量の確保に努めるよう指示をしたこと,その後,アルミ電解コンデンサの製造販売業者は,各社とも需要者等に安値を提示して,顧客を奪い合う状態となったことが認められる。
そうすると,アルミ4社は,平成23年11月22日以降,いずれも需要者等に対して安値を提示して,顧客を奪い合う状態になっている以上,本件アルミ合意による拘束が事実上消滅したと認められる特段の事情が生じたものといえる。
(ウ) 原告ニチコンの主張について
a 原告ニチコンは,本件アルミ合意の実行としての事業活動は,東日本大震災が発生した平成23年3月11日をもって消滅したことが明らかであるなどとして,本件アルミ合意の実行期間の終期は同日であると主張する。
たしかに,前記1の認定事実によれば,日本ケミコンは,平成23年3月11日に発生した東日本大震災により,アルミ電解コンデンサの製造拠点である子会社等が被災して稼働不能となったため,アルミ電解コンデンサの供給ができない状況となったこと,日本ケミコン以外のアルミ電解コンデンサ製造販売業者は,確実にアルミ電解コンデンサを確保したい需要者等からのダブル発注やトリプル発注への対応に追われる状況になったことが認められ,東日本大震災発生直後のアルミ電解コンデンサの市場の状況がそれ以前と比べて変化したことは,否定できないところである。
しかしながら,他方,前記1の認定事実によれば,日本ケミコンは,平成23年5月19日完全復旧宣言を行い,東日本大震災以前に受注していた製品を納入するために同社の各工場を再び稼働させたこと,同月20日開催のマーケット研究会において,原告ルビコンの担当者がヘルプ要請は減ってきている旨を報告し,日本ケミコンの担当者が,全ての工場が稼働を再開し,当面は休みなく稼働させる予定である旨を報告したことが認められ,これらの事実によれば,東日本大震災が発生してから約2か月余り後には,同震災発生直後の上記のような市場の状況は脱しつつあったものというべきである。
また,前記1の認定事実によれば,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ことからすると,同震災発生後もなお,部分的には,本件アルミ合意の相互拘束が継続していたものというべきである。
さらに,前記1の認定事実及び弁論の全趣旨によれば,東日本大震災発生後もアルミ4社間におけるアルミ電解コンデンサの値上げ活動の状況等に関する情報交換は継続され,平成23年6月7日開催のSM部会では,原告ルビコン,ニチコン香港及び日本ケミコンの各出席者が,アルミ電解コンデンサにつき,今後も販売価格の引上げを前提とする価格調整の流れを継続することの重要性を確認し合ったこと,その後,アルミ電解コンデンサの需要が激減する状況の中で,同年8月30日及び同年9月22日開催されたマーケット研究会において,原告ルビコンの《N1》は,同業他社がアルミ電解コンデンサの値下げを開始することを牽制する意図の下に,一部の需要者等からこれまでの販売価格の引上げ分を値下げするよう依頼を受けているが断っている旨を報告したことが認められ,これらの事実によれば,アルミ4社は,東日本大震災後も情報交換を継続しつつ事業活動を行い,時に相互拘束状態から抜けることを牽制するような動きも見られるというのであるから,アルミ4社が本件アルミ合意の相互拘束状態を離れ,独自に事業活動を行っていたともいい難い。
以上の事情を考慮すると,東日本大震災が平成23年3月11日に発生したことにより,アルミ4社間において,本件アルミ合意による相互拘束状態が解消されて,もはや競争制限的な事業活動がされなくなったとはいい難く,本件アルミ合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情があるとまではいえないものというべきである。
したがって,平成23年3月11日が本件アルミ合意の実行期間の終期であるとする原告ニチコンの上記主張は,採用することができない。
b 原告ニチコンは,予備的主張として,平成23年8月19日が本件アルミ合意の終期である旨主張する。
前記1の認定事実によれば,日本ケミコンの《K2》は,平成23年8月19日開催の社内会議において,同社の子会社等が被災してアルミ電解コンデンサが供給できなくなったことなどにより,同業他社へ転注されてしまった注文を取り戻すよう指示をするとともに,アルミ電解コンデンサの値下げを行う場合には,無謀な値下げをしないように各地区の営業統括部長が判断した上で行うものとする旨の指示を出したことが認められ,日本ケミコンは,同日以降,アルミ電解コンデンサの値下げも視野に入れて営業活動を行う方針となったことが窺われる。しかし,他方,前記1の認定事実によれば,日本ケミコンの《K2》は,上記指示を出す際,同業他社との間でメリットのない値下げ合戦は避けるよう併せて指示したことが認められる上,前記1の認定事実及び弁論の全趣旨によれば,平成23年8月30日開催のマーケット研究会において,日本ケミコンの担当者は,アルミ電解コンデンサの受注は落ち込んでいるものの円高が進んでおり,ドル建て決済の取引に関してはこれを理由として販売価格の引上げを申し入れることなどを報告し,その後,同年11月22日日本ケミコン社内で値下げをしてでもアルミ電解コンデンサの生産数量の確保に努めるよう指示が出されるまで,需要者等に対し,値下げの申入れをしていないことも認められるから,結局,同年8月19日の時点で,日本ケミコンが本件アルミ合意の相互拘束を離れて独自に事業活動を行ったとはいえないものというべきである。
よって,平成23年8月19日が本件アルミ合意の実行期間の終期であるとする原告ニチコンの主張は,採用することができない。
(エ) 以上によれば,平成23年11月21日よりも前の時点を実行期間の終期と認めるべき特段の事情があるとはいえないから,同月21日をもって実行期間の終期とした本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)が違法であるということはできない。
⑷ 争点⑴エ(「当該商品」(独禁法7条の2第1項)の範囲)について
ア 「当該商品」の意義
独禁法7条の2第1項にいう「当該商品」は,違反行為である相互拘束の対象である商品,すなわち,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解するのが相当であるところ,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,違反行為を行った事業者等が,一定の商品を明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど,当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められない限り,課徴金算定の対象となる「当該商品」に含まれるというべきである。
イ 本件についての検討
(ア) 本件アルミ合意の対象がアルミ電解コンデンサ全体であると認められることは,前記認定・説示のとおりであって,アルミ電解コンデンサ全体は,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する製品であり,違反行為である相互拘束を受けたものに当たるといえるから,「当該商品」に該当する。
(イ) これに対し,原告ルビコンは,本件アルミ合意の対象である製品の範囲が「日系需要者に対するアルミ電解コンデンサの販売総額を仕入総額以上に値上げする」ことに限定されることを前提として,「当該商品」もこの範囲に限定されると主張し,原告ニチコンは,①不採算品以外の製品,②ヘルプ要請に基づく取引,③コンデンサユニット品は,「当該商品」から除外されるべきであると主張する。
しかしながら,前記認定・説示によれば,アルミ4社間において,明示的又は黙示的に,違反行為の対象を原告ルビコンが主張する製品の範囲に限定することを示す事情,又は原告ニチコンが主張する①ないし③の各類型の製品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情は認められないものというべきである。
よって,「当該商品」の範囲に関する原告ルビコン及び原告ニチコンの主張は,いずれも採用することができない。
⑸ 争点⑴オ(本件アルミ合意に関する各命令は平等原則及び比例原則に違反するか。)について
ア 原告ニチコンは,仮に,原告ニチコンに何らかの違反行為があるとしても,被告は,①マーケット研究会等に参加し他社との情報交換等を行っていた《P》とアルミ4社とを別異に取り扱う合理的な理由が存在しないにもかかわらず,正当な理由なく処分対象となる企業を取捨選択し,恣意的に法律を執行したこと,②原告ニチコンの関与の程度や悪質性が他社と比較して極めて低いことを一切勘案せずに処分を行ったこと,③本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)に関し,○ア本件アルミ合意の当事者の認定,○イ違反期間の認定,○ウ東日本大震災のヘルプ要請に基づく受注による一時的な売上げ増分を含めて課徴金納付命令の基礎としているという3点において,全く合理性のない認定を行っているから,本件アルミ合意に関する各命令は,社会通念上著しく妥当性を欠き,平等原則及び比例原則に反する違法な処分であると主張する。
イ しかしながら,①について,前記前提事実によれば,被告は,アルミ4社が日本国内でのアルミ電解コンデンサの販売分野における競争を実質的に制限したことを理由として,本件アルミ合意に関する各命令を行っていると認められるところ,証拠(乙共18)によれば,《P》の担当者はマーケット研究会に出席しているものの,その発言内容は,ドル建て,ユーロ建ての外貨取引等,欧米やアジアに所在するアルミ電解コンデンサの需要者等に関するものが多くの部分を占めることが認められ,《P》は,アルミ4社と比べて,日本国内の需要者等に対するアルミ電解コンデンサの販売数量は多くなかったものと推認することができる。加えて,《P》がマーケット研究会以外の会合に参加して,日本国内のアルミ電解コンデンサの需要者等に提示する具体的な販売価格について話し合うなどしていたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,被告が《P》とアルミ4社とを別異に取り扱ったことが不合理とはいえないというべきである。
また,②については,公正取引委員会は,独禁法が定める特定の違反行為を行った事業者に対して課徴金の納付を命じなければならず(独禁法7条の2),処分要件に該当する事実の有無によって課徴金納付命令をするか否かが決まるのであって,公正取引委員会が事業者の違反行為への関与の程度や悪質性を考慮して処分をしなかったとしても,そのこと自体が違法事由を構成すると解することはできない。のみならず,前記1の認定事実によれば,原告ニチコンは,マーケット研究会には参加・出席していなかったものの,SM部会やJEITAの会合には出席し,アルミ電解コンデンサの値上げ活動の状況等について同業他社と情報交換を行っていたこと,原告ルビコンや日本ケミコンと同等の頻度で,個別に,同業他社の担当者らと会合を行い,アルミ電解コンデンサの値上げ活動に関する情報交換や需要者等に提示する見積価格を協議・決定していたことが認められ,原告ニチコンは,同社以外のアルミ4社と比較して,その関与の程度や悪質性が低いとはいえないから,原告ニチコンの上記主張は,その前提を欠くものである。
さらに,③について,○アから○ウに関する原告ニチコンの主張をいずれも採用することができないことは,前記認定・説示のとおりである。
ウ 以上によれば,原告ニチコンに対する本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)が,社会通念上著しく妥当性を欠き,平等原則及び比例原則に反する違法な処分であるとはいえないから,原告ニチコンの主張は採用することができない。
⑹ 争点⑴カ(本件アルミ合意に関する各命令に係る手続に瑕疵があるか。)について
原告ニチコンは,本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)においては,本件アルミ合意の内容として値上げ率や値上げ時期等が明らかにされておらず,具体的にいかなる行為を共同して行うことを合意したと認定したのかが不明確である上,平成22年当時,マーケット研究会に参加し競合他社と情報交換を行っていた《P》を合意の当事者から除外する合理的な理由が明らかにされていない点で,全く特定されずにされた違法な処分であり,原告ニチコンはこのように特定を欠く本件アルミ合意を前提とした処分通知しか受けておらず,適切に防御権を行使できなかったから,本件アルミ合意に関する各命令に係る意見聴取手続には,防御や反論の機会が実質的に保障されていないという手続的瑕疵が存在すると主張する。
しかしながら,証拠(甲B1,2)及び弁論の全趣旨によれば,本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)には,本件アルミ合意の当事者,合意の成立及び消滅時期,合意の成立を根拠付ける事実の概要等が記載されていたこと,本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)には課徴金額の算出過程が記載されていたことが認められ,これにより,処分の内容や処分の対象となった取引の範囲は相当程度明らかであったといえるから,本件アルミ合意は,少なくとも原告ニチコンが防御や反論をすることが可能な程度には,その内容が特定されていたといえる。
したがって,本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(原告ニチコン)に係る意見聴取手続において,被審人である原告ニチコンの防御や反論の機会が実質的に保障されていないという手続的瑕疵が存在するとはいえないから,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
第4 タンタル電解コンデンサに関する当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に加え,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,タンタル電解コンデンサの製造販売業者間の情報交換等に関して,以下の事実が認められる(ただし,以下の認定事実中,原告松尾電機が他社との間で,タンタル電解コンデンサに関して情報交換等をしたとの事実について,当該情報交換等の対象に湿式タンタル電解コンデンサが明示的に含まれていたことを認めるに足りる証拠はない。)。
⑴ 平成21年2月頃までの販売価格の引上げに関する状況
ア 原告松尾電機,NECトーキン及び日立エーアイシーによる情報交換
(ア) NECトーキン,日立エーアイシー及び原告松尾電機の各従業員らは,平成20年4月頃から同年7月頃にかけて,マーケット研究会や個別の接触の機会を通じて,タンタル資材の値上がりの見込み,タンタル電解コンデンサの値上げ状況,需要者等に対して提示する販売価格等に関する情報交換を行った(乙共16,乙イ25,33,42)。
(イ) NECトーキン及び原告松尾電機は,このような情報交換を踏まえ,平成20年8月18日までに社内において,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを決定した(乙イ33,42)。
(ウ) その後,原告松尾電機の《M2》とNECトーキンの《Q1》らとは,マーケット研究会や個別の接触の機会を通じて,需要者等に対して提示する特定のタンタル電解コンデンサの具体的な販売価格や販売価格の引上げの実施状況につき情報交換をするなどした(乙イ25,26,33,43)。
イ 原告ニチコンによる情報交換等
(ア) 原告ニチコンの《L1》は,同社がATC会やその後のマーケット研究会に出席しなくなった後も,NECトーキンや原告松尾電機の従業員と情報交換を行い,タンタル電解コンデンサの販売価格や需要者等に対して提示する見積価格について協議するなどした(乙共44,46,乙イ24,50,53)。
(イ) 原告ニチコンの《L1》は,平成20年5月頃,NECトーキンの《Q1》から,NECトーキン及び日立エーアイシーにおけるタンタル資材価格の値上がりの見通しについて聴取し,その内容を原告ニチコンの《L3》及び《L6》に報告した(乙イ2,14,15)。
また,原告ニチコンの《L1》は,遅くとも平成20年8月以降,NECトーキンの《Q1》らと個別に面会や電話連絡をするなどして,タンタル資材の価格動向,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げの実施状況,需要者等に対して提示する販売価格等について情報交換を行った。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ウ 値上げ活動の終息
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⑵ 平成22年の販売価格の引上げ決定に至る経緯
ア 平成22年1月頃のタンタル電解コンデンサに関する情報交換等
(ア) タンタル電解コンデンサの主要な材料であるタンタル資材は,平成22年1月頃,その価格の上昇が予想されるようになった。原告ニチコンの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■は,同月7日,原告ニチコンの東京支店において,《A》とのタンタル電解コンデンサの取引で競合していたNECトーキンの《Q1》及び同社の■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■と面談し,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ほか,タンタル資材の価格動向等について情報交換をした。
原告ニチコンの《L1》らとNECトーキンの《Q2》らは,その後も《A》に対する対応方針について協議を行い,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(イ) 平成22年1月21日開催のマーケット研究会には,NEC卜ーキンの《Q2》,原告松尾電機の■■■■■■■■■■■■■■,日立化成の《O2》らが出席した。同研究会において,NECトーキンの《Q2》は,タンタル資材メーカーからタンタル資材の購入価格の引上げ要請を受けたことや■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を報告し,日立化成の《O2》も,タンタル資材メーカーからタンタル資材の値上げ要請を受けていることやマンガン品の一部の製品の需要が増加していることなどを報告した。(乙共61,乙イ45,54,56,76)
イ 平成22年2月頃のタンタル電解コンデンサに関する情報交換等
平成22年2月18日開催のマーケット研究会には,日本ケミコンの《K1》,NECトーキンの《Q1》,原告松尾電機の《M3》,日立化成の《O2》らが出席した。同研究会において,日本ケミコンの《K1》は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■旨発言したところ,NECトーキンの《Q1》は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を報告した。(乙共18,61,乙イ37,45,56,76)
ウ 平成22年3月頃のタンタル電解コンデンサに関する情報交換等
(ア) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(イ) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(ウ) 平成22年3月18日開催のマーケット研究会には,NECトーキンの《Q1》,原告松尾電機の《M4》,日立化成の《O2》らが出席し,NECトーキンの《Q1》が,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■について報告した(乙共18,61,乙イ16,45,46,54,56,76)。
エ 平成22年4月頃のタンタル電解コンデンサに関する情報交換等
(ア) 原告ニチコンの《L1》は,平成22年4月頃,NECトーキンの《Q1》や《Q2》らと個別に面談や電話連絡を行い,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(イ) 平成22年4月21日開催のマーケット研究会には,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》,原告松尾電機の《M3》らが出席し,NECトーキンの《Q1》又は《Q2》が,需要者等に対し,マンガン品のうち不採算品を対象として販売価格の引上げを申し入れて交渉していること,《A》や《C》に対しても,同年下期に向けて販売価格の引上げを申し入れて交渉する方針であること,タンタル資材の価格は今後も上昇する見込みであること,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■などを報告した(乙共18,乙イ37,46,54,76)。
オ 平成22年5月頃のタンタル電解コンデンサに関する情報交換等
(ア) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
(イ) ホリストンは,平成22年4月21日頃,収益改善のためにタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる方針を固め,同年5月上旬頃から,採算の取れていない日本国内の需要者等を中心として,販売価格を引き上げる取組を開始した(乙イ68)。
(ウ) 平成22年5月20日開催のJEITAの受動部品事業委員会には,原告ニチコンの《L1》,NECトーキンの《Q1》及び《Q3》,原告松尾電機の《M1》及び《M4》らが出席した。同会合において,原告ニチコンの《L1》は,タンタル電解コンデンサの受注が供給能力を上回っていること,タンタル資材の価格上昇が危惧されることなどを報告し,NECトーキンの《Q1》も,同じくタンタル資材の価格上昇が見込まれることを報告した。
原告松尾電機の《M4》は,上記会合に出席した会員会社の発言内容を議事録にまとめ,社内で共有した。
(乙共21~24,乙イ17,34,47)
(エ) 平成22年5月21日開催のマーケット研究会には,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》,原告松尾電機の《M4》及び《M3》が出席し,NECトーキンの《Q1》又は《Q2》が,タンタル電解コンデンサにつき,タンタル資材の価格が高騰しているため販売価格の引上げが必要であることや,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を報告した(乙共18,64,乙イ34,37,45,47,54,56,76)。
(オ) ホリストンは,平成22年4月から同年9月までの間,マーケット研究会に出席していなかったが,日立化成からホリストンへ事業が譲渡されるのに伴い移籍した《O2》(以下,同社に移籍後の同人を「ホリストンの《O2》」という。)は,移籍後も,NECトーキンの《Q1》,原告松尾電機の《M2》及び《M3》と連絡を取り合い,マーケット研究会における各社の報告内容やタンタル電解コンデンサの各社の販売活動の状況等について情報提供を受けるとともに,情報交換を続けた。
ホリストンの《O2》は,このような情報交換を通じ,平成22年5月下旬頃から同年6月初旬頃にかけて,タンタル電解コンデンサにつき,同社における販売価格の引上げの検討及び実施状況等を同業他社に伝えるとともに,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■NECトーキンが,タンタル資材の価格高騰に伴い,業界全体としてタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げが必要であると考えていることなどの情報を入手した。
(乙イ28,36,37,63,65,66)
カ 平成22年5月下旬頃から6月頃までのタンタル電解コンデンサに関する情報交換等
(ア) NECトーキンは,平成22年5月31日開催の社内会議において,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる方針を決定した。これを受けて,NECトーキンの《Q1》は,この頃ホリストンの《O2》に対し,NECトーキンがタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施することを伝えた。(乙イ54,65)
(イ) ホリストンは,平成22年6月1日頃,タンタル電解コンデンサにつき,採算の取れている製品も含めて全面的に販売価格の引上げを実施することとし,同月5日頃以降需要者に対し,値上げ要請文書を配布するなどして,同年7月1日出荷分からの販売価格の引上げの申入れをした(乙イ68)。
(ウ) 原告松尾電機の《M2》は,平成22年6月初旬頃,同社の《M1》から,タンタル資材の価格の高騰を理由としてタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げることとするので,そのための値上げ方針を策定するよう指示されたため,同月9日開催の社内会議において,同社の《M4》や《M3》等の営業部長に対し,今後,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げることとするが,値上げ幅や販売価格の引上げの実施時期等の具体的な実施方法はこれから検討する旨を伝達した(乙イ29,34,38)。
(エ) ホリストンの《O2》は,平成22年6月11日,原告松尾電機の《M2》に対し,タンタル電解コンデンサにつき,ホリストンの《B》に対する値上げ活動の状況を伝えるとともに,同人から,原告松尾電機において販売価格の引上げの実施方法の検討が開始されたとの情報を得た(乙イ28,64)。
(オ) ホリストンの《O2》は,平成22年6月15日,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》に電子メールを送付し,同月17日開催予定のマーケット研究会において,ホリストンが,タンタル電解コンデンサの販売価格の全面的な引上げを開始したこと,同年9月以降はマーケット研究会に参加する意向であることなどを報告するよう依頼した(乙イ45,47,56,64)。
(カ) 平成22年6月17日開催のマーケット研究会には,NECトーキンの《Q1》,原告松尾電機の《M3》らが出席した。同研究会において,NECトーキンの《Q1》は,タンタル電解コンデンサにつき,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■NECトーキンも,販売価格の引上げを決定し,平成22年8月1日納入分から,Aケースと呼ばれるサイズのものは10パーセント程度,Bケースと呼ばれるサイズのものは25パーセント程度の販売価格の引上げをすることが見込まれること,ホリストンも需要者等に対する販売価格の引上げの要請を開始したことなどを報告した。また,原告松尾電機の《M3》は,タンタル資材の高騰を理由としたタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施するが,値上げの幅や時期は検討中であることなどを報告した。(乙共64,乙イ27,38,45,47,56,76)
⑶ 平成22年6月頃の値上決定後の値上活動の状況等
ア 原告松尾電機の《M3》とホリストンの■■■,同社の■■■■■■■■■■■■■■■■及び同社の■■■■■■■■■■■■■■■■■■とは,平成22年6月21日,東京都内で会合を行った。同会合において,原告松尾電機の《M3》は,ホリストンの上記3名に対し,同月17日開催されたマーケット研究会において,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を伝えるとともに,その時点における原告松尾電機の《AM》や《B》に対するマンガン品の販売価格等の情報を提供した。(乙イ38,69,72,73)
イ 原告松尾電機の《M3》は,平成22年6月22日頃,ホリストンの《O9》に対し,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■原告松尾電機は《B》に対し,原告ニチコン及びホリストンが提示する予定の販売価格の中間の価格を提示する予定であることを伝えた。それを受けて,ホリストンの《O9》は,同日,同社の《O7》や《O8》らに対し,《M3》から得た上記の情報をメールで報告した。(乙イ38,72,73)
ウ 原告松尾電機の《M2》は,平成22年6月24日頃までに,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げることを決定した(乙イ29)。
エ NECトーキンの《Q1》は,平成22年6月17日から同月24日頃にかけて,原告ニチコンの《L1》に対し,原告松尾電機及びホリストンがタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施する方針となったことを伝えた(乙イ17,19,45)。
オ 平成22年6月24日開催のJEITAのコンデンサ部会には,原告ニチコンの《L1》,原告松尾電機の《M4》,NECトーキンの《Q1》及び《Q3》らが出席した。同会合において,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■原告松尾電機の《M4》は,タンタル資材の値上がりのためにタンタル電解コンデンサの販売価格を今後引き上げることなどを,NECトーキンの《Q3》は,タンタル資材が50パーセント値上がりすることなどをそれぞれ報告した。(乙共25,40,乙イ17,18,34,47)
カ NECトーキンは,前記販売価格の引上げ決定に基づき,平成22年7月1日頃から需要者等に対し,販売価格を20パーセント引き上げたいなどと記載した文書を配布するなどして,同年8月1日出荷分からの販売価格の引上げを申し入れた(乙イ47)。
キ 松尾電機は,前記販売価格の引上げ決定に基づき,平成22年7月15日頃から需要者等に対し,販売価格の引上げを要請する文書を配布するなどして販売価格の引上げを申し入れた(乙イ29)。
ク 平成22年7月16日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M2》及び《M3》,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》らが出席した。同研究会において,原告松尾電機の《M3》は,タンタル資材の価格高騰やタンタル電解コンデンサの受注急増を理由として,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施することとしたこと,値上げ幅は品種ごとに検討することなどを報告した。また,NECトーキンの《Q1》又は《Q2》は,タンタル電解コンデンサの販売価格を20パーセント引き上げることなどを報告した。
NECトーキンの《Q2》は,この研究会の休憩時間に,原告松尾電機の《M2》及び《M3》らに対し,タンタル電解コンデンサの値上げ交渉の際にNECトーキンが行っている需要者等への説明方法を伝えた。
(乙イ38,48,56)
ケ 原告ニチコンの《L1》は,平成22年7月27日,原告松尾電機の《M2》に対し,《J》に対するタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げに関し,原告ニチコンの■■■■■■が連絡をする可能性があるため,そのときには対応して欲しいなどと依頼するとともに,同社及びNECトーキンの《A》に対する値上げ活動の状況等を伝え,《M2》から,原告松尾電機におけるタンタル電解コンデンサの値上げ活動の状況につき,情報提供を受けた(乙共47,乙イ3,17,19,28)。
コ 原告ニチコンの《L1》は,平成22年7月29日頃,NECトーキンの《Q1》又は原告松尾電機の《M2》から,両社が全ての需要者等に対し,同年10月1日納入分からタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施するとの情報を入手したため,当該情報を原告ニチコンの■■■■■に周知した(乙イ19)。
サ 平成22年8月5日開催のマーケット研究会には,NECトーキンの《Q2》,原告松尾電機の《M3》らが出席し,NECトーキンの《Q2》が,タンタル電解コンデンサの大手の日系需要者等は同年10月からの販売価格の引上げであれば受け入れる見込みであることなどを報告し,原告松尾電機の《M3》が,タンタル電解コンデンサの値上げ交渉は苦戦していることなどを報告した(乙イ28,38,48)。
シ 原告松尾電機の《M3》とホリストンの《O7》及び《O8》とは,平成22年8月11日,東京都内で会合を行い,タンタル電解コンデンサの需要者である■■■■■■■■,■■■■■■■,《AM》等との価格交渉の状況について情報交換を行うとともに,これらの需要者に提示している見積価格の情報を共有するなどした(乙イ39,69,72)。
ス NECトーキンの《Q2》と原告ニチコンの《L14》とは,平成22年8月18日,原告ニチコンの東京支店において,《A》に対して提示する平成22年10月以降の納入分のタンタル電解コンデンサの見積価格について協議した(乙イ55)。
セ NECトーキンの《Q1》は,平成22年8月23日,原告松尾電機の《M2》と面談し,同人に対し,《A》に対する販売数量が多いタンタル電解コンデンサの製品に関する具体的な見積価格等の情報を提供するとともに,同人から,原告松尾電機も《A》に対する値上げ活動を開始することなどの情報を得た(乙イ28)。
ソ 平成22年8月25日開催のJEITAのコンデンサ部会には,原告ニチコンの《L1》,NECトーキンの《Q1》及び《Q3》らが出席し,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■原材料であるタンタルパウダーが同年9月1日から値上がりする見込みであることなどを報告し,NECトーキンの《Q3》が,一部の製品に関して受注が好調であることなどを報告した(乙共26)。
タ 平成22年9月16日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》らが出席し,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げの実施状況や受注状況等について情報交換をした(乙共18,乙イ4,5)。
チ 平成22年10月18日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,ホリストンの《O2》及び《O7》らが出席し,原告松尾電機の《M3》が,タンタル電解コンデンサの値上げ活動の状況等を報告し,ホリストンの《O2》又は《O7》が,タンタル資材の調達価格の高騰が深刻化しており,引き続きタンタル電解コンデンサの値上げ活動を継続していることを報告したほか,原告ニチコン,NECトーキン及びホリストンの3社が,同年7月1日以降に販売価格の引上げを行ったことが話題に上った(乙イ74)。
ツ 平成22年11月15日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》,ホリストンの《O7》らが出席した。同研究会において,タンタル電解コンデンサにつき,原告松尾電機の出席者は,販売価格の引上げ実施の効果で受注金額が上昇したことや原材料であるタンタルパウダーの調達価格の具体的な値上げ率等を報告し,NECトーキンの出席者は,タンタル資材の価格上昇等に伴い,日本国内の需要者等に対して平成23年4月納入分から更に販売価格の引上げをする方針であることなどを報告し,ホリストンの出席者は,タンタル資材の価格高騰への対応に苦慮していることなどを報告した。(乙イ6,40,48,58,74)
テ 平成22年12月20日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q1》,ホリストンの《O7》らが出席した。同研究会において,タンタル電解コンデンサにつき,原告松尾電機の出席者は,値上げ交渉を継続していることや,タンタル資材の値上がりにより,タンタル電解コンデンサの原価が20パーセント上昇することなどを報告した。また,NECトーキンの出席者は,タンタル資材の価格の高騰が深刻であり,平成23年4月から更に20パーセントの販売価格の引上げが必要となる可能性があることなどを報告した。さらに,ホリストンの出席者は,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げ実施により,顧客の中にはアルミ電解コンデンサやセラミックコンデンサへの置き換えを検討しているところもあることや,タンタル資材の価格高騰への対応に苦慮していることなどを報告した。(乙イ7,40,48,74)
ト 平成23年1月19日開催のJEITAのコンデンサ部会には,原告ニチコンの《L1》,NECトーキンの《Q3》らが出席し,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■などを報告し,NECトーキンの《Q3》が,需要者が販売価格の引上げを予想してタンタル電解コンデンサを備蓄していることなどを報告した(乙共27)。
ナ NECトーキンの《Q1》は,平成23年2月頃,原告ニチコンの《L1》に対し,同年3月からタンタル電解コンデンサの再度の販売価格の引上げを行う旨を伝えた(乙イ48)。
ニ 平成23年2月17日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》,ホリストンの《O7》らが出席した。同研究会において,原告松尾電機の《M3》は,タンタル電解コンデンサの需要者等との間で,7パーセントから8パーセントの値上げ率とすることで交渉していることなどを報告した。また,NECトーキンの《Q1》又は《Q2》は,中国における販売価格の引上げの影響によりタンタル電解コンデンサの受注が減少したことや,タンタル資材の価格の高騰の状況等について報告した。さらに,ホリストンの《O7》は,平成22年6月から加重平均で20パーセント程度販売価格の引上げを実施したことにより,平成23年4月以降の自動車メーカー向けの新規設計品においてはセラミックコンデンサに置き換えられる予定であることなどを報告した。(乙イ8,41,48,58,74)
ヌ 平成23年3月7日開催のJEITAのコンデンサ部会には,原告ニチコンの《L1》,NECトーキンの《Q1》及び《Q3》らが出席し,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■などを報告し,NECトーキンの《Q3》が,来期の受注が増加すると予想していることや原材料であるタンタルパウダーの価格が上昇していることなどを報告した(乙共28)。
ネ 平成23年3月17日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q1》及び《Q2》らが出席し,NECトーキンの《Q1》又は《Q2》が,同月3日付けで需要者等に対し,タンタル電解コンデンサの値上げ要請を行ったことなどを報告したほか,出席者の間で,東日本大震災による被害の状況や今後の生産の見通し等について情報交換をした(乙イ9,40,48,74)。
ノ 平成23年4月19日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q2》,ホリストンの《O7》らが出席した。同研究会において,原告松尾電機の《M3》は,タンタル電解コンデンサにつき,東日本大震災の影響により,民生品の需要者からの発注は大幅に減少しているものの,原告松尾電機は自動車用や産業機械用のタンタル電解コンデンサを多く取り扱っているため,受注数量はそれほど落ちていないことなどを報告した。また,NECトーキンの《Q2》は,《A》向けのタンタル電解コンデンサの値上げ交渉が未決着であること,マンガン品の販売価格を引き上げたことにより,セラミックコンデンサへの置き換えが更に進み,世界的なマンガン品の需要が前年比で20パーセント減少していることなどを報告した。さらに,ホリストンの《O7》は,タンタル資材の価格高騰により厳しい状況にあることなどを報告した。(乙イ10,40,48,59,75)
ハ 平成23年5月18日開催のJEITAの受動部品事業委員会の会合には,原告ニチコンの《L1》,NECトーキンの《Q1》,《Q2》及び《Q3》らが出席し,原告ニチコンの出席者が,同年4月から6月までのタンタル電解コンデンサの受注は,同年1月から3月までの受注実績の80パーセントを見込んでいることなどを報告し,NECトーキンの出席者が,タンタル資材の高騰により,需要者がタンタル電解コンデンサをセラミックコンデンサ等に置き換える動きが進んでいることなどを報告した(乙共29,30)。
ヒ 平成23年5月20日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q2》,ホリストンの《O7》らが出席し,NECトーキンの《Q2》が,海外を中心にタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施しているが,その影響でタンタル電解コンデンサからセラミックコンデンサへの置き換えが全世界的に進み,マンガン品の総需要が減少していること,販売価格の引上げの効果により同月は受注数量より受注金額の数値の方が大きくなったことなどを報告し,ホリストンの《O7》が,タンタル電解コンデンサにつき,台湾本社から,採算の合わない価格での顧客からの注文は断るよう指示されていることなどを報告した(乙イ11,40,59,67,75)。
フ 平成23年6月17日開催のマーケット研究会には,原告松尾電機の《M3》,NECトーキンの《Q2》,ホリストンの《O7》らが出席した。同研究会において,原告松尾電機の《M3》は,産業機械用のタンタル電解コンデンサの需要者等が販売価格の引上げを受け入れたため,平成23年6月から同年8月までの出荷分は,受注数量に比して受注金額が多いことなどを報告した。また,NECトーキンの《Q2》は,コンゴ産のタンタル鉱石を使えるようにしないとタンタル資材の価格は下がらないことなどを報告した。さらに,ホリストンの《O7》は,タンタル電解コンデンサにつき,日本国内における受注は一部で回復してきているものの,中華圏での需要が低調であるため,全体的には低迷基調が続いていることなどを報告した。(乙イ12,13,60,67,75)
ヘ 平成23年7月1日開催のJEITAのコンデンサ部会には,原告ニチコンの《L3》,NECトーキンの《Q1》らが出席し,原告ニチコンの《L3》が,タンタル電解コンデンサの受注が減少している一方,原材料であるタンタルパウダーの価格が高騰していることなどを報告し,NECトーキンの《Q1》が,平成23年のタンタル電解コンデンサの販売数量は前年比で105パーセント増加した一方,販売金額は前年比で90パーセント減少しているが,これは値下げによるものではなく,円高が進行したことによるものであることなどを報告した(乙共31,41,乙イ18)。
ホ 平成23年7月22日開催のマーケット研究会においては,NECトーキンの出席者が,タンタル資材の価格がかつての2倍から3倍程に上昇している一方,今後はタンタル鉱石の価格が下がる見通しであることなどを報告し,原告松尾電機の出席者が,タンタル電解コンデンサのうちマンガン品の受注は同年5月で下げ止まり,その後は増加傾向にあり,特に自動車向けで受注が伸びていることなどを報告した(乙イ49,75)。
マ 平成23年8月24日開催のJEITAのコンデンサ部会には,原告ニチコンの《L1》,NECトーキンの《Q2》及び《Q3》らが出席し,原告ニチコンの《L1》が,同社のタンタル電解コンデンサの受注状況は,前年同期と比較して70パーセント程度にとどまることなどを報告し,NECトーキンの《Q2》又は《Q3》が,タンタル電解コンデンサの需要は減少する一方,タンタル資材の価格は上昇していることなどを報告した(乙共32,41,乙イ18)。
⑷ 値上げ活動終了に至る経緯
ア NECトーキンは,タイ王国所在の子会社の工場において,同社のタンタル電解コンデンサの95パーセント(売上額ベース)近くの製品を生産していたところ,同工場は,平成23年10月頃洪水の被害に遭い,同月19日同工場内への浸水が始まり,同月20日には同工場の生産ラインが完全に水没してしまい,タンタル電解コンデンサが生産不能の状態となった(乙イ61,62)。
NECトーキンは,同社のホームページ上で,上記子会社の工場の被害状況等について次のような公表を行った。
(ア) 平成23年10月12日付け公表(甲B21)
平成23年10月11日午後から夜にかけて操業を停止していたが,安全が確認されたため,同月12日午前8時より操業を開始し,同日午前10時時点でも工場内への浸水はなく,操業中である。
(イ) 平成23年10月14日付け公表(甲B22)
工場が所在する工業団地の運営会社から避難勧告は出ていないものの,周辺の水位が上昇しているため,従業員の安全を考慮し,平成23年10月13日午後7時をもって自主避難を行った。工場への浸水はない。
(ウ) 平成23年10月17日付け公表(甲B23)
平成23年10月17日,上記工業団地の防水堤が決壊し,同工業団地への浸水が始まったが,工場は周囲を土嚢で囲っており,現時点では工場敷地内への浸水は見られない。
(エ) 平成23年10月19日付け公表(甲B24)
平成23年10月19日朝,工場への浸水が確認され,それによる設備への影響も考えられることから,操業再開の目処は立っていない。
イ 平成23年10月19日以降,タンタル電解コンデンサにつき,原告ニチコンがNECトーキンを通じて,原告松尾電機及びホリストンの販売価格改定に関する情報を得たり,原告松尾電機及びホリストンがNECトーキンを通じて,原告ニチコンの販売価格等に関する情報を得たりしたことはなく,タンタル4社が,販売価格の改定に向けた需要者等との交渉状況等につき相互に情報提供したり,需要者等に提示する見積価格を協議・調整したりすることもなかった。
⑸ 原告らが実現した販売価格の引上げの状況等
ア 原告ニチコンは,平成22年9月28日時点で,日本国内の営業拠点が販売価格の引上げによって増加すべきものとされた■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
原告ニチコンは,その後もタンタル電解コンデンサの値上げ活動を継続し,平成23年3月11日発生した東日本大震災の影響により一旦は値上げ交渉を中断したものの,同年4月頃には,値上げを受け入れていない一部の需要者等に対する値上げ交渉を再開した。もっとも,原告ニチコンは,同月以降,タンタル資材の価格が高止まりしている一方,タンタル電解コンデンサの需要が減少していたことから,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
イ 原告松尾電機は,平成22年7月15日頃からタンタル電解コンデンサの需要者等に対する販売価格の引上げの申入れを行った結果,平成23年1月時点において,タンタル電解コンデンサの全品種について,販売単価が営業基準単価(工場原価に一定の利益を加えた単価)を上回った。原告松尾電機は,その後もタンタル資材価格が高水準を維持していたため,まだ販売価格の引上げを受け入れていない需要者等に対する値上げ交渉を継続しつつ,それ以外の需要者等に対しては,基本的に現状の価格を維持するよう交渉を行った。(乙イ29,30,41)
ウ NECトーキンは,平成22年7月1日頃からタンタル電解コンデンサの需要者等に対する販売価格の引上げの申入れを行った結果,同年秋頃までに,《A》等の重点顧客も販売価格の引上げを受け入れるに至った。
NECトーキンは,平成23年3月頃,タンタル資材の価格高騰が続いたことなどから,販売価格の引上げを受け入れていない需要者等に対し,同年4月分からの値上げ交渉を開始したが,同年3月11日発生した東日本大震災の影響により,同日以降,値上げ交渉を中断することとし,需要者等との間で価格を維持する方針の下に交渉を行った。
(乙イ47,49,54,57~59)
エ ホリストンは,平成22年6月5日頃からタンタル電解コンデンサの需要者等に対する販売価格の引上げの申入れを行った結果,同年11月頃までに,大手の需要者等を含む多くの需要者等が販売価格の引上げを受け入れるに至った。
ホリストンは,平成23年3月11日発生した東日本大震災の影響により,タンタル電解コンデンサの需要が落ち込んだため,それ以降は販売価格を維持する方針をとった。
(乙イ68,70,71)
2 争点に対する判断
⑴ 争点⑵ア(タンタル4社間において本件タンタル合意(意思の連絡)は成立したか。)について
まず,タンタル4社間において,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げに関する合意(意思の連絡)が成立したか否かについて検討する(合意の対象となるタンタル電解コンデンサの製品の範囲については,後記⑵参照)。
ア 本件についての検討
(ア) 前記1の認定事実によれば,原告ニチコン,原告松尾電機,NECトーキン,日立エーアイシーらのタンタル電解コンデンサ製造販売業者は,本件に先立って,平成20年頃から平成21年頃までの間も,マーケット研究会等の会合又は個別の面談や電話連絡等を通じて同業他社との間で,タンタル電解コンデンサの原材料価格の動向や需要者等への値上げ活動の状況等に関する情報交換を継続しつつ,タンタル電解コンデンサの値上げ活動をしていたことが認められる。
(イ) そして,前記1の認定事実によれば,原告ニチコンは,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■同日以降,需要者等に対する値上げ交渉を開始したこと,そのことは,同月18日開催のマーケット研究会において,NECトーキンの《Q1》を通じて報告されたこと,その後同年4月にかけて,タンタル電解コンデンサの製造販売業者は,マーケット研究会や個別の会合等の機会において,タンタル資材の価格が高騰しているため,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げが必要であることを相互に確認するなどしていたこと,NECトーキンは,同年4月21日開催のマーケット研究会において,出席した《Q1》又は《Q2》がタンタル電解コンデンサのうち不採算品を対象として需要者等に販売価格の引上げを申し入れて交渉している旨を報告していたが,同年5月31日開催の社内会議において,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる方針を決定したこと,ホリストンは,同年4月21日頃,収益改善のためにタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる方針を固め,同年5月上旬頃から,採算の取れていない日本国内の需要者等を中心として販売価格を引き上げる取組を開始し,同年6月1日頃以降,採算の取れている製品も含めて全面的にタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを実施することとして,需要者等に対して販売価格の引上げを申し入れたこと,原告松尾電機は,同月初旬頃,タンタル資材の価格の高騰を理由としてタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げることとしたこと,同月17日開催の研究会において,タンタル4社(原告ニチコン及びホリストンに係る情報は,出席したNECトーキンの《Q1》が報告した。)がいずれも,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる方針を固め又は既に価格引上げに向けた交渉に着手したことなどを確認したことが認められる。
(ウ) また,上記(イ)の認定事実に加えて前記1の認定事実によれば,タンタル電解コンデンサの営業担当者は,平成22年6月17日の後も同コンデンサの販売価格の引上げに関する情報交換を続けていたところ,その中では,タンタル資材の調達価格が高騰しているため,各社ともにタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げが必要な状況にあることが折に触れて確認され,需要者等に提示する具体的な値上げ率等が度々話題とされていたことが認められる。
(エ) このように,①タンタル4社を含むタンタル電解コンデンサ製造販売業者は,もともと平成20年頃から平成21頃までの間,同業他社との間で,タンタル電解コンデンサの原材料価格の動向や需要者等への値上げ活動の状況等に関する情報交換を継続しつつ,タンタル電解コンデンサの値上げ活動をしていた経緯があること,②タンタル4社は,タンタル資材の価格が高騰していることやタンタル電解コンデンサの製品の一部が採算のとれない状況となっていることを理由として,平成22年3月頃以降同年6月までの間に,それぞれ,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる方針を固め,遅くとも同年6月17日までに,そうした方針に関する情報や既に価格引上げに向けて交渉に着手したとの情報を共有したこと,③タンタル4社の営業担当者らは,その後もタンタル電解コンデンサの販売価格の引上げに関する情報交換を継続し,その中では,需要者等に提示する具体的な値上げ率等が度々話題とされ,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げが必要な状況にあることが折に触れて確認されていたことなどが認められるというのであるから,これらの事情を総合すれば,タンタル4社は,タンタル電解コンデンサについて,高騰したタンタル資材の価格をタンタル電解コンデンサの販売価格に上乗せすることを主たる目的として,各社が同じような時期に販売価格の引上げを実施すること,各社が他社の値上げ活動に乗じて自らも販売価格を引き上げることに加えて,このような販売価格の引上げ活動に他社が協力すること(すなわち,タンタル4社のうちの1社が需要者等に安値を提示するなどしてタンタル電解コンデンサのシェアを奪う行為に出るといった販売価格の引上げを妨害する行為をしないこと)を認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思が遅くとも平成22年6月17日までに形成されており,タンタル4社相互の間には「意思の連絡」があったと認定するのが相当である。
イ 原告ニチコン及び原告松尾電機の主張について
(ア) 原告ニチコンは,タンタル電解コンデンサについて,当時は,他社と協調して販売価格の引上げを行う必要性が高いという状況にはなく,同社は,平成22年1月から5月にかけて,独自に販売価格の引上げの実施及びその具体的内容を決定し,その後の値上げ活動も他社と足並みを揃えて実施するというようなものではなかったなどとして,原告ニチコンと他社との間で本件タンタル合意が成立したとはいえないなどと主張をする。
しかしながら,前記1の認定事実によれば,原告ニチコンにおいて決定されたタンタル電解コンデンサに関する販売価格の引上げ実施の決定内容等は,同社の《L1》がNECトーキンの《Q1》に伝達しこれを同人がマーケット研究会で報告する(原告ニチコンの《L1》は,NECトーキンの《Q1》等に情報を提供すれば,それが原告ニチコン以外のタンタル4社間で共有されることは十分認識していたものと認められる。)などして,タンタル4社間で共有されていたこと,原告ニチコンの《L1》を始めとする担当者は,原告ニチコン以外の販売価格の引上げに関する情報を収集し,これを原告ニチコン内で共有していたこと,平成22年6月17日開催のマーケット研究会の後も,タンタル4社の営業担当者らは,タンタル電解コンデンサの需要者等に提示する具体的な値上げ率等も含む販売価格の引上げに関する情報交換をしていたことが認められるから,これらの事情によれば,原告ニチコンが,独自の判断で販売価格の引上げ実施やその具体的内容を決定したり,それに基づく値上げ活動を実施したりしていたとはいえないものというべきである。
したがって,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
(イ) 原告ニチコンは,被告は本件タンタル合意の内容を「タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨の合意」であると主張するが,少なくとも,当時,タンタル資材価格の異常な高騰によって製品の販売価格の引上げが不可避な状況にあり,各社がこれを実施することは自明であった本件においては,何らの具体性なく単に販売価格の引上げを行うというだけの極めて抽象的な内容を確認しただけでは,実質的に競争を制限する効果をもたらす「同内容又は同種の対価の引上げ」について歩調を揃えることを合意したとは認められず,「意思の連絡」に該当しないなどと主張し,原告松尾電機も,販売価格の引上げの対象を品種ごとに特定していないため,「意思の連絡」に該当しないとの趣旨の主張をする。
たしかに,被告が本件タンタル合意の内容として主張する「共同してタンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨の合意」は,極めて抽象的であり,その文言のみを見る限り,直ちに「意思の連絡」に該当するといえるかについては,疑問がないわけではない。
しかしながら,タンタル4社は,タンタル電解コンデンサについて,高騰したタンタル資材の価格をタンタル電解コンデンサの販売価格に上乗せすることを主たる目的として,各社が同じような時期に販売価格の引上げを実施すること,各社が他社の値上げ活動に乗じて自らも販売価格を引き上げることに加え,このような販売価格の引上げ活動に他社が協力することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思が遅くとも平成22年6月17日までに形成されたと認められることは,前記認定・説示のとおりであり,さらに,前記1の認定事実によれば,タンタル4社は,その後も,本件タンタル合意に基づいて,具体的な販売価格の引上げの態様等に関する情報や,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げの終了時期に関する情報等を継続的に交換し,これに基づいて値上げ活動をしていたというべきであるから,本件タンタル合意は,成立後,このような情報交換及び値上げ活動をすることをも想定していたものというべきである。
そして,タンタル4社は,このような内容の合意をすれば,本件タンタル合意の時点で具体的な販売価格の引上げの時期,対象製品や値上げ幅等を合意しなくても,各社が需要者等に販売価格の引上げを申し入れて交渉する際,自らが突出した販売価格を提示したり,他社が当該需要者等に対して低い販売価格を提示して価格交渉を妨害したりすることはないと信頼することができ,競争事業者に取引を奪われるおそれを減少させることができるから,このような合意は,市場の競争制限効果をもたらす合意であるということができ,「意思の連絡」に該当するというべきである。
したがって,本件タンタル合意が「意思の連絡」に該当しないとする原告ニチコン及び原告松尾電機の上記主張は,採用することができない。
⑵ 争点⑵イ(本件タンタル合意が対象とした製品の範囲)について
ア 認定事実
前記前提事実,前記認定事実,証拠(甲C6,12~16,23,24,38,証人《M5》)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) タンタル電解コンデンサには,電解質(陰極)として電解液を用いる湿式タンタル電解コンデンサと陰極として固体である二酸化マンガンを用いるマンガン品とがあり,マンガン品には,製品類型として,①リード線形のハーメチック品(「上記①の製品類型」といい,他の製品類型についても同様に呼称する。),②リード線形の樹脂ディップ品,③ヒューズ内蔵型でチップ形の樹脂モールド品,④ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品,⑤リード線形の樹脂モールド品,⑥チップ形の簡易樹脂外装品がある(定義上はタンタル電解コンデンサから除かれているが,陽極にタンタルを使用し,タンタル粉体等の焼結体表面に形成させた酸化被膜を誘電体として用いるコンデンサのうち,陰極にポリピロール等の導電性ポリマーを用いるもの(導電性タンタル電解コンデンサ。ポリマー品とも呼ばれる。)がある。)。
(イ) 本件タンタル合意の成立時(平成22年6月17日)からその実行期間の終期(後記のとおり平成23年10月18日)までの間において,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(上記④の製品類型)については,タンタル4社の全てが製造していたが,リード線形のハーメチック品(上記①の製品類型)及びリード線形の樹脂ディップ品(上記②の製品類型)については,タンタル4社の中では原告松尾電機及びNECトーキンのみが製造販売し,ヒューズ内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(上記③の製品類型)については,タンタル4社の中では原告松尾電機及びホリストンのみが製造販売し,チップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)については,タンタル4社の中では原告ニチコンのみが製造販売し,リード線形の樹脂モールド品(上記⑤の製品類型)及び湿式タンタル電解コンデンサについては,タンタル4社の中では原告松尾電機のみが製造販売していた。
(ウ) タンタル4社の中では原告松尾電機のみが製造販売していた湿式タンタル電解コンデンサ及びリード線形の樹脂モールド品(上記⑤の製品類型)や,原告ニチコンのみが製造販売していたチップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)についても,他のマンガン品と同様,本件タンタル合意の後,上記各社による値上げ活動が行われた。
(エ) 各社の営業担当者は,マーケット研究会,JEITA等の会合や各個別の情報交換の場において,「ポリマー品」や「マンガン品」を一括りにし,そうした製品群に係る販売価格等について情報交換することが多かった。
他方,各社の営業担当者が,明示的に湿式タンタル電解コンデンサを含めて情報交換することはなかった。
(オ) 原告松尾電機が平成22年当時製造販売していた湿式タンタル電解コンデンサは,《AP》から海外品の国産化をするために原告松尾電機が要請を受けて開発し,昭和57年に《AP》及び一般向けに販売を開始した特殊な性能を持つ製品であるが,その製造のためには特別な材料や設備が必要であり,単価も1個1万円程度と高額であったため,平成22年度の需要者は■■■■■販売量も■■■■■■■であった。
本件タンタル課徴金納付命令(原告松尾電機)における課徴金額の算定の基礎となる■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■であった。
(カ) リード線形のマンガン品(上記①,②,⑤の各製品類型)は,昭和36年以降,湿式タンタル電解コンデンサに代わってタンタル電解コンデンサの主力商品となったが,昭和50年代に製造工程の自動化に適したチップ形のマンガン品の製造が開始されてからは,需要が激減した。
イ 本件タンタル合意が対象とした製品の範囲に湿式タンタル電解コンデンサが含まれるかについて
上記アの認定事実によれば,湿式タンタル電解コンデンサは,本件タンタル合意が成立した平成22年当時,タンタル4社の中では原告松尾電機しか製造販売していなかったこと,湿式タンタル電解コンデンサは,特殊な性能を持つ高額な製品であり,生産個数も少なく,需要者も限定的であったこと,各社の営業担当者が明示的に湿式タンタル電解コンデンサを含めて情報交換することはなかったことが認められるから,そもそも湿式タンタル電解コンデンサについては,その販売に当たっての競争性が低い状態にあったのみならず,タンタル4社のうち原告松尾電機を除く3社は,原告松尾電機からその販売価格に関する情報を取得する必要性が乏しい状況にあったものである。加えて,証拠(甲C28,29,乙C3)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件各命令に先立つ意見聴取手続において,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を回答したものの,それ以外に,本件タンタル合意が対象とした製品の範囲にタンタル電解コンデンサが含まれることを示す主張・立証を補充したことは窺われない。
したがって,湿式タンタル電解コンデンサとマンガン品がいずれもタンタル資材を原料とするものであり,タンタル資材の調達価格の高騰を理由として本件タンタル合意がされた経緯や,原告松尾電機が,他のタンタル電解コンデンサと同様,湿式タンタル電解コンデンサについても値上げ活動を行っていたことなど,前記1及びアの認定事実において認定した事実を考慮しても,湿式タンタル電解コンデンサについては,マンガン品と異なり,タンタル4社の間に,その一部が販売価格の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思があったと認めるにはちゅうちょを覚えざるを得ず,他方,原告松尾電機における販売価格の引上げを他社が認識して認容することにより原告松尾電機の事業活動が拘束されていたといえるかも疑問である。
したがって,湿式タンタル電解コンデンサは本件タンタル合意が対象とした製品の範囲に含まれるということはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
ウ 本件タンタル合意が対象とした製品の範囲にマンガン品が含まれるかについて
前記アの認定事実及び弁論の全趣旨によれば,タンタル4社の営業担当者は,マーケット研究会,JEITA等の会合や各個別の情報交換の場において,「ポリマー品」や「マンガン品」を一括りにして情報交換することが多かったことが認められる上,上記①から⑥までの製品類型のうち特定のもののみを一貫して情報交換の対象としたり,一貫して情報交換の対象から外したりしたことを認めるに足りる証拠はない。また,前記アの認定事実によれば,タンタル4社の中では原告松尾電機のみが製造販売していた湿式タンタル電解コンデンサ及びリード線形の樹脂モールド品(上記⑤の製品類型)や,原告ニチコンのみが製造販売していたチップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)についても,他のマンガン品と同様,本件タンタル合意の後,上記各社による値上げ活動が行われたことが認められる。
これらの事実からすれば,タンタル4社は,マンガン品全体について,相互に販売価格の引上げを実施することを認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思を有していたというべきであるから,タンタル4社が本件タンタル合意において対象とした製品の範囲は,タンタル電解コンデンサのうちのマンガン品全体であったと認定するのが相当である。
エ 原告ニチコンの主張について
(ア) 原告ニチコンは,原告ニチコンが製造販売するチップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型。樹脂外装タイプのタンタル電解コンデンサ)は,他のタンタル電解コンデンサでは代替が不可能な特殊な製品であり,かつ,市場には同種の製品を取り扱う競合他社が存在せず,他社との間で競合が生じ得ない製品であるため,本件タンタル合意が対象とした製品の範囲外であると主張する。
(イ) 前記アの認定事実によれば,たしかに,本件タンタル合意の成立時,チップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)については原告ニチコンのみが製造販売していたことが認められるが,他方,タンタル4社の営業担当者が会合や個別の情報交換の場において,「ポリマー品」や「マンガン品」を一括りにして情報交換することが多かったこと,上記①から⑥までの製品類型のうち特定のもののみを一貫して情報交換の対象としたり,一貫して情報交換の対象から外したりしたことを認めるに足りる証拠はないことも,前記認定・説示のとおりである。
また,証拠(乙B12,13)及び弁論の全趣旨によれば,原告ニチコンは,本件タンタル合意の成立時又はその直後である平成22年6月頃から同年8月頃にかけて,チップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)についても,需要者に対して販売価格の引上げを申し入れていることが認められ,原告ニチコンが,値上げ活動に当たり,チップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)と他の種類のタンタル電解コンデンサとで異なる取扱いをしていなかったことが窺われる。そして,証拠(乙B12,13)によれば,需要者は,製品を設計する段階では,タンタル電解コンデンサの基本的な機能以外に重視する機能等を考慮し,原告ニチコンが販売するチップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)とそれ以外のタンタル電解コンデンサを比較検討して採用するコンデンサを決定すること,需要者が,原告ニチコンが製造販売するチップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)を使用している製品を設計変更する場合,設計変更後の後継製品には,チップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)以外のタンタル電解コンデンサを採用することがあることが認められ,これらの事情によれば,原告ニチコンが製造販売するチップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)とそれ以外の製品類型のタンタル電解コンデンサとの間には,代替性がなく商品としての競合関係がなかったとまで断じることはできない。
(ウ) そうすると,タンタル4社には,あえて原告ニチコンが製造販売するチップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)のタンタル電解コンデンサを本件タンタル合意の対象から除く意図があったとは言い難いから,チップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型)が,本件タンタル合意が対象とした製品の範囲外であるとする原告ニチコンの上記主張は,採用することができない。
オ 原告松尾電機の主張について
(ア) 原告松尾電機は,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(上記④の製品類型。チップ形マンガン品)以外のマンガン品については,本件タンタル合意が対象とした製品の範囲に含まれないなどと主張する。
(イ) タンタル4社の営業担当者が会合や個別の情報交換の場において,「ポリマー品」や「マンガン品」を一括りにして情報交換することが多かったこと,上記①から⑥までの製品類型のうち特定のもののみを一貫して情報交換の対象としたり,一貫して情報交換の対象から外したりしたことを認めるに足りる証拠はないことは,前記認定・説示のとおりである。加えて,前記1の認定事実によれば,タンタル4社は,いずれもタンタル資材の高騰等を理由として各社が取り扱う全製品を対象として販売価格の引上げを行ったことが認められ,特定の品種について,他社と競合していないことを理由として,他の品種と異なる値上げ活動を行っていたことは窺えない。
さらに,前記アの認定事実によれば,たしかに,マンガン品のうち,リード線形の樹脂モールド品(上記⑤の製品類型)は,タンタル4社の中では原告松尾電機のみが製造販売し,リード線形のハーメチック品(上記①の製品類型),リード線形の樹脂ディップ品(上記②の製品類型)及びヒューズ内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(上記③の製品類型)は同じく原告松尾電機及びタンタル4社中の1社のみがそれぞれ製造販売していたことが認められるが,他方,前記エ(イ)で認定・説示したところに照らせば,需要者は,製品を設計する段階では,タンタル電解コンデンサの基本的な機能以外に重視する機能等を考慮して,いずれのタンタル電解コンデンサを採用するのかを決定することも認められる上,リード線形の樹脂モールド品(上記⑤の製品類型)について,その性能,形状及び価格等に照らし,他の種類のリード線形のマンガン品との間に代替性がなく競合関係になかったことを認めるに足りる証拠はない。
これらの事情によれば,本件タンタル合意が対象とした製品の範囲は,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(上記④の製品類型)に限られていたとはいえないものというべきである。
(ウ) よって,タンタル4社には,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(上記④の製品類型)以外のマンガン品(上記①,②,③,⑤の各製品類型)についても,本件タンタル合意の対象とする意図があったというべきであるから,これらの製品類型については本件タンタル合意が対象とした製品の範囲に含まれないとする原告松尾電機の上記主張は,採用することができない。
カ 小括
以上によれば,湿式タンタル電解コンデンサ(タンタル電解コンデンサのうち,電解質(陰極)として電解液を用いるもの)が本件タンタル合意の対象製品の範囲に含まれるということはできないが,タンタル電解コンデンサのうちのマンガン品全体は,本件タンタル合意の対象製品の範囲に含まれるものというべきである。
そして,前記前提事実及び前記アの認定事実によれば,本件タンタル課徴金納付命令(原告松尾電機)において課徴金額の算定の基礎とされた売上額の合計は■■■■■■■■■■■■■■(①)であること,そのうち湿式タンタル電解コンデンサの売上額は■■■■■■■■■■(②)であったことが認められるから,本件タンタル課徴金納付命令(原告松尾電機)のうち,①から②を控除した売上額合計■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を乗じた金額(1万円未満切捨て)である4億2414万円を超えて納付を命じた部分は,理由がないことになる。
⑶ 争点⑵ウ(競争が実質的に制限される「一定の取引分野」の範囲)について
ア 「一定の取引分野」の意義等
独禁法2条6項における「一定の取引分野における競争の実質的制限」に該当するというためには,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,本件のような価格カルテルの場合には,その当事者である事業者らがその意思で,当該市場における価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうものと解される(最高裁平成22年(行ヒ)第278号同24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁参照)。
このうち「一定の取引分野」とは,そこにおける競争が共同行為によって実質的に制限されているか否かを判断するために画定されるものであるが,価格カルテル等の不当な取引制限における共同行為は,特定の取引分野における競争の実質的制限をもたらすことを目的及び内容としていることや,行政処分の対象として必要な範囲で市場を画定するという観点からは,共同行為の対象外の商品役務との代替性や対象である商品役務の相互の代替性等について厳密な検証を行う必要性が乏しいことからすれば,通常の場合には,その共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して,一定の取引分野を画定すれば足りるものというべきである。
イ 本件についての検討
(ア) 前記認定・説示のとおり,本件タンタル合意は,タンタル電解コンデンサのうちマンガン品全体を対象として成立したものであることに加え,前記前提事実によれば,タンタル電解コンデンサの日本国内の販売分野におけるタンタル4社の市場シェアは,平成22年頃,販売金額ベースで9割を超えるものであったことが認められ,マンガン品に限ってもほぼ同様であったと考えられることからすると,タンタル4社により,その意思で,日本国内におけるタンタル電解コンデンサのうちマンガン品全体の取引分野における販売価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされていたというべきである。
そうすると,本件タンタル合意により,タンタル電解コンデンサのうちマンガン品全体の取引分野における競争が実質的に制限されたと認定するのが相当である。
(イ) これに対し,原告松尾電機は,①ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(チップ形マンガン品)以外のタンタル電解コンデンサについては,タンタル電解コンデンサ製造販売業者間において競争状況にはなかった,②導電性タンタル電解コンデンサ(ポリマー品)を含むタンタル電解コンデンサ全体をみた場合,導電性タンタル電解コンデンサ(ポリマー品)を除外した「一定の取引分野」を画定することはできないなどとして,タンタル電解コンデンサ全体について実質的に競争が制限されたとする被告の認定は誤りであるなどと主張する。
しかしながら,①ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(チップ形マンガン品)以外のマンガン品についても,タンタル電解コンデンサの製造販売業者間で競争状況がなかったとまではいえないことは,前記認定・説示のとおりであり,②被告が導電性タンタル電解コンデンサ(ポリマー品)を本件タンタル合意の対象から除外して本件タンタル合意に関する各命令をしたことが不合理とはいえないことは,後記認定・説示のとおりであるから,原告松尾電機の上記主張はいずれも採用することができない。
⑷ 争点⑵エ(実行期間)について
ア 実行期間の始期
(ア) 証拠(乙B6)によれば,原告ニチコンは,《R》に対し,原告ニチコンの《L1》名義の平成22年6月22日付け「タンタル電解コンデンサの価格是正に係るお願い」と題する文書を送付し,同月1日納入分から適用することとして,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れたことが認められる。このように,原告ニチコンは,本件タンタル合意が成立した後である同月22日付け文書をもって需要者に対し,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを申し入れたのであるから,同月22日以降,違反行為の実行としての事業活動を行ったものといえる。
したがって,本件タンタル合意の実行期間の始期は平成22年6月22日である。
(イ) これに対し,原告ニチコンは,《R》に対してタンタル電解コンデンサの販売価格引上げの申入れを行ったのは,早くとも平成22年6月25日であるから,実行期間の始期は同日であると主張し,原告ニチコンの《L1》の供述調書(乙B6)に添付された進捗管理表(同調書の資料1の3枚目)には,《R》に対する「文書提出日」が平成22年6月25日である旨の記載がある。しかし,原告ニチコンの《L1》の供述調書中には,当時の担当者に確認したところ,《R》に販売価格の引上げの申入れを行ったのは上記文書の作成日付のとおり同月22日であり,それに対する回答を受領する予定日が同月25日であったため,進捗管理表には同月25日と記載したとの供述記載があり(乙B6・7頁から8頁まで),当該記載の信用性を否定する事情はないから,《R》に対する販売価格の引上げの申入日を同月25日であると認定することはできない。
したがって,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
イ 実行期間の終期
(ア) 前記1の認定事実によれば,NECトーキンは,平成23年10月頃,同社のタンタル電解コンデンサの売上の95パーセント近くの製品を生産していたタイ王国所在の子会社の工場が洪水の被害に遭い,同月19日に同工場内への浸水が始まり,同月20日には同工場の生産ラインが完全に水没したため,タンタル電解コンデンサの生産が不能の状態となったこと,タンタル4社は,同月19日以降,タンタル電解コンデンサについて,相互に販売価格の引上げに係る需要者等との交渉状況を伝え合ったり,需要者等に提示する見積価格を調整するなどの行為も行われていないことが認められる。そうすると,同月19日,NECトーキンの子会社工場への浸水被害により,同工場の製品生産は将来に向かって継続的に停止し,同日以降,タンタル4社の間で,タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げに関する情報交換はされていないというのであるから,同日をもって,本件タンタル合意による拘束が事実上消滅したと認められる特段の事情が生じたものといえる。
(イ) 原告ニチコンは,平成23年10月14日付けのプレスリリースにより,NECトーキンのタイ王国所在の工場の操業再開の見通しが立たなくなったことが対外的に明らかになったなどとして,実行期間の終期は同日であると主張する。
しかしながら,前記1の認定事実によれば,NECトーキンは,同社のホームページにおいて,平成23年10月14日付けで,上記工場が所在する工業団地の運営会社から避難勧告は出ていないものの,周辺の水位が上昇しているため,従業員の安全を考慮し,同月13日午後7時をもって自主避難を行ったが,工場への浸水はないと公表し,同月17日付けで,同日,上記工業団地の防水堤が決壊し,同工業団地への浸水が始まったが,工場は周囲を土嚢で囲っており,現時点では工場敷地内への浸水は見られないと公表していることが認められ,これらの公表内容を前提とすれば,同月14日の時点では同工場の操業を再開させることができる余地があったというべきである。
そして,他に,同日時点で同工場の操業再開の見通しが立たなくなったことを示す証拠はないから,同日以降,当該合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情が生じたとまではいえないというほかはなく,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
(ウ) 以上によれば,本件タンタル合意の実行期間の終期は,平成23年10月18日であるというべきである。
⑸ 争点⑵オ(「当該商品」(独禁法7条の2第1項)の範囲)について
湿式タンタル電解コンデンサ(タンタル電解コンデンサのうち,電解質(陰極)として電解液を用いるもの)が本件タンタル合意の対象製品の範囲に含まれるということはできないが,タンタル電解コンデンサのうちのマンガン品全体は,本件タンタル合意の対象製品の範囲に含まれるものというべきであることは,前記認定・説示のとおりであるから,タンタル電解コンデンサのうち湿式タンタル電解コンデンサを除いたもの(マンガン品全体)が,違反行為の対象製品の範ちゅうに属する製品であって,違反行為である相互拘束を受けたものといえ,「当該商品」に該当するものと解される。
これに対し,原告ニチコンは,チップ形の簡易樹脂外装品(上記⑥の製品類型。樹脂外装タイプのタンタル電解コンデンサ)は「当該商品」の範囲から除外されるべきであると主張し,原告松尾電機はヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品(上記③の製品類型。チップ形マンガン品。)のみが「当該商品」に該当すると主張するが,いずれの主張も採用することができないことは,前記2⑵(争点⑵イ(本件タンタル合意が対象とした製品の範囲)について)において述べたところと同様であり,他に,チップ形の簡易樹脂外装品や,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外のタンタル電解コンデンサが,「当該商品」から除外されていることを示す事情を認めるに足りる証拠はない。
⑹ 争点⑵カ(本件タンタル合意に関する各命令は平等原則に違反するか。)について
ア 原告松尾電機は,導電性タンタル電解コンデンサについて不当な取引制限を認めるべきことが明らかになったにもかかわらず,導電性タンタル電解コンデンサには措置を講じない一方で,導電性タンタル電解コンデンサよりもヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品との代替性が劣り,かつ取引量が少なく社会的影響も小さい,ヒューズ非内蔵型でチップ形の樹脂モールド品以外のタンタル電解コンデンサについて,被告が処分権限を行使することは,平等原則に違反するなどと主張する。
イ この点,証拠(乙C5,6)及び弁論の全趣旨によれば,日本国内における導電性タンタル電解コンデンサ(原告松尾電機が主張するポリマー品)の製造販売業者の平成22年度におけるシェアは,《F》が65.1パーセント,NECトーキンが25.9パーセント,原告ニチコンが4.2パーセント,原告松尾電機が2.7パーセントであること,日本国内で導電性タンタル電解コンデンサの最大シェアを誇る《F》は,平成22年7月23日開催の社内会議において,導電性タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げを行うのは海外のみであって,日本国内では考えていない旨を確認したことが認められる。この事実に,《F》が,本件タンタル合意が成立した後,タンタル4社と情報交換を行うなどして,日本国内の需要者等に対して導電性タンタル電解コンデンサの販売価格の引上げに向けた値上げ活動をしたことを窺わせる証拠はないことをも併せ考慮すると,本件において,導電性タンタル電解コンデンサに対して不当な取引制限があった事実を認定すべきことが明らかであるとまではいえないというべきである。
ウ したがって,導電性タンタル電解コンデンサ(ポリマー品)に対して不当な取引制限があった事実を認定すべきことが明らかであることを前提として平等原則違反をいう原告松尾電機の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。
⑺ 争点⑵キ(本件タンタル合意に関する各命令に係る手続に瑕疵があるか。)について
原告ニチコンは,本件タンタル合意に関する命令は,本件タンタル合意の内容につき,具体的にいかなる行為を共同して行うことを合意したと認定するのかを明らかにしておらず,全く特定されずにされた違法な処分であり,原告ニチコンは,このように特定を欠く本件タンタル合意を前提とした処分通知しか受けておらず,適切に防御権を行使できなかったから,本件タンタル合意に関する各命令に係る意見聴取手続には,防御や反論の機会が実質的に保障されていないという手続的瑕疵が存在すると主張する。
しかしながら,証拠(甲B3)及び弁論の全趣旨によれば,本件タンタル課徴金納付命令(原告ニチコン)には,本件タンタル合意の当事者,合意の成立及び消滅時期,合意の成立を根拠付ける事実の概要等が記載されていたこと,本件タンタル課徴金納付命令(原告ニチコン)には課徴金額の算出過程が記載されていたことが認められ,これにより,処分の内容や処分の対象となった取引の範囲は相当程度明らかであったといえるから,本件タンタル合意は,少なくとも原告ニチコンが防御や反論をすることが可能な程度には,内容が特定されていたといえる。
したがって,本件タンタル課徴金納付命令(原告ニチコン)に係る意見聴取手続において,被審人である原告ニチコンの防御や反論の機会が実質的に保障されていないという手続的瑕疵が存在するとはいえないから,原告ニチコンの上記主張は採用することができない。
第5 結論
以上の次第で,原告松尾電機の請求は主文第1項及び第2項の限度で理由があるから認容し,その余の原告松尾電機の請求並びに原告ルビコン及び原告ニチコンの請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
平成31年3月28日
裁判官 下馬場 直 志
裁判官 君島直之
裁判長裁判官大竹昭彦は差支えのため署名押印することができない。
裁判官 下馬場 直 志