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㈱エディオンに対する件

独禁法66条2項及び3項(独禁法19条・独禁法20条の6)

平成24年(判)第40号及び第41号

排除措置命令を変更し,課徴金納付命令の一部を取り消す審決

広島市中区紙屋町二丁目1番18号
被審人 株式会社エディオン
同代表者 代表取締役 《 氏 名 》
同代理人 弁 護 士 長 澤 哲 也
同          澤 田 忠 之
同          多 田 敏 明
同          大 川   治
同          谷 本 誠 司
同          佐 川 聡 洋
同          酒 匂 景 範
同          富 山 聡 子
同          小 田 勇 一
同          永 井 万紀子
同          吉 村 幸 祐
同          福 冨 友 美
同          中 山 貴 博
同          熊 代 なつみ
同          首 藤   聡

公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う公正取引委員会関係規則の整備に関する規則(平成27年公正取引委員会規則第2号)による廃止前の公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)(以下「規則」という。)第73条の規定により審判長審判官齊藤充洋から提出された事件記録,規則第75条の規定により審査官及び被審人から提出された各異議の申立書並びに独占禁止法第63条及び規則第77条の規定により被審人から聴取した陳述に基づいて,同審判官から提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

主文
1 平成24年2月16日付けの排除措置命令(平成24年(措)第6号)を別紙審決案別紙2のとおり変更する。ただし,第1項⑴中,「本審決案別表1」とあるのは「別紙審決案別表1」と読み替えるものとする。
2 平成24年2月16日付けの課徴金納付命令(平成24年(納)第10号)のうち,30億3228万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
3 被審人のその余の審判請求をいずれも棄却する。

理由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,後記第2項のとおり改めるほかは,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第7と同一であるから,これらを引用する。
なお,引用する審決案で用いられる用語のうち,同審決案別紙1の「用語」欄に掲げるものの定義は,同「定義」欄に記載のとおりである。
2 別紙審決案を以下のとおり改める(頁数は,同審決案の頁数を指す。)。
⑴上記審決案の理由第6の1⑴中(46頁29行目から30行目にかけて)及び同⑹イ(ア)中(141頁5行目)の「第1号ないし第5号」を「第1号ないし第4号」に改める。
⑵同⑷イ(エ)b(a)ⅲ中(121頁11行目)の「前記ⅱ(ⅳ)」を「前記ⅱ(ⅴ)」に改める。
⑶同(122頁23行目から24行目にかけて)の「社商品の展示スペース」を「自社商品の展示スペース」に改める。
⑷同7(2)ウ中(155頁26行目)の「マル得経費不要」を「マル得経費負担」に改める。
⑸同別紙6の第7の2(5)中(422頁18行目)の「おおむね」を削除する。
⑹同第17の1(2)ア中(450頁38行目)の「店作り10回であり。」を「店作り10回である。」に改める。
⑺同第96の1(1)イ中(699頁5行目)の「被審人の取引していた」を「被審人と取引していた」に改める。
3 よって,被審人に対し,独占禁止法第66条第3項及び第2項並びに規則第78条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

令和1年10月2日

委員長  杉  本  和  行
委 員  山  本  和  史
委 員  三  村  晶  子
委 員  青  木  玲  子
委 員  小  島  吉  晴

別紙

平成24年(判)第40号及び第41号

審   決   案

広島市中区紙屋町二丁目1番18号
被審人 株式会社エディオン
 同代表者 代表取締役 《 氏 名 》
同代理人 弁 護 士 長 澤 哲 也
同          澤 田 忠 之
同          多 田 敏 明
同          大 川   治
同          谷 本 誠 司
同          佐 川 聡 洋
同          酒 匂 景 範
同          富 山 聡 子
同          小 田 勇 一
同          永 井 万紀子
同          吉 村 幸 祐
同          福 冨 友 美
同          中 山 貴 博

 上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「独占禁止法」という。)に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う公正取引委員会関係規則の整備に関する規則(平成27年公正取引委員会規則第2号)による廃止前の公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)(以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。
 なお,以下の用語のうち,別紙1の「用語」欄に掲げるものの定義は,同「定義」欄に記載のとおりである。

主     文
1 平成24年2月16日付けの排除措置命令(平成24年(措)第6号)を別紙2のとおり変更する。
2 平成24年2月16日付けの課徴金納付命令(平成24年(納)第10号)のうち,30億3228万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
3 被審人のその余の審判請求をいずれも棄却する。

理     由
第1 審判請求の趣旨
1 平成24年(判)第40号審判事件
平成24年(措)第6号排除措置命令の全部の取消しを求める。
2 平成24年(判)第41号審判事件
平成24年(納)第10号課徴金納付命令の全部の取消しを求める。
第2 事案の概要(当事者間に争いのない事実又は公知の事実)
1 公正取引委員会は,被審人が,遅くとも平成20年9月6日から平成22年11月29日までの間(以下「本件対象期間」という。),自己の取引上の地位が127社に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,継続して取引をする相手方である127社に対し,新規開店又は改装開店のための商品の搬出,商品の搬入及び店作りに通常必要な費用を負担することなく127社の従業員等を派遣させていたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第9項第5号(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律〔平成21年法律第51号。以下「改正法」という。〕の施行日である平成22年1月1日前においては平成21年公正取引委員会告示第18号による改正前の不公正な取引方法〔昭和57年公正取引委員会告示第15号〕〔以下「旧一般指定」という。〕第14項)に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものであり,かつ,特に排除措置を命ずる必要があるとして,被審人に対し,平成24年2月16日,排除措置を命じた(平成24年(措)第6号。以下,この処分を「本件排除措置命令」といい,同命令において認定された違反行為を「本件違反行為」という。)。本件排除措置命令に係る命令書の謄本は,同月17日,被審人に対して送達された。
2 公正取引委員会は,平成24年2月16日,被審人に対し,本件違反行為は独占禁止法第20条の6に規定する継続してするものであり,本件違反行為をした日から本件違反行為がなくなる日までの期間は平成20年9月6日から平成22年11月29日まで(本件対象期間)であるとした上で,本件違反行為のうち改正法の施行日である同年1月1日以後に係るものについて,被審人と127社それぞれとの間における別表1の「購入額」欄に記載の購入額を前提に,40億4796万円の課徴金の納付を命じた(平成24年(納)第10号。以下,この処分を「本件課徴金納付命令」という。)。本件課徴金納付命令に係る命令書の謄本は,平成24年2月17日,被審人に対して送達された。
3 被審人は,平成24年3月15日,本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の全部の取消しを求める審判請求をした。
第3 前提となる事実(各項末尾に括弧書きで証拠を掲記した事実は当該証拠から認定される事実であり,その余の事実は当事者間に争いのない事実又は公知の事実である。なお,証拠の表記については,「第」及び「号証」を略し,単に「査○」,「審○」と記載する。)
1 被審人の概要
(1)設立と吸収合併等
ア 被審人は,主として中国・四国・九州地方において家電製品等の小売業を営んでいた株式会社デオデオ(ストアブランドは「デオデオ」及び「ミドリ」。ただし,「ミドリ」については,平成21年10月以降に限る。)及び主として中部地方において家電製品等の小売業を営んでいた株式会社エイデン(ストアブランドは「エイデン」,「エディオン」及び「イシマル」。ただし,「エディオン」及び「イシマル」については,平成21年2月以降に限る。また,「エディオン」は,平成21年11月以降「イシマル」に変更されている。)の共同株式移転により,平成14年3月29日,株式会社デオデオ及び株式会社エイデンの2社を完全子会社とする持株会社として設立された。
イ 被審人は,平成17年4月1日付けで,主として近畿地方において家電製品等の小売業を営んでいた株式会社ミドリ電化(ストアブランドは「ミドリ」。)を完全子会社とした。
ウ 被審人は,平成19年3月31日,関東地方において家電製品等の小売業を営んでいた石丸電気株式会社(ストアブランドは「イシマル」。)を連結子会社とした。
エ 被審人は,平成19年10月19日,関東地方において家電製品等の小売業を営む株式会社東京エディオン(ストアブランドは「エディオン」)を全額出資して設立した。株式会社東京エディオンは,同年11月1日に被審人の保有する石丸電気株式会社の株式を全て譲り受けた後,平成20年10月1日付けで石丸電気株式会社の残余の株式を取得し,石丸電気株式会社を完全子会社とした。
オ 株式会社エイデンは,平成21年2月1日に,株式会社東京エディオン及び石丸電気株式会社が営む事業の全てを吸収合併により承継し,同年10月1日に,その商号を「株式会社エディオンEAST」に変更した。
また,株式会社デオデオは,平成21年10月1日,株式会社ミドリ電化が営む事業の全てを吸収合併により承継し,その商号を「株式会社エディオンWEST」に変更した。
カ 被審人は,平成22年10月1日,株式会社エディオンWEST及び株式会社エディオンEASTが営む事業の全てを吸収合併により承継し,同日以降,自ら家電製品等の小売業を営んでいる。
(査1ないし査4,査20ないし査24,査27)
(2)被審人の運営する店舗
ア 被審人並びに被審人の子会社である株式会社デオデオ(株式会社エディオンWEST),株式会社エイデン(株式会社エディオンEAST),株式会社ミドリ電化,石丸電気株式会社及び株式会社東京エディオン(以下,併せて「被審人事業子会社」という。)は,それぞれ異なる名称(ストアブランド)を用いて店舗を展開していたが,平成24年10月,これらのストアブランドは「エディオン」に統一された(査16,査27,査32)。
イ 被審人が展開する店舗には,大別すると,被審人及び被審人事業子会社が自ら運営する直営店と,被審人,株式会社デオデオ,株式会社エイデン又は株式会社ミドリ電化のフランチャイズ・チェーンに加盟する事業者が運営するフランチャイズ店があった(査34,査35〔同添付資料1〕)。
ウ 被審人が運営する店舗は,西日本を中心として関東以西に広範囲にわたって展開されており,その数(フランチャイズ店を含む。)は,平成21年3月末日時点は1,078店,平成22年3月末日時点は1,101店,平成23年3月末日時点は1,130店と年々増加しており,その間,家電製品等の小売業を営む者の中で第2位であった(査16,査20,査22ないし査24,査27ないし査32)。
(3)店舗の管理運営等
被審人は,その設立時から完全子会社であった株式会社デオデオ(株式会社エディオンWEST)及び株式会社エイデン(株式会社エディオンEAST)のほか,後に完全子会社となった株式会社ミドリ電化及び石丸電気株式会社,後に完全子会社として設立した株式会社東京エディオンの経営を管理することを目的として,各会社と経営指導委託契約又は業務委託契約を順次締結し,各会社の商品調達に関する業務,商品政策等に関する業務,仕入・在庫管理に関する業務等を行っていた(査4ないし査15〔同添付資料1,3,7ないし11〕)。
そして,被審人は,平成20年頃までには,被審人,被審人事業子会社及び被審人,株式会社デオデオ,株式会社エイデン又は株式会社ミドリ電化のフランチャイズ・チェーンに加盟する事業者が運営する店舗(以下,運営主体の違いに関わらず,「被審人運営店舗」という。)において販売する全ての商品について,上記の経営指導委託契約又は業務委託契約に基づき,これらの商品を被審人に直接販売して納入する事業者(納入業者)から,自ら一括して仕入れ,仕入れた商品を被審人運営店舗に供給するようになっていた(査15,査35,査50の1及び2)。
(4)被審人の従業員数
被審人の従業員(特段の断りのない限り,被審人事業子会社の従業員を含む。以下同じ。)の数は,平成20年3月期は1万534名,平成21年3月期は1万664名,平成22年3月期は1万640名,平成23年3月期は1万22名であった(査27)。
(5)被審人の売上高
被審人の連結売上高は,平成21年3月期は8030億400万円,平成22年3月期は8200億3000万円,平成23年3月期は9010億1000万円であり(平均年間総売上高は約8413億4800万円),家電製品等の小売業を営む家電量販店の中でいずれも第2位であった(査27ないし査30)。
(6)被審人の資本金の額
本件対象期間における被審人の資本金の額は,約101億7400万円である(査27)。
2 被審人と納入業者との取引
(1)商品の仕入れ
被審人による納入業者からの商品の仕入れは,そのほぼ全てが買取り(売主が買主に商品を引き渡すのと同時に当該商品の所有権が売主から買主に移転し,その後は買主が当該商品の保管責任を負う取引形態)の方法によるものであった。
また,被審人は,商品の仕入れについて,定数制による自動発注制度を多く採用していた。同制度は,被審人運営店舗の店頭で商品が販売され,あらかじめ被審人が設定していた在庫保有台数の定数を下回ったときに,自動的に納入業者に商品を発注する仕組みである。この仕組みの下では,店頭で商品が販売されても,定数を下回らない限り納入業者に商品を発注することはなかった。(査580)
(2)マル特経費負担と称する割戻金
被審人と納入業者との取引においては,マル特経費負担と称する割戻金が納入業者から被審人に支払われていた。
マル特経費負担とは,被審人と納入業者との間で締結されている商品取引基本契約書の仕入価格の約定等を定める条項に規定された「機種・品番ごとにあらかじめ単価を決め難い割戻し金」に該当する割戻金であり,双方で販売促進策等について商談した上で,割戻金の金額の算定対象となる期間,機種・品番,割戻金単価,実績(仕入実績又は販売実績のいずれか)等についてあらかじめ合意し,合意した条件により納入業者が被審人指定書式に基づく通知書により被審人に割戻金を支払うものであった。なお,納入業者の多くは,割戻金の算定対象となる実績について,被審人の仕入実績ではなく被審人の販売実績を選択していた。
(審264,審265)
(3)店作り等の契約書上の定め
被審人と納入業者との間の取引基本契約書等の被審人による納入業者からの商品の納入契約の内容を定めた契約書等において,納入業者が商品の搬出及び店作りを行うことは定められていなかった。また,新規開店又は改装開店を行う店舗で展示又は陳列する商品と店舗の倉庫で在庫として保管する商品とを問わず,納入業者は,通常,物流センター(被審人若しくは被審人事業子会社又はこれらの者との間で物流業務基本契約を締結した事業者が運営し,被審人運営店舗で販売する商品の保管並びに入荷及び出荷業務を行うための施設であり,新規開店前又は改装開店前に,納入業者から商品の納入が行われる施設。以下同じ。)において商品を引き渡すこととされ,商品の搬入を行うことは,取引基本契約書等の被審人による納入業者からの商品の納入契約の内容を定めた契約書等において定められていなかった。(査50の1及び2)
(4)127社の概要
本件違反行為の相手方とされているのは, 127社である。127社は,家電製品等の製造業者又は卸売業者であり,被審人に家電製品等の商品を納入していた。(査26の1ないし127)
3 新規開店又は改装開店に向けた準備業務
(1)日程の決定等
被審人及び被審人事業子会社は,被審人運営店舗の新規開店又は全面改装による改装開店を行う場合,プロジェクト会議と称する会議(以下「プロジェクト会議」という。)を開催し,当該店舗について閉店又は開店,処分セール,閉店セール又は開店セール,商品の搬出,商品の搬入,店作りといった,新規開店又は全面改装による改装開店を行うまでの業務の日程,内容,進捗状況等について確認又は検討し,決定していた。
そして,被審人の店舗支援部(店作りに係る業務,具体的には,担当する商品〔ネバーランドグループが担当する玩具,テレビゲーム等を除く。なお,ネバーランドは,もともとエイデンにおいてコンピューターゲームを取り扱う売場であり,その後,被審人グループ店舗共通の玩具及びゲーム専用売場となったものである[審257]。〕についての店作りスケジュールの立案・調整・決定,当該店舗の棚割りの作成・決定,当該店舗の店作りの助言・指導,店作りの実施日における店作り等の業務を専門的に行うために平成18年4月1日に設置された部署。なお,名称は,平成21年4月1日に「商品政策推進部」に,平成22年4月1日に「営業支援部店舗支援グループ」に,それぞれ変更されたが,以下,これらを区別せずに「店舗支援部」という。)は,プロジェクト会議の決定内容,営業部からの新規開店又は改装開店に係る情報連絡等を踏まえ,新規開店又は改装開店を行う店舗について,店舗ごとに,ストアブランド・店舗名,セールを行う期間,商品の搬出,商品の搬入又は店作りを行う期日又は期間,閉店日,開店日等を記載した文書(以下「店作りスケジュール表」という。)を作成し,被審人及び被審人事業子会社の関係者に送付していた。
(査36ないし査46)
(2)基本的な棚割りを記載した文書等の作成
被審人運営店舗の新規開店又は全面改装による改装開店が行われる場合,店舗の売場のレイアウト等に左右されない基本的な棚割りを記載した文書に基づき,個別の店舗の新規開店又は改装開店の際に用いる具体的な棚割りを記載した表(以下「棚割表」という。)が作成されていた。棚割表は,新規開店又は改装開店を行う店舗の売場のレイアウトや什器の配置に合わせて,当該店舗の立地条件等の特性も考慮するなどして作成され,そこには,製造業者名,型番,展示又は陳列位置,装飾内容等の商品の展示及び陳列並びに装飾に必要な情報が記載されていた。(査51,査53ないし査60,査577の1ないし5,査589の1ないし3,査590,査591)
なお,棚割表は,基本的に,被審人の店舗支援部の担当者が作成し,基本商品政策の策定,月次商品計画,店舗のアイテム別販売計画の策定,販売価格の決定といった商品計画の策定等の業務を担当するマーチャンダイザーと称する者(以下「MD」という。査58,査62,査93,査100,査113,査115の1ないし4,査116,査117)や,遅くとも平成19年4月以降,被審人(時期によっては被審人事業子会社)の商品政策推進部(被審人事業子会社によっては「政策推進部」ともいう。)に所属し,ストアブランドごとに,また,商品ごと,かつ,地域ごとに,主として,MDが策定した店舗における商品の販売政策を店舗において実行するよう指導するとともに,店舗で実行した商品の販売政策の検討課題をMDに報告する業務を担当する者として置かれたフィールドマーチャンダイザーと称する者(以下「FMD」という。査17,査56,査57,査63,査82,査91,査93,査113,査119,査120)が確認することによって決定されていたが(査51,査53ないし査60),MDやFMDが作成することもあった(査43,査62,査63,査100)。
(3)新規開店又は改装開店を行う店舗における準備作業
ア 新規開店の場合
新規開店を行う店舗では,開店日に先立ち,商品の搬入及び店作りが行われた。
商品の搬入は,売場又は店舗の倉庫(バックヤードと称される場所を含む。以下同じ。)の所定の位置に什器の設置が行われた後に行われるものであり,具体的には,当該店舗の搬入口若しくは倉庫から被審人が指定する売場まで,又は当該店舗の搬入口から被審人が指定する当該店舗の倉庫まで商品を運搬し,設置された什器に沿って並べるというものであった。
店作りは,売場まで運ばれた商品について商品の搬入に続いて行われるものであり,具体的には,当該店舗の売場まで搬入された商品を開梱し又は折り畳み式のコンテナから取り出し,棚割表に基づき,商品の陳列,展示を行い,これらの作業を終えた後,又はこれらの作業に並行して,「POP」(販売促進を目的とした店内の広告物である「ポップ広告」。以下同じ。)等の販促物によって売場又は当該商品の装飾を行うというものであった。
(査52,査57,査61,査63,査79,査81,査82,査85ないし査89,査91,査92,査112)
イ 改装開店の場合
改装開店を行う店舗では,処分セール又は閉店セールの最終日の営業終了後に商品の搬出が行われ,改装工事の終了後に商品の搬入及び店作りが行われた。
商品の搬出は,具体的には,改装を行う売場にある商品を梱包材で梱包し,又は折り畳み式のコンテナに収納して,売場から当該店舗の倉庫等の被審人が指定する場所まで当該商品を運搬するというものであった。
商品の搬入は,店舗の改装工事が終了し,所定の位置に什器の設置が行われた後に行われるものであり,具体的には,店舗の倉庫又は改装の対象ではない場所に保管されていた商品については売場,所定の場所に保管されていた商品及び新たに仕入れられた商品については店舗の搬入口から売場又は店舗の倉庫まで,当該商品を運搬し,設置された什器に沿って並べるというものであった。
店作りは,新規開店の場合と同様であった。
なお,改装の規模が小さい場合には,処分セール又は閉店セールの最終日の営業終了後に限らず,また,什器の設置等の作業を経ることなく,上記作業が行われることがあった。
(査52,査57,査61,査63,査70,査80,査82,査84,査87,査90ないし査92,査94ないし査101,査114)
ウ 被審人の担当者による作業
前記ア及びイの各作業については,MD(被審人)又はFMD(被審人又は被審人事業子会社)のほか,店舗支援部の担当者が参加することもあった(査51,査52,査55ないし査58,査62,査63,査81,査82,査91ないし査93,査100,査117)。
4 127社による従業員等の派遣について
127社は,被審人又は被審人事業子会社から,商品の搬出,商品の搬入又は店作りを行う店舗,日程等の連絡等を受け,派遣する従業員等の数の回答をし,あるいは,回答をしないまま,新規開店又は改装開店を行う店舗に自社の従業員等を派遣し,新規開店又は改装開店をする既存店舗の開店前の準備作業(以下「店舗開設準備作業」という。)の一部である商品の搬出,商品の搬入又は店作りを行ったことがあった(以下,127社による商品の搬出,商品の搬入又は店作りのための従業員等の派遣を「本件従業員等派遣」という。)。(査26の128,査303の1ないし127,査304,査306の1ないし28)
5 被審人による本件違反行為の終了
被審人は,本件について公正取引委員会が平成22年11月16日に独占禁止法第47条第1項第4号の規定に基づく立入検査(以下「本件立入検査」という。)を行ったことを契機として,同月30日以降,本件違反行為を行っていない。
6 被審人の127社からの購入額
改正法の施行日である平成22年1月1日から同年11月29日までの
間における被審人の127社それぞれとの間における購入額を,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号。以下「独占禁止法施行令」という。)第30条第2項の規定に基づき算定すると,別表1の「購入額」欄記載のとおりとなる(以下「被審人の127社からの購入額」という。ただし,マル特経費負担を同「購入額」から控除するかについては,後記第5の6のとおり争いがある。)。
第4 争点
1 本件従業員等派遣をさせたことは被審人が127社に対して自己の取引上の地位が優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当に行ったものか(争点1)
2 改正法施行前の行為に旧一般指定第14項を適用することができるか(争点2)
3 被審人に対し本件排除措置命令をすることについて特に必要があるか(争点3)
4 本件排除措置命令において127社以外の納入業者に対する通知を命じること(本件排除措置命令の主文第2項)ができるか(争点4)
5 本件課徴金納付命令における課徴金算定の基礎となった違反行為期間(独占禁止法第20条の6にいう「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」をいう。以下同じ。)における購入額の算定方法は適法か(争点5)
6 マル特経費負担を独占禁止法施行令第30条第2項第3号又は第1号に該当するものとして違反行為期間における購入額から控除すべきか(争点6)
第5 争点に係る双方の主張
1 争点1(本件従業員等派遣をさせたことは被審人が127社に対して自己の取引上の地位が優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当に行ったものか)について
(1)審査官の主張
ア 優越的地位の濫用規制の趣旨
独占禁止法第19条において,優越的地位の濫用が不公正な取引方法として規制されているのは,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,取引の相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えること(以下,この行為を「濫用行為」という。)は,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあるものであり,このような行為は公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)があるからである(公正取引委員会平成27年6月4日審決・公正取引委員会審決集第62巻119頁〔日本トイザらス株式会社に対する件。以下「トイザらス事件審決」という。〕。優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方〔以下「ガイドライン」という。〕第1の1参照)。
イ 被審人の取引上の地位が127社に優越していたこと
(ア)優越的地位の認定手法
a 「自己の取引上の地位が相手方に優越している」の意義
優越的地位の濫用規制の趣旨に照らせば,「自己の取引上の地位が相手方に優越している」といえるためには,取引の一方の当事者(以下,一般に取引の一方の当事者である事業者を「甲」という。)が市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位にある必要はなく,取引の相手方(以下,甲の取引の相手方を「乙」という。)との関係で相対的に優越した地位にあれば足りる。また,甲が乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ない場合をいうと解される(トイザらス事件審決,ガイドライン第2の1参照)。
b 優越的地位の認定に当たって考慮される事情
濫用行為は,通常の企業行動からすれば当該取引の相手方が受け入れる合理性のないような行為であるから,甲が濫用行為を行い,乙がこれを受け入れている事実が認められる場合,これは,乙が当該濫用行為を受け入れることについて特段の事情がない限り,乙にとって甲との取引が必要かつ重要であることを推認させるとともに,「甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ない場合」にあったことの現実化として評価できるものというべきであり,このことは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことに結び付く重要な要素になるものというべきである(トイザらス事件審決)。
そして,甲が乙に対して優越した地位にあるといえるか否かについては,甲による行為が濫用行為に該当するか否か,濫用行為の内容,乙がこれを受け入れたことについての特段の事情の有無を検討し,さらに,①乙の甲に対する取引依存度,②甲の市場における地位,③乙にとっての取引先変更の可能性,④その他甲と取引することの重要性・必要性を示す具体的事実を総合考慮して判断するのが相当である(トイザらス事件審決)。
(イ)本件への当てはめ
a 被審人及び127社については,次の(a)ないし(e)の事情が認められ,これらの事情は,納入業者である127社にとって被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人が127社にとって著しく不利益な要請等を行っても127社がこれを受け入れざるを得ないような場合にあったことを強く推認させる。
(a)後記ウのとおり,被審人が本件従業員等派遣をさせたことは濫用行為に該当するところ,127社がこれを受け入れていた。
(b)本件対象期間中,我が国の家電製品等の小売市場では,被審人,《事業者A》(以下「《事業者A》」という。),《事業者B》(以下「《事業者B》」という。),《会社名略》,《会社名略》,《会社名略》,《会社名略》,《会社名略》という大手家電量販店8社による寡占化が進んでいた。他方,小規模店舗は,店舗数が著しく減少しており,インターネット通販は,その売上高の多くを大手家電量販店が運営するサイトが占めていた。
(c)大手家電量販店は,あらかじめ計画を立てて商品を仕入れており,計画にない仕入れを行っていないため,納入業者は被審人との間の取引を他の大手家電量販店との取引で補うことはできなかった。
(d)本件対象期間を含む平成20年4月1日から平成23年3月31日までの3事業年度における被審人の連結売上高は,いずれも,我が国の家電製品等の小売業を営む者の中で第2位であった。また,被審人運営店舗の数は,平成21年3月末日時点では1,078店,平成22年3月末日時点では1,101店,平成23年3月末日時点では1,130店であり,我が国の家電製品等の小売業を営む者の中でいずれも第2位であった。しかも,本件対象期間を包含する平成20年4月から平成23年3月まで(平成21年3月期から平成23年3月期まで)の期間において,被審人の連結売上高及び被審人運営店舗の数はいずれも年々増加していたなど,当該期間における被審人の事業規模が拡大していた。
(e)127社は,いずれも被審人との取引を継続することが必要であると認識していた。
b また,被審人及び127社については,次の(a)ないし(e)のいずれかの事情が認められるところ,これらの事情も,127社にとって被審人と取引を行う必要性が高く,被審人との取引継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすいことを示すものとして,前記aの推認を補強するものである。
(a)被審人に対する取引依存度が3パーセント以上と高かったり,取引額が5億円以上と大きかったりした。
(b)公正取引委員会からの報告命令(査26の各号。以下「公正取引委員会の報告命令」という。)における被審人らとの取引を継続できず,被審人に代わる他の取引先を見つける必要が生じた場合の状況に関する設問(査26の各号・設問2⑼。以下「取引先変更可能性の設問」という。)に対し,公正取引委員会の報告命令に対する報告書(以下,単に「報告命令に対する報告書」という。)において,「イ エディオンらに代わる取引先を見つけること又は他の取引先との取引を増やすことでエディオンらとの取引停止に伴う損失を補うことは困難である」との回答(以下「取引先変更困難との回答」という。)を選択するなど,被審人との取引を変更することが困難であったことを示す事情があった。
(c)被審人に対する売上高が直近3事業年度で年々増加していたなど,被審人に対する取引額の増加が期待できた事情があった。
(d)直近3事業年度において,被審人に対する取引依存度及びその順位が年々上昇しており,被審人と取引することの重要性が増していたことを示す事情があった。
(e)被審人の事業規模が納入業者のそれよりも著しく大きかった(本件対象期間中の被審人の資本金約101億7400万円と比べて,資本金が3億円以下と低かった。)。
c 納入業者127社について,前記aの(a)ないし(e)の事情がいずれも認められるとともに,別紙4のとおり,前記bの(a)ないし(e)のいずれかの事情が認められることを総合考慮すれば,被審人は127社に対して優越的地位にあったと認められる。
ウ 被審人が正常な商慣習に照らして不当に127社に本件従業員等派遣をさせたこと(濫用行為を行ったこと)
(ア)被審人が127社に対して従業員等の派遣を依頼し,127社がこの依頼に応じて従業員等を派遣したこと(本件従業員等派遣の外形的事実)
被審人は,別表2記載の被審人運営店舗の新規開店又は改装開店に際し,別紙3記載のとおり,平成20年9月6日から平成22年11月29日までの間,127社に対して,店舗開設準備作業の日程等を連絡するなどして従業員等の派遣を依頼し,127社は,この依頼に応じて被審人運営店舗に従業員等を派遣して,商品の搬出,商品の搬入又は店作りの作業を行わせた。
(イ)被審人が本件従業員等派遣をさせたことが濫用行為に該当すること
a 濫用行為の意義
「正常な商慣習に照らして不当に,次のいずれかに該当する行為をすること」(独占禁止法第2条第9項第5号柱書,旧一般指定第14項柱書)とは,取引の相手方の事業活動上の自由意思を抑圧し,不当に不利益な行為を強要することである。
したがって,優越的地位にある事業者による「継続して取引する相手方に対して,自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させる」(独占禁止法第2条第9項第5号ロ,旧一般指定第14項第2号)行為が,取引の相手方の事業活動上の自由意思を抑圧し,不当に不利益な行為を強要するものである場合には,当該行為は濫用行為に当たる。
この点,被審人は,濫用行為というためには,少なくとも,取引の相手方にとって著しく過大な不利益である必要があると主張するが,個々の取引の相手方全てにつき著しく過大な不利益が生じていることを要求することは,私的自治を過度に重視し,公正な競争秩序の保護を矮小化するものであり,被審人の上記主張は,独占禁止法の趣旨・保護法益に反する独自の解釈であって,失当である。
b 買取取引により継続的取引関係にある当事者間で従業員等の派遣をさせる行為が濫用行為に当たること
(a)買取取引においては,商品の引渡しにより,商品の所有権とともに,当該商品等の滅失の危険や売れ残りのリスクなどの負担も売主から買主に移転するから,商品の引渡し後の販売のための店舗開設準備作業は,契約上の義務がない限り,買主において行うべきであり,買主が売主に対して従業員等を派遣して同作業を行うことを要請したとしても,それに応じることは売主にとって通常は何ら合理性がない。
そして,取引主体が取引の諾否及び取引条件について自由かつ自主的に判断することによって取引が行われているという自由な競争の基盤が確保されているのであれば,売主は,このような合理性のない買手の要請を受け入れないはずである。
したがって,買主が,買取取引に係る継続的な取引関係にある売主に対して,店舗開設準備作業のために従業員等の派遣を要請し,かつ,現に売主がそれを受け入れた場合には,買主の要請は,売主にあらかじめ計算できない不利益や合理的であると認められる範囲を超える負担を与えるものであり,売主の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するものと推認されるから,売主の事業活動上の自由意思を抑圧し,不当に不利益な行為を強要する行為に当たる。
(b)もっとも,買主と売主が,店舗開設準備作業を行うこと及びその条件について,十分な協議をした上で事前に合意し,その合意内容を契約書等によって明確化するとともに,売主が同作業の対価として相応しい額を得られるのであれば,同作業を行うことは売主の契約上の義務になる。このような場合,売主が店舗開設準備作業を行っても,あらかじめ計算できない不利益を受けることや合理的範囲を超える負担を負うこととはならず,売主の自由かつ自主的な判断による取引を阻害することともならないから,このような従業員等派遣をさせることは濫用行為に当たらない。
また,店舗開設準備作業の対価としてふさわしい額の支払を受けていなくても,それと同視し得る利益として,売主の納入する商品の売上増加,売主による消費者ニーズの動向の直接把握につながる場合など,「直接の利益」を得ている場合がある(ガイドライン第4の2⑵ア〔注12〕参照)。この場合,店舗開設準備作業による負担が,それによって得ることとなる利益の範囲内であるものとして,売主の自由な意思により行われる場合には,売主はあらかじめ計算できない不利益や合理的範囲を超える負担を負うこととはならないから,濫用行為に当たらない(ガイドライン第4の2⑵イ参照)。
なお,上記の直接の利益には,店舗開設準備作業を行うことにより将来の取引が有利になるというような「間接的な利益」は含まれない(ガイドライン第4の2⑵ア〔注12〕参照)。
c 被審人が本件従業員等派遣をさせたことが濫用行為に当たること
(a)被審人は,127社と継続的な取引関係にあり,その取引形態は原則として買取取引であった。
そして,被審人は,本件対象期間中,127社に対し,店舗開設準備作業に従業員等を派遣するよう要請し,127社は,この要請に応じて従業員等を派遣して,商品の搬出,商品の搬入又は店作りを行った。
したがって,被審人が本件従業員等派遣をさせたことは,127社に対してあらかじめ計算できない不利益や合理的であると認められる範囲を超える負担を与えるものであり,127社の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するものと推認される。
(b)一方,被審人と127社は,本件従業員等派遣の条件について,十分な協議をした上で事前に合意しておらず,その合意内容を契約書等によって明確化していなかった。
また,本件従業員等派遣の依頼の実態は,短期的な労働者派遣契約又はそれに類似する契約であり,労働価値に見合う対価(通常は賃金が相当する。)が存在しなければならなかったところ,被審人は本件従業員等派遣の費用を一切支払っていなかった。
さらに,本件従業員等派遣は,開店後の販売応援ではなく,開店前の準備作業であり,そこには消費者が存在しなかったから,消費者ニーズの直接把握につながるものではなかった。店舗開設準備作業の内容自体をみても,詳細が棚割表に定められて納入業者による裁量がなかった店作りを含めて,いずれも機械的かつ単純な作業であり,127社が派遣する従業員等でなければできないものでもなかったから,当該従業員等が有する販売に関する技術又は能力が有効に活用される余地はなかった。しかも,127社から派遣された従業員等は,自社商品のみならず,競争相手である他社の商品についても店舗開設準備作業を行うことがあったことからすると,本件従業員等派遣は,およそ自社商品の売上増加に結び付く性質を有するものではなかったことは明らかである。加えて,被審人は,本件従業員等派遣に応じたことを理由として,納入業者を商談において優遇することもなかったことなどからすると,127社が本件従業員等派遣に応じることについて,「直接の利益」が生じる余地はなかった。そして,実際にも,本件従業員等派遣が,これを行った納入業者の納入する商品の売上げ増加にもつながっていなかった。
(c)以上によれば,被審人が本件従業員等派遣をさせたことは,127社の事業活動上の自由意思を抑圧し,不当に不利益な行為を強要する行為,すなわち,濫用行為に当たる。
エ 被審人が優越的地位を利用して濫用行為を行ったこと
優越的地位にある行為者が取引の相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常「利用して」行われた行為であると認められる(トイザらス事件審決,ガイドライン第2の3参照)。
前記イのとおり,被審人は,127社に対して優越的地位にあり,このような者が,前記ウのとおり,不利益を課して取引を行っていたのであるから,いずれも,被審人がその優越的な地位を利用して行ったものである。
オ 被審人が本件従業員等派遣をさせたことは公正な競争を阻害するおそれがあること
(ア)前記アのとおり,優越的地位の濫用が不公正な取引方法として規制されているのは,濫用行為が,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあるものであり,このような行為は公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)があるからである。
したがって,優越的地位の濫用に該当するか否かの判断に際しては,不利益の程度や行為の広がり,すなわち,対象となる相手方の数,組織的・制度的なものかどうか,行為の波及性・伝播性の有無を考慮すべきであり,また,公正競争阻害性の要件における「おそれ」は一般的・抽象的危険性で足りるから,上記の「おそれ」も一般的・抽象的に検討すれば足りることになる。
(イ)被審人による本件従業員等派遣の要請は,本件対象期間中,127社という多数の納入業者を相手方として,133店舗における店舗開設準備作業について,その日程等を連絡するというものであって,組織的かつ計画的に一連の行為として行われたものであった。そして,127社は,本件従業員等派遣により,平成20年9月6日から平成22年11月29日までの僅か2年強の間に,133店舗,延べ数にすると4,201もの店舗に対して従業員等を派遣するという負担を余儀なくされた。
一方,被審人は,本件従業員等派遣をさせたことにより,店舗開設準備作業に要する負担及び人件費の負担,並びに同作業を全て自ら行うことにより開店日が遅れて売上が減少するという損失を回避する利益を得ていた。
(ウ)以上によれば,被審人が本件従業員等派遣をさせたことは,127社の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,127社は,その競争者との関係において競争上不利となる一方で,被審人はその競争者との関係において競争上有利となるおそれを生じさせたものであるから,公正な競争を阻害するおそれがあった。
カ 結論
以上によれば,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことは,独占禁止法第2条第9項第5号ロ及び旧一般指定第14項第2号に該当し,同法第19条に違反する。
(2)被審人の主張
ア 優越的地位の濫用規制の趣旨
優越的地位の濫用行為が規制される趣旨は,取引先の変更可能性が制約されている状況下において,取引の相手方の自由かつ自主的な判断を阻害し,取引の相手方に著しい不利益を与える点にあり,ここに優越的地位の濫用行為の公正競争阻害性が求められる。
イ 被審人の取引上の地位が127社に優越していなかったこと
(ア)優越的地位の認定手法
a 「自己の取引上の地位が相手方に優越している」の意義
取引の一方の当事者である甲と他方の当事者である乙がいた場合に,「自己の取引上の地位が相手方に優越している」とは,「乙にとって,重要な取引先である甲との取引について,取引先の変更可能性が制約されており,甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すような場合」をいう。他方,甲にとっても乙との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来す場合には,相互依存関係にあるから,乙は,甲から取引を打ち切られる状況にはなく,自由かつ自主的な判断が阻害されることはない。
したがって,「自己の取引上の地位が相手方に優越している」とは,甲と乙との関係において,乙にとって,重要な取引先である甲との取引について,取引先の変更可能性が制約されており,甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すこと(以下「乙にとっての甲との取引必要性」という。),及び,甲にとって,取引先の変更可能性が制約されていない,又は,乙が甲にとって重要な取引先でなく,乙との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すこと(以下「甲にとっての乙との取引必要性」という。)がないことの2点を満たすことを意味するといえる。
b 優越的地位の認定に当たって考慮される事情
(a)乙にとっての甲との取引必要性
乙にとっての甲との取引必要性を判断するための基本的な判断要素の第1は,取引先の変更可能性である。取引先の変更可能性とは,乙の事業経営に大きな支障を生じさせない程度に甲との取引を甲以外の者に変更できる可能性である。取引先の変更可能性が高ければ,乙は,甲から不利益な取引条件を提示されても,取引先を変更するなどして当該不利益を回避し,又は,これを減少させることができるから,自由かつ自主的な判断による取引を阻害されない。
基本的な判断要素の第2は,取引依存関係である。乙の甲に対する取引依存度が相当程度高い場合でなければ,取引先である甲との取引停止が事業者である乙の事業経営に「大きな」支障を生じさせるとはいえない。乙の甲に対する取引依存度が低いなど取引依存関係が弱い場合には,乙は,取引先の変更可能性の程度に関わらず,甲との取引を失うことになっても乙の事業経営に与える影響は少ないから,自由かつ自主的な判断による取引を阻害されない。
(b)甲にとっての乙との取引必要性
甲にとっての乙との取引必要性の要件は,一般的には,「甲にとって乙との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来す」ことになるか否かにより客観的に判断すべきである。被審人にとって当該納入業者との「取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来す」ことになるか否かは,当該納入業者との取引の継続が困難になることにより,当該納入業者から供給を受ける商品が属する商品群の品揃えに支障を来し,売場の形成が困難になるか否かにより判断すべきである。
その基本的な判断要素は,取引依存関係(当該商品群の仕入総額に占める当該納入業者からの仕入額の割合,当該納入業者の商品のブランド力等)と取引先の変更可能性(当該納入業者から供給を受けている商品を他の納入業者から仕入れることが容易か否か)である。
(c)濫用行為を受け入れていることは優越的地位を認定するための考慮要素とすべきではないこと
審査官は,相手方が濫用行為を受け入れていることが優越的地位を認定するための考慮要素になり,これによって優越的地位が推認されると主張するが,濫用行為により優越的地位の存在を推認するという認定手法は,濫用行為のうち競争法的介入を必要とする事件を絞り込むという「優越的地位」要件の限定機能を大きく損なうものであり,規制範囲を濫用行為が優越的地位を利用して行われた場合に限定することで過剰な私的自治領域への干渉を抑制しようとした優越的地位の濫用規制の趣旨に反する。また,そもそも「不利益を受け入れざるを得ない」ことと「事業経営上大きな支障を来す」こととは関連性がなく,濫用行為を受け入れていることは優越的地位の認定の基礎とはなり得ない。「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」〔原案〕に対する意見の概要とこれに対する考え方(平成22年11月30日公正取引委員会。以下「考え方」という。)においても,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合に優越的地位が認められるとは記載されておらず,また,ガイドラインにおいても,優越的地位要件が濫用行為に先行して記載されていることからしても,優越的地位の有無は,濫用行為とは切り離した上で,これに先行して検討すべきものと読むのが自然である。
したがって,濫用行為を受け入れていることを優越的地位を認定する際の考慮要素の一つとし,これによって優越的地位を推認することは許されない。
(イ)本件への当てはめ
後記aのとおり,127社にとっての被審人との取引必要性(乙にとっての甲との取引必要性)は認められず,その一方で,後記bのとおり,被審人にとっての127社との取引必要性(甲にとっての乙との取引必要性)が認められる。その他,後記cのとおり,被審人との間で価格等の取引条件の交渉を対等に行っていたことからすると,被審人は127社に対して優越的地位にあったとは認められない。
a 乙にとっての甲との取引必要性を判断するための基本的な判断要素の第1である「取引先変更の可能性」については,乙(本件では127社)の主観に基づき認定するのではなく,取引先の発見可能性と取引先の変更コストを考慮して客観的に判断すべきであるところ,127社が被審人から取引先を変更することができる可能性に関する審査官の主張立証は極めて不十分であり,各被審人運営店舗が,競合他社の近隣店舗との極めて厳しい競争にさらされていたことからすると,納入業者の側から見れば被審人との取引を中止しても容易に代替取引先を確保することが可能であり,客観的にみて127社についての被審人からの取引先変更の困難性は特段認められない。例えば,報告命令に対する報告書において,平成19年4月1日以降に新規に継続的な取引を開始した取引先のうち,被審人と同程度又はそれ以上の売上高があるものが存在すると回答し(査26の各号・設問1⑽エ),あるいは,被審人からの「御社の従業員派遣の実態に関するアンケート」(審1の各号。以下「被審人アンケート」という。)に対する納入業者による「本アンケートに対する回答書」(以下「被審人アンケートに対する回答書」という。)において,平成20年9月以降に取引開始した新規取引先があり,当該新規取引先に対する取引依存度として,被審人に対する取引依存度を超える割合を回答するなどしている納入業者については(審1の各号・設問4.2.,同4.2.1.,審14),取引先変更困難とはいえなかったことが明らかである。
また,仮に納入業者である127社の主観を二次的,補足的な事情として考慮したとしても,公正取引委員会の報告命令における,被審人らとの取引を継続できず,被審人らに代わる他の取引先を見つける必要が生じた場合の状況に関する設問(査26の各号・設問2⑼。取引先変更可能性の設問)に対し,報告命令に対する報告書において,「ア エディオンらに代わる取引先を見つけること又は他の取引先との取引を増やすことでエディオンらとの取引停止に伴う損失を補うことは容易である」との回答を選択した納入業者は,被審人との取引継続が困難となった場合でも,取引先を変更する可能性があったことが明らかである。
次に,審査官は,取引依存度が3パーセントを超える納入業者は被審人との関係で取引依存度が高いため,被審人が優越的地位を有するとしているが,仮に納入業者が被審人との取引継続が困難になって3パーセント分の売上げが減少したとしても,これが「収益の大幅な落ち込み」とはおよそ考えられない。一般的に,景気等の原因によって3パーセント以上の売上減を経験した企業が,直ちに事業経営上大きな支障を来しているという事実はないし,現に,本件対象期間に被審人との取引額と同額以上の売上額を審査官の主張する本件対象期間中に減少させている納入業者も,引き続き事業を継続しており,およそ「その後の経営に大きな困難を来すことが看取できる」ような状況にはない。被審人との「取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来す」といえるためには,127社における被審人への取引依存度が少なくとも10パーセントは必要になると考えられるし,被審人への取引依存度が10パーセントに満たない127社について,取引依存度以外の事情によって「取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来す」ことについての立証もされていないから,被審人の取引上の地位が上記各納入業者に優越しているとは認められない。しかも,審査官が主張する一部の納入業者の被審人に対する取引依存度は,当該納入業者の全社的な依存度ではなく,一部門における取引依存度となっているが,このような納入業者については,全社的にみれば,取引依存度やその順位が高いとはいえない。さらに,被審人アンケートに対する回答書において,被審人との取引停止に伴い失った被審人との取引額を補い切れなかった場合に「2 いいえ(御社全体の事業経営上,大きな支障とはならなかった。)」との回答(審1の各号・設問3.8.)を選択した納入業者については,被審人との取引継続が困難となっても,事業経営上,大きな支障を来さないことが明らかである。
このように,127社について,被審人との取引必要性(乙にとっての甲との取引必要性)は認められない。
b 甲にとっての乙との取引必要性については,まず,事業者が特定の納入業者から特定の商品群に属する多くの商品を購入していて,当該商品群における取引依存度が高い場合には,当該事業者は,当該納入業者との取引が継続できないと当該商品群の売場の形成が困難になってしまう。また,特に家電量販店においては,品揃えの豊富さが,消費者にとっての魅力となっており,消費者の購買行動に直結する競争上非常に重要な差別化要素となるため,いずれの納入業者との取引も,品ぞろえの豊富さを維持するために必要となる。したがって,家電量販店である被審人にとっては,取引依存度の高低に関わらず,売場の形成の点から,いずれの納入業者との取引も不可欠なものということになる。とりわけ,納入業者の納入する商品が,市場や被審人の特定の商品カテゴリー内で大きなシェアを占め,又は売上順位が高い場合や,シェアや売上順位ではトップの地位にはないものの,消費者が通常検討対象とするスタンダードな商品である場合,納入業者と共同で開発した被審人のオリジナル商品を含め,他の取引先からは仕入れることのできない唯一無二の差別化商品であるなど,ブランド力の高い商品である場合など,当該納入業者から供給を受ける商品が当該商品の属する商品群の売場の構成に重要な商品である場合には,当該納入業者と取引することで,被審人運営店舗の魅力や集客力が維持され,取引数量や取引額の増加が期待できる一方,他の納入業者に変更することはおよそ不可能なのであるから,被審人が当該納入業者と取引を行う必要性は極めて高く,被審人が当該納入業者との取引を打ち切ることはおよそ想定し得ない。
このような観点からすると,被審人にとって127社との取引が不可欠なものであったといえるから,127社との取引必要性(甲にとっての乙との取引必要性)が認められる。そして,このことは納入業者の認識によっても裏付けられている。
c その他,報告命令に対する報告書において,被審人らとの間における納入価格に関する交渉についての設問(査26の各号・設問1⑿)に対し,「ウ 貴社の条件提示が受け入れられることもあるし,受け入れられないこともある」,「エ 貴社の条件提示がほとんど受け入れられる」又は「オ 貴社の条件提示が全て受け入れられる」との回答を選択した納入業者は,被審人との間で価格等の取引条件の交渉を対等に行っていた。
上記の回答を選択した納入業者は,価格等の取引条件に関する交渉が自由かつ自主的な判断に基づき対等に行われていたはずなので,被審人が当該納入業者に対して優越的な地位にあるとはいえない。
また,一部の納入業者は,資本関係のある親会社やグループ会社との連結売上高や連結経常利益率が被審人よりも高く,このことも,当該納入業者に対して被審人が優越的地位にないことを示す事情といえる。
ウ 被審人が正常な商慣習に照らして不当に127社に本件従業員等派遣をさせていないこと(濫用行為を行っていないこと)
(ア)被審人が127社に対して本件従業員等派遣を要請していないこと
被審人は納入業者に対して被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の日程等を連絡していたが,これは,納入業者が自社の商品を納入する日を知ることができるようにするため,あるいは,各店舗における自社商品の展示,陳列のために従業員等を派遣するとすればその日はいつになるのかを判断できるようにするための情報提供の意味合いで行ったものであり,127社に対して本件従業員等派遣を要請するものではなかった。
したがって,被審人が127社に対して本件従業員等派遣を要請したという事実はない。
(イ)被審人が本件従業員等派遣をさせたことが濫用行為に当たらないこと
a 濫用行為の意義
独占禁止法第2条第9項第5号は,優越的地位を利用して,濫用行為を行うことを禁止する。
優越的地位の濫用規制の趣旨(前記ア)からすれば,濫用行為とは,取引の相手方に対し著しく過大な不利益(経済合理性から乖離した過大なものであり,取引相手方の負担する不利益が合理的であると認められる範囲を超えるもの)を与え,かつ,当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断を阻害する行為であると解される。
なお,事業者は,経済合理性のある判断を行う存在であるから,当該事業者の「自由かつ自主的な判断」が確保されている限り,結果として当該事業者の判断が経済合理性のある判断であることが通常であるし,「即物的」には経済合理性がないように見える場合であったとしても少なくとも中期的には経済合理性がある判断もある。したがって,このような判断が事業者の「自由かつ自主的な判断」の下でなされたものである限り,それに対して独占禁止法に基づき行政が介入する必要性はない。相手方が自由かつ自主的に行った判断(選択)は尊重されるべきであり,事業者が「自由かつ自主的な判断」の下に受け入れた取引や取引条件についてまで,その内容が評価に満ち,多義的な「公益」という名の下,その判断が即物的利益の追求であるとか,誤った私的利益の志向であるなどと行政機関が判断して優越的地位の濫用の規制を及ばせるのであれば,公正取引委員会が公益に適うと考える取引条件を取引当事者に押し付けるだけであり,かえって取引当事者の自由な取引が行政権によって阻害されることになる。中長期的な取引関係を前提とする継続的取引契約において,取引当事者は中長期的なギブ・アンド・テイクの関係を当然の前提としているところ,そのような取引関係において,短期的に見れば,一方当事者の経済的な負担の下に他方当事者が経済的利益を得るが,中長期的に見れば,両当事者の経済的な得失のバランスが図られているということは,ビジネスの世界においては通常のことであるが,そのような継続的関係の一場面を短期的に切り出して,経済合理性がないとすることはバランスを欠いた判断であり妥当でないことは明らかである。例えば,ガイドライン第4の2⑵ア(注12)においても,「取引の相手方による消費者ニーズの動向の直接把握」といった抽象的・無形的な利益も「従業員等の派遣を通じて当該取引の相手方が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲」にあるものとして「正常な商慣習に照らして不当に・・・行為をすること」という要件の充足性の考慮要素としている。そうすると,営利を追求する事業者が,事業活動上の自由意思(自由かつ自主的な判断)に基づいて選択した取引又は取引条件である場合,原則として経済合理性があると推定されるというべきであり,その上で,問題となっている事案の取引実態を踏まえてみた場合に「正常な商慣習に照らして不当」か否かを判断することが合理的である。
b 買取取引により継続的取引関係にある当事者間で従業員等の派遣をさせる行為が必ずしも濫用行為に当たるというわけではないこと
(a)審査官は,買取取引においては,引渡しにより,商品の所有権とともに当該商品等の滅失の危険や売れ残りのリスクなどの負担も売主から買主に移転することを理由に,商品の引渡し後の販売のための準備作業は,契約上の義務がない限り,通常何らの合理性もなく,納入業者がそれを行うはずはないという極めて形式的な理屈を前提として,従業員等の派遣をさせることは濫用行為に当たると推認されるなどとしている。
しかし,事業者の営業活動の合理性は,審査官が主張するように商品の所有権の移転によって画されるものではなく,審査官の主張は,事業者による営業活動の実態からの乖離が著しく,経験則に反するものである。継続的取引関係にある者は,相互にギブ・アンド・テイクの関係にあり,利益をもたらす行為と不利益をもたらす行為を組み合わせて行っているのであるから,その一部だけを切り出して経済合理性の欠缺を問題視すると,継続的取引の全体として合理性を不当に否定することになりかねず,不合理である。
(b)また,審査官は,買取取引の売主である納入業者による店舗開設準備作業のための従業等の派遣が行われた場合,その対価としてふさわしい額の支払を受けていない場合には,当該納入業者が「直接の利益」を得ている場合に限り,例外的に濫用行為に該当しないと主張している。
しかし,納入業者が,自らの自由かつ自主的な判断に基づき,自らの利益になると考えて,店舗開設準備作業のために従業員等の派遣を行っているにもかかわらず,審査官が主張するように,相手方が「直接の利益」を得ていないなどとしてこれが濫用行為に該当するとしてしまうならば,事業者の自由かつ自主的な判断を害し,市場メカニズムへ過剰に介入するものとして,かえって資源の効率的配分を妨げることになりかねない。このようなことにならないようにするためには,審査官の主張するような「直接の利益」を納入業者が得ていないような場合であっても,納入業者が将来の実現可能な具体的利益を期待している場合や,過去の具体的利益へのお礼として従業員等の派遣を行っている場合,その他,金銭に換算し得ない利益を得ている場合も含めて,取引実態から見て正常な商慣習に照らして不当なものでない限り,取引の相手方に著しく過大な不利益を与えるものとはいえないとして,当該従業員等の派遣をさせたことは濫用行為には該当しないと解釈すべきである。
c 被審人が本件従業員等派遣をさせたことが濫用行為に当たらないこと
次の(a)ないし(d)のとおり,127社は,本件従業員等派遣によって著しく過大な不利益を受けてないから,被審人が本件従業員等派遣をさせたことは濫用行為に該当しない。
(a)127社は,自身の利益に結び付き得るものとして,自由かつ自主的な判断に基づいて本件従業員等派遣を行っており,著しく過大な不利益を受けていないこと
127社を含む納入業者は, 日頃から,営業活動の一環として,被審人運営店舗の売場を訪問して自社商品の展示,陳列の状況の確認,カタログの補充等を行っており,納入業者にとって商品納入額の増加を見込むことができる新規開店又は改装開店の際の店舗開設準備作業への自社の従業員等の派遣(本件従業員等派遣)も,同様に納入業者の営業活動の一環として行っていた。127社は,具体的には,以下の①ないし④のとおり,自身の利益に結びつき得るものとして,自由かつ自主的な判断に基づいて本件従業員等派遣を行っていたのであり,本件従業員等派遣は,事業者の行動として経済合理性が認められるから,メーカーや納入業者は,著しく過大な不利益を受けていなかった。
① 自社商品の適切な展示による販売促進
127社のうち,被審人アンケートにおける従業員等を派遣した理由についての設問(審1の各号・設問1.8.)に対し,被審人アンケートに対する回答書において,「11 自社商品の陳列・装飾を工夫し,消費者への訴求力の高い売場を作る機会になり得たため。」との回答を選択した納入業者,又は,公正取引委員会の報告命令における従業員等を派遣した理由についての設問(査26の各号・設問3⑷)に対し,報告命令に対する報告書において,「キ 商品の展示方法,POPの貼付等について貴社独自の方針があり,貴社の従業員等でなければできないため」との回答を選択した納入業者などは,本件従業員等派遣を行って自社商品を適切に展示することが,自社商品の販売促進につながると考えていた。すなわち,家電製品等のメーカーや卸売業者らにとって,家電量販店等の売場は,自社商品と消費者を結び付ける重要な接点となっているため,家電業界において,家電製品等のメーカーらは,自社商品の販売促進活動の一環として,家電量販店やその他取引先の新規開店又は改装開店の店舗開設準備作業に際し,従業員等を派遣し,商品の展示方法やPOPと呼ばれる装飾物の内容・貼付場所等を工夫することにより,自社商品をより魅力的に演出し,それらを通じて,家電量販店を訪れる消費者に対し自社商品の販売を促進するということを行っており,新規開店又は改装開店の際の従業員等の派遣による商品の適切な展示は,現に商品の販売促進につながり得るものとして行われていた。
なお,被審人運営店舗では,商品の配置について棚割表が設けられていたが,この棚割表は,被審人のMDらが作成するものではあったものの,実際の現場では,棚割表が変更されるということがしばしば生じたほか,商談時や現場で商品の展示,演出方法について納入業者から提案が行われ,これらの提案が取り入れられることもあったなど,被審人の一方的な指示を示すものではなかった。この点を措くとしても,棚割表には,どの棚にどの商品を設置するかという抽象的な記載はされているものの,実際に展示される商品の向き(訴求力のある面が顧客の目に付きやすく並べる等の工夫がなされる)など,商品の展示・装飾,演出に必要な具体的かつ詳細な情報が全て含まれているわけではない。したがって,当該商品の特性や販促方法を熟知した各納入業者が行うことでより効果的な展示,陳列が可能となり,ひいては,商品の販売を促進する効果があるのであり,これは納入業者にとって利益となる作業といえる。
また,127社を含む家電製品等のメーカーらは,他社商品の陳列を行うこともあったが,被審人アンケートに対する回答書において,従業員等派遣をした理由として,「21 商品の搬出・搬入を待って自社商品の陳列・装飾を行うより,自社・他社問わず,商品の搬出・搬入を手伝った方が,早く自社商品の陳列・装飾に取り掛かれるため。」という回答(審1の各号・設問1.8.)がされているように,作業効率上,自社商品の陳列・装飾を目的とした店作りに付随する範囲で他社商品を扱うことがあったにすぎないから,当該納入業者に過大な不利益を与えるものではなかった。
さらに,商品の搬出については,原則として,被審人の従業員又はその委託業者が行っており,商品の搬入についても,原則として,被審人の従業員が行っていた。127社のうちの一部の納入業者による商品の搬出及び商品の搬入は,商品の展示,陳列と連続性を有する店舗の搬入口等から売場等までの積み下ろし作業であって,新規開店又は改装開店の際の店作りに付随して行われたものであり,作業の効率化のために納入業者の従業員等の自主的な判断によって行われたものであるから,当該納入業者に過大な不利益を与えるものではなかった。
② 自社商品の展示スペースの確保による販売促進
127社のうち,被審人のアンケートにおいて,従業員等を派遣した理由についての設問(審1の各号・設問1.8.)に対して「棚割を自社に有利に変更できる場合があったため」との回答を選択した納入業者,又は,報告命令に対する報告書において,従業員等を派遣した理由についての設問(査26の各号・設問3⑷)に対して「カ 貴社が納入する商品を置くスペースを確保するため」との回答を選択した納入業者などは,自社商品の展示スペースを拡大することや消費者の目に付きやすい展示スペースを確保することが自社商品の販売促進につながると考えていた。
そして,前記①のとおり,家電量販店の売場は,家電製品のメーカーや卸売業者にとって,自社商品と消費者を結び付ける重要な接点であり,売場において,自社商品の展示スペースが拡大したり,展示場所が人目に付きやすい場所・位置に移動したりすれば,それだけ消費者に対する自社商品の露出が高まり,自社商品の売上げ増加につながり得るものであった。
なお,棚割表は,商品の「事前」の配置図にすぎず,それを実際の店舗に当てはめた場合には,様々な変更の必要性が実際に生じ,展示スペースがしばしば変更されていたことは,前記①のとおりである。
③ 情報収集の機会及び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による自社商品の販売促進
127社のうち,被審人のアンケートにおいて,従業員等を派遣した理由についての設問(審1の各号・設問1.8.)に対して「13 当該店舗の従業員とのコミュニケーションを図り,情報収集および情報提供を行えたため。」又は「16 競合他社の販売戦略を観測できたため。」との回答を選択した納入業者などは,被審人の従業員との間で信頼関係の構築を図り,情報収集や情報提供を行うことが,ひいては自社商品の販売促進に結び付くと考えていた。
そして,被審人運営店舗の従業員は,被審人運営店舗において接客をしているため,消費者のニーズを一番よく知る立場にあるとともに,消費者が商品の選択に迷っているときや自らのニーズに合う商品があるか否かを探しているときなどに消費者から助言を求められる立場にあり,その意見は消費者の商品選択に影響を与えるものである。そうすると,店舗従業員から消費者の声を収集することは,家電製品等のメーカーらが今後の商品開発や商品の展示・装飾方法等を考える上で参考となるため,納入業者の利益となるし,店舗従業員に対し,彼らの接客の助けになるように商品の機能・特徴等を伝えることも,納入業者の商品の販売促進に資するものとして,被審人の利益となる。そして,こうした情報の入手や提供が円滑に行えるようにするとともに,自社商品を消費者に勧めてもらえるようにするために,店舗従業員等との信頼関係を構築することは,営業活動として重要な意義を持っており,納入業者の利益になるものである。
④ 新規開店又は改装開店の際の自社商品の販売促進
127社のうち,被審人のアンケートにおいて,従業員等を派遣した理由についての設問(審1の各号・設問1.8.)に対して「14 新店・改装オープンに伴い,自社商品の売上げの拡大が期待できたため。」との回答を選択した納入業者などは,店舗開設準備作業への従業員等派遣を行うことが自社商品の売上促進につながると考えていた。
そして,実際,納入業者は,店舗開設準備作業の際,前記①のとおり,自社商品を適切に展示したり,前記②のとおり,自社商品の展示スペースを確保したり,前記③のとおり,その機会に,情報を入手・提供し,さらには,店舗従業員等との良好な人間関係を構築したりしていたのであり,これらはいずれも自社商品の販売促進に資するものであった。
なお,企業における事業年度別の売上高,またその売上げの内訳は,消費者の意図,景気動向,気象条件,政策,エコポイントや増税前の駆け込み需要等,あらゆる要素に影響を受けるものであるから,単に直近の事業年度と比較して売上高が増加していなかったことをもって,本件従業員等派遣による販売促進の効果がなかったとはいえないし,そもそも,本件では,127社における本件従業員等派遣が,127社に「客観的に著しく不利益」といえるか否かが問題となっているのであるから,127社が従業員等の派遣を行うことで「確実な売上高の増加」を得たことまでは必要がない。
(b)127社のうち被審人と納入価格の条件交渉を行っていた納入業者は,自由かつ自主的な判断に基づいて本件従業員等派遣を行っており,著しく過大な不利益を受けていないこと
127社のうち,報告命令に対する報告書において,被審人らとの間における納入価格に関する交渉についての設問(査26の各号・設問1⑿)に対して「ウ 貴社の条件提示が受け入れられることもあるし,受け入れられないこともある」,「エ 貴社の条件提示がほとんど受け入れられる」又は「オ 貴社の条件提示が全て受け入れられる」(ウないしオ)との回答を選択した納入業者などは,店舗開設準備作業の従業員等の派遣に伴うコストを含む取引全体における負担を考慮して納入価格を決定し,その自由かつ自主的な判断に基づいて従業員等の派遣を行っていたはずである。したがって,このような納入業者による本件従業員等派遣は,当該納入業者にとって著しく過大な不利益となるものとは認められないから,このような納入業者から本件従業員等派遣を受けたことは濫用行為に該当しない。
(c)127社のうちの本件従業員等派遣によって被った不利益が軽微であると考えていた納入業者等は,著しく過大な不利益を受けていないこと
127社のうち,被審人アンケートに対する回答書において,「22 従業員等の派遣に伴う負担が軽かったため。」との回答(審1の各号・設問1.8.)を選択した納入業者などにとって,本件従業員等派遣は著しく過大な不利益であったとは認められないから,このような納入業者から本件従業員等派遣を受けたことは,濫用行為に該当しない。
(d)127社のうちの本件従業員等派遣によって被った不利益を補う以上の利益を見込めると考えていた納入業者は,自由かつ自主的な判断に基づいて本件従業員等派遣を行っており,著しく過大な不利益を受けていないこと
127社のうち,公正取引委員会の報告命令における被審人から不利益な要請があったときに受け入れざるを得ない場合についての設問(査26の各号・設問2⒁)に対し,報告命令に対する報告書において「ウ 短期的には不利益であっても,将来的にはその被った不利益を補う以上の利益が見込める場合」との回答を選択した納入業者は,取引全体の経済合理性を踏まえて,店舗開設準備作業への従業員等の派遣を行うか否かを自由かつ自主的に判断していたのであり,本件従業員等派遣による不利益は合理的範囲内にとどまり,著しく過大な不利益には該当しないから,このような納入業者による本件従業員等派遣を受けたことは,濫用行為に該当しない。
エ 被審人が優越的地位を「利用して」濫用行為を行っていないこと
独占禁止法第2条第9項第5号は,優越的地位を「利用して」濫用行為が行われた場合を規制するものであるから,濫用行為が優越的地位を「利用して」行われたという関係(因果関係)がない場合には,独占禁止法第2条第9項第5号は適用されない。
したがって,127社のうち,公正取引委員会の報告命令における設問(査26の各号・設問3⑷)に対し,報告命令に対する報告書において,「オ 他の納入業者が従業員等を派遣していることから,貴社のみ従業員等を派遣しないとすることが難しかったため」との回答を選択した納入業者は,他の納入業者との競争を意識して従業員等を派遣しているにすぎないから,少なくともその納入業者との関係では,被審人の優越的地位が「利用」されたとはいえず,独占禁止法第2条第9項第5号は適用されない。
オ 被審人が本件従業員等派遣をさせたことは公正な競争を阻害するものではないこと
(ア)そもそも,優越的地位の濫用行為が規制の対象となる根拠は,取引先の変更可能性が制約されている状況下において,取引の相手方の自由かつ自主的な判断を阻害し,相手方に著しい不利益を与える点にあり,ここに優越的地位の濫用行為の公正競争阻害性が求められるのであって,審査官が主張する「当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがある」こと(間接的競争阻害性)は,優越的地位の濫用の規制根拠になり得ない。
また,審査官は,優越的地位の濫用に該当するか否かの判断に際しては,上記の間接的競争阻害性の観点から,不利益の程度や行為の広がり,すなわち,対象となる相手方の数,組織的・制度的なものかどうか,行為の波及性・伝播性の有無を考慮すべきであると主張するが,行為の広がりは,公正取引委員会が事件として取り上げるべきか否かを判断する際に考慮すべき事情であり,公正競争阻害性の認定には必要ないのであるから,行為の広がりを考慮するために間接的競争阻害性を公正競争阻害性に取り込む必要はない。
さらに,公正な競争を阻害するおそれの有無の判断は,「競争減殺効果が発生する可能性があるという程度の漠然とした可能性の程度でもって足りると解すべきではなく,当該行為の競争に及ぼす量的又は質的な影響を個別に判断して」なされる必要があると解釈されているから(公正取引委員会平成20年9月16日審決・公正取引委員会審決集第55巻380頁〔マイクロソフトコーポレーションに対する件〕参照),優越的地位の濫用行為について公正競争阻害性が認められるためには,これが競争に及ぼす量的又は質的な影響が個別的に主張立証されなければならない。
(イ)審査官の主張を前提としても,本件従業員等派遣は,127社の販売促進活動の一環として行われているものであって,127社にとって「不利益」なものではないし,仮に127社にとって「不利益」なものであったとしても,これが127社の販売促進活動の一環であったという事情の下では,著しく過大な不利益とはいえず,経済合理性の認められるものであった。
また,被審人が127社に対して組織的かつ計画的に本件従業員等派遣を要請していた事実はなかった。
さらに,被審人は,127社から従業員等の派遣を受けることができない場合には被審人自身の従業員において対応していたから,127社の本件従業員等派遣により,開店日が遅れて売上げが減少するという損失を回避するという利益を得ていたわけでもない。
その他,被審人が実際に《事業者A》等の競争者との関係において競争上有利となるおそれが生じているかも不明である。
(ウ)したがって,本件における127社による本件従業員等派遣が公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあるとは評価できない。
2 争点2(改正法施行前の行為に旧一般指定第14項を適用することができるか)について
(1)審査官の主張
被審人は,遅くとも平成20年9月以降,平成22年11月30日にその行為を取りやめるまで,一連かつ一体のものとして本件違反行為を行った。
そこで,公正取引委員会は,本件違反行為のうち,平成22年1月1日以降の行為については,独占禁止法第2条第9項第5号を適用すべきであることから同号を適用したが,同日前の行為については,改正法附則第2条第2項の規定により,同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「改正法による改正前の独占禁止法」という。)第2条第9項第5号が適用されるため,旧一般指定第14項を適用した。
また,公正取引委員会は,旧一般指定及び大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法(平成17年公正取引委員会告示第11号。以下「大規模小売業告示」という。)のいずれの要件も満たし得る場合において,結果として,従来,旧一般指定第14項よりも大規模小売業告示を優先的に適用してきたが,旧一般指定第14項の適用を否定してきたものではない。旧一般指定第14項と大規模小売業告示は,その規制による法律効果が同じであり,双方の要件を具備する場合に一方の適用を排斥する法的根拠も理由もない。
さらに,被審人による本件違反行為は,独占禁止法第2条第9項第5号及び旧一般指定第14項の要件を具備しており,平成22年1月1日の改正法施行前後を問わず継続して行われた一連かつ一体の行為と評価すべきものであるから,同日前の行為に旧一般指定第14項を適用することは,法令の適用としての妥当性を欠くことにはならない。
したがって,本件排除措置命令における法令の適用に誤りはない。
(2)被審人の主張
旧一般指定第14項と大規模小売業告示とは,一般法と特別法の関係にある。したがって,平成22年1月1日前の行為であり,かつ,大規模小売業告示の要件を満たす行為について,旧一般指定第14項の適用はなく,このような行為に旧一般指定第14項を適用した本件排除措置命令の法令の適用は違法であり,本件排除措置命令に係る命令書における法令の適用の摘示も,同様に誤りである。
3 争点3(被審人に対し本件排除措置命令をすることについて特に必要があるか)について
(1)審査官の主張
独占禁止法第20条第2項が準用する同法第7条第2項の「特に必要があると認めるとき」とは,排除措置命令の時点では既に違反行為はなくなっているが,当該違反行為(同一性を有する違反行為を含む。)が繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうとされている(東京高等裁判所平成20年9月26日判決・公正取引委員会審決集第55巻910頁〔JFEエンジニアリング株式会社ほか4名による審決取消請求事件〕参照)。そして,この「特に必要があると認めるとき」の要件該当性の判断については,我が国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する公正取引委員会の専門的な裁量が認められている(最高裁判所第一小法廷平成19年4月19日判決・裁判集民事224号123頁〔株式会社東芝ほか1名による審決取消請求事件〕参照)。
この点,本件違反行為は取りやめられているものの,後記アないしエの事情を総合的に考慮すると,被審人に対し本件排除措置命令をすることについて特に必要があったものと認められる。
ア 違反行為の継続期間
被審人は,遅くとも平成20年9月6日以降,約2年3か月間という長きにわたって本件違反行為を継続していた。
イ 違反行為の取りやめの契機
被審人が本件違反行為を取りやめたのは,公正取引委員会が平成22年11月16日に本件立入検査を行って審査を開始したことを契機としたものであり,被審人の自発的意思に基づくものではなかった。
ウ 被審人の納入業者に対する優越的地位が将来においても継続する見込み
本件対象期間中,我が国の家電製品等の小売市場では被審人ら大手家電量販店8社による寡占化が進んでいたところ,その中で,被審人の連結売上高は,平成21年3月期ないし平成23年3月期までの間,我が国の家電製品等の小売業を営む家電量販店の中で第2位であったことからすれば,本件排除措置命令の効力が生じた時点においても,被審人の取引上の地位が127社に対して優越的地位にある状態が,将来にわたって相当期間継続することが容易に見込まれた。
エ ヤマダ電機事件後の被審人の対応
公正取引委員会は,ヤマダ電機に対し,本件違反行為と類似する従業員等の派遣要請・使用について,平成20年6月30日付けで排除措置命令(平成20年(措)第16号。以下,同命令に係る事件を「ヤマダ電機事件」という。)を行った。被審人は,ヤマダ電機事件を契機として,新規開店又は改装開店を行った店舗における納入業者の従業員等の派遣を受けた実態等について調査を行い,実態を把握したものの,従前どおり,納入業者に対して店舗開設準備作業への無償の従業員等の派遣を要請していた。
(2)被審人の主張
被審人は,本件立入検査を受けると,速やかに審査官が主張する本件違反行為を取りやめ,徹底した社内調査・改善を実施しており,本件排除措置命令の時点において,同種の行為を繰り返すおそれはなかった。
また,被審人は,ヤマダ電機事件の以前から大規模小売業告示の要件を充足するべく法令順守体制を整え,ヤマダ電機事件後も法令順守を全うする観点から必要と考えられる対応を真摯に行っていたことからすると,被審人に対し本件排除措置命令をすることについて特に必要があったとは認められない。
4 争点4(本件排除措置命令において127社以外の納入業者に対する通知を命じること〔本件排除措置命令の主文第2項〕ができるか)について
(1)審査官の主張
排除措置命令は,違反行為の排除及び当該違反行為によってもたらされた公正で自由な競争秩序の侵害状態を回復し整備することを目的とする行政処分である。そのため,公正取引委員会は,認定された違反行為そのものについて排除措置を命じ得るだけではなく,これと同種又は類似の違反行為の行われるおそれがあり,上記目的を達するために現にその必要性のある限り,将来の違反行為を防止するためにも相当の措置を命じ得る。
この点,被審人は,遅くとも平成20年9月6日以降,2年以上にわたって広く納入業者全般を対象として本件違反行為を行っていたところ,本件違反行為の対象を127社に限定していた様子は特に認められないこと,本件排除措置命令の効力が生じた時点においても被審人は家電製品等の小売業を営む家電量販店の中で第2位という有力な地位にあったことからすれば,本件違反行為の対象となった127社以外の納入業者に対しても本件違反行為と同種又は類似の違反行為の行われるおそれがあったことは明白である。
したがって,被審人による将来の違反行為を防止するためには,本件違反行為の対象となった127社のみならず,被審人の他の納入業者に対しても本件排除措置命令の主文第1項に基づいて採った措置を通知させることが,必要かつ相当であった。
(2)被審人の主張
本件違反行為の対象となった127社のみならず,他の納入業者に対しても本件排除措置命令の主文第1項に基づいて採った措置を通知させる主文第2項は,過剰な措置である。
5 争点5(本件課徴金納付命令における課徴金算定の基礎となった違反行為期間における購入額の算定方法は適法か)について
(1)審査官の主張
独占禁止法第20条の6は,「第19条の規定に違反する行為(第2条第9項第5号に該当するものであつて,継続してするものに限る。)をしたときは,・・・当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間における当該行為の相手方との間における・・・売上額(・・・購入額・・・)」を課徴金の計算の基礎とする旨規定しており,「当該行為」とは,その直前の「第19条の規定に違反する行為」を意味することは明らかである。そして,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことは,一つの優越的地位の濫用,すなわち独占禁止法第19条の規定に違反する行為であり,被審人が主張するように,本件における「第19条の規定に違反する行為(・・・継続してするものに限る。)」を分断し,相手方,すなわち納入業者ごとに違反行為期間を個別に認定すべき理由はない。
そして,被審人は,127社に本件従業員等派遣をさせたことという本件違反行為を,遅くとも平成20年9月6日から平成22年11月29日までの間(本件対象期間),継続して行っていたところ,このうち,独占禁止法第20条の6の規定する課徴金の算定の基礎となるのは,改正法の施行日である平成22年1月1日から平成22年11月29日までの被審人の127社との間における購入額であり,その金額は,独占禁止法施行令第30条第2項の規定に基づいて算定すると,別表1「購入額」欄記載の金額を合算した4047億9678万3282円(被審人の127社からの購入額)となる。
(2)被審人の主張
優越的地位の濫用が行われた場合,独占禁止法第20条の6において,「継続してするもの」に限って課徴金を課すとされているところ,この「継続してするもの」に該当するか否かは,違反行為の相手方ごとに判断すべきであり,かつ,同条が適用されるのは,改正法が施行された平成22年1月1日以後に係るものであり(改正法附則第5条),上記の「継続してするもの」に該当するためには,同日以後において継続性が認められることが必要であるから,本件において課徴金の算定の基礎となるのは,平成22年1月1日以後において違反行為が「継続してするもの」と認められる相手方からの商品の購入額に限られることになる。
また,同条にいう「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」や「購入額」についても,違反行為の相手方ごとに判断すべきであるから,課徴金の算定の基礎となる購入額は,違反行為の相手方となる納入業者ごとに,当該納入業者との関係で本件違反行為がされた期間における商品の購入額に限られることになる。
したがって,被審人に対して課徴金が課されるとしても,その課徴金算定の基礎となる購入額は,平成22年1月1日以後において本件従業員等派遣が違反行為として「継続してするもの」と認められる納入業者からの同日以降の「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」に対応する購入額に限られることになる。
これに対し,「継続してするもの」であるか否か及び「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」を相手方ごとに判断せず,審査官が主張するように,複数の相手方に対する濫用行為を一つの違反行為として扱って課徴金算定の基礎となる購入額を認定すると,課徴金の賦課額を不当な利得との関係で捉えた立法趣旨に適合せず,かつ,行政処分の適法性に関する一般原則である比例原則にも反する不当な金額の課徴金が課されることとなってしまう。実際,本件課徴金納付命令による賦課額は40億4796万円であるところ,この金額は,本件従業員等派遣によって得られる不当な利得とは全く整合しないし,行政処分における比例原則にも明らかに違反する。
6 争点6(マル特経費負担を独占禁止法施行令第30条第2項第3号又は第1号に該当するものとして違反行為期間における購入額から控除すべきか)について
(1)被審人の主張
ア 独占禁止法施行令第30条第2項第3号に該当すること
独占禁止法施行令第30条第2項第3号は,商品の引渡し又は役務の提供を行う者から引渡し又は提供の実績に応じて割戻金の支払を行うべき旨が書面によって明らかな契約(一定の期間内の実績が一定の額又は数量に達しない場合に割戻しを受けない旨を定めるものを除く。)があった場合,違反行為期間におけるその実績について当該契約で定めるところにより算定した割戻金の額(一定の期間内の実績に応じて異なる割合又は額によって算出すべき場合にあっては,それらのうち最も低い割合又は額により算定した額)を違反行為期間において違反行為の相手方から引渡しを受けた商品又は提供を受けた役務の対価の額から控除する旨を定めている。この独占禁止法施行令第30条第2項において規定された対価の額からの割戻金の額の控除は,対価そのものの修正又はこれに準ずるものを考慮することで,より実態に即した購入額を算定するために設けられたものである。
この点,まず,マル特経費負担は,取引先納入業者との基本契約書に明記されている上,取引先納入業者の作成する「マル特経費負担通知書」において支払われる割戻金の額が被審人に明示されていることから,「書面によつて明らかな契約」によるものである。
また,マル特経費負担は,商品販売時の値引き販売が家電業界の通例として一般顧客に認知されていること,そして,新製品発売以降の市場動向(他の取引先納入業者の同一仕様製品との販売価格差及び販売実績差等)を新製品の仕入価格約定時に予測することが極めて困難であることを踏まえ,市場動向に基づく割戻金を調整弁として仕入価格を修正値下げするためのものであり,被審人の販売実績に応じた割戻金(マル特経費負担分)が支払われることによって,被審人が仕入れた商品のうちで販売するに至った商品の仕入額(対価)を事後的に修正するものであるから,マル特経費負担の支払を受けることは,「商品の引渡し・・・を行う者から・・・割戻金の支払を受ける」ものであることは明らかである。
さらに,被審人は,必要な在庫を確保しておく観点から定数制による自動発注制度を採用しており,販売できた数量だけ自動的に納入業者に対して発注が行われることになるため,「100台販売する」ということは,その販売分の在庫を増やすために「100台購入する」ということとほぼ同義であるから,マル特経費負担の支払を受けることは,実質的に納入業者からの「引渡し・・・の実績に応じて割戻金の支払を受ける」もの又はこれに準ずるものということになる。実際,127社のうち,現在も被審人と取引のある納入業者の中から無作為に抽出した7社について,平成27年から平成29年までの期間で販売数が最も多かった商品(クリーナー,冷蔵庫,エアコン,パソコン,プリンタ,電子レンジ,炊飯器)の仕入実績と販売実績の変化を比較すると,いずれも仕入実績と販売実績が限りなく連動していたほか,被審人における納入業者からの仕入総数のうち95パーセント超が,被審人において販売済みであった。すなわち,仕入実績を元にマル特経費負担を計算した場合と,販売実績を元にマル特経費負担を計算した場合では,マル特経費負担の計上額及び期間について有意な差異はおよそみられなかった。
そして,上記のとおり,課徴金算定対象の売上額から割戻金を控除する独占禁止法施行令第30条第2項第3号の制度趣旨が,対価そのものの修正又はこれに準ずるものを考慮することで,より実態に即した売上額又は購入額を算定するために設けられたものであることに鑑みれば,対価そのものの修正又はこれに準ずるものと同等である金員についてはこれを控除するのが同号の制度趣旨にかなうといえるから(最高裁判所第2特別小法廷平成15年3月14日判決・裁判集民事第209号177頁・公正取引委員会審決集第49巻634頁〔協業組合カンセイによる審決取消請求上告事件〕の趣旨にもかなうといえる。),被審人が納入業者から被審人の販売実績に応じてマル特経費負担の支払を受けることは,同号において規定する「商品の引渡し又は役務の提供を行う者から引渡し又は提供の実績に応じて割戻金の支払を受ける」場合に該当し,同号の要件を充足する。
したがって,本件対象期間中に被審人における販売実績に応じて納入業者から被審人に支払われたマル特経費負担分(739億6060万3057円)は,本件対象期間中の被審人の127社からの購入額から控除されなければならない。
なお,マル特経費負担は,約定した仕入価格は据え置き,割戻金により仕入価格を修正することを約しているものであって,「一定の期間内の実績が一定の額又は数量に達しない場合に割戻しを受けない旨を定める」ものでないことは明らかである。
イ 独占禁止法施行令第30条第2項第1号に該当すること
仮にマル特経費負担が独占禁止法施行令第30条第2項第3号の要件を充足しなかったとしても,マル特経費負担は対価の修正又はそれに準じた性格を有しており,「違反行為期間において・・・その他の事由により対価の額の全部又は一部が控除された場合」に該当するから,同項第1号により,本件対象期間中に被審人における販売実績に応じて納入業者から被審人に支払われたマル特経費負担分(739億6060万3057円)は,本件対象期間中の被審人の127社からの購入額から控除されなければならない。
(2)審査官の主張
ア 独占禁止法施行令第30条第2項第3号に該当しないこと
独占禁止法施行令第30条第2項第3号は「商品の引渡し又は役務の提供を行う者から引渡し又は提供の実績に応じて割戻金の支払を受けるべき旨」と規定しており,違反行為の相手方から違反行為者に対する商品の「引渡し」,すなわち,違反行為者における仕入実績に応じて支払われる割戻金を対象としている。これに対し,被審人の販売実績に基づき納入業者から被審人に支払われたマル特経費負担は,被審人の販売実績に応じて支払われる割戻金に当たるので,同号には該当しない。
また,被審人が採用している定数制による自動発注制度の仕組みの下では,あらかじめ被審人が設定していた在庫保有台数の定数を下回らない限り,納入業者に商品の発注を行わないので,販売実績と仕入実績は必ずしも連動せず,被審人の販売実績が独占禁止法施行令第30条第2項第3号において規定する「商品の引渡し又は役務の提供を行う者から引渡し又は提供の実績に応じ」るものであるとはいえない。
したがって,マル特経費負担は,独占禁止法施行令第30条第2項第3号において規定する「商品の引渡し又は役務の提供を行う者から引渡し又は提供の実績に応じて割戻金の支払を受ける」場合に該当しない。
イ 独占禁止法施行令第30条第2項第1号に該当しないこと
独占禁止法施行令第30条第2項第1号は,独占禁止法第20条の6に規定する政令で定める購入額を算定する方法として,「違反行為期間において商品の量目不足,品質不良又は破損,役務の不足又は不良その他の事由により対価の額の全部又は一部が控除された場合」に「控除された額」を控除する旨規定している。すなわち,独占禁止法施行令第30条第2項第1号の規定により控除することが認められる場合とは,「商品の量目不足,品質不良又は破損,役務の不足又は不良その他の事由」,つまり,違反行為の相手方から購入した商品に瑕疵があるとき,納期に間に合わなかったために販売目的が達成できなかったとき等,当該違反行為の相手方の責めに帰すべき事由により購入額の全部又は一部が控除された場合である。そして,マル特経費負担は,相手方,すなわち,納入業者の責めに帰すべき事由により対価の額が控除される場合には当たらないことが明らかである。
したがって,マル特経費負担は,独占禁止法施行令第30条第2項第1号の規定する「違反行為期間において商品の量目不足,品質不良又は破損,役務の不足又は不良その他の事由により対価の額の全部又は一部が控除された場合」に該当しない。
第6 審判官の判断
1 争点1(本件従業員等派遣をさせたことは被審人が127社に対して自己の取引上の地位が優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当に行ったものか)について
(1)優越的地位の濫用規制の趣旨
独占禁止法第19条において,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に同法第2条第9項第5号(改正法施行日前においては旧一般指定第14項〔第1号ないし第5号〕)に該当する行為をすることが不公正な取引方法の一つとして規制されているのは,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは,相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあり,このような行為は公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)があるといえるからである(ガイドライン第1の1参照)。
公正競争阻害性については,①行為者が多数の相手方に対して組織的に不利益を与えているか,②特定の相手方に対してしか不利益を与えていないときであっても,その不利益の程度が強い又はその行為を放置すれば他に波及するおそれがあるかなど問題となる不利益の程度,行為の広がり等を考慮して判断することになる(ガイドライン第1の1参照)。
(2)優越的地位の濫用の判断基準
前記(1)のような優越的地位の濫用規制の趣旨に照らせば,取引の一方の当事者(甲)が他方の当事者(乙)に対し,取引上の地位が優越しているというためには,甲が市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位にある必要はなく,乙との関係で相対的に優越した地位にあれば足りると解される。また,甲が乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合をいうと解される(ガイドライン第2の1参照。なお,被審人は,甲が乙に対し,取引上の地位が優越しているというためには,甲にとっての乙との取引必要性がないことが必要であると主張するが,この点についての判断は,後記⑶イ(ア)d(f)のとおりである。)。
この判断に当たって,乙の甲に対する取引依存度が大きい場合には,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすく(ガイドライン第2の2⑴参照),甲の市場におけるシェアが大きい場合又はその順位が高い場合には,甲と取引することで乙の取引数量や取引額の増加が期待でき,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすく(同⑵参照),乙が他の事業者との取引を開始若しくは拡大することが困難である場合又は甲との取引に関連して多額の投資を行っている場合には,乙は甲と取引を行う必要性が高くなるため,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすく(同⑶参照),また,甲との取引の額が大きい,甲の事業規模が拡大している,甲と取引することで乙の取り扱う商品若しくは役務の信用が向上する,又は甲の事業規模が乙のそれよりも著しく大きい場合には,乙は甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすいものといえる(同(4)参照)。
なお,甲が乙に対して,取引上の地位が優越しているかどうかは,上記の事情を総合的に考慮して判断するので,大企業と中小企業との取引だけでなく,大企業同士,中小企業同士の取引においても,取引の一方当事者が他方当事者に対し取引上の地位が優越していると認められる場合がある(ガイドライン第2の2〔注7〕参照)。また,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来す場合に該当するといえるためには,必ずしも乙が倒産に瀕するような事業経営上の支障までは必要ではない。さらに,事業全体の経営に大きな支障を来せば,通常,「事業経営上大きな支障を来す」こととなるが,特定の事業部門や営業拠点など特定の事業の経営のみに大きな支障を来す場合であっても,当該特定の事業が当該事業者の経営全体の中で相対的に重要なものである場合などには,「事業経営上大きな支障を来す」ことがあり得る(考え方9頁参照)。
また,独占禁止法第2条第9項第5号イないしハが規定する①継続して取引する相手方に対して当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させる行為,②継続して取引する相手方に対して自己のために金銭,役務その他の経済上の利益の提供をさせる行為,③取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒む行為,④取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせる行為,⑤取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせる行為,⑥取引の相手方に対して取引の対価の額を減じる行為,⑦上記③ないし⑥のほか,取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し,若しくは変更し,又は取引を実施する行為(以下,①ないし⑦を「不利益行為」という。)を甲が行い,乙がこれを受け入れている事実が認められる場合,これを受け入れるに至った経緯や態様によっては,それ自体,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合にあったことをうかがわせる重要な要素となり得るものというべきである。なぜなら,取引関係にある当事者間の取引を巡る具体的な経緯や態様には,当事者間の相対的な力関係が如実に反映されるからである。
したがって,甲が乙に対して優越した地位にあるといえるか否かについては,①乙の甲に対する取引依存度,②甲の市場における地位,③乙にとっての取引先変更の可能性,④その他甲と取引することの必要性,重要性を示す具体的事実のほか,乙が甲による不利益行為を受け入れている事実が認められる場合,これを受け入れるに至った経緯や態様等を総合的に考慮して,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合であるかを判断するのが相当である。
そして,甲が乙に対して優越的な地位にあると認められる場合には,甲が乙に不利益行為を行えば,通常は,甲は自己の取引上の地位が乙に対して優越していることを利用して行ったと認められ(ガイドライン第2の3),このような場合,乙は自由かつ自主的な判断に基づいて不利益行為を受け入れたとはいえず,甲は正常な商慣習に照らして不当に独占禁止法第2条第9項第5号所定の行為を行っていたものと認めるのが相当である。
以下,被審人の取引上の地位が127社に対して優越しているか,また,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせており,この行為が不利益行為に該当するかについて検討し,被審人が127社に対して取引上の地位が優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に本件従業員等派遣をさせたものであるか否かを判断する。
(3)被審人の取引上の地位が127社に対して優越しているか否か
ア 被審人の市場における地位
前記第3の1⑹のとおり,被審人の資本金の額は約101億7400万円であった。
また,前記第3の1⑸のとおり,被審人の連結売上高は,平成21年3月期は8030億400万円,平成22年3月期は8200億3000万円,平成23年3月期は9010億1000万円であり(平均年間総売上高は約8413億4800万円),家電製品等の小売業を営む家電量販店の中でいずれも第2位であった。
さらに,前記第3の1⑵ウのとおり,被審人運営店舗は,西日本を中心として関東以西の広範囲にわたって展開されており,その数(フランチャイズ店を含む。)は,平成21年3月末日時点は1,078店,平成22年3月末日時点は1,101店,平成23年3月末日時点は1,130店であり,家電製品等の小売業を営む者の中で第2位であった。
このように,被審人は,家電量販店として有数の規模を誇り,しかも,その事業規模は年々拡大していたことからすると,本件対象期間において,家電製品等の小売業を営む家電量販店として有力な地位にあったものと認められる。
そうすると,家電製品等の製造業者及び卸売業者は,被審人と継続的に取引を行うことで,被審人を通じて,家電製品等の自社の取扱商品を消費者に幅広く供給することができ,多額かつ安定した売上高を見込むことができることになるから,一般的にいえば,被審人と取引することの必要性及び重要性は高いと評価することができる。
イ 被審人と127社との関係
証拠によれば,127社の資本金の額,127社の本件対象期間に対応する平成19年から平成20年までの期間におおむね相当する事業年度(「売上高①」,「取引依存度①」,「取引依存度の順位①」),平成20年から平成21年までの期間におおむね相当する事業年度(「売上高②」,「取引依存度②」,「取引依存度の順位②」),平成21年から平成22年までの期間におおむね相当する事業年度(「売上高③」,「取引依存度③」,「取引依存度の順位③」)における127社の被審人に対する売上高,同様の事業年度における127社の被審人に対する取引依存度とその順位のほか,取引先変更困難性との回答などの報告命令に対する報告書及び被審人アンケートに対する回答書における127社の回答の一部は,別紙5記載のとおりである(査26の各号等)。
上記に加え,本件各証拠を踏まえて,被審人の取引上の地位が127社に対して優越していたか否かについて,以下,判断する。
(ア)被審人の取引上の地位が優越していると認められる納入業者(以下「92社」という。)について
a 次の27の納入業者(以下「27社」ということがある。)について
《納入業者(6)》,《納入業者(7)》,
《納入業者(12)》,《納入業者(26)》,
《納入業者(28)》,《納入業者(30)》,
《納入業者(32)》,《納入業者(33)》,
《納入業者(37)》,
《納入業者(39)》,
《納入業者(46)》,《納入業者(49)》,
《納入業者(55)》,《納入業者(56)》,
《納入業者(61)》,《納入業者(62)》,
《納入業者(63)》,《納入業者(64)》,
《納入業者(70)》,
《納入業者(73)》,
《納入業者(80)》,《納入業者(88)》,
《納入業者(93)》,《納入業者(105)》,
《納入業者(114)》,
《納入業者(118)》,
《納入業者(120)》
(a)27社については,前記アの事実に加え,別紙5記載の各事実,とりわけ,27社の被審人に対する取引依存度が大きいこと等の事実を考慮すれば,27社にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。
また,27社は,別紙5記載のとおり,報告命令に対する報告書において,取引先変更困難との回答をし,公正取引委員会の報告命令における被審人との取引を継続することの必要性についての設問(査26の各号・設問2⑺。以下「取引継続必要性の設問」という。)に対し,「ア はい」という回答(以下「取引継続必要との回答」という。)をしている。上記に考慮した事実からすれば,27社には被審人との取引の維持・継続を重要視するに足りる客観的状況が認められるものといえ,上記の回答内容等はこれら客観的状況に沿うものといえる。
そして,27社については,後記(4)で認定するとおり,被審人による不利益行為を受け入れていた事実が認められる。これら不利益行為は,後記⑸に詳述するとおり,被審人によるいわゆるバイイングパワーが発揮されやすい取引上の関係を背景とし,多数の納入業者に対して,長期間にわたり,被審人の利益を確保することなどを目的として,組織的かつ計画的に一連のものとして行われたものであるところ,27社がこれら不利益行為を受け入れるに至った上記のような経緯や態様は,それ自体,被審人が27社に対してその意に反するような要請等を行っても,これが甘受され得る力関係にあったことを示すものである(後記b及びcに掲記の納入業者においても同じ。)。このことからすれば,27社は,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあったことがうかがわれる。
以上を総合的に考慮すれば,27社は,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあり,被審人の取引上の地位は27社に対して優越していたものと認められる。
(b)なお,《納入業者(26)》について,別紙5記載の取引依存度は,《納入業者(26)》全社の年間総売上高に基づくものではなく,国内の取引を全て担当する《略》部による国内の取引先に対する年間総売上高に基づくものであるところ(査26の26の2),被審人は,海外の取引先を含む全ての取引先に対する年間総売上高を分母として正しく計算すると,《納入業者(26)》の被審人に対する取引依存度が,第140期(平成19年4月1日から平成20年3月31日まで)では0.7パーセント,第141期(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)では1.1パーセント,第142期(平成21年4月1日から平成22年3月31日まで)では1.3パーセントであり(査26の26・設問1⑽ア),被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことにはならないと主張する。しかし,証拠によれば,《納入業者(26)》は,デジタルカメラやICレコーダー,メディア等の製造業者であり,被審人に対し,デジタルカメラ(コンパクトデジタルカメラの「《商品名略》」,小型ミラーレスデジタルカメラの「《商品名略》」),ICレコーダー,メディア商品を納入していたものと認められるところ(査26の26・設問2⑶別表5),《納入業者(26)》の《略》部は,上記のとおり,国内の取引を全て担当していたことに加え,《納入業者(26)》が,別紙5記載のとおり,取引先変更困難との回答及び取引継続必要との回答をしていることからすると,《納入業者(26)》の《略》部は,《納入業者(26)》の経営全体の中で相対的に重要なものであったことは明らかというべきである。そうすると,《納入業者(26)》にとっては,被審人との取引の継続が困難となれば,《略》部における収益の大幅な落ち込みが予想され,《略》部における事業方針の修正を余儀なくされるなど,全社的にみてもその後の事業経営に大きな支障を来すことが看取できるから,全社的にみれば被審人に対する取引依存度が小さかったとしても,なお《納入業者(26)》にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものと認めることができる。その他,前記(a)で説示した点も総合考慮すれば,被審人の取引上の地位は《納入業者(26)》に対して優越していたものと認めるのが相当である。
また,《納入業者(30)》について,別紙5記載の取引依存度は,《納入業者(30)》全社の年間総売上高に基づくものではなく,国内の楽器専門店や家電量販店などの法人向けにピアノやデジタルピアノを販売する部署である《略》部の《略》部の年間総売上高に基づくものであるところ(査26の30,査26の30の2及び3),被審人は,《納入業者(30)》の海外を含む年間総売上高は報告命令に対する報告書(査26の30)に記載されたそれよりも大きな額になるはずであり,そうすると被審人に対する《納入業者(30)》全社の取引依存度が上記数値よりも小さくなるとして,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことにはならないと主張する。しかし,証拠によれば,《納入業者(30)》は,ピアノ,デジタルピアノ,電子オルガンを主な取扱商品とする会社であり(査26の30・設問1⑺),被審人に対し,電子ピアノ,楽器関連品を納入していたところ(査26の30・設問2⑶別表5,審256),《納入業者(30)》では,楽器の販売が総売上高のうちの約2分の1超を占めており,その中で,音楽教室以外の家電量販店等における販売も重要であったものと認められる(査26の30,査26の30の2及び3)。これに加えて,《納入業者(30)》は,別紙5記載とおり,取引先変更困難との回答及び取引継続必要との回答をしており,しかも,《納入業者(30)》の報告命令に対する報告書(査26の30)の作成責任者が,上記の各回答は《納入業者(30)》全社としてみた場合でも変わらないと供述していること(査26の30の3)からすると,《納入業者(30)》の《略》部の《略》部は,《納入業者(30)》の経営全体の中で相対的に重要なものであったと認められる。そうすると,《納入業者(30)》にとっては,被審人との取引の継続が困難となれば,《略》部の《略》部における収益の大幅な落ち込みが予想され,《略》部の《略》部における事業方針の修正を余儀なくされるなど,全社的にみてもその後の事業経営に大きな支障を来すことが看取できるから,全社的にみれば被審人に対する取引依存度が小さかったとしても,なお《納入業者(30)》にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。その他,前記(a)で説示した点も総合考慮すれば,被審人の取引上の地位は《納入業者(30)》に対して優越していたものと認めるのが相当である。
b 次の59の納入業者(以下「59社」ということがある。)について
《納入業者(1)》,《納入業者(5)》,
《納入業者(9)》,《納入業者(10)》,
《納入業者(11)》,《納入業者(18)》,
《納入業者(19)》,《納入業者(20)》,
《納入業者(21)》,
《納入業者(22)》,《納入業者(27)》,
《納入業者(29)》,
《納入業者(31)》,《納入業者(34)》,
《納入業者(35)》,
《納入業者(38)》,
《納入業者(43)》,
《納入業者(48)》,《納入業者(51)》,
《納入業者(52)》,《納入業者(53)》,
《納入業者(54)》,《納入業者(57)》,
《納入業者(58)》,《納入業者(65)》,
《納入業者(66)》,
《納入業者(67)》,《納入業者(68)》,
《納入業者(69)》,《納入業者(71)》,
《納入業者(75)》,《納入業者(77)》,
《納入業者(79)》,《納入業者(81)》,
《納入業者(82)》,《納入業者(83)》,
《納入業者(84)》,
《納入業者(86)》,《納入業者(87)》,
《納入業者(89)》,
《納入業者(90)》,
《納入業者(96)》,《納入業者(97)》,
《納入業者(100)》,
《納入業者(101)》,《納入業者(102)》,
《納入業者(103)》,《納入業者(106)》,
《納入業者(107)》,
《納入業者(109)》,《納入業者(110)》,
《納入業者(112)》,
《納入業者(113)》,《納入業者(117)》,
《納入業者(119)》,《納入業者(121)》,
《納入業者(123)》,《納入業者(126)》,
《納入業者(127)》
(a)59社については,前記アの事実に加え,別紙5記載の各事実,とりわけ,59社の取引先に対する取引依存度における被審人の順位が高いこと等の事実を考慮すれば,59社にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる(別紙5記載の《納入業者〔1〕》,《納入業者〔5〕》,《納入業者〔9〕》,《納入業者〔27〕》,《納入業者〔29〕》,《納入業者〔31〕》,《納入業者〔34〕》,《納入業者〔38〕》,《納入業者〔48〕》,《納入業者〔51〕》,《納入業者〔54〕》,《納入業者〔57〕》,《納入業者〔58〕》,《納入業者〔69〕》,《納入業者〔71〕》,《納入業者〔77〕》,《納入業者〔79〕》,《納入業者〔81〕》,《納入業者〔82〕》,《納入業者〔83〕》,《納入業者〔84〕》,《納入業者〔86〕》,《納入業者〔96〕》,《納入業者〔102〕》,《納入業者〔103〕》,《納入業者〔109〕》,《納入業者〔110〕》,《納入業者〔117〕》,《納入業者〔127〕》の各取引依存度の順位は,その全部又は一部が株式会社サンキュー〔北海道,北陸を中心に「100満ボルト」を展開する被審人の子会社である。以下「サンキュー」という。[査24]〕に対する売上高を含んだ上でのものであるが,上記各納入業者のサンキューに対する売上高からすると,これを除いた場合でも,取引依存度の順位に大きな違いは生じないものと認められる。)。
すなわち,納入業者にとっては,それぞれの取引先に対する売上高を常に一定水準に維持できるという保証はないところ,前記アの状況に照らし,被審人は,納入業者にとって安定的な取引を期待できる取引先ということができる。このような被審人に対して,取引先別の取引依存度の順位が高いということ(端的に,取引先別の売上高の順位が高いと言い換えてもよい。)は,当該納入業者にとって,被審人は,数ある取引先の中でも比較的高水準の売上高を安定的に確保できる取引先であって,継続的な事業戦略上,重視すべき有力な取引先の一つということができる。このような納入業者にしてみれば,被審人との取引の継続が困難となることは,取引依存度が大きい取引先を失った場合のように直ちに事業経営上大きな支障を来すということはないとしても,流通チャンネルの選択や販売戦略の再構築といった事業方針の転換を迫られるなど,その後の事業経営に大きな支障を来す要因となり得るものである。
したがって,前記aの27社のように被審人に対する取引依存度が絶対的に大きいとまではいえなくとも,取引先に対する取引依存度における被審人の順位が高いこと等が認められる59社については,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれるということができる。
また,59社は,別紙5記載のとおり,報告命令に対する報告書において,取引先変更困難との回答及び取引継続必要との回答をしている。上記に考慮した事実からすれば,59社には被審人との取引の維持・継続を重要視するに足りる客観的状況が認められるものといえ,上記の回答内容等はこれら客観的状況に沿うものといえる。
そして,59社についても,後記⑷に認定する被審人による不利益行為を受け入れていた事実が認められるところ,後記⑸のとおり, 59社がこれら不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様からすれば,59社は,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあったことがうかがわれる。
以上を総合的に考慮すれば,59社は,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあり,被審人の取引上の地位は59社に対して優越していたものと認められる(59社のうちいくつかの納入業者については,後記cの観点からも,被審人の取引上の地位が優越していると認められる。)。
(b)なお,《納入業者(35)》は,平成20年12月1日に設立された会社であり(査26の35の2及び3),報告命令に対する報告書(査26の35)に記載された第79期(平成19年4月1日から平成20年3月31日まで)の売上高は《事業者C》(以下「《事業者C》」という。)の《略》事業部門のものであり,同じく第80期(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)の売上高は,①平成20年4月1日から同年11月末日までの《事業者C》の《略》事業部門の数値と,②同年12月1日から平成21年3月31日までの《納入業者(35)》の《略》事業部門の数値を合算したものである(査26の35の2及び3)。この点,被審人は,《納入業者(35)》の年間総売上高はより大きな額になるはずであり,そうすると被審人に対する《納入業者(35)》の取引依存度が上記数値よりも小さくなり,取引依存度の順位も下がるとして,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことにはならないと主張する。しかしながら,そもそも,本件排除措置命令では,《事業者C》ではなく,《納入業者(35)》による従業員派遣が問題とされており,《納入業者(35)》による従業員派遣が行われたのは上記第80期以降とされるから,上記の第79期における《事業者C》の被審人に対する取引依存度やその順位は問題とならない。また,同様に,第80期についても,親会社である《事業者C》の年間総売上高を基準として被審人の優越的地位を判断すべき理由はない(後記d(h))。同期における《納入業者(35)》全社の被審人に対する売上高は明らかではないものの,《納入業者(35)》が《事業者C》の《略》事業部門の事業を引き継いで設立された会社であることからすると(査26の35の2,査26の35の3),同期における《納入業者(35)》の《略》事業部門の被審人に対する取引依存度は,《事業者C》の《略》事業部門とおおむね変わらないはずであり,報告命令に対する報告書(査26の35)に記載された9.6パーセント程度であって,依存度の順位も同様に4位であると合理的に推認できる。そして,証拠によれば,《納入業者(35)》は,《事業者C》が有していた《略》事業のうち,営業部門,商品企画部門及び商品仕入部門を分割して設立された会社であり(査26の35の2及び3,審175,審381の1),《事業者C》ブランドの《略》商品の企画・販売に特化したファブレス会社であって(査26の35の2及び3,審176),被審人に対し,システムコンポ,ミニコンポ,ラジカセ,ポータブルオーディオ,ホームシアターシステム,ヘッドホンを納入していたところ(査26の35・設問2⑶別表5,審176,審256),《納入業者(35)》では,《略》事業部門以外の部門においてトランシーバーの販売を行っていたものの,これは《事業者C》が販売する商品の販売窓口となっているにすぎず,その売上げは《事業者C》に計上され,《納入業者(35)》には手数料の売上げがあるだけであったことから,《納入業者(35)》の売上げの大部分は《略》事業部門の売上げであったと認められる(査26の35,査26の35の2及び3)。これに加え,《納入業者(35)》は,別紙5記載のとおり,取引先変更困難との回答及び取引継続必要との回答をしており,しかも,《納入業者(35)》の報告命令に対する報告書(査26の35)の作成責任者の職務を引き継いだ従業員が,上記の各回答は《納入業者(35)》に当てはまると供述していること(査26の35の2)からすると,《略》事業部門は,《納入業者(35)》の経営全体の中で相対的に重要なものであったと認められる。そうすると,《納入業者(35)》にとっては,被審人との取引の継続が困難となれば《略》事業部門における収益の大幅な落ち込みが予想され,《略》事業部門における事業方針の修正を余儀なくされるなど,全社的にみてもその後の事業経営に大きな支障を来すことが看取できるから,全社的にみれば被審人に対する取引依存度が小さかったとしても,なお《納入業者(35)》にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。その他,前記(a)で説示した点も総合考慮すれば,被審人の取引上の地位は《納入業者(35)》に対して優越していたものと認めるのが相当である。
また,《納入業者(96)》について,別紙5記載の被審人に対する取引依存度及びその順位は,《納入業者(96)》全社の年間総売上高に基づくものではなく,国内の被審人に対して販売している商品(家電民生品)と同じ商品を取り扱っている部門(以下「家電民生品部門」という。)の年間総売上高に基づくものであるところ(査26の96・設問1⑽ウ,査26の96の2),被審人は,《納入業者(96)》全社の年間総売上高は報告命令に対する報告書(査26の96)に記載されたそれよりも大きな額になるはずであり,そうすると被審人に対する《納入業者(96)》全社の取引依存度も順位も上記数値よりも低くなるとして,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことにはならないと主張する。しかし,証拠によれば,《納入業者(96)》は,被審人に対し,エアコン,冷暖房用品を納入していたところ(査26の96・設問2⑶別表5),《納入業者(96)》には,家電民生品部門における取引のほか,海外販社向けの取引や消防無線といった公共無線の取引も存在したものの(査26の96の2),セパレート型エアコンにおいては平成20年ないし平成22年まで我が国において常に《数値》ないし《数値》パーセントのシェアを有しており,シェア上位3社に含まれていたものと認められる(審158の3,審159の1ないし3)。これに加え,《納入業者(96)》は,別紙5記載のとおり,取引先変更困難との回答及び取引継続必要との回答をしており,しかも,《納入業者(96)》の報告命令に対する報告書(査26の96)の作成責任者が,上記の各回答は《納入業者(96)》全社としてみた場合でも変わらないと供述していること(査26の96の2)からすると,上記のような市場における地位の保持という点からも,このセパレート型エアコンを扱う家電民生品部門は,《納入業者(96)》の経営全体の中で相対的に重要なものであったと認められる。そうすると,《納入業者(96)》にとっては,被審人との取引の継続が困難となれば,家電民生品部門における収益の大幅な落ち込みが予想され,家電民生品部門における事業方針の修正を余儀なくされるなど,全社的にみてもその後の事業経営に大きな支障を来すことが看取できるから,全社的にみれば被審人に対する取引依存度が小さかったとしても,なお《納入業者(96)》にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。その他,前記(a)で説示した点も総合考慮すれば,被審人の取引上の地位は《納入業者(96)》に対して優越していたものと認めるのが相当である。
さらに,《納入業者(103)》について,別紙5記載の取引依存度及びその順位は,《納入業者(103)》全社の年間総売上高に基づくものではなく,カメラや付属品等を担当する《略》事業部の《略》部の取引に関するものであるところ(査26の103・設問1⑽別表1,査26の103の2),被審人は,《納入業者(103)》全社の年間総売上高が,平成20年3月期は《金額》円,平成21年3月期は《金額》円,平成22年3月期は《金額》円であり(審149),《納入業者(103)》の被審人に対する売上高が,平成20年3月期が《金額》円,平成21年3月期は《金額》円,平成22年3月期は《金額》円であったから(査26の103・設問1⑽オ別表1),《納入業者(103)》全社の被審人に対する売上高の割合(取引依存度)は,平成20年3月期では0.3パーセント程度,平成21年3月期では0.2パーセント程度,平成22年3月期は0.2パーセント強程度であり,《納入業者(103)》について,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことにはならないと主張する。しかし,証拠によれば,《納入業者(103)》は,半導体用フォトマスク・マスクブランクス等エレクトロオプティクス製品,メガネ用レンズ・フレーム,コンタクトレンズを主な取扱商品とする会社であり(査26の103・設問1⑺),被審人に対し,デジタルカメラを納入していたところ(査26の103・設問2⑶別表5),《納入業者(103)》には,《略》事業部の《略》部以外にもメガネレンズ,コンタクトレンズ等を取り扱う事業部が存在したものと認められるものの(査26の103の2),《納入業者(103)》は,別紙5記載のとおり,取引先変更困難との回答及び取引継続必要との回答をしており,しかも,《納入業者(103)》の報告命令に対する報告書(査26の103)の作成に関わった者が,上記の各回答は《納入業者(103)》全社としてみた場合でも変わらないと供述していることからすると(査26の103の2),《略》事業部の《略》部は,《納入業者(103)》の経営全体の中で相対的に重要なものであったと認められる。そうすると,《納入業者(103)》にとっては,被審人との取引の継続が困難となれば,《略》事業部の《略》部における収益の大幅な落ち込みが予想され,《略》事業部の《略》部における事業方針の修正を余儀なくされるなど,全社的にみてもその後の事業経営に大きな支障を来すことが看取できるから,全社的にみれば被審人に対する取引依存度が小さかったとしても,なお《納入業者(103)》にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。その他,前記(a)で説示した点も総合考慮すれば,被審人の取引上の地位は《納入業者(103)》に対して優越していたものと認めるのが相当である。
加えて,《納入業者(117)》について,別紙5記載の取引依存度及びその順位は,《納入業者(117)》全社の年間総売上高に基づくものではなく,電子ピアノやポータブルキーボード,ギター,ドラム,シンセサイザー,ミキサーの日本国内の営業を担当する《略》部という特定の部門の年間総売上高に基づくものであるところ(査26の117・設問1⑽ア,査26の117の2),被審人は,《納入業者(117)》全社の「年間総売上高」は報告命令に対する報告書(査26の117)に記載されたそれよりも大きな額になるはずであり,そうすると被審人に対する《納入業者(117)》全社の取引依存度が上記数値よりも小さくなるとして,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことにはならないと主張する。しかし,証拠によれば,《納入業者(117)》は,楽器,AV機器,電子部品を主な取扱商品とする会社であり(査26の117・設問1⑺),被審人に対し,電子ピアノ及び電子キーボード等の電子鍵盤楽器を納入していたところ(査26の117・設問2⑶別表5,審256),《納入業者(117)》には,電子ピアノやポータブルキーボード,ギター,ドラム,シンセサイザー,ミキサー以外の商品を取り扱う事業部が存在したものの(査26の117,査26の117の2),全国楽器協会の統計に基づき算出したところによれば,《納入業者(117)》の平成22年の台数ベースのシェアは,電子ピアノについては《数値》パーセント,電子キーボードについては《数値》パーセントであり,このうち3割程度が,家電量販店を通じて販売されていたと推測される(審256)。これに加え,《納入業者(117)》は,別紙5記載のとおり,取引先変更困難との回答及び取引継続必要との回答をしていることからすると,《略》部は,《納入業者(117)》の経営全体の中で相対的に重要なものであったと認められる。そうすると,《納入業者(117)》にとっては,被審人との取引の継続が困難となれば,《略》部における収益の大幅な落ち込みが予想され,《略》部における事業方針の修正を余儀なくされるなど,全社的にみてもその後の事業経営に大きな支障を来すことが看取できるから,全社的にみれば被審人に対する取引依存度が小さかったとしても,なお《納入業者(117)》にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。その他,前記(a)で説示した点も総合考慮すれば,被審人の取引上の地位は《納入業者(117)》に対して優越していたものと認めるのが相当である。
以上のほか,《納入業者(127)》について,別紙5記載の取引依存度及びその順位は,《納入業者(127)》全社の年間総売上高に基づくものではなく,国内の《製品名》を含む家電量販店と取引をしている商品を取り扱っている部門(以下「家電量販店部門」という。)の年間総売上高に基づくものであるところ(査26の127・設問1⑽ウ,査26の127の2),被審人は,《納入業者(127)》全社の被審人に対する売上高の割合(取引依存度)は,第25期(平成19年4月1日から平成20年3月31日まで)では0.6パーセント,第26期(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)では0.6パーセント,第27期(平成21年4月1日から平成22年3月31日まで)では0.5パーセントであったから(査26の127・設問1⑽ア),被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことにはならないと主張する。しかし,証拠によれば,《納入業者(127)》は,《製品名》商品等のメーカーであり,被審人に対し,《製品名》等の情報通信商品等を納入していたところ(査26の127・設問2⑶別表5),《納入業者(127)》には,家電量販店部門以外にも,他の商品を取り扱う事業部が存在したものの(査26の127,査26の127の2),《納入業者(127)》の商品は平成20年ないし平成22年において《製品名》部門でトップシェアを有しており,そのシェアも《数値》ないし《数値》パーセントと独占的であったものと認められる(審161の2ないし4)。これに加え,《納入業者(127)》は,別紙5記載のとおり,取引先変更困難との回答及び取引継続必要との回答をしており,しかも,《納入業者(127)》の報告命令に対する報告書(査26の127)の作成責任者に確認した《納入業者(127)》の従業員は,上記の各回答が《納入業者(127)》全社としてみた場合でも変わらないと供述していること(査26の127の2)からすると,上記のような市場における地位の保持という点からも,家電量販店部門は《納入業者(127)》の経営全体の中で相対的に重要なものであったと認められる。そうすると,《納入業者(127)》にとっては,被審人との取引の継続が困難となれば,家電量販店部門における収益の大幅な落ち込みが予想され,家電量販店部門における事業方針の修正を余儀なくされるなど,全社的にみてもその後の事業経営に大きな支障を来すことが看取できるから,全社的にみれば被審人に対する取引依存度が小さかったとしても,なお《納入業者(127)》にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。その他,前記(a)で説示した点も総合考慮すれば,被審人の取引上の地位は《納入業者(127)》に対して優越していたものと認めるのが相当である。
その他,《納入業者(90)》は,別紙5記載のとおり,公正取引委員会の報告命令における取引先変更可能性の設問に対し,取引先変更困難との回答をしているものの(査26の90・設問2⑼),一方で,その従業員である《D》(以下「《D》」という。)は,参考人審尋及び陳述書において,被審人との取引がなくなった場合,そのてん補は困難であるといわざるをえないが,不可能ではないとか,2年で他の小売店に振り替えることが可能であると供述等する(審5,《D》参考人審尋速記録)。しかし,《納入業者(90)》が報告命令に対する報告書において,現に,上記のように取引先変更困難との回答をしていることに加え,報告命令に対する報告書において,取引継続必要との回答の理由として,「③ エディオンらとの取引額に見合う他の取引先を見つけること又は他の取引先との取引を増やすことでエディオンらとの取引停止に伴う損失を補うことが困難であるから」という選択肢を選んでいること(査26の90・設問2⑺),別紙5記載のとおり,《納入業者(90)》の被審人に対する取引額は多額であったところ,証拠によれば,大手家電量販店は,あらかじめ計画を立てて商品を仕入れており,計画によらない仕入れを基本的に行っていないものと認められ(査603の2,査641,《E》参考人審尋速記録,《F》参考人審尋速記録),特に取引額が多額である場合には,納入業者は被審人との間の取引を他の大手家電量販店との取引で容易に補うことはできなかったものと認められること,そして,《D》の供述を前提としても,《納入業者(90)》が被審人との取引を失った場合に,その損失をてん補することは困難であり,2年程度はかかることからすると,《納入業者(90)》において,被審人との取引を継続することができなくなった場合の損失を容易にてん補することができるなどとは認められず,被審人との取引継続が困難になることによる事業経営上の支障は十分大きいものと認められる。その他,前記(a)で説示した点も総合考慮すれば,被審人の取引上の地位は《納入業者(90)》に対して優越していたものと認めるのが相当である。
また,《納入業者(97)》は,別紙5記載のとおり,公正取引委員会の報告命令における取引先変更可能性の設問に対し,取引先変更困難との回答をしているものの(査26の97・設問2⑼),一方で,《納入業者(97)》の従業員である《G》(以下「《G》」という。)は,参考人審尋において,仮に,被審人から6か月前に予告がされた上で取引停止がされた場合でも,これによる損失を半分程度てん補できるとか,その場合でも,倒産の危機に陥るということはなく,他の部門の売上拡大等により,2,3年後にはその損失を補うことができると思うなどと供述している(《G》参考人審尋速記録)。しかし,まず,前記⑵のとおり,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来す場合に該当するといえるためには,必ずしも乙が倒産に瀕するような事業経営上の支障までは必要ではないから,《納入業者(97)》が被審人との取引の継続が困難になった場合に倒産の危機に陥ることがないからといって,《納入業者(97)》について,事業経営上大きな支障を来さないということはできない。また,《納入業者(97)》が,報告命令に対する報告書において,現に,上記のように取引先変更困難との回答をしていることに加え,報告命令に対する報告書において,取引継続必要との回答をした理由として,「③ エディオンらとの取引額に見合う他の取引先を見つけること又は他の取引先との取引を増やすことでエディオンらとの取引停止に伴う損失を補うことが困難であるから」という選択肢を選んでいること(査26の97・設問2⑺),別紙5記載のとおり,《納入業者(97)》の被審人に対する取引額は多額であったところ,上記のとおり,大手家電量販店は,あらかじめ計画を立てて商品を仕入れており,計画によらない仕入れを基本的に行っていないため,特に取引額が多額である場合には,納入業者は被審人との間の取引を他の大手家電量販店との取引で容易に補うことはできなかったものと認められること,《G》の供述を前提としても,被審人から6か月前に取引停止の予告がされたとしても,これを補えるのは半分程度というのであるし,仮に,被審人運営店舗で《納入業者(97)》の商品を購入していた顧客のうち,どの量販店で販売していたとしても《納入業者(97)》の商品を指名買いしてくれるという顧客が約半数いたとしても,他の量販店に追加で納品して,上記のような顧客の需要に対応することは困難であるというのであり(《G》参考人審尋速記録),しかも,他の部門の売上拡大等の方策を採っても回復に2,3年も要することなどからすると,《納入業者(97)》において,被審人との取引を継続することができなくなった場合の損失を容易にてん補することができるなどとは認められず,被審人との取引継続が困難になることによる事業経営上の支障は十分大きいものと認められる。その他,前記(a)で説示した点も総合考慮すれば,被審人の取引上の地位は《納入業者(97)》に対して優越していたものと認めるのが相当である。
c 次の6の納入業者(以下「6社」ということがある。)について
《納入業者(2)》,《納入業者(25)》,
《納入業者(45)》,《納入業者(94)》,
《納入業者(108)》,《納入業者(122)》
6社については,前記a及びbと同等の状況にはないとしても,前記アの事実に加え,別紙5記載の各事実,とりわけ,資本金額,年間総売上高,証拠(査26の2,査26の25,査26の45,査26の94,査26の108,査26の122)から認められる従業員数などに照らして6社の事業規模が極めて小さいと認められること等の事実を考慮すれば,被審人に対する取引依存度が小さいことを勘案しても,なお6社にとって,被審人との取引の継続が困難になることは事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれる。
すなわち,納入業者の多くは被審人よりも事業規模が小さいところ(前記a及びbに挙げた納入業者のうちにも事業規模が比較的小さい事業者が存在する。),殊に,6社のうちには,年間総売上高が被審人の年間総売上高(8000億円から9000億円台で推移)と比較して極めて少額である者がおり,被審人の事業規模が6社のそれより著しく大きい場合に当たると認められる(ガイドライン第2の2⑷)。これら小規模な納入業者にとってみれば,被審人との取引に代えて,新たな取引先と取引を開始し,あるいは既存の取引先との取引を拡大することは,その事業規模に照らし,必ずしも容易なことではない。なぜなら,納入業者の事業規模が小さければ,新たな取引の開始につながる,商品の需要や売れ筋等に関して入手できる情報も限定されると考えられるからである。他方で,これら小規模な納入業者が既に取引を行っている被審人は,前記アのとおり,家電製品等を扱う小売業を営む事業者として,その事業が拡大基調にあり,今後の取引の拡大を期待できる取引先であり,これら納入業者自らの事業活動の拡大や安定的な継続のためには,被審人との取引が必要かつ重要であると認められる。このような小規模な納入業者にしてみれば,被審人との取引の継続が困難となることは,直ちに資金繰りの悪化を招きかねず,その取引依存度が小さかったとしても,早急な事業方針の転換を迫られるなど事業経営に大きな支障を来す要因となり得るものである。
したがって,事業規模が極めて小さいこと等が認められる6社についても,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すものとうかがわれるということができる。
また,別紙5にそれぞれ記載した,取引先変更可能性の設問や取引継続必要性の設問,その他,公正取引委員会の報告命令に対する被審人との取引の重要性に関する設問に対する6社の回答内容等は,上記に考慮した客観的状況に沿うものといえる。
そして,6社についても,後記⑷に認定する被審人による不利益行為を受け入れていた事実が認められるところ,後記⑸のとおり,6社がこれら不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様からすれば,6社は,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあったことがうかがわれる。
以上を総合的に考慮すれば,6社は,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人が著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあり,被審人の取引上の地位は6社に対して優越していたものと認められる。
d 被審人の主張に対する判断
(a)納入業者は被審人との取引を中止しても容易に代替取引先を確保することが可能であったとの主張について
被審人は,各被審人運営店舗が競合他社の近隣店舗との極めて厳しい競合にさらされていたとして,納入業者の側からみれば被審人との取引を中止しても容易に代替取引先を確保することが可能であったと主張し,一部の被審人運営店舗についての競合店舗の存在やその在庫保有能力等についての証拠(審105の1ないし19,審399ないし審404)を提出する。
しかし,前記アのような被審人の資本金や売上高,店舗数,これらの家電量販店における順位等に鑑みると,被審人が家電製品等の小売業を営む家電量販店として有力な地位にあったことは明らかである。また,前記b(b)のとおり,大手家電量販店は,あらかじめ計画を立てて商品を仕入れており,計画によらない仕入れを基本的に行っていないものと認められる。これらの事実に加え,別紙5記載のとおり,92社が,取引先変更困難との回答をしていることからすると,92社が,被審人との間の取引が困難になった場合にその取引を他の大手家電量販店との取引で補うことが容易であったとは認められない。
したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。
(b)被審人に対する売上げと同等以上の新規取引先を獲得しているという納入業者について
被審人は,92社のうち,別紙5記載のとおり,報告命令に対する報告書において,平成19年4月1日以降に新規に継続的な取引を開始した取引先のうち,被審人と同程度又はそれ以上の売上高があるものが存在すると回答し(査26の各号・設問1⑽エ),あるいは,被審人アンケートに対する回答書において,平成20年9月以降に取引を開始した新規取引先があり,当該新規取引先に対する取引依存度が被審人に対する取引依存度を超えると回答(審1の各号・設問4.2.,同4.2.1.,審14)するなどした納入業者について,実際に新規に継続的な取引先を確保できていることからすると,被審人との取引を継続することができなくなったとしても,取引先の変更が困難ということはできず,事業経営上大きな支障は生じないから,被審人の取引上の地位が上記各納入業者に優越しているとは認められないと主張する。
しかし,上記各回答によっても,上記各納入業者が新規取引先との取引を開始した具体的な経過やその後の取引の状況は明らかではない。また,上記各納入業者に事業経営上の支障が生じるか否かは,新規取引先の有無だけではなく,従前からの取引先との取引状況が影響するから,上記各納入業者がある一時期に新規に取引を開始した取引先に対する売上高や取引依存度が被審人に対する売上高や取引依存度を超えていたとしても,そのことをもって,上記各納入業者にとって,被審人との取引を他の取引先に変更することが容易であったということはできない。そうすると,上記各回答をもって,被審人の取引上の地位が上記各納入業者に優越しているという前記aないしcの認定は左右されない。
したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。
(c)取引依存度が10パーセントに満たない納入業者については被審人との取引が失われても事業経営上大きな支障は生じないという主張について
被審人は,被審人との「取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来す」といえるためには,127社における被審人への取引依存度が少なくとも10パーセントは必要になると考えられるし,被審人への取引依存度が10パーセントに満たない127社について,取引依存度以外の事情によって「取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来す」ことについての立証もされていないから,被審人の取引上の地位が上記各納入業者に優越しているとは認められないなどと主張する(前記第5の1⑵イ(イ)a)。
しかし,事業経営上大きな支障となるか否かは,取引依存度のみによって定量的に決せられるものではない。
そして,本件においては,前記アのとおり,被審人は,家電製品等の小売業を営む家電量販店として有力な地位にあったこと,前記aないしcのとおり,92社は,被審人に対する取引依存度が10パーセントを下回る場合であっても,取引先に対する取引依存度における被審人の順位が高かったり,事業規模が小さかったりすること,その他,後記⑸に認定する被審人の不利益行為を127社が受け入れるに至った経緯や態様等の諸事情を総合的に考慮すれば,92社のいずれについても,審査官の主張する本件対象期間中,被審人の取引上の地位は92社に対して優越していたことが認められるものである。
したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。
(d)被審人に対する取引額と同規模以上の総売上額の減少を経験しているという納入業者について
被審人は,92社のうち,《納入業者(1)》,《納入業者(2)》,《納入業者(18)》,《納入業者(26)》,《納入業者(27)》,《納入業者(29)》,《納入業者(31)》,《納入業者(33)》,《納入業者(34)》,《納入業者(43)》,《納入業者(45)》,《納入業者(46)》,《納入業者(51)》,《納入業者(52)》,《納入業者(53)》,《納入業者(54)》,《納入業者(55)》,《納入業者(56)》,《納入業者(57)》,《納入業者(67)》,《納入業者(69)》,《納入業者(70)》,《納入業者(71)》,《納入業者(77)》,《納入業者(79)》,《納入業者(81)》,《納入業者(82)》,《納入業者(83)》,《納入業者(86)》,《納入業者(88)》,《納入業者(93)》,《納入業者(94)》,《納入業者(96)》,《納入業者(97)》,《納入業者(100)》,《納入業者(101)》,《納入業者(102)》,《納入業者(103)》,《納入業者(106)》,《納入業者(108)》,《納入業者(110)》,《納入業者(113)》,《納入業者(117)》及び《納入業者(122)》について,報告命令に対する報告書における回答(査26の各号・設問1⑽)からすると,3事業年度の間に被審人に対する売上高に相当し,又は,これを超える売上高の減少を経験しているところ,このような売上減少を経験しても何ら事業経営に支障が生じていないとして,被審人との取引の継続が困難となったとしても事業経営上大きな支障が生じるとは認められないから,被審人の取引上の地位が上記各納入業者に優越しているとは認められないと主張する。
しかしながら,まず,《納入業者(46)》については,上記3事業年度の間に被審人に対する売上高に相当し,又は,これを超える売上高の減少を経験したものとは認められない(査26の46)。
次に,その余の納入業者についても,そもそも,前記⑵のとおり,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来す場合に該当するといえるためには,必ずしも乙が倒産に瀕するような事業経営上の支障までは必要ではないから,上記各納入業者について,被審人に対する売上高以上の売上高の減少の後も事業経営を継続したからといって,当該売上高の減少によって,事業経営上,大きな支障が生じなかったとはいえない。しかも,証拠によれば,上記各納入業者の中には,その後,倒産処理を行った納入業者(《納入業者〔108〕》〔査26の108の2〕,)や,事業再編や事業部門の売却を行った納入業者(《納入業者〔26〕》〔査26の26の2〕,《納入業者〔27〕》〔査26の27の1〕,《納入業者〔51〕》.〔査26の51の2〕,《納入業者〔53〕》〔査642〕,《納入業者〔55〕》〔査644の1及び2〕,《納入業者〔70〕》〔査26の70の2〕,《納入業者〔79〕》〔査26の79の2〕,《納入業者〔103〕》〔査26の103の2及び3〕)など,実際に,事業経営に何らかの支障が生じたことがうかがわれる納入業者も存在する。しかも,上記各納入業者の総売上高の減少が,分社化や事業譲渡によるものであるとすると,被審人の主張を前提としても,この総売上高の減少との比較において,被審人に対する売上高を失った場合における当該納入業者の事業経営上の支障への影響を判断することはできないということになる。
そうすると,上記の各納入業者について,3事業年度の間に被審人に対する売上高を超える売上高の減少を経験していたとしても,被審人との取引の継続が困難となった場合に事業経営上大きな支障が生じないとはいえず,被審人の取引上の地位が上記各納入業者に対して優越しているという前記aないしcの認定は左右されない。
したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。
なお,その他,《納入業者(5)》,《納入業者(34)》,《納入業者(45)》,《納入業者(69)》,《納入業者(80)》,《納入業者(83)》,《納入業者(94)》,《納入業者(96)》,《納入業者(123)》及び《納入業者(126)》についても,別紙5記載のとおり,被審人アンケートに対する回答書において,過去に被審人との取引額を超えるような取引額を失ったが,これを全て補うことができたとか,これにより事業経営上大きな支障はなかったなどと回答しているものの(審1の各号・設問3.1.),上記回答における各納入業者の損失の内容やこれを補った具体的な方法,経過等は明らかではない。そして,上記各納入業者については,前記aないしcのとおり,被審人に対する取引依存度が高かったり,取引先に対する取引依存度における被審人の順位が高かったり,事業規模が小さかったりしていることに加え,後記⑸に認定する被審人の不利益行為を127社が受け入れるに至った経緯や態様等の諸事情を総合的に考慮すれば,上記各納入業者について,被審人との取引の継続が困難になった場合に,事業経営上大きな支障を来すという前記aないしcの認定は,上記回答によっても左右されないというべきである。
(e)被審人アンケートに対する回答書において,被審人との取引を失ったとしても,事業経営上大きな支障が生じない旨の回答(審1の各号・設問3.8.)をしている納入業者について
被審人は,92社のうち,別紙5記載のとおり,被審人アンケートに対する回答書において,被審人との取引が停止した場合に,一定の対策によって,半年程度の間に,被審人との取引停止に伴い失った取引額の一定割合を補えるなどとした上で(審1の各号・設問3.6.,同3.7.),「問3.6でお答えになった対策を講じても,失ったエディオンとの取引額を補いきれなかったとすると,御社全体の事業経営上,大きな支障が生じたと思いますか。」という設問に対し,「2 いいえ(御社全体の事業経営上,大きな支障とはならなかった。)」と回答している納入業者について(審1の各号・設問3.8.),被審人との取引の継続が困難となったとしても,事業経営上大きな支障は生じないから,被審人の取引上の地位が上記各納入業者に優越しているとは認められないと主張する。
しかし,被審人アンケートに対する回答書において上記の回答をした納入業者は,別紙5記載のとおり,いずれも,公正取引委員会の報告命令における「エディオンらとの取引を継続できず,エディオンらに代わる取引先を見つける必要が生じた場合の状況」についての設問(査26の各号・設問2⑼)に対し,報告命令に対する報告書において「イ エディオンらに代わる取引先を見つけること又は他の取引先との取引を増やすことでエディオンらとの取引停止に伴う損失を補うことは困難である」との回答(取引先変更困難との回答)をしていることからすると,上記の被審人アンケートに対する回答書における回答をもって,上記各納入業者の損失のてん補の可能性についての正しい認識が示されているものとは直ちに認め難い。そして,前記アのとおり,被審人は,家電製品等の小売業を営む家電量販店として有力な地位にあり,また,前記aないしcのとおり,上記各納入業者は,被審人に対する取引依存度が高かったり,取引先に対する取引依存度における被審人の順位が高かったり,事業規模が小さかったりしているほか,後記⑸に認定する被審人の不利益行為を127社が受け入れるに至った経緯や態様等の諸事情を総合的に考慮すれば,やはり,上記各納入業者についても,被審人の指摘する上記回答をもって,被審人との取引の継続が困難となった場合に当該納入業者に事業経営上大きな支障が生じないものと認めることはできず,被審人の取引上の地位が上記各納入業者に優越しているという前記aないしcの認定は左右されない。
したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。
(f)被審人による取引打切りが想定し難いという納入業者について
被審人は,家電量販店においては,その品ぞろえの点から納入業者との取引打切りが難しいとした上で,特に,《納入業者(1)》,《納入業者(7)》,《納入業者(11)》,《納入業者(15)》, 《納入業者(18)》,《納入業者(19)》,《納入業者(22)》,《納入業者(26)》,《納入業者(27)》,《納入業者(28)》,《納入業者(29)》,《納入業者(31)》,《納入業者(35)》,《納入業者(37)》,《納入業者(38)》,《納入業者(39)》,《納入業者(47)》,《納入業者(48)》,《納入業者(52)》,《納入業者(53)》,《納入業者(55)》,《納入業者(58)》,《納入業者(60)》,《納入業者(61)》,《納入業者(64)》,《納入業者(68)》,《納入業者(71)》,《納入業者(73)》,《納入業者(74)》,《納入業者(75)》,《納入業者(79)》,《納入業者(81)》,《納入業者(83)》,《納入業者(85)》,《納入業者(86)》,《納入業者(89)》,《納入業者(90)》,《納入業者(91)》,《納入業者(93)》,《納入業者(96)》,《納入業者(97)》,《納入業者(98)》,《納入業者(100)》,《納入業者(106)》,《納入業者(110)》,《納入業者(113)》,《納入業者(114)》,《納入業者(116)》,《納入業者(117)》,《納入業者(121)》,《納入業者(124)》,《納入業者(126)》及び《納入業者(127)》が納入する商品は,その国内シェアや被審人における取扱商品の構成比,ブランド力,差別化商品(オリジナル商品)の存在などの観点から被審人の売場の商品構成に不可欠なため,被審人が上記各納入業者との取引を打ち切ることは想定し難く(審89,審238,審242,審243,審245ないし審249,審251,審253,審254,審256,審257,審259,審266ないし審269,審390,審397,審398,《D》参考人審尋速記録),別紙5記載のとおり,これは当該納入業者の認識によっても裏付けられているなどとして(審1の各号,審3,審5,審6,審34,《H》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録,《J》参考人審尋速記録),被審人の取引上の地位が上記各納入業者に優越しているとは認められないと主張する(審281,審282)。
しかしながら,そもそも,仮に,上記各納入業者が被審人に納入する商品が被審人の売場の商品構成に重要なものであり,被審人が上記各納入業者との取引を安易に打ち切ることは想定し難い面があったとしても,このことのみをもって,直ちに上記各納入業者に対する被審人の優越的な地位が否定されるものではない。すなわち,全国的に消費者に対する知名度が高いなど,いわゆるブランド力があるとか,市場内で高いシェアを有している商品を販売する納入業者にとっては,その市場での地位を維持するため,様々な販路を設けることが必要であり,前記アのとおり,家電製品等の小売業を営む家電量販店の中で連結売上高及び店舗数(フランチャイズ店を含む。)がいずれも第2位であり,しかも,本件対象期間における事業規模が拡大していた被審人のような小売業者は,極めて重要な取引相手ということができる。このことからすれば,かかる納入業者側においても,被審人のようないわば小売業者として市場において有力な地位を有する取引相手に対し,その取引を打ち切ることは想定し難いのであって,納入業者がブランド力のある商品や消費者に人気のある商品を小売業者に販売していることなどから,被審人の側においても当該納入業者と取引をする必要があるという事実のみをもって,直ちにこれら納入業者に対する小売業者の優越的な地位が否定されるものではない。そして,被審人が家電製品等の小売業を営む家電量販店として有力な地位にあったこと(前記ア)に加え,上記各納入業者については,それぞれ,前記aないしcで説示したとおり,被審人に対する取引依存度や取引先に対する取引依存度における被審人の順位が高かったり,事業規模が小さかったりするといった事情が認められること,後記⑸に認定する被審人の不利益行為を127社が受け入れるに至った経緯や態様等の諸事情を総合的に考慮すれば,上記各納入業者との取引が被審人にとって必要であることをもって,被審人の取引上の地位が上記各納入業者に対して優越するという前記aないしcの認定を左右するものとは認められない。
したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。
なお,上記の点は,別紙5記載のとおり,被審人アンケートに対する回答において,競合他社との競争状況や市況により取引量が変動することはあっても,被審人が取引を停止することは考えられなかったとの回答(審1の各・設問3.5.)をしている納入業者についても同様であり,やはり,被審人の取引上の地位が上記各納入業者に対して優越しているという前記aないしcの認定は左右されない。
(g)報告命令に対する報告書において価格等の取引条件に関し被審人と対等に交渉できる旨の回答をしている納入業者について
被審人は,《納入業者(12)》以外の全ての納入業者について,別紙5記載のとおり,報告命令に対する報告書において,被審人らとの間における価格等の取引条件に関する交渉についての設問(査26の各号・設問2⑾)に対する回答として,「イ 交渉はない」とか,同様の設問(査26の各号・設問2⑿)に対する回答として,「ウ 貴社の条件提示が受け入れられることもあるし,受け入れられないこともある」,「エ 貴社の条件提示がほとんど受け入れられる」,「オ 貴社の条件提示が全て受け入れられる」などという選択肢を選択しているところ,上記のような回答は,上記各納入業者において,被審人との間で価格等の取引条件の交渉を自由かつ自主的な判断に基づき対等に行っていたことを示すものであり,被審人の取引上の地位が上記各納入業者に優越していることを否定すべき要素になる旨主張する。
しかし,上記各納入業者について,仮に,価格等の取引条件の交渉の場面において,被審人と対等に交渉できたとか,自身の提示する条件が受け入れられたという事情が認められたとしても,このような継続的取引の中の一場面における事実のみをもって,被審人の取引上の地位が,上記各納入業者に対して優越していなかったとは認められない。一方で,前記アのとおり,被審人が家電製品等の小売業を営む家電量販店として有力な地位にあったこと,前記aないしcのとおり,92社は,被審人に対する取引依存度や取引先に対する取引依存度における被審人の順位が高かったり,事業規模が小さかったりするといった事情が認められること,さらに,後記⑸に認定する被審人の不利益行為を127社が受け入れるに至った経緯や態様等の諸事情を総合的に考慮すれば,客観的に見たときに,被審人の取引上の地位が上記各納入業者に優越していたという前記aないしcの認定は左右されないというべきである。
したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。
(h)グループ全体の事業規模が大きい納入業者について
被審人は,《納入業者(1)》,《納入業者(7)》,《納入業者(18)》,《納入業者(19)》,《納入業者(22)》,《納入業者(26)》,《納入業者(31)》,《納入業者(39)》,《納入業者(52)》,《納入業者(53)》,《納入業者(54)》,《納入業者(55)》,《納入業者(61)》,《納入業者(66)》,《納入業者(71)》,《納入業者(73)》,《納入業者(83)》,《納入業者(84)》,《納入業者(90)》,《納入業者(97)》,《納入業者(100)》,《納入業者(106)》,《納入業者(110)》,《納入業者(113)》,《納入業者(114)》,《納入業者(117)》,《納入業者(118)》,《納入業者(121)》及び《納入業者(126)》について,資本関係のある親会社やグループ会社との連結売上高や連結経常利益率が被審人よりも高いことをもって(審118ないし127,審132ないし審135,審137,審138,審141ないし審143,審146,審148,審150ないし審156),被審人の取引上の地位が上記各納入業者に優越していないことを示す事情の一つであると主張する(格別の主張はされていないが,《納入業者〔35〕》についても,同様の点が問題となり得る。)。
しかしながら,そもそも,前記⑵のとおり,甲が乙に対して優越的な地位にあるか否かは,乙の甲に対する取引依存度,甲の市場における地位,乙にとっての取引先変更の可能性,その他甲と取引することの必要性,重要性を示す具体的な事情を総合的に考慮して判断されるものであって,大企業と中小企業との取引だけでなく,大企業同士,中小企業同士の取引においても,取引の一方当事者の取引上の地位が他方当事者に優越していると認められる場合があるから,単に,売上高の大小をもって,被審人が納入業者に対して優越的な地位にあるか否かを判断することはできない(特に,利益率の高低は,事業者の事業の効率性を測る指標にすぎず,優越的な地位の有無の判断をする際の要素として考慮すべきものとは認められない。)。また,被審人と直接に取引していたのは納入業者自身であって,仮に,商談の際にグループ会社の担当者が同席するなどの事実があったとか(審388,審389,《I》参考人審尋速記録),実際,被審人と《納入業者(55)》の間では,まず,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店における店舗開設準備作業の日程等が被審人から《事業者K》(以下「《事業者K》」という。)に対して送付され,それを受けて,《事業者K》が《納入業者(55)》ら各地域販社に対してこの日程等を伝達していたという実情があったとしても(審34〔添付の査213〕,《I》参考人審尋速記録),本件従業員等派遣をするか否かの判断を行っていたのは飽くまで当該納入業者であるから(例えば,査26の31の2,査26の73の2,査26の114の2,査604の1,査607,査608,査611,査615の1及び2,審4ないし審6,《H》参考人審尋速記録,《L》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録),当該納入業者について,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人から著しく不利益な要請等を受けても,これを受け入れざるを得ないか否かは,当該納入業者自身を基準にして判断されるべきであり,被審人が指摘するように,その納入業者と強い資本関係にある会社が存在するとか,被審人と当該納入業者との交渉の際に,当該他の会社の従業員が同席するなどの事情があったとしても,前記aないしcの認定は左右されないというべきである。
したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。
(イ)次の35の納入業者(以下「35社」ということがある。)について
《納入業者(3)》,《納入業者(4)》,
《納入業者(8)》,《納入業者(13)》,
《納入業者(14)》,《納入業者(15)》,
《納入業者(16)》,《納入業者(17)》,
《納入業者(23)》,《納入業者(24)》,
《納入業者(36)》,《納入業者(40)》,
《納入業者(41)》,《納入業者(42)》,
《納入業者(44)》,
《納入業者(47)》,《納入業者(50)》,
《納入業者(59)》,《納入業者(60)》,
《納入業者(72)》,《納入業者(74)》,
《納入業者(76)》,《納入業者(78)》,
《納入業者(85)》,《納入業者(91)》,
《納入業者(92)》,《納入業者(95)》,
《納入業者(98)》,《納入業者(99)》,
《納入業者(104)》,《納入業者(111)》,
《納入業者(115)》,《納入業者(116)》,
《納入業者(124)》,《納入業者(125)》
a 35社については,別紙5に記載した事実をみても,そのほとんどが前記(ア)aないし同cと同等の状況にあるとは認められない。
確かに,35社のうちには,前記(ア)aないし同cと同等の状況にあるかに見受けられる納入業者もあるが,それらの納入業者は,例えば,報告命令に対する報告書において,取引先変更可能性の設問(査26の各号・設問2⑼)に対し,取引先変更困難との回答ではなく,「ア エディオンらに代わる取引先を見つけること又は他の取引先との取引を増やすことでエディオンらとの取引停止に伴う損失を補うことは容易である」との回答をし,かつ,報告命令に対する報告書において,取引継続必要性に対する設問(査26の各号・設問2⑺)に対し,取引継続必要との回答をした理由として,「③ エディオンらとの取引額に見合う他の取引先を見つけること又は他の取引先との取引を増やすことでエディオンらとの取引停止に伴う損失を補うことが困難であるから」という選択肢を選んでいないなど,被審人の取引上の地位が優越していたとはいえないことを示す相応の事情も認められる。
これらの事情を総合的に考慮すれば,前記アの事実を勘案しても,35社にとって,被審人との取引の継続が困難になることが直ちに事業経営上大きな支障を来すものとは認められない。
また,35社については,後記⑷で認定するとおり,その全てが被審人による不利益行為を受け入れていたという事実が認められるものの,後記⑸のような被審人による不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様を勘案しても,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すために,被審人が著しく不利益な要請等を行ってもこれを受け入れざるを得ないような場合にあったとまではなお断ずることはできない。
その他,被審人の取引上の地位が35社に対して優越していたとまで認めるに足りる的確な証拠はない。
b なお,審査官は,家電製品等の納入業者にとって取引先の変更が一般的に困難であったという事情が存在するなどとして,公正取引委員会の報告命令における取引先変更可能性の設問(査26の各号・設問2⑼)に対し,「ア エディオンらに代わる取引先を見つけること又は他の取引先との取引を増やすことでエディオンらとの取引停止に伴う損失を補うことは容易である」と回答していたとしても,当該回答をした納入業者について,直ちに取引先の変更が容易であったとは認められないと主張するが,被審人の主張する我が国の家電製品等の小売業の市場の状況や前記アの被審人の市場における地位,その他,被審人に対する取引依存度やその順位,企業規模のほか,別紙5に記載したような報告命令に対する報告書における回答等を考慮しても,公正取引委員会の報告命令における取引先変更可能性の設問に対して,納入業者が,上記のように,損失を補うことが容易であるという回答をしているにもかかわらず,当該納入業者において,取引先の変更が困難であったと認めるに足りる証拠はないというべきである。
また,審査官は,35社のうち,《納入業者(42)》について,公正取引委員会の報告命令における取引先変更可能性の設問に対し,「ア エディオンらに代わる取引先を見つけること又は他の取引先との取引を増やすことでエディオンらとの取引停止に伴う損失を補うことは容易である」と回答している(取引先変更困難との回答をしていない)ものの(査26の42・設問2⑼),一方で,その理由として「エディオン傘下の店舗《店舗名略》がなんらかの形で存続してくれれば,当社にとって大きな損失はない」と記載している(査26の42・設問2⑽)ことなどから,《納入業者(42)》については,取引先変更可能性の設問に対して上記のような回答をしていたとしても,直ちに,被審人との取引を継続することができなくなった場合に取引先の変更が容易であったとは認められないと主張する。しかしながら,《納入業者(42)》は,他方で,公正取引委員会の報告命令における取引先変更可能性の設問に対して損失てん補可能と回答した理由として,「エディオンの中の一部門としか元々取引がない」(査26の42・設問2⑽)とも回答していること,また,前記aのとおり,報告命令に対する報告書において,取引継続必要との回答をしているところ,その理由として,「③ エディオンらとの取引額に見合う他の取引先を見つけること又は他の取引先との取引を増やすことでエディオンらとの取引停止に伴う損失を補うことが困難であるから」という選択肢を選んでいないこと(査26の42・設問2⑺)からすると,やはり,《納入業者(42)》が,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すために,被審人が著しく不利益な要請等を行ってもこれを受け入れざるを得ないような場合にあったとまではなお断ずることはできない。
その他,審査官は,被審人の従業員が一部の納入業者の担当者に対して,およそ対等な当事者間でとられるものではない態度をとっていたにもかかわらず,当該納入業者が被審人との取引を継続しているのは,当該納入業者にとって被審人との取引が必要であったことを示しており,これが当該納入業者に対して被審人が優越的地位を有していたことを示すものであると主張するところ,審査官の上記主張によれば,35社のうち,《納入業者(40)》,《納入業者(44)》,《納入業者(60)》,《納入業者(91)》,《納入業者(92)》,《納入業者(98)》,《納入業者(116)》がこれに該当するものと認められるものの,上記のような被審人の従業員の一部の態度をもって,上記各納入業者について,被審人との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すために,被審人が著しく不利益な要請等を行ってもこれを受け入れざるを得ないような場合にあったと認めることはできない。
ウ 小括
以上のとおり,前記イ(ア)に記載の27社,59社及び6社の合計92社にとっては,審査官の主張する本件対象期間中,被審人との取引の継続が困難となることが事業経営上大きな支障を来すため,被審人が92社にとって著しく不利益な要請等を行っても,これを受け入れざるを得ないような場合にあったものというのが相当であり,被審人の取引上の地位が92社に対して優越していたものと認められる。
これに対し,前記イ(イ)に記載の35社については,被審人の取引上の地位が35社に優越していたと認めるに足りる証拠はない。
(4)被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことは不利益行為に当たるか
ア 被審人が127社に対して従業員等の派遣を依頼し,127社がこの依頼に応じて従業員等を派遣したこと
(ア)被審人が別表2記載の被審人運営店舗の新規開店又は改装開店に際して127社に対して従業員等の派遣を依頼したこと
a 証拠によれば,本件対象期間(平成20年9月6日から平成22年11月29日までの期間)において,被審人の店舗支援部の者,被審人のMD,被審人の在庫コントローラー担当長が,ストアブランドに関わらず,又は,ストアブランドに応じて,被審人の財務経理・管理担当部門の者はデオデオの店舗につき,株式会社エイデン営業管理部営業管理課の者はエイデンの店舗につき,株式会社東京エディオンの者はエディオン又はイシマルの店舗につき,被審人又は被審人事業子会社のFMDは担当ストアブランドの担当商品につき,店舗責任者等は自身の店舗につき,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店に先立って,納入業者に対し,文書の送付,電子メールの送信又は口頭により,当該店舗及び店舗開設準備作業の日程を連絡したり(査95等の各証拠),棚割表を送付したりしていたものと認められ(査148等の各証拠),これらの事実によれば,被審人又は被審人事業子会社の担当者は,実際に,別表2記載の被審人運営店舗の新規開店又は改装開店に先立って,当該被審人運営店舗に従業員等を派遣した納入業者に対し,店舗開設準備作業の日程等の連絡を行ったものと認められる。
b 次に,前記aの店舗開設準備作業の日程等の連絡が,従業員等派遣を依頼する趣旨のものであったかについて検討するに,まず,ヤマダ電機が平成20年6月30日に公正取引委員会から本件に類似する従業員等の派遣要請・使用をしたという事件(ヤマダ電機事件)について排除措置命令(平成20年(措)第16号)を受ける以前において,被審人が,納入業者に対し,店舗の新規開店又は改装開店の際,商品の搬出,商品の搬入又は店作りのために従業員等の派遣を依頼していたことは争いがないところ,証拠によれば,①ヤマダ電機事件を契機として,被審人の一部の担当者において,従業員等の派遣を要請する趣旨によるものであることを明記せず,店舗開設準備作業の日程のみを納入業者に連絡する方法を採るようになったものの(主なものとして,査104の1ないし44,査105,査107,査121,査162,査163,査182,査191,査205,査207,査209,査326),この連絡に際し,納入業者が当該納入業者の従業員等を派遣する必要がないなどと記載してはおらず(主なものとして,査102,査163,査166,査167),ヤマダ電機事件より前に使用していた明示的に従業員等の派遣の要請を行っていたものから変更したことの説明もしていなかったこと(主なものとして,査124,査163,査167),②ヤマダ電機事件の後の本件対象期間においても,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際,店舗開設準備作業の日程等を連絡する文書や電子メールの一部,棚割表を送付するメールの一部,その他,これらに関連する電子メールの一部には,ヤマダ電機事件の以前と同様,従業員等の派遣を依頼する趣旨の文言が記載されていたこと(査138ないし査144,査146ないし査161,査171,査230,査234,査235,査237,査242ないし査244,査273,査317,査319,査335ないし査337,査342,査353,査357,査379,査385,査409,査492,査506,査507,査524,査526,査527,査554,査555,査557,査566,査569,査572,査573,査657の2ないし4,査658の1及び2,査665,査666,査589の2及び3,査661,査670の1及び2,査672の1ないし3),③被審人が作成した店作りに関するマニュアル(「2009年12月現在」)等にも,納入業者による従業員等派遣を前提とする記載(査593)や納入業者から派遣された従業員が店作りを行うことを前提とする記載(査591〔別表1,資料1ないし5〕,査592,査593,査595)が存在したこと,④被審人及び被審人事業子会社の内部において,店作りなどについて,納入業者に応援を求めていることを示すやり取りなどがされていること(査170,査172,査233,査297,査299の1,査300,査318,査380,査433,査517,査669),⑤各被審人運営店舗の新規開店又は改装開店に際しても,納入業者の応援を求めることなどを前提とした文書が作成されていること(査39,査368,査423,査493,査501,査659,査675の1)などが認められるのに加え,店舗開設準備作業の日程連絡をした被審人又は被審人事業子会社の担当者の一部が,店舗開設準備作業の日程等の連絡について,従業員等の派遣を依頼する趣旨で行っていた旨供述している(査52ないし査58,査61ないし査63,査82,査85ないし査87,査90ないし査93,査98,査101,査106,査107,査111,査120,査126,査165,査214,査280,査281,査286ないし査289,査301,査328,査343,査502。なお,《M1》の供述調書〔査53〕の内容と異なる内容の同人作成の陳述書〔審415〕や《M2》の供述調書〔査63〕の内容とは異なる内容の同人作成の陳述書〔審405〕が,当初の審判手続終結後に作成されて再開後の審判手続で提出されているが,従前の供述を覆す部分はにわかに信用することができない。)。
一方,納入業者における前記aの店舗開設準備作業の日程等の連絡の受け止めについても,証拠によれば,①被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際,被審人又は被審人事業子会社の担当者から店舗開設準備作業の日程等の連絡を受けた納入業者の担当者は,被審人の従業員に対し,特に従業員等を派遣しない場合に,その旨の返答をすることがあったほか,従業員等を派遣する場合も,その旨や参加する従業員等の人数について返答することが少なくなかったこと(査55ないし査58,査124,査142ないし査144,査154,査157,査159,査161,査162,査167ないし査169,査174,査175,査286,査289,査313,査317,査325,査336,査337,査342,査348,査357,査367,査381,査409,査431の2,査473,査486,査495,査545,査606の1,査611,査612,査615の1,査619,査662の1ないし4,査671の1ないし3,審80ないし審82),②上記の連絡を受けた納入業者の従業員が,自身が店舗開設準備作業に参加できないという場合に,代わりの者を派遣するなど,従業員等の派遣の要請であることを前提とした対応を採ることがあったこと(査168,査169,査174,査175等),③一部の納入業者は,同種の商品を納入する他の納入業者と調整をした上で,被審人の担当者に対し,店作りに係る日程及び店作りに派遣する従業員等の分担を連絡するなどしていたこと(査215ないし査220,査308,査312,査322,査329,査338,査350,査362,査363,査374,査378,査389,査394,査402,査417,査424,査437,査446,査457,査463,査490,査497,査508,査533,査537,査564)などが認められるのに加え,被審人又は被審人事業子会社の担当者から店作りの日程の連絡を受けた納入業者の担当者の一部は,店作りの日程の連絡は,従業員等の派遣要請の趣旨であると受け止めていたと供述している(査52ないし査55,査61,査106,査107,査126,査165,査168,査169,査174,査175,査214,査280,査286,査289,査431,査604の2,査605,査606の1,査608ないし査613,査615の1ないし3,査616ないし査619,《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《L》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録,《J》参考人審尋速記録)。
以上のような各事実及び各供述によれば,別表2記載の被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際,被審人の担当者が従業員等派遣をした納入業者に対して行った店舗開設準備作業の日程等の連絡は,店舗開設準備作業のために従業員等の派遣を依頼する趣旨を含むものであったと認めるのが相当である。
c これに対し,被審人は,別表2記載の被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際に納入業者に対して行った店舗開設準備作業の日程等の連絡は,納入業者が店舗に直接納品する場合にその商品の納入日が判断できるようにするため,あるいは,納入業者が自社商品の陳列,装飾を行うとすればその日はいつになるのかを判断できるようにするためのものであって,従業員等の派遣を要請するものではなかったと主張し,これに沿う内容の被審人の従業員の陳述書(審129,審389,審405,審406,審415,審416),納入業者の従業員の陳述書(審2,審3),被審人代理人弁護士による納入業者の従業員に対するヒアリング結果報告書(審63)を提出するほか,被審人から従業員等の派遣要請を受けたことを否定する旨の記載がされている一部の納入業者の報告命令に対する報告書(査26の各号・設問3⑴,査26の33・設問3⑸,査303の14)及び被審人による従業員等派遣の要請を否定する旨の参考人審尋における参考人の供述(《L》参考人審尋速記録,《J》参考人審尋速記録)を指摘する。
しかしながら,前記bで説示したとおり,被審人又は被審人事業子会社からの新規開店又は改装開店をする店舗及び日程等の連絡について,少なからぬ納入業者の担当者が従業員等派遣の要請であったと認識している旨の供述をしているところ,一部の納入業者に対する店舗開設準備作業の日程等の連絡が従業員等の派遣の要請として行われたものであり,それ以外の納入業者に対するものが従業員等の派遣の要請として行われたものではなかったということは考えられない。そして,被審人又は被審人事業子会社の担当者が,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店に先立って,納入業者の担当者に対して送付した店舗開設準備作業の日程等を連絡する文書や電子メールの一部に,被審人が従業員等の派遣を依頼していたヤマダ電機事件以前と同様,従業員等の派遣を要請する趣旨の文言が記載されていたことは前記bで認定したとおりであり,その他,前記bで認定した各事実や供述等からすると,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際,納入業者に対してされた店舗開設準備作業の日程等の連絡は,文書や電子メールに従業員等の派遣を依頼することを示す文言がない場合を含めて,単に納入業者の便宜のために送付したものではなく,納入業者に対して従業員等の派遣を依頼する趣旨を含むものであったことは明らかというべきである。
また,被審人は,別表2記載の被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際に納入業者に対して行った店舗開設準備作業の日程等の連絡が従業員等の派遣を要請するものではなかったという上記主張に沿うものとして,店舗の新規開店又は改装開店の際の店作りの日程等の情報が必要である旨の納入業者又はその関連会社の従業員の陳述書(審388,審394),納入業者の取引先担当者からのヒアリング結果報告書(審61),被審人運営店舗の開店等の情報の連絡を被審人に対して求める一部の納入業者の担当者作成の電子メール(審85ないし審88等)を提出するほか,同趣旨の内容を供述する参考人審尋における参考人の供述(《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録,《J》参考人審尋速記録)を指摘するが,仮に,上記の納入業者又はその関連会社の一部において,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際における店作りの日程等の情報の連絡を受けることが納入業者にとって有益であると考えていたとしても,被審人の納入業者に対する連絡が,従業員等派遣を依頼する趣旨のものであったこと自体と相容れないものではない。
したがって,別表2記載の被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際に納入業者に対して行った店舗開設準備作業の日程等の連絡について,従業員等の派遣を要請するものではないとする被審人の主張を採用することはできない。
d 以上によれば,被審人は,本件対象期間中,別表2記載の被審人運営店舗の新規開店又は改装開店に際し,127社のうちで当該被審人運営店舗に従業員等を派遣した納入業者に対し,商品の搬出,商品の搬入及び店作りを依頼していたものと認められる。
(イ)127社が本件従業員等派遣をしたこと
前記第3の4及び証拠(査26の128,査303の1ないし127,査304,査306の1ないし28)によれば,127社は,本件対象期間において,別表2記載の被審人運営店舗の新規開店又は改装開店に際し,店舗開設準備作業のため,別紙3のとおり(《納入業者〔35〕》は,平成20年12月1日に設立された会社であるから〔査26の35の2及び3〕,別紙3記載の従業員等派遣のうち,番号51,14,15,53,54,89,55,56,16,17のの従業員等派遣を行ったものとは認められない。以下同じ。),従業員等の派遣(本件従業員等派遣)を行っていたものと認められる。
(ウ)小括
前記(ア)及び(イ)の各事実に加え,証拠(査26の各号,査302ないし査306,査509)によれば,被審人は,本件対象期間(平成20年9月6日から平成22年11月29日までの間)において,127社に対して,店舗開設準備作業の日程等を連絡するなどして従業員等の派遣を依頼し,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際の店舗開設準備作業(商品の搬出,商品の搬入又は店作り)のため,別紙3のとおり,127社から本件従業員等派遣という役務の提供を受けた(127社に本件従業員等派遣をさせた)ものと認められる。
イ 被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことは不利益行為に該当するか
次に,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことが前記⑵に述べた不利益行為に該当するかについて検討する。
(ア)従業員等の派遣を受ける行為が不利益行為となる場合
本件における被審人と納入業者との間の取引は買取取引であるが,このような取引についてみれば,売主は,買主に商品を引き渡すことにより取引契約上の義務を履行したこととなるところ,買主が小売業者である場合に,買主の新規店舗の開設,既存店舗の改装及びこれらの店舗での開店セール等の際に,買取取引で仕入れた商品を他の陳列棚から移動させ,又は新たに若しくは補充として店舗の陳列棚へ並べる作業や,接客するという作業などは,買主が消費者に商品を販売するための準備作業又は消費者に対する販売作業そのものであり,本来買主が行うべき役務であって,売主が自社の従業員等を派遣して上記のような作業に当たらせること(以下「新規店舗開設等作業のための従業員等派遣」という。)は,売主としては当該従業員等による労務をその派遣の期間逸失するものであることに加えて,交通費などの派遣に必要となる費用が発生した場合には,当該費用を負担することになることから,売主にとって通常は何ら合理性のないことであり,そのような行為は,原則として不利益行為に当たることになる。
もっとも,新規店舗開設等作業のための従業員等派遣については,例外的に,①従業員等の業務内容,労働時間及び派遣期間等の派遣の条件について,あらかじめ相手方と合意し,かつ,派遣される従業員等の人件費,交通費及び宿泊費等の派遣のために通常必要な費用を買主が負担する場合(以下「従業員等派遣例外事由①」という。),②従業員等が自社の納入商品のみの販売業務に従事するものなどであって,従業員等の派遣による相手方の負担が従業員等の派遣を通じて相手方が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり,相手方の同意の上で行われる場合(以下「従業員等派遣例外事由②」といい,従業員等派遣例外事由①と併せて単に「従業員等派遣例外事由」という。)は,不利益行為には当たらないと解される。
以上のとおり,相手方に新規店舗開設等作業のための従業員等派遣をさせる行為については,従業員等派遣例外事由はあるものの,通常は相手方にとって何ら合理性のないことであるから,従業員等派遣例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,不利益行為に当たると認めるのが相当である。
この点,被審人は,従業員等の派遣をさせることが濫用行為(不利益行為)とされるためには,納入業者の不利益が単なる不利益ではなく,公的秩序にまで関わりを持つレベルに達した著しく過大な不利益であることが要件となると主張するが,著しく過大な不利益に至らない不利益を課す場合であっても,これを優越的地位を有するものが取引相手に行わせれば,公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれは否定できないのであるから,納入業者の不利益が著しく過大である場合に限って濫用行為(不利益行為)に該当するという被審人の主張を採用することはできない。
また,上記の「直接の利益」とは,例えば,取引の相手方が納入する商品の売上増加,取引の相手方による消費者ニーズの動向の直接把握につながる場合など実際に生じる利益をいい,従業員等の派遣をすることにより将来の取引が有利になるというような間接的な利益を含まないものと解されるところ(ガイドライン第4の2⑵ア〔注12〕),被審人は,「直接の利益」の有無は取引の相手方(納入業者)の認識を重視して判断すべきであり,この「直接の利益」には,不利益行為自体とは直接的に関係のないものや,金銭換算し得ないものも含めるべきであるとして,相手方が将来の実現可能な具体的利益を期待して不利益行為を受け入れることも,取引実態からみて正常な商慣習に照らし不当なものでない限り,取引の相手方に著しく過大な不利益を与えるものとは認められないから,濫用行為には該当しないと解すべきであると主張する。しかし,「直接の利益」の有無の判断において,取引当事者の認識を考慮する必要が全くないとは解されないものの,公正な競争秩序を回復し,自由競争経済秩序を維持するという独占禁止法の目的からすると,その有無について,取引当事者の認識のみをもって判断したり,これを過度に重視して判断したりするのは相当とは解されない。また,上記のとおり,「直接の利益」には,消費者ニーズの動向の直接把握のように必ずしも計測可能でないものも含まれるものと解されるものの,新規店舗開設等作業のための従業員等派遣を行った場合に,その対価となるものが発生するか,発生するとして準備作業の負担に見合うものであるかを客観的に検証できる事情が存在しなければ,当該従業員等派遣を行う者は,義務なき準備作業に応じるか否かを事前に判断できず,あらかじめ計算できない不利益や合理的範囲を超える負担を負うことになることからすると,従業員等の派遣による相手方の負担が合理的な範囲内であることを基礎付ける利益については,それが新規店舗開設等作業のための従業員等派遣に応じたことと直接結び付いたものであることが必要であり,新規店舗開設等作業のための従業員等派遣を行うことにより将来の取引が有利になるというような「間接的な利益」はこれに当たらないものと解するのが相当である。よって,このような解釈に反する限りにおいて,被審人の上記主張を採用することはできない。
(イ)本件従業員等派遣をさせた行為が原則として不利益行為に当たること
a まず,前記第3の3⑶記載の被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際の店舗開設準備作業(商品の搬出,商品の搬入及び店作り)の作業内容からすると,これらのために行われた本件従業員等派遣は,前記(ア)の新規店舗開設等作業のための従業員等派遣に該当するものと認められる。なお,本件排除措置命令で認定された本件違反行為には,127社から派遣された従業員等による販売行為は含まれていないものの,新規店舗開設等作業のための従業員等派遣に含まれる全ての作業がされなければ新規店舗開設等作業のための従業員等派遣に該当しないというものではなく,販売行為などの一部の行為がされない場合であっても,前記(ア)の考え方は妥当するものと解される。
b 次に,被審人は小売業者であり,127社はいずれも被審人に商品を納入する納入業者であるところ,被審人と127社との間でされた取引は,前記第3の2⑴のとおり,被審人による商品の仕入取引であって,そのほぼ全てが買取取引であり,同⑶のとおり,被審人と納入業者との間の取引基本契約書等では,新規開店又は改装開店を行う店舗で展示又は陳列する商品と店舗の倉庫で在庫として保管する商品とを問わず,納入業者は,物流センターにおいて商品を引き渡すものとされていた。
この点,被審人の元書籍担当MDの従業員は,被審人と《納入業者(78)》との取引について,その取引形態が委託取引である旨供述するものの(審252),証拠によれば,被審人と《納入業者(78)》との取引基本契約書には,「第2条(取扱商品) 乙は,甲の取扱う商品・・・を買受け」など,被審人と《納入業者(78)》との契約が買取取引であったことを前提とする規定が複数存在すること(査26の78の3〔第2条,第7条,第12条第3項〕),その余の被審人と《納入業者(78)》との契約書類にも,委託販売であることを前提とした記載は見当たらないこと(査26の78の4及び5),《納入業者(78)》自身も,報告命令に対する報告書において,被審人との取引形態が買取取引であると回答したこと(査26の78・設問2⑵)が認められ,これらの事実からすると,被審人と《納入業者(78)》との取引は,返品条件付きの買取取引であったものと認められる。
また,上記の被審人と《納入業者(78)》との取引のほか,証拠によれば,被審人と《納入業者(85)》との取引の一部についても,被審人と《納入業者(78)》との取引と同様,被審人の解約権が留保されていたものと認められる(査26の85・設問2⑵,審260,審261,審263)。しかし,上記各納入業者と被審人との間の取引において被審人の解約権が留保されていたとしても,前記第3の2⑶のとおり,上記各納入業者は被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際の商品の搬出,商品の搬入及び店作りを行うべき契約上の義務を負っていたものと認めることはできないから,やはり,従業員等派遣例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,被審人が上記各納入業者に本件従業員等派遣をさせたことが不利益行為に当たると認めるのが相当であることは,他の返品条件付きでない買取取引をした納入業者と変わりはないものと認められる。
さらに,証拠によれば,《納入業者(48)》と被審人との商品の売買契約は,商品の所有権の移転時期が不明であるため,買取取引であるとは認められないものの(査26の48の2),前記第3の2⑶のとおり,《納入業者(48)》は,被審人に対し,商品の搬出,商品の搬入及び店作りを行う契約上の義務を負っておらず,証拠によれば,商品を引き渡しさえすれば被審人から代金の支払を受けることができ,商品が在庫となっても引取義務を負うこともないものと認められるから(査26の48の2),従業員等を派遣して店舗開設準備作業(商品の搬出,商品の搬入及び店作り)を行わなくても,引渡し済みの商品の売上げには影響しないという点においては,買取取引と同様であるといえる。
c  そうすると,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせた行為は,従業員等派遣例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,不利益行為に当たるということなる。
(ウ)本件従業員等派遣をさせた行為が従業員等派遣例外事由①に当たらないこと
a 被審人が127社に新規店舗開設等作業のための従業員等派遣である本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等の業務内容,労働時間及び派遣期間等の派遣の条件について,あらかじめ相手方と合意し,かつ,派遣される従業員等の人件費,交通費及び宿泊費等の派遣のために通常必要な費用を買主が負担する場合(従業員等派遣例外事由①)に該当するかについて検討する。
b まず,前記第3記載の事実及び証拠(査52,査53,査55,査87,査681の1ないし10)によれば,被審人と127社との間で,本件従業員等派遣について,従業員等の業務内容,労働時間及び派遣期間等の派遣の条件があらかじめ合意がされていたものとは認められない。
この点,被審人と納入業者との間では,本件対象期間において,「派遣スタッフ受入に関する覚書」(《納入業者〔55〕》に係る査132),「従業員の店舗派遣に関する覚書」(《納入業者〔90〕》に係る査622〔番号2〕),「店舗への商品説明員等の受入れに関する覚書」(《納入業者〔90〕》に係る査622〔番号8-1ないし6〕,《納入業者〔53〕》に係る査627〔番号5-1ないし6〕,《納入業者〔15〕》に係る査629〔番号8-1ないし5〕,《納入業者〔97〕》に係る査631〔番号5-1ないし5〕,審57),「店舗への派遣に関する契約書」(《納入業者〔15〕》に係る査629〔番号7〕)等が作成されているところ,《納入業者(15)》の《L》(以下「《L》」という。)は,《納入業者(15)》が被審人との間で締結した「店舗への派遣に関する契約書」(査629〔番号7〕)第2条⑴「派遣者が行う本業務の範囲」の「④」の「甲商品の販売促進に繋がる陳列,補充」には店作りが含まれる旨供述している(《L》参考人審尋速記録)。しかし,同条⑴④には「①の業務に付随して行う甲商品の販売促進に繋がる陳列,補充」とあり,同①には「甲の連結子会社の店舗での乙商品に対する顧客(以下「お客様」という)への商品説明および販売促進」と記載されていることからすると,同条の規定上,同条⑴「派遣者が行う本業務の範囲」の「④」の「甲商品の販売促進に繋がる陳列,補充」には店作りが含まれているとは解されない。また,被審人の店舗支援部の従業員や他の納入業者の従業員も,上記各覚書や契約書は開店後の作業を対象とするものであって,店舗開設準備作業を対象とした覚書や契約書は作成されていない旨供述していることからすると(査135,《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録,《J》参考人審尋速記録。なお,《M3》の供述調書〔査135〕の内容を覆す旨の同人作成の陳述書〔審389〕及び《I》の参考人審尋での供述内容を覆す旨の同人作成の陳述書〔審388〕が,当初の審判手続終結後に作成されて再開後の審判手続で提出されているが,従前の供述を覆す部分はにわかに信用することができない。これは,同じく審判手続再開後に提出された同旨の審394,審405及び審418についても同様である。),被審人が,《納入業者(15)》を含む127社との間で,上記覚書や契約書の規定に基づいて,店舗開設準備作業のための従業員等の業務内容,労働時間及び派遣期間等の派遣の条件について取り決めていたとは認められない。
また,被審人は,本件従業員等派遣について,被審人と127社との継続的な契約関係の下で行われていたことからすると,たとえその都度の交渉や契約の締結がされていなくても,両者間における長期的な暗黙の契約関係に基づいて行われていたと評価することができるなどと主張するが,上記のとおり,被審人運営店舗における開店後の商品説明及び販売促進等のための従業員等派遣については,被審人と納入業者との間で,別途「店舗への商品説明員等の受入れに関する覚書」等が作成されていることなどからすると(査629〔番号7,8〕,審57),被審人と127社との間に商品の納入に係る継続的な契約関係があったとしても,合意書等の書面が作成されていない127社による本件従業員等派遣について,契約関係に基づくものとは認められないし,いずれにしても,本件従業員等派遣における従業員等の業務内容,労働時間及び派遣期間等の派遣の具体的な条件について,あらかじめ合意されていたとは認められない。
さらに,被審人は,《納入業者(7)》,《納入業者(71)》及び《納入業者(77)》といった玩具の納入業者については,20年以上前から,従業員等の派遣について包括的な合意を行っていたと主張しているところ,証拠によれば,《納入業者(7)》,《納入業者(71)》及び《納入業者(77)》からゲーム関連商品の店作りのために従業員等の派遣を受けることにつき,被審人のエンターテイメント商品部の《M4》の作成した平成20年7月2日付け電子メールには「当初より約束してある」と,同月7日付け電子メールには「もともと取引条件に入っていますから」と,それぞれ記載されているものと認められる(審78〔別紙1ないし3〕)。しかし,上記各電子メールがヤマダ電機事件から間もなく送信されたものであることに加え,上記各納入業者の従業員は,他方で,いずれもその合意の具体的内容は不明であるとしていることからすると(審79),被審人と上記各玩具の納入業者との間で,本件従業員等派遣について,従業員等の業務内容,労働時間及び派遣期間等の派遣の具体的条件があらかじめ決められていたとまでは認められない。
その他,《納入業者(21)》,《納入業者(78)》,《納入業者(86)》,《納入業者(95)》は,報告命令に対する報告書において,被審人との間で,個別の要請ごとに従業員等の派遣の条件について,事前の協議を行っていた旨の回答をしているものの(査26の21,査26の78,査26の86,査26の95,査303の21,査303の78,査303の86,査303の95・各設問3⑵コ(オ)),上記各回答からは,協議の結果決められた従業員等の派遣の具体的な条件等は明らかではなく,上記各納入業者と被審人との間で,従業員等の業務内容,労働時間及び派遣期間等の派遣の条件についてあらかじめ合意されていたとまで認めるには足りないというべきである。
c  次に,証拠(査26の128の添付文書4(4)ク(キ),査52,査53,査55,査87,査302)によれば,被審人は,127社による本件従業員等派遣に係る従業員等の人件費,交通費及び宿泊費等の派遣のために要した費用を負担していなかったものと認められる。
d 以上によれば,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことは,従業員等の業務内容,労働時間及び派遣期間等の派遣の条件について,あらかじめ相手方と合意し,かつ,派遣される従業員等の人件費,交通費及び宿泊費等の派遣のために通常必要な費用を買主が負担する場合という従業員等派遣例外事由①には当たらないことになる。
(エ)本件従業員等派遣をさせたことについて従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情があるか
a 従業員等派遣例外事由②が問題となること
前記(ウ)のとおり,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことは,従業員等派遣例外事由①に該当しないから,被審人による上記行為が不利益行為に当たるか否かは,専ら,127社による本件従業員等派遣が,それによる127社の負担が従業員等の派遣を通じて127社が得ることとなる直接の利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり,127社の同意の上で行われる場合(従業員等派遣例外事由②)に当たるなどの特段の事情があるか否かによって判断されることになる。
b 従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情の有無の判断について
被審人は,前記第5の1⑵イ(イ)cのとおり,本件従業員等派遣をさせた行為が濫用行為に該当しない理由を主張するところ,同行為が不利益行為に当たらなければ,被審人が自己の取引上の地位が127社に対して優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当に独占禁止法第2条第9項第5号所定の行為を行っていたと判断されることもないから(前記⑵),以下では,かかる理由によって,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情があるものとして,同行為が不利益行為に当たらないことになるかについて検討する。
(a)127社は,自身の利益に結び付き得るものとして,自由かつ自主的な判断に基づいて本件従業員等派遣を行っており,著しく過大な不利益を受けていないという主張について
i 被審人の主張
被審人は,127社が,①自社商品の適切な展示による販売促進,②自社商品の展示スペースの確保による販売促進,③情報収集の機会及び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による自社商品の販売促進,④新規開店又は改装開店の際の自社商品の販売促進など,自身の利益に結び付き得るものとして,自由かつ自主的な判断に基づいて本件従業員等派遣を行っており,著しく過大な不利益を受けていないと主張する。
この点,従業員等派遣をさせたことが不利益行為に該当するといえるために従業員等派遣を行った納入業者に著しく過大な不利益が生じることまでは必要がないことは,前記(ア)で説示したとおりである。
これを踏まえた上で,以下,127社が,本件従業員等派遣をすることにより,被審人が主張する上記①ないし④により,本件従業員等派遣の負担が合理的な範囲内のものであることを基礎付けることのできるような直接の利益を得ることができるかについて検討する。
ii ①自社商品の適切な展示による販売促進について
(i)まず,そもそも,被審人運営店舗において納入業者の商品の販売促進がされれば,被審人による仕入れ(納入業者による売上げ)の増加という直接の利益に結び付くという関係にあったものということができるから(これは,①自社商品の適切な展示による販売促進のほか,②自社商品の展示スペースの確保による販売促進,③情報収集の機会及び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による自社商品の販売促進,④新規開店又は改装開店の際の自社商品の販売促進などについても同様である。),127社は,本件従業員等派遣が自社商品の販売促進に直接結び付くのであれば,本件従業員等派遣により,直接の利益を得ることができるものと認めることができる。
(ii)そこで,次に,127社による本件従業員等派遣が,自社商品の適切な展示による販売促進に直接結び付き,かかる観点から127社が直接の利益を得ることができるかについて検討するに,まず,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が行った作業のうち,店作りは,前記第3の3⑶アのとおり,被審人運営店舗の売場まで搬入された商品を開梱し又は折り畳み式のコンテナから取り出し,棚割表に基づき,商品の陳列,展示を行い,これらの作業を終えた後,又はこれらの作業に並行して,POP等の販促物によって売場又は当該商品の装飾を行うというものであるから,その作業内容からして,自社商品の適切な展示と関係を有するものと認められる。したがって,127社は,本件従業員等派遣によって派遣した従業員等による店作りが自社商品の適切な展示による販売促進に直接結び付き得るものであり,その場合には,本件従業員等派遣により,直接の利益を得ることができるものと認められる。
一方,127社の派遣した従業員等が行った作業のうちの商品の搬出については,前記第3の3⑶イのとおり,改装を行う売場にある商品を梱包材で梱包し,又は,折り畳み式のコンテナに収納して,売場から当該店舗の倉庫等の被審人が指定する場所まで当該商品を運搬するというものであって,その作業内容からして,自社商品の適切な展示と関係を有するものとは認められないから,自社商品の適切な展示による販売促進に直接結び付くものとは認められない。したがって,127社は,本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が商品の搬出を行うことを通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,直接の利益を得ることができるとは認められない。なお,証拠によれば,納入業者は,改装開店における旧店舗からの商品の搬出の際,自社商品の展示,装飾に使用するPOP等の販促物を回収することが可能であり,実際にそのようなことも行われていたものと認められるものの(《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録),この販促物の回収も,納入業者が従業員等を派遣して商品の搬出に従事させなければできないものではないから(《D》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録),この点を考慮しても,やはり,127社は,商品の搬出のために本件従業員等派遣を行うことを通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,直接の利益を得ることができるとは認められない。
次に,127社の派遣した従業員等が行った作業のうちの商品の搬入は,前記第3の3⑶アのとおり,売場又は店舗の倉庫の所定の位置に什器の設置が行われた後に行われるものであり,具体的には,当該店舗の搬入口若しくは倉庫から被審人が指定する売場まで,又は当該店舗の搬入口から被審人が指定する当該店舗の倉庫まで商品を運搬し,設置された什器に沿って並べるというものであった。しかるに,まず,127社の派遣した従業員等が商品の搬入のみを行い,店作りを行わないという場合には,上記の商品の搬出と同様,当該商品の搬入は自社商品の適切な展示と関係するものとは認められないから,自社商品の適切な展示による販売促進に直接結び付くものとは認められない。また,127社の派遣した従業員等が商品の搬入とともに店作りを行い,かつ,仮に当該店作りが127社の商品の販売促進に直接結び付くものであったとしても,上記の販売促進は,飽くまで店作りによって生じるものであって,商品の搬入自体によって直接生じるものではないから自社商品の適切な展示による販売促進に直接結び付くものとは認められない。しかも,商品の搬入自体は,その作業内容からして,被審人の従業員においても行うことが可能なものと認められるから,結局,127社は,商品の搬入と共に店作りが行われる場合であっても,本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が商品の搬入を行うことを通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,直接の利益を得ることができるとは認められない。この点,被審人は,被審人アンケートに対する回答書において,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の前に従業員等が店作りに参加していた理由として,「21 商品の搬出・搬入を待って自社商品の陳列・装飾を行うより,自社・他社問わず,商品の搬出・搬入を手伝った方が,早く自社商品の陳列・装飾に取りかかれるため。」(審1の7・設問1.8.,審11,審19)を選択するなどしている納入業者は,現場での作業効率向上のため,店作りの付随的作業として商品の搬入を行っていたと主張し,これに沿うような内容の被審人や納入業者の従業員の陳述書等(審2,審4,審5,審34,審389,審394,審405,審416)を提出したり,参考人審尋における参考人の供述(《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録)を指摘したりするが,仮に,被審人が主張するように,商品の搬入をすることによって店作りを迅速に行えるということがあったとしても,やはり,自社商品の販売促進という効果は当該店作りから生じるのであって,商品の搬入から直接生じるものではないという事実は左右されない(仮に被審人の主張する店作りの作業効率向上という効果が認められるとしても,このような効果をもって,本件従業員等派遣による負担の合理性を基礎付けるに足りるほどの直接の利益と認めることもできない。)。したがって,127社は,本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が商品の搬入を行うことを通じて,当該従業員等が商品の搬入と共に店作りを行ったか否かに関わらず,自社商品の適切な展示による販売促進により,直接の利益を得ることはできないということになる。
その他,証拠によれば,一部の納入業者が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等は,店作りの現場において,自社の納入商品のみならず,他社の納入商品に係る作業に従事することもあったものと認められるところ(査302,査52ないし査54,査63,査79,査80,査82,査87ないし査90,査93,査96,査99,査119,査123,査137,査220,査343,査509,査516,査556,査604の2及び3,査609,査610,査612ないし査619,《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録),この他社商品についての店舗開設準備作業も,自社商品の適切な展示に関係するものとは認められない。したがって,127社は,本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が他社商品についての作業を行うことを通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,直接の利益を得ることができるとは認められない。
以上によれば,127社は,本件従業員等派遣によって派遣する従業員等が自社商品に係る店作りを行って,それが当該商品の販売促進に直接結び付くという場合には,本件従業員等派遣を通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,直接の利益を得ることができるものと認められるものの,本件従業員等派遣によって派遣する従業員による商品の搬出及び商品の搬入や他社商品についての作業を通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,直接の利益を得ることができるとは認められない。
(iii)127社が,本件従業員等派遣を通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により直接の利益を得ることができると認められるためには,前記(ⅱ)のとおり,本件従業員等派遣によって派遣される従業員等が自社商品に係る店作りを行って,それが当該商品の販売促進に直接結び付くことが必要となる。
そして,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等の行う店作りが,上記のように127社の商品の販売促進に直接結び付くといえるためには,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が店作りを行う場合と,被審人の従業員がこれを行う場合とで差異が生じ,かつ,その差異が当該商品の販売促進に違いを生じさせること,すなわち,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が行う店作りが,被審人の従業員がこれを行う場合との比較において,当該納入業者の商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものであることが必要となる。なぜなら,被審人運営店舗における新規開店又は改装開店の際の店作りが販売促進に結び付くものであったとしても,本件従業員等派遣によって派遣された127社の従業員等が実施する場合と被審人の従業員が実施する場合とで差異がないのであれば,上記の販売促進は本件従業員等派遣によって生じたものとは評価できないし,仮にこれらの店作りに差異が生じるとしても,その差異が当該商品の販売促進に違いを生じさせないのであれば,本件従業員等派遣によって派遣された従業員等の行う店作りが,当該納入業者の商品についての販売促進に直接結び付いたとはいえないからである。
また,上記のように,本件従業員等派遣によって派遣された127社の従業員等が店作りを行う場合と,被審人の従業員がこれを行う場合とで差異が生じるというためには,その前提として,本件従業員等派遣によって派遣された127社の従業員等の実施する店作りが,被審人の従業員によっては実施できないものである必要がある。なぜなら,当該店作りが,単に被審人によって決められた棚割りに従って店作りをするというだけであるなど,被審人の従業員において行うことができるものであれば,このような店作りは,本来は被審人の従業員において実施すべき作業を納入業者の派遣する従業員等が代わって実施させられているにすぎず,本件従業員等派遣によって派遣された127社の従業員等が店作りを行う場合と,被審人の従業員がこれを行う場合とで差異が生じないということになり,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等による店作りが,127社の商品についての販売促進に直接結び付いたとはいえないからである。
そして,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が行う店作りとは,前記第3の3⑶アのとおり,当該店舗の売場まで搬入された商品を開梱し又は折り畳み式のコンテナから取り出し,棚割表に基づき,商品の陳列,展示を行い,これらの作業を終えた後,又はこれらの作業に並行して,POP等の販促物によって売場又は当該商品の装飾を行うというものであるが,その作業には,在庫商品が店頭に配置,陳列される場合におけるその配置,陳列をする作業と,商品の演出のための実機等の展示,装飾をする作業が含まれるものと認められる(査51,査64,査82〔添付資料2〕,査112,審416)。
そこで,以下,127社が本件従業員等派遣を通じて自社商品の適切な展示による販売促進により直接の利益を得ることができるかについて,127社の派遣する従業員等が実施する店作りを,上記の在庫商品の配置,陳列をする作業と商品の展示,装飾をする作業に区別した上で検討する。なお,被審人は,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が行っていた店作りは,基本的には,商品の展示,装飾等の商品の演出を行う作業に限定されると主張するが,本件従業員等派遣において派遣された従業員等が行った店作りにおける作業が,商品の展示,装飾をする作業に限定されていたと認めることはできず(審389,審416),この点については,個別に認定されるべきことになる。
(ⅳ)まず,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が行った店作りのうち,在庫商品の配置,陳列について,これが127社の商品についての販売促進に直接結び付くものであるかについて検討する。
この点,証拠によれば,被審人運営店舗における店作りでは,本社の商品政策に基づいて,統一的な売場作り,店作りを行うものとされており,被審人の店舗支援部の者により,店舗開設準備作業の際に店作りのためのマニュアル(査592ないし査595)が周知されていたところ,これらには,店作りにおける商品の配置や展示は,棚割表どおりに行う旨が記載されていたものと認められる(査43,査51,査56,査77,査80,査81査112,査596,査597,《H》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録)。また,前記第3の3⑵のとおり,被審人運営店舗について,新規開店又は全面改装による改装開店を行う場合,店舗の売場のレイアウト等に左右されない基本的な棚割りを記載した文書に基づき,個別の店舗の新規開店又は改装開店の際に用いる具体的な棚割りを記載した棚割表が作成されていたところ,証拠によれば,この棚割表は,新規開店又は改装開店を行う店舗の売場のレイアウトや什器の配置に合わせて,当該店舗の立地条件等の特性も考慮するなどして作成され,そこでは,配置される各商品は,原則として,「メーカー」及び「品番」で特定され,表示につき「通常価格」及び「展示優先順位」が指定され,各商品の展示場所も,図面,「棚割番号」及び「什器高」で特定され,「上段」,「中段」,「下段」及び「平置き」の別まで指定されていたほか,POPや実機の使用等の展示,装飾についても,写真や図面などによって指定されていたなど,商品の展示,装飾をするために必要な情報が記載されていたものと認められる(査577の2ないし5,査589の1ないし3,査590,査591,査682の1及び2,査683,査684)。以上の各事実に加え,被審人の従業員の供述等(査51,査52,査56,査59,査60,査63,査89,査100,査113,査114,査123,審389,審405)及び納入業者の従業員の供述等(査604の2,査609,査610,査613,査615の2,査617ないし査619,審2,審5,審6,審34,審388,審394,《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《L》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録,《J》参考人審尋速記録)によれば,被審人運営店舗における店作りは,棚割表に基づいて行うことが徹底されており,特に在庫商品の配置,陳列の場所や範囲については,基本的に,店作りの現場において,特定の納入業者に有利に拡張するような形で変更されることはなく,在庫商品の配置,陳列は,棚割表の記載に従って行われる単純な作業であったと認められる。
そして,上記のような作業の内容に加え,証拠によれば,被審人運営店舗において棚割表に基づいて実施される店作りにおける在庫商品の配置,陳列については,被審人の従業員において実施することが可能なものと認められるから(査52,査53,査55,査56,査61,査63,査78,査80,査82,査88ないし査91,査96,査97,査106,査108,査111,査113,査114,査123,査301,査343,査516,査604の3,査605,査607,審415,《H》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録),127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が在庫商品の配置,陳列を実施することは,被審人の従業員がこれを実施する場合と比べて,特段の差異を生じさせるものではないものと認められる。
以上に加え,経験則上,在庫商品の配置,陳列は,商品の展示,装飾に比べて,消費者の商品選択への影響の度合いが小さいことが明らかであることからすると,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が行う店作りのうち,在庫商品の配置,陳列が,これを被審人の従業員が行った場合との比較において,127社の商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものとまでは認められず,当該商品についての販売促進に直接結びつくものとは認められない。
なお,証拠によれば,店作りの際には,棚割表と実際の売場との齟齬が存在することに伴う不都合等の調整のため,棚割表とは異なる在庫商品の配置,陳列がされることがあったほか,店作りの現場において,127社が派遣した従業員等がFMD等の被審人の従業員の許可を得た場合に,棚割表とは異なる在庫商品の配置,陳列がされるようなこともあったものと認められるものの(査89,査666,審3,審6,審34,審49ないし審56,審61,審68,審70,審388,審389,審406,審415,《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《L》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録,《J》参考人審尋速記録),上記の調整の作業については,その作業内容からして,被審人の従業員において実施できないものであったとは認められないし,また,上記のような被審人運営店舗における新規開店又は改装開店の際の店作りの方針等からすると,店作りの現場において,127社が派遣した従業員等がFMD等の被審人の従業員の許可を得て棚割表とは異なる在庫商品の配置,陳列をすることができる可能性は低く(査89,《L》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録),上記の棚割表と実際の売場との齟齬が存在することに伴う不都合等の調整の場合も含めて,棚割表と異なる在庫商品の配置,陳列がされる範囲は狭かったものと認められる。そして,上記のとおり,在庫商品の配置,陳列は,商品の展示,装飾と比較して,消費者の商品選択への影響の度合いが小さいものと認められることからすると,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が,店作りの現場において,棚割表と実際の売場との齟齬が存在することに伴う不都合等の調整を実施したり,FMD等の被審人の従業員の許可を得て棚割表とは異なる在庫商品の配置,陳列を行ったりしたとしても,被審人の従業員が上記のような調整を行った場合やこれらが行われなかった場合との比較において,当該商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものとは認め難い。
また,証拠によれば,玩具(ゲーム,模型,プラレール等。査682の1,審257,審407ないし審410)及び書籍(査682の2,審252,審411)については,そもそも棚割表自体が抽象的な商品類型(種類)によって商品の配置等を定めるにとどまっており,その種類の中での具体的な配置等が決定されていない場合があったなど,現場で具体的な棚割りをすることが予定されたものであったことから,上記のとおり,棚割表で商品類型ごとの商品の配置等が決まっていたほか,特定の商品の展示,陳列の場所が決まっていたり,商品の陳列,展示,装飾のモデルが示されていたり,売場作りについての一定のルールが決まっていたりすることとの関係で一定の制約はあったものの,納入業者が一定の裁量をもって店作りを行っているという実情があったものと認められる(査118,査666,査682の1及び2,審51,審252,審257,審407ないし審411)。しかし,まず,玩具及び書籍の在庫商品の配置,陳列の作業自体については,その作業内容からして,被審人の従業員が実施できないものであったとは認められない。また,証拠によれば,被審人は,納入業者との商談を通じて,どの玩具や書籍をどれだけ仕入れるかを決定しており(査58,査101,査113,査117,審89・別紙3),被審人運営店舗における棚割りについては,被審人の担当者と納入業者の担当者との商談の際,商品の演出のためのPOPや実機の使用等の展示,装飾を含めて打合せが行われ,棚割表の内容は,これを作成する店舗支援部の担当者等の承諾の下,一定程度,納入業者の意見が反映されたものとなっていたものと認められることからすると(査51,査56,査590,審3,審6,審49ないし審56,審75,審76,審120,審388,審389,審394,審405,審415,《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《L》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録,《J》参考人審尋速記録),玩具や書籍についても,被審人において,各商品の流行等を踏まえた棚割表を作成した上で,これに基づいて被審人の従業員に納入業者の派遣する従業員等が実施するのと同様の在庫商品の配置,陳列を行わせることは可能であったものと認められる。さらに,証拠によれば,玩具や書籍については,棚割表の作成の時点では実際に納入される商品が具体的に決まっておらず,実際に納入される商品に応じて,店作りの現場における棚割りの調整が必要になることもあったものと認められるものの(審252,審257,審407ないし審409),この調整についても,納入業者の従業員等が店作りの現場において在庫商品の配置,陳列を実施しなければできないものとは認められない。そうすると,玩具や書籍の納入業者が派遣した従業員等による在庫商品の配置,陳列は,上記のような実情を踏まえても,本来は被審人の従業員において実施すべき作業を納入業者の派遣する従業員等が代わって実施させられているにすぎず,被審人の従業員がこれを行う場合との比較において,特段の差異を生じさせるものではないということになる。そして,仮に,被審人の従業員が,上記のような方法により,玩具や書籍の在庫商品の配置,陳列を実施した場合,これを納入業者の派遣する従業員等が実施した場合と比較して,その内容に差異が生じるとしても,それが大きなものであったとも認められないし,上記のとおり,在庫商品の配置,陳列は,商品の展示,装飾と比較して,消費者の商品選択への影響の度合いが小さいものと認められることからすると,納入業者の派遣する従業員等が店作りの現場において玩具及び書籍の在庫商品の配置,陳列を行うことについても,被審人の従業員が上記のような方法によってこれらを行った場合との比較において,当該商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものであるとは認め難い。
以上によれば,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が実施する在庫商品の配置,陳列は,これを被審人の従業員が実施した場合との比較において,当該商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものとは認められないから,127社は,これを通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,直接の利益を得ることができると認めることはできない(この認定に反するような内容の被審人の従業員である《M3》作成の陳述書〔審389〕が,当初の審判手続終結後に作成されて再開後の審判手続で提出されているが,上記各事実に鑑みても,にわかに採用することはできない。)。
(v)次に,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が行った店作りのうち,商品の展示,装飾について,これが127社の商品についての販売促進に直接結び付き,かかる観点から127社が直接の利益を得ることができるかについて検討する。
まず,証拠によれば,家電量販店である被審人運営店舗における店作りのうちの商品の展示,装飾は,棚割表に基づき,各売場の特徴が分かるパネルを陳列什器に付け,見本となる実機を定められた場所に設置するほか,展示台,商品の機能・特徴などを記載したPOP,商品を実感できるようにするためのプレゼンテーション用の実機,モニター類,モック(エアコンやデジタルカメラ等の商品の実物ではなく実物大の模型)やサンプル品といった販促物を備え付けて,商品を演出するというものであり,POP等の販促物は,被審人が統一的に用意するものもあるが,多くは被審人と納入業者との商談の際,各商品をどのように演出するかという観点からその内容を決め,被審人が他の業者に発注したり,納入業者自身が用意して送付,持参等したりするものと認められる(査64,査112,査577の1ないし5,査590ないし査595,審2ないし審6,審34,審49ないし審56,審60ないし審74,審109,審389,審415,《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《L》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録,《J》参考人審尋速記録,《E》参考人審尋速記録)。
そして,証拠によれば,一般に,家電量販店における商品の展示,装飾の工夫は,商品の販売促進に影響を与え得るものと認められるものの(審100,審101,審104の39ないし42,審104の45,審104の53及び54,審106,審129,《E》参考人審尋速記録),前記(ⅲ)のとおり,問題となるのは,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が商品の展示,装飾を実施する場合と,被審人の従業員がこれを実施する場合とで差異が生じ,かつ,その差異が当該商品の販売促進に違いを生じさせるか,すなわち,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が実施する商品の展示,装飾が,被審人の従業員がこれを実施する場合との比較において,127社の商品について格別の販売促進の効果を生じさせるか否かである。
この点,前記(ⅳ)のとおり,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際の店作りについては,被審人と納入業者との商談において打合せをした結果を踏まえて作成された棚割表に基づいて行うことが徹底されており,棚割表では,POPや実機の使用等を含む商品の展示,装飾についても,写真や図面などによって指定されていたものと認められるほか,証拠によれば,被審人において周知され,臨店の際に持参するものとされていた被審人の商品本部マーケティング部作成の平成22年8月17日付け「エディオンの店作りの原点」(査112)や,これに先立って作成された各マニュアル(査592ないし査595),その他,被審人が作成した店作りに関する文書(査591・別表2,査598)には,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際の店作りにおける商品の展示やPOP等の販促物による装飾の仕方について,画像等を示しながら具体的にそのルールが示されていたほか,MDの事前の承諾がない限り,店作りの現場における納入業者の販促物の使用を禁止することなどが記載されていたものと認められる(査600ないし査602)。これらの事実に加え,被審人の従業員の供述等(査51,査52,査56,査59,査60,査63,査89,査100,査113,査114,査123,審389,審405)及び納入業者の従業員等の供述等(査604の2,査609,査610,査613,査615の2,査617ないし査619,審2,審5,審6,審34,審388,審394,《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《L》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録,《J》参考人審尋速記録)によれば,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際の店作りでは,商品の展示,装飾についても,被審人と納入業者との商談において打合せをした結果を踏まえて作成された棚割表に基づいて行うことが徹底されており,販促物の使用については,納入業者のPOPの方が分かりやすいとか,納入業者のキャラクターを使用した演出があった方が良いなどとFMD等が判断したような例外的な場合を除き,MD等が事前の商談時等に許可して棚割表に反映されたもの以外は使わないという方針が採られていたなど,店作りにおける商品の展示,装飾の内容は,基本的に,納入業者の従業員等が店作りに参加するか否かに関わらず,被審人運営店舗の店作りにおいて許容される限度内においてあらかじめ棚割表において決められていたものと認められる。
そして,上記のとおり,店作りにおける商品の展示,装飾は棚割表に基づいて行うことが徹底されており,棚割表では,POPや実機の使用等の展示,装飾についても,写真や図面などによって指定されていて,被審人と納入業者との商談の際に使用が認められたPOP等の販促物や什器類も,納入業者が用意するものを含めて,基本的に,あらかじめ準備することが可能であったものと認められることに加え,被審人のFMDや納入業者の従業員の供述等(査52,査53,査55,査56,査61ないし査63,査82,査88,査90,査92,査96,査97,査108,査113,査114,査301,査516,査576,査604の3,査605,査607,査615の3,審6,審34,《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録。なお,《M1》の供述調書〔査53〕の内容に反するような内容の同人作成の陳述書〔審415〕が,当初の審判手続終結後に作成されて再開後の審判手続で提出されているが,従前の供述を覆す部分はにわかに信用することができない。),被審人の競争業者となる《事業者A》の従業員である《E》及び同じく《事業者B》の従業員である《N》の供述(《E》参考人審尋速記録,《N》参考人審尋速記録),その他,実際,納入業者は被審人運営店舗の全ての新規開店又は改装開店の際に店作りのための従業員等派遣を行っていたわけではなかったにもかかわらず,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際の商品の展示,装飾に係る店作りが可能であったことからすると,被審人運営店舗において棚割表に基づいて実施される店作りにおける商品の展示,装飾についても納入業者が派遣する従業員等でなければ実施できないものなどではなく,被審人の従業員において実施することが可能なものと認められる。
そうすると,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が商品の展示,装飾を実施することは,基本的に,被審人の従業員がこれを実施する場合と比べて,基本的に,特段の差異を生じさせるものではないものと認められる。
もとより,証拠によれば,棚割表や上記の店作りに関するマニュアル等には,どの棚にどの商品を設置するかについては特定されていたものの,商品の展示,装飾に必要な情報が全て記載されていたわけではなかったことから,棚割表等に記載がされていない範囲内において,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が商品の展示,装飾を実施する場合と,被審人の従業員がこれを実施する場合とで,差異が生じる可能性はあったものと認められるものの(査577の2ないし5,査589の1ないし3,査590,査591,審2,審49ないし審56,《H》参考人審尋速記録,《L》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録,《J》参考人審尋速記録),前記(ⅳ)のとおり,棚割表では商品の展示,装飾に関する情報も相当程度具体的に示されていたことからすると,上記のような差異が生じる余地や範囲は非常に狭かったものと認められる。これに加えて,証拠によれば,消費者が家電製品等を購入する際の要素として,「納得のいく価格」「目的の合致した機能・性能」が特に重要視され,これに「使いやすい操作性」「メーカーや商品のブランド」「自分好みのデザイン」が続いているものと認められるところ(査641,査649,査652の1及び2,《E》参考人審尋速記録),上記の各要素は,商品の展示,装飾の内容が同じであることを前提とすると,その作業を被審人の従業員が行うか,納入業者の従業員等が行うかという違いにより,格別の影響を受けるものとは認められないこと(「デザイン」についても,商品の展示,装飾の内容が同じであれば,当該展示,装飾によって必要な情報を提供することは可能である。),そして,被審人の従業員の一部が,納入業者の従業員等が店作りを行っても,当該納入業者の商品の売上増加につながるものではないとか,売上増加につながるか否かは分からないと供述していること(査63,査89。なお,《M2》の供述調書(査63)に反する内容の同人作成の陳述書〔審405〕が,当初の審判手続終結前に作成されて審判手続再開後に提出されているが,従前の供述を覆す部分はにわかに信用することができない。),納入業者の従業員等も,本件従業員等派遣に応じたことが,実際に自社商品の販売促進に直接結び付くものではないとか,これに直接結び付いていたか否かは検証等をしていないので明らかではないなどと供述していること(査618,《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《L》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録,《J》参考人審尋速記録),被審人の競争業者である《事業者A》の従業員である《E》及び《事業者B》の従業員である《N》は,参考人審尋において,納入業者の従業員等が店作りを行う場合と家電量販店の従業員等が店作りを行う場合とを比較し,売上げは変わらず,消費者の反応も,変わらなかったか,むしろ家電量販店の従業員等が店作りを行う場合の方が良くなったなどと供述していること(《E》参考人審尋速記録,《N》参考人審尋速記録)からすると,127社が本件従業員等派遣によって派遣する従業員等が商品の展示,装飾を実施することは,基本的に,被審人の従業員がこれを実施する場合との比較において,127社の商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものであるとまでは認められないというべきである。
その一方で,全ての商品の展示,装飾ではないとしても,特に,商品について熟知している納入業者の派遣する従業員等が,その技術や知識等を活用して当該商品の展示,装飾を行うことを通じて,当該商品の特有の魅力が発揮され,被審人の従業員においてこれを行う場合との比較において,明らかに差異を生じるような特性を有する商品について,納入業者の派遣する従業員等による当該商品の展示,装飾が,その商品特有の魅力を演出するために行われるものであり,かつ,被審人の従業員において,そのような商品の展示,装飾をすることができないという場合(以下「商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合」という。)には,当該商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものとして,当該商品の販売促進に直接結び付くものと認めるのが相当である。ただし,実際に,特定の納入業者が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が行った商品の展示,装飾について,商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合に当たると認められるためには,単に,参考人審尋,報告命令に対する報告書,被審人の提出する陳述書や報告書,被審人アンケートに対する回答書等において,商品の展示について独自の方針があるとか,本件従業員等派遣によって派遣する従業員等による店作りに販売促進効果があるという供述等や回答がされているというだけでは足りず,当該商品の特性やその展示,装飾について,より具体的な立証等が必要であると解される。また,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が実施した商品の展示,装飾が,当該商品についての販売促進に直接結び付くものであり,127社が本件従業員等派遣を通じて直接の利益を得ることができると認められる場合でも,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことが従業員等派遣例外事由②に該当するかについては,上記の直接の利益を勘案して従業員等派遣による負担が合理的な範囲内のものであり,それが当該納入業者の同意の上で行われた場合であるかによって判断されることになる。
その他,店作りの際には,商品の展示,装飾についても,前記(ⅳ)の在庫商品の配置,陳列と同様,棚割表と実際の売場との齟齬が存在することに伴う不都合等の調整のため,棚割表とは異なる商品の展示,装飾がされることがあったものと認められるものの,上記のような調整の作業等についても,127社が本件従業員等派遣によって派遣する従業員等が店作りの現場において実施しなければ,これを実施することがおよそ不可能なものとは認められず,被審人の従業員において実施することが可能なものと認められるし,仮に,127社が本件従業員等派遣によって派遣する従業員等が上記のような調整のための作業を実施した場合に,被審人の従業員がこれを実施した場合との比較において,その内容に差異が生じるとしても,上記作業は飽くまで調整のために行われるものにすぎないことからすると,その範囲は狭く,生じる差異も大きなものとはなり得ないものと認められるから,これが,被審人の従業員がこれを実施した場合との比較において,127社の商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものであるとまでは認められない。
また,店作りの際には,商品の展示,装飾についても,前記(ⅳ)の在庫商品の配置,陳列と同様,納入業者の派遣した従業員等がFMD等の許可を受けてPOP等の販促物の追加,変更等をするなどして棚割表とは異なる商品の展示,装飾をする余地はあったものと認められる。しかしながら,前記(ⅳ)で説示したような被審人運営店舗における新規開店又は改装開店の際の店作りの方針のほか,前記(ⅳ)で認定したとおり,被審人運営店舗における棚割りについては,被審人の担当者と納入業者の担当者との商談の際,商品の演出のためのPOPや実機の使用等の展示,装飾を含めて打合せが行われており,棚割表は,これを作成する店舗支援部の担当者等の承諾の下,一定程度,納入業者の意見が反映されたものとなっていたこと,納入業者の派遣した従業員等がFMD等の許可を受けてPOP等の販促物の追加,変更等をした商品の展示,装飾を実施することができるかは,店作りの現場におけるFMD等の考え方次第である上,証拠によれば,被審人は,特定の納入業者が従業員等派遣を行ったこと自体をもって,商談や,被審人運営店舗における棚割り,商品の販売等において,当該納入業者を有利に扱うということはなかったものと認められることからすると(査52,査60,《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《L》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録,《J》参考人審尋速記録),店作りの際,納入業者の派遣した従業員等がFMD等の許可を受けて棚割表とは異なる商品の展示,装飾をする余地や範囲は非常に狭かったものと認められる(査89,《L》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録)。これに加えて,上記のような棚割表とは異なる商品の展示,装飾は,もともと,事前の商談の際に予定されておらず,又は,許可を得ることができなかったものであることからすると,上記のような棚割表とは異なる商品の展示,装飾は,それが行われなかった場合との比較において,当該商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものであるとまでは認め難い。
(ⅵ)以上によれば,127社が本件従業員等派遣によって派遣する従業員等による商品の展示,装飾が,商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合に当たるのであれば,127社の派遣する従業員等による当該商品の展示,装飾は,当該商品についての販売促進に直接結び付くものと認められ,127社は,本件従業員等派遣を通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,直接の利益を得ることができるものと認められる。
iii ②自社商品の展示スペースの確保による販売促進について
次に,被審人の主張する本件従業員等派遣による②自社商品の展示スペースの確保による販売促進については,127社が,本件従業員等派遣により,実際,自社商品の展示スペースを確保することが可能であり,かつ,前記ⅱ(ⅰ)のとおり,これが127社の商品の販売促進に直接結び付くものであれば,127社は,本件従業員等派遣を通じて直接の利益を得ることができるものと認められる。
この点,一部の納入業者の従業員が,参考人審尋や被審人提出の陳述書において,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際,棚割りの調整等を通じた自社商品の展示スペースの確保が可能であったかのような供述等をしているほか(審2,《I》参考人審尋速記録,《D》参考人審尋速記録等),被審人アンケートに対する回答書(審1の1ないし84)において,有効回答数82社中39社(47.6パーセント)が,従業員等を派遣していた理由として「12 棚割を自社に有利に変更できる場合があったため。」と回答(審1の各号・設問1.8.)し,報告命令に対する報告書において,本件従業員等派遣をした理由についての回答として,「カ 貴社が納入する商品を置くスペースを確保するため」を選択している納入業者が相当数存在すること(査26の各号・設問3⑷)は確かである。
しかしながら,まず,そもそも,商品の搬出及び商品の搬入は,被審人運営店舗における棚割りや商品の展示に直接関係するものではないし,前記ⅱ(ⅳ)で認定したとおり,被審人は,特定の納入業者が従業員等派遣を行ったこと自体をもって,商談や,被審人運営店舗における棚割り,商品の販売等において,当該納入業者を有利に扱うということはなかったことからすると,127社が本件従業員等派遣によって派遣する従業員等が商品の搬出及び商品の搬入をしたとしても,自社商品の展示スペースを確保することができたとは認められない。
次に,店作りについてみても,前記ⅱ(ⅳ)のとおり,被審人運営店舗における店作りは棚割表に基づいて行うことが徹底されており,納入業者は,被審人のFMD等の許可なく棚割表と異なる場所に商品を配置,陳列又は展示することはできなかったこと,棚割表で決められた棚割りは,棚割表と実際の売場との齟齬による調整の場合や,納入業者が派遣した従業員等が店作りの現場においてFMD等の被審人の従業員の許可を得た場合を除き,従業員等を派遣した当該納入業者に有利な形に変更されることはなかったこと(従業員等派遣によって自社商品の展示スペースを確保することができるかのような上記供述等は,専ら,現場での不都合等の調整に係るものと認められる。),被審人は,特定の納入業者が従業員等派遣を行ったこと自体をもって,商談や被審人運営店舗における棚割り,商品の販売等において,当該納入業者を有利に扱うということはなかったことが認められ,これらの事実からすると,納入業者が本件従業員等派遣によって派遣する従業員等が店作りを行ったとしても,基本的に,棚割表で定められた範囲を自社に有利に拡張する形で自社商品の展示スペースの確保をすることはできなかったものと認められる。
また,上記の棚割表と実際の売場との齟齬が存在することに伴う不都合等の調整も,飽くまで調整の範囲に限られるものであるし,このような場合のほか,新規開店又は改装開店をする被審人運営店舗のFMD等の被審人の従業員の許可を得ることによって本件従業員等派遣を行った納入業者の商品の展示スペースが棚割表で定められた範囲を超えるような形で広げられるということがあり得たとしても,上記の被審人運営店舗における店作りの実情や棚割表の扱いなどからすると,その余地や範囲は非常に狭いものと認められる。そして,このような自社商品の展示スペースの確保(拡張)自体は,前記ⅱの自社商品の適切な展示とは異なり,それが販売促進に直接結び付くようなものとまでは認められない。
以上によれば,127社は,本件従業員等派遣をすることにより,自社商品の展示スペースの確保(拡張)ができると認めることはできず,また,これができるとしても,それが自社商品の適切な展示のように,127社の商品についての販売促進に直接結び付くものであると認めることはできない。
したがって,127社は,本件従業員等派遣を通じて,社商品の展示スペースの確保(拡張)による販売促進により,直接の利益を得ることができると認めることはできない。
なお,仮に,127社が,本件従業員等派遣により,自社商品の展示スペースを確保(拡張)することができ,かつ,それが自社商品の販売促進に結び付くものであったとしても,その余地や範囲が非常に狭かったことからすると,これによって得られる利益は,127社が本件従業員等派遣を行って被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際の商品の搬出,商品の搬入又は店作り自体を担うことによる負担が合理的な範囲内のものであることを基礎付けるほどのものであるとまでは認められない。
ⅳ ③情報収集の機会及び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による自社商品の販売促進について
127社が,本件従業員等派遣を通じて,被審人の情報収集の機会及び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による自社商品の販売促進により,直接の利益を得ることができるか検討する。
この点,情報収集の機会という点については,まず,本件従業員等派遣によって派遣される従業員等が行っていたのは店舗開設準備作業という被審人運営店舗が開店する前の作業であり,当該店舗には消費者がいないから,127社は,本件従業員等派遣を行ったとしても,消費者ニーズの動向を直接把握することはできない。また,被審人運営店舗の従業員が保有する消費者や保有在庫についての情報の収集や,被審人運営店舗の従業員に対する商品等に関する情報の提供も,通常の営業活動や商談の際にできるものであり,本件従業員等派遣をして従業員等を商品の搬出,商品の搬入又は店作りに従事させなければできないというものではない。さらに,競合他社商品の陳列・配列方法といった情報も,納入業者が営業訪問等の通常の業務において被審人運営店舗に赴いた際に売場を見学することなどにより容易に把握することが可能であり,本件従業員等派遣をして従業員等を商品の搬出,商品の搬入又は店作りに従事させなければ得られない情報であるとは認められないから,仮に,上記のような情報を収集等することが127社の商品の販売促進に結び付くとしても,これは,本件従業員等派遣によって得られる直接の利益に当たらない。
次に,店舗従業員等との良好な人間関係の構築による自社商品の販売促進についても,証拠によれば,被審人は,本件従業員等派遣を受けるに当たり,127社に対して見返りを約束していたわけではなく,納入業者の納入する製品を勧めるかは被審人の店員次第であり,被審人と納入業者との商談の際,当該納入業者が従業員等派遣を行っていたことを考慮して当該納入業者を有利に扱うこともなく,また,開店前はその準備作業で非常に忙しい状況にあり,被審人の店舗支援部の担当者については,納入業者と商談する権限自体が与えられていなかったものと認められるから(査52,査116,《D》参考人審尋速記録,《H》参考人審尋速記録,《L》参考人審尋速記録,《G》参考人審尋速記録,《I》参考人審尋速記録,《J》参考人審尋速記録),仮に,127社が,本件従業員等派遣によって被審人運営店舗の従業員等との良好な人間関係を築くことができ,それが自社商品の販売促進に資すると考えていたとしても,それは127社の一方的かつ漠然とした期待にすぎないということになる。結局,127社は,本件従業員等派遣により,被審人運営店舗の従業員等との良好な人間関係を築くことができたとしても,これが127社の商品の販売促進に直接結び付くものではないため,本件従業員等派遣を通じて直接の利益を得ることはできないものと認められる。
以上によれば,127社は,本件従業員等派遣を通じて,情報収集の機会及び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による自社商品の販売促進により,直接の利益を得ることはできないものと認められる。
v ④新規開店又は改装開店の際の自社商品の販売促進について
被審人の主張する本件従業員等派遣による④新規開店又は改装開店の際の自社商品の販売促進については,前記ⅱ(ⅰ)で説示したとおり,127社による本件従業員等派遣が127社の商品の販売促進に直接結び付くものであれば,127社は,本件従業員等派遣を通じて直接の利益を得ることができるものと認められる。
この点,前記ⅱで説示したとおり,127社は,商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合には,本件従業員等派遣を通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,直接の利益を得ることができるものと認められる。
一方,前記ⅲ及びⅳで説示したとおり,127社は,本件従業員等派遣を通じて,自社商品の展示スペースの確保(拡張)による販売促進や,情報収集の機会及び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による自社商品の販売促進により,直接の利益を得ることができるとは認められない。
その他,127社による本件従業員等派遣の実施自体が自社商品についての販売促進に直接結び付くものであるか否かについて検討するに,前記ⅳでも説示したとおり,被審人は,新規開店又は改装開店の際の店舗開設準備作業のために本件従業員等派遣を受けるに当たり,納入業者に対して見返りを約束していたわけではなく,納入業者の納入する製品を勧めるかは被審人の店員次第であり,被審人と納入業者との商談の際,当該納入業者が従業員等派遣を行っていたことを考慮した交渉がされていたわけでもなかったことからすると,127社が本件従業員等派遣を実施すること自体が,当該納入業者の商品の販売促進に直接結び付くものとは認められない。また,被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際に127社の商品の売上げが拡大する可能性があるとしても,それは被審人運営店舗の新規開店又は改装開店自体やそれらに伴うセールに集客効果があるためであり,127社が本件従業員等派遣に応じたことによるものではないから,本件従業員等派遣によって得られる直接の利益には当たらない。
したがって,127社は,本件従業員等派遣を通じて,前記ⅱで説示した自社商品の適切な展示による販売促進により,直接の利益を得られるという場合はともかくとして,その他,自社商品の販売促進により,直接の利益を得ることができるとは認められない。
ⅵ 小括
以上によれば,前記ⅱのとおり,127社は,商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合には,本件従業員等派遣を通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,直接の利益を得ることができるものと認められるから,この直接の利益を勘案して,本件従業員等派遣による負担が合理的範囲内のものであるとされるのであれば,従業員等派遣例外事由②に該当するものと認められることになる。
(b)127社のうち,被審人と納入価格の条件交渉を行っていた納入業者等は,自由かつ自主的な判断に基づいて本件従業員等派遣を行っており,著しく過大な不利益を受けていないという主張について
被審人は,127社のうち,別紙5記載のとおり,報告命令に対する報告書において,被審人らとの間における納入価格に関する交渉についての設問(査26の各号・設問2⑿)に対する回答として,「ウ 貴社の条件提示が受け入れられることもあるし,受け入れられないこともある」,「エ 貴社の条件提示がほとんど受け入れられる」又は「オ 貴社の条件提示が全て受け入れられる」との回答を選択するなどした納入業者(査26の各号,審388,審394)について,本件従業員等派遣に伴う負担を含む取引全体における負担を考慮して納入価格を決定していたはずであるから,本件従業員等派遣による負担による不利益が127社にとって著しく過大なものであったとは考えられないとして,被審人が127社から本件従業員等派遣を受けたことは濫用行為(不利益行為)に該当しないと主張する。
しかしながら,前記(ア)で説示したように,そもそも,事業者の行為が不利益行為に該当するものと認められるためには,納入業者に著しく過大な不利益が生じることまでは必要ではない。この点を措くとしても,商品の納入価格について,実際に,被審人と納入業者との間で価格交渉が行われたとか,納入業者の条件が受け入れられたという事実があったとしても(審244,審246,審255,審257),この事実をもって,直ちに,両者が対等な関係にあるということはできない。さらに,従業員等派遣に伴う負担が,商談の際に具体的に明らかになっているとも認められないことからすると,実際に,従業員等派遣に伴う負担を含む取引全体における負担を考慮して納入価格を決定することができていたと認めることもできない。まして,上記の事実をもって,本件従業員等派遣が上記のような回答をした納入業者にとって不利益なものではなかったとか,その負担が合理的な範囲内のものでなかったとまで認めることはできない。
そうすると,被審人の主張するように,報告命令に対する報告書において上記の回答をしている納入業者が,実際に,被審人との間で価格交渉を行っていたとか,提示する取引条件を被審人に受け入れられたという事実があったとしても,被審人が当該納入業者に本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に該当するとか,不利益行為(濫用行為)に該当しない特段の事情があると認めることはできない。
したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。
(c)127社のうち,本件従業員等派遣によって被った不利益が軽微であると考えていた納入業者等は,著しく過大な不利益を受けていないという主張について
被審人は,127社のうち,別紙6で個別に摘示したとおり,被審人アンケートに対する回答書において,納入業者が本件従業員等派遣を行うために要した費用が被審人に対する取引額に占める割合について,低い値を選択し(審1の各号・設問1.9.),同費用が営業活動上許容できる範囲内の負担であったとの回答(審1の各号・設問1.9.1.)をしている納入業者について,本件従業員等派遣に伴う負担が軽微であったとしているのであるから,このような納入業者との関係では本件従業員等派遣は著しく過大な不利益を与えるものではなかったとして,被審人が当該納入業者から本件従業員等派遣を受けたことは濫用行為(不利益行為)に該当しないと主張する。
しかし,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことが不利益行為に当たると認められるためには,127社が著しい不利益を被ったということまでは必要がないことは,前記(ア)で説示したとおりであり,従業員等派遣による不利益が軽微であったからといって,本件従業員等派遣をさせたことが不利益行為に該当しないとはいえない。また,前記(ア)及び前記(a)ⅱ(ⅴ)で説示したところによれば,納入業者の主観,特に,被審人アンケートに対する回答書の記載をもって,客観的な裏付けがないにもかかわらず,従業員等派遣例外事由に該当するなどの不利益行為該当性を否定する特段の事情を認めることはできず,上記の回答をもって,直ちに,当該回答をした納入業者による本件従業員等派遣の負担が合理的範囲内のものであると認めることはできない。
したがって,被審人が主張するように,一部の納入業者が被審人アンケートに対する回答書において上記のような回答をしていることをもって,直ちに,被審人が当該納入業者に本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に該当するとか,不利益行為(濫用行為)に該当しない特段の事情があると認めることはできない。
その他,被審人は,一部の納入業者による本件従業員等派遣の回数が少ないことや本件従業員等派遣を行った店舗が限られていることから,その負担が軽微であるとして,被審人が当該納入業者から本件従業員等派遣を受けたことは濫用行為(不利益行為)に該当しないとも主張するが,本件従業員等派遣による負担が軽微であったとしても被審人が本件従業員等派遣をさせたことが不利益行為に当たることは,上記のとおりであるし,単に,本件従業員等派遣をした回数や店舗の範囲をもって,本件従業員等派遣を行った納入業者の負担が軽微であると認めることはできないから,被審人の上記主張を採用することはできない。
(d)127社のうちの本件従業員等派遣によって被った不利益を補う以上の利益を見込めると考えていた納入業者は,自由かつ自主的な判断に基づいて本件従業員等派遣を行っており,全体的な経済合理性の観点から,著しく過大な不利益を受けていないという主張について
被審人は,127社のうち,別紙6で個別に示されているとおり,報告命令に対する報告書において,被審人から不利益な要請があったときに受け入れざるを得ない場合についての設問(査26の各号・設問2⒁)に対する回答として,「ウ 短期的には不利益であっても,将来的にはその被った不利益を補う以上の利益が見込める場合」との回答を選択した納入業者について,取引全体の経済合理性を踏まえて,店舗開設準備作業への従業員等派遣を行うか否かを自由かつ自主的に判断していたのであるから,本件従業員等派遣による不利益は合理的範囲内にとどまっていて,著しく過大な不利益には該当しないとして,被審人が当該納入業者から本件従業員等派遣を受けたことは濫用行為(不利益行為)に該当しないと主張する。
しかし,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことが不利益行為に当たると認められるために,127社が著しい不利益を被ったということまでは必要がないことは,前記 (ア)で説示したとおりである。また,上記の回答によっても,当該回答をした納入業者において,具体的にどのような利益を見込んでいるのか,それがどの程度具体的なものであるのかは明らかではないことからすると,上記回答をもって,直ちに,当該回答をした納入業者が本件従業員等派遣を通じて直接の利益を得ることができるとか,当該納入業者における従業員等派遣の負担が合理的な範囲内のものであると認めることはできない。
そうすると,被審人が指摘するように,一部の納入業者が報告命令に対する報告書において上記のような回答をしていることをもって,被審人が当該納入業者に本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に該当すると認めることはできず,その他,不利益行為(濫用行為)に該当しない特段の事情があると認めることはできない。
したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。
(e)その他の主張について
i 被審人は,127社のうち,別紙6で個別に示されているとおり,被審人アンケートに対する回答書において,新規開店又は改装開店の際の従業員等派遣について,仮に「1 エディオンから日時・場所の連絡がなければ,自発的に日時・場所の確認を行い,従業員等を派遣していた。」との回答を選択した納入業者(審1の1・設問1.7.)について,本件従業員等派遣を自主的に行っていたのであるから,被審人が当該納入業者から本件従業員等派遣を受けたことは濫用行為(不利益行為)に該当しないと主張する。
しかしながら,証拠によれば,従前,家電小売業界では,納入業者が家電量販店の新規開店又は改装開店前の準備作業を負担する商慣習が存在していたところ(査97,査122,《E》参考人審尋速記録,《N》参考人審尋速記録),127社を含む納入業者は,長らく被審人から店舗開設準備作業のための従業員等派遣の依頼を受け,これに応じてきたという実情があり,このような中で,仮に,被審人からの連絡がない場合に納入業者において自主的に問い合わせをして従業員等の派遣に応じるということがあったとしても,それ自体,正常なものとは認められない商慣習があったことの現れともいえるのであって,上記回答をもって,被審人が上記回答をした納入業者に本件従業員等派遣をさせることによって,自身が負うべき負担を納入業者に転嫁していることは正当化されず,これが不利益行為に当たらないものと認めることはできない。また,上記回答によっても,当該回答をした納入業者において,具体的にどのような利益を見込んでいるのか,それがどの程度具体的なものであるのかは明らかではないことからすると,上記回答をもって,直ちに,当該回答をした納入業者が本件従業員等派遣を通じて直接の利益を得ることができるとか,当該納入業者における従業員等派遣の負担が合理的な範囲内のものであるなどと認めることはできず,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情があるものと認めることはできない。
したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。
ii 被審人は,被審人が本件立入検査後の平成22年11月30日付けで納入業者に対して従業員の派遣に対する報酬の支払を申し出たところ(査575),一部の納入業者が,自社の営業活動の一環であるという理由により,報酬の支払を受けることを辞退する旨の文書を被審人に送付したことや(審77,審425,審426),平成24年4月23日付けで納入業者に対して今後の商品の搬出,商品の搬入及び店作りについては被審人で行う体制を構築する旨通知したところ(審283),一部の納入業者が,店作りは当該納入業者らの営業活動又は販売促進活動であるなどとして,従業員等を派遣して店作りに参加することを希望し,又は,これに併せて被審人による費用の負担を求めないとする旨の文書を被審人に送付したこと(審94ないし審99,審284ないし審336,審338ないし審378)などを指摘し,納入業者による上記の対応は本件対象期間中にされたものではないものの,本件対象期間中においても,同様に,店作りのための従業員等派遣を自らの営業活動ないし販売促進活動として自主的に行っていたことを示すものであると主張する。
しかしながら,一部の納入業者が被審人の申出に対して上記のような対応をしたことは,当該納入業者が本件従業員等派遣について,自社に一定の利益があると考えていたことをうかがわせるものとはいえるものの,前記(イ)のとおり,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせた行為は,従業員等派遣例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,不利益行為に当たるとものと認められる。そして,店作りなどのために従業員等派遣を希望する理由やそれによって得ることができる利益,これを得ることができる根拠等についておおむね抽象的な内容しか記載されていない上記各文書の提出又は送付をもって,上記のような利益を得ることができることを裏付ける事実等が具体的に認められないにもかかわらず,納入業者が本件従業員等派遣を通じて直接の利益を得ることができるとか,当該納入業者における従業員等派遣の負担が合理的な範囲内のものであるなどと認めることはできず,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情があるものと認めることはできない。
したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。
iii 被審人は,被審人アンケートに対する回答書において,開店後も家電量販店の店舗に従業員等を派遣していたとか,他の家電小売業者に対して無償で開店前に従業員等を派遣していたと回答した納入業者について,当該納入業者にとって本件従業員等派遣は通常の営業活動の一環であったといえるとして,被審人が当該納入業者に本件従業員等派遣をさせたことは濫用行為(不利益行為)に該当しないと主張する。
しかし,証拠によれば,被審人の同業者である《事業者A》は,ヤマダ電機事件における排除措置命令の発令前に,納入業者に対して開店前の準備作業のために従業員等の派遣を依頼する行為を取りやめており(査655,《E》参考人審尋速記録),また,同じく《事業者B》も,ヤマダ電機事件の命令後に,上記行為を取りやめていたものと認められることからすると(《N》参考人審尋速記録),上記回答は,本件対象期間中の他の家電量販店の運用と整合しない。
また,本件排除措置命令で違反行為とされているのは,新規開店又は改装開店前の準備作業のための従業員等派遣だけであるから,被審人運営店舗の開店後の従業員等派遣に関する事情をもって,本件従業員等派遣をさせたことが不利益行為に該当しないものと認めることはできない。
さらに,家電製品等の小売業者に対して商品を納入する者が,契約上の義務が無いにもかかわらず,実費も含めて無償で従業員等の派遣をさせられるという実態が,被審人のみならず,一般的な商慣習として家電業界に長年にわたり定着しており,納入業者において,通常の営業活動の一環であると考えて当該従業員等の派遣を行っていたとしても,そのような商慣習は,前記⑴のような優越的地位の濫用規制の趣旨に鑑みれば,公正な競争秩序の維持・促進の立場から,「正常な商慣習」(独占禁止法第2条第9項第5号柱書)として是認されるべきではない。
そうすると,前記(イ)のとおり,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせた行為は,従業員等派遣例外事由に当たるなどの特段の事情がない限り,不利益行為に当たるものと認められるところ,このような特段の事情が認められないにもかかわらず,上記のような回答をした納入業者が現に他の取引先に対しても従業員等派遣を行っていたという事実をもって,被審人が当該納入業者に本件従業員等派遣をさせたことが不利益行為に該当しないものと認めることはできない。
したがって,被審人の主張を採用することはできない。
(f)小括
以上によれば,被審人が127社に新規店舗開設等作業のための従業員等派遣に当たる本件従業員等派遣をさせたことについて,不利益行為に該当するか否かは,専らこれが従業員派遣等例外事由②に当たるか否かによって判断されるところ,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が実施した自社の納入商品についての店作りのうちの商品の展示,装飾については,商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合に当たるのであれば,127社は本件従業員等派遣を通じて直接の利益を得ることができるものと認められ,この直接の利益等を勘案して,当該従業員等派遣による127社の負担が合理的な範囲内のものであり,当該納入業者の同意の上で行われたものである場合には,被審人が当該納入業者に従業員等派遣をさせたことは,従業員等派遣例外事由②に該当することになる。
一方,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことが濫用行為(不利益行為)に当たらないとするその余の被審人の主張については,これを採用することはできない。
なお,公正取引委員会の報告命令における従業員等を派遣した理由についての設問(査26の各号・設問3⑷)に対して,「イ 過去に従業員等を派遣しなかった際,エディオンらとの取引量・額を減らされるなどの制裁を受けたことがあるため」との回答や,「ウ 具体的な制裁や示唆を受けたことはないが,従業員等を派遣しなければ,エディオンらとの取引量・額を減らされる可能性があると判断したため」との回答(これらの回答と同趣旨の回答を自由意見欄に記載している納入業者を含む。)を選択している納入業者,被審人アンケートにおける被審人運営店舗の店舗開設準備作業のために従業員等を派遣した理由についての設問(審1の各号・設問1.8.)に対して,「3.主にエディオンからの制裁を回避するため」という類型の中の回答を選択している納入業者,その従業員において,本件従業員等派遣をした理由として被審人による制裁のおそれについて供述している納入業者,その他,報告命令に対する報告書において,「貴社が従業員等を派遣した理由」として「オ 他の納入業者が従業員等を派遣していることから,貴社のみ従業員等を派遣しないとすることが難しかったため」との回答を選択(査26の1・設問3⑷)した納入業者については,被審人の従業員等派遣の依頼にやむなく応じていたのであって,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情がなかったことがうかがわれるから,この点を踏まえた上で,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情を判断すべきである。
c 被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことについての従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情の有無について
前記bを踏まえて検討するに,別紙6において個別に認定したとおり,被審人が,127社に本件従業員等派遣をさせたことについては,《納入業者(42)》に店作りのための従業員等派遣をさせたこと,《納入業者(99)》及び《納入業者(125)》に商品の搬入に伴ってその設定,調整をさせたことについては,商品の特性上格別の販売促進効果を生じさせる場合に当たり,自社商品の適切な展示による販売促進により直接の利益を得ることができるものとして,従業員等派遣例外事由②に該当すると認めることができるが,その余については,上記3社に対して上記以外の店舗開設準備作業をさせたことを含めて,いずれも従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情を認めることはできない。
(オ)小括
以上によれば,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことは,前記(エ)cの3社に対する例外部分を除き,いずれも不利益行為に該当するものと認められる。
被審人は,以上のほかにも被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことが濫用行為(不利益行為)に該当しない理由を縷々主張するが,いずれも従業員等派遣例外事由等の特段の事情に該当するものとは認められず,かかる主張は採用できない。
(5)127社が不利益行為を受け入れるに至った経緯や態様等
ア 前記⑷に認定した不利益行為を127社が受け入れるに至った経緯や態様
(ア)まず,被審人は,消費者に販売するために商品を納入業者から購入する大規模な小売業者であり,他方で127社は,自ら製造しあるいは自ら仕入れた商品を,被審人に販売する納入業者であって,127社に対する前記⑷で認定した不利益行為は,このような被審人によるいわゆるバイイングパワーが発揮されやすい取引上の関係(「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」の運用基準〔平成17年6月29日公正取引委員会事務総長通達第9号〕「はじめに」の1参照)を背景としたものである。
このような背景の下,前記⑷で認定した不利益行為は,前記⑷イ(オ)のとおり,127社という多数の取引の相手方に対して,遅くとも平成20年9月6日から平成22年11月29日まで(本件対象期間)の約2年3か月という長期間にわたり,別表2記載の133回に上る被審人運営店舗の新規開店又は改装開店に際し,被審人の利益を確保することなどを目的として,被審人運営店舗の店舗開設準備作業に関係する被審人の従業員の連携の下,組織的かつ計画的に一連のものとして行われたものである。このことは,殊に次のような事実からも明らかである。すなわち,
① 被審人の店舗支援部の担当者による127社に対する店舗開設準備作業の日程等の連絡は,店舗支援部が作成した店作りスケジュール表を踏まえて行われており,MD,FMD,店舗責任者等,財務経理・管理担当部門の者及び在庫コントローラー担当長等も,被審人の店舗支援部の者から送付された店作りスケジュール表によって商品の搬出,商品の搬入又は店作りを行う日程等を把握し,店舗支援部の担当者と同様,店作りスケジュール表を踏まえて,納入業者に対して,店舗開設準備作業の日程等の連絡を行っており,しかも,本件で問題となった店舗のほとんどにつき,被審人又は被審人事業子会社の複数の担当者から127社に対して店舗開設準備作業の日程連絡が行われていた(前記⑷ア(ア))。
② 被審人の担当者の納入業者に対する新規開店又は改装開店の際の商品の搬出,商品の搬入又は店作りを知らせる文書や電子メールの一部には,従業員等の派遣を依頼する趣旨が明記されたものがあった(前記⑷ア(ア))。
③ 被審人が作成した店作りに関するマニュアル(「2009年12月現在」)には,納入業者による従業員等派遣を前提とする記載がされており,同マニュアルと同様に店作りのために作成された他のマニュアルにも,納入業者から派遣された従業員等が店作りを行うことを前提とされた記載が少なからず存在する(前記⑷ア(ア))。
④ 従前,家電小売業界では,納入業者が家電量販店の新規開店又は改装開店前の準備作業を負担する商慣習が存在していたところ(前記⑷イ(エ)b(e)ⅰ),被審人の従業員の一部は,本件対象期間中も,127社が従業員等の派遣依頼に応じるのが当然であるように振る舞っていた(査97,審82)。
(イ)また,納入業者の側においても,被審人から従業員等の派遣の依頼を受けた納入業者の従業員は,被審人の従業員に対して従業員等の派遣の可否や人数について返答することが少なくなく,商品の搬出,商品の搬入又は店作りに従業員等を派遣できない場合には,事前に,被審人にその旨と謝罪の連絡をしたり,代わりの者を派遣したりしており,一部の納入業者は,同種の商品を納入する他の納入業者と調整をした上で,被審人の担当者に対し,店作りに係る日程及び店作りに派遣する従業員等の分担を連絡するなどしていたほか(前記⑷ア(ア)b),証拠によれば,納入業者の一部は,報告命令に対する報告書や被審人アンケートに対する回答書において,本件従業員等派遣を行っていた理由として,被審人の従業員の威圧的な態度(査26の9・設問7)や過去の制裁(査26の52,査26の69・各設問3⑷),制裁のおそれを挙げたり(査26の3,査26の16,査26の23,査26の26,査26の32,査26の34,査26の39,査26の41,査26の43,査26の45,査26の46,査26の56,査26の66,査26の67,査26の70,査26の83,査26の84,査26の88,査26の103,査26の104,査26の105,査26の107,査26の114,査26の118,査26の119・各設問3⑷,審1の13・設問1.8.,審1の15・設問1.8.3.,審1の20,審1の26,審1の27,審1の40,審1の42,審1の56,審1の73,審1の79・各設問1.8.),担当者が,制裁を受ける不安を感じて本件従業員等派遣に応じた旨の供述をしたりしている(査611,査613,査617ないし査619)。
イ 小括
 以上のような不利益行為を127社が受け入れるに至った経緯や態様は,それ自体,被審人が納入業者一般に対してその意に反するような要請等を行っても,一般的に甘受され得る力関係にあったことを示すものであるから,前記⑶において被審人の127社に対する取引上の地位を判断する際に考慮したとおり,前記⑷で認定した不利益行為を受け入れていた納入業者については,被審人が著しく不利益な要請等を行ってもこれを受け入れざるを得ないような場合にあったことをうかがうことができる。
(6)被審人が本件従業員等派遣をさせたことが優越的地位の濫用に該当するか
ア 被審人の行為が独占禁止法第2条第9項第5号柱書の「利用して」行われたものであること
(ア)甲が乙に対して優越的な地位にあると認められる場合には,甲が乙に不利益行為を行えば,通常は,甲は自己の取引上の地位が乙に対して優越していることを「利用して」(独占禁止法第2条第9項第5号柱書)これを行ったものと認められる(ガイドライン第2の3)。
この点,被審人は,前記⑶のとおり,その取引上の地位が92社に対して優越するものと認められるところ,被審人が92社に対して従業員等派遣を要請し,92社がこれに応じて本件従業員等派遣を行ったことは前記⑷アのとおりである。また,被審人が92社に本件従業員等派遣をさせたことが,92社のいずれに対する関係においても,独占禁止法第2条第9項第5号ロが規定する不利益行為に該当するものと認められることも,前記⑷イのとおりである。
そうすると,被審人が92社に本件従業員等派遣をさせた行為は,通常,自己の取引上の地位が92社に対して優越していることを「利用して」(独占禁止法第2条第9項第5号柱書)行われたものであると認められる。
(イ)これに対し,被審人は,被審人の取引上の地位が一部の納入業者に対して優越していたとしても,被審人が「店作り」の作業内容,日程等を連絡していたのは,127社の側から,店作りに参加したいので日程等を教えてほしいとの要望があったからであり,127社に対して優越的地位を「利用して」本件従業員等派遣を強制したことはないと主張する(審388,審389,審394,審405,審406,審415)。
しかしながら,被審人の従業員による92社を含む127社に対する店舗開設準備作業の日程等の連絡が,従業員等の派遣を依頼する趣旨を含むものであったことは,前記⑷ア(ア)で認定したとおりである。また,前記⑸ア(ア)のとおり,被審人が92社を含む127社に本件従業員等派遣をさせた行為は,被審人の利益を確保することなどを目的として,被審人運営店舗の店舗開設準備作業に関係する被審人の従業員の連携の下,組織的かつ計画的に一連のものとして行われたものである。さらに,前記⑷ア(ア)の被審人の納入業者に対する本件従業員等派遣の依頼は,同項で摘示した証拠によれば,そのほとんどが,基本商品政策の策定,月次商品計画,店舗のアイテム別販売計画の策定,販売価格の決定といった商品計画の策定等の業務を担当していた被審人のMD,ストアブランドごとに,また,商品ごと,かつ地域ごとに,主として,MDが策定した店舗における商品の販売政策を店舗において実行するよう指導するとともに,店舗で実行した商品の販売政策の検討課題をMDに報告する業務を担当していたFMD,被審人が新規開店若しくは改装開店を実施する店舗の店長,副店長若しくは店長代理(新規開店を実施する店舗については,それらの職に就く予定の者を含む。)又は売場担当者など,納入業者において,自らとの取引に影響を与え得るものと認識されるような地位にある者からされたものであったことが認められる。以上の各事実によれば,被審人が92社に本件従業員等派遣をさせたことは,自身の優越的地位を「利用して」,92社に本件従業員等派遣を強要したものであって,優越的地位の濫用に該当するものと認められる。
したがって,被審人の上記主張を採用することはできない。
(ウ)また,被審人は,報告命令に対する報告書において,「貴社が従業員等を派遣した理由」につき「オ 他の納入業者が従業員等を派遣していることから,貴社のみ従業員等を派遣しないとすることが難しかったため」と回答(査26の各号・設問3⑷)した納入業者は,競争関係に立つ他の納入業者との競争から,他の納入業者が不利益行為を受け入れているため,自らも不利益行為を受け入れていたのであって,その不利益は被審人との関係で生じたものではなく,他の納入業者との競争から生じたものであり,かかる場合には,被審人がその優越的地位を利用したことにはならないことから,独占禁止法第2条第9項第5号柱書の「利用して」の要件を満たさないと主張する。
しかし,被審人が92社に対して優越的な地位にあり,また,被審人が92社に本件従業員等派遣をさせたことが,92社のいずれに対する関係においても不利益行為に該当するものと認められるため,通常,被審人が92社に対して本件従業員等派遣をさせたことが,自己の取引上の地位を「利用して」(独占禁止法第2条第9項第5号柱書)行われた行為であると認められることは,前記(ア)で説示したとおりである。そして,仮に,上記の納入業者が,他の納入業者との競争上不利にならないためといった理由もあって被審人による不利益行為を受け入れていたとしても,それは,不利益行為を受け入れなかった場合に,被審人から他の納入業者と比べて(不利益行為とは別の)不利な扱いを受けることを懸念してのことであったものとも考えられ(査611,査613,査617ないし査619),被審人が優越的地位を利用したことと相反するものではないから,上記の納入業者について,報告命令に対する報告書において上記のような回答をしているからといって,被審人が92社に本件従業員等派遣をさせたことが独占禁止法第2条第9項第5号柱書の「利用して」行われた行為であることは否定されない。
したがって,被審人の上記主張は採用することができない。
(エ)さらに,被審人は,報告命令に対する報告書において,「被審人から不利益となる要請があったときに当該要請を受け入れざるを得なくなる場合はどのような場合か」という設問(査26の各号・設問2⒁)に対して,審査官が挙げた選択肢ア(一定の取引依存度があること),同イ(取引先変更可能性がないこと)を選択していない納入業者について,上記の選択肢を選択していないことは,被審人から不利益となる要請があったとしても,取引依存関係や取引先変更困難性に影響されて当該要請を受け入れざるを得なくなるようなことはないことを示すものであり,仮に上記各納入業者が被審人からの不利益となる要請を受け入れたとしても,それは,被審人が優越的地位にあることを「利用し」たものということはできないと主張する。
しかしながら,被審人の上記主張は,納入業者の回答の趣旨について独自の解釈を述べるにすぎないものであって,客観的な根拠に基づくものではないから,前記(ア)の認定を左右するものではない。
したがって,被審人の上記主張は採用することができない。
(オ)以上によれば,被審人は,92社(別紙2で略称注記した「対象納入業者」)に対し,その取引上の地位が優越していることを利用して,独占禁止法第2条第9項第5号ロが規定する行為に該当する不利益行為を行ったものと認められる。
イ 被審人が本件従業員等派遣をさせたことが公正な競争を阻害するおそれがあるものであること
(ア)前記⑴のとおり,独占禁止法第19条において,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に同法第2条第9項第5号(改正法施行日前においては旧一般指定第14項〔第1号ないし第5号〕)に該当する行為をすることが不公正な取引方法の一つとして規制されているのは,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは,相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに,相手方はその競争者との関係において競争上不利となる一方で,行為者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあり,このような行為は公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)があるといえるからである(ガイドライン第1の1参照)。
そして,この公正競争阻害性については,①行為者が多数の相手方に対して組織的に不利益を与えているか,②特定の相手方に対してしか不利益を与えていないときであっても,その不利益の程度が強い又はその行為を放置すれば他に波及するおそれがあるかなど問題となる不利益の程度,行為の広がり等を考慮して判断することになる(ガイドライン第1の1参照)。
また,上記の独占禁止法第19条において優越的地位の濫用が不公正な取引方法の一つとして規制されている趣旨に照らせば,同法第2条第9項第5号又は旧一般指定第14項(第1号ないし第4号)に該当する行為は,これが複数みられるとしても,また,複数の取引先に対して行われたものであるとしても,それが,被審人運営店舗の店舗開設準備作業に関係する被審人の従業員の連携の下,組織的かつ計画的に一連のものとして実行されているなど,それらの行為を行為者の優越的地位の濫用として一体として評価できる場合には,独占禁止法上一つの優越的地位の濫用として規制されると解するのが相当である(トイザらス事件審決)。
この点,被審人は,公正な競争を阻害するおそれについては,競争減殺効果が発生する可能性があるという程度の漠然とした可能性の程度でもって足りると解すべきではなく,当該行為の競争に及ぼす量的又は質的な影響を個別に判断してなされる必要があると主張するが,優越的地位の濫用の公正競争阻害性は自由な競争の基盤が侵害されることにあり,上記の公正競争阻害性の内容である「相手方はその競争者との関係において競争上不利」及び「行為者はその競争者との関係において競争上有利」については,「となるおそれがある」とされていることからも明らかなように,実際に「競争上不利」,「競争上有利」となったことまで要するものではないというべきである。
(イ)そして,被審人は,前記アのとおり,その取引上の地位が対象納入業者に対して優越していることを利用し,前記⑸アのとおり,被審人の利益を確保することなどを目的として,被審人運営店舗の店舗開設準備作業に関係する被審人の従業員の連携の下,組織的かつ計画的に一連のものとして,対象納入業者に本件従業員等派遣をさせていることかすると,これらの行為は,行為者の優越的地位の濫用として一体として評価できる場合に該当し,独占禁止法上一つの優越的地位の濫用として規制されることになる。
また,被審人の上記の行為により,遅くとも平成20年9月6日から平成22年11月29日までの約2年3か月もの長期間にわたり,92社という多数の納入業者に対し,合計133回に及ぶ被審人運営店舗の新規開店又は改装開店に際し,延べ3,165回(1回の新規開店又は改装開店の際に複数の作業が行われても1回として計算し,92社が従業員等派遣を行った新規開店又は改装開店の数〔《納入業者〔35〕》を除いて別紙3の合計欄の下段の数〕を合算したもの)という多数回にわたって従業員等を派遣することを余儀なくさせていたのであって,これは,納入業者である対象納入業者の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するものといえる。
さらに,対象納入業者は,上記のような本件従業員等派遣を余儀なくされたことによって生じる人件費等の負担により,その競争者との関係において競争上不利となる一方で,被審人は,本来であれば自社の従業員等において行うべき店舗開設準備作業の一部を多数の納入業者に多数回にわたって行わせ,人件費等の負担を納入業者に転嫁することにより(査52ないし査56,査61ないし査63,査80,査81,査85ないし査88,査93,査97,査98,査101,査106,査108,査114,査120,査165,査301),被審人がその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあったものと認められる。
そうすると,被審人が,その優越的地位を利用して,対象納入業者に本件従業員等派遣をさせたことは,正常な商慣習に照らして不当に行われたものであって,公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)があるものと認められる。
ウ 結論
以上によれば,被審人は,審査官の主張する本件対象期間中,自己の取引上の地位が対象納入業者に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に独占禁止法第2条第9項第5号ロ(改正法の施行日前については,旧一般指定第14項第2号)に該当する行為を行っていたものであり,当該行為は,優越的地位の濫用に該当すると認められる。
他方,35社については,被審人が35社に対して優越的地位を有していたことを認めるに足りる証拠はないから,被審人の35社に対する行為は,優越的地位の濫用に該当すると認めることはできない。
2 争点2(改正法施行前の行為に旧一般指定第14項を適用することができるか)について
前記1で認定したとおり,被審人が対象納入業者に本件従業員等派遣をさせた行為は,独占禁止法第2条第9項第5号ロ及び旧一般指定第14項第2号に該当し,同法第19条の規定に違反するものであった。
この点,旧一般指定は,いわゆる一般指定であり,公正取引委員会が,あらゆる事業分野において行われる可能性のある取引方法を,改正法による改正前の独占禁止法第2条第9項の規定により,不公正な取引方法として指定したものである。
一方,大規模小売業告示は,いわゆる特殊指定であり,公正取引委員会が,特定の事業分野における特定の取引方法を,独占禁止法第2条第9項第6号の規定により(改正法施行前においては,改正法による改正前の独占禁止法第2条第9項の規定により),不公正な取引方法として指定したものである(独占禁止法第71条〔改正法による改正前の独占禁止法第71条〕)。
このように,旧一般指定は,あらゆる事業分野にわたる不公正な取引方法に一般的に適用しようとするものであり,それゆえに規定の内容もある程度一般的,抽象的となっており,特定の事業分野における特定の取引方法に適用しようとする大規模小売業告示における規定の内容が具体的である点が異なるが,旧一般指定を定めた趣旨が上記解釈のとおりであることや,旧一般指定と大規模小売業告示はいずれも不公正な取引方法を指定するものであり,いずれの適用による法律効果も同じであることなどに照らすと,大規模小売業告示が定めている特定の事業分野について,旧一般指定の適用は排除されないと解するのが相当である。そして,改正法の施行前において大規模小売業告示等の特殊指定が旧一般指定に優先的に適用されていたという実態があったことは,上記解釈と相容れないものではなく,上記解釈を左右するものではない。
したがって,大規模小売業告示と旧一般指定第14項のいずれの要件をも満たし得る,本件違反行為(前記1に認定したとおり本件違反行為の相手方は対象納入業者であるが,本件排除措置命令において想定されていた違反行為の相手方は127社である。以下同じ。)のうちの改正法施行前の行為に対し,大規模小売業告示ではなく旧一般指定第14項を適用したとしても,法令の適用に誤りはなく,これに反する被審人の主張(前記第5の2⑵)は採用することができない。
3 争点3(被審人に対し本件排除措置命令をすることについて特に必要があるか)について
(1)「特に必要があると認めるとき」に当たる場合
独占禁止法第20条第2項が準用する同法第7条第2項本文は,違反行為が既になくなっている場合においても,特に必要があると認めるときは,違反行為者に対し,当該行為が既になくなっている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる旨規定しているところ,同項の「特に必要があると認めるとき」とは,原処分の時点で既に違反行為はなくなっているが,当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や,当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解される(東京高等裁判所平成20年9月26日判決・公正取引委員会審決集第55巻910頁〔JFEエンジニアリング株式会社ほか4名による審決取消請求事件〕参照)。
(2)本件において排除措置を命ずる必要性
ア 認定事実
証拠によれば,本件に関し,次のような事実を認めることができる。
(ア)被審人は,遅くとも平成20年9月6日以降,約2年3か月間という長きにわたって本件違反行為を継続して行っていた(前記1)。
(イ)被審人は,ヤマダ電機事件後,新規開店又は改装開店を行った店舗における納入業者の従業員等の派遣を受けた実態等について調査を行った結果,少なくともデオデオ,エイデン及びエディオンと称する店舗における新規開店又は改装開店に係る販売業務のほか,商品の搬出,商品の搬入又は店作りについて,納入業者に対し従業員等の派遣を要請し,納入業者の従業員等の派遣を受けている場合があることを把握したが,販売業務に係る納入業者の従業員等の派遣については納入業者との間で覚書を締結するなどの対応をしたものの,商品の搬出,商品の搬入及び店作りに係る納入業者の従業員等の派遣については,従前と同様,費用を負担することもせず,何ら対応をしなかった(査53ないし査55,査87,査97,査108,査131ないし査137)。
(ウ)ヤマダ電機事件の後,対象納入業者を含む納入業者に対し連絡を行う被審人の担当者のうち一部の者は,ヤマダ電機事件を受けて,従業員等の派遣を要請する趣旨によるものであることを明記せず,商品の搬出,商品の搬入又は店作りに係る日程のみを納入業者に連絡する方法を採るようになったものの,被審人又は被審人事業子会社においては,従前のとおり,納入業者に対し,従業員等の派遣を要請する趣旨を明記したまま書面を送付する者も存在した(前記1⑷ア)。
(エ)本件対象期間中,被審人の連結売上高及び店舗数は家電製品等の小売業を営む家電量販店の中で第2位であり,この間,被審人の事業は拡大していた(前記第3の1⑸)。
(オ)被審人は,少なくとも,公正取引委員会が平成22年11月16日に本件立入検査を行ったことを契機として同月30日に開催された経営会議以降,本件違反行為を行っていない(査136,査137,査245,査575,査576)。
イ 判断
前記第3の5のとおり,被審人は,平成22年11月30日に本件違反行為を取りやめているものの,前記ア(ア)のとおり,本件違反行為が行われた期間が長かったこと,同(オ)のとおり,被審人が本件違反行為を取りやめたのは,同月16日の本件立入検査を契機とするものであって,被審人の自発的意思に基づくものではなかったことからすると,同(イ)及び(ウ)のとおり,被審人がヤマダ電機事件を踏まえて本件従業員等派遣につき社内検討や一定の対応を行っていたことを考慮しても,被審人によって,本件違反行為と同様の違反行為が繰り返されるおそれがあったと認められる。これに加えて,同(エ)のとおり,本件排除措置命令の時点における被審人の家電製品等の小売業を営む家電量販店としての地位は第2位であり,被審人の連結売上高は増加していて,被審人と取引する納入業者にとって被審人は優越的地位に立ちやすい状況にあったことからすると,被審人に対して本件違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることが,「特に必要があると認めるとき」に該当するものと認められる。
したがって,公正取引委員会が被審人に対して本件排除措置命令をしたことは相当である。
なお,前記1のとおり,本件違反行為の相手方は127社ではなく対象納入業者(92社)であると認められるところ,このことによっても,被審人に対して排除措置を命ずることが「特に必要があると認めるとき」に該当することに変わりはない。
4 争点4(本件排除措置命令において127社以外の納入業者に対する通知を命じること〔本件排除措置命令の主文第2項〕ができるか)について
独占禁止法第20条の定める排除措置命令は,違反行為を排除し,当該行為によってもたらされた違法状態を除去し,競争秩序の回復を図るとともに,当該行為の再発を防止することを目的として,作為又は不作為を命じる行政処分である。そのため,違反行為そのものについて排除措置を命じ得るだけではなく,これと同種又は類似の違反行為の行われるおそれがあって,上記目的を達するために現にその必要性のある限り,これらの事実についても相当の措置を命じ得る(東京高等裁判所昭和46年7月17日判決・行集第22巻第7号1022頁参照)。
また,公正取引委員会が独占禁止法の運用機関として競争政策に専門的知見を有していることからすれば,公正取引委員会には,命ずる排除措置の内容についても,専門的な裁量が認められていると解される(東京高等裁判所平成28年5月25日判決・公正取引委員会審決集第63巻304頁〔日本エア・リキード株式会社による審決取消請求事件〕参照)。
そして,被審人は,遅くとも平成20年9月6日以降2年以上にわたり(前記3⑵ア(ア)),多数の納入業者に対し,自己の取引上の地位が対象納入業者に優越していることを利用して,被審人運営店舗の店舗開設準備作業に関係する被審人の従業員の連携の下,組織的かつ計画的に一連のものとして本件違反行為を行っていたところ(前記1⑹イ),これらの行為の相手方を特定の納入業者に限定していた様子はうかがえない。また,本件排除措置命令の効力が生じた時点においても被審人が家電量販店として有力な地位にあり(前記1⑶ア),対象納入業者以外の納入業者との関係でも優越的地位にある可能性が十分にあったことからすれば,対象納入業者以外の納入業者に対しても本件違反行為と同種又は類似の違反行為の行われるおそれがあると認められる。
したがって,被審人による将来の違反行為を防止するためには,対象納入業者だけではなく,被審人と取引関係にある全ての納入業者に対して,本件排除措置命令の主文第1項に基づいて採った措置の通知を命じることが,必要かつ相当であると認められる。これに加えて,対象納入業者以外に対しても対象納入業者に対する通知文と同旨の文書を送付することによる被審人の負担も,被審人の事業規模等からすると大きいとはいえないことに鑑みれば,本件排除措置命令の主文第1項に基づいて採った措置の通知を命じることについて,公正取引委員会が上記の裁量権の範囲を逸脱又は濫用したとは認められず,また,不相当なものとは認められない。
なお,前記1のとおり,本件違反行為の相手方は127社ではなく対象納入業者(92社)であると認められるところ,このことによっても,対象納入業者以外の納入業者に対して措置の通知を命ずることが相当であることに変わりはない。
5 争点5(本件課徴金納付命令における課徴金算定の基礎となった違反行為期間における購入額の算定方法は適法か)について
(1)本件対象期間における購入額の算定方法について
独占禁止法第20条の6は,優越的地位の濫用に係る課徴金について,事業者が,第19条の規定に違反する行為(第2条第9項第5号に該当するものであって,継続してするものに限る。)をしたときは,公正取引員会は,当該事業者に対し,当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間(当該期間が3年を超えるときは,当該行為がなくなる日からさかのぼって3年間とする。)における,当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が商品又は役務の供給を受ける相手方に対するものである場合は当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した購入額とし,当該行為の相手方が複数ある場合は当該行為のそれぞれの相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額又は購入額の合計額とする。)に100分の1を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない旨規定する。
 そして,優越的地位の濫用に係る課徴金算定の基礎となる購入額を認定する前提となる違反行為期間については,前記1⑴のような優越的地位の濫用規制の趣旨に照らせば,不利益行為(独占禁止法第2条第9項第5号イないしハに該当する行為)が最初に行われた日を同法第20条の6にいう「当該行為をした日」とし,不利益行為がなくなったと認められる日を同条にいう「当該行為がなくなる日」と解するのが相当である。
これを本件についてみると,まず,前記1⑹イのとおり,被審人による本件における違反行為は,行為者の優越的地位の濫用として一体として評価できる場合に該当し,独占禁止法上一つの優越的地位の濫用として規制されることになり,この行為は繰り返し行われたものであることから,これが「継続してするもの」(同法第20条の6)に該当することは明らかであるところ,別紙3及び証拠(査102,査303の各号)によれば,本件における違反行為期間の始期は,遅くともデオデオ倉敷本店(店舗番号51)における商品の店舗への搬入が実施された平成20年9月6日と認められる。
次に,証拠によれば,被審人は,平成22年11月16日の本件立入検査の時点では対象納入業者に無償で従業員等を派遣させていたものの(査576),①平成22年11月30日の経営会議をもって,会社として,今後は店舗開設準備作業のために従業員等の派遣依頼を行わず,従業員等の派遣を受けた場合には費用を支払うこと及びその旨を記載した文書を納入業者に早急に送付することを決定し(査575〔資料1,2〕),同年12月6日頃,納入業者に対し,その旨を通知し,②本件立入検査の後,今後は,店舗開設準備作業をできるだけ自社従業員で行うようにし,納入業者から従業員等の派遣を受けて店舗開設準備作業を行う場合には,作業の対象を当該納入業者が納入した商品のみに限定し,納入業者に対して「よろしくお願いします。」という依頼の表現も使用しないこととし(査137,査135,査576),③被審人の店舗支援部の者は,本件立入検査の後間もない時期に,納入業者に対して,店舗開設準備作業の日程等を連絡する運用を中断し(査136),④被審人の店舗支援部の者は,その約2か月後,納入業者に対して,店舗開設準備作業の日程等を送付する運用を再開したが,その後は,メールの本文には「お願いします」,「ご協力ください」といった依頼の趣旨を示す表現を用いないようにした(査137)ものと認められる。そして,上記①ないし④の各事実によれば,被審人の役職員は,遅くとも平成22年11月30日には,納入業者に対して,今後,無償で店舗開設準備作業を依頼してはいけないことを明確に理解したといえるし,納入業者も,同日,被審人が送付することと決定した通知書に基づき,遅くとも同年12月6日以降に商品の搬出,商品の搬入又は店作りが行われた際には,店舗開設準備作業の日程連絡を受けても,従業員等を派遣する必要がないこと,従業員等を派遣する場合であっても,他社商品の作業を行う必要はなく,また,費用の支払を受けることができることを理解できたものと認められるから,同年11月30日をもって,本件違反行為は取りやめられたものと認められる。そうすると,本件における違反行為期間の終期は同月29日ということになる。
したがって,本件における違反行為期間は,本件排除措置命令による違反行為の認定を基に本件課徴金納付命令が認定したとおり,平成20年9月6日から平成22年11月29日まで(本件対象期間)ということになる(被審人の取引上の地位は35社に優越していたとは認められないものの,この事実にかかわらず,本件における違反行為期間は,本件課徴金納付命令が認定した違反行為期間〔本件対象期間〕と同様である。)。
 そして,独占禁止法第20条の6が適用されるのは,本件違反行為のうち,改正法が施行された平成22年1月1日以後に係るものであるから(改正法附則第5条),課徴金の算定の基礎となる購入額は,本件対象期間のうちの平成22年1月1日から同年11月29日までの購入額ということになる。
(2)被審人の主張について
ア 被審人は,優越的地位の濫用の本質は自主的判断阻害性にあり,個別的な取引における抑圧性それ自体が公正競争阻害性と捉えられるべきであるから,独占禁止法第20条の6にいう「継続してするもの」に該当するかについては,本件違反行為が独占禁止法上一つの優越的地位の濫用であるとして判断することはできず,違反行為の相手方ごとに判断されなければならないとした上で,独占禁止法第20条の6が適用されるのは改正法が施行された平成22年1月1日以後に係るものであるから(改正法附則第5条),独占禁止法第20条の6にいう「継続してするもの」について,同日以後において継続性が認められることが必要であるとして,本件において課徴金の算定の基礎となるのは,平成22年1月1日以後において違反行為が「継続してするもの」と認められる納入業者からの商品の購入額に限られると主張する。
しかしながら,前記1⑹イで説示したとおり,独占禁止法第19条において優越的地位の濫用が不公正な取引方法の一つとして規制されている趣旨は,前記1⑴のとおりであって,この優越的地位の濫用規制の趣旨に照らせば,同法第2条第9項第5号又は旧一般指定第14項(第1号ないし第4号)に該当する行為は,これが複数みられるとしても,また,複数の取引先に対して行われたものであるとしても,それが,被審人運営店舗の店舗開設準備作業に関係する被審人の従業員の連携の下,組織的かつ計画的に一連のものとして実行されているなど,それらの行為を行為者の優越的地位の濫用として一体として評価できる場合には,独占禁止法上一つの優越的地位の濫用として規制されると解するのが相当であるから(トイザらス事件審決),被審人の主張は,前提となる優越的地位の濫用における公正競争阻害性に関する正しい理解に基づくものとは認められず,採用することができない。
そして,前記1⑹イのとおり,被審人が対象納入業者に本件従業員等派遣をさせた行為は,優越的地位の濫用として一体として評価することができるから,独占禁止法上一つの優越的地位の濫用として規制されることになり,独占禁止法第20条の6にいう「継続してするもの」に該当するか否かの判断も,対象納入業者(92社)に対する行為を一体のものとして判断すべきことになる。
そうすると,被審人による上記行為は,改正法が施行された平成22年1月1日の前後を通じて「継続してするもの」に該当することは明らかである。
イ また,被審人は,独占禁止法第20条の6にいう「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」や「購入額」も,違反行為の相手方ごとに判断されるべきであると主張する。
しかしながら,独占禁止法第20条の6は,「第19条の規定に違反する行為(第2条第9項第5号に該当するものであつて,継続してするものに限る。)をしたときは,・・・当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間・・・における,当該行為の相手方との間における・・・売上額(・・・購入額・・・)」を課徴金の計算の基礎とする旨規定しているところ,「当該行為」とは,その直前の「第19条の規定に違反する行為」を意味することは明らかであり,前記アのとおり,本件違反行為が独占禁止法上一つの優越的地位の濫用として規制される以上,「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」や「購入額」も,本件違反行為が独占禁止法上一つの優越的地位の濫用であることを前提として認定されるべきことになる。
したがって,「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間」や「購入額」が違反行為の相手方ごとに判断されるべきであるとする被審人の主張を採用することはできない。
6 争点6(マル特経費負担を独占禁止法施行令第30条第2項第3号又は第1号に該当するものとして違反行為期間における購入額から控除すべきか)について
(1)独占禁止法施行令第30条第2項について
独占禁止法第20条の6は,優越的地位の濫用に係る課徴金について当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が商品又は役務の供給を受ける相手方に対するものである場合は当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した購入額とし,当該行為の相手方が複数ある場合は当該行為のそれぞれの相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額又は購入額の合計額とする。)に100分の1を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない旨規定する。
この規定を受け,独占禁止法施行令第30条第2項は,購入額の算定の方法について,違反行為の相手方から引渡しを受けた商品又は提供を受けた役務の対価の額を合計する方法とするとした上で,①商品の量目不足,品質不良又は破損,役務の不足又は不良その他の事由により対価の額の全部又は一部の控除があった場合におけるその控除した額(同項第1号),②商品の返品があった場合におけるその返品された商品の対価の額(同項第2号),③相手方に対し商品の引渡し又は役務の提供の実績に応じて割戻金を支払うべき旨が書面によって明らかな契約があった場合(一定の期間内の実績が一定の額又は数量に達しない場合に割戻しを行わない旨を定めるものを除く。)におけるその割戻金の額(同項第3号)についてその合計額から控除する旨規定する。
そして,上記③の「相手方に対し商品の引渡し又は役務の提供の実績に応じて割戻金を支払うべき旨が書面によって明らかな契約があつた場合におけるその割戻金の額」を控除することとしているのは,商品の販売又は役務の提供の相手方に支払う金銭のうち,対価の修正と認められる割戻金に限定する趣旨であり,相手方に対し商品の引渡し又は役務の提供の実績に応じて割戻金を支払うべき旨が書面によって明らかな契約があった場合であっても,「一定の期間内の実績が一定の額又は数量に達しない場合に割戻しを行わない旨を定めるものを除く。」としているのは,この場合には,商品の引渡し又は役務の提供の実績によって割戻しが行われないことになるので,対価の修正とは認められないからである。
(2)被審人のマル特経費負担の控除の可否について
ア 前記第3の2⑵のとおり,マル特経費負担と称する割戻金は,被審人と対象納入業者を含む納入業者との間で締結されている商品取引基本契約書の仕入価格の約定等を定める条項に規定された「機種・品番ごとにあらかじめ単価を決め難い割戻し金」に該当する割戻金であり,双方で販売促進策等について商談した上で,割戻金の金額の算定対象となる期間,機種・品番,割戻金単価,実績(仕入実績又は販売実績のいずれか)等についてあらかじめ合意し,合意した条件により納入業者が被審人指定書式に基づく通知書により被審人に割戻金を支払うというものである。
イ この点,マル特経費負担については,被審人の仕入実績ではなく,被審人の販売実績に応じて(対象納入業者のうちの特定の納入業者について,被審人の仕入実績に応じてマル特経費負担をすることとされていたとの主張はされておらず,これを認めるべき証拠もない。),納入業者が被審人に対して支払うものとされており,独占禁止法施行令第30条第2項第3号の規定するような相手方に対し商品の引渡し又は役務の提供の実績に応じて割戻金を支払うべきものとはされていない。
ウ ただ一方で,前記第3の2⑴のとおり,被審人による対象納入業者を含む納入業者からの商品の仕入れについては,被審人運営店舗の店頭で商品が販売され,あらかじめ被審人が設定していた在庫保有台数の定数を下回ったときに,自動的に納入業者に商品を発注するという定数制による自動発注が採用されており,被審人による商品の販売と納入業者からの商品の仕入れが,一定程度関連するものとなっていたこと,また,被審人の仕入実績と販売実績が近い数字になるという実情があったものと認められること(審395),さらに,マル特経費負担において割戻金の金額の算定対象となる「実績」については,被審人の仕入実績又は販売実績のいずれかを選択できるものとなっており,このうち,被審人の販売実績に応じて算定されるものとされているのは,納入業者の多くによってこれが選択されていたにすぎないことからすると,マル特経費負担は,形式的には被審人の販売実績に応じて支払われるものであったとしても,実質的には被審人の仕入実績に応じて支払われるものと変わらないものと認められる。
エ そして,前記イのとおり,マル特経費負担は,被審人と対象納入業者を含む納入業者との間で締結されている商品取引基本契約書の仕入価格の約定等を定める条項に規定された「機種・品番ごとにあらかじめ単価を決め難い割戻し金」に該当する割戻金であり,証拠によれば,上記契約書の第8条2項に記載されており,割戻金の対象となる期間,機種,品番,割戻金単価,実績(仕入実績又は販売実績のいずれか)については,算定対象期間の開始前に合意されて,納入業者が起票発行する「経費負担通知書」に記載されているものと認められることからすると(審265),商品の引渡しの実績に応じて支払われる割戻金として,独占禁止法施行令第30条第2項第3号の規定する割戻金に該当するものと認めるのが相当である。
オ 以上によれば,被審人の販売実績に基づき納入業者から被審人に支払われたマル特経費負担は,独占禁止法行令第30条第2項第3号に該当するものとして,本件対象期間中の被審人の対象納入業者からの購入額から控除すべきものと認めるのが相当である。
7 結論
(1)本件排除措置命令について
ア 被審人は,前記1のとおり,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,継続して取引する相手方に対して,自己のために役務を提供させていたものであり,この行為は,独占禁止法第2条第9項第5号ロ(改正法の施行日である平成22年1月1日前においては旧一般指定第14項第2号)に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものと認められる。
また,被審人は,前記5⑴のとおり,平成22年11月30日以降,本件違反行為を行っていないが,本件違反行為が長期間にわたって行われていたこと等の諸事情を総合的に勘案すれば,被審人については,特に排除措置を命ずる必要がある(独占禁止法第20条第2項,第7条第2項)と認められる。
よって,被審人に対して本件違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることは相当である。
イ 他方で,前記1のとおり,本件違反行為の相手方は対象納入業者であると認められる。
このように,本件違反行為の相手方が,本件排除措置命令における127社ではなく,対象納入業者(92社)であると認められる本件においては,本件排除措置命令の内容を,対象納入業者に対する行為に係る措置に変更するのが相当である。
よって,本件排除措置命令の全部取消しを求める被審人の審判請求は,本件排除措置命令の内容を,対象納入業者に対する本件違反行為に係る取締役会決議等を命ずる内容に変更する限度で認容するのが相当である。
(2)本件課徴金納付命令について
ア 被審人は,前記⑴のとおり,独占禁止法第19条の規定に違反する行為(同法第2条第9項第5号に該当するもの)を行ったものであり,前記5⑴のとおり,この行為は繰り返し行われたものであることから,これが「継続してするもの」(同法第20条の6)に該当することは明らかである。
イ また,前記5⑴のとおり,本件における違反行為期間は平成20年9月6日から平成22年11月29日まで(本件対象期間)であり,そのうち,独占禁止法第20条の6が適用される同年1月1日から同年11月29日までの被審人の対象納入業者からの購入額を独占禁止法施行令第30条第2項の規定に基づき算定した金額は,別表1の別表1の「番号」欄の数字に網掛けがされている者(対象納入業者)に係る同表の「購入額(円)」欄に記載された金額を合算した3710億2440万4045円となる。
ウ 一方,前記6のとおり,マル特経費不要は独占禁止法施行令第30条第2項第3号の規定する割戻金に該当するものと認められるところ,証拠によれば,上記期間中に対象納入業者が被審人に支払ったマル特経費負担は,総額677億9584万948円(別表1の「番号」欄に網掛けがされた対象納入業者に係る「マル特経費負担」欄の金額を合算したもの)と認められ(審264,審265),独占禁止法施行令第30条第2項後段,同第3号の規定に基づいて,これを前記イの金額から控除すると,課徴金算定の基礎となる購入額は,3032億2856万3097円となる。
エ したがって,被審人が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,独占禁止法第20条の6の規定により,前記イの3032億2856万3097円に100分の1を乗じて得た額から,同法第20条の7において準用する同法第7条の2第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された,30億3228万円となる。
オ よって,本件課徴金納付命令のうち30億3228万円を超えて課徴金の納付を命じた部分は,取り消されるべきこととなる。
第7 法令の適用
以上によれば,被審人の本件審判請求は,本件排除措置命令について,127社に対する行為に係る措置を対象納入業者に対する行為に係る措置に変更を求める限度で理由があり,また,本件課徴金納付命令について,30億3228万円を超えて納付を命ずる部分の取消しを求める限度で理由があり,その余はいずれも理由がない。
よって,独占禁止法第66条第3項及び第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当であると判断する。

平成31年3月27日

         公正取引委員会事務総局

               審判長審判官  齊 藤 充 洋     

  審判官堀内悟及び審判官酒井紀子は転任のため署名押印できない。

               審判長審判官  齊 藤 充 洋     





別紙2
1 株式会社エディオン(以下「エディオン」という。)は,次の事項を,取締役会において決議しなければならない。
(1)遅くとも平成20年9月6日以降,自社と継続的な取引関係にある納入業者のうち本審決案別表1の「番号」欄の数字に網掛けがされている者(以下「対象納入業者」という。)に対し,商品の搬出若しくは商品の搬入又は店作りであって当該対象納入業者の従業員等が有する販売に関する技術又は能力を要しないものを行わせるため,あらかじめ当該対象納入業者との間でその従業員等の派遣の条件について合意することなく,かつ,派遣のために通常必要な費用を自社が負担することなく,当該対象納入業者の従業員等の派遣をさせていた行為を取りやめている旨を確認すること
(2)今後,前記⑴の行為と同様の行為を行わない旨
2 エディオンは,前項に基づいて採った措置を,納入業者に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
3 エディオンは,今後,第1項⑴の行為と同様の行為を行ってはならない。
4 エディオンは,今後,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については,第1項⑴の行為と同様の行為をすることのないようにするために十分なものでなければならず,かつ,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
(1)納入業者との取引に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の改定
(2)納入業者との取引に関する独占禁止法の遵守についての,役員及び従業員に対する定期的な研修並びに法務担当者による定期的な監査
5(1)エディオンは,第1項,第2項及び前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
(2)エディオンは,前項⑵に基づいて講じた措置の実施内容を,今後3年間,毎年,公正取引委員会に報告しなければならない。
以上

【別紙3及び4省略】










別紙6     
【※127社のうち,納入業者(1),納入業者(42),納入業者(99)及び納入業者(125)の4社について抜粋。】

第1 《納入業者(1)》
1 判断の前提となる事実関係等について
(1)納入業者の概要
ア 《納入業者(1)》は,メモリー,フラッシュメモリー,ネットワーク,ストレージ,マルチメディア,ディスプレイ等のパソコン周辺機器の製造・販売を行うメーカーであり(審166),被審人に対し,ストレージ,メモリ関連商品,液晶ディスプレイ,テレビオプション,PC周辺機器,PC用液晶ディスプレイ,PCサプライ品等を納入していた(査26の1・設問2⑶別表5)。
イ 《納入業者(1)》は,本件対象期間を通じて,被審人と取引していた(査26の1・設問1⑻,同⑼)。
(2)本件従業員等派遣の内容
ア 《納入業者(1)》の派遣した従業員等が被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際に行った店舗開設準備作業は,別紙3のとおり,店作り72回である。
イ 《納入業者(1)》の派遣した従業員等は,前記アの店作りの際,自社商品のみならず,他社商品についての作業も行っていた(別紙3の「※」欄に「他」と記載のあるもの。査26の1・設問3⑵コ(エ),査63,査303の1)。
ウ 《納入業者(1)》の派遣した従業員等は,前記アの店作りの際,在庫商品(又はこれに準じるような商品の空箱等)の配置,陳列も行っていた(査577の3,査590,審49,審51,審405,審415)。
2 従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情の有無について
(1)自社商品の適切な展示による販売促進について
ア 《納入業者(1)》は,被審人アンケートに対する回答書において,同社の従業員等が店作りに参加していた理由として,「11 自社商品の陳列・装飾を工夫し,消費者への訴求力の高い売り場を作る機会になり得たため。」を選択している(審1の1・設問1.8.)。
イ この点,127社が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等による商品の搬入及び商品の搬出が,当該商品の適切な展示に直接関係するものではなく,自社商品の適切な展示による販売促進に直接結び付くものとは認められないこと,他社商品についての作業も,当該作業を行った納入業者の商品の適切な展示に直接関係するものではなく,自社商品の適切な展示による販売促進に直接結び付くものとは認められないことは,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅱ(ⅱ)で説示したとおりである。
また,127社が本件従業員等派遣によって派遣する従業員等が店作りのうちの在庫商品の配置,陳列を行うことが,当該商品の販売促進に直接結び付くとは認められないことも,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅱ(ⅳ)で説示したとおりである。
さらに,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅱ(ⅴ)で説示したとおり,そもそも,被審人運営店舗における商品の展示,装飾については,棚割表に従って行われることが徹底されており,納入業者が派遣する従業員等でなければ実施できないものなどではなく,被審人の従業員において実施することが可能なものであったから,127社が派遣した従業員等がこれを行った場合と,被審人の従業員がこれを行った場合とで,特段の差異が生じるものではなく,127社が本件従業員等派遣によって派遣する従業員等が商品の展示,装飾を実施することは,基本的に,被審人の従業員がこれを行う場合との比較において,127社の商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものであるとは認められない。その一方で,特に,商品について熟知している納入業者の派遣する従業員等が,その技術や知識等を活用して当該商品の展示,装飾を行うことにより,当該商品の特有の魅力が発揮され,被審人の従業員においてこれを行う場合との比較において,明らかに差異を生じるような特性を有する商品について,納入業者の派遣する従業員等による当該商品の展示,装飾が,その商品特有の魅力を演出するために行われるものであり,かつ,被審人の従業員において,そのような商品の展示,装飾をすることができないという場合(商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合)には,当該商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものとして,当該商品の販売促進に直接結び付くものと認められること,ただし,参考人審尋,報告命令に対する報告書,被審人の提出する陳述書や報告書,被審人アンケートに対する回答書等における供述等や回答から,直ちに,商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合に当たると認めることができないことは,同(ⅴ)で説示したとおりである。
以上の点については,本別紙において検討する127社による本件従業員等派遣について同様である。
ウ そして,前記1のとおり,《納入業者(1)》が派遣した従業員等が従事した作業は店作りのみであったところ,《納入業者(1)》が派遣した従業員等は,店作りの際,他社商品についての作業も行っているが,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅱ(ⅱ)で説示したとおり,この作業については,当該作業を行った納入業者の商品の販売促進に直接結び付くものとは認められない。
エ また,前記1のとおり,《納入業者(1)》が派遣した従業員等は,店作りのうちの在庫商品の配置,陳列の作業にも従事しているところ,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅱ(ⅳ)で説示したとおり,この作業については,当該商品についての販売促進に直接結び付くものとは認められない。
オ さらに,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅱ(ⅴ)で説示したとおり,127社が本件従業員等派遣によって派遣する従業員等が商品の展示,装飾を実施することも,基本的に,被審人の従業員がこれを行う場合との比較において,127社の商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものであるとは認められない。そして,前記1の事実に加え,この項目で摘示した証拠のほか,被審人運営店舗における商品の展示,装飾及び店作りに関する各証拠(査64,査112,査577の1ないし5,査589の1ないし査595,査646,査647,査678の1ないし6,査679,査682の1ないし査684,審49ないし審76等)によっても,《納入業者(1)》が派遣する従業員等が実施する前記1の商品の展示,装飾が,商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合に当たるなど,被審人の従業員がこれを行う場合との比較において,当該商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものであるとまでは認められない。
そうすると,《納入業者(1)》が本件従業員等派遣によって派遣する従業員等が店作りを行うことは,自社商品の適切な展示,装飾による販売促進に直接結び付くものであるとは認められない。
カ したがって,《納入業者(1)》は,本件従業員等派遣を通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるとは認められない。
(2)自社商品の展示スペースの確保による販売促進について
《納入業者(1)》は,報告命令に対する報告書において,同社の従業員等が店作りに参加していたとして,「カ 貴社が納入する商品を置くスペースを確保するため」を選択している(査26の1・設問3⑷)。また,《納入業者(1)》は,被審人アンケートに対する回答書において,同社の従業員等が店作りに参加していた理由として,「12 棚割を自社に有利に変更できる場合があったため。」を選択している(審1の1・設問1.8.)。
しかし,127社が,本件従業員等派遣を通じて,自社商品の展示スペースの確保による販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるとは認められないことは,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅲで説示したとおりであり,この判断は,上記各回答によっても左右されない。
(3)情報収集の機会及び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による販売促進について
《納入業者(1)》は,被審人アンケートに対する回答書において,同社の従業員等が店作りに参加していた理由として,「13 当該店舗の従業員とのコミュニケーションを図り,情報収集および情報提供を行えたため。」及び「16 競合他社の販売戦略を観測できたため。」を選択している(審1の1・設問1.8.)。
しかし,127社が,本件従業員等派遣を通じて,情報収集の機会及び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による自社商品の販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるとは認められないことは,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅳで説示したとおりであり,この判断は,上記回答によっても左右されない。
(4)新規開店又は改装開店の際の自社商品の販売促進について
《納入業者(1)》は,被審人アンケートに対する回答書において,同社の従業員等が店作りに参加していた理由として,「14 新店・改装オープンに伴い,自社商品の売上げの拡大が期待できたため。」及び「17 従業員等を派遣すれば,競合他社に比べて,店舗での売上げが増加し得ると考えたため。」を選択している(審1の1・設問1.8.)。
しかし,127社は,127社の商品について適切な展示がされ,これが当該商品の販売促進に直接結び付くという場合はともかくとして(《納入業者〔1〕》が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が実施する店舗開設準備作業がこれに当たらないことは,前記⑴で説示したとおりである。),本件従業員等派遣を通じて,新規開店又は改装開店の際の自社商品の販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるとは認められないことは,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅴで説示したとおりであり,この判断は,上記各回答によっても左右されない。
(5)被審人が主張又は指摘するその余の事実等について
(b).《納入業者(1)》は,報告命令に対する報告書において,被審人との間における納入価格に関する交渉について,「ウ 貴社の条件提示が受け入れられることもあるし,受け入れられないこともある」と回答している(査26の1・設問2⑿)。(c).《納入業者(1)》は,被審人アンケートに対する回答書において,本件従業員等派遣のために同社が要した費用が被審人との取引額に占める割合は,「0.1%以上1%未満」にすぎず(審1の1・設問1.9.),その費用は,《納入業者(1)》の営業活動上許容できる範囲内の負担であったと回答している(審1の1・設問1.9.1.)。(d).《納入業者(1)》は,報告命令に対する報告書において,被審人から不利益となる要請があったとき,「ウ 短期的には不利益であっても,将来的にはその被った不利益を補う以上の利益が見込める場合」には当該要請を受け入れると回答している(査26の1・設問2⒁)。(e)ⅰ.《納入業者(1)》は,被審人アンケートに対する回答書において,本件従業員等派遣について,仮に「1 エディオンから日時・場所の連絡がなければ,自発的に日時・場所の確認を行い,従業員等を派遣していた。」と回答している(審1の1・設問1.7.)。(e)ⅱ.証拠によれば,《納入業者(1)》は,今後の商品の搬出,商品の搬入及び店作りについては被審人で行う体制を構築する旨の被審人からの平成24年4月23日付けの通知を受けたのに対し(審283),引き続き従業員等を派遣して店作りに参加することを希望する旨の文書を作成して被審人に送付又は交付したものと認められる(審284)。 (e)ⅲ.《納入業者(1)》は,被審人アンケートに対する回答書において,被審人に限らず,取引先の店舗に,取引先から人件費の支払を受けずに,新規開店又は改装開店の前に従業員等を派遣しており(審1の1・設問1.1.),その派遣先には,被審人よりも事業規模の小さな家電・カメラ・PC量販店も含まれていたと回答している(審1の1・設問1.1.1.)。
しかしながら,上記回答等をもって,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情を認めることができないことは,本文第6の1⑷イ(エ)b(b),(c),(d),(e)で説示したとおりである。
その他,《納入業者(1)》は,平成24年1月12日頃,店作りなどが営業活動の一環であって,《納入業者(1)》の利益になることなどが記載された「私の認識」と題する文書を作成して被審人に送付又は交付したものと認められるものの(審444),上記文書によっても,《納入業者(1)》が本件従業員等派遣によって具体的にどのような直接の利益を得ることができるのかは明らかではないし,それを勘案すると本件従業員等派遣による負担が合理的な範囲内であるということも明らかではなく,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情を認めることはできない。
(6)その他の事情について
《納入業者(1)》は,被審人アンケートに対する回答書において,同社の従業員等が店作りに参加していた理由として「33 具体的な制裁や示唆を受けたことはないが,従業員等を派遣しなければ,エディオンとの取引量・額を減らされる可能性があると判断したため。」を選択している(審1の1・設問1.8.)。一方で,被審人アンケートに対する回答書における選択の趣旨として,「1 エディオンに限らず,どのような取引先であっても,取引先の要請を断れば,もしかしたら取引量を減らされるなどの不利益を受けるのではないかという漠然とした不安を感じる。」を選択していること(審1の1・設問1.8.3.),また,《納入業者(1)》の従業員が,被審人代理人弁護士による電話聴取において,上記の「制裁」という言葉には違和感がありながら,同選択肢については「店作りに行かないとうまく販促ができず,結果としてもの(注:商品)が売れず,売上が下がってしまうという理由があったので選択した」と述べた旨の電話聴取書が作成されていること(審7)を考慮しても,上記のとおり,被審人アンケートに対する回答書において,本件従業員等派遣を行った理由として,被審人からの制裁のおそれを選択していることは,本文第6の1⑷イ(エ)b(f)で説示したとおり,被審人が《納入業者(1)》に本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情が存在しなかったことを強くうかがわせるものといえる。
また,《納入業者(1)》は,報告命令に対する報告書において,「貴社が従業員等を派遣した理由」として「オ 他の納入業者が従業員等を派遣していることから,貴社のみ従業員等を派遣しないとすることが難しかったため」と回答している(査26の1・設問3⑷)。上記回答も,本文第6の1⑷イ(エ)b(f)で説示したとおり,被審人が《納入業者(1)》に本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情が存在しなかったことをうかがわせるものといえる。
(7)結論
以上のほか,本件における被審人の主張及び証拠を精査しても,被審人が《納入業者(1)》に本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情を認めることはできない。

第2ないし第41 《略》

第42 《納入業者(42)》
1 判断の前提となる事実関係等について
(1)納入業者の概要
ア 《納入業者(42)》は,高級オーディオ商品の輸入業者であり,《国名略》の高級スピーカーメーカーである《事業者P》や,《国名略》の高級ケーブルメーカーである《事業者Q》等の輸入代理店であり(審178,審179,審180,審181),被審人に対し,音響商品を納入していた(査26の42・設問2⑶別表5,審255)。
イ 《納入業者(42)》は,本件対象期間を通じて,被審人と取引していた(査26の42・設問1⑻,同⑼)。
ウ 《納入業者(42)》と被審人との間の取引は,平成24年9月におおむね終了した(審379)。
(2)本件従業員等派遣の内容
《納入業者(42)》による被審人の店舗への従業員等派遣は,別紙3のとおり,《店舗名①》が《店舗名②》6階に移転することに伴う商品の搬出,商品の搬入及び店作り各1回である。
2 従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情の有無について
(1)自社商品の適切な展示による販売促進について
ア 前記1のとおり,《納入業者(42)》が派遣した従業員等が従事した作業は商品の搬出と商品の搬入,店作りであったが,商品の搬出,商品の搬入については,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅱ(ⅱ)で説示したとおり,当該商品についての販売促進に直接結び付くものとは認められない。
イ また,店作りについても,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅱ(ⅳ)及び同(ⅴ)で説示したとおり,127社が本件従業員等派遣によって派遣する従業員等が在庫商品の配置,陳列を実施することはもとより,商品の展示,装飾を実施することも,基本的に,被審人の従業員がこれを行う場合との比較において,127社の商品についての格別の販売促進の効果を生じさせるものであるとは認められない。
しかしながら,一方で,前記1の事実に加え,証拠によれば,《納入業者(42)》,《納入業者(67)》,《納入業者(99)》及び《納入業者(125)》が取り扱ういわゆる輸入品の超高級オーディオ商品については,その繊細な音の違いが消費者の嗜好に影響し,消費者は,自身の好みの音であるかを確認するため,当該商品が展示された店舗等で試聴をした上で,これを購入することがあること(審107,審255),上記4社の超高級オーディオ商品が,その設置方法如何によっては,聴こえる音に繊細な違いが生じ得るため,店舗での商品の展示に当たっては,電源,アンプ,ケーブル,スピーカーといった諸要素について,微妙なセッティングが求められること(審255,審390),上記4社が取り扱う輸入品の超高級オーディオ商品には,その表面に天然木や丁寧に磨かれた金属が用いられていて,取扱いに注意する必要があるものがあったこと(審255),本件対象期間中,《店舗名③》のオーディオ売場と《店舗名①》のみが,上記のような性質を有する輸入品の超高級オーディオ商品を取り扱っていたところ,平成22年2月,《店舗名①》が,《店舗名②》(旧《店舗名③》)オーディオ売場と統合され,同店6階のオーディオ売場に移転したこと(審196ないし審198,審255),同月以降,《店舗名②》(旧《店舗名③》)オーディオ売場において,視聴スペースを確保した上で,上記のような超高級オーディオが展示販売されていたことが認められる(審196ないし審198,審255,審423)。また,証拠によれば,《納入業者(42)》が被審人に納入していた《事業者P》のスピーカーや《事業者Q》のケーブルは,一点で100万円を超えるものもあるような極めて高価な輸入オーディオ商品であったこと(審179,審180),被審人は,《納入業者(42)》の納入する上記商品について,《店舗名①》及び移転後の《店舗名②》のみにおいて,消費者が視聴できる状態で展示し,販売していたこと(査26の42・設問2⑼,同⑽,審181,審182,審255,審423)が認められる。さらに,前記1のとおり,《納入業者(42)》による被審人の店舗への従業員等派遣は,《店舗名①》が平成22年2月に《店舗名②》6階に移転することに伴う商品の搬出,商品の搬入及び店作り各1回であり,証拠によれば,その際に,《納入業者(42)》の従業員が,店作りとして,自社商品の設定,調整を行ったことが認められる(審196,審197,審255,審423)。
上記のような各事実からすると,《店舗名②》及び《店舗名①》において展示して販売されていた輸入品の超高級オーディオ商品は,商品について熟知している納入業者の派遣する従業員等が,その技術や知識等を活用して当該商品の展示,装飾を行うことにより,当該商品の特有の魅力が発揮され,被審人の従業員においてこれを行う場合との比較において,明らかに差異を生じるような特性を有するものであり,また,納入業者の派遣する従業員等が店作りの際に行っていた当該商品の展示(設定,調整)は,その特有の魅力を演出するために行われるものであり,かつ,証拠(審255,審390,審423)によれば,その展示(設定,調整)については,被審人の従業員において実施すること自体は不可能ではなかったとしても,被審人の従業員が納入業者の従業員等が実施する場合と同様の水準で実施することはできないものと認められるから,《納入業者(42)》が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が店作りの際に行っていた上記の輸入品の超高級オーディオ商品の展示(設定,調整)は,商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合に当たり,当該商品の販売促進に直接結び付くものと認めるのが相当である。
ウ そうすると,《納入業者(42)》は,本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が《店舗名①》が《店舗名②》6階に移転することに伴う店作りを行うことを通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるものと認められる。
(2)自社商品の展示スペースの確保による販売促進について
証拠によれば,《納入業者(42)》は,自社の商品が展示された店舗に顧客を誘導するため,自社の取り扱う商品が販売されている取引先小売業者の店舗を商品ごとに自社のホームページ上に掲示していたものと認められるが(審182),被審人運営店舗における展示スペースの確保自体は,被審人の店舗戦略や商談等の際の打合せに基づいて作成された棚割表においてあらかじめ決められるものであり,《納入業者(42)》が本件従業員等派遣を行うか否かにかかわらなかったものと認められる。
また,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅲで説示したとおり,127社は,本件従業員等派遣を通じて,自社商品の展示スペースの確保による販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるとは認められない。
(3)新規開店又は改装開店の際の自社商品の販売促進について
127社は,127社の商品について適切な展示がされ,これが当該商品の販売促進に直接結び付くという場合はともかくとして(《納入業者〔42〕》の派遣した従業員等の実施した店舗開設準備作業の一部がこれに当たることは,前記⑴で説示したとおりである。),本件従業員等派遣を通じて,新規開店又は改装開店の際の自社商品の販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるとは認められないことは,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅴで説示したとおりである。
(4)被審人が主張又は指摘するその余の事実等について
(c).前記1のとおり,《納入業者(42)》による本件従業員等派遣は,《店舗名①》が《店舗名②》6階に移転することに伴う作業の1回のみであるが,上記事実をもって,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情を認めることができないことは,本文第6の1⑷イ(エ)b(c)で説示したとおりである。
(5)その他の事情について
《納入業者(42)》は,報告命令に対する報告書において,「貴社が従業員等を派遣した理由」として「オ 他の納入業者が従業員等を派遣していることから,貴社のみ従業員等を派遣しないとすることが難しかったため」と回答している(査26の42・設問3⑷)。上記回答は,本文第6の1⑷イ(エ)b(f)で説示したとおり,被審人が《納入業者(42)》に本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情が存在しなかったことをうかがわせるものといえる。
(6)結論
以上によれば,《納入業者(42)》は,《店舗名①》が《店舗名②》6階に移転することに伴う店作りのための本件従業員等派遣を通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるものと認められ,この項目で摘示した各証拠によれば,《納入業者(42)》の上記の従業員等派遣の負担は,この利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり,《納入業者(42)》の同意の上で行われたものと認められるから,従業員等派遣例外事由②に該当し,不利益行為には当たらないものと認められる。
一方,本件における被審人の主張及び証拠を精査しても,被審人が《納入業者(42)》に上記の移転の際に商品の搬出及び商品の搬入のために本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情を認めることはできない。

第43ないし第98 《略》

第99 《納入業者(99)》
1 判断の前提となる事実関係等について
(1)納入業者の概要
ア 《納入業者(99)》は,《国名略》の高級真空管アンプメーカーである《事業者R》等の日本における輸入総代理店であり(審214,審215),被審人に対し,音響商品を納入していた(査26の99・設問2⑶別表5,審255,審423)。
イ 《納入業者(99)》は,本件対象期間を通じて,被審人と取引していた(査26の99・設問1⑻,同⑼)。
ウ 《納入業者(99)》と被審人との取引は,平成24年11月に終了した(審379)。
(2)本件従業員等派遣の内容
《納入業者(99)》の派遣した従業員等が被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際に行った店舗開設準備作業は,別紙3のとおり,《店舗名③》の改装に伴う商品の搬入と,《店舗名①》が《店舗名②》6階に移転することに伴う商品の搬入の2回である。
2 従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情の有無について
(1)自社商品の適切な展示による販売促進について
ア 前記1のとおり,《納入業者(99)》が派遣した従業員等が従事した作業は商品の搬入のみであったが,商品の搬入については,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅱ(ⅱ)で説示したとおり,当該商品についての販売促進に直接結び付くものとは認められない。
他方,前記1の事実及び前記第42「《納入業者(42)》」の2⑴イの事実に加え,証拠によれば,《納入業者(99)》が取り扱う商品は,高級なものでは100万円を超える極めて高価な輸入オーディオ商品であったこと(審215),被審人は,《納入業者(99)》の納入する上記商品について,《店舗名③》と《店舗名①》(両売場統合後の《店舗名②》)のみにおいて,消費者が試聴できる状態で展示し,販売していたこと(審216,審255,審423),被審人は,《納入業者(99)》から納入する上記商品について,平成24年当時,《店舗名④》,《店舗名⑤》,《店舗名⑥》及び《店舗名③》の4店舗において展示して販売するようになり,平成25年3月に《店舗名③》が閉店された以降は,前3店舗(店舗名はエディオンに変更)及び《店舗名⑦》で展示して販売するようになったこと,被審人と《納入業者(99)》との間の取引額は僅かであったこと(審379)が認められる。また,前記1のとおり,《納入業者(99)》の派遣した従業員等が被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際に行った店舗開設準備作業は,《店舗名③》の改装に伴う商品の搬入と,《店舗名①》が《店舗名②》6階に移転することに伴う商品の搬入の2回であったが,《納入業者(99)》が,報告命令に対する報告書において,その際の従業員等派遣による作業内容として,「運搬」のほか,「開梱・設定」と報告していることからすると(査306の21),《納入業者(99)》が派遣した従業員等は,上記各搬入の際,併せて商品の開梱や設定という作業を行ったものと認められる。
そして,前記第42「《納入業者(42)》」の2⑴イで説示したとおり,上記のような《店舗名②》及び《店舗名①》において展示されていた輸入品の超高級輸入オーディオ商品は,商品について熟知している納入業者の派遣する従業員等が,その技術や知識等を活用して当該商品の展示,装飾を行うことにより,当該商品の特有の魅力が発揮され,被審人の従業員においてこれを行う場合との比較において,明らかに差異を生じるような特性を有するものであり,また,当該従業員等が店作りの際に行っていた当該商品の展示(設定,調整)は,その特有の魅力を演出するために行われるものであり,かつ,証拠(審255,審390,審423)によれば,その展示や設定については,被審人の従業員において,これを実施すること自体は不可能ではなかったとしても,納入業者の従業員等が実施する場合と同様の水準で実施することはできないものと認められるから,《納入業者(99)》が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が商品の搬入の際に併せて行った上記の輸入品の超高級オーディオ商品の設定は,商品の展示,装飾でいうところの商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合に当たり,当該商品の販売促進に直接結び付くものと認めるのが相当である。
イ したがって,《納入業者(99)》は,本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が商品の搬入の際に行った商品の設定作業を行うことを通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるものの,上記の商品の搬入自体によっては,自社商品の適切な展示による販売促進により,上記の直接の利益を得ることができないものと認められる。
(2)自社商品の展示スペースの確保による販売促進について
前記⑴及び前記第42「《納入業者(42)》」の2⑴イのとおり,《納入業者(99)》の商品を扱う被審人運営店舗は限られていたところ,証拠によれば,《納入業者(99)》は,自社の商品が展示された店舗に顧客を誘導するため,自社の取り扱う商品が販売されている取引先小売業者の店舗を商品ごとに自社のホームページ上に掲示していたものと認められる(審216)。
しかし,この被審人運営店舗における展示スペースの確保自体は,被審人の店舗戦略や商談等の際の打合せに基づいて作成された棚割表においてあらかじめ決められるものであり,《納入業者(99)》が本件従業員等派遣を行うか否かにかかわらなかったものと認められる。
また,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅲで説示したとおり,127社は,本件従業員等派遣を通じて,自社商品の展示スペースの確保による販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるとは認められない。
(3)情報収集の機会及び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による販売促進について
《納入業者(99)》は,被審人アンケートに対する回答書において,同社の従業員等が店作りに参加していた理由として,「13 当該店舗の従業員とのコミュニケーションを図り,情報収集および情報提供を行えたため。」を選択している(審1の64・設問1.8.)。また,《納入業者(99)》の従業員である《S》が,被審人代理人による電話聴取において,自社の情報収集のために本件従業員等派遣に任意に応じていたと述べた旨の電話聴取書が作成されている(審26)。
しかし,127社が,本件従業員等派遣を通じて,情報収集の機会及び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による自社商品の販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるとは認められないことは,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅳで説示したとおりであり,この判断は,上記回答等によっても左右されない。
(4)新規開店又は改装開店の際の自社商品の販売促進について
《納入業者(99)》は,被審人アンケートに対する回答書において,同社の従業員等が店作りに参加していた理由として,「14 新店・改装オープンに伴い,自社商品の売上げの拡大が期待できたため。」を選択している(審1の64・設問1.8.)。
しかし,127社は,127社の商品について適切な展示がされ,これが当該商品の販売促進に直接結び付くという場合はともかくとして(《納入業者〔99〕》の派遣した従業員等の実施した店舗開設準備作業の一部がこれに当たることは,前記⑴で説示したとおりである。),本件従業員等派遣を通じて,新規開店又は改装開店の際の自社商品の販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるとは認められないことは,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅴで説示したとおりであり,この判断は,上記回答によっても左右されない。
(5)被審人が主張又は指摘するその余の事実等について
(b).《納入業者(99)》は,報告命令に対する報告書において,被審人との間における納入価格に関し,「イ 交渉はない」と回答しており(査26の99・設問2⑾),証拠によれば,被審人は,《納入業者(99)》と納入価格に関する価格交渉を行わず,同社が指定した価格を納入価格として受け入れているものと認められる(審255)。(c).《納入業者(99)》は,被審人アンケートに対する回答書において,本件従業員等派遣のために同社が要した費用が被審人との取引額に占める割合は,「ごくわずか(0.01パーセント未満)」にすぎず(審1の64・設問1.9.),その費用は,《納入業者(99)》の営業活動上許容できる範囲内の負担であったと回答している(審1の64・設問1.9.1.)。また,前記1のとおり,《納入業者(99)》による本件従業員等派遣は商品の搬入2回のみである。(d).《納入業者(99)》は,報告命令に対する報告書において,被審人から不利益となる要請があったとき,「ウ 短期的には不利益であっても,将来的にはその被った不利益を補う以上の利益が見込める場合」には当該要請を受け入れると回答している(査26の99・設問2⒁)。(e)ⅲ.《納入業者(99)》は,被審人アンケートに対する回答書において,日頃から,2週に1回程度の頻度で,取引先の店舗に赴き,自社商品の陳列等を確認・提案していると回答している(審1の64・設問1.6.1.)。
しかしながら,上記回答等をもって,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情を認めることができないことは,本文第6の1⑷イ(エ)b(b),(c),(d),(e)ⅲで説示したとおりである。
(6)結論
以上によれば,《納入業者(99)》は,《店舗名③》の改装に伴う商品の搬入及び《店舗名①》が《店舗名②》6階に移転することに伴う商品の搬入のための本件従業員等派遣について,その際に派遣した従業員等が実施した自社商品の設定及び調整により,自社商品の適切な展示による販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるものと認められ,上記各証拠によれば,《納入業者(99)》の上記の従業員等派遣の負担は,この利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり,《納入業者(99)》の同意の上で行われたものと認められるから,従業員等派遣例外事由②に該当し,不利益行為には当たらないものと認められる。
一方,本件における被審人の主張及び証拠を精査しても,被審人が《納入業者(99)》に上記の移転の際に商品の搬入自体のために本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情を認めることはできない。

第100ないし第124 《略》

第125 《納入業者(125)》
1 判断の前提となる事実関係等について
(1)納入業者の概要
ア 《納入業者(125)》は,《国名略》の高級オーディオメーカーである《事業者T》の日本における輸入総代理店であり(審233),被審人に対し,音響商品を納入していた(査26の125・設問2⑶別表5,審255,審423)。
イ 《納入業者(125)》は,本件対象期間を通じて,被審人と取引していた(査26の125・設問1⑻,同⑼)。
(2)本件従業員等派遣の内容
《納入業者(125)》の派遣した従業員等が被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際に行った店舗開設準備作業は,別紙3のとおり,《店舗名③》の改装に伴う商品の搬入と,《店舗名①》が《店舗名②》6階に移転することに伴う商品の搬入の2回である。
2 従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情の有無について
(1)自社商品の適切な展示による販売促進について
ア 前記1のとおり,《納入業者(125)》が派遣した従業員等が従事した作業は商品の搬入のみであったが,商品の搬入については,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅱ(ⅱ)で説示したとおり,当該商品についての販売促進に直接結び付くものとは認められない。
他方で,前記1の事実及び前記第42「《納入業者(42)》」の2⑴イの事実加え,証拠によれば,《納入業者(125)》の取り扱う商品は,プレーヤー,アンプ,スピーカー等と幅広く,高級なものでは100万円を超える極めて高価な輸入オーディオ商品であったこと(審234),特に,システムに蓄積した音楽を家の中の各所に設置したスピーカーから流すことのできる装置であるオートメーション設備については,当時,設備一式で400万円から500万円という価格帯の商品であったこと(審423),被審人は,《納入業者(125)》が納入する上記商品について,《店舗名③》と《店舗名①》(両売場統合後の《店舗名②》)のみにおいて,消費者が試聴できる状態で展示し,販売していたこと(審235,審236,審255,審423),被審人は,《納入業者(125)》から納入する上記商品について,平成24年当時,《店舗名④》,《店舗名⑤》,《店舗名⑥》及び《店舗名③》の4店舗において展示して販売するようになり,平成25年3月に《店舗名③》が閉店された以降は,前3店舗(店舗名はエディオンに変更)及び《店舗名⑦》で展示するようになったこと,被審人と《納入業者(125)》との間の取引額は僅かであったこと(審379),《納入業者(125)》が納入していた「オートメーション設備」の店作りについては,そもそも,当該設備の設置等を行うことができる者が《納入業者(125)》の従業員等しか保有できない独自の資格を有するものに限定されていたため,被審人の従業員がこれを行うことができなかったこと(審423)が認められる。また,前記1のとおり,《納入業者(125)》の派遣した従業員等が被審人運営店舗の新規開店又は改装開店の際に行った店舗開設準備作業は,《店舗名③》の改装に伴う商品の搬入と,《店舗名①》が《店舗名②》6階に移転することに伴う商品の搬入の2回であったが,《納入業者(125)》が,報告命令に対する報告書において,その際の従業員等による作業内容として,「運搬」のほか,「開梱・設定」と報告していることからすると(査306の28),《納入業者(125)》が派遣した従業員等は,上記の搬入の際に併せて商品の開梱や設定という作業を行ったものと認められる。
そして,前記第42「《納入業者(42)》」の2⑴イで説示したとおり,上記のような《店舗名②》及び《店舗名①》において展示されていた輸入品の超高級オーディオ商品は,商品について熟知している納入業者の派遣する従業員等が,その技術や知識等を活用して当該商品の展示,装飾を行うことにより,当該商品の特有の魅力が発揮され,被審人の従業員においてこれを行う場合との比較において,明らかに差異を生じるような特性を有するものであり,また,当該従業員等が店作りの際に行っていた当該商品の展示(設定,調整)は,その特有の魅力を演出するために行われるものであり,かつ,証拠(審255,審390,審423)によれば,その展示や設定については,被審人の従業員において,これを実施すること自体は不可能ではなかったとしても,納入業者の従業員等が実施する場合と同様の水準で実施することはできないものと認められるから,《納入業者(125)》が本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が商品の搬入の際に併せて行った上記の輸入品の超高級オーディオ商品の設定は,商品の展示,装飾でいうところの商品の特性上格別の販売促進の効果を生じさせる場合に当たり,当該商品の販売促進に直接結び付くものと認めるのが相当である。
イ したがって,《納入業者(125)》は,本件従業員等派遣によって派遣した従業員等が商品の搬入の際に行った商品の設定の作業を行うことを通じて,自社商品の適切な展示による販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるものの,上記の商品の搬入自体によっては,自社商品の適切な展示による販売促進により,上記の直接の利益を得ることができないものと認められる。
(2)自社商品の展示スペースの確保による販売促進について
前記⑴及び前記第42「《納入業者(42)》」の2⑴イのとおり,《納入業者(125)》の商品を扱う被審人運営店舗は限られていたところ,証拠によれば,《納入業者(125)》は,自社の商品が展示された店舗に顧客を誘導するため,自社の取り扱う商品が販売されている取引先小売業者の店舗を商品ごとに自社のホームページ上に掲示していたこと(審235,審236),《納入業者(125)》は,被審人の《店舗名①》を借りて,《納入業者(125)》の高級オーディオの試聴会を開催することもあったこと(審237),被審人の《店舗名①》で《納入業者(125)》の商品(プレーヤー)を購入した顧客は,同店舗について,「ラインナップが充実しており,視聴環境も整っているので,たいへん便利だ」,「ここはショールームといったイメージで,入りやすい」と評していたこと(審238)が認められる。
しかし,この被審人運営店舗における展示スペースの確保自体は,被審人の店舗戦略や商談等の際の打合せに基づいて作成された棚割表においてあらかじめ決められるものであり,《納入業者(125)》が本件従業員等派遣を行うか否かにかかわらなかったものと認められる。
また,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅲで説示したとおり,127社は,本件従業員等派遣を通じて,自社商品の展示スペースの確保による販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるとは認められない。
(3)情報収集の機会及び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による販売促進について
《納入業者(125)》は,被審人アンケートに対する回答書において,同社の従業員等が店作りに参加していた理由として,「13 当該店舗の従業員とのコミュニケーションを図り,情報収集および情報提供を行えたため。」を選択している(審1の80・設問1.8.)。また,《納入業者(125)》の財務・経理担当の《S》が,被審人代理人弁護士による電話聴取において,被審人からの店舗開設準備作業の日程等の連絡について,従業員等派遣の要請と捉えておらず,本件従業員等派遣は自社の情報収集等のために行っていると認識していると述べた旨の電話聴取書が作成されている(審33)。
しかし,127社が,本件従業員等派遣を通じて,情報収集の機会及び店舗従業員等との良好な人間関係の構築による自社商品の販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるとは認められないことは,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅳで説示したとおりであり,この判断は,上記回答等によっても左右されない。
(4)新規開店又は改装開店の際の自社商品の販売促進について
《納入業者(125)》は,被審人アンケートに対する回答書において,同社の従業員等が店作りに参加していた理由として,「14 新店・改装オープンに伴い,自社商品の売上げの拡大が期待できたため。」を選択している(審1の80・設問1.8.)。
しかし,127社は,127社の商品について適切な展示がされ,これが当該商品の販売促進に直接結び付くという場合はともかくとして(《納入業者〔125〕》の派遣した従業員等の実施した店舗開設準備作業の一部がこれに当たることは,前記⑴で説示したとおりである。),本件従業員等派遣を通じて,新規開店又は改装開店の際の自社商品の販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるとは認められないことは,本文第6の1⑷イ(エ)b(a)ⅴで説示したとおりであり,この判断は,上記回答によっても左右されない。
(5)被審人が主張又は指摘するその余の事実等について
(b).《納入業者(125)》は,報告命令に対する報告書において,被審人との間における納入価格に関し,「イ 交渉はない」と回答しており(査26の125・設問2⑾),証拠によれば,被審人は,《納入業者(125)》と納入価格に関する価格交渉を行わず,同社が指定した価格を納入価格として受け入れているものと認められる(審255)。(c).《納入業者(125)》は,被審人アンケートに対する回答書において,本件従業員等派遣のために同社が要した費用が被審人との取引額に占める割合は「ごくわずか(0.01%未満)」にすぎず(審1の80・設問1.9.),その費用は,《納入業者(125)》の営業活動上許容できる範囲内の負担であったと回答している(審1の80・設問1.9.1.)。また,前記1のとおり,《納入業者(125)》による本件従業員等派遣は商品の搬入2回のみである。(d).《納入業者(125)》は,報告命令に対する報告書において,被審人から不利益となる要請があったとき,「ウ 短期的には不利益であっても,将来的にはその被った不利益を補う以上の利益が見込める場合」には当該要請を受け入れると回答している(査26の125・設問2⒁)。
しかしながら,上記回答等をもって,被審人が127社に本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情を認めることができないことは,本文第6の1⑷イ(エ)b(b),(c),(d)で説示したとおりである。
(6)結論
以上によれば,《納入業者(125)》は,《店舗名③》の改装に伴う商品の搬入及び《店舗名①》が《店舗名②》6階に移転することに伴う商品の搬入のための本件従業員等派遣について,その際に派遣した従業員等が実施した自社商品の設定及び調整により,自社商品の適切な展示による販売促進により,従業員等派遣例外事由②にいう直接の利益を得ることができるものと認められ,上記各証拠によれば,《納入業者(125)》の上記の従業員等派遣の負担は,この利益等を勘案して合理的な範囲内のものであり,《納入業者(125)》の同意の上で行われたものと認められるから,従業員等派遣例外事由②に該当し,不利益行為には当たらないものと認められる。
一方,本件における被審人の主張及び証拠を精査しても,被審人が《納入業者(125)》に上記の移転の際に商品の搬入自体のために本件従業員等派遣をさせたことについて,従業員等派遣例外事由②に当たるなどの特段の事情を認めることはできない。

第126及び第127 《略》
以上














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