公正取引委員会審決等データベース

文字サイズの変更

背景色の変更

本文表示content

NTN㈱に対する件

66条3項,66条2項(7条の2〔3条後段〕),51条3項
 

平成25年(判)第22号

課徴金納付命令の一部を取り消すとともに課徴金の額を変更する審決

大阪市西区京町堀一丁目3番17号
被審人 NTN株式会社
同代表者 代表執行役 《 氏 名 》
同代理人 弁 護 士 茂 木 龍 平
同          長 澤 哲 也
同          石 井   崇
同          酒 匂 景 範
同          大多和   樹
同          中 山 貴 博

公正取引委員会は,上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う公正取引委員会関係規則の整備に関する規則(平成27年公正取引委員会規則第2号)による廃止前の公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)(以下「規則」という。)第73条の規定により審判官前田早紀子から提出された事件記録,規則第75条の規定により被審人から提出された異議申立書並びに独占禁止法第63条及び規則第77条の規定により被審人から聴取した陳述に基づいて,同審判官から提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。

主       文
1 平成25年3月29日付けの課徴金納付命令(平成25年(納)第9号)のうち,72億3012万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
2 被審人のその余の審判請求を棄却する。
3 第1項の課徴金納付命令に係る課徴金の額を70億3012万円に変更する。

理       由
1 当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は,いずれも別紙審決案の理由第1ないし第7と同一であるから,これらを引用する。
2 よって,被審人に対し,独占禁止法第66条第3項及び第2項並びに第51条第3項並びに規則第78条第1項の規定により,主文のとおり審決する。

令和1年11月26日

公 正 取 引 委 員 会
委員長  杉  本  和  行
委 員  山  本  和  史
委 員  三  村  晶  子
委 員  青  木  玲  子
委 員  小  島  吉  晴


平成25年(判)第22号

審   決   案

大阪市西区京町堀一丁目3番17号
被審人 NTN株式会社
同代表者 代表取締役 《 氏 名 》
同代理人 弁 護 士 茂 木 龍 平
同          長 澤 哲 也
同          石 井   崇
同          酒 匂 景 範
同          大多和   樹
同          中 山 貴 博
被審人代理人長澤哲也復代理人弁護士
増 田   慧

上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「独占禁止法」という。)に基づく課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会から独占禁止法第56条第1項及び私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う公正取引委員会関係規則の整備に関する規則(平成27年公正取引委員会規則第2号)による廃止前の公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)(以下「規則」という。)第12条第1項の規定に基づき担当審判官に指定された本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第73条及び第74条の規定に基づいて本審決案を作成する。

主       文
1 平成25年3月29日付けの課徴金納付命令(平成25年(納)第9号)のうち,72億3012万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
2 被審人のその余の審判請求を棄却する。
3 第1項の課徴金納付命令に係る課徴金の額を70億3012万円に変更する。

理       由
第1 審判請求の趣旨
平成25年(納)第9号課徴金納付命令のうち56億3133万円を超えて納付を命じた部分の取消しを求める。
第2 事案の概要(当事者間に争いのない事実又は公知の事実)
1 公正取引委員会は,被審人,日本精工株式会社(以下「日本精工」という。),株式会社不二越(以下「不二越」といい,被審人及び日本精工と併せて「3社」という。)及び株式会社ジェイテクト(以下「ジェイテクト」といい,3社と併せて「4社」という。)が,共同して,①別紙1記載1の軸受(以下「産業機械用軸受」という。)の販売価格を引き上げることを合意することにより,公共の利益に反して,我が国における産業機械用軸受の販売分野における競争を実質的に制限し,②別紙1記載2の軸受(以下「自動車用軸受」という。)の販売価格を引き上げることを合意することにより,公共の利益に反して,我が国における自動車用軸受の販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,これらの行為が,それぞれ,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものであり,かつ,3社については,特に排除措置を命ずる必要があるとして,平成25年3月29日,3社に対し,排除措置を命じた(平成25年(措)第6号。以下「本件排除措置命令」といい,同命令において認定された産業機械用軸受に係る違反行為を「産業機械用軸受に係る本件違反行為」,同じく自動車用軸受に係る違反行為を「自動車用軸受に係る本件違反行為」といい,これらの違反行為を併せて「本件各違反行為」という。)。
被審人は,同年4月1日,本件排除措置命令に係る命令書謄本の送達を受け,同月23日,本件排除措置命令の全部の取消しを求める旨の審判請求をしたが,平成29年12月22日,この審判請求を取り下げた。
上記の審判請求の取下げにより,本件排除措置命令は確定した。
2 公正取引委員会は,本件各違反行為は独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する商品の対価に係るものであり,本件各違反行為の実行期間(違反行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間をいう。以下同じ。)における被審人の産業機械用軸受及び自動車用軸受に係る売上額を私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号。以下「独占禁止法施行令」という。)第5条第1項の規定に基づき算定すると,産業機械用軸受については387億498万1358円,自動車用軸受については336億576万1351円となり,被審人が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,独占禁止法第7条の2第1項の規定により,上記の産業機械用軸受の売上額に100分の10を乗じて得た額と,上記の自動車用軸受の売上額に100分の10を乗じて得た額を合計した額から,同条第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された72億3107万円であるとして,平成25年3月29日,被審人に対し,同額の課徴金の納付を命じた(平成25年(納)第9号。以下「本件課徴金納付命令」という。)。
被審人は,同年4月1日,本件課徴金納付命令に係る命令書謄本の送達を受け,同月23日,本件課徴金納付命令の全部の取消しを求める旨の審判請求をしたが,平成30年4月6日,審判請求の趣旨を前記第1のとおりの内容に変更した。
第3 前提となる事実(各項末尾に括弧書きで証拠を掲記した事実は当該証拠から認定される事実であり,その余の事実は当事者間に争いのない事実又は公知の事実である。なお,以下,証拠については,「第」及び「号証」を略し,単に「査○」,「審○」と記載する。)
1 4社の概要
(1) 被審人,日本精工,不二越及びジェイテクト(光洋精工株式会社が平成18年1月1日に商号変更)は,いずれも,産業機械用軸受及び自動車用軸受を製造し,これらを,自ら又は自社の販売子会社若しくは販売代理店を通じて販売していた。
(2) 4社の産業機械用軸受の販売金額の合計と自動車用軸受の販売金額の合計は,我が国における産業機械用軸受の総販売金額と自動車用軸受の総販売金額のそれぞれ大部分を占めていた。
2 本件各違反行為
(1) 4社は,平成16年頃から平成20年頃にかけて,軸受の原材料である鋼材の仕入価格の値上がり分を軸受の販売価格に転嫁するため,軸受の値上げの方針や需要者ごとの値上げ要請の内容等について情報交換を行っていたところ,平成22年に入り,鋼材の仕入価格の値上がりが見込まれたことから,同年3月頃以降,軸受の値上げの方向性について情報交換を開始した(以下,この平成22年頃の値上げを「第5次値上げ」という。)。
(2) 4社は,平成22年5月下旬頃から同年8月下旬頃までの間,産業機械用軸受の販売価格を4社が共同して引き上げること等について協議を重ね,同年7月1日以降に納入する産業機械用軸受の販売価格を,同年6月時点における4社の販売価格から,一般軸受につき8パーセント,大型軸受につき10パーセント,それぞれ引き上げることを需要者等に申し入れるなどして,軸受の原材料である鋼材の仕入価格の値上がり分を産業機械用軸受の販売価格に転嫁することを目途に引き上げること,並びに,具体的な販売価格引上げ交渉に当たっては,販売地区及び主要な需要者ごとに4社が連絡,協議しながら行うことを合意した(産業機械用軸受に係る本件違反行為)。
(3) 4社は,平成22年7月上旬頃から同月下旬頃までの間,自動車用軸受の販売価格を4社が共同して引き上げること等について協議を重ね,同月1日以降に納入する自動車用軸受の販売価格を,同年6月時点における4社の販売価格から,軸受の原材料である鋼材の投入重量1キログラム当たり20円を目途に引き上げることを合意した(自動車用軸受に係る本件違反行為)。
(4) 4社は,前記(2)及び(3)の各合意の実効を確保するため,産業機械用軸受及び自動車用軸受の値上げの進捗状況等について継続的に情報交換を行った。
(5) 前記(4)の情報交換は,公正取引委員会が本件について独占禁止法第102条第1項の規定に基づく臨検及び捜索を行った平成23年7月26日以降,行われていない。
このため,同日以降,前記(2)及び(3)の各合意は事実上消滅している。
(6) 被審人に関し,産業機械用軸受に係る本件違反行為の実行期間は,平成22年9月10日から平成23年7月25日までであり,自動車用軸受に係る本件違反行為の実行期間は平成22年7月30日から平成23年7月25日までである。
(7) 本件各違反行為は,いずれも商品の対価に係るものである。
3 刑事事件
公正取引委員会が被審人に対する本件課徴金納付命令を行った後,平成29年12月11日の経過により,本件各違反行為に係る事件と同一事件について,被審人に対し,罰金4億円に処する旨の裁判(東京地方裁判所平成24年特(わ)第956号,東京高等裁判所平成27年(う)第551号及び最高裁判所平成28年(あ)第650号)が確定し,その後,本件課徴金納付命令に係る審判手続が終結した。
第4 争点
1 本件各違反行為に係る独占禁止法第7条の2第1項の規定する「当該商品」の売上額(争点1)
(1) 産業機械用軸受及び自動車用軸受のうち,被審人が値上げ申入れを行っていない需要者に販売した軸受に係る対価の額は,当該商品の売上額に含まれるか
(2) 産業機械用軸受及び自動車用軸受のうち,被審人が「ノックダウン対象軸受」と呼称する軸受に係る対価の額は,当該商品の売上額に含まれるか
(3) 産業機械用軸受のうち,被審人が「《事業者Aグループ》向け補修用軸受」と呼称する軸受に係る対価の額は,当該商品の売上額に含まれるか
(4) 産業機械用軸受及び自動車用軸受のうち,被審人がジェイテクトに対して販売した軸受に係る対価の額は,当該商品の売上額に含まれるか
(5) 自動車用軸受のうち,被審人が「《事業者B1調達部門1》調達の軸受」と呼称する軸受に係る対価の額は,当該商品の売上額に含まれるか
(6) 産業機械用軸受のうち,被審人が「宇宙ロケット用軸受」と呼称する軸受に係る対価の額は,当該商品の売上額に含まれるか
(7) 自動車用軸受に関し,被審人が《事業者C》との間で平成23年3月30日に合意した一時金は,独占禁止法施行令第5条第1項第1号の場合に当たるか
2 本件課徴金納付命令における課徴金の端数処理の適否(争点2)
第5 争点に係る双方の主張
1 争点1(本件各違反行為に係る当該商品の売上額)について
(1) 審査官の主張
ア 当該商品の売上額
独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」とは,違反行為である相互拘束の対象である商品,すなわち,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解すべきである。
そして,課徴金制度の趣旨及び課徴金の算定方法に照らせば,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,一定の商品につき,違反行為を行った事業者又は事業者団体が,明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す「特段の事情」が認められない限り,違反行為による拘束が及んでいるものとして,課徴金算定の対象となる当該商品に含まれ,違反行為者が,実行期間中に違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品を引き渡して得た対価の額が,課徴金の算定の基礎となる売上額となると解すべきである。
イ 本件各違反行為に係る当該商品
本件各違反行為の対象商品は,軸受の分類,取引形態,需要者,当事者の認識等に関する事実関係からして産業機械用軸受と自動車用軸受である。
そして,本件各違反行為に関与した4社の担当者が,本件各違反行為の対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受全てであると供述していること,また,本件各違反行為に係る合意の形成過程及び実施段階をみても,4社は,値上げの対象となる産業機械用軸受又は自動車用軸受について,特段の限定を付さずに話合いをし,特定の商品を除外することなく値上げ方針を定め,値上げ活動を実施していたことからすると,産業機械用軸受又は自動車用軸受の範ちゅうに属する商品は,4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外するなど当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す「特段の事情」が認められない限り,本件各違反行為による拘束が及んでいる。
ウ 本件各違反行為に係る当該商品の売上額
被審人の実行期間は,産業機械用軸受については平成22年9月10日から平成23年7月25日まで,自動車用軸受については平成22年7月30日から平成23年7月25日までであり,審査官の平成24年12月4日付け報告命令に対する被審人作成の平成24年12月25日付け報告書(査570。以下「本件報告書」という。)によれば,独占禁止法施行令第5条第1項の規定に基づき算定した実行期間における被審人の産業機械用軸受の売上額は387億498万1358円であり,自動車用軸受の売上額は336億576万1351円である。
(2) 被審人の主張
ア 産業機械用軸受及び自動車用軸受のうち,被審人が値上げ申入れを行っていない需要者に販売した軸受に係る対価の額(産業機械用軸受に係る売上額73億7988万157円〔別紙2-1〕,自動車用軸受に係る売上額6億3473万23円〔別紙2-2〕。ただし,除外すべき他の軸受に係る対価の額との重複あり。)が当該商品の売上額に含まれないこと
4社が,本件各違反行為の対象商品を明確に合意した事実はなく,本件各違反行為の対象となる軸受の範囲は,値上げを行う必要があるか否かといった客観的な事情から評価されることになる。
この点,被審人は,本件各違反行為の実行期間において,特定の需要者に対し,後記の事情により,産業機械用軸受及び自動車用軸受の値上げの申入れを行っていない。
被審人が特定の需要者に対して値上げの申入れすら行わなかったのは,当該需要者に対して販売した産業機械用軸受及び自動車用軸受が本件各違反行為の対象ではなかったからであるし,各需要者に対し,値上げを申し入れなかった事情も,これを示す事情となる。
よって,本件各違反行為の実行期間において被審人が値上げ申入れを行っていない以下の需要者に販売した産業機械用軸受及び自動車用軸受は当該商品に該当しないので,当該軸受に係る対価の額は当該商品の売上額に含まれない。
(ア) 引き合いの都度見積りを行う製品の需要者(別紙3)
引き合いの都度見積りを行う製品の需要者については,改定すべき販売価格が存在せず,値上げの対象となり得ないため,被審人は,値上げの申入れを行わなかった。
(イ) 海外の本社において納入価格が決定される需要者(別紙4)
被審人と取引関係にある需要者が海外法人の国内現地法人である場合(《事業者D1》,《事業者E1》及び《事業者E2》を需要者とする取引)には,当該需要者の海外の本社と被審人の海外現地法人との間において決定された納入価格が適用されることから,被審人は,国内現地法人である需要者に対して値上げの申入れを行わなかった。
産業機械用軸受に係る本件違反行為は,国内において被審人が価格交渉を行う製品を対象とするものであるところ,《事業者D1》に納入する軸受については,《事業者D2》の米国本社において鋼材価格連動制(玉軸受及びころ軸受の型番ごとに原材料である鋼材の投入重量を登録するなどした上で型番ごとの鋼材の投入重量を基に,鋼材の市況等の変動額に連動させて自動的に玉軸受及びころ軸受の需要者向け販売価格を決定する方法をいう。以下同じ。)が採用されているから,被審人が「国内において」「価格交渉を行う製品」に該当しない。また,《事業者E1》及び《事業者E2》に納入する製品については,被審人の欧州の販売会社が《事業者E1》のドイツ本社と交渉するものであって,「国内において」被審人が価格交渉を行う製品に該当しない。
(ウ) 値上げの影響額が少額である需要者(別紙5)
鋼材を用いる製品の取引額が小さい需要者や鋼材が用いられている割合の小さい製品の需要者については,値上げによって得られるメリットが価格交渉に要する費用,労力等に照らして小さいことから,被審人は,値上げの申入れを行わなかった。
(エ) 過去の経緯等から鋼材値上げを受け入れないことが明確な需要者(別紙6)
過去の値上げの際に値上げを受け入れない姿勢が明確であったなど,平成22年時点において値上げを受け入れないことが明確な需要者については,値上げ申入れを行っても無駄であることから,被審人は,値上げの申入れを行わなかった。
(オ) 長期間にわたり価格が固定されていた需要者(別紙7)
長期間にわたり価格が固定されていた需要者については,需要者がその納入先との間で価格が固定されているなどの理由で,被審人が納入する製品についても価格が固定されており,値上げは想定されていなかったことから,被審人は,値上げの申入れを行わなかった。
(カ) 納入当初の価格を変更しない旨合意している需要者(別紙8)
納入当初の価格を変更しない旨合意している需要者については,当該合意の存在から,値上げの申入れを行うことは想定されていなかったことから,被審人は,値上げの申入れを行わなかった。
(キ) シェア拡大やシェア下落防止のために意図的に値上げ申入れを行わなかった需要者(別紙9)
シェアを拡大しようと営業活動している需要者や値上げ申入れを行うとシェアを下落させてしまうおそれのある需要者については,被審人と競合他社との間で活発な競争が行われていたから,被審人は,値上げの申入れを行わなかった。
イ 産業機械用軸受及び自動車用軸受のうち,「ノックダウン対象軸受」に係る対価の額(産業機械用軸受に係る売上額17億322万7611円〔別紙10-1〕,自動車用軸受に係る売上額49億9333万5900円〔別紙10-2〕)が当該商品の売上額に含まれないこと
被審人が日本国内の産業機械製造販売業者や自動車製造販売業者に対して当該製造販売業者の日本国外所在の工場等に輸出されること(ノックダウン)を前提に販売する軸受(以下「ノックダウン対象軸受」という。)の取引では,当該製造販売業者は日本国外所在の自社工場の商社的役割を担っているにすぎず,売主である被審人も,買主である当該製造販売業者も,需要者は日本国外所在の工場であると認識して取引を行っていたことからすると,「ノックダウン対象軸受」の取引は,実質的に日本国外向けのものであり,我が国における産業機械用軸受及び自動車用軸受の販売分野には含まれないものである。企業結合の届出制度における国内売上高の算定では,日本国内で法人等に引き渡された商品であっても,「当該取引に係る契約の締結時において,当該法人等が当該商品の性質又は形状を変更しないで外国を仕向地としてさらに当該商品を取引すること又は当該法人等の外国に所在する営業所,事務所その他これらに準ずるものに向けて当該商品を送り出すことを把握している」ときは,当該取引に係る売上高は除外するものとされているところ(独占禁止法第9条から第16条までの規定による認可の申請,報告及び届出等に関する規則第2条第1項第2号),企業結合の届出制度は,日本国内の一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる可能性のあるものを探知するためのものであり,不当な取引制限規制における違反行為の対象の範囲と一致するはずであるから,不当な取引制限における課徴金算定の基礎となる売上高の範囲は,企業結合規制における国内売上高の範囲と平仄が合うように解釈されなければならない。そして,現に,公正取引委員会は,被審人が日本国内の商社と価格交渉をした上で当該商社に販売する軸受であっても,それが外国輸出用であることを被審人が知悉しているものについては,課徴金の算定基礎となる売上額から除外することを認めている。このように,ノックダウン対象軸受は,本件各違反行為の対象とはならないものである。
よって,ノックダウン対象軸受は当該商品に該当しないので,当該軸受に係る対価の額は当該商品の売上額に含まれない。
また,本件については,海外の競争当局においても調査がされているところ,対象商品がその性質又は形状を変更することなくそのまま輸出されることが取引時点において前提とされていた場合にまで当該商品に係る売上額を課徴金の算定基礎とすることは,海外の競争当局間での国際的多重処罰の問題を惹起することとなるから,この点においても,ノックダウン対象軸受に係る対価の額は,当該商品の売上額に含めるべきではない。
ウ 産業機械用軸受のうち,「《事業者Aグループ》向け補修用軸受」に係る対価の額(9億7685万6214円〔別紙11〕)が当該商品の売上額に含まれないこと
(ア) 被審人は,《事業者A1》,《事業者A2》などの《事業者Aグループ》向けの補修用軸受(以下「《事業者Aグループ》向け補修用軸受」という。)を販売していたが,その販売価格の改定交渉を行う相手方は,こうした鉄道事業者ではなく,《事業者A3》,《事業者A4》等の《事業者Aグループ》の関連商社(以下「《事業者Aグループ》関連商社」という。)であった。
そうすると,《事業者Aグループ》向け補修用軸受は,そもそも「需要者との間で交渉の上販売価格を決定する玉軸受及びころ軸受」に該当しないから,産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象商品ではないことになる。
(イ) また,《事業者Aグループ》向け補修用軸受については,販売価格が決定されるのが基本的に年に1回であり,いったん決定された販売価格は,契約上,次の販売価格改定時まで変更されず,たとえ期中に鋼材価格の値上がりが生じたとしても,価格交渉の相手方である《事業者Aグループ》関連商社が補修用軸受の値上げ交渉に応じることはない。そして,《事業者Aグループ》は,日本銀行が公表している炭素鋼軸受鋼などの企業物価指数の前年度からの変動幅を参考に価格を決定しているため,《事業者Aグループ》向け補修用軸受は,「交渉の上販売価格を決定する玉軸受及びころ軸受」に該当せず,産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象ではない。
(ウ) よって,《事業者Aグループ》向け補修用軸受は当該商品に該当しないので,当該軸受に係る対価の額は当該商品の売上額に含まれない。
エ 産業機械用軸受及び自動車用軸受のうち,被審人がジェイテクトに対して販売した軸受に係る対価の額(産業機械用軸受に係る売上額2536万5070円,自動車用軸受に係る売上額1億7027万2725円)が当該商品の売上額に含まれないこと
不当な取引制限に係る違反行為者間における商品の取引は,違反行為者自身が競争制限効果の及ぶべき需要者となることから,当該違反行為者がその商品を違反行為の対象にすることは想定し難い。このことは,違反行為者間の融通取引であるか,違反行為者の一方が最終需要者であるかによって異なるものではない。
よって,被審人がジェイテクトに対して販売した軸受は当該商品に該当しないので,当該軸受に係る対価の額は,当該商品の売上額に含まれない。
オ 自動車用軸受のうち,「《事業者B1調達部門1》調達の軸受」に係る対価の額(1億9298万817円)が当該商品の売上額に含まれないこと
被審人は,《国名略》に本拠を置く《事業者B2》社のグループ企業である《事業者B1》に販売した軸受のうち,「《部門名略》」と称する調達部門(以下「《事業者B1調達部門1》」という。)が調達を担当するものに係る軸受(以下「《事業者B1調達部門1》調達の軸受」という。)について,《事業者B1調達部門1》との間で鋼材価格連動制を導入する方向で実務的な協議を行っており,自動車用軸受に係る本件違反行為の成立の時点で,鋼材価格連動制を導入すること自体は合意していた。
そのため,《事業者B1調達部門1》調達の軸受について,鋼材価格連動制によらずに単価を改定することは予定されておらず,現に,被審人は,他の自動車製造販売業者等に対して平成22年7月末から同年8月上旬頃に鋼材値上げに係る値上げ申入れ文書を提出していたのに,《事業者B1調達部門1》に対しては当該時期に値上げ申入れ文書を提出しておらず,鋼材価格連動性の導入が決まる直前の平成23年2月に鋼材価格連動性の導入価格を決定する為に値上げ申入れ文書を提出したにすぎなかった。また,《事業者B1調達部門1》調達の軸受について,被審人は他の3社との間で鋼材値上げに関する情報交換を行ったこともなく,自動車用軸受に係る本件違反行為の対象からは黙示的に除外されていたというべきである。
なお,公正取引委員会は,被審人に対する課徴金納付命令において課徴金の算定の基礎から鋼材価格連動制が適用される軸受を除外したが,これは,鋼材価格連動制が適用される軸受が「需要者と交渉の上販売価格を決定する」軸受ではなかったからであると解される。そうすると,《事業者B1調達部門1》調達の軸受についても,自動車用軸受に係る本件違反行為(合意)の時点で鋼材価格連動制を導入することが合意されており,その導入に向けた実務的な協議が継続されており,「需要者と交渉の上販売価格を決定する」ことが予定されていない点では同様であったから,自動車用軸受に係る本件違反行為の対象から除外されていたと認定されるべきである。
よって,《事業者B1調達部門1》調達の軸受は当該商品に該当しないので,当該軸受に係る対価の額は当該商品の売上額に含まれない。
カ 産業機械用軸受のうち,「宇宙ロケット用軸受」に係る対価の額(5070万6653円)が当該商品の売上額に含まれないこと
産業機械用軸受に係る本件違反行為の実行期間において,被審人は,我が国において《事業者F》向けの《宇宙ロケット名略》及び《宇宙ロケット名略》のエンジンのターボポンプ用の軸受,《事業者G》向けの《宇宙ロケット名略》のエンジンのメインバルブ用の軸受,《宇宙ロケット名略》のエンジンのメインバルブ用の軸受,注排液バルブ用軸受及びプリバルブ用軸受並びに《エンジン名略》のメインバルブ用軸受(以下「宇宙ロケット用軸受」という。)を製造販売する唯一の事業者であり,他の軸受製造販売業者はこれらの宇宙ロケット用軸受を製造販売していなかった。また,産業機械用軸受に係る本件違反行為の実行期間において,《事業者F》や《事業者G》が,宇宙ロケット用軸受の調達先を被審人から他の軸受製造販売業者に変更することは具体的に想定できなかった。そのため,産業機械用軸受に係る本件違反行為の実行期間において,被審人の販売する宇宙ロケット用軸受について,被審人と他の軸受製造販売業者との間で競争関係は存在しなかった。
このように,被審人以外に販売する者がおらず,競争関係の存在しない宇宙ロケット用軸受については,あえて明示的に産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象から除外する旨を確認し合っていないとしても,少なくとも黙示的にその対象から除外されていたと解するのが合理的である。
よって,宇宙ロケット用軸受は当該商品に該当しないので,当該軸受に係る対価の額は当該商品の売上額に含まれない。
キ 自動車用軸受に関し,被審人が《事業者C》との間で平成23年3月30日に合意した一時金(3882万4343円)が独占禁止法施行令第5条第1項第1号の場合に該当すること
被審人は,《事業者C》との間で,平成23年3月30日,適用対象期間を平成22年10月から平成23年3月とする一時金3882万4343円(以下「本件一時金」という。)を支払う旨合意し,これを支払った。
本件一時金は,被審人が,平成22年10月頃,《事業者C》から同社の財務状態が悪いとの理由で,通常の値引き3パーセントに加えて,3パーセントの緊急の値引きを要求されて支払うこととなったものであり,通常の値引きと何ら性質が異なるものではなかった。実際,被審人は,上記の緊急の値引きの要求について,通常の値引きと分けて交渉しておらず,単に,交渉の結果,被審人が《事業者C》に対して2.69パーセントの値引きに応じることになったため,そのうち1パーセントを単価反映し,1.69パーセントを本件一時金としたのであって,単価反映と本件一時金は,通常の値引きと緊急の値引きという関係にあったわけではない。
このように,本件一時金は,審査官が主張するような《事業者C》の業績悪化に対する緊急の対策に応じた特別協力一時金として支払ったものではなく,被審人が《事業者C》との間で同年9月7日に合意した適用対象期間を同年4月から同年9月とする一時金と同様,単価改定と異なるところのない値引きであるから,独占禁止法施行令第5条第1項第1号の場合に該当する。
よって,本件一時金は,課徴金算定の基礎となる当該商品の売上額から控除されるべきである。
ク 小括
以上によれば,本件各違反行為に係る当該商品の売上額は,別紙12のとおりとなる。
なお,本件課徴金納付命令においては,《事業者H》に納入した軸受に係る売上げが,自動車用軸受に係る売上げとされ,その対価の額が自動車用軸受に係る売上額に含まれている。しかし,被審人が《事業者H》に納入したのは,自動車用軸受ではなく,産業機械用軸受であるから,本件課徴金納付命令で認定された自動車用軸受の売上額から《事業者H》に対する売上額である945万7924円が減額されるべきである。
(3) 審査官の反論
ア 産業機械用軸受及び自動車用軸受のうち,被審人が値上げ申入れを行っていない需要者に販売した軸受に係る対価の額が当該商品の売上額に含まれること
被審人は,本件報告書において,被審人が値上げの申入れを行っていないという需要者に販売した軸受が産業機械用軸受又は自動車用軸受に該当するとして売上額を報告していることからすると,被審人が値上げの申入れを行っていない需要者に販売した上記軸受も本件各違反行為の対象商品の範ちゅうに属することは明らかである。
そして,本件各違反行為に関与した4社の担当者が本件各違反行為の対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受の全てであると述べていること,事業者が需要者に対して値上げの申入れを行うか否かは,個別の取引の相手方との取引上の関係,商品の需給関係等にも左右されるものであることからすると,被審人が特定の需要者に対して値上げの申入れを行っていない軸受であるからといって,当該軸受が本件各違反行為の対象ではなかったとはいえない。
その他,被審人が値上げの申入れを行っていない需要者に販売した軸受について,本件各違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めるべき証拠も存在しない。
よって,本件各違反行為の実行期間において被審人が値上げ申入れを行っていない需要者に販売した産業機械用軸受及び自動車用軸受についても,本件各違反行為の拘束が及んでいることは明らかであり,当該商品に該当するので,当該軸受に係る対価の額も当該商品の売上額に含まれる。
イ 産業機械用軸受及び自動車用軸受のうち,被審人が「ノックダウン対象軸受」と呼称する軸受に係る対価の額が当該商品の売上額に含まれること
被審人は,本件報告書において,「ノックダウン対象軸受」と呼称する軸受が産業機械用軸受又は自動車用軸受に該当するとして売上額を報告していることからすると,上記軸受も本件各違反行為の対象商品の範ちゅうに属することは明らかである。
そして,本件各違反行為に関与した4社の担当者が本件各違反行為の対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受の全てであると述べていること,ノックダウン対象軸受も,その他の産業機械用軸受及び自動車用軸受と同様,被審人が,日本国内に所在する自動車及び自動車部品の製造販売業者を除く製造販売業者,並びに,自動車又は自動車部品の製造販売業者に対して販売したことに変わりはなく,これらの製造販売業者は,ノックダウン対象軸受を自らの裁量で自社の海外工場等に移転させていたにすぎないこと,被審人又はその販売代理店は,ノックダウン対象軸受についても,日本国内に所在する各製造販売業者との間で値上げ交渉を行っており,これらの日本国内に所在する製造販売業者自らが購入する価格について,日本国内で用いるものと海外で用いるもの(ノックダウン対象軸受)とを区別することなく交渉していたのであって,日本国外所在の工場等が購入する価格について交渉していたものではなかったこと,そして,不当な取引制限規制における課徴金算定の基礎となる売上額の範囲と企業結合規制における国内売上高とは関係がなく,不当な取引制限規制における課徴金算定の基礎となる売上額の範囲について企業結合規制における国内売上高の考え方に平仄を合わせる必要はないことからすると,ノックダウン対象軸受であるからといって,当該軸受が本件各違反行為の対象ではなかったとはいえない。
その他,ノックダウン対象軸受について,本件各違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めるべき証拠も存在しない。
よって,ノックダウン対象軸受についても,本件各違反行為の拘束が及んでいることは明らかであり,当該商品に該当するので,当該軸受に係る対価の額は当該商品の売上額に含まれる。
ウ 産業機械用軸受のうち,被審人が「《事業者Aグループ》向け補修用軸受」と呼称する軸受に係る対価の額が当該商品の売上額に含まれること
被審人は,本件報告書において,「《事業者Aグループ》向け補修用軸受」が産業機械用軸受に該当するとして売上額を報告していることからすると,上記軸受も産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属することは明らかである。
そして,産業機械用軸受に係る本件違反行為に関与した担当者が産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象は産業機械用軸受の全てであると述べていること,被審人が挙げた《事業者A1》及び《事業者A2》についていえば,いずれも《事業者A3》又は《事業者A4》を窓口として《事業者A1》又は《事業者A2》の購入価格を軸受の製造販売業者と交渉させていたものであり,「需要者との間で交渉の上販売価格を決定」していたことは明らかであること,また,4社は,《事業者Aグループ》向け補修用軸受についても,値上げ交渉の進捗状況を相互に確認するなどした上で,《事業者Aグループ》との間で値上げ交渉を行っていたこと,《事業者Aグループ》の調達担当者らは,いずれも,《事業者Aグループ》向け補修用軸受の価格決定方法について,日本銀行が公表している軸受鋼などの企業物価指数の前年度からの変動幅を参考にはするものの,これに連動させて自動的に価格を決定することはなく,4社との交渉の上購入価格を決定していたなどと供述しており,4社の営業担当者も同様の供述をしていることからすると,《事業者Aグループ》向け補修用軸受であるからといって,当該軸受が産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象ではなかったとはいえない。
その他,《事業者Aグループ》向け補修用軸受について,産業機械用軸受に係る本件違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めるべき証拠も存在しない。
よって,《事業者Aグループ》向け補修用軸受についても,産業機械用軸受に係る本件違反行為の拘束が及んでいることは明らかであり,当該商品に該当するので,当該軸受に係る対価の額は当該商品の売上額に含まれる。
エ 産業機械用軸受及び自動車用軸受のうち,被審人がジェイテクトに対して販売した軸受に係る対価の額が当該商品の売上額に含まれること
被審人は,本件報告書において,被審人がジェイテクトに対して販売した軸受が産業機械用軸受又は自動車用軸受に該当するとして売上額を報告していることからすると,上記軸受も本件各違反行為の対象商品の範ちゅうに属することは明らかである。
そして,本件各違反行為に関与した4社の担当者が本件各違反行為の対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受の全てであると述べていること,ジェイテクト向け軸受についても,現に,4社は,平成22年頃の第5次値上げの際に,会合を開催して値上げに関することなどについて話し合っており,また,被審人は,平成22年頃の第5次値上げの際に,ジェイテクトとの間で値上げ交渉を行っていたことからすると,違反行為者間で取引された商品であるからといって,被審人がジェイテクトに対して販売した軸受が本件各違反行為の対象ではなかったとはいえない。
その他,被審人がジェイテクトに対して販売した軸受について,本件各違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めるべき証拠も存在しない。
よって,被審人がジェイテクトに対して販売した軸受についても,本件各違反行為の拘束が及んでいることは明らかであり,当該商品に該当するので,当該軸受に係る対価の額は当該商品の売上額に含まれる。
オ 自動車用軸受のうち,被審人が「《事業者B1調達部門1》調達の軸受」と呼称する軸受に係る対価の額が当該商品の売上額に含まれること
被審人は,本件報告書において,「《事業者B1調達部門1》調達の軸受」が自動車用軸受に該当するとして売上額を報告していることからすると,上記軸受も自動車用軸受に係る本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属することは明らかである。
そして,自動車用軸受に係る本件違反行為に関与した担当者が自動車用軸受に係る本件違反行為の対象は自動車用軸受の全てであると述べていること,平成23年4月より前においては,被審人と《事業者B1調達部門1》との間において鋼材価格連動制により販売価格が決められていたわけではなかったこと,被審人,日本精工及びジェイテクトの3社の営業担当者は,《事業者B1調達部門1》が調達を担当するものと,《事業者B1調達部門2》(《部門名略》)などが調達を担当するものとを区別することなく,《事業者B1》向けの軸受全般を対象に値上げについて話し合っていたこと,被審人は,平成23年2月頃,《事業者B1調達部門1》に対し,被審人が《事業者B1調達部門2》との間で妥結した値上げ内容と同じ内容で値上げを申し入れていることからすると,《事業者B1調達部門1》調達の軸受であるからといって,当該軸受が自動車用軸受に係る本件違反行為の対象ではなかったとはいえない。
その他,4社の間で鋼材価格連動制が導入されることを前提に対応しているものについては自動車用軸受に係る本件違反行為の対象外とする旨合意されていたなど,《事業者B1調達部門1》調達の軸受について,自動車用軸受に係る本件違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めるべき証拠も存在しない。
よって,《事業者B1調達部門1》調達の軸受についても,自動車用軸受に係る本件違反行為の拘束が及んでいることは明らかであり,当該商品に該当するので,当該軸受に係る対価の額は当該商品の売上額に含まれる。
カ 産業機械用軸受のうち,被審人が「宇宙ロケット用軸受」と呼称する軸受に係る対価の額が当該商品の売上額に含まれること
被審人は,本件報告書において,「宇宙ロケット用軸受」が産業機械用軸受に該当するとして売上額を報告していることからすると,上記軸受も産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属することは明らかである。
そして,産業機械用軸受に係る本件違反行為に関与した担当者が産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象は産業機械用軸受の全てであると述べていること,4社は,《事業者F》及び《事業者G》に対する値上げの進捗状況等について,宇宙ロケット用軸受を除外することなく,《事業者F》及び《事業者G》向けの軸受全般を対象に話し合っていたこと,日本精工が,第5次値上げが行われた平成22年頃までに,宇宙ロケット用軸受について,《宇宙ロケット名略》の注排液バルブ用軸受等を《事業者G》に販売した実績並びに《事業者F》及び《事業者G》からの引き合いに応じて試作品を納入した実績等を有していたことからすると,被審人以外の他の軸受製造販売業者が宇宙ロケット用軸受分野において事業活動を行っていなかったとか,《事業者F》や《事業者G》が被審人の販売する宇宙ロケット用軸受の調達先を変更することは具体的に期待できなかったなどとはいえず,宇宙ロケット用軸受であるからといって,当該軸受が産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象ではなかったとはいえない。
その他,宇宙ロケット用軸受について,産業機械用軸受に係る本件違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めるべき証拠も存在しない。
よって,宇宙ロケット用軸受についても,産業機械用軸受に係る本件違反行為の拘束が及んでいることは明らかであり,当該商品に該当するので,当該軸受に係る対価の額は当該商品の売上額に含まれる。
キ 本件一時金が独占禁止法施行令第5条第1項第1号の場合に該当しないこと
(ア) 独占禁止法施行令第5条第1項に規定する売上額の算定方法は,実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の額を合計し,この合計額から一定のものに限り控除するというものであり,この控除するものとして,同項第1号に「実行期間において商品の量目不足,品質不良又は破損,役務の不足又は不良その他の事由により対価の額の全部又は一部を控除した場合」における「控除した額」,第2号に「実行期間において商品が返品された場合」における「返品された商品の対価の額」,第3号に一定の要件を備えた割戻金の額をそれぞれ規定している。
そして,独占禁止法施行令第5条第1項第1号に規定する控除する場合に該当するためには,ある支払等が商品の量目不足,品質不良又は破損,役務の不足又は不良その他の事由によるものであること及び実行期間における対価の額の全部又は一部の控除であって,当該控除が当該商品又は役務の対価の額と直接の関連性を有する事由によるものであることを要するというべきである(公正取引委員会平成14年7月25日審決・公正取引委員会審決集49巻51頁〔有限会社松尾孵卵場に対する件〕)。
(イ) 被審人が《事業者C》との間で平成23年3月30日に合意した本件一時金は,被審人が《事業者C》から半期ごとの通常の3パーセントの値引きとともに,3パーセントに相当する「特別協力一時金」を支払うよう要請を受け,これに対し,1.0パーセントの値引きに応じるとともに,1.69パーセントに相当する本件一時金を支払うこととしたというものであり,本件一時金の支払は,《事業者C》の業績悪化に対する緊急の対策に応じた「特別協力一時金」として支払ったものであるから,「当該控除が当該商品又は役務の対価の額と直接の関連性を有する事由によるものである」とは認められない。
そうすると,被審人が《事業者C》との間で平成23年3月30日に合意した本件一時金は,独占禁止法施行令第5条第1項第1号の場合に該当しない。
よって,本件一時金は,課徴金算定の基礎となる当該商品の売上額から控除されるべきものではない。
ク その他
被審人は,本件各違反行為の実行期間に《事業者H》に納入した軸受は産業機械用軸受であることから,その対価の額を自動車用軸受に係る売上額から除外すべきであると主張しているが,上記の軸受は,本件報告書において,被審人自身が自動車用軸受に該当するとして売上額を報告している。したがって,この点に関する被審人の主張は誤りである。
2 争点2(本件課徴金納付命令における課徴金の端数処理の適否)について
(1) 被審人の主張
独占禁止法第7条の2第23項の規定に定める端数処理は,違反行為(一定の取引分野)ごとにされるべきである。
したがって,本件各違反行為に係る課徴金の端数処理を合算処理の後に行っている本件課徴金納付命令における課徴金の端数処理は,上記規定に反する誤ったものである。
(2) 審査官の反論
独占禁止法第7条の2第23項は「第一項,第四項から第九項まで,第十一項,第十二項又は第十九項の規定により計算した課徴金の額に一万円未満の端数があるときは,その端数は,切り捨てる。」と規定するのみであり,課徴金の端数処理は,違反行為ごと又は「一定の取引分野」ごとに行わなければならないとはされていない。
したがって,本件課徴金納付命令における課徴金の端数処理に誤りはない。
第6 審判官の判断
1 争点1(本件各違反行為に係る当該商品の売上額)について
(1) 当該商品及び売上額の意義
ア 独占禁止法の定める課徴金の制度は,昭和52年法律第63号による当時の独占禁止法の改正において,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的として,既存の刑事罰の定めやカルテルによる損害回復をするための損害賠償制度に加えて設けられたものであり,カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである。
独占禁止法第7条の2は,課徴金の額について,当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に所定の割合を乗じて得た額に相当する額と定めており,これを受けて独占禁止法施行令第5条は,売上額算定の方法の原則をいわゆる引渡基準によることと定め,実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額を合計する方法によることとし,ここから控除すべきものとして,同条第1項第1号ないし3号の場合だけを明文で掲げている。そして,独占禁止法施行令第6条は,引渡基準によって売上額を算定すると事業活動の結果と著しく離れてしまう場合に,例外としていわゆる契約基準によることとし,実行期間において締結した商品の販売又は役務の提供に係る契約により定められた対価の額を合計する方法とすると定め(同条第1項),その場合の合計額から控除するものとして,独占禁止法施行令第5条第1項第3号だけを準用している(同条第2項)。
(最高裁判所平成17年9月13日第三小法廷判決・民集第59巻第7号1950頁・公正取引委員会審決集第52巻723頁〔東京海上日動火災保険株式会社ほか13名による審決取消請求事件〕参照)
イ 以上によれば,独占禁止法は,課徴金の算定方法を具体的な法違反による現実的な経済的不当利得そのものとは切り離し,売上額に一定の比率を乗じて一律かつ画一的に算出することとして,カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できることを図ったものと解すべきである。
そして,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」とは,違反行為である相互拘束の対象である商品,すなわち,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解すべきであり,前記アのような課徴金制度の趣旨及び課徴金の算定方法に照らせば,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,一定の商品につき,違反行為を行った事業者又は事業者団体が,明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど,当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情(当該商品該当性を否定する特段の事情)が認められない限り,違反行為による拘束が及んでいるものとして,課徴金算定の対象となる当該商品に含まれ,違反行為者が,実行期間中に違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品を引き渡して得た対価の額が,課徴金の算定の基礎となる売上額となると解すべきである。
(東京高等裁判所平成22年11月26日判決・公正取引委員会審決集第57巻第2分冊194頁〔出光興産株式会社による審決取消請求事件〕参照)
(2) 本件各違反行為に係る当該商品
被審人は本件各違反行為の存在を争っていないところ,産業機械用軸受に係る本件違反行為は,4社が,共同して,産業機械用軸受(軸受の製造販売業者又はその販売子会社若しくは販売代理店が自動車及び自動車部品の製造販売業者等の需要者を除く需要者との間で交渉の上販売価格を決定する玉軸受及びころ軸受〔ミニチュア軸受及び小径軸受を除く。〕)の販売価格を引き上げることを合意することにより,公共の利益に反して,我が国における産業機械用軸受の販売分野における競争を実質的に制限したというものであるから,その対象商品は上記の産業機械用軸受である。また,自動車用軸受に係る本件違反行為は,4社が,共同して,自動車用軸受(軸受の製造販売業者又はその販売子会社若しくは販売代理店が自動車又は自動車部品の製造販売業者等の需要者との間で交渉の上販売価格を決定する玉軸受及びころ軸受〔ミニチュア軸受及び小径軸受を除く。〕)の販売価格を引き上げることを合意することにより,公共の利益に反して,我が国における自動車用軸受の販売分野における競争を実質的に制限していたというものであるから,その対象商品は上記の自動車用軸受である。そして,本件各違反行為の対象商品が上記のとおりであることは,軸受の分類(査32ないし査42の1,査52ないし査54),取引形態(査5,査7,査18,査19,査30,査38,査40,査41,査55ないし査80),需要者(査8,査9,査16,査18,査25,査40,査41,査81ないし査89),当事者の認識(産業機械用軸受につき,査18,査39ないし査41,査61,査75,査76,査223,査291,査466,査563。自動車用軸受につき,査38,査40,査41,査76,査80,査466,査565,査568,査569)等からも認めることができる(鋼材価格連動制を採用する需要者向けの玉軸受及びころ軸受並びに建値取引により販売される玉軸受及びころ軸受は,需要者向け販売価格の決定に当たって需要者との交渉の必要がないため,産業機械用軸受及び自動車用軸受に該当しない。)。
したがって,上記の産業機械用軸受及び上記の自動車用軸受の範ちゅうに属する軸受については,一定の軸受について,4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外するなど,当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,本件各違反行為による拘束が及んでいるものとして,当該商品に該当することになり,その売上額が当該商品の売上額に含まれる。
(3) 被審人が当該商品の売上額に該当しないと主張する軸受に係る対価の額について
ア 産業機械用軸受及び自動車用軸受のうち,被審人が値上げ申入れを行っていない需要者に販売した軸受に係る対価の額について
(ア) 本件報告書によれば,被審人が値上げ申入れを行っていないという需要者に販売した軸受も,被審人自身が産業機械用軸受又は自動車用軸受に該当することを前提とする報告をしているのであるから,産業機械用軸受又は自動車用軸受であり,本件各違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品に該当するものと認められる。
被審人は,特に,産業機械用軸受に係る合意は,「国内において被審人が価格交渉を行う製品」を対象とするものであるとして,被審人が値上げ申入れを行っていない需要者に販売した軸受のうち,《事業者D1》に納入する製品については《事業者D2》の米国本社と被審人の米国の販売会社との間において鋼材価格連動制が採用されており,「国内において」「価格交渉を行う製品」に該当しないと主張する。
本件各違反行為の対象から鋼材価格連動制が除外されているのは,鋼材価格連動制が適用されれば,交渉によらず自動的に価格が決まることを理由とするものである。しかし,《事業者D2》の米国本社で採用されていたとする「追加料金公式」については,その詳細は不明であり,被審人の合弁会社の担当者の陳述(審85の1,2)中,平成22年において,被審人の供給実績が悪かったために,《事業者D2》が追加料金公式に基づく軸受の販売価格の上昇を拒絶した旨の記述があることからすれば,《事業者D1》に納入する製品が,交渉によらず自動的に価格が決まるものであったとまでは認められない。そして,証拠(査61,査278,査309,査310,査574)によれば,現に,3社の営業担当者は,西関東地区会を開催して,《事業者D1》を重点的に値上げに取り組むべき「ターゲットユーザー」に決定し,値上げ交渉の進捗状況等を確認し合っており,被審人の西関東支店は,《事業者D1》《事業所名略》に対し,値上げを申し入れたと認められることからすれば,《事業者D1》に納入する軸受については,交渉によらず自動的に価格が決定するものではなく,値上げ交渉が可能であったと認められる。
そして,その交渉が被審人の米国の販売会社や《事業者D1》の米国本社を通じて行われるものであったとしても,飽くまで,我が国において,《事業者D1》に対して供給されるものであって,《事業者D1》に納入する軸受も,我が国の需要者との間で交渉の上販売価格を決定する軸受であり,産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象商品の範ちゅうに含まれるものと認めるのが相当である。
また,被審人は,《事業者E1》及び《事業者E2》に納入する製品については,被審人の欧州の販売会社が《事業者E1》のドイツ本社と交渉するものであるとして,「国内において」被審人が価格交渉を行う製品に該当しないと主張する。
しかし,上記の軸受について,その販売価格の交渉が被審人の欧州販売会社や《事業者E1》のドイツ本社を通じて行われるものであったとしても,飽くまで,我が国において,《事業者E1》及び《事業者E2》に対して供給されるものであるから,我が国において需要者との間で交渉の上販売価格を決定する軸受であり,産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象商品の範ちゅうに含まれるものと認めるのが相当である。
したがって,被審人が値上げ申入れを行っていない需要者に販売した軸受は,いずれも,本件各違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品に該当するものと認められる。
(イ) この点,被審人は,本件各違反行為の実行期間において被審人が値上げ申入れを行っていない需要者に販売した軸受について,被審人が値上げ申入れを行わなかったのは,当該軸受が本件各違反行為の対象ではなかったからであると主張する。
しかしながら,前記(ア)のとおり,当該軸受についても,本件各違反行為の対象商品の範ちゅうに含まれることから,4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外するなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り,当該商品に含まれるところ,本件各違反行為に関与した4社の担当者が,本件各違反行為の対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受全てであると供述しており(産業機械用軸受につき,査18,査39ないし査41,査61,査75,査76,査223,査291,査466,査563。自動車用軸受につき,査38,査40,査41,査76,査80,査466,査568,査569),被審人の担当者は,被審人の第5次値上げの対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受全てであると供述している(産業機械用軸受につき,査58,査143,査243,査283,査470,査472,査476。自動車用軸受につき,査37,査462,査464,査564ないし査567)。
これに加え,供給者が需要者に対して値上げ申入れを行うか否かは,値上げのコストと効果,個別の取引の相手方との取引上の力関係,販売する商品の需給関係等にも左右されるものであり,本件各違反行為の対象となっていても,必ず値上げ申入れが行われるわけではないことからすると,被審人が需要者に対して値上げ申入れを行わなかったからといって,当該需要者に対して販売した軸受が本件各違反行為の対象商品となっていなかったということはできない。
したがって,本件各違反行為の実行期間において被審人が値上げ申入れを行っていない需要者に販売した軸受について,被審人が値上げ申入れを行っていないことをもって,4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外するなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとはいえない。
(ウ)また,被審人は,本件各違反行為は,平成22年6月時点における販売価格を前提として,当該販売価格を引き上げるものであるところ,被審人が値上げの申入れを行っていない需要者に販売した軸受のうち,引き合いの都度見積りを行う製品の需要者に販売した軸受については,引き上げるべき従前の販売価格が存在しないため,販売価格を引き上げる対象とはなり得ないし,平成22年6月時点における販売価格を前提として当該販売価格を引き上げるという関係にもないとして,引き合いの都度見積りを行う製品の需要者に販売した軸受は本件各違反行為の対象商品となっていなかったと主張する。
しかし,前記(ア)のとおり,引き合いの都度見積りを行う製品の需要者に対して販売した軸受についても,本件各違反行為の対象商品の範ちゅうに含まれることから(審査官は,本件各違反行為の対象が単価契約取引により販売されるものであり〔答弁書20頁〕,この単価契約取引とは「軸受の製造販売業者又はその販売子会社若しくは販売代理店が,各需要者との間で交渉の上決定した当該需要者向け販売価格で取引する形態」であるとしているから〔答弁書17頁〕,引き合いの都度見積りを行う製品も,本件各違反行為の対象商品の範ちゅうに含まれる。),4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外するなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り,当該商品に含まれるところ,前記(イ)のとおり,本件各違反行為に関与した4社の担当者が,本件各違反行為の対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受全てであると供述している。
そして,被審人の担当者が,被審人が主張するところの引き合いの都度見積りを行う製品の需要者に対しても,被審人は鋼材の値上がり分を織り込んで見積りを提出していると供述しており(査130),販売価格引上げの対象となっていたというべきであるから,被審人が値上げの申入れをしなかったという上記の軸受について,4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外したなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めることはできず,この軸受が当該商品に該当しないという被審人の主張を採用することはできない。
(エ) さらに,被審人は,被審人と取引関係にある需要者が海外法人の国内現地法人である場合には,当該需要者の海外の本社と被審人の海外現地法人との間において決定された納入価格が適用されることがあり,そのような場合は,国内で交渉を行うものではなく,国内現地法人である需要者に対して値上げの申入れを行っていないから,このような納入価格が適用される軸受は産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象商品となっていなかったと主張し,この主張に沿うような証拠を提出(審79,審84,審85の1,2)及び指摘(査216〔資料2〕,査278,査523,査620)する。
しかし,前記(ア)のとおり,海外の本社において納入価格が決定される需要者に対する軸受についても,産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象商品の範ちゅうに含まれることから,4社が明示的又は黙示的に産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象から除外するなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り,当該商品に含まれるところ,前記(イ)のとおり,本件各違反行為に関与した4社の担当者は,本件各違反行為の対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受全てであると供述している。
これに加え,被審人が主張するところの海外法人の国内現地法人である《事業者D1》については,前記(ア)のとおり,3社の営業担当者が会合を開催してターゲットユーザーと決定し,値上げの進捗状況を確認し合っており,被審人の西関東支店は,《事業者D1》《事業所名略》に対し,値上げを申し入れたと認められるのであり,被審人は,《事業者D1》が《事業者D2》の米国本社との交渉を求めたために,交渉が難航するものと予想して(査278),それ以上の交渉をしなかったにすぎないと認められるから,4社が明示的又は黙示的に産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象から除外したなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めることはできない。また,被審人が主張するところの海外法人の国内現地法人である《事業者E1》について,同社に納入する自動車用軸受に関して,被審人は代理店を通じて値上げ申入れを行っているものと認められることからすると(査617ないし査619〔3枚目[24頁]の「親事業所コード」が「71」,「子事業所コード」がなし,「得意先コード」が「1121」,「顧客名称」が「《事業者E1の記載》」の行〕),《事業者E1》及び《事業者E2》に対して販売した産業機械用軸受についても,海外の本社において納入価格が決定される需要者に対する軸受であるからといって,4社が明示的又は黙示的に産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象から除外したなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めることはできない。
したがって,これらの軸受が当該商品に該当しないという被審人の主張を採用することはできない。
(オ) さらに,被審人は,上記のほか,被審人が値上げの申入れをしなかった需要者のうち,
①鋼材を用いる製品の取引額が小さい需要者や鋼材が用いられている割合の小さい製品の需要者については,値上げによって得られるメリットが価格交渉に要する費用,労力等に照らして小さいことから,
②過去の値上げの際に値上げを受け入れない姿勢が明確であったなど,平成22年時点において値上げを受け入れないことが明確な需要者については,値上げ申入れを行っても無駄であることから,
③長期間にわたり価格が固定化されていた需要者については,価格が固定されていることから,
④納入当初の価格を変更しない旨合意している需要者については,当該合意の存在から,
値上げの申入れを行うことは想定されておらず,これらの需要者に納入した軸受は本件各違反行為の対象商品となっていなかったと主張する。
しかし,前記(ア)のとおり,上記①ないし④の各需要者に販売した軸受についても,本件各違反行為の対象商品の範ちゅうに含まれることから,4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外するなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り,当該商品に含まれるところ,前記(イ)のとおり,本件各違反行為に関与した4社の担当者が,本件各違反行為の対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受全てであると供述している。
そして,4社の担当者は,原材料の高騰という値上げの根拠は全ての軸受に当てはまるのであるから,一部の需要者に対する軸受を除外すると値上げの説明がつかなくなること,自社が値上げの申入れをしない需要者がいても,他の3社の値上げに協力する必要があったことなどを理由として,4社の会合において個別に名前が挙がらなかった中小口ユーザーに対する軸受や,自社が値上げ申入れを行わなかった需要者に対する軸受であっても,本件各違反行為の対象から外れるものではなく,他の3社から求められれば,値上げ申入れを行う必要があるとの認識で,第5次値上げを行っていたと認められる(査18,査41,査61,査75,査112,査223,査225,査227,査291,査292,査310,査312,査314,査330,査569)。
これに加え,長期間にわたり価格が固定されていた需要者や納入当初の価格を変更しない旨合意している需要者にしても,通常,契約の更改又は一旦原契約を破棄し新契約を結ぶなどにより,単価の改定を実施することは可能であって,被審人の挙げる証拠からは,このような可能性さえなかったことを示す事実はうかがわれない。
そうすると,被審人は,上記①ないし④の各需要者について,値上げのコストと効果,個別の取引の相手方との取引上の力関係,販売する商品の需給関係等を考慮して値上げ申入れを行わなかったというにすぎない。
以上からすれば,上記①ないし④のような被審人が値上げ申入れを行わなかった事情をもって,本件各違反行為の対象とされなかったとまではいえず,被審人が値上げの申入れを行わなかった需要者に対して販売した軸受についても,4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外したなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めることはできない。
被審人は,被審人の主張に沿う供述(査278,査291)の存在を指摘するところ,不二越の《I1》の質問調書(査278)には,取引額が少ない需要者については,値上げを申し入れないでよいとの方針が示された,との供述部分があるが,同人は,後に,同供述部分の内容について,取引額が少ない軸受メーカーは,他の3社の値上げ活動を妨げないのであれば,積極的な値上げ活動を行う必要はないとの趣旨であり,合意対象から除外するものではなかったなどと補足している(査312)。また,不二越の《I2》は,合意の対象は「比較的規模の小さなユーザー」を含めた「全てのユーザー」であると供述しており(査291),取引額が少ない需要者を除外していない。もっとも,同人は,全ての需要者に値上げの活動をしていたわけではなく,値上げの申入れを行わなかった需要者がいるとも供述しているが(査291),これは,不二越が自社の判断で値上げを申し入れなかった需要者があったことを意味するにすぎず,値上げの申入れをしなかった需要者に対して販売する軸受が本件各違反行為の対象から除外されていたとの事実を示すものとはいえない。
したがって,上記各供述をもって特段の事情があると認めることはできないし,その他の証拠によっても,特段の事情を認めるに足りない。
よって,これらの軸受が当該商品に該当しないという被審人の主張を採用することはできない。
(カ) 加えて,被審人は,被審人が値上げの申入れをしなかったシェアを拡大しようと営業活動している需要者や値上げ申入れを行うとシェアを下落させてしまうおそれのある需要者については,被審人と競合他社との間で活発な競争が行われており,何ら具体的な競争制限効果は発生していないとして,これらの需要者に納入した軸受は当該商品に該当しないと主張する。
しかし,前記(ア)のとおり,上記軸受についても,本件各違反行為の対象商品の範ちゅうに含まれることから,4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外するなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り,当該商品に含まれるところ,前記(イ)のとおり,本件各違反行為に関与した4社の担当者が,本件各違反行為の対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受全てであると供述している。
したがって,上記のような理由で被審人が値上げの申入れを行わなかった需要者に対して販売したと被審人が主張する軸受についても,4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外したなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めることはできず,この軸受が当該商品に該当しないという被審人の主張を採用することはできない。
(キ) その他,被審人が値上げの申入れを行わなかったという需要者に対して販売した軸受について,4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外したなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めるべき証拠はなく,当該軸受も,当該商品に該当するものと認められる。
よって,被審人が本件各違反行為の実行期間中に上記軸受を引き渡して得た対価の額も本件各違反行為に係る当該商品の売上額に含まれる。
イ 産業機械用軸受及び自動車用軸受のうち,被審人が「ノックダウン対象軸受」と呼称する軸受に係る対価の額について
(ア) ノックダウン対象軸受についても,被審人自身が,各需要者に対する産業機械用軸受又は自動車用軸受の売上額に含めて報告(査570)していることから,産業機械用軸受又は自動車用軸受であり,本件各違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品に該当するものと認められる。
この点,被審人は,ノックダウン対象軸受の取引は,買主である産業機械や自動車の製造販売業者が日本国外所在の自社工場の商社的役割を担っているにすぎず,売主である被審人も,買主である当該製造販売業者も,需要者は日本国外所在の工場であると認識して取引を行っていたことからすると,実質的に日本国外向けのものであり,我が国における産業機械用軸受及び自動車用軸受の販売分野には含まれないなどとして,ノックダウン対象軸受は当該商品に含まれないと主張する。
しかし,証拠(査567,査570ないし査578)によれば,被審人又はその販売代理店は,ノックダウン対象軸受についても,日本国内に所在する各製造販売業者との間で値上げ交渉を行っており,また,当該値上げ交渉においては,これらの製造販売業者自らが日本国内の工場で用いるものと,日本国外の工場で用いるもの(ノックダウン対象軸受)とを区別して交渉,決定していたわけではなく,さらに,ノックダウン対象軸受は,その他の産業機械用軸受及び自動車用軸受と同様,日本国内に所在する各製造販売業者を買主として販売され,これらの製造販売業者の日本国内における納入場所に納入されたものと認められる。
そうすると,ノックダウン対象軸受について,被審人が主張するように,売主である被審人及び買主である当該製造販売業者が,当該製造販売業者の日本国外所在の工場で使用されるものであると認識して取引を行っていたとしても,当該取引が,「我が国における産業機械用軸受の販売分野」及び「我が国における自動車用軸受の販売分野」に含まれることは明らかであり,被審人の主張を採用することはできない。
したがって,ノックダウン対象軸受も,4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外するなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,当該商品に含まれる。
そして,前記ア(イ)のとおり,本件各違反行為に関与した4社の担当者が,本件各違反行為の対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受全てであると供述しており,ノックダウン対象軸受について,4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外したなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めるべき証拠はなく,この軸受も,当該商品に含まれるものと認められる。
(イ) なお,被審人は,独占禁止法第7条の2に規定する当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額の考え方は,企業結合の届出制度における国内売上高についての考え方と平仄を合わせるべきであるとして,この点から,ノックダウン対象軸受が本件各違反行為の対象とならないと主張するが,企業結合規制に係る届出制度は,それ自体が企業結合に対する独占禁止法の適用範囲を画すものではなく,企業結合規制を実効性あるものとするため,我が国における自由競争経済秩序が害される可能性が類型的に高いと考えられる企業結合について,公正取引委員会への届出義務を課すものにすぎないのであって,独占禁止法第2条第6項の不当な取引制限規制とは性質が異なるのであるから,被審人の主張は独自の見解であって採用することはできない。
また,被審人は,本件については海外の競争当局においても調査がなされているとして,当該商品に係る売上額を課徴金の算定基礎とすることは海外の競争当局間での国際的多重処罰の問題を惹起するなどと主張するが,本件について海外の競争当局においても調査がされていることは,ノックダウン対象軸受が当該商品に該当するという認定を何ら左右するものではない。
よって,被審人が本件各違反行為の実行期間中にノックダウン対象軸受を引き渡して得た対価の額も本件各違反行為に係る当該商品の売上額に含まれる。
ウ 被審人が「《事業者Aグループ》向け補修用軸受」と呼称する軸受に係る対価の額について
(ア) 証拠(査344,査346)によれば,《事業者Aグループ》向け補修用軸受も,自動車及び自動車部品の製造販売業者等の需要者を除く需要者に販売する玉軸受及びころ軸受(ミニチュア軸受及び小径軸受を除く。)であると認められる。
被審人は,《事業者Aグループ》向け補修用軸受について,被審人を含む軸受製造販売業者が販売価格の改定交渉を行う相手方が《事業者A3》等の《事業者Aグループ》関連商社であるから,軸受の製造販売業者又はその販売子会社若しくは販売代理店が「需要者との間で交渉の上」販売価格を決定する玉軸受及びころ軸受に該当しないなどと主張する。
しかし,証拠(査345,査347〔添付資料1~9〕,査579ないし査581)によれば,《事業者Aグループ》は,いずれも,子会社である《事業者Aグループ》関連商社を窓口又は代理人として,自らの購入価格を軸受の製造販売業者と交渉させていたにすぎず,上記軸受についても,販売価格の改定交渉を行う相手方は需要者である《事業者Aグループ》であったと認めるのが相当である。そうすると,被審人は,《事業者Aグループ》向け補修用軸受について,「需要者との間で交渉の上」販売価格を決定したものといえるから,この軸受が産業機械用軸受に係る本件違反行為の当該商品に該当しないという被審人の主張を採用することはできない。
したがって,《事業者Aグループ》向け補修用軸受も,産業機械用軸受であり,産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品に該当するものと認められる。
(イ) この点,被審人は,《事業者Aグループ》向け補修用軸受については,《事業者Aグループ》関連商社との間で販売価格が決定されるのは基本的に年に1回であり,いったん決定された販売価格は,契約上,次の販売価格改定時まで変更されないこと,《事業者Aグループ》は,日本銀行が公表している炭素鋼軸受鋼などの企業物価指数の前年度からの変動幅を参考に,補修用軸受の価格を決定していることを理由に,《事業者Aグループ》向け補修用軸受は,産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象から除外されていたと主張する。
しかしながら,前記(ア)のとおり,上記軸受についても,産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象商品の範ちゅうに含まれることから,4社が明示的又は黙示的に産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象から除外するなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り,当該商品に含まれるところ,前記ア(イ)のとおり,本件各違反行為に関与した4社の担当者が,本件各違反行為の対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受全てであると供述している。
これに加え,証拠(査138,査270,査275,査292,査294,査343ないし査347,査349,査350,査357ないし査360)によれば,日本精工が,《事業者A3》に対して値上げを申し入れることに消極的な態度を示したことがあったことは確かであるものの,実際には,4社は,《事業者Aグループ》向け補修用軸受についても,4社の営業担当者が会合において値上げ交渉の進捗状況を相互に確認するなどした上で,《事業者Aグループ》との間で値上げ交渉を行っていたものと認められる。
また,証拠(査138,査292,査343ないし査347,査349,査350,査357,査360,査579,査581ないし査584,査589)によれば,被審人が主張するように,《事業者Aグループ》向け補修用軸受の納入単価の見直しは,基本的に年1回であったものの,単価の見直しが年1回であること自体は,《事業者Aグループ》向け補修用軸受が産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象とならないことを示すものとは認められない。
さらに,証拠(査294,査343ないし査347,査349,査357,査579ないし査589)によれば,被審人が主張するように,需要者側である《事業者Aグループ》ないし《事業者Aグループ》関連商社では,4社との《事業者Aグループ》向け補修用軸受の単価改定に当たり,日本銀行が公表している炭素鋼軸受鋼などの企業物価指数の変動幅を参考にして交渉を行っていたことは確かであるが,上記軸受の単価は,上記指標の変動幅によって自動的に決定されていたわけではなく,飽くまで,《事業者Aグループ》と4社との交渉の上で決定されていたものと認められる。
なお,被審人は,《事業者Aグループ》向け補修用軸受が産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象となっていなかった根拠として,平成23年度の補修用軸受単価改定においては,現に,平成22年中に発生した鋼材価格の値上がりにもかかわらず,その後に鋼材価格が下落していることから,《事業者A3》にあっては,平成22年度との比較で単価は据え置くことと決定されたことを指摘する。
しかし,証拠(査343,査345ないし査347)によれば,上記の期間においても,4社は,《事業者A1》向け補修用軸受について,産業機械用軸受に係る合意に基づき,各支社・支店の営業担当者らが産機分科会に出席して値上げ交渉の進捗状況を相互に確認するなどしつつ,値上げ交渉を行っていたのであり,最終的には値上げが認められなかったにすぎないものと認められるから,上記のように単価が据え置かれた事実は,《事業者Aグループ》向け補修用軸受が産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象となっていなかったことを示すものとはいえない。
以上によれば,《事業者Aグループ》向け補修用軸受について,4社が明示的又は黙示的に産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象から除外したなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めることはできず,この軸受が当該商品に該当しないという被審人の主張を採用することはできない。
(ウ) その他,《事業者Aグループ》向け補修用軸受について,前記のような特段の事情を認めるべき証拠はなく,この軸受も,当該商品に含まれるものと認められる。
よって,被審人が産業機械用軸受に係る本件違反行為の実行期間中に《事業者Aグループ》向け補修用軸受を引き渡して得た対価の額も産業機械用軸受に係る本件違反行為の当該商品の売上額に含まれる。
エ 産業機械用軸受及び自動車用軸受のうち,被審人がジェイテクトに対して販売した軸受に係る対価の額について
(ア) 本件報告書によれば,被審人がジェイテクトに対して販売した軸受も,産業機械用軸受又は自動車用軸受であり,本件各違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品に該当するものと認められる。
(イ) この点,被審人は,ジェイテクトは本件各違反行為の共同行為者であり,不当な取引制限に係る違反行為者間における対象商品の取引では,違反行為者自身が競争制限効果が及ぶべき需要者となることから,当該違反行為に係る合意をするに当たり,違反行為者間の取引を対象に含めることは想定し難く,被審人がジェイテクトに対して販売した軸受は,当該商品に当たらない旨主張する。
しかし,前記(ア)のとおり,上記軸受についても,本件各違反行為の対象商品の範ちゅうに含まれることから,4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外するなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り,当該商品に含まれるところ,前記ア(イ)のとおり,本件各違反行為に関与した4社の担当者が,本件各違反行為の対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受全てであると供述している。
これに加え,証拠(査174,査606,査607)によれば,4社の営業担当者による会合において,値上げ活動の進捗を相互に確認すべき需要者として,ジェイテクトが挙げられたり,被審人が,実際に,ジェイテクトに対し値上げを申し入れたりしたことがあったと認められることからすると,被審人がジェイテクトに販売した軸受についても,4社が明示的又は黙示的に本件各違反行為の対象から除外したなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めることはできず,この軸受が当該商品に該当しないという被審人の主張を採用することはできない。
(ウ) その他,被審人がジェイテクトに販売した軸受について,前記のような特段の事情を認めるべき証拠はなく,この軸受も,当該商品に含まれるものと認められる。
よって,被審人が本件各違反行為の実行期間中にジェイテクトに販売した軸受を引き渡して得た対価の額も本件各違反行為の当該商品の売上額に含まれる。
オ 自動車用軸受のうち,被審人が「《事業者B1調達部門1》調達の軸受」と呼称する軸受に係る対価の額について
(ア) 《事業者B1調達部門1》調達の軸受についても,被審人自身が《事業者B1》に対する自動車用軸受の売上額に含めて報告している(査570)ことから,自動車用軸受であり,自動車用軸受に係る本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品に該当するものと認められる。
(イ) この点,被審人は,自動車用軸受に係る本件違反行為の実行期間に被審人の販売した《事業者B1調達部門1》調達の軸受について,自動車用軸受に係る本件違反行為の成立の時点では鋼材価格連動制を導入すること自体は合意されており,鋼材価格連動制によらずに単価を改定することは予定されていなかったため,《事業者B1調達部門1》に対して鋼材値上げの申入れを行わなかったとして,《事業者B1調達部門1》調達の軸受は,自動車用軸受に係る本件違反行為の対象からは黙示的に除外されていたと主張する。
しかし,前記(ア)のとおり,上記軸受についても,自動車用軸受に係る本件違反行為の対象商品の範ちゅうに含まれることから,4社が明示的又は黙示的に自動車用軸受に係る本件違反行為の対象から除外するなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り,当該商品に含まれるところ,前記ア(イ)のとおり,本件各違反行為に関与した4社の担当者が,本件各違反行為の対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受全てであると供述している。
これに加え,証拠(査384,査391,査402ないし査404)によれば,被審人,日本精工及びジェイテクトの営業担当者は,《事業者B1》等トラックメーカー4社等に係る自動車分科会を開催して値上げ交渉の進捗状況等を確認し合っていたところ,同分科会においては,《事業者B1》の調達部門のうち《事業者B1調達部門1》が調達を担当するものと《事業者B1調達部門2》等が調達を担当するものとを区別することなく,《事業者B1》向けの軸受全般を対象に話し合っていたものと認められる。そして,証拠(査384,査402,査403,査590〔「《部門名の記載》」とは《事業者B1調達部門1》のことである[査591]。〕)によれば,日本精工についても,平成22年7月26日の同分科会において,値上げ申入れ文書の提出時期等を確認し合ったことを受けて,同年8月3日付けで《事業者B1調達部門1》を含む《事業者B1》の各調達部門に対し,値上げ申入れ文書を提出しているものと認められる。
被審人は,他の3社との間で,《事業者B1調達部門1》調達の軸受について値上げに関する情報交換を行ったことはないと主張し,日本精工及びジェイテクトの従業者の供述調書には,《事業者B1調達部門1》について協議した旨の記載は一切ないこと,被審人が100パーセントのシェアを持っていたこと並びに被審人,日本精工及びジェイテクトの従業者が上記トラックメーカー4社等に対する値上げの進捗状況について確認していた時期に,被審人が《事業者B1調達部門1》に対しては値上げ申入れを行っていなかったことが他社との間で話題になっていた事実は認められないこと等を指摘し,これに沿う内容の陳述書(審97)も提出する。しかし,被審人が指摘するような事実が4社の担当者の供述調書に記載されていないとしても,前述のようなトラックメーカー4社等に係る自動車分科会での話合いに関する各供述やこれに基づく日本精工の値上げ申入れ状況からすると,《事業者B1調達部門1》調達の軸受について,自動車用軸受に係る本件違反行為の対象になっていなかったということはできない。
また,証拠(査78,審97)によれば,《事業者B1調達部門1》は,平成21年6月頃,被審人に対し,《事業者B1調達部門1》が調達する製品につき鋼材価格連動制を導入することを強く要求し,被審人は,《事業者B1調達部門1》の要求を受け入れざるを得ないと判断し,その旨を《事業者B1調達部門1》に回答し,その後,《事業者B1調達部門1》と被審人との間で鋼材価格連動制の導入に向けた実務的な協議が行われたこと,被審人は,平成22年7月28日,鋼材値上げの申入れを指示する通達を自動車事業本部企画部から発出していたものの,《事業者B1調達部門1》に対しては上記通達に基づく鋼材値上げの申入れを行わなかったこと,その後も,被審人と《事業者B1調達部門1》は,鋼材価格連動制の適用開始時期,指標とする鋼材の選定,鋼材価格連動制における価格算定方式等について協議を重ね,平成23年3月頃,これらについて合意に達したこと,その結果,《事業者B1調達部門1》が調達する製品につき,同年4月に鋼材価格連動制による価格の最初の改定が行われたが,これは,平成22年1月から同年6月までの指標価格と同年7月から同年12月までの指標価格の差額を単価に反映させるというものであったことなど,被審人の主張に沿う事実も認めることができる。
しかし,前記認定のとおり,被審人は,《事業者B1調達部門1》調達の軸受については,鋼材価格連動制の導入に向けた実務的な協議が継続されていたものの,平成23年4月より前の段階では,鋼材価格連動制により販売価格が決められていたわけではなく,実際,証拠(査78)によれば,被審人は,鋼材価格連動制の導入に向け実務的な協議が続いていた同年2月頃,《事業者B1調達部門1》に対し,平成22年10月1日納入分から鋼材投入重量1キログラム当たり15円という内容で値上げを申し入れているものと認められる。
なお,被審人は,《事業者B1調達部門1》に対して値上げ申入れをしたのは,《事業者B1調達部門1》の担当者から,本社に対し鋼材価格連動制の早期開始を説得する材料として,《事業者B1調達部門1》も《事業者B1調達部門2》の鋼材値上げと同様の申入れを受けているという形を作って欲しいと依頼されたからにすぎず,被審人には鋼材価格連動制の導入を断念して鋼材値上げを求める意図はなく,鋼材価格連動制の導入に向けた協議のほかに鋼材値上げの交渉がなされたこともなかったと主張しており,被審人において《事業者B1調達部門1》との間で鋼材価格連動制の導入に向けた協議に関与した関東自動車支店の《J1》の陳述書(審97)にこれに沿う部分がある。しかし,一方で,上記《J1》は,《事業者B1調達部門1》が鋼材価格連動制の適用の開始を先延ばししていたことから,このままでは鋼材価格の値上がり分を軸受の販売価格に転嫁することができず不利益を被ることが想定されたため,既に被審人が《事業者B1調達部門2》との間で妥結していた値上げ内容と同内容で値上げを申し入れたと供述しており(査78),しかも,被審人は,値上げの適用時期を,鋼材価格連動制の適用開始日ではなく,あえて平成22年10月1日納入分からと遡った時期に設定して値上げを申し入れているのであるから,単に鋼材価格連動制の導入価格を決定するための行動であると認めることはできず,やはり,鋼材価格の値上がり分を軸受の販売価格に転嫁するために行ったものであると認めるのが相当である。また,被審人は,上記の値上げ申入れについて,鋼材価格連動制の導入が決まる直前の平成23年2月に鋼材価格連動制の導入価格を決定するために値上げ申入れ文書を提出したにすぎないなどと,鋼材価格連動制の導入価格を決定するための行動であったかのように主張するが,そもそも,単に鋼材価格連動制を導入するだけであれば,導入時の価格を合意すれば足りるのであり,値上げを申し入れなければ導入時の価格が設定できないわけではない。さらに,被審人は,上記の値上げ申入れについて,値上げの適用時期が平成22年10月1日納入分からとされていたのは,《事業者B1調達部門2》における妥結内容をそのまま記載したにすぎず,鋼材価格連動制の早期開始を促す目的と何ら矛盾するものではないと主張するが,この被審人の主張を前提としても,平成23年4月より前において鋼材価格連動制により販売価格が決められていたわけではない。
これらの事実によれば,《事業者B1調達部門1》調達の軸受について,鋼材価格連動制の導入が合意された同年3月よりも前の時点において,鋼材価格連動制によらずに単価を改定することが予定されていなかったとも認められない。
以上によれば,《事業者B1調達部門1》調達の軸受について,4社が明示的又は黙示的に自動車用軸受に係る本件違反行為の対象から除外したなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めることはできず,この軸受が当該商品に該当しないという被審人の主張を採用することはできない。
(ウ) その他,《事業者B1調達部門1》調達の軸受について,前記のような特段の事情を認めるべき証拠はなく,この軸受も,当該商品に含まれるものと認められる。
よって,被審人が自動車用軸受に係る本件違反行為の実行期間中に《事業者B1調達部門1》調達の軸受を引き渡して得た対価の額も自動車用軸受に係る本件違反行為の当該商品の売上額に含まれる。
カ 産業機械用軸受のうち,被審人が「宇宙ロケット用軸受」と呼称する軸受に係る対価の額について
(ア) 宇宙ロケット用軸受についても,被審人自身が,《事業者F》及び《事業者G》に対する産業機械用軸受の売上額に含めて報告(査570)していることから,産業機械用軸受であり,産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品に該当するものと認められる。
(イ) この点,被審人は,産業機械用軸受に係る本件違反行為の実行期間において,被審人が宇宙ロケット用軸受を製造販売する唯一の事業者であり,他の軸受製造販売業者はこれらの宇宙ロケット用軸受を製造販売しておらず,また,需要者が宇宙ロケット用軸受の調達先を他の軸受製造販売業者に変更することを具体的には期待し得なかったため,被審人と他の軸受製造販売業者との間で競争関係は存在しなかったとして,あえて明示的に宇宙ロケット用軸受を話合いの対象から除外する旨を確認し合っていないとしても,黙示的には相互拘束の対象から除外していたと解するのが相当であると主張する。
そして,証拠(査599ないし査601,査604,査605)によれば,産業機械用軸受に係る本件違反行為の実行期間当時,被審人は,《事業者F》に対しては,《宇宙ロケット名略》及び《宇宙ロケット名略》のエンジンのターボポンプ用の軸受を,《事業者G》に対しては,《宇宙ロケット名略》の《エンジン名略》のメインバルブ用軸受,《宇宙ロケット名略》の《エンジン名略》のメインバルブ用軸受,注排液バルブ用軸受及びプリバルブ用軸受並びに《エンジン名略》のメインバルブ用軸受をそれぞれ販売していたが,当時,被審人のみが上記の宇宙ロケット用軸受を製造販売していたこと,上記実行期間に,《事業者F》や《事業者G》の技術部門において,被審人の販売する宇宙ロケット用軸受の調達先として被審人以外の軸受製造販売業者が選定されたことはないし,同調達部門において複数の軸受製造販売業者を対象として,現に見積り合わせが行われたわけではなかったことが認められることは確かである。
しかし,前記(ア)のとおり,上記軸受についても,産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象商品の範ちゅうに含まれることから,4社が明示的又は黙示的に産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象から除外するなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り,当該商品に含まれるところ,前記ア(イ)のとおり,本件各違反行為に関与した4社の担当者が,本件各違反行為の対象は産業機械用軸受及び自動車用軸受全てであると供述している。
これに加え,4社の営業担当者は,宇宙ロケット用軸受についても,特に除外することなく,4社で協調して値上げ活動を行うことを確認し合ったり,値上げの進捗状況を話し合ったりしていたと供述している(査174,査218,査296,査300,査592ないし査596)。
また,宇宙ロケットのエンジン機器等に使用する軸受は,被審人が現に納入していた「宇宙ロケット用軸受」に限られるものではなく,証拠(査598ないし査605)によれば,日本精工は,第5次値上げが行われた平成22年頃までに,《宇宙ロケット名略》の注排液バルブ用軸受等を《事業者G》に販売した実績並びに宇宙ロケットのエンジン機器等に使用する軸受について《事業者F》及び《事業者G》からの引き合いに応じて試作品を納入した実績等を有していたほか,自社の「航空宇宙用製品」と題するカタログに「ロケットエンジン用」,「液体燃料用バルブ軸受」等と記載し宇宙ロケットのエンジン機器等に使用する軸受を製造販売していることを紹介していたこと,不二越も,第5次値上げが行われた平成22年頃までに,宇宙ロケットのエンジン機器等に使用する軸受について,《事業者G》からの引き合いに応じて見積りを提出したことがあったことが認められること,《事業者G》は,平成16年頃,それまでは日本精工から調達していた注排液バルブ用軸受及びプリバルブ用軸受について日本精工及び被審人に引き合いを出した上で,調達先を被審人に変更したことがあったなど,現に競争的な調達が行われていたものと認められることに加え,需要者側である《事業者F》及び《事業者G》の各調達担当者が,今後,被審人以外の軸受メーカーからの宇宙ロケット用軸受の調達があり得る旨供述している。被審人は,《事業者F》及び《事業者G》の各調達担当者の上記供述について,飽くまで将来的な願望を述べたものにすぎず,産業機械用軸受に係る本件違反行為があったとされる時期において,現に競争的な調達が行われていた事実は存在せず,また,数年以内に競争的な調達に移行するという現実的見通しすら認められるものではないと主張するが,上記認定の各事実や供述に照らして,宇宙ロケット用軸受について,競争関係がなかったという被審人の主張を認めることはできない。
以上によれば,宇宙ロケット用軸受について,4社が明示的又は黙示的に産業機械用軸受に係る本件違反行為の対象から除外したなど,違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を認めることはできず,この軸受が当該商品に該当しないという被審人の主張を採用することはできない。
(ウ) その他,宇宙ロケット用軸受について,前記のような特段の事情を認めるべき証拠はなく,この軸受も,当該商品に含まれるものと認められる。
よって,被審人が産業機械用軸受に係る本件違反行為の実行期間中に宇宙ロケット用軸受を引き渡して得た対価の額も産業機械用軸受に係る本件違反行為の当該商品の売上額に含まれる。
(4) 自動車用軸受に関し,被審人が《事業者C》との間で平成23年3月30日に合意した一時金は,独占禁止法施行令第5条第1項第1号の場合に該当するかについて
ア 独占禁止法施行令第5条第1項第1号の規定について
独占禁止法第7条の2第1項に規定する当該商品の売上額について,独占禁止法施行令第5条に規定するいわゆる引渡基準による売上額の算定方法は,基本的には一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠したものであると解されるところ(公正取引委員会平成8年8月6日審決・公正取引委員会審決集43巻110頁〔トッパン・ムーア株式会社,大日本印刷株式会社及び小林記録紙株式会社に対する件〕,東京高等裁判所平成9年6月6日判決・公正取引委員会審決集44巻521頁〔大日本印刷株式会社ほか2名による審決取消請求事件〕参照),独占禁止法施行令第5条第1項第1号の規定の文言は,一般に公正妥当と認められる企業会計の基準における売上値引の定義とほぼ同一であることからすれば,同規定は,一般に公正妥当と認められる企業会計の基準における売上値引に準じて解すべきである。
したがって,ある支払等が独占禁止法施行令第5条第1項第1号に規定する控除に該当するには,ある支払等が商品の量目不足,品質不良又は破損,役務の不足又は不良その他の事由によるものであること及び実行期間における対価の額の全部又は一部の控除であって,当該控除が当該商品又は役務の対価の額と直接の関連性を有する事由によるものであることを要するというべきである(公正取引委員会平成14年7月25日審決・公正取引委員会審決集49巻51頁〔有限会社松尾孵卵場に対する件〕)。
イ 認定事実
証拠(審47,審48,審99)によれば,次の各事実を認めることができる。
(ア) 被審人は,平成22年5月,《事業者C》から,同年4月から同年9月納入分までの期間を対象に全商種,全品番につき3パーセントの価格改定(値引き)要請を受け,交渉の結果,同年9月7日,《事業者C》との間で,0.69パーセント相当の3910万円の「単価反映」値引きと,0.66パーセント相当の3710万円の「一時金」(以下「平成22年上期の一時金」という。)の支払を合意した。
(イ) 被審人は,平成22年10月,《事業者C》から,急速な円高が,本年度の《事業者C》の業績について大幅な営業減益要因となり,3期連続の赤字となってしまう状況下にあることを理由に,同月から平成23年3月納入分までの期間を対象に全商種,全品番につき3パーセントの値引きに加え,特別協力一時金として3パーセントの支払の要請を受け,交渉の結果,平成23年3月30日,《事業者C》との間で,1.0パーセント相当の5580万円の「単価反映」値引きと1.69パーセント相当の9430万円の「一時金」の支払を合意した。
なお,上記の「単価反映」5580万円及び「一時金」9430万円は,それぞれ,被審人が《事業者C》に対して平成22年下期に納入した自動車用軸受以外の商品も含む全商品についての売上額の1.0パーセント及び1.69パーセントに相当する金額である。このうち,「単価反映」に当たるものについては,本件課徴金納付命令における課徴金算定の基礎となる売上額に含まれていない。被審人が課徴金算定の基礎となる売上高から控除するべきと主張する本件一時金は,上記の全商品の売上額に対する「一時金」のうち,被審人が自動車用軸受に係るものとする3882万4343円である。
ウ 本件一時金の独占禁止法施行令第5条第1項第1号該当性について
被審人は,被審人が《事業者C》との間で平成23年3月30日に支払を合意した本件一時金は,審査官が主張するような《事業者C》の業績悪化に対する緊急の対策のために支払ったものではなく,平成22年上期の一時金と同様に単価改定と同じ値引きとしての一時金であるから,独占禁止法施行令第5条第1項第1号の場合に当たる旨主張し,被審人において《事業者C》との値引き交渉に関与した《J2》の陳述書(審99)中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,前記イの認定事実及び被審人が,「112下期 値引交渉結果報告書」(審48〔1枚目〕)において,平成22年上期に係る「112上期 値引交渉結果報告書」(審47〔1枚目〕)とは異なり,単価の修正の要求を意味する通常「値引」とは区別して特別協力「一時金」と記載していることからすれば,平成22年下期には,平成22年上期と異なり,《事業者C》から,通常の値引きとは別に,《事業者C》の平成22年度の赤字回避を理由として,「特別協力一時金」と称する一定額の金員を支払うよう要請を受けたものであると認められ,本件一時金は,《事業者C》の平成22年度の赤字回避という契約外の一時的な理由に基づき,通常の値引きとは異なる一定額の金員の支払をしたものというべきであり,売買契約の対価の額を修正する趣旨であるとは認められない。
そうすると,被審人が《事業者C》に対して支払った本件一時金は,被審人が《事業者C》に販売した自動車用軸受の対価の額と直接の関連性を有する事由によるものではないから,独占禁止法施行令第5条第1項第1号に該当するとは認められない。
したがって,被審人の主張には理由がない。
(5) 本件各違反行為に係る当該商品の売上額
本件課徴金納付命令では,産業機械用軸受に係る本件違反行為の当該商品の売上額は387億498万1358円と,自動車用軸受に係る本件違反行為の当該商品の売上額は336億576万1351円と,それぞれ認定されている。
これに対し,被審人は,本件課徴金納付命令で認定された上記の自動車用軸受に係る本件違反行為の当該商品の売上額には,《事業者H》に納入した軸受の売上げ(945万7924円)が含まれているところ,被審人が《事業者H》に納入したのは,自動車用軸受ではなく,産業機械用軸受であるから,上記の自動車用軸受の売上額から上記の《事業者H》に納入した軸受に係る対価の額が減額されるべきであると主張する(平成30年3月20日付けの被審人第10準備書面)。
この点,本件報告書によれば,本件課徴金納付命令で認定された自動車用軸受に係る本件違反行為の当該商品の売上額336億576万1351円には,《事業者H》に納入した軸受に係る対価の額が含まれているものと認められるところ,《J3》作成の陳述書(審95)によれば,《事業者H》に納入した軸受は,産業機械用軸受であると認められる。
なお,被審人は,上記第10準備書面を提出した平成30年3月20日以前は,平成24年12月25日に作成された本件報告書において,《事業者H》に納入した軸受に係る対価の額を自動車用軸受の売上額であると報告し,本件審判手続においても,《事業者H》に納入した軸受の売上額を含む上記金額を自動車用軸受に係る本件違反行為の実行期間内の売上額であると認めていた(平成27年7月31日付けの被審人第4準備書面56頁参照)。しかし,《事業者H》に納入したのが産業機械用軸受であるか否かは調査により容易に判明する客観的事実であり,殊更虚偽の事実を述べる理由もないと考えられ,本件報告書を除いてその信用性を否定する証拠はなく,本件報告書については,被審人では,自動車用軸受を扱う大阪自動車支店が《事業者H》を担当していたことにより,誤って自動車用軸受であるとして作成した可能性が考えられることに照らせば,上記報告書や本件審判手続における自認も上記認定の妨げにならない。
したがって,《事業者H》に納入した軸受に係る対価の額である945万7924円(査570,審49の2〔220/484〕)は,自動車用軸受の当該商品の売上額から控除するべきである。
そうすると,独占禁止法施行令第5条第1項の規定に基づき算定した被審人の産業機械用軸受に係る本件違反行為についての当該商品の売上額は387億498万1358円,自動車用軸受に係る本件違反行為についての当該商品の売上額は335億9630万3427円と認めるのが相当である。
2 争点2(本件課徴金納付命令における課徴金の端数処理の適否)について
前記第2の2のとおり,本件課徴金納付命令では,被審人が国庫に納付すべき課徴金の額は,独占禁止法施行令第5条第1項の規定に基づいて算定した本件各違反行為の実行期間における被審人の産業機械用軸受の売上額に独占禁止法第7条の2第1項所定の率を乗じて得た額と,同じく自動車用軸受の売上額に同項所定の率を乗じて得た額を合算した後に,同条第23項の規定により,1万円未満の端数を切り捨てて算出されている。
しかし,同条による課徴金の計算は,事業者に対し,課徴金納付命令を発令する時点において,複数の「一定の取引分野」に係る同一事件を併合罪として罰金刑に処する旨の裁判が確定しているなどの特段の事情がない限り,同項の端数処理を含めて,違反行為ごと又は「一定の取引分野」ごとに行うのが相当である。
この点,審査官は,同項において,課徴金の端数処理が違反行為ごと又は「一定の取引分野」ごとに行わなければならないとはされていないと主張するが,違反行為ごとに課徴金の端数処理が行われないことによって事業者に一定の不利益を被らせる可能性があることに鑑みても,審査官の主張を採用することはできない。
そうすると,本件課徴金納付命令の発令段階において,被審人に対し,複数の「一定の取引分野」に係る同一事件を併合罪として罰金刑に処する旨の裁判が確定していたわけではない以上,少なくとも,本件課徴金納付命令では,被審人が国庫に納付すべき課徴金の額は,独占禁止法施行令第5条第1項の規定に基づいて算定した本件各違反行為の実行期間における被審人の産業機械用軸受の売上額に独占禁止法7条の2第1項所定の率を乗じて得た額と,同じく自動車用軸受の売上額に同項所定の率を乗じて得た額について,それぞれ格別に,同条第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後に,これらを合算するのが相当である。
3 結論
前記1及び2によれば,被審人が本件課徴金納付命令において国庫への納付を命じられるべき課徴金の額は,独占禁止法第7条の2第1項により,産業機械用軸受の売上額である387億498万1358円に100分の10を乗じて得た38億7049万8135円について1万円未満の端数を切り捨てた38億7049万円と,自動車用軸受の売上額である335億9630万3427円に100分の10を乗じて得た33億5963万342円について1万円未満の端数を切り捨てた33億5963万円を合計した72億3012万円となる。
なお,前記第3の3のとおり,公正取引委員会が被審人に対する本件課徴金納付命令を行った後,本件課徴金納付命令に係る審判手続の終了前に,本件各違反行為に係る事件と同一事件について,被審人に対し,罰金4億円に処する旨の裁判が確定しているから,公正取引委員会は,独占禁止法第51条第3項の規定により,本件課徴金納付命令の審判請求に対する審決において,本件課徴金納付命令に係る課徴金の額を,本審判手続を経て決定されるべき前記の課徴金72億3012万円から上記の罰金額の2分の1に相当する2億円を控除した70億3012万円に変更すべきことになる。
第7 法令の適用
以上によれば,被審人の本件審判請求は,本件課徴金納付命令のうち72億3012万円を超える部分の取消しを求める限度で理由があり,その余は理由がないから,独占禁止法第66条第3項の規定により,主文第1項のとおり本件課徴金納付命令の一部を取り消すとともに,同第2項の規定により,主文第2項のとおりその余の審判請求を棄却し,また,同法第51条第3項の規定により,主文第3項のとおり本件課徴金納付命令に係る課徴金の額を変更する旨の審決をするのが相当である。

令和元年7月30日

公正取引委員会事務総局

審判官  前 田 早紀子

審判長審判官齊藤充洋は転任のため署名押印できない。

審判官  前 田 早紀子

注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。また,別紙2-1ないし別紙11については,添付を省略する。





ページトップへ

ページトップへ