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高知県農業協同組合による排除措置命令取消請求控訴事件

独禁法19条
東京高等裁判所第3特別部

令和元年(行コ)第131号

判決

令和元年11月27日

高知市北御座2番27号
控訴人 土佐あき農業協同組合訴訟承継人
      高知県農業協同組合
同代表者代表理事  ≪ 氏名 ≫
同訴訟代理人弁護士 高橋 善樹

東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被控訴人 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本 和行
同指定代理人 南 雅晴
同 三好 一生
同 多田 修
同 吉兼 彰彦
同 永井 誠
同 松田 世理奈
同 藤田 千陽
同 石川 雅弘
同 牧内 佑樹

主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が土佐あき農業協同組合に対し平成29年3月29日付けでした排除措置命令(公正取引委員会平成29年(措)第7号)を取り消す。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要等(以下,理由説示部分を含め,原則として,原判決の略称をそのまま用いる。)
1 本件は,被控訴人が,土佐あき農業協同組合が,自ら以外の者になすを出荷することを制限する条件を付けて,その組合員からなすの販売を受託していることが,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号,第12項)に該当し,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独禁法)19条に違反するとして,平成29年3月29日付けで,同組合に対してした排除措置命令について,同組合を吸収合併した控訴人が,当該命令は違法であると主張してその取消しを求める事案である。
原判決は,控訴人の請求を棄却したところ,控訴人はこれを不服として本件控訴をした。
2 前提事実(関連法令等の定めを含む。),争点及びこれに関する当事者の主張は,後記3のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。
3 当審における当事者の主張
(1) 控訴人の主張
ア 独禁法22条ただし書の法令解釈及び適用の誤りについて
(ア)独禁法22条は,協同組合に関する独禁法の適用除外規定である。その趣旨は,相互扶助を目的とする小規模事業者による業務提携については,一律に独禁法の適用を除外することにより,独禁法違反とされるリスクをなくし,小規模事業者が安心して協同組合に参加し,業務の効率化に取り組めるようにすることにある。同趣旨については,「農業協同組合の活動に関する独占禁止法の指針」(以下「農協ガイドライン」という。乙117)第2部第1の3の(注1)においても説明されている。そして,農協に対する不公正な取引方法が問題となる場合,独禁法22条ただし書により規制される場合と同法19条をストレートに適用する場合があり,後者の場合は,協同組合が事業者として,他の事業者に不公正な取引方法に該当する行為を行うときであり,前者の場合は,協同組合が共同事業を行うに当たって,組合員に対して利用強制を行うときである。そして,本件は,組合ないし支部園芸部と組合員とのなすの販売受託取引について課された拘束条件付取引事件であるから,組合ないし支部園芸部の共同事業そのものであり,同法22条が典型的に想定している事案であるから,本件では同法22条ただし書の解釈適用を抜きにして判断することはできない(甲105)。
(イ)独禁法22条ただし書を適用して,協同組合の利用強制行為について,不公正な取引方法として規制する場合には,協同組合が行う共同経済事業が関連市場で有力な地位にあることが必要である。これは,「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(以下「事業者団体ガイドライン」という。甲106,乙136)の11-1及び11-3からも,共同事業が占める市場における地位が有力といえなければ,共同事業は違法とされるものではなく,また,共同事業に関して利用強制を行う場合も,市場における地位が有力でなければ,独禁法上問題となる可能性は低いとする考え方を読み取ることができるのであって,この考え方は,事業者団体のみに適用される考え方ではなく,事業者間の共同事業(業務提携)に関しても同じ考え方が適用されるのである。
(ウ)農業法10条の2は,加入・脱退が自由とされる協同組合においては,組合員に対して共同経済事業の利用強制を禁止する必要性が認められることから,組合員に対してその利用を強制してはならない旨規定している。同規定は,一見すると,利用強制一般を禁止するかにみえるが,共同事業は事業者が共同して取り組む事業であるから,共同事業に参加しておきながら利用するか否かは完全に自由というわけにはいかないのであって,共同事業を遂行する上で必要な制限であれば競争制限にはならず,独禁法上問題とならないというべきである。したがって,同条にいう「利用強制」には共同経済事業を効率的に運営するための制限は含まれないと解釈すべきである。
イ 独禁法22条ただし書経由の同法19条の関連市場の画定の誤りについて
(ア)市場の画定に関して今日先進国で広く利用されている方法論である「独占者仮説」によれば,ある市場が正しく画定されているか否かは,その市場を独占する事業者を想定し,その事業者が当該市場の独占者として価格その他の条件を任意に決定できるか否かをみるというものである。
(イ)原判決は,なすの販売受託取引を関連市場とみて,この市場につき公正競争阻害性(市場閉鎖効果)を検討しているが,販売受託取引は,共同販売事業の入り口として行われる取引であり,それ自体で完結する取引ではない。販売受託取引を独占する農協がなすの販売価格を自由に決められるわけではなく,これをある程度自由に左右することができるためには,農協が消費地の卸売市場で有力な地位にある必要があり,販売受託取引を独占できるだけでは何の支配力も行使できないのであって,この市場の画定は,理論的にも経済実態的にも誤りである。
(ウ)高知県産のなすの出荷量の全国における市場シェアは,平成24年産は12.4%,平成25年産は14.4%,平成26年産は15.5%,平成27年産は15.4%である(甲48,107)。高知県のなすの出荷量は,園芸連経由と商系業者経由に大別され,高知県全体の約9割が土佐あき農協管内の出荷量である。また,野菜生産出荷安定法上の系統出荷率には,共同出荷場に出荷された商系業者の置き場への出荷量も含まれることから,3支部園芸部(芸東・中芸・唐浜)の商系業者への出荷量も含む土佐あき農協管内の系統出荷率は,平成24年度は69.4%,平成25年度は63.7%,平成26年度は59.5%,平成27年度は56.0%である(甲40)。そうすると,平成24年産から平成27年産の全国に占める土佐あき農協管内の出荷シェアは9.7%以下であるといえる。
被控訴人の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「流通・取引慣行ガイドライン」という。甲79,甲111)によれば,市場シェア20%がセーフハーバーとされていることからすれば,土佐あき農協の消費地における市場シェアは,全国の出荷量でみても,各卸売市場でみても,この20%に満たないことは明らかである。
以上によれば,土佐あき農協は,なすの消費地の卸売市場(関連市場)において有力な事業者とはいえないのであって,本件において,土佐あき農協は,独禁法22条ただし書の要件を欠く。
ウ 独禁法22条ただし書経由の同法19条の公正競争阻害性の解釈及び判断の誤りについて
(ア)独禁法22条ただし書を適用するとしても,以下のとおり,不公正な取引方法(拘束条件付取引)の要件である「公正競争阻害性」を満たさないことが明らかである。
本件の公正競争阻害性をみるためには,農協が集荷するなすの消費地における卸売市場におけるシェアで示される共同経済事業をめぐるブランド間競争の状況を中心とし,商系業者が管内の農家が生産するなすを集荷し,卸売市場に出荷している量や金額をブランド内競争の状況として考慮するという方法によるべきである。
(イ)そして,本件の公正競争阻害性の有無について,被控訴人が主張する系統外出荷制限行為を各支部園芸部が廃止した以後,商系業者の集荷の状況がどのように変化したかをみるに,系統外出荷制限行為を行っていた安芸・穴内・赤野・芸西の4支部園芸部は,平成27年度中または平成28年度中に系統外出荷手数料の徴収制度,反当徴収金(罰金)徴収制度をいずれも廃止したが,これらの制度が廃止されたのにもかかわらず,4支部園芸部の平成29年産の園芸連向け出荷量は平成28年産のそれに比して増加しているし,支部園芸部全体の園芸連出荷量及び系統出荷率も平成28年から平成29年にかけていずれも増加している(甲110)。かかる事実は,農家である組合員が,野菜生産出荷安定法上の指定産地の要件である計画出荷及び系統出荷率50%を欠くことにより,価格差補給金がもらえなくなることを考慮して,自ら団体出荷率50%を切らない選択をしていることの証左であり,公正競争阻害性を否定する有力な事実とみるべきである。
(ウ)市場画定及び市場閉鎖効果のおそれの認定の誤り
原判決は,市場を高知県内の農家からのなすの販売受託取引とみたため,消費地の卸売市場における高知県産のなすと他県産のなすとのブランド間競争の状況は一切考慮されておらず,高知県内で生産されるなすの販売受託取引という,いわば共同販売事業の一部しかみていない。高知県で集荷されるなすの販売受託取引でみる限り,農協による系統外出荷の制限があれば,これまで取引してきた商系業者の取引機会が減少するのは当然であり,これでは公正競争阻害性を見たことにはならない。その理由は,市場閉鎖効果は,制限を受ける事業者が他の代替的な取引先を容易に確保できるか否かを検討しなければ判断できないからである。
商系業者の他の代替的な取引先とは,消費地で競争して販売されている各地のなすの生産農家というべきであり,たまたま本件では,商系三者が他の農協管内の農家と取引を開始する用意ができていないとしても,だからといって,他の代替的な取引先を容易に確保できないと即断してはならない。市場閉鎖効果が生まれるか否かは,消費地の卸売市場に供給される範囲のなすの生産者の状況を見て判断される必要があるのであって,これまでの取引先との取引から排除されるだけでは市場を閉鎖することにはならないのである。
(エ)公正競争阻害性を商系業者の集荷依存や取引機会の減少という観点から見ることの誤り
原判決は,系統外出荷の制限イコール禁止される利用強制とみているが,農協が系統外出荷を制限すれば,その分農家は共同経済事業を利用せざるを得なくなるから,これでは利用強制行為を無条件・一律に禁止することになり,過剰規制となってしまうから誤りである。また,商系業者は,特定の農協管内の農家に依存するか,広範囲の農協管内の農家に集荷を依存するしかないが,他の農協管内から集荷していない商系業者にとっては,農協が集荷を増やせば,商系業者は必然的に集荷を減らすことになり,農協が共同経済事業の利用を高めようとすれば,商系業者の取引機会は減少することになる。このため,原判決のように集荷依存や取引機会という観点から公正競争阻害性を捉えると,農協が集荷を増大させようとすれば,必然的に商系業者の取引機会は制約されることになり,これでは,農協が正当な目的・理由により系統出荷を強化する行為を含めて違法な利用強制とみて禁止する結果となり,競争者を保護する形で独禁法を運用することになる。
(オ)市場閉鎖効果は,市場における競争機能が阻害されることを問題とするもので,「代替的取引先を容易に確保することができなくなる」か否かで判断されるべきであり,原判決は,市場閉鎖効果をみると言いながら商系業者の農協管内で生産されるなすへの取引依存度を問題としており,農協による組合員に対する優越的地位の濫用を問題としているに等しい。
エ 独禁法22条ただし書の正当事由の判断について
(ア)独禁法19条の解釈における正当事由とは別に,同法22条ただし書の解釈に当たっては,効率性の向上と固定的費用の分担という2つの正当事由の判断が不可欠である。
(イ)共同事業の参加者が自由に独自の販売行動をとれるということでは,効率性の追求という共同事業本来の目的が達成されなくなるため,共同経済事業における利用強制を検討する際には,その効率性を追及するために必要とされる制限か否かを,正当化事由として十分検討する必要性がある。市場における地位が有力とはいえないとすると,共同経済事業には競争力が欠けることを意味するから,一層の共同経済事業の効率的運営(生産性の向上)が求められて当然である。
(ウ)また,共同事業の遂行上,固定費と変動費に費用を分け,固定費についてはすべての参加者が分担する仕組みは極めて合理的であり,これを正当化事由として考慮することは重要である。
集出荷場は,支部園芸部の独立採算制によって維持されていることから,出荷量に関わらず,集出荷施設の建物の償却費,人件費等の土佐あき農協と支部園芸部との契約に基づく事務委託経費(固定費)を賄う必要がある。そして,近年,系統出荷量が減少し,集出荷場の運営費の赤字が続いたことから,これらの費用を捻出するために支部園芸部が支部員に対する負担増を求めることになり,安芸・穴内・赤野・芸西の各支部園芸部において,それぞれの支部総会で,系統外出荷を自主申告としたうえで系統外出荷手数料を支部園芸部の運営経費を賄うための費用に充てることが決定されたのである。したがって,系統外出荷手数料は,集出荷場の固定経費を賄うための制度であるから,固定的費用の分担という観点から正当事由が認められる。
また,穴内・赤野の各支部園芸部が実施した反当徴収金(罰金)は,国の「強い農業づくり交付金」制度の下,なす自動選果機導入にあたって,高度化整備した同機械の利用料を公平に負担するための制度であることから,なすに対する顧客の信頼(ブランドイメージ)を保護し,産地間競争を促進することに資するものであるとともに,補助金のフリーライドを防止するための制度であるともいえる。そして,同自動選果機の償却期間経過後であっても,償却期間内と同様に諸掛金によって賄うべき固定経費を負担することについて正当化事由が認められてしかるべきである。
(2) 被控訴人の主張
ア 独禁法22条ただし書の解釈に関する控訴人の主張について
(ア)控訴人は,独禁法22条ただし書の存在から,「農協の共同経済事業に関して行われた利用強制」について,不公正な取引方法で規制する場合には,通常の同法19条の不公正な取引方法の規定の適用と異なる解釈をすべきであり,当該共同経済事業が消費地の卸売市場で有力な地位にあることが必要であると主張するが,かかる主張は,以下のとおり,誤った独自の見解であり,採用されるべきではない。農協が組合員のために行う農協法第10条所定の共同販売事業等の農業協同組合の行為であっても,独禁法22条ただし書が規定するとおり,当該行為が拘束条件付取引等の同法19条所定の不公正な取引方法に該当すれば,そのまま同条が適用されるのであり,それと異なる控訴人の主張は根拠のない独自の解釈というほかない。
(イ)まず,農業協同組合等の事業者団体が事業者として不公正な取引方法を用いる場合には,同法19条の不公正な取引方法の規定がそのまま適用されるというのが一般的な解釈である。
本件行為は,控訴人の事業者としての行為が独禁法19条に違反するものであるところ,事業者団体ガイドラインは,事業者団体のどのような活動が独禁法上問題になるかについて明らかにするものであり,これを根拠に前記のような主張をすること自体失当である。
イ 独禁法22条ただし書の法令解釈及び適用の誤りについて
控訴人は,前記のとおり,独禁法22条ただし書に該当する場合には,違反行為に関する共同経済事業が関連市場において有力な地位にない限り,不公正な取引方法(独禁法19条)の該当性は否定される旨を主張する。
しかし,本件において,土佐あき農協は,その管内及びその周辺地域におけるなすの販売受託の取引市場において特に有力な事業者であるのであって,仮に控訴人の主張によっても,何ら原判決に法令の解釈及び適用の誤りはなく,独禁法の法解釈に関する控訴人の前記主張はそもそも主張自体失当である。
ウ 市場画定の誤りについて
控訴人は,原判決の市場画定が誤っているとし,本件行為の公正競争阻害性の有無の判断において,「市場閉鎖効果が生まれるか否かは,消費地の卸売市場に供給される範囲のなすの生産者の状況を見て判断される必要がある」などと述べて,本件行為である販売受託取引における拘束条件付取引と直接関係がない消費地の卸売市場をも広く検討すべき対象市場に含めるべきとするようである。
しかし,本件行為は,事業者である控訴人が組合員とのなすの販売受託取引において,自ら以外の販売受託業者になすを出荷することを制限する条件を付けて取引をしたものであり,このような行為に公正競争阻害性が認められるか否かは,土佐あき農協管内及びその周辺地域におけるなすの販売受託取引に係る,廉価な販売手数料や良質なサービスを提供して顧客であるなすの生産者を獲得するという公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると認められるか否かを判断する必要があるのであって,本件行為につき,販売受託取引により集荷された高知県産のなすについて,その消費地の卸売市場における公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれの有無を検討しなければならないという控訴人の見解は,検討対象となる市場の理解を誤っており,失当である。
なお,被控訴人の流通・取引慣行ガイドライン(甲79)においては,「垂直的制限行為に公正な競争を阻害するおそれがあるかどうかの判断に当たっては,具体的行為や取引の対象・地城・態様等に応じて,当該行為に係る取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討」するとしており,これを踏まえても,本件行為に公正競争阻害性が認められるか否かについては,土佐あき農協管内及びその周辺地域におけるなすの販売受託取引に係る,廉価な販売手数料や良質なサービスを提供して顧客であるなすの生産者を獲得するという公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあるか否かで判断されることになる(乙135)。
したがって,本件行為における公正競争阻害性の有無の検討対象となる取引市場は,なすの消費地の卸売市場であるという控訴人の主張は失当であり,それを前提として,当該消費地の卸売市場で土佐あき農協が有力な地位にないなどとして,公正競争阻害性を否定する主張もまたその前提を誤っており失当である。
エ 公正競争阻害性に関する控訴人の主張について
控訴人の主張は,要するに,本件行為の公正競争阻害性を肯定するためには,商系三者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じていることについて,具体的に主張立証することが必要であるという原審における主張と実質的に同様の主張を繰り返しているに過ぎない。しかし,公正競争阻害性の有無を判断するに当たり,具体的に競争を阻害する効果が発生していることや,その高度の蓋然性があることを要するものではなく,ある程度において競争を阻害する効果が発生するおそれがあると認められる場合であれば足りるのであり,既存の競争事業者等の事業活動に対する具体的な影響が現実に生じることが必要となるわけではない(乙135)。
また,控訴人が主張するように,仮に支部園芸部が系統外出荷制限を廃止した後,園芸連出荷量及び団体出荷率(系統出荷率)が増加している傾向があるとしても,本件行為が,その行為の性質上,一般的にみて,組合員に対し,系統外出荷を躊躇させ,土佐あき農協管内及びその周辺地域におけるなすの販売受託取引における公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあることを否定するものではない。本件行為には公正競争阻害性が認められるのであるから,控訴人の主張は失当である。
オ 本件で「正当事由」は認められないことについて
控訴人は,「不公正な取引方法一般の正当事由」とは別に「独禁法22条ただし書の正当事由」が必要と主張するが,失当である。
さらに,本件の具体的な事情の下では,控訴人の主張する効率的な運営等により産地間競争を促進するという目的に対し,本件行為がその手段として相当であったとはいえないのであるから,控訴人が主張するような「共同事業の効率性の向上」や「固定的費用の分担」に鑑みても,本件で「正当事由」があったとは認められない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件命令は適法であり,控訴人の本件命令の取消請求には理由がないものと判断する。
その理由は,原判決を次のとおり改め,後記2のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1ないし6に認定,説示するとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決42頁15行目冒頭から同47頁13行目末尾までを以下のとおりに改める。
「(2) 支部園芸部の位置づけ
ア 支部園芸部においては,総会が開催され意思決定がされ,預り金処分案などの承認決議をしていること,意思決定機関として総会のほか,運営委員会が設けられており,運営委員会が集出荷場の運営について決議していることを認めることができる(甲98の1ないし3,99の1,2)ほか,支部園芸部が系統外出荷を理由とする除名や系統外出荷手数料及び罰金を定めている。原判決が「支部園芸部の沿革及び単位農協の統合に関する経緯等」(原判決28頁3行目以降)に認定しているとおり,農業協同組合では,農畜産物の輸入自由化などの情勢の変化に対応すべく,組織と経営基盤の強化のため広域合併が進められ,土佐あき農協管内でも単位農協の合併が検討される中,単位農協と園芸組合との統合の必要性が認識され,単位農協の合併経営計画書において平成10年10月まで又はその後速やかに単位農協と支部園芸部との統合ができるよう取り組むこととされていた。また,安芸市農業協同組合や安田農業協同組合がその管内の園芸組合と統合する際には,園芸組合が所有する集出荷施設や園芸組合の職員を引き継いでおり,なすの販売受託に必要な人的物的資源は農業協同組合が保有するに至った。そのような経緯から,農業協同組合との統合後も園芸組合の組織が支部園芸部として残り,支部園芸部として支部園芸部の運営に一定の関与が残っているといえる。しかしながら,各支部園芸部の総会や運営委員会の事務局には,土佐あき農協が集出荷場に配置した場長その他の職員が担当しており,前記のとおり,集出荷場の土地,建物,選果機等の集出荷のための機械設備等は,土佐あき農協が所有し,集荷場の建物の固定資産税や施設管理費等の支払には,農協手数料が充てられていること,土佐あき農協が,集出荷場ごとに場長,係長等の役職員を雇用して配置しており,集出荷場には各支部園芸部が雇用する従業員はおらず(乙12),会計についても,会計事務については,土佐あき農協の職員が土佐あき農協において一括して管理し,支部員が手数料等を負担して土佐あき農協に販売を委託する仕組みとなっている。加えて,支部園芸部において利益が出た場合にも,支部園芸部において,利益を留保するということは考えられておらず,受託販売に係る農協手数料等が土佐あき農協の財務諸表に計上され,受託販売に係る課税につき土佐あき農協の他の事業と合算して申告されていたものであって,支部園芸部は支部運営手数料分についても税務申告せず,この分は支部員が申告することと整理され(乙46の1の添付「出荷に係る手数料・経費の考え方」),結局,支部園芸部として独自の財産も保有していない。平成22年1月20日開催の土佐あき農協の理事会において,農業者から集出荷場での直売ができるようにしてもらいたい旨の要望があったことに対し,「土佐あき農協等の販売業務規程では,組合員からの集出荷場への出荷物は原則として園芸連を通じての委託販売を行うことになっており,各集出荷場の代表者会「本部園芸運営委員会」でも周知されており,各集出荷場で個々に直売を行なえば,産地内での競合がさらに進み,価格の低落を招く」との回答をしたことが報告されており,農業者が集出荷場を利用して,土佐あき農協に販売委託していることを前提として,農業者が園芸連ではなく直売することを否定する趣旨のもので,集出荷場自体に独自の法的地位を前提とするものとも思われないこと,さらに農業者と支部園芸部,支部園芸部と土佐あき農協との間のなす販売受託に関する何らかの規程や契約も存在していない(弁論の全趣旨)。以上のことを踏まえると,農業者はなすを直接土佐あき農協に販売委託しており,各支部園芸部自体が何らかの活動をすることは予定されておらず,支部員の意思を反映させるための内部的機関というべきものであって,土佐あき農協とは別の独立した組織と認定することはできない。したがって,控訴人の支部園芸部が権利能力なき社団としての実体を有するとの主張は採用できない。
イ これに関して,各支部園芸部において,独自に系統外出荷に対する制裁を定めていることが,上記の支部の位置づけに整合するかについて検討を加える。土佐あき農協は,かねてから,なすの生産地としての地位及び冬春なすに関して,野菜生産出荷安定法(昭和41年法律第103号)に基づく指定野菜価格安定対策事業として,その価格が著しく低落した場合に,生産者,高知県及び国があらかじめ積み立てた資金を財源として,生産者に補給金を交付する事業が行われているところ,高知県においては,園芸連に冬春なすの出荷を委託した場合にのみ,補給金が交付されていたため,この補給金の交付要件を維持するため,野菜指定産地の指定を継続するため及び集出荷場の安定した運営を図るために,事業計画上,系統出荷を増加させること及び系統外出荷を制限する方針を有しており,各支部園芸部の系統外出荷に対する制裁の定めは,土佐あき農協のかかる方針と合致しており,徴収した手数料や罰金は土佐あき農協の口座に入金されていた(甲15,甲45ないし47,乙5,14ないし18,24,72,乙21)のであるから,各支部園芸部において独自に規約等で取り決めていたことをもって,土佐あき農協の内部機関であることの認定を左右するものでもない。また,かかる取決めも土佐あき農協が自ら支部園芸部の定めた内容を取引条件として支部員である組合員と取引をし,許容していたものであって,むしろ土佐あき農協の行為と評価できる。
(3) 本件における土佐あき農協の「相手方」
ア 以上からすれば,支部園芸部が土佐あき農協から独立した権利主体と認めることはできず,土佐あき農協の取引の相手方は,組合員である農業者ということになる。
イ 控訴人は,控訴審において,支部園芸部と土佐あき農協との事務委託の取引慣行があったのであり,土佐あき農協の取引相手を,組合員と認定することは事実誤認であると主張する。確かに,土佐あき農協と各支部園芸部との事務受委託契約書(甲8の1から7)が存在し,土佐あき農協と各集出荷場との間において,集出荷にかかる会計事務について各集出荷場との間で委託の合意をし,その旨の契約書を作成していることを認めることができる(契約当事者としても,多くは各集出荷場となっており,支部園芸部を当事者とされたものはない。)。
しかしながら,事務受委託契約は,土佐あき農協とその一組織である本部園芸運営委員会や赤野集出荷場女性部との間においても,同様の契約書が作成されており(乙49の2,乙35),さらに,土佐あき農協と各集出荷場との間の事務受委託契約書に定める内容は,各集出荷場における会計業務にかかる事務について定めるものであること(甲8の1から7)を踏まえると,内部的な事務内容を明らかにする趣旨であると捉えるべきであり,支部園芸部が権利義務の主体となることを前提としたものと認めることはできない。控訴人が主張する取引慣行の内容が明確でないが,上記の趣旨を超える事務委託にともなう取引慣行の存在を認めるに足る証拠はない。
ウ さらに,控訴人は,土佐あき農協が平成10年10月に12の単位農協を合併する際に,支部園芸部を解散して農協組織として統一することに失敗し,支部園芸部がその後も集出荷場に係る経費を独立採算で運営してきたことから,支部園芸部が土佐あき農協とは異なる独自の出荷団体としての機能を維持し,支部員は支部園芸部へなすを出荷し,支部園芸部が土佐あき農協に販売委託をしてきたもので,土佐あき農協のなすの販売受託取引に農協の販売業務規程(乙6)は適用されず,組合員と農協との取引は実態に基づいて判断すべきであるなどとも主張する。
上記認定のとおり,支部園芸部が土佐あき農協の内部的な機関であることを措くとしても,販売業務規程(乙6)は,その2条で組合の販売方法が「組合員から販売品の販売委託を受けて販売を行い」と規定していることをはじめ,他の条項でも組合が組合員から販売を受託することを前提として規定しているのであって,組合が組合員以外の第三者(支部園芸部)から販売を受託することを前提とした規定は見当たらない。そして,土佐あき農協がなすの販売受託においてしていた販売代金の精算方法や取扱手数料の決定方法は販売業務規程に定められた方法と一致していることのほか,乙67(土佐あき農協の理事会議事録)では,ゆずの傷みなどのクレームに関する議論の中で,なすも受託販売品として同じである旨の発言部分があり,これを否定する議論がないことを認めることができ,土佐あき農協がなすの受託販売を実施していることを認めることができることに照らせば,土佐あき農協においてもなすの販売受託取引には販売業務規程が適用されていたと認めることができるのであって,これを覆すに足りる証拠はない。
(4) 以上のとおり,取引の実態に即してみても,支部員である組合員は支部園芸部へなすを出荷しているのではなく,土佐あき農協に対してなすの販売委託をしているものと認められるのであって,一般指定12項にいう土佐あき農協の取引の「相手方」は,組合員ではなく支部園芸部であるという控訴人の主張は採用できない。
その他,控訴人は原判決の事実認定の誤りについて縷々主張するが,前記認定を左右するものではない。」
(2) 原判決53頁4行目の「個々の」から同9行目末尾までを,「本件行為は,土佐あき農協が支部園芸部と連携しながら,系統外出荷者に対して系統出荷を拒否したり,系統外出荷者に対して手数料や罰金の名目で金銭を徴収するものであり,土佐あき農協が組合員に対する取引拒絶や取引妨害を手段として商系業者との取引を控えさせようとするものであるところ,このような本件行為に関する取り決めは土佐あき農協の方針によるもので,広く組合員全員が適用対象となるものである。そうすると,本件行為の存在は,現在本件行為による拘束を受けていない者も含めて組合員全員に対する系統外出荷に対する圧力となり,商系業者が,本件行為による拘束を受けていないなす農家との取引を容易に確保できるとも言い難く,商系業者の取引機会が減少する状態をもたらすおそれがあるというべきである。」に改める。
2 当審における当事者の主張に対する判断
(1) 独禁法22条ただし書と同法19条との関係等について
ア 控訴人は,本件は,協同組合が共同事業を行うにあたって,組合員に対して利用強制を行う場合が問題となる事案であるから,独禁法19条をストレートに適用する事案ではなく,同法22条ただし書を経由して同法19条を適用する事案であり,かかる場合には,共同経済事業が関連市場において有力な地位を占めることが違法性判断要素とされるべきであり,共同経済事業が関連市場において有力な地位にない限り,利用強制行為の不公正な取引方法該当性は否定されることになると主張し,かかる主張を前提として原判決が関連市場の画定等の判断を誤ったなどと主張する。
イ そこで検討するに,独禁法22条が一定の組合の行為に対する適用除外規定を置いている趣旨は,単独では大企業に対抗できない中小事業者によって設立された相互扶助を目的とする組合の事業活動の独立性をある程度確保したまま,単一事業体として共同経済事業を行うことを許容するところにある。小規模事業者や農業従事者にとっては,集団として,大企業である取引業者に対して取引条件について対当な交渉力を持つことや,大企業である競争者に対等に競争していくことが必要となるからである。この点について,農協ガイドラインにおいて,適用除外制度は,「単独では大企業に伍して競争することが困難な農業者が,相互扶助を目的とした協同組合を組織して,市場において有力な競争単位として競争することは,独禁法が目的とする公正かつ自由な競争秩序の維持促進に積極的な貢献をするものである。したがって,このような組合が行う行為には,形式的外観的には競争を制限するおそれがあるような場合であっても,特に独禁法の目的に反することが少ないと考えられることから,独禁法の適用を除外する。」と記載されているのも(乙117,4頁),かかる趣旨を踏まえたものと解されるのであって,独禁法22条は,農協などの事業者団体が事業者として共同経済事業を行うことを独禁法からの適用除外とすることを規定したものである。
そして,独禁法22条ただし書は,協同組合が「不公正な取引方法を用いる場合又は一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合は,この限りでない。」と規定する。そうすると,独禁法22条ただし書に該当する場合には,同条本文柱書「(独禁法を)適用しない」とする規律が適用されない旨を「この限りでない」として明らかにしたものであり,結局,独禁法の規定がそのまま適用されることを意味する。したがって,本件に即して言えば,不公正な取引方法を用いる場合には適用除外とならず,独禁法19条がそのまま適用されると解さざるを得ない。控訴人の主張は,立法論としては別にして,条文の文理解釈からしても無理がある。また,この趣旨は,農業従事者や小規模事業者は,協同組合形態によって協同組合の活動は一般的には競争促進的であることから,大企業の事業活動に対抗できると定めるとともに,組合が共同販売事業など事業者としての活動を行うに当たっては,不公正な取引方法を用いる場合には通常の事業者と同様に独禁法の適用を受けることを明らかにしたものといえる。
かかる趣旨に鑑みれば,協同組合が,共同販売事業の事業者として独禁法19条に該当する行為を行った場合には,同法22条ただし書により同法の適用除外に当たらないことが明らかであるから,そのまま同法19条が適用されることになるのであって,これとは別に22条ただし書における適用要件の検討が必要となり,その場合には同法19条の不公正な取引方法の要件該当性に差が生じるというものではないと解されるし(乙135),同法22条ただし書を経由する場合と経由しない場合とで,同法19条の要件該当性に差が生じるとすべき特段の根拠も見当たらない。
したがって,独禁法22条ただし書に該当する場合には,同法19条の「不公正な取引方法」の規定の適用とは異なる解釈をすべきであるという控訴人の主張は採用できない。
ウ さらに,控訴人は,本件のように協同組合の利用強制行為について,独禁法22条ただし書経由により不公正な取引方法を規制する場合には,協同組合が行う共同経済事業が関連市場において有力な地位にあることが必要であると主張するのでこの点について検討する。
かかる主張について,控訴人が根拠の1つとする事業者団体ガイドラインの「共同事業」に関する記載部分(第2の11)には,(2)イにおいて「共同事業への参加事業者の市場シェアの合計が高い等参加事業者が全体としてみて市場において有力であれば,独禁法上問題となる可能性は高くなり,逆に,参加事業者の市場シェアの合計が低い等参加事業者が全体としてみて市場において有力でなければ,独禁法上問題となる可能性は低くなる。」との記載及び同(4)の11-4において,「対象となる商品又は役務に係る参加事業者の市場シェアの合計が市場における競争に影響を与えない程度に低い共同事業を行うこと」は原則として違反とならない旨の記載(甲106)を根拠とするもののようであるが,ガイドラインが裁判規範ではないことに加えて,事業者団体ガイドラインは第2の11「共同事業」の部分において,共同事業が独禁法上問題となるかどうかについての考慮要素として,共同事業の内容のほかに,共同事業参加事業者の市場シェアの合計等及び共同事業の態様を挙げており,その上で,独禁法違反となるおそれがある行為として「共同事業に関して,参加若しくは利用を構成事業者に対して強制し,又は参加若しくは利用について事業者間で差別的な取扱いをすること。」を「共同事業への参加の強制等」として挙げているところ(11-3),これには市場シェアについて直接言及していないのであって,同ガイドラインにおいて,共同事業における利用強制について,その市場における地位が有力でなければ独禁法上問題となることはないなどという考え方を読み取ることはできないといわざるを得ない。
以下,独禁法19条の適用を前提として,必要と考えられる範囲で検討を加えることとする。
(2) 関連市場の画定の誤りについて
ア 控訴人は,ある市場が正しく画定されているか否かは,その市場を独占する事業者を想定し,その事業者が当該市場の独占者として価格その他の条件を自由に決定できるといえれば,その仮に画定した市場は正しい市場と証明されたことになるが,その市場を独占しても価格を自由に決められないとすれば,それは市場として不適切であるか,より広い範囲に市場を画定すべきことが証明されることになるとして,農協が販売受託取引を独占できるだけでは何の支配力も行使できないから,なすの販売受託取引ではなく,なすの消費地の卸売市場をも関連市場とすべきであると主張し,そのうえで,土佐あき農協は,なすの消費地の卸売市場において市場シェアが20パーセントにも満たないから有力な事業者であるとはいえないと主張する。
イ ところで,市場については,本件行為によって,どのような影響が生じるのか,競争の行われる場である市場を画定し,公正競争阻害性の成否を判断すれば足りる。
本件行為は,土佐あき農協が,なすの販売を委託しようとする組合員(農業者)に対して,組合員が土佐あき農協以外の者になすを出荷することを制限する条件を付してなすの販売を受託した行為である。これを踏まえると,本件行為については,土佐あき農協及びその周辺地域におけるなすの販売受託取引に係る,廉価な販売手数料や良質なサービスを提供して顧客であるなすの生産者を獲得するという公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあるか否かで判断されることになり(乙135),そうすると,本件行為に公正競争阻害性が認められるか否かは,土佐あき農協管内及びその周辺地域におけるなすの販売受託取引にかかる公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると認められるか否かを判断する必要があるのであって,本件での市場は,土佐あき農協管内及びその周辺地域におけるなすの販売受託取引市場というべきである。公正競争阻害性の有無の判断について,消費地の卸売市場に出荷された高知県産のなすの産地間競争の状況を検討する必要があるとしても,土佐あき農協が組合員に対してなすの販売受託取引について拘束条件を課すことで,商系三者が土佐あき農協管内及びその周辺でなすを集荷することが困難になるということであれば,集荷から先の取引段階に進むことは困難になることは明らかであるから,本件行為においては,なすの販売受託取引を市場として公正な競争秩序に悪影響を及ぼすかどうかを検討することが必要となるのである。
したがって,本件行為と直接関係のないなすの消費地における卸売市場についての公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれの有無をも検討すべきという控訴人の主張は,検討対象とすべき市場の画定を誤っているといわざるを得ず,これを前提として,なすの消費地の卸売市場において,土佐あき農協が有力な地位にないとして公正競争阻害性を否定する控訴人の主張もまた採用できない。
(3) 公正競争阻害性の解釈及び判断について
ア 控訴人は,支部園芸部が系統外出荷制限を廃止した後,園芸連出荷量及び団体出荷量(系統出荷率)が増加している事実は,公正競争阻害性を否定する有力な事実とみるべきであり,「控訴人の行為がなければ,商系業者へのなすの出荷量はさらに増加していたかもしれず,」という原判決の認定は誤りであるなどと主張するが,これは,本件行為の公正競争阻害性について肯定するためには,新規参入者や商系三者が排除される又はこれらの取引機会が減少するというような状態をもたらすおそれが生じていることの双方について,これを基礎づける事実を具体的に主張立証することが必要であると主張するものと解される。
イ ところで,独禁法19条は,「事業者は,不公正な取引方法を用いてはならない。」と定めているところ,同法2条9項6号は,不公正な取引方法に当たる行為であって,公正な競争を阻害するおそれのあるもののうち,公正取引委員会が指定するものを掲げ,同号ニを受けて,一般指定12項により,「相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて,当該相手方と取引すること。」(拘束条件付取引)を指定している。かかる拘束条件付取引が規制されるのは,相手方の事業活動を拘束すること,とりわけ,事業者が,自己の取引とは直接関係のない相手方と第三者との取引について,競争に直接影響を及ぼすような拘束を加えることは,相手方が良質廉価な商品・役務を提供するという形で行われるべき競争を人為的に妨げる側面を有しているからである(最高裁平成6年(オ)第2415号同10年12月18日第三小法廷判決・民集52巻9号1866頁参照)。
そして,一般指定12項の「不当に」とは公正競争阻害性を表現するものであり,独禁法は,競争の実質的制限を生じさせる可能性が高い行為や,公正な競争秩序確保の観点から見て不適当な行為は,競争阻害の程度がさほど高くない段階であってもこれを禁止することにしているのであって,独禁法2条9項6号も公正な競争を阻害する「おそれがある」ものと規定しているように,不公正な取引方法の規制をするための要件としては,具体的に競争を阻害する効果が発生していることや,その高度の蓋然性があることまでは要件になっておらず,公正競争の確保を妨げる一般的抽象的な危険性があることで足りると解される。
そして,本件行為において,公正競争阻害性(市場閉鎖効果の発生)を肯定するには,商系業者の取引機会が減少するような状態をもたらすおそれがあれば足りるのであって,その状態の生じたことを具体的な根拠をもって立証することまでは要しないものというべきである。
ウ さらに,控訴人は,原判決が,系統外出荷の制限イコール禁止される利用強制とみている点は,農協が系統外出荷を制限すれば,その分農家は共同経済事業を利用せざるを得なくなるから,これでは利用強制行為を無条件・一律に禁止することになり,過剰規制となってしまうから誤りである旨主張する。
しかし,本件においては,土佐あき農協は,土佐あき農協管内及びその周辺地域におけるなすの販売受託取引に係る市場において有力な地位にあることは原判決第3の4(2)イで認定したとおりであり,商系業者の取引先事業者であるなすの生産者(組合員)にとっては,土佐あき農協との取引関係を維持することが重要であるから,本件行為による拘束条件は,その性質上,組合員の自由な意思による系統外出荷を抑止する効果が強く,組合員の相当数が本件行為の対象となっていたことからすると,商系業者にとって,土佐あき農協と取引をしている組合員に代わる取引先を確保することは容易ではなく,その取引機会が減少するおそれがあることは明らかであり(実際に本件行為の存在を前提に商系業者からの出荷増量を断る組合員も存在したことが認められる。乙55,56,122。),このことは,廉価な販売手数料や良質なサービスを提供して顧客を獲得するという公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれを生じさせるものと認められるのであって,市場閉鎖効果が生じることを否定できないといわざるを得ず,控訴人の指摘は当たらない。
(4) 独禁法22条ただし書の正当事由について
ア 控訴人は,独禁法22条ただし書の解釈においては,同法19条とは別に特に「効率性の向上」と「固定的費用の分担」という2つの観点からの正当事由を考慮する必要がある旨主張する。
イ 独禁法が不公正な取引方法を禁止した趣旨は,公正かつ自由な競争を促進することで,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進すること(独禁法1条)にあるから,不公正な取引行為に当たり得る行為であっても,「正当な理由」があれば,「不当な」拘束条件に当たらない場合もあると解される。ただし,この場合の「正当な理由」は,もっぱら公正な競争秩序維持の見地からみるべきであって,事業経営上又は取引上の観点等からみて合理性ないし必要性があるにすぎない場合には,ここにいう「正当な理由」があるとすることはできないし(最高裁昭和46年(行ツ)第82号同50年7月10日第1小法廷判決・民集29巻6号888頁),目的が正当で是認できる場合のほかに,内容・手段も合理性・相当性を有することが必要であるというべきである。
本件で控訴人の主張する「効率性の向上」とは,共同事業の効率的な運営により産地間競争が促進されるという趣旨をいうもののようであるが,その実質的に主張するところは,運営コストの増大を防ぐために集出荷場の稼働率,すなわち,組合員の利用率を高めることを目的とするもので,事業経営上の合理性を主張するものであって,公正な競争秩序とは直接には関係がないと解されるうえ,組合員の利用率を高めるという目的達成のための手段として本件行為が相当であるとも言い難い。また,控訴人が「固定的費用の分担」について主張する内容についても,結局は事業経営上の合理性の主張の繰り返しに過ぎず,これが「正当な目的」とならないことは明らかである。
よって,この点に関する控訴人の主張も採用できない。
第4 結論
以上のとおり,本件命令は適法であるから,控訴人の請求には理由がない。
よって,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

令和1年11月27日

裁判長裁判官 近藤 昌昭
裁判官 渡辺 左千夫
裁判官 中久保 朱美

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