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㈱阪急阪神百貨店及び㈱髙島屋による課徴金納付命令取消請求事件

独禁法7条の2
東京地方裁判所民事第8部

平成30年(行ウ)第541号及び平成31年(行ウ)第149号

判決

令和元年12月19日

大阪市北区角田町8番7号
原告(第1事件)        株式会社阪急阪神百貨店
同代表者代表取締役       《  氏 名  》
同訴訟代理人弁護士       島田 まどか
       同        井垣 太介
       同        板根 靖奈
       同        木村 響
大阪市中央区難波五丁目1番5号
原告(第2事件)        株式会社髙島屋
同代表者代表取締役       《  氏 名  》
同訴訟代理人弁護士       長澤 哲也
同               石井 崇
同               小田 勇一
同               立村 達哉
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
   被告              公正取引委員会
   同代表者委員長         杉本 和行
   同指定代理人          南 雅晴
   同               三好 一生
   同               島田 成久
   同               渡辺 大祐
   同               石川 哲平
   同               田中 修
   同               吉兼 彰彦
   同               津田 博司
   同               佐藤 友美
   同               石川 雅弘
   同               古田 智裕

主        文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
被告のした原告株式会社阪急阪神百貨店に対する平成30年10月3日付けの課徴金納付命令(公正取引委員会平成30年(納)第43号)のうち課徴金として2027万円を超えて国庫への納付を命じた部分を取り消す。
2 第2事件
被告のした原告株式会社髙島屋に対する平成30年10月3日付けの課徴金納付命令(公正取引員会平成30年(納)第44号)のうち課徴金として1762万円を超えて国庫への納付を命じた部分を取り消す。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
原告株式会社阪急阪神百貨店(以下「原告㈱阪急阪神百貨店」という。)及び原告株式会社髙島屋(以下「原告㈱髙島屋」といい,原告㈱阪急阪神百貨店と併せて「原告ら」という。)が他の事業者と共同してその販売する中元や歳暮といった贈答用の商品(以下「優待ギフト」という。)の配送に係る役務を顧客に対して提供する際の送料(以下「優待ギフト送料」という。)を300円程度に引き上げる旨の合意をしたところ,被告は,この行為が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)第2条第6項に規定する不当な取引制限に当たり,独占禁止法第3条の規定に違反し,かつ,独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する役務の対価に係るものであるとして,原告らに対し,平成30年10月3日付けで,同項本文の規定に基づき,原告らの当該行為に係る実行期間における売上額に同項本文に規定する100分の10の割合を乗ずること(以下同項本文に規定する売上額に乗ずる割合を「課徴金算定率」という。)等により得た額(原告㈱阪急阪神百貨店にあっては6758万円,原告㈱髙島屋にあっては5876万円)をそれぞれ課徴金として国庫に納付するように命じた(以下これらの各課徴金納付命令を「本件課徴金納付命令」という。)(なお,原告㈱阪急阪神百貨店が主張し,原告㈱髙島屋が援用する主張のうちには,上記の優待ギフトの配送が役務の提供であること自体を否認するかのような部分があるが,当該主張が採用し難いものであることは,後記第3の2(3)の争点に対する判断において説示するとおりである。)。
本件は,原告らが,上記の優待ギフトの配送に係る役務の提供が同項本文に規定する小売業に当たり,課徴金算定率が100分の10ではなく,100分の3であると主張して,本件課徴金納付命令のうちこの課徴金算定率に基づいて算定して得られる額を超える額に相当する部分(原告㈱阪急阪神百貨店にあっては2027万円を超える部分,原告㈱髙島屋にあっては1762万円を超える部分)の取消しをそれぞれ求めた事案である。
2 前提事実(括弧内において掲記する証拠又は弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
(1)原告㈱阪急阪神百貨店は,百貨店業,貨物自動車運送事業及び貨物利用運送事業並びにこれらに附随し,又は関連する一切の事業等を行うことを目的とし,近畿地区等において店舗を展開している株式会社である。
原告㈱髙島屋は,百貨店業及び貨物自動車運送業並びにこれらに関連する一切の業務等を行うことを目的とし,近畿地区等において店舗を展開している株式会社である。
(甲A1,B1,乙A1及び乙B1並びに弁論の全趣旨)
(2)原告らは,いずれも,優待ギフトの販売を行っているところ,優待ギフトを購入する顧客からその配送の希望を受けた場合には,当該顧客から優待ギフト送料を収受して,あらかじめ荷物の運送に関する業務を委託している物流事業者に当該優待ギフトの配送を委託することにより,当該顧客に対し,優待ギフトの配送に係る役務を提供している(以下この事業を「本件事業」という。)。(甲A4から6まで,10から14まで,甲B6から9まで,乙A1,15,16,乙B1及び14)
(3)原告ら及び他の同業の事業者ら3社(以下「原告ら5社」という。)は,平成27年9月上旬までに,近畿地区における店舗において顧客から収受する優待ギフト送料の額を300円程度に引き上げる旨の合意をした。さらに,原告ら5社は,平成28年2月上旬までに,他の同業の事業者1社との間で同様の合意をした(以下原告ら5社に当該他の同業の事業者1社を加えた6社を「原告ら6社」といい,平成28年2月上旬までに原告ら6社の間でされた上記の合意を「本件合意」という。)。
原告ら5社は平成28年夏頃から,当該他の同業の事業者1社は同年終わり頃から,それぞれ,本件合意に基づき,近畿地区において顧客から収受する優待ギフト送料の額を300円に引き上げた。
(甲B4,乙A1,5から8まで,10から13まで,乙B1,3,6か
ら8まで及び10から13まで)
(4)被告は,原告ら6社が本件合意をして優待ギフト送料の額を300円に引き上げたことに関し,本件合意が独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に当たり,独占禁止法第3条の規定に違反し,かつ,独占禁止法第7条の2第1項第1号に規定する役務の対価に係るものであるとして,原告らに対し,平成30年10月3日付けで,同項の規定に基づき,本件課徴金納付命令をした。
本件課徴金納付命令において,被告は,原告㈱阪急阪神百貨店について,当該行為に係る実行期間である平成28年5月18日から平成29年7月18日までの間に顧客から収受した優待ギフト送料の合計額が6億7583万6843円であると算定し,これに課徴金算定率として100分の10を乗じて得た額から,同条第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てることにより,国庫に納付すべき課徴金の額を6758万円とした。また,原告㈱髙島屋については,当該行為に係る実行期間である平成28年5月13日から平成29年7月18日までの間に顧客から収受した優待ギフト送料の合計額が8億3951万0495円であると算定し,これに課徴金算定率として100分の10を乗じて得た額から,同額に同条第12項の規定による100分の30を乗じて得た額を減額した上,同条第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てることにより,国庫に納付すべき課徴金の額を5876万円とした。
(甲B1,乙A2,13及び乙B13)
3 争点及び当該争点に関する当事者の主張
本件における主な争点は,本件事業が独占禁止法第7条の2第1項本文に規定する小売業に当たるかどうかであり,当該争点に関する当事者の主張は,次のとおりである。
(1)被告の主張
ア 独占禁止法第7条の2第1項の規定による課徴金制度の趣旨がカルテル等の違反行為の禁止の実効性を確保するための行政上の措置を機動的に発動することができるようにすることにあり,同項が課徴金の額の算定の基礎となる売上額を違反行為(不当な取引制限)の対象となる商品又は役務の売上額と規定していることからすれば,課徴金の額の算定の基礎となる業種の認定についても,当該違反行為に係る事業活動を基準とすべきである。
また,一般に,「小売業」とは,商品を卸売業者等から買い入れてこれを一般消費者に分けて販売する事業であり,他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業活動をいう(消費税法施行令(昭和63年政令第360号)第57条第6項参照)ことを踏まえれば,独占禁止法第7条の2第1項に規定する小売業とは,商品を卸売業者等から買い入れ,その同一性を保持したまま消費者に販売する事業活動をいうものと解すべきである。したがって,役務を提供する事業活動が当たる余地はないし,このことは,同項が「商品」と「役務」とを区別していることからも明らかである。
本件課徴金納付命令の対象となる違反行為は,優待ギフトの配送という役務の提供であるから,同項に規定する小売業に該当しないことは,明らかである。
イ 仮に役務の提供が同項に規定する小売業に該当する余地があるとしても,原告らは,本件事業において,顧客に提供する優待ギフトの配送に係る役務を運送事業者に委託しているにすぎず,当該役務を販売しているとはいうことができないし,運送事業者に当該役務を委託する際には,原告らにおいて当該役務のうちの一定の業務に当たる伝票の発行及び貼付け,商品の包装及び移送といった業務を行っているのであって,役務の同一性を保持したままこれを販売しているとはいうことができないから,本件事業が同項に規定する小売業に当たるということもできない。
ウ さらに,本件課徴金納付命令の対象となった本件合意は,優待ギフトの販売とは切り離された商品の配送という役務の提供に係る代金についてされたものであるから,原告らが主張するように,本件事業が優待ギフトの販売に係る売買契約の引渡義務の履行に当たることや優待ギフトの販売事業に付随するものであることをもっても,同項に規定する小売業に当たるということはできない。
エ そして,原告㈱髙島屋が主張する日本標準産業分類(統計法(平成19年法律第53号)第2条第9項に規定する統計基準である日本標準産業分類をいう。以下同じ。)や経営学上の視点は,課徴金算定における業種の認定とは趣旨や目的が異なるものであるから,直接的な根拠となるものではない。日本標準産業分類において自社用商品の保管倉庫及び自企業の事業所間の流通に用いる施設が小売業の事業所に分類されていることや,経営学上も商品の販売にとどまらず包装や配送も小売業に含まれることをもっても,本件事業が独占禁止法第7条の2第1項に規定する小売業に当たるということはできない。
オ 以上より,本件事業については,課徴金算定率として100分の10を適用すべきであるから,本件課徴金納付命令は,適法である。
(2)原告らの主張
ア 原告らの共通する主張(原告㈱阪急阪神百貨店が主張し,原告㈱髙島屋において援用する主張を含む。)
(ア)独占禁止法第7条の2第1項が小売業についてその課徴金算定率を軽減している趣旨は,小売業には取引対象を右から左に流通させることによりマージンを受け取るという側面が大きく,その売上高営業利益率が小さいという実態を考慮した点にある。そして,取引対象が商品又は役務のいずれであるかにかかわらず,対象の同一性を保持したままに右から左に流通させる事業である限り,軽減算定率を採用した上記の趣旨が妥当する。したがって,役務の提供であることを理由として,小売業への該当性が直ちに否定されるとはいえず,買い入れた役務の同一性を保持したまま,何らの付加価値をも加えずに顧客に提供する役務の仲介ともいえる事業活動は,同項に規定する小売業に該当する。
そして,原告らは,本件事業において,運送事業者の提供する配送に係る役務に何ら変更を加えず,優待ギフトの購入者にそのまま提供したのであって,運送事業者の提供する配送に係る役務を購入し,同一性を保持したまま,一般消費者である優待ギフト購入者に販売する役務の仲介を行っていたということができる。
(イ)また,優待ギフトの販売には配送に係る役務の提供が不可欠であり,優待ギフトの購入者のほぼ全員が本件事業による配送に係る役務を利用している。原告らは,顧客から,優待ギフトの販売代金と優待ギフト送料を同時に収受しているが,本件事業の単体でみると,利益はなく,赤字となっており,本件事業が優待ギフトの販売事業とは別個の独立した採算事業であるとはいうことができない。したがって,本件事業は,優待ギフトの販売事業と密接不可分な関係にある付随的事業であり,優待ギフトの販売事業と同様に,同項に規定する小売業に当たる。
(ウ)したがって,本件事業については,課徴金算定率として100分の3を適用すべきであり,100分の10を適用した本件課徴金納付命令は,違法である。
そうすると,本件課徴金納付命令のうち,違反行為に係る実行期間における原告㈱阪急阪神百貨店の売上額である6億7583万6843円に100分の3を乗じた金額から1万円未満の端数を切り捨てた金額である2027万円及び原告㈱髙島屋の当該実行期間における売上額8億3951万0495円に100分の3を乗じて得た額から当該額に100分の30を乗じて得た金額を減額し,1万円未満の端数を切り捨てた金額である1762万円をそれぞれ超えた金額の国庫への納付を命ずる部分は,いずれも違法であるから,当該各部分の取消しを求める。
イ 原告㈱髙島屋の主張
(ア)独占禁止法第7条の2第1項に規定する小売業とは,商品を生産者,卸売業者等から買い入れてこれを一般消費者に分けて販売する事業をいうところ,優待ギフトの配送に係る業務は,優待ギフトの商品の売買契約における目的物の引渡義務の履行として行われ,代金の収受や商品の梱包等と共に商品の販売行為の一過程を構成するものであるから,上記の小売業に当たる。原告㈱髙島屋が配送業務を委託する運送事業者は,その履行補助者として上記の引渡義務を履行するにすぎないのであって,同項に規定する小売業への該当性を否定する要素とはならない。
(イ)また,目本標準産業分類が小売業に自社商品の保管,配送等の業務が含まれるとしているほか,経営学上も商品の売買に加えて包装,配送等を含むものと整理されていることからも,本件事業は,同項に規定する小売業に該当する。
(ウ)したがって,上記(ア)及び(イ)の観点からも,課徴金算定率として100分の3を適用せず,100分の10を適用した本件課徴金納付命令は,違法である。
第3 争点に対する判断
1 括弧内において掲記する各証拠又は弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
(1)原告らによる優待ギフトの販売及び配送の申込みの方法等
原告らは,毎年の夏期及び年末に優待ギフトを顧客に販売しており,いずれの時期においても,優待ギフトのカタログを作成している。優待ギフトの購入を希望する顧客は,原告㈱阪急阪神百貨店においてはその展開に係る百貨店の店舗の店頭,インターネット,郵送又はファクシミリにより,原告㈱髙島屋においてはその展開に係る百貨店の店舗の店頭又はインターネットにより,それぞれ購入の申込みをすることができる。また,原告らに対して優待ギフトの購入の申込みをした顧客は,購入した商品を原告らの店舗の店頭で受け取り,そのまま持ち帰ることができるほか,購入した優待ギフトを自ら指定した宛先(以下「贈り先」という。)に配送するように原告らに依頼することもできる。優待ギフトの配送を依頼する顧客は,原告らに対し,優待ギフトの代金に加えて,優待ギフト送料を支払う必要がある。(甲A4,10から12まで,甲B6,乙A15,16及び乙B14)
(2)優待ギフトの配送までの流れ
ア 原告㈱阪急阪神百貨店は,顧客から優待ギフトの購入の申込み及びその配送の依頼を受けると,当該優待ギフトや贈り先に関する情報を原告㈱阪急阪神百貨店のシステムに入力し,当該優待ギフトを配送するための伝票を作成する。作成された伝票は,通常,原告㈱阪急阪神百貨店の店舗又は物流センターの倉庫において発行され,原告㈱阪急阪神百貨店において梱包した優待ギフトに貼付される。原告㈱阪急阪神百貨店は,このようにして配送することのできる状態になった優待ギフトを荷物の運送及びその付帯業務について運送業務委託契約を締結している物流事業者の配送拠点に移送し,当該物流事業者に引き渡す。その後,当該物流事業者は,当該優待ギフトを贈り先に配送する。(甲A4から6まで及び10)
イ 原告㈱髙島屋は,顧客から優待ギフトの購入の申込み及びその配送の依頼を受けた場合において,過去の優待ギフトの贈り先として原告㈱髙島屋のシステムに登録されている情報が印字された「ご進物品購入申込票」に必要事項を記入する方法によって贈り先の指定を受けたときには,当該システムを通じ,原告㈱髙島屋の物流施設又は店舗内においてオンライン伝票を発行する。また,原告㈱髙島屋は,顧客から「お届け伝票」に自ら贈り先等の所定の事項を記入する方法によって贈り先の指定を受けたときには,この伝票を原告㈱髙島屋の物流施設又は店舗に送付する。上記のオンライン伝票又は「お届け伝票」が原告㈱高島屋の物流施設内において発行され,又は物流施設に送付された場合には,原告㈱髙島屋との間で販売した商品の配送,商品の包装,保管及び伝票センター業務等に関する業務委託基本契約を締結している物流事業者の担当者は,当該物流施設内において,顧客が注文した優待ギフトを包装し,梱包した上で,上記のオンライン伝票又は「お届け伝票」を貼付し,顧客の指定した贈り先に配送する。また,上記のオンライン伝票又は「お届け伝票」が原告㈱高島屋の店舗内において発行され,又は店舗に送付された場合には,原告㈱高島屋のスタッフは,当該店舗内において優待ギフトを包装し,梱包した上で,伝票を貼付し,物流業者に引き渡す。その後,当該物流事業者は,当該優待ギフトを顧客の指定した贈り先に配送する。(甲B6から8まで)
(3)原告らにおける優待ギフト送料の取扱いの経緯
ア 原告㈱阪急阪神百貨店は,平成4年3月までの間,京阪神地域並びに東京都内及びその近郊への優待ギフトの配送については,顧客から優待ギフト送料を収受していなかったが,配送コストの上昇や赤字額の拡大などから無償での配送に係る役務の提供が困難となったため,同年4月以降は,顧客から上記の各地域への優待ギフトの配送について,200円(消費税相当額を除く。以下同じ。)の優待ギフト送料を収受するようになった。原告㈱阪急阪神百貨店は,その後,本件合意をする時までに,顧客から収受する優待ギフト送料を全国一律200円とし,本件合意により,その額を300円に引き上げた。(甲A10から12まで,乙A5及び乙B6)
また,上記(2)アの原告㈱阪急阪神百貨店と物流事業者との間で締結された運送業務委託契約において,原告㈱阪急阪神百貨店が当該物流事業者に支払う運賃は,荷物の大きさ又は重量並びに運送距離に応じ,同一県内間の配送であっても,《 金額 》から《 金額 》での間に設定されている。(甲A5,6,13及び14)
イ 原告㈱髙島屋は,本件合意をする時までの間,大阪地区の店舗における優待ギフト送料を全国一律200円としていたが,本件合意により,その額を300円に引き上げた。
また,上記(2)イの原告㈱髙島屋と物流事業者との間で締結された商品の配送等に関する業務委託基本契約において,原告㈱髙島屋が当該物流事業者に支払う運賃は,平成22年3月1日から平成26年3月31日までの問,関西地区内での配送であっても,《 金額 》から《 金額 》までの間に設定されていた。
(甲B4,6から8まで及び乙B14)
2 上記第2の2の前提事実及び上記1において認定した事実に基づき,争点(本件事業が独占禁止法第7条の2第1項本文に規定する小売業に当たるかどうか)について,判断する。
(1)独占禁止法第7条の2第1項の規定は,商品又は役務の対価に係るものについて不当な取引制限に該当する行為を行った事業者に対して被告が「当該商品又は役務」の「売上額」に課徴金算定率を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付するように命じなければならない旨を定めており,その課徴金算定率については,100分の10という割合を原則としつつ,小売業については例外的に100分の3という割合とする旨を定めている。このような不当な取引制限に係る課徴金制度の趣旨は,当該取引制限を行った事業者にその違反行為によって得た不当な利得を保持させることを禁ずることにより,不当な取引制限を禁ずる独占禁止法の規制を実効的なものとすることにあると解されるところ,この制度の趣旨や規定の内容に照らせば,課徴金算定率を定める規定の適用に当たっては,不当な取引制限に該当する具体的な行為に即して考えるのが相当である。
本件においては,原告ら6社によってされた優待ギフト送料を300円に引き上げるという内容の本件合意が近畿地区の百貨店による優待ギフトの配送に係る役務の提供における競争を実質的に制限する不当な取引制限に当たり,この行為について本件課徴金納付命令がされたのである(上記第2の2(4)の前提事実)から,原告らに対する課徴金の額を算定に当たって適用される課徴金算定率は,本件事業である優待ギフトの配送に係る役務の提供に即して判断するのが相当である。
(2)そこで,本件事業であるこの優待ギフトの配送に係る役務の提供が独占禁止法第7条の2第1項本文に規定する小売業に当たるかどうかについて,検討する。
独占禁止法及びその下位法令等において同項本文に規定する小売業の意義を明示する規定は,存在しない。そうすると,定義規定を有しない当該小売業の意義を考えるに当たっては,一般的な「小売」という言葉の意味や他の法令における用例を参照するのが相当である。一般に,「小売」とは,物品を卸売から買い入れて,これを消費者に分けて売ることを意味するものとして用いられる用語である(「広辞苑第七版」(岩波書店,2018)参照)。また,他の法令における用例をみると,消費税法施行令第57条第6項の規定は,同条に規定する中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例に関し,「卸売業」を「他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業をいう」とし,「小売業」を「他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで販売する事業で」卸売業「以外のものをいう」としている。これらの一般的な言葉としての意味や他の法令における用例に照らせば,独占禁止法第7条の2第1項本文に規定する小売業とは,専ら商品を卸売業者等から買い入れて,その同一性を保持したまま消費者に販売する事業を意味するものであり,役務の提供は含まれないと解するのが相当である。
そうすると,本件事業は,優待ギフトの配送に係る役務の提供を内容とするものであり,商品を仕入れてこれを販売する事業であるということはできないから,同項に規定する小売業に当たるということはできないということになる。
(3)これに対し,原告らは,①独占禁止法第7条の2第1項本文の規定が小売業について課徴金算定率を軽減した趣旨は,取引対象を右から左に流通させることによってマージンを受け取るという側面が大きく,その売上高営業利益率が小さいという小売業の実態を考慮したことにあり,このような趣旨が役務の提供にも妥当するので,買い入れた役務の同一性を保持したまま,何らの付加価値をも加えずにこれを顧客に提供する役務の仲介の性質を有する事業活動が同項本文に規定する小売業に含まれるものであり,運送事業者の提供する配送に関する役務を買い入れ,そのまま顧客に提供する本件事業も,当該小売業に該当すること,②優待ギフトの購入者の多くが本件事業による配送に係る役務を利用していて,本件事業それ自体が利益を上げているわけではなく,むしろ赤字であることからすると,本件事業が優待ギフトの販売行為の付随的事業として行われているものであり,優待ギフトの販売行為と同様に同項本文に規定する小売業に該当することを主張している。
しかしながら,上記(2)において説示したとおり,当該小売業に役務の提供が含まれるものとは解し難い。当該小売業について課徴金算定率が軽減されている趣旨を原告らの主張するところのように解するとしても,本件事業が伝票の作成及び優待ギフトへの貼付並びに優待ギフトの贈り先への配送等を内容とするものであること(上記1(2)の認定事実),そのうち物流事業者が行うものは,原告㈱阪急阪神百貨店においては店舗又は倉庫から物流事業者の配送拠点へ運び込まれた優待ギフトの配送であり,原告㈱髙島屋においては優待ギフトの包装以降の役務であること(上記1(2)の認定事実),原告らと各物流事業者との間で運送業務委託契約が締結されていること(上記1(2)の認定事実)からすると,原告らは,各物流事業者に対し,原告らが顧客に対して行うべき本件業務の一部を委託したにすぎないというべきであって,役務を買い入れて同一性を維持したまま顧客に提供するものと解することはできない(原告㈱阪急阪神百貨店が主張し,原告㈱髙島屋が援用する主張のうちには,本件事業が配送に係る役務を顧客に提供するものであること自体を否認し,物流事業者に対して配送サービスを行うように求める債権を当該物流事業者から買い入れ,顧客に販売するものである旨を主張するかのような部分もあるが,上記の各認定事実の認定に当たって掲げた証拠に照らし,採用し難いものである。)。したがって,原告らの上記①の主張は,採用することができない。
また,本件事業に関して顧客が役務の提供を利用しないことが可能とされており,原告らが優待ギフトの代金とは別に顧客から優待ギフト送料を受け取っていること(上記1(1)及び(3)の認定事実)を踏まえれば,顧客が優待ギフトの配送を希望した場合には,優待ギフトの販売に係る売買契約とは別に,原告らと顧客との間で,顧客が購入した優待ギフトを贈り先に配送することを内容とする契約が成立しているというべきである。原告らの上記②の主張は,優待ギフトの販売とは別個のものである優待ギフトの配送に係る契約の締結を多数の顧客が選択していることを示すものにすぎないし,本件事業それ自体が利益を上げていないことは,原告らが優待ギフトの販売を促進するために配送に係る役務の対価を安価に設定した結果にすぎないから,本件事業を優待ギフトの販売の付随的事業として一体のものと評価することの根拠となり得るものではない。したがって,原告らの当該主張を採用することもできない。
(4)さらに,原告㈱髙島屋は,本件事業が優待ギフトの販売に係る売買契約における目的物の引渡義務の履行であり,商品の販売行為の一過程を構成することから,独占禁止法第7条の2第1項本文に規定する小売業に該当する旨を主張している。しかしながら,優待ギフトの配送は,優待ギフトとは別個の契約に基づき行われるものであることは,上記(3)において説示したとおりであるから,原告㈱髙島屋の当該主張を採用することはできない。
加えて,原告㈱髙島屋は,日本標準産業分類や経営学の分野において配送に係る役務の提供が小売業に含まれるとされていることから,本件事業が同項に規定する小売業に該当する旨も主張している。確かに,証拠(甲B2及び3)によれば,日本標準産業分類が,自企業の物品等を保管する事業所である自家用倉庫や,主として各種商品小売業における活動を促進するため,同一企業の他事業所に対して輸送等の支援業務を提供する事業所を各種商品小売業に分類していること,経営学の文献において,小売業態に当たるかどうかを判断する営業形態の要素を18に分類し,その要素の一つである付帯サービスの水準において商品の販売に付帯する包装・配達・配送を挙げているものが存在することを認めることができる。しかしながら,この日本標準産業分類による分類は,事業所の分類を示すものにすぎず,配送に係る役務の提供を行うこと自体が小売業に含まれることを明らかにするものではない。また,上記に認定した経営学の文献の記載も,飽くまでも経営学の分野において小売業に分類される事業の考慮要素を示すものにすぎず,その小売業の業態の考慮要素に配送・配達が含まれているからといって,直ちに課徴金算定率の適用において適用すべきものとも解し難い。したがって,原告㈱髙島屋の上記の主張も,いずれも採用することができない。
(5)原告らが主張するその他の種々の主張を検討しても,上記(1)から(4)までにおいて検討したところを左右するものはない。
(6)そうすると,本件事業が独占禁止法第7条の2第1項本文に規定する小売業に当たると解することはできない。
3 したがって,本件事業について適用すべき課徴金算定率は,原則どおり100分の10ということになるので,本件課徴金納付命令は,適法というべきである。
第4 結論
以上によれば,第1事件及び第2事件のいずれについても,原告らの請求は,理由がない。
よって,当該請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

令和1年12月19日

裁判長裁判官 江原 健志
裁判官 諸井 明仁
裁判官 角田 裕紀

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