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本町化学工業株式会社による執行停止申立事件

独禁法7条2
東京地方裁判所

令和2年(行ク)第11号

決定

東京都足立区中央本町一丁目2番11号
申立人 本町化学工業株式会社
同代表者代表取締役 《X1》
同代理人弁護士 高橋善樹
同 堀越友香
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
相手方 公正取引委員会
同代表者委員長 杉本和行
同指定代理人 南雅晴
同 三好一生
同 今野敦志
同 平塚理慧
同 藤田千陽
同 石川哲平
同 塩友樹
同 相樂寧則
同 吉兼彰彦
同 荻野舞
同 鈴村達矢
同 石川雅弘
同 石田未来
同 細淵敬済
同 牧内佑樹

主文
1 本件申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は申立人の負担とする。
理由
第1 申立て
相手方が令和元年11月22日付けで行った私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律7条2項に基づく排除措置命令(令和元年(措)第9号及び同第10号)のうち申立人に対して排除措置を命ずる部分及び同法7条の2第1項に基づく課徴金納付命令(令和元年(納)第18号及び同第29号)は,本案事件の判決確定までその効力を停止する。
第2 事案の概要
1 事案
(1)相手方は,令和元年11月22日,申立人を含む16社の粉末活性炭又は粒状活性炭(以下,単に「活性炭」という。)の販売業者が,東日本地区に所在する地方公共団体の発注に係る浄水場向けの活性炭の入札に際し,共同して,供給予定者を決定するなど私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)3条の規定に違反する行為を行ったとして,①申立人を含む12社に対し,独禁法7条2項に基づき,上記行為を取りやめていることなどを確認する取締役会決議等を行い,当該決議を行ったことを発注者や取引先の販売業者等に通知することなどを命ずる排除措置命令(令和元年(措)第9号)を行うとともに,②独禁法7条の2第1項に基づき,申立人に対し,1億6143万円を令和2年6月23日までに国庫に納付することを命ずる課徴金納付命令(令和元年(納)第18号)をした。
また,相手方は,令和元年11月22日,申立人を含む11社の活性炭の販売業者が,近畿地区に所在する地方公共団体の発注に係る浄水場向けの粒状活性炭の入札に際し,共同して,供給予定者を決定するなどの行為を行っていたとして,③申立人を含む8社に対し,独禁法7条2項に基づき,取締役会決議及び通知を行うことなどを命ずる排除措置命令(令和元年(措)第10号)を行うとともに,④独禁法7条の2第1項に基づき,申立人に対し,3283万円を令和2年6月23日までに国庫に納付することを命ずる課徴金納付命令(令和元年(納)第29号)をした。
(2)本件は,申立人が,相手方に対し,上記の各排除措置命令のうち申立人に係る部分及び各課徴金納付命令の取消しを求める訴訟(本案事件)を提起し,これらの命令により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると主張して,行政事件訴訟法25条2項本文に基づき,本案事件の判決確定までこれらの命令の効力の停止を求める事案である。
2 前提事実(争いがない事実又は後掲の疎明資料(枝番を含む。以下に同じ。)により明らかに認められる事実)
(1)申立人等
ア 申立人は,医薬品,医薬部外品,工業薬品,化学薬品の製造,販売及び輸出入等を目的とする株式会社であり,資本金の額は9750万円,従業員数は約80名である。申立人は,主に,次亜塩素酸ソーダの販売等や,活性炭メーカー(自社工場で活性炭を製造し,販売する者又は他の事業者に製造委託した活性炭を自社の商品として販売する者)から活性炭を仕入れ,これを小売業者に販売する卸売業を営んでいる。申立人の平成28年度の活性炭卸売事業の売上高は,年間総売上高の約■■%を占めていた。(疎甲3,5)
イ 活性炭は,微細な細孔を無数に有する炭素物質であり,有機物質の吸着力に優れていることから,廃水処理及び工業用水の再利用等に使用されている(疎甲5)。
(2)東日本地区に関する排除措置命令等
相手方は,令和元年11月22日,申立人を含む16社(別表中「排除措置命令(東日本)名宛人」欄に「○」及び「△」の記載がある会社)が,東日本地区に所在する地方公共団体の発注に係る浄水揚向けの活性炭について,共同して,供給予定者を決定し,供給予定者が申立人を介して供給できるようにする行為を行っており,当該行為が独禁法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであるところ,当該行為は既になくなっているが,特に排除措置を命ずる必要があるとして,同法7条2項に基づき,申立人を含む12社(別表中,上記同欄に「○」の記載がある会社)に対し,別紙1記載の主文内容の排除措置命令(令和元年(措)第9号。以下「本件東日本排除措置命令」という。」という。)をした(疎甲1)。
また,相手方は,同日,同法7条の2第1項の規定に基づき,申立人に対し,上記行為が商品の対価に係るものであるとして1億6143万円を令和2年6月23日までに国庫に納付することを命ずる課徴金納付命令(令和元年(納)第18号)をした(疎甲3)。
(3)近畿地区に関する排除措置命令等
相手方は,令和元年11月22日,申立人を含む11社(別表中「排除措置命令(近畿)名宛人」欄に「○」及び「△」の記載がある会社)が,近畿地区に所在する地方公共団体の発注に係る浄水場向けの粒状活性炭について,共同して,供給予定者を決定し,供給予定者が申立人を介して供給できるようにする行為を行っていたことにつき,当該行為が独禁法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものであるところ,当該行為は既になくなっているが,特に排除措置を命ずる必要があるとして,申立人ら8社(別表中,上記同欄に「○」の記載がある会社)に対し,同法7条2項の規定に基づき,別紙2記載の主文内容の排除措置命令(令和元年(措)第10号。本件東日本排除措置命令と併せて「本件各排除措置命令」という。)をした(疎甲2)。
また,相手方は,同日,同法7条の2第1項の規定に基づき,申立人に対し,上記行為が商品の対価に係るものであるとして,3283万円を令和2年6月23日までに国庫に納付することを命ずる課徴金納付命令(令和元年(納)第29号。前記(2)の課徴金納付命令と併せて「本件各課徴金納付命令」といい,本件各排除措置命令と併せて4つの命令を「本件各命令」という。)を行った(疎甲4)。
(4)公表
相手方は,本件各命令を行ったのと同日,相手方のウェブサイトにおいて同命令について公表した。本件各命令は,同日以降,全国紙,インターネット等において報道が行われた。(疎甲7)
(5)訴えの提起及び本件申立て
申立人は,令和2年1月16日,相手方に対し,本件各命令には,法令解釈の誤り及び事実認定の誤りがあるとして,本件各命令の取消しを求める訴訟(本案事件)を提起し,同日,本件各命令の効力の停止を求める本件申立てを行った。
3 争点に関する当事者の主張
本件の争点は,本件各命令により生ずる重大な損害を避けるための緊急の必要の存否である。
(申立人の主張)
(1)申立人に係る本件各排除措置命令を履行することにより,申立人は,通知を受け取った相手から,申立人がこれらで認定されている独禁法違反行為を行っていたことを自認したものと受け取られることとなる。しかも,通知先である地方公共団体や販売事業者の総数が《事業者等の総数》に及ぶため,申立人の信用は著しく毀損される。特に,本件東日本排除措置命令については,主文において「申立人を介して供給できるようにする行為」と記載されていることに加え,申立人が申立人以外の行為者とされた15社のいずれかを供給予定者として物件を割り振ったとの事実が認定されていることから,当該排除措置命令を履行することにより,申立人が違反行為の首謀者ないし主導的な役割を果たしたことを自認すると受け取られるおそれがあることからも,信用毀損は一層重大である。
実際,申立人は,本件各処分に係る被疑事実の調査のための立入検査の後,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■これらの活性炭メーカーから仕入れていた活性炭以外の薬品の取引も実際に減少している。申立人の売上高は,平成28年度を基準として,平成29年度は■■■■■%,平成30年度は■■■■■%になっており,このまま本件各排除措置命令が取り消されなければ,平成31年度(令和元年度)には■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■円。疎甲5)まで減少するおそれがある。これは,資本金9750万円,従業員数80名程度に過ぎない申立人にしてみれば,存立に重大な影響を及ぼすものであり,損害の回復の困難の程度は高い。
(2)また,申立人に係る本件各課徴金納付命令についても,その履行により申立人が支払うべき金額は合計1億9426万円に及ぶ。申立人の活性炭事業の利益率(売上総利益べ一ス)は平成30年度では売上の約■■■%であり,同金額が申立人の売上に与える影響は約■■■■■■■■円にもなる(疎甲5)。このような多額の課徴金納付の負担は,本件各排除措置命令の履行により被る経済的損失と併せて,申立人の存立に重大な影響を及ぼすものである。
(3)したがって,本件各命令により生ずる重大な損害を避けるための緊急の必要があるといえる。
(相手方の主張)
(1)申立人に係る本件各排除措置命令は,何ら申立人の社会的ないし業務上の信用を毀損する内容を含んでいないし,違反行為を自認するかのような文言で通知を行うことまで求めるものではない。仮に,自認したものと受け取られるとの懸念があれば,申立人において,通知先に対し,取消訴訟を提起していることなどを説明したり,その旨ウェブサイトで公表したりすればよい。通知先が多いとしても,本件各命令が行われたことは既に広く周知されており,新たに申立人の信用殿損が生じることはない。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■同命令により生じる損害とはいえない。そして,本件において,■■■■■■■■■■■■■■■■■■という疎明もない。
(2)申立人に係る本件各課徴金納付命令により生じる損害については,事後的に回復可能な経済的損失にすぎない。
(3)したがって,本件各命令により生ずる重大な損害を避けるための緊急の必要があるとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
一件記録によれば,以下の事実が一応認められる。
(1)申立人の事業年度は1月1日から12月31日であり,平成28年度から平成30年度までの総売上高及び活性炭売上高(千円以下切捨て)は,次のとおりであった(疎甲5,疎乙3)。
平成28年度(第63期)
総売上高 ■■■■■■■■■円
活性炭売上高   ■■■■■■■■円
平成29年度(第64期)
総売上高     ■■■■■■■■■円
活性炭売上高    ■■■■■■■■円
平成30年度(第65期)
総売上高     ■■■■■■■■■円
活性炭売上高    ■■■■■■■■円
(2)申立人の平成28年度から平成30年度までの現預金(定期預金を除く。)及び経常利益の額(千円以下切捨て)は,次のとおりである(疎甲15)。
平成28年度(第63期)
現預金     ■■■■■■■■円
経常利益     ■■■■■■■円
平成29年度(第64期)
現預金     ■■■■■■■■円
経常利益     ■■■■■■■円
平成30年度(第65期)
現預金     ■■■■■■■■円
経常利益     ■■■■■■■円
(3)相手方は,平成29年2月21日,本件各命令に係る被疑事実の調査のため,申立人等に対する立入検査(以下「本件立入検査」という。)を行った。本件立入検査が行われたことについては,同日,全国紙等によって報道された。(疎甲6)
(4)申立人は,本件立入検査の当時,取引先メーカー11社から活性炭を仕入れ,地方公共団体や民間企業向けに販売を行う小売業者に販売するという卸業を営んでいた(疎甲5)。
申立人は,平成29年3月から5月までの間に,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
2 本件各命令により生ずる重大な損害を避けるための緊急の必要の存否について
(1)行政事件訴訟法25条2項本文は,処分の取消しの訴えの提起があった場合において,処分,処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは,裁判所は,申立てにより,決定をもって,処分の効力等の全部又は一部の停止をすることができると定めている。そして,同条3項は,裁判所は,重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮するものとし,損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとすると定めている。
そこで,本件各命令によって,申立人に重大な損害が生じ,これを避けるため緊急の必要があるといえるかについて検討する。
(2)ア この点,申立人は,本件各排除措置命令を履行することによる信用毀損により,活性炭メーカーによる本件取引停止等が永続化,固定化されるおそれがあり,申立人の存立に重大な影響を及ぼすなどと主張する。
イ しかし,一件記録を精査しても,本件各排除措置命令によって,新たな信用毀損が生じるだとか,本件取引停止等が永続化,固定化されるおそれが高いとかの事実を認めるに足りる的確な疎明資料はない。かえって,前記前提事実((2),(3))及び認定事実((4))によれば,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■そうすると,本件各排除措置命令の効力を停止したからといって,本件立入検査をきっかけとしたといえる本件取引停止等が解消されるともいえず,逆に,同命令を履行したからといって,そのことのみから申立人に新たな信用毀損が生じるとか,本件取引停止等が永続化,固定化されるとかいうこともできない。また,申立人は,■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を認めるに足りる疎明資料はない。そうすると,本件各排除措置命令を履行することによって新たな信用毀損が生じるなどということもできない。
ウ 加えて,前記前提事実((1)ア)及び認定事実((1),(2))によれば,申立人の総売上高は,本件立入調査がされた平成29年度(第64期)以降も,約■■■■円(同期),約■■■■円(平成30年度第65期)という巨額のものであり,しかも,平成30年度(第65期)においてさえ,経常利益が約■■円,定期預金を除く現預金額が約■■■円にもなっている。そして,本件において,申立人が本件取引停止等をしている会社以外の活性炭メーカーから活性炭等を入手することが困難であることをうかがわせる疎明資料もない。そうすると,申立人の平成28年度(第63期)における活性炭売上高が総売上高の約■■%を占め,本件取引停止等によって活性炭売上高が約■■■円(同期)から約■■■円(平成30年度第65期)に急激に減少していること,申立人が取引先メーカー11社から仕入れていた活性炭以外の薬品の取引(売上高)が,平成28年度■■■■■■■■■■■■■■■に比して■■■■%(■■■■■円)にまで落ち込んでいること(疎甲5)を踏まえても,本件取引停止等が継続するからといって,経済的損失があることはともかく,申立人が倒産するといった事後的に回復不可能な損害が生じ,その存立に重大な影響を及ぼすことになるから,本件各命令の効力を停止する緊急の必要があるとまでいうことはできない。
エ また,申立人は,本件各排除措置命令を履行することにより,数多くの通知先から,申立人が独禁法違反行為を行っていたこと,特に本件東日本排除措置命令については,申立人が違反行為の首謀者ないし主導的な役割を果たしたことを自認するものと受け取られるなどと主張する。
この点,前記前提事実((2),(3))及び審尋の全趣旨によれば,本件各排除措置命令は,申立人に対し,供給予定者を決定し,供給予定者が申立人を介して供給することができるようにする行為を取りやめていることを確認することを取締役会で決議するなどし,これを地方公共団体や取引先の販売事業者等に通知することを求めており,通知先は≪通知先の数≫以上になる。しかし,一件記録上,そのような通知を行った場合,通知先が,申立人についてどのように受け止めることになるかを認めるに足りる的確な疎明資料はない。しかも,申立人は,本件各排除措置命令を履行するに際し,通知先に対し,本案訴訟(取消訴訟)を提起していることを同時に通知したり,ウェブサイトで公表したりすることも妨げられないのであるから,そのような措置を採った場合に,なお通知先が申立人指摘の如く違反行為を自認したなどと受け止めるともいえず,既に報道がされている(前提事実(4))以上に,新たな信用毀損が生じるということもできない。
オ そうすると,申立人の前記主張は,にわかに採用することがでない。
(3)次に,申立人は,本件各課徴金納付命令の申立人に係る部分の履行により,申立人が支払うべき合計1億9426万円の多額の課徴金納付の負担が,申立人の存立に重大な影響を及ぼすとも主張する。
しかし,同納付による損害は,事後的に回復可能な経済的損害であり,しかも,申立人が本件各課徴金納付命令を取り消す旨の確定判決を得れば,納付した課徴金相当額は還付されるものである(民法703条)。そうすると,上記の負担を考慮しても,当該損害の性質に加え,前記認定説示の申立人の平成29年度(第64期)以降の総売上高,経常利益,現預金額を踏まえると,本件各課徴金納付命令によって,申立人の存立自体に直ちに重大な影響を及ぼすから,本件各命令の効力を停止する緊急の必要があるということはできない。
申立人の前記主張も採用することができない。
(4)よって,本件において,本件各命令の履行により生ずる重大な損害を避けるための緊急の必要があるとは認められない。
3 結論
以上によれば,本件申立ては理由がないから,これを却下することとし,主文のとおり決定する。

令和2年3月27日

東京地方裁判所民事第8部
裁判長裁判官 岩井直幸
裁判官 畦地英稔
裁判官 森﨑なつき

別紙1
1 申立人を含む12社(別表中「排除措置命令(東日本)名宛人」欄に「○」の記載がある会社)は,それぞれ,次の事項を,取締役会(株式会社サンワにあっては株主総会)において決議しなければならない。
(1)東日本地区に所在する地方公共団体が入札等の方法により発注する浄水場向けの活性炭(疎甲1別紙1。以下「特定活性炭」という。)について,上記12社及びその他の4社(別表中,上記同欄に「△」の記載がある会社)が,遅くとも平成25年10月24日以降,共同して行っていた,供給予定者(自社の活性炭を供給すべき者をいう。以下に同じ。)を決定し,供給予定者が申立人を介して供給できるようにする行為を取りやめていることを確認すること
(2)今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,上記浄水場(疎甲1別紙1の表の「施設名」欄記載の施設。以下「東日本地区の特定浄水場等」という。)向けの活性炭について,供給予定者を決定せず,自主的に供給すること‘
2 上記12社は,それぞれ,前項に基づいて採った措置を,自社を除く11社に通知するとともに,東日本地区に所在する地方公共団体,自社の取引先である特定活性炭の販売業者等及び遅くとも平成25年10月24日以降に,特定活性炭の入札等に参加していた販売業者等のうち自社が供給する活性炭を取り扱う者に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,相手方の承認を受けなければならない。
3 上記12社は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,東日本地区の特定浄水場等向けの活性炭について,供給予定者を決定してはならない。
4 上記12社は,それぞれ,第1項及び第2項に基づいて採った措置を速やかに相手方に報告しなければならない。

別紙2
1 申立人を含む8社(別表中「排除措置命令(近畿)名宛人」欄に「○」の記載がある会社)は,それぞれ,次の事項を取締役会(株式会社サンワにあっては,株主総会)において決議しなければならない。
(1)近畿地区に所在する地方公共団体が入札の方法により発注する浄水場向けの活性炭(疎甲2別紙1。以下「特定粒状活性炭」という。)について,上記8社及びその他の3社(別表中,上記同欄に「△」の記載がある会社)が,遅くとも平成25年3月22日以降,共同して行っていた,供給予定者を決定し,供給予定者が申立人を介して供給できるようにする行為を取りやめていることを確認すること
(2)今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,上記浄水場(疎甲2別紙1の表の「施設名」欄記載の施設。以下,「近畿地区の特定高度浄水処理施設」という。)向けの粒状活性炭について,供給予定者を決定せず,自主的に供給すること
2 上記8社は,それぞれ,前項に基づいて採った措置を,自社を除く7社に通知するとともに,近畿地区に所在する地方公共団体,自社の取引先である特定粒状活性炭の販売業者等及び遅くとも平成25年3月22日以降に,特定粒状活性炭の入札等に参加していた販売業者等のうち自社が供給する粒状活性炭を取り扱う者に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,相手方の承認を受けなければならない。
3 上記8社は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,近畿地区の特定高度浄水処理施設向けの粒状活性炭について,供給予定者を決定してはならない。
4 上記8社は,それぞれ,第1項及び第2項に基づいて採った措置を速やかに相手方に報告しなければならない。




注釈 《 》及び■■■部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

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