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㈱高島屋による課徴金納付命令取消請求控訴事件

独禁法7条の2
東京高等裁判所第3特別部

令和2年(行コ)第14号

判決

令和2年11月19日

大阪市中央区難波5丁目1番5号
控訴人          株式会社髙島屋
同代表者代表取締役    ≪ 氏名 ≫
同訴訟代理人弁護士    長澤 哲也
同            石井  崇
同            小田 勇一
同            立村 達哉
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被控訴人         公正取引委員会
同代表者委員長      古谷 一之
同指定代理人       南  雅晴
同            三好 一生
同            石川 雅弘
同            古田 智裕
同            牧内 佑樹
同            藤田 千陽
同            河﨑  渉
同            櫻井 裕介
同            山下  剛
同            樋田 高文
同            川口菜摘子
同            前田 健登

主          文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人に関する部分を取り消す。
2 被控訴人が平成30年10月3日付けで控訴人に対してした課徴金納付命令(平成30年(納)第44号)のうち1762万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
第2 事案の概要
1 控訴人は,一審相原告株式会社阪急阪神百貨店及び他の同業の事業者4社と共同して,その販売する中元や歳暮などの贈答用の商品(以下「優待ギフト」という。)の配送に係る役務を顧客に対して提供する際の送料(以下「優待ギフト送料」という。)を引き上げる旨の合意をしたところ,この行為は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(令和元年法律第45号による改正前のもの。以下「独占禁止法」という。)2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法3条に違反し,かつ,独占禁止法7条の2第1項1号に規定する役務の対価に係るものであるとして,被控訴人が,控訴人に対し,上記行為の実行期間における売上額に同項本文所定の売上額に乗ずる割合である課徴金算定率100分の10を乗ずるなどして算定された課徴金5876万円の国庫への納付を命じた(以下「本件課徴金納付命令」という。)。
本件は,控訴人が,被控訴人に対し,課徴金の算定において適用されるべき課徴金算定率は100分の3であり,これを超える部分は違法であると主張して,本件課徴金納付命令のうち1762万円を超える部分の取消しを求めた事案である。
原審は控訴人の請求を棄却し,控訴人が本件控訴を提起した。
2 前提事実,争点及び当事者の主張は,次のとおり補正し,次項に当審における控訴人の補充主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第2の2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
⑴ 原判決4頁1行目の「原告㈱阪急阪神百貨店」の次に「(以下,控訴人と併せて「控訴人ら」という。)」を加える。
⑵ 同4頁13行目の「いう。)。」の次に「控訴人の場合,この優待ギフト送料は,配送先が目本国内であれば,一部の地域を除き,原則として一律定額の料金としている。」を加える。
⑶ 同5頁4・5行目の「原告らに」を「控訴人に」と改める。
⑷ 同5頁7行目の「原告㈱阪急阪神百貨店」から同頁13行目の「ついては,」までを削る。
⑸ 同7頁3行目の「原告らが」を「控訴人が」と改める。
⑹ 同7頁18行目の「原告らの」を「控訴人の」と改め,同貢19行目冒頭から同頁20行目末尾までを削り,同頁21行目の「(ア)」を「ア(ア)」と改める。
⑺ 同8頁22行目の「原告㈱阪急阪神百貨店の」から同頁24行目の「おける」までを削る。
⑻ 同9頁1行目の「それぞれ」及び同頁2行目の「いずれも」をいずれも削り,同行目の「当該各部分の」を「当該部分の」と改める。
⑼ 同9頁3行目冒頭から末尾までを肖り,同頁4行目の「(ア)」を「イ(ア)」と改める。
3 当審における控訴人の補充主張
⑴ 独占禁止法7条の2第1項が小売業について軽減された課徴金算定率を設定するに当たっては,事業所単位での産業分類を示す日本標準産業分類に準拠した業種の分類を基に実施された法人企業統計調査において,小売業の売上高営業利益率が2.28%であったことが基礎とされている。このような経緯から,違反行為に係る事業活動が同項の「小売業」に該当するか否かは,日本標準産業分類に準拠しつつ,小売業の本来的機能を踏まえ,実質的に判断すべきである。
また,上記軽減された課徴金算定率を設定した根拠は,卸売業や小売業の取引は商品を右から左に流通させることによりマージンを受けるという側面が強く,事業活動の性質上,売上高営業利益率も小さくなっている実態を考慮した点にあるのであるから,違反活動に係る事業活動が同項の「小売業」に該当するか否かは,実質的にみて小売業の機能に属するか否かという観点からも検討されるべきである。
以上から,違反行為に係る事業活動が同項の「小売業」に該当するか否か(業種認定)は,同事業活動について日本標準産業分類に準拠して小売業に属するか否かを判断した上で,小売業の本来的機能を踏まえ,実質的に判断されるべきである。こうした判断枠組みは,従来の判決(東京高判平成18年2月24日・審決集52巻744頁,同平成26年9月26日・審決集61巻217頁。以下これらの判決を総称して「別件判決」という。)等で示された業種認定の解釈と共通のものである。
⑵ このように,独占禁止法7条の2第1項の軽減算定率を設定する際に参考とされた小売業又は卸売業の売上高営業利益率は,日本標準産業分類を基準として,事業者の主要な事業活動を対象に認定しているのであるから,同項の業種認定は,日本標準産業分類を基準に事業者の主要な事業活動を踏まえ事業者がどの業種に属するかという観点から判断されるべきである。そして,控訴人の主たる事業が百貨店事業であり,百貨店は日本標準産業分類上小売業に該当するから,かかる観点からも,本件に適用される課徴金算定率は3%とすべきである。
⑶ また,上記⑴について商品の配送という個別の事業活動に着目してみると,日本標準産業分類は,小売業を,商品の仕入れ及び商品の販売(商品の引渡しを含む。)に限っておらず,むしろ,より広範に,簡易包装等の販売に付随する活動や,商品の保管,配送等の管理・補助的経済活動をも含むものとして整理している。
加えて,小売業の本来的機能は仕入れた商品を消費者に販売することであるが,小売業の事業活動においては,商品の販売に付随して,商品の説明,販売した商品の包装,商品の配達・配送が行われるところ,これらはいずれも消費者に対する商品の販売という小売業の本来的機能に付随して行われるものであるから,これらの事業活動を小売業から除外する合理的理由はない。現に,被控訴人の審査例では,家電量販店について独占禁止法10条の「一定の取引分野」を画定するに当たり,家電製品を取り扱う小売業者のうち通販事業者については,家電量販店とは販売方法が異なり,多くの通販事業者は家電量販店と同等のアフターサービス等を提供しているわけではないことから,同事業者を除外したが,ここでも家電量販店における家電小売業の一内容としてアフターサービスが挙げられているのであり,役務であっても,消費者に対する商品の販売という小売業の本来的機能に付随するものであれば,「小売業」に含めて考えるべきことがうかがわれる。
さらに,「小売業」に該当するか否かを判断するに当たっては,違反に係る事業活動のみを表層的に見るのではなく,当該事業活動の全体を見てその実態を踏まえて判断すべきである。このような見地からすると,物を運ぶという点のみに着目すると,運送業における商品の配送も,小売業における商品の引渡しとしての配送も,同じに見えるため,当該部分だけを見ていてはその事業が何の業種であるかは判断することができず,当該事業活動全体を見て実質的に判断する必要があるのである。
以上のとおり,日本標準産業分類及び小売業の本来的機能のいずれの観点から考えても,事業者が自ら販売した商品の配送は,それが売買契約に基づく目的物の引渡しに当たる場合はもちろんのこと,小売業者のサービス競争の一環として消費者に対し商品を配送する場合であっても,「小売業」に含まれる事業活動である。
⑷ 以上を本件事業についてみると,民法484条によれば,「弁済をすべき場所について別段の意思表示」がある場合,債務者は債権者に対し当該場所において売買契約上の目的物の引渡義務を負うことになるとされているから,商品の配送は売買契約の目的物の引渡義務の履行であるので,本件事業は小売業の本来的機能に含まれると考えられる。
被控訴人は,顧客は優待ギフトの配送を利用しないことが可能で,控訴人は優待ギフトの代金とは別に顧客から優待ギフト送料を受け取っているから,優待ギフトの配送は売買契約とは別個の契約に基づくもので,本件事業は商品の販売行為の一部ではないと主張するけれども,優待ギフトは,歳暮期及び中元期における贈答用商品として購入され,購入者のほとんどが優待ギフト送料を支払って指定場所まで商品を郵送することを選択しており,店舗での受け取りを選択する者はわずかであるという実態を有するから,その配送は,販売契約に基づく商品の引渡しであるというべきである。このことは,例えば,実店舗を有する小売業者がインターネットを利用し商品を販売する場合において,商品の販売代金とは別に送料を定めるとともに,商品の店舗受取りというオプションを設定すると,当該小売業者がインターネットを通じて商品の購入者に対し当該商品を配送することも,商品の売買契約に基づく商品の引渡しとはいえなくなるが,インターネット販売は隔地者間の売買であり,売主が買主指定の場所において商品を引き渡すことは売買契約上当然に想定されているといえるから,この結論が甚だ妥当性を欠くことは明らかである。
⑸ 仮に,優待ギフトの配送は,売買契約による目的物引渡義務の履行といえなくても,全国一律の安価な割引送料により優待ギフトを配送するものであって,優待ギフトに付けられる様々な特典の一つとして,優待ギフトの販売に付随するものであることは明らかであるから,「小売業」に含まれるというべきである。
⑹ 以上のとおりであって,小売業とは,顧客に商品を説明するなどの接客をし,商品を購入する意思を示した顧客から代金を徴収し,商品を包装し,顧客の指定する場所で商品を引き渡すという一連の事業活動から成り立つものである。そうした小売業を構成する事業活動のうちの一部を有料のオプションとすることによって,当該部分が小売業から分離され,「小売業」に該当しなくなるとすることは,社会通念に照らして不当な解釈である。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も,控訴人の本件請求は理由がないと判断する。その理由は,次のとおり補正し,次項に当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第3の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
⑴ 原判決11頁11行目の「物流業者」を「物流事業者」と改める。
⑵ 同12頁14行目冒頭から同25行目末尾までを,次のとおり改める。
「⑴ 独占禁止法7条の2による課徴金納付命令は,事業者による不当な取引制限等の違反行為ごとに当該事業者に対してされるものであり,同条1項の「実行期間」は違反行為の実行としての事業活動が行われた期間をいい,同項の「売上額」も違反行為に係る商品又は役務の売上額とされている以上,これらの実行期間,商品又は役務及び売上額は,いずれも違反行為ごとに定まるものというべきであり,課徴金算定率を定めるに当たって,軽減された算定率が適用される小売業に当たるか否かを認定するについても,違反行為に該当する具体的な行為に係る事業活動の実態に即して判断すべきものと解するのが相当である。」
⑶ 同13頁4行目の「原告らに」を「控訴人に」と改める。
⑷ 同13頁21行目の「これらの」から同22行目の「照らせば,」までを「また,独占禁止法7条の2第1項において,課徴金算定率を原則として10%としつつ,小売業及び卸売業についてこれより軽減した算定率を設定した趣旨は,卸売業や小売業の取引は,商品の同一性を保持したまま流通させることによりマージンを取得するという側面が強く,事業活動の性質上,売上高に対する営業利益率も小さくなっている実態を考慮したものと解される。以上のような「小売業」という言葉の一般的な意味や他の法令における用例,さらに制度の趣旨を考慮すれば,」と改める。
⑸ 同13頁24行目の「提供」の次に「に係る事業」を加える。
⑹ 同14頁4行目の「原告らは」を「控訴人は]と改める。
⑺ 同14頁17行目の「当該小売業」を「同項本文の小売業」と改め,同行目の「提供」の次に「に係る事業」を加える。
⑻ 同14頁18行目の「当該小売業」を「同項本文の小売業」と,同頁19行目の「趣旨を」から同行目の「解する」までを「趣旨が控訴人の主張するとおりのものである」とそれぞれ改める。
⑼ 同14頁22行目の「原告㈱阪急阪神百貨店」から同頁23行目の「おいては」までを削る。
⑽ 同15頁1行目の「本件業務」を「本件事業に係る業務」と,同頁2・3行目の「できない」から同行目の「援用する」までを「できない。なお,控訴人の」とそれぞれ改め,同頁7行目の「照らし,」の次に「本件事業がそのような債権の販売であるとは認められず,」を加え,同頁8行目の「ものである。)」を削り,同行目の「原告らの」を「控訴人の」と改める。
⑾ 同15頁15行目及び21行目の「原告らの」をいずれも「控訴人の」と改める。
⑿ 同16頁12行目の「この」から同頁14行目末尾までを「日本標準産業分類は,事業所単位で当該事業所全体の業種区分を定めることに用いられるものである(甲B11の1)のに対し,課徴金算定率を定めるに当たって小売業に当たるか否かを認定するについては,当該事業所全体の事業活動ではなく,違反行為に該当する具体的な行為に係る事業活動の実態に即して判断すべきものであることは,前示のとおりであるから,両者は趣旨・目的を異にしているのであって,日本標準産業分類において配送に係る役務の提供が小売業に含まれるとされていることをもって,前示の判断を左右するものとはいえない。」と改める。
2 控訴人の当審における補充主張について
⑴ 控訴人は,独占禁止法7条の2第1項が小売業について軽減された算定率を設定したのは,日本標準産業分類に準拠した業種の分類を基に実施された法人企業統計調査の結果に基づくから,同項の「小売業」に該当するか否かは,日本標準産業分類に準拠しつつ,小売業の本来的機能を踏まえ,実質的に判断すべきである旨,また,日本標準産業分類は,小売業を,商品の仕入れ及び商品の販売(商品の引渡しを含む。)に限っておらず,むしろ,より広範に,簡易包装等の販売に付随する活動や,商品の保管,配送等の管理・補助的経済活動をも含むものとして整理している旨主張する。
しかし,日本標準産業分類は,事業所単位で当該事業所全体の業種区分を定めることに用いられるものであるのに対し,課徴金算定率を定めるに当たって小売業に当たるか否かを認定するについては,違反行為に該当する具体的な行為に係る事業活動の実態に即して判断すべきものであるから,両者は趣旨・目的を異にし,日本標準産業分類において配送に係る役務の提供が小売業に含まれるとされていることをもって,独占禁止法7条の2第1項本文の小売業に役務の提供に係る事業は含まれないとの判断を左右するものとはいえないことは,前記1説示のとおりである。控訴人の主張は採用することができない。
⑵ 控訴人は,独占禁止法7条の2第1項において小売業について軽減された算定率を設定した根拠は,小売業の取引は商品を右から左に流通させることによりマージンを受けるという側面が強く,事業活動の性質上売上高営業利益率も小さくなっている実態を考慮した点にあるのであるから,同項の「小売業」に該当するか否かは,実質的にみて小売業の機能に属するか否かという観点からも検討されるべきである旨主張する。
しかし,同項の「小売業」は,「小売業」という言葉の一般的な意味や他の法令における用例,さらに制度の趣旨を考慮すれば,専ら商品を卸売業者等から買い入れて,その同一性を保持したまま消費者に販売する事業を意味するものであり,役務の提供に係る事業は含まれないと解するのが相当であること,本件事業のうち物流事業者が行うものは優待ギフトの包装以降の役務であり,控訴人と各物流事業者との間で運送業務委託契約が締結されていることから,控訴人は物流事業者に対し控訴人が顧客に対して行うべき本件事業に係る業務の一部を委託したにすぎないというべきであって,役務を買い入れて同一性を維持したまま顧客に提供するものと解することはできないことは,前記1説示のとおりである。控訴人の主張する事情は,前記判断を左右するとはいえない。控訴人の主張は採用することができない。
⑶ 控訴人は,違反行為に係る事業活動が独占禁止法7条の2第1項の小売業に該当するか否かは,同事業活動について日本標準産業分類に準拠して小売業に属するか否かを判断した上で,小売業の本来的機能を踏まえ,実質的に判断するという判断枠組みは,別件判決で示された業種認定の解釈と共通のものであると主張する。
しかし,別件判決の事案は,いずれも,問題とされた業種が形式的には小売業に該当することを前提として,形式的には事業活動の内容が商品を第三者から購入して販売するものであっても,実質的にみて卸売業又は小売業の機能に属しない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情があるか否かが主要な争点となった事案であるのに対し,本件は,本件事業が小売業に当たるか否かが争われている事案であるから,別件判決は,本件とは事案を異にするものというべきである。控訴人の主張は採用することができない。
⑷ 控訴人は,小売業の事業活動においては,商品の販売に付随して,販売した商品の包装,商品の配達・配送等が行われるところ,これらはいずれも消費者に対する商品の販売という小売業の本来的機能に付随して行われるものであるから,これらの事業活動も小売業に含まれる旨主張する。
しかし,独占禁止法7条の2第1項の課徴金算定率を定めるに当たって,軽減された算定率が適用される小売業に当たるか否かを認定するについては,違反行為に該当する具体的な行為に係る事業活動の実態に即して判断すべきものと解するのが相当であること,小売業には役務の提供に係る事業は含まれないと解するのが相当であること,本件事業は,優待ギフトの配送に係る役務の提供を内容とするものであり,商品を仕入れてこれを販売する事業であるということはできないから,同項に規定する小売業に当たるということはできないことは,前記1説示のとおりである。本件事業が,消費者に対する商品の販売という小売業の本来的機能に付随して行われるものであるとしても,本件事業の内容が前示のとおりのものである以上,上記判断を左右するとはいえない。控訴人の主張は採用することができない。
この点に関連して,控訴人は,被控訴人の審査例では,家電量販店について独占禁止法10条の「一定の取引分野」を画定するに当たり,家電量販店における家電小売業の一内容としてアフターサービスが挙げられているのであり,役務であっても消費者に対する商品の販売という小売業の本来的機能に付随するものであれば,「小売業」に含めて考えるべきことがうかがわれる旨主張する。
しかし,控訴人の指摘する審査例は,独占禁止法10条にいう「一定の取引分野」に関する事例について,その画定のために小売業者がどのような事業活動を業として行うものであるかを検討したものであり,独占禁止法7条の2第1項の小売業に役務の提供に係る事業が含まれるか否かを判断する場合の「小売業」の解釈とは趣旨・目的を異にするものと解される。控訴人の主張は採用することができない。
⑸ 控訴人は,弁済をすべき場所について別段の意思表示がある場合,債務者は債権者に対し当該場所において売買契約上の目的物の引渡義務を負うことになるとされているから(民法484条),商品の配送は売買契約の目的物の引渡義務の履行であるので,本件事業は小売業の本来的機能に含まれると主張する。
しかし,本件事業は,控訴人が優待ギフトを購入する顧客からその配送の希望を受けた場合に,当該顧客から優待ギフト送料を収受して,物流事業者に当該優待ギフトの配送を委託することにより,当該顧客に対し,優待ギフトの配送に係る役務を提供するものであること,本件事業に関して顧客が役務の提供を利用しないことが可能とされており,控訴人は優待ギフトの代金とは別に顧客から優待ギフト送料を受け取っていることを踏まえれば,顧客が優待ギフトの配送を希望した場合には,優待ギフトの販売に係る売買契約とは別に,控訴人と顧客との間で,顧客が購入した優待ギフトを贈り先に配送することを内容とする契約が成立しているというべきであることは,前記1説示のとおりである。本件事業に関し,上記の事情が存する以上,控訴人が営業する百貨店における売買契約に係る目的物の引渡義務の履行としてされているものとは解されないし,また,購入者のほとんどが優待ギフト送料を支払って指定場所まで商品を郵送することを選択しているとしても,上記判断を左右するとはいえない。控訴人の主張は採用することができない。
また,控訴人は,実店舗を有する小売業者がインターネットを利用し商品を販売する場合において,商品の販売代金とは別に送料を定めるとともに,商品の店舗受取りというオプションを設定すると,当該小売業者がインターネットを通じて商品の購入者に対し当該商品を配送することも,商品の売買契約に基づく商品の引渡しとはいえなくなり,この結論は妥当性を欠くと主張するけれども,前示の判断を左右するものとはいえない。控訴人の主張は採用することができない。
⑹ 控訴人は,仮に,優待ギフトの配送が目的物引渡義務の履行といえなくても,優待ギフトの配送は,全国一律の安価な割引送料により優待ギフトを配送するものであって,優待ギフトに付けられる様々な特典の一つとして,優待ギフトの販売に付随するものであることは明らかであるから,上記優待ギフトの配送も「小売業」に含まれると主張する。
しかし,本件事業に関し,顧客が優待ギフトの配送を希望した場合には,優待ギフトの販売に係る売買契約とは別に,控訴人と顧客との間で顧客が購入した優待ギフトを贈り先に配送することを内容とする契約が成立しているというべきであること,本件事業それ自体が利益を上げていないことは,控訴人が優待ギフトの販売を促進するために配送に係る役務の対価を安価に設定した結果にすぎないから,本件事業を優待ギフトの販売の付随的事業として一体のものと評価することの根拠となり得るものではないことは,前記1説示のとおりである。控訴人の主張は採用することができない。
⑺ 控訴人は,小売業とは,顧客に商品を説明するなどの接客をし,商品を購入する意思を示した顧客から代金を徴収し,商品を包装し,顧客の指定する場所で商品を引き渡すという一連の事業活動から成り立つものであるが,そうした小売業を構成する事業活動のうちの一部を有料のオプションとすることによって,当該部分が小売業から分離され,「小売業」に該当しなくなるとすることは,社会通念に照らして不当な解釈である旨主張する。
しかし,課徴金算定率を定めるに当たって小売業に当たるか否かを認定するについては,違反行為に該当する具体的な行為に係る事業活動の実態に即して判断すべきものであること,独占禁止法7条の2第1項本文の小売業に役務の提供に係る事業は含まれないと解するのが相当であること,本件事業は優待ギフトの配送に係る役務の提供を内容とするものであり,商品を仕入れてこれを販売する事業であるということはできないから,同項に規定する小売業に当たるということはできないこと,優待ギフトの販売に係る売買契約とは別に,控訴人と顧客との間で,顧客が購入した優待ギフトを贈り先に配送することを内容とする契約が成立しているというべきであることは,前記1説示のとおりである。控訴人の主張する事情は,上記判断を左右するものとはいえない。控訴人の主張は採用することができない。
3 結論
よって,本件請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

令和2年11月19日

東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官 後藤  博
裁判官    飯畑 勝之
裁判官     関 述之

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