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独禁法3条後段,独禁法7条2
東京高等裁判所第3特別部
令和2年(行コ)第277号
令和2年12月3日
長野県伊那市西箕輪1938番地1
控訴人 ルビコン株式会社
同代表者代表取締役 ≪氏名≫
同訴訟代理人弁護士 長谷川洋二
京都市中京区烏丸通御池上る二条殿町551番地
控訴人 ニチコン株式会社
同代表者代表取締役 ≪氏名≫
同訴訟代理人弁護士 碩 省三
同 日詰栄治
同 茂野祥子
同 寺井昭仁
同 村上拓
同 武井祐生
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被控訴人 公正取引委員会
同代表者委員長 古谷一之
同指定代理人 南雅晴
同 三好一生
同 齋藤隆明
同 平野朝子
同 平塚理慧
同 石川雅弘
同 栗田盛太郎
同 西村修
同 牧内佑樹
同 櫻井裕介
同 津田和孝
同 服部純
同 山田恵里花
主 文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 控訴人ルビコン株式会社(以下「控訴人ルビコン」という。)
⑴ 原判決中控訴人ルビコンに関する部分を取り消す。
⑵ 被控訴人が控訴人ルビコンに対し平成28年3月29日付けでした排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第5号)を取り消す。
⑶ 被控訴人が控訴人ルビコンに対し平成28年3月29日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会平成28年(納)第21号)を取り消す。
2 控訴人ニチコン株式会社(以下「控訴人ニチコン」という。)
⑴ 原判決中控訴人ニチコンに関する部分を取り消す。
⑵ 被控訴人が控訴人ニチコンに対し平成28年3月29日付けでした排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第5号)を取り消す。
⑶ 被控訴人が控訴人ニチコンに対し平成28年3月29日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会平成28年(納)第19号)を取り消す。
⑷ 被控訴人が控訴人ニチコンに対し平成28年3月29日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会平成28年(納)第23号)を取り消す。
第2 事案の概要
1 被控訴人は,いずれもアルミニウム箔表面に形成する酸化皮膜を誘電体とするコンデンサのうち陰極に導電性ポリマーを用いるものを除くもの(以下,この定義に当てはまるコンデンサを「アルミ電解コンデンサ」という。)の製造販売業等を営む控訴人ルビコン,控訴人ニチコン及び日本ケミコン株式会社(以下「日本ケミコン」といい,これら3社を併せて「アルミ3社」という。)が,遅くとも平成22年2月18日までに,共同して,アルミ電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨の合意(以下「本件アルミ合意」という。)をし,次いで,アルミ電解コンデンサの製造販売業等を営んでいた日立工一アイシー株式会社(以下「日立工一アイシー」といい,同社とアルミ3社とを併せて「アルミ4社」という。)が,遅くとも同年3月2日までに本件アルミ合意に加わり,公共の利益に反して,日本国内におけるアルミ電解コンデンサの販売分野の競争を実質的に制限したものであり,この行為が,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」といい,特に断りのない限り令和元年法律第45号による改正前のものをいう。)2条6項の「不当な取引制限」に該当し,同法3条に違反することを理由として,平成28年3月29日,控訴人ら及び日本ケミコンに対し,排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第5号。以下「本件アルミ排除措置命令」という。)を行うとともに,上記行為が同法7条の2第1項1号の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当することを理由として,控訴人らに対し,課徴金納付命令(控訴人ルビコンにつき公正取引委員会平成28年(納)第21号(以下「本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ルビコン)」という。),控訴人ニチコンにつき公正取引委員会平成28年(納)第19号(以下「本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ニチコン)」という。))を行った。
また,被控訴人は,いずれも希少金属であるタンタル粉体の焼結体表面に形成する酸化皮膜を誘電体とするコンデンサのうち陰極に導電性ポリマーを用いるものを除くもの(以下,この定義に当てはまるコンデンサを「タンタル電解コンデンサ」という。)の製造販売業等を営む控訴人ニチコン,松尾電機株式会社(以下「松尾電機」という。),NECトーキン株式会社(以下「NECトーキン」という。)及びホリストンポリテック株式会社(以下「ホリストン」といい,これら4社を「タンタル4社」という。)が,遅くとも平成22年6月17日までに,共同して,タンタル電解コンデンサの販売価格を引き上げる旨の合意(以下「本件タンタル合意」という。)をし,公共の利益に反して,日本国内におけるタンタル電解コンデンサの販売分野の競争を実質的に制限したものであり,この行為が,独禁法2条6項の「不当な取引制限」に該当し,同法3条に違反することを理由として,平成28年3月29日,松尾電機,NECトーキン及びホリストンに対し,排除措置命令(公正取引委員会平成28年(措)第6号。以下「本件タンタル排除措置命令」という。)を行うとともに,上記行為が同法7条の2第1項1号の「商品又は役務の対価に係るもの」に該当することを理由として,控訴人ニチコン及び松尾電機に対し,課徴金納付命令(控訴人ニチコンにつき公正取引委員会平成28年(納)第23号(以下「本件タンタル課徴金納付命令(控訴人ニチコン)」という。),松尾電機につき公正取引委員会平成28年(納)第22号(以下「本件タンタル課徴金納付命令(松尾電機)」という。))を行った。
本件は,控訴人らが,控訴人らに対する上記各命令(以下「本件各命令」という。)はその処分要件を欠く違法なものであるなどと主張して,控訴人ルビコンが本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ルビコン)の取消しを,控訴人ニチコンが本件アルミ排除措置命令,本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ニチコン)及び本件タンタル課徴金納付命令(控訴人ニチコン)の取消しをそれぞれ求めた事案である。
原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したため,これを不服とする控訴人らがそれぞれ控訴をした。
なお,原審において,松尾電機は,本件各命令のうち本件タンタル排除措置命令及び本件タンタル課徴金納付命令(松尾電機)の各一部について取消しを求め,同取消請求に係る訴え(東京地方裁判所平成28年(行ウ)第448号)が本件に併合して審理されていたところ,原審は,同社の請求の一部を認容する(タンタル電解コンデンサのうち電解質(陰極)として電解液を用いるもの(湿式タンタル電解コンデンサ)について上記各命令をした部分を取り消し,同社のその余の請求を棄却する)旨の判決をしたが,これに対し,同社及び被控訴人はいずれも控訴をしなかった。
2 前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり原判決を補正し,次項のとおり当審における控訴人らの補充主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,松尾電機の請求に関する部分を除く。)。なお,略称は,特に断らない限り,原判決の例による。
(原判決の補正)
⑴ 原判決中「原告松尾電機」とあるのをいずれも「松尾電機」と改める。
⑵ 原判決6頁20行目の「海外事業部」を「海外営業部」と,7頁4行目の「営業推進本部」を「販売推進本部」とそれぞれ改める。
⑶ 原判決11頁20行目の「7割」を「8割」と,21行目の「8割」を「8割5分」と,それぞれ改める。
⑷ 原判決14頁11行目の「原告ルビコン」から12行目の「同法7条2項に基づき,」までを,「アルミ3社に対し,同法7条2項に基づき,別紙主文記載の内容の」と改める。
3 当審における控訴人らの補充主張
⑴ 控訴人ルビコンの主張
ア 原判決は,アルミ電解コンデンサに関し,控訴人ルビコンが平成21年12月23日に日本国内工場向けの取引について需要者等ごとの販売総額をその仕入総額以上とすることを目標として,原則平成22年4月1日納入分から販売価格の引上げを申し入れて交渉することを決定し,その後,その旨日本ケミコンの担当者に伝えたとの事実を認定した上,控訴人ルビコンにおける本件アルミ合意の内容は,「アルミ電解コンデンサに関し,日本国内工場向けの取引について需要者等ごとの販売総額をその仕入総額以上とすること」に尽きるのであり,これをアルミ4社中の他社との間で認識ないし予測し,これと歩調を揃える意思があったとした。しかし,そうであれば,課徴金算定の対象となる「当該商品」(独禁法7条の2第1項)は,日本国内工場向けの取引について需要者等ごとの販売総額をその仕入総額以上とすることとされたアルミ電解コンデンサ,すなわち,日系需要者について需要者等ごとの販売総額がその仕入総額以上とすることとされたアルミ電解コンデンサとなるのが,その論理的帰結である。しかるに,原判決は,実行期間内に控訴人ルビコンが販売した全てのアルミ電解コンデンサの売上額を基礎に本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ルビコン)の課徴金の額を算定した。したがって,この算出方法は違法というべきであるから,同命令は取り消されなければならない。
イ 原判決が控訴人ルビコンの上記主張を退ける根拠として挙げる,①控訴人ルビコンの平成22年4月13日付けの社内指示(乙ア36の別紙7)及び②同年7月15日の社内指示(乙ア38の別紙2)並びに③これらの指示に基づく値上げ活動は,いずれも本件アルミ合意に基づく値上げ活動ではなく,同合意とは関係のない経済取引上の通常の値上げ行為である。
すなわち,原判決が上記①の根拠として挙げる乙ア36号証の別紙7は,日系の海外需要者と海外の外資系の需要者に対する値上げの指示であって,本件アルミ合意の対象である日系需要者に対するものではない,上記②についても,平成22年7月15日の大型ストロボ用のアルミ電解コンデンサの値上げ指示以前の同年6月17日のマーケット研究会において,控訴人ルビコンは,日系需要者等に対する不採算品の値上げは一定の成果を得て終了した旨を報告しており,そもそも大型ストロボ用のアルミ電解コンデンサについては,ほぼ控訴人ルビコンと日立工一アイシーの2社のみが製造・販売していた状態であり,従前から両社の間で価格調整をしてきていたのであるから,大型ストロボ用のアルミ電解コンデンサの販売価格の値上げ活動は,本件アルミ合意とは無関係である。
⑵ 控訴人ニチコンの主張
ア(ア) 日本ケミコンは,東日本大震災によりその傘下の工場が被災し,アルミ電解コンデンサの生産能力を喪失して新規の注文に応じられない状態が長期間続くことになったのであるから,大震災のあった平成23年3月11日において本件アルミ合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情が生じたというべきであるのに,震災発生から2か月余り後には震災直後に見られた市場の混乱状況は脱しつつあったなどとしてこれを認めなかった原判決の事実認定には誤りがある。そして,同日をもって本件アルミ合意は消滅したということになるから,それから除斥期間である5年が経過した後にされた本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ニチコン)は,いずれも違法なものであり,取り消されるべきである。
(イ) 仮にそうでないとしても,本件アルミ合意の相互拘束は,遅くとも日本ケミコンの社内で値下げを視野に入れた販売活動を行う方針が決定された平成23年8月19日以降消滅したとみるほかなく,同日を実行期間の終期とすべきであったのに,同社において同業他社との間でメリットのない値下げ合戦は避けるよう併せて指示があったことなどを理由に,同社が同日の時点で本件アルミ合意の相互拘束を離れて独自に事業活動を行ったとはいえないとした原判決は誤りである。そして,控訴人ニチコンの平成22年3月1日から平成23年8月19日までのアルミ電解コンデンサの総売上げは≪金額≫であり,その8パーセント相当額のうち1万円未満を切り捨てた金額は≪金額≫となる。したがって,本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ニチコン)のうち,同額を超えて課徴金の納付を命じる部分は,取消しを免れない。
イ 東日本大震災後のヘルプ要請に基づく取引は本件アルミ合意の対象ではないというべきであるから,①日本ケミコンの需要者等からの発注に対応した控訴人らは,本件アルミ合意に基づく値上げ活動により実現した販売価格を前提として,ヘルプ要請に基づく取引を行った,②ヘルプ要請に基づく取引を契機として本件アルミ合意に基づく値上げ活動が終了したといった事情を認めることはできず,控訴人ニチコンは,その後も日本ケミコンらと協調的な関係を保ちつつ,価格の維持を図るなどしていたとの原判決の認定は誤りである。したがって,本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ニチコン)について,平成23年3月12日から同年11月21日までの間のアルミ電解コンデンサの売上高のうち,ヘルプ要請に基づく取引により発生した売上げ増加分合計額≪金額≫は課徴金の算定基礎から除外すべきであり,当該売上げに基づいて課徴金の納付を命じる部分は取消しを免れない。
ウ ≪P≫は,本件アルミ合意の形成に関わるマーケット研究会に参加し,現に同業他社との間でアルミ電解コンデンサの価格方針等の情報交換を行っていたことが明らかとなっているほか,本件アルミ合意の前提となった共通認識が醸成されたと被控訴人が主張するATC会やCUP会等過去における同業他社との協調行為が行われた場にもすべて参加していたことは本件証拠からも明らかである。加えて,アルミ4社の担当者は≪P≫とも情報交換しながら協調して値上げを実施していたと明確に供述しており,さらには,≪P≫自身が,日本における同業他社との情報交換等を理由とした欧州競争当局による調査に対して,自らの違法行為を認めて制裁金の減免を求めるリニエンシーを申請しているほか,米国を始めとする海外の競争当局によりコンデンサに係るカルテル行為の当事者として処分を受けている。かかる事実を考慮すれば,≪P≫が本件アルミ合意の当事者とされるべきであったことは明らかであり,当然,アルミ電解コンデンサについて排除措置命令等の処分の対象となるべきであった。しかるに,被控訴人は,合理的な理由の説明もなく≪P≫を処分の対象から外したが,かかる判断には,裁量権の逸脱・濫用があり,恣意的な処分として平等原則に違反する違法があることは明らかであり,≪P≫について排除措置命令等を課さないことには裁量権の逸脱・濫用がある。したがって,本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ニチコン)は,取り消されるべきである。
また,控訴人ニチコンはこの点を明らかにすべく被控訴人の職員(《審査官X》)を証人申請したにもかかわらず,これを却下した原審の手続には,審理不尽の違法がある。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件アルミ排除措置命令,本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ルビコン),本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ニチコン)及び本件タンタル課徴金納付命令(控訴人ニチコン)にいずれも違法性は認められず,控訴人らの請求は理由がないと判断する。その理由は,次のとおり原判決を補正し,次項のとおり当審における控訴人らの補充主張に対する判断を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第3(アルミ電解コンデンサに関する当裁判所の判断)及び第4(タンタル電解コンデンサに関する当裁判所の判断)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,松尾電機の請求に関する部分を除く。)。
(原判決の補正)
⑴ 原判決中,「原告松尾電機」とあるのをいずれも「松尾電機」と,「原告ら」とあるのをいずれも「控訴人ら及び松尾電機」とそれぞれ改める。
⑵ 原判決51頁7行目の「,89」,53頁18行目の「及び日本ケミコン」及び54頁11行目の冒頭から14行目の末尾までをそれぞれ削除し,55頁11行目の「日本ケミコンは,」の後に「控訴人ニチコンの社内で販売価格の引上げの指示が出たことを受け,」を加え,12行目の「更に」を削除し,13行目の「乙ア84」の後に「,111」を加える。
⑶ 原判決56頁末行の「⑶」を「⑷」と改め,以下の項番号を繰り下げる。
⑷ 原判決63頁14行目の「≪L1≫に対し,」の後に「平成22年6月22日,」を,15行目の「≪L1≫は,」の後に「そのころ,」をそれぞれ加える。
⑸ 原判決64頁19行目の「原告ニチコンの」から23行目の「依頼した」までを次のとおり改める。
「 控訴人ニチコンの≪L1≫は,平成22年6月28日,同社の北関東営業所長から,≪AE≫株式会社向けの大型のアルミ電解コンデンサにつき,競合する控訴人ルビコンが販売価格の引上げに動いていないために控訴人ニチコンによる値上げ交渉が停滞しているとして,値上げ交渉をするよう控訴人ルビコンに対して働きかけをして欲しいと要請された」
⑹ 原判決74頁16行目の「同月8日」を「平成23年3月8日」と改める。
⑺ 原判決74頁16行目の末尾に改行して,次のとおり加える。
「⑺ 控訴人らのアルミ電解コンデンサの売上額
日本国内の需要者等に対する,控訴人ルビコンの平成22年4月1日から平成23年11月21日までのアルミ電解コンデンサの売上額(返品額を除く。)は,≪金額≫であり,控訴人ニチコンの平成22年3月1日から平成23年11月21日までのアルミ電解コンデンサの売上額(返品額等を除く。)は,≪金額≫であると認められる(乙A4,乙B14,弁論の全趣旨)。」
⑻ 原判決79頁13行目から14行目にかけての「日本ケミコン」及び80頁5行目の「日本ケミコン」を,いずれも「日立エーアイシー」と改める。
⑼ 原判決87頁23行目から24行目にかけての「乙第76号証・資料2」とあるのを「乙ア76の資料2」と改める。
⑽ 原判決88頁19目から20行目にかけての「前提として,ヘルプ要請に基づく」を「前提としつつ,本件アルミ合意に反しない範囲で各社独自の暫定的な価格判断を行い,ヘルプ要請に基づく」と改める。
⑾ 原判決90頁19行目「乙B5」とあるのを「乙B4」と改める。
⑿ 原判決93頁18行目の「部分的には」を「控訴人ルビコン及び控訴人ニチコンとの関係では」と改める。
⒀ 原判決95頁12行目から13行目にかけての「値下げの申入れをしていないことも認められる」を「本件アルミ合意の趣旨に反して値下げの申入れをしていたことを裏付ける事情は見当たらない」と改める。
⒁ 原判決99頁9行目の冒頭から16行目の末尾までを次のとおり改める。
「 しかしながら,証拠(甲B1,2,乙B1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ニチコン)を行うに先立ち,控訴人ニチコンに対し,本件アルミ排除措置命令及び本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ニチコン)の各案を示した上で,平成28年2月8日及び同年3月3日の両日,控訴人ニチコンに対する意見聴取を行った事実が認められるところ,上記各案には,本件アルミ合意の当事者及びその内容,同合意の成立及び消滅時期,同合意の成立を根拠付ける事実の概要等並びに課徴金額の算出過程等が記載されていた上,同両日,被控訴人の審査官等により,上記各案に沿って,予定される排除措置命令の内容,被控訴人の認定した事実及びその主要な証拠並びに納付を命じようとする課徴金の額,課徴金の計算の基礎及び課徴金に係る違反行為を立証する主要な証拠について説明がされたことが認められ,これらにより,アルミ電解コンデンサに関する上記各命令がされた根拠やその処分の対象となった取引の範囲は相当程度明らかであったから,本件アルミ合意は,少なくとも控訴人ニチコンが防御や反論をすることが可能な程度にその内容が特定されていたといえる。また,≪P≫を本件アルミ合意の当事者から除外することが不合理といえないことは前記⑸イに説示するとおりであるから,≪P≫を本件アルミ合意の当事者から除外する理由が明らかでないとして本件アルミ合意の内容が特定されていないということもできない。」
⒂ 原判決99頁20行目の末尾に改行して次のとおり加える。
「⑺ 小括
ア 以上によれば,事業者であるアルミ4社によってされた本件アルミ合意は,事業者が他の事業者と共同して対価を引き上げ,相互にその事業活動を拘束することにより,公共の利益に反して,日本国内のアルミ電解コンデンサの販売分野における競争を実質的に制限する(不当な取引制限)ものに当たるということができ,日本国内におけるアルミ電解コンデンサのアルミ3社の市場シェア(前提事実⑷ア),本件アルミ合意に至る経緯,その内容及び態様,実行期間並びにアルミ4社の現状等本件で認められる事実関係に照らすと,アルミ3社に対して排除措置命令をすることについて,特に必要があると認められる(独禁法7条2項)というべきである。
イ また,その売上額が課徴金納付命令における課徴金の計算の基礎となる「当該商品」(独禁法7条の2第1項)はアルミ電解コンデンサ全体とみるべきであることは,前記⑷に説示するとおりであり,各実行期間における控訴人らのアルミ電解コンデンサの売上額は,前記1⑺に記載したとおりである。
ウ 以上によれば,被控訴人が,控訴人らに対し,アルミ電解コンデンサの取引に関してした本件アルミ排除措置命令,本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ルビコン)及び本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ニチコン)は,いずれも適法であると認められる。」
⒃ 原判決114頁9行目の「48,」を削除し,116頁24行目の「午後7時」の後に「(現地時間午後5時)」を加え,117頁24行目の「乙19」を「乙イ19」と改める。
⒄ 原判決118頁23行目の末尾に改行して,次のとおり加える。
「⑹ 控訴人ニチコンのタンタル電解コンデンサの売上額
控訴人ニチコンの平成22年6月22日から平成23年10月18日までの日本国内の需要者等に対するタンタル電解コンデンサの売上額(返品額等を除く。)は,≪金額≫であるであると認められる(乙B14,弁論の全趣旨)。」
⒅ 原判決122頁26行目の「し,原告松尾電機」から123頁1行目の「主張を」まで,124頁5行目の「及び原告松尾電機」,125頁22行目の冒頭から127頁20行目の末尾まで,及び130頁2行目の冒頭から131頁の26行目の末尾までをいずれも削除し,127頁21行目の「ウ」を「イ」と,128頁14行目の「エ」を「ウ」とそれぞれ改める。
⒆ 原判決132頁22行目の「(ア)」及び133頁8行目の冒頭から23行目の末尾までをそれぞれ削除する。
⒇ 原判決134頁2行目の「送付し」を「提出し」と改め,135頁21行目の「午後7時」の後に「(現地時間午後5時)」を加える。
(21) 原判決136頁9行目の「湿式タンタル電解コンデンサ」から11行目の「できないが,」までを削除し,19行目の「主張し,」から21行目の「いずれの主張も」までを「主張するが,かかる主張を」と,22行目の「前記2⑵」を「前記⑵」と,23行目の「他に,」から26行目の末尾までを「他のマンガン品について「当該商品」から除外されていたことを裏付ける事情を認めるに足りる証拠はない。」とそれぞれ改める。
(22) 原判決137頁1行目の冒頭から138頁2行目の末尾までを削除し,3行目の「⑺」を「⑹」と改め,12行目の冒頭から19行目末尾までを次のとおり改める。
「 しかしながら,証拠(甲B3,乙B1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,本件タンタル課徴金納付命令(控訴人ニチコン)を行うに先立ち,控訴人ニチコンに対し,本件タンタル課徴金納付命令(控訴人ニチコン)の案を示した上で,平成28年2月8日及び同年3月3日の両日,控訴人ニチコンに対する意見聴取を行った事実が認められるところ,上記案には,本件タンタル合意の当事者,同合意の成立及び消滅時期,同合意の成立を根拠付ける事実の概要等並びに課徴金額の算出過程等が記載されていた上,同両日,被控訴人の審査官等により,上記案に沿って,課徴金の額,課徴金の計算の基礎及び課徴金に係る違反行為を立証する主要な証拠について説明がされたことが認められ,これらにより,本件タンタル課徴金納付命令(控訴人ニチコン)がされた根拠やその処分の対象となった取引の範囲は相当程度明らかであったといえるから,本件タンタル合意は,少なくとも控訴人ニチコンが防御や反論をすることが可能な程度にその内容が特定されていたといえる。」
(23) 原判決138頁23行目の末尾に改行して次のとおり加える。
「⑺ 小括
ア 以上によれば,事業者であるタンタル4社によってされた本件タンタル合意は,事業者が他の事業者と共同して対価を引き上げ,相互にその事業活動を拘束することにより,公共の利益に反して,日本国内のタンタル電解コンデンサ(ただし,マンガン品)の販売分野における競争を実質的に制限する(不当な取引制限)ものに当たるということができる。
イ また,その売上額が課徴金納付命令における課徴金の計算の基礎となる「当該商品」(独禁法7条の2第1項)はタンタル電解コンデンサのうちマンガン品全体とみるべきであることは,前記⑸に説示するとおりであり,控訴人ニチコンの実行期間におけるタンタル電解コンデンサの売上額は,前記1⑹に記載したとおりである。
ウ 以上によれば,被控訴人が,控訴人ニチコンに対し,タンタル電解コンデンサの取引に関してした本件タンタル課徴金納付命令(控訴人ニチコン)は,適法であると認められる。」
2 当審における控訴人らの補充主張に対する判断
⑴ 控訴人ルビコンの主張について
控訴人ルビコンは,実行期間内に控訴人ルビコンが販売した全てのアルミ電解コンデンサの売上額を基礎に本件アルミ課徴金納付命令(控訴人ルビコン)の課徴金の額を算定したのは違法であると主張する。すなわち,控訴人ルビコンは,その社内においても,同業他社に表明した内容についても,本件アルミ合意の内容は,「アルミ電解コンデンサに関し,日本国内工場向けの取引について需要者等ごとの販売総額をその仕入総額以上とすること」に尽きるのであって,それ以上にアルミ電解コンデンサ全体の値上げをすることではなかった旨主張する。
しかし,控訴人ルビコンにおいて,アルミ電解コンデンサの値上げを決定した当初の目標が日本国内工場向けの取引について需要者等ごとの販売総額をその仕入総額以上とすることにあったとしても,そのことと,その後控訴人ルビコンがアルミ4社中の他社との情報交換を行う中で,当初の目標とされた対象以外のアルミ電解コンデンサについても値上げ活動を行うこととし,アルミ電解コンデンサ全体を対象として本件アルミ合意をしたとの認定との間に矛盾があるとはいえない。そして,「不当な取引制限」(独禁法2条6項)という違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,違反行為を行った事業者等が,一定の商品を明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど,当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められない限り,課徴金算定の対象となる「当該商品」に含まれるというべきであることは当裁判所が補正の上引用する原判決(第3の2⑷ア)説示のとおりであるところ,控訴人ルビコンにおいて,日本国内工場向けの取引について需要者等ごとの販売総額をその仕入総額以上とすること以外にアルミ電解コンデンサの値上げ活動はしないといった意思表明等が明示的又は黙示的にされたと認めるべき証拠はなく,かえって,控訴人ルビコンは,①平成22年4月13日付けで社内に対し,日系需要者等(日本国内工場向けの取引)について,原則として,月商1000万円を超える顧客に対しては販売総額をその仕入総額以上とすること,月商1000万円以下の顧客に対しては需要者等ごとの粗利を5パーセント以上とすることを目標として,値上げ活動をするよう指示し,②同年7月15日社内に対し,カメラの大型ストロボ用のアルミ電解コンデンサにつき,材料費の高騰等を理由として,不採算品か否かを問わず,原則として一律15パーセント以上の販売価格の引上げを行うよう指示をし,③これらの指示に基づいて値上げ活動が行われたこと等の事実が認められることは,原判決(第3の2⑵イ(イ))に認定のとおりであり,本件アルミ合意の成立時に,それ以降の値上げ活動として,日系需要者等について,需要者等ごとのアルミ電解コンデンサの販売総額をその仕入総額以上にすることのみが念頭に置かれていたものとは認められないから,本件アルミ合意はアルミ電解コンデンサ全体が「当該商品」に含まれると解するのが相当である。
これに対し,控訴人ルビコンは,上記①の事実の根拠とされた乙ア第36号証の別紙7は,日系の海外需要者等や外資系の需要者等に対するものであって本件アルミ合意の対象である日系需要者等に対するものではなく,また,上記②の事実についても,カメラの大型ストロボ用のアルミ電解コンデンサにつき,販売価格の引上げを行うよう指示をした平成22年7月15日に先立つ同年6月17日のマーケット研究会において,控訴人ルビコンは日系需要者等に対する不採算品の値上げは一定の成果を得て終了した旨を報告しており,そもそも同アルミ電解コンデンサについては,ほぼ控訴人ルビコンと日立工一アイシーの2社のみが製造・販売している状態であり,従前から両社の間で販売価格の調整をしてきていたのであるから,同アルミ電解コンデンサの販売価格の値上げ活動は本件アルミ合意とは無関係である旨主張する。
しかし,上記①の事実については,控訴人ルビコンの主張する乙ア第36号証の別紙7では,「国内客先に於いても原則として上記とするが,客先の将来性,受注規模,受注シリーズ等勘案し,適宜指示をして下さい。(特に月商500万円以下の客先については全体の底上げを計ること)」と記載されているところであり,同別紙の記載が日系の海外需要者等や外資系の需要者等に対する指示に限られるとみることはできないし,また,上記②の事実については,当審が補正の上引用する原判決(第3の1⑷ツ)記載のとおり,控訴人ルビコンが指摘する平成22年6月17日のマーケット研究会において,控訴人ルビコンの≪N2≫は,併せて,当時は,日系顧客に対し,定格電圧が比較的高い製品を中心として,原材料価格の高騰を見越した交渉を実施中であることなどを報告していること,アルミ4社は,同研究会以降も,各社における値上げ活動の取組状況等を確認し合ったり,個々の需要者等に対する具体的な販売価格について話し合ったりしていたこと,同年7月15日の上記社内指示を受け,控訴人ルビコンの≪N1≫は,本件アルミ合意の実行期間中に,カメラの大型ストロボ用のアルミ電解コンデンサにつき,日立エーアイシーの≪O1≫との間で,当該製品の販売価格の引上げにつき協議するとともに,需要者等に提示する値上率の目安を取り決めたことが認められるから,控訴人ルビコンの上記主張を採用することはできない。
⑵ 控訴人ニチコンの主張について
ア 控訴人ニチコンは,東日本大震災により日本ケミコンの傘下の工場が被災し,同社はアルミ電解コンデンサの生産能力を喪失して新規の注文に応じられない状態が長期間続くことになったのであるから,大震災のあった平成23年3月11日において本件アルミ合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情が生じたというべきであるのに,震災発生から2か月余り後には震災直後に見られた市場の混乱状況は脱しつつあったなどとしてこれを認めなかった原判決の事実認定には誤りがある旨主張する。
しかし,日本ケミコンは,平成23年5月19日に完全復旧宣言を行い被災した工場を再び稼働させたこと,控訴人らは,日本ケミコンの需要者等に対するヘルプ要請への対応に当たるとともに,東日本大震災の発生後も,原則としてそれまでの値上げ活動により引き上げた価格を維持したままヘルプ要請以外の需要者等に対してアルミ電解コンデンサを供給していたこと,東日本大震災発生後もアルミ4社間におけるアルミ電解コンデンサの値上げ活動の状況等に関する情報交換は継続され,同年6月7日開催のSM部会では,控訴人ルビコン,ニチコン香港及び日本ケミコンの各出席者が,アルミ電解コンデンサにつき,今後も販売価格の引上げを前提とする価格調整の流れを継続することの重要性を確認し合ったこと,その後,アルミ電解コンデンサの需要が激減する状況の中で,同年8月30日及び同年9月22日に開催されたマーケット研究会において,控訴人ルビコンの担当者は,同業他社がアルミ電解コンデンサの値下げを開始することを牽制する意図の下に,一部の需要者等からこれまでの販売価格の引上げ分を値下げするよう依頼を受けているが断っている旨を報告したことが認められ,かかる事実によれば,東日本大震災が発生したことによりアルミ4社間において本件アルミ合意による相互拘束状態が解消され,もはや競争制限的な事業活動がされなくなったとはいい難く,本件アルミ合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情があるとは認められないことは,当裁判所が補正の上引用する原判決(第3の1⑸,2⑶イ)説示のとおりである。
これに対し,控訴人ニチコンは,①日本ケミコンの生産ラインが実際に復旧したのは平成23年5月19日の完全復旧宣言の時ではなく同年6月に入ってからのことであり,アルミ電解コンデンサの市況が従前の市況に回帰したことはなかった,②原判決はヘルプ要請以外の既存の需要者等の発注に対してそれまでの値上げ活動により引き上げた価格を維持したまま取引を行っていたことを理由に部分的には本件アルミ合意の相互拘束が継続していたとするが,そもそも本件アルミ合意の内容はアルミ電解コンデンサの販売価格を共同して引き上げることにあり,販売価格を維持することは含まれないのであるから,販売価格を維持したことは本件アルミ合意の相互拘束が継続していたことの根拠にはならない,③リーマンショック後でさえ情報交換を継続していたアルミ電解コンデンサの製造販売業者が,東日本大震災後に一定期間にわたり情報交換の機会を途絶していたのである(平成23年6月以降のSM部会や同月8月以降のマーケット研究会における情報交換は本件アルミ合意とは無関係である。)から,東日本大震災の発生によって本件アルミ合意の消滅を認めるのが自然であるなどと主張する。
しかし,①仮に日本ケミコンの生産ラインが実際に復旧したのが平成23年5月19日ではなく同年6月に入ってからのことであったとしても,その頃には,東日本大震災直後の需要過多状態は脱しつつあったということができるし,日本ケミコンの傘下の工場が被災し,同社がアルミ電解コンデンサの生産能力を喪失したことは一過性の状態にすぎず(控訴人らにおいても,これを「ヘルプ要請」と称して,一時的な供給行為と捉えていたことがうかがわれる。),この間,日本ケミコンに代わって同社の需要者等にアルミ電解コンデンサを供給していたのは,他でもない本件アルミ合意の当事者である控訴人らであり,控訴人らがその意思である程度自由にアルミ電解コンデンサの価格を左右できる状況にあったというべきであるから,東日本大震災の発生によって直ちに本件アルミ合意の相互拘束状態が事実上消滅したとは認め難い。また,②「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(独禁法2条6項)とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいうものと解され,いわゆる値上げカルテルの実効性を確保するためには,需要者等に対する値上げ活動を協調して行うことはもとより,一旦引き上げた価格を協調して維持することも当然その内容に含まれるというべきであって,本件アルミ合意について別異に解すべき特段の事情があるとは認められないから,本件アルミ合意の内容には販売価格を維持することは含まれないとの控訴人ニチコンの主張はその前提を欠くというべきである。さらに,③控訴人ニチコンは,東日本大震災後に一定期間にわたり情報交換の機会を途絶していたと主張するが,この間,マーケット研究会はそれまでと変わらず定期的に開催されており(乙共18),本件アルミ合意に関する情報交換を中止する旨の合意が成立するなど,アルミ4社が本件アルミ合意の相互拘束状態を離れて事業活動を行う状態が形成されたと認めるに足りる事情は見当たらず,かえって,前記のとおり,同年8月30日及び同年9月22日に開催されたマーケット研究会においては,控訴人ルビコンの担当者から,アルミ電解コンデンサにつき,同業他社が値下げを開始することを牽制する意図の下に,一部の需要者等からこれまでに販売価格を引き上げた分を値下げするよう依頼を受けているが断っている旨の報告がされた事実が認められる(したがって,平成23年8月以降のマーケット研究会における情報交換が本件アルミ合意と無関係であるとはいえない。)のであるから,上記各研究会のあった時点においても本件アルミ合意が消滅していたとは認められない。
したがって,東日本大震災の発生によって本件アルミ合意は事実上消滅したとの控訴人ニチコンの前記主張を採用することはできない。
イ 控訴人ニチコンは,遅くとも日本ケミコンの社内で値下げを視野に入れた販売活動を行う方針が決定された平成23年8月19日以降,本件アルミ合意の相互拘束は消滅したとみるほかなく,本件アルミ合意の実行期間は同日を終期とすべきであったのに,①同社内で同業他社との問でメリットのない値下げ合戦は避けるよう併せて指示があったことなどを理由に,同社が同日の時点で本件アルミ合意の相互拘束を離れて独自に事業活動を行ったとはいえないとした原判決は誤りである,また,②同月30日開催のマーケット研究会における日本ケミコン担当者による,ドル建ての決済の取引に関しては円高を理由として販売価格の引上げを申し入れるとの報告は海外の需要者等を対象とするものであるから,これを根拠として本件アルミ合意の消滅を否定することはできない,さらに,③日本ケミコンは同月19日以降,同年11月22日までに需要者等に対し値下げを伴う受注攻勢をかけていた事実が認められる(甲B47,48,乙共38)のであるから,同社が需要者等に対して値下げの申入れをしていないとの原判決の事実認定は誤りである旨主張する。
しかし,①日本ケミコンの平成23年8月19日の社内会議において,東日本大震災により供給不能となったことにより失った需要者等を取り戻すこと,そのためには販売価格の値下げも辞さないとの指示が出される一方で,同業他社との間でメリットのない値下げ合戦は避けるよう併せて指示があったというのであるから,かかる指示は本件アルミ合意の相互拘束の結果とみるべきである。また,②同月30日及び同年9月22日開催のマーケット研究会における控訴人ルビコンの担当者の報告等に照らすと,日本ケミコン担当者による販売価格の引上げを申し入れるとする報告が海外の需要者等のみを対象としていたものとは認め難いというべきであるし,③同年8月19日以降に存在したと控訴人ニチコンが主張する日本ケミコンによる値下げを伴う受注攻勢の具体的状況は証拠上明らかでなく,同社が行ったとされる値下げを伴う営業活動が本件アルミ合意による相互拘束状態を消滅させたと評価すべき内容・態様で行われたとまでは認められず,そのほか本件記録を精査しても,同日の時点において本件アルミ合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情の存在を認めるに足りる証拠はない。
そうすると,日本ケミコンの社内で値下げをしてでも販売数量を確保するよう明確な指示がされた平成23年11月22日をもって本件アルミ合意の相互拘束状態が事実上消滅したと認められることは,当裁判所が補正の上引用する原判決説示のとおりであるから,控訴人ニチコンの上記主張を採用することはできない。
ウ 控訴人ニチコンは,東日本大震災後のヘルプ要請に基づく取引は本件アルミ合意の対象ではない旨主張し,原判決による,①日本ケミコンの需要者等からの発注に対応した控訴人らは,本件アルミ合意に基づく値上げ活動により実現した販売価格を前提としてヘルプ要請に基づく取引を行ったとの認定,②ヘルプ要請に基づく取引を契機として本件アルミ合意に基づく値上げ活動が終了したといった事情を認めることはできず,控訴人ニチコンはその後も日本ケミコンらと協調的な関係を保ちつつ,価格の維持を図るなどしていたとの認定・評価はいずれも誤りである旨主張する。すなわち,原判決は,ヘルプ要請に基づく取引について,控訴人ニチコンは,アルミ電解コンデンサにつき,日本ケミコンの需要者等からの発注に対しては,工場原価以上の価格を提示されれば受注して製品を供給したと認定する一方で,上記①のとおり認定するが,両認定は矛盾しており,また,②のヘルプ要請に基づく取引を契機として本件アルミ合意に基づく値上げ活動が終了したといった事情の有無は,本件アルミ合意が終了したか否かを左右するものであり,ヘルプ要請に基づく取引が本件アルミ合意の対象となっていないことを否定する理由にはなり得ないなどと主張する。
しかし,アルミ4社間において,対象をアルミ電解コンデンサ全体として本件アルミ合意が成立したと認められることは,当裁判所が引用する原判決説示のとおりであり,ヘルプ要請に基づく取引が本件アルミ合意による相互拘束の趣旨に反する内容・態様であったとは認められず,また,アルミ4社においてヘルプ要請に基づく取引を本件アルミ合意の対象から除外して販売価格を値下げすることをも容認していたといった事情も認められない。そうすると,ヘルプ要請に基づく取引は本件アルミ合意の対象ではないとの控訴人ニチコンの主張は採用することができない。
なお,控訴人ニチコンは,ヘルプ要請に基づく取引は,いわば控訴人ニチコンが日本ケミコンのシェアとされていた需要者等分を東日本大震災による原材料費や物流費のコストアップにもかかわらず,従前どおりの価格で肩代わりしたものであり,本来は同社がその分の課徴金を負担すべきものであって,これを控訴人ニチコンが負担するのは極めて不合理・不公平であるとも主張するが,ヘルプ要請に基づく取引について本来日本ケミコンが課徴金を負担すべきであったかどうかはともかく,ヘルプ要請に基づく取引が本件アルミ合意の対象であることは上記のとおりであり,同取引による売上増加分の利益を控訴人ニチコンが享受した事実が認められる以上,その増加分を含めた売上額を基礎として,控訴人ニチコンに対する課徴金を算出・賦課することが不合理・不公平とはいえない。
したがって,控訴人ニチコンに対する課徴金の算定基礎からヘルプ要請に基づく取引を除外せずに課徴金納付を命じた処分が違法であるとはいえない。
エ 控訴人ニチコンは,≪P≫は本件アルミ合意の形成に関わるマーケット研究会に参加し,現に同業他社との間でアルミ電解コンデンサの価格方針等の情報交換を行っていたこと,アルミ4社の担当者は≪P≫とも情報交換しながら協調して値上げを実施していたと明確に供述していること,≪P≫は米国を始めとする海外の競争当局によりコンデンサに係るカルテル行為の当事者として処分を受けていること等の事実を考慮すれば,≪P≫が本件アルミ合意の当事者として,アルミ電解コンデンサについて排除措置命令等の処分の対象となるべきであったことは明らかであるのに,被控訴人が合理的な理由の説明もなく,≪P≫を処分の対象から外したことには,裁量権の逸脱・濫用があり平等原則に違反する違法がある旨主張する。
しかし,被控訴人は,アルミ4社が日本国内でのアルミ電解コンデンサの販売分野における競争を実質的に制限したことを理由として本件アルミ合意に関する各命令を行ったのに対し,≪P≫がその活動によって日本国内でのアルミ電解コンデンサの販売分野における競争を実質的に制限していたと認めるに足りる適確な証拠はなく,同社とアルミ4社を別異に取り扱ったことが不合理であるとはいえないことは,当裁判所が引用する原判決(第3の2⑸)説示のとおりである。
これに対し,控訴人ニチコンは,①原判決は,≪P≫はアルミ4社と比べて日本国内の需要者等に対するアルミ電解コンデンサの販売数量は多くなかったものと推認することができるとするが,≪P≫にも日本国内の需要者等がいることは明らかであり,国内取引が存在すれば国内市場に影響を及ぼすことは明らかであって,取引の数量は問題とはならないはずである,②原判決は,≪P≫の担当者がマーケット研究会以外の会合に参加して日本国内の需要者等に提示するアルミ電解コンデンサの販売価格について話し合うなどしていたことを認めるに足りる証拠はないとしたが,同社がマーケット研究会に参加して価格情報の交換を行い,実際に本件アルミ合意の実行期間中にアルミ電解コンデンサの値上げ活動を行っていた以上,他の会合等に参加していたか否かは大きな問題ではない旨主張し,さらに,控訴人ニチコンは不合理な被控訴人の主張に対するできる限りの反証として,その主張事実を明らかにすべく,被控訴人の職員(≪審査官X≫)を証人申請したにもかかわらずこれを却下した原審の手続には,審理不尽の違法があるとも主張する。
しかし,控訴人ニチコンの上記主張は,要するに,≪P≫は,マーケット研究会等の会合に参加してアルミ電解コンデンサに関する情報交換等を行い,日本国内の需要者等にアルミ電解コンデンサを供給していた以上,日本国内の取引数量等に関わらず,本件アルミ合意の当事者として排除措置命令等の処分の対象とすべきであるとするものであり,当審が補正の上引用する原判決の前記認定・判断とはその前提を異にするものであって,控訴人ニチコンの主張する事実関係等を考慮しても,≪P≫の活動が日本国内でのアルミ電解コンデンサの販売分野における競争を実質的に制限していた具体的事情等があるとは認められないから,≪P≫を本件アルミ合意の当事者と認定せず,排除措置命令及び課徴金納付命令の対象としなかった被控訴人の認定・判断に差別的意図があったことを基礎付けるには足りないというべきである。そうすると,≪P≫を本件アルミ排除措置命令等の処分対象から外した被控訴人の認定・判断が平等原則に違反し,裁量権の逸脱・濫用の違法があるということはできない。また,本件記録を精査しても,被控訴人の職員(≪審査官X≫)の証人申請を却下した原審の手続が違法・不当であると認めるに足りる事情は見当たらず,原審の手続に審理不尽の違法があるとは認められない。
したがって,控訴人ニチコンの上記主張も採用することはできない。
第4 結論
以上によれば,控訴人らの請求はいずれも理由がなく,これらを棄却した原判決は相当であって,本件控訴はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
令和2年12月3日
裁判長裁判官 村田渉
裁判官 鈴木博
裁判官 本多哲哉