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公益社団法人神奈川県LPガス協会による排除措置命令取消請求事件

独禁法8条3号
東京高等裁判所第3特別部

令和2年(行コ)第122号

判決

令和3年1月21日

横浜市中区北仲通三丁目33番地
控訴人 公益社団法人神奈川県LPガス協会
同代表者代表理事 《X4》
同訴訟代理人弁護士 二川 裕之
遠藤 政尚
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被控訴人 公正取引委員会
同代表者委員長 古谷 一之
同指定代理人 南 雅晴
三好 一生
向井 康二
山本 浩平
藤田 千陽
河﨑 渉
平塚 理慧
井登 貴伸
吉留 宏樹
櫻井 裕介
渡邉 亮輔
牧内 佑樹
石川 雅弘

主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成30年3月9日付けで控訴人に対してした排除措置命令(平成30年(措)第8号)を取り消す。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
(以下,略語は,新たに定義しない限り,原判決の例による。)
1 控訴人は,神奈川県内の液化石油ガス(LPガス)販売事業者の任意加入団体である公益社団法人であるところ,本件は,被控訴人において,同県内のLPガス販売事業の新規参入事業者である株式会社《A》が控訴人に対して平成26年10月20日から平成28年10月17日までの間にした5回にわたる入会申込みを,控訴人がいずれも定款に基づき理事会で否決した(本件否決)入会制限行為に関し,本件否決による入会制限行為が,同県内のLPガス販売事業に係る事業分野における現在又は将来の事業者の数の制限(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独禁法)8条3号)に該当すると判断して,同法8条の2第1項に基づき,平成30年3月9日付けで,上記理由による否決行為をしないことなどを命ずる原判決添付の別紙排除措置命令主文のとおりの排除措置命令(平成30年(措)第8号。本件排除措置命令)をしたのに対し,控訴人が,本件排除措置命令の取消しを求める事案である。
2 本件の争点は,(1) 控訴人が,本件否決により,神奈川県内のLPガス販売事業に係る事業分野における「現在又は将来の事業者の数を制限」する行為(独禁法8条3号)をしたといえるか(争点1。争点1に関する具体的な争点は,ア 同号違反における排除効果の要否,イ 控訴人への入会制限をされた事業者が上記事業への参入等に法令上必要とされるLPガス損害賠償責任保険(液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(LPガス法)4条1項5号,3条2項5号,同法施行規則6条所定の損害賠償責任保険(LPガス保険))に加入することについての困難性の有無,程度(損害保険会社が控訴人を含む各都道府県LPガス協会の会員を被保険者とする協会団体保険の取扱がある場合には,LPガス販売事業者との間での個別保険を原則として引き受けしない運用をしていることとの関係),ウ 控訴人への入会制限により事業者の数を制限することとなる旨の控訴人の理事らによる認識の要否である。),(2) 本件否決に正当な理由があることにより独禁法8条3号該当性が否定されるか(争点2。具体的な争点は,本件否決の理由が,《A》が単なる切替営業をしたことでなく,特定商取引に関する法律(特商法)に抵触するような違法又は不当な勧誘をしたことであったといえるかである。),(3) 本件排除措置命令に裁量権の濫用又は逸脱等があるか(争点3。争点3に関する具体的な争点は,ア 控訴人の結社の自由及び会員の営業遂行の自由の侵害の有無,イ 損害保険会社及び他の都道府県LPガス協会との関係での比例原則違反若しくは平等原則違反の有無又は考慮不尽の有無,ウ 被控訴人による控訴人の理事らの聴取時における威迫又は強要の有無,エ 本件排除措置命令当時の違反行為の解消の有無(独禁法8条の2第1項「違反する行為があるとき」の該当性))である。
原判決は,争点1については,独禁法8条3号の解釈につき,当該事業者団体に入会しなければ当該事業分野に参入等することが一般に困難な状況があれば,実際に当該事業分野に参入等することが不可能又は著しく困難という状況に至ることまで要しない旨を説示した上で,神奈川県内においては,控訴人に入会して協会団体保険に加入できなければ,LPガス販売事業に参入等することが一般に困難な状況にあったと認定して,本件否決が同号所定の「現在又は将来の事業者の数を制限する」行為に当たると判断し,争点2については,本件否決の理由には,正当の理由があったとは認められないから同号該当性は否定されないと判断し,争点3については,控訴人の結社の自由又は会員の営業遂行の自由の侵害,比例原則違反若しくは平等原則違反又はこれらの点の考慮不尽,被控訴人による控訴人の理事らの聴取時における威迫又は強要,本件排除措置命令当時における違反状態の解消をいう控訴人の主張はいずれも採用し得ず,本件排除措置命令に.裁量権の濫用又は逸脱があるとはいえないと判断し,以上により,控訴人の請求を理由がないものとして棄却した。これを不服として,控訴人は,本件控訴を提起した。
2 前提事実及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記第3の2のとおり当審における控訴人の主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2及び3(原判決2頁2行目から11頁9行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
⑴ 原判決2頁11行目から12行目の「推進,」の次に「LPガスに関する取引の適正化の推進,」を加える。
⑵ 同頁17行目の「入会は,」の次に「慣例上,」を加える。
⑶ 同3頁9行目の「《B》株式会社である。」を「《B》株式会社であり,同社は《A》の親会社である。また,《L》株式会社は,《A》とは資本関係がないが,《B》株式会社の関連会社で,控訴人の会員として,神奈川県内でLPガス販売事業を行っている事業者である。」に改める。
⑷ 同頁9行目から10行目の「126,127」を「126~129」に改める。
⑸ 同頁13行目の「経済産業省大臣」を「経済産業大臣」に改める。
⑹ 同頁25行目の「本件当時」を「本件否決がされた当時」に改める。
⑺ 同頁26行目の「保険会社」を「損害保険会社」に改める。
⑻ 同4頁1行目の「エルピー」を「LP」に改める。
⑼ 同5頁20行目から21行目の「理由に」の次に「(ただし,具体的な理由については当事者間に争いがある。)」を加える。
⑽ 同8頁2行目の「事業団体」を「事業者団体」に改める。
⑾ 同頁8行目の「保険会社」を「損害保険会社」に改める。
⑿ 同頁10行目の末尾に「また,控訴人の会員のうちでも,58の販売所が,協会団体保険に加入せずに同事業を行っていて,これら111の販売所はいずれも個別保険に加入していると思われる。」を加える。
⒀ 同頁11行目の「本件当時」を「さらに,本件否決がされた当時」に改める。
⒁ 同頁12行目の「個別保険」から同頁20行目の末尾までを「被控訴人が主張するような,損害保険会社が協会団体保険を優先して個別保険の引受けを回避するという運用は形骸化しており,実際に,《A》も,個別保険に加入して神奈川県内でLPガス販売事業を行っていて,本件排除措置命令後に控訴人に入会してからも,協会団体保険に加入することなく個別保険を継続して同事業を行っているという事情があるのであって,これらによれば,本件否決がされた当時において,個別保険への加入が一般的に困難な状況であったとは到底いえない。
したがって,本件否決がされた当時,控訴人に入会して協会団体保険に加入することは,神奈川県内のLPガス販売事業に参入等するために必須ではなく,また,同事業への参入等が困難な状況であったとも到底いえないのであるから,控訴人が,本件否決をもって,上記事業に係る事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限したとはいえない。」に改める。
⒂ 同9頁12行目の「消費者利益」から同頁14行目の「ものである。」までを「《A》が,その前身である株式会社《J》の時代から,特商法に抵触するような違法又は不当な勧誘等により切替営業を行う事業者であり,その営業に関して顧客からの苦情や相談が増えていて,それが改善されなかったことから,消費者の利益保護のため,このような違法又は不当な訪問販売・勧誘を行う事業者を排除することを目的として行ったものであり,また,当該目的を実現するために必要な範囲内の手段といえる。」に改める。
⒃ 同10頁10行目,同頁12行目から同頁13行目の各「裁量権の濫用又は逸脱」をいずれも「裁量権の濫用又は逸脱等」に改める。
⒄ 同頁21行目の「あるにもかかわらず」から同頁24行目末尾までを「あり,その理由が団体保険の維持という損害保険会社の既存利益を図る自利的なもので,独禁法上のカルテルに当たる行為といわざるを得ないのにもかかわらず,損害保険会社には処分を行わずに控訴人のみに処分を行う点で比例原則に違反し,仮に同違反が認められないとしても考慮不尽であり,また,個別保険に加入することが困難な状況は他の都道府県LPガス協会においても生じ得るのにもかかわらず控訴人のみに処分を行う点で平等原則に違反する。」に改める。
⒅ 同11頁3行目から同頁4行目の「保険の問題であることについての言及もなかった。」を「また,被控訴人は,控訴人に対する立入調査後から意見聴取手続までの間に,損害保険会社が個別保険の締結を避けているという対応等が事業者の制限の結果をもたらしているという保険の問題について,控訴人の関係者に対して言及しなかったので,控訴人は,どのような事実関係のもとで独禁法の問題が生じているのか具体的に知る由がなく,何も対処できなかった。」に改める。
⒆ 同頁7行目の末尾に「すなわち,控訴人は,平成30年1月29日の臨時理事会において,切替営業者であることのみを理由として入会の否決行為をしてはならないとの確認決議をし,また,同年2月21日の臨時総会において,本件入会基準を削除する決議をするなどしていて,本件排除措置命令の主文に応じた是正行為を済ませ,また一部については現に実施する予定があったのであるから,本件排除措置命令の当時には違反行為は解消されているといえ,同命令は回避されなければならなかった。」を加える。
⒇ 同頁9行目の冒頭から末尾までを次のとおり改める。
「ア 結社の自由が侵害されたとの主張については,本件排除措置命令は,あらゆる事業者の控訴人への入会を認めるよう命じるものではないから,その前提において誤っており失当である。
イ 比例原則違反又は平等原則違反等の主張については,損害保険会社や他の都道府県LPガス協会が独禁法違反行為をしたものでないことは明らかであり,仮に損害保険会社に何らかの問題があったとしても,かかる事情により本件排除措置命令の適法性が左右されるものではないから,いずれも失当である。
ウ 被控訴人における控訴人の理事らに対する威迫や強要があったとの主張については否認ないし争う。
エ 本件排除措置命令の当時に違反行為が解消済みとの主張については否認ないし争う。本件排除措置命令が行われた平成30年3月9日までに,切替営業を行う入会希望者の入会申込みについて否決する行為(本件排除措置命令主文第1項)について,控訴人が,理事会においてその取りやめを決議した上で,5回にわたる本件否決を撤回したり,《A》の入会の可否に係る審議・採決をやり直したりして同社の入会を認めたりするなどして,本件の違反行為を取りやめた事実は認められない。また,本件排除措置命令の執行停止申立ての却下決定が確定した後も,控訴人が《A》の入会申込みを承認せず,本件排除措置命令の執行を明確に拒否していたことからしても,同日時点において,控訴人が本件の違反行為を取りやめていなかったことが明らかである。したがって,同日時点において,本件の違反行為は継続中であったといえるから,独禁法8条の2第1項所定の「違反する行為があるとき」に該当する。」
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,原審と同様に,控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記2のとおり当審における控訴人の主張についての判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1から4まで(原判決11頁11行目から同34頁3行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
⑴ 原判決12頁5行目の「さらに,本件における」を削る。
⑵ 同頁8行目の「損害保険会社」の次に「(外国損害保険会社等を含む日本国内で損害保険業の免許を付与されたすべての事業者)」を加える。
⑶ 同頁8行目から同頁9行目の「54社」の次に「(うち51社は平成29年3月末日までに上記免許を付与されていたもの,うち3社は同年4月1日以降に上記免許を付与されたものである。)」を加える。
⑷ 同13頁11行目の「,取締役」を「及び取締役」に改める。
⑸ 同頁12行目の「従前,」の次に「《A1》が」を加え,同頁13行目の「代表取締役,」の次に「《A2》が」を加える。
⑹ 同頁22行目の「大株主である」を「親会社である」に改める。
⑺ 同14頁14行目の「介して,」の次に「同代理店が保険代理業務をしていた」を加える。
⑻ 同頁16行目の「同社」を「《F》」に改める。
⑼ 同頁18行目の「また」から同頁23行目の「ところ」までを「そのため, 《A》の代表取締役である《A1》は,個別保険を引き受ける損害保険会社を探すため,できるだけ多くの損害保険会社の保険代理業務をする保険代理店に相談したいと考えて,多数の損害保険会社の保険を取り扱う縁故のない保険代理店に,いわゆる飛び込みで電話をかけて上記と同趣旨の相談をし,これを受けた同保険代理店が,その取り扱う複数の損害保険会社(《C》,《D》,《E》,《F》,《H》株式会社等)に対して個別保険引受けの照会を行ったが,引受可能と回答した損害保険会社はなかった。そこで,《A》は,《A1》と《A2》とで手分けをして《C》を含む13社程度の損害保険会社に直接電話をかけたり,インターネット上で保険代理店に問合せをしたりして,控訴人に加入するためのつなぎとして個別保険を引き受けてもらえないかを相談したが,《C》を除いては,そもそもLPガス保険の取扱いをしていなかったり,取扱いをしていても団体保険に加入してほしいと言って断ってきたりし」に改める。
⑽ 同15頁1行目の「(乙30」から同頁2行目の「235)。」までを「。(乙30,33,47,48,129,231~235)」に改める。
⑾ 同頁4行目の「において,」の次に「同年10月20日付けでされた」を加える。
⑿ 同頁5行目の「理由に」の次に「(具体的な理由については当事者間に争いがある。2回目以降の本件否決についても同じ。)」を加える。
⒀ 同頁11行目から12行目の「切替営業をしているから入会することができないのであり」を「入会を認められたいのならば」に改める。
⒁ 同頁15行目の「おいて,」の次に「同年6月1日付けでされた」を加える。
⒂ 同頁19行目の「同年」を「前記個別保険につき,同年」に改める。
⒃ 同頁26行目の「前記保険契約は同月に」を「前記個別保険の契約は平成27年10月に」に改める。
⒄ 同行目の「48」を「47」に改める。
⒅ 同16頁3行目の「において,」の次に「同年10月5日付けでされた」を加える。
⒆ 同頁8行目の「保険会社」を「損害保険会社」に改める。
⒇ 同頁16行目の「加入する者がいる」を「加入する者がおり,協会団体保険に加入できない限りLPガス販売事業を営むことができない構造はないのであるから,本件否決が独禁法違反とはいえない」に改める。
(21) 同頁19行目の「おいて,」の次に「同年2月10日付けでされた」を加える。
(22) 同頁23行目の「《C》は,」の次に「その代理店を通じて」を加える。
(23) 同17頁2行目の「要求した。」の後に改行して次のとおり加え,同行「68」を「69」に改め,同頁3行目冒頭から同頁7行目末尾までを削る。
「このため,《A》は,上記更新の直後である平成28年10月17日付けで,控訴人に対する5回目の入会申込みをした。」
(24) 同頁13行目の末尾に改行して次のとおり加える。
「キ 5回目の入会申込みの否決後,《A》の代表取締役である《A1》は,同否決の事実や《C》とは協会団体保険に加入するまでのつなぎという条件で個別保険を更新してきた経緯に照らして,平成29年10月以降には前記個別保険を更新できないおそれが高いと考え,同年7月頃,親会社である《B》株式会社の口利きで,《E》の大口顧客である《L》株式会社と取引のある保険代理店を紹介してもらい,同年10月,同保険代理店を通じて,《L》株式会社から紹介された同社の関連会社という立場で,《E》との間で,同月14日を始期として,個別保険の契約を締結するに至った。(乙127~129)」
(25) 同頁15行目及び同19行目の「前記調査」を「前記立入調査」にそれぞれ改める。
(26) 同頁18行目の「送付した」を「意見聴取通知書と共に送付した。本件排除措置命令案には,主文のほか,本件排除措置命令と同趣旨の理由が記載され,意見聴取通知書には,被控訴人が認定した事実を立証する証拠の標目を記載した証拠品目録が添付され,平成30年1月23日の意見聴取が終結するまでの間にこれらの証拠の閲覧又は謄写ができる旨の教示が記載されていた」に改める。
(27) 同18頁11行目の「原告の総会」を「控訴人」に改める。
(28) 同頁15行目の「上記」を「上記イ及びウ」に改める。
(29) 同19頁18行目の「事業団体」を「事業者団体」に改める。
(30) 同20頁19行目の「7社であり」を「7社にとどまり,さらにこれら7社においては,」に改める。
(31) 同頁25行目の「通常,」の次に「同申込みは拒否され,」を加える。
(32) 同頁26行目の「求められ,」から同27頁1行目の末尾までを「求められていた。また,証拠(乙18~28,152~179)によれば,これら各社における個別保険に関する対応は,本社等の特別な決裁ルートで行うこととされており,当該事業者が都道府県LPガス協会に加入していない場合には,加入していない理由を確認する等の慎重な審査が求められ,実際にそのような運用がされていた。」に改める。
(33) 同21頁25行目の「⑴ウ」を「⑴ア及びウ」に改める。
(34) 同22頁14行目の「損害保険会社」を「個別保険の取扱をしている上記各損害保険会社」に改める。
(35) 同頁18行目の「採用していた」を「採用し,個別保険の申込みに対しては,本社等の特別な決裁ルートで慎重な対応がされていた」に改める。
(36) 同頁23行目の「19事業者」を「19事業者程度」に改める。
(37) 同頁25行目の「特別な事情から例外的に」を「特別な事情による信頼関係を基礎として例外的に」に改める。
(38) 同頁26行目の「引受け」の次に「又は更新」を加える。
(39) 同23頁9行目の「その指導内容は」から同頁10行目までの「不明である」までを「その指導内容については,証拠(乙49添付の資料4)によれば,《C》の従業員が,《A》の個別保険の更新見通しに関して送信した社内メールに,「(《A》が)来年度協会会員となれなかった場合,相当詳細に理由を確認しないと,経産省の指導とは別の観点で承認は難しいと思います。」という所見を述べていることが認められるが,同メールによっては,上記「経産省の指導」がどのような場面でのいかなる内容のものなのかが全く判明せず,他に経産省からの指導の内容を裏付ける証拠は見当たらない。」に改める。
(40) 同頁15行目の「《C》」を「《C》」に改める。
(41) 同頁18行目の「個別保険の引受けを求めるような何らかの要請」を「上記方針を変更させ,個別保険の引受けを受け入れることを求めるような要請」に改める。
(42) 同頁19行目の「この点を踏まえた」を「経産省から,個別保険引受けに関する指導があったことを基礎として,国内の損害保険会社が個別保険の引受けに消極的な運用がされているとはいえない旨をいう」に改める。
(43) 同頁26行目の「オ」の後に「,キ」を加える。
(44) 同24頁1行目の「45,」の後に「74,」を加える。
(45) 同25頁14行目の「参入等が阻止され,事業者の数が制限された」を「事業者の参入等が一般に困難な状況になり,そのことをもって「事業者の数を制限する」行為と評価し得る」に改める。
(46) 同26頁4行目の「本件否決」から同頁5行目の末尾までを「本件否決が「事業者の数を制限する」行為に該当するといえるためには,控訴人の理事らが,本件否決により,神奈川県のLPガス販売事業の事業者の数を制限することとなる旨の認識」に改める。
(47) 同頁16行目の「弁護士は,」の次に「平成27年12月18日付の控訴人宛の通知書において,」を加える。
(48) 同28頁3行目から4行目の「正当な理由がある場合には」を「正当な理由・目的があり,かつ,その理由・目的に照らして,その内容及び手段に合理性・相当性が認められる場合には」に改める。
(49) 同29頁5行目の末尾に「以上の「切替営業」という用語の使用においては,違法又は不当な勧誘方法を用いることが含意されていないことが明らかであるので,同用語が,業界内や控訴人会員間において,特商法に抵触するような違法又は不当な勧誘方法を用いたものであるとの意味で使用されていたものとは認め難い。」を加える。
(50) 同頁11行目の「《A》」から同頁13行目の「いないこと」までを「《A》の勧誘方法が不当なものであるという趣旨の所見が理事等から述べられ,また,事務局職員から,控訴人のお客様相談所に,《A》の勧誘に問題があるとされる相談が寄せられているという報告がされたが,上記所見は,その根拠となる事例の時期や当事者の属性の説明がないものであり,また,上記相談の報告は,相談件数,相談地域及び《A》が顧客に提示したとされる価格が述べられるにとどまり,相談事例の時期,相談者の属性,勧誘方法等の勧誘の問題性を裏付ける具体的事情の報告が全くないものであったこと」に改める。
(51) 同頁15行目の冒頭から同頁18行目の「ないこと」までを「毎回,事務局職員から,控訴人のお客様相談所に寄せられた《A》に関する相談の報告があり,その相談件数のほか,特商法違反の問題がある事例として,繰り返しの訪問や居座り等の報告があったが,各相談事例の相談者の属性,勧誘の具体的方法等の特商法違反該当性等の検証可能な程度の報告まではなく,また,理事らのうちから,特商法違反と思われるような事例であるとして,認知症の顧客が《A》の勧誘を怖さのあまり断れなかったという事例の報告や,「(《A》が)怪しい営業活動をしている」という報告があったものの,これら事例の発生時期,相談者の属性,勧誘の方法等の具体的事情の紹介のない大雑把なものであり,いずれの理事会においても,《A》の勧誘方法に関して,特商法違反である又は同法違反の問題があるという抽象的な発言があったのにとどまって,同法違反又は不当性の有無の検討をするには至らなかったこと」に改める。
(52) 同30頁6行目の「供述している」を「事業者としての立場で,各自が営むLPガス販売事業の実情を含め自分なりの表現で具体的に供述している(なお,控訴人は,これらの供述調書につき,被控訴人が一方的に録取し作成したものであるから信用性がない旨を主張するが,これを裏付ける証拠は見当たらず,末尾にはそれぞれ供述人の署名押印があり,上記の表現内容からみても,その信用性に特段問題があるとは思えない。)」に改める。
(53) 同頁14行目の「本件否決が」を「本件否決について,その内容及び手段の合理性・相当性を検討するまでもなく,」に改める。
(54) 同31頁9行目の「結社の自由の侵害をいう」を「控訴人の結社の自由やその会員の営業遂行の自由が侵害されたという」に改める。
(55) 同32頁10行目の「何ら」を「乙241の作成時に《X2》が一か所の訂正申立てをして申立てどおりの訂正がされたのを除いて,何ら」に改める。
(56) 同頁21行目の「不自然」を「上記理事らの供述調書に係る聴取時に,被控訴人の審査官による威迫や強要があったなどとする上記主張内容及び陳述等は,不自然」に改める。
(57) 同頁24行目の「保険の問題」から同頁25行目末尾までを「控訴人が主張する期間に保険の問題について被控訴人から言及がなかったために,本件排除措置命令に関して対処できなかった旨の主張については,被控訴人が意見聴取に先立って,本件排除措置命令案とともに意見聴取通知書を送付し,本件排除措置命令と同趣旨の理由と,認定事実を立証する証拠の標目を控訴人に伝えており(認定事実⑷),控訴人は,意見聴取手続において,本件とほぼ同趣旨の主張をしていること(乙132)からみれば,上記言及がなかったために本件排除措置命令に関して対処ができなかったとはいえず,上記言及がなかったからといって意見聴取手続が違法又は不当なものとなるとはいえない。」に改める。
(58) 同頁26行目の「供述」を「陳述」に改める。
(59) 同33頁4行目の「そこで」から同頁26行目までを次のとおり改める。
「 そこで検討するに,前記認定事実⑷によれば,控訴人は,被控訴人の立入調査やその後に送付を受けた本件排除措置命令案の内容を踏まえて,平成30年1月29日開催の臨時理事会において,① 切替営業を行う入会希望者の入会申込みについて否決行為をしないこと等の確認決議,② 本件入退会規程から本件入会基準を削除することの承認決議,③ 控訴人の自主行動基準(甲24)に,会員事業者等を対象として,外部講師等による独禁法に関する講習を定期的に開催することなどの独禁法の遵守のための条項を追加することの承認決議,④ 臨時総会の開催決議をし,さらに,同開催決議に係る臨時総会において,上記②の本件入会基準の削除につき承認決議をしており,以上の控訴人の対応の後に,被控訴人は,本件排除措置命令案の主文のうち,3項(本件入会基準の削除を命じる条項),6項⑵(控訴人の活動に関する独禁法の遵守についての行動指針の作成を行うために必要な措置を講じるよう命じる条項のうち,定期的研修に関する条項)のみを削除して,残りの条項を残して修文した上で,本件排除措置命令を発したことが認められる。
控訴人は,上記①から④までの各決議及び臨時総会での決議を主たる内容とする一連の是正策により,本件排除措置命令案で想定していた違反行為が解消されていたとして,本件排除措置命令案の上記削除後の残りの条項についても必要性及び相当性がなく,本件排除措置命令を回避すべきであった旨を主張するものと解される。
確かに,上記一連の是正策の内容は,本件排除措置命令案の内容を踏まえたものであり,控訴人が違反行為の解消につき,ある程度は協力したものと認められ,そのために,被控訴人においても,上記②から④までの各決議の内容及び臨時総会における本件入会基準の削除承認決議については,本件排除措置命令案のうちの主文3項及び6項⑵の条項に応えたものと認めて,これら条項を削除したものと解される。
しかし,証拠(乙132)によれば,控訴人は,上記是正策を行う一方で,本件排除措置命令前の意見聴取手続においては,本件否決の理由に関し,切替営業を理由として行われたことを明確に争い,本件におけるのと同様に本件否決の正当性を主張し,同主張を本件排除措置命令の前後を通じて維持してきたことが認められ,上記主張に理由がないことは,争点2に関する前記3に説示判断したとおりであるところ,本件排除措置命令が,本件否決が《A》の切替営業を理由にされたことを前提とし(主文第1項等は,本件否決と同様の否決行為を禁じたものと解される。),その旨が,本件排除措置命令案に示されて控訴人に伝えられていたことに鑑みれば,控訴人の上記主張は,本件排除措置命令の趣旨に明らかに反したものといえるから,本件排除措置命令の当時,控訴人は,上記一連の是正策実施後もなお,本件否決と同様の否決行為を繰り返すおそれがある状態であったと認めざるを得ない。加えて,控訴人は,本件排除措置命令までに,本件否決を撤回したり,《A》の入会申込みに対する理事会での審議,採決をやり直したりするなどの具体的かつ直接的な是正策をとっていなかったものであり,この点も,上記おそれがあったことを疑わせる事情といえ,また,本件の全主張及び全証拠を精査しても,上記おそれを払しょくするに足る事情は見いだせない。
以上によれば,上記是正策がされたことを考慮しても,本件排除措置命令の当時においては,独禁法8条3号の違反行為が解消されておらず,いまだ継続していたものと認められ,本件排除措置命令は,必要性及び相当性があるものといえる。」
2 当審における控訴人の主張に対する判断
⑴ 争点1につき,控訴人は,当審において,ア 独禁法8条3号違反における排除効果の要否に関し,同法3条と8条との関連や独禁法の目的に加え,本件においてLPガス販売事業への参入等が困難だった直接の原因が損害保険会社による個別保険の引受拒否であったことからすれば,競争を実質的に制限したという排除効果が,当該違反行為そのものから発生したことを要すると解すべきであるが,そのような排除効果は生じていないこと,イ 神奈川県における個別保険加入事業者の数(原判決認定の19事業者),損害保険会社が原則として個別保険の申込みを拒否している実例の調査の不存在,経産省から損害保険会社に対する個別保険の引受けを求めるような何らかの要請の存在,《A》による個別保険加入継続等の事情から,国内の損害保険会社が,原則として個別保険の加入申し込みを拒否し例外的にのみ引き受けるという運用は実態がないものと言わざるを得ないこと,ウ 控訴人における入会否決行為は,団体の秩序維持として当然想定され,本件否決そのものがただちに同法8条3号の「数の制限」になるものではないこと,エ 控訴人は強制加入団体ではなく,控訴人に加入しなくても上記事業をすることができるから,本件否決行為には排除効果がないこと,オ 「事業者の数を制限する」ことの認識の要否に関し,独禁法8条は刑事罰としての構成要件でもあるから当然に上記認識(事業者の違反行為により一定分野において事業者が新規参入することができなくなる又はできにくくなることの認識)は必要と解するべきであり,排除措置命令が行政処分であることを理由に上記認識を要しないとするのは誤りであり,控訴人の理事らは,上記認識がなかったことを根拠として,本件否決が独禁法8条3号に該当しない旨を主張する。
⑵ そこで検討するに,上記⑴アについては,控訴人の主張は,独禁法8条3号該当性の要件として,競争の実質的制限という排除効果を要することを前提としているところ,同号が同条1号と異なり,競争の実質的制限に至らなくても,競争政策上看過することができない影響を競争に及ぼすこととなる場合を対象としており,当該事業団体に加入しなければ参入等をすることが一般に困難な状況があれば,入会希望者の入会を制限することが参入等を事実上抑制する効果を有し,「現在又は将来の事業者の数を制限すること」に該当すると解され,控訴人主張の上記前提を採り得ないことは,補正に係る原判決18頁22行目から同19頁20行目までのとおりであり,控訴人の主張は独自の見解であり採用し得ない。
上記⑴イ及びエについては,神奈川県に個別保険に加入する一定数の《A》を含めた事業者が存在し,《A》が個別保険加入を継続して事業をしていること,控訴人が強制加入団体ではないことを考慮しても,本件否決の当時に,損害保険会社が個別保険の引受けを原則として拒否しており,引受けをするのは大口顧客等からの紹介等に限られるという運用の実態が存在していて,事業者が,控訴人に入会せずに,神奈川県でLPガス販売事業に参入等することが,協会団体保険に加入できないために一般に困難であったことは,補正に係る原判決20頁9行目から同23頁3行目まで,同頁21行目から同24頁24行目までのとおりであり,経産省の損害保険会社に対する上記のような要請の存在を認められないことは,補正に係る原判決23頁4行目から同頁20行目までのとおりであって,控訴人が主張する損害保険会社が原則として個別保険の加入申入れを拒否し例外的にのみ引き受けるという運用の実態がなかったとはいえず,むしろ,このような運用の実態があったことが認められる。
上記⑴ウについては,当該事業団体への入会否決行為が直ちに同法8条3号の「数の制限」にならないことは当然であるが,他方で,団体の秩序維持としての行為であることによって当然に,入会申込みの否決による入会制限に正当性が認められるものではない。控訴人の主張は独自の見解であり,採り得ない。
上記⑴オについては,独禁法8条3号の違反行為の要件として,違反行為の認識を要しないことは,補正に係る原判決25頁21行目から同26頁7行目までのとおりであり,控訴人の主張を採り得ない。控訴人は,同法8条に違反する場合には,刑事罰の対象ともなることから,構成要件として主観的要件も必要となると主張するが,刑事罰に関しては,独禁法の要件だけでなく,原則として故意が必要となる(刑法8条,38条)のに対し,排除措置命令の目的は違反状態の是正することにあり,法の目的からして故意は必要とは解されない。そして,控訴人の理事らが,事業者が個別保険に加入することが困難であり,本件否決により「事業者の数を制限する」ことになることを認識していたといえることは,補正に係る原判決26頁8行目から同27頁7行目までのとおりであり,仮に主観的要件(故意)が必要であったとしても,要件に欠けることはないと認められる。
以上によれば,控訴人の上記主張は,採り得ず,他に争点1についての前記判断を左右する事情は,全主張及び全証拠を精査しても見当たらない。
⑶ 争点2につき,控訴人は,当審において,ア 正当の理由の有無の判断において,公正な競争維持の見地のみならず,結社の自由により保障される団体自治としての目的秩序維持の見地も十分に考慮すべきであり,団体における入会可否の判断は,当然に尊重されなければならず,また,公正な競争維持の見地とは,独禁法8条だけでなく他の規定に違反するのかも検討されるべきであり,《A》の行為は特商法に抵触し得,不公正な取引方法にも当たるものであること,イ 控訴人の理事等は,その発言の「切替営業」の用語を切り取ることなくその文脈からみれば,自社から他社へ切り替えること自体は違法でないが,違法不当な勧誘方法は問題であると述べていることが鮮明にわかること,ウ 本件否決をした理事会では,審議において報告された《A》に関する相談事例の件数が突出して多く,《A》の勧誘方法における違法性又は不当性が指摘されており,理事らが,《A》の勧誘方法の問題について,理事会以外の場でも聴いていたこと等に鑑みると,《A》の違法不当な勧誘方法に着目して審議されたといえること,エ 平成26年10月から平成28年10月までを含む前後の期間において,控訴人が,《A》を含む入会申込みについて審議をし,《A》,《M》及び《N》を除く13社につきすべて可決して入会を認めたことを根拠に,本件否決に正当の理由があった旨を主張する。
⑷ しかし,上記⑶アについて,団体における入会の可否の判断であることのみで,正当の理由があるとは認められず,また,控訴人の上記⑶の主張は,同アを含め,いずれも,本件否決が,《A》が特商法に抵触するような違法又は不当な勧誘をしていることを理由にされたことを前提としていると解されるところ,本件否決が,同理由によりされたものとは認められず,切替営業を防ぐ意図でされたものと認められることは,補正に係る原判決28頁7行目から同30頁17行目までのとおりであるから,いずれもその前提を欠くものというべきであり,採り得ない。そして,全主張及び全証拠を精査しても,他に争点2についての前記判断を左右する事情は見当たらない。
⑸ 争点3のうちの結社の自由の侵害につき,控訴人は,当審において,ア 《A》の入会申込みの目的が,協会団体保険に入会することであったことからすれば,本件排除措置命令は,真に入会する意思のない事業者であっても入会させるよう命じているのと同じであること,イ 本件否決は,《A》が違法不当な勧誘方法をする事業者であるという強い疑いがあり,その入会が控訴人の目的に反するためにされたのであるから,本件排除措置命令により《A》を入会させることは,控訴人の目的に反すること,ウ 入会の可否についての団体の決定は,団体自治,団体秩序維持の観点から,尊重すべきであることを根拠として,本件排除措置命令が控訴人の結社の自由を侵害したものと主張する。
⑹ しかし,本件排除措置命令は,本件否決について,切替営業を理由とした否決行為であるとして,神奈川県内のLPガス販売事業に係る事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限するものであるとして,その是正を求めるものであり,控訴人主張のような,控訴人の目的に賛同しない事業者や,真に入会する意思のない事業者を入会させることを命じるものではなく,上記⑸アの主張を採り得ないことは,補正に係る原判決30頁20行目から同31頁10行目までのとおりである。また,上記⑸のその他の主張は,本件否決が,《A》が特商法に抵触するような違法又は不当な勧誘をしていることを理由にされたことを前提としているものと解され,この前提が認められないことは,上記⑷に説示したのと同様であるから,いずれの主張も採り得ない。
⑺ 争点3のうちの比例原則,平等原則違反又は考慮不尽について,控訴人は,当審において,ア 損害保険会社は,団体保険を運用する団体という意味では,個別保険の引受拒否により,新規参入を制限又は競争を実質的に制限していることになるのに,その実態の真偽,適正さについて何ら検討がされていないこと,イ 損害保険会社の個別保険の引受拒否という運用は,全国的に行われているから,他の都道府県においても本件と同様の問題が生じることであるのに,それにつき何ら調査がされていないことからすれば,控訴人の本件否決のみにつき排除措置命令を発することは,比例原則等に反するし,考慮不尽であると主張する。
⑻ しかし,本件否決が,独禁法8条3号に該当し,本件排除措置命令の当時においても,その違反行為が解消しておらず,本件排除措置命令に必要性及び相当性が認められることは,補正に係る原判決31頁18行目から同頁24行目まで,同33頁4行目から同頁24行目までのとおりであり,また,被控訴人において,控訴人に対してのみ差別的意図で本件排除措置命令をしたなどの事情を裏付ける証拠も見当たらない。これらのことからみても,損害保険会社による個別保険の引受拒否や,他の都道府県LPガス協会との関係で,本件排除措置命令の適法性が左右されるものとは考えられない。控訴人の上記⑺の主張はいずれも採用できない。
⑼ 争点3のうち,手続違反(被控訴人による威迫や強要)について,控訴人は,当審において,被控訴人の審査官による聴取が密室で行われること等の事情からすれば,本来的に客観的ないし的確な証拠は存在しくいこと,控訴人の理事らに対する聴取の仕方に問題があっても,理事らが供述調書の作成時に訂正申立てを行うことは期待できず,調書の内容を詳しく確認する意識を持てないものであり,理事らが,本件の訴訟に至って初めて,供述調書の誤記等を指摘することは自然なことであることを根拠に,被控訴人が控訴人の理事らに対する聴取時に威迫や強要をした旨を主張する。
⑽ しかし,被控訴人による威迫や強要があったとする控訴人の主張に理由がないことは,補正に係る原判決32頁7行目から同頁21行目までのとおりであり,控訴人が理事らの誤記等の指摘が自然であることを縷々述べる事情は,一般論や独自の推測にとどまるものであり,いずれも上記認定を覆すような事情とはいい難い。したがって,上記⑼の主張は採用できない。
⑾ 争点3のうち,保険の問題に関して,控訴人は,当審において,損害保険会社が個別保険の引受拒否をしているという実態が問題になっているという認識がなければ,控訴人において,意見聴取手続の前に是正改善する余地がなくなったのであるから,意見聴取手続の前に保険の問題に言及していないことは,違法不当というべきであると主張する。
⑿ しかし,上記保険の問題に関する主張に理由がないことは,補正に係る原判決32頁22行目から同頁25行目までのとおりであり,控訴人は,実質的に見ても,本件排除措置命令に対する対処ができなかったとはいえないから,上記⑾の主張は採用できない。
⒀ 争点3のうち,違反行為が解消済みであることに関して,控訴人は,当審において,本件排除措置命令案の主文第1項では,切替営業を理由に入会申込みについて否決してはいけないというにとどまり,その他の理由として違法又は不当な勧誘方法を行う事業者や控訴人の目的に沿わない事業者などの入会を認めるよう求めるものではないから,既に控訴人が行った是正策をもって違反行為は解消済みであり,控訴人の意見聴取時の発言(《A》が再度入会申込みをしてきたときの対応について,本件排除措置命令案等を真摯に受け止めており,柔軟な対応をしていきたい旨を述べるにとどまったこと)が本件排除措置命令に応じていないことにはならない旨を主張する。
⒁ しかし,違反行為が解消済みとは認められないことについては,補正に係る原判決33頁4行目から同頁24行目までのとおりであり,本件排除措置命令の当時において,独禁法8条3号の違反行為が完全に解消したとはいえず,いまだ継続していたと認められるから,当該措置の必要性及び相当性があるものといえるから,控訴人の上記⒀の主張は採用できない。
3 結論
以上によれば,控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であり,控訴人の本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

令和3年1月21日

裁判長裁判官 三角 比呂
裁判官 作原 れい子
裁判官 上田 洋幸

注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

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