公正取引委員会審決等データベース

文字サイズの変更

背景色の変更

本文表示content

(株)山陽マルナカに対する件

独禁法66条2項及び3項(独禁法19条・独禁法20条の6)

平成23年(判)第82号及び第83号

排除措置命令及び課徴金納付命令の全部を取り消す審決

岡山市南区平福一丁目305番地の2
被審人 株式会社山陽マルナカ
同代表者 代表取締役 《 氏 名 》
同代理人 弁 護 士 長 澤 哲 也
同復代理人 弁 護 士 酒 匂 景 範
同 吉 村 幸 祐
同 小 田 勇 一

上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)(以下「独占禁止法」という。)に基づく標記の排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について,公正取引委員会は,平成31年2月20日,同法第66条第3項及び第2項並びに私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う公正取引委員会関係規則の整備に関する規則(平成27年公正取引委員会規則第2号)による廃止前の公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第8号)(以下「規則」という。)第78条第2項の規定により,被審人の審判請求を一部排斥する審決(以下「第1次審決」という。)をしたところ,これに対して被審人から提起された審決取消訴訟(以下「本件訴訟」という。)において,第1次審決のうち被審人の審判請求を排斥した部分を取り消すとの判決(以下「本件判決」という。)がされ,同判決が確定したため,独占禁止法第82条第2項の規定に基づき,改めて審決する。
なお,以下の用語のうち,別紙「用語定義一覧表」の「用語」欄に掲げるものの定義は,同「定義」欄に記載のとおりである。

主       文
1 第1次審決による変更後の平成23年6月22日付け排除措置命令(平成23年(措)第5号)を取り消す。
2 平成23年6月22日付け課徴金納付命令(平成23年(納)第87号)のうち,第1次審決において被審人の審判請求を棄却した部分を取り消す。

理       由
第1 審判請求の趣旨
主文と同旨
第2 事案の概要
本件は,公正取引委員会が,食品,日用雑貨品,衣料品等の小売業を営む被審人において,優越的地位の濫用規制に違反する行為があったとして行った排除措置命令(平成23年(措)第5号。以下「本件排除措置命令」という。)及び課徴金納付命令(平成23年(納)第87号。以下「本件課徴金納付命令」という。また,「本件排除措置命令」と併せて「本件各命令」という。)について,被審人が本件各命令の取消しを求める審判請求をした事案である。その手続の経過は,次のとおりである。
1 公正取引委員会は,被審人が,遅くとも平成19年1月から平成22年5月18日までの間,自己の取引上の地位が特定納入業者に優越していることを利用して,特定納入業者に対し,正常な商慣習に照らして不当に,①新規開店,全面改装,棚替え等に際し,その従業員等を派遣させ,②新規開店又は自社が主催する催事等の実施に際し,金銭を提供させ,③被審人が独自に定めた販売期限を経過した商品を返品し,④季節商品の販売時期の終了等に伴う商品の入替え及び全面改装に伴う在庫整理を理由として割引販売を行った商品について,取引の対価の額を減じ,⑤クリスマス関連商品を購入させていたものであって,以上の行為は独占禁止法第2条第9項第5号(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律〔平成21年法律第51号。以下「改正法」という。〕の施行日である平成22年1月1日前においては平成21年公正取引委員会告示第18号による改正前の不公正な取引方法〔昭和57年公正取引委員会告示第15号〕〔以下「旧一般指定」という。〕第14項)に該当し,独占禁止法第19条に違反するものであり,かつ,特に排除措置を命ずる必要があるとして,平成23年6月22日,被審人に対し,本件排除措置命令を行った(以下,本件排除措置命令において認定された違反行為を「本件違反行為」という。)。
本件排除措置命令の命令書(以下「本件排除措置命令書」という。その記載内容は,別紙1のとおりである。)は,平成23年6月23日,被審人に対して送達された。
2 公正取引員会は,平成23年6月22日,被審人に対し,本件違反行為は独占禁止法第20条の6にいう「継続してするもの」であり,同条の規定により,本件違反行為をした日から本件違反行為がなくなる日までの期間は平成19年5月19日から平成22年5月18日までの3年間となるとした上で,本件違反行為のうち改正法の施行日である同年1月1日以後に係るものについて,特定納入業者165社それぞれとの間における購入額を前提に,2億2216万円の課徴金の納付を命じる本件課徴金納付命令を行った。
本件課徴金納付命令の命令書(以下「本件課徴金納付命令書」という。その記載内容〔ただし,同命令書の別添部分を除く。〕は,別紙2のとおりである。)は,平成23年6月23日,被審人に対して送達された。
3 被審人は,平成23年8月17日,本件各命令の全部の取消しを求める本件審判請求をした。本件排除措置命令書及び本件課徴金納付命令書(以下,両者を併せて「本件各命令書」という。)においては,別紙1及び2のとおり,いずれも特定納入業者の商号その他これらを特定するに足りる事項の記載はなかったが,本件審判手続において,審査官は,特定納入業者として主張する165社(ただし,自然人を含む。)について,その商号等を記載した一覧表をもってこれらを特定し(以下,これにより特定された上記165社を「本件165社」という。),本件課徴金納付命令について課徴金の計算の基礎となる購入額のうち本件165社ごとの金額を上記一覧表により明示した。公正取引委員会は,平成31年2月20日,第1次審決をしたが,その審決の内容は,被審人の取引上の地位が優越していたのは,本件165社のうち127社であったと認定した上で,本件排除措置命令について,上記127社を主文上特定する記載に変更し(主文第1項),本件課徴金納付命令のうち1億7839万円を超えて課徴金の納付を命じた部分を取り消し(主文第2項),被審人のその余の審判請求をいずれも棄却する(主文第3項)ものであった。
第1次審決は,平成31年2月21日,被審人に対して送達された。
4 被審人は,平成31年3月22日,東京高等裁判所に対し,第1次審決のうち,被審人の審判請求を排斥した部分の取消しを求める本件訴訟を提起した。同裁判所は,本件排除措置命令について,本件排除措置命令書の記載上特定納入業者が明らかではないことをもって,特定納入業者に対する違反行為の排除措置を命じた主文は特定を欠くものであり,かつ名宛人である被審人においていずれの相手方に対する自己の行為が違反行為に該当するか了知し得ないから,その理由の記載には不備があると判断するとともに,本件課徴金納付命令についても,本件課徴金納付命令書の記載上特定納入業者が明らかとなっておらず,特定納入業者ごとの購入額も明示されていないことをもって,名宛人である被審人においていずれの相手方に対する自己の行為が違反行為に該当するか了知し得ず,いずれの相手方からの購入額が課徴金の計算の基礎となったかを了知することができないから,その理由の記載には不備があると判断し,被審人の請求をいずれも認容すべきものとして,令和2年12月11日,第1次審決の主文第1項及び主文第3項を取り消す旨の本件判決をした。
本件判決は,令和2年12月11日,公正取引委員会に送達され,同月25日の経過をもって確定した。
第3 当委員会の判断
本件においては,被審人の本件違反行為の成否等のほか,本件各命令の適法性が争われているところ,後者について,本件訴訟において,前記第2の4のとおり,本件排除措置命令について主文及び理由の記載に不備があったこと並びに本件課徴金納付命令について理由の記載に不備があったことを理由として,第1次審決のうち被審人の審判請求を排斥した部分をいずれも取り消すとの本件判決がされ,同判決が確定したことから,独占禁止法第82条第2項の規定により,同判決の趣旨に従って,以下のとおり判断する。
1 事実関係
前記第2記載の事実のほか,当事者間に争いがなく,又は後掲各証拠により認められる事実は,次のとおりである。
(1) 被審人の概要
被審人は,肩書地に本店を置き,食品,日用雑貨品,衣料品等の小売業等を目的とする資本金2500万円の株式会社であり,岡山県,大阪府,兵庫県及び広島県の区域に,総合スーパーマーケット又は食品スーパーマーケットである「マルナカ」と称する店舗を出店している。平成22年5月末時点における被審人の店舗の数は,岡山県に55店舗,大阪府に8店舗,兵庫県に6店舗及び広島県に2店舗であり,毎年店舗数を増加させていた。被審人の年間総売上高は,平成20年3月期から平成22年3月期までの各年度において,いずれも1200億円台で推移しており,平成22年度において,岡山県の区域に本店を置く各種商品小売業に係る事業者(百貨店及び総合スーパーマーケットを含む。)の中で第1位であった。(査2,査20)
被審人は,自社の店舗で販売する商品のほとんど全てを,買取取引の方法により納入業者から仕入れていた。その仕入れに当たっては,仕入担当者が,納入業者との間で商談を行い,事前に商品の仕入価格等の取引条件を決定していた。(査5,査9,査11,査12,査15ないし査17,査23,査24の1ないし査24の165,査25,査32,査44,査203,査205ないし査210,査221)
被審人の取引先である納入業者は,食品,日用雑貨品,衣料品等の製造業者又は卸売業者であり,その多くが岡山県又はその周辺の区域に本店又は支店等を置いて事業を行っていた(査15)。
(2) 納入業者による被審人に対する金銭及び労務の提供等
本件165社は,被審人がその営業店舗で販売する商品を被審人に直接納入していたものであるが,被審人とこれらの納入業者との間で,以下の行為が行われていた。
ア 納入業者による従業員等の派遣
本件165社のうち146社は,平成19年1月から平成22年5月までの間に,被審人が実施した新規開店,全面改装,棚替え,被審人の営業店舗における協賛セール,朝市等に際し,被審人の要請を受けて,自社の従業員等を当該店舗に派遣し,商品の移動,陳列及び補充のほか,接客等の作業を行っていた。
イ 納入業者による金銭の提供
本件165社のうち131社は,平成19年4月から平成22年4月までの間に,次のとおり,被審人に対し,その要請に応じて金銭を提供していた。
(ア) 被審人は,新規開店の際,納入業者に対し,金銭の提供を要請しており,提供された金員を新規開店の宣伝用アドバルーンの設置費用及び消費者に配布する粗品等の費用に当てていた(査60ないし査64,査138ないし査140)。
(イ) 被審人は,それぞれ年1回主催していたこども将棋大会及びテニス大会の開催に際し,納入業者に対し,上記各大会のパンフレットに掲載される広告枠の販売という名目で,金銭の提供を要請しており,提供された金員を上記各大会の必要経費に当てていた(査65ないし査68,査87,査138,査140,査188)。
(ウ) 被審人は,岡山県立美術館で平成19年に開催された《美術展1》及び平成20年に開催された《美術展2》に,主催者である《会社名略》の要請を受けて協賛した際,いずれも懸賞を実施して,その当選者に上記各催事のチケットを無料で配布するに当たり,納入業者に対し,上記各催事を《新聞名略》の紙面で紹介する際における当該紙面の広告枠の販売という名目で,金銭の提供を要請しており,提供された金員を上記各チケットの購入費用に当てていた(査69,査70,査119,査138,査140,査197)。
ウ 買取取引で仕入れた商品の返品
被審人は,本件165社のうち10社に対し,平成21年10月11日頃から平成22年5月2日頃までの間に,これらの納入業者から仕入れた食品課商品のうち,被審人が独自に定めた販売期限が経過した商品を返品していた(査5,査23,査25,査32,査35,査198,査199,査201,査202の1ないし査202の10,査203ないし査210)。
エ 割引販売をした際の納入業者に対する買掛債務の減額
被審人は,本件165社のうち23社に対し,平成21年3月頃から平成22年5月18日までの間に,半額処分(食品課商品のうち季節商品の販売時期の終了及び売れ行き不振等による商品の入替えを行う際に実施していた通常価格の半額による割引販売)を行った際に,当該商品の納入業者に対する買掛債務から当該商品の仕入価格の半額を減額していたほか,売り尽くしセール(食品課商品又は日配品課商品のうち,全面改装のために行われる一時的な閉店に当たり実施していた在庫商品の割引販売)を行った際に,当該セールにおいて割引した額の総額等を基に計算した金額を「拡販協力金」として,当該商品の納入業者に対する買掛債務から減じていた(査17,査25,査32,査35,査44,査75,査81,査82,査86,査203ないし査205,査207ないし査219,査220の1ないし査220の11,査221ないし査229,査266)。
オ 納入業者によるクリスマス関連商品の購入
本件165社のうち17社は,平成21年12月に,被審人の要請を受けて,その店舗で販売するクリスマスケーキ等のクリスマス関連商品を購入していた(査232)。
(3) 公正取引委員会による立入検査
公正取引委員会は,被審人が納入業者に対して行っていた前記(2)記載の各行為(以下「本件各行為」という。)に関して優越的地位の濫用規制に違反したという疑いにより,平成22年5月18日,独占禁止法第47条第1項第4号の規定に基づく立入検査を行った。
被審人は,平成22年5月19日以降,本件各行為を行っていない。
(4) 事前手続の経緯
ア 公正取引委員会は,被審人に対し,平成23年3月15日付けで,平成22年1月1日から同年5月18日までの間における被審人による納入業者294社からの購入額等を報告するよう命じた(以下「本件報告命令」という。)。これを受け,被審人は,公正取引委員会に対し,平成23年4月13日付けで,本件報告命令に対する回答をするとともに,納入業者のうちに課徴金算定の相手方から除外すべきものがいるとの意見を述べたものであり,その後,同月26日付けで,本件報告命令に対する回答を修正したものを提出した。(審1の1ないし3,審2,審3の1ないし3)
イ 被審人は,平成23年6月1日,公正取引委員会から,独占禁止法第49条第5項及び第50条第6項並びに平成27年公正取引委員会規則第2号による改正前の公正取引委員会の審査に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第5号。以下「審査規則」という。)第24条第1項及び第29条に基づき,本件各命令書の案及び本件各命令に係る事前の通知書の送達を受けた。本件排除措置命令書の案には,主文1項⑴柱書において,取引上の地位が自社に対して劣っている納入業者を「特定納入業者」と定義する旨の記載がされ,主文の他の箇所及び理由中においては,かかる納入業者について上記の用語で摘示されていたほか,本件課徴金納付命令書の案には,その理由中の「課徴金に係る違反行為」について,「別添……排除措置命令書(写し)記載のとおり」と記載され,本件排除措置命令書の案の写しが添付されていたが,上記の各案それ自体にはいずれも特定納入業者の商号その他これらを特定するに足りる事項は記載されていなかった。
上記各送達書類には,平成22年(平成23年の誤記とみとめる。)5月31日付け「送付資料一覧」と題する書面,「課徴金算定対象事業者一覧表」と題する書面(以下「本件事前通知一覧表」という。),「排除措置命令の概要」と題する書面,「課徴金制度の概要 (優越的地位の濫用)」と題する書面及び 「排除措置命令及び課徴金納付命令の今後の手続について」と題する書面が同封されていた。そして,上記「送付資料一覧」と題する書面には,「1 通知書及び命令書(案) ⑴ 排除措置命令に係る事前の通知書 ⑵ 排除措置命令書(案) ⑶ 課徴金納付命令に係る事前の通知書 ⑷ 課徴金納付命令書(案) (参考)課徴金算定対象事業者一覧表 2 制度の概要について ⑴ 排除措置命令の概要 ⑵ 課徴金制度の概要(優越的地位の濫用) 3 今後の手続について」 と記載されていた。このうち,本件事前通知一覧表には,本件報告命令の別表記載の番号と共に「会社名」欄に本件165社の各商号が,「課徴金算定基礎となる購入額」欄に各金額がそれぞれ列記されていたが,これらの事業者が特定納入業者であることは明記されていなかった。
(査244)
ウ 公正取引委員会は,被審人からの申出により,審査規則第25条及び第29条に基づき,本件各命令の発付前に事実,証拠等に関する説明を実施した(以下,本件各命令の発付に当たり行われた上記の事前手続を「本件事前手続」という。)。
(5) 本件各命令書及びその同封書類等
ア 本件各命令は,本件事前手続を経て,前記第2の1及び2のとおり,平成23年6月22日付けで発出され,本件各命令書は,平成23年6月23日,被審人に送達されたところ,別紙1のとおり,本件排除措置命令書には,その主文1項⑴柱書において,取引上の地位が自社に対して劣っている納入業者を「特定納入業者」と定義する旨の記載がされ,主文のその余の部分及び理由においては,かかる納入業者について上記の用語で摘示されていたほか,別紙2のとおり,本件課徴金納付命令書には,その理由中の「課徴金に係る違反行為」について,「別添……排除措置命令書(写し)記載のとおり」 と記載され,本件排除措置命令書の写しが添付されていたが, 本件各命令書それ自体にはいずれにも特定納入業者の商号その他これらを特定するに足りる事項は記載されていなかった(すなわち,これらの記載は,前記(4)イの案の記載と同一であった。)。
イ 上記各送達書類には,平成23年6月22日付け「送付資料一覧」と題する書面,「課徴金算定対象事業者一覧表」と題する書面(以下「本件一覧表」という。)及び「今後の手続きについて」と題する書面が同封されていた。上記「送付資料一覧」と題する書面には,「1 通知書及び命令書 ⑴ 排除措置命令に係る通知書 ⑵ 排除措置命令書 ⑶ 課徴金納付命令に係る通知書 ⑷ 課徴金納付命令書(参考)課徴金算定対象事業者一覧表 2 今後の手続について」と記載されており,本件一覧表には,本件報告命令の別表記載の番号と共に「会社名」欄に本件165社の各商号が,「課徴金算定基礎となる購入額」欄に各金額がそれぞれ列記されていたが,これらの事業者が特定納入業者であることは明記されておらず,その記載内容は,本件事前通知一覧表と同じであった。(査245)
ウ その後,前記第2の3のとおり,被審人から本件審判請求がされたところ,審査官は,本件審判手続において,特定納入業者は本件165社であると主張し,その各商号を明示してこれらを特定するとともに,課徴金の計算の基礎となる購入額のうち本件165社ごとの金額を明示した。
2 本件排除措置命令書における理由の記載の不備に関する判断
(1) 審査官は,独占禁止法第49条第1項の規定により,排除措置命令書に記載すべき「公正取引委員会の認定した事実」は,違反行為に関する認定事実のほか,いかなる事実関係に基づき排除措置が命じられたのかを,名宛人においてその記載自体から了知し得るものでなければならず,かつ,それで足りるところ,別紙1のとおり,本件排除措置命令書では,理由中の「第1 事実」において,特定納入業者に該当するか否かの考慮要素が示され,かつ,被審人が具体的にいかなる態様の行為をどの程度行ったかも記載されているから,いずれの特定納入業者にいかなる行為を行ったかは,被審人にとって自明であり,被審人において,自己のいかなる行為が同法第2条第9項第5号に該当する行為であるとの評価を受けたかを知ることができ,本件排除措置命令に対する不服申立てを行うかどうか検討するのに十分な情報の提供を受けているといえるため,本件排除措置命令書における理由の記載に不備はない旨主張する。
(2) しかしながら,独占禁止法第49条第1項が,排除措置命令書に「公正取引委員会の認定した事実及びこれに対する法令の適用」を示さなければならないとしているのは,排除措置命令が,その名宛人に対して当該命令の主文に従った排除措置の履行義務を課すなど名宛人の事業活動の自由等を制限するものであることに鑑み,公正取引委員会の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,排除措置命令の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるためのものと解される。このような排除措置命令の性質及び排除措置命令書に上記の記載が必要とされる趣旨に鑑みれば,排除措置命令書に記載すべき理由の内容及び程度は,特段の理由がない限り,いかなる事実関係に基づき排除措置が命じられたのかを,名宛人においてその記載自体から了知し得るものでなければならない(最高裁判所昭和49年4月25日第一小法廷判決・民集28巻3号405頁,同昭和60年1月22日第三小法廷判決・民集39巻1号1頁等参照)。
(3) これを本件についてみると,別紙1のとおり,本件排除措置命令書には,排除措置命令の理由として,特定納入業者に該当するかの考慮要素(第1の1)及び被審人が特定納入業者に対して具体的にいかなる態様の行為をどの程度行ったのか(第1の2)という,命令の原因となる事実と,被審人が自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,①継続して取引する相手方に対して,当該取引に係る商品以外の商品を購入させ,②継続して取引する相手方に対して,自己のために金銭又は役務を提供させ,③取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ,又は取引の相手方に対して取引の対価の額を減じていたものであって,この行為が独占禁止法第2条第9項第5号(改正法の施行前においては旧一般指定第14項)に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するなどという,命令の根拠法条は示されているが,上記の行為の相手方である納入業者については,「特定納入業者」と定義されているにとどまり,これらの商号が明示されていないなど,その記載上特定されているということはできない。そうすると,本件排除措置命令書の記載自体によって,その名宛人である被審人において,いずれの相手方に対する自己の行為が独占禁止法第2条第9項第5号又は旧一般指定第14項に該当する優越的地位の濫用との評価を受けたかを具体的に知ることはできず,いずれの相手方に対する行為を違反行為として甘受し,又は争うべきかを,的確に判断することが困難であって,被審人の不服申立ての便宜には適わないものといえる。このことからすれば,本件排除措置命令書における理由の記載には不備があったものというべきである。
(4) この点,前記1(5)のとおり,本件各命令書が被審人に送達された際に,本件165社の商号等の記載のある本件一覧表が同封されていた。
しかしながら,本件各命令書の謄本の状況 (査245の3枚目から12枚目まで,14枚目から25枚目まで)及び送付資料一覧(査245の1枚目)の記載に照らすと,本件一覧表は,本件各命令の一部を構成するものではなく,本件課徴金納付命令の「参考資料」と位置付けられている。このような本件各命令書の形式及び本件一覧表の位置付けに照らすと,名宛人である被審人や第三者からすれば,本件一覧表が「参考資料」として同封された趣旨が明らかでないほか,本件一覧表は本件各命令の発付に際して,公正取引委員会の委員長及び委員の合議 (独占禁止法第69条) の結果を踏まえて作成されたものであるものの,この点も外観上明らかでなく,本件一覧表が本件各命令書と一体のものであると評価することはできない。
また,「課徴金算定対象事業者一覧表」という本件一覧表の表題に加えて,本件一覧表の記載上,本件報告命令の別表記載の番号は付記されているものの,そこに掲げられている事業者が特定納入業者であることが明記されていないことに照らすと,本件一覧表と本件排除措置命令とが関連しているかは明らかではなく,本件一覧表に記載された事業者が特定納入業者であると評価することもできない。
以上によれば,本件排除措置命令書の記載を本件一覧表で補充することはできず,その記載から,被審人の行為の相手方である特定納入業者を了知し得るものということはできない。これらによると,本件一覧表が送付されたことをもって,本件排除措置命令書における理由の記載に不備があったとの判断は左右されない。
(5) さらに,本件報告命令から本件事前手続を経て本件各命令の発付に至る経過は,前記1(4)及び同(5)で認定したとおりである。
しかし, 独占禁止法第49条第1項が同条第5項に基づく事前の手続を経た上でもなお排除措置命令書に理由の記載を要求していることに鑑みると,本件事前手続が行われたことをもって, 本件排除措置命令書における理由の記載の不備による瑕疵が治癒されると解することはできない。また,本件事前手続においても,本件各命令書の案が送達された際,本件165社の商号等の記載のある本件事前通知一覧表が同封されていたが,この書類は,本件各命令書の送達時に同封されていた本件一覧表と同様,本件各命令書の案の一部を構成するものではなく,課徴金納付命令書の案の「参考資料」という位置付けであって,その記載内容に照らしても本件排除措置命令書の案との関連性は明らかではないのであり,前記(4)に説示するところと同様に,かかる書類が送付されていたことをもって,本件排除措置命令書における理由の記載に不備があったという判断は左右されない。
(6) 以上のことからすれば,審査官の前記主張は採用することができず,本件排除措置命令書における理由の記載は,独占禁止法第49条第1項に違反するものであるから,本件排除措置命令は,全部取り消されるべきである。
(7) なお,独占禁止法第49条第1項は,排除措置命令書には,主文として「違反行為を排除し,又は違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置」 を示さなければならないと規定しているところ,その内容があまりにも抽象的であるため,これを受けた名宛人が当該命令を履行するために何をすべきかが具体的に分からないようなもの,その他その履行が不能あるいは著しく困難なものは違法となると解される。これについて,本件排除措置命令書は,別紙1のとおり,主文において,被審人に対し,遅くとも平成19年1月以降特定納入業者に対して行っていた本件各行為を取りやめている旨を確認すること(主文1項⑴)及び今後本件各行為と同様の行為を行わない旨(同項⑵)を,取締役会において決議しなければならないことなどを命じるものとなっているが,少なくとも主文1項⑴については,本件各行為の相手方となっている特定納入業者が本件排除措置命令書の記載からは明らかでなく,被審人において,何を決議すべきかが判然とせず,特定を欠くものであったというべきである。したがって,この点においても,本件排除措置命令は,独占禁止法第49条第1項に違反するものであるといわざるを得ない。
3 本件課徴金納付命令書における理由の記載の不備に関する判断
(1) 審査官は,独占禁止法第50条第1項の規定により,課徴金納付命令書に記載すべき 「課徴金に係る違反行為」は,排除措置命令書に記載される「公正取引委員会の認定した事実」(同法第49条第1項)と同程度の事実の記載で足り,また,同様に課徴金納付命令書に記載すべき課徴金の「計算の基礎」は,当該課徴金額の算定方法が明らかとなる程度の記載で足りるところ,本件課徴金納付命令書においては,「課徴金に係る違反行為」について,本件排除措置命令書を引用して記載されていることから,被審人は,上記記載を手掛かりに,本件課徴金納付命令に不服を申し立てるか否かを検討することが可能であるし,課徴金の「計算の基礎」についても,本件課徴金納付命令書には,本件違反行為をした日から本件違反行為がなくなる日までの期間が平成19年5月19日から平成22年5月18日までの3年間であること,本件違反行為に係る課徴金の対象となる納入業者の数が165社であること,及びこれらの納入業者から購入した商品に係る購入額の合計額が222億1605万4358円であることが記載されていることから,独占禁止法が要請する事実が全て記載されているといえるのであり,同命令書上は,それぞれの相手方ごとの購入額の内訳までは記載されていないものの,かかる記載まで要請されているとはいえない上,被審人に対して本件各命令書の案が送達された際にこれらの内訳を記載した本件事前通知一覧表が同封されていたほか,本件各命令書が送達された際にも,本件事前通知一覧表と同内容の記載のある本件一覧表が同封されていたのであり,これらによると被審人の不服申立ての便宜や処分の公正さの担保に手厚く配慮がされているというべきであるから,本件課徴金納付命令書における理由の記載に不備はない旨主張する。
(2) しかしながら,独占禁止法第50条第1項が,課徴金納付命令書に,「納付すべき課徴金の額及びその計算の基礎,課徴金に係る違反行為」を記載しなければならないとしているのは,課徴金納付命令が,その名宛人に対して当該命令に従った課徴金の納付義務という不利益を課すものであることに鑑み,公正取引委員会の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,課徴金納付命令の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるためのものと解される。このような課徴金納付命令の性質及び課徴金納付命令書に上記の記載が必要とされる趣旨に鑑みれば,課徴金納付命令書に記載すべき事項である納付すべき課徴金の額及びその計算の基礎,課徴金に係る違反行為は,特段の理由がない限り,名宛人においてその記載自体から了知し得るものでなければならない。
(3) これを本件についてみると,別紙2のとおり,本件課徴金納付命令書には,本件排除措置命令書(写し)を引用する形式で,「課徴金に係る違反行為」として,本件違反行為が独占禁止法第19条の規定に違反するものであるとともに,同法第20条の6にいう「継続してするもの」である旨が記載されているが,引用する本件排除措置命令書の理由の記載は,誰が特定納入業者に当たるかが明確ではなく,その記載に不備があったことは,前記2で説示したとおりであるから,これを引用する本件課徴金納付命令書の記載も同様というべきである。
また,優越的地位の濫用に係る課徴金の算定方法については,独占禁止法第20条の6において,「当該行為をした日から当該行為がなくなる日までの期間……における,当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額(…当該行為の相手方が複数ある場合は当該行為のそれぞれの相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額又は購入額の合計額とする。)に100の1を乗じて得た額」とする旨規定しているところ,別紙2のとおり,本件課徴金納付命令書には,「課徴金の計算の基礎」として,本件違反行為の違反行為期間(同命令書4⒧),改正法の施行日以後の本件違反行為の相手方の数が165社であり,いずれも被審人に商品を供給する者である旨(同4⑵),改正法の施行日以後にこれらの納入業者から購入した商品について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令第317号)第30条第2項の規定に基づき算定した当該購入額の合計額(同4⑶),被審人が国庫に納付しなければならない課徴金の額及びその算出過程(同4⑷)は記載されているが,上記の行為の相手方であるこれらの納入業者の商号や当該納入業者ごとの購入額については,具体的には示されていない。
そうすると,本件課徴金納付命令書の記載のみからは,被審人において,いずれの相手方に対する自己の行為が「課徴金に係る違反行為」に当たるとの評価を受けたかを具体的に知ることができないばかりか,いずれの相手方からの購入額が納付すべき課徴金額の計算の基礎となったかを具体的に知ることもできず,いずれの相手方からの購入額を課徴金の計算の基礎とすることを甘受し,又は争うべきかを,的確に判断することが困難であって,被審人の不服申立ての便宜には適わないものといえる。このことからすれば,本件課徴金納付命令書における理由の記載には不備があったものというべきである。
(4) この点,前記1(5)で認定したとおり,被審人に対して本件各命令書が送達された際に本件165社の商号等の記載のある本件一覧表が同封されていたが,本件一覧表は,その形式上,本件各命令の一部を構成するものではなく,本件課徴金納付命令の「参考資料」という位置付けにとどまり,本件一覧表を本件課徴金納付命令書と法的に一体のものと評価することはできないことは,前記2(4)で説示したとおりであるから,これをもって本件課徴金納付命令書における理由の記載に不備があったとの判断は左右されない。
また,本件報告命令から本件事前手続を経て本件各命令の発付に至る経過は,前記1(4)及び(5)で認定したとおりであるが,前記2(5)に説示するところと同様,独占禁止法第50条第1項が,事前の手続(同条第6項,同法第49条第5項)を経た上でもなお課徴金納付命令書に納付すべき課徴金の額及びその計算の基礎並びに課徴金に係る違反行為の記載を要求していることに鑑みると,本件事前手続が行われたことをもって,本件課徴金納付命令書における独占禁止法第50条第1項所定の記載の瑕疵が治癒されると解することはできないし,本件事前手続において本件各命令書の案が送達された際に本件165社の商号等の記載のある本件事前通知一覧表が同封されていたとしても,この書類は,本件一覧表と同様,本件各命令書の案の一部を構成するものではなく,本件課徴金納付命令書の案の「参考資料」という位置付けにすぎないのであるから,これをもって本件課徴金納付命令書における理由の記載に不備があったとの判断は左右されない。
(5) 以上のことからすれば,審査官の前記主張は採用することができず,本件課徴金納付命令書における理由の記載は,独占禁止法第50条第1項に違反するものであるから,本件課徴金納付命令は,全部取り消されるべきである。
第4 法令の適用
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件各命令は,いずれも全部取り消されるべきであるから,被審人の審判請求には理由がある。
よって,被審人に対し,独占禁止法第66条第3項及び規則第78条第2項の規定により,主文のとおり審決する。

令和3年1月27日

委員長  古  谷  一  之
委 員  山  本  和  史
委 員  三  村  晶  子
委 員  青  木  玲  子
委 員  小  島  吉  晴



別紙1
平成23年(措)第5号
排 除 措 置 命 令 書

岡山市南区平福一丁目305番2号
株式会社山陽マルナカ
同代表者 代表取締役 《 氏 名 》

公正取引委員会は,上記の者に対し,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第20条第2項の規定に基づき,次のとおり命令する。
なお,主文及び理由中の用語のうち,別紙「用語」欄に掲げるものの定義は,別紙「定義」欄に記載のとおりである。

主    文
1 株式会社山陽マルナカ(以下「山陽マルナカ」という。)は,次の事項を,取締役会において決議しなければならない。
(1) 遅くとも平成19年1月以降,取引上の地位が自社に対して劣っている納入業者(以下「特定納入業者」という。)に対して行っていた次の行為を取りやめている旨を確認すること
ア 新規開店,全面改装,棚替え等に際し,これらを実施する店舗に商品を納入する特定納入業者に対し,当該特定納入業者が納入する商品以外の商品を含む当該店舗の商品について,当該特定納入業者の従業員等が有する技術又は能力を要しない商品の移動,陳列,補充,接客等の作業を行わせるため,あらかじめ当該特定納入業者との間でその従業員等の派遣の条件について合意することなく,かつ,派遣のために通常必要な費用を自社が負担することなく,当該特定納入業者の従業員等を派遣させていた行為
イ 新規開店又は自社が主催する「こども将棋大会」若しくは「レディーステニス大会」と称する催事等の実施に際し,特定納入業者に対し,当該特定納入業者の納入する商品の販売促進効果等の利益がない又は当該利益を超える負担となるにもかかわらず,金銭を提供させていた行為
ウ 自社の食品課が取り扱っている調味料等の商品(以下「食品課商品」という。)のうち,自社が独自に定めた「見切り基準」と称する販売期限を経過したものについて,当該食品課商品を納入した特定納入業者に対し,当該特定納入業者の責めに帰すべき事由がなく,当該食品課商品の購入に当たって当該特定納入業者との合意により返品の条件を定めておらず,当該食品課商品の返品によって当該特定納入業者に通常生ずべき損失を自社が負担せず,かつ,当該特定納入業者から当該食品課商品の返品を受けたい旨の申出がないにもかかわらず,当該食品課商品を返品していた行為
エ(ア)食品課商品のうち,季節商品の販売時期の終了等に伴う商品の入替えを理由として割引販売を行うこととしたものについて,当該食品課商品を納入した特定納入業者に対し,当該特定納入業者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず,当該食品課商品の仕入価格に50パーセントを乗じて得た額に相当する額を,当該特定納入業者に支払うべき代金の額から減じていた行為
(イ)食品課商品又は自社の日配品課が取り扱っている牛乳等の商品(以下「日配品課商品」という。)のうち,全面改装に伴う在庫整理を理由として割引販売を行うこととしたものについて,当該食品課商品又は当該日配品課商品を納入した特定納入業者に対し,当該特定納入業者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず,当該割引販売において割引した額に相当する額等を,当該特定納入業者に支払うべき代金の額から減じていた行為
オ クリスマスケーキ等のクリスマス関連商品(以下「クリスマス関連商品」という。)の販売に際し,仕入担当者から,特定納入業者に対し,懇親会において申込用紙を配付した上で最低購入数量を示しその場で注文するよう指示する又は特定納入業者ごとに購入数量を示す方法により,クリスマス関連商品を購入させていた行為
(2) 今後,前記(1)の行為と同様の行為を行わない旨
2 山陽マルナカは,前項に基づいて採った措置を,納入業者に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
3 山陽マルナカは,今後,第1項(1)の行為と同様の行為を行ってはならない。
4 山陽マルナカは,今後,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については,第1項(1)の行為と同様の行為をすることのないようにするために十分なものでなければならず,かつ,あらかじめ,公正取引委員会の承認を受けなければならない。
(1) 納入業者との取引に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の改定
(2) 納入業者との取引に関する独占禁止法の遵守についての,役員及び従業員に対する定期的な研修並びに法務担当者による定期的な監査
5(1) 山陽マルナカは,第1項,第2項及び前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
(2) 山陽マルナカは,前項(2)に基づいて講じた措置の実施内容を,今後3年間,毎年,公正取引委員会に報告しなければならない。

理    由
第1 事実
1(1) 山陽マルナカは,肩書地に本店を置き,岡山県,大阪府,兵庫県及び広島県の区域に「マルナカ」と称する店舗を出店し,食品,日用雑貨品,衣料品等の小売業を営む者である。
(2) 山陽マルナカは,自社の店舗で販売する商品のほとんど全てを納入業者から買取りの方法により仕入れており,納入業者との間で商談を行い,事前に当該商品の仕入価格等の取引条件を決定していた。納入業者は,食品,日用雑貨品,衣料品等の製造業者又は卸売業者であり,その多くが岡山県又はその周辺の区域に本店又は支店等の事業所を置いて事業を行っていた。
(3)ア 山陽マルナカは,岡山県の区域を中心に店舗を展開しており,売上高では同県の区域に本店を置く百貨店及び総合スーパーの中で最大手の事業者である。また,岡山県における小売業に係る食品の売上高に占める山陽マルナカの売上高の割合は,小売業者の中で最も高い。
イ 山陽マルナカは毎年店舗数を増加させており,山陽マルナカの年間売上高は1200億円を超えて推移しているところ,納入業者の中には,今後の山陽マルナカとの取引額の増加を期待する者が多い。
ウ 納入業者の中には,当該納入業者の売上高に占める山陽マルナカに対する売上高の割合が高いなど,山陽マルナカを主な取引先とする者が存在する。
エ 納入業者の中には,他の事業者との取引を開始する又は拡大することにより山陽マルナカに対する売上高と同程度の売上高を確保することが困難な者が存在する。
オ 納入業者の中には,山陽マルナカと取引がある自社の支店等の事業所の売上高に占める山陽マルナカに対する売上高の割合が高いことなどにより,自社の支店等の事業所と山陽マルナカとの取引関係を重視する者が存在する。
カ 前記アからオまでの事情等により,特定納入業者は,山陽マルナカとの取引の継続が困難になれば事業経営上大きな支障を来すこととなり,このため,山陽マルナカとの取引を継続する上で,納入する商品の納入価格等の取引条件とは別に,山陽マルナカからの種々の要請を受け入れざるを得ない立場にあり,その取引上の地位は山陽マルナカに対して劣っていた。
2(1) 山陽マルナカは,遅くとも平成19年1月以降,特定納入業者に対して,次の行為をしていた。
ア 新規開店,全面改装,棚替え等に際し,これらを実施する店舗に商品を納入する特定納入業者に,当該特定納入業者が納入する商品以外の商品を含む当該店舗の商品について,当該特定納入業者の従業員等が有する技術又は能力を要しない商品の移動,陳列,補充,接客等の作業を行わせることとし,あらかじめ当該特定納入業者との間でその従業員等の派遣の条件について合意することなく,仕入担当者から,当該特定納入業者に対し,直接又は他の納入業者を通じて,これらの作業を行う店舗,日時等を連絡し,その従業員等を派遣するよう要請していた。
この要請を受けた特定納入業者は,山陽マルナカとの取引を継続して行う立場上,その要請に応じることを余儀なくされ,その従業員等を派遣していた。また,山陽マルナカは,当該派遣のために通常必要な費用を負担していなかった。
イ 新規開店を宣伝するためのアドバルーンの設置等に要する費用を確保するため,又は自社が主催する「こども将棋大会」若しくは「レディーステニス大会」と称する催事等の実施に要する費用を確保するため,あらかじめ仕入部門ごとに特定納入業者から提供を受ける金銭の目標額を設定し,仕入担当者から,特定納入業者に対し,当該特定納入業者の納入する商品の販売促進効果等の利益がない又は当該利益を超える負担となるにもかかわらず,金銭を提供するよう要請していた。
この要請を受けた特定納入業者は,山陽マルナカとの取引を継続して行う立場上,その要請に応じることを余儀なくされ,金銭を提供していた。
ウ 食品課商品のうち,自社が独自に定めた「見切り基準」と称する販売期限を経過したものについて,当該食品課商品を納入した特定納入業者に対し,当該特定納入業者の責めに帰すべき事由がなく,当該食品課商品の購入に当たって当該特定納入業者との合意により返品の条件を定めておらず,かつ,当該特定納入業者から当該食品課商品の返品を受けたい旨の申出がないにもかかわらず,当該食品課商品を返品していた。
この返品を受けた特定納入業者は,山陽マルナカとの取引を継続して行う立場上,その返品を受け入れることを余儀なくされていた。また,山陽マルナカは,この返品によって当該特定納入業者に通常生ずべき損失を負担していなかった。
エ(ア)食品課商品のうち,季節商品の販売時期の終了等に伴う商品の入替えを理由として割引販売を行うこととしたものについて,当該食品課商品を納入した特定納入業者に対し,当該特定納入業者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず,当該割引販売に伴う自社の損失を補塡するために,当該食品課商品の仕入価格に50パーセントを乗じて得た額に相当する額を,当該特定納入業者に支払うべき代金の額から減じていた。
この減額を受けた特定納入業者は,山陽マルナカとの取引を継続して行う立場上,その減額を受け入れることを余儀なくされていた。
(イ)食品課商品又は日配品課商品のうち,全面改装に伴う在庫整理を理由として割引販売を行うこととしたものについて,当該食品課商品又は当該日配品課商品を納入した特定納入業者に対し,当該特定納入業者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず,当該割引販売に伴う自社の損失を補塡するために,当該割引販売において割引した額に相当する額等を,当該特定納入業者に支払うべき代金の額から減じていた。
この減額を受けた特定納入業者は,山陽マルナカとの取引を継続して行う立場上,その減額を受け入れることを余儀なくされていた。
オ 平成21年11月から同年12月にかけて実施したクリスマス関連商品の販売に際し,あらかじめ自社の仕入部門ごとにクリスマス関連商品の目標販売数量を設定した上で,仕入担当者から,特定納入業者に対し
(ア)特定納入業者との懇親会において,クリスマス関連商品の申込用紙を配付し,クリスマス関連商品の最低購入数量を示した上で,その場で注文するよう指示する
(イ)自社との取引額を踏まえて,特定納入業者ごとにクリスマス関連製品の購入数量を示す
方法により,クリスマス関連商品を購入するよう要請していた。
 この要請を受けた特定納入業者は,山陽マルナカとの取引を継続して行う立場上,その要請に応じることを余儀なくされ,クリスマス関連商品を購入していた。
(2) 前記(1)の行為について,山陽マルナカは
ア 平成19年1月から平成22年5月までの間に実施した新規開店,全面改装,棚替え等に際し,これらを実施する店舗に商品を納入する特定納入業者約140社に対し,延べ約4,200人の従業員等を派遣させ,使用する
イ 平成19年4月から平成22年4月までの間に実施した新規開店又は自社主催の催事等の実施に際し,特定納入業者約130社に対し,総額約3200万円の金銭を提供させる
ウ 平成21年3月から同年8月までの間に実施した全面改装に伴う在庫整理を理由とした割引販売に際し,当該割引販売を行った食品課商品又は日配品課商品を納入する特定納入業者約20社に対し,総額約410万円を当該特定納入業者に支払うべき代金の額から減じる
などしていた。
3 平成22年5月18日,本件について,公正取引委員会が独占禁止法第47条第1項第4号の規定に基づく立入検査を行ったところ,同月19日以降,山陽マルナカは,前記2(1)の行為を取りやめている。
第2 法令の適用
前記事実によれば,山陽マルナカは,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に
1 継続して取引する相手方に対して,当該取引に係る商品以外の商品を購入させ
2 継続して取引する相手方に対して,自己のために金銭又は役務を提供させ
3 取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ,又は取引の相手方に対して取引の対価の額を減じ
ていたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第9項第5号(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成21年法律第51号)の施行日である平成22年1月1日前においては平成21年公正取引委員会告示第18号による改正前の不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第14項)に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものである。このため,山陽マルナカは,独占禁止法第20条第2項において準用する独占禁止法第7条第2項第1号に該当する者である。また,山陽マルナカは,平成16年(勧)第3号の審決において排除措置を命じられたにもかかわらず違反行為を行っていたこと,違反行為が長期間にわたって行われていたこと,違反行為の取りやめが公正取引委員会の立入検査を契機としたものであること等の諸事情を総合的に勘案すれば,特に排除措置を命ずる必要があると認められる。
よって,山陽マルナカに対し,独占禁止法第20条第2項の規定に基づき,主文のとおり命令する。
平成23年6月22日

公 正 取 引 委 員 会
委員長   竹  島  一  彦
委 員   後  藤     晃
委 員   神  垣  清  水
委 員   濵  田  道  代
委 員   細  川     清


別紙2
平成23年(納)第87号
課 徴 金 納 付 命 令 書

岡山市南区平福一丁目305番2号
株式会社山陽マルナカ
同代表者 代表取締役 《 氏 名 》

公正取引委員会は,上記の者に対し,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第20条の6の規定に基づき,次のとおり課徴金の納付を命ずる。
1 納付すべき課徴金の額   2億2216万円
2 納期限   平成23年9月26日
3 課徴金に係る違反行為
株式会社山陽マルナカ(以下「山陽マルナカ」という。)は,別添平成23年(措)第5号排除措置命令書(写し)記載のとおり,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に
(1) 継続して取引する相手方に対して,当該取引に係る商品以外の商品を購入させ
(2) 継続して取引する相手方に対して,自己のために金銭又は役務を提供させ
(3) 取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ,又は取引の相手方に対して取引の対価の額を減じ
ていたものであって,この行為は,独占禁止法第2条第9項第5号に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反するものであり,かつ,独占禁止法第20条の6に規定する継続してするものである。
4 課徴金の計算の基礎
(1) 山陽マルナカが前記3の違反行為をした日は,平成19年5月18日以前であると認められる。また,山陽マルナカは,平成22年5月19日以降,当該違反行為を取りやめており,同月18日に当該違反行為はなくなっているものと認められる。したがって,山陽マルナカについては,前記3の違反行為をした日から当該違反行為がなくなる日までの期間(以下「違反行為期間」という。)が3年を超えるため,独占禁止法第20条の6の規定により,違反行為期間は,平成19年5月19日から平成22年5月18日までの3年間となる。
(2) 前記3の違反行為のうち私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成21年法律第51号。以下「改正法」という。)の施行日である平成22年1月1日以後に係るものの相手方は,165社であり,全て山陽マルナカに商品を供給する者である。
(3) 違反行為期間のうち改正法の施行日である平成22年1月1日以後における山陽マルナカの前記165社それぞれとの間における購入額は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令第30条第2項の規定に基づき算定すべきところ,当該規定に基づき算定した当該購入額の合計額は222億1605万4358円である。
(4) 山陽マルナカが国庫に納付しなければならない課徴金の額は,独占禁止法第20条の6の規定により,前記222億1605万4358円に100分の1を乗じて得た額から,独占禁止法第20条の7において準用する独占禁止法第7条の2第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて算出された2億2216万円である。
平成23年6月22日

公 正 取 引 委 員 会
委員長   竹  島  一  彦
委 員   後  藤     晃
委 員   神  垣  清  水
委 員   濵  田  道  代
委 員   細  川     清

ページトップへ

ページトップへ