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世紀東急工業株式会社による課徴金納付命令取消請求事件

独禁法3条後段、独禁法7条2
東京地方裁判所民事第8部

令和2年(行ウ)第32号

判決

令和3年8月5日

同代表者代表取締役  《氏名》
同訴訟代理人弁護士  西村泰夫
同  葛巻瑞貴
同  村島俊宏
同  穂積伸一
同  谷口悠樹
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告  公正取引委員会
同代表者委員長  古谷一之
同指定代理人  横手哲二
同  近藤智士
同  垣内晋治
同  永井 誠
同  河﨑 渉
同  井登貴伸
同  櫻井裕介
同  新田高弘
同  福井雅人
同  太田陽介
同  久野慎介
同  名執祐矢

令和3年8月5日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和2年(行ウ)第32号 課徴金納付命令取消請求事件
口頭弁論終結日 令和3年6月3日
判決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が原告に対し令和元年7月30日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会令和元年(納)第11号)のうち,18億3417万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
被告は,アスファルト合材(石油アスファルトに砕石,砂,石粉等を配合した混合材料)の製造販売業を営む原告が,遅くとも平成23年3月以降,同業他社8社(後記2(1)イ(イ)から(ケ)までの会社であり,以下,これら8社と原告を併せて「本件9社」という。)との間で,本件9社又はそのいずれかを構成員とする共同企業体が販売するアスファルト合材の販売価格の引上げを共同して行っていく旨の合意(以下「本件合意」という。)をし,公共の利益に反して,日本国内におけるアスファルト合材の販売分野の競争を実質的に制限したものであり,この行為(以下「本件違反行為」という。)が,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(令和元年法律第45号による改正前のもの。特に断わりのない限り,以下同じ。以下「独禁法」という。)2条6項の「不当な取引制限」に該当し,独禁法3条に違反することを理由として,令和元年7月30日,本件9社のうち原告を含む7社に対し,排除措置命令(令和元年(措)第6号。以下同じ。)を行うとともに,本件違反行為が独禁法7条の2第1項1号の「商品…の対価に係るもの」に該当することを理由として,同日,原告に対し,課徴金28億9781万円の納付を命じる課徴金納付命令(令和元年(納)第11号。以下「本件課徴金納付命令」という。)を行った。
本件は,原告が,本件課徴金納付命令は課徴金算定の対象とならない商品の対価を含めて課徴金の額を算定したものであり,その対象とならない売上額を控除して算定した課徴金の額は18億3417万円となるから,同額を超える部分(10億6364万円)については違法に納付を命じられたものであると主張して,本件課徴金納付命令のうち当該部分の取消しを求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠(特記しない限り,枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は,東京都港区に本店を置き,アスファルト合材の製造販売業を営む株式会社(以下,アスファルト合材の製造販売業を営む事業者のことを「合材メーカー」という。)である。
イ 本件合意をしたのは下記(ア)から(ケ)までの9社(本件9社)であり,いずれも日本全国でアスファルト合材の製造販売業を展開している大手の合材メーカーである。
(ア) 世紀東急工業株式会社(原告)
(イ) 株式会社NIPPO
(ウ) 前田道路株式会社
(エ) 日本道路株式会社
(オ) 大成ロテック株式会社
(カ) 鹿島道路株式会社
(キ) 大林道路株式会社
(ク) 株式会社ガイアート(平成28年10月1日付けで,商号を株式会社ガイアートT・Kから現商号に変更している。以下,この商号変更の前後を通じ,同社を「ガイアート」という。)。
(ケ) 東亜道路工業株式会社
ウ 本件9社以外の合材メーカーとしては,複数の地域で事業を展開している≪A≫や≪B≫等の,本件9社に次ぐ規模の準大手の事業者が五,六社程度存在するほか,特定の地域のみを営業区域としている事業者(以下「地場業者」という。)が多数存在する。
(2) アスファルト合材の製品概要
アスファルト合材は,石油アスファルトに骨材(砕石,砂等),フィラー(石を粉末状にしたもの)等を配合した混合材料であり,新しい骨材を使用した新規アスファルト合材と,再生処理した骨材を使用した再生アスファルト合材とに大別されるほか,使用される骨材の大きさやその混合割合,石油アスファルトの種類,着色の有無等により,様々な製品に区別される。例えば,骨材の大きさ等による区別としては,骨材の最大粒径とそれらの混合割合により「密粒度」,「細粒度」,「開粒度」及び「粗粒度」に分類される。石油アスファルトの種類による区別としては,通常使用されるストレートアスファルト(石油アスファルトのうち,蒸留法によって製造されるもの。以下「ストアス」という。)を用いたもののほか,強度や排水性を高めるための特殊な石油アスファルト(改質アスファルト)を用いた,改質アスファルト合材と呼ばれるものがある。
アスファルト合材は,主に道路の舗装工事に用いられる材料であり,道路に敷きならし,締め固めて使用されるものであって,通常は,加熱した状態で製造された後,ダンプカー等で舗装工事の現場まで短時間で搬送され,使用される(ただし,製造後,常温に冷ましてから販売する常温合材を除く。)。
アスファルト合材のうち,販売量が最も多いのが,全体の過半を占めている「再生密粒度アスファルト合材」であり,その中では,骨材の最大粒径が13ミリメートルの「再生密粒度アスファルト合材13mm」が大半を占めている。
(甲1から3まで)
(3) 合材工場
ア アスファルト合材は,プラントなどと呼ばれる製造拠点において製造される。また,サテライトと呼ばれる,製造設備は持たずにアスファルト合材の貯蔵や販売のみを行う貯蔵施設等もある(以下,これらの製造拠点と貯蔵施設等を併せて「合材工場」という。)。
イ 本件9社は,自社単独で又は自社以外の合材メーカーと共同企業体(以下「JV」という。)を結成して,全国各地に合材工場を設立し,運営している(以下,自社単独で設立した合材工場を「単独工場」といい,JVを結成して設立した合材工場を「JV工場」という。)。
ウ JV工場は,同業他社と共同で出資することで製造及び販売の効率性を高めて採算性を向上させることなどを目的として,設置され,運営される。
JV工場においては,通常,JVに出資している合材メーカー(以下「構成員」という。)の中で出資比率が最も高い構成員(以下「スポンサー」という。)が代表者に選出され,スポンサーから派遣された者が工場長等と呼ばれるJV工場の運営責任者を務める一方で,スポンサー以外の構成員からも副工場長等として人員が派遣される場合があるが,そのような人員が派遣されない場合もある。
JV工場におけるアスファルト合材の販売の損益は,通常,当該JVの構成員に出資比率で案分して配分される。
(4) アスファルト合材の取引先
ア アスファルト合材の主な需要者は,地方自治体等が発注する道路舗装工事を受注した舗装工事業者である。
本件9社は,自社の単独工場やJV工場で製造したアスファルト合材を,上記需要者や,同業他社(JVの構成員を含む。),商社等に販売する。
イ 常温合材を除くアスファルト合材は,高温の状態を保持したまま舗装工事の現場等に納入されなければならないため,それぞれの合材工場から供給することができる地理的範囲に制約がある。具体的には,合材工場からダンプカーによって1時間から2時間以内に到着できる区域(距離にして合材工場からおおむね半径30キロメートル程度の区域)内が,おおよその供給可能な範囲となる。
ウ 合材メーカーの中には,自社で舗装工事の受注及び施工を行っている事業者があり,そのような合材メーカーが舗装工事を施工するに当たって,自社又は他の合材メーカーが製造したアスファルト合材を自社の工事部門において使用することもある(以下,このような合材メーカーによるアスファルト合材の使用を「自家使用」という。)。
本件9社のアスファルト合材の製造数量合計に占める自家使用量合計の割合は,約30パーセントである。(乙18)
エ 本件9社は,アスファルト合材を供給することができる地理的範囲に制約(上記イ)があるため,需要者への納入揚所の付近に稼働中の自社工場が存在しない揚合,当該納入場所の付近にある同業他社の合材工場からアスファルト合材の供給を受ける取引を相互に行っている(このような場合等に行われる同業者間のアスファルト合材の取引を,以下「同業者間取引」という。)。
(5) アスファルト合材の販売価格の決定要因等
ア 合材工場が道路舗装工事業者等の取引先にアスファルト合材を販売する際の価格は,それぞれの地域,工場及び取引における諸事情を勘案しつつ,各合材工場とその取引先との間の交渉により,個別に決定される。(甲116,弁論の全趣旨)
イ ストアスを用いた一般的なアスファルト合材の製造原価の構成割合は,おおむね,ストアスの価格が3割,その他の原材料(骨材,フィラー)の価格が3割,電力料や燃料費が1割,運搬費が1割,販売及び一般管理費が2割であり,ストアスの価格の割合が最も大きい。
ストアスの価格は,原油価格や為替レートによる影響を受けて変動しやすく,基本的には,毎年1月,4月,7月及び10月の四半期ごとに見直されている。
本件9社においては,ストアスを,ディーラーと呼ぼれる輸入業者等から本店が一括して購入しており,ストアスの価格の改定に関する情報については,ディーラーから事前に入手するなどしていた。
ウ JV工場において販売するアスファルト合材の価格には,大別して,当該JVの構成員に販売する際の価格(以下「協定価格」という。)と,それ以外の需要者に販売する際の価格(以下「顧客価格」という。)が存在する。協定価格は,JV工場ごとに決定されるが,顧客価格よりも低く設定されることが多い。
(6) 我が国におけるアスファルト合材の製造数量及び本件9社の市場シェア
ア 我が国におけるアスファルト合材の製造数量は,平成4年度に約8084万トンであったものが,その後はおおむね減少傾向にあり,平成28年度には約4164万トンとなった。(甲4)
イ 平成23年度から平成26年度までの期間において,我が国のアスファルト合材の製造数量における本件9社の市場シェアは,約66パーセントであり,そこから本件9社及び準大手の事業者等8社の自社工場(自社の単独工場及び自社がJVの構成員であるJV工場をいう。以下同じ。)で製造した自家使用の分を差し引くと,約60パーセントであった。(乙40,41)
(7) 原告の合材工場
ア 後記の争点1に関係する合材工場(以下,下記(ア)から(エ)までの各合材工場を併せて「本件4工場」という。)
(ア) 知床アスコン
北海道斜里郡斜里町に所在する,原告及び≪C≫を構成員とするJV工場であり,各構成員の出資比率は,≪C≫が70パーセント,原告が30パーセントである。(甲5から9まで,43)
(イ) 福島舗材センター
福島県南相馬市に所在する,原告の単独工場である。(甲10,11)
(ウ) 南木曽合材工場
長野県木曽郡南木曽町に所在する,原告の単独工場である。(甲12,13)
(エ) 山都合材工場
熊本県上益城郡山都町に所在する,原告の単独工場である。(甲14,15)
イ 後記の争点4に関係する合材工場(いずれも本件9社以外の合材メーカーがスポンサーであるJV工場であり,以下,下記(ア)から(カ)までの各合材工場を併せて「本件6工場」という。)
(ア) カムイアスコン
北海道上川郡当麻町に所在する,原告,ガイアート,≪C≫外4社を構成員とするJV工場であり,各構成員の出資比率は,平成21年4月から平成24年3月までの間,スポンサーである≪C≫が45パーセント,原告が10パーセント,ガイアートが5パーセント,その余の4社が合計40パーセントであり,同年4月以降,スポンサーである≪C≫が40パーセント,原告及びガイアートがそれぞれ5パーセント,その余の4社が合計50パーセントである。(甲5,40から42まで,弁論の全趣旨)
(イ) 知床アスコン
上記ア(ア)のとおり。
(ウ) 青森アステック
青森県南津軽郡藤崎町に所在する,原告及び≪D≫を構成員とするJV工場であり,各構成員の出資比率は,スポンサーである≪D≫が90パーセント,原告が10パーセントである。(甲5,44から46まで)
(エ) 青森共同アスコン
青森市に所在する,原告,≪B≫外3社を構成員とするJV工場であり,各構成員の出資比率は,スポンサーである≪B≫が55パーセント,原告が12パーセント,その余の3社が合計33パーセントである(甲5,46から48まで)
(オ) 山形アスコン
山形県上山市に所在する,原告及び≪E≫を構成員とするJV工場であり,各構成員の出資比率は,スポンサーである≪E≫が60パーセント,原告が40パーセントである。(甲5,50から53まで)
(カ) 大野プラント
新潟市に所在する,原告,≪F≫外2社を構成員とするJV工場であり,各構成員の出資比率は,スポンサーである≪F≫が51パーセント,原告が35パーセント,その余の2社が合計14パーセントである。(甲54,55)
ウ その他の原告の自社工場
原告は,上記ア及びイの各工場を含め,北海道から沖縄までの全国各地に,多数の合材工場を設置し,運営している。(甲5)
(8) 後記の争点3に関係する原告の子会社(いずれも原告が全株式を有する株式会社であり,以下,下記アからカまでの各会社を併せて「本件各子会社」という。)
ア ≪子会社X1≫株式会社(以下「≪子会社X1≫」という。)
仙台市に本店を置く,原告の全額出資子会社である。(甲91,92)
イ ≪子会社X2≫株式会社(以下「≪子会社X2≫」という。)
盛岡市に本店を置く,原告の全額出資子会社である。(甲98,99),
ウ ≪子会社X3≫株式会社(以下「≪子会社X3≫」という。)
福岡市に本店を置く,原告の全額出資子会社である。(甲101,102)
エ ≪子会社X4≫株式会社(以下「≪子会社X4≫」という。)
熊本県阿蘇市に本店を置く,原告の全額出資子会社である。(甲103,104)
オ ≪子会社X5≫株式会社(以下「≪子会社X5≫」という。)
奈良県大和郡山市に本店を置く,原告の全額出資子会社である。(乙15)
カ 株式会社≪子会社X6≫
神奈川県厚木市に本店を置く,原告の全額出資子会社である。平成24年1月28日から平成27年1月27日までの期間(独禁法7条の2第1項に基づき,本件課徴金納付命令において課徴金算定の対象となる売上額を計上する対象とされた期間であり,以下「本件実行期間」という。)におけるアスファルト合材の売上額は存在しない。(乙2,弁論の全趣旨)
(9) 本件9社による価格カルテルの形成
本件9社は,遅くとも平成23年3月頃以降,本件9社又はそのいずれかを構成員とするJVが販売するアスファルト合材の販売価格の引上げを共同して行っていく旨の合意(本件合意)をした。
本件9社の本店におけるそれぞれの担当者が飲食店等に集まり,アスファルト合材の製造数量等に関する情報を共有し,販売価格等について話し合う会合(以下「9社会」という。),が,平成23年3月以前から平成26年11月頃までの間,定期的に開催されていた。
(10) 被告による排除措置命令及び本件課徴金納付命令
ア 排除措置命令
被告は,本件9社が,共同して,本件合意をすることにより,公共の利益に反して,我が国におけるアスファルト合材の販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,この行為(本件違反行為)は,独禁法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し,独禁法3条の規定に違反するなどと認定して,令和元年7月30日,本件9社のうち原告を含む7社(原告,前田道路株式会社,大成ロテック株式会社,鹿島道路株式会社,大林道路株式会社,ガイアート及び東亜道路工業株式会社)に対し,独禁法7条2項に基づき,排除措置を命じた。(乙1)
イ 本件課徴金納付命令
被告は,令和元年7月30日,原告に対し,本件違反行為は独禁法3条の規定に違反し,かつ,独禁法7条の2第1項1号に規定する商品の対価に係るものであるとした上で,本件実行期間を平成24年1月28日から平成27年1月27日までの3年間と認定するとともに,独禁法施行令5条1項に基づき算定される本件実行期間におけるアスファルト合材に係る原告の売上額(原告を構成員とするJVにおける売上額を含む額)を413億9733万6726円と認定し,原告が課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則に定めるところにより事実の報告及び資料の提出を行った者であることなども考慮して,独禁法7条の2第1項,12項,23項に基づき算出された28億9781万円を課徴金として納付するよう命じた。(乙2)
(11) 本件訴えの提起
原告は,令和2年1月29日,本件訴えを提起した。
3 本件の争点
本件課徴金納付命令における課徴金の額の算定において,下記(1)から(5)までの各アスファルト合材が「当該商品」(独禁法7条の2第1項)に含まれるか。
(1) 本件4工場が販売したアスファルト合材(争点1)
(2) 原告が同業者間取引により供給したアスファルト合材(争点2)
(3) 原告が本件各子会社に販売したアスファルト合材(争点3)
(4) 本件6工場が販売したアスファルト合材(争点4)
(5) JV工場が構成員に対し協定価格で販売したアスファルト合材(争点5)
4 争点に関する当事者の主張
(争点1から5までに共通する被告の主張)
独禁法7条の2第1項1号にいう「当該商品」とは,違反行為である不当な取引制限の対象とされた商品のことであり,価格カルテル事案においては,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,当該違反行為による相互拘束が及んだものをいうと解される。そして,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,違反行為を行った事業者又は事業者団体が明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど,当該商品が違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,違反行為による拘束が及んでいるものとして,課徴金算定の対象となる上記「当該商品」に含まれる。
本件においては,原告が主張する上記3(1)から(5)までの各アスファルト合材を含む全てのアスファルト合材が本件合意の対象であった上,これらの各アスファルト合材が上記の「相互拘束から除外されていることを示す特段の事情」は認められないから,これらの各アスファルト合材の売上額を対象として課徴金を算定した本件課徴金納付命令は適法である。
(1) 争点1(本件4工場が販売したアスファルト合材)について
(原告の主張)
ア 本件4工場(①知床アスコン,②福島舗材センター,③南木曽合材工場及び④山都合材工場)は競争が存在しない地域(①③④)又は競争の実質的制限が生じていない地域(②)に存在するため,本件4工場が販売したアスファルト合材は本件合意の対象とされていなかった。
イ 「不当な取引制限」は「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」であり(独禁法2条6項),「競争」の存在が前提となっているところ,独禁法2条4項が規定する「競争」の定義によれば,同一の需要者に対して特定の商品又は役務を供給する複数の事業者が存在することが「競争」が存在するための前提となる。
合材工場からアスファルト合材を供給することが可能な地理的範囲には一定の制約があるから,地理的に離れた場所にある合材工場の間では,同一の需要者に対して販売が行われることはなく,競争が存在しない。したがって,アスファルト合材の販売分野に関しては,競争が行われ得る範囲である,アスファルト合材を供給することが可能な地理的範囲,すなわち合材工場の商圏ごとに「一定の取引分野」の地理的範囲が画定されるべきであるから,被告が本件の「一定の取引分野」の地理的範囲を日本全国と画定したのは誤りである。そして,ある合材工場の商圏において他に競争すべき合材工場が存在せず,競争が存在しない場合には,「一定の取引分野」を観念することができないところ,本件4工場のうち①知床アスコン,③南木曽合材工場及び④山都合材工場の各商圏には競争が存在しない。
ウ アスファルト合材の販売分野における「一定の取引分野」の地理的範囲が,合材工場の商圏ごとではなく日本全国と画定されたとしても,個別の合材工場のある地域(個別市場)において競争の実質的制限が生じていないことが立証された場合には,当該合材工場の売上額は課徴金算定の対象から除かれるべきであるところ,本件4工場のうち②福島舗材センターのある地域においては競争の実質的制限が生じていない。
エ したがって,本件実行期間中の本件4工場の売上額合計14億0232万7042円は課徴金算定の対象から除外されるべきであったから,本件課徴金納付命令のうち当該部分を対象として算定された9816万2893円に係る部分は違法であり,取り消されるべきである。
(被告の主張)
ア 不当な取引制限の成立において前提となるのは,独禁法2条6項が規定する「事業者」であり,本件違反行為でいえば原告を含む本件9社であって,それら事業者の一部門である特定の合材工場を事業者と観念し,当該工場の存する地域をもって一定の取引分野を画定することや,当該一定の取引分野において事業者の一部である合材工場同士が価格について競争し合っているかのような原告の主張は,独禁法の解釈を誤ったものである。
イ 本件合意は,特定の地域や合材工場を除外しておらず,本件9社が日本全国で販売する全てのアスファルト合材を対象とするものであった。
また,アスファルト合材の取引においては,同業者間取引により,同業者間で互いの有する合材工場から供給されるアスファルト合材を融通し合うことで,物理的な距離とは無関係に商圏を拡大できるという特徴があるから,アスファルト合材の運搬時間の観点から近隣に商圏が重複する合材工場が存在しない地域があるからといって,直ちに当該地域において競争がなかったということにはならない。
さらに,本件4工場のいずれにおいても,本件9社からの値上げの指示に沿ったアスファルト合材の販売価格の値上げが行われていた上,本件4工場のうち②福島舗材センター,③南木曽合材工場及び④山都合材工場においては,周囲の合材工場との価格の調整や顧客の取合いが行われていた。
(2) 争点2(原告が同業者間取引により供給したアスファルト合材)について
(原告の主張)
ア 同業者間取引において原告が同業他社から委託を受けて製造及び供給をしたアスファルト合材は,原告が需要者に販売したものではなく,原告が同業他社から加工賃の支払を受けて受託製造したものであり,取引の性質や代金の算定方法が通常の販売とは異なるものであるから,本件合意の対象とされていなかった。
イ 同業者間取引によるアスファルト合材の供給が「販売」に該当するものとして本件合意の対象に含まれるとしても,課徴金の名宛人となるために必要な「違反行為の実行としての事業活動」,すなわち事実上の営業活動を需要者との間で行ったのは受託製造の委託者であり,受託者である原告はこれを行っていないから,課徴金の名宛人とならない。
ウ したがって,本件実行期間中に原告が同業者間取引により供給したアスファルト合材の売上額合計44億1946万5612円は課徴金算定の対象から除外されるべきであったから,本件課徴金納付命令のうち当該部分を対象として算定された3億0936万2593円に係る部分は違法であり,取り消されるべきである。
エ 他方,原告が本件実行期間中に受託者として行った受託製造について「違反行為の実行としての事業活動」を行ったものとしてその売上額が課徴金算定の対象となるのであれば,本件実行期間中に原告が委託者として需要者に販売したアスファルト合材の売上額合計27億4717万9232円は課徴金算定の対象から除外されるべきであったから,本件課徴金納付命令のうち当該部分を対象として算定された1億9230万2546円に係る部分は違法であり,取り消されるべきである。
(被告の主張)
ア 同業者間取引は,同業者間においてアスファルト合材の製造を請け負ってその加工賃を得る取引ではなく,アスファルト合材を販売する取引であり,本件合意の対象となっていた。
イ そもそも「実行としての事業活動」の要件は,課徴金の算定期間である実行期間に係る要件であり,課徴金算定の対象を定める要件ではない。
(3) 争点3(原告が本件各子会社に販売したアスファルト合材)について
(原告の主張)
ア 原告の全額出資子会社である本件各子会社に対するアスファルト合材の販売は,同一企業内における製造部門から施工部門への資材の移動にすぎないから,本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がある。
イ 全額出資子会社に対する販売であるという事情のみでは本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとはいえないとしても,本件各子会社が原告に支配されて従属していることを示す以下の事情も併せて考慮すれば,原告が本件各子会社に販売したアスファルト合材については上記特段の事情があるといえる。
(ア) 道路舗装工事を発注する地方自治体等において,施工業者がその管轄地域内に本店を有することを受注の資格要件としていることが多いため,原告は,本件各子会社を介してそのような工事を受注することができるようにする目的で,本件各子会社を全額出資子会社としていた。
(イ) 原告社内においては,アスファルト合材の製造部門と舗装工事の施工部門が分かれており,施工部門は製造部門からアスファルト合材の支給を受けているところ,本件各子会社も,基本的には原告からアスファルト合材を購入しており,その実態は,原告社内における施工部門と同じである。
(ウ) 全額出資子会社は,会計上,連結の対象とされ,その損益は親会社である原告に帰属する。
(エ) 本件各子会社の役員は,全員が原告の(元)従業員である。
(オ) 本件各子会社の従業員は,人事考課等において,原告の営業所の従業員と同列に扱われている。
(カ) ≪子会社X4≫及び≪子会社X3≫を除く本件各子会社が購入するアスファルト合材の価格は,原告が直接受注した舗装工事について原告社内の製造部門から工事部門に振り替える単価(社内単価)か,協定価格と基本的には同一である。
ウ 本件合意はストアス等の原材料の値上がり分をアスファルト合材の販売価格に転嫁することを目的としていたところ,全額出資子会社に対する販売は,親会社からすれば,自分で自分に販売するのと同様であり,その販売価格を自由に設定することができるものであるから,本件合意の対象とされていなかった。
エ 原告と本件各子会社は,法人格を異にするものの,以下のような独禁法の規定及び被告による独禁法の運用に鑑みれば,両者を一体として扱うべきであるから,本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がある。
(ア) 独禁法における課徴金制度の目的には,違反行為によって得た不当な利得をはく奪することも含まれているが,原告は本件各子会社に対するアスファルト合材の供給によって何ら不当な利得を得ていないから,本件各子会社への売上額を課徴金算定の対象とすることは,課徴金制度の上記目的に反する。
(イ) 被告が示す「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」においては,広く親子会社が一体となって事業活動を行っていることを前提としており,被告自身,全額出資子会社が親会社と経済的に一体であることを認めている。
(ウ) 被告が示す「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の「(付)親子会社・兄弟会社間の取引」の第1項に,全額出資子会社の場合には,通常,親子会社間の取引は実質的に同一企業内の行為に準ずるものと認められ,原則として不公正な取引方法による規制を受けない旨の記載があり,この趣旨は,不当な取引制限にも妥当する。
(エ) 独禁法7条の2第13項が,課徴金減免制度において親子会社が共同でその申請をすることを認めていることからすると,独禁法は,その適用及び運用において親子会社を一体として扱うことを前提としている。
(オ) 令和元年法律第45号による改正後の独禁法7条の2第1項1号は,違反行為をした事業者の一定の全額出資子会社等(特定非違反供給子会社等)の供給した当該商品の売上額を課徴金算定の対象としており,この規定も,親会社と全額出資子会社が経済的,実質的に一体であることを前提としている。
オ したがって,本件実行期間中に原告が本件各子会社に販売したアスファルト合材の売上額合計3億9760万4589円は課徴金算定の対象から除外されるべきであったから,本件課徴金納付命令のうち当該部分を対象として算定された2783万2321円に係る部分は違法であり,取り消されるべきである。
(被告の主張)
ア 本件合意は,本件各子会社向けのアスファルト合材の販売も,その対象としていた。
イ 本件各子会社がいずれも独立の取引主体として活動していた上,原告が本件各子会社に販売したアスファルト合材は本件9社の本店からの指示に基づき値上げもされていたことなどからすると,原告から本件各子会社へのアスファルト合材の供給は同一企業内における資材の移動と評価できるものではない。
ウ 原告が主張する独禁法における課徴金の目的や運用,改正等に関する事情は,いずれも本件課徴金納付命令に係る課徴金算定には何ら関係がない。
(4) 争点4(本件6工場が販売したアスファルト合材)について
(原告の主張)
ア 本件9社以外の合材メーカーがスポンサーである本件6工場には,本件9社から本件合意に従った値上げの方針が伝わることはなかったから,本件6工場が販売したアスファルト合材は,本件合意の対象とされていなかった。
イ JV工場においてはスポンサーに価格決定権があり,本件6工場においてはスポンサーではない本件9社が本件合意に従ってアスファルト合材の販売価格を設定することができなかったから,本件6工場が販売したアスファルト合材は,本件違反行為による相互拘束を受けるものではなかった。
ウ 本件6工場において,スポンサーである本件9社以外の合材メーカーが,何らかの方法により本件9社による値上げの方針を知り,それに沿った値上げ活動を行ったとしても,それは,当該合材メーカー自らの判断による値上げであり,本件違反行為による相互拘束を受けたものではないから,本件合意に基づく値上げとはいえない。
エ 以下のとおり,本件6工場のいずれにおいても,本件合意に基づく値上げは行われていなかった。
(ア) カムイアスコンにおいては,スポンサーである≪C≫が作成した予算書に記載された販売価格(単価)がそのまま採用されていた。また,本件9社のうち,日本道路株式会社のみが従業員1名を派遣していたが,価格決定に関与するような立場の従業員ではなく,原告からスポンサーに対して値上げの方針を直接伝えたことはなかった。
(イ) 知床アスコンにおいては,スポンサーである≪C≫が作成した予算書に記載された販売価格(単価)がそのまま採用されていた。また,本件9社から派遣された従業員はおらず,原告からスポンサーに対して値上げの方針を直接伝えたことはなかった。
(ウ) 青森アステックにおいては,スポンサーである≪D≫が単価表を作成し,原告が異論を述べずにこれを承認するのが常態であった。また,原告から派遣された従業員はおらず,原告からスポンサーに対して値上げの方針を直接伝えたことはなかった。
(エ) 青森共同アスコンにおいては,少なくとも原告が構成員となった平成21年4月以降,スポンサーである≪B≫が単価表を作成し,他の構成員が異議を述べずにこれを承認するのが常態であった。また,原告から派遣された従業員はおらず,原告からスポンサーに対して値上げの方針を直接伝えたことはなかった。
(オ) 山形アスコンにおいては,原告から派遣された従業員である工場長が値上げ案を作成するものの,スポンサーである≪E≫が承諾しなければ,販売価格を決定することはできなかった。
(カ) 大野プラントにおいては,スポンサーである≪F≫が作成した単価表がそのまま採用されていた。また,原告から非常勤の従業員が派遣されていたものの,原告からスポンサーに対して値上げの方針を直接伝えたことはなかった。
オ したがって,本件実行期間中に本件6工場が販売したアスファルト合材の売上額合計11億8258万8700円は課徴金算定の対象から除外されるべきであったから,本件課徴金納付命令のうち当該部分を対象として算定された8278万1209円に係る部分は違法であり,取り消されるべきである。
(被告の主張)
ア 本件合意は,本件9社以外の合材メーカーがスポンサーであるJV工場において販売するアスファルト合材も,その対象としていた。
イ 本件6工場においては,いずれも,本件9社の本店からの指示に沿った値上げ活動が実施されていた。これらの値上げは,本件9社以外の合材メーカーである各スポンサーにとっても利益となるため,値上げの働き掛けを受けたスポンサーがこれに反対することはなかった。
(5) 争点5(JV工場が構成員に対し協定価格で販売したアスファルト合材)について
(原告の主張)
ア 舗装業者でもある合材メーカーは,自社が出資するJV工場から供給可能な地理的範囲で施工される工事であれば,特別な事情がある場合を除き,当該JV工場から協定価格によりアスファルト合材の供給を受けており,このようなアスファルト合材と他の合材工場から顧客価格により供給されるアスファルト合材との間に代替性はない。また,協定価格と顧客価格とでは,前者が競争を前提とするものではなく,各工場において自由に価格を設定し得るものであるのに対し,後者が利潤の追求を目的として取引先との交渉を経て決定されるものであって,協定価格よりも高く設定されるなど,価格に関する事情も異なっている。そして,本件9社が協定価格と本件合意の対象である顧客価格との間に存在するこれらの違いを認識していたことからすると,JV工場が構成員に対し協定価格で販売したアスファルト合材は,本件合意の対象とされていなかったといえる。
イ 原告の参加するJV工場において協定価格の値上げがされていたとしても,原材料の値上がり等を理由とするものであり,本件合意とは関係がない。
ウ したがって,本件実行期間中にJV工場が構成員に対して協定価格により販売したアスファルト合材の売上額合計92億5383万2662円は課徴金算定の対象から除外されるべきであったから,本件課徴金納付命令のうち当該部分を対象として算定された6億4776万8286円に係る部分は違法であり,取り消されるべきである。
(被告の主張)
ア 本件合意は,JV工場が構成員に対して協定価格で販売するアスファルト合材も,その対象としていた。
イ 本件9社は,実際に,協定価格についても,本店からの値上げ等の指示に沿った値上げをしていた。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 合材メーカーらによる会合
ア 9社会
本件9社は,遅くとも平成17年頃から,それぞれの本店において主にアスファルト合材の製造販売を担当する部課長級の者(以下「本件9社担当者」という。)が参加する9社会を,おおむね一,二か月に1回の頻度で開催し,アスファルト合材の販売価格の値上げ等に関する方針について話し合っていた。(乙42から52まで)
イ 9社会で話し合われた内容
本件9社担当者は,上記アのとおり継続的に開催されていた9社会の各会合において,下記(ア)から(エ)までの各事項を中心に話合いを行い,これらに関する情報を共有し,確認し合っていた。(乙53から65まで,69から71まで,74,75,95,113,193,194)
(ア) 本件9社各社の日本全国におけるアスファルト合材の製造数量及び販売価格の値上げ方針の達成状況(なお,本件9社各社におけるアスファルト合材の製造数量は,日本道路株式会社の担当者が四半期ごとに取りまとめた一覧表をメールで送信するなどの方法により,本件9社担当者の問で共有されていた。)
(イ) ストアスの価格動向
(ウ) アスファルト合材の販売価格の値上げの有無,値上げする時期及び金額等に関する方針
(エ) 上記(ウ)の値上げ等に関する方針に基づき各支店等に指示する値上げの内容等
なお,9社会の各会合においては,アスファルト合材一般について話合いがされており,その種類について,代表的なものである「再生密粒度アスファルト合材13mm」に言及されたことはあったものの,それ以上に特定の種類に限定したり,特定の種類を除外したりする内容の話合いがされたことはなく,販売する地域や流通経路についても,特定の地域や流通経路に限定したり,特定の地域や流通経路を除外したりする内容の話合いがされたことはなかった。(乙5,6,16,19,24,25,28から30まで,56,58,61,63,64から111まで)
ウ 平成23年以降の9社会の開催状況
(ア) 本件9社担当者は,平成23年1月27日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からのアスファルト合材の販売価格について,値上げを実施すること,値上げ幅についてはストアスの価格動向を見極めてから次回の9社会で決定することを,それぞれ確認し合った。(乙74から77まで)
(イ) 本件9社担当者は,平成23年3月4日に開催された9社会で,同年4月1日出荷分からのアスファルト合材の販売価格の値上げ幅を1トン当たり1000円以上とすることを確認し合った。(乙74から79まで)
(ウ) 本件9社担当者は,平成23年4月11日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からの値上げについて,前回の9社会で合意した値上げ幅の値上げを実際に達成する活動を継続することを確認し合った。(乙74から76まで,80,81)
(エ) 本件9社担当者は,平成23年5月31日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からの値上げについて,同年7月以降も引き続き,9社会で合意した値上げ幅の値上げを実際に達成する活動を継続することを確認し合った。(乙60,74から76まで,78,80,82,83)
(オ) 本件9社担当者は,平成23年6月28日,同年8月2日及び同年9月7日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からの値上げについて,引き続き,9社会で合意した値上げ幅の値上げを実際に達成する活動を継続することをそれぞれ確認し合った。(乙60,74から76まで,78,80,82から86まで)
(カ) 本件9社担当者は,平成23年10月19日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からの値上げについて,各社とも9社会で合意した値上げ幅の値上げを実際には半分も達成できていないことを報告し合うとともに,引き続き,これを達成する活動を継続することを確認し合った。(乙74から76まで,78,80,82から85まで)
(キ) 本件9社担当者は,平成23年12月12日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からの値上げについて,平成24年1月以降も引き続き,9社会で合意した値上げ幅の値上げを実際に達成する活動を継続することを確認し合った。(乙74から76まで,80,82,87から89まで)
(ク) 本件9社担当者は,平成24年1月24日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からのアスファルト合材の販売価格について,値上げを実施すること,値上げ幅については次回の9社会で決定することを,それぞれ確認し合った。(乙76,87,88,90から93まで)
(ケ) 本件9社担当者は,平成24年3月13日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からのアスファルト合材の販売価格の値上げ幅を1トン当たり1000円以上とすることを確認し合った。(乙76,79,87,88,90から94まで)
(コ) 本件9社担当者は,平成24年5月29日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からのアスファルト合材の販売価格について,同年7月以降も引き続き,9社会で合意した値上げ幅の値上げを実際に達成する活動を継続することを確認し合った。(乙90,91,95から99まで)
(サ) 本件9社担当者は,平成24年7月9日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からの値上げについて,同年7月以降も引き続き,9社会で合意した値上げ幅の値上げを実際に達成する活動を継続し,少なくとも1トン当たり300円の値上げを達成することを目指していくことを確認し合った。(乙90,91,95から99まで)
(シ) 本件9社担当者は,平成24年9月19日及び同年11月12日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からの値上げについて,引き続き,9社会で合意した値上げ幅の値上げを実際に達成する活動を継続することをそれぞれ確認し合った。(乙90,91,95から98まで)
(ス) 本件9社担当者は,平成25年1月28日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からのアスファルト合材の販売価格について,値上げを実施すること,値上げ幅については1トン当たり1000円以上とすることを,それぞれ確認し合った。(乙90,95,98,100から104まで)
(セ) 本件9社担当者は,平成25年3月18日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からの値上げについて,引き続き,9社会で合意した値上げ幅の値上げを実際に達成する活動を継続することを確認し合った。(乙90,98,100から103まで)
(ソ) 本件9社担当者は,平成25年5月27日,同年8月2日及び同年9月19日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からの値上げについて,引き続き,9社会で合意した値上げ幅の値上げを実際に達成する活動を継続することをそれぞれ確認し合った。(乙73,95,99から102まで)
(タ) 本件9社担当者は,平成25年11月14日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からの値上げについて,平成26年1月以降も引き続き,9社会で合意した値上げ幅の値上げを実際に達成する活動を継続することを確認し合った。(乙73,94,95,99から102まで,105)
(チ) 本件9社担当者は,平成26年1月30日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からのアスファルト合材の販売価格について,値上げを実施すること,値上げ幅については1トン当たり1000円以上とすることを,それぞれ確認し合った。(乙73,103,104,106から109まで)
(ツ) 本件9社担当者は,平成26年3月27日に開催された9社会において,同年4月1目出荷分からの値上げについて,その方針等を確認し合った。(乙73,103,107,108)
(テ) 本件9社担当者は,平成26年6月4日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からの値上げについて,同年7月以降も引き続き,9社会で合意した値上げ幅の値上げを実際に達成する活動を継続することを確認し合った。(乙73,99,107から109まで)
(ト) 本件9社担当者は,平成26年7月31日及び同年9月29日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からの値上げについて,9社会で合意した値上げ幅の値上げを実際には達成できていなかったことから,引き続き,これを実際に達成する活動を継続することをそれぞれ確認し合った。(乙73,99,107から110まで)
(ナ) 本件9社担当者は,平成26年11月20日に開催された9社会において,同年4月1日出荷分からの値上げについて,引き続き,9社会で合意した値上げ幅の値上げを実際に達成する活動を継続することを確認し合った。(乙99,107から109まで,111)
エ 地区会合
北海道から九州までの各地には,本件実行期間中,アスファルト合材協会やその支部会等の名称で,当該地域におけるアスファルト合材の販売価格の値上げの時期や額等について話し合うための会合(以下「地区会合」という。)が存在していた。
これらの地区会合には,本件9社や準大手の合材メーカーの各支店の担当部長や各合材工場の工場長等だけでなく,地場業者の工場長等も参加していた。
本件9社の各支店の担当部長等は,本店から値上げの指示を受けると,地区会合の場で,本店から値上げの指示があった旨を互いに確認し合った上で,値上げの時期や幅に関する方針を確認し合っていた。
(乙60,95,115,119,124,126,128から145まで)
オ 本件実行期間中の本件6工場(ただし,山形アスコンを除く。)のある地域における地区会合の状況
(ア) カムイアスコン及び知床アスコン
カムイアスコン及び知床アスコンのある北海道では,ガイアートを除く本件9社及び≪A≫の従業員らが参加する,「北海道9社会」と呼ばれる会合や≪アスファルト合材業界団体A≫の技術委員会の会合において,本件9社の本店からの値上げの指示どおりにアスファルト合材の販売価格を値上げしていくことなどを確認し合っていた。
カムイアスコン及び知床アスコンのスポンサーである≪C≫の従業員は,上記技術委員会の主要なメンバーとして,その会合に参加していたほか,北海道9社会に参加することもあった。
また,カムイアスコンに関し,≪C≫の従業員から,原告北海道支店の従業員に対し,アスファルト合材の販売価格を値上げしたい旨の提案がされたことがあった。
(乙124,131,156から158まで,164,165)
(イ) 青森アステック及び青森共同アスコン
青森アステック及び青森共同アスコンがある東北地方においては,本件9社,青森アステックのスポンサーである≪D≫及び青森共同アスコンのスポンサーである≪B≫の従業員らが参加する≪アスファルト合材業界団体B≫の会合において,各社のアスファルト合材の販売価格の値上げに関する情報を共有し,値上げに関する方針を確認していた。(乙9,166)
(ウ) 大野プラント
大野プラントがある新潟県近隣においては,当該地域にある本件9社の工場の工場長らが参加する会合において,本件9社の本店からのアスファルト合材の販売価格の値上げの指示の有無や内容を共有した上で,値上げの時期や幅に関する方針を確認していた。
この会合には,株式会仕NIPPO,日本道路株式会社及び大成ロテック株式会社の従業員らが参加していたほか,大野プラントのスポンサーである≪F≫から派遣された大野プラントの工場長も参加し,本件9社の値上げの方針に同調する発言をしていた。
また,原告及び株式会社NIPPOの従業員らのほか,大野プラントの工場長らが参加する≪アスファルト合材業界団体C≫の業務企画委員会の会合においても,本件9社の本店からの値上げの指示について確認し合うなどしていた。
(乙169から173まで)
(2) 値上げの実施に向けた活動
ア 本店からの指示
本件9社担当者のうち原告の担当者は,上記(1)の9社会の各会合に自ら出席するか,出席した者から当該会合で確認された内容の報告を受けた上で,直接に又は支店を通じて,自社の単独工場及び自社がスポンサーであるJV工場の工場長に対し,アスファルト合材の販売価格の値上げに関する方針(値上げの時期及び額,値上げを要請する際の理由等)を指示していた。
原告以外の本件9社の本店も,同様に,9社会で確認した内容の値上げに関する方針を,直接に又は支店を通じて,各合材工場に指示していた。
(乙24,28から35まで,60,73,74,79,93,95,97,100,112から119まで)
イ 原告の単独工場等における値上げ活動
原告の単独工場においては,工場長等が,本店からの上記アの指示に基づき,当該指示の内容に従った値上げを実施するために,取引先と交渉するなどの活動を行っていた。
原告がスポンサーであるJV工場においても,同様に,基本的には工場長が,本店からの指示に基づき,値上げの実施に向けた活動考行っていた。
ウ 本店への報告
本件9社において,それぞれの自社工場におけるアスファルト合材の値上げの実施状況は,それぞれの支店を通じるなどして,それぞれの本店に報告されていた。(乙51,64,115,120から122まで)
エ 各地域に対する値上げの指導
本件9社は,9社会の会合における報告内容や上記ウの報告により,値上げが他の地域よりも滞っている地域があると判断した場合には,本店の担当者が直接当該地域に赴くか,支店等を通じて指示をするなどして,各地の自社工場に対し,値上げを実現するための指導を行うことがあった。
(乙28,51,53から55まで,64,87,89,115,120から122まで,176,185)
(3) 本件合意の消滅
平成27年1月28日,本件9社の東北支店等に対し,被告による別件(平28年(措)第9号)の臨検及び捜索が行われ,これ以降,9社会は開催されなくなったため,本件合意も事実上消滅した。(乙12,135,144,148から155まで)
(4) 同業者間取引
同業者間取引においては,需要者からアスファルト合材の製造販売を受注した合材メーカーが,当該需要者の工事現場等の近隣に合材工場を有する合材メーカーからアスファルト合材の提供を受けて当該需要者に納入する(以下,前者の合材メーカーを「発注メーカー」といい,後者の合材メーカーを「受注メーカー」という。)が,実際には,受注メーカーが製造したアスファルト合材は,発注メーカーに納入されることはなく,受注メーカーの合材工場から需要者の工事現場等に直接納入される。
原告がスポンサーであるJV工場(埼京アスコン)において行った同業者間取引に関し,当該JV工場が受注メーカーとして発注メーカーに請求した金額は,アスファルト合材の原材料費を含む単価に数量を乗じた金額を基本とするものであり,これに諸経費(アスファルト合材の運搬に伴って生ずる費用等)を加算することもあった。
(甲5,19から29まで,乙20,25,59,71,72,112,123,161)
(5) 本件4工場
ア 本件4工場における本件実行期間中の売上額の合計は14億0232万7042円である。
イ 本件実行期間中の本件4工場におけるアスファルト合材の販売価格の値上げ等の状況は以下のとおりである。
(ア) 知床アスコン
知床アスコンにおいては,スポンサーである≪C≫が地区会合に参加することなどを通じて,本件合意の内容が把握されており,これに沿ったアスファルト合材の値上げに向けた活動が行われていた。
(上記(1)オ(ア),乙156)
(イ) 福島舗材センター
a 福島舗材センターにおいては,原告の本店からの値上げ等の指示を受けた原告の東北支店製品部長から,本店の方針に沿った値上げ活動を行うよう指示がされ,アスファルト合材の値上げに向けた活動が行われていた。
b 原告が,大成ロテック株式会社を通じて,福島舗材センターの近隣にある相馬アスコンのスポンサーである≪G≫に対し,アスファルト合材の安値販売をやめるよう申し入れた結果,相馬アスコンのアスファルト合材が値上げされたことがあった。
(乙8から10まで)
(ウ) 南木曽合材工場
a 南木曽合材工場においては,原告の本店からの値上げ等の指示を受けた原告の名古屋支店合材課長から,本店の方針に沿った値上げ活動を行うよう指示がされ,アスファルト合材の値上げに向けた活動が行われていた。
b 南木曽合材工場は,株式会社NIPPO等を構成員とするJV工場である木曽アスコン共同企業体(木曽合材所)との間で,アスファルト合材の販売に係る取引先が競合していた。このため,両者は,取引先の奪い合いを避けるために,アスファルト合材の値上げの通知文書(ビラ)を交換するなどして,値上げに関する情報を共有していた。
(乙9,11)
(エ) 山都合材工場
a 山都合材工場においては,原告の本店からの値上げ等の指示を受けた原告の九州支店製品課長から,本店の方針に沿った値上げ活動を行うよう指示がされ,アスファルト合材の値上げに向けた活動が行われていた。(乙159)
b 山都合材工場は,東亜道路工業株式会社の単独工場である熊本中央アスコン,株式会社NIPPO等を構成員とするJV工場である日向合材共同プラント及び本件9社以外の合材工場である≪I≫と,取引先が競合していた。(乙12)
c 山都合材工場の取引先から,山都合材工場に対し,≪I≫が山都合材工場よりも安い単価で販売していることを理由に,値下げの要求をされたことがあった。(乙12)
d 山都合材工場は,平成25年度中及び平成26年度中に,少なくとも40社以上の取引先に対し,アスファルト合材を供給していたところ,これらの取引先の中には,舗装工事業者等のほか,前田道路株式会社や株式会社NIPPOもあった。(乙186)
(6) 本件各子会社
ア 地方自治体等からの舗装工事等を受注するには,当該自治体の市町村内に本店があることが要件となることがある。(甲30から34まで,106)
イ 本件各子会社における,本件実行期間中の取引の状況は以下のとおりである。
(ア) ≪子会社X1≫
a 原告は,仙台市等から道路舗装工事を受注させたり,同市の地場業者の道路舗装工事の下請けをさせたりすることを主な目的として,≪子会社X1≫を全額出資子会社としていた。
b ≪子会社X1≫は,原告が構成員であるJV工場から協定価格でアスファルト合材を購入していたが,当該工場が故障で停止していた場合には,原告以外の他社の合材工場からアスファルト合材を購入することもあった。
c ≪子会社X1≫と原告との問には,原告以外の他社からのアスファルト合材の購入を禁止する旨の契約等は存在しなかった。
d ≪子会社X1≫の役員の多くは,原告の従業員が兼任していた。
e ≪子会社X1≫は,仙台市から道路舗装工事を受注しており,原告の工事の下請けをすることはなかった。
(甲91から93まで,乙14)
(イ) ≪子会社X2≫
a 原告は,岩手県及び同県内の市町村が発注する道路舗装工事を受注させたり,同県内の地場業者の道路舗装工事の下請けをさせたりすることを主な目的として,≪子会社X2≫を全額出資子会社としていた。
b ≪子会社X2≫は,原告が構成員であるJV工場から協定価格でアスファルト合材を購入していたが,原告以外の他社(大成ロテック株式会社等)の合材工場からアスファルト合材を購入したこともあり,その際の価格交渉は,≪子会社X2≫と大成ロテック株式会社との間で行われた。
c ≪子会社X2≫と原告との間には,原告以外の他社からのアスファルト合材の購入を禁止する旨の契約等は存在しなかった。
d ≪子会社X2≫の役員の多くは,原告の従業員が兼任していた。
e ≪子会社X2≫は,地方自治体等から舗装工事を受注しており,原告の工事の下請けをすることはなかった。
(甲93,乙14)
(ウ) ≪子会社X3≫
a 原告は,道路舗装工事等を受注させることを主な目的として,≪子会社X3≫を全額出資子会社としていた。
b ≪子会社X3≫は,原告から,原告の自社工場である福岡合材共同企業体を通じ,顧客価格により,アスファルト合材を購入していた。
原告本店から値上げの指示があった揚合には,≪子会社X3≫に対する販売価格も値上げの対象とされていた。
c ≪子会社X3≫の役員は,令和2年12月7日の時点で,全員が原告の従業員又は元従業員であり,8名中6名が原告における役職を兼任していた。
d ≪子会社X3≫は,主に地方自治体から道路舗装工事を受注したり,他社の道路舗装工事の下請けをしたりするほか,原告の道路舗装工事の下請けをすることもあったが,これらの工事の受注に関し,原告が指示をすることはなかった。
(甲101,105,113,乙13)
(エ) ≪子会社X4≫
a 原告は,道路舗装工事等を受注させることを主な目的として,≪子会社X4≫を全額出資子会社としていた。
b ≪子会社X4≫は,原告が構成員であるJV工場から協定価格でアスファルト合材を購入していた。
c ≪子会社X4≫と原告との間には,原告以外の他社からのアスファルト合材の購入を禁止する旨の契約等は存在しなかった。
d ≪子会社X4≫の役員は,令和2年12月7日の時点で,全員が原告の従業員であり,7名中6名が原告における役職を兼任していた。
e ≪子会社X4≫は,地方自治体から道路舗装工事を受注したり,同業他社の道路舗装工事を下請けしたりしていたが,これらの工事の受注に関し,原告が指示をすることはなかった。
(甲103,105,113,乙13)
(オ) ≪子会社X5≫
a 原告は,本件実行期間の前後にわたり,道路舗装工事の下請けをさせることを主な目的として,≪子会社X5≫を全額出資子会社としていた。
b ≪子会社X5≫は,平成27年3月以前は,アスファルト合材を原告社内で振り替える際の単価と同額で原告のみから購入していたが,同年4月以降は,原告以外の他社からも購入するようになった。
c ≪子会社X5≫と原告との間には,原告以外の他社からのアスファルト合材の購入を禁止する旨の契約等は存在しなかった。
d ≪子会社X5≫の役員は,原告の従業員が務めていた。
e ≪子会社X5≫は,本件実行期間中,原告や他社の道路舗装工事の下請けを行うほか,≪H≫から委託を受けた奈良合材工場の運営に係る取引を原告に再委託するなどの取引をしていたが,これらの工事の受注に関し,原告が指示をすることはなかった。
(乙15)
(7) 本件6工場
ア 本件6工場における本件実行期間中のアスファルト合材の売上額は,11億8258万8700円である。
イ 本件6工場における,本件実行期間中のアスファルト合材の販売価格の値上げ等に関する状況は,以下のとおりである。
(ア) カムイアスコン
カムイアスコンにおいては,スポンサーである≪C≫の従業員が地区会合に参加するなどして本件合意の内容を把握するとともに,JVの構成員であるガイアートの支店の担当者が本店からの値上げに関する指示を≪C≫の従業員に伝えるなどして,本件合意の内容に沿った値上げを達成するための活動が行われていた。(前記前提事実(7)イ(ア),上記(1)オ(ア),乙124,131,156から158まで,164,165)
(イ) 知床アスコン,青森アステック,青森共同アスコン及び大野プラント
知床アスコン,青森アステック,青森共同アスコン及び大野プラントにおいては,いずれも,本件合意の内容に沿った値上げを達成するための活動が行われていた。(上記(1)オ(ア)から(ウ)まで,(5)イ(ア),乙9,166,167,173)
(ウ) 山形アスコン
山形アスコンにおいては,原告から派遣された従業員が工場長を務めており,同工場長が,原告本店からの指示に基づき,スポンサーである≪E≫の代表者でもある所長の承諾を得ながら,本件合意の内容に沿った値上げを達成するための活動が行われていたが,所長を始めとする≪E≫の関係者がこれに反対することはなかった。(甲114,乙9,168)
(8) 協定価格の値上げ
本件実行期間中,本件9社の本店においては,それぞれ自社の合材工場に対し,協定価格の値上げを指示しており,他方,本件9社のJV工場においては,構成員間で本店からの値上げの指示の内容を互いに確認するなどして,協定価格の値上げを行っていた。(乙7,12から14まで,123,126,127,130,174から181まで)
(9) アスファルト合材価格相場の形成
「建設物価」等の業界誌を発行する団体(建設物価調査会等)は,需要者等に対する調査によってアスファルト合材の市況価格を把握しており,これに基づいて決定した価格を各業界誌に掲載しているが,当該価格は,道路舗装工事を含む公共工事においてその予定価格を決める際に参考にされている。
また,合材工場の取引先である道路舗装工事業者等は,それぞれが把握している各合材メーカーの販売価格や市況価格を参考にして,各合材メーカーとの間で販売価格に関する交渉を行っているが,合材メーカーの自社向けの販売価格については,外部業者に道路舗装工事の下請けがされることなどにより,取引先の道路舗装工事業者等に知られたり,推測されたりすることがある。
(乙3,4,177,192)
2 課徴金算定の対象となる「当該商品」
(1)ア 独禁法の定める課徴金の制度は,昭和52年法律第63号による独禁法改正において,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的として,刑事罰の定め(独禁法89条)や損害賠償制度(独禁法25条)に加えて設けられたものであり,カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである。そして,課徴金の額の算定方式は,実行期間のカルテル対象商品又は役務の売上額に一定率を乗ずる方式を採っているが,これは,課徴金制度が行政上の措置であるため,算定基準も明確なものであることが望ましく,また,制度の積極的かつ効率的な運営により抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであって,個々の事案ごとに経済的利益を算定することは適切ではないとして,そのような算定方式が採用され,維持されているものと解される。そうすると,課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないと解される(最高裁平成14年(行ヒ)第72号同17年9月13日第三小法廷判決・民集59巻7号1950頁参照)。
イ そして,課徴金制度を適正に運用する上で要請される算定基準の明確性や算定の容易性といった上記アで説示した趣旨を踏まえれば,独禁法7条の2第1項1号にいう「当該商品」とは,違反行為である相互拘束の対象である商品,すなわち,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,違反行為による拘束を受けたものをいうものと解される。そして,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,一定の商品につき,違反行為を行った事業者又は事業者団体が,明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど当該商品が違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,違反行為による拘束が及んでいるものと推定し,課徴金算定の対象となる当該商品に該当するものとして課徴金の算定対象に含めるのが相当である。
(2)ア 本件において,本件9社が共有していたのは日本全国におけるアスファルト合材の製造数量等であり,9社会の各会合においても,特定の種類,地域及び流通経路に限定したり,特定の種類,地域及び流通経路を除外したりすることなく,アスファルト合材一般について話合いがされていたこと(上記1(1)イ)に照らせば,日本国内において販売される全てのアスファルト合材が本件合意の対象に含まれるものであり,本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するものと認められる。
イ そうすると,原告が主張する前記第2の3(1)から(5)までの各アスファルト合材は,いずれも本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属することになるから,上記各アスファルト合材が本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,課徴金算定の対象となる商品に含まれることになる。
3 争点1(本件4工場が販売したアスファルト合材)について
(1)ア 独禁法2条6項の「一定の取引分野」とは,そこにおける競争が共同行為によって実質的に制限されているか否かを判断するために画定されるものであるが,価格カルテル等の不当な取引制限における共同行為が特定の取引分野における競争の実質的制限をもたらすことを目的及び内容としていることや,行政処分の対象として必要な範囲で市揚を画定するという観点からは共同行為の対象外の商品との代替性や対象である商品の相互の代替性等について厳密な検証を行う必要性が乏しいことからすれば,通常の場合には,その共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して,一定の取引分野を画定すれば足りるものというべきである。
本件においては,本件9社の間でされた本件合意において対象とされている取引は日本国内における全てのアスファルト合材の販売取引であり(前記前提事実(9),上記2(2)ア),本件9社がいずれも日本全国でアスファルト合材の製造販売業を展開している大手の合材メーカーであって(前記前提事実(1)イ),平成23年度から平成26年度までの期間に係る我が国のアスファルト合材の製造数量における本件9社の市場シェアが約66パーセントであったこと(前記前提事実(6))などからすれば,日本国内における全てのアスファルト合材の販売分野を一定の取引分野として画定するのが相当である。
イ 原告は,アスファルト合材を供給することが可能な地理的範囲に制約があることなどを理由として,アスファルト合材の販売分野における「一定の取引分野」の地理的範囲は各合材工場の商圏ごとに画定されるべきである旨を主張する。
しかしながら,本件における一定の取引分野の地理的範囲を日本国内と定めることが相当であるのは上記説示のとおりであり,各合材メーカーが同業者間取引によって自社工場において供給可能な地理的範囲の制約を超えてアスファルト合材を供給することが可能となっていること(前記前提事実(4)エ)や,日本国内で販売されているアスファルト合材はいずれも原材料価格を始めとする価格の決定要因をおおむね共通にしていること(前記前提事実(5)イ)等の事情に照らせば,ある地域における販売価格と他の地域における販売価格が相互に影響を及ぼす実態があったとみられることからすると,むしろ,「一定の取引分野」の地理的範囲を日本国内と画定することで,そのような実態に即した形で競争の実質的制限に関する判断が可能になるものというべきである。
したがって,原告の上記主張には理由がない。
(2)ア 原告は,アスファルト合材の販売分野における「一定の取引分野」の地理的範囲が日本全国と画定されたとしても,本件4工場のある地域においては,競争が存在しないか,競争の実質的制限が生じていなかったから,本件4工場が販売したアスファルト合材が本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がある旨を主張する。
イ しかしながら,上記(1)アで認定説示した事情に加え,本件実行期間中に,本件9社によって本件合意が維持されていたこと(前記前提事実(9),上記1(1)から(3)まで)や,本件4工場において本件合意に沿った内容のアスファルト合材の販売価格の値上げが行われていた上,このうち3つの合材工場(福島舗材センター,南木曽合材工場及び山都合材工場)において周囲の合材工場との取引先の競合や価格の調整が行われていたこと(上記1(2)及び(5))も併せて考慮すれば,本件における一定の取引分野として画定された,本件4工場のある地域を含む日本国内における全てのアスファルト合材の販売分野において,競争が存在していたこと及び競争の実質的制限が生じていたことは明らかというべきである。
したがって,原告の上記主張には理由がない。
ウ また,原告は,本件4工場におけるアスファルト合材の値上げは,東日本大震災によるアスファルト合材の需要の高まりや,ストアス等の原材料費の高騰によるものであって,本件合意とは無関係である旨を主張する。
しかしながら,福島県沿岸部等の地域において,本件実行期間中又はそれ以前の時期に,原告の主張するような原材料価格の上昇やアスファルト合材の需要の高まりなどの事情が生じていたとしても,そもそも,9社会におけるやり取り(上記1(1)イ,ウ)からも明らかなように,アスファルト合材の原材料価格や需給関係の変動といった事情は,本件9社が本件合意に基づいてアスファルト合材の値上げをする際の考慮要素にもなっていたのであって,各合材工場が原材料価格を販売価格に転嫁し,各地における市場シェアを維持できたのも,本件合意の存在によるところがあるといえるから,原告の主張する上記事情が値上げの一因となっていることをもって,本件4工場における値上げが本件合意と無関係であったということはできない。
したがって,原告の上記主張には理由がない。
エ したがって,本件4工場が販売したアスファルト合材が本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められない。
その他,上記認定判断を左右するに足りる的確な主張,証拠はない。
(3) 以上によれば,本件4工場が販売したアスファルト合材について,本件課徴金納付命令がこれを課徴金算定の対象とした点は適法である。
4 争点2(原告が同業者間取引により供給したアスファルト合材)について
(1)ア 原告は,同業者間取引により供給したアスファルト合材について,販売ではなく加工賃の支払を受けて製造及び供給をしたものであるから,アスファルト合材の販売を前提とする本件合意の対象とされておらず,①本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属しないか,②本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事清がある旨を主張する。
イ しかしながら,①については,同業者間取引により供給したアスファルト合材を含むアスファルト合材全体が本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するものと認められることは,上記2において説示したとおりである。
また,②についても,原告が受注メーカー側で関与した同業者間取引において,発注メーカーに請求した金額は,基本的には原材料費を含む単価に数量を乗じた額として算出されていたこと(上記1(4))や,受注メーカーが実際に行う作業はアスファルト合材の製造及び納入であったこと(前記前提事実(2)及び(4)ア,上記1(4))からすると,価格の決定方法やその決定要因(費用)については,同業者間取引の場合と受注メーカーが製造したアスファルト合材を販売する場合とで大きく異なるものではなかったと評価することが可能であるし,納入先が発注メーカーではなく需要者である点も,販売の場合においても買主以外の第三者に商品を納入する取引が想定されることを踏まえれば,上記評価を覆す事情であるということはできない。そして,原告が提出した証拠(甲19から29まで)も,発注メーカーが需要者ごとに販売価格を変えていたことなどを示すものにすぎず,上記評価を覆すものではないし,その余の証拠を踏まえても,本件合意が同業者間取引をその対象に含めなかったとみるべき事情は見当たらない。
ウ したがって,同業者間取引により供給したアスファルト合材が本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められない。
その他,上記認定判断を左右するに足りる的確な主張,証拠はない。
(2)ア また,原告は,同業者間取引により供給したアスファルト合材について,「実行としての事業活動」を行っていない原告を課徴金の名宛人とすることはできない旨を主張するが,「実行としての事業活動」の要件は課徴金算定に当たっての実行期間の始期と終期を算定するための要件であると解され,独禁法における課徴金制度の趣旨を踏まえれば課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないという上記2(1)アで説示したところによれば,それ以上に課徴金算定の対象となるべき個々の売上額について,原告の主張する「実行としての事業活動」が存在することが必要であると解すべき理由はないから,原告の上記主張には理由がない。
イ さらに,原告は,同業者間取引により供給したアスファルト合材について,受託者である原告が「実行としての事業活動」を行ったものとしてその売上額が課徴金算定の対象となるのであれば,原告が委託者として需要者に販売したアスファルト合材の売上額は課徴金算定の対象から除外されるべきである旨も主張するが,本件課徴金納付命令において,原告が「実行としての事業活動」を行ったことを理由として上記売上額が課徴金算定の対象とされたわけではないから,原告の上記主張は前提を欠くものといわざるを得ない。
その他,上記認定判断を左右するに足りる的確な主張,証拠はない。
(3) 以上によれば,原告が同業者間取引により供給したアスファルト合材について,本件課徴金納付命令がこれを課徴金算定の対象とした点は適法である。
5 争点3(原告が本件各子会社に販売したアスファルト合材)について
(1) 原告は,本件各子会社に販売したアスファルト合材について,同一企業内における製造部門から施工部門への資材の移動にすぎないことなどを理由として,本件合意の対象とされておらず,本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がある旨を主張する。
(2)ア 本件各子会社は,いずれも原告の全額出資子会社である(前記前提事実(8))とはいえ,本件違反行為の当事者である原告とは別個の法人格を有し,法律上,独立の取引主体として活動し得るものである以上,本件各子会社が原告の全額出資子会社であることのみを理由として,本件各子会社に対するアスファルト合材の販売が本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があると直ちに認めることはできない。
もっとも,全額出資子会社に対する商品の販売が同一企業内における製造部門から施工部門への資材の移動と同視し得るような事情が存在する場合には,当該全額出資子会社へ販売した商品の売上額が違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるものとして,課徴金算定の対象から除外される余地はあると解するのが相当である。
そこで検討すると,本件各子会社は,いずれも,地方自治体や原告以外の事業者等から独自に道路舗装工事を受注して施工していたこと(上記1(6)イ(ア)e,(イ)e,(ウ)d,(エ)e,(オ)e)や,原告の自社工場以外の合材工場からアスファルト合材を購入することがあったか,少なくとも購入することが可能であったこと(上記1(6)イ(ア)b,c,(イ)b,c,(ウ)b,(エ)b,c,(オ)b,c)に照らせば,独立の取引主体として現に活動していたものと認められるから,本件各子会社を原告の施工部門と同視することは困難であり,本件各子会社に対する販売を原告の施工部門への資材の移動と同視することはできない。
イ 原告は,本件各子会社を支配して従属させている上,本件各子会社に対する販売価格を自由に設定することができる旨を主張するが,これらはいずれも原告と本件各子会社との間の内部的事情にすぎず,本件各子会社が独立した取引主体として対外的な活動を行っていたという実態を否定するものではないから,本件各子会社に対する販売を原告の施工部門への資材の移動と同視することはできないとの評価を左右するものではない。
ウ また,原告は,親子会社に関する独禁法の規定及び被告による独禁法の運用等に鑑みれば,原告と本件各子会社を一体として扱うべきである旨を主張するが,令和元年法律第45号による改正前の独禁法に基づいた価格カルテルに対する課徴金の算定が問題となっている本件とは適用場面や趣旨目的を異にする規定や運用等を根拠とするものであり,違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情の有無の認定判断に影響を及ぼすものとは解されない。
エ その他,全証拠によっても,本件各子会社に対するアスファルト合材の販売が原告内における製造部門から施工部門への資材の移動と同視し得るような事情があるとは認めるに足りない。
オ したがって,原告が本件各子会社に販売したアスファルト合材の販売が本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められない。
その他,上記認定判断を左右するに足りる的確な主張,証拠はない。
(3) 以上によれば,原告が本件各子会社に販売したアスファルト合材について,本件課徴金納付命令がこれを課徴金算定の対象とした点は適法である。
6 争点4(本件6工場が販売したアスファルト合材)について
(1) 原告は,本件6工場においては,本件9社から本件合意に従った値上げの方針が伝わることはなかったことや,本件9社が本件合意に従ってアスファルト合材の販売価格を設定することができなかったことなどを指摘して,本件6工場が販売したアスファルト合材は本件合意の対象とされておらず,①本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属しないか,②本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がある旨を主張する。
(2)ア しかしながら,①については,本件6工場が販売したアスファルト合材を含むアスファルト合材全体が本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するものと認められることは,上記2において説示したとおりである。
また,②についても,アスファルト合材の価格は各合材工場とその取引先との交渉により決まるものであること(前記前提事実(5)ア),同業者間取引によって自社工場において供給可能な地理的範囲の制約を超えたアスファルト合材の供給が可能であること(前記前提事実(4)エ)及び日本国内で販売されているアスファルト合材は価格の決定要因をおおむね共通にしており,価格相場があること(前記前提事実(5)イ,上記1(9))といった事情に照らせば,本件9社にとっては,日本全国において本件違反行為を継続するに当たって,アスファルト合材の値上げがされないJV工場が存在することは不都合な事態であったとみられる一方,本件9社以外の合材メーカーにとっても,他の合材工場と足並みをそろえて自社のJV工場で値上げができることは利益の拡大につながる望ましい事態であったとみられるのであって,このような観点からすると,できるだけ多くのJV工場に本件違反行為による相互拘束を及ぼすことが双方の利益にかなうということができるから,本件6工場において本件9社以外の合材メーカーであるスポンサーに販売価格の決定権限があったとしても,そのことから直ちに本件6工場が販売するアスファルト合材が本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認め難い。
さらに,本件6工場に関する具体的な事情についてみても,山形アスコン以外の本件6工場においては,本件9社の本店からの値上げの指示や本件9社の従業員らが参加していた地区会合等を通じて,それぞれのスポンサーが本件合意の内容を把握し,これに沿った値上げを達成するための活動を行っており(上記1(1)エ,オ,(2)ア,(7)イ(ア),(イ)),山形アスコンにおいても,原告から派遣された従業員がスポンサーの代表者の承諾を得ながら同様の活動を行っていた(上記1(7)イ(ウ))のであるから,本件6工場において,本件9社から本件合意に従った値上げの方針が伝わることがなかったということはできない。
その他,全証拠によっても,本件6工場が販売したアスファルト合材の販売価格が本件合意とは無関係に決定されていたことを示す事情があるとは認められない(なお,原材料の値上がり等を理由とする値上げがあった事実から本件合意と無関係な値上げがあったということはできないのは,上記3(2)ウで説示したとおりである。)。
イ したがって,本件6工場が販売したアスファルト合材が本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められない。
その他,上記認定判断を左右するに足りる的確な主張,証拠はない。
(3) 以上によれば,本件6工場が販売したアスファルト合材について,本件課徴金納付命令がこれを課徴金算定の対象とした点は適法である。
7 争点5(JV工場が構成員に対し協定価格で販売したアスファルト合材)について
(1) 原告は,JV工場が構成員に対し協定価格で販売したアスファルト合材について,顧客価格で販売されるアスファルト合材と代替性がないことや,顧客価格との価格差及び価格決定過程に関する事情の違い等を指摘して,顧客価格で販売したアスファルト合材とは異なり本件合意の対象とされておらず,①本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属しないか,②本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がある旨を主張する。
(2)ア しかしながら,①については,JV工場が構成員に対し協定価格で販売したアスファルト合材を含むアスファルト合材全体が本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するものと認められることは,上記2において説示したとおりである。
また,②についても,協定価格の値上げが顧客価格の値上げと一定程度連動しながら行われていたものと推認されることからすれば,顧客価格と協定価格との間に原告が指摘するような違いがあったとしても,そのような事情をもって本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情であると評価することはできない。すなわち,価格に占める利益部分を除けば,価格を構成する要素は顧客価格と協定価格とで大きく異なるものではないとみられる(前記前提事実(5))ところ,協定価格が構成員以外の第三者にも知られ得るものであり(前記前提事実(6),上記1(9)。なお,原告は,協定価格は営業秘密として構成員以外には知られることはない旨を主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。),顧客価格を値上げするに当たって協定価格の値上げを要する場合もあり得ること,自社以外の構成員に対する協定価格による販売については外部の顧客に対する販売と同様に利益確保の要請のために協定価格の値上げを要する場合もあり得ること,本件9社の複数の合材工場において,顧客価格だけでなく協定価格についても,本店からの指示に基づく値上げが実際に行われていたこと(上記1(8))などの事情を踏まえれば,原告のJV工場においても,本件合意に基づき,協定価格の値上げが顧客価格の値上げと一定程度連動しながら行われていたものと優に推認することができる。
その他,全証拠をみても,協定価格が本件合意とは無関係に決定されていたことを示す事情を認めるに足りない。
イ したがって,JV工場が構成員に対し協定価格で販売したアスファルト合材が本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められない。
その他,上記認定判断を左右するに足りる的確な主張,証拠はない。
(3) 以上によれば,JV工場が構成員に対して協定価格で販売したアスファルト合材について,本件課徴金納付命令がこれを課徴金算定の対象とした点は適法である。
8 小括
そうすると,争点に関する原告の主張はいずれも採用することができず,本件課徴金納付命令は適法であるといえる。
第4 結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

令和3年8月5日

裁判長裁判官  朝倉佳秀
裁判官  西山 渉
裁判官  谷山暢宏

注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

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