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独禁法3条後段、独禁法7条2
東京高等裁判所第3特別部
令和3年(行コ)第226号
令和4年6月8日
東京都港区三田三丁目13番16号
控訴人(1審原告) 世紀東急工業㈱
同代表者取締役 ≪氏名≫
同訴訟代理人弁護士 西村 泰夫
同 村島 俊宏
同 穂積 伸一
同 谷口 悠樹
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被控訴人(1審被告) 公正取引委員会
同代表者委員長 古谷 一之
同指定代理人 別紙指定代理人目録記載のとおり
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対し令和元年7月30日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会令和元年(納)第11号)のうち、18億3417万円を超えて納付を命じた部分を取り消す。
第2 事案の概要(以下、略語は、特に定めない限り、原判決の表記による。)
1 被控訴人は、アスファルト合材(石油アスファルトに砕石、砂、石粉等を配合した混合材料)の製造販売業を営む控訴人及び同業他社8社(本件9社)が、遅くとも平成23年3月以降、本件9社又はそのいずれかを構成員とする共同企業体が販売するアスファルト合材の販売価格の引上げを共同して行っていく旨の合意(本件合意)をし、公共の利益に反して、日本国内におけるアスファルト合材の販売分野の競争を実質的に制限したものであり、この行為(本件違反行為)が、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(令和元年法律第45号による改正前のもの。特に断りのない限り、以下同じ。独禁法)2条6項の「不当な取引制限」に該当し、独禁法3条に違反することを理由として、令和元年7月30日、本件9社のうち控訴人を含む7社に対し、排除措置命令(令和元年(措)第6号。以下同じ。)を行うとともに、本件違反行為が独禁法7条の2第1項1号の「商品・・・の対価に係るもの」に該当することを理由として、同日、控訴人に対し、課徴金28億9781万円の納付を命ずる課徴金納付命令(令和元年(納)第11号。本件課徴金納付命令)を行った。
本件は、控訴人が、本件課徴金納付命令は課徴金算定の対象とならない商品の対価を含めて課徴金の額を算定したものであり、その対象とならない商品に係る売上額を控除して算定した課徴金の額は18億3417万円となるから、同額を超える部分(10億6364万円)については違法に納付を命じられたものである旨主張して、本件課徴金納付命令のうち当該部分の取消しを求める事案である。
原審は、控訴人の請求を棄却し、控訴人が、これを不服として控訴した。
2 前提事実
原判決の「第2 事案の概要」の2記載のとおりであるから、これを引用する。
3 本件の争点及び争点に関する当事者の主張
次のとおり補正し、当審における控訴人の主張の要旨を付加するほか、原判決の「第2 事案の概要」の3及び4記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決の補正
14頁6行目の「事業活動」」の次に「(独禁法7条の2第1項本文)」を加え、15頁23行目の「(元)従業員」を「従業員又は元従業員」に改め、16頁2行目の「振り替える」の次に「際の」を加える。
(2) 当審における控訴人の主張の要旨
ア 争点1(本件4工場が販売したアスファルト合材)について
(ア) アスファルト合材は、加熱した状態で搬送することから、その輸送範囲が限られており、アスファルト合材の製造販売業者がその販売を巡って具体的な競争を行っているのは、自社の工場から概ね30キロメートル程度の距離の範囲内である。日本国内全域においてアスファルト合材の製造販売を行っている大手業者である本件9社についても、実際に需要者の獲得を巡って競争しているのは、本件9社が日本国内の各地域に有する各合材工場である。したがって、本件合意の対象が日本国内における全てのアスファルト合材の販売取引であったとしても、そのことが直ちにアスファルト合材の地理的販売分野まで日本国内全域であると確定し得る根拠とはならず、原判決がアスファルト合材の地理的販売分野に係る「一定の取引分野」を日本国内と確定したことは誤りである。
また、仮に、本件合意の対象が日本国内における全てのアスファルト合材の販売取引であったとしても、アスファルト合材の販売を巡る具体的な競争は各合材工場が行っているものであるから、アスファルト合材の地理的販売分野に係る「一定の取引分野」を各合材工場から一定の範囲(アスファルト合材の搬送可能な範囲)として確定することは可能であるとともに、独禁法における「競争」の定義からすれば、そのように確定すべきであって、本件9社が有する個別の合材工場ごとにも「一定の取引分野」が成立している。
(イ) 福島舗財センター、南木曽合材工場及び山都合材工場においては、本件合意にかかわらずアスファルト合材につき値上げをすることが可能であったものであり、本件4工場が販売したアスファルト合材については、競争が存在せず、又は競争の実質的制限が生じていない地域において販売されたものであるから、本件4工場が販売したアスファルト合材については、これが本件合意の対象に含まれる商品であったとしても、定型的に本件合意の拘束から除外されていることを示す特段の事情が存在するものといえる。
(ウ) 9社会がアスファルト合材の原材料価格や需給関係の変動といった事情を考慮していたとしても、福島舗材センターにおいては、東日本大震災の影響により他の地域における考慮事情を大幅に超えていたため、本件合意の影響を受けることなく、アスファルト合材の販売価格の値上げを余儀なくされたものである。
イ 争点2 (控訴人が同業者間取引により供給したアスファルト 合材)について
(ア) 同業者間取引に係るアスファルト合材については、その取引の性質や代金の算定方法が通常の需要者への販売とは異なる特徴を有しており、その管理も通常の需要者への販売とは区別してされていたこと、9社会の参加者の中でもそれぞれの立場があり、各社の認識、意向が一致しておらず、各参加者において、他の参加者が値上げにつきどのような行動に出るのかを認識ないし予測することができるような状況になっておらず、これと歩調をそろえる意思が形成されたともいえないこと、本件合意に基づく値上げの指示の対象とはされていなかったことなどからすれば、本件合意の対象から黙示的に除外されていたものと考えるのが相当である。
(イ) 本件においては、同業者間取引に係るアスファルト合材に関し、「違反行為の実行としての事業活動」(独禁法7条の2第1項本文)、すなわち事実上の営業活動を行った者が課徴金の名宛人となるところ、控訴人は、事実上の営業活動を行ったものとは認められないから、課徴金の名宛人とはなり得ない。
ウ 争点3 (控訴人が本件各子会社に販売したアスファルト合材)について
(ア) 親会社が全額出資子会社に対して販売するアスファルト合材は、同一企業内における製造部門から施工部門への資材の移動と同視し得るものであるから、その売上を課徴金算定の基礎とすることは、不当利得の剥奪を目的とする課徴金制度の趣旨・目的に反する。
(イ) 本件各子会社は、親会社である控訴人の施工部門と同じ位置付けにあることから、控訴人は、施工部門に対して販売するアスファルト合材の販売価格と同じ基準(控訴人の製造部門から工事部門に振り替える際の価格又はJV工場における協定価格)で本件各子会社に対する販売価格を設定しているのであり、これについて本件合意の拘束力に基づいて値上げをするということはあり得ず、控訴人が本件各子会社に販売したアスファルト合材の販売価格が本件合意の拘束力を受けていないことは明らかである。
エ 争点4 (本件6工場が販売したアスファルト合材)について
(ア) 本件9社が本件6工場の販売するアスファルト合材に対しても本件合意の拘束力を及ぼそうとするのであれば、本件9社によってそのための何らかの措置が採られてしかるべきであるにもかかわらず、実際には本件9社において何らの措置も採っておらず、何らかの措置を採ろうとした形跡もないから、本件9社は、本件6工場が販売するアスファルト合材の販売価格については、本件合意の対象から除外していたものと考えられる。
(イ) 仮に、本件6工場のスポンサーが、本件合意の内容を把握し、これに沿った値上げ活動を行っていたとしても、それは、本件9社と本件6工場のスポンサーとの間での相互の意思の連絡に基づくものではなく、本件合意の拘束力に基づくものでないことは明らかであるから、本件6工場が販売するアスファルト合材が本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を否定する根拠とはなり得ない。
(ウ) 本件6工場は、いずれもスポンサーを本件9社以外の事業者が務めており、そのスポンサーが任意にアスファルト合材の販売価格を決定していることから、本件6工場が販売するアスファルト合材については、本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるといえる。
オ 争点5 (JV工場が構成員に対し協定価格で販売したアスファルト合材)について
(ア) JV工場が構成員に対して販売するアスファルト合材については、JVの構成員という特別の地位にある者に対し、協定単価と呼ばれる特別に設定された価格で販売され、その取引は、構成員以外に対する販売とは完全に区別されたものであって、供給を受ける構成員も、他社工場から購入するという認識を持たず、自社工場から供給を受けるのと同様の認識を持つのが一般である。そして、JV工場が構成員に対して販売するアスファルト合材については、9社会の各参加者において、他の参加者が値上げを行うことを認識し、又は予測し得るような状況になっておらず、これと歩調をそろえる意思が形成されたともいえないから、本件違反行為の対象商品の範ちゅうには属しない。
(イ) 次の各事情をも考慮すれば、JV工場が構成員に対して販売したアスファルト合材については、本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるといえる。
a 協定価格は、工事原価の重要部分を構成する営業秘密であるから、それが第三者である取引先に開示されることはないのであって、第三者に知られる場合もあるという程度にすぎない。
b 顧客価格と協定価格とでは性質が全く異なっていることは、取引先においても当然分かっていることであり、顧客価格を値上げする一方で協定価格を据え置いたとしても、そのことによって顧客価格の値上げが困難になるという関係にはないから、顧客価格を値上げするために協定価格を値上げしなければならないということはない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件課徴金納付命令は適法であり、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり補正し、当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか、原判決の「第3 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決の補正
ア 22頁9行目の「63、64から111まで」を「63から93まで、95から111まで」に、26頁11行目の「地区会合の場で」を「地区会合の場等において」にそれぞれ改める。
イ 31頁18行目の「市町村内」を「市町村内等」に、32頁16、17行目の「その際」を「大成ロテック株式会社の合材工場から購入する際」にそれぞれ改め、33頁5行目末尾に改行の上、次を加える。
「c ≪子会社X3≫と控訴人との間には、≪子会社X3≫が控訴人以外の他社からのアスファルト合材の購入を禁止する旨の契約等は存在していなかった。」
ウ 33頁6行目の「c」を「d」に、9行目の「d」を「e」にそれぞれ改め、11行目の「受注」の次に「活動」を、17行目の「協定価格」の次に「に1トン当たり200円を上乗せした価格」をそれぞれ加え、21行目の「≪子会社X4≫」を「≪子会社X4≫」に、同行目の「全員」を「7名中6名」に、22行目の「7名中」を「その」にそれぞれ改め、24行目及び34頁13行目の各「受注」の次にいずれも「活動」を加える。
エ 35頁17行目の「構成員間で」を「複数の合材工場において、構成員間で本件9社の」に改める。
オ 39頁12行目の「値上げ」の次に「に向けた活動」を加え、20行目及び40頁6行目の各「本件4工場」をいずれも「福島舗材センター」に改める。
カ 43頁4行目の「(ウ)d」を「(ウ)e」に、6行目の「(ウ)b」を「(ウ)c」にそれぞれ改め、19行目の「主張するが」の次に「、同主張は」を加える。
キ 46頁17行目の「もって」の次に「、JV工場が構成員に対し協定価格で販売したアスファルト合材が」を、24行目の「当たって」の次に「価格交渉という面から」を、25行目の「自社以外の」の次に「JVの」をそれぞれ加える。
ク 47頁17行目の「であるといえる」を「であって、控訴人の請求は理由がないものと認められる」に改める。
(2) 当審における控訴人の主張について
ア 争点1(本件4工場が販売したアスファルト合材)について
(ア) 控訴人は、アスファルト合材の製造販売業者がその販売を巡って具体的な競争を行っているのは、自社の工場から概ね30キロメートル程度の距離の範囲内にとどまり、本件9社についても、実際に需要者の獲得を巡って競争しているのは、本件9社が日本国内の各地域に有する各合材工場であるなどとして、本件合意の対象が日本国内における全てのアスファルト合材の販売取引であったとしても、そのことが直ちにアスファルト合材の地理的販売分野まで日本国内全域であると確定し得る根拠とはならず、アスファルト合材の地理的販売分野に係る「一定の取引分野」を日本国内と確定することは誤りである旨、また、仮に、本件合意の対象が日本国内における全てのアスファルト合材の販売取引であったとしても、アスファルト合材の販売を巡る具体的な競争は各合材工場が行っているものであるから、アスファルト合材の地理的販売分野に係る「一定の取引分野」については、これを各合材工場から一定の範囲(アスファルト合材の搬送可能な範囲)として確定すべきであって、本件9社が有する個別の合材工場ごとにも「一定の取引分野」が成立している旨等を主張する。
しかしながら、前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」の3(1)(37頁21行目から39頁3行目まで)における認定説示のとおり、本件9社の間でされた本件合意において対象とされている取引は日本国内における全てのアスファルト合材の販売取引であり、本件9社がいずれも日本全国でアスファルト合材の製造販売業を展開している大手の合材メーカーであって、平成23年度から平成26年度までの期間に係る我が国のアスファルト合材の製造数量における本件9社の市場シェアが約66パーセントであったことなどからすれば、日本国内における全てのアスファルト合材の販売分野を一定の取引分野として画定するのが相当であって、控訴人の上記主張は、いずれも上記認定説示に照らして採用することができない。
(イ) 控訴人は、福島舗財センター、南木曽合材工場及び山都合材工場においては、本件合意にかかわらずアスファルト合材につき値上げすることが可能であったものであり、本件4工場が販売したアスファルト合材については、競争が存在せず、又は競争の実質的制限が生じていない地域において販売されたものであるから、本件4工場が販売したアスファルト合材については、これが本件合意の対象に含まれる商品であったとしても、定型的に本件合意の拘束から除外されていることを示す特段の事情が存在するものといえる旨主張するが、控訴人が当審において提出した証拠(甲118~128。枝番のあるものは、いずれもそれを含む。)を含む本件全証拠に照らしても、福島舗財センター、南木曽合材工場又は山都合材工場において、本件合意にかかわらずアスファルト合材につき値上げをすることが可能であったものとみるべき事情は認められない。そして、前記(ア)の認定説示に加え、本件実行期間を通じて本件9社によって本件合意が維持されていたことや、本件4工場において本件合意に沿った内容のアスファルト合材の販売価格の値上げに向けた活動が行われていた上、このうち3つの合材工場(福島舗材センター、南木曽合材工場及び山都合材工場)において周囲の合材工場との取引先の競合や価格の調整が行われていたことも併せて考慮すれば、本件における一定の取引分野として画定された、本件4工場のある地域を含む日本国内における全てのアスファルト合材の販売分野において、競争が存在していたこと及び競争の実質的制限が生じていたことは明らかというベきであることは、前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」の3(2)イ(39頁9行目から18行目まで。当審における補正部分を含む。)における認定説示のとおりであって、控訴人の上記主張を採用することはできない。
(ウ) 控訴人は、9社会がアスファルト合材の原材料価格や需給関係の変動といった事情を考慮していたとしても、福島舗材センターにおいては、東日本大震災の影響により他の地域における考慮事情を大幅に超えていたため、本件合意の影響を受けることなく、アスファルト合材の販売価格の値上げを余儀なくされたものである旨主張するが、福島舗材センターに関して控訴人が主張するような事情が生じていたとしても、9社会におけるやり取りからも明らかなように、アスファルト合材の原材料価格や需給関係の変動といった事情は、本件9社が本件合意に基づいてアスファルト合材の値上げをする際の考慮要素にもなっていたものであって、このことは、福島舗材センターについても妥当するものであり、各合材工場が原材料価格を販売価格に転嫁し、各地における市場シェアを維持することができたのも、本件合意の存在によるところがあるといえるから、控訴人の主張する上記事情が値上げの一因となっていることをもって、福島補材センターにおける値上げが本件合意と無関係であったということはできないことは、前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」の3(2)ウ(39頁20行目から40頁7行目まで。当審における補正部分を含む。)における認定説示のとおりであって、控訴人の上記主張は、上記認定説示に照らして採用することができない。
イ 争点2 (控訴人が同業者間取引により供給したアスファルト合材)について
(ア) 控訴人は、同業者間取引に係るアスファルト合材については、その取引の性質や代金の算定方法が通常の需要者への販売とは異なる特徴を有しており、その管理も通常の需要者への販売とは区別してされていたこと、9社会の参加者の中でもそれぞれの立場があり、各社の認識、意向が一致しておらず、各参加者において、他の参加者が値上げにつきどのような行動に出るのかを認識ないし予測することができるような状況になっておらず、これと歩調をそろえる意思が形成されたともいえないこと、本件合意に基づく値上げの指示の対象とはされていなかったことなどからすれば、本件合意の対象から黙示的に除外されていたものと考えるのが相当である旨主張する。
しかしながら、同業者間取引に係る実情に照らせば、アスファルト合材の価格の決定方法やその決定要因(費用)については、同業者間取引の場合と受注メーカーが製造したアスファルト合材を販売する場合とで大きく異なるものではなかったと評価することが可能であるとともに、納入先が発注メーカーではなく需要者である点も、販売の場合においても買主以外の第三者に商品を納入する取引が想定されることを踏まえれば、上記評価を覆す事情であるということはできず、本件全証拠によるも、上記評価を覆すものみるべき事情や本件合意が同業者間取引をその対象に含めなかったものとみるべき事情が見当たらないことは、前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」の4(1)イ(40頁24行目から41頁12行目まで)における認定説示のとおりである。むしろ、証拠(甲116、乙6、30)によれば、本件9社は、社外販売価格だけではなく、同業者間取引の価格についても、各社で足並みをそろえて値上げの対象としていたこと、控訴人の本店から支店等に対するアスファルト合材の値上げを指示する旨の通達においては、社外ヘの販売のほかに、同業者間取引により供給するアスファルト合材についても、値上げの指示の対象とされていたことが認められ、これらの事実は、本件合意が同業者間取引をその対象に含めていたことを推認させるものである。以上によれば、控訴人の上記主張は失当であり、採用することができない。
(イ) 控訴人は、同業者間取引に係るアスファルト合材に関し、「違反行為の実行としての事業活動」(独禁法7条の2第1項本文)、すなわち事実上の営業活動を行った者が課徴金の名宛人となるところ、控訴人は事実上の営業活動を行ったものとは認められないから、課徴金の名宛人とはなり得ない旨主張するが、「実行としての事業活動」の要件は課徴金算定に当たっての実行期間の始期と終期を算定するための要件であると解され、独禁法における課徴金制度の趣旨を踏まえれば課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないと解されることからすると、課徴金算定の対象となるベき個々の売上額について、控訴人が主張する「実行としての事業活動」が存在することが必要であると解すべき理由はないことは、前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」の4(2)ア(41頁17行目から2 6行目まで)における認定説示のとおりであって、控訴人の上記主張は、上記認定説示に照らし、採用することができない。
ウ 争点3 (控訴人が本件各子会社に販売したアスファルト合材)について
(ア) 控訴人は、親会社が全額出資子会社に対して販売するアスファルト合材について、同一企業内における製造部門から施工部門への資材の移動と同視し得るものであるから、その売上を課徴金算定の基礎とすることは、不当利得の剥奪を目的とする課徴金制度の趣旨・目的に反する旨主張するところ、全額出資子会社に対する商品の販売が同一企業内における製造部門から施工部門への資材の移動と同視し得る場合には、当該全額出資子会社へ販売した商品の売上額が違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるものとして、課徴金算定の対象から除外される余地はあると解されるものの、本件各子会社については、いずれも、地方自治体や控訴人以外の事業者等から独自に道路舗装工事を受注して施行していたこと等の事情からして、独立の取引主体として現に活動していたものと認めることができ、本件各子会社を控訴人の施工部門と同視することは困難であって、本件各子会社に対する販売を控訴人の施工部門への資材の移動と同視することはできないことは、前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」の5(2)ア(42頁17行目から43頁10行目まで。当審における補正部分を含む。)における認定説示のとおりであって、控訴人の上記主張は、上記認定説示に照らし、採用することができない。
(イ) 控訴人は、本件各子会社は親会社である控訴人の施工部門と同じ位置付けにあることから、控訴人においては、施工部門に対して販売するアスファルト合材の販売価格と同じ基準(控訴人の製造部門から工事部門に振り替える際の価格又はJV工場における協定価格)で本件各子会社に対する販売価格を設定しているとし、これについて本件合意の拘束力に基づいて値上げをするということはあり得ず、控訴人が本件各子会社に販売したアスファルト合材の販売価格が本件合意の拘束力を受けていないことは明らかである旨主張するが、証拠(甲113、乙13)によれば、控訴人においては、本件各子会社のうち、≪子会社X3≫に対しては、協定価格ではなく、JVの構成員以外の需要者に販売する際の価格である顧客価格で、また、≪子会社X4≫に対しては、協定価格に事務手数料として1トンあたり200円を上乗せした価格でそれぞれ販売していることが認められ、控訴人の上記主張は、その前提とする事実を欠き、前記(ア)の認定説示を左右するものではなく、採用することができない。
エ 争点4 (本件6工場が販売したアスファルト合材)について
控訴人は、①本件9社が本件6工場の販売するアスファルト合材に対しても本件合意の拘束力を及ぼすための何らの措置も採っておらず、何らかの措置を採ろうとした形跡もないから、本件9社においては、本件6工場が販売するアスファルト合材の販売価格について、本件合意の対象から除外していたものと考えられる旨、②仮に、本件6工場のスポンサーが、本件合意の内容を把握し、これに沿った値上げ活動を行っていたとしても、それは、本件9社と本件6工場のスポンサーとの間での相互の意思の連絡に基づくものではなく、本件合意の拘束力に基づくものでないから、本件6工場が販売するアスファルト合材が本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情を否定する根拠とはなり得ない旨、③本件6工場はいずれもスポンサーを本件9社以外の事業者が務めており、そのスポンサーが任意にアスファルト合材の販売価格を決定していることから、本件6工場が販売するアスファルト合材については、本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるといえる旨を主張する。
しかしながら、まず、①の点については、本件6工場が販売したアスファルト合材を含む日本国内において販売される全てのアスファルト合材が本件合意の対象に含まれるものと認められることは、前記引用に係る原判 決の「第3 当裁判所の判断」の2(2)ア(37頁8行目から14行目まで)における認定説示のとおりである。
また、上記②及び③については、できるだけ多くのJV工場に本件違反行為による相互拘束を及ぼすことが本件9社とそれ以外の合材メーカーとの双方の利益にかなうということができるから、本件6工場において本件9社以外の合材メーカーであるスポンサーに販売価格の決定権限があったとしても、そのことから直ちに本件6工場が販売するアスファルト合材が本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認め難いこと、山形アスコン以外の本件6工場においては、本件9社の本店からの値上げの指示や本件9社の従業員らが参加していた地区会合等を通じて、それぞれのスポンサーが本件合意の内容を把握し、これに沿った値上げを達成するための活動を行っており、山形アスコンにおいても、控訴人から派遣された従業員がスポンサーの代表者の承諾を得ながら同様の活動を行っていたものであって、本件6工場において、本件9社から本件合意に従った値上げの方針が伝わることがなかったということはできないことなどからして、本件6工場が販売したアスファルト合材が本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとは認められないことは、前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」の6(2)(44頁17行目から45頁25行目まで)における認定説示のとおりである。
以上によれば、控訴人の上記各主張は、失当というべきであって、採用することができない。
オ 争点5 (JV工場が構成員に対し協定価格で販売したアスファルト合材)について
(ア) 控訴人は、JV工場が構成員に対して販売するアスファルト合材について、その取引は構成員以外に対する販売とは完全に区別されたものであって、供給を受ける構成員も、他社工場から購入するという認識を持たず、自社工場から供給を受けるのと同様の認識を持つのが一般であるとし、9社会の各参加者において、他の参加者が値上げを行うことを認識し、又は予測し得るような状況になっておらず、これと歩調をそろえる意思が形成されたともいえないから、本件違反行為の対象商品の範ちゅうには属しない旨主張する。
しかしながら、JV工場が構成員に対し協定価格で販売したアスファルト合材を含むアスファルト合材全体が本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するものと認められることは、前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」の2(2)ア(37頁8行目から14行目まで)における認定説示のとおりであって、控訴人の上記主張は、上記認定説示に照らし、採用することができない。
(イ) 控訴人は、①協定価格は工事原価の重要部分を構成する営業秘密であるから、それが第三者である取引先に開示されることはなく、第三者に知られる場合もあるという程度にすぎないものであること、②顧客価格と協定価格とでは性質が全く異なっていることは、取引先においても当然分かっていることであり、顧客価格を値上げする一方で協定価格を据え置いたとしても、そのことによって顧客価格の値上げが困難になるという関係にはないから、顧客価格を値上げするために協定価格を値上げしなければならないということはないこと等の事情をも考慮すれば、JV工場が構成員に対して販売したアスファルト合材については、本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるといえる旨主張するが、価格に占める利益部分を除けば、価格を構成する要素は顧客価格と協定価格とで大きく異なるものではないとみられるところ、協定価格が構成員以外の第三者にも知られ得るものであり、顧客価格を値上げするに当たって価格交渉という面から協定価格の値上げを要する場合もあり得ること、自社以外のJVの構成員に対する協定価格による販売については外部の顧客に対する販売と同様に利益確保の要請のために協定価格の値上げを要する場合もあり得ること、本件9社の複数の合材工場において、顧客価格だけでなく協定価格についても、本店からの指示に基づく値上げが実際に行われていたことなどの事情を踏まえれば、控訴人のJV工場においても、本件合意に基づき、協定価格の値上げが顧客価格の値上げと一定程度連動しながら行われていたものと推認することができ、そうであれば、顧客価格と協定価格との間に控訴人が指摘するような違いがあったとしても、そのような違いに係る事情をもって、JV工場が構成員に対し協定価格で販売したアスファルト合材が本件違反行為による相互拘束から除外されていることを示す特段の事情であると評価することはできないことは、前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」の7(2)ア(46頁14行目から47頁7行目まで。当審における補正部分を含む。)における認定説示のとおりである。むしろ、証拠(乙6)によれば、本件9社は、顧客価格だけでは なく、協定価格についても、各社で足並みをそろえて値上げの対象としていたことが認められ、当該事実は、JV工場が構成員に対し協定価格で販売したアスファルト合材が本件合意の対象とされていたことを推認させるものであって、以上によれば、控訴人の上記主張は失当であり、採用することができない。
カ その他、控訴人が種々主張するところは、いずれも前記認定判断を左右するものではない。
2 よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
令和4年6月8日
裁判長裁判官 相澤 哲
裁判官 伊藤 一夫
裁判官関口剛弘は、転補のため、署名押印することができない。
裁判長裁判官 相澤 哲
注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。
(別紙)
指定代理人目録
被控訴人指定代理人 横手 哲二
同 近藤 智士
同 垣内 晋治
同 永井 誠
同 河﨑 渉
同 井登 貴伸
同 櫻井 裕介
同 新田 高弘
同 福井 雅人
同 太田 陽介
同 久野 慎介
同 名執 祐矢
以上