公正取引委員会審決等データベース

文字サイズの変更

背景色の変更

本文表示content

本町化学工業㈱による排除措置命令等取消請求事件

独禁法3条後段、独禁法7条2
東京地方裁判所民事第8部

令和2年(行ウ)第22号

判決

令和4年9月15日

東京都足立区中央本町一丁目2番11号
原告 本町化学工業株式会社
同代表者代表取締役 ≪氏名≫
同訴訟代理人弁護士  高橋善樹
同          堀越友香
同訴訟復代理人弁護士 橿渕 陽
東京都千代田区霞が関一丁目一番一号中央合同庁舎第6号館B棟
被告         公正取引委員会
同代表者委員長    古谷一之
同指定代理人     高居良平
同          近藤智士
同          山口正行
同          河﨑 渉
同          井登貴伸
同          九谷福弥
同          牛木政志
同          奥村正和
同          川﨑しおり
同          福井雅人
同          伊東 玲
同          山崎利恵
同          新崎瑠莉

令和4年9月15日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和2年(行ウ)第22号 排除措置命令及び課徴金納付命令取消請求事件
口頭弁論終結日 令和4年2月24日

判決
当事者の表示 別紙1「当事者目録」記載のとおり
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告が令和元年11月22日付でした排除措置命令(令和元年(措)第9号。以下「本件東日本排除措置命令」という。)のうち原告に対する部分を取り消す。
2 被告が令和元年11月22日付でした排除措置命令(令和元年(措)第10号。以下「本件近畿排除措置命令」という。)のうち原告に対する部分を取り消す。
3 被告が原告に対して令和元年11月22日付でした課徴金納付命令(令和元年(納)第18号。以下「本件東日本課徴金納付命令」という。)を取り消す。
4 被告が原告に対して令和元年11月22日付でした課徴金納付命令(令和元年(納)第29号。以下「本件近畿課徴金納付命令」という。)を取り消す。

第2 事案の概要(主な略語は、別紙2「略語一覧表」のとおりである。)
被告は、令和元年11月22日、原告を含む活性炭の販売業者16社において、東日本地区に所在する地方公共団体が入札等の方法により発注する東日本地区の特定浄水場等向けの粉末活性炭又は粒状活性炭(以下「特定活性炭」という。)について、供給予定者を決定して原告を介して供給すること等の合意(以下「本件東日本合意」という。)をすることにより、令和元年法律第45号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)2条6号所定の「不当な取引制限」をしたとして、同法7条2項1号に基づく排除措置命令(本件東日本排除措置命令)及び同法7条の2第1項に基づく課徴金納付命令(本件東日本課徴金納付命令)をした。また、被告は、同日、原告を含む粒状活性炭の販売業者11社において、近畿地区に所在する地方公共団体が入札の方法により発注する近畿地区の特定高度浄水処理施設向けの粒状活性炭(以下「特定粒状活性炭」という。)について、供給予定者を決定し、供給予定者は原告を介して供給すること等の合意(以下「本件近畿合意」という。)をすることにより、同法2条6号所定の「不当な取引制限」をしたとして、同法7条2項1号に基づく排除措置命令(本件近畿排除措置命令)及び同法7条の2第1項に基づく課徴金納付命令(本件近畿課徴金納付命令)をした。
本件は、原告が、被告を相手に、本件東日本排除措置命令、本件東日本課徴金納付命令、本件近畿排除措置命令及び本件近畿課徴金納付命令(以下、これらを総称して「本件各排除措置命令等」という。)の取消しを求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実、顕著な事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定することができる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は、昭和29年に設立された一般工業薬品・防疫剤事業を主たる事業内容とする株式会社である。その主力製品は、次亜塩素酸ソーダ、粉末活性炭及び粒状活性炭等であったが、自社の名称、銘柄、品番、商標等を付した粉末活性炭又は粒状活性炭(以下、これらを併せて「活性炭」ということがある。)の販売はしておらず、活性炭の卸売業者として、後記イの自社の名称等を付した活性炭を販売する事業者又は当該事業者の代理店から活性炭を仕入れ、これを販売する取引を行っていた。
イ 別紙3「関係人一覧」番号2~16の事業者(以下「東日本15社」という。)は、それぞれ、自社の名称、銘柄、品番、商標等(幸商事にあっては、≪A≫の名称、銘柄、品番、商標等)を付した活性炭を販売していた(乙2〔2頁〕、3〔2~3頁〕、4[4~5頁〕、5[4~5頁〕、6〔7頁〕、7〔1~2頁〕、8〔4~5頁、8~9頁〕)。
ウ 大阪ガスケミカルは、平成27年4月1日、当時子会社であった日本エンバイロケミカルズを吸収合併した(乙122、123)。これにより日本エンバイロケミカルズは消滅し、活性炭事業は同事業に従事していた従業員も含めて全て大阪ガスケミカルに引き継がれることになったことから、日本エンバイロケミカルズの活性炭営業担当者はそのまま大阪ガスケミカルの活性炭営業担当者となった(乙86〔2~3 頁〕)。
エ クラレは、平成29年1月1日、当時完全子会社であったクラレケミカルを吸収合併した(乙124、125)。これによりクラレケミカルは消滅し、活性炭事業は同事業に従事していた従業員も含めて全てクラレに引き継がれることになったことから、クラレケミカルの活性炭営業担当者はそのままクラレの活性炭営業担当者となった(乙2〔2~4頁〕)。
(2) 活性炭の概要と地方公共団体による活性炭の発注状況
ア 活性炭の概要
活性炭は、炭素を主成分とする多孔質体であり、石炭や炭化させたヤシ殻、おが屑等を原料として、賦活と呼ばれる処理によって生成された無数の穴(微細孔)を有している。そして、この穴には、原水中の臭気物質(プランクトンや藻類の代謝物由来のカビ臭の原因物質)や不純物(トリハロメタン等)のほか、排ガス中の不純物(ダイオキシンや臭気)等の有機物等を取り込む性質がある。
このため、この性質を利用して、地方公共団体が設置する浄水場等のうち、浄水場では浄化処理に使用されており、ごみ焼却場ではダイオキシンの除去に用いられるなど、活性炭は幅広い用途に用いられている。
活性炭の形状には、粒状のもの(粒状活性炭)と粉末状のもの(粉末活性炭)がある。粒状活性炭には、新炭、すなわち初めて使用する活性炭のほか、再生炭、すなわち使用済みの活性炭(劣化炭)の吸着性能を回復させる再生処理を施した活性炭がある(乙4〔4~8頁〕、15、16〔3~4頁〕、17〔3頁〕、18〔4頁〕、19〔2頁〕、20〔4~6頁〕)。
イ 東日本地区の浄水場等で使用する活性炭の発注状況
東日本地区に所在する地方公共団体(別紙4「東日本地区主張整理表①」の「地方公共団体名」欄記載の地方公共団体をいう。以下同じ。)は、通常、毎年又は一定期間ごとに、東日本地区の特定浄水場等(別紙4「東日本地区主張整理表①」の「活性炭を使用する施設の名称」欄記載の施設をいう。以下同じ。)で使用する活性炭について、一又は複数の浄水場等を使用先とする単位ごとに、地方自治法等に基づく一般競争入札、指名競争入札又は見積り合わせ(以下、これらを併せて「入札等」という。)の方法により、発注していた(乙5〔3頁]、10〔14頁〕、17〔3頁〕、18〔7頁〕、21〔3頁〕、22〔1~2頁〕、23〔1頁〕、24〔2頁〕、25〔1頁〕、26〔2頁〕、31、32 〔1頁〕、乙33〔1頁〕)。
なお、東日本地区に所在する地方公共団体は、入札等を実施するに当たり、活性炭の仕様、契約期間中の使用予定数量等につき、当該活性炭を使用する浄水場等に応じて独自に定めた上、当該仕様等を入札等の参加者に示していた(乙36〔1~2頁〕)
ウ 近畿地区の浄水場等で使用する粒状活性炭の発注状況
近畿地区に所在する地方公共団体(別紙5「近畿地区主張整理表①」の「地方公共団体名」欄記載の地方公共団体をいう。以下同じ。)は、通常、毎年又は一定期間ごとに、近畿地区の特定高度浄水処理施設(別紙5「近畿地区主張整理表①」の「活性炭を使用する施設の名称」欄記載の施設をいう。以下同じ。)で使用する粒状活性炭について、一又は複数の高度浄水処理施設を使用先とする単位ごとに、地方自治法等に基づく一般競争入札又は指名競争入札(以下、これらを併せて「入札」という。)の方法により、発注していた(乙27〔1~2頁〕、28〔3~4頁〕、35)。
なお、近畿地区の高度浄水処理施設は、凝集沈殿、急速ろ過等の処理に加えて、オゾンと粒状活性炭による処理を行う浄水処理施設であり(乙11〔3~4頁〕、29〔4~5頁〕30〔1頁〕)、また、近畿地区に所在する地方公共団体は、入札を実施するに当たり、粒状活性炭の仕様、契約期間中の使用予定数量等を、当該活性炭を使用する高度浄水処理施設に応じて独自に定めた上で、当該仕様等を入札の参加者に示していた(乙36〔1~2頁〕)。
エ 各地方公共団体との間の活性炭の契約方法
上記イの活性炭又は上記ウの粒状活性炭の発注につき、当該地方公共団体とその契約の相手方(以下「受注者」という。)との契約は、①契約期間をおおむね1年又は半年とし、当該地方公共団体がその間に使用する活性炭の仕様、契約期間中の使用予定数量等を示して、当該物件における1kg当たり等の単価を決定する単価契約、又は、②必要な都度、当該地方公共団体が使用する活性炭の仕様、使用予定数量等を示して、当該物件における契約総額を決定する総価契約のいずれかであった(乙31、35)。
いずれの方式の場合も、当該地方公共団体(東京都水道局を除く。)は、入札等又は入札において原則として予定価格の範囲内で最も低い価格を提示した者を受注者としていた。
なお、東京都水道局は、平成25年度分から平成28年度分までは「工事」物件として発注したところ、事前に公表された物件の予定価格に対して応札価格が低すぎる場合は、低入札価格調査制度又は最低制限価格制度の対象となり、東京都が物件ごとに定めた下限の基準となる金額を下回ったときは、落札者となることができない可能性があった(乙110〔4~5頁〕)。
(3) 東日本地区の浄水場等向けの活性炭の入札等について.
ア 東日本地区に所在する地方公共団体が入札等の方法で発注する東日本地区の浄水場等向けの活性炭について、遅くとも平成14年9月以前には、東日本15社のうちの一部の者を含む活性炭販売業者(自社の活性炭を販売している者)が、当該販売業者同士の間で、互いに情報交換等のやり取りをすることにより、物件ごとに、自社の活性炭を供給すべき者を決め、それ以外の者は当該供給すべき者が供給できるよう協力するという調整を行っていた(乙4〔9頁〕、49〔2頁〕)。
イ 原告は、平成14年9月、本社営業部に、東日本地区における活性炭の営業部門である「活性炭グループ」を創設した(乙5〔2頁〕、41〔1~2頁〕)。
上記活性炭グループには、①≪X1≫(以下「原告の≪X1≫」又は「≪X1≫」という。)、②≪X2≫(以下「原告の≪X2≫」又は「≪X2≫」という。)及び③≪X3≫(以下「原告の≪X3≫」又は「≪X3≫」という。)らが在藉していた(乙41〔4~8頁〕。なお、以下、原告において東日本地区の活性炭の営業に関わっていた担当者を「原告の東日本担当者」ともいう。)。このうち①原告の≪X1≫は、平成14年9月から平成27年3月までの間、活性炭グループに在籍して同グループ長を務め、平成27年4月から同年11月頃までの間、本社営業部の部長代理を務めて原告の活性炭の営業活動に携わっていた(乙5〔2頁〕)。②原告の≪X2≫は、平成14年9月から平成29年2月末までの間、活性炭グループに在籍し、≪X1≫の後任として、平成27年4月から平成29年2月末までの間、同グループ長を務めていた(乙42〔1~6頁〕)。③原告の≪X3≫は、平成21年7月頃から平成29年2月末までの間、活性炭グループに営業担当者として在籍していた(乙43〔1~2頁〕)。なお、①原告の≪X1≫は、平成28年5月に原告を退職後、サンワに再就職し、引き続き、同社において、活性炭の営業活動に携わっていた(乙5〔3頁〕)。
ウ 遅くとも平成18年頃には、原告の東日本担当者により、年度ごとに(ここでいう「年度」とは、4月から翌年3月までを指す。以下同じ。)、「入札結果表」と呼ばれる社内資料(以下「入札結果表」という。)が作成されるようになった(乙10〔13~16頁〕、24[3~12頁〕、証人≪X2≫。ただし、入札結果表が作成されるに至った経緯については、当事者間に争いがある。)。
入札結果表に記載された主な物件は、東日本地区に所在する地方公共団体が、毎年継続して発往する、発注数量の多い東日本地区の浄水場等向けの活性炭に係る物件であった(乙5〔8~10頁〕、44〔4~7頁〕)。
原告の東日本担当者(主に≪X2≫)は、(ア)当該入札結果表に、各年度に入札等が行われた上記物件について、契約数量(発注予定数量)、落札金額(一定単位量ごとの金額に換算したもの)、落札業者名、自社の活性炭を供給した事業者名等の、一般に公表されていない情報を含む入札等の結果に基づく物件ごとの情報を、自社の活性炭を供給した活性炭販売業者や入札等に参加した窓口業者等から情報提供を受けて記載し、(イ)各入札等が終わると、入札結果表の内容が記録されている電子データに、当該入札等の結果を入力することにより随時更新(いわゆる上書き保存)をして入札結果表を作成した(乙5〔16頁〕、10〔13~16頁〕、12〔5~6頁〕、24〔3~12頁〕、44〔6~7頁〕、45の1~4、46〔2~6、8~11頁〕、47〔6~7頁〕、48〔3~9頁〕、56〔7~8頁〕、57〔4頁〕、59〔3頁〕、60〔5頁〕、62〔4~6 頁〕、63〔7~8頁〕)。
東日本15社の活性炭営業担当者は、原告の東日本担当者に対し、入札結果表に記載がある物件の中から、供給予定者となることを希望する物件等について伝えたことがあった(ただし、個々の物件における東日本15社の活性炭営業担当者と原告の東日本担当者間のやりとりの具体的状況については、当事者間に争いがある。)。
なお、入札結果表の「メーカー」欄に記載される事業者は、東日本15社間(これに更に原告を含むか否かについては、当事者間に争いがある。)の供給調整の結果、供給予定者とされたものであり、「落札業者」に記載される事業者は、当該供給予定者の窓口業者であった。また、これらの事業者名について、供給調整に協力しない、いわゆるアウトサイダーについては赤字で記載されていたことがあった。
エ 平成25年10月24日〔本件東日本合意基準日〕から平成29年2月20日までの間、特定活性炭の発注物件が427件あったところ(乙121)、別紙4「東日本地区主張整理表①」の「地方公共団体名」欄記載の地方公共団体は、同別紙の「活性炭を使用する施設の名称」欄記載の施設向けの特定活性炭につき、同別紙記載のとおり入札等を行い、同別紙記載の「受注者」欄記載の業者に発注した。
東日本15社間では、上記特定活性炭につき、入札書提出期限日までに、供給予定者を同別紙の「供給予定者」欄記載の者とし、供給予定者以外の者は供給予定者が供給できるように協力するという供給調整が行われた(この供給調整に原告が加わっていたか否か、上記供給調整において「供給予定者は原告を介して活性炭を供給する」こととされていたか否かは、当事者間に争いがある。)。
原告は、別紙4「東日本地区主張整理表①」の物件288件のうち、212件(同別紙「課徴金納付命令書別紙3番号」欄の1~209、同別紙「報告命令通番」欄の392、561、643)について、当該物件を受注した同別紙「受注者」欄記載の業者と同別紙「供給者」欄記載の業者との間の商流に入ったところ、これらの物件に係る原告の売上額は、同別紙「売上額」欄記載のとおりであった。
(4) 近畿地区の浄水場等向けの粒状活性炭の入札について
ア 原告は、大阪府に大阪支店を置き(乙11〔2~3頁〕)、同支店の支店長を平成20年4月から平成25年3月までは≪X4≫(以下「原告の≪X4≫」又は「≪X4≫」という。)が務め、同年4月から≪X5≫(以下「原告の≪X5≫」又は「≪X5≫」という。)が務めており(乙29〔4頁〕、41〔添付資料1枚目〕)、同支店の営業担当者として平成25年5月から平成27年12月まで≪X6≫(以下「原告の≪X6≫」又は「≪X6≫」という。)が在籍し、平成28年1月から平成29年3月までは≪X7≫(以下「原告の≪X7≫」又は「≪X7≫」という。)が在籍していた(乙29〔3頁〕、128〔1頁〕)。
≪X8≫(以下「原告の≪X8≫」又は「≪X8≫」という。)は、昭和52年から平成20年3月まで、原告の大阪営業所長(大阪営業所は大阪支店の前身である。)及び大阪支店長を務め、かつ、平成7年から平成14年までは取締役、平成14年から平成24年までは同社常務取締役、平成24年2月からは同社顧問を務め、平成26年2月に退職した(乙11〔2~3頁〕)。
イ 大阪広域水道企業団等の淀川水系に浄水処理施設を有する地方公共団体は、平成14年頃までに、当該浄水処理施設を高度浄水処理施設にした。当該高度浄水処理施設は、従前、当該浄水処理施設の工事や維持管理のために、プラントメーカー等の工事業者を対象に、「工事」等の区分で入札の方法により発注を行っていたところ、当該浄水処理施設で使用される粒状活性炭の納入も当該発注の内容に含まれていたことから、当該工事等を受注したプラントメーカー等は、民間取引において活性炭販売業者から粒状活性炭を調達し、当該浄水処理施設に納入していた(乙11〔4~6頁〕、30〔1~9頁〕)。
その後、近畿地区に所在する地方公共団体は、平成20年頃までに、当該地方公共団体が設置した村野浄水場、庭窪浄水場(大阪広域水道企業団)、万博公園浄水施設、柴島(くにじま)浄水場、豊野浄水場、庭窪浄水場(大阪市)、尼崎浄水場、猪名川(いながわ)浄水場、泉浄水所、守口市浄水場及び中宮浄水場高度浄水施設の11施設(近畿地区の特定高度浄水処理施設)で使用する粒状活性炭について、施設の工事や維持管理の発注から切り離して、単独で入札の方法で発注するようになった(乙30〔8~9頁〕)。
ウ 近畿10社(東日本15社から水ing、太平化学産業、エーシーケミカル、ツルミコール、セラケムを除いたものをいう。以下同じ。)の活性炭営業担当者は、遅くとも平成25年3月22日以降、原告の≪X8≫、≪X6≫、≪X7≫等の原告の近畿担当者に対し、過去の供給実績、順番等により自社が供給予定者になると認識している物件や当該物件における納入先施設名を連絡し、他社から希望が出ていないことを確認したり、逆に、原告の近畿担当者から、上記原則的なルールにより供給予定者となる予定の近畿10社の活性炭営業担当者に対して、当該物件について入札の希望の有無を確認されたりしていた(乙7〔6~9頁〕、11[6~7頁〕、14〔3~4 頁〕、27〔4~5頁、9~10頁〕、29〔6頁〕、30〔10~11頁〕、57〔8頁〕、129〔1~5頁〕、133〔4~5頁〕、134〔4~5頁、8~9頁、18~19頁〕、136〔1~3頁〕、137[2~4頁〕、138〔3~5頁〕、139〔13頁〕、140〔7頁〕、141〔4頁〕、142〔1~2頁〕、143〔4~8頁〕、144[3~6頁〕)。
エ 平成25年3月22日から平成29年2月20日までの間、特定粒状活性炭の発注物件は36件であったところ(乙160)、別紙5「近畿地区主張整理表①」の「地方公共団体名」欄記載の地方公共団体は、同別紙の「活性炭を使用する施設の名称」欄記載の施設向けの特定粒状活性炭につき、同別紙記載のとおり入札を行い、同別紙記載の「受注者」記載の業者に発注した。
近畿10社間では、上記の特定粒状活性炭につき、入札書提出期限日までに、供給予定者を別紙5「近畿地区主張整理表①」の「供給予定者」欄記載の者とし、供給予定者以外の者は供給予定者が供給できるように協力するという供給調整が行われていた。(この供給調整に原告が加わっていたか否か、上記供給調整において「供給予定者は原告を介して活性炭を供給する」こととされていたか否かは、当事者間に争いがある。)。
原告は、別紙5「近畿地区主張整理表①」の物件36件のうち、29件(同別紙「課徴金納付命令書別紙3番号」欄の1~25、同別紙「報告命令通番」欄の769、771、779及び793)について、当該物件を受注した同別紙「受注者」欄記載の業者と同別紙「供給者」欄記載の業者との間の商流に入ったところ、これらの物件に係る原告の売上額は、同別紙「売上額」欄記載のとおりであった。
(5) セラケムらの入札対応に関する表明
ア セラケムの活性炭営業担当者は、平成27年10月頃、原告の東日本担当者や他の東日本15社の活性炭営業担当者らに対し、活性炭の官公需案件について今後は自社独自の値段で応札する旨等を表明した(乙73〔6~8頁、18~19頁〕、76〔7~13頁〕、100〔22~35 頁)、106〔12~22頁〕。)
イ ダイネンの活性炭営業担当者は、平成28年1月14日、原告の東日本担当者に対し、今後は独自の値段で入札に対応し、平成27年度内の入札物件については3月31日まで取引をするが、それ以降はしない旨を表明した(乙44〔13頁〕、90〔3~21頁〕)。
ウ フタムラ化学及び同社の子会社であるツルミコールの活性炭営業担当者は、平成28年7月頃、原告の東日本担当者や他の東日本15社の活性炭営業担当者らに対し、今後は自社で積算した値段で応札する旨等を表明した(乙44〔13頁〕、126〔8~15頁〕、127〔1~4頁〕)。
(6) 被告による原告及び東日本15社に対する立入検査
原告及び東日本15社は、平成29年2月21日、被告により、本件東日本排除措置命令及び本件近畿排除措置命令に係る事件について独占禁止法47条1項4号の規定に基づく立入検査を受けた(乙2〔4~10頁〕、22[36~38頁〕、33〔52~54頁〕、41〔1~4頁〕、44〔29~31頁〕、54〔12~14頁〕、55〔17頁〕、62〔3~4頁〕、79〔3~4頁〕、83〔30~31頁〕、110〔33~35頁〕、141〔7頁〕、142〔1~3頁〕)。
(7) 本件各排除措置命令等
ア 被告は、令和元年11月22日、原告に対し、原告及び東日本15社の活性炭の販売業者が、特定活性炭について、供給予定者を決定し、供給予定者は原告を介して供給すること等を合意することにより、公共の利益に反して、特定活性炭の取引分野における競争を実質的に制限したことが、独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、同法3条に違反するものとして、本件東日本排除措置命令及び1億6143万円の国庫への納付を命ずる本件東日本課徴金納付命令をした。
イ 被告は、令和元年11月22日、原告に対し、原告及び近畿10社の粒状活性炭の販売業者が、特定粒状活性炭について、供給予定者を決定し、供給予定者は原告を介して供給すること等を合意することにより、公共の利益に反して、特定粒状活性炭の取引分野における競争を実質的に制限したことが不当な取引制限に該当し、独占禁止法3条に違反するものとして、本件近畿排除措置命令及び3283万円の国庫への納付を命ずる本件近畿課徴金納付命令をした。
(8) 本件訴えの提起
原告は、令和2年1月16日、被告を相手に、本件各排除措置命令等の取消しを求める訴えを提起した(顕著な事実)。
2 争点
本件の争点は、本件各排除措置命令等の適法性であり、具体的には、次のとおりである。
(1) 原告及び東日本15社の間における、特定活性炭について、供給予定者を決定し、供給予定者は原告を介して供給する、供給予定者以外の者は、供給予定者が供給できるように協力する旨の合意(本件東日本合意)の成否
(具体的な争点)
① 原告及び東日本15社による個別の供給調整の事実の有無
② ①の事実その他の間接事実を踏まえた本件東日本合意の成否
(2) 本件東日本排除措置命令が、「本件東日本合意が「不当な取引制限」(独占禁止法2条6項)に該当し、同法3条に違反するもの(以下「本件東日本違反行為」という。)であること」その他同法7条2項1号所定の要件を充足して適法であるか否か(本件東日本合意の「不当な取引制限」該当性等)
(具体的な争点)
① 「共同して」の要件の充足性
② 「相互にその事業活動を拘束」の要件の充足性
③ 「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件の充足性
(3) 本件東日本違反行為につき原告が独占禁止法7条の2第8項2号所定の者に該当するか否か(原告の独占禁止法7条の2第8項2号該当性)
(具体的な争点)
事実関係は前記(1)①を前提として、独占禁止法7条の2第8項2号の「取引の相手方について指定した者」の該当性
(4) 本件東日本課徴金納付命令が独占禁止法7条の2第1項所定の要件を充足して適法であるか否か(争点(3)以外の課徴金納付命令の要件該当性)
(具体的な争点)
① 本件東日本合意の「商品・・・の対価に係るもの」該当性
② 本件東日本違反行為の実行期間
③ 特定活性炭の「当該商品」該当性
④ 課徴金の額
(5) 原告及び近畿10社の間における、特定粒状活性炭について、供給予定者を決定し、供給予定者は原告を介して供給する、供給予定者以外の者は、供給予定者が供給できるように協力する旨の合意(本件近畿含意)の成否
(具体的な争点)
① 原告及び近畿10社による個別の供給調整の事実の有無
② ①の事実その他の間接事実を踏まえた本件近畿合意の成否
(6) 本件近畿排除措置命令が、「本件近畿合意が「不当な取引制限」(独占禁止法2条6項)に該当し、同法3条に違反するもの(以下「本件近畿違反行為」という。)であること」その他同法7条2項1号所定の要件を充足して適法であるか否か(本件近畿合意の「不当な取引制限」該当性等)
(具体的な争点)
① 「共同して」の要件の充足性
② 「相互にその事業活動を拘束」の要件の充足性
③ 「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件の充足性
(7) 本件近畿課徴金納付命令が独占禁止法7条の2第1項所定の要件を充足して適法であるか否か(本件近畿課徴金納付命令の要件該当性)
(具体的な争点)
① 本件近畿合意の「商品・・・の対価に係るもの」該当性
② 本件近畿違反行為の実行期間
③ 特定粒状活性炭の「当該商品」該当性
④ 課徴金の額
3 争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は、別紙6の1「争点に関する当事者の主張」のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、別紙7「認定事実」記載第1の事実(以下「認定事実」といい、これを引用する場合は、その項番号等を用いて「認定事実1(1)」等と略称する。)が認められる(証拠中のこの認定事実に反する部分は、採用することができない。なお、認定事実に関する当事者の主張に対する判断は、別紙7記載第2の事実認定の補足説明のとおりである。)。
2 争点(1)(本件東日本合意の成否)について
(1) 前提事実及び認定事実によれば、次の事情を指摘することができる。
ア 東日本15社は、平成25年10月24日から平成29年2月20日までの間に入札が実施された特定活性炭に係る物件288件について、入札書提出期限日までに、供給予定者を同別紙の「供給予定者」欄記載の者とし、供給予定者以外の者は当該供給予定者が供給できるように協力するという調整を行った(前提事実(3)エ。なお、大阪ガスケミカルが上記の供給調整に最初に関与したのは、平成27年4月9日が入札書等提出期限である平成27年度安達地方広域行政組合物件(物件番号東143)であり、クラレが上記の供給調整に最初に関与したのは、平成29年1月19日が入札書等提出期限である平成29年度朝霞浄水場(買入)物件(物件番号東288)である。)。
イ(ア) 原告の東日本担当者は、遅くとも平成18年頃以降、年度ごとに、東日本地区に所在する地方公共団体により毎年継続して発注される発注数量の多い東日本地区の浄水場等向けの活性炭に係る物件を主な対象として、契約数量、落札金額、落札業者名、自社の活性炭を供給した事業者名等の一般に公表されていない情報を含む入札等の結果に基づく物件ごとの情報を整理した入札結果表を作成し(さらに、各入札等が終わると、当該入札等の結果を入力することにより入札結果表に係る電子データを随時更新していた。)、東日本15社の活性炭営業担当者に対して、前年度に行われた入札等の結果に係る入札結果表を提示し又は交付するなどしていた(前提事実(3)イ、ウ、認定事実1冒頭)。
(イ) そして、原告の東日本担当者は、遅くとも平成25年10月以降、前記アのとおり、東日本15社が特定活性炭に係る物件288件の供給調整を行うに当たり、東日本15社の活性炭管業担当者との間で、次の①~⑤のような対応をした。
① 原告の東日本担当者は、東日本15社の活性炭営業担当者との間で、個別に面談(原告の東日本担当者と東日本15社の活性炭営業担当者が、原告の会議室等で直接面会して打ち合せる形式で行うもののほか、電話、メール等でやり取りする形式で行うものも含む。以下同じ。)を行い、東日本15社の活性炭営業担当者に対して、上記のような情報を含む前年度に行われた入札等の結果に係る入札結果表を提示し又は交付した上で、東日本15社が供給予定者になりたい物件の希望(供給予定者の希望)の有無等を確認するなどし、又は東日本15社の活性炭営業担当者から、入札結果表に記載がある物件のうち、供給予定者となることを希望する物件等について伝えられ、各社が表明した供給予定者の希望を集約するとともに、東日本15社の活性炭営業担当者に対して、原告の東日本担当者が把握した他社(当該会社以外の東日本15社)の供給予定者の希望の有無を伝えるなどした(前提事実(3)ウ、認定事実1冒頭、認定事実1(1)~(14))。
② 原告の東日本担当者は、上記①の面談の際又は機会を改めて、東日本15社の活性炭営業担当者に対して、特定の物件について供給予定者となる意思があるかを確認したり、供給予定者となる物件等を伝えたりし、東日本15社のうち1社から供給予定者となることの了解を得た(認定事実1(2)ア(イ)、イ(ア)・(イ)、(3)ア(ア)・(イ)、イ(イ)、(5)ア、(6)ア(ア)~(ウ)、(7)ア(イ)・(ウ)、イ(ア)~(ウ)、ウ(ア)~(ウ)、(8)ア(イ)、エ(ウ)、(9)ア(ア)~(ウ)、イ(ア)・(ウ)、ウ(ア)、(10)ア(イ)・(ウ)、イ(ア)・(イ)、(11)ア(ア)・(イ)、イ(ア)~(ウ)、ウ(イ)・(ウ)、エ(ア)~(ウ)、オ(ア)、力(ア)a・(イ)a ・(ウ)a、キ(ア)a・b・(イ)a・b・(ウ)a・b、ケ(ア)~(ウ)、(12)ウ(イ)、エ(ア)・(イ)、(13)ア(イ)~(カ)、イ(ウ)、ウ(ア)、(14)イ)。
③ 原告の東日本担当者は、東日本15社間で供給予定者の希望が重複した物件に関しては、東日本15社の活性炭営業担当者との間で、1社が供給予定者になるように調整したり、希望者のうち1社に対して供給予定者になったことを告げたりするなどし、当該1社が供給予定者になることの了解を得た(認定事実1(8)ウ(ア)・(イ)、エ(ア)、(12)ウ(ア)・(イ)、エ(ア)・(イ)、(13)ウ(イ)b)。
④ 東日本15社間で供給調整がされた結果、供給予定者が決定されたときは、原告の東日本担当者は、入札結果表の「メーカー」欄に供給予定者とされた東日本15社を記載し、同「落札業者」欄に当該供給予定者の窓口業者を記載するなどした(前提事実((3)ウ)。
⑤ 原告の東日本担当者は、供給調整がされた特定活性炭に係る物件につき、物件によっては、㋐入札等参加資格に有する窓口業者と取引がない供給予定者に対して、これを有する窓口業者を紹介するなどし(認定事実1(13)イ(イ)、(14)イ)、㋑入札書等提出期限日までに、東日本15社の活性炭営業担当者と相談するなどしてⓐ供給予定者の窓口業者の入札価格等やⓑ協力札の入札価格等を決定し、供給予定者の窓口業者又は供給予定者以外の東日本15社の窓口業者に対してこれを連絡するなどしていた(認定事実1(4)、(6)ア(ウ)、(7)ア(ア)、イ(イ)、ウ(イ)・(ウ)、(8)ウ(ア)、(11)イ(ア)・(イ)、キ(ア)a・b、ケ(ウ)、(12)イ(ア)・(イ)、ウ(ア)・(イ))。
ウ 原告は、平成25年10月から平成29年1月までの間に入札等が行われた別紙4「東日本地区主張整理表①」の物件288件のうち、212件について、当該物件を受注した同別紙「受注者」欄記載の業者と同別紙「供給者」欄の業者との間の商流に入ったところ、これらの物件に係る原告の売上額は、同別紙「売上額」欄記載のとおりであった(前提事実(3)エ)。
(2) 以上の事実を総合すれば、東日本15社(ただし、大阪ガスケミカル及びクラレを除く。)及び原告は、遅くとも平成25年10月24日までに、東日本地区に所在する地方公共団体が入札等の方法により発注する東日本地区の特定浄永場等向けの活性炭(特定活性炭)に係る物件について、原告を介した情報交換等のやり取りを行うことにより、供給予定者を決定し、供給予定者は原告を介して活性炭を供給し、供給予定者以外の者は当該供給予定者が供給できるよう協力する調整をする旨の合意(本件東日本合意)をしていたというべきであり、その後、遅くとも平成27年4月1日までに大阪ガスケミカルが、遅くとも平成29年1月1日までにクラレが、それぞれ本件東日本合意に加わったものと認められる。
(3)ア これに対し、原告は、①東日本15社が、従来、直接話し合って入札談合を行っていたところ、独占禁止法違反その他コンプライアンス上の問題が発覚することをおそれて、原告をして、連絡役(いわば隠れ蓑)として利用し、その「危険手当」として入札談合により落札した活性炭の商流に入れることとしたこと、②入札結果表は、東日本15社の指示により、東日本15社の希望する内容で取りまとめたものであり、原告が活性炭を供給して売上げを得たいと考えた物件を管理する目的で作成したものではなかったこと、③東日本地区の特定活性炭の供給予定者の決定方法には、別紙6の2「東日本地区主張整理表②」の「原告」欄記載のとおり、大別すれば4類型(同「供給予定者決定過程」欄のA~D)があり、東日本15社のうちサンワ、大阪ガスケミカル、クラレ、朝日沪過材の4社の担当者らが中心となって東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県をはじめとした各年度の活性炭の物件を決めるルールや希望が競合した時の最終的な判断を行っていたから、特定活性炭の供給予定者は、いずれも東日本15社が主体となって決定しており、本件における原告の役割は、単なる連絡役にとどまること、④東日本15社の担当者らは、原告において、自治体からどの東日本15社の窓口代理店が予算取りに呼ばれたかの情報を集約させ、予算取りに窓口代理店が提示した予算取り金額等の物件の情報を管理させた上で、当該物件の供給予定者において、入札価格等の決定を行い、窓口業者に対する入札価格等の提示も、原告ではなく、当該窓口業者を自社の販売代理店とする供給予定者が行っていたこと等から、東日本15社が、特定活性炭について、供給予定者を決定し、供給予定者以外の者は供給予定者が供給できるように協力するという合意をしていたものであり、この合意に原告が主体として関わったものではない旨を主張する(別紙6の1(1)(原告の主張)参照)。
イ しかしながら、原告の前記主張は、いずれの点も採用することができない。その理由は次のとおりである。
(ア) ①の点については、仮に、特定活性炭につき、原告を介した情報交換等のやり取りを行うことにより、供給予定者の決定等をしようとした東日本15社の意図が、原告主張のとおりであったとしても、特定活性炭についての個別の供給調整において、原告が単なる連絡役を担つたにとどまるものではないことは、前記(1)・(2)において説示したとおりである。
(イ) ②の点については、前記(1)のとおり、原告の東日本担当者が作成した入札結果表は、東日本15社が特定活性炭の供給予定者を決定するために必要不可欠な情報を物件ごとに集約したものであり(前記(1)イ(ア))、現に、東日本15社の活性炭営業担当者は、原告の東日本担当者から提示し又は交付された前年度に行われた入札等の結果に係る入札結果表を踏まえて、原告の東日本担当者に対して供給予定者の希望を伝えたり、又は、原告の東日本担当者から、特定の物件について供給予定者となる意思があるかを確認するなどされ、供給予定者となることの了解をしていた(前記(1)イ(イ)①・②)というのであるから、本件東日本合意においては、東日本15社が互いに直接連絡を取り合わず、原告を介して情報交換等のやり取りを行うことにより供給調整を行うことに特徴があることを踏まえると、原告の東日本担当者が入札結果表を作成し、これを東日本15社の活性炭営業担当者に提示し又は交付したことは、仮に入札結果表の作成目的が原告において活性炭を供給して売上げを得たいと考えた物件を管理することではなかったとしても、原告が本件東日本合意に主体的に関わったことを基礎付ける事情になるといわざるを得ない。
(ウ) ③・④の点については、東日本15社及び原告が、東日本地区に所在する地方公共団体が入札等の方法により発注する東日本地区の特定浄水場等向けの活性炭(特定活性炭)に係る物件について、原告を介した情報交換等のやり取りを行うことにより、供給予定者を決定し、供給予定者は原告を介して活性炭を供給し、供給予定者以外の者は当該供給予定者が供給できるよう協力する調整を行っており、原告が単なる連絡役を担ったにとどまるものではないことは、前記(1)・(2)において説示したとおりである。原告指摘に係る特定活性炭の供給予定者の決定方法は、そもそもその多く(別紙6の2の「供給予定者決定過程」欄のA1~10、B、Ⅽ)が、東日本15社間における原告を介した情報交換等のやり取りが行われることを前提としており、東日本15社が特定活性炭の供給予定者を機械的に決定することができるものではないし、個々の物件をみたときに東日本15社が特定活性炭の供給予定者を原告主張の方法により決定する旨を合意したとは認め難いものがあることは、別紙7記載第2の事実認定の補足説明において説示したとおりである(別紙7記載第2の1(7)イ、(8)ア、(10)ア・イ、(11)ア・イ・エ・カ・ク参照)。そうすると、原告指摘に係る特定活性炭の供給予定者の決定方法の多く(別紙6の2の「供給予定者決定過程」欄のA1~10、B、Ⅽ)は、東日本15社及び原告が、原告を介した情報交換等のやり取りによって特定活性炭の供給予定者を決定するに当たり、いわば目安又は基準のようなものにすぎなかったというべきである。また、東日本15社としては、原告も指摘するように、上記物件について、互いが直接に情報交換等のやり取りを行うと独占禁止法違反その他コンプライアンス上問題があることから、供給者となることが予定されていない原告を介して情報交換等のやり取りを行うこととし(認定事実1冒頭)、原告に対する見返りとして原告をその商流に入れるという本来は必要のない行為も行っていたものであり(前記(1)ウ)、他方、原告も、上記事情に加え、その供給調整により東日本15社のうち供給予定者となった者が原告を介して活性炭を供給することを前提として、東日本15社との間で上記のような情報交換等のやり取りを行うなどしていたのであるから、原告自らが上記物件の供給者になることが予定されていないことをもって、本件東日本合意の当事者となり得ないということはできない。そして、以上に説示したところを総合すれば、物件によっては、㋐東日本15社のうち1社のみが供給予定者になることを希望したために当該1社が供給予定者に決定されたものが相当数存在したこと(認定事実1(1)ア(ア)・(イ)、イ(ア)、(2)ア(ア)、イ(ウ)、(3)ア(ア)・(ウ)、イ(ア)・(ウ)、(4)、(5)イ、(6)イ(ア)~(ウ)、(8)イ(ア)~(ウ)、ウ(ウ)、(9)ア(イ)、イ(イ)、ウ(イ)、(10)ア(ア)、イ(ア)~(ウ)、(11)ア(ウ)、イ(ウ)、ウ(ア)・(ウ)、オ(ウ)、力(ア)b ・(イ)b・(ウ)b、ク(ア)a・b・(イ)a・b・(ウ)a・b、(12)イ(ア)・(イ)、ウ(ア)・(イ)、(13)ア(ア)、イ(ア)・(イ)、ウ(ア)、(イ)a・b、(14)ア・ウ)、④供給予定者の希望が競合した物件について関係する東日本15社同士で直接連絡を取り合って供給予定者が決定されたものが1件存在したこと(別紙6の2の「供給予定者決定過程」欄のD、認定事実1(8)オ)のみをもって、原告が本件東日本合意に主体的に関わったことを否定することはできない。
(エ) その他東日本15社と原告との間の本件東日本合意の成立に関して、原告の主張を踏まえて検討しても、前記(1)・(2)の認定判断を妨げる事情は見当たらない。
(4) なお、大阪ガスケミカルが遅くとも平成27年4月1日までに、クラレが遅くとも平成29年1月1日までにそれぞれ本件東日本合意に加わったと認められることは、前記(1)・(2)において説示したとおりである。
3 争点(2)(本件東日本合意の「不当な取引制限」該当性等)について
(1) 独占禁止法は、この法律において、①「事業者」とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう(2条1項)、②「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう(2条6項)と規定している。
そして、独占禁止法が、公正かつ自由な競争を促進することなどにより、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としていること(1条)等に鑑みると、同法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいうものと解される(最高裁平成22年(行ヒ)第278号同24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁参照)。
(2) これを本件についてみると、本件東日本合意は、前記2(2)のとおり、特定活性炭に係る物件について、原告を介した情報交換等のやり取りを行うことにより、供給予定者を決定し、供給予定者は原告を介して供給する、供給予定者以外の者は供給予定者が供給できるように協力する旨の取決めであり、本来的には、東日本15社は、互いに各社の事業活動を十分予測できない状況下で、上記物件に係る入札等に参加するか否か、参加する場合の入札価格をいくらとするか、供給者から受注者までの商流に業者を入れるか否かなど特定活性炭の納入に至るまでに必要となる様々な事業活動について自由に決めることができるはずであり、原告も、東日本15社及びその窓口業者の上記物件に係る入札の参加の有無やその入札価格等を十分に予測できない状況下で、東日本15社(供給者)及びその窓口業者(受注者)との間で営業活動を行い、その取引価格を自由に決めることになるはずであるところ、このような取決めがされたときは、これに制約されて意思決定を行うことになるという意味において、原告及び東日本15社の事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかである(なお、この点は、原告のみに着目すれば、原告は、このような取決めがされなければ、本来的には、供給者から受注者までの商流に入れず、また、仮にその商流に入ることができたとしても、供給者及び受注者(供給者の窓口業者)との間で原告の利益を確保することができる取引価格等を決めることができない可能性があったにもかわらず、このような取決めがされたときは、これにより原告及び東日本15社の事業活動が事実上拘束される結果として、原告が供給者から受注者までの商流に確実に入ることができ、かつ、原告の利益を確保することができる取引価格等の設定も可能になるという原告にとって非常に有利な状況が生ずるものである。)。そうすると、本件東日本合意は、独占禁止法2条6項にいう「その事業活動を拘束し」の要件を充足するものということができる。そして、本件東日本合意の成立により、原告及び東日本15社との間に、前記取決めに基づいた行動をとることをお互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから、本件東日本合意は、同項にいう「共同して・・・相互に」の要件を充足するものということができる。
また、本件東日本合意の当事者は、平成25年10月から平成29年2月までの間に入札等が行われた特定活性炭について、現にその供給者となった東日本15社と、東日本15社(供給者)から落札者(受注者)までの商流に入った原告であること(前記2(1)ウ)、本件東日本合意の対象は、上記の間に東日本地区に所在する地方公共団体により発注される特定活性炭に係る物件427件であったこと(前提事実(3)エ)、東日本15社及び原告による本件東日本合意に基づく個別の供給調整が現に行われ、このうち212件について、現に東日本15社の窓口業者が落札し、東日本15社が供給者となり、原告がその商流に入ったこと(前記2(1)・(2))に照らせば、本件東日本合意は、上記の間に実施された特定活性炭の入札等に係る市場(供給者から受注者までの商流を含む。)の相当部分において、事実上の拘束力をもって有効に機能し、その当事者である東日本15社及び原告がその意思で落札者及び落札価格等をある程度自由に左右することができる状況をもたらしていたものということができる。そうすると、本件東日本合意は、独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足するものというべきである。
さらに、以上のような本件東日本合意が、独占禁止法2条6項にいう「公共の利益に反して」の要件を充足することも明らかである。
以上によれば、本件東日本合意は、独占禁止法2条6項所定の「不当な取引制限」に当たるというべきである。
(3) これに対し、原告は、次のア~エの点から、本件東日本合意は、独占禁止法2条6項に規定する「不当な取引制限」に該当しない旨を主張するが、原告の上記主張は、次のとおりいずれの点も採用することができない。
ア 原告は、供給予定者を決定する行為ではなく、供給予定者間の希望を聞いて他の活性炭メーカーに連絡し、供給予定者が決定した価格等を連絡する行為をしたにとどまるところ、不当な取引制限の本質は、共同の意思決定、本件では入札談合における受注予定者の決定にあるから、いわば受注予定者を決定する行為が正犯に該当し、受注予定者が落札できるように連絡等をする行為は従犯に該当するにとどまり、独占禁止法には従犯規定に相当する条文がないことに照らすと、同法2条6項の「事業者」は、上記のような正犯のみを対象とし、上記のような従犯を含むと拡張解釈すべきではなく、上記行為を行ったにとどまる原告は上記「事業者」に該当しない旨を主張する(別紙6の1(2)(原告の主張)ア)。
しかしながら、東日本15社及び原告が、東日本地区に所在する地方公共団体が入札等の方法により発注する東日本地区の特定浄水場等向けの活性炭(特定活性炭)に係る物件について、原告を介した情報交換等のやり取りを行うことにより、供給予定者を決定し、供給予定者は原告を介して活性炭を供給し、供給予定者以外の者は当該供給予定者が供給できるよう協力する調整を行っており、原告が単なる連絡役を担ったにとどまるものではないことは、前記1において説示したとおりである。そうすると、原告の前記主張は、そもそもその前提を欠くものといわざるを得ない。
そして、この点を措くとしても、独占禁止法は、事業者とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう(2条1項)と規定した上で、「事業者は、・・・不当な取引制限をしてはならない」(3条)と規定しており、「不当な取引制限」が、「共同して・・・相互に」、「その事業活動を拘束し」、「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」を要件とすること(2条6項)を除くと、「不当な取引制限」の該当性との関係で不当な取引制限をした事業者の関与態様を一定のものに限定する趣旨の規定は見当たらない。そうすると、仮に複数の事業者がいわゆる基本合意をして不当な取引制限をした場合において、その一部の事業者の具体的な関与態様が供給予定者を決定する行為を容易にするようなものにとどまったとしても、そのことをもって当該一部の事業者の「不当な取引制限」の該当性を否定する事情にならないというべきである。
したがって、原告の前記主張は、採用することができない。 1
イ 原告は、①自社ブランドで活性炭を供給することがない活性炭の卸売業者(商社)にすぎず、原告が特定活性炭について供給予定者を決定した事実はなく、一供給予定者を決定する当事者(供給予定者)でも、供給予定者が供給できるように協力することができる自社の活性炭を供給すべき者でもないこと、②原告が自社の活性炭を供給すべき供給予定者(自社ブランドで活性炭を供給する活性炭販売業者)に代わって本件談合に参加しているものではなく、供給予定者と相互に同質的な競争関係にないばかりか、実質的な競争関係に立つ者でも全くないことから、本件東日本合意の当事者に当たらないとして、「共同して」の要件、「相互にその事業活動を拘束」の要件、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件及び「公共の利益に反して」の要件を充足しない旨を主張する(別紙6の1(2)(原告の主張)イ・ウ(ア)・エ・オ)。
しかしながら、前記2(3)のとおり、東日本15社としては、特定活性炭に係る物件について、互いが直接に情報交換等のやり取りを行うと独占禁止法違反その他コンプライアンス上問題があることから、供給者となることが予定されていない原告を介して情報交換等のやり取りを行うこととし、原告に対する見返りとして原告をその商流に入れるという本来は必要のない行為も行っていたものであり、他方、原告も、上記事情に加え、その供給調整により東日本15社のうち供給予定者となった者が原告を介して活性炭を供給することを前提として、東日本15社との間で上記のような情報交換等のやり取りを行うなどしていたのであるから、原告自らが上記物件の供給者となることが予定されていないことをもって、本件東日本合意の当事者となり得ないということはできない。そして、前記(2)において説示したところによれば、本件東日本合意は、東日本15社との関係では、平成25年10月から平成29年1月までの間に入札等が行われた特定活性炭の物件に係る入札に参加するか否か、参加する場合の入札価格をいくらとするか、供給者から受注者までの商流に業者を入れるか否かなど特定活性炭の納入に至るまでに必要となる様々な事業活動を事実上拘束するものであり、他方、原告との関係では、供給者から受注者までの商流にどのように関わるかなどの事業活動を事実上拘束するものである(もっとも、これにより、原告が供給者から受注者までの商流に確実に入ることができ、かつ、原告の利益を確保することができる取引価格等の設定も可能になるという非常に有利な状況が生ずるものである。)。このことを踏まえると、原告は、東日本15社との間で、特定活性炭に係る物件につき供給予定者になるか否かという点で譲歩する余地がないとしても、例えば、東日本15社(供給者)とその窓口業者(受注者)の商流に入るに当たり、その条件(取引価格等)を譲歩することはできたのであるから、原告が上記物件の供給者となる可能性がないことをもって、原告が東日本15社(他の供給予定者ら)の事業活動を拘束する余地がないとはいえない。また、このような本件東日本合意の内容に鑑みると、東日本15社は、本件東日本合意に基づく供給調整において供給予定者になったときは、上記物件に係る入札において、その窓口業者(受注者)との商流に原告を入れた上で、なお供給者としての利益を確保することができるような入札価格によりその窓口業者が入札することを余儀なくされるのであり、本件東日本合意が存在しなかった場合と比較して、その入札価格が引き上げられることになるといわざるを得ない。そうすると、本件東日本合意は、上記の間に実施された特定活性炭の入札等に係る市場(供給者から受注者までの商流を含む。)が有する競争機能を損なっていたものというべきである。
以上によれば、原告主張の事情をもって、本件東日本合意が「共同して・・・相互に」の要件、「その事業活動を拘束し」の要件、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件及び「公共の利益に反して」の要件を充足しないとはいえない。
したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
ウ 原告は、被告の主張において、本件東日本合意の内容につき、供給予定者、受注予定者の決定とは関係のない「原告を介して」という内容を殊更に含めたことの整合性を保つために、「原告が商流に入っていない案件」及び「原告が表の商流に入っておらず(一部の池のみについて商流に入っているものも含む)、裏の商流(表メーカーの上流の商流)に入っている案件」を恣意的に違反対象から除外したことが、殊更に窯元メーカー(裏メーカー)を中心とする活性炭販売業者が原告を商流に入れるか否か、入れる場合にどこの商流に入れるか(表の商流か、裏の商流か)を左右していた事実を歪曲するものであり、理論的な根拠を欠き、事実の裏付けも欠く旨を主張する(別紙6の1(2)(原告の主張)ウ(イ))。
しかしながら、東日本15社及び原告が、特定活性炭に係る物件についで、原告を介した情報交換等のやり取りを行うことにより、供給予定者を決定し、供給予定者は原告を介して活性炭を供給し、供給予定者以外の者は当該供給予定者が供給できるよう協力する調整をする旨の合意(本件東日本合意)をしていたことは、前記において説示したとおりである。認定事実によれば、特定活性炭に係る物件288件の供給調整においては、原告が、東日本15社のうち特定の者が裏メーカーとなりたいなどの意見を伝えてきた際に、この意見を踏まえて、その余の東日本15社に対して供給予定者の希望を確認するなどし、供給予定者となることの了解を得たことがうかがわれるものの、このような事実のみをもって、特定活性炭の供給予定者が東日本15社中の上記特定の者によって決定されたとはいえない。
したがって、原告の前記主張は、その前提を異にしており、採用することができない。
エ 原告は、本件の「一定の取引分野」は、一般的かつ客観的に地方公共団体が競争入札等の方法により発注する活性炭に係る取引分野として画定されるべきであり、被告が「一定の取引分野の画定」と「競争の実質的制限」を同時・一体的に解釈運用していることは、多摩談合事件最判に反する旨を主張する(別紙6の1(2)(原告の主張)エ)。
しかしながら、本件東日本合意が、特定活性炭の入札等に係る市場(供給者から受注者までの商流を含む。)の相当部分において、事実上の拘束力をもって有効に機能し、その当事者である東日本15社及び原告がその意思で落札者及び落札価格等をある程度自由に左右することができる状況をもたらしていたものということができることは、前記(2)において説示したとおりである。
したがって、原告の前記主張は、その前提を欠いており、採用することができない。
(4) 以上によれば、本件東日本排除措置命令は、適法である。
4 争点(3)(原告の独占禁止法7条の2第8項2号該当性)について
(1)ア 独占禁止法7条の2第8項は、同条1項の規定により課徴金の納付を命ずる場合において、当該事業者が次の各号のいずれかに該当する者であるときは、 同条5項中「100分の1」とあるのは「100分の1.5」とする旨を規定し、同条8項1号は、「単独で又は共同して、当該違反行為をすることを企て、かつ、他の事業者に対し当該違反行為をすること又は止めないことを要し、依頼し、又は唆すことにより、当該違反行為をさせ、又はやめさせなかった者」を、同項2号は、「単独で又は共同して、他の事業者の求めに応じて、継続的に他の事業者に対し当該違反行為に係る商品若しくは役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率又は敢引の相手方について指定した者」を、同項3号は、要旨「前2号に掲げる者のほか、単独で又は共同して、他の事業者に対し当該違反行為をすること又はやめないことを要求し、依頼し、又は唆すこと又は他の事業者に対し当該違反行為に係る商品又は役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率、取引の相手方その他当該違反行為の実行としての事業活動について指定すること(専ら自己の取引について指定することを除く。)のいずれかに該当する行為であって、当該違反行為を容易にすべき重要なものをした者」をそれぞれ掲げている。
独占禁止法の定める課徴金の制度は、不当な取引制限等の摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし、不当な取引制限等の予防効果を強化することを目的として、既存の刑事罰の定め(同法89条)や不当な取引制限等による損害を回復するための損害賠償制度(同法25条)に加えて設けられたものであり、不当な取引制限等の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである(最高裁平成14年(行ヒ)第72号同17年9月13日第三小法廷判決・民集59巻7号1950頁参照)。
そして、独占禁止法7条の2第8項は、事業者が不当な取引制限等をした場合において、同項各号が掲げる事業者が存在するときは、その存在により「他の事業者と共同して」行われる不当な取引制限等を容易にし、長期化させることになることから、前記課徴金の制度の趣旨に鑑み、不当な取引制限等の予防効果を更に強化することを目的として、上記のような事業者に対して課徴金の割増算定率を適用する旨を定めたものと解される。また、同項各号の文言を対比すると、同項2号は、「単独で又は共同して、他の事業者に対し当該違反行為に係る商品若しくは役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方について指定した者」が、そのような指定を「他の事業者の求めに応じて、継続的に」した点において、不当な取引制限等を容易にすべき重要なものをしたと評価することができることに着目して、上記のような課徴金の割增算定率を適用することとしたものということができる。
イ 以上の諸点に鑑みれば、不当な取引制限等をした事業者が独占禁止法7条の2第8項2号の「単独で又は共同して、他の事業者の求めに応じて、継続的に他の事業者に対し当該違反行為に係る・・・取引の相手方について指定した者」に該当するか否かは、他の事業者の求めに応じて継続的に行われた上記のような指定行為が当該違反行為(不当な取引制限等)を容易にすべき重要なものであったか否か等の観点を踏まえた上で、当該違反行為が行われるに至った経緯、当該違反行為において当該指定をしたとされる事業者と他の事業者との関係、当該指定をしたとされる事業者の関与の態様、程度等の諸事情を社会通念に照らして総合的に検討して判断するのが相当である。
ウ そして、前記のような独占禁止法7条の2第8項の趣旨に加え、同項の文言上、同項各号に掲げる行為と同条1項1号所定の実行期間との関係が規定されていないことに照らせば、当該違反行為をした事業者による同条8項各号に該当する行為が実行期間中の当該違反行為の一部に認められるにすぎない場合であっても、当該事業者に対する課徴金の額の算定に当たっては、実行期間における当該商品又は役務の売上額の全額について同項所定の割増算定率を適用することができると解すベきである。
(2) これを本件についてみると、前提事実及び認定事実並びに前記2(1)において説示したところによれば、次の事情を指摘することができる。
ア 活性炭販売業者(東日本15社の一部を含む。)は、遅くとも平成14年9月以降、東日本地区に所在する地方公共団体が入札等の方法で発注する東日本地区の浄水場等向けの活性炭につき、当該販売業者同士の間で、互いに情報交換等のやり取りをすることにより、物件ごとに、自社の活性炭を供給すべき者を決め、それ以外の者は当該供給すべき者が供給できるよう協力するという調整を行っていた(前提事実(3)ア)。
原告は、平成14年9月、本社営業部に、東日本地区における活性炭の営業部門である「活性炭グループ」を創設し、活性炭販売業者等との取引を拡大していき、平成18年頃以降、前記2(1)イ(7)のような入札結果表を作成し、東日本15社の活性炭営業担当者に対して、前年度に行われた入札等の結果に係る入札結果表を提示し又は交付するなどしていた(前提事実(3)イ、ウ、前記2(1)イ(ア))。
そして、東日本15社は、平成25年10月24日から平成29年2月20日までの間に入札が実施された特定活性炭に係る物件288件について、入札書提出期限日までに、供給予定者を別紙4の「供給予定者」欄記載の者とし、供給予定者以外の者は当該供給予定者が供給できるように協力するという供給調整を行うに当たり、自社の活性炭を販売している者同士が活性炭の入札等に関して互いに情報交換等のやり取りをすることは独占禁止法違反その他のコンプライアンス上問題があると認識していたことから、東日本15社の原告を通じた情報交換等のやり取りにより上記の供給調整(ただし、東日本15社との間で情報交換等のやり取りを行うことになる原告に対する見返りとして、供給予定者は原告を介して活性炭を供給するものとする。)を行うこととした(前提事実(3)エ、認定事実1冒頭、前記2(2))。
原告は、上記のような意向を有する東日本15社の求めに応じて、上記の供給調整を行うに当たり、東日本15社の活性炭営業担当者との間で、前記2(1)イ(イ)①~⑤のような対応を行った(前記2(1)イ(イ))。
イ 東日本15社が特定活性炭に係る物件288件の供給調整を行うに当たり、原告の東日本担当者が東日本15社の活性炭管業担当者との間でした対応(前記2(1)イ(イ)①~⑤)は、次のようなものであった。
(ア) 上記の供給調整を行うに当たっては、前記アの経緯から、東日本15社が直接互いに情報交換等のやり取りを行わないものとされたため、原告の東日本担当者は、東日本15社の活性炭営業担当者との間で、個別に面談を行い、供給調整の前提となる情報が記載された前年度に行われた入札等の結果に係る入札結果表を提示し又は交付した上で、東日本15社が供給予定者になりたい物件の希望(供給予定者の希望)の有無等を確認するなどし、物件ごとの供給予定者の希望を集約するとともに、その把握した他社(当該会社以外の東日本15社)の供給予定者の希望の有無を伝えるといった情報交換等のやり取りをしたものである(前記2(1)イ(イ)①)。東日本15社が、他社及びその窓口業者の上記物件に係る入札の参加の有無やその入札価格等に関する情報を共有することは、供給予定者を決定し、供給予定者以外の者が当該供給予定者において供給できるようにするために必要不可欠なものであるから、原告(の東日本担当者)が東日本15社(の活性炭営業担当者)との間で上記のような情報交換等のやり取りをしたことは、特定活性炭に係る物件288件の供給調整を容易にすべき重要なものであったといわざるを得ない。
(イ) 原告の東日本担当者は、東日本15社の活性炭営業担当者との間で前記(ア)の情報交換等のやり取りをした際、㋐東日本15社の活性炭営業担当者に対して、特定の物件について供給予定者となる意思があるかを確認したり、供給予定者となる物件等を伝えたりして、東日本15社のうち1社から供給予定者となることの了解を得たり、㋑東日本15社間で供給予定者の希望が重複した物件に関しては、東日本15社の活性炭営業担当者との間で、1社が供給予定者になるように調整したり、希望者のうち1社に対して供給予定者になったことを告げたりするなどし、当該1社が供給予定者になることの了解を得たりすることを繰り返していたものである(前記2(1)オ(イ)②・③)。東日本15社は、前記(ア)のとおり、上記の供給調整を行うに当たり、直接互いに情報交換等のやり取りを行わないものとされていたことからすると、前記(ア)のような入札結果表を作成し、東日本15社の活性炭営業担当者との間で面談を行い、物件ごとの供給予定者の希望を集約していた原告の意見、提案又は調整行為等を無視するわけにはいかない立場にあったから、原告の東日本担当者が、東日本15社の活性炭営業担当者に対し,東日本15社間で供給予定者の希望が重複した物件について、1社が供給予定者になるように調整するなどした行為(上記㋑)のみならず、特定の物件について、供給予定者となる意思を積極的に確認し又は供給予定者になるよう提案するなどして、当該活性炭営業担当者から供給予定者になることの了解を得る行為(上記㋐)も、本件東日本違反行為に係る「取引の相手方について指定した」行為に当たるというべきである。そして、このような行為もまた、特定活性炭に係る物件288件の供給調整を容易にすべき重要なものであったといわざるを得ない。
(ウ) 特定活性炭について、前記(イ)㋐及び㋑のような原告の行為によって、東日本15社間で供給予定者を決定したものは、主な物件だけをみても、相当数存在する(前記2(1)イ(イ)②・③の認定事実引用部分を参照)。
ウ そして、原告は、本件東日本合意に基づく個別の供給調整の結果、平成25年10月から平成29年1月までの間に入札等が行われた特定活性炭に係る物件288件のうち、212件について、当該物件の受注者と供給者との間の商流に入り、別紙4の「売上額」欄記載のとおり、これらの物件に係る原告の売上げを得たものである(前記(1)ウ)。このように、東日本15社は、東日本15社との間で情報交換等のやり取りを行うことになる原告に対する見返りとして、現に原告に上記のような売上げを得させていたことからも、原告の意見、提案又は調整行為等を無視ずるわけにはいかない立場にあったとみることができる。
(3) 以上の事情を総合すれば、原告は、単独で、東日本15社の求めに応じて、継続的に本件東日本違反行為に係る供給予定者(東日本15社が特定活性炭を供給する地方公共団体)を指定したものとして、独占禁止法7条の2第8項2号の「単独で又は共同して、他の事業者の求めに応じて、継続的に他の事業者に対し当該違反行為に係る・・・取引の相手方について指定した者」に該当するというべきである。前記2(3)イ(ウ)のとおり、㋐東日本15社のうち1社のみが供給予定者になることを希望したために当該1社が供給予定者に決定されたものが相当数存在し、㋑供給予定者の希望が競合した物件について関係する東日本15社同士で直接連絡を取り合って供給予定者が決定されたものが1件存在したことは、前記(1)ウのように解する以上、上記の判断を妨げるものではない。
(4)ア これに対し、原告は、①独占禁止法7条の2第8項2号にいう「当該違反行為に係る商品に係る・・・取引の相手方を指定すること」に該当するためには、価格等を単に伝達するだけでは不十分であり、他の事業者の競争条件を定めるという要素が不可欠であると解すべきであり、②本件においては、原告が活性炭販売業者の指示により活性炭販売業者に希望を聞いて供給予定者(同時に受注予定者)が決まったものはC類型の1件(約0.35%)にすぎず、その余のもの(A1~10、B、D類型)は、活性炭販売業者間のルールにより、供給予定者(同時に受注予定者)が決められたという実態に照らすと、原告は、同号の「単独で又は共同して、他の事業者の求めに応じて、継続的に他の事業者に対し当該違反行為に係る・・・取引の相手方について指定した者」に該当しない、③被告の主張によれば、そもそも供給予定者ではない原告が供給予定者を決定することはできないし、東日本15社は、卸である原告に指示し、原告を手足として、各活性炭販売業者の供給希望を聞き、入札結果の情報を入札結果表という形で書き残させるなどして、連絡役をさせていたにすぎず、原告は、当該不当な取引制限の当事者としての事業者には含まれないから、同号の「単独で又は共同して、他の事業者の求めに応じて、継続的に他の事業者に対し当該違反行為に係る・・・取引の相手方について指定した者」に該当しない旨を主張する。
イ しかしながら、原告の前記主張は、いずれの点も採用することができない。その理由は次のとおりである。
(ア) ①の点については、そもそも原告の東日本担当者は、東日本15社の活性炭営業担当者との間で、価格等を単に伝達していたものではなく、前記(2)イ(イ)において説示した㋐及び㋑の行為を行っていたのであるから、原告の主張①のような解釈を論ずる前提を欠くものといわざるを得ない。
(イ) ②の点については、原告指摘に係る特定活性炭の供給予定者の決定方法の多く(別紙6の2の「供給予定者決定過程」欄のA1~10、B、C)は、東日本15社及び原告が、原告を介した情報交換等のやり取りによって特定活性炭の供給予定者を決定するに当たり、いわば目安又は基準のようなものにすぎなかったことは、前記2(3)のとおりであり、原告が別紙の6の2の「供給予定者決定過程」欄のA1~10、B、Cの決定方法により供給予定者が決定されたとする特定活性炭の物件にも前記(2)イ(イ)㋐及び㋑の行為によって供給予定者が決定されたものが相当数あることは、認定事実1(前記2(1)イ(イ)②・③の認定事実引用部分を参照)のとおりである。また、前記2(3)イ(ウ)のとおり㋐東日本15社のうち1社のみが供給予定者になることを希望したために当該1社が供給予定者に決定されたものが相当数存在し、㋑供給予定者の希望が競合した物件について関係する東日本15社同士で直接連絡を取り合って供給予定者が決定されたものが1件存在したことが、上記の判断を妨げるものではないことは、前記(3)のとおりである。原告の主張②は、その前提を異にするものというほかない。
(ウ) ③の点については、特定活性炭についての個別の供給調整において、原告が単なる連絡役を担ったにとどまるものではないことは、前記2(1)・(2)において説示したとおりである。原告指摘の東京都発注個人防具談合事件命令は、以上に説示したところに照らすと、本件と事案を異にするものといわざるを得ず、これと本件との対比等により上記判断が妨げられるものではない。原告の主張③は、その前提を欠くものである。
5 争点(4)(争点(3)以外の課徴金納付命令の要件該当性)について
(1) 独占禁止法の関係規定の要旨
独占禁止法は、①事業者が、不当な取引制限で「商品又は役務の対価に係るもの」に該当するものをしたときは、公正取引委員会は、所定の手続に従い、当該事業者に対し、当該行為の実効として事業活動を行った日から当該行為の実行として事業活動がなくなる日までの期間(当該行為が3年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼって3年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に100分の10(卸売業については100分の2とする。)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない旨(7条の2第1項1号)、②同法7条の2第1項の場合において、当該事業者が「資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人(以下「独占禁止法7条の2第5項2号所定の中小企業」などと略称することがある。)であって、卸売業(第5号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの」に該当する者であるときは、同項中「100分の2」とあるのは「100分の1」とする旨(7条の2第5項2号)を規定している。そして、同法7条の2第1項の規定を受けて私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「独占禁止法施行令」という。)5条1項は、独占禁止法7条の2第1項に規定する政令で定める売上額の算定方法は、所定の場合を除き、実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額を合計する方法とする旨を規定している。
(2) 独占禁止法7条の2第1項1号の「商品の対価に係るもの」の要件の該当性及び本件東日本違反行為の実行期間
ア 本件東日本合意は、前記3において説示したとおり独占禁止法7条の2第1項所定の「不当な取引制限」に当たり、同項1号にいう商品の「対価に係るもの」(本件東日本違反行為)に該当する。そして、前提事実及び認定事実によれば、①本件東日本違反行為の実行としての事業活動を行った日は、平成26年2月20日以前であるところ(別紙4の物件番号東71参照)、②本件東日本違反行為の実行としての事業活動がなくなる日は、東日本15社及び原告が、平成29年2月21日に実施された被告の立入検査(前提事実(6))を契機として、本件東日本違反行為を取りやめていることから、遅くとも本件東日本合意がなくなった日である平成29年2月26日であると認めるのが相当である。そうすると、本件東日本違反行為の実行期間は、上記②の日から3年さかのぼった日である平成26年2月21日から平成29年2月20日までの3年間となる。
イ これに対し、原告は、①原告が、自社の活性炭を供給すべき者である供給予定者として決定されたものではないから、本件東日本合意は「商品の対価に係るもの」に該当せず、本件東日本違反行為の実行期間も認められない、②本件東日本課徴金納付命令は、供給予定者と決定された者の慮告に対する活性炭の売上額と、同―の活性炭に係る原告の受注者(供給予定者と決定された者の窓口業者又は供給予定者として決定された者自身)に対する売上額とに対して、二重に課徴金を賦課することになるところ、一つの入札談合の同一商品について二度の売上げを捉えて二重に課徴金を賦課することは許されず、東京都発注個人防具談合事件命令の事案における被告の処理(当該事案の基本合意には違反者から入札参加者への商流が織り込み済みであったにもかかわらず、被告認定の基本合意では当該商流がその内容とされず、課徴金納付命令は発せられなかった。)と異なる取扱いをする合理的な理由はない旨を主張する(別紙6の1(4)(原告の主張)ア参照)。
しかしながら、①の点は、前記2・3において説示したところに照らし、原告が自社の活性炭を供給すべき者である供給予定者として決定されたものでないことをもって、本件東日本合意の当事者ではないとはいえないから、その前提を欠いているといわざるを得ない。
また、②の点は、次の㋐~㋒の点から、理由がないものというべきである。すなわち、㋐そもそも独占禁止法の定める課徴金の制度は、前記4において説示したとおり、不当な取引制限等禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである。また、課徴金の額の算定方式は、前記(1)のとおり、実行期間の不当な取引制限等の対象となった商品又は役務の売上額に一定率を乗ずる方式を採っているが、これは、課徴金制度が行政上の措置であるため、算定基準も明確なものであることが望ましく、また、制度の積極的かつ効率的な運営により抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであって、個々の事案ごとに経済的利益を算定することは適切ではないとして、そのような算定方式が採用され、維持されているものと解される。そうすると、課徴金の額は不当な取引制限等によって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないというべきである。したがって、仮に、原告指摘の係る同一の特定活性炭についてのⓐ供給予定者の原告に対する売上げとⓑ原告の受注者に対する売上げが、本件東日本違反行為によって実際に得られた不当な利得として重なるものであったとしても、このことから直ちに本件東日本違反行為について原告の受注者に対する売上げが課徴金の対象にならないとはいえない。そして、㋑本件東日本合意は、前記のとおり、前記アの間に実施された特定活性炭の入札等に係る市揚(供給者から受注者までの商流を含む。)が有する競争機能を損なっていたものであり、後記(3)のとおり、現に原告が供給者から受注者までの商流に入った特定活性炭に係る物件について、本件東日本合意に基づく供給調整等の結果、具体的な競争制限効果が発生するに至っているのである。特定活性炭の物件につき、東日本15社は、本件東日本違反行為により(その窓口業者において当該物件を落札させて)供給者となることで売上げを得ており、原告は、本件東日本違反行為により供給者から受注者までの商流に入る形式で売上げを得ていた以上、ⓐ供給者の原告に対する売上げとⓑ原告の受注者に対する売上げが本件東日本違反行為によって実際に得られた不当な利得として実質的に同一であるとはいえず、被告が供給者と原告に対してそれぞれ同法7条の2に基づく課徴金を課したことをもって、二重に課徴金を賦課するものであるともいえない。㋒原告指摘に係る東京都発注個人防護具談合事件命令の事案は、以上に説示したところに照らし、本件と事案を異にするといわざるを得ない(当該事案と本件との対比等をもって、特定活性炭の物件を落札・受注した供給予定者又はその窓口業者の売上額のみが本件東日本違反行為についての「当該商品」の売上額に当たるとはいえない。)。
したがって、原告の前記主張は、いずれも採用することができない。
(3) 独占禁止法7条2項の「当該商品」の要件の該当性
ア 本件東日本合意は、前記(1)のとおり、独占禁止法7条の2第1項所定の商品の「対価に係るもの」に当たるものであるところ、前記4で説示した課徴金制度の趣旨に鑑みると、同項所定の課徴金の対象となる「当該商品」とは、本件東日本合意に関しては、本件東日本合意の対象とされた特定活性炭であって、本件東日本合意に基づく供給調整等の結果、具体的な競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解される。
これを本件についてみると、前提事実及び認定事実、殊に前記3(1)において説示したところによれば、別紙4「東日本地区主張整理表①」の物件288件は、平成25年10月から平成29年1月までに入札が行われた特定活性炭に係る物件であるところ、これらは、本件東日本合意の対象とされ(前記3(1))、東日本15社及び原告が、本件東日本合意に基づく供給調整を行ったものであり、そのうち209件(同別紙の物件番号東4、6~16、18、20~23、26~31、33~35、38~42、44、46~51、53~60、62~70、72~83、87、90、92、95~99、101、102、104~107、109、111、112、114~131、133、135~140、142~145、147~159、161、162、164~173、175~181、184、186、188、189、192~195、197、199、202、207、209~212、214~224、226、230、232、234、236、237、239、240、242、244、247、249~259、261、263、265~267、270、272~276、280~283)について、当該物件を受注した同別紙「受注者」欄記載の業者と同別紙「供給者」欄記載の業者との間の商流に入っている(前提事実(3)エ)。したがって、前記209件については特段の事情がない限り、特定活性炭に係る物件であって、本件東日本合意に基づく供給調整等の結果、具体的な競争制限効果が発生するに至ったものであると認められる。そして、前提事実及び認定事実を精査しても、上記特段の事情はうかがわれない。
したがって、前記209件は、独占禁止法7条の2第1項所定の「当該商品」に該当する。
イ これに対し、原告は、原告が被告主張の本件東日本合意の当事者ではないから、前記209件は「当該商品」に該当しない旨を主張する(別紙6の1(4)(原告の主張)エ参照)。
しかしながら、前記2・3において説示したところに照らし、原告が本件東日本合意の当事者でないとはいえないから、原告の上記主張は、その前提を欠いており、採用することができない。
(4) 本件東日本違反行為の実行期間における原告の「売上額」
ア 前記(2)・(3)によれば、本件東日本違反行為の実行期間(平成26年2月21日~平成29年2月20日)における原告の「売上額」は、前記209件に係る別紙4の「売上額」欄の合計107億6254万8190円となる。
イ これに対し、原告は、課徴金の対象となる「当該商品」の売上高は、落札受注した供給予定者又はその窓口業者の売上額となるべきであり、原告の売上額は、これに当たらない旨を主張する(別紙6の1(4)(原告の主張)エ)。
しかしながら、原告の上記主張を採用することができないことは、前記(2)イ(②の点)において説示したところに照らし、明らかである。
(5) 本件東日本違反行為に関して原告が納付すべき課徴金の額
以上によれば、本件東日本違反行為に関して原告が納付すべき課徴金の額は、前記(4)の売上額107億6254万8190円に100分の1.5(独占禁止法7条の2第5項、8項。原告は、同条5項2号所定の中小企業であって「卸売業」に属する事業を主たる事業として営むものであり、前記4のとおり同条8項2号の「単独で又は共同して、他の事業者の求めに応じて、継続的に他の事業者に対し当該違反行為に係る・・・取引の相手方について指定した者」に当たる。)を乗じて得た額から、同条23項により1万円未満の端数を切り捨てて算出された1億6143万円と認められる。
(6) まとめ
したがって、前記(5)の認定額と同額の課徴金の納付を命じた本件東日本課徴金納付命令は、適法である。
6 争点(5)(本件近畿合意の成否)について
(1) 前提事実及び認定事実によれば、次の事情を指摘することができる。
ア 近畿10社は、平成25年3月22日から平成29年2月20日までの間に入札が実施された特定粒状活性炭に係る物件は36件について、入札書提出期限日までに、供給予定者を別紙5「近畿地区主張整理表①」の「供給予定者」欄の者とし、供給予定者以外の者は供給予定者が受給できるように協力するという供給調整を行った(前提事実(4)エ。なお、サンワが上記の供給調整に最初に関与したのは、平成26年4月8日が入札書提出期限である平成26年度庭窪浄水場(大阪広域企業団)及び万博公園浄水場物件(物件番号近27)である〔認定事実2(8)イ参照〕。)
イ 原告の近畿担当者は、クラレケミカル、日本エンバイロケミカルズ(大阪ガスケミカル)、カルゴンカーボンジャパン、朝日沪過材、幸商事、サンワ、ダイネン、フタムラ化学の近畿10社の活性炭営業担当者との間で、これらの業者の窓口業者が落札できるようにするため、落札価格の相場観等の惰報交換を相互に継続して行っていた。(認定事実2(1))
また、原告の近畿担当者は、前記アのとおり近畿10社が特定活性炭に係る物件36件の供給調整を行うに当たり、近畿10社の活性炭営業担当者との間で、①従前のルールを前提に、供給予定者の希望の有無を確認し、原告の近畿担当者が杷握した他社の供給予定者の希望の有無を伝えるだけでなく、②近畿10社間で供給予定者の希望が重複した揚合において、関係会社との間で連絡を取って供給予定者の提案等をして供給予定者の調整を行ったり(認定事実2(2)ウ、(3)エ、(6)ア、(9)イ参照)、③窓口業者の入札価格の相談に応じたり、協力札の入札価格の連絡を行ったりしていた(以上につき、認定事実2(2)~(9))。
ウ 原告は、平成25年3月から平成28年11月までの間に入札が行われた別紙5「近畿地区主張整理表①」の物件(特定粒状活性炭に係る物件)36件のうち、29件について、当該物件を受注した同別紙「受注者」欄の業者と同別紙「供給者」欄の業者との間の商流に入ったところ、これらの物件に係る原告の売上額は、同別紙「売上額」欄記載のとおりであった(前提事実(4)エ)。
(2) 以上の事実を総合すれば、近畿10社(ただし、サンワを除く。)及び原告は、遅くとも平成25年3月22日までに、近畿地区に所在する地方公共団体が入札の方法により発注する近畿地区の特定高度浄水処理施設向けの粒状活性炭(特定粒状活性炭)に係る物件について、原告を介した情報交換等のやり取りを行うことにより、供給予定者を決定し、供給予定者は原告を介して粒状活性炭を供給し、供給予定者以外の者は当該供給予定者が供給できるよう協力する調整をする旨の合意(本件近畿合意)をしていたというべきであり、その後、遅くとも平成26年4月8日頃までにサンワが本件近畿合意に加わったものと認められる。
(3) これに対し、原告は、①近畿10社が、10社間近畿合意に基づき、近畿地区の高度浄水処理施設向けに供給する粒状活性炭について、本件近畿ルール(㋐近畿10社のうち特定の一社が固定継続して活性炭を供給する、又は、㋑近畿10社のうち特定の数社が粒状活性炭を順に供給するとのルール)により供給予定者を決定し、その入札価格をいくらにするか、(従来のルール上、供給予定者の順番に加わっていなかった者の)新規参加を認めるか否かなども決定していたものである、②原告は、かかるルールの存在を前提に、国内活性炭販売業者から供給予定者となりたい旨の希望を確認するなどの連絡役を担っていたにすぎず、連絡行為をもって受注予定者を決定したとは評価できない、③その過程で原告の大阪支店担当者が意見を述べたり連絡をしたりすることはあったが、当該意見を聴いて希望をあくまで貫くか、他の物件との兼ね合い等により最終的にあきらめるかは近畿10社が判断することであったこと、近畿10社間で直接やりとりがあったことも推測されることからすると、原告の大阪支店担当者の意見等は、近畿10社間の「調整」をしたり、その決定を左右したりすることができるものではなかった旨を主張する(別紙6の1(5)(原告の主張)イ参照)。
しかしながら、原告及び近畿10社が、近畿地区に所在する地方公共団体が入札の方法により発注する近畿地区の特定高度浄水処理施設向けの粒状活性炭(特定粒状活性炭)に係る物件について、原告を介した情報交換等のやり取りを行うことにより、供給予定者を決定し、供給予定者は原告を介して粒状活性炭を供給し、供給予定者以外の者は当該供給予定者が供給できるよう協力する調整を行っており、原告が単に連絡役を担っていたにとどまるものではないことは、前記(1)・(2)において説示したとおりである。また、近畿10社としては、上記物件について、互いが直接に情報交換等のやり取りを行うと独占禁止法違反その他のコンプライアンス上間題があることから、供給者となることが予定されていない原告を介して情報交換等のやり取りを行うこととし、原告に対する見返りとして原告をその商流に入れるという本来は必要のない行為も行っていたものであり、他方、原告も、上記事情に加え、その供給調整により近畿10社のうち供給予定者となった者が原告を介して粒状活性炭を供給することを前提として、近畿10社との間で上記のような情報交換等のやり取りを行っていたのであるから、原告自らが上記物件の供給者になることが予定されていないことをもって、本件近畿合意の当事者となり得ないということはできない。以上に加え、別紙7の「第2 事実認定の補足説明」2で説示したところに照らすと、原告指摘の事情(㋐近畿10社が、原告の意見等を踏まえ、供給予定者について自社の希望を貫くか否かなどを最終的に判断し、物件によっては近畿10社間で直接やり取りをしていた可能性があること、㋑近畿10社が、特定粒状活性炭の入札において、その寒口業者による入札価格等を決定したこと、㋒近畿10社が、従来のルール上、供給予定者の順番に加わっていなかった者の新規参加について最終的に賛成しておたこと)は、いずれも上記判断を妨げるものとはいえない。
したがって、原告の前記主張はいずれの点も採用することができない。
なお、原告主張に係る従前の経緯(別紙6の1(5)(原告の主張)ア参照)は、直ちに認定事実と矛盾するものでない上、前記認定・判断を左右するに足りるものでない。また、サンワが遅くとも平成26年4月8日以降本件近畿合意に参加したと認められることは、前記(1)・(2)において説示したとおりである。
7 争点(6)(本件近畿合意の「不当な取引制限」該当性等)について
(1) 前記3(1)で説示したところを踏まえて本件についてみると、本件近畿合意は、前記6(2)のとおり、原告及び近畿10社が、特定粒状活性炭に係る物件について、原告を介した情報交換等のやり取りを行うことにより、供給予定者を決定し、供給予定者は原告を介しで供給し、供給予定者以外の者は供給予定者が供給できるように協力する旨の取決めであり、本来的には、近畿10社は、互いに各社の事業活動を十分予測できない状況下で、上記物件に係る入札等に参加するか否か、参加する揚合の入札価格をいくらとするか、供給者から受注者までの商流に業者を入れるか否かなど特定粒状活性炭の納入に至るまでに必要となる様々な事業活動について自由に決めることができるはずであり、原告も、近畿10社及びその窓口業者の上記物件に係る入札の参加の有無やその入札価格等を十分に予測できない状況下で、近畿10社(供給者)及びその窓口業者(受注者)との間で営業活動を行い、その取引価格等を自由に決めることになるはずであるところ、このような取決めがされたときは、これに制約されて意思決定を行うことになるという意味において、原告及び近畿10社の事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかである(なお、この点は、原告のみに着目すれば、原告は、このような取決めがされなければ、本来的には、供給者から受注者までの商流に入れず、また、仮にその商流に入ることができたとしても、供給者及び受注者(供給者の窓口業者)との間で原告の利益を確保することができる取引価格等を決めることができない可能性があったにもかかわらず、このような取決めがされたときは、これにより原告及び近畿10社の事業活動が事実上拘束される結果として、原告が供給者から受注者までの商流に確実に入ることができ、かつ、原告の利益を確保することができる取引価格等の設定も可能になるという原告にとって非常に有利な状況が生ずるものである。)。そうすると、本件近畿合意は、独占禁止法2条6項にいう「その事業活動を拘束し」の要件を充足するものということができる。そして、本件近畿合意の成立により、原告及び近畿10社との間に、前記取決めに基づいた行動をとることをお互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから、本件近畿合意は、同項にいう「共同して・・・相互に」の要件を充足するものということができる。
また、本件近畿合意の当事者は、平成25年3月から平成28牟11月までの間に入札が行われた特定粒状活性炭について、現にその供給者となった近畿10社と、近畿10社(供給者)から落札者(受注者)までの商流に入った原告であったこと(前記6(1)ウ)、本件近畿合意の対象は、上記の間に近畿地区に所在する地方公共団体により発注される特定粒状活性炭36件であったこと(前提事実(4)エ)、近畿10社及び原告による本件近畿合意に基づく個別の供給調整が現に行われ、このうち29件について、現に近畿10社の窓口業者が落札し、近畿10社が供給者となり、原告がその商流に入ったこと(前記6(1)・(2))に照らせば、本件近畿合意は、上記の間に実施された特定粒状活性炭の入札等に係る市場(供給者から受注者までの商流を含む。)の相当部分において、事実上の拘束力をもって有効に機能し、その当事者である近畿10社及び原告がその意思で落札者及び落札価格等をある程度自由に左右することができる状況をもたらしていたものということができる。そうすると、本件近畿合意は、独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足するものというべきである。
さらに、以上のような本件近畿合意が、独占禁止法2条6項にいう「公共の利益に反して」の要件を充足することも明らかである。
以上によれば、本件近畿合意は、独占禁止法2条6項所定の「不当な取引制限」に当たるというべきである。
(2) これに対し、原告は、次のア~工の点から、本件近畿合意は、独占禁止法2条6項に規定する「不当な取引制限」に該当しない旨主張するが、原告の上記主張は次のとおりいずれの点も採用することができない。
ア 原告は、特定粒状活性炭について供給予定者を決定した事実はなく、供給予定者でも、自社の活性炭を供給すべき者(供給予定者となり得る者)でもないから、本件近畿合意の当事者に当たらず、「共同して」の要件を充足しない旨を主張する(別紙6の1(6)(原告の主張)イ)。
しかしながら、原告及び近畿10社が、特定粒状活性炭に係る物件について、原告を介した情報交換等のやり取りを行うことにより、供給予定者を決定し、供給予定者は原告を介して粒状活性炭を供給し、供給予定者以外の者は当該供給予定者が供給できるよう協力する調整を行っており、原告が単に連絡役を担っていたにとどまるものではないことは、前記6(1)・(2)で説示したとおりである。そして、近畿10社としては、上記物件について、互いが直接に情報交換等のやり取りを行うとコンプライアンス上問題があることから、供給者となることが予定されていない原告を介して情報交換等のやり取りを行うこととし、原告に対する見返りとして原告をその商流に入れるという本來は必要のない行為も行っていたものであり、他方、原告も、上記事情に加え、その供給調整により近畿10社のうち供給予定者となった者が原告を介して粒状活性炭を供給することを前提として、近畿10社とので上記のような情報交換等のやり取りを行っていたのであるから、原告自らが上記物件の供給者となることが予定されていないことをもって、本件近畿合意の当事者となり得ないということはできないことも、前記6(3)で説示したとおりある。そうすると、原告主張の事情をもって、本件近畿合意が独占禁止法2条6項にいう「共同して・・・相互に」の要件を充足しないとはいえない。
したがって、原告の前記主張は、採用することができない。
イ 原告は、供給予定者である活性炭製造業者が、原告を商流に入れるかどうかを決定することができるとしても、原告は、自ら供給予定者となることを自粛することができない以上、近畿10社(他の供給予定者ら)の事業活動を拘束する権限はないから、本件近畿合意は「相互にその事業活動を拘束」の要件を充足しない旨を主張する(別紙6の1(6)(原告の主張)ウ参照)。
しかしながら、原告は、本件近畿合意のような取決めがされなければ、本来的には、供給者から受注者までの商流に入れず、また、仮にその商流に入ることができたとしても、供給者及び受注者(供給者の窓口業者)との間で原告の利益を確保することができる取引価格等を決めることができない可能性があったにもかかわらず、このような取決めがされたことにより、原告及び近畿10社の事業活動が事実上拘束される結果(すなわち、近畿10社は、本件近畿合意に基づく供給調整の結果、供給予定者になったときは、原告に対する見返りとして原告をその窓口業者との商流に入れなければならない立場にあった。)として、原告が供給者から受注者までの商流に確実にみることができ、かつ、原告の利益を確保することができる取引価格等の設定も可能になるという原告にとって非常に有利な状況が生ずることは、前記アのとおりである。また、このことを踏まえると、原告は、近畿10社との間で、特定粒状活性炭に係る物件につき、供給予定者になるか否かという点で譲歩する余地がないとしても、例えば、近畿10社(供給者)とその窓口業者(受注者)の商流に入るに当たり、その条件(取引価格等)を譲歩することはできたのであるから(別紙7の「第2事実認定の補足説明」2(5)参照)、原告が上記物件の供給者になる可能性がないことをもって、原告が近畿10社(他の供給予定者ら)の事業活動を拘束する余地がないとはいえない。そうすると、原告主張の事情をもって、本件近畿合意が独占禁止法2条6項にいう「その事業活動を拘束し」の要件を充足しないとはいえない。
したがって、原告の前記主張は、採用することができない。
ウ 原告は、本件における「一定の取引分野」は、地方公共団体が競争入札によって受注する活性炭の取引分野であると画定すべきであるから、本件近畿合意は「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足しない旨を主張する(別紙6の1(6)(原告の主張)エ参照)。
しかしながら、前記アで説示したところによれば、本件近畿合意は、近畿10社との関係では、平成25年3月から平成28年11月までの間に入札が行われた特定粒状活性炭の物件に係る入札等に参加するか否か、参加する楊合の入札価格をいくらとするか、供給者から受注者までの商流に業者をいれるか否かなど特定粒状活性炭の納入に至るまでに必要となる様々な事業活動を事実上拘束するものであり、他方、原告との関係では、供給者から受注者までの商流にどのように関わるかなどの事業活動を事実上拘束するものである(もっとも、これにより、原告が供給者から受注者までの商流に確実に入ることができ、かつ、原告の利益を確保することができる取引価格等の設定も可能になるという非常に有利な状況が生ずるものでもある。)。このような本件近畿合意の内容に鑑みると、近畿10社は、本件近畿合意に基づく供給調整において供給予定者になったときは、上記物件に係る入札において、その窓口業者(受注者)との商流に原告を入れた上で、なお供給者としての利益を確保することができるような入札価格によりその窓口業者が入札することを余儀なくされるのであり、本件近畿合意が存在しなかった場合と比較して、その入札価格が引き上げられることになるといわざるを得ない。そうすると、本件近畿合意は、上記の間に実施された特定粒状活性炭の入札等に係る市場(供給者から受注者までの商流を含む。)が有する競争機能を損なっていたものといわざるを得ない。
したがって、本件近畿合意が、独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足していたことは、前記アのとおりであり、これに反する原告の前記主張は、採用することができない。
エ 原告は、原告が被告主張の本件近畿合意の当事者ではないから、「公共の利益に反して」の要件を充足しない旨を主張する(別紙6の1(6)(原告の主張)オ参照)が、原告の上記主張を採用することができないことは、前記アで説示したところに照らし、明らかである。
(3) 以上によれば、本件近畿排除措置命令は、適法である。
8 争点(7)(本件近畿課徴金納付命令の要件該当性)について
(1) 独占禁止法7条の2第1項1号の「商品の対価に係るもの」の要件の該当性及び本件近畿違反行為の実行期間
ア 本件近畿合意は、前記6において説示したとおり独占禁止法7条の2第1項所定の「不当な取引制限」に当たり、同項1号にいう商品の「対価に係るもの」(本件近畿違反行為)に該当する。そして、前提事実及び認定事実によれば、①本件近畿違反行為の実行としての事業活動を行った目は、平成26年2月20日以前であるところ(別紙5の物件番号近33参照)、②本件近畿違反行為の実行としての事業活動がなくなる日は、近畿10社及び原告が、平成29年2月21日に実施された被告の立入検査(前提事実(6))を契機として、本件近畿違反行為を取りやめていることから、遅くとも本件近畿合意がなくなった日である平成29年2月20日であると認めるのが相当である。そうすると、本件近畿違反行為の実行期間は、上記②の日から3年さかのぼった日である平成26年2月21日から平成29年2月20日までの3年間となる。
イ これに対し、①原告は、原告が被告主張の本件近畿合意の当事者ではないから、本件近畿合意は「商品の対価に係るもの」に該当せず、本件近畿違反行為の実行期間も認められない旨、②前記5(2)イ②と同様に、本件近畿課徴金納付命令は、供給予定者と決定された者の原告に対する活性炭の売上額と、同一の活性炭に係る原告の受注者に対する売上額とに対して、二重に課徴金を賦課することになるところ、一つの入札談合の同一商品について二度の売上げを捉えて二重に課徴金を賦課することは許されず、東京都発注個人防具談合事件命令の事案における被告の処理と異なる取扱いをする合理的な理由はない旨を主張する(別紙6の1(7)(原告の主張)ア・イ参照)。
しかしながら、①の点は、前記6・7において説示したところに照らし、原告が本件近畿合意の当事者ではないとはいえない。また、②の点に理由がないことは、前記5(2)イにおいて説示したところと同様である。
したがって、原告の上記主張は、いずれも採用することができない。
(2) 独占禁止法7条2項の「当該商品」の要件の該当性
ア 本件近畿合意は、前記(1)のとおり、独占禁止法7条の2第1項所定の商品の「対価に係るもの」に当たるものであるところ、前記4において説示した課徴金制度の趣旨に鑑みると、同項所定の課徴金の対象となる「当該商品」とは、本件近畿合意に関しては、本件近畿合意の対象とされた特定粒状活性炭に係る物件であって、本件近畿合意に碁づく供給調整等の結果、具体的な競争制限効果が発生するに至ったものをいうと解される。
これを本件についてみると、前提事実及び認定事実、殊に前記6(1)において説示したところによれば、別紙5「近畿地区主張整理表①」の物件36件は、平成25年3月から平成28年11月までに入札が行われた特定粒状活性炭に係る物件であるところ、これらは、本件近畿合意の対象とされ(前記6(1)ウ)、本件近畿10社及び原告が、本件近畿合意に基づく供給調整を行ったものであり、このうち25件(同別紙の物件番号近6、9、11、13~19、21、22、25~32、34~36)について、当該物件を受注した同別紙「受注者」欄記載の業者と同別紙「供給者」欄記載の業者との間の商流に入っている(前提事実(4)エ)。したがって、前記25件については、特段の事情がない限り、特定粒状活性炭に係る物件であって、本件近畿合意に基づく供給調整等の結果、具体的な競争制限効果が発生するに至ったものであると認められる。そして、前提事実及び認定事実を精査しても、上記特段の事情はうかがわれない。
したがって、前記25件は、独占禁止法7条の2第1項所定の「当該商品」に該当する。
イ これに対し、原告は、原告が被告主張の本件近畿合意の当事者ではないから、前記25件は「当該商品」に該当しない旨を主張する(別紙6の1(7)(原告の主張)ウ参照)。
しかしながら、前記6・7において説示したところに照らし、原告が本件近畿合意の当事者ではないとはいえないから、原告の上記主張は、その前提を欠いており、採用することができない。
(3) 本件近畿違反行為の実行期間における原告の「売上額」
ア 前記(1)・(2)によれば、本件近畿違反行為の実行期間(平成26年2月21日~平成29年2月20日)における原告の「売上額」は、前記25件に係る別紙5の「売上額」欄の合計32億8368万7200円となる。
イ これに対し、原告は、課徴金の対象となる「当該商品」の売上額は、落札・受注した供給予定者又はその窓口業者の売上額となるべきであり、原告の売上額は、これに当たらない旨を主張する(別紙6の1(7)(原告の主張)エ参照)。
しかしながら、原告の上記主張を採用することができないことは、前記(1)イ(②の点)において説示したところに照らし、明らかである。
(4) 本件近畿違反行為に関して原告が納付すべき課徴金の額
以上によれば、本件近畿違反行為に関して原告が納付すべき課徴金の額は、前記(3)の売上額32億8368万7200円に100分の1(独占禁止法7条の2第5項。原告は、同項2号所定の中小企業であって「卸売業」に属する事業を主たる事業として営むものである。)を乗じて得た額から、同条23項により1万円未満の端数を切り捨てて算出された3283万円と認められる。
(5) まとめ
したがって、前記(4)の認定額と同額の課徴金の納付を命じた本件近畿課徴金納付命令は、適法である。
第4 結論
よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することし、主文のとおり判決する。

令和4年9月15日

東京地方裁判所民事第8部
裁判官 山田悠貴
裁判長裁判官林史高は、転補につき、裁判官本村理絵は、転官につき、署名押印することができない。
裁判官 山田悠貴

(別紙 4、5、6-2省略)
注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

ページトップへ

ページトップへ