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(株)トーモクほか1名による審決取消請求事件

独禁法3条後段、独禁法7条の2
東京高等裁判所

令和3年(行ケ)第12号、同第7号

判決

令和4年9月16日

東京都千代田区丸の内二丁目2番2号
原告  株式会社トーモク
同代表者代表取締役  《 氏 名 略 》
同訴訟代理人弁護士  中 野 雄 介
同          臼 杵 善 治
同          塩 越   希
同          小 坂   惇
同          髙 橋 将 希

大阪市福島区大開四丁目1番186号
原告  レンゴー株式会社
同代表者代表取締役  《 氏 名 略 》
同訴訟代理人弁護士  中 藤   力
同          加 瀬 洋 一
同          谷 本 誠 司
同          外 崎 友 隆
同          片 木 浩 介

東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告  公正取引委員会
同代表者委員長  古 谷 一 之
被告指定代理人  西 川 康 一
同        榎 本 勤 也
同        堤   優 子
同        茂 泉 尚 子
同        坂 本 智 之
同        岩 丸 華 子
同        小 室 尚 彦

主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
公正取引委員会平成26年(判)第139号ないし同第142号排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について被告が令和3年2月8日付けでした審決の主文第3項を取り消す。
第2 事案の概要
(以下、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律を「法」という。また、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令を「施行令」という。)
1 経緯
(1) 排除措置命令及び課徴金納付命令に至る経緯
被告は、原告レンゴー株式会社(以下「原告レンゴー」という。)及び原告株式会社トーモク(以下「原告トーモク」という。)が、日本トーカンパッケージ株式会社(以下「日本トーカンパッケージ」という。)、王子コンテナー株式会社(平成24年10月1日商号変更前の商号は「王子チヨダコンテナー」。以下「王子コンテナー」という。)及び森紙業株式会社(以下「森紙業」という。また、上記5社を併せて「本件5社」という。)と共同して、平成23年10月31日、特定ユーザー向け段ボールケースの販売価格又は加工賃を引き上げる旨合意することにより(以下、この合意を「本件合意」という。)、公共の利益に反して、特定ユーザー向け段ボールケースの取引分野における競争を実質的に制限していたものであり、この行為(以下「本件違反行為」という。)は、法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、同法3条に違反するものであるとして、平成26年6月19日、本件5社のうち、原告レンゴー、原告トーモク及び日本トーカンパッケージに対し、(ア)法7条に基づき、各取締役会において、①本件合意が消滅していることを確認すること、②今後、特定ユーザー向け段ボールケースの販売価格又は加工賃を各社が自主的に決めること、③今後、その販売価格又は加工賃の改定に関して情報交換を行わないことを決議し、かつ、その各事項の周知徹底と履行及び必要な措置を講ずることなどを求める内容の排除措置を命ずるとともに(平成26年(措)第13号排除措置命令・以下「本件排除措置命令」という。)、(イ)法7条の2に基づき、原告レンゴーに対しては、その実行期間(平成23年11月1日から平成24年6月4日まで)における特定ユーザー向け段ボールケースの売上額を133億8052万3135円と算定した上、これに法7条の2第1項及び第6項により100分の8を乗じて得た額から、同条第23項により1万円未満の端数を切り捨てて算出した10億7044万円の課徴金の納付(平成26年(納)第222号課徴金納付命令・以下「第222号課徴金納付命令」という。)を、原告トーモクに対しては、その実行期間(平成23年12月1日から平成24年6月4日まで)における特定ユーザー向け段ボールケースの売上額を75億5021万2152円と算定した上、上記と同様にして算出した6億0401万円の課徴金の納付(平成26年(納)第223号課徴金納付命令・以下「第223号課徴金納付命令」といい、第222号課徴金納付命令と併せて「本件各課徴金納付命令」という。)をそれぞれ命じた。
(2) 本件審決について
原告らは、いずれも本件排除措置命令及び本件各課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求をし、これらは併合審理された(以下「本件審判手続」という。)。そして、被告は、令和3年2月8日、令和2年8月21日付け「審決案」(以下「本件審決案」という。)の内容を全面的に引用した上、原告レンゴーに対する第222号課徴金納付命令のうち10億6758万円を超えて納付を命じた部分及び原告トーモクに対する第223号課徴金納付命令のうち6億0363万円を超えて納付を命じた部分をそれぞれ取り消し、その余の審判請求をいずれも棄却するとの審決(平成26年(判)第139号ないし第142号。以下「本件審決」という。)をした。
本件訴訟は、原告らが本件審決中原告らの審判請求を棄却した部分の取消しを求めるものである。
(3) 関連事件審決
被告は、本件審決のほかにも、段ボール製造業者57社による段ボールシートの販売に係る不当な取引制限があったとして、うち55社に対する排除措置命令と48社に対する課徴金納付命令とを発したところ、うち32社(原告らを含む。)は排除措置命令の、30社(原告らを含む。)は課徴金納付命令の各取消しを求める審判請求をした(以下「関連第1事件」という。)。
また、被告は、段ボール製造業者63社による段ボールケースの販売に係る不当な取引制限があったとして、うち61社(原告らを含む。)に対する排除措置命令と60社(原告らを含む。)に対する課徴金納付命令を発したところ、うち37社(原告らを含む。)は排除措置命令及び課徴金納付命令の各取消しを求める審判請求をした(以下「関連第2事件」といい、関連第1事件と併せて「関連事件」という。)。
本件審判手続は、関連事件の一部であったが、その後、同審判手続から分離された。そして、被告(公正取引委員会)は、令和3年2月8日、本件審判手続が分離された後の関連事件についても審決(平成26年(判)第3号ないし第138号。以下「関連事件審決」という。)をした。
2 前提事実(争いのない事実及び本件審決が認定した事実で原告らが実質的証拠の欠缺を主張していない前提事実)
(1) 本件5社の概要
本件5社(原告ら並びに日本トーカンパッケージ、王子コンテナー及び森紙業)は、いずれも段ボール原紙を加工して段ボールシートを製造するとともに、段ボールシートを加工して段ボールケースを製造する事業を営む者である(以下、段ボールシートと段ボールケースの両方又はいずれかを指して「段ボール製品」という。)。
なお、本件5社のうち、王子コンテナーと森紙業は、王子ホールディングス株式会社(平成24年10月1日の純粋持株会社への移行に伴う商号変更前の商号は王子製紙株式会社)の子会社として、グループ関係にある(以下、王子ホールディングス株式会社が形成する企業グループを「王子グループ」という。)。
(査1~5)
(2) 東日本段ボール工業組合と三木会
ア 東日本段ボール工業組合(以下「東段工」という。)は、その定款上、東日本地区において、コルゲータ(段ボール製造機)を有して段ボール製品生産の事業を営むことを資格要件とする組合である。本件5社は、いずれも東段工の組合員であった(査478~査481)。
イ 東段工は、その最高の意思決定機関である総会、業務の執行を決定する機関である「理事会」及び管内9地区を管轄する「支部」を置くほか、「三木会」と呼ばれる集まりがある。
三木会は、規約上、理事会の下に置かれ、東段工組合員の地位向上のため、理事会決議事項の伝達、組合員に共通する課題に関する情報又は資料の提供等を目的としていた。会長、幹事長及び副幹事長のほか、各支部を代表する支部長を含む委員により構成され、これら委員のうち、支部長以外の委員は、主に本件5社を含むいわゆる大手段ボール製造業者の営業本部長級の者らが充てられた。
(査470、査478、査479、査483~486)
(3) 5社会及び小部会の開催
本件5社は、遅くとも平成19年以降、上記三木会とは別に、主に各社の営業本部長級の者らを出席者とする「5社会」と称する会合(以下「5社会」という。)を月1回程度開催し、専ら広域ユーザー向け段ボールケースの取引に関する諸問題について協議をしていた。
平成20年、本件5社は、段ボール原紙の値上がりに伴う段ボール製品の値上げに際して、5社会のほか、個別の広域ユーザーごとに競合する事業者の間で小部会と称する会合(以下「小部会」という。)を開き、広域ユーザー向け段ボールケースの値上げ実施に関する情報交換を行うようになった。
5社会は、平成23年8月30日、同年9月26日、同年10月17日及び同月31日にそれぞれ別紙2記載の者らの出席により開催され(以下、順に「8月30日5社会」、「9月26日5社会」、「10月17日5社会」、「10月31日5社会」という。)、それ以降も、別紙3の「開催日」欄の各日に開催された。
(査131、査134、査140、査143、査145、査180、査181、査183~査185、査189、査232、査234、査238、査267、査268、査274、査304~査306、査311、査317、査544)
(4) 段ボール市場の概要
ア 段ボール製品の概要
段ボールシートは、コルゲータにより段ボール原紙を加工して製造されるものである。段ボールケースは、この段ボールシートに印刷、打ち抜き等の加工を施し、箱型に組み立てることを可能にしたものである。段ボールシートについては、日本工業規格において外装用段ボール(日本工業規格「Z 1516:2003」)が規定されている。本件5社は、主にこの外装用段ボールの規格に該当する段ボールシートを加工して段ボールケースを製造していた。(査177、査229、査265、査298、査306、査487~489)
イ 段ボール製品の製造業者(以下「段ボールメーカー」という。)
本件5社のうち、原告レンゴー及び王子コンテナー(王子コンテナーは、王子グループに属する原紙メーカーである王子板紙株式会社(以下「王子板紙」という。)とグループ関係にある。)は、段ボール原紙、段ボールシート及び段ボールケースのいずれも製造する事業者(いわゆる一貫メーカー)であり、その余の3社は、いずれも段ボール原紙の製造業者から段ボール原紙を購入して段ボールシート及び段ボールケースを製造する事業者(いわゆる専業メーカー)である。(査251、査300)
ウ 段ボールケースの流通・取引
(ア) 段ボールケースの需要者(ユーザー)は、主として、食品、飲料、自動車部品、電気製品等の製造業者である。
(イ) 段ボールケースのユーザーは、「広域ユーザー」、「ナショナルユーザー」などと呼ばれる大口のユーザー(以下「広域ユーザー」という。)とそれ以外の地場ユーザー等に大別される。前者は、全国各地に有する工場等の拠点において使用する段ボールケースについて、その購入価格等の取引条件に関する交渉を交渉担当部署で一括して行うユーザーであり、後者は、それ以外のユーザーである。(査142、査234、査392、査613)
(ウ) 段ボールケースの営業活動は、広域ユーザーに対する販売については、主に段ボールメーカーの本社等の営業担当者が行い、地場ユーザーに対する販売については、主に段ボールメーカーの各工場の営業担当者が行った。そして、それぞれの営業担当者が、当該ユーザーの交渉担当部署との間で交渉を行って、販売価格等の取引条件を決定していた(査132、査151、査192、査268、査275、査613、査614)。
他方、ユーザー側は、当該ユーザーが自らの担当部署を窓口として交渉を行う場合のほか、同一の企業グループに属するなどの理由から、あるユーザーが他のユーザーの窓口として交渉を担当することや、ユーザーではない別の法人が窓口として交渉を担当することがあった(以下、段ボールメーカーとの取引条件の交渉を担当する会社を「交渉窓口会社」という。)。そして、そのような場合には、段ボールメーカーと交渉窓口会社との間で取り決められた販売価格等の取引条件に基づいて、当該ユーザーに段ボールケースが販売されていた(査142、査192、査234、査274、査306)。
別紙1の別表「特定ユーザー」欄記載の67社(以下「特定ユーザー」という。個々の事業者については「株式会社」を省略して表示する。)は、いずれも広域ユーザーであり、特定ユーザーが購入する段ボールケースの取引条件の交渉は、これに対応する「交渉窓口会社」欄記載の交渉窓口会社(個々の事業者については「株式会社」を省略して表示する。)がそれぞれ担当した(査491)。
(エ) 段ボールメーカーが広域ユーザーに販売する段ボールケースには、当該段ボールメーカーが①自ら製造又は調達した段ボール原紙(一般原紙)を用いて製造するもの、②支給原紙を用いて製造するもの、③指定原紙を用いて製造するものがあった(査147、査216、査310、査319)。
支給原紙取引(上記②)又は指定原紙取引(上記③)における段ボールケースの販売価格は、当該ユーザーの交渉担当部署から支給又は指定された段ボール原紙の購入価格に、段ボール原紙を段ボールケースに加工するための加工賃を加えた価額となる(査222、査310)。
エ 市場占有率(シェア)
平成23年度において、本件5社が特定ユーザーに販売する段ボールケースの販売金額の合計(914億1295万9000円)は、特定ユーザーに販売される段ボールケースの総販売金額(1093億5332万6000円)の8割余りを占めていた(査494)。
オ 重要用語の定義
なお、以上の記述のうち重要な用語の意味内容(定義)は、別紙1において整理した。
(5) 段ボール原紙及び段ボール製品の値上げの動き
ア 原告レンゴーにおける段ボール原紙及び段ボール製品の値上げの公表
原告レンゴーは、平成23年8月26日、各種原燃料価格の高騰を理由に、段ボール原紙の販売価格を1kg当たり7円以上、段ボールシートの販売価格を1㎡当たり8円以上、段ボールケースの販売価格を13%以上、それぞれ同年10月1日納入分から引き上げると公表した(査1、査542)。
イ 王子グループにおける段ボール原紙及び段ボール製品の値上げの公表
王子板紙は、平成23年9月27日、段ボール原紙の販売価格を10%以上引き上げることを公表するとともに(上記値上げ幅につき全品種1kg当たり6円で案内されていた。)、翌28日には、王子コンテナーが段ボールシート及び段ボールケースの販売価格をそれぞれ同年11月21日出荷分から12%以上引き上げると公表した。段ボールシートに係る上記値上げ幅は、円単位に換算すると1㎡当たり7円以上に相当する。(査2、査548、査549)
ウ 他の原紙メーカーにおける段ボール原紙の値上げの公表
≪事業者名略≫は平成23年9月22日に、≪事業者名略≫は同年10月4日に、≪事業者名略≫は同月11日に、それぞれ段ボール原紙について同程度の値上げを公表した(査550)。
エ 他の段ボールメーカーにおける段ボール製品の値上げの方針の決定等
(ア) 森紙業は、平成23年9月20日の役員会で、グループ会社である王子コンテナーの上記イの値上げ方針に従って段ボール製品の値上げを実施することを決定した上、同年10月4日、子会社に対しても、上記の値上げ方針に従って同年11月21日以降の出荷分から段ボール製品の値上げを行うよう指示した(査5、査16~査22、査300、査375、査551)。
(イ) 原告トーモクは、平成23年10月12日、部室長・工場長会議を開催し、同年12月1日出荷分から、段ボールシート及び段ボールケースについて、それぞれ12%以上の値上げを行うことを社内に周知した(査3、査235、査242)。
(ウ) 日本トーカンパッケージは、平成23年10月13日及び翌14日に工場長会議を開催し、段ボールシートについて15%以上、段ボールケースについて12%以上の値上げを行うことを社内に周知した(査266、査277)。
(6) 本件5社の値上げ実施状況等
本件5社は、それぞれの取引先の特定ユーザーについて、最終的に、別紙7の「妥結した引上げ幅」欄記載の値上げ幅で、別紙6の「値上げ実施日」欄記載の年月日に、販売価格又は加工賃の引上げを実施した。
(7) 被告の立入検査
ア 被告は、平成24年6月5日、関連事件の違反行為に関して、法47条1項4号の規定に基づいて立入検査を行った。
イ 同年9月19日、関連事件の違反行為及び本件違反行為に関して、上記規定に基づいて立入検査を行った。
ウ 上記アの立入検査が行われた平成24年6月5日以降、本件5社の間で特定ユーザー向け段ボールケースの販売価格に関する情報交換は行われていない。
(8) 関連事件との関係
関連事件において違反行為とされた事実は、「平成23年10月17日に開催された三木会に出席した本件5社を含む段ボールメーカーは、特定段ボールシート及び特定段ボールケースの販売価格を引き上げることを合意(以下「関連事件合意」という。)するとともに、この後、東段工の各支部において開催された会合に出席し関連事件合意に参加した他のメーカーとも共同して上記販売価格を引き上げた」というものである。
被告は、関連事件合意の対象である特定段ボールケースに係る取引のうち、特定ユーザー向け段ボールケースに係る取引と重複する部分については、本件5社の間で遅くとも同月31日までに本件合意が成立したことより、関連事件合意に係る拘束の対象から事実上除外されたとして、関連第2事件に係る課徴金納付命令において、課徴金の計算の基礎となる特定段ボールケースの売上額から上記重複分に係る売上額を除外した。
3 争点
本件審決が行った争点整理は、以下のとおりである。
(1) 本件合意の成否(以下「争点1」という。)
(2) 本件合意が一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであったか(以下「争点2」という。)
(3) 本件排除措置命令の適法性(以下「争点3」という。)
(4) 本件各課徴金納付命令の適法性(以下「争点4」という。)
ア 課徴金の算定期間(「実行期間」)(以下「争点4(1)」という。)
イ 課徴金の算定対象となる「当該商品」の該当性(以下「争点4(2)」という。)
ウ 課徴金の算定基礎となる「売上金」(以下「争点4(3)」という。 )
4 本件審決の概要
本件審決は、本件合意の成立を認めた上(争点1)、本件合意は、特定ユーザー向け段ボールケースの販売分野における競争を実質的に制限するものであって(争点2)、公共の利益に反し、法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、同法3条に違反するものと判断した。そして、特に排除措置を命ずる必要があるとして本件排除措置命令を適法とし(争点3)、また、本件各課徴金納付命令は原告レンゴーにつき10億6758万円、原告トーモクにつき6億363万円の納付を命じた限度で適法とした(争点4)。
以下その理由の要旨を摘示する。
(1) 争点1に関する説示(要旨)
ア 複数の事業者が対価を引き上げる行為が「不当な取引制限」の要件(法第2条第6項)である「共同して」に該当するというためには、当該行為について、相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要と解されるところ、ここにいう「意思の連絡」とは、複数の事業者の間で相互に同程度の対価の引上げを実施することを認識し、これと歩調をそろえる意思があることを意味し、一方の対価引上げを他方が単に認識し認容するのみでは足りないものの、事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りる(東京高等裁判所平成7年9月25日判決・公正取引委員会審決集第42巻393頁〔東芝ケミカル株式会社による審決取消請求事件〕(以下「東芝ケミカル事件東京高裁判決」という。)参照)。
(以上につき、本件審決案第6の1(2)・34頁参照)
イ 本件審決が認定した事実の要旨は、以下のとおりである。
(ア) 三木会の出席各社は、かねてから、段ボール製品について東段工が取り組んでいた課題、管内における生産量の増減や販売価格の動向等のほか、値上げの方針や進捗状況について情報交換を行っていた。
また、広域ユーザー向け段ボールケースのシェアの大半を占める本件5社は、遅くとも平成19年以降、三木会とは別に、広域ユーザー向け段ボールケースの取引上の諸問題について協議するため5社会を開催し、情報交換を行っていたところ、平成20年に段ボール原紙の値上がりに伴って段ボール製品の値上げが行われた。この値上げに際して、本件5社は、5社会のほか、個別の広域ユーザーごとに競合する事業者の間で小部会を開催して、広域ユーザー向け段ボールケースの値上げの実施状況(値上げ幅、値上げ交渉の状況)に関する情報交換を行った。
(査129、査178、査350、査355、査470、査506~査515、査131、査134、査140、査143、査145、査180、査183、査234、査268、査306、査535~査541)。
(イ) 原告レンゴーは、平成23年8月26日、段ボール原紙の値上げとともに段ボール製品の値上げを公表した。そして、8月30日5社会及び9月26日5社会において、原告レンゴーの≪A1≫は、広域ユーザー向け段ボールケースについて、自社の値上げは公表どおり平成23年10月1日であると説明するとともに、他の4社に対し、原告レンゴーに続いて値上げを行うよう促したところ、当初は、段ボール原紙の値上げについて足並みが揃わなかった。しかし、同年10月中旬までに、主要な原紙メーカーにおいて、段ボール原紙の値上げの表明が出そろったことから、原告トーモク、森紙業及び日本トーカンパッケージにおいても、社内で、段ボール製品の値上げ方針を決定した。
(査135、査140、査145、査181、査267、査268、査304、査311、査317、査130、査139、査152、査156、査157、査178、査230、査233、査235、査245、査252、査266、査303、査326、査336、査344、査350、査355、査357、査455)
(ウ) 10月17日、本件5社を含む出席各社は、三木会において、段ボールケースの値上げの方針に関する情報交換を行った。そして、同会に引き続いて行われた10月17日5社会において、原告レンゴーの≪A1≫は、他の出席各社に対して、広域ユーザー向け段ボールケースの値上げ方針を発表するよう求めた。
これに対し、王子コンテナーの≪E≫は、既に公表したとおり、平成23年11月21日から段ボールケースを12%以上値上げするとともに、加工賃も1㎡当たり2円値上げしたいと発言し、森紙業の≪F≫も、王子コンテナーと同様の値上げを予定している旨発言した。また、原告トーモクの≪G1≫は、段ボールケースの値上げの方針を既に社内に周知したことを告げるとともに、値上げ幅は段ボール原紙が1㎡当たり7円値上がりすることを想定したものであり、平成21年4月以降の加工賃の値下げ分及び採算割れによる損失部分も上乗せすること、これらの値上げの実施予定日を平成23年12月1日とすることなどを発言した。そして、日本トーカンパッケージの≪H≫は、段ボールケースについて値上げ実施予定日を同日として12%以上値上げすると発言した。
以上の発言内容を踏まえ、原告レンゴーの≪A1≫は、「いよいよスタートです、うまくやっていきましょう。」などと発言した上、今後個別のユーザーごとに小部会を開催するなどして具体的な値上げ幅等の条件について協議することや、今後5社会で値上げの進捗状況を管理することになる広域ユーザーを次回5社会においてリストアップすることを提案し、その旨が確認された。
(査136、査137、査140、査141、査145、査181、査183、査185、査267、査268、査274、査304、査556、査557)
(エ) 平成23年10月31日、本件5社は、10月31日5社会を開催し、値上げの案内文書の配布など値上げ活動に関する情報交換をした後、原告レンゴーの≪A1≫において、上記値上げの進捗状況を管理すべき広域ユーザーについて各社の認識を共通にするため、他の出席者の意見を聴きながら、別紙4の「略称」欄記載の35の略称をホワイトボードに記載し、各出席者がこれをメモに取るなどして、その対象となる特定ユーザー及びその交渉窓口会社を選定した。これらの略称は、一つの略称であっても、交渉窓口会社を共通とし又は同一の取引内容が適用されるグループ会社など複数の広域ユーザーを表しているものや、取引に介在する商社を含むものがあったが、本件5社の各出席者は、上記各略称がこれらに対応する「特定ユーザー」欄記載の特定ユーザー及び「交渉窓口会社」欄記載の交渉窓口会社を意味するものであることを認識していた。
(査137、査145、査181、査185、査192、査274、別紙4の「証拠」欄記載の各証拠)
(オ) そして、上記10月31日5社会前後から、本件5社は、小部会を開催し、同5社会においてリストアップされた交渉窓口会社ごとに競合する段ボールメーカーとの間で、特定ユーザー向け段ボールケースの値上げ幅等について話し合った上、その決定に基づいて当該交渉窓口会社に対して販売価格又は加工賃を引き上げることを申し入れるとともに、これらの交渉状況について5社会や当該小部会において情報交換を行った。それぞれの交渉窓口会社について、小部会に出席していた事業者、小部会等の開催時期、小部会等で決定された販売価格又は加工賃の引上げ幅は、別紙7の当該欄に記載されているとおりである。
そして、平成23年11月以降に開催された5社会においては、各小部会の幹事会社から、当該ユーザーに対する値上げの進捗状況の報告がされ、本件5社の間でこれらの対応について協議が行われた。
(別紙3の「証拠」欄記載の各証拠、別紙7の「証拠」欄記載の各証拠、査304、査317)。
(カ) 以上のような値上げ活動の結果、本件5社は、それぞれの取引先の特定ユーザーについて、最終的に、別紙7の「妥結した引上げ幅」欄記載の値上げ幅で、別紙6の「値上げ実施日」欄記載の年月日に、販売価格又は加工賃の引上げを実施した。
(以上につき、本件審決案第6の1(1)・30~34頁参照)
ウ 本件合意の成否に関する判断
上記イ(ア)から(カ)までの各事実によれば、本件5社は、10月17日5社会で広域ユーザー向け段ボールケースの値上げを行うことについて情報交換を行い、10月31日5社会でその対象となる特定ユーザー及びその交渉窓口会社を選定したことにより、本件5社間で、相互に歩調をそろえながら特定ユーザー向け段ボールケースの販売価格又は加工賃の引上げを実施するとの意思が形成され、その旨の意思の連絡、すなわち本件合意が成立したと認められる。
(本件審決案第6の1(2)ア・35~36頁参照)
(2) 争点2に関する説示(要旨)
ア 法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい、共同して商品の販売価格を引き上げた場合には、その当事者である事業者らがその意思で、ある程度自由に当該商品の販売価格を左右することができる状態をもたらすことをいう(最高裁平成24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁[多摩談合新井組最高裁判決](以下「多摩談合新井組事件最高裁判決」という。)参照)。また、「一定の取引分野」とは、当該共同行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲をいうものであり、その成立する範囲は、取引の対象・地域・態様等に応じて、当該共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して決定される(東京高等裁判所平成5年12月14日判決・公正取引委員会審決集第40巻776頁〔トッパン・ムーア株式会社ほか3名に対する独占禁止法違反被告事件〕、東京高等裁判所平成20年4月4日判決・公正取引委員会審決集第55巻791頁〔株式会社サカタのタネほか14名による審決取消請求事件〕参照。)。
イ 本件合意が対象としている商品は、特定ユーザー向け段ボールケースであるところ、本件5社は、本件合意により、小部会を開催するなどして、特定ユーザーごとに段ボールケースの販売価格又は加工賃の引上げの実施方法や交渉状況について情報交換を行うとともに、5社会において、特定ユーザー全体について、それぞれ値上げの進捗状況に関する報告を受けながら、これらの値上げ活動を行ったものであり、しかも、個別のユーザーごとに仕様の違いはあっても、日本工業規格に基づく段ボールシートを加工して製造される点において共通しているのであるから、個別のユーザーごとに一定の取引分野を画定すべき理由はない。
以上によれば、本件合意により影響を受ける範囲は、特定ユーザー向け段ボールケースの販売及び加工に係る取引全般であるということができ、したがって、本件合意に係る「一定の取引分野」とは、特定ユーザー向け段ボールケースの取引分野である。
ウ 本件合意が成立した平成23年度において、特定ユーザー向け段ボールケースの総販売金額のうち、本件5社による販売金額が8割余りを占めており、その販売金額は総販売数量に比例しているとみられることに照らすと、本件5社は、特定ユーザー向け段ボールケースの取引分野について、その意思で、ある程度自由に販売価格又は加工賃を左右することができる状態にあったというベきであるから、本件合意は、特定ユーザー向け段ボールケースの販売価格又は加工賃について、競争を実質的に制限するものであった。
エ 以上のとおり、本件合意は、特定ユーザー向け段ボールケースの販売分野における競争を実質的に制限するものであったと認められる。
また、その内容に照らし、これが公共の利益に反するものであったことも明らかである。
(以上につき、本件審決案第6の2・39~42頁参照)
(3) 争点3に関する説示(要旨)
ア 本件違反行為も、その経過や態様に照らすと、本件5社による従前からの協調関係の下で、組織的に行われたものであることは明らかである。確かに、平成24年6月5日に被告が関連事件に関する立入検査を行った以降は、特定ユーザー向け段ボールケースの販売価格又は加工賃について情報交換が行われておらず、本件合意は消滅したと認められる。しかし、本件5社は、上記立入検査が行われるまでの間は、これらの情報交換を行っていたのであって、本件違反行為を取りやめたのは、上記立入検査が行われたことを契機とするものであり、原告らの自発的な意思に基づくものとはいえない。
イ 以上によれば、本件違反行為が終了してから本件排除措置命令がされるまで2年余り経過していることを踏まえても、原告らを含む本件5社が、再び同様の違反行為を繰り返すおそれは否定できず、また、本件合意が消滅したことをもって、特定ユーザー向け段ボールケースの取引分野における競争秩序の回復が十分であるとはいえない。そして、本件排除措置命令の内容についても、被告が命じた各措置は、いずれも本件違反行為が排除されたことを確保するのに必要な事項であると認められ、原告トーモクが主張するような関連事件との比較から不均衡なものということもできない。
ウ したがって、本件排除措置命令は、被告がこれを命じたことにつき「特に必要があると認めるとき」に該当し、その内容も相当なものであって、適法である。
(以上につき、本件審決案第6の3・42~43頁参照)
(4) 争点4に関する説示(要旨)
ア 争点4(1)-課徴金の算定期間(実行期間)
(ア) 違反行為者が合意の対象となる需要者に対して値上げ予定日を定めて値上げの申入れを行い、その日からの値上げに向けて交渉が行われた場合には、当該予定日以降の取引には、当該合意の拘束力が及んでいると解され、現実にその日に値上げが実現したか否かに関わらず、その日において当該行為の実行としての事業活動が行われたものと認められる(公正取引委員会平成14年9月25日審決・公正取引委員会審決集第49巻111頁〔株式会社オーエヌポートリーに対する件〕、公正取引委員会平成19年6月19日審決・公正取引委員会審決集第54巻78頁〔日本ポリプロ株式会社ほか1名に対する件〕参照)。
(イ) 証拠(審特A2、審特C3、審特C4、審特C7)によれば、原告らは、一部の特定ユーザーに対して、それぞれ文書により、原告レンゴーは平成23年11月1日、原告トーモクは同年12月1日をそれぞれ値上げ予定日と定めて、段ボールケースの値上げの申入れを行ったものであり、これらの値上げに向けて交渉が行われたと認められるから、上記の値上げ予定日が実行期間の始期と認めるのが相当である。
他方、本件5社は、平成24年6月5日に立入検査を受けた以降、本件違反行為を行っていないが、それまでの間は本件違反行為を継続していたのであるから、同日をもって当該行為の実行としての事業活動はなくなったと認められる。
したがって、法第7条の2第1項所定の実行期間は、原告レンゴーについては平成23年11月1日から平成24年6月4日まで、原告トーモクについては平成23年12月1日から平成24年6月4日までとなる。
(ウ) 原告トーモクは、実行期間の始期は、具体的な競争制限効果が明確に認定できる時点、すなわち違反行為者が最初に引き上げた価格で出荷した日とすべきであると主張するが、複数の事業者間で値上げについて競争制限を内容とする合意が成立し、事業者が当該合意に基づき値上げの実施に向けた行動に出た場合、取引先がこの値上げを受け入れたか否かにかかわらず、当該行為の「実行としての事業活動」が行われたものというべきであるから、原告トーモクの上記主張は採用できない。
原告らは、広域ユーザー向け段ボールケースについて、広域ユーザーは期替わり前に値上げに応じることはなく、また、大きな購買力を有する広域ユーザーとの値上げ交渉には相応の期間を要するため、期替わり前の値上げ実施は極めて困難であることが本件5社の間で共通認識となっていたなどとして、ユーザーごとの期替わり期をもって値上げ実施予定日とする旨の合意が存在していたと主張する。しかし上記(1)イ記載の本件審決が認定した事実のとおり、10月17日5社会及び10月31日5社会においては具体的な値上げの時期について話し合われた形跡がなく、それ以降に開催された小部会において値上げの実施時期が決められていた経緯に照らすと、本件合意の締結に当たって具体的な値上げの実施時期が定められていたとみることはできない。また、本件5社において、原告らの主張するように、期替わり前の値上げが容易でないという事情があったとしても、期替わりの時期にかかわらず、できる限り早期の値上げの実現に向けて値上げ交渉を行っていたものとみることができるから、値上げ要請文書に記載された値上げ予定日が期替わり期における値上げを実現するための姿勢を示すための形式的なものにすぎないとはいえない。さらに、別紙6のとおり、4月1日を期替わり期とする取引先が多くを占めているところ、値上計画集計表(審特C9の添付資料)によれば、これらのユーザーを含めて一律に平成24年1月1日を値上げの実施期日と定めていたことになり、期替わり期でなければ値上げを実現できないという認識を有していたとはみられないことに照らすと、原告らの前記主張は採用できない。
(以上につき、本件審決案第6の4(1)・43~47頁参照)
イ 争点4(2)-課徴金の算定対象となる商品の該当性
(ア) 法第7条の2第1項にいう「当該商品」とは、違反行為である相互拘束の対象である商品、すなわち「違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品」であって、違反行為である相互拘束を受けたものをいう。「違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品」は、違反行為を行った事業者が、明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど、当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り、課徴金の算定の対象となる当該商品に含まれる。そして、違反行為者が実行期間中に違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品を引き渡して得た対価の額が、課徴金の計算の基礎となる売上額となる(東京高等裁判所平成22年11月26日判決・公正取引委員会審決集第57巻第2分冊194頁〔出光興産株式会社による審決取消請求事件〕(以下「出光興産東京高裁判決」という。)参照)。
(イ) 本件違反行為の対象となる商品は、特定ユーザー向け段ボールケースである。したがって、特段の事情が認められない限り、特定ユーザー向け段ボールケースは、課徴金の算定対象となる商品に該当する。以下、原告らが課徴金の算定対象となる商品に該当しないと主張する特定ユーザーにつき検討する。
a ≪事業者2≫
原告らは、≪事業者2≫に関する小部会を開いておらず、具体的な値上げ幅等について情報交換も行っていなかったとして、≪事業者2≫に対する売上額は課徴金の計算の基礎から除外すべきであると主張する。
しかし、10月31日5社会において特定ユーザーとしてリストアップされていた「≪略称1≫」との記載をもって、≪事業者1≫のみならず、同社向け段ボールケースを取り扱っていた≪事業者2≫も、本件合意の対象に含まれていたというベきである。原告らを出席者とする≪事業者2≫独自の小部会が開催されていなかったとしても、原告らは、≪事業者2≫を介して≪事業者1≫と交渉していたものとみられ(≪A2≫参考人速記録〔13頁〕)、原告らが出席した5社会において、「≪略称1≫」の値上げに関して、≪事業者2≫に対する値上げ交渉の状況についても報告されていたのであり、実際、こうした値上げ交渉の結果、≪事業者1≫向け段ボールケースは、≪事業者2≫を通じた取引の分も含めて、同じ値上げ幅で値上げが実現していたことからすれば、前記特段の事情は認められない。
b ≪事業者5≫
原告レンゴーは、≪事業者5≫においては、値上げ交渉の窓口部署である本社生産管理部との交渉は値上げ幅の上限を決めるものにすぎず、その後、更に価格決定権を有する各工場等との間で値上げ交渉が必要であると主張するが、その主張にあるとおり、≪事業者5≫について、本社生産管理部との交渉の結果決められた値上げ幅の上限は、各工場についての実際の値上げ幅の決定に影響を及ぼしており、前記特段の事情があるとは認められない。
c ≪事業者6≫
原告レンゴーは、≪事業者6≫については、本件合意が成立する前に、入札により平成24年1月ないし同年3月の各段ボール製品に係る調達先及び調達価格が決定していたと主張するが、証拠(査312)によれば、原告レンゴー、森紙業及び大日本パックス株式会社の担当者は、平成23年10月初旬から電話連絡により≪事業者6≫に提出する見積価格について話し合っていたところ、同月下旬、≪事業者6≫の担当者から見積書の再提出を要請されたため、平成24年1月ないし同年3月の見積価格は変更せず、同月末時点で同年4月以降の見積価格を設定し直すことを協議した上で、平成23年11月中旬頃、見積書を再提出したことを小部会において確認していたものであり、その結果、平成24年4月以降の取引価格は、再提出した見積書の内容に従って決定されていたのであるから、≪事業者6≫との取引価格は、本件合意の成立時点において決まっていたとは認められないし、本件合意成立後にも、上記3社の担当者は、小部会において、≪事業者6≫に対する値上げの実施方法について情報交換を行い、これに従って値上げが実現していたのであるから、≪事業者6≫に対して販売する商品について前記特段の事情があるとはいえない。
d ≪事業者7≫及び≪事業者8≫
原告トーモクは、≪事業者7≫及び≪事業者8≫に対する値上げは両社と他の事業者の交渉結果に連動して行われたものであり、同原告は両社に対する値上げカルテルの参加者ではないと主張するが、10月31日5社会において別紙4のとおりリストアップされた特定ユーザーのうち、「≪略称2≫」との記載は、≪事業者7≫、≪事業者8≫及び≪事業者9≫の3社(以下「≪略称2≫3社」という)を意味するものであり、両社とも特定ユーザーとして本件合意の対象に含まれていたことは、同会合の出席者の供述(査137〔8頁〕、査140〔11~12頁〕)からも明らかである。そして、≪略称2≫3社については、交渉窓口会社を≪事業者7≫に一本化し、その≪事業者7≫についての小部会には原告トーモクも参加していたというのであるから(査213〔4~11頁〕、査307〔4~7頁〕、審特A1〔5~6頁〕)、両社に対して販売する商品について前記特段の事情があるとはいえない。
(以上につき、本件審決案第6の4(2)・47~51頁参照)
ウ 争点4(3)-課徴金の算定基礎となる売上金
(ア) 協力値引きの控除
原告レンゴーは、段ボール業界では、「協力値引」の名目で実質的には販売価格を引き下げることが長年の一般的な商慣習として存在しており、表面上の取引価格から「協力値引」の額を控除したものが現実の取引価格であるなどと主張するが、このような「協力値引」について、原告レンゴーは集計表(審特A16)を提出するのみであり、取引上いかなる趣旨でどのような方法により行われたか証拠上明らかでないし、また、このような処理が施行令第5条第1項の各号に定めるものには当たらないから、課徴金の算定基礎となる売上額から控除されない。
(イ) 割戻金
a 原告レンゴーについて
(a) ≪事業者10≫
原告レンゴーは、≪事業者10≫との覚書(審特A4)に基づく協力金の支払は売上額から控除すべき割戻金に該当すると主張するが、同覚書第2条第1項によれば、1か月の平均納入数量が5000ケース未満の場合には、協力金は支払われないものと解される。そうすると、施行令第5条第1項第3号が控除の適用除外事由として定める「一定の期間内の実績が一定の額又は数量に達しない場合に割戻しを行わない旨を定めるもの」に該当するから、控除の対象となる割戻金には該当しない。したがって、原告レンゴーの上記主張は、採用できない。
(b) ≪事業者11≫
ⓐ 原告レンゴーは、その実行期間(平成23年11月1日から平成24年6月4日まで)中の段ボールケースの取引に関し、≪事業者11≫との間で、ⅰ①平成23年5月20日付け覚書(審特A6)、②平成24年5月30日付け覚書(審特A7)、ⅱ①平成23年12月22日付け覚書(審特A9)、②平成24年2月17日付け覚書(審特A10)、③平成24年10月10日付け覚書(審特A11)の各覚書をもって、下記の各対象期間内に≪事業者11≫に納入する段ボールケースの引渡しの実績に応じて、≪事業者11≫に対し、ⅰにつき指定料として、ⅱにつき特別協力金として、割戻金の支払を行うべき旨の合意をした。
なお、上記各覚書合意の対象期間は、ⅰ①が平成23年5月1日から平成24年4月30日まで、ⅰ②が同年5月1日から平成25年4月30日まで、ⅱ①が平成23年11月1日から同年12月31日まで及び平成24年1月1日から同月31日まで、ⅱ②が平成24年2月1日から同年3月31日まで、ⅱ③が平成24年5月1日から同年9月30日まで、である。
ⓑ 原告レンゴーの実行期間中、上記ⓐⅱの特別協力金のうち、平成24年1月1日から同月31日までの期間(ⅱ①の一部)及び同年4月1日から同月30日までの期間(ⅱ②の一部)の売上げを対象とする6549万0245円については、第222号課徴金納付命令において課徴金の算定基礎となる売上額から控除されていることに争いがない。
他方、上記ⓐの各覚書のその余の対象期間については、いずれも、対象期間中又は対象期間経過後に覚書が作成されているところ、施行令第5条第1項第3号により割戻金が控除されるのは、割戻金が対価そのものの修正又はこれに準ずるものであるためである。そして、同号が割戻金を支払うべき旨が書面によって明らかな契約があった場合でなければならないと規定するのは、事後的に支払側の裁量によって支払われるなどしたものは対価の修正と認めるべきではなく、割戻金を支払うベきことがあらかじめ書面により客観的に明らかにされているものに限定する趣旨であると解される。この趣旨からすれば、同号所定の「割戻金の支払を行うべき旨が書面によって明らかな契約」があった場合とは、割戻しの対象となる商品又は役務の引渡し前に、割戻金を支払うベきことが書面で明らかにされている場合に限られるのであり、事後に書面で定めた割戻金はこれに該当しないものと解される。一方、同号の上記趣旨からすれば、割戻しの対象期間の途中で割戻契約に係る書面が作成された場合であっても、作成日以後の取引との関係では同号所定の「書面によって明らかな契約」があったというベきである。
そうすると、原告レンゴーの実行期間を対象期間とする合意のうち、既に控除されている期間を除き、上記ⓐⅰについては、各覚書の作成日以降である①の平成23年11月1日から平成24年4月30日まで及び②の同年5月30日から同年6月4日までの期間について、上記ⓐⅱについては、各覚書の作成日以降である①の平成23年12月22日から同月31日まで及び②の平成24年2月17日から同年3月31日までの期間について、同号の割戻金を支払うべき旨が「書面によって明らかな契約」に該当すると認められるが、その余の期間については、事後に書面が作成されているため、これに該当するとは認められない。
なお、原告レンゴーの実行期間の始期より前の期間(平成23年8月1日から同年9月30日まで及び同年10月1日から同月31日まで)を対象期間として定める覚書は、「実行期間におけるその実績について当該契約で定める」ものではないから、同覚書の対象期間に含まれない実行期間中の取引について、「書面によって明らかな契約」があったとはいえない。
Ⓒ 以上によると、上記ⓐⅰのうち、平成23年11月1日から平成24年4月30日までの期間(182日間)及び同年5月30日から同年6月4日までの期間(6日間)についての指定料を割戻金として控除するべきところ、当該期間の売上げについて正確に認定できる証拠がないことから、実行期間(平成23年11月1日から平成24年6月4日までの217日間)中の指定料159万9447円(審特A21のNo.4)を日割計算することにより算定すると、控除するべき割戻金の額は、138万5696円(159万9447円÷217日×188日)となる。
また、上記ⓐⅱについては、平成23年12月22日から同月31日までの期間(10日間)及び平成24年2月17日から同年3月31日までの期間(44日間)についての特別協力金を割戻金として控除するべきところ、実行期間中の特別協力金のうち課徴金の対象となった9905万5302円(審特A21のNo.5の金額から審特A22のNo.2の金額を控除した額)について、実行期間(217日間)から既に割戻金の控除がされている期間(平成24年1月1日から同月31日まで及び同年4月1日から同月30日までの61日間)を除いた日数(156日間)で日割計算することにより算定すると、控除するべき割戻金の額は、3428万8374円(9905万5302円÷156日×54日)となる。
ⓓ 以上によれば、原告レンゴーが≪事業者11≫に支払った割戻金のうち、合計3567万4070円を施行令第5条第1項第3号に基づき売上額から控除するべきである。
(c) ≪事業者7≫
≪事業者7≫との覚書(審特A13)の作成日は平成24年6月30日であり、実行期間の終期より後に作成されたものであるところ、施行令第5条第1項第3号所定の「割戻金の支払を行うべき旨が書面によって明らかな契約」があった場合とは、割戻しの対象となる商品の販売以前に、割戻しを定める書面での契約があった場合に限られる。したがって、同覚書はこれに該当しないから、同号により控除の対象となる割戻金には該当せず、原告レンゴーの上記主張は、採用できない。
b 原告トーモク
(a) 原告トーモクは、その実行期間(平成23年12月1日から平成24年6月4日まで)中の段ボールケースの取引に関し、≪事業者11≫との間で、ⓐⅰ平成24年2月10日付け覚書(審C共31)、ⅱ平成24年3月23日付け覚書(審C共32)、ⅲ平成24年10月19日付け覚書(審C共33)、ⓑⅰ平成24年3月23日付け覚書(審C共34)、ⅱ平成25年3月15日付け覚書(審C共35)の各覚書をもって、下記の各対象期間内に≪事業者11≫又はその製造委託先に納入する段ボールケースの引渡しの実績に応じて、≪事業者11≫に対し、いずれも特別協力金として割戻金の支払を行うベき旨の合意をした。
なお、上記各覚書合意の対象期間は、ⓐⅰが平成23年5月1日から平成24年1月31日まで、ⓐⅱが平成24年2月1日から同年3月31日まで及び同年4月1日から同月30日まで、ⓐⅲが平成24年5月1日から同年9月30日まで、ⓑⅰが平成23年5月1日から平成24年4月30日まで、ⓑⅱが平成24年5月1日から平成25年4月30日まで、である。
(b) 原告トーモクの実行期間中、上記(a)の特別協力金のうち、ⓐⅱの平成24年4月1日から同月30日までの期間の売上げを対象とするものについては、第223号課徴金納付命令において課徴金の算定基礎となる売上額から控除されていることに争いがない。
他方、上記(a)の各覚書のその余の対象期間については、いずれも、対象期間中又は対象期間経過後に覚書が作成されているところ、上記ウ(イ)a(b)ⓑで説示したとおり、施行令第5条第1項第3号所定の「割戻金の支払を行うベき旨が書面によって明らかな契約」があった場合とは、割戻しの対象となる商品又は役務の販売以前に、割戻しを定める書面での契約があった場合に限られるのであり、事後に書面で定めた割戻金については控除されないが、割戻しの対象期間の途中で割戻契約に係る書面が作成された場合、作成日以後の販売との関係では同号所定の「書面によって明らかな契約」があったというベきである。
これに対し、原告トーモクは、≪事業者11≫との間の割戻金に関する合意は、長年自動更新されて継続しており、あらかじめ明らかであったと主張するが、原告トーモクがその証拠として提出する平成22年4月16日付け見積書(審C共24の別紙9)は、平成22年度の価格であり、本件における実行期間に関するものではなく、平成23年度もこれが継続していることは第三者からみて明らかではないから、同号の趣旨からみて、原告トーモクの上記主張は採用できない。
(c) そうすると、原告トーモクの実行期間を対象期間とする合意のうち、既に控除されている期間を除き、上記(a)ⓐについては、ⅱの覚書の作成日以降である平成24年3月23日から同月31日までの期間について、上記(a)ⓑについては、ⅰの覚書の作成日以降である同月23日から同年4月30日までの期間について、同号の割戻金を支払うべき旨が「書面によって明らかな契約」に該当すると認められるが、その余の期間については、事後に書面が作成されているため、これに該当するとは認められない。
以上によれば、上記(a)ⓐのうち平成24年3月23日から同月31日までの期間についての特別協力金262万7076円(審特C15)と、上記(a)ⓑのうち同月23日から同年4月30日までの期間についての特別協力金218万5009円(審特C15)との合計481万2085円を施行令第5条第1項第3号に基づき売上額から控除するベきである。
(以上につき、本件審決案第6の4(3)・51~58頁参照)
5 法82条1項所定の取消事由に関する当事者の主張
原告らは、上記各争点のうち1、2及び4に対する本件審決の判断には、法82条1項所定の取消事由があると主張するので、その主張と被告の反論の要旨を以下のとおり整理する。
なお、以下、法82条1項1号の取消事由(審決の基礎となった事実を立証する実質的な証拠がない場合)を「1号事由」、同項2号の取消事由(審決が憲法その他の法令に違反する場合)を「2号事由」という。
(1) 争点1について
【原告トーモクの主張】
ア 2号事由
東芝ケミカル事件東京高裁判決は、法2条6項の「共同して」、すなわち「意思の連絡」があったというためには、「複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があること」を要すると説示しているところ、競争の実質的制限を要素とする不当な取引制限が成立するためには、市場における競争の機能が十全に発揮されることが阻害される状態を生じさせ、あるいはその状態を維持・強化させるために必要なレベルの明確さを持った合意の成立が必要であって、とりわけ本件のような短期的な値上げについての情報交換(短期の価格カルテル)においては、競争活動を通じて価格の引上げ幅等の調整を図ることは不可能であることなどを考慮すると、具体的な特定価格への意見集約がされていることが必要である。
にもかかわらず、本件審決は、東京ケミカル事件東京高裁判決が示した上記判断枠組みを「相互に同程度の対価の引上げを実施することを認識し、これと歩調をそろえる意思があること」で足りるものと緩和して適用したばかりか、5社会や小部会における具体的な特定価格への意見集約の有無を検討することなく本件合意の存在を認定したものであり、法2条6項所定の「共同して」の解釈適用を誤るものであって、法令に違反する(2号事由)。
イ 1号事由
(ア) 原告トーモクは、10月31日5社会の時点以前に、社独自の判断で、段ボール製品価格の値上げ方針を社内的に決定し、本件合意なるものとは無関係に値上げを行ったものであり、また、10月31日5社会の時点では、当該方針は対外的に公表しておらず、他の事業者の段ボール製品価格の引上げを単に認識していたにすぎないのであるから、特定ユーザー向け段ボールケースについて販売価格又は加工賃の引上げについて他の事業者と歩調を合わせる意思などあろうはずはなく、「意思の連絡」があったとはいえない。
にもかかわらず、本件審決は、10月17日5社会において、原告トーモクの≪G1≫は他の事業者の値上げ方針を聞いていたにとどまらず、自社の値上げ方針についても説明し、その後も原告トーモクは、5社会及び小部会に参加するなどして情報交換を行いながら値上げ活動を行っていたと認定した。
しかし、原告トーモクは、平成23年10月31日以前において、社独自の判断により、広域ユーザー向け段ボールケースの値上げを決定していたのであって(審特C3から同C8(いずれも各2頁)、審特C13、同C14・2、3頁)、実際、原告トーモクの≪G1≫は、平成23年10月17日の三木会に引き続いて行われた10月17日5社会において、具体的な値上げ幅や値上げ時期についての発表をしていない。
(イ) また、平成23年10月末の時点では、段ボール原紙の実勢価格は上昇していなかったこと(審特21の別紙2・6頁)に加え、本件合意に伴う値上げについては、原紙値上げの重要な指標であるいわゆる日経市況(日本経済新聞及び日経産業新聞において発表される市況のことをいう。以下同じ。)が平成23年12月29日まで値上がりしなかったこと(審A共51)、そして、期替わりまであと5か月という時期であったことも相俟って、一貫メーカーと専業メーカーの利益構造の違いから、本件5社を含む段ボールメーカーの間においては、幅広く特定ユーザー向け段ボールケースに関する協議を行い、カルテル合意を成立させることの基礎となるような信頼関係の構築は困難な状況にあった。
(ウ) 被告が主張する本件合意は、関連事件合意を基礎として成立したものである(このことは、前提事実(8)からも明らかである。)から、関連事件合意の成立が認められない場合には、その基礎を欠くというべきであるところ、上記(ア)記載の事実によれば、平成23年10月17日の三木会において段ボールケース及び段ボールシートについての値上げ合意(関連事件合意を意味する。以下においては、上記合意を「10月17日三木会合意」という。)は成立しておらず、したがって、本件合意はその成立の基礎を欠いている。また、10月17日三木会合意の対象には特定ユーザー向け段ボールケースは含まれないから、特定ユーザー向け段ボールケースを対象とする本件合意は成立しないというべきである。
(エ) 以上によれば、本件合意の成立を認めた本件審決の認定は、実質的証拠を欠き、違法である。
【被告の反論】
ア 原告トーモクの主張アに対する反論
本件審決の上記判断は、東芝ケミカル事件東京高裁判決が判示する「意思の連絡」の要件を緩和するものではない。
イ 原告トーモクの主張イに対する反論
本件審決が認定した事実によれば、本件5社は、10月17日5社会で広域ユーザー向け段ボールケースの値上げを行うことについて情報交換を行い、10月31日5社会でその対象となる特定ユーザー及びその交渉窓口会社を選定したのであって、これにより、本件5社の間で、相互に歩調をそろえながら特定ユーザー向け段ボールケースの販売価格又は加工賃の引上げを実施するとの意思が形成され、その旨の意思の連絡、すなわち本件合意が成立したものというべきであるから、10月17日三木会合意の成否にかかわらず、本件合意は成立する。
この点、原告トーモクの≪G1≫が10月17日5社会において他の事業者の値上げ方針を聞いていたにとどまらず、自社の値上げ方針についても説明し、その値上げ幅やその値上げ実施予定日などについて具体的な発言をしていたことは、複数の出席者が一致して供述するところであるし(査181・9~11頁〔証拠の写し2583~2585丁〕、査185・7~8頁〔同2654~2655丁〕、査268・24~25頁〔同3944~3945丁〕)、また、そもそも本件合意は10月17日三木会合意を基礎とするものではなく、本件審決の前記認定は実質的な証拠を欠くものとはいえない。
(2) 争点2(本件合意が「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものであったか否か)について
【原告らの主張】
ア 原告トーモクの主張(1号事由)
多摩談合新井組事件最高裁判決によれば、「一定の取引分野」は一般的・客観的に画定すべきであるところ、当該交渉の実態や製品の特性からみて、各特定ユーザー向け段ボールケースの間には「需要の代替性」や「供給の代替性」がないから、法2条6項にいう「一定の取引分野」は特定ユーザーの交渉担当窓口ごとに画定されるべきである。
本件審決は、「一定の取引分野」は需要者ごとに存在する競争関係について重層的に画定し得るのであって、これらのうち問題となる共同行為との関係で一定の取引分野が画定するなどと説示した。
しかし、「一定の取引分野」が重層的に画定し得るとしても、各特定ユーザーに販売する段ボールケースの間に需要の代替性及び供給の代替性は認められないから、日本工業規格に基づく段ボールシートを加工して製造している点において共通しているという脆弱な根拠でもって「一定の取引分野」を画定することは許されない。
以上のとおり、法2条6項にいう「一定の取引分野」に関する本件審決の解釈・適用は法令に違反し、違法である。
イ 原告レンゴーの主張(1号及び2号事由)
ある特定ユーザーが自社向け段ボールケースの製品価格が値上げとなったときに他の特定ユーザー向け段ボールケースを自らの事業のために使用することは不可能である。また、特定ユーザーが従来取引関係のなかった段ボールメーカーに発注することはほとんど考えられない。さらに、特定ユーザーの中には支給原紙による取引であり、段ボールケースの値上げではなく加工賃の値上げという全く異なるものが合意の対象となることがあり得る。したがって、「一定の取引分野」は、個別のユーザーごとに成立するものというべきであって、特定ユーザー向け段ボールケースの取引分野を「一定の取引分野」であるとした本件審決の認定・判断は、実質的証拠を欠き、また理由不備ないし齟齬による違法がある。
【被告の反論】
法2条6項にいう「一定の取引分野」は、需要者ごとに存在する競争関係について重層的に画定し得るものであるところ(公正取引委員会平成20年4月16日審決・公正取引委員会審決集第55巻3頁〔株式会社荏原製作所ほか8名に対する件〕、東京高等裁判所平成21年5月29日判決・公正取引委員会審決集第56巻第2分冊262頁〔東日本電信電話株式会社による審決取消請求事件〕参照)、特定ユーザー向け段ボールケースは、個別のユーザーごとに仕様の違いはあっても、日本工業規格に基づく段ボールシートを加工して製造される点において共通しているから、個別のユーザーごとに「一定の取引分野」を画定すべき理由はない。原告らの上記主張は、本件合意に係る共同行為の内容から離れてより狭い範囲の取引分野を画定すべきものとする見解であって、失当である。したがって、特定ユーザー向け段ボールケースの取引分野を「一定の取引分野」として画定したことが実質的証拠を欠くとはいえないし、法令に違反するものでもない。
(3) 争点4について
ア 争点4(1)-課徴金の算定期間(実行期間)の始期について
【原告らの主張】
(ア) 原告トーモクの主張(1号及び2号事由)
a 実行期間の始期は、具体的な競争制限効果が明確に認定できる時点、すなわち違反行為者が引き上げた価格で最初に出荷した日とすべきである。
(a) 段ボール業界における値上げカルテル事件における課徴金賦課の先例(平成元年4月25日付け平成元年(納)第1号ないし第29号)においては、実行期間の始期は販売価格を引き上げた日とされている。したがって、本件合意における実行期間の始期は、引き上げた価格で最初に出荷した日とすべきである。そして、上記5(2)のとおり、本件における「一定の取引分野」は交渉窓口会社ごとに画定されるべきであるから、実行期間の始期も各交渉窓口会社に対して引き上げた価格で最初に出荷した日とすべきである。これによれば、課徴金算定の基礎から49億8623万6498円が控除されるべきことになる(審特C15の別紙D)。
(b) また、仮に「一定の取引分野」が交渉窓口会社ごとに画定されず、特定ユーザー向け段ボールケース市場をもって画定するとしても、実行期間の始期は、各交渉窓口会社に関する本件合意後の最初の期替わりの中で最も早い日、すなわち平成24年1月4日とすべきである。これによれば、課徴金算定の基礎から12億2856万0123円が控除されるべきことになる(審特C15の別紙D)。
b 仮に、値上げ予定日を基準に実行期間の始期を認定するとしても、値上げ予定日は、実際に本件合意の拘束力が及び、競争制限効果が生じる時点はどこかという観点から実質的に認定すべきである。
(a) すなわち、広域ユーザーは、その値上げに応じるためには予算の大幅な増額が不可避であるため、期替わり前の時点で値上げ要請に応じることはない上、当時の客観的な市場の状況に照らすと、平成23年内の交渉期間としては2か月弱しか残されていない10月31日5社会の時点で、強いバーゲニング・パワーを有する特定ユーザーとの間で値上げ交渉を妥結させ、年内に値上げを実施することは、実質的には不可能である。実際、上記値上げ要請文書記載の値上げ予定日(平成23年12月1日)から値上げを実現しようとするならば、本来認められるはずのない遡及的値上げを求めることになるから、「12月1日5社会において、遅くとも同年12月1日からの値上げを実現する」という原告トーモクの提案は、内容それ自体からみて実現可能性に欠けることが明らかである。また、原告トーモクが早期の値上げ予定日を値上げ要請文書に記載していたのは、当初から期替わりでの値上げの実施を求めていたのでは、期替わりに値上げを実施することすら容易でないためであり、値上げ要請文書における値上げ予定日の記載は、早期の値上げを求める姿勢を対外的に表明するための形式的なものにすぎない。
以上によれば、値上げ要請文書における値上げ予定日の記載は、本件合意により定められている値上げ予定日を推認させる証拠の1つとはなり得ても、客観的な状況からみて、上記値上げ予定日における値上げがおよそ実現不可能な本件事案の下では、上記値上げ要請文書の記載のみに依拠して、又はこれを過度に重視して値上げ予定日を認定することは、適切な事実認定とはいえない。
むしろ、原告トーモクが主張する値上計画集計表(審特C9・別紙)によれば、平成23年10月31日の時点において、広域ユーザーに対する「実施期間」はいずれも平成24年1月1日以降となるとの認識が記載されているところ、上記集計表は、値上げの正確なシミュレーションを意図して作成されたものであって、営業担当者の率直な認識が反映されているものというべきであるから、交渉を有利に進めるという観点から作成された値上げ要請文書記載の値上げ予定日よりも証拠価値が高いことは明らかである。
(b) 以上によれば、10月31日5社会において、出席各社の間には、本件合意の一要素として、段ボール製品の販売価格を変更し得る「期替わりの時期」をもって値上げ予定日とするとの黙示に合意が成立していたというべきであるから、上記期替わりの時期(日付)をもって実行期間の始期と認定すべきである。これによれば、課徴金算定の基礎から35億2770万2052円が控除されるべきことになる(審特C15の別紙E)。
(c) また、仮に、原告トーモクの上記主張が認められないとしても、上記実行行為の始期である値上げの予定日は、上記値上計画集計表記載の「実行期間」の始期である平成24年1月1日と認定すべきである。これによれば、課徴金算定の基礎から12億2856万0123円が控除されるべきことになる(審特C15の別紙D)。
c 以上によれば、上記実行期間の始期に関する本件審決の説示は、法7条の2第1項所定の「実行期間」の始期に関する解釈を誤るものであって、法令に違反する上、その認定も実質的証拠を欠くものとして違法である。
また、本件審決は、原告トーモクの上記各主張のうち(ア)a(b)及び(ア)b(c)記載の予備的主張についての判断を脱漏しており、これは民事訴訟法338条1項9号所定の再審事由(判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと)に匹敵する重大な瑕疵に当たるものとして、法令違反を構成する。
(イ) 原告レンゴーの主張(1号及び2号事由)
一般に、実行期間の始期は「需要者に申し入れた値上げの実施予定日のうち、違反行為の日以降で最初の日」とされているところ、需要者への申入れとは、値上げ実施予定日から値上げを実施する旨の通告であって、通告したとおりの時期に値上げを行う場合を想定していると解するのが合理的である。
本件では、特定ユーザーとの取引に係る客観的な状況、段ボール原紙の市況、当時の原告レンゴーの値上げ活動の実施状況及び同社が提示した値上げのお願い文書の客観的な書きぶり等を前提とすれば、特定ユーザーとの関係で期替わりより前に値上げが実現することはあり得ない。そして、10月31日5社会の各出席者は、特定ユーザーに対する値上げのタイミングは期替わりの時点以降となるという共通認識を持っていたのであり、値上げの実施時期を期替わりの時期とすることを明確に定めた上で、本件合意を形成したものである。
実行期間の始期に関する本件審決の認定は、本件審判手続において取り調べた証拠から合理的に認定できる5社会出席者の認識その他客観的な事情を考慮することなくされたものであって、実質的証拠を欠き、又は重大な理由不備ないし齟齬があるから、違法である。
【被告の反論】
(ア) 原告トーモクの主張について
課徴金の計算における実行期間の始期については、当該行為の実行としての事業活動が開始された時期をいうところ、違反行為者が合意の対象となる需要者に対して値上げ予定日を定めて値上げの申入れを行い、その日からの値上げに向けて交渉が行われた場合には、当該予定日以降の取引には、当該合意の拘束力が及んでいると解されるから、現実にその日に値上げが実現したか否かにかかわらず、その日において当該行為の実行としての事業活動が開始されたというべきである。
原告トーモクが主張する前記平成元年(納)第1号ないし第29号事件は、本件事案のように値上げ予定日を定めて値上げの申入れを行い、値上げに向けて交渉が行われたものではなく、事案が異なるから(公正取引委員会審決集第36巻67頁〔協和段ボール株式会社ほか17名に対する課徴金納付命令[東海地区]〕、同78頁〔桜橋紙工業株式会社ほか10名に対する課徴金納付命令[北陸地区]〕)、原告トーモクの上記主張を裏付けるものではない。
(イ) 原告トーモクの主張及び原告レンゴーの主張について
10月17日5社会において、実施時期は小部会で決めることとされ、10月17日5社会及び10月31日5社会においては具体的な値上げ実施日について話し合われず、実際に小部会において値上げ実施時期が決められていたことからすれば、特定ユーザーごとの値上げ時期は小部会に委ねる趣旨であったのであり、黙示的にも本件合意の一要素として確たる値上げの時期を取り決めていたとは認められない。
仮に、原告トーモクの前記主張のとおり、交渉期間が短期間であることから交渉の妥結が困難であっても、原告トーモクが平成23年12月1日を値上げ予定日と定めて値上げの申入れを行い、値上げ交渉を行った以上、同日以降の取引に本件合意の拘束力が及んでいたというベきであるから、交渉期間が2か月弱であることは、実行期間の始期を否定する根拠とはならない。
また、仮に、予算面の制約も含め、期替わり前の値上げが容易でないという事情があったとしても、原告トーモクは、期替わり時期いかんにかかわらず、できる限り早期の値上げの実現に向けて値上げ交渉を行っていたのであるから、値上げ要請文書における値上げ予定日の記載が形式的なものにすぎず、真意を反映したものではないとはいえない。
さらに、平成23年12月1日からの値上げを実現するためには同月中に売上計上できる限度で遡及的な値上げが想定されていたと考えられるが、このような手法は交渉の一手法としてあり得ないものではなく、むしろ、その内容の具体性からみて実現可能性を伴ったものといえる。
そもそも上記値上げ予定日が原告トーモクの真意を反映したものであるか否か、値上げ予定日における実現可能性があるか否かは、実行行為の始期の認定に影響を及ぼすものではない。
なお、原告トーモクの上記(ア)a(b)及び同(ア)b(c)記載の各主張は、判断を明示するまでもなく理由がないことは明らかであるから、判断の遺脱があるとはいえない。
イ 争点4(2)-課徴金の算定対象となる商品の該当性
【原告らの主張】
以下の各社向け商品には、課徴金の算定対象から排除すべき特段の事情が存在した。
(ア) 原告トーモクの主張
a ≪事業者2≫関係
本件合意は、10月17日三木会合意を基礎とするものであるところ、≪事業者2≫向けの段ボールケースは、交渉担当窓口が東日本に所在せず、10月17日三木会合意にいう「特定段ボールケース」に定義上含まれない。そうすると、≪事業者2≫向け段ボールケースは、この10月17日三木会合意を基礎とする本件合意の対象とはならず、実際、本件合意の成立に当たって使用された上記4(1)イ(エ)記載のホワイトボードに「≪事業者2≫」の名称は記載されていなかった。
また、本件審決が指摘する事実は、いずれも上記特段の事情の存在を否定する根拠とはならない。すなわち、本件5社は、≪事業者2≫を介して≪事業者1≫と交渉していたのであって、≪事業者2≫との間で交渉をしていたわけではないし、5社会における報告は、≪略称1≫に対する妥結済みの段ボールケースの値上げ幅のみであって、同様に≪事業者2≫向け段ボールケースが合意の対象になっていた根拠になるものではない。≪事業者1≫向け段ボールケースが≪事業者2≫を通じた取引の分も含めて同じ値上げ幅で値上げが実現していたことは、飽くまで交渉の結果にすぎない。
以上によれば、≪事業者2≫に対する売上額を課徴金の計算の基礎から除外すべき特段の事情が認められるから、同社に関する本件審決の上記認定は実質的な証拠を欠き、違法である。
b ≪事業者7≫及び≪事業者8≫関係
本件審決は、原告トーモクが≪事業者8≫の交渉窓口を兼ねる≪事業者7≫についての小部会に参加していたことをもって、原告トーモクは両社の値上げに関与していたと認定するが、この認定は形式的にすぎる。取引及び交渉の実質面に着目すれば、高めに設定された≪事業者8≫の段ボールケースについては、≪事業者B≫が≪事業者8≫と統合したことを契機に、平成23年及び平成24年当時も値下げ交渉が行われていた。
また、≪事業者7≫は、同社に対する販売シェアが最も高い段ボールケースメーカーとのみ値上げ交渉をしてきており、原告トーモクは≪事業者7≫と値上げ交渉を行える立場にはなかった。そうすると、仮に≪事業者8≫及び≪事業者7≫との取引についてカルテルが成立したとしても、原告トーモクは当該値上げカルテルの参加者とはいえないことになるから、≪事業者7≫及び≪事業者8≫に対する売上額を課徴金の計算の基礎から除外すべき特段の事情が認められ、上記各社に対する本件審決の上記認定は、実質的証拠に欠けるものとして違法である。
(イ) 原告レンゴーの主張
a ≪事業者2≫関係
原告レンゴーは、≪事業者1≫と直接的な取引をしておらず、≪事業者2≫を介して取引関係があったにすぎない。そして、原告レンゴーが≪事業者2≫と値上げ交渉等をするに当たって、≪事業者1≫に関する小部会に参加したことはないし、その小部会で≪事業者2≫向け取引が扱われたという事実はないから、上記特段の事情が認められ、上記≪事業者2≫に関する本件審決の上記認定は実質的証拠を欠き、又は理由不備ないし齟齬があるから、違法である。
b ≪事業者5≫関係
≪事業者5≫の工場等は、全国各地に点在している上、その競争状況は工場等ごとに異なっており、それぞれ競争相手も価格帯も異なっていた。そのため、同社本社に対する値上げの方針等について小部会で話し合っていた事実があるとしても、原紙価格の値上げ幅の設定という点を除けば、段ボールケースを購入する各工場等に対する現実の値上げ交渉に影響するものではなかったから、同社向け取引には上記特段の事情が認められ、同取引は、小部会を開催して話し合うことを実施方法としていた本件合意の対象とはならない。したがって、≪事業者5≫に関する本件審決の認定も実質的証拠に欠き、又は理由不備ないし齟齬の違法がある。
c ≪事業者6≫関係
≪事業者6≫については、10月31日5社会より前の平成23年10月14日の時点で、第一四半期分の入札が行われているところ、本件審決は、平成23年10月下旬頃に≪事業者6≫の担当者から再見積りの提出を要請されていたのに対して原告レンゴー、森紙業及び大日本パックスの3社が協議するなどしたとして、「・・・平成24年4月以降の取引価格は、再提出した見積書の内容に従って決定されていたことが認められる」と認定した。しかし、証拠(査312)によれば、原告レンゴー、森紙業及び大日本パックスの3社が協議した内容とは、日経市況を確認して設定し直すという程度のものにすぎず、小部会において同3社が再見積書を提出したことを確認した事実があるとしても、それ以降の小部会の開催状況は不明であり、同年4月以降の取引価格について具体的に確認し合うなどした形跡はうかがわれない。そうすると、≪事業者6≫向け取引の価格は本件合意とは無関係に定まっていたというべきであるから、同取引には上記特段の事情が認められ、上記≪事業者6≫に関する本件審決の認定は実質的証拠に欠け、又は理由不備ないし齟齬の違法がある。
【被告の反論】
(ア) 原告トーモクの主張に対する反論
a ≪事業者2≫関係
本件合意が10月17日三木会合意の成否にかかわらず成立したことは明らかである。また、本件合意は、東日本地区を地理的範囲とする10月17日三木会合意とは異なり、全国規模で営業活動を行う大手の段ボールメーカーで占められる本件5社のみの間で東段工の会合とは別の機会に取り交わされたものであって、その対象となる地理的範囲は東日本地区に限定されない。
10月31日5社会において「≪略称1≫」と記載し、≪事業者2≫と記載しなかったのは、10月31日5社会出席者にとって、「≪略称1≫」と記載すれば≪事業者2≫も含まれることが出席者の共通認識であったからにほかならない。また、平成23年11月10日及び平成24年1月27日開催の5社会における報告からすれば、≪事業者2≫と≪事業者1≫の値上げについて一体のものとして話し合われていたことがうかがわれ、そうである以上、両社が同じ値上げ幅で値上げが実現したことは、単なる交渉の結果にすぎないとはいえない。
以上によれば、≪事業者1≫のみならず≪事業者2≫も本件合意の対象とされていたことは明らかであり、本件審決の上記認定は実質的な証拠を欠くものではない。
b ≪事業者7≫及び≪事業者8≫関係
≪事業者7≫と≪事業者8≫が特定ユーザーとして本件合意の対象に含まれていたことは、小部会の出席者の供述から明らかである。≪略称2≫3社については交渉窓口会社が≪事業者7≫に一本化されていたことから、≪事業者8≫との値上げ交渉は≪事業者7≫との値上げ交渉と同じ内容であるところ、≪事業者7≫についての小部会に原告トーモクも参加していたから、原告トーモクが≪事業者8≫の値上げに関与していたことは否定できない。また、原告トーモクが≪事業者8≫との間で値下げ交渉をしていたとしても、上記協調行為の結果、≪事業者8≫との関係でも値上げを実現していたのであるから、上記値下げ交渉の実施は、当該商品が本件合意による相互拘束の対象から除外されていたことを示す特段の事情には当たらない。そして、≪事業者7≫の小部会には、上記のとおり原告トーモクも参加し、≪略称2≫3社から行われた購入方針説明の状況や≪略称2≫3社に対して提示する具体的な値上げ幅について情報交換が行われるなど、≪略称2≫3社を区別することなく情報交換が行われていた。
以上によれば、≪事業者7≫と≪事業者8≫も本件合意の対象になっていたことは明らかであり、本件審決の上記認定は実質的な証拠を欠くものではない。
(イ) 原告レンゴーの主張に対する反論
a ≪事業者2≫関係
原告らを出席者とする≪事業者2≫独自の小部会が開催されていなかったとしても、原告らは、≪事業者2≫を介して≪事業者1≫と交渉していたものとみられ、原告らが出席した5社会において、「≪略称1≫」の値上げに関して、≪事業者2≫に対する値上げ交渉の状況についても報告されていた。実際、このような値上げ交渉の結果、≪事業者1≫向け段ボールケースは、≪事業者2≫を通じた取引の分も含めて同じ値上げ幅で値上げが実現していたのであって、≪事業者2≫を通じた取引のみ本件合意による相互拘束から除外されていたことを示す特段の事情は認められない。
b ≪事業者5≫関係
原告レンゴーは、小部会における話合いは、原紙価格の値上げ幅の設定という点を除けば、段ボールケースを購入する各工場等に対する現実の値上げ交渉に影響しないと主張するが、原紙価格の値上げ幅の設定がこれを材料として作られる段ボールケースの値上げ幅に影響を与えることは明らかであり、このことは原告レンゴーも訴状において主張していたところである。
以上のとおり、≪事業者5≫との取引について本件合意による相互拘束が及んでいたことは否定できず、本件合意による相互拘束から除外されていたことを示す特段の事情は認められない。
c ≪事業者6≫関係
査312(3~6頁〔証拠の写し4714~4717丁〕)によれば、≪事業者6≫との取引価格が本件合意成立時点で既に決まっていたとは認められないし、本件合意成立後にも、原告レンゴー、森紙業及び日本パックス株式会社3社の担当者は、小部会において、≪事業者6≫に対する値上げの実施方法について情報交換を行い、これに従って値上げが実現していたのであるから、≪事業者6≫に販売する商品について、本件合意による相互拘束から除外されていたことを示す特段の事情があるとは認められない。
ウ 争点4(3)-課徴金の算定基礎となる売上金
【原告らの主張】
(ア) 原告トーモクの主張
a 本件審決は、施行令5条1項3号により「割戻金の支払を行うべき旨が書面によって明らかな契約」があった場合とは、割戻しの対象となる商品又は役務の引渡し前に、割戻金を支払うべきことが書面で明らかにされている場合に限られるとする。しかし、割戻金が「事後的に支払側の裁量によって支払われるなどしたもの」であるか否かは、事前の書面の交付の有無とは必ずしも連動するものではなく、書面の作成日によって課徴金の対象期間が左右されるような解釈は不合理であるから、本件審決が採用した上記解釈は、上記法令の解釈を誤るものであって、違法である。
b 仮に本件審決の考え方によるとしても、事後的に支払側の裁量によって支払われるなどしたものではなく、対価そのものの修正又はこれに準ずるものであることが客観的に明らかであるならば、当該割戻金は課徴金の算定基礎から除かれるベきものと解するのが相当であるところ、原告トーモクと≪事業者11≫との間の覚書は、見積書を介して決定された金額を支払うことを定めた合意を自動更新する中で支払の時期を確定させるために締結されたものにすぎない上、会計上も、覚書に記載の金員を引当金として設定し、支払時にこれを取り崩す処理を継続してきたのであるから、上記割戻金が対価そのものの修正又はこれに準ずるものであることは客観的に明らかである。そうすると、上記割戻金に関する本件審決の認定は、実質的証拠を欠き、違法である。
なお、本件審決は、原告トーモクが提出した平成22年4月16日付け見積書(審C共24の別紙9)は平成22年度の価格表であって、本件の実行期間に関するものではなく、これが平成23年度も継続していることは第三者からみて明らかではないと説示しているが、原告トーモクとの関係で問題となるのは、従前からこのような支払が継続されてきたものとして「あらかじめ」の要件を充たすか否かであるから、上記見積書が平成23年度に継続されていたかどうかのみを確認してみても全く意味がなく、本件審決の上記説示は合理性に欠けている。
(イ) 原告レンゴーの主張
段ボール業界は、表面上の取引価格を据え置いたまま「協力値引」の名目で実質的な引下げ交渉を行って取引価格を決定している。そうすると、協力値引による減額を考慮せずに課徴金の基礎となる売上額を算定した本件審決の認定は、実質的証拠を欠き、又は重大な理由不備ないし齟齬による違法がある。
【被告の反論】
(ア) 原告トーモクの主張に対する反論
a 施行令5条1項3号が控除される割戻金を限定しているのは、事後的に支払側の裁量によって支払われるなどしたものは対価の修正と認めるべきでないためであるから、契約の有無を最も客観的に証する契約書面の作成日を基準とし、当該締結日の後に引き渡されたものについてのみ控除の対象とすることは合理的な解釈である。
b 施行令5条1項3号は、課徴金の算定基礎から控除する対象として「割戻金の支払を行うべき旨が書面によって明らかな契約」と規定しているところ、原告トーモクが主張する平成22年4月16日付け見積書は、同号が定める契約に該当しないことが明らかである。また、原告トーモクと≪事業者11≫との間の割戻金に係る覚書(審C共31~審C共35〔同11383~11387丁〕)をみても、これが自動更新される旨の記載は一切ない。さらにまた、同条項の趣旨からすれば、原告トーモクにおいて会計上引当金として設定していたか否かは、施行令5条1項3号所定の割戻金の該当性を判断する上で問題とはならない。
c 原告トーモクが主張の証拠として提出する平成22年4月16日付け上記見積書(審C共24の別紙9)は、平成22年度の価格表であって、本件の実行期間に関するものではなく、これが平成23年度も継続していることは第三者からみて明らかではないし、自動更新されるものであることについての記載は一切ない。
(イ) 原告レンゴーの主張に対する反論
本件審決の上記「協力値引」に関する説示(本件審決案の理由第6の4(3)ア(51頁))に違法はない。
第3 当裁判所の判断
当裁判所は、原告らの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は以下のとおりである。
1 争点1(本件合意の成否)について
(1) 前提事実(5)(6)のとおり、本件5社は、平成23年8月下旬から同年10月中旬にかけ、段ボール原紙及び段ボール製品の値上げを公表した上、別紙5から7までのとおり、各特定ユーザーとの関係で一定の値上げを実施している。
本件審決は、上記第2の4(1)イのとおり、本件5社による上記各値上げは本件合意に基づくものであり、本件5社がこれを「共同して」行ったものであると認定した。
法2条6項にいう「共同して」に該当するためには、当該行為について、相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要と考えられる。そして、「意思の連絡」とは、複数の事業者の間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識し、これと歩調をそろえる意思があることを意味し、一方の対価引上げを他方が単に認識して認容するのみでは足りないものの、事業者間で相互に拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識し、暗黙のうちに認容することで足りると考えられる(東芝ケミカル事件東京高裁判決参照)。
この考え方を前提とすると、本件合意の成立が認められるためには、少なくとも暗黙のうちに、本件5社の間に「意思の連絡」、すなわち同内容又は同種の対価の引上げを実施することを相互に認識し、これと歩調をそろえる意思が存在していることが必要というべきである。本件審決は、これと同旨の判断枠組みを採用しており、その法令解釈に誤りはない。
原告トーモクは、上記第2の5(1)【原告トーモクの主張】アのとおり、本件のような短期的な値上げについての情報交換(短期の価格カルテル)においては、競争活動を通じて価格の引上げ幅等の調整を図ることは困難であることなどを理由に、具体的な特定価格への意見集約がされていることが必要であると主張する。しかし、後に検討するとおり、本件合意においては5社会の下にある小部会において特定ユーザー向け段ボールケースの具体的な値上げの幅や額を決定することが予定されており、実際、頻繁に、そうした目的の小部会が開催され、上記値上げの幅等が具体的に決定されていたというのであるから、短期的なカルテル合意の成立には具体的な特定価格への意見集約がされていることが必要であるとの原告トーモクの上記主張は、少なくとも本件合意には妥当しない。
また、原告トーモクは、本件審決の判断枠組みに関する説示は、上記高裁判決のそれを緩和するものであるとも主張するが、本件審決の説示にいう「同程度の対価の値上げ」という表現は、上記高裁判決の説示における表現(同内容又は同種の対価の引上げ)を言い換えたものにすぎず、これを緩和するものではないと考えられる。以上のとおり、原告トーモクの上記各主張はいずれも採用できない。
(2) そこで、争点1(本件合意の成否)について検討する。
ア 本件合意の成否を判断するに当たって、本件審決が認定した事実の概要は、前記第2の4(1)イ(ア)から(カ)までに記載のとおりである。
これらの事実は、本件審決の上記各記載末尾に掲記された査号証から合理的に形成された心証に基づき認定されたものであって、実質的証拠を欠くものとはいえない。
原告トーモクは、同原告の≪G1≫は、平成23年10月17日の三木会に引き続いて行われた10月17日5社会において、具体的な値上げ幅や値上げ時期についての発表をしていないと主張する。
確かに、原告トーモクの≪G1≫の供述調書(査233・4頁)等をみると、値上げの方針を聞かれれば答えていたとの供述が記載されているにとどまり、値上げの幅や時期について具体的な発言をしていないようにもみえる。
しかし、原告トーモクの≪G1≫が10月17日5社会において他の事業者の値上げ方針を聞いていたにとどまらず、平成21年の値下げ分を上乗せする方向で値上げを準備しており、値上げ予定日は平成23年12月1日とするなどと自社の値上げ方針についても発言、説明したことは、数名の出席者(王子コンテナーの工場長や営業担当部長、日本トーカンパッケージの工場長等)が一致して供述するところである上(査181(9~11頁)、査185(7、8頁)、査268(24、25頁)、本件審決が認定した10月17日5社会に至る経緯(前記第2の4(1)イ(ア)(イ))によれば、原告トーモク、王子コンテナー、森紙業及び日本トーカンパッケージの担当者は、原告レンゴーの≪A1≫に促され、平成23年10月中旬までに、社内で段ボール製品の値上げ方針を決定し、同年10月17日の三木会に出席し、更にこれに引き続いて行われた10月17日5社会に出席したところ、原告レンゴーの≪A1≫は、平成23年10月17日の三木会及び5社会における上記出席各社の回答内容を聴き、各出席者に対し、「いよいよスタートです、うまくやっていきましょう。」と発言したというのであるから、同日、原告トーモクの≪G1≫においても、他の本件5社と歩調を合わせるベく、自社の値上げに関する発言を行っていたとみるのが自然である。
そうすると、上記≪G1≫の発言の有無に関する本件審決の認定は、不合理なものではなく、実質的証拠を欠くものとはいえない。
イ そこで、本件合意の成否につき検討するに、本件審決が認定した事実及び前提事実(3)から(5)までによれば、広域ユーザー向け段ボールケースに係る取引について大半のシェアを占めていた本件5社は、①平成19年頃から5社会を開催して取引上の諸問題について情報交換を行っていたところ、②折からの各種原燃料価格の高騰を契機として、平成23年10月中旬までに主要な原紙メーカーの値上げ表明が出そろい、10月17日5社会において、出席各社から広域ユーザー向け段ボールケースの値上げ方針が示されたことから、今後小部会を開催するなどして具体的な値上げ幅等の条件について協議することや、値上げの進捗状況を管理することになる広域ユーザーをリストアップすることなどを確認した上、③10月31日5社会において、今後、本件5社の間で値上げの進捗状況を管理するべき広域ユーザーについての認識を共通にするため、原告レンゴーの≪A1≫において、ホワイトボードに、その対象となる特定ユーザー及びその交渉窓口会社を書き出し、これを各出席者がメモに取るなどして上記リストアップ作業を行ったこと、そして、④これ以降、本件5社は、別紙5及び6のとおり、特定ユーザーに対し、具体的な「値上げ実施予定日」を記載した値上げ要請文書を交付した上、別紙7のとおり、本件合意の趣旨を踏まえ、小部会等において具体的な値上げの幅等について交渉を重ね、その結果として、別紙5及び6記載の年月日に、一部の特定ユーザーを除いて、一致して、それぞれ値上げを実現するに至ったということができる。
以上の各事実を総合すると、本件5社間において行われた一連の事前交渉は、飽くまで値上げを目的として行われたものであって、単なる情報交換の場ではない上、その内容は、値上げの対象となる広域ユーザーをホワイトボードにリストアップし、これをメモに取るなど、参加者全員が共通認識を持ち得るような確実な方法により行われていること、そして、その結果、10月31日5社会以降、5社会や小部会において具体的な値上げの幅等についての交渉が進捗し、値上げ要請文書記載の値上げ予定日から2ないし4か月以内に、原紙代、加工賃及び販売価格いずれについても値上げが実現したものであり、しかも、その値上げの幅等は、偶然とはいえないほど足並みが一致していることなどの事情を指摘することができる。そして、これらの事情によれば、原告らを含む本件5社は、遅くとも平成23年10月31日5社会までに、相互に特定ユーザー向け段ボールケースの販売価格又は加工賃の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調を合わせる意思を形成し、本件合意を成立させるに至ったものと推認するのが合理的である。
そうすると、本件合意の成否に関する本件審決の上記認定は、原告らの各値上げが本件5社の値上げとは無関係に独自の判断によって行われたことなど「特段の事情」の存在が認められない限り、実質的証拠を欠くものとはいえない。
ウ 上記「特段の事情」の検討
(ア) 原告トーモクは、前記第2の5(1)【原告トーモクの主張】イ(ア)のとおり、10月31日5社会以前において、社独自の判断により、広域ユーザー向け段ボールケースの値上げを決定していた、すなわち、平成23年10月12日の工場長・部長会議において、同月7日付けの≪G2≫社長からの値上げ意向文書が配布され、値上げの幅及び時期を含めた段ボール製品の値上げ方針が社内で周知されていたと主張する(審特C3~8(いずれも各2頁)、審特C13、同C14・2、3頁)。
しかし、本件審決の認定した事実によれば、原告レンゴーは、平成23年8月26日、段ボール原紙の値上げと共に段ボール製品の値上げを公表した上、8月30日5社会及び9月26日5社会において、広域ユーザー向け段ボールケースについて、自社の値上げは公表どおり平成23年10月1日であると説明し、他の4社に対し、原告レンゴーに続いて値上げを行うよう促したところ、同年10月中旬までに、主要な原紙メーカーにおいて、段ボール原紙の値上げの表明が出そろったことから、原告トーモク、森紙業及び日本トーカンパッケージにおいても、社内で、段ボール製品の値上げ方針を決定したというのであるから、原告トーモクの上記値上げは、こうした値上げラッシュともいうべき流れの中で、本件5社の値上げに関する動向に影響を受けつつ選択、実現されたものとみるのが自然である。実際、原告トーモクの代表取締役である≪G2≫は、被告の担当者に対し、今般の値上げの理由に関して、平成23年度下半期(同年10月1日から平成24年3月31日まで)については翌年1月1日に一部の大口広域ユーザー(とりわけ飲料メーカー)の期替わりが予定されていたほか、平成23年9月下旬に王子板紙らが値上げを公表したことなどから同年11月末から同年12月初めにかけて値上げの交渉が始まることが予想されており、上記下半期のスタート時点において値上げに乗り遅れることはできなかったと供述している(審特C13・1から2頁)。
そうすると、平成23年10月12日の工場長・部長会議において、≪G2≫社長が同月7日付け値上げ意向文書を配布した事実は、原告トーモクの値上げが社独自の判断であったことの表れであるとはいえず、他に、同原告の上記値上げが社独自のものであったことをうかがわせる証拠はない。
よって、原告トーモクの上記主張及び立証は、上記「特段の事情」を基礎付けるに足りるものではない。
(イ) 原告トーモクは、前記第2の5(1)【原告トーモクの主張】イ(イ)のとおり、平成23年10月末の時点では段ボール原紙の実勢価格は上昇していなかったこと(審特21の別紙2・6頁)に加え、原紙値上げの重要な指標であるいわゆる日経市況が平成23年12月29日まで値上がりしなかった(審A共51)という事後的な事情があり、これに加えて、期替わりまであと5か月という時期であったこともあいまって、本件5社間を含む段ボールメーカーの間においては、幅広く特定ユーザー向け段ボールケースに関する協議を行い、カルテル合意を成立させることの基礎となるような信頼関係の構築は困難な状況にあったと主張する。
しかし、上記イのとおり、本件合意の締結は、10月31日5社会において、値上げの対象となる広域ユーザーをホワイトボードにリストアップし、これをメモに取るなど、参加者全員が共通認識を持ち得るような確実な方法により行われており、しかも、同5社会以降、5社会や小部会において具体的な値上げに幅等についての交渉が進捗し、値上げ要請文書記載の値上げ予定日から2ないし4か月以内に、原紙代、加工賃及び販売価格のいずれについても値上げが実現したのであって、以上の事実経過に照らすと、本件5社の間には、少なくともカルテル合意を成立させるだけの信頼関係は存在したものとみるのが自然である。原告トーモクの上記主張に係る事実は、上記「特段の事情」を具体的に基礎付けるに足るものとはいえない。
(ウ) 原告トーモクは、前記第2の5(1)【原告トーモクの主張】イ(ウ)のとおり、本件合意は、平成23年10月17日の三木会における値上げ合意(10月17日三木会合意)を基礎として成立しているところ、その基礎となるべき10月17日三木会合意は、同会の出席者に値上げを行う主観的認識がなかったことなどからみて、成立していたとはいえないから、本件合意の成否に関する上記認定は、実質的証拠を欠くとも主張する。
しかし、本件審決が認定した本件合意の締結に至る経緯に照らすと、前提事実(8)(関連事件との関係)を考慮に入れたとしても、同年10月17日の三木会におけるやりとりは、本件合意の形成・成立過程における重要ではあるが一つの転機にとどまり、この時点において成立した何からのカルテル合意を基礎として、これを契約(合意)の不可欠の要素として取り込みつつ本件合意が成立するに至ったものとみることはできない。そうすると、本件合意は、10月17日三木会合意を基礎として成立したものとはいえず、同合意の成否にかかわらず成立するものというベきであるから、原告トーモクの上記主張も前提を欠き、採用できない。
(エ) そして、他に、原告らの各値上げが本件5社の値上げとは無関係に独自の判断によって行われたことなどをうかがわせる事情は見当たらない。したがって、上記特段の事情は存在しないというベきである。
2 争点2(本件合意が一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであったか)について
(1) 法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい、共同して商品の販売価格を引き上げた場合には、その当事者である事業者らがその意思で、ある程度自由に当該商品の販売価格を左右することができる状態をもたらすことをいう(多摩談合新井組事件最高裁判決参照)。
(2) まず、本件合意(違反行為)が対象とする上記「一定の取引分野」の範囲を画定する。
ア 法2条6項所定の「一定の取引分野」とは、同条4項にいう「競争」が行われる場である市場を意味するところ、この点につき、本件審決は、前記第2の4(2)ア及びイのとおり、本件合意に係る「一定の取引分野」は特定ユーザー向け段ボールケースの取引分野をいうものと判断した。
イ そこで検討すると、上記「一定の取引分野」が要件の一つとされる理由は、当該競争が不当な取引制限としての共同行為によって実質的に制限されるか否かを判断するために、その対象となる市場(競争の場)の範囲を画定することにあるところ、本件審決が認定した事実及び前提事実(4)ア及びウによれば、本件合意の対象であるユーザーはいずれも広域ユーザー(特定ユーザー)であって、本件で問題とされている段ボールケースは、いずれも日本工業規格(「Z 1516:2003」)に基づく外装用段ボールシートを加工して製造される点で共通している上、本件5社は、10月31日5社会において、ホワイトボードに一括してリストアップした各特定ユーザーについて、本件合意を成立させ、その合意の下、5社会及び小部会を開催するなどして、競合する特定ユーザーごとに値上げの実施方法や交渉状況について情報交換を行うとともに、特定ユーザー全体について進捗状況に関する報告を受けながら、これらの値上げを実現させたものである。
以上の事実によれば、本件合意は事実上の拘束力(実効性)を有するカルテル合意として成立しており、その対象となる商品は、いずれも広域ユーザーである特定ユーザー向けの、日本工業規格に基づく外装用段ボールシートを加工して製造される段ボールケースであって、かつ、その交渉の範囲等は、この特定ユーザー向け段ボールケースの販売及び加工に係る取引全般に及んでいたものというべきである。このような事実関係の下では、一般的かつ客観的な見地からみて、本件合意による競争の実質的な制限の判断対象となる「一定の取引分野」(市場)は、特定ユーザー向け段ボールケースの販売及び加工に係る取引全般をもって画定すべきである。
ウ これに対し、原告トーモクは、前記2の5(2)【原告らの主張】ア及びイのとおり、各特定ユーザー向け段ボールケースの間には「需要の代替性」や「供給の代替性」がないから、法2条6項にいう「一定の取引分野」は特定ユーザーの交渉担当窓口ごとに画定されるベきであると主張し、原告レンゴーも、ほぼ同様の主張をしている。
確かに、一般論として、特定ユーザー向け段ボールケースであっても、個別のユーザーごとに仕様や値上げの対象等に違いがあることは否定できない。
しかし、「一定の取引分野」、すなわち一般的かつ客観的な市場の画定に関しては、一般に、個別ユーザーごとに競争関係が想定される場合であっても、これを重層的に画定することが可能であるところ(東京高等裁判所平成21年5月29日判決・公正取引委員会審決集第56巻第2分冊262頁〔東日本電信電話株式会社による審決取消請求事件〕参照)、上記のとおり、本件合意の対象となる商品は、いずれも日本工業規格に基づく外装用段ボールシートを加工して製造される段ボールケースである上、本件5社は、10月31日5社会においてリストアップされた各特定ユーザーについて、小部会等において、競合する特定ユーザーごとに段ボールケースの販売価格又は加工賃の引上げの実施方法や交渉状況、さらには値上げの進捗状況について情報を交換しながら、これらの値上げ活動を行い、頓挫することなく本件合意(価格協定)の目的を達成させていることからみて、個別ユーザーごとに想定される上記仕様や値上げの対象等の相違は、本件合意の形成とこれを具体化する過程において当然の前提として扱われ、代替性のあるものとして上記一連の値上げ交渉が行われたとみるのが合理的である。実際、上記10月31日5社会における特定ユーザー67社(交渉窓口会社40社)のリストアップの過程において、段ボール製品の代替性について疑義が出され、以後の協議が紛糾するなどした形跡はうかがわれない。
そうすると、本件合意においては、個別のユーザーごとに仕様等の違いが想定されるとしても、個々のユーザーにとって選択肢となる商品は、特定ユーザー向け段ボールケースという形で重層的に存在し、実質的な制限の有無の判断対象となる「市場」を形成しているというべきであるから、原告らの上記主張は前提を欠き、採用できない。
エ 以上によれば、「一定の取引分野」の画定に関する本件審決の判断は、実質的証拠を欠くものでなく、法令にも違反しない。
(3) 以上を前提に、本件合意が「競争を実質的に制限する」か否か検討する。
ア 「競争を実質的に制限する」か否かに関する本件審決の判断は、前記第2の4(2)ア及びウに記載のとおりである。
そこで検討すると、法2条6項にいう「競争を実質的に制限する」とは、上記一定の取引分野において、当該取決めによって、その当事者である事業者らがその意思で、ある程度自由に販売価格又は加工賃を左右することができる状態をもたらすことをいう(多摩談合新井組事件最高裁判決参照)。
前提事実(4)エのとおり、本件合意が成立した平成23年度において、本件5社が特定ユーザーに販売する段ボールケースの総販売金額(914億1295万円余り)は、特定ユーザーに販売される段ボールケースの総販売金額(1093万5332万円余り)の8割余りを占めていたことからすると、本件5社は、上記特定ユーザー向け段ボールケースの取引分野において、その意思で、ある程度自由に販売価格又は加工賃を左右することができる状態にあったということができる。したがって、本件合意は、特定ユーザー向け段ボールケースの販売価格又は加工賃について、その取引分野における「競争を実質的に制限する」ものというべきである。
なお、本件5社の市場占有率(シェア)について、仮に、総販売金額ではなく総販売数量を使用したとしても、両者には相関的・比例的な関係があるのが通常であるから、結論に差異は生じない(なお法7条の2第3項参照)。
イ 以上によれば、「競争の実質的制限」に関する本件審決の上記判断は、法令に違反せず、実質的証拠に欠けるものでもない。
3 争点3(本件排除措置命令の適法性)について
上記争点に関する本件審決の判断(要旨)は、前記第2の4(3)のとおりであるところ、その判断は、実質的証拠に欠けるところがなく、法令にも違反しない。
よって、本件審決の上記判断に違法はない。
4 争点4(本件各課徴金納付命令の適法性)について
(1) 争点4(1)-本件各課徴金の算定期間(実行期間)の始期について
ア 法7条の2第1項本文にいう「実行期間」とは、原則として、違反行為の「実行としての事業活動を行った日」(以下「実行期間の始期」という。)から「実行としての事業活動がなくなる日」(以下「実行期間の終期」という。)までの期間をいうところ、本件審決は、前記第2の4(4)アに記載の理由から、本件の実行期間は、原告レンゴーについては平成23年11月1日から平成24年6月4日まで、原告トーモクについては平成23年12月1日から平成24年6月4日までと判断した。
イ 前提事実(7)のとおり、本件5社は、平成24年6月5日に被告の立入検査を受けた日までは本件違反行為を継続していたが、同日以降、本件違反行為を行っていないから、本件違反行為は同日をもって取りやめられたものとみられる。そうすると、本件違反行為の「実行としての事業活動」はその前日に終了したというべきであるから、実行期間の終期は、原告らのいずれについても同月4日であって、この点に関する本件審決の上記判断に違法はない。
ウ 次に、実行期間の始期について検討する。
(ア) 本件審決は、前記第2の4(4)アのとおり、当該値上げの予定日をもって実行期間の始期とすべきと判断したのに対し、原告トーモクは、前記第2の5(3)【原告らの主張】ア(ア)a(a)及び(b)のとおり、実行期間の始期とは、違反者が最初に販売価格を引き上げた日をいうと主張する。
そこで検討すると、法7条の2第1項が定める課徴金制度は、既存の刑事罰の定め(法89条)やカルテルによる損害を回復するための損害賠償制度(法25条)に加えて、カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として設けられたものであるから(最高裁平成17年9月13日第三小法廷判決・民集59巻7号1950頁)、同項が、実行期間の始期につき「当該行為の実行としての事業活動を行った日」と規定する趣旨は、不当な取引制限に係る合意の拘束力が及んでいる「事業活動」が行われた日以降については、具体的な値上げの実現の有無やその可能性のいかんを問わず、当該カルテルに基づく不当な利得の発生を擬制した上、これを違反行為者から課徴金として剥奪しようとするものであるところ、上記値上げ合意(カルテル)により値上げ予定日が定められ、その日からの値上げに向けて交渉が行われた場合には、仮に、その交渉の結果として、値上げ予定日に実際に値上げをすることができなかったとしても、少なくとも値上げ予定日以降においては、カルテル合意の拘束力が及んでおり、競争者の低価格攻勢に対する競争的な値下げをほとんど検討することなく値上げ交渉を行うことができたものというベきであるから、当該値上げ予定日に、本件合意(違反行為)の「実行としての事業活動」が開始されたものとみるのが合理的である。
そうすると、本件合意(カルテル)の下では、値上げ予定日に実際に価格を引き上げることができたか否かはもとより、その可能性の程度や認識の有無を問わず、当該値上げ予定日をもって実行期間の始期に当たるものと考えるべきである(なお、原告トーモクが指摘する先例(平成元年4月25日付け平成元年(納)第1号ないし第29号)は、少なくとも本件との関係では先例的価値を有するものではない。)。
よって、原告トーモクの上記主張は、いずれも前提を欠くものであり、実行期間の始期に関する本件審決の判断に違法はない。
なお、原告トーモクの前記第2の5(3)ア【原告らの主張】(ア)a(b)記載に係る主張は、飽くまで実際に値上げが行われた日をもって実行期間の始期とする見解を前提とするものであるところ、本件審決は、この前提を採用しないことを明確に説示しており、実質的に、原告トーモクの上記主張に対する判断も示されているということができる。そうすると、原告トーモクの上記主張に対して直接的な説示がされていないとしても、判断の遺脱があるとはいえない。
(イ) 以上を前提として、本件合意の下における具体的な値上げ予定日について検討する。
a 本件審決は、前記第2の4(4)ア(ア)及び(イ)のとおり、本件5社が特定ユーザーに向けて発した値上げを要請する旨の文書(値上げ要請文書)記載の値上げ予定日を基に実行期間の始期を認定した。これに対し、原告らは、前記第2の5(3)ア【原告らの主張】(ア)b及び(イ)のとおり、本件合意の一要素として、段ボール製品の販売価格を変更し得る「期替わりの時期」をもって値上げ予定日とするとの黙示に合意が成立していたというべきであるから、期替わりの時期をもって実行期間の始期と認定すべきであると主張し、さらに、原告トーモクにおいては、仮に上記黙示の合意が認められないとしても、値上げの予定日は、値上計画集計表記載の「実行期間」の始期である平成24年1月1日と認定すべきであると主張する。
b そこで検討すると、本件審決が認定した事実によれば、本件合意の成立時点においては具体的な値上げの時期は定められておらず、その後に実施される小部会等において具体的な値上げの時期や幅等を決定することが取り決められていたところ、原告らは、別紙5及び別紙6のとおり、多くの特定ユーザーに対し、期替わり前の時期を値上げ実施予定日として記載した値上げ要請文書を提出して値上げ交渉を行っていた。
そして、本件審決が認定するところによれば、①平成23年12月1日5社会において、原告レンゴーの≪A1≫が、平成23年12月1日からの値上げを実現するために、交渉窓口会社に対して値上げの申入れに対する回答の期限を設けるとの提案を行ったところ(査268〔63~64頁〕)、②平成24年1月24日の小部会において、期替わりを同年4月1日としていた≪事業者13≫(別紙1の別表の番号≪略≫)から、値上げ実施日を同年2月1日として1kg当たり6円の値上げに応じるとの回答があれば、これを受け入れることが確認されたほか(査291〔3~7頁〕、査395〔1~9頁〕)、③5社会においても、交渉過程において期替わり前に値上げを認め得る旨の回答をしていたユーザーについて報告があり(≪事業者14≫につき査268(72頁)、≪事業者15≫につき査268(94頁、116頁))、④現に、≪事業者16≫(別紙1の別表の番号≪略≫)は、期替わりである同年4月1日より前の同年2月1日から値上げを実施しており、また、⑤原告レンゴーの値上げ計画を記載したファイル中の計画に係る「期日」欄には、複数の特定ユーザーについて期替わり前の時期が記載されていた(査141(添付資料1~3枚目))というのである。
以上の各事情を総合すると、原告らを含む本件5社は、期替わり前の値上げが容易でないという事情があったとしても、本件合意(価格協定)が存在していることにより、少なくとも値上げ要請文書に記載された値上げ予定日以降は、低価格攻勢を仕掛けてくる競争者の出現をほとんど危惧することなく、可及的に速やかに期替わり前の値上げの実現に向けて交渉することのできる状態となっていたとみることができるから、本件合意(違反行為)の「実行としての事業活動」が開始されていたというべきである。
そうすると、本件合意の下における実行期間の始期は、値上げ要請文書記載の値上げ予定日に基づいて認定すべきであると考えられる。
c 原告らは、上記値上げ要請文書は、本件5社の早期値上げを求める姿勢を対外的に表明するための形式的なものにすぎないとした上、本件合意の一要素として、段ボール製品の販売価格を変更し得る「期替わりの時期」をもって値上げ予定日とするとの黙示の合意が成立していたと主張する。
しかし、上記bにおいて説示したところからも明らかなとおり、上記値上げ要請文書は、本件合意の有する拘束力(競争制限効果)の実効性を高める役割を担っていたものというべきであり、単なる値上げの対外的アピールのためだけの形式的な文書とはいえない。
加えて、別紙6のとおり、平成24年4月1日を期替わりとする取引先が多くを占めているところ、原告トーモクが平成23年10月31日頃作成したという値上計画集計表(審特C9の添付資料)には、値上げの実施期日としてそれよりも3か月も早い日(平成24年1月1日)が一律に記載されていることからみて、原告らにおいては、期替わり時期でなければ値上げを実現できないという共通認識を有していたとはいえない上、繰り返し述べるとおり、本件合意の成立時点においては具体的な値上げの時期は定められておらず、その後に実施される小部会等において、その具体的な値上げの時期や幅等を決定することが取り決められていたのであるから、本件合意の成立時点において、黙示にも、段ボール製品の販売価格を変更し得る「期替わりの時期」をもって値上げ予定日とする具体的な合意が成立していたとみることは困難である。
原告トーモクは、仮に上記黙示の合意が認められないとしても、値上げ要請文書は形式的なものにすぎず、値上げの予定日は、値上計画集計表記載の「実行期間」の始期である平成24年1月1日と認定すべきであると主張するが、値上げ要請文書が単なる値上げアピールのための形式的な文書でないことは既に説示したとおりである。また、仮に、同原告が主張するとおり、値上計画集計表が値上げに関する正確なシミュレーションを意図して作成されたものであり、営業担当者の率直な認識が反映されているものであったとしても、集計表それ自体は、飽くまでも同原告社内における内部資料にとどまるものである上、上記bのとおり、本件合意(価格協定)が存在していることにより、値上げ要請文書記載の値上げ予定日の時点では、既に本件合意(違反行為)の実行としての事業活動が開始されていたものというべきであるから、それにもかかわらず敢えて本件合意の実行期間の始期を集計表記載の値上げ予定日まで遅らせる合理的な理由はないものと考えられる。
なお、原告トーモクは、値上計画集計表記載の値上げ予定日(平成24年1月1日)をもって実行期間の始期と認定すべきであるとの主張(前記第2の5(3)ア【原告らの主張】(ア)b(c))に対する判断を本件審決は遺脱していると主張するが、本件合意における実行期間の始期は値上げ要請文書記載の値上げ予定日に基づいて認定すべきであるとする本件審決の第6の4(1)ウの説示(本件審決書案44頁以下)は、当然、値上計画集計表記載の値上げ予定日は実行期間の始期に関する認定資料とはなり得ないことを含意しているものと考えるのが合理的であるから、判断の遺脱があるとはいえない。
d 以上によれば、原告ら及び原告トーモクの各主張は理由がなく、実行期間の始期に関する本件審決の判断に違法はない。
(2) 争点4(2)-課徴金の算定対象となる「当該商品」の該当性
ア 法7条の2第1項にいう「当該商品」とは、一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為が行われた場合において、その対象商品の範疇に属する商品であって、当該違反行為による拘束を受けたものをいうと考えられる。そして、対象商品の範疇に属する商品については、原則として違反行為の影響下で取引がされたものと推定されるから、一定の商品につき違反行為を行った事業者が明示的又は黙示的に当該商品を対象から除外するなど、当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り、当該違反行為による拘束が及んでいるものとして、課徴金の算定の対象となる「当該商品」に含まれるものというベきである(東京高等裁判所平成22年11月26日判決・公正取引委員会審決集第57巻第2分冊194頁 [ポリプロピレン課徴金出光興産事件]参照)。
イ 前記2で検討したとおり、本件違反行為すなわち本件合意の対象となる商品は、特定ユーザー向け段ボールケースであるから、上記特段の事情が認められない限り、特定ユーザー向け段ボールケースについては、本件違反行為による拘束が及んでいるものとして、課徴金の算定対象となる商品に該当することになる。本件審決は、前記第2の4(4)イのとおり、原告らが上記特段の事情があると主張する≪事業者2≫(原告ら)、≪事業者7≫及び≪事業者8≫(原告トーモク)、≪事業者5≫(原告レンゴー)及び≪事業者6≫(原告レンゴー)について、いずれも上記「特段の事情」は認められないと判断したので、以下、これについて検討する。
(ア) ≪事業者2≫向け商品について
原告らは、≪事業者2≫向け商品について上記「特段の事情」が認められる理由として、前記第2の5(3)イ【原告らの主張】(ア)a及び(イ)aのとおり主張する。
しかし、前記1(2)ウ(ウ)で説示したとおり、本件合意は、10月17日三木会合意を基礎として成立したものとはいえない。したがって、10月17日三木会合意の対象に(東日本には交渉担当窓口が存在しない)≪事業者2≫が含まれないとしても、そのことは、本件合意の対象となる商品から≪事業者2≫向けの商品が除外されていることを示す事情とはいえない。
確かに、本件合意の締結に当たって使用された前記第2の4(1)イ(ウ)記載のホワイトボードには、「≪略称1≫」との記載があったのみで、「≪事業者2≫」の名称は記載されていない。また、別紙7(≪略≫及び≪略≫)のとおり、原告らは、≪略称1≫及び≪事業者2≫関係の小部会に出席していない。しかし、本件審決が認定したとおり、≪事業者2≫は、≪事業者1≫向けの段ボールケースに係る取引に介在していた商社であって、10月17日5社会の出席者の供述によれば、その出席者は、上記の「≪略称1≫」との記載につき、≪事業者1≫のほか≪事業者2≫を含むものと理解しており(査142〔8頁〕、査268〔33頁〕、査274〔7~8頁〕・本件審決案38、48頁参照)、また、別紙7(番号≪略≫、≪略≫)のとおり、≪事業者1≫向け段ボールケースは≪事業者2≫を通じた取引の分も含めて同じ値上げ幅で値上げが実現していたというのであるから(ちなみに、上記値上げにおいては、乳製品部門のほか、飲料部門の原紙代も値上げ幅が一致しており、原告らが主張するように、偶々交渉の結果が一致したにすぎないとみることはできない。)、≪事業者1≫向けと≪事業者2≫向けの各段ボールケースは代替性・競合性を有しており、≪事業者1≫向けのうち、≪事業者2≫を通じた取引のみ本件合意の対象から除外する理由があったとはいえない。そして、他に、≪事業者2≫向け商品を本件合意の対象から除外する明示又は黙示の合意の存在をうかがわせる証拠はない。
したがって、上記商品について「特段の事情」は認められない。
(イ) ≪事業者7≫及び≪事業者8≫向け商品
原告トーモクは、≪事業者7≫及び≪事業者8≫向け商品について上記「特段の事情」が認められる理由として、前記第2の5(3)イ【原告らの主張】(ア)bのとおり主張する。
しかし、本件審決が認定(本件審決書案50頁)したとおり、10月31日5社会の出席者の供述(査137〔8頁〕、査140〔11~12頁〕)からみて、別紙4のとおりリストアップされた特定ユーザーのうち、「≪略称2≫」との記載は、両社を含む≪略称2≫3社を意味するものであったことが明らかである。そして、≪略称2≫3社については、交渉窓口会社を≪事業者7≫に一本化していたことから、≪事業者8≫との値上げ交渉は≪事業者7≫との値上げ交渉と同じ内容であったとうかがわれるところ、≪事業者7≫についての小部会には、原告トーモクも参加していた(査213〔4~11頁〕、査307〔4~7頁〕、審特A1〔5~6頁〕)というのであるから、原告トーモクは上記値上げカルテルの参加者であるとみるのが合理的であって、この点に関する本件審決の認定が実質的証拠を欠くものとはいえない。
そうすると、仮に、原告トーモクが主張するように、≪事業者8≫を統合する予定であった≪事業者B≫の価格水準まで下げるため、≪事業者8≫との間で値下げ交渉をしていたとしても、その一方で、同原告は、上記交渉の結果により、≪事業者8≫との関係においても値上げを実現していたのであるから、両社向け段ボールケースに代替性、競合性があることは否定し難い。したがって、上記値下げ交渉の継続それ自体は、≪事業者7≫及び≪事業者8≫向け商品が本件合意による相互拘束の対象から除外されていたことを示す事情とはいえず、他に、≪事業者7≫及び≪事業者8≫向け商品を本件合意の対象から除外する明示又は黙示の合意の存在をうかがわせる証拠はない。
したがって、上記商品について「特段の事情」は認められない。
(ウ) ≪事業者5≫向け商品
原告レンゴーは、≪事業者5≫向け商品について上記「特段の事情」が認められる理由として、前記第2の5(3)イ【原告らの主張】(イ)bのとおり主張する。
しかし、本件審決手続における原告レンゴーの主張によれば、≪事業者5≫本社生産管理部との交渉により、工場が受け入れることの可能な値上げ幅の上限が決められることになり、また、本件訴訟における同原告の主張によっても原紙価格の値上げ幅の設定はこれを材料として作られる段ボールケースの値上げ幅に影響を与えるというべきであるから、違反行為としての本件合意が各工場についての実際の値上げ幅の決定に影響を及ぼすものであることは否定し難い。
そうすると、原告レンゴーが主張するところは、これらの商品が本件合意による相互拘束から除外されていたことを示す事情とはいえず、他に、≪事業者5≫向け商品を本件合意の対象から除外する明示又は黙示の合意の存在をうかがわせる証拠はない。
したがって、上記商品について「特段の事情」は認められない。
(エ) ≪事業者6≫向け商品について
原告レンゴーは、上記≪事業者6≫向け商品について上記「特段の事情」が認められる理由として、前記第2の5(3)イ【原告らの主張】(イ)cのとおり主張する。
そこで検討すると、本件審決が証拠(査312)により認定した事実によれば、①原告レンゴー、森紙業及び大日本パックス株式会社の担当者は、平成23年10月初旬から≪事業者6≫に提出する見積価格について検討していたところ、②同月下旬頃、≪事業者6≫の担当者から見積書の再提出を要請されたため、上記3社で協議の上、同年4月1日以降の見積価格について、同年3月末時点での段ボール原紙の日経市況を確認して設定し直すこととし、③平成23年11月中旬頃、小部会において、それぞれその旨の見積書を再提出し、これを確認の上、④これらの再提出された見積書の内容に従って、平成24年4月以降の取引価格が決定されていたというものである。
このうち、上記①から③までの認定は、実質的証拠に欠けるところはないことが明らかである。
次に、上記認定④が実質的証拠に欠けるか否かを検討するに、確かに、上記見積書が再提出された後の小部会の開催状況や見積書の確認状況は明らかではない。しかし、本件5社のうち上記3社が協議の上、再提出した上記見積書は、同年4月1日以降の見積価格について、同年3月末時点での段ボール原紙の日経市況を確認して設定し直すことを目的として作成されたものであるから、上記見積書の内容に従って同年4月以降の取引価格が決定されたものと推認されるところ、もともと本件合意においては、その成立後に実施される小部会等において、その具体的な値上げの時期や幅等を決定することが予定されていたから、小部会の開催状況や見積書の確認状況が明らかでないからといって、それだけで直ちに上記推認を妨げるものではなく、本件審決の上記④の認定も実質的証拠に欠けるものとはいえない。
そうすると、原告レンゴーの上記主張は、≪事業者6≫向け商品が本件合意による相互拘束から除外されていたことを示すものとはいえず、他に、同社向け商品を本件合意の対象から除外する明示又は黙示の合意の存在をうかがわせる証拠はない。
したがって、上記商品について「特段の事情」は認められない。
ウ 以上によれば、上記の各特定ユーザー向け商品に関する「特段の事情」の有無についての本件審決の判断に違法はない。
(3) 争点4(3)-課徴金の算定基礎となる売上金について
ア 争点4(3)のア-協力値引きの控除について
本件審決は、前記第2の4(4)ウ(ア)のとおり、上記協力値引きは施行令5条1項各号のいずれにも該当しないから、課徴金の算定の基礎となる売上金から控除されないと判断したのに対し、原告レンゴーは、前記第2の5(3)ウ【原告らの主張】(イ)のとおり、段ボール業界は、表面上の取引価格を据え置いたまま「協力値引」の名目で実質的な引下げ交渉を行って取引価格を決定していると主張し、その証拠として集計表(審特A16)を提出している。
しかし、この証拠だけでは、上記「協力値引き」の趣旨・目的等は明確でなく、本件合意の対象となった商品(特定ユーザー向け段ボールケース)の販売価格との関連性も明らかではない。そうすると、上記集計表は、「協力値引き」名目で実質的な販売価格の引下げ交渉が行われ、その結果として実際にその値引きが行われていたことを認めるに足りる的確な証拠とはいえず、他に、原告レンゴーの上記主張を客観的に裏付けるに足りる証拠はない。したがって、「協力値引き」に関する本件審決の判断に違法はない。
イ 争点4(3)のイ-割戻金の控除について
本件審決は、前記第2の4(4)ウ(イ)a(b)ⓑのとおり、施行令5条1項3号所定の「割戻金の支払を行うべき旨が書面によって明らかな契約」があった場合とは、割戻しの対象となる商品又は役務の引渡し前に、割戻金を支払うべきことが書面で明らかにされている場合に限られるのであり、事後に書面で定めた割戻金はこれに該当しないと判断したのに対し、原告トーモクは、前記第2の5(3)ウ【原告らの主張】(ア)a及びbのとおり、施行令5条1項3号の趣旨は必ずしも事前の書面の交付と連動するものではなく、対価そのものの修正又はこれに準ずることが客観的に明らかであれば足りるとした上、原告トーモクと≪事業者11≫との間の覚書は、見積書を介して決定された金額を支払うことを定めた合意を自動更新する中で支払の時期を確定させるために締結されたものにすぎない上、会計上も、覚書に記載の金員を引当金として設定し、支払時にこれを取り崩す処理を継続してきたのであるから、上記割戻金が対価そのものの修正又はこれに準ずるものであることは客観的に明らかであるなどと主張する。
しかし、施行令5条1項3号が控除される割戻金を限定する趣旨は、事後的に支払側の裁量によって支払われるなどしたものは対価の修正と認めるべきでないことにある。そうすると、同号が予定している上記「対価の修正」といえるためには、それがあらかじめ書面によって明らかにされ、第三者にも容易に説明可能なものであることが必要というべきであるから、施行令5条1項3号所定の「割戻金の支払を行うべき旨が書面によって明らかな契約」があった場合とは、割戻しの対象となる商品又は役務の引渡し前に、割戻金を支払うベきことが書面により明らかにされている場合に限られ、原告トーモクが主張するような例外的処理を認める余地はない。
なお、原告トーモクは、同原告と≪事業者11≫との間の覚書について、対価の修正があらかじめ契約書面によって明らかにされている場合に当たるかのような主張をしている。しかし、上記覚書の内容(審C共31~審C共35〔同11383~11387丁〕)を子細に検討しても、原告トーモクの担当者が陳述(審C共24)するように、当該割戻金が「別段の合意が締結されない限り翌年度も同額を支払う」ものとして自動更新されることをうかがわせる記載は一切ない。また、施行令5条1項3号の趣旨からみて、覚書に係る金員を会計上引当金として設定し、支払時にこれを取り崩す処理を継続していた否かは、上記結論を左右する事情とはいえない。
以上のとおり、本件審決の上記判断は、施行令5条1項3号の解釈を誤るものでもなく、実質的証拠に欠けるものでもないのないのであって、違法はない。
第4 結論
以上によれば、本件審決に法82条1項1号及び2号に該当する取消事由はない。
よって、原告らの請求はいずれも理由がない。

令和4年9月16日

東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官  村 上 正 敏
裁判官  伊良原 恵 吾
裁判官  内 堀 宏 達
裁判官  中 山 雅 之
裁判官  鈴 木 拓 児    


注釈 《 》部分は、公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。


















































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