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マイナミ空港サービス㈱による排除措置命令等取消請求控訴事件

独禁法3条前段、独禁法7条の2
東京高等裁判所第3特別部

令和4年(行コ)70

判決

令和5年1月25日

同代表者代表取締役 ≪X1≫
同訴訟代理人弁護士 谷本 誠司
同         植村 幸也
同         村上 亮
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被控訴人(原審被告) 公正取引委員会
同代表者委員長    古谷 一之
同指定代理人     別紙指定代理人目録記載のとおり

令和5年1月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和4年(行コ)第70号排除措置命令取消、課徴金納付命令取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和3年(行ウ)第4号、同年(行ウ)第124号)
口頭弁論終結日 令和4年9月26日

判 決
東京都港区元赤坂一丁目7番8号
控訴人(原審原告) マイナミ空港サービス株式会社
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が、控訴人に対し、令和2年7月7日付けでした令和2年(措)第9号排除措置命令を取り消す。
3 被控訴人が、控訴人に対し、令和3年2月19日付けでした令和3年(納)第1号課徴金納付命令を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は、被控訴人が、控訴人は、八尾空港における機上渡し給油(航空燃料を航空機の燃料タンクに給油することにより引き渡す方法による給油)による航空燃料の販売に関して①自社の取引先需要者に対し、エス・ジー・シー佐賀航空株式会社(以下「佐賀航空」という。)から機上渡し給油を受けた場合には自社からの給油は継続できない旨等を通知し、②佐賀航空から機上渡し給油を受けた自社の取引先需要者からの給油に係る依頼に応じる条件として、佐賀航空の航空燃料と自社の航空燃料の混合に起因する事故等が発生した場合でも控訴人に責任の負担を求めない旨等が記載された文書への署名又は抜油を求めることにより、自社の取引先需要者に佐賀航空から機上渡し給油を受けないようにさせており、これが私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(ただし、令和元年法律第45号による改正前のもの。以下「独禁法」という。)2条5項の私的独占に該当し、独禁法3条に違反する(以下、独禁法3条に違反するとされたこれらの行為を併せて「本件違反行為」という。)として、令和2年7月7日、独禁法7条1項に基づき、排除措置を命じる(令和2年(措)第9号。以下「本件排除措置命令」という。)とともに、令和3年2月19日、控訴人に対し、令和元年法律第45号による改正後の独禁法7条の9第2項に基づき、課徴金として612万円を国庫に納付することを命じた(令和3年(納)第1号。以下「本件課徴金納付命令」という。)のに対して、控訴人が、本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の各取消しを求めた事案である。
2 原判決は、控訴人が、上記各命令の取消事由として、本件排除措置命令は、上記①及び②の行為には排除効果がない上、自己の危難を避けるための合理的根拠に基づく行為であり正当化事由があったから、独禁法2条5項の私的独占に該当するものではなかったのに、これを看過してされた違法なものであり、本件排除措置命令を前提としてされた本件課徴金納付命令も違法であると主張したのに対し、上記①及び②の行為は、独禁法2条5項に規定する排除行為に該当し、「一定の取引分野における競争を実質的に制限するもの」であるとともに、「公共の利益に反して」の要件にも該当するものであるから、上記①及び②の行為は、同法2条5項の「私的独占」に当たり、同法3条の規定に違反すると判断し、控訴人が主張するその余の取消事由の存在も認められないとして、控訴人の請求をいずれも棄却する旨の判決(原判決)をした。
控訴人は、原判決を不服として控訴した。
3 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲証拠〔書証は、特に断らない限り枝番号を含む。以下同じ。〕又は弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
⑴ 当事者等
ア 控訴人
控訴人は、東京都港区に本店を置き、航空燃料の販売業等を営む株式会社であり、成田国際空港、東京国際空港、中部国際空港、関西国際空港、大阪国際空港、新千歳空港、広島空港、八尾空港、名古屋飛行場、東京都東京ヘリポート及び広島ヘリポート(以下、これらの空港等を総称して「直営11空港等」といい、空港法〔昭和31年法律第80号〕2条に規定する空港及びその他の飛行場を併せて「空港等」という。)において、国内石油元売会社から仕入れた航空燃料を給油会社(自ら機上渡し給油を行う事業者をいう。以下同じ。)として販売している。
イ 佐賀航空
佐賀航空は、佐賀市に本店を置き、航空燃料の販売業等を営む株式会社であり、平成24年7月に経済産業大臣に石油販売業の届出をした後、国外の石油精製業者から輸入した航空ガソリン(後記⑵ア)の販売事業を開始し、令和元年11月時点において、帯広空港、仙台空港、八尾空港、北九州空港、佐賀空港、大分空港及び宮崎空港において給油会社として航空燃料(ジェット燃料を含む。)を販売していた。
なお、八尾空港に本社を置く航空事業者(航空法に規定する航空運送事業(同法2条18項)及び航空機使用事業(同条21項)を併せて「航空事業」といい、航空事業を営む者を「航空事業者」という。以下同じ。)である≪AA≫(以下「≪AA≫」という。)は、佐賀航空とグループ会社の関係にある。
⑵  航空燃料の概要
ア 航空燃料の油種・等級
民間航空機向けの航空燃料の油種には、大別して「ジェット燃料」と「航空ガソリン」の2種類がある。
ジェット燃料は、タービンエンジンを搭載した航空機に用いられる航空燃料であり、控訴人及び佐賀航空を含む国内の給油会社が販売しているジェット燃料はJET A-1である。
航空ガソリンは、ピストンエンジンを搭載した航空機に用いられる航空燃料である。控訴人及び佐賀航空を含む国内の給油会社が販売している航空ガソリンは、AVGAS100LLである。国内で販売されている航空ガソリンは、平成26年4月以降、全て、国外で精製されたAVGAS100LLが輸入されたものである。
イ 航空燃料の規格・取扱指針
(ア) JET A-1の規格・取扱指針
a JET A-1の規格
石油連盟(日本の石油元売会社で構成される業界団体)は、日本において、国際的な規格等に準拠して、「共同利用貯油施設向け統一規格」(以下「石連規格」という。)を作成している。
石連規格は、日本国内の空港の共同利用貯油施設(複数の国内石油元売会社が共同して利用する貯油施設)におけるJET A-1の品質規格を定めたものである。
b JET A-1の取扱指針
石油連盟は、日本において、国際機関の定める指針等を母体として、日本における歴史、実績、現状等を考慮の上、「ジェット燃料取扱基準に関する指針」(以下「石連指針」という。)を作成している。
石連指針は、石連規格と同じく、共同利用貯油施設を用いて航空機にJET A-1を給油する場合を対象にした指針である。
(イ) AVGAS100LLの規格・取扱指針
AVGAS100LLには国際的な規格が複数存在し、これらの規格には、AVGAS100LLとしての規格値やその規格値を満たしているかを確認するための試験方法が定められている。
石油連盟は、日本において、JET A-1とは異なりAVGAS100LLについて、規格や取扱指針を定めていない。
ウ 同油種・同等級の航空燃料の混合について
航空法、同法施行規則等には、同一規格の航空燃料どうしの混合を禁止又は制限する規定は存在しない。
また、通常、航空機を飛行させる者は、複数の空港等を利用しており、必要に応じて、それら空港等における給油会社から機上渡し給油を受けている。そのため、航空機の燃料タンク内では、異なる給油会社から給油を受けた同一規格の航空燃料の混合が生じている。(乙15、弁論の全趣旨)
⑶ 八尾空港の概要等
ア 八尾空港は、大阪府八尾市に所在し、国土交通大臣によって設置され管理される空港(以下「国管理空港」という。)である。同空港には、その事務処理のため国土交通省大阪航空局(以下「大阪航空局」という。)八尾空港事務所(以下「八尾空港事務所」という。)が置かれている。
八尾空港は、事業用若しくは自家用の小型飛行機若しくはヘリコプター又は消防及び警察の航空隊のヘリコプター等の離発着に利用されており、民間航空機の定期便の就航がない。
イ 八尾空港における給油会社は、平成28年11月1日より前は控訴人のみであったが、同日、佐賀航空が同空港での航空燃料の販売を開始したため、控訴人及び佐賀航空の2社となった。控訴人及び佐賀航空が八尾空港において販売する航空燃料の油種・等級は、ジェット燃料であるJET A-1及び航空ガソリンであるAVGAS100LLである。
ウ 国管理空港において、国の管理する土地、建物その他の施設を借用するなどして航空燃料の構内販売を行う場合、空港管理規則(昭和27年運輸省令第44号)12条又は12条の2に基づき、当該構内営業の内容に従い、地方航空局長又は空港事務所長の承認を得る必要がある。
地方航空局長又は空港事務所長は、空港管理上必要があるときは、営業者等に対し、施設又は営業の状況等について報告を求め(空港管理規則24条)、また、空港管理上特に必要があるときは、営業者に対し、営業の停止その他当該営業について必要な措置を命じ(同規則25条2項及び3項)、さらに、営業者等が法令若しくは空港管理規則に基づく命令又は承認に付した条件に従わなかったときは、構内営業の承認を取り消すことがある(同規則26条1項及び2項)。
エ 八尾空港協議会は、八尾空港の発展を図るため、安全の確保、円滑公正な運用、環境の整備等に関し、航空当局及び地方自治体に協力し、かつ意見具申又は陳情を行うとともに会員相互の意思疎通等を行うことを目的として設立された任意団体である(八尾空港協議会会則3条〔乙30〕)。
八尾空港協議会の正会員は、八尾空港で航空事業又は構内営業権を有し航空関連事業を行う法人であり理事会で承認した者とされ、八尾空港協議会の目的に賛同する官公庁等を理事会の推薦により賛助会員にすることができるとされている(八尾空港協議会会則4条及び6条)。
平成28年12月当時における八尾空港協議会員は原判決別紙「平成28年12月時点の八尾空港協議会員」記載の17名(賛助会員1名を含む。)であった。その後、少なくとも令和元年10月まで、会員に変更はない。
⑷ 八尾空港における供給者の概要
ア 控訴人の事業活動について
(ア) 控訴人の八尾空港における事業活動の概要
控訴人は、昭和47年4月以降、平成28年11月1日に佐賀航空が参入するまでの間、同空港の唯一の航空燃料給油会社として航空燃料の販売事業を行ってきた。そして、佐賀航空が八尾空港における航空燃料の販売事業に参入した後も、少なくとも平成31年1月まで、供給量ベースで八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売分野(以下「本件市場」という。)の8割を超えるシェアを保持していた。
控訴人が八尾空港に所在する控訴人の八尾事業所において航空燃料の需要者(以下、単に「需要者」という。)に対し航空燃料を販売する方法は、機上渡し(航空燃料を航空機の燃料タンクに直接給油することにより引き渡す方法)、ドラム缶渡し(ドラム缶に航空燃料を充てんして引き渡す方法)、ローリー渡し(航空燃料をタンクローリーで出荷し、需要者の貯蔵タンク等に航空燃料を注入することにより航空燃料を引き渡す方法)の3種類に大別される。
控訴人は、需要者との間で航空燃料の継続的な売買に係る契約(以下「継続売買契約」という。)を締結して、取引口座を開設した上、掛け払いで航空燃料を販売しているところ(控訴人と継続売買契約を締結している需要者を、以下「取引先需要者」という。)、当該契約を締結していない需要者に対しては、機上渡し給油の都度、現金払いにより航空燃料を販売している。
控訴人は、遅くとも昭和47年9月28日付けで、国土交通省大阪航空局長(平成13年1月5日以前は運輸省大阪航空局長をいう。以下「大阪航空局長」という。)から、八尾空港における航空燃料の販売について第1類営業(空港管理規則12条1項の規定に基づく構内営業であり、空港内の国の管理する土地、建物その他の施設を借用して営業を行う場合である。)の承認を受け、その後、当該承認が更新され続けており、控訴人の給油施設及び給油車両は八尾空港内にある。(乙34)
控訴人の八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の売上高は、控訴人の直営11空港等における機上渡し給油による航空燃料の売上高の中で、平成27年度ないし平成30年度の各年度(ただし、平成30年度については平成30年4月1日から平成31年1月31日までをいう。以下同じ。)において、名古屋飛行場に次いで2番目に高いものであった。
(イ) マイナミ給油ネットワークについて
a マイナミ給油ネットワークの概要
控訴人は、控訴人の直営11空港等以外の空港等において航空燃料の供給販売事業を営む給油会社との間で業務委託契約を締結し、控訴人の取引先需要者が、当該空港等に飛来した場合に、当該給油会社(他社に機上渡し給油を再委託している航空燃料の販売会社も含む。以下、「提携先給油会社」といい、後記の≪A≫と併せて「提携先給油会社等」という。)に申し出れば、①提携先給油会社から控訴人が給油量相当量の燃料を購入する、②控訴人が提携先給油会社に機上渡し給油業務の代行を委託する、③控訴人が当該取引先需要者に当該燃料を販売するという仕組みを構築し、これにより、控訴人は、当該取引先需要者が当該空港等において控訴人との取引口座で給油を受けられるようにしている。
この仕組みは、航空機の乗員が給油代金の支払に必要な高額な資金を持ち歩くことなく国内の多くの空港等で機上渡し給油を受けたい、との取引先需要者からの要請に応えるために構築されたものである。
また、福岡空港には、控訴人のグループ会社である≪A≫(以下「≪A≫」という。)が給油会社として存在し、控訴人は、同社との間で給油業務委託に関する契約を締結し、同社を通じて航空燃料を販売している。
(以下、①控訴人の直営11空港等における給油サービス、②上記仕組みによる提携先給油会社による給油サービス、及び③≪A≫による給油サービスからなる全国の給油ネットワークを併せて「マイナミ給油ネットワーク」という。)
b マイナミ給油ネットワークの利用可能空港等
平成29年度に航空燃料の給油実績のあった全国の公共用の空港等91か所のうち、同年度において、控訴人が、マイナミ給油ネットワークにより取引先需要者に対して航空燃料の販売を行うことが可能な空港等は80か所(控訴人の直営11空港等11か所及び提携先給油会社等の空港等69か所)であり、実際に販売した実績のある空港等は69か所(控訴人の直営11空港等11か所及び提携先給油会社等の空港等58か所)であった。
c マイナミ給油ネットワークの利用状況
八尾空港協議会員のうち、≪B≫、≪C≫、≪D≫、≪E≫、≪F≫、≪G≫、≪H≫、≪I≫及び≪J≫の9社は、平成29年度の実績において、いずれも、控訴人が唯一の給油会社である名古屋飛行場で控訴人から給油を受けていたほか、その他の空港等においてもマイナミ給油ネットワークを利用して機上渡し給油を受けていた。
(ウ) 八尾空港以外における控訴人の地位等
平成28年12月以降、少なくとも令和元年11月までの間、名古屋飛行場、広島ヘリポートには控訴人以外に給油会社は存在していなかった。なお、東京都東京ヘリポートには、控訴人と≪K≫の2社の給油会社が存在していたところ、JET A-1は両社とも取り扱っていたが、AVGAS100LLは控訴人のみが取り扱っていた。
また、平成28年12月以降、少なくども令和元年11月までの間、福岡空港には、≪A≫以外に給油会社は存在していなかった。
イ 佐賀航空の八尾空港における事業活動
佐賀航空は、平成27年11月13日、八尾空港事務所長から第2類営業(空港管理規則12条の2第1項の規定に基づく構内営業であり、空港内の国の管理する土地、建物その他の施設において行う営業で、第1類営業以外の場合である。)の承認を受け、平成28年11月1日から八尾空港で機上渡し給油による航空燃料の販売を開始した。
佐賀航空は、その給油施設が八尾空港の外(隣接地)にあるため、八尾空港を利用する需要者から機上渡し給油の依頼を受けてから、機上渡し給油を開始するまで、通常の場合、控訴人と比べて10分程度多く時間を要する。(甲90の1、2、乙22、34、48、49)
⑸ 八尾空港における需要者の概要
八尾空港の給油会社から機上渡し給油を受ける需要者には、①八尾空港に拠点を置く需要者と、②他空港等を拠点とする需要者、具体的には、他の空港等から八尾空港を目的地又は経由地として同空港に航空機を飛行させる航空事業者、官公庁並びにその他の法人及び個人とがあり、①として、八尾空港に拠点を置く航空事業者及び航空機の整備事業者、八尾空港に格納庫を置いて消防ヘリコプターの運航を行う大阪市消防局及び警察ヘリコプターの運航を行う大阪府警察、自家用機を八尾空港に定置する法人及び個人がいる。
上記①の八尾空港に拠点を置く需要者のうち、後記⑺アの平成28年12月7日付け八尾空港協議会員宛て文書の通知先となった≪B≫、≪C≫、≪D≫、≪L≫、≪E≫、≪F≫、≪G≫、≪H≫、≪I≫、≪J≫及び大阪市消防局の11名(以下「八尾空港協議会員11名」という。)が本件市場における需要の約8割を占めている。
⑹ 佐賀航空の八尾空港における営業の開始
ア 八尾空港事務所長は、平成27年11月13日、佐賀航空による同年10月13日付けの八尾空港における航空燃料の販売についての第2類営業の承認申請を承認した。
イ 佐賀航空は、平成28年9月28日、八尾空港協議会に入会を申し込んだ。これを受けて、同年10月6日、八尾空港協議会の臨時理事会が開催されたが、佐賀航空の入会申込みについて結論は出ず、同月20日開催の臨時理事会において、控訴人以外の出席理事全員の賛成により、佐賀航空の入会が承認された。
ウ 佐賀航空は、同年11月1日、八尾空港において機上渡し給油による航空燃料の販売事業を開始した。
佐賀航空が、八尾空港でジェット燃料(JET A-1)の販売を開始するに当たり、同月、石油連盟(日本の石油元売会社で構成される業界団体)の一機構であるJIG国内委員会に加入した。
⑺ 控訴人による需要者に対する通知行為等
ア 平成28年12月7日付け八尾空港協議会員宛て文書による通知
控訴人は、佐賀航空が八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売を開始したことを受け、平成28年12月7日、八尾空港協議会員11名を訪問して、同日付け同協議会員宛ての「八尾空港おける航空機給油について」(原文ママ)と題する文書(以下「12月7日文書」という。)により、佐賀航空のように国内の石油元売会社から航空燃料を仕入れていない給油会社はその取扱いに係る知識及び理解が不足していることが多いとした上で、佐賀航空の航空燃料と控訴人の航空燃料の混合に起因する航空機に係る事故等に控訴人は責任を負えないなどとして、佐賀航空から機上渡し給油を受けた場合、控訴人からの給油の継続はできない旨、提携先給油会社等からの給油の継続は困難になる旨を通知した(以下「12月7日通知」という。)。
イ 平成29年2月10日付け消防局宛て文書による通知
控訴人は、八尾空港協議会員11名のうちの1名である大阪市消防局が、平成29年1月25日、同年2月及び3月分の八尾空港の機上渡し給油によるジェット燃料の購入契約の相手方を佐賀航空に決定したことを受け、同年2月10日、大阪市消防局に対し、同日付け同消防局宛ての「当社直営空港での燃料販売について」と題する文書(以下「2月10日文書」という。)により、佐賀航空の航空燃料は控訴人が国内の石油元売会社から仕入れている航空燃料と同等の品質管理を経ているとはいえず、佐賀航空の航空燃料と控訴人の航空燃料が混合した場合、航空機に係る事故が発生した際の原因の追究が困難になるなどとして、控訴人が契約の相手方となれない期間においては、八尾空港、名古屋飛行場、広島ヘリポート等における機上渡し給油による航空燃料の販売を停止する旨を通知した(以下「2月10日通知」という。)。
ウ 平成29年3月15日付け顧客宛て文書による通知
控訴人は、平成29年3月15日付けで、12月7日文書の内容を簡素にした「八尾空港おける航空機給油について」(原文ママ)と題する顧客宛て文書(以下「3月15日文書」といい、これと12月7日文書及び2月10日文書とを併せて「本件通知文書」という。)を12月7日文書の配布先である八尾空港協議会員11名を含む取引先需要者261名に送付し、佐賀航空の航空燃料と控訴人の航空燃料の混合に起因する航空機に係る事故等に控訴人は責任を負えないなどとして、佐賀航空から機上渡し給油を受けた場合、控訴人からの給油の継続はできない旨を通知した(以下「3月15日通知」という。)。
エ 平成29年5月中旬頃以降の免責文書への署名又は抜油を求める対応
控訴人は、平成29年5月中旬頃以降、佐賀航空から機上渡し給油を受けた需要者からの航空燃料の給油に係る依頼に応じる条件として、実際に給油が行われる航空機のパイロット又は整備士等に対し、佐賀航空の航空燃料と控訴人の航空燃料の混合に起因する航空機に係る事故等が発生した場合に控訴人に責任の負担を求めない旨を確認する文書(以下「免責文書」という。)への署名を求め、これに応じない場合には、航空機の燃料タンク内の航空燃料を抜き取ること(以下「抜油」という。)を求めていた(以下「免責文書・抜油対応」といい、12月7日通知、2月10日通知、3月15日通知及び免責文書・抜油対応を併せて「本件通知行為等」という。)。
⑻ 本件通知行為等の取止め等
ア 被控訴人は、平成30年5月22日、控訴人の行為が独禁法に違反する疑いがあるとして、立入検査を実施した。
イ 控訴人は、令和2年3月、本件排除措置命令案に係る意見聴取手続に先立ち、開示証拠の閲覧又は謄写を行った。
控訴人は、当該閲覧により、佐賀航空が、平成30年6月からジェット燃料(JET A-1)を専ら国内石油元売会社から仕入れて販売していると控訴人に報告していること等が判明したなどとして、令和2年3月25日付け「弊社発信の2017年3月15日付け『八尾空港における航空機給油について』などにてお知らせした弊社の対応のうち、JET A-1に関する対応の取止めについて」と題する文書(以下「3月25日文書」という。)により、取引先需要者に対し、今後は、佐賀航空からJET A-1の給油を受けた機体についても、他の給油会社から給油を受けた機体と同様に給油する旨を通知した(以下「3月25日通知」という。)。
ウ 被控訴人は、本件排除措置命令に先立ち、意見聴取手続を実施した後、令和2年7月7日、控訴人に対し、独禁法7条1項に基づき、本件排除措置命令を行った。本件排除措置命令を記載した排除措置命令書(以下「本件排除措置命令書」という。)は同月8日に控訴人に送達された。
エ 控訴人は、本件排除措置命令に基づく措置として、取締役会において本件通知行為等を取りやめる旨を決議し、取引先需要者及び佐賀航空に対し、令和2年8月20日付けの文書により、その旨を通知し、当該通知は同月21日から同月28日にかけて各宛先に到達した。(乙97、98)
⑼ 本件課徴金納付命令
被控訴人は、令和3年2月19日、控訴人に対し、本件違反行為が独禁法2条5項に規定する私的独占に該当し、同法3条に違反するものであるとした上で、本件違反行為の実行期間を平成29年8月21日から令和2年8月20日までの3年間と認定するとともに、独禁法施行令(ただし、令和2年政令第260号による改正前のもの。)9条に基づき算定される本件違反行為の実行期間における八尾空港における機上渡し給油による航空燃料に係る控訴人の売上額を6億1233万2236円と認定し、独禁法7条の2第4項、令和元年法律第45号による改正後の独禁法7条の9第4項、7条の8第2項に基づき算出された612万円を課徴金として納付するよう命じ、本件課徴金納付命令を記載した課徴金納付命令書は令和3年2月22日、控訴人に送達された。(乙112、113)
4 争点及びこれに関する当事者の主張
⑴ 排除行為該当性(争点1)
(被控訴人の主張の要旨)
本件通知行為等が独禁法2条5項の「他の事業者の事業活動を排除」する行為(以下「排除行為」という。)に該当するか否かは、本件通知行為等につき、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、他の事業者である佐賀航空の本件市場での事業活動の継続を著しく困難にするなどの効果を持つものといえるか否かによって決すべきであるところ、本件通知行為等は、排除行為に該当する。
ア 12月7日通知について
(ア) 12月7日通知は、本件市場において圧倒的なシェアを有しており、佐賀航空より競争上優位な立場にある控訴人が、本件市場における航空燃料の供給の全てを長年控訴人に依存しており、本件市場における需要の約8割を占める主要な需要者である八尾空港協議会員11名に対して、佐賀航空から機上渡し給油を受けた場合において、八尾空港を含む直営11空港等において控訴人から給油を受けられなくなるリスクのみならず、全国約70か所の空港等に所在する控訴人の提携先給油会社等からの給油が受けられなくなるリスクがあることを提示することにより、本件市場における需要の約8割を占める主要な需要者が佐賀航空と取引を開始することを強く牽制ないし抑制するものである。
(イ) そして、控訴人は、自由競争経済秩序の下で能率競争を行うことで需要者に選択される手法を検討すべきであったところ、これとは異なる手段を選択し、需要者が佐賀航空と取引を開始することを強く牽制ないし抑制させた上、需要者である八尾空港協議会員11名に対し、事実上、佐賀航空のみから給油を受けるか、控訴人のみから給油を受けるかの二者択一を迫る状況を強い、需要者の商品選択の自由を歪めたのであり、かかる行為は、自由競争経済秩序の基本である能率競争とは、およそ相容れない。
(ウ) 以上によれば、控訴人が12月7日通知をする行為は、それ自体、需要者が佐賀航空と取引を開始することを強く牽制ないし抑制することを通じて、佐賀航空の事業活動を人為的に制約し、その競争的抑制を緩和するものであって、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、他の事業者である佐賀航空の本件市場での事業活動の継続を著しく困難にするなどの効果を持つ。したがって、12月7日通知は、「他の事業者の事業活動を排除する」行為に該当する。
イ 2月10日通知及び3月15日通知
2月10日通知及び3月15日通知は、12月7日通知により成立した排除行為に係る排除効果を強化するものである。
2月10日通知は、佐賀航空から給油を受けている限り、控訴人からの給油を受けられない旨を需要者に通告することにより、また、3月15日通知は、12月7日通知と同様、控訴人の取引先需要者が佐賀航空から給油を受けた場合には、控訴人からの機上渡し給油の継続が受けられなくなるリスクがあることを提示することにより、本件市場における需要者が佐賀航空と取引を開始し又は継続することを牽制ないし抑制するものである。そして、特に、3月15日通知は、通知の対象者を取引先需要者約250名に拡大している。
したがって、2月10日通知及び3月15日通知は、12月7日通知と同様の内容を繰り返すことにより、また、通知の対象となる需要者の範囲を大幅に拡張して、排除の包囲網を最大限拡大することにより、12月7日通知により成立した排除行為に係る排除効果を強化するものである。
ウ 免責文書・抜油対応
本件における控訴人による排除行為は、12月7日通知により直ちに成立し、2月10日通知及び3月15日通知により、その排除効果がより強化されていたところ、平成29年5月中旬以降に実施された免責文書・抜油対応は、以下のとおり、当該排除行為について、その排除効果を維持するものである。
控訴人の免責文書・抜油対応は、佐賀航空から給油を受けた需要者についても、当該文書への署名に応じ、又は、抜油に応じれば、控訴人が給油に応じるとするものであった。しかし、需要者にとって、そのような文書に署名すべき義務はないところ、機上渡し給油の現場で署名を求められる需要者の従業員(パイロット又は整備士等)にとって、あたかも事業者として控訴人の免責を認めるかのような文書に署名することには大きな負担が伴う。また、需要者としても、航空機に係る事故等が発生した場合において、法律上、控訴人が損害賠償責任を負う場合も含め控訴人の損害賠償責任を免責するかのような文書に応じることには、リスクないし負担が伴う。抜油についても、需要者にとっては抜油に応じる必要はないところ、控訴人と需要者のどちらが抜油の経済的負担を負うのかが明らかでなく、抜油に伴う時間的ロスも生じることとなる。
これらのリスクないし負担は、佐賀航空から給油を受けた後に控訴人から給油を受ける度に生じる一方で、需要者において控訴人と取引をする必要も否定できないことから、免責文書・抜油対応は、本件市場における需要者が佐賀航空と取引を開始し又は継続することを引き続き牽制ないし抑制する効果を有する。
したがって、免責文書・抜油対応は、12月7日通知により成立した排除行為に係る排除効果並びに2月10日通知及び3月15日通知によってより強化された排除効果を維持するものである。
エ 本件通知行為等が一連・一体のものとして排除行為に該当すること
12月7日通知、2月10日通知、3月15通知及び免責文書・抜油対応(本件通知行為等)は、いずれも佐賀航空が本件市場に参入したことを契機として連続して行われたものであり、行為に至る経緯が共通し、時期も近接しており、また八尾空港において佐賀航空を利用する(又は利用する可能性のある)航空燃料の需要者に対して行われたものであって、行為の相手方も共通しており、2月10日通知及び3月15日通知、免責文書・抜油対応は12月7日通知の効力を維持・強化するものであるから、一連・一体の一つの行為ととらえることができる。
そして、前記アないしウによれば、本件通知行為等は、能率競争とは相いれない行為であり、本件市場の需要者の自由な選択を歪めるものであって、正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有し、かつ佐賀航空の利用を抑制する効果を有するものといえる。このような佐賀航空の利用の抑制効果が生じる範囲は本件市場の大部分の需要者に及び、行為が行われた期間は約3年7か月と長期間にわたっており、利用抑制効果の程度は著しいものであった。したがって、本件通知行為等は、佐賀航空の本件市場での事業活動の継続を著しく困難にする効果を有するものといえる。
オ 控訴人の排除の意図が本件通知行為等の排除効果を推認させること
控訴人は、以下の事実からすれば佐賀航空を排除する意図を有しており、これは、本件通知行為等の排除効果を推認させる。
(ア) 本件通知文書や免責文書の記載は、佐賀航空の八尾空港への参入を契機として、客観的に合理的な根拠なしに、佐賀航空の航空燃料と控訴人の航空燃料が需要者の航空機の燃料タンク内で混合すると航空事故等が発生するかのように記載するものであるとともに、控訴人から航空燃料の機上渡し給油を受ける条件として、佐賀航空から機上渡し給油を受けないこと又は免責文書に署名すること若しくは抜油対応を求めるものである。
(イ) 控訴人は、平成27年6月から同年7月頃、佐賀航空が八尾空港に参入するとの情報に接すると直ちに反対の姿勢を表明し、八尾空港事務所に対して佐賀航空の構内営業の承認をしないよう働きかけ、同年9月頃、八尾空港協議会員から支持を集めるため、燃料混合のリスクを突如持ち出し、「二股をかける業者には給油しない」こととし、八尾空港協議会員に対して、佐賀航空から給油を受けた場合、控訴人からの給油ができない旨伝え、また、自社の思惑どおりに佐賀航空の航空燃料の品質・安全性に対する払拭できない不安を抱かせ、構内営業の承認に反対する旨の意見書を同協議会が提出するよう誘導するなど、佐賀航空が八尾空港の構内営業に参入できないように働きかけていた。
(ウ) 控訴人は、平成27年9月末頃以降、八尾空港における航空燃料の販売に参入しようとしている佐賀航空について、追い詰めるような追い込みを対処方針として進める、早めに排除したい等の佐賀航空排除の意識を社内で共有していた。
カ 人為性がないとの控訴人の主張に対する反論
(ア) 本件通知行為等は、自社に生じる危難を回避するためにとったやむを得ない措置とはいえないこと
以下の事情によれば、本件通知行為等が、「自社に生じる危難を回避するためにとったやむをえないもの」ということはできない。
a 控訴人が自社に生じる危難と主張する3点(①民事訴訟、刑事訴訟を提起された場合の応訴の負担、②事実誤認による判決に基づく損害賠償責任あるいは有罪判決の負担、③風評被害)について、控訴人の免責文書・抜油対応は、これらのリスクを回避するための有効な手段ではない。
また、12月7日文書の、提携先給油会社からの給油の継続も困難になる旨の記載は、控訴人に生じる危難を回避する目的との関係で必要性を欠く。
さらに、航空機事故の原因の疑いをかけられるリスクは抽象的である上、控訴人が、給油作業の実施の各段階において品質確認を漏れなく実施し、記録を残しているなら当該リスクはさらに低減される。
加えて、控訴人の給油する航空燃料と控訴人以外が給油する航空燃料との混合は日常的に生じているほか、航空燃料の品質の劣化が生じる可能性は様々あるにもかかわらず、控訴人は佐賀航空による航空燃料の品質のみを取り上げている。
b 控訴人の主張する事情は佐賀航空の航空燃料について適切な品質管理が図られていないとの合理的な疑いを生じさせるものではなく、また控訴人が実際に疑っていたとも認められない。
仮に、佐賀航空の航空燃料に問題があり、事故の発生の危険を有することが合理的に疑われる事情があったなら、控訴人としては、規制当局に対してその証拠を提供し、しかるべき是正措置を求めるべきであり、それで足りる。
c 控訴人が、本件違反行為により航空当局や競争当局から調査・処分を受けるという大きなリスクを負ってまでも本件違反行為に及んだ理由は、佐賀航空の事業活動を排除すること以外に考え難い。
控訴人は、当初、過当競争を理由に八尾空港参入を阻止しようとしていたにもかかわらず、航空機使用事業者である会員には、「自分の事業にとっての利害のほうが分かりやすいということがわかった」として、燃料混合リスクを強調して参入を阻止する方針に転換をしており、前記オのとおり控訴人が排除の意図を有していることも踏まえれば、「自社に生じる危難を回避するため」とのストーリーは後付けである。
(イ) 控訴人が自社に生じる危難を回避する目的を真に有していたとは認められないこと
仮に、控訴人が主張するとおり、佐賀航空との混合給油により控訴人に倒産の危機を招来しかねない、事業継続を図る上で最大ともいえるリスクが生じると控訴人が考えており、当該危難を回避する目的を真に有していたのであれば、控訴人の社内において、刑事上の責任、民事上の損害賠償責任及び風評被害のリスクを危惧する発言やその影響を懸念する発言が繰り返し交わされ、また、この点について顧問弁護士に相談等するのが自然であり、それらの発言や検討があったことを客観的に裏付ける会議等のメモや電子メール等の証拠が残っているはずである。
しかるに、控訴人社内の議論においては、平成28年11月1日の佐賀航空による八尾空港での航空燃料販売事業の開始直後に行われた同月10日の社内会議も含め、混合給油による刑事上の責任、民事上の損害賠償責任、風評被害のリスクを懸念し、その影響が議論された形跡がない。また、控訴人は、免責文書対応が独占禁止法に違反しないかについては、これを懸念し、弁護士に相談していたが、免責文書対応が控訴人の民事上の責任を免責する法的効果を有するか等については相談した形跡がない。
以上の事実は、控訴人が自社に生じる危難を回避する目的を有していたこととは整合しない。
(控訴人の主張の要旨)
ア 本件通知行為等の排除効果について
控訴人の本件通知行為等には排除効果が認められず、むしろ佐賀航空に控訴人の取引先需要者を譲る効果があるから、排除行為に該当しない。
(ア) 本件市場における控訴人の市場シェアは、排除効果の根拠とならない。控訴人の地位が需要者の購買行動に影響したという事実はなく、そもそも競争に影響するのは供給能力のシェアである。本件市場において佐賀航空の市場シェアが低くとも控訴人に対する牽制力になるはずである。したがって、本件通知行為等よりも前に控訴人が独占事業者であったこと及び佐賀航空の参入後の控訴人の市場シェアが約8割であったことは行為の排除効果に無関係である。
(イ) 八尾空港とそれ以外の空港の両方で控訴人から給油を受ける需要者が存在するとしても、控訴人以外の給油会社から給油を受ければ足りるし、控訴人が直営11空港等を有していることは、本件市場とは異なる市場の事情であって、八尾空港での排除効果には関係がない。給油会社が控訴人のみの空港等があることについても、控訴人は他の空港等の販売価格を引き上げることができるから、八尾空港において効率的な競争者の参入を阻止するインセンティブがない。①控訴人の直営11空港等における給油サービス、②控訴人の提携先給油会社による給油サービス、及び③≪A≫による給油サービスからなる給油ネットワークは決済代行をするにすぎないから、排除効果の根拠となるものではない。
(ウ) 控訴人と佐賀航空の給油時間の差が仮にあるとしても、それは10分程度にすぎず、有意な差とはいえない。給油サービスの需要の代替性が高ければ、需要者は価格次第で「早くない給油サービス」も選択するので、佐賀航空が排除されるということにはならない。
(エ) 12月7日通知が、需要者に対し佐賀航空のみから給油を受けるか控訴人のみから給油を受けるかの二者択一を迫るものだとしても、それ自体は独禁法上否定的評価を受けるわけではないから、排除効果の根拠とならない。
(オ) 免責文書・抜油対応については、需要者は抜油よりも負担の軽い免責文書への署名を選ぶのが通常であるところ、署名による負担は重くないので、佐賀航空との取引に影響を与えないから、排除効果を有する行為ではない。
(カ) 本件市場の需要者は、燃料の品質や、継続して取引していたこと等、それぞれ取引において重視する事情が異なり、控訴人の行為がなくとも需要者は佐賀航空とは取引しなかったであろうといえるから、控訴人の行為は需要者の意思決定に影響を与えていない。控訴人による排除措置の履行後も佐賀航空と取引を開始した需要者はいなかったことは、控訴人の行為に排除効果がなかったことを裏付けている。
イ 本件通知行為等の人為性について
自社に生じる危難を回避するためにとった防御的行為等、事業活動上合理性を有する行為は、正常な事業活動の範囲内であり、「排除行為」に該当しないことは条理に照らして当然の法解釈である。控訴人の行為は、以下のとおり、自社に生じる危難を回避するためにやむを得ず行った防御的行為であり、社会通念に照らして事業活動上合理性を有するものであったから、正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有しておらず、排除行為に該当しない。
(ア) 航空機の運航の安全性は、品質管理体制のとられた製油所で精製され、かつ、規格値に適合することが確認された航空燃料が、汚染されることなく、その内容・品質を維持した状態で航空機に給油されることによって担保されている。必要な品質管理体制がとられず、汚染され、規格値を外れる等した航空燃料が航空機に給油されれば、安全性は担保されず、航空機事故を招く危険が高まる。航空機事故がひとたび発生すれば、自社の航空燃料の品質(給油業務の品質も含む)に問題なかったことの立証は困難であるから、民事上の損害賠償義務の負担や刑事上の有罪判決を受けることになりかねず、事業継続上の重大な危険を負うおそれがある。そこで、事故に巻き込まれる危険を回避し、責任の所在が不明となる事態を避けることは、事業継続上必要な防御対応であるから、品質が確保されていない蓋然性がある航空燃料が給油された航空機への給油をできるだけ避けることは、控訴人にとって事業活動上の合理的な行為にほかならない。
(イ) 佐賀航空の航空燃料については、適切な品質管理を図られていないことが具体的に強く疑われる事情があった。
すなわち、佐賀航空は、国内石油元売会社から航空燃料を仕入れる給油会社が通常行う調達方法と異なり、自ら海外で航空燃料を購入してISOタンクコンテナで海上輸送し、陸揚げ保管、国内輸送、タンクへの積み替え等も全て自社で行う方法をとっており、そのような輸送の過程で様々な汚染が生じる蓋然性が避けられないにもかかわらず、平成27年9月1日開催の八尾空港協議会の場における品質管理体制等の説明が不十分なままで事業開始に及んだ。
また、佐賀航空においては、平成12年から平成21年までの9年間に死亡事故2件を含む4件の航空機事故が発生し、平成22年9月に国土交通大臣から航空輸送の安全確保に関する業務改善勧告を受け、さらに平成27年9月に仙台空港で給油員がヘルメットを被らずに給油作業をするなど、給油業務について従業員の安全教育が適切に行われているか疑わしい状況があった。
本件訴訟提起後の調査において、佐賀航空の航空ガソリン(AVGAS100LL)は、16件中3件がASTM規格の規格値を外れていたこと、ジェット燃料(JET A-1)も、12件中1件が石連規格の規格値を外れていたことが判明しており、佐賀航空の「ISOタンクは燃料専用のものを用いる」との主張は虚偽であったことが疑われ、控訴人の行為の合理性が事後的に裏付けられている。
(ウ) 上記(ア)、(イ)の事実から、控訴人には、佐賀航空の航空燃料との混合によって生じる危難を避ける必要性があったことは明白である。そして、本件通知行為等は、佐賀航空の航空燃料が給油され搭載されている航空機の機体に、自社の航空燃料を給油して、両者の燃料を混合させることは致しかねると考えている旨を通知するものであり、上記の混合によるリスクの軽減に向けた行為であるから、自己の危難を回避することを目的に行われたこと(以下、この目的を「自己危難回避目的」という。)は優に認められる。
また、控訴人は、途中から、免責文書への署名を条件に混合給油に応じる対応に切り替えているが、これは、大阪航空局の行政指導を受け、混合給油を実施しつつ、自社に生じる危難をできるだけ回避するために行った次善の策である。
(エ) 本件通知行為等は、同一機体内での混合を避けるため、佐賀航空の燃料を搭載した航空機に対して、自社が給油することは困難であると通知したものであり、自社が給油する範囲を自ら限定するだけの行為である。
佐賀航空から給油を受けようとする需要者に働きかけて給油を受けるのを物理的に妨害したり、佐賀航空の航空燃料が給油されていない別の機体について給油を拒否したりするものもない。控訴人が本件各通知により混合給油が困難と考えていると伝えたのは、需要者の法人単位ではなく、一つ一つの機体単位である。これは本件各通知の記述が航空燃料が一つのタンク内で混合する場合のリスクについて述べていることからも明らかである。
さらには、最初の通知書を発してからわずか5か月後には佐賀航空の航空燃料が搭載された機体について確認書を受領して給油に応じている。
したがって、本件通知行為等は、自己危難回避目的を達成するために相当なものであることは明らかである。
(オ) 仮に、控訴人が佐賀航空を八尾空港における航空燃料の販売事業から排除する強い意思ないし目的を有していたとしても、これによって控訴人が自己危難回避目的で本件通知行為等を行った事実が否定されることにはならない。正当化事由は、人為性のある排除行為を正当化する理論であり、反競争的意図と正当化理由としての意図は両立するからである。
⑵ 本件通知行為等が「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものに当たるか(争点2)
(被控訴人の主張の要旨)
ア 「一定の取引分野」について
(ア) 「一定の取引分野」は、排除行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲をいい、基本的に、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ことを要件とする不当な取引制限(独禁法2条6項)と同様、具体的な行為や取引の対象・地域・態様等に応じて、当該行為に係る取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し、その競争が実質的に制限される範囲を画定して決定すべきである。
本件において、控訴人の排除行為の中核をなす12月7日通知は、佐賀航空が八尾空港の機上渡し給油による航空燃料の販売事業に参入したことを契機として、需要者に対して、佐賀航空から機上渡し給油を受けた場合に控訴人及びその提携先給油会社等から機上渡し給油を受けられなくなる旨を通知するものであるところ、当該通知は、主として、八尾空港における航空機への機上渡し給油を対象にしており、その通知相手も、八尾空港における機上渡し給油による航空燃料販売の主要な需要者である八尾空港協議会員11名である。
よって、控訴人の排除行為が対象とする取引及びこれにより影響を受ける範囲は、「八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売に係る取引」であり、当該取引分野(本件市場)を控訴人の排除行為に係る「一定の取引分野」と画定すべきである。
(イ) 控訴人は、「一定の取引分野」について需要の代替性によって画定すべきと主張するが、私的独占における「一定の取引分野」は、不当な取引制限と同様、具体的な行為や取引の対象・地域・態様等に応じて、当該行為に係る取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し、その競争が実質的に制限される範囲を画定して決定すべきである。排除型私的独占ガイドラインは、商品の代替性に言及するが、主として当該行為に係る取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討することを原則として、必要に応じて商品の代替性の観点を考慮することになる旨記載しているにすぎず、本件においては、行為の対象及び態様等から、対象行為により影響を受ける範囲が本件市場であることが明らかであって、ジェット燃料と航空ガソリンとの間の需要の代替性を考慮する必要はない。
イ 競争の実質的制限について
(ア) 「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい、当該市場において、特定の事業者又は事業者集団がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することができる状態をもたらすことをいう。
控訴人は、本件市場において圧倒的なシェアを有しており、本件通知行為等によって佐賀航空の事業活動を人為的に制約することにより、その競争的抑制を緩和させたものであるから、本件市場が有する競争機能は損なわれ、控訴人がその意思で、ある程度自由に本件市場における価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することができる状態をもたらしたといえる。
したがって、本件通知行為等は、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」との要件を充足する。
(イ) 本件通知行為等について、正当化事由は認められない。
確かに、私的独占の要件に形式的に該当する場合であっても、問題となる行為によって侵害される独禁法の保護法益と当該行為によって守られる利益とを比較して、「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という同法の究極の目的(同法1条参照)に実質的に反しないと認められる例外的な場合には、同法2条5項の「公共の利益に反して」又は「競争を実質的に制限する」の要件を満たさないものと解される。
しかし、本件通知行為等によって守られる利益は、控訴人の主張によれば、責任範囲が不明確になることによって生じる自社の事業活動上のリスクの低減という一私企業の事業運営上の利益にすぎず、「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」目的に実質的に反しないとはいえないし、市場の自由競争経済秩序という独禁法上の重要な保護法益の侵害を正当化し得る利益とも解されない。
そのほか、控訴人の主張する事由が正当化事由たり得ず、「公共の利益に反して」又は「競争を実質的に制限する」の要件該当性を否定するものではないことは、前記⑴(被控訴人の主張の要旨)カのとおりである。
ウ その余の控訴人の主張についての反論
(ア) 「逆排除効果」について
控訴人がその主張に係る「逆排除効果」を意図して本件通知行為等を行ったことを示す客観的な証拠はない。
仮に、「逆排除効果」なるものが生じていたのであれば、控訴人から佐賀航空への切替えが次々と生じるとも考えられるが、実際には、佐賀航空のシェアは2割未満にとどまっている。
また、控訴人は、自己危難回避目的を真に有していたとは認められず、かえって、佐賀航空を排除する意図を隠すための表向きの理由として当該目的を掲げていたものであるが、かかる意図を有していた控訴人が、佐賀航空に取引を譲る効果(逆排除効果)を有する行為に出るなどということは、到底考えられない。
(イ) 供給能力について
仮に、佐賀航空に十分な供給能力があったとしても、本件通知行為等により、全国の空港等で控訴人と取引する必要のある需要者が佐賀航空との取引を避けてしまうのであれば、佐賀航空は当該供給能力を発揮できない。すなわち、佐賀航空の控訴人に対する競争的抑制が働かず、控訴人の市場支配力が維持・強化されることに変わりがない。
(控訴人の主張の要旨)
ア 「一定の取引分野」について
「一定の取引分野」は需要の代替性によって画定するのが競争法の常識であり、被控訴人自身が排除型私的独占ガイドラインにおいて商品の範囲が需要者からみた商品の代替性という観点から画定される旨記載しているところ、ジェット燃料と航空ガソリンには需要の代替性がないから、これらを併せた一つの「一定の取引分野」として画定することはできない。
確かに、12月7日文書では、ジェット燃料と航空ガソリンとを書き分けてはおらず、「航空燃料」と一括しているが、佐賀航空の燃料との混合を問題視する同文書の趣旨からすれば、①佐賀航空のジェット燃料と控訴人のジェット燃料の混合ができないことと、②佐賀航空の航空ガソリンと控訴人の航空ガソリンの混合ができないことを、併せて表明しているだけであり、佐賀航空のジェット燃料と控訴人の航空ガソリンとの混合や佐賀航空の航空ガソリンと控訴人のジェット燃料との混合は想定の範囲外であることは自明のことである。
また、もしある需要者が佐賀航空から航空ガソリンの給油を受けたとしても、控訴人は当該需要者(の別の機体)にジェット燃料の給油をすることも、同文書の趣旨からして明らかである。
よって、12月7日文書、2月10日文書及び3月15日文書がジェッ卜燃料と航空ガソリンを区別していないことは、両者を1つの市場と画定する根拠にはならない。
イ 「競争を実質的に制限する」について
(ア) 本件排除措置命令書の理由第1の3⑵、⑶及び⑷の記載が事実であるとすれば、むしろ逆排除効果が生じていたことにならざるを得ない。本件排除措置命令書は、その記載内容が立証されても、違反事実の認定に足りないという意味で、いわば主張自体失当である。
この点を措くとしても、市場支配力が生じるためには、一定の取引分野全体で排除効果が逆排除効果よりも大きくなければならないから、控訴人の行為により市場支配力の形成・維持・強化は生じない。
また、佐賀航空は、八尾空港近辺に十分な容量の貯油タンクを設置することにより、八尾空港の機上渡し給油事業において十分な供給能力を有し、かつ固定費を考慮することなく価格を設定できる上、佐賀航空は≪AA≫という需要者を有しているので、少ない設備投資でも、控訴人の限界費用を下回るかこれに等しい価格で供給し、控訴人に対して十分な競争圧力を加えることが可能である
さらに、佐賀航空においては再参入が容易であり、また大口需要者としての≪AA≫がいるため、これを退出させることは困難である。
したがって、本件通知行為等には競争の実質的制限は認められない。
(イ) 控訴人の行為は、自己の危難を避けるための合理的根拠に基づく行為であり、正当化事由があるから、競争の実質的制限は認められない。控訴人の本件通知行為等が、自社に生じる危難を回避するためにとった、社会通念上合理的な防御的行動であって、控訴人の本件通知行為等に正当化事由があることは、前記⑴(控訴人の主張の要旨)イのとおりである。
また、本件排除措置命令書の理由における記載を前提とすると、平成29年度及び平成30年度における佐賀航空のシェアは2割を下回っていたことになるが、これは佐賀航空が顧客の信頼を獲得することができなかったり、真摯な営業活動を行っていなかったりしたことなどの結果であり、控訴人の行為と佐賀航空のシェアとの間には因果関係が認められない。したがって、本件違反行為期間中の競争状況は、控訴人の行為と因果関係が認められないから、控訴人の行為は競争の実質的制限の該当性を欠く。
⑶ 違反行為期間の終期(争点3)
(被控訴人の主張の要旨)
ア 控訴人は、本件排除措置命令に基づく措置として、取締役会で本件通知行為等を取りやめる決議をし、令和2年8月21日以降にその旨を通知する文書を取引先需要者及び佐賀航空に対し送付したから、同日以降本件違反行為を取りやめたといえる。したがって、本件違反行為の終了時期は、上記通知文書送付前日の令和2年8月20日である。
イ 控訴人が本件通知行為等を終了させたと主張する3月25日通知は、以下のとおり、排除効果を解消させるものではないから、本件違反行為を終了させるものではない。
(ア) 3月25日通知には12月7日通知や3月15日通知自体を撤回する旨の記載はないし、控訴人の考える基準に合致しない航空燃料については取引先需要者が佐賀航空から機上渡し給油を受けないようにさせるという従来の対応と基本的に変わらない。どのような品質の商品を購入するかは需要者が自由に判断すべきところ、控訴人からの基準で品質の是非を判断して給油拒否をするか否かを決めていることに変わりはない。
(イ) 控訴人は、3月25日通知の対応を取った理由として、佐賀航空がジェット燃料(JET A-1)を国内石油元売会社から仕入れていることが判明したことを挙げ、航空ガソリンについて従前の対応を継続する旨殊更に記載していることを踏まえれば、佐賀航空が、再度輸入品のジェット燃料を販売していることが判明するなどした場合には、控訴人の判断によって、3月25日通知による対応が撤回されることが十分に予測される。需要者にとって、佐賀航空からジェット燃料の給油を受けた場合、控訴人の判断によって、何らかの不利益措置を講じられる可能性があることは否定できないから、佐賀航空の利用を抑制し、その競争的抑制を緩和する効果は維持されている。
(ウ) 本件通知行為等と同様に佐賀航空に対する控訴人の排除意図は継続しており、3月25日文書の文面上、ジェット燃料(JET A-1)についても、いつでも免責文書・抜油対応等の措置を再開できる余地を残した一時的な措置の停止にすぎないから、需要者が佐賀航空からジェット燃料の供給を受けた場合、控訴人の判断によって不利益措置を講じられる可能性があり、従前のとおり、佐賀航空の利用を抑制し、その競争的抑制を緩和する効果は維持されており、同一の排除意図に基づく一連の違反行為は依然として継続している。
(エ) 需要者においては、3月25日文書に控訴人の排除意図がうかがえることから、ジェット燃料(JET A-1)について免責文書・抜油対応を取りやめる旨を通知されても、控訴人から不利益措置を講じられることを警戒して佐賀航空の利用を躊躇するのが自然であり、現に需要者の中には3月25日文書の前後を通じて控訴人の対応が変わっていないと考えたり、控訴人による従来の運用が完全に終了するまでは佐賀航空から給油を受けることを検討しないとの意向を抱いたりしていた者がいた。
(控訴人の主張の要旨)
控訴人は、3月25日文書を送付し、ジェット燃料(JET A-1)については、佐賀航空から給油を受けた機体も、他の給油会社から給油を受けた場合と同様に扱うことを通知したから、ジェット燃料の販売市場については令和2年3月25日に行為を取りやめている。
したがって、本件排除措置命令時点で八尾空港におけるジェット燃料の機上渡し給油の市場においても違反行為があるとしてなされた本件排除措置命令は法令の適用を誤ったものであるし、ジェット燃料の機上渡し給油についての違反行為期間は同月24日から遡って最大3年間となるところ、本件排除措置命令と同様の認定を前提として違反行為期間及び課徴金算定基礎額を認定した本件課徴金納付命令は違反行為期間及び課徴金算定基礎額の認定を誤ったものであるから、違法である。
⑷ 本件排除措置命令書の主文の不特定及び理由付記の記載の不備の有無(争点4)
(控訴人の主張の要旨)
ア 排除措置命令書の主文は、その履行が不能あるいは著しく困難なものは違法となると解されるところ、本件排除措置命令書の主文には不明確な記載があり、その記載だけではどのような措置をとれば排除措置を履行したことになるのか特定できず、その履行が不能または著しく困難なものであるから、本件排除措置命令は違法である。
本件排除措置命令書の主文1項⑴では、自社の取引先需要者が佐賀航空から機上渡し給油を受けた場合には自社からの給油は継続できない旨「等」を通知することにより、自社の取引先需要者に佐賀航空から機上渡し給油を受けないようにさせている行為を取りやめなければならないとされているが、「等」とあるために、何を通知したことが問題とされているのか、今後どのような通知をすれば排除措置命令違反にならないのか判然とせず、その履行が不能又は著しく困難であり、その内容は特定を欠く。
また、本件排除措置命令書の主文1項⑵では、佐賀航空から機上渡し給油を受けた取引先需要者からの給油に係る依頼に応じる条件として、佐賀航空の航空燃料と自社の航空燃料の混合に起因する航空機に係る事故等が発生した場合でも控訴人に責任の負担を求めない旨「等」が記載された文書への署名又は抜油を求めることにより、自社の取引先需要者に佐賀航空から機上渡し給油を受けないようにさせている行為を取りやめなければならないとされているが、「等」とあるために、控訴人に責任の負担を求めない旨以外にどのような記載の文書への署名を求めることができないのかが判然とせず、その履行が不能又は著しく困難であり、その内容は特定を欠く。
本件排除措置命令書の主文1項が特定を欠き不特定である以上、これを前提とする本件排除措置命令書の主文2項、3項及び4項も、特定を欠く。
イ(ア) 排除措置命令書に記載すべき理由の内容及び程度は、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該排除措置命令がなされたのかを名宛人においてその記載自体から了知しうるものでなければならない。
しかるに、本件排除措置命令書の理由の第1の3(本件通知行為等による影響等)の記載は何ら排除効果を裏付ける記載ではなく、むしろ逆排除効果(佐賀航空の生産者余剰を増加させる効果)を裏付ける記載となっている。これは、被控訴人による排除効果の立証が失敗しているというのではなく、被控訴人の本件排除措置命令書における主張体が失当であるということを意味している。
また、本件排除措置命令書の理由の第1の3⑴においては、佐賀航空からの給油を受けることを回避している需要者の存在が認定されているが、その需要者の数や需要量は不明であるし、これによって佐賀航空の事業活動がどのような影響を受けたのは明らかではない。そうすると、本件排除措置命令書には、排除型私的独占の要件事実である「他の事業者の事業活動を排除」及び「競争を実質的に制限すること」のいずれについても記載がないといわざるを得ない。
(イ) 被控訴人は、排除措置命令書には要件事実に相当する事実のみを記載すれば足り、間接事実に相当する事実を記載する必要はない旨主張するが、被控訴人の主張する立場を前提としても、本件排除措置命令書は記載の意味が特定できないので、記載自体からいかなる事実関係に基づき命令がなされたのかを了知できない。
(被控訴人の主張の要旨)
ア 排除措置命令書の主文(及び理由)の記載は、特定の一文や文言を命令書から切り離してその意味を解釈するのではなく、命令書全体を参照の上、当該排除措置命令書の趣旨・目的に照らし、社会通念にしたがって、合理的に解釈すべきものである。
本件排除措置命令書は、控訴人が、①12月7日通知、②2月10日通知、③3月15日通知及び④免責文書・抜油対応をした事実すなわち本件通知行為等を認定し、これを、「自社の取引先需要者にエス・ジー・シー佐賀航空から機上渡し給油を受けないようにさせている」行為(利用抑制効果を有する行為)と評価し、違反行為として認定している。このような認定を前提とすれば、本件排除措置命令書の主文1項⑴は前記①ないし③の3つの通知行為を指し、同項⑵は前記④の免責文書・抜油対応を指し、これらの差止めを命じていることが、本件排除措置命令書全体を見れば、容易に読み取れる。したがって、本件排除措置命令書の主文1項は、命令書上、十分特定されている。そして、本件排除措置命令書の主文1項が十分特定されている以上、これを前提とする本件排除措置命令書の主文2項、3項及び4項も特定に欠けるところはない。
イ(ア) 排除措置命令書に記載すべき理由につき、独禁法61条1項は、「公正取引委員会の認定した事実」と記載しているが、これは、審査の結果、被控訴人が排除措置命令の発令要件を充足するものとして認定した独禁法違反行為に該当する事実を記載すべきことを定めたものと解される。
被控訴人が、独禁法2条5項に規定する私的独占に該当し、同法3条の規定に違反するものと認定した行為の要件事実としての事実関係については、本件排除措置命令書の理由の第1の2⑵「マイナミ空港サービスによる自社の取引先需要者に対する行為」において本件通知行為等が具体的に記載されており、また、当該行為の排除行為該当性及び「競争の実質的制限」該当性を基礎付ける事実として、かかる記載に加え、同命令書の理由の第1の1に控訴人及び佐賀航空の本件市場における地位及び12月7日通知の対象となった八尾空港協議会員11名の地位等に係る事実関係も明確に記載されている。よって、本件排除措置命令の発令要件に該当する要件事実について、被控訴人がいかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して排除措置命令をしたかが控訴人においてその記載自体から了知できる。したがって、本件排除措置命令書には、独禁法第61条第1項が定める事項が十分に付記されており、不備はない。
(イ) 控訴人が本件排除措置命令書の理由の記載につき不備があると主張する事情は、いずれも本件違反行為の排除効果の存在を事後的・実証的に補強する間接的・補助的な事情にすぎない。したがって、仮に、当該記載が記載されておらず、あるいは、一定程度抽象化された記載になっていたとしても、本件排除措置命令書の理由付記の不備をもたらすものではない。
⑸ 被控訴人による排除措置命令書に記載のない主張追加の有無及び許否(争点5)
(控訴人の主張の要旨)
行政庁の処分において事前の意見聴取手続が法律上定められている場合は、取消訴訟における理由の追加は許されない。
被控訴人は、本件排除措置命令書に記載していないにもかかわらず、①八尾空港以外で控訴人から給油を受ける必要性の主張、②全国の空港に占めるマイナミ給油ネットワークの割合に関する主張、③マイナミ給油ネットワークの必要性に関する主張、④控訴人が迅速に給油できるとの主張を、本件訴訟において追加した。これらはいずれも違法な理由の追加であるから、認められるべきではない。
(被控訴人の主張の要旨)
被控訴人は本件訴訟において「処分理由の追加」に当たる主張をしていない。被控訴人は、本件排除措置命令書及び本件課徴金納付命令書の「理由」欄に記載の本件通知行為等及びこれに関連する事実等の認定事実並びに法令の適用を維持するための主張をしているのであって、それと異なる理由を追加して主張しているものではない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
⑴ 佐賀航空の八尾空港における営業開始までの経緯
ア 八尾空港への参入前の佐賀航空に関する事情
(ア) 佐賀航空の運航又は整備した機体について、平成12年から平成21年までの9年間に、以下のとおり、4件の航空事故が発生した。(甲22)
a 平成12年、佐賀航空が運航する航空機について、機長の判断及び操作が適切でなかったことにより搭乗者が軽傷を負う事故が発生した。
b 平成16年、佐賀航空が運航する航空機が墜落し搭乗者が死亡する事故が発生した。運輸安全委員会の報告において、この事故の原因は、機長が空間識失調に陥ったことにあったとされている。
c 平成20年、佐賀航空が整備を請け負っていた航空機が墜落し搭乗者が死傷する事故が発生した。この事故の原因について、搭乗者の遺族は航空機の排気管に亀裂が入っていた点にあり、佐賀航空が定期検査時にこの亀裂を見落としたと主張していた。
d 平成21年、佐賀航空が運航する航空機が離陸後エンジンの停止により不時着する事故が発生した。運輸安全委員会の報告において、この事故の原因は、航空機のアイドル調整ねじの脱落にあったとされている。
(イ) 国土交通省大阪航空局は、平成22年9月8日から同月17日の間に佐賀航空に対して立入検査を実施し、その検査の結果、佐賀航空の所有する航空機4機について、エンジンのシリンダー等の部品を記録に残さないまま交換していたことなど、整備管理体制に不適切な点があったため、国土交通大臣は、同月22日、佐賀航空に対し、航空輸送の安全確保に関する業務改善勧告を行った。(甲23)
(ウ) 控訴人は、平成13年以降平成25年頃まで、佐賀航空を佐賀空港における提携先給油会社と位置づけていたほか、平成14年頃、佐賀航空に対し、給油者を貸与し、航空燃料を販売していた。(乙145、146、148~150)
イ 佐賀航空による九州での事業活動等
(ア) 控訴人は、遅くとも平成26年7月頃までに、佐賀航空が航空ガソリン(AVGAS100LL)を輸入しており、同社の航空機に給油するほか、他社の航空機の給油のために九州各県で販売していることを認識していた。
(イ) 控訴人の販売部長は、遅くとも平成26年9月頃には、取引先需要者である≪M≫が、大分空港において、佐賀航空から航空ガソリンの補給を受けていることを認識していた。(弁論の全趣旨)
(ウ) 控訴人は、平成26年当時、自社の航空ガソリンと佐賀航空の航空ガソリンとの混合の可能性を問題視したり、又はこれを防ぐための対応をとったりするようなことはしていなかった。
ウ 佐賀航空による八尾空港での航空燃料販売への参入とこれに伴う控訴人の対応等
(ア) 佐賀航空は、平成27年6月4日に八尾空港事務所に対し、また、同月18日に大阪航空局に対し、八尾空港において第1類営業の承認を得て航空燃料を販売したい旨を相談した。
八尾空港事務所は、同月19日頃、八尾空港協議会会長会社であった≪B≫に対し、佐賀航空から大阪航空局に対して、八尾空港で航空燃料を販売する構内営業を行いたい旨の話があったことを伝えた。
これを受け、八尾空港協議会会長会社であった≪B≫、副会長会社であった≪I≫及び控訴人の3社は、同月23日、佐賀航空が八尾空港において航空ガソリン(AVGAS10LL)を販売したい旨打診している件について協議を行った。その協議において、控訴人は、佐賀航空の参入により、自社が「大きな影響を受ける唯一の企業」であるとして、参入に反対である旨を述べ、佐賀航空の参入により八尾空港での航空燃料の供給が需要の2倍を超え、控訴人も佐賀航空も共倒れになる旨述べた。
(イ) 控訴人は、平成27年7月中旬頃、八尾空港における佐賀航空の構内営業の計画に関し、八尾空港協議会員宛ての「八尾空港におけるS社の構内営業承認について」と題する意見書(乙60)を作成し、同月22日頃、八尾空港協議会員の航空事業者等にこれを配布した。
当該意見書には、①控訴人の供給により八尾空港における需要は満たされているため、佐賀航空に構内営業の承認をすることは不要である旨、②佐賀航空の構内営業が承認された場合、控訴人との間で過当競争が引き起こされるおそれが極めて高く、両者とも財務状況を悪化させ、給油業務を適正に行えなくなるおそれがある旨等が記載されていた。
(ウ) 控訴人は、平成27年7月22日、八尾空港事務所長と面談し、上記意見書を手交した上で、控訴人にとって「経営上死活的な問題」であるとして、佐賀航空の構内営業の承認申請を承認しないよう求めた。
(エ) 八尾空港協議会は、同年9月1日、臨時協議会を開催し、佐賀航空が出席して事業計画を説明し、質疑応答がなされた。佐賀航空の退席後、控訴人は、佐賀航空の構内営業承認について反対する旨の意見を表明した。控訴人のこの意見表明は、八尾空港協議会員への根回しとして配布した前記(イ)の意見書(乙60)に沿って行われた。(乙62)
控訴人の常務取締役である≪X2≫(以下「≪X2≫」という。)は、同月2日、上記臨時協議会について、社内報告書(甲16の2)を作成した。同報告書には、≪X2≫の意見として、①「各使用事業者にとっては、自分の事業にとっての利害のほうが分かりやすいということがはっきりと見えた」こと、②控訴人としては、「各社が検討しやすいように、本日の協議内容を踏まえて、問題点を抽出し、それをわかりやすく書いて、提供することが得策と判断する。」こと、③問題点の一つとしての「八尾空港にける燃料混合リスクの排除リスク」(原文ママ)の説明として、控訴人を「MKS」として(以下同じ)、「八尾空港において佐賀航空から給油を受けると、燃料の混合リスクを避けるために、八尾空港においては、MKSは給油をすることができないというリスク。燃料の混合リスクとは、航空機事故の場合、燃料が原因であるか否かの品質検査があり、混合している場合には、MKSも疑われることになり、そのようなリスクはとる立場にない。」「つまり、MKSは二股をかける業者には給油しない。」との記載があった。(甲2、16の2〔4枚目〕、弁論の全趣旨)
(オ) 控訴人は、同月3日、八尾空港協議会員宛ての「佐賀航空のAVGAS100LL販売事業に関する問題点に関する検討資料」と題する文書(乙63)を作成し、八尾空港協議会員11名に配布した。控訴人は、当該文書に、八尾空港において佐賀航空が給油した機体には燃料混合リスクがあり、控訴人は「給油を行えない」旨等を記載していた。
(カ) ≪X2≫作成のメモには、同月7日の記載として、「使用事業者サイドのリスク」として「MKSは混合は不可」、「地方ネットワークも使えなくなる(S社と契約した場合)」との記載がある。(乙131)
(キ) 八尾空港協議会は、同月14日、臨時協議会を開催し、佐賀航空への八尾空港協議会員各社の質問事項をまとめた資料(乙66)を配布した上で、佐賀航空の航空燃料販売計画についての質問書の取りまとめについて協議した。
控訴人は、上記臨時協議会の社内向け報告書(甲17の2)の中で、八尾空港協議会が作成した上記資料(八尾空港協議会員各社の質問事項をまとめたもの)の内容が、控訴人が作成し各社に配布していた前記(オ)の文書(乙63)の内容と同じであり、控訴人の狙いどおりとなった旨記載していた。
(ク) 八尾空港協議会は、同月16日、佐賀航空に対し、「八尾空港での給油事業計画内容の質問について」と題する文書(甲18)を送付し、同社の品質管理、安全管理、品質保証等について質問した。
これに対し、佐賀航空は、「八尾空港での給油事業計画内容の質問について(御回答)」と題する回答書(甲19)をもって回答した。
同回答書には、①佐賀航空は、国土交通省航空局の安全管理の監査を毎年受けている旨、②≪N≫による、「燃料品質管理体制」、「品質保証」、「教育及び訓練体制」、「燃料給油の地上取扱い方法」等についての入札参加資格に合格し、平成27年度から≪Nの施設≫の給油業務を実施している旨、③大分空港では3年前から大手民間会社に航空燃料の給油を行っており、年数回の定期的な監査を受けている旨等が記載されていた。(甲19)
(ケ) 控訴人は、同月25日、八尾空港協議会会長会社に対し、八尾空港協議会が八尾空港事務所に提出する意見書作成の重要参考事項としてもらうため、前記(ク)の佐賀航空の回答書(甲19)に控訴人の疑問点を付記した意見書(乙67)を送付した。
また、控訴人は、同月29日、八尾空港協議会会長会社に対し、佐賀航空の構内営業の承認申請についての答申案とともに、同社の回答書は「いい加減な内容」で、「具体性を記載しないのは、事業会社としては失格」、また、「直接的利害関係人」として「大変心配」しており、「直接的な利害関係人としての立場」から答申案を作成した旨記載したメールを送信した。(乙68)
≪X2≫は、控訴人の名古屋事業所長から控訴人の販売部長≪X3≫(以下「≪X3≫」という。)に対する、顧客から他社と比較して控訴人が優れている旨の言葉をかけられた旨のメールをCCの形式で受信したことを受け、同日、控訴人の名古屋事業所長及び≪X3≫を宛先とし、執行役員3名をCCとして宛先に含めて、「足元もおぼつかないやつが、単に儲けたいからと、給油業務に進出する輩が出てきていますが、とんでもない考え違いですね。例えば宮崎、仙台、そして八尾空港・・・・・今、撃退中ですが・・・・・。五月蠅いハエですよ。まったく。」などと記載したメールを送信した。(乙106、弁論の全趣旨)
(コ) 八尾空港協議会は、同月30日、臨時協議会を開催し、佐賀航空の八尾空港における航空燃料販売の事業計画についての意見書の取りまとめを議論し、同協議会会長は、同日、取りまとめた意見書を、八尾空港事務所長に提出した。
≪X2≫は、上記臨時協議会等の面談記録を作成し、社長を含む社内に報告した。上記面談記録には、①八尾空港協議会に対し、「佐賀航空については、安全面、品質面等において信頼できないという、払拭できない不安を抱かせるにおいて」控訴人の「思惑通りに方向付けができた」こと、②八尾空港協議会の意見書は、「極めてネガティヴな意見になっているので」「大阪航空局が、佐賀航空に対して、『構内営業許可を承認する』ということは先ず考えられない。」「大阪航空局が承認するとすれば」「佐賀航空の考えている機上給油でも、空港運営上問題ないということを、書面で明らかにすることが不可欠であろう。このようなことは、今の佐賀航空には、無理な話であろうと判断する。」などの記載がある。(甲20の2〔4頁〕)
エ 佐賀航空の構内営業の承認
(ア) 八尾空港事務所長は、平成27年11月13日、佐賀航空による同年10月13日付けの八尾空港における航空燃料の販売についての第2類営業の承認申請を承認した。
(イ) 控訴人は、平成28年3月2日、前記(ア)の構内営業承認について、八尾空港事務所長に抗議するとともに、同年4月14日、大阪航空局長に対し、八尾空港における航空燃料の供給過剰・過当競争、同空港の運営の混乱、佐賀航空の事業遂行能力等への不安等を理由に、当該構内営業承認の取消しを求めて審査請求をした。
(ウ) 大阪航空局長は、控訴人による本件通知文書による各通知がされた後である平成29年3月28日、前記(イ)の審査請求を却下した。なお、処分庁である八尾空港事務所長が審査庁である大阪航空局長に提出した弁明書には、佐賀航空提出の事業計画書に、制限区域の立入り、機上渡し給油の際の給油取扱所及び許可体制等、法令遵守や安全管理体制の確立等が明記されており、当該営業の遂行上、適切な計画を有していると判断した旨が記載されていた。
オ 佐賀航空の八尾空港協議会への入会及び控訴人の対応
(ア) ≪X3≫は、平成28年7月19日、控訴人の八尾事業所長に対し、≪X2≫をCCとして宛先に含めたメールにより、佐賀航空が八尾空港に設置予定の施設の着工を開始したことを伝えるとともに、現地の写真等の情報収集を依頼した。これに対する返信のメールで、八尾事業所長は、佐賀航空の施設の写真を添付し、当該施設から空港内まで10分程度で到着可能であったことを伝えた。これらのメールのやり取りを受け、≪X2≫は、八尾事業所長に対し、「八尾の件では、これからもいろいろな面でタッグを組んで対処していきましよう。これから、タンク施設ができれば、無法な業務運営が行われていくことが予想され、そのとばっちりは必ず当社にも飛んできます。当社が火の粉を浴びないように、やつらを懲らしめる、やがて、追い詰めるような追い込みを対処方針として進めていきたいと思っています。」と記載したメールを送信した。(乙107)
(イ) 控訴人の広島事業所長は、同年9月6日、≪X3≫に対し、控訴人の広島事業所の課長、西広島営業所の課長、八尾事業所長、販売部の課長及び≪X2≫をCCとして宛先に含めたメールにおいて、佐賀航空の求人情報についての情報提供がなされた。このメールを受け、≪X3≫は、広島事業所長に対し、前記の全員をCCとして宛先に含めた返信で、「情報提供ありがとうございます。s社は宮崎、仙台と≪N≫を落札し、航空燃料販売を拡大しております。八尾空港へも参入してきますが、早めに排除したいですね。航空機給油作業の経験者が入社しなければ良いです。」と記載したメールを送信した。(乙108)
(ウ) 控訴人の八尾事業所長は、上記(ア)のメールの受信後、≪X3≫に対し、≪X2≫、控訴人の販売部の課長、係長及び主任を宛先又はCCとして宛先に含めて、①平成28年7月22日、佐賀航空の施設の工事現場付近を視察し、その写真と共に今後も情報収集に努める旨を、②同年8月1日、佐賀航空の施設の工事現場の写真と共に、同工事の進捗につき、地下タンクの埋没予定地の掘削が終わった旨を、③同月15日、同月14日の佐賀航空の工事現場の写真と共に、佐賀航空の工事の進捗として、現場周囲のブロック及びフェンスの作業が途中であり、地下タンクが埋没されている状況であった旨をそれぞれメールで連絡した。≪X2≫は、同年9月13日、これらのメールに返信する形で、八尾事業所長に対し、前記の全員を宛先及びCCとして宛先に含めた形式で、「写真、情報有難うございます。」「当社の燃料と混載になる惧れのある先には、売らないことになります。燃料の混載リスクについては、使用事業者側に良く分からせる必要があります。」「八尾においては、同一の機体に燃料搭載した場合になります。これからは、厳密な販売管理が求められてきます。一つ宜しくお願いします。」と送信した。その後、≪X3≫は、同月14日、八尾事業所長に対し、宛先及びCCとして宛先に含まれる者を変更しないまま、「都度の報告、いつもありがとうございます。s社ぶっ潰したいですね。引き続き各使用事業さんと良好な憫係を保って下さい。」と記載したメールを送信した。(乙109)
(エ) 佐賀航空は、同月28日、八尾空港協議会に入会を申し込んだ。これを受けて、同年10月6日、八尾空港協議会の臨時理事会が開催されたが、結論は出ず、同月20日開催の臨時理事会において、控訴人以外の出席理事全員の賛成により、佐賀航空の入会が承認された。
カ 佐賀航空の営業開始直後の控訴人の対応
(ア) 佐賀航空は、平成28年11月1日、八尾空港において機上渡し給油による航空燃料の販売事業を開始した。
佐賀航空は、八尾空港でジェット燃料(JET A-1)の販売を開始するに当たり、同月、石油連盟の一機構であるJIG国内委員会に加入した。
(イ) 控訴人の八尾事業所長は、同月7日、≪X3≫及び≪X2≫に対し、控訴人の執行役員、課長及び課長代理をCCとして宛先に含めたメールで、同日から佐賀航空がジェット燃料(JET A-1)の給油を開始した旨を報告すると共に、佐賀航空の給油状況に関する写真を送付した。≪X2≫は、このメールへの返信として、八尾事業所長に対し、「引続き宜しくお願いします。マーケットを荒らす溝鼠ですので、病原菌を撒き散らす惧れがあります。」「困ったものですが、溝鼠は重装備がないので、コストは低く、動きは良いのです。最後は、安全という正義の御旗を持つ正当が勝利することになるのですが、時間はかかるかもしれません。」「徹底的に対抗していきましょう。」とのメールを送信した。(乙132)
(ウ) 同月10日、控訴人の取締役、執行役員、≪X3≫を含む各部の部長が出席していた社内の会議において、佐賀航空が仙台、宮崎、八尾、北九州と給油会社が1社である空港等に参入していることについて、≪X2≫は、「今の進出先で行くと、やっと、その、仙台がプラスになるから。収益的にね。宮崎がプラスになったじゃない。あと八尾がどのくらい、だからこれから活躍できるかなんだよね。そこを今、まあ社長も、我々もそうなんだけど、日干しにしてやろうじゃないかと思っているんだけど。」「八尾でどのくらい抑え込めるか。これがポイントでしょうね。その、我々にチャレンジしてくるとすれば。」「今、輸入玉だからどっから出ているのか分からない。そこで、今、早めにつぶそうって話で。元売から供給証明出ちゃったら、もう勝負にならない。」「ドブネズミ。所詮。だって佐賀でどんなことしているかってみんな知っているわけだから。そこがポイントなんだよ。いかに、いい加減な業者かってことをアピールしとくってことが。」などと発言した。(乙105)
⑵ 控訴人による需要者に対する通知行為等の内容
ア 12月7日通知について
(ア) 控訴人は、佐賀航空が八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売を開始したことを受け、平成28年12月7日、八尾空港協議会員11名を訪問して、12月7日文書を配布することにより、下記(イ)の記載を含む通知(12月7日通知)をした。
(イ) 「佐賀航空様の航空機燃料と当社の航空機燃料を混合した場合、それに起因する責任は負えません。従って、当社契約先である会社様が、佐賀航空様より航空機燃料の販売を受けられた場合、以下の理由により、当社からの給油継続を致しかねると考えております。」
「通常、国内の航空機燃料取扱い会社は、航空機燃料取扱いについての情報を航空機燃料取扱い石油元売会社を通じ取得します。この場合、一般的に国内の航空機燃料取扱い会社は、その石油元売会社の契約先となることが多く、これに属さない航空機燃料取扱い会社は、航空機燃料の取扱いについての知識や理解が不足していることが多いと言わざるを得ません。」
「現状において当社が信任できない、そのような航空機燃料の取扱い会社の航空機燃料と、適切に航空機燃料を取扱う会社の航空機燃料を混合した場合、責任の所在が航空機燃料にあるのか、給油会社にあるのか甚だ不明確となります。その結果、適切に航空機燃料を取扱う会社が要らぬ疑義をかけられかねないのみならず、万一の場合には、責任の所在が明確にできないばかりでなく、適切に航空機燃料を取扱う会社として、航空機燃料の供給元である石油元売会社からの保障も受けられなくなりかねません。当社としては、そのような潜在的な危険が内在する給油作業は致しかねます。」
「また、当社の契約先の各地方給油会社においてもこの状況に何ら変わることはなく、特に航空機燃料供給元である石油元売会社による万一の場合の保障に関しては、重大な関心をお持ちになっており、それゆえ各地方の当社契約先給油会社においても同様の意向が表明されており、これらの地方空港においても当社の契約先供給会社による給油継続が困難になることが考えられます。」
イ 2月10日通知について
(ア) 控訴人は、大阪市消防局が、平成29年1月25日、同年2月及び3月分のジェット燃料の購入について控訴人と佐賀航空による指名比較見積を実施し、佐賀航空が契約の相手方となったことを受け、同年2月10日、大阪市消防局に対し、2月10日文書を送付して、下記(イ)の記載を含む通知(2月10日通知)をした。
(イ) 「下記の理由から、貴局航空機に対し、当社直営空港の燃料販売を停止させて頂きますことをご報告するとともに、ご対応の方、宜しくお願い申し上げます。」
「当社不落札期間中の対応は、下記の通りとなります。」
「エス・ジー・シー佐賀航空㈱(以下佐賀航空)が航空機に対して給油している航空機用燃料油の品質と我々給油会社が国内石油元売会社より供給を受けている航空機用燃料油の品質が、同等の品質管理を経て、航空機に給油されているとは言えません。」
「また、同機体に佐賀航空が給油した航空機用燃料油の残燃料と当社が新たに給油した航空機用燃料油が、同機体の燃料タンク内で混ざった場合、何らかの原因による事故が発生した際、原因の追究が困難になります。
「よって、当社の対応として、佐賀航空が給油した航空機の燃料タンク内に残燃料がある場合、当社として品質の保証が困難になるため、給油することは出来ません。」
ウ 3月15日通知について
(ア) 控訴人は、平成29年3月15日付けで、12月7日文書の内容を簡潔にした3月15日文書を取引先需要者261名(12月7日文書の配布先である八尾空港協議会員11名を含む。)に送付し、下記(イ)の記載を含む通知(3月15日通知)をした。
(イ) 「当社はお客様へ供給する航空機燃料の品質管理に対し重大な責任を負っており、品質を完璧に保持した航空機燃料を供給する義務があります。」「このような中、佐賀航空様の航空機燃料と当社の航空燃料を混合した場合、それに起因する事故等に係る責任は負えません。万一の場合、責任の所在が何れの航空機燃料にあるのか、全く不明確となります。従って、当社契約先であるお客様が、佐賀航空様より航空機燃料の給油を受けられた場合、それ以降は当社からの給油継続を致しかねると考えております。」
エ 免責文書・抜油対応について
(ア) 大阪航空局長は、平成29年3月30日、控訴人に対し、3月15日文書を発出した背景や、八尾空港及びその他の空港等における給油継続停止の有無等について、空港管理規則24条(地方航空局長又は空港事務所長は、空港管理上必要があるときは、施設利用者又は営業者に対し、施設又は営業の状況等について、報告を求めることができる。)に基づき、報告を求めた。
大阪航空局長は、同月31日付けで、控訴人の八尾空港における航空燃料の販売に係る同年4月1日から3年間の構内営業について、「合理的な理由なく役務の提供を拒むなど」や「他の構内営業者の営業行為を阻害するなど」に該当するときは承認を取り消すことがあること等の条件を加えた上で承認するとともに、控訴人に対し、上記の報告要求に対する回答内容によっては営業停止その他必要な措置を命ずることや、承認条件に従わなかった場合は構内営業の承認を取り消す旨をあらかじめ通知した。
控訴人は、大阪航空局長の報告要求に対し、同年4月12日付けの報告書(甲37)を提出した。同報告書には、①3月15日文書は、顧客の安全性を確実に担保し当社の責任範囲の明確化を図るために、速やかに説明責任を果たすためやむを得ず執った措置である旨、②八尾空港及びその他の空港等において給油を停止したことは、過去において一切なく、今後も、安全性の確保について懸念が残る状況であれば、顧客に対して継続して当社の考え方を説明し理解を求めていく旨等が記載されていた。(甲37)
(イ) 控訴人は、同月14日頃、大阪航空局による営業停止や構内営業承認の取消しのおそれを考慮し、「八尾空港における給油、当局の処分に対する対抗策」と題する検討資料(甲38)を作成して、「当局処分前に執りうる事前の対策」について検討し、社長に説明した。
控訴人は、同日、佐賀航空から航空燃料の給油を受けた需要者に対する同日以降の航空燃料の機上渡し給油について、次の対応を取るよう社内に周知した。
① 当該取引先需要者に、3月15日文書を提示し、次の点を説明すること。
(ⅰ) 控訴人が、事業所開設以来、安全性を確保するために航空燃料の品質管理に取り組み続けてきたこと。
(ⅱ) 佐賀航空が提供する航空燃料の品質については、同社から説明もなく、当該航空燃料の品質がどのようなものであるか控訴人には分らないこと(その際、佐賀航空の航空燃料について「品質が悪い」、「燃料は危険」等、佐賀航空への営業妨害と受け取られかねないことを一切言わないこと)。
(ⅲ) 佐賀航空の航空燃料と控訴人の航空燃料が混合した場合、控訴人は、航空燃料に起因する事故等に係る責任は負えないこと。
② 当該取引先需要者が前記①の説明を理解して納得したことを確認するために「私は、この度の航空機燃料の給油に関し、マイナミ空港サービス株式会社より、航空機燃料に係る安全性の確保について説明を受けました。私は、その説明を理解し納得した上で、航空機燃料の給油を申し込みます。」と記載された文書に押印又は署名を求め、それを受領した後に給油を実施すること(免責文書対応)。
③ 万一、押印又は署名を拒まれた場合、その理由を聞き、その上で、控訴人としては、控訴人から給油するに先立って、機体に残存する佐賀航空の航空燃料を抜き取る必要があることを説明し、残燃料の抜取りをした後、給油を行うこと(抜油対応)。
(ウ) 控訴人は、同年5月19日、前記(イ)②の免責文書の内容を航空燃料が混合した場合の責任を顧客が控訴人に対して求めないことを明記したものに変更することとし、同月26日、社内の各事業所長に対し、前記(イ)②の免責文書を、「私は、この度の航空機燃料の給油に際して、貴社より、エス・ジー・シー佐賀航空株式会社の航空機燃料と貴社の航空機燃料が混合した場合、それに起因する事故等の責任は負えないとの説明を受けました。私は、その説明を理解し、納得した上で、貴社に航空機燃料の給油を申し込みます。なお、万一の場合であっても、貴社に航空機燃料が混合した場合の責任の負担は求めません。」との内容に変更した免責文書(甲40〔3枚目〕)に差し替えるよう伝えた。
(エ) 控訴人は、同年5月中旬頃以降、前記(イ)及び(ウ)の指示に基づき、佐賀航空から機上渡し給油を受けた需要者からの航空燃料の給油に係る依頼に応じる条件として、実際に給油が行われる航空機のパイロット又は整備士等に対し、免責文書への署名を求め、これに応じない場合には、抜油を求めていた(免責文書・抜油対応)。(甲39、乙22[24〜32頁〕、49〔16〜33頁〕、88〔2〜9頁〕、90[7〜15頁〕、弁論の全趣旨)
⑶ 佐賀航空の航空燃料の品質ないし品質管理に関する控訴人の認識等
ア 控訴人の≪X3≫は、≪O≫の≪A課≫の担当者に対し、佐賀航空の航空燃料の成分検査や出荷証明の実情等について問い合わせていたところ、≪O≫の上記担当者は、平成29年1月23日、≪X3≫に対し、「AVGAS関連」の件について「現状調査した結果をご連絡させて頂きます。」として、「佐賀航空がAVGASの試験を≪P≫に依頼したということは事実のようです。≪P≫は当社とは別会社であり、一部の外部顧客(佐賀航空)の試験を拒否するということはできないということが実情です。」などとメールで回答した。(乙133)
イ 控訴人は、佐賀航空が≪Q≫(以下「≪Q≫」という。)を通じて≪R≫に対しジェット燃料(JET A-1)の調達の打診を行ったことを営業総括部において知ったことを受け、同年7月5日、販売部において情報の収集及び「現在の使用事業業界に対する給油会社の燃料供給体制について説明するため」として、≪X3≫及び販売部課長である≪X4≫(以下「≪X4≫」という。)において、≪Q≫の≪Q1≫、≪Q2≫及び≪Q3≫と面談を行った。
控訴人は、≪Q≫に対し、①佐賀航空の航空燃料品質管理の実施状況が不明であること、②佐賀航空の航空燃料と控訴人の航空燃料が顧客所有機の燃料タンク内で混合した場合のリスクについて責任を負えない旨を控訴人の顧客に説明していること等を説明し、≪Q≫から、控訴人の実施している給油前の事前確認及び念書の作成も視野に入れ検討したい旨の返答を得た。また、控訴人は、≪Q≫に対し、同社には≪Qの本社≫もあると聞いているとして社内的に情報を共有することを依頼し、≪Q≫はこれを了承した。
≪X4≫は、≪Q≫との面談の記録を同月12日までに作成して、控訴人の内部で、≪X3≫のほか、取締役2名、≪X2≫及び社長の供覧に付した。同面談記録には、「今回は、石油元売会社(≪R≫)がSGC佐賀航空㈱向けの航空燃料供給を断ったことで、SGC佐賀航空㈱は国内石油元売会社から直接燃料を仕入れることが出来なくなった。」「引き続き、当社が取引のある商社及び石油元売会社に対し、使用事業業界に対する給油会社の燃料供給体制について情報提供をおこなう。」「≪S≫へ訪問し、情報提供済み、他≪O≫、≪T≫については、既に情報提供を行い対応済みである。」「今回、≪Q≫に直接訪問したことで、今後は≪Q≫内でも情報が共有されSGC佐賀航空㈱からの依頼に対し慎重に行動すると思われる。」旨の記載がある。
(以上につき、乙134)
ウ 控訴人は、≪P≫における佐賀航空からの依頼に対する航空燃料の分析結果を、令和2年9月頃、代理人弁護士がした弁護士法23条の2第2項に基づく照会の回答により取得するまで、佐賀航空の航空燃料の品質ないし品質管理の問題性に係る具体的な情報を得ていかった。(甲49、弁論の全趣旨)
⑷ 本件市場における需要者の状況
ア ≪E≫は、控訴人が唯一の給油会社である名古屋飛行場に飛行機を格納しており、全国の空港等でも控訴人との間で取引をしていたため、控訴人と取引ができないと飛行機を全国で飛行させることができなくなる支障が生じる状況にあった。(乙15〔22頁、30頁〕、25[4〜5頁〕、42〔8頁、16頁〕)
イ ≪F≫は、航空測量などの業務を行うため、全国各地の空港で給油を受けていたところ、例えば、名古屋飛行場及び広島ヘリポートには控訴人以外に給油会社がないため、名古屋飛行場で控訴人から給油を受けられないと、同飛行場周辺での業務が困難になり、また、広島へリポー卜を拠点とする2機のヘリコプターの給油が受けられなくなると困る上、八尾空港で急いで給油したい場合は八尾空港内に給油施設がある控訴人から給油を受ける必要があったため、控訴人から給油を受けられなくなると事業に支障が生じる状況にあった。(乙20[23〜25頁〕)
ウ ≪C≫は、控訴人から給油を受けられないと、控訴人以外に給油会社がない空港等で給油を受けられなくなるなど、マイナミ給油ネットワークを利用できなくなり、同社や≪B≫を含むグループ会社が事業を行う上で支障が生じる状況にあった。(乙37〔3頁、24頁〕)
エ ≪D≫は、八尾空港以外の空港等で控訴人や控訴人の提携先給油会社から給油を受けられなくなったり、掛け売りに応じてもらえなくなったりすると、同社の主要な事業である航空写真測量業務に支障が生じる状況にあり、控訴人等との取引がこれまでどおりできないのであれば、八尾空港において佐賀航空から航空燃料の給油を受けることは難しいなどと考えていた。(乙39〔2〜3頁〕、119[29頁〕)
オ ≪H≫は、日本各地の空港等で控訴人から航空燃料の給油を受けることができなくなると、特に航空燃料の給油を受ける量が最も多い名古屋飛行場には航空燃料の給油会社が控訴人しかないことから、業務に支障が生じる状況にあった。(乙41[16頁〕)
カ ≪J≫は、同法人が航空事業を行う上では各地の空港等において控訴人や控訴人の提携先給油会社から給油を受けられることが必要であり、また、同法人が航空事業で使用することがある名古屋飛行場には、控訴人しか給油会社がないことなどから、佐賀航空から給油を受けることによって控訴人やその提携先給油会社から給油を受けられなくなる場合、航空事業に支障が生じる状況にあった。(乙18〔8〜10頁、25〜27頁〕)
キ ≪L≫は、顧客から委託を受けて顧客の航空機の整備・保管を行う事業等を行っているところ、八尾空港以外の空港等で控訴人や控訴人の提携先給油会社から航空燃料の給油を受けられなくなってしまう場合、控訴人やその提携先給油会社しか給油会社がない空港等で給油を受けられなくなるなど困ったことになるため、顧客が困ることになる状況を見過ごすわけにはいかないと考えていた。(乙122〔2頁、22頁〕)
ク 給油を受けた事業者は、本来は給油を受けた場所を管轄する税務署に対し航空機燃料税を納税する義務があるところ、≪U≫は、マイナミ給油ネットワークの利用により、日本各地における給油について控訴人から一括して伝票を受領することができ、一か所の税務署で一括して航空機燃料税を納める特例手続の申請に際し各段に業務の効率化を図ることができるため、マイナミ給油ネットワークについて非常にメリットのあるサービスだと感じている。また、同社は、ベースとしている名古屋飛行場では給油会社が控訴人しかないため、控訴人から給油を受けられないと、航空事業が成り立たなくなる状況にあった。(乙19〔15〜17頁、26〜28頁〕)
ケ ≪V≫は、控訴人や控訴人の提携先給油会社から給油を受けられなくなる空港等が出てきてしまうと、同社が事業を行う上で支障が生じる状況にあった。(乙24〔15頁〕)
コ ≪W≫は、全国の空港等で、控訴人や控訴人の提携先給油会社から航空燃料の給油を受けており、また、場外離着陸場で使用するドラム缶のほとんどを控訴人から購入しているため、控訴人からこれらの給油等を受けられなくなってしまうと、ヘリコプターを運航することができないというように、事業そのものに支障が生じる状況にあった。(乙40〔21〜27頁〕)
サ 大阪市消防局は、八尾空港において複数の航空燃料給油会社から機上渡し給油を受けることが可能な場合、通常は、指名比較見積又は事後審査型制限付一般競争入札により契約先を決定するが、災害派遣の場合、控訴人が唯一の給油会社である名古屋飛行場等において給油を受けることが避けられない場合があることから、控訴人と随意契約を締結する可能性があった。(乙50[14〜15頁、17〜18頁〕)
シ 本件市場の需要者の中には、緊急時や急ぎの場合などに給油依頼に迅速に対応してもらえることが必要ないし重要であると認識しており、実際にも急ぎの場合に給油に要する時間が佐賀航空よりも10分程度短い控訴人から給油を受けていた者がいた。(乙17〔7頁、26頁〕、20〔24頁〕、22[21〜22頁〕、48〔10〜11頁〕、49〔14〜15頁〕)
⑸ 本件通知行為等以降の需要者及び大阪航空局の対応
ア ≪E≫は、平成28年11月頃から佐賀航空との継続的な航空燃料の売買取引の開始を検討していたが、12月7日通知を受け、控訴人から給油を受けられないと自社の飛行機を全国で飛行させることができなくなるという事業上の支障があることを懸念し、佐賀航空との取引開始の検討を見合わせることとした。(乙15〔11〜22頁〕、乙25〔3〜5頁〕、乙42〔5〜18頁〕)
イ ≪F≫は、佐賀航空の航空燃料について、その品質を証明する資料に基づく説明を受け、品質に問題がないと理解したことにより、佐賀航空の航空燃料の販売価格によっては、佐賀航空との取引を開始したいと考えていたが、本件通知行為等により、控訴人から給油が受けられなくなることで同社の航空測量業務等の遂行が困難となることを懸念し、佐賀航空との取引を開始できないと考えていた。(乙20〔22〜25頁〕、乙130〔2〜3頁〕)
ウ ≪D≫は、佐賀航空の取引条件が控訴人より良いことが分かれば、佐賀航空から航空燃料の給油を受ける可能性はあるとしつつも、同社から給油を受けた場合、控訴人から受け取った12月7日通知及び3月15日通知により控訴人やその提携先給油会社から給油が受けられなくなり自社の業務に支障を生じることを懸念し、かかる懸念が解消されなければ、佐賀航空から給油を受けることは難しいと考えていた。(乙119〔26〜29頁〕)
エ(ア) 控訴人は、平成28年12月13日、大阪市消防局に対し、大阪市消防局作成の仕様書(乙128)と異なる「ASTM D 1655又は共同利用貯油施設向け統一規格に適合しなければならない」こと等を「品質」の条件とし、「ASTM D 1655又は共同利用貯油施設向け統一規格に適合していることを証明する製油所全項目試験成績書及びバッチ試験成績書」を提出物とする入札仕様書の案を提出した。(乙127)
大阪市消防局は、平成29年2月頃、石油元売会社発行の全項目試験報告書の提出を条件とするなど、入札仕様書の内容を改訂する意向を有していた。(乙129)。
(イ) 控訴人は、平成29年1月26日の時点で、大阪市消防局に対し、控訴人は石連規格に合致したジェット燃料(JET A-1)を販売しているが、佐賀航空のジェット燃料(JET A-1)の品質が石連規格に合致しているか不明である旨の情報提供を行っていた。(乙50〔8〜9頁〕)
(ウ) 大阪市消防局は、2月10日通知の後である平成29年6月頃、控訴人と随意契約を締結するため、免責文書に署名する方向で手続を進めていたが、その後、免責文書へ署名することについて内部的な許可が得られなかったことにより、免責文書への署名をしないこととした。(乙92〜94)
オ 佐賀航空は、≪F≫や≪B≫の社長から、控訴人が取引先に配布した3月15日文書等、佐賀航空から給油を受けたら控訴人は給油を継続しないと言っている件が解決しない限り、佐賀航空から給油を受けるかどうかについて検討の土俵に上げることができないと言われており、また、3月15日文書を見た八尾空港に拠点を置く他の航空会社からも同じようなことを言われ、さらに、個人の需要者からも、他の空港に行ったときに給油ができないと困るため、現状では佐賀航空からは給油できない、と言われていた。(乙7〔4頁〕)
カ 大阪航空局は、平成29年6月2日、控訴人の前記⑵エ(ア)の報告書(甲37)に関し、控訴人に対するヒアリングを実施した。大阪航空局は、当該ヒアリングにおいて、控訴人に対し、佐賀航空の航空燃料が国土交通省の基準に合致している旨伝えるとともに、3月15日文書の取下げ又は訂正を求めた。これに対し、控訴人は、給油を拒否した事例はない旨等を回答し、控訴人において文書を撤回するとの回答はしなかった。(甲41、乙58)
大阪航空局長は、控訴人に対する構内営業承認を取り消さなかった。(弁論の全趣旨)
⑹ 3月25日通知に対する需要者及び佐賀航空の認識等
ア 3月25日通知には、以下の内容が含まれていた。
「エス・ジー・シー佐賀航空株式会社様(以下「佐賀航空様」といいます。)が、2018年6月以降、機上渡しの方法等で販売されているジェットエンジン向けの航空燃料JET A-1は、国内石油元売会社から仕入れたものであると、公正取引委員会に対して報告されていることが今月分かりました。つきましては、弊社は、本日(2020年3月25日)より、佐賀航空様のJET A-1の給油を受けられた機体につきましても、他の給油会社様から給油を受けた機体と同様に取扱い、弊社のJET A-1を給油させていただきます。」
「弊社は、八尾空港において2016年11月より、エス・ジー・シー佐賀航空株式会社様(以下、佐賀航空様といいます。)が、航空機用燃料の給油業務を開始されたことに伴い」「佐賀航空様の航空燃料の給油を受けた機体については当社から給油を致しかねると考えておりますという旨をお伝えし、また、給油の条件として、当社より、佐賀航空様の航空燃料と当社の航空燃料を混合した場合、それに起因する航空機に係る事故・故障等が発生した場合でも当社は責任を負えないとの説明を受けた旨などを記載した書面への署名等をお願いしてまいりました。」「上記のような運用を取らせていただいた理由は、佐賀航空様が販売される航空燃料については、弊社において統一品質規格と同等の品質を確認、判断できなかったところにあります。」
「ところが、今般、佐賀航空様が、公正取引委員会に対して2018年6月以降JET A-1を国内石油元売会社から仕入れて販売していると報告していることが今月判明しました。」
「そうしますと、佐賀航空様の取り扱われる燃料は統一品質規格に合致した燃料ということがいえますから、今後は、佐賀航空様からJET A-1の給油を受けた機体につきましても、他の給油会社様から給油を受けた機体と同様に取扱い、給油させていただきます。(なおAVGAS100LLにつぎましては現時点では運用に変更はござません。)」(ママ)
イ 3月25日通知を受け取った控訴人の顧客の中には、次のとおり考えている者がいた。
(ア) 3月25日文書によっても、控訴人の従来の運用(本件違反行為)は何ら変化していない。(乙120〔11〜16頁、添付資料1の8頁〕、乙136〔8枚目〕)
(イ) 依然として、控訴人と佐賀航空との間の揉め事は続いていることから、控訴人による従来の運用が完全に終了するまでは様子をみて、佐賀航空から給油を受ける(あるいは検討する)ことはしないだろうと考えている。(乙120〔11〜16頁、添付資料1の8〜9頁〕、乙136〔8〜9枚目〕、乙137〔8〜9頁〕)
(ウ) 控訴人において、佐賀航空が国内石油元売会社から仕入れたジェット燃料を給油している限りは、従来の運用を取りやめるとしているが、佐賀航空のジェット燃料が国内石油元売会社から仕入れたものでなくなった場合(又は国内石油元売会社から仕入れているかどうか、控訴人が分からないと判断した場合)、控訴人は従来の運用に戻すのであろうから、そのような状況で佐賀航空からの給油を受ける(あるいは検討する)ことはしないだろうと考えている。(乙138〔8〜9頁〕)
(エ) 結局は、給油会社である控訴人が、佐賀航空が給油する航空燃料について、控訴人の見解に基づいて行っている対応という意味で同じものであるので、3月25日通知の前と後とで、控訴人の対応が変わったとは考えていない。(乙139〔14〜19頁、添付資料1の8頁〕)
ウ 佐賀航空は、3月25日通知の後においても、控訴人がお墨付きを与えた燃料でなければ佐賀航空が販売できないかのような状況は解消されていないと認識しており、また、石油精製業者からの調達価格や円相場の動向次第ではジェット燃料(JET A-1)を海外から購入する可能性は今後もあり、国内石油元売会社からジェット燃料を購入できない場合には国外から調達するしかないところ、その場合、需要者は佐賀航空から航空燃料を購入できない状況に陥ってしまうと考えていた。(乙135〔3頁、6頁、13〜14頁〕)
2 排除行為該当性(争点1)について
⑴ 独禁法は、公正かつ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させて事業活動を盛んにすることなどによって、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とし(1条)、事業者の競争的行動を制限する人為的制約の除去と事業者の自由な活動の保障を旨とするものである。その趣旨に鑑みれば、本件通知行為等が独禁法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為(排除行為)に該当するか否かは、本件通知行為等が、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、競争者である佐賀航空の本件市場での活動を著しく困難にするなどの効果を有するものといえるか否かによって決すべきである(最高裁平成22年12月17日第二小法廷判決。民集64巻8号2067頁、最高裁平成27年4月28日第三小法廷判決。民集69巻3号518頁参照)。
そして、本件通知行為等が、上記のような人為性を有し、上記効果を有するものといえるか否かは、本件市場の状況、控訴人及び佐賀航空の本件市場における地位及び競争条件の差異、需要者である航空事業者の地位、本件通知行為等の態様や継続期間等の諸要素を総合的に考慮して判断されるべきものと解される。このうち、人為性に関して、控訴人は、本件通知行為等は自社の航空燃料と品質管理に問題のある佐賀航空の航空燃料との混合についての懸念から自己危難回避目的で行った旨を主張しているから、本件通知行為等の当時、佐賀航空の航空燃料の安全性についての懸念が客観的に認められたか、本件通知行為等は控訴人が主張するような意図・目的でされたものかについて、検討する必要がある。
そこで、上記見地に立って、本件通知行為等が人為性を有し、上記効果を有するものといえるかを検討する。
⑵ 本件市場の状況並びに控訴人及び佐賀航空の本件市場における地位及び競争条件の差異について、前提事実及び前記認定事実によれば、次の諸点を指摘できる。
ア 控訴人は、本件市場において、平成28年11月に佐賀航空が参入するまで、独占事業者として航空燃料の販売事業を行っており、同月に佐賀航空が参入した後も、航空燃料の供給量において、航空ガソリン及びジェッ卜燃料のいずれについても8割を超える高いシェアを保持しており(前提事実⑷ア(ア))、航空ガソリン及びジェット燃料のいずれについても、本件市場における需要を完全に満たすだけの供給能力があった。
イ これに対し、佐賀航空は、平成27年11月13日に八尾空港における航空燃料の販売についての承認を得て、平成28年11月から八尾空港における航空燃料の販売を開始した新規参入者であり(前提事実⑷イ)、その後平成29年及び平成30年においても本件市場におけるシェアは2割を超えることはなく(前提事実⑷ア(ア))、本件通知行為等の実施時点において、佐賀航空は、航空燃料の供給量に関して控訴人に大きく後れを取っていた。
ウ 控訴人は、平成28年12月以降、少なくとも令和元年11月までの間、名古屋飛行場、広島ヘリポート等、控訴人以外に給油会社のない空港等で給油を行っており、八尾空港協議会員11名のうち9名は、控訴人が唯一の給油会社である空港等において給油を受ける必要があった(前提事実⑷ア(イ))。
エ 控訴人は、日本全国の空港等のうち80か所において、マイナミ給油ネットワークにより控訴人又は提携先給油会社等から航空燃料の販売を行うことを可能としており、実際に販売した実績のある空港等も69か所あり、利便性の高い決済手段を用いて全国の多数の空港等で給油を受けることを可能としていたところ、八尾空港協議会員11名のうち9名は、八尾空港以外の空港等においてマイナミ給油ネットワークを利用して提携先給油会社等から航空燃料の販売を受けており(前提事実⑷ア(イ))、中には、控訴人や提携先給油会社等から給油を受けられなくなると事業上の支障が生じる者がいた(認定事実⑷)。なお、マイナミ給油ネットワークは、需要者に対し、決済代行サービスとしての利便性を与えるのみならず、八尾空港以外の全国の空港等において、提携先給油会社等から給油が受けられる利便性を与えるものであるほか、需要者において日本各地における給油について控訴人から一括して伝票を受領でき、納税における特例手続の申請業務の効率化に資するという利便性を与えるものであった(認定事実⑷ク)。
オ 控訴人は、佐賀航空と異なり、八尾空港内に給油施設を構えていたことから、需要者からの給油の依頼に対し、佐賀航空よりも迅速に対応できる場合が多いところ(前提事実⑷ア(ア)、イ)、本件市場の需要者の中には、緊急時や急ぎの場合などの給油依頼に迅速に対応してもらえることが必要ないし重要であると認識している者がいた(認定事実⑷シ)。
カ 上記ア及びイのとおり、本件通知行為等の実施時点において、本件市場における航空燃料の供給量に関して控訴人が佐賀航空に対し圧倒的に優位な立場にあったこと等、両者の本件市場における地位を踏まえると、控訴人は、需要者にとって、本件市場において他に代替することが困難な取引相手であったということができる。これに加え、上記ウ、エのとおりの八尾空港以外の空港等における控訴人の地位を踏まえると、八尾空港のみならず他の空港等で給油を受ける必要のある需要者、とりわけ、控訴人以外に給油会社のない名古屋飛行場や広島ヘリポート等において給油を受ける必要のある需要者にとって、控訴人は本件市場において他に代替することの不可能な取引相手であったといえる。また、上記オによれば、控訴人は、佐賀航空と比べ、本件市場において依頼に応じて迅速に対応できるという競争上の優位性を有していたということができる。
以上によれば、控訴人は、本件市場において、需要者にとって他に代替することができない取引相手であり、かつ、佐賀航空と比べ競争上の優位性を有していたということができる。
⑶ 12月7日通知が排除行為に該当するか否かに関し、前提事実及び前記認定事実によれば、その態様や継続期間、需要者である航空事業者の受け止め、控訴人の意図・目的等について、次の諸点を指摘できる。
ア 12月7日通知は、佐賀航空のように国内石油元売会社から航空燃料を仕入れていない給油会社について、その取扱いに係る知識及び理解が不足していることが多いとし、そのような航空燃料と控訴人の航空燃料とを混合した場合、そのことに起因する事故等において責任の所在が不明確となるとした上で、佐賀航空から航空燃料の販売を受けた場合、控訴人からの給油継続を「致しかねる」旨及び他の空港において提携先給油会社等からの給油継続も「困難」になる旨を通知するものである(認定事実⑵ア)。これに加え、控訴人が、佐賀航空の構内営業承認に関する議論において、八尾空港協議会員宛に配布した文書に、佐賀航空が給油した機体には給油を行えない旨を明記していたこと(認定事実⑴ウ(オ))に照らせば、12月7日通知は、佐賀航空から航空燃料の販売を受けた場合、八尾空港のみならず全国の空港等において、控訴人において給油継続をせず、提携先給油会社等からの給油もしない旨を示したものと認めるのが相当であり、12月7日文書の送付先となった八尾空港協議会員11名もそのように理解していたものと認められる。
そうすると、12月7日通知は、需要者に対し、控訴人及び提携先給油会社等と佐賀航空との二者択一の選択を迫る効果を有するものであったということができる。
イ その上、平成28年になされた12月7日通知の内容は、平成29年の2月10日通知、同年の3月15日通知によって対象を拡大する形で維持され、同年5月中旬以降に免責文書・抜油対応がとられるようになった後も明示的な撤回はなされなかったから、平成28年から3月25日通知がなされた令和2年3月25日までだけで3年以上もの間維持されており、平成29年度及び平成30年度において控訴人が8割を超えるシェアを有していたことからすると、前記の期間は本件市場における市場支配力の維持、強化という観点から相応の長さのある期間であったということができる。
ウ 控訴人は、佐賀航空が八尾空港における航空燃料の販売事業を開始したことに伴い、その約1か月後に12月7日通知を行っているが(前提事実⑹ウ、⑺ア)、当時、同一の機体に複数の会社の航空燃料が混合した結果、機体の故障等のトラブルが生じた事例があったとの事実は認められず(なお、認定事実⑴ア(ア)のとおり、佐賀航空の運航又は整備した機体について、平成12年から平成21年までの間に、4件の航空事故が発生した事実が認められるが、いずれの事故も航空燃料に起因するものではない。)、需要者の中には、これまで佐賀航空の航空ガソリンと佐賀航空以外の会社の航空ガソリンが混合したことでトラブルが生じたことはなかったため、同じ種類の燃料であれば、混合が生じても問題はないと認識していた者もいた(乙15)。そうすると、次の諸点を踏まえれば、12月7日通知は、自己危難回避目的に基づくものというよりは、佐賀航空の航空燃料について安全性を問題視する口実のある間に、佐賀航空の不利益となり得る事情を用いて、需要者側にとってのリスクを示すことにより、佐賀航空を八尾空港における航空燃料の販売事業から排除する強い意図ないし目的でなされたものであったと認めるのが相当である。
(ア) 控訴人は、平成27年9月1日、八尾空港協議会における佐賀航空からの事業計画の説明が行われた際、「各使用事業者にとっては、自分の事業にとっての利害のほうが分かりやすいということがはっきりと見えた。」として、その後は「各社が検討しやすいように」「問題点を抽出し、それを分かりやすく書いて、提供することが得策と判断」し、「問題点としては」「八尾空港において佐賀航空から給油を受けると」「八尾空港においては、MKSは給油をすることができないというリスク」、「つまり、MKSは二股をかける業者には給油しない。」という点を指摘することとし(認定事実⑴ウ(エ))、同月7日付けの≪X2≫のメモには、「使用事業者サイドのリスク」として「MKSは混合は不可」、「地方ネットワークも使えなくなる(S社と契約した場合)」と記載していた(認定事実⑴ウ(オ))。これらの事実は、控訴人が、需要者が佐賀航空と取引した場合に八尾空港において控訴人から給油を受けられず、マイナミ給油ネットワークを利用できなくなることを需要者側のリスクと位置づけ、佐賀航空と控訴人との二股をかけた場合には、不利益を与えることを示すことにより、佐賀航空との取引を阻害する意図、目的があったことを示すものといえる。
(イ) 控訴人の社内における役員らの以下の発言等は、控訴人が、佐賀航空が販売する航空燃料の品質を懸念しているのではなく、これを口実として、佐賀航空の航空燃料に供給会社からの証明書が出されない間に、佐賀航空の不利益になる事情を需要者に対しアピールしながら安全性を理由に佐賀航空を排除する峻烈な意図、目的を有していたことを示すものである。
a 平成27年9月29日には、≪X2≫から≪X3≫、控訴人の名古屋事業所長に対し、執行役員3名もCCとして宛先に含める形で、佐賀航空を「五月蠅いハエ」として「撃退中」である旨の連絡がされた。(認定事実⑴ウ(ケ))
b 平成28年11月10日には、取締役、執行役員及び部長級の者が参加する会議において、≪X2≫から、「社長も、我々も」「日干しにしてやろうじゃないかと思っている」との発言や、佐賀航空の航空燃料がどこから供給されているのか分からない状況の「今、早めにつぶそう」との発言、「元売から供給証明出ちゃったら、もう勝負にならない」として、石油元売会社から供給証明が出ておらず口実がつくうちに早めに佐賀航空を「つぶそう」との発言があった。(認定事実⑴カ(ウ))
c 佐賀航空が、「いかに、いい加減な業者かってことをアピール」することが「ポイント」であるとして、佐賀航空の不利益になる事情を需要者に対し「アピール」しようとしていた。(認定事実⑴カ(ウ))
d ≪X2≫は、八尾事業所長に対し、控訴人が火の粉を浴びないように、佐賀航空を懲らしめる、やがて、追い詰めるような追い込みを対処方針とすることを伝えていた。(認定事実⑴オ(ア))
e ≪X3≫は、控訴人の広島事業所長に対し、同事業所の課長、西広島営業所の課長、八尾事業所長、販売部の課長及び≪X2≫をCCとして宛先に含めるメールにより、佐賀航空を早めに排除したい旨の認識を示し、控訴人の八尾事業所長が佐賀航空の施設の工事の進捗について報告するメールに対しては、八尾事業所長に加えて≪X2≫及び販売部の課長らを宛先又はCCとして宛先に含めるメールにより、佐賀航空を「ぶっ潰したいですね」と伝えていた。(認定事実⑴オ(イ)、(ウ))
f ≪X2≫は、八尾事業所長に対し、控訴人の執行役員をCCとして宛先に含めるメールにより、佐賀航空を「マーケットを荒らす溝鼠」と表現し、「病原菌を撒き散らす」おそれがあるとした上で、「最後は安全という正義の御旗を持つ正当が勝利することになる」旨伝えていた。(認定事実⑴カ(イ))
(ウ) 控訴人の≪X3≫は、≪O≫の≪A課≫の担当者から、「佐賀航空がAVGASの試験を≪P≫に依頼したということは事実のようです。≪P≫は当社とは別会社であり、一部の外部顧客(佐賀航空)の試験を拒否するということはできないということが実情です。」とのメールを受け取った(認定事実⑶ア)。この事実は、控訴人が、佐賀航空からのAVGASの試験の依頼を拒否することの可否を問い合わせたことを示すものと考えられ、佐賀航空が航空ガソリンの品質の確認をすることを妨げようとしていたことを意味する。
(エ) 控訴人は、佐賀航空が国内石油元売からジェット燃料を調達しようとしていた動きを知り、商社である≪Q≫に対し佐賀航空の品質管理の実施状況が不明であることなどを伝えた面談記録において、「今回は、石油元売会社(≪R≫)がSGC佐賀航空㈱向けの航空燃料供給を断ったことで、」「国内石油元売会社から直接燃料を仕入れることができなくなった。」「引き続き、当社が取引のある商社及び石油元売会社に対し、使用事業業界に対する給油会社の燃料供給体制について情報提供をおこなう。」「今後は≪Q≫内でも情報が共有され」佐賀航空「からの依頼に対し慎重に行動すると思われる。」としていた(認定事実⑶イ)。この事実は、佐賀航空が国内の商社又は石油元売会社から航空燃料の調達ができなくなるように、控訴人において、佐賀航空の品質管理に関する悪評を広めていたことを示すものである。
⑷ア 上記⑵及び⑶を総合すれば、12月7日通知は、八尾空港の航空燃料の機上渡し給油市場(本件市場)において8割を超えるシェアを有し、需要者にとって他に代替できない取引相手であって、全国においても自社又はグループ会社のみが唯一の給油会社である空港等やマイナミ給油ネットワークの存在等の利便性を有しており、佐賀航空より競争上優位な立場にあった控訴人が、本件市場の約8割の需要を占める八尾空港協議会員11名に対し、八尾空港において佐賀航空から給油を受けた者には控訴人や提携先給油会社等からの給油を行わない旨を示したものであって、需要者にとって控訴人との取引を避けることができない以上、佐賀航空との取引を断念させ、八尾空港において控訴人のみと取引することを実質的に強制し、その選択の自由を奪うものであり、また、需要者に対し、競争上優位性のある控訴人と取引することのできる地位を維持するために、佐賀航空との取引を抑制させる効果を持つものということができる。そして、八尾空港協議会員11名が、八尾空港の機上渡し給油の需要の約8割を占めることからすると、佐賀航空にとって代替的な取引先を容易に確保することができなくなるといえるから、12月7日通知は、本件市場において、佐賀航空における事業活動の継続を著しく困難にする効果を有するものといえ、控訴人が佐賀航空を八尾空港における航空燃料の販売事業から排除する目的で12月7日通知を行ったことも、同通知に上記のような排除効果があったことを裏付ける。
イ そして、12月7日通知は、需要者に対し、佐賀航空との取引を抑制させる条件を付す行為であるところ、需要者にとって他に代替することのできない取引相手の立場にある控訴人が行うこのような行為は、実質的にみて控訴人のみとの取引を強制し需要者の選択の自由を奪うものであって、それ自体、正常な競争活動とはいい難いものであるし、佐賀航空が航空燃料について安全性を証明した上で控訴人との競争を行うという需要者にとって望ましい状況になる前に、安全性の証明を妨害することもいとわず、同社を排除するとの目的は、独禁法の許容する競争の意図にとどまるものとは評価できないというべきである。
以上によれば、控訴人が行った12月7日通知は、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、競争者である佐賀航空の本件市場での活動を著しく困難にするなどの効果を有するものということができるから、排除行為に該当するというべきである。
⑸ア 2月10日通知が排除行為に該当するか否かについて、前提事実、前記認定事実及び後掲証拠によれば、その態様や、需要者である大阪市消防局の対応、控訴人の意図・目的について、次の事実を指摘することができる。
(ア) 2月10日通知は、控訴人による12月7日通知が維持されていた中、大阪市消防局に対し、控訴人が大阪市消防局との契約の相手方となっていない期間中、新千歳空港を除く直営11空港等及び控訴人のグループ会社である給油会社が唯一の航空燃料給油会社である福岡空港の合計11の空港等において燃料販売を停止する旨を通知するものであり、八尾空港において控訴人以外の者との取引をしないことを控訴人との取引の条件とするものであった(前提事実⑺イ)。
(イ) 大阪市消防局は、災害派遣の場合、控訴人が唯一の給油会社である名古屋飛行場等において給油を受けることが避けられない場合があることから、控訴人と随意契約を締結する可能性があった(認定事実⑷サ)。
(ウ) 大阪市消防局においては、控訴人から「共同利用貯油施設向け統一規格」等に適合していることや「製油所全項自試験成績書」等の提出を条件とする入札仕様書の案の提出を受けたことにより仕様書の内容を変更する可能性があった(認定事実⑸エ(ア))。
なお、「共同利用貯油施設向け統一規格」(石連規格)は国内規格であり(前提事実⑵イ(ア))、控訴人の案どおりに仕様書の内容が変更された場合には、航空燃料を輸入する佐賀航空において対応できないか、対応するために追加の説明や資料等が必要な条件になり得たものであり、航空燃料を輸入する佐賀航空において、国内規格に基づく航空燃料を国内石油元売会社から購入している控訴人に比して不利な状況になり得た。
(エ) 控訴人は、平成29年1月26日の時点で、大阪市消防局に対し、佐賀航空のジェット燃料の品質が石連規格に合致しているか不明である旨を話す(認定事実⑸エ(イ))など、佐賀航空の排除に向けた情報提供を行っていた。
(オ) 大阪市消防局は、2月10日通知の後である、平成29年6月頃、控訴人と随意契約を締結するため、当初免責文書に署名する方向で手続を進めていた(認定事実⑸エ(ウ))。
イ 上記ア(ア)ないし(ウ)及び(オ)の各事実によれば、控訴人による12月7日通知が維持されていた中でされた2月10日通知は、これにより、大阪市消防局が控訴人との随意契約を締結するため、佐賀航空との取引を抑制する可能性があったし、大阪市消防局の入札等の仕様書に記載される条件等が影響を受け、航空燃料を輸入している佐賀航空が入札に参加できないか、不利な取扱いを受けるような、国内石油元売会社の品質証明書を前提とした仕様書に変更される可能性もあったといい得る。
また、控訴人が佐賀航空を排除する目的で12月7日通知を行い、上記ア(エ)のとおり、平成29年1月26日の時点で、大阪市消防局に対し、佐賀航空の排除に向けた情報提供を行っていたことからすれば、2月10日通知も、佐賀航空を排除する目的で行われたものと認めるのが相当である。
ウ 上記イのとおり、2月10日通知は、12月7日通知による排除効果が生じていた中、控訴人において佐賀航空を排除する目的で行われ、大阪市消防局に対し佐賀航空との取引を抑制する可能性があったから、12月7日通知について、その対象を広げ排除効果を強化する効果を有しており、佐賀航空の事業活動を著しく困難にする効果を有するものであったと認められる。
また、2月10日通知が、12月7日通知同様、大阪市消防局に対し佐賀航空との取引を抑制させる条件を付すものであり、災害派遣の場合、控訴人が唯一の給油会社である名古屋飛行場等において給油を受けることが避けられない場合があり控訴人との取引を避け難い大阪市消防局に対し、控訴人のみとの取引を実質的に強制し、その選択の自由を奪うものであること、控訴人が佐賀航空を排除する目的で行われたものであることからすれば、これが、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、競争者である佐賀航空の本件市場での活動を著しく困難にするなどの効果を有するものといえることは、前記⑷と同様である。
エ 以上によれば、2月10日通知は、排除行為に該当するというべきである。
⑹ 3月15日通知が排除行為に該当するか否かについて、前提事実、前記認定事実によれば、次のようにいうことができる。
ア 3月15日通知は、①佐賀航空の航空燃料と控訴人の航空燃料が混合した場合、それに起因する事故等に係る責任を負えない旨及び②したがって、控訴人の契約先である顧客が、佐賀航空より航空燃料の給油を受けた場合、それ以降は控訴人からの給油継続ができない旨の内容を、12月7日通知の対象者を含む取引先需要者261名に拡大して通知したものであったから(前提事実⑺ウ)、3月15日通知も、12月7日通知と同様、佐賀航空を排除する目的で行われたものと認めるのが相当である。
また、3月15日通知は、12月7日通知同様、佐賀航空から給油を受けた需要者には控訴人が給油しない旨を、八尾空港における機上渡し給油に限定せずに示したものであり、八尾空港協議会員11名のみならず、それ以外の需要者に対しても、八尾空港の航空燃料の機上渡し給油市場における佐賀航空との取引を抑制させる効果を有するものといえる(認定事実⑷)。
イ そうすると、3月15日通知は、通知の対象となる需要者の範囲を大幅に拡張し、佐賀航空との取引を抑制する範囲を大幅に拡大したものであって、佐賀航空に対し、これらの通知の対象になった需要者に代わる取引先を容易に見出すことが一層できなくなる効果をもたらすから、12月7日通知による排除効果を強化し、八尾空港の航空燃料の機上渡し給油市場における佐賀航空の事業活動の継続を一層困難にさせる効果を有するものと評価できる。
ウ このように、控訴人が、競争者である佐賀航空を排除する目的の下、自社以外の者との取引を抑止する条件を付し、控訴人との取引が避けられない需要者に対し控訴人のみとの取引を実質的に強制し、その選択の自由を奪う行為である3月15日通知は、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、競争者である佐賀航空の本件市場での活動を著しく困難にするなどの効果を有するものといえることは、前記⑷と同様である。
エ 以上によれば、3月15日通知は、12月7日通知により成立した排除行為に係る排除効果をより強化するものとして、12月7日通知と併せ、排除行為に該当するというべきである。
⑺ 平成29年5月中旬以降の免責文書・抜油対応の排除行為該当性について、次のようにいうことができる。
ア 控訴人は、平成29年5月中旬頃以降、佐賀航空から機上渡し給油を受けた需要者からの航空燃料の給油の依頼を受けた際には、3月15日文書を示して事故等が生じた場合に控訴人が責任を負えないこと等を説明し、給油の依頼に応じる条件として、免責文書への署名を求めるか、抜油を求めるという対応を行った(前提事実⑺エ)。
イ このような免責文書・抜油対応のうち、抜油対応は、需要者に対し、多大な経済的負担を生じさせる可能性がある上、時間的な負担も生じさせるものである。
また、免責文書対応は、航空事業者が控訴人の責任を免除することを認める免責文書への署名を、免除の権限を有するとは考え難い従業員(航空機のパイロット又は整備士)に対し求めるものである(前提事実⑺エ(イ)ないし(エ))。上記従業員らには、給油を受ける段階でそのような行為に応じる義務はなく、判断を求められることもないのが通常であるし、仮に航空事故が発生した場合、多額なものとなる航空事業者の損害の賠償責任を免責したとなれば、免責文書に署名をした従業員の責任を問われることもあり得るから、免責文書対応は、上記従業員らに対し、給油を受けるたびに相応の心理的な負担を負わせるものである。
このように、免責文書・抜油対応が、佐賀航空から機上渡し給油を受けた需要者に対し、負担を生じさせる措置であることからすれば、これらの対応は、需要者に対し、佐賀航空との取引を抑制させる効果を持つものといえる。
ウ 以上に加え、免責文書・抜油対応が、12月7日通知、2月10日通知、3月15日通知が撤回されないまま、これらの通知に記載された給油の拒否に代わり行われるようになったものであって、これらの通知行為による佐賀航空の排除効果が生じていた中、継続して行われていたものであることに照らせば、免責文書・抜油対応は、12月7日通知、2月10日通知、3月15日通知による排除効果を維持することで、佐賀航空の事業活動を著しく困難にする効果を有するものというべきである。
そして、免責文書・抜油対応は、競争者である佐賀航空との取引の存在を理由として不利益措置を講じるものであって、競争行為ということはできない上、免責文書・抜油対応において3月15日文書を示すこととしており、3月15日通知と同様、控訴人の佐賀航空を排除する目的で行われたものと認めるのが相当であるから、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、競争者である佐賀航空の本件市場での活動を著しく困難にするなどの効果を有するものといえる。
エ 以上によれば、免責文書・抜油対応も12月7日通知、2月10日通知及び3月15日通知と併せ、排除行為に該当するというべきである。
⑻ 本件通知行為等の一連・一体性
前記⑶ないし⑺のとおり、本件通知行為等は、いずれも排除行為に該当するところ、これらは、いずれも本件市場に佐賀航空が参入したことを契機として、控訴人が本件市場から佐賀航空を排除する目的で、八尾空港における機上渡し給油の需要者を対象として行われたものである点において共通するものである。そして、12月7日通知が行われた後、2月10日通知、3月15日通知及び免責文書・抜油対応は、いずれも12月7日通知による排除効果を強化する効果を有していたことも、前記のとおりである。
これらの事情に鑑みれば、本件通知行為等は、一つの目的の下で行われた一連・一体の行為として排除行為に該当するものと評価するのが相当である。
⑼ 排除行為に係る控訴人の主張について
ア(ア) 控訴人は、①本件市場における控訴人のシェアは排除効果の根拠とならないこと、②マイナミ給油ネットワークは決済代行をするにすぎず、需要者に利便性を与えるものではないこと、③控訴人と佐賀航空の給油時間の差はあるとしても10分程度であり、有意な差とはいえないことなどを挙げて、本件通知行為等には排除効果が認められないと主張する。
しかし、上記①について、仮に佐賀航空が相応の供給能力を有していたとしても、八尾空港においては新規参入者であったから、八尾空港協議会員11名にとっては、佐賀航空から安定的に供給を受けることを信頼することはできず、控訴人と取引をする可能性は排除されないのであって、12月7日通知により二者択一を迫られた状況において、佐賀航空との取引に完全に切り替えることには躊躇することになるというべきである。上記②について、マイナミ給油ネットワークは、乗員が給油代金の支払に必要な高額な資金を持ち歩くことなく国内の多くの空港等で機上渡し給油を受けられるという控訴人の取引先需要者からの要望に応えるために構築されたものであり、利便性必要性が高いものと認識されている(乙18、19)。さらに、上記③について、本件市場の需要者の中には、緊急時や急ぎの場合などの給油依頼に迅速に対応してもらえることが必要ないし重要であると認識している者がいたのであり、たとえ10分程度の差であったとしても、給油の迅速性は控訴人の競争上の優位性を示すものである。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 控訴人は、12月7日通知が佐賀航空と控訴人の二者択一を迫るものであるとしても、それ自体は独禁法上否定的評価を受けるわけではないこと、免責文書・抜油対応について、署名による負担は重くないから佐賀航空との取引に影響を与えないことなどを指摘して、本件通知行為等には排除効果が認められない旨主張する。
しかし、八尾空港協議会員11名の中には、控訴人や提携先給油会社等から給油を受けられなくなると事業上の支障が生じる者がいたのであるから、八尾空港で佐賀航空から給油を受けた場合に控訴人や提携先給油会社等から給油を受けられなくなることを通告する12月7日通知は、通知を受けた需要者をして佐賀航空との取引を抑制させる効果を与えるのに十分である。また、万が一、航空燃料の混合により事故等が発生した場合には、免責文書に署名したパイロットや整備士は責任を追及されるおそれがあるのであるから、少なくとも心理的な負担を負わせるものである(なお、控訴人は、現場の担当者に対して、佐賀航空から航空燃料の給油を受けた航空機を保有する需要者からの給油依頼に対して免責文書への署名を求める際、当該航空機のパイロットから免責文書への署名をもらうよう指示していた。乙49、88)。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) さらに、控訴人は、需要者は控訴人の行為がなくとも佐賀航空と取引しなかったから、本件通知行為等には排除効果がなかった旨、本件排除措置命令履行後に佐賀航空に乗り換える需要者がいないことが排除効果のなかったことを裏付ける旨主張する。
しかし、排除行為に該当するかは、本件通知行為等が、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、競争者である佐賀航空の本件市場での活動を著しく困難にするなどの効果を有するものといえるか否かによって決すべきであって、本件通知行為等が上記効果を有するものである事実が認められれば足り、個々の需要者において、本件通知行為等がなかった場合に需要者が佐賀航空と取引したであろうことや、排除措置命令の履行後に需要者が佐賀航空と取引を開始したこと等の事実が認められることを要するものではない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 控訴人は、本件通知行為等が自社に生じる危難を回避するためにとった防御的行為としてやむを得ないものであって、人為性を有しないから、排除行為に該当しない旨を主張する。
しかし、本件通知行為等が人為性を有するものといえることは前記⑶ないし⑺のとおりである。また、控訴人の主張する前記の事情は、正当化事由に該当し得る事情として、本件通知行為等が「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」(独禁法2条5項)ものに該当するか否かの検討に際し問題となり得るものと解されるところ、本件通知行為等の目的が「自社に生じる危難を回避するため」であったとは認められず、正当化事由に該当する前提を欠くことは、後記3⑷において説示するとおりである。
したがって、この点に関する控訴人の主張も採用できない。
3 本件通知行為等が「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものに当たるか(争点2)について
⑴ 「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」(独禁法2条5項)とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい、特定の事業者又は事業者集団がその意思で当該市場における価格、品質、数量、その他各般の条件をある程度自由に左右することができる状態をもたらすこと、すなわち市場支配力の形成、維持ないし強化という結果が生じることをいうものと解される(最高裁判所平成24年2月20日第一小法廷判決。民集66巻2号796頁、最高裁判所平成22年12月17日第二小法廷判決・民集64巻8号2067頁参照)。
⑵ア このように、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ことが、排除行為によって行われる場合には、当該排除行為によって、その当事者である事業者がその意思で当該市場における市場支配力の形成、維持ないし強化という結果を生じさせているものと解されから、本件における「一定の取引分野」は、具体的な行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を踏まえて決定すべきである。
イ 前記認定のとおり、本件通知行為等は、佐賀航空が八尾空港の機上渡し給油による航空燃料の販売事業に参入したことを契機として、控訴人において、佐賀航空を八尾空港の機上渡し給油による航空燃料の販売事業から排除する目的で行われた排除行為であるから、ジェット燃料又は航空ガソリンの一方のみについて行為を行うだけでは目的が達成できず、2つの航空燃料について一体として同時に行われる必要があったということができる。
そして、本件通知行為等のうち、12月7日通知、2月10日通知及び3月15日通知は、需要者に対し、佐賀航空の航空燃料と控訴人の航空燃料とが混合することを問題視した上で、佐賀航空から航空燃料の販売を受けた場合に給油の継続ができなくなる旨を通知するものであり、航空燃料の種類について特に記載することはなく、ジェット燃料及び航空ガソリンを区別せずに航空燃料とだけ記載している。
また、本件通知文書の送付先も、12月7日通知は八尾空港における機上渡し給油による航空燃料販売の主要な需要者である八尾空港協議会員11名であるし、3月15日通知は、控訴人との間で航空燃料販売のための取引口座を開設していた全ての顧客である取引先需要者に対して、ジェッ卜燃料及び航空ガソリンを区別せずに、航空燃料として一律に、控訴人としてどのような取扱いを行うものかを通知したものである。
その後の免責文書・抜油対応も、需要者が佐賀航空から航空燃料の機上渡し給油を受けた場合に一定の不利益措置を科すものであって、その対象となる航空燃料をジェット燃料と航空ガソリンとで区別していなかった(前提事実⑺エ)。
さらに、本件市場において、控訴人は、佐賀航空が参入するまで、ジェッ卜燃料及び航空ガソリンのいずれについても独占的な供給者であり、佐賀航空の参入後も、ジェット燃料及び航空ガソリンのいずれにおいても8割を超えるシェアを有しており、2つの航空燃料につき市場の状況の基礎事情が共通しているということができる。
ウ 以上のとおり、本件通知行為等は、控訴人が八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売事業から佐賀航空を排除する目的の下、ジェッ卜燃料と航空ガソリンとを区別せずに行われたものであり、ジェット燃料についても航空ガソリンについても同一の機会に同一の方法によって行われ、市場における控訴人の地位もジェット燃料と航空ガソリンとで共通していることからすれば、本件排除行為は、ジェット燃料と航空ガソリンとを一体不可分のものとして行われたものといえる。
これらの事情に照らせば、控訴人の排除行為により影響を受ける範囲は八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売に係る取引であると評価するのが相当であるから、当該取引分野を「一定の取引分野」として画定することができるというべきである。
エ(ア) これに対し、控訴人は、ジェット燃料と航空ガソリンには需要の代替性がないから、一つの一定の取引分野として画定することはできず、ジェット燃料の機上渡し給油と航空ガソリンの機上渡し給油とで別個の一定の取引分野を構成する旨主張する。
(イ) 確かに、ジェット燃料と航空ガソリンとの間には需要の代替性がないという点に着目した場合には、航空燃料の種類ごとの市場が成り立つようにも思われる。
しかし、二種類の商品について、仮にそれぞれを別個の取引分野として確定することが可能とみられる場合であっても、それによって、両者を併せて一つの取引分野として確定することが妨げられるわけではない。本件のように、本件通知行為等が、控訴人において佐賀航空を八尾空港における航空燃料の販売市場から排除する目的で、ジェット燃料と航空ガソリンとを区別せずに行われており、当該排除行為の影響を受ける範囲が八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売分野全体に及んでいるとの事情の下では、ジェット燃料と航空ガソリンとの間に需要の代替性がないことを踏まえても、なお、これらを区別しない航空燃料としての単一市場を画定することができるというべきである。
⑶ア 本件における「一定の取引分野」である、八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売に係る取引分野(本件市場)において、本件通知行為等が「競争を実質的に制限する」(独禁法2条5項)ものといえるには、控訴人が、その意思で当該市場における価格、品質、数量、その他各般の条件をある程度自由に左右することができる状態をもたらすこと、すなわち市場支配力の形成、維持ないし強化という結果が生じることを要する。
イ 控訴人が、本件市場において、需要者にとって他に代替することが困難な取引相手であり、八尾空港のみならず、控訴人以外に給油会社のない空港等において給油を受ける必要のある需要者にとって、他に代替することの不可能な取引相手であり、佐賀航空と比べ競争上の優位性を有していたことは、前記2⑵カのとおりである。
このような地位にあった控訴人が、佐賀航空を本件市場から排除する目的の下、本件通知行為等により需要者と佐賀航空との取引を抑制したのであって、その対象となった需要者も12月7日通知の時点で本件市場の約8割に相当し、その後3月15日通知により対象範囲を拡大したものである。
控訴人は、このような排除行為により、本件市場の8割を超える多数の需要者に対し佐賀航空との取引を抑制させたのであるから、これにより、佐賀航空の牽制力を失わせ、佐賀航空との取引を回避し控訴人と取引する需要者に対し、価格等をある程度自由に左右することができる状態をもたらしたものといえる。
したがって、本件通知行為等により、本件市場における控訴人の市場支配力の形成、維持ないし強化という結果が生じているということができ、本件通知行為等は、「競争を実質的に制限する」ものに該当するというべきである。
ウ 以上によれば、本件通知行為等は、八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売市場(本件市場)という「一定の取引分野」における「競争を実質的に制限する」ものに該当する。
エ これに対し、控訴人は、①本件排除措置命令書の記載を前提にすれば、本件通知行為等によりむしろ逆排除効果が生じていたことになる、②佐賀航空が給油設備に対する投資を埋没費用化させた後は、それ以前とは同社の競争圧力は全く異なる、③供給能力のシェアに基づいて判断すれば、控訴人の市場支配力は優に否定されるとして、本件通知行為等による競争の実質的制限は生じていないと主張する。
しかし、上記①について、本件通知行為等が、需要者と佐賀航空との取引を抑制するものであり佐賀航空に対する排除効果を有するものであったことは、前記2において判断したとおりである。そして、控訴人において、本件通知行為等により控訴人のいう逆排除効果を生じる状況にあると認識していたのであれば、そのような行為等を行うことは考え難い上、仮に、需要者との取引を佐賀航空に譲る効果(逆排除効果)が生じていたのであれば、控訴人から佐賀航空への切り替えが次々と生じるとも考えられるが、実際には佐賀航空のシェアは2割未満にとどまっていたのであるから(乙51)、本件通知行為等後も佐賀航空から機上渡し給油を受け続ける需要者がいたことは、排除効果が生じていたとの前記認定判断を左右しない。
上記②について、本件通知行為等に排除効果が認められるのは、本件市場における需要者に対し、控訴人を唯一の取引相手とすることを実質的に強制するものであるからであり、佐賀航空が過去に投資した参入費用が高かったことは排除効果を生じたか否かの判断に直接関係するものではなく、≪AC≫の意見書(甲108)を踏まえても、佐賀航空の投資が埋没費用化した後は排除が困難であることが実証されているとはいえない。
上記③について、仮に、佐賀航空に十分な供給能力があったとしても、本件通知行為等により、全国の空港等で控訴人と取引する必要のある需要者が佐賀航空との取引を避けてしまうのであれば、佐賀航空はその供給能力を発揮することができないのであるから、競争原理が働かないことには変わりがない。
したがって、控訴人の上記主張はいずれも採用することができない。
⑷ 正当化事由について
ア 控訴人は、本件通知行為等が、自社に生じる危難を回避するためにとったやむを得ないものであって、正当化事由があるから、競争の実質的制限が認められないと主張する。
イ 独禁法1条が「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」ことを目的としていることからすると、本件通知行為等の目的が競争政策の観点から見て是認し得るものであり、かつ、本件通知行為等が当該目的を達成するために相当なものである場合には、私的独占の要件に形式的に該当する場合であっても、「競争を実質的に制限する」との要件に該当しないものと解されることから、以下、これを前提に検討する。
ウ(ア) 控訴人は、ひとたび航空事故が発生した場合、その原因が自社の航空燃料にはないことの証明が困難であって、給油会社においては当該事故に基づく損害賠償義務等の多大な負担が生じる危険があることから、事故に巻き込まれる危険を回避し、責任の所在が不明となる事態を避けることは、事業継続上必要な防御対応であって、本件通知行為等は控訴人にとって事業活動上合理的な行為である旨主張する。
しかし、自社が給油した航空機が事故を起こした場合に多大な不利益を被る危険があるものと一般的にいえるとしても、控訴人のいうリスクは抽象的なものにとどまる上に、航空事故等の原因のうち、人的要因の次に多いのは機体の整備不良を含めたエンジン・機体の故障とされており(乙14)、水分や異物の混入により航空事故が発生した場合においても、水分や異物が、燃料会社が給油した燃料に入っていたのか、機体の整備不良、管理不備によって混入したかが争いとなることが多いと考えられることからすれば、控訴人としては、航空燃料の給油先の航空事業者等との間で事故の責任の所在が不明確になって、自社に危難が及ぶことになることを第一に懸念しなければならないはずである。しかるに、控訴人は、この点を問題にせずに、当然に給油された燃料に原因があるとされるリスクを前提として、佐賀航空との間で責任の所在が不明確になる場合のみを問題としている点において不合理である。
また、控訴人のいう目的(自己危難回避目的)に照らせば、控訴人においては、佐賀航空に対して、汚染の生じるリスクが低い、より安全な航空燃料を広く供給する方向で対応することが当然の帰結であり、そのためには、佐賀航空がより安全な航空燃料を購入し航空会社に供給すること、すなわち、控訴人において汚染のリスクがより低いと主張する国内石油元売会社の航空燃料を佐賀航空が購入するように求めることが望ましいということになる。この点は、控訴人が、12月7日文書において、通常、国内の航空燃料取扱会社は、国内石油元売会社から航空燃料の取扱いについての情報を取得するが、そうではない航空燃料取扱会社は、この点に関する知識や理解が不足しているとし(認定事実⑵ア(イ))、2月10日文書において、佐賀航空が給油している航空燃料と国内石油元売会社から供給を受けている航空燃料が同等の品質管理を経ているか分からないとしていた(認定事実⑵イ(イ))ことや、3月25日通知において、佐賀航空がジェット燃料を国内石油元売会社から仕入れていると報告していることが判明し、佐賀航空の取り扱う燃料が統一品質規格に合致した燃料ということができるとして、佐賀航空からジェット燃料の給油を受けた機体についても他の給油会社から給油を受けた機体と同様に取り扱うとしていた(認定事実⑹ア)ことからも明らかである。
(イ) しかるに、控訴人においては、≪X2≫が、取締役及び部長級の者が出席していた平成28年11月10日の社内の会議において、佐賀航空について、「今、輸入玉だからどっから出ているのか分からない。そこで、今、早めにつぶそうって話で。元売から供給証明出ちゃったら、もう勝負にならない。」と発言し(認定事実⑴カ(ウ))、佐賀航空が国内石油元売会社から航空燃料を購入することとなる前にできる限りの手段を使って排除する方針を確認していた。また、控訴人は、佐賀航空が≪Q≫を通じて国内石油元売会社である≪R≫に対し、ジェット燃料の調達を打診したことを知り、≪X3≫らにおいて、平成29年7月12日、≪Q≫のエネルギー本部東京石油部長らと面談をし、佐賀航空における品質管理の実施状況が不明であるとか、佐賀航空の航空燃料と控訴人の航空燃料が混合した場合のリスクについて責任を負えないなどと説明した上で、その面談記録において、「SGC佐賀航空㈱は国内石油元売会社から直接燃料を仕入れることができなくなった。」「引き続き、当社が取引のある商社及び石油元売会社に対し、使用事業業界に対する給油会社の燃料供給体制について情報提供をおこなう。」などと記載し、その面談記録を、社長に供覧していた(認定事実⑶イ)。
このように控訴人は、その主張するところによれば、佐賀航空が国内石油元売会社の航空燃料を購入し供給することが望ましいはずであるにもかかわらず、実際には、自社に生じる危難を避けることとは相容れない行動を積極的にとっていたものである。
(ウ) 控訴人は、本件通知行為等の当時、佐賀航空の航空燃料については、適切な品質管理を図られていないことが具体的に疑われる事情が存したとして、①平成27年9月1日開催の八尾空港協議会の場における品質管理体制等の説明が不十分であったこと、②佐賀航空においては、平成12年から平成21年までの9年間に死亡事故2件を含む4件の航空機事故が発生していたこと、③本件訴訟提起後の調査により、佐賀航空の航空燃料の一部に規格値を外れたものがあることなどが判明したことなどを主張する。
しかし、上記①について、証拠(甲15の2、16の2、19、乙118)によれば、佐賀航空は、平成27年9月当時、八尾空港協議会に対し、自社の八尾空港における航空燃料販売に係る事業計画等について、口頭及び書面によって相当程度詳しい説明をし、八尾空港協議会からの質問に対して、当時の状況で可能な範囲で詳しい回答をしていたものと認められる。そして、証拠(乙38、42、118、119)によれば、佐賀航空の上記説明を聞いた八尾空港協議会員の中には、佐賀航空の航空燃料には特に問題はないとの認識を述べる者がいた一方で、控訴人以外に、佐賀航空の航空燃料の品質管理が杜撰であり、同社の対応は不合理で常識を逸しているとの認識を示した者はいなかったことが認められるから、佐賀航空が説明を拒否したとか、説明の内容が不十分であったという控訴人の指摘は当を得ないものである。
上記②について、佐賀航空において発生した航空事故等は、いずれも航空輸送の安全確保に関するものであって(認定事実⑴ア(ア)、(イ))、航空燃料に関する品質管理体制の不十分さに直結するものではない上、本件通知行為等の6年以上前のことであって、控訴人も、その間、佐賀航空に給油車の貸与や航空燃料の販売を行っていたほか、佐賀航空を提携先給油会社と位置付けていたものである(認定事実⑴ア(ウ))。控訴人は、平成24年頃に佐賀航空が燃料を輸入していることが発覚したこと等から同社との提携を解消した旨主張するが、平成26年の段階で、控訴人が、佐賀航空の品質管理体制に疑念等を抱く状況に至っていたものとは認められないし、原審において、疑念等を抱くきっかけすらなかった旨主張していたこと(原審の原告第1準備書面37頁)と矛盾する。
上記③について、本件排除措置命令後に行われた調査により判明した事実は、本件通知行為等の当時の佐賀航空の航空燃料についての調査によって確認されたものかは明らかでない上、仮に一部に規格値を外れたものがあったとしても、それによって事故のリスクを生じざせる疑いがあるとまでは認められない。また、その事実が認められるとしても、控訴人の行為が自社に生じる危難を回避するためにとったやむを得ないものであったか否かの評価とは直接には関係しないものというべきである。控訴人は、≪AB≫の意見書(甲106)を引用して、控訴人が佐賀航空の航空燃料の品質管理に合理的な疑いを持ったことが、客観的な根拠に基づくものであったことが証明されたと主張するが、控訴人の主張する品質管理の問題が事後的に判明したとしても、前記判断に照らせば、本件通知行為等が直ちに正当化されることにはならない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
エ これに加えて、控訴人が、佐賀航空の航空燃料に関する具体的な情報を提供して所管の行政当局に必要な調査や規制、指示を求めるなど、航空事故に伴う危険を回避しようと真に考えていたのであれば通常取るであろう行動をとっていたことはうかがわれないこと、航空事故が発生した場合に責任の所在が不明となる危険を回避するという目的で免責文書に署名を求めるのであれば、取引先需要者の代表権ないし代理権を有する者の署名を取得するのが自然であるが、控訴人が免責文書への署名を求めたのは、代表権ないし代理権を有する者ではなく、現場で給油を受ける航空機のパイロットないし整備士といった需要者の従業員であったこと(認定事実⑵エ(エ))、控訴人の≪X2≫及び≪X3≫は、控訴人の事業所長や役員、部長級の者らに対し、佐賀航空について「五月蠅いハエ」、「ドブネズミ」などと言及し、「懲らしめる、やがて、追い詰めるような追い込みを対処方針として進めていきたい」、「ぶっ潰したいですね」と記載したメールを送信するなど、会社全体として佐賀航空を排除する方針を繰り返し明示する一方で(認定事実⑴ウ(ケ)、オ(ア)、(ウ))、「自社に生じる危難」について控訴人の社内で議論された形跡がないことを併せ考慮すると、控訴人において、航空事故が発生した場合に責任の所在が不明となる危険を回避するという目的を真に有していたものと認めることはできず、かえって、佐賀航空を排除する意図を隠すための表向きの理由として前記の目的を掲げていたものと認めるのが相当である。
これに対し、控訴人は、敵対的行動をとることと自己危難回避の目的は矛盾なく両立する旨、航空燃料が輸送等の過程で異物混入等により汚染ざれる危険を回避することは当然のことであって、可能な限り汚染を避ける対応を取るべきことは、明示的に議論されるまでもない旨を述べて、自己危難回避目的は優に認められると主張する。
しかし、控訴人に自己危難回避目的が真にあったと認めることはできないのは、控訴人が真に自己危難回避目的を有していたならば、通常は、とらないであろう行動ないし言動をとっていたこと、あるいは、通常とるであろう行動をとっていなかったことなどの間接事実が認められることに基づくものであり、単に控訴人が敵対的な行動をとっていたことのみによるものではない。そして、航空燃料の安全性に関する控訴人の認識を前提にしても、控訴人が、平成27年9月の佐賀航空の説明を受けて、事業継続を図る上で最大ともいえるリスクを認識したのであれば、それから1年半も経過した平成29年3月頃になって、保険会社に燃料混合に起因した事故に際しての保険金支払いについて問合せをするのは不自然であり(控訴人の≪X5≫取締役の陳述書(甲116)の添付資料参照)、この点に関する同取締役の説明は合理的なものとはいい難い。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
オ 以上によれば、本件通知行為等について正当化事由の存在を認めることはできず、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものに該当するというべきである。
なお、前記のとおり控訴人の主張する正当化事由が認められないことからすれば、本件通知行為等が「公共の利益に反して」の要件を満たすことは明らかである。
⑸ 争点1及び争点2の小括
以上によれば、本件通知行為等は、独禁法2条5項に規定する排除行為及び「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものに該当し、「公共の利益に反して」の要件に該当する。したがって、本件通知行為等は、独禁法2条5項に規定する「私的独占」に該当し、同法3条の規定に違反するものと認められる。
4 違反行為期間の終期(争点3)について
⑴ 本件排除措置命令は、本件違反行為が、平成28年12月7日にされた12月7日通知により成立し、その後、本件排除措置命令時点においても継続しているとして、独禁法3条の規定に違反する行為が「あるとき」(独禁法7条1項)に該当するとしてなされたものである(前提事実⑻ウ、甲1)。
前記のとおり、本件通知行為等は、12月7日通知の時点から私的独占行為に該当するものと認められるところ、本件市場全体において本件排除措置命令までに本件通知行為等を終了させる事情が生じたとは認められない。
そうすると、本件排除措置命令の時点においても、本件通知行為等が継続しており、私的独占に該当し独禁法3条に違反する行為があったといえるから、本件排除措置命令は、独禁法3条の規定に違反する行為が「あるとき」(独禁法7条1項)の要件を満たすものと認められる。
そして、控訴人は、本件排除措置命令後、本件排除措置命令に基づく措置として、取締役会において本件通知行為等を取りやめる旨を決議し、令和2年8月21日以降にその旨を自社の取引先需要者及び佐賀航空に対し通知したから(前提事実⑻エ)、同日以降本件違反行為を取りやめたものと認められ、同月20日が本件違反行為を行った最終日と認められる。
また、本件違反行為の終期は令和2年8月20日と認められることからすれば、同日からさかのぼって3年間である平成29年8月21日から令和2年8月20日までを本件違反行為の違反行為期間としてなされた本件課徴金納付命令においても、違反行為期間の認定の誤りはなく、したがって、課徴金算定基礎額の認定についても誤りはないというべきである。
⑵ア これに対し、控訴人は3月25日通知によりジェット燃料の市場については免責文書・抜油行為を取りやめたとして、その取引との関係では本件違反行為が令和2年3月25日で終了した旨主張する。
イ しかし、控訴人が佐賀航空を排除する目的を一貫して有していたことは前記2⑶ないし⑻のとおりである。
また、佐賀航空は、石油精製業者からの調達価格や円相場の動向次第ではジェット燃料を海外から購入する可能性は今後もあり、また国内石油元売会社からジェット燃料を購入できない場合には国外から調達するしかないと考えており(認定事実⑹ウ)、平成29年の段階でも≪R≫から航空燃料の供給を断られ(認定事実⑶イ)、3月25日通知の後も、佐賀航空において国内石油元売会社から安定的な供給が受けられない可能性が相応にあったといえるから、佐賀航空においてジェット燃料を輸入することとなる可能性も十分にあり得る状況にあったと認められる。そして、控訴人が、平成29年当時、佐賀航空が≪R≫から航空燃料の供給を断られたことを認識し、また、佐賀航空が商社又は石油元売会社から航空燃料の調達ができなくなるよう働き掛けていたこと(認定事実⑶イ)からすれば、3月25日通知の時点においても、控訴人は、佐賀航空がジェット燃料を輸入することとなる可能性を認識していたと認められる。
そのような状況の下で、控訴人は、3月25日通知において、佐賀航空がその供給するジェット燃料を、国内石油元売会社から仕入れている旨報告していることが判明したため、佐賀航空を他の給油会社と同様に取り扱うこととするとしつつ、あえて航空ガソリンについての運用に変更がないことを3月25日通知に記載している(認定事実⑹ア)。前記2認定のとおり、控訴人は、本件通知行為等を、本件市場から佐賀航空を排除する目的で行っていたことを踏まえれば、3月25日通知において航空ガソリンに関する取扱いの記載を行った趣旨は、佐賀航空においてジェット燃料の輸入を再開した場合には従前の取扱いに基づく不利益措置が課されることになることを暗に示すところにあったものと認めるのが相当であると同時に、当該記載は控訴人の佐賀航空を排除する目的が継続していることを示すものであったということができる。
そして、需要者において、佐賀航空の航空燃料の仕入先を、給油を受ける毎にその時点で把握できるとは考えられず、現に3月25日通知を受領した需要者において、控訴人の従来の運用は3月25日通知を踏まえても特に変化していないと考えている者や、佐賀航空のジェット燃料が国内石油元売会社から仕入れたものでなくなった場合、控訴人が従来の運用に戻すだろうと考えている者、控訴人と佐賀航空のもめごとが続いていると認識している者がいた(認定事実⑹イ)のであるから、需要者からすれば、3月25日通知後も、控訴人の佐賀航空を排除する目的とそのための措置が継続しているものと認識し、佐賀航空からジェット燃料の給油を受けた後に控訴人から給油を受ける必要が生じた際に、不利益措置、を受けるリスクがあることを前提として行動せざるを得ない状況にあったということができる(なお、上記の認識に関する需要者の供述及び回答が、後の供述及び回答により修正、撤回されたものとは認められない。)。
そうすると、需要者においては、3月25日通知の後も、佐賀航空との取引に伴い不利益措置が課される蓋然性がある以上、佐賀航空との取引を差し控える動機があったといえるから、その文言を踏まえても、3月25日通知が本件通知行為等による排除効果を払しょくするものということはできず、これをもってジェット燃料について本件知行為等が終了したと認めることはできない。
ウ 以上によれば、控訴人の上記アの主張を採用することはできない。
5 本件排除措置命令書の主文の不特定及び理由付記の記載の不備の有無(争点4)について
⑴ 本件排除措置命令書の主文の不特定の有無について
ア 独禁法61条1項は、排除措置命令書には、主文として「違反行為を排除し、又は違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置」を示さなければならないと定めており、主文の内容があまりにも抽象的であるため、これを受けた名宛人が当該命令を履行するために何をすべきかが具体的に分からないようなもの、その他その履行が不能あるいは著しく困難なものは違法となると解される。
そして、排除措置命令書の記載が特定されているか否かは、排除措置命令書の記載を全体として見た上で、当該排除措置命令書の趣旨・目的に照らし、社会通念にしたがって合理的に解釈すべきである(最高裁平成19年4月19日第一小法廷判決。集民224号123頁参照)。
イ これを本件についてみると、本件排除措置命令書(甲1)の主文1項は、控訴人に対し、取引先需要者が佐賀航空から機上渡し給油を受けた場合には自社からの給油は継続できない旨等を通知することにより、自社の取引先需要者に佐賀航空から機上渡し給油を受けないようにさせている行為を取りやめること(主文1項⑴)及び佐賀航空の航空燃料と自社の航空燃料の混合に起因する航空機に係る事故等が発生した場合でも控訴人に責任の負担を求めない旨等が記載された文書への署名又は抜油を求めることにより、自社の取引先需要者に佐賀航空から機上渡し給油を受けないようにさせている行為を取りやめること(主文1項⑵)を命じている。そして、本件排除措置命令書の理由の第1の2⑵においては、控訴人が、12月7日通知、2月10日通知、3月15日通知及び免責文書・抜油対応(本件通知行為等)をした事実を特定して認定しており、本件排除措置命令書の理由の第2においては、法令の適用として、本件通知行為等について、控訴人が、八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売に関して、自社の取引先需要者に佐賀航空から機上渡し給油を受けないようにさせていることによって、佐賀航空の事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売分野における競争を実質的に制限している旨記載した上で、この行為が独禁法2条5項に規定する私的独占に該当する旨記載している(甲1)。
これらの記載を全体として見れば、主文1項⑴が、12月7日通知、2月10日通知及び3月15日通知を指し、主文1項⑵が、免責文書・抜油対応を指し、これらを併せて「自社の取引先需要者に佐賀航空から機上渡し給油を受けないようにさせている行為」と総称して、その取り止めを命じていることは、容易に読み取ることができる。
そうである以上、主文1項において特定に欠けるところはなく、これを前提とする主文2項ないし4項が、その履行が不能あるいは著しく困難なものということはできず、いずれも特定に欠けるところはないというべきである。
したがって、本件排除措置命令書の主文が不特定ということはできない。
ウ この点、控訴人は、本件排除措置命令書の主文1項⑴において、控訴人が自社の取引先需要者に対し、佐賀航空から機上渡し給油を受けた場合には自社からの給油は継続できない旨「等」を通知するとしており、この「等」との記載により、何を通知したことが問題とされ、どのような通知をすれば排除措置命令違反にならないのかが判然としないため、本件排除措置命令書の主文は不特定である旨主張する。しかし、本件排除措置命令書の記載を全体として見れば、その主文1項において特定に欠けるところがないことは前記のとおりであるから、この点に関する控訴人の主張を採用することはできない。
⑵ 理由付記の記載の不備の有無について
ア 独禁法61条1項は、排除措置命令書には、その理由として、「公正取引委員会の認定した事実及びこれに対する法令の適用」を示さなければならないと規定するところ、「公正取引委員会の認定した事実」とは、具体的には、要件に該当する旨の判断の基礎となった被控訴人の認定事実を意味するものと解される。そして、このような具体的な記載がされているかどうかは、排除措置命令書の記載を全体から見て判断すべきものであって、排除措置命令書の記載を全体から見て法の規定の適用の基礎となった具体的な認定事実を知ることができるのであれば、排除措置命令書の記載として欠けるところはない(最高裁平成19年4月19日第一小法廷判決。集民224号123頁参照)。
イ 本件排除措置命令は、控訴人の行為が、独禁法2条5項に規定する私的独占に該当し、同法3条の規定に違反するとして、同法7条1項の規定によりされたものである。そして、前記⑴イのとおり、本件排除措置命令書は、控訴人が、12月7日通知、2月10日通知、3月15日通知及び免責文書・抜油対応(本件通知行為等)をした事実を特定して認定した上で、これに対する法令の適用として、本件通知行為等について、控訴人が、八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売に関して、自社の取引先需要者に佐賀航空から機上渡し給油を受けないようにさせていることによって、佐賀航空の事業活動を排除することにより、公共の利益に反して、八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売分野における競争を実質的に制限している旨記載し、この行為が同法2条5項に規定する私的独占に該当し、同法3条の規定に違反する旨及び同法7条1項の規定に基づき排除措置を命じる旨記載している。
このような記載をみれば、本件排除措置命令書には、本件通知行為等が私的独占に該当するという、独禁法2条5項、3条及び7条1項の要件に該当する旨の判断の基礎となった被控訴人の認定事実が明示されているというべきである。
したがって、本件排除措置命令書の記載には欠けるところはない。
ウ(ア) これに対し、控訴人は、①本件排除措置命令書の理由の第1の3の記載は何ら排除効果を裏付けるものではなく、むしろ逆排除効果を裏付ける記載となっている、②本件排除措置命令書には、排除型私的独占の要件事実である「他の事業者の事業活動を排除」及び「競争を実質的に制限すること」の記載がない旨主張する。
(イ) 上記①の主張についてみるに、排除措置命令において、対象行為により他の事業者の事業活動の継続が現実に困難になったことや現実の利用回避行動が出現したことは、排除効果を認定するための要件事実ではなく、その存在を基礎づける間接事実にすぎないから、控訴人が指摘する事実は独禁法61条1項が命令書に記載すべきとした事実に当たらない。なお、本件排除措置命令書は、本件通知行為等に当たる行為を列挙した上で「自社の取引先需要者に佐賀航空から機上渡し給油を受けないようにさせる行為」と総称していることから、本件通知行為等はいずれも利用抑制効果があるという立場であることはその記載から明らかである。
したがって、控訴人の上記①の主張は採用することができない。
(ウ) 上記②の主張についてみるに、独禁法61条1項が本件排除措置命令書に記載すべきとする事実は、具体的には、排除措置を命ずる要件に該当する旨の判断の基礎となった被控訴人の認定事実であるところ、私的独占の要件に該当する旨の判断の基礎となった認定事実である「控訴人が本件市場において本件通知行為等をすることにより、自社の取引先需要者に佐賀航空から機上渡し給油を受けないようにさせていたこと」は、本件排除措置命令書に記載されている。
また、排除行為に該当するか否かは、前記2⑴のとおり、競争者の本件市場での活動を著しく困難にするなどの効果を有するものといえるか否かによって決すべきものであって、現実に競争者の活動を著しく困難にした事実は要件事実ではない。
したがって、控訴人の上記②の主張は採用することができない。
6 控訴人による排除措置命令書に記載のない主張追加の有無及び許否(争点5)について
控訴人は、本件訴訟において、被控訴人が、本件排除措置命令書に記載していないにもかかわらず、①八尾空港以外で控訴人から給油を受ける必要性の主張、②全国の空港に占めるマイナミ給油ネットワークの割合に関する主張、③マイナミ給油ネットワークの必要性に関する主張、④控訴人が迅速に給油できるとの主張をしたことが、違法な処分理由の追加である旨主張する。
しかし、これらの主張に係る事実は、いずれも排除措置を命ずるための要件に該当する旨の判断の基礎となった具体的な認定事実ではなく、控訴人の主張に対応して、処分の理由につきその内容をより具体化し、あるいは敷衍するものにすぎないから、これらの点に関する被控訴人の主張は、理由の追加には当たらない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
第4 結論
以上によれば、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

令和5年1月25日

東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官 木納 敏和
裁判官 和久田 道雄
裁判官 上原 卓也

注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

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