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独禁法3条後段、独禁法7条2
東京地方裁判所民事第8部
令和2年(行ウ)第31号
令和5年3月30日
東京都文京区後楽一丁目7番27号
原告 鹿島道路株式会社
同代表者代表取締役 《X1》
同訴訟代理人弁護士 中藤 力
同 森本哲也
同 外崎友隆
同訴訟復代理人弁護士 海藤忠大
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 古谷一之
同指定代理人 高居良平
同 近藤智士
同 岩下生知
同 山本浩平
同 河﨑 渉
同 井登貴伸
同 新田高弘
同 奥村正和
同 津田和孝
同 福井雅人
同 久野慎介
同 橋本なつみ
令和5年3月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和2年(行ウ)第31号 排除措置命令等取消請求事件
口頭弁論終結日 令和4年12月22日
判 決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告が原告に対し令和元年7月30日付けでした排除措置命令(公正取引委員会令和元年(措)第6号。以下「本件排除措置命令」という。)を取り消す。
2 被告が原告に対し令和元年7月30日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会令和元年(納)第8号。以下「本件課徴金納付命令」という。)を取り消す。
第2 事案の概要
1 被告は、アスファルト合材の製造販売業を営む原告に対し、原告及び同業他社8社が遅くとも平成23年3月以降、原告、同業他社8社又は構成員を原告及び同業他社8社のいずれかとする共同企業体(以下、共同企業体を「JV」という。)が販売する全てのアスファルト合材の販売価格の引上げを共同して行っていく旨の合意をすることにより、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)2条6項所定の「不当な取引制限」をし、平成24年1月28日から平成27年1月27日までの3年間の実行期間(以下「本件実行期間」という。」におけるアスファルト合材に係る原告の売上額は580億1572万8845円であったとして、原告に対し、令和元年法律第45号による改正前の独禁法(以下「改正前独禁法」という。)7条2項に基づく本件排除措置命令及び改正前独禁法7条の2第1項に基づく本件課徴金納付命令(課徴金額58億0157万円。以下、本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令を併せて「本件各命令」という。)を行った。本件は、原告が、上記合意をしていないなどと主張して本件各命令の取消しを求め、また、仮に上記合意をしたとしても上記売上額の一部(合計50億4358万3046円)には上記合意に基づく拘束が及んでいないと主張して本件課徴金納付命令のうち52億9721万円(上記一部を除いた売上額529億7214万5799円に基づく課徴金額)を超える部分の取消しを求める事案である。
2 前提事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。
⑴ 原告
原告は、アスファルト合材の製造販売業を営む事業者である(争いのない事実)。
⑵ アスファルト合材の製造方法等
アスファルト合材は、石油アスファルトに骨材(砕石、砂等)、フィラー(石を粉末状にした石粉)等を配合した混合材料であり、主として道路舗装工事における道路の表層及び基層を敷設するために用いられる。アスファルト合材の原料となる石油アスファルトとしては、ストレートアスファルト(蒸留法によって製造される石油アスファルト。以下「ストアス」という。)が用いられることが通常であった(争いのない事実)。
⑶ アスファルト合材の製造販売業者等
ア 株式会社NIPPO(以下「NIPPO」という。)、前田道路株式会社(以下「前田道路」という。)、日本道路株式会社(以下「日本道路」という。)、大成ロテック株式会社(以下「大成ロテック」という。)、大林道路株式会社(以下「大林道路」という。)、世紀東急工業株式会社(以下「世紀東急工業」という。)、東亜道路工業株式会社(以下「東亜道路工業」という。)及び株式会社ガイアート(以下「ガイアート」という。)は、いずれもアスファルト合材の製造販売業を営む事業者である(争いのない事実)。
上記8社(以下、単に「8社」という。)及び原告(以下、8社及び原告を併せて「9社」という。)は、自社単独で又は同業他社と結成したJVが主体となる形で、全国各地にアスファルト合材の製造拠点(以下、アスファルト合材の販売のみを行う貯蔵施設等と併せて「合材工場」といい、自社単独で設立された合材工場を「単独工場」、JVが主体となる形で設立された工場を「JV工場」という。)を設立し、アスファルト合材を製造している(争いのない事実)。
9社は、平成23年度から平成26年度までの間、国内のアスファルト合材の製造量において、平均して合計66.7%を占め、同じくアスファルト合材の販売量において、平均して合計59.5%を占めていた(乙31、32)。
イ 9社は、アスファルト合材の製造販売業に加え、各社の工事部門において、アスファルト合材を用いた舗装工事業も営んでいる(争いのない事実)。
⑷ アスファルト合材製造販売業者による会合
ア 9社による会合
9社は、遅くとも平成23年1月頃から、おおむね一、二か月に1回の頻度で「9社会」と称する会合(以下「9社会」という。)を開催していた。9社会は、別表1「9社会に関する主張整理表」の「開催年月日」欄記載の日に、「開催場所」欄記載の場所において開催された(争いのない事実。ただし、9社会の出席者及び9社会における確認内容については争いがある。)。
被告は、平成27年1月28日、9社等の東北支店等に対し、公正取引委員会平成28年(措)第9号により措置を命じた別件事件を犯則調査事件として、臨検及び捜索を行った。これにより、平成27年2月19日に予定されていた9社会の開催は中止となった(争いのない事実)。
イ NIPPO、前田道路、日本道路及び大成ロテックによる会合
NIPPO、前田道路、日本道路及び大成ロテック(以下、併せて「4社」という。)は、平成23年度から平成27年度までの間、国内のアスファルト合材の製造量において、上位4位を占めていた。4社のアスファルト合材の製造販売を統括する部署の部課長級の者は、平成20年頃以降、2か月に1回の頻度で「4社会」と称する会合(以下「4社会」という。)を開催し、アスファルト合材の販売価格の変動や製造数量等を報告し、ストアスの価格動向に関する認識を共有した上で、アスファルト合材の販売価格を引き上げるか否か、引き上げる場合には引上げ幅や引き上げる時期等について、確認し合っていた。この4社会は、9社会に先立って開催されていた(争いのない事実)。
ウ 原告、日本道路、大成ロテック及び東亜道路工業は、アスファルト合材の製造に関して、JVによる合材工場の運営を模索するなどの協業化を検討するために会合(以下「原告ら4社会」という。)を開催していた(争いのない事実)。
エ ≪K≫(以下「≪K≫」という。)は、9社を含むアスファルト合材の製造販売業者が会員となっている任意団体である。≪K≫の組織である≪L≫の下部組織である≪M≫(以下、単に「≪M≫」という。)の参加者には、9社のうちガイアートを除く会社のアスファルト合材の製造販売を担当する部署の部課長級の者が含まれていた(争いのない事実)。
オ 日本道路、世紀東急工業及び原告は、アスファルト合材の協業化や優先購買の促進を目的として会合(以下「NSK」という。)を開催していた(争いのない事実)。
⑸ 原告の売上額
原告が平成24年1月28日から平成27年1月27日までの間(本件実行期間)に直接又は原告を構成員とするJVを通じて販売したアスファルト合材の売上額(上記JVに係る売上額は、当該JVの合材工場全体のアスファルト合材の売上額のうち、販売先が原告以外であるものの金額に当該JVにおける原告の出資比率を乗じた金額。以下同じ。)は、580億1572万8845円(乙266)である(争いのない事実)。
⑹ 9社以外の事業者がスポンサーを務め、原告がサブを務めるJVの工場が売り上げた商品の売上額
ア 庄内アスコン、県南共同アスコン、県央共同アスコン、アステック長岡、大野プラント、なにわアスコン及びトーセキアスコン(以下、併せて「本件7JV工場」という。)は、9社以外の事業者がスポンサー(JVの構成員のうち代表者を務める代表構成員をいう。以下同じ。)を務め、原告がサブ(JVの構成員のうち代表構成員以外のものをいう。以下同じ。)を務めるJVである(争いのない事実)。
イ 原告が本件実行期間に本件7JV工場を通じて販売したアスファルト合材の売上額は、30億9555万2493円(甲80)である(争いのない事実)。
⑺ 原告がその完全子会社に対して販売した商品の売上額
ア ≪子会社X1≫及び≪子会社X2≫は、本件実行期間を通じて原告の完全子会社であった。≪子会社X3≫(以下、≪子会社X1≫及び≪子会社X2≫と併せて「本件3子会社」という。)は、平成26年3月28日から平成27年1月27日までの間、原告の完全子会社であった(争いのない事実)。
イ 原告が、≪子会社X1≫及び≪子会社X2≫に対して本件実行期間に、≪子会社X3≫に対して平成26年3月28日から平成27年1月27日までの間に、それぞれ販売したアスファルト合材の売上額は、合計12億2674万2118円(甲102)である(争いのない事実)。
⑻ 原告が同業者間契約に基づいて納入した商品の売上額
原告が本件実行期間に同業他社(8社、8社以外の同業他社及び同業他社が構成員となっているJV)との間の契約(以下「本件同業者間契約」という。この契約の性質については、当事者間で争いがある。)に基づき、当該同業他社の取引先にアスファルト合材を納品する場合において、原告が本件同業者間契約に基づいて取引したアスファルト合材の売上額は、7億2128万8435円(甲60、61、79)である(争いのない事実)。
⑼ 本件各命令
被告は、9社が、遅くとも平成23年3月以降、9社又は9社のいずれかを構成員とするJV(以下「特定JV」という。)が販売する全てのアスファルト合材の販売価格(以下「特定販売価格」という。)の引上げを共同して行っていく旨の合意(以下「本件合意」という。)の下に、①9社会において特定販売価格の引上げの進捗状況や石油アスファルトの価格動向等を踏まえて、更なる特定販売価格の引上げを行うか、既に行っている引上げの取組を継続するかの方針及び更なる引上げを行う場合の時期や引上げ幅についての方針(以下、併せて「値上げ等の方針」という。)を確認し合い、②上記方針に沿って特定販売価格の引上げ等を行うために、本店から全国の自社の工場長等に対し、近隣の9社の工場長等との間で調整しながら、販売価格の引上げ交渉を行うよう指示し、③全国各地域において、上記②の指示により、9社又は特定JVの合材工場の自社の工場長等を通じて、上記①の方針に基づき近隣の9社若しくは特定JVの合材工場又は特定JVの他の構成員である9社と上記①の方針を確認し合うなどして、特定販売価格の引上げ幅等を地域の状況に応じて調整するなどしながら、同業者、特定JVの構成員及びその他の販売先に対する特定販売価格の引上げを行っていくなどしていたところ、このように9社が共同して、本件合意をすることにより、公共の利益に反して、我が国のアスファルト合材の販売分野における競争を実質的に制限したことが、独禁法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、独禁法3条に違反するとして(以下、この違反行為を「本件違反行為」という。)、令和元年7月30日、9社のうちNIPPO及び日本道路を除く7社に対し、改正前独禁法7条2項1号に基づき、本件排除措置命令をし、同日、原告に対し、本件実行期間におけるアスファルト合材に係る原告の売上額(原告を構成員とするJVにおける売上額を含む。)を580億1572万8845円と算定した上、改正前独禁法7条の2第1項に基づき、課徴金58億0157万円の国庫への納付を命ずる本件課徴金納付命令を発した(争いのない事実)。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
本件の争点は、⑴本件合意の成否(争点1)、⑵本件合意が「不当な取引制限」の要件に該当するか否か(争点2)、⑶本件排除措置命令に内容が不確定であるという瑕疵があるか否か(争点3)、⑷9社以外の事業者がスポンサーを務める本件7JV工場が販売したアスファルト合材に本件合意に基づく拘束が及んでいたか否か(争点4)、⑸原告が完全子会社である本件3子会社に対して販売したアスファルト合材に係る売上額が課徴金算定の基礎となるか否か(争点5)、⑹原告が本件同業者間契約に基づいて納入したアスファルト合材に本件合意に基づく拘束が及んでいたか否か(争点6)であり、これらに関する当事者の主張は次のとおりである。
⑴ 本件合意の成否(争点1)について
(被告の主張)
後記アのとおり、9社は、9社会において、ストアスの市況を踏まえ、アスファルト合材の販売価格を引き上げるか又は既に打ち出した値上げ額が未達成の場合に、引き続き達成されるように取組を継続するかの方針を確認し合い、また、値上げを行う場合はその値上げ時期や値上げ幅等の方針(値上げ等の方針)を確認し合っていた事実があり、これに加えて、後記イ、ウのとおり、9社が、9社会で確認した値上げ等の方針に基づき、本店から支店等に値上げの指示を行っていた事実及び合材工場レベルにおける値上げ活動の事実からすれば、遅くとも平成23年3月から、平成27年1月28日以降に事実上消滅するまで、本件合意が存在していたと認められる。
さらに、後記エ~カのとおり、9社会以外の会合における値上げ等に関する情報交換、9社会における製造数量の確認その他の9社による本件合意を実施するための行為や実施状況も、本件合意の成立を推認させる。
ア(ア) 9社の本店の主にアスファルト合材の製造販売を担当する部課長級の者やアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針を決定する権限を有する上司を補佐する立場の者は、遅くとも平成17年頃から、おおむね一、二か月に1回の頻度で9社会を開催していた。
9社会においては、大成ロテック合材販売担当部長であった≪A1≫(以下「大成ロテックの≪A1≫」という。)が司会を務め、冒頭で、各社におけるアスファルト合材の製造数量と直近の販売価格の引上げの達成状況について報告し合った後、ストアスの価格動向を共有した上で、各社における値上げの達成状況を踏まえつつ、次期のアスファルト合材の販売価格を引き上げるか、又は直近に打ち出した値上げを取り切る活動を継続するか、引き上げる場合はいくら引き上げるかというアスファルト合材の値上げ等の方針について確認し合っていた。
9社会において、値上げ等の方針の確認の対象とされていたのは、全国各地において9社又は特定JVが販売する全ての種類のアスファルト合材の販売価格(特定販売価格)であり、舗装工事業者や商社のみならず、同業者、子会社及びJVの構成員を含む全ての取引先に対して販売されるアスファルト合材の販売価格であった。
9社会に出席すべき者が9社会を欠席した場合には、日本道路生産技術本部製販部製販グループ課長の≪B1≫(以下「日本道路の≪B1≫」という。)、その後任者である≪B2≫(以下「日本道路の≪B2≫」という。)又は大成ロテックの≪A1≫が、当該欠席者に対し、当該9社会の内容や次回の9社会の日程等を、電話、メール等で報告していた。
(イ) 平成23年1月から平成27年1月までの各9社会の出席者は別表1「9社会に関する主張整理表」の「出席状況」欄記載のとおりであり、上記各9社会において確認された内容は、上記別表の「確認内容」欄記載のとおりである。
(ウ) 原告の≪X2≫(以下「≪X2≫」という。)は、≪X2≫より前に9社会に出席していた≪X3≫(以下「≪X3≫」という。)から9社会の内容を引き継いでおり、また、出席した9社会において、毎回、他の出席者とともに、アスファルト合材の販売価格の引上げの達成状況を報告し合った上で、その時々のストアスの市況を踏まえて、上記値上げ等の方針を確認し合っていた。
≪X2≫は、9社会を欠席した場合には、日本道路の≪B2≫又は大成ロテックの≪A1≫から、9社会の内容等の連絡を受けていた。
イ 9社は、9社会において、確認し合った特定販売価格の引上げを実現するため、各社の本店から支店や合材工場に対して値上げの指示をすることを確認し合い、この方針に基づいて、上記指示を電話や社内会議の場で伝えていた。
なお、原告の合材工場が本店の指示等に基づきつつ、異なる値上げ幅を設定していたからといって、本件合意と無関係に値上げ活動が実施されていた根拠とはならない。
ウ 9社は、主に、自社の合材工場の工場長等に、特定JV内における他の構成員である会社との間での値上げ等の方針の確認や、情報交換等といった調整(以下「JV内調整」という。)や、地域ごとの同業者との間の会合(以下「地区会合」という。)における値上げ等の方針の確認や情報交換を行わせることで、合材工場において、9社会において確認された値上げ等の方針に従って、取引先に対する特定販売価格の値上げ活動を行っていた。
地区会合は、9社の工場長等に値上げ等の方針の確認や情報交換を行わせ ることで、合材工場において、9社会において確認された値上げ等の方針に従って、取引先に対する特定販売価格の値上げ活動を行っていたものである。
エ(ア) 9社は、9社会に加え、①4社会、②原告、日本道路、大成ロテック及び東亜道路工業の4社の間でアスファルト合材の製造に関して、JVによる合材工場の運営を模索するなどの協業化を検討するための会合(原告ら4社会)、③≪K≫の≪M≫(≪M≫)、④日本道路、世紀東急工業及び原告の3社の間でアスファルト合材の協業化や優先売買の促進を目的として開催されていた会合(NSK)等の各種会合においても、アスファルト合材の販売価格の引上げに関する情報交換を行っていた。また、9社会の出席者は、取引先に対するアスファルト合材の販売価格の引上げに向けた具体的な営業活動等について個別に連絡を取り合って情報交換を行うことがあった。
(イ) 4社会は、9社会において、9社の間で効率的に値上げ等の方針に関する認識を共有できるようにするために開催されていたものであり、9社会の存在と矛盾するものではなく、4社の社内への値上げ指示は、9社会で話し合った方針に基づくものであった。
オ 9社は、9社会において、各社におけるアスファルト合材の販売価格の引上げの達成状況に加え、各社のアスファルト合材の製造数量をも報告し合っていた。また、9社会においては、値上げ等の方針に基づく値上げ等がされていない地区についての報告もされており、9社会の出席者が当該地区の地区会合の場に赴き、直接指導することが決められ、実際に赴いて指導したこともあった。
さらに、9社は、本件違反行為の発覚を防ぐため、その証拠が残らないようにしていたほか、官公庁が設計単価の設定に用いる標準単価に実勢価格が反映されるよう標準単価を掲載している雑誌を発行する法人に対して要請し、新聞記事にアスファルト合材の値上げに関する掲載がされるように新聞社に対して要請して、それらを利用して値上げ活動を行っていた。
カ 9社は、全国各地の合材工場におけるアスファルト合材の販売価格を引き上げており、本件違反行為期間中、アスファルト合材の販売価格は、9社別で見ても、地域別で見ても、おおむね引き上げられていた。
(原告の主張)
後記ア~ウのとおり、原告は、他社との間でアスファルト合材の販売価格の引上げを共同して行っていくことを合意したことはなく、独自に上記販売価格の値上げ方針を策定・実施していたにすぎないから、本件合意は成立していなかった。
また、仮に原告が平成25年5月27日より前に本件合意に参加した事実が認められるとしても、遅くとも同日時点で原告の本件合意への関与は終了し、その実行としての事業活動も遅くとも同年9月30日までに終了している。したがって、改正前独禁法7条2項ただし書が規定する除斥期間が経過している。
なお、上記販売価格の値上げ等に関しては、4社が、4社会において詳細な情報交換を行い、合意を形成していたと考えられる。
ア(ア) 平成23年1月から平成27年1月までの各9社会の出席者及び確認された内容に関する被告の主張に対する認否は、別表1「9社会に関する主張整理表」の「原告の認否」欄記載のとおりである。
(イ) 9社会は、9社から、本社合材部門の主に課長クラスの者が1名ずつ参加して、平成24年以降は居酒屋の個室ではない席で開催されており、懇親会にすぎなかった。9社会の出席者は、必ずしもアスファルト合材の製造販売を担当する部課長級の者ではなかった。
9社会では、アスファルト合材の原材料の市況動向を話題とするなどしていたほか、前年比でのアスファルト合材の製造数量の動向について報告する場合があったが、原告からの出席者が、原告の値上げ方針を表明するなどして、他社と協調して値上げを行う意思を相互に確認した事実はない。9社会の出席者は、原告からの出席者を含め、自社のアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針について決定する権限を有しない者であったから、合意を形成することはできない。
(ウ) 特に平成25年5月27日以降の9社会においては、一般的な市況や各社のアスファルト合材の製造数量の動向に言及する者がいたものの、アスファルト合材の販売価格に関して発言が出ることはなく、原告からの出席者であった≪X2≫が他の9社会の出席者との間で協調して値上げを行う意思を相互に確認したという事実はない。≪X2≫が、8社間で協調して値上げを行う取決めがされていたという認識を持つこともなかった。
また、≪X2≫は、平成25年5月27日に初めて9社会に出席するに当たり、それ以前の原告の9社会出席者であった≪X3≫や≪X4≫(以下「≪X4≫」という。)らから9社会の内容に関する引継ぎを受けておらず、原告において9社会に出席することの重要性を認識していなかった。
さらに、≪X2≫は、平成25年9月から平成26年1月までの間、9社会を欠席したが、その間、他の9社会出席者から9社会の内容に関して連絡を受けなかった。
したがって、仮に原告が平成25年5月27日より前に本件合意に参加した事実が認められるとしても、遅くとも同日時点で原告の本件合意への関与は終了し、その実行行為としての事業活動は遅くとも同年9月30日までに終了している。
(エ) この点、被告は、8社の9社会出席者等の供述調書を証拠として、9社が9社会において値上げ等の方針を確認し合っていた旨を主張するが、当該供述調書は、その内容が具体性及び迫真性を欠く上、これを裏付ける証拠もない。
また、8社のうち、課徴金減免申請を行った会社の従業員の供述は、課徴金減免を獲得するために違反行為を認め、審査に協力することが前提となるものである。さらに、4社には、4社会に出席していた役員等の責任が問われることを防ぐために課長クラスの従業員が出席していた9社会において値上げ等の方針を確認していたとの違反認定に誘導する動機がある。加えて、複数の会社が課徴金減免申請を行ったことから、その他の会社においても、違反認定を免れるのは現実的には難しいと判断して、被告との対立を避け、違反行為を争わない方針で審査に協力するという結論に至ることは十分あり得る。したがって、このような状況の中で作成された上記供述調書は信用できない。
イ(ア) 原告の本店の製品事業部長は、9社会に出席した原告の従業員から9社会の内容についての報告を受けたことはなくアスファルト合材の販売価格の引上げに関する通達等については、ストアスの市況やコスト上昇、従来の値上げ目標に対する未達状況等を踏まえ、自らの判断でその内容を決定し、社内の承認を受けた上で作成していた。
(イ) 原告においては、各合材工場の工場長が、当該工場が所在する地域の市況や取引先との取引状況等に鑑みて、独自に、取引先ごとにアスファルト合材の販売価格の引上げの方針を決定し、上記引上げに向けた活動を行っており、通達や業務連絡を含む本店から支店や工場長への連絡は、市況の動向を注視して最適な営業戦略を行うという観点から、各合材工場においてアスファルト合材の販売価格の引上げを検討するよう依頼するものにすぎなかった。
ウ アスファルト合材の製造販売シェア上位4社である4社は、本社合材部門責任者及び課長クラスの者が2名ずつ参加して、ほぼ2か月に1回の頻度で、日本道路の会議室等において4社会を開催しており、4社間で全国に販売するアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針を決定し、それに基づいて社内指示を行うなどして値上げ活動を実施していた。
4社は、9社のうち4社を除く5社とは必ずしも利害が一致していなかったため、4社会は、9社会を効率的に行うためのものではなく、4社会の存在やそこでの合意内容等は、当該5社に対して秘匿されていた。
また、9社の一部や9社以外の地場業者らを交えた各合材工場の工場長らによる地区会合が存在しており、それらに原告の従業員等が参加したことはあったが、このような地区会合は、9社会とは何ら関係なく実施されていた。原告ら4社会、NSK及び≪M≫についても、9社会とは何ら関連なく実施されていたものである。
したがって、4社会等の上記会合の存在は、本件合意の成立を推認させるものではない。
⑵ 本件合意が「不当な取引制限」の要件に該当するか否か(争点2)について
(被告の主張)
ア 前記⑴(被告の主張)記載のとおり、9社の間に、遅くとも平成23年3月以降、本件合意が存在したと認められるから、9社の間に、取決めに基づいた行動をとることを互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡があったと認められる。したがって、本件合意は、独禁法2条6項所定の「共同して」の要件を充足する。
なお、9社におけるアスファルト合材の販売価格の引上げが他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情も認められない。
イ 本件合意により、本来自由にされるべき9社の特定販売価格に係る事業活動が事実上制約されて行われることになるから、本件合意が9社の事業活動を相互に拘束するものであることは、明らかである。したがって、本件合意は、独禁法2条6項所定の「相互にその事業活動を拘束」の要件を充足する。
ウ 本件合意は、自由競争経済秩序に明確に反する価格カルテルであり、公共の利益を促進するものではなく、これを正当化すべき事由もない。したがって、本件合意は、独禁法2条6項所定の「公共の利益に反して」の要件を充足する。
エ(ア) 独禁法2条6項所定の「一定の取引分野」は、取引の対象・地域・態様等に応じて、違反者の共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し、その競争が実質的に制限される範囲として画定される。前記⑴(被告の主張)記載のとおり、9社は、全国各地で販売する全ての種類のアスファルト合材を対象として、その販売価格の引上げを共同して行っていく旨の合意をしたものであるから、9社による本件合意が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲、すなわち「一定の取引分野」は、我が国におけるアスファルト合材の販売分野である。
(イ) 9社のアスファルト合材の製造数量の合計が我が国におけるアスファルト合材の総製造数量の過半を占めていたことからすれば、本件合意によって、我が国におけるアスファルト合材の販売分野において、当該市場が有する競争機能が損なわれ、9社がその意思である程度自由に特定販売価格を左右することができる状態がもたらされたものと認められる。したがって、本件違反行為は、独禁法2条6項所定の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足する。
(原告の主張)
ア 前記⑴(原告の主張)記載のとおり、本件合意の成立が認められない以上、原告の行為は、独禁法2条6項所定の「共同して」の要件は充足されない。
イ 原告は、本店製品事業部において独自にアスファルト合材の販売価格に関する社内通達の内容を決定しており、9社会においては抽象・一般的な価格動向に関する情報やストアス価格の動向を交換していただけであって、実効性のある合意がなされていたものではなかった。また、現実のアスファル卜合材の販売価格の引上げ活動は各合材工場の工場長らが、地域の実情や取引先との取引状況を踏まえながら独自に行っていたのであり、原告におけるアスファルト合材の販売価格の引上げ活動は他の事業者の行動と無関係に実施されていたのであるから、少なくとも9社会により、原告においてアスファルト合材の販売価格の自由な決定が制限されていたものではない。したがって、独禁法2条6項所定の「相互にその事業活動を拘束」の要件は充足されない。
ウ(ア) 「一定の取引分野」は、需要者から見た商品の効用等の同種性の観点から、用途、価格・数量の動き、需要者の認識・行動等を考慮して画定される。アスファルト合材は、現場到着温度が一定以上である必要があるため、需要者から見れば、半径30キロメートル程度の範囲のアスファルト合材製造販売業者が代替可能な供給者の範囲である。また、地域ごとに合材工場の数や9社が保有する製造数量シェア等により競争状況は異なり、これに伴ってアスファルト合材の販売価格にも顕著な差が存在する上、販売価格は取引先との交渉に応じて決定されるものであって、全国の需要者向けに販売価格の変更を一律に行うことはできない。したがって、少なくとも我が国全体を一つの市場とする被告の主張は誤りである。
(イ) 前記(ア)の市場環境を踏まえれば、9社会において、アスファルト合材の販売価格について抽象的かつ一般的な情報交換のやり取りがされた程度で、全国各地で販売するアスファルト合材の販売価格につき競争の実質的制限を生じさせるような共通の意思が成立したとは認められない。したがって、独禁法2条6項所定の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件は充足されない。
⑶ 本件排除措置命令に内容が不確定であるという瑕疵があるか否か(争点3)について
(被告の主張)
排除措置命令書に記載すべき理由の内容及び程度は、特段の事情のない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該排除措置命令がされたかを、名宛人においてその記載自体から了知し得るものでなければならないと解される。
被告が独禁法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、独禁法3条の規定に違反するものと認定した行為の事実関係については、本件排除措置命令に係る命令書(乙1。以下「本件排除措置命令書」という。)の理由第1の2において、本件合意等が具体的に記載されており、また、適用される法規についても、本件排除措置命令書の理由第2に明確に記載されている。
したがって、被告がいかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して排除措置命令をしたかが、原告において本件排除措置命令書の記載自体から了知できる。
(原告の主張)
被告が本件合意について9社会における合意ではなく、地区会合での情報交換等を包含して抽象的に主張するものであれば、本件排除措置命令は、その基礎となる違反行為の内容が不明確であり、特定性を欠くものであるから、重大な瑕疵がある。
⑷ 9社以外の事業者がスポンサーを務める本件7JV工場が販売したアスファルト合材に本件合意に基づく拘束が及んでいたか否か(争点4)について
(被告の主張)
本件合意は、9社以外の事業者がスポンサーを務めるJV工場が販売したアスファルト合材も、その対象としていた。
本件7JV工場のサブを務める9社の担当者は、スポンサーから派遣された工場長等の担当者に対して、JV内調整又は地区会合の場を利用して値上げの働きかけを行うなどして、9社の本店からの指示に沿ったアスファルト合材の販売価格の引上げ活動を実施していた。したがって、原告が本件7JV工場において販売したアスファルト合材も本件合意の対象から除外されていなかった。
(原告の主張)
本件7JV工場においては、スポンサーを務める9社以外の事業者から工場長が選出され、当該工場長が、アスファルト合材の販売価格の値上げ幅や値上げ時期を決定していた。原告は、本件7JV工場の工場長に対し、9社会で確認された内容であるとして値上げ等の方針を伝えたことはない。
したがって、本件7JV工場が販売したアスファルト合材には、本件合意に基づく拘束が及んでいたとはいえない。
⑸ 原告が完全子会社である本件3子会社に対して販売したアスファルト合材に係る売上額が課徴金算定の基礎となるか否か(争点5)について
(被告の主張)
本件合意は、本件3子会社に対して販売したアスファルト合材も、その対象としていた。
原告の本件3子会社に対する販売を同一企業内での物資の移動と同視することができる事情はない。原告が子会社に対して販売するアスファルト合材についても、原告の社外の取引先に対する販売価格と同様に値上げがされていた。したがって、原告が本件3子会社に対して販売したアスファルト合材も本件合意の対象から除外されていなかった。
(原告の主張)
ア 親会社と完全子会社とは、経済的には一体の企業体であるから、親会社と完全子会社との間の取引には、代替性・競合性が低いなど、通常の取引に関する競争環境がそのまま当てはまるものではない。9社会出席者は、このことを理解し、完全子会社に対する取引は、本件合意の相互拘束の対象から除外されるとの認識を有していたというべきである。
イ そもそも、原告の本件3子会社に対して販売した商品は、同一企業内での物資の移動と同視することができるから、課徴金算定の基礎から除外されるべきである。
⑹ 原告が本件同業者間契約に基づいて納入したアスファルト合材に本件合意に基づく拘束が及んでいたか否か(争点6)について
(被告の主張)
原告と同業他社との間の本件同業者間契約は、9社の担当者による供述や社内資料でも売買とされていること、その売上げが原告の社内において他の取引による売上げと同様に管理されていたことなどからすると、アスファルト合材の製造委託契約ではなく、売買契約であり、本件合意の対象となっていた。したがって、原告が本件同業者間契約に基づいて販売したアスファルト合材も本件合意の対象から除外されていなかった。
(原告の主張)
原告と同業他社との間の本件同業者間契約は、原告が同業他社とその取引先との間における取決めどおりのアスファルト合材を、当該同業他社に代わって製造することに取引上の本質がある。したがって、原告が当該同業他社から得ていた金員は、上記取決めによる仕様等に則ってアスファルト合材を製造したことの対価であって、アスファルト合材の販売による対価とは性質が異なるものである。9社会出席者は、このことを理解し、本件同業者間契約に基づき納入した商品は、本件合意の相互拘束の対象から除外されるとの認識を有していたというべきである。
したがって、原告が本件同業者間契約に基づき納入していた商品は、本件合意の対象から除外されていた。
第3 争点に対する判断
1 認定事実
前記前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
⑴ アスファルト合材の種類等
ア アスファルト合材は、その製造に使用された骨材が新しいものか、再生処理したものかによって、新規アスファルト合材と再生アスファルト合材に大別される。また、アスファルト合材は、その製造に使用された骨材の大きさ及びその混合割合によって、密粒度、細粒度、開粒度及び粗粒度に分類される。さらに、アスファルト合材の製造の際に添加された物質等による分類として、ストアスにポリマーを加えて性質を改善させた改質アスファルトを使用した改質アスファルト合材、ストアスと砕石等を加熱混合した常温合材等がある(弁論の全趣旨)。
イ アスファルト合材のうち、販売量が最も多いのは再生密粒度アスファルト合材であり、そのうち製造に使用された骨材の最大粒径が13mmの「再生密粒度アスファルト合材13mm」が大半を占めている(弁論の全趣旨)。
⑵ 9社におけるアスファルト合材の製造販売業及び舗装工事業の状況等
ア 9社は、全国各地に自社単独で又はJVを結成して、合材工場(単独工場又はJV工場)を設立し、アスファルト合材を製造している(前提事実⑶ア)。
イ 9社は、アスファルト合材の販売に当たり、自社の単独工場又は自社が構成員であるJVのJV工場において製造されたアスファルト合材を販売することもあるが、常温合材を除くアスファル卜合材は加熱後一定時間内に高温を保持したまま舗装工事現場等に納品されなければならないなどの事情により、同業他社の合材工場において製造されたアスファルト合材を販売することもある(弁論の全趣旨)。
ウ 9社は、工事部門における舗装工事業のためにアスファルト合材を使用する場合、自社の単独工場又は自社が構成員であるJVのJV工場において製造されたアスファルト合材を購入することもあるが、舗装工事現場等に近接する自社の単独工場又は上記JVのJV工場がない場合等には、同業他社の合材工場において製造されたアスファルト合材を購入することもある(弁論の全趣旨)。
⑶ 9社会の開催状況、内容等
ア 9社は、遅くとも平成17年以降、概ね一、二か月に1回の頻度で9社会を開催しており、平成23年1月から平成27年1月までの間には、別表2「9社会認定一覧表」の「開催年月日」欄記載の日に、「開催場所」欄記載の場所において9社会(以下、同表記載の各9社会の会合を「本件各9社会」という。)を開催し、本件各9社会には、同表の「出席者」欄上段記載の出席者(当該出席者の当時の役職は、各下段記載のとおりである。)が出席した(前提事実⑷ア、乙33~43、弁論の全趣旨。同表記載の認定事実に係る証拠等は、同表の各欄に記載のとおりである。)。
イ 本件各9社会の出席者は、本件各9社会において、別表2「9社会認定一覧表」の「9社会の内容」欄記載の報告、確認等を行った(同表記載の認定事実に係る証拠等は、同表の各欄に記載のとおりである。)。
ウ 本件各9社会の出席者は、本件各9社会においてアスファルト合材の販売価格の引上げについて確認し合う際、明示的に上記引上げの例外を設けたことはなく、①特定の地域で販売されるアスファルト合材、②特定の種類や商品のアスファルト合材、③特定の取引先に対して又は特定の種類の取引に基づいて販売するアスファルト合材について、販売価格の引上げの対象から除くことを議論したことはなかった(乙7〔≪C1≫供述調書〕、乙13〔≪D1≫供述調書〕・ 9~11頁、乙17〔≪E1≫供述調書〕・19~21頁、乙19〔≪B2≫供述調書〕・12~14頁、乙28〔≪E1≫供述調書〕・6~7頁、乙57〔≪B1≫供述調書〕・15~19頁、乙77〔≪A1≫供述調書〕、乙78〔≪D2≫供述調書〕、乙79〔≪F1≫供述調書〕、乙81〔≪G1≫供述調書〕・10~11頁、乙82〔≪E1≫供述調書〕・15~16頁、乙83〔≪C1≫供述調書〕・3~8頁、乙85〔≪A1≫供述調書〕・3~11頁、乙87〔≪E2≫供述調書〕・33~34頁、乙199〔≪H1≫供述調書〕・2~8頁、乙222〔≪B2≫供述調書〕・2~8頁)。
エ 9社のうちの一部の会社から9社会への出席者がいなかった場合(別表2「9社会認定一覧表」の「出席者」欄に「出席者なし」と記載がある部分を参照。)、日本道路の≪B1≫、日本道路の≪B2≫又は大成ロテックの≪A1≫は、それ以前の9社会に当該会社から出席していた者に対し、電話やメールにより、当該9社会の内容や次の9社会の予定日時を連絡していた(乙58〔≪A1≫供述調書〕・3頁、乙68〔≪F1≫供述調書〕・14~15頁、乙71〔≪B1≫供述調書〕・4頁、乙72〔≪E2≫供述調書〕・27~ 29頁、乙73〔≪H1≫供述調書〕・13頁、乙74〔≪D1≫供述調書〕・4頁、乙75〔≪E2≫供述調書〕・70頁、乙76〔≪B1≫供述調書〕・4~5頁、乙106〔≪B1≫供述調書〕・22頁、乙123〔≪E2≫供述調書〕・19頁、乙130〔≪B2≫供述調書〕・19、23頁、乙133 〔≪C1≫供述調書〕・12頁、乙140〔≪C1≫供述調書〕・14、16頁、乙142〔≪B2≫供述調書〕・7、27頁、乙277)。
オ 事実認定(前記イ~エ)の補足説明
前記イ~エ記載の事実は、前掲各証拠(供述調書)に基づき認定したものであるところ、上記各供述調書の内容が信用できると判断した理由は次のとおりである。
(ア) まず、本件各9社会の内容や9社会欠席者への連絡に関する本件各9社会出席者の供述調書は、異なる会社に所属する各供述者が被告審査官に対して任意に供述した内容を録取したものであり、本件各9社会の内容や9社会欠席者への連絡に関する供述内容は、互いに合致している上、上記各供述調書における①平成23年3月4日(金曜)開催の9社会の内容に沿う、当該9社会出席者間における同月7日(月曜)及び同月8日の電子メールのやり取り(乙273)、②同年6月28日開催の9社会の内容に沿う、当該9社会出席者の自社担当者宛ての同月29日の電子メール(乙274)、③同年8月2日開催の9社会の内容に沿う、当該9社会出席者の自社会議(同月10日)における発言の記載された議事録(乙276)、④同年10月19日開催の9社会の内容に沿う、当該9社会出席者の自社担当者宛ての同月20日の電子メール(乙275)、⑤同年12月12日開催の9社会の内容に沿う、当該9社会出席者の欠席者に対する同月13日の電子メール(乙277)等の客観的証拠の内容とも整合するものであって、信用することができる。
(イ) これに対し、原告は、本件各9社会において他社と協調してアスファル卜合材の販売価格の引上げを行う意思を相互に確認した事実はない旨を主張するところ、㋐≪X2≫の陳述書(甲107)及び証言、㋑ガイアートの≪F2≫の供述調書(甲106)、㋒東亜道路工業の≪D2≫の供述調書(甲98~101)、㋓世紀東急工業から本件各9社会に出席した≪G2≫、≪G1≫及び≪G3≫の陳述書(甲127、,128、130)及び別件訴訟における尋問調書(甲131)の内容はこれに沿うものとみることができる。
しかしながら、㋐≪X2≫の陳述書(甲107)及び証言の内容は、本件各9社会(≪X2≫が出席したものを含む。)に係る当該9社会に出席した8社の従業員の供述調書及び電子メール(前記(ア))の内容に反するものであり、また、裏付けとなる客観的証拠もない。さらに、≪X2≫の供述内容は、本件各9社会において、①どの種類のアスファルト合材の製造数量について、どの時点の販売数量との比較であるかを理解しないままに、製造数量の動向を報告し、②どの地域における、どの種類のアスファルト合材の販売価格について、どの時点の販売価格との比較であるかを理解しないままに、販売価格の動向を報告していたというものであり、それ自体不自然な内容といわざるを得ない上、日本道路から四半期に1回の頻度で9社の製造数量を集計した資料が別途送付されていたこと(甲107 ・17頁)からすれば、なおさら不合理な内容である。したがって、≪X2≫の上記供述をにわかに信用することはできない。
また、㋑ガイアートの≪F2≫の供述調書(甲106)には、9社会について雑談をする場であって各社の製造数量や社外秘の販売単価を話題にするような会ではなかった旨の記載がある(3頁)が、これは本件各9社会(ガイアートの≪F2≫が出席したものを含む。)に係る当該9社会に出席した者の供述調書及び電子メール(前記(ア))の内容に反するものであり、これを裏付ける証拠もない上、ガイアートの≪F2≫が9社会に出席するに先立ち作成したことを自認する「9社会の報告事項」という表題の資料にガイアートの製造数量及び平均販売単価が記載されていること(2~3頁)と整合せず、不自然かつ不合理であることからしても信用することができない。
さらに、㋒東亜道路工業の≪D2≫の供述調書(甲98~101)には、同人が9社会をアスファルト合材の販売価格の引上げについて合意する場ではないと認識していた旨が記載されているが、これは本件各9社会(東亜道路工業の≪D2≫が出席したものを含む。)に係る当該9社会に出席した者の供述調書及び電子メール(前記(ア))の内容に反するものであり、これを裏付ける証拠もない上、東亜道路工業の≪D2≫自身が出席した9社会での出席者の発言に係る明確な記憶を述べるものでもなく、全体として同人の推測に基づく曖昧な供述に留まるから、これを信用することはできない。
加えて、㋓世紀東急工業から本件各9社会に出席した≪G2≫、≪G1≫及び≪G3≫は、別件訴訟において、9社会について懇親会であり、アスファルト合材の販売価格に関する合意はしていない旨の陳述書を提出し(甲127、128、130)、≪G2≫は、同訴訟の本人尋問において、これと同旨の供述を行ったこと(甲131)が認められる。しかし、上記3名の各供述は、いずれも本件各9社会(上記3名が出席したものを含む。)に係る当該9社会に出席した者の供述調書及び電子メール(前記(ア))の内容に反するものであり、これを裏付ける証拠もない。また、世紀東急工業の≪G1≫は、被告審査官に対して、9社会において本件合意を行っていた旨の供述を任意に行い、各供述調書(乙117、122、132)の内容を確認した上で署名押印したものであるから、これに反する内容の供述が記載された≪G1≫の陳述書(甲128)の信用性を、合理的な理由なく認めることはできない。なお、同人は、陳述書(甲128、129)において、上記各供述調書の作成状況についても供述するが、当該作成状況について具体的な立証されていない以上、上記各供述調書の信用性を否定するものとは認められない。したがって、上記3名の上記陳述書等は、信用することができない。
(ウ) また、原告は、①平成24年以降の本件各9社会が居酒屋の個室ではない席で開催されていたこと、②本件各9社会の出席者が9社の本社合材部門の主に課長クラスの者1名であり、自社のアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針について決定する権限を有しない者であったこと、③本件各9社会の出席者にはアスファルト合材の製造販売を担当する部課長級の者ではない者も含まれていたこと、④≪X2≫が平成25年9月から平成2 6年1月までの間、9社会を欠席したこと、⑤4社は9社会の開催と関係なく、9社会開催前に社内への指示を行っており、4社会の存在は9社のうち4社以外の者には秘匿されていたこと等を指摘して、本件各9社会において値上げ等の方針を決定したはずがない旨を主張する(前記第2・3⑴(原告の主張)ア(イ)、(ウ))。
しかし、㋐前記イ~エ掲記の各証拠(供述調書)の内容からすれば、本件各9社会の全ての時間において値上げ等の方針の確認を行っていたものではないこと、本件各9社会は午後4時頃から開催されることが多く、開店直後又は開店準備時間であって、他の客もいなかったとの供述もあること(乙114〔≪D1≫供述調書〕・3頁)、㋑本件各9社会出席者が9社の代表権や業務執行の決定権限を有しない者であったとしても、当該事業者のアスファルト合材の販売価格の引上げに関する意思決定の在り方によっては、普段から実質的に営業上の判断を委ねられている部下等が、他社との間で値上げ等の方針を確認し合うこともあり得ること(実際の9社における上記意思決定の在り方については、後記⑷参照)、㋒本件各9社会の出席者は、役職や勤務形態に差はあれどアスファルト合材の販売に携わる者であることが認められること(別表2『9社会認定一覧表」の「出席者」欄下段)、㋓≪X2≫が平成26年3月以降、再び原告から本件各9社会に出席するようになったことが認められることからすれば(同別表「出席者」欄)、本件各9社会を一定期間欠席していたことから本件各9社会の内容を推し量ることはできないこと、㋔4社が4社会で確認し合った事項が9社会においても確認し合われるものと認識していたとすれば、9社会開催前に社内への指示を行うこともあり得るし、4社会の存在を9社のうち4社以外に対して秘匿していたか否かと9社会の内容は無関係であることを指摘することができる。これらのことからすれば、原告の指摘する上記①~⑤の点から、本件各9社会において値上げ等の方針を確認し合っていたとの前記イ~エ掲記の各証拠(供述調書)の内容が不自然又は不合理であるとはいえない。したがって、原告の上記主張は採用できない。
(エ) さらに、原告は、前記イ~エ掲記の各証拠(供述調書)を裏付ける証拠がない旨を主張する(前記第2・3⑴(原告の主張)ア(エ))。
しかし、前記(ア)記載のとおり、上記各供述調書の内容については、部分的ではあるものの裏付けとなる客観的証拠が存在する。また、上記各供述調書記載の本件各9社会の内容が9社において値上げ等の方針を確認し合っていたというものである以上、独禁法違反が明らかになることを防ぐため、その内容を示すような資料等の作成が控えられていたことも容易に想定され、実際、前記(ア)掲記の電子メール(乙274の2、275の1、277)には、用済み後に廃棄するよう求める記載がある。そうすると、上記各供述調書の内容の全てについて裏付けとなる客観的証拠が存在しないことをもって、上記各供述調書の信用性が否定されるものとはいえない。
(オ) 原告は、前記イ~エ掲記の各証拠(供述調書)が具体性及び迫真性を欠く旨を主張する(前記第2・3⑴(原告の主張)ア(エ))。
確かに、上記各供述調書には、本件各9社会の内容について、供述者の推測によると思われるような記載も散見される。しかし、上記各供述調書記載の本件各9社会の内容は、少なくとも平成23年1月から平成27年1月までの間、各年1月~3月頃に各年4月1日からのアスファルト合材の販売価格の引上げを行うか否かを確認し合い、各年4月~12月頃に当該引上げの達成状況を確認し合い、結果的には各年4月1日から実施した当該引上げに加えての値上げは行っていないというものであるから、特に長期間にわたって9社会に出席していた者にとっては、本件各9社会の内容を詳細に供述することは困難であったと考えられる。一方で、アスファルト合材の販売に携わる供述者らにとって、本件各9社会の内容の概要に関する記憶に基づき、アスファルト合材の販売価格の引上げを確認し合ったであろう時期や、本件各9社会での確認内容の結論部分を正確に供述することは可能である。したがって、上記各供述調書の中に具体性や迫真性を欠くように思われるものがあるとしても、当該供述の信用性が否定されるものではない。
(カ) 原告は、8社のうち課徴金減免申請を行った会社の従業員の供述は信用できない旨を主張する(前記第2・3⑴(原告の主張)ア(エ))
しかし、課徴金の減免が認められるとしても、当該事業者が不当な取引制限に関与したこと自体は明らかになる可能性がある以上、本件違反事実を認める虚偽の供述をしてまで課徴金減免申請を行うとは考えにくいことや、課徴金減免申請後に虚偽の報告や資料提出を行えば課徴金減免が適用されないこと(改正前独禁法7条の2第17項)からすれば、課徴金減免申請を行った事業者の従業員であるからといってその供述内容が虚偽又は被告に迎合的なものであるとはいえない。また、複数の事業者間の不当な取引制限に関して課徴金減免申請を行う場合、無関係な事業者を巻き込むなどして関与者の数を増やすことにより課徴金の減免において有利な取扱いが受けられるものでもないから、課徴金減免申請を行った事業者の従業員の供述であるというだけで、それが無関係な事業者を巻き込んだものであるとはいえない。そうすると、原告の上記主張は採用できない。
(キ) 原告は、4社の従業員には、4社会ではなく9社会において値上げ等の方針を確認したと供述する動機があるから、その供述調書は信用性を欠く旨を主張する(前記第2・3⑴(原告の主張)ア(エ))。
しかし、4社の役員より下位の者が出席する9社会が値上げ等の方針を確認する場であると認定されたとしても、4社が9社会において値上げ等の方針を確認することにより不当な取引制限に関与したとなれば、その役員は9社会の出席者でなくとも任務懈怠責任等を問われる可能性があるのであるから、役員に対する責任追及を免れるために9社会において値上げ等の方針を確認したと供述する動機があるとはいえない。そうすると、原告の上記主張は採用できない。
⑷ 本件各9社会とアスファルト合材の販売価格に関する9社の動向
ア 原告について
(ア) 本件各9社会に出席した原告の従業員は、本店製品事業部長等に対し、本件各9社会の内容を報告していた。原告の本店製品事業部は、上記報告の内容を参考にしてアスファルト合材の販売価格の引上げについて検討し、支店や合材工場に対してアスファルト合材の販売価格を引き上げるよう指示を出す場合には、製品事業部の従業員(≪X2≫、≪X4≫、≪X3≫等)が社長名義の通達又は生産技術本部長、製品事業本部長若しくは製品事業部長名義の業務連絡の形式の指示文書の原案を作成し、当該指示文書の発出について経営企画部の了解を得た後、製品事業部内の稟議及び当該指示文書の名義人までの決裁を経て、当該指示文書を発出していた。原告においては、平成23年1月から平成27年1月の間に、上記の手続を経て、次のa~gの通達又は業務連絡(以下、併せて「本件通達等」という。)を発出した。その際、原告におけるアスファルト合材の販売価格の引上げの対象は、あらゆる種類のアスファルト合材であり、販売先が同業他社である場合のアスファルト合材の販売価格やJV工場において製造されたアスファルト合材の販売価格も対象としていた(乙18〔≪X5≫供述調書〕・6~15頁、乙53〔≪X3≫供述調書〕・4~5頁、乙84〔≪X2≫供述調書〕・5~8頁、乙217〔≪X5≫供述調書〕、弁論の全趣旨)。
a 原告においては、平成23年1月27日開催の9社会において同年4月1日出荷分からのアスファルト合材の販売価格の引上げを行うことを、同年3月4日開催の9社会において上記引上げ幅を1トン当たり1000円以上とすることをそれぞれ確認し合ったとの報告を受けて、同月8日付け「平成23年4月以降における合材価格について」と題する社長名義の支店長宛て通達を発出した。上記通達には、①ストアスの価格について、同年4月から1トン当たり1万円以上の値上げが見込まれていること、②原告においては、平成22年からストアスの価格上昇分をアスファルト合材の販売価格に十分転嫁できておらず、平成23年4月以降のストアスの価格上昇分をアスファルト合材の販売価格に転嫁できなければ来期の利益を大きく圧迫する状況にあること、③同月1日出荷分からアスファルト合材の販売価格について、1トン当たり1200円以上の引上げを実施するよう記載されていた(甲15)。
b 原告においては、平成24年1月24日開催の9社会において同年4月1日出荷分からのアスファルト合材の販売価格の引上げを行うことを確認し合ったとの報告を受けて、同年3月12日付け「平成24年4月以降における合材価格値上げの対応について」と題する製品事業本部長名義の支店長及び製品事業部長宛て業務連絡を発出した。上記業務連絡には、①石油ディーラー各社が同月よりストアスの価格を1トン当たり8000円以上引き上げる方針であること、②各大手道路会社が平成23年4月以降のアスファルト合材の引上げにより適正価格を維持する意向を示しており、原告においても、取引先に対して状況を十分に説明した上で、平成24年4月1日出荷分からアスファルト合材の販売価格について、1トン当たり800円以上の引上げを実施するよう記載されていた(甲17)。
c 原告においては、平成25年1月28日開催の9社会において同年4月1日出荷分からのアスファルト合材の販売価格の引上げを行うこと及びその引上げ幅を1トン当たり1000円以上とすることを確認し合ったとの報告を受けて、同年2月6日付け「原油高騰に伴う合材販売価格への転嫁について」と題する製品事業本部長名義の支店長及び製品事業部長宛て業務連絡を発出した。上記業務連絡には、①ストアスの価格について、急激な円安の影響により原油価格の高騰が続いているため、重油、軽油等の石油関連商品が総じて値上げとなる中で、ストアスの価格も上昇し、さらに同年3月にも1トン当たり5000円の値上げが見込まれていること、②原告においては、このような状況の下、コスト上昇分をアスファルト合材の販売価格に転嫁することにより適正価格を維持する必要があるため、同年4月1日出荷分からアスファルト合材の販売価格について、1トン当たり1000円以上の引上げを実施するよう記載されていた(甲18)。
d 原告においては、平成25年9月19日開催の9社会においてストアスの価格が同年10月以降上昇する見込みである一方、各社が同年4月1日出荷分からのアスファルト合材の販売価格の引上げを達成し切れていない状況であり、上記引上げを達成すべく取引先との交渉を継続することを確認し合ったとの報告を受けて、同年10月4日付け「平成25年10月以降の合材価格値上げの対応について」と題する製品事業本部長名義の支店長及び製品事業部長宛て業務連絡を発出した。上記業務連絡には、①石油ディーラー各社が同月よりストアスの価格を1トン当たり5000円引き上げる方針であること、②従前の製品事業本部長名義の通達において周知したアスファルト合材の販売価格の1トン当たり1000円の値上げについては、同年9月末時点で十分に達成できていないこと、③各大手道路会社が同年10月以降のアスファルト合材の販売価格の引上げにより適正価格を維持する意向を示しており、原告においても、取引先に対して状況を十分に説明した上で、同月1日出荷分からアスファルト合材の販売価格について、1トン当たり500円以上の引上げを実施するよう記載されていた(甲19)。
e 原告においては、平成26年1月30日開催の9社会において同年4月1日出荷分からアスファルト合材の販売価格を引き上げること及びその引上げ幅が1トン当たり1000円以上とすることを確認し合ったとの報告を受けて、同年2月4日付け「平成26年4月以降の合材価格値上げの対応について」と題する製品事業本部長名義の支店長及び製品事業部長宛て業務連絡を発出した。上記業務連絡には、①原告においては、アスファルト合材の販売価格の引上げ幅が前期比1トン当たり300円にとどまっており、コスト上昇分をアスファルト合材の販売価格に転嫁することにより適正販売価格を確保する必要があること、②同年2月~3月の間に取引先に対して状況を十分に説明した上で、同年4月1日出荷分からアスファルト合材の販売価格について、平成25年3月末と比較して1トン当たり1000円以上の引上げを実施するよう記載されていた(甲20)。
f 原告においては、平成26年6月4日開催の9社会において各社が同年4月1日出荷分からのアスファルト合材の販売価格の引上げを達成しきれていない状況であり、上記引上げを達成すべく取引先との交渉を継続することを確認し合ったとの報告を受けて、同年7月1日付け「運搬費、骨材高騰に伴う合材販売価格への転嫁について」と題する製品事業本部長名義の支店長、製品事業部長及び合材製造所長宛て業務連絡を発出した。上記業務連絡には、①運搬費が1トン当たり平均200円、骨材価格が1トン当たり200円値上げされているうえ、原油価格の高騰による油脂類の価格も高止まりの状態にあるため、これらの値上げをアスファルト合材の販売価格に転嫁しなければ、通期で約8億円の損失額になり、経営の根幹に関わること、②運搬費及び骨材価格の値上げに伴うアスファルト合材の販売価格の引上げとして、同日出荷分からアスファルト合材の販売価格について、同年3月と比較して1トン当たり500円以上の引上げを実施するよう記載されていた(甲21)。
g 原告においては、平成26年7月31日開催の9社会において各社が同年4月1日出荷分からのアスファルト合材の販売価格の引上げを達成し切れていない状況であり、上記引上げを達成すべく取引先との交渉を継続することを確認し合ったとの報告を受けて、同年8月18日付け「62期目標利益達成に向けて」と題する製品事業部長名義の製品事業部長、合材製造所長及び合材製造所従業員宛て業務連絡を発出した。上記業務連絡には、①第62期第1四半期について、原告においては製造量が前期比101%であったが利益が前期比55%と低迷したこと及び同業他社においては製造量が前期を下回っているものの利益においては下回っていないこと、②目標利益の確保のため、前記fの業務連絡記載の運搬費及び骨材価格の上昇によるコスト上昇分を転嫁すべく、アスファルト合材の販売価格を平成25年3月末と比較して1トン当たり500円以上の引上げを実施するよう記載されていた(認定事実⑶イ、甲22)。
(イ) 原告の支店の製品事業部長は、前記(ア)の通達又は業務連絡を受けて、原告の単独工場及び原告がスポンサーを務めるJVのJV工場の長に対し、当該通達又は業務連絡のコピーを郵送するなどして、その内容を伝えていた。また、原告は、原告がサブを務めるJVのJV工場においては、スポンサーを務める会社に対し、原告が当該JV工場に派遣している副工場長又は営業担当職員を通じて又は原告の支店の製品事業部長が当該JV工場の会議に参加するなどして、上記通達又は業務連絡の内容を伝えていた。
原告の支店、単独工場及びJV工場においては、上記通達又は業務連絡の内容に沿ったアスファルト合材の販売価格の引上げを達成すべく、取引先に対して販売価格の引上げを求める文書を作成するなどして、取引先と交渉していた。その際、原告の支店、単独工場及びJV工場においては、当該支店又は合材工場(単独工場及びJV工場)の実情に応じて、上記通達又は業務連絡記載の値上げ幅等を変更することが許容されていた(乙156〔≪X6≫供述調書〕・8~12頁、乙158〔≪X7≫供述調書〕・5~9頁、乙249〔≪X7≫供述調書〕・1~7頁)。
(ウ) 原告の本店は、システムを通じて、原告の全ての単独工場及び原告がスポンサーを務めるJVのJV工場の販売価格の平均単価、売上高、製造数量等を確認することができ、また、原告がサブを務めるJVのJV工場については、当該JV工場のスポンサーとなっている会社から、原告の支店を通じて毎月の平均単価、売上高、製造数量等の連絡を受けていた。さらに、原告の本店は、全国製品事業部長会議を年に3回程度開催しており、同会議において、支店の製品事業部長から既に打ち出した値上げの達成状況に関する報告を受けていた(乙18〔≪X5≫供述調書〕・16頁、乙185〔≪X7≫供述調書〕・8頁、乙217〔≪X5≫供述調書〕・6頁、乙218〔≪X8≫供述調書〕)。
イ 8社について
(ア) 8社から本件各9社会に出席した者も、本件各9社会においてアスファルト合材の販売価格の更なる引上げを行うことや従前の引上げ目標を達成するため取引先との交渉を継続することを確認し合った際、自社の支店の製品事業部長や合材工場の工場長に対し、直接又はアスファルト合材の販売を担当する部署の担当者を通じて、文書、電子メール又は電話により、当該9社会において確認し合った内容に沿った値上げの指示を、自社におけるアスファルト合材の販売価格引上げの達成状況に応じて、行っていた。また、本店のアスファルト合材の販売を担当する部署の担当者が支店や合材工場を訪れ、上記指示を直接伝えることもあった。
上記指示の対象は、全ての種類のアスファルト合材であり、また、自社の販売価格(販売先が同業他社又は自社の工事部門の場合も含む。)及び自社が他社とJVを結成して運営するJV工場の販売価格であった。
また、8社は、①自らがスポンサーを務めるJVのJV工場の販売価格については、自社から派遣した工場長に対して、上記指示を行い、②自社がサブを務めるJVのJV工場の販売価格については、自社から派遣した従業員に対して上記指示を行い、それを当該JV工場の工場長に伝達させるか、当該工場長に対して直接上記指示を伝えるかしていた。
(イ) 上記指示を受けた支店及び合材工場(JV工場を含む。)においては、各地域の実情を考慮しつつ、上記指示を実現するよう取引先と交渉していた。上記指示に従ったアスファルト合材の販売価格の引上げの達成状況については、本店に対して報告されていた。本店においては、各支店及び合材工場におけるアスファルト合材の販売価格引上げの達成状況を把握し、引上げの達成状況が芳しくない支店や合材工場に対しては、改めて直接、上記引上げの達成を求めることもあった。
(前記(ア)、(イ)について、NIPPOに関し、乙148〔≪E3≫供述調書〕・6~7、13~15、25~28頁、乙161〔≪E1≫供述調書〕。前田道路に関し、乙14〔≪H2≫供述調書〕・9~13頁、乙129〔≪H3≫供述調書〕・5~9、16~18頁、乙149〔≪H1≫供述調書〕・3~8頁、乙167〔≪H4≫供述調書〕・18頁。日本道路に関し、乙3〔≪B2≫供述調書〕・2~14頁、乙86〔≪B3≫供述調書〕・5~7、24~28頁、乙151〔≪B4≫供述調書〕・3~4頁、乙162〔≪B5≫供述調書〕・4~21頁、乙165〔≪B6≫供述調書〕・3~5、11~20頁。大成ロテックに関し、乙105〔≪A1≫供述調書〕・3~23、30~34頁、乙154〔≪A2≫供述調書〕・3~5、9~60頁、乙168〔≪A1≫供述調書〕。大林道路に関し、乙83〔≪C1≫供述調書〕・12~16頁、乙140〔≪C1≫供述調書〕・5~11頁、乙155〔≪C2≫供述調書〕・1~3、9~11頁、乙176〔≪C3≫供述調書〕・4~13頁。世紀東急工業に関し、乙88〔≪I1≫供述調書〕・9~15頁、乙153〔≪G2≫供述調書〕、乙164〔≪G4≫供述調書〕・1~6頁。東亜道路工業に関し、乙126〔≪D1≫供述調書〕・2~7頁、乙152〔≪D4≫供述調書〕・16~20頁、乙163〔≪D5≫供述調書〕・1~11頁。ガイアートに関し、乙42〔≪F3≫供述調書〕・13~14頁、乙80〔≪F2≫供述調書〕・4~5頁、乙100〔≪F1≫供述調書〕・ 3~10頁、乙242〔≪F3≫供述調書〕・11頁。JV工場に関して、乙223〔≪B7≫供述調書〕、乙224〔≪A3≫供述調書〕、乙227〔≪B5≫供述調書〕、乙228〔≪E4≫供述調書〕、乙229〔≪E5≫供述調書〕、乙231〔≪A4≫供述調書〕、乙233〔≪D4≫供述調書〕、乙234〔≪A5≫供述調書〕。)
ウ 事実認定(前記ア、イ)の補足説明
(ア) 原告は、⒜原告の本店の製品事業部長は本件各9社会に出席した者から9社会の内容について報告を受けたことはないこと、⒝原告の本店の製品事業部長等は、自らの判断で本件通達等を発出していたこと、⒞本件通達等は各合材工場に対してアスファルト合材の販売価格の引上げを依頼するものでしかなく、各工場長が独自に上記引上げを実施していたことを主張し、≪X2≫及び≪X5≫(以下「≪X5≫」という。)がその陳述書(甲107、108)及び証人尋問において、同旨の供述をしている。
しかしながら、前記アの事実は、前掲各証拠(供述調書)に基づき、又は同各証拠に基づき認定した事実からの推認により認定したものであるところ、その理由は以下のとおりである。
a まず、9社会の内容に関する製品事業部長等への報告の有無について検討する。
⒜ 平成23年5月から平成25年3月までの間原告から本件各9社会に出席していた≪X3≫は、被告審査官に対する供述調書(乙53・3~5頁、乙61・3~4頁)において、本件各9社会において他の参加者から聞いたアスファルト合材の販売価格の引上げに関する各社の方針及び達成状況を、当時製品事業部長であった≪X5≫に対して報告した旨を供述しており、これは、平成23年8月2日に9社会が開催された後、同月10日に開催された原告の全国製品事業部長会議において、≪X3≫が、9社会の動向として他社の値上げ活動の状況を具体的に報告しており、≪X5≫もこの会議に出席していたこと(乙276)とも整合するから、信用することができる。したがって、少なくとも≪X3≫が、製品事業部長等に対し、自身が出席した本件各9社会の内容を報告していたことが認められる。
そして、本件各9社会に原告から出席していた者のうちの一人である≪X3≫が9社会の内容を製品事業部長等に対して報告していたのであれば、本件各9社会に原告から出席していた他の者も、製品事業部長等に対して9社会の内容を報告することが求められていたと考えるのが自然であること、認定事実⑶イ及び証拠(甲15~22)によれば、本件各9社会の内容と矛盾しない内容の本件通達等が、当該9社会の開催直後に発出されたことが認められることからすれば、原告から本件各9社会に出席していた者は、製品事業部長等に対して、本件各9社会の内容を報告していたと推認される。
⒝ これに対し、≪X2≫は、被告審査官に対する供述調書(乙54・4頁)において、上司であった≪X5≫に対して、少なくとも9社会で他社から聞いた製造数量及び販売価格に関する情報を報告したと述べていたにもかかわらず、前記陳述書(甲107・17頁)及び証言(証人≪X2≫・8~9頁)においてそのような報告すらもしなかったと述べているのであり、合理的な理由なく変遷している(なお、≪X2≫は、被告審査官に対する供述調書について、被告に対し、その内容に誤りがある旨の申入書を提出したことが認められるが〔乙288〕、上記申入書には上記報告の有無に関しての言及はない。)。また、≪X5≫についても、同様の合理的な理由のない供述の変遷が認められる(供述調書:乙70・3~5頁、陳述書:甲108・18頁、証言:証人≪X5≫・18~19頁)。
したがって、9社会の内容に関する製品事業部長等への報告の有無について、≪X2≫及び≪X5≫の各供述(上記各陳述書及び各証言)を信用することはできない。
⒞ また、原告は、本件通達等と本件各9社会の内容は一致しないと主張するが、本件各9社会において確認し合った値上げ等の方針が原告においてどのような内容のアスファルト合材の販売価格の引上げの指示になるかは、原告におけるそれまでの値上げの達成状況にもよるのであるから、本件通達等の内容は、本件各9社会の内容と一致しないとまではいえない。また、本件通達等記載のアスファルト合材の販売価格の引上げの理由やその他の目標については、本件通達等が原告の社内向けのものである以上、上記引上げについて取引先の理解が得られやすいような理由を記載したり、アスファルト合材の販売価格以外の目標と併せて伝達したりすることも通常想定されるから、この点をもって本件通達等と本件各9社会の内容が一致しないと評価することはできない。
⒟ 前記⒝及び⒞によれば、9社会の内容に関する製品事業部長等への報告の有無に関する原告の前記主張は採用できない。
b 次に、本件通達等の発出の経緯等について検討する。
認定事実⑶イ及び証拠(甲15~22)によれば、本件各9社会の内容と矛盾しない内容の本件通達等が、当該9社会の開催直後に発出されたことが認められ、本件各9社会の内容(認定事実⑶イ・別表2「9社会認定一覧表」の「9社会の内容」欄)及び原告の製品事業部長等が本件各9社会の出席者からその内容について報告を受けていたこと(認定事実⑷ア(ア))をも踏まえれば、原告の製品事業部長等は、本件各9社会において9社からの出席者が確認し合った値上げ等の方針に従って本件通達等を作成したものと推認される。
この点、≪X2≫の陳述書(甲107・20~21頁)及び証言(証人≪X2≫・21~24頁)並びに≪X5≫の陳述書(甲108・9頁)及び証言(証人≪X5≫・11頁)には、原告の本店の製品事業部長等が本件通達等を自らの判断で作成・発出していた旨の供述があるが、これらはいずれも、本件各9社会においてアスファルト合材の販売価格に関する値上げ等の方針を確認し合ったこと(認定事実⑶イ参照)及び原告の本件各9社会出席者が製品事業部長等に対して9社会の内容を報告したこと(認定事実⑷ア(ア)参照)を否定した上での供述であり、本件各9社会の内容及びこれに関する報告に関する両人の供述を信用することができない以上、これを前提とする上記供述もにわかに信用することができない。
c さらに、本件通達等の支店及び合材工場に対する意味合いや本件通達等を受けた支店及び合材工場の対応等について検討する。
前記ア(イ)掲記の各供述調書は、原告の本店が多数の支店及び合材工場から成る原告の業績を把握・検討していること(認定事実⑷ア(ウ)。なお、前記ア(ウ)掲記の供述調書が信用できることについては争いがない。)、本件通達等が原告の社長又はアスファルト合材の製造販売を担当する部署の責任者である製品事業本部長若しくは製品事業部長の名義であること(甲15~22)等からすれば、その供述内容は合理的であり、特に信用性に疑わしい点はないから、これらに基づいて前記ア(イ)の事実が認められる。
この点、≪X2≫の陳述書(甲107・22~23頁)及び証言(証人≪X2≫・21~24頁)並びに≪X5≫の陳述書(甲108・15~17頁)及び証言(証人≪X5≫・8~11頁)には、本件通達等は、支店や合材工場に対して、ストアス価格の上昇に対応するため、アスファルト合材の販売価格の値上げ、原価の低減又は製造数量の増加によって対処するよう注意喚起するものでしかなく、上記値上げは各工場長が独自に実施していた旨の供述があるが、本件通達等に記載されたアスファルト合材の販売価格の引上げをそのとおりに取引先に対して伝えるか否かについて、支店長や工場長に、当該支店又は合材工場の存在する地域におけるアスファルト合材の販売価格の実情等に応じた一定の裁量が与えられているとしても、本件通達等の名義及び内容(甲15~22。例えば、甲19では、製品事業本部長名義で、「10月1日より値上げの対応を下記の通り、お願い致します。」、「【値上額】500円/t以上」などと明確に記載されている。)からして、原告の本店において、本件通達等に記載されたアスファルト合材の販売価格の値上げが達成されるべきと考えており、支店及び合材工場に対して、これを達成すべく合理的な営業努力を行うよう求めるものであると認めることが合理的であるから、これに反する上記供述は不自然かつ不合理であって信用することができない。
なお、証拠(乙287、証人≪X2≫・11、48~49頁)によれば、平成22年3月、当時原告の関西支店製品事業部長の立場にいた≪X2≫は、本店製品事業部にいた≪X3≫から、「4月からのAS値上げに伴い、得意先に対し価格転嫁をするよう管下製造所に支持願います。※同業各社も同様の動きをしていますので、宜しくお願いいたします。」と記載され(上記文中「支持」は「指示」の誤記)、添付ファイルとして同年4月以降の販売価格について「値上げ額」を具体的に記載した業務連絡文書が添付されたメールを受信し、同支店管内の各合材製造所長に対し、「本店より指示がありました。」というコメントを付して同メールを転送したことが認められ、≪X2≫は、その当時から既に、本店が各支店、各合材工場に対して値上げの指示をするものであることを認識していたものと推認される。そうすると、≪X2≫の上記供述はますます信用することができない。
(イ) また、原告は、8社におけるアスファルト合材の販売価格の引上げに関し、前記イ掲記の各証拠(8社の従業員の供述調書)の信用性を争うが、前記⑶オ(ア)、(エ)~(キ)によれば、上記各供述調書の内容は信用することができる。
⑸ アスファルト合材の販売価格の引上げに関するその他の会合等
ア 4社会
4社会は、平成20年頃から、日本道路本社の会議室において、国内のアスファルト合材の製造量における上位4位を占めていた4社のアスファル卜合材の製造販売に関する部署の責任者及びその一つ下の地位にある者が参加して行われるようになった。4社会は、当時、値上げ等の方針について認識を一致させておくことで、抜け駆けを防ぐとともに、4社以外の大手アスファルト合材製造販売業者との間でも認識を一致させやすくするという観点から始まり、直後の9社会において9社の間で確認し合うべきアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針を4社の間で確認し合っていた。
(以上につき、前提事実⑷イ、乙16〔≪A1≫供述調書〕・8~11頁、乙19〔≪B2≫供述調書〕・15~17頁、乙25〔≪E2≫供述調書〕・7~8頁、乙36〔≪E6≫供述調書〕・3~19頁、乙38〔≪B4≫供述調書〕・ 6~22頁、乙99〔≪H1≫供述調書〕・10~11頁、乙124〔≪A1≫供述調書〕・33~34頁、乙187〔≪A1≫供述調書〕・11~32頁、乙188〔≪A6≫供述調書〕・4~10頁、乙189〔≪A7≫供述調書〕・1~3頁、乙190〔≪H5≫供述調書〕、乙191〔≪H5≫供述調書〕、乙192〔≪B8≫供述調書〕、乙193〔≪A8≫供述調書〕・1~5頁、乙19 4〔≪E7≫供述調書〕・7~14頁、乙195〔≪E7≫供述調書〕・4~10頁)
イ ①原告、日本道路、大成ロテック及び東亜道路工業による原告ら4社会、②9社を含むアスファルト合材の製造販売業者が会員となっている≪K≫の下部組織である総務部会や≪M≫並びに③日本道路、世紀東急工業及び原告による会合であるNSKにおいて、各社は、本件各9社会において確認し合ったアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針を前提に、アスファルト合材の販売価格について、互いの引上げの達成状況や引上げ時期及び引上げ幅を確認し合っていた。
(以上につき、前提事実⑷ウ~オ、乙15〔≪A1≫供述調書〕・29~30頁、乙16〔≪A1≫供述調書〕・24~25頁、乙21〔≪A1≫供述調書〕・16~18頁、乙189〔≪A7≫供述調書〕・4~5頁、乙193〔≪A8≫供述調書〕・5~8頁、乙196〔≪X5≫供述調書〕・3~6頁、乙197、弁論の全趣旨)
ウ 9社は、9社全社又はその一部の間で、地域ごとに、当該地域における同業者をも参加者として、各社の当該地域におけるアスファルト合材の製造販売の責任者等が集まる地区会合を開催していた。9社からの出席者は、この地区会合において、本店からのアスファルト合材の販売価格の引上げに係る指示の有無及び内容を確認し合った上で、当該地域における上記指示の達成状況を踏まえ、アスファルト合材の販売価格引上げの時期や引上げ幅について確認し合っていた。
(以上につき、乙51〔≪G1≫供述調書〕・2~4頁、乙86〔≪B3≫供述調書〕・8~23頁、乙129〔≪H3≫供述調書〕・6~9頁、乙148〔≪E3≫供述調書〕・7~25頁、乙150〔≪H6≫供述調書〕、乙151〔≪B4≫供述調書〕・5~24頁、乙154〔≪A2≫供述調書〕・7~9頁、乙155〔≪C2≫供述調書〕・3~16頁、乙159 〔≪X6≫供述調書〕・6~10頁、乙163〔≪D5≫供述調書〕・11~17頁、乙164〔≪G4≫供述調書〕・9~10頁、乙165〔≪B6≫供述調書〕・6~11、20~23頁、乙167〔≪H4≫供述調書〕・10~18頁、乙171〔≪E3≫供述調書〕、乙172〔≪E1≫供述調書〕・7~13頁、乙173〔≪A9≫供述調書〕、乙174〔≪A10≫供述調書〕・10~13頁、乙175〔≪D6≫供述調書〕・1~15頁、乙176〔≪C3≫供述調書〕・13~22頁、乙177〔≪A11≫供述調書〕・6~12、14~20頁、乙178〔≪H7≫供述調書〕・6~15頁、乙179〔≪C4≫供述調書〕・8~12頁、乙180〔≪F4≫供述調書〕、乙181〔≪F5≫供述調書〕、乙182〔≪F6≫供述調書〕・4~13頁、乙183〔≪J1≫供述調書〕・9~20頁、乙184〔≪A12≫供述調書〕・12頁、乙185〔≪X7≫供述調書〕、乙186〔≪X5≫供述調書〕・1~8頁)
エ なお、前記ア~ウ掲記の各証拠のうち、8社の従業員の供述調書の内容が信用できることは、前記⑶オ(ア)、(エ)~(キ)のとおりである。なお、前記ア及びイ掲記の各証拠のうち、原告の従業員の供述調書については、前記ア~ウ記載の内容の限度においては、その信用性は否定されない(原告もこれを争っていない。)。
⑹ アスファルト合材の販売価格の推移
9社各社の単独工場及び当該9社が構成員を務めるJVのJV工場における「再生密粒度アスファルト合材13mm」(前記⑴イ参照)の平均販売単価は、平成23年3月から平成27年1月までの間に、9社各社のいずれについても、1トン当たり1000円程度値上がりした(乙210)。
また、地区別の「再生密粒度アスファルト合材13mm」(前記⑴イ参照。北海道については、「再生密粒度アスファルト合材13mmF」)の平均販売単価は、平成23年3月から平成27年1月までの間に、1トン当たり500円~2400円程度値上がりした(乙211)。
2 争点1(本件合意の成否)について
⑴ 前提事実及び認定事実によれば、次の事情を指摘することができる。
ア 9社は、アスファルト合材の製造販売業を営む事業者であり、平成23年度から平成26年度までの間、国内のアスファルト合材の製造量において、平均して合計66.7%を占め、アスファルト合材の販売量において、平均して合計59.5%を占めていた(前提事実⑴、⑶ア)。
9社は、自社単独で又はJVを結成して合材工場を設立し、アスファルト合材を製造販売しており、その販売先には、自社の工事部門及び同業他社が含まれていた(前提事実⑶イ、認定事実⑵)。
9社のアスファルト合材の製造販売を担当する部署の部課長若しくはその部下又はアスファルト合材の製造販売に携わる従業員は、平成23年1月から平成27年1月までの間、一、二か月に一度の頻度で本件各9社会を開き、アスファルト合材の販売価格について、①値上げを実施するか否か、②従前の値上げ目標を達成するために取引先との交渉を継続するか否か、③値上げを実施する場合にはその実施時期及び値上げ幅をどのようにするか、④従前の値上げ目標の達成状況がどのようかを確認し合った。その際、特定の種類又は販売先に対するアスファルト合材の販売価格について、その他のアスファルト合材の販売価格と異なる議論をしたことはなかった。9社の中に本件各9社会に出席者を出していない事業者があった場合には、日本道路の≪B1≫、日本道路の≪B2≫又は大成ロテックの≪A1≫が、当該事業者から従前9社会に出席していた従業員に対して、当該9社会の内容を報告していた(認定事実⑶)。
イ 本件各9社会の出席者は、自社の支店又は合材工場に対し、自ら又はアスファルト合材の製造販売を担当する部署の責任者等を通じて、本件各9社会において確認されたアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針に沿った上記価格の更なる引上げを行うことや、従前の引上げ目標を達成するため取引先との交渉を継続することを指示していた。上記指示の対象は、全てのアスファルト合材であり、自社がスポンサーを務めるJVのJV工場の販売価格については自社が派遣している当該JV工場の工場長に対して、自社がサブを務めるJVのJV工場の販売価格については派遣している従業員を通じて又は直接、当該JV工場の工場長に対して、それぞれ上記指示を伝達していた(認定事実⑷ア(ア)、イ(ア))。
ウ 9社の支店及び合材工場は、前記イの指示に従い、当該支店及び合材工場の存在する地域の実情を考慮しつつ、アスファルト合材の販売価格を引き上げるために取引先と交渉していた。9社の本店は、各社の支店及び合材工場におけるアスファルト合材の販売価格の引上げの達成状況を把握していた(認定事実⑷ア(イ)、(ウ)、イ(イ))。
エ 4社は、本件各9社会に先立ち、アスファルト合材の製造販売を担当する部署の責任者及びその一つ下の地位にある者が参加する4社会を開催し、直後の9社会において9社の間で確認し合うべきアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針を確認し合っていた(認定事実⑸ア)。
9社は、9社全社又はその一部の間で、原告ら4社会、≪K≫の下部組織である総務部会及び≪M≫並びにNSKを開催し、アスファルト合材の販売価格について、互いの引上げの達成状況や引上げ時期及び引上げ幅を確認し合っていた(認定事実⑸イ)。
9社は、9社全社又はその一部の間で、地域ごとの同業者との間の会合(地区会合)を開催し、各社の本店からのアスファルト合材の販売価格の引上げに係る指示の有無及び内容を確認し、当該地域における上記指示の達成状況を踏まえ、アスファルト合材の販売価格引上げの時期や引上げ幅について確認し合っていた(認定事実⑸ウ)。
⑵ 前記⑴の事情を総合すれば、9社は、遅くとも平成23年3月頃以降、平成25年5月27日の前後を問わず、9社又は9社のいずれかを構成員とするJVが販売する全てのアスファルト合材の販売価格(特定販売価格)の引上げを共同して行っていく旨の合意(本件合意)をしたものと認められる。
⑶ これに対し、原告は、次のア~ウの点を指摘して、本件合意が成立していない旨を主張するが、次のとおり、いずれの点についても原告の主張を採用することはできない。
ア 原告は、9社会の出席者が自社のアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針について決定する権限を有しない者であったから、9社会において上記方針に関する合意を形成することはできない旨を主張する。
しかし、そもそも、本件排除措置命令は、9社会におけるアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針の確認のみをもって本件合意の成立をいうものではないから、原告の上記主張はその前提を欠く。また、9社会の出席者は、9社においてアスファルト合材の製造販売を担当する部署の部課長又は少なくともアスファルト合材の製造販売に携わる者であり(認定事実⑶ア)、自社におけるアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針を決定する権限を実質的に有する上記部署の責任者に対して9社会の内容を報告し、9社の本店において、上記報告を踏まえて支社及び合材工場に対するアスファルト合材の販売価格の引上げに係る指示がなされていたこと(認定事実⑷ア(ア)、イ(ア))が認められる。これらの事情からすれば、本件各9社会の出席者は、当該9社会の内容を原告の本店のアスファルト合材の製造販売を担当する部署に報告し、少なくとも上記部署の責任者が当該9社会において確認されたアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針を踏まえて自社のアスファルト合材の販売価格の引上げに係る指示を行うことについて黙示に承認を受けることにより、9社の間で本件合意に至ったものと認められる。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、①原告の本店の製品事業部長は、9社会に出席した原告の従業員から9社会の内容について報告を受けておらず、支店又は合材工場に対する、アスファルト合材の販売価格の引上げに関する通達等の内容を、自らの判断で決定していたこと、②原告の合材工場においては、工場長が独自にアスファルト合材の販売価格の引上げに関する方針を決定しており、上記通達等は上記引上げに関する検討依頼にすぎなかったことから、本件合意の存在は推認されない旨を主張する。
しかし、原告が主張する上記①②の事実が認められないことは前記1において説示したとおりであり、原告の本店の製品事業部長等が支店及び合材工場に対して9社会の内容に沿って、アスファルト合材の販売価格の引上げに関する通達等を発するなどして、上記引上げを指示していたこと(認定事実⑷ア(ア))及び原告の支店及び合材工場が上記通達等の内容に沿って、アスファルト合材の販売価格の引上げを達成するため、取引先と交渉を行っていたこと(認定事実⑷ア(イ))は、いずれも本件合意の存在と整合する事実であるから、その存在を推認させる事実である。したがって、この点に関する原告の主張は前提を欠き、採用できない。
ウ 原告は、①4社が9社のうちの他5社と異なる利害関係を有しており、当該5社には秘密裡に4社会を開催してアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針を決定していたこと、②地区会合、原告ら4社会、NSK及び≪M≫について9社会とは何ら関係なく開催されたものであることから、本件合意の存在は推認されない旨を主張する。
しかし、4社が4社会を開催してアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針を決定していたことは、4社間での抜け駆けを防ぐとともに、9社のうちの他5社との間でも認識を一致させやすくする目的であったと認められる(認定事実⑸ア)。また、地区会合、原告ら4社会、NSK及び≪M≫におけるアスファルト合材の販売価格の引上げに関するやり取りは、9社会におけるアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針に関する確認や、値上げ等の方針に沿った9社各社の本店から支店及び合材工場に対するアスファルト合材の販売価格の引上げに係る指示を前提としたものであったことが認められる(認定事実⑸イ、ウ)。そうすると、原告の上記①及び②の主張は、いずれも前提を欠き採用できない。
3 争点2(本件合意が「不当な取引制限」の要件に該当するか否か)について
⑴ 独禁法2条6項は、独禁法において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいうと規定している。そして、同項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいうものと解される(最高裁平成22年(行ヒ)第278号同24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁参照)。
⑵ これを本件についてみると、本件合意の内容は、前記2⑵のとおり、アスファルト合材の製造販売業を営む9社が、遅くとも平成23年3月頃以降、9社又は9社のいずれかを構成員とするJVが販売する全てのアスファルト合材の販売価格(特定販売価格)について、共同して引上げを行うという内容の取決めであり、9社は、本来的には、相互に各社のアスファルト合材の販売価格に関する営業方針を予測できない状況で、ストアスの価格の変動見込み等を踏まえてアスファルト合材の販売価格に関する従前の引上げ目標を達成すべく取引先との交渉を継続するか否か、上記販売価格の更なる引上げを行うベく取引先との交渉を行うか否か、上記販売価格の更なる引上げを行う場合にどの時点の出荷分を対象に、いくら引き上げるかなど、アスファルト合材の販売に関する様々な事業活動について自由に意思決定することができるはずであるところ、このような取決めがされたときは、これに制約されて意思決定を行うことになるという意味において、9社各社の事業活動が事実上拘束される結果となることが明らかである。そうすると、本件合意は、独禁法2条6項所定の「その事業活動を拘束し」の要件に該当するということができる。そして、本件合意の成立により、9社各社の間に、上記の取決めに基づいた行動をとることを互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから、本件基本合意は、同項にいう「共同して…相互に」の要件も充足するものということができる。
また、本件合意の当事者である9社が平成23年度から平成26年度までの間、国内のアスファルト合材の製造量において平均して合計66.7%を占め、販売量において平均して合計59.5%を占めていたこと(前提事実⑶ア)、9社が構成員を務めるJV(スポンサーを務める場合とサブを務める場合のいずれをも含む。)のJV工場においても、9社から派遣された工場長に対して又は9社から直接若しくは9社から派遣された従業員を通じて当該JV工場の工場長に対して本件合意に基づくアスファルト合材の販売価格の引上げを行うベく取引先との交渉を行うよう指示を行うことができる状況であったこと(認定事実⑷ア(イ)、イ(ア))等を併せ考慮すれば、本件合意は、この取決めによって、その当事者である9社がその意思で、本件合意が対象とする国内のアスファルト合材の販売に係る市場におけるアスファルト合材の販売価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらし得るものであったということができる。しかも、認定事実⑷~⑹のとおり、9社は、その本店から全国の支店及び合材工場に対し、本件各9社会に出席した者から報告を受けた本件各9社会の内容に沿う形で、アスファルト合材の販売価格の引上げを指示しており、9社の支店及び合材工場(9社が構成員を務めるJV〔スポンサーを務める場合とサブを務める場合のいずれをも含む。〕のJV工場を含む。)においては、各地域においても地区会合等で9社におけるアスファルト合材の販売価格の値上げの方針等を確認し合いながら、上記指示を実現するよう取引先と交渉しており、その結果、9社各社の単独工場及び当該9社が構成員を務めるJVのJV工場におけるアスファルト合材の販売価格及び全国各地域におけるアスファルト合材の販売価格が、平成23年3月から平成27年1月までの間に、いずれも値上がりしたことからすると、本件合意は、上記期間中、全国の9社の合材工場及び9社が構成員を務めるJVのJV工場におけるアスファルト合材の販売価格(特定販売価格)に関して、事実上の拘束力をもって有効に機能し、上記の状態をもたらしていたものということができる。そうすると、本件合意は、独禁法2条6項所定の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足するものというべきである。
さらに、以上のような本件基本合意が、独禁法2条6項にいう「公共の利益に反して」の要件を充足するものであることも明らかである。
以上によれば、本件基本合意は、独禁法2条6項所定の「不当な取引制限」に当たるというべきである。
⑶ア これに対し、原告は、本件合意の成立を否認した上で、原告の本店製品事業部は独自にアスファルト合材の販売価格に関する社内通達の内容を決定しており、また、各合材工場は現実の値上げ活動を地域の実情等を踏まえて独自に行っていたから、独禁法2条6項所定の「共同して」及び「相互にその事業活動を拘束」の要件を満たさないと主張する(前記第2・3⑵原告の主張)ア、イ)が、本件合意の成立が認められ、この点に関する原告の主張が採用できないことは前記2のとおりであるから、原告の上記主張は前提を欠き、いずれも採用できない。
イ また、原告は、アスファルト合材の性質や地域ごとの競争状況の違いから、我が国全体を「一定の取引分野」とするのは誤りであるとした上で、9社会において抽象的かつ一般的な情報交換がなされた程度で全国各地におけるアスファルト合材の販売価格について競争の実質的制限を生じさせるような共通の意思が成立したものとは認められないから、独禁法2条6項所定の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を満たさない旨を主張する。
しかし、そもそも、9社会の内容に関する原告の主張が採用できないことは前記1⑶オで説示したとおりであるから、原告の上記主張は前提を欠き採用できない。
また、少なくとも本件のような価格カルテルについては、競争が行われている市場全体で行わなければ成立し得ないものであるから、違反者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し、その競争が実質的に制限される範囲を確定して独禁法2条6項所定の「一定の取引分野」を決定するのが相当であるし、仮にアスファルト合材の販売に関して地域ごとに市場が異なると解するとしても、複数の地域を含む包括的な合意が存在し、これによりそれぞれの取引分野における競争が制限されたものといえる。したがって、これらの点からも原告の上記主張は採用できない。
4 争点3(本件排除措置命令に内容が不確定であるという瑕疵があるか否か)について
⑴ 独禁法61条1項は、排除措置命令書には、その理由として、「公正取引委員会の認定した事実及びこれに対する法令の適用」を示さなければならないと規定する。その趣旨は、排除措置命令がその名宛人に対し当該命令の主文に従った排除措置の履行義務を課すなど名宛人の事業活動の自由等を制限する不利益処分であることに鑑み、他の行政処分において理由の付記が必要とされるのと同様、被告の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、排除措置命令の理由をその名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるためのものであると解される。このような排除措置命令の性質及び排除措置命令書に理由の記載が必要とされる趣旨に鑑みると、排除措置命令書に記載すべき理由の内容及び程度は、特段の理由がない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該排除措置命令がされたかを名宛人においてその記載自体から了知し得るものでなければならないと解される(最高裁昭和45年(行ツ)第36号同49年4月25日第一小法廷判決・民集28巻3号405頁、最高裁昭和57年(行ツ)第70号同60年1月22日第三小法廷判決・民集39巻1号1頁参照)。
これを本件についてみると、前提事実⑼によれば、本件排除措置命令書には、排除措置命令の理由として、9社が、9社又は9社のいずれかを構成員とするJVが販売するアスファルト合材の販売価格(特定販売価格)について、いかなる合意を行ったのか、当該合意に基づく行為又は当該行為を実施するための行為としてどのような行為を行ったのかという、本件排除措置命令の原因となる具体的な事実と、上記合意が独禁法2条6項所定の「不当な取引制限』に該当し独禁法3条に違反するなどという、本件排除措置命令の根拠法条が示されている。そうすると、本件排除措置命令書の記載自体によって、その名宛人である原告において、いかなる自己の行為が不当な取引制限に該当し独禁法3条に違反すると評価されたかを具体的に了知し得るものであると認められる。
⑵ この点に関し、原告は、本件合意が地区会合での情報交換等をも包含するものであれば、本件排除措置命令書において、違反行為の内容が不明確であり、特定性を欠く旨を主張する。
しかし、証拠(乙1)によれば、本件排除措置命令書においては、9社が「共同して、特定販売価格の引上げを行っていく旨を合意をすることにより、公共の利益に反して、我が国におけるアスファルト合材の販売分野における競争を実質的に制限していたものであって、この行為は、独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反する」と明記されており(乙1〔本件排除措置命令書〕の「理由」第2参照)、地区会合(乙1〔本件排除措置命令書〕の「理由」第1・2⑶参照)でのやり取りは、本件合意に基づく行為として摘示されていることが明らかであるから、原告の上記主張は採用できない。
5 争点4(9社以外の事業者がスポンサーを務める本件7JV工場が販売したアスファルト合材に本件合意に基づく拘束が及んでいたか否か)について
⑴ 改正前独禁法7条の2第1項1号所定の「当該商品」
独禁法の定める課徴金の制度は、昭和52年法律第63号による独禁法改正において、カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし、カルテルの予防効果を強化することを目的として、既存の刑事罰の定め(独禁法89条)やカルテルによる損害を回復するための損害賠償制度(独禁法25条)に加えて設けられたものであり、カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである。また、課徴金の額の算定方式は、実行期間のカルテル対象商品又は役務の売上額に一定率を乗ずる方式を採っているが、これは、課徴金制度が行政上の措置であるため、算定基準も明確なものであることが望ましく、また、制度の積極的かつ効率的な運営により抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであって、個々の事案ごとに経済的利益を算定することは適切ではないとして、そのような算定方式が採用され、維持されているものと解される。そうすると、課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないというべきである(最高裁平成14年(行ヒ)第72号同17年9月13日第三小法廷判決・民集59巻7号1950頁参照)。
そして、改正前独禁法7条の2第1項にいう「当該商品」とは、違反行為である相互拘束の対象である商品、すなわち、違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって、違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解すべきであるが、上記のような課徴金制度の趣旨及び課徴金の算定方法に照らせば、違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については、一定の商品につき、違反行為を行った事業者が、明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められない限り、違反行為による拘束が及んでいるものとして、課徴金算定の対象となる当該商品に含まれ、違反行為者が、実行期間中に違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品を引き渡して得た対価の額が、課徴金の算定の基礎となる売上額となると解すべきである。
⑵ これを本件についてみると、次のとおりである。
ア 認定事実⑶ウ、⑷ア(ア)、(イ)、イ(ア)、(イ)によれば、本件合意の対象であった商品は、①アスファルト合材の製造において使用する骨材や、その配合割合、添加物の有無等による種類の違いによらず、様々な種類のアスファルト合材全てであり、②アスファルト合材の販売先(販売先が道路舗装工事業者か、同業他社か、自社の工事部門か。)や、アスファルト合材の販売元(9社自身か、9社が構成員を務めるJVか)を問うことなく、あらゆるアスファルト合材の販売取引に係るアスファルト合材であったことが認められる。
イ そうすると、9社以外の事業者がスポンサーを務める本件7JV工場が販売したアスファルト合材も本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するものと認められるから、上記アスファルト合材を明示的又は黙示的に本件合意の対象から除外するなど当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められない限り、上記アスファルト合材に本件合意に基づく拘束が及んでいたものと認められる。
ウ この点、原告は、原告において、9社以外のスポンサーを務める事業者から派遣された本件7JV工場の工場長に対して、本件各9社会で確認されたアスファルト合材の販売価格の値上げの方針等を伝えたことはないから、本件7JV工場が販売したアスファルト合材には本件合意に基づく拘束が及んでいたとはいえない旨を主張するが、原告における本件各9社会で確認された上記方針のJV工場への伝達については、認定事実⑷ア(ア)、(イ)のとおりであり、むしろ、9社から当該JV工場へ派遣された従業員や9社の従業員が当該JV工場の工場長に対して、本件9社会で確認されたアスファルト合材の販売価格の値上げ等の方針に沿って当該JV工場の販売価格も引き上げるよう働きかけていたことが認められるのであるから、原告の上記主張はその前提を欠き採用できない。
そして、他に9社以外の事業者がスポンサーを務める本件7JV工場が販売したアスファルト合材が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情は認められない。
エ したがって、9社以外の事業者がスポンサーを務める本件7JV工場が販売したアスファルト合材に本件合意に基づく拘束が及んでいたと認められる。そうすると、上記アスファルト合材に係る売上額は、課徴金算定の基礎となる改正前独禁法7条の2第1項1号所定の売上額に含まれる。
6 争点5(原告が完全子会社である本件3子会社に対して販売したアスファルト合材に係る売上額が課徴金算定の基礎となるか否か)について
⑴ 前記5⑴、⑵アのとおり、原告が本件3子会社に対して販売したアスファル卜合材についても、本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するものと認められるから、上記アスファルト合材を明示的又は黙示的に本件合意の対象から除外するなど当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められない限り、上記アスファルト合材に本件合意に基づく拘束が及んでいたものと認められる。
⑵ この点、原告は、原告と完全子会社との間の取引には、通常の取引に関する競争環境が妥当しないことから、9社において、本件合意の相互拘束の対象から除かれるとの認識を有していたというべきである旨を主張する。しかし、9社が上記認識を有していたと認めるに足りる証拠はなく、むしろ証拠(乙236)によれば、原告において、子会社に対するアスファルト合材の販売はついても、顧客に対する販売と区別することなく把握されていたことが認められるから、原告の上記主張は探用できない。
また、原告は、完全子会社に対するアスファルト合材の販売は、同一企業内での物資移動と同視できるから、上記販売に係る売上額はそもそも課徴金算定の基礎から除外されるべきである旨を主張するが、完全子会社とはいえ、違反行為者である原告とは別個の法人格を有し、法律上も独立の取引主体として活動している以上、完全子会社に対して販売した商品に係る売上額であるというだけで課徴金算定の基礎から除外することはできない。なお、仮に完全子会社に対する商品の販売が同一企業内における他部門への物資の移動と同視し得るような事情が存在する場合には、当該販売に係る売上額を課徴金算定の基礎から除外されると解する余地があるとしても、本件3子会社について、上記事情を認めるに足りる証拠はなく、むしろ上記認定によれば、原告において、子会社に対するアスファルト合材の販売は、顧客に対する販売と同様に扱われていたものといえるから、上記場合には当たらない。
そして、他に原告が完全子会社である本件3子会社に対して販売したアスファルト合材が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情は認められない。
⑶ したがって、原告が完全子会社である本件3子会社に対して販売したアスファルト合材に本件合意に基づく拘束が及んでいたと認められる。そうすると、上記アスファルト合材に係る売上額は、課徴金算定の基礎となる改正前独禁法7条の2第1項1号所定の売上額に含まれる。
7 争点6(原告が本件同業者間契約に基づいて納入したアスファルト合材に本件合意に基づく拘束が及んでいたか否か)について
⑴ 前記5⑴、⑵アのとおり、原告が本件同業者間契約に基づいて納入したアスファルト合材についても、本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するものと認められるから、上記アスファルト合材を明示的又は黙示的に本件合意の対象から除外するなど当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情が認められない限り、上記アスファルト合材に本件合意に基づく拘束が及んでいたものと認められる。
⑵ この点、原告は、同業他社(8社、8社以外の同業他社及び同業他社が構成員となっているJV)との間の契約(本件同業者間契約)に基づき、当該同業他社の取引先にアスファルト合材を納品する場合について、同業他社から原告に対して支払われる対価は、アスファルト合材の販売の対価ではなく、アスファルト合材の製造の対価であり性質が異なるから、9社において、本件合意の相互拘束の対象から除かれるとの認識を有していたというべきである旨を主張するが、9社が上記認識を有していたと認めるに足りる証拠はなく、むしろ証拠(乙238~241)によれば、原告において、同業他社に対するアスファルト合材の納品について製造委託に基づくものとは認識されておらず、他の販売先に対するアスファルト合材の販売と区別することなく把握されていたことが認められる。
そして、他に原告が本件同業者間契約に基づいて納入したアスファルト合材が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情は認められない。
⑶ したがって、原告が本件同業者間契約に基づいて納入したアスファルト合材に本件合意に基づく拘束が及んでいたと認められる。そうすると、上記アスファルト合材に係る売上額は、課徴金算定の基礎となる改正前独禁法7条の2第1項1号所定の売上額に含まれる。
8 まとめ
前記2~4によれば、本件排除措置命令は、適法である。また、前記2、3、5~7によれば、前提事実⑸の認定額と同額の課徴金の納付を命じた本件課徴金納付命令は、適法である。
第4 結論
以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
令和5年3月30日
東京地方裁判所民事第8部
裁判長裁判官 笹本哲朗
裁判官 山田悠貴
裁判官 川村久美子
注釈 《 》部分は,公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。
(別表は省略)