公正取引委員会審決等データベース

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旧一般電気事業者らに対する件

独禁法3条後段

令和05年(措)第2号

排除措置命令

名古屋市東区東新町1番地
中部電力ミライズ株式会社
同代表者 代表取締役 《 氏  名 》


公正取引委員会は、上記の者に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第7条第2項の規定に基づき、次のとおり命令する。
なお、主文、理由及び別紙中の用語のうち、別紙「用語」欄に掲げるものの定義は、別紙「定義」欄に記載のとおりである。

主    文
1 中部電力ミライズ株式会社(以下「中部電力ミライズ」という。)は、次の事項を、取締役会において決議しなければならない。
⑴ 中部電力管内又は関西電力管内(以下「2地区」という。)に所在する大口顧客に対して小売供給を行う電気について、中部電力ミライズ、中部電力株式会社(以下「中部電力」という。)及び関西電力株式会社(以下「関西電力」という。)の3社(以下「3社」という。)が、遅くとも平成30年11月2日以降(中部電力にあっては令和2年3月31日までの間、中部電力ミライズにあっては同年4月1日以降)共同して行っていた、互いに、相手方の供給区域において相手方が小売供給を行う大口顧客の獲得のための営業活動を制限する旨の合意が消滅していることを確認すること。
⑵ 今後、他の事業者と共同して、2地区に所在する大口顧客に対して小売供給を行う電気について、互いに、相手方が小売供給を行う大口顧客の獲得のための営業活動を制限する行為を行わず、自主的に大口顧客に係る営業活動を行うこと。
⑶ 今後、電気の小売供給を行う事業を営む他の事業者と、2地区に所在する大口顧客に対して小売供給を行う電気について、電気料金及び見積り(電気料金に係る見積りをいう。以下同じ。)提示に関する情報交換を行わないこと。
2 中部電力ミライズは、前項に基づいて採った措置を、2地区に所在する大口顧客に周知し、かつ、自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの周知及び周知徹底の方法については、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
3 中部電力ミライズは、今後、他の事業者と共同して、2地区に所在する大口顧客に対して小売供給を行う電気について、互いに、相手方が小売供給を行う大口顧客の獲得のための営業活動を制限する行為を行ってはならない。
4 中部電力ミライズは、今後、電気の小売供給を行う事業を営む他の事業者と、2地区に所在する大口顧客に対して小売供給を行う電気について、電気料金及び見積り提示に関する情報交換を行ってはならない。
5 中部電力ミライズは、次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については、前2項で命じた措置が遵守されるために十分なものでなければならず、かつ、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
⑴ 役員及び従業員に対する、電気の小売供給に係る営業活動に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の周知徹底
⑵ 電気の小売供給に係る営業活動に関する独占禁止法の遵守についての、当該営業活動に従事する役員及び従業員に対する定期的な研修並びに法務担当者及び第三者による定期的な監査
⑶ 独占禁止法違反行為に係る調査への協力を行った者に対する適切な取扱いを定める規程の作成
6 中部電力ミライズは、第1項、第2項及び前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。

理    由
第1 事実
1 関連事実
⑴ 名宛人等の概要
ア 中部電力ミライズは、肩書地に本店を置き、《発電事業者A》等から調達した電気の小売供給を行う事業を営む者である。
なお、中部電力ミライズは、令和2年4月1日、商号を、中部電力小売電気事業分割準備株式会社から現商号に変更し、同日、名宛人以外の中部電力から、吸収分割により、電気の小売供給を行う事業の全部(電気事業法(昭和39年法律第170号)第2条に規定される一般送配電事業、特定送配電事業及び発電事業に該当する部分を除く。以下同じ。)を承継した者である。
イ 中部電力は、名古屋市東区東新町1番地に本店を置き、自ら発電し、又は《発電事業者B》等から調達した電気の小売供給を行う事業を営んでいた者であり、平成31年4月1日、火力発電に係る事業を、自社が50パーセント出資する《発電事業者A》に承継させ、同日以降、自社が小売供給を行う電気を《発電事業者A》等から調達するなどしていた。
なお、中部電力は、前記のとおり、令和2年4月1日、中部電力ミライズに対し、吸収分割により、電気の小売供給を行う事業の全部を承継させ、同日以降、同事業を営んでいない。
ウ 名宛人以外の関西電力は、大阪市北区中之島三丁目6番16号に本店を置き、自ら発電し、又は《発電事業者B》等から調達した電気の小売供給を行う事業を営む者である。
エ 中部電力及び関西電力(以下「2社」という。)は、従来、電気事業法による参入規制によって自社の供給区域における電気の小売供給の独占が認められていた者(以下「旧一般電気事業者」という。)であった。
オ 3社は、電気の小売供給の自由化(特別高圧需要にあっては平成12年3月。高圧大口需要にあっては平成16年4月。)以降も、それぞれ、中部電力(令和2年4月1日以降にあっては中部電力ミライズをいう。)にあっては中部電力管内において、関西電力にあっては関西電力管内において、各供給区域における電気の需要の大部分に相当する電気を自ら発電し、又は《発電事業者B》等から調達しており、当該自ら発電するなどした電気を、自ら小売供給するほか、直接又は《取引所A》介して、電気の小売供給を行う事業を営む他の事業者に供給していた。
⑵ 電気の供給者の決定方法等
ア 2地区に所在する大口顧客は、電気の小売供給を行う事業を営む者又はその代理業者(以下「小売供給事業者等」という。)に見積りを提出させて、当該小売供給事業者等との間で交渉を行うなどして、自らが使用する電気の供給者を決定していた。
イ 3社は、代理業者が大口顧客に見積り提示する際に基準となる電気料金の下限値をあらかじめ定め、又は、代理業者が大口顧客に見積り提示する電気料金等について指示していた。
ウ 3社は、紹介業者から紹介を受けて、2地区に所在する大口顧客に見積り提示することがあった。
2 合意及び実施方法等
⑴ 旧一般電気事業者の間では、かねてから、電気の小売供給に係る営業活動の方針、状況等について情報交換が行われていたところ、関西電力は、平成29年11月頃に、「仁義切り」と称して中部電力管内で大口顧客の獲得のための営業活動を開始する旨を中部電力に伝えた。その際に、2社は、役員級の者による情報交換を継続することとした。
⑵ 平成29年11月頃以降、中部電力管内に所在する大口顧客の獲得のために関西電力が中部電力管内に営業拠点を設置して安値の見積り提示による営業活動を開始したことを契機として、2社は、互いに、相手方の供給区域において相手方が小売供給を行う大口顧客を獲得するため、又は、自社の供給区域において自社が小売供給を行う大口顧客を相手方に獲得されることを防ぐため、2地区に所在する大口顧客に対して安値の見積り提示をするようになった。
⑶ 前記⑵により、2地区に所在する大口顧客の電気料金の水準が低下したことから、平成30年春頃以降、2社は、それぞれ、2地区に所在する大口顧客の電気料金の水準の低落を防止して自社の利益を確保する必要性を認識した。
⑷ 2社は、平成30年7月頃以降、役員級の者が面談するなどして、遅くとも同年11月2日までに、2地区に所在する大口顧客に対する安値の見積り提示による電気料金の水準の低落を防止して自社の利益の確保を図るため、互いに、相手方の供給区域において相手方が小売供給を行う大口顧客の獲得のための営業活動を制限することを合意し、中部電力ミライズは、前記のとおり、令和2年4月1日、電気の小売供給を行う事業の全部を中部電力から承継することにより、同社に替わって当該合意に参加した。
⑸ 2社(令和2年4月1日以降は、中部電力ミライズ及び関西電力。以下同じ。)は、当該合意の下に、
ア 関西電力にあっては、中部電力管内に所在する大口顧客に対する見積り提示を、代理業者を通じて行うもの、紹介業者から大口顧客の紹介を受けて行うもの及び大口顧客から見積り提示の依頼を受けるなどして行うものに限定する
イ 中部電力にあっては、関西電力管内に所在する大口顧客の獲得に係る目標を大幅に減少させる
ウ 相手方の供給区域において、相手方が小売供給を行う大口顧客に対して獲得が見込まれない見積りを提示し、又は、見積り提示を辞退する
エ 相手方の供給区域において、大口顧客に対して見積り提示する際に基準となる電気料金の下限値を引き上げることなどにより、相手方の供給区域に所在する大口顧客に対して見積り提示する電気料金の水準を上昇させる
オ 自社の供給区域において、大口顧客に対して見積り提示する際に基準となる電気料金の下限値を引き上げることなどにより、自社の供給区域に所在する大口顧客に対して見積り提示する電気料金の水準を維持又は上昇させる
などしていた。
3 実施状況
⑴ 2社は、役員級の者が面談するなどして、互いに、相手方の供給区域に所在する大口顧客に対して見積り提示する電気料金の水準を上昇させていることなどを確認し、前記2⑷の合意の実効を確保していた。
⑵ 2社は、前記2⑸により、互いに、相手方の供給区域において相手方が小売供給を行う大口顧客の獲得のための営業活動を制限し、自社の供給区域において自社が小売供給を行う大口顧客の電気料金の水準を維持又は上昇させていた。
4 合意の消滅
⑴ 中部電力は、前記のとおり、令和2年4月1日、吸収分割により、電気の小売供給を行う事業の全部を中部電力ミライズに承継させた。当該吸収分割に伴い、中部電力ミライズが中部電力に替わって前記2⑷の合意に参加したことから、中部電力は、同日以降、同合意に参加していない。
⑵ 関西電力は、令和2年10月29日までに、課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第7号)第1条第1項の規定に基づき、公正取引委員会に対して様式第1号による報告書を提出するとともに、自社における電気の小売供給に係る部門の責任者に対して前記2⑷の合意に基づく行為を行わない旨の指示を行い、同日以降、同合意に基づく行為を行っていない。このため、同日以降、同合意は事実上消滅しているものと認められる。
第2 法令の適用
前記事実によれば、2社は、共同して、2地区に所在する大口顧客に対して小売供給を行う電気について、互いに、相手方の供給区域において相手方が小売供給を行う大口顧客の獲得のための営業活動を制限することを合意することにより、公共の利益に反して、2地区に所在する大口顧客に対して小売供給を行う電気の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって、この行為は、独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである。
また、前記の違反行為は既になくなっているが、中部電力ミライズについては、独占禁止法第7条第2項第1号に該当する者であり、違反行為が自主的に取りやめられたものではないこと等の諸事情を総合的に勘案すれば、特に排除措置を命ずる必要があると認められる。
よって、中部電力ミライズに対し、独占禁止法第7条第2項の規定に基づき、主文のとおり命令する。

令和5年3月30日

委員長  古  谷  一  之
委 員  山  本  和  史
委 員  三  村  晶  子
委 員  青  木  玲  子
委 員  𠮷  田  安  志

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