文字サイズの変更
背景色の変更
独禁法3条後段、独禁法7条の2
東京高等裁判所
令和2年(行ケ)第10号、同第11号及び同第12号
令和5年4月7日
大阪府大阪市中央区南船場二丁目3番2号
甲事件原告 東洋シヤッター株式会社
同代表者代表取締役 《 氏 名 略 》
同訴訟代理人弁護士 三 好 徹
同 三 好 慶
同 石 田 央 子
同 津 田 直 和
同 鶴 﨑 有 一
同 石 井 修 平
同 山 崎 哲
同 内 田 尚 成
同 本 田 雄 巳
同 黒 木 義 隆
同 藪之内 千賀子
同 金 城 美 江
同 山 根 達 之
東京都新宿区西新宿二丁目1番1号
乙事件原告 三和ホールディングス株式会社
同代表者代表取締役 《 氏 名 略 》
東京都板橋区新河岸二丁目3番5号
乙事件原告 三和シヤッター工業株式会社
同代表者代表取締役 《 氏 名 略 》
上記2名訴訟代理人弁護士 志 田 至 朗
同 内 田 清 人
同 笹 野 司
同 小 原 啓
同 近 藤 直 也
東京都文京区西片一丁目17番3号
丙事件原告 文化シヤッター株式会社
同代表者代表取締役 《 氏 名 略 》
同訴訟代理人弁護士 山 田 篤
同 植 村 直 輝
同 伊 藤 多嘉彦
同 中 島 康 平
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
甲、乙、丙事件被告 公正取引委員会
同代表者委員長 古 谷 一 之
被告指定代理人 西 川 康 一
同 榎 本 勤 也
同 堤 優 子
同 茂 泉 尚 子
同 坂 本 智 之
同 岩 丸 華 子
同 山 口 正 行
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 甲事件
被告が原告東洋に対し、令和2年8月31日付けでした公正取引委員会平成22年(判)第19号事件の審決、及び同第24号事件の審決のうち審判請求を棄却した部分をいずれも取り消す。
2 乙事件
(1) 被告が原告三和Sに対し、令和2年8月31日付けでした公正取引委員会平成22年(判)第17号及び同第25号事件の審決、並びに同第22号事件の審決のうち審判請求を棄却した部分をいずれも取り消す。
(2) 被告が原告三和Hに対し、同日付けでした同第28号事件の審決を取り消す。
3 丙事件
被告が原告文化に対し、令和2年8月31日付けでした公正取引委員会平成22年(判)第18号事件の審決、及び同第23号事件の審決のうち審判請求を棄却した部分をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、①原告三和S、原告文化及び原告東洋(以下、併せて「3社」という。)が、全国における「特定シャッター」(後記3(1)ア)の需要者向け販売価格の引上げを合意することにより私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律2条6項所定の不当な取引制限(以下「不当な取引制限」又は「カルテル」という。)をしたことを理由に被告から命じられた排除措置命令(以下「全国排除措置命令」という。)及び課徴金納付命令(以下「全国課徴金納付命令」という。)の取消しを求めた各審判請求について、被告が令和2年8月31日付けで3社に対する課徴金納付命令の一部を取り消し、その余の審判請求をいずれも棄却する審決をしたので、その審決の審判請求を棄却した部分の取消しを求め、②原告三和H及びそのシャッター事業を平成19年10月1日に吸収分割により承継した原告三和S(以下、2社を併せて「原告三和ら」という。)が、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県(以下、併せて「近畿地区」という。)における「近畿地区における特定シャッター等」(後記4(8))について、原告文化及び原告東洋との間で受注予定者を決定するなどして受注調整をすることにより不当な取引制限を行ったことを理由に被告から命じられた課徴金納付命令(以下「近畿課徴金納付命令」という。)の取消しを求めた各審判請求について、被告が令和2年8月31日付けで各審判請求をいずれも棄却する審決をしたので、その審決の取消しを求める事案である。
2 法令の適用等について
(1) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)
ア 独禁法上の公正取引委員会の手続(同法45条~70条(枝番を含む。))及び訴訟(同法77条~88条)は、独禁法の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則2条によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の独禁法の規定による(以下、これらの条項の適用法を一括して「改正前独禁法」と記載する。)
イ 独禁法上の排除措置命令及び課徴金納付命令に関する規定(同法7条、7条の2)は、独禁法の一部を改正する法律(平成21年法律第51号)による改正前の独禁法の規定による(以下、この条項の適用法を一括して「改正前独禁法」と記載する。)。
ウ 独禁法2条9項4号(再販売価格の拘束)については、独禁法の一部を改正する法律(平成21年法律第51号)による改正前の独禁法の規定による(以下、この条項の適用法を「改正前独禁法」と記載する。)。
(2) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「施行令」という。)
施行令5条及び6条については、施行令の一部を改正する政令(令和2年9月2日政令第260号)による改正前の施行令の規定による(以下、この条項の適用施行令を「改正前施行令」と記載する。)。
(3) 独禁法の一部を改正する法律の施行に伴う公正取引委員会関係規則の整備に関する規則(平成27年公正取引委員会規則第2号)による廃止前の公正取引委員会の審判に関する規則を、以下、単に「審判規則」と記載する。
3 本件における手続の経過
本件における手続の経過は、以下のとおりである。なお、以下の証拠の表記のうち、本件で顕出された上記審決に係る審判手続記録中のものは同記録の例により、参考人審尋の結果は「参考人」とのみ記載する。
(1) 全国排除措置命令及び全国課徴金納付命令
ア 全国排除措置命令
被告は、3社に対し、改正前独禁法7条2項に基づき、平成22年6月9日付けで全国排除措置命令をした(公正取引委員会平成22年(措)第15号)。
全国排除措置命令は、3社が、共同して、平成20年3月5日頃、各社の役員級の者による会合(以下「本件会合」という。)において、軽量シャッター及び重量シャッター(いずれもグリルシャッターを含み、これらのシャッターの取付工事等の役務が併せて発注される場合には当該役務を含む。以下「特定シャッター」という。)の需要者向け販売価格について、同年4月1日見積分から、現行価格より10パーセントを目途に引き上げる旨を合意(以下「全国合意」という。)することにより、公共の利益に反して、我が国における特定シャッターの販売分野における競争を実質的に制限していたものであって、これは不当な取引制限に該当し、独禁法3条に違反するものであり、かつ、違反行為は既になくなっている場合であるが特に排除措置を命ずる必要があるとして命じられたものであった。
イ 全国課徴金納付命令
被告は、改正前独禁法7条の2第1項の規定に基づき、全国排除措置命令に係る不当な取引制限は「商品」の対価に係るもの(同項1号)であるとして、当該不当な取引制限の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(以下「実行期間」という。)を平成20年4月1日から同年11月18日までとし、同期間における3社の特定シャッターに係る売上額を、いわゆる引渡基準等を定める改正前施行令5条1項(課徴金算定方法の原則的規定)に基づいて算定した上、同額に100分の10を乗じて得た金額から、同法7条の2第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて課徴金額を算定し、平成22年6月9日付けで、原告三和Sに対して25億1615万円、原告文化に対して17億8167万円、原告東洋に対して5億2549万円の課徴金を国庫に納付することを命じた(原告三和Sは公正取引委員会平成22年(納)第94号、原告文化は同第95号、原告東洋は同第96号(全国課徴金納付命令))。
ウ 全国排除措置命令及び全国課徴金納付命令の各命令書謄本が、平成22年6月9日原告三和S及び原告東洋に、同月11日原告文化に送達された。
(2) 近畿課徴金納付命令等
ア 近畿排除措置命令
被告は、3社に対し、改正前独禁法7条2項に基づき、平成22年6月9日付けで排除措置命令をした(公正取引委員会平成22年(措)第16号。以下「近畿排除措置命令」という。)。
近畿排除措置命令は、原告ら4社が、共同して、遅くとも平成19年5月16日以降(ただし、原告三和Hはそのシャッター事業を原告三和Sが吸収分割により承継する前日である同年9月30日までの間、原告三和Sは上記承継した同年10月1日以降。)、建設業者(以下「ゼネコン」ともいう。)が発注する近畿地区における建築物その他の工作物に取り付けられるシャッター等(「近畿地区における特定シャッター等」)について、受注価格の低落防止を図るため、「近畿合意」(後記4(8))の下に、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにするとともに、受注予定者以外の者も受注することとなった場合には受注予定者が建設業者に提示していた見積価格と同じ水準の価格で受注するようにすることにより、公共の利益に反して、「近畿地区における特定シャッター等」の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって、これは不当な取引制限に該当し、独禁法3条の規定に違反するものであり、かつ、違反行為は既になくなっている場合であるが、3社に対しては特に排除措置を命ずる必要があるとして命じられたものであった。
イ 被告は、改正前独禁法7条の2第1項の規定に基づき、近畿排除措置命令に係る不当な取引制限は「商品」の対価に係るもの(同項1号)であるとして、実行期間を平成19年5月16日から平成20年11月18日(ただし、原告三和Hについては平成19年5月16日から同年9月30日まで、原告三和Sについては同年10月1日から平成20年11月18日まで)とし、同期間における原告ら4社の「近畿地区における特定シャッター等」に係る売上額を、いわゆる契約基準等を定める改正前施行令6条1項、2項(課徴金算定方法の例外的規定)に基づいて算定した上、同額に100分の10(ただし、原告三和Hは100分の8(同法7条の2第6項))を乗じて得た金額(ただし、原告三和らは、その課徴金減免申請に基づき、更にその100分の30を乗じて得た額を減額した金額(同条12項))から、同法7条の2第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて課徴金額を算定し、平成22年6月9日付けで、原告三和Sに対して2億5899万円、原告文化に対して2億4425万円、原告東洋に対して1億5483万円、原告三和Hに対して4026万円の課徴金を国庫に納付することを命じた(原告三和Sは公正取引委員会平成22年(納)第97号、原告文化は同第98号、原告東洋は同第99号、原告三和Hは同第100号(近畿課徴金納付命令))。
ウ 近畿排除措置命令及び近畿課徴金納付命令の各命令書謄本が、平成22年6月9日原告三和ら及び原告東洋に、同月10日原告文化に送達された。
(3) 原告らの審判請求及びその審決
ア 原告東洋は、平成22年7月23日、全国排除措置命令、近畿排除措置命令、全国課徴金納付命令及び近畿課徴金納付命令の全部取消しを求める審判請求をした(順次、公正取引委員会平成22年(判)第19号、同21号、同24号、同27号)。
原告三和Sは、同年8月4日、全国排除措置命令及び全国課徴金納付命令の全部取消し並びに近畿課徴金納付命令の一部取消しを求める審判請求をした後、平成23年8月22日付けで、近畿課徴金納付命令に係る審判請求の趣旨を同命令の全部取消しに拡張した(順次、公正取引委員会平成22年(判)第17号、同22号、同第25号)。
原告三和Hは、平成22年8月4日、近畿課徴金納付命令の一部取消しを求める審判請求をした後、平成23年8月22日付けで、同審判請求の趣旨を同命令の全部取消しに拡張した(公正取引委員会平成22年(判)第28号)。
原告文化は、平成22年8月2日、全国排除措置命令、近畿排除措置命令、全国課徴金納付命令及び近畿課徴金納付命令の全部取消しを求める審判請求をした(順次、公正取引委員会平成22年(判)第18号、同20号、同23号、同26号)。
したがって、①全国排除措置命令及び全国課徴金納付命令については、その対象となる3社(原告三和S、原告文化及び原告東洋)が、②ⅰ)近畿排除措置命令については、その対象となる3社のうち原告文化及び原告東洋のみが(なお、原告三和Hは、違反行為が認められたが、近畿排除措置命令の対象とはされなかった。)、ⅱ)近畿課徴金納付命令については、その対象となる原告ら4社(原告三和ら、原告文化及び原告東洋)が、それぞれその全部取消しを求める各審判請求をした。
イ 被告は、上記アの各審判請求を併合審理した上(以下、この併合された審判手続を「本件審判手続」という。)、令和2年8月31日、全国課徴金納付命令(原告三和S、原告文化及び原告東洋関係)及び近畿課徴金納付命令(原告文化関係)の一部を取り消し、その余の審判請求をいずれも棄却する旨の審決をした(以下「本件審決」という。)。その審決書の謄本は、令和2年9月1日、原告らに送達された。
被告による上記全国課徴金納付命令の一部取消しは、「近畿合意」に基づく受注調整の一部が全国合意に基づく特定シャッターの販売価格の引上げを具体的に実現するために行われたものとも評価でき、当該受注調整に係る取引が全国課徴金納付命令と近畿課徴金納付命令において重複して課徴金が課されたことを正当化することはできないとの判断の下、当該部分を全国課徴金納付命令の課徴金の算定の基礎から除外し、原告三和Sに対しては24億5686万円、原告文化に対しては17億3831万円、原告東洋に対しては4億8404万円を超えて納付を命じた部分を取り消したものである。また、被告による上記近畿課徴金納付命令の一部取消しは、原告文化の課徴金対象物件のうちの1物件について、「近畿合意」に基づく受注調整が行われたと認めるに足りないとして、課徴金の算定の基礎から除外し、原告文化に対して2億4291万円を超えて納付を命じた部分を取り消したものである。
(4) 原告らの訴訟提起
原告東洋は令和2年9月29日、原告三和ら及び原告文化は同月30日、①原告三和S、原告文化及び原告東洋が、全国排除措置命令の審決(棄却)の取消し及び全国課徴金納付命令の審決の棄却部分の取消し、②原告三和らが、近畿課徴金納付命令の審決(全部棄却)の取消しを、それぞれ求める本件各訴えを提起した。なお、本件審決のうち、原告文化及び原告東洋に対する近畿排除措置命令及び近畿課徴金納付命令に係る部分は、いずれも提訴期間の経過により確定した。
4 前提事実(当事者間に争いのない事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められ、原告らにおいても実質的証拠の不存在を積極的に主張していない事実)
(1) 原告らの概要
原告三和S、原告文化及び原告東洋は、各種シャッターの製造、施工及び販売(以下、これらの事業を「シャッター事業」という。)等を目的とする事業者である。
原告三和Hは、平成19年9月30日まで、シャッター事業を営んでいたが(当時の商号は「三和シヤッター工業株式会社」)、同年10月1日、吸収分割により同事業を原告三和S(当時の商号は「三和シヤッター株式会社」)に承継させて持株会社となった。原告三和らは、同日、いずれも商号を現商号に変更し、原告三和Hが原告三和Sの完全親会社となり、以後、原告三和Sがシャッター事業を営んでおり、原告三和Hはシャッター事業を営んでいない。(査159、163、審A2(5、29、30頁))。上記のとおり、原告三和らは吸収分割によりシャッター事業を承継しており、両社が同時にシャッター事業を営んだことはないので、以下、この当時のシャッター事業者として、原告三和らを1社として、原告文化及び原告東洋と併せて「3社」ということもある。)
(2) シャッター市場における原告らの地位(平成19年4月から平成20年3月までの期間)
原告三和ら(平成19年4月から同年9月までは原告三和H、以後は原告三和S)、原告文化及び原告東洋の上記期間におけるシャッター出荷数量(工場出荷時。数量単位は平方メートル)に占める市場占有率は、3社の合計で、軽量シャッターが約96.0パーセント、重量シャッターが約87.4パーセント、グリルシャッターが約85.6パーセントであり、3種のシャッター全体では約92.8パーセント(内訳は、原告三和らが約49.3パーセント、原告文化が約34.0パーセント、原告東洋が約9.5パーセント)であった(査158の1~4)。
なお、原告東洋の営業面では、大阪方面で強く、東京方面で弱い傾向にあった(査4、審C11)。また、3社に次いでシェアが高いのは、≪事業者A≫(現在の商号は「≪事業者A≫」。以下「≪事業者A≫」という。)であり、首都圏では一定のシェアを占めていた(査5)。
(3) シャッターの種類と取引
ア シャッターの種類
軽量シャッターには、手動で開閉するシャッター(以下「軽量手動シャッター」という。)と電動で開閉するシャッター(以下「軽量電動シャッター」という。)があり、建築物の外壁開口部等に防犯を主目的に設置され、主として小規模店舗、倉庫、個人住宅の車庫等に使用される。
重量シャッターは、主に、管理用と防災用(防火シャッター、防煙シャッター)として、商業ビル、工場、大型倉庫等の出入口の防犯や、建築物内の防煙・延焼防止のために使用される。
グリルシャッターは、建築物の外壁開口部等に防犯を主目的に設置するシャッターで、シャッター面が格子状のものをいい、内部が見えるようになっている。(査158の2、審A140)
イ シャッターの価格とその算出方法
(ア) 仕切価格(「振替価格」ともいう。)
仕切価格は、各社の社内における工場(製造部門)から営業部門に対するシャッターの引渡価格である。仕切価格は、製造原価を基に算出され、社内で統一されている。
(イ) 積算価格(原告三和らでは「上代価格(お見積り総金額)」、原告文化及び原告東洋では「見積価格」ともいう。)
積算価格は、原告らが需要者に対して提示するシャッター(シャッターの取付工事等の役務が併せて発注される場合には当該役務を含む。)の参考価格である。
積算価格は、シャッターの種類、仕様等に応じて各社独自のシステムにより算出された価格に対して一定の掛率(積算乗率、積算掛率)を乗じることにより算出されていた。積算価格を算出するための掛率については、原告らはそれぞれ独自に基準となる率を設定しており、さらに各社の各支店又は営業所において、取引先、製品の種類に応じて定めることが許容されていた。(査42、85、88、89、167~170)
(ウ) 見積価格(「ネット価格」ともいう。)
見積価格は、原告らの営業担当者が、積算価格を割り引いた価格として需要者に提示するシャッター(シャッターの取付工事等の役務が併せて発注される場合には当該役務を含む。)の価格である。
見積価格は、積算価格に対し、一定の割引率(NET掛率等)を乗じて算出されるところ、この率については、原告らが、各社それぞれに、本社で基準となる率を設定するものの、各支店又は営業所においては、取引先、製品の種類に応じて定めることが許容されていた。このほか、原告東洋では、原価を積み上げて利益を乗せて見積価格を算出することもあった。(査42、85、88、89、167~170)
(4) 特定シャッターの取引
ア 軽量シャッターは、シャッター等の製造業者又は販売業者(以下「シャッター業者」という。)によって販売され、別の施工業者によって取付工事がされることもあるが、シャッター業者によって販売及び取付工事がされることもある。
重量シャッターは、通常、ゼネコンが、建築物その他の工作物の建設工事を施工するのに伴って発注するものであり、シャッター業者は建設工事に合わせて製造し、取付工事をする。
イ 原告らは、それぞれ、直接又は商社を通じて、ゼネコン、建築材料の販売業者等の需要者との間で特定シャッターの取引をしていた。
原告らは、通常、需要者と直接交渉して取引価格を定めていたが、商社を通じて取引する場合には、需要者向けの価格から当該商社の口銭を差し引いたものを自らの取引価格としており、商社が、原告らから連絡された積算価格及び見積価格に基づき、需要者との間で価格交渉を行うことがあった。
ウ 特定シャッターについての原告らと需要者の価格交渉は、通常、原告らが、需要者からの見積価格の提示の依頼を受けて、積算価格及び見積価格を需要者に対して提示し、必要に応じて当初の見積価格よりも低い見積価格に改めてこれを需要者に対して提示することにより行われており、原告らは、需要者との間で合意に至った見積価格を取引価格としていた(査86、89、92、167~169)。
原告らは、通常、上記のとおり見積価格を提示して価格交渉をしていたが、一部の取引については、見積価格を提示することなく、特定シャッターの数量に平米単価を乗じて取引価格を決定するなどしていた(査189~191)。
(5) ゼネコンとシャッター業者の取引の実情
シャッター業者がシャッター等の需要者であるゼネコンと取引をする実情として、ゼネコン(需要者)は、受注者の決定に際し、価格を重視し、複数社から見積価格を提示させた上で値下げ要求を行い、最終的に最も低い見積価格を提示したシャッター業者に当該見積価格で発注するなどしていた。ゼネコンからの値下げ要求は非常に強く、1社でもこれに応じると、他社にも更に値下げ要求を行い、シャッター業者が受注を目指して互いに他社の見積りよりも安い見積価格を提示しようとする結果、赤字受注となることもあった。そのため、3社は、いずれもゼネコンの値下げ要求によるシャッターの受注価格の低落という問題を抱えていた。
(6) 3社の協調関係
3社は、過去にも、いずれも不当な取引制限に該当する受注調整及び価格カルテルを行ったとして、公正取引委員会から勧告審決を受けていた。また、遅くとも平成19年5月16日から平成20年11月18日までの間、「近畿地区における特定シャッター等」について受注調整の会合等をしており、南関東地区においても、各社の営業担当責任者級の者による会合を開き、同地区におけるゼネコン向けのシャッターの販売価格やゼネコンのシャッター等の発注状況等について情報交換をしていた。
(7) 本件会合及びその参加者
ア 原告三和Hの取締役専務執行役員であった≪B1≫(以下「≪B1≫」という。)、原告文化の取締役専務執行役員であった≪C1≫(以下「≪C1≫」という。)及び原告東洋の取締役常務執行役員営業本部長兼東日本営業ユニット長であった≪D1≫(以下「≪D1≫」という。)は、平成20年3月5日、東京都内の飲食店において、3人のみで飲食した(本件会合)。
イ(ア) ≪B1≫は、平成18年6月に原告三和H(当時の商号は「三和シヤッター株式会社」)の取締役上席常務執行役員に就任し、同社が持株会社になった平成19年10月1日から平成20年4月1日までの間、国内事業部門担当の取締役専務執行役員として、主に傘下の事業会社である原告三和S等の経営管理を担い、原告三和Sの価格政策に係る業務にも携わっていた(査18、24、27、62、176、186、359、審A49)。また、原告三和Hの役員として、平成18年4月から社団法人日本シヤッター・ドア協会の運営委員会の委員長を務めていたところ、原告三和Hから原告三和Sにシャッター事業を承継した後は、平成20年4月まで、原告三和Sを代表して、同委員会に出席し、委員長の職務も引き続き行っていた(査4、359)。
(イ) ≪C1≫は、平成17年4月、営業部門を統括する常務取締役に選任されて、原告文化のシャッター等の販売企画、営業促進、販売及び施工に関する総責任者となり、平成19年4月には、取締役専務執行役員営業担当に就任した。≪C1≫は、≪B1≫とは上記(ア)の協会の運営委員会の副委員長を務める関係で個人的にも懇意にしており、≪D1≫とは同業者の営業担当者として旧知の関係であった。(査5、6、363)
(ウ) ≪D1≫は、平成18年4月に営業本部長に就任し、原告東洋の全国の営業を統括する取締役常務執行役員となった。平成19年4月からは、営業本部長兼東日本営業ユニット長の役職に就き、同社の営業活動関係全般を統括しており、平成20年4月、同役職を外れて営業本部管掌の取締役となった。(査371、審C11)
(8) 近畿排除措置命令における「近畿地区における特定シャッター等」及び「近畿合意」について
ア 近畿排除措置命令における「近畿地区における特定シャッター等」とは、建設業者が発注する近畿地区における建築物その他の工作物に取り付けられるシャッター等(重量シャッター、軽量シャッター、オーバーヘッドドア、シートシャッターその他のシャッター及び危害防止装置等のシャッターの関連製品(ドア等の物品又は取付工事等の役務が併せて発注される場合には当該物品又は当該役務を含む。))であって、原告らのいずれかにおいて積算価格の額(ドア等の物品及び当該物品に係る取付工事等の役務の積算価格の額を除く。)が5000万円以上となるものをいう(以下、同じ。)。
イ 近畿排除措置命令における「近畿合意」とは、近畿地区における特定シャッター等について、受注価格の低落防止を図るため、①各社の支店長級の者による会合を開催するなどして、建設業者から見積りの依頼があった旨又は見積りの依頼が見込まれている旨を相互に連絡する旨、②見積りの依頼の状況、原告らの建設業者に対する営業活動の実績等を勘案し、話合いにより受注予定者を決定する旨、③ⅰ)受注予定者は、建設業者に提示する自らの見積価格を定め、受注予定者以外の者は、受注予定者よりも高い見積価格を定め、又は、建設業者に対する営業活動を自粛すること等により、受注予定者が建設業者に対して提示した見積価格で受注できるように協力する旨、ⅱ)既に受注予定者を決定している近畿地区における特定シャッター等について、建設業者が分割発注を行い、受注予定者以外の者も当該近畿地区における特定シャッター等の一部を受注することとなった場合、原告らのうち受注予定者以外の者は、これについて、受注予定者が建設業者に対して提示していた見積価格と同じ水準の価格で受注する旨の合意をいう(以下、同じ。)。
(9) 公正取引委員会(被告)の立入検査
公正取引委員会(被告)は、平成20年11月19日、本件について、改正前独禁法47条1項4号の規定に基づく立入検査を行った。
(10) 課徴金減免申請
原告三和ら及び原告文化は、近畿排除措置命令において違反行為とされた近畿地区における受注調整について、改正前独禁法7条の2第9項1号の規定する事実の報告及び資料の提出を行った。
これにより、原告三和らは、近畿課徴金納付命令において、同法7条の2第12項の規定により課徴金が減額されたが、原告文化は、近畿課徴金納付命令において、当該報告に虚偽の内容が含まれていたとされ、同条17項1号により、同条12項は適用されなかった。
第3 当事者の主張
1 被告は、本件審決は、いずれも本件審判手続において適法に取り調べられた証拠により合理的に認定できる事実を基礎とするものであり、その判断も正当なものであって、憲法その他の法令違反はないから、改正前独禁法82条1項が定める取消事由は存在しないと主張する。
2 全国排除措置命令の適法性に関する3社の主張及び被告の反論
(1) 原告三和Sの主張
ア 全国合意の合理性について
(ア) 全国合意にいう「現行価格」は観念できないこと
全国排除措置命令は、「販売価格について、現行価格より10パーセントを目途に引き上げることに合意した。」とするが、シャッターは、受注生産製品であるから、受注ごとにサイズ、材質、性能、施工条件その他の取引条件が異なり、全く同一のものはなく、また、その都度顧客との価格交渉を経て最終的な取引価格が決まることから、個別契約の値上げの基準となるようなシャッターの「現行価格」なるものを観念できず、全国合意は成立し得ない。
(イ) 全国合意にある本社の指示による一律の値上げはできないこと
シャッター取引の最終的な取引価格は顧客との交渉で決まり、各支店・営業担当者は、少しでも有利な条件で受注できるように、取引案件ごとに、積算乗率、NET掛率を調整しているから、見積価格の算出や最終的な取引価格の決定について、本社の指示による一律の値上げはできない。
(ウ) 10パーセントの引上げは目標であるから、個別事情による引上げ率の違いは許容されるとの全国合意は無意味であること
本件審決は、全国合意は、それぞれの基準を元に、10パーセントを目途に販売価格の引上げを行うものであり、一律の金額の値上げを要するものではなく、10パーセントの引上げは目標であるから、個別事情による引上げ率の違いは許容されているとする。しかし、それでは「10パーセント」に意味はなく、ある取引案件について顧客から3社に見積依頼があった場合の対応は、各社で完全にばらばらになり、3社間では通常の競争が行われることになるから、全国合意による不当な取引制限などはあり得ない。
(エ) 同程度の引上げ率の値上げでは3社間の価格の較差が拡大するので、全国合意をすることはあり得ないこと
3社間には製品の価格水準の違いが存在していたから、同時期に同程度の引上げ率で見積りを提示すれば、価格水準の違いがそのまま維持され、価格水準が高かった者の見積りの割高感は増すばかりであって、より高めの価格を設定している事業者は自ら進んで顧客を失うことになりかねないが、事業者がそのような不合理な行動をとることはない。
(オ) 受注調整等を伴わない販売価格引上げの合意によっては競争を回避する行動にはなり得ないこと
価格カルテルは、需要者側が価格交渉力において優位にあり、各事業者が単独で値上げを実行することが困難であるために行われるから、各事業者が個別に値上げを打ち出すにとどまらず、力関係において優位にある需要者との価格交渉の状況を相互に確認し、情報を共有するなどして、相互に協力することが必要であり、特に本件では強い価格交渉力を有するゼネコンを需要者とするから、その必要性は明らかである。しかも、シャッターは、オーダーメイド製品であり、かつ、顧客との価格交渉によって取引価格が決まるという特性があるから、各地域で顧客も価格レベルも違うのが当然であるため、3社としては、本社レベルで一律の取決めをするだけではなく、各地域レベルでも当事者間の連絡・調整を行う必要がある。
価格交渉力において圧倒的に優位にある需要者のゼネコンに対し、シャッター業者は、受注したければゼネコンの求める水準まで値引きしなければならないのが実態である。そのため、3社はこれまでも、公正取引委員会から、①平成元年4月25日付け勧告審決の事案、②平成15年頃から平成18年秋頃まで行われた受注調整の事案、③遅くとも平成19年5月16日から平成20年11月18日までの近畿地区における受注調整の事案において、価格算出方法を統一した上で値引き限度を合意した又は受注調整(以下、単に「受注調整等」ともいう。)を講じたことが認定されている。これらの受注調整等を行わずに3社がそれぞれゼネコンに提示する見積価格を一定程度引き上げても、値上げに向けた協調行動としては無意味であり、競争を回避する行動にはなり得ない。この実情を熟知し、当時、南関東地区で3社間の受注調整等に向けた協議が開始されたことを承知している≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫が、取引価格を一律に何パーセント引き上げるなどという合意をするはずがない。
イ 意思の連絡について
(ア) 本件会合での情報交換について
a 本件会合における≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫の会話に関する≪B1≫の供述調書(査52)は、被告の審査官(以下、単に「審査官」という。)から押し付けられた内容のものであり、信用できない。
b ≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫が、本件会合より前に対価引上げ行為に関する情報交換をしたことはなく、本件会合での、「10パーセントくらいは欲しいですよね」、「そうですよね」、「見積書で提示する価格を上げないとどうしようもないでしょう」という程度の抽象的・概括的なやり取りのみで全国価格カルテルの合意が成立するなどいうことはあり得ず、そのような合意を推認させる情報交換ともいえない。
c ≪B1≫の行為により原告三和Sが全国合意をすることはできないこと
本件審決は、≪B1≫を原告三和Sの「役員級の者」と認定したが、≪B1≫は、本件会合当時、原告三和Sでは職位を有していないから、原告三和Sの「役員級の者」には当たらない。また、原告三和Sのシャッター等の価格は、専ら原告三和S内の製品別の会議体で検討・決定されており、≪B1≫は、平成20年4月からのシャッター値上げについて、値上げ幅その他の値上げの内容について具体的な意見を述べたり、指示を出したりしたことはなく、報道発表についても、内容には関与していなかった。しかも、≪B1≫は、同年2月29日に、同年4月1日付けで無任所の取締役とした後、同年6月の定時株主総会において原告三和Hの監査役に選任する予定である旨の異動の内示を受けており、なおのこと原告三和Sの経営事項に口出しする立場ではなくなっていた。したがって、≪B1≫の行為により原告三和Sが全国合意をすることはできない。
d 全国合意に関する会合は、本件会合のみとされているところ、同会合に出席していたのは原告三和Hの≪B1≫であり、≪B1≫の行為を原告三和Sの行為とみなすことができる根拠事実が明らかにされる必要があるが、全国排除措置命令にも、同命令に先立って原告三和らに示された排除措置命令書案にもその記載はないから、全国排除措置命令は、改正前独禁法49条1項、3項及び5項に反し違法である。
e 審査官は、本件審判手続において、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫が、本件会合において、何を認識し、認容していたのかという主張立証の根幹部分を、答弁書提出から1年以上経過した後に追加したが、これは、改正前独禁法58条2項、審判規則28条に違反するから、その追加主張に基づいて本件会合における全国合意を認定することは許されない。この点を看過した本件審決は違法である。
(イ) 事後の行動の一致について
a 本件審決は、原告三和Sにおいては、本件会合の前には、平成20年4月1日以降の特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントとすることは検討されていなかったとするが、原告三和Sが同年3月3日時点で検討していたバランス(軽量手動シャッター)の単価引上げ目標額1000円は、平成19年10月から平成20年1月までの実績に基づく平米単価1万0363円の約10パーセントに当たるから、本件審決の上記認定は実質的証拠を欠いている。
b 本件審決は、原告三和Sの後記第4の2(1)オ(ア)cの「3月14日付け通達」の「平均目標アップ率 10%」との記載をもって、シャッターの販売価格の引上げ目標が10パーセントと定められたとする。
しかし、上記記載は、シャッターの値上げ目標として記載されたものではなく、シャッター、ドア等の取扱製品のそれぞれについて平米単価を基準とする値上げ目標が設定され、その周知のための社内通達の準備がされる中で、平米単価による目標設定が馴染まない製品を含む全製品について、読み手が直感的にイメージしやすいようにするためのキャッチコピー又はスローガンとして記載されたものである。すなわち、原告三和Sの同通達によるシャッターの値上げ目標は、製品種別の平米単価引上げ目標額である軽量バランス(軽量手動シャッター)1000円、サンオート及びブロード(軽量電動シャッター)2000円、重量SS(重量シャッター)2000円であり、それぞれ、平成19年第3四半期の販売実績に対し、8.8パーセント、7.0パーセント、5.8パーセントに相当し、いずれも10パーセントに全く及ばないものであった。「3月14日付け通達」の「平均目標アップ率 10%」との記載がキャッチコピー又はスローガンであることは、①原告三和Hが平成20年3月25日、原告三和Sの同年4月からの値上げについて行った新聞発表で、値上げ幅を平均6パーセントと発表していること、②同年3月14日以降に同年4月からの値上げについて検討した取締役会その他の重要な会議に関して作成された文書・資料や、値上げに関して発出された社内通達にシャッターの値上げ目標を10パーセントとする旨の記載がないこと、③同月以降の取引価格引上げの効果を検証するために原告三和Sにおいて作成された資料においても、「売価UP」の項に記載されているのは平米単価及び差益率であり、10パーセントの値上げが達成されたか否かという検証がされている資料も存在しないこと等によって、裏付けられており、シャッターの販売価格の引上げ目標が10パーセントと定められた事実がないことを示している。
なお、同年4月11日及び同月23日の会議資料、同月18日の連絡文書には「10パーセント」の記載があるが、原告三和Sとして、各営業現場が危機感を持って値上げ活動に臨むようにするべく、よりインパクトを持たせた表現を模索したものであって、シャッターの値上げ目標が10パーセントであったことを示すものではない上、原告三和SのシャッターPM会議販売部会の事務局を務める≪B9≫ (以下「≪B9≫」という。)及び原告三和Sの事業企画部長である≪B2≫(以下「≪B2≫」という。)が独自に発案して「3月14日付け通達」に記載した「平均目標アップ率 10%」に由来するものであるから、本件会合のやり取りを受けた3社の行動の一致を示すものではない。
c 3社の値上げ目標の不一致
原告三和Sは、「3月14日付け通達」のとおり、シャッターの種類別に単価引上げ目標を設定していた上、それらを平成19年度第3四半期における平米単価と比較した場合の引上げ幅は、いずれも10パーセントに全く及ばないものであった。これに対して、原告文化はシャッター製品の種類を問わず10パーセントを値上げ目標としていた。また、原告東洋は、値上げ目標を売上金ベースで10パーセントとしながらも、平成20年5月ないし6月から徐々に引き上げていき、平成21年3月の段階で4.5ないし7パーセントの引上げを達成することを目標としていた。
d 3社の対外公表の不一致
原告三和Hは、平成20年3月25日、原告三和Sの同年4月からの値上げについて行った新聞発表において、値上げ幅を平均6パーセントと公表した。これに対して、原告文化は、10パーセントと公表した。また、原告東洋は、新聞発表を行わず、顧客宛の通知文書で値上げの通知をしたが、具体的な値上げ幅の数値の記載をしなかった。
(ウ) 独自判断の特段の事由
a 「3月14日付け通達」の「平均目標アップ率 10%」との記載は、≪B9≫及び≪B2≫が、シャッター、ドア等の取扱製品の単価を基準とした値上げ目標を周知する社内通達を準備していた際に、単価による目標設定が馴染まない製品も含めた全ての製品について読み手が直感的にイメージしやすいようにするためのキャッチコピー又はスローガンとして独自に検討して記載したものである。その10パーセントとした根拠は、バランス(軽量手動シャッター)の単価引上げ目標幅がほぼ10パーセントに相当したこと、ドア(LD、MD)の単価引上げ目標が引上げ幅としてそれぞれ9.7パーセント及び9.8パーセントに相当したこと、「10%」が一般的に目標設定の際に広く用いられる切りのよい数字であったことなどに着目したものである。このように、「平均目標アップ率 10%」との記載は、本件会合とは無関係である。
b また、≪B1≫が、本件会合の内容を原告三和Sに伝えたことをうかがわせる証拠は存在しない。なお、本件審決の認定事実(後記第4の2(1)オ(ア))に関連して、≪B2≫の供述調書(査16)には、「3月14日付け通達」の「平均目標アップ率 10%」の記載に関し、原告三和Sの社長である≪B4≫ (以下「≪B4≫」という。)、≪B1≫又は原告三和Hの企画管理部長である≪B3≫(以下「≪B3≫」という。)のいずれかから指示を受けた旨の記載があるが、同供述調書は、審査官の執拗な申し向け、強度の押しつけ・誘導の下で無理矢理作成されたものであり、任意性・信用性を欠いている。
(エ) 意思の連絡の推認を妨げる事由
a 事後の情報交換の不存在
カルテル合意は、いわば口約束にすぎず、抜け駆けによる崩壊の危険を常に内包しているから、相互の牽制を図るためにも、カルテル合意の実施に向けた相互の連絡・情報交換の機会を設けるなどの実効性確保手段を設けることが不可欠である。本件においては、3社が全国合意に従った値上げ活動を行っていることを相互に認識できる機会はなかったにもかかわらず、本社レベルでも地域レベルでも事後的な連絡・調整は行われていなかったことは、全国合意の不存在を示している。
また、原告三和Sの値上げに関する新聞発表では、本件会合で≪B1≫が発言した10パーセントでなく、平均6パーセントと報道されたにもかかわらず、そのことに関連した連絡等が行われていなかったことは、全国合意の不存在を示している。
b 3社の間で平成20年4月以降も激しい競争が行われていたこと
3社の間では、平成20年4月1日以降も極めてし烈な価格競争が行われ、原告三和Sでは、社内のいわゆる特値申請(ほとんど利益が出ない価格水準での受注や赤字受注を余儀なくされそうな場合の社内手続。以下同じ。)が同年度に入って激増していた。このことは、全国合意が存在しなかったことを示している。
ウ 一定の取引分野における競争の実質的制限について
(ア) 取引分野の画定の誤り
a 「一定の取引分野」の画定は、需要者からみた代替性の観点から決定されるべきであると解されており、相互に代替性がなく、無関係な商品役務を一つの取引分野として画定することは許されない。
全国排除措置命令は、「一定の取引分野」(独禁法2条6項)を「特定シャッターの販売分野」と画定しているが、「特定シャッター」の定義に含まれる軽量シャッター、重量シャッター及びグリルシャッターは、その形状、性能その他の仕様、設置場所、設置目的・用途、法令上の位置付け、需要者、価格水準などあらゆる点で全く異なり、需要者からみた代替性がないから、これらを単一の取引分野とする全国排除措置命令には法令の解釈・適用上の誤りがある。
本件審決は、不当な取引制限に係る取引分野の画定について、取引の対象・地域・態様等に応じて、違反者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し、その競争が実質的に制限される範囲を画定して決定するのが相当であるとした上で、特定シャッターの取引が全国合意の対象であることから、「特定シャッター」の販売分野という取引分野の画定をしているが、このように行為要件該当事実の対象としている取引をもって一定の取引分野を画定することを常とする考え方を、最高裁平成22年(行ヒ)第278号同24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁(以下「多摩談合事件最高裁判決」という。)は明確に採用しなかった。共同行為が対象としている取引(競争が実質的に制限される範囲)をもって「一定の取引分野」を画定するという考え方は、「一定の取引分野」の画定が、当該市場において競争が実質的に制限されているか否かを判定するための前提として行われるものであることから、論理が逆である。
b また、原告三和Sの事業は、顧客から受注した仕様のシャッター製品の製造、取付工事及びこれらに付随する業務を一連の役務として提供するものであり、製品の「販売」ではなく「請負」であるが、全国排除措置命令は、特定シャッターの「販売」分野における競争制限を認定している点でも、法令の解釈・適用を誤っている。
(イ) 競争の実質的制限が生じていないこと
本件審決は、「特定シャッター」に係る3社のシェアが高いことのみをもって、3社の意思で「特定シャッター」の価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされていたとして、我が国における「特定シャッターの販売分野」の競争が実質的に制限されていたと認定する。
しかし、全国合意の内容では、3社がシャッターの取引価格を自由に左右できる状態がもたらされることはない。本件審決は、3社が同時期に同程度の引上げ幅で見積価格を提示すれば、単独で値上げ活動を行う場合に比して顧客を失う可能性は低減し、従前よりも高い価格水準で交渉することが可能になるから、競争回避効果があるとするが、仮にその論理にしたがっても、回避されるのは当初見積段階における競争であり、見積価格の引上げと、見積価格を踏まえた顧客との価格交渉を経て決まる最終的な取引価格との連動性は立証されていないから、全国合意により、競争の実質的制限が生じるということはできない。
そして、全国合意によりシャッターの取引価格を自由に左右できる状態が生じていなかったことは、3社の間で平成20年4月以降も激しい競争が行われていたことからも明らかであり、原告三和Sにおける重量シャッターの売上額による平米単価の集計結果によれば、平成20年度における全社レベルでの重量シャッターの平米単価は、平成19年度を下回った。
(2) 原告三和Sの主張に対する被告の反論
ア 全国合意の合理性について
(ア) 「現行価格」が観念できること
過去の取引経験を踏まえ、積算価格に一定の割引率を乗じて算出した見積価格や平米単価を指標として、値上げの基準となる取引価格(現行価格)を想定することは可能である。3社が、それぞれ、営業所に対して販売価格の10パーセント引上げを指示していたことは、これを裏付けている。
(イ) 「本社の指示による一律の値上げはできないこと」に対して
特定シャッターの販売分野で90パーセントを上回るシェアを有する3社が同時期に同程度の引上げ幅で見積価格を提示する営業方針をとれば、単独で値上げ活動を行う場合に比して顧客を失う可能性が低減し、従前より高い価格水準で交渉することが可能になるから、その方針を前提とした、営業所の需要者との値上げ交渉はそれだけ容易になるのであり、本社が個別取引の値上げ幅をコントロールできなくとも、全国合意による値上げの実施は不可能でない。
(ウ) 個別事情による引上げ率の違いを許容しても全国合意に意味があること
全国合意が個別事情による引上げ率の違いを許容することは、値上げ活動がばらばらに行われることを意味しない。3社が同時期に同程度の引上げ幅で見積価格を提示する営業方針をとれば、需要者との値上げ交渉はそれだけ容易になるのであり、3社が、特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントと定めて各支店、営業所に示し、販売価格の引上げを指示していた以上、通常の競争は行われない。
(エ) 受注調整等を伴わない販売価格引上げの合意が競争を回避する行動になり得ること
各事業者が決定すべき、シャッターの販売価格の値上げの実施の有無、値上げ幅という方針を事業者間で合意すること自体、事業者の事業活動を拘束するから、受注調整等を伴わない協調的な値上げ合意はあり得るし、3社は現に、販売価格引上げのために積算価格の引上げという手段を用いている。ゼネコンとの価格交渉においても、特定シャッターの取引分野において90パーセントを上回るシェアを有する3社が同時期に同程度の引上げ幅で見積価格を提示すれば、従前より高い価格水準で交渉することが可能になり、競争を回避する効果があることは否定できない。
イ 意思の連絡について
(ア) 本件会合での情報交換について
a ≪B1≫、≪C1≫、≪D1≫は、本件会合前から3社において鋼材の値上がりやゼネコンからの値下げ要求に対処しなければならないことの共通認識を形成していたところ、本件会合において、本件審決の判断(後記第4の2(3)ア(イ))のとおり、単なる世間話にとどまらず、相互にシャッター等の対価引上げを実施することに関する情報交換を行った。これが全国合意に係るものであることは、それ以降、3社ともシャッター等の販売価格について10パーセントを目途として値上げを実施するため、自社の各支店等に対してその旨指示するなど、全国合意の内容に沿った行動に出ていたことから明らかである。
b ≪B1≫の行為により原告三和Sが全国合意を行えること
≪B1≫は、本件会合の当時、子会社である原告三和Sの経営管理を担当する原告三和Hの役員として、原告三和Sのシャッターの値上げの方針決定を担う地位にあったから、原告三和Sに所属していなくとも、原告三和Sのシャッターの値上げについての情報交換を行うことにより原告三和Sの全国合意についての意思の連絡を行うことはできるから、≪B1≫の行為により原告三和Sが全国合意を行うことは可能である。
c 上記bの≪B1≫の地位からすると、≪B1≫は原告三和Sの役員級の者と評価できるところ、全国排除措置命令やそれに先立つ排除措置命令書案に、このような評価の根拠の記載がなくても同命令が違法になるものではない。
d 原告三和Sは、審査官が、本件審判手続において、答弁書の提出から1年以上経過した後に主張の根幹部分を追加したから、改正前独禁法58条2項及び審判規則28条に違反する旨主張するが、いずれも全国合意に係る意思の連絡があったことを基礎付ける事実を主張したもので、同法58条2項の定める処分原因となる事実の変更に当たらないから、上記主張は失当である。
(イ) 事後の行動の一致について
a 本件審決の判断(後記第4の2(3)ア(ウ)a)のとおり、原告三和Sにおいては、本件会合の前には、平成20年4月1日以降の特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントとすることは検討されていなかった。このことは、軽量シャッターの一部の製品について、特定の期間における引上げ率を計算した結果約10パーセントになるものがあったとしても同様である。
b 原告三和Sは、「3月14日付け通達」の「平均目標アップ率 10%」の記載はキャッチコピー又はスローガンであり、目標として記載されたものではないと主張する。
しかし、①平成20年4月11日の原告三和らの第三次3ヵ年・2008年度計画必達決起大会の資料にも、目標として販売価格の10パーセント引上げが明記され、「全見積現場の売価UPベースでのNET提示」、「販売価格10%UPでの値決め、契約」など個別契約において取り組むべき事項が記載されていたし、②同月23日の社内会議でも取引価格が10パーセント引き上げられているかを日々精査するなどとされていたのであり、10パーセントは販売価格の引上げが指示されていた(後記第4の2(3)ア(ウ)a)。③≪B2≫の供述調書(査16。信用性が認められることにつき後記(ウ)b)では、「3月14日付け通達」のための案を、≪B4≫、≪B1≫及び≪B3≫などに提示した段階で、これらの者のいずれかから、値上げ額の記載だけでは社内やユーザーに説明が上手くいかないのではないかという意見があり、平均目標アップ率10パーセントと記載するよう指示されたとされているし、④「3月14日付け通達」の内容自体を見ても、「平均目標アップ率 10%」が、「付きましては、下記の指標に基づき全商品の販売価格アップを実施願います。」と記載されている「指標」の一つであることは明らかである。
以上のとおりであるから、「3月14日付け通達」の「平均目標アップ率 10%」の記載はキャッチコピー又はスローガンであるとはいえない。
c 「3社の値上げ目標の不一致」に対して
3社は、いずれも、本件会合以前は特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントと設定していなかったにもかかわらず、本件会合後に、特定シャッターについての販売価格の引上げ目標を10パーセントと定め、それぞれ上記目標を各支店、営業所に示して販売価格引上げの指示をしている。
d 「3社の対外公表の不一致」に対して
平成20年4月1日以降の販売価格の引上げについて、原告三和Sと原告文化のみが新聞発表をしたのは、本件会合での情報交換のとおりであり、値上げに係る合意の存在を否定すべきほどの行動の不一致ではない。
なお、原告三和Hは、原告三和Sの販売価格の値上げについての新聞発表の際、平均値上げ率が6パーセント程度になるとしたが、原告三和S内の新聞発表用文書では平均アップ率で10パーセント程度と認識されており、「6パーセント」は軽量シャッターを考慮しない不正確なものであったから、「6パーセント」の発表は、原告三和Sの意図に沿うものではなく、事後の行動の一致を否定するものとして考慮すべきではない。
(ウ) 独自判断の特段の事由について
a 「3月14日付け通達」の「10%」の記載は、平成20年3月11日時点での通達案にはなかったところ、≪B2≫の供述調書(査16)では、「3月14日付け通達」の案を作成した≪B2≫も≪B9≫も、通達には商品別の引上げ目標単価だけを記載すればいいと考えて通達案に値上げ率を記載していなかったが、通達案を≪B1≫、≪B3≫などに提示し、最終的に≪B4≫の承認を受ける段階で、これらの誰かから、値上げ額の記載だけでは社内やユーザーに説明が上手くいかないのではないかとの意見があり、平均目標アップ率を10パーセントとする記載を加えるように指示されたとされている。実際、「3月14日付け通達」が発出される段階で、通達案に「10%」との上記修正がされた経緯に照らすと、同供述調書記載の経過で修正された可能性が高い。
b 上記供述調書は、原告三和Sの平成20年度事業計画の策定の際、担当役員ヒアリング及びグループ社長ヒアリングなどにおいて原告三和Hの社長である≪B8≫(以下「≪B8≫」という。)、≪B1≫、原告三和Hの≪B10≫(以下「≪B10≫」という。)、≪B3≫らの指摘やアドバイスを受けていたことと整合する上、「3月14日付け通達」作成から約1年後の比較的記憶が新しい時期に作成され、内容も具体的であって、その信用性を疑うべき具体的事情は見当たらない。
(エ) 意思の連絡の推認を妨げる事由について
a 「事後の情報交換の不存在」に対して
事後の情報交換は、価格カルテルの目的実現に不可欠とはいえない一方、広範囲に行えば、違反行為発覚のおそれが高くなる。全国合意の内容は、特定の需要者との関係で販売価格を調整することまで意図するものではなく、事後の情報交換をしなくてもその実施についての協調関係を形成できるから、事後の情報交換がなくても、全国合意の存在は直ちに否定されない。
また、原告三和Sはシャッター等を平成20年4月1日受注分から値上げすることを、原告文化は同日受注分から各種シャッターを10ないし15パーセント値上げすることを、それぞれ新聞発表し、3社の各支店及び営業所は、本社からの指示を受け、それぞれの実情に応じて販売価格引上げに向けた営業活動を行っていたから、3社が全国合意に従って互いに値上げ活動を実施していることを認識することは可能であった。このことからも、事後の情報交換は不可欠でなく、これがされていなかったことのみによって全国合意の存在は否定されない。
b 「3社の間で平成20年4月以降も激しい競争が行われていたこと」に対して
全国合意は、個別物件の受注に係る競争を完全に排除するものではないから、かかる合意に沿った協調行為を前提としつつ、個別物件を受注するために価格競争があったとしても、そのことは全国合意に矛盾しない。
ウ 一定の取引分野における競争の実質的制限について
(ア) 「取引分野の画定の誤り」に対して
a 不当な取引制限に係る一定の取引分野は、具体的な違反行為と無関係にあらかじめ画定されるものではなく、当該違反行為がいかなる範囲の競争に影響を及ぼすものであるかを判断することにより、個別具体的に、かつ、相対的に画定される。不当な取引制限に係る違反行為は、特定の取引分野での競争の実質的制限を目的及び内容としており、また、行政処分の対象として必要な範囲で市場を画定するという観点からは違反行為の対象である商品役務の相互の代替性を厳密に検証する実益は乏しいから、通常の場合は、その共同行為が対象とする取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して、一定の取引分野を画定すれば足りる。
本件審決の判断(後記第4の2(3)ウ(ア))のとおり、全国合意は、全国における取引を対象とし、それにより影響を受ける範囲は特定シャッターの取引であるから、本件における一定の取引分野は、特定シャッターの販売分野である。
原告三和Sは、上記認定が多摩談合事件最高裁判決に反すると主張するが、同判決は、原告三和Sが主張するような手法により、当該合意の内容から離れて取引分野を画定すべきことを判示したものでない。
b 3社の事業に役務提供が含まれるとしても、需要者の注文に応じて物を製作・供給する取引を「販売」とすることは可能であるし、「特定シャッター」は「取付工事等の役務が併せて発注される場合には当該役務を含む」とされており、「販売」には取付工事等の役務提供が含まれるから、本件における一定の取引分野は、特定シャッターの販売分野である。
一定の取引分野の画定においては、検討の対象となる取引の内容を特定することができれば足り、これを「売買」というか「請負」というかは本質的な問題ではない。
(イ) 「競争の実質的制限が生じていないこと」に対して
特定シャッターの販売分野において90パーセントを上回るシェアを有する3社が、全国合意に基づき、各支店、営業所に対して特定シャッターの販売価格の値上げについて指示をし、3社の営業担当者がこれを受けて実際に引上げに向けて行動していたことからすれば、我が国における特定シャッターの販売分野における競争を実質的に制限されていたことは明らかである。
原告三和Sは、平成20年における全社レベルでの重量シャッターの平米単価は平成19年度を下回っていたと主張するが、平成20年9月のいわゆるリーマンショックにより我が国の景気が著しく後退したことからすれば、受注から引渡しまで3か月ないし半年以上要する重量シャッターの最終的な売上額の平米単価が値下がりしたとしても、受注段階においては、全国合意は値上げの効果があったといえる。
(3) 原告文化の主張
ア 全国合意の合理性がないこと
(ア) 全国合意にある本社の指示による一律値上げはできず、競争回避には地域別に受注調整等をする必要があること
シャッター工事に関する競争条件は、地域や設置する製品の種別、工事物件の規模・内容、顧客の属性、過去の取引の有無等によって大きく異なり、全国一律の取引とはいえないこと、シャッター工事の価格は、個別物件ごとに顧客との個別交渉で決まることから、全国においてシャッターの種別を問わず一律に値上げをすることは不可能であり、過去のシャッター業界における不当な取引制限の事件が、いずれも各地域における競争を対象とし、また、3社の間で、近畿地区や南関東地区で個別物件について話合いが行われたこともこれを裏付けている。
(イ) 被告は、全国合意は、飽くまで目標であるから、個別事情による引上げ率の違いは許容されていると主張するが、そのような合意は3社を相互に拘束し合う合意になっておらず、意味がない。
イ 意思の連絡について
(ア) 本件会合での情報交換について
a 本件会合における≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫の会話に関して、≪C1≫は泥酔しており、記憶がない。
b 本件審決が認定する本件会合でのやり取りは、その認定根拠となる各供述調書は具体性・迫真性に乏しく、発言の文脈もあいまいで信用性が乏しい。これらのやり取りは、相当量の飲酒がされた酒席でのものであり、「そうですよね。」などの相づちは社交辞令の域を出ない。「10パーセント程度上げたい。」との抽象的な発言があったとしても、他の参加者は、これを「全国においてシャッターの種別を問わず一律に値上げをする。」という実行が不可能な全国カルテルの呼びかけと考えることはないから、本件合意は成立し得ない。
本件審決は、本件会合の際に、≪D1≫が積算価格の引上げにより販売価格を引き上げる旨の意向を示したこと、本件会合の参加者が、「シャッター等の値上げをせざるを得ないという認識を確認し」たこと、「共に値上げを実施することを前提として」情報交換を行ったこと、「単なる世間話にとどまらず、相互にシャッター等の対価引上げを実施することに関する情報交換がされた」ことを認定しているが、これらを認めるべき証拠はない。
本件審決が認定する抽象的なやり取りにより、複雑な内容の全国合意(意思の連絡)が成立していたと認定するのは不合理である。
c 本件会合では、対象製品又は役務、地理的範囲、何の価格を基準にして10パーセント引き上げるのか、誰がいつからどのような方法で価格を引き上げるのかといった具体的な話はされていない。シャッター業界は、地域ごとに競争環境が異なり、各営業所、担当者、需要者、契約条件により算出される積算価格や見積価格が異なる状況にあり、協調値上げの合意をするためには、地域ごとの具体的な情報交換が必要である(近畿地区や南関東地区で個別物件について話合いが行われたことはこれを裏付ける。)から、このような話がされていないことは、本件会合での発言が価格協定の合意を目的とするものではないことを示している。
なお、全国合意は平成20年2月の更なる鋼材価格の値上げに対応するためのものとされているのであるから、それ以前の≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫の会合は、情報交換としては、全国合意と関係がないか、希薄な関連性があるにすぎない。
(イ) 事後の行動の一致について
a 原告文化は、本件会合後に、特定シャッターについての販売価格の引上げ目標を10パーセントと定めたことがないこと
≪C1≫が発出した平成20年3月27日付けの社内通達は、「全製品 5%~20%の販売価格の引上げ」、「全製品 10%~15%の積算価格の引き上げ」の実施を指示しているところ、同文書には、シャッター群の積算価格につき「現エリア積算水準×110%」との記載もあるが、各支店、営業所における努力目標を設定したものにすぎず、全国一律に価格引上げを行うことを意図したものではない。建築工事に付随して行われるシャッター工事は、各地域内で受注競争が行われるため、各支店、営業所に価格設定権限が委ねられ、各支店、営業所は自らの担当地域の競争状況や施主、元請負建築業者の特色を勘案して価格を提示し交渉しているもので、本社の指示により全国一律に価格引上げを実行することはできない。このことは、原告文化の全社ベースでのシャッター工事価格の単価が、平成19年度から平成20年度にかけて、軽量電動シャッター群と中量シャッター群では約2.2パーセント上昇したものの、売上の大きい軽量手動シャッター群と重量シャッター群では、前者がわずか0.5パーセントの上昇にとどまり、後者は0.2パーセント下落していることにも現われている。
実際、原告文化の各支店、営業所は、それぞれの地域特性及び営業方針に応じて、独自に積算掛率やネット掛率を決定し、約半数は、上記指示にしたがった積算価格や見積価格(ネット価格)の引上げを行っていなかった。
b 3社の値上げ目標の不一致
原告文化の価格引上げ行為は、上記aのとおりであるから、原告文化が、原告三和S及び原告東洋と一致した価格引上げ行為を行っていたとはいえない。
c 3社の対外公表の不一致
3社の対外的な値上げ公表は、公表の時期及び方法並びに価格引上げの内容などについて、各社ばらばらで一致していない。
すなわち、原告文化は平成20年3月18日付けで新聞発表を行い、原告三和Sは同月25日付けで新聞発表を行ったが、原告東洋は新聞発表を行わずに同年4月に顧客宛の通知文書で値上げを通知した。また、公表した価格引上げ幅も、原告文化は10ないし15パーセントであったのに対し、原告三和Sは種類別に単位当たりの価格で表示し、かつ、平均6パーセントであり、原告東洋は実質的に4ないし5パーセントであった。
なお、原告三和Sが新聞発表した平均6パーセントの引上げ率は、全国合意の10パーセントと異なるにもかかわらず、その後訂正されていない。
(ウ) 独自判断の特段の事由
原告文化は、平成20年2月下旬に鋼材価格の大幅な値上げが公表される前、独自に5パーセントの値上げを検討しており、≪C1≫は、上記公表を受けて、同月25日、原告文化の資材部長である≪C8≫と面談をするなど独自に対策を練り、同月下旬頃から値上げ率について10パーセント程度は必要だと考えていた。また、原告文化では、各支店、営業所に価格設定権限が委ねられており、個別の物件を受注するために競合他社と競争しつつ、独自の判断で可能と判断した場合に値上げを行っていた。
シャッターは、構成部材が日本工業規格(JIS規格)によって規定されており、製品原価に占める鋼材価格の割合が高いことから、鋼材の値上げ幅を元に価格を転嫁する際に値上げ幅が類似することは自然であり、平成20年2月下旬に鋼材価格の更なる値上げが公表された後に、各社である程度似通った値上げが検討されるのは何ら不自然ではなく、3社がいずれもおおむね切りのよい10パーセント程度の値上げを決定したとしても不自然ではない。
(エ) 意思の連絡の推認を妨げる事実(実効性確保に向けた行動の不存在)
本件においては、本件会合以降の3社の連絡交渉が認められないところ、本件会合での会話のようなあいまいな内容に基づいてカルテル合意が成立したとすれば、その実効性の確保及びカルテル破りの防止のために、当事者間で何らかの行動がとられてもおかしくないが、そのような行動は一切取られていない。競争が個別の物件単位で行われ、ゼネコンの価格交渉力が強いために、一律の価格引上げが極めて困難であるという市場構造に鑑みれば、かかる実効性確保に向けた行動が取られていないことは、本件合意が存在しないことを示している。
ウ 一定の取引分野における競争の実質的制限について
(ア) 特定シャッターを商品役務とする全国市場は成立しないこと
原告文化の各支店、営業所が本社の方針に基づいた活動をしていなかったこと、個別物件における競争は地域ごとに行われていたことからすると、3社は全国における「特定シャッター」なる市場を前提とした事業活動など行っておらず、製品、地域ごとに個別具体的な競争を行っていたものであるから、特定シャッターを商品役務とする全国市場は成立しない。
また、原告文化及び原告三和Sが新聞発表した内容は、シャッターのみならず、ドアやパーティション等を含めた全製品の値上げをする意向を示したものであるにもかかわらず、重量シャッター群・軽量シャッター群のみをひとまとめに「特定シャッター」と定義しており、実態に合っておらず、不自然である。
(イ) 競争を実質的に制限しないこと
個別物件ごとの受注競争であるシャッター工事市場の構造や特殊性(特に、ゼネコンの圧倒的な価格交渉力)に鑑みれば、全国における3社の出荷量のシェアが高いことに意味はなく、また、個別物件についての激しい競争が行われていたことからすれば、仮に全国合意が存在したとしても、それによってシャッターの価格を左右することはできず、競争は実質的に制限されていない。実際、原告文化の平成20年度の営業利益は前年に比べて約26億円減少した11億6800万円の赤字であり、価格の引上げができなかったことは明らかである。
エ 公共の利益に反しないこと
下請負業者であるシャッター工事業者は、建設業法及び独禁法により元請負業者であるゼネコンによる市場支配力の濫用からの保護の対象とされているところ、元請負業者であるゼネコンは下請負業者であるシャッター工事業者に対して取引上の地位が優越しており、市場支配力は元請負業者側が持っているのであって、不当な値引き要請や指値発注など、法制度の懸念したとおりの濫用行為が実際に行われた場合に、値上げ意向の公表等の様々な手法を使って、かかる濫用行為に対抗して値下げ防止を図ることは、正当な行為であり「公共の利益」(独禁法2条6項)に反するものではない。
(4) 原告文化の主張に対する被告の反論
ア 「全国合意の合理性がないこと」に対して
(ア) 全国合意は、一律の金額の値上げを要するものではないし、飽くまで目標であるから、個別事情による引上げ率の違いは許容されている。前記(2)ア(イ)のとおり、本社が個別取引の値上げ幅をコントロールできなくとも、全国合意による値上げの実施は不可能ではない。実際、原告文化においては、本社からの指示を受けて、各支店、営業所がそれぞれの実情に応じて、顧客に提示する積算価格、見積価格を引き上げるなどして、販売価格引上げに向けた営業活動を行い、平成20年4月1日から同年11月18日までの軽量シャッター、重量シャッターの平米単価は平成19年度通年と比較していずれも上昇した。
(イ) 前記(2)ア(ウ)のとおり、全国合意が個別事情による引上げ率の違いを許容することは、値上げ活動がばらばらに行われることを意味するものではない。
イ 意思の連絡について
(ア) 本件会合での情報交換について
a ≪C1≫は、本件会合の翌日の原告文化の社内会議において、原告三和Sの新聞発表について言及しており、本件会合の際に泥酔していたとはいえない。
b ≪B1≫の供述調書(査51)は、≪B1≫及び原告三和Hに不利な内容を含み、同人には特に虚偽の供述をする動機がない上、本件会合後の比較的記憶が新しい時期に録取され、その内容も具体的であるから信用性が高い。また、≪D1≫の供述調書(査54、55)は、本件会合において、≪B1≫がシャッター等の販売価格の引上げについて10パーセントは上げたい旨発言し、≪C1≫はこれを否定せず、販売価格を引き上げるために見積価格を引き上げるという話が出た旨、≪D1≫も積算価格の引上げを検討していると発言した旨を内容としており、この供述は、≪B1≫の上記供述調書と整合し、これら発言がされた理由を含む具体的なものであって、信用性が高い。
そして、これら供述調書に加え、本件会合が3社において平成20年4月以降の鋼材価格の値上げに伴うシャッター等の販売価格の引上げを検討していた時期に行われたこと等からすると、本件会合について、本件審決(後記第4の2(1)エ、(3)ア(イ))のとおり認定・判断できる。
c 全国合意は、3社の役員級の者らの間で特に地域を限定せずに行われた価格カルテルであるところ、その内容は、3社において、それぞれの基準を元に、10パーセントを目途として販売価格の引上げを行うというものであり、一律の金額の値上げを要するものではなく、10パーセントを目途とした販売価格の引上げは飽くまでも目標であって、個別事情による引上げ率の違いは許容されていたところ、現に3社は、本件会合以前は特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントと設定していなかったにもかかわらず、本件会合後、販売価格の引上げ目標を10パーセントと定め、これを各支店、営業所に示して販売価格引上げを指示したものであり、このような方法による値上げ実施は不可能ではないから、更に詳細な事項を取り決めていなくても、価格カルテルの成立が妨げられるとはいえない。
(イ) 事後の行動の一致について
a 「原告文化は、本件会合後に、特定シャッターについての販売価格の引上げ目標を10パーセントと定めたことがないこと」に対して
原告文化は、本件審決の認定・判断(後記第4の2(1)カ、ク(イ)、(3)ア(ウ)b)のとおり、販売価格の引上げ目標について、一定の幅を持たせながらも一貫して10パーセントとすることを表明し、各支店、営業所は、販売価格引上げの指示を受け、それぞれの実情に応じて、販売価格の引上げに向けた営業活動を行っていたから、販売価格の10パーセント引上げは単なる努力目標ではないし、全国合意に従った値上げの実現が不可能であるとも考えられない。また、全国合意に従って値上げに向けた行動に出ていたこと自体が競争を制限するから、全国合意どおりに販売価格が引き上げられたか否かは、全国合意による価格カルテルの成否を左右しない。この点を措いても、本件審決の認定(後記第4の2(1)ケ(イ))のとおり、原告文化において、実際にも特定シャッターの販売価格が引き上げられた。なお、リーマンショックによる景気の著しい後退により、受注から引渡しまで3か月ないし半年以上要する重量シャッターの最終的な売上げに基づく平米単価が値下がりしたとしても、全国合意は、受注段階では値上げの効果があったといえる。
なお、全国合意では、各支店・営業所における個別事情による引上げ率の違いは許容されていると解されるから、地域性及び営業方針に応じて積算掛率やネット掛率を決定したとしても、その事実により全国合意は否定されない。
b 「3社の対外公表の不一致」について
新聞発表が原告三和Sと原告文化のみであったのは、本件会合での情報交換のとおりであり、値上げに係る合意の存在自体を否定するほどの行動の不一致ではない。新聞発表の時期は、原告三和Sと原告文化で1週間ほどしか違わない近接した時期であり、原告東洋の通知時期が4月というのも、時期がばらばらというほどのものでもない。また、原告文化が、新聞発表した販売価格の引上げ率10パーセントないし15パーセントは本件会合の内容と矛盾しない。原告三和Sは、新聞報道の際、口頭で値上げ率を6パーセントと発表したが、不正確なものであったから(前記(2)イ(イ)d)、本件会合の内容と矛盾しない。また、口頭で説明した値上げ率が不正確なものであったとしても、新聞発表の際に公表した平米当たりの値上げ幅は、値上げ率にすれば10パーセント程度になること等からすると、口頭による上記の説明を後に訂正しなかったことが不自然であるとはいえない。
(ウ) 独自判断の特段の事由について
平成20年2月下旬の鋼材価格の大幅な値上げ公表以前に、原告文化と原告東洋が独自に5パーセントの値上げを検討し、原告三和Sが4.4パーセントの値上げを検討していたとしても、3社が同時期に目標とする値上げ幅を10パーセントまで引き上げたことが単なる偶然の一致であるといえるほどの事情ではない。
3社は、本件会合以前、鋼材価格の値上げ状況等は共通であっても、特定シャッターの販売価格引上げ目標を10パーセントとは設定しておらず、値上げ幅の検討状況も一致していなかったから、鋼材価格値上げの影響により販売価格の引上げ幅が当然に一致するものではなく、本件会合後に引上げ目標と定められ、各支店、営業所に示された10パーセントという数値も同様である。
(エ) 「意思の連絡の推認を妨げる事実(実効性確保に向けた行動の不存在)」に対して
事後の情報交換がされていなかったとしても、全国合意の存在が直ちに否定されるものではない(前記(2)イ(エ)a)。
ウ 一定の取引分野における競争の実質的制限について
(ア) 「特定シャッターを商品役務とする全国市場は成立しないこと」に対して
全国合意は、特定シャッターの取引を対象としてその販売価格を引き上げるものであり、それにより影響を受ける範囲も同取引であるから、本件における一定の取引分野は、特定シャッターの販売分野である。原告文化及び原告三和Sの新聞発表に特定シャッター以外のものの値上げが記載されていたとしても、そのことは上記認定を否定するものではない。
(イ) 「競争を実質的に制限しないこと」に対して
平成19年4月から平成20年3月までの間における我が国の特定シャッターの出荷数量に占める3社のシェアが約92.8パーセントと極めて高いことからすれば、3社の意思で、特定シャッターの価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされていたといえ、我が国における特定シャッターの販売分野の競争機能が損なわれ、その競争が実質的に制限されていたと認められる。
ゼネコンの交渉力がいかに強くとも、特定シャッターの販売分野において90パーセントを超えるシェアを有する3社が同時期に同程度の引上げ幅で見積価格を提示すれば、ゼネコン側からすれば、より品質・価格等において優れているシャッター業者を選び得る選択肢は著しく狭まるから、ゼネコンの価格交渉力を殊更強調する原告文化の主張には理由がない。
エ 「公共の利益に反しないこと」について
仮に建設業者に建設業法ないし独禁法違反となり得る行為があったとしても、3社が価格カルテルである全国合意をすることが、「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」(独禁法1条)とは認められない。
(5) 原告東洋の主張
ア 意思の連絡について
(ア) 本件会合での情報交換について
a 本件会合において、≪B1≫は販売価格を10パーセント上げたいとの趣旨の発言をしたが、これは≪C1≫や≪D1≫に対して同調を求めるものではなく、≪D1≫はこれに特に反応していない。また、≪D1≫が、積算価格の引上げにより販売価格を引き上げる意向を示したことはない。
b 本件会合は、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫が3人のみで会う初めての日であったこと、社団法人日本シヤッター・ドア協会の委員を交代する≪B1≫の慰労のために開かれたもので、≪D1≫は同協会の運営委員会に参加していた原告東洋の≪D8≫に代わって急きょ参加したこと、≪B1≫及び≪C1≫が泥酔していたことなどからしても、そこで全国合意がされたというのは不自然である。
(イ) 本件会合後の原告東洋の行動について
原告東洋は、本件会合の前から、販売価格引上げの検討を行っていた。本件会合を境に、検討状況・方針が一変したということもなく、仕切価格の5パーセントの上昇を吸収するために販売価格の引上げ目標を設定しようとしていただけであって、本件会合による影響はない。また、原告東洋は、販売価格を4.8ないし6パーセント引き上げることを目標として、その達成のために、各支店、営業所に10パーセントという数値を提示したに過ぎない。原告東洋では、10パーセントの値上げが実現していないことに対して、その改善を図る行動をとっていない。
(ウ) 事後の行動の一致について
a 3社の値上げ目標の不一致
原告東洋は、値上げの目標を4.8ないし6パーセントとし、その達成のために各支店、営業所に10パーセントという数値を示していた。これに対し、原告三和Sは、「3月14日付け通達」での平米単価目標額の引上げ率は5.8ないし8.8パーセントであり、本件会合後もその値上げ目標は10パーセントではなかった。原告文化は、相当程度幅を持たせた引上げ目標を設定していたが、全国合意が存在したのであれば、1社だけが大きく幅を持たせた設定をすることは許されないし、その必要もない。
b 3社の対外公表の不一致
原告三和S及び原告文化は、特定シャッター等の値上げについて、平成20年3月後半に新聞発表をしたが、原告東洋は新聞発表をしていない。原告東洋のみが、新聞発表をせず、値上げをしなければ、シェアを奪われる等のリスクが生じるにもかかわらず、原告三和や原告文化は、原告東洋に新聞発表をするように働きかけていない。
また、原告三和Sは、全国合意の10パーセント程度とは異なる6パーセントの値上げと報じられたが、原告東洋、原告文化から、問合せや確認はしていない。
(エ) 原告東洋が独自の判断によって値上げ行動を行ったこと
原告東洋においては、鋼材価格の上昇を受けて平成20年2月下旬にはシャッター等の仕切価格を5パーセント上げたい旨生産本部長から副社長に伝えられており、本件会合以前からこの影響を考慮した積算価格の検討が継続的に行われていた。その検討の結果、新年度に向けて販売価格の引上げ目標を設定したのが本件会合より後であったというだけであり、意思決定の過程に本件会合は影響していない。原告東洋は、販売価格を4.8ないし6パーセント引き上げる必要があると判断し、これを目標として、その達成のために、より高い数値でかつ切りのいい数字として10パーセント程度引き上げた積算価格を提示するという方法を採用したものであり、その値上げ行動は独自の判断によって行われた。
なお、原告らは、圧倒的に需要者であるゼネコンの力が強く、買い叩かれる関係にある点で相違がなく、同種商品を同程度の価格で販売しているため、原料である鋼材価格の値上げを販売価格に転嫁する割合が近似してくるのは当然である。また、鋼材価格の値上げを契機とする以上、鋼材価格の値上げ時期に合わせて値上げをするのは不自然でない。
(オ) 事後の情報交換がないこと(意思の連絡の認定を妨げる事実)
本件審決の認定によっても、全国合意の内容は、具体的な値上げ方法や値上げ時期が明示されず、対外的な公表についても取り決めない等非常に漠然としているから、3社各社の行動に差が生じるリスクが高く、他社が実際にどのように動いているのかを事後的に確認する必要性は非常に高いといえるから、事後の情報交換が存在しないのは極めて不自然である。
また、原告三和Sについては、全国合意の10パーセント程度とは異なる6パーセントの値上げと報じられたから、全国合意が存在するのであれば、原告東洋、原告文化が、原告三和Sに対して、全国合意に反する報道内容について、確認さえ行わないということはあり得ない。
以上のように、本件において、事後の情報交換が存在しないことは、意思の連絡の認定を覆す事実である。
(カ) 以上からすれば、3社が全国合意をしていたと推認することはできない。
また、本件審決では、値上げの時期について、本件会合では明言されていなかったと認定しながら、少なくとも平成20年4月1日見積分から値上げを行うとの合意があったと推認しているが、これを推認するに足りる証拠はなく、その認定は実質的証拠を欠いている。
イ 相互拘束について
本件審決は、本来各社において自由に決定されるべき3社の特定シャッターの販売価格の値上げ幅が、全国合意の成立により制約されて決定されることとなった旨認定しているが、原告東洋は、社内での検討状況から明らかなように、本件会合後も、拘束や制約をされることなく、値上げ幅について自由に検討・決定していたのであり、相互拘束は認められない。値上げ幅の目標を10パーセントと定めていなかったことは、前記ア(ウ)aのとおりである。
(6) 原告東洋の主張に対する被告の反論
ア 意思の連絡について
(ア) 本件会合での情報交換について
本件会合での情報交換については、本件審決(後記第4の2(1)エ、(3)ア(イ))のとおり認定・判断できる(前記(4)イ(ア)b)。
なお、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫が3人で会うのは本件会合が初めてであり、≪B1≫及び≪C1≫が泥酔していたとしても、本件会合の内容が上記のようなものであった以上、その時点で飲酒の影響があったとはうかがわれない。また、≪C1≫は、本件会合の翌日の社内会議において、原告三和Sの新聞発表について言及しており、本件会合の際に泥酔していたとはいえない。他方、本件会合が≪B1≫の慰労のためのものであったというのは、内容や経緯に照らして不自然である。
(イ) 本件会合後の原告東洋の行動について
本件審決の認定(後記第4の2(1)キ、(3)ア(ウ)c)のとおり、原告東洋は、本件会合の前は、特定シャッターの販売価格の引上げ目標について10パーセントと設定していなかったにもかかわらず、同会合後においては、販売価格の引上げ目標を10パーセントと定め、それぞれ上記目標を各支店、営業所に示して販売価格引上げを指示したものである。
各支店、営業所において、需要者との関係や、地域の実情を考慮して、本社の指示どおりに販売価格を引き上げていないところがあったとしても、あるいは、実際に10パーセント引き上げられていないとしても、値上げに向けた会社としての行動は否定されない。
(ウ) 事後の行動の一致について
a 「3社の値上げ目標の不一致」に対して
3社は、販売価格の引上げ目標を10パーセントと定めていた。
b 「3社の対外公表の不一致」に対して
原告三和Sと原告文化のみが新聞発表をしたのは、本件会合での情報交換のとおりである。また、事後の情報交換は価格カルテルにおいて必ずしも行われるとはいえず、原告文化及び原告東洋が、原告三和Sに問合せや確認をしていないとしても、合意の存在は否定されない。さらに、原告三和Sの新聞報道では、シャッターの種類ごとの具体的な値上げ幅も記載されており、その値上げ率は10パーセント程度になるから、原告文化及び原告東洋において、全国合意に反しないとも考えられる。
(エ) 「原告東洋が独自の判断によって値上げ行動を行ったこと」に対して
原告東洋は、会社としての営業活動の目標は販売価格の4.8ないし6パーセント引上げであったこと、≪D1≫が10パーセントと決めた根拠は明らかであることなどから、値上げ行動が独自の判断によって行われたと主張するようであるが、原告東洋において販売価格の10パーセント引上げが目標とされていたこと、及びこれに対する原告東洋の≪D1≫の関与状況(後記第4の2(1)キ)からすると、原告東洋の主張は理由がない。
なお、3社は、本件会合以前は、鋼材価格の値上げ状況等は共通であっても、特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントと設定しておらず、値上げ幅に関する検討状況も一致していなかったのであるから、鋼材価格値上げの影響を受けることから、販売価格の引上げ幅が当然に一致するものではない。そして、本件会合後に販売価格の引上げ目標と定め、各支店、営業所に示して販売価格引上げの指示をした10パーセントという数字も鋼材価格の値上がり状況から当然に導かれる数字ではない。
(オ) 「事後の情報交換がないこと」に対して
事後の情報交換がされていなかったことのみで、全国合意の存在は直ちに否定されることはない(前記(2)イ(エ)a)。
イ 相互拘束について
原告東洋の営業活動の目標を販売価格の10パーセント引上げとすることを最終的に決めたのは、本件会合に出席した≪D1≫であること、≪D1≫が10パーセントと決めた根拠が明らかとはいえないことからすれば、原告東洋が、シャッターの販売価格の10パーセントの値上げを指示し、この方針に基づき営業担当者が値上げを実施していたのは独自の判断ではなく、全国合意に基づくものであり、全国合意が各社の事業活動を拘束するものであったことは明らかである。
3 全国課徴金納付命令の適法性に関する原告三和Sの主張及び被告の反論
(1) 原告三和Sの主張
ア 全国合意が改正前独禁法7条の2第1項1号の「商品」の対価に係るものとされていることについて
原告三和Sに対する全国課徴金納付命令は、全国排除措置命令に係る違反行為は、同法7条の2第1項1号の「商品の対価」に係るものであるとするが、シャッターの取引は販売ではなく請負であるから、「商品」の対価とする点は、法令の適用を誤っている。本件審決は、同法7条の2第1項は「商品又は役務」と併記しており、いずれであるかによって取扱いが異ならないなどとして、「商品の対価」としていることに問題はないとするが、同法は両者を厳密に使い分けているから(例えば、改正前独禁法2条9項4号は「商品」の再販売価格維持のみを規制している。)、法令の解釈を誤っている。
また、本件審決は、「商品」は「特定シャッター」を指すところ、「特定シャッター」には取付工事等の役務が含まれ、「商品」には取付工事等の役務も含まれるので、「商品の対価」に係るものとすることに問題はないとするが、行政処分に当たって法令の適用を明らかにすることが求められる趣旨は、行政庁が認定した事実の内容等を明確にし、それによって恣意的な行政処分を防止することにあるから、法令の適用は、事実が持つ法的意味合いを正確に捉えた上で誤解を生ずる余地のないように法令の条文に忠実に行われるべきである。その上、独禁法では、「商品」と「役務」が厳密に使い分けられているのであるから、改正前独禁法7条の2第1項で「商品又は役務」とされている以上は、「特定シャッター」に取付工事等の役務が含まれているとしても、法令の適用としては「商品及び役務の対価に係るもの」としなければならないから、本件審決は誤っている。
イ 原告三和Sが平成20年4月1日より前に顧客に見積りを提出した取引を課徴金算定の基礎に含めることの誤り
原告三和Sに対する全国課徴金納付命令は、全国排除措置命令に係る違反行為を不当な取引制限としている。全国排除措置命令において違反行為とされている全国合意は、平成20年4月1日見積分から特定シャッターの需要者向け販売価格を現行価格より10パーセントを目途に引き上げる旨の合意であるから、3社による価格引上げ合意の対象は、同日以降の見積分であり、同日より前に需要者に見積価格を提示したものには違反行為の拘束が及んでいない。この点は、同日より前に見積りを提示した取引案件について、同日以降に見積価格を引き上げた見積書を提出し直すことが、社会経済的常識からもシャッターの主要顧客であるゼネコンの価格交渉における圧倒的優位性からもあり得ないこと、そして、全国排除措置命令の命令書が、違反行為の実施態様を「平成20年4月1日見積分より特定シャッターの需要者向け販売価格を引き上げていた」としていることからも明らかである。
そうすると、上記内容の不当な取引制限について、原告三和Sに対する課徴金を算定する際に基礎とされる「当該商品又は役務」(改正前独禁法7条の2第1項柱書)も平成20年4月1日以降に需要者に見積書を提示するものとなり、同日より前に需要者に見積価格を提示したものはこれに含まれない。ところが、原告三和Sに対する全国課徴金納付命令は、課徴金算定の基礎となる売上額を改正前施行令5条1項に基づいて平成20年4月1日から同年11月18日までの間に引き渡された商品の売上額の総額としており、その中には、除外されるべき、同年4月1日より前に見積価格を提示した取引案件の売上額が含まれているから、本件審決の認定は取り消されなければならない。
そして、全国課徴金納付命令の実行期間内に施工が完了して売上計上された取引案件のうち、受注日、発注日又は工場が製作指示を受けた受付年月日のいずれかが平成20年3月以前である取引案件は、同年4月1日より前に見積価格が提示されていることが明らかであるところ、これら案件の売上額は97億7239万4712円になる。また、受注日、発注日又は工場が製作指示を受けた年月日のいずれも同年4月以降である取引案件についても、重量シャッターの取引案件は、最終見積提示日から受注日まで少なくとも60日は下らないから、受注日が同月1日から同年5月末日までの間のものの初回見積提示は同年3月31日以前であったといえる。また、受注確定後に行われる工場への製作指示を行った日(発注日)や工場が指示を受けた日(受付年月日)が同年5月末日までのものも同様であり、これら案件の売上額は17億7694万4046円である。
以上によれば、全国課徴金納付命令(原告三和S関係)の課徴金算定の基礎とされる売上額から上記合計115億4933万8758円が除外されなければならない。
なお、本件審判手続において、審査官は、重量シャッターは契約から引渡しまで通常2か月以上を要すると主張しているところ、これを前提にすると、見積提示は契約に先行するから、平成20年4月1日から同年5月末日までの間に顧客に引き渡されて売上計上された重量シャッターの取引案件については、同年3月31日以前に見積提示がされていたことになる。かかる重量シャッターの取引案件の売上額は14億1130万2066円である。
ウ 原告三和Sが見積りを提示することなく行った取引を課徴金算定の基礎に含めることの誤り
前記イのとおり、全国合意の対象は、平成20年4月1日以降の見積分であるから、見積りが一切提示されることなく行われた取引の売上額を課徴金算定の基礎に含めることは許されないが、全国課徴金納付命令の課徴金算定の基礎となった売上額には見積りが提示されていない取引のものが含まれているから、原告三和Sに対する全国課徴金納付命令に法令適用の重大な誤りがあることは明らかである。
エ 改正前施行令5条1項の引渡基準によって課徴金を定めることの誤り
原告三和Sに対する全国課徴金納付命令は、課徴金の計算の基礎となる原告三和Sの売上額について、引渡基準に基づいて算定しているが、原告三和Sに対する近畿課徴金納付命令では、契約基準に基づいて算定している。
引渡基準と契約基準のいずれによるかは、引渡基準によった場合の対価の合計額と契約により定められた対価の額の合計額との間に著しい差異が生ずる蓋然性が類型的又は定性的に認められるかどうかを判断して決すべきものと考えられる(東京高裁平成17年(行ケ)118号同18年2月24日判決・公正取引委員会審決集52巻744頁(以下「東燃ゼネラル事件高裁判決」という。))。
本件審決は、原告三和Sに対する全国課徴金納付命令の件においては、原告三和Sに対する近畿課徴金納付命令の件に比べて軽量シャッターの占める割合が大きいこと、その軽量シャッターについては受注から引渡しまでの期間が短いこと等を挙げて、上記の類型的又は定性的な蓋然性が認められないという。
しかし、東燃ゼネラル事件高裁判決は、上記蓋然性の存否の判断において、契約から引渡しまでの期間の長短よりも時期による発注量や価格の変動要因があることを重視しているところ、軽量シャッターは、重量シャッターほどには契約から引渡しまでの期間を要しないが、時期によって取引量が大きく変動する点、1件ごとの取引価格に大きな差が生じ得る点で重量シャッターと同様であるから、上記蓋然性を判断するに当たって軽量シャッターと重量シャッターとを別異に解するのは不合理である。加えて、本件審決は、全国合意による競争の実質的制限の有無を判断する際には、軽量シャッター及び重量シャッターの双方について、製品の引渡しによって計上される売上金額ではなく、顧客との契約締結による受注金額を基準として認定を行っている。
以上によれば、本件審決が、原告三和Sに対する全国課徴金納付命令について引渡基準の適用を認めたのは違法である。
オ 本件審決における課徴金の減額に関して見直しを要すること
本件審決は、原告三和Sに対する近畿課徴金納付命令の課徴金計算の基礎とされていた取引案件のうち、全国価格カルテルの実行期間とされている平成20年4月1日から同年11月18日までの間に売上げが計上された取引案件(審決別表A及びD記載のもの)に係る売上げを、原告三和Sに対する全国課徴金納付命令における課徴金の計算の基礎から除外すべきであるとし、その結果、同命令による原告三和Sに対する課徴金の額は一定程度減額された。しかし、原告三和Sに対する全国課徴金納付命令の課徴金算定は契約基準を採るべきであるから、原告三和Sに対する全国課徴金納付命令から除外する取引案件の選定は売上日ではなく契約日に着目して行われるべきである。
(2) 被告の反論
ア 全国合意が改正前独禁法7条の2第1項1号の「商品」の対価に係るものとされていることについて
本件審決の判断(後記第4の3(2)イ)のとおり、原告三和Sに対する全国課徴金納付命令の「商品」には取付工事等の役務が含まれており、また、同法7条の2第1項1号は、「商品叉は役務」と併記し、法適用上、商品であるか役務であるかによって取扱いは異ならないから、商品に役務を含めて定義したことが不当であるとはいえない。
原告三和Sが指摘する改正前独禁法2条9項4号は、「商品」の再販売価格の拘束に係る規定であるところ、自己の供給する商品を購入する相手方に対して、相手方が販売する商品の販売価格を定めてこれを維持させることなどを規制するものであり、役務の再販売は想定されないため、商品に限定して規定しているものである。
イ 「原告三和Sが平成20年4月1日より前に顧客に見積りを提出した取引を課徴金算定の基礎に含めることの誤り」に対して
本件審決の判断(後記第4の3(3)イ)のとおり、改正前独禁法7条の2第1項にいう「当該商品」とは、違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって、違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解すべきである。課徴金制度の趣旨及び課徴金の算定方法に照らせば、違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については、「当該商品該当性を否定する特段の事情」が認められない限り、違反行為による相互拘束が及んでいるものとして、課徴金算定の基礎となる当該商品に含まれ、違反行為者が、実行期間中に違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品を引き渡して得た対価の額が、課徴金の算定の基礎となる売上額と解すべきである。
そして、本件審決の判断(後記第4の3(3)イ(イ))のとおり、全国合意における「平成20年4月1日見積分から」との取決めにかかわらず、全国合意の対象商品の範ちゅうに属する商品は、飽くまで「特定シャッター」であって、「平成20年4月1日見積分からの特定シャッター」ではないから、同年3月31日以前の見積分であっても、実行期間内において引き渡した特定シャッターの対価の額と認められる限り、課徴金の算定の基礎となる売上額に含まれるというべきである。
すなわち、課徴金の算定方式について、改正前独禁法7条の2は、実行期間における当該商品又は役務の売上額に所定の割合を乗じて得た額を課徴金の額とすると定めているが、その趣旨は、課徴金制度が行政上の措置であるため、算定基準も明確なものであることが望ましく、また、制度の積極的かつ効率的な運営により違反行為の抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであり、こうした観点から、課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではない(最高裁平成14年(行ヒ)第72号同17年9月13日第三小法廷判決・民集59巻7号1950頁参照)。そして、これを受けて改正前施行令5条は、売上額算定の方法の原則を引渡基準によることと定め、実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額を合計する方法によることとしているのである。かかる課徴金制度の趣旨からすれば、たとえカルテルに係る合意においてこれとは異なる値上げ実施の契機(全国合意では「見積り」)を定めていたとしても、上記売上額の算出方法に影響を及ぼすものではない。したがって、平成20年3月31日以前の見積りに係る特定シャッターの売上げであっても、同年4月1日以降の引渡しに係る特定シャッターの売上げであれば、課徴金の計算の基礎となるというべきである。
ウ 「原告三和Sが見積りを提示することなく行った取引を課徴金算定の基礎に含めることの誤り」に対して
前記イのとおり、全国合意の対象商品の範ちゅうに属する商品は、「4月1日見積分からの特定シャッター」ではなく「特定シャッター」であるから、見積価格を提示しないで取引される特定シャッターの取引の売上額も課徴金算定の基礎となるというべきである。
エ 「改正前施行令5条1項の引渡基準によって課徴金を算定することの誤り」に対して
本件審決の判断(後記第4の3(5)イ)のとおり、原告三和Sに対する全国課徴金納付命令が引渡基準によって課徴金の計算の基礎となる売上額を算定したことは適法である。
原告三和Sは、東燃ゼネラル事件高裁判決は、引渡基準によった場合の対価の合計額と契約により定められた対価の額の合計額との間に著しい差異が生ずる蓋然性の存否の判断において、契約から引渡しまでの期間の長短よりも時期による発注量や価格の変動要因があることを重視していると主張するが、同判決は、納期がおおむね2か月ないし3か月と相当の期間であることを認定した上で、これに期間ごとに発注量を大きく変動させる要因があること、単価自体も相当に変動し得るものであること、実際にも変動していること等を併せ考慮しているのであり、原告三和Sの主張は当たらない。また、同判決で認定された納期はおおむね2か月ないし3か月であるが、本件の軽量シャッターの納期は長くて1か月であるから、上記判決と本件とでは事実関係が異なる。そして、特定シャッターの取引においては、近畿地区における特定シャッター等の取引のように、地理的範囲、物件の金額が限定されるため平準化されないという事情を認定するに足りる証拠はない。
また、原告三和Sは、本件審決が、全国合意による競争の実質的制限の有無を判断する際には、製品の引渡しによって計上される売上金額ではなく、顧客との契約締結による受注金額を基準とした認定を行っていると主張・指摘するが、本件審決は、特定シャッターの出荷数量に占める3社のシェアが極めて高いことを重視して、全国合意による競争の実質的制限を認定したものであり、受注金額を殊更重視したものではない。また、このことと課徴金の計算の基礎となる売上額の算定において引渡基準を適用することとは、直接の関係がない。なお、仮に製品の引渡しによって計上される売上金額によりシェアを計算したとしても、3社に匹敵するシャッターの製造業者が存在しないから、上記シェアと大きく異なるものになるとは考えられない。
オ 「本件審決における課徴金の減額に関して見直しを要すること」に対して
原告三和Sに対する全国課徴金納付命令において引渡基準を適用することは適法であるから、原告三和Sの主張は前提を欠いている。
4 近畿課徴金納付命令の適法性に関する原告三和らの主張及び被告の反論
(1) 原告三和Sの主張
ア 近畿合意に基づく違反行為が改正前独禁法7条の2第1項1号の「商品」の対価に係るものではないこと
近畿合意が同法7条の2第1項1号にいう「商品」の対価に係るものとされているが、シャッターの取引は販売ではなく請負であるから、法令の適用を誤っている。
イ 近畿合意に基づく実行期間の始期の認定の誤り
本件審決は、原告三和Sの近畿合意の実行期間の始期を、①原告三和Sが原告三和Hのシャッター事業を承継し、②近畿合意の存在とそれに基づく調整結果を認識・認容しながら同日に複数の物件を受注し、自らが受注予定者になっていなかった物件について営業活動の自粛を開始した平成19年10月1日であると認定する。
しかし、原告三和Sと原告三和Hとは法人格が異なるから、原告三和Hの違反行為が当然に原告三和Sに引き継がれるものではない。また、実行期間の始期である「当該行為の実行としての事業活動を行った日」(改正前独禁法7条の2第1項)とは、違反行為に基づいてその実行としての事業活動が開始された日を指し、事業者内部の準備行為だけでは足りず、違反行為の内容を実施に移す何らかの外部的な事業活動が行われることが必要である。本件審決は、原告三和Sがどの物件について、いつ、どのように営業活動を自粛したかに触れておらず、それに関する証拠もないから、証拠に基づかない不合理な認定である。
原告三和Sの近畿合意に基づく実行期間の始期は、原告三和Hから近畿地区における特定シャッター等の製造業を承継した上で、近畿合意に基づき、①原告三和Sが近畿地区における特定シャッター等を最初に受注した日である平成19年11月22日であり、仮にそうでなくとも、②同月4日に近畿合意に係る会合が初めて開かれた後、原告三和Sが顧客に最初に見積りを提示した同月16日である。
したがって、上記実行期間の始期以前に契約された取引案件は、原告三和Sに対する近畿課徴金納付命令の課徴金算定の基礎から除外されるべきである。
ウ 近畿合意に基づく受注調整等の対象外の取引案件の売上を課徴金算定の基礎に含める認定の誤り
本件審決は、以下の3物件が近畿合意に基づく受注調整の対象であったものとして、その売上げを課徴金算定の基礎に含めているが、これらはいずれも対象外であったから、課徴金算定の基礎から除外されるべきである。
① ≪物件名略≫[審決案別表1-1物件番号4](別紙「近畿合意に基づく受注調整の有無についての判断」第1の1)
② ≪物件名略≫[審決案別表1-1物件番号36](同別紙第1の2)
③ ≪物件名略≫[審決案別表1-1物件番号64](同別紙第1の3)
(2) 原告三和Hの主張
ア 近畿合意に基づく違反行為が改正前独禁法7条の2第1項1号の「商品」の対価に係るものでないこと
原告三和Hが「特定シャッター等の製造業を営んでいた」とされ、近畿排除措置命令に係る違反行為が同法7条の2第1項1号にいう「商品」の対価に係るものとされているが、シャッターの取引は販売ではなく請負であるから、法令の適用を誤っている。
イ 近畿合意に基づく実行期間の始期の認定の誤り
(ア) 本件審決は、原告三和Hの近畿合意の実行期間の始期を、最初に原告三和Hと原告文化及び原告東洋との間で受注予定者の決定(受注予定者以外は営業活動を自粛する協力)が行われた平成19年5月16日であると認定する。
しかし、ある物件の受注予定者を決定したことと、その決定に基づいて現に受注予定者以外の者がその物件について営業活動を自粛したこととは別個の事実である。違反行為に基づいてその実行としての事業活動が開始されたというためには、事業者内部の準備行為だけでは足りず、違反行為の内容を実施に移す何らかの外部的な事業活動が行われることが必要であるところ、受注予定者の決定と営業活動の自粛とを同一視することは、違反行為の当事者間で合意が成立すれば即時に対外的な事業活動がなされたとみなすものにほかならず、不当である。本件審決は、原告三和Hがどの物件について、いつ、どのように営業活動を自粛したというのかについては一切触れられておらず、このような認定は証拠に基づかず、失当である。
(イ) 原告三和Hの近畿合意に基づく実行期間の始期は、近畿合意に基づき、上記(ア)の受注予定者の決定を前提として、原告三和Hが顧客に対して最初に見積りを提示した日である同年6月14日とすべきである。
したがって、原告三和Hに対する近畿課徴金納付命令の課徴金算定の基礎から、同年5月16日から同年6月13日までの間に契約された案件を除外するべきである。
ウ 近畿合意の対象外の取引案件の売上を課徴金算定の基礎に含める認定の誤り
本件審決は、次の物件が、近畿合意に基づく受注調整の対象であったものとして、その売上げを原告三和Hに対する近畿課徴金納付命令の課徴金算定の基礎に含めているが、この物件は受注調整の対象外であったから、課徴金算定の基礎から除外されるべきである。
≪物件名略≫ [審決案別表1-4の番号15](別紙「近畿合意に基づく受注調整の有無についての判断」第2)
(3) 被告の反論
ア 「近畿合意に基づく違反行為が改正前独禁法7条の2第1項1号の「商品」の対価に係るものではないこと」(原告三和ら関係)に対して
前記3(2)アと同様である。
イ 「近畿合意に基づく実行期間の始期の誤り」(原告三和S関係)に対して
(ア) 本件審決の判断(後記第4の4(3)イ)のとおり、原告三和Sの近畿合意に基づく実行期間の始期は、原告三和Sが、原告三和Hのシャッター事業を承継し、原告三和Hによる近畿合意の存在とこれに基づく受注調整の結果を認識、認容して、物件を受注し、また、受注予定者とされていない物件について、建設業者に対する営業活動の自粛を開始した日である、平成19年10月1日である。
(イ) 近畿合意の内容が、3社間で受注予定者を決定し、受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるように協力することである以上、協力の内容としては、建設業者に対する営業活動を自粛するという不作為も当然に含まれる。したがって、いつ、どのように営業活動を自粛したのかなどという事実は必ずしも特定する必要はない。また、原告三和Hの「≪B5≫」(後記第4の2(1)ア)は、個別物件についてそれぞれ受注予定者以外の者は受注活動を自粛して受注予定者に協力した旨供述している。
ウ 「近畿合意の対象外の取引案件の売上を課徴金算定の基礎に含める認定の誤り」(原告三和S関係)に対して
本件審決の判断(別紙「近畿合意に基づく受注調整の有無についての判断」の第1)のとおり、原告三和Sが近畿合意の対象外であったと主張する取引案件については、近畿合意に基づく受注調整が行われた。
エ 「近畿合意に基づく実行期間の始期の認定の誤り」(原告三和H関係)に対して
原告三和Hは、同社の近畿受注調整における実行期間の始期は受注予定者の決定を前提に顧客に対して最初に見積りを提示した平成19年6月14日であるから、同年5月16日から同年6月13日までの間に契約された案件については近畿課徴金納付命令(原告三和H関係)の課徴金算定の基礎から除外されるべきであるなどと主張する。
しかし、これらの案件も受注調整がされていたのであり、本件審決の判断(後記第4の4(3)イ)のとおり、原告三和Hの実行期間の始期は、近畿合意に基づき最初の受注予定者の決定が行われた平成19年5月16日である。
オ 「近畿合意の対象外の取引案件の売上を課徴金算定の基礎に含める認定の誤り」(原告三和H関係)に対して
本件審決の判断(別紙「近畿合意に基づく受注調整の有無についての判断」の第2)のとおり、≪物件名略≫について近畿合意に基づく受注調整が行われたことは明らかである。
第4 当裁判所の判断
1 本件訴訟の審理・判断方法について
本件審決取消訴訟の審理・判断について、公正取引委員会の認定した事実は、これを立証する実質的な証拠があるときには、裁判所を拘束し(改正前独禁法80条1項。実質的証拠の原則)、実質的な証拠の有無は、裁判所が判断する(同条2項)。したがって、裁判所は、審決の認定事実については、独自の立場で新たに認定をやり直すのではなく、審判で取り調べられた証拠から当該事実を認定することが合理的であるかどうかの点のみを審査し(最高裁昭和46年(行ツ)第82号同50年7月10日第一小法廷判決・民集29巻6号888頁参照)、法令の解釈適用の当否については、これを全面的に審査することとなる。
以下、これらの観点から、検討する。
2 全国排除措置命令の適法性について
(1) 本件審決の認定事実(全国合意の基礎となる事実)
本件審決において、当事者間に争いのない事実及び各末尾記載の証拠によって認定された事実の要旨(当裁判所が、全国合意の存否に関連性のあると判断した本件審決の認定事実の要旨)は、以下のとおりである。
ア 近畿地区における受注調整等(ただし、本件審決においては近畿排除措置命令の認定事実。なお、近畿排除措置命令に対し、原告三和らは審判請求をせず、原告文化及び原告東洋は取消訴訟を提起しなかった。)
原告三和Hの≪B5≫(以下「≪B5≫」という。)、原告文化の≪C2≫及び原告東洋の≪D4≫は、平成19年5月当時、それぞれ各社の近畿地区のゼネコンを担当する支店の支店長であったところ、同月9日に会合を開き、受注価格の低落を避けるため、各社が受注を希望する近畿地区の積算価格5000万円以上のシャッター工事に係る各案件を対象として、当該案件についての各社の営業上の優位性により受注予定者を決定し、他社は、ゼネコンからの見積依頼に対して、受注予定者の見積額を下回る金額を提示しないことを合意(近畿合意)した。
原告らは、近畿合意に基づき、同月16日から平成20年7月23日までの間(原告三和Hは平成19年9月30日まで、原告三和Sは同年10月1日以降)、毎月1回程度、近畿地区のゼネコンを主たる取引先とする支店の支店長級の者らによる会合を行い(以下「支店長級会合」という。)、各社が受注を希望する積算価格5000万円以上の案件の見積依頼の状況と、当該案件についての施主、設計事務所及び発注者に対する営業活動の実績等の営業上の優位性を主張し合って、最も優位性のある業者を受注予定者に決定していた。受注予定者は他社に当該案件の見積価格等を連絡し、他社は当該案件への営業活動を自粛し、あるいは、受注予定者より高額な見積価格を提示するなどした。平成20年7月23日を最後に定期的な会合は行われなかったが、同年11月19日に前提事実(9)の立入検査が行われるまでは上記合意が存続し、これに基づく受注調整が電話連絡等を通じて行われた。
(査93、94、102、104~106、116、123~131、133、137、138、141、414、441、444)
イ 本件会合の参加者の地位等
(ア) 原告三和Hの≪B1≫は、平成19年10月1日から平成20年4月1日までの間、国内事業部門担当の取締役専務執行役員として、主に傘下の事業会社である原告三和S等の経営管理を担い、原告三和Sの価格政策に係る業務にも携わっていた(査18、24、27、62、176、186、359、審A49)。
(イ) 原告文化の≪C1≫は、平成17年4月、営業部門を統括する常務取締役に選任され、原告文化のシャッター等の販売企画、営業促進、販売及び施工に関する総責任者となり、平成19年4月には、取締役専務執行役員営業担当に就任した(査363)。
(ウ) 原告東洋の≪D1≫は、平成19年4月、営業本部長兼東日本営業ユニット長の役職に就き、同社の営業活動関係全般を統括し、平成20年4月、同役職を外れて営業本部管掌の取締役となった(査371、審C11)。
ウ 本件会合に至る経緯
(ア) 鋼材価格の上昇
特定シャッターの原材料である鋼材の価格が、平成19年10月頃から上昇し、さらに、平成20年2月下旬、複数の鋼材メーカーが同年4月以降の鋼材価格の大幅な値上げを発表したため、3社は、シャッター事業での利益を確保するために、鋼材価格の値上がり分を需要者に転嫁することを検討せざるを得ない状況にあった(争いのない事実)。
(イ) 平成19年10月及び平成20年1月の会食
≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫は、平成19年10月12日、≪事業者E≫の社長の企画した会食に参加した。その際には、鋼材価格の上昇が話題になったほか、ゼネコンからの値引き要求に対して対応を要する状況にある旨の話がされた。(査4~7)
また、≪B1≫及び≪C1≫は、平成20年1月30日、両名が出席していた会議の終了後、二人で食事をしたが、その際にも、鋼材価格の上昇が話題になったほか、ゼネコンによる極端な値引きがされた赤字物件の受注を回避すべきである旨の話がされた(査5、10)。
(ウ) 南関東地区の営業責任者による会合等
こうした中、≪C1≫は、ゼネコン向けのシャッターの受注価格低落防止に向けた話合いをするために、3社の南関東地区の営業責任者で顔合わせをすることを提案し、≪B1≫及び≪D1≫は、これに同意した。(査5、6、審A169、審B205)。
≪C1≫は、原告文化の特販支社長である≪C4≫(以下「≪C4≫」という。)に、原告三和S及び原告東洋から情報を得た南関東地区におけるゼネコン関係の営業部署の責任者との話合いを指示した。≪C4≫は、当該行為が違法なものであることを理由に一旦断ったが、再度指示されたため、原告三和Sの東日本カンパニービル建材部門ゼネラルマネージャーの≪B7≫及び原告東洋の東京ビル建支店長の≪D7≫と、平成20年2月27日に会合をもった。この3名による会合は、同年9月までの間に合計5回実施され、同年6月の3回目の会合からは≪事業者A≫の担当者も加わった。(査8、11、12)
エ 本件会合の状況
≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫は、平成20年3月5日、東京都内の飲食店において、3人のみで本件会合を開いた。
本件会合では、鋼材価格の上昇が話題となり、3人のうちのいずれかが、鋼材価格の上昇に対応するためには、シャッター等の販売価格も引き上げなければならない旨の発言をした。≪B1≫は、シャッター等の販売価格の引上げについて「10パーセントくらいは欲しいですよね。」などと述べ、≪C1≫及び≪D1≫もこれに反対することなく、「そうですよね。」などと回答した。その上で、≪C1≫は、販売価格の引上げの方法について、「見積書で提示する価格を上げないとどうしようもないでしょう。」などと述べ、≪D1≫も、積算価格(なお、同人は、これを「見積価格」と称している。)の引上げにより販売価格を引き上げる旨の意向を示した。
また、≪C1≫は、原告文化としてはシャッター等の販売価格の引上げに当たり新聞発表をする旨述べたところ、≪B1≫も、これに賛同し、原告三和Sとしても新聞発表をすると思うなどと述べた。
その際、シャッター等の販売価格の引上げ時期は明言されなかったが、シャッター業界では事業年度の開始日が4月1日であり、通常この時期に価格改定がされていたこと、鋼材価格の値上げが平成20年4月1日であったことから、同日からの引上げが共通の認識となっていた。(査10、51、53~57)
オ 原告三和Sにおける社内通達の発出、製品値上げの新聞発表等
(ア) 社内通達の発出等
a 原告三和Sは、平成20年2月21日の時点で、軽量シャッターについて、平米単価の販売価格引上げ目標額を地域別に378円から610円などとすることを検討していた。しかし、親会社である原告三和Hの役員によるヒアリングの際、原告三和Hの社長である≪B8≫や≪B1≫から、引上げ額が不十分である旨の意見が述べられ、また、同月23日に鋼材価格の値上げの影響が従前の予測額10億円を上回る33億円と見込まれることが報告されるなどしたため、引上げ目標額の再検討が必要になった。(査19、23の1、24、27、28)
b 原告三和Sは、平成20年3月3日、シャッターPM会議販売部会を開催し、同会議において、その事務局を務める≪B9≫が提案した下記の軽量シャッターの平米単価引上げ目標額により価格引上げを進めることとされた。(査25、176)
① バランス(軽量手動シャッター) ,
全国:1000円(地域別:800円~1200円)
② サンオート(軽量電動シャッター)
全国:2000円(地域別:1500円~2500円)
③ ブロード(軽量電動シャッター)
全国:2000円(地域別:1500円~3000円)
c 原告三和Sの事業企画部長である≪B2≫は、社長の≪B4≫から同社全取扱商品の販売価格引上げについての社内通達案の作成を指示され、≪B9≫と相談しながら、平米単価引上げ目標を、バランスは1000円、サンオート、ブロード及び重量シャッターは2000円とすることを検討したが、最終的に≪B4≫の決裁を受けて発出された社長名義の平成20年3月14日付け社内通達(以下「3月14日付け通達」という。)においては、シャッターの単価引上げ目標を上記平米単価引上げ目標額以上とする旨、及び最後に「平均目標アップ率 10%」との記載が追加された。なお、上記平米単価引上げ目標額は、平成19年第3四半期の販売実績に対し、軽量バランスの1000円は8.8パーセント、サンオート及びブロードの2000円は7.0パーセント、重量シャッターの2000円は5.8パーセントである。(査16、26の2、60、審A52、81)。
d 原告三和らにおいて、平成20年3月28日に開かれたグループ会社全体の会議では、販売価格引上げに向けて、営業所課長が需要者に提出する前に見積額の単価・差益率をチェックして事前に承認することや、積算乗率を遵守すること、NET掛率を引き上げることなどを、各営業所で「共通実施項目」として取り組むべきことを報告した(審A87~89)。
e 原告三和Hの≪B10≫は、原告三和Sの事業戦略本部長に就任して、≪B1≫が担当していた原告三和Sの価格政策等の業務を引き継ぎ、平成20年4月1日、「販売価格アップ実施の件」と題する社内通達を発出した。≪B10≫は、同通達において、3月14日付け通達と同額の商品別の目標引上げ単価が記載された資料とともに、上記dの「共通実施項目」が記載された資料を添付して、営業部門に販売価格引上げをやり遂げるべきことを指示した。(査62、審A49、91)
f ≪B10≫は、平成20年4月11日、原告三和らの第三次3ヵ年・2008年度計画必達決起大会において、原告三和Sの平成20年度の目標を発表し、「サービスとQCDを向上させ強い決意で売価UPをやり抜く(計画差益率の確保)(単価:10%UP)」との標語を掲げ、営業員は、「販売価格10%UPでの値決め交渉の徹底実施」を図ること、「全見積現場の売価UPベースでのNET提示」、「販売価格10%UPでの値決め、契約」などを実施すべきものとした(査62、審A94)。
g ≪B10≫は、平成20年4月18日付けの各支店長、営業所課長に宛てた通知文書において、「販売価格の10%UP」を絶対にやり遂げなければならないと指示するとともに、顧客別、営業員別に、見積価格や取引価格の10パーセント引上げがされているかを確認するために「売価アップCA表」を作成することを求め、また、上記cの平米単価目標額は最低限の目標であり、販売価格の10パーセント引上げが目標であることを強調した。(審A97)
h 原告三和Sは、平成20年4月23日、社内会議を開催し、同会議では、平成20年度上期において、見積価格の10パーセント引上げ、取引価格が10パーセント引き上げられているかの精査等を日々実施し、販売価格の10パーセント引上げを実現することを指示した。また、軽量シャッターの単価引上げ目標額を、軽量バランスは1000円から1200円に、サンオートは2000円から2760円に増額し、10パーセントアップを目標とすることを明示した。(審A98)
(イ) 製品値上げの新聞発表
a ≪B1≫は、平成20年3月3日、原告三和Sの社内会議において、鋼材価格の高騰を売価に反映させるため、新聞紙上等で値上げの告知をすることを検討している旨述べていたが、本件会合(同月5日)後の同月6日又は7日頃、原告三和Hの事業戦略部広報課長である≪B11≫(以下「≪B11≫」という。)に対し、値上げについて建設関係の新聞に載せた方が良いのではないかと指示した(査57、58、審A77)。
b ≪B11≫は、原告三和Hの企画管理部長である≪B3≫に確認しながら、原告三和Sの各製品の値上げについて、値上げ額と値上げ率を記載した新聞発表案を作成した。その案の段階では、値上げ額は、下記のとおり、前記(ア)bの平米単価目標額に更に上乗せした金額であり、また、値上げ率は「※平均アップ率:10%程度」と併記されていた。(査58、192)
① 軽量シャッター:値上げ額1500円~2500円/㎡
値上げ率10パーセント前後
② 重量シャッター:値上げ額2500円/㎡
値上げ率8パーセント前後
c 原告三和Hは、平成20年3月25日、原告三和Sがシャッターなどを同年4月1日受注分から値上げする旨の新聞発表をし、翌日の新聞にその記事が掲載された。実際の発表文書では、上記bの値上げ額が記載されたが、値上げ率は記載されなかった。また、報道対応時には、平均値上げ率が6パーセント程度になる旨を口頭で発表した。(査192、審A170、175~179)
カ 原告文化における社内通達の発出、製品値上げの発表等
(ア) 原告文化は、平成20年1月15日、常務会を開催し、鋼材価格等の高騰を踏まえて、同年4月1日以降、軽量手動シャッターで5パーセント、重量シャッターで3パーセント仕切価格を引き上げることを承認した。そして、同年2月20日頃、仕切価格の引上げを踏まえて、全製品5パーセント販売価格を引き上げる旨の顧客宛文書を作成したが、同年2月下旬ないし3月初め頃、鋼材価格の更なる値上げが判明したため、この文書を配布しなかった。(査40~42、45、審B188)
(イ) ≪C1≫は、本件会合の翌日である平成20年3月6日に開催された原告文化の特販支社拡大幹部会議において、シャッターの販売価格を10パーセント引き上げる旨を表明するとともに、「文化、三和で文章を作り社会に訴えていく。」として、原告文化及び原告三和Sが、値上げの新聞発表をする旨述べた(査10、44、63、65)。
(ウ) 原告文化は、平成20年3月18日、同年4月1日受注分から、各種シャッターについて、販売価格の10パーセントから15パーセントの引上げを実施する旨の新聞発表をした(査68、69)。
(エ) ≪C1≫は、平成20年3月25日に開催された原告文化の支社長会議において、同年4月以降、軽量シャッター及び重量シャッターの販売価格を10パーセント引き上げる方針を示した(査69~71)。
(オ) 原告文化は、平成20年3月27日付けで、≪C1≫を発信者とする「平成20年度 鋼材等原材料価格値上がりの対応について」と題する社内通達(営業担当役員連絡)を発出した。同通達では、全販売部門に対し、同年4月から、全製品について、販売価格の5パーセントから20パーセントの引上げ及び積算価格の10パーセントから15パーセントの引上げを実施すること、シャッターの積算掛率を現行のエリア水準の110パーセントに引き上げて積算価格を改定することが指示された。また、同通達に添付された顧客宛文書では、各種シャッターの価格引上げ率は、10パーセントから15パーセントとされていた。(査72)
(カ) ≪C1≫は、営業部門を統括する役員に就任した平成17年度から平成19年度までは、営業企画部の提案を踏まえて積算価格及び販売価格の引上げ内容を決定し、これを営業担当役員連絡として社内に発出していたが、平成20年度の営業担当役員連絡(上記(オ))では、営業企画部の提案によらず、自ら目標となる数字を示して値上げを指示した(査46)。
(キ) ≪C1≫は、平成20年4月25日、原告文化の市場開拓部会議において、10パーセントの売価アップは至上命題である旨発言した(査341)。
キ 原告東洋における製品値上げの指示等
(ア) 原告東洋は、平成19年12月頃から平成20年1月頃、鋼材価格の値上げを受けて、シャッター等の仕切価格の値上げの検討を開始し、同年2月下旬、生産本部長から副社長に対し、仕切価格の5パーセント程度を引き上げたい旨が伝えられた(査48、74、争いのない事実)。
(イ) 原告東洋は、平成20年2月18日、≪D1≫の指示により、仕切価格引上げを考慮した積算価格の検討を開始した(査47~49)。
(ウ) 原告東洋は、平成20年3月10日に開催された本部長打合せにおいて、シャッター等の仕切価格の5パーセント引上げを事実上決定し、営業本部において、その仕切価格の値上げ分をどのように販売価格へ転嫁するかの基本方針をまとめることにした(査48、73、75)。
(エ) ≪D1≫は、平成20年3月17日に開催された営業本部会議において、同年4月以降のシャッターの積算価格を10パーセント引き上げることを示し、「販売価格の目標はテンパー、つまり、10パーセントとする。」などと発言した。なお、この会議では、鋼材価格を含むコストアップを踏まえると、シャッターについて4.8パーセントの価格引上げが必要であるとする資料が配布された。(査74の2、78、79、401)
(オ) 原告東洋は、平成20年3月25日、支店や営業所の営業部門に対し、シャッターの積算価格を10パーセント程度引き上げることを目的として、同年4月1日以降、本体価格の提出率(積算価格を算出するための掛率)を160パーセント、取付工事費等については140パーセントとする通達を発出した。なお、見積価格を提示済みのものの値上げは困難であるとの判断により、値上げは同日見積分からとした。この際、原告東洋の営業本部は、各支店、営業所に対して、飽くまでも販売価格を10パーセント引き上げることを目標とするよう伝えていたものであり、約4.8パーセントの販売価格引上げによって仕切価格引上げ分を吸収できるとの説明はしなかった。(査81、82、84)
(カ) 原告東洋では、平成20年4月7日に開催された経営会議において、社長又は副社長から、シャッター等の販売価格の引上げ目標を10パーセントとする旨の意向が示された(査402)。
(キ) 原告東洋は、平成20年4月、社長の指示により、シャッター及びその他商品の販売価格10パーセント引上げを目標とした場合の契約価格等の上昇を分析した資料を作成した。同資料では、平成20年度のシャッターの月ごとの契約金額、売上金額の値上げ率は、最大6パーセントと想定されていた(査75)。
(ク) 原告東洋の営業本部は、平成20年5月7日に開催された本部長打合せで、「値上げ10%を目標とし、年度内に5%は確実にやりとげる。」と報告した(査74)。
ク 原告らの各支店、営業所の営業活動
(ア) 原告三和Sについて
原告三和Sの各支店、営業所は、前記オの販売価格引上げに関する本社からの指示を受けて、各通達の平米単価目標額を用いたり、積算乗率を引き上げたりするなど、それぞれの実情に応じて独自に実施方法を定め、販売価格引上げに向けた営業活動をした(査167、170、178、179、189、197、199~202、審A150~152、154~163)。
(イ) 原告文化について
原告文化の各支店、営業所は、前記カの販売価格引上げに関する本社からの指示を受けて、それぞれの実情に応じて、顧客に提示する積算価格、見積価格を引き上げるなどして、販売価格の引上げに向けた営業活動をしたが、積算掛率の引上げを実施しない支店及び営業所もあった(参考人≪C5≫、参考人≪C6≫、査70、72、169、181、182、198、203~209)。
(ウ) 原告東洋について
原告東洋の各支店、営業所は、前記キ(オ)の通達を受けて、それぞれの実情に応じて、同通達どおりに提出率を上げて積算価格を10パーセント引き上げるなどの方法により、値上げに取り組んだが、同通達と異なる方法で積算価格を値上げした支店もあり、また、従前の提出率が支店によって異なるため、値上げ幅は各支店、営業所によって異なっていた(査86~92、183、184、210~215)。
ケ 現実の値上げの状況
(ア) 原告三和Sについて
原告三和Sにおいては、平成20年9月頃、同年度上期(同年4月ないし9月)のシャッターの平米単価が、前年度及び前年度下期より上昇する見通しである旨報告され、同年12月の社内会議資料でも、同年10月及び11月の各商品の平米単価が同年度上期と比較して引き上がった旨の記載がされていた(査352、418、審A105、106)。
原告三和Sの受注実績に基づく同年4月1日から同年11月18日の軽量シャッター、重量シャッターの平米単価は、平成19年度通年と比較していずれも上昇しており、重量シャッターの差益率も上昇していた(査428、審A51)。
(イ) 原告文化について
原告文化においては、平成20年7月頃の社内会議で、同年度第1四半期(同年4月ないし6月)の軽量及び重量シャッターの販売価格が前年同時期よりも引き上がっている旨報告された。同年10月24日の支社長会議では、社長が、平成20年度上期(同年4月ないし9月)の業績について、前年度同時期と比べて、シャッターを含む商品の販売価格を引き上げることができた旨述べた。(査417、419)
また、原告文化の受注実績に基づく同年4月1日から同年11月18日の軽量シャッター、重量シャッターの平米単価は、平成19年度通年と比較していずれも上昇していた(査429)。
(ウ) 原告東洋について
原告東洋の受注実績に基づく平成20年4月1日から同年11月18日の軽量シャッター、重量シャッターの平米単価は、平成19年度通年と比較していずれも上昇していた(査420)。
(2) 本件審決の認定事実(上記(1))の実質的証拠の有無
ア 当裁判所も、上記(1)の本件審決の認定事実(全国合意の基礎となる事実)は、当事者間に争いのない事実及び上記(1)の各認定事実末尾記載の証拠によって認定できるものであり、経験則違反や不合理な認定はないから、実質的な証拠があるものと判断する。
イ これに対し、原告ら3社はこれらの外形的な事実をおおむね争わず(ただし、3社が本件会合における会話の内容を争い、原告三和Sは≪B1≫が同社の値上げに指示をする立場にないと争うなど、一部の事実に争いがある。)、その評価を巡って実質的な証拠がない旨を種々主張するが、これらの主張に対する判断は、後記(4)ウのとおりである。
(3) 本件審決の認定・判断
全国合意を内容とする不当な取引制限に関して、上記(1)の本件審決の認定事実(全国合意の基礎となる事実)を踏まえた本件審決の認定・判断は以下のとおりである。
ア 全国合意を内容とする意思の連絡
(ア) 独禁法2条6項の「共同して」に該当するというためには、複数事業者が対価を引き上げるに当たって、相互の間に意思の連絡があったと認められることが必要であると解されるが、ここでいう意思の連絡とは、複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があることを意味し、一方の対価引上げを他方が単に認識、認容するのみでは足りないが、事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りると解するのが相当である。
そして、その判断に当たっては、対価の引上げがされるに至った前後の諸事情を勘案して事業者の認識及び意思がどのようなものであったかを検討し、事業者相互間に共同の認識、認容があるかどうかを判断すべきであるところ、特定の事業者が、①他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をして、②同一又はこれに準ずる行動に出たような場合には、③その行動が他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められない限り、これらの事業者の間に、協調的行動をとることを期待し合う関係があり、意思の連絡があるものと推認されるというべきである(東京高裁平成6年(行ケ)第144号同7年9月25日判決・公正取引委員会審決集第42巻393頁参照(以下「東芝ケミカル事件高裁判決」という。)。
(イ) 本件会合での対価引上げ行為に関する情報交換
本件会合は、シャッター事業の大手である3社において平成20年4月以降の鋼材価格の値上げに伴いそれぞれシャッター等の販売価格の引上げを実施することを検討していた時期に、各社の営業部門を統括する役員級の者(原告三和Sの親会社である原告三和Hの≪B1≫、原告文化の≪C1≫及び原告東洋の≪D1≫。ただし、≪B1≫は原告三和Hにおいて、同社傘下の子会社の経営管理を担う役員級の者)が、飲食店において、これら3人のみを出席者として開いたものであった。
≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫は、本件会合において、鋼材価格の値上げに対応して、シャッター等の値上げをせざるを得ないという認識を確認しながら、≪B1≫が10パーセントは値上げしたい旨発言したところ、≪C1≫及び≪D1≫もこれに反対することなく、共に値上げを実施することを前提として、積算価格を引き上げることにより値上げを実施するという方法や、あらかじめ値上げの実施を新聞発表するかなどについても情報交換をしていたものであり、これらによると、本件会合では、単なる世間話にとどまらず、相互にシャッター等の対価引上げを実施することに関する情報交換がされたものと認められる。
(ウ) 事後の行動の一致
a 本件会合後の原告三和Sの行動
原告三和Sは、本件会合以前には、平成20年4月1日以降の特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントとすることを検討していなかったが、本件会合後の3月14日付け通達では、商品を限定することなく、「平均目標アップ率 10%」と記載されていることから、特定シャッターを含む全商品についての平均目標アップ率が10パーセントと定められたと認められる。
そして、同年4月11日の決起大会の資料には、目標として、販売価格の10パーセント引上げが明記され、「全見積現場の売価UPベースでのNET提示」、「販売価格10%UPでの値決め、契約」など、個別契約において取り組むべき事項が記載されている。同月23日の会議でも、契約書の金額が10パーセント引き上げられているかを日々精査するなどとされている。これらからすると、原告三和Sでは、特定シャッターの個別契約の販売価格について、10パーセントの引上げが指示されていたと認められる。
b 本件会合後の原告文化の行動
原告文化は、本件会合以前には、シャッターについて5パーセント程度の値上げを検討したものの、鋼材価格の更なる値上げの発表によって再検討を迫られていたところ、≪C1≫が本件会合の翌日である平成20年3月6日の社内会議でシャッターの値上げ率を10パーセントとする旨述べ、その後、同月18日の新聞発表、同月25日の支社長会議、同月27日の社内通達、同年4月25日の会議においても、販売価格の引上げ目標について、一定の幅を持たせながらも一貫して10パーセントとすることを表明していたと認められる。
また、原告文化は、本社においてシャッターにつき販売価格10パーセントの引上げ目標を定めるとともに、各支店、営業所に対し、積算価格の引上げという具体的な方法も指示し、≪C1≫は社内会議において10パーセントの売価アップは至上命題である旨発言した。
c 本件会合後の原告東洋の行動
原告東洋では、本件会合以前に、シャッターの販売価格の引上げを検討してはいたが、具体的な引上げ率までは示されていなかった。
他方、本件会合後、≪D1≫は、平成20年3月17日の社内会議で同年4月以降のシャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントとすることを示し、また、原告東洋は、同年3月25日、各支店、営業所に対し、同年4月1日から積算価格を10パーセント引き上げることを目的とした通達を発出するとともに、販売価格を10パーセント引き上げることを目標とするように伝え、同月以降の会議においても、シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントとする旨の発言、報告がされた。
d 事後の行動の一致(小括)
上記aからcによれば、3社は、いずれも、本件会合以前は特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントと設定していなかったにもかかわらず、本件会合後に、特定シャッターについての販売価格の引上げ目標を10パーセントと定め、それぞれ上記目標を各支店、営業所に示して販売価格引上げの指示をしたのであるから、特定シャッターの販売価格について、現行価格より10パーセントを目途として引き上げるとの同一の行動に出たものと認められる。
(エ) 3社の値上げ行動が独自の判断によって行われたことを示す特段の事情は認められない。
(オ) 全国合意の推認
a 以上のとおり、①3社間で、シャッター等の販売価格について10パーセントを目途として引き上げる等の対価の引上げ行為に関する情報交換が行われ、②3社は、それぞれ本社において平成20年4月1日以降の特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントと定め、販売価格の引上げに向けた営業活動をするという同一の行動をとったものと認められるところ、本件会合以前は、3社とも、引上げ幅についての検討内容が異なっていたにもかかわらず、本件会合の後、本件会合で情報交換がされた内容と同じ「10パーセント」を目標としていたことは、不自然な一致というべきであり、③3社について、このような値上げに向けた行動が本件会合で情報交換がされた他の2社の行動とは無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情も認められないから、3社の間には、相互に特定シャッターの販売価格について、現行価格より10パーセントを目途として引き上げることを予測し、これと歩調をそろえる意思があったものと推認される。
b 値上げの時期に関して、本件会合では明言されていなかったが、当該合意は、同年4月1日以降に原材料である鋼材の値上げに伴い、シャッター製品の値上げを行うことを内容とするものであるところ、シャッター製品の値上げに当たっては、原則として、シャッター業者が提示した見積価格を前提として需要者との間で価格交渉を経るものであることから、3社においては、少なくとも同日見積分から値上げを行うとの合意があったものと推認される。
c したがって、3社には、全国合意を内容とする意思の連絡があったと推認される。
イ 全国合意による相互拘束
全国合意の成立により、本来各社において自由に決定されるべき3社の特定シャッターの販売価格の値上げ幅が、これに制約されて決定されることになり、3社が値上げ幅の目標を10パーセントと定めていることからしても、全国合意は3社の事業活動を拘束するものである。
ウ 全国合意による一定の取引分野における競争の実質的制限
(ア) 全国合意は、原材料価格の高騰という全国的な事情を背景としており、3社は、全国合意に基づき、本社から全国の各支店、営業所に対して値上げの指示をしているから、全国における取引を対象としていたと認められる。そして、全国合意は、特定シャッターの取引を対象としてその販売価格を引き上げるものであり、それにより影響を受ける範囲も同取引であるから、本件における一定の取引分野は、特定シャッターの販売分野であると認められる。
(イ) 平成19年4月から平成20年3月までの間における我が国の特定シャッターの出荷数量に占める3社のシェアが約92.8パーセントと極めて高いことからすれば、全国合意により、3社の意思で、特定シャッターの価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされていたといえ、我が国における特定シャッターの販売分野の競争機能が損なわれ、その競争が実質的に制限されていたと認められる。
エ 全国合意が公共の利益に反していること
全国合意は、「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」(独禁法1条)ものとは認められず、公共の利益に反している。
オ 全国合意を内容とする不当な取引制限
以上より、3社間には、平成20年3月5日頃、全国合意を内容とする意思の連絡があったものと認められる。そして、全国合意により、3社は、特定シャッターの需要者向け販売価格について、共同して、相互にその事業活動を拘束し、公共の利益に反して、特定シャッターの取引分野における競争を実質的に制限していたものであるから、これは、不当な取引制限に該当する。
(4) 全国合意を内容とする意思の連絡についての検討
ア 「共同して」の要件について
全国排除措置命令は、「3社が、共同して、平成20年3月5日頃、本件会合において、特定シャッターの需要者向け販売価格について、同年4月1日見積分から、現行価格より10パーセントを目途に引き上げる旨を合意すること」(全国合意)により、公共の利益に反して、我が国における特定シャッターの販売分野における競争を実質的に制限していたものであって、これは不当な取引制限に該当し、独禁法3条に違反するとするものである(前記第2の3(1)ア)。
独禁法2条6項の不当な取引制限としての「共同して…相互に(その事業活動を拘束し、又は遂行すること)」とは、本来公正かつ自由な競争(同法1条)においては各事業者が自由に決めるべき価格、品質、その他各般の事業活動に係る条件に関して、事業者らの間で一定の競争回避的な事業活動をすることを互いに認識し認容して歩調を合わせる意思の連絡を形成すること、例えば、その一定の競争回避的な事業活動が共同で対価を引き上げることである場合には、同内容又は同種の対価の引上げを実施することを互いに認識し認容して歩調を合わせる意思の連絡を形成したことが必要であり、かつ、それで足りるのであって、事業者相互間で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要なく、黙示的なもので足り、抽象的、包括的なものでもよく、実効性を担保する制裁等の定めがないものでも足りると解すべきである(最高裁平成22年(行ヒ)第278号同24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁(多摩談合事件最高裁判決)、最高裁昭和55年(あ)第2153号同59年2月24日第二小法廷判決・刑集38巻4号1287頁(以下「石油価格カルテル事件最高裁判決」という。)、東京高裁平成6年(行ケ)第144号同7年9月25日判決・公正取引委員会審決集42巻393頁(東芝ケミカル事件高裁判決)、東京高裁平成6年(行ケ)第80号同8年3月29日判決・公正取引委員会審決集42巻424頁[協和エクシオ談合事件])。
イ 全国合意を内容とする意思の連絡の存在について
本件審決は、全国合意を内容とする意思の連絡の存在について、東芝ケミカル事件高裁判決を参照して、特定の事業者が、①他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をして、②同一又はこれに準ずる行動に出たような場合には、③その行動が他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められない限り、これらの事業者の間に、協調的行動をとることを期待し合う関係があり、意思の連絡があるものと推認されるというべきであるという間接事実による認定方法を用いて認定している。すなわち、原告三和S、原告文化及び原告東洋の3社は、①本件会合での対価引上げ行為に関する情報交換をし、②本件会合後に3社が平成20年4月1日以降の特定シャッターの販売価格の引上げ目標を、従前検討していなかった10パーセントと定め、販売価格の引上げに向けた営業活動をするという同一の行動をとったこと、③3社について、この値上げに向けた行動が、本件会合とは無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められないことを理由として、3社の間には、相互に特定シャッターの販売価格について、現行価格より10パーセントを目途として引き上げることを予測し、これと歩調をそろえる意思があるものと推認されるなどとして、全国合意を内容とする意思の連絡を認めたものである(前記(3)ア(オ))。
なお、東芝ケミカル事件高裁判決を参照した上記の間接事実による認定方法は、多くの事案の事実認定において類型的に有用であるといえるものの、間接事実による認定は、この認定方法に限られるものでないことは当然である。不当な取引制限に係る意思の連絡は、事案によってその成立過程が様々に異なるものであり、また、これに参加する者はその証拠を残さないようにするなどその成立過程に関する証拠をあまねく収集することは困難であるから、事案に応じて、様々な間接事実を検討して、その成否を判断する必要がある。例えば、事前の対価引上げ行為に関する情報交換の立証が弱い場合であっても、他の重要な間接事実の存在によって、不当な取引制限の成立が認められる場合も十分考えられる。
以下、このような観点も踏まえて、全国合意を内容とする意思の連絡の存在について、その実質的な証拠があるかを検討する。
(ア) 本件会合での対価引上げ行為に関する情報交換について
a 本件審決は、「本件会合は、シャッター事業の大手である3社において平成20年4月以降の鋼材価格の値上げに伴いそれぞれシャッター等の販売価格の引上げを実施することを検討していた時期に、各社の営業部門を統括する役員級の者(原告三和Sの親会社である原告三和Hの≪B1≫、原告文化の≪C1≫及び原告東洋の≪D1≫。ただし、≪B1≫は原告三和Hにおいて、同社傘下の子会社の経営管理を担う役員級の者)が、飲食店において、これら3人のみを出席者として開いたものであった。」旨を認定している(前記(3)ア(イ))。
これらの事実は、本件審決の認定事実(前記(1)イ~エ、オ(ア)、カ(ア)、キ(ア)、(イ))によって認められる。
さらに、前提事実(前記第2の4(5)、(6))のとおり、3社は、いずれもゼネコンの値下げ要求によるシャッターの受注価格の低落という問題を抱えていた上、過去にも受注調整及び価格カルテルを行ったとして、公正取引委員会から勧告審決を受けており、また、遅くとも平成19年5月16日から平成20年11月18日までの間、近畿地区における特定シャッター等について受注調整の会合等をしており(その詳細は、本件審決の認定事実・前記(1)アのとおり)、南関東地区においても、平成20年2月27日から同年9月まで、各社の営業担当責任者級の者による会合を開くなどして、同地区におけるゼネコン向けのシャッターの販売価格やシャッター等に関するゼネコンの発注状況等について情報交換をしていた。しかも、上記の南関東地区における3社の営業担当責任者級の者による会合を開くことについては、≪C1≫が、ゼネコン向けのシャッターの受注価格低落防止に向けた話合いをするためとして提案し、≪B1≫及び≪D1≫がこれに同意することによって実現したものである(本件審決の認定事実・前記(1)ウ(ウ))。この会合においては、近畿地区におけると同様の受注調整に向けた協議が行われた(査12。原告東洋は、この事実を否認する主張をするが、後記ウ(ア)eのとおり、採用することができない。)。
このように、3社は、いずれもゼネコンの値下げ要求によるシャッターの受注価格の低落という問題を抱えていた上、平成19年10月頃から上昇していた鋼材価格が、更に平成20年4月以降大幅に値上げされることが同年2月下旬に判明し、これに伴いそれぞれシャッター等の販売価格の引上げを実施することを検討していた時期に、各社の営業部門を統括する役員級の者である≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫による本件会合が開かれたと認めることができる。
b 本件審決は、「≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫は、本件会合において、鋼材価格の値上げに対応して、シャッター等の値上げをせざるを得ないという認識を確認しながら、≪B1≫が10パーセントは値上げしたい旨発言したところ、≪C1≫及び≪D1≫もこれに反対することなく、共に値上げを実施することを前提として、積算価格を引き上げることにより値上げを実施するという方法や、あらかじめ値上げの実施を新聞発表するかなどについても情報交換をしていたものであり、これらによると、本件会合では、単なる世間話にとどまらず、相互にシャッター等の対価引上げを実施することに関する情報交換がされたものと認められる。」旨を認定している(前記(3)ア(イ))。
これらの事実は、上記aのような状況下で開かれた本件会合において、本件審決の認定事実(前記(1)エ)、すなわち、「本件会合では、鋼材価格の上昇が話題となり、3人のうちのいずれかが、鋼材価格の上昇に対応するためには、シャッター等の販売価格も引き上げなければならない旨の発言をした。≪B1≫は、シャッター等の販売価格の引上げについて「10パーセントくらいは欲しいですよね。」などと述べ、≪C1≫及び≪D1≫もこれに反対することなく、「そうですよね。」などと回答した。その上で、≪C1≫は、販売価格の引上げの方法について、「見積書で提示する価格を上げないとどうしようもないでしょう。」などと述べ、≪D1≫も、積算価格の引上げにより販売価格を引き上げる旨の意向を示した。また、≪C1≫は、原告文化としてはシャッター等の販売価格の引上げに当たり新聞発表をする旨述べたところ、≪B1≫も、これに賛同し、原告三和Sとしても新聞発表をすると思うなどと述べた。」との認定事実から推認できるものである。
このように、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫は、本件会合において、それぞれに鋼材価格の急激な上昇に対応するためにシャッター等の値上げをせざるを得ないと発言していた状況で、≪B1≫において、販売価格を10パーセント程度引き上げたい旨具体的な数値を挙げた発言をしたところ、≪C1≫及び≪D1≫もこれに反対することなく、≪C1≫及び≪D1≫において、積算価格の引上げにより販売価格を引き上げる意向を示し、≪C1≫及び≪B1≫において、原告三和S及び原告文化があらかじめ値上げの実施を新聞発表する意向を表明し合ったほか、≪D1≫は、具体的な数値を挙げて原告東洋の値上げの検討状況に関する発言をするなどしたものである(査54)。これらのやり取りは、販売価格の引上げの有無、その方法や検討状況など競業他社において本来確知しないはずの営業上の秘密にわたる情報交換をするものであったというべきである。
さらに、≪C1≫は、本件会合の翌日に開催された原告文化の特販支社拡大幹部会議において、シャッターの販売価格を10パーセント引き上げる旨を表明するとともに、「文化、三和で文章を作り社会に訴えていく。」と原告三和Sと協調して新聞発表するとの方針に言及したこと(本件審決の認定事実・前記(1)カ(イ))、≪B1≫も、本件会合の翌日又は翌々日頃、原告三和Hの広報課長である≪B11≫に対し、値上げについて建設関係の新聞に載せた方が良いのではないかと指示したこと(本件審決の認定事実・前記(1)オ(イ))、後記(イ)a、bのとおり、3社とも、いずれも、本件会合以前は特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントと設定していなかったにもかかわらず、本件会合後に、特定シャッターについての販売価格の引上げ目標を10パーセントと定めたことに照らせば、上記のとおり、本件審決が、本件会合では、単なる世間話にとどまらず、相互にシャッター等の対価引上げを実施することに関する情報交換がされたものと認められるとした事実認定に不合理な点はない。
(イ) 事後の行動の一致について
a 本件審決は、「3社は、いずれも、本件会合以前は特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントと設定していなかった。」旨(前記(3)ア(ウ)d)、各社別には、本件会合以前には、「①原告三和Sは、平成20年4月1日以降の特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントとすることを検討していなかった。②原告文化は、シャッターについて5パーセント程度の値上げを検討した。③原告東洋では、シャッターの販売価格の引上げを検討してはいたが、具体的な引上げ率までは示されていなかった。」旨(前記(3)ア(ウ)a~c)を認定している。
これらの事実は、本件審決の認定事実(前記(1)オ~キ)によって認められる。具体的には、①原告三和Sでは、平成20年3月3日に開催したシャッターPM会議販売部会において、軽量シャッターの平米単価引上げ目標額により価格引上げを進めることとされたが、引上げ率には言及されていなかったこと(前記(1)オ(ア)b)、②原告文化では、同年1月15日に開催した常務会において、軽量手動シャッターで5パーセント等の仕切価格の引上げが承認され、同年2月20日頃、全製品5パーセント販売価格を引き上げる旨の顧客宛文書を作成したが、鋼材価格の更なる値上げが判明したため、この文書を配布しなかったこと(前記(1)カ(ア))、③原告東洋では、同年2月下旬、生産本部長から仕切価格(営業所課への引渡価格)の5パーセント程度を引き上げたい旨が伝えられ、≪D1≫の指示により、仕切価格引上げを考慮した積算価格の検討をしていたこと(前記(1)キ(ア)、(イ))から、認めることができる。
b 本件審決は、「3社は、本件会合後に、特定シャッターについての販売価格の引上げ目標を10パーセントと定めた。」旨(前記(3)ア(ウ)d)、各社別には、本件会合後に、「①原告三和Sでは、3月14日付け通達に、商品を限定することなく、「平均目標アップ率 10%」と記載され、同年4月11日の決起大会の資料には、目標として、販売価格の10パーセント引上げが明記され、「全見積現場の売価UPベースでのNET提示」、「販売価格10%UPでの値決め、契約」と記載されるなどしている。②原告文化では、≪C1≫が平成20年3月6日の社内会議でシャッターの値上げ率を10パーセントとする旨述べ、その後、同月18日の新聞発表、同月25日の支社長会議、同月27日の社内通達、同年4月25日の会議においても、販売価格の引上げ目標について、一定の幅を持たせながらも一貫して10パーセントとすることを表明していた。③原告東洋では、≪D1≫が同年3月17日の社内会議で同年4月以降のシャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントとすることを示し、また、同年3月25日、支店や営業所に対して同年4月1日から積算価格を10パーセント引き上げることを目的とした通達を発出するなどした。」旨(前記(3)ア(ウ)a~c)を認定している。
これらの事実は、本件審決の認定事実(前記(1)オ(ア)c~f、カ(イ)~(オ)、(キ)、キ(エ)、(オ))によって認められる。
c 本件審決は、「3社は、本件会合後に、それぞれ各支店、営業所に特定シャッターについての10パーセントの販売価格の引上げ目標を示して、販売価格引上げの指示をした。」旨(前記(3)ア(ウ)d)、各社別には、本件会合後に、「①原告三和Sでは、3月14日付け通達に「平均目標アップ率 10%」と記載され、同年4月11日の決起大会の資料には、目標として、販売価格の10パーセント引上げが明記され、「全見積現場の売価UPベースでのNET提示」、「販売価格10%UPでの値決め、契約」など、個別契約において取り組むべき事項が記載され、同月23日の会議でも、契約書の金額が10パーセント引き上げられているかを日々精査するなどとされている。②原告文化は、本社においてシャッターにつき販売価格10パーセントの引上げ目標を定めるとともに、各支店、営業所に対し、積算価格の引上げという具体的な方法も指示し、≪C1≫は社内会議において10パーセントの売価アップは至上命題である旨発言した。③原告東洋は、同年3月25日、各支店、営業所に対し、同年4月1日から積算価格を10パーセント引き上げることを目的とした通達を発出するとともに、販売価格を10パーセント引き上げることを目標とするように伝えた。」旨(前記(3)ア(ウ)a~c)を認定している。
これらの事実は、本件審決の認定事実(前記(1)オ(ア)c~h、カ(イ)〜(オ)、(キ)、キ(オ))によって認められる。
d したがって、本件審決が、「3社は、いずれも、本件会合以前は特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントと設定していなかったにもかかわらず、本件会合後に、特定シャッターについての販売価格の引上げ目標を10パーセントと定め、それぞれ上記目標を各支店、営業所に示して販売価格引上げの指示をしたのであるから、特定シャッターの販売価格について、現行価格より10パーセントを目途として引き上げるとの同一の行動に出たものと認められる。」(前記(3)ア(ウ)d)とした事実認定に不合理な点はない。
(ウ) 3社の値上げ行動が独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められないこと
本件審決は、上記(ア)の本件会合での対価引上げ行為に関する情報交換及び上記(イ)の事後の行動の一致が認められるから、「3社において値上げに向けた各社の行動が他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められない限り、意思の連絡があるものと推認されるから、上記特段の事情があるかについて検討する。」とし、この点に関する原告三和S、原告文化及び原告東洋の主張を採用できないとしているが、後記ウ(エ)記載のとおり、その事実認定に不合理な点はない。
(エ) 全国合意の推認
本件審決は、以上のような検討を踏まえ、前記(3)ア(オ)のとおり、「3社には、全国合意を内容とする意思の連絡があったと推認される。」との認定判断をしている。
当裁判所は、本件審決の上記認定事実にも、実質的な証拠があると判断するものであるが、その理由については、後記「ウ 原告らの主張について」の判断を示した上、後記「エ 全国合意に係る意思の連絡の認定について」において示すこととする。
ウ 原告らの主張について
これに対し、原告らは、全国合意を内容とする意思の連絡の存在に関して、以下のとおり、種々の主張をするので、検討する。
(ア) 全国合意の合理性について
原告三和S及び原告文化は、3社(原告三和S、原告文化及び原告東洋)の全国合意に関し、おおむね、①全国合意にいう「現行価格」は観念できないこと(原告三和S)、②全国合意にある本社の指示による一律の値上げはできないこと、③10パーセントの引上げは目標であるから、個別事情による引上げ率の違いは許容されるとの全国合意は無意味であること、④同程度の引上げ率の値上げでは3社間の価格の較差が拡大するので、全国合意をすることはあり得ないこと(原告三和S)、⑤受注調整等を伴わない販売価格引上げの合意によっては競争を回避する行動にはなり得ないことなどを主張して(前記第3の2(1)ア、(3)ア)、そもそも全国合意のような合意自体が不合理であって、不当な取引制限の合意とはなり得ない旨主張するので、以下、分説して検討する。
a 全国合意にいう現行価格は観念できないから全国合意自体が不合理であるとの主張について
確かに、特定シャッター取引においては、個別契約の具体的な販売価格は、受注生産される個別仕様により販売対象物が異なり、取付費用を含めて需要者との個別交渉により決定されるから、明確で一律の現行価格を認識することは困難であるが、他方で、3社はそれぞれシステム上自動算出される積算価格に一定の割引率を乗じて需要者に提示する見積価格を算定し、需要者に見積価格を提示するなどして契約交渉を経て取引価格を合意しているのである。したがって、各社内では社内で用いる平米単価その他の一定の基準に沿って成約した取引価格等の水準(単価)を認識することは当然に可能であるし、また、3社間においても、近畿合意等でみられるように、共通サンプルや具体的案件を用いて算出した各社の積算価格、見積価格等を確認し合った上で、値引き割合の上限を定めるなどしていたのであるから、3社の成約した取引価格の水準(単価)を認識することは可能であったものといえる(査12、93)。
このように、それぞれ多面的な方法によって現行価格の水準(単価)を認識することは可能であって、現行価格を観念できないということはない。
現に、前記イ(イ)cのとおり、①原告三和Sにおいては、3月14日付け通達に「平均目標アップ率 10%」と記載され、平成20年4月11日の決起大会の資料には、目標として、販売価格の10パーセント引上げが明記され、「全見積現場の売価UPベースでのNET提示」、「販売価格10%UPでの値決め、契約」に取り組むべきと記載されるなどしていること、②原告文化においては、本社が販売価格10パーセントの引上げ目標を定めるとともに、各支店、営業所に対し、積算価格の引上げという具体的な方法も指示し、≪C1≫は社内会議において10パーセントの売価アップは至上命題である旨発言したこと、③原告東洋においては、同年3月25日、各支店、営業所に対し、同年4月1日から積算価格を10パーセント引き上げることを目的とした通達を発出するとともに、販売価格を10パーセント引き上げることを目標とするように伝えたことが認められるのであり、原告三和Sの上記主張は採用することができない。
b 全国合意にある本社の指示による一律の値上げはできないから全国合意自体が不合理であるとの主張について
確かに、特定シャッター取引における個別契約の締結については、受注生産であり対象製品の個別性が強く、地域によっても競争性や需要者との交渉力に違いがあるなどの取引の性質から、その全契約について本社の指示によって一律に値上げすることはなじまないといえるものの、上記aで説示したような方法により、3社が、本社の指示により、現行価格から10パーセントを目途に引き上げるように努めることは可能であるから、原告三和S及び原告文化の上記主張も採用することができない。
c 10パーセントの引上げは目標であるから個別事情による引上げ率の違いは許容されるとの全国合意は無意味であるから、全国合意自体が不合理であるとの主張について
対価を引き上げる合意による不当な取引制限が成立するためには、概要として、事業者らの間で同内容又は同種の対価の引上げを実施することを互いに認識し認容して歩調を合わせる意思の連絡を形成し(前記(4)ア)、これによって、公共の福祉に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること、すなわち、事業者らの間で一定の競争回避的な事業活動をすることを互いに認識し認容して歩調を合わせる意思の連絡を形成することにより、事業者らが、一定の取引市場における競争自体を減少させ、本来公正かつ自由な競争(同法1条)においては各事業者が自由に決めるべき価格、品質、数量、その他各般の事業活動に係る条件をある程度自由に左右することができる状態をもたらし、もって、市場が有する競争機能を損なうことで足り、一定の取引市場における競争を完全に排除し、価格等を完全に支配することまでは必要ない(後記(6)ア)ものと解される。さらに、合意により一定の取引分野における実質的な制限があったか否かは、上記の意思の連絡によって判断されるものであり、意思の連絡に基づく個別の実施行為によって判断されるものではない。
これを被告の主張する全国合意についてみると、3社が、特定シャッターの需要者向け販売価格について、現行価格より10パーセントを目途に引き上げる旨を合意することによって、公共の福祉に反して、全国の特定シャッター市場における競争自体を減少させ、価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらし、もって、市場が有する競争機能を損なったというものである。そして、3社の特定シャッターの市場占有率は、全体で約92.8パーセント(軽量シャッターは約96.0パーセント、重量シャッターは約87.4パーセント、グリルシャッターは約85.6パーセント)であり(前提事実(2))、3社が、上記aの方法で、それぞれ各支店、営業所に特定シャッターについての10パーセントの販売価格の引上げ目標を示して、販売価格の引上げに努めることとしたのであるから、後記(6)のとおり、3社で価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされ、もって、市場が有する競争機能を損なうものであるというべきである。
さらに、全国合意の個別の実施行為としての各取引において、現行価格より10パーセント引上げができない販売価格となった事例があったとしても、不当な取引制限の成否を左右するものではない。
原告三和S及び原告文化の上記主張は採用することができない。
d 同程度の引上げ率の値上げでは3社間の価格の較差が拡大するので、全国合意をすることはあり得ないとの主張について
3社は、従前から、各社の製品の品質やサービス等の向上を図りつつ、その競争力等の諸事情を考慮の上、需要者との間において価格交渉を行い、需要者との間の契約締結の可否が決定されてきた。需要者からみれば、各社の製品の品質やサービス等と価格との相関関係やその他の諸事情を考慮して、発注するか否かを決めているのであり、価格の高低のみが発注の可否の考慮要素ではない。同程度の引上げ率の値上げにより3社間の価格の較差が拡大しても、なお、競争はできるのである。事業者が価格に関するカルテルを合意する場合には、値上げ幅の合意だけでなく、値上げ率の合意をすることも、その他の合意をすることも通常にあり得ることであり、原告三和Sの上記主張は採用することができない。
e 受注調整等を伴わない販売価格引上げの合意によっては競争を回避する行動にはなり得ないとの主張について
確かに、①3社とゼネコンとの間の特定シャッター取引においては、ゼネコンからの値下げ要求は非常に強く、シャッター業者が受注を目指して互いに他社の見積りよりも安い見積価格を提示しようとする結果、赤字受注となることもあり、3社が、いずれもゼネコンの値下げ要求によるシャッターの受注価格の低落という問題を抱えており(前提事実(5))、②3社は、過去にも受注調整及び価格カルテルを行ったとして公正取引委員会から勧告審決を受け、また、遅くとも平成19年5月16日から平成20年11月18日までの間、近畿地区における特定シャッター等について受注調整の会合等をしており、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫が主導して、南関東地区においても、平成20年2月27日から同年9月まで、各社の営業担当責任者級の者による会合が開かれ、受注調整に向けた協議が開始されており(前記イ(ア)a)、③3社においては、価格算出方法を統一した上で値引き限度を合意する又は受注調整の合意をすること(受注調整等)が、ゼネコンに対して、実効性の高い不当な取引制限になるという共通の認識があることが認められる(弁論の全趣旨。なお、原告東洋は、上記②のうち南関東地区の会合において受注調整に向けた協議が開始された事実を認めていないが、これを認める原告三和S及び原告文化の主張並びに関係証拠(査8、11、12)から、優に認められる。)。
しかしながら、3社による受注調整等が、ゼネコンとの取引において、競争を完全に排除し、価格等を完全に支配するために、より実効性が高いものであるとはいえるものの、そのような受注調整等の方法を用いなければ、不当な取引制限が成立しないということはできない。
すなわち、後記(6)のとおり、特定シャッターの取引分野における需要者は、ゼネコンに限られないのであり、ゼネコン以外の需要者との間において、上記cのとおり市場占有率が約92.8パーセントに達する3社間で、現行価格より10パーセントを目途に販売価格を引き上げる旨の全国合意をすれば、3社で価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされることが明らかである上、価格交渉力を有する需要者であるゼネコンとの関係においても、上記の3社の市場占有率からすると、ゼネコン以外の需要者間と比較すれば効果が限定的な面があったとしても、3社で価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされたと認めるのが相当である。このことは、前記2(1)ケのとおり、3社ともに受注実績に基づく平成20年4月1日から同年11月18日の軽量シャッター、重量シャッターの平米単価が、平成19年度通年と比較していずれも上昇していたことにも表れている。
原告三和S及び原告文化の上記主張も採用することができない。
(イ) 本件会合での情報交換について
a 3社は、本件会合における≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫の会話内容に関して、おおむね、「①≪B1≫の供述調書(査52)の内容は審査官から押し付けられたものである(原告三和S)。②≪B1≫及び≪C1≫は多量の飲酒をして≪C1≫は会話を記憶していない(原告文化)。③≪B1≫が販売価格を10パーセント上げたいとの趣旨の発言をしたが、これは≪C1≫や≪D1≫に対して同調を求めるものではなく、≪D1≫もこれに特に反応していないし、また、≪D1≫が、積算価格の引上げにより販売価格を引き上げる意向を示したことはない(原告東洋)。」旨を主張する(前記第3の2(1)イ(ア)、(3)イ(ア)、(5)ア(ア))。
しかし、3名の供述調書(査10、51、53~57)によれば、本件審決の認定事実(前記(1)エ)のとおり、本件会合における≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫の会話があったとの認定自体が不合理であるとはいえず(本件審決の認定事実以外の消極事実については後記bで検討する。)、3社の上記主張は採用することができない。
b 3社は、本件会合でのやり取り全体について、おおむね、「①「10パーセントくらいは欲しいですよね」、「そうですよね」、「見積書で提示する価格を上げないとどうしようもないでしょう」という程度の抽象的・概括的なやり取りのみで全国価格カルテルの合意が成立するなどということはあり得ず、そのような合意を推認させる情報交換ともいえない(原告三和S)。②本件会合でのやり取りは、相当量の飲酒を伴う酒席でのものであり、「そうですよね」などの相づちは社交辞令の域を出ないものであり、発言の文脈もあいまいで信用性が乏しく、複雑な内容の全国合意(意思の連絡)が成立していたと認定するのは不合理である(原告文化)。③本件会合は、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫が3人のみで会う初めての日であったのであり、社団法人日本シヤッター・ドア協会の委員を交代する≪B1≫の慰労のために開かれたもので、≪D1≫は同協会の運営委員会に参加していた原告東洋の≪D8≫に代わって急きょ参加したこと、≪B1≫及び≪C1≫が泥酔していたことなどからも、そこで全国合意がされたというのは不自然である(原告東洋)。」旨を主張する(前記第3の2(1)イ(ア)、(3)イ(ア)、(5)ア(ア))。
しかし、前記イ(ア)aで説示したとおり、3社は、いずれもゼネコンの値下げ要求によるシャッターの受注価格の低落という問題を抱えていた上、平成19年10月頃から上昇していた鋼材価格が、更に平成20年4月以降大幅に値上げされることが同年2月下旬に判明し、これに伴いそれぞれシャッター等の販売価格の引上げを実施することを検討していた時期に、各社の営業部門を統括する役員級の者である≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫による本件会合が開かれたのであり、しかも、3社は、当時、近畿地区における受注調整の会合等をしており、南関東地区においても、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫が主導して、同年2月下旬から営業担当責任者級の者による会合を開き、受注調整に向けた協議が開始されたところであり、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫の間では、3社の協調によりシャッター等の販売価格を引き上げようとの共通認識や信頼関係が形成されていたものと推認することができる(≪D1≫は、原告東洋が近畿地区における受注調整を行う旨を同社の≪D4≫から報告を受けたが、これを止めるよう指示をせずこれを認容したこと(査116)、≪C1≫が、ゼネコン向けのシャッターの受注価格低落防止に向けた話合いをするため、南関東地区における3社の営業担当責任者級の者による会合を開くことを、≪B1≫及び≪D1≫に提案すると、同人らが特段の協議を重ねる必要もなく、これに同意し、実際にそのような会合が開かれたこと(査5、6、審A169、審B205)に照らすと、上記のとおり推認することができる。このことは、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫が、後記のとおり、本件会合においても、受注調整等の必要性をうかがわせる会話をしていることによっても、裏付けられる。)。
また、本件会合の機会を持った動機について、≪C1≫は、平成20年1月に≪B1≫と≪C1≫が会食した際、ゼネコンの赤字発注に対して我々は毅然とした対応でいかなければ商売にならないという両名の認識が一致したので、≪D1≫を交えて再確認をするために集まったと記憶していると供述し、≪C1≫が人目に付かないように個室を予約していたものである(査10。したがって、≪D1≫が本件会合に≪D8≫に代わって急きょ参加したとの原告東洋の主張は採用することができない。)。≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫は、本件会合において、それぞれに鋼材価格の急激な上昇に対応するためにシャッター等の値上げをせざるを得ないと発言していた状況で、≪B1≫において、販売価格を10パーセント程度引き上げたい旨具体的な数値を挙げた発言をしたところ、≪C1≫及び≪D1≫もこれに反対することなく、≪C1≫及び≪D1≫において、積算価格の引上げにより販売価格を引き上げる意向を示し、≪C1≫及び≪B1≫において、原告三和S及び原告文化があらかじめ値上げの実施を新聞発表する意向を表明し合い、≪D1≫は、原告東洋における値上げの検討状況について具体的な数値を挙げて発言するなどし、販売価格の引上げの有無、その方法や検討状況など競業他社において本来確知しないはずの営業上の秘密にわたる情報交換をした上(前記イ(ア)b)、併せて、≪B1≫は、「値上げをしなければならないけれども、採算を度外視した値引きも何とかしないといけませんね。」と言うと、≪C1≫や≪D1≫も、「そりゃそうだよ。そんな馬鹿なことは止めたいですよ。」、「赤字受注は止めたいですよ。」などと答えるなど(査51、54)、受注調整等の必要性をうかがわせる会話をしているのである。さらに、≪B1≫及び≪D1≫は、社内で本件会合の費用の精算をする際、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫の会合であったことを隠すために、取引先のゼネコンの所長を接待したかのように虚偽の書類を作成した(査7、53。なお、≪C1≫については不明。≪D1≫は、平成19年10月12日の会食については、≪B1≫、≪C1≫及び≪事業者E≫社長が接待相手であることを記載している(査7)。)。本件会合での会話は、本件審決が認定するとおり、単なる送別会における世間話とはいえない3社協調による対価引上げに関する会話内容であったといえる。
本件会合において≪B1≫及び≪C1≫が酒に酔っていたと指摘する点についても、≪B1≫は、本件会合の会話内容の多くについて供述する内容の供述調書(査51~53等)が作成されているし、また、≪C1≫は、酔っていてその会話内容を記憶していないと供述するが(査10)、本件会合の翌日である平成20年3月6日に開催された原告文化の特販支社拡大幹部会議において、シャッターの販売価格を10パーセント引き上げる旨を他に諮ることなく単独の決断で表明するとともに、「販売価格をいかに上げるか?積算価格も上げていく。」、「文化、三和で文章を作り社会に訴えていく。」と原告三和Sと協調して新聞発表をするとの方針を明らかにした上、「売価アップは必死にやる。」などと、本件会合での会話を踏まえた詳細な発言をしているから(査10)、本件会合の当時、酔っていた影響がそれほどあったとも考えられない。
c 原告三和Sは、「≪B1≫は原告三和Sの販売価格決定に関与する権限もなく関与した事実もないから、≪B1≫の行為により原告三和Sが全国合意を行うことはできない。」旨を主張する。
しかし、全国合意とは、3社の事業者間で、特定シャッターの販売価格について、平成20年4月1日見積分から、現行価格より10パーセントを目途として引き上げることを互いに認識、認容して歩調を合わせる意思の連絡があるというものであり、その意思の連絡をする者に社内的に販売価格を決定する直接の職務権限がある必要はなく、事業者間で上記の意思の連絡が事実上成立したことを認定できれば足りる。≪B1≫は、本件会合の当時、原告三和Sに役職を有していなかったものの、その完全親会社である原告三和Hにおいて、傘下の事業会社である原告三和S等の経営管理を担い、その価格政策に係る業務にも携わり(前提事実(1)、本件審決の認定事実前記(1)イ(ア))、原告三和S主催の経営会議体や重点商品PJ・PM会議等にそのメンバー又はオブザーバーとして名を連ね、担当役員ヒアリング、グループ社長ヒアリングにも参加して意見を述べたりしていたのであり(査18、24、27)、原告三和Sの価格政策に強い影響力を行使できる立場にあったことが認められ、かつ、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫が主導して、現に、南関東地区においても、各社の営業担当責任者級の者による会合が開かれ、受注調整に向けた協議が開始されているとおり、3社間の受注調整協議を主導できる立場にあったことが認められるから、本件審決が、≪B1≫を原告三和Sの役員級の者と認定し、同人を通じて、原告三和Sが全国合意を内容とする意思の連絡が成立したことを認めた認定・判断には実質的な証拠があり、原告三和Sの上記主張は採用することができない。
d 原告三和Sは、「全国合意に関する会合は、本件会合のみとされているところ、同会合に出席していたのは原告三和Hの≪B1≫であり、≪B1≫の行為を原告三和Sの行為とみなすことができる根拠事実が明らかにされる必要があるが、全国排除措置命令にも、全国排除措置命令に先立って原告三和らに示された排除措置命令書案にもその記載はないから、全国排除措置命令は、改正前独禁法49条1項、3項及び5項に反し違法である。」旨を主張する。
改正前独禁法49条は、排除措置命令の手続を定めるものであり、同条1項は排除措置命令には公正取引委員会の認定した事実等を示すこと、同条3項は公正取引委員会が排除措置命令をしようとするときは名宛人となるべき者に対しあらかじめ意見を述ベ証拠を提出する機会を付与しなければならないこと、同条5項は同条3項の機会を付与するときには公正取引委員会の「認定した事実」等を書面で通知しなければならないことを規定している。上記規定の「認定した事実」とは、違反行為に関して公正取引委員会が認定した事実であり、意思の連絡を認定した根拠となる間接事実のすべてを記載することを要求するものでなく、本件では「役員級の者」により全国合意がされたとの認定事実は明らかにされていたから、原告三和Sの上記主張は、その前提を欠き、採用することができない。
e 原告三和Sは、「審査官は、本件審判手続において、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫が、本件会合において、何を認識し、認容していたのかという主張立証の根幹部分について、答弁書提出から1年以上経過した後に追加したが、これは、改正前独禁法58条2項、審判規則28条に違反するから、この点を看過した本件審決は違法である。」旨を主張するが、同法58条2項の定める原処分の原因となる事実の変更があったとは認められず、原告三和Sの上記主張は、その前提を欠き、採用することができない。
f 原告文化は、「本件会合では、対象製品又は役務、地理的範囲、何の価格を基準にして10パーセント引き上げるのか、誰がいつからどのような方法で価格を引き上げるのかといった具体的な話はされていない。シャッター業界は、地域ごとに競争環境が異なり、各営業所、担当者、需要者、契約条件により算出される積算価格や見積価格が異なる状況にあり、協調値上げの合意をするためには、地域ごとの具体的な情報交換が必要であるから、このような話がされていないことは、本件会合での発言が価格協定の合意を目的とするものではないことを示している。」旨を主張する。
しかし、全国合意の内容は、「特定シャッターの需要者向け販売価格について、平成20年4月1日見積分から、現行価格より10パーセントを目途に引き上げる旨を合意」をいい、このような包括的な意思の連絡で足りることは、前記説示のとおりであり、原告文化の上記主張は採用することができない。
(ウ) 事後の行動の一致について
a 原告三和Sの行動について
(a) 原告三和Sは、本件審決が、「3社は、いずれも、本件会合以前は特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントと設定していなかった。」旨認定したことについて、「原告三和Sは、平成20年3月3日時点でバランス(軽量手動シャッター)の単価引上げ目標額を1000円としており、これは、平成19年10月から平成20年1月までの実績に基づく平米単価の約10パーセントに当たるから、本件審決の上記認定は実質的な証拠を欠く。」旨を主張する(前記第3の2(1)イ(イ)a)。
しかし、特定シャッターとは、軽量シャッター及び重量シャッター(いずれもグリルシャッターを含み、取付工事等の役務も含む。)を指すものであり、軽量シャッターには、軽量手動シャッター及び軽量電動シャッターがあるから、原告三和Sが、その一部にすぎない軽量手動シャッターについて上記のような単価引上げ目標を検討していたとしても、特定シャッター全体についての引上げ目標を10パーセントと設定していたとは認められないから、原告三和Sの上記主張は採用することができない。
(b) 原告三和Sは、本件審決が、「3社は、本件会合後に、特定シャッターについての販売価格の引上げ目標を10パーセントと定めた。」旨認定したことに対し、「原告三和Sの3月14日付け通達によるシャッターの値上げ目標は、製品種別の平米単価引上げ目標額である軽量バランス(軽量手動シャッター)1000円、サンオート及びブロード(軽量電動シャッター)2000円、重量SS(重量シャッター)2000円であり、それぞれ、平成19年第3四半期の販売実績に対し、8.8パーセント、7.0パーセント、5.8パーセントに相当し、いずれも10パーセントに全く及ばないものであった。同通達の「平均目標アップ率 10%」はキャッチコピー又はスローガンとして記載されたものであって、販売価格の引上げ目標ではない。」旨を主張する(前記第3の2(1)イ(イ)b)。
確かに、同通達には、製品種別の平米単価引上げ目標額として、軽量バランス(軽量手動シャッター)1000円、サンオート及びブロード(軽量電動シャッター)2000円、重量SS(重量シャッター)2000円と記載されており、それぞれ、平成19年第3四半期の販売実績に対し、8.8パーセント、7.0パーセント、5.8パーセントに相当し、10パーセントとは大きく相違することが認められる(査26の2、35)。
しかし、3社において、本件会合の後、販売価格の引上げ目標を10パーセントとする以外の値上げ目標額・率等を掲げたことがあったとしても、そのことから、直ちに全国合意の成立が否定されることにはならない。すなわち、本件会合の前においては、3社は、それぞれ鋼材価格の上昇に対応する販売価格の引上げの検討内容は異なっていた。そのような中で、3社間で全国合意(3社間での価格引上げのカルテル)が成立したとしても、そのことは社内でも秘密にすべき事実であることはいうまでもないことであり、各社とも、従前の検討内容と整合しない不自然な行動をとらずに、全国合意の内容の実施へ移行する必要がある。そのような視点も含めて、全国合意を推認できるような事後の行動の一致があるか否かを検討すべきことになる。
原告三和Sでは、上記のとおり、3月14日付け通達には、一方で、本件会合より前の社内の検討も踏まえ、シャッターの製品種別の平米単価引上げ目標額(1000円又は2000円)を記載しており、その引上げ率は、8.8パーセント、7.0パーセント、5.8パーセントに相当し、10パーセントとは大きく相違するものであるが、他方、同通達は、同時に、シャッターの単価引上げ目標を、上記平米単価引上げ目標額「以上」とする旨を記載するとともに、「平均目標アップ率 10%」と記載したのであり(本件審決の認定事実・前記(1)オ(ア))、後記(エ)aで説示するとおり、本件会合より前の社内の検討結果を変容して、後者を社内の正式なシャッターの単価引上げ目標としたことが認められる。このことは、平成20年4月11日の決起大会の資料に、目標として、販売価格の10パーセント引上げが明記され、「全見積現場の売価UPベースでのNET提示」、「販売価格10%UPでの値決め、契約」など、個別契約において取り組むべき事項が記載され、さらに、≪B1≫の後任である≪B10≫は、同月18日付け各支店長、営業所課長に宛てた通知文書において、「販売価格の10%UP」を絶対にやり遂げなければならないと指示するとともに、顧客別、営業員別に、見積価格や取引価格の10パーセント引上げがされているかを確認するために「売価アップCA表」を作成することを求め、また、上記の平米単価目標額は最低限の目標であり、販売価格の10パーセント引上げが目標であることを強調し、さらに、同月23日の社内会議では、見積価格の10パーセント引上げ、取引価格が10パーセント引き上げられているかの精査等を日々実施し、軽量シャッターの単価引上げ目標額を、軽量バランスは1000円から1200円に、サンオートは2000円から2760円に更に増額し、10パーセントアップを目標とすることを明示したことによって裏付けられる(本件審決の認定事実・前記(1)オ(ア)。なお、増額後の値上げ幅である上記1200円は10.6パーセント、上記2760円は9.7パーセントに相当する(査26の2)。)。
この点、原告三和Sは、「3月14日付け通達」の「平均目標アップ率 10%」との記載がキャッチコピー又はスローガンであることは、①新聞発表で、同年4月からの値上げ幅を平均6パーセントと発表していること、②同年3月14日以降に同年4月からの値上げについて検討した取締役会その他の重要な会議に関して作成された文書・資料や、値上げに関して発出された社内通達にはシャッターの値上げ目標を10パーセントとする旨の記載がないこと、③同月以降の取引価格引上げの効果を検証するために原告三和Sにおいて作成された資料においても、「売価UP」の項に記載されているのは平米単価及び差益率であり、10パーセントの値上げが達成されたか否かを検証した資料が存在しないこと等によって裏付けられている旨主張する。
しかし、上記①の点は、上記のとおり、営業部門に対して販売価格の10パーセント引上げを目標として示し、個別契約において取り組むべき事項や顧客別、営業員別に見積価格や販売価格等が10パーセント引き上げられているかを日々精査するよう指示していることに照らして、上記判断を左右するものではない。また、上記②の点も、原告三和Sが販売価格の引上げ目標を10パーセントと定めたことを、社内では社内用の平米単価や差益率等の一定の基準によってそれを認識することは、むしろ当然のことであり、販売価格の引上げ目標を10パーセントと定めたことと矛盾するものではない。さらに、上記③の点も、社内的な検証資料である「売価アップCA表」に社内用の平米単価や差益率等を用いたとしても、同表の平米単価目標額が最低限の目標額であり、販売価格の10パーセント引上げが目標であると強調し、「販売価格の10%UPを絶対にやり遂げなければなりません。」と指示していたこと(審A97)などからも、上記判断を左右しない。原告三和Sが、事後的に聴取した営業部門の従業員らの「10パーセントが目標ではなかった。」とする各供述(審A150~152、154~163等)を踏まえても同様である。
したがって、原告三和Sが、本件会合後に、特定シャッターについての販売価格の引上げ目標を10パーセントと定めたとの本件審決の認定事実に不合理な点はない。原告三和Sの上記主張は採用することができない。
b 原告文化の行動について
原告文化は、本件審決が、「3社は、本件会合後に、特定シャッターについての販売価格の引上げ目標を10パーセントと定めた。」旨認定したことに対し、「≪C1≫の平成20年3月27日付け社内通達は、「全製品 5%~20%の販売価格の引上げ」、「全製品 10%~15%の積算価格の引き上げ」の実施を指示しているが、これは、各支店、営業所における努力目標を設定したもので、全国一律に価格引上げを行うことを企図したものではなかった」旨などを主張する(前記第3の2(3)イ(イ)a)。
しかし、原告文化では、前記イ(イ)bのとおり、≪C1≫が平成20年3月6日の社内会議でシャッターの値上げ率を10パーセントとする旨述べ、その後、同月18日の新聞発表、同月25日の支社長会議、同月27日の社内通達、同年4月25日の会議においても、販売価格の引上げ目標について、一定の幅を持たせながらも一貫して10パーセントとすることを表明していたことが認められる。すなわち、≪C1≫は、①本件会合の翌日に開かれた上記社内会議でシャッターの値上率を10パーセントとする旨述べた後、②同年3月18日の新聞発表では、同年4月1日受注分から各種シャッターの販売価格を10ないし15パーセント引き上げると発表し、③同年3月25日の支社長会議においては、同年4月以降の軽量シャッター及び重量シャッターの販売価格を10パーセント引き上げる方針を示したほか、④同年3月27日付けの社内通達により、販売部門に対して同年4月から全製品の販売価格を5ないし20パーセント引き上げ、積算価格を10ないし15パーセント引き上げることや、シャッターの積算掛率を現行のエリア水準を110パーセントに引き上げて積算価格を改定することを指示したほか、⑤同月25日の市場開拓部会議においても、10パーセントの売価アップは至上命題である旨発言した。このように≪C1≫は、本件会合後、販売価格の引上げ目標について、一定の幅を持たせながらも一貫して10パーセントとすることを表明し、上記目標を各支店、営業所に示して販売価格引上げの指示をしたことが認められるのである(前記(1)カ(イ)~(キ))。
これにより、原告文化の各支店、営業所は、同指示に従って販売価格の10パーセント引上げの営業方針の実現に努めたのであり、これが営業方針ではない単なる努力目標にすぎないものとはいえない。また、原告文化が主張するように、各支店、営業所が、シャッターの受注生産という性質や、地域特性及び営業方針により、一律に販売価格を10パーセント引き上げることにならず、現に、原告文化の各支店、営業所の約半数が、上記指示のとおり積算価格や見積価格の引上げを行えていなかったとしても同様である。以上によれば、本件審決の上記認定事実に不合理な点はなく、原告文化の上記主張は採用することができない。
c 原告東洋の行動について
原告東洋は、本件審決が、「3社は、本件会合以前は特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントと設定していなかったのに、本件会合後に、その旨を定め、各支店、営業所にその目標を示して、販売価格引上げの指示をした。」旨認定したことに対し、「原告東洋は、本件会合の前から、販売価格引上げの検討を行っていた。本件会合を境に、検討状況・方針が一変したということもなく、仕切価格の5パーセントの上昇を吸収するために販売価格の引上げ目標を設定しようとしていただけであって、本件会合による影響はない。また、原告東洋は、販売価格を4.8ないし6パーセント引き上げることを目標として、その達成のために、支店や営業所に10パーセントという数値を提示したに過ぎない。原告東洋では、10パーセントの値上げが実現していないことに対して、その改善を図る行動をとっていない。」旨を主張する(前記第3の2(5)ア(イ))。
確かに、原告東洋においては、①本件会合前後で値上げ目標を具体的に変更したとは認められず、②a)平成20年2月下旬に鋼材価格を含むコストアップを踏まえたシャッター等の仕切価格の5パーセント引上げの意向が示されたことを踏まえて、≪D1≫の指示で積算価格の検討が開始され、同年3月17日に開催された営業本部会議において、≪D1≫が積算価格を10パーセント引き上げて販売価格を10パーセント引き上げることを目標とする旨発言するとともに、4.8パーセントの価格引上げが必要であるとする資料を配布したこと、b)同年4月、社長の指示により、シャッター及びその他商品の販売価格の引上げ目標を10パーセントとした場合の契約価格等の上昇を分析し、契約金額の値上げ率は、最大6パーセントと想定されていたこと、c)営業本部は、同年5月7日に開催された本部長打合せで、「値上げ10%を目標とし、年度内に5%は確実にやりとげる。」と報告したこと(本件審決の認定事実・前記(1)キ)からすると、原告東洋の本社管理部門が、販売価格を4.8ないし6パーセント引き上げることを現実的な目標としていたことが認められる。
しかし、①原告東洋では、本件会合以前に、シャッターの販売価格の引上げを検討してはいたが、具体的な引上げ率までは示されておらず、他方、②≪D1≫は、本件会合において、≪B1≫が販売価格の引上げについて「10パーセントくらいは欲しいですよね。」などと述べたのに対し、これに反対することなく、「そうですね。」などと返答し、「(原告東洋は)振替価格(仕切価格)を5パーセント上げるつもりであるので、少なくともこの分は販売価格に転嫁したい。鉄の値上がり分は回収しなければならない。」と発言していたのであり(査54)、③≪D1≫が、本件会合後の平成20年3月17日の社内会議で同年4月以降のシャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントとすることを示し、④原告東洋が、同年3月25日、各支店、営業所に対し、同年4月1日から積算価格を10パーセント引き上げることを目的とした通達を発出するとともに、販売価格を10パーセント引き上げることを目標とするように伝え、同月以降の会議においても、シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントとする旨の発言、報告がされたのであるから、本件審決の上記認定に不合理な点はなく、原告東洋の上記主張は採用することができない。上記のように原告東洋の本社管理部門が、販売価格を4.8ないし6パーセント引き上げることを現実的な目標としていたとしても、同様である。
d 3社の行動の不一致について
(a) 3社の値上げ目標の不一致
3社は、おおむね、「①原告三和Sは、3月14日付け通達のとおり、シャッターの種類別に単価引上げ目標を設定していた上、それらを平成19年度第3四半期における平米単価と比較した場合の引上げ幅は、いずれも10パーセントに全く及ばないものであった。②原告文化は、「全製品 5%~20%の販売価格の引上げ」、「全製品 10%~15%の積算価格の引き上げ」の実施を指示するなどしたが、各営業所や支店における努力目標を設定したものにすぎず、全国一律に価格引上げを行うことを意図したものではない。③原告東洋は、値上げの目標を4.8ないし6パーセントとし、その達成のために支店や営業所に10パーセントという数値を示していた。」などとし、3社の値上目標は一致していない旨を主張する(前記第3の2(1)イ(イ)c、(3)イ(イ)b、(5)ア(ウ)a)。
しかし、上記aないしcで説示したとおり、3社は、各社内で用いる平米単価その他の一定の基準に拠りながら、また、各社が全国合意の前に別異に販売価格の引上げを検討してきたことを踏まえて、各社内のそれぞれの会議や通達等の仕組みの中で、3社とも、特定シャッターの販売価格について、現行価格より10パーセントを目途として引き上げるとの全国合意に沿った同一の行動に出たものと認められ、原告らの上記主張は採用することができない。
(b) 3社の対外公表の不一致
3社は、おおむね、「①原告三和Sは、原告三和Hによる新聞発表で、値上げ幅を平均6パーセントと公表した。②原告文化は、新聞発表で価格引上げ幅を10ないし15パーセントと公表した。③原告東洋は、新聞発表をせず、顧客宛の通知文書で値上げの通知をしたが、具体的な値上げ幅の数値の記載をしなかった。」として、3社の対外公表は一致していない旨を主張する(前記第3の2(1)イ(イ)d、(3)イ(イ)c、(5)ア(ウ)b)。
確かに、3社が主張するとおり、3社の対外公表方法には、違いがあり、≪C1≫が、原告文化の社内において、「文化、三和で文章を作り社会に訴えていく。」と原告三和Sと協調して新聞発表するとの方針を明らかにしたものの、原告三和Hないし原告三和Sと原告文化との間で、新聞発表の内容について擦り合わせをしたとの事実を認めるに足りる証拠はなく、原告三和Sと原告文化の値上げに関する新聞発表の内容が違うものであるとの印象を与えるものであるともいえる。
しかし、上記③の点については、本件会合において、原告三和S及び原告文化の値上げを新聞発表する方向での会話があり、原告東洋が新聞発表をするとの話題が出ていなかったことに沿う結果になっている。特定シャッターの取引分野で第1位及び第2位のシェアを有する供給事業者である原告三和Sと原告文化が新聞発表をすることは、原告三和S及び原告文化のみならず、原告東洋にとっても値上げを打ち出すのに都合が良かったのであり(審C12)、3社がそろって新聞発表をしないことが不自然とまではいえず、これをもって全国合意が成立しないともいえない。
また、上記①及び②の原告三和S及び原告文化の新聞発表の内容の違いの点についてみると、ⅰ)原告三和Sの新聞発表資料では、平成20年4月1日受注分から、軽量シャッター約1500円~2500円、重量シャッター約2500円の平米単価の値上げという3月14日付通達よりも高い値上げ額を記載していたところ、広報課長≪B11≫が口頭で平均値上げ率を6パーセントである旨回答した結果が新聞報道されたものであり(なお、新聞発表資料の案の段階では、「平均アップ率:10%程度」との記載もあったが、取引先から取引価格を逆算されることを懸念して最終的に削除された。ただし、軽量手動シャッター1500円、軽量電動シャッター2500円、重量シャッター2500円と仮定して、平成19年第3四半期の販売実績に対して試算をすると、13.3パーセント、8.8パーセント、7.2パーセント程度に相当する(査26の2、192、審A170、175~179)。したがって、上記の新聞発表資料の平米単価の値上額と、上記の口頭回答による平均値上げ率6パーセントとの関係は、整合的であったとはいい難く、上記の値上額と値上率のどちらを重視するか等によっても、値上げの印象が異なって受け取られる可能性も否定できない。)、ⅱ)原告文化の新聞発表では、同年4月1日受注分から、「各種シャッター(窓シャッター含む)10~15%」などとなっている(査68、69)。このように両社の新聞発表の内容には違いはあるが、両社の値上げの数字等の発表内容は、両社内の実際の値上げの検討内容と異なるものである上、両社は需要者に手の内を明かさないようにしつつ、需要者に値上げの必要性を浸透させることを目的として新聞発表をしたのであり、また、同時期に全く同じ値上げ内容を発表することは、協調値上げを疑われるおそれもあることや、上記のとおり両社の新聞発表の結果が原告東洋にとっても値上げを打ち出すのに都合がよかったなどの事情からすると、両社の新聞発表の表現内容が異なっていても、そのことが全国合意のあったことと矛盾するものとはいえず、原告らの上記主張は採用することができない。
(エ) 値上げに向けた行動が3社の独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められないこと
a 原告三和Sについて
原告三和Sは、「3月14日付通達の「平均目標アップ率 10%」との記載は、原告三和Sの担当者である≪B9≫らが、単価による目標設定が馴染まない製品も含めた全ての製品について読み手が直感的にイメージしやすいようにするためのキャッチコピー又はスローガンとして独自に検討して記載されたものであり、この記載と本件会合とは無関係であって、原告三和Sの独自の判断によって行われたものである。」旨を主張し(前記第3の2(1)イ(ウ))、≪B9≫及び≪B2≫の供述等(参考人≪B9≫、審A165、166)がこれに沿っているとする。
この点に関する≪B9≫の供述等の要旨は、3月14日付通達の「平均目標アップ率 10%」との記載の趣旨は、一方では、①取引全体を10パーセント拡大させること、要するに、数量を維持する中、受注金額を10パーセント伸ばすというスローガンを掲げた趣旨であると述べたり、他方では、②商品別の平米単価値上げの目標額が明示されているシャッターやドア以外の全ての商品について、現場の営業が直感的に値上げイメージできるスローガンという意味合いである(すなわち、「平均目標アップ率 10%」はシャッターの値上げ目標ではなく、シャッターの値上げ目標は同通達記載の商品別の平米単価である。)とも述べたりしているが、いずれにしても、≪B9≫が独自に考え、事業企画部長である≪B2≫が記載したものであるとする(参考人≪B9≫6~8頁)。
しかし、3月14日付け通達は、「08年度 販売価格(単価)アップ実施の件」との表題の下、鋼材原料等の価格高騰は予想を大幅に上回り、企業努力ではもはや吸収しきれず、早急な売価UPの必要性に迫られている旨の前文を置き、「対象商品及び単価UP額」の欄に、「商品別売価UP 目標単価」として、シャッター及びドアの各商品別平米単価引上げ額の「表」が付された上、「・シャッターは表の㎡単価UP目標値以上とする。」、「・ドアは表のセット単価以上とする。」、「・その他の商品は計画受注差益率を目標値とする。」、「・平均目標アップ率 10%」と記載されたものである(査16)。そうすると、同通達の「・平均目標アップ率 10%」との記載が、≪B9≫の上記①の供述にいう取引全体を10パーセント拡大させる趣旨でないことは明らかであり、また、「・平均目標アップ率 10%」は、当該記載の上部に記載されている3つの「・」で示されているシャッター、ドア及びその他の全商品に係るものであることも明らかであって、≪B9≫の上記②の供述にいう「シャッターやドア以外の全ての商品」のみに係るものでなく、シャッターを除外していないことも明らかである。このことは、原告三和Sにおいては、特定シャッターに関しても、平成20年4月11日の決起大会で販売価格の10パーセント引上げ目標が明記され、「全見積現場の売価UPベースでのNET提示」、「販売価格10%UPでの値決め、契約」などに取り組むべきことが伝えられ、その後、各支店、営業所に対し、「販売価格の10%UP」を絶対にやり遂げなければならないと指示するとともに、見積価格や取引価格の10パーセント引上げがされているかを確認するために「売価アップCA表」を作成することを求めたことなど、原告三和Sの一連の行動(前記(ウ)a(b))によっても裏付けられる。したがって、3月14日付け通達に記載された「平均目標アップ率 10%」について、≪B9≫が独自に考え、事業企画部長である≪B2≫が記載したものであるとする≪B9≫の上記供述は信用することができない。
しかも、≪B2≫が、≪B9≫と相談の上、3月14日付け通達の素案として同月11日に作成した文書(査59の2)には、「商品別売価UP 目標単価」として、シャッター及びドアの各商品別平米単価引上げ額の「表」(同通達と同じ内容)が付され、シャッター及びドアはその目標値とする旨(ただし、軽量シャッターの目標値は、各支店、営業所等で一定の幅があった。)及び「・その他の商品は計画受注差益率を目標値とする。」との記載しかなく、同通達の段階で新たに記載された「シャッターは…目標値以上とする。」、「平均目標アップ率 10%」との記載はない。この点について、≪B2≫は、「私や≪B9≫は、同通達を作成するに当たり、商品別の目標アップの単価だけを記載すればよいと考えて、平均目標アップ率を記載せずに素案を作成した。」旨を供述していること(査16)、並びに上記素案及び同通達のいずれにも同じ内容で記載されているシャッターの各商品別平米単価引上げ額の「表」には、原告三和Sが「引上げ幅は、いずれも10パーセントに全く及ばないものであった。」と主張する平米単価引上げ目標(平米単価1000円又は2000円。8.8パーセント~5.8パーセント)が記載されていたこと(前記(1)オ(ア)c)に照らすと、上記素案に記載がなく同通達の段階で新たに記載された「シャッターは…目標値以上とする。」、「平均目標アップ率 10%」との記載は、≪B9≫や≪B2≫が値上げの検討の中で積み上げてきた発想とは異質の発想により、値上げ幅の内容(結論)も大きく変容されたものと考えるのが自然である。そして、上記素案と同通達の間に関与したのは、その決裁文書(査16、60)の記載から明らかであるとおり、原告三和H及び原告三和Sの各社長、専務(≪B1≫を含む。)、常務、本社部長であるから、本件会合が影響したと推認するのが自然である。
原告三和Sの上記主張は採用することができない。
その他、本件の全証拠によっても、原告三和Sの特定シャッターの販売価格を10パーセントを目標として引き上げる行動が、本件会合とは無関係に、原告三和Sの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情があるとは認められない。
b 原告文化について
原告文化は、「≪C1≫が、本件会合より前の平成20年2月下旬頃から値上げ率について10パーセント程度は必要だと考えていたから、同社の値上げ行動は同社の独自の判断で行われたものであり、また、原告文化では、各支店、営業所に価格設定権限が委ねられており、個別物件の受注のために競合他社と競争しつつ、独自の料断で可能と判断した場合に値上げを行っていた。シャッターは、製品原価に占める鋼材価格の割合が高いことなどから、鋼材の値上げに伴う3社の値上げ幅が類似することは不自然ではない。」旨を主張する(前記第3の2(3)イ(ウ))。
しかし、≪C1≫が、鋼材価格等の値上げを含めた社内での会話等を通じて、平成20年2月下旬頃から値上げ率について10パーセント程度は必要だと考えていたか否かはひとまず措くとして、≪C1≫は、平成17年度から平成19年度までは、営業企画部の提案を踏まえて積算価格及び販売価格の引上げ内容を決定し、これを営業担当役員連絡として社内に発出していたにもかかわらず、平成20年度においては、営業企画部の提案によらず、本件会合の翌日である同年3月6日に開催された特販支社拡大幹部会議において、≪C1≫がシャッターの販売価格を10パーセント引き上げる旨を他に諮ることなく単独の決断で表明するとともに、「文化、三和で文章を作り社会に訴えていく。」と原告三和Sと協調して新聞発表するとの方針を示し、上記表明内容を営業担当役員連絡として社内に発出したこと(本件審決の認定事実・前記(1)カ(イ)、(オ)、(カ))に照らせば、原告文化が、本件会合と無関係に特定シャッターの販売価格の引上げを決定したものとは言い難い。
また、≪C1≫は、本件会合後、販売価格の引上げ目標について、一定の幅を持たせながらも一貫して10パーセントとすることを表明し、上記目標を各支店、営業所に示して販売価格引上げの指示をしたのであるから(前記(ウ)b)、各営業所や支店が、独自の判断で販売価格の引上げをしていたとは認められない。
なお、原告文化は、シャッターは、製品原価に占める鋼材価格の割合が高いことなどから、鋼材の値上げに伴う3社の値上げ幅が類似することは不自然ではない旨も主張するが、上記の説示に照らして、採用することができない。
その他、本件の全証拠によっても、原告文化の特定シャッターの販売価格を10パーセントを目標として引き上げる行動が、本件会合とは無関係に、原告文化の独自の判断によって行われたことを示す特段の事情があるとは認められない。
c 原告東洋について
原告東洋は、「原告東洋は、独自の検討に基づき、販売価格の4.8ないし6パーセントの引上げを企図していたのであり、10パーセントの引上げは、これを確保するために必要な積算価格上昇率として担当者らの検討に基づいて定めたものであり、≪D1≫の独断ではない。」と主張する(前記第3の2(5)ア(エ))。
確かに、前記(ウ)cのとおり、原告東洋の管理部門が、販売価格を4.8ないし6パーセント引き上げることを現実的な目標としていたことが認められる。
しかし、前記(ウ)cで説示したとおり、①原告東洋では、本件会合以前に、シャッターの販売価格の引上げを検討してはいたが、具体的な引上げ率までは示されておらず、他方、②≪D1≫は、本件会合において、≪B1≫が販売価格の引上げについて「10パーセントくらいは欲しいですよね。」などと述べたのに対し、これに反対することなく、「そうですね。」などと返答し、「(原告東洋は)振替価格(仕切価格)を5パーセント上げるつもりであるので、少なくともこの分は販売価格に転嫁したい。鉄の値上がり分は回収しなければならない。」と発言していたのであり(査54)、③≪D1≫が、本件会合後の平成20年3月17日の社内会議で同年4月以降のシャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントとすることを示し、④原告東洋が、同年3月25日、各支店、営業所に対し、同年4月1日から積算価格を10パーセント引き上げることを目的とした通達を発出するとともに、販売価格を10パーセント引き上げることを目標とするように伝え、同月以降の会議においても、シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントとする旨の発言、報告がされたことが認められる。このうち、≪D1≫が、上記④のとおり、販売価格の引上げ目標を10パーセントとすることを決定した経緯については、原告東洋の提出した証拠(審C11、12、参考人≪D1≫及び参考人≪D2≫(以下「≪D2≫」という。))によっても、担当である営業副本部長≪D2≫らが出した数字の端数を≪D1≫がまるめて10パーセントにしたといったあいまいなものでしかない。そうすると、本件会合及びその後の経緯に照らすと、原告東洋が、独自の検討に基づき、特定シャッター販売価格を10パーセントを目標として引き上げることを決定したとする特段の事情があるとはいえず、原告東洋の上記主張は採用することができない。
その他、本件の全証拠によっても、原告東洋の特定シャッター販売価格を10パーセントを目標として引き上げる行動が、本件会合とは無関係に、原告東洋の独自の判断によって行われたことを示す特段の事情があるとは認められない。
(オ) 意思の連絡の推認を妨げる事由の存否について
a 事後の情報交換の不存在について
(a) 全国合意の事後の情報交換の不存在
3社は、おおむね、「仮に全国合意が成立していれば、全国合意の内容が漠然としていること、シャッター取引は案件ごとに価格交渉を経て販売価格が決定されること、需要者であるゼネコンの価格交渉力が強いこと、合意の遵守を確保するために相互に牽制する必要があることなどから、3社間で事後の情報交換を行うことが不可欠というべきであり、これが行われていないことからすれば、全国合意が存在するとは認められない。」旨を主張する(前記第3の2(1)イ(エ)a、(3)イ(エ)、(5)ア(オ))。
しかし、①全国合意の内容は、平成20年4月1日見積分から、特定シャッターの需要者向け販売価格について、現行価格より10パーセントを目途に引き上げるような価格引上げ行動をすることの合意であり(前記ア)、個別の案件での販売価格の調整までは意図されていない。他方、②3社は、本件会合を開いた当時、近畿地区における受注調整の会合等をしており、南関東地区においても、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫が主導して、同年2月下旬から営業担当責任者級の者による会合を開き、受注調整に向けた協議が開始されたところであり、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫の間では、3社の協調によりシャッター等の販売価格を引き上げようとの共通認識や信頼関係が形成されていたことがうかがわれること(前記(イ)b)、③特定シャッター取引においては、個別契約の具体的な販売価格は、受注生産に応じて需要者との個別交渉により決定されるから、明確で一律の現行価格を認識することは困難であるが、3社間では共通サンプルや具体的案件を用いて3社の積算価格、見積価格等を算出するなどにより3社の成約した取引価格の水準(単価)を認識することは可能であること(前記(ア)a)に照らすと、近畿地区における受注調整の会合等や南関東地区における受注調整に向けた協議の中での情報交換は、全国合意に係る情報交換としても有効であるといえる。確かに、全国合意によるカルテル、近畿合意に基づくカルテル及び南関東において成立に向けて協議が開始されたカルテル(ただし、南関東では成立したとは認められない。)は、法的判断としては、それぞれ取引分野も異なり、不当な取引制限の方法も異なるから、基本的にはそれぞれ別個のカルテルであるが、社会的事実としては、3社の協調により特定シャッターの販売価格の値上げや低落防止を含む広い意味での販売価格を引き上げようとする点では共通性を有する。このことは、本件審決が、全国課徴金納付命令及び近畿課徴金納付命令との関係において、平成20年3月に開催された近畿地区における支店長級会合において、鋼材価格の値上げに対応するために、近畿地区における特定シャッター等に係る個別の物件の受注予定者を決定するに当たっては、受注予定者の決定とともにその販売価格の引上げも図られたと認められ、しかも、これらの販売価格の引上げは、全国合意に基づく特定シャッターの販売価格の引上げに関する本社からの指示によるものであることが推認されるとして、上記支店長級会合以降の近畿合意に基づく受注調整は全国合意に基づく特定シャッターの販売価格の引上げを具体的に実現するために行われたものと評価することができるとした上、その限度において、全国合意の実施と全く別個のものと解するのは相当ではない旨認定判断したことと整合している。
そうすると、3社間では、全国一律ではなく部分的ではあるが主要な市場である近畿地区や南関東地区において、3社の特定シャッターの販売価格を含む情報交換がされることが期待し得る状況にあったともいえ(なお、3社にとって、全国一律に各社の特定シャッターの販売価格の実績を調査・比較することは、実益があるとも考えられないし、全国合意というカルテルの存在は社内でも秘密にすべき事実であることからもこれを行うことは困難である。)、全国合意に特化した事後の情報交換がなかったとしても、全国合意が存在しないと推認させる事情であるとはいえず、原告らの上記主張は採用することができない。
(b) 新聞発表に関する事後の情報交換の不存在
3社は、おおむね、「原告三和Sの販売価格引上げについて、全国合意の10パーセント程度とは異なる6パーセントの値上げが報じられたから、他社がその点についての確認をしないことはあり得ず、これが行われていないことからすれば、全国合意が存在するとは認められない。」旨を主張する(前記第3の2(1)イ(エ)a、(5)ア(オ))。
確かに、前記ウ(ウ)d(b)のとおり、原告三和S及び原告文化の新聞発表の内容は、原告文化の値上げが「各種シャッター(窓シャッター含む)10~15%」となっているのに対し、原告三和Sの値上げは、平均値上げ率6パーセントと報道されており、両社の値上げに関する新聞発表の内容が違うものであるとの印象を与えるともいえる。また、この原告三和Sの平均値上げ率6パーセントとの報道を受けて、3社間で何らかの情報交換がされたと認めるに足りる証拠はない。
しかし、一方で、原告三和Sの値上げについては、実際の社内通達(3月14日付け通達)よりも高い値上げ額である軽量シャッター約1500円~2500円、重量シャッター約2500円の平米単価の値上げの報道がされており(審A175~179)、前記(ウ)d(b)のとおり、これを軽量手動シャッター1500円、軽量電動シャッター2500円、重量シャッター2500円と仮定して、平成19年第3四半期の販売実績に対して試算をすると、13.3パーセント、8.8パーセント、7.2パーセント程度に相当する。他方で、これまで指摘したとおり、全国合意というカルテルの存在は社内でも秘密にすべき事実であって、3社のうち、全国合意の存在を知っているのは、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫など極限られた者であると推認できるところであり、また、前記(a)でも指摘したとおり、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫は、南関東地区における受注調整に向けた協議を始めることを主導していたのであるから、上記原告三和Sの値上げ報道に関して、特段の連絡を取り合っていなかったとしても、不自然とまではいえない。
したがって、そのような特段の連絡がなかったとしても、全国合意が存在しないとはいえず、原告らの上記主張は採用することができない。
b 平成20年4月以降の競争の存在について
原告三和Sは、「3社の間では、平成20年4月1日以降も極めてし烈な価格競争が行われており、原告三和Sでは、社内の特値申請が増加したから全国合意の存在は認められない。」旨を主張する(前記第3の2(1)イ(エ)b)。
しかし、全国合意は、個別の物件の受注に係る競争を完全に排除するものではないから、個別の物件を受注するために価格競争があったとしても、全国合意が存在しないとはいえない。また、原告三和Sにおける特値申請の増加についても、全国合意は個別の物件の価格調整を内容とするものではないから、全国合意が存在したとしても、景気の動向(特に、同年9月には、リーマンショックにより世界経済とともに我が国の景気は急激に著しく後退した(審C11、公知の事実)。)などにより特値申請が増加する事態が生じ得るのであるから、特値申請が増加したこと自体から、全国合意の存在が直ちに否定されることにはならない。
エ 全国合意に係る意思の連絡の認定について
(ア)a 本件審決は、前記(3)ア(オ)aのとおり、「①3社間で、シャッター等の販売価格について10パーセントを目途として引き上げる等の対価の引上げ行為に関する情報交換が行われ、②3社は、それぞれ本社において平成20年4月1日以降の特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントと定め、販売価格の引上げに向けた営業活動をするという同一の行動をとったものと認められるところ、本件会合以前は、3社とも、引上げ幅についての検討内容が異なっていたにもかかわらず、本件会合の後、本件会合で情報交換がされた内容と同じ「10パーセント」を目標としていたことは、不自然な一致というべきであり、③3社について、このような値上げに向けた行動が本件会合で情報交換がされた他の2社の行動とは無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情も認められないから、3社の間には、相互に特定シャッターの販売価格について、現行価格より10パーセントを目途として引き上げることを予測し、これと歩調をそろえる意思があるものと推認される。」と認定判断している。
b 当裁判所も、本件審決の上記aの全国合意の推認には、実質的な証拠があると判断する。その根拠を補足すると次のとおりである。
①3社は、いずれもゼネコンの値下げ要求によるシャッターの受注価格の低落という問題を抱えていた上、平成19年10月頃から上昇していた鋼材価格が、更に平成20年4月以降大幅に値上げされることが同年2月下旬に判明し、これに伴いそれぞれシャッター等の販売価格の引上げを実施することを検討していた時期に、各社の営業部門を統括する役員級の者である≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫による本件会合が開かれたのであり、しかも、3社は、当時、近畿地区における受注調整の会合等をしており、南関東地区においても、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫が主導して、同年2月下旬から営業担当責任者級の者による会合を開き、受注調整に向けた協議が開始されたところであり、≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫の間では、3社の協調によりシャッター等の販売価格を引き上げようとの共通認識や信頼関係が形成されていた(前記ウ(イ)b)。②≪B1≫、≪C1≫及び≪D1≫は、本件会合において、それぞれに鋼材価格の急激な上昇に対応するためにシャッター等の値上げをせざるを得ないと発言していた状況で、≪B1≫において、販売価格を10パーセント程度引き上げたい旨具体的な数値を挙げた発言をしたところ、≪C1≫及び≪D1≫もこれに反対することなく、≪C1≫及び≪D1≫において、積算価格の引上げにより販売価格を引き上げる意向を示し、≪C1≫及び≪B1≫において、原告三和S及び原告文化があらかじめ値上げの実施を新聞発表する意向を表明し合い、≪D1≫は、原告東洋の値上げの検討状況に関して具体的な数値を挙げて発言するなどし、販売価格の引上げの有無、その方法や検討状況など競業他社において本来確知しないはずの営業上の秘密にわたる情報交換をした上、併せて、受注調整等の必要性をうかがわせる会話をした(前記ウ(イ)b)。③3社は、本件会合以前は、特定シャッターの販売価格の引上げ目標を10パーセントと設定していなかったにもかかわらず(前記イ(イ))、本件会合後には、原告文化の≪C1≫が、その翌日の社内会議において、シャッターの販売価格を10パーセント引き上げる旨を表明するとともに、「販売価格をいかに上げるか?積算価格も上げていく。」、「文化、三和で文章を作り社会に訴えていく。」と新聞発表の方針を明らかにした上、「売価アップは必死にやる。」などと説明したのを始めとして(前記ウ(イ)b)、3社とも、順次、特定シャッターの販売価格の引上げ目標を、本件会合での≪B1≫の発言と合致する10パーセントと定め、それぞれ上記目標を各支店、営業所に示して販売価格の引上げを指示したもので、特定シャッターの販売価格について、現行価格より10パーセントを目途として引き上げるという全国合意の内容に沿った行動をとったものといえる(前記イ(イ)d)。④そして、以上の全国合意の存在を推認すべき間接事実が認められるのに対し、全国合意の存在の推認自体を妨げる事情や、3社の本件会合後の行動が全国合意と無関係に行われているなどの、全国合意の意思の連絡の認定に妨げになる特段の事情は認められないから(前記ウ)、本件審決の上記aの全国合意の推認には、実質的な証拠があるというべきである。
なお、全国合意において、特定シャッターの販売価格を現行価格より10パーセントを目途として引き上げるという具体的な内容に関しては、本件証拠上、本件会合で初めて情報交換がされた内容であり、本件会合より前に3社間で上記内容による合意形成に向けた情報交換が行われたと認めるに足りる証拠はないが、このことは、上記の判断を左右するものではない。
c 全国合意は、このように、3社による「特定シャッターの需要者向け販売価格について、(後記(イ)のとおり)平成20年4月1日見積分から、現行価格より10パーセントを目途に引き上げる旨の合意」であり、黙示的な意思の連絡によるものであり、その内容は抽象的、包括的なものであって、実効性を担保する制裁等の定めがないものといえるものの、上記bで説示したように、これによって、同内容又は同種の対価の引上げをすることを互いに認識し認容して歩調を合わせる意思の連絡が形成されたと認められ、また、後記(5)ないし(7)のとおり、3社は、これにより、特定シャッターの需要者向け販売価格について、共同して相互にその事業活動を拘束し、公共の利益に反して、特定シャッターの取引分野における競争を実質的に制限するものと認められることと相まって、不当な取引制限としての対価を引き上げる合意をしたといえるものである。
(イ)a また、本件審決(前記(3)ア(オ)b)は、「値上げの時期に関して、本件会合では明言されていなかったが、当該合意は、同年4月1日以降に原材料である鋼材の値上げに伴い、シャッター製品の値上げを行うことを内容とするものであるところ、シャッター製品の値上げに当たっては、原則として、シャッター業者が提示した見積価格を前提として需要者との間で価格交渉を経るものであることから、3社においては、少なくとも同日見積分から値上げを行うとの合意があったものと推認される。」と認定判断している。
b 黙示の意思の連絡を認定する場合には、明示的な発言や記載等がなくとも、関係者間の暗黙のうちの共通認識を前提とした合理的な推認をすることが必要かつ合理的であり、本件審決の上記認定判断については、その内容に照らし、推認の過程に不合理な点はなく、現に3社は同日見積分から値上げを行ったことに照らしても(前記(1)オ(イ)c、カ(ウ)、キ(オ))、実質的な証拠があるといえる。
(ウ) したがって、本件審決が、3社には、全国合意を内容とする意思の連絡があったと推認したことには、実質的な証拠がある。
(5) 全国合意による相互拘束についての検討
ア 独禁法2条6項の「相互にその事業活動を拘束し」とは、本来公正かつ自由な競争(同法1条)において各事業者が自由に決めるべき価格、品質、数量、その他各般の事業活動に係る条件に関して相互に制約することをいい、拘束の程度としては、事業者らの間において上記の事業活動に係る条件に関して一定の競争回避的な事業活動をすることを互いに認識し認容して歩調を合わせる意思の連絡を形成し、これに制約されて意思決定を行うことになれば、事業者間の事業活動が事実上拘束されることになり、これで足りるものと解される(多摩談合事件最高裁判決参照)。
イ 原告東洋は、「原告東洋は、本件会合後も、拘束や制約されることなく、値上げ幅について自由に検討・決定していたから、相互拘束は認められない。」旨を主張する(前記第3の2(5)イ)。
しかし、3社については、全国合意を内容とする対価の引上げをすることを互いに認識し認容して歩調を合わせる意思の連絡が認められ(前記(4))、これによって、3社がこれに制約されて特定シャッターの販売価格について、現行価格より10パーセントを目途として引き上げるとの同一の行動に出たことが認められる(前記(4)イ(イ)d)。原告東洋の上記主張は、その実質は、原告東洋が任意に全国合意に参加し、これを互いに認識し認容して歩調を合わせる行動をしたことを意味するに過ぎない。本件審決が、全国合意は各社の事業活動を拘束するものであると認定したこと(前記(3)イ)には、実質的な証拠がある。
(6) 全国合意による一定の取引分野における競争の実質的制限の検討
ア 独禁法2条6項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうこと、すなわち、事業者らの間で一定の競争回避的な事業活動をすることを互いに認識し認容して歩調を合わせる意思の連絡を形成することにより、一定の取引市場における競争自体を減少させ、本来公正かつ自由な競争(同法1条)においては各事業者が自由に決めるべき価格、品質、数量、その他各般の事業活動に係る条件をある程度自由に左右することができる状態をもたらし、もって、市場が有する競争機能を損なうことをいい、一定の取引市場における競争を完全に排除し、価格等を完全に支配することまでは必要ないと解される(多摩談合事件最高裁判決、東京高等裁判所昭和26年(行ナ)17号同28年12月9日判決、同裁判所平成21年(行ケ)第46号等同22年12月10日判決等参照)。
イ 「一定の取引分野」の画定について
(ア) 独禁法2条6項の「一定の取引分野」とは、事業者間の競争回避的な「特定の行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲をいうものであり、その成立する範囲は、具体的な行為や取引の対象・地域・態様等に応じて相対的に決定されるべきものである」(東京高等裁判所昭和59年(行ケ)第264号同61年6月13日判決参照)。
そして、全国合意は、「特定シャッターの需要者向け販売価格について、平成20年4月1日見積分から、現行価格より10パーセントを目途に引き上げる」旨を内容とするものであり、特定シャッターを構成する軽量シャッター及び重量シャッター(いずれもグリルシャッターを含む。)の取引全体を対象とし、地域的な限定は特にされていないから、その対象及び影響を受ける範囲は、全国の特定シャッターの取引であると認められる。
3社は、シャッター事業等を目的とする事業者であり、特定シャッターという同種又は類似の商品(取付工事等の役務も含む。)の全てを各支店や営業所を通じて全国の需要者に提供しており(独禁法2条4項の「競争」の定義参照)、3社の当時の特定シャッター出荷数量に占める市場占有率は、全体で約92.8パーセント(軽量シャッターは約96.0パーセント、重量シャッターは約87.4パーセント、グリルシャッターは約85.6パーセント)を占めていたこと(前提事実(1)、(2)、前記(1)の本件審決の認定事実ク)、特定シャッターが建築物の開口部に設置する建具として独自の機能を有しており、特定シャッターに代替できるそれ以外の商品の市場が存在するとの指摘が特にされていないこと(弁論の全趣旨)に照らすと、本件における一定の取引分野を全国における特定シャッターの販売分野であると認めた本件審決の認定・判断には合理性があり、実質的な証拠があるというべきである。
(イ) 原告三和S及び原告文化の主張について
これに対し、原告三和S及び原告文化は、おおむね、①特定シャッターに含まれる軽量シャッター、重量シャッター及びグリルシャッターは、需要者からみた代替性がないから、これらを単一の取引分野として画定することは法令の解釈・適用上の誤りがあること(原告三和S)、②原告三和Sの事業はシャッターの製造、取付工事等の一連の役務を提供するものであり、これらの取引は「販売」でなく「請負」であるから、特定シャッターの「販売」分野における競争制限とするのは法令の解釈適用を誤っていること(原告三和S)、③特定シャッターについての「全国」を対象とする特定シャッターの市場は存在しないこと(原告文化)を主張する(前記第3の2(1)ウ(ア)、(3)ウ(ア))。
a 需要者からみた代替性がないとの主張について
独禁法上、不当な取引制限、私的独占や企業結合などの各規制の要件として定められる「一定の取引分野」とは、需要者と供給者との間の商品役務の取引に関する競争が行われる市場であり、一般に需要者からみた商品役務の代替性があることが競争の前提であると説かれるが、その解釈は各規制の目的趣旨に沿って行われるべきものである。不当な取引制限の要件としての「一定の取引分野」は、競争回避的な特定の行為に関して、競争の実質的制限がもたらされるか否かを検討する範囲としての市場であり、個別事案との関係で相対的に画定されるが、需要者からみた商品役務の代替性を、包括的に画定するか、細分化して画定するかについても、不当な取引制限の成否の観点、あるいは排除措置命令又は課徴金納付命令(課徴金減免申請を含む。)等の手続に与える影響の観点を踏まえ、相対的に判断すれば足りるというべきである。
これを全国合意についてみると、需要者からみた代替性は、上記(ア)に説示した事情を踏まえると、不当な取引制限の成否の観点からも特定シャッターを構成する各商品間の代替性をさらに細分化して検討する必要性は認められず(なお、石油価格カルテル事件最高裁判決は、石油製品全体(需要者・供給者からみた代替性がない商品が含まれる。)について不当な取引制限の違反を認める原判決を維持している。)、全国排除措置命令又は全国課徴金納付命令の手続上からも同様であって、原告三和Sの上記主張は採用することができない。
b 特定シャッターの取引は「請負」であるから、「販売」分野における競争制限とするのは誤っているとの主張について
全国合意は、3社の全国における特定シャッターの販売価格の引上げに関する意思の連絡であり、独禁法上、事業者が商品又は役務を提供(同法2条4項の「競争」の定義参照)するに際して、当該販売における不当な取引制限(同法2条6項)が成立するか否かが問題である。3社と需要者との間の取引に係る民事的な法律構成又は契約類型(請負であるか、売買であるか等)とは別個の法律問題であり、本件審決にこの点での法令の解釈適用に誤りはないから、原告三和Sの主張は採用することができない。
c 特定シャッターについての「全国」を対象とする特定シャッターの市場は存在しないとの主張について
3社は、全国を対象として特定シャッターを販売しており(弁論の全趣旨)、全国を対象とする特定シャッターの市場が存在しないとの原告文化の主張は採用することができない。
ウ 競争の実質的制限について
(ア) 競争の実質的制限(独禁法2条6項)とは、前記アのとおり、事業者らの間で一定の競争回避的な事業活動をすることを互いに認識し認容して歩調を合わせる意思の連絡を形成することにより、一定の取引市場における競争自体を減少させ、本来公正かつ自由な競争(同法1条)においては各事業者が自由に決めるべき価格、品質、数量、その他各般の事業活動に係る条件をある程度自由に左右することができる状態をもたらし、もって、市場が有する競争機能を損なうことをいい、一定の取引市場における競争を完全に排除し、価格等を完全に支配することまでは必要ない。
(イ) これを全国合意についてみると、3社の当時の特定シャッターの市場占有率は、約92.8パーセント(軽量シャッターは約96.0パーセント、重量シャッターは約87.4パーセント、グリルシャッターは約85.6パーセント)であるところ(前提事実(2))、3社の間で、本来各社が自由に決めるべき「特定シャッターの需要者向け販売価格について、平成20年4月1日見積分から、現行価格より10パーセントを目途に引き上げる」旨の競争回避的な事業活動をすることを互いに認識、認容して歩調を合わせる意思の連絡を形成することにより、3社とも、順次その旨の値上げ目標を定め、各支店、営業所にその目標を示して販売価格の引上げを指示したのであるから(前記(4)イ(イ)d)、単独で販売価格の引上げ行動をする場合と比較して、顧客を失う可能性は低減し、目標とする販売価格を現行価格より10パーセント引き上げるという結果が得られないとしても、全国における特定シャッターの販売市場において、ゼネコン以外の需要者との間においては格段に、価格交渉力を有する需要者であるゼネコンとの関係においても相応に、従前よりも高い水準の見積価格を前提とする取引価格とすることができる可能性が高まるから、3社で価格をある程度自由に左右できる状態がもたらされたものと認めるのが相当であり、もって、市場が有する競争機能を損なうものであったといえる。このことは、結果として、3社ともに受注実績に基づく平成20年4月1日から同年11月18日の軽量シャッター、重量シャッターの平米単価が、平成19年度通年と比較していずれも上昇していたこと(前記(1)ケ)にも表れているものといえる(なお、平成20年9月には、リーマンショックにより世界経済とともに我が国の景気は急激に著しく後退したから(審C11、公知の事実)、それ以降の経営指標が悪化したとしても、上記の判断は変わらない。)。
したがって、全国合意により、全国における特定シャッターの販売市場(ゼネコン及びそれ以外も含む需要者全体)において、3社で価格をある程度自由に左右できる状態をもたらし、もって、市場が有する競争機能を損ない、競争が実質的に制限されたというべきである。
(ウ) これに対し、原告三和S及び原告文化は、①見積価格の引上げと最終的な取引価格の引上げとの連動性が立証されていないこと(原告三和S)、②平成20年4月以降も激しい競争が行われていたこと(原告三和S)、③ゼネコンの価格交渉力の強さや個別物件についての激しい競争が行われていたこと(原告文化)を指摘し、全国合意による競争の実質的制限はない旨を主張するが(前記第3の2(1)ウ(イ)、(5)ウ(イ))、これまで説示したところに照らし、いずれも採用することができない。
(7) 全国合意が公共の利益に反していることの検討
ア 独禁法2条6項にいう「公共の利益に反して」とは、原則としては同法の直接の保護法益である自由競争経済秩序に反することを指すが、現に行われた行為が形式的にこれに該当する場合であっても、上記法益と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して、「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という同法の究極の目的(同法1条参照)に実質的に反しないと認められる例外的な場合には同規定にいう「不当な取引制限」行為から除外する趣旨と解される(石油価格カルテル事件最高裁判決)。
イ 原告文化は、おおむね、元請の立場にあるゼネコン等が、下請けの立場にあるシャッター事業者に対して、その優越的な地位を濫用して、不当な値引き要求や指値発注などをしてきたときに、シャッター事業者が値上げ意向の公表等の手法によってこれに対抗して値下げ防止を図ることは、正当な行為であって「公共の利益」に反しないなどと主張する(前記第3(3)エ)。
しかし、元請が下請に対してその優越的な地位を濫用して不当な値引き要求や指値発注などをしてきた事例があったとしても、これに対抗するために、全国合意のような価格カルテルによって共同して対価を引き上げる行動が、上記の一般消費者の利益の確保や国民経済の民主的で健全な発達を促進することにつながるとは認められないから、全国合意について、「公共の利益」に反しないといえない。
(8) 小括
本件審決は、「3社間には、平成20年3月5日頃、全国合意を内容とする意思の連絡があったものと認められる。そして、全国合意により、3社は、特定シャッターの需要者向け販売価格について、共同して、相互にその事業活動を拘束し、公共の利益に反して、特定シャッターの取引分野における競争を実質的に制限していたものであるから、これは、不当な取引制限に該当する。」と認定判断するが、その認定判断は、以上の説示のとおり、実質的証拠に基づき、合理的なものといえる。
したがって、全国排除措置命令の違法性を認めなかった本件審決には、その余の点を含めて、違法はない。
3 全国課徴金納付命令の適法性について
(1) 被告による原告三和S、原告文化及び原告東洋に対する全国課徴金納付命令
被告は、改正前独禁法7条の2第1項の規定に基づき、全国排除措置命令に係る不当な取引制限は「商品」の対価に係るもの(同項1号)であるとして、当該不当な取引制限の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(実行期間)を平成20年4月1日から同年11月18日までとし、同期間における3社の特定シャッターに係る売上額を、引渡基準等を定める改正前施行令5条1項の規定に基づいて算定した上、同額に100分の10を乗じて得た金額から、同法7条の2第23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて課徴金額を算定し、平成22年6月9日付けで、原告三和Sに対して25億1615万円、原告文化に対して17億8167万円、原告東洋に対して5億2549万円の課徴金を国庫に納付することを命じた(前記第2の3(1)イ)後、本件審決において、近畿合意に基づく受注調整の一部が全国合意の実施として行われたものとも評価できるとした上、近畿課徴金納付命令の課徴金の算定の基礎とされた物件を全国課徴金納付命令の課徴金の算定の基礎から除き、原告三和Sに対して24億5686万円、原告文化に対して17億3831万円、原告東洋に対して4億8404万円を超えて納付を命じた部分を取り消した(前記第2の3(3)イ)。
(2) 全国合意を改正前独禁法7条の2第1項1号の「商品」の対価に係るものとした点の適法性について
ア 全国課徴金納付命令は、「特定シャッター」を取付工事等の役務が併せて発注されている場合には当該役務を含むものとした上で、全国合意による不当な取引制限行為は、「商品」の対価に係るものであるとしているところ、原告三和Sは、おおむね、シャッターの取引は販売ではなく請負であるから被告は法令の適用を誤っており、また、独禁法は、商品と役務を厳密に使い分けているから(例えば、改正前独禁法2条9項4号は「商品」の再販売価格維持のみを規制)、シャッターの取引を「商品」とした全国課徴金納付命令及びこれを是認した本件審決は法令の解釈を誤っている旨を主張する。
イ この点について、本件審決は、「3社は、各実行期間中、業としてシャッターの製造を行っていた製造業者であり、これは、製造したシャッターに係る工事等の役務の提供を併せて行っていても左右されない。全国課徴金納付命令は、全国排除措置命令に係る不当な取引制限を「商品の対価に係るもの」とし、「商品」とは「特定シャッター」を指すところ、特定シャッターに係る取引が製品の製造及び取付工事等の役務提供を伴うものであっても、需要者の注文に応じて製作・供給する物を「商品」と認めることは可能であるし、特定シャッターは「取付工事等の役務が併せて発注される場合には当該役務を含む」と定義されているから、「商品」には取付工事等の役務が含まれている。また、改正前独禁法7条の2第1項は、「商品又は役務」と併記し、法適用上、商品であるか役務であるかによって取扱いが異ならないから、商品に役務を含めて定義したことが不当であるとはいえない。」旨の認定判断をしている。
ウ 改正前独禁法7条の2第1項は、事業者が不当な取引制限で「商品又は役務の対価に係るもの」(同項1号)に該当するものをしたときは、公正取引委員会は課徴金を国庫に納付することを命じなければならない旨を規定している。上記の「商品」及び「役務」の区別について、一般には取引の対象が有体物か無体物(いわゆるサービス)であるかによるものであるが、「商品」の取引といっても、納入時やいわゆるアフターサービスなどの役務を随伴することが通常であり、厳密に両者を区別することは困難であり、また、同項1号は「商品又は役務の対価に係るもの」と要件を一体的に規定してその法律効果も同一であるから、「商品」及び「役務」を厳密に区別する意義に乏しい。そうすると、当該取引の対象が有体物であるといっても社会通念上不自然でない場合には、役務を伴っていたとしても、「商品」と解釈することは相当であり、その役務部分を併せて重視して、「商品」及び「役務」と解釈することも許されるというべきである。なお、原告三和Sは、独禁法は、商品と役務を厳密に使い分けているとして、改正前独禁法2条9項4号は「商品」の再販売価格維持のみを規制している旨も主張するが、同号は、「役務」の再販売は想定されていないために「商品」に限定して規定しているものであり、上記の判断を左右しない。
そうすると、本件審決が、上記イのとおり、原告三和Sは、シャッターの製造業者として、「特定シャッター」を需要者の注文に応じて製作・供給するのであるから、その製造及び取付工事等の役務提供を伴うものであっても、取引の対象は「商品」と認めることができ、また、特定シャッターは「取付工事等の役務が併せて発注される場合には当該役務を含む」と定義されているから、「商品」には取付工事等の役務が含まれていると認定判断したことに、法令の解釈適用上の誤りはない。原告三和Sの上記アの主張は採用することができない。
(3) 原告三和Sが平成20年4月1日より前に顧客に見積りを提出した取引を課徴金算定の基礎に含めることの適法性について
ア 原告三和Sは、「原告三和Sに対する全国課徴金納付命令は、全国排除措置命令に係る違反行為を不当な取引制限とし、全国排除措置命令において違反行為とされている全国合意は、平成20年4月1日見積分から特定シャッターの需要者向け販売価格を現行価格より10パーセントを目途に引き上げる旨の合意であるから、全国合意の対象は、同日以降の見積分であり、同日より前に需要者に見積価格を提示したものには違反行為の拘束が及んでいないから、その取引は課徴金算定の基礎から除外されるべきである。」旨を主張する。
イ この点について、本件審決は、概要、次のとおり認定判断している。
(ア) 改正前独禁法7条の2は、課徴金の額について、当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に所定の割合を乗じて得た額に相当する額と定めているところ、独禁法は、課徴金の算定方法を具体的な法違反による現実的な経済的不当利得そのものとは切り離し、売上額に一定の比率を乗じて一律かつ画一的に算出することとして、カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できることを図ったものと解すべきである。そして、改正前独禁法7条の2第1項の「当該商品」とは、違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって、違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解すべきであり、違反行為を行った事業者が、明示的又は黙示的に当該行為の対象から除外するなど、当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す事情(以下「当該商品該当性を否定する特段の事情」という。)が認められない限り、違反行為による拘束が及んでいるものとして、課徴金算定の対象となる当該商品に含まれ、その対価の額が、課徴金の算定の基礎となる売上額となると解すべきである。
(イ) 3社が平成20年4月1日より前に見積価格を提示した特定シャッターの売上げは、課徴金の計算の基礎になり得るものである。
すなわち、3社は、特定シャッターについて特段の限定を付さずに値上げの話合いをし、価格引上げ行動に出たから、全国合意の対象商品の範ちゅうに属する商品は、特定シャッター全般である。全国合意には、「平成20年4月1日見積分から」という取決め部分があるが、これは、値上げの実施の契機としての時期及び態様に関する取決めであって、商品の特性や取引の属性などに応じて値上げの対象商品自体を限定したものではない。また、課徴金の対象となる売上額は、実行期間内における「引き渡し」(改正前施行令5条)又は「契約」(改正前施行令6条)を基準として、これらに係る商品の対価の合計と定められている。
したがって、平成20年3月31日以前の見積分であっても、実行期間内において引き渡した特定シャッターの対価の額と認められる限り、課徴金の算定の基礎となる売上額に含まれるというべきである。
ウ 改正前独禁法7条の2は、不当な取引制限の課徴金の算定方式について、事業者が当該行為の実行を行った日からこれがなくなる日までの期間(実行期間)における当該商品又は役務の売上額に所定の割合を乗じて得た額とする旨を規定している。したがって、「当該行為」とは、不当な取引制限に該当する違反行為であり、「当該商品又は役務」とは、上記違反行為の対象とされた商品の範ちゅうに属する商品又は提供された役務であって、当該違反行為による拘束を受けたものをいうと解される。そして、同条が、課徴金の算定方式について、上記のように違反行為によって現実的に得た経済的利益の額とせずに、実行期間の当該商品又は役務の売上額に所定の割合を乗じて得た額とした趣旨は、課徴金制度が行政上の措置であるため、算定基準も明確なものであることが望ましく、また、制度の積極的かつ効率的な運営により違反行為の抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであり、こうした観点から、課徴金の額はカルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものではないというべきである(最高裁平成14年(行ヒ)第72号同17年9月13日第三小法廷判決・民集59巻7号1950頁参照)。これを受けて改正前施行令5条は、「当該商品」の売上額算定の方法の原則を引渡基準(例外的に契約基準)によることと定め、実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額を合計する方法によることとしている。これらの趣旨に照らすと、実行期間において引き渡した違反行為の対象とされた商品の範ちゅうに属する商品又は提供された役務については、違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り、違反行為による拘束が及んでいるものとして、「当該商品又は役務」と認め、課徴金算定の基礎とするのが相当である(東京高裁平成22年(行ケ)第4号同22年11月26日判決・審決集57巻第2分冊194頁参照)。
これを平成20年4月1日より前に見積価格を提示した特定シャッターについてみると、全国合意は、「特定シャッターの需要者向け販売価格について、同年4月1日見積分から、現行価格より10パーセントを目途に引き上げる旨の合意」であるところ、「当該商品」である特定シャッターについて特段の限定を付さずに値上げの話合いをし、価格引上げ行動に出たから、全国合意の対象商品の範ちゅうに属する商品は、特定シャッター全般であり、「平成20年4月1日見積分から」とあるのは、3社共同での需要者向け販売価格の値上げ行動という取引制限行為の対象を限定する趣旨ではなく、その行動の始期を定める趣旨に過ぎないと解され、商品の特性や取引の属性などに応じて値上げの対象商品自体を限定したものではない。したがって、同年4月1日より前に見積価格を提示した特定シャッターについては、当該商品該当性を否定する特段の事情はなく、同年4月1日以降の引渡しに係る特定シャッターの売上げであれば、全国課徴金納付命令の課徴金の計算の基礎となるというべきである。原告三和Sの上記アの主張は採用することができない。
(4) 原告三和Sが見積りを提示することなく行った取引を課徴金算定の基礎に含めることの適法性について
原告三和Sは、「全国合意の対象は、平成20年4月1日以降の見積分であるから、見積りが提示されることなく行われた取引の売上額を課徴金算定の基礎に含めることは許されない。」旨を主張するが、上記(3)で説示したとおり、全国合意の「平成20年4月1日見積分から」とは、3社共同での需要者向け販売価格の値上げ行動という取引制限行為の対象を限定する趣旨ではなく、その行動の始期を定める趣旨に過ぎないと解されるから、原告三和Sが見積りを提示することなく行った取引の特定シャッターについては、当該商品該当性を否定する特段の事情はなく、同年4月1日以降の引渡しに係る特定シャッターの売上げであれば、課徴金の計算の基礎となるというべきである。原告三和Sの上記主張は採用することができない。
(5) 原告三和Sに対する全国課徴金納付命令が引渡基準によって課徴金額を算定したことの適法性について
ア 原告三和Sは、「原告三和Sに対する全国課徴金納付命令については、課徴金の計算の基礎となる売上額を引渡基準に基づいて算定しているところ、原告三和Sに対する近畿課徴金納付命令と同様に、時期によって取引量が大きく変動している点及び1件ごとの取引価格に大きな差が生じることを重視して、引渡基準と契約基準とに基づいて算定する売上額との間に著しい差異を生ずる事情があると認めて、契約基準に基づいて売上額を算定すべきであったのに、これをしなかったのは不合理である。」などとして、違法である旨を主張する。
イ この点について、本件審決は、概要、次のとおり認定判断している。
(ア) 課徴金の計算としての売上額の算定について、改正前施行令5条は、原則として「引渡基準」によるべきことを定めているところ、改正前施行令6条においては、その例外として、引渡基準による実行期間における対価の額の合計額と契約基準による実行期間における対価の額の合計額に「著しい差異を生ずる事情があると認められるとき」には、法違反行為の実行としての事業活動による不当利得が適正に反映するように、「契約基準」が設けられている。
このような改正前施行令6条が設けられた趣旨や、この契約基準によるべき場合を、「著しい差異があるとき」ではなく、「著しい差異を生ずる事情があると認められるとき」とする同条の規定の文言、規定の仕方に照らせば、同条にいう「著しい差異が生ずる事情がある」か否かの判断は、改正前施行令5条の定める引渡基準によった場合の対価の額の合計額と契約により定められた対価の額の合計額との間に著しい差異が生ずる蓋然性が類型的又は定性的に認められるかどうかを判断して決すれば足りるものと解せられる。(東燃ゼネラル事件高裁判決参照)
(イ) 原告三和Sに対する近畿課徴金納付命令については、「契約基準」によっているが、これは、①ⅰ)対象とする近畿地区における特定シャッター等が積算価格5000万円以上のものに限定され、積算価格5000万円未満の取引によって平準化されないこと、ⅱ)近畿地区における建築物その他の工作物に取り付けられるものに限られるため、他の地域の建築物その他の工作物に取り付けられるものによって平準化されないこと、及びⅲ)受注調整事案であり、各社の営業活動の実績等を勘案して受注予定者が決定される性質上、課徴金の計算の基礎となる物件の売上額が定期的に生じるとはいえないことから、ⅳ)ある物件が課徴金の対象物件に含まれるか否かにより課徴金の計算の基礎となる売上額にも大きな差異が生じる蓋然性が類型的又は定性的に認められること、②加えて、近畿地区における特定シャッター等が大型物件であり、受注から引渡しまで半年以上を要すると認められ、1物件当たりの売上額が高額であり、物件ごとの売上額の差が大きいこと等の事情を勘案して、原告三和Sに対する近畿課徴金納付命令に係る課徴金の計算の基礎となる売上額については、「著しい差異を生ずる事情があると認められるとき」に該当すると認められたからである。
他方で、原告三和Sに対する全国課徴金納付命令については、原告三和Sの特定シャッターの平成19年度の出荷数量は、軽量シャッターが147万6289平方メートル、重量シャッターが70万9236平方メートルで軽量シャッターの占める割合が大きく、売上額は、軽量シャッターが233億6800万円、重量シャッターが253億4200万円(1対1.08)であるところ、軽量シャッターは受注から引渡しまでの期間が長いもので1か月程度と短く、重量シャッターは受注から引渡しまでの期間が長く、1物件当たりの売上高が高額であり、物件ごとの売上額の差が大きい等の事情がある。そして、これら特定シャッターの取引においては、近畿地区における特定シャッター等の取引のように、地理的範囲、物件の金額が限定されるため平準化されないという事情は該当せず、実行期間内における特定シャッターの取引を全体としてみれば、引渡基準によった場合の対価の額の合計額と契約により定められた対価の額の合計額との間に著しい差異が生ずる蓋然性が類型的又は定性的に認められるとはいえない。
(ウ) したがって、原告三和Sに対する全国課徴金納付命令が、引渡基準によって課徴金の計算の基礎となる売上額を算定したことは適法である。
ウ 改正前施行令は、商品の対価に係る不当な取引制限に該当する行為をしたときの課徴金の額の算定の基礎となる商品の売上額の算定方法について、原則として、実行期間において引き渡した商品の対価の額を合計する方法と定め(引渡基準。5条1項)、同方法によって算定された金額と実行期間において締結した契約により定められた商品の販売の対価の額を合計する方法(契約基準)により算定された金額との間に著しい差異を生ずる事情があると認められるときには、契約基準によることを定めるところ(6条1項)、「著しい差異が生ずる事情がある」か否かの判断は、引渡基準によった場合の算定額と契約基準によった場合の算定額との間に著しい差異が生ずる蓋然性が類型的又は定性的に認められるかどうかを判断して決すれば足りるものと解せられる(東燃ゼネラル事件高裁判決参照)。
これを本件についてみると、本件審決は、上記イ(イ)のとおり、①原告三和Sに対する近畿課徴金納付命令については、対象取引が5000万円以上のものに限定され、5000万円未満の取引や他の地域での取引で平準化されないこと、対象取引の売上額が定期的に生じるとはいえないことから、ある物件が課徴金の対象物件に含まれるか否かにより課徴金の計算の基礎となる売上額にも大きな差異が生じる蓋然性が類型的又は定性的に認められるとした上で、対象取引が大型物件であり、受注から引渡しまで半年以上を要し、1物件当たりの売上額が高額で、物件ごとの売上額の差が大きいこと等の事情を勘案すれば、「著しい差異が生じる事情があると認められる」と判断したのに対して、②原告三和Sに対する全国課徴金納付命令については、地理的範囲、物件の金額が限定されるため平準化されないという事情はなく、実行期間内における対象取引全体としてみれば、引渡基準と契約基準とに基づいて算定する売上額との間に著しい差異が生ずる蓋然性が類型的又は定性的に認められるとはいえないと判断したものであり、上記認定判断に不合理な点は認められない。この点で、原告三和Sは、軽量シャッターも時期によって取引量が大きく変動している点及び1件ごとの取引価格に大きな差が生じることを重視して、契約基準によるべきであると主張するが、上記の合理性判断を左右するものではない。原告三和Sの上記アの主張は採用することができない。
(6) 本件審決における課徴金の減額について更に見直しを要するとの原告三和Sの主張について
ア 原告三和Sは、「本件審決は、原告三和Sに対する近畿課徴金納付命令の課徴金計算の対象とされていた取引案件のうち、全国価格カルテルの実行期間とされている平成20年4月1日から同年11月18日までの間に売上げが計上された取引案件(審決別表A及びD記載のもの)に係る売上げを、原告三和Sに対する全国課徴金納付命令における課徴金の計算の対象から除外すべきであるとし、その結果、同命令による原告三和Sに対する課徴金の額は一定程度減額された。しかし、原告三和Sに対する全国課徴金納付命令の課徴金算定は契約基準を採るべきであるから、原告三和Sに対する全国課徴金納付命令から除外する取引案件の選定は売上日ではなく契約日に着目して行われるべきである。」旨を主張する。
イ しかし、前記(5)で説示したとおり、被告が原告三和Sに対する全国課徴金納付命令について、引渡基準によって課徴金の計算の基礎となる売上額を算定したことは適法であり、原告三和Sの上記アの主張は前提を欠き、採用することができない。
4 近畿課徴金納付命令の適法性について
(1) 被告による原告三和らに対する近畿課徴金納付命令
被告は、改正前独禁法7条の2第1項の規定に基づき、近畿排除措置命令に係る不当な取引制限は「商品」の対価に係るもの(同項1号)であるとして、実行期間を、原告三和Hについては平成19年5月16日から同年9月30日まで、原告三和Sについては同年10月1日から平成20年11月18日までとし、同期間における原告三和らの近畿地区における特定シャッター等に係る売上額を、契約基準等を定める改正前施行令6条1項、2項の規定に基づいて算定した上、同額に、原告三和Hについては100分の8(改正前独禁法7条の2第6項)、原告三和Sについては100分の10を乗じて得た金額から、その100分の30を乗じて得た額を減額した金額(同条12項)について、同条23項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて課徴金額を算定し、平成22年6月9日付けで、原告三和Sに対して2億5899万円、原告三和Hに対して4026万円の課徴金を国庫に納付することを命じた(前記第2の3(2)イ)。
(2) 近畿合意に基づく違反行為が改正前独禁法7条の2第1項1号の「商品」の対価に係るものとした点の適法性について
原告三和らは、「近畿合意が改正前独禁法7条の2第1項1号にいう「商品」の対価に係るものとされているが、シャッターの取引は販売ではなく請負であるから、法令の適用を誤っている。」旨を主張するが、前記3(2)で説示したとおり、採用することができない。
(3) 近畿合意に基づく実行期間の始期の認定の適法性について
ア 原告三和らは、「実行期間の始期である「当該行為の実行としての事業活動を行った日」(改正前独禁法7条の2第1項)とは、違反行為に基づいてその実行としての事業活動が開始された日を指し、事業者内部の準備行為だけでは足りず、違反行為の内容を実施に移す何らかの外部的な事業活動が行われることが必要である。原告三和Hの実行期間の始期は、近畿合意に基づき、平成19年5月16日に受注予定者が決定されたことを前提として、原告三和Hが顧客に対して最初に見積りを提示した日である同年6月14日である。原告三和Sの実行期間の始期は、法人格が異なる原告三和Hの違反行為を当然に引き継ぐものでなく、原告三和Hからの事業承継後、近畿合意に基づき、①原告三和Sが近畿地区における特定シャッター等を最初に受注した日である平成19年11月22日であり、仮にそうでなくとも、②同月4日に近畿合意に係る会合が初めて開かれた後、原告三和Sが顧客に最初に見積りを提示した同月16日である。」旨を主張する。
イ この点について、本件審決は、概要、次のとおり認定判断している。
(ア) 近畿合意の内容は、原告ら(ただし、原告三和Hは平成19年9月30日までの間、原告三和Sは同年10月1日以降)の間で受注予定者を決定し、受注予定者以外の者は、受注予定者が受注できるように協力することであり、協力の内容には、ゼネコンに対する営業活動を自粛することが含まれ、当該自粛は近畿合意に係る違反行為の実行としての事業活動に該当する(このような不作為の合意について外部的行為を必要と解することは相当でない。)。
(イ) そうすると、支店長級会合等において受注予定者が決まった時点から、受注予定者以外の者は近畿合意に拘束され、ゼネコンに対する営業活動を自粛することになるから、原告三和H、原告文化及び原告東洋についての近畿合意に基づく実行期間の始期は、最初の受注予定者の決定が行われた平成19年5月16日である。一方、原告三和Sは、同年10月1日に原告三和Hのシャッター事業を承継し、≪B5≫は、その事業承継の前後にわたり、継続して支店長級会合に出席していたから、原告三和Sは、原告三和Hによる近畿合意の存在とこれに基づく受注調整の結果を認識、認容して、同日、審決案別表1-1物件番号1ないし3の物件を受注し、また、受注予定者とされていない物件について、建設業者に対する営業活動の自粛を開始したものと認められる。したがって、原告三和Sの近畿合意に基づく実行期間の始期は、同日である。
ウ 不当な取引制限による実行期間の始期である「当該行為の実行としての事業活動を行った日」(改正前独禁法7条の2第1項)とは、違反行為によって具体的な競争制限効果が発生するに至った日、具体的には、その日以降の取引に違反行為の拘束力が及んでいると評価できる事業活動が行われた日であると解される。すなわち、不当な取引制限は複数の事業者が相互に事業活動を拘束することを違反行為(意思の連絡)とするものであるが、その相互拘束が成立する時点と、それを実行する事業活動により類型的に違反行為の影響を受ける売上額が生じる時点は異なるのであり、課徴金の算定期間である実行期間は、上記のとおり、後者を基準として定められている。
本件審決は、上記イのとおり、近畿合意の内容は、原告らの間で受注予定者を決定し、受注予定者以外の者は、受注予定者が受注できるように協力することであり、協力の内容には、ゼネコンに対する営業活動を自粛することが含まれ、当該自粛は近畿合意に係る違反行為の実行としての事業活動に該当する旨を認定判断している。このように、本件審決は、近畿合意に基づき、近畿地区における特定シャッター等の個別取引案件について、原告らの間の受注調整等により、受注予定者を決定し、それ以外の社が営業活動を自粛することが、その日以降の取引に違反行為の拘束力が及んでいると評価できるそれぞれの事業活動が行われたものと判断したものであり、受注予定者の決定により、類型的に違反行為の影響を受ける売上額が生じる具体的な競争制限効果が生じると言い得るのであって、その判断は、不合理ではないというべきである。
この点、原告三和らは、違反行為に基づいてその実行としての事業活動が開始されたというためには、違反行為の内容を実施に移す何らかの外部的な事業活動が行われることが必要であると主張するが、受注予定者以外の事業者の事業活動は、受注予定者に協力してゼネコンに対する営業活動を自粛するという不作為を本質とし、ゼネコンから見積依頼等がある場合には受注予定者が受注できるよう協力することであるから、何らかの外部的な事業活動としての徴表が必須であると解することはできない。そうすると、原告三和Hの実行期間の始期は、近畿合意に基づき、最初の受注予定者の決定が行われた平成19年5月16日であると認められる。また、原告三和Sは、法人格が異なる原告三和Hの違反行為を当然に引き継ぐものでない旨も主張するが、上記イのとおり、本件審決は、「原告三和Sは、同年10月1日に原告三和Hのシャッター事業を承継し、≪B5≫は、その事業承継の前後にわたり、継続して支店長級会合に出席していたから、原告三和Sは、原告三和Hによる近畿合意の存在とこれに基づく受注調整の結果を認識、認容して、同日、審決案別表1-1物件番号1ないし3の物件を受注し、また、受注予定者とされていない物件について、建設業者に対する営業活動の自粛を開始した。」旨を認定しており、これらの事実は、本件審決の認定事実(前記2(1)ア)及び弁論の全趣旨によって認められるから、原告三和Sの実行期間の始期は、平成19年10月1日と認められる。原告三和らの上記アの主張は採用することができない。
(4) 近畿合意に基づく受注調整等の対象外の取引案件の売上が課徴金算定の基礎に含まれているか否かについて
ア 原告三和らは、近畿合意に基づく受注調整等の対象外の取引案件の売上が、原告三和らに対する近畿課徴金納付命令の課徴金額算定の基礎に含まれている旨主張する(原告三和Sにつき別紙「近畿合意に基づく受注調整の有無についての判断」第1の3件の取引案件[審決案別表1-1物件番号4、36、64]、原告三和Hにつき同別紙第2の1件の取引案件[審決案別表1-4物件番号15])。
イ これらの取引案件について、本件審決は、概要、別紙「近畿合意に基づく受注調整の有無についての判断」(原告三和Sにつき第1、原告三和Hにつき第2)のとおり、いずれも近畿合意に基づく受注調整が行われたと認定判断している。
ウ 当裁判所も、本件審決の上記イの認定判断には、実質的証拠があると判断する。その理由は、以下のとおりである。
(ア) ≪物件名略≫[審決案別表1-1物件番号4](別紙「近畿合意に基づく受注調整の有無についての判断」第1の1)
本件審決は、≪B5≫の供述調書(査140)により、同物件が、支店長級会合に上程されて受注予定者が決定された物件であることを認定しているところ、≪B5≫は、陳述書(審A171)において、同物件の発注者であった≪建設業者F≫(以下「≪建設業者F≫」という。)は、当時、財務状況が悪いといわれていた上に、原告三和Hの≪建設業者F≫に対する与信限度額が≪金額≫円であったのに、債権額が既に≪金額≫円を超えていたので、受注を希望しておらず、支店長級会合に上程していなかった旨の上記供述調書に反する陳述をしている。
そこで、上記供述調書(査140)の信用性を検討するに、≪B5≫は、同供述調書において、審査官から提示された物件の一部を受注調整の対象外であったとしており、各物件が受注調整の対象であったか否かを相応に吟味した上で供述していたことが推認されるところ、≪建設業者F≫の財務状況が悪く、債権額が与信限度額を大きく超過していたために、≪建設業者F≫からの受注を希望していなかったがこれを受注したという経緯は、それが事実であるとすれば、比較的容易に記憶が喚起され得たものと考えられる。また、≪B5≫は、同供述調書の作成までに、自社受注物件についての受注調整に関して複数回の聴取を受けており(査142、231、237、242、243、247、250、251、258、264、300、301)、取引全般について一定の記憶喚起の機会を経てから供述していたと推認されるところである。そして、同物件の受注に関連して、平成19年8月27日、与信限度額を超過して受注する際の社内手続である取引承認申請が行われているものの(与信限度超過額約≪金額≫円。審A4)、≪建設業者F≫に関連して、平成20年4月3日、同年6月10日、同年10月24日にも与信限度超過額約≪金額≫円、約≪金額≫円、約≪金額≫円の取引承認申請が行われていること(査446)、平成19年から平成20年にかけて≪建設業者F≫から同物件を含む7物件を受注したこと(査433)からすると、≪B5≫の陳述書(審A171)により、≪建設業者F≫の財務状況が悪く、与信限度額を大きく超過していたために≪建設業者F≫からの受注を希望していなかったとは直ちに認められない。
以上を総合すると、本件審決が、≪B5≫の供述調書(査140)の信用性を肯定し、同物件が支店長級会合に上程されて受注予定者が決定されたと認定したことが不合理であるとはいえず、当該認定には、実質的証拠があるというべきである。
(イ) ≪物件名略≫[審決案別表1-1物件番号36](同別紙第1の2)
本件審決は、≪B5≫の2通の供述調書(査140、142)により、同物件が、支店長級会合に上程されて受注予定者が決定された物件であることを認定しているところ、≪B5≫は、陳述書(審A171)において、同物件の第1期工事において、原告文化と競合したが、現場所長の強い意向で、原告三和Sが受注した経緯から他社に声がかかることはないと考えられ、他社と調整する必要はなかったこと、上程することにより他社から同物件の受注の代わりに他の物件を譲ることを求められかねないと考えたことから、支店長級会合に上程しなかったとし、上記各供述調書で誤った話をしたのは、個々の物件についての記憶が十分でなかったり、第1期工事を上程していたことと混同したと思う旨述べている。
しかし、≪B5≫は、他の供述調書(査264)では、第1期工事に関して、支店長級会合に上程したところ、原告文化及び原告東洋は受注の意向を示さなかったと供述し、さらに他の供述調書(査128、265)では、他社から営業をかけられるおそれを避けたい物件は上程せずに原告文化や原告東洋の動向を注視することもあったが、自社が圧倒的に強い状況が確認できれば、上程して他社の協力を得られた方が得であるため、結果的に全て上程していたと供述しているのであるから、支店長級会合に上程しなかった旨の上記陳述書(審A171)は、従前の供述から合理的な理由なく変遷しているものとして、直ちにその信用性を認め難い。また、≪B5≫の供述調書(査140)は、前記(ア)のとおり、相応に吟味された上で供述したものと考えられるところ、同調書では、同物件≪略≫の第1期及び第2期の工事の双方について、支店長級会合に上程して受注予定者が決定された物件であると確認していたものである。
以上を総合すると、本件審決が、≪B5≫の2通の供述調書(査140、142)の信用性を肯定し、審決案別表1-1物件番号36の物件が近畿合意に基づく支店長級会合に上程されて受注予定者が決定されたと認定したことが不合理であるとはいえず、当該認定には、実質的証拠があるというべきである。
(ウ) ≪物件名略≫[審決案別表1-1物件番号64](同別紙第1の3)
本件審決は、≪B5≫の供述調書(査140)により、同物件が、支店長級会合に上程されて受注予定者が決定された物件であることを認定しているところ、≪B5≫は、陳述書(審A171)において、同物件は、元請である≪建設業者G≫からの要請で設計協力をしていたので、原告文化や原告東洋に引き合いが行くことはあり得ず、また、見積りの提示もそこそこに、≪建設業者G≫からの要望で施工図面を作成して工事を開始することになり、事実上受注が決まっていたことから、両社と調整する必要はなかったと供述するが、自社が圧倒的に強い状況が確認できれば、上程して他社の協力を得られた方が得であるため、結果的に全て上程していたと供述する前記(イ)の供述調書(査128、265)に反し、直ちに採用し難い。そして、前記(ア)、(イ)で説示したとおり、≪B5≫の供述調書(査140)には相応の信用性が認められるから、本件審決が、その信用性を肯定し、同物件が支店長級会合に上程されて受注予定者が決定されたと認定したことが不合理であるとはいえず、当該認定には、実質的証拠があるというべきである。
(エ) ≪物件名略≫[審決案別表1-4物件番号15](同別紙第2)
本件審決は、≪B5≫の供述調書(査140)により、同物件が、支店長級会合に上程されて受注予定者が決定された物件であることを認定しているところ、≪B5≫は、陳述書(審A171)において、同物件と同じビルのシャッター・ドア設置工事について実質的に受注済みだったので、この物件もそれに含めて考えてよいだろうと考えたこと、同物件は、元請である≪建設業者G≫からドアの図面作成依頼を受けたことにより事実上受注が確定し、営業部門から設計部門に対して作図を依頼して工事の準備を進めていたところ、設計変更により受注金額が大幅に少なくなった経緯から、≪建設業者G≫が他社に見積依頼を出していないはずだと考えられ、原告文化や原告東洋はこの物件の存在自体を知らないはずだと考えられたことなどから、同物件は支店長級会合に上程していないと陳述している。
しかし、≪B5≫の上記陳述書の内容を裏付ける客観的な証拠はなく、また、自社が圧倒的に強い状況が確認できれば、上程して他社の協力を得られた方が得であるため、結果的に全て上程していたと供述していた前記(イ)の供述調書(査128、265)に反するもので、直ちに採用し難い。そして、前記(ア)ないし(ウ)で説示したとおり、≪B5≫の供述調書(査140)には相応の信用性が認められるから、本件審決が、その信用性を肯定し、同物件が支店長級会合に上程されて受注予定者が決定されたと認定したことが不合理であるとはいえず、当該認定には、実質的証拠があるというべきである。
5 結論
以上によれば、原告らの請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
令和5年4月7日
東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官 渡 部 勇 次
裁判官 鈴 木 尚 久
裁判官 湯 川 克 彦
裁判官 齋 藤 大
裁判官 澤 田 久 文
(別紙)
「近畿合意に基づく受注調整の有無についての判断」
第1 原告三和Sの課徴金対象となる取引案件
1 審決案別表1-1物件番号4(≪物件名略≫。発注者:≪建設業者F≫、契約日・金額:(当初)平成19年10月24日・1512万円(最終)平成20年4月8日・1638万円)
(1) 認定事実(各末尾記載の証拠によって認められる事実。以下「認定事実」について、同じ。)
ア 原告三和Hは、平成19年6月21日頃、≪建設業者F≫からの本物件の見積依頼に対して、「上代価格」を5010万2500円、「NET金額」を2500万円と回答した(いずれも税抜価格。審A5)。
また、原告文化は、同月頃、≪建設業者F≫からの本物件の見積依頼に対して、見積価格を6580万6800円(税抜価格)と回答した(査433(5枚目))。
イ ≪建設業者F≫は、平成19年10月24日、原告三和Sに対し、本物件を1512万円で発注し、平成20年4月8日、本物件の追加工事を126万円で発注した(審A6、7)。
(2) 原告三和らの≪B5≫の供述(査140(添付資料番号27))によれば、本物件について、支店長級会合に上程され、原告三和Hが受注予定者となり、原告文化及び原告東洋の協力を得て受注したことが認められる。
原告三和Sは、原告三和らの≪B5≫の供述(査140)について、支店長級会合から長期間経過した後に、一度に大量の物件を提示されたために受注調整をしたか記憶が曖昧な物件についても認めてしまったものであるとして信用性を争う。
しかし、上記供述に係る供述調書(査140)は、支店長級会合から1年半から2年が経過した後、平成21年11月19日に作成されたものではあるが、この供述調書が作成される以前から自社の受注物件についての受注調整に関する供述調書が複数作成されていること(査142、231、237、242、243、247、250、251、258、264、300、301)、原告三和Sが、近畿受注調整に関して、直接受注物件について同年5月8日及び同月15日付けの報告命令に対する報告書(査301(添付資料))を提出しており、同年11月19日までには原告三和Sにおいて社内調査も行われていたと推認されることから、原告三和らの≪B5≫の記憶喚起の機会はあったといえる。また、原告三和らの≪B5≫は、査第140号証添付資料記載の物件のうち、6件については受注調整の対象となったことを否定しており、同添付資料記載の個々の物件について検討の上認否していると認められること、受注調整の対象となったことを認めることは課徴金の額について原告三和Sの不利益になるにもかかわらず、これを認めていることからすれば、原告三和らの≪B5≫の供述は信用することができる。
したがって、本物件について、近畿合意に基づく受注調整が行われたものと認められる。
(3) これに対し、原告三和Sは、平成19年6月頃、≪建設業者F≫の財務状況が悪化しており、原告三和Hは受注を希望していなかったから支店長級会合に上程されていない旨を主張し、これに沿う原告三和らの≪B5≫の陳述書(審A171)を提出する。
この点、原告三和Hの本件の担当者が、同年8月27日、本件について、≪建設業者F≫の与信対象額が、原告三和Hの社内で設定した与信限度額を約≪金額≫円超過していたため、与信限度額を超過している発注者との取引を行う際の原告三和Sの社内手続である取引承認申請をしたこと(審A4)が認められる。
しかし、原告三和らは、平成20年4月3日、同年6月10日、同年10月24日作成の「取引承認申請書」により、≪建設業者F≫を発注者とする他の物件について、取引承認申請をしており、その際の≪建設業者F≫の与信限度超過額はそれぞれ順に約≪金額≫円、約≪金額≫円、約≪金額≫円であった(査446(3ないし5枚目))こと、原告三和Sは、支店長級会合等で受注調整の上、同年7月30日、≪建設業者F≫が発注する審決案別表1-1物件番号47の物件を、1050万円で受注したこと、同物件及び本物件以外に、原告三和Sは、平成19年から平成20年にかけて、≪建設業者F≫が発注する5物件を受注したこと(査433)が認められる。
以上からすると、≪建設業者F≫が原告三和H社内での与信限度額を超えていたからといって、≪建設業者F≫の発注する物件について、直ちに原告三和Hが受注を回避する意向であったとは認められず、近畿合意に基づく受注調整の対象にしなかったとも認められない。
したがって、原告三和らの≪B5≫の陳述書(審A171)における供述を採用することはできず、前記(2)の認定は覆らない。
2 審決案別表1-1物件番号36(≪物件名略≫。発注者:≪建設業者G≫、契約日・金額:平成20年5月26日・2352万円)
(1) 認定事実等
ア 原告三和Sは、平成20年5月9日から同月19日頃までの間に、≪建設業者G≫からの本物件の見積依頼に対し、「上代金額」は9251万1600円(税抜価格)であると回答した(審A8、9)。
イ ≪建設業者G≫は、平成20年5月26日、原告三和Sに対し、本物件を2352万円で発注した(争いがない事実)。
(2) 原告三和らの≪B5≫の供述(査140(添付資料番号66)、142)によれば、本物件については、支店長級会合に上程され、原告三和Sが受注予定者となり、原告文化及び原告東洋の協力を得て受注したことが認められる。
したがって、本物件について、近畿合意に基づく受注調整が行われたものと認められる。
(3) これに対し、原告三和Sは、本物件については、先立つ1期工事(別表1-4物件番号4)において、原告文化と競合したが、現場所長の強い意向で原告三和Sが受注したとの経緯から、原告文化及び原告東洋に引き合いが行く可能性がないと確信していたとして、支店長級会合に上程していないと主張し、これに沿う内容の原告三和らの≪B5≫の陳述書(審A171)を提出する。また、原告三和らの≪B5≫の供述(査142)について、原告三和らの≪B5≫が、本物件に先立つ1期工事と混同したものであり信用できないと主張する。
しかし、原告三和らの≪B5≫は、供述調書(査264)において、支店長級会合で、他社は、本物件に先立つ1期工事について営業に力を入れていない様子で原告三和Sが受注者となることに異議を唱えなかったと述べているところ、原告三和らの≪B5≫の陳述書(審A171)はかかる供述を合理的な理由なく変遷させるものであり、信用することができないから、原告三和Sの主張する1期工事の経緯を認めるに足りない。
また、原告三和らの≪B5≫は、原告三和らにしか見積依頼が来ないと予想されるような場合でも、自社が圧倒的に強い物件であればあるほど他社の協力が得られるため、上程した方が受注に有利だと考えていた旨、原告三和らにのみ見積依頼がされたかどうかの確証もなかったため、他社の動向を見極めた上で全て支店長級会合に上程していた旨を供述しており(査128、265)、この供述によれば、原告三和Sが、原告文化及び原告東洋に引き合いが行く可能性がないと確信していたとしても、本物件について、支店長級会合に上程したとの認定と矛盾するものではない。
さらに、原告三和らの≪B5≫は本物件について近畿合意に基づく受注調整が行われたことを認めているし(査142)、査第140号証添付資料には、1期工事、本物件の両方が記載されているから、原告三和らの≪B5≫は、1期工事と本物件を区別した上で、いずれについても受注調整を認める旨供述したものといえる。
したがって、原告三和らの≪B5≫が1期工事と本物件を混同していたとは認められず、原告三和らの≪B5≫の供述(査142)の信用性は否定されない。
よって、本物件を支店長級会合に上程しなかったとの原告三和らの≪B5≫の陳述書(審A171)の供述を採用することはできず、前記(2)の認定は覆らない。
3 審決案別表1-1物件番号64(≪物件名略≫。発注者:≪建設業者G≫、契約日・金額:平成20年11月17日・4305万円)
(1) 認定事実等
ア 原告三和Sは、平成20年8月18日から同月末頃までの間に、≪建設業者G≫からの本物件の見積依頼に対し、「上代価格」は1億7753万3600円、「NET金額」は7100万円であると回答した(いずれも税抜価格。審A11)。
イ ≪建設業者G≫は、平成20年11月17日、原告三和Sに対し、本物件を4305万円で発注した(争いがない事実)。
(2) 原告三和らの≪B5≫の供述(査140(添付資料番号104))によれば、本物件について、支店長級会合に上程され、原告三和Sが受注予定者となり、原告文化及び原告東洋の協力を得て受注したことが認められる。
したがって、本物件は、近畿合意に基づく受注調整が行われたものと認められる。
(3) これに対し、原告三和Sは、本物件は、価格交渉以前に原告三和Sの受注が決定して工事に着手していた、また、原告三和Sの受注を確信していたとして、支店長級会合に上程していないと主張する。
しかし、価格交渉が始まる前であっても受注予定者を決めることは可能であるところ、原告三和Sが平成20年4月から本物件に関与していたのであれば、支店長級会合に上程する機会はあったといえる。また、原告三和S、原告文化及び原告東洋は、支店長級会合以外でも、電話連絡や営業担当者間での連絡により、同様の情報を交換していたのであるから、原告三和Sが見積書を提出した同年8月末頃以降(審A11)、支店長級会合は開かれていないが、電話連絡等により受注調整をする機会はあった。
したがって、価格交渉以前に工事に着手したから受注調整をしていないとの原告三和Sの主張は採用することができない。
そして、原告三和らの≪B5≫は、原告三和らにしか見積依頼が来ないと予想されるような場合でも、自社が圧倒的に強い物件であればあるほど他社の協力が得られるため、上程した方が受注に有利だと考えていた旨、原告三和らにのみ見積依頼がされたかどうかの確証もなかったため、他社の動向を見極めた上で全て支店長級会合に上程していた旨を供述しており(査128、265)、この供述によれば、原告三和Sが受注を確信していたとしても、本物件について、支店長級会合に上程したとの認定と矛盾するものではない。また、原告三和Sが受注する可能性が高いとしても、受注金額が決まっていない以上、失注する可能性は否定できず、本物件についての発注者との価格交渉を有利に進めるためにも、受注調整をすることは合理的であるから、本物件を支店長級会合に上程しなかったとの原告三和らの≪B5≫の陳述書(審A171)の供述は採用することができず、前記(2)の認定は覆らない。
第2 原告三和Hの課徴金対象となる取引案件(審決案別表1-4物件番号15(≪物件名略≫)。発注者:≪建設業者G≫、契約日・金額:平成19年9月28日・1207万5000円)
1 認定事実
(1) 原告三和Hは、≪建設業者G≫からの本物件についての平成19年5月11日頃の見積依頼に対し、「上代価格」は6575万6400円、「NET金額」は2630万円であると回答した(いずれも税抜価格。審A17)。
(2) ≪建設業者G≫は、平成19年9月28日、原告三和Hに対し、本物件を発注し、同年12月7日、受注価格は、1207万5000円とされた(査430、審A18)。
2 原告三和らの≪B5≫の供述(査140(添付資料番号19))によれば、本物件について、支店長級会合に上程され、原告三和Hが受注予定者となり、原告文化及び原告東洋の協力を得て受注したことが認められる。
したがって、本物件については、近畿合意に基づく受注調整が行われたものと認められる。
3 これに対し、原告三和Hは、原告三和Hが受注した本物件に先立つビル全体の工事についてシャッターの施工箇所が大幅に減少してしまったとの経緯から、本物件について原告文化及び原告東洋には見積依頼がないと考え、支店長級会合に上程していないと主張し、これに沿う原告三和らの≪B5≫の陳述書(審A171)を提出する。
この点、先行物件についての注文書(審A16の1及び2)は、スチール建具工事に関するものであって、かかる証拠によっては、本物件についての見積依頼時期である平成19年5月11日頃までに先行物件について、シャッターの施工箇所が減少したと認めるに足りず、原告三和Hの主張する上記経緯を認めることはできないから、先行工事の経緯により、原告三和Hが原告文化及び原告東洋に見積依頼はないと考えたとの主張は採用することができない。
仮に先行工事の経緯が原告三和Hの主張どおりであったとしても、かかる経緯から、原告文化及び原告東洋に対する見積依頼はないと原告三和Hが考えたとまでは直ちに認められない。また、原告三和らの≪B5≫は、原告三和らにしか見積依頼が来ないと予想されるような場合でも、自社が圧倒的に強い物件であればあるほど他社の協力が得られるため、上程した方が受注に有利だと考えていた旨、原告三和らにのみ見積依頼がされたかどうかの確証もなかったため、他社の動向を見極めた上で全て支店長級会合に上程していた旨を供述しており(査128、265)、この供述によれば、原告三和Hが、原告文化及び原告東洋には見積依頼はないと考えたとしても、本物件について、支店長級会合に上程したとの認定と矛盾するものではない。また、受注価格が決まっていない以上、失注する可能性は否定できず、本物件についての発注者との価格交渉を有利に進めるために、原告文化及び原告東洋との間で受注調整をすることは合理的であり、同年9月28日までに開かれた支店長級会合において受注調整をする機会もあったのであるから、本物件を支店長級会合に上程しなかったとの原告三和らの≪B5≫の陳述書(審A171)の供述は採用することができず、前記2の認定は覆らない。
以上
注釈 《 》部分は、公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。