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独禁法3条後段、独禁法7条2
東京高等裁判所第3特別部
令和4年(行コ)147
令和5年5月31日
川崎市高津区末長3丁目3番17号
控訴人 株式会社富士通ゼネラル
同代表者代表取締役 ≪氏名≫
同訴訟代理人弁護士 村島 俊宏
穂積 伸一
谷口 悠樹
工藤 友良
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被控訴人 公正取引委員会
同代表者委員長 古谷 一之
同指定代理人 高居 良平
近藤 智士
岩下 生知
並木 悠
河﨑 渉
井登 貴伸
新田 高弘
奥村 正和
津田 和孝
柴田 修輔
深澤 尚人
久野 慎介
橋本 なつみ
令和5年5月31日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和4年(行コ)第147号 排除措置命令等取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成29年(行ウ)第356号)
口頭弁論終結日 令和4年11月30日
判 決
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対して平成29年2月2日付けでした排除措置命令(公正取引委員会平成29年(措)第1号)を取り消す。
3 被控訴人が控訴人に対して平成29年2月2日付けでした課徴金納付命令(公正取引委員会平成29年(納)第1号)を取り消す。
第2 事案の概要(主な略称は、原判決別紙2「略称一覧表」(原判決56頁から59頁まで)による。)
1 被控訴人は、控訴人を含む事業者らが消防救急デジタル無線機器について納入予定の製造販売業者を決定し、それ以外の者は当該製造販売業者が納入できるように協力する旨の合意(以下「本件基本合意」という。)をすることにより、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(令和元年法律第45号による改正前のもの。以下「独占禁止法」という。)2条6項所定の「不当な取引制限」(以下、この行為で同法7条の2第1項1号に規定する商品の対価に係るものを「本件違反行為」という。)をし、平成23年4月から平成26年4月までの3年間の実行期間における特定消防救急デジタル無線機器に係る控訴人の売上高は、130の物件に係る約480億円であったとして、控訴人に同法7条2項に基づく排除措置命令(公正取引委員会平成29年(措)第1号。以下「本件排除措置命令」という。)及び同法7条の2第1項に基づく課徴金納付命令(同委員会平成29年(納)第1号。以下「本件課徴金納付命令」という。)をした。
本件は、控訴人が、本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の取消しを求める事案である。
2 原審が、控訴人の請求をいずれも棄却したことから、控訴人が本件控訴をした。
3 前提事実は、下記のとおり原判決を補正するほかは、原判決2頁4行目から14頁1行目まで、原判決別紙3(会合の実施状況。原判決60頁から64頁まで)、原判決別紙4(個別物件に関する基本的事実関係一覧表。原判決65頁から109頁まで)及び原判決別紙8(認定事実)の第1の4中の【前提事実】(原判決190頁2行目から12行目まで、191頁25行目から192頁2行目まで、193頁7行目から11行目まで、198頁9行目から12行目まで、218頁11行目から17行目まで、223頁8行目から19行目まで、229頁24行目から230頁1行目まで、231頁9行目から12行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する(以下、本判決で引用する原判決中の「別紙」は「原判決別紙」と読み替える。また、原判決中の「ちず」の記載に括弧なしのもの(ちず)と括弧つきのもの(「ちず」)が混在している点は、いずれも括弧つきのもの(「ちず」)に読み替える。)。
(原判決の補正)
(1) 原判決5頁8行目の「後に消防機器管理プロジェクトリーダー等を務めた」を「平成24年4月に同部部長に昇進した。」と改める。
(2) 原判決6頁15行目の「6つの消防本部」を「6つの消防本部(岐阜市消防本部、鳥取県西部広域行政管理組合消防局、春日・大野城・那珂川消防組合消防本部、京都市消防局、神戸市消防局、玉野市消防本部)」と改める。
(3) 原判決9頁23行目、10頁19行目及び11頁12行目の「その開催日及び開催場所」を「その開催日、開催場所及び出席者」とそれぞれ改める。
(4) 原判決9頁24行目から25行目にかけて及び11頁13行目の「各「日付」欄及び「開催場所」欄記載のとおりである。」を「各「日付」欄、「開催場所」欄及び「出席者」欄記載のとおりである。」と改める。
(5) 原判決10頁1行目の「三日月会」を「三日月会(控訴人、日本電気及び沖電気工業の3社の会合という意味。乙44〔7頁〕)」と改める。
(6) 原判決10頁3行目、同頁23行目から24行目にかけて及び11頁15行目から16行目にかけての「月曜会における協議内容等については、」を「月曜会における協議内容等が原判決別紙3の各「概要」欄のものであるかは、」と改める。
(7) 原判決10頁19行目から20行目にかけての「各「日付」欄及び「開催場所」欄記載のとおりである。」を「各「日付」欄、「開催場所」欄及び「出席者」欄記載のとおりである(ただし、「出席者」欄のうちの平成22年12月21日(番号23)、平成23年2月21日(番号25)及び同年6月9日(番号29)に控訴人の≪A2≫が出席していたかは争いがある。)。」と改める。
(8) 原判決12頁8行目の「ただし、」から11行目の「争いがある。」までを次のとおり改める。
「原判決別紙4のうち、「納入予定メーカー」欄と「本件合意に基づいて納入した物件」欄以外に記載された事実は、当事者間に争いがない。「納入予定メーカー」欄と「本件合意に基づいて納入した物件」欄の記載については、本件合意(本件基本合意)が成立したとの点、本件基本合意に基づき当該納入予定メーカーが決定されたという点に争いがある。」
(9) 原判決198頁10行目の「物件22、23」を「物件21~23」と改める。
(10) 原判決218頁14行目の「が、」から16行目の「納入した」までを次のとおり改める。
「が、発注者には、日本無線が控訴人から購入した同社の製造に係る消防救急デジタル無線機器が納入された。」
4 本件の争点
原判決14頁3行目から11行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
5 争点に関する当事者の主張
下記のとおり原判決を補正し、別紙のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決別紙5(争点に関する当事者の主張。原判決110頁から140頁まで。同別紙が引用する原判決別紙3、同別紙4、同別紙6(「課徴金計算の基礎とならない物件一覧。原判決別紙141頁から147頁まで)及び原判決別紙7(「免許申請関係費用等の一覧」。原判決148頁)を含む。)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1) 原判決111頁4行目の「ちず」を「『ちず』と呼称される書面(以下単に「ちず」と表記する。)」と改める。
(2) 原判決111頁13行目の「原告ら」を「5社は」と改める。
(3) 原判決117頁24行目から25行目の「5割を超える程度の物件において、納入予定メーカーが納入できており、」を次のとおり改める。
「平成22年5月から平成26年3月までの違反行為期間に発注された物件数(原判決別紙4の516件)のうち、同別紙4の「本件合意に基づいて納入した物件」に「〇」のある280件(516件に対する約54%)について納入予定メーカーが納入できているが、約54%という割合は違反行為の実効性として何ら低いものではなく(なお、上記516件は日本電気の離脱後に発注された日本電気が納入予定メーカーとされた物件も含む全体の数値であり、違反行為期間内(日本電気は平成24年5月9日まで)において、その当時会合に参加していた者が納入予定メーカーとされ、当該納入予定メーカーが納入できた物件のみについていえば、約74%と更に高い割合となる(約74%は、上記516件から、日本電気の離脱後に発注された同社のみが納入予定メーカーとされた物件数(136件)を差し引いた物件数(380件)により上記280件を除した割合である。))、」
(4) 原判決120頁14行目の「BCチーム」に「(既設指令台を他社が設置しているなどの理由より、控訴人分類によるAランク(既設指令台を控訴人が設置している物件)よりも受注確度が低いと考えられた物件(Bランク、Cランク)に営業を掛ける、中途採用者により構成さたチーム)」を加える。
第3 当裁判所の判断
当裁判所も、本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令は適法と判断する。その理由は下記のとおりである(以下、引用する原判決本文及び原判決別紙8中に掲げた他の原判決別紙があるときは、当該別紙を含む。)
1 認定事実及び事実認定の補足説明は、下記のとおり原判決を補正するほかは、原判決別紙8(原判決149頁から251頁)に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、前提事実の部分は先に補正したとおりである(第2の3)。
(原判決の補正)
(1) 原判決149頁18行目冒頭から25行目の「上記会合においては、」までを次のとおり改める。
「ア 控訴人、日本電気及び沖電気工業は、消防救急アナログ無線の無線機器市場を寡占するメーカーであった。(乙44〔15頁〕、57(≪A4≫の供述調書)〔3頁〕)
控訴人の≪A4≫(当時、控訴人の情報システム営業統括部営業推進部長であり、防災無線事業及び消防無線事業に関する責任者の立場にあった。)は、消防救急無線機器がデジタル化されるのを契機に新たなメーカーが参入し、市場が荒らされてしまうことを危惧した(乙57〔3頁〕)。
そこで、控訴人の≪A4≫は、業会の会合で顔見知りであった日本電気の≪B2≫(当時、消防・防災ソリューション事業部第三営業グループマネージャー(管理職)で、消防救急デジタル無線機器に関する業務に関わっていた。)と沖電気工業の≪C3≫(当時、官公庁営業本部第二部シニアスペシャリスト(管理職)で防災無線を担当していた。)に声を掛け、平成20年夏頃から、消防救急無線市場を新規メーカーの参入から守るための意見交換をするようになった(前提事実⑴、乙57〔3頁〕)。
≪A4≫、≪B2≫及び≪C3≫は、平成20年11月10日に、上記趣旨の会合を開催した(原判決別紙3の番号1。前提事実⑷ア)。同会合では、」
(2) 原判決150頁4行目の「乙55参照」を次のとおり改める。
「乙44、55(≪A4≫が作成した「D無線協調の可能性について」と題する議事録)、57、59。乙55の議事録は、控訴人の≪A4≫が作成の上、日本電気の≪B2≫と沖電気工業の≪C3≫の確認を得たものである(乙44〔添付資料1、4〕、乙59〔添付資料2〕。)。上記会合では、出席者の1人から、電力無線のデジタル化の際に新規競合業者の参入で市場価格が3分の1に下がったことが例に出され、そうした事態(いわゆる「叩き合い」)による受注価格の下落を避けなければならないとの認識が示され、他の出席者からの異論は出されなかった(乙44〔23~28頁、添付資料4〕、乙59 〔9~12頁、添付資料4〕」
(3) 原判決150頁9行目の「3社で市場を分け合うための方法等」に「(指令台の既設メーカーが納入予定メーカーとなること、納入予定メーカーとなった社だけの入札とならないよう、他のメーカーが「お付き合い入札」をすることなど。)」を加える。
(4) 原判決151頁19行目の「消防救急デジタル無線機器」から20行目の「確認したい旨」までを「、控訴人が消防救急デジタル無線機器の実証実験の発注までに携帯型無線装置の開発が間に合わず、≪AQ≫にOEM供給を依頼したいが、既に沖電気工業と≪AQ≫の間で共同開発が行われていると聞いているので、沖電気工業の考え方を確認したい旨」と改める。
(5) 原判決151頁23行目の「原告の≪A7≫ら」から152頁2行目末尾までを次のとおり改める。
「控訴人の≪A7≫(情報通信ネットワーク事業部長)らと沖電気工業の≪C1≫(統合営業本部官公営業本部第二部長)及び≪C2≫(同部営業第三チームマネージャー)は、前記話題(携帯型無線装置のOEM供給)について協議した。その際に、控訴人側は、消防救急デジタル無線機器については、三者会(日本電気の≪B2≫、沖電気工業の≪C3≫、控訴人の≪A4≫)の基本精神は今も生きていると考えている、指令台非製造メーカーの日立国際電気、日本無線を排除したい、消防救急デジタル無線機器は平成27年度末という限られた期間にやらなければならないので、消防指令台は別として、協力関係を築きたいなどと、今後発注される消防救急デジタル無線機器の整備につき、控訴人が3社(控訴人、日本電気、沖電気工業)で、受注調整して市場を分け合うことに前向きな発言をし、沖電気工業の≪C1≫も、月曜会の話合いをそろそろ消防救急デジタル無線機器の営業責任者級の者が参加する会合にすべきであると述べて積極的に応じた(乙59〔20~21頁、添付資料5〕、乙74、75〔2~13頁〕、76〔2~13頁〕)。
(6) 原判決152頁16行目から153頁14行目までを次のとおり改める。
「ア 平成21年10月19日の会合
平成21年10月19日に開催された会合(原判決別紙3の番号5)には、3社の消防救急デジタル無線機器の営業責任者級の者、すなわち、控訴人は≪A2≫と≪A8≫(情報通信システム営業統括部消防システム推進部長)、日本電気は≪B2≫、≪B1≫(消防・防災ソリューション事業部統括マネージャー)及び≪B4≫(消防・防災ソリューション事業部第一ビジネス推進部エキスパート)、沖電気工業は≪C1≫と≪C2≫が出席した。また、従前は、月曜会は、夜に居酒屋等で行われることが多かったが、この回からは、基本的に、昼間に、各社が持ち回りで準備する会議室(原判決別紙3の「開催場所」のとおり、各社の本社会議室や貸会議室で開催されている。)で行われるようになった。
出席者は、実証試験で発注される6つの消防本部の物件について、どの消防本部分の物件の受注を希望するか述べ合い、控訴人は玉野市消防本部分、日本電気は京都市消防局分、鳥取県西部広域行政管理組合消防局分及び春日・大野城・那珂川消防組合消防本部分、沖電気工業は岐阜市消防本部分及び神戸市消防局分を希望する旨を述べた。また、出席者は、意見交換の際、≪H≫グループ及び日本無線が参入してくる可能性があること、≪H≫グループは実証試験の段階から参入してくることが予想されこと、参入により受注価格の低落を招くことが危惧されるので(日本電気の≪B1≫は、「日立国際電気は消防の無線市場で失うものはなく、他の業種でも同様に壊しては手を引く連続だ」と述べて危機感を露わにした。)、これを回避する方策を検討する必要があるとの認識を共有した。控訴人の≪A2≫は、「いきなり市場を壊すことはお互いに避けたい。各社バランスよくシェアできないか(実証試験の受注調整をすることで、消防救急デジタル無線機器市場全体を壊したくない、可能な限り価格競争を避けたいという趣旨。乙80(≪A2≫の供述調書)〔7頁〕」、「実証試験は日立国際電気、日本無線、≪G≫を含んだ6社で考えないと初っ端で市場を壊すことになる(3社だけの協議によって実証試験の受注者を決めれば市場を壊す、つまり、消防救急デジタル無線機器市場全体の価格破壊が起こってしまうので上記6社で協議して受注者を決めた方がよいという趣旨。乙80〔8頁〕)」と述べた。この発言に対する他の出席者からの異論はなく、まずは、控訴人の≪A2≫が、日立国際電気の担当者に接触し、実証試験や全国で発注される消防救急デジタル無線機器の受注についての、≪H≫グループの動向や本音を探ってみることにした。
また、出席者は、実証試験後に全国で発注される消防救急デジタル無線機器の割り振り方法についても意見交換をした。消防救急デジタル無線機器については、指令台市場を寡占している3社(控訴人、日本電気及び沖電気工業)の枠組みでスキームを組み、短期の市場を価格維持しながら乗り切っていくという大枠の考え方で整合したが、具体的な割り振り方法について、控訴人の≪A2≫が、その機器の種類ごとに納入予定メーカーを決めるという方法(基地局、回線制御、車両無線、携帯無線を分けた横串でのアライアンス)を提案したところ、日本電気の≪B1≫が、「それは難しい」、「客の意向が尊重されるべき」などと述べた。」
(7) 原判決153頁26行目の「報告するとともに、」を「報告するとともに、状況によっては神戸市消防局以外の物件にも利益を無視して低価格で入札参加するおそれがあり、それを回避するためには神戸市消防局を日立国際電気に譲り、日立国際電気を巻き込めば受注調整することができるのではないかとして、」と改める。
(8) 原判決155頁22行目から156頁12行目の「模索することにした」までを次のとおり改める。
「さらに、出席者は、消防救急デジタル無線機器の調整の在り方(三社以外の会社に対するスタンス)ついて意見交換をした。控訴人の≪A2≫が「日本無線について、間に合わないで片づけていいのか、戦略として低価格で市場を壊しに来ることは明白であり、実証試験には来ないと決めつけるには尚早である。」と述べたのに対し、沖電気工業の出席者が、「確かに日立国際電気を含めた6社で次年度以降のアライアンスを含めて包括的にやらないと市場破壊は避けられない。他の2社に3社連合をオープンにし、出方をみるのもいいのではないか。」などと述べるなどして、日立国際電気、日本無線及び≪G≫を取り込むべきであるとの認識を示した。この発言に対し、≪A2≫は、「総論では賛成。ただ、本部でいかに統制をとれるかにかかっている。コンプラ面では価格統制(札)をすればよい。」と発言した(乙93〔添付資料3〕の「6社でまとまらないとだめなのではないだろうか(O、FG)」の記載)。また、全国で発注される消防救急デジタル無線機器の整備に関する納入予定メーカーの割り振り方法に関し、日本電気の≪B2≫が、同社としても、全国約800の消防本部の納入予定メーカーを全て割り振ることには異論はないとしつつも、これらを予め一挙に全部決めてしまう方法と、1件1件個別に検討する方法との折衷案として、「漁獲高制」との方法(ある程度の期間を区切り、直近の物件を対象に、各社が受注したいと狙っている物件を持ち寄ってその希望を尊重するとともに、競合する物件については調整してどのメーカーが受注するかを決め、かつ、日立国際電気と日本無線には3社からいくつか物件を分け与えるという方法)を提案した。出席者は、以上のやり取りを踏まえ、継続して設計会社から情報収集を行い、日立国際電気及び日本無線に「鈴をつける」方策(同社らを3社の「仲間」に引き入れるための方策)を模索することにした。」
(9) 原判決156頁26行目「「事故」が起こることのないようにする」を「「事故」が起こることのないようにする(「落札することのない入札金額」を各社が設計支援している設計会社に教えることにより、落札を目指していない会社が間違って受注することがないようにする。)」と改める。
(10) 原判決157頁14行目の「したい旨」を「して欲しい」と改める。
(11) 原判決159頁17行目の「20%程度」から22行目の「≪C1≫は、」を次のとおり改める。
「全国の消防本部を通常ケースと特別ケースに分け、通常ケース(特別ケース以外のもの)については3社が中心となって受注調整し(リストアップして「〇」を付けていくこと(受注予定者を決めていく))、全体の20%程度を日立国際電気、日本無線、≪G≫に分け与える、特別ケース(政令指定都市等に所在する大規模な消防本部)については、日本電気、≪G≫及び≪H≫との別のテーブルが必要かもしれないなどと総括した。そして、≪C1≫は、玉野市消防本部の分の実施設計を落札した≪M≫の設計支援を行っているのは日立国際電気であることが直接確認できたということに触れつつ、今後のことを考えれば、」
(12) 原判決160頁26行目の末尾に、次の記載を加える。
「また、この回から、同年4月に控訴人の情報通信システム営業統括部営業推進部の担当部長に就任し、消防救急デジタル無線機器の発注に係る発注者や設計会社など向けの営業に対応するため、各地区の営業部や本社営業部の方針や営業内容の指導などの業務を行うことになった≪A3≫が、同人の上司である≪A2≫とともに出席した(乙30〔2頁〕、≪A2≫証人〔59頁〕)。」
(13) 原判決161頁19行目の「において」を「から日立国際電気の≪D1≫(同社公共通信営業部部長代理。平成24年4月に同部部長に昇進(前提事実⑴オ)が参加した。同会合において)と改める。
(14) 原判決162頁4行目の「岡山市消防局」から7行目の「神戸市消防局〔単独〕」までを次のとおり改める。
「実証試験6物件と、平成22年中に発注が予定されている4物件(岡山市消防局、大阪市消防局、千葉県及び神戸市消防局。いずれも事業主体は単独である。神戸市消防局の物件は、実証試験と区別して「神戸市消防局の物件〔単独〕」と表記する。」
(15) 原判決162頁16行目の「104」を「30〔14~18頁〕、104」と改める。
(16) 原判決162頁18行目の「平成22年6月7日の会合」を「平成22年6月7日及び同月18日の会合」と改める。
(17) 原判決162頁22行目の「〔単独〕」を削り、原判決163頁2行目の「①」から3行目の「原告」までを「①岡山市消防局の物件の納入予定メーカーは控訴人、大阪市消防局(≪G≫が指令台を既設)の納入予定メーカーは控訴人又は≪G≫」と、同頁6行目の「神戸市消防局の物件」を「神戸市消防局の物件〔単独〕」とそれぞれ改める。
(18) 原判決163頁20行目末尾を改行の上、次の記載を加える。
「(ウ)同月18日に開催された会合(原判決別紙3の番号15)では、≪A2≫が、実証実験等10物件の中で最も早く入札が行われ、控訴人が受注を希望していた岡山市消防局について、沖電気工業に対し、「お付き合い入札」を依頼し、その了承を得た(乙123〔3~20頁〕)」
(19) 原判決164頁3行目の「日本電気」から4行目末尾までを次のとおり改める。
「日本電気の≪B2≫が、「NECは大阪については下ります。」と日本電気が大阪市消防局の納入予定メーカーとなる旨を諦める発言をした。控訴人の≪A2≫は、「私としては大変ありがたい話」とし、「大阪を≪G≫が貰って、玉野は日立国際というのが一番良いと思う。」と発言したが、実証試験の物件に控訴人が入札しなくなることについて社内の確認、調整が必要だと述べたことから、同月7日の会合までに≪A2≫が控訴人社内の確認、調整を行い、次回の会合の席で結果を報告することになった(なお、≪A2≫は、控訴人の会議室で行われた別の話合いの機会に、日本電気の消防・防災ソリューション事業部第一ビジネス推進部長の≪B8≫に、≪G≫と富士通ゼネラルが千葉を降り、日本電気が大阪を降りること了承する旨、日本電気には大阪市消防局の入札に関して≪G≫の受注を確実にするために協力して欲しい旨を話していた(乙132〔4頁〕、137〔44~45頁〕)。」。
(20) 原判決164頁16行目の「≪E1≫」を「≪E1≫(ソリューション営業公共営業グループ長)」と、17行目から18行目にかけての「参加を了承した」を「参加を了承し、同人は次回会合(後記コ)から会合に参加した」と改める。
(21) 原判決164頁21行目の「出席者は」を「控訴人の≪A2≫は、大阪市消防局は≪G≫、玉野市消防本部は日立国際電気という割り振りで社内の了解が得られたと報告した。出席者は、」と、25行目から26行目にかけての「千葉県発注の物件(単独)」を「千葉県発注の物件」と、同行目の「神戸市消防局の物件(単独)」を「神戸市消防局の物件〔単独〕」と、165頁1行目の「大阪市消防局の物件(単独)」を「大阪市消防局の物件」とそれぞれ改める。
(22) 原判決165頁13行目の「検討し合うこととした」を以下のとおり改める。
「検討し合うこととした。
控訴人の≪A2≫は、上記会合で、沖電気工業の≪C2≫に、≪G≫が落札することを目指した大阪市消防局の物件の「お付き合い入札」を依頼し、後日、控訴人の≪A3≫が沖電気工業の≪C2≫に同社が入札すべき価格を伝えた。
また、控訴人の≪A2≫又は≪A3≫は、控訴人の消防デジタル無線ワーキンググループの席で、入札参加を表明した上記3物件は他社のお付き合いで参加するだけである旨を報告し、そのため、控訴人が1000万円以上で応札する場合に本社で開催される見積審査会は、上記3物件に関しては開催されなかった。」
(23) 原判決165頁14行目の「46」を「32〔10~12頁〕、46」と、15行目の「~25頁〕」を「「~25頁〕、140〔27~37頁〕」とそれぞれ改める。
(24) 原判決165頁20行目の「劣ったものとなっているか」を「劣ったものとなっているか(システム構築に対する提案内容などを納入予定メーカーよりも手を抜いた内容にする、工期を納入予定メーカーよりも長くするなどして、発注者の技術評価が低くなるようにするなど。)」と改める。
(25) 原判決165頁23行目の「いくこととした」を以下のとおり改める。
「いくこととした。
また、控訴人の≪A3≫は、他社に付き合って入札に参加することを表明した前記コの3物件のうち、日本電気が納入予定メーカーとなった京都市消防局分と春日・大野城・那珂川消防組合消防本部分は同社の≪B2≫に、日立国際電気が納入予定メーカーとなった玉野市消防本部分は同社の≪D1≫に、それぞれ控訴人が発注者側に提出する予定の提案書と事業計画を送り、同人らの確認を受けた。」
(26) 原判決165頁24行目の「乙46」を「乙32〔5~10頁〕、46」と改める。
(27) 原判決166頁5行目の「あらかじめ」から6行目の「なった」までを「≪G≫が落札してあらかじめ定めた納入予定メーカーである控訴人が機器納入メーカーとなった。」と改める。
(28) 原判決170頁8行目の「3~9頁」を「3~9頁、添付資料1(≪A3≫が≪C2≫に送った2010年12月27日付けのメール)」と改める。
(29) 原判決172頁17行目の「乙166」を「乙166(≪A3≫が≪C2≫に送った2011年4月13日付けのメール)」と改める。
(30) 原判決173頁21行目の「172」を「172(≪A3≫が≪C2≫に送った2011年5月10日付けのメール)」と改める。
(31) 原判決178頁23行目の「指令台一括発注の場合についても、」を「指令台一括発注の場合(指令台と消防救急デジタル無線機器が一緒に発注される場合)についても、指令台を製造しなくなった日本無線などは他メーカーに比べて受注の難易度が上がることや、指令台の既設業者が新たに受注を狙ってくることが考えられることなどから、」と、24行目の「働きかける」を「働きかける(「なるべく、一括発注にしないよう誘導する」(「ちずv18」の※1))」と、26行目の「しまっても、」を「しまい、納入予定メーカーが受注できなかったとしても、」と、同行目から179頁1行目にかけての「文句を言わないようにする」を「文句を言わないようにする(「基本は仕様書勝負で、そのときはチャンは諦める」(「ちずv18」の※2))」とそれぞれ改める。
(32) 原判決181頁12行目の「原告の≪A3≫は、」を「控訴人の≪A3≫は、実証試験の報告書を出して、」と、22行目の「割り振り案」を「割り振り案(乙202、205〔添付資料1〕)」とそれぞれ改める。
(33) 原判決182頁10行目の「Pen」に「(変更がないという意味)」を加える。
(34) 原判決182頁18行目冒頭から24行目の「不満を述べた」までを次のとおり改める。
「ニ ≪A2≫と≪C1≫の平成24年2月1日の会合
控訴人の≪A2≫と沖電気工業の≪C1≫は、平成24年2月1日の午後6時から新横浜の居酒屋「≪略≫」で会い、雑談を交えながら率直に話をした。東北地区の名取市消防本部(納入予定メーカーは沖電気工業)と亘理地区行政事務組合(納入予定メーカーは控訴人)の物件について、≪C1≫が、亘理地区の物件は沖電気工業は手を出さないから、名取市の物件は手を出さないことを守ってくれますよねと念押ししたところ、≪A2≫は、全国にいる各地区の営業を担当している部長クラスには「ちず」を示して、控訴人がチャンピョンになっているところを営業し、他社がチャンピョンになっているところは営業しないよう指示をしており、皆それに従ってくれているが、東北地区の部長(≪A11≫氏)だけが俺がやりたいようにやるといって聞かない、そのくせ同人はうまくいかなくなるとすぐ自分に泣きついてくるなど愚痴をこぼした。また、≪A2≫は、社内から、控訴人の割り当てが少ないという趣旨でいろいろ言われている旨の愚痴をこぼした」
(35) 原判決184頁10行目の「54」を「53〔3~33頁〕、54」と改める。
(36) 原判決187頁7行目の末尾に次の記載を加える。
「具体的には、控訴人が納入予定メーカー(「チャン」)とされていた胆振東部消防組合消防本部(後記4⒄)と白河地区広域市町村圏消防組合本部(後記4(42))を日立国際電気(胆振東部)と≪H≫(白河地区)が落札したことについて、控訴人の≪A3≫は、日立国際電気の≪D1≫からいろいろと情報をもらっていたのに、それを活かしきれずに失注につながったなどと説明した。また、控訴人が納入予定メーカーとされていた三笠市消防本部(後記4(44))を日本電気が落札したことについて、≪A3≫は、控訴人が営業できていなかったのだから控訴人に非があると説明した。日立国際電気の≪D1≫は、代わりに歌志内消防本部(後記4⒄)を控訴人に譲ることにしたと説明した。上記のとおり、「ちず」により調整した納入予定メーカーが落札できない事態が生じたものの、そのことについて、納入予定メーカーの出席者が、落札したメーカーの出席者を責めるようなことはなかった。」
(37) 原判決187頁20行目の「営業企画本部リスクマネジメント部」に「(日本電気のコンプライアンス部門)」を加える。
(38) 原判決189頁6行目から7行目にかけての「228〔1~6頁〕、」を削る。
(39) 原判決189頁25行目の「物件25」を「物件1、25」と改める。
(40) 原判決192頁22行目の「形になっていたが」の次に「(札幌市は指令台が札幌が≪G≫、無線が日本電気が既設業者であり、同市が政令指定都市であるから、控訴人と日本電気はどちらも降りない姿勢であり、そのことは沖電気工業と日立国際電気も認識していた。沖電気工業は、その旨の意思は明示していなかったが、同社が受注することは諦めていた。日立国際電気も同様であり、同社は入札にも参加しなかった(原判決別紙4の物件2の「入札業者名等」欄))」を加える。
(41) 原判決198頁2行目冒頭に「しかし、」を、4行目の「原告が」の前に「前記アの方針のとおり」をそれぞれ加える。
(42) 原判決239頁9行目から15行目末尾までを次のとおり改める。
「⑵ 原判決別紙4の516物件(「総通番」1~516)は、平成22年5月から平成26年3月までの違反行為期間に発注された物件であり、このうち、被控訴人が「本件合意に基づいて納入した物件」と認定した物件(同別紙の同欄に「〇」がある物件)は280物件で、上記516物件に対する割合は約54%である。
そして、上記516物件は、日本電気が本件基本合意から離脱した日(平成24年5月9日)以後に発注された同社が納入予定メーカーとされた物件も含む全体の数値であることから、被控訴人が「本件合意に基づいて納入した物件」と認定しなかった236物件(同別紙の同欄に「〇」のない物件)の多くは、平成24年5月9日より後に発注された物件である(総通番74番以降の物件。それ以前の物件で認定されなかったものは、9件(総通番1、14、22、25、29、39、46、50、66にとどまる。)。平成24年5月9日より後に発注され、認定されなかった227物件(236物件から上記9物件を引いた件数)中、離脱前の日本電気も参加した本件基本合意とそれに基づく受注調整により日本電気が単独で納入予定メーカーとなっていた物件数は136件である。したがって、違反行為期間内(日本電気は平成24年5月9日まで)において、その当時会合に参加していた者が納入予定メーカーとされ、当該納入予定メーカーが納入できた物件のみについていえば、前記割合は、約74%(上記516件から、日本電気の離脱後に発注され、同社のみが納入予定メーカーとされた物件数(136件)を差し引いた物件数(380件)により280件を除した割合)となる。
また、上記516物件から、①随意契約の方法により発注された27件、⑵公募型又は指名型のプロボーザル方式により発注された物件17件及び③予定価格が不明である物件2件の合計46件を除いたもの(合計470件)の平均落札率は93. 2%である(乙260)。この470件のうち、「本件合意に基づき納入した物件」である263件の平均落札率は93.47%であり、その余の207件の平均落札率は92. 94%である。」
(43) 原判決239頁18行目の「匿名文書」に「(乙243)」を加える。
(44) 原判決247頁11行目の「乙122、123」を「乙123」と、12行目から13行目にかけての「乙123〔添付資料1~4、14〕」を「122〔添付資料1~4、14〕、123〔添付資料1~4〕」とそれぞれ改める。
(45) 原判決247頁18行目の「(単独)」を削る。
(46) 原判決251頁13行目の「協議」を「会合」と、16行目の「に沿う」を「に沿う具体的な」と、17行目の「乙253の1・2」を「253の1(「≪A11≫は…全国で7人いるBの部下の中で唯ーダメ…ちずの件言ってるが…困った時だけくる」の記載、253の2(2月1日欄「FG≪A2≫18:00≪略≫」の記載)」と、18行目の「甲20、21」を「甲20(同日午後3時から控訴人の溝の口本社で≪A2≫が出席する会合があったことを示すメール)、21(同日午後6時23分に部下の≪A12≫が≪A2≫が使用するアドレス宛てにメールを送信していること)」と、同行目の「あったこと」を「会ったこと」とそれぞれ改める。
2 争点⑴(本件基本合意の成否)について
以下のとおり原判決を補正するほかは、原判決14頁23行目から25頁1行目までに記載のとおりであるから、これを引用する(文中の「前提事実」、「認定事実」は、いずれも当審補正後のものをいう。)。
(原判決の補正)
(1) 原判決16頁9行目の「整備に関し、」を「価格下落を避けるためには、3社だけではなく、日立国際電気、日本無線及び≪G≫を含めた6社で受注調整をした方がよいとの認識を共有し、具体的な割り振り方法として、」と、同行目の「方法」を「方法(横串でのアライアンス)」とそれぞれ改める。
(2) 原判決16頁21行目末尾に、「なお、≪G≫については、平成22年1月25日の会合(原判決別紙3の番号8)で、日本電気及び沖電気工業から、控訴人が≪G≫の意向を踏まえて受注調整をして欲しい旨の要望が出され、控訴人は、当審補正後の後記⑶アの説示のとおり、これを黙示に了解した(認定事実⑶1ア)。」を加える。
(3) 原判決18頁11行目の「全国の約800の消防本部」を「実証試験の6物件だけではなく、全国の約800の消防本部」と改める。
(4) 原判決18頁18行目の「(本件基本合意)をしたというべきであり、その後、」を、「(本件基本合意)をしたというべきである。そして、3社は、受注価格の低落防止等を図るためには、3社を中核としつつも、日立国際電気、日本無線及び≪G≫も取り込む必要があるとの認識を共有し、実際にも、その後、」と改める。
(5) 原判決18頁20行目の「認められる」に「(≪G≫については、沖電気工業と日本電気が控訴人に≪G≫の意向を踏まえた調整をして欲しいと要請し、実際にも≪G≫が指令台を既設する物件について控訴人が納入予定メーカーとなって納入に至っていることに照らすと、控訴人は上記要請を黙示に了解したと認められる。)」を加える。
(6) 原判決19頁1行目末尾に、「また、控訴人は、≪A2≫は、≪A1≫らから、実証試験6物件のうちの1物件を受注することを厳命されていたのであり、これを事実上放棄するような合意を他社とすることはありえないとも主張する。」を加える。
(7) 原判決19頁14行目の「これらの事情を総合すれば」を「これらの事情に、平成21年12月21日までの月曜会の会合の状況(認定事実1⑴ア、2⑴ア及びイ、同⑵アないしウ)及び平成22年1月から平成26年3月までの会合等の状況(認定事実3)を総合すれば」と改める。
(8) 原判決19頁19行目から20行目にかけての「認められる。」を次のとおり改める。
「認められる(≪A1≫らが実証試験1物件を受注することを厳命していたとは認めるに足りない。)。この点に関し、控訴人は、平成22年1月以降の各会合はいずれも本件合意が平成21年12月21日までに成立したか否かとは無関係であると主張するが、平成22年1月以降の会合で本件基本合意に沿う受注調整が実際に行われた事実は、平成21年12月21日までに本件基本合意が成立していたことを強く推認させる事実であって、本件基本合意の成立と無関係とはいえない。」
(9) 原判決19頁22行目の「①」から23行目の「3社が」までを次のとおり改める。
「①a 控訴人は、平成20年11月10日から始まった月曜会(原判決別紙3の番号1)で消防救急デジタル無線機器の市場を分け合う話合いはしていない、b 平成21年8月21日の会合(同番号3)で、控訴人の≪A7≫らは、控訴人が3社が受注調整して市場を分け合うことに前向きである旨の発言はしていない、c 同年9月14日の会合(同番号4)で、控訴人の≪A2≫が、3社で受注調整を行う方針について了解し合いたいと提案し、他社が了解をしたということはない、d 同年10月19日の会合(同番号5)では、実証試験6物件について各社の希望は述べあってはいるものの、受注調整のメンバーをどうするかという基本的な事項すら未確定な状態であったし、実証試験後の約800消防本部について受注調整を行う旨を話し合ったことはない、e 同年11月16日の会合(同番号6)でも、受注調整を行うメンバーは決まっていない状態であり、実証試験後の約800消防本部を含めた受注調整を行うことについて合意が成立したとは到底いえない、f 同年12月21日(同番号7)の会合でも、受注調整の範囲、調整方法といった重要な部分についての意見の一致を見ていないことなどからすると、平成21年9月から12月までに開催された会合(月曜会)において、3社が」
(10) 原判決20頁6行目冒頭から同行目末尾までを次のとおり改める。
「 しかしながら、平成20年10月10日から始まった月曜会が、消防救急無線機器がデジタル化されるのを契機に、新たなメーカーが参入して市場が荒らされてしまうことを危惧した控訴人の≪A4≫の呼び掛けにより、控訴人とともにアナログ方式の消防救急無線機器市場を寡占するメーカーであった日本電気と沖電気工業との間で開催された会合であり、同人らが、3社間での市場を分け合う割り振り方法(指令台の既設メーカーが納入予定メーカーとなること、納入予定メーカーとなった社だけの入札とならないよう、他のメーカーが「お付き合い入札」をすることなど)を話し合っていたことは、認定事実1⑴のとおりであり、上記認定に反する控訴人の主張は採用できない。
また、平成21年9月から同年12月までの月曜会において、」
(11) 原判決20頁13行目の「認定事実2⑴ア」に「(この事実が認められることは、本判決が引用する原判決別紙8の第2の1⑴(原判決239頁25行目から240頁8行目まで)に説示するとおりであり、その後の受注調整の経過とも符合しており、上記認定に反する控訴人の主張は採用できない。)」を加える。
(12) 原判決20頁18行目の「認定事実2⑴イ」に「(この事実が認められることは、本判決が引用する原判決別紙8の第2の1⑵(原判決240頁9行目から241頁2行目まで)に説示するとおりであり、その後の受注調整の経過とも符合しており、上記認定に反する控訴人の主張は採用できない。)」を加える。
(13) 原判決20頁25行目の「認定事実2⑵ア」に「(この事実が認められることは、本判決が引用する原判決別紙8の第2の1⑶(原判決241頁3行目から243頁4行目まで)に説示するとおりであり、その後の受注調整の経過とも符合しており、上記認定に反する控訴人の主張は採用できない。)」を加える。
(14) 原判決21頁1行目の「認定事実2⑵イ」に「(この事実が認められることは、本判決が引用する原判決別紙8の第2の1⑷イ(原判決243頁11行目から25行目まで)に説示するとおりであり、その後実際に日立国際電気が本件基本合意に基づく受注調整に加わった経過とも符合しており、上記認定に反する控訴人の主張は採用できない。)」を加える。
(15) 原判決21頁6行目から7行目にかけての「認定事実2⑵ウ」に「(この事実が認められることは、本判決が引用する原判決別紙8の第2の1⑷ウ(原判決244頁1行目から24行目まで)に説示するとおりであり、その後実際に日立国際電気と日本無線が本件基本合意に基づく受注調整に加わった経過とも符合しており(≪G≫については、控訴人が≪G≫の意向を踏まえた調整をすることを黙示に了解し、実際にもその旨の受注調整が行われた。)、上記認定に反する控訴人の主張は採用できない。)」を加える。
(16) 原判決21頁7行目の末尾を改行の上、次の記載を加える。
「 以上によれば、遅くとも平成21年12月21日に開催された月曜会までには、実証試験6物件だけではなく、今後全国の約800の消防本部で発注される消防救急デジタル無線機器を対象として受注調整をすること、その方法は、各社における物件ごとの受注希望その他の事情を勘案した話合いにより納入予定メーカーを決定し、納入予定メーカー以外の者は納入予定メーカーが納入できるよう協力するようにすることなどの、受注調整の対象や方法の重要な部分について意見が一致したといえる。」
(17) 原判決22頁7行目の「明らかである。」を次のとおり改める。
「明らかである(殊に、控訴人の≪A2≫は、受注調整が行われていた平成22年1月から同年12月21日までの月曜会に毎回出席し(同日の月曜会にも出席していたと認められることは、本判決が引用する原判決別紙8の第2の2⑴(原判決249頁12行目から250頁5行目まで)のとおりである。)、同年6月には控訴人が受注を希望していた岡山市消防局の物件について沖電気工業に「お付き合い入札」を依頼し(認定事実3⑴キ(ウ))、同年9月には日本電気との間で、同社が大阪市消防局を降り、控訴人と≪G≫が千葉市消防局の物件を降りるという調整をした上で、沖電気工業に大阪市消防局の物件について「お付き合い入札」を依頼し(認定事実3⑴ク(イ)、同コ)、≪A2≫が月曜会に出席しなくなった以降に開催された平成24年2月1日の≪A2≫と沖電気工業の≪C1≫との会合で、同人との間で、東北地方の受注調整や、全国にいる各地区を担当している部長に「ちず」を示して控訴人がチャンピョンになっているところを営業し、他社がチャンピョンになっているところは営業しないよう指示した旨を話していること(認定事実3⑵ニ)に照らし、控訴人の≪A2≫が本件基本合意に基づく受注調整に関与していたことは明らかである。)。」
(18) 原判決23頁7行目の「原告は、」を「控訴人は、仮に本件基本合意が成立したとしても、」と、9行目の「実証試験に係る物件だけであり、」を「実証試験に係る物件だけであり、本件基本合意の成立もその範囲にとどまる(控訴人≪A2≫の権限も実証試験に係る部分に限られる。)から、」と、13行目の「受注調整ができないこと」を「受注調整ができないこと(≪G≫は控訴人とは別のプレーヤーと認識されていたところ、≪G≫を含めた協議は行われておらず、同社が既設指令台として優位性をもつ≪G≫物件は、控訴人以外が「チャン」となることはなく、実質的に調整の対象とすることはできなかった。)」と、14行目から15行目にかけての「受注調整が困難であるなどの事情があること」を「受注調整が困難であり、5社は無線単独整備であることを前提として納入予定メーカーを決定していたことなどの事情があること」とそれぞれ改める。
(19) 原判決24頁12行目の「本件基本合意に基づく受注調整では、」の次に「控訴人が≪G≫の意向を踏まえた調整をすることを黙示に了解した上で、」を加える。
(20) 原判決24頁23行目の「しまっても、」を「しまい、納入予定メーカーが受注できなかったとしても、」と改める。
(21) 原判決25頁1行目末尾を改行の上、次の記載を加える。
「カ そして、控訴人が種々主張するその余の点を検討しても、本件基本合意の成立及びその内容について、当裁判所の判断は左右されない。」
3 争点⑵(本件基本合意が「不当な取引制限」の要件に該当するか否か)について
以下のとおり原判決を補正するほかは、原判決25頁4行目から30頁24行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1) 原判決26頁20行目の「516件中504件」に「(なお、両者の差(12件)は、原判決別紙4の「納入予定メーカー」欄が「-」と表示された物件である。)」を加える。
(2) 原判決26頁22行目から23行目にかけての「その平均落札率も93.47%であったことからすると」を「上記516件から随意契約の方法に発注された物件、公募型又は指名型のプロボーザル方式で発注された物件及び予定価格が不明な物件(合計46件)を除いた470件のうち、被控訴人が同別紙で「本件合意に基づいて納入した物件」と認定した263件の平均落札率が93.47%であったこと(認定事実5⑵)からすると」と改める。
(3) 原判決28頁15行目末尾に改行の上、次の記載を加える。
「 また、控訴人は、≪A2≫には本件基本合意を成立させる権限はなく、本件基本合意が成立していたとしても、控訴人がこれに拘束されることはない、本件基本合意が平成21年12月21日までに成立している以上、同日までの会合に参加していない≪A3≫に関する事実関係は、本件基本合意が控訴人に及ぼす拘束性とは無関係であるとも主張する。
しかしながら、≪A2≫が少なくとも黙示に≪A1≫らの承認を得ることにより本件基本合意に至ったことは既に説示したとおりである。また、≪A3≫は、本件基本合意成立後に、≪A2≫とともに他社との受注調整を行っているのであり(これも少なくとも黙示に≪A1≫らの承認を得て行われたと認められる。)、≪A3≫のこうした行為は、3社(後に2社が加わり5社となった)間の本件基本合意が存在することを強く推認させるものであり、本件基本合意と無関係ではない。」
(4) 原判決28頁25行目の「されていないこと、」を「されていないこと、かえって、控訴人では、≪A2≫自身が積極的な営業活動をし、BCチームを組織して他社既設物件に対する営業活動をするなど、本件基本合意に反する営業活動を行っていたこと、」と改める。
(5) 原判決28頁26行目の「アウトサイダーが存在したこと等」を「本件基本合意とは無関係に事業活動を行うアウトサイダーが存在しており、両者が関与する物件については、本件基本合意に基づく個別調整の結果が現実化する可能性が弱められていたこと等」と改める。
(6) 原判決29頁3行目から16行目までを次のとおり改める。
「しかしながら、①の点については、原判決別紙4の516件は、平成22年5月から平成26年3月までの違反行為期間に発注された物件数であり、日本電気が本件基本合意から離脱した日(平成24年5月9日)以降の期間も含まれている。そして、被控訴人が「本件合意に基づき納入した物件」と認定しなかった236件の大部分(227件)が、日本電気が本件基本合意から離脱した日以降に発注された物件であり、その中には、日本電気が離脱前に3社ないし5社で受注調整した物件で日本電気が単独で納入予定メーカーとなっていた物件が136件ある(認定事実5⑵)。以上からすると、被控訴人が「本件合意に基づき納入した物件」と認定しなかった物件の多くは、日本電気が本件基本合意を離脱したことが考慮されたことがうかがわれる。そして、前記516物件に対する「本件合意に基づいて納入された物件」(280件)の割合は約54%であり(前提事実⑸ア、認定事実5⑵)、これ自体、本件基本合意に実効性があることを推認させる高い数値であると言える上、前記のとおり、上記516件は、日本電気が本件基本合意を離脱した後の期間も含むものであり、違反行為期間内(日本電気は平成24年5月9日まで)において、その当時会合に参加していた者が納入予定メーカーとされ、当該納入予定メーカーが納入できた物件のみで計算する(上記516件から、日本電気が本件基本合意から離脱後に受注した物件のうち、離脱前にされた受注調整により、日本電気が単独で納入予定メーカーとなっていた136件を差し引いた物件数(380件)で、「本件合意に基づいて納入された物件」(280件)を除する)と約74%となり(認定事実5⑵)、上記約54%よりも更に高い。
また、本件基本合意に基づいて納入されたと認定された物件と、本件基本合意に基づいて納入されたと認定されなかった物件の平均落札率の差がわずかであるとする点(認定事実5⑵によれば、前者が93.47%、後者が92.94%)については、93.47%という平均落札率自体、本件基本合意が事実上の拘束力をもって有効に機能したことを推認させる高い数値というべきものである。また、本件基本合意に基づいて納入されたと認定されなかった物件に、日本電気が本件基本合意から離脱した後の物件が相当数含まれていることは前記説示のとおりであるが、日本電気離脱後に残された4社は、日本電気離脱前に決定した納入予定メーカーはそのままとし、同社を納入予定メーカーとした消防本部を改めて割り直すことはしていないこと(認定事実3⑷ウ)からすると、日本電気の離脱により、離脱前に行われた各社の受注調整の影響が直ちに消滅したとまではいえず、その結果として前記平均落札率となった可能性があるというべきであって、平均落札率の差がわずかであることは、本件基本合意が事実上の拘束力をもって有効に機能したとの認定を動揺させるものではない。」
(7) 原判決29頁20行目の「とおりである」に「(なお、控訴人の≪A2≫も、平成24年2月1日の会合(認定事実3⑵ニ)で、沖電気工業の≪C1≫に対し、全国にいる各地区の営業を担当している部長クラスには「ちず」を示して、控訴人がチャンピョンになっているところを営業し、他社がチャンピョンになっているところは営業しないよう指示をした旨を話している。)」を加える。
(8) 原判決30頁5行目の「上記と同様である。」に「また、控訴人の≪A2≫自身が積極的に営業活動したとする点は、≪A2≫は、東日本大震災(平成23年3月11日)により東北地方の物件の発注が前倒しになったことから、早期に発注が見込まれる被災地の消防本部の受注を目指し、自ら営業に赴いたと述べているが(甲32)、同人は、東北地方を回ったのは、総務省消防庁から、東日本大震災により被害を受けた消防本部を対象に補助金を交付して被災地域の消防無線を復旧することから、被災状況の確認や補助金交付の趣旨を説明して積極的に申請するよう話をしてきて欲しいと依頼されたためであり、控訴人の指令台や無線が納められていた消防本部のみを対象にして活動していたとも供述しているのであり(乙228)、以上からすれば、控訴人の≪A2≫が、本件基本合意の趣旨に反する営業活動を行っていたとは認められない。」
(9) 原判決30頁6行目の「認定事実によれば」から7行目の「①」までを、「まず、≪G≫に関しては、既に説示したとおり、控訴人が≪G≫の意向を踏まえて受注調整をすることを黙示に了解し、実際にも、」と、14行目の「なっており、また、②」を「なっている。また、≪H≫に関しても、」と、21行目の「≪G≫及び≪H≫が」を「本件基本合意では、≪G≫については控訴人が、≪H≫については日立国際電気が、それぞれその意向を踏まえた上で、受注調整を行うことが予定されていたと認められるのであり、≪G≫や≪H≫が控訴人が主張するような、本件基本合意とは無関係に事業を活動を行うアウトサイダーと評価することはできず、≪G≫及び≪H≫が」とそれぞれ改める
(10) 原判決30頁24行目末尾を改行の上、次の記載を加える。
「⑷ そして、控訴人が種々主張するその余の点を検討しても、当裁判所の判断は左右されない。」
4 争点⑶(独占禁止法7条2項に規定する要件の該当性)について
以下のとおり原判決を補正するほかは、原判決30頁26行目から32頁15行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1) 原判決31頁12行目の「本件」から14行目の「いる」までを「本件基本合意に基づく受注調整の会合、連絡は、平成26年4月9日以降はされなくなっている」と改める。
(2) 原判決32頁13行目の「のみをもって、」を「があったとしても、」と改める。
5 争点⑷(本件違反行為の実行期間)について
以下のとおり原判決を補正するほかは、原判決32頁17行目から34頁15行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
原判決33頁8行目の「がなくなった」を「に基づく受注調整の行動がとられなくなった」と改める。
6 争点⑸(本件130物件の「当該商品又は役務」の要件の該当性)について
以下のとおり原判決を補正するほかは、原判決34頁17行目から49頁1行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1) 原判決35頁2頁の「受注調整等の結果」を「受注調整手続に上程されることによって」と改める。
(2) 原判決35頁13行目の「これに加え、」から20行目末尾までを次のとおり改める。
「また、5社は、納入予定メーカーを決定した後も、継続的に会合を開催し、その都度、入札等が完了した物件につき、「ちず」に類似の一覧表を用いて納入予定メーカーが納入できているか否か等を互いに確認し合うなどするとともに、そのような会合が継続的に開催されている中で、納入予定メーカーである控訴人が、実際に本件130物件を納入できたことが認められる(認定事実3⑷)。以上に加え、納入予定メーカーが入札により機器納入メーカーとなった物件(263件)の平均落札率が93.47%と高いものであったこと(前記3⑵)からすれば、本件基本合意に基づき受注調整手続に上程されることによって、本件基本合意による具体的な競争制限効果が発生するに至ったと認められる。
もっとも、控訴人は、具体的な競争制限効果は発生していないとして、種々の主張をしていることから、上記認定を動揺させる事情(以下「特段の事情」という。)があるか検討する。
なお、控訴人は、「特段の事情」の主張立証責任を控訴人に負わせることは不当であると主張するが、上記「特段の事情」の検討は、被控訴人に具体的な競争制限効果の発生についての主張立証責任があることを前提に、前記当裁判所の認定を動揺させる事情がないことを、控訴人の主張に即して検討するものであるから、控訴人の主張は前提を欠く。」
(3) 原判決36頁15行目の「「T-4」欄に「〇」のある物件」を「「T-4」欄に「〇」のある21物件」と、16行目から17行目にかけての「「T-6」欄に「〇」のある物件」を「「T-6」欄に「〇」のある17物件」とそれぞれ改める。
(4) 原判決36頁17行目の「他の違法行為者」に「(日本無線)」を加える。
(5) 原判決37頁15行目の「なお、これらの物件」を次のとおり改める。
「上記㋐及び㋑は、納入予定メーカーが、受注希望を表明しているいずれかの会社には絞り込まれた(受注希望を表明しない会社は除外された)という意味において、納入予定メーカー(複数)が決定されたと言い得る。また、上記㋐ないし㋒の物件」
(6) 原判決37頁21行目の「129」に「(原判決別紙6の「T-6」欄に「○」の記載がある物件は、「T-4」欄に「〇」のある上記21物件から、物件2、13、52、118を除いた17物件であり、全てが「T-4」欄の「〇」と重なっている。)」を加える。
(7) 原判決37頁22行目から23行目にかけての「原告がその受注希望を表明し」を「控訴人が≪G≫の意向を踏まえて受注希望を表明し、」と改める。
(8) 原判決37頁25行目から26行目にかけての「物件112、122」を「物件85(江津市邑智消防組合消防本部)、112(宇佐市消防本部)、122(出雲市消防本部)」と、同行目の「原告が納入予定メーカーとされたことは」を「落札業者である日本無線との協議により、同社が控訴人から購入した消防救急デジタル無線機器が納入されたことは」と改める。
(9) 原判決38頁7行目から8行目にかけての「しまっても、」を「しまい、納入予定メーカーが受注できなかったとしても、」と改める。
(10) 原判決38頁23行目から25行目まで、39頁26行目から40頁1行目まで、41頁5行目から6行目までをいずれも次のとおり改める。
「したがって、控訴人の上記主張を踏まえて検討しても、上記特段の事情はないというべきである。」
(11) 原判決40頁23行目の「そもそ」から24行目の「いえないし、」までを「控訴人以外の事業者が受注する可能性が皆無であったとはいえないところ、」と改める。
(12) 原判決41頁12行目の末尾に次の記載を加える。
「また、控訴人は、津市消防本部の物件(物件107)を例に挙げ、他社に参加資格がない物件は、発注者が入札参加資格を決定するに当たって5社の営業活動等が考慮される余地はなく、営業活動が納入予定メーカーの納入の結果に影響しているとはいえない、津市消防本部の物件も、控訴人と日本電気以外には入札参加資格がなく、控訴人は強力なアウトサイダーである日本電気との激しい競争の上、低い落札率で落札したのであるから、具体的競争制限効果が発生したとはいえない特段の事情があるとも主張する。」を加える。
(13) 原判決42頁7行目の「否定できないというべきである(例えば、」から12行目末尾までを次のとおり改める。
「否定できないというべきである。
また、津市消防本部(物件107)について、控訴人が前提とする、控訴人と日本電気以外の業者が同市の入札参加資格である「本件工事における主たる機器の製造業者・ ・ ・である者」(甲28の107の3(津市公告第108号)2⑾)に当たらないとする主張を的確に認める証拠はなく、控訴人の主張は前提を欠く(控訴人は、沖電気工業と日本無線が、課徴金の算定において、被控訴人により「卸売業」と認定され、同業種に対する課徴金算定率(2%)が適用されたこと(甲95)を根拠に上記主張をするが、被控訴人が課徴金納付命令をするに当たり、違反行為の態様を踏まえて独占禁止法7条の2第1項における「卸売業」と認定したことと、津市の入札参加資格とする「製造業者」とでは、その規定の趣旨、目的、文脈が異なることがうかがわれ、上記主張は採用できない。)。そして、津市消防本部の物件については、沖電気工業及び日本無線は、本件基本合意に基づき、受注のための営業活動を控えていたことが認められ(乙274〔28頁〕、296〔5~7頁〕、321〔16~20頁、25~26頁〕、324〔2~5頁、14~15頁〕)、これによって、控訴人は、同社らの自由競争下における営業活動を考慮する必要のない状況で同物件の入札に参加し、受注に至ったと認めるから、同物件についても本件基本合意に基づく具体的競争制限効果が発生したと認められる(本件基本合意から離脱した後の日本電気との間では競争となったことは、この認定を左右しない。)。
この点につき、津市は、(入札参加資格を決定するに当たり5社の意見を)「聴取していない」、「(入札参加資格を決定するに当たり、5社の働きかけ、営業活動が)「考慮される余地はなかった」と回答しているが(甲126)、控訴人の主張が前提を欠くものであることは上記説示のとおりであるから、津市の上記回答の信用性いかんにかかわらず、津市消防本部の物件について具体的競争制限効果が発生したと認められるというべきである。したがって、津市消防本部に関する控訴人の主張は採用できない。」
(14) 原判決42頁16行目、43頁9行目から10行目にかけて、同頁24行目から25行目にかけての「があるともいえない」をいずれも「もない」と改める。
(15) 原判決43頁20行目の「しまっても、」を「しまい、納入予定メーカーが受注できなかったとしても、」と改める。
(16) 原判決44頁12行目冒頭から13行目末尾までと、45頁4行目の「もって、」から5行目末尾までをいずれも「もってしても上記特段の事情は認められない。」と改める。
(17) 原判決46頁3行目から4行目にかけて、同頁23行目から24行目にかけて、47頁13行目、48頁25行目から26行目の「上記特段の事情があるともいえない。」をいずれも「上記特段の事情もない。」と改める。
(18) 原判決49頁1行目末尾を改行の上、次の記載を加える。
「サ 当審における個別物件の主張について
控訴人は、≪G≫の銘板が付された機器が納入された物件(原判決別紙6の「T-6」欄に「〇」の記載がある物件)、指令台一括発注物件(原判決別紙「T-7」欄に「〇」が記載がある物件)、津市消防本部(物件107)、江津市邑智消防組合消防本部(物件85)及び出雲市消防本部(物件122)は、具体的競争制限効果が発生しておらず、課徴金の算定対象となる商品又は役務に当たらないと主張するが、これらの主張が認められないことは、既に説示したとおりである。
また、札幌市消防局(物件2)について、控訴人の主張を踏まえて検討しても、5社による受注調整が行われた結果、受注を希望するメーカーが実質的に控訴人と日本電気の2社に絞られたような形となり、≪G≫が落札して控訴人が機器を納入したことは認定事実4⑵で説示するとおりである。また、控訴人が≪G≫の意向を踏まえて受注調整を行っており、同社をアウトサイダーと評価することはできないことも、説示したとおりである。
シ 平等原則違反の主張について
控訴人は、本件課徴金納付命令は、①随意契約(ただし、公募型プロポーザルを前提としないもの)として発注され課徴金の対象外とされた物件と課徴金の対象とされた物件の間で合理的な理由なく異なる取扱いをしている、②被控訴人が同時期に課徴金納付命令を行った別の事件(東京電力が発注する電力保安通信用機器の製造販売業者(≪G≫)に対する事件)との間で合理的な理由なく異なる扱いをしているから、本件課徴金納付命令は、平等原則に違反し、裁量権の逸脱・濫用に当たり、違法であると主張する。
しかしながら、上記①については、課徴金の対象外とされた物件(公募型プロポーザルを前提としない随意契約物件)と課徴金の対象とされた物件は、いずれも控訴人が発注者に機器を納入した物件であり、他の事業者との関係で控訴人が不利益に取り扱われているものではない。また、課徴金の対象外とされた物件は、純粋な随意契約物件であり、本件基本合意があり、本件基本合意に沿った営業活動が行われたとしても、これにより具体的競争制限効果が発生したとはいえないと見る余地がある物件であることがうかがわれるから、課徴金の対象とした物件との取扱いの差が不合理であるとは認め難い。
また、上記②については、別の事件は、本件事案とは事実関係を異にし、したがって、課徴金納付命令の対象についての判断も当該別の事案に即したものであるから、別の事件との対比をもって本件の取扱いに不合理な差があるということはできない。
そして、控訴人の種々主張するその他の点を検討しても、本件課徴金納付命令が平等原則に違反するとは認められない。
ス まとめ
以上のとおり、控訴人が個別に主張する点はいずれも認められず、控訴人の主張を総合的に検討しても、具体的な競争制限効果の発生したとの認定を動揺させる特段の事情はない。」
7 争点⑹(本件違反行為の実行期間における控訴人の特定消防救急デジタル無線機器に係る売上高及びこれに対する課徴金の額)
以下のとおり原判決を補正するほかは、原判決49頁4行目から52頁18行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1) 原判決49頁26行目の「被告の判断に」から50頁1行目末尾までを「被控訴人の判断に誤りはない。」と改める。
(2) 原判決50頁20行目の末尾に次の記載を加える。
「また、控訴人は、③免許申請関係費用等は、平成17年審決における軽油引取税相当額と同様に発注者が法律上負担すべき費用であるから、同審決で軽油引取税が売上高から除外されたのと同様に、免許申請関係費用等も売上高から除外すべきであると主張する。」
(3) 原判決52頁18行目末尾に改行の上、次の記載を加える。
「ウ 控訴人の主張③について
平成17年審決は、軽油引取税が、地方税法上、特約業者又は元売業者から「軽油の引取りを行う者」が納税義務者、特約業者又は元売業者が特別徴収義務者とされており(地方税法144条の14第1項、第1条第1項第10号)、軽油引取税相当額については、軽油の販売代金と同時に授受されるものの、販売(請負)代金部分とは法的性質を異にすること、及び、契約書において契約金額中の軽油引取税相当額が区別して明記されるなど、契約上も同税相当額が明確に区分されていたことを考慮した上で、軽油引取税相当額について、課徴金の算定の基礎となるベき売上額から控除すべきであるとしている。
他方、本件の免許申請関係費用等は、軽油引取税のように、受注者(本件でいえば控訴人)に法律上特別徴収義務が課されているわけではなく、何らかの法的根拠に基づき発注者(本件でいえば消防本部)から徴収を義務付けられた金員ではない。また、原判決別紙6の「R(無線局申請費用等)」欄に「〇」のある63物件の免許申請関係費用等相当額が、当該63物件に係る契約により定められた請負代金又は売買代金に含まれていたことは争いがなく、実際の契約書にも、免許申請費用等相当額を含めた金額として一括して請負金額(契約金額)と記載されている(乙316)。以上によれば、本件事案は、平成17年審決とは事案を異にしている。
そして、上記説示によれば、免許申請費用等相当額を含む金額全体が独占禁止法施行例6条1項の「契約により定められた商品の販売又は役務の提供の対価の額」といえるのであり、免許申請費用等相当額を売上高から除外すべきであるとの控訴人の主張は採用できない。」
8 まとめ
以上のほか、控訴人が種々主張する点を検討しても、当裁判所の判断は左右されない
したがって、本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令は適法である。
第4 結論
以上によれば、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
令和5年5月31日
東京高等裁判所第3特別部
裁判官 佐々木 健二
裁判長裁判官小出邦夫及び裁判官鈴木和典は,いずれも転補のため,署名押印することができない。
裁判官 佐々木 健二
(別紙)
当審における当事者の捕充主張
1 争点⑴(本件基本合意の成否)について
(被控訴人の主張)
控訴人の主張は、否認し、争う。被控訴人の主張は、原判決別紙5の被控訴人の主張(ただし、当審補正後のもの。以下同じ。)のとおりである。
(控訴人の主張)
⑴ 平成20年11月10日から平成21年12月21日までの各会合(原判決別紙3の番号1~7)についての原判決の事実認定には誤りがあり、本件基本合意が平成21年12月21日までに成立したとする原判決の判断も誤っている。
すなわち、a 控訴人は、平成20年11月10日から始まった月曜会(原判決別紙3の番号1)で消防救急デジタル無線機器の市場を分け合う話合いはしていない、b 平成21年8月21日の会合(同番号3)で、控訴人の≪A7≫らは、控訴人が3社が受注調整して市場を分け合うことに前向きである旨の発言はしていない、c 同年9月14日の会合(同番号4)で、控訴人の≪A2≫が、3社で受注調整を行う方針について了解し合いたいと提案し、他社が了解をしたということはない、d 同年10月19日の会合(同番号5)では、実証試験6物件について各社の希望は述べあってはいるものの、受注調整のメンバーをどうするかという基本的な事項すら未確定な状態であり、実証試験後の約800消防本部について受注調整を行う旨を話し合ったことはない、e 同年11月16日の会合(同番号6)でも、受注調整を行うメンバーは決まっていない状態であり、実証試験後の約800消防本部を含めた受注調整を行うことについて合意が成立したとは到底いえない、f 同年12月21日(同番号7)の会合でも、受注調整の範囲、調整方法といった重要な部分についての意見の一致を見ていない。
また、平成22年1月以降の各会合(原判決別紙3の番号8~46)に係る原判決の認定事実は、本件基本合意が成立したとされる平成21年12月21日より後の出来事であるから、本件基本合意が上記同日までに成立したか否かとは無関係である。
⑵ 仮に、本件基本合意が平成21年12月21日までに成立したとしていたとしても、本件基本合意の対象は、本事業の物件全部ではない。
すなわち、a 本件基本合意の対象は実証試験の物件だけである(原判決別紙6「課徴金計算の基礎とならない物件一覧」のA欄に「〇」のある物件は対象範囲外である。上記当時、控訴人の≪A1≫らは、≪A2≫が受注調整をしようとしていた対象が実証試験であることは認識していたものの、全国の約800の消防本部について受注調整を行うことについてまでも黙示の承諾を与えていない。≪A2≫は、上司である≪A1≫から、実証試験の物件を1物件受注することを厳命されていたのであり、これを事実上放棄するような合意を他社とすることはありえない。)、b 本件基本合意の対象には≪G≫物件は含まれない(同別紙6のB欄に「〇」のある物件は対象範囲外である。≪G≫は、控訴人とは別のプレーヤーとして認識されていたが、≪G≫を含めた協議は行われておらず、≪G≫が指令台既設メーカーとして優位性を持つ≪G≫物件は、控訴人以外が「チャン」となることはなく、実質的に調整の対象とすることはできなかった。)、c 本件基本合意の対象には指令台一括発注物件は含まれない(同別紙6のC欄に「〇」のある物件。5社は、指令台一括ではなく、無線単独整備であることを前提として納入予定メーカーを決定していた。)
2 争点⑵(本件基本合意の「不当な取引制限」の該当性)について
(被控訴人の主張)
控訴人の主張は、否認し、争う。被控訴人の補充主張は次のとおりである。
⑴ 「共同して・・・相互に」の要件について
控訴人の≪A2≫は、本件基本合意当時、控訴人の全国各地区の営業部や本社営業部に対し、消防救急デジタル無線機器に係る「営業の方針や営業内容の指導」などを行う部署である情報通信システム営業統括部の部長代理であり、また、同人は、特定消防救急デジタル無線機器等の営業効率を上げて売上拡大を図るプロジェクト機関である「PMO」の統括責任者でもあったが、そうした地位にある≪A2≫が、控訴人の担当者として月曜会に出席し、実証試験の物件及び本事業の物件に関する受注調整につき意見交換するなどし、その話合いの結果を控訴人の社内に持ち帰り、少なくも黙示に≪A1≫らの承認を得ることにより、控訴人が他社との間で本件基本合意に至ったと認められることは明らかである。
したがって、本件基本合意は「共同して・・・相互に」の要件を満たす。
⑵ 「その事業活動を拘束し・・・競争を実質的に制限する」の要件について
①本件基本合意の当事者は、本件違反行為期間中に実施された特定消防救急デジタル無線機器の入札等516物件全てについて、現にその機器納入メ―カーとなった5社であり、また、②本件基本合意の対象は、全国の全ての消防本部で発注される特定消防救急デジタル無線機器である。さらに、③本件基本合意当時、5社の現地の営業担当者を通じて、5社の代理店又は協力関係にある地元業者の協力等も相応に期待できる状況にあった。これらのことからすれば、本件基本含意は、本件の対象市場(特定消防救急デジタル無線機の取引分野)が有する競争機能、具体的には特定消防救急デジタル無線機器の納入に至るまでの取引に係る市場が有する競争機能を損なうものであって、その当事者がその意思で当該市場における価格等をある程度自由に左右することができる状態をもたらされていたといえ、「競争を実質的に制限する」の要件を満たしている。
そして、「競争を実質的に制限する」の要件を充足していることは、④本件違反行為期間中に実施された特定消防救急デジタル無線機器の入札等のほとんど(516件中の504件)について本件基本合意に基づく個別の受注調整が現に行われ、このうち約半数の物件(約280件)において納入予定メーカーとされた者が機器納入メーカーとなった事実、及び本件基本合意に基づいて納入予定メーカーから納入された263物件の平均落札率が93.47%であった事実から、本件基本合意が本件における対象市場の相当部分において、「事実上の拘束力をもって有効に機能し」ていたと評価されることからも、実証的に裏付けられている(なお、①~③の事実に照らしても「競争を実質的に制限する」の要件を充足しており、④の事実は、必ずしも上記要件の判断に必要ではない。)。
納入予定メーカーが納入できた物件の割合が低いとは評価できないこと、平均落札率93.47%(516物件から随意契約の方法により発注された物件等47件を除いた470件中の、原判決別紙4の「本件合意に基づき納入された物件」欄に「〇」のある物件の平均落札率である。)が常識的に見て高いものであること、本件基本合意に反する営業活動が存在していたことや、≪G≫や≪H≫がアウトサイダーとして存在していたとする控訴人の主張に理由がないことは、原判決別紙5の被控訴人の主張のとおりである。
(控訴人の主張)
⑴ 「共同して・・・相互に」の要件について
控訴人の≪A2≫には本件基本合意を成立させる権限はなく、本件基本合意によって控訴人が拘束されることはないから、仮に本件基本合意が成立していたとしても、独占禁止法2条6項の「共同して・・・相互に」の要件を満たさない。
また、本件基本合意が平成21年12月21日までに成立したとされている以上、同日までの会合に参加していない≪A3≫に関する事実関係は、本件基本合意が控訴人に及ぼす拘束性とは無関係である。
⑵ 「その事業活動を拘束し・・・競争を実質的に制限する」の要件について
本件基本合意が事実上の拘束力をもって有効に機能すれば、ほとんどの物件で納入予定メーカーが受注できるはずであるし、本件基本合意に反する営業活動は行われないはずである。しかし、納入予定メーカーが納入できた物件は516物件中280物件(約54%)にすぎないし、各社で「ちず」の記載とは異なる営業活動が実施されている(特に、控訴人は、本件基本合意の当事者である≪A2≫自身が他社物件に対する積極的な営業活動を展開したり、「BCチーム」による営業を行ったりしている。)。
また、本件基本合意に基づいて納入された物件の平均落札率(93.47%)と本件基本合意に基づかずに納入された物件の平均落札率(92.94%)との差はわずか0.53%である。
さらに、本件では、本件基本合意とは無関係に事業活動を行うアウトサイダー(≪G≫と≪H≫)がおり、両社が関与する物件については、本件基本合意に基づく個別調整の結果が現実化する可能性が弱められていた。
以上の事情を総合考慮すれば、本件基本合意は、事実上の拘束力をもって有効に機能していたとはいえず、独占禁止法2条6項の「その事業活動を拘束し・・・競争を実質的に制限する」の要件を満たさない。
3 争点(5)(本件130物件の「当該商品又は役務」の要件の該当性)について
(被控訴人の主張)
控訴人の主張は、否認し、争う。被控訴人の補充主張は次のとおりである。
⑴ 本件基本合意の内容は、特定消防救急デジタル無線機器について、あらかじめ納入予定メーカーを決定し、それ以外の者は納入予定メーカーが納入できるように協力する旨の合意であり、5社が本件基本合意に基づき個別物件の納入予定メーカーを決定する行為は、まさに、本件基本合意により生ずる事業活動の相互拘束(自由な意思決定の人為的制約)を個別の物件に具体的に及ぼす行為であるから、個別物件の納入予定メーカーの取決めがされた場合には、その取決め自体によって、本件基本合意に基づく競争制限効果が当該個別物件に及んでいる、すなわち、事業活動が事実上拘束される結果となる具体的な競争制限効果が発生するに至ったと認められる。アウトサイダーの存在やその行動等は、具体的競争制限効果の発生を否定する事情とはならない。
また、独占禁止法の課徴金制度は、不当利得の剥奪を目的とするものではなく、不当な取引制限等の違反行為を予防し、抑止することにその制度の目的があるところ、課徴金賦課の対象として抑止すべき「違反行為」、すなわち、「不当な取引制限」(独占禁止法2条6項)に該当する行為は、基本合意を行うことである。よって、事業者が基本合意を行うにとどまらず、個別の物件の受注予定者を決定し、さらに当該受注予定者が受注して売上を得たのであれば、もはや違法行為の抑止を目的とした課徴金制度の対象とすべき必要性に何ら欠けるところはない。アウトサイダーが競争的な行動をとるなどしたために、結果的には、違反行為者が思い描いた利益が得られなかったとしても、前記の課徴金制度の目的に照らせば、基本合意を実行に移した事実に変わりがない以上、当該物件についても課徴金制度の対象とすべきことには変わりがない。したがって、課徴金制度の目的に照らせば、基本合意がない場合に比べて競争行動に変化が生じたこと(これにより、競争結果が左右され、違法行為者が不当な利得を得たこと等)の立証は、何ら必要がないというべきである。仮に、課徴金納付命令の発動のために、個別調整が無かった場合に比べて、現実の競争行動や競争結果にどのような変化が生じていたか(さらには受注者が利得を得ていたか)を、物件ごとに、逐一立証しなければならないとすれば、課徴金納付命令の機動的な発動ができず、ひいては、違法行為の禁止の実効性を確保しようとした課徴金制度の趣旨・目的を没却することとなり、相当でない。
⑵ 「特段の事情」について
控訴人が納入予定メーカーに決定された事実及び当該決定どおり実際に控訴人が機器納入メ-カーとなった事実によれば、本件130物件について、具体的な競争制限効果の発生を十分に認定し得るし、本件では、5社が「ちず」を用いて全国の物件の納入予定メーカーを決定し終えた後にも、継続的に会合を開催し、その都度、入札等が終了した物件につき、「ちず」に類似の一覧表を用いて納入予定メーカーが納入できているか否かを互いに確認し合うなどしていた事実も認められる。
原判決は、具体的な競争制限効果が発生した旨の認定を覆す事情がないか慎重かつ確実に検討する趣旨で、「特段の事情」を検討したものと理解され、控訴人に「特段の事情」の立証責任を負わせたものではなく、その判断枠組みは正当である。
⑶ 平等原則違反について
独占禁止法7条の2第1項は「・・・命じなければならない」と規定しており、裁量処分ではないから、控訴人の主張はその前提に誤りがある。また、公募型プロポーザルを前提としない随意契約として発注され課徴金の対象外とされた物件と、課徴金の対象とされた物件との間で取扱いを異にする合理的な理由はないとする点は、いずれの物件も控訴人が納入した物件であり、他の事業者と比較して控訴人が不利に取り扱われていると主張されているわけではないから、平等原則違反の問題が生ずる余地がない。
さらに、別の事件と比較する点も、本件における基本合意は、入札前の営業活動を含む様々な事業活動を拘束する点に特徴があるのに対し、当該別の事件は、そのような基本合意があったと認めるに足りる証拠はない事案であるから、平等原則違反の問題は生じない。
⑷ 個別物件の主張について
ア ≪G≫の銘板が付された機器が納入された物件(原判決別紙6の「T一6」欄に「〇」のある物件)
控訴人が機器納入メーカーとして納入しているから、控訴人の主張は前提を欠く。
イ 指令台一括発注物件(原判決別紙6の「T一7」欄に「〇」のある物件)
原判決別紙5の被控訴人の主張のとおりである。
ウ 他社に参加資格がない物件(原判決別紙6の「H」欄に「〇」のある物件」)及び津市消防本部の物件(物件107)
5社は、入札参加資格も含め、納入予定メーカーが納入しやすい発注となるように、発注者側に様々な働きかけを行って、納入予定メーカーが納入できるようにしていた。津市消防本部の物件(物件107)の入札参加資格も、受注調整の結果を受け、控訴人及び日本電気以外の者が営業活動を差し控えるなどした結果である。控訴人の主張する津市の回答書(甲126)には証拠価値がない。
エ 札幌市消防局の物件(物件2)
納入予定メーカーに決定されたのは、日本無線を除く4社であるが、実質的には控訴人と日本電気の2社に絞り込まれていたし、仮に競争者でなくなったのが日本無線1社だけであったとしても、同社の事業活動が事実上拘束される結果となる以上、競争制限効果が発生するに至ったと認められることに変わりがない。また、≪G≫がアウトサイダーとして競争に参加していたとしても、そのこと自体によって具体的な競争制限効果の発生は否定されない。
オ 江津市邑智消防組合消防本部の物件(物件85)及び出雲市消防本部の物件(物件122)(原判決別紙6の「T一6」欄に「〇」のある物件)
機器納入メーカーは日本無線ではなく控訴人である(日本無線が落札したが、発注者には控訴人から購入した消防救急デジタル無線機器を納入した。)から、控訴人の主張は前提を欠く。
(控訴人の主張)
原判決の判断には誤りがある。控訴人の補充主張は次のとおりである。
⑴ 「特段の事情」について
原判決は、本件130物件が、特段の事情が無い限り、本件基本合意に基づく受注調整等の結果、具体的な競争制限効果が発生するに至ったと判断しているが、これは、特段の事情につき控訴人に立証責任を負わせるものであって不当であるし、営業段階における事業活動の拘束が存在していた可能性があることを理由として特段の事情がないと判断する検討方法では、特段の事情などは認められようがない。
また、原判決が特段の事情が認められない理由として挙げた理由のうち、本件130物件が本件基本合意の対象とされ、5社が、「ちず」の作成及びその更新等により本件基本合意に基づく個別の受注調整手続に上程し、その了解の下に納入予定メーカーを控訴人又は控訴人を含む複数の社と決定したという部分は、本件130物件が本件基本合意に基づく個別の受注調整が行われたことを述べるにとどまり、これによって具体的な競争制限効果が発生したこととは無関係であるし、本件130物件を含む納入予定メーカーが機器納入メーカーとなった物件(280件)の平均落札率が93.47%であったという部分は、それがなぜ具体的な競争制限効果の発生を推認させる事情となるのか不明である。
⑵ 平等原則違反について
被控訴人が、営業段階の競争制限を根拠に具体的競争制限効果の発生を認定して本件課徴金納付命令を課したことは、平等原則に違反し、裁量権を逸脱・濫用するものであるから、違法である。
すなわち、被控訴人は、営業活動の競争制限を根拠に、本件130物件には具体的競争制限効果が発生したと認定して課徴金の対象としているが、公募型プロポーザルを前提としない随意契約物件であっても、係る契約を選択した発注者の判断に営業活動が影響している可能性があるのに、当該物件については具体的競争制限効果が発生していないと認定して課徴金の対象外とした。このように、被控訴人は、公募型プロポーザルを前提としない随意契約の物件と、本件課徴金納付命令の対象とした物件とで、合理的な理由なく異なる取扱いをしている。
また、本件課徴金納付命令とほぼ同時期である平成28年7月12日に、被控訴人が課徴金納付命令をした別の事件(東京電力が発注する電力保安通信用機器の製造販売業者(≪G≫)に対する課徴金納付命令。公正取引委員会平成28年(納)第25号)では、見積提出に至る一連の過程での各社の事業活動に競争制限が存在した可能性を認識しながら、具体的競争制限効果が発生したとは認定せず、課徴金の対象外としている。このように、被控訴人は、別の事件と、本件とで、合理的な理由なく異なる取扱いをしている。
⑶ 個別の物件について
次の各物件は、課徴金算定の対象となる商品又は役務に当たらない。
ア ≪G≫の銘板が付された機器が納入された物件(原判決別紙6の「T一6」欄に「〇」のある物件)
≪G≫の銘板が付された機器の機器納入メーカーは、≪G≫であって控訴人ではないから、対象外である。
イ 指令台一括発注物件(原判決別紙6の「T一7」欄に「〇」のある物件)
本件基本合意に基づいた協力行為をする必要がないから、フリー物件(本件基本合意が及ばない物件)と同様である。
ウ 他社に参加資格がない物件(原判決別紙6の「H」欄に「〇」のある物件」)及び津市消防本部の物件(物件107)
発注者である消防本部が、特定の業者を聞き入れて他社を排除するような入札資格を設定することは、公平性を欠く入札手続であるとの批判を受けかねない行為であるから、そのような行為が実際に行われているとは考えにくい。したがって、他社に参加資格のない物件の設定は、5社の営業活動の影響によるものではない。実際、津市消防本部の物件は、発注者である津市が、入札参加資格を決定するに当たって、5社による働きかけ、営業活動等が考慮される余地はなかったと回答している(甲126)。
そして、他社に入札資格がない物件は、本件基本合意の結果、各社の営業活動が拘束された可能性のあるものの、そのことが納入予定メーカーによる納入の結果に影響しているとはいえない。その状況は、被控訴人が課徴金の対象としなかった公募型プロポーザルを前提としない随意契約の物件等と異なるところはない。
津市消防本部の件は、入札参加資格があるのは控訴人と日本電気だけである(沖電気工業と日本無線は、被控訴人から「卸売業」と認定されており(甲95)、同市の入札参加資格である「本件工事における主たる機器の製造業者・・・である者」に当たらない。)。そして、強力なアウトサイダーである日本電気が、営業段階及び入札段階のいずれにおいても競争的行動をとり、入札仕様において日本電気の独自仕様が採用されそうな状況となり、控訴人の独自仕様の採用は困難な状況になったし、結果的に入札仕様がフラットとなったが、激しい価格競争をせざるを得ない状況となり、落札率も最低制限価格ぎりぎりの84.49%という極めて低い落札率となったのであり、原判決がいう「特段の事情」がある。
津市消防本部以外の他社の参加資格のない物件についても、上記特段の事情があるというべきである。
エ 札幌市消防局の物件(物件2)
どの社が納入予定メーカーとなるか決定されておらず(せいぜい日本無声が除外されたにとどまる)、≪G≫が強力なアウトサイダーとして存在していたことからすれば、具体的競争制限効果は発生していない。
オ 江津市邑智消防組合消防本部の物件(物件85)及び出雲市消防本部の物件(物件122)(原判決別紙6の「T—6」欄に「〇」のある物件)
機器納入メーカーは日本無線であるから、課徴金算定の基礎とするのは誤りである。
4 争点⑹(本件違反行為の実行期間における控訴人の特定消防救急デジタル無線機器に係る売上高及びこれに対する課徴金の額)について
(被控訴人の主張)
控訴人の主張は争う。後記平成17年審決の軽油引取税相当額は、受注者に法律上課された特別徴収義務に基づき徴収される金銭であり、軽油の販売代金と同時に授受されているものの、軽油の販売代金部分とは法的性質を異にするものと評価し得たのものである。こうした事情のない本件と平成17年審決とでは事案が異なる。
また、独占禁止法上、課徴金の算定の基礎となる「売上額」(独占禁止法第7条の2第1項)は、実行期間において締結した「契約により定められた商品の販売又は役務の提供の対価の額」(独占禁止法施行例第6条1項)であれば足りるのであって、「原価」である必要も「利益を乗じ」ている必要もない。本件において、免許申請関係費用等は、発注者が提示する仕様書では受注者がその諸手続及び手数料を負担・処理すべきものとされ、発注者との契約上、当該手数料等を請負代金に含めて支払うこととされていた以上、免許申請関係費用等を含めた全体が「契約により定められた商品の販売又は役務の提供の対価の額」に該当するというほかない。
(控訴人の主張)
公正取引委員会平成17年2月22日審決(同委員会平成13年(判)第1~6号(以下「平成17年審決」という。))は、発注者が法律上負担すべき費用である軽油引取税相当額を売上高から除外している。そして、免許関係申請費用等は、発注者が法律上負担すべき費用であるから、同様に売上高から除外するべきである。
免許申請関係費用等は、受注者による役務提供のための「原価」とは異なるのであり、発注者からその補てんを受けるとしても、これに「利益」を乗じて支払われることにはならないので、商品の販売又は役務の提供の対価とは一線を画する。発注者との契約上、免許申請関係費用等が請負代金に含まれて支払われていたのは、当該取扱いが簡便であるからにすぎず、これにより法定の手数料の立替払という性質が変わるものではない。
以上