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サクラパックス(株)ほか1名による審決取消請求事件

独禁法3条後段、独禁法7条の2
東京高等裁判所

令和3年(行ケ)第5号

判決

令和5年6月16日

富山市高木3000番地
原       告  サクラパックス株式会社
同代表者代表取締役   《氏  名  略》
新潟県燕市吉田下中野1551番地2
原       告  森井紙器工業株式会社
同代表者代表取締役   《氏  名  略》
原告ら訴訟代理人弁護士  福 田 恵 太
同            島 津   守
同            梅 津 有 紀
同            栗 田 祐太郎

東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被     告    公正取引委員会
同代表者委員長    古 谷 一 之
同指定代理人     別紙指定代理人目録記載のとおり

主文
1 原告らの各請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 原告サクラパックス株式会社(以下「原告サクラパックス」という。)
被告が、原告サクラパックスに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づいて、公正取引委員会平成26年(判)第3号ないし第138号排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について、令和3年2月8日付けでした審決(以下「本件審決」という。)のうち主文第3項の原告サクラパックスに対する部分を取り消す。
2 原告森井紙器工業株式会社(以下「原告森井紙器工業」という。)
被告が、原告森井紙器工業に対する独占禁止法に基づいてした本件審決のうち主文第3項の原告森井紙器工業に対する部分を取り消す。
第2 事案の概要(略語については、以下に定めるもののほか、別紙3用語一覧表による。なお、別紙2、4、6及び7は欠番である。)
1 事案の骨子
(1) 本件は、後記(2)から(4)までのとおり、被告において段ボール製品の製造業者による特定段ボールシートの販売に係る不当な取引制限(以下「第1事件」という。)及び特定段ボールケースの販売に係る不当な取引制限(以下「第2事件」という。)があったとして行った各排除措置命令及び各課徴金納付命令について、原告らが他の事業者と共に、これらの命令を不服として取消しを求めて審判請求をした(原告サクラパックスに関して第1事件につき平成26年(判)第26号及び第58号、第2事件につき同年(判)第89号及び第126号。原告森井紙器工業に関して第1事件につき同年(判)第27号及び第59号、第2事件につき同年(判)第81号及び第118号)ところ、被告がこれら審判請求に対して行った本件審決に対し、原告らが、それぞれ各原告の審判請求を棄却する部分の取消しを求める事案である。
(2) 第1事件に係る排除措置命令及び課徴金納付命令
被告は、別紙1の番号1ないし32記載(別紙5の番号1ないし3、5、6、8、10、12ないし24、27、28、31、33、36、38、39、42、45、47、51及び54記載)の事業者32社(以下「第1事件32社」という。別紙5の番号36及び42の原告らを含む。)につき、別紙5の番号4、7、9、11、25、26、29、30、32、34、35、37、40、41、43、44、46、48ないし50、52、53及び55ないし57記載の事業者25社(以下、この25社と第1事件32社を併せて「第1事件事業者57社」という。)と共同して、特定段ボールシートの販売価格を引き上げる旨合意することにより(この合意を、以下「本件シート合意」という。)、公共の利益に反して、特定段ボールシートの販売分野における競争を実質的に制限していたものであって、この行為は、独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、同法3条に違反するものであり、かつ、特に排除措置を命ずる必要があるとして、平成26年6月19日、第1事件事業者57社のうち、別紙5の「商業の変更等」欄記載のとおり吸収合併により消滅した番号9及び25記載の2社を除く55社(原告らを含む。)に対し、排除措置命令を命じたほか(平成26年(措)第11号。以下「第1事件排除措置命令」といい、同命令において認定された違反行為を「第1事件違反行為」という。)、第1事件違反行為は、同法7条の2第1項1号に規定する商品の対価に係るものであるとして、同日、上記55社のうち、別紙5の番号11、35、39、49、51、52及び56記載の7社を除く48社(原告らを含む。)に対し、それぞれ課徴金の納付を命じた(このうち、原告サクラパックスに対して納付を命じた課徴金の額は361万円、課徴金納付命令の事件番号は平成26年(納)第153号であり、原告森井紙器工業に対して給付を命じた課徴金の額は353万円、課徴金納付命令の事件番号は平成26年(納)第154号である。以下、当該課徴金納付命令をいずれも「第1事件課徴金納付命令」という。)。
被告は、第1事件排除措置命令及び第1事件課徴金納付命令に係る命令書の謄本を、平成26年6月20日、原告らに送達した。
原告らは、同年8月6日、第1事件排除措置命令及び第1事件課徴金納付命令の全部の取消しを求める審判請求をした。
なお、原告らを含む第1事件32社は、第1事件排除措置命令(及び課徴金納付命令が命じられた者はこれに加えて当該課徴金納付命令)の全部の敢消しを求める審判請求をした。
(3) 第2事件に係る排除措置命令及び課徴金納付命令
被告は、別紙1記載(別紙5の番号1ないし3、5、6、8、10、12ないし24、27、28、31、33、36、38、39、42、45、47、51、54及び58ないし62記載)の事業者37社(以下「第2事件37社」という。別紙5の番号36及び42の原告らを含む。)につき、別紙5の番号4、7、9、11、25、26、29、30、32、34、35、37、40、41、43、44、46、48ないし50、52、53、55ないし57及び63記載の事業者26社(以下、この26社と第2事件37社を併せて「第2事件事業者63社」という。また、第1事件事業者57社と第2事件事業者63社を一括して「本件各事業者」という。)と共同して、特定段ボールケースの販売価格を引き上げる旨合意することにより(この合意を、以下「本件ケース合意」といい、本件シート合意と併せて「本件各合意」という。)、公共の利益に反して、特定段ボールケースの販売分野における競争を実質的に制限していたものであって、この行為は、独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、同法3条に違反するものであり、かつ、特に排除措置を命ずる必要があるとして、平成26年6月19日、第2事件事業者63社のうち、上記(2)のとおり吸収合併により消滅した2社を除く61社(原告らを含む。)に対し、排除措置命令を命じたほか(平成26年(措)第12号。以下「第2事件排除措置命令」といい、同命令において認定された違反行為を「第2事件違反行為」という。また、第1事件違反行為と第2事件違反行為を一括して「本件各違反行為」という。)、第2事件違反行為は、同法7条の2第1項1号に規定する商品の対価に係るものであるとして、同日、上記61社のうち、別紙5の番号57記載の1社を除く60社(原告らを含む。)に対し、それぞれ課徴金の納付を命じた(このうち、原告サクラパックスに対して納付を命じた課徴金の額は2301万円、課徴金納付命令の事件番号は平成26年(納)第197号であり、原告森井紙器工業に対して納付を命じた課徴金の額は3124万円、課徴金納付命令の事件番号は平成26年(納)第186号である。以下、当該課徴金納付命令をいずれも「第2事件課徴金納付命令」といい、第1事件課徴金納付命令と一括して「本件各課徴金納付命令」という。)。
被告は、第2事件排除措置命令及び第2事件課徴金納付命令に係る命令書の謄本を、平成26年6月20日、原告らに送達した。
原告らは、同年8月6日、第2事件排除措置命令及び第2事件課徴金納付命令の全部の取消しを求める審判請求をした。
なお、第2事件37社は、第2事件排除措置命令(及び課徴金納付命令が命じられた者はこれに加えて当該課徴金納付命令)の全部の取消しを求める審判請求をした。
(4) 本件審決
被告は、原告らを含む第1事件32社及び第2事件37社を被審人らとする各審判請求(以下、併せて「本件各審判請求」という。)に係る審判手続を併合して審理した上(以下、この併合された審判手続を「本件審判手続」という。)、令和2年8月21日付け審決案(以下「本件審決案」という。)を踏まえて、令和3年2月8日、上記被審人らのうちの一部の者(原告らを含まない。)に対する命令の一部を取り消したものの、その余の被審人らの審判請求を棄却する旨の本件審決(平成26年(判)第3号ないし138号)を行った(なお、本判決別紙における「被審人」との表記は、本件審決案及び本件審決における立場を意味するのであって、本判決においては、同表記は削除されたものとして扱う。また、同別紙における「サクラパックス」、「サクラパックス株式会社」、「森井紙器工業」又は「森井紙器工業株式会社」は原告らのことである。)。
被告は、本件審決に係る審決書の謄本を、令和3年2月9日、原告らに送達した。
原告らは、同年3月9日、本件訴訟を提起した。
(5) 平成26年(判)第139号ないし142号審判事件(以下「関連事件」という。)
被告は、本件各事業者のうち5社による特定ユーザー向け段ボールケースの販売に係る不当な取引制限があったとして、うち3社に対して排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。同3社のうちレンゴー株式会社(以下「レンゴー」という。)及び株式会社トーモク(以下「トーモク」という。)がこれらの命令を不服として取消しを求める審判請求をしていたところ、当初、これらの審判請求は、本件審判手続と併合して審判手続がなされていたが、その後、本件審判手続から分離され、被告は、令和3年2月8日、これら審判請求に対しても審決(以下「関連審決」という。)を行った。
2 本件審決が認定した事実等
(1) 当事者
ア 原告サクラパックスは、富山市に本店を置く段ボールシート及び段ボールケースの製造等をする株式会社である。
イ 原告森井紙器工業は、新潟県燕市に本店を置く段ボールシート及び段ボールケースの製造等をする株式会社である。
(2) 本件各事業者の概要(本件審決案6~9頁)
ア 原告らを含む本件各事業者(以下、本件各事業者の名称については、別紙5の「略称」欄記載の各略称(ただし、「被審人」との表記は削除する。)を用いる。)は、いずれもコルゲータ(段ボール製造機)を有する段ボール製造業者であり、段ボール原紙を加工して段ボールシートを製造するとともに、段ボールシー卜を加工して段ボールケースを製造する事業を営む者である(このうち、第1事件事業者57社は、自社加工用の段ボールシートのほか、他の需要者向けの段ボールシートを製造している者である。)。本件各事業者の東日本地区における段ボール製品(段ボールシートと段ボールケースの両方又はいずれかを指す。以下同じ。)の工場等(製造拠点)は、それぞれ別紙5の「製造拠点」欄記載の都道府県に所在していた。(査1ないし査63)
イ 本件各事業者のうち、グループ関係にある事業者は、次のとおりである。
(ア) レンゴーは、セッツカートン、大和紙器、マタイ紙工、アサヒ紙工、イハラ紙器及び甲府大一実業の親会社である(以下、レンゴーが形成する企業グループを「レンゴーグループ」という。)。(査1、査6、査8、査12ないし査15)
(イ) 王子コンテナー、森紙業、ムサシ王子コンテナー及び関東パックは、いずれも王子ホールディングス株式会社(平成24年10月1日の純粋持株会社への移行に伴う商号変更前の商号は「王子製紙株式会社」。以下、商号変更の前後を通じ「王子ホールディングス」ということがある。)の子会社である(以下、王子ホールディングスが形成する企業グループを「王子グループ」という。)。静岡王子コンテナーは、王子ホールディングスの子会社であったが、同日、王子コンテナーに吸収合併された(これに伴い王子コンテナーは、「王子チヨダコンテナー株式会社」から現商号に商号を変更した)。
また、常陸森紙業、長野森紙業、群馬森紙業、新潟森紙業、仙台森紙業、静岡森紙業及び北海道森紙業は、いずれも森紙業の子会社である。
(査2、査5、査16ないし査22、査23ないし査25)
(ウ) トーモクは、大一コンテナー及びトーシンパッケージの親会社である(ただし、大一コンテナーを子会社とした時期は、平成24年3月である。)。(査3、査27、査28)
(エ) 中部大王製紙パッケージは、大王製紙株式会社(以下「大王製紙」という。)の子会社である。また、大王製紙パッケージは、大王製紙の子会社であったが、平成25年4月1日、中部大王製紙パッケージに吸収合併された(これに伴い中部大王製紙パッケージは、「中部大王製紙パッケージ株式会社」から現商号に商号を変更した。)。(査9、査26)
ウ 東日本段ボール工業組合
(ア) 東日本段ボール工業組合(以下「東段工」という。)は、その定款上、東日本地区において、コルゲータを有し、段ボール製品の生産の事業を営むことを資格要件とする組合である。本件各事業者のうち別紙5の「組合員」欄に〇が記載されている51社(原告らは含まれない。)は、本件当時(レンゴーにより段ボール製品の値上げの公表がされた平成23年8月26日から被告の立入検査が行われた平成24年6月5日までの時期をおおむね指す。以下同じ。)、いずれも東段工の組合員であった。(査478ないし査481)
(イ) 東段工は、全国段ボール工業組合連合会(以下「全段連」という。)の会員である。全段連の会員には、地区に応じて、東段工のほかに、中日本段ボール工業組合、西日本段ボール工業組合及び南日本段ボール工業組合がある。(査480ないし査482)
エ 東段工は、その最高の意思決定機関である総会及び業務の執行を決定する機関である理事会を置いているほか、次のとおり三木会及び支部を置いていた。(査470、査478、査479、査483ないし査486)
(ア) 三木会
三木会は、その規約上、東段工組合員の地位向上のため、全段連及び東段工理事会決議事項の伝達、組合員に共通する課題に関する情報又は資料の提供等を目的として、理事会の下に置かれた組織であり、平成17年8月2日付け「東段工の組織と業務について」と題する書面において、三木会は、東段工の事業の連絡推進及び実行の徹底を図るための事業並びに支部との情報交換及び取りまとめを行うものと位置づけられていた(ただし、実際の役割等には争いがある。)。
三木会は、会長、幹事長及び副幹事長のほか、各支部を代表する支部長を含む委員で構成されており、本件当時、別紙8の「役職」欄記載の各役職に「構成員」欄記載の各所属会社の役員又は従業員が就任していた。このうち各支部の支部長以外の委員は、レンゴー、セッツカートン、大和紙器、トーモク、王子コンテナー、森紙業、ダイナパック、日本トーカンパッケージ及び大王製紙パッケージの営業本部長級の者らと福野段ボール工業株式会社(以下「福野段ボール工業」という。)の代表取締役によって構成されていた(この10社が別紙3の「本部役員会社」に当たる。)。
三木会の会合は、原則として毎月開催されることとされていた。
(イ) 支部
東段工には、別紙9(ただし、「構成員」のうち、「埼玉支部」欄の「福野ダンボール工業」を「福野段ボール工業」と、「北海道支部」欄の「北海道織紙業」を「北海道森紙業」と改める。)のとおり、「支部」欄記載の9支部が置かれ、これらの支部は、「地区」欄記載の都道府県に工場等の事業所を有する組合員らにより構成されていたものであり、本件当時は、「構成員」記載の各組合員が当該支部に所属していたところ、支部開催の会合は、主に当該地区に所在する工場等の事業所における営業責任者(工場長又は事業所長等)を構成員として開催され(ただし、代表取締役又は営業担当の取締役、部長若しくは課長等が出席していた事業者もあった。以下、単に「営業責任者」という場合、これらの者を指す。)、上記構成員のうち「支部長(所属会社)」欄記載の者らがそれぞれ当該支部の支部長を務めていた。
オ 段ボール市場の概要
(ア) 段ボール製品の概要
段ボールシートは、コルゲータを用いて、波型に成型した段ボール原紙である中しんの片面又は両面に、段ボール原紙であるライナを張り合わせたものである。また、段ボールシートに印刷、打ち抜き等の加工を施し、箱型に組み立て可能にしたものが段ボールケースである。段ボールシートについては、日本工業規格において外装用段ボール(日本工業規格「Z 1516:2003」)が規定されているところ、本件各事業者は、いずれもこの規格に該当する段ボールシート及びこれを加工した段ボールケースを製造していたものであり、クラウン・パッケージを除く62社において製造していた段ボール製品は、専らこの規格に当たるものであった。(査177、査229、査265、査298、査306、査453、査487ないし査489)
(イ) 段ボール製品の製造業者
段ボール製品の製造業者(以下「段ボールメーカー」という。)は、段ボール原紙又は段ボールシートの調達方法により、①段ボール原紙、段ボールシート及び段ボールケースのいずれも製造する事業者(以下「一貫メーカー」という。)、②段ボール原紙の製造業者(以下「原紙メーカー」という。)から段ボール原紙を購入して段ボールシート及び段ボールケースを製造する事業者(以下「専業メーカー」という。)及び③コルゲータを保有せず、上記①又は②の事業者から段ボールシー卜を購入して段ボールケースを製造する事業者(以下「ボックスメーカー」という。)に大別される。この点、主な原紙メーカーには、レンゴー、王子板紙株式会社(王子グループに属している。以下「王子板紙」という。)、大王製紙、≪事業者A≫、≪事業者B≫等があるところ、本件各事業者のうち、レンゴー及び王子板紙とグループ関係にある王子コンテナーが一貫メーカーに位置づけられ、その余の本件各事業者(原告らを含む。)は、いずれも専業メーカーに当たるものであった。(査251、査300、査490)
(3) 段ボール製品の流通・取引(本件審決案9~10頁)
ア 段ボール製品の需要者(ユーザー)は、段ボールシートについては、主として、ボックスメーカーなどの段ボールケースの製造業者であり、段ボールケースについては、主として、食品、飲料、自動車部品、電気製品等の製造業者である。(査166、査333、査334、査367、査375、査424、査432、査435、査438、査449、査467)
イ 段ボールケースのユーザーは、全国に所在する工場等の拠点において使用する段ボールケースにつき、購入価格等の取引条件の交渉を交渉担当部署において一括して行う「広域ユーザー」、「ナショナルユーザー」などと呼ばれる大口のユーザー(以下「広域ユーザー」という。)と、それ以外の地場ユーザー等に大別される。(査142、査234、査392、査613)
ウ 段ボール製品の営業活動は、ユーザーの交渉担当部署に対して行われていた。このうち、広域ユーザーに対する段ボールケースの販売については、主に段ボールメーカーの本社等の営業担当者が営業活動を行い、当該ユーザーにおいて一括して交渉を担当する部署(なお、同一の企業グループに属するなどの理由から、あるユーザーが他のユーザーの窓口として交渉を担当することや、別の法人が窓口として交渉を担当することがある。)との間で交渉して販売価格等の取引条件を決定していた。他方、段ボールシートの販売及び地場ユーザーに対する段ボールケースの販売については、主に段ボールメーカーの各工場等における営業担当者が営業活動を行い、当該ユーザーとの間で交渉して販売価格等の取引条件を決定していた。(査132、査142、査151、査164、査192、査234、査268、査274、査275、査306、査613、査614)
エ なお、東京コンテナ工業は、平成23年4月以降、自社で製造した段ボール製品の販売業務を子会社の晃里株式会社(以下「晃里」という。)に委託していたものであり、東京コンテナ工業が所属していた支部における会合には、東京コンテナ工業の代わりに晃里の営業担当者が出席していた。(査418ないし査421)
(4) 段ボール製造業における慣行等(本件審決案52~54頁)
段ボール製品の需要者(ユーザー)は、コストダウン等のため、複数の段ボールメーカーから段ボール製品を購入している者が多くを占めており、その購入価格の交渉を行うに当たり、複数の段ボールメーカーから見積りを提出させることが通常であったところ、段ボールメーカーにおいて、段ボール製品は品質の差が生じにくい商品であることなどから、自社の段ボール製品を安値で販売するなどして取引を拡大しようとする事業者が現れると、当該ユーザーに対する既存の納入業者のシェアが奪われ、段ボール製品の価格低落につながりかねないため、段ボールメーカーの間では、かねてから、段ボール製品の販売価格や現状のシェアの維持のため、こうした取引拡大のための安値による販売行為を競り込みなどと称して自粛すべきものと認識されていた。
他方、段ボールシートは、段ボール原紙を張り合わせて製造されるものであり、その製造原価に占める段ボール原紙の製造原価(一貫メーカーの場合)又は仕入原価(専業メーカーの場合)の割合が高いため、これらの原価の上昇は、段ボールシートの販売価格の引上げを行うべき誘因となっていた。同様に、段ボールケースも、その製造原価に占める段ボールシートの製造原価(コルゲータ保有メーカーの場合)又は仕入原価(ボックスメーカーの場合)の割合が高いことから、これらの原価の上昇は、段ボールケースの販売価格の引上げを行うべき誘因となっていた。取り分け、ボックスメーカーは、コルゲータ保有メーカーと比較すると事業規模が小さい業者が多く、また、コルゲータ保有メーカーから段ボールシートを仕入れる関係上、段ボールケースの販売について、価格面でコルゲータ保有メーカーと競争することは困難であり、コルゲータ保有メーカーから段ボールシートの販売価格が引き上げられれば、段ボールケースの販売価格の引上げを実施する傾向があった。
そして、このように段ボール原紙の値上がりに伴い段ボール製品の販売価格を引き上げるに当たっては、まず、一貫メーカーであるレンゴー及び王子コンテナーが段ボール製品の値上げ幅を表明し、それ以外の段ボールメーカーは、これらの値上げ幅を指標として自社の段ボール製品の値上げを実施することが共通の認識となっていた。もっとも、段ボールメーカーの間では、レンゴーを始めとする大手の段ボールメーカーであっても、自社の段ボール製品のみで値上げを実施するのは、上記のユーザーとの取引に係る実態からユーザーにこれを受け入れてもらうのが困難であるため、各社が足並みをそろえて値上げを実施することが必要であると認識されており、取り分けこうした値上げの時期に競り込みを行うことは、他の事業者において値上げを実施する妨げとなるため、警戒されていた。
こうした実情を背景として、三木会及び支部の会合等においては、出席各社の間で、日頃から、段ボールメーカーの間で課題となっていたリサイクルマークの普及や印版・木型に係る費用の回収の状況について情報交換が行われていたほか、段ボール製品の生産量の増減や特値と称する安値販売の情報を含む販売価格等の動向(以下、これらを「段ボール製品の需給動向」という。)についても情報交換が行われていたところ、三木会と支部の会合等との間でも、支部長等を通じて相互にこうした会合の内容が報告、伝達されることが通常であった。こうした中で、上記の慣行に反して、特定のユーザーについて競り込みを行う事業者が現れたときには、当該事業者に対して他の納入業者による抗議活動が行われるなどして競争回避に向けた解決が図られる傾向があった。また、従前から、段ボール原紙の値上がりに伴い段ボール製品の値上げが実施される際には、三木会及び支部の会合等において、出席各社の間で、こうした値上げの方針や進捗状況について情報交換が行われていたほか、個別のユーザーごとに入れ合い(後述する。)となっている事業者の間でも、「小部会」などと称する会合(以下「小部会」という。)が開催されるなどして、当該ユーザーとの値上げ交渉の状況に関する情報交換が行われることがあった。
(査128、査129、査133、査136、査138、査151、査154、査159ないし査162、査164、査166、査195、査196、査202、査203、査208、査248、査251、査252、査254ないし査256、査261、査280、査323、査325、査329、査334、査336、査344、査349、査352、査353、査355、査357、査360、査374ないし査376、査378ないし査380、査385、査389、査396、査397、査404、査405、査408ないし査412、査416、査419、査432、査435、査437、査438、査440、査442ないし査444、査446ないし査448、査451、査452、査457、査459、査460、査462、査465ないし査467、査470ないし査476、査497ないし査515、査532ないし査534、査615、査660、査664、査680、査690の1ないし6等)
(5) 平成23年10月17日に三木会が開催されるまでの経緯(本件審決案10~12、54~55頁)
ア レンゴーにおける段ボール原紙及び段ボール製品の値上げの公表
(ア) レンゴーは、平成23年8月26日、各種原燃料価格の高騰を理由に、段ボール原紙の販売価格を現行価格から1キログラム当たり7円以上引き上げるとともに、段ボールシートの販売価格を現行価格から1平方メートル当たり8円以上、段ボールケースの販売価格を現行価格から13パーセント以上、それぞれ同年10月1日出荷分から引き上げる旨公表した。その上で、レンゴーは、同年9月1日、セッツカートン、大和紙器、マタイ紙工、アサヒ紙工、イハラ紙器及び甲府大一実業を含む自社のグループ会社を対象として、段ボール製品の値上げに関する説明会を開催し、上記の値上げの方針を伝達した。その後、後記イのとおり、同月27日に王子板紙が段ボール原紙の値上げを公表するまでの間、レンゴーのほかに、段ボール原紙の値上げを公表した原紙メーカーがいなかったことから、レンゴーグループを除く段ボールメーカーにおいては段ボール製品の値上げについて様子見の状態が続いていた。(査1、査130、査148、査242、査364、査542、査543)
(イ) こうした状況の下で、平成23年8月30日に開催された後述の5社会において、レンゴーの≪D2≫が出席各社に対し、段ボール製品について値上げの見通しを表明するよう促したが、他の4社の出席者は、いずれも値上げ方針が決まっていない旨答えるにとどまったことから、上記≪D2≫は、「後から付いてきてくれ。」などと発言して、他の4社に対し、レンゴーに追随して値上げを実施するよう要請していた。(査135、査140、査266、査267、査317)
(ウ) その後、平成23年9月22日に開催された三木会において、幹事長を務めるレンゴーの≪D1≫が、自社が公表した段ボール製品の値上げの方針について説明するとともに、「1社だけではできないので、皆様のご協力をお願いします。」などと発言して、他の出席各社に対しても、段ボール製品について値上げを実施するよう要請するとともに、これらの値上げの見通しを表明するよう促したが、レンゴーグループであるセッツカートン及び大和紙器以外の出席者においては、いずれもまだ値上げ方針が決まっていない旨答えていた。(査130、査139、査182)
(エ) さらに、平成23年9月26日に開催された後述の5社会において、レンゴーの≪D2≫が、出席各社に対し、段ボール製品について、値上げの見通しを表明するよう促した。その際、王子コンテナーの出席者が、近いうちに値上げを発表する旨述べたほか、同じく王子グループに属する森紙業の出席者も、王子コンテナーの値上げの方針に準じて値上げを実施する旨述べた。一方、トーモク及び日本トーカンパッケージの各出席者は、いずれも、値上げ方針が決まっていない旨述べた。上記≪D2≫は、これらの発言を受けて、「いつになったら値上げの方針が決まるのか。」、「早くみなさんついてきてください。」などと発言し、段ボール製品について値上げの見通しが立っていない事業者に対して、早期に値上げを実施するよう要請した。(査145、査181、査266、査304)
イ 王子グループにおける段ボール原紙及び段ボール製品の値上げの公表
その後、王子グループにおいても、平成23年9月27日に、王子板紙が段ボール原紙の販売価格を現行価格から10パーセント以上引き上げる旨公表するとともに(上記値上げ幅につき全品種1キログラム当たり6円で案内されていた。)、翌28日には、王子コンテナーが段ボールシート及び段ボールケースの販売価格をそれぞれ同年11月21日出荷分から12パーセント以上引き上げる旨公表した(段ボールシートに係る上記値上げ幅は、円単位に換算すると1平方メートル当たり7円以上に相当するものであった。)。なお、王子コンテナーは、この公表に先立つ同年9月26日には、静岡王子コンテナー、ムサシ王子コンテナー及び関東パックを含むグループ会社の各工場長を対象とした緊急電話会議を開催し、上記の値上げの方針を伝達するとともに、同月27日には、これらの価格改定の実施について文書でグループ内に周知した。(査2、査384、査546ないし査549)
ウ 他の原紙メーカーにおける段ボール原紙の値上げの公表
レンゴー及び王子板紙以外の原紙メーカーにおいても、平成23年9月22日には≪事業者B≫が、同年10月4日には≪事業者A≫が、同月11日には大王製紙がそれぞれ段ボール原紙について同程度の値上げを行うことを公表した。(査550)
エ 他の大手の段ボールメーカーにおける段ボール製品の値上げの方針の決定
こうした中、レンゴー及び王子コンテナーに続き、他の大手の段ボールメーカーにおいても、次のとおり、社内又はグループ内で、段ボール製品の値上げの方針を決定するなどした。
(ア) 森紙業は、グループ会社である王子コンテナーの上記値上げの方針を踏まえ、平成23年9月20日に開催された役員会で、自社においても同じ値上げ方針に従って段ボール製品の値上げを実施することを決定し、同年10月4日、子会社である常陸森紙業、長野森紙業、群馬森紙業、新潟森紙業、仙台森紙業、静岡森紙業及び北海道森紙業等を対象とした全社会議を開催し、上記の値上げ方針に従って同年11月21日以降の出荷分から段ボール製品の値上げを行うよう指示した。(査5、査16ないし査22、査300、査375、査551)
(イ) トーモクは、平成23年10月12日、部室長・工場長会議を開催し、同年12月1日出荷分から、段ボールシート及び段ボールケースについて、それぞれ12パーセント以上の値上げを行うことを社内に周知した。(査3、査235、査242)
(ウ) 日本トーカンパッケージは、平成23年10月13日及び翌14日に工場長会議を開催し、段ボールシートについて15パーセント以上、段ボールケースについて12パーセント以上の値上げを行うことを社内に周知した。(査266、査277)
(エ) ダイナパックは、平成23年10月17日午前に開催された会議で、段ボールシートについて同年12月1日納入分から1平方メートル当たり7円以上の値上げを行うとともに、段ボールケースについて平成24年1月納入分から12パーセント以上の値上げを行うことを決定し、平成23年11月2日、各事業所に対し、これらの値上げの方針を周知した。(査7、査336)
(オ) 大王製紙は、平成23年10月13日に開催された会議で、子会社である大王製紙パッケージ及び中部大王製紙パッケージ等に対して、同年11月21日以降、段ボールシートについて1平方メートル当たり8円以上、段ボールケースについて13パーセント以上の値上げを行うよう指示した。(査388、査552)
(6) 三木会等の開催(本件審決案12~13頁)
ア 本件当時、三木会は、平成23年9月22日及び同年10月17日にそれぞれ開催された(以下、それぞれ「9月22日三木会」及び「10月17日三木会」という。また、平成23年内に開催された他の三木会も、同様に開催月日によって表示することがある。)ほか、それ以降も、別紙11の「三木会」欄記載のとおり、同年11月17日、同年12月7日、平成24年1月11日、同年2月15日、同年3月15日、同年4月19日及び同年5月17日にそれぞれ開催された(開催場所は、いずれも東京都中央区に所在する紙パルプ会館であった。)。このうち、9月22日三木会、10月17日三木会及び11月17日三木会においては、別紙8の「会合出席状況」欄においてそれぞれの会合欄中に○が付されている構成員又は同欄に氏名が記載されている代理者が出席していた。(査152、査179、査266、査350、査464、査486、査545、査554、査587、査611)
イ また、本部役員会社のうち、レンゴー、王子コンテナー、トーモク、日本トーカンパッケージ及び森紙業(以下「大手5社」という。)は、東段工の会合である三木会とは別に、主に各社の営業本部長級の者らを出席者とする「5社会」と称する会合(以下「5社会」という。)を開催し、専ら広域ユーザー向け段ボールケースの取引に関する諸問題について情報交換や協議を行っていた。そして、本件当時、5社会は、平成23年8月30日、同年9月26日、同年10月17日及び同月31日にそれぞれ開催されたほか、同年11月以降も継続して開催されていた。このうち、同年10月17日に開催された5社会(以下「10月17日5社会」という。また、平成23年内に開催された他の5社会も、同様に開催月日によって表示することがある。)では、大手5社の間で、個別の広域ユーザーに対する段ボールケースの値上げの実施について話し合うことが確認されるとともに、10月31日5社会では、その対象となる広域ユーザーとして、別紙3の別表の「特定ユーザー」欄記載の各ユーザー(以下「特定ユーザー」という。)が選定された(ただし、番号29記載の東邦商事株式会社がその対象に含まれるか否かは、関連事件の当事者間で争いがある。)。その後、これに従って、特定ユーザー向け段ボールケースについて、個別のユーザーごとに入れ合いとなっている事業者(「入れ合い」とは、同一のユーザーに対し複数の段ボールメーカーが段ボール製品を納入している状態をいう。)の間で値上げの実施方法や値上げ交渉の状況に関する情報交換が行われ、これらの値上げの進捗状況が5社会に報告されていた。(査134、査137、査140、査143、査145、査172、査180、査181、査183ないし査185、査192、査268、査274、査304ないし査306、査544、査556、査557、査559ないし査562、査612ないし査614)
(7) 10月17日三木会の状況(本件審決案56~58頁)
ア こうした状況の下、10月17日三木会においては、普段どおり印版・木型の費用に係る回収状況等について報告がされた後、司会を担当した三木会の会長であるトーモクの≪C1≫が出席各社に対し、段ボール製品の値上げの方針について発表するよう促したところ、これについて、出席各社から、次のとおり発言がされた。(査130、査139、査152、査156、査161、査178、査233、査245、査252、査266、査303、査324、査326、査336、査344、査350、査455、査554)
(ア) レンゴーグループ3社
レンゴーの出席者は、公表のとおり、段ボールシートについて1平方メートル当たり8円以上、段ボールケースについて13パーセント以上、それぞれ値上げをする旨発言したほか、その際、他の出席者から、これらの値上げ幅の内訳について質問を受けたことから、段ボールシートについては、段ボール原紙代4円70銭、燃料代1円50銭ないし2円、補助材料費40銭等により、値上げ幅が1平方メートル当たり8円以上となること、段ボールケースについては、段ボール原紙代4円70銭、燃料代1円50銭ないし2円、補助材料費50銭等により、値上げ幅が13パーセント以上になる旨説明した。
また、セッツカートン及び大和紙器の各出席者は、いずれも親会社であるレンゴーに準じて値上げをする旨発言した。
(イ) 王子グループ2社
王子コンテナーの出席者は、公表のとおり、平成23年11月21日から段ボールシート及び段ボールケースについてそれぞれ12パーセント以上値上げする旨発言した。
森紙業の出席者は、グループ会社である王子コンテナーに準じて値上げする旨発言した。
(ウ) トーモク
トーモクの出席者は、平成23年12月1日から段ボールシート及び段ボールケースについてそれぞれ12パーセント以上値上げする旨発言した。
(エ) 日本トーカンパッケージ
日本トーカンパッケージの出席者は、平成23年12月1日から段ボールシートについて15パーセント以上、段ボールケースについて12パーセント以上値上げする旨発言するとともに、「みなさんに遅れていますが、追いつくようにします。」などと発言した。なお、段ボールシートに係る上記の値上げ幅は、円単位に換算すると1平方メートル当たり8円以上に相当するものであった。(査553)
(オ) ダイナパック
ダイナパックの出席者は、段ボールシート及び段ボールケースについて値上げは行うが、まだ、具体的には決まっていない旨発言した(同社の値上げの方針については、上記のとおり当日の午前中の会議で値上げ幅まで決まっていたものの、いまだ社内に伝えてなかったことから、このような発言がされた。)。
(カ) 大王製紙パッケージ
大王製紙パッケージの出席者は、段ボールシート及び段ボールケースについて値上げは行うが、時期等については検討中である旨発言した。
(キ) 福野段ボール工業
三木会の副幹事長を務めていた福野段ボール工業の代表取締役の≪G1≫は、大手の段ボールメーカーが値上げをすれば、自社においても値上げをする旨の意向を示していたものの、いまだ値上げ活動の準備ができていなかったことから、値上げ時期について検討中である旨発言した。
(ク) 各支部の支部長等
東京・山梨支部長である興亜紙業の≪H≫は、段ボール原紙が値上がりすれば、当社としても段ボール製品の値上げをせざるを得ない旨発言するとともに、次回の東京・山梨支部会は平成23年10月19日に開催される予定である旨付言した。
また、他の支部の支部長等においても、自社の値上げの方針や支部管内の値上げに向けた動きなどについて報告していた。
こうした中で、千葉・茨城支部長であるレンゴーの≪D3≫及び群馬・栃木支部長であるレンゴーの≪D4≫は、それぞれの支部において、支部の会合等で出席者から出た意見を踏まえ、段ボールシートの代表的な銘柄であるC5の販売価格について、1平方メートル当たり50円以上となることを目標として値上げ活動を行っていく旨発言した。これについて、レンゴーの≪D2≫も、相場観としてC5が50円以上となればよい旨発言した。
イ これらの発言を受け、トーモクの≪C1≫は、三木会の会長として、「皆さん頑張って値上げに向けて取り組みましょう。」などと発言していたほか、レンゴーの≪D1≫も、三木会の幹事長として、当会合の終了時の挨拶の中で、「各社とも、しっかり頑張っていきましょう。」などと発言していた。
また、当会合に引き続いて開催された10月17日5社会において、司会を務めたレンゴーの≪D2≫は、10月17日三木会で出席各社から段ボール製品の値上げの方針が表明され、協力して値上げを行っていくことになった旨報告していた。
(査130、査139、査178、査181、査230、査266、査268、査344、査556)
(8) 支部会等(支部主催の会合その他支部所属の組合員の担当者を主な構成員とする会合をいう。以下同じ。)の開催(本件審決案13~19頁)
ア 東京・山梨支部
東京・山梨支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする会合(以下「東京・山梨支部会」という。)が2か月に1回程度開催されていた。
本件当時、東京・山梨支部会は、平成23年10月19日に東京都新宿区内の飲食店において開催され(以下「10月19日東京・山梨支部会」という。その際の出席者は、別紙10の「10月19日東京・山梨支部会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。また、平成23年内に開催された他の支部会等も、同様に開催月日によって表示することがある。)、それ以降も、別紙11の「東京・山梨支部」欄記載のとおり、同年11月16日、同年12月9日、平成24年2月8日、同年3月6日及び同年4月12日にそれぞれ開催された。
(査412、査419、査424、査437、査438、査446、査457、査467、査563、査590)
イ 新潟・長野支部
新潟・長野支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする総会が年1回程度開催されていた。
また、新潟・長野支部所属の組合員らのうち、新潟県内に工場等を有する事業者の各営業責任者を主な出席者とする「四木会」などと称する会合(以下「新潟四木会」という。)が月1回程度開催されていたところ、同会合には、他に同県内に工場等を有する非組合員であるエヌディーケイ・ニシヤマなどの営業責任者が出席することもあった(その場合、「拡大四木会」と呼ばれることもあった。)。同様に、新潟・長野支部所属の組合員らのうち長野県内に工場等を有する事業者と同県内に工場等を有する非組合員である協和段ボールの各営業責任者を主な出席者とする「5社会」などと称する会合(以下「長野5社会」という。)が月1回程度開催されていたところ、同会合には、他に山梨県内に工場等を有する甲府大一実業の営業責任者が出席することもあった(ただし、新潟四木会及び長野5社会と新潟・長野支部との関係については争いがある。)。
本件当時、新潟四木会は、平成23年9月23日及び同年10月13日にそれぞれ開催された後、同月19日、新潟市内の飲食店で開催され(その際の出席者は、別紙10の「10月19日新潟・四木会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「新潟・長野支部」欄記載のとおり、同年11月9日、同年12月2日、同月22日、平成24年1月12日、同年2月28日、同年3月28日、同年4月27日及び同年5月29日にそれぞれ開催された。
また、本件当時、長野5社会は、平成23年9月27日に開催された後、同年10月24日、長野県松本市内の飲食店で開催され(その際の出席者は、別紙10の「10月24日長野五社会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「新潟・長野支部」欄記載のとおり、同年11月29日、同年12月9日、同月26日、平成24年1月30日、同年2月28日、同年3月27日、同年4月23日及び同年5月29日にそれぞれ開催された。
(査165、査166、査204、査254、査334、査342、査367、査368、査375、査423、査431、査440、査442、査564、査565)
ウ 北海道支部
北海道支部においては、従前から、支部主催の会合は開催されておらず、支部長も、移動に時間がかかるなどの事情により、三木会には出席しないのが通例であり、その場合、三木会の席上で配布された資料等は、東段工の事務局から支部長宛てに送付されていた。
他方、北海道支部所属の組合員らと北海道内に工場等を有する非組合員である合同容器の各営業責任者を出席者とする「トップ会」などと称する会合(以下「トップ会」という。)が月1回程度開催されていたほか、これらの事業者の当該工場等における営業部長・課長級の者らが出席する「部課長会」などと称する会合(以下「部課長会」という。)が開催されていた(ただし、トップ会・部課長会と北海道支部との関係については争いがある。)。
本件当時、トップ会及び部課長会は、平成23年9月1日に両会合が開催された後、同年10月27日には、札幌市内のホテルにおいて、両会合が開催され(その際のトップ会の出席者は、別紙10の「10月27日トップ会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「北海道支部」欄記載のとおり、同年12月2日、平成24年2月21日、同年3月15日、同年4月5日、同月23日及び同年5月17日に両会合がそれぞれ開催されていたほか、平成23年11月15日、平成24年1月18日及び同年2月15日に部課長会がそれぞれ開催された。
(査170、査171、査207、査259、査369、査371、査405、査566の5ないし15)
エ 群馬・栃木支部
群馬・栃木支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする会合(以下「群馬・栃木支部会」という。)が月1回程度開催されていた。
また、これらの組合員のうち、群馬県内に工場等を有する事業者の当該工場における営業部長・課長級の者らを主な出席者とする「群馬会」などと称する会合(以下「群馬会」という。)と栃木県内に工場等を有する事業者の当該工場における営業部長・課長級の者らを主な出席者とする「栃木会」などと称する会合(以下「栃木会」という。)が月1回程度、同一の日に同一の場所で時間をずらすなどして開催されていた。このうち、栃木会には、栃木県内に工場等を有する非組合員である関東パック及び大日本パックスの各営業担当者が出席することがあった。
本件当時、群馬・栃木支部会は、平成23年9月30日及び同年10月13日にそれぞれ開催された後、同年11月14日、群馬県館林市内の複合施設の会議室において開催され(その際の出席者は、別紙10の「11月14日」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「群馬・栃木支部」欄記載のとおり、同年12月19日、平成24年1月30日、同年2月14日、同年3月12日、同年4月18日及び同年5月15日にそれぞれ開催された。
また、群馬会及び栃木会は、平成23年9月15日に開催された後、同年10月27日、群馬県館林市内の複合施設の会議室において開催され(その際の出席者は、群馬会につき、別紙10の「10月27日群馬会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らであり、栃木会につき、同別紙の「10月27日栃木会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、同年11月28日に開催された。
(査161、査162、査200、査202、査249、査281、査331、査352、査378、査385、査404、査567、査568の2ないし4)
オ 東北支部
東北支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする総会が年1回程度開催されていた。
また、これらの組合員のうち宮城県内に工場等を有している事業者の各営業責任者を主な出席者とする「宮城支部会」、「宮城三木会」などと称する会合(以下「宮城支部会」という。)が数か月に1回程度開催されていた(ただし、宮城支部会と東北支部との関係については争いがある。)。
本件当時、宮城支部会は、平成23年10月12日に開催された後、同月31日、仙台市内の飲食店で開催され(その際の出席者は、別紙10の「10月31日宮城支部会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「東北支部」欄記載のとおり、同年11月22日、平成24年1月26日及び同年3月12日にそれぞれ開催されたほか、同年4月16日には東北支部の総会が開催された。
(査168、査205、査206、査257、査284、査382、査464、査465、査574、査660、査711)
カ 静岡支部
静岡支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする会合(以下「静岡支部会」という。)が2か月に1回程度開催されていた。静岡支部会には、静岡県内に工場等を有する非組合員である大万紙業及び福原紙器の各営業責任者が出席することもあった。
本件当時、静岡支部会は、平成23年10月12日に開催された後、同月31日、静岡県掛川市内のホテルで開催され(その際の出席者は、別紙10の「10月31日静岡支部会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「静岡支部」欄記載のとおり、同年11月28日、同年12月13日、平成24年1月18日、同年2月2日、同月17日及び同年3月7日にそれぞれ開催された。
(査164、査173、査250、査251、査283、査333、査340、査348、査357、査366、査386ないし査389、査435、査445、査449)
キ 埼玉支部
埼玉支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする会合(以下「埼玉支部会」という。)が月1回程度開催されていた。
本件当時、埼玉支部会は、平成23年9月26日に開催された後、同年10月19日には埼玉県内のゴルフ場でゴルフコンペ終了後に開催されたほか、同年11月2日、さいたま市内の複合施設の会議室で開催され(その際の出席者は、別紙10の「11月2日埼玉支部会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「埼玉支部」欄記載のとおり、同年11月25日、同年12月12日、平成24年1月23日、同年2月28日、同年3月28日、同年4月19日及び同年5月24日にそれぞれ開催された。
(査153、査195、査196、査246、査277、査279、査328、査338、査346、査347、査350、査356、査383、査396、査400、査454、査461、査577、査578)
ク 千葉・茨城支部
千葉・茨城支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする会合(以下「千葉・茨城支部会」という。)が月1回程度開催されていた。
本件当時、千葉・茨城支部会は、平成23年9月9日及び同年10月3日にそれぞれ開催された後、同年11月9日、千葉県柏市内の結婚式場の会議室において開催され(その際の出席者は、別紙10の「11月9日千葉・茨城支部」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「千葉・茨城支部」欄記載のとおり、同年12月2日、同月13日、平成24年1月17日、同年2月10日、同年3月8日、同年4月11日及び同年5月10日にそれぞれ開催された。
(査157、査158、査161、査198、査247、査280、査330、査339、査351、査372、査402、査408、査411、査416、査417、査420、査447、査453、査580ないし査582、査588)
ケ 神奈川支部
神奈川支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする会合(以下「神奈川支部会」という。)が1か月ないし2か月に1回程度開催されていた。
本件当時、神奈川支部会は、平成23年10月13日に開催された後、同年11月17日、横浜市内の飲食店で開催され(その際の出席者は、別紙10の「11月17日神奈川支部会」欄に対応する出席者欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「神奈川支部」欄記載のとおり、同年12月5日、平成24年1月18日、同年2月16日、同年3月13日、同年4月3日及び同年5月14日にそれぞれ開催された。
(査151、査193、査209、査229、査239、査275、査322、査345、査398、査399、査407、査410、査413、査425、査433、査434、査443、査444、査448、査452、査456、査459、査469、査583、査584)
コ なお、別紙10の「会合」欄記載の東京・山梨支部の10月19日東京・山梨支部会、新潟・長野支部の10月19日新潟四木会及び10月24日長野5社会、北海道支部の10月27日トップ会、群馬・栃木支部の10月27日群馬会及び10月27日栃木会、東北支部の10月31日宮城支部会、静岡支部の10月31日静岡支部会、埼玉支部の11月2日埼玉支部会、千葉・茨城支部の11月9日千葉・茨城支部会並びに神奈川支部の11月17日神奈川支部会を一括して、以下「本件支部会等」という。
(9) 各支部の連絡(本件審決案60~62、90~93頁、本件審決2頁)
ア 東段工の支部においても、従前から、支部の会合が段ボールメーカーによる段ボール製品の価格の維持や引上げを行うための情報交換の場として利用されていたところ、平成23年8月下旬に段ボール製品の値上げを公表したレンゴーにおいて、自社が所属していない東京・山梨支部を除く各支部における支部会等で、これらの値上げの方針を発表して、他の事業者にも値上げの方針を表明するよう促すなどしていたのは、自社の公表した段ボール製品の値上げを成功させるため、他の事業者においてもレンゴーに続いて同程度の値上げ幅で共に値上げを実施するよう働きかけたものであったが、他の事業者においては、従前の慣行から、レンゴーのこうした意図を理解しながらも、他の主要な原紙メーカーによる段ボール原紙の値上げの表明が出そろうなど、段ボール製品の値上げ実施の条件が整った同年10月中旬までは値上げの意向がそろわなかった。(上記(4)及び(8)の各事実)
イ その後、平成23年10月中旬以降開催された本件支部会等において、出席各社のうち、大手の段ボールメーカーを始めとする事業者においては、自社の段ボール製品について軒並み具体的な値上げ幅を発表するなどしながら値上げの意向を表明したり、このうち既に値上げ活動を開始していた事業者においてはその進捗状況を発表したりするなどしていたところ、その値上げ幅は、レンゴー及び王子コンテナーが公表した値上げ幅と同程度のものであった。また、大手の段ボールメーカーが所属しない東京・山梨支部においても、支部長が三木会で大手の段ボールメーカーが段ボール製品の値上げの方針を表明したこと並びにその値上げ幅及び内訳を報告した上で、大手の段ボールメーカーの動きをみながら同支部所属の各社においても段ボール製品の値上げを実施するよう促していた。他方、本件支部会等に出席していた事業者のうち、地場の段ボールメーカー等の中には、段ボール製品の値上げの意向自体は表明しつつも、具体的な値上げ幅については発表していなかった事業者やこれらの値上げの意向自体を明確には表明していなかった事業者が存在するものの、従前の慣行から、前者については、具体的な値上げ幅について明言しなくても、レンゴーや王子コンテナーが公表した値上げ幅を指標として値上げを実施することになることについて出席各社の間で共通認識となっており、後者についても、このような地場の段ボールメーカーにおいて、特に値上げを実施することについて反対の意向を表明しない限り、競り込みは自粛すべきものとされる慣行の下で、大手の段ボールメーカーにより値上げが実施されることになれば、これに追随して値上げを行うことになることは出席者の間で共通の認識となっていた(この点については、その後、実際にこれらの事業者においても、大手の段ボールメーカーが発表した内容と同程度の値上げ幅を目安として値上げ活動を行っていたとみられるのであって、その後に開催された支部会等においても、当該事業者が値上げの方針を明確に表明していたか否かにかかわらず、段ボール製品の値上げの進捗状況について情報交換が行われるとともに、個別のユーザーごとに入れ合いとなっている事業者の間でも、同様に当該事業者が値上げの方針を明確に表明していたか否かにかかわらず、値上げの交渉状況について情報交換が行われるなどしながら値上げが実施されたことからも、これらの事業者が協調して値上げを行う当事者から除外されていたとはみられない。)。
(査412、査419、査424、査437、査438、査446、査467、査165、査334、査375、査423、査430、査439、査342、査368、査432、査170、査207、査259、査369、査405、査281、査352、査404、査168、査256、査284、査382、査283、査376、査387、査389、査435、査449、査242(埼玉支部会)、査328(同)、査338(同)、査346(同)、査347(同)、査383(同)、査396(同)、査400(同)、査427(同)、査450(同)、査454(同)、査458(同)、査461(同)、査157、査158、査198、査280、査351、査372、査402、査408、査411、査416、査420、査447、査453、査193、査275、査329、査413、査444、査448、査452、査469)
ウ 新潟・長野支部の状況
新潟・長野支部は、別紙9のとおり、8社が所属し、年1回程度、総会が開催されていたのみであったが、別途、新潟県と長野県の地区ごとに新潟四木会と長野5社会がそれぞれ月1回程度開催されていた。上記両会合は、組合員らの各営業責任者のほか非組合員である事業者の営業責任者も出席することがあったものの、他の支部の会合と同様、各地区におけるリサイクルマークの普及率や印版・木型に係る費用の回収状況に関する情報交換が行われていたほか、段ボール製品の需給動向についても情報交換が行われていたものであり、通常は、そのどちらかの会合に出席する支部長が、他方の会合に出席する副支部長から当該会合の報告を受けた上で、これらを取りまとめた内容を新潟・長野支部管内の状況として三木会に報告していた。(査166、査204、査254、査334、査367)
エ 本件当時開催された新潟四木会の状況
9月23日新潟四木会において、レンゴーの≪D5≫は、自社が公表した段ボール製品の値上げの方針について述べた上で、他の出席各社に対しても、これに同調して値上げを行うよう促したが、その時点ではレンゴー以外の原紙メーカーが段ボール原紙の値上げを表明していなかったため、レンゴーグループに属するセッツカートン以外の事業者においては、いまだ段ボール製品の値上げの意向を表明していなかった。
その後、レンゴーに続いて他の主要な原紙メーカーが段ボール原紙の値上げを表明するとともに、新潟四木会に属する組合員のうち、トーモクも社内で段ボール製品の値上げの方針を決定したところ、同年10月13日、急遽、これらの組合員のうち、レンゴー、セッツカートン、新潟森紙業及びトーモクの4社の各営業責任者が集まり、各社の値上げ方針について確認し合った上で、新潟・長野支部の支部長であるトーモクの≪C2≫が10月17日三木会に出席した。
そして、10月19日新潟四木会においては、段ボール製品の値上げが主な話題となったところ、同会合には、別紙10のとおり、新潟県内の全組合員5社の各営業責任者が出席したほか、同県内の地場の段ボールメーカーである非組合員の原告サクラパックス、原告森井紙器工業、新潟紙器工業及びエヌディーケイ・ニシヤマの4社がレンゴーから同会合への出席を呼びかけられ、いずれも他社の値上げに関する情報が得られることを期待してこれらの営業責任者も出席した。そして、同会合においては、段ボール製品の値上げについて、最初に支部長であるトーモクの≪C2≫が「皆さんと同じ位の幅で値上げします。」などと発言したところ、これに続いて、レンゴーの≪D5≫は、自社が公表していた値上げ方針を改めて発表した。また、セッツカートンの出席者は、親会社であるレンゴーの値上げ方針に準じて値上げをする旨発言したほか、新潟森紙業の出席者は、グループ会社である王子コンテナーが公表した値上げ方針に準じて値上げする旨発言した。他方、吉沢工業及び新潟紙器工業の各出席者は、いずれも段ボール原紙の値上がりに応じて、自社の段ボール製品についても値上げをする旨発言したほか、原告サクラパックスの出席者は、値上げ幅について日経市況を踏まえて判断する旨発言した。また、原告森井紙器工業及びエヌディーケイ・ニシヤマの各出席者は、自社の段ボール製品の値上げの方針について特に発言しなかったが、いずれもこれらの値上げの実施について反対の意向を表明していなかった。
以上のとおり情報交換が行われた段ボール製品の値上げについて、10月19日新潟四木会に出席した上記各社のうち、その時点でいまだ値上げ活動を始めていなかった事業者も、それ以降、順次値上げ活動を行っていたところ、別紙11のとおり開催された新潟四木会においては、出席各社の間で、こうした値上げの進捗状況について相互に報告がされていた。支部長である≪C2≫は、後記のとおり報告を受けていた長野5社会における値上げの進捗状況と共にこれらを取りまとめた内容を新潟・長野支部管内の値上げの実施状況として三木会に報告していたものであり、その際に三木会で報告された他の支部管内の値上げの実施状況について新潟四木会で報告したこともあった。また、こうした値上げ交渉が難航していたユーザーについては、入れ合いとなっている事業者の間で小部会が開催されるなどして、これらの交渉の状況に関する情報交換が行われていた。
(査165、査253、査254、査334、査375、査414、査415、査423、査430、査431、査439ないし査442)
(10) 平成23年11月以降に開催された三木会の状況等(本件審決案84~86頁)
ア 10月17日三木会の出席各社の間で発表された段ボール製品の値上げの実施について、別紙11のとおり平成23年11月以降開催された三木会において、出席各社の間で、自社の値上げの進捗状況のみならず、支部長等を通じて支部管内における値上げの進捗状況も相互に報告されていた。このうち同年12月7日に開催された三木会と平成24年1月11日に開催された三木会は、例年その時期には開催されていなかったところ、このような値上げの進捗状況を確認するために臨時に開催されたものであった。
こうした中で、三木会においては、当初、平成23年12月末までに段ボール製品の値上げが完了するよう値上げ活動を行っていくことが予定されていたが、実際には、日経市況における段ボール原紙の販売価格が同月末頃まで上がらなかったことなどから、各社及び各支部とも値上げ活動が円滑に進んでおらず、取り分け段ボールケースの値上げに先行して行われるべき段ボールシートの値上げの進捗状況が悪かった。そこで、東段工管内に所在するボックスメーカーのうち値上げ交渉が難航しているユーザーを対象として値上げ活動の対策について協議するために「シー卜会議」などと称する会合(以下「シート会議」という。)が開催されることとなり、それ以降、本部役員会社のうち、レンゴー、王子コンテナー、トーモク、セッツカートン、森紙業、ダイナパック、日本トーカンパッケージ及び大王製紙パッケージの8社が中心となって、段ボールシートの競争が激しい国道4号線付近のボックスメーカーを始めとして東段工管内に所在するユーザー(その対象は少なくとも40社を上回り、関東地方のユーザーのみならず、≪事業者名略≫、≪事業者名略≫、≪事業者名略≫など北海道・東北地方のユーザーや≪事業者名略≫など静岡県のユーザーも含まれていた。)をリストアップした上で、シート会議を開催し、上記のとおり各地域で開催されていた小部会の幹事等から個別のユーザーに対する値上げ交渉の報告を受けながら、これらの値上げ活動の対策を協議していた。また、シート会議の中心メンバーであったセッツカートンの≪K2≫は、11月2日埼玉支部会に出席して、出席各社に対し、国道4号線付近のボックスメーカーに対して値上げを実施できないと段ボールシート全体の値上げに影響するため頑張ってほしいなどと述べて、これらの値上げ活動を促した。
このほか、三木会においては、富士段ボールなど値上げ活動が遅れていた事業者に対しては、これらの事業者が所属する支部において速やかに値上げ活動を進めるよう働きかけを行うことなども確認されていた。
(査130、査131、査139、査152、査174、査179、査266、査278、査302、査336、査350、査663)
イ こうした状況の下、東段工は平成23年12月15日に忘年会を開催し、東段工に所属する本部役員会社及びグループ会社のほか、東京コンテナ工業(晃里の代理出席)、コバシ、鎌田段ボール工業、浅野段ボール、旭段ボール、興亜紙業等の代表者ないし担当者が出席していたところ、同会合の挨拶の際、東段工の理事長である卜ーモク代表取締役の≪C4≫は、段ボール製品の値上げ活動について、「今はまだら模様だが、やるべきときに努力しないと徒労に終わる。」、「今はいいタイミングなのでしっかりやってほしい。」、「年越しもみんなで走ってもらうしかないが、お願いしたい。」、「皆でがんばりましょう。」などと発言していた。また、これに続いて、三木会幹事長であるレンゴーの≪D1≫は、「皆さん全力で価格改定に取り組んでおられると思いますが、わが社も全力上げて取り組んでいる。」、「東段工は信頼関係が深く、全国で一番早く決着をみる組織だと思っている。」、「信頼関係を持って進んでいけば、それなりの結果がついてくる。」などと発言したほか、王子コンテナーの≪I4≫は、「板紙の値上げは何度も経験したが、段ボールの値上げは根気が必要だとつくづく思っている。」、「幸い大手(全農)から原紙を1/1から値上げするとの連絡が入ってきた。」、「年明けても交渉しないといけないかもしれないが、可能な限り今年中に決めるため、ベクトルを合わせてやっていきたい。」、「王子チヨダに何か問題があれば、私に言ってください。」などと発言していた。(査691ないし査693)
(11) 段ボール製品の値上げの実施状況(本件審決案86~87頁)
以上のとおり、本件各事業者においては、それぞれ段ボール製品の値上げ活動を行っていたところ、その値上げの実施時期や進捗状況には差異があったものの、その実施に当たり目安とした値上げ幅は、三木会又は支部会等でこれらを発表した事業者のみならず、それ以外の事業者においても、レンゴー及び王子コンテナーの発表した値上げ幅と大きな差異がみられるものではなかった。
そして、これらの値上げ活動の結果、東段工管内における段ボール製品の値上げの実施率は、平成24年4月20日(「平成24年4年20日」との表記は誤記と認める。)に三木会が開催された時点で、段ボールシートについてはほぼ100パーセントに達していたほか、段ボールケースについても、約80パーセントに達し、さらに、同年5月17日に三木会が開催された時点では、段ボールケースについて90パーセントに達しており、これらの会合で各支部からの報告によりこうした値上げの達成状況が確認されたところ、レンゴーの≪D2≫は、同日に開催された三木会で、おおむね自社の段ボール製品の値上げが完了した旨表明した。
(査1ないし査63、査64ないし査127、査139、査179、査266、査579の4、査591ないし査605)
(12) 被告による立入検査(本件審決案19頁)
ア 被告は、平成24年6月5日、本件各違反行為に関し、埼玉県、群馬県、栃木県等に所在する段ボールメーカーが共同して段ボール製品の販売価格を決定しているという疑いで、独占禁止法47条1項4号の規定に基づいて立入検査を行った。(査665、査666)
イ さらに、被告は、平成24年9月19日、本件各違反行為及び関連事件の違反行為に関し、上記規定に基づいて立入検査を行った。
ウ 少なくとも上記アの立入検査が行われた平成24年6月5日以降は、本件各事業者の間で段ボール製品の販売価格に関して情報交換が行われていない。
(13) 関連事件との関係(本件審決案19頁)
関連事件は、大手5社が5社会において特定ユーザー向け段ボールケースの販売価格又は加工賃を引き上げる旨の合意(以下「関連事件合意」という。)をしたことを違反行為とするものであるところ、被告は、特定段ボールケースに係る取引のうち、特定ユーザー向け段ボールケースに係る取引と重複する部分については、大手5社の間で遅くとも平成23年10月31日までに関連事件合意が成立したことにより、第2事件違反行為の対象となる特定段ボールケースの販売価格を引き上げる旨の合意による拘束の対象から事実上除外されたことを理由として、第2事件課徴金納付命令において、課徴金の計算の基礎となる特定段ボールケースの売上額から上記重複部分に係る売上額を除外している。
3 争点
本件訴訟における争点(第1事件及び第2事件)は、次のとおりである(独占禁止法82条)。
(1) 本件審決の基礎となった以下の各事実認定について実質的な証拠があるか(同条1号該当性)。
ア 意思の連絡(本件各合意)の成立
10月17日三木会において、出席各社の間で、東日本地区の需要者に向けて販売される特定段ボールシート及び特定段ボールケースの販売価格について、相互に歩調をそろえながら値上げを行う意思が形成され、その旨の意思の連絡が成立し、本件各合意が成立したと認定したこと
イ 本件各合意への参加
10月19日新潟四木会において、原告らが、10月17日三木会で成立した意思の連絡(本件各合意)に参加したと認定したこと
ウ 一定の取引分野
対象とする「一定の取引分野」について、本件各合意の内容を前提に東日本地区全域であると認定したこと
(2) 本件審決の以下の独占禁止法の解釈は誤りか(同条2号該当性)。
ア 独占禁止法2条6号の「共同して」の該当性につき、意思の連絡が必要であるところ、意思の連絡があるといえるために、相手方がどの範囲の事業者であるか具体的かつ明確に認識していることは不要であるとの解釈をしたこと
イ 独占禁止法2条6号の「一定の取引分野」を合意により確定する旨の解釈をしたこと
(3) 本件審決は不公正な審判手続によってされた不公正な審決か
4 争点に関する原告らの主張
(1) 争点(1)ア(10月17日三木会における意思の連絡(本件各合意)の成立の認定)について
ア 段ボール製品は、地域ごとに市場の特徴や価格水準が大きく異なり、また、製造販売コストに占める輸送費の割合が極めて大きいという特徴のために、広い地域で競争が生じることはなく、地域ごとに全く別々の市場が形成されている(以下「原告ら主張の段ボール製品の市場の特徴」という。)。
そのため、10月17日三木会の出席者らの中には、東日本地区の全域で一律の値上げ幅で一斉に値上げを実施しようなどという現実離れして実態を無視した認識を持つ者はいなかった。
段ボール原紙が値上がりしたから全国で同じように段ボール製品の値段が上がるというものではなく、事実、段ボール製品の値段は地域ごとに大きな差があるし、本件当時に値上げが実施された時期もバラバラである。市場が重層的に成立し得るからといって、本件において東日本地区の全域を地理的範囲とする市場(一定の取引分野)が成立することはない。大手の段ボールメーカーにおいても、各工場ごとに営業活動が行われ、当該工場の裁量で販売価格等の取引条件を決定していたので、東日本地区の全域という市場は実態に合致しない。
イ また、原告ら主張の段ボール製品の市場の特徴から、地場のユーザーも含めて東日本地域全体で協調した値上げは、三木会の出席者間だけで実施できるものではなく、各支部会等に伝達されることが必須である(仮に後記のような「容易に予測される状況」〔追随予測状況〕にあったとしても、各支部会等において一言報告すれば足りるのに、あえて伝達しないことは不自然である、)。しかし、原告らが出席した10月19日新潟四木会を含む六つもの支部会等(新潟四木会、長野5社会、トップ会、群馬会、栃木会及び宮城支部会)には、10月17日三木会の内容は一切伝達されなかったという事実があり(事実があったのに証拠がないというわけではない。)、これはたまたまとはいえないから、10月17日三木会の出席各社において、組織的に各支部会等を通じて各地域の地場の段ボールメーカーと協調して値上げを行うとの合意(意思の連絡)を形成する意図はなく、かかる合意をしたとはいえない。
ウ さらに、10月17日三木会の後の10月31日5社会にて、特定ユーザーが「事実上」その対象から外れたということであれば、10月17日三木会での本件ケース合意の対象となる需要者の範囲すら決まっていなかったことになり、協調しての値上げする合意の体裁をなしていない。一旦成立した合意から、その合意の参加者の何らの行為も要せずに一部が対象から除外されるというのは不自然である。10月17日三木会の時点では、特定ユーザーの範囲は不明で、大手5社による別途の合意が形成されるかは分からないのであるから、そもそも本件各合意が成立していなかったと考えるのが自然である。また、10月31日5社会によって、本件ケース合意の範囲は変容されたものである。
エ 以上からすると、10月17日三木会において本件各合意が成立したとは認められず、本件審決における認定は誤りである。
(2) 争点(1)イ(10月19日新潟四木会における本件各合意への参加の認定)について
ア 何らかの値上げの合意の有無
10月19日新潟四木会において、原告森井紙器工業の代表取締役である≪P≫は、値上げするともしないとも、価格に関しては何も述べず、原告サクラパックスの≪Z≫は、値上げの方針は決まっていないと述べただけであり、その他の出席者も値上げの方針を発言した者はいなかったのであり、段ボール製品の値上げについて、参加した事業者の間で何らかの合意(意思の連絡)をしたとの事実は認められない。
本件審決は、原告森井紙器工業の≪P≫や原告サクラパックスの≪Z≫が「値上げに反対の意見を述べなかった」として暗黙のうちに値上げに同意したとしているが、これは「値上げをしない」という自社の価格についての情報や方針を他社に開示せよといっていることにほかならず、かかる開示をしなかったからといって値上げに同意したと認定することは許されない。
そして、取引先との間で値上げの交渉を開始したのは、原告サクラパックスが平成23年12月以降、原告森井紙器工業が平成24年1月以降であるから、平成23年10月19日に開かれた新潟四木会において本件各合意に参加してそれに基づいて値上げを行ったとみるには、時期的なかい離が大きく、不当な認定である。
イ 値上げの合意に参加する事業者の範囲、合意の内容等
(ア) 仮に、10月19日新潟四木会を含む各支部会等において何らかの値上げの合意が形成されたとしても、その合意に参加する事業者の範囲は、当該合意が形成された会合に参加した事業者であると認識するのが普通である。
10月17日三木会の合意は10月19日新潟四木会に報告されていないのであるから、10月17日三木会の会議の存在も内容も知らずに10月19日新潟四木会に参加した原告らは、10月17日三木会で形成された合意に参加したとはいえない。被告は、「本件支部会等の出席各社は、東段工管内の他の支部会等においても、東日本地区の全域における値上げを実施するために、大手の段ボールメーカーが公表した値上げ方針に沿った値上げの実施が確認されるであろうことはもちろんのこと、その前提として、本部役員会社等による三木会を構成する事業者間においても、同様の確認がされているであろうことを、少なくとも概括的には認識していた」と主張するが、被告が主張する「概括的には認識していた」の具体的な意味が不明であるし、その点に関する被告の主張は不合理である。
(イ) 本件審決が、原告らが10月17日三木会で形成された合意に参加したといえる根拠として挙げる事情は、理由となっていない。本件審決は、証拠がなく認定しているし、10月19日新潟四木会の時点において、東日本地区全域で協調して行われている値上げであると認識できるような事情は見当たらず、新潟県内でしかほとんど事業活動を行っていない原告らについて、段ボール製造業界の「従前の慣行」から東日本地区全域の事業者が本件各合意に参加するとの「概括的認識」を有していたとはいえない。また、原告ら主張の段ボール製品の市場の特徴から、段ボール製品は、せいぜい工場から50キロメートルから100キロメートル圏内を限界とする程度の範囲でしか販売ができず、その価格は地域によって大きな差が生じており、他の地域の動向を引き合いに出されて価格が影響を受けるという事情はない。さらに、本件審決(追記部分・4頁)は、「従前の慣行」等から、大手メーカーが「各支部会等において10月17日三木会で協議した内容と同様の値上げの意向を表明すれば、…他の地場の段ボールメーカーもこれに追随して値上げの実施に向かうことは」10月17日三木会の出席者らにとって「容易に予測される状況にあった」(以下「追随予測状況」という。)と認定するが、この追随予測状況の認定は、不意打ちの認定であり、10月17日三木会の内容が六つもの支部会等に伝達されていないことと矛盾し、原告らの認識とは一切関係がなく原告らが「意思の連絡」に参加したことの根拠となるものではないし、追随予測状況の認定に結び付く事実はない。加えて、本件審決のうち、「10月17日三木会で協議した内容と同様の値上げの意向」について、上記「内容」が具体的に明らかにされておらず、値上げの時期が不明で、参加事業者の範囲も値上げの対象とする商品を販売する地理的範囲も取引先の範囲も一致しない合意によって、「複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる」ことなどできず、「意思の連絡」が成立したとはいえない。また、本件審決(追記部分・3頁)は、本件支部会等において、10月17日三木会で確認されたところと「同内容の値上げ」の実施を確認したとして、本件支部会等の出席者も10月17日三木会で成立した意思の連絡に参加したと認めるのが相当であるとしているようであるが、上記「同内容の値上げ」の具体的内容は明らかにされておらず、いつから、どの需要者に対して、どのような地理的範囲で値上げを行うかという対象とする市場の認識が事業者間で全く一致していないのであるから、「同内容」とはいえず、平成23年10月頃の支部会等において「同内容の値上げ」の話合いがされたものではない。
(3) 争点(1)ウ(一定の取引分野の認定)について
ア 原告ら主張の段ボール製品の市場の特徴から、ユーザーが段ボール製品を調達できる範囲は、当該ユーザーの工場や営業所等が所在する都道府県内又はその近郊に工場が所在する事業者に限られ、地場の段ボールメーカーも全国的に工場を持つ大手段ボールメーカーも、各工場からせいぜい100キロメートル程度の限られた範囲内において地域ごとでの競争が行われているので、客観的にその範囲内においてしか市場は成立し得ない。「一定の取引分野」とは、競争が行われる場であり、商圏が異なり競争関係にない事業者同士の間にまたがった地理的範囲で成立することはないから、東日本地区の全域が一定の取引分野となることはない。
また、一定の取引分野が重層的に成立するといわれているのは、単に一定の取引分野は一つしか成立し得ないものではなく、競争が行われている範囲内において、複数の一定の取引分野(競争が行われる場)が成立し得るとされているものである。一定の取引分野が複数の地域で存在しているときに、それぞれの地域を超えては競争関係が存在しないにもかかわらず、それらとひとくくりにした全体の一定の取引分野が成立し得るということではない。段ボール製品については、上記のとおり、東日本地域全域という地理的範囲で競争が行われることはなく、東日本地区全域などという一定の取引分野が成立することはない。
イ 10月31日5社会による合意によって特定ユーザーが事実上外れたとの事実認定から、一定の取引分野が確定できなくなった。
(4) 争点(2)ア(「共同して」の解釈)について
「共同して」に該当するためには、意思の連絡が必要であるところ、本件審決は、意思の連絡があるというためには、各事業者において、意思の連絡が成立する事業者の範囲を具体的かつ明確に認識していることまでは不要であるとしている。
しかし、意思の連絡は、その意思の連絡を通じて共通の認識に従って行動する相手方がどの範囲の事業者(どの地域でどのような需要者に事業活動を行う事業者)であるのかを相互に認識していることが当然の前提とされており、合意に参加した事業者の範囲が分からなければ、「他の事業者との間で相互に対価の引き上げを実施することを認識しながらこれと歩調をそろえる」ことは不可能であり、不当な取引制限の成立要件である相互拘束の要件を実質的に無意味化してしまうことになるので、独占禁止法2条6号の解釈として誤りである。
なお、原告らは、意思の連絡が成立するのに、それに参加する事業者が一堂に会さなくてはならないとか、互いに顔と名前が一致しなければならないなどと主張しているわけではない。
(5) 争点(2)イ(「一定の取引分野」の解釈)について
ア 最高裁平成24年2月20日第一小法廷判決(民集66巻2号796頁。以下「多摩談合新井組最高裁判決」という。)は、「一定の取引分野」の解釈について、違反者が合意の対象とした範囲をもって「一定の取引分野」とする市場を画定する手法は、論理が逆であり誤りであると指摘している。
しかし、本件審決は、供給者がいかなる共通の目標となる需要者の獲得を目指していかなる事業活動を行い、当該供給者群及び需要者群の間においていかにして価格の変化を通じた需給調整がされているかといった客観的事情を一切検証することなく、違反行為者が合意の対象とした範囲が一定の取引分野として画定されるとしており、上記最高裁判決に違反する解釈をしている。
イ 被告は、独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野」は、共同行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲をいうものであり、その成立する範囲は、当該共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して定まるものと解するのが相当であり、かかる画定方法が、多摩談合新井組最高裁判決によって否定されていないとした上で、同最高裁判決後の裁判例(①東京高等裁判所平成28年1月29日判決〔サムスン・エスディーアイ(マレーシア)・ビーイーアールエイチエーディーによる審決取消請求事件〕、②東京高等裁判所平成28年5月25日判決〔日本エア・リキード株式会社による審決取消請求事件〕)も、いずれも同様の立場から一定の取引分野を画定することを是認している旨主張する。しかし、被告が主張する上記①の裁判例は、違反行為とされた合意の内容の合意参加者への伝達、合意に参加する事業者の範囲、合意の対象とされた商品の範囲等は問題となっておらず、これらの合意の範囲の設定自体に重大な問題がある本件とは事案が異なり、また、違反行為によって競争機能が損なわれた場所も具体的に検討した上で一定の取引分野の画定をしており、本件のように単に合意の参加者がその対象とした範囲を一定の取引分野としたわけではない。また、被告が主張する上記②の裁判例は、違反行為とされた合意の参加者4社は、いずれも全国規模の事業者でその4社で90パーセント超という高いシェアを有していたという事実関係を前提に、取引の実体も踏まえて、全国での地理的範囲を一定の取引分野として設定したものであり、本件のように、段ボール製品の特性からせいぜい工場から100キロメートル程度の限られた範囲内に商圏が限られ、原告ら地場の中小規模の段ボールメーカーはそれぞれ工場が所在する県内でしかほとんど事業活動を行っていないという事実がある本件で、東日本地区全域を一定の取引分野とすることはできない事例とは異なる。2例とも、本件のように何らの取引実態の裏付けもないのに、東段工の組織である三木会で話合いが行われて本件各合意が形成されたので一定の取引分野は東段工管内である東日本地区全域であるなどと漫然と判断しているのとは異なる。
(6) 争点(3)(不公正な手続)について
本件訴訟においては、審判官として審判手続の審理を行い、本件審決案を作成して署名した≪氏名略≫が被告指定代理人となっていたところ、審判手続の後に当該審判の是非をめぐって被告指定代理人として原告ら(審判手続中は被審人ら)と対立する立場に立つ者(立ち得る者)が、審判手続において公正な審理を進め、公正な審決案を作成することはおよそ期待し得ず、本件審決は、被告内部において審査官側に偏った不公正な手続によって進められ、初めから、原告らの違反行為を認め、原告らの主張は排斥しようとの結論ありきの審理、審決がされたといわざるを得ない。特に、上記≪氏名略≫は、被審人らに対する審尋手続において、審判官たる立場からの補充尋問の手続で、審査官よりも苛烈に、実質的な反対尋問といわざるを得ない質問を厳しい口調で多数行っており(各審尋調書参照。例えば、遠州紙工業の≪N≫〔審尋調書13頁以下〕や鎌田段ボール工業の≪E≫〔審尋調書17頁以下〕に対して何度も詰問で重複尋問をし、晃里の≪L2≫〔審尋調書6頁以下〕に対して議論にわたる質問を詰問する調子で延々と重ね、浅野段ボールの≪氏名略≫〔審尋調書15頁以下〕に対して審査官側の思い込みを前提とした誘導尋問をした。)、実態としても審査官に肩入れをした不公正な審理を行ったし、反対尋問とは規律も違う補充尋問の手続にて実質的な反対尋問が行われたことは、手続としての不当性も極めて重大である。
このように、不当で偏った審理が進められ、不当で偏った審決がされたのであり、本件審決は、不公正な審判手続によって不公正な審決がされたものといえる。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(上記第2の2の本件審決が認定した各事実に関する実質的証拠の有無)について
(1) 上記第2の2の本件審決が認定した各事実のうち、「(1) 当事者」については当事者間に争いがなく、「(2) 本件各事業者の概要」、「(3) 段ボール製品の流通・取引」、「(5) 平成23年10月17日に三木会が開催されるまでの経緯」のア(ア)、イ、ウ及びエ、「(6) 三木会等の開催」のア、「(8) 支部会等の開催」、「(12) 被告による立入検査」並びに「(13) 関連事件との関係」の各認定事実については、原告らも実質的にはこれを争っておらず、本件審決が引用する各証拠について、その信用性につき特に疑念を生ずべき事情は認められないから、いずれも実質的な証拠があると認められる。
(2) 上記第2の2の本件審決が認定した各事実のうち、「(4) 段ボール製造業における慣行等」、「(5) 平成23年10月17日に三木会が開催されるまでの経緯」のア(イ)、(ウ)及び(エ)、「(6) 三木会等の開催」のイ、「(7) 10月17日三木会の状況」、「(9) 各支部の連絡」、「(10) 平成23年11月以降に開催された三木会の状況等」並びに「(11) 段ボール製品の値上げの実施状況」の各事実については、本件審決が各認定事実において引用する各証拠に基づいて合理的に認めることができ、その信用性につき特に疑念を生ずべき事情は認められないから、いずれも実質的な証拠があると認められる(なお、「(11) 段ボール製品の値上げの実施状況」中の平成24年4月20日に三木会が開かれたとの点については、摘示の査139及び査179によれば同月19日のことと考えられるが、この点は、以下の説示を一切左右しない。)。
(3) そして、以下の2ないし4のとおり、争点(1)アないしウに関して本件審決が認定した事実には、いずれも実質的な証拠があると認められる。
2 本件審決の争点(1)ア(10月17日三木会における意思の連絡(本件各合意)の成立の認定)について
(1) 本件審決の判断(本件審決案87~90、101頁、本件審決2頁)について
複数の事業者が対価を引き上げる行為が、独占禁止法3条の規定により禁止されている「不当な取引制限」(同法2条6項)にいう「共同して」に該当するというためには、当該行為について、相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要であると解されるところ、ここにいう「意思の連絡」とは、複数の事業者の間で相互に同程度の対価の引上げを実施することを認識し、これと歩調をそろえる意思があることを意味し、一方の対価引上げを他方が単に認識して認容するのみでは足りないものの、事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りると解するのが相当である。そのような観点からすると、特定の事業者が、他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をして、同一又はこれに準ずる行動に出たような揚合には、当該行動が他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められない限り、これらの事業者の間に、協調的行動をとることを期待し合う関係があり、上記の「意思の連絡」があるものと推認されるのもやむを得ないというべきである(東京高等裁判所平成7年9月25日判決(以下「東芝ケミカル株式会社による審決取消請求事件判決」という。)参照)。
そして、上記1において実質的な証拠があると認められる本件審決が認定した各事実(上記第2の2)によれば、10月17日三木会において、出席各社の間で、段ボールシートの販売価格について、現行価格から1平方メートル当たり7円ないし8円以上、段ボールケースの販売価格について、現行価格から12パーセントないし13パーセント以上引き上げることが確認され、相互に歩調をそろえながらこうした値上げを行うとの意思が形成され、その旨の意思の連絡が成立したものと合理的に認められるから、第1事件事業者57社のうち、第1事件三木会出席11社については、10月17日三木会において本件シート合意が成立するとともに、第2事件事業者63社のうち、第2事件三木会出席12社については、同会合において本件ケース合意が成立した旨の本件審決の判断には合理性があり、かつ、本件審決の同認定には実質的な証拠があると認められる。
(2) 原告らの主張に対する当裁判所の判断について
ア 原告らは、原告ら主張の段ボール製品の市場の特徴(段ボール製品は、地域ごとに市場の特徴や価格水準が大きく異なり、また、製造販売コストに占める輸送費の割合が極めて大きいという特徴のために、広い地域で競争が生じることはなく、地域ごとに全く別々の市場が形成されていること)を前提として、10月17日三木会の出席者らの中には、東日本地区の全域で一律の値上げ幅で一斉に値上げを実施しようなどという現実離れして実態を無視した認識を持つ者はいなかった旨主張する(上記第2の4(1)ア)。
しかし、本件当時に実施された段ボール製品の値上げは、段ボール原紙の値上げに伴うものであるから、値上げを行うべき理由が地域によって異なるものではなく、値上げ幅も地域によって大きな特色があるとは考え難い。実際、上記第2の2(5)のとおり、レンゴーや王子グループを含む大手の段ボールメーカーが公表した値上げ幅は、地域によって差を設けたものではなかった。また、段ボール製品の市場(一定の取引分野)は、特定の事業者及び生産拠点ごとに存在する競争関係について重層的に成立し得るもので、供給範囲が限定されることは、事業者が東日本地区全体を対象として値上げを実施することやその認識を持つことを妨げないといえる。本件審決は、段ボール製品の市場(一定の取引分野)は、特定の事業者及び生産拠点ごとに存在する競争関係について重層的に成立し得るもので、供給範囲が限定されることは、事業者が東日本地区全体を対象として値上げを実施することやその認識を持つことを妨げない旨の認定をしているところ、その認定は証拠に基づく経験則に即した合理的なものと認められる。
そして、本件各合意に至る経緯としても、上記第2の2(5)ア(ウ)のとおり、9月22日三木会において、レンゴーの≪D1≫は、自社が公表した段ボール製品の値上げは1社だけではできないとして他社に値上げの実施を呼び掛けた事実や、上記第2の2(7)のとおり、10月17日三木会では、出席者から自社の値上げの意向が表明され、東段工の各支部の支部長等らから支部管内の値上げに向けた動きが報告され、その後の三木会でも、出席者から自社の値上げや各支部管内の値上げの進捗状況が報告されていた事実が合理的に認められるのであるから、10月17日三木会の出席者が、東日本地区の全域での段ボール製品の値上げを実施する必要があるとの認識を持っていた事実が合理的に認められる。
イ なお、原告らは、10月17日三木会において、例えば、興亜紙業の≪H≫は、段ボール原紙が値上がりするかどうかが不明な当時、仮定の状況に対する一般論として、それによって段ボール製品の値上げの有無を判断することを述べたにすぎず、値上げの方針を明らかにしていたとはいえず、同人の供述調書における値上げの認識や表明に関する記載には、かかる認識を導く具体的な発言はなく、信用性がないし、福野段ボール工業の≪G1≫も、値上げの時期について「検討中」と回答しており、これを値上げの方針と理解することはできない旨主張する。
しかし、10月17日三木会において、興亜紙業の≪H≫は、自社を含めて値上げに関する方針を表明しなかった者や値上げの意向のないことを表明した者がいたとは認識しない中(査455・5~7頁)、段ボール原紙が値上がりすれば、当社としても段ボール製品の値上げをせざるを得ない旨発言し(本件審決案58頁、査455・6頁)、また、同三木会において、福野段ボール工業の≪G1≫は、値上げ活動の準備ができていないため、値上げの時期については「検討中」である旨発言したものであり(本件審決案57~58頁、査355・11頁)、これらは、各社が順次、段ボール製品の値上げの意向についての発言を求められている状況下で、自社としてもいずれ値上げを行うことを前提に発言されたものであり、値上げの意向を示したものと合理的に推認できる。なお、このことは、同三木会に出席していた王子コンテナーの≪I4≫(査178・9~10頁)や興亜紙業の≪H≫(査455・5~6頁)が、≪G1≫を含む出席者から値上げに同調的な発言があったものと捉えていること、≪G1≫自身も、その供述調書(査355・12頁)や代表者審尋(審尋調書24頁)において、その後の三木会において自社の値上げ活動の状況を報告していたことを述べていること、福野段ボール工業の営業部長である≪G2≫が、その後の埼玉支部会や小部会において、自社の値上げ活動状況や特定のユーザーに関する交渉状況について情報交換をしていた旨述べていること(査356・10~11頁、査687・4~9頁)などによって裏付けられている。このように、10月17日三木会において、興亜紙業や福野段ボール工業は値上げの意向を示していた事実が合理的に認められる。
ウ また、原告らは、原告ら主張の段ボール製品の市場の特徴から、地場のユーザーも含めて東日本地域全体で協調した値上げは、三木会の出席者間だけで実施できるものではなく、各支部会等に伝達されることが必須であるところ、原告らが出席した10月19日新潟四木会を含む六つもの支部会等(新潟四木会、長野5社会、トップ会、群馬会、栃木会及び宮城支部会)には、10月17日三木会の内容は一切伝達されなかったという事実があり、これはたまたまとはいえないから、10月17日三木会の出席各社において、組織的に各支部会等を通じて各地域の地場の段ボールメーカーと協調して値上げを行うとの合意(意思の連絡)を形成する意図はなく、かかる合意をしたとはいえない旨主張する(上記第2の4(1)イ)。
しかし、後記3(2)カのとおり、本件支部会等において、本部役員会社に所属する営業責任者等が10月17日三木会で協議した内容と同様の値上げの意向を表明すれば、10月17日三木会でその旨の合意が成立した事実自体を伝達しなくても、他の地場の段ボールメーカーもこれに追随して値上げの実施に向かうことは容易に予測される状況にあったのであるから、たとえ10月19日新潟四木会、10月24日長野5社会、10月27日トップ会、10月27日群馬会、10月27日栃木会及び10月31日宮城支部会(支部数としては、九つの支部のうち四つの支部(新潟・長野支部、北海道支部、群馬・栃木支部、東北支部))において、10月17日三木会の協議の内容が明示的に伝達されなかったとしても、地場の段ボールメーカーを含めた合意の成立を左右するものではないとの本件審決の判断は合理的である。
エ さらに、原告らは、10月17日三木会の後の10月31日5社会にて、特定ユーザーが「事実上」その対象から外れたということであれば、10月17日三木会の時点では、本件ケース合意の対象となる需要者の範囲すら決まっていなかったことになり、そもそも本件各合意が成立していなかったと考えるのが自然である旨主張する(上記第2の4(1)ウ)。
しかし、10月31日5社会での関連事件合意によって、本件ケース合意の当事者である第2事件事業者63社(大手5社を含む。)は、本件ケース合意に基づいて値上げ活動を行う必要はなくなったのであるから、本件ケース合意による拘束の対象から特定ユーザー向け段ボールケースが除外される結果となったにすぎない。したがって、関連事件合意の成立によって、本件ケース合意の合意自体による対象範囲やこれにより競争が実質的に制限される一定の取引分野が遡って変容されたということではないから、本件各合意の時点において、合意の対象となる需要者の範囲が決まっていないというものではないとの本件審決の判断は合理的である。
オ 以上の点及びその他原告らがるる主張する点は、いずれも採用することができない。
3 争点(1)イ(10月19日新潟四木会における本件各合意への参加の認定)について
(1) 本件審決の判断(本件審決案93~98、101~102頁、本件審決2頁)について
ア 本件審決は、上記1により実質的な証拠があると認められる本件審決が認定した各事実(上記第2の2)及びこれらの認定事実の末尾に引用した証拠に基づき、次の事実を認定した。
(ア) 三木会は、東段工の事業の連絡推進及びその実行の徹底を図るための事業並びに各支部との情報交換及び取りまとめを行う組織として位置づけられ、主に大手の段ボールメーカーで占められている本部役員会社の営業統括者等のほか、各支部を代表する支部長により構成されるものであるところ、これらの構成員の間で、日頃から、東段工管内の段ボール製品の需給動向について情報交換が行われる中で、段ボール製品について、競り込みをかけてくる事業者が現れたときには、他の納入業者による抗議が行われるなど競争回避に向けた解決が図られていたほか、段ボール原紙の値上がりに伴い段ボール製品の値上げを実施する時期には、これらの値上げの方針や値上げの進捗状況に関して情報交換が行われるなど、従前から段ボール製品の販売価格の引上げを行うための情報交換の場として利用されていた。
(イ) 本件当時も、レンゴーが段ボール原紙の値上げと共に段ボール製品の値上げを公表したのを皮切りに、王子コンテナーも、同様の値上げを公表したほか、他の主要な原紙メーカーによる段ボール原紙の値上げの表明が出そろう中で、本部役員会社を構成する他の大手の段ボールメーカーも順次社内又はグループ内で段ボール製品の値上げの方針を決定するなどしていたところ、こうした状況の下で開催された10月17日三木会においては、本部役員会社から自社の値上げの方針が発表されるとともに、支部長等からも支部管内における値上げに向けた動きが発表されるなどして、出席各社の間で、東段工管内全体で段ボール製品の値上げを実施していくことが確認された。
また、各支部においても、レンゴーを始めとした本部役員会社に所属する営業責任者又はこれらの者が多くを占める支部長等が、それぞれの支部会等で、他の事業者に対し、段ボール製品の値上げを行うよう促すなどした結果、本件支部会等の出席各社の間で、10月17日三木会で確認されたところと同程度の値上げ幅で段ボール製品の値上げを実施することが確認された。
(ウ) その後に開催された三木会においては、各支部の支部長等からそれぞれの管内で行われていた段ボール製品の値上げの実施状況について報告がされていたところ、実際にはこれらの値上げ活動が円滑に進んでいない状況を踏まえ、本部役員会社のうち、レンゴーほか7社が中心となって、段ボールケースに先立ち値上げが実施されるべき段ボールシートについて、値上げ交渉が難航しているボックスメーカーなど東段工管内に所在するユーザー(これらの対象は、関東地方のユーザーのほか、北海道・東北地方のユーザーや静岡県内のユーザーも含まれるなど特定の地域に限定されたものとはみられない。)をリストアップして開催したシート会議において、各地域で行われている小部会の幹事等から当該ユーザーとの交渉状況についての報告を受けながらこれらの値上げ活動の対策について協議していたほか、支部所属の組合員のうち、値上げの実施が遅れている事業者に対しては、当該支部で値上げ活動を進めるよう働きかけを行うことが確認されるなど、三木会において各支部の管内における値上げ実施状況の把握と値上げ活動の促進が図られた。
(エ) その結果、東段工管内全体で、おおむね段ボール製品の値上げが達成されたところ、三木会において、各支部の報告を受け、これらの状況が確認されていた事実を踏まえて、本件当時も、東段工管内の段ボールメーカーの間で協調して段ボール製品の値上げを実施するための情報交換の場として三木会及び各支部の会合等が利用されたというべきで、これらの協調行為は、段ボール製品の値上げについては、大手の段ボールメーカーであっても他の事業者と共に行わなければこれを実現するのが困難であるという認識の下、レンゴーを始めとして本部役員会社を構成する大手の段ボールメーカーが、管内の地場の段ボールメーカーとも各支部の会合等を通じて協調しながら東段工管内全体で値上げを実施するため、その主導により、組織的に一連のものとして行われたものであり、これにより各支部管内で行われた段ボール製品の値上げには10月17日三木会で成立した合意による拘束が及んでいたものと認められる。
(オ) 一方、本件支部会等のうち10月19日東京・山梨支部会、10月31日静岡支部会、11月2日埼玉支部会、11月9日千葉・茨城支部会及び11月17日神奈川支部会においては、それぞれ、当該会合の冒頭で、支部長等が10月17日三木会において段ボール製品の値上げを実施することが確認された旨の報告をした上で、当該支部会等の出席各社の間でも、その旨の確認がされた。
(カ) この点、上記各支部会等の中には、支部長等から10月17日三木会で確認された値上げ幅の内容について明確な説明がされていなかった会合もあるものの、従前からレンゴー及び王子コンテナーが公表した値上げ幅を指標として値上げが実施されていた実態から、支部長等においてかかる値上げ幅について明言していなくても、10月17日三木会で確認された値上げ方針がこれと同様のものであることについて出席各社の間で共通の認識となったものと認められ、そうであるからこそ、これらの支部会等で確認された値上げ幅も同内容のものとなったということができる。
イ そして、本件審決がアのとおり認定した事実には合理性が認められ、実質的な証拠があるものと認められる。
本件審決は、以上に摘記した認定事実に基づいて、これらの支部会等に出席していた事業者においては、相互に他の事業者との間で協調して段ボール製品の値上げを実施するにとどまらず、三木会を構成する事業者においても同内容の値上げが行われる旨の認識があったと認められる旨、段ボール原紙の値上がりに伴い段ボール製品の値上げが実施される時期には、三木会のみならず、各支部の会合等においても、こうした値上げの方針や進捗状況について情報交換が行われるなど、従前からこれらの会合が協調して段ボール製品の値上げを行うための情報交換の場として利用されていたのであり、東段工の組合員であるか否かにかかわらず、いずれの事業者も従前からこうした慣行が存在していたことを理解していたことは容易に推認される旨、その上、本件当時行われた段ボール製品の値上げも、段ボール原紙の値上がりを理由とするものであって、これに伴い段ボール製品について足並みをそろえて値上げを行うことは、各地域において共通した課題であったのであり、これまでも段ボール原紙の値上がりを理由として一部の地域のみで値上げが実施されたことがなかったとみられることからすれば、上記各支部会等において10月17日三木会の報告がされていなかったとしても、これに出席した事業者においては、従前からの慣行により、当該支部会等で値上げの表明をしていたレンゴーなどの大手の段ボールメーカーが東段工管内の他の支部においても段ボール製品の値上げを主導するなどして同様の情報交換がされていることを認識していたとみられる状況にあった旨、段ボール原紙の値上がりを理由としながら、一部の地域のみで段ボール製品の値上げを実施しようとしても、ユーザーから他の地域の動向について引き合いに出されれば値上げの実施に支障が生じ得ることは容易に想定されるところ、段ボール製品の供給について地域ごとの実情があるとしても、いずれも段ボール原紙から日本工業規格に基づき製造される段ボール製品について他の地域の価格動向の影響を受けないというべき事情もみられないことからすれば、大手の段ボールメーカーのみならず、地場の段ボールメーカーにおいても、他の地域の事業者とも足並みをそろえて値上げを実施すべき理由があった旨、これらによれば、本件支部会等に出席した事業者においては、当該会合で10月17日三木会の報告がされていたか否かにかかわらず、当該支部を代表して三木会に出席していた支部長等又は三木会を構成する本部役員会社に所属する営業責任者等の促しにより、10月17日三木会で確認されたところと同程度の値上げ幅で段ボール製品の値上げを実施することを出席各社の間で確認したことをもって、これらの者を介して、10月17日三木会で成立した意思の連絡に参加したものと認められる旨を判断しているが、この本件審決の判断には合理性が認められるというべきである。
ウ そうである以上、第1事件事業者57社のうち、第1事件三木会出席11社及び群馬森紙業を除く45社については、本件支部会等のうち、自社の営業責任者等(ただし、東京コンテナ工業においては、その子会社の晃里の営業担当者)が出席した支部会等において、それぞれ本件シート合意と同内容の合意が成立するとともに、第2事件事業者63社のうち、第2事件三木会出席12社、群馬森紙業及び鎌田段ボール工業を除く49社については、同様に自社の営業責任者等(ただし、東京コンテナ工業については同上)が出席した本件支部会等において、それぞれ本件ケース合意と同内容の合意が成立したところ、上記第2の2(8)及び(9)の各事実によれば、上記45社及び上記49社は、これらの合意が成立した当該会合(ただし、複数の会合に出席している事業者については、このうち最も早く開催された会合)を通じて、10月17日三木会で成立した本件各合意に参加したものと認めることができ(群馬森紙業は、11月14日群馬・栃木支部会を通じて、同様に本件各合意に参加したものと認められ、鎌田段ボール工業は、11月17日三木会を通じて、本件ケース合意に参加したものと認められる。)、また、本件各合意により、段ボール製品の販売価格について、本件各事業者の意思決定等がこれらに制約されることになるところ、実際に、本件各事業者において本件各合意を実行するため、その後に開催された三木会や支部会等において出席各社の間で値上げの進捗状況について情報交換が行われるとともに、個別のユーザーごとに入れ合いとなっている事業者の間で値上げの交渉状況に関する情報交換が行われるなどした結果、本件各事業者ともおおむね段ボール製品の値上げを実現したことに照らしても、本件各合意は、かかる段ボール製品の値上げについて本件各事業者の事業活動を拘束するものであったと認められる旨の本件審決における判断(本件審決案101~102頁)にも合理性が認められる。
(2) 原告らの主張に対する当裁判所の判断について
ア 原告らは、10月19日新潟四木会において、原告森井紙器工業の≪P≫は、値上げするともしないとも、価格に関しては何も述べず、原告サクラパックスの≪Z≫は、値上げの方針は決まっていないと述べ、その他の出席者も値上げの方針を発言した者はいなかったのであり、段ボール製品の値上げについて、参加した事業者の間で何らかの合意(意思の連絡)をしたとの事実は認められないにもかかわらず、本件審決は、原告森井紙器工業の≪P≫や原告サクラパックスの≪Z≫が「値上げに反対の意見を述べなかった」として暗黙のうちに値上げに同意したとして、「値上げをしない」という自社の価格についての情報や方針を他社に開示をしなかったから値上げに同意したと認定することとなっていて許されず、取引先との間で値上げの交渉を開始したのは、原告サクラパックスが平成23年12月以降、原告森井紙器工業が平成24年1月以降であるから、平成23年10月19日に開かれた新潟四木会において本件各合意に参加してそれに基づいて値上げを行ったとみるには、時期的なかい離が大きく、不当な認定である旨主張する(上記第2の4(2)ア)。
しかし、本件審決は、段ボール製品の製造業界における従前の慣行から、10月19日新潟四木会などの本件支部会等の出席各社が具体的な値上げ幅について明言しなくても、大手段ボールメーカーが公表した値上げ幅を指標として値上げを実施することになることについては、地場の段ボールメーカーを含めた出席各社の間で共通認識となっており、このような地場の段ボールメーカーにおいて、特に値上げを実施することについて反対の意向を表明しない限り、競り込みは自粛すべきものとされる慣行の下で、大手の段ボールメーカーにより値上げが実施されることになれば、これに追随して値上げを行うことになることは、同様に出席者の間で共通の認識となっていたと認めた上で、このことを前提に、原告らが他社の値上げに関する情報が得られることを期待して新潟四木会に出席していたものであることや、それ以降も出席していた新潟四木会で他の事業者と共に値上げの進捗状況について報告し合っていただけでなく、入れ合いとなっている事業者の間で開催されていた小部会にも参加して値上げの交渉状況に関して情報交換を行いながら値上げ活動を行っていたことなどと考え合わせれば、原告らには、他の事業者と協調して段ボール製品の値上げを行う意思があったことは明らかである、と認定したものである(本件審決案111頁)。
そして、10月19日新潟四木会において、具体的な値上げ幅について表明しなかった新潟紙器工業の出席者を含め、同会合に出席していた営業責任者やその後の会合に出席していた者の多くが、同会合に出席した各社の間で協調して値上げ活動を行っていく旨の認識を持っていた旨述べていること(査165・13~14頁、査334・16頁、査375・21~23頁、査423・15~18頁、査430・7~8頁、査439・6~7頁)に照らすと、原告らが10月19日新潟四木会において本件各合意に参加してそれに基づいて値上げを行ったとした上で、これに反する原告森井紙器工業の代表者の審尋における供述(審尋調書4頁)を採用しなかった本件審決の判断は、合理的なものと認められる。
イ なお、原告らは、新潟四木会の原告サクラパックスの≪Z≫(査430・6~7頁。なお、市場の状況を見ながら自社の製品の販売価格を検討、決定することは事業者として当然の行動であり、これが値上げを行うことを前提とした発言であるとは認められない。)、同会の新潟紙器工業の≪氏名略≫(査439・6頁。原材料の値上がりという仮定の状況に対する当たり前の一般論を述べただけの発言である。)、同会の吉沢工業の≪氏名略≫(査423・15頁。同上。)、長野5社会の長野森紙業の≪氏名略≫(査368・8頁)、群馬会のレンゴーの≪D8≫(査163・10頁)、同会の晃里の≪L2≫(査421・12頁)、栃木会のレンゴーの≪D9≫(査162・24頁)、同会のセッツカートンの≪K4≫(査331・21頁)の各供述調書から認められる、各地域の支部会等の参加者の多数の発言を見ても、10月17日三木会の後に行われた平成23年10月頃の支部会等においては、段ボール原紙が本当に値上げされるのかどうかもまだ不透明であり、段ボール原紙の値上げが実際にされるのであれば、その段階でそれに応じて各社において段ボール製品の値上げの有無を検討しようとしていた状況でしかなく、各支部会等において段ボール製品の値上げ方針について明確にされたということは全くなかった旨主張する。
しかし、10月17日三木会までに既に主要な原紙メーカーによる段ボール原紙の値上げの表明は出そろっており、いずれ段ボール原紙の値上がりは避けられない状況にあったのであり、これを受けて大手の段ボールメーカーが段ボール製品の値上げの方針を表明していたことなどを踏まえれば、同三木会及び本件支部会等が開催された時点で、段ボール製品の値上げに係る協議ができないというほど段ボール原紙の値上がりの見込みが不透明なものであったということはできない。また、原告らが指摘する供述は本件支部会等の出席各社の一部の者の供述にすぎず、それ以外に、本件支部会等に出席した地場の段ボールメーカーの中には、大手の段ボールメーカーに追随して自社の段ボール製品の値上げを実施する旨明確に表明する者もいた。さらに、新潟紙器の≪氏名略≫及び吉沢工業の≪氏名略≫の各発言は、段ボール原紙の値上げに応じて自社の段ボール製品についても値上げをするという自社の値上げ方針を表明したものであり、原告サクラパックスの≪Z≫の発言も、他の事業者が段ボール製品の値上げを実施する中で、自社のみこれらの値上げを実施することについて反対の意向を表明していたというものではなく、むしろ値上げ幅について日経市況を踏まえて判断する旨述べていることからすると、他の事業者と協調して段ボール製品の値上げを行うことを前提とした発言であったと捉えることも合理的である。以上のように、本件支部会等の時点において、段ボール原紙の値上がりの見込みは段ボール製品の値上げに係る協議ができないというほど不透明ではなかったことや、出席各社による段ボール製品の値上げの方針や意向が示されていたと認められることからすれば、原告らの上記主張は直ちに採用することはできない。
ウ また、原告らは、仮に、10月19日新潟四木会を含む各支部会等において何らかの値上げの合意が形成されたとしても、その合意に参加する事業者の範囲は、当該合意が形成された会合に参加した事業者であると認識するのが普通であるところ、10月17日三木会の合意は10月19日新潟四木会に報告されていないのであるから、10月17日三木会の会議の存在も内容も知らずに10月19日新潟四木会に参加した原告らは、10月17日三木会で形成された合意に参加したとはいえない旨主張する(上記第2の4(2)イ(ア))。
しかし、段ボール製品の製造業界において、①取引拡大のための安値による販売行為は自粛すべきものと認識されていたこと、②段ボール原紙の値上げに伴って段ボール製品の販売価格を引き上げるには、まず、一貫メーカーである大手の段ボールメーカーが値上げを表明し、それ以外の段ボールメーカーはそれを指標として値上げを実施し、各社足並みをそろえて実施する必要があると認識されていたこと、③かねてから三木会や支部の会合等においては、値上げの方針や進捗状況についての情報交換が行われていたこと、などの従前の慣行があり、各支部会等において、自ら三木会に出席していた支部長等や本部役員会社に所属する出席者から、大手の段ボールメーカーの値上げの方針が説明され、その上で、出席各社の値上げ方針が確認されれば、支部会等の出席各社は、大手の段ボールメーカーが東段工管内の他の支部においても段ボール製品の値上げを主導するなどして同様の情報交換がされていることを認識しているとみられる状況にある旨の本件審決の判断は合理的であり、取り分け、原告森井紙器工業は、中日本段ボール工業組合(中段工)に加盟し、かつ、従前から新潟四木会に出席することがあったこと、原告サクラパックスは、かつて東段工に所属し、かつ、定期的に新潟四木会に出席していたことから、原告らは、かかる段ボール製品の製造業界における従前の慣行を十分に認識していたものとうかがわれる。
そのような状況の下で開催された10月19日新潟四木会への出席者は、レンゴーら本部役員会社である大手の段ボールメーカー及びそのグループ会社を含む新潟県内の東段工全組合員5社の営業責任者のほか、レンゴーから同会合への出席を呼び掛けられ、いずれも他社の値上げに関する情報が得られることを期待して出席した原告らを含む非組合員4社の営業責任者であって、10月19日新潟四木会の場において、自ら10月17日三木会に出席していた新潟・長野支部の支部長であるトーモクの≪C2≫が「皆さんと同じ位の幅で値上げします。」などと発言し、本部役員会社であるレンゴーの出席者が、公表していた同社の値上げ方針を改めて発表するなどした上、順次、出席各社の段ボール製品の値上げ方針について確認されたこと(査165・12~13頁、査253・13~14頁)からすれば、原告らを含む10月19日新潟四木会の出席者は、それが東段工管内の東日本地区全域における値上げを実施するために、東段工管内の他の支部と同様に、新潟・長野支部や新潟四木会の出席各社に対して、既にレンゴーが公表した方針に沿った値上げを実施することを働き掛けたものであることや、その前提として、本部役員会社等による三木会を構成する事業者間においても、同様の確認がされているであろうことを、少なくとも概括的に認識していたものと認められる。そして、原告らは、10月19日新潟四木会以降の新潟四木会にも出席することがあったと認められる(査415・8~11頁、査431・11~12頁)ところ、支部長であるトーモクの≪C2≫が、長野5社会における状況と共に新潟・長野支部管内の値上げの実施状況を三木会に報告し、その際に三木会で報告された他の支部管内の値上げの実施状況について、その後の新潟四木会で報告していたこと(本件審決案62頁、査254・18~19頁)からも、10月19日新潟四木会当時、原告らに上記の認識があったことを推認させる。
したがって、10月17日三木会の会議の存在及び内容を知らずに10月19日新潟四木会に参加した原告らにおいても、10月17日三木会で形成された合意に参加したとの本件審決の判断は合理的であるといえる。
エ この点、原告らは、被告が主張する「概括的には認識していた」の具体的な意味が不明である旨、「従前の慣行」から10月19日新潟四木会に出席したのみの原告らが東日本全域において協調した値上げの合意が形成されているとの認識を持ち得るとはいえない旨、原告らが中日本段ボール工業組合に加盟している事実は無関係な事情である旨、原告森井紙器工業の代表取締役である≪P≫が10月19日新潟四木会に出席したのは、被告主張のように他社の値上げに関する情報が得られることを期待したからではなく、一貫メーカーであるレンゴーも出席することから原紙の情報を聞きたいと考えたためであるし、原告らが期待できるという他社の値上げの情報といっても、新潟県内における段ボール製品値上げに関する情報の限りでしかない旨、10月19日新潟四木会における出席者の発言も、同月頃は段ボール原紙の値上げがされるか不透明で、その段階で段ボール原紙の実際の値上げがされた段階で状況に応じて各社で段ボール製品の値上げの有無を検討しようとしていたという状況が明らかにされるのみである旨主張する(上記第2の4(2)イ(ア))。
しかし、上記アで指摘した点に照らして、いずれの原告らの主張も採用することはできない。
オ さらに、原告らは、本件審決が、原告らが10月17日三木会で形成された合意に参加したといえる根拠として挙げる事情(上記第2の4(2)イ(イ))は、以下のとおり、理由とはならない旨主張するが、その点については、以下のとおりである。
(ア) 原告らは、本件審決(本件審決案97頁)では、①「これまで段ボール原紙の値上がりを理由として一部の地域のみで値上げが実施されたことがなかったとみられる」と証拠なく認定し、②「大手メーカーが東段工管内の他の支部においても段ボール製品の値上げを主導するなどして同様の情報交換がされていることを認識していたとみられる状況にあった」ことや「従前からの慣行」を証拠なく認定し、③平成23年12月15日に開催された忘年会の理事長等の挨拶の内容から本件当時行われていた値上げ活動が大手の段ボールメーカーの主導により全体で協調しながら行われていることを理解していたとの判断は、具体性も合理性も欠く上、当該忘年会に原告らは出席していない、④10月19日新潟四木会の時点において、東段工管内の他の支部会等においても、大手の段ボールメーカーが段ボール製品の値上げを主導するなどして同様の情報交換がされているとの認識を有していなかったというべき他の事情も見当たらないとの判断は、むしろ、東日本地区全域で協調して行われている値上げであると認識できるような事情こそ全く見当たらず、新潟県内でしかほとんど事業活動を行っていない原告らについて、段ボール製造業界の「従前の慣行」から東日本地区全域の事業者が本件各合意に参加するとの「概括的認識」を有していたとはいえない旨主張する。
しかし、上記①の点は、これまでに段ボール原紙の値上がりを理由として実施されてきた段ボール製品の値上げが、広く業界を挙げて、すなわち東日本地区全域など広範囲で行われてきたことを証拠(査196・2頁、査280・26頁)から認定することは合理的である。また、上記②の点は、本件審決の認定部分の末尾(上記第2の2(4)(本件審決案54頁))掲記の証拠(査128、査129、査133、査136、査138、査151、査154、査159ないし査162、査164、査166、査195、査196、査202、査203、査208、査248、査251、査252、査254ないし査256、査261、査280、査323、査325、査329、査334、査336、査344、査349、査352、査353、査355、査357、査360、査374ないし査376、査378ないし査380、査385、査389、査396、査397、査404、査405、査408ないし査412、査416、査419、査432、査435、査437、査438、査440、査442ないし444、査446ないし査448、査451、査452、査457、査459、査460、査462、査465ないし査467、査470ないし査476、査497ないし査515、査532ないし査534、査615、査660、査664、査680、査690の1ないし6等。取り分け、査280・27頁、査442・13頁、査462・7頁)から上記の「状況」や「従前からの慣行」を認定することは合理的である。さらに、上記③の点は、原告らが当該挨拶を直接認識したものでなくても、地場の段ボールメーカーが段ボール製品の製造業界、特に東段工管内の「状況」を理解していたことを裏付ける事実として捉えることは合理的である。加えて、上記④の点は、上記②のような状況があったことを覆すような反対の事情がないとの判断であって、その合理性を否定すべきものではない。
(イ) 原告らは、原告ら主張の段ボール製品の市場の特徴から、段ボール製品は、せいぜい工場から50キロメートルから100キロメートル圏内を限界とする程度の範囲でしか販売ができず、その価格は地域によって大きな差が生じており、他の地域の動向を引き合いに出されて価格が影響を受けるという事情はないにもかかわらず、本件審決は、「大手の段ボールメーカーのみならず、地場の段ボールメーカーにおいても、他の地域の事業者とも足並みをそろえて値上げを実施すべき理由があったことは否定できない。」(本件審決案97頁)と、証拠もなく認定している(上記の「引き合いに出」す可能性が新潟県における段ボール製品の販売に関して認められる客観的証拠はないし、仮にあるとしても、「ある支部管内の商圏の外延部や周辺部に所在するユーザー」という特殊な条件を一般化することはできない。)旨主張する。
しかし、上記2(2)アのとおり、本件当時に実施された段ボール製品の値上げは、段ボール原紙の値上げに伴うものであったから、値上げを行うべき理由は地域によって異なるというものではなく、値上げ幅も地域によって大きな特色があるとは考え難いし、段ボール製品の市場(一定の取引分野)は、特定の事業者及び生産拠点ごとに存在する競争関係について重層的に成立し得るもので、供給範囲が限定されることは、事業者が東日本地区全体を対象として値上げを実施することやその認識を持つことを妨げないものといえる。そして、50キロメートル以上の範囲で営業活動が可能な段ボールメーカーやそのような段ボールメーカーが点在する各支部管内の商圏は、他の支部管内に所在する段ボールメーカーの商圏と隣接して一部競合するものであり(査334・3~5頁参照)、ある支部管内の商圏の外延部や周辺部に所在するユーザーが、他の支部管内を主な商圏とする段ボールメーカーの動向を引き合いに出す可能性は十分にあり得る(査396・13頁のほか、査158・12頁、査198・17頁、査202・20頁、査280・22~23頁、査367・22頁、査403・7頁参照)のであるから、各事業者においては、支部の管轄地域にかかわらず足並みをそろえて値上げを行うことが必要であると認識していたものと認める旨の本件審決の判断の合理性を否定することはできない。
(ウ) また、原告らは、本件審決(本件審決案97~98頁)は、「支部会等に出席していた地場の段ボールメーカーの営業責任者等においても、段ボール製品の値上げは当該支部のみならず、東段工の各支部が足並みをそろえながら進めていく必要がある旨供述している者や、本件当時も当該支部会等のみならず、他の支部においても段ボール製品の値上げについて同様の情報交換が行われていることを認識していたことを示す供述をしている者が相当数いること」を理由に挙げているが、これらの者は、大手の段ボールメーカー又はそのグループ会社の者及び新潟四木会以外の支部会等に出席した者しかなく、原告らとは無関係であり、新潟四木会に出席したのみの原告らについて、他の地域においてそれぞれ支部会等を通じて同じ内容の値上げの話合いが行われていると認識していたと認められる証拠はなく、原告らが新潟県外の東日本地域全域の段ボールメーカーと協調して値上げを行うなどという認識は持ちようがないことに変わりはない旨主張する。
しかし、上記のような者が相当数いたことからすれば、これらの者と同様に段ボールシート及び段ボールケースの製造等をしており、従前からの慣行についても十分に理解していたであろう原告らについても、他の支部会等における情報交換について同様の認識があったことを推認することは合理的である。
(エ) さらに、原告らは、本件審決(本件審決案106頁)は、「本件各違反行為は…東段工全体で値上げを実施するため組織的に行われたものである…から、三木会で値上げの合意が成立したこと自体が伝達されていない支部会等があったとしても、…協調関係の成立が否定されるものではない。」などと述べるが、「組織的に行われた」ことを裏付ける具体的な事実は全く指摘しておらず、10月17日三木会の会議の内容が六つもの支部会等で一切報告されなかったという重大な不整合を覆せる根拠になっていない旨主張する。
しかし、本件各合意の形成が組織的に行われたことは、東段工という組織内の三木会や各支部会等の場を利用し、本部役員会社や組合員を中心として、東日本地区の全域においてされ、三木会において各支部の管内における値上げ実施状況の把握と値上げ活動の促進が図られるなど、値上げの実現に向けての活動が広範囲かつ継続的に行われていたことから認定することは合理的である(本件審決案93頁)。
(オ) 加えて、原告らは、本件審決は、「本件支部会等においても…出席各社の間で、段ボール製品の値上げに関する情報交換が行われたものと認められ」(本件審決案110頁)、原告らは「他社の値上げに関する情報が得られることを期待して10月19日新潟四木会に出席していたものである」(本件審決案111頁)などと述べて、「三木会と各支部の会合における情報交換がそれぞれ無関係に行われたという反論は当を得ない」(本件審決案116頁)とするが、これらの事実はいずれも、10月19日新潟四木会で当該会合に参加した事業者の間で協調して値上げを行う合意が形成されたとの疑いを推認させ得る事情でしかない旨主張する。
しかし、本件において、10月17日三木会における本件各合意の成立を前提とせずに、10月19日新潟四木会のみで出席事業者の間で協調して値上げを行う合意が形成されたという事態を想定することはできないのであって、上記の事実により、10月17日三木会とその後の本件各支部会等における意思の連絡は、東段工管内全体での値上げを実施するために、大手の段ボールメーカーの主導により、組織的に一連のものとして行われたものと推認することは合理的である。
カ 本件審決(追記部分・4頁)は、「従前の慣行」等から、大手メーカーが「各支部会等において10月17日三木会で協議した内容と同様の値上げの意向を表明すれば、…他の地場の段ボールメーカーもこれに追随して値上げの実施に向かうことは」10月17日三木会の出席者らにとって「容易に予測される状況にあった」(追随予測状況)と認定するところ、原告らは、この追随予測状況について以下のとおり主張する(上記第2の4(2)イ(イ))が、これらの主張は、以下の理由により採用できない。
(ア) 原告らは、追随予測状況の認定は、本件審判手続において、10月17日三木会の会議の内容が六つの支部会等に伝達されていなかったことが明らかとなり、各支部会等に伝達されていたとの被告の主張の前提が失われたにもかかわらず、本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令を維持するためにひねり出された理屈であり、本件審決に至る審理において、誰からも主張されず攻撃防御が行われておらず、新たな事実を突如認定したものであって、許されない不意打ちの認定であった旨主張する。
しかし、本件審決(追記部分)における追随予測状況に関する説示は、本件審判手続における被審人らがした10月17日三木会における協議の内容は支部会等に伝達されることが予定されていなかった旨の主張(本件審決3頁)に対する応答(同4頁)としてされたものであり、また、上記第2の2(9)ア及びイ(本件審決案90~93頁)において認定された本件支部会等の出席各社による「意思の連絡」への参加に関する事実関係を基礎に、これを評価的に説示したものにすぎないのであるから、不意打ちとはいえない。
(イ) 原告らは、追随予測状況の認定は、10月17日三木会の内容が六つもの支部会等に伝達されていないことと矛盾する旨主張する。
しかし、上記ウで説示したところと同様、本件支部会等のうち、10月17日三木会の協議の内容が伝達されていない支部会等が存在したとしても、地場の段ボールメーカーを含めた本件各合意の成立が認められるとの判断は合理的なのであって、これらのことは客観的事実として矛盾しているものとはいえない。
(ウ) 原告らは、「意思の連絡」には、自分が共通の認識に従って行動すれば他社もこれに従って行動することを互いに期待し合う関係が成立していることが不可欠であるところ、追随予測状況の認定は、原告らの認識とは一切関係がなく、原告らが「意思の連絡」に参加したことの根拠となるものではない旨主張する。
しかし、本件審決(追記部分・4頁)における追随予測状況に関する説示は、本件支部会等の出席各社が、三木会の出席各社間のみならず東段工管内の他の支部会等においても段ボール製品の値上げの実施が確認されるであろうとの概括的認識を基礎付ける事実の一つとして位置づけられるのであり、本件支部会等の出席各社に含まれる原告らの認識と一切関係がないとはいえないとの判断の合理性を否定することはできない。
(エ) 原告らは、各支部会等に出席した地場の段ボールメーカーがその後の会合や小部会で競争的に振る舞おうとしなかったとの事実があったとしても、追随予測状況の事実認定には結び付かない旨主張する。
しかし、競争的に振る舞おうとした地場の段ボールメーカーがいなかったことは、10月17日三木会の時点で予測された、地場の段ボールメーカーの追随に符合する事実経過であるから、追随予測状況を裏付けるものと判断することは合理的である。
(オ) 原告らは、「従前の慣行」とは、①競り込みは自粛すべきものとの認識、②段ボール製品の製造原価に占める段ボール原紙の製造原価又は仕入原価の割合の高さ、③三木会及び支部会の会合等における情報交換が行われていたことを指すと思われるところ、上記①については、事業を行う地理的範囲を同じくする、せいぜい同一県内の同じ支部会等に属する段ボールメーカーの間における問題でしかなく、大手段ボールメーカーにおいて、東日本地域全域における地場の段ボールメーカーの全てについて追随予測状況にあったことにはつながらない旨、上記②については、追随予測状況の認定には結び付かない旨、上記③については、三木会に出席することのない地場の段ボールメーカーにとっては、各支部会等や小部会の出席各社の間での情報交換を行うという程度の認識しか持ち得ず、追随予測状況の事実認定には結び付かないし、東段工に加盟していない原告らにおいては、三木会及び支部会等での情報交換についての認識はないからなおさらである旨主張し、いずれにしても、原告らが参加した10月19日新潟四木会では、10月17日三木会の会議内容は全く報告されなかったのであり、そのような原告らについて、他の支部会等でも「同じ内容」の値上げの話合いが行われたとか、追随予測状況にあったなどという被告が主張する事情は、原告らの認識とは何ら関係がなく、原告らが本件各合意に参加したとの認定が導かれることはない旨主張する。
しかし、上記①の点については、上記第2の2(4)(本件審決案54頁)の末尾掲記の証拠(上記オ(ア)参照)から、競り込みを自粛すべきことが広く段ボール製品の製造業界(少なくとも東日本地区全域)において共通の認識とされていた従前からの慣行であることが認められるのは合理的であり、現に入れ合いとなっている段ボールメーカー間のみで個々に認識されていたものではないから、競り込み自粛の慣行は、段ボール製品の値上げの実施時期には東日本地区全域における追随予測状況の根拠たり得るものであるとの判断は合理的である。また、上記②の点については、段ボール原紙の値上がりに伴い段ボール製品の販売価格を引き上げるに当たっては、かねてから、まずは一貫メーカーが段ボール製品の値上げ幅を表明し、それ以外の段ボールメーカーは、これらの値上げ幅を指標として自社の段ボール製品の値上げを実施していたこと、また自社の段ボール製品のみで値上げを実施するのは困難であるため、各社が足並みをそろえて値上げを実施することが必要であると認識されていたこと(上記第2の2(4)(本件審決案53頁))も考慮すると、追随予測状況の根拠たり得るものであるとの判断は合理的である。さらに、上記③の点については、上記①の点と同様、従前からの慣行として三木会や支部の会合等が段ボール製品の値上げの方針や進捗状況の情報交換の場として利用されていたことは、東日本地区全域の各地域において相互に共通の認識となっており、従前から三木会及び支部の会合等が値上げの情報交換の場として利用されていたことが東日本地区全域における追随予測状況の根拠たり得るものであるとの判断は合理的である。そして、原告らは、本件各合意への参加当時は東段工の組合員ではなかったものの、原告サクラパックスはかつて東段工の組合員であり、原告森井紙器工業は東段工と同じ全段連の地区組織である中日本段ボール工業組合の組合員であったのであるから、いずれも三木会や支部会等で行われていた従前からの情報交換の内容を認識していたと推認することは合理的である。
キ 原告らは、上記カ柱書部分で引用した本件審決のうち、「10月17日三木会で協議した内容と同様の値上げの意向」について、以下のとおりである旨主張するが、これらの主張が採用できないことは、以下のとおりである。
(ア) 原告らは、本件審決において、上記「内容」が具体的にどのような内容であるのか全く明らかにされていない旨主張する。
しかし、上記「内容」とは、例えばレンゴーが「段ボールシートの販売価格を現行価格から1平方メートル当たり8円以上、段ボールケースの販売価格を現行価格から13パーセント以上」それぞれ引き上げると公表し、10月17日三木会において協議された値上げの内容、すなわち「段ボールシートの販売価格を現行価格から1平方メートル当たり7円ないし8円以上、段ボールケースの販売価格を現行価格から12パーセントないし13パーセント以上引き上げる」(上記第2の2(7)(本件審決案90頁)という値上げの内容であることは合理的に理解できる。
(イ) 原告らは、被告の主張によれば、上記「内容」について、値上げの時期は決まっていないとのことであるが、価格カルテルにおける「意思の連絡」は、「相手が価格を引き上げるならば自分も価格を引き上げる」ことをそれぞれ認識し、その認識を相手も認識していることが必要であるから、値上げの実施時期が全く決められていないのに「意思の連絡」が成立したとするのには相当の無理がある旨主張する。
これに対し、被告は、上記「内容」は、値上げ幅に関するものであって、ここに具体的な値上げの実施の時期は包含されておらず、各事業者の実情に応じて可及的速やかにこれが実施されればよいのであり、実際の各事業者における値上げ交渉の開始や値上げの完了までには相当程度の時期的なかい離があることが想定されており、そうであるからこそ、別紙11のとおり、平成23年11月以降開催された三木会において、出席各社の間で、自社の値上げの進捗状況も相互に報告され(上記第2の2(10)(本件審決案84頁))、各支部会等においても、出席各社の間で、値上げの進捗状況について相互に報告がされていたほか、値上げ交渉が難航していたユーザーについては、入れ合いとなっている事業者の間で小部会が開催されるなど、これらの交渉の状況に関する情報交換が行われ、本件各合意の実行確保が図られていたともいえる旨主張するところ、かかる主張は合理的である。
(ウ) 原告らは、10月19日新潟四木会に参加しただけの原告らにおいては、せいぜい認定し得る可能性があるのは、同会合の参加者間における協調しての値上げの話合いの限りであり、値上げの合意に参加する事業者の範囲も、商品の地理的範囲も、その認識には上記「内容」とはそごがある旨主張する。
しかし、上記カの判示に照らし、各「内容」の間にそごがあるとは認められない。
(エ) 原告らは、10月17日三木会で協議された内容のうち、値上げの対象とする商品に関しては、その後の10月31日5社会において、特定ユーザー向けに販売される段ボールケースが事実上値上げの対象から外されたことからすると、値上げの時期が不明で、参加事業者の範囲も値上げの対象とする商品を販売する地理的範囲も取引先の範囲も一致しない合意によって、「複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる」ことなどできず、「意思の連絡」が成立したとはいえない旨主張する。
しかし、特定ユーザー向け段ボールケースが関連事件合意により本件ケース合意による拘束の対象から除外されたことの意味合いは、上記2(2)エのとおりであり、原告らの上記主張は採用することができない。
ク 原告らは、本件審決(追記部分・4頁)は、本件支部会等において、10月17日三木会で確認されたところと「同内容の値上げ」の実施を確認したとして、本件支部会等の出席者も10月17日三木会で成立した意思の連絡に参加したと認めるのが相当であるとして、以下のとおりである旨主張するが、それらの点については、上記イ及びキのとおりであり、いずれも採用することはできない。
(ア) 本件審決において「同内容の値上げ」の具体的内容は明らかになっていない旨の主張
(イ) いつから、どの需要者に対して(特定ユーザーを含むか否か等)、どのような地理的範囲で(東日本地域全域か否か等)値上げを行うかという対象とする市場の認識が事業者間で全く一致していないのであるから、「同内容」とはいえない旨、上記地理的範囲の点について、本件審決は、10月19日新潟四木会の原告らの「各出席者は、かねてから新潟四木会が東段工の組合員の集まりであることを認識したうえでこれらの会合に出席していた」などとするが、10月19日新潟四木会に現に集まったのは新潟県内で事業活動を行う段ボールメーカーの者しかいなかったのであるから、新潟の段ボールメーカーとして声を掛けられ、新潟の事業者間での話合いとしか考えないのが普通であって、東段工としての意思決定に基づき東段工の管内全体でされているのと同じ内容の話がされていると想像する者はいない旨の主張
(ウ) 本件各支部等の出席者からの値上げの方針を明確にしていない発言が多くされているとおり、平成23年10月頃の支部会等においては、段ボール原紙の値上げの有無は不透明であり、実際に値上げがされたら各社において段ボール製品の値上げを検討しようという状況でしかなかったのであり、「同内容の値上げ」の話合いがされたものではない旨の主張
4 争点(1)ウ(一定の取引分野の認定)について
(1) 本件審決の判断(本件審決案125~127頁)について
ア 独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野」とは、当該共同行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲をいうものであり、その成立する範囲は、当該共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して定まるものと解するのが相当である(東京高等裁判所平成5年12月14日判決〔卜ッパン・ムーア株式会社ほか3名に対する独占禁止法違反被告事件〕、東京高等裁判所平成20年4月4日判決〔株式会社サカタのタネほか14名による各審決取消請求事件〕参照)。
イ そして、実質的証拠があると認められる本件審決が認定した各事実(上記2の2)によると、東段工は、全段連を構成する4団体の一つとして、その管轄地域である東日本地区においてコルゲータを有する段ボールメーカーで構成される団体であり、三木会は、こうした東段工の理事の下に置かれた組織として、主に東日本地区の全域又は広域において営業活動を行っている大手の段ボールメーカーからなる本部役員会社の営業統括者等及び管内の各支部を代表する支部長によって構成されていたこと、そうすると、本件における共同行為は、こうした本部役員会社を占める大手の段ボールメーカーが東段工管内の地場の段ボールメーカーとも協調しながら同管内全体で段ボール製品の値上げを実現するため、その主導により、東段工の組織である三木会及び支部会等を利用して行われたものと合理的に認められる。
これらによると、本件各合意における情報交換の対象となった段ボール製品の値上げについて、その地理的な範囲に東段工の管轄地域である東日本地区が含まれるといえるところ、これらの値上げ交渉が需要者の交渉担当部署との間で行われることを踏まえ、需要者の交渉担当部署の所在地を基準として、その範囲を画定すると、交渉担当部署が東日本地区に所在する需要者に対し、当該交渉担当部署との間で取り決めた取引条件に基づき販売される段ボール製品(日本工業規格に該当する段ボールシート又はこれを加工した段ボールケース)は、少なくとも本件各合意の対象に含まれるものであったと認められる。また、これらの事情に照らすと、本件各合意により影響を受ける範囲も同様と解するのが相当である。
以上によれば、本件シート合意に係る一定の取引分野は、地理的範囲を東日本地区とする特定段ボールシートの販売分野であり、本件ケース合意に係る一定の取引分野は、地理的範囲を東日本地区とする特定段ボールケースの販売分野であると認めるのが相当である。
(2) 原告らの主張に対する当裁判所の判断について
ア 原告らは、原告ら主張の段ボール製品の市場の特徴から、ユーザーが段ボール製品を調達できる範囲は、当該ユーザーの工場や営業所等が所在する都道府県内又はその近郊に工場が所在する事業者に限られ、地場の段ボールメーカーも全国的に工場を持つ大手段ボールメーカーも、各工場からせいぜい100キロメートル程度の限られた範囲内において地域ごとでの競争が行われているので、客観的にその範囲内においてしか市場は成立し得ず、「一定の取引分野」とは、競争が行われる場であり、商圏が異なり競争関係にない事業者同士の間にまたがった地理的範囲で成立することはないから、東日本地区の全域が一定の取引分野となることはない旨主張する(上記第2の4(3)ア)。
しかし、原告らのように本件支部会等のみに出席した事業者においても、10月19日新潟四木会に出席した際に、三木会や他の支部会等において同様の値上げの協議が行われていたと認識し、本件各合意に参加する事業者の範囲が東段工管内の東日本地区全域における相当数の段ボールメーカーであると認識していたものと認められ、これら事業者による段ボール製品の値上げ交渉が需要者の交渉担当部署との間で行われることを踏まえれば、これら事業者による値上げの情報交換の対象となった段ボール製品も、交渉担当部署が東日本地区に所在する需要者向けの特定段ボールシート及び特定段ボールケース(別紙3)であることが認められる。このような情報交換を通じて、本件各事業者が本件各合意においてその対象とした取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討すれば、本件各合意における一定の取引分野の地理的範囲は、上記の意味での東日本地区の全域であるとの判断は合理的である。
イ 原告らは、一定の取引分野が重層的に成立するといわれているのは、単に一定の取引分野は一つしか成立し得ないものではなく、競争が行われている範囲内において、複数の一定の取引分野(競争が行われる場)が成立し得るとされているものであり、一定の取引分野が複数の地域で存在しているときに、それぞれの地域を超えては競争関係が存在しないにもかかわらず、それらとひとくくりにした全体の一定の取引分野が成立し得るということではなく、段ボール製品については、上記のとおり、東日本地域全域という地理的範囲で競争が行われることはなく、東日本地区全域などという一定の取引分野が成立することはない旨主張する(上記第2の4(3)ア)。
しかし、上記2(2)アのとおり、段ボール製品の市場は、特定の事業者及び生産拠点ごとに存在する競争関係について重層的に成立し得るところ、そのように複数の競争が行われる場が地域をずらして成立していくことで、互いの取引地域が重複しない事業者間でも間接的に競争が行われるのと同様の状況となり、結果としては全体について競争関係を生じ、全体として一定の取引分野が成立し得るものといえる。
ウ 原告らは、10月31日5社会による合意によって特定ユーザーが事実上外れたとの事実認定から、一定の取引分野が確定できなくなった旨主張する(上記第2の4(3)イ)。
しかし、特定ユーザー向け段ボールケースが関連事件合意により本件ケース合意による拘束の対象から除外されたことの意味合いは、上記2(2)エのとおりであり、10月31日5社会による合意によって、特定ユーザー向け段ボールケースの値上げは、本件ケース合意に基づいて実施される必要はなくなったものの、これは、本件ケース合意の対象範囲やこれにより競争が実質的に制限される一定の取引分野に変容を来すものではなく、本件ケース合意の対象が明確になっていなかったものとはいえない。
(3) 以上のとおりであるから、争点(1)アないしウに関して本件審決が認定した事実には、いずれも実質的な証拠があると認められる。
4 本件審決の独占禁止法における解釈の違法の有無
(1) 争点(2)ア(「共同して」の解釈)について
原告らは、独占禁止法2条6号の「共同して」に該当するためには、意思の連絡が必要であるところ、本件審決は、意思の連絡があるというためには、各事業者において、意思の連絡が成立する事業者の範囲を具体的かつ明確に認識していることまでは不要であるとしているが、意思の連絡は、その意思の連絡を通じて共通の認識に従って行動する相手方がどの範囲の事業者(どの地域でどのような需要者に事業活動を行う事業者)であるのかを相互に認識していることが当然の前提とされており、合意に参加した事業者の範囲が分からなければ、「他の事業者との間で相互に対価の引き上げを実施することを認識しながらこれと歩調をそろえる」ことは不可能であり、不当な取引制限の成立要件である相互拘束の要件を実質的に無意味化してしまうことになるので、独占禁止法2条6号の解釈として誤りである旨主張する(上記第2の4(4))。
しかし、複数の事業者が対価を引き上げる行為が独占禁止法3条により禁止されている「不当な取引制限」(同法2条6項)にいう「共同して」に該当するというためには、当該行為について、相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要であると解されるところ、ここにいう「意思の連絡」とは、複数の事業者の間で相互に同程度の対価の引上げを実施することを認識し、これと歩調をそろえる意思があることを意味し、一方の対価引上げを他方が単に認識して認容するのみでは足りないものの、事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、相互に他の事業者の対価の引上げを認識して、暗黙のうちに認容することで足りると解するのが相当である(東芝ケミカル株式会社による審決取消請求事件判決)。
そして、このような意思の連絡が存在するというためには、事業者において、他の事業者との間で相互に対価の引上げを実施することを認識しながらこれと歩調をそろえる意思が存在すれば、一部の事業者又は第三者を介するなどして意思の連絡が複数の事業者の間で成立し、又は後日他の事業者がこれに参加し得るところ、当該協調行為が一体として行われたと評価できる限度においては、こうした意思の連絡の性質上、各事業者において、どの範囲の事業者の間で意思の連絡が成立するかについて、その範囲を具体的かつ明確に認識することまでは要しないと解される。
よって、本件審決の独占禁止法2条6号にいう「共同して」の解釈に誤りはなく、原告らの上記主張は採用することができない。
(2) 争点(2)イ(「一定の取引分野」の解釈)について
原告らは、独占禁止法2条6号の「一定の取引分野」について、多摩談合新井組最高裁判決は、違反者が合意の対象とした範囲をもって「一定の取引分野」とする市場を画定する手法は、論理が逆であり誤りであると指摘しているが、本件審決は、供給者がいかなる共通の目標となる需要者の獲得を目指していかなる事業活動を行い、当該供給者群及び需要者群の間においていかにして価格の変化を通じた需給調整がされているかといった客観的事情を一切検証することなく、違反行為者が合意の対象とした範囲が一定の取引分野として画定されるとしており、上記最高裁判決に違反する解釈をしている旨主張する(上記第2の4(5))。
しかし、多摩談合新井組最高裁判決が、一定の取引分野の確定に係る手法について判示していないことは、本件審決(追記部分・5頁)が説示しているとおりである。そして、独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野」とは、共同行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲をいうものであり、その成立する範囲は、当該共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して定まるものと解するのが相当であり(東京高等裁判所平成5年12月14日判決〔トッパン・ムーア株式会社ほか3名に対する独占禁止法違反被告事件〕、東京高等裁判所平成20年4月4日判決〔株式会社サカタのタネほか14名による各審決取消請求事件〕参照)、かかる画定方法が多摩談合新井組最高裁判決によって否定されているとはいえない。
よって、本件審決の独占禁止法2条6号にいう「一定の取引分野」の解釈に誤りはなく、原告らの上記主張は採用することができない。
(3) 争点(3)(不公正な手続)について
原告らは、本件訴訟においては、審判官として審判手続の審理を行い、本件審決案を作成して署名した≪氏名略≫が被告指定代理人となっていたところ、審判手続の後に当該審判の是非をめぐって被告指定代理人として原告ら(審判手続中は被審人ら)と対立する立場に立つ者(立ち得る者)が、審判手続において公正な審理を進め、公正な審決案を作成することはおよそ期待し得ず、被告内部において審査官側に偏った不公正な手続によって進められ、初めから、原告らの違反行為を認め、原告らの主張は排斥しようとの結論ありきの審理、審決がされたといわざるを得ない旨、特に、上記≪氏名略≫は、被審人らに対する審尋手続において、審判官たる立場からの補充尋問の手続で、審査官よりも苛烈に、実質的な反対尋問といわざるを得ない質問を厳しい口調で多数行っており、実態としても審査官に肩入れをした不公正な審理を行ったし、反対尋問とは規律も違う補充尋問の手続にて実質的な反対尋問が行われたことは、手続としての不当性も極めて重大である旨、以上のように不当で偏った審理が進められ、不当で偏った審決がされたのであり、本件審決は、不公正な審判手続によって不公正な審決がされた旨主張する(上記第2の4(6))。
しかし、被告において審判官の任にあった者が、その審決案の作成に関わった審決の取消訴訟において、被告の指定代理人となることに何ら法令上の制限はないところ、人事異動の結果、後に指定代理人の任に当たったとしても、遡って、審判手続時において同審判官が審査官に偏った不公正な手続を進めたこととなるものではないし、このことは、同審判官の審判手続における審理態度について原告らが上記のように感じたことがあったとしても、同様である。
よって、本件審決案に係る審判手続が不公正なものとなるものではなく、原告らの上記主張は採用することができない。
第4 結論
以上によれば、本件審決がその基礎として認定した事実にはいずれも実質的証拠があると認められ、また、本件審決が採用した解釈が独占禁止法に違反するものとも認められないので、本件審決に取消事由は認められない。
よって、本件審決の取消しを求める原告らの請求はいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

令和5年6月16日

東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官  木 納 敏 和
裁判官     和久田 道 雄
裁判官     真 辺 朋 子
裁判官     森     剛
裁判官     上 原 卓 也

別紙指定代理人目録
西川康一、榎本勤也、堤優子、齋藤みずえ、坂本智之、岩丸華子、小室尚彦
以上

















































注釈 《 》部分は、公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

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