文字サイズの変更
背景色の変更
独禁法3条後段、独禁法7条の2
東京高等裁判所
令和3年(行ケ)第10号
令和5年6月16日
埼玉県草加市栄町一丁目1番6号
原 告 福野段ボール工業株式会社
同代表者代表取締役 《 氏名略 》
同訴訟代理人弁護士 吉 岡 桂 輔
同 吉 岡 真 帆
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被 告 公正取引委員会
同代表者委員長 古 谷 一 之
同指定代理人 別紙指定代理人目録記載のとおり
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が、原告に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)附則第2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に基づいて、公正取引委員会平成26年(判)第3号ないし第138号排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について、令和3年2月8日付けでした審決(以下「本件審決」という。)のうち主文第3項の原告に対する部分を取り消す。
第2 事案の概要(略語については、以下に定めるもののほか、別紙3用語一覧表による。なお、別紙2、4、6及び7は欠番である。)
1 事案の骨子
(1) 本件は、後記(2)から(4)までのとおり、被告において段ボール製品の製造業者による特定段ボールシートの販売に係る不当な取引制限(以下「第1事件」という。)及び特定段ボールケースの販売に係る不当な取引制限(以下「第2事件」という。)があったとして行った各排除措置命令及び各課徴金納付命令について、原告が他の事業者と共に、これらの命令を不服として取消しを求めて審判請求をした(原告に関しては第1事件につき平成26年(判)第21号及び第53号。第2事件につき同年(判)第94号及び第131号)ところ、被告がこれら審判請求に対して行った本件審決に対し、原告が、原告の審判請求を棄却する部分の取消しを求める事案である。
(2) 第1事件に係る排除措置命令及び課徴金納付命令
被告は、別紙1の番号1ないし32記載(別紙5の番号1ないし3、5、6、8、10、12ないし24、27、28、31、33、36、38、39、42、45、47、51及び54記載)の事業者32社(以下「第1事件32社」という。別紙5の番号10の原告を含む。)につき、別紙5の番号4、7、9、11、25、26、29、30、32、34、35、37、40、41、43、44、46、48ないし50、52、53及び55ないし57記載の事業者25社(以下、この25社と第1事件32社を併せて「第1事件事業者57社」という。)と共同して、特定段ボールシートの販売価格を引き上げる旨合意することにより(この合意を、以下「本件シート合意」という。)、公共の利益に反して、特定段ボールシートの販売分野における競争を実質的に制限していたものであって、この行為は、独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、同法3条に違反するものであり、かつ、特に排除措置を命ずる必要があるとして、平成26年6月19日、第1事件事業者57社のうち、別紙5の「商業の変更等」欄記載のとおり吸収合併により消滅した番号9及び25記載の2社を除く55社(原告を含む。)に対し、排除措置命令を命じたほか(平成26年(措)第11号。以下「第1事件排除措置命令」といい、同命令において認定された違反行為を「第1事件違反行為」という。)、第1事件違反行為は、同法7条の2第1項1号に規定する商品の対価に係るものであるとして、同日、上記55社のうち、別紙5の番号11、35、39、49、51、52及び56記載の7社を除く48社(原告を含む。)に対し、それぞれ課徴金の納付を命じた(このうち、原告に対して納付を命じた課徴金の額は1078万円、課徴金納付命令の事件番号は平成26年(納)第140号である。以下、当該課徴金納付命令を「第1事件課徴金納付命令」という。)。
被告は、第1事件排除措置命令及び第1事件課徴金納付命令に係る命令書の謄本を、平成26年6月20日、原告に送達した。
原告は、同年8月14日、第1事件排除措置命令及び第1事件課徴金納付命令の全部の取消しを求める審判請求をした。
なお、原告を含む第1事件32社は、第1事件排除措置命令(及び課徴金納付命令が命じられた者はこれに加えて当該課徴金納付命令)の全部の取消しを求める審判請求をした。
(3) 第2事件に係る排除措置命令及び課徴金納付命令
被告は、別紙1記載(別紙5の番号1ないし3、5、6、8、10、12ないし24、27、28、31、33、36、38、39、42、45、47、51、54及び58ないし62記載)の事業者37社(以下「第2事件37社」という。別紙5の番号10の原告を含む。)につき、別紙5の番号4、7、9、11、25、26、29、30、32、34、35、37、40、41、43、44、46、48ないし50、52、53、55ないし57及び63記載の事業者26社(以下、この26社と第2事件37社を併せて「第2事件事業者63社」という。また、第1事件事業者57社と第2事件事業者63社を一括して「本件各事業者」という。)と共同して、特定段ボールケースの販売価格を引き上げる旨合意することにより(この合意を、以下「本件ケース合意」といい、本件シート合意と併せて「本件各合意」という。)、公共の利益に反して、特定段ボールケースの販売分野における競争を実質的に制限していたものであって、この行為は、独占禁止法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、同法3条に違反するものであり、かつ、特に排除措置を命ずる必要があるとして、平成26年6月19日、第2事件事業者63社のうち、上記(2)のとおり吸収合併により消滅した2社を除く61社(原告を含む。)に対し、排除措置命令を命じたほか(平成26年(措)第12号。以下「第2事件排除措置命令」といい、同命令において認定された違反行為を「第2事件違反行為」という。また、第1事件違反行為と第2事件違反行為を一括して「本件各違反行為」という。)、第2事件違反行為は、同法7条の2第1項1号に規定する商品の対価に係るものであるとして、同日、上記61社のうち、別紙5の番号57記載の1社を除く60社(原告を含む。)に対し、それぞれ課徴金の納付を命じた(このうち、原告に対して納付を命じた課徴金の額は1479万円、課徴金納付命令の事件番号は平成26年(納)第206号である。以下、当該課徴金納付命令を「第2事件課徴金納付命令」といい、第1事件課徴金納付命令と一括して「本件各課徴金納付命令」という。)。
被告は、第2事件排除措置命令及び第2事件課徴金納付命令に係る命令書の謄本を、平成26年6月20日、原告に送達した。
原告は、同年8月14日、第2事件排除措置命令及び第2事件課徴金納付命令の全部の取消しを求める審判請求をした。
なお、原告を含む第2事件37社は、第2事件排除措置命令(及び課徴金納付命令が命じられた者はこれに加えて当該課徴金納付命令)の全部の取消しを求める審判請求をした。
(4) 本件審決
被告は、原告を含む第1事件32社及び第2事件37社を被審人らとする各審判請求(以下、併せて「本件各審判請求」という。)に係る審判手続を併合して審理した上(以下、この併合された審判手続を「本件審判手続」という。)、令和2年8月21日付け審決案(以下「本件審決案」という。)を踏まえて、令和3年2月8日、上記被審人らのうちの一部の者(原告を含む。)に対する命令の一部を取り消したものの、その余の被審人らの審判請求を棄却する旨の本件審決(平成26年(判)第3号ないし138号)を行った(なお、本判決別紙における「被審人」との表記は、本件審決案及び本件審決における立場を意味するのであって、本判決においては、同表記は削除されたものとして扱う。また、同別紙における「福野段ボール工業」又は「福野段ボール工業株式会社」は原告のことである。)。
被告は、本件審決に係る審決書の謄本を、令和3年2月9日、原告に送達した。
原告は、同年3月10日、本件訴訟を提起した。
(5) 平成26年(判)第139号ないし142号審判事件(以下「関連事件」という。)
被告は、本件各事業者のうち5社による特定ユーザー向け段ボールケースの販売に係る不当な取引制限があったとして、うち3社に対して排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。同3社のうちレンゴー株式会社(以下「レンゴー」という。)及び株式会社トーモク(以下「トーモク」という。)がこれらの命令を不服として取消しを求める審判請求をしていたところ、当初、これらの審判請求は、本件審判手続と併合して審判手続がなされていたが、その後、本件審判手続から分離され、被告は、令和3年2月8日、これら審判請求に対しても審決(以下「関連審決」という。)を行った。
2 本件審決が認定した事実等
(1) 当事者
原告は、埼玉県草加市に本店を置く段ボールシート及び段ボールケースの製造等をする株式会社である。
(2) 本件各事業者の概要(本件審決案6~9頁)
ア 原告を含む本件各事業者(以下、本件各事業者の名称については、別紙5の「略称」欄記載の各略称(ただし、「被審人」との表記は削除する。)を用いる。)は、いずれもコルゲータ(段ボール製造機)を有する段ボール製造業者であり、段ボール原紙を加工して段ボールシートを製造するとともに、段ボールシートを加工して段ボールケースを製造する事業を営む者である(このうち、第1事件事業者57社は、自社加工用の段ボールシートのほか、他の需要者向けの段ボールシートを製造している者である。)。本件各事業者の東日本地区における段ボール製品(段ボールシートと段ボールケースの両方又はいずれかを指す。以下同じ。)の工場等(製造拠点)は、それぞれ別紙5の「製造拠点」欄記載の都道府県に所在していた。(査1ないし査63)
イ 本件各事業者のうち、グループ関係にある事業者は、次のとおりである。
(ア) レンゴーは、セッツカートン、大和紙器、マタイ紙工、アサヒ紙工、イハラ紙器及び甲府大一実業の親会社である(以下、レンゴーが形成する企業グループを「レンゴーグループ」という。)。(査1、査6、査8、査12ないし査15)
(イ) 王子コンテナー、森紙業、ムサシ王子コンテナー及び関東パックは、いずれも王子ホールディングス株式会社(平成24年10月1日の純粋持株会社への移行に伴う商号変更前の商号は「王子製紙株式会社」。以下、商号変更の前後を通じ「王子ホールディングス」ということがある。)の子会社である(以下、王子ホールディングスが形成する企業グループを「王子グループ」という。)。静岡王子コンテナーは、王子ホールディングスの子会社であったが、同日、王子コンテナーに吸収合併された(これに伴い王子コンテナーは、「王子チヨダコンテナー株式会社」から現商号に商号を変更した)。
また、常陸森紙業、長野森紙業、群馬森紙業、新潟森紙業、仙台森紙業、静岡森紙業及び北海道森紙業は、いずれも森紙業の子会社である。
(査2、査5、査16ないし査22、査23ないし査25)
(ウ) トーモクは、大一コンテナー及びトーシンパッケージの親会社である(ただし、大一コンテナーを子会社とした時期は、平成24年3月である。)。(査3、査27、査28)
(エ) 中部大王製紙パッケージは、大王製紙株式会社(以下「大王製紙」という。)の子会社である。また、大王製紙パッケージは、大王製紙の子会社であったが、平成25年4月1日、中部大王製紙パッケージに吸収合併された(これに伴い中部大王製紙パッケージは、「中部大王製紙パッケージ株式会社」から現商号に商号を変更した。)。(査9、査26)
ウ 東日本段ボール工業組合
(ア) 東日本段ボール工業組合(以下「東段工」という。)は、その定款上、東日本地区において、コルゲータを有し、段ボール製品の生産の事業を営むことを資格要件とする組合である。本件各事業者のうち別紙5の「組合員」欄に〇が記載されている51社(原告を含む。)は、本件当時(レンゴーにより段ボール製品の値上げの公表がされた平成23年8月26日から被告の立入検査が行われた平成24年6月5日までの時期をおおむね指す。以下同じ。)、いずれも東段工の組合員であった。(査478ないし査481)
(イ) 東段工は、全国段ボール工業組合連合会(以下「全段連」という。)の会員である。全段連の会員には、地区に応じて、東段工のほかに、中日本段ボール工業組合、西日本段ボール工業組合及び南日本段ボール工業組合がある。(査480ないし査482)
エ 東段工は、その最高の意思決定機関である総会及び業務の執行を決定する機関である理事会を置いているほか、次のとおり三木会及び支部を置いていた。(査470、査478、査479、査483ないし査486)
(ア) 三木会
三木会は、その規約上、東段工組合員の地位向上のため、全段連及び東段工理事会決議事項の伝達、組合員に共通する課題に関する情報又は資料の提供等を目的として、理事会の下に置かれた組織であり、平成17年8月2日付け「東段工の組織と業務について」と題する書面において、三木会は、東段工の事業の連絡推進及び実行の徹底を図るための事業並びに支部との情報交換及び取りまとめを行うものと位置づけられていた(ただし、実際の役割等には争いがある。)。
三木会は、会長、幹事長及び副幹事長のほか、各支部を代表する支部長を含む委員で構成されており、本件当時、別紙8の「役職」欄記載の各役職に「構成員」欄記載の各所属会社(原告を含む。)の役員又は従業員が就任していた。このうち各支部の支部長以外の委員は、レンゴー、セッツカートン、大和紙器、トーモク、王子コンテナー、森紙業、ダイナパック、日本トーカンパッケージ及び大王製紙パッケージの営業本部長級の者らと原告の代表取締役によって構成されていた(この10社が別紙3の「本部役員会社」に当たる。)。
三木会の会合は、原則として毎月開催されることとされていた。
(イ) 支部
東段工には、別紙9(ただし、「構成員」のうち、「埼玉支部」欄の「福野ダンボール工業」を「福野段ボール工業」と、「北海道支部」欄の「北海道織紙業」を「北海道森紙業」と改める。)のとおり、「支部」欄記載の9支部が置かれ、これらの支部は、「地区」欄記載の都道府県に工場等の事業所を有する組合員らにより構成されていたものであり、本件当時は、「構成員」記載の各組合員が当該支部に所属していた(原告は埼玉支部に所属していた。)ところ、支部開催の会合は、主に当該地区に所在する工場等の事業所における営業責任者(工場長又は事業所長等)を構成員として開催され(ただし、代表取締役又は営業担当の取締役、部長若しくは課長等が出席していた事業者もあった。以下、単に「営業責任者」という場合、これらの者を指す。)、上記構成員のうち「支部長(所属会社)」欄記載の者らがそれぞれ当該支部の支部長を務めていた。
オ 段ボール市場の概要
(ア) 段ボール製品の概要
段ボールシートは、コルゲータを用いて、波型に成型した段ボール原紙である中しんの片面又は両面に、段ボール原紙であるライナを張り合わせたものである。また、段ボールシートに印刷、打ち抜き等の加工を施し、箱型に組み立て可能にしたものが段ボールケースである。段ボールシートについては、日本工業規格において外装用段ボール(日本工業規格「Z 1516:2003」)が規定されているところ、本件各事業者は、いずれもこの規格に該当する段ボールシート及びこれを加工した段ボールケースを製造していたものであり、クラウン・パッケージを除く62社において製造していた段ボール製品は、専らこの規格に当たるものであった。(査177、査229、査265、査298、査306、査453、査487ないし査489)
(イ) 段ボール製品の製造業者
段ボール製品の製造業者(以下「段ボールメーカー」という。)は、段ボール原紙又は段ボールシートの調達方法により、①段ボール原紙、段ボールシート及び段ボールケースのいずれも製造する事業者(以下「一貫メーカー」という。)、②段ボール原紙の製造業者(以下「原紙メーカー」という。)から段ボール原紙を購入して段ボールシート及び段ボールケースを製造する事業者(以下「専業メーカー」という。)及び③コルゲータを保有せず、上記①又は②の事業者から段ボールシートを購入して段ボールケースを製造する事業者(以下「ボックスメーカー」という。)に大別される。この点、主な原紙メーカーには、レンゴー、王子板紙株式会社(王子グループに属している。以下「王子板紙」という。)、大王製紙、≪事業者A≫、≪事業者B≫等があるところ、本件各事業者のうち、レンゴー及び王子板紙とグループ関係にある王子コンテナーが一貫メーカーに位置づけられ、その余の本件各事業者(原告を含む。)は、いずれも専業メーカーに当たるものであった。(査251、査300、査490)
(3) 段ボール製品の流通・取引(本件審決案9~10頁)
ア 段ボール製品の需要者(ユーザー)は、段ボールシートについては、主として、ボックスメーカーなどの段ボールケースの製造業者であり、段ボールケースについては、主として、食品、飲料、自動車部品、電気製品等の製造業者である。(査166、査333、査334、査367、査375、査424、査432、査435、査438、査449、査467)
イ 段ボールケースのユーザーは、全国に所在する工場等の拠点において使用する段ボールケースにつき、購入価格等の取引条件の交渉を交渉担当部署において一括して行う「広域ユーザー」、「ナショナルユーザー」などと呼ばれる大口のユーザー(以下「広域ユーザー」という。)と、それ以外の地場ユーザー等に大別される。(査142、査234、査392、査613)
ウ 段ボール製品の営業活動は、ユーザーの交渉担当部署に対して行われていた。このうち、広域ユーザーに対する段ボールケースの販売については、主に段ボールメーカーの本社等の営業担当者が営業活動を行い、当該ユーザーにおいて一括して交渉を担当する部署(なお、同一の企業グループに属するなどの理由から、あるユーザーが他のユーザーの窓口として交渉を担当することや、別の法人が窓口として交渉を担当することがある。)との間で交渉して販売価格等の取引条件を決定していた。他方、段ボールシートの販売及び地場ユーザーに対する段ボールケースの販売については、主に段ボールメーカーの各工場等における営業担当者が営業活動を行い、当該ユーザーとの間で交渉して販売価格等の取引条件を決定していた。(査132、査142、査151、査164、査192、査234、査268、査274、査275、査306、査613、査614)
エ なお、東京コンテナ工業は、平成23年4月以降、自社で製造した段ボール製品の販売業務を子会社の晃里株式会社(以下「晃里」という。)に委託していたものであり、東京コンテナ工業が所属していた支部における会合には、東京コンテナ工業の代わりに晃里の営業担当者が出席していた。(査418ないし査421)
(4) 段ボール製造業における慣行等(本件審決案52~54頁)
段ボール製品の需要者(ユーザー)は、コストダウン等のため、複数の段ボールメーカーから段ボール製品を購入している者が多くを占めており、その購入価格の交渉を行うに当たり、複数の段ボールメーカーから見積りを提出させることが通常であったところ、段ボールメーカーにおいて、段ボール製品は品質の差が生じにくい商品であることなどから、自社の段ボール製品を安値で販売するなどして取引を拡大しようとする事業者が現れると、当該ユーザーに対する既存の納入業者のシェアが奪われ、段ボール製品の価格低落につながりかねないため、段ボールメーカーの間では、かねてから、段ボール製品の販売価格や現状のシェアの維持のため、こうした取引拡大のための安値による販売行為を競り込みなどと称して自粛すべきものと認識されていた。
他方、段ボールシートは、段ボール原紙を張り合わせて製造されるものであり、その製造原価に占める段ボール原紙の製造原価(一貫メーカーの場合)又は仕入原価(専業メーカーの場合)の割合が高いため、これらの原価の上昇は、段ボールシートの販売価格の引上げを行うべき誘因となっていた。同様に、段ボールケースも、その製造原価に占める段ボールシートの製造原価(コルゲータ保有メーカーの場合)又は仕入原価(ボックスメーカーの場合)の割合が高いことから、これらの原価の上昇は、段ボールケースの販売価格の引上げを行うべき誘因となっていた。取り分け、ボックスメーカーは、コルゲータ保有メーカーと比較すると事業規模が小さい業者が多く、また、コルゲータ保有メーカーから段ボールシートを仕入れる関係上、段ボールケースの販売について、価格面でコルゲータ保有メーカーと競争することは困難であり、コルゲータ保有メーカーから段ボールシートの販売価格が引き上げられれば、段ボールケースの販売価格の引上げを実施する傾向があった。
そして、このように段ボール原紙の値上がりに伴い段ボール製品の販売価格を引き上げるに当たっては、まず、一貫メーカーであるレンゴー及び王子コンテナーが段ボール製品の値上げ幅を表明し、それ以外の段ボールメーカーは、これらの値上げ幅を指標として自社の段ボール製品の値上げを実施することが共通の認識となっていた。もっとも、段ボールメーカーの間では、レンゴーを始めとする大手の段ボールメーカーであっても、自社の段ボール製品のみで値上げを実施するのは、上記のユーザーとの取引に係る実態からユーザーにこれを受け入れてもらうのが困難であるため、各社が足並みをそろえて値上げを実施することが必要であると認識されており、取り分けこうした値上げの時期に競り込みを行うことは、他の事業者において値上げを実施する妨げとなるため、警戒されていた。
こうした実情を背景として、三木会及び支部の会合等においては、出席各社の間で、日頃から、段ボールメーカーの間で課題となっていたリサイクルマークの普及や印版・木型に係る費用の回収の状況について情報交換が行われていたほか、段ボール製品の生産量の増減や特値と称する安値販売の情報を含む販売価格等の動向(以下、これらを「段ボール製品の需給動向」という。)についても情報交換が行われていたところ、三木会と支部の会合等との間でも、支部長等を通じて相互にこうした会合の内容が報告、伝達されることが通常であった。こうした中で、上記の慣行に反して、特定のユーザーについて競り込みを行う事業者が現れたときには、当該事業者に対して他の納入業者による抗議活動が行われるなどして競争回避に向けた解決が図られる傾向があった。また、従前から、段ボール原紙の値上がりに伴い段ボール製品の値上げが実施される際には、三木会及び支部の会合等において、出席各社の間で、こうした値上げの方針や進捗状況について情報交換が行われていたほか、個別のユーザーごとに入れ合い(後述する。)となっている事業者の間でも、「小部会」などと称する会合(以下「小部会」という。)が開催されるなどして、当該ユーザーとの値上げ交渉の状況に関する情報交換が行われることがあった。
(査128、査129、査133、査136、査138、査151、査154、査159ないし査162、査164、査166、査195、査196、査202、査203、査208、査248、査251、査252、査254ないし査256、査261、査280、査323、査325、査329、査334、査336、査344、査349、査352、査353、査355、査357、査360、査374ないし査376、査378ないし査380、査385、査389、査396、査397、査404、査405、査408ないし査412、査416、査419、査432、査435、査437、査438、査440、査442ないし査444、査446ないし査448、査451、査452、査457、査459、査460、査462、査465ないし査467、査470ないし査476、査497ないし査515、査532ないし査534、査615、査660、査664、査680、査690の1ないし6等)
(5) 平成23年10月17日に三木会が開催されるまでの経緯(本件審決案10~12、54~55頁)
ア レンゴーにおける段ボール原紙及び段ボール製品の値上げの公表
(ア) レンゴーは、平成23年8月26日、各種原燃料価格の高騰を理由に、段ボール原紙の販売価格を現行価格から1キログラム当たり7円以上引き上げるとともに、段ボールシートの販売価格を現行価格から1平方メートル当たり8円以上、段ボールケースの販売価格を現行価格から13パーセント以上、それぞれ同年10月1日出荷分から引き上げる旨公表した。その上で、レンゴーは、同年9月1日、セッツカートン、大和紙器、マタイ紙工、アサヒ紙工、イハラ紙器及び甲府大一実業を含む自社のグループ会社を対象として、段ボール製品の値上げに関する説明会を開催し、上記の値上げの方針を伝達した。その後、後記イのとおり、同月27日に王子板紙が段ボール原紙の値上げを公表するまでの間、レンゴーのほかに、段ボール原紙の値上げを公表した原紙メーカーがいなかったことから、レンゴーグループを除く段ボールメーカーにおいては段ボール製品の値上げについて様子見の状態が続いていた。(査1、査130、査148、査242、査364、査542、査543)
(イ) こうした状況の下で、平成23年8月30日に開催された後述の5社会において、レンゴーの≪Ⅾ2≫が出席各社に対し、段ボール製品について値上げの見通しを表明するよう促したが、他の4社の出席者は、いずれも値上げ方針が決まっていない旨答えるにとどまったことから、上記≪Ⅾ2≫は、「後から付いてきてくれ。」などと発言して、他の4社に対し、レンゴーに追随して値上げを実施するよう要請していた。(査135、査140、査266、査267、査317)
(ウ) その後、平成23年9月22日に開催された三木会において、幹事長を務めるレンゴーの≪Ⅾ1≫が、自社が公表した段ボール製品の値上げの方針について説明するとともに、「1社だけではできないので、皆様のご協力をお願いします。」などと発言して、他の出席各社に対しても、段ボール製品について値上げを実施するよう要請するとともに、これらの値上げの見通しを表明するよう促したが、レンゴーグループであるセッツカートン及び大和紙器以外の出席者においては、いずれもまだ値上げ方針が決まっていない旨答えていた。(査130、査139、査182)
(エ) さらに、平成23年9月26日に開催された後述の5社会において、レンゴーの≪Ⅾ2≫が、出席各社に対し、段ボール製品について、値上げの見通しを表明するよう促した。その際、王子コンテナーの出席者が、近いうちに値上げを発表する旨述べたほか、同じく王子グループに属する森紙業の出席者も、王子コンテナーの値上げの方針に準じて値上げを実施する旨述べた。一方、トーモク及び日本トーカンパッケージの各出席者は、いずれも、値上げ方針が決まっていない旨述べた。上記≪Ⅾ2≫は、これらの発言を受けて、「いつになったら値上げの方針が決まるのか。」、「早くみなさんついてきてください。」などと発言し、段ボール製品について値上げの見通しが立っていない事業者に対して、早期に値上げを実施するよう要請した。(査145、査181、査266、査304)
イ 王子グループにおける段ボール原紙及び段ボール製品の値上げの公表
その後、王子グループにおいても、平成23年9月27日に、王子板紙が段ボール原紙の販売価格を現行価格から10パーセント以上引き上げる旨公表するとともに(上記値上げ幅につき全品種1キログラム当たり6円で案内されていた。)、翌28日には、王子コンテナーが段ボールシート及び段ボールケースの販売価格をそれぞれ同年11月21日出荷分から12パーセント以上引き上げる旨公表した(段ボールシートに係る上記値上げ幅は、円単位に換算すると1平方メートル当たり7円以上に相当するものであった。)。なお、王子コンテナーは、この公表に先立つ同年9月26日には、静岡王子コンテナー、ムサシ王子コンテナー及び関東パックを含むグループ会社の各工場長を対象とした緊急電話会議を開催し、上記の値上げの方針を伝達するとともに、同月27日には、これらの価格改定の実施について文書でグループ内に周知した。(査2、査384、査546ないし査549)
ウ 他の原紙メーカーにおける段ボール原紙の値上げの公表
レンゴー及び王子板紙以外の原紙メーカーにおいても、平成23年9月22日には≪事業社B≫が、同年10月4日には≪事業者A≫が、同月11日には大王製紙がそれぞれ段ボール原紙について同程度の値上げを行うことを公表した。(査550)
エ 他の大手の段ボールメーカーにおける段ボール製品の値上げの方針の決定
こうした中、レンゴー及び王子コンテナーに続き、他の大手の段ボールメーカーにおいても、次のとおり、社内又はグループ内で、段ボール製品の値上げの方針を決定するなどした。
(ア) 森紙業は、グループ会社である王子コンテナーの上記値上げの方針を踏まえ、平成23年9月20日に開催された役員会で、自社においても同じ値上げ方針に従って段ボール製品の値上げを実施することを決定し、同年10月4日、子会社である常陸森紙業、長野森紙業、群馬森紙業、新潟森紙業、仙台森紙業、静岡森紙業及び北海道森紙業等を対象とした全社会議を開催し、上記の値上げ方針に従って同年11月21日以降の出荷分から段ボール製品の値上げを行うよう指示した。(査5、査16ないし査22、査300、査375、査551)
(イ) トーモクは、平成23年10月12日、部室長・工場長会議を開催し、同年12月1日出荷分から、段ボールシート及び段ボールケースについて、それぞれ12パーセント以上の値上げを行うことを社内に周知した。(査3、査235、査242)
(ウ) 日本トーカンパッケージは、平成23年10月13日及び翌14日に工場長会議を開催し、段ボールシートについて15パーセント以上、段ボールケースについて12パーセント以上の値上げを行うことを社内に周知した。(査266、査277)
(エ) ダイナパックは、平成23年10月17日午前に開催された会議で、段ボールシートについて同年12月1日納入分から1平方メートル当たり7円以上の値上げを行うとともに、段ボールケースについて平成24年1月納入分から12パーセント以上の値上げを行うことを決定し、平成23年11月2日、各事業所に対し、これらの値上げの方針を周知した。(査7、査336)
(オ) 大王製紙は、平成23年10月13日に開催された会議で、子会社である大王製紙パッケージ及び中部大王製紙パッケージ等に対して、同年11月21日以降、段ボールシートについて1平方メートル当たり8円以上、段ボールケースについて13パーセント以上の値上げを行うよう指示した。(査388、査552)
(6) 三木会等の開催(本件審決案12~13頁)
ア 本件当時、三木会は、平成23年9月22日及び同年10月17日にそれぞれ開催された(以下、それぞれ「9月22日三木会」及び「10月17日三木会」という。また、平成23年内に開催された他の三木会も、同様に開催月日によって表示することがある。)ほか、それ以降も、別紙11の「三木会」欄記載のとおり、同年11月17日、同年12月7日、平成24年1月11日、同年2月15日、同年3月15日、同年4月19日及び同年5月17日にそれぞれ開催された(開催場所は、いずれも東京都中央区に所在する紙パルプ会館であった。)。このうち、9月22日三木会、10月17日三木会及び11月17日三木会においては、別紙8の「会合出席状況」欄においてそれぞれの会合欄中に〇が付されている構成員又は同欄に氏名が記載されている代理者が出席していた。(査152、査179、査266、査350、査464、査486、査545、査554、査587、査611)
イ また、本部役員会社のうち、レンゴー、王子コンテナー、トーモク、日本トーカンパッケージ及び森紙業(以下「大手5社」という。)は、東段工の会合である三木会とは別に、主に各社の営業本部長級の者らを出席者とする「5社会」と称する会合(以下「5社会」という。)を開催し、専ら広域ユーザー向け段ボールケースの取引に関する諸問題について情報交換や協議を行っていた。そして、本件当時、5社会は、平成23年8月30日、同年9月26日、同年10月17日及び同月31日にそれぞれ開催されたほか、同年11月以降も継続して開催されていた。このうち、同年10月17日に開催された5社会(以下「10月17日5社会」という。また、平成23年内に開催された他の5社会も、同様に開催月日によって表示することがある。)では、大手5社の間で、個別の広域ユーザーに対する段ボールケースの値上げの実施について話し合うことが確認されるとともに、10月31日5社会では、その対象となる広域ユーザーとして、別紙3の別表の「特定ユーザー」欄記載の各ユーザー(以下「特定ユーザー」という。)が選定された(ただし、番号29記載の東邦商事株式会社がその対象に含まれるか否かは、関連事件の当事者間で争いがある。)。その後、これに従って、特定ユーザー向け段ボールケースについて、個別のユーザーごとに入れ合いとなっている事業者(「入れ合い」とは、同一のユーザーに対し複数の段ボールメーカーが段ボール製品を納入している状態をいう。)の間で値上げの実施方法や値上げ交渉の状況に関する情報交換が行われ、これらの値上げの進捗状況が5社会に報告されていた。(査134、査137、査140、査143、査145、査172、査180、査181、査183ないし査185、査192、査268、査274、査304ないし査306、査544、査556、査557、査559ないし査562、査612ないし査614)
(7) 10月17日三木会の状況(本件審決案56~58頁)
ア こうした状況の下、10月17日三木会においては、普段どおり印版・木型の費用に係る回収状況等について報告がされた後、司会を担当した三木会の会長であるトーモクの≪C1≫が出席各社に対し、段ボール製品の値上げの方針について発表するよう促したところ、これについて、出席各社から、次のとおり発言がされた。(査130、査139、査152、査156、査161、査178、査233、査245、査252、査266、査303、査324、査326、査336、査344、査350、査455、査554)
(ア) レンゴーグループ3社
レンゴーの出席者は、公表のとおり、段ボールシートについて1平方メートル当たり8円以上、段ボールケースについて13パーセント以上、それぞれ値上げをする旨発言したほか、その際、他の出席者から、これらの値上げ幅の内訳について質問を受けたことから、段ボールシートについては、段ボール原紙代4円70銭、燃料代1円50銭ないし2円、補助材料費40銭等により、値上げ幅が1平方メートル当たり8円以上となること、段ボールケースについては、段ボール原紙代4円70銭、燃料代1円50銭ないし2円、補助材料費50銭等により、値上げ幅が13パーセント以上になる旨説明した。
また、セッツカートン及び大和紙器の各出席者は、いずれも親会社であるレンゴーに準じて値上げをする旨発言した。
(イ) 王子グループ2社
王子コンテナーの出席者は、公表のとおり、平成23年11月21日から段ボールシート及び段ボールケースについてそれぞれ12パーセント以上値上げする旨発言した。
森紙業の出席者は、グループ会社である王子コンテナーに準じて値上げする旨発言した。
(ウ) トーモク
トーモクの出席者は、平成23年12月1日から段ボールシート及び段ボールケースについてそれぞれ12パーセント以上値上げする旨発言した。
(エ) 日本トーカンパッケージ
日本トーカンパッケージの出席者は、平成23年12月1日から段ボールシートについて15パーセント以上、段ボールケースについて12パーセント以上値上げする旨発言するとともに、「みなさんに遅れていますが、追いつくようにします。」などと発言した。なお、段ボールシートに係る上記の値上げ幅は、円単位に換算すると1平方メートル当たり8円以上に相当するものであった。(査553)
(オ) ダイナパック
ダイナパックの出席者は、段ボールシート及び段ボールケースについて値上げは行うが、まだ、具体的には決まっていない旨発言した(同社の値上げの方針については、上記のとおり当日の午前中の会議で値上げ幅まで決まっていたものの、いまだ社内に伝えてなかったことから、このような発言がされた。)。
(カ) 大王製紙パッケージ
大王製紙パッケージの出席者は、段ボールシート及び段ボールケースについて値上げは行うが、時期等については検討中である旨発言した。
(キ) 原告(福野段ボール工業)
三木会の副幹事長を務めていた、当時の原告の代表取締役の≪G1≫(以下「原告代表者」という。)は、大手の段ボールメーカーが値上げをすれば、自社においても値上げをする旨の意向を示していたものの、いまだ値上げ活動の準備ができていなかったことから、値上げ時期について検討中である旨発言した。
(ク) 各支部の支部長等
東京・山梨支部長である興亜紙業の≪H≫は、段ボール原紙が値上がりすれば、当社としても段ボール製品の値上げをせざるを得ない旨発言するとともに、次回の東京・山梨支部会は平成23年10月19日に開催される予定である旨付言した。
また、他の支部の支部長等においても、自社の値上げの方針や支部管内の値上げに向けた動きなどについて報告していた。
こうした中で、千葉・茨城支部長であるレンゴーの≪Ⅾ3≫及び群馬・栃木支部長であるレンゴーの≪Ⅾ4≫は、それぞれの支部において、支部の会合等で出席者から出た意見を踏まえ、段ボールシートの代表的な銘柄であるC5の販売価格について、1平方メートル当たり50円以上となることを目標として値上げ活動を行っていく旨発言した。これについて、レンゴーの≪Ⅾ2≫も、相場観としてC5が50円以上となればよい旨発言した。
イ これらの発言を受け、トーモクの≪C1≫は、三木会の会長として、「皆さん頑張って値上げに向けて取り組みましょう。」などと発言していたほか、レンゴーの≪Ⅾ1≫も、三木会の幹事長として、当会合の終了時の挨拶の中で、「各社とも、しっかり頑張っていきましょう。」などと発言していた。
また、当会合に引き続いて開催された10月17日5社会において、司会を務めたレンゴーの≪Ⅾ2≫は、10月17日三木会で出席各社から段ボール製品の値上げの方針が表明され、協力して値上げを行っていくことになった旨報告していた。
(査130、査139、査178、査181、査230、査266、査268、査344、査556)
(8) 支部会等(支部主催の会合その他支部所属の組合員の担当者を主な構成員とする会合をいう。以下同じ。)の開催(本件審決案13~19頁)
ア 東京・山梨支部
東京・山梨支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする会合(以下「東京・山梨支部会」という。)が2か月に1回程度開催されていた。
本件当時、東京・山梨支部会は、平成23年10月19日に東京都新宿区内の飲食店において開催され(以下「10月19日東京・山梨支部会」という。その際の出席者は、別紙10の「10月19日東京・山梨支部会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。また、平成23年内に開催された他の支部会等も、同様に開催月日によって表示することがある。)、それ以降も、別紙11の「東京・山梨支部」欄記載のとおり、同年11月16日、同年12月9日、平成24年2月8日、同年3月6日及び同年4月12日にそれぞれ開催された。
(査412、査419、査424、査437、査438、査446、査457、査467、査563、査590)
イ 新潟・長野支部
新潟・長野支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする総会が年1回程度開催されていた。
また、新潟・長野支部所属の組合員らのうち、新潟県内に工場等を有する事業者の各営業責任者を主な出席者とする「四木会」などと称する会合(以下「新潟四木会」という。)が月1回程度開催されていたところ、同会合には、他に同県内に工場等を有する非組合員であるエヌディーケイ・ニシヤマなどの営業責任者が出席することもあった(その場合、「拡大四木会」と呼ばれることもあった。)。同様に、新潟・長野支部所属の組合員らのうち長野県内に工場等を有する事業者と同県内に工場等を有する非組合員である協和段ボールの各営業責任者を主な出席者とする「5社会」などと称する会合(以下「長野5社会」という。)が月1回程度開催されていたところ、同会合には、他に山梨県内に工場等を有する甲府大一実業の営業責任者が出席することもあった(ただし、新潟四木会及び長野5社会と新潟・長野支部との関係については争いがある。)。
本件当時、新潟四木会は、平成23年9月23日及び同年10月13日にそれぞれ開催された後、同月19日、新潟市内の飲食店で開催され(その際の出席者は、別紙10の「10月19日新潟・四木会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「新潟・長野支部」欄記載のとおり、同年11月9日、同年12月2日、同月22日、平成24年1月12日、同年2月28日、同年3月28日、同年4月27日及び同年5月29日にそれぞれ開催された。
また、本件当時、長野5社会は、平成23年9月27日に開催された後、同年10月24日、長野県松本市内の飲食店で開催され(その際の出席者は、別紙10の「10月24日長野五社会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「新潟・長野支部」欄記載のとおり、同年11月29日、同年12月9日、同月26日、平成24年1月30日、同年2月28日、同年3月27日、同年4月23日及び同年5月29日にそれぞれ開催された。
(査165、査166、査204、査254、査334、査342、査367、査368、査375、査423、査431、査440、査442、査564、査565)
ウ 北海道支部
北海道支部においては、従前から、支部主催の会合は開催されておらず、支部長も、移動に時間がかかるなどの事情により、三木会には出席しないのが通例であり、その場合、三木会の席上で配布された資料等は、東段工の事務局から支部長宛てに送付されていた。
他方、北海道支部所属の組合員らと北海道内に工場等を有する非組合員である合同容器の各営業責任者を出席者とする「トップ会」などと称する会合(以下「トップ会」という。)が月1回程度開催されていたほか、これらの事業者の当該工場等における営業部長・課長級の者らが出席する「部課長会」などと称する会合(以下「部課長会」という。)が開催されていた(ただし、トップ会・部課長会と北海道支部との関係については争いがある。)。
本件当時、トップ会及び部課長会は、平成23年9月1日に両会合が開催された後、同年10月27日には、札幌市内のホテルにおいて、両会合が開催され(その際のトップ会の出席者は、別紙10の「10月27日トップ会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「北海道支部」欄記載のとおり、同年12月2日、平成24年2月21日、同年3月15日、同年4月5日、同月23日及び同年5月17日に両会合がそれぞれ開催されていたほか、平成23年11月15日、平成24年1月18日及び同年2月15日に部課長会がそれぞれ開催された。
(査170、査171、査207、査259、査369、査371、査405、査566の5ないし15)
エ 群馬・栃木支部
群馬・栃木支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする会合(以下「群馬・栃木支部会」という。)が月1回程度開催されていた。
また、これらの組合員のうち、群馬県内に工場等を有する事業者の当該工場における営業部長・課長級の者らを主な出席者とする「群馬会」などと称する会合(以下「群馬会」という。)と栃木県内に工場等を有する事業者の当該工場における営業部長・課長級の者らを主な出席者とする「栃木会」などと称する会合(以下「栃木会」という。)が月1回程度、同一の日に同一の場所で時間をずらすなどして開催されていた。このうち、栃木会には、栃木県内に工場等を有する非組合員である関東パック及び大日本パックスの各営業担当者が出席することがあった。
本件当時、群馬・栃木支部会は、平成23年9月30日及び同年10月13日にそれぞれ開催された後、同年11月14日、群馬県館林市内の複合施設の会議室において開催され(その際の出席者は、別紙10の「11月14日」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「群馬・栃木支部」欄記載のとおり、同年12月19日、平成24年1月30日、同年2月14日、同年3月12日、同年4月18日及び同年5月15日にそれぞれ開催された。
また、群馬会及び栃木会は、平成23年9月15日に開催された後、同年10月27日、群馬県館林市内の複合施設の会議室において開催され(その際の出席者は、群馬会につき、別紙10の「10月27日群馬会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らであり、栃木会につき、同別紙の「10月27日栃木会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、同年11月28日に開催された。
(査161、査162、査200、査202、査249、査281、査331、査352、査378、査385、査404、査567、査568の2ないし4)
オ 東北支部
東北支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする総会が年1回程度開催されていた。
また、これらの組合員のうち宮城県内に工場等を有している事業者の各営業責任者を主な出席者とする「宮城支部会」、「宮城三木会」などと称する会合(以下「宮城支部会」という。)が数か月に1回程度開催されていた(ただし、宮城支部会と東北支部との関係については争いがある。)。
本件当時、宮城支部会は、平成23年10月12日に開催された後、同月31日、仙台市内の飲食店で開催され(その際の出席者は、別紙10の「10月31日宮城支部会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「東北支部」欄記載のとおり、同年11月22日、平成24年1月26日及び同年3月12日にそれぞれ開催されたほか、同年4月16日には東北支部の総会が開催された。
(査168、査205、査206、査257、査284、査382、査464、査465、査574、査660、査711)
カ 静岡支部
静岡支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする会合(以下「静岡支部会」という。)が2か月に1回程度開催されていた。静岡支部会には、静岡県内に工場等を有する非組合員である大万紙業及び福原紙器の各営業責任者が出席することもあった。
本件当時、静岡支部会は、平成23年10月12日に開催された後、同月31日、静岡県掛川市内のホテルで開催され(その際の出席者は、別紙10の「10月31日静岡支部会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「静岡支部」欄記載のとおり、同年11月28日、同年12月13日、平成24年1月18日、同年2月2日、同月17日及び同年3月7日にそれぞれ開催された。
(査164、査173、査250、査251、査283、査333、査340、査348、査357、査366、査386ないし査389、査435、査445、査449)
キ 埼玉支部
埼玉支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする会合(以下「埼玉支部会」という。)が月1回程度開催されていた。
本件当時、埼玉支部会は、平成23年9月26日に開催された後、同年10月19日には埼玉県内のゴルフ場でゴルフコンペ終了後に開催されたほか、同年11月2日、さいたま市内の複合施設の会議室で開催され(その際の出席者は、別紙10の「11月2日埼玉支部会」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「埼玉支部」欄記載のとおり、同年11月25日、同年12月12日、平成24年1月23日、同年2月28日、同年3月28日、同年4月19日及び同年5月24日にそれぞれ開催された。
(査153、査195、査196、査246、査277、査279、査328、査338、査346、査347、査350、査356、査383、査396、査400、査454、査461、査577、査578)
ク 千葉・茨城支部
千葉・茨城支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする会合(以下「千葉・茨城支部会」という。)が月1回程度開催されていた。
本件当時、千葉・茨城支部会は、平成23年9月9日及び同年10月3日にそれぞれ開催された後、同年11月9日、千葉県柏市内の結婚式場の会議室において開催され(その際の出席者は、別紙10の「11月9日千葉・茨城支部」欄に対応する「出席者」欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「千葉・茨城支部」欄記載のとおり、同年12月2日、同月13日、平成24年1月17日、同年2月10日、同年3月8日、同年4月11日及び同年5月10日にそれぞれ開催された。
(査157、査158、査161、査198、査247、査280、査330、査339、査351、査372、査402、査408、査411、査416、査417、査420、査447、査453、査580ないし査582、査588)
ケ 神奈川支部
神奈川支部においては、従前から、同支部所属の組合員らの各営業責任者を構成員とする会合(以下「神奈川支部会」という。)が1か月ないし2か月に1回程度開催されていた。
本件当時、神奈川支部会は、平成23年10月13日に開催された後、同年11月17日、横浜市内の飲食店で開催され(その際の出席者は、別紙10の「11月17日神奈川支部会」欄に対応する出席者欄記載の者らである。)、それ以降も、別紙11の「神奈川支部」欄記載のとおり、同年12月5日、平成24年1月18日、同年2月16日、同年3月13日、同年4月3日及び同年5月14日にそれぞれ開催された。
(査151、査193、査209、査229、査239、査275、査322、査345、査398、査399、査407、査410、査413、査425、査433、査434、査443、査444、査448、査452、査456、査459、査469、査583、査584)
コ なお、別紙10の「会合」欄記載の東京・山梨支部の10月19日東京・山梨支部会、新潟・長野支部の10月19日新潟四木会及び10月24日長野5社会、北海道支部の10月27日トップ会、群馬・栃木支部の10月27日群馬会及び10月27日栃木会、東北支部の10月31日宮城支部会、静岡支部の10月31日静岡支部会、埼玉支部の11月2日埼玉支部会、千葉・茨城支部の11月9日千葉・茨城支部会並びに神奈川支部の11月17日神奈川支部会を一括して、以下「本件支部会等」という。
(9) 各支部の連絡(本件審決案75~79、90~93頁、本件審決2頁)
ア 東段工の支部においても、従前から、支部の会合が段ボールメーカーによる段ボール製品の価格の維持や引上げを行うための情報交換の場として利用されていたところ、平成23年8月下旬に段ボール製品の値上げを公表したレンゴーにおいて、自社が所属していない東京・山梨支部を除く各支部における支部会等で、これらの値上げの方針を発表して、他の事業者にも値上げの方針を表明するよう促すなどしていたのは、自社の公表した段ボール製品の値上げを成功させるため、他の事業者においてもレンゴーに続いて同程度の値上げ幅で共に値上げを実施するよう働きかけたものであったが、他の事業者においては、従前の慣行から、レンゴーのこうした意図を理解しながらも、他の主要な原紙メーカーによる段ボール原紙の値上げの表明が出そろうなど、段ボール製品の値上げ実施の条件が整った同年10月中旬までは値上げの意向がそろわなかった。(上記(4)及び(8)の各事実)
イ その後、平成23年10月中旬以降開催された本件支部会等において、出席各社のうち、大手の段ボールメーカーを始めとする事業者においては、自社の段ボール製品について軒並み具体的な値上げ幅を発表するなどしながら値上げの意向を表明したり、このうち既に値上げ活動を開始していた事業者においてはその進捗状況を発表したりするなどしていたところ、その値上げ幅は、レンゴー及び王子コンテナーが公表した値上げ幅と同程度のものであった。また、大手の段ボールメーカーが所属しない東京・山梨支部においても、支部長が三木会で大手の段ボールメーカーが段ボール製品の値上げの方針を表明したこと並びにその値上げ幅及び内訳を報告した上で、大手の段ボールメーカーの動きをみながら同支部所属の各社においても段ボール製品の値上げを実施するよう促していた。他方、本件支部会等に出席していた事業者のうち、地場の段ボールメーカー等の中には、段ボール製品の値上げの意向自体は表明しつつも、具体的な値上げ幅については発表していなかった事業者やこれらの値上げの意向自体を明確には表明していなかった事業者が存在するものの、従前の慣行から、前者については、具体的な値上げ幅について明言しなくても、レンゴーや王子コンテナーが公表した値上げ幅を指標として値上げを実施することになることについて出席各社の間で共通認識となっており、後者についても、このような地場の段ボールメーカーにおいて、特に値上げを実施することについて反対の意向を表明しない限り、競り込みは自粛すべきものとされる慣行の下で、大手の段ボールメーカーにより値上げが実施されることになれば、これに追随して値上げを行うことになることは出席者の間で共通の認識となっていた(この点については、その後、実際にこれらの事業者においても、大手の段ボールメーカーが発表した内容と同程度の値上げ幅を目安として値上げ活動を行っていたとみられるのであって、その後に開催された支部会等においても、当該事業者が値上げの方針を明確に表明していたか否かにかかわらず、段ボール製品の値上げの進捗状況について情報交換が行われるとともに、個別のユーザーごとに入れ合いとなっている事業者の間でも、同様に当該事業者が値上げの方針を明確に表明していたか否かにかかわらず、値上げの交渉状況について情報交換が行われるなどしながら値上げが実施されたことからも、これらの事業者が協調して値上げを行う当事者から除外されていたとはみられない。)。
(査412、査419、査424、査437、査438、査446、査467、査165、査334、査375、査423、査430、査439、査342、査368、査432、査170、査207、査259、査369、査405、査281、査352、査404、査168、査256、査284、査382、査283、査376、査387、査389、査435、査449、査242(埼玉支部会)、査328(同)、査338(同)、査346(同)、査347(同)、査383(同)、査396(同)、査400(同)、査427(同)、査450(同)、査454(同)、査458(同)、査461(同)、査157、査158、査198、査280、査351、査372、査402、査408、査411、査416、査420、査447、査453、査193、査275、査329、査413、査444、査448、査452、査469)
ウ 埼玉支部の状況
埼玉支部は、別紙9のとおり、原告を含む組合員19社が所属しており、これらの組合員らの各営業責任者を構成員とする埼玉支部会が月1回程度開催されていたところ、通常、埼玉支部会においては、支部長の代わりに三木会に出席していた副支部長から必要に応じて三木会で話題とされたリサイクルマークの普及率や印版・木型の費用に係る回収状況のほか、段ボール製品の需給動向について報告がされるとともに、出席各社の間でも自社又は管内におけるこれらの事項について相互に報告がされ、その内容は副支部長により同支部管内の状況として三木会に報告されていた。
平成23年9月26日に開催された埼玉支部会において、レンゴーの出席者は、他の出席各社に対し、段ボール製品について既に値上げを公表していたレンゴーに続いて値上げを実施するよう促したが、その時点ではレンゴー以外の原紙メーカーが段ボール原紙の値上げを表明していなかったため、レンゴーグループ以外の事業者においては、いまだ段ボール製品の値上げの意向を表明していなかった。その後、王子グループにおいて同月下旬に王子板紙が段ボール原紙の値上げを、王子コンテナーが段ボール製品の値上げをそれぞれ公表したほか、同年10月中旬には、主要な原紙メーカーによる段ボール原紙の値上げについての表明が出そろうとともに、同支部組合員のうち、トーモク、日本トーカンパッケージ、ダイナパック及び大王製紙パッケージも社内又はグループ内で値上げの方針を決定していた。こうした状況の下、同月19日に開催された埼玉支部会においては、出席各社の間で、段ボール製品について値上げを行うことが確認されたものの、同会合はゴルフ場でゴルフコンペ終了後に開催されたこともあって、同支部に所属する地場の段ボールメーカーの多くが欠席していたことから、これらの事業者の値上げに関する意向を確認するため、同年11月10日に予定されていた次回の埼玉支部会を急遽同月2日に繰り上げて開催することになった。
そして、11月2日埼玉支部会には、別紙10のとおり、組合員19社のうち18社の各営業責任者が出席したところ、支部長である王子コンテナーの≪I3≫が、その冒頭で原紙メーカーの各社が段ボール原紙を値上げするため、段ボール製品も値上げしなくてはならない旨発言するとともに、三木会に出席していた副支部長であるトーモクの≪C3≫は、10月17日三木会の報告として、同会合の出席各社において段ボール製品を値上げすることとなったこと、段ボールシートの値上げ幅は、1平方メートル当たり8円以上とし、その標準的な銘柄であるC5の販売価格につき、群馬・栃木支部、千葉・茨城支部においては、1平方メートル当たり50円を目標としていること、値上げ実施日は、同年11月21日又は同年12月1日とされたため、同年11月10日までにユーザーにその旨の見積書を提出すべきことなどを説明した上で、司会役を務めていたレンゴーの≪Ⅾ11≫が出席各社に対し、段ボール製品の値上げの方針について発表するよう求めた。
その際、レンゴーの≪Ⅾ12≫は、段ボールシートについて1平方メートル当たり8円以上、段ボールケースについて13パーセント以上値上げする旨発言し、レンゴーのみが納入業者となっているユーザー向けの段ボール製品については既に値上げを実施済みであることを報告した。王子コンテナーの≪I3≫は、段ボールシー卜及び段ボールケースとも公表どおり値上げするため、ユーザーに対する値上げの要請文書を提出し始めた旨発言した。トーモクの出席者は、同年12月1日納入分から段ボールケース及び段ボールシートについてそれぞれ12パーセント値上げを行うが、特に段ボールシートについては速やかに値上げを行いたい旨発言した。日本トーカンパッケージの出席者は、同日納入分から、段ボールシートについて1平方メートル当たり8円以上、段ボールケースについて12パーセント以上値上げすることを目標にユーザーに対して値上げ要請文書を提出している旨発言した。ダイナパックの出席者は、段ボールシートについて1平方メートル当たり7円、段ボールケースについて12パーセント値上げすることとし、ユーザーに対する値上げの要請文書を同年11月10日までに提出し、同年12月1日から値上げを実施する旨発言した。大王製紙パッケージの出席者は、同年11月21日納入分から段ボールシート及び段ボールケースとも値上げすることとし、ユーザーに対する値上げの要請文書及び見積書の提出を予定している旨発言した。セッツカートンの出席者は、段ボールシート及び段ボールケースとも同日出荷分から値上げする旨の見積書をユーザーに提出する旨発言した。大和紙器の出席者は、段ボールシートについて1平方メートル当たり8円以上、段ボールケースについて13パーセント以上値上げすることとし、ユーザーに対して同日までに値上げの要請文書を提出し、段ボールシートについては同年12月1日出荷分から値上げする旨発言した。アサヒ紙工の出席者は、段ボールシートにつき1平方メートル当たり8円以上、段ボールケースにつき13パーセント以上値上げする旨を社内で決定しており、ユーザーに対し、その値上げ要請文書を配布する旨発言した。ムサシ王子コンテナーの出席者は、グループ会社である王子コンテナーに準ずる値上げ幅で、同年11月21日納品分から値上げすることとし、ユーザーに対して値上げ要請文書を提出した旨発言した。トーシンパッケージの出席者は、段ボールシート及び段ボールケースともトーモクに準じて値上げすることとし、ユーザーに対して値上げの通知を行っている旨報告した。原告の出席者は、ユーザーに対して口頭で段ボール原紙が値上がりすれば、段ボール製品も値上げすることになることについては通知済みであるが、その値上げの時期は未定である旨発言した。コーワの出席者は、段ボール製品の値上げを予定しており、段ボールシートについては来週からユーザーにその見積書を提出する旨発言した。富士段ボールの出席者は、段ボール原紙が値上がりすれば段ボール製品も値上げすることになるが、その値上げの時期は未定である旨発言した。八木段ボールの出席者は、ユーザーに対し口頭で段ボール製品を値上げする旨通知しており、その値上げの時期は未定であるが、他社に同調する旨発言した。日藤ダンボールの出席者は、同年11月21日から値上げする予定であり、ユーザーに対して口頭で値上げを通知済みであるが、値上げの要請文書及び見積書の提出は他社に同調する旨発言した。旭段ボールの出席者は、段ボールシート及び段ボールケースとも値上げについてユーザーに対して口頭説明を始めているが、値上げの実施日や値上げ幅についてはいまだ社内で決まっていない旨発言した。浅野段ボールの出席者は、仕入先の原紙メーカーの代理店から段ボール原紙の値上げの通知があれば段ボールケースも値上げする旨発言した。
これらの発言を受け、司会役の上記≪Ⅾ11≫は、そのまとめとして、「シートは1平方メートル当たり8円以上、ケースは13パーセント以上で、平成23年11月21日又は12月1日を値上げ実施期日として値上げを頑張っていきましょう。問題があったら小部会で値上げを進めていきましょう。」などと発言した。
以上のとおり情報交換が行われた段ボール製品の値上げについて、11月2日埼玉支部会に出席した上記各社のうち、その時点でいまだ値上げ活動を始めていなかった事業者においても、それ以降、順次値上げ活動を行っていたところ、別紙11のとおり開催された埼玉支部会においては、出席各社の間で、こうした値上げの進捗状況について相互に報告がされていた。副支部長である上記≪C3≫は、これらを取りまとめた内容を埼玉支部管内の値上げの実施状況として三木会に報告していたものであり、その際に三木会で報告された他の支部管内の値上げの実施状況について埼玉支部会で報告したこともあった。その中で、値上げの実施が遅れていた富士段ボールに対しては、他の事業者が値上げ活動を進めるよう促していたこともあった。また、こうした値上げ交渉が難航しているユーザーについては、入れ合いとなっている事業者の間で小部会が開催されるなどして、これらの交渉の状況に関する情報交換が行われていた。
(査153、査155、査195ないし査197、査240ないし査246、査261、査276、査277、査279、査297、査327、査328、査338、査346、査347、査350、査356、査359、査360、査383、査384、査390、査396、査397、査400、査422、査426ないし査428、査450、査451、査454、査458、査461、査579の2、3、査663、査687、査695)
(10) 平成23年11月以降に開催された三木会の状況等(本件審決案84~86頁)
ア 10月17日三木会の出席各社の間で発表された段ボール製品の値上げの実施について、別紙11のとおり平成23年11月以降開催された三木会において、出席各社の間で、自社の値上げの進捗状況のみならず、支部長等を通じて支部管内における値上げの進捗状況も相互に報告されていた。このうち同年12月7日に開催された三木会と平成24年1月11日に開催された三木会は、例年その時期には開催されていなかったところ、このような値上げの進捗状況を確認するために臨時に開催されたものであった。
こうした中で、三木会においては、当初、平成23年12月末までに段ボール製品の値上げが完了するよう値上げ活動を行っていくことが予定されていたが、実際には、日経市況における段ボール原紙の販売価格が同月末頃まで上がらなかったことなどから、各社及び各支部とも値上げ活動が円滑に進んでおらず、取り分け段ボールケースの値上げに先行して行われるべき段ボールシートの値上げの進捗状況が悪かった。そこで、東段工管内に所在するボックスメーカーのうち値上げ交渉が難航しているユーザーを対象として値上げ活動の対策について協議するために「シート会議」などと称する会合(以下「シート会議」という。)が開催されることとなり、それ以降、本部役員会社のうち、レンゴー、王子コンテナー、トーモク、セッツカートン、森紙業、ダイナパック、日本卜ーカンパッケージ及び大王製紙パッケージの8社が中心となって、段ボールシートの競争が激しい国道4号線付近のボックスメーカーを始めとして東段工管内に所在するユーザー(その対象は少なくとも40社を上回り、関東地方のユーザーのみならず、≪事業者名略≫、≪事業者名略≫、≪事業者名略≫など北海道・東北地方のユーザーや≪事業者名略≫など静岡県のユーザーも含まれていた。)をリストアップした上で、シート会議を開催し、上記のとおり各地域で開催されていた小部会の幹事等から個別のユーザーに対する値上げ交渉の報告を受けながら、これらの値上げ活動の対策を協議していた。また、シート会議の中心メンバーであったセッツカートンの≪K2≫は、11月2日埼玉支部会に出席して、出席各社に対し、国道4号線付近のボックスメーカーに対して値上げを実施できないと段ボールシート全体の値上げに影響するため頑張ってほしいなどと述べて、これらの値上げ活動を促した。
このほか、三木会においては、富士段ボールなど値上げ活動が遅れていた事業者に対しては、これらの事業者が所属する支部において速やかに値上げ活動を進めるよう働きかけを行うことなども確認されていた。
(査130、査131、査139、査152、査174、査179、査266、査278、査302、査336、査350、査663)
イ こうした状況の下、東段工は平成23年12月15日に忘年会を開催し、東段工に所属する本部役員会社及びグループ会社のほか、東京コンテナ工業(晃里の代理出席)、コバシ、鎌田段ボール工業、浅野段ボール、旭段ボール、興亜紙業等の代表者ないし担当者が出席していたところ、同会合の挨拶の際、東段工の理事長であるトーモク代表取締役の≪C4≫は、段ボール製品の値上げ活動について、「今はまだら模様だが、やるべきときに努力しないと徒労に終わる。」、「今はいいタイミングなのでしっかりやってほしい。」、「年越しもみんなで走ってもらうしかないが、お願いしたい。」、「皆でがんばりましょう。」などと発言していた。また、これに続いて、三木会幹事長であるレンゴーの≪Ⅾ1≫は、「皆さん全力で価格改定に取り組んでおられると思いますが、わが社も全力上げて取り組んでいる。」、「東段工は信頼関係が深く、全国で一番早く決着をみる組織だと思っている。」、「信頼関係を持って進んでいけば、それなりの結果がついてくる。」などと発言したほか、王子コンテナーの≪I4≫は、「板紙の値上げは何度も経験したが、段ボールの値上げは根気が必要だとつくづく思っている。」、「幸い大手(全農)から原紙を1/1から値上げするとの連絡が入ってきた。」、「年明けても交渉しないといけないかもしれないが、可能な限り今年中に決めるため、ベクトルを合わせてやっていきたい。」、「王子チヨダに何か問題があれば、私に言ってください。」などと発言していた。(査691ないし査693)
(11) 段ボール製品の値上げの実施状況(本件審決案86~87頁)
以上のとおり、本件各事業者においては、それぞれ段ボール製品の値上げ活動を行っていたところ、その値上げの実施時期や進捗状況には差異があったものの、その実施に当たり目安とした値上げ幅は、三木会又は支部会等でこれらを発表した事業者のみならず、それ以外の事業者においても、レンゴー及び王子コンテナーの発表した値上げ幅と大きな差異がみられるものではなかった。
そして、これらの値上げ活動の結果、東段工管内における段ボール製品の値上げの実施率は、平成24年4月20日(「平成24年4年20日」との表記は誤記と認める。)に三木会が開催された時点で、段ボールシートについてはほぼ100パーセントに達していたほか、段ボールケースについても、約80パーセントに達し、さらに、同年5月17日に三木会が開催された時点では、段ボールケースについて90パーセントに達しており、これらの会合で各支部からの報告によりこうした値上げの達成状況が確認されたところ、レンゴーの≪Ⅾ2≫は、同日に開催された三木会で、おおむね自社の段ボール製品の値上げが完了した旨表明した。
(査1ないし査63、査64ないし査127、査139、査179、査266、査579の4、査591ないし査605)
(12) 被告による立入検査(本件審決案19頁)
ア 被告は、平成24年6月5日、本件各違反行為に関し、埼玉県、群馬県、栃木県等に所在する段ボールメーカーが共同して段ボール製品の販売価格を決定しているという疑いで、独占禁止法47条1項4号の規定に基づいて立入検査を行った。(査665、査666)
イ さらに、被告は、平成24年9月19日、本件各違反行為及び関連事件の違反行為に関し、上記規定に基づいて立入検査を行った。
ウ 少なくとも上記アの立入検査が行われた平成24年6月5日以降は、本件各事業者の間で段ボール製品の販売価格に関して情報交換が行われていない。
(13) 関連事件との関係(本件審決案19頁)
関連事件は、大手5社が5社会において特定ユーザー向け段ボールケースの販売価格又は加工賃を引き上げる旨の合意(以下「関連事件合意」という。)をしたことを違反行為とするものであるところ、被告は、特定段ボールケースに係る取引のうち、特定ユーザー向け段ボールケースに係る取引と重複する部分については、大手5社の間で遅くとも平成23年10月31日までに関連事件合意が成立したことにより、第2事件違反行為の対象となる特定段ボールケースの販売価格を引き上げる旨の合意による拘束の対象から事実上除外されたことを理由として、第2事件課徴金納付命令において、課徴金の計算の基礎となる特定段ボールケースの売上額から上記重複部分に係る売上額を除外している。
3 争点
本件訴訟における争点は、次のとおりである(独占禁止法82条)。
(1) 本件審決の基礎となった以下の各事実認定について実質的な証拠があるか(同条1号該当性)。(第1事件及び第2事件)
ア 意思の連絡(本件各合意)の成立
10月17日三木会において、出席各社の間で、東日本地区の需要者に向けて販売される特定段ボールシート及び特定段ボールケースの販売価格について、相互に歩調をそろえながら値上げを行う意思が形成され、その旨の意思の連絡が成立し、本件各合意が成立したと認定したこと
イ 本件各合意への参加
支部会等において出席各社が当該会合を通じて10月17日三木会で成立した意思の連絡(本件各合意)に参加したと認定したこと
ウ 一定の取引分野
対象とする「一定の取引分野」について、本件各合意の内容を前提に東日本地区全域であると認定したこと
エ 競争の実質的制限があること
(2) 本件審決の以下の独占禁止法の解釈は誤りか(同条2号該当性)。
ア 独占禁止法7条の2第1項柱書の「当該行為の実行としての事業活動を行った日」を実際に値上げが実現した日ではなく、値上げの実施希望日と解釈したこと(第1事件)
イ 独占禁止法施行令5条1項の「商品の対価」に消費税相当額が含まれると解釈したこと(第1事件及び第2事件)
ウ 独占禁止法7条の2第1項柱書の「当該商品」に段ボールケースの卸販売によるものを除外しない旨の解釈をしたこと(第2事件)
エ 独占禁止法7条の2第1項の「卸売業」に段ボールケースの卸販売によるものがあるにもかかわらずこれに当たらないと解釈したこと(第2事件)
4 争点に関する原告の主張
(1) 争点(1)ア(10月17日三木会における意思の連絡(本件各合意)の成立の認定)について(第1事件及び第2事件)
ア 10月17日三木会では、原告は、値上げの時期は検討中と述べるにとどまり、値上げは決定していないし、意向も述べておらず、認容もしていない。本件審決は、原告について、どの証拠から「自社においても値上げをする旨の意向を示していた」とするものか不明であり、原告は、上記三木会において、他の事業者と段ボール製品の販売価格の引上げを認識・認容した事実はなく、意思の連絡が成立したことはない。
イ 本件審決が認定に供した王子コンテナーの≪I4≫(査178)、興亜紙業の≪H≫(査455)及び原告代表者(査355)の各供述調書については、信用できない。
ウ 原告代表者が「検討中」と述べた当時、一貫メーカーであるレンゴーによる段ボール原紙と段ボール製品の値上げ公表後、原紙となる古紙の価格がむしろ下落しており、次いで大手の原紙メーカーである王子グループが値上げを公表するまで1か月近くを要しており、過去に一旦は原紙価格が値上がりしても浸透せずに、その後値下がりしたことがあったことなどから、段ボール製品の値上げがユーザーに受け入れられるか懐疑的であった。また、原紙を商社経由で仕入れているところ、一旦は原紙価格が改定されても、「後から値引き」という商慣習があり、一方で、アウトサイダーを含めた地場の段ボールメーカー等との価格競争が厳しい中で、大手段ボールメーカーが値上げをしたという理由だけで段ボール製品の値上げを求めると、顧客を奪われる可能性が高いことから、専業メーカーにすぎない原告としては、商社からの原紙の仕入価格が値上がりするまでは自社の段ボールシート価格の値上げをしない旨を独自に決めていたところ、10月17日三木会の開催時点までに、商社から値上げの連絡がなかった。以上のような客観的証拠により認められる重要な間接事実からすると、当日の原告代表者の「検討中」との発言は、「値上げの意向」を示すものではないにもかかわらず、本件審決が、原告に「値上げの意向」があったと認定することは、実質的な証拠なくして認定していることになる。
エ 原告は、上記ウのとおり専業メーカーとして現実に仕入価格が値上がりするまでは値上げをしない旨を決めていたところ、平成23年12月後半に、商社から、平成24年になったら現実に仕入れ価格が上がるとの情報が入ったことから、改定の準備を始め、同年1月に値上げの決断をした。したがって、原告は、自ら段ボール原紙の仕入価格が値上がりするという確実な情報をつかんでから、段ボール製品の値上げを決断したものであり、「他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情」(東京高等裁判所平成7年9月25日判決(以下「東芝ケミカル株式会社による審決取消請求事件判決」という。)が認められる。
オ 原告が値上げ活動後に三木会で値上げの進捗状況を報告して情報交換をしていた点については、これによって他社と協調して値上げ活動を行ったとの本件審決の認定は誤りである。
カ 本件審決は、段ボールシートと段ボールケースの値上げ幅の合意を認定しているが、具体的な値上げ幅まで意思の連絡が当日になされたという実質的証拠はないし、値上げをするかどうか未定の原告が、値上げ幅についてまで合意したと認定する実質的証拠もない。参加者全体で、互いに一方が値上げしたときに相手もこれに同調して値上げを行うという相互の信頼関係ができるほどの意思の連絡ができるはずもない。
原告が年明けから行った段ボールシートの値上げ幅は、1平方メートル当たり最安値35円から最高値58円だったものが、改訂後1平方メートル当たり最安値40円から最高値62円となったのであり、一律の上げ幅ではなく、大手の段ボールメーカーの値上げ幅は指標になることはない。段ボールケースについては、特注品であり、種類が多数ある個別商品ごとに、原紙の占める割合が異なり、製造工程にも差があり加工賃も異なり、価格値上げを一律の指標では決められないから、たとえ指標だとしても、一律に値上げ幅を合意することはあり得ない。
キ 本件審決は、審査官が当初に思い描いた事件の「構図」、すなわち「三木会及び支部会等において行われた協調行為は、レンゴーを始めとして本部役員会社を占める大手の段ボールメーカーが管内の地場の段ボールメーカーとも各支部の会合を通じて協調しながら東段工管内全体で値上げを実施するため、これらの主導により、組織的に一連のものとして行われたもの」(本件審決案117頁)との設定が根本的に誤っていたにもかかわらず、この構図に合う供述証拠のみを取り上げて事実認定をした結果、客観的証拠との矛盾を起こしているものであり、かかる事実認定に、実質的証拠があるとはいえない。
ク 「意思の連絡」につき、いわゆる競争制限効果のある合意、すなわち出席していた各社自らが仮に値上げをしても競合する同業他社が自社と同様に値上げを行って追随し、万一にも自社の取引先を価格の面で奪われることがないような相互の信頼関係が構築されるような意思の連絡が必要である。しかし、10月17日三木会において、レンゴー、王子コンテナー、トーモクが値上げを発表どおり報告したとしても、この1回の会合だけで、他の業者や地場の業者、アウトサイダーまで含めて全てが値上げに追随するという相互の保証があったわけではなく、競争制限効果がある合意などできていなかった。これは講学上の「意識的並行行為」にすぎない。単発の連絡によって「意思の連絡」が形成されることはなく、現在・将来の市況動向、自己・販売先・仕入元の各業界の動向予測を共有し、相当回数の連絡交渉や会合を積み重ねることによって信頼関係が醸成されなければ、実効的な価格引き上げはできないのである。
(2) 争点(1)イ(支部会等を通じた本件各合意への参加の認定)について(第1事件及び第2事件)
ア 本件審決は、10月17日三木会で、これに参加していない全ての事業者との間でも「意思の連絡」が成立したとするが、これは実質的証拠を欠く。
すなわち、値上げは各事業者の利害が激しく対立する点であるところ、三木会は値上げをするための組織ではなく、何かを決定してそれを支部に伝達して一定の拘束を行う組織ではないものである。東段工の非組合員であるアウトサイダーも各地域におり、支部会だけで「組織的に」行うことはできない。
イ 10月19日新潟四木会、10月24日長野5社会、10月27日トップ会(北海道)、10月27日群馬会、10月27日栃木会及び10月31日宮城支部会の六つの支部会等については、10月17日三木会について伝達されていない(本件審決案96頁)し、そもそも意思の連絡の手配すらされていない(特に、欠席した東北支部への伝達や、普段から参加していない北海道支部への対応が検討、協議されていない。)。よって、10月17日三木会に出席した原告との間で意思の連絡があるとはいえない。
そして、仮に支部会等に連絡がなくとも、三木会の参加者との間で意思の連絡が成立したという認定(本件審決4頁)は、実質的証拠を欠いている。原告は、被告主張のような「概括的に認識していた」ことはなかった。三木会で成立した事実の伝達がなければ、当該支部で情報交換がされたとしても、単にその地域だけの個別の合意となるにすぎない。これは講学上の「意識的並行行為」にすぎない。原告が、どの範囲の事業者との間で「意思の連絡」をしたのか、証拠上明らかでない。追随予測といっても、支部会等に現実に参加した段ボールメーカーが前提となるので、10月17日三木会の出席各社にとって、全国各地でどの範囲の段ボールメーカー(アウトサイダーも含む。)が支部会等に出席して追随するかまでは予測不可能であった。
本件審決の論法でいけば、他の同業者の範囲は東日本に限らず日本全国に及ぶことになるはずであり、本件審決の論法は破綻している。
ウ 本件審決案(53頁)は、三木会と支部との関係について、従前の慣行として「三木会と支部会等との間でも、支部長等を通じて相互にこうした会合の内容が報告、伝達されることが通常であった。」と認定するが、実質的証拠がない。
(ア) すなわち、上記イのとおり、新潟県、長野県、北海道、群馬県、栃木県及び宮城県の合計6道県の支部会等では、10月17日三木会の内容が報告されず、また、青森県、岩手県、秋田県、山形県及び福島県の合計5県での支部会等では、10月17日三木会の内容が報告されたとの主張が審査官からされずに本件審決でも認定はないのであり、東日本の18都道県のうち過半数の11道県で伝達されていないということは、上記認定が実情からほど遠いことを示している。
(イ) 北海道では、支部会が開催されておらず、任意の集まりであるトップ会は、東段工の正式組織である北海道支部とは組織的に異なり、実態としても代替性がないものであるから、トップ会が北海道支部の会合に代わるものという認定は、実質的証拠を欠くものである。よって、少なくとも北海道支部に関しては、支部会は開催されていない。なお、被告はトップ会と北海道支部との関係の実質論を主張するが、「組織的に一連」か否かが問題なのであるから、東段工と正規の組織上の関係がなく任意の組織であるトップ会が開催されれば足りるというものではない。
(ウ) 東北6県の東北支部では、支部会の開催は年1回の総会のみであり、平成23年は同年3月11日の東日本大震災により段ボールメーカーの工場稼働が止まって需給関係に影響が出ていた。≪E≫支部長が三木会に参加することはごくまれであり、9月22日三木会及び10月17日三木会には出席せず、11月17日三木会に出席した。宮城県に工場がある会社で構成される宮城支部会は、東段工の正式な下部組織ではなく、専ら宮城県内の情報が話題となっているのであって、別の組織である東北支部会を代替することはできない。このように、東北支部と三木会が相互にその内容を報告などしていたわけではないのであり、組織的に支部会が利用されたとはいえない。
(エ) 新潟県及び長野県の新潟・長野支部では、支部会の開催は年1回程度の総会であり、別に新潟四木会、長野5社会が月1回程度開催され、東段工の組合員以外も参加している。10月19日新潟四木会、10月24日長野5社会では、値上げについて話題になっているが、東段工や三木会とは組織的に無関係の任意の会合である。このように、組織的に支部会が利用されたとはいえない。
エ 本件審決は、三木会及び支部の会合等には特定のユーザーについて競り込みをかける事業者について解決する機能があるかのように認定するなど、三木会及び業界の慣例について誤った認定をしている。
仮に、競り込み禁止を恐れて自粛する業者がいるとしても、それは東段工の組合員に限られ、非組合員(アウトサイダー)にとっては、三木会は組織的に無関係であるから、三木会への上程は歯止めにならない。
オ 六つもの支部会等に10月17日三木会の内容が伝えられなかったということは、三木会も支部会等への伝達を予定しておらず、格別伝達に意を用いていなかったものといえるし、上記三木会に出席していない大手の段ボールメーカーの工場長らは、三木会での本件各合意の存在を知らないので、支部会等で共通の意思が形成されたとしても、三木会での本件各合意とは無関係である。
カ 一般に、段ボール原紙の値上がりがあれば、段ボール製品製造業者としては、仕入れ価格に影響するので値上げを検討するのは通常のことであるから、そのような時期に、各地の業者が互いの情報交換の中で値上げを表明しても、違法ではない。同時期に各地で商圏が重なる業者間で、値上げ問題が話題に上るのは、商社からの仕入れ値が上昇する時期が重なれば当然のことであり、一斉に値上げの話題が各地の支部会等で出ても、違法ではない。本件審決案は、上記の「構図」を設定して、地域構わず東日本全体に一律に当てはめようとしているが、上記イ及びウのとおり、三木会と各支部では相互に会合の内容が報告伝達されておらず、組織的に一連で行ったものではない。
(3) 争点(1)ウ(一定の取引分野の認定)について(第1事件及び第2事件)
ア 最高裁平成24年2月20日第一小法廷判決(民集66巻2号796頁。以下「多摩談合新井組最高裁判決」という。)は、「一定の取引分野」とは、違反者が合意の対象とした範囲をもって一定の取引分野とする市場画定の手法は誤りであると指摘しているところ、本件審決はこれに違反して一定の取引分野を合意により確定している。
イ 地理的範囲について
(ア) 段ボール製品は、相対的に輸送コストがかかり、事業者の取引範囲はその工場からせいぜい100キロメートル以内の一定範囲に限定され、原告の場合、段ボールシートは工場から直線距離で20キロメートル以内の顧客への納品が7割であり、段ボールケースでも最大で100キロメートル以内であり、それ以上の遠距離では競争にならない。そのため、原告のような地場の段ボールメーカーは、その範囲でしか取引しておらず、原告も埼玉近郊をはるかに超える東日本全域を取引分野であると意識したことはない。大手段ボールメーカーも、しょせんは各地の工場から一定の範囲でしか競争に参加できない。しかし、大手段ボールメーカーが三木会に参加しているというだけで、原告に関し東日本全域を地理的範囲とする取引分野が成立したとする本件審決の認定・判断は実質的証拠を欠く。
(イ) 仮に競争関係が重層的に成立することを前提としても、事業者の工場から一定の範囲の市場が全国に複数、重層的にあるというだけであり、重層的だからといって、埼玉県に一つの工場を有する原告として、隣接する地域をはるかに超えて、北海道や東北などの遠方の商圏と重なることはなく、東日本全体に市場が広がるものではない。商圏の重ならない事業者との競争はあり得ない。
(ウ) 北海道の商圏について
段ボールの市場環境として、段ボールの運賃の関係から、北海道から北海道以外への出荷や北海道以外から北海道への出荷はほとんどないといえる。よって、北海道は、本州と津軽海峡を挟んで独自の商圏を形成しており、少なくとも埼玉県に工場があるだけの原告とはいかなる意味でも商圏は重ならない。
ウ 特定段ボールケースについて、広域ユーザー向けのものと地場ユーザー向けのものの違いについて
段ボールケースについて、広域ユーザー向けのものは、大手5社のシェアが8割を超えており、原告も販売していないし、地場メーカーも参入していないところ、これは、段ボールケースは製品の形状により加工の工程が様々であるため、製品の品質の差が大きくなり、技術力や、配送・発注量を含めた現実の供給能力が、全国各地に工場を持つ大手メーカーでなければ対応できないことが大きな理由である。
本件審決は、以上の違いをあえて無視し、大手5社が5社会において情報交換していたのは広域ユーザーのうち67社にすぎないと過小評価している。
(4) 争点(1)エ(競争の実質的制限の認定)について(第1事件及び第2事件)
ア 第1事件三木会出席者11社による東日本地区における段ボールシートの市場シェアが44.29パーセント、第2事件三木会出席12社の同地区における段ボールケースの市場シェアが41.2パーセントといずれも5割に満たず、特に段ボールケースについては5社会を構成する事業者による広域ユーザー向けのそれを差し引くと、シェアは更に低下するから、本件各合意による競争の実質的制限は生じない。
イ 原告は、埼玉近郊のみで段ボール製品を販売しているため、東日本でのシェアは低く、原告など地場の段ボールメーカーの競争範囲を超えた東日本全体で競争を実質的に制限することにはならない。
ウ 本件審決は、他の事業者の価格けん制力を過少評価している。
(5) 争点(2)ア(事業活動を行った日の解釈)について(第1事件)
本件審決は、原告に対する段ボールシートに関する第1事件課徴金納付命令(平成26年(納)第140号)について、その始期を平成24年1月21日と認定しているところ、値上げ交渉は見積書の提出後にスタートするものであり、見積書に記載した値上げの実施希望日は一方的な提案にすぎず、提案どおりに実施できるとは限らないから、実際に値上げが実現した日を上記算定期間の始期とすべきである。よって、上記始期は、実際に値上げをした価格で商品を納めた日の内、最も早い日である同年2月1日とすべきであり、同年1月21日から同月31日までの売上げは除外して計算すべきである。
(6) 争点(2)イ(商品の対価の解釈)について(第1事件及び第2事件)
課徴金制度は、違反行為者に不当な利得を保持させず、特定の違反行為の禁止の実効性を確保するための行政上の措置であり、このような趣旨からすれば、預かったにすぎない消費税相当額は、課徴金算定の基礎となる売上額から除外すべきであり、利得の増減や独占禁止法の改正なくして課徴金額が増額変更されることとなることも、同法が予定するものではない。したがって、特定段ボールシート及び特定段ボールケースの消費税相当額を、原告に対する第1事件及び第2事件課徴金納付命令における課徴金の計算の基礎としての売上額から除外すべきである。
(7) 争点(2)ウ(当該商品の解釈)について(第2事件)
本件ケース合意は、段ボールケースの製造業者による製造販売についての価格カルテルとされるものであるから、段ボールケースの売上額のうち卸販売(転売)による売上額は、課徴金の計算の基礎から除外すべきである。
(8) 争点(2)エ(卸売業の解釈)について(第2事件)
段ボールケースの卸販売による売上額を課徴金の計算の基礎から除外されないとしても、製造販売業と卸売業とでは利益率が異なることにより課徴金の算定率が異なっているのであるから、過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて単一の業種(製造販売業)を決定する合理性に欠ける。
したがって、製造販売業に基づく売上げと卸売業に基づく売上げとを区別して算出できる本件のような場合には、課徴金もそれぞれの売上額ごとに、それぞれの算定率で算出すべきであり、卸販売による売上額には、卸売業としての課徴金算定率1パーセント(独占禁止法7条の2第5項1号)を乗じて課徴金額が算出されるベきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(上記第2の2の本件審決が認定した各事実に関する実質的証拠の有無)について(第1事件及び第2事件)
(1) 上記第2の2の本件審決が認定した各事実のうち、「(1) 当事者」については当事者間に争いがなく、「(2) 本件各事業者の概要」、「(3) 段ボール製品の流通・取引」、「(5) 平成23年10月17日に三木会が開催されるまでの経緯」のア(ア)、イ、ウ及びエ、「(6) 三木会等の開催」のア、「(8) 支部会等の開催」、「(12) 被告による立入検査」並びに「(13) 関連事件との関係」の各認定事実については、原告も実質的にはこれを争っておらず、本件審決が引用する各証拠について、その信用性につき特に疑念を生ずべき事情は認められないから、いずれも実質的な証拠があると認められる。
(2) 上記第2の2の本件審決が認定した各事実のうち、「(4) 段ボール製造業における慣行等」、「(5) 平成23年10月17日に三木会が開催されるまでの経緯」のア(イ)、(ウ)及び(エ)、「(6) 三木会等の開催」のイ、「(7) 10月17日三木会の状況」、「(9) 各支部の連絡」、「(10) 平成23年11月以降に開催された三木会の状況等」並びに「(11) 段ボール製品の値上げの実施状況」の各事実については、本件審決が各認定事実において引用する各証拠に基づいて合理的に認めることができ、その信用性につき特に疑念を生ずべき事情は認められないから、いずれも実質的な証拠があると認められる(なお、「(11) 段ボール製品の値上げの実施状況」中の平成24年4月20日に三木会が開かれたとの点については、摘示の査139及び査179によれば同月19日のことと考えられるが、この点は、以下の説示を一切左右しない。)。
(3) そして、以下の2ないし5のとおり、争点(1)アないしエに関して本件審決が認定した事実には、いずれも実質的な証拠があると認められる。
2 本件審決の争点(1)ア(10月17日三木会における意思の連絡(本件各合意)の成立の認定)について(第1事件及び第2事件)
(1) 本件審決の判断(本件審決案87~90、101頁、本件審決2頁)について
複数の事業者が対価を引き上げる行為が、独占禁止法3条の規定により禁止されている「不当な取引制限」(同法2条6項)にいう「共同して」に該当するというためには、当該行為について、相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要であると解されるところ、ここにいう「意思の連絡」とは、複数の事業者の間で相互に同程度の対価の引上げを実施することを認識し、これと歩調をそろえる意思があることを意味し、一方の対価引上げを他方が単に認識して認容するのみでは足りないものの、事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りると解するのが相当である。そのような観点からすると、特定の事業者が、他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をして、同一又はこれに準ずる行動に出たような場合には、当該行動が他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められない限り、これらの事業者の間に、協調的行動をとることを期待し合う関係があり、上記の「意思の連絡」があるものと推認されるのもやむを得ないというべきである(東芝ケミカル株式会社による審決取消請求事件判決参照)。
そして、上記1において実質的な証拠があると認められる本件審決が認定した各事実(上記第2の2)によれば、10月17日三木会において、出席各社の間で、段ボールシートの販売価格について、現行価格から1平方メートル当たり7円ないし8円以上、段ボールケースの販売価格について、現行価格から12パーセントないし13パーセント以上引き上げることが確認され、相互に歩調をそろえながらこうした値上げを行うとの意思が形成され、その旨の意思の連絡が成立したものと合理的に認められるから、第1事件事業者57社のうち、第1事件三木会出席11社については、10月17日三木会において本件シート合意が成立するとともに、第2事件事業者63社のうち、第2事件三木会出席12社については、同会合において本件ケース合意が成立した旨の本件審決の判断には合理性があり、かつ、本件審決の同認定には実質的な証拠があると認められる。
(2) 原告の主張に対する当裁判所の判断について
ア 原告は、10月17日三木会では、原告は、値上げの時期は検討中と述ベるにとどまり、値上げは決定していないし、意向も述べておらず、認容もしていない旨、本件審決は、原告について、どの証拠から「自社においても値上げをする旨の意向を示していた」とするものか不明であり、原告は、上記三木会において、他の事業者と段ボール製品の販売価格の引上げを認識・認容した事実はなく、意思の連絡が成立したことはない旨主張する(上記第2の4(1)ア)。
しかし、原告代表者の供述(査355・11頁)によれば、同人は、10月17日三木会において、出席各社が値上げの意向を持っていることを確認した上で、自社がいまだ値上げ活動の準備ができていなかったために「値上げ時期について『検討中』と回答した」ものであるところ、かかる状況下での上記の回答は、原告としてもいずれ値上げを行うことを前提に、その時期について未定である旨の発言をしたものと理解できるものである上、同発言のほか、上記三木会に出席していた王子コンテナーの≪I4≫(査178・9~10頁)や興亜紙業の≪H≫(査455・5~6頁)が、原告代表者を含む出席者から値上げに同調的な発言があったものと捉えていること(その信用性については、下記イのとおりである。)、原告代表者自身も、その供述調書(査355・12頁)や代表者審尋(審尋調書24頁)において、その後の三木会において自社の値上げ活動の状況を報告していたことを述ベていること、原告の営業部長である≪G2≫が、その後の埼玉支部会や小部会において、自社の値上げ活動状況や特定のユーザーに関する交渉状況について情報交換をしていた旨述べていること(査356・10~11頁、査687・4~9頁)なども総合すると、同発言をもって、「自社においても値上げをする旨の意向を示していた」とした本件審決の認定は合理的である。そして、これらによると、原告は、10月17日三木会の時点ではいまだ社内で段ボール製品の値上げを行うことが確定していなかったとしても、段ボール製品の値上げに関して同会合で行われた情報交換を踏まえ、自社においても段ボール原紙が値上がり次第、他の事業者と足並みをそろえて値上げを実施するとの意思を有していたと認められるのであり、原告についても同会合において他の事業者との間でその旨の意思の連絡が成立したという本件審決の認定、判断は合理的であるといえる。
イ 原告は、本件審決が認定に供した王子コンテナーの≪I4≫(査178)、興亜紙業の≪H≫(査455)及び原告代表者(査355)の各供述調書については、以下のとおり、信用できるものではない旨主張する(上記第2の4(1)イ)が、以下のとおり、いずれも信用性を認めることができる。
(ア) 原告は、王子コンテナーの≪I4≫の供述調書(査178)につき、本件審判手続において、明らかに事実と異なる記載が見受けられるなどにより原告が採用に異議を述べたもので、参考人審尋を経ていない伝聞証拠である旨、同人自身が陳述書(審B共17・7頁)において事実に反する供述調書が作成された旨を述べており、任意性に問題があり証明力も弱い旨、本件審決引用部分のような発言を誰がしたのか自体が曖昧である旨、同人は、王子グループやレンゴーグループのような一貫メーカーは原紙と段ボールシート及びケースの値上げを同時に決定するが、専業メーカーは原紙の値上げ交渉をこれから行うから、段ボールシート及びケースの値上げについては未定の状況であったと思う旨を述べており(同6頁)、原告代表者の発言を「値上げに同調的であった」とは捉えていなかったことがうかがわれる旨主張する。
しかし、上記≪I4≫の10月17日三木会に関する供述内容は、客観性の高い自身の手書きのメモ(査178添付1枚目)や同三木会で収集した情報を受けて作成された社内会議用の資料(同2枚目)と整合しており、基本的に信用性が認められるところ、同人が供述する「『ちゃんと値上げ活動をやってくれ』などと発言していた者」(査178・9~10頁)が具体的に特定できておらず、当該具体的発言が原告代表者によるものであるか否かが断定できないとしても、その供述がなされた点について信用性は左右されず、原告代表者がこれと同趣旨の発言をしていたとしても不自然ではないといえる。その他原告の主張を考慮しても、上記≪I4≫の供述調書における供述の信用性を認める本件審決の判断の合理性を左右するものではない。
(イ) 原告は、興亜紙業の≪H≫の供述調書(査455)につき、本件審判手続において、明らかに事実と異なる記載が見受けられることなどにより原告が採用に異議を述べたもので、参考人審尋を経ていない伝聞証拠である旨、本件審決は値上げの「方針」を値上げの「意向」と根拠なく変更して引用しているが、発言者が原告であるかどうかは不明である旨主張する。
しかし、上記≪H≫は、10月17日三木会において、出席各社が「順次、段ボール製品の値上げに関する方針を表明しました。」(査455・5~6頁)と供述するところ、同人の認識において、値上げに関する方針を表明しなかった出席者がおらず、原告も含めてこれに沿う発言をしていたことがうかがわれる。その他原告の主張を考慮しても、同人の供述調書における供述の信用性を認める本件審決の判断は合理的である。
(ウ) 原告は、原告代表者の供述調書(査355)につき、本件審決は、「値上げの意向自体を表明していたことまでは否定していなかった」と評するが、同調書作成において審査官から聞かれもしないことは答えようがない旨、同供述調書中の「値上げの協調」、「意思統一」、「協調」などという表現については、原告代表者が述べたものではなく、審査官が決めつけた筋書きどおりの言葉で同調書が作成されたものである旨、原告代表者は、同調書の録取の直後に内容証明郵便(審E12)をもって異議を述べたところである旨、原告代表者の上記供述調書の記載は、10月17日三木会の「出席各社」の値上げの意向を確認したというものではなく、レンゴー、王子グループ、トーモク、日本トーカンパッケージなどの値上げの意向を発表した「各社」の値上げの意向を確認しただけである旨主張する。
しかし、原告代表者の供述は、10月17日三木会において、自身が「値上げの時期について『検討中』」(査355・11頁)と発言したというものであるが、他の出席者には値上げの意向を示したものであると受け止められるものであるし、仮にそうでないのであれば、供述聴取の過程において、審査官の発問の有無にかかわらず、供述者はこれを否定する趣旨の供述をするのが自然であるから、本件審決が「暗に値上げの意向自体を表明していたことまでは否定していなかった」と評価したことは不合理とはいえない。また、原告代表者は、供述調書に係る供述聴取の際に、「値上げの協調」、「意思統一」、「協調」などといった表現のある供述調書に署名押印をしているのであり、後日、発言の訂正や撒回を求めて供述調書の内容について抗議する旨の行動に出たことを考慮しても、原告が、10月17日三木会以降の三木会、埼玉支部会、小部会において、自社の値上げ活動状況や特定のユーザーに関する交渉状況についての情報交換など、協調的な値上げを実現するための行動をとっていたことからすれば、上記供述調書には原告代表者の認識が記載されていると考えられる。その他原告の主張を考慮しても、同人の供述調書における供述の信用性を認める本件審決の判断は合理的である。
ウ 原告は、原告代表者が「検討中」と述べた当時、一貫メーカーであるレンゴーによる段ボール原紙と段ボール製品の値上げ公表後、原紙となる古紙の価格がむしろ下落しており、次いで大手の原紙メーカーである王子グループが値上げを公表するまで1か月近くを要しており、過去に一旦は原紙価格が値上がりしても浸透せずに、その後値下がりしたことがあった(平成20年10月の値上げにおいて、原紙価格が10円値上げとなった後、平成21年4月に5円値下がりとなった。審E19、原告代表者審尋調書3頁)ことなどから、段ボール製品の値上げがユーザーに受け入れられるか懐疑的であった旨、また、原告は原紙を商社経由で仕入れているところ、一旦は原紙価格が改定されても、「後から値引き」という商慣習があり(審E10、原告代表者審尋調書3~4頁)、一方で、アウトサイダーを含めた地場の段ボールメーカー等との価格競争が厳しい中で、大手段ボールメーカーが値上げをしたという理由だけで段ボール製品の値上げを求めると、顧客を奪われる可能性が高い(審E4、原告代表者審尋調書1頁)ことから、専業メーカーにすぎない原告としては、商社からの原紙の仕入価格が値上がりするまでは自社の段ボールシート価格の値上げをしない旨を独自に決めていたところ、10月17日三木会の開催時点までに、商社から値上げの連絡がなかった(同日に届いた見積もりの書面(審E14の1)については、原告代表者は知らないままに同三木会に出席した。)旨、以上のような客観的証拠により認められる重要な間接事実からすると、当日の原告代表者の「検討中」との発言は、「値上げの意向」を示すものではないにもかかわらず、本件審決が、原告に「値上げの意向」があったと認定することは、実質的な証拠なくして認定していることになる旨主張する(上記第2の4(1)ウ)。
しかし、仮に、原告において、上記三木会の開催時点において、段ボール製品の値上げの時期のみならず、値上げをすること自体について、社内的に意向が定まっていなかったとしても、原告は、同三木会での出席各社の発言を踏まえて、他社と同様に値上げをする意向を固め、その後の値上げ活動の状況について情報交換するなどして、協調して値上げ活動を行うこととしたものと認められるので、出席各社の間で相互に同程度の対価の引上げを実施することを認識し、これと歩調をそろえる意思があったといえるから、「意思の連絡」があるという本件審決の判断は合理的であるといえる。また、仮に、原告が、段ボール原紙の値上げに客観的な根拠が乏しく、段ボール製品のユーザーが値上げを受け入れることが難しいと考えていたとしても、そもそも段ボール製品の製造業界においては、これまでの経験から、大手の段ボールメーカーの活動だけではユーザーに値上げを受け入れてもらうのは困難であると認識されていたからこそ、三木会等の場で大手の段ボールメーカーが主導して広く値上げに同調するように働きかけていたのであって、10月17日三木会において、原告が、根拠不足を克服して値上げを実現するためにもこれに呼応したとしても不自然ではなく、同三木会の時点において、主要な原紙メーカーの値上げの表明は出そろっており、そろって値上げの意向があることは既に明らかになっていたのであるから、原告においては、これら原紙メーカーの意向も踏まえればいずれ段ボール原紙の値上げは避けられない状況にあったことを認識していたのであり、商社からの段ボール原紙の値上げの連絡を待って段ボール製品の値上げをする意向があったというのであれば、10月17日三木会の当時、同値上げを実施する意向があったと認めることは合理的である。そして、段ボール原紙について後の値下げや値引きがあり得たとしても、その時期や金額は不透明である(原告代表者審尋調書17~19頁)から、一旦は段ボール製品に転嫁して値上げを実施することを妨げる事情があったとはいえない。
エ 原告は、上記ウのとおり専業メーカーとして現実に仕入価格が値上がりするまでは値上げをしない旨を決めていたところ、平成23年12月後半に、商社から、平成24年になったら現実に仕入れ価格が上がるとの情報が入ったことから、改定の準備を始め、同年1月に値上げの決断をした(審E4・3頁、原告代表者審尋調書4~5頁)のであって、自ら段ボール原紙の仕入価格が値上がりするという確実な情報をつかんでから、段ボール製品の値上げを決断したものであり、「他の事業者の行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情」(東芝ケミカル株式会社による審決取消請求事件判決。上記(1)参照)が認められる旨主張する(上記第2の4(1)エ)。
しかし、原告が、たとえ社内的には10月17日三木会の後に具体的な段ボール製品の値上げ活動を行うことを決定したものであったとしても、既に同三木会において大手段ボールメーカーを中心とする出席各社の値上げの意向を認識していたものであり、上記の社内的な決定は、他の事業者が同様の行動を採ることが期待できる状況で、独自に値上げ活動をするリスクを負担することなく下すことができたものであるし、原告は、同三木会以降の三木会、埼玉支部会及び小部会において、値上げに関する情報交換を継続して行っていたのであるから、上記の「特段の事情」があるとは認められない。
オ 原告は、原告が値上げ活動後に三木会で値上げの進捗状況を報告して情報交換をしていた点については、以下のとおりであり、これによって他社と協調して値上げ活動を行ったとの本件審決の認定は誤りである旨主張する(上記第2の4(1)オ)が、その点については、以下のとおりである。
(ア) 原告は、本件審決は、原告代表者が三木会において「値上げ活動が遅れ気味であるという事情を説明していた」と指摘し、原告の営業部長である≪G2≫の供述調書(査356、査687)につき、同人が埼玉支部会で「ユーザーに対し、口頭で値上げの案内をしている」と発言したことや小部会に関する供述を指摘するが、これらはいずれも、独自の判断での原告の値上げに備えた行動として矛盾はなく、例外的に小部会に参加したからといって本件各合意に参加したことにはならない旨主張する。
しかし、≪G2≫の上記供述調書の信用性を認める本件審決の判断は合理的であるところ、同調書のとおり、原告の値上げ活動が遅れ気味であったことを、あえて三木会において原告から報告していたことは、原告が他の事業者と協調することなく独自に値上げ活動を行う意思があるとの原告の主張と整合するものとはいい難い。
(イ) 原告は、原告代表者が審尋で述べたとおり、一貫メーカーの司会の進行に従ってその場の状況に合わせて、真実の進捗状況とは無関係の適当な数字、すなわち事前に営業担当者らから数値を聞かないで(原告代表者審尋調書12頁24行目)、それ以前の発言を参考にしたもっともらしい数字を報告したのであって(この点は、反対尋問でも崩されていない。)、三木会ではライバル関係にある他社の前で本当のことを言うはずがなく、そのことは三木会参加者も互いに分かっていた旨、例えば、値上げを推進する立場の大手段ボールメーカーの王子グループの≪I4≫ですら、何に対する数値かを明確にしないまま、ただ「〇パーセントです」という曖昧で感覚的なことを発言しただけなので、とても参考になるようなものではないと明確に述べている(審B共17・8~9頁)とおり、数字の信用性はその程度のものであることは参加者の間では承知の上であって、大和紙器の≪Y2≫も、参考人審尋で、参加者が本音で話していることと思っていないから別段気が咎めるようなこともない旨述べている(≪Y2≫参考人審尋調書9~10頁)とおりである旨主張する。
しかし、仮に三木会での値上げの進捗状況に関する発言が真実とは無関係の適当な数字であって参考にならず、そのことが参加者の間で承知のことであったとしたら、わざわざ三木会を開催して、各支部管内の状況を含めて進捗状況の確認を繰り返し行うというのは不自然なのであって、原告が、10月17日三木会以降、埼玉支部会や小部会においても、自社の値上げ活動状況や特定のユーザーに関する交渉状況について情報交換を行っていることとは整合しないから、上記の原告代表者の供述の信用性を認めない本件審決の判断は合理的である。
(ウ) 原告は、事業者間の情報交換は、10月17日三木会の後、年を越して現実に原紙の仕入れ価格が値上がりして、原告が自社の販売価格の改定を決定した後のことであり(他の専業メーカーも同様であり、たとえば浅野段ボールの≪氏名略≫もその旨の供述をしている(査461・17頁、査Fキ3・6頁)。)、同三木会の時点では、原告も他の専業メーカーも、客観的状況から大手の値上げに懐疑的であった(例えば、有限会社市川紙器製作所の≪氏名略≫の供述調書(査467))のであるから、前提となる環境が全く異なり、上記の情報交換があったからといって、10月17日三木会での意思の連絡があったことの裏付けにはならない旨主張する。
しかし、仮に同三木会の時点で原告も他の専業メーカーも客観的状況から大手の値上げに懐疑的であったとしても、上記ウで説示したところと同様、10月17日三木会の時点で、原告において値上げを実施する意向があったと認めることは合理的であり、事業者間の情報交換が、10月17日三木会の後、年を越して現実に原紙の仕入れ価格が値上がりして原告が自社の販売価格の改定を決定した後のことであったとはいえないとする本件審決の判断の合理性を左右するものではない。
カ(ア) 原告は、本件審決は、段ボールシートと段ボールケースの値上げ幅の合意を認定しているが、具体的な値上げ幅まで意思の連絡が当日になされたという実質的証拠はないし、値上げをするかどうか未定の原告が、値上げ幅についてまで合意したと認定する実質的証拠もない旨、10月17日三木会の前回の三木会でも、レンゴーグループであるセッツカートン及び大和紙器以外の出席者は値上げの方針が決まっておらず、レンゴーの値上げ発表に誰も呼応しなかったところ、その後1か月も経過していない10月17日三木会において、王子グループ、トーモク、日本トーカンパッケージが値上げ幅を含めて発表し、ようやく値上げに呼応する大手が数社増えた程度の客観情勢にすぎず、値上げも未定である地場の業者も多かった旨、かかる状況下では、参加者全体で、互いに一方が値上げしたときに相手もこれに同調して値上げを行うという相互の信頼関係ができるほどの意思の連絡ができるはずもない旨主張する(上記第2の4(1)カ)。
しかし、「意思の連絡」とは、事業者間で相互に拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、互いに他の事業者の対価の値上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りる(東芝ケミカル株式会社による審決取消請求事件判決)ところ、上記第2の2(4)のような段ボール製品の製造業界での値上げ実施の慣行の下、10月17日三木会の出席各社の間には、それぞれレンゴーや王子コンテナーが公表した値上げ幅を指標に段ボール製品の値上げを行うという雰囲気が漸次醸成され、かかる雰囲気が出席各社に伝わったため、値上げを表明していない原告も、この一般の雰囲気を認識し、これと歩調をそろえる意思で、上記の値上げを実施することが、出席各社の間で共通の認識となり、暗黙のうちに意思の連絡が成立したことは、本件審決の掲げた証拠及び同証拠から認定した事実により認められるから、実質的証拠に欠けるところはない。
(イ) 原告は、原告が年明けから行った段ボールシートの値上げの幅(査597)は、1平方メートル当たり最安値35円から最高値58円だったものが、改訂後1平方メートル当たり最安値40円から最高値62円となったのであり(原告代表者審尋調書5頁)、一律の上げ幅ではなく、大手の段ボールメーカーの値上げ幅は指標になることはない旨、段ボールシートについては、シート価格が1平米当たり1円違ってもユーザーに与える影響は大きいから、平均2円ないし3円も差があるのを、被告主張のように「大差がな」いとはいえない旨、段ボールケースについては、特注品であり、種類が多数ある個別商品ごとに、原紙の占める割合が異なり、製造工程にも差があり加工賃も異なり、価格値上げを一律の指標では決められないから、たとえ指標だとしても、一律に値上げ幅を合意することはあり得ないのであり、そのことは、他社の段ボールケースの値上げ率は4パーセントから13パーセントと幅が大きい(査605)ことからも明らかであり、被告も「指標にならないとはいえない」と否定型を重ねる表現で反論する程度であり、証拠の摘示を断念し、合理的な認定ができないことを自白している旨主張する(上記第2の4(1)カ)。
しかし、後日、原告が実現した段ボールシートの値上げ幅が一律のものでなかったとしても、販売価格の値上げは取引先との関係や交渉の結果により具体的に定まるものであるし、本件各合意は、レンゴーや王子コンテナーが公表した値上げ幅を指標とするものであって、必ずしも一律の幅で値上げをすることを内容とするものではなく、段ボールケースが特注品であって個別性が強いからといって値上げ幅の指標とすることができないわけではないから、本件各合意における値上げ幅に関する共通の認識を否定することにはならない。
キ 原告は、本件審決は、審査官が当初に思い描いた事件の「構図」、すなわち「三木会及び支部会等において行われた協調行為は、レンゴーを始めとして本部役員会社を占める大手の段ボールメーカーが管内の地場の段ボールメーカーとも各支部の会合を通じて協調しながら東段工管内全体で値上げを実施するため、これらの主導により、組織的に一連のものとして行われたもの」(本件審決案117頁)との設定が根本的に誤っていたにもかかわらず、この構図に合う供述証拠のみを取り上げて事実認定をした結果、客観的証拠との矛盾を起こしているものであり、かかる事実認定に、実質的証拠があるとはいえない旨、具体的には、大手段ボールメーカーが値上げを求めれば、系列外の中小業者、地場の業者、アウトサイダーがこれに従うとの「構図」を設定し、これがあたかも業界の慣習であるかのように「従前の慣行」なる概念を設定しているが、そのような業界の慣習は存在しないのであって、大王製紙パッケージの≪O≫供述(査352)、セッツカートンの≪K4≫供述(査331)は、過去の値上げに関するものであり、ここから「慣行」が確立されているとはいえない旨、また、原紙を仕入れる専業メーカーは、原紙が値上がりすることに利益はない反面、仕入れのコストが増えるところ、顧客に対して値上げをして転嫁すると、営業的に他社に負けて顧客を失うリスクがあるため、慎重にならざるを得ないが、これに対し、原紙を製造する一貫メーカーは、原紙の値上げと合わせてシートも値上げすれば、双方で値上げのメリットがあり、会社の利益に直接結びつくところ、被告は両社の利害が一致すると主張するが、具体的な根拠が示されていないから、今回のレンゴーのように、値上げに熱心に取り組み、他の一貫メーカーにも働き掛けるが、一貫メーカーと専業メーカーとは利害が一致しておらず、実態として、一貫メーカーが値上げをしようとしても客観的裏付けがないと販売価格が元に戻ってしまう旨、そのため、原告も上記ウのように今回の値上げに懐疑的であり、他のメーカーも値上げにつき疑問を持ち(≪O≫供述・査352・15頁、≪K4≫供述・査331・14、15頁)、値上げの方針を決めていなかった(サクラパックスの≪Z≫・査430・6、7頁)など、専業メーカー、取り分け地場の業者は値上げに慎重に対応していた旨主張する。
しかし、段ボール製品の製造業界においては、段ボール原紙の値上がりに伴って段ボール製品の販売価格を引き上げるには、まず、一貫メーカーである大手の段ボールメーカーが値上げを表明し、それ以外の段ボールメーカーはそれを指標として値上げを実施し、各社足並みをそろえて実施する必要があると認識されていたことなど、「段ボール製造業における慣行等」(上記第2の2(4)(本件審決案52頁))が存在したことは、当該認定部分の末尾(本件審決案54頁)に掲記の証拠等から合理的に認定できる。よって、従前からの慣行により、一貫メーカー等の大手の段ボールメーカーにより値上げが実施されることになれば、地場の専業メーカーにおいても、これに追随して値上げを行うことになることが共通認識となっていた旨の本件審決の認定(上記第2の2(4)(本件審決案91頁))は、合理的であって、実質的証拠を欠くものではない。
なお、仮に、原告主張のように段ボール原紙の値上がり分を段ボール製品の価格に転嫁するか否かについて一貫メーカーと専業メーカーとの間で利害が一致しない側面があるとしても、協調して段ボール製品の値上げを実施すること自体には広い意味で利害が一致しているといえるから、従前からの慣行の存在や本件各合意の成立を否定する理由にはならない。また、上記ウの原告の主張のとおり本件当時において古紙の価格が上がっておらず、レンゴーと王子グループの値上げの発表時期にずれがあったとしても、上記ウのとおりいずれ段ボール原紙の値上がりは避けられない状況にあったのであり、地場の専業メーカーが大手段ボールメーカーに追随することを否定するものではない。さらに、原告が、専業メーカーは値上げに懐疑的であったなどと主張して、それに沿うものとして指摘するセッツカートンの≪K4≫及び大王製紙パッケージの≪O≫の各供述(査331・14、15頁、査352・15頁)は、レンゴーに続いて王子グループが値上げを発表した平成23年9月下旬の状況について述べたものにすぎず、むしろ両社は、10月17日三木会において、かかる懐疑的な状況を払拭するように、セッツカートンの出席者においては親会社のレンゴーに準じて値上げをする旨を表明し(本件審決案57頁)、大王製紙パッケージの出席者においても値上げを行う旨明言した(同頁)。また、10月19日新潟四木会におけるサクラパックスの≪Z≫の「値上げの方針は決まっていない。マンスリーで判断します。」(査430・6、7頁)との発言について、他の事業者が段ボール製品の値上げを実施する中で、自社のみ反対の意向を表明したものではなく、むしろ値上げ幅は日経市況を踏まえて判断する旨述べていることからすると、他の事業者と協調して段ボール製品の値上げを行うことを前提とした発言であると認める(上記第2の2(9)(本件審決案91頁))ことも合理的であるといえる。
ク 原告は、「意思の連絡」につき、いわゆる競争制限効果のある合意、すなわち出席していた各社自らが仮に値上げをしても競合する同業他社が自社と同様に値上げを行って追随し、万一にも自社の取引先を価格の面で奪われることがないような相互の信頼関係が構築されるような意思の連絡が必要であるが、10月17日三木会において、レンゴー、王子コンテナー、トーモクが値上げを発表どおり報告したとしても、この1回の会合だけで、他の業者や地場の業者、アウトサイダーまで含めて全てが値上げに追随するという相互の保証があったわけではなく、競争制限効果がある合意などできていなかったのであり、これは講学上の「意識的並行行為」にすぎない旨、単発の連絡によって「意思の連絡」が形成されることはなく、現在・将来の市況動向、自己・販売先・仕入元の各業界の動向予測を共有し、相当回数の連絡交渉や会合を積み重ねることによって信頼関係が醸成されなければ、実効的な価格引き上げはできない旨、10月17日三木会に至る経緯といっても、レンゴーが他の大手段ボールメーカーに働きかけてきたにすぎず、ユーザーを納得させる客観的証拠がない中で、原告を含めた他の事業者が直ちに値上げを行える環境にはなく、簡単には合意に至らないという情勢であったのであり、10月17日三木会に至る経緯に照らしても、「意思の連絡」の成立を推認するに十分ではない旨主張する(上記第2の4(1)ク)。
しかし、「意思の連絡」の意味は、上記カ(ア)のとおりであり、万一にも自社の取引先を価格の面で奪われることがないような相互の信頼関係が構築されるような意思の連絡が必要であるとか、単発の連絡によって「意思の連絡」が形成されることはないなどという原告の主張を採用することはできない。また、仮に「信頼関係」を要するとしても、「従前からの慣行」や10月17日三木会に至る経緯を含めた段ボール製品の製造業界の協調関係等を前提とすれば、同三木会における情報交換を通じて、同三木会の出席各社は、そこで確認された段ボール製品の値上げに関する共通認識に従って自社が行動すれば、他社もこれに従って行動することを互いに期待し合っていたことが認められ、同三木会の後の三木会においては出席各社の間でそれぞれの値上げの進捗状況のみならず、支部長等を通じて支部管内における業社の値上げの進捗状況を相互に報告させて、互いの行動を注視することによって本件各合意の実効性が図られていたものであるといえ、木件各合意に係る「意思の連絡」に欠けるとの原告の主張は採用することができない。
ケ その他、原告の主張を精査しても、争点(1)アに関する被告の認定した事実について、実質的証拠がないとは認められない。
3 争点(1)イ(支部会等を通じた本件各合意への参加の認定)について(第1事件及び第2事件)
(1) 本件審決の判断(本件審決案93~98、101~102頁、本件審決2頁)について
ア 本件審決は、上記1により実質的な証拠があると認められる本件審決が認定した各事実(上記第2の2)及びこれらの認定事実の末尾に引用した証拠に基づき、次の事実を認定した。
(ア) 三木会は、東段工の事業の連絡推進及びその実行の徹底を図るための事業並びに各支部との情報交換及び取りまとめを行う組織として位置づけられ、主に大手の段ボールメーカーで占められている本部役員会社の営業統括者等のほか、各支部を代表する支部長により構成されるものであるところ、これらの構成員の間で、日頃から、東段工管内の段ボール製品の需給動向について情報交換が行われる中で、段ボール製品について、競り込みをかけてくる事業者が現れたときには、他の納入業者による抗議が行われるなど競争回避に向けた解決が図られていたほか、段ボール原紙の値上がりに伴い段ボール製品の値上げを実施する時期には、これらの値上げの方針や値上げの進捗状況に関して情報交換が行われるなど、従前から段ボール製品の販売価格の引上げを行うための情報交換の場として利用されていた。
(イ) 本件当時も、レンゴーが段ボール原紙の値上げと共に段ボール製品の値上げを公表したのを皮切りに、王子コンテナーも、同様の値上げを公表したほか、他の主要な原紙メーカーによる段ボール原紙の値上げの表明が出そろう中で、本部役員会社を構成する他の大手の段ボールメーカーも順次社内又はグループ内で段ボール製品の値上げの方針を決定するなどしていたところ、こうした状況の下で開催された10月17日三木会においては、本部役員会社から自社の値上げの方針が発表されるとともに、支部長等からも支部管内における値上げに向けた動きが発表されるなどして、出席各社の間で、東段工管内全体で段ボール製品の値上げを実施していくことが確認された。
また、各支部においても、レンゴーを始めとした本部役員会社に所属する営業責任者又はこれらの者が多くを占める支部長等が、それぞれの支部会等で、他の事業者に対し、段ボール製品の値上げを行うよう促すなどした結果、本件支部会等の出席各社の間で、10月17日三木会で確認されたところと同程度の値上げ幅で段ボール製品の値上げを実施することが確認された。
(ウ) その後に開催された三木会においては、各支部の支部長等からそれぞれの管内で行われていた段ボール製品の値上げの実施状況について報告がされていたところ、実際にはこれらの値上げ活動が円滑に進んでいない状況を踏まえ、本部役員会社のうち、レンゴーほか7社が中心となって、段ボールケースに先立ち値上げが実施されるべき段ボールシートについて、値上げ交渉が難航しているボックスメーカーなど東段工管内に所在するユーザー(これらの対象は、関東地方のユーザーのほか、北海道・東北地方のユーザーや静岡県内のユーザーも含まれるなど特定の地域に限定されたものとはみられない。)をリストアップして開催したシート会議において、各地域で行われている小部会の幹事等から当該ユーザーとの交渉状況についての報告を受けながらこれらの値上げ活動の対策について協議していたほか、支部所属の組合員のうち、値上げの実施が遅れている事業者に対しては、当該支部で値上げ活動を進めるよう働きかけを行うことが確認されるなど、三木会において各支部の管内における値上げ実施状況の把握と値上げ活動の促進が図られた。
(エ) その結果、東段工管内全体で、おおむね段ボール製品の値上げが達成されたところ、三木会において、各支部の報告を受け、これらの状況が確認されていた事実を踏まえて、本件当時も、東段工管内の段ボールメーカーの間で協調して段ボール製品の値上げを実施するための情報交換の場として三木会及び各支部の会合等が利用されたというべきで、これらの協調行為は、段ボール製品の値上げについては、大手の段ボールメーカーであっても他の事業者と共に行わなければこれを実現するのが困難であるという認識の下、レンゴーを始めとして本部役員会社を構成する大手の段ボールメーカーが、管内の地場の段ボールメーカーとも各支部の会合等を通じて協調しながら東段工管内全体で値上げを実施するため、その主導により、組織的に一連のものとして行われたものであり、これにより各支部管内で行われた段ボール製品の値上げには10月17日三木会で成立した合意による拘束が及んでいたものと認められる。
(オ) 一方、本件支部会等のうち10月19日東京・山梨支部会、10月31日静岡支部会、11月2日埼玉支部会、11月9日千葉・茨城支部会及び11月17日神奈川支部会においては、それぞれ、当該会合の冒頭で、支部長等が10月17日三木会において段ボール製品の値上げを実施することが確認された旨の報告をした上で、当該支部会等の出席各社の間でも、その旨の確認がされた。
(カ) この点、上記各支部会等の中には、支部長等から10月17日三木会で確認された値上げ幅の内容について明確な説明がされていなかった会合もあるものの、従前からレンゴー及び王子コンテナーが公表した値上げ幅を指標として値上げが実施されていた実態から、支部長等においてかかる値上げ幅について明言していなくても、10月17日三木会で確認された値上げ方針がこれと同様のものであることについて出席各社の間で共通の認識となったものと認められ、そうであるからこそ、これらの支部会等で確認された値上げ幅も同内容のものとなったということができる。
イ そして、本件審決がアのとおり認定した事実には合理性が認められ、実質的な証拠があるものと認められる。
本件審決は、以上に摘記した認定事実に基づいて、これらの支部会等に出席していた事業者においては、相互に他の事業者との間で協調して段ボール製品の値上げを実施するにとどまらず、三木会を構成する事業者においても同内容の値上げが行われる旨の認識があったと認められる旨、段ボール原紙の値上がりに伴い段ボール製品の値上げが実施される時期には、三木会のみならず、各支部の会合等においても、こうした値上げの方針や進捗状況について情報交換が行われるなど、従前からこれらの会合が協調して段ボール製品の値上げを行うための情報交換の場として利用されていたのであり、東段工の組合員であるか否かにかかわらず、いずれの事業者も従前からこうした慣行が存在していたことを理解していたことは容易に推認される旨、その上、本件当時行われた段ボール製品の値上げも、段ボール原紙の値上がりを理由とするものであって、これに伴い段ボール製品について足並みをそろえて値上げを行うことは、各地域において共通した課題であったのであり、これまでも段ボール原紙の値上がりを理由として一部の地域のみで値上げが実施されたことがなかったとみられることからすれば、上記各支部会等において10月17日三木会の報告がされていなかったとしても、これに出席した事業者においては、従前からの慣行により、当該支部会等で値上げの表明をしていたレンゴーなどの大手の段ボールメーカーが東段工管内の他の支部においても段ボール製品の値上げを主導するなどして同様の情報交換がされていることを認識していたとみられる状況にあった旨、段ボール原紙の値上がりを理由としながら、一部の地域のみで段ボール製品の値上げを実施しようとしても、ユーザーから他の地域の動向について引き合いに出されれば値上げの実施に支障が生じ得ることは容易に想定されるところ、段ボール製品の供給について地域ごとの実情があるとしても、いずれも段ボール原紙から日本工業規格に基づき製造される段ボール製品について他の地域の価格動向の影響を受けないというベき事情もみられないことからすれば、大手の段ボールメーカーのみならず、地場の段ボールメーカーにおいても、他の地域の事業者とも足並みをそろえて値上げを実施すべき理由があった旨、これらによれば、本件支部会等に出席した事業者においては、当該会合で10月17日三木会の報告がされていたか否かにかかわらず、当該支部を代表して三木会に出席していた支部長等又は三木会を構成する本部役員会社に所属する営業責任者等の促しにより、10月17日三木会で確認されたところと同程度の値上げ幅で段ボール製品の値上げを実施することを出席各社の間で確認したことをもって、これらの者を介して、10月17日三木会で成立した意思の連絡に参加したものと認められる旨を判断しているが、この本件審決の判断には合理性が認められるというべきである。
ウ そうである以上、第1事件事業者57社のうち、第1事件三木会出席11社及び群馬森紙業を除く45社については、本件支部会等うち、自社の営業責任者等(ただし、東京コンテナ工業においては、その子会社の晃里の営業担当者)が出席した支部会等において、それぞれ本件シート合意と同内容の合意が成立するとともに、第2事件事業者63社のうち、第2事件三木会出席12社、群馬森紙業及び鎌田段ボール工業を除く49社については、同様に自社の営業責任者等(ただし、東京コンテナ工業については同上)が出席した本件支部会等において、それぞれ本件ケース合意と同内容の合意が成立したところ、上記第2の2(8)及び(9)の各事実によれば、上記45社及び上記49社は、これらの合意が成立した当該会合(ただし、複数の会合に出席している事業者については、このうち最も早く開催された会合)を通じて、10月17日三木会で成立した本件各合意に参加したものと認めることができ(群馬森紙業は、11月14日群馬・栃木支部会を通じて、同様に本件各合意に参加したものと認められ、鎌田段ボール工業は、11月17日三木会を通じて、本件ケース合意に参加したものと認められる。)、また、本件各合意により、段ボール製品の販売価格について、本件各事業者の意思決定等がこれらに制約されることになるところ、実際に、本件各事業者において本件各合意を実行するため、その後に開催された三木会や支部会等において出席各社の間で値上げの進捗状況について情報交換が行われるとともに、個別のユーザーごとに入れ合いとなっている事業者の間で値上げの交渉状況に関する情報交換が行われるなどした結果、本件各事業者ともおおむね段ボール製品の値上げを実現したことに照らしても、本件各合意は、かかる段ボール製品の値上げについて本件各事業者の事業活動を拘束するものであったと認められる旨の本件審決における判断(本件審決案101~102頁)にも合理性が認められる。
(2) 原告の主張に対する当裁判所の判断について
ア 原告は、値上げは各事業者の利害が激しく対立する点である(原告代表者審尋調書1、2頁)ところ、三木会は値上げをするための組織ではなく、何かを決定してそれを支部に伝達して一定の拘束を行う組織ではないものであるし、東段工の非組合員であるアウトサイダーも各地域におり、支部会だけで「組織的に」行うことはできず、実際、東京・山梨支部会、静岡支部会、埼玉支部会、千葉・茨城支部会、神奈川支部会においては、具体的な値上げ幅まで伝達されていなかったり、合意が成立したという報告がなかったりしている(本件審決案95、96頁)のであるから、本件審決が、10月17日三木会で、これに参加していない全ての事業者との間で、「意思の連絡」が成立したと認定したことは、実質的証拠を欠く旨主張する(上記第2の4(2)ア)。
しかし、「三木会と各支部会等との間でも、支部長等を通じて相互にこうした会合の内容が報告、伝達されることが通常であった。」(上記第2の2(4)(本件審決案53頁))との説示に係る事実は、当該説示部分の末尾(同54頁)に掲記の証拠(上記第2の2(4)参照。例えば査357・9~10頁)から合理的に認定できる。そして、本件各合意の形成が東段工の本部役員会社や組合員を中心として東段工という組織内の三木会や各支部会等を利用して東日本地区の全域でされ、その後の値上げの実現に向けての活動も広範囲かつ継続的に行われていたことからすれば、本件各合意の形成が組織的に行われたものといえ、このことは、10月17日三木会において、その協議内容を各支部会等に伝達することに格別に意を用いていなかったにもかかわらず、東段工管内の9支部全ての支部会等において段ボール製品の値上げの方針や進捗状況に関する情報交換が同時期に一斉に行われたと認められることと整合する。よって、本件支部会等の出席各社が10月17日三木会で成立した「意思の連絡」に参加したと認められることは、本件審決が掲記の証拠から合理的に認定、判断することができるのであり(上記第2の2(9)(本件審決案90頁)、実質的証拠を欠くものではない。
イ(ア) 原告は、10月19日新潟四木会、10月24日長野5社会、10月27日トップ会(北海道)、10月27日群馬会、10月27日栃木会及び10月31日宮城支部会の六つの支部会等については、10月17日三木会について伝達されていないし、そもそも意思の連絡の手配すらされていない(特に、欠席した東北支部への伝達や、普段から参加していない北海道支部への対応が検討、協議されていない。)のであるから、10月17日三木会に出席した原告との間で意思の連絡があるとはいえない旨、そして、仮に支部会等に連絡がなくとも、三木会の参加者との間で意思の連絡が成立したという認定(本件審決4頁)は、実質的証拠を欠いている旨、原告は、被告主張のような「概括的に認識していた」ことはなく、三木会で成立した事実の伝達がなければ、当該支部で情報交換がされたとしても、単にその地域だけの個別の合意となるにすぎないところ、これは講学上の「意識的並行行為」にすぎない旨主張する(上記第2の4(2)イ)。
しかし、10月17日三木会の時点では、本件支部会等において本部役員会社に所属する営業責任者等が、同三木会で協議した内容と同様の値上げの意向を表明すれば、同三木会でその旨の合意が成立した事実自体を伝達しなくても、他の地場の段ボールメーカーもこれに追随して値上げの実施に向かうことは容易に予測される状況にあったとの本件審決(3~4頁)の認定は、本件審決が掲げる証拠に基づき合理的なものと認められるのであり、支部会等への伝達に格別に意を用いなかったとしても何ら不自然ではなく、支部会等の出席各社との協調関係を形成することが予定されていなかったともいえない。なお、支部長が三木会に欠席することが多かった北海道支部についても、東段工の事務局から送付された三木会の資料を配布して情報共有が図られており、三木会とトップ会との会合内容は相互に報告、伝達されていたと認められる。そして、10月17日三木会の出席各社は、上記のとおり地場の段ボールメーカーの追随予測をしていたのみならず、本件支部会等の出席各社も、東段工管内の他の支部会等や三木会を構成する事業者間において、段ボール製品の値上げに関する同様の確認がされているであろうことを、少なくとも概括的には認識していたといえるから、これが「意識的並行行為」にすぎないとはいえない。
(イ) また、原告は、原告がどの範囲の事業者との間で「意思の連絡」をしたのかは証拠上明らかでなく、追随予測といっても、支部会等に現実に参加した段ボールメーカーが前提となるので、10月17日三木会の出席各社にとって、全国各地でどの範囲の段ボールメーカー(アウトサイダーも含む。)が支部会等に出席して追随するかまでは予測不可能であった旨主張する(上記第2の4(2)イ)。
しかし、「事業者において、他の事業者との間で相互に対価の引上げを実施することを認識しながらこれと歩調をそろえる意思が存在すれば、これらの事業者が一堂に会するなどして話合いを行うことまでの必要はなく、このうち一部の事業者又は第三者を介するなどして、意思の連絡が複数の事業者の間で成立し、又は後日他の事業者がこれに参加し得るところ、当該協調行為が一体として行われたと評価できる限度においては、こうした意思の連絡の性質上、各事業者において、どの範囲の事業者の間で意思の連絡が成立するかについて、その範囲を具体的かつ明確に認識していることまでは要しない」との本件審決(本件審決案117頁)の判断は合理的と認められる(東京高等裁判所平成20年4月4日判決参照)ところ、原告においても、本件各合意の当事者となる全ての事業者を具体的に認識していなくとも、東段工管内で事業活動を行う相当数の段ボールメーカーであることは概括的に認識していたといえるから、本件各合意に係る「意思の連絡」に欠けるところはないと認められる。
(ウ) 原告は、段ボール製品を扱う事業者の商圏が東日本と西日本の境界付近で、ユーザーにとっては東日本の組織も西日本の組織も考慮することはなく、当然、東西にまたがった商圏が生じており、東段工の組織範囲が商圏の範囲を画定することにはならないから、一方で原告を含む地場の段ボールメーカーの商圏を拡大しながら、東日本と西日本の境界で限界を画そうとする本件審決の論法は破綻しており、本件審決(4頁)の論法でいけば、他の同業者の範囲は東日本に限らず日本全国に及ぶことになるはずである旨主張する(上記第2の4(2)イ)。
しかし、仮に他の同業者の範囲は東日本に限らず日本全国に及ぶとの判断も可能であったとしても、本件審決が、東段工の会合の場を利用して組織的になされた本件各違反行為において、その概括的な当事者として認識された事業者の範囲を東日本地区に所在する段ボールメーカーと限定して認めることは合理的であり、その限界が曖昧であるとはいえない。
ウ 原告は、本件審決案は、三木会と支部との関係について、従前の慣行として「三木会と支部会等との間でも、支部長等を通じて相互にこうした会合の内容が報告、伝達されることが通常であった。」と認定する(上記第2の2(4)(本件審決案53頁))ところ、以下のとおりこれには実質的証拠がない旨主張する(上記第2の4(2)ウ)が、その点については、以下のとおりである。
(ア) 原告は、上記イのとおり、新潟県、長野県、北海道、群馬県、栃木県及び宮城県の合計6道県の支部会等では、10月17日三木会の内容が報告されず、また、青森県、岩手県、秋田県、山形県及び福島県の合計5県での支部会等では、10月17日三木会の内容が報告されたとの主張が審査官からされずに本件審決でも認定はないのであり、東日本の18都道県のうち過半数の11道県で伝達されていないということは、上記認定が実情からほど遠いことを示している旨主張した上で、この問題は、本件審決(7頁)が10月17日三木会の参加者と、その後の東日本各地域での支部会参加者との間でも、東日本全体に関して「意思の連絡」がなされていると認定しているため、その認定が誤りであることを明確にするものであり、そのためには、各支部会等での事実関係や会合の実態、そのような意思の連絡が原告との間で客観的になされ得るかどうかを検討する必要がある旨主張する。
しかし、原告は、本部役員会社であり、10月17日三木会に出席し、同三木会の場で本件各合意に係る「意思の連絡」を形成するに至った第1事件三木会出席11社又は第2事件三木会出席12社のうちの1社であるところ、同三木会において成立した本件各合意は、その後の本件支部会等の出席各社による本件各合意への参加の有無にかかわらず、不当な取引制限の成立要件を満たしている。すなわち、本件審決は、原告を含む10月17日三木会の出席各社については、同三木会において東日本地区を対象とした本件各合意が成立した(ひいては本件各違反行為が成立した)と認定しているのであって、その後に同三木会での協議の内容が各支部会等に伝達されたことをもって初めて本件各合意が成立した(ひいては本件各違反行為が成立した)と認定しているものではない。このことからすれば、三木会と各支部会等の会合の内容に係る相互の報告、伝達の状況や、本件支部会等における10月17日三木会の内容の伝達状況の如何は、原告に関する本件各違反行為の成否を左右するものではないから、原告の上記主張は、その実質的証拠の存否を論じるまでもなく、採用することができない。
(イ) 以上から、原告の上記(第2の4(2)ウ(イ)、(ウ)及び(エ))の北海道支部、東北支部及び新潟・長野支部に関する主張についても、その実質的証拠の存否を論じるまでもなく、採用することができない。
(ウ) なお念のため、本件各証拠によれば、北海道のトップ会や東北の宮城支部会を含む六つの支部会等は東段工と無関係に運営されていたものではなく、また、10月17日三木会における協議の内容は、東日本地区全域(18都道県)を網羅する形で、実質的に本件支部会等に伝達されていたと認められるのであって、「三木会と各支部会等との間でも、支部長等を通じて相互にこうした会合の内容が報告、伝達されることが通常であった。」との認定(上記第2の2(4)(本件審決案53頁))や、三木会と各支部会等における情報交換が「組織的に一連のものとして行われた」との認定(上記第2の2(9)(本件審決案95頁))が、実質的証拠を欠くものとはいえない。
エ(ア) 原告は、本件審決は、三木会及び支部の会合等には特定のユーザーについて競り込みをかける事業者について解決する機能があるかのように認定するなど、三木会及び業界の慣例について誤った認定をしているとして、「競り込み」が問題となっていたのはかなり昔の話であり、最近では被告の活動や戦後の社会経済の変革により、そのような慣行はなくなったものである上、三木会は競り込みを調整・解決する組織ではなく、支部との間に上下関係はなく、三木会からその内容を支部に流すところではない(査484)し、支部長が三木会に参加しているのは任意の参加であって、支部からの報告があっても、それに基づいて何を決定するものではないにもかかわらず、これらを認定している旨、原告に関わる事案とは、≪事業者名略≫が通常以上の高い価格で販売していた取引先に対し、原告が、安値でなく通常の販売価格で販売できることを伝えたという通常の販売活動をしただけであるが、これについて三木会に持ち出すことが脅しとして話題になったものの実際には持ち出されなかったのであり(原告代表者審尋調書14頁、≪Ⅾ4≫参考人調書17、18頁)、異常なダンピング販売ではないからいわゆる競り込みとは無関係であるし、そもそもこのような個別の営業に関する事項が三木会に上程されることはない(同調書9頁)旨主張する(上記第2の4(2)エ)。
しかし、段ボール製品の製造業界において、「競り込み」は自粛すべきものと認識されていたことや、段ボール製品の販売価格の引上げに当たっては各社足並みをそろえて値上げを実施する必要があると認識されていたこと等、「段ボール製造業における慣行等」が存在した旨を本件審決が認定したこと(上記第2の2(4)(本件審決案52頁))は、本件審決の認定部分の末尾(本件審決案54頁)掲記の証拠から合理的に認定でき、特に、「競り込み」の自粛は過去の話ではなく、本件各違反行為当時においても、これと疑われる営業活動は抗議の対象となり、それが東段工管内の各支部会等で解決できないときは、三木会に持ち込まれ得るものであったことは、原告に係る事例(レンゴーの≪Ⅾ4≫が、「競り込み」と称して、安値を提示して顧客を奪うことを問題視した(査159、≪Ⅾ4≫参考人審尋調書18頁)ものであり、より典型的な「競り込み」を禁止する慣行の存在をうかがわせる。)を含め、証拠(査154、査159、査160、査248、査325、査376(21~22頁)、査379、査471(15頁)等)によって認定することは合理的である。そして、以上のことは、三木会と各支部会等との間に上下関係があったか否かや、三木会が各支部会等に情報を発信する立場にあったか否かといった、三木会と各支部会等の東段工組織における正規の役割分担や事務分掌によって、これが左右されるものではなく、仮に管内の各支部長が三木会に任意参加していたにすぎないとすれば、任意に参加してまで値上げ活動に係る情報交換を行っていたということもできるのであり、これらを踏まえた本件審決の判断は合理的であるといえる。
(イ) 原告は、仮に、競り込み禁止を恐れて自粛する業者がいるとしても、それは東段工の組合員に限られ、非組合員(アウトサイダー)にとっては、三木会は組織的に無関係であるから、三木会への上程は歯止めにならない旨、上記の≪事業者名略≫は、競り込みを受ける側であり、組合員でも非組合員でも起こり得るが、これと異なり、競り込みを行った側が非組合員の場合は、組合の正式組織である三木会の話題に取り上げられる余地はない旨主張する(上記第2の4(2)エ)。
しかし、競り込みの禁止は、「段ボール業界に身を置く者の常識」(査379・2頁、査471・15頁)として、東段工の組合員の内外を問わず、広く段ボール製品の製造業界全体における慣行といえ(査248・3頁、査325・1~2頁)、現に、原告による競り込みへの対応をレンゴーの小山工場に求めたのは東段工の組合員ではない≪事業者名略≫というボックスメーカーであったのであり(査159・2頁)、東段工の群馬・栃木支部の支部長であったレンゴーの≪Ⅾ4≫は、原告に対し、三木会への上程を示唆しており(同・6~9頁)、このことからすれば、逆に、組合員ではない段ボールメーカーによる競り込みについても、東段工内で問題視されない理由はないといえるから、競り込みを自粛する事業者が東段工の組合員に限られるということはないことを踏まえた本件審決の判断には合理性があるといえる。
オ 原告は、本件審決は、従前の慣行から「各支部に所属する地場の段ボールメーカーとの間でも協調関係を形成することが10月17日三木会で予定されていなかったということはできないし、その結果これらの地場の段ボールメーカーとの間でも協調関係が形成されたという認定が妨げられるということもできない。」と説示しているが、六つもの支部会等に上記三木会の内容が伝えられなかったということは、三木会も支部会等への伝達を予定しておらず、格別伝達に意を用いていなかったものといえるし、上記三木会に出席していない大手の段ボールメーカーの工場長らは、三木会での本件各合意の存在を知らないので、支部会等で共通の意思が形成されたとしても、三木会での本件各合意とは無関係である旨主張する(上記第2の4(2)オ)。
しかし、これまで説示したとおり、段ボール製品の製造業界における従前の慣行、すなわち、①取引拡大のための安値による販売行為は自粛すべきものと認識されていたこと、②段ボール原紙の値上げに伴って段ボール製品の販売価格を引き上げるには、まず、一貫メーカーである大手の段ボールメーカーが値上げを表明し、それ以外の段ボールメーカーはそれを指標として値上げを実施し、各社足並みをそろえて実施する必要があると認識されていたこと、③かねてから三木会や支部の会合等において、値上げの方針や進捗状況について情報交換が行われていたことなどからすれば、各支部会等において、自ら三木会に出席していた支部長等や本部役員会社に所属する出席者から、大手の段ボールメーカーが東段工管内の他の支部においても段ボール製品の値上げを主導するなどして情報交換がされていることを伝えられて、これを認識していたとみられる状況であったと認められる。そうすると、本件支部会等の出席各社は、東段工管内の他の支部会等においても、東日本地区の全域における値上げを実施するために、大手の段ボールメーカーが公表した値上げの方針に沿った値上げの実施が確認されるであろうことはもちろんのこと、その前提として、本部役員会社等による三木会を構成する事業者間においても、同様の確認がされているであろうことを、少なくとも概括的には認識していたものといえ、以上のことは、原告を含む10月17日三木会に出席していた本部役員会社等についても同様であると認められる。したがって、従前の慣行から、本件支部会等において本部役員会社に所属する営業責任者等が10月17日三木会で協議した内容と同様の値上げの意向を表明すれば、同三木会でその旨の合意が成立した事実自体を伝達しなくても、他の地場の段ボールメーカーもこれに追随して値上げの実施に向かうことは容易に予測される状況にあったと認められ、このことからすれば、同三木会において、支部会等への協議内容の伝達、又は支部会等においてこれと同旨の情報交換を行うことが予定されていたというべきである。なお、このことは、三木会のみならず、10月17日三木会の協議の内容が明示的に伝達されたとは認められない支部会等を含め、東段工管内の9支部全ての支部会等においても、これらの値上げの方針や進捗状況に関する情報交換が同時期に一斉に行われたという事実に現れているといえる。以上に照らすと、本件支部会等のうちに10月17日三木会の協議の内容が明示的に伝達されたと認められない支部会等が存在したとしても、地場の段ボールメーカーを含めた本件各合意(意思の連絡)の成立・存在に関する本件審決の認定を左右するものでないことは、本件審決が詳細に説示したとおりであり、かかる判断は合理的であるといえる。
カ 原告は、一般に、段ボール原紙の値上がりがあれば、段ボール製品製造業者としては、仕入れ価格に影響するので値上げを検討するのは通常のことであるから、そのような時期に、各地の業者が互いの情報交換の中で値上げを表明しても、違法ではない旨、その際の専業メーカーや地場の段ボールメーカーの関心事は、現実に、原紙の値上がりがいつ実現するのかということであるから、同時期に各地で商圏が重なる業者間で、値上げ問題が話題に上るのは、商社からの仕入れ値が上昇する時期が重なれば当然のことであり、一斉に値上げの話題が各地の支部会などで出ても、違法ではない旨、本件審決案は、上記の「構図」を設定して、地域構わず東日本全体に一律に当てはめようとしているが、上記イ及びウのとおり、三木会と各支部会等では相互に内容が報告伝達されておらず、組織的に一連で行ったものではない旨、本件審決案(86頁)では、東段工が組織的に行った裏付けとして、平成23年12月15日の東段工の忘年会での理事長等の挨拶が指摘されているが、そのような発言がされたということは、かえって、その頃までに段ボール原紙の日経市況が上がらず、大手段ボールメーカーにとって値上げがうまくいっていないことの現れであり、大手段ボールメーカーが値上げを発表しても地場の段ボールメーカーを含めて値上げに応じることはなかったということであり、被告主張の「慣行」がなかったことを示すものである旨主張する(上記第2の4(2)カ)。
しかし、10月17日三木会において本件各合意が成立し、支部会等の出席各社が支部会等において本件各合意に参加したと本件審決が判断した点が合理的なものと認められることは、上記2(1)及び3(1)のとおりであって、何の合意もなくたまたま各地の業者が値上げを表明し合ったというわけではないから、かかる本件各合意の成立及びこれへ参加が違法でないとの原告の主張は失当である。
4 争点(1)ウ(一定の取引分野の認定)について(第1事件及び第2事件)
(1) 本件審決の判断(本件審決案125~127頁)について
ア 独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野」とは、当該共同行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲をいうものであり、その成立する範囲は、 当該共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して定まるものと解するのが相当である(東京高等裁判所平成5年12月14日判決〔トッパン・ムーア株式会社ほか3名に対する独占禁止法違反被告事件〕、東京高等裁判所平成20年4月4日判決〔株式会社サカタのタネほか14名による各審決取消請求事件〕参照)。
イ そして、実質的証拠があると認められる本件審決が認定した各事実(上記第2の2)によると、東段工は、全段連を構成する4団体の一つとして、その管轄地域である東日本地区においてコルゲータを有する段ボールメーカーで構成される団体であり、三木会は、こうした東段工の理事の下に置かれた組織として、主に東日本地区の全域又は広域において営業活動を行っている大手の段ボールメーカーからなる本部役員会社の営業統括者等及び管内の各支部を代表する支部長によって構成されていたこと、そうすると、本件における共同行為は、こうした本部役員会社を占める大手の段ボールメーカーが東段工管内の地場の段ボールメーカーとも協調しながら同管内全体で段ボール製品の値上げを実現するため、その主導により、東段工の組織である三木会及び支部会等を利用して行われたものと合理的に認められる。
これらによると、本件各合意における情報交換の対象となった段ボール製品の値上げについて、その地理的な範囲に東段工の管轄地域である東日本地区が含まれるといえるところ、これらの値上げ交渉が需要者の交渉担当部署との間で行われることを踏まえ、需要者の交渉担当部署の所在地を基準として、その範囲を画定すると、交渉担当部署が東日本地区に所在する需要者に対し、当該交渉担当部署との間で取り決めた取引条件に基づき販売される段ボール製品(日本工業規格に該当する段ボールシート又はこれを加工した段ボールケース)は、少なくとも本件各合意の対象に含まれるものであったと認められる。また、これらの事情に照らすと、本件各合意により影響を受ける範囲も同様と解するのが相当である。
以上によれば、本件シート合意に係る一定の取引分野は、地理的範囲を東日本地区とする特定段ボールシートの販売分野であり、本件ケース合意に係る一定の取引分野は、地理的範囲を東日本地区とする特定段ボールケースの販売分野であると認めるのが相当である。
(2) 原告の主張に対する当裁判所の判断について
ア 原告は、「一定の取引分野」の認定について、多摩談合新井組最高裁判決は、違反者が合意の対象とした範囲をもって一定の取引分野とする市場画定の手法は誤りであると指摘しているにもかかわらず、本件審決はこれに違反して一定の取引分野を合意により確定している旨主張する(上記第2の4(3)ア)。
しかし、独占禁止法2条6項にいう「一定の取引分野」とは、共同行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲をいうものであり、その成立する範囲は、当該共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して定まるものと解され、かかる画定方法が、多摩談合新井組最高裁判決によって否定されていないことは、本件審決(追記部分・5頁)が適切に説示しているとおりである。
よって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、「一定の取引分野」の地理的範囲について、段ボール製品は、相対的に輸送コストがかかり、事業者の取引範囲はその工場からせいぜい100キロメートル以内の一定範囲に限定され、原告の場合、段ボールシートは工場から直線距離で20キロメートル以内の顧客への納品が7割であり(審E1)、段ボールケースでも最大で100キロメートル以内であり(審E2)、それ以上の遠距離では競争にならないため、原告のような地場の段ボールメーカーは、その範囲でしか取引しておらず、原告も埼玉近郊をはるかに超える東日本全域を取引分野であると意識したことはないし、大手段ボールメーカーも、しょせんは各地の工場から一定の範囲でしか競争に参加できない旨、にもかかわらず、大手段ボールメーカーが三木会に参加しているというだけで、原告に関し東日本全域を地理的範囲とする取引分野が成立したとする本件審決の認定・判断は実質的証拠を欠く旨、さらに、東日本全体に関して、10月17日三木会の内容が伝達されていない支部会等が6か所あり、なおさら、東日本全体を取引分野とすることはあり得ない旨主張する(上記第2の4(3)イ(ア))。
しかし、段ボール製品の市場は、特定の事業者及び生産拠点ごとに存在する競争関係について重層的に成立し得るところ、そのように複数の競争が行われる場が地域をずらして成立していくことで、互いの取引地域が重複しない事業者間でも間接的に競争が行われるのと同様の状況となり、結果としては全体について競争関係を生じ、全体として一定の取引分野が成立し得るものといえる。そして、一定の範囲で供給が可能な段ボールメーカーが点在する各支部管内の商圏は、その境界が明確に識別できるものではなく、他の支部管内に所在する段ボールメーカーとの間でも、当該支部管内の商圏と隣接して一部又は相当な部分で競合する(なお、北海道の商圏についても、新潟県の工場から北海道に出荷している例も散見される(査334・3頁)。)ため、ある支部管内の商圏の外延付近に所在するユーザーが、他の支部管内を主な商圏とする段ボールメーカーの動向を引き合いに出す可能性は十分にあり得る(査396・13頁)のであって、各事業者において、支部の管轄地域にかかわらず足並みをそろえて値上げを行うことが必要であると認識されていたものと認められる(本件審決案119頁)。
また、一定の取引分野は、共同行為が対象としている取引のみならず、それにより影響を受ける範囲を検討して定まるものであるから、東日本全域を取引分野であると意識することはなかったなどという個々の事業者の認識により直ちにこれが左右されるものではない。以上のように、原告の上記主張は、東日本地区の全域を地理的範囲として一定の取引分野を画定することを妨げないものというべきである。
ウ 原告は、仮に競争関係が重層的に成立することを前提としても、事業者の工場から一定の範囲の市場が全国に複数、重層的にあるというだけであり、重層的だからといって、埼玉県に一つの工場を有する原告として、隣接する地域をはるかに超えて、北海道や東北などの遠方の商圏と重なることはなく、東日本全体に市場が広がるものではなく、商圏の重ならない事業者との競争はあり得ない旨、現実に販売範囲が限定されていれば、当然、それにより影響を受ける範囲も限定的になるのは明らかである旨主張する(上記第2の4(3)イ(イ))。
しかし、原告の上記主張を考慮しても、上記イの判示を左右するものではない。
エ 原告は、北海道の商圏について、王子コンテナー札幌工場長≪I2≫参考人審尋調書等によると、段ボールの市場環境として、段ボールの運賃の関係から、北海道から北海道以外への出荷や北海道以外から北海道への出荷はほとんどない(新潟県の工場から北海道への出荷があるとしても、極めて例外的単発的なもので、特別な事情があったと考えられる。)ことがいえるから、北海道は、本州と津軽海峡を挟んで独自の商圏を形成しており、少なくとも埼玉県に工場があるだけの原告とはいかなる意味でも商圏は重ならない旨、被告は≪事業者名略≫の例を挙げるが、これは東日本ではない例であるし、ユーザーが同一需要者であり納入価格を自ら承知している例であって、一般化して、「納入エリアが全く競合していなくても、他の段ボールメーカーとの販売格差」が交渉圧力になるとまで拡大して主張するのには無理がある旨、この論法では、東日本以外の地区にまたがって商圏を拡大させており、一定の取引分野の地理的範囲が東日本地区であることも否定され、日本全体が地理的範囲となるはずである旨主張する(上記第2の4(3)イ(ウ))。
しかし、上記イの判示は、北海道のように本州と陸続きでない地区についても同様であって、例えば、需要者である≪事業者名略≫が、埼玉県に所在する工場では日本トーカンパッケージから、兵庫県に所在する工場では≪事業者名略≫から、それぞれ段ボールケースの供給を受けている件について、日本トーカンパッケージの古河工場の≪氏名略≫は、値上げ幅に差があると値上げ交渉の障害になるとして、≪事業者名略≫の≪氏名略≫氏との間で見積価格の値上げ幅の情報交換をしている(査定282・13~14頁)とおり、相当な遠方の地域同士であっても、一定の取引分野の地理的範囲に含み得ることが否定されるものではない。実際、北海道地区に係る10月27日トップ会においても、出席各社の営業責任者は、段ボール原紙の値上がりに伴う段ボール製品の値上げを行うには、北海道地区においても全国各地の動きに合わせて値上げを行う必要があることや、値上げの方針や進捗状況を報告し合う会合が北海道以外の各地でも行われていることなどを認識しつつ(査170・10~11頁、査208・5~6頁、査260・9頁、査370・3~6頁、査405・12~13頁)、また、自社の事業活動の範囲で段ボール製品の値上げに関して歩調を合わせれば、少なくとも東段工の管内である東日本地区の全域での値上げに協調することとなることを認識しつつ、段ボール製品について、大手の段ボールメーカーが地域を限定せずに公表した値上げ幅と同様の値上げを行うことを確認して、東日本地区の全域における段ボール製品の値上げに歩調を合わせたといえる。なお、不当な取引制限は、共同行為であるから、原告1社の事業活動による現実の商圏の範囲が北海道地区や東日本地区全域には及んでいないとしても、「一定の取引分野」の地理的範囲を東日本地区の全域と画することを妨げるものではない。
したがって、本件審決が、一定の取引分野における地理的範囲を、北海道を含む東日本地区の全域と画定したことは合理的である。
オ 原告は、特定段ボールケースのうち広域ユーザー向けのものと地場ユーザー向けのものの違いについて、広域ユーザー向けのものは、大手5社のシェアが8割を超えており、原告も販売していないし、地場メーカーも参入していないところ、これは、段ボールケースは製品の形状により加工の工程が様々であるため、製品の品質の差が大きくなり、技術力や、配送・発注量を含めた現実の供給能力が、全国各地に工場を持つ大手メーカーでなければ対応できないことが大きな理由であって、顧客からの特注品で、仕様や製造工程に差があって単なる工業規格の問題ではないから、別に組織された大手メーカー5社の扱う範囲は、別の商圏であるといえるにもかかわらず、本件審決は、以上の違いをあえて無視し、大手5社が5社会において情報交換していたのは広域ユーザーのうち67社にすぎないと過小評価している旨主張する(上記第2の4(3)ウ)。
しかし、特定段ボールケースは、ユーザーによる仕様の違いがあるとしても日本工業規格に基づく段ボールシートを加工して製造される段ボール製品として共通するものであること、広域ユーザー向けのものについての2割近くは地場の段ボールメーカーの供給によるものであること、価格水準の違いは購買力の大きい広域ユーザーが交渉担当部署において一括して大量に購入することによるスケールメリットによるものと考えられることなどからすると、広域ユーザー向けのものか地場ユーザー向けのものかの違いは相対的なものにすぎないといえ、一定の取引分野が重層的に成立することは、地理的範囲のみならず、対象商品の範囲についても同様であり、広域ユーザー向けと地場ユーザー向けを包含する一定の取引分野が成立することを妨げないとの本件審決の判断は合理的である。また、10月17日三木会において広域ユーザー向けの段ボールケースを含めて情報交換の対象としていたことは、その後の三木会においても広域ユーザーに対する値上げ活動の進捗状況が報告されていたこと(査139・9頁、≪Ⅾ4≫参考人審尋調書24~25頁)からも認められる。以上に反する原告の主張は採用できず、本件ケース合意は、広域ユーザー向けの特定段ボールケースも対象としており、これに係る取引も本件ケース合意における一定の取引分野に含まれるとの本件審決の判断は合理的である。
5 本件審決の争点(1)エ(競争の実質的制限の認定)について(第1事件及び第2事件)
(1) 本件審決の判断(本件審決案132~139頁)について
ア 本件審決が述べるのと同様に、独占禁止法2条6項が定める「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい、共同して商品の販売価格を引き上げる旨の合意がされた場合には、その当事者である事業者らがその意思で、ある程度自由に当該商品の販売価格を左右することができる状態をもたらすことをいうものと解する(多摩談合新井組最高裁判決参照)。そして、販売価格の引上げに係る合意により一定の取引分野における競争が実質的に制限されたか否かは、当該合意の当事者である事業者らのシェアの高さによってのみ判断するのではなく、上記の観点から、これらのシェアの高さに応じて、当該合意の当事者ではない他の事業者がどの程度競争的に振る舞い、価格引上げをけん制することができるか等の諸事情も考慮してこれを判断するのが相当である。イ 本件各合意に係る当事者のシェアについて
平成23年の東日本地区における段ボールシートの販売数量に係るシェアについて、本件審決が認定した本件シート合意の成立時の当事者である第1事件三木会出席11社による販売数量は、東日本地区における総出荷数量の約44.29パーセントを占めているほか、第1事件三木会出席11社に、このうち4社(レンゴー、王子コンテナー、森紙業及び大王製紙パッケージ)とグループ関係にある15社(別紙5の番号12ないし同26記載の各営業者)を加えた26社による販売数量は、上記の総出荷数量の約62.20パーセントを占めており、また、第1事件三木会出席11社に後日本件シート合意に参加した46社を加えた第1事件事業者57社による販売数量は、上記の総出荷数量の約81.47パーセントを占めている(査492。審査官が全段連公表の地域別生産動向及び経済産業省公表の生産動態統計調査に係る資料に基づき、東日本地区における総出荷数量を算出した上で、第1事件事業者57社から受けた報告を基に算出した事業者ごとの販売数量を、上記の総出荷数量によって除することにより算定した結果)との認定事実には実質的な証拠があると認められ、また、同様に、平成23年の東日本地区における段ボールケースの製造数量に係るシェアについて、本件審決が認定した、本件ケース合意の成立時の当事者である第2事件三木会出席12社による製造数量は、東日本地区で段ボールケースの原材料となった段ボールシートの総製造数量の約41.24パーセントを占めているほか、第2事件三木会出席12社に、上記15社を加えた27社による製造数量は、上記の総製造数量の約51.88パーセントを占めており、また、第2事件三木会出席12社に後日本件ケース合意に参加した51社を加えた第2事件事業者63社による製造数量は、上記の総製造数量の約65.15パーセントを占めている(査493。審査官が上記資料に基づき、東日本地区で段ボールケースの原材料となった段ボールシートの総製造数量を算出した上で、第2事件事業者63社から受けた報告を基に算出した事業者ごとの段ボールケースの製造数量を、上記の総製造数量で除することにより算出した結果)との認定事実には実質的な証拠があると認められる。
そして、以上の認定事実に基づき、競争制限の有無を判断する上で、東日本地区における段ボールシートの販売数量に係る上記のシェアは、特定段ボールシートの販売シェアとほぼ同視できるほか、東日本地区における段ボールケースの製造数量に係る上記のシェアは、特定段ボールケースの販売シェアとほぼ同視することができる旨、そうすると、特定段ボールシートについては、本件シート合意成立時点において、その合意の当事者となった第1事件三木会出席11社のシェアは、4割余りであり、また、特定段ボールケースについても、本件ケース合意成立時において、その合意の当事者となった第2事件三木会出席12社のシェアは、4割余りである旨、さらに、上記15社は、これらの当事者のうち、上記4社とグループ関係にあり、本件各合意の成立に先立ち、既にそれぞれ自社の親会社等から段ボールシート及び段ボールケースの値上げの方針が示されており、その意向が及んでいたことを踏まえ、特定段ボールシートについて、第1事件三木会出席11社に上記15社を加えた26社のシェアでみると、その割合は6割余りとなるのであり、また、特定段ボールケースについて、第2事件三木会出席12社に上記15社を加えた27社のシェアでみると、その割合は5割余りとなり、いずれもシェアは過半を占めることになる旨の本件審決の認定には、合理性があると認められる。
ウ 他の事業者の価格けん制力について
実質的な証拠があると認められる本件審決が認定した各事実(上記第2の2)によれば、本件各合意の成立当時、既に主要な原紙メーカーによる段ボール原紙の値上げの表明が出そろっており、段ボールメーカーとしては、製造原価に占める段ボール原紙の割合が高い段ボール製品について、販売価格を引き上げる必要が生じていたところ、段ボールメーカーの間では、従前から段ボール原紙の値上がりに伴い段ボール製品の値上げを実施するに当たっては、レンゴー及び王子コンテナーが公表した値上げ幅を指標として足並みをそろえて値上げを行う必要があると認識され、取り分けこうした時期に取引拡大のため競り込みを行うことは値上げの実施の妨げになるため警戒されており、これに反して競り込みが行われた場合には、他の納入業者から抗議が行われるなど競争回避に向けた解決が図られていたほか、段ボール製品の値上げの時期には、三木会や支部の会合等において、出席各社の間で値上げの方針や進捗状況について情報交換がされるとともに、個別のユーザーについて入れ合いとなっている事業者の間でも値上げ交渉の状況に関する情報交換が行われるなどしていたのである旨、これらによると、特定段ボールシートについて、本件シート合意成立当時、その当事者である第1事件三木会出席11社又はこれに上記グループ会社15社を加えた26社による販売価格の引上げに対し、他の事業者が競争的に振る舞い、これらの価格引上げをけん制する行動を採ることは見込みにくい状況にあったということができる旨、他方で、特定段ボールケースについては、コルゲータ保有メーカーのほか、ボックスメーカーも競合する事業者となるが、ボックスメーカーは、コルゲータ保有メーカーと比べ事業規模が小さい事業者が多く、コルゲータ保有メーカーから段ボールシートを仕入れる関係上、段ボールケースの販売について、価格面でコルゲータ保有メーカーと競争することは困難であって、段ボールシートの販売価格が引き上げられれば、ボックスメーカーにおいても段ボールケースの販売価格を引き上げる傾向にあったことからすれば、同様に、本件ケース合意成立当時、その当事者である第2事件三木会出席12社又はこれに上記グループ会社15社を加えた27社による販売価格の引上げに対し、ボックスメーカーを含む他の事業者が競争的に振る舞い、これらの価格の引上げをけん制する行動を採ることは見込みにくい状況にあったということができる旨の本件審決の認定には、合理性があると認められる。
エ 以上の事情に照らすと、特定段ボールシートについて、第1事件三木会出席11社が本件シート合意を成立させ、特定段ボールケースについて、第2事件三木会出席12社が本件ケース合意を成立させたことをもって、いずれもその意思である程度自由に販売価格を左右することができる状態をもたらしたと認めることができる。そして、本件各事業者のうち、その余の事業者らが後日本件各合意に順次参加したことにより、そのシェアは、特定段ボールシートについて8割を超えるものとなり、特定段ボールケースについて6割を超えるものとなるのであり、かかる市場支配は強固なものとなったということができる。
これらによれば、本件各合意は、一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであったと認める本件審決の判断には合理性があると認められる。
(2) 原告の主張に対する当裁判所の判断について
ア 原告は、第1事件三木会出席者11社による東日本地区における段ボールシートの市場シェアが約44.29パーセント、第2事件三木会出席12社の同地区における段ボールケースの市場シェアが約41.2パーセントといずれも5割に満たず、特に段ボールケースについては5社会を構成する事業者による広域ユーザー向けのそれを差し引くと、シェアは更に低下するから、本件各合意による競争の実質的制限は生じない旨主張する(上記第2の4(4)ア)。
しかし、違反行為者の市場におけるシェアが、たとえ過半(50パーセント超)に達していなかったとしても、それ以外の事業者の価格けん制力等、市場の状況によっては、競争を実質的に制限することは可能であるところ、本件審決が認定した段ボール製品の製造業界における従前からの慣行等からすれば、他の事業者が競争的に振る舞い、価格引上げをけん制する行動を採ることは見込みにくい状況にあり、10月17日三木会における本件各合意の成立当時における、第1事件三木会出席11社の東日本地区における段ボールシートの市場シェア(約44.29パーセント)及び第2事件三木会出席12社の同地区における段ボールケースの市場シェア(約41.24パーセント)をもってすれば、このことだけでも競争を実質的に制限することが十分にうかがわれる。さらに、本件審決が認定しているとおり、第1事件三木会出席11社にそのグループ会社を加えた東日本地区における段ボールシートの市場シェアが約62.20パーセント、第2事件三木会出席12社にそのグループ会社を加えた同地区における段ボールケースの市場シェアが約51.88パーセントであったことからすれば、なお一層、他の事業者が競争的に振る舞い、価格引上げをけん制する行動を採ることは見込みにくい状況にあったものである。よって、本件各合意は、その成立当時において、十分に一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであったとの本件審決の判断は合理的であると認められる。
また、上記4(2)オのとおり、広域ユーザー向けの段ボールケースに係る取引と地場ユーザー向けの段ボールケースに係る取引とは同一の取引分野を構成するものであるから、そのうち地場ユーザー向けの段ボールケースに係る取引のみを取り上げて、第2事件三木会出席12社による部分的なシェアを勘案する原告の主張は採用することができない。
イ 原告は、自身は埼玉近郊のみで段ボール製品を販売しているため、東日本でのシェアは低く、原告など地場の段ボールメーカーの競争範囲を超えた東日本全体で競争を実質的に制限することにはならない旨主張する(上記第2の4(4)イ)。
しかし、本件においては、本件各事業者の共同行為による競争の実質的制限が問われているのであって、原告のみの市場シェアや事業活動の範囲をいう原告の主張は失当である。
ウ 原告は、本件審決は他の事業者の価格けん制力を過少評価しているのであって、大手原紙メーカーが値上げを発表しただけで他の競合する業者も足並みをそろえるわけではなく、値上げは、客観的合理的な理由を要するので簡単なことではなく、実際に平成20年に値上げが失敗したケースがあり、特に、段ボールケースに関しては、個別商品が特注品であり、大手の段ボールメーカーの値上げ幅は指標とはならないから、他の事業者の価格けん制力は弱いものではない旨主張する(上記第2の4(4)ウ)。
しかし、大手の段ボールメーカーが公表した値上げ幅が、他の事業者にとっても特定段ボールケースの値上げの指標となり得るので、たとえ値上げが簡単なことではないとしても、本件審決は、他の事業者のけん制力を過少評価したものではないし、段ボールケースの個別商品が特注品であるとしても、大手の段ボールメーカーの値上げ幅は指標とはならないということはないのであるから、原告の上記主張は採用することができない。
6 本件審決の独占禁止法における解釈の違法の有無
(1) 争点(2)ア(事業活動を行った日の解釈)について(第1事件)
ア 本件審決の判断(本件審決案142~143、145頁)について
(ア) 本件審決が述べるのと同様に、独占禁止法7条の2第1項柱書は、「当該行為の実行としての事業活動を行った日」を課徴金の算定対象となる商品の売上額に係る算定の始期としている。この実行期間の始期については、違反行為者が合意の対象となる需要者に対して値上げ予定日を定めて値上げの申入れを行い、その日からの値上げへ向けて交渉が行われた場合には、当該予定日以降の取引には、当該合意の拘束力が及んでいると解され、現実にその日に値上げが実現したか否かにかかわらず、その日において当該行為の実行としての事業活動が行われたものと認められる(公正取引委員会平成14年9月25日審決・公正取引委員会審決集第49巻111頁〔株式会社オーエヌポートリーに対する件〕、公正取引委員会平成19年6月19日審決・公正取引委員会審決集第54巻78頁〔日本ポリプロ株式会社ほか1名に対する件〕参照)。
(イ) 本件審決は、上記(ア)の解釈を前提に、本件各違反行為について、本件各合意は、対象となる特定段ボールシート及び特定段ボールケースの値上げの実施時期について定めていないことから、原則としてこれらのユーザーに対して申し入れた値上げの実施予定日のうち最も早い日(①)を実行期間の始期としつつ、平成23年10月17日の本件各合意成立時点又は本件各合意への参加時点で、ユーザーに対して既にこれらの値上げを申し入れていた事業者については、上記各時点より前の事業活動は、当該行為の実行としての事業活動とは認められないから、値上げ交渉の結果、値上げした価格で、本件各合意成立又は本件各合意への参加以降に当該商品を引き渡した最初の日(②)が上記①より前である限り、これが実行期間の始期となるとした上で、原告については、第1事件違反行為につき、平成24年1月21日であり、第2事件違反行為につき、同年2月10日と認めたものであり、以上のような本件審決の判断は、独占禁止法7条の2第1項柱書の「当該行為の実行として事業活動を行った日」の解釈として、同法に違反するものとは認められない。
イ 原告の主張に対する当裁判所の判断について
原告は、本件審決は、原告に対する段ボールシートに関する第1事件課徴金納付命令(平成26年(納)第140号)について、その始期を平成24年1月21日と認定しているところ、値上げ交渉は見積書の提出後にスタートするものであり、見積書に記載した値上げの実施希望日は一方的な提案にすぎず、提案どおりに実施できるとは限らないから、実際に値上げが実現した日を上記算定期間の始期とすべきであるとして、上記始期は、実際に値上げをした価格で商品を納めた日の内、最も早い日である同年2月1日とすべきであり、同年1月21日から同月31日までの売上げは除外して計算すべきである旨主張する(上記第2の4(5))。
しかし、本件審決が説示したとおり、独占禁止法7条の2第1項は、「当該行為の実行としての事業活動を行った日」を課徴金の計算の基礎となる売上額の算定の始期と規定しているところ、違反行為者が合意の対象となる需要者に対して値上げ予定日を定めて値上げの申入れを行い、その日からの値上げへ向けて交渉が行われた場合には、当該予定日以降の取引には、当該合意の拘束力が及んでいると解され、現実にその日に値上げが実現したか否かにかかわらず、その日において当該行為の実行としての事業活動が行われたものと認められる。
本件については、原告は、本件シート合意の後、需要者に対し、平成23年12月20日付け見積書をもって、平成24年1月21日からの特定段ボールシートの値上げを申し入れているのである(査608・5枚目)から、値上げ実施予定日である同日からの値上げに向けての交渉が行われていたといえ、値上げが実現したか否かにかかわらず、同日には「実行としての事業活動」が認められる。
したがって、独占禁止法7条の2第1項の「当該行為の実行としての事業活動を行った日」を違反行為者が合意の対象となる需要者に対して値上げ予定日を定めて値上げの申入れを行った日として課徴金の額を計算した本件審決の解釈は相当であり、最初に引き上げた価格で商品を出荷した同年2月1日とすべきであるという原告の主張は、採用することができない。
(2) 本件審決の争点(2)イ(商品の対価の解釈)について(第1事件及び第2事件)
ア 本件審決の判断(本件審決案167頁)について
本件審決が述べるのと同様に、消費税相当額は、法的性質上、商品の販売価格の一部であり、独占禁止法施行令5条1項にいう「商品の対価」に含まれるものというべきである。
したがって、本件審決が、消費税相当額が「商品の対価」に含まれると解釈した上で、消費税相当額が利得に当たらないことを理由として課徴金の算定基礎となる売上額から控除するべきであるという原告の主張を採用しなかった判断は、同条項に違反するものとは認められない。
イ 原告の主張に対する当裁判所の判断について
原告は、課徴金制度は、違反行為者に不当な利得を保持させず、特定の違反行為の禁止の実効性を確保するための行政上の措置であり、このような趣旨からすれば、預かったにすぎない消費税相当額は、課徴金算定の基礎となる売上額から除外すべきであり、利得の増減や独占禁止法の改正なくして課徴金額が増額変更されることとなることも、同法が予定するものではないとして、特定段ボールシート及び特定段ボールケースの消費税相当額を、原告に対する第1事件及び第2事件課徴金納付命令における課徴金の計算の基礎としての売上額から除外すべきである旨主張する(上記第2の4(6))。
しかし、本件審決が説示したとおり、独占禁止法の定める課徴金の制度は、カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし、カルテルの予防効果を強化することを目的として、昭和52年法律第63号による同法の改正において設けられたものであり、カルテル禁止の実効性確保のための行政上の措置として機動的に発動できるようにしたものである。また、不当な取引制限(独占禁止法3条、2条6項)に係る課徴金(同法7条の2)の額の算定は、実行期間に係るカルテル対象商品又は役務の売上額に一定率を乗ずる方式を採っているが、これは、課徴金制度が行政上の措置であるため、算定基準も明確なものであることが望ましく、また、制度の積極的かつ効率的な運営により抑止効果を確保するためには算定が容易であることが必要であるからであって、個々の事案ごとに経済的利益を算定することは適切でないとして、そのような算定方式が採用され、維持されている(最高裁平成17年9月13日第3小法廷判決・民集59巻第7号1950頁)。このことからすれば、消費税相当額を「商品の対価」として売上額に含めることは、課徴金制度の趣旨・目的、そこから要請される課徴金の算定基準の明確性や算定方法の簡明性に適うものである。
したがって、独占禁止法施行令5条1項にいう「商品の対価」に消費税相当額を含めた売上額を基礎として課徴金の額を計算した本件審決の解釈は相当であり、消費税相当額を課徴金の計算の基礎としての売上額から除外すべきであるという原告の主張は、採用することができない。
(3) 本件審決の争点(2)ウ(当該商品の解釈)について(第2事件)
ア 本件審決の判断(本件審決案168頁)について
本件審決は、独占禁止法7条の2第1項柱書の「当該商品」の解釈において、段ボールケースについて、自社で製造販売しているもののほか、他社が製造したものをそのまま仕入れて販売するという卸販売を行ったものについても「当該商品」に含まれるものと解したものであるが、本件ケース合意は、各当事者が足並みをそろえて段ボールケースの値上げを行うというものであり、特定段ボールケースに当たるものである限り、自社で製造したものか他社から仕入れたものかにかかわらず、その対象となっていたと認められるから、卸販売をした特定段ボールケースの売上げが課徴金の算定対象となる商品の売上額から除外されるものということはできないというべきであって、本件審決における同条項の「当該商品」の解釈に誤りはない。
イ 原告の主張に対する当裁判所の判断について
原告は、本件ケース合意は、段ボールケースの製造業者による製造販売についての価格カルテルとされるものであるから、段ボールケースの売上額のうち卸販売(転売)による売上額は、課徴金の計算の基礎から除外すべきである旨主張する(上記第2の4(7))。
しかし、課徴金の算定対象であるか否かは、違反行為が対象とした取引に係る売上げであるか否かの問題であって、違反行為者が製造業者であるか卸売業者であるかは問題ではないところ、本件審決が説示したとおり、本件ケース合意においては、特定段ボールケースに該当する限り、自社で製造したものか他社から仕入れたものかにかかわらず、当該合意の対象とされたものと認められる。
したがって、独占禁止法7条の2第1項柱書の「当該商品」には卸販売による商品も含まれると解釈した上で、卸販売を行った段ボールケースも同項の「当該商品」に含まれることを前提に、独占禁止法施行令5条1項にいう「商品の対価」に段ボールケースの卸販売による売上額を含めた売上額を基礎として課徴金の額を計算した本件審決は不合理ではなく、段ボールケースの卸販売による売上額を課徴金の計算の基礎から除外すべきであるという原告の主張は、採用することができない。
(4) 本件審決の争点(2)エ(卸売業の解釈)について(第2事件)
ア 本件審決の判断(本件審決案171頁、本件審決3頁)について
本件審決は、独占禁止法7条の2第1項の「卸売業」について、課徴金の算定に当たり、違反行為に係る取引について、小売業又は卸売業に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われていると認められる場合には、実行期間における違反行為に係る取引について過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて単一の業種を決定すべきであると解する(東京高等裁判所平成24年5月25日判決〔昭和シェル石油株式会社による審決取消請求事件〕参照)ことを前提に、原告において、段ボールケースに係る取引につき卸販売によるものが含まれていたとしても、これが過半を占めていたとは認められないから、卸売業に係る算定率は適用されないものと判断したもので、同条項の「卸売業」の解釈を誤ったものとは認められない。
したがって、本件審決が、段ボールケースについて卸販売も行っているところ、これらの売上げについて、課徴金の算定対象となる商品の売上額から除外されないとしても、卸売業に係る算定率を適用すべきであるとする原告の主張を採用しなかった判断は、同条項に違反するものとは認められない。
イ 原告の主張に対する当裁判所の判断について
原告は、段ボールケースの卸販売による売上額が課徴金の計算の基礎から除外されないとしても、製造販売業と卸売業とでは利益率が異なることにより課徴金の算定率が異なっているのであるから、過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて単一の業種(製造販売業)を決定する合理性に欠けるのであり、製造販売業に基づく売上げと卸売業に基づく売上げとを区別して算出できる本件のような場合には、課徴金もそれぞれの売上額ごとに、それぞれの算定率で算出すべきであり、卸販売による売上額には、卸売業としての課徴金算定率1パーセント(独占禁止法7条の2第5項1号)を乗じて課徴金額が算出されるべきである旨主張する(上記第2の4(8))。
しかし、上記(2)イのとおり、独占禁止法における課徴金制度は行政上の措置であるため算定基準の明確性が要請され、また、違反行為者の抑止効果を確保するために算定方法の簡明性が要請されるところ、これらの要請によれば、同法7条の2第1項が、違反行為者の業種ごとに課徴金の算定率を規定しているのは、一つの違反行為に係る売上額に対して一つの課徴金算定率を乗じることを予定したものと解するのが相当である。したがって、本件審決が説示したとおり、違反行為に係る取引について、二つの事業活動が行われている場合に、事業活動全体で、どの業種の事業活動の性格が強いかにより業種を認定すべきであり、実行期間における違反行為に係る取引において、過半を占めていたと認められる事業活動に基づいて単一に業種を決定するのが相当である(東京高等裁判所平成28年5月25日判決〔日本エア・リキード株式会社による審決取消請求事件〕)。そして、このことは、製造販売に基づく売上げと卸売販売に基づく売上げが明確に区別できるか否かにかかわらないし、算定率が業種別に定められていることに反するものでもない。
本件については、原告において、特定段ボールケースの売上額に卸販売によるものが含まれていたとしても、これが過半を占めていたとは認められないのであるから、卸売業による課徴金の算定率は適用されない。
したがって、同項の「卸売業」には、過半を占める事業活動に基づいて単一の業種を決定すべきであると解釈した上で、原告の段ボールケースに係る取引につき過半を占めるに至らない卸販売によるものが含まれていても「卸売業」に係る算定率は適用されないことを前提に、同項の課徴金算定率「百分の六」を乗ずべき「売上額」を、その当該違反行為者の卸売業を含めた事業全体の売上額として、課徴金の額を計算した本件審決は相当であり、卸販売による売上額には卸売業としての課徴金算定率「百分の一」(同項)を乗じて課徴金額が算出されるべきであるという原告の主張は、採用することができない。
(5) そのほか、本件審決が判断の前提とした独占禁止法の解釈が違法であると認められるものはない。
第4 結論
以上によれば、本件審決がその基礎として認定した事実にはいずれも実質的証拠があると認められ、また、本件審決が採用した解釈が独占禁止法に違反するものとも認められないので、本件審決に取消事由は認められない。
よって、本件審決の取消しを求める原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
令和5年6月16日
東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官 木 納 敏 和
裁判官 和久田 道 雄
裁判官 真 辺 朋 子
裁判官 森 剛
裁判官 上 原 卓 也
別紙指定代理人目録
西川康一、榎本勤也、堤優子、齋藤みずえ、坂本智之、岩丸華子、小室尚彦
注釈 《 》部分は、公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。