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独禁法19条、一般指定12項
福岡地方裁判所第1民事部
令和6年(行ク)第11号
令和6年5月10日
熊本市西区中原町656番地
申立人(本案原告) 熊本県漁業協同組合連合会
同代表者代表理事 ≪X1≫
同訴訟代理人弁護士 平山賢太郎
山本陽介
堀 隆聖
東京都千代田区霞が関1-1-1
相手方(本案被告) 国
同代表者 法務大臣
小泉龍司
処分行政庁 公正取引委員会
同代表者委員長 古谷一之
相手方指定代理人 窪田大輔
渡口 真
永峰加容子
細波 涼
岩下生知
岡田博己
高取勇介
堤 優子
並木 悠
奥村正和
藤山晶子
柴田修輔
小倉一真
織田佳哲
九谷福弥
久野慎介
深澤尚人
徳永壮亮
柳井美暁
石井崇史
田邊節子
令和6年(行ク)第11号 仮の義務付け申立事件(本案 福岡地方裁判所令和6年(行ウ)第14号 留置物仮還付義務付け等請求事件)
決 定
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 本件申立てを却下する。
2 申立費用は申立人の負担とする。
理 由
第1 申立ての趣旨
公正取引委員会は、申立人に対し、令和4年(査)第4号事件において公正取引委員会が申立人から留置した留置物のうち、申立人と乙種指定商社との間で締結された令和3年度の入札等に関する契約書類一式を仮に仮還付せよ。
第2 事案の概要
相手方は、令和4年6月7日、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)47条1項4号に基づき、申立人の事業所への立入検査を行い、申立人に対し、同項3号に基づき、物件の提出を命じ、これを留置した。
本件は、申立人が、相手方が留置した物件の一部(申立人と乙種指定商社との間で締結された令和3年度の入札等に関する契約書類一式。以下、これらの物件を「本件物件」という。)について、公正取引委員会の審査に関する規則(平成17年公正取引委員会規則第5号)17条2項に基づく仮還付を行うことの義務付けを求める訴え(以下「本件義務付けの訴え」という。)を提起した上、行政事件訴訟法37条の5第1項に基づき、本件物件の仮還付の仮の義務付けを求める事案である。
1 関係法令の定め
別紙「関係法令」記載のとおり。
2 前提事実
一件記録によれば、次の事実が一応認められる。
⑴ 当事者
申立人は、水産資源の管理及び水産動植物の増殖、水産に関する経営及び技術の向上に関する指導、所属員の事業に必要な物資の供給等を行うことを事業とする、漁業協同組合連合会である。
⑵ 仮還付の申請
ア 処分行政庁は、申立人の行為が独占禁止法19条に違反する疑いがあるとして、令和4年6月7日、同法47条1項4号に基づき、申立人の事業所への立入検査を行うとともに、同項3号に基づき、申立人に対して本件物件の提出を命じ、これを留置した(疎乙1の1)。
処分行政庁は、上記の際、申立人に対し、「立入検査の翌日以降、提出物件(留置物)を閲覧・謄写することができる」旨の記載がある「事業者等向け説明資料」(疎乙1の2)を交付した。
イ 処分行政庁は、事件の審査を進め、令和5年11月28日付けで、申立人に対し、申立人に対して独占禁止法20条1項に基づき行う予定の排除措置命令(以下「本件排除措置命令」という。)に係る意見聴取を行う旨を通知した。
ウ 申立人は、意見聴取の通知(上記イ)を受け、令和5年12月14日、東京地方裁判所に対し、本件排除措置命令の差止めの訴え(以下「本件差止訴訟」という。)を提起するとともに(疎甲2)、本件排除措置命令の仮の差止めの申立て(以下「本件仮の差止め申立て」という。)をした。なお、東京地方裁判所は、後日、本件仮の差止め申立てについて、仮の差止めの要件である「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」(行政事件訴訟法37条の5第2項)がないことを理由に、これを却下する旨の決定をした。
エ 申立人は、令和6年3月4日付けで、相手方に対し、「審査規則17条2項に基づく請求」と題する上申書(疎甲3)を提出し、「排除措置命令に対する差止訴訟のため」として、審査規則17条2項に基づき、相手方が留置する本件物件について仮に還付することを求めた。
オ 相手方は、令和6年3月6日付けで、申立人代理人に対し、①事件審査に支障を来すこと、また、排除措置命令に係る訴訟が係属中であることから、申立人の仮還付請求(上記エ)には応じられない旨、②留置物については、審査規則18条により、閲覧謄写を申請することができるので、閲覧謄写を希望する場合には、希望する物件を留置物目録から特定した上で、添付の「提出物件の閲覧・謄写申請書」を提出するように求める旨を記載し、当該「提出物件の閲覧・謄写申請書」の書式データを添付した電子メール(疎甲6)を送信した。
カ 申立人は、令和6年3月7日、本件義務付けの訴えを提起するとともに、本件申立てをした。
3 当事者の主張
申立人の主張は、別紙1「申立書」、別紙2「準備書面1」記載のとおりであり、相手方の主張は、別紙3「意見書」記載のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 「義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」(行政事件訴訟法37条の5第1項)があるか否かについて
⑴ 行政事件訴訟法37条の5第1項は、仮の義務付けの要件として、「義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があることを規定する。このような同項の趣旨、目的及び文言に照らすと、この要件を充足するためには、義務付けの訴えに係る処分等がされないことによって生ずる損害につき、損害の回復の困難の程度を考慮し、かつ、損害の性質及び程度並びに処分等の内容及び性質を勘案しても、損害賠償等の事後的な手段によるのではその救済が著しく困難又は不相当であることを要すると解するのが相当である。
⑵ これを本件についてみると、次の事情を指摘することができる。
ア 申立人は、処分行政庁に対し、審査規則17条2項に基づき、処分行政庁が留置する本件物件を仮還付するよう請求した(前提事実⑵エ)。
イ しかし、申立人は、処分行政庁によって本件物件を留置する際、「立入検査の翌日以降、提出物件(留置物)を閲覧・謄写することができる」旨の記載がある「事業者等向け説明資料」(疎乙1の2)の交付を受けたところ(前提事実⑵ア)、審査規則18条1項は、処分行政庁の調査において、帳簿その他の物件の提出を命じられた者は、当該物件を閲覧し、又は謄写することができる(事件の審査に特に支障を生ずることとなる場合を除く)旨を規定しており、同項は、その使用目的を制限していない。
そうすると、申立人は、本件差止訴訟や本件仮の差止め申立てに係る手続において、証拠に基づき主張立証を尽くすために、審査規則18条1項に基づき、本件物件の閲覧・謄写を行う機会を有していたといえる。
ウ そして、①審査規則17条2項に基づく仮還付請求と②審査規則18条1項に基づく閲覧謄写請求は、審査規則上、選択的に用いることができると解されるから、訴訟において主張立証を尽くすための資料を得る機会という観点からみれば、申立人は、いずれかの請求をすることにより本件物件又はその写しを得ることができるのであり(申立人が上記②の請求により本件物件の写しを得た場合において、この写しを本件差止訴訟の証拠として提出したとしても、その原本を留置している相手方が少なくとも原本の不存在を主張して当該証拠の成立の真正を争うことは考え難いし、裁判所がその原本の確認の必要があると判断すれば、相手方に原本の提出を促すことも考えられる〔行政事件訴訟法23条の2参照〕から、証拠に基づく防御の機会を奪われるとはいえない。)、申立人が指摘する事情(原本による証拠内容の確認の便宜、閲覧謄写のための日程調整等の煩雑さ等)を十分考慮したとしても、本件物件につき、審査規則17条2項に基づく仮還付請求でなければ、その目的を達成することができないものとはいえない。他に、本件物件について仮還付を受けなければ、申立人の防御権の行使の機会が喪失すると認めるに足りる事情は認められない。
⑶ 以上の事情に照らすと、本件物件の仮還付を受けないことによって被るとして申立人が主張する損害は、他の手段によって、その発生を回避すること自体ができるものであり、損害賠償等の事後的な手段によるのではその救済が著しく困難又は不相当であるものとはいえない。
したがって、本件において、行政事件訴訟法37条の5第2項にいう「義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるための緊急の必要」があるとは認められない。
⑷ これに対し、申立人は、①本件仮の差止め申立てに係る手続において、証拠に基づいて主張を尽くすという防御権行使の機会を侵害されており、本件物件の仮還付が行われない事態が継続すれば、本件差止訴訟においても、証拠に基づいて主張を尽くすという防御権行使の機会を完全に奪われることとなる(㋐留置物の差出人等は、一時的な仮還付を受けることにより、事業所等において留置物の原本の内容を確認でき、その場で、事業所内に所在する他の資料等と照合することができる、㋑本件物件そのものを原本として提示することにより、裁判所は、提出された書証が原本の真正な写しであることをはじめて確認でき、これによって裁判手続の公正が実現する、㋒審査規則18条1項に基づく閲覧謄写請求が日程調整等の煩雑な手続を要するのに対し、審査規則17条2項に基づく仮還付請求は、そのような手続を避けることができ、簡易迅速に防御権が確保される。)、②審査規則17条2項に基づく仮還付請求と、審査規則18条1項に基づく閲覧謄写請求は、選択的に用いることができる制度であるから、本件物件について仮還付請求が認められることは明らかであるとして、本件物件の仮還付を受けることにより、本件差止訴訟手続において証拠に基づく防御の機会を与えられることには、償うことのできない損害を避けるための申立人にとって緊急の必要がある旨を主張する(申立書6〜7頁、準備書面1〔2〜6、10〜12頁〕)。
しかし、上記⑵・⑶で説示したところに照らし、申立人の上記主張は、いずれも採用することができない。
2 結論
よって、本件申立ては、本案訴訟の適法性を措くとしても、その余の点を検討するまでもなく、不適法であるからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
令和6年5月10日
裁判長裁判官 林史高
裁判官 住田知也
裁判官 本城伶奈