公正取引委員会審決等データベース

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レンゴー(株)ほか6名による審決取消請求事件

独禁法3条後段、独禁法7条の2
東京高等裁判所

令和3年(行ケ)第6号

判決

令和6年5月31日

大阪市福島区大開4丁目1番186号
原告  レンゴー株式会社
   (以下「原告レンゴー」という。)
同代表者代表取締役  ≪ 氏名略 ≫
兵庫県伊丹市東有岡5丁目33番地
原告  セッツカートン株式会社
   (以下「原告セッツカートン」という。)
同代表者代表取締役  ≪ 氏名略 ≫
大阪府茨木市西河原北町1番5号
原告  大和紙器株式会社
   (以下「原告大和紙器」という。)
同代表者代表取締役  ≪ 氏名略 ≫
東京都台東区元浅草2丁目6番7号
原告  マタイ紙工株式会社
   (以下「原告マタイ紙工」という。)
同代表者代表取締役  ≪ 氏名略 ≫
埼玉県鴻巣市箕田4070番地
原告  アサヒ紙工株式会社
   (以下「原告アサヒ紙工」という。)
同代表者代表取締役  ≪ 氏名略 ≫
静岡市清水区長崎310番地
原告  イハラ紙器株式会社
   (以下「原告イハラ紙器」という。)
同代表者代表取締役  ≪ 氏名略 ≫
山梨県中央市布施358番地
原告  株式会社甲府大一実業
   (以下「原告甲府大一実業」といい、原告ら7社を「原告ら」ともいう。)
同代表者代表取締役  ≪ 氏名略 ≫
原告ら訴訟代理人弁護士  中 藤   力
同            加 瀬 洋 一
同            谷 本 誠 司
同            外 崎 友 隆
同            片 木 浩 介
同訴訟復代理任弁護士   海 藤 忠 大
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告  公正取引委員会
同代表者委員長  古 谷 一 之
同指定代理人   別紙指定代理人目録記載のとおり

主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求の趣旨
被告が、原告らに対する公正取引委員会平成26年(判)第3号ないし第138号排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について、令和3年2月8日付けで原告らに対してした審決のうち、主文第3項の原告らに対する部分をいずれも取り消す。
第2 事案の概要等
本件に適用される私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(平成25年法律第100号による改正前のもの。以下「独禁法」という。)の主たる条文は別紙「独禁法の条文」に、同法施行令(平成27年政令第15号による改正前のもの。以下「独禁法施行令」という。)の主たる条文は別紙「独禁法施行令の条文」にそれぞれ記載のとおりである。なお、本文中の本件に特有な用語については、別紙「用語一覧表」に記載のとおりである。
1 事案の概要
⑴ 原告らは、いずれもコルゲータと呼ばれる段ボール製造機でダンボールを製造する業者である(以下、原告らに関連して登場する会社については、別紙を除き、株式会社の表記は省略する。)。
⑵ 被告は、原告らを含むダンボールを製造する業者は、共同して、特定段ボールケース及び特定段ボールシートの販売価格を引き上げる旨の合意(それぞれ「本件シート合意」「本件ケース合意」と、両合意を併せて「本件各合意」という。)をすることにより、公共の利益に反して、上記段ボールの販売分野(東日本全体の1つの市場)において競争を実質的に制限したものであり、これは、独禁法2条6項所定の「不当な取引制限」に該当し、同法3条に反するものであるとして、特定段ボールシートに関する不当な取引制限に係る事件(以下「第1事件」という。)及び特定段ボールケースに関する不当な取引制限に係る事件(以下「第2事件」という。)につき、原告らに対し、排除措置命令及び課徴金納付命令を発した(第1事件に係る排除措置命令(公正取引委員会平成26年(措)第11号。以下「第1事件排除措置命令」という。)は別紙1に、第2事件に係る排除措置命令(公正取引委員会平成26年(措)第12号。以下「第2事件排除措置命令」という。)は別紙2に、第1事件に係る課徴金納付命令(以下「第1事件課徴金納付命令」という。)は別紙3(ただし、原告らに関する部分)に、第2事件に係る課徴金納付命令(以下「第2事件課徴金納付命令」という。)は別紙4(ただし、原告らに関する部分)に各記載のとおりであり、第1事件及び第2事件に係る違反行為を「本件各違反行為」という。また、以下、第1事件排除措置命令及び第2事件排除措置命令を「本件各排除措置命令」と、第1事件課徴金納付命令及び第2事件課徴金納付命令を「本件各課徴金納付命令」という。)。
これに対し、原告らは、被告に対し、本件各排除措置命令及び本件各課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求をしたが、これをいずれも棄却された(本件審決。本件審決に引用されている審決案の部分を含む。以下同じ。)。そこで、原告らは、本件審決の取消しを求めて東京高等裁判所(独禁法85条1号)に本件訴えを提起した。
⑶ 本件は、原告らが、被告が原告らに対してした本件各排除措置命令及び本件各課徴金納付命令を取り消すよう求めた審判請求を棄却した本件審決には、審決の基礎となった事実を立証する実質的な証拠がない場合(独禁法82条1項1号)、又は法令に違反する場合(同項2号)に当たる旨主張して、被告に対し、本件審決の取消しを求める事案である。
2 前提事実
争いがない事実、被告が本件審決において証拠により認めた事実で、かつ、原告らも実質的な証拠の欠缺を主張していない事実、本件審判事件記録及び本件訴訟記録上明らかな事実は、次のとおりである。
⑴ 原告ら(段ボール製品の製造業者)
段ボール製品の製造業者(以下「段ボールメーカー」という。)は、段ボール原紙又は段ボールシートの調達方法により、①段ボール原紙、段ボールシート及び段ボールケースのいずれも製造する事業者(以下「一貫メーカー」という。)、②段ボール原紙の製造業者(以下「原紙メーカー」という。)から段ボール原紙を購入して段ボールシート及び段ボールケースを製造する事業者(以下「専業メーカー」という。)及び③コルゲータを保有せず、上記①又は②の事業者から段ボールシートを購入して段ボールケースを製造する事業者(以下「ボックスメーカー」という。)に大別される。主な原紙メーカーには、原告レンゴー、王子板紙、大王製紙、≪事業者A≫、≪事業者B≫等があるところ、原告レンゴー及び王子板紙とグループ関係にある王子コンテナーが一貫メーカーに位置付けられ、その余の原告らは、いずれも専業メーカーに当たるものであった。(査251、300、490)
原告レンゴー、原告セッツカートン、原告大和紙器、原告甲府大一実業、原告アサヒ紙工、原告マタイ紙工及び原告イハラ紙器は、いずれも、コルゲータと呼ばれる段ボール製造機を有する段ボールメーカーであり、段ボール原紙を加工して段ボールシートを製造するとともに、段ボールシートを加工して箱型に組立可能にした段ボールケースの製造を業として営む者である。原告レンゴーは、その余の原告らの親会社であり、原告らは、レンゴーグループという1つの企業グループを形成している。(査1、6、8、12ないし15)
⑵ 東日本段ボール工業組合、三木会・支部、本部役員会社、5社会
東日本段ボール工業組合(以下「東段工」という。)は、定款上、東日本地区において、コルゲータを有し、段ボール製品(段ボールシート又は段ボールケース。以下同じ。)の生産の事業を営むことを組合員の資格要件とする組合である。東段工は、全国段ボール工業組合連合会(以下「全段連」という。)の会員であり、全段連には、東段工の他、中日本段ボール工業組合、西日本段ボール工業組合及び南日本段ボール工業組合が存在した。(査478、480ないし483)
東段工には、その最高の意思決定機関である総会及び業務の執行を決定する機関である理事会が置かれているほか、理事会の下に三木会が置かれていた。東段工は、各都道府県に工場等の事業所を持つ組合員らにより構成されていた。
また、東段工には、別紙5に記載のとおり、東京・山梨支部、神奈川支部、埼玉支部、千葉・茨城支部、群馬・栃木支部、静岡支部、新潟・長野支部、東北支部及び北海道支部の合計9支部が置かれており、これらの支部は、「地区」欄記載の都道府県に工場等の事業所を有する組合員らにより構成されたていたものであり、本件当時(原告レンゴーにより段ボール製品の値上げの公表がされた平成23年8月26日から公取委の立入検査が行われた平成24年6月5日までの時期をおおむね指す。以下同じ。)は、「構成員」欄記載の各組合員が当該支部に所属していたところ、支部開催の会合は、主に当該地区に所在する工場等の事業所における営業責任者(工場長又は事業所長等)を構成員として開催され(ただし、代表取締役又は営業担当の取締役、部長もしくは課長等が出席していた事業者もいた。以下「営業責任者」という場合、これらの者を指す。)、上記構成員のうち「支部長(所属会社)」欄記載の者らがそれぞれ当該支部の支部長を務めていた。支部主催の会合その他支部所属の組合員の担当者を主な構成員とする会合(以下「支部会等」という。)の開催については、別紙6に記載のとおりである。
三木会は、その規約上、東段工組合員の地位向上のため、全段連及び東段工理事会決議事項の伝達、組合員に共通する課題に関する情報又は資料の提供等を目的として理事会の下に置かれた組織であり、会長や幹事長、副幹事長、各支部の支部長などの委員で構成される集まりであった。三木会は、平成23年当時、原告レンゴー並びに同セッツカートン及び同大和紙器以外に、トーモク、王子チヨダコンテナー(王子コンテナー)、森紙業、ダイナパック、日本トーカンパッケージ、大王製紙パッケージ及び福野段ボール工業の10社(本部役員会社)の役員等によって構成されていた。
三木会は、原則として毎月開催されることとされていた。
本部役員会社のうち、大手5社は、東段工の会合である三木会とは別に、主に各社の営業本部長級の者らを出席者とする5社会という非公式の会合を開催していた。(査134、137、470、478、479、483ないし486)
⑶ 特定段ボールシート及び特定段ボールケース
原告らは、購入価格等の取引条件の交渉担当部署が東日本地区に所在する需要者(ユーザー)に販売される特定段ボールシート及び特定段ボールケースを製造していた。(争いがない事実)
⑷ 被告による立入検査
被告は、平成24年6月5日、本件各違反行為に関し、埼玉県、群馬県、栃木県等に所在する段ボールメーカーが共同して段ボール製品の販売価格を決定しているという疑いで、独禁法47条1項4号の規定に基づき、立入検査を行った。また、被告は、平成24年9月19日、本件各違反行為及び関連事件の違反行為に関し、独禁法47条1項4号の規定に基づき、立入検査を行った。
⑸ 第1事件
被告は、特定段ボールシートの販売に係る第1事件につき、原告らを含む32社(別紙1の番号1ないし4、8、10、12、15、17、25ないし29、31ないし33、36、40、42ないし54)が、その他25社(別紙1の番号5ないし7、9、11、13、14、16、18ないし24、30、34、35、37ないし39、41、55ないし57)と共同して(合計57社)、特定段ボールシートの販売価格を引き上げる合意(本件シート合意)をすることにより、公共の利益に反して、特定段ボールシートの販売分野における競争を実質的に制限したものであって、この行為は、独禁法2条6項所定の不当な取引制限に該当し、同法3条に違反し、かつ、特に排除措置を命ずる必要があるとして、上記57社のうち、55社(同57社から別紙1の番号56及び57を除いた55社。原告らを含む。)に対し、平成26年6月19日付けで第1事件排除措置命令を発令し、上記55社のうち、48社(同55社から別紙1の番号35ないし41を除いた48社。原告らを含む。)に対し、同日付けで第1事件課徴金納付命令を発令した(原告らが納付を命じられた金額等は、別紙3に記載のとおりである。)。(本件審判事件記録上明らかな事実)
⑹ 第2事件
被告は、特定段ボールケースの販売に係る第2事件につき、原告らを含む37社(別紙2の番号1、2、4ないし6、8、11、13ないし15、18、20ないし22、25、29、30、32ないし34、38、41、43、44、48ないし60)が、その他26社(別紙2の番号3、7、9、10、12、16、17、19、23、24、26ないし28、31、35ないし37、39、40、42、45ないし47、61ないし63)と共同して(合計63社)、特定段ボールケースの販売価格を引き上げる合意(本件ケース合意)をすることにより、公共の利益に反して、特定段ボールケースの販売分野における競争を実質的に制限したものであって、この行為は、独禁法2条6項所定の不当な取引制限に該当し、同法3条に違反し、かつ、特に排除措置を命ずる必要があるとして、上記63社のうち、61社(同63社から別紙2の番号62及び63を除いた61社。原告らを含む。)に対し、平成26年6月19日付けで第2事件排除措置命令を発令し、上記61社のうち、60社(同61社から別紙2の番号47を除いた60社。原告らを含む。)に対し、同日付けで第2事件課徴金納付命令を発令した(原告らが納付を命じられた金額等は、別紙4に記載のとおりである。)。(本件審判事件記録上明らかな事実)
本件の各事業者は、上記の第1事件57社及び第2事件63社である(以下「本件各事業者」という。)。
⑺ 本件各排除措置命令及び本件各課徴金納付命令の送達、審判請求及び本件審決の送達
第1事件排除措置命令及び第1事件課徴金納付命令は、いずれも名宛人に送達されたところ、上記各名宛人のうち、原告らを含む32社は、被告に対し、第1事件排除措置命令の取消しを求めて、同32社のうち、原告らを含む30社は、被告に対し、第1事件課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求をしたが、被告は、令和3年2月8日、原告らに係る同審判請求をいずれも棄却する旨の審決をした(本件審決)。(本件審判記録上明らかな事実)
第2事件排除措置命令及び第2事件課徴金納付命令は、いずれも名宛人に送達されたところ、上記各名宛人のうち、原告らを含む37社は、被告に対し、第2事件排除措置命令及び第2事件課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求したが、被告は、令和3年2月8日、原告らに係る同審判請求をいずれも棄却する旨の審決をした(本件審決)。
被告は、令和3年2月9日、本件審決に係る審決書謄本を原告らに送達した。(審判記録上明らかな事実)
⑻ 原告らは、令和3年3月10日、東京高等裁判所に本件審決の取消訴訟を提起した。(本件訴訟記録上明らかな事実)
⑼ 公正取引委員会平成26年(判)第139号ないし第142号審判事件(以下「関連事件」という。)
被告は、原告レンゴー、トーモク及び日本トーカンパッケージの3社は、王子コンテナー及び森紙業と共同して特定ユーザー向け段ボールケース(関連事件の対象となった段ボールケース)の販売価格又は加工賃を引き上げる合意をすることにより、公共の利益に反して、特定ユーザー向け段ボールケースの取引分野における競争を実質的に制限したものであって、この行為は、独禁法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、同法3条に違反するものであり、かつ、特に排除措置を命ずる必要性があるとして、平成26年6月19日、原告レンゴー、トーモク及び王子コンテナーに対し、排除措置を命じるとともに、当該違反行為は、同法7条の2第1項1号に規定する商品又は役務の対価に係るものであるとして、同日、上記3社に対し、それぞれ課徴金の納付を命じた。上記命令書の送達を受けた原告レンゴー及びトーモクは、被告に対し、これらの命令の全部の取消しを求める審判請求をしたが、同審判請求はいずれも棄却された。(審判記録上明らかな事実)
3 争点
本件審決及び本件訴訟の争点は、次のとおりである。
⑴ 本件各合意の成否及びその内容(争点⑴)
⑵ 本件各合意による実質的な競争制限の有無等(争点⑵)
⑶ 本件各排除措置命令の必要性及び相当性の有無(争点⑶)
⑷ 本件各課徴金納付命令の適法性(争点⑷)
4 本件審決における認定事実及び判断
本件審決は、別紙7に記載のとおり事実を認定し、争点⑴ないし⑷につき、次のとおり判断した。
⑴ 本件各合意の成否及びその内容(争点⑴)について
段ボールメーカーの間で、段ボール原紙の値上がりに伴い、段ボール製品の値上げをする際には、原告レンゴー及び王子コンテナーが段ボール製品の値上げ幅を表明し、それ以外の段ボールメーカーは両社の示した値上げ幅を指標として値上げを実施していた。
また、従前から、段ボール製品の値上げが実施される際には、三木会及び支部の会合等において、出席各社の間で、こうした値上げの方針や進捗状況について情報交換が行われていた。
段ボールメーカーの間では、値上げに当たっては、各社が足並みを揃えて行うことが必要であると認識されており、値上げを実施する時期に値上げを実施しないで取引の拡大を狙うことは警戒されており、仮に、これを行った場合には、他の事業者等からの抗議活動が行われるなどして競争回避に向けた解決が図られる傾向があったほか、このような段ボール原紙の値上げに伴い段ボール製品の値上げを実施する時期には、東段工の三木会及び支部の会合において、出席した事業者の間で、各社の値上げの方針や値上げの進捗状況について情報交換がされてきたという従前からの慣行が存在した。
平成23年8月下旬頃に、原告レンゴーが段ボールシート1平方メートルにつき、8円以上、段ボールケースにつき13%以上という値上げの公表をし、他の段ボールメーカーにも協力を求め、同程度の値上げ幅で段ボール製品の値上げを実現するよう働き掛けた。
その後、王子コンテナーが、グループ内段ボール原紙の値上げとともに、段ボールシート及び段ボールケースにつき、それぞれ12%以上(段ボールシート1平方メートルにつき7円以上)の値上げをする旨公表した。
トーモクを初めとする大手の専業メーカーにおいても、社内のグループ内で段ボール製品の値上げを決定していた。
10月17日の三木会では、本部役員会社の多くが原告レンゴー及び王子コンテナーが公表した値上げ幅に沿った値上げ幅で値上げをすることを表明し、それ以外の本部役員会社や各支部の支部長等も値上げをすることを表明した。
出席各社の間で、段ボールシートの販売価格について、現行価格から1平方メートル当たり7円ないし8円以上、段ボールケースの販売価格について、現行価格から12%ないし13%以上引き上げることが確認され、相互に歩調を揃えながらこうした値上げを行うとの意思が形成され、その旨の意思の連絡が成立したものと認めるのが相当である。
平成23年10月19日の東京・山梨支部会、同月31日の静岡支部会、同年11月2日の埼玉支部会、同月9日の千葉・茨城支部会及び同月17日の神奈川支部会において、10月17日の三木会の経過が報告がされたほか、各支部等において、三木会での説明が明確にされなかった会合やそのような説明がされなかった会合があったとしても、前記の従前からの慣行に照らし、当該支部会等で値上げの表明をしていた原告レンゴーなどの大手の段ボールメーカーが東段工管内の他の支部においても段ボール製品の値上げを主導するなどして同様の情報交換がされていることを認識していたとみられる状況にあり、段ボール原紙の値上げに伴い、段ボール製品について足並みを揃えて値上げをすることは各事業者の共通認識であった。
以上によれば、本件支部会等に出席した事業者においては、当該会合で10月17日の三木会の報告がされていたか否かにかかわらず、当該支部を代表して三木会に出席していた支部長等又は三木会を構成する本部役員会社に所属する営業責任者等の促しにより、10月17日の三木会で確認されたところと同程度の値上げ幅で段ボール製品の値上げを実施することを出席各社の間で確認したことをもって、これらの者を介して、10月17日の三木会で成立した意思の連絡に参加したものと認めるのが相当である。
なお、群馬森紙業(第1事件及び第2事件事業者)は、平成23年11月14日の群馬・栃木支部会において、事業者間で相互に歩調を揃えながら値上げを行うことについて意思を連絡した。また、鎌田段ボール工業(第2事件事業者)は、遅くとも、10月17日の三木会を通じて上記意思の連絡に参加した。
以上のとおり、10月17日の三木会において、三木会に出席した第1事件11社については、本件シート合意が成立するとともに、三木会に出席した第2事件12社については、本件ケース合意が成立した。また、第1事件事業者45社(第1事件事業者57社から上記第1事件11社及び群馬森紙業を除いた会社)については、自社の営業責任者等が出席した支部会等において、本件シート合意と同内容の合意が成立した。そして、第2事件事業者49社(第2事件事業者63社のうち、第2事件三木会出席事業者12社並びに群馬森紙業及び鎌田段ボール工業を除いた会社)については、上記と同様に、自社の営業責任者等が出席した支部会等において、本件ケース合意と同内容の合意が成立した。このように、上記45社及び上記49社は、これらの成立した当該会合を通じて、10月17日の三木会で成立した本件各合意に参加したものと認められる。そして、群馬森紙業は、平成23年11月14日の群馬・栃木支部会を通じて、鎌田段ボール工業は、同月17日の三木会を通じて、本件ケース合意に参加したものと認められる。
本件各合意により、段ボール製品の販売価格について、本件各事業者の意思決定等がこれらに制約されることになるところ、実際に、本件各事業者において本件各合意を実行するため、その後に開催された三木会や支部会等において、出席各社との間で、値上げの進捗状況について情報交換が行われるとともに、個別のユーザーごとに入れ合いになっている事業者の間で、値上げの交渉状況について情報交換が行われるなどした結果、本件各事業者が、おおむね段ボール製品の値上げを実現したことに照らすと、本件各合意は、かかる段ボールの値上げについて本件各事業者の事業活動を拘束するものであったと認められる。
⑵ 争点⑵(本件各合意による実質的な競争制限の有無等)について
ア 独禁法2条6項にいう「一定の取引分野」とは、当該共同行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲をいうものであり、その成立する範囲は、当該共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して定まるものと解するのが相当である。
これを本件について見ると、東段工は、全段連を構成する4団体の1つにして、その管轄地域である東日本地区においてコルゲータを有する段ボールメーカーで構成される団体であり、三木会は、こうした東段工の理事会の下に置かれた組織として、主に東日本地区の全域又は広域において営業活動を行っている大手の段ボールメーカーからなる本部役員会社の営業統括者等及び管内の各支部を代表する支部長によって構成されていた。そして、本件各合意に基づく共同行為は、こうした本部役員会社を占める大手の段ボールメーカーが東段工内の地場の段ボールメーカーと協調しながら同管内全体で段ボール製品の値上げを実現するため、その主導により、東段工の組織である三木会及び支部会等を利用して行われた。これらのことからすると、本件各合意における情報交換の対象となった段ボール製品の値上げについて、その地理的な範囲に東段工の管轄地域である東日本地区が含まれることは明らかであるところ、これらの値上げ交渉が需要者の交渉担当部署の所在地を基準として、その範囲を画定すると、交渉担当部署が東日本地区に所在する需要者に対し、当該交渉担当部署との間で取り決めた取引条件に基づき販売される段ボール製品は、少なくとも本件各合意の対象に含まれるものであったと認められる。また、これらの事情に照らすと、本件各合意によって影響を受ける範囲も同様に解するのが相当である。
したがって、本件シート合意に係る一定の取引分野は、特定段ボールシートの販売分野(東日本全体の1つの市場)であり、本件ケース合意に係る一定の取引分野は、特定段ボールケースの販売分野(東日本全体の1つの市場)であると認めるのが相当である。
イ 独禁法2条6項が定める「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい、共同して商品の販売価格を引き上げる旨の合意がされた場合には、その当事者である事業者らがその意思で、ある程度自由に当該商品の販売価格を左右できる状態をもたらすことをいうものと解される。そして、販売価格の引上げに係る合意により一定の取引分野における競争が実質的に制限されたか否かは、当該合意の当事者である事業者らのシェアの高さのみで判断するのでなく、上記の観点から、これらのシェアの高さに応じて、当該合意の当事者ではない他の事業者がどの程度価格引上げをけん制することができるか等の諸事情も考慮してこれを判断するのが相当である。
これを本件について見れば、特定段ボールシートについて、三木会に出席した第1事件11社が本件シート合意を成立させるとともに、特定段ボールケースについて、三木会に出席した第2事件12社が本件ケース合意を成立させたことをもって、いずれもその意思で、ある程度自由に販売価格を左右することができる状態をもたらしたと認めることができる。そして、本件各事業者のうち、その余の事業者らが後日本件各合意に順次参加したことにより、そのシェアは、第1事件11社による販売数量は、東日本地区における段ボールシートの総出荷数量約4割を占めているが、そのうち、4社(原告レンゴー、王子コンテナー、森紙業、大王製紙パッケージ)とグループ関係にある15社を加えた26社による販売数量は上記総出荷数量の約6割を占め、後日、本件シート合意に参加した46社を加えた第1事件事業者57社による販売数量は上記総出荷数量の約8割を占めている。また、第2事件12社による製造数量は、東日本地区において段ボールケースの原材料となった段ボールシートの総製造数量の約4割を占めるが、そのうち、上記15社を加えた27社による製造数量は上記総製造数量の約5割を占めており、本件ケース合意に参加した51社を加えた63社による製造数量は上記総製造数量の6割以上を占めている。
本件各合意に他の事業者が順次参加したことにより、そのシェアは特定段ボールシートについては8割を超えるものとなり、特定段ボールケースについては6割を超えるものとなるのであり、かかる市場支配は、強固なものとなったということでき、これらよれば、本件各合意は、一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであることは明らかである。
⑶ 争点⑶(本件各排除措置命令の必要性及び相当性の有無)について
ア 排除措置命令の必要性の有無
独禁法7条2項は、違反行為が既になくなっている場合においても、「特に必要があると認めるとき」は、事業者に対し、当該違反行為が排除されることを確保するために必要な措置を命ずることができる旨規定しているところ、この「特に必要があると認めるとき」とは、排除措置を命じた時点では既に違反行為はなくなっているが、当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や、当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解される。そして、その判断については、我が国における独禁法の運用機関として競争施策について専門的な知見を有する被告の専門的な裁量が認められる。
本件各違反行為について見ると、平成24年6月5日に被告が立入検査を行った(本件審決の認定事実7)時点以降は、本件各事業者において、特定段ボールシート及び特定段ボールケースの販売価格に関する情報交換は行われないことから、本件各合意は消滅したものと認められるが、本件の経過に照らすと、本件各事業者は、上記立入検査が行われるまで三木会及び各支部会等においてこれらの情報交換を行っていたものであって、本件各違反行為を止めたのは、上記立入検査を受けたことを契機とするものであったと認められ、自発的な意思に基づくものではないとみられる。段ボールメーカーの間では、従前から段ボール製品について安値販売により取引拡大を図ることについては自粛すべきものとされていたほか、値上げの実施には、各事業者において足並みを揃えて行う必要があるとされていたところ、東段工の組織である三木会及び支部の会合がこうした価格の維持及び引上げのための情報交換の場として利用されていた経緯があり、本件各違反行為も、このような協調関係の下で大手の段ボールメーカーの主導により組織的に行われていたということができる。
したがって、本件各違反行為が終了してから、本件各排除措置命令がされるまで2年余りが経過していることを踏まえても、本件各事業者において、再び東段工の会合を利用するなどして、同様の違反行為を繰り返すおそれがあることは否定できず、また、本件各違反行為が終了したことのみをもって、当該取引分野の競争秩序の回復が十分にされたものということもできないから、被告が、本件各違反行為につき特に必要があると認め、排除措置を命じたことについて、裁量権の逸脱又は濫用があるとはいえない。
イ 排除措置命令の相当性
本件各排除措置命令は、名宛人の各事業者に対し、特定段ボールシート及び特定段ボールケースについて、今後他の事業者と共同して販売価格を決定したり、販売価格の改定に関する情報交換をしたりすることを禁止するとともに、これらの行為をしないことなどを取締役会において決議した上で、その旨取引先である商社等に通知し、かつ自社の従業員に周知徹底させるほか、上記各措置を被告に報告することを内容とするものであって、いずれも本件各違反行為が排除されることを確保するために必要な事項であると認められ、その内容において、裁量権の逸脱又は濫用があるということはできない。
⑷ 争点⑷(本件各課徴金納付命令の適法性)について
ア 課徴金の算定期間(実行期間)
独禁法7条の2第1項は、「当該行為の実行としての事業活動を行った日」を課徴金の算定対象となる商品の売上額に係る算定の始期としている。この実行期間の始期については、違反行為者が合意の対象となる需要者に対して値上げ予定日を決めて値上げの申入れを行い、その日から値上げに向けて交渉が行われた場合には、当該予定日以降の取引には、当該合意の拘束力が及んでいると解され、現実にその日に値上げが実現したか否かに関わらず、その日において、当該行為の実行としての事業活動が行われたものと認められる。
これを本件各違反行為についてみると、本件各合意は、対象となる特定段ボールシート及び特定段ボールケースの値上げの実施時期について定めていないことから、原則としてこれらのユーザーに対して申し入れた値上げの実施予定日のうち、最も早い日が実行期間の始期となる。もっとも、平成23年10月17日の本件各合意成立時点又は本件各合意への参加時点でユーザーに対して既にこれらの値上げを申し入れていた事業者については、上記各時点より前の事業活動は、当該行為の実行としての事業活動とは認められないから、値上げ交渉の結果、値上げした価格で、本件各合意成立又は本件各合意への参加以降に当該商品を引き渡した最初の日が、上記のユーザーに対して申し入れた値上げの実施予定日のうち最も早い日より前である限り、同時点が実行期間の始期となる。これに当たる日は、第1事件の違反行為につき、別紙3の「実行期間の始期」欄の各記載の日であり、第2事件の違反行為につき、別紙4の「実行期間の始期」欄の各記載の日である。
そして、本件各事業者は、平成24年6月5日に、被告の立入検査が行われたことを契機に、特定段ボールシート及び特定段ボールケースの情報交換を止めたから、同日をもって、本件各違反行為は終了し、当該行為の実行としての事業活動はなくなったものと認められる。これに当たる日は、別紙3又は別紙4の「実行期間の終期」欄に各記載の日(平成24年6月4日)である。
イ 課徴金の算定対象となる商品の該当性及び売上額
独禁法7条の2第1項にいう「当該商品」とは、違反行為である相互拘束の対象である商品、すなわち、違反行為の対象商品の範疇に属し、違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解されるところ、課徴金制度の趣旨及び課徴金の算定方法に照らせば、違反行為の対象商品の範疇に属する商品については、一定の商品につき、違反行為を行った事業者が明示的ないし黙示的に当該行為の対象から除外するなど、当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り、違反行為による相互拘束が及んでいるものとして、課徴金の算定の対象となる商品に含まれ、違反行為者が実行期間中に違反行為の対象商品の範疇に属する商品を引き渡して得た対価の額が、課徴金の計算の基礎となる売上額となると解すべきである。
これを本件について見ると、独禁法7条の2第1項にいう「当該商品」には、特段の事情がない限り、第1事件については、特定段ボールシートが、第2事件については、特定段ボールケースがこれに当たるところ、原告らから提出された報告書を基に、その報告に係る売上額からその重複部分及び上記特段の事情があると認められる部分を控除した、特定段ボールシート及び特定段ボールケースの売上高を独禁法施行令5条1項の規定に従って算定すると、別紙3又は別紙4の「売上額(円)」欄に記載のとおりである。
ウ 課徴金の算定率及び課徴金額
原告らは、いずれも段ボール製品の製造業を営んでいる者であるから、独禁法7条の2第1項柱書のかっこ書に規定する「小売業」及び「卸売業」のいずれにも当たらないと認められるところ、原告らから提出された報告書に基に判断される算定率及び課徴金額は、別紙3又は別紙4に記載のとおりである。
5 本件訴訟における被告の主張の要旨
本件審決は、別紙7に記載のとおり事実を認定し、争点⑴ないし⑷につき、前記4のとおり判断したところ、本件審決における上記認定、判断は、実質的な証拠に欠けるところはなく、その認定、判断には、手続を含め法令違反はない。
6 本件訴訟における原告らの主張の要旨
本件の各争点に関する前記4の本件審決の判断は、以下のとおり、審決の基礎となった事実を立証する実質的な証拠がない場合(独禁法82条1項1号)、又は法令に違反する場合(同項2号)に当たり、取り消されるべきである。
⑴ 争点⑴(本件各合意の成否及びその内容)について
ア 10月17日の三木会での本件各合意の存否
10月17日に行われた三木会と称する特定の会合の場において、被告が主張するような東日本地区全部を対象とする値上げの合意がされたという事実が正当に立証されているか否かが問題となる。
同日の三木会の場では、原告レンゴーからは既に公表されている自社値上げの内容が説明され、原告レンゴーの子会社である原告大和紙器、原告セッツカートンからも同様であるとの発言があり、王子コンテナーからも既に公表されている自社値上げの内容が説明されるなどしている。
しかし、同時に他の会社からは、「まだ自社の値上げ方針は決定していない」、「原紙が上がれば取り組む予定である」、「検討中」という発言がなされており、これらの発言は、その発言そのものは、値上げに合意するという意味には理解できない上、東日本大震災が起きた平成23年において、段ボール原紙の値上げの発表があっても、そもそも本当に値上げが実現するのか、もし上がるとしても、いつ上がるのか、値上げ幅がどの程度になるのかについて業界全体に疑念があり、平成23年10月17日の段階では、原紙値上げの行方が不透明な状況にあったことが、10月17日の三木会における上記発言の理由である。そして、平成23年当時の原紙の値上がりの不透明な状況については、三木会に出席していた者の共通認識となっており、少なくとも同日に合意が成立する状況ではなかった。
また、段ボール原紙については、原紙メーカー間の競争が存在し、地方によっては大手以外の原紙メーカーも存在し、地方ごとに値上げの幅も時期も一致しておらず、個別の原紙の取引における原紙の値上げ幅もまちまちとなるのが一般的である。
さらに、原告レンゴーの場合には、自社の製造する段ボール原紙は、そのほとんどを自社もしくはグループ会社に販売しており、現実にいくらで供給しているのかについては、他社には分からず、他の段ボールメーカーは、原告レンゴーの公式発表をそのまま信じるような状況にもなかった。したがって、平成23年10月17日の段階で大手の段ボールメーカーが値上げを発表していたからといって、原紙の値上げが確実なものと認識されていたとするのは、明らかな誤りであり、平成23年の原紙の値上げを取り巻く環境がそれ以前の原紙の値上げとは異なることをことさら無視するものであり、明らかに不合理である。
イ 支部会等への三木会の内容の伝達の有無
10月17日の三木会の内容が伝達されていない支部会等が相当数にのぼることは被告自身も認めざるを得ず、10月17日の三木会とその後の支部会等での活動との間に因果関係は存在しないことが明らかになっており、以下の(ア)ないし(ウ)の事実は、平成23年10月17日に合意がなされていないことを端的に示す事実である。10月17日の三木会における本件各合意の成立及び内容について認識が共有されていないにもかかわらず、単に支部会等で進行していた値上げ等の動きをもって、10月17日の三木会の内容等を支部会等の出席各社が認識、認容していたことを推認できるとすることはできない。
(ア) 10月17日の三木会で本件各合意が成立したとするならば、当該三木会において、各支部会等に合意内容を伝達する旨が合意されるはずであるのに、そのような合意はされなかった。
(イ) 10月17日の三木会で本件各合意が成立したとするならば、その後に行われた各支部会等に、三木会の内容が伝達されるはずであり、かつ、上記(ア)のとおり、それは不可欠なものである。
(ウ) 10月17日の三木会で本件各合意が成立したとするならば、その後に開催された各支部会等において、三木会における合意事項として値上げの方針が伝えられるはずなのに、伝えられなかった。
ウ 原告らのうち支部会等を通じて本件各合意に参加したとされる事業者
(原告マタイ紙工)
原告マタイ紙工が、出席した平成23年10月27日の群馬会において、本件各合意の存在及び内容について、10月17日の三木会の内容について伝達を受けたことはない。
被告は、平成23年10月27日の群馬会において、本件各合意に参加した理由として、原告レンゴーや王子コンテナーに所属する営業責任者が、10月17日の三木会で表明していた内容と同旨の段ボール製品の値上げの意向を示していた旨主張するが、これは、それぞれの会社が自社の方針を説明したにとどまり、三木会で決定がなされ、その内容が伝達されたと評価できないのは明らかである。
(原告アサヒ紙工)
原告アサヒ紙工が、出席した平成23年11月2日の埼玉支部総会において、本件各合意の存在及び内容について、10月17日の三木会の内容の伝達を受けたことはない。
被告は、同会において、トーモクの≪C3≫が、10月17日の三木会の報告として説明を行っていた旨主張するが、≪C3≫自身、トーモクの岩槻工場としての方針について述べたに過ぎず、三木会の内容が伝達されたとは言えない。
(原告イハラ紙器)
原告イハラ紙器が、出席した平成23年10月31日の静岡支部会において、本件各合意の存在及び内容について、10月17日の三木会の内容の伝達を受けたことはない。
被告は、日本紙工業の≪J≫が、10月17日の三木会の報告としての説明を行っていたことが関係各証拠により認定することができる旨主張するが、同≪J≫の発言は、「強い言い回しではなく」、「「全国的に値上げの動きがあるようですが、皆さんの会社の方針とか動きはどうですか」とか、「どのように進めていますか、状況を説明してください」という言い回しで言って」いたというにとどまるのであって、被告のいう10月17日の三木会での本件各合意の内容を報告したというものではない。平成23年10月31日の静岡支部会で出席各社の間で何かしらの情報交換がされていたのだとしても、それは静岡支部会における情報交換にとどまり、その存在自体は本件各合意が存在することを示すものではないし、これをもって、原告イハラ紙器を含む同日の静岡支部会の出席各社が、10月17日の三木会の内容等を認識、認容していたことを推認することはできない。
(原告甲府大一実業)
原告甲府大一実業は、東段工の加盟者ではなく、山梨県に本社工場が所在しているが東段工の東京・山梨支部の出席者でもなかった。また、原告甲府大一実業の≪F≫(以下「≪F≫」という。)は、同社の社長に就任する前に原告レンゴーの長野工場の工場長を務めていたところ、原告レンゴーの長野工場長であった頃に長野5社会に出席していたことによる個人的な繋がりで懇親の目的で同会合への出席をしていたにすぎない。また、≪F≫は、平成23年10月24日の長野5社会において、原告レンゴーのグループ企業として同社から調達する段ボール原紙が値上がりとなることに伴い自社の方針に従って値上げ活動をせざるを得ないという当然のことについて発言したに過ぎず、原告甲府大一実業を含む同日の長野5社会の出席各社が、10月17日の三木会の内容等を認識、認容していたことを推認することはできない。
(まとめ)
このように、支部会等で10月17日の三木会における本件各合意の成立及び内容についての認識が共有されていないにもかかわらず、単に当時支部会等で進行していた値上げ活動の動きをもって、10月17日の三木会の内容等を支部会等の出席各社が認識、認容していたことを推認できるとする本件審決の認定は、証拠に基づかないものといわざるを得ない。
エ 従前からの慣行からの推認
従前から三木会や支部会等において値上げの方針や進捗状況についての情報交換が行われているという従前からの慣行については、具体的にいつの時期の情報交換を指しているのか、いつの値上げに関するものを述べているのか全く不明であり、具体的な時期や場所、情報交換の内容についても明らかではない。原告らは、従前からの慣行に関する具体的な事実の摘示、証拠の提示もなく反論のしようがなく、そのような従前からの慣行に基づき事実を認定することは著しく正義に反する。特に、段ボール業界においては、昭和56年から平成17年までの間、原告レンゴーなど大手企業で構成される日本段ボール工業会と、中小企業(資本金3億円あるいは従業員300名以下の会社)で構成される全国段ボール工業組合連合会及びその傘下の東日本段ボール工業組合など四団体に、業界団体が分かれており、その後、両者は再統合されたという経緯がある。このように業界団体の構造自体が大きく変容した経緯のある段ボール業界においては、過去に何らかの情報交換の従前からの慣行があったとしても、その慣行自体が消滅又は大幅に変容している可能性も十分に考えられるのであるから、具体的にどの時期以降において認められた慣行なのか摘示しない限り、従前からの慣行は、独禁法違反行為を認めるに足りる根拠とはなり得ない。
⑵ 争点⑵(本件各合意による実質的な競争制限の有無等)について
ア 一定の取引分野について
本件において、一定の取引分野については、①東日本地区全体を一定の取引分野と認定することの可否、②特定ユーザー向け段ボールケースと地場ユーザー向け段ボールケースを同一の取引分野と認定することの可否が争点となっている。
(ア) 東日本地区全体を一定の取引分野とは認定できないこと
本件では、段ボール製品については経済合理性を有する輸送距離は限られていることから、県ごと又は一定の地域ごとに商圏が形成されており、それぞれの商圏ごとに段ボール製品の供給者の構成、需要者となる段ボール製品のユーザーも異なっており、その競争状況に大きな差異が存在する。そのことは、各商圏での価格の違いにも端的に表れている。本件における取引の実態を踏まえれば、県ごと又は一定の地域ごとに個別の取引分野が成立していることは明らかである。
10月17日の三木会の各出席者にとって、東段工管内といえども市場環境は一律ではなく、地域ごとの市場環境が大きく違い、第1事件11社や第2事件12社の影響力の大小も地域ごとに異なることは業界の常識であり、共通に認識していたところである。このように、段ボール製品の競争状況に係る客観的事実及び本件各合意に参加したとされる各社の主観の両面からしても、東日本地区全体について段ボール製品の値上げについて合意をすることが困難であったと理解していたことは証拠上優に認められるのである。上記被告の誤った一定の取引分野の捉え方を前提にしても、本件では東日本地区を1つの取引分野と認定することはできない。
(イ) 特定ユーザー向け段ボールケースと地場ユーザー向け段ボールケースとを同一の市場とは認定できないこと
特定ユーザー向け段ボールケースと地場ユーザー向け段ボールケースとの、納入数量の違い、品質の違い、取引形態の違い、価格帯の違い、さらには、購入者である顧客の規模、購買力の違い、供給可能事業者が限定されること等の客観的状況を踏まえれば、特定ユーザー向け段ボールケースと地場ユーザー向け段ボールケースとは客観的市場を異にしていることは明らかである。一定の取引分野が重層的に成立し得ることがあり得るという一般論だけで、両者の市場が同一であるとすることはできないのであり、以上述べたような現実の客観的な取引状況、競争状況の大きな差異の存在にもかかわらず、なお両方の市場を同一のものとする特別な状況が存在し、それが立証されなければならないはずであるが、そのような立証はされていない。
10月17日の三木会出席各社を含む段ボール事業者においては、特定ユーザー向け段ボールケースと地場ユーザー向け段ボールケースとの違いや、両者が全く市場を異にすることも当然のこととして理解していた。特定ユーザーに納入している大手段ボール事業者においては、地場ユーザー向け段ボールケースの担当者と特定ユーザー向け段ボールケースの担当者は全く別であり(所在は東日本であるが)、中小段ボール事業者は特定ユーザーに納入できる可能性はなく、特定ユーザー向け段ボールの需要や価格がどうなっているかは無関係であり、関心の対象外である。
(ウ) 便宜的に1つの市場とすることが許されないこと
本件においては、東日本地区全体を1つの市場とすること、特定ユーザー向け段ボールケースと地場ユーザー向け段ボールケースとを1つの市場とすることは、客観的にはもちろん、行為者の主観からみても誤りである。客観的に異なる市場を便宜的に1つの市場として取り扱うことについて、複数の市場に分けたとしても、供給者の顔ぶれやシェアの状況に大差がなく、同様の弊害要件論を繰り返すことになるだけなのであれば、議論の簡素化の観点から、便宜的に市場を併合して1個にまとめることはあってもよいが、複数の市場に分けた場合に供給者の顔ぶれやシェアの状況が大きく異なることになる場合、法的議論や法的帰結に大きな違いが生ずるのであるから、1個の市場にまとめるべきではないのである(審A共1・10、11頁)。
これを本件でみれば、複数の市場に分けた場合に供給者の顔ぶれやシェアの状況が大きく異なることになる事例であるから、1個の市場にまとめるべきではないことが明確な事案というべきである。
イ 競争の実質的制限について
被告は、そもそも誤った取引分野の捉え方や子会社を含むグループ会社各社を含めるという恣意的かつ不合理な考え方を前提にしたシェアしか示しておらず、10月17日の三木会に参加した第1事件11社、第2事件12社の参加者だけで競争の実質的制限が可能であったことをおよそ示せていない。
被告は、段ボールケースについては、12社のシェアは4割程度であり、段ボールシート11社のシェアは4割程度であるが、このシェアにおいて市場における競争を実質的に制限するには十分であるとする。しかし、これは、段ボールケース及び段ボールシートについて、地域については東日本全体を1つの市場と認定し、特定ユーザー向け段ボールケースと地場ユーザー向け段ボールケースを1つの市場と認定するという、一定の取引分野につき、二重の誤った認定を前提にして初めて成り立つシェアの算定である。地域については、東日本全体を1つの市場と認定することは誤りであり、商圏毎に一定の取引分野を認定すべきであるから、10月17日の三木会の参加者第1事件11社、第2事件12社のシェアについても当然それぞれの商圏毎に計算して認定すべきである。
また、シェア算定に当たり、グループ会社のシェアを加えるべき理由は存在しない。レンゴーグループでは、子会社などはそれぞれ目標利益を達成することが要請される一方、どのような施策をとるかは各社に委ねられており、各社の置かれた環境に照らして独自の販売戦略を展開することは当然のこととされていたことは証拠上明らかである。
さらに、被告は、段ボール製品の製造業界における従前からの慣行等を前提に、他の事業者が競争的に振るまい、価格引上げを牽制する行動をとることは見込みにくい状況にあったことを指摘する。しかし、正確な市場の把握を前提としたシェアも算定できていないにもかかわらず、単にこのような抽象的な理由で、東日本全域における段ボールシート又は段ボールケースの販売価格をある程度自由に左右することができる状態にあったとすることは認められないし、およそ競争の実質的制限が立証できているとはいえない。
⑶ 争点⑶(本件各排除措置命令の必要性及び相当性の有無)について
本件各排除措置命令は、特定段ボールケース事件(第2事件)につき、主文3項において、「61社は、今後、それぞれ、相互の間において、又は他の事業者と共同して、特定段ボールケースの販売価格を決定してはならない。」と、主文4項において、「61社は、今後、それぞれ、相互に、又は他の事業者と、特定段ボールケースの販売価格の改定に関して情報交換を行ってはならない。」と、特定段ボールシート事件(第1事件)につき、主文3項において、「55社は、今後、それぞれ、相互の間において、又は他の事業者と共同して、特定段ボールシートの販売価格を決定してはならない。」と、主文4項において、「55社は、今後、それぞれ、相互に、又は他の事業者と、特定段ボールシートの販売価格の改定に関して情報交換を行ってはならない。」とそれぞれ命じた。
排除措置命令は、名宛人に一定の行為を命じ、しかも、違反した場合には、刑事罰の可能性もある不利益処分であるから、排除措置命令を受ける名宛人は、自己の裁量で排除措置命令の文言を解釈できる立場にはないのであって、たとえ被告の立場からそのように解釈できるとしても、その旨を名宛人に明らかにせず、その文言からは、原告らがグループ会社間において共同して販売価格を決定することや、販売価格の改定に関して情報交換を行うことを禁止しているものと読むほかない排除措置を命ずることは、被告の裁量権を逸脱しており、明らかに違法である。
⑷ 争点⑷(本件各課徴金納付命令の適法性)について
ア 原告レンゴーについて
(ア) 本件各合意の成立前に値上げを受け入れた取引先と実行期間の始期
本件各合意の成立前に、既に取引先との間で値上げを取り決めていた取引について、「値上げ交渉の結果、値上げした価格で、本件各合意成立又は本件各合意への参加以降に当該商品を引き渡した最初の日」としてそれぞれを実行期間の始期として認定して課徴金の算定を行うことができるか否かが問題となる。
平成23年10月17日以前に新価格での取引の合意をし、同日以前から新価格での納入を行っていた顧客との関係で、同日以降にその価格で引き続き納入を行うことは、同日以前に顧客との間で独自に行われた交渉の結果であることは明らかであって、被告が成立したとする平成23年10月17日の本件各合意との間に因果関係を認めることは不可能である。
被告は、本件各合意の成立後にその値上げを維持していなければ、共同して販売価格を引き上げることへの支障となることは明らかであるとか、先行して値上げを実施していた取引先については、他の事業者が値上げに追随しない限り「取引が奪われる可能性」が高いなどとしてこのような課徴金の始期の認定を正当化する。しかし、被告が主張する「取引が奪われる可能性」の理論は、もともとカルテル合意後に一部の値上げを実行した場合に値上げをしなかった顧客に対する売上げも課徴金の対象とすることを正当化する議論として用いられてきたものであり、この場合には、合意後に合意に基づく行為が一部でも行われている。しかるに、本件においては、合意と因果関係を持つような新たな行為は全く存在しない。もし、被告が述べる「取引が奪われる可能性」の理論を本件のように、全く合意と因果関係のある実行行為がない場合にまで適用できるということになると、「取引が奪われる可能性」は平均より高い価格であれば当然存在する問題であり、さらにいえば、どのような価格での取引かに関わらず合意がなければ「取引が奪われる可能性」は肯定できるのであり、結局、値上げの合意後の販売は全て課徴金の対象となるという結論も正当化されることになってしまうが、このような解釈は、課徴金の算定を実行期間に限定している法の趣旨に反するものである。
(イ) グループ会社向け商品の値上げを除外すべきこと
原告レンゴーのグループ会社間における取引は、通常の企業間取引に存在する市場の理論とは異なり、基本的に資本の理論によって支配されているものであるところ、市場における競争によって取引内容が決定する通常の取引とは全く異なる。そこには、潜在的な競争を観念する余地はない。
子会社、グループ会社は、競争の埒外にあると認識されており、当然親会社又はグループ会社以外の段ボール事業者が売り込みにいくようなことはなく、また、このような資本関係により取引内容が決まるような取引の価格が、第三者の取引価格に影響を及ぼすこともあり得ないことも当然に認識されている。
したがって、原告らのようなグループ会社との取引については、黙示的にカルテルによる拘束の範囲外として認識されていたと考えるのが合理的であって、このような特段の事情によれば、上記グループ会社との取引による商品は、独禁法7条の2第1項の「当該商品」には当たらない。
(ウ) 潜在的な競争関係すら存在しない特殊な関係にある取引先に対する商品の売上げを除外すべきこと
≪事業者名略≫、≪事業者名略≫及び≪事業者名略≫の三社は、原告レンゴーが組織する「レン友会」に属し、原告レンゴーから特に種々の経営上、営業上の支援を受けており、その提携関係の一環として、使用する段ボールシートの全てを原告レンゴーから購入しているという関係にある。原告レンゴーは、これらの取引先に対して、経営上及び営業上の支援を行う立場から、当該取引先の経営への影響という通常の市場原理とは異なる基準の下で取引条件の交渉、設定を行っていたのであり、値上げ交渉を行う場合があったとしても他の顧客との交渉とは全く性質を異にする。上記三社は、上述のような理由からその使用する段ボールシートの全てを原告レンゴーから購入しなければならないという関係が存在するのであって、いわゆる潜在的な競争の対象でもない。
また、上記三社が、経営上、営業上の支援を受けており原告レンゴーと特殊な関係にあり、その提携関係の一環として使用する段ボールシートの全てを原告レンゴーから購入する関係にあること、及びそこには通常の価格競争により取引先を変更させる余地がないことは、段ボール業界において周知の事実であった。
したがって、上記三社に対する原告レンゴーの段ボールシートの販売は、他の段ボール事業者が相互拘束の対象とは考えていなかったことは容易に推測できるものであり、「相互拘束の対象から除外されていることを示す特段の事情があった」と認められ、上記三社に対する売上げは課徴金の算定の基礎となる売上げから除外すべきである。
(エ) 「協力値引」を売上額から除外すべきこと
表面上の取引価格を据え置いたまま「協力値引」として実質的な取引価格を引き下げて交渉を行い現実の取引価格を決定することが、段ボール業界においては長年かつ一般的な商慣習として定着しているところ、実際の経理処理として当該値引き分を控除した額を売上として顧客に請求していることは会計上も何ら問題なく処理されている。そして、独禁法施行令5条1項第1号が「実行期間において商品の量目不足、品質不良又は破損、役務の不足又は不良その他の事由により対価の額の全部又は一部を控除した場合」に当該額を控除することを認めているところ、長年の商慣習に基づき発生し、企業会計上何ら問題視されていない「協力値引」を、「その他の事由」に該当しないと考える理由はなく、「協力値引」は課徴金の算定の基礎となる売上げから除外すべきである。
(オ) 東日本地区外に有力な競争事業者が存在する取引に係る売上げを除外すべきこと
特定段ボールケースの販売においては、本件ケース合意に参加したとされる以外の段ボール業者が競争相手として存在する場合があり、そのために、本件各合意が存在しても実質的な競争が制限されるような状況が生じない場合がある。
有力な競合相手として管外地域の地場の段ボール事業者が存在する場合には、その事業者も考慮に入れてシェアの検討を行った上で、競争の実質的制限が生ずるものであるか否かを検討し、これが否定される場合には、その部分に係る売上は課徴金の算定の基礎となる売上げから除外すべきである。しかるに、被告は、東日本地区以外に所在する段ボールメーカーは、その多くが地場の段ボールメーカーであり、大手5社に匹敵するような大手の段ボールメーカーも他に見受けられず、有力な競争事業者があるとは認められないとして、一律に原告レンゴーの主張を排斥しているが、そのような事実認定の合理的な基礎となる証拠を欠如している、又は、重大な理由不備若しくは理由齟齬による違法な認定というべきである。
(カ) 割戻金を売上額から控除すべきこと
独禁法施行令5条1項3号は、「商品の引渡し又は役務の提供を行う者から引渡し又は提供の実績に応じて割戻金の支払を受けるべき旨が書面によって明らかな契約」があった場合について、「実行期間におけるその実績について当該契約で定めるところにより算定した割戻金の額」を控除するものと規定しているのみである。すなわち、契約と算定方法が書面によって明らかであれば、実行期間が当該書面に明確に記載されていることまでは要請していない。我が国の契約実務上、継続的な契約について問題がなければ、当該契約が自動的に又は黙示的に同一内容で更新されていくことは何ら珍しくなく、更新時に書面が刷新されなかった場合に本条項の適用を否定するのは、明らかに不合理であって、その適用を肯定すべきである。
また、独禁法施行令5条1項3号は、割戻金の支払先が商品の引渡し又は役務の提供の相手方であることを要件とはしていない。このことは、平成17年政令第318号による改正前の独占禁止法施行令5条1項3号が、「商品の引渡し又は役務の提供の相手方に対し引渡し又は提供の実績に応じて割戻金を支払うべき旨が書面によって明らかな契約(中略)があった場合」に「実行期間におけるその実績について当該契約で定めるところにより算定した割戻金の額(以下略)」を控除すると定めていたことと比較すれば、割戻金の控除は、割戻金が商品役務の供給の相手方に対して支払われる場合に限って認められるものでないことは明らかであり、指定料は、「割戻金」として課徴金の対象となる売上げから控除されなければならない。
したがって、原告レンゴーが≪事業者a≫に支払う「指定料」も、割戻金に当たると解すべきである。
イ 原告セッツカートンについて
(ア) 本件各合意の成立以前に値上げを受け入れた取引先と実行期間の始期
原告レンゴーに関して主張したとおりである。
(イ) グループ会社向け商品の売上げを課徴金算定の基礎となる売上げから除外すべきこと
原告レンゴーに関して主張したとおりである。
(ウ) ≪事業者名略≫に対する売上げを課徴金算定の基礎となる売上げから除外すべきこと
≪事業者名略≫は、原告セッツカートンの100%子会社であり、当時原告セッツカートンの代表取締役社長であった≪氏名略≫が、代表取締役社長を兼任していた(平成28年11月、同社は、原告セッツカートンに吸収合併された。)。このように、原告セッツカートンと≪事業者名略≫とが上記のような資本においても、人的な関係においても特殊な関係にあり、その関係の一環として使用する段ボールシートの全てを原告セッツカートンから購入せざるを得ず、取引は資本関係によって支配されており、そこには、潜在的な競争の余地もなかったことは明らかである。
そして、原告セッツカートンと≪事業者名略≫とが上記のような特殊な関係にあることは、業界(少なくとも≪事業者名略≫に納入可能と考えられる範囲の段ボール事業者)において周知の事実である。
したがって、「相互拘束の対象から除外されていることを示す特段の事情があった」と認められるのであるから、原告セッツカートンと≪事業者名略≫に対する段ボールシートの売上げは、課徴金の基礎となる売上げから除外されるべきである。
(エ) 値上げ交渉を行っていない取引先に対して販売した商品の売上げを除外すべきであること
平成23年10月17日に本件各合意が成立したとしても、もともと値上げ交渉の対象とはならないユーザーは相互拘束から除外されていた特段の事情の有無を検討するまでもなく、そもそも相互拘束の範囲外であったことが明らかである。
(オ) 商社等に価格決定権がある取引に係る売上げを除外すべきであること
価格決定権を持つ商社又は仲介事業者が本件各合意に参加していない以上、商社等に委託した販売先に対する売上げに課徴金が課せられる理由はない。
(カ) 自社のみが納入業者となっている取引先に対する売上げを除外すべきであること
長年にわたる取引の実績があり、過去において他社が参入する機会があったにもかかわらず、現実に1社の取引となっている取引先は、他社に乗り換える意図がなく、本件各合意が成立していたとしても、その合意対象に含める意図はなかったというべきであり、潜在的にも競争が存在するとはいえない。
(キ) 平成23年10月17日以前に入札(民間の取引における入札。以下同じ。)が終了している入札案件に係る売上を除外すべきこと
特定段ボールケースについて、平成23年10月17日以前に入札が行われ、落札者、納入金額が決定している取引については、その落札者、納入金額と本件各合意の間には明らかに因果関係がない。しかも、これら入札取引においては、いったん納入業者が決まれば納入価格を途中で変更することができないし、同時に、次に入札が行われて新たに納入業者として他の事業者が決定するまでは、他の事業者が参入する可能性はなく、値上げに追随しない限り「取引が奪われる可能性」が高いといった事情が認められないことも明らかである。
したがって、このような取引が、値上げの合意の埒外であることは明らかであり、課徴金算定の基礎となる売上げには含めるべきではない。
ウ 原告大和紙器について
(ア) 本件各合意の成立以前に値上げを受け入れた取引先と実行期間の始期
原告レンゴーに関して主張したとおりである。
(イ) グループ会社向け商品の売上げを課徴金算定の基礎となる売上げから除外すべきこと
原告レンゴーに関して主張したとおりである。
(ウ) ≪事業者名略≫に対する売上げは課徴金の対象となる売上げから除外すべきこと
≪事業者名略≫は、原告大和紙器の100%子会社であり、当時原告大和紙器の代表取締役社長であった≪氏名略≫が、代表取締役社長を兼任しており、原告大和紙器は、≪事業者名略≫に対し、継続的に経営支援を行っていた。このように、原告大和紙器と≪事業者名略≫とが上記のような資本においても、人的な関係においても特殊な関係にあり、その関係の一環として使用する段ボールシートの全てを原告大和紙器から購入しており、通常の価格競争により取引先を変更させる余地がなく、競争の埒外である。
したがって、「相互拘束の対象から除外されていることを示す特段の事情があった」と認められるのであるから、原告大和紙器と≪事業者名略≫に対する段ボールシートの売上げは、課徴金の基礎となる売上げから除外されるべきである。
(エ) 値上げ交渉を行っていない取引先に対して販売した商品の売上げを除外すべきであること
原告セッツカートンに関して主張したとおりである。
(オ) 平成23年10月17日以前に年間契約が成立していた取引については、課徴金算定の基礎となる売上げから除外すべきこと
年間契約とは、いったん決定した契約内容で1年間取引をするという内容の契約であり、価格変更の余地を否定する条項のある、なしに関わらず、商慣行上当然のこととして理解されているものである。平成23年10月17日以前に成立した年間契約のように、契約上価格変更ができない取引に係る売上額は、売上げの対象外というべきである。被告は、価格変更の余地を否定する条項が契約書上設けられていないことを理由に、価格変更が行われ得るとするが、年間契約であることは当然に契約成立から1年間は価格その他の取引条件が変更されないことを意味するのであり、これを否定するのであれば、被告が具体的に立証すべきである。このような年間契約の特性、平成23年10月17日以前に契約が締結されている年間契約については、次の契約更新時期までは価格の変更ができないことは、業界においては周知の事実であり、このような取引が値上げ合意の埒外であることは当然の認識と認められるのであり、課徴金算定の基礎となる売上げから除外されるべきものである。
エ 原告マタイ紙工について
(ア) ≪事業者p≫に対する売上げを課徴金算定の基礎となる売上げから除外すべきこと
≪事業者p≫は、原告マタイ紙工の親会社である≪事業者q≫が100%株式を保有する兄弟会社であり、≪事業者p≫の社長と原告マタイ紙工の会長は同一人であり、主要経営者が共通していることに加え、≪事業者p≫の工場は原告マタイ紙工の工場(群馬工場)と同一敷地内に存在する。このように、原告マタイ紙工と≪事業者p≫とが上記のような資本においても、人的な関係においても特殊な関係にあり、その関係の一環として使用する段ボール製品を原告マタイ紙工から購入しており、通常の価格競争により取引先を変更させる余地がなく、競争の埒外にあることは明らかである。
したがって、原告マタイ紙工の≪事業者p≫に対する段ボール製品の販売については、「相互拘束の対象から除外されていることを示す特段の事情があった」と認められるのであるから、その売上げは、課徴金の基礎となる売上げから除外されるべきである。
(イ) ≪事業者i≫に対する売上げを課徴金算定の基礎となる売上げから除外すべきこと
原告マタイ紙工と≪事業者i≫との契約書(審A共33の1・2)には、原告マタイ紙工と≪事業者i≫との取引においては、原告マタイ紙工は≪事業者i≫に対して注文書記載の商品・役務を供給すること、かかる注文書に基づき供給される商品・役務に係る価格調整の請求権は、≪事業者i≫のみに片面的に帰属し、原告マタイ紙工には一切認められていない(上記契約書2条)ことが明示され、現実にそのような運用がなされてきたものであり、これに反し、原告マタイ紙工による値上げが可能であることを示す証拠は示されていない。
したがって、≪事業者i≫との取引は、値上げの相互拘束の埒外であることは明らかであり、課徴金算定の基礎となる売上げに含めるべきではない。
オ 原告アサヒ紙工について
(ア) 値上げ交渉を行っていない取引先に対して販売した商品の売上げを除外すべきであること
原告セッツカートンに関して主張したとおりである。
(イ) 段ボール製品の価格が段ボール原紙の日経市況に連動して自動的に決定される取引の売上げを課徴金算定の基礎となる売上げから除外すべきこと
原告アサヒ紙工には、通常の取引とは異なり、段ボール製品の価格が段ボール原紙の日経市況に連動して自動的に決定される取引が存在し、原告アサヒ紙工の上記取引は、相互拘束の範囲外である。すなわち、当該取引が通常の取引と異なり、日経市況に連動して自動的に価格が決定されるものであり、このような取引については、日経市況に変動が生じない限り、値上げを行う余地はないのであるから、相互拘束の埒外であることは容易に認定できるものである。
カ 原告イハラ紙器について
(ア) グループ会社向け商品の売上げを課徴金算定の基礎となる売上げから除外すべきこと
原告レンゴーに関して主張したとおりである。
(イ) ≪事業者r≫、≪事業者s≫及び≪事業者t≫への売上げを課徴金の基礎となる売上げから除外すべきこと
≪事業者r≫は、原告イハラ紙器の100%子会社であり、≪事業者s≫については原告イハラ紙器の株式保有数は40%であるものの、その余の株式は≪事業者s≫の代表取締役及びその親族が保有し、同社の役員が原告イハラ紙器によって選任、派遣されているという関係にある。原告イハラ紙器と≪事業者r≫とが上記のような資本関係にあること、原告イハラ紙器と≪事業者s≫が資本関係、人的関係のいずれにおいても特殊な関係にあり、そのような資本、人的関係から、いずれの会社においても、その使用する段ボールシートの全てを原告イハラ紙器から購入せざるを得ないという状況が存在し、そこには、通常の価格競争により取引先を変更させる余地はない。
したがって、このような原告イハラ紙器の上記2社に対する段ボールシートの販売について、他の段ボール事業者が相互拘束の対象とは考えていなかったことは明らかであり、課徴金の対象とすべきではない。
また、≪事業者t≫は、原告イハラ紙器との製造委託受託関係を基にした価格設定がされた特殊な取引であって、この取引については、もともと競合他社が納入する可能性のない取引であり、この事情は他の段ボール事業者も熟知しており、当該取引を相互拘束の対象とは考えていなかったことは明らかであり、「相互拘束の対象から除外されていることを示す特段の事情があった」と認められ、課徴金の対象とすべきではない。
カ 原告甲府大一実業について
(ア) 値上げ交渉を行っていない取引先に対して販売した商品の売上げを除外すべきであること
原告セッツカートンに関して主張したとおりである。
(イ) 自社のみが納入業者となっている取引先に対する売上げを除外すべきであること
原告セッツカートンに関して主張したとおりである。
(ウ) ≪事業者名略≫に対する売上げを除外すべきであること
原告甲府大一実業と≪事業者名略≫との取引においては、≪事業者名略≫に価格決定権があるという特殊な関係にあり(≪事業者名略≫については、過去に値上げを認めてもらったことがなく、毎年4月と10月に≪事業者名略≫からコストカットの要請がある。)、このような取引については、合意の埒外と認められ、課徴金算定の基礎となる売上げに含めるべきではない。
第3 当裁判所の判断
1 本件各合意の成否及びその内容(争点⑴)について
⑴ 独禁法2条6項の「共同して」に該当するためには、複数事業者が対価を引き上げるに当たって、相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要であるところ、上記意思の連絡とは、複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調を揃える意思があることを意味し、一方の対価引上げを他方が単に認識、認容するのみでは足りないが、事業者相互で拘束し合うことを明示して合意することまで必要ではなく、相互に他の事業者の対価引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りるものと解される。
ところで、被告は、別紙7に記載のとおりの事実を認定しているところ(被告が認定した本件審決の認定事実については、原告らも、その存否、その趣旨・評価を争うもの(後記で判断を加える。)を除き、実質的証拠の有無について争うものではないと解される。)、この事実に基づき、前記第2の4⑴のとおり、10月17日の三木会において、三木会に出席した第1事件11社については、本件シート合意が成立するとともに、同会合に出席した第2事件12社については、本件ケース合意が成立し、さらに、第1事件事業者45社(第1事件事業者57社から上記第1事件11社及び群馬森紙業を除いた会社)については、自社の営業責任者等が出席した支部会等において、本件シート合意と同内容の合意が成立し、第2事件事業者49社(第2事件事業者63社のうち、第2事件三木会出席事業者12社並びに群馬森紙業及び鎌田段ボール工業を除いた会社)については、上記と同様に、自社の営業責任者等が出席した支部会等において、本件ケース合意と同内容の合意が成立し、そして、群馬森紙業は、平成23年11月14日の群馬・栃木支部会を通じて、鎌田段ボール工業は、同月17日の三木会を通じて、本件ケース合意に参加したものと認められるとしたが、この認定、判断は、本件審決に掲記の各証拠に基づくものであって、実質的証拠を欠くものとはいえず、また、その判断は、前記で説示した独禁法2条6項の解釈に合致するものであって、法令に反する点は見当たらない。
⑵ 原告らの主張に対する判断
ア 原告らは、10月17日の三木会において、東日本地区全部を対象とする値上げの合意がなされたという事実は立証されておらず、このことは、①平成23年当時の原紙の値上がりの不透明な状況については、三木会に出席していた者の共通認識となっており、少なくとも同日に合意が成立する状況ではなかった、②平成23年10月17日の段階で大手の段ボールメーカーが値上げを発表していたからといって、段ボール原紙については、原紙メーカー間の競争が存在し、原告レンゴーの場合には、グループ会社に現実にいくらで供給しているのかについては、他社には分からず、他の段ボールメーカーは、原告レンゴーの公式発表をそのまま信じるような状況にもなく、原紙の値上げが確実なものと認識されていたとするのは明らかな誤りである旨主張する。
しかし、原告レンゴーの関係者は、平成23年8月下旬に段ボール原紙及び段ボール製品の値上げを発表し、同年9月22日の三木会や同月26日の5社会において、出席各社に対し、値上げの見通しを表明するよう促し(本件審決の認定事実2⑶)、10月17日の三木会において、値上げ幅の具体的内容を説明し、出席社からの質問に応じてその内訳を詳しく説明した上で、追随して値上げを実施するよう述べていたのであるから(本件審決の認定事実3⑴)、出席各社において、現実に段ボール製品の値上げをする方向で具体的な発言がされていたものといえ、その際、原告レンゴーの値上げ幅を指標としないとは考え難い。そして、10月17日の三木会が開催されるまでに主要な原紙メーカーによる値上げ表明や社内での意思決定がされており(上記メーカーには、一貫メーカー以外の大手の専業メーカーが含まれる。本件審決の認定事実2⑷)、10月17日の三木会における上記の発言内容を踏まえれば、上記三木会の時点において、原紙の値上がりが不透明な状況であり、本件各合意が成立し得るような状況になかったとはいえない。
イ 原告らは、10月17日の三木会で本件各合意が成立したとするならば、①各支部会等に合意内容を伝達する旨が合意されるはずであるのに、そのような合意はされなかった、②各支部会等に、三木会の内容が伝達されなかった、③各支部会等において、三木会における合意事項として値上げの方針が伝えられるはずなのに、伝えられなかった、④原告マタイ紙工が参加した平成23年10月27日の群馬会、原告アサヒ紙工が出席した同年11月2日の埼玉支部総会、原告イハラ紙器が出席した同年10月31日の静岡支部会において、上記原告らが、本件各合意の存在及び内容について、10月17日の三木会の内容の伝達を受けたことはなく、原告甲府大一実業は、そもそも、東段工の加盟者ではなく、原告甲府大一実業の≪F≫は、懇親の目的で長野5社会に出席していたに過ぎないとして、支部会等において、10月17日の三木会における本件各合意の成立及び内容について認識が共有されていないにもかかわらず、単に支部会等で進行していた値上げ等の動きをもって、10月17日の三木会の内容等を支部会等の出席各社が認識、認容していたことを推認できるとすることはできない旨主張する。
しかし、10月17日の三木会における協議内容が明示的に伝達されていない支部会等があったとしても、後記の慣行(大手の一貫メーカーがまず値上げ表明をし、次にそれ以外の段ボールメーカーがこれに追随して足並みを揃えること、その情報交換は三木会を通じて行われてきた等の慣行。この慣行の存否については、後記ウで検討する。)の下では、各支部会等において、本部役員会社に属する営業責任者が、大手の段ボールメーカーの値上げの方針を説明し、出席各社の値上げの方針が確認されているから(本件審決の認定事実4)、10月17日の三木会における協議内容を認識していたといえ、その内容が実質的には伝わっていたものと評価し得る。
ウ 原告らは、従前から三木会や支部会等において値上げの方針や進捗状況についての情報交換が行われているという被告が主張する従前からの慣行は具体的な時期や場所、情報交換の内容について明らかではなく、従前からの慣行に基づき事実を認定することは著しく正義に反する旨主張する。
しかし、被告が主張する慣行の存在は、本件審決の認定事実1末尾に掲記の多数の証拠によって具体的に裏付けられており、平成23年当時、これが消滅していたことをうかがわせる証拠はなく、また、10月17日の三木会及びその開催前後の経緯において、段ボール製品の値上げに際しては、大手の一貫メーカーの値上げ要請に応える形で値上げがされ、また、東段工の各支部において、値上げ幅や進捗状況等に関する情報交換がされて歩調を揃え、値上げが実施されていたこと(本件審判の認定事実2ないし6)に照らすと、本件の段ボール製品の値上げにおいても、各事業者は、従前からの慣行を共通認識として行動していたたことがうかがわれる。
したがって、従前からの慣行を踏まえて、本件各合意を認定することが著しく正義に反するとはいえない。
エ 小括
したがって、原告らの上記各主張は採用することができない。
2 本件各合意による実質的な競争制限の有無等(争点⑵)について
⑴ 独禁法2条6項にいう「一定の取引分野」とは、当該共同行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲の市場をいうものであり、その成立する範囲は、当該合意が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して定まるものと解するのが相当である。また、同項にいう「競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい、共同して商品の販売価格を引き上げる旨の合意がされた場合には、その当事者である事業者らがその意思で、ある程度自由に当該商品の販売価格を左右できる状態をもたらすことをいうもとの解するのが相当である(最高裁平成24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁参照)。
そして、その判断に際しては、当該合意の当事者である事業者らのシェアの高さとともに、そのシェアの高さに応じて、当該合意の当事者ではない他の事業者の価格引上げに対するけん制力の有無等の諸事情を総合して考慮すべきである。
被告は、本件各合意の成立に関する判断を前提として、本件各合意に基づく共同行為は、段ボール製品の値上げを実現するため、東段工の組織である三木会及び支部会等を利用して行われたから、本件各合意における情報交換の対象となった段ボール製品の値上げについて、その地理的な範囲に東段工の管轄地域である東日本地区が含まれることは明らかであるところ、これらの値上げ交渉が行われる需要者の交渉担当部署の所在地を基準として、その範囲を画定すると、交渉担当部署が東日本地区に所在する需要者に対し、当該交渉担当部署との間で取り決めた取引条件に基づき販売される段ボール製品は、少なくとも本件各合意の対象に含まれるものであって、本件各合意によって影響を受ける範囲も同様と解され、東日本地区全体が1つの市場であり、本件各合意を成立させたことによって、その意思である程度自由に販売価格を左右することができる状態をもたらしたと認めることができ、そして、本件各合意の成立過程に照らすと、本件各事業者が順次本件各合意に参加することにより、そのシェアは、特定段ボールシートについて8割を超え、特定段ボールケースについて6割を超えるものとなるのであり、かかる市場支配は、強固なものとなったということできるのであって、本件各合意は、一定の取引分野における競争を実質的に制限するものであると認められるとした。以上の認定、判断は、本件審決に掲記の各証拠に基づくものであって、実質的証拠を欠くものとはいえず、また、その判断は、前記で説示した独禁法2条6項の解釈に合致するものであって、法令に反する点は見当たらない。
⑵ 原告らの主張に対する判断
ア 一定の取引分野について
(ア) 東日本地区全体を一定の取引分野と認定することの可否について
原告らは、段ボール製品については経済合理性を有する輸送距離は限られていることから、県ごと又は一定の地域ごとに商圏が形成されており、それぞれの商圏ごとに段ボール製品の供給者の構成、需要者となる段ボール製品のユーザーも異なっており、その競争状況に大きな差異が存在するから、東段工管内といえども市場環境は一律ではなく、地域ごとの市場環境が大きく違うから、東日本地区全体を1つの取引分野と認定することはできない旨主張する。
そこで、検討するに、本件各事業者(第1事件事業者57社及び第2事件事業者63社)による各共同行為(本件各合意)において、その対象とされた取引は、それぞれ、交渉担当部署が東日本地区に所在する需要者に販売される外装用段ボールによって製造された特定段ボールシート及び特定段ボールケースに係る取引であったところ、段ボール製品の需要の価格弾力性は小さく、代替的な商品が基本的に見当たらないことから(争いがない(第2回弁論準備手続調書参照)。)、特段の事情がない限り、価格協定の合意(本件各合意)が対象とする取引及びその影響が及ぶ範囲によって、その市場の範囲も画されるものと解するのが相当である。
そして、上記取引分野の中に、段ボール製品の輸送距離の関係から現実の商圏が限定されている事業者がいたとしても(ただし、原告セッツカートンの新潟工場長は、段ボール製品の営業地域は、新潟県を中心に、近隣では、山形県、遠くでは北海道にも一部ユーザーがいると供述しており(査334・3頁)、段ボール製品の納入について、その商圏が北海道を越えることはないとはいえない。)、現実の供給範囲が限定されている他の事業者との競争を介して広域での市場の形成や取引分野全体に影響を与え寄与し得ることを踏まえると、上記の点は、前記の市場の範囲を左右する特段の事情に当たるとはいえない。
(イ) 特定ユーザー向け段ボールケースと地場ユーザー向け段ボールケースを同一の取引分野と認定することの可否について
原告らは、特定ユーザー向け段ボールケースと地場ユーザー向け段ボールケースとの違いを踏まえれば、両者は客観的市場を異にしていることは明らかであるから、東日本地区全体を1つの取引分野と認定することはできない旨主張する。
しかし、前記のとおり、段ボール製品については、特段の事情がない限り、価格協定の合意(本件各合意)が対象とする取引及びその影響が及ぶ範囲によって、その市場の範囲も画されるものと解するのが相当であるところ、特定ユーザー向け段ボールケースに特有の品質・販売価格等があったとしても、地場ユーザー向け段ボールケースとの違いは相対的なものであり、両者の段ボールケースに係る市場は、截然と区別されるものでなく、両者の市場が重層的に成立することもあり得るものである。例えば、広域ユーザーである特定ユーザー向け段ボールケースの総販売金額の8割を大手5社が占めていたとしても、その余の2割は地場の段ボールメーカー等が占めていたものであるし、その一方で、大手の段ボールメーカーも少なからず地場ユーザーに段ボールケースを供給していたといえるから(査146・3頁(証拠の写し1883丁)、275・3頁(同4147丁))、これらのことからすれば、需要者が広域ユーザーか地場ユーザーかにかかわらず、大手の段ボールメーカーが製造する段ボールケースと地場の段ボールメーカーが製造する段ボールケースとの間の需要者にとっての代替性の程度は、両者の取引分野を常に別個のものと捉えなければならないほど小さいものとはいえない。
したがって、上記の点は、前記の市場の範囲を左右する特段の事情に当たるとはいえない。
(ウ) 便宜的に1つの市場とすることの可否について
原告らは、東日本地区全体を1つの市場とすること、特定ユーザー向け段ボールケースと地場ユーザー向け段ボールケースとを1つの市場とすることが、客観的にはもちろん、行為者の主観からみても誤りであり、本件では、供給者の顔ぶれやシェアの状況が大きく異なるから、客観的に異なる市場を便宜的に1つの市場として取り扱うことは許されない旨主張する。しかし、前記のとおり、東日本地区全体を1つの市場と捉えることができ、このことは、客観的に異なる複数の市場を便宜的な観点から1つの市場と扱うものではないから、原告らの主張はその前提を欠く。
イ 競争の実質的制限等について
原告らは、10月17日の三木会に参加した第1事件11社、第2事件12社のシェアを算定するに当たっては、東日本全体を1つの市場と認定することは誤りであり、商圏毎に一定の取引分野を認定すべきである上、シェア算定に当たり、グループ会社のシェアを加えるべき理由はなく、東日本全域における段ボールシート又は段ボールケースの販売価格をある程度自由に左右することができる状態にあったとすることは認められないし、およそ競争の実質的制限が立証できているとはいえない旨主張する。
しかし、東日本地区全体を1つの市場と認定することが誤りとはいえないことは、前記⑴で説示したとおりである。
また、10月17日の三木会において、原告レンゴーの値上げに係る発言に対し、原告セッツカートン及び同大和紙器の各出席者は、親会社である同レンゴーに準じて値上げする旨の発言をし(本件審決の認定事実3⑴)、上記の原告レンゴーの値上げ方針に沿って、平成23年10月24日の長野5社会において、原告甲府大一実業の出席者は値上げをしなければならない旨を発言し(本件審決の認定事実4⑵)、同月27日の群馬会において、マタイ紙工の出席者は段ボールケースについて、13%値上げする旨発言し(本件審決の認定事実4⑷)、同月31日の静岡支部会において、原告大和紙器及び同イハラ紙器の各出席者は、いずれも親会社である同レンゴーの値上げ方針に従って値上げを実施する旨発言する(本件審決の認定事実4⑹)など、親会社の値上げ方針に従って子会社が値上げをする旨の発言をしていたものであり、原告レンゴーの子会社各社が独自に値上げの方針を決定していたものとはいえないのであって、そのシェア算定に当たり、グループ会社のシェアを加えることが不合理であるとはいえない。そして、前記認定のシェアを前提とすれば、原告らが、東日本地区全域における段ボールシート又は段ボールケースの販売価格をある程度自由に左右することができる状態にあったと判断することが不合理であるとはいえず、上記の競争の実質的制限が「公共の利益」(独禁法2条6項)に反しないといえる例外的な場合に当たるともいえない。
ウ 小括
したがって、原告らの上記各主張は採用することができない。
3 本件各排除措置命令の必要性及び相当性の有無(争点⑶)について
⑴ 独禁法7条2項の「特に必要があると認めるとき」とは、事業者に対し、排除措置を命じた時点では既に違反行為はなくなっているが、当該違反行為が繰り返されるおそれがある場合や、当該違反行為の結果が残存しており競争秩序の回復が不十分である場合などをいうものと解され、その判断については、独禁法の目的を達成することを任務とする被告の専門的な裁量が認められるものと解される(最高裁平成19年4月19日第一小法廷判決・裁判集民事224号123頁参照)。
被告は、前記1及び2の判断を前提として、平成24年6月5日の被告による立入検査の実施(本件審決の認定事実7)により、本件各合意は消滅したと解されるところ、それは、本件各事業者の自発的な意思に基づくものではなく、これまで東段工の組織である三木会及び支部会の会合が本件の価格の維持及び引上げのための情報交換の場として利用されていた経緯を踏まえ、本件各違反行為が終了してから本件各排除措置命令がされるまで2年余りが経過しているとしても、本件各事業者において、再び東段工の会合を利用するなどして、同様の違反行為を繰り返すおそれがあることは否定できず、また、本件各違反行為が終了したことのみをもって、当該取引分野の競争秩序の回復が十分にされたものということもできないとして、本件各違反行為につき特に必要があると認められ、また、本件各排除措置命令の内容は、いずれも本件各違反行為が排除されることを確保するために必要な事項であって、排除措置を命じたことについて、裁量権の逸脱又は濫用があるとはいえないと判断した。以上の認定、判断は、本件審決に掲記の各証拠に基づくものであって、実質的証拠を欠くものとはいえず、また、その判断は、前記で説示した独禁法7条2項の解釈に合致するものであって、法令に反する点は見当たらない。
⑵ 原告らの主張に対する判断
原告らは、本件各排除措置命令の主文3項及び4項の文言からは、原告らがグループ会社間において共同して販売価格を決定することや、販売価格の改定に関して情報交換を行うことを禁止しているものと読むほかない排除措置を命ずることは、被告の裁量権を逸脱しており、明らかに違法である旨主張する。
そこで、検討するに、排除措置命令の主文において命ずる内容については、当該排除措置命令の趣旨・目的・社会通念に照らし、通常人の合理的解釈に従って、合理的に判断すべきところ(最高裁昭和52年4月13日第二小法廷決定・裁判集民事120号451頁参照)、本件各排除措置命令の3項及び4項の趣旨・目的は、競争関係に立つ事業者間において不当な競争制限を防止する点にあると解されるところ、このような趣旨・目的から合理的に考えると、通常人の合理的解釈として同一の企業グループに属するなど実質的に競争関係にない事業者間に適用がないことは明らかであるから、本件各排除措置命令の3項及び4項は、原告らの事業活動に過剰な萎縮効果を及ぼすなどの不利益を与えるものではなく、被告に裁量権の逸脱又は濫用があるとはいえない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
4 本件各課徴金納付命令の適法性(争点⑷)について
⑴ 独禁法7条の2第1項の「当該行為の実行としての事業活動を行った日」とは、違反行為者が合意の対象となる需要者に対して値上げ予定日を定めて値上げの申入れを行い、その日から値上げに向けて交渉が行われた場合には当該予定日以降の取引には、当該合意の拘束力が及び、現実にその日に値上げが実現したか否かに関わらず、その日において、当該行為の実行としての事業活動が行われたものと解される。
被告は、前記1及び2の判断を前提として、第1事件及び第2事件の違反行為に係る実行期間の始期及び終期につき、別紙3又は別紙4の各「実行期間の始期」欄及び「実行期間の終期」欄に各記載の日であると判断した。
また、独禁法7条の2第1項にいう「当該商品」とは、違反行為の対象商品の範疇に属し、違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解されるところ、課徴金制度の趣旨(予防効果の強化、制度の積極的・効率的運営)及び課徴金の算定方法(明確な算定基準によるもので算定が容易なものであることが必要)に照らせば(最高裁平成17年9月13日第三小法廷判決・民集59巻7号1950頁参照)、違反行為の対象商品の範疇に属する商品については、違反行為を行った事業者が明示的ないし黙示的に当該行為の対象から除外するなど当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り、違反行為による相互拘束が及んでいるものとして、課徴金の算定の対象となる商品に含まれ、違反行為者が実行期間中に違反行為の対象商品の範疇に属する商品を引き渡して得た対価の額が課徴金の計算の基礎となる売上額となるものと解するのが相当である。このように、課徴金の額は、カルテルによって実際に得られた不当な利得の額と一致しなければならないものでははない。
被告は、前記1及び2の判断を前提として、特段の事情がない限り、第1事件の違反行為に係る「当該商品」を特定段ボールシートと、第2事件のそれを特定段ボールケースとし、原告らから提出された報告書を基に、その重複部分及び上記特段の事情があると認められる部分を控除した、特定段ボールシート及び特定段ボールケースの売上高を独禁法施行令5条1項の規定に従って算定すると、別紙3又は別紙4の「売上額(円)」欄に記載のとおりであると判断した。また、原告らは、いずれも段ボール製品の製造業を営んでいる者であるから、独禁法7条の2第1項柱書のかっこ書に規定する「小売業」及び「卸売業」のいずれにも当たらないとして、原告らから提出された報告書を基に判断される算定率及び課徴金額は、別紙3又は別紙4に記載のとおりであると判断した。
以上の被告の認定、判断は、本件審決に掲記の各証拠に基づくものであって、実質的証拠を欠くものとはいえず、また、その判断は、前記で説示した独禁法7条の2の解釈に合致するものであって、法令に反する点は見当たらない。
⑵ 原告らの主張に対する判断
ア 原告レンゴー、原告セッツカートン及び原告大和紙器の平成23年10月17日以前の取引について
上記原告らは、平成23年10月17日以前に新価格での取引の合意をし、同日以前から新価格での納入を行っていた顧客との関係で、同日以降にその価格で引き続き納入を行うことは、同日以前に顧客との間で独自に行われた交渉の結果であることは明らかであって、被告が成立したと主張する平成23年10月17日の本件各合意との間に因果関係を認めることは不可能である旨主張する。
しかし、本件各合意の成立以前に値上げを受け入れた取引先について、その後値下げがされることなく、値上げが維持された状態で本件各合意の成立に至った場合、本件各合意は、本件各合意の成立以前に値上げを受け入れた取引が継続していることを前提として、その状態を利用して、値上げの効力が実現されたものと評価し得るから、本件各合意の成立後に値上げされた価格でされた当該商品の出荷には、本件各合意の効力が及んでいるものというべきであり、本件各合意との因果関係は否定されるものではなく、実行としての事業活動に当たるものと解するのが相当である。
したがって、本件各合意の拘束力は、本件各合意の成立以前に取引先との間で値上げを取り決めていた取引にも及ぶものと解されるから、上記取引時点を課徴金納付命令の始期とすべきではないとはいえない。
イ 原告レンゴー、原告セッツカートン、原告大和紙器及び原告イハラ紙器の原告レンゴーのグループ会社間における取引について
原告らは、原告レンゴーのグループ会社間における取引による商品は、潜在的な競争を観念する余地はなく、黙示的にカルテルによる拘束の範囲外として認識されていたと考えるのが合理的であって、このような特段の事情によれば、独禁法7条の2第1項の「当該商品」には当たらない旨主張する。
しかし、本件審決の認定事実6によれば、平成23年12月以降、原告レンゴーが、その子会社である原告セッツカートン、原告アサヒ紙工、原告大和紙器及び原告イハラ紙器に対して販売する段ボール製品についても値上げを実施し、また、原告セッツカートン、原告甲府大一実業、原告大和紙器及び原告アサヒ紙工も、親会社である原告レンゴーに対して販売する段ボール製品について、実際に価格交渉を行い、その販売価格を引き上げていたものであり、レンゴーグループ内の各社は、自社利益の確保のために独自の価格交渉を行っていたといえるから、レンゴーグループ内の各社の取引に実質的に同一企業内における加工部門への物資の移転と同視し得るなどの事情はなく、明示的又は黙示的にカルテルによる相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が存在したとはいえない。
したがって、原告レンゴーのグループ会社間における取引による商品が、独禁法7条の2第1項の「当該商品」には当たらないとはいえない。
ウ 原告レンゴーが組織する「レン友会」に属する三社との取引について
原告らは、原告レンゴーが組織する「レン友会」に属する三社については、潜在的な競争関係すら存在しない特殊な関係にある取引先であるから、相互拘束の対象から除外されていることを示す特段の事情があったと認められ、これらの取引に対する商品の売上額を本件各課徴金納付命令の算定の基礎から除外すべきである旨主張する。
しかし、原告レンゴーは、「レン友会」に属する三社(≪事業者名略≫、≪事業者名略≫及び≪事業者名略≫)に対し、段ボールシートを価格交渉の上で値上げを実施していたといえるから(査171・6~7頁)、原告レンゴーと三社との関係は、原告レンゴーが一般のボックスメーカーに販売する場合の取引と大差がなかったといえ、潜在的な競争関係すら存在しない特殊な関係にあったとはいえず、相互拘束の対象から除外されていることを示す特段の事情があったといえない。
したがって、原告レンゴーのグループ会社間における取引による商品が、独禁法7条の2第1項の「当該商品」には当たらないとはいえない。
エ 原告レンゴーにおける協力値引きの控除の当否
原告らは、協力値引(表面上の取引価格を据え置いたまま実質的な取引価格を引き下げて交渉を行い現実の取引価格を決定すること)は段ボール業界における長年の商慣習であり、企業会計上何ら問題視されていないから、独禁法施行令5条1項1号の「・・・その他の事由により対価の額の全部又は一部を控除した場合」の「その他の事由」に当たり、本件各課徴金納付命令の算定の基礎から除外すべきである旨主張する。
しかし、仮に、協力値引と称する商慣習があったとしても、それが取引上どのような趣旨でどのような方法で行うものかは証拠上定かでなく(原告レンゴーが提出する協力値引額の集計表(審A共43、44)からは、上記の点は判然としない。)、本件審決が、協力値引について独禁法施行令5条1項第1号を含む各号の控除項目に当たらないと判断したことに不合理な点があるとはいえない。
オ 原告レンゴーにおいて有力な競争事業者があるとは認められないとの判断の当否
原告らは、有力な競合相手として管外地域の地場の段ボール事業者が存在する場合には、その部分に係る売上額を本件各課徴金納付命令の算定の基礎から除外すべきであるというべきところ、被告は、東日本地区以外に所在する段ボールメーカーは、その多くが地場の段ボールメーカーであり、有力な競争事業者があるとは認められないと判断したが、このような判断は実質的な証拠を欠いており、重大な理由不備、理由齟齬に当たる旨主張する。
しかし、本件審決(査492、493)によれば、段ボール製品のシェアは、10月17日の三木会に出席した第1事件11社による販売数量は東日本地区における段ボールシートの総出荷数量約4割を占めるが、そのうち、4社(原告レンゴー、王子コンテナー、森紙業、大王製紙パッケージ)とグループ関係にある15社を加えた26社による販売数量は上記総出荷数量の約6割を占め、後日本件シート合意に参加した46社を加えた第1事件事業者57社による販売数量は上記総出荷数量の約8割を超えており、また、10月17日の三木会に出席した第2事件12社による製造数量は、東日本地区において段ボールケースの原材料となった段ボールシートの総製造数量の約4割を占めるが、そのうち、上記15社を加えた27社による製造数量は、上記総製造数量の約5割を占めており、後日本件ケース合意に参加した51社を加えた第2事件事業者63社による製造数量は上記総製造数量の6割以上を占めているから、東日本地区以外に所在する段ボールメーカーが、上記の各事業者による段ボール商品の価格引上げを十分にけん制することができるとはいえず、この判断について、実質的な証拠を欠いているとか、重大な理由不備、理由齟齬があるなどとはいえない。
したがって、上記段ボールメーカーの部分に係る売上額を本件各課徴金納付命令の算定の基礎から除外すべきであるとはいえない。
カ 原告レンゴーにおける割戻金の控除の可否
原告らは、契約と算定方法が書面によって明らかであれば、実行期間が当該書面に含まれていなくとも割戻金(独禁法施行令5条1項3号)を売上額から控除すべきであり、原告レンゴーが商品の引渡し又は役務の提供の相手方ではない≪事業者a≫に支払う「指定料」も割戻金に当たると解すべきである旨主張する。
そこで、検討するに、割戻金控除の趣旨は、課徴金の計算方法の明確化・簡易化の観点から課徴金算定の基礎として費用を含む売上額が基準とされていることに鑑み、取引の対価をあらかじめ修正することが書面で明らかにされている割戻金を控除対象として認めても、計算方法の明確化・簡易化を損なわない点にあると解される。
そうすると、割戻金控除が認められるためには、割戻金の支払が、取引の相手方にとって対価修正の趣旨であることが書面により明らかにされている必要があるから、「書面によって明らかな契約」(独禁法施行令5条1項3号)とは、実行期間において作成されている書面による契約である必要があり、実行期間より過去に作成された書面は、それが現に更新されているか否かなど、第三者が容易に知ることはできないから、そのような書面では足りないものと解される。
また、「割戻金」が課徴金の計算の基礎となる売上額から控除される趣旨は、商品の売買でいえば、割戻金の支払が当該商品の対価の修正と認められる点にあるところ、売買契約の当事者間でやり取りされなければ、当該売買契約に係る商品の対価の修正とはならないから、「割戻金」は、当該商品の売買契約の当事者間において支払われるものに限られるというべきである。
そうすると、「書面によって明らかな契約」とは、相手方が受けた商品等の供給実績に応じて支払うものとして作成されている書面による契約である必要があると解される(なお、平成17年政令第318号による改正前の独占禁止法施行令5条1項3号に「商品の引渡し又は役務の提供の相手方に対し・・・支払うべき旨」と規定されていたが、上記の改正によって「相手方に対し」との文言が削除される修正が加えられているが、この改正が、商品等の供給の相手方以外の者に対する割戻金の支払を割戻金に含ませる趣旨であったことを示す立法資料は見当たらない。)。
したがって、原告らが主張するように、割戻金を支払うべき旨の書面について、実行期間が含まれている必要がないとか、商品等の供給の相手方ではない者に対するものでもよいなどの解釈をとることは、課徴金の計算方法の明確化・簡易化という趣旨に照らし、相当ではない。
キ 原告セッツカートンの取引について
(ア) 原告らは、原告セッツカートンと≪事業者名略≫とが資本においても、人的な関係においても特殊な関係にあり、その関係の一環として使用する段ボールシートの全てを原告セッツカートンから購入せざるを得ず、取引は資本関係によって支配されており、そこには、潜在的な競争の余地もなかったことは明らかであるから、相互拘束の対象から除外されていることを示す特段の事情があったと認められ、原告セッツカートンと≪事業者名略≫に対する段ボールシートの売上げは、課徴金の基礎となる売上げから除外されるべきである旨主張する。
しかし、原告セッツカートンと≪事業者名略≫とが資本においても、人的な関係においても特殊な関係にあったとしても、そのことから直ちに潜在的な競争の余地もなかったとはいえず、また、相互拘束の対象から除外されていることを示す特段の事情があったとまではいえないから、当該取引に係る売上額を課徴金算定の基礎となる売上げから除外されるべきであるとはいえない。
したがって、原告セッツカートンと≪事業者名略≫との取引による商品が、独禁法7条の2第1項の「当該商品」には当たらないとはいえない。
(イ) 原告らは、原告セッツカートンにつき、平成23年10月17日以前に入札が終了している入札案件の落札者、納入金額と本件各合意の間には明らかに因果関係がないから、課徴金算定の基礎となる売上げには含めるべきではない旨主張する。
ところで、独禁法施行令5条1項は、売上額の算定を実行期間に引き渡された商品又は提供された役務の対価の額を合計して算定する引渡基準をとっているが、この引渡基準は、企業会計原則において、一般に売上額が引渡時点を基準として計算されていることを踏まえ、①違反行為の影響を受けた契約に基づく商品の引渡しが実行期間後に行われた場合と、②実行期間前の違反行為の影響を受けていない契約に基づく商品の引渡しが実行期間内に行われた場合とで、上記①の場合の金額と上記②のそれとがおおむね異ならないと考えられることを前提に、課徴金算定の対象から上記①を除く一方で、上記②を含めることにし、算定方法を合理化したものと解される。
そして、特定段ボールケースに関する本件ケース合意は、入札による場合を除外しているとは解されず、入札の場合でも、本件ケース合意に基づいて引き上げられた価格で応札することは可能であり、入札による場合と契約による場合とを区別する必要はないと考えられる。
以上によれば、特定段ボールケースについて、平成23年10月17日以前に入札が行われ、落札者、納入金額が決定している取引についても、実行期間内に商品の引渡しがされる限り、その売上額を課徴金の算定対象とすることは何ら不合理ではない。
(ウ) 原告らは、原告セッツカートンとの取引に関し、価格決定権を持つ商社又は仲介事業者が本件各合意に参加していない以上、商社等に委託した販売先に対する売上げに課徴金が課せられる理由はない旨主張する。
しかし、本件審判記録に照らしても、商社又は仲介事業者に委託した販売先に対し、原告セッツカートンに価格決定権を喪失していたことをうかがわせる証拠はないから、被告が上記の取引に関する売上げを、課徴金算定の基礎に含めたとしても、そのことが不合理であるとはいえない。
ク 原告セッツカートン、原告大和紙器、原告アサヒ紙工及び原告甲府大一実業が値上げ交渉を行っていない取引先に対して販売した商品の売上げを除外すべきか否かについて
原告らは、平成23年10月17日に本件各合意が成立したとしても、もともと値上げ交渉の対象とはならないユーザーは相互拘束から除外されていた特段の事情の有無を検討するまでもなく、そもそも相互拘束の範囲外であったことが明らかである旨主張する。
しかし、前記⑴で説示したとおり、独禁法7条の2第1項にいう「当該商品」とは、違反行為の対象商品の範疇に属し、違反行為である相互拘束を受けたものをいうと解され、課徴金制度の趣旨及び課徴金の算定方法に照らせば、違反行為の対象商品の範疇に属する商品については、違反行為を行った事業者が明示的ないし黙示的に当該行為の対象から除外するなど、当該商品が違反行為である相互拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り、違反行為による相互拘束が及んでいるものとして、課徴金の算定の対象となる商品に含まれるものと解すべきである。そうすると、原告セッツカートン、原告大和紙器、原告アサヒ紙工及び原告甲府大一実業が値上げ交渉を行っていない取引先に対して販売した商品であったとしても、相互拘束から除外されていることを示す特段の事情がない限り、本件各合意の対象商品の範疇に属する商品に含まれるものと解すべきであって、上記特段の事情の有無を検討するまでもなく相互拘束の範囲外であることが明らかであるなどということはできない。そして、値上げ交渉を行っていないという事実のみでは、相互拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとはいえない。
ケ 原告セッツカートン及び原告甲府大一実業の自社のみが納入業者となっている取引先に対する売上げを除外すべきか否かについて
原告らは、自社のみが納入業者となっている取引先は長年にわたる取引の実績があり、過去において他社が参入する機会があったにもかかわらず、現実に1社の取引となっている取引先は、他社に乗り換える意図がなく、本件各合意が成立していたとしても、その合意対象に含める意図はなかったというべきであり、潜在的にも競争が存在するとはいえない旨主張する。
しかし、原告らが指摘する上記事情を踏まえても、上記取引先は上記原告ら以外の業者と取引することができないものではなく、今後、他社との取引をする可能性が皆無であると断ずることもできず、他の段ボールメーカーとの間で潜在的にせよ競争関係になかったとはいえないから、本件各事業者において、上記納品先について、本件各合意の対象に含める意図がなかったとはいえない。
コ 原告大和紙器の取引について
(ア) 原告らは、原告大和紙器と≪事業者名略≫とが資本においても、人的な関係においても特殊な関係にあり、その関係の一環として使用する段ボールシートの全てを原告大和紙器から購入せざるを得ず、取引は資本関係によって支配されており、通常の価格競争の埒外であって、相互拘束の対象から除外されていることを示す特段の事情があったと認められ、原告大和紙器の≪事業者名略≫に対する段ボールシートの売上げは、課徴金の基礎となる売上げから除外されるべきである旨主張する。
しかし、原告大和紙器と≪事業者名略≫とが資本においても、人的な関係においても特殊な関係にあったとしても、そのことから直ちに潜在的な競争の余地もなかったとはいえず、また、相互拘束の対象から除外されていることを示す特段の事情があったとまではいえないから、当該取引に係る売上額を課徴金算定の基礎となる売上げから除外されるべきであるとはいえない。
したがって、原告大和紙器と≪事業者名略≫との取引による商品が、独禁法7条の2第1項の「当該商品」には当たらないとはいえない。
(イ) 原告らは、平成23年10月17日以前に年間契約が成立していた取引は、次の契約更新時期までは契約上価格変更ができないから、当該取引に係る売上額は課徴金算定の基礎となる売上げから除外されるべきである旨主張する。
しかし、本件審判事件の記録に照らしても、上記年間契約において、契約期間中に当事者間の交渉による価格変更ができないことをうかがわせる証拠はないから(かえって、その期間中に価格を引き上げることを内容とする新たな物品売買単価契約が結ばれていることがうかがわれる(審A共32の1・2)。)、当該取引に係る売上額を課徴金算定の基礎となる売上げから除外されるべきであるとはいえない。
したがって、原告大和紙器の上記年間契約による商品が、独禁法7条の2第1項の「当該商品」には当たらないとはいえない。
サ 原告マタイ紙工の取引について
(ア) 原告らは、原告マタイ紙工と≪事業者p≫とが資本においても、人的な関係においても特殊な関係にあり、その関係の一環として使用する段ボール製品の全てを原告マタイ紙工から購入せざるを得ず、取引は資本関係によって支配されており、通常の価格競争の埒外であって、相互拘束の対象から除外されていることを示す特段の事情があったと認められ、原告マタイ紙工の≪事業者p≫に対する段ボール製品の売上げは、課徴金の基礎となる売上げから除外されるべきである旨主張する。
しかし、原告マタイ紙工と≪事業者p≫とが資本においても、人的な関係においても特殊な関係にあったとしても、そのことから直ちに潜在的な競争の余地もなかったとはいえず、また、相互拘束の対象から除外されていることを示す特段の事情があったとまではいえないから、当該取引に係る売上額を課徴金算定の基礎となる売上げから除外されるべきであるとはいえない。
したがって、原告マタイ紙工と≪事業者p≫との取引による商品が、独禁法7条の2第1項の「当該商品」には当たらないとはいえない。
(イ) 原告らは、原告マタイ紙工が、≪事業者i≫に対して注文する際の商品等に係る価格調整の請求権は≪事業者i≫のみに片面的に帰属し、原告マタイ紙工には、その請求権は一切認められていないから、≪事業者i≫との取引は、値上げの相互拘束の埒外であることは明らかであり、課徴金算定の基礎となる売上げに含めるべきではない旨主張する。
しかし、原告マタイ紙工と≪事業者i≫との取引においては、価格調整はいったん確定した注文内容を変更する場合には、≪事業者i≫が変更請求をしたときに限り、価格調整を行うことが定められているにとどまり(審A共33の1・2)、≪事業者i≫から個別の注文を受ける際、原告マタイ紙工が承諾したものとみなされる(基本契約書(審A33の1・2)の第1条「a.」によれば、個々の注文内容は、同原告が注文書の承諾を通知した時点、注文に係る供給を開始した時点又は注文書受領後2営業日を経過した時点のいずれか早い時点において、同原告が承諾したものとみなされる。)以前の時点においては、原告マタイ紙工において不承諾とする余地があり、交渉により価格が決定されることを一切否定するものとは解されないから、本件各合意の相互拘束から除外されていたことを示す特段の事情があったとまではいえない。
したがって、原告マタイ紙工と≪事業者i≫との取引による商品が、独禁法7条の2第1項の「当該商品」には当たらないとはいえない。
シ 原告アサヒ紙工の取引について
原告らは、原告アサヒ紙工には、通常の取引とは異なり、段ボール製品の価格が段ボール原紙の日経市況に連動して自動的に決定される取引が存在し、原告アサヒ紙工の上記取引は、相互拘束の範囲外であって、課徴金算定の基礎となる売上げに含めるべきではない旨主張する。
しかし、原告アサヒ紙工の上記取引について、段ボール製品の販売価格が日経市況に連動して決定されていることが契約上明確に定められていたことをうかがわせる証拠はなく、事実上日経市況に基づいて価格が決定されていたというだけでは、本件各合意の相互拘束から除外されていたことを示す特段の事情があったとはいえない。
したがって、原告アサヒ紙工の上記取引による商品が、独禁法7条の2第1項の「当該商品」には当たらないとはいえない。
ス 原告イハラ紙器の取引について
原告らは、①≪事業者r≫及び≪事業者s≫については、原告イハラ紙器との資本、人的関係の特殊性、②≪事業者t≫については、原告イハラ紙器との製造委託受託関係を基にした価格設定がされた特殊な取引であって、この取引については、もともと競合他社が納入する可能性のない取引であり、上記の各事情は他の段ボール事業者も熟知していたという相互拘束の対象から除外されている特段の事情があったと認められ、これらの三社に対する売上げを課徴金の基礎から除外すべきである旨主張する。
しかし、原告イハラ紙器と上記三社との取引につき、上記各事情を踏まえても、直ちに潜在的な競争の余地もなかったとはいえず、また、相互拘束の対象から除外されていることを示す特段の事情があったとまではいえないから、当該取引に係る売上額を課徴金算定の基礎となる売上げから除外されるべきであるとはいえない。
したがって、原告イハラ紙器と上記三社との取引による商品が、独禁法7条の2第1項の「当該商品」には当たらないとはいえない。
セ 原告甲府大一実業の取引について
原告らは、原告甲府大一実業と≪事業者名略≫との取引においては、≪事業者名略≫に価格決定権があるという特殊な関係にあり、このような取引については、相互拘束の埒外であって、課徴金算定の基礎となる売上げに含めるべきではない旨主張する。
しかし、本件審判事件の記録に照らしても、原告甲府大一実業が、≪事業者名略≫との取引の価格交渉において、価格決定権を完全に喪失していたことをうかがわせる証拠は見当たらず、当該取引に係る売上額を課徴金算定の基礎となる売上げから除外されるべきであるとはいえない。
したがって、原告甲府大一実業と≪事業者名略≫との取引による商品が、独禁法7条の2第1項の「当該商品」には当たらないとはいえない。
ソ 小括
以上の原告らの上記各主張は採用することができない。
5 その他、原告らの種々の主張並びに原告らが審判請求に係る審判手続において提出した証拠及び同手続において取り調べられた参考人の供述を踏まえても、当裁判所の判断は左右されない。
第4 結論
以上の次第で、本件審決の基礎となった事実を立証する実質的証拠がない(独禁法82条1項1号)とはいえず、かつ本件審決が法令に違反する(同条1項2号)ともいえない。
よって、本件審決には、同項所定の取消事由があるとは認められず、本件審決は適法であって、その取消しを求める原告らの請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

令和6年5月31日

東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官  相澤眞木     
裁判官  河村 浩     
裁判官  廣瀬 孝     
裁判官  宮崎拓也     
裁判官佐々木健二は、転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官  相澤眞木

(別紙) 指定代理人目録

宮本 信彦  榎本 勤也  齋藤 みずえ  岩丸 華子  小室 尚彦
以上

(別紙) 独禁法の条文

2条(定義)
1項ないし5項(省略)
6項 この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
(以下省略)
3条(私的独占又は不当な取引制限の禁止)
事業者は、(省略)不当な取引制限をしてはならない。
7条(私的独占等の禁止違反に対する措置)
1項 第3条又は前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第8章第2節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の差止め、事業の一部の譲渡その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。
2項 公正取引委員会は、第3条又は前条の規定に違反する行為が既になくなっている場合においても、特に必要があると認めるときは、第8章第2節に規定する手続に従い、次に掲げる者に対し、当該行為が既になくなっている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる。ただし、当該行為がなくなった日から5年を経過したときは、この限りでない。
一 当該行為をした事業者
二 当該行為をした事業者が法人である場合において、当該法人が合併により消滅したときにおける合併後存続し、又は合併により設立された法人
三 当該行為をした事業者が法人である場合において、当該法人から分割により当該行為に係る事業の全部又は一部を承継した法人
四 当該行為をした事業者から当該行為に係る事業の全部又は一部を譲り受けた事業者
7条の2(課徴金)
1項 事業者が、不当な取引制限(省略)で次の各号のいずれかに該当するものをしたときは、公正取引委員会は、第8章第2節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、当該行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(当該期間が三年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼって三年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が商品又は役務の供給を受けることに係るものである場合は、当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した購入額)に百分の十(小売業については百分の三、卸売業については百分の二とする。)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
一 商品又は役務の対価に係るもの
二 商品又は役務について次のいずれかを実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの
イ 供給量又は購入量
ロ 市場占有率
ハ 取引の相手方
2項ないし4項(省略)
5項 第1項の場合において、当該事業者が次のいずれかに該当する者であるときは、同項中「百分の十」とあるのは「百分の四」と、「百分の三」とあるのは「百分の一・二」と、「百分の二」とあるのは「百分の一」とする。
一 資本金の額又は出資の総額が三億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人であって、製造業、建設業、運輸業その他の業種(次号から第四号までに掲げる業種及び第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
二 資本金の額又は出資の総額が一億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下の会社及び個人であって、卸売業(第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
三 資本金の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下の会社及び個人であって、サービス業(第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
四 資本金の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が五十人以下の会社及び個人であって、小売業(次号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
五 資本金の額又は出資の総額がその業種ごとに政令で定める金額以下の会社並びに常時使用する従業員の数がその業種ごとに政令で定める数以下の会社及び個人であって、その政令で定める業種に属する事業を主たる事業として営むもの
六 協業組合その他の特別の法律により協同して事業を行うことを主たる目的として設立された組合(組合の連合会を含む。)のうち、政令で定めるところにより、前各号に定める業種ごとに当該各号に定める規模に相当する規模のもの
6項ないし27項(省略)
47条(調査のための強制処分)
1項 公正取引委員会は、事件について必要な調査をするため、次に掲げる処分をすることができる。
一ないし三(省略)
四 事件関係人の営業所その他必要な場所に立ち入り、業務及び財産の状況、帳簿書類その他の物件を検査すること。
2項ないし4項(省略)
77条(訴えの提起期間)
1項 公正取引委員会の審決の取消しの訴えは、審決がその効力を生じた日から30日(省略)以内に提起しなければならない。
2項 前項の期間は、不変期間とする。
3項 審判請求をすることができる事項に関する訴えは、審決に対するものでなければ、提起することができない。
78条 公正取引委員会の審決に係る行政事件訴訟法(省略)3条1項に規定する抗告訴訟については、公正取引委員会を被告とする。
82条(審決の取消し)
1項 裁判所は、公正取引委員会の審決が、次の各号のいずれかに該当する場合には、これを取り消すことができる。
一 審決の基礎となった事実を立証する実質的な証拠がない場合
二 審決が憲法その他の法令に違反する場合
2項(省略)
85条(第一審の裁判権)
次の各号のいずれかに該当する訴訟については、第一審の裁判権は、東京高等裁判所に属する。
一 公正取引委員会の審決に係る行政事件訴訟法3条1項に規定する抗告訴訟
(省略)
二 (省略)
以上

(別紙) 独禁法施行令の条文

5条(法第7条の2第1項の政令で定める売上額及び購入額の算定の方法)
1項 法第7条の2第1項(法第8条の3において読み替えて準用する場合を含む。以下同じ。)に規定する政令で定める売上額の算定の方法は、次条第1項及び第2項に定めるものを除き、実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額を合計する方法とする。この場合において、次の各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号に定める額を控除するものとする。
一 実行期間において商品の量目不足、品質不良又は破損、役務の不足又は不良その他の事由により対価の額の全部又は一部を控除した場合 控除した額
二 実行期間において商品が返品された場合 返品された商品の対価の額
三 商品の引渡し又は役務の提供を行う者が引渡し又は提供の実績に応じて割戻金の支払を行うべき旨が書面によって明らかな契約(一定の期間内の実績が一定の額又は数量に達しない場合に割戻しを行わない旨を定めるものを除く。)があった場合 実行期間におけるその実績について当該契約で定めるところにより算定した割戻金の額(一定の期間内の実績に応じて異なる割合又は額によって算定すべき場合にあっては、それらのうち最も低い割合又は額により算定した額)
2項(省略)
以上




































注釈 《 》部分は、公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

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