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独禁法3条後段、独禁法7条2項1号
東京地方裁判所民事第8部
令和3年(行ウ)第83号、令和3年(行ウ)第241号
令和6年6月27日
東京都新宿区西新宿1丁目25番1号
第1事件原告 大成建設株式会社
(以下「原告大成建設」という。)
同代表者代表取締役 ≪X1≫
同訴訟代理人弁護士 木目田 裕
同 多田敏明
同 平尾 覚
同 沼田知之
同 村上 亮
同 木下郁弥
同 片木浩介
東京都港区元赤坂1丁目3番1号
第2事件原告 鹿島建設株式会社
(以下「原告鹿島建設」という。)
同代表者代表取締役 ≪X2≫
同訴訟代理人弁護士 中藤 力
同 佐川聡洋
同 外崎友隆
同訴訟復代理人弁護士 海藤忠大
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 公正取引委員会
同代表者委員長 古谷一之
同指定代理人 岩下生知
同 石井崇史
同 遠藤 光
同 堤 優子
同 高取勇介
同 奥村正和
同 神村泰輝
同 池田宏祥
同 九谷福弥
同 久野慎介
同 深澤尚人
同 田邊節子
同 村上恭央
同 谷口陽香
同 片野多惠
同 柳井美暁
令和6年6月27日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和3年(行ウ)第83号 排除措置命令取消請求事件(以下「第1事件」という。)
令和3年(行ウ)第241号 排除措置命令取消請求事件(以下「第2事件」という。)
口頭弁論終結日 令和6年2月8日
判決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
被告が、株式会社大林組、清水建設株式会社、原告鹿島建設及び原告大成建設に対して令和2年12月22日付けでした排除措置命令(公正取引委員会令和2年(措)第10号)のうち、原告大成建設に対して排除措置を命ずる部分を取り消す。
2 第2事件
被告が、株式会社大林組、清水建設株式会社、原告鹿島建設及び原告大成建設に対して令和2年12月22日付けでした排除措置命令(公正取引委員会令和2年(措)第10号)のうち、原告鹿島建設に対して排除措置を命ずる部分を取り消す。
第2 事案の概要等
被告は、令和2年12月22日、株式会社大林組(以下「大林組」という。)、清水建設株式会社(以下「清水建設」という。)、原告鹿島建設及び原告大成建設(以下、これら4社を併せて単に「4社」ということがある。)において、東海旅客鉄道株式会社(以下「JR東海」という。)が発注する、リニア中央新幹線(平成23年5月に全国新幹線鉄道整備法に基づき整備計画が決定された東京都を基点として大阪市までを超電導磁気浮上方式〔超電導リニア方式〕によって結ぶ新幹線)に係る地下開削工法による品川駅及び名古屋駅の新設工事(以下「本件ターミナル駅新設工事」という。)について、受注予定者を決定し、受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるようにする旨の合意(以下「本件合意」という。)をすることにより、公共の利益に反して、本件ターミナル駅新設工事の取引分野における競争を実質的に制限しており(以下「本件違反行為」という。)、これが私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(令和元年法律第45号による改正前のもの。以下「独禁法」という。)2条6項の不当な取引制限に該当し、独禁法3条に違反するとして、4社に対し、独禁法7条2項1号に基づく排除措置命令(以下「本件排除措置命令」という。)をした。
本件の第1事件は、原告大成建設が、4社の行為は独禁法2条6項の不当な取引制限に該当しないなどと主張して、被告を相手に、本件排除措置命令のうち、原告大成建設に対して排除措置を命ずる部分の取消しを求める事案であり、第2事件は、原告鹿島建設が、同様の主張をして、被告を相手に、本件排除措置命令のうち、原告鹿島建設に対して排除措置を命ずる部分の取消しを求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠〔書証は、特に断らない限り枝番号を含む。以下同じ。〕及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
⑴ 当事者
ア 原告大成建設
原告大成建設は、東京都新宿区に本店を置き、建築工事、土木工事等を営む株式会社である。(弁論の全趣旨)
イ 原告鹿島建設
原告鹿島建設は、東京都港区に本店を置き、土木建築及び機器装置その他建設工事全般に関する請負又は受託等を営む株式会社である。(弁論の全趣旨)
ウ JR東海
JR東海は、昭和62年の日本国有鉄道の分割民営化に伴い設立され、東海道新幹線のほか、東海地区を中心とした12の在来線を運営する鉄道事業者である。JR東海は、全国新幹線鉄道整備法に基づき、開業から50年以上経過している東海道新幹線(東京~大阪間)の代替線として、新たにリニア中央新幹線の建設を計画し、平成23年5月20日、国土交通大臣からリニア中央新幹線事業の建設主体及び営業主体に指定され、リニア中央新幹線建設の指示を受けた。JR東海は、環境アセスメントの手続と並行して工事実施計画の認可申請の準備を進め、環境影響評価書を提出するとともに、全国新幹線鉄道整備法に従い、国土交通大臣に対し、品川・名古屋間の工事実施計画(その1)の認可申請を行い、平成26年10月に工事実施計画の認可を受け、令和9年の開業を目指して、品川~名古屋間でリニア中央新幹線建設工事を進めていた。(乙2〔6~10頁、資料①〕、弁論の全趣旨)
エ 大林組及び清水建設を含む4社
大林組、清水建設及び原告ら(4社)は、いずれも豊富な施工実績、高い技術力、充実した組織力(多数の優秀な人材を含む。)及び資金力を有する大手総合建設業者であり、平成28年度の完成工事高(総合建設業)において業界1位ないし4位を占め、一般に「スーパーゼネコン」と呼ばれており、幅広い事業活動を行っている。(甲A1、甲A29〔5頁、7~8頁〕、甲A34〔4頁〕、甲A39[53~54頁〕、弁論の全趣旨)
⑵ 本件ターミナル駅新設工事について
ア 本件ターミナル駅新設工事の特徴等
リニア中央新幹線建設工事は、駅新設工事(ターミナル駅新設工事、途中各駅の新設工事)、南アルプス等の山岳トンネルの新設工事、同トンネルの掘削機材の搬出入口としても利用される非常口新設工事等に大別される。各工事は、工事の特性、地形状況、難易度等によって工区が分けられ、工区ごとに契約の方式や期間が設定されていた。(弁論の全趣旨)
イ 本件ターミナル駅新設工事の発注に至る経過について
(ア) 工事発注前の調査設計及び概略設計その他の事前検討
JR東海は、平成20年5月、中央新幹線整備計画の立案のため、子会社である≪E≫株式会社(以下「≪E≫」という。)に対し、品川駅、名古屋駅、神奈川県駅及び山梨県駅に関する調査設計業務(JR東海が計画する建築物や土木構造物をいかなる方法でどの程度の工期・工事費をかけて造り上げるのかを検討する業務)を委託した。
≪E≫は、当初、上記4駅に関する調査設計業務について、原告大成建設の関係会社に再委託したが、平成21年以降、品川駅に関する調査設計業務については、大林組から紹介された会社に再委託した。
(以上につき、乙1〔1~5頁、10頁〕)
その後、JR東海は、上記各調査設計業務で得られた大まかな設計の内容をより深度化し、発注時に競争参加者に交付する設計図書として用いることができる程度に具体的な内容にすることを目的として、品川駅及び名古屋駅の新設工事に係る概略設計業務を順次≪E≫に委託した。
概略設計業務については、原告大成建設及び大林組やこれらの関係会社が請負契約の当事者となることはなかったが、JR東海は、原告大成建設に対し名古屋駅新設工事について、大林組に対し品川駅新設工事について、それぞれ技術的な検討を依頼し、原告大成建設及び大林組は、これを受けて、概略設計段階以降においてもそれぞれ技術的な検討を行った。
(以上につき、甲A3〔12頁〕、甲A8、甲A15〔6~7頁〕、甲A17〔4頁〕、甲A25〔22、26~31頁〕、甲A29〔3頁〕、甲A30〔資料2~資料6〕、甲A36、甲A37、乙1[17~20頁〕、乙4〔資料1〕)
以上の次第で、原告大成建設は名古屋駅新設工事について、大林組は品川駅新設工事について、それぞれ、調査設計業務を含め、出件前に技術的検討(事前検討)を行った。(弁論の全趣旨)
(イ) 平成25年11月、ゼネコンへの検討依頼禁止通知の発出
JR東海の社内においては、平成25年11月1日、特定のゼネコンから技術提案を受けることについて、特定のゼネコンが技術的検討を行うことで、当該ゼネコンが持つ技術や情報の面で他のゼネコンより過度に優位に立つと、発注手続における競争の公平性を確保して徹底したコストダウンを図ることが困難になりかねないとの考慮から、同月以降、新たにゼネコン各社に技術的検討を依頼することを原則として禁止することなどを内容とする指示が出された。(甲A29〔3頁〕、乙2〔8~10頁、資料②〕、乙4〔2~14頁〕、乙5〔1~15頁〕)
(ウ) 総合評価型指名競争見積方式の採用
JR東海は、平成26年12月、本件ターミナル駅新設工事を含む鉄道運転保安に直結する工事については基本的に指名競争見積りの方法により、それ以外の工事については公募競争見積りの方法により、それぞれ出件するという方針を決め、「指名競争見積方式及び公募競争見積方式による工事事務取扱要領」を発出した。
指名競争見積方式とは、競争参加者を指名して、技術提案に係る具体的な施工計画(技術提案)、工事全般の施工計画としての工程表及び工程表に係る技術的説明、配置予定技術者の能力に関する確認資料並びに参考見積書を受け付け、価格と技術提案等を総合的に評価して協議先を選定し、協議を行った上で随意契約をする方式であり、公募競争見積方式とは、競争参加者を公募し、多数の者から技術提案等と見積書を受け付け、価格と技術提案等を総合的に評価して協議先を選定し、協議を行った上で随意契約をする方式を指すものとされた。
(以上につき、乙3〔10~13頁、資料④〕)
そして、JR東海は、指名競争見積方式については、競争に参加する事業者の技術提案等の内容と見積価格を評価して第1順位の価格協議先を決定するという方式(総合評価型)を採用した。これは、具体的には、⑴JR東海に設置された技術評価委員会において、競争参加資格を満たす者に一律に「標準点」(100点)を付与し、これに、各参加事業者について、①「工事全般の施工計画」、②「配置予定技術者の能力」及び③「技術提案に係る具体的な施工計画」の審査を行い、「加算点」(10点満点)を加えて、競争参加者ごとに「評価点」(最高110点)を算出する、⑵その上で、競争参加者に「正式見積書」の提出を求め、当該「評価点」を「正式見積書」記載の見積価格で除した「評価値」が最も高い者を第1順位の価格協議先に選定する、というものであった。(乙3〔13~22頁〕、乙7〔19~23頁〕、乙8〔7~10頁〕、乙11〔14頁〕、乙12〔4~5頁〕、乙13〔11~12頁〕)
(エ) 指名競争見積手続の概要
本件ターミナル駅新設工事に係る指名競争見積手続の概要は、基本的には以下のとおりである。
① JR東海は、同社内に設置された請負業者選定委員会において複数の事業者を競争参加者として選定する手続を経た上で、当該事業者に対して見積通知を行う。競争参加者は、指定された期限までに、JR東海に対し、参考見積書、技術提案書等を提出する。
② JR東海は、競争参加者に対し、参考見積書、技術提案書等に関するヒアリングを行い、必要に応じ、改善された参考見積書、技術提案書等の提出を受ける。
③ 前記(ウ)のとおり、JR東海の技術評価委員会は、各競争参加者に対し、標準点(100点)を付与した上、技術提案書等を評価し、加算点(10点満点)を算出して付与する。JR東海は、各競争参加者から提出された参考見積書の見積価格を参考にして、契約金額の上限となる基準価格を設定する。
④ 競争参加者は、指定された期限までに、JR東海に対し、正式見積書を提出する。
⑤ 前記(ウ)のとおり、JR東海は、上記標準点に加算点を加えた数値を正式見積書の見積価格で除して評価値を算出し、評価値の最も高い競争参加者を第1順位の価格協議先として選定する。
⑥ JR東海は、第1順位の価格協議先と価格協議を行い、協議が調えば、請負契約を締結し、協議が調わなかった場合には、第2順位の競争参加者と価格協議を行う。
(以上につき、乙3〔14~22頁、24~26頁、資料④の別紙1、資料⑥〕、乙7〔19~21頁〕、乙8〔7~12頁〕、乙11〔11~19頁〕、乙15〔3~4頁〕)
⑶ 本件ターミナル駅新設工事の出件から受注に至る経過の概要
ア 品川駅新設工事について
JR東海は、平成26年12月25日、品川駅新設工事を北側と工事桁架設を含む南側の工区に分け、「中央新幹線品川駅北工区新設」(以下「品川駅北工区工事」という。)及び「中央新幹線品川駅南工区新設」(以下「品川駅南工区工事」という。)として、4社を競争参加者とする指名競争見積りの方式で出件した。その後、4社からJR東海に技術提案書等や正式見積りが提出されたが、いずれの見積価格もJR東海が定める基準価格を大幅に上回っており、この見積り合わせは不調に終わった。
その後、JR東海は、平成27年8月19日、品川駅北工区工事及び品川駅南工区工事について、それぞれ工事の一部の工程を切り出して前半部分のみを出件すること、また、第1順位の価格協議先の選定方法に関し、前記⑵イ(エ)の内容を変更し、技術提案書等を考慮した評価値を用いず、単純に最も安値の見積価格を提出した事業者とする選定方法に変更することを決め、「中央新幹線品川駅新設(北工区)」(以下「条件変更後の品川駅北工区工事」という。)及び「中央新幹線品川駅新設(南工区)」(以下「条件変更後の品川駅南工区工事」という。)として、4社を競争参加者とする指名競争見積りの方式により出件した。
(以上につき、甲A5〔123頁〕、甲A34〔59~61頁〕、乙8〔2頁、17~33頁〕、乙14〔5~8頁、16~20頁〕)
この見積り合わせにおいて、条件変更後の品川駅北工区工事については清水建設が、条件変更後の品川駅南工区工事については大林組が、それぞれ第1順位の価格協議先となった。その各価格協議の結果、JR東海は、平成27年9月16日に清水建設との間で条件変更後の品川駅北工区工事について工事請負契約を締結し、同年10月21日に大林組との間で条件変更後の品川駅南工区工事について工事請負契約を締結するに至った。(乙14〔28~32頁、資料⑫、資料⑬〕)
イ 名古屋駅新設工事について
JR東海は、平成27年4月24日、「中央新幹線名古屋駅新設(中央工区)」(以下「名古屋駅中央工区工事」という。)として、4社を競争参加者とする指名競争見積りの方式により出件した。ところが、同年5月下旬、大林組が競争参加辞退を申し入れ、翌月に大林組の競争参加辞退が決まり、その後、JR東海は、契約価格の上限となる基準価格を設定する際の参考とするための参考見積書の提出を原告大成建設、原告鹿島建設及び清水建設から受けたものの、いずれもJR東海の想定する予算額を大幅に超えていたことから、当該指名競争見積手続を中止した。(乙2〔18~20頁〕、乙10〔14~15頁、21頁)、乙38〔5頁〕、乙93〔2~14頁〕)
その後、JR東海は、平成27年11月下旬から12月上旬にかけて、原告大成建設及び原告鹿島建設に対し、名古屋駅中央工区工事の一部の工程を切り出した工事(以下「名古屋駅中央工区1期工事」という。)について、参考見積りの提出を依頼した。また、JR東海は、平成28年1月上旬、競争参加を辞退していた大林組に対しても、名古屋駅中央工区1期工事のうち連壁工事に関する見積依頼を行い、大林組はこれに応じた。その後、同年2月上旬、JR東海から大林組に対し、指名競争見積手続への参加を要請し、大林組はこれを受諾した。(乙11〔3~7頁〕)
JR東海は、平成28年3月10日、名古屋駅中央工区1期工事を更に中央西工区と中央東工区に分割し、前者を「中央新幹線名古屋駅新設(中央西工区)」(以下「名古屋駅中央西工区工事」という。)として、原告大成建設及び大林組を競争参加者とする指名競争見積りの方式により出件した。(乙2〔27~28頁〕、乙11〔7~11頁〕、乙112〔45~51頁〕)
当初の見積り合わせでは、原告大成建設の見積価格が大林組より安値であったが、JR東海は、各当事者が提出した見積書にJR東海が定めた条件に反している部分があったことから、両者に対し修正見積書の提出を依頼したところ、修正後の見積価格は大林組の方が安値になったことから、大林組が第1順位の価格協議先となった。その価格協議の結果、JR東海は、平成28年9月6日、大林組との間で、名古屋駅中央西工区工事について工事請負契約を締結するに至った。(乙11〔31~54頁、64~67頁、資料⑱〕、乙113〔36頁〕、乙130〔1~25頁〕)
⑷ 東京地検による捜査及び被告による調査の開始等
平成29年12月8日、リニア中央新幹線に係る建設工事についての偽計業務妨害罪の疑いにより、大林組が東京地方検察庁による捜索及び差押えを受け、これが報道された。(甲A1、弁論の全趣旨)
大林組及び清水建設は、被告による調査開始日である平成29年12月18日以後に、独禁法7条の2第12項の規定に基づく課徴金減免申請を行った。(弁論の全趣旨)
⑸ 本件排除措置命令
被告は、令和2年12月22日、要旨、4社が、遅くとも平成27年2月頃以降、リニア中央新幹線に係る地下開削工法による品川駅及び名古屋駅の新設工事(本件ターミナル駅新設工事)について、受注価格の低落防止等を図るため、受注予定者を決定し、受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるようにする旨の合意(本件合意)をすることにより、公共の利益に反して、本件ターミナル駅新設工事の取引分野における競争を実質的に制限しており、これが独禁法2条6項の不当な取引制限に該当し、独禁法3条に違反する(本件違反行為)として、4社に対し、独禁法7条2項1号に基づき、本件排除措置命令をした。(甲A1)
⑹ 刑事事件関係
大林組、清水建設、原告大成建設及び原告大成建設の土木営業本部営業部統括営業部長であった≪A1≫(以下「≪A1≫」という。)並びに原告鹿島建設及び原告鹿島建設の土木営業本部副本部長であった≪B1≫(以下「≪B1≫」という。)は、平成30年3月23日、被告による告発を受けた上、東京地方検察庁による起訴を受けた(東京地方裁判所平成30年特(わ)第605号)。
東京地方裁判所は、大林組及び清水建設の事件を分離し、平成30年10月22日、大林組に対し罰金2億円、清水建設に対し罰金1億8000万円の判決を言い渡し、その後、同判決は確定した。
また、東京地方裁判所は、令和3年3月1日、原告大成建設及び原告鹿島建設に対しそれぞれ罰金2億5000万円、≪A1≫及び≪B1≫に対しそれぞれ懲役1年6月、執行猶予3年の判決を言い渡した。これら4名は控訴したが、令和5年3月2日、各控訴が棄却されたため(東京高等裁判所令和3年(う)第784号)、この刑事事件は、現在上告審に係属している(最高裁判所令和5年(あ)第395号)。
(以上につき、甲A115、甲A116、甲A122、弁論の全趣旨)
⑺ 本件訴訟の提起
原告大成建設は、令和3年3月1日、被告を相手に、本件排除措置命令のうち、原告大成建設に対して排除措置を命ずる部分の取消しを求める第1事件に係る訴えを提起した。
原告鹿島建設は、令和3年6月21日、被告を相手に、本件排除措置命令のうち、原告鹿島建設に対して排除措置を命ずる部分の取消しを求める第2事件に係る訴えを提起した。
(以上につき、顕著な事実)
2 争点
⑴ 4社における本件合意(本件ターミナル駅新設工事について、受注予定者を決定し、受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるようにする旨の合意)の成否(争点1)
⑵ 本件合意が「不当な取引制限」(独禁法2条6項)に該当し、独禁法3条に違反するものであるか否か
ア 不当な取引制限が成立する前提としての「競争」(独禁法2条4項)が存在したか否か(争点2)
イ 本件合意により、本件ターミナル駅新設工事という「一定の取引分野」における「競争を実質的に制限」(独禁法2条6項)したか否か(争点3)
ウ 「共同して」「相互にその事業活動を拘束」(独禁法2条6項)といえるか否か(争点4)
エ 「公共の利益に反して」(独禁法2条6項)といえるか否か(争点5)
⑶ 本件排除措置命令が独禁法7条2項の「特に必要があると認めるとき」の要件を充足するか否か(争点6)
⑷ 本件排除措置命令について、被告が刑事裁判における証拠等を検証していなかったことが、考慮不尽という違法事由を構成するか否か(争点7)
3 争点に対する当事者の主張
⑴ 4社における本件合意の成否(争点1)
(被告の主張)
以下の事実から、4社において、遅くとも平成27年2月頃までに、品川駅北工区工事は清水建設が、品川駅南工区工事は大林組が、名古屋駅新設工事のうち、中央及び西側の工区は原告大成建設が、東側の工区は原告鹿島建設が、それぞれ受注予定者となること、受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるように協力することが決定されたものであり、本件合意が成立したことが認められる。
ア 原告大成建設においてリニア中央新幹線建設工事の営業を統括し、執行役員土木営業本部副本部長を務めていた≪A1≫と原告鹿島建設で当該工事の営業を統括し土木営業本部次長(後に同本部副本部長)を務めていた≪B1≫らは、平成23年11月頃から面談を重ね、リニア中央新幹線建設工事の工区割りの予想や、各社の各工事に関する受注意欲等に関して情報交換を行うなどしていた。面談の場で、≪A1≫や≪B1≫らは、平成25年頃までに、本件ターミナル駅新設工事について、いずれ大林組及び清水建設にも話を持ち掛け、4社で受注調整を行い、原告大成建設及び原告鹿島建設の両者が受注を希望していた名古屋駅新設工事については、中央、西側及び東側の3工区に分割して出件されるという想定の下、中央及び西側の工区を原告大成建設が受注し、東側の工区を原告鹿島建設が受注することを話し合っていた。また、品川駅新設工事については、2工区に分割されて出件されるという想定の下、大林組と清水建設に割り振ることを確認した。
イ ≪A1≫、≪B1≫及び大林組の土木部門の最高責任者であり専務執行役員土木本部長(平成27年6月以降は代表取締役副社長土木本部長)を務めていた≪C1≫(以下「≪C1≫」という。)の3名は、平成26年4月21日及び同年5月21日、東京都内の飲食店で会合を開催した。
上記3名は、同年4月21日に開催された会合では、リニア中央新幹線建設工事を受注するに当たり、各社が協力して価格競争を避けなければならないという話をするとともに、今後も、原告大成建設、原告鹿島建設及び大林組の3社の担当者による会合(以下「3社会合」という。)を継続することを確認した。
ウ 3社会合においては、本件ターミナル駅新設工事及びその他のリニア中央新幹線建設工事について、想定される工事ごとに4社の受注希望工事を割り振った各一覧表(以下「希望工区一覧表」という。)が作成され、これに基づき、名古屋駅新設工事を原告大成建設と原告鹿島建設で分け合うこと、品川駅新設工事については、1工区で出件されるという想定の下、大林組が受注することが確認された。また、4社に対する指名競争見積方式で出件された場合には、自社が受注を希望しない工事であっても指名を辞退するわけにはいかないことから、受注予定者が受注できるように互いに協力し合うことなどが確認された。
エ その後、JR東海が、品川駅新設工事について、品川駅北工区工事及び品川駅南工区工事に分け、4社を競争参加者とする指名競争見積りの方式により出件したことから、3社会合においては、品川駅南工区工事を大林組が、品川駅北工区工事を清水建設が、それぞれ受注予定者となること、受注予定者以外の者はその受注に協力することを確認した。
オ 清水建設の≪D1≫(以下「≪D1≫」という。)は、平成27年1月20日、大林組本社を訪れて≪C1≫と面談し、清水建設も原告大成建設、原告鹿島建設及び大林組の受注調整の枠組みに参加する旨を伝えた。
この面談後、≪C1≫は、平成27年2月までに、原告大成建設の≪A1≫に対し、清水建設も受注調整の枠組みに加わる旨の回答を≪D1≫から受けたことを報告した。
カ 清水建設の≪D1≫は、平成27年2月20日、大林組の≪C1≫と面談した。この場で、≪D1≫と≪C1≫は、4社の間では、単に見積価格を連絡し合うのみならず、その積算の基礎となる資料や見積価格の内訳が分かる資料等についても、相互に情報提供し合うことで、JR東海に価格の引下げを求める材料を与えないようにし、受注予定者の希望に沿った価格で受注できるよう協力することを確認した。
キ 以上の事実からすれば、遅くとも平成27年2月頃までに、本件ターミナル駅新設工事における指名競争見積りの競争参加者である4社の間で、本件ターミナル駅新設工事に関して、受注価格の低落防止等を図るため、受注予定者を決め、受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるようにする旨の合意(本件ターミナル駅新設工事に関して、取決めに基づいた行動をとることを互いに認識し認容して歩調を合わせるという「意思の連絡」)、すなわち本件合意が成立したと認められる。
(原告大成建設の主張)
原告大成建設の≪A1≫が、平成23年11月から平成25年頃までの間に、複数回にわたり原告鹿島建設の≪B1≫と面会していた事実は存在するが、これら2名が、本件ターミナル駅新設工事について、受注調整のための情報交換を行う目的で会合を開催した事実や、受注調整につながる情報交換を行った事実は存在しない。
また、原告大成建設、原告鹿島建設及び大林組の3社の関係者が、平成26年4月頃から平成29年10月頃までの間、複数回にわたり面会し、リニア中央新幹線建設工事について話をした事実は存在するが、工区割り、発注方式、発注時期等に関するJR東海の検討状況やJR東海の意向により各建設会社が検討を依頼されている工区の技術的検討等の状況について話をしたにとどまり、本件ターミナル駅新設工事について、受注調整のための情報交換を行う目的で会合を開催したとか、受注調整につながる情報交換を行ったという事実は存在しない。原告大成建設の≪A1≫が、3社会合において、原告鹿島建設の≪B1≫及び大林組の≪C1≫に対して、各社の技術的検討状況をまとめた一覧表を交付した事実は存在するが、当該一覧表は、≪A1≫が、JR東海関係者の依頼を受けて、各社の技術的検討状況を一覧にしたものにすぎず、本件合意を行うために作成・交付されたものではない。3社の者の間で当該一覧表に基づいて話合いが行われた事実はなく、当該一覧表を通じて本件合意が形成された事実は存在しない。
さらに、清水建設を含めた4社の間で、本件合意に関する話合いがされた事実は存在しない。
なお、大林組及び清水建設の関係者は、4社の間で、本件合意が成立した旨を供述するが、かかる供述は、そもそも抽象的なものであることに加えて、大林組及び清水建設関係者が捜査段階で置かれていた立場を踏まえると、信用できない。
(原告鹿島建設の主張)
原告鹿島建設の≪B1≫が、平成26年4月以降、原告大成建設、大林組の役員、従業員と会合を持っているが、その内容は、およそ受注調整の性質を持つものではなく、本件で問題となっている品川駅及び名古屋駅の各工事について受注予定者を決定するといった性質を持つものではない。
また、≪B1≫が他の3社の従業者から、本件ターミナル駅新設工事に係る積算資料を受け取ったり見積価格の連絡を受けたりした事実があるとしても、本件ターミナル駅新設工事に関して事前準備を行っていない原告鹿島建設のような事業者は、必要な施工計画を策定することができないために適正な見積りを作成することのできる前提を欠いていたところ、≪B1≫は、積算担当者が見積作業に苦慮している状況を憂慮し、事前準備を行っていたゼネコンの積算資料や見積価格を参考にすることができれば積算担当者の負担軽減になるとの考えの下、事前準備を行っていた大林組の従業員である≪C2≫(以下「≪C2≫」という。)らからの申入れに応じたにすぎない。したがって、≪B1≫が、他社との間で見積価格等の連絡を行った事実それ自体から本件合意の成立を推認することはできない。
さらに、本件においては、専らJR東海の行為に起因して、本件合意が成立したとされる時点よりも前に、受注に係る「競争」が存在しない状況になっていた以上、仮に、≪B1≫が他3社との間で見積価格等の連絡を行うなどして何かしらの合意に及んでいたとしても、それは、JR東海の意向に沿って事前準備を行っていた特定のゼネコンがそれぞれ担当する工区を順次受注・施工することになり、事前準備を行っていないゼネコンが受注することは予定されていないという公知の事実を確認していたにすぎず、事業者側で本件ターミナル駅新設工事の受注予定者を差配しようとする認識を持っていたものではなかった。
そうである以上、≪B1≫が、受注予定者を決定する旨の本件合意に関与したものとは全く認められない。
⑵ 不当な取引制限が成立する前提としての「競争」(独禁法2条4項)が存在したか否か(争点2)
(被告の主張)
独禁法は、自由競争経済秩序の維持を目的とし、事業者の競争的行動を制限する人為的制約の除去と事業者の自由な活動の保障を旨とするものであるところ、本件違反行為は、本件ターミナル駅新設工事における指名競争見積りの競争参加者である4社によるものであるから、4社の間に競争が存在し、それが制限されたことは明らかである。
独禁法2条6項の「競争を実質的に制限する」とは、独禁法1条の目的及び不当な取引制限の規制の趣旨等からすれば、市場が有する競争機能を損なうことを指すものと解されるのであり、被告は、事業者間において競争関係があることを定義するにすぎない独禁法2条4項の「競争」を同条6項の「競争」に形式的に当てはめて「競争を実質的に制限する」を解釈しているわけではない。もっとも、同条4項の「競争」についてみても、競争の本質は供給者及び需要者が取引の機会を得ようとして努力すること、相対的に競争相手に勝る品質・価格等について相手方に提示することにあり、また、独禁法や不当な取引制限の規制の目的は、市場メカニズムを損なうような人為的制約を除去することによって市場において可能な限り競争機能を発揮させようとすることにあることからすれば、同項の「競争」は、事業者が、その市場において役務を供給できる状態にあること(供給できる可能性)で足りると解される。そして、4社は、本件ターミナル駅新設工事において役務を供給できる状態にあった(供給可能性を有していた)ものであり、4社の間に競争が存在したことは、原告らが主張する独占禁止法2条4項の規定に照らしても明らかである。
原告らが述べる、事前の技術的検討をしていなければ合理的な見積書を作成できない(応札能力の欠如)とか、事前の技術的検討をしていなければ工期内に安全、確実に施工することが現実的に不可能である(施工能力の欠如)といった事情をもって本件ターミナル駅新設工事における指名競争見積りの競争参加者である4社の間に「競争」がなくなるとはいえない。そのような事情は、単に事業者間における品質の差に関する事情を述べるものであって、事業者が提供する価格差・品質差は市場メカニズムによって淘汰されるべき問題にすぎない。
(原告大成建設の主張)
独禁法上の競争が存在すると認められるためには、商品役務の供給可能性が抽象的に認められるのでは足りず、(ⅰ)発注者が定めた提出期限内に、最低限の水準を満たす役務供給(すなわち、工期内の安全かつ確実な施工)を前提とした見積り及び施工計画・技術提案等を作成する現実的・実質的な可能性が認められ、かつ、(ⅱ)工期内に安全かつ確実に最低限の水準を満たす施工を行う現実的・実質的な可能性が認められることが必要である。そして、供給可能性が認められるか否かについては、個別工事ごとに判断されるものと解される。
本件ターミナル駅新設工事については発注者であるJR東海は、出件のはるか以前から、特定の建設会社に依頼して技術的検討を行わせており、当該建設会社に発注する意向を有していたところ、事前の技術的検討を行っていない建設会社が、(ⅰ)発注者が定めた提出期限内に、最低限の水準を満たす役務供給を前提とした見積り及び施工計画・技術提案等を作成し、(ⅱ)工期内に安全かつ確実に最低限の水準を満たす施工を行うことは現実的に不可能であって、受注可能な建設会社は特定の建設会社1社に絞られていた。
したがって、本件ターミナル駅新設工事については、2以上の事業者がその通常の事業括動の範囲内において、かつ、当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく、同一の需要者に同種又は類似の商品又は役務を供給することができる状態にあったとはいえないから、不当な取引制限が成立する前提としての「競争」が存在していたとは認められない。
(原告鹿島建設の主張)
本件ターミナル駅新設工事は、純粋な民間発注工事であって、「競争」の枠組みが各法令(会計法、地方自治法等)で定められている公共工事とは、独禁法上の不当な取引制限が前提とする「競争」の内容が大きく異なる。本件ターミナル駅新設工事は、特有の事情(すなわち未曽有の難工事であり、工事を安全確実に施工するために相当の期間を要する事前準備を着工までに終えていることが必要であり、事前準備に不十分・不足があれば施工会社の存亡にもかかわる甚大な損害を伴う施工上の事故を生じさせるリスクが極めて高いという事情)があり、事前準備をしていないゼネコンがこれを施工することは現実的に不可能であって、ゼネコンの「通常の事業活動の範囲」(独禁法2条4項)を明らかに超えるものである。本件ターミナル駅新設工事について、計画開始時には複数のゼネコン間に「競争」の余地は存在していたが、専らその後のJR東海の行為により、遅くとも、被告が本件合意の成立時期として主張する平成27年2月時点までには、ゼネコン間に「競争」が存在しない状況となっていたことは明らかであり、当該状況は、被告が主張するような4社が作り出したものではない。
⑶ 本件合意により、本件ターミナル駅新設工事という「一定の取引分野」における「競争を実質的に制限」(独禁法2条6項)したか否か(争点3)
(被告の主張)
4社による本件合意が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲は、「JR東海が4社又は4社のうちの複数社を指名して指名競争見積りにより順次発注する、リニア中央新幹線に係る地下開削工法による品川駅及び名古屋駅の新設工事」であり、これが本件における一定の取引分野となる。
本件合意が対象としている取引である本件ターミナル駅新設工事は、「4社又は4社のうちの複数社を指名して競争見積りにより順次発注する」地下開削工法による品川駅及び名古屋駅の新設工事であり、本件合意により、当事者である4社がその意思で本件ターミナル駅新設工事における受注者及び受注価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされたといえるから、当該取引に係る市場が有する競争機能が損なわれたことは明らかである。
なお、実際、本件ターミナル駅新設工事のうち、条件変更後の品川駅北工区工事及び条件変更後の品川駅南工区工事は、本件合意に基づく見積価格の連絡により、受注予定者である清水建設及び大林組がそれぞれ受注している。また、名古屋駅中央西工区工事は、結果として受注予定者である原告大成建設は失注したものの、大林組と原告大成建設は、原告大成建設が受注できるようにするために、正式見積書提出の直前まで自社の見積価格を相互に連絡するなどしていることは、本件ターミナル駅新設工事の取引分野において、本件合意が有効に機能し、上記の状態をもたらしていたことを実証的にも裏付けるものである。
したがって、本件合意が、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」との要件を充足することは明らかである。
(原告大成建設の主張)
本件において、事前の技術的検討や技術開発を行っていない建設会社が、本件ターミナル駅新設工事の出件後、期限内に合理的な施工計画を策定の上、見積りを行うことは現実的に不可能であり、また、本件ターミナル駅新設工事を受注した上で、工期内に安全・確実に施工することも現実的に不可能であった。本件ターミナル駅新設工事において、形式上、競争見積手続が採用されていたが、JR東海が意中の建設会社に受注させることが可能な仕組みとなっており、上記事情から、JR東海は、本件ターミナル駅新設工事について、事前に技術的な検討を実施していた建設会社に対して発注することをあらかじめ決めていたから、4社間のやり取り(原告大成建設の≪A1≫らの行為)は、受注者の決定に影響を与えていない。また、JR東海は、受注金額が自ら設定した工事予算・基準価格に合うようにするため、見積条件を変更して見積書を複数回提出させたり、見積書提出後に個別交渉を行うことなどにより、建設会社の見積金額を引き下げさせようとし、それでも見積金額が下がらない場合には、工区や工期を区切るなどして、工事予算の範囲内で契約を締結できるように操作しており、4社間のやり取り(≪A1≫らの行為)は最終的な受注金額に影響を与えていない。
以上に照らせば、仮に本件合意が成立していたとしても、これにより、4社がその意思で本件ターミナル駅新設工事に係る市場における受注者及び受注価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされたとは認められないし、仮に上記市場における競争の実質的制限が認められたとしても、≪A1≫らの行為ないし本件合意と競争の実質的制限との間に因果関係は認められない。
したがって、本件合意により「一定の取引分野における競争を実質的に制限」したとはいえない。
(原告鹿島建設の主張)
ア 本件ターミナル駅新設工事を構成する品川駅新設工事と名古屋駅中央工区工事は、既設駅の地下を大規模に掘削してリニア中央新幹線の駅を新設するという難度の極めて高い工事であり、施工期間も10年を超える大規模な工事である一方、いずれもJR東海を取引先とする1回限りの工事であり、地域的な広がりや時間的な継続性のない取引である。
両工事は、いずれもリニア中央新幹線関連工事の一部として出件された工事ではあるものの、駅工事であること以外に質的な共通点は全く存在しない以上、この2つの工事又はそれらについて行われた指名競争見積手続の存在をもって地域的又は時間的に連続性のある一つの「市場」が形成されていたとみることには無理がある。
したがって、本件ターミナル駅新設工事によって「一定の取引分野」が成立すると解することはできない。
イ 本件においては、本件合意が成立したとされる時点より前に、発注者であるJR東海自身により本件ターミナル駅新設工事のいずれについても受注に関する「競争」が存在しない状況が作出されていた。
したがって、仮に、本件合意が成立していたとしても、もともと競争性が存在しなかった以上、これにより独禁法上の競争の実質的制限がもたらされたと認める余地はない。
加えて、実際には、本件ターミナル駅新設工事に係る指名競争見積手続は、その開始から結末に至るまでの全ての面において、JR東海の裁量が働くものであった以上、4社の意思で受注者及び受注価格の決定をある程度自由に左右し得る状態がもたらされていたものとは到底考えられない。
したがって、本件合意により「競争を実質的に制限する」との要件を満たさない。
⑷ 「共同して」「相互にその事業活動を拘束」(独禁法2条6項)といえるか否か(争点4)
(被告の主張)
前記⑴のとおり、本件合意が成立したと認められることから、4社の間には「意思の連絡」があったと認められ、「共同して」の要件を充足する。
また、本件合意により、本来自由にされるべき4社の本件ターミナル駅新設工事に係る事業活動が事実上制約されて行われることとなるから、本件合意は、4社における各社の事業活動を相互に拘束するものであることは明らかである。したがって、本件合意は、「相互にその事業活動を拘束」の要件を充足する。
(原告大成建設の主張)
本件ターミナル駅新設工事について、どの建設会社が受注・施工するかはJR東海の意向により、あらかじめ決定されていたため、建設会社間で受注調整を行っても無意味であるから、≪A1≫が、≪B1≫、≪C1≫、≪C2≫及び≪D1≫との間で、本件ターミナル駅新設工事につき、受注予定者を決定する旨合意した事実や何らかの共通認識が形成された事実は存しない。
また、≪A1≫と≪C1≫らとの間では本件ターミナル駅新設工事に関する情報交換がされていたものの、≪A1≫には、原告大成建設内において本件ターミナル駅新設工事の指名競争見積手続に参加するか否かの決定権限及び提出見積価格の決定権限が認められていなかったから、≪A1≫と≪C1≫らとの間での情報交換が、「共同して・・・相互にその事業活動を拘束」したものとはいえない。
したがって、仮に本件合意が成立していたとしても、これは、「共同して」「相互にその事業活動を拘束」の要件を充足しない。
(原告鹿島建設の主張)
≪B1≫は、原告鹿島建設において、具体的な工事について応札するか否かを決定する権限を有しておらず、目標工事を絞り込む際の決定権限すら有していなかった。また、品川駅新設工事及び名古屋駅新設工事については、JR東海から原告鹿島建設に対して一切情報提供がなく、特定の事業者がJR東海の意向を受けて全面的に協力しており、JR東海が両工事を原告鹿島建設に受注させないことが明らかであったことから、両工事を原告鹿島建設の目標工事として取り上げる余地はなかった。そのため、仮に本件合意が成立していたとしても、原告鹿島建設は、独自の判断により当該行動をとっていたことが明らかであるから、本件合意により事業活動の影響を受けたとは認められない。原告鹿島建設の事業活動に対する意思決定が制約を受けたとはいえず、本件合意によりその事業活動を他の事業者と相互に「拘束」したという事実はない。
したがって、仮に本件合意が成立していたとしても、これは、「共同して」「相互にその事業活動を拘東」の要件を満たさない。
⑸ 「公共の利益に反して」(独禁法2条6項)といえるか否か(争点5)
(被告の主張)
本件合意は、自由競争経済秩序に明確に反する受注調整であり、「公共の利益に反して」(独禁法2条6項)に該当することは明らかである。
(原告大成建設の主張)
リニア中央新幹線建設工事の中でも、本件ターミナル駅新設工事は技術的難易度が極めて高い工事であり、リニア中央新幹線建設工事の受注に耐えうるだけの技術力・資金力・施工余力を備えた建設会社による事前の技術的検討が行われなければ、限られた工期内に安全・確実に施工を完遂させることはできなかった。また、技術的検討や実際の施工に要する人員・コストに照らし、一つの建設会社が本件ターミナル駅新設工事の全てにつき技術的検討及び施工を行うことは現実的でなく、高い技術力・資金力・施工余力を備えた建設会社が、事前検討及び施工を分担するのでなければ、定められた工期内に安全・確実に施工すること自体が困難であった。
このように、むしろ、4社の行為により、限られた工期内に、難易度の極めて高いリニア中央新幹線建設工事の施工を安全・確実に完遂させることができたという利益が生じたところ、当該利益は、国民経済の民主的で健全な発達を促進する観点から望ましいものであったといえる。
以上からすれば、本件合意は「公共の利益に反して」の要件を充足しない。
⑹ 本件排除措置命令が独禁法7条2項の「特に必要があると認めるとき」の要件を充足するか否か(争点6)
(被告の主張)
本件は、JR東海から競争参加者として指名を受けた4社による受注調整である上、原告大成建設と原告鹿島建設は、平成23年11月頃から、本件ターミナル駅新設工事に関する受注希望工区を確認するなどの情報交換を行ってきたこと、平成26年4月以降、定期的に3社会合を開催したり、相互に個別に連絡を取り合い、名古屋駅中央西工区工事の正式見積書提出の直前まで原告大成建設と大林組の正式見積価格に関する情報交換が続いていること等からして、4社の協調関係は極めて強固なものである。
また、本件合意は、平成29年12月8日、東京地方検察庁が非常口新設工事に係る偽計業務妨害の疑いで大林組を捜索したことを契機として事実上消滅したものであり、4社が自発的に取りやめたものではない。
さらに、原告大成建設は、過去に複数の独禁法違反行為に関わり、被告から独禁法違反行為の取りやめ及び将来にわたっての不作為を命ずる審決又は排除措置命令のほか課徴金納付命令を受けているばかりか、平成17年12月頃には、4社はいわゆる「談合決別宣言」をしたにもかかわらず、その後も、平成19年11月に、名古屋市が発注する地下鉄工事の入札参加業者らに対する件において4社はいずれも被告から行政処分を受け、更に今回、またしても本件違反行為に及んだものである。
しかも、本件違反行為にはコンプライアンスを徹底すべき立場の役員や執行役員(原告大成建設の≪A1≫は、本件違反行為当時、原告大成建設の常務執行役員の地位にあった。)が関与していた。
以上によれば、本件排除措置命令は、「特に必要があると認めるとき」(独禁法7条2項)の要件を充足する。
(原告大成建設の主張)
原告大成建設において、本件排除措置命令でいわれているような合意(本件合意)やそれと同一性を有する行為を行うことは、独禁法違反に当たり許されないとの認識が改めて徹底化されたから、会社として、同業他社と接触して競争見積物件ないし競争入札物件につき情報交換を行うことはあり得ないし、個々の従業員も、会社の監視の目を免れて本件合意のような情報交換を行うことも不可能となった。
さらに、JR東海は、近時、リニア中央新幹線建設工事の発注に先立ち、あらかじめ、各社に対して手続への参加の意向確認を行うようになっており、受注を回避したい各社が、期限内に、合理的な施工計画の作成及び積算業務を完了できないにもかかわらず、指名を受けたことにより見積りを提出せざるを得ないといった事態に追い込まれることもなくなったから、4社が積算情報等に関する情報交換を行う動機も消失した。
上記各事情を踏まえれば、今後、本件排除措置命令の対象とされた受注調整行為やそれと同一性を有する行為が行われるおそれがあるとは認められないし、本件における4社の行為の結果が残存しているような事情があるとも認められない。
したがって、排除措置を命ずる「特に必要があると認めるとき」の要件を充足しないから、本件排除措置命令は違法である。
(原告鹿島建設の主張)
本件ターミナル駅新設工事は、工区分割や工区の一部を切り出して出件するという形がとられているものの、1回限りの地域的・時間的な連続性のない単独の工事であることに変わりはない。また、平成27年10月までに条件変更後の品川駅北工区工事及び条件変更後の品川駅南工区工事について請負契約が締結済みであり、平成28年9月には名古屋駅中央西工区工事及び名古屋駅中央東工区1期工事について請負契約が締結済みとなっている。JR東海は、これらの後続工事と位置付けられる工事においては特命随意契約により請負者を選定しており、後続工事についてJR東海が改めて4社の全部又は一部を競争参加者として指名して行う指名競争見積手続を採用することは、本件排除措置命令時点では全く想定されていないというべきである。
このように、本件ターミナル駅新設工事は、1回限りの工事であり既に請負契約を締結済みとなっていることに加え、後続工事についてもJR東海が指名競争見積手続を採用することが想定されないという状況にあるから、仮に被告が主張する違反行為が存在したとしても、本件排除措置命令時点あるいは現時点において、当該違反行為の結果が、残存しているとか、将来繰り返されるおそれがあるといった事情は存在していないといえる。
したがって、原告鹿島建設に対して特に排除措置を命ずる必要があるとはいえず、「特に必要があると認めるとき」の要件を欠く。
⑺ 本件排除措置命令について、被告が刑事裁判における証拠等を検証していなかったことが、考慮不尽という違法事由を構成するか否か(争点7)
(原告大成建設の主張)
被告は、刑事裁判における証拠や法的争点を検証することもなく、4社の行為が不当な取引制限に該当し独禁法3条に違反すると認定して、排除措置を命令している。被告が刑事裁判における証拠等を検証していないことは、それ自体で本件排除措置命令における考慮不尽という違法事由を構成する。
(被告の主張)
原告大成建設がその主張の前提とする「刑事裁判における証拠や法的争点を検証しなければならない」という点が、具体的な法令の根拠も不明な独自の見解にすぎず、これを前提とする主張自体が失当である。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
⑴ 本件ターミナル駅新設工事に関する調査設計について
ア 品川駅新設工事の概要
品川駅新設工事については、以下のような工種や対策を要する項目が含まれていた。
(ア) 工事桁工事
品川駅新設は、既存の東海道新幹線品川駅や大規模な駅ビル等の直下を約50メートル掘削して、全長450メートル、幅54メートル、深さ約50メートルの地下5階建ての構造物を新設するという工事である。この工事は、東海道新幹線の軌道とその地中に埋設されている地中梁(東海道新幹線品川駅のホーム構造物及び駅ビルの基礎となっている。)との間に、工事桁と呼ばれる巨大な鋼鉄製の重量構造物を合計123本設置する必要があり、東海道新幹線の軌道4線全てを工事桁で受け、この工事桁をこれと垂直に交差する地中梁で支えるという構造に切り換えて、仮受けする必要があるなど、工事桁の架設という観点からも難易度の高いものであった。また、この工事において、新幹線は通常運行を行うこととされていたため、工事が可能であるのは、新幹線の終電から始発までの間の電気停止期間(約4.5時間)のみという制限があった。
(イ) 地中連壁工事
品川駅新設工事の施工のためには、施工範囲を囲むように、土留め及び止水を目的とした厚さ1.5メートルの地中連続壁を約55メートルないし60メートルの大深度まで構築する必要があった。さらに、中央新幹線品川駅は、低空頭、すなわち、東海道新幹線品川駅等の既設構造物と地面との距離が短い条件下での施工が必要となり、また、工事材料や工事機械の搬入路が1本しかなく横幅も狭いなどといった特殊条件下で施工する必要がある、難易度の高い工事であった。
(ウ) 構真柱構築
品川駅新設工事は、地上に存在する3棟の高層の駅ビル群や東海道新幹線軌道の直下を掘削して地下駅を構築するものであるため、これら高層駅ビル群や東海道新幹線軌道の鉛直荷重を安定的に支えるための堅固で剛性の高い支持構造が土留め壁(連壁)の内側に必要となり、その役割を果たす構真柱も大口径で肉厚のものが必要とされた。また、構真柱建込みを行わなければならない作業空間は、東海道新幹線軌道直下の最大でも高さ8メートル程度しかない低空頭の空間であった。そのため、低空頭の作業空間において、直径1.5メートル・肉厚30又は40ミリメートルという大口径・肉厚の鋼管製を、地下55メートルという大深度まで、合計144本を建て込む必要があった。
(エ) アンダーピニング工
アンダーピニング工とは、既設建造物の基礎下に新設建造物を建築する際、既設建造物に支障を与えないように既設建造物の基礎下にジャッキを差し込み、新たな基礎に既設建造物の荷重を受け替える工法を指す。
品川駅新設工事の施工に当たっては、南工区工事について駅ビル2棟と新幹線の軌道4線、北工区工事について駅ビル1棟と新幹線の軌道4線をアンダーピニング工で仮受けする必要があった。そして、品川駅新設工事では、先行する工事桁架設工により新幹線の軌道が駅ビルの地中梁と一体化するため、アンダーピニング工において、新幹線の軌道及びその上の駅ビルを仮受けする必要があるという、極めて高精度での施工が求められていた。品川駅新設工事では、地下水位が高い地盤条件の中で、深さ50メートル以上の掘削をしなければならず、地下水の判断処理を誤れば、地下水が噴き上げたり、地盤が全体的に持ち上がるなどして、大規模な事故が発生するおそれもあるところ、警戒値が10メートル当たり4.8ミリメートルとされており、これ以上のずれが生じると監視強化の施工要注意体制となるため、自動でジャッキ調整を行う変位制御システムが必要であった。
(以上につき、甲A15〔10頁〕、甲A19〔55~61頁、99~107頁、111~112頁〕、甲A20[1074~1075頁〕、甲A21〔34頁〕、甲A121〔3~8頁〕、甲B39、弁論の全趣旨)
イ 名古屋駅新設工事の概要
中央新幹線名古屋駅は、駅の中央部が自社用地であり早期着工が可能であったのに対し、駅の西側及び東側は、民有地が含まれるため用地買収が必要であり、直ちに着工できなかったことから、工区が、東海道新幹線及び在来線の鉄道直下である中央部(中央工区)、中央部の西側、中央部の東側の3つに分けられた。名古屋駅中央工区工事には、以下のような工種や対策を要する項目が含まれていた。
(ア) 工事桁架設工事
名古屋駅中央工区工事は、既存の名古屋駅やゲートタワー(地上46階建ての商業テナントビル)の地下40メートルの場所に、縦約260メートル、幅約55メートルの空間を造り、その中に地下2階・地上5階建ての新駅を新設する工事であった。
名古屋駅中央工区工事は、在来線の運行を止めることなく、その地下を掘削する必要があったため掘削予定の部分に工事桁と呼ばれる鋼材を合計73個(合計789メートル)設置し、合計14線の在来線全てを工事桁で受け、この工事桁をこれと直角に交わる地中梁で支えるという構造に切り替えて、在来線を支えることが求められていた。
東海道新幹線及び東海道本線その他の在来線及び大規模商業施設に一切の影響を生じさせないよう、極めて高い精度で施工することが求められ、かつ、東海道新幹線及び東海道本線その他の在来線の運行を止めることのないように、終電から始発までの限られた時間帯で、準備作業、長大な重量物の搬入・設置、軌道復旧を行わなければならないという極めて難易度の高い工事であった。このような作業時間の限定もあるため、工事桁架設工事の施工のためには、作業の段取りを詳細に検討した上で、分単位の緻密な計画を策定することが必要不可欠であった。
(イ) 地中連壁工事及び掘削工事
名古屋駅中央工区工事において地下に構造物を新設するための大規模な掘削を行うためには、土留め及び止水を目的として、掘削の範囲を囲むように、地中連続壁を構築する必要があった。名古屋駅中央工区工事では、地中連続壁は、本体工事の駆体としても用いられることが計画され、厚さ1.5メートルの地中連続壁を約80メートルという深度まで構築する必要があるところ、大規模、大深度の地中連続壁工事を施工するには、大型の機械で地盤を掘削する必要があった。
一方で、名古屋駅中央工区工事においては、既設構造物(ゲートタワー)や新幹線高架橋による空頭制限(頭上の空間の制限)があり、特に、新幹線高架橋下では、高さが4.8~5.2メートルしかなく、柱の間隔も4.7メートルしか存在しない場所もあった。
(ウ) 構真柱建込み工事
前記(ア)(イ)のとおり、名古屋駅中央工区工事は、施工深度40メートルという大深度まで掘削し、地下2階ないし地上5階建ての建物を構築するというものであり、そのために、堅固で剛性の高い支持構造が土留め壁の内側に必要となり、その役割を果たす構真柱(基礎杭、柱)も大口径で肉厚のものが必要とされ、建て込まれる構真柱は、直径1.5メートル・肉厚30又は40ミリメートルというものであった。名古屋駅中央工区工事の施工に当たっては、構真柱を地下40メートル以上の深さまで、合計100本以上建て込む必要があった。
(エ) アンダーピニング工
名古屋駅中央工区工事では、タワーズ車路部、在来線部及び新幹線部において、既設の構造物や施設の直下で、新たな構造物を構築する工事等を行う際、既設構造物等の機能を維持しつつ直下を掘り下げるには、追加の支持杭等を施工して一時的に受替え(仮受け)する「アンダーピニング工」が必要であったところ、タワーズ車路部、在来線部及び新幹線部はいずれも重要構造物であり、機能を喪失した場合の社会的影響は計り知れず、特に、新幹線高架橋については、変状の許容値が0.82ミリメートル未満という、極めて小さい値であった。
(オ) 複雑な地層への対応
名古屋駅中央工区工事の施工現場の地層は、地下水が非常に豊富な崩落性の高い地層(熱田層や海部弥富累層)もある一方で、強固な地盤の地層もあるなど、複雑な地層となっており、この点に関する対応が必須であった。
(以上につき、甲A16〔2~3頁〕、甲A17〔3、53頁〕、甲A18〔4~5頁〕、甲A111、甲A127、甲B36〔6~16頁〕、乙10〔3頁〕、弁論の全趣旨)。
ウ 本件ターミナル駅新設工事に関する建設会社の事前協力
JR東海は、旧日本国有鉄道時代の東海道新幹線建設工事以降は大規模な工事の経験がないことなどから、未曾有の難工事である本件ターミナル駅新設工事及び南アルプストンネル新設工事の設計・施工計画の策定、工期・工事費用の算出を自社で行うことができなかったため、事業の計画段階から、建設会社の協力が不可欠であった。(甲A3〔10~11頁、82頁〕、甲A4〔6~7頁、64~65頁〕、甲A5〔122頁〕、甲A15〔3頁〕)
(ア) 調査設計段階
JR東海は、駅の調査設計に当たり、ターミナル駅である品川駅と名古屋駅の新設工事について、営業中の東海道新幹線や在来線の駅構造物の直下に中央新幹線の駅を新設するという高難度の工事であり、4社以外では施工が困難な工事であることから、4社の技術・経験を活かしたいと考えていた。もっとも、本件ターミナル駅新設工事については、WTO政府調達協定の適用対象となる可能性が否定できず、対象となった場合には、特定の調達のための技術仕様の立案又は制定に利用し得る助言を、競争を妨げる効果を有する方法により当該調達に商業上の利害関係を有する可能性のある者に対して求めてはならず、また、当該者から受けてはならないとされていたこと、駅の調査設計は図面等の作成を含む調査検討を内容としており、第三者から調査設計を行った事業者の競争参加に対する異論が出される可能性が全くないとはいえなかったこと等から、調査設計の発注に当たっては、JR東海から、その子会社である≪E≫に発注し、同社から4社のいずれかに関与してもらう形で下請けに出すこととした。(甲A3〔10~11頁〕、乙1〔2~3頁〕)
そして、JR東海は、中央新幹線に関する情報の保秘の観点から、情報を持つ業者を一つに絞ること、原告大成建設と原告鹿島建設には、その実績を踏まえて南アルプストンネル工事の技術的検討を依頼した際にルートの情報を一部開示済みであったこと、原告大成建設には、JR名古屋駅のセントラルタワーズを建設した実績があり、名古屋駅の地質や地下構造物の状況に詳しかったこと等の理由から、原告大成建設に対し、品川駅、名古屋駅、神奈川県駅及び山梨県駅に関する調査設計業務を依頼することとし、原告大成建設は、この依頼を引き受けた。(甲A3〔11頁〕、乙1〔3頁〕、乙104〔3頁〕)
以上の検討を経て、≪E≫は、平成20年5月15日、作業期間同日から平成21年2月20日まで、請負金額合計9975万円(税込み)で、「駅部調査設計⑴」業務をJR東海から請け負い、≪E≫は、原告大成建設から紹介を受けた関連会社を契約当事者として下請契約を締結し、原告大成建設が関与して上記業務の検討が行われた。(乙1〔4~9頁、資料1〕)
駅部調査設計⑴は、平成21年2月、成果品が≪E≫からJR東海に提出され、終了した。(乙1〔9頁〕)
駅部調査設計⑴の終了後、2回目の調査設計を依頼するに当たり、原告大成建設の≪A1≫が4駅(品川駅、名古屋駅、神奈川県駅及び山梨県駅)全部の検討は負担が重いと伝えたため、JR東海は、東海道新幹線品川駅新設工事を担当した大林組に品川駅の調査設計を依頼することとした。≪E≫は、平成21年3月25日、作業期間同日から平成22年2月15日まで、請負金額合計1億2285万円(税込み)で「駅部調査設計⑵」業務をJR東海から請け負い、≪E≫は、品川駅については大林組から紹介された会社を、それ以外の駅については原告大成建設から紹介を受けた関連会社を、それぞれ契約当事者として下請契約を締結し、大林組及び原告大成建設が関与して上記業務の検討が行われた。(甲A3〔11頁〕、乙1〔9~13頁、資料2〕)
駅部調査設計⑵は、平成22年2月、成果品が≪E≫からJR東海に提出され、終了した。(乙1〔13頁〕)
3回目の調査設計について、≪E≫は、平成22年6月16日、作業期間同日から平成23年2月18日まで、請負金額合計1億5225万円(税込み)で「駅部調査設計⑶」業務をJR東海から請け負い、駅部調査設計⑵と同様に、品川駅については大林組が、その他の3駅については原告大成建設が、それぞれ関与して上記業務の検討が行われた。(甲A3〔11頁〕、乙1〔13~15頁、資料3〕)
駅部調査設計⑶は、平成23年3月、成果品が≪E≫からJR東海に提出され、終了した。(乙1〔15頁〕、乙104〔3頁、資料1〕)
(イ) 概略設計段階
JR東海は、品川駅及び名古屋駅の概略設計(調査設計で得られた大まかな設計を、構造物の寸法を定めるなどして深度化し、発注時に競争参加事業者に交付する設計図書として用いることができる程度に具体化する業務)として、≪E≫に対し、平成23年6月15日に「首都圏ターミナル駅構造物設計ほか⑴」を、同年7月20日に「中京圏ターミナル駅構造物設計⑴」を、平成24年6月22日に「首都圏ターミナル駅構造物設計ほか⑵」を、同年8月28日に「中京圏ターミナル駅構造物設計⑵」を、同年10月17日に「中京圏ターミナル駅構造物設計⑶」を、それぞれ発注した。概略設計業務の請負契約においては、特定のゼネコンやその関係会社が契約当事者となることはなかった。(甲A3〔12頁〕、甲A30〔資料2~資料6〕)
(ウ) 平成25年11月、ゼネコンへの検討依頼禁止通知の発出
JR東海の社内においては、平成25年11月1日、特定のゼネコンから技術提案を受けることについて、特定のゼネコンが技術的検討を行うことで、当該ゼネコンが持つ技術や情報の面で他のゼネコンより過度に優位に立つと、発注手続における競争の公平性を確保して徹底したコストダウンを図ることが困難になりかねないとの考慮から、同月以降、新たにゼネコン各社に技術的検討を依頼することを原則として禁止することなどを内容とする指示が文書で出された。(前提事実⑵イ(イ))
(エ) 調査設計業務終了後における原告大成建設及び大林組とJR東海とのやり取り
原告大成建設及び大林組は、調査設計業務の終了後、概略設計業務において契約上当事者にはならなかったものの、JR東海側から、大林組は品川駅新設工事に関して、原告大成建設は名古屋駅新設工事に関して、それぞれ、工期・工程の短縮方法、施工計画及び図面の作成検討など工事内容に直結する内容を含む広範かつ詳細な検討事項を行うよう要請を受け、多数回、大林組又は原告大成建設の担当者とJR東海側の担当者の双方が出席する会議、打合せ等が行われていた。これらの打合せの中で、JR東海側から大林組又は原告大成建設に図面等が提供され、大林組又は原告大成建設からJR東海側にそれぞれ検討結果の資料等が提供されるなどしていた。これらのやり取りは、前記(ウ)の平成25年11月の検討依頼禁止通知の後も、平成26年12月に品川駅北工区工事及び品川駅南工区工事が、平成27年4月に名古屋駅中央工区工事が、それぞれ出件される直前まで、継続して行われていた。
(以上につき、甲A8、甲A15〔6~7頁〕、甲A17〔4頁〕、甲A25〔22、26~31頁〕、甲A29〔3頁〕、甲A36、甲A37、甲A120〔3~8頁〕、乙4〔資料1〕)
(オ) 事前検討結果の反映
上記(エ)のやり取りで原告大成建設がJR東海側に提供した図面のうち、約63%が、本件ターミナル駅新設工事の出件の際に発注図書(公告の際に応社各社に提供される資料で、設計図、標準図、参考図等が含まれる。)に取り込まれた。(甲A18〔1頁、5~8頁、23頁〕、甲A117、弁論の全趣旨)
また、前記(イ)の概略設計の成果物も、上記出件時の発注図書に反映された。(甲A29〔2頁〕、弁論の全趣旨)
(力) 事前検討に要した費用
前記(エ)の検討に関し、大林組の品川駅新設工事の検討費用は10億円を超過し、原告大成建設の名古屋駅新設工事の検討費用は6億円を超過した。(甲A9、甲A10)
エ 清水建設による営業活動
清水建設は、平成25年頃以前から品川駅新設工事に関する技術的検討を始め、同年11月には、同社従業員がJR東海を訪問して品川駅新設工事に関する営業活動の進め方について助言を求めるなどしたほか、JR東海に対し、品川駅新設工事で必要となる連続地中壁や構真柱の施工について、従前の駅工事で培われた技術を説明するプレゼンテーションを行い、品川駅新設工事の施工技術について検討可能である旨を申し入れるなどした。(甲A64〔14~18頁〕、甲A74〔9頁〕、甲A75〔5~9枚目〕)
その後、JR東海は、平成25年12月頃、清水建設に対し、品川駅新設工事の図面を提供し、清水建設は、当該資料を基に工事手順を検討するなどした。(甲A64〔19頁〕、甲A75〔11~16枚目〕)
清水建設は、遅くとも平成26年4月頃までには、リニア中央新幹線品川駅を、特に注力して受注を目指すべき第1順位の案件と位置付け、平成26年4月には、JR東海から求められて鋼管杭の機械式継手に関する事例紹介を実施し、その頃JR東海の工事管理者の有資格者のリストアップをするなどした。(甲A64〔20~27、30、31頁〕、甲A74〔5~7頁〕、甲A75〔17~32枚目〕)。
⑵ 本件ターミナル駅新設工事に関する発注方法等の検討
ア 発注方法の検討等
JR東海では、平成24年秋頃、当時の副社長の指示により、①徹底したコストダウン、②適切な工程管理により、健全経営を堅持しつつ、計画の早期実現、③技術の秘匿を含めた高品質な施工を基本方針として、リニア中央新幹線関連建設工事の発注方法に関する検討を進めることとなった。
JR東海の社内においては、当時、東京・大阪間のリニア中央新幹線関連建設工事の約9兆0300億円(うち東京・名古屋間5兆4400億円)と見込まれていた総費用をJR東海が全額自社負担により賄うことを前提に、平成23年5月、国土交通大臣により中央新幹線の整備計画が決定されたことから、この予算内で工事を行うべく、設計・施工計画の策定段階から厳しくコストダウンを図るよう指示がされていた。
JR東海中央新幹線推進本部の本部長であった≪F1≫(以下「≪F1≫」という。)及び企画推進部長であった≪F2≫は、平成25年5月頃、発注方法に関する検討結果として、「徹底したコストダウン」を「必須の課題」とし、「まずは、競争原理で、入札で競うことで低価格を追求」することとした上、工程管理に係る工事の発注時期や工区の設定についても事業者間の競争を確保しつつコストダウンを図る(なお、工区の設定については、本来は一つの大きな工事として発注するものを、小さな工区に分割して発注したり、工程により分割して発注したりする余地がないか検討することとする)方針を取りまとめ、上記の大枠の基本方針や考え方について、副社長の了承を得た。
また、その頃から、品川駅及び名古屋駅の工事については、東海道新幹線、在来線の運転保安に直接関わる大規模な工事となることから、スーパーゼネコンである4社が見積依頼先として想定されていたが、徹底したコストダウンを図るため、競争に参加する事業者の技術提案等の内容と見積金額を総合的に評価して価格協議先を決定した上で、その協議先と価格協議を行い、請負金額を決定して契約を締結する総合評価型の競争見積方式を採用することが想定されていた。
(以上につき、甲A70〔1頁〕、甲A72〔2~16頁〕、乙2〔3~8頁〕、乙3〔2~10頁、資料①~資料③〕)
イ 総合評価型指名競争見積方式の採用
前記アのとおり、本件ターミナル駅新設工事の発注方法の検討を進めてきたJR東海は、平成26年12月、本件ターミナル駅新設工事を含む鉄道運転保安に直結する工事については、基本的に指名競争見積りの方法により、それ以外の工事については、公募競争見積りの方法によりそれぞれ出件するという方針を決め、「指名競争見積方式及び公募競争見積方式による工事事務取扱要領」を発出した。指名競争見積方式の総合評価は、⑴JR東海の技術評価委員会において、競争参加資格を満たす者に一律に「標準点」(100点)を付与し、これに、各参加事業者について、①「工事全般の施工計画」、②「配置予定技術者の能力」及び③「技術提案に係る具体的な施工計画」の審査を行い、「加算点」(10点満点)を加えて、競争参加者ごとに「評価点」(最高110点)を算出する、⑵その上で、競争参加者に「正式見積書」の提出を求め、当該「評価点」を「正式見積書」記載の見積価格で除した「評価値」が最も高い者を第1順位の価格協議先に選定する、というものであった。上記⑴③の「技術提案に係る具体的な施工計画」の審査においては、「構真柱」「アンダーピニング」「マスコンクリート」「環境対策」「ストラット」「地中連続壁」という6項目に関する記載内容をそれぞれ検討・評価することとされていた。(前提事実⑵イ(ウ)、乙8〔22頁〕)
ウ 工区に関する検討
平成26年7月から9月にかけて、JR東海において、品川駅新設工事の工区割りについて検討された。品川駅新設工事においては、アンダーピニングエ法(地下開削工法)による工区(開削工区)を1工区で発注する案、北工区と南工区の2工区に分けて発注する案、3工区に分けて発注する案等が検討されたところ、競争見積りでの事業者による活発な競争を確保する見地からは、1工区で発注するより、複数に分割して発注する方が競争に参加する事業者の数が増えると予想されるが、工区の境目付近の工区調整等を考慮すると3工区以上に細分するのは困難であること等から、平成26年9月22日、品川駅新設工事は、北工区と南工区の2工区に分ける案を採用することとされた。
品川駅南工区の工程は、概略、①東海道新幹線の線路の下に「工事桁」と呼ばれる鉄骨を埋め込み線路を支える工事桁架設、②新幹線品川駅の周囲の地下に「連壁」と呼ばれる鉄筋コンクリートを打設してリニア品川駅を新設する部分を囲み、約10メートル掘削する地中連続壁(地中連壁工事)、③掘削した箇所から「構真柱」と呼ばれる基礎杭と柱を打設する構真柱構築、④構真柱の上に「上床版」と呼ばれる鉄筋コンクリートを敷き、東海道新幹線品川駅と駅ビルを上床版に受け替える品川駅・駅ビル受替、⑤上床版の下を掘削し、リニア品川駅の函体を構築する地下函体構築、⑥リニア品川駅の函体の内部に各種の設備を設置し、また、工事桁の撤去を行う駅設備設置という工程となっており、北工区は、このうち①の工事桁架設を除くものであった。
(以上につき、乙2〔11~17頁〕、乙5〔10~11頁〕、乙7〔7~13頁〕、乙8〔6~24頁〕、乙14〔7頁〕)
エ 指名業者選定に関する検討
(ア) JR東海においては、契約方式及び指名競争見積方式による場合の競争参加者の選定は、各工事の担当者が指名業者に関して事前に検討し、中央新幹線建設部長、次長、土木工事部長等で構成される請負業者選定委員会に審議資料を提供した上、請負業者選定委員会が決定することとされていた。平成26年10月、国道交通大臣による中央新幹線に係る工事実施計画の認可が下りたことから、品川駅担当者は、指名業者選定に関する検討を開始した。
品川駅新設工事は、アンダーピニング工(東海道新幹線品川駅及び駅ビルを、地中に打ち込んだ杭で支える上床版で受け替える。)という極めて高度な技術を要する工事を含んでいたところ、スーパーゼネコン4社は、大林組は都道地下部分の新設に関して新橋駅付近新幹線高架橋のアンダーピニング工、原告鹿島建設は名古屋市営地下鉄桜通線建設工事に際して新幹線名古屋駅高架橋のアンダーピニング工、原告大成建設は名古屋駅のゲートタワービル新設工事に際して名古屋鉄道地下線路函体のアンダーピニング工、清水建設は秋田中央道路の地下部分道路新設工事に際してJR東日本秋田駅ビルのアンダーピニング工を施工するなど、いずれも現に営業している鉄道駅等の直下におけるアンダーピニング工を施工した経験を有していた。4社は、このような品川駅新設工事を施工するための必要な高度な技術力と営業線近接工事の施工能カ・施工実績のほか、十分な資金力を有していること、経営事項審査総合評価点(建設業法に基づき、国土交通大臣が事業者の経営状況等を審査するために、当該事業者の完成工事高、自己資本額や収益性等の財務状況、技術職員数などの審査事項を所定の数式に当てはめ、「土木」、「建築」、「水道」など工事の種類ごとに算出した客観的な点数)について準大手ゼネコンとの間で100点以上の差があること、品川駅新設工事を施工するために十分な工事監理者(JR東海が土木建設会社の技術職員に対して付与する資格)の有資格者数を有していること等を踏まえ、JR東海の担当者は、4社を指名する審議資料を作成した。
品川駅新設南北工区に係る請負業者選定委員会は、平成26年12月18日に開催され、南北工区それぞれについて、指名競争見積方式を採用し、4社を指名業者として選定することとした。
(以上につき、甲A34〔4~5頁、16~17頁〕、乙9〔2~21頁〕)
(イ) 名古屋駅新設工事については、平成27年4月に出件できる見込みとなったことから、同年3月頃以降、名古屋駅担当者は請負業者選定委員会で選定する指名業者の検討を開始した。
名古屋駅新設工事については、新幹線名古屋駅の高架線を、地中に打ち込んだ杭で支えられた鉄筋コンクリートで受け替える、すなわちアンダーピニングをした上、その地下を掘削してリニア名古屋駅の函体を構築し、在来線名古屋駅を、地中に打ち込んだ杭で支えられた工事桁で受け替え、その下を掘削してリニア名古屋駅の函体を構築するというものであり、品川駅新設工事と比べると、受け替える対象に駅ビルが含まれないなどの違いはあるものの、営業中の鉄道駅を受け替えてその下に地下駅を構築するという工事の概略は共通しており、極めて高度な技術を要するとともに、名古屋駅の営業に支障をきたさないよう極めて慎重かつ精緻な施工が求められる難工事であった。そのため、品川駅新設工事と同様、高度の技術力、営業線近接工事の施工能カ・実績、十分な資金力、経営事項審査総合評価点、工事監理者の有資格者数を踏まえて、4社を指名業者として選定する審議資料を作成し、名古屋駅新設工事に関する請負業者選定員会は、平成27年4月17日、指名競争見積方式を採用し、4社を指名業者として選定することとした。
(以上につき、甲A34〔64~69頁〕、乙9〔21~33頁〕)
⑶ 本件ターミナル駅新設工事に関する4社のやり取り
ア 原告大成建設と原告鹿島建設との間の情報交換等(平成23年11月頃~平成25年頃)
(ア) 平成23年、原告鹿島建設の専務執行役員であった≪B2≫(以下「≪B2≫」という。)は、原告鹿島建設の土木営業本部副本部長であった≪B1≫を、原告大成建設の土木営業本部副本部長であった≪A1≫に紹介し、これらの者は、同年11月頃から面談を重ね、リニア中央新幹線建設工事に関し、技術に関する情報や、工区割りの予想及び各社の各工事に関する受注意欲等に関して情報交換を行うようになった。(乙20〔1~2頁〕、弁論の全趣旨)
(イ) 原告鹿島建設において、≪B1≫は、平成25年6月14日、≪B2≫に対し、原告鹿島建設の希望工区等に関し、「品川駅はO《大林組》、S《清水建設》ががんばっているので困難。T《原告大成建設》とS《清水建設》で非開削部検討。T《原告大成建設》は品川《品川駅新設工事》をO《大林組》に譲る代わりに橋本《橋本駅新設工事》を獲得。」、「名古屋駅東はK《原告鹿島建設》が希望。駅全体をT《原告大成建設》が検討しているが、何とか技術検討できないか。開削工法など要素技術のPRは実施。」、「名古屋駅西はT《原告大成建設》が検討しており優位。」などとまとめたメールを送信した。(乙20〔2~3頁、資料1一1〕)
(ウ) 原告大成建設名古屋支店の副支店長であった≪A2≫は、平成25年8月8日、同支店を訪れた原告鹿島建設中部支店の副支店長であった≪B3≫に対し、①原告大成建設では、リニア中央新幹線の名古屋駅について、原告大成建設と原告鹿島建設がそれぞれ一部の工区を棲み分けして分担し施工する枠組みにしたいと東京本社から聞いており、これは名古屋支店も含めて原告大成建設の認識である、②中部圏に限らずリニア中央新幹線の全線にわたり、どのような施工の枠組みにするか、いずれ考えていかなければならない、③その時期については、平成25年内か平成25年度内にJR東海の発注方式がはっきりしてくると思うので、それほど遠くない時期ではないか、④当面は原告大成建設と原告鹿島建設が内々に話し、いずれ清水建設と大林組を巻き込んでいく手順を想定している旨を述べた。また、≪A2≫は、当時、JR東海は名古屋駅新設工事を中央と西と東の3つの工区に分けて出件するのではないかと予想しており、原告大成建設としてはこのうち「中央」の工区を取りたいと考えていたところ、東京本社の≪A1≫からも「特に中央を頑張れ。」と言われ、原告鹿島建設が東の工区を取ってもよいということを聞いていたため、≪B3≫に対し、「原告大成建設は特に中央を勉強している。」と伝えるとともに、原告鹿島建設が取ることを希望している中津川車両基地などについては「当社は適当にやる。」と伝えた。(乙16〔1~4頁、資料1-2〕、乙22〔1~6頁、添付資料〕)
イ 原告大成建設、原告鹿島建設及び大林組3社による会合(平成26年4月~同年12月)
(ア) 平成26年4月21日、同年5月21日の3社会合等
原告大成建設の≪A1≫は、かねてから原告鹿島建設の≪B1≫との間で本件ターミナル新設工事に関する情報交換を重ねていた。
≪A1≫は、平成26年3月頃、大林組の≪C1≫に対し、リニア中央新幹線建設工事に関するJR東海の予算が事業者の想定よりも相当に少なく、事業者に価格重視の競争見積りの方式で価格競争を迫ってくることが予想されることから、原告大成建設、原告鹿島建設及び大林組の3社において、ゼネコン同士の価格競争により受注価格が低廉化することを回避するための対策を協議したい旨依頼し、≪C1≫はこの依頼を了承した。そして、≪A1≫、≪C1≫及び≪B1≫の3名は、平成26年4月21日及び同年5月21日、東京都内の飲食店で会合を開催した。
同年4月21日に開催された会合では、リニア中央新幹線建設工事を受注するに当たり、各社が協力して価格競争を避けなければならないという話をするとともに、JR関連工事の施工実績の少ない清水建設にはとりあえず声をかけないこととし、今後も、原告大成建設、原告鹿島建設及び大林組の3社の担当者による会合(3社会合)を継続することを確認した。
(以上につき、甲A26〔5~7頁〕、甲A53〔10~11頁〕、乙23〔1~7頁〕、乙24、乙25〔4~7頁〕)
また、≪A1≫は、上記平成26年4月21日又は同年5月21日に開催された3社会合のいずれかにおいて、本件ターミナル駅新設工事及びその他のリニア中央新幹線建設工事について、「施工(工区)区間」ごとに、「工種」、「キロ程」、「施工延長(m)」、「概算工事費(億円)」、「各社希望施工区間」(「鹿島」、「大成」、「大林」、「清水」、「その他」の欄がある。)、「施工担当者(JV代表者)案」、「構成会社」、「備考」欄が設けられ、「各社希望施工区間」に「〇」を付けた一覧表(以下「希望工区一覧表①」という。)を交付した。≪A1≫は、それまでの原告大成建設と原告鹿島建設関係者による協議の内容に従い、名古屋駅新設工事については、中央及び西側の工区を原告大成建設、東側の工区を原告鹿島建設にそれぞれ受注予定者として割り振り、品川駅新設工事については、北側及び南側の2工区に分割されて出件されるという想定の下、施工延長の長い北側の工区を大林組、施工延長の短い南側の工区を清水建設にそれぞれ受注予定者として割り振っていた。≪A1≫は、希望工区一覧表①を交付した際、≪C1≫に対し、希望工区一覧表①には予想される大林組の受注希望工区が記載されているが、大林組の正確な受注希望工区を明らかにするよう依頼し、≪C1≫はこの依頼を了承した。(甲A21〔1~12頁、25頁、29頁、別紙1-1〕、甲A26〔8~10頁、別紙1〕、甲A53〔11~16頁、別紙1〕、乙23〔7~15頁、資料1〕、乙25〔7~17頁、資料1〕、乙27〔資料1〕、乙30〔資料1〕)
(イ) 平成26年6月3日の3社会合
大林組の≪C1≫は、原告大成建設の≪A1≫から受領した上記希望工区一覧表①を社内に持ち帰って検討し、≪C2≫に指示をして、品川駅新設工事全体の受注を希望することのほか、本件ターミナル駅新設工事以外のリニア中央新幹線建設工事における受注希望も含めた大林組の受注希望を取りまとめた一覧表(以下「希望工区一覧表②」という。)を作成した。≪A1≫、≪C1≫及び原告鹿島建設の≪B1≫は、平成26年6月3日、3社会合を開催し、≪C1≫は、その場で希望工区一覧表②を≪A1≫及び≪B1≫に配布した。(甲A12〔20~23頁〕、甲A21〔8頁、12~14頁、別紙1ー2〕、甲A26〔12~13頁、15頁、別紙3〕、甲A53〔11~21頁、別紙2〕、乙23〔11~15頁、18~21頁、資料3〕、乙24、乙25〔7~24頁〕、乙26、乙27〔4~22頁、別紙4-1〕)
(ウ) 平成26年7月24日の3社会合
原告大成建設の≪A1≫、原告鹿島建設の≪B1≫並びに大林組の≪C1≫及び≪C2≫は、平成26年7月24日、東京都内の飲食店で3社会合を行った。
この会合で、≪A1≫は、希望工区一覧表①に希望工区一覧表②の大林組の受注希望を反映させて修正した一覧表(以下「希望工区一覧表③」という。)を配布した。≪C1≫は、名古屋駅新設工事を原告大成建設及び原告鹿島建設で分け合うことについては異論を述べず、品川駅新設工事については、1工区で出件されるという想定の下、大林組が受注することを主張した。これに対し、≪A1≫は、仮に品川駅新設工事が1工区で出件された場合には、大林組を代表者とするJVに清水建設を加えることを提案したところ、≪C1≫は、この提案を了承した。
(以上につき、甲A12〔23頁〕、甲A21〔14~20頁、51頁〕、甲A26〔16~18頁〕、甲A53〔23~26頁〕、乙23〔21~24頁〕、乙24、乙27〔22~24頁〕、乙28〔3~8頁〕、乙29〔3頁〕、乙30〔2~3頁〕)
(エ) 平成26年11月14日の3社会合
原告大成建設の≪A1≫、原告鹿島建設の≪B1≫並びに大林組の≪C1≫及び≪C2≫は、平成26年11月14日、東京都内の飲食店で3社会合を開催した。この会合の時点では、品川駅新設工事について、2工区に分けて出件される可能性が濃厚となっており、≪A1≫は、≪C1≫に対し、「大林は、両方に手挙げるつもりなの?」と尋ねたところ、≪C1≫は、「両方ってわけにはいかんやろ」、「狭い方は清水にやらせてやらないかんやろうな。」などと返答した。また、その場では、4社に対する指名競争見積方式で出件された場合には、自社が受注を希望しない工事であっても指名を辞退するわけにはいかないことから、受注予定者が受注できるように互いに協力し合うことなどが確認された。(甲A12〔34頁〕、甲A21〔51頁〕、乙24、乙29〔5~9頁〕、乙31〔2~7頁〕)
(オ) 平成26年12月25日の3社会合
JR東海は、平成26年12月25日、前提事実⑶アのとおり、品川駅新設工事について、品川駅北工区工事及び品川駅南工区工事に分け、4社を競争参加者とする指名競争見積りの方式により出件した。
原告大成建設の≪A1≫、原告鹿島建設の≪B1≫並びに大林組の≪C1≫及び≪C2≫は、同日、東京都内の飲食店で3社会合を開催した。その場で、施工規模の大きい品川駅南工区工事を大林組、施工規模が小さく工事桁工事を含まない品川駅北工区工事を清水建設が受注予定者となること、受注予定者以外の者はその受注に協力することを確認した。さらに、≪A1≫が、「そろそろ清水とも話をしないといけない」、「清水だけが一人歩きをしていたら、こっちとしても迷惑がかかる」、「清水にも、話に入るように言っておいてくれないか」と述べたところ、清水建設の≪D1≫と交流のあった≪C1≫は、「じゃあ、今度≪D1≫さんと会ったときに一言言っとこか?」と返答し、≪A1≫や≪B1≫は「頼むよ」と述べた。
(以上につき、甲A21〔52~54頁、81頁〕、甲A26〔30~32頁、34頁〕、甲A53〔43~46頁〕、乙2〔11~17頁〕、乙5〔10~11頁〕、乙7〔6~24頁〕、乙8〔2~3頁〕、乙29〔9~12頁〕、乙31〔7~13頁〕、乙33〔4~5頁〕)
ウ 清水建設と3社会合の状況
(ア) 清水建設の≪D1≫と大林組の≪C1≫の面談(平成27年1月)等
清水建設の専務執行役員兼土木事業本部土木営業統括であった≪D1≫は、平成27年1月8日、東京都内の飲食店で大林組の≪C1≫と面談した。≪D1≫と≪C1≫は、品川駅北工区工事については清水建設が、品川駅南工区工事については大林組が受注を希望していることを確認し、お互いに協力し合うことを話し合った。その際、≪C1≫は、≪D1≫に対し、前記イ(オ)の3社会合でのやり取りを踏まえ、リニア中央新幹線建設工事について、清水建設を除く3社で協議をしているが、この受注調整の枠組みに清水建設も加わるよう依頼した。≪D1≫は、その場での回答を留保したものの、同月20日、大林組本社を訪れ、≪C1≫と面談し、清水建設も原告大成建設、原告鹿島建設及び大林組の受注調整の枠組みに参加する旨を伝えた。
この面談後、≪C1≫は、平成27年2月までに、原告大成建設の≪A1≫に対し、≪D1≫から清水建設も受注調整の枠組みに加わる旨の回答を受けたことを報告した。
(以上につき、甲A12〔34頁〕、甲A21〔54頁、82頁〕、甲A26〔34~36頁〕、甲A27〔19~25頁〕、甲A57〔47~51頁〕、乙12〔7頁〕、乙24、乙29〔12~13頁〕、乙31〔13~19頁〕、乙33〔5~16頁〕、乙35〔1~5頁、8~10頁〕)
(イ) 清水建設の≪D1≫と原告大成建設の≪A1≫の面談
清水建設の≪D1≫は、前記(ア)のとおり3社による受注調整の枠組みに参加する旨を大林組の≪C1≫に伝えたが、平成27年2月4日、原告大成建設の≪A1≫とも面談を行った。この面談において、≪D1≫は、清水建設が品川駅北工区工事の受注を希望していることを伝えた。これに対し、≪A1≫は、原告大成建設において近々出件が見込まれていた名古屋駅新設工事の中央工区の受注を希望していることを伝えた上、品川駅北工区工事を清水建設、名古屋駅新設工事のうち中央工区を原告大成建設が受注できるよう互いに協力することを確認するなどした。(甲A27〔31~35頁〕、甲A39〔78頁、95~96頁〕、乙24、乙33〔16~24頁、28~30頁〕、乙35〔1~3頁、5~8頁〕)
(ウ) 平成27年2月の3社会合
原告大成建設の≪A1≫、原告鹿島建設の≪B1≫並びに大林組の≪C1≫及び≪C2≫は、平成27年2月5日、3社会合を行った。その場で、≪A1≫は、≪B1≫らに対し、清水建設の≪D1≫と面談したこと、≪D1≫との間で、品川駅北工区工事を清水建設、品川駅南工区工事を大林組、名古屋駅新設工事を原告大成建設と原告鹿島建設で分け合うことを合意したことなどを伝えた。(甲A21〔82頁〕、甲A26〔36~37頁〕、甲A27〔24~28頁〕、甲A57〔51~52頁〕、乙24、乙29〔13~14頁〕、乙31〔19~20頁〕)
(エ) 清水建設の≪D1≫と大林組の≪C1≫の面談(平成27年2月)
清水建設の≪D1≫は、平成27年2月20日、大林組の≪C1≫と面談した。この場で、≪D1≫と≪C1≫は、互いに品川駅新設工事を確実に受注できるように、両社の実務担当者が連絡を取り合って協力していくこと、大林組は≪C2≫を、清水建設は≪D1≫の部下の≪D2≫(以下「≪D2≫」という。)を価格連絡担当者とすること、4社の間では、見積価格についてはコストを積み上げて高めの金額の見積りを出し、JR東海に価格の引下げを求める材料を与えず十分な利益を確保できるようにすることや、単に見積金額の総額を調整するだけではなく、主要な単価については各社で大きな差がつかないように調整することを確認した。(甲A26〔44~45頁〕、甲A27〔40頁〕、乙12〔9~12頁〕、乙36〔6~13頁〕、乙37〔1~3頁〕)
(オ) 清水建設における引継内容
清水建設において、≪D1≫は、平成27年3月下旬頃、土木事業本部土木営業統括を退くに当たり、後任の≪D3≫に対し、リニア中央新幹線建設工事に関する4社間の合意内容を引き継ぐため、以下の記載のある引継書面を作成した。(乙35〔1~3頁、添付資料〕)
・平成26年末~27年当初にかけて、≪C1≫専務からリニアに関して、大林、大成、鹿島の3社は意見交換している。清水だけが独り歩きしている。3社は迷惑と思っている。仲間に入らないかとの誘いが、数回あり、了承した。
・≪A1≫さんとの約束。清水・・・品川駅北工区、第一三共シールド、橋本駅
大成・・・品川駅拡幅、名古屋駅、南アルプストンネル(静岡、山梨、導水路)
・≪C1≫さんとの約束。大林・・・品川駅南工区
名古屋県警シールドを希望し、清水が行かないなら大林は第一三共には行かない(返事保留)
・≪D4≫専務談。 鹿島・・・南アルプストンネル(長野)、青学シールド 岐阜の車両基地
⑷ 品川駅新設工事に関する状況
ア 品川駅設工事の出件
JR東海は、平成26年12月25日、前提事実⑶ア及び認定事実⑵ウのとおり、品川駅北工区工事(工期:平成39年12月10日まで)及び品川駅南工区工事(工期:平成41年3月10日まで)を、4社を競争参加者とする指名競争見積りの方式により出件した。
各競争参加説明書には、以下の記載があった。(乙8〔10~12頁、資料③-1、③-2〕)
(ア) 見積通知を受けた事業者のうち、競争見積りへの参加を希望する者は、平成27年3月26日までに、JR東海中央新幹線推進本部中央新幹線建設部に「参加資格確認申請書」等を提出し、中央新幹線建設部は、同月30日までに、各事業者の参加資格を確認した結果を通知する。
(イ) 事業者は、質問がある場合、平成27年4月10日までに中央新幹線建設部に電子メールで質問書を送付し、中央新幹線建設部は、質問書を受け取った日の翌日から7営業日内に電子メールにより回答する。
(ウ) 事業者は、平成27年3月26日までに、「工事全般の施工計画」、「技術提案に係る具体的な施工計画」、参考見積書を提出する。
(エ) これらを提出した事業者に対して、中央新幹線建設部は、平成27年3月27日から同年4月3日までの間にヒアリングを実施する。
(オ) 事業者は、ヒアリングでの中央新幹線建設部からの指摘などを踏まえ、平成27年4月6日から同月17日までの間に、改善後の「工事全般の施工計画」、「技術提案に係る具体的な施工計画」、参考見積書を提出することができる。
(力) 中央新幹線建設部は、平成27年4月28日までに、事業者に対し、「技術提案に係る具体的な施工計画」の審査結果を通知する。
(キ) 事業者は、平成27年5月13日午後3時、封かんした見積書を持参して提出する。
イ 平成27年1月以降の4社の連絡状況
(ア) 連絡担当者の指定
原告大成建設の≪A1≫と大林組の≪C1≫は、平成27年1月頃、品川駅新設工事に関する受注調整における連絡担当者を定めて見積りの内訳やその金額のやり取りをすることとし、原告大成建設は≪A1≫の部下の≪A3≫(以下「≪A3≫」という。)を、大林組は≪C1≫の部下の≪C2≫を連絡担当者とすることとし、≪A3≫と≪C2≫は、大林組本社において、顔合わせを行った。また、原告鹿島建設の≪B1≫は、同月頃、≪C2≫に対し、電話で「品川の件は私になるので。よろしくお願いします。」と述べ、≪B1≫が原告鹿島建設の連絡担当者になる旨を伝えた。≪C2≫は、≪B1≫から電話を受けた後、原告鹿島建設の連絡担当者が≪B1≫である旨を≪C1≫に報告した。また、清水建設の≪D2≫は、同年2月下旬頃、≪C2≫に対し、電話で「品川の件よろしくお願いします。」と述べ、≪D2≫が清水建設の連絡担当者である旨を伝えた。(甲A53〔50~51頁〕、乙41〔8頁〕、乙56〔5~6頁、8~10頁〕)
なお、原告大成建設においては、上記連絡担当者の指定に当たり、≪A1≫が、≪A3≫に対し、「リニアの関係では、鹿島、大林、清水とうちの間で話をしていて、この前出件された品川駅の大きい方の南工区は大林、小さい方の北工区は清水って決まっているから。その後に出る名古屋は、中央と西がうちで、東が鹿島。今後、担当者同士で連絡を取って、ちゃんとそうなるように動いてもらいたい。」と伝え、≪A3≫が、担当者同士で具体的に何をするのか尋ねると、≪A1≫は、「資料のやり取りをしたり、金額の連絡をしたりしてほしい。話はできているから。」と説明した。(乙32〔5~11頁〕)
(イ) 大林組からの参考資料の提供
原告大成建設の≪A3≫は、≪A1≫の指示を受け、大林組の≪C2≫に依頼し、平成27年3月中旬頃、大林組が作成した品川駅北工区及び南工区の両工区に関する総括表(工種、数量、金額等が記載され、工事費の合計額が記載された見積関連資料)の提供を受け、原告大成建設社内のプロジェクトチームに展開した。(甲A53〔51~53頁〕、乙41〔16~31頁〕、乙42〔14~24頁〕、乙45〔7~28頁〕、乙47〔2~11頁、20頁〕、乙56〔26~27頁〕、乙61)
また、≪C2≫は、原告鹿島建設の≪B1≫に対して、大林組の積算基準に関する資料、品川駅北工区工事及び品川駅南工区工事に係る総括表を提供した。≪B1≫は、平成27年3月18日頃、≪C2≫から受領した当該資料を原告鹿島建設の積算担当者(≪B4≫)に交付し、その際、「そのままは他の人には見せないで、≪B4≫さんのメモにしてください。あくまでも鹿島の方針ということで。」と記載したメッセージを送信して、大林組から貰った資料であることを社内で秘匿するよう指示した。(甲A53〔53~54頁〕、甲A81〔7~12頁、資料②-6〕、乙56〔24~26頁〕、乙61、乙133〔8~9頁〕、乙134〔2~18頁、資料4〕、乙135〔8~17頁〕)
≪C2≫は、平成27年3月中旬頃、清水建設の≪D2≫に対し、大林組の積算基準に関する資料や品川駅南工区工事に係る総括表を交付し、≪D2≫は、当該資料を清水建設内のプロジュクトチームにおいて自社の積算基準の確認に活用した。(甲A53〔54~56頁〕、甲A55〔16~22頁〕、乙56〔23~24頁〕、乙61、乙64〔2~9頁、15~20頁〕)
(ウ) 南工区に関する連絡
大林組の≪C2≫は、平成27年3月下旬頃、品川駅南工区工事に関し、≪C1≫の了解の下、参考見積価格を1480億3015万6000円と決定し、参考見積書の提出期限である同月26日より前に、原告大成建設の≪A3≫、原告處島建設の≪B1≫及び清水建設の≪D2≫に対し、それぞれ電話で、大林組の参考見積価格に関して数十億円程度の幅を持たせたおおよその金額を伝えた上で、原告大成建設、原告鹿島建設及び清水建設にはその上限額よりも高い参考見積価格を提出してほしい旨依頼し、≪A3≫、≪B1≫及び≪D2≫は、いずれもこの依頼を承諾する旨返答した。(甲A53〔66~71頁〕、乙55〔2~4頁〕、乙56〔30~32頁〕)
(エ) 北工区に関する連絡
他方、品川駅北工区工事については、受注予定者である清水建設において、参考見積価格として745億3806万8902円を算出していた。清水建設の≪D2≫は、平成27年3月中旬頃、原告大成建設の≪A3≫、原告鹿島建設の≪B1≫及び大林組の≪C2≫に対し、それぞれ電話で、清水建設が提出する予定のおおよその価格を伝えるなどして、清水建設の参考見積価格を上回る価格の参考見積書を提出するよう依頼し、≪A3≫、≪B1≫及び≪C2≫は、いずれもこの依頼を了承した。(乙43〔6~24頁〕、乙44、乙56〔32~33頁〕、乙61、乙62〔5~11頁〕、乙64〔23~31頁〕)
ウ 4社からの参考見積りの提出
4社は、平成27年3月26日までに参加資格確認申請書を提出した。4社は、それぞれ共同企業体(JV)を組成し、その代表者となっており、各共同企業体の構成は、南工区について、大林組・≪G≫・≪H≫(以下「大林組JV」という。)、清水建設・≪I≫(以下「清水建設南JV」という。)、原告大成建設・≪J≫・≪K≫(以下「原告大成建設JV」という。)及び原告鹿島建設・≪L≫・≪M≫(以下「原告鹿島建設JV」という。)であり、北工区については、大林組、原告大成建設及び原告鹿島建設の共同企業体は同じ構成であったが、清水建設の共同企業体のみ、南工区とは異なる清水建設・≪N≫・≪I≫(以下「清水建設北JV」といい、清水建設南JVと併せて「清水建設JV」という。)という構成であった。
JR東海の中央新幹線建設部は、各事業者から競争見積りの手続や施工方法等に関する700件を超えるメールの送付を受け、回答を行った。施工方法等に関する質問等としては、鉄筋の組み方における溶接か結束線かの指定の有無、地中連続壁の壁厚を幾らにするかなどといったかなり詳細にわたる質問や、上下水道管、電カケーブル、通信ケーブル、過去に存在した建築物の地下構造物といった地中埋没物の有無・大きさに関する質問、あるいは工事区域における汚染土壌等に関する資料の開示を求めるものもあった。中央新幹線建設部では、質問への回答を行うに当たっては、独自の技術提案に係る質問であるとして各事業者が他の事業者への不開示を要求した場合を除き、全ての質問につき、当該質問をした事業者のみならず、参加事業者全てに対して、質問を行った事業者の名称は伏せた上で、質問内容と回答を電子メールで送信して開示した。
また、JR東海のリニア品川駅担当者は、4社全てからの要望に応じて、4社の各担当者に対し、施工現場となる新幹線品川駅に隣接する東海道新幹線の線路保守基地などを視察させた。これにより、4社は、工事の支障になる設備の有無、クレーンや掘削マシーンを設置するスペース、資材置き場のスペース等を把握することができた。
4社は、それぞれの共同企業体の代表として、平成27年3月26日までに、品川駅北工区工事及び品川駅南工区工事について、「工事全般の施工計画」としての「工程表」及び「工程表に係る技術的説明」、「技術提案に係る具体的な施工計画」としての技術提案書並びに参考見積書をそれぞれJR東海に提出した。4社の上記「技術提案に係る具体的な施工計画」には、個別の評価項目である「構真柱」「アンダーピニング」「マスコンクリー卜」「環境対策」「ストラット」「地中連続壁」という6つのエ種ごとに具体的な工法の説明が記載されており、その内容は、いずれもおおむね適正な品質・安全性を確保し得る水準に達するものであった。
上記参考見積書で出された価格は、品川駅北工区工事については、清水建設北JVが745億3806万8902円、原告大成建設JVが780億4445万5572円、大林JVが783億6637万4000円、原告鹿島建設JVが908億1641万5017円であり、品川駅南工区工事については、大林組JVが1480億3015万6000円、清水建設南JVが1550億7668万9930円、原告鹿島建設JVが1657億5732万2972円、原告大成建設JVが1666億2468万7572円であった。
(以上につき、甲A60、甲A62、甲A63、乙8〔12~17頁〕、乙43〔29~30頁〕、乙57〔18頁〕、乙64〔29~30頁〕、乙68、乙134〔17頁〕)
エ 再度の参考見積りの依頼
上記ウの参考見積価格は、いずれも各工区についてJR東海が設定していた予算額(北工区:479.03億円、南工区:940.33億円)を大幅に上回るものであった。
このため、JR東海では、4社に対し、それぞれ技術提案ヒアリングを実施した上、施工計画等を再検討し、改善した参考見積書等を提出するよう求めた。これを受けで4社は、平成27年4月17日までに改善後の参考見積書等を提出したが、品川駅北工区工事に関し、当初の参考見積額より清水建設北JVの見積価格は約5億円、原告大成建設JVは約400万円高くなり、品川駅南工区工事に関し、当初の参考見積額より清水建設南JVの見積価格は約9億円、原告大成建設JVは約600万円高くなり、大林組JV及び鹿島建設JVは当初の参考見積書と同額であり、いずれも、JR東海の予算額を依然大幅に上回るものであった。
(以上につき、乙8〔18~20頁〕、乙13〔4~5頁〕、乙68)
オ 平成27年4月中旬頃の3社会合等
原告大成建設の≪A1≫及び≪A3≫、原告鹿島建設の≪B1≫並びに大林組の≪C2≫は、平成27年4月中旬頃、3社会合を開催した。その際、品川駅新設工事と名古屋駅新設工事では、エ種が似たようなものが多いことから、品川駅新設工事に関して見積りの単価を下げると名古屋駅新設工事でも単価を下げざるを得なくなるとして、品川駅新設工事で単価を下げないようにする旨を話し合った。(乙69〔3~5頁〕、乙24)
また、この頃、≪C2≫と清水建設の≪D2≫の間でも、品川駅北工区工事及び品川駅南工区工事の正式見積書の提出に当たり、JR東海に提出した参考見積りの価格から大きく下げないこと、価格協議ではJR東海から明確な形で数量や条件の変更が提示されない限り、絶対に金額を下げないという姿勢で、今後の見積り合わせや価格協議に臨むことを確認した。(乙70〔11~12頁〕、乙13〔8~9頁〕)
カ 技術評価委員会による審査
JR東海の中央新幹線建設部は、平成27年4月23日に、南北両工区について、同部の部長及び次長、土木工事部長、建設工事部長、担当部長等が委員を務める技術評価委員会を開催した。同委員会で検討して決定した各社の加算点は、南北両工区共通で、大林組JVは7.0点、清水建設JVは6.5点、原告大成建設JVは6.0点、原告鹿島建設JVは6.0点であった。そして、中央新幹線建設部は、同月27日付けで、技術評価委員会での審査結果を記載した「技術提案審査結果通知書」を作成し、各事業者に交付した。(乙8〔21~27頁、資料④〕)
キ 見積り合わせ
JR東海は、平成27年5月13日に予定していた品川駅北工区工事及び品川駅南工区工事の見積り合わせに先立ち、前記エのとおり、いずれの工事も各社から提出された参考見積価格がJR東海の予算額を大幅に上回っていたことから、参考見積価格ではなく、JR東海が予算額を設定する際の積算に用いた資料等を参考にしながら、各工事の基準価格を決定し、4社に対し、後日行われる両工事における正式見積書の提出の際、1回目の見積り合わせで基準価格を下回るものがなかった場合には、同日、引き続き2回目の見積り合わせを行う旨連絡した。(乙8〔29~31頁〕)
ク 清水建設の≪D2≫と原告大成建設の≪A3≫らの品川駅北工区工事に関する連絡状況
品川駅北工区工事に関しては、受注予定者である清水建設において、1回目の見積り合わせで提出する正式見積価格を693億2000万円、2回目の見積り合わせで提出する正式見積価格を686億円と定めた。
その上で、清水建設の≪D2≫は、他社が提出する正式見積価格を他社に指定するに当たり、清水建設の正式見積価格より少なくとも40億円から50億円高い金額を指定すれば、各社の加算点が多少清水建設の加算点を上回ったとしても、清水建設の正式見積価格を含めた評価値が最も高くなると考えた。≪D2≫は、平成27年5月13日よりも前に、原告大成建設の≪A3≫、原告鹿島建設の≪B1≫及び大林組の≪C2≫に対し、順次、原告大成建設、原告鹿島建設及び大林組に1回目及び2回目の見積り合わせの際に正式見積価格として提出してほしいおおよその価格を伝えた。≪D2≫は、この際、≪A3≫及び≪B1≫には≪C2≫に伝えた価格よりも高い価格を伝えるなどして、清水建設の正式見積価格を上回る価格の正式見積書を提出するよう依頼した。≪A3≫らは、それぞれこの依頼を了承するとともに、自社の正式見積価格が清水建設のものを上回ることを確認するなどした。
(以上につき、甲A12〔111~113頁〕、甲A54〔34~35頁〕、甲A55〔34~38頁〕、乙13〔5~20頁〕、乙61、乙62〔12~15頁〕、乙65〔4頁〕、乙66〔23~28頁〕、乙67〔24~29頁〕、乙72〔7~11頁〕)
ケ 大林組の≪C2≫と原告大成建設の≪A3≫らの品川駅南工区工事に関する連絡状況
品川駅南工区工事に関しては、受注予定者である大林組において、1回目の見積り合わせで提出する正式見積価格を1345億円、2回目の見積り合わせで提出する正式見積価格を1320億円と定めた。
その上で、大林組の≪C2≫は、平成27年5月13日よりも前に、原告大成建設の≪A3≫、原告鹿島建設の≪B1≫及び清水建設の≪D2≫に対し、順次、大林組が提出する予定の1回目及び2回目のおおよその正式見積価格を伝え、大林組の正式見積価格を上回る価格の正式見積書を提出するよう依頼した。この際、≪C2≫は、≪D2≫に伝えた価格と≪A3≫や≪B1≫に伝えた価格には差を設けるなどしていた。≪A3≫らは、それぞれこの依頼を了承するとともに、それぞれ自社の正式見積価格が大林組のものを上回っていることを確認するなどした。
(以上につき、甲A12〔111~113頁〕、甲A54〔6~11頁、34~35頁〕、甲A55〔34~38頁〕、乙39〔13~23頁〕、乙55〔4~15頁〕、乙58〔23~26頁〕、乙65〔2頁〕、乙70〔12~18頁〕、乙71、乙73〔4~23頁〕、乙74〔7~14頁〕、乙75〔3~14頁〕、乙76〔2~14頁〕、乙77〔2~8頁〕、乙78[1~5頁〕)
コ 正式見積書の提出等
平成27年5月13日、品川駅北工区工事及び品川駅南工区工事の見積り合わせが実施され、4社がそれぞれ正式見積書を提出した。その結果、品川駅北工区工事については、清水建設北JVが約693億2000万円、原告大成建設JVが737億円、大林組JVが732億円、原告鹿島建設JVが895億円であり、品川駅南工区工事については、大林組JVが1345億円、清水建設南JVが1499億3000万円、原告鹿島建設JVが1640億円、原告大成建設JVが1550億円であったが、いずれもJR東海が設定した基準価格を上回っていた。
このため、同日、2回目の見積り合わせが実施され、4社がそれぞれ2回目の正式見積書を提出したところ、品川駅北工区工事については、清水建設北JVが約686億円、原告大成建設JVが729億円、大林組JVが725億円、原告鹿鳥建設JVが881億円であり、品川駅南工区工事については、大林組JVが1320億円、清水建設南JVが1485億円、原告鹿島建設JVが1613億円、原告大成建設JVが1490億円であった。しかし、いずれもなおJR東海が設定した基準価格を上回っていたことから、JR東海は、両工事の見積り合わせをいずれも不調とし、価格協議先を選定しなかった。
(以上につき、乙8〔29~33頁〕、乙13〔19~20頁〕、乙39〔20~21頁〕、乙62〔18頁〕、乙68、乙79〔2~13頁、16~25頁〕)
なお、原告大成建設の≪A1≫は、上記見積り合わせに先立つ平成27年5月1日、社内における同月開催の受注工事検討委員会で発言を求められた場合に備えて「リニア品川新駅(北工区)(南工区)の入札方針について」と題する手持ちのメモを作成していたところ、同メモには、⑴「JR東海の狙い」として、「ゼネコン各社にコスト競争をさせ、工事契約額の低減を図る。」と記載しており、⑵「当社の基本方針」として、①品川駅北工区工事及び品川駅南工区工事について、JR東海想定の契約金額は実工事費の60~70%と思われるとの認識を記載した上で、②「ゼネコン全体で、不必要な価格競争に走らない。(JR東海は徹底的な価格競争をさせようとしている)」、「JR東海に適正な価格で工事発注させるためには、JRが機関決定している品川駅建設費を見直させる必要あり。」、「このため、今回工事の入札が不調に終わることが肝要→これで正式に工事費不足を認識することになる(JR東海経営陣)」と記載し、③「入札参加各社が協調して適正な価格で発注させることが最重要。」、「この流れの中で、当社が受注できれば良いが、無理をする必要はない。」と記載していた。(甲A40〔99~101頁、別紙15〕)
サ 工程の分割等
JR東海は、前記コのとおり、品川駅新設工事の見積り合わせが両工事とも不調に終わったことを受け、その要因の一つとして、各工事の工期が北工区は平成39年(令和9年)12月10日まで、南工区は平成41年(令和11年)3月10日までであり、4社が不確定な将来のリスクを考慮して見積価格を高くしていると考え、品川駅北工区工事及び品川駅南工区工事の工程をいずれも2分割し、認定事実⑵ウの全行程(①工事桁架設、②地中連続壁、③構真柱構築、④品川駅・駅ビル受替、⑤地下函体構築、⑥駅設備設置)のうち、②地中連続壁までを第1期工事とし、①についても東海道新幹線の保守基地の線路に試験として工事桁を架設する工事桁架設試験施工のみを含めることとして、第1期工事のみを発注することにした。
そして、JR東海は、品川駅北工区工事及び品川駅南工区工事について、夜間工事として見積もられていた道路覆工、地盤改良工、地中連続壁工事等の施工時間帯については昼間施工を指定するなどの条件変更を行い、変更後の条件を基に改めて見積り合わせを実施することを決めた。JR東海は、計画どおりリニア中央新幹線を令和9年に開業するために受注者に早急に着工してもらう必要があると考えており、他方で、可能な限りのコストダウンを図る必要もあったことから、条件変更後の見積り合わせにおいては、契約金額の上限となる基準価格を設定せず、また、技術提案等を考慮した評価値を用いることなく、単純に最も低額な見積価格を提出した事業者を第1順位の価格協議先とする選定方法にすることとした。
(以上につき、甲A5〔123頁〕、甲A34〔59~61頁〕、乙14〔5~8頁、16~20頁〕)
JR東海の≪F3≫は、平成27年5月下旬から6月上旬頃、4社の幹部に対し、コストダウンの検討を依頼し、原告鹿島建設を除く3社は、コストダウン策をまとめた書面をそれぞれ提出した。(乙14〔11頁〕、乙80〔8~12頁〕)
JR東海は、平成27年8月19日、4社に対し、条件変更後の競争見積りの手続や工事内容を記載した見積通知書及び変更競争参加説明書等を交付し、同月26日までに条件変更後の品川駅北工区工事及び条件変更後の品川駅南工区工事の正式見積書を提出するよう依頼した。(乙14〔20頁〕)
シ 条件変更後の品川駅南工区工事に関する連絡状況
条件変更後の品川駅南工区工事について、受注予定者である大林組は、正式見積価格を341億円と算出した。大林組の≪C2≫は、平成27年8月26日までに原告大成建設の≪A3≫、原告鹿島建設の≪B1≫及び清水建設の≪D2≫に対し、大林組が提出を予定しているおおよその正式見積価格を伝え、大林組の正式見積価格を上回る価格の正式見積書を提出するよう依頼し、≪A3≫らは、それぞれこの依頼を了承した。(甲A54〔25~27頁〕、甲A55〔83~84頁〕、甲A81〔15~17頁〕、乙39〔28頁〕、乙55〔15~18頁〕、乙70〔22~28頁〕、乙90〔1~6頁〕)
ス 条件変更後の品川駅北工区工事に関する連絡状況
条件変更後の品川駅北工区工事に関し、受注予定者である清水建設は、正式見積価格を193億2800万円と算出した。清水建設の≪D2≫は、平成27年8月26日までに、大林組の≪C2≫及び原告鹿島建設の≪B1≫に対し、大林組及び原告鹿島建設それぞれにおいて、正式見積価格としてJR東海に提出してほしいおおよその価格を伝え、この際、≪B1≫には≪C2≫に伝えた価格よりも高い価格を伝えるなどして、清水建設の正式見積価格を上回る価格の正式見積書を提出するよう依頼し、≪C2≫及び≪B1≫は、それぞれこの依頼を了承した。≪B1≫は、同月21日、原告鹿島建設の担当者に対し、条件変更後の品川駅南工区工事の見積価格を360億円以上、条件変更後の品川駅北工区工事の見積価格を210億円以上とするよう指示した。(甲A54〔22~24頁〕、甲A55〔56~57頁、60~62頁〕、甲A81〔15~17頁〕、乙39〔28~30頁〕、乙55〔15~18頁〕、乙61、乙70〔22~24頁、28頁〕、乙82〔16~20頁〕、乙83〔5~18頁〕)
また、≪D2≫は、平成27年8月21日、原告大成建設本社を訪れ、原告大成建設の≪A3≫と面談した。≪D2≫は、清水建設の正式見積価格が200億円弱になる予定であることを伝えるとともに、見積価格を合計219億8926万1000円と積算した書面を≪A3≫に交付し、原告大成建設の正式見積価格を同程度とするよう依頼し、≪A3≫は、この依頼を承諾した。これを受けて、≪A3≫は、上記書面の219億8926万1000円という見積総額の記載部分付近に「大成建設に望む金額」と書き込んだ上、≪D2≫から聞き出した情報に基づいて、上記書面に「清水建設は200億弱で提出予定」と書き込み、これを≪A1≫を含む原告大成建設社内の関係者らに交付した。原告大成建設社内においては、東京支店のリニアプロジェクトチームが積算作業をした結果、195億6267万2212円という工事価格が算出されたが、営業サイドの希望金額に従って205億円で見積りを出すこととなった。≪A3≫は、同月26日の見積り合わせよりも前に、≪A1≫から、原告大成建設の見積価格を205億円までしか上げられない旨を清水建設に伝えるよう指示され、≪D2≫に対し、電話でその旨伝えたところ、≪D2≫は、これを了承した。(甲A55〔57~63頁〕、乙62〔19~26頁、資料7-1〕、乙63〔22~29頁〕、乙65〔4~7頁〕、乙82〔17~21頁〕、乙84〔19~22頁、資料9-1〕、乙85〔3~11頁、資料1-1、資料2-2〕、乙86〔6~11頁、資料1〕、乙89〔15~19頁〕)
セ 価格協議先の決定と契約締結
平成27年8月26日、条件変更後の品川駅北工区工事及び条件変更後の品川駅南工区工事の見積り合わせが実施された。各事業者から提出された見積価格は、条件変更後の品川駅北工区工事については、清水建設北JVが193億2800万円、原告大成建設JVが205億円、大林組JVが210億円、原告鹿島建設JVが254億円、条件変更後の品川駅南工区工事については、大林組JVが341億円、清水建設南JVが360億5100万円、原告鹿島建設JVが382億円、原告大成建設JVが420億円であり、条件変更後の品川駅北工区工事については清水建設北JVが提出した193億2800万円、条件変更後の品川駅南工区工事については大林組JVが提出した341億円が最も安値の正式見積価格となり、それぞれ第1順位の価格協議先に選定された。(乙14〔28~29頁〕、乙68、乙70〔28頁〕、乙74〔14~18頁〕、乙76〔22~24頁〕、乙135〔20~21頁〕)
その後、条件変更後の品川駅北工区工事については、平成27年9月16日に清水建設が清水建設北JVを代表して受注価格182億5000万円(税込みの代金は197億1000万円)で、条件変更後の品川駅南区工事については、同年10月21日に大林組が大林組JVを代表して受注価格325億円(税込みの代金は351億円)で、それぞれJR東海と工事請負契約を締結した。(乙14〔30~32頁、資料⑫、資料⑬〕)
⑸ 名古屋駅新設工事に関する状況
ア 名古屋駅中央工区工事の出件
(ア) 予算の設定
≪E≫は、毎年、調査設計の成果物として、原告大成建設の積算結果等を踏まえて名古屋駅新設工事の工事費を取りまとめた資料等をJR東海に提出していた。原告大成建設は、調査設計において、名古屋駅中央部の工事費を695億1453万5000円と算出していた。JR東海では、名古屋駅新設工事に要する予算額を含めた設備投資計画につき平成26年9月に取締役会の承認を受ける予定となっていたため、平成25年12月、上記金額の詳細な内訳を提出するよう求めたところ、原告大成建設から、当時の担当者が交代してしまったため、現在の見積りを提出するとして、1499億4800万円の見積りを受け取った。JR東海は、この見積資料を一部反映した予算の内訳を作成し、約641億円の予算とした。(乙104〔3~23頁〕)
(イ) 工事の出件
JR東海は、平成27年4月24日、前提事実⑶イのとおり、4社に見積通知書等を交付して、指名競争見積方式により、名古屋駅中央工区工事を出件した。同工事の施工期間は約13年間(平成41年3月10日まで)とされ、施工範囲は、①新幹線部、②西口駅広部、③タワーズ車路部及び④在来線部から構成されていた。
競争参加説明書には、➊指名通知を受け取った各競争参加事業者(共同企業体を含む。)が、工事全般の疑問点についてJR東海との間で質問事項と回答のやり取りをした上、➋平成27年7月30日までに、技術提案等として工事全般の施工計画及び参考見積書を提出するなどし、➌JR東海が各競争参加事業者に対して技術提案に関するヒアリングを実施し、技術評価委員会において各競争参加事業者の技術提案の評価点等を決定した上で、❹同年9月14日、各競争参加事業者が見積書を提出して見積り合わせを行い、各競争参加事業者の評価点を提出された見積書の見積金額で割った評価値の数値が高い競争参加事業者を価格協議先に選定し、❺更なるコストダウンを図るため、JR東海と価格協議先との間で価格協議を行った上で、❻発注する工事の請負契約を締結するという流れが規定されていた。
上記➊について、名古屋駅中央工区工事では、600問を超える質問事項に対して回答がされた。その内容は、工事桁の受替順序、地中連続壁に用いるコンクリートの配合条件等の工事内容についての詳細な質問が含まれており、JR東海から回答と併せて修正図面等の資料を提示した場合もあった。これらの質問事項と回答は、独自の技術提案に係る質問として他の業者への不開示を要求され、不開示とする必要性が認められた場合を除き、原則として、競争参加者全てにメールで送信されて共有された。
(以上につき、乙9〔21~34頁〕、乙10〔2~21頁〕、乙79〔13~16頁、25頁、資料4〕)
イ 大林組の参加辞退
原告大成建設の≪A1≫及び≪A3≫、原告鹿島建設の≪B1≫並びに大林組の≪C2≫は、平成27年5月20日、3社会合を開催した。この会合の前に、大林組は、同社が受注予定者となっていない名古屋駅中央工区工事の見積書作成に労力を割くことを避けるため、当該競争見積手続の参加を辞退することを決めていたところ、≪C2≫は、≪A1≫らにその方針を伝えた。(乙38〔4~5頁〕、乙92〔7頁〕、乙93〔3~12頁〕、乙94)
大林組は、平成27年5月下旬頃、JR東海に対し、競争見積参加の辞退を申し入れ、同年6月25日、JR東海から辞退が認められた。(乙10〔21頁〕、乙38〔5頁〕)
ウ 4社の連絡状況
原告大成建設の≪A1≫は、平成27年4月下旬頃、原告大成建設名古屋支店プロジェクト担当部長として名古屋駅中央工区工事の見積価格の積算を担当していた≪A4≫(以下「≪A4≫」という。)に対し、「他社は勉強していないからまともな積算なんてできない。他社に自由にやらせていたら、必要なリスクを積まないから、安くされてしまう。」として、他の3社がJR東海に提出する参考見積価格が安くならないよう、原告大成建設の参考見積価格から約1割ないし3割増額した価格となるように単価、数量等を調整した他社用の3種類の積算資料等を作成するよう指示した。
原告大成建設の≪A4≫ら積算担当者は、平成27年6月下旬までに、原告大成建設の暫定的な参考見積価格を約1703億円と算出するとともに、約2048億円、約2229億円及び約2324億円の参考見積価格を記載した3種類の積算資料等を作成した。
(以上につき、甲A6〔57頁〕、甲A49〔49頁、62~63頁〕、甲A51〔44~49頁〕、乙15〔7~10頁〕、乙95、乙96〔7~13頁〕、乙97〔4~27頁〕、乙98〔11~13頁、15頁〕、乙99〔3~4頁〕、乙100、乙101〔2~4頁〕)
原告大成建設の≪A1≫は、これら3種類の積算資料等を受領すると、約2048億円の価格が記載された積算資料等を原告鹿島建設に、約2229億円の価格が記載された積算資料等を原告清水建設に、約2324億円の価格が記載された積算資料等を大林組に交付するよう、原告大成建設の≪A3≫に指示した。(乙15〔10~13頁〕、乙95、乙97〔24~25頁〕)
エ 平成27年6月25日、原告大成建設の≪A1≫及び≪A3≫と原告鹿島建設の≪B1≫の面談
原告大成建設の≪A1≫は、平成27年6月25日、原告大成建設の≪A3≫とともに原告大成建設の本社において、原告鹿島建設の≪B1≫と面談した。この場で、≪A1≫は、約2048億円の価格が記載された積算資料等を≪B1≫に交付し、原告鹿島建設がJR東海に提出する参考見積価格を同程度とするよう依頼し、≪B1≫は、この依頼を了承した。(乙15〔1~2頁、10~18頁〕、乙95、乙97〔24頁〕)
≪B1≫は、原告鹿島建設の積算担当者に対し、原告大成建設から受領した積算資料等を交付し、原告鹿島建設がJR東海に提出する参考見積価格を同資料記載の約2048億円以上とするよう指示した。積算担当者は、同資料等を参照するなどしつつ積算作業を進め、原告大成建設から受領した資料に記載された価格よりも高い価格を記載した参考見積書を作成した。(乙138〔5~7頁、29~30頁〕)
オ 平成27年6月26日、原告大成建設の≪A3≫と清水建設の≪D2≫の面談等
原告大成建設の≪A3≫は、平成27年6月26日、原告大成建設本社において、清水建設の≪D2≫と面談した。その場で、≪A3≫は、約2229億円の価格が記載された積算資料等を≪D2≫に交付し、清水建設がJR東海に提出する参考見積価格を同程度とするよう依頼し、≪D2≫は、この依頼を了承した。(甲A55〔65~72頁〕、乙15〔1~2頁、10~12頁、18~21頁〕、乙95、乙97〔24頁〕、乙102〔7~10頁〕)
なお、原告大成建設の≪A3≫は、大林組は名古屋駅中央工区工事の競争見積参加を辞退する旨の連絡があったため、大林組には積算資料等の交付は行わなかった。(乙15〔10~13頁、18~19頁〕、乙93〔12頁〕、乙95、乙103〔7頁〕)
カ 原告大成建設の≪A3≫、原告鹿島建設の≪B1≫と清水建設の≪D2≫の平成27年7月頃の連絡状況
原告大成建設の≪A3≫は、平成27年7月下旬頃までに、≪A1≫からの指示を受け、原告鹿島建設の≪B1≫及び清水建設の≪D2≫に対し、原告大成建設がJR東海に提出する参考見積価格が約1900億円程度になる旨を電話で伝えるとともに、原告鹿島建設及び清水建設の提出する参考見積価格を尋ね、≪B1≫及び≪D2≫は、それぞれ≪A3≫が交付した積算資料に記載された金額と同程度の参考見積価格になる予定と回答した。≪A3≫は、≪A1≫に対してその旨を報告した。(甲A55〔72頁〕、乙15〔21~23頁〕、乙102〔12~14頁〕)
キ 3社からの参考見積書の提出と指名競争見積手続の中止
原告大成建設、原告鹿島建設及び清水建設は、平成27年7月30日、参加資格確認申請書等を提出した。原告ら2社は、いずれも共同企業体(JV)を組成し、その代表者となっており、各共同企業体の構成は、原告大成建設・≪O≫・≪M≫(以下「原告大成建設名古屋JV」という。)及び原告鹿島建設・≪L≫・≪P≫(以下「原告鹿島建設名古屋JV」という。)であり、清水建設は、共同事業体を構成せず、単独でそれぞれ競争に参加することを表明した。
原告大成建設名古屋JV、原告鹿島建設名古屋JV及び清水建設は、同日、名古屋駅中央工区工事の技術提案として工事全般の施工計画、参考見積書等をそれぞれJR東海に提出した。
各社が提出した参考見積価格は、原告大成建設名古屋JVが1879億7267万2012円、原告鹿島建設名古屋JVが2060億円、清水建設が2200億円であり、いずれも、JR東海が設定した予算額(約641億円)を大幅に上回るものであった。
(以上につき、乙2〔18~20頁〕、乙10〔23~25頁、資料⑧〕、乙105)
JR東海は、上記のとおり、原告大成建設、原告鹿島建設及び清水建設から提出された参考見積価格と予算額との乖離が非常に大きいことから、このまま指名競争見積りの手続を進めても見積り合わせにおいて予算内の見積金額の提出を得られる見込みはなく、むしろ、競争見積りの手続をいったん中止した上で、参考見積りの金額が高くなっている原因を調査し、必要に応じて設計・施工計画を見直すなどしてコストダウンの方策を検討するべきであると判断し、平成27年8月28日に原告大成建設、原告鹿島建設及び清水建設に対し、名古屋駅中央工区工事の指名競争見積手続の中止を通知した。(乙2〔20頁〕、乙104〔23~24頁〕、乙106〔8~10頁〕)
ク 原告大成建設による特命随意契約の要望
原告大成建設の≪A1≫は、平成27年8月19日、JR東海の担当者と面談し、見積条件の変更により1500億円までのコストダウンが可能であるので、同年9月14日に予定されている見積り合わせを不調にした上で、指名競争見積手続を不調として打ち切り、原告大成建設と特命随意契約を締結してもらいたい旨申し入れた。しかし、JR東海の担当者は、指名競争見積手続の進行中であり、手続の公正さや競争性の確保の観点から特命随意契約の締結に向けた交渉に応ずる余地はないとしてこれを拒絶した。
もっとも、その後、JR東海は、原告大成建設との間で、継続的にコストダウン策の提案を受け、平成27年9月から12月にかけて合計33回の打合せを行った。
(以上につき、甲A29〔11~13頁、23~24頁〕、乙10〔33~43頁〕、乙106〔2~3頁〕)
ケ 指名競争見積手続の中止後の再検討等の状況
(ア) 工事分割に係る参考見積りの依頼
JR東海は、名古屋駅中央工区工事のうち、最初の約3年間において施工することが予定されていた新幹線部における地中連続壁の構築及び仮設杭の施工、在来線部における工事桁杭の構築及び工事桁による受替の工事部分(名古屋駅中央工区1期工事)を切り出して出件することを検討した。そして、JR東海は、平成27年11月下旬頃から12月上旬頃にかけて、原告大成建設及び原告鹿島建設に対し、名古屋駅中央工区1期工事の参考見積価格の提出を非公式に依頼した。(甲A29〔24頁〕、乙2〔20~23頁〕、乙11〔2~6頁〕、乙106〔3~8頁、25~27頁〕)
(イ) 平成27年12月の原告大成建設の≪A1≫と原告鹿島建設の≪B1≫の連絡状況等
原告大成建設においては、当初、名古屋駅中央工区1期工事の参考見積価格を約494億円として検討していたところ、≪A1≫は、平成27年12月上旬ないし中旬頃、原告大成建設の≪A4≫に対し、原告鹿島建設に提供するための見積資料の作成を指示した。その後、原告大成建設の≪A3≫は、同月17日、原告鹿島建設の≪B1≫に対し、当該見積資料を交付するとともに、原告鹿島建設がJR東海に提出する参考見積価格を当該見積資料記載の約542億円程度とすることを依頼し、≪B1≫は、この依頼を了承した。
≪B1≫は、平成27年12月23日頃、≪A3≫に対し、原告鹿島建設がJR東海に提出する参考見積価格を約524億円まで引き上げることを決定した旨連絡し、これに対し、≪A3≫は、「ありがとうございます ご迷惑をおかけしました」と返答し、その旨を≪A1≫に報告した。
(以上につき、乙95、乙107〔2頁、4~16頁、28~32頁〕、乙108〔1~2頁、10~20頁、29~30頁〕、乙109〔3頁、21~23頁〕、乙110〔16~17頁〕、乙111〔29頁〕)
原告大成建設は平成27年12月24日、原告鹿島建設は同月25日、それぞれ参考見積価格をJR東海に堤出した。原告大成建設の参考見積価格は473億8282万9647円、原告鹿島建設の参考見積価格は524億円であったが、これらの価格はいずれもJR東海が独自に積算していた見積価格を大幅に上回るものであった。(乙2〔23頁〕、乙106〔27~32頁〕)
(ウ) 大林組に対する参考見積書の提出依頼
JR東海は、前記(イ)で提出された原告大成建設の見積価格が割高であり、原告大成建設と原告鹿島建設の参考見積価格の差が約50億円と大きく乖離していたことや、両社の見積価格において計上された経費率の高さ等から、両社の間で競争原理が働いていないのではないかという疑念を持った。そのため、JR東海は、名古屋駅中央工区工事の競争見積参加を辞退した大林組に対し、名古屋駅中央工区1期工事のうち、新幹線部と西口広場部の連壁工事に関する参考見積書の提出を非公式に依頼することとした。そして、JR東海の≪F1≫は、平成28年1月上旬頃、大林組の≪C1≫と面談し、第1期工事のうち、地中連続壁部分に関する概算見積りを依頼したところ、≪C1≫は、名古屋駅新設工事を施工するだけの人的物的余裕がないとして当初難色を示したものの、≪F1≫から重ねて依頼され、この依頼を了承した。
(以上につき、甲A12〔52~53頁〕、甲A26〔48~49頁〕、甲A29〔26~35頁〕、甲A54〔31頁〕、甲A70〔7~9頁〕、乙2〔23~25頁〕、乙38〔6~8頁〕、乙112〔3~15頁〕、乙113〔3~5頁〕)
(エ) 平成28年1月の原告大成建設の≪A3≫と大林組の≪C2≫の面談
原告大成建設の≪A1≫は、JR東海から大林組に対して非公式の見積書の提出依頼があったことを知り、平成28年1月中旬頃、原告大成建設の≪A3≫に対し、原告大成建設名古屋支店が作成した連壁工事の見積資料を大林組に交付し、原告大成建設と大林組の見積金額を比較・分析するよう指示した。当該指示を受けて、≪A3≫は、原告大成建設名古屋支店が作成した見積資料を入手した上、同月19日、大林組の≪C2≫と面談した。
その際、≪A3≫は、上記原告大成建設名古屋支店が作成した見積資料を≪C2≫に交付し、大林組の見積価格との比較を依頼した。後日、この依頼を受けた≪C2≫は、≪A3≫に対し、大林組の見積価格(直接工事費のみ)は原告大成建設の連壁工事に関する見積価格よりも約20億円安いことを伝え、≪A3≫は、聴取内容を≪A1≫や名古屋支店のプロジェクトチームのメンバーに送付した。
(以上につき、甲A12〔114~115頁〕、甲A54〔31頁、34頁〕、乙95、乙113〔5~7頁〕、乙114〔4~8頁、12~17頁〕、乙115〔3~15頁〕)
(オ) 大林組の≪C1≫と原告大成建設の≪A1≫の面談
大林組の≪C1≫は、原告大成建設の≪A1≫と面談し、JR東海に依頼されて連壁工事の非公式の見積書を提出したことや、大林組としては、名古屋駅中央工区1期工事の連壁工事を受注したくはないが、JR東海の意向には従わざるを得ない状況であることを説明した。また、原告大成建設の≪A3≫は、平成28年1月25日までには、大林組の≪C2≫から、大林組がJR東海に提出する非公式見積りの価格を聞き、それを≪A1≫に伝えていた。(乙38〔8~13頁〕、乙114〔17~20頁〕)
(カ) 大林組に対する競争見積手続への参加要請
大林組は、平成28年1月21日、連壁工事の見積価格をJR東海に提出した。前記(エ)のとおり、当該見積価格は、従前、原告大成建設が提出していた非公式の見積書における連壁工事の価格を下回るものであったところ、JR東海は、競争原理によるコストダウンを図るためには、指名競争見積手続に大林組を参加させることが必要であると判断し、JR東海の≪F1≫は、同年2月上旬から中旬頃にかけて、大林組の≪C1≫と面談し、名古屋駅中央工区1期工事の競争見積手続への参加を要請した。
≪C1≫は、名古屋駅中央工区工事の連壁について、JR東海が予定している工期を前提とすると施工が困難であり、工事開始が8か月遅れでなければ難しい旨を伝えたところ、JR東海の≪F1≫は、工程を変更するので工事開始が8か月遅れでも構わないので、改めて名古屋駅新設工事への参画を再検討してほしいと依頼した。≪C1≫は、≪F1≫に対し、連壁工事だけであれば大林組も施工できるが、中央工区のうち、在来線部、タワーズ車路部の工事及び連壁工事以降の工事は施工しないという方針を伝えた。
(以上につき、甲A12〔54~57頁〕、甲A21〔61~67頁、132~134頁〕、甲A26〔49~50頁〕、甲A29〔41~46頁〕、甲A54〔32頁〕、乙2〔25~27頁〕、乙38〔8~13頁〕、乙112〔19~20頁、22~28頁〕)
(キ) 平成28年2月下旬頃、原告大成建設の≪A1≫と大林組の≪C1≫の連絡状況
原告大成建設の≪A1≫は、平成28年2月下旬頃、大林組の≪C1≫に対し、大林組が名古屋駅中央西工区工事の指名競争見積手続に参加するのであれば、見積価格をできる限り高くするよう依頼した。これに対して、≪C1≫は、既に大林組が受注している条件変更後の品川駅南工区工事の見積価格と大きく異なる見積書を提出することは困難である旨返答すると、≪A1≫は、≪C1≫に対し、大林組の見積価格を事前に連絡してもらいたい旨依頼し、≪C1≫は、この依頼を承諾した。(以上につき、甲A21〔74頁〕、甲A26〔51頁〕、甲A54〔34~36頁〕、乙38〔11~15頁〕、乙113〔9~11頁〕)
(ク) 工区の分割等
JR東海は、かねて受注意欲を示していた原告大成建設と、新たに参画の意向を示した大林組との競争により、コストダウンが進むことを期待して、名古屋駅中央工区1期工事を、新幹線部及び西口駅広部の中央西工区と、在来線部及びタワーズ車路部の中央東工区の2つの工区に分け、中央西工区について4社の指名競争見積方式により発注することとした。
もっとも、大林組が名古屋駅中央西工区の第2期工事に参画しない意向を示していたため、JR東海は、名古屋駅中央西工区の第1期工事において大林組が代表構成員を務めるJVに準大手ゼネコンを加えて、仮に大林組が代表構成員を務めるJVが第1期工事を受注した場合には、第1期工事を通じてその準大手ゼネコンに実績を積ませることによって、できれば第2期工事における原告大成建設の競争相手を確保したいと考え、名古屋駅中央西工区の第1期工事の指名競争見積手続に当たっては、JVの構成まで指定して指名する方針とした。JR東海は、大林組に対して、工期が8か月遅れることを了承の上、名古屋駅中央工区1期工事に前向きであった≪Q≫とJVを組成することを要望した。
名古屋駅中央西工区工事については、その出件前の平成28年3月頃、JR東海から原告鹿島建設と清水建設に競争参加への意向を確認したところ、両者から当該指名競争手続には参加しない旨の返答があったため、各共同企業体(JV)の構成については、大林組・≪Q≫・≪R≫(以下「大林組名古屋JV」という。)及び原告大成建設・≪O≫・≪M≫(原告大成建設名古屋JV)となった。
(以上につき、乙2〔27~28頁〕、乙11〔7~8頁〕、乙112〔45~51頁〕)。
コ 名古屋駅中央西工区工事の出件
JR東海は、平成28年3月10日、原告大成建設と大林組のみに見積通知書を交付して競争参加者に指名し、前提事実⑶イのとおり、名古屋駅中央西工区工事を出件した。
名古屋駅中央西工区の競争参加説明書に記載されていた大まかな手続の流れは、➊指名通知書を受け取った各競争参加事業者(共同企業体を含む。)が、工事全般の疑問点についてJR東海との間で質問事項と回答のやり取りをした上、➋平成28年6月1日までに、技術提案等として工事全般の施工計画及び参考見積書を提出するなどし、➌JR東海が各競争参加事業者に対して技術提案に関するヒアリングを実施し、技術評価委員会において各競争参加事業者の技術提案の評価点等を決定した上で、❹平成28年6月20日、各競争参加事業者が見積書を提出して見積り合わせを行い、各競争参加事業者の評価点を提出された見積書の見積金額で割った評価値の数値が高い事業者を価格協議先に選定し、❺更なるコストダウンを図るため、JR東海と価格協議先との間で価格協議を行った上で、❻発注する工事の請負契約を締結するというものであった。JR東海は、名古屋駅中央西工区工事について、平成27年12月以降に各社からすでに非公式の参考見積りを取得していたため、大林組名古屋JV及び原告大成建設名古屋JVに対して参考見積価格の提出は求めず、平成28年6月20日までに正式な見積価格を提出するよう求めた。
(以上につき、乙2〔27~30頁〕、乙11〔6~14頁、資料3、資料4〕、乙112〔28~51頁〕)
JR東海が、大林組名古屋JV及び原告大成建設名古屋JVに対して見積通知書等を交付した平成28年3月以降、両JVとJR東海との間で、指名競争見積手続や施工方法の全般的な疑問点について、400問を超える質問事項があり、その内容は、仮受杭の鋼管上部の処理方法、地中連続壁の接合部分に用いるコンクリートの配合条件等の詳細にわたる質問が含まれており、これらの質問事項と回答は、独自の技術提案に係る質問として他の業者への不開示を要求され、不開示とする必要性が認められた場合を除き、原則として、両JVに対してメールで送信されて共有された。(乙11〔19~20頁〕)
サ 原告大成建設の≪A3≫と大林組の≪C2≫の連絡状況
大林組の≪C2≫は、名古屋駅中央西工区工事については、積算に関する資料や見積りの内訳に関する資料をやり取りしたり、見積金額を教え合って原告大成建設が受注できるようにすればよいと認識していた一方、大林組が原告大成建設の指示どおりに見積価格を上乗せした場合、大林組が品川駅新設工事において提出した連壁工事に関する見積価格と名古屋駅中央西工区工事における連壁工事の見積価格との違いにJR東海が気付き、大林組がJR東海からの信用を失い、最悪の場合、4社による受注調整が発覚する危険性があると懸念した。そのため、≪C2≫は、平成28年3月の名古屋駅中央西工区工事の出件後、原告大成建設の≪A3≫に連絡し、「うちは品川で出した連壁の関係があるので、あまり金額動かせなくて」、「こちらの見積りに合わせてもらう形になると思います」などと伝え、大林の見積金額を基準に原告大成建設がそれよりも下の金額で提出してもらうことになることを伝え、≪A3≫は、これを承諾する旨返答した。
≪A3≫は、平成28年4月7日、原告大成建設の≪A1≫から指示を受け、≪C2≫に対し、原告大成建設名古屋支店が作成した名古屋駅中央西工区工事の施工条件や積算条件に関する資料を交付して、大林組の地中連続壁工の積算条件を確認するよう依頼し、≪C2≫もこれを承諾した。≪C2≫は、同月18日、≪A3≫に対し、名古屋駅中央西工区工事の積算に関する大林組の考え方を伝え、≪A3≫は、これを≪A1≫や他の社内プロジェクトチームメンバーに伝えた。
(以上につき、甲A49〔85頁〕、甲A54〔35~36頁〕、乙95、乙113〔12~14頁〕、乙117〔5~13頁〕、乙118〔3~10頁〕)
シ 平成28年5月26日の3社会合
原告大成建設の≪A1≫及び≪A3≫、原告鹿島建設の≪B1≫並びに大林組の≪C2≫は、平成28年5月26日、東京都内の飲食店で3社会合を開催した。≪C2≫は、≪A1≫と≪A3≫に対し、大林組の見積価格に関する資料を交付した上で、大林組の見積価格は概算で約120億円となる見込みである旨伝えた。これに対し、≪A1≫は、原告大成建設の見積価格が概算で約150億円であることを伝え、「もう少し上がりませんか。」と述べて、見積価格を上げるよう≪C2≫に依頼した。
なお、その際、≪C2≫は、原告鹿島建設の≪B1≫から、「うちは指名に入らないようにしてもらったので。」、「そういえば、大林さんは辞退しないんですか。」、「まあ、ちゃんとお願いしますよ。」などと言われたところ、受注調整どおりに原告大成建設が名古屋駅中央西工区工事を受注できるように大林組がちゃんと協力してくださいと言われているものと理解し、「分かってますよ。」と返答した。
(以上につき、甲A12〔115~120頁〕、甲A54〔36~40頁、53頁〕、乙95、乙113〔14~20頁〕、乙116〔7~11頁〕、乙119〔2~9頁〕、乙120〔2~5頁〕)
ス 平成28年5月末頃の原告大成建設と大林組の≪C1≫の面談
平成28年5月末頃、原告大成建設の≪A1≫又は≪A3≫は、大林組の≪C1≫又は≪C2≫に対し、名古屋駅中央西工区工事に係る原告大成建設の見積条件に関する資料を交付した。その上で、≪A1≫は、≪C1≫と面談し、大林組の見積価格をできるだけ高値にすることや、見積り項目の漏れがないようにしてもらうこと、大林組の見積価格における経費率を25~30パーセントを超える高い比率にすることを≪C1≫に依頼した。(甲A12〔115~117頁〕、甲A54〔40~42頁〕、乙38〔16~18頁〕、乙95、乙113〔20~22頁〕、乙116〔11~16頁〕、乙118〔18~23頁〕、乙119〔14~20頁〕)
セ 技術評価委員会による審査
平成28年6月1日までに、大林組名古屋JV及び原告大成建設名古屋JVから、工事全般の施工計画等の技術提案がJR東海に提出された。
JR東海の中央新幹線建設部は、平成28年6月9日及び10日に行われた名古屋駅中央西工区工事の技術評価委員会において、加算点の合計を、大林組名古屋JVが8.5点、原告大成建設名古屋JVが7.0点と決定した。中央新幹線建設部は、同月13日頃、技術評価委員会での審査結果を記載した「技術提案審査結果通知書」を作成し、各事業者に交付した。(乙11〔20~31頁〕)
ソ 原告大成建設の≪A3≫と大林組の≪C2≫の連絡状況等
原告大成建設では、平成28年6月9日、決裁権者である同社名古屋支店長の決裁及び同社社長の了解を得て、提出見積価格の下限を112億8000万円とすることが決定された。
他方、大林組においても、原告大成建設の見積価格を踏まえた見積価格の再検討が行われた同月10日頃、同社の見積価格は126億1000万円となった。大林組の≪C2≫は、原告大成建設の≪A3≫にその旨連絡したところ、≪A3≫は、もう少し見積価格を上げてもらいたい旨返答した。その後、大林組の見積価格は、約128億3000万円に変更され、≪C2≫は、同月16日、この価格を≪A3≫に伝えた。
≪A3≫は、原告大成建設の≪A1≫及び同社名古屋支店に大林組の上記価格を報告し、確実に受注できるようにするためのシミュレーションを経て、原告大成建設の見積価格は114億5480万円に決定された。
(以上につき、甲A54〔48~50頁〕、乙38〔18~22頁〕、乙95、乙105、乙113〔23~29頁〕、乙118〔23~33頁〕、乙121〔2~12頁〕、乙122〔2頁〕、乙123〔3~4頁、10~14頁〕、乙124〔3~6頁、10~12頁〕)
タ 見積り合わせ及び修正依頼
平成28年6月20日、原告大成建設名古屋JVは114億5480万円、大林組名古屋JVは128億3000万円の見積価格をそれぞれJR東海に提出した。(甲A26〔56頁〕、甲A29〔82頁〕、乙11〔31~32頁〕、乙121〔12頁〕)
上記の見積価格は、いずれも生コンクリートの単価が実勢価格と異なる割高な金額を用いて積算されていたほか、大林組名古屋JVの見積書は、一部の機械経費についてJR東海が事前に指定した見積条件(地中連続壁の構築に必要な機械を新規製作する場合には、機械製作費用から想定される使用期間経過後に売却したとして得られる金額を差し引いた金額を損料として計上するという条件)に反して、機械製作費用から想定される使用期間経過後に売却したとして得られる金額を差し引かずに積算されたほか、JR東海の指定に反する高額な機械の経費を計上していたため、JR東海は、平成28年6月21日、原告大成建設名古屋JV及び大林組名古屋JVに対し、同月24日までに、これらの点を修正した見積価格を提出するよう指示した。
(以上につき、甲A12〔68~69頁〕、甲A17〔51~52頁〕、甲A29〔82~93頁〕、乙11〔34~44頁〕、乙113〔31頁〕、乙118〔33~34頁〕、乙125〔3~4頁〕)。
その後、原告大成建設の≪A3≫は、大林組の≪C2≫に対し、JR東海からの指示に基づく修正項目が少ないことから、原告大成建設の修正後の見積価格はあまり下がらないが、大林組の見積金額が分かったら教えてほしい旨を連絡した。大林組において、JR東海からの上記指示に従って、機械経費の計上方法をJR東海があらかじめ指定していた見積条件に修正するとともに、生コンクリートの単価を実勢価格に修正したところ、修正後の見積価格は109億9000万円となったことから、≪C2≫は、平成28年6月23日頃、この価格を≪A3≫に連絡した。(甲A54〔51~54頁〕、乙113〔29~34頁〕、乙122〔4~8頁〕)
原告大成建設は、大林組の見積価格を下回る見積価格をシミュレーションしたものの、原告大成建設において決められた見積金額の下限を下回るのは難しいとの理由で同社の社長がその提出を了承しなかったことから、112億8230万円の見積価格を提出することが決まった。(乙95、乙118〔34~35頁〕、乙122〔8~12頁、14頁〕、乙125〔17~18頁〕、乙126〔5~19頁〕、乙127〔13~16頁〕)
チ 原告大成建設の≪A1≫と大林組の≪C1≫の面談等
原告大成建設の≪A1≫は、平成28年6月24日午前、修正見積書の提出前に大林組の≪C1≫と面談した。その場で、≪A1≫は、≪C1≫に対し、大林組の見積価格を上げてほしい旨を頼み込んだが、≪C1≫は、JR東海からの指示を無視することはできず、価格を上げることは困難である旨返答した。≪A1≫は、≪C1≫に対し、仮に、大林組が第1順位の価格協議先に選定されたとしても、その後の価格協議の中でJR東海の値下げ要求に応じないでもらいたい旨要請したところ、≪C1≫は、JR東海との価格協議になった場合、大林組は値下げに応じない旨回答した。(甲A26〔56~58頁〕、乙38〔24~28頁〕、乙95、乙113〔35~36頁〕、乙122〔12頁〕)
ツ 修正見積書の提出
平成28年6月24日、原告大成建設名古屋JVは112億8230万円、大林組名古屋JVは109億9000万円の修正見積価格を、それぞれJR東海に提出した。
JR東海は、大林組に対し、その修正見積書に係る工事費内訳書に付記されていたJR東海の指定に反する見積条件(最終的に機械製作の全額等をJR東海が負担する内容)を削除するよう指示し、大林組はこれに応じて、平成28年6月下旬、その付記を削除した工事費内訳書を再提出した。
(以上につき、甲A29〔94~98頁〕、乙11〔44~54頁〕、乙105、乙118〔35頁、資料13〕、乙128)
テ 原告大成建設の申入れ
原告大成建設の≪A1≫らは、平成28年6月27日及び同年7月5日、JR東海の≪F1≫ら役職員と面談し、修正見積価格から更に合計約6億円の減額が可能であるので見積りに関する協議の機会を与えてほしい旨申し入れた。これに対し、JR東海は、事業者の都合により見積手続終了後に見積りに関する協議の機会を設けることは公正な手続になじまないとしてこれを拒否した。(甲A29〔100~104頁〕、甲A40〔122~124頁〕、乙11〔54~64頁、資料⑮、資料⑯〕、乙113〔35~36頁〕、乙118〔36~37頁〕、乙124〔16~22頁〕、乙125〔21~26頁〕、乙129)
ト 価格協議先の決定と契約締結
JR東海は、平成28年7月7日、技術評価委員会において、大林組名古屋JVを第1順位の価格協議先に、原告大成建設名古屋JVを第2順位の価格協議先に、それぞれ選定した。JR東海と大林組の価格協議では、大林組は、大林組名古屋JVを代表して、JR東海から指示された条件変更に対応し、同年9月6日、上記修正見積価格から2億6000万円を減額した受注価格107億3000万円(税込みの代金は115億8840万円)で名古屋駅中央西工区工事の工事請負契約を締結した。(甲A29〔99~100頁、105頁〕、乙11〔64~67頁、資料⑱〕、乙113〔36頁〕、乙130〔1~25頁〕)
なお、大林組の≪C2≫は、上記契約締結後に行われた3社会合において、原告大成建設の≪A1≫及び≪A3≫に対し、大林組が名古屋駅中央西工区工事を受注することになってしまったことを謝罪したところ、≪A3≫は、「あれはうちが情けなかっただけですから。」などと返答した。そのやり取りを聞いていた原告鹿島建設の≪B1≫が、≪C2≫に対し、「うちのときは頼みますよ。」などと、名古屋駅中央東工区については原告鹿島建設が受注できるように協力依頼を念押ししたところ、≪C2≫は、「分かってますから。」と返答した。(乙113〔36~37頁〕)
もっとも、JR東海は、名古屋駅中央東工区の1期工事については、≪R≫を代表構成員とするJVとの間で、特命随意契約の方法により工事請負契約を締結した。(乙2〔31~32頁〕、乙11〔8~9頁〕、弁論の全趣旨)
2 4社における本件合意の成否(争点1)
⑴ 以上の認定事実によれば、❶原告大成建設の≪A1≫と原告鹿島建設の≪B1≫は、かねてからリニア中央新幹線関連工事に関する情報交換を重ね、大林組の≪C1≫にも声をかけた上で、平成26年4月21日から3社会合を開催し、希望工区一覧表①ないし③のやり取り等を経て各社の受注希望工区を取りまとめ、品川駅北工区工事については清水建設、品川駅南工区工事については大林組、名古屋駅新設工事のうち、中央及び西側の工区については原告大成建設、東側の工区については原告鹿島建設をそれぞれ受注予定者とし、受注予定者が確実に受注できるよう協力し合うことを確認したこと(認定事実⑶ア、イ)、❷その後、≪A1≫、≪B1≫及び≪C1≫の間における受注調整に清水建設の≪D1≫も加わることになったことが3社会合で確認され、平成27年2月20日までに、4社間で、工区ごとに受注予定者及び調整の方針が合意されたこと(認定事実⑶ウ)、❸以後、同年8月26日までの間、上記合意に沿って、4社の価格連絡担当者間において品川駅新設工事に関しては参考見積り、再度の参考見積り、正式見積り、条件変更後の各工事の正式見積り等の各段階において、JR東海の指示と連動していずれも適時に連絡を取り合い、積算に関する資料や見積価格に関する情報をやり取りして、各社の提出する見積価格を決定したこと(認定事実⑷イ、オ、ク、ケ、シ、ス)、❹名古屋駅新設工事においても同様に、平成28年6月24日までの間、上記合意に沿って、参考見積り、大林組に対する参加要請、正式見積り、見積り合わせ等の各段階において適時に連絡を取り合い、積算に関する資料や見積価格に関する情報をやり取りして、各社の提出する見積価格を決定したこと(認定事実⑸エ~カ、ケ(イ)(エ)(オ)(キ)、サ~ス、ソ、チ)が認められる。そうすると、原告らを含む4社の間で、遅くとも平成27年2月頃までに、本件ターミナル駅新設工事について、受注予定者を決定し、受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるようにする旨の合意(本件合意)が成立し、以後、本件合意が継続するとともに、これに基づく個別調整がされたと認められることは明らかである。
⑵ア これに対し、原告らは、本件ターミナル駅新設工事について、受注調整のための情報交換を行う目的で会合を開催したとか、受注調整につながる情報交換を行ったという事実はないと主張し、原告大成建設は、大林組及び清水建設においては、課徴金減免手続の性質上、本件工事の競争環境に関する子細な検討を行うことなく独禁法上の課徴金減免申請における順位確保を優先して減免申請を行ったものと考えられること、本件に関する刑事手続の処分内容の差異等からして、検察官と大林組や清水建設の関係者との間には検察官の想定するストーリーに整合する供述や証言をする代わりに処分を軽くする旨の合意が少なくとも暗黙のうちに形成されたと考えられること、大林組及び清水建設関係者の供述は抽象的であるなどとして、本件合意形成の経緯に係る大林組及び清水建設の関係者の供述が信用できないと主張する。
しかしながら、大林組及び清水建設が課徴金減免申請を行って会社組織として独禁法違反を認めた状況において、両社の関係者が捜査段階で検察官による利益誘導等によって虚偽の供述をしたとは考え難い。上記関係者が、不起訴等の刑事処分の軽減を期待した可能性は否定できないとしても、違法行為への関与を認めれば社内の処分や名誉の低下等の大きな不利益が予想される状況において、違法行為への関与がないにもかかわらず自らの関与を認める虚偽の自白をするとは考え難いというべきである。また、大林組及び清水建設の関係者の供述は、その供述調書及び証人尋問調書の内容から明らかなように、十分具体的に本件合意に関する事実関係を供述しているものといえる上、客観的に残っている証拠である認定事実⑶イ(ア)(イ)の希望工区一覧表①及び②や同ウ(オ)の引継書面の記載内容等と整合するものである。そもそも、4社の担当者間で見積価格そのものの連絡を含む情報のやり取りを繰り返し行っていたこと自体は争いがないところ、指名競争見積手続が行われている中であえてこのようなやり取りをしていたことの理由として、本件合意がされていた旨を述べる上記関係者の供述は、それ自体自然で合理的な内容といえる。
以上を総合すれば、大林組及び清水建設の関係者の各供述は、いずれも信用することができる。
イ また、原告大成建設は、JR東海が指名競争見積方式を採用した背景には、当該方式を採用することにより、株主を始めとするステークホルダーに対する説明が容易となるといった事情が存在すると考えられ、また、JR東海関係者は、各工事について、形式上、指名競争見積手続を採用しつつも、実質的には受注者をあらかじめ決めていたと述べた場合、偽計業務妨害罪の被疑者として取調べを受ける事態に陥りかねないと危惧し、競争によって受注者を決定しようとしていた旨強弁せざるを得ない状況に置かれていたことから、その供述は信用性が認められない、JR東海関係者の供述は、不自然、不合理なものとなっており、客観的証拠とも矛盾している上、不自然に変遷しているなどとして、本件ターミナル駅新設工事において競争が存在したとするJR東海関係者の供述は信用性が認められないと主張する。
しかしながら、JR東海関係者が、本件ターミナル駅新設工事においてJR東海が建設会社各社の競争を望んでいたこと及び建設会社各社が対等な競争を行う環境が整っていたことに関し、虚偽の供述をしたとは認められないし、供述内容に不自然、不合理な点があるとも認められない。
原告大成建設の上記主張は採用することができず、JR東海関係者の供述は、いずれも信用することができる。
⑶ 以上のとおり、4社における本件合意の成立が認められる。
3 不当な取引制限が成立する前提としての「競争」(独禁法2条4項)が存在したか否か(争点2)
⑴ 本件においては、原告らが本件合意により独禁法2条6項の「不当な取引制限」をしたか否かが争われているところ、その「制限」の対象となる同項所定の「競争」が存在することが、「不当な取引制限」が成立する前提となる。そして、同項に規定する「競争」は、同条4項において定義されている。
独禁法2条4項は、「競争」とは、2以上の事業者がその通常の事業活動の範囲内において、かつ、当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく、①同一の需要者に同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給する行為(同項1号)又は②同一の供給者から同種若しくは類似の商品若しくは役務の供給を受ける行為をし、又はすることができる状態をいうと規定する。独禁法は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止して公正かつ自由な競争を促進することを目的とし(1条)、独禁法の規定に違反する行為を行った事業者等に対して排除措置命令(7条)等をすることを規定していることに鑑みれば、独禁法2条4項に規定する「競争」とは、実質的な競争関係を指し、同項1号の供給者間の競争の場合には、需要者にとって、少なくとも2以上の事業者に実質的な供給可能性が認められることが必要であると解される。
⑵ 前提事実及び認定事実等によれば、本件において独禁法2条4項に規定する競争(供給可能性)が存在したか否かに関し、次の諸点を指摘することができる。
ア 4社が十分な資金力や施工実績、高度な技術力等を有していたこと
前提事実⑴エ及び認定事実⑵エによれば、4社は、いずれも豊富な施工実績、高い技術力、充実した組織力及び十分な資金力を有するスーパーゼネコンと呼ばれる大手総合建設業者であり、平成28年度の完成工事高(総合建設業)において業界1位ないし4位を占めていたものである。
また、認定事実⑴ウ(ア)のとおり、原告大成建設は、JR名古屋駅のセントラルタワー建設の施工経験があり名古屋駅の地質や地下構造物の状況に詳しかったほか、大林組は、東海道新幹線品川駅新設工事の施工経験があり、認定事実⑵エ(ア)のとおり、4社は、いずれも現に営業している鉄道駅等の直下におけるアンダーピニング施工の経験があった。なお、証拠(甲A49〔43頁〕、甲A51〔40~41頁〕)及び弁論の全趣旨に照らしても、認定事実⑴ア、イの各工種について、4社それぞれにおいて施工できないものがあったとはうかがわれない。
以上のことからすれば、4社は、十分な資金力や施工実績、極めて高度な技術力に裏付けられた高い基本的施工能力を有する事業者であったというほかはない。
イ JR東海から指名競争見積方式において4社が指名されたこと
前提事実⑶ア、イ及び認定事実⑵ア、エによれば、JR東海においては、指名競争見積方式による場合の競争参加者の選定は中央新幹線建設部長、次長、土木工事部長等で構成される請負業者選定委員会が決定することとされ、その検討に当たっては、施工実績や年間売上高のほか、JR東海が土木建設会社の技術職員に対して付与する資格である「工事管理者」の雇用数や、確度が高い客観的な資料としての経営事項審査総合評点が用いられ、本件ターミナル駅新設工事のそれぞれの工事の特性に合わせて選定作業が行われたものである。
そして、本件ターミナル駅新設工事に係る各工事について、4社に上記アのような十分な資金力や施工実績があること、経営事項審査総合評価点や工事監理者の有資格者数において、4社は同等の能力があり、4社と他のゼネコンとの間には格段の差があること等を踏まえ、4社のうちいずれも発注先となし得るとの前提で、4社又は4社のうち複数社を指名する指名競争見積方式が採用され、実際、4社は、JR東海によって、本件ターミナル駅新設工事に係る各工事を施工する能力があるものとして指名されたものである。
ウ 4社が、それぞれ技術提案書を独力で作成し、JR東海の定めた期限内に見積書・技術提案書を提出したこと
認定事実⑷イ~エ、力、⑸ウ、キ、セによれば、品川駅新設工事においては大林組の積算資料が、名古屋駅新設工事においては大成建設の積算資料が、それぞれ他の指名事業者に交付されていた(ただし、清水建設には品川駅北工区工事関連の積算資料は渡されていない。)ものの、⑴品川駅北工区工事及び品川駅南工区工事については、4社は、いずれも所定の期間内に、参考見積書のほか、指定された「工事全般の施工計画」及び「技術提案に係る具体的な施工計画」を自ら作成して提出し、「技術提案に係る具体的な施工計画」において個別の評価項目である「構真柱」「アンダーピニング」「マスコンクリート」「環境対策」「ストラット」「地中連続壁」という6つの工種ごとに具体的な工法の説明を記載し、その内容はいずれもおおむね適正な品質・安全性を確保し得る水準に達するものであり、技術評価委員会の審査においても、問題があったものとはされずに加算点が付与されたこと、⑵名古屋駅新設工事においても、原告大成建設のほか、原告鹿島建設及び清水建設も、名古屋駅中央工区工事について工事全般の施工計画等を自ら作成して提出し、後で加わった大林組も、名古屋駅中央西工区工事について工事全般の施工計画等を自ら作成して提出し、技術評価委員会の審査においても、大林組の技術提案等について問題があったものとはされず、むしろ原告大成建設より高い加算点を得られたものであることが認められる。
これらのことからすれば、いずれの事業者も、技術提案書を作成する能力があるものといえる上、その技術提案書がその内容を伴わないものであるとは容易にいうことはできない。そして、4社が、自らが参加した指名競争見積手続において、正規の見積書、技術提案書等をJR東海に提出したことは、JR東海に対し、当該工事について自社がそれらの内容に沿った施工をすることができることを前提とする意思表明を正式に行ったことを意味する。
工 事前検討をしていない事業者が現に受注し、問題なく施工していること
前提事実⑵イ(ア)及び認定事実⑴ウ(ア)(イ)(エ)によれば、JR東海は、調査設計について≪E≫を通じ、品川駅については大林組、それ以外の駅については原告大成建設の協力を得て成果物を作成しており、概略設計段階においても契約上は特定のゼネコンの関与はないものの、実際にはJR東海側から大林組又は原告大成建設に図面等が提供され、大林組又は原告大成建設からJR東海側にそれぞれ検討結果の資料等が提供されており、これらのやり取りは、平成25年11月の検討依頼禁止通知(認定事実⑴ウ(ウ))の後も、平成26年12月に品川駅北工区工事及び品川駅南工区工事が、平成27年4月に名古屋駅中央工区工事が、それぞれ出件される直前まで、継続して行われていたことが認められる。
しかしながら、品川駅北工区工事の一部を切り出して出件された条件変更後の品川駅北工区工事については大林組ではなく清水建設が、名古屋駅中央工区工事の一部を切り出して出件された名古屋駅中央西工区工事については原告大成建設ではなく大林組が、それぞれJR東海と工事請負契約を締結するに至っている(認定事実⑷セ、⑸卜)。そして、条件変更後の品川駅北工区工事及び名古屋駅中央西工区工事には高い技術が求められるとされる地中連続壁工も含まれているものの(認定事実⑷サ、⑸ケ(ア))、これらの施工に関し、本件の証拠(甲A49〔44頁、48頁〕、甲A70〔21頁〕、甲A111等)及び弁論の全趣旨に照らしても、いずれも問題が生じていることはうかがわれない。
以上のとおり、事前検討をしていない事業者(条件変更後の品川駅北工区工事について清水建設、名古屋駅中央西工区工事について大林組)が現に受注し、問題なく施工していることは、事前検討を行っていなくても応札能力及び施工能力があることを端的に示す重要な事実であるといえる。
オ 見積り提出に当たっては、十分な情報提供等が行われていたこと
認定事実⑷ウ及び認定事実⑸ア(イ)のとおり、JR東海の中央新幹線建設部は、各事業者から競争見積りの手続や施工方法等に関し、品川駅新設工事については700件、名古屋駅中央工区工事については600件を超えるメールの送付を受け、回答を行った。その内容は、施工方法等に関する詳細な質問が含まれていた。中央新幹線建設部では、質問への回答を行うに当たっては、独自の技術堤案に係る質問であるとして各事業者が他の事業者への不開示を要求した場合を除き、全ての質問につき、当該質問をした事業者のみならず、参加事業者全てに対して、質問を行った事業者の名称は伏せた上で、質問内容と回答を電子メールで送信して開示した。
また、JR東海のリニア品川駅担当者は、4社全てから要望を受けて、施工現場となる新幹線品川駅に隣接する東海道新幹線の線路保守基地などを視察させており、これにより、4社は、工事の支障になる設備の有無、クレーンや掘削マシーンを設置するスペース、資材置き場のスペース等を把握することができるようになっている。
さらに、認定事実⑴ウ(オ)のとおり、原告大成建設が行った調査の結果については、その約63%が発注図書の内容に取り込まれ、競争参加者として指名された業者に共有されていた。
これらの事実からすれば、事前検討をしていなくとも、出件の際に、事前検討の結果は一定程度共有され、また、質問手続もあったことで、事前検討を行った事業者とそうではない事業者の情報格差は縮まったといえる。さらに、JR東海としても、4社全てに対し、質問等の機会を与えており、競争させようとする意図を有していたといえる。他方で、事業者側からも実際に多くの質問があった事実は、いずれの事業者も受注する可能性があると見込んでいたことを示すものといえる。
カ 名古屋駅については、事前の検討を行っていない事業者の評価点の方が、事前の検討を行った事業者よりも高かったこと
認定事実⑷カのとおり、品川駅南北両工区について、技術評価委員会で検討して決定した各社の加算点は、南北両工区共通で、事前検討を行った大林組JVは7.0点であったのに対し、事前検討を行っていない清水建設JVは6.5点、原告大成建設JVは6.0点、原告鹿島建設JVは6.0点であり、また、認定事実⑸セによれば、JR東海の中央新幹線建設部は、平成28年6月10日に行われた名古屋駅中央西工区工事の技術評価委員会において、加算点の合計を、事前検討を行っていない大林組名古屋JVにつき8.5点、事前検討を行った原告大成建設名古屋JVにつき7.0点と決定したことが認められる。このことからすれば、事前検討を行っていた事業者が、事前検討を行っていなかった事業者よりも施工能力が高いとは必ずしもいうことができず、能力に差があったものとも認められない。
キ JR東海の採点方式は価格重視で恣意性のないものになっており、いずれも周知されていたこと
前提事実⑵イ(ウ)(エ)、認定事実⑵イによれば、JR東海の技術評価委員会において行われた総合評価においては、競争参加資格を満たす者に一律に「標準点」(100点)を付与し、これに、「加算点」(10点満点)を加えて、競争参加者ごとに「評価点」(最高110点)を算出し、競争参加者に「正式見積書」の提出を求め、当該「評価点」を「正式見積書」記載の見積価格で除した「評価値」が最も高い者を第1順位の価格協議先に選定するというものであった。このような採点方式は、加算点が10点のみであることから、価格による競争を重視したものであり、また、JR東海の恣意が入り込み難いもので、上記カのような評価自体が公正に行われたことを示すものであるとともに、JR東海もそのように公正な評価を行おうとしていたことの表れであるといえる。
ク JR東海がコストダウンを重視しており、競争性を重視した価格協議先決定方式を採用したこと
前提事実⑴ウ及び認定事実⑵アによれば、リニア中央新幹線事業は極めて大規模な国家的プロジェクトであるところ、JR東海では、平成24年秋頃から、当時の副社長の指示により、中央新幹線推進本部の本部長及び企画推進部長等職員が、リニア中央新幹線関連建設工事の発注方法に関する検討を進めていたが、当時は約9兆0300億円と見込まれていた東京・大阪間のリニア中央新幹線関連建設工事の総費用をJR東海が全額自己資金により賄うことを予定していたこともあり、一貫して、競争原理の導入により徹底したコストダウンを図ることが重要方針とされていた。
このように、JR東海としては、競争性を重視し、価格が低い事業者に発注しようとしていたものである。そのため、JR東海は、前記キのとおり、総合評価型指名競争見積方式において価格競争を重視した採点方式を採用したほか、認定事実⑷サのとおり、条件変更後の品川駅北工区工事及び条件変更後の品川駅南工区工事については、技術提案等を考慮した評価値を用いることなく、見積価格のみに基づいて価格協議先を決定する方式を採用したものとみられる。また、認定事実⑸クのとおり、JR東海が、原告大成建設から特命随意契約の締結の申入れを受けたのに対し、これを拒否したことも、JR東海が競争性を重視していたことの表れであるといえる。
なお、原告大成建設の≪A1≫も、認定事実⑷コのとおり、平成27年5月1日付けの自身のメモにおいて、「ゼネコン全体で、不必要な価格競争に走らない。(JR東海は徹底的な価格競争をさせようとしている)」と記載していたものであり、JR東海がゼネコン同士で徹底的な価格競争をさせようとしていることを十分に認識していたものと認められる。
ケ JR東海がゼネコンへの検討依頼禁止通知を発出したこと
前提事実⑵イ(イ)のとおり、JR東海は、平成25年11月1日、特定のゼネコンから技術提案を受けることについて、特定のゼネコンが技術的検討を行うことで、当該ゼネコンが持つ技術や情報の面で他のゼネコンより過度に優位に立つと、発注手続における競争の公平性を確保して徹底したコストダウンを図ることが困難になりかねないとの考慮から、同月以降、新たにゼネコン各社に技術的検討を依頼することを原則として禁止することなどを文書で社内に指示した。これは、JR東海が、特定のゼネコンによる技術的検討を禁止してまで、コストダウンのための競争性を重視したことを示すものといえる。
コ 見積書の価格が基準価格を超える場合には指名競争手続を中止していること
認定事実⑷コのとおり、品川駅新設工事においては2度の見積り合わせが行われ、品川駅北工区工事については、清水建設JVが約686億円と最安値であり、品川駅南工区工事については事前検討を行った大林組JVが1320億円と最安値であったが、いずれもJR東海が設定した基準価格を上回っていたことから、JR東海は、見積り合わせを不調とし、認定事実⑷サのとおり、工程の分割をするに至った。また、認定事実⑸キのとおり、名古屋駅中央工区工事の参考見積価格は、事前検討を行った原告大成建設名古屋JVが約1880億円で最安値であったが、JR東海が設定した予算額(641億円)を大幅に上回るものであったため、JR東海は、このまま指名競争見積りの手続を進めても見積り合わせが不調となることが確実であると判断し、名古屋駅中央工区工事の指名競争見積手続の中止をした。
このように、JR東海は、調査設計業務を実施していた原告大成建設や大林組の見積価格がそれぞれ競争参加者の間で最安値になっているにもかかわらず、予定する基準価格を上回っていることなどから、指名競争の手続を中止し、再度見積り合わせをしているのであって、価格によっては他の事業者に発注することを選択肢として有していたといえる。
サ JR東海が競争原理を働かせるために大林組を引き入れたこと
認定事実⑸ケ(ウ)(カ)によれば、指名競争見積手続の中止後、JR東海は、原告大成建設と原告鹿島建設との間で競争原理が働いていないのではないかという疑念を持ったことから、名古屋駅中央工区工事の競争見積参加を辞退していた大林組に対し、参考見積書の提出を依頼した上、名古屋駅中央工区1期工事の競争見積手続への参加を要請したことが認められる。この大林組に対する参加要請は形だけのものではなく、現実に、名古屋駅中央工区1期工事の一部である名古屋駅中央西工区工事については大林組に受注させるに至ったものであるし、その過程で、大林組より高い修正見積りしか提出しなかった原告大成建設から、再度協議の機会を与えてほしい旨の申入れを受けても、JR東海は、競争見積手続の公正を理由にこれを拒否している(認定事実⑸ケ(ク)、コ、テ、卜)。仮に、JR東海が、事前検討をしていた原告大成建設に受注させることを決めていたのであれば、このように大林組を引き入れる必要はなかったはずであり、競争原理を働かせるために大林組を引き入れたものといえる。
なお、認定事実⑸ケ(ク)によれば、JR東海は、名古屋駅中央西工区の第2期工事についても、原告大成建設の競争相手の確保を企図した行動をとっており、全体として、競争原理を働かせようと行動していたことがうかがわれる。
シ 4社間で情報交換及び調整を行っていたこと
認定事実⑶、⑷イ、オ、ク、ケ、シ、ス、⑸イ~カ、ケ(イ)、(エ)、(オ)、(キ)、サ~ス、ソ~チによれば、4社は、JR東海の関知しない所で、本件ターミナル駅新設工事について、情報交換及び各種調整を行い、その中で、受注予定者を決定し、受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるようにする旨の合意(本件合意)を行っていたと認められるところ、4社が、発注者が設定した市場においてこのような情報交換等を行っていた事実は、4社において受注予定者以外の者にも受注能力があることを認識していた事実を推認させるものである。
さらに、4社間のやり取りを具体的にみると、①平成26年3月頃、原告大成建設の≪A1≫は、大林組の≪C1≫に対し、ゼネコン同士の価格競争により受注価格が低廉化することを回避するための対策を協議したい旨依頼し、≪C1≫が了承したこと(認定事実⑶イ(ア))、②同年4月から7月にかけての3社会合では、それぞれの受注希望を踏まえた一覧表を作成して希望工区の調整・取りまとめをしたこと(同⑶イ(ア)~(ウ))、③同年11月、≪A1≫が≪C1≫に「大林は、両方に手挙げるつもりなの?」と尋ねたところ、≪C1≫は「両方ってわけにはいかんやろ」、「狭い方は清水にやらせてやらないかんやろうな。」などと返答したこと(同⑶イ(エ))、④同年12月の3社会合では、≪A1≫が「そろそろ清水とも話をしないといけない」、「清水だけが一人歩きをしていたら、こっちとしても迷惑がかかる」などと述べたこと(同⑶イ(オ))、⑤平成27年2月、≪C1≫と清水建設の≪D1≫の間で、JR東海に価格の引下げを求める材料を与えず十分な利益を確保できるようにすることや、単に見積金額の総額を調整するだけではなく主要な単価については各社で大きな差が付かないように調整することを確認したこと(同⑶ウ(エ))、⑥同年4月の3社会合では、品川駅新設工事で単価を下げないようにする旨を話し合い、この頃、大林組の≪C2≫と清水建設の≪D2≫の間でも、JR東海に提出した参考見積りの価格から大きく下げないこと、価格協議ではJR東海から明確な形で数量や条件の変更が提示されない限り絶対に金額を下げないという姿勢で臨むことを確認したこと(同⑷オ)、⑦条件変更後の品川駅北工区工事について、原告大成建設は、社内において積算作業をした結果、195億6267万2212円という工事価格が算出されたにもかかわらず、清水建設の≪D2≫から、清水建設の見積価格が200億円弱になる予定であると伝えられたため、原告大成建設の見積価格を205億円としたこと(同⑷ス)、⑧原告大成建設は、名古屋駅中央工区工事について、原告大成建設の参考見積価格から約1割ないし3割増額した価格となるように単価、数量等を調整した他社用の3種類の積算資料をわざわざ作成し、競争見積参加を辞退した大林組を除く原告鹿島建設及び清水建設に対しこれを交付したこと(同⑸ウ~オ)、⑨≪C2≫は、大林組が品川駅新設工事において提出した連壁工事に関する見積価格と名古屋駅中央西工区工事における連壁工事に関する見積価格との違いにJR東海が気付くと、4社による受注調整が発覚する危険性があると懸念したことから、平成28年3月頃、原告大成建設の≪A3≫に対し、「うちは品川で出した連壁の関係があるので、あまり金額動かせなくて」などと伝えたが、≪A3≫は、≪C2≫に対し、原告大成建設が作成した名古屋駅中央西工区工事の施工条件や積算条件に関する資料を交付したこと(同⑸サ)、⑩同年6月、原告大成建設の≪A1≫は、大林組の≪C1≫に対し、大林組が第1順位の価格協議先に選定されたとしても、その後の価格協議の中でJR東海の値下げ要求に応じないでもらいたい旨要請し、≪C1≫は値下げに応じない旨回答したこと(同⑸チ)などを指摘することができる。これらの事実は、4社が、互いの価格競争により受注価格が下がることを回避して各社の利益を確保するために、JR東海に気付かれてはならないことを自覚しながら秘密裡に受注調整をしたことを示しており、こうした受注調整がなければ4社間で価格競争が行われることを前提としていたものと推認される(もとより、原告らが主張するように、事前検討を行った事業者が受注することがあらかじめ発注者であるJR東海との間でも確定していることを前提としたやり取りをしたものではなく、4社間で、本来ならばされることになる価格競争を回避するために受注者に関する合意と見積金額の調整をし、これと齟齬を来すことのないよう念入りに具体的な情報等のやり取りを、JR東海に気付かれないように行っていたものとみられる。なお、原告大成建設の≪A3≫も、上記⑨の資料交付に関し、供述調書(乙117〔7頁〕)において、本来であれば、競争相手がどのような施工条件や積算条件を考えているのかを予測しつつ、自社の施工条件や積算条件を検討して見積金額を算出するのが当然であって、競争相手であるはずの他社に対し、自社の施工条件や積算条件を教えることはあり得ないとの認識を示している。)。
⑶ 前記⑵ア~キのとおり、4社は、いずれも十分な資金力や施工実績、極めて高度な技術力に裏付けられた高い基本的施工能力を有する事業者であり、本件ターミナル駅新設工事の当の発注者(需要者)であるJR東海によって、指名競争見積方式において、対象となる工事を施工する能力があるものとして指名されたものである。4社は、事前検討をしていなくても、JR東海側から本件ターミナル駅新設工事に関する一定の情報提供を受け、適宜質問をするなどした上で、最終的には自らの手で見積書・技術提案書を期限内に作成、提出するに至っているのであるから、いずれも、その作成能力があったものといえる。そして、条件変更後の品川駅北工区工事及び名古屋駅中央西工区工事については、高い技術が求められるとされる地中連続壁工も含まれているが、事前検討をしていない事業者(前者について清水建設、後者について大林組)が、現にこれらの工事を受注し、問題なく施工を行っているのであって、事前検討の有無が施工能力の有無を意味するものではないことの何よりの証左といえる。さらに、公正に行われたものと認められる技術評価委員会の審査による4社の評価点を見ても、事前検討を行っていた事業者が、事前検討を行っていなかった事業者よりも施工能力が高かったとは必ずしもいうことができない。
また、前記⑵オ、キ~サのとおり、JR東海は、特定の事業者に調査設計業務等を依頼していたものの、事前検討を行っていない事業者に対しても、事前検討の結果が一定程度共有されるようにし、質問の機会も与えていた上、技術評価委員会による4社の審査において、価格による競争となるような方式を採り、公正な評価を行おうとしていたものであって、事業者間で公正な競争をさせようとする意図を有していたものと推認される。そもそも、JR東海は、競争原理の導入により徹底したコストダウンを図ることを一貫して重要方針とし、あえてゼネコンへの検討依頼禁止通知を発出するなどして、競争性を重視する姿勢を明らかにしており、事前検討の有無にかかわらず低い価格を提示する事業者に発注しようとしていたものと認められる。さらに、JR東海は、①名古屋駅中央工区工事について、事前検討を行っていた原告大成建設が最安値の参考見積価格を提示したにもかかわらず、予定する基準価格を上回っているなどとして指名競争の手続を一旦中止し、再度見積り合わせをしていること、②その後、原告大成建設から特命随意契約締結の要望を受けても、これを拒絶していること、③競争原理を働かせるために大林組を引き入れたこと、④大林組より高い修正見積りしか提出しなかった原告大成建設から再協議の申入れを受けても、これを拒否していること、⑤最終的に、事前検討をしていない大林組に発注するに至っていることをも踏まえれば、JR東海が、事前検討を行っている事業者に対する発注を前提としていなかったことは明らかである。
JR東海の方針や行動は上記のとおりであり、事前検討を行った事業者が受注するとは限らない状況であったところ、4社としても、前記⑵シのとおり、受注予定者以外の者が受注する可能性があることを認識していたからこそ、受注に関する調整行為を行い、ゼネコン同士の競争の回避を図ったものと認められる。
以上の各点を始めとする前記⑵で指摘した諸事情を総合すれば、本件ターミナル駅新設工事に関し、原告らを含む4社には実質的な供給可能性(少なくとも2社以上の事業者が、その通常の事業活動の範囲内において、かつ、当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく、同一の需要者であるJR東海に同種又は類似の役務を供給することができる状態)が認められ、独禁法2条4項1号の「競争」が存在したと認められる。
⑷ これに対し、原告らは、以下のア~オのとおり主張して、不当な取引制限が成立する前提としての「競争」が本件では存在しなかった旨主張するが、いずれも採用することはできない。
ア 原告らは、独禁法2条4項の「競争」に関し、(ⅰ)事前の検討を行っていない建設会社が期限内に実際の施工を前提とした見積書・技術提案書類を作成する現実的・実質的な可能性が認められないような場合(応札能力の欠如)や、(ii)事前の検討を行っていない建設会社が工期内に安全かつ確実に施工する現実的・実質的な可能性が認められないような場合(施工能力の欠如)には、供給可能性の要件を充足しないから、上記「競争」が存在するとはいえないところ、未曽有の難工事を対象とする本件においては、上記(ⅰ)(ii)のとおり、事前検討を行っていない建設会社(品川駅新設工事については大林組以外のゼネコン、名古屋駅新設工事については原告大成建設以外のゼネコン)には上記の現実的・実質的な可能性(応札能力及び施工能力)が認められないから、供給可能性の要件を充足せず、「競争」が存在しなかった旨主張する。
しかしながら、本件において、事前検討を行っていない建設会社にも、応札及び施工の現実的・実質的な可能性があったと認められることは、前記⑵、⑶で認定、説示したとおりである。独禁法2条4項の「競争」に該当するか否かを判断するに当たって必要となる供給可能性は、本件で上記のとおり認められる程度の現実的・実質的な可能性で足りるものと解され、原告らが要件として主張する「現実的・実質的な可能性」がこれを超えるものを指しているのだとすれば、そのような見解を採用することはできない。
イ 本件における供給可能性に関する原告らの主張を更に具体的に検討すると、原告らは、JR東海が、本件ターミナル駅新設工事について、出件のはるか以前から、将来の受注を前提に技術的検討を分担させており、受注可能な建設会社は、あらかじめ特定の建設会社1社に限定されていたと主張する。
認定事実⑴ア~ウによれば、本件ターミナル駅新設工事は、いずれも極めて難易度の高い複数の工法を組み合わせた工事であって、JR東海は、旧日本国有鉄道時代の東海道新幹線建設工事以降は大規模な工事の経験がないことなどから、未曾有の難工事である本件ターミナル駅新設工事及び南アルプストンネル新設工事の設計・施工計画の策定、工期・工事費用の算出を自社で行うことができなかったため、事業の計画段階から、建設会社の協力が不可欠と考えていたことが認められる。そして、JR東海は、平成20年5月に「駅部調査設計⑴」業務を≪E≫に発注して以降(認定事実⑴ウ(ア))、大林組及び原告大成建設に対し、長期間にわたり事前の検討を依頼し、平成25年11月の検討依頼禁止通知が存在したにもかかわらず、大林組及び原告大成建設に検討依頼や情報提供等を行い続けていた。これらの事前検討に関し、大林組の品川駅新設工事の検討費用は10億円を超過し、原告大成建設の名古屋駅新設工事の検討費用は6億円を超過しており(認定事実⑴ウ(カ))、両社が受注にかける期待は相当程度大きかったものといえる。
しかしながら、まず、JR東海が調査設計業務を依頼したのは、本件ターミナル駅新設工事の発注方法の検討が開始された平成24年(認定事実⑵ア)の4年前であり、発注方法も全く決まっていないその時点で、JR東海が工事受注事業者を決定していたなどとはいえないことは明らかである。
そして、前記⑵クのとおり、JR東海においては、一貫して競争原理の導入によるコストダウンが重要方針とされ、発注方法においても、JR東海の恣意が入り込み難い総合評価型指名競争見積方式が採用され、標準点が100点あるのに対し、各参加事業者によって差がつく加算点が10点満点にとどまっており(前記⑵キ)、見積価格が相当に重視されていることは明らかであった。さらに、JR東海は、本件ターミナル駅新設工事に係る見積り合わせにおいても、事前検討をしていた事業者の見積価格が参加事業者間で最安値となっているにもかかわらず、予定していた基準価格を上回ることなどから手続を不調又は中止とし、改めて競争原理を働かせるために他の事業者も含めて手続をとるなどしており(前記⑵コ、サ)、コストダウンを強く追求していたことは明らかである。そして、条件変更後の品川駅北工区工事については清水建設、名古屋駅中央西工区工事は大林組という、それぞれ当初から当該各工事に係る事前検討を行っていたものではない事業者が現に受注するに至ったのであって、このことは、JR東海が当初から受注事業者を決定していたとはいえないことを如実に示している。
なお、JR東海の≪F4≫は、名古屋駅中央工区工事について原告大成建設が設計段階から技術的検討を重ねていたからといって、原告大成建設しか受注・施工できない工事であったというわけではない旨証言しており(甲A29〔6頁〕)、また、大林組の≪C1≫も、事前検討は一つの営業手法であって、それを行ったから必ず受注できるというものではない旨の認識を示している(甲A21〔32~33頁〕)。これらの供述等の信用性を否定すべき事情は見当たらない。
以上によれば、JR東海が、出件以前から、特定の建設会社に将来の受注を前提に技術的検討を分担させていたとはいえず、原告らの上記主張は採用することができない。
ウ(ア) 原告らは、未曽有の難工事である本件ターミナル駅新設工事については、事前に技術的検討や技術開発を行っていない建設会社が、①短い期限内に実際の施工を前提とした施工計画を策定の上、見積りを行うことは現実的には不可能であり、②受注後、工期内に安全・確実に施工することも現実的には不可能であった旨主張する。
(イ) しかしながら、上記(ア)①の点については、❶前記⑵ア、イのとおり、4社は、いずれも豊富な施工実績、高い技術力、充実した組織力及び十分な資金力を有するスーパーゼネコンであり、需要者であるJR東海としても、経営事項審査総合評点や工事管理者の有資格者数といった客観的指標から、4社がいずれも本件ターミナル駅新設工事に係る各工事を施工する能力を有すると評価していたことが認められ、❷認定事実⑵エのとおり、いずれの事業者も現に営業している鉄道駅等の直下におけるアンダーピニング工という極めて高度な技術を要する工事の施工経験を有していたものである。その上で、❸前記⑵オのとおり、JR東海は、事前検討の結果の相当部分を発注図書に反映させた上、品川駅新設工事及び名古屋駅中央工区工事において質問回答手続を行い、これにより、事前検討を行った事業者とそうではない事業者の情報格差が縮められているところ、その手続が不十分であったとは認められないし、❹認定事実⑴ア、イ、⑷オのとおり、品川駅新設工事と名古屋駅新設工事では工種が似たようなものが多かったものであり、一方の工事において事前検討をしていなくても、他方の工事において類似の課題について事前検討をしていたことがあれば、それが役立った部分もあると推認される。そして、現に、❺清水建設は、事前検討を行っていなかったものの、独自に技術的検討を行い、プレゼンテーションを行うなどしているし(認定事実⑴エ。なお、原告鹿島建設は、「初期検討から出件に至るまでの5~6年もの間、JR東海は、品川駅新設工事については大林組、名古屋駅新設工事については原告大成建設という特定のゼネコンのみに情報を提供し、施工方法の開発、設計、見積りなど種々の検討を行わせた」旨を強調する一方で、清水建設が、平成25年5月の時点で、品川駅新設工事に関する具体的な技術検討を既に開始し、JR東海に対してプレゼンを行うなどし、同年12月頃までにJR東海から図面を入手するなどしたこと(認定事実⑴エ参照)をもって、清水建設は「事前検討」を行っていたとも主張するが、大林組及び原告大成建設が上記のとおり長期間行っていた事前検討(前提事実⑵イ(ア))とは全くレベルが異なるものであることは明らかである上、品川駅新設工事について、原告らも、清水建設と同様にJR東海と交渉して一定の図面を入手し、受注に向けた検討等をすることができなかったとはいえないのに、認定事実⑶のとおりむしろ受注調整をして競争を回避したにすぎないのであるから、原告鹿島建設の上記主張は当を得ないものというべきである。)、❻前記⑵ウのとおり、4社は、実際に、いずれも所定の期間内に、独自に参考見積書、技術提案書等を作成してJR東海に提出している(なお、参考見積書、技術提案書等は、各社において、多数の者が関与する社内手続を経て作成されるものであるところ、その過程で、これが実際の施工を前提としないものであると了解されていたことをうかがわせる事情も認められない。)。さらに、❼大林組は、事前検討をしていなかった名古屋駅中央西工区工事について見積りや技術提案を提出した後、現に受注し、施工している(大林組の≪C1≫は、名古屋駅新設工事について、事前の技術的検討を行っていなかったからといって大林組が受注することは困難であるとは考えていなかった旨、単に大林組は品川駅新設工事を受注する予定であったので、名古屋駅新設工事も受注すると無理が生ずるという理由から後者の受注を希望していなかったにすぎない旨を証言している(甲A21〔55頁〕)。)。
他方、❽原告らは、事前検討を行っていない建設会社の技術提案・施工計画は実際の施工を前提としたものとはいえないと主張し、その例として、名古屋駅中央工区工事の技術的検討を事前に行っていなかった原告鹿島建設が現実の施工を前提とした技術提案・施工計画を作成できなかったことを主張するが、原告鹿島建設も所定の期間内に参考見積書や技術提案を提出できており、その内容に関して特に問題があったとされた事実はうかがわれないこと(前記⑵ウ)に照らし、原告鹿島建設の技術提案が、実際の施工を前提とした内容のものになっていなかったとは容易には認められないし、たとえ4社間での受注調整により名古屋駅中央工区工事を受注しないこととなっていた原告鹿島建設が、当該工事の参考見積書や技術提案の作成に力を入れておらず、主観的には実際に施工することになるとは予定していなかったとしても、客観的に当該工事の受注能力がなかったことには必ずしもならない。❾仮に、実際の施工に耐えられる施工計画を策定した上で見積りを提出することが真に不可能なのであれば、JR東海に対し当該工事の受注を希望しない旨を伝えて競争手続への参加をしないことも可能であったとみられ(認定事実⑸イ、ケ(ク)によれば、大林組が、名古屋駅中央工区工事の競争見積手続への参加を辞退することが認められたことがあったし、原告鹿島建設及び清水建設も、名古屋駅中央西工区工事の指名競争手続に参加しないことが認められている。)、会社として正式に手続に参加して施工計画、見積書を提出しておきながら、それが不可能であったとはたやすく認めることができない。❿なお、見積りの作成・提出等の作業を行う期間が限られていたとしても、多数の優秀な人材を擁するスーパーゼネコンである4社にとって、人材の投入の仕方次第で対応できないものであるとはいえない(実際に原告大成建設の東京支店において見積り作業を担当したプロジェクトチームを率いていた清水伸彦は、原告大成建設が事前検討をしていなかった品川駅北工区工事についても、社内の人材配置等の調整により、見積書の作成等の業務に必要な人材を確保すれば、完成度の高い見積書の作成が可能である旨の認識を有していたことが認められる(乙63〔3~5頁〕)。)。
以上の点を総合すれば、事前検討を行っていなかった事業者にとって、見積り作業の負担が重かったとはいえるとしても、見積りを行うことが不可能であったとはいえない。
(ウ) 上記(ア)②の工期内に安全・確実に施工することについても、上記❶~❼の点を指摘することができるが、なかんずく、前記⑵エで指摘したとおり、条件変更後の品川駅北工区工事について受注した清水建設、名古屋駅中央西工区工事について受注した大林組は、いずれも、高い技術が求められる内容の当該各工事について事前検討をしていなかったのに現に問題なく施工しているのであって、事前検討をしていない事業者が(事前検討をしていた事業者と全く同等の品質の施工になるかはともかくとして)工期内に安全・確実に施工できないと断ずるべき証拠はない。この点に関し、原告大成建設は、事前の検討をしていなかった落札者が、工区が分割された後の工事を施工した事実は、工区が分割される前の「全工事」の施工可能性を推定する理由としては甚だ不十分であると指摘する意見書(甲A124〔11頁〕)を提出するが、(a)名古屋駅中央西工区工事について事前検討をしていなくても大林組が問題なく施工しているなどの事実は、工区分割前のより規模の大きな工事についても(それに応じた人的・物的資源の投入調整次第で)施工し得ることを推認する重要な事実であること自体は否定できないし、また、(b)上記事実に照らし、平成27年8月19日の工程分割後の段階で条件変更後の品川駅北工区工事について、平成28年3月10日の工区分割後の段階で名古屋駅中央西工区工事について、それぞれ客観的に供給可能性(施工可能性)がある事業者が2社以上いたことは優に認められるところ、本件ターミナル駅新設工事については、認定事実⑵ア、⑶ア、イに照らし、早い段階から工区や工程の分割が想定されていたと認められるのであるから、工区や工程の分割その他の条件変更がされる前の段階においても、それらがされる可能性も含めて供給可能性が問われるのであって、現に、4社がした本件合意の存在により、条件変更後の品川駅北工区工事及び名古屋駅中央西工区工事についての競争が実質的に制限されたのであるから、上記指摘は、本件における「競争」の要件の充足を否定し得るものではない。
なお、本件ターミナル駅新設工事の性質上、「安全」に施工することは絶対的な要請であるといえるが、「工期」に関しては、工期内に確実に施工することができないリスクをどの程度重視して受注事業者を選定するのかは最終的には発注者において勘案して決める事項であるところ、本件においてJR東海が一貫してコストダウンを重視していた経緯(前記⑵ク~コ)のほか、JR東海が大林組の工期が8か月遅れることを了承した経緯(認定事実⑸ケ(カ)(ク)のとおり、大林組が、名古屋駅中央工区工事の連壁について、JR東海が予定している工期を前提とすると施工が困難であり、工事開始が8か月遅れでなければ難しい旨を伝えたところ、JR東海は、工程を変更するので工事開始が8か月遅れでも構わない旨返答した上、工区を分割して、工期が8か月送れることを了承するに至ったこと)、さらには、もともとリニア中央新幹線建設工事は全体として着工、開業まで多方面の調整を要する事業であること等を踏まえると、未曽有の難工事であるがために真に技術的に施工が間に合わないのであれば、工期については価格との兼ね合いで交渉による条件変更の余地があり得るものであったとみるのが相当である。
原告らは、個々の工事の困難さを示す多数の証拠を提出するが、以上を踏まえると、本件ターミナル駅新設工事に関する4社の施工可能性(施工能力)についての前記⑵、⑶の認定判断が覆されるものではない。
(エ) 以上によれば、原告らの上記(ア)の主張は採用することができない。
エ 原告らは、JR東海は、意中の建設会社に受注させるべく手続を恣意的に操作することが可能であって、具体的には、❶JR東海は、事前の検討状況及び営業活動等の内容から、品川駅北工区工事は清水建設、品川駅南工区工事は大林組、名古屋駅中央工区工事は原告大成建設に受注させることを既に決定しており、あえて見積価格重視の指名競争見積方式を採用し、意中の建設会社以外の建設会社も指名したのは、意中の建設会社の見積価格を引き下げさせるために、「当て馬」として利用する意思であった、❷JR東海は、清水建設の施工余力・営業活動を踏まえて、品川駅北工区工事を清水建設、品川駅南工区工事を大林組に受注・施工させるために、品川駅新設工事を不合理な形で分割して出件した、❸JR東海は、名古屋駅中央西工区工事について、形式的には指名競争見積手続に付した上で、大林組名古屋JVに受注させるため、複数回見積りを提出させるなど、手続を恣意的に操作した、❹JR東海は、名古屋駅中央工区工事の契約手続中止後に、原告大成建設との間でのみ30回以上にわたって打合せを実施したところ、JR東海が原告大成建設との間でのみ打合せを実施していたのは、競争という外観を装いつつも、原告大成建設に受注させることを前提に、技術提案等について事実上のすり合わせを行っていたことにほかならないと主張する。
しかしながら、上記❶については、JR東海が受注させる事業者を既に決定していたと認められないことは前記イで説示したとおりである。JR東海は、一貫してコストダウンを重要課題とし(前記⑵ク)、前記⑵コで指摘したとおり、事前検討をしていた事業者の見積価格が参加事業者間で最安値となっているにもかかわらず、JR東海が予定していた基準価格を上回ることなどから手続を不調又は中止とし、改めて他の事業者も含めて手続をとっていることなどからすれば、各事業者が提示する価格によっては事前検討を行っていない事業者に発注する選択肢も有していたものというほかはない。前記⑵サのとおり、JR東海は、名古屋駅中央工区工事について競争原理を働かせるために大林組に競争見積手続への参加を要請したものであるところ、仮にここで大林組が、意中の建設会社である原告大成建設の見積価格を引き下げさせるための「当て馬」にすぎなかったのであれば、JR東海としては、原告大成建設の価格を引き下げさせた上で最終的には原告大成建設に受注させるようにしたはずであるが、現実にはJR東海はそのような行動をとっていない。むしろ、JR東海は、指名競争見積手続の中止後、原告大成建設から、価格を1500億円まで下げることが可能であるので原告大成建設と特命随意契約を締結してもらいたい旨の要望を受けても、手続の公正さや競争性の確保を理由にこれを拒絶し(認定事実⑸ク)、その後も、修正見積書で大林組より高い価格しか提出しなかった原告大成建設から、再度協議の機会を与えてほしい旨の申入れを受けても、公正な手続になじまないことを理由にこれを拒否したものであり(認定事実⑸テ)、最終的に、名古屋駅中央西工区工事については、価格競争で勝った大林組に発注するに至っている。また、品川駅北工区工事については、清水建設が、単なる「当て馬」ではなく、現に受注するに至っている。
上記❷については、競争見積りでの事業者による活発な競争を確保する見地からは、1工区で発注するより、複数に分割して発注する方が競争に参加する事業者数の数が増えると予想されるが、工区の境目付近の工区調整等を考慮すると3工区以上に細分するのは困難であることなどから、平成26年9月22日、品川駅新設工事は、北工区と南工区の2工区に分ける案を採用したこと(認定事実⑵ウ)に関し、特段不合理な点は認められず、殊更清水建設に受注させるために、北工区と南工区の2工区に分割したものとは認められない。
上記❸については、認定事実⑸ケ(ウ)のとおり、JR東海が、名古屋駅中央工区工事に大林組を参加させたのは、原告大成建設の見積価格が割高であり、原告大成建設と原告鹿島建設の参考見積価格の差が約50億円と大きく乖離していたことや、両社の見積価格において計上された経費率の高さ等から、両者の間で競争原理が働いていないのではないかという疑念が生じたからであり、その後の手続を見ても、原告大成建設名古屋JVと価格を競わせているのであって(認定事実⑸タ)、コストダウンの要請から競争性の確保を課題としていたJR東海として合理的な行動であって、原告らが主張するように大林組に受注させるために恣意的に操作したものとは到底認められない。
上記❹については、確かに、JR東海は原告大成建設との間で、平成27年9月から12月にかけて合計33回の打合せは行われているが(認定事実⑸ク)、名古屋駅中央西工区工事について大成建設と大林組を指名して指名競争見積手続に付していること、現に大林組が受注するに至ったことに鑑みれば、JR東海において、名古屋駅中央工区工事の受注事業者を原告大成建設に決定していたとみることはできない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
オ 原告らは、民間発注案件では、官公庁発注案件と異なり法令によって競争が義務付けられているわけではなく、発注者が競争によらずに調達することも自由に認められるところ、当該発注者が、特定の事業者に対して発注することをあらかじめ意思決定している事実が認められる場合には、不当な取引制限が成立する前提である「競争」が存在しなかったものと解されると主張する。
しかしながら、本件において特定の事業者に対して発注することをあらかじめ意思決定している事実が認められないことは前記イで説示したとおりであり、原告らの主張は前提を欠く。
なお、民間発注案件であるからといって、前示のとおり発注者がコストダウンを重視している以上、公正に競争させる意義があり、また、随意契約等ではなく指名競争見積手続をとっている以上、その趣旨に反する行動は採り難くなるのであって、受注可能性のある事業者間で秘密裡に価格等の情報交換をして受注調整をすることを正当化できるものでないことはいうまでもない。
カ その他、原告らは、本件で「競争」が存在しなかったとする事情をるる主張するが、いずれも、以上の認定判断を覆し得るものではない。
4 本件合意により、本{牛ターミナル駅新設工事という「一定の取引分野」における「競争を実質的に制限」(独禁法2条6項)したか否か(争点3)
⑴ 独禁法2条6項は、独禁法において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいうと規定している。
そして、独禁法が、公正かつ自由な競争を促進することなどにより、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としていること(1条)等に鑑みると、独禁法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいうものと解される(最高裁平成22年(行ヒ)第278号同24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁参照)。
これを本件についてみると、前記2、3によれば、原告らを含む4社には実質的な供給可能性が認められ、4社の間に独禁法2条4項、6項の規定する「競争」(競争関係)が存在したと認められる状況の下で、本来、各社が自由に見積価格を決めて競争するはずのところを、本件合意により、そのような事業活動が事実上相互に拘束され(後記5⑴参照)、本件ターミナル駅新設工事の取引に係る市場が有する競争機能が損なわれ、当事者である4社がその意思で本件ターミナル駅新設工事の取引における受注者及び受注価格をある程度自由に左右することができる状態がもたらされたものであるといえるから、独禁法2条6項所定の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」との要件を充足するものというべきである。
したがって、原告らは、本件合意により、一定の取引分野における競争の実質的制限(独禁法2条6項)をしたものと認められる。
⑵ なお、原告大成建設は、本件ターミナル駅新設工事については、JR東海は、事前の技術的検討を行ってきた建設会社に受注させることをあらかじめ決定していたのであるから、≪A1≫らの行為は受注者の選定に影響を与えていないし、さらに、JR東海は、建設会社の見積りが自社の予算・基準価格を超えている場合には、工事内容を変更の上、再度の見積り提出を求めたりすることなどにより、見積金額を引き下げさせていたのであり、≪A1≫らの行為は最終的な受注金額に影響を与えていないのであるから、本件ターミナル駅新設工事については、≪A1≫らの行為により、本件ターミナル駅新設工事の市場における競争を実質的に制限したとはいえず、因果関係が認められないと主張する。
しかしながら、JR東海が事前の技術的検討を行ってきた建設会社に受注させることをあらかじめ決定していたとは認められないことは、前記3で説示したとおりである。また、確かにJR東海は、建設会社の見積りが自社の予算・基準価格を超えている場合には、工事内容を変更の上、再度の見積り提出を求めていたが、前記1、2で認定、説示したところによれば、原告大成建設の≪A1≫を含む4社の担当者は、認定事実⑸シのとおり条件変更後の工事の受注に関して再度協議を行うなど、条件変更及び再度の見積手続の前後を通じて、本件合意に基づく個別の受注調整を現に行っていたのであるから、≪A1≫らの行為が最終的な受注金額に影響を与えていないとは認められず、本件合意と競争の実質的制限(4社がその意思で受注者及び受注価格をある程度自由に左右することができる状態)との因果関係を否定することはできない。
したがって、原告大成建設の上記主張は採用することができない。
5 「共同して」「相互にその事業活動を拘束」(独禁法2条6項)といえるか否か(争点4)
⑴ 本件合意の内容は、前記2のとおり、4社が、リニア中央新幹線に係る地下開削工法による品川駅及び名古屋駅新設工事(本件ターミナル駅新設工事)について、受注予定者を決定し、受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるようにするという内容の取決めである。4社は、本来的には、各社において、互いに他社の事業活動を十分に予測できない状況下で、JR東海が発注する本件ターミナル駅新設工事の競争見積手続等に参加するか否か、その見積価格を幾らとするかなど本件ターミナル駅新設工事の請負に関する様々な事業活動について自由に決めることができるはずであるところ、上記のような取決めがされたときは、これに制約されて意思決定を行うことになるという意味において、各社の事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかである。そうすると、本件合意は、独禁法2条6項にいう「その事業活動を拘束し」の要件を充足するものということができる。そして、本件合意の成立により、4社の間に、上記の取決めに基づいた行動をとることをお互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成されたものといえるから、本件合意は、同項にいう「共同して・・・相互に」の要件も充足するものということができる。
⑵ア これに対し、原告らは、本件ターミナル駅新設工事について、JR東海の意向により、あらかじめ受注する事業者は決定しているため、本件ターミナル駅新設工事につき、受注予定者を決定する旨合意した事実や何らかの共通認識が形成された事実は存しないと主張する。
しかしながら、前記3において説示したとおり、JR東海があらかじめ受注する事業者を決定していたと認められないから、原告らの上記主張はその前提を欠く。
イ また、原告らは、≪A1≫及び≪B1≫には、本件ターミナル駅新設工事の指名競争見積手続に参加するか否かの決定権限や提出見積価格の決定権限が認められておらず、≪A1≫や≪B1≫の行為は「共同して・・・相互にその事業活動を拘束」したものではないと主張する。
しかしながら、≪A1≫は原告大成建設の土木営業本部副本部長、≪B1≫は原告鹿島建設の土木営業本部副本部長という立場で、両者ともにリニア中央新幹線関連工事の営業部門を統括しており、競争見積りへの参加や見積価格決定についての会社の方針に影響を及ぼす立場にあったものと認められる。そして、≪A1≫及び≪B1≫は、自ら又は価格連絡担当者として指名した部下職員に指示をして、4社間で見積価格等に関する情報を連絡し合うなどして調整を行い、その結果、原告らを含む4社からは事業者として実際にその調整どおりの見積価格等の提出が行われたものである。このような≪A1≫及び≪B1≫の立場や関与からすれば、両名は、原告大成建設及び原告鹿島建設両社の本件ターミナル駅新設工事に係る指名競争見積手続に強い影響力を有しているといえるのであって、≪A1≫及び≪B1≫の行為が、4社の本件ターミナル駅新設工事の受注に関して共同して相互にその事業活動を拘束し、遂行する行為に該当することは明らかである。
6 「公共の利益に反して」(独禁法2条6項)といえるか否か(争点5)
独禁法2条6項にいう「公共の利益に反して」とは、原則としては同法の直接の保護法益である自由競争経済秩序に反することを指すが、現に行われた行為が形式的に上記に該当する場合であっても、上記法益と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して、「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という同法の究極の目的(同法1条参照)に実質的に反しないと認められる例外的な場合を上記規定にいう「不当な取引制限」行為から除外する趣旨と解される(最高裁昭和55年(あ)第2153号同59年2月24日第二小法廷判決・刑集38巻4号1287頁参照)。
本件合意は、4社が、本件ターミナル駅新設工事について、受注予定者を決定し、受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるようにするという内容の取決めであり、本来互いに競争すべき事業者間でこのような取決めをすることが、自由競争経済秩序に反することは明らかである上、本件合意により見積価格を高止まりさせて受注価格を引き上げることは、価格競争によるコストダウンを図ろうとしたJR東海の利益に著しく反するのみならず、ひいてはリニア中央新幹線の利用料金に影響し得るところであって、一般消費者の利益の確保をも阻害するおそれがあるというべきである。
他方、原告大成建設は、4社の行為により、限られた工期内に、難易度の極めて高いリニア中央新幹線建設工事の施工を安全・確実に完遂させることができたという利益が生じたところ、当該利益は、国民経済の民主的で健全な発達を促進する観点から望ましいものであったと主張するが、本件合意の存在によって本件ターミナル駅新設工事を安全に施工することができたという因果関係は認められないから、原告大成建設の上記主張はその前提を欠く。また、極めて困難な工事の安全な施工を確保するために、4社が、その施工の方法や条件等について発注者との間で公明正大に議論等をするのではなく、秘密裡に受注調整をすることが、「国民経済の民主的で健全な発達」につながるものとは到底いうことができない。
以上によれば、本件合意は、「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という独禁法の究極の目的に実質的に反しないと認められる例外的なものには当たらず、「公共の利益に反して」という要件に該当することは明らかである。
この要件充足性と前記4、5で説示した要件充足性を併せると、原告らは、本件合意により、独禁法2条6項所定の「不当な取引制限」をしたものと認められる。
7 本件排除措置命令が独禁法7条2項の「特に必要があると認めるとき」の要件を充足するか否か(争点6)
独禁法7条2項は、公正取引委員会は、独禁法3条に違反する行為が既になくなっている場合においても、「特に必要があると認めるとき」は、所定の手続に従い、当該行為をした事業者等に対し、当該行為が既になくなっている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる旨規定している。上記「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断については、我が国における独禁法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する被告の裁量が認められるものというべきである(最高裁平成16年(行ヒ)第208号同19年4月19日第一小法廷判決・裁判集民事224号123頁参照)。
本件においては、前記2ないし6で認定、説示したところによれば、原告らは独禁法3条に違反する行為をした事業者であるといえるところ、さらに前提事実⑷~⑹及び弁論の全趣旨を総合すれば、大林組が東京地方検察庁による捜索・差押えを受けた平成29年12月8日以後、本件合意は事実上消滅したものと認められることから、「違反する行為が既になくなっている場合」に該当するが、違反行為が2年以上にわたること、その取りやめは上記捜索・差押えを契機とするものであって自発的なものではないこと等の諸事情を総合的に勘案すれば、原告らに対して排除措置を命ずることにつき、被告が「特に必要がある」と認めたことについて、合理性を欠くものであるということはできず、被告の裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものということはできない。
これに対し、原告らは、本件ターミナル駅新設工事は、1回限りの工事であり既に請負契約が締結済みとなっている上、後続工事についてもJR東海が指名競争見積手続を採用することが想定されないという状況にあるから、「特に必要があると認めるとき」の要件に該当しないと主張する。しかしながら、本件ターミナル駅新設工事全体につき、今後、JR東海が競争的な手続により工事を発注する可能性がないことを認めるに足りる証拠はなく、上記諸事情に照らせば、原告らの上記主張を、被告の裁量権の逸脱・濫用を基礎付けるに足りるものとして採用することはできない。
したがって、本件排除措置命令は、独禁法7条2項の「特に必要があると認めるとき」の要件を充足するということができ、この点で本件排除措置命令が違法になるということはできない。
8 本件排除措置命令について、被告が刑事裁判における証拠等を検証していなかったことが、考慮不尽という違法事由を構成するか否か(争点7)
原告大成建設は、被告は刑事裁判における証拠や法的争点を検証することもなく排除措置を命令しており、被告が刑事裁判における証拠等を検証していないことは、排除措置命令の判断における考慮不尽という違法事由を構成すると主張する。
しかしながら、排除措置命令は、違反行為を将来に向けて排除し、又は排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることにより、当該行為によってもたらされた違法状態を除去し、競争秩序の回復を図ることを目的として公正取引委員会という行政機関が行う行政処分であり、当該命令を行うに当たり、刑事裁判における証拠等を検証することが求められるものではなく、その検討の程度が排除措置命令の適法性に影響を与えるものとは解されない。
したがって、原告大成建設の上記主張は採用することができない。
第4 結論
以上によれば、本件排除措置命令は適法であり、第1事件及び第2事件のいずれについても、原告らの請求は、理由がない。
よって、原告らの請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
令和6年6月27日
東京地方裁判所民事第8部
裁判長裁判官 笹本哲朗
裁判官 丹下将克
裁判官 伊藤圭子