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独禁法第19条、一般指定12項
福岡地方裁判所第1民事部
令和6年(行ク)第13号
令和6年7月24日
佐賀市西与賀町大字厘外821番地4
申立人(本案原告) 佐賀県有明海漁業協同組合
同代表者代表理事 ≪X1≫
同訴訟代理人弁護士 平山 賢太郎
同 山本陽介
同 堀 隆聖
東京都千代田区霞が関1一1一1
相手方(本案被告) 国
同代表者 法務大臣
小泉龍司
処分行政庁 公正取引委員会
同代表者委員長 古谷一之
相手方指定代理人 窪田大輔
同 石野耕二
同 渡口 真
同 森田 起司郎
同 下川琴江
同 永峰 加容子
同 福重有紀
同 岩下生知
同 石井崇史
同 岡田博己
同 奥村正和
同 高取勇介
同 堤 優子
同 並木 悠
同 石原健司
同 鹿野修弘
同 川口 菜摘子
同 深澤尚人
同 田邊節子
同 山中康平
同 本田朋宏
同 松下晃輔
同 藤村 響
同 野津沙織
主文
1 本件申立てを却下する。
2 申立費用は申立人の負担とする。
理由
第1 申立ての趣旨
公正取引委員会は、申立人に対し、別紙証拠品目録記載の証拠(黒塗りがされていないもの)を仮に閲覧させよ。
第2 事案の概要
申立人は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)52条1項前段に基づき、公正取引委員会(処分行政庁)の認定した事実を立証する証拠である別紙証拠品目録記載の全ての証拠について閲覧申請を行ったところ、処分行政庁は、同法52条1項後段に基づき、その一部について黒塗りがされた状態で開示した(以下、当該証拠のうち申立人が閲覧した際に黒塗り処理がされていた部分を「本件黒塗部分」という。)。そこで、申立人は、処分行政庁に対し、別紙証拠品目録記載の本件黒塗部分について改めて閲覧を申請したが、処分行政庁は、当該申請による閲覧希望は、既に意見聴取が終結していること等を理由として応じなかった。
本件は、申立人が、独占禁止法52条1項前段に基づき、本件黒塗部分を開示して別紙証拠品目録記載の証拠全部を閲覧させることの義務付けを求める訴え(以下「本件義務付けの訴え」という。)等を提起した上、行政事件訴訟法37条の5第1項に基づき、別紙証拠品目録記載の証拠全部を閲覧させることの仮の義務付けを求める事案である。
1 関係法令の定め
別紙「関係法令」記載のとおり。
2 前提事実
一件記録によれば、次の事実が一応認められる。
⑴ 当事者
申立人は、水産資源の管理及び水産動植物の増殖、水産に関する経営及び技術の向上に関する指導、組合員の事業又は生活に必要な物資の供給等を行うことを事業とする、漁業協同組合である。
⑵ 閲覧の申請等
ア 処分行政庁は、申立人の行為が独占禁止法19条に違反する疑いがあるとして、事件の審査を進め、令和5年11月28日付けで、申立人に対し、独占禁止法20条1項に基づき行う予定の排除措置命令(以下(「本件排除措置命令」という。)に係る意見聴取(以下「本件意見聴取」という。)を行う旨を通知した(疎甲1の1~6)。
イ 申立人は、令和5年12月6日から令和6年2月6日までの間、独占禁止法52条1項前段に基づき、本件排除措置命令の案文に係る「公正取引委員会の認定した事実」を立証する証拠である、別紙証拠品目録記載の全ての証拠について閲覧申請を行ったところ、処分行政庁は、同法52条1項後段に基づき、本件黒塗部分を除いて開示し、申立人は、本件黒塗部分を閲覧することができなかった。
ウ 申立人は、令和5年12月14日、東京地方裁判所に対し、本件排除措置命令の差止めの訴え(以下「本件差止訴訟」という。)を提起するとともに(疎甲2)、本件排除措置命令の仮の差止めの申立て(以下「本件仮の差止め申立て」という。)をした。なお、東京地方裁判所は、令和6年1月9日、本件仮の差止め申立てについて、仮の差止めの要件である「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」(行政事件訴訟法37条の5第2項)がないことを理由に、これを却下する旨の決定をした(疎乙2)。
エ 本件意見聴取の意見聴取期日として令和6年3月14日午後3時が指定されていたところ、申立人は、同日午後2時48分、相手方に対し、証拠の閲覧・謄写申請書を提出して、本件黒塗部分を含めた別紙証拠品目録記載の全ての証拠の閲覧を同月18日又は19日の午前10時~12時頃までの間に行うことを申請した。
オ 上記エ記載の意見聴取期日は予定どおり実施され、本件意見聴取の手続は、当該意見聴取期日をもって終結した。
カ 処分行政庁は、申立人に対し、令和6年3月15日付けで電子メールを送信し、上記エ記載の閲覧申請については、既に意見聴取の手続が終結しており、かつ、閲覧希望日が意見聴取終結後とされているため応じられない旨を返答した(疎甲3の3)。
⑶ 本件申立て及び本件排除措置命令の発令
ア 申立人は、令和6年3月19日、本件義務付けの訴え等を提起するとともに、本件申立てをした。
イ 東京地方裁判所は、令和6年5月9日、本件差止訴訟について、本件排除措置命令が発令されることにより申立人に「重大な損害を生ずるおそれ」(行政事件訴訟法37条の4第1項)があるとは認められないことを理由として、訴えを却下する旨の判決を言い渡し(疎乙3)、当該判決は確定した。
ウ 処分行政庁は、令和6年5月15日、申立人に対し、独占禁止法20条1項の規定に基づき、本件排除措置命令を発令した(疎乙1)。
3 当事者の主張
申立人の主張は、別紙1「申立書」、別紙2「申立書訂正申立書」、別紙3「準備害面1」記載のとおりであり、相手方の主張は、別紙4「意見害」、別紙5「意見書⑵」記載のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 「義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」(行政事件訴訟法37条の5第1項)があるか否かについて
⑴ 行政事件訴訟法37条の5第1項は、仮の義務付けの要件として、「義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があることを規定する。このような同項の趣旨、日的及び文言に照らすと、この要件を充足するためには、義務付けの訴えに係る処分等がされないことによって生ずる損害につき、損害の回復の困難の程度を考慮し、かつ、損害の性質及び程度並びに処分等の内容及び性質を勘案しても、損害賠償等の事後的な手段によるのではその救済が著しく困難又は不相当であることを要すると解するのが相当である。
⑵ 申立人は、本件申立てにおいて、「償うことのできない損害を避けるための繁急の必要」(行政事件訴訟法37条の5第2項)を基礎付ける事情として、本件排除措置命令が発令されることにより、損害賠償等の事後的な手段によるのでは回復不可能な損害を被るところ、本件申立てが認められなければ、証拠の閲覧という独占禁止法に基づく適正手続の保障がないまま本件排除措置命令を受けることになる旨を主張する。
⑶ しかしながら、処分行政庁は、令和6年5月15日、申立人に対し、独占禁止法20条1項の規定に基づき、本件排除措置命令を発令したこと(前提事実⑶ウ)を踏まえると、申立人は、本件排除措置命令について取消訴訟を提起し、当該取消訴訟において、本件排除措置命令の取消事由として、本件意見聴取の手続において、本件黒塗部分を閲覧することができず、防御権行使の機会を奪われたことを主張することができ、また、当該取消訴訟の手続の中で本件黒塗部分の開示を受ける余地もあるといえる。また、申立人は、本件差止訴訟の判決(疎乙3)において、木件排除措置命令が発令されることにより申立人に重大な損害を生ずるおそれがあるとは認められないと判断されたものである(前提事実⑶イ)。
以上の事情に照らすと、申立人が独占禁止法52条1項に基づき本件黒塗部分を閲覧することができないことによって被るとして申立人が主張する損害は、存在しないか、他の手段によってその発生を回避すること自体ができるものであり、損害賠償等の事後的な手段によるのではその救済が著しく困難又は不相当であるものとはいえない。
したがって、本件において、行政事件訴訟法37粂の5第2項にいう「義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるための緊急の必要」があるとは認められない。
2 結論
よって、本件申立ては、本案訴訟の適法性等を措くとしても、その余の点を検討するまでもなく、不適法であるからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
令和6年7月24日
裁判長裁判官 林 史高
裁判官 住田知也
裁判官 本城伶奈