公正取引委員会審決等データベース

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ASP Japan合同会社に対する件

独禁法19条一般指定10項

令和06年(措)第9号

排除措置命令

東京都港区港南二丁目15番2号
ASP Japan合同会社
同代表者 代表社員 《 事業者名 》
同代表社員職務執行者 《 氏  名 》

公正取引委員会は、上記の者に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第20条第1項の規定に基づき、次のとおり命令する。
なお、主文、理由及び別紙中の用語のうち、別紙「用語」欄に掲げるものの定義は、別紙「定義」欄に記載のとおりである。

主    文
1 ASP Japan合同会社(以下「ASP」という。)は、別表1記載の内視鏡洗浄消毒器(以下「本件内視鏡洗浄消毒器」という。)にバーコードリーダーを取り付けるとともにディスオーパの容器に本件二次元コードを貼付し、当該バーコードリーダーによって本件二次元コードを読み取らなければ本件内視鏡洗浄消毒器の洗浄消毒機能が作動しないようにすることにより、本件内視鏡洗浄消毒器を使用している医療機関に対し、本件内視鏡洗浄消毒器の供給に併せてディスオーパを購入させている行為を取りやめなければならない。
2 ASPは、次の事項を業務執行の決定機関において確認しなければならない。
⑴ 前項の行為を取りやめる旨
⑵ 今後、医療機関に対し、フタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器の供給に併せて自社の販売するフタラール製剤を購入させる行為を行わない旨
3 ASPは、前2項に基づいて採った措置を、別表3記載の《本件内視鏡洗浄消毒器の製造会社A》(以下「《本件内視鏡洗浄消毒器の製造会社A》」という。)、別表4記載の4社(以下「4社」という。)及び自社の販売代理店に通知するとともに、本件内視鏡洗浄消毒器を購入した医療機関に周知し、かつ、自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知、周知及び周知徹底の方法については、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
4 ASPは、今後、医療機関に対し、フタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器の供給に併せて自社の販売するフタラール製剤を購入させる行為を行ってはならない。
5 ASPは、次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については、前項で命じた措置が遵守されるために十分なものでなければならず、かつ、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
⑴ フタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器及びフタラール製剤の販売事業に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の作成及び従業員に対する周知徹底
⑵ フタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器及びフタラール製剤の販売事業に関する独占禁止法の遵守についての、自社の社員である法人の職務執行者(自社の社員が自然人である場合は当該社員)及び従業員に対する定期的な研修並びに第三者による定期的な監査
6 ASPは、第1項ないし第3項及び前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。

理    由
第1 事実
1 関連事実
⑴ 名宛人等の概要
ア ASPは、肩書地に本店を置き、フタラール製剤の製造販売及びフタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器の販売に係る事業を営んでいる者である。
ASPは、平成31年4月1日、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社(以下「ジョンソン・エンド・ジョンソン」という。)から、吸収分割により、フタラール製剤の製造販売及びフタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器の販売に係る事業を承継し、同日以降、フタラール製剤及びフタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器の販売を行っており、令和2年11月頃以降は、フタラール製剤の製造も行っている。
イ 名宛人以外のジョンソン・エンド・ジョンソンは、東京都千代田区西神田三丁目5番2号に本店を置き、前記アのフタラール製剤の製造販売及びフタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器の販売に係る事業を営んでいた者であるが、前記アのとおり、平成31年4月1日、ASPに対し吸収分割により同事業を承継させ、同日(フタラール製剤の製造にあっては令和2年11月頃)以降、同事業を営んでいない。
⑵ 高水準消毒剤を用いる内視鏡洗浄消毒器の概要
ア 一般社団法人日本消化器内視鏡学会作成の「消化器内視鏡の洗浄・消毒標準化にむけたガイドライン」においては、消化器内視鏡の洗浄消毒を行うに当たっては高水準消毒を行うことが推奨されている。高水準消毒を行うことができる消毒剤には主にフタラール製剤及び過酢酸製剤がある。
イ フタラール製剤を消毒剤として使用できる内視鏡洗浄消毒器は後記⑶アの《本件内視鏡洗浄消毒器の製造会社A》が製造しASPが販売する内視鏡洗浄消毒器のみであり、当該内視鏡洗浄消毒器以外の内視鏡洗浄消毒器には消毒剤として過酢酸製剤のみを用いることができる。
⑶ ASPが販売する内視鏡洗浄消毒器の概要等
ア ジョンソン・エンド・ジョンソン及び《本件内視鏡洗浄消毒器の製造会社A》は、平成15年8月、内視鏡洗浄消毒器等の製造販売に関する契約を締結した。当該契約においては、《本件内視鏡洗浄消毒器の製造会社A》がジョンソン・エンド・ジョンソンのOEM製品として内視鏡洗浄消毒器等を製造する一方で、ジョンソン・エンド・ジョンソンが独占的にその供給を受け販売する権利を有する旨が定められていたところ、前記⑴アの吸収分割に伴い、当該契約上の地位は、ジョンソン・エンド・ジョンソンからASPに移転した。
これにより、平成31年4月1日以降、《本件内視鏡洗浄消毒器の製造会社A》は、ASPのOEM製品としてフタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器を製造し、ASPが独占的にその供給を受け、販売している。
イ 平成15年9月頃以降、ジョンソン・エンド・ジョンソン(平成31年4月1日以降にあってはASPをいう。以下イにおいて同じ。)は、販売代理店を通じて、別表2記載の内視鏡洗浄消毒器(以下「旧型内視鏡洗浄消毒器」という。)を医療機関に販売していた。平成29年3月頃以降、ジョンソン・エンド・ジョンソンは、旧型内視鏡洗浄消毒器の後継機種として本件内視鏡洗浄消毒器を販売している。旧型内視鏡洗浄消毒器の販売終了に伴い、医療機関における旧型内視鏡洗浄消毒器の設置台数は減少し、本件内視鏡洗浄消毒器の設置台数は増加している。
ウ 本件内視鏡洗浄消毒器で使用できる消毒剤は、フタラール製剤のみである。
エ ASP(平成31年3月31日までにあってはジョンソン・エンド・ジョンソンをいう。)が販売する内視鏡洗浄消毒器を購入した医療機関の多くは、一度設置した当該内視鏡洗浄消毒器を一定期間使用し続ける傾向にある。本件内視鏡洗浄消毒器の耐用期間は旧型内視鏡洗浄消毒器と同一であるところ、旧型内視鏡洗浄消毒器の半数以上は、7年以上にわたり使用されている。
⑷ フタラール製剤の概要等
ア 平成13年11月頃以降、ジョンソン・エンド・ジョンソンは、ディスオーパを製造販売していたところ、前記⑴アの吸収分割に伴い、平成31年4月以降はASPが販売代理店を通じて医療機関に対しディスオーパの販売を行っており、令和2年11月頃以降はディスオーパの製造も行っている。
イ 平成25年4月までは、ジョンソン・エンド・ジョンソンの属する企業グループに属する事業者がフタラール製剤に関する特許権を保有しており、国内で上市されていたフタラール製剤はジョンソン・エンド・ジョンソンが製造販売するディスオーパのみであった。
当該特許権の消滅に伴って、平成26年10月頃以降、後発フタラール製剤の製造販売が開始され、令和6年3月時点において、フタラール製剤を製造販売している事業者は、ASP及び後発フタラール製剤の製造販売業者である4社の計5社である。また、後発フタラール製剤は、おおむねディスオーパよりも安価である。
ウ ASP(平成31年3月31日までにあってはジョンソン・エンド・ジョンソンをいう。)が販売する内視鏡洗浄消毒器に投入されたフタラール製剤は、投入から14日を超える前等に交換することとされており、当該内視鏡洗浄消毒器の使用期間中、繰り返し医療機関により購入されているものである。
2 本件内視鏡洗浄消毒器にバーコードリーダーを取り付ける行為等
⑴ ジョンソン・エンド・ジョンソンは、かねてから、フタラール製剤に関する特許権の消滅に伴い、医療機関において安価な後発フタラール製剤が使用されることによって、ディスオーパの売上げが減少することを懸念していたところ、前記1⑷イのとおり、平成26年10月頃以降、後発フタラール製剤の製造販売が開始され、ジョンソン・エンド・ジョンソンが販売する旧型内視鏡洗浄消毒器を購入した医療機関の中には、当該旧型内視鏡洗浄消毒器に用いる消毒剤として後発フタラール製剤を使用するものが現れるようになった。
⑵ ジョンソン・エンド・ジョンソンは、平成27年9月頃以降、旧型内視鏡洗浄消毒器の後継機種の開発に際して、後発フタラール製剤を使用できないようにする目的で、後継機種にはバーコードリーダーを取り付けるとともに、当該バーコードリーダーによって本件二次元コードを読み取らなければ内視鏡洗浄消毒器の洗浄消毒機能が作動しなくなるようにし、かつ、ディスオーパの容器に本件二次元コードを貼付することを決定した。
この決定に基づき製造された本件内視鏡洗浄消毒器は、バーコードリーダーで本件二次元コードを読み取らない限り、洗浄消毒機能が作動しなくなっている。
そのため、後発フタラール製剤を用いて本件内視鏡洗浄消毒器による内視鏡の洗浄消毒を行うことはできない。
⑶ ジョンソン・エンド・ジョンソンは、ディスオーパの売上げを確保するために、旧型内視鏡洗浄消毒器から本件内視鏡洗浄消毒器への更新を積極的に推進することで、後発フタラール製剤を使用している医療機関に対して、使用する消毒剤を後発フタラール製剤からディスオーパに切り替えさせるとともに、後発フタラール製剤の使用を未然に防止するという方針を立てた。
そして、医療機関に対し、当該方針に基づき、平成28年10月頃以降、ディスオーパの容器に本件二次元コードを貼付して当該ディスオーパを販売し、平成29年3月頃以降、本件内視鏡洗浄消毒器を販売した。
⑷ ASPは、平成31年4月1日に、ジョンソン・エンド・ジョンソンから、吸収分割により、前記1⑴アのフタラール製剤の製造販売及びフタラール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器の販売に係る事業を承継した後、前記⑶の方針を引き継ぎ、当該方針に基づき、医療機関に対し、本件内視鏡洗浄消毒器及びディスオーパを販売している。
⑸ 別表4記載の番号1の者は、自社が製造販売する後発フタラール製剤を用いて本件内視鏡洗浄消毒器による内視鏡の洗浄消毒を行うことができないことから、令和2年1月、自社が製造販売する後発フタラール製剤の容器に本件二次元コードと同じ仕様の二次元コードを貼付し、本件内視鏡洗浄消毒器に用いられる消毒剤として使用できるようにするため、本件二次元コードに関する情報の開示を、《本件内視鏡洗浄消毒器の製造会社A》に対して要請した。ASPが、《本件内視鏡洗浄消毒器の製造会社A》に対し、本件二次元コードに関する情報を開示しないよう指示したことを受けて、同年5月、《本件内視鏡洗浄消毒器の製造会社A》は、当該指示に基づき、前記要請を拒否した。
令和5年12月時点において、本件二次元コードに関する情報は開示されていない。
3 前記2の行為による影響
⑴ 旧型内視鏡洗浄消毒器で後発フタラール製剤を使用していた医療機関は、本件内視鏡洗浄消毒器への更新に伴って、消毒剤として後発フタラール製剤を用いることができなくなり、これまで使用していた後発フタラール製剤の購入を取りやめる等、本件内視鏡洗浄消毒器を購入した医療機関は、ディスオーパを購入することを余儀なくされている。
⑵ 4社は、医療機関に対し、本件内視鏡洗浄消毒器に用いられる消毒剤として、自社が製造販売する後発フタラール製剤を販売することができていない。
第2 法令の適用
前記事実によれば、ASPは、医療機関に対し、不当に、本件内視鏡洗浄消毒器の供給に併せてディスオーパを自己から購入させているものであって、これは、不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第10項に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。
よって、ASPに対し、独占禁止法第20条第1項の規定に基づき、主文のとおり命令する。

令和6年7月26日

委員長 古  谷  一  之
委 員 三  村  晶  子
委 員 青  木  玲  子
委 員 𠮷  田  安  志
委 員 泉  水  文  雄

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