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本町化学工業㈱による排除措置命令等取消請求控訴事件

独禁法3条後段、独禁法7条2
東京高等裁判所第3特別部

令和4年(行コ)第283号

判決

令和6年10月16日

東京都足立区中央本町一丁目2番11号
控訴人  本町化学工業株式会社
代表者代表取締役  ≪氏名≫
訴訟代理人弁護士  高橋善樹
同         堀越友香
同         土肥 衆
同         橿渕 陽
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被控訴人      公正取引委員会
同代表者委員長   古谷一之
同指定代理人    別紙指定代理人目録記載のとおり

令和6年10月16日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官
令和4年(行コ)第283号 排除措置命令及び課徴金納付命令取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和2年(行ウ)第22号)
口頭弁論終結日 令和6年6月19日

主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が令和元年11月22日付けでした排除措置命令(令和元年(措)第9号)のうち控訴人に対する部分を取り消す。
3 被控訴人が令和元年11月22日付けでした排除措置命令(令和元年(措)第10号)のうち控訴人に対する部分を取り消す。
4 被控訴人が控訴人に対して令和元年11月22日付けでした課徴金納付命令(令和元年(納)第18号)を取り消す。
5 被控訴人が控訴人に対して令和元年11月22日付けでした課徴金納付命令(令和元年(納)第29号)を取り消す。
第2 事案の概要(以下、特記しない限り略称は原判決の例による。なお、独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)の条文を摘示する際に、同法の一部改正法(令和元年法律第45号)による改正対象とされた規定については、改正前の規定を指すものとする。)
1 被控訴人は、令和元年11月22日、控訴人を含む活性炭の販売業者16社において、東日本地区に所在する地方公共団体が入札等の方法により発注する東日本地区の特定浄水場等向けの粉末活性炭又は粒状活性炭(特定活性炭)について、供給予定者を決定して控訴人を介して供給すること等の合意(本件東日本合意)をすることにより、独占禁止法2条6項所定の「不当な取引制限」をしたとして、同法7条2項1号に基づく排除措置命令(本件東日本排除措置命令)及び同法7条の2第1項に基づく課徴金納付命令(本件東日本課徴金納付命令)をした。また、被控訴人は、同日、控訴人を含む粒状活性炭の販売業者11社において、近畿地区に所在する地方公共団体が入札の方法により発注する近畿地区の特定高度浄水処理施設向けの粒状活性炭(特定粒状活性炭)について、供給予定者を決定し、供給予定者は控訴人を介して供給すること等の合意(本件近畿合意)をすることにより、同法2条6項所定の「不当な取引制限」をしたとして、同法7条2項1号に基づく排除措置命令(本件近畿排除措置命令)及び同法7条の2第1項に基づく課徴金納付命令(本件近畿課徴金納付命令)をした。
本件は、控訴人が、被控訴人を相手に、本件東日本排除措置命令、本件東日本課徴金納付命令、本件近畿排除措置命令及び本件近畿課徴金納付命令(本件各排除措置命令等)の取消しを求める事案である。
2 原判決は、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人は、原判決を不服として控訴した。
3 「前提事実」、「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は、後記4のとおり当審における控訴人の補充主張を加えるほかは、原判決「事実及び理由」第2(事案の概要)の1(前提事実)及び2(争点)並びに原判決別紙6の1(争点に関する当事者の主張)に記載のとおりであるから、これを引用する。
4 当審における控訴人の補充主張
⑴ 基本合意の内容について
ア 本件については、①地方公共団体等が入札等の方法により発注する活性炭についての競争制限が問題になっており、入札談合に特徴的な基本合意及び個別調整という2層構造をもって事実認定がされていること、②地方自治体に供給する活性炭を取り扱う販売業者等が、地方自治体に提示する入札価格等を決定し、もって競争が制限された事案として認定されていること、③供給予定者を決定するだけでは、競争制限は実現できず、地方公共団体発注の活性炭に係る入札の受注予定者を決定し、入札参加業者を制限し合わなければ、競争制限を実現することができないという特徴を有していること、④被控訴人は、入札に参加した窓口業者を活性炭メーカーの手足として評価し、独占禁止法上の責任を不問とする運用をしていることなどからすれば、入札談合の事案であることが明らかである。
イ 入札談合の事案における基本合意の核心は、供給予定者を決定し、供給予定者以外の者は、供給予定者が供給できるように協力することにあり、本件においても、「控訴人を介して供給する」等という受注予定者を決定した後の商流の問題を、受注予定者の決定の合意である基本合意に織り込むことは不当であり、このような形で基本合意を拡張することはできない。
控訴人が供給予定者とその窓口業者との間の商流に入ることができるのは、自社の活性炭を供給できる事業者の間で、供給予定者が決定され、供給予定者以外の者は供給予定者が供給できるように協力するという活性炭メーカー間の基本合意が成立しているからであって、控訴人が当事者として基本合意に参加しているからではない。実際上も、控訴人は、活性炭メーカーの指示を受けて他の活性炭メーカーの担当者に連絡したが、窓口業者に対しては例外的な場合を除き連絡していないのであるから、控訴人が活性炭メーカーから窓口業者までのどこかの商流に入ったからといって、受注予定者が受注できるように協力することには結び付かない。したがって、「控訴人を介して供給する」ことは、本件基本合意の内容に含まれないことは明らかである。
⑵ 事業活動の拘束について
控訴人は、一流通業者(卸売業者)にすぎず、活性炭の取引実施の可否及びその内容について活性炭メーカー(特に活性炭供給能力の高い窯元メーカー)に依存し、活性炭メーカーの指示に従わざるを得ない立場にあった。
このような立場の控訴人は、活性炭メーカーの側からみれば、自身の違法行為を発覚し難くするための連絡伝達役として便利使いしやすい存在であり、活性炭メーカーは、実際に控訴人を本件の入札談合において連絡伝達役として用いていたが、その際、活性炭メーカー15社(東日本15社ないし近畿10社)の個別調整対象案件において、控訴人もその商流に位置付け当該商流上の各取引の内容を把握させておくほうが、それによって控訴人に幾分かの売買差益を受け取らせることになるとしても、個別調整の連絡伝達役として用いるに当たって便宜であったことから、控訴人を商流上に位置付けていた。
したがって、活性炭メーカー15社(東日本15社ないし近畿10社)が個別調整対象案件の商流上に控訴人を介在させていたのは、控訴人との間の基本合意によって事業活動を拘束されていたからではなく、本件談合行為を発覚し難くし、それを効率的に行うために便利であったためであり、控訴人はその結果として多くの案件で取引に入ることになったにすぎない。
⑶ 一定の取引分野について
入札談合は、通常、基本合意とそれに基づく個別調整という2段階から構成されるが、不当な取引制限の成立要件は、専ら基本合意によって満たされなければならない。基本合意の本質は、事業者間で、個別物件ごとに受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるように協力する旨の合意にあるという多摩談合事件最高裁判決の考え方によれば、入札談合は、受注予定者を決定する方法による入札の競争制限であり、競争制限の判断の対象は、地方公共団体発注の活性炭に係る入札という取引分野である。
本件においても、入札等による競争が害されるかを判断する上で、供給予定者から窓口業者までの取引自体は関係がないのであって、窓口業者による入札が供給予定者の意思により行われたかを判断すれば足りる。供給予定者から地方公共団体までの取引過程に控訴人が入るかどうかは、入札談合である本件の入札市場の競争制限に有意な影響を与えるものではない。
したがって、入札談合である本件において、競争の実質的制限を判断する場である「一定の取引分野」(独占禁止法2条6項)は、地方公共団体発注の活性炭に係る入札という取引分野であり、「供給予定者から地方公共団体に供給するまでの一連の取引全体(特定活性炭の取引)」ではない。
⑷ 事業者(競争関係の有無)について
不当な取引制限の当事者は、相互に実質的な競争関係にあることが必要と解されており、独占禁止法2条6項の「事業者」の要件として競争関係の存在を要する。そして、本件のような入札談合において、不当な取引制限の当事者である事業者が競争関係にあるか否かは、専ら基本合意によって判断される。
入札談合は、受注予定者を決定し、受注予定者が落札できるようにする態様での競争制限行為であることに本質があるところ、本件の入札談合における基本合意の核心は、自社の活性炭を供給すべき者である供給予定者(活性炭メーカー15社)の間において、供給予定者を決定し、供給予定者以外の者は供給予定者が供給できるように協力するという部分にある。本件では、供給予定者が決定されるとその窓口業者が受注予定者となることから、供給予定者をもって受注予定者と同視することができ、供給予定者以外の者は各々の窓口業者を通じて供給予定者の窓口業者が落札できるように協力していたものである。
したがって、独占禁止法2条6項の「事業者」の要件に係る競争関係は、基本合意の当事者である供給予定者(活性炭メーカー)の間にあり、供給予定者とはならない控訴人との間にあるとはいえないから、控訴人は、独占禁止法2条6項の「事業者」には該当しない。
⑸ 個別調整における控訴人の関与態様について
控訴人は、個別調整における次のような関与態様に照らし、窯元メーカーを中心とする活性炭メーカー15社が個別の調整を行うに当たっての手足にすぎず、入札等の窓口業者と同様に、本件基本合意の当事者となり得ない。
ア 供給予定者を決定するルールを活性炭メーカーが定めていること
個別案件から基本合意を推認する過程においては、誰が供給予定者を決定するルールを定めたかが吟味されるべきである。
本件で対象となった物件のうち大多数は、活性炭メーカーが定めたルールによって供給予定者が決定されており、控訴人は、活性炭メーカーの定めたルールにより個別案件の調整を円滑にする機能を果たしていたとしても、供給予定者を決定するルールを定めたものではない。
遅くとも平成3年頃には、既に活性炭メーカー同士が直接連絡を取り合い、供給予定者を決定するルールに基づいて、供給予定者及び受注予定者の調整が行われていたことは明らかであり、本件の入札談合が始まった当初は、控訴人を除く活性炭メーカー間で供給予定者を決定するルールを定めていた。その後、活性炭メーカーらは、活性炭メーカー同士が直接連絡を取り合うことは事件発覚のリスクが高いと判断し、複数の活性炭メーカーと取引のあった控訴人に連絡をさせることとし、当局による摘発のリスクを回避しようと企図した結果、控訴人に入札結果一覧表を作成させ、それまでに活性炭メーカー間で取り決めた自治体からの受注調整ルールを控訴人の担当者に説明し、記録させるなどして、控訴人の担当者を通じて、各活性炭メーカーに伝達させたにすぎない。
イ 窯元メーカーが供給予定者の実質的な指定力を有していること
どの活性炭メーカーがどの物件について供給予定者となるかを決定する上で、実質的な指定力を有するのは、原料を輸入して自社工場又は自社関係先工場で活性炭を供給する供給力・価格競争力を有する窯元メーカーであり、窯元メーカーの指定を受けて実際に供給予定者となることを決めるのは、各活性炭メーカーである。各活性炭メーカーにおける活性炭の販売価格は、当該活性炭メーカー自身が決めるものであるが、安価な中国製活性炭との価格競争が激化している状況下においては、窯元メーカーから供給を受けて供給する場合には、販売価格も当該窯元メーカーの供給価格により実質的にほぼ決まってくる。控訴人は、活性炭メーカーから活性炭を仕入れて販売する地位にある卸売業者であり、資本金が9750万円、従業員数も80名程度にすぎない小規模な会社であって、活性炭の製造供給過程において何らの役割も果たしておらず、他の多くの流通業者と同様に大きな購買力(バイイングパワー)を持たず、活性炭メーカーによる供給先、供給量及び供給販売価格の決定に何ら影響力を有しておらず、価格対抗力も持たず、活性炭メーカーによる供給に依存するのみである。それゆえ控訴人は、特定活性炭の流通過程に参加し販売差益を得る立場を維持するために、窯元メーカーの指示を受けて、本件供給調整において連絡役、書記役及び記録係を務め、落札結果等の公開情報を取りまとめて整理し、活性炭メーカーの求めに応じて提供するなど、窯元メーカーを始めとする活性炭メーカーの役に立とうと努めることはできても、供給予定者及び販売価格を指定する影響力など持ち得ない。
ウ 控訴人は活性炭メーカーの指示に従ったにすぎないこと
活性炭メーカーの個別調整において、控訴人が行った行為は、活性炭メーカー(特に窯元メーカー)の指示により、①各メーカーがルール通りの意向を有することを他のメーカーに伝えたり、ルールがない物件においては、どのメーカーがどの物件を希望するかの意向を他のメーカーに伝えたりする連絡を行い、②窯元メーカー(サンワ)の指示により作成した一覧表に、活性炭メーカーが個別調整を行う便宜のために、毎年の個別調整の結果を一覧表の形で記録していたにすぎない。控訴人の担当者が、活性炭メーカーの活性炭営業担当者と相談する等して供給予定者の窓口業者の入札等の価格や協力札の入札価格等を決定した事実は一切ない。控訴人が活性炭メーカーと入札に関する情報を共有し、連絡役を務めることにより、基本合意で決定されたルールを個別案件において円滑に運用するに当たって寄与したとしても、供給予定者を決定するルールを定めていない以上、そのことをもって、基本合意に参加したとはいえない。控訴人の担当者の連絡の先には、常に窯元メーカーを始めとする活性炭メーカーがいて、了解の主体はこれらの活性炭メーカーなのであり、控訴人が了解を得るという主体ではあり得ない。
エ 控訴人の行為は情報を一元化する行為にとどまること
個別の供給調整における控訴人の具体的な関与の態様からすれば、控訴人がした行為は、活性炭メーカー各社の供給予定者となることの希望に関して、各社から聞き取った内容を入札結果等に書き留め、記録して、活性炭メーカーのために、活性炭メーカーにおける供給予定者の希望に関する情報を一元化することにとどまるものである。情報の一元化は、活性炭メーカー各社が希望するところをそのまま記録するものにすぎず、一つの物件について複数社が供給予定者となることを希望した場合に、控訴人においてこれを1社に絞り込むということは一切ない。
供給予定者を決定するルールにより受注予定者が1社に決まらない場合等には、活性炭メーカー各社は、窯元メーカーの意向を控訴人の担当者を通じて確認させ、伝達させた上で、受注予定者の決定自体は、業界を支配する窯元メーカーの意向を反映させ、他の活性炭メーカー自身も受注予定者となるという意図を実現していたものである。
オ 控訴人が、供給予定者を1社に調整した事実や、供給予定者となることの了解を得たという具体的事実がないこと
控訴人の担当者が活性炭メーカーのうち1社から供給予定者となることの「了解を得た」という事実はないし、控訴人の担当者が、活性炭メーカーの担当者に「(●●物件を)やりませんか)」と伝えたとしても、活性炭メーカー、特に窯元メーカーの指示に従って、ルール等に基づき当該活性炭メーカーが当該物件を希望するかどうかについて同社に確認する趣旨にすぎない。これは、各窯元メーカーの希望の有無を聞き取り、その結果を他の活性炭メーカーに伝えるために行っているもので、活性炭メーカー間の連絡伝達行為を行っているにすぎなかった。
また、水ingが活性炭メーカー間の共通認識に反して供給予定者となる希望を表明したことがあったが、控訴人による伝達によって水ingの当該希望を知った他の活性炭メーカーの担当者、特に窯元メーカーであるサンワの担当者から水ingに対して当該希望を取り下げるように強い意向が示され、控訴人による伝達によって他の活性炭メーカーからの強い反発を知った水ingが当該希望を取り下げたというものであったから、控訴人の担当者は、活性炭メーカーの間で連絡伝達行為を行ったにすぎなかった。さらに、クラレと朝日沪過材との間で希望が重複したことがあったが、その際も、控訴人の担当者は、一方から他方への連絡伝達行為を行ったにすぎない。
⑹ 控訴人が取引の相手方を指定したか否か(独占禁止法7条の2第8項2号該当性)について
ア 独占禁止法7条の2第8項の構造及び同項2号の文言に反して、同項2号該当性を同項3号の「当該違反行為を容易にすべき重要なもの」という要件で判断することは誤りである。また、同号の「容易にすべき重要なもの」の対象は「違反行為」であり、違反行為とは、不当な取引制限における「基本合意」を意味し、基本合意は、受注予定者の決め方を内容とするものであるから、個々の案件の個別調整行為に関する事情をもって、「違反行為を容易にすべき重要なもの」を行ったと評価することはできない。
イ 違反事業者と形式的にも実質的にも競争関係にはない連絡役(ハブ・アンド・スポークのハブ役)は、不当な取引制限の当事者として評価されるものではないから、控訴人が連絡役(ハブ役)としての役割を果たしたことを理由に、独占禁止法7条の2第8項2号に該当する主導的役割の者ということはできない。
ウ 独占禁止法7条の2第8項2号の「指定」という用語は、立場が上の者が下の者に対して強制的な契機をもって、指示する意味を有するのであり、確認や提案が「指定」に含まれると解することはできない。控訴人は、活性炭メーカーとの取引を継続する上で、活性炭の供給を活性炭メーカーに依存し従属する地位にあったから、いかなる意味においても、控訴人が活性炭メーカーに対して主導的地位ないし主導的役割を果たすことはあり得ないし、差配を行うことなど不可能である。控訴人が「取引の相手方について指定」したとみなす余地はないから、控訴人について独占禁止法第7条の2第8項2号が適用されることはあり得ない。
エ 控訴人が行った行為は、東日本15社の間の連絡伝達行為にすぎず、その中で、控訴人の意見、提案又は調整行為はなく、控訴人が主導的にどの活性炭メーカーにどの物件の受注を割り当てるかを差配したなどとは到底いえるものではない。控訴人は、活性炭メーカーの指示を受けて活性炭メーカー間で事務的な連絡伝達行為を行ったにすぎず、このような事務連絡行為は、「当該違反行為を容易にすべき重要なもの」とはなり得ない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、後記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を加えるほかは、原判決「事実及び理由」第3(当裁判所の判断)の2(本件東日本合意の成否)ないし8(本件近畿課徴金納付命令の要件該当性)並びに原判決別紙7(認定事実)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
⑴ 基本合意の内容について
ア 控訴人は、前記第2の4(当審における控訴人の補充主張)⑴に記載のとおり、入札談合の事案である本件において、「控訴人を介して供給する」等という受注予定者を決定した後の商流の問題を受注予定者の決定の合意である基本合意に織り込むことは不当であり、このような形で基本合意を拡張することはできないと主張する。
イ しかし、受注予定者(窓口業者)に当該商品等を供給する販売業者には、供給予定者(自社の活性炭を供給すべき者)だけではなく、供給予定者から当該商品を仕入れて販売する卸売業者も含まれるというべきであるところ、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3の2(本件東日本合意の成否)⑴ウ及び同6(本件近畿合意の成否)⑴ウにおいて認定説示したとおり、本件において、東日本15社は、個別の供給調整により供給予定者を決定した物件288件のうち212件について、控訴人を介して特定活性炭を供給しており、近畿10社も、供給予定者を決定した物件36件のうち29件について、控訴人を介して特定粒状活性炭を供給していたことが認められ、控訴人は、供給予定者(自社の活性炭を供給すべき者)でないものの、事業者間の合意により、供給予定者が控訴人を介して活性炭を供給するものと定められたことにより、受注予定者(窓口業者)に当該商品等を供給する販売業者となったものと認められる。
そして、事業者間において、特定活性炭ないし特定粒状活性炭の受注予定者を定めるだけではなく、当該商品等を受注予定者に供給する販売業者を定めることにより、供給予定者から受注予定者までの取引に関係する事業者の競争を含め、同一の商品に係る複数の取引段階における競争を制限したときには、当該合意は、独占禁止法2条6項に係る取引を制限するものに該当するのであり、入札談合事案であることをもって、独占禁止法2条6項に係る合意の内容を一定の取引段階における競争制限に限定しなければならないというべき法的な根拠は見当たらない。
そうすると、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3(当裁判所の判断)の2(本件東日本合意の成否)⑵において認定説示したとおり、東日本15社及び控訴人は、東日本地区に所在する地方公共団体が入札等の方法により発注する東日本地区の特定浄水場等向けの活性炭(特定活性炭)に係る物件について、控訴人を介した情報交換等のやり取りを行うことにより、供給予定者(自社の活性炭を供給すべき者)を決定し、供給予定者は控訴人を介して活性炭を供給し、供給予定者以外の者は当該供給予定者が供給できるように協力する旨の合意(本件東日本合意)をしたものと認められるというべきである。また、前記引用に係る同第3の6(本件近畿合意の成否)⑵において認定説示したとおり、近畿10社及び控訴人が、近畿地区に所在する地方公共団体が入札の方法により発注する近畿地区の特定高度浄水処理施設向けの粒状活性炭(特定粒状活性炭)に係る物件について、控訴人を介した情報交換等のやり取りを行うことにより、供給予定者(自社の粒状活性炭を供給すべき者)を決定し、供給予定者は控訴人を介して粒状活性炭を供給し、供給予定者以外の者は当該供給予定者が供給できるよう協力する調整をする旨の合意(本件近畿合意)をしたものと認められるというべきである。
ウ したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
⑵ 事業活動の拘束について
ア 控訴人は、前記第2の4⑵に記載のとおり、一流通業者(卸売業者)にすぎず、活性炭の取引実施の可否及びその内容について活性炭メーカー(特に活性炭供給能力の高い窯元メーカー)に依存し、活性炭メーカーの指示に従わざるを得ない立場にあったのであり、活性炭メーカーが、本件談合行為を発覚し難くする等の便宜のために、控訴人を個別調整対象案件の商流上に介在させにすぎないとして、本件基本合意において、控訴人は、他の当事者(東日本15社ないし近畿10社)の事業活動を拘束していないと主張する。
イ しかし、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3の3(本件東日本合意の「不当な取引制限」該当性等)⑵及び同7(本件近畿合意の「不当な取引制限」該当性等)⑴において認定説示したとおり、本来的には、活性炭メーカー15社(東日本15社ないし近畿10社)は、供給者から受注者までの商流に業者を入れるか否かなどの事業活動について自由に決めることができるはずであるところ、供給予定者は控訴人を介して活性炭を供給するとの取決めがされたときは、これに制約されて意思決定を行うことになるという意味において、活性炭メーカー15社の事業活動が事実上拘束される結果となることは明らかである。
ウ したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
⑶ 一定の取引分野について
ア 控訴人は、前記第2の4⑶に記載のとおり、入札談合である本件において、競争の実質的制限を判断する場である「一定の取引分野」(独占禁止法2条6項)は、地方公共団体発注の活性炭に係る入札という取引分野なのであって、供給予定者から地方公共団体に供給するまでの一連の取引全体(特定活性炭の取引)ではなく、その取引過程に控訴人が入るかどうかは、入札談合である本件の入札市場の競争制限に有意な影響を与えるものではないなどと主張する。
イ しかし、前記⑴イにおいて認定説示したとおり、本件基本合意は、入札等に係る受注業者間の競争を制限するのみではなく、当該商品等を受注業者に供給する販売業者間の競争を制限することを目的とするものであるから、本件基本合意により競争が制限される取引分野は、当該商品を供給予定者から地方公共団体に供給するまでの一連の取引全体というべきである。「一定の取引分野」(独占禁止法2条6項)という要件に関して、上記のように解釈することの妨げとなる合理的な根拠は見当たらない。
そして、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3の3(本件東日本合意の「不当な取引制限」該当性等)⑵及び同7(本件近畿合意の「不当な取引制限該当性等)⑵において認定説示したとおり、本件基本合意は、特定活性炭ないし特定粒状活性炭の入札等に係る市場(供給者から受注者までの商流を含む。)の相当部分において、事実上の拘束力をもって有効に機能し、その当事者である活性炭メーカー15社(東日本15社ないし近畿10社)及び控訴人がその意思で落札者及び落札価格等をある程度自由に左右することができる状況をもたらしていたものということができる。
ウ したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
⑷ 事業者(競争関係の有無)について
ア 控訴人は、前記第2の4⑷に記載のとおり、独占禁止法2条6項の「事業者」の要件として競争関係の存在を要するものであり、そのような競争関係は、基本合意の当事者である供給予定者(活性炭メーカー15社)の間にあるのであって、供給予定者とはならない控訴人との間にあるとはいえないから、控訴人は、同項の「事業者」には該当しないと主張する。
イ しかし、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3の3(本件東日本合意の「不当な取引制限」該当性等)⑶アにおいて説示したとおり、独占禁止法は、事業者とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう(同法2条1項)と規定した上で、「事業者は、・・・不当な取引制限をしてはならない」(同法3条)と規定しており、「不当な取引制限」が、「共同して・・・相互に」、「その事業活動を拘束し」、「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」を要件とすること(同法2条6項)を除くと、「不当な取引制限』の該当性との関係で、不当な取引制限をした事業者の関与態様を一定のものに限定する趣旨の規定は見当たらない。
そして、本件基本合意は、前記⑴イに記載のとおり、特定活性炭ないし特定粒状活性炭に係る物件について、控訴人を介した情報交換等のやり取りを行うことにより、供給予定者(自社の活性炭又は粒状活性炭を供給すべき者)を決定し、供給予定者は控訴人を介して活性炭を供給し、供給予定者以外の者は当該供給予定者が供給できるように協力する旨の合意であり、本件基本合意により競争が制限される取引分野は、前記⑶イに記載のとおり、特定活性炭ないし特定粒状活性炭の入札等に係る市場(供給者から受注者までの商流を含む。)であるところ、控訴人は、前記前提事実⑶エのとおり、特定活性炭に係る物件288件のうち212件において受注者と供給者との間の商流に入り、うち209について、合計107億6254万8190円の売上げがあり、前記前提事実⑷エのとおり、特定粒状活性炭に係る物件36件のうち29件において受注者と供給者との間の商流に入り、うち25件について、合計32億8368万7200円の売上げがあったものであり、上記物件に係る上記市場(供給者から受注者までの商流を含む。)において、受注者に物件を供給する取引を行った事業者というべきである。
そうすると、控訴人は、供給予定者(自社の活性炭又は粒状活性炭を供給すべき者)とはならず、本件基本合意が対象とする取引の一部を行わない事業者であるとしても、上記物件に係る上記市場のうち、上記物件を受注予定者に供給する取引段階においては、供給予定者の活性炭又は粒状活性炭を購入して販売する業者(卸売業者)として、本件基本合意が対象とする取引の一部を自ら行う事業者というべきであり、本件基本合意により、当該取引を行う事業者を控訴人と定めたことにより、活性炭メーカー15社(東日本15社ないし近畿10社)による受注者に対する直接取引ないし卸売業者を介した間接取引のいずれについても、その取引が制限されたものであるから、控訴人は、本件基本合意が対象とする取引を形式的にも実質的にも全く行わない単なる連絡役ということはできず、本件基本合意の当事者となるべき事業者としての要件を欠くものではない。
ウ したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
⑸ 個別調整における控訴人の関与態様について
ア 控訴人は、前記第2の4⑸に記載のとおり、個別調整における関与態様に照らし、活性炭メーカーの手足にすぎないのであるから、基本合意の当事者とはならないと主張し、その関与態様について、①供給予定者を決定するルールを活性炭メーカーが定めていること、②窯元メーカーが供給予定者の実質的な指定力を有していること、③控訴人は活性炭メーカーの指示に従ったにすぎないこと、④控訴人の行為は情報を一元化する行為にとどまること、⑤控訴人が、供給予定者を1社に調整した事実や、供給予定者となることの了解を得たという具体的事実がないことなどを主張する。
イ しかし、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3の2(本件東日本合意の成否)⑶イ(ウ)において認定説示したとおり、控訴人の指摘する特定活性炭の供給予定者の決定方法は、そもそもその多くが、活性炭メーカー15社の間において控訴人を介した情報交換等のやり取りが行われることを前提としており、活性炭メーカー15社が特定活性炭の供給予定者を機械的に決定することができるものではないし、個々の物件をみたときに活性炭メーカー15社が特定活性炭の供給予定者を控訴人主張の方法により決定する旨を合意したとは認め難いものがあるから、控訴人の指摘する特定活性炭の供給予定者の決定方法の多くは、活性炭メーカー15社及び控訴人が、控訴人を介した情報交換等のやり取りによって特定活性炭の供給予定者を決定するに当たり、いわば目安又は基準のようなものにすぎなかったというべきである。
ウ そして、前記引用に係る同第3の3(本件東日本合意の「不当な取引制限」該当性等)2及び同7(本件近畿合意の「不当な取引制限」該当性等)⑴において認定説示したとおり、控訴人は、本件基本合意がされなければ、本来的には、供給者から受注者までの商流に入れず、また、仮にその商流に入ることができたとしても、供給者及び受注者(供給者の窓口業者)との間で控訴人の利益を確保することができる取引価格等を決めることができない可能性があったにもかかわらず、本件基本合意がされたときは、これにより控訴人及び活性炭メーカー15社(東日本15社ないし近畿10社)の事業活動が事実上拘束される結果として、控訴人が供給者から受注者までの商流に確実に入ることができ、かつ、控訴人の利益を確保することができる取引価格等の設定も可能になるという控訴人にとって非常に有利な状況が生ずるものである。そうすると、控訴人には、本件基本合意による取引制限を維持継続することに強い動機を有していたというべきである。
エ さらに、前記引用に係る同第3の2(本件東日本合意の成否)⑴イ(イ)において認定説示したとおり、控訴人の東日本担当者は、特定活性炭に係る物件288件の供給調整を行うに当たり、東日本15社の活性炭営業担当者との間で、個別に面談を行い、供給調整の前提となる情報が記載された前年度に行われた入札等の結果に係る入札結果表を提示し又は交付した上で、供給予定者になりたい物件の希望(供給予定者の希望)の有無等を確認するなどし、物件ごとの供給予定者の希望を集約するとともに、その把握した他社(当該会社以外の東日本15社)の供給予定者の希望の有無を伝えるといった情報交換等のやり取りをしたことが認められる上、特定の物件について供給予定者となる意思があるかを確認したり、供給予定者となる物件等を伝えたりして、東日本15社のうち1社から供給予定者となることの了解を得たり、東日本15社の間で供給予定者の希望が重複した物件に関しては、東日本15社の活性炭営業担当者との間で、1社が供給予定者になるように調整したり、希望者のうち1社に対して供給予定者になったことを告げたりするなどし、当該1社が供給予定者になることの了解を得たりすることを繰り返していたことが認められる。また、前記引用に係る同第3の6(本件近畿合意の成否)⑴イにおいて認定説示したとおり、控訴人の近畿担当者は、特定粒状活性炭に係る物件36件の供給調整を行うに当たり、近畿10社の活性炭営業担当者との間で、従前のルールを前提に、供給予定者の希望の有無を確認し、控訴人の近畿担当者が把握した他社の供給予定者の希望の有無を伝えるだけでなく、近畿10社間で供給予定者の希望が重複した場合において、関係会社との間で連絡を取って供給予定者の提案等をして供給予定者の調整を行ったり、窓口業者の入札価格の相談に応じたり、協力札の入札価格の連絡を行ったりしていたことが認められる。
そうすると、活性炭の供給力を有する窯元メーカーの立場が強いことを考慮しても、控訴人は、本件基本合意を維持継続するに当たって、入札に関する情報を一元管理することにより、情報量において他の事業者に優越する地位を有し、活性炭メーカー15社も、控訴人の意見、提案又は調整行為等を無視するわけにはいかない立場にあったというべきであるから、控訴人は、上記の地位を利用して主体的な役割を果たし得たというべきである。
オ これに対し、控訴人は、その担当者が活性炭メーカーのうち1社から供給予定者となることの「了解を得た」という事実はないし、活性炭メーカー間で希望が重複する物件について、控訴人の担当者が、1社が供給予定者となるように「調整」をしたり、1社が供給予定者となることの「了解を得た」りした事実はないと主張し、これに沿う≪X2≫の証言等もある。
しかし、前記1で引用する原判決別紙7(認定事実)第2(事実認定の補足説明)において認定説示したとおり、活性炭メーカー各社の担当者の供述調書には、控訴人の担当者から供給予定者になることを提案されたなど、控訴人が活性炭メーカーの担当者から供給予定者となることの了解を得た事実があったことに沿う記載部分があり、その経緯も具体的に記載されており、その信用性を疑うべき事情があるということはできない。
また、前記引用に係る原判決別紙7(認定事実)の第1(認定事実)の1(東日本地区の特定浄水場等向けの活性炭の入札等に関する個別の事情)⑿(東京都の物件)ウ(金町浄水場(工事)関係)及びエ(三郷浄水場(工事)関係)に記載のとおり、控訴人の東日本担当者は、水ingの活性炭営業担当者から、「ヤシ殻球状炭だけではなく物件全体の供給予定者になりたい」旨を言われたが、「下がっていろ」などと伝え、水ingからヤシ殻球状炭に関する部分の供給予定者となることの了解を得たことが認められ、また、同⑻(茨城県の物件)ウ(霞ヶ浦浄水場関係)及びエ(鰐川浄水場関係)(ア)並びに⒀(神奈川県の物件)ウ(麻溝活性炭注入設備関係)(イ)bに記載のとおり、供給予定者の希望が重複した際に、控訴人の東日本担当者は、1社が供給予定者となるように調整したことが認められる。
カ 上記イないしオに説示した諸事情に鑑みれば、①活性炭メーカーの間において供給予定者を定める一定のルールが従前から存在したこと、②供給予定者である活性炭メーカーの意向が相当程度尊重されていたことなどを考慮しても、入札に関する情報を一元管理していた控訴人は、本件基本合意の当事者として、その維持及び継続のための個別調整行為に主体的に関わったというべきであり、活性炭メーカーに従属する者(手足)であったということはできない。
したがって、控訴人の上記アの主張も、採用することができない。
⑹ 独占禁止法7条の2第8項2号該当性について
ア 控訴人は、前記第2の4⑹アに記載のとおり、独占禁止法7条の2第8項の構造及び同項2号の文言に反して同項2号該当性を「当該違反行為を容易にすべき重要なもの」という要件で判断することは誤りであると主張する。
しかし、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3の4(独占禁止法7条の2第8項2号該当性)⑴において説示したとおり、独占禁止法7条の2第8項各号の文言を対比すると、同項2号は、単独で又は共同して、「他の事業者に対し当該違反行為に係る商品若しくは役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方について指定した者」が、そのような指定を「他の事業者の求めに応じて、継続的に」した点において、不当な取引制限等を容易にすべき重要なものをしたと評価することができることに着目して、課徴金の割増算定率を適用することとしたものということができる。そうすると、同項2号に該当するか否かは、他の事業者の求めに応じて継続的に行われた上記のような指定行為が当該違反行為(不当な取引制限等)を容易にすべき重要なものであったか否か等の観点を踏まえた上で、当該違反行為が行われるに至った経緯、当該違反行為において当該指定をしたとされる事業者と他の事業者との関係、当該指定をしたとされる事業者の関与の態様、程度等の諸事情を社会通念に照らして総合的に検討して判断するのが相当である。
また、控訴人は、「容易にすべき重要なもの」の対象は違反行為であり、違反行為とは不当な取引制限における基本合意を意味し、基本合意は受注予定者の決め方を内容とするものであるから、個々の案件の個別調整行為に関する事情をもって、「違反行為を容易にすべき重要なもの」を行ったと評価することはできないとも主張するが、個別調整行為は、当該違反行為(基本合意)を維持継続するために不可欠なものであるから、上記のとおり、当該違反行為を容易にすべき重要なものであったか否か等の観点を踏まえるに当たっては、個別調整行為の態様も考慮する必要がある。
イ この点に関連して、控訴人は、前記第2の4⑹イに記載のとおり、違反事業者と形式的にも実質的にも競争関係にはない連絡役(ハブ・アンド・スポークのハブ役)は、不当な取引制限の当事者として評価されるものではないから、控訴人が連絡役(ハブ役)としての役割を果たしたことを理由に、独占禁止法7条の2第8項2号の主導的役割の者ということはできないと主張する。
しかし、前記⑷において認定説示したとおり、控訴人は、特定活性炭ないし特定粒状活性炭の入札等に係る市場(供給者から受注者までの商流を含む。)のうち、上記物件を受注者(窓口業者)に供給する取引段階においては、控訴人と活性炭メーカー15社(東日本15社ないし近畿10社)との間に競争関係があり、本件基本合意が対象とする取引の一部を自ら行う事業者というべきであるから、本件基本合意が対象とする取引を実質的にも全く行わない単なる連絡役ということはできない。
ウ また、控訴人は、前記第2の4⑹ウに記載のとおり、自らは活性炭の供給を活性炭メーカーに依存し従属する地位にあったのであり、いかなる意味においても、控訴人が活性炭メーカーに対して主導的地位ないし主導的役割を果たすことはあり得ず、差配を行うことなど不可能であるから、控訴人が「取引の相手方について指定」したとみなす余地はないと主張する。
しかし、前記⑸において認定説示したとおり、①控訴人の指摘する特定活性炭の供給予定者の決定方法の多くは、控訴人を介した情報交換等のやり取りによって特定活性炭の供給予定者を決定するに当たり、いわば目安又は基準のようなものにすぎなかったこと、②控訴人は、本件基本合意による取引制限により、供給者から受注者までの商流に確実に入ることができ、かつ、控訴人の利益を確保することができる取引価格等の設定も可能になるという控訴人にとって非常に有利な状況が生ずるものであり、本件基本合意を維持継続することに強い動機を有していたこと、③控訴人は、入札に関する情報を一元管理することにより、情報量において他の事業者に優越する地位を有しており、本件基本合意を維持継続するに当たって、上記の地位を利用して主体的な役割を果たし得たことなどに鑑みれば、控訴人は、活性炭の供給という面での活性炭メーカーとの関係を考慮しても、本件基本合意の当事者として、その維持及び継続のための個別調整行為に主体的に関わったことを否定することができない。
エ さらに、控訴人は、前記第2の4⑹エに記載のとおり、控訴人が行ったのは、活性炭メーカー15社の間の連絡伝達行為にすぎないから、「当該違反行為を容易にすべき重要なもの」とはなり得ないと主張する。
しかし、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3の4(独占禁止法7条の2第8項2号該当性)⑵イ(ア)において認定説示したとおり、東日本15社が、他社及びその窓口業者による入札の参加の有無やその入札価格等に関する情報を共有することは、供給予定者を決定し、供給予定者以外の者が当該供給予定者において供給できるようにするために必要不可欠なものであるから、控訴人が東日本15社との間で上記情報等のやり取りをしたことは、特定活性炭に係る物件288件の供給調整を容易にすべき重要なものであったといわざるを得ない。
また、前記引用に係る同第3の4(独占禁止法7条の2第8項2号該当性)⑵イ(イ)において認定説示したとおり、控訴人の担当者が、東日本15社の活性炭営業担当者に対し、東日本15社の間で供給予定者の希望が重複した物件について、1社が供給予定者になるように調整するなどした行為のみならず、特定の物件について、供給予定者となる意思を積極的に確認し又は供給予定者になるよう提案するなどして、当該活性炭営業担当者から供給予定者になることの了解を得る行為も、本件東日本違反行為に係る「取引の相手方について指定」した行為に当たり、特定活性炭に係る物件28件の供給調整を容易にすべき重要なものであったといわざるを得ない。
オ したがって、控訴人の上記各主張は、いずれも採用することができない。
第4 結論
以上によれば、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

令和6年10月16日

東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官  筒井健夫     
裁判官     下馬場直志     
裁判官     森田強司

(別紙)
指定代理人目録
岩下生知、石井崇史、遠藤 光、高取勇介、堤 優子、山本浩平、安納正生、池田宏祥、川口菜摘子、田邊節子、深澤尚人、門木貴史、川﨑さおり、上野千夏、片野多惠
以上

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