文字サイズの変更
背景色の変更
独禁法3条後段
令和06年(措)第11号
東京都渋谷区恵比寿一丁目28番1号
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
同代表者 代表取締役 《氏名》
東京都新宿区西新宿一丁目26番1号
損害保険ジャパン株式会社
同代表者 代表取締役 《氏名》
東京都千代田区神田駿河台三丁目9番地
三井住友海上火災保険株式会社
同代表者 代表取締役 《氏名》
東京都千代田区大手町二丁目6番4号
東京海上日動火災保険株式会社
同代表者 代表取締役 《氏名》
公正取引委員会は、上記の者らに対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第7条第2項の規定に基づき、次のとおり命令する。
なお、主文、理由、別紙1及び別紙2中の用語のうち、別紙2「用語」欄に掲げるものの定義は、別紙2「定義」欄に記載のとおりである。
主 文
1 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社、損害保険ジャパン株式会社(以下「損保ジャパン」という。)、三井住友海上火災保険株式会社(以下「三井住友海上」という。)及び東京海上日動火災保険株式会社の4社(以下「4社」という。)は、それぞれ、次の事項を、取締役会において決議しなければならない。
(1) 別紙1記載の損害保険(以下「本件製油所包括保険」という。)について、4社が、遅くとも令和2年7月3日以降共同して行っていた、各社の引受割合及び保険料の水準を維持できるようにする行為を既に行っていないことを確認すること。
(2) 今後、相互の間において、又は他の事業者と共同して、コスモ石油株式会社(以下「コスモ石油」という。)を保険契約者とする損害保険の見積り合わせにおいて、各社が提示する保険料、保険料率及び提供可能なキャパシティ(以下「保険料等」という。)を決定せず、自主的に決めること。
2 4社は、それぞれ、前項に基づいて採った措置を、自社を除く3社並びにコスモ石油、《コスモ石油の完全親会社》(以下「《親会社》」という。)、《損害保険代理店A》(以下「《代理店A》」という。)及び《損害保険代理店B》(以下「《代理店B》」という。)に通知し、かつ、自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
3 4社は、今後、それぞれ、相互の間において、又は他の事業者と共同して、コスモ石油を保険契約者とする損害保険の見積り合わせにおいて保険料等を決定してはならない。
4 4社は、それぞれ、次の(1)から(3)までの事項を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については、前項で命じた措置が遵守されるために十分なものでなければならず、かつ、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
(1) 共同保険の形式により発注される損害保険の引受けに関する独占禁止法の遵守についての、共同保険の形式により発注される損害保険の営業担当者に対する定期的な研修並びに法務担当者及び第三者による定期的な監査
(2) 独占禁止法違反行為に関与した役員及び従業員に対する処分に関する規程の改定(損保ジャパンにあっては独占禁止法違反行為に関与した役員に対する処分に関する規程の改定)
(3) 独占禁止法違反行為に係る調査への協力を行った者に対する適切な取扱いを定める規程の作成
5 4社は、それぞれ、第1項、第2項及び前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
理 由
第1 事実
1 関連事実
(1) 名宛人の概要
4社は、それぞれ、肩書地に本店を置き、保険業法(平成7年法律第105号)の規定に基づき内閣総理大臣の免許を受け、損害保険業を営む者である。
(2) 本件製油所包括保険の発注方法等
ア 本件製油所包括保険は、共同保険の形式により発注されていた。
イ 本件製油所包括保険の保険期間は1年間であり、毎年7月に更改されていた。
ウ コスモ石油の完全親会社である《親会社》は、令和2年7月の更改時以降、本件製油所包括保険について、保険料の削減等を目的として、次の方法によりコスモ石油に代わって発注していた。
(ア) 本件製油所包括保険のうち地震保険については、年1回、見積り合わせを実施し、見積りを依頼した損害保険会社から提示された保険料率の最低値を保険料に換算したものを当該保険の保険料として決定するとともに、提示された保険料率の順位及び提供可能なキャパシティ等を勘案して、当該保険に係る損害保険会社の引受割合を決定していた。
(イ) 本件製油所包括保険のうち火災保険及び利益保険については
a 3年に1回、見積り合わせを実施し、見積りを依頼した損害保険会社から提示された保険料の最低値を当該保険の保険料として決定するとともに、提示された保険料の順位等を勘案して、当該保険に係る損害保険会社の引受割合を決定していた。
b 見積り合わせを実施しない年は、更改前の保険契約における保険料の水準を基にした幹事会社との相対交渉により当該保険の保険料を決定するとともに、当該保険に係る損害保険会社の引受割合は、直近に行われた前記aの見積り合わせで決定した引受割合と同一の割合としていた。
エ 4社は、前記ウ(ア)及び(イ)aの見積り合わせに参加しており、4社のうち、火災保険及び利益保険に係る幹事会社である三井住友海上が、《親会社》と前記ウ(イ)bの相対交渉をしていた。
オ 《親会社》は、前記ウ(ア)及び(イ)aの見積り合わせについては、損害保険代理業を営む《代理店A》を、また、前記ウ(イ)bの相対交渉については、同業を営む《代理店B》を、それぞれ、介して行っていた。
2 合意及び実施方法
4社は、前記1(2)ウの発注方法の導入を契機として、各社の営業課長による会合及び営業担当者による会合を開催するなどし、遅くとも令和2年7月3日以降、本件製油所包括保険について
(1) 見積り合わせにおいて各社が提示する保険料等を調整することによって各社の引受割合及び保険料の水準を維持する
旨の合意の下に
(2)ア 前記1(2)ウ(ア)の地震保険の見積り合わせにおいて各社が提示する保険料率及び提供可能なキャパシティを調整する
イ 前記1(2)ウ(イ)aの火災保険及び利益保険の見積り合わせによって決まる各社の引受割合及び保険料が、翌年度以降に相対交渉の方法により発注される当該保険の引受割合及び保険料に影響することを踏まえ、当該見積り合わせにおいて各社が提示する保険料を調整する
ウ 前記1(2)ウ(ア)及び(イ)aの見積り合わせにおいて、前記ア及びイで調整した保険料等を提示する
ことにより、各社の引受割合及び保険料の水準を維持できるようにしていた。
3 実施状況
4社は、前記2により、令和2年から令和4年までに更改された本件製油所包括保険の全てについて、各社の引受割合及び保険料の水準を維持していた。
4 前記2の行為が既に行われていないこと
令和5年6月20日、《不動産賃貸業者》を保険契約者とする損害保険に関して、4社が保険料の調整に関与している疑いがある旨の報道がなされたことを契機として、4社は、その翌日までに、相互の間で、前記2の合意に基づく行為を取りやめる旨を確認し合ったことから、同日以降、同合意に基づく行為は行われていないと認められる。
第2 法令の適用
前記事実によれば、4社は、共同して、本件製油所包括保険について、見積り合わせにおいて各社が提示する保険料等を調整することによって各社の引受割合及び保険料の水準を維持できるようにすることにより、公共の利益に反して、本件製油所包括保険の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって、この行為は、独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである。
また、前記の違反行為は既になくなっているが、4社は、いずれも、独占禁止法第7条第2項第1号に該当する者であり、違反行為が長期間にわたって行われていたこと等の諸事情を総合的に勘案すれば、特に排除措置を命ずる必要があると認められる。
よって、4社に対し、独占禁止法第7条第2項の規定に基づき、主文のとおり命令する。
令和6年10月31日
委員長 古 谷 一 之
委 員 三 村 晶 子
委 員 青 木 玲 子
委 員 𠮷 田 安 志
委 員 泉 水 文 雄