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独禁法3条後段
令和06年(措)第18号
東京都渋谷区恵比寿一丁目28番1号
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
同代表者 代表取締役 《氏名》
東京都新宿区西新宿一丁目26番1号
損害保険ジャパン株式会社
同代表者 代表取締役 《氏名》
東京都千代田区大手町二丁目6番4号
東京海上日動火災保険株式会社
同代表者 代表取締役 《氏名》
東京都千代田区神田駿河台三丁目9番地
三井住友海上火災保険株式会社
同代表者 代表取締役 《氏名》
公正取引委員会は、上記の者らに対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第7条第2項の規定に基づき、次のとおり命令する。
なお、主文、理由及び別紙中の用語のうち、別紙「用語」欄に掲げるものの定義は、別紙「定義」欄に記載のとおりである。
主 文
1 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社(以下「あいおい」という。)、損害保険ジャパン株式会社(以下「損保ジャパン」という。)、東京海上日動火災保険株式会社(以下「東京海上」という。)及び三井住友海上火災保険株式会社(以下「三井住友海上」という。)の4社(以下「4社」という。)は、それぞれ、次の事項を、取締役会において決議しなければならない。
(1) 東急株式会社(以下「東急」という。)が、企業財産包括保険及び企業総合賠償責任保険(以下、これらを「本件損害保険」という。)について、令和4年11月14日に見積条件を提示して実施した見積り合わせにおいて、4社が、遅くとも同年12月7日までに共同して行った、保険料を引き上げ又は維持する旨の合意が消滅していることを確認すること。
(2) 今後、相互の間において、又は他の事業者と共同して、東急を保険契約者とする損害保険の見積り合わせにおいて、保険料を決定せず、自主的に決めること。
(3) 今後、相互に、又は他の事業者と、東急を保険契約者とする損害保険の見積り合わせにおいて、保険料に関する情報交換を行わないこと。
2 4社は、それぞれ、前項に基づいて採った措置を、自社を除く3社並びに東急及び《損害保険代理店A》(以下「《代理店A》」という。)に通知し、かつ、自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
3 4社は、今後、それぞれ、相互の間において、又は他の事業者と共同して、東急を保険契約者とする損害保険の見積り合わせにおいて、保険料を決定してはならない。
4 4社は、今後、それぞれ、相互に、又は他の事業者と、東急を保険契約者とする損害保険の見積り合わせにおいて、保険料に関する情報交換を行ってはならない。
5 4社は、それぞれ、次の(1)から(3)までの事項を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については、前2項で命じた措置が遵守されるために十分なものでなければならず、かつ、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
(1) 共同保険の形式により発注される損害保険の引受けに関する独占禁止法の遵守についての、共同保険の形式により発注される損害保険の営業担当者に対する定期的な研修並びに法務担当者及び第三者による定期的な監査
(2) 独占禁止法違反行為に関与した役員及び従業員に対する処分に関する規程の改定(損保ジャパンにあっては独占禁止法違反行為に関与した役員に対する処分に関する規程の改定)
(3) 独占禁止法違反行為に係る調査への協力を行った者に対する適切な取扱いを定める規程の作成
6 4社は、それぞれ、第1項、第2項及び前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
理 由
第1 事実
1 関連事実
(1) 名宛人の概要
4社は、それぞれ、肩書地に本店を置き、保険業法(平成7年法律第105号)の規定に基づき内閣総理大臣の免許を受け、損害保険業を営む者である。
なお、損保ジャパンは、令和2年4月1日付けで、商号を損害保険ジャパン日本興亜株式会社から現商号に変更した者である。
(2) 本件損害保険の発注方法等
ア(ア) 東急は、遅くとも平成29年2月以降、本件損害保険について、4社及び《損害保険会社A》の5社を引受損害保険会社として、共同保険により保険契約を締結していた。本件損害保険のうち、企業財産包括保険については東京海上が、企業総合賠償責任保険については損保ジャパンが、それぞれ幹事会社を務めていた。
(イ) 東急は、本件損害保険に係る保険期間の満了が近づくと、損害保険代理店である《代理店A》を介して、各幹事会社との相対交渉を行い、保険料や補償条件等の契約条件を決定して、本件損害保険に係る保険契約を更改していた。
イ 東急は、令和3年10月以降、令和5年2月28日に予定されていた本件損害保険の更改に向けて、各幹事会社と相対交渉を行っていたところ、企業財産包括保険における幹事会社である東京海上から、企業財産包括保険の保険料及び保険料率につき、令和2年2月28日更改の保険契約から大幅な引上げとなる提示を受けたこと等から、令和4年11月14日、《代理店A》との連名により、4社に対して、本件損害保険について、同年12月7日を見積提出期限とする見積りの提出を依頼して、見積り合わせを実施した。
当該見積り合わせにおいて提出される見積りは、各引受損害保険会社の保険を引き受ける割合の決定において考慮されることとされていた。
2 合意の成立等
(1) ア 本件損害保険に係る令和5年2月28日更改の保険契約(以下「令和5年更改契約」という。)を担当する4社の営業担当者(以下、令和5年更改契約を担当する営業担当者を単に「営業担当者」という。)は、かねてから、自社が取り扱う企業向け損害保険について、見積り合わせが実施される場合には、見積金額等の引受条件に関し、他の損害保険会社との間での情報交換が行われていることがあることを認識していた。
イ 損保ジャパン、東京海上及び三井住友海上の営業担当者は、仙台国際空港株式会社が令和4年7月1日更改に向けて見積り合わせを実施した仙台国際空港株式会社を保険契約者とする損害保険について、当該営業担当者間で保険料及び保険期間に関する情報交換をして見積りを提出することにより、保険料をおおむね引き上げるなどしていた。
(2) 4社は、本件損害保険に係る令和2年2月28日更改の保険契約の保険金の支払が増加していたことなどから、4社の営業担当者が、電話、面談等による情報交換を行い、遅くとも令和4年12月7日までに、令和5年更改契約における本件損害保険について、見積り合わせにおいて各社が提出する見積りを調整することによって保険料を引き上げ又は維持することを合意した。
3 実施状況
4社は、それぞれ、前記2(2)の合意に基づき、令和4年12月7日、《代理店A》に対して、事前の調整を踏まえた令和5年更改契約に係る見積りを提出した。
4 合意の消滅
(1) 東急は、前記3の見積りが、4社による令和5年更改契約における本件損害保険の保険料の事前の調整を想起させるものであったことから、令和4年12月9日、損保ジャパンに対して、保険料の調整に関する疑義を示唆する電子メールを送付した。損保ジャパンは、同月12日、東急に対して、企業財産包括保険について前記3で自社が提出した見積りより低い金額の見積りを提出するとともに、4社による保険料の事前の調整を認め、併せて企業総合賠償責任保険について、後日、前記3で自社が提出した見積りより低い金額の見積りを再提出することを申し出た。
(2) 東急は、令和4年12月20日、あいおい、東京海上及び三井住友海上に対して、それぞれ、他の損害保険会社から4社による令和5年更改契約における本件損害保険の保険料の調整の事実を確認した旨を告げるとともに、令和5年更改契約に係る見積りの再提出を求めた。
(3) 三井住友海上は、令和4年12月23日、東急に対し、令和5年更改契約について前記3で自社が提出した見積りより低い金額の見積りを再提出した。
(4) あいおいは、令和4年12月27日、東急に対し、令和5年更改契約について前記3で自社が提出した見積りより低い金額の見積りを再提出した。
(5) 前記(1)から(4)までの事実から、前記2(2)の合意は、令和4年12月27日以降、事実上消滅しているものと認められる。
第2 法令の適用
前記事実によれば、4社は、共同して、令和5年更改契約における本件損害保険について、見積り合わせにおいて各社が提出する見積りを調整することによって保険料を引き上げ又は維持することを合意することにより、公共の利益に反して、令和5年更改契約における本件損害保険の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって、この行為は、独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである。
また、前記の違反行為は既になくなっているが、4社は、いずれも、独占禁止法第7条第2項第1号に該当する者であり、違反行為が自主的に取りやめられたものでないこと等の諸事情を総合的に勘案すれば、特に排除措置を命ずる必要があると認められる。
よって、4社に対し、独占禁止法第7条第2項の規定に基づき、主文のとおり命令する。
令和6年10月31日
委員長 古 谷 一 之
委 員 三 村 晶 子
委 員 青 木 玲 子
委 員 𠮷 田 安 志
委 員 泉 水 文 雄