文字サイズの変更
背景色の変更
独禁法19条一般指定14項
令和06年(措)第20号
東京都渋谷区恵比寿一丁目18番14号
株式会社MCデータプラス
同代表者 代表取締役 《 氏 名 》
公正取引委員会は、上記の者に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第20条第1項の規定に基づき、次のとおり命令する。
なお、主文、理由及び別紙1中の用語のうち、別紙1「用語」欄に掲げるものの定義は、別紙1「定義」欄に記載のとおりである。
主 文
1 株式会社MCデータプラス(以下「MCデータプラス」という。)は、ユーザーに対し、「グリーンサイト」と称する労務安全サービス(以下「グリーンサイト」という。)を提供するに当たり、別紙2記載の項目の作業員情報を提供するよう要請を受けた場合に、合理的な理由なく、ユーザー自らが登録した当該作業員情報を、当該ユーザーが求める形式で当該ユーザーに提供することに応じない行為を取りやめなければならない。
2 MCデータプラスは、次の事項を取締役会において決議しなければならない。
(1) 前項の行為を取りやめること
(2) グリーンサイトのユーザーに対し、グリーンサイトから出力した電磁的記録である帳票(以下「帳票」という。)及び当該帳票を印刷した文書(以下これらを「帳票等」という。)を他社に提供する行為等を一律に禁止する行為を既に行っていないことを確認すること
(3) 今後、前項及び本項(2)の行為と同様の行為を行わないこと
3 MCデータプラスは、前2項に基づいて採った措置を、グリーンサイトのユーザー、別表1記載の《建設業向けクラウドサービス提供事業者A》(以下「《提供事業者A》」という。)及び別表2記載の《建設業向けクラウドサービス提供事業者B》(以下「《提供事業者B》」という。)に通知し、かつ、自社の従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
4 MCデータプラスは、今後、第1項及び第2項(2)の行為と同様の行為を行ってはならない。
5 MCデータプラスは、次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については、前項で命じた措置が遵守されるために十分なものでなければならず、かつ、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
(1) 建設業向けクラウドサービス事業に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の改定並びに自社の役員及び従業員に対する周知徹底
(2) 建設業向けクラウドサービス事業に関する独占禁止法の遵守についての、自社の役員及び従業員に対する定期的な研修並びに法務担当者及び第三者による定期的な監査
6 MCデータプラスは、第1項から第3項まで及び前項に基づいて採った措置を速やかに公正取引委員会に報告しなければならない。
理 由
第1 事実
1 関連事実
(1) 名宛人の概要
MCデータプラスは、肩書地に本店を置き、「建設サイト・シリーズ」と称する建設業向けクラウドサービス(以下「建設サイト・シリーズ」という。)をユーザーに提供する事業を営む者である。
(2) 建設サイト・シリーズの概要
ア MCデータプラスは、平成27年7月1日以降、建設サイト・シリーズをユーザーに提供している。
イ MCデータプラスは、建設サイト・シリーズを構成する主なサービスとして、グリーンサイトを提供している。
(3) MCデータプラスと競争関係にある事業者の概要
ア 《提供事業者A》は、建設業向けクラウドサービスをユーザーに提供する事業を営む者であるところ、平成31年4月頃以降、「《サービスA》」と称する労務安全サービスを提供している。
イ 《提供事業者B》は、建設業向けクラウドサービスをユーザーに提供する事業を営む者であるところ、令和2年4月頃以降、「《サービスB》」と称する労務安全サービスを提供している。
(4) 労務安全サービスの利用
労務安全サービスは、建設工事の現場において、元請となるユーザーと下請となるユーザーとの間での労務安全書類のやり取りをインターネット上で行うことにより業務効率化を可能とする役務であることなどから、建設工事の現場において各種関連業務の効率化を実現するためには、元請となるユーザー及び下請となるユーザーが、同一の労務安全サービスを利用する必要がある。
(5) グリーンサイトの利用に当たり登録する情報等
ア MCデータプラスは、グリーンサイトの提供に当たり、ユーザーに対し、「「建設サイト・シリーズ」サービス利用約款」と称する約款(以下「サービス利用約款」という。)への同意を求めている。ユーザーは、サービス利用約款の内容に同意しなければ、グリーンサイトを利用できない。
イ ユーザーは、グリーンサイトの利用に当たり、自社らの作業員情報等を登録する必要があるところ、グリーンサイトのユーザーが他社の労務安全サービスに切り替えるためには、他社の労務安全サービスに作業員情報等を再度入力して登録する必要がある。
ユーザーがグリーンサイトを利用する際には、別紙2記載の項目の作業員情報を登録する必要があるところ、登録のために入力が必要となる作業員情報は、作業員1人につき最大100項目を超えることがあるため、多くの作業員を抱えるユーザーにとって作業員情報の登録は大きな負担となる。また、作業員情報は、労務安全書類の作成に利用されるほか、多数の作業員を建設工事の現場に適正配置するために利用されるなど、建設工事の施工に当たり必要かつ重要なものである。
なお、グリーンサイトに登録する別紙2記載の項目の作業員情報は、《提供事業者A》及び《提供事業者B》が提供する労務安全サービスの利用に当たり、それぞれ登録する作業員情報とおおむね同じである。
ウ ユーザーがグリーンサイトに登録した自社らの作業員情報等は、労務安全書類の作成等に利用され、ユーザーは必要に応じて、労務安全書類を帳票として出力することができる。
MCデータプラスは、グリーンサイトにおいてユーザーが帳票として出力する場合を除き、ユーザーが、その登録した作業員情報等を電磁的記録として直接出力することができないようにしている。
エ ユーザーがグリーンサイトの利用に当たり登録する作業員情報は、MCデータプラスによりデータベース化され、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個人情報保護法」という。)第16条第1項の「個人情報データベース等」を構成する個人情報となることから、同条第3項の「個人データ」に該当する。
MCデータプラス及びグリーンサイトのユーザーは、個人情報保護法第27条第5項第3号等の規定に定める方法により、当該作業員情報を共同して利用している。
当該作業員情報は、個人情報保護法上、通常、共同利用の目的の範囲を超えて利用することができないが、あらかじめ本人の同意を得ることにより、共同利用の目的の範囲を超える利用が可能である。
(6) 労務安全サービスに係る取引の状況等
MCデータプラスは、平成31年4月以降、労務安全サービスに係る売上高において第1位の地位を占めており、また、令和5年12月時点における登録企業数、登録作業員数、契約元請会社数及び契約企業数において第1位の地位を占めており、いずれも第2位以下を大きく引き離している。
2 MCデータプラスによるユーザー等に対する行為
MCデータプラスは、他社に先行して、労務安全サービスを提供する事業を行っていたことから、同社の提供する労務安全サービスは多くのユーザーにより利用されており、これらのユーザーにより、作業員情報等が登録されていたところ、自社が提供する労務安全サービスの優位性が低下するというリスクを回避するためには、登録された当該作業員情報等を当該サービスを提供する事業に新規に参入してきた他社に流出させないことが不可欠であるとの認識の下、次のとおり、グリーンサイトのユーザーが他社の労務安全サービスへの切替えをしないようにさせている。
(1) MCデータプラスは、前記1(5)ウのとおり、グリーンサイトにおいてユーザーが帳票として出力する場合を除き、ユーザーが登録した作業員情報等を電磁的記録として直接出力できないようにしているため、ユーザーの中には、MCデータプラスに対し、当該ユーザーが求める他社の労務安全サービスに移行可能な形式で、別紙2記載の項目の作業員情報の提供を要請する者がいた。しかし、MCデータプラスは、遅くとも令和2年頃以降、当該要請があった場合に、グリーンサイトのユーザーに対し、当該ユーザー自らが登録した作業員情報であるにもかかわらず個人情報の保護を理由にするなどして、合理的な理由なく当該作業員情報の提供を拒んでいる。
(2) ア 令和元年8月頃、《提供事業者A》が、同社のウェブサイト上に、グリーンサイトから出力した帳票を《提供事業者A》に提供することにより作業員情報を同社が提供する労務安全サービスに移行する方法等を記載した記事(以下「移行記事」という。)を公開したところ、同年9月9日、MCデータプラスは、移行記事の公開をやめさせることを目的として、サービス利用約款第29条第1項(8)の規定を別紙3のとおり改定し、同日以降、グリーンサイトのユーザーに対し、グリーンサイトから出力した帳票等を他社に提供する行為を一律に禁止した。
イ 令和3年12月1日、MCデータプラスは、サービス利用約款第29条第1項(12)の規定を別紙4のとおり新設し、同日以降、グリーンサイトのユーザーに対し、作業員情報を共同利用の目的の範囲外で加工、複写又は複製することを一律に禁止した。
(3) ア 前記(2)アの令和元年9月9日のサービス利用約款の改定から約1か月の周知期間を経たことから、同年10月21日、MCデータプラスは、《提供事業者A》に対し、《提供事業者A》が公開した移行記事は、サービス利用約款に違反する行為をグリーンサイトのユーザーに促すものであり、当該ユーザーにグリーンサイトの利用停止等の不利益を招きかねない内容であるとして、移行記事の削除等を求める旨を同日付けの配達証明郵便により通知した。
イ 令和3年1月20日、MCデータプラスは、《提供事業者A》が移行記事を用いて営業を行っていることを確認したことから、《提供事業者A》に対し、前記アと同様の理由により、《提供事業者A》が公開した移行記事の削除等を求める旨を同月21日付けの内容証明郵便により通知した。
(4) 令和2年9月頃、MCデータプラスは、グリーンサイトのユーザーが、《提供事業者B》の提供する労務安全サービスへの切替えに当たり、グリーンサイトから出力した帳票等をそのまま他社に提供している行為を行っていることを把握したことから、グリーンサイトのユーザーに対し、当該行為と同様の行為をさせないように注意を喚起することを目的として、同年10月7日、グリーンサイトから出力した帳票等をそのまま他社に提供している事例が確認されたこと及び当該事例はサービス利用約款第29条第1項(8)に規定する禁止事項に該当する旨の周知文を建設サイト・シリーズのポータル画面に掲載した。
また、MCデータプラスは、令和2年10月20日、同月23日及び同月28日の3回に分けて、グリーンサイトのユーザーに対し、前記周知文と同様の内容を記載した電子メールを送信することにより通知した。
(5) なお、前記(2)及び(4)の行為に関し、MCデータプラスは、サービス利用約款第29条第1項(8)の規定を別紙5のとおり、同項(12)の規定を別紙6のとおり、それぞれ改定することを決定し、令和6年6月7日頃、グリーンサイトのユーザーに対し、電子メールを送信することなどにより、その旨通知した上で、同年7月1日に当該改定を実施した。
3 前記2の行為による影響
(1) 前記2(1)の行為により、グリーンサイトのユーザーの中には、他社の労務安全サービスへの切替えを断念したユーザーがいた。また、グリーンサイトのユーザーの中には、他社の労務安全サービスへの切替えを実施したユーザーがいたが、前記2(1)、(2)及び(4)の行為により、当該ユーザーの下請となる事業者の作業員情報の移行に電磁的記録が利用できなかったため、やむを得ず、当該ユーザーが相当の時間及び費用を掛けて作業員情報を代行して手作業で入力するなど、切替えの実施に当たり、大きな負担を負うことになった。
(2) 前記2(1)の行為により、《提供事業者A》及び《提供事業者B》は、グリーンサイトのユーザーから、その下請となる事業者の作業員情報を容易に移行できないことを理由に取引を断られることがあった。
(3) ア 前記2(3)アの通知を受けた《提供事業者A》は、令和元年10月21日以降、MCデータプラスに話合いを求めたが、同社はこれに応じなかった。そのため、《提供事業者A》は、やむを得ず、移行記事を非公開とし、営業先を変更するなど営業方針を見直さざるを得なくなった。
イ 前記2(3)イの通知を受けた《提供事業者A》は、移行記事の非公開を徹底した上で、令和3年1月29日付けで、MCデータプラスの求めに応じて同社宛てにその旨を報告する文書を提出し、それ以降、当該移行記事を利用した積極的な営業が困難となった。
第2 法令の適用
前記事実によれば、MCデータプラスは、労務安全サービスの取引において、グリーンサイトのユーザーに他社の労務安全サービスへの切替えをしないようにさせていることによって、自己と競争関係にある事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害しているものであって、この行為は、不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第14項に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。
よって、MCデータプラスに対し、独占禁止法第20条第1項の規定に基づき、主文のとおり命令する。
令和6年12月24日
委員長 古 谷 一 之
委 員 三 村 晶 子
委 員 青 木 玲 子
委 員 𠮷 田 安 志
委 員 泉 水 文 雄