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独禁法19条、一般指定12項
福岡地方裁判所第1民事部
令和6年(行ウ)第17号
令和7年1月29日
佐賀市西与賀町大字厘外821番地4
原告 佐賀県有明海漁業協同組合
同代表者代表理事 ≪X1≫
同訴訟代理人弁護士 平山賢太郎
同 山本陽介
同 堀 隆聖
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告 国
同代表者法務大臣 鈴木馨祐
処分行政庁 公正取引委員会
同委員会代表者委員長 古谷一之
同指定代理人 窪田大輔
同 田中義一
同 渡口 真
同 森田起司郎
同 石野耕二
同 下川琴江
同 永峰加容子
同 福重有紀
同 細波 涼
同 岩下生知
同 石井崇史
同 岡田博己
同 高取勇介
同 堤 優子
同 並木 悠
同 深澤尚人
同 田邊節子
同 石原健司
同 鹿野修弘
同 川口菜摘子
同 山中康平
同 本田朋宏
同 松下晃輔
同 野津沙織
同 藤村 響
同 山本浩平
同 荻野祥平
令和7年1月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(行ウ)第17号 証拠閲覧義務付け等請求事件
口頭弁論終結日 令和6年10月9日
判決
当事者の表示 別紙1当事者目録記載のとおり
主文
1 本件訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 原告が公正取引委員会に対してした別紙2証拠品目録(以下「本件目録」という。)記載の証拠(以下「本件物件」という。)のうち黒塗りがされている部分(以下「本件黒塗部分」という。)の閲覧の申請について、当該部分を閲覧させないことが違法であることを確認する(以下、この請求に係る訴えを「本件不作為違法確認の訴え」という。)公正取引委員会は、原告に対し、本件物件(本件黒塗部分の黒塗りがないもの)を閲覧させよ(以下、この請求に係る訴えを「本件義務付けの訴え」という。)。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
原告は、本件物件のうち本件黒塗部分以外の部分を閲覧した後、公正取引委員会に対し、排除措置命令に係る意見聴取の期日(第4回)の直前に、本件物件(本件黒塗部分の黒塗りがないもの)の閲覧の申請をしたところ、当該期日で意見聴取が終結となり、その翌日、公正取引委員会の審査官から「当該申請には、閲覧希望日が意見聴取終結後とされているため、応じられない」旨の記載がある電子メールを受信した。
本件は、原告が、被告を相手に、行政事件訴訟法に基づき、本件物件の本件黒塗部分の閲覧をさせないことが違法であることの確認及び本件物件(本件黒塗部分の黒塗りがないもの)の閲覧の義務付けを求める事案である。
2 前提事実(争いのない事実、顕著な事実並びに掲記の証拠〔書証の記載は、特に断らない限り、枝番号のものを含む。以下同じ。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
⑴ 当事者
原告は、水産資源の管理及び水産動植物の増殖、水産に関する経営及び技術の向上に関する指導、組合員の事業又は生活に必要な物資の供給等を事業とする漁業協同組合である。
⑵ 意見聴取の通知
ア 公正取引委員会は、原告に対する事件(以下「本件審査事件」という。)の審査を進め、令和5年11月28日付けで、原告に対し、原告に対して独占禁止法20条1項に基づき行う予定の排除措置命令(以下「本件排除措置命令」という。)に係る意見聴取を行う旨の①意見聴取通知書(甲1の2)及び②証拠の閲覧・謄写申請書等の書式(甲1の6)を送付した。
イ ①意見聴取通知書には、㋐排除措置命令書案に係る証拠品目録(本件目録。甲1の4)が添付され、㋑本件目録記載の証拠については、意見聴取が終結するときまでの間、独占禁止法52条に基づく閲覧又は謄写を求めることができる旨の記載があった。
⑶ 原告による本件目録記載の証拠の閲覧
原告は、令和5年12月6日から令和6年2月6日までの間、合計8回にわたり、独占禁止法52条1項前段に基づき、本件目録記載の証拠(ただし、被告が同法52条1項後段に基づき黒塗り処理をした本件黒塗部分を除く。)を閲覧した。
⑷ 本件閲覧申請等
ア 公正取引委員会は、原告に対し、本件意見聴取に係る第4回意見聴取期日を令和6年3月14日午後3時と指定した。
イ 原告は、公正取引委員会に対し、令和6年3月14日午後2時48分、同日付け証拠の閲覧・謄写申請書(甲3の1・2)を提出することにより、本件目録記載の全ての証拠、特に本件黒塗部分の閲覧を、同月18日(第1希望)又は同月19日(第2希望)午前10時から12時頃までの間に行うことを申請した(以下、この申請を「本件閲覧申請」という。)。
ウ 令和6年3月14日午後3時04分から午後3時11分までの間、本件意見聴取に係る第4回意見聴取期日が行われ、本件意見聴取が終結した。
⑸ 公正取引委員会事務総局官房総務課の原告代理人に対する電子メールの送信
公正取引委員会事務総局官房総務課は、原告代理人に対し、令和6年3月15日、本件閲覧申請には、閲覧希望日が意見聴取終結後とされているため、応じられない旨の記載がある電子メール(以下「本件電子メール」という。甲3の3)を送信した。
⑹ 本件訴えの提起
原告は、令和6年3月19日、本件訴えを提起した(顕著な事実)。
⑺ 本件排除措置命令
公正取引委員会は,原告に対し、令和6年5月15日付けで、本件排除措置命令(ただし、本件排除措置命令の案文(甲1)からその内容が一部変更されたもの。乙1)をした。
3 本件の争点及びこれに関する当事者の主張
本件の争点は、次の⑴~⑷であり、これに関する当事者の主張は、別紙3争点に関する当事者の主張のとおりである。
⑴ 本件不作為違法確認の訴えの適法性(本案前の争点)
⑵ 本件義務付けの訴えの適法性(本案前の争点)
ア 独占禁止法52条1項の規定による証拠の閲覧(独占禁止法52条1項前段)が義務付けの訴えの対象となる行政処分に該当するか否か
イ 行政事件訴訟法37条の3第3項1号の訴訟要件の具備の有無
⑶ 公正取引委員会が原告に対して本件物件の本件黒塗部分の閲覧をさせないことが違法であるか否か(本案の争点)
⑷ 本件義務付けの訴えの本案要件(行政事件訴訟法37条の3第7項)の具備の有無(本案の争点)
第3 当裁判所の判断
1 争点⑴(本件不作為違法確認の訴えの適法性)について
⑴ 独占禁止法52条1項の規定による証拠の閲覧(独占禁止法52条1項前段)と関係法令の定め等
ア 独占禁止法は、①公正取引委員会は、排除措置命令をしようとするときは、当該排除措置命令の名宛人となるべき者について、意見聴取を行わなければならない(49条)とした上、②意見聴取は、公正取引委員会が事件ごとに指定するその職員(以下「指定職員」という。)が主宰し(53条)、③当事者は、意見聴取の期日に出頭して、意見を述べ、及び証拠を提出し、並びに指定職員の許可を得て審査官等に対し質問を発することができること(54条2項)とし、④その意見聴取を行うに当たっては、意見聴取を行うべき期日までに相当な期間をおいて、排除措置命令の名宛人となるべき者に対し、所定の事項を書面により通知しなければならず(50条1項)、⑤当事者は、当該通知があった時から意見聴取が終結する時までの間、公正取引委員会に対し、当該意見聴取に係る事件について公正取引委員会の認定した事実を立証する証拠の閲覧又は謄写(謄写については、当該証拠のうち、当該当事者若しくはその従業員が提出したもの又は当該当事者若しくはその従業員の供述を録取したものとして公正取引委員会規則で定めるものの謄写に限る。以下「証拠の閲覧等」という。)を求めることができ、この場合において、公正取引委員会は、第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときでなければ、その閲覧又は謄写を拒むことができない(52条1項)旨を規定する。その上で、同法は、⑤公正取引委員会がするこの節の規定による認定、決定その他の処分(同法47条2項の規定によって審査官がする処分及びこの節の規定によって指定職員がする処分を含む。)については、行政手続法第2章及び第3章の規定を適用せず(70条の11)、⑥当該処分及びその不作為については、審査請求をすることができない(70条の12)旨を規定する。
これらの独占禁止法の規定を通覧すれば、公正取引委員会の排除措置命令の名宛人となるべき者に対する意見聴取手続は、その者に防御の機会を提供して適正手続の保障を図り、適正な行政の運営を確保するためのものであり、同法52条1項の規定による証拠の閲覧等は、その一環として、公正取引委員会が認定した事実を立証する証拠の内容を知る機会を付与し、その者の防御権の行使を実質的に保障しようという趣旨のものであるが、同法70条の12は、証拠の閲覧等が意見聴取手続における付随的手続にとどまることから、証拠の閲覧等についての処分及びその不作為に対して、審査請求をすることを許さないこととしたものと解される。
そして、独占禁止法52条1項は、証拠の閲覧等を求めることができる時期を「同法50条1項の規定による通知があった時から意見聴取が終結する時までの間」と規定していることをも併せ考慮すれば、意見聴取が終結した後に当事者が証拠の閲覧等をするとは、特段の事情がない限り、想定されていないというべきである。
イ また、独占禁止法及び審査規則は、前記アで説示した公正取引委員会の行う独占禁止法52条1項の規定による証拠の閲覧等を拒否する処分の告知方法については特段の規定を置いていない。そうすると、当該処分の効力は、特別の定めがない限り、当該処分がその申請者に到達した時、すなわち申請者が現実にこれを了知し又は了知し得べき状態におかれた時に発生すると解するのが相当である。
⑵ 本件について
ア これを本件についてみると、前提事実によれば、公正取引委員会は、令和6年3月14日午後2時48分、原告から本件閲覧申請を受けた(前提事実⑷イ)が、同日午後3時04分から午後3時11分までの間、本件意見聴取に係る第4回意見聴取期日が行われ、本件意見聴取が終結したこと(前提事実⑷ウ)から、公正取引委員会事務総局官房総務課において、原告代理人に対し、同月15日、本件閲覧申請には応じられない旨の記載がある本件電子メールを送信し(前提事実⑸)、同年5月15日付けで、原告に対し、本件排除措置命令をした(前提事実⑺)というのである。本件電子メールは、その記載内容に照らし、公正取引委員会がした本件閲覧申請を拒否する旨の処分を原告に了知させる趣旨のものと解されるから、当該処分は、これによりその効力が発生したというべきであり、その後に本件排除措置命令も発令されているから、前記アの特段の事情はうかがわれない。
以上によれば、公正取引委員会が意見聴取の終結を理由として本件閲覧申請に応じないことをもって、行政事件訴訟法3条5項にいう「行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしない」という状態にあるとはいえない。
したがって、原告は、本件閲覧申請に対する不作為の違法確認を求める訴えの利益を有しないものと解するのが相当である。このように解したとしても、原告としては、証拠の閲覧等を拒否する処分を含む排除措置命令の手続の違法を主張して排除措置命令の取消しを求め得るのであって、原告にとって酷な結果になるとはいえない。
そうすると、本件不作為違法確認の訴えは、訴訟要件を満たさない不適法なものであるといわざるを得ない。
イ これに対し、原告は、本件電子メールが担当審査課の本件審査事件の担当審査官が送付したものであるにすぎず、本件不作為違法確認の訴えについて訴えの利益を失わない旨を主張するが、以上に説示したところに照らし、原告の前記主張は、採用することができない。
2 争点⑵(本件義務付けの訴えの適法性)について
本件義務付けの訴えは、いわゆる申請型の義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項2号)として提起されたものと解されるところ、同法は、申請型の義務付けの訴えについて、「当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないとき」に限り、提起することができ(同法37条の3第1項1号)、これを提起するときは、その処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない(同条3項1号)旨を規定している。
前記1で判示したところによれば、本件閲覧申請については、「当該法令に基づく申請に対し相当の期間内に何らの処分がされないとき」に当たるとはいえないから、行政事件訴訟法37条の3第1項所定の訴訟要件を満たしておらず、また、本件義務付けの訴えと併合して提起された本件不作為違法確認の訴えが不適法であるから、同条3項所定の訴訟要件も満たしていない。
したがって、本件義務付けの訴えは、訴訟要件を満たさない不適法なものであるといわざるを得ない。
3 結語
よって、本件訴えは、いずれも不適法であるから却下することとし、主文のとおり判決する。
令和7年1月29日
裁判長裁判官 林 史高
裁判官 住田知也
裁判官本城伶奈は、差支えのため、署名押印することができない。
裁判長裁判官 林 史高
(別紙3)
争点に関する当事者の主張
1 争点⑴ 本件不作為違法確認の訴えの適法性(本案前の争点)
(原告の主張)
公正取引委員会の審査官が、原告代理人に対し、令和6年3月15日、本件閲覧申請に応じることができない旨の本件電子メールを送付した(前提事実⑸)が、これは、意見聴取手続の事務手続を担う公正取引委員会意見聴取手続室の職員が送付したものであるにすぎず、不服申立て及び取消訴訟に関する事項の教示(行政不服審査法82条1項、行政事件訴訟法46条)もされていないため、原告は、本件電子メールの通知内容が公正取引委員会による行政処分であるという余地はない。
したがって、公正取引委員会の組織としての意思決定である本件閲覧申請の当否に関する処分は、未だされていない状態(申請に対して法令上の応答がない状態)であり、本件不作為違法確認の訴えにつき、訴えの利益は認められる。
(被告の主張)
公正取引委員会は、令和6年3月15日、原告代理人宛ての電子メールで、原告に対し、本件閲覧申請には応じることができない旨を回答した(前提事実⑸)。
したがって、原告の本件閲覧申請に対し何らの応答がされないという不作為の状態は既に解消されているのであり、本件不作為違法確認の訴えは、訴えの利益が失われた。
2 争点⑵ 本件義務付けの訴えの適法性(本案前の争点)
⑴ 独占禁止法52条1項の規定による証拠の閲覧(独占禁止法52条1項前段)が義務付けの訴えの対象となる行政処分に該当するか否か
(原告の主張)
独占禁止法52条1項前段は、処分前手続における意見陳述等を充実したものとするために設けられた規定である。排除措置命令は、意見聴取手続の内容及び結果を十分に参酌してなされるものであるから(独占禁止法60条)、処分の名宛人としては、排除措置命令が発令される前に証拠を閲覧し、自己に有利な証拠を提出することができるよう十分な防御を尽くすことで、排除措置命令の発令の当否又は内容に影響を与えることができるのである。そのため、未だ排除措置命令が発令されていない状況における独占禁止法52条1項前段の閲覧請求の違法について、排除措置命令に対する抗告訴訟において手続的違法事由として主張することで足りると解するのは、処分前手続の違法については咎めずに排除措置命令の発令を待てというのに等しく、また証拠閲覧手続を蔑ろにし、ひいては意見聴取手続の実効性を弱めるものといわざるを得ないのであって、著しく妥当性を欠くものである。
独占禁止法70条の12及び行政手続法27条は、意見聴取手続における証拠閲覧申請の拒否及び聴聞手続における文書閲覧拒否につき、審査請求を制限するものにすぎず、抗告訴訟を提起することを制限するものでない。
したがって、本件不作為違法確認の訴えの対象である公安委員会の独占禁止法52条1項前段の閲覧請求についての決定は、義務付けの訴えの対象となる行政処分に該当する。
(被告の主張)
公正取引委員会は、独占禁止法20条1項の規定による排除措置命令をしようとするときは、当該排除措置命令の名宛人となるべき者について、意見聴取を行わなければならず(同法49条)、当該意見聴取を行うに当たり、当該名宛人に対し、公正取引委員会の認定した事実を通知しなければならないとされている(同法50条1項2号)。他方、当事者は、上記「通知があつた時から意見聴取が終結する時までの間、公正取引委員会に対し、当該意見聴取に係る事件について公正取引委員会の認定した事実を立証する証拠の閲覧(中略)を求めることができる」ものとされている(同法52条1項前段)。
このような公正取引委員会による当事者の意見聴取手続は、排除措置命令の名宛人に対し防御の機会を提供して適正手続の保障を図り、また適正な行政の運営を確保するために行われるものであるとされ、また、意見聴取の通知に係る規定は、命令の名宛人となるべき者は、事前に、自らに対し命令が出される予定であることやそれについて意見聴取手続が実施されることを知るとともに、防御の具体的手段として予定される排除措置命令の内容や認定された事実を知り、かつ、防御の具体的手段として意見聴取の実施方法等を知らなければ、十分に意見を述べることができず、意見聴取手続の趣旨が没却されてしまうので、名宛人となるべきものに意見聴取手続の準備をさせ、実効的なものとするために設けられたものとされ、さらに、当事者による証拠の閲覧の制度は、これらを前提として、排除措置命令の名宛人となるべき者又はその代理人が、公正取引委員会が事実を認定するために用いた証拠に基づき意見を述べ、自己に有利な証拠を提出することができるよう防御権の内容の充実を図るためのものである(岩成博夫ほか編著・逐条解説平成25年改正独占禁止法61~68ページ)。
そうすると、公正取引委員会が、当事者に対して証拠を閲覧させる行為は、飽くまでも、公正取引委員会が排除措置命令を行うための手続過程において、他の一連の行為と関連しながら一連の手続を構成するいわば手続の連鎖の一環たる行為であって、当該手続の終局処分である排除措置命令の前提たる手続的意味及び効果を有するにすぎない。
したがって、公正取引委員会が当事者に対して証拠を閲覧させ、又はさせないことの違法は、排除措置命令に対する抗告訴訟において手続的違法事由として主張することで足りると解するのが相当であり、証拠を閲覧させる行為は、義務付けの訴えの対象となる行政処分に当たらないというべきである。
このことは、独占禁止法70条の12と同趣旨の規定が置かれている行政手続法27条においても、聴聞手続における文書閲覧拒否に対して取消訴訟を提起することは許されないことに照らしても明らかである。
⑵ 行政事件訴訟法37条の3第3項1号の訴訟要件の具備の有無
(原告の主張)
本件不作為違法確認の訴えが適法であることは、前記1(原告の主張)のとおりである。
(被告の主張)
申請型の義務付けの訴えについては、申請又は審査請求に対して相当の期間内に処分又は裁決がされないことを理由とするときは、その処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴えを、その義務付けの訴えに併合して提起しなければならない(行政事件訴訟法37条の3第3項1号)。そして、同項は、併合提起される不作為の違法確認の訴え等が適法であることを前提としているものと解されるため、併合提起された不作為の違法確認の訴え等が不適法なものであるときは、義務付けの訴えは、適法な不作為の違法確認の訴え等と併合して提起されたことにはならず、不適法な訴えとして却下すべきこととなる。
これを本件についてみると、本件不作為違法確認の訴えは、前記1(被告の主張)のとおり訴訟要件を欠き、不適法であるから、申請型の義務付けの訴えである本件義務付けの訴えは、行政事件訴訟法37条の3第3項1号所定の訴訟要件を欠き、不適法である。
3 争点⑶ 公正取引委員会が原告に対して本件物件の本件黒塗部分の閲覧をさせないことが違法であるか否が(本案の争点)
(原告の主張)
原告は、公正取引委員会に対し、本件意見聴取の第4回意見聴取期日前の令和6年3月14日午後2時48分、本件閲覧申請をした(前提事実⑷)から、公正取引委員会は、相当の期間内に何らかの処分をしなければならないにもかかわらず、これをしない。また、公正取引委員会が原告に対して本件物件の本件黒塗部分の閲覧をさせなければならないことは、後記4(原告の主張)のとおりである。
したがって、公正取引委員会が原告に対して本件物件の本件黒塗部分の閲覧をさせないことは違法である。
(被告の主張)
争う。
4 争点⑷ 本件義務付けの訴えの本案要件(行政事件訴訟法37条の3第7項)の具備の有無(本案の争点)
(原告の主張)
ア 原告は、本件物件の閲覧の申請をして、本件物件の本件黒塗部分以外の部分を閲覧したが、本件排除措置命令を基礎づけるものとして閲覧に供された海苔生産者や指定商社の供述調書では、供述人の住所及び生年月日という、個人情報として保護されるべき根拠があると考え得る範囲に限定することなく、広範囲に及ぶ黒塗りが行われ証拠閲覧が制限された。そのため、開示された証拠の多くが黒塗りされ閲覧が制限されていることにより、原告は、閲覧の機会を受けたにもかかわらず証拠の内容を理解することができず、その証明力を検討・判断することもできなかった。
本件目録には黒塗りによる閲覧制限を行う旨の告知がなく、本件物件の本件黒塗部分以外の部分をみても、その供述人が供述調書の閲覧による報復等をおそれているとは供述していないこと、公正取引委員会から本件黒塗部分の閲覧を制限することの具体的な個別的説明はなかったことからすると、本件黒塗部分の閲覧を制限する「正当な理由」がないことは明らかである。また、本件黒塗部分の閲覧を拒否することは、公正取引委員会が、意見聴取制度における「閲覧」及び「謄写」について、自ら設置した独占禁止法研究会等の場において、「閲覧」と「謄写」を対比し両手続には制限の可否について相違があることを強調しながら説明してきたことにも反する。
以上のことに照らせば、本件物件のうち供述調書について黒塗りをして閲覧を拒むことは、裁量権の範囲を超え又その濫用に当たる。
イ 原告は、本件審査事件の意見聴取手続における令和6年3月13日付け陳述書(甲2)により、審査官に対しては供述調書(本件黒塗部分)の黒塗りを外して開示することを求めるとともに、意見聴取官(法文上は「指定職員」)に対しては本件意見聴取手続において審査官に促すことを求めた。
ところが、審査官は、意見聴取手続において本件物件の本件黒塗部分の黒塗りのないものを開示せず、また、意見聴取官も、審査官に対してそのような証拠の提出を促さなかった。
ウ そこで、原告は、意見聴取が終結するまでの間である令和6年3月14日午後2時48分、本件閲覧申請をしたのであるから、本件閲覧申請後に意見聴取が終結したこと及び原告が意見聴取終結日より後の日を閲覧希望日として閲覧・謄写申請書に記入したことは、いずれも、公正取引委員会が本件閲覧申請を拒む理由になり得ない。
エ したがって、公正取引委員会が原告に対して本件物件の本件黒塗部分の閲覧をさせなければならないことは明らかであって、これをさせないことには合理的な理由を見出すことができず、明らかな裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある。
(被告の主張)
争う。
以 上