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佐賀県有明海漁業協同組合による裁決取消等請求事件(福岡地裁令和6年(行ウ)第1号、第36号)

独禁法47条、審査規則22条1項
福岡地方裁判所第1民事部

令和6年(行ウ)第1号、第36号

判決

令和7年3月26日

当事者の表示 別紙1当事者目録記載のとおり

主文
1 本件訴えのうち、報告命令の取消しを求める部分を却下する。
2 その余の訴えに係る原告の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 公正取引委員会が原告に対して令和5年6月29日付けでした報告命令(以下「本件報告命令」という。)を取り消す(以下、この請求に係る訴えを「本件報告命令取消しの訴え」という。)。
2 公正取引委員会が原告に対して令和5年10月3日付けでした異議の申立てを却下する旨の決定(公官総第592号。以下「本件却下決定」という。)を取り消す(以下、この請求に係る訴えを「本件却下決定取消しの訴え」という。)。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
公正取引委員会審査官(以下、単に「審査官」という。)は、原告に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)47条1項1号に基づき、原告に対する独禁法に基づく事件調査のために必要があるとして、原告の乾海苔の販売事業の概要等に関する報告を求める報告命令(本件報告命令)をした。
原告が、公正取引委員会に対し、本件報告命令に係る異議の申立て(以下「本件異議申立て」という。)をしたところ、公正取引委員会は、異議申立期限を徒過しているなどとして、本件異議申立てを却下する旨の決定(本件却下決定)をした。
本件は、原告が、被告を相手に、本件報告命令及び本件却下決定の取消しを求める事案である。
2 関係法令の定め
別紙2「関係法令の定め」のとおり(以後、別紙で定義した略称は、特に断りなく使用する。)
3 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、証拠番号は、特記しない限り枝番を含む。)
⑴ 当事者
原告は、水産資源の管理及び水産動植物の増殖、水産に関する経営及び技術の向上に関する指導、組合員の事業又は生活に必要な物資の供給等を事業とする漁業協同組合である。
⑵ 報告命令
ア 公正取引委員会は、原告に対する令和4年(査)第5号事件(以下「本件審査事件」という。本件審査事件における被疑事実は、原告らが海苔生産者との取引において拘束条件を付し、不正に公正競争を阻害したというものであった。)の審査を進め、同年6月7日~同月9日、原告の本所及び支所等の関係先について立入検査(以下「本件立入検査等」という。)をするなどし、その際、保管されていた帳簿書類等の提出を命じてこれを留置した(以下、この留置された帳簿書類等を「本件留置文書」という。)。
イ 審査官は、原告に対し、令和5年6月29日付けで、原告に対する独禁法に基づく調査のために必要があるとして、独禁法47条1項に基づき、同年7月20日までに、原告の乾海苔の販売事業に関し、「8 乾海苔共販にかかる誓約書の提出状況」として、次の①~③の事項(以下「本件要報告事項」という。)を報告するよう求める旨の命令(本件報告命令。乙1)をし、同年6月30日、本件報告命令が原告(原告代表者)に送達された。(乙1、2)
① 直近5事業年度において小間(支柱方式での海苔の養殖を行うための一定の面積の海苔の漁場)の割当てを受けた組合員(以下「割当組合員」という。)について、所属支所ごとの組合員の氏名、住所、連絡先、正組合員・准組合員の別
② 各割当組合員の「乾海苔共販にかかる誓約書」(以下「本件誓約書」という。)の提出の有無
③ 本件誓約書を提出しない割当組合員の所属する支所が、当該割当組合員が本件誓約書を提出しないことを許容した理由
ウ 原告は、審査官に対し、令和5年7月20日付けで、本件報告命令に対する報告書(以下「本件報告書①」という。乙3)を提出した。
本件報告書①(乙3)には、本件要報告事項について「当組合(本所)は報告を行うために必要な情報を有しておりません。したがって当組合では、報告を行うために、各支所へ情報提供を要請しています。本報告書提出の日においては支所からの情報収集が完了していませんので、情報収集が完了し当組合において内容の確認を経たうえで、おって報告を行います。」との記載がある。
エ 原告は、審査官に対し、令和5年8月25日付けで、本件報告命令に対する報告書(以下「本件報告書②」という。甲1)を提出した。
本件報告書②(甲1)には、本件要報告事項のうち平成30年4月1日~令和4年3月31日の間における各年度の芦刈支所以外の支所に係る事項(割当組合員の氏名・住所等、本件誓約書の提出の有無、支所が本件誓約書が提出されないことを許容した理由等。本件報告書②別紙10-1~10-4参照)につき、回答欄が空欄とされた上で、欄外に「立入検査留置済」との記載がある。
オ 審査官は、原告職員及び原告代理人の《C》弁護士(以下「《C》弁護士」という。)に宛てて、令和5年9月6日、本件要報告事項及び本件留置文書に含まれていた本件誓約書について「『立入検査留置済』と記載され、各記載欄が空欄となっているものがありますが、当該項目では、小間の割当てを受けた組合員の氏名等を御報告いただくとともに、これらの組合員の誓約書の提出状況を御報告いただくものであり、誓約書を当委員会が留置しているからといって御報告が不要になるものではありませんので、御報告をお願いいたします。誓約書を当方で留置しているため報告できないということであれば、報告に必要であるとして閲覧謄写請求をしていただくことにより閲覧・謄写することができますので、同制度を御利用ください。」、「訂正報告を9月26日(火)までに提出してください。また、閲覧謄写請求が必要であれば、まずはその旨を速やかに御連絡ください。」との記載があるメール(以下「本件メール」といい、本件メールでの依頼内容を「本件要請」という。甲2)を送信した。
⑶ 原告による本件報告命令に対する異議申立てと本件却下決定
ア 原告は、公正取引委員会に対し、令和5年9月11日、本件報告命令が独禁法47条に違反するものであるなどとして、公正取引委員会の審査に関する規則(以下、単に「規則」という。)22条1項の規定に基づく異議の申立て(本件異議申立て)をした。(甲3)
イ 公正取引委員会は、令和5年10月3日、本件異議申立てを却下する旨の決定(本件却下決定。甲4)をした。その理由の要旨は次の①~③のとおりであった。
① 本件異議申立ては、処分(本件報告命令)を受けた日から1週間以内に申し立てられておらず、規則22条1項の異議申立ての期間を徒過している。
② 本件要請は規則22条1項の「処分」に該当しないから、本件要請が行われた日を異議申立期間の起算点として本件異議申立ての適否を検討する余地はない。
③ 本件留置文書については、同文書の仮の還付を請求し又は閲覧・謄写することが可能であるから、本件留置文書が留置されているとしても、本件要報告事項について回答が妨げられているものではない。
⑷ 本件却下決定取消しの訴えの提起
原告は、令和6年1月10日、本件却下決定取消しの訴えを提起した。(顕著な事実)
⑸ 排除措置命令
公正取引委員会は、原告に対し、令和6年5月15日付けで、排除措置命令(以下「本件排除措置命令」という。)をし、同月16日、本件排除措置命令が原告に送達された。
⑹ 訴えの追加的変更
原告は、令和6年6月10日、本件報告命令の取消しを求める旨の請求の追加的併合の申立てをした。(顕著な事実)
4 争点
本件の争点は、次の⑴~⑶であり、これに関する当事者の主張は、別紙3「争点に関する当事者の主張」のとおりである。
⑴ 本件訴えの適法性(本案前の争点)
⑵ 本件報告命令の適法性
⑶ 本件却下決定の適法性
第3 当裁判所の判断
1 争点⑴(本件訴えの適法性(本案前の争点))について
⑴ 本件報告命令取消しの訴えの出訴期間について
ア 判断枠組み
行政事件訴訟法14条1項本文は、取消訴訟について、処分があったことを知った日から6か月を経過したときは、提起することができない旨を規定するところ、行政事件訴訟法14条1項本文にいう「処分があったことを知った日」とは、その者が処分のあったことを現実に知った日のことをいい(最高裁昭和26年(オ)第392号同27年11月20日第一小法廷判決・民集6巻10号1038頁、最高裁平成12年(行ヒ)第174号同14年10月24日第一小法廷判決・民集56巻8号1903頁参照)、当該処分の内容の詳細や不利益性等の認識までを要するものではないと解される。
また、審査請求が不適法なものである場合には、これに対する裁決がされたとしても、当該裁決は、行政事件訴訟法14条3項にいう「裁決」には当たらないと解される。
イ 当てはめ
これを本件についてみると、前提事実によれば、次のとおり指摘することができる。
(ア) 本件報告命令は、原告に対し、令和5年6月29日に発令され、同月30日、原告に送達された(前提事実⑵イ)。本件報告命令の内容は、本件要報告事項が明記されていたから(前提事実⑵イ)、審査官が原告に報告を求めた内容は明確であり、本件報告書①の記載内容(前提事実⑵ウ)からしても、原告においてこのような本件要報告事項を了知していたものといわざるを得ない。
(イ) ところが、原告は、令和6年1月10日、本件却下決定取消しの訴えを提起し(前提事実⑷)、同年6月10日、本件報告命令の取消しを求める請求の追加的併合の申立てをした(前提事実⑹)。これにより、出訴期間の遵守については、本件報告命令取消しの訴えは、本件却下決定取消しの訴えを提起した時(同年1月10日)に提起されたとみなされる(行政事件訴訟法20条参照)が、同日は、原告が本件報告命令を知った日から6箇月(同法14条1項)を経過していたものである。
(ウ) 審査官は、原告職員及び《C》弁護士に対し、令和5年9月6日に本件要報告事項及び本件留置文書に含まれていた本件誓約書に関する本件メールを送信した(前提事実⑵オ)が、原告は、前記(ア)のとおり、これ以前に本件報告命令があったことを知り、本件要報告事項の内容を了知していたのであり、本件メールは、本件報告命令によって既に示されていた本件要報告事項の一部について、原告が提出した本件報告書①及び②において回答が不十分な部分があったこと(前提事実⑵ウ・エ)から、当該部分への対応を促す趣旨のものにとどまることに照らすと、以上の判断を妨げるものとはいえない。
他に、本件報告命令の取消しの訴えが出訴期間を経過した後に提起されたことにつき、行政事件訴訟法14条1項ただし書の「正当な理由」があるというべき事情は見当たらない。
(エ) また、後記2で判断するところによれば原告がした本件異議申立ては、不適法であり、本件却下決定がされたのであるから、本件報告命令取消しの訴えの出訴期間については、原告が本件異議申立てをしたことをもって、行政事件訴訟法14条3項を適用することはできない。
(オ) 以上によれば、本件報告命令取消しの訴えは、不適法な訴えであるといわざるを得ない。
ウ 原告の主張について
これに対し、原告は、別紙3「争点に関する当事者の主張」1(原告の主張)⑴のとおり主張する。
しかしながら、原告が本件メールによって本件要報告事項の範囲を初めて了知したとはいえず、本件報告命令が、本件留置文書の内容を確認しなければ回答できない内容を含む点で、原告に不可能を強いるものであるともいえないことは、前記イ(ア)~(ウ)で説示したとおりである(仮に、本件要報告事項に対する回答を行うに当たって、本件留置文書の内容を確認する必要があったとしても、本件留置文書について仮の還付を請求し(規則17条2項)、又は閲覧・謄写の請求をし(規則18条1項)その内容を確認することは可能であったというべきである。)。
また、本件報告命令取消しの訴えの出訴期間については、原告が本件異議申立てをしたことをもって、行政事件訴訟法14条3項を適用することができないことは、前記イ(エ)で説示したとおりである。
したがって、原告の前記主張は、採用することができない。
⑵ 本件訴えに係る訴えの利益について
前提事実に加え、独禁法等が規定する報告命令及び事件の調査等(別紙2「関係法令の定め」参照)に関する仕組み及び内容等を踏まえると、本件報告命令は、原告に対し、独禁法47条1項に基づき、所定の事項について報告を求めるものであり、原告をして当該事項についての報告義務を負わせ、これを怠った場合には罰則(同法94条1号)を適用され得るという法的効果を有するものであるから、本件排除措置命令が発令されたことのみをもって、本件報告命令の有する前記の法的効果は消滅するとはいえない。そして、本件却下決定は、前記のような法的効果を有する本件報告命令に係る異議申立てについての公正取引委員会の判断を示したものである。
そうすると、本件排除措置命令が発令されたことのみをもって、本件却下決定取消しの訴えは、その利益を欠くに至るとはいえない。
⑶ 小括
以上によれば、本件訴えのうち、本件報告命令取消しの訴えは、不適法であり却下を免れない。
2 争点⑶(本件却下決定の適法性)について
⑴ 判断枠組み
独禁法等の規定(別紙2「関係法令の定め」参照)を通覧すれば、報告命令の制度は、独禁法の前記目的を達成するため、公正取引委員会が事件について必要な調査を行うためのものであるが、その強制が罰則による間接強制にとどまるものであり、報告命令が事件の調査における付随的手続にとどまることから、同法70条の12は、報告命令に対して、審査請求をすることを許さないこととし、他方、規則22条は、審査官がした報告命令等の処分につき、その処分を受けた者を対象として、簡易な手続による特別の不服申立手続を規定したものと解される。
したがって、規則22条1項の異議申立ては、独禁法47条2項に基づいて審査官がした報告命令等の処分を受けた者が、処分を受けた日から1週間以内に限り、することができるものと解するのが相当である。
⑵ 当てはめ
これを本件についてみると、前提事実によれば、本件報告命令は、令和5年6月29日、その名宛人を原告としてされ、同月30日、本件報告命令が原告に送達されたものであり(前提事実⑵イ)、本件異議申立ては、令和5年9月11日、原告によってされたものである(前提事実⑶ア)。原告が、同年6月30日の時点で、本件報告命令があったことを知り、本件要報告事項の内容を了知していたものであり、本件メールによって本件要報告事項の範囲を初めて了知したとはいえないことは、前記1⑴イ(ア)~(ウ)で説示したとおりである。
したがって、本件異議申立ては、処分を受けた日(及び原告において本件報告命令があったこと〔本件要報告事項の内容〕を知った日)から1週間以上経過した同年9月11日にされたから、規則22条1項の要件(処分を受けた日から1週間以内)を満たさず、不適法であるといわざるを得ない。
そうすると、本件異議申立てを不適法として却下した本件却下決定(前提事実⑶イ)は、適法であるといえる。
⑶ 原告の主張について
これに対し、原告は、別紙3「争点に関する当事者の主張」3(原告の主張)のとおり主張する。
しかしながら、以上に説示したところに照らせば、原告の前記主張は、その前提を欠いており、採用することができない。
第4 結論
よって、本件訴えのうち本件報告命令取消しの訴えは、不適法であるから却下し、その余の訴えに係る原告の請求は、理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

令和7年3月26日

福岡地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官  林  史高
裁判官     住田 知也
裁判官     増崎 浩司

(別紙1)当事者目録
佐賀市西与賀町大字厘外821番地4
原告          佐賀県有明海漁業協同組合
同代表者代表理事    ≪B1≫
同訴訟代理人弁護士   平山賢太郎
同訴訟復代理人弁護士  山本 陽介
同           堀  隆聖

東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告          国
同代表者法務大臣    鈴木 馨祐
処分行政庁       公正取引委員会
同委員会代表者委員長  古谷 一之
同指定代理人      窪田 大輔
同           田中 義一
同           渡口  真
同           下川 琴江
同           永峰加容子
同           福重 有紀
同           細波  涼
同           西川 康一
同           榎本 勤也
同           齋藤みずえ
同           岩丸 華子

(別紙2 関係法令の定め:省略)

(別紙3)争点に関する当事者の主張
1 争点⑴ 本件訴えの適法性(本案前の争点)
(原告の主張)
⑴ 本件報告命令取消しの訴えの出訴期間について
次のア~ウのとおり、原告は、出訴期間を徒過していない。
ア 原告は、令和5年9月6日の本件メールにより、本件報告命令に基づく本件要報告事項の範囲が本件留置文書を精査しなければ報告できない事項を含むものである旨を了知しており、本件報告命令取消しの訴えを提起したとみなされる日(以下、単に「訴え提起日」という。)である令和6年1月10日の時点では、原告が「処分があったことを知った日」から6か月は経過していない。したがって、本件報告命令取消しの訴えは、行政事件訴訟法14条1項本文の出訴期間内に提起されたものである。
イ 仮に、原告が「処分があったことを知った日」が本件報告命令の原告への送達日である令和5年6月30日であるとしても、本件報告命令に基づく本件要報告事項の範囲が、本件メールによって初めて教示されたという経緯に照らすと、原告が、行政事件訴訟法14条1項本文の出訴期間を遵守できなかったことについては正当な理由(行政事件訴訟法14条1項ただし書)がある。
ウ 原告は、本件報告命令に対する異議申立てを行い、令和5年10月3日に本件却下決定がなされているところ、訴え提起日である令和6年1月10日の時点では、原告が「裁決があったことを知った日」から6か月は経過していない。したがって、本件報告命令取消しの訴えは、行政事件訴訟法14条3項本文の出訴期間内に提起されたものである。
⑵ 本件訴えに係る訴えの利益について
本件報告命令及び本件却下決定については、原告に対し、固有の違法性に関して裁判所の審理及び判決を受けることができる機会を保障する必要があるから、本件訴えに係る訴えの利益は、排除措置命令の発令によって消滅しないと解すべきである。
(被告の主張)
⑴ 本件報告命令取消しの訴えの出訴期間について
ア 本件報告命令取消しの訴えは、本件却下決定の原処分である本件報告命令の取消しを求めるものであるところ、原告による本件却下決定取消しの訴えとの関係では、行政事件訴訟法13条4号の関連請求に係る訴訟に当たる。そして、原告は、本件却下決定取消しの訴えにおいて、行政事件訴訟法19条1項前段の規定に基づき、関連請求に係る訴訟に当たる本件報告命令取消しの訴えを併合提起したものと解されるところ、本件報告命令取消しの訴えは、行政事件訴訟法20条の規定により、本件却下決定取消しの訴えが提起された令和6年1月10日に提起されたものとみなされる。
しかしながら、本件報告命令は、令和5年6月30日に原告に送達されており、本件報告命令取消しの訴えが提起されたとみなされる令和6年1月10日の時点で、原告が本件報告命令という処分があったことを知った日から6か月を既に経過していた。本件メールは、本件報告命令によって既に明確にされていた本件要報告事項の一部について原告が報告をしなかったことから、その状態の是正を求めたものにすぎず、これをもって、本件報告命令があったことを知った日を令和5年9月6日とすることはできない。
よって、本件報告命令取消しの訴えは、行政事件訴訟法14条1項本文が規定する出訴期間経過後に提起されたものであり、不適法である。
⑵ 本件訴えに係る訴えの利益について
本件却下決定は、行政調査の一環としての行政処分であるが、独立して取消訴訟の対象となるものである(行政事件訴訟法3条3項)。また、本件審査事件に係る審査は、排除措置命令が発令されたとしても、これが訴訟等を経て取り消されないものであることが確定した時に初めてその終結に至るものであり、排除措置命令の発令によって、本件報告命令の法的効果が消滅したともいえない。したがって、本件却下決定は、終局的な行政処分である排除措置命令が発令されたことによる影響を受けるものではない。
仮に、排除措置命令の発令によって本件報告命令の法的効果が消滅したとしても、本件却下決定取消しの訴えに係る受訴裁判所としては、あくまでもその適否のみを判断すべきであること等からすると、本件却下決定につき、原告がその取消しによって回復すべき法律上の利益(行政事件訴訟法9条1項)を有しないとはいえない。
したがって、本件却下決定取消しの訴えに係る訴えの利益がないとはいえない。
2 争点⑵ 本件報告命令の適法性
(被告の主張)
公正取引委員会の審査官は、原告に対し、令和5年6月29日付けで、原告に対する独禁法に基づく調査のために必要があるとして、独禁法47条1項に基づき、本件報告命令をし、同年6月30日、本件報告命令が原告に送達された。
原告の主張は、争う。
(原告の主張)
審査官は、本件留置文書の原本を留置し保管していたのであるから、自らその原本を精査することで、審査官が本件要請において報告を求めた事項について確認をすることが可能であった。したがって、本件報告命令によって、当該事項の報告を命じることは、本件審査事件の調査のために必要でなかった。
したがって、本件報告命令には、独禁法47条1項の解釈を誤り、比例原則及び権限濫用禁止に違反する瑕疵があり、取り消されるべきである。
3 争点⑶ 本件却下決定の適法性
(被告の主張)
本件異議申立ては、本件報告命令という「処分を受けた者」である原告が、「処分を受けた日」である令和5年6月30日から1週間以上経過した令和5年9月1日に申し立てたものである。本件報告書①の記載内容等に照らし、本件報告命令に記載された本件要報告事項は、本件留置文書の原本を精査しなければ報告できない事項を含むものであったとはいえないから、本件要請が行われた時点を異議申立期間の起算点とする余地はない。
したがって、本件異議申立ては、異議申立期間(規則22条1項)の経過後にされた不適法なものであるから、これを却下した本件却下決定は、適法である。
(原告の主張)
前記1「原告の主張」⑴のとおり、原告は、令和5年9月6日の本件メールにより、本件報告命令に基づく本件要報告事項の範囲を了知したのであるから、本件要請は、本件報告命令と一体のものとして、単一の報告命令を構成するといえる。したがって、本件報告命令が行われた日は同日と解すべきであり、原告の異議申立て(申立日は令和5年9月11日である。)は、規則22条1項の申立期限内に行われたものであり、本件異議申立ては適法であった。
よって、本件異議申立てが不適法であるとして却下した本件却下決定は、独禁法47条1項及び規則22条1項に違反し、取り消されるべきといえる。
以上


注釈 《 》部分は、公正取引委員会事務総局において原文に匿名化等の処理をしたものである。

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