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独禁法19条(一般指定12項)
令和07年(措)第5号
アメリカ合衆国デラウェア州ウィルミントン、リトル・フォールズ・ドライブ251
Google LLC
同代表者 代表社員 ≪ 事業者名 ≫
同代表社員職務執行者 ≪ 氏 名 ≫
同日本における代表者 ≪ 所在地 ≫
≪ 事業者名 ≫
同代表者 代表取締役 ≪ 氏 名 ≫
公正取引委員会は、上記の者に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第20条第1項の規定に基づき、次のとおり命令する。
なお、主文、理由及び別紙1中の用語のうち、別紙1「用語」欄に掲げるものの定義は、別紙1「定義」欄に記載のとおりである。
主 文
1 Google LLCは、自ら又は別紙2記載の自社の子会社を介して行っている、次の(1)及び(2)を取りやめなければならない。
(1) 本件許諾契約により、特定アンドロイド・スマートフォンメーカーに対し、特定アンドロイド・スマートフォンについて、グーグル・プレイ・アプリの初期搭載の許諾に併せて次の事項の実施を求めること
ア グーグル検索アプリを初期搭載すること並びにそのウィジェット及びアイコン(アイコンを格納したフォルダを含む。)を初期ホーム画面に配置すること
イ クローム・ブラウザを初期搭載すること、そのアイコン(アイコンを格納したフォルダを含む。)を初期ホーム画面に配置すること及びクローム・ブラウザの設定をGoogle LLCの検索機能が選択された状態から変更しないこと
(2) 本件収益分配契約により、特定アンドロイド・スマートフォンメーカーのうち一部の者及び特定移動通信事業者に対し、特定アンドロイド・スマートフォンについて次のアからオまでの全部又は一部の事項の実施を求めること
ア 次のことを行わず、また第三者(利用者を除く。)に行わせないこと
(ア) 他の検索事業者の検索機能の実装
(イ) 他の検索事業者の検索機能への接続を主目的とする機能の実装
(ウ) 利用者に対する、他の検索事業者の検索機能の紹介又は利用の奨励若しくは提案
イ 全ての検索機能について、利用される検索役務をGoogle LLCの検索役務とすること
ウ Google LLCの検索ウィジェットを初期ホーム画面に配置すること
エ 既定のブラウザをクローム・ブラウザとし、クローム・ブラウザのアイコンをドックに配置するとともに、次のことを行わず、また第三者(利用者を除く。)に行わせないこと
(ア) クローム・ブラウザの設定をGoogle LLCの検索機能が選択された状態から変更すること
(イ) 前記(ア)の設定の変更を利用者に促し又は提案すること
オ 搭載されるブラウザについて、ブラウザの検索設定を、Google LLCの検索役務を利用する設定又は移動通信事業者のホームページを指定する設定とすること
2 Google LLCは、次の事項を業務執行の決定機関によって決議しなければならない。
(1) 前項(1)及び(2)を取りやめること
(2) 今後、アンドロイド・スマートフォンの製造又は販売を行う事業者に対し、検索機能の実装に係る取引に当たり、第4項(1)又は(2)を行わないこと
3 Google LLCは、第1項及び第2項に基づいて採った措置を、特定アンドロイド・スマートフォンメーカー及び特定移動通信事業者に通知し、かつ、自社の役員並びに本件許諾契約又は本件収益分配契約に関連する業務に従事する自社の従業員、自社の子会社の役員及び従業員に周知徹底しなければならない。これらの通知及び周知徹底の方法については、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
4 Google LLCは、今後、アンドロイド・スマートフォンの製造又は販売を行う事業者に対し、検索機能の実装に係る取引に当たり、次の(1)又は(2)を行ってはならない。
(1) グーグル・プレイ・アプリの初期搭載の許諾に併せて第1項(1)ア、同イ、同項(2)ア、同イ、同ウ、同エ及び同オの全部又は一部と同様の事項の実施を求めること
(2) 金銭その他の経済上の利益を提供する条件として次のア又はイを求めること
ア 第1項(2)ア又はイと同様の事項を実施すること
イ 第1項(1)イ、同項(2)ウ、同エ、下記(ア)、同(イ)又は同(ウ)と同様の事項を複数併せて実施すること
(ア) グーグル検索アプリを初期搭載すること及びそのアイコン(アイコンを格納したフォルダを含む。)を初期ホーム画面に配置すること
(イ) クローム・ブラウザについて、ブラウザの検索設定を、Google LLCの検索役務を利用する設定又は移動通信事業者のホームページを指定する設定とすること
(ウ) クローム・ブラウザ以外のブラウザについて、ブラウザの検索設定を、Google LLCの検索役務を利用する設定又は移動通信事業者のホームページを指定する設定とすること
5 Google LLCは、次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。この措置の内容については、前項で命じた措置が遵守されるために十分なものでなければならず、かつ、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
(1) アンドロイド・スマートフォンの製造又は販売を行う事業者との間の取引に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の作成並びに同指針の自社の役員並びに本件許諾契約又は本件収益分配契約に関連する業務に従事する自社の従業員、自社の子会社の役員及び従業員に対する周知徹底
(2) アンドロイド・スマートフォンの製造又は販売を行う事業者との間の取引に関する独占禁止法の遵守についての、自社の役員並びに本件許諾契約又は本件収益分配契約に関連する業務に従事する自社の従業員、自社の子会社の役員及び従業員に対する定期的な研修並びに定期的な監査
6 Google LLCは、独立した第三者を速やかに選定し、第1項から前項までで命じた措置について、第1項の措置を講じてから5年間、履行状況を監視させなければならない。当該第三者の選定、当該第三者との当該監視に係る契約内容及び当該監視の具体的な内容については、当該各項で命じた措置が遵守されるために十分なものでなければならず、かつ、あらかじめ、公正取引委員会の承認を受けなければならない。
7 (1) Google LLCは、前項の第三者に、第1項、第2項、第3項及び第5項(1)に基づいて採った措置の履行状況について速やかに公正取引委員会に報告させなければならない。
(2) Google LLCは、前項の第三者に、第4項及び第5項(2)に基づいて採った措置の履行状況について、第1項の措置を講じてから5年間、毎年、公正取引委員会に報告させなければならない。
理 由
第1 事実
1 関連事実
(1) 名宛人の概要
Google LLCは、肩書地に本店を置き、自ら又は自社の子会社を介して、我が国において、検索役務等に関する製品及び役務に関する事業を行っている。
なお、Google LLCは、平成29年9月30日、グーグル・インクが組織変更したものである。
(2) アンドロイド・スマートフォンの流通及びアプリ等に係る仕様の決定
ア アンドロイド・スマートフォンメーカーは、アンドロイド・スマートフォンを、移動通信事業者に販売しているほか、自ら又は販売代理店等を通じて利用者に販売している。また、移動通信事業者は、アンドロイド・スマートフォンメーカーから仕入れたアンドロイド・スマートフォンを、自ら又は販売代理店を通じて利用者に販売している。
イ アンドロイド・スマートフォンに初期搭載されるアプリ及び当該アプリのアイコン又はウィジェットの画面上の配置は、アンドロイド・スマートフォンメーカーがアンドロイド・スマートフォンを移動通信事業者に販売する場合は、当該アンドロイド・スマートフォンメーカーと当該移動通信事業者の協議を経て決定される。また、移動通信事業者以外の者に販売する場合は、通常、当該アンドロイド・スマートフォンメーカーにより決定される。
ウ アンドロイド・スマートフォンメーカー及び移動通信事業者は、自らが販売するアンドロイド・スマートフォンに初期搭載するアプリ及び当該アプリのアイコン又はウィジェットの画面上の配置を検討するに当たり、利用者の利便性の確保を重視している。
(3) アンドロイド・スマートフォンにグーグル・プレイ・アプリを初期搭載する必要性等
ア 利用者が、購入したアンドロイド・スマートフォンにアプリを自ら搭載する際には、ストアアプリを用いることが一般的である。
イ グーグル・プレイ・アプリは、ストアアプリの中で、アンドロイド・スマートフォンの利用者に最も多く利用されている。
ウ Google LLCは、利用者がアンドロイド・スマートフォンの購入後に自らグーグル・プレイ・アプリを入手し搭載する手段を提供していない。
エ 前記アからウまでの状況の下、アンドロイド・スマートフォンメーカーにとっては、自社が販売するアンドロイド・スマートフォンにグーグル・プレイ・アプリを初期搭載することが必要である。
オ アンドロイド・スマートフォンメーカーがグーグル・プレイ・アプリをアンドロイド・スマートフォンに初期搭載するためには、Google LLC又はその子会社との間で本件許諾契約を締結して、グーグル・プレイ・アプリを初期搭載した特定アンドロイド・スマートフォンを第三者に供給することについての許諾を受ける必要がある。
(4) アンドロイド・スマートフォンへの検索機能の実装等
ア アンドロイド・スマートフォンに検索機能を実装する方法としては、ホーム画面等に検索ウィジェット又は検索アプリのアイコンを配置する方法のほか、ブラウザの検索設定において特定の検索事業者の提供する検索機能を選択する方法等がある。
イ 検索事業者にとって、自社の検索機能が実装された状態でアンドロイド・スマートフォンが販売されることは、検索役務の提供に係る事業を営む上で重要となっている。
ウ アンドロイド・スマートフォンメーカー及び移動通信事業者にとって、利用者が検索役務を迅速かつ容易に利用できるように検索機能を実装した状態でアンドロイド・スマートフォンを販売することは、利用者の利便性確保のために重要となっている。
エ アンドロイド・スマートフォンを用いた検索役務の利用は、ホーム画面に配置された検索ウィジェット又は検索アプリのアイコン並びにブラウザのアドレスバー及びブラウザにより表示される検索事業者のウェブページの検索窓を通じて行われることが多い。
(5) クローム・ブラウザにおける検索機能に係る設定
Google LLCは、本件許諾契約に基づき特定アンドロイド・スマートフォンメーカーに搭載を許諾するクローム・ブラウザについて、Google LLCの検索機能が選択された状態に設定している。
(6) 検索アプリ及びブラウザの搭載等に関する事実上の制約
ア アンドロイド・スマートフォンメーカー及び移動通信事業者は、一のアンドロイド・スマートフォンに複数の検索アプリ又はブラウザを初期搭載することや、複数の検索アプリのアイコン若しくはウィジェット又はブラウザのアイコンを初期ホーム画面等に配置することは、利用すべきアプリ又はウィジェットについて利用者を迷わせることなどから、利用者の利便性の低下につながる可能性があると認識しており、原則として避けることとしている。
イ 一のクローム・ブラウザのアドレスバーを検索窓として行う検索に応答して検索役務を提供する検索事業者、一のクローム・ブラウザの起動時に開かれるページ、一のクローム・ブラウザのホームボタンをタップしたときに開かれるページ及び一のクローム・ブラウザの新規のタブの立上げ時に開かれるページとして設定できるものは、それぞれ、一つずつである。
(7) Google LLCと特定アンドロイド・スマートフォンメーカー又は特定移動通信事業者との契約
ア Google LLCは、平成21年頃以降、自ら又は別紙2記載の自社の子会社を介して、特定アンドロイド・スマートフォンメーカーとの間で本件許諾契約を締結しており、令和6年12月現在、少なくとも特定アンドロイド・スマートフォンメーカー6社との間で本件許諾契約が存続している。
令和5年に我が国で販売されたアンドロイド・スマートフォンの少なくとも8割は、本件許諾契約の対象となっており、Google LLCの検索機能が実装されている。
イ 本件収益分配契約は、特定アンドロイド・スマートフォンメーカー又は移動通信事業者に対し、特定アンドロイド・スマートフォンに他の検索事業者の検索機能を実装しないことなどを条件として、Google LLCの検索役務に係る検索広告による収益の一部を分配することを規定している。本件収益分配契約に基づき分配される額は、契約の相手方である特定アンドロイド・スマートフォンメーカー又は特定移動通信事業者が販売する特定アンドロイド・スマートフォン上で、Google LLCが提供する検索役務を用いて利用者が行った検索によりGoogle LLCが得た検索広告による収益の額等に基づき算定される。
Google LLCは、遅くとも平成25年頃以降、自ら又は別紙2記載の自社の子会社を介して、特定アンドロイド・スマートフォンメーカーのうち一部の者及び特定移動通信事業者との間で本件収益分配契約を締結しており、令和6年7月現在、少なくとも特定アンドロイド・スマートフォンメーカー4社及び特定移動通信事業者1社との間で本件収益分配契約が存続している。
2 Google LLCによるアプリの搭載、配置等に関する拘束
Google LLCは、遅くとも令和2年7月以降、次の(1)及び(2)を行うことにより、特定アンドロイド・スマートフォンメーカー及び特定移動通信事業者に対し、他の検索事業者の検索機能を特定アンドロイド・スマートフォンに実装させないようにしている。
(1) 本件許諾契約に基づくアプリの搭載に係る許諾の条件
Google LLCは、本件許諾契約により、特定アンドロイド・スマートフォンメーカーに対し、特定アンドロイド・スマートフォンについて、グーグル・プレイ・アプリの初期搭載の許諾に併せて次の事項の実施を求めている。
ア グーグル検索アプリを初期搭載すること並びにそのウィジェット及びアイコン(アイコンを格納したフォルダを含む。)を初期ホーム画面に配置すること
イ クローム・ブラウザを初期搭載すること、そのアイコン(アイコンを格納したフォルダを含む。)を初期ホーム画面に配置すること及びクローム・ブラウザの設定をGoogle LLCの検索機能が選択された状態から変更しないこと
(2) 本件収益分配契約に基づく収益分配の条件
Google LLCは、本件収益分配契約により、特定アンドロイド・スマートフォンメーカーのうち一部の者及び特定移動通信事業者に対し、Google LLCが提供する検索役務に係る検索広告による収益の一部を支払う条件として、特定アンドロイド・スマートフォンについて次のアからオまでの全部又は一部の事項の実施を求めている。
ア 次のことを行わず、また第三者(利用者を除く。)に行わせないこと
(ア) 他の検索事業者の検索機能の実装
(イ) 他の検索事業者の検索機能への接続を主目的とする機能の実装
(ウ) 利用者に対する、他の検索事業者の検索機能の紹介又は利用の奨励若しくは提案
イ 全ての検索機能について、利用される検索役務をGoogle LLCの検索役務とすること
ウ Google LLCの検索ウィジェットを初期ホーム画面に配置すること
エ 既定のブラウザをクローム・ブラウザとし、クローム・ブラウザのアイコンをドックに配置するとともに、次のことを行わず、また第三者(利用者を除く。)に行わせないこと
(ア) クローム・ブラウザの設定をGoogle LLCの検索機能が選択された状態から変更すること
(イ) 前記(ア)の設定の変更を利用者に促し又は提案すること
オ 搭載されるブラウザについて、ブラウザの検索設定を、Google LLCの検索役務を利用する設定又は移動通信事業者のホームページを指定する設定とすること
3 前記2の行為の影響
前記2の行為の結果、以下の事実が生じている。
(1) 我が国で販売されているアンドロイド・スマートフォンの少なくとも8割において、グーグル検索アプリ及びクローム・ブラウザが初期搭載され、それらのアイコン又はウィジェットが初期ホーム画面に配置され、クローム・ブラウザではブラウザの検索設定においてGoogle LLCの検索機能が選択されている。
(2) 令和6年7月において、前記2(2)の条件の全部又は一部に適合し、Google LLCから特定アンドロイド・スマートフォンメーカーのうち一部の者又は特定移動通信事業者への、検索役務に係る検索広告による収益の一部の支払の対象となった特定アンドロイド・スマートフォンの台数は、我が国で利用されている特定アンドロイド・スマートフォンのうち過半を占めている。
第2 法令の適用
前記事実によれば、Google LLCは、前記第1の2(1)及び(2)の条件を付けて検索機能の実装に係る取引を行うことにより、特定アンドロイド・スマートフォンメーカー及び特定移動通信事業者に対し、他の検索事業者の検索機能を特定アンドロイド・スマートフォンに実装させないようにしているものであり、これは、Google LLCが、特定アンドロイド・スマートフォンメーカー及び特定移動通信事業者の事業活動を不当に拘束する条件を付けてこれらの事業者と取引しているものであって、不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第12項に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。
よって、Google LLCに対し、独占禁止法第20条第1項の規定に基づき、主文のとおり命令する。
令和7年4月15日
委員長 古 谷 一 之
委 員 三 村 晶 子
委 員 青 木 玲 子
委 員 𠮷 田 安 志
委 員 泉 水 文 雄